加工公益認定等に関する運用について(公益認定等ガイドライン)(素案)
https://www.koeki-info.go.jp/regulation/guideline.html
平成20年4月(令和6年●月改訂)
内閣府公益認定等委員会 内閣府大臣官房公益法人行政担当室
目次
第1章 基本的事項(総則) ・・・・・・・・・ 1
第1節 ガイドラインの・・・・・・・・・・・・・・・・ 2
第1 ガイドライン作成の経緯 ・・・・・・・・・・・・ 2
第2 ガイドラインの趣旨・目的 ・・・・・・・・・・・・ 3
第2節 ガイドラインにおける基本的な考え方 ・・・・・・・・ 5
第1 認定法の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
第2 公益法人の責務 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
第3 公益行政の基本的考え方 ・・・・・・・・・・ 8
第3節 事務処理の原則 ・・・・・・・・・・・・・・・・10
第1 公益認定等委員会と公益法人行政担当室 ・・・・・・・・10
(1) 公益認定等委員会 ・・・・・・・・・・・・・・・ 10
(2) 公益法人行政担当室(内閣総理大臣) ・・・・・・・ 11
第2 事務処理の原則 ・・・・・・・・・・・・ 11
(1) 迅速・丁寧な対応 ・・・・・・・・・・・・・・ 11
(2) 事実に基づく判断、効率的・効果的な業務遂行 ・・・・・ 12
(3) 事前相談など ・・・・・・・・・・・・・ 12
第4節 内閣府と都道府県との連携 ・・・・・・・・・・・・・・ 13
第5節 行政手続法及び行審法との関係・・・・・・・・・・・ 14
第1 行政指導等(法に基づく勧告を除く。) ・・・・・・・・ 14
(1) 一般原則(行政手続法第32条) ・・・・・・・・・ 14
(2) 申請に関連する行政指導等(行政手続法第33条~35条) ・・15
(3) 監督上の措置に関連する行政指導(行政手続法第34条・第35条) 15
(4) 複数の者を対象とする行政指導(行政手続法第36条) ・・ 16
第2 不利益処分等(行政手続法との関係) ・・・・・・・・・・ 16
第3 審査請求 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17
(1) 審査請求 ・・・・・・・・・ 17
(2) 事務処理体制 ・・・・・・・ 17
(3) 審理員・審理手続 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18
(4) 処分庁としての対応 ・・・・・・・・・・・・・・・ 18
(5) 審査庁としての対応 ・・・・・・・・・・・・・・・ 19
第2章 公益目的事業該当性の判断 ・・・・・・・・・・・ 20
第1節 総論 ・・・・・ 23
第1 公益目的事業とは ・・・・・・・・・・・ 23
第2 申請書記載事項 ・・・・・・・・・・・・・ 24
(1) 基本的考え方 ・・・・・・・・・ 25
(2) 記入要領 ・・・・・・・・・・・・・・・ 26
(3) 既に認定されている公益目的事業に係る申請書記載事項の取扱いについて・・・・・・・・ 30
第3 審査に当たっての確認事項及び判断基準 ・・・・・・・・・ 35
(1) 事業の趣旨・目的についての確認事項 ・・・・・・・ 35
(2) 事業の概要についての確認事項等 ・・・・・・・・・ 36
(3) 受益の機会についての確認事項 ・・・・・・・ 37
(4) 受益者の義務・受益の条件についての確認事項 ・・・・・ 38
(5) 事業の合目的性の確保の取組についての確認事項・・・・38
(6) その他横断的な注記事項 ・・・・・・・・・・ 39
第4 変更認定事項と変更届出事項 ・・・・・・・・・ 41
(1) 基本的考え方 ・・・・・・・・・・ 41
(2) 現行法人の移行措置について ・・・・・・・ 42
(3) 緊急事態における対応 ・・・・・ 42
第5 監督に当たって特に考慮すべき事項(第6章監督 参照) ・・・ 42
(1) 事業の趣旨・目的について ・・・・・・・ 43
(2) 法人の事業の概要について ・・・・・43
(3) 事業の受益の機会について ・・・・・・・ 43
(4) 受益者の義務・受益の条件について ・・・・・・・ 43
(5) 事業の合目的性の確保 ・・・・・・・ 44
第2節 具体的な事業区分ごとの当てはめ ・・・・・・・ 45
第1 基本的考え方 ・・・・・・・・ 45
第2 19事業区分ごとの公益目的事業のチェックポイント ・・・・・ 47
(1) 検査検定 ・・・・・・・ 47
(2) 資格付与 ・・・・・・ 48
(3) 講座、セミナー、育成 ・・・・・・・・ 49
(4) 体験活動等 ・・・・・・・・・・・・ 50
(5) 相談、助言 ・・・・・・・・・ 50
(6) 調査、資料収集 ・・・・・ 51
(7) 技術開発、研究開発 ・・・・・・・・・ 52
(8) キャンペーン、〇〇月間 ・・・・・・・・・・・・ 53
(9) 展示会、〇〇ショー・・・・・・・・・・・・ 54
(10) 博物館等の展示 ・・・・・・・・・・・・・ 55
(11) 施設の貸与 ・・・・・・・・・・・・・ 56
(12) 資金貸付、債務保証等 ・・・・・・・・・・・・・ 57
(13) 出資 ・・・・・・・・・・・・・・ 58
(14) 助成(応募型) ・・・・・・・・・・ 61
(15) 奨学金 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 62
(16) 表彰、コンクール ・・・・・・・・・・ 64
(17) 競技会 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 65
(18) 自主公演 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 66
(19) 主催公演 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 67
第3 19事業区分非該当事業の公益目的事業のチェックポイント ・・・68
第3章 公益認定基準等 ・・・・・・・・・・・・ 79
第1 公益認定基準(認定法第5条) ・・・・・・・・・・・ 80
(1) 法人の主たる目的(認定法第5条第1号) ・・・・・・・ 80
(2) 経理的基礎及び技術的能力(認定法第5条第2号) ・・・・・ 80
(3) 特別の利益(認定法5条第3号、第4号) ・・・・・・・ 86
(4) 公益法人としてふさわしくない事業等(認定法第5条第5号) 88
(5) 公益目的事業の収入及び費用(認定法第5条第6号) ・・ 89
(6) 公益目的事業の実施に支障を及ぼすおそれ(認定法第5条7号) 89
(7) 公益目的事業比率(認定法第5条第8号) ・・・ 90
(8) 使途不特定財産額の保有の制限(認定法第5条第9号) ・・・ 90
(9) 理事・監事と特別利害関係があるもの(認定法第5条第10号) ・90
(10) 他の同一の団体の理事・使用人等(認定法第5条第11号) ・91
(11) 理事と監事の間の特別利害関係の排除(認定法第5条第12号) ・91
(12) 会計監査人の設置(認定法第5条第13号) ・92
(13) 役員等の報酬等の支給基準(認定法第5条第14号、第20条) ・・・ 93
(14) 理事、監事の外部からの選任(認定法第5条第15号及び第16号) ・・98
(15) 社員の資格得喪に関する条件等(認定法第5条第17号) ・・ 99
(16) 他の団体の意思決定に関与することができる財産(認定法第5条第18号)・・・・・・・ 100
(17) 不可欠特定財産(認定法第5条第19号) ・・・ 101
(18) 残余の財産の贈与、帰属先(認定法第5条第20号及び第21号) ・102
第2 欠格事由(認定法第6条) ・・・・・・・・・ 103
第4章 認定の申請等 ・・・・・・ 108
第1 行政庁(認定法第3条) ・・・・・・・ 109
第2 公益認定の申請(認定法第7条) ・・・・・ 110
第3 変更の認定(認定法第11条) ・・・・・・ 114
第4 変更の届出(認定法第13条) ・・・・・・ 118
第5 合併等の届出(認定法第24条) ・・・・・ 121
第6 合併による地位の承継の認可(認定法第25条) ・・・・・122
第7 解散の届出(認定法第26条) ・・・123
第8 公益認定取消しの申請(認定法第29条第1項第4号)・・・ 124
第9 定款に関する留意事項 ・・・ 124
第5章 公益法人が遵守すべき財務規律等 ・・・ 135
第1節 財務規律 ・・・ 136
第1 公益目的事業の収入及び費用(認定法第14条及び認定規則第15条から23
条まで、第46条及び附則第2項から第6項まで) ・・・ 136
(1) 規律の趣旨 ・・・ 136
(2) 中期的収支均衡の判定方法 ・・ 136
(3) 公益充実資金(認定規則第23条及び第46条) ・・・ 148
第2 公益目的事業比率(認定法第15条) ・・・ 155
(1) 公益目的事業比率の趣旨 ・・・ 155
(2) 公益目的事業比率の確認 ・・・155
(3) 公益目的事業比率の算定 ・・・155
第3 使途不特定財産額の保有の制限(認定法第16条) ・・・161
(1) 使途不特定財産規制の趣旨 ・・・161
(2) 使途不特定財産額の算定 ・・・162
(3) 使途不特定財産の保有上限額の算定等 ・・・170
第4 公益目的事業財産、公益目的取得財産額及び区分経理(認定法第18条、第19条及び第30条) ・・・172
(1) 公益目的事業財産(認定法第18条及び認定規則第41条) ・・・ 172
(2) 区分経理(認定法第19条及び認定規則第42条及び第43条) ・・・178
(3) 公益目的取得財産残額(認定法第30条及び認定規則第65条から第70条まで ・・・180
