平成12(受)1671 預金払戻等請求事件
平成14年1月17日 最高裁判所第一小法廷 判決 棄却 名古屋高等裁判所
・信託契約ではなく、請負契約と保証契約が締結された。
・前払い金は、請負契約専用の口座に振り込まれ、請け負った工事の費用以外を目的として引き落して使うことはできない。
・保証契約を締結した保証事業会社は、相手の請負工事を行う建設会社を監督する権利を持っている。
・工事の途中で建設会社は、破産手続きに入った。
・裁判所は、請負契約専用の口座に入っているお金は、建設会社の財産ではなく、信託財産だと判断した。
私見です。
なぜ、信託契約を認めることができるのか。他の方法はないのか。
私見です。
分別管理されている。(現信託法14条、34条)
目的が特定されている。(現信託2条本文)
制度上、受託者が自由に払い出しをすることができない。
(信託法2条3号、26条、27条、本事案では保証事業法による前払金保証約款)
(出典:最高裁判所HP、2017年4月9日閲覧)
平成12(受)1671 預金払戻等請求事件
平成14年1月17日 最高裁判所第一小法廷 判決 棄却 名古屋高等裁判所
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告人の上告受理申立て理由第二について
1 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1) 地方公共団体は,その発注する土木建築に関する工事について,公共工
事の前払金保証事業に関する法律(平成11年法律第160号による改正前のもの。
以下「保証事業法」という。)5条の規定に基づき建設大臣の登録を受けた保証事
業会社により前払金の保証がされた場合には,請負者に対し,その工事に要する経
費につき前金払をすることができるとされているところ(地方自治法232条の5
第2項,同法施行令附則7条),愛知県公共工事請負契約約款によれば,前払金の
額は請負代金の10分の4の範囲内とし,前払金の支払を請求するためには,あら
かじめ保証事業法2条5項に規定する保証契約を締結し,その保証証書を発注者に
寄託しなければならず,請負者は前払金を当該工事の必要経費以外に支出してはな
らないとされていた。
(2) A建設株式会社(以下「A建設」という。)は,平成10年3月27日
,愛知県との間で,愛知県公共工事請負契約約款に基づき,平成9年度国庫債務負
担行為・水源森林総合整備事業第2号工事に関する請負契約(以下「本件請負契約」
という。)を締結した。
(3) A建設は,平成10年4月2日,建設大臣の登録を受けて前払金保証事
業を営む被上告人B1建設業保証株式会社(以下「被上告人保証会社」という。)
との間で,保証事業法及びB1建設業保証株式会社前払金保証約款(以下「本件保
証約款」という。)に基づき,愛知県のために,本件請負契約がA建設の責めに帰
すべき事由によって解除された場合にA建設が愛知県に対して負担する前払金から
工事の既済部分に対する代価に相当する額を控除した額の返還債務について,被上
告人保証会社が保証する旨の契約(以下「本件保証契約」という。)を締結した。
本件保証約款によれば,①請負者は,前払金を受領したときは,これを被上告人
保証会社があらかじめ業務委託契約を締結している金融機関の中から請負者が選定
した金融機関に,別口普通預金として預け入れなければならない,②請負者は,前
払金を保証申込書に記載した目的に従い,適正に使用する責めを負い,預託金融機
関に適正な使途に関する資料を提出して,その確認を受けなければ,別口普通預金
の払出しを受けることができない,③被上告人保証会社は,前払金の使途を監査す
るために,請負契約に関する書類及び請負者の事務所,工事現場等を調査し,請負
者及び発注者に対して報告,説明又は証明を求めることができる,④被上告人保証
会社は,前払金が適正に使用されていないと認められるときには,預託金融機関に
対し別口普通預金の払出しの中止その他の処置を依頼することができるなどとされ
ていた。本件保証約款は,建設省建設経済局建設業課長から各都道府県主管部長に
通知されていた。
A建設は,前払金の預託金融機関として被上告人保証会社があらかじめ業務委託
契約を締結していた被上告人B2信用金庫(以下「被上告人信用金庫」という。)
a支店を選定した。
(4) A建設は,平成10年4月7日,本件保証契約の保証証書を愛知県に寄
託した上,前払金の支払を請求し,同月20日,愛知県から前払金として,A建設
が被上告人信用金庫a支店に開設した別口普通預金口座(以下「本件預金口座」と
いう。)に1696万8000円の振込みを受けて,預金(以下「本件預金」とい
う。)をした。これにより,愛知県は,保証事業法13条1項により,本件保証契
約の利益を享受する旨の意思表示をしたものとみなされた。
(5) 愛知県は,A建設の営業停止により工事の続行が不能になったため,平
成10年6月29日,本件請負契約を解除した。
(6) A建設は,愛知県に対し本件前払金から解除時までの工事の既済部分に
対する代価に相当する額を控除した残金を返還しなかったため,被上告人保証会社
は,平成10年7月31日,愛知県に対し,保証債務の履行として残金相当額を支
払った。
(7) A建設は,平成10年8月7日,破産宣告を受け,上告人が破産管財人
に選任された。
2 本件は,上告人が,被上告人保証会社に対し,本件預金について上告人が債
権者であること等の確認を求めるとともに,被上告人信用金庫に対し,本件預金の
残額及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。
3 本件請負契約を直接規律する愛知県公共工事請負契約約款は,前払金を当該
工事の必要経費以外に支出してはならないことを定めるのみで,前払金の保管方法