第2節 情報開示 ・・・186
第1 財産目録等の備置き・閲覧、公表等(認定法第21条・第22条) ・・・186
(1) 事業年度開始前に作成・備置きする書類(認定法第21条第1項) ・・ 186
(2) 事業年度終了後に作成・備置きする書類(認定法第21条第2項) ・・・ 189
(3) 閲覧請求等について ・・・200
(4) 行政庁への提出等(認定法第22条第1項) ・・・・200
(5) 行政庁による公表(認定法第22条第2項) ・・・203
第3節 その他規律等 ・・・205
第1 名称等(認定法第9条) ・・・205
第2 寄附の募集に関する禁止行為(認定法第17条) ・・・205
第3 会計監査人の権限等(認定法第23条) ・・・205
第6章 監督 ・・・206
第1節 監督の基本方針 ・・・207
第1 監督の目的及び監督の基本的考え方 ・・・207
(1) 監督の目的 ・・・207
(2) 監督の基本的考え方 ・・・208
第2節 定期提出書類の確認 ・・・213
第3節 報告徴収の実施指針(認定法第27条) ・・・214
第1 報告徴収の趣旨 ・・・214
第2 報告徴収の実施方針 ・・・214
第3 報告徴収結果の処理 ・・・215
第4節 立入検査の実施指針(認定法第27条) ・・・217
第1 立入検査の趣旨 ・・・217
第2 重点検査 ・・・217
(1) 重点検査の実施方針・・・17
(2) 重点検査結果の処理 ・・・218
第3 点検調査 ・・・218
(1) 点検調査の実施方針・・・218
(2) 点検調査結果の処理 ・・・219
第5節 情報提供の取扱い・・・220
第1 情報提供の意義 ・・・220
第2 情報提供の取扱いに係る留意事項 ・・・220
第3 情報提供への対応 ・・・221
第6節 監督処分等の適用方針(認定法第28条、第29条) ・・・222
第1 監督処分等の趣旨 ・・・222
第2 監督処分等の適用方針 ・・・222
第3 行政手続法の手続 ・・・224
第7章 公益法人行政担当室の業務運営方針 ・・・225
第1節 事務処理状況の公表 ・・・226
第2節 行政庁による公表(認定法第22条第2項) ・・・227
第3節 国の支援(認定法第3条の2第2項) ・・・228
第8章 移行法人 ・・・229
第1節 公益目的支出計画等(整備法第119条)について ・・・230
第1 公益目的支出計画が「適正」であることについて(整備法第117条第2号) ・ 230
(1) 公益目的支出計画に記載された実施事業等について、整備法第119条第2項
第1号の「イ」、「ロ」又は「ハ」に該当していることについて ・・・231
(2) 特別の利益 ・・・231
(3) 技術的能力 ・・・231
(4) 公益目的支出計画における実施事業等に係る収入と支出の計算が整備法及び
整備規則に則って行われていること ・・・232
第2 公益目的支出計画を確実に実施すると見込まれることについて(整備法第117条第2号) ・・・233
第3 移行法人の計算書類について(整備規則第42条) ・・・233
第2節 実施事業等の変更に伴う公益目的支出計画の変更認可の必要性 ・234
第1 事業を廃止する場合 ・・・234
(1) 事業の一部の廃止により計画期間が変わらない又は短くなる場合 ・234
(2) 一の事業の廃止により計画期間が変わらない又は短くなる場合 ・234
(3) 事業の廃止により計画期間が長くなる場合 ・・234
第2 事業を追加する場合 ・・・ 243
第3節 公益目的支出計画の完了確認請求について ・・235
凡例
主な法令の略称は以下のとおり。
・ 認定法:公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(平成18年法律第49号)
・ 認定令:公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律施行令(平成19年政令第276号)
・ 認定規則:公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律施行規則(平成19年内閣府令第68号)
・ 法人法:一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(平成18 年法律第48号)
・ 法人法規則:一般社団法人及び一般財団法人に関する法律施行規則(平成19年法務省令第28号)
・ 整備法:一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成18年法律第50号)
・ 整備規則:一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律施行規則(平成19年内閣府令第69号)
・ 令和6年改正法:公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の一部を改正する法律(令和6年法律第29号)
・ 行政手続法:行政手続法(平成5年法律第88号)
・ 行審法:行政不服審査法(平成26年法律第68号)
その他の主な略称は以下のとおり。
・ 一般法人:一般社団法人及び一般財団法人:
・ 公益法人:公益社団法人及び公益財団法人:
・ 旧ガイドライン:令和6年○月に改訂される前の公益認定等ガイドライン(平成20年4月)
・ 公益法人会計基準:公益法人会計基準について(平成20年4月11日(令和6年○月○日改正)内閣府公益認定等委員会)
・ 会計基準運用指針:「公益法人会計基準」の運用指針(平成20年4月(令和6年○月改正)内閣府公益認定等委員会)
第1章 基本的事項(総則)
第1節 ガイドラインの趣旨・目的
第1 ガイドライン作成の経緯
〇 現行の公益法人制度は、民法に基づく従来の制度において、主務官庁の許可主義の下、法人設立が簡便でなく、また、公益性の判断基準が不明確であるなどの批判があったことを踏まえ、主務官庁の裁量権を排除し、できる限り準則主義に則った認定等を実現することを目的に、平成18年の公益法人制度改革において成立した。この改革は、「民による公益の増進」を目的としつつも、不祥事の発生を契機として、旧制度への反省等にたち議論された経緯もあり、公益法人の「規律の確保」が重視されていた。
〇 現行制度の施行に先立ち、公益認定等委員会は、制度の詳細のうち、明確にしておくことが、申請者にとっても、国・都道府県の審査当局にとっても有益であると考えられる事項について審議を行い、「公益認定等に関する運用について」(公益認定等ガイドライン)を取りまとめた。あわせて、「不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するか」の事実認定に当たっての留意点として「公益目的事業のチェックポイント」を取りまとめた。
〇 旧ガイドライン(公益目的事業のチェックポイントを含む。)は、制度をよく理解し、中立・公正に判断する公益認定等委員会が運用するという前提で、制度趣旨に関する記載や、公益認定等委員会及び行政庁の判断を制限する記載はほとんど置かれていない。
〇 また、現行制度の運用に当たっては、公益認定等委員会は、「暖かく」審議に臨み、「法人の創意工夫や自主性を尊重する姿勢で取り組み」、「柔軟性をもって判断」することとされた(「審議の基本方針」(平成19年4月公益認定等委員会))。
〇 こうした運用により、旧制度の公益法人の多くが新たな制度での公益法人として再出発を果たした。この間、行政庁や公益認定等委員会での判断等により運用が積み重なり、「公益法人制度等に関するよくある質問」(以下「FAQ」という。)の改定等が行われることはあったが、旧ガイドラインの実質的な見直しは行われていなかった。
〇 しかし、先例に従った対応が増加する一方、不認定や勧告など例外的な事例でしか判断の考え方が示されない中、法人関係者から、「不透明」で「予見可能性がない」といった指摘を受けるに至った。また、本来、柔軟に対応することを期待して具体的な基準等を示さなかった規律が、「行政庁や担当ごとに指摘がバラバラである」、「制度趣旨を考慮しない一律の指導がなされている」、「公益認定基準に係る指摘か、運営改善のための助言か分からない」などの指摘が生じるに至った。
(令和6年のガイドラインの抜本見直し)
〇 新制度施行から十数年を経る中、民も公益を担う社会の更なる発展に向けて、社会の変化等に柔軟に対応し多様な社会的課題解決に向けて民間の力を引き出していくための制度改革が必要であるとの認識に基づき、内閣府特命担当大臣(経済財政政策)の下、「新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議」が令和4年10月から開催された。
〇 令和5年6月に取りまとめられた同有識者会議の最終報告(以下、単に「最終報告」という。)においては、公益法人が、より柔軟・迅速な公益的活動を展開していくことが可能となるよう、法人の自主的・自律的な経営判断がより尊重される仕組みにするとともに、国民からの信頼・協力を得られる存在となるよう、公益法人のガバナンスや説明責任の充実を図るため、制度の抜本的な改革を行うこととされた。
〇 最終報告を踏まえた法令の改正に伴いガイドラインの見直しは必要となるが、最終報告で求められた「予見可能性の向上」「認定等に関する行政の判断のブレやばらつきの抑制」、「事前の一律チェックから事後の重点的なチェックへの転換」を徹底する観点からは、ガイドラインの全面的な見直しが必要とされた。
〇 このため、「創意工夫や自主性を尊重」「柔軟性をもって判断」との精神は維持しつつ、合議制機関が中立・公正に判断するからガイドラインには細かく書かないという考え方を改め、①法人や国民など利用者から見て、分かりやすく予見可能性が高いものとする、②行政による恣意的又は硬直的な運用を抑制する、③事前の審査より事後のチェックを重視するという観点から、ガイドラインの全面的な見直しを行ったものである。
〇 なお、見直しに当たっては、従来、FAQ、申請書添付書類や提出書類の様式、記入の手引き等において示されていた法令解釈もガイドラインに取り込むこととしている。FAQに記載されていた規律は、脚注においてその旨を明らかにしている。
第2 ガイドラインの趣旨・目的
〇 ガイドラインは、法令の適用に当たり留意すべき事項(法令等の解釈・運用)及び審査・処分の基準・考え方を示すものであり、
・ 公益法人(公益認定を検討する者を含む。)が、法人自治の下で、各種申請や事業遂行を行う際の参考(行政庁の対応についての予見可能性の向上)
・ 行政庁である内閣総理大臣(公益法人行政担当室職員を含む。)及び公益認定等委員会(事務局職員を含む。)が職務を遂行する上での指針
・ 公益法人の活動を支援し、チェックする国民の物差しとして使用されることを想定している。
〇 また、本ガイドラインは、技術的助言として都道府県知事に通知することを想定しており、行政庁である都道府県知事(職員を含む。)及び合議制機関(その庶務を司る職員を含む。)の指針として活用されることを期待している。
〇 行政庁及び公益認定等委員会は、ガイドラインを踏まえた判断を行うことが求められる。これは、杓子定規の取扱いを求めるものではない。法令の規定及び趣旨を勘案した上で、個別の事情に応じて、又は社会経済の変化を踏まえ、柔軟な対応を行うことは当然であり、合議制機関を置くこととした制度の趣旨に合致する取扱いといえる。
〇 ガイドラインは、社会情勢の変化、判断の蓄積、関係者(公益法人、都道府県、国民・企業等)の要望等を踏まえ、少なくとも年に1回は見直しを検討するものとする。
〇 また、法運用の透明性を確保し、正確な理解を促進する観点から、具体的事情を踏まえた判断事例を明らかにすることが重要であることを踏まえ、認定法等に係る各種判断について、「事例集」を作成し、ガイドラインの付属資料として位置づけるものとする。
第2節 ガイドラインにおける基本的な考え方
第1 認定法の目的
〇 認定法は、「内外の社会経済情勢の変化に伴い、民間の団体が自発的に行う公益を目的とする事業の実施が公益の増進のために重要となっていることに鑑み、当該事業を適正に実施し得る公益法人を認定する制度を設けるとともに、公益法人による当該事業の適正な実施を確保するための措置等を定め」、もって「公益の増進及び活力ある社会の実現に資すること」を目的としている(認定法第1条)。
〇 公益認定制度の創設や公益目的事業の適正な実施を確保するための措置は、手段であり、目的は、「公益の増進及び活力ある社会の実現に資すること」である。
第2 公益法人の責務
〇 公益法人は、認定法別表に掲げる公益目的を実現し、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するために公益的活動を実施する存在であり、その活動により、公益の増進及び活力ある社会の実現に寄与することが期待されており、税制上の優遇措置の下、国民や企業からの寄附等の支援を受けている。
〇 こうした期待に公益法人が応えていくためには、公益法人が行う公益目的事業について、事業の効果等について確認しつつ、社会のニーズに応え、その種類や内容、実施方法等を不断に見直し、事業の質を向上させることが求められており、その実現に向けて、
ア 事業内容、規模、財務状況等が多種多様な公益法人が、継続的・発展的に事業展開を行うため、自らの実態に応じて必要な理事等の人材やガバナンス体制の構築等の運営体制の充実を図るとともに、
イ 財務状況や事業運営について、適正に説明責任を果たし、国民や社会からのフィードバックを得て事業を改善していくための、運営における透明性の確保に取り組むことが求められる。
〇 法人法及び認定法において、ガバナンスや情報開示の仕組みは整備されているが、これらは、すべての公益法人が遵守する必要がある最低限の仕組みに過ぎない。公益法人が、国民からの理解や寄附等の支援を積極的に得つつ、継続的・発展的に活動していくために、法令の基準を超えて、自主的・自律的に、実情に応じたガバナンスを構築し、透明性の向上を図ることが期待される。
〇 令和6年の公益法人制度改革で、法人の自主的・自律的な経営判断がより尊重される仕組みとされる中、公益法人は、行政から自立して、ステークホルダーの信頼を確保しつつ、自らの責任の下で経営判断を行い、仮に問題が発生した場合には、法人自らが自浄作用を働かせ、問題を解消することが求められる。そのためにも、自らコンプライアンスの確保や説明責任の充実に取り組むことが重要である。
〇 公益法人が取り組んだ運営体制の充実を図るための取組や、公益目的事業の実施状況については、事業報告に記載することとされており(認定法第21条第4項)、これらがホームページにおいて分かりやすい形で公表される(認定法第22条第2項)。公益法人の関係者が、他の法人の取組を知り、自らの運営の改善に役立てるとともに、国民や企業が、ガバナンスの充実や透明性の向上に取り組む法人に対して寄附等の支援を行うことなどを通じ、ガバナンスの充実・透明性の向上が進むことが期待される。
〇 こうした自主的・自律的な公益法人の取組を促進するため、国としても、情報の収集・提供その他の必要な支援を行っていく(認定法第3条の2第2項)。
・(参考) 公益法人とは何か
・ 公益法人は、準則主義により簡便に設立することができる非営利法人(剰余金の分配を目的としない法人) である一般法人であることを前提としている。
一般法人の目的に制限はなく、公益、共益等の多様な目的の法人が存在している。
一般社団法人は、二人以上の人(社員)が集まり、定款を作成し、設立する法人であり、社員総会の決議により役員を選任するなど、社員総会が、法人の組織、運営等に関する権限を行使する。
一般財団法人は、設立者が、定款を作成するとともに財産を拠出して設立する法人であり、定款の定めに従い選任された評議員で構成される評議員会が、定款及び法律に従い、役員の選任などの権限を行使する。
機関等のガバナンスについては、法人法において詳細な規律が置かれている。
・ 一般法人のうち、民間有識者からなる第三者委員会による公益性(公益認定基準適合性)の審査を経て、行政庁(内閣総理大臣又は都道府県知事)から公益認定を受けたものが公益法人である。
公益法人は、認定法に基づき、活動規模の半分以上を公益認定を受けた公益目的事業とする、公益目的事業に関連して得た収入を、中期的に公益目的事業のため使うなどの規律に従うほか、一般法人以上の情報開示やガバナンスなどが求められる。
公益法人は、「公益社団法人」又は「公益財団法人」を名乗ることができるほか、寄附金控除や公益目的事業の非課税など手厚い税制優遇措置が講じられている。
・ 公益法人は、多種多様な公益を目的とする法人が含まれている(注)ことに特徴があり、学校法人、社会福祉法人など特定の政策に係る公益を目的とし、当該政策を所管する官庁の監督を受ける法人とは異なる。
(注) 認定法別表に掲げられた公益目的は、その性質上何らかの形で不特定かつ多数の者に利益をもたらすと考えられるものとして、国民の利益のために制定されている様々な法律の目的規定を抽出・集約し、列挙されたものである。
・ 幅広い公益を目的とし、高い税制優遇を受ける認定特定非営利活動法人(以下「認定NPO法人」という。)と類似する点は多いが公益法人については、①公益認定基準に適合することについて合議制機関の判断を経て行政庁が判断し、認定後も、行政庁が認定基準の適合性について継続的に監督する、②ガバナンスを確保するためのルールが詳細に法定されている(例:理事会の規律、監事の権限行使を確保するための規律(任期、理事の行為の差し止め、報酬など)、役員等の損害賠償責任など)。
一方、認定NPO法人は、特定非営利活動促進法で規定された特定非営利活動(保健、医療又は福祉の増進を図る活動等20種類の分野に該当する活動であり、不特定かつ多数のものの利益に寄与することを目的とするもの)に寄与することを目的としている法人であり、認定NPO法人になるための要件であるパブリック・サポート・テスト(「PST」、広く市民からの支援を受けているかどうかを判断するための基準)等を満たす法人である。
このように、公益法人制度とNPO法人制度は、その成り立ちや仕組みに違いがあり、法人を設立しようとする場合には、それぞれの制度の相違点を十分に踏まえ、当該団体として、それぞれの実情、ニーズに合った法人形態を選択できることに意義がある。
第3 公益行政の基本的考え方
○ 公益行政(公益目的事業の適切な実施を確保する等により、公益の増進及び活力ある社会の実現を実現するための行政をいう。以下同じ。)は、次の考え方に従い、実施するものとする。
〇 公益行政は、法律の根拠に基づき行う。認定法に基づく処分等(勧告を含む。)は、法律及び法律に基づく命令の根拠に従って行わなければならず、法律の根拠なく、委員や職員の考えるあるべき公益法人像に従って、審査や監督を行うことは許されない。こうしたあるべき公益法人像を目指して公益法人を支援(1 公益法人に対する支援は、法令に基づく組織の任務及び所掌事務の範囲で行われる必要がある。)する場合は、法に基づく審査や監督とは峻別する(2 本ガイドラインにおいて「望ましい」としている事項は、法律に基づく審査や監督の対象となる規律ではない。)。
〇 公益行政は、公益法人が自主的・自律的に構築したガバナンスの下で、コンプライアンスを確保し、適切に業務運営が行うことを前提に、寄附者等の意思、法人の伝統や創意工夫、自律的な判断など法人の自治を最大限に尊重して行う。審査や監督は、法律に従い、プリンシプルベースで行うことを原則とし、行政庁・合議制機関において法人が従うべきルールを一方的に設定し、これを押し付けることは、厳に慎む。
〇 一方、株式会社においては経済的に直接の利害関係を持っている持分権者である株主が持分価値の最大化を図ることにインセンティブを持つことに比べ、公益法人において実効的なガバナンスを構築することは、必ずしも容易ではない。このため、公益法人が適正に運営され、社会的信用を確保していく上で、行政庁による審査や監督は重要な意義を持つ。