,管理・監査方法等については定めていない。しかし,前払金の支払は保証事業法
の規定する前払金返還債務の保証がされたことを前提としているところ,保証事業
法によれば,保証契約を締結した保証事業会社は当該請負者が前払金を適正に使用
しているかどうかについて厳正な監査を行うよう義務付けられており(27条),
保証事業会社は前払金返還債務の保証契約を締結しようとするときは前払金保証約
款に基づかなければならないとされ(12条1項),この前払金保証約款である本
件保証約款は,建設省から各都道府県に通知されていた。そして,本件保証約款に
よれば,前記1(3)記載のとおり,前払金の保管,払出しの方法,被上告人保証
会社による前払金の使途についての監査,使途が適正でないときの払出し中止の措
置等が規定されているのである。したがって,A建設はもちろん愛知県も,本件保
証約款の定めるところを合意内容とした上で本件前払金の授受をしたものというべ
きである。【要旨】このような合意内容に照らせば,本件前払金が本件預金口座に
振り込まれた時点で,愛知県とA建設との間で,愛知県を委託者,A建設を受託者
,本件前払金を信託財産とし,これを当該工事の必要経費の支払に充てることを目
的とした信託契約が成立したと解するのが相当であり,したがって,本件前払金が
本件預金口座に振り込まれただけでは請負代金の支払があったとはいえず,本件預
金口座からA建設に払い出されることによって,当該金員は請負代金の支払として
A建設の固有財産に帰属することになるというべきである。
また,この信託内容は本件前払金を当該工事の必要経費のみに支出することであ
り,受託事務の履行の結果は委託者である愛知県に帰属すべき出来高に反映される
のであるから,信託の受益者は委託者である愛知県であるというべきである。
そして,本件預金は,A建設の一般財産から分別管理され,特定性をもって保管
されており,これにつき登記,登録の方法がないから,委託者である愛知県は,第
三者に対しても,本件預金が信託財産であることを対抗することができるのであっ
て(信託法3条1項参照),信託が終了して同法63条のいわゆる法定信託が成立
した場合も同様であるから,信託財産である本件預金はA建設の破産財団に組み入
れられることはないものということができる(同法16条参照)。
したがって,本件事実関係の下において被上告人保証会社がA建設から本件預金
につき債権質等の担保の設定を受けたものとした原審の判断は相当ではないが,上
告人の請求を棄却すべきものとした結論は是認することができる。論旨は,原判決
の結論に影響を及ぼさない事項についての違法を主張するものにすぎないから,採
用することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
最高裁判所第一小法廷
(裁判長裁判官 町田 顯 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 深澤
武久)
公共工事標準請負契約約款(抜粋)
(前金払)
第三十四条 乙は、公共工事の前払金保証事業に関する法律(昭和二十七年法律第一八四
号)第二条第四項に規定する保証事業会社(以下「保証事業会社」という。)と、
契約書記載の工事完成の時期を保証期限とする同条第五項に規定する保証契約(以
下「保証契約」という。)を締結し、その保証証書を甲に寄託して、請負代金額の
一〇分の〇以内の前払金の支払を甲に請求することができる。
2 甲は、前項の規定による請求があったときは、請求を受けた日から一四日以内に
前払金を支払わなければならない。
3 乙は、請負代金額が著しく増額された場合においては、その増額後の請負代金額
の一〇分の〇から受領済みの前払金額を差し引いた額に相当する額の範囲内で前払
金の支払を請求することができる。この場合においては、前項の規定を準用する。
4 乙は、請負代金額が著しく減額された場合において、受領済みの前払金額が減額
後の請負代金額の一〇分の〇を超えるときは、乙は、請負代金額が減額された日か
ら三十日以内にその超過額を返還しなければならない。
5 前項の超過額が相当の額に達し、返還することが前払金の使用状況からみて著し
く不適当であると認められるときは、甲乙協議して返還すべき超過額を定める。た
だし、請負代金額が減額された日から〇日以内に協議が整わない場合には、甲が定
め、乙に通知する。
注 〇の部分には、三〇未満の数字を記入する。
6 甲は、乙が第四項の期間内に超過額を返還しなかったときは、その未返還額につ
き、同項の期間を経過した日から返還をする日までの期間について、その日数に応
じ、年〇パーセントの割合で計算した額の遅延利息の支払を請求することができる。
注 〇の部分には、たとえば、政府契約の支払遅延防止等に関する法律第八条の率
を記入する。
(保証契約の変更)
第三十五条 乙は、前条第三項の規定により受領済みの前払金に追加してさらに前払金の
支払を請求する場合には、あらかじめ、保証契約を変更し、変更後の保証証書を甲
に寄託しなければならない。
2 乙は、前項に定める場合のほか、請負代金額が減額された場合において、保証契
約を変更したときは、変更後の保証証書を直ちに甲に寄託しなければならない。
3 乙は、前払金額の変更を伴わない工期の変更が行われた場合には、甲に代わりそ
の旨を保証事業会社に直ちに通知するものとする。
注 第三項は、甲が保証事業会社に対する工期変更の通知を乙に代理させる場合に
使用する。
(前払金の使用等)
第三十六条 乙は、前払金をこの工事の材料費、労務費、機械器具の賃借料、機械購入費
(この工事において償却される割合に相当する額に限る。)、動力費、支払運賃、
修繕費、仮設費、労働者災害補償保険料及び保証料に相当する額として必要な経費
以外の支払に充当してはならない。__