〇 公益行政の目的は、民間公益を活性化し、活力ある社会を実現することにあり、「公益法人の適正な運営の確保」は手段である。公益法人が、高い規律を持つことは重要であるが、徒に高い規律を求めることは、却って民間の公益活動を阻害しかねないことに留意する。
〇 また、法人のチャレンジが活力ある社会に不可欠であることを踏まえると、法人の創意工夫や新たな事業展開を促進する観点から、事後のチェックにより対応が可能である場合には、法人が自らのガバナンスの下でコンプライアンスを確保し、適切に事業運営を行っていく前提で、法人の申請の内容が、公益認定基準に適合するか否かを確認して認定を行うことを原則とする。
〇 公益行政においては、法人自治を尊重するとともに、法人支援の視点を持ちつつも、問題のある公益法人に対しては、果断に監督上の措置を講じるものとする。認定基準への重大な違背(申請時に行政庁に対して実施を表明した事項が履行されない場合を含む。)その他重大・明白な認定法違反が明らかになった場合は、速やかに勧告等の措置を講じるものとする。
〇 また、令和7年4月からは、法人の自主的・自律的な経営判断がより尊重される仕組みを目指した制度改正が施行され、事後チェックの重要性が高まる。いかなる組織においても不祥事は生じ得るものであり、法人の自律的なガバナンスの下で適切に対応が行われる場合は監督上の措置は不要であることも多いが、ガバナンスが機能せず不祥事が繰り返される場合や、態様が悪質な場合等には果断に監督上の措置を講じるものとする。
〇 公益行政は、認定法に基づく審査・監督のほか、公益法人の自主的な取組の支援(認定法第3条の2第2項)や公益法人の活動の紹介、公益法人等に対する寄附の拡大など、公益行政の目的達成に向けた活動を展開するものとする。
第3節 事務処理の原則
第1 公益認定等委員会と公益法人行政担当室
(1) 公益認定等委員会
○ 公益認定等委員会は、受益者等国民の意向を適切に反映しつつ、行政官庁から独立かつ中立的に判断するとともに、法人の様々な活動に対応できる専門性等を有する機関として、公益目的事業該当性及び公益認定基準適合性を実質的に判断する役割を担っている。このため、行政庁が、次の処分等を行おうとする場合には、公益認定等委員会が諮問を要しないと認めたものを除き、公益認定等委員会への諮問が必要とされている(認定法第43条第1項、第3項)。
① 公益認定・変更認定の申請に対する処分(欠格事由又は形式不備により処分する場合を除く)若しくはこれらに係る審査請求に対する採決(不適法却下する場合を除く。)
② 監督処分等(①欠格事由又は法人の取消申請に基づく処分、②法律に基づく届出又は定期提出書類の提出がないことに基づく処分、③公益認定等委員会による勧告に基づく処分を除く。)又はこれらに係る審査請求に対する採決(不適法却下する場合を除く。)
〇 加えて、公益目的事業該当性や公益認定基準適合性等に係る政令・内閣府令の制定・改廃についても諮問が必要とされており、公益目的事業該当性や公益認定基準適合性等に係る運用についても、公益認定等委員会が実質的判断を行うことが期待されている(認定法第43条第2項)。
〇 また、公益法人に対する実質的な監督は、公益認定等委員会が担うこととされており、公益法人に対する報告徴収及び立入検査の権限(認定法第27条第1項。欠格事由該当性に係る調査に関するものを除く。)は、公益認定等委員会に委任されている(認定法第59条第1項。都道府県知事が行政庁である場合は、合議制機関が当該権限を行使することとされている(同条第2項))。
公益認定等委員会は、公益法人からの届出書類や定期提出書類(認定法第45条第1項)、許認可等行政庁の意見(同条第2項)、報告徴収・立入検査等において把握した事実等を踏まえ、必要がある場合には、監督処分等を行うよう、内閣総理大臣に対して勧告することができる(認定法第46条第1項)。
公益目的事業該当性:認定法第2条第4号に規定する「公益目的事業」に該当するか否かであり、詳細は第2章に記載しています。
公益認定基準適合性:認定法第5条各号に掲げる公益認定の基準にするか否かであり、詳細は第3章に記載しています。
監督処分等:認定法第28条第1項の勧告、同条第3項の規定による命令又は認定法第29条第1項若しくは第2項の規定による公益認定の取消しをいいます。公益法人の適正な運営を担保する重要な手段であり、その適用方針等について第6章に記載しています。
(2) 公益法人行政担当室(内閣総理大臣)
〇 行政庁である内閣総理大臣は、公益認定等委員会が公益認定基準適合性に係る実質的な審査を行うことを前提に、公益法人の認定や監督に関するその他の業務を司る。すなわち、申請書に係る形式的な審査、欠格事由該当性の審査・監督等、定期提出書類の受理などである。内閣総理大臣は、答申・勧告を尊重して処分等を行う。
〇 また、税法に基づく証明(税額控除に係る証明、譲渡所得等の非課税措置における基金に係る証明)等の業務も、行政庁の業務とされている。
加えて、内閣総理大臣は、法所管として、制度の企画立案(公益認定基準等に係る政令・内閣府令については公益認定等委員会に対する諮問が必要(認定法第43条第2項))を行うほか、
・ 公益法人の自主的なガバナンスの充実・透明性の向上の取組を促進するための支援(認定法第3条の2第2項)
・ 公益法人の活動状況、公益法人に対して行政庁が取った措置等についての調査・分析・資料の作成及び情報の提供(認定法第57条)
・ 地域間の均衡を図るために特に必要と認める場合における都道府県知事への指示(認定法第60条)等を行うこととされている。
第2 事務処理の原則
(1) 迅速・丁寧な対応
〇 公益法人は、社会の変化に機動的に対応して公益活動を行うことに大きな意義があり、申請書類の審査は、迅速に行う必要がある。申請については、原則として、標準処理期間(3 内閣府においては、認定法第4条の認定に係る標準処理期間を4か月、認定法第11条の認定及び整備法第125条第1項の認可に係る標準処理期間は40日としている(「公益認定等に関する標準処理期間について」平成23年8月1日内閣府大臣官房公益法人行政担当室)。)内に処理するよう努める(4 内閣府においては、申請事案については遅くとも1年以内に処理することを目指し、原則として、申請から8か月の時点で法人から必要な情報が提出されない場合には、不認定とすることを検討する。)。また、標準処理期間内の処理を確保する観点から、審査に要した期間の状況を公表するものとする。
〇 申請者である公益法人等の役職員に対しては、所掌事務の範囲で、丁寧に対応する(5 公益法人の役職員は、行政から自立した自立した民間法人の役職員として、法人法その他の法令を自ら学習し、コンプライアンスを確保しつつ法人として意思決定を行い、法人を運営することが求められる。申請に必要な情報の提供(行政手続法第9条)の範囲を超える、法人運営等についての一般的な情報提供や助言は、公益法人に対する「支援」の一環として行うことは妨げられないが、行政職員として対応する義務があるわけではないことに留意する。)。
〇 公益法人の活動に問題がある場合は、速やかな是正が必要であり、監督業務においても迅速な対応が求められる。監督に当たっては、事実に即して毅然とした対応を行う必要があるが、十分な根拠のない中での決めつけや高圧的な態度をとることがないよう留意する。
〇 上記のほか、職員が、外部の者と面談、電話、電子メール等によりやり取りをする場合は、綱紀及び品位の保持に努め、対応の方法、場所、時間帯、参加者等がやり取りの目的・内容に照らして相応しいものとなるよう留意する。
(2) 事実に基づく判断、効率的・効果的な業務遂行
〇 公益行政は、必要な情報を適切に収集した上で、事実に基づき適正に行う。一方、公益法人等にとって、行政への対応に係る業務は、負担であり、行政が情報収集を行うに当たって公益法人等の負担は最小限とする必要がある。
〇 また、行政においても、公益行政を担う職員の数は限られており、目的に照らして効果的・効率的に行う。
(3) 事前相談など
申請後に不備や課題が明らかになり、処分までに長期間を要し、公益法人等が予定通りに事業を実施できなくなることがあり得る。このため、法人の要望を受け、申請書類の内容等について事前の相談に応じることとする。その際には、行政庁は、申請をしようとする者又は申請者の求めに応じ、申請書の記載及び添付書類に関する事項その他の申請に必要な情報の提供に努めなければならない(行政手続法第9条第2項)ことを踏まえ、適切に対応する。なお、事前相談を実施していることを理由として、申請を妨げることはできないことは当然である。
第4節 内閣府と都道府県との連携
〇 都道府県知事が行政庁として行う事務は、自治事務と整理されており、都道府県知事は、認定法・認定令・認定規則に従い、地域の実情等に応じた事務処理を行うことなる。
一方で、公益法人の中には、地域毎に同一趣旨の法人が設けられている場合も多く、理由なく運用がバラバラとなる場合には、制度に対する信頼を失わせることになりかねない。最終報告においても、行政の判断のブレやばらつきを極力なくす必要性が指摘されている。このため、内閣府は、審査・監督の判断事例その他認定法の運用について、都道府県の運用を把握するとともに、内閣府における運用と併せて幅広く情報提供を行うことで、行政庁間で情報共有を図り、可能な限り、共通の考え方の下で運用が行われるよう努めるものとする。
〇 また、都道府県と情報共有を図る中で、都道府県の意見も踏まえ、必要に応じ、ガイドラインの見直しを行うこととする。
〇 なお、このような取組にも関わらず、都道府県知事の事務処理が法令に違反しているか、又は著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認めるときには、地方自治法第245条の5の規定に基づき、是正の要求を行うこととなる。
〇 加えて、公益法人は、行政庁が都道府県であっても、所得税、法人税等の国税の優遇措置を受けることとされており、全国で整合性のある法運用が行われることが特に求められている。このため、地域間の均衡を図るために特に必要があると認めるときは、内閣総理大臣は、都道府県知事に対し、認定法の規定による勧告、命令、公益認定取消しその他の措置を行うべきことを指示することとされている(認定法第60条)。
第5節 行政手続法及び行審法との関係
〇 内閣府の公益行政は、国家公務員法(昭和22年法律第120号)、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年法律第42号)、個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)など行政に関連する各種法令に従い実施される。中でも行政手続法及び行審法は、公益行政の公正性・透明性を確保する上で重要である。
〇 特に、行政手続法は、
・ 申請に対する処分については、予め審査基準及び標準審理期間を設定する、申請が到達したときは遅滞なく審査を開始する、申請者に対して審査の進行状況等を示すよう努める、申請を拒否する処分を行う際には理由を提示する等を定め、
・ 不利益処分について、処分基準をできる限り定め公表する、不利益処分をしようとする場合に聴聞又は弁明の機会を付与する、処分に当たり理由を提示する、
・ 行政指導は各種原則(後述)に従う
・ 命令等を定めるに当たっては意見公募手続を行うなど、
認定法の審査・監督等を行うに当たって遵守すべき基本原則が定められている。
○ この節においては、これまでの公益行政に対する批判等を踏まえ、行政指導を中心に記載するが、これに留まらず、行政手続法を遵守し、同法の趣旨(6 行政手続法の趣旨等については、行政手続法の施行に当たって(総務事務次官通知平成6年9月13日付け総管第211号)、等に記載されている。)等を踏まえた対応を行うことは、極めて重要である。
第1 行政指導(法に基づく勧告を除く。)
〇 職員は、法人等からの相談、定期提出書類のチェック、立入検査など、様々な場面で法人等に対し「指摘」を行うことが想定される。こうした「指摘」は、行政手続法第2条第6号に規定する「行政指導」に該当しないことも多いと考えられるが、行政庁及び公益認定等委員会の職員は、常に、行政手続法の趣旨を踏まえて業務を遂行する必要がある(7 地方公共団体の機関が行う行政指導については、行政手続法上の行政指導に関する規定(第4章)は適用除外となり(行政手続法第3条第3項)、各地方公共団体の行政手続条例の規定に従うこととなる。)。
〇 特に、申請者に対して申請内容の見直しや申請の取下げを求め、又は公益法人に対して事業内容の見直し等を求める場合には、行政手続法の規定に則り、適切な対応をしなければならない。
(1) 一般原則(行政手続法第32条)
〇 行政指導等(情報提供、相談、助言など必ずしも行政手続法第2条第6号に規定する「行政指導」に含まれないものを含む。以下同じ。)の内容は、あくまで相手方の任意の協力によってのみ実現するものであることに留意する必要がある。
〇 また、相手方が行政指導等に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。
(2) 申請に関連する行政指導等(行政手続法第33条~第35条)
〇 申請の取下げ又は変更を求める行政指導等にあっては、申請者が当該行政指導等に従う意思がない旨を表明したにも関わらず当該行政指導等を継続すること等により、申請者の権利の行使を妨げるようなことをしてはならない(行政手続法第33条)。
・ 申請書記載事項の不備、必要な添付資料の不足等の申請の形式上の要件に適合していないことからその補正を求めるものは対象外であるが、「形式上の要件に適合しない」との判断は厳格に行う必要があり、申請内容の明確化を求めるものや、「行政庁が必要と認める書類」として本ガイドラインに記載していない書類の添付を求めるものは、「申請の変更を求める行政指導」に該当すると考えられる。
・ 申請者が行政指導等に従わない意思を表明した場合には、行政指導等を中止し、申請に対し速やかに適切な対応を講じることが求められる。公益認定等委員会に諮問をしていない場合には、速やかに諮問を行い、又は、行政手続法第7条の規定に基づく申請の拒否若しくは認定法に基づく処分を行うものとする。
〇 不認定等の処分を行うことができるか明らかではない場合等において、当該処分ができる旨を殊更に示すことにより相手方に行政指導に従うことを余儀なくさせることをしてはならない(行政手続法第34条)。
〇 また、申請の取下げ又は変更を求めるものも含め、行政指導を行う際には、①当該権限を行使しうる根拠となる法令の条項、②当該条項に規定する要件、③当該権限の行使が当該要件に適合する理由を示さなければならず(行政手続法第35条第2項)、行政指導が口頭でなされた場合において、その相手方から書面の交付を求められたときは、行政上特別の支障がない限り、これを交付しなければならない(同条第3項)。④このほか、行政庁は、申請者の求めに応じ、当該申請に係る審査の進行状況及び当該申請に対する処分の時期の見通しを示すよう努めなければならないとされていることに留意する(行政手続法第9条第1項)。
(3) 監督上の措置に関連する行政指導(行政手続法第34条・第35条)
〇 監督上の措置を行使することができない場合又は行使する意思がない場合にも関わらず、当該措置を行使し得る旨を殊更に示すことにより、相手方に行政指導に従うことを余儀なくさせるようなことをしてはならない(行政手続法第34条)。監督上の措置についても、上記の行政指導の明確化及び書面交付請求の対象となる(行政手続法第9条第1項、第35条第2項、第3項)。
〇 定期提出書類のチェックや、立入検査に当たり、公益目的事業の質の向上やガバナンスの確保の観点から、公益法人に対して助言等を行うことは、民間公益の活性化を図るためにも有益であるが、法に基づく監督と公益法人の支援(助言等)は峻別し、行政手続法の趣旨に従って助言等を行う。
(4) 複数の者を対象とする行政指導(行政手続法第36条)
同一の行政目的を実現するため一定の条件に該当する複数の者に対し行政指導をしようとするときは、予め、事案に応じ、「行政指導指針」を定め、かつ、行政上特別の支障がない限り、これを公表しなければならない(行政手続法第36条)。「行政指導指針」の策定には、原則として意見公募手続が必要である(行政手続法第39条第1項)。
第2 不利益処分等(行政手続法との関係)
〇 公益法人に対して不利益処分を行うに当たっては、認定法の要件を個別に検討するほか、多数の国民や企業が被害を受けるかどうかなど事案の重大性、公益法人制度に対する信頼性を損なう悪質なものであるか等を考慮の上、不利益処分の是非及び内容を判断する。
〇 公益法人に対して不利益処分を行う際には、理由を示さなければならない。認定法に基づく不利益処分としては、同法第28条の命令及び第29条の公益認定の取消し(公益法人から申請があった場合を除く。)がある。
〇 なお、公益法人に対する勧告は、直接、公益法人に対して義務を課し、又は権利を制限する処分ではないことから、不利益処分には該当しない。しかしながら、公益法人に対する勧告の内容は、公表しなければならないとされ、また、正当な理由なく勧告に係る措置を執らないときには、「命令」することができるとされているなど、事案の重大性を踏まえると、勧告を行うに当たって理由を付すことが適切である。
〇 また、報告徴収については、行政手続法の不利益処分に係る規定は適用されない(行政手続法第3条第1項第14号)。
〇 行政庁が、公益認定の取消処分(公益法人から申請があった場合を除く。)を行おうとするときは、聴聞手続を行う必要がある(行政手続法第13条第1項第1号イ)。なお、公益法人に対する命令についても、命令内容の重大性等を勘案して、聴聞手続を行っても差し支えない。
公益法人に対して命令を行おうとするときは、聴聞手続を行う場合を除き、弁明の機会を付与しなければならない(同項第2号)。なお、公益法人に対する勧告についても、その重大性に鑑み、事前に反論の機会(報告徴収への回答を含む。)を与えることが望ましいと考えられる。
〇 このほか、聴聞手続その他不利益処分を行うに当たっては、「行政手続法の施行に当たって(総務事務次官通知平成6年9月13日付け総管第211号)」の「第三 不利益処分関係」の内容を踏まえ、適切に行う。
第3 審査請求
行政庁の処分等に関し、簡易迅速かつ公正な手続の下で不服申立てをすることができる制度として、行審法に基づく審査請求の制度がある。審査請求の事務処理については、「行政不服審査法事務取扱ガイドライン」(令和4年6月 総務省行政管理局)を参照することを前提に、本節では、認定法の性格に照らして特に追記が必要な事項について記載する。
(1) 審査請求
〇 行政庁(8 行審法においても「行政庁」の用語が使われている。認定法の「行政庁」と本来の意味は異なる。)の処分に不服がある者は、審査請求をすることができる9 認定法に基づく処分に関して、再調査の請求(行審法第5条)・再審査請求(行審法第6条)の制度は用意されていない。10 審査請求をすることができる処分を行う際には、行政庁は、当該処分について審査請求をできる旨並びに審査請求をすることができる行政庁及び審査請求をすることができる期間を書面で教示しなければならない(同法第82条第1項)。なお、訴訟に関しても同様の教示が必要である(行政事件訴訟法第46条第1項)。(行審法第2条)。
認定法に基づく「行政庁の処分」として、公益法人等の申請を拒否する処分や公益法人等に対する命令や認定取消しなどがあり、処分等を行った行政庁が審査請求先となる(行審法第4条第1号)。
○ また、行政庁に対して認定法に基づく申請をした者は、当該申請から相当の期間が経過したにも関わらず、行政庁が申請に対して何ら処分をしない場合には、当該不作為について審査請求をすることができる(行審法第3条)。
(2) 事務処理体制
〇 認定法に基づく処分等に係る審査請求については、処分を行った行政庁(処分庁)と同一の行政庁が審査庁となるとともに、行政不服審査会への諮問ではなく、認定法に基づき、合議制機関へ諮問することが原則である。
〇 行審法の手続には、行政側においては、以下の4つの立場の者が関与することになるが、簡易迅速かつ公正な手続の下で国民の権利利益の救済を図るとの行審法の趣旨を踏まえ、内閣府においては、これらの立場で事務を処理する担当者については、処分庁としての事務を行う者以外は、原処分に関係しない者を充てるものとしている。
審査庁 → 審査請求の形式審査、審理員の指名、合議制機関への諮問、裁決 等
審理員 → 審理手続の進行(争点の整理、意見聴取など)、審理員意見書の作成等
合議制機関 →裁決案の審議・答申
処分庁 → 弁明書の作成・提出、証拠書類の提出等
(3) 審理員・審理手続
○ 行審法においては、審査請求の審査の公正性・透明性を高めるため、行政庁が指名する「審理員」が審理手続を行うこととしている(第9条)。手続の公正性・透明性を確保する上で審理員の役割は特に重要であり、審査請求に係る処分に関与した者(不作為の審査請求にあっては処分に関与することとなる者)等は審理員になることはできない(同条第2項)とされており、原則として、処分に関与しない部局の管理職級の職員又は弁護士等の外部有識者を審理員に指名するものとする(11 内閣府では、内閣府大臣官房参事官を充てることとしている。)。
〇 審理員は、口頭意見陳述を主催(行審法第31条)するなど自らの名前で審理手続を行い、審理員意見書(12 審査庁がすべき裁決に関する意見書であり、「行政不服審査法事務取扱ガイドライン」では、裁決書の記載事項に対応して、事案の概要、事実関係及び審理関係人の主張の要旨を整理し、当該事件の争点を明示した上で、審査請求に対する結論及びその理由を記載することが望ましいとされている。審理員意見書は、裁決書に添付する必要があり(行審法第50条第2項)、審理員意見書と異なる裁決をする場合には、その理由を裁決書に記載しなければならない(同法第50条第1項第4号)。)を作成する(行審法第42条)。
行審法は審理手続に関する権限を審理員に帰属させており、審理員は、個々の事件に関する個別具体的な審理手続については、審査庁から指揮を受けることなく、自らの名において審理を行う。したがって、内閣府においては、公益認定等委員会及び公益法人行政担当室は、個々の事件に関する審査手続について、審理員に対し、個別具体的な指示等を行わないこととしている。
(4) 処分庁としての対応
認定法上の処分庁の担当者は、審理員の求めに応じて、弁明書を提出するほか、処分の理由となる事実を証する書類(13 内閣府では、当該事案に係る公益認定等委員会の審議資料等を提出することとしている。)を提出することができる(行審法第32条第2項)。審理員に提出した資料は、審査請求人による閲覧又は写しの交付の請求の対象となり、審理員は、第三者の利益を害するおそれがあると認めるとき、その他正当な理由(14 「行政不服審査法事務取扱ガイドライン」において、「『正当な理由があるとき』とは、具体的には、例えば、第三者の個人識別情報が含まれている場合や、閲覧等により、行政機関が行う事務の性質上、当該事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある情報が含まれている場合など、個人情報の保護に関する法律第78条各号に規定する不開示理由と重なるもの、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年法律第42号。以下「情報公開法」という。)等における不開示理由と重なるもの、対象となる資料が膨大かつ整理されていない場合など事務負担が過大であって審理手続の遂行に支障を来す場合が想定される。」とされている。)があるときでなければ、その閲覧又は交付を拒むことができないとされているとされている(行審法第38条第1項)ことに留意する必要がある。
(5) 審査庁としての対応
〇 審理員意見書の提出を受けたときは、原則として、速やかに合議制機関に諮問するものとする(行審法43条第1項、認定法43条3項)。諮問は、審理員意見書及び事件記録の写しを添付して行う(行審法第43条第2項)。
〇 争点となっていて裁決をする際に必要と考えられる事項について、審理員意見書に記載がない場合は、審査庁は職権で調査を行うこともできるが、行政不服審査制度の趣旨を踏まえると、審査請求人に反論の機会を与えることなく審査請求人が了知しない事実や論点に基づき判断を行うことは適当ではないため、新たに調査して把握した事実については、審査請求人に職権で交付等することが望ましい(15 行政不服審査会の調査審議においては、審査関係人は、審査会に提出された資料等の閲覧等を求めることができ、審査会は、第三者の利益を害するおそれがあると認めるとき、正当な理由があるときでなければ、これを拒むことができない(行審法第78条)。)。
〇 なお、欠格事由に該当することを理由とする処分や法令に定められた申請の形式上の要件に適合しないために行政手続法第7条に基づき認定を拒否した処分に対して適法な審査請求があった場合は、合議制機関に諮問することとされておらず、審査請求人から行政不服審査会への諮問を希望しない旨の申し出がされている場合を除き、行政不服審査会等に諮問する必要があることに留意する。
第2章 公益目的事業該当性の判断
(公益目的事業該当性の判断基準をガイドラインに記載する趣旨)
〇 どのような事業が公益目的事業に該当するかは、認定法第5条に定める公益認定基準への適合性を判断する上での前提であり、「公益性」の判断における最も重要な論点と言える。公益認定に際しては、申請書及び添付書類に記載された事業内容や計画(認定後に事業内容が変わる場合等)が公益目的事業に該当するかが審査され、認定後においては、公益目的事業が公益認定を受けた内容に即して実施されているかが監督の対象となる。
〇 旧ガイドラインにおいては、公益目的事業に該当するか否かについては、有識者で構成される委員会等において判断するものであるとし、「不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するか」の事実認定に当たっての留意点として、ガイドライン中の参考として「公益目的事業のチェックポイント」が示されるに留まっていた。申請書には、「公益目的事業の種類及び内容(認定法第7条第1項第3号)」を記載することとされているが、「内容」として具体的に何を記載するかは法令及びガイドラインに示されておらず、「申請の手引き」において具体的に記載するよう求めるのみであった。
〇 こうした仕組みは、旧制度の公益法人が現行制度に移行するに当たり、あらかじめ枠を設定することなく柔軟に判断できる枠組みとして有効であったが、制度運用が進む中で、「チェックポイントに記載がない観点から公益目的事業該当性が判断されることがあり、判断の透明性・予見可能性に欠ける」、「ガイドライン等で明記されていない書類を求められることによって、法人に必要以上の負担をかけるとともに、審査期間の長期化を招いている」、「申請書に詳細に記載した結果、事業を少し変更するだけで変更認定申請が必要になる」「変更認定申請と変更届出の違いが分からない」といった指摘を受けるに至った。
〇 最終報告においては、公益法人が、多様で変化の激しい社会のニーズに柔軟かつきめ細やかに対応して公益目的事業を展開していくことができるよう、 手続を簡素化・合理化した上で、手続に関する公益法人の予見可能性を高める観点から、基準や必要な書類を可能な限り明確化することとされた。その際には、事業の公益性に実質的に大きな影響を与えない変更であって、当該変更後に不適切な事態が発生した場合には事後の監督手段で是正しうると想定されるものは、届出事項とすることとされている。
〇 最終報告を受けた令和6年のガイドライン見直しにおいては、これらの課題を踏まえ、公益性の判断基準の明確化、申請書記載事項の明確化、変更認定事項の届出事項への見直しを一体的に進めた。
〇 まず、公益目的事業に該当するか否かについての判断事例を整理して、判断基準の明確化を図るとともに、これを単なる留意事項ではなく、審査基準(審査基準について、「行政庁の判断過程の透明性を向上させることが、行政運営における公正を確保し、処理の迅速化、円滑化に資するとの観点」から制度が設けられていること、「行政庁に裁量が与えられている場合には、裁量権行使に当たっての行政庁の考え方が具体的に明らかにされることが重要であって、処理を画一化すること自体が目的ではないので、個々の申請についての当てはめ基準の作成が困難である場合であっても、審査に当たって、どのような要素が考慮されるのか、個々の要素はどの程度の評価を与えられることになるのかといったことをできる限り示しておくことが必要」(行政手続法の施行に当たって(前掲注〇))。)として位置付けることとした。
次に、明確化された判断基準への適合性の確認のためには申請書に何が記載される必要があるか、添付書類として何が必要であるかを明らかにすることとした。その際には、法人の経営判断で機動的に社会変化に対応した事業展開を行うことができるよう、事業の拡大・縮小など法人の経営判断に委ねて差し支えない事項は事業計画等に記載されることを前提に、申請書記載事項はできる限り簡素化することとした。これにより、申請書記載事項を変更する場合には、原則として変更認定申請が必要とする枠組みを維持しつつ、変更認定申請が必要な場合は、相当程度、限定されることとなる。
さらに、これまでの制度運用により、公益目的事業への該当性に影響がないことと類型化できるものについては、ガイドラインにおいてチェックポイント毎の判断基準を個別に明らかにすることで、公益法人の負担軽減を図ることとした。
〇 これらにより、公益目的事業に該当するかの判断について予見可能性が高まり、機動的・柔軟に公益目的事業が展開されることが期待される。
第1節 総論
第1 公益目的事業とは
○ 公益目的事業とは、学術、技芸、慈善その他の公益に関する認定法別表各号に掲げる種類の事業であって、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するものをいう(認定法第2条第4号)。別表各号は、その性質上何らかの形で不特定かつ多数の者に利益をもたらすと考えられるものとして、国民の利益のために制定されている立法当時有効な法律の目的規定を抽出・集約し、列挙したものであり、およそ公益と考えられる事業目的は、別表各号のいずれかに位置付けることができると考えられる。
○ 公益目的事業に該当する、即ち、認定法別表各号に該当する事業であって、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するという事実があるかどうかを認定するためには、
① まず、法人の掲げるその事業の「趣旨・目的」が、認定法別表各号に該当し、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するものであることが求められる。
また、「趣旨・目的」だけでなく、その「事業内容」及び「手段」が、
② 当該趣旨・目的を実現するためのものであること(事業の合目的性)を合理的に説明できること
③ 当該目的を実現するための事業の質(専門性や公正性、不利益発生の排除など)が確保されていること
④ 特定の者又は特定の集団の利益に留まらないこと(受益の機会の公開など)
⑤ 事業内容に透明性があること(17 従来のチェックポイントにおいても目的を「適当な方法で明らかにすること」のほか、実績等の「公表」等が挙げられていた。)
の確認が必要である。
あわせて、公益法人制度は、民間非営利部門が、政府部門や企業を中心とする民間営利部門と相互に自立と協働の関係を維持しつつ、機動的な対応が構造的に難しい政府部門や、採算性が求められる民間営利部門では十分に対応できない活動領域(18 民法に基づく旧公益法人制度においては、事業内容が、社会経済情勢の変化により、営利企業の事業と競合し、又は競合しうる状況となっている場合があり、そのような場合には、公益法人としてふさわしいと認められる事業内容への改善等に向けた措置を講じるが、そのような措置が講じられない場合においては、営利法人等への転換を行うこととされていた。)を担っていくことが期待されて立法された制度である。公益認定を受けた法人は、「公益」を名乗り、行政庁の監督の下で社会的な信用を得るとともに、高い税制上の優遇措置を受けるなど、広く社会的なサポートを受けつつ、民間公益活動ならではの領域を切り開き、市場や政府では十分に供給できない新たな価値を生み出していくことが期待されている(19 逆に、公益法人が行わなくとも実施される事業について、公益法人が実施する意義は乏しいと言える。)。これらを踏まえると、
⑥ 営利企業等が実施している事業と類似する事業にあっては、社会的なサポートを受けるにふさわしい公益目的事業としての特徴があることを確認することが求められる(上記①から⑥の全てに該当することを「公益目的事業該当性」という。以下同じ。)。
〇 一方、公益目的事業は多種多様であり、事業ごとに、公益目的事業該当性の判断に当たって重視すべき内容は異なる。事業の性質に照らして当たり前のことについては、法人に明示的な説明を求める必要はないにも関わらず、どの事業にも一律・網羅的な確認を行うことは、公益法人及び行政庁の双方にとって無用な負担となるだけでなく、公益法人の自発的な活動を阻害し、法目的の実現を妨げることにもなりかねない。
〇 このため、公益認定の審査・監督に当たっては、原則として、公益目的事業として求められる趣旨等に応じて、重点的にチェックを行う必要がある事項のみ確認をし、それ以外の事項については、法人の事業内容に照らして当該事情を確認すべき特段の事情がある場合を除いて、法人のガバナンスに委ねることが適切である(20 例えば、「施設の貸与」を行う公益目的事業において、「目的を実現するための事業の質(専門性や公正性、不利益発生の排除など)の確保」は当然に必要であると考えられるが、一般には、当該事業を行う事業者として当たり前のことであり、その具体的内容について行政として個別にチェックする必要性は乏しい。一方、施設の貸与事業であっても、具体的な事業内容に照らして事業の質の確保が特に重要となることもあり得ないわけではない。また、実際の事業運営に当たり、一定の質の確保は公益目的事業として不可欠の要素である(実際の監督の場面では、「公益目的事業を行うのに必要な技術的能力」がないと判断されることが多いと考えられる。))。
〇 こうした観点から、典型的な事業については、公益目的事業該当性を簡便に判断することができるよう、事業区分ごとのチェックポイントを示すこととする(第2節)。
チェックポイントに示した事業区分は、多種多様な公益目的事業の一部に過ぎず、それ以外のチェックポイントにない事業については、事業の特性に応じて軽重を付け、重要事項に集中して確認を行うものとする。
第2 申請書記載事項
〇 公益認定の申請書には、「公益目的事業の種類及び内容」を記載することとされている(認定法第7条第1項第3号)。「公益目的事業の種類又は内容の変更」をしようとするときは、認定規則で定める軽微な変更の場合を除き、変更認定が必要であり(認定法第11条第1項第2号)、申請書に記載された「公益目的事業の種類及び内容」の変更を伴う場合には、原則として変更認定が必要となる。
〇 また、公益法人の監督は、申請書に記載された「公益目的事業の種類及び内容」を基礎として実施される。
(1) 基本的考え方
〇 公益目的事業該当性は、「公益目的事業の種類及び内容」として申請書に記載された事項(以下「申請書記載事項」という。)及び申請書の補足情報として記載された事業の公益性等に関する説明21(以下「事業の公益性等に関する説明」という。)並びに事業計画、事業報告その他の添付書類によって判断する。なお、当該法人が事業を行うに当たり法令上行政機関の許認可等を必要とする場合は、公益認定申請及び変更認定申請に係るにおいて、認定法第5条第1号に規定する事由について、許認可等行政機関の長の意見を聴くこととされており、公益認定又は変更認定の審査における公益目的事業該当性の判断に当たっては、許認可等行政機関の意見も情報源となる。
〇 申請書記載事項は、法人が自らの意思で記載し、当該記載により公益認定を受けたものであり、その変更には、原則として、変更認定を必要とする(「第4」参照)。このような申請書記載事項は、「国民に対する約束」ということができ、備置き・開示等の対象となる書類と位置づけ(認定規則第45条第4号)、認定法第22条第2項に基づく公表対象(第5章第5●(1)④参照)とされている。申請書記載事項から読み取ることができない事業や、申請書記載事項に従って実施されない事業は、公益目的事業として認められず、公益法人は、申請書記載事項に従って公益目的事業を実施する必要がある。(22 平成28年1月に内閣総理大臣が日本ライフ協会に対して行った勧告においては、公益目的事業の手段として、申請書に記載されていた「三者契約」を、変更認定を受けることなく「二者契約」に改めたことが問題となった。23 一方、事業の一部廃止は公益法人自体の判断で可能(認定規則第9条第三号イ)であり、申請書に記載された事業の全てを、毎年度、必ず実施しなければならないわけではない。)。
〇 事業の公益性等に関する説明は、従来、申請書の別紙2においてチェックポイントに該当する旨の説明及び事業を継続的に行うために必要な許認可等について記載を求めていたものである。これらについては、引き続き申請書への記載を求めるが、申請書記載事項とは扱わないものとする。
〇 「国民に対する約束」として公益目的事業のコンセプトを明確にしつつ、法人の経営判断による機動的・柔軟な事業展開が可能となるよう申請書記載事項として、公益目的事業の趣旨・目的や事業概要、受益の機会、受益者の義務、事業の合目的性確保の取組等に関する基本的な考え方及び原則が示されていれば足りることとし、事業の規模や詳細設計など法人の毎年の経営判断で行われるべき事項は、事業計画等に記載することを原則とする(24 事業内容の変更を想定していない法人等について、法人の意思で詳細に記載することは排除されない。)。これにより、行政手続に係る法人の負担は軽減される。
○ 申請書に記載を求める具体的内容は、下記「(2)記入要領」に記載のとおりであり、公益認定の審査に当たっては、申請書記載事項に加え、事業の公益性等に関する説明、事業計画等(25 「事業計画」以外に、法人が策定し、公表(原則)する各種規程、募集要項などを含む。その場合、事業計画への添付を求める。申請時において、事業計画等又は事業報告に記載がない場合は、申請書とは別に「行政庁が必要と認める書類」として詳細の情報を求める。申請書には、公益法人が守るべき約束として、「〇〇については事業計画等に記載し、実績を事業報告に記載する」旨を記載するよう求める。)に記載された具体的な事業内容及び事業報告に記載された実績等により、公益目的事業該当性を判断する。
〇 申請書には、事業の外延を画し、公益目的事業としての性格を担保するために必要な基本的事項が記載されている必要がある(26 法人の経営判断のみで変更することが許されない(変更認定申請が必要)事項は、申請書に記載されている必要がある。)。公益法人は、申請書記載事項に沿って事業計画等を定め、公益目的事業を実施することが求められ、行政庁は、申請書記載事項に沿って公益目的事業が実施されているかを監督する。公益目的事業としての基本的考え方及び原則が申請書に明確に記載されていない場合(27 事業計画は、法人の経営判断で変更できることに留意する。)には、公益目的事業としての外延が画されておらず、内容が不明確であるために、不認定となることがあり得る。
〇 その他、公益目的事業該当性を判断するために合理的に必要と考えられる添付書類は、「判断基準」として、本ガイドラインにおいて定める(第3 審査に当たっての確認事項及び判断基準・及び第2節 具体的な事業区分ごとの当てはめ参照)。本ガイドラインに記載がない書類を求めるときは、行政庁は、申請法人に対して当該書類を必要とする理由を示すものとする。
(2) 記入要領
○ 申請書記載事項の記入に当たっては、事業の実態を踏まえ、同一の趣旨・目的の下、密接に関連して実施される事業は一つにまとめる。社会通念に照らして、密接関連性が自明ではない事業をまとめる場合には、それらの事業の関連性について説明する(28 事業をまとめた結果、チェックポイントの複数の事業区分に該当する場合には、事業の公益性等に関する説明において、該当する複数の事業区分のチェックポイントを用いて説明する必要がある。)。ただし、収益や共益を目的とする事業など、収益事業等をまとめることはできない。なお、一つにまとめた事業の一部に公益性が認められなければ、全体の公益目的事業該当性が否定されることに留意する。
○ そのほか、申請書記載事項の記入に当たっては、下記の①~⑥のとおりとする。
① 事業の趣旨・目的
○ ア:事業(及び法人)の趣旨・目的を端的かつ簡潔に記載する。事業の趣旨・目的は、③受益の機会の公開や⑤公益目的事業の合目的性等の判断に当たって常に参照される原則であり、公益目的事業として基本的な理念が記載されている必要がある。
受益の機会を限定する場合や、営利企業等が行う事業と類似する事業を行う場合などには、事業の趣旨・目的との関連性が特に重要であることに留意して記載する必要がある。
なお、定款の範囲内で、かつ、公益目的事業の具体的な対象や実施地域など法人(理事会)の毎年の経営判断により変更することが想定される事項は、事業計画等に記載することとして差し支えない。
○ イ:アのほか、以下を記載する。
(ⅰ) 事業の種類(別表該当性)についての説明
(ⅱ) 趣旨・目的の公表方法
② 事業の概要
○ 公益目的事業の内容を端的かつ簡潔に記載する。①アに記載された趣旨・目的を実現するため、幹となる事業としてどのような類型の事業を行うか(例:検査検定、資格付与など)、どのような者を受益者として、どのような方法で行うかなど、公益目的事業の外延が明確にわかるよう記載する(③~⑥に記載される事項について、重複して記載する必要はない。)。法人(理事会)の毎年の経営判断により変更が見込まれる事項(対象者の具体的範囲や数など)は、原則として、事業計画に記載するとともに、実績を事業報告に記載する旨を明らかにする。
〇 申請書の事業の記載は定款や事業計画等の事業と完全に一致している必要はないが、定款上の事業や事業計画書等と対応関係が明らかとなるように定める。
○ 同一の趣旨・目的の下、同種の事業を複数行うことが想定される場合は、事業計画等への記載を前提に、申請書には端的かつ簡潔に記載する。
○ 幹となる事業の効果的な実施等のために付随的に、小さな規模で行う事業(法人税法施行令(昭和40年政令第97号。以下「法人税令」という。)第5条に掲げる事業であって相応の対価が見込まれるものを除く。以下「付随的事業(29 「付随的事業」には、チェックポイントを異にする事業も含まれる。申請書に記載しない場合、申請書の別紙2の2.(2)においてチェックポイントに該当する旨の説明も不要である。)」という。)については、事業計画等への記載を前提に、記載不要とする。付随的に行う事業の規模が大きくなると想定される場合は、当該事業の趣旨・規模等を申請書に明記する(詳細は事業計画への記載で可)。なお、付随的事業は、幹となる事業の効果的な実施等のために行われる事業であり、幹となる事業が実施されない場合には実施されることがないものが想定される。
○ 法人税令第5条に掲げる事業(30 法人税令第5条第2項各号(第一号を除く)に掲げる事業は含まれない。)(相応の対価が見込まれる場合に限る。)を公益目的事業として実施する場合には、申請書への記載を要するものとする。その際には、当該事業を公益目的事業として行う必要性・意義等について記載する(31 収益性が高い事業を行う場合には、透明性を確保する必要性が高いほか、申請書に記載されていない場合には、当該事業が公益目的事業に含まれるか必ずしも明らかではないために、税務行政の適正な執行にも問題が生じ得る。)。
○ 幹となる事業内容と類似する事業を営利企業等が行っている場合には、公益目的事業としての特徴を記載する。
〇 公益目的事業実施のための財源については、収支予算書、事業計画及び財務諸表により確認できることが必要である。
〇 不可欠特定財産がある場合は、どの事業の用に供するかを記載する。その他公益目的事業実施のために必要な資産については、収支予算書、事業計画及び財務諸表により確認できることが必要である。
〇 事業を受託(請負を含む。)により行う場合は、委託元との受託内容が事業計画及び事業報告において確認できることが必要である。補助金等が交付されている場合(補助金等の申請を予定している場合を含む。)は、原則として、事業計画及び事業報告により確認できることが必要である。
〇 事業の重要な部分を委託している場合には、事業計画及び事業報告において委託の事実及び委託している業務内容を確認できることが必要である。
〇 事業において発生する知的財産権について、法人以外の者が取得する場合は、原則として記載する。
③ 受益の機会について
〇 事業の受益の機会(応募要件、参加要件等)について記載する。募集等を行う場合は、募集等の方法を記載する(募集の方法は、事業計画において記載する旨の記載で可)。受益の対象は一者とは限らない(32 例えば、スポーツ大会事業において、参加選手のほか、観客が受益者となることが想定される。)
申請書に助成対象を「〇〇学その他事業計画に定める分野」とするなど、事業計画等の定めに従い、受益の機会を広げ得ることを申請書に記載できる。
○ 応募や参加の条件を特定の属性を有する者に限るなど、受益の機会を特定の集団に限るような場合には、当該条件を付す理由及び当該条件によっても、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与することになる理由を記載する。
○ なお、店舗における物品の販売や劇場における公演など、受益の機会が開かれていることが明らかな事業について、受益の機会についての記載を要しない。
④ 受益者の義務・受益の条件について
○ 受益者の義務(受益の条件(対価など))及びその公表方法について記載する33。
対価については、「市価より低額とする」「需給に応じた変動価格とする」「国民が気軽に拝観できる価格とする」等の対価設定の原則を申請書に記載した上で、具体的な価格等は事業計画に記載(頻繁な変更が想定される場合は法人のホームページや事業所への掲示で可)することを原則とする。
事業の内容に応じて、「事業計画に記載する」「ホームページにおいて公表する」等の記載で可とする。
⑤ 事業の合目的性の確保の取組
ア 受益者等の選定方法
〇 応募を前提とするか否かに関わらず、一定の範囲の中から受益者等を選定する場合には、選定の方法等を記載する。その際、事業の趣旨・目的に応じた公正で質の高い選定を確保するための取組について記載する。
○ 申請書には基本的考え方や原則を記載し、詳細は事業計画又は規程に記載する。この場合、規程は事業計画の添付書類とする。
○ 理事会や既存組織の専門性等で公正性や質を確保する場合には、事業計画又は事業報告において、理事会や既存組織の構成を説明する。
○ 選定結果や選定理由の公表は、選定の公正性や質の高さを担保する有力な手段となる。
イ その他事業の質(合目的性)を確保する手段
アのほか、具体的な事業内容が、①の趣旨・目的に適合することを確保するための取組について記載する。考え方を簡潔に記載し、具体的な取組は事業計画において記載することで可。
ウ 事業の実施による不利益を排除する取組
法人の実施する事業の性質上、重大な不利益が発生する蓋然性があるものについては、重大な不利益を排除するための取組を記載する。(34 「申請事業が不特定かつ多数の者の利益を増進する側面を有する反面、同時に一定の者に不利益を与える側面をも有している場合において、申請事業が増進すべき利益の大きさやその帰属主体の数に鑑み、当該不利益の大きさ及びこれを受け得る者が相対的に無視し得ない程度に達するものと認められるようなときは、そのような事業の内容や手段は、事業目的を実現するのに適切なものとはいえず(事業の合目的性が認められず)、総合的にみて不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するものとは言えないと評価されることもあり得る」とする裁判例がある(令和元年10月30日 東京高等裁判所判決。平成31年(行コ)第26号,令和元年(行コ)第125号)。)
(具体例)
(ⅰ) 機微な個人情報を大量に扱う事業 ⇒ 個人情報保護の取組
(ⅱ) 事業の中断等が弱い立場にある受益者等に重大な不利益を及ぼすため、安定的な実施が特に必要な事業 ⇒ 財源及び財政基盤確保の取組
(ⅲ) 生命・身体・財産に危険を及ぼす蓋然性がある事業 ⇒ 安全性確保の取組
(ⅳ) 公費等による巨大プロジェクト ⇒ 事業の透明性確保・不正防止の取組
(ⅴ) 犯罪、違法行為の危険性がある事業 ⇒ 犯罪・違法行為を防止する取組
(ⅵ) 代価の受領とサービスの提供に大きな時間差がある事業 ⇒ 財産保全の取組
⑥ その他
事業の公益性を確保するために、法人が特に講じることとしている措置を記載する。
(3) 既に認定されている公益目的事業に係る申請書記載事項の取扱いについて
なお、既存の公益法人の新しい申請書への切替えは、公益法人が、今後の変更認定の機会を捉えて行うことができるものとし、監督上、必要がある場合を除き、行政庁が、期限を定めて切替えを求めることはしない。切替を行わない公益法人が「公益法人の種類及び内容」として備置き・閲覧等の対象とし、行政庁に提出する書類は、平成7年4月1日に改訂される前の旧様式に記載するほか、軽微な変更として行政庁に届出を行う場合には、旧様式で変更を行う(35 新制度への移行に当たっては、行政庁において「公益目的事業の種類及び内容」として申請書記載事項を確認する必要があるため、変更認定申請の機会に行う必要がある。)。旧様式において「(2)事業の公益性について」におけるチェックポイントに該当する旨の説明に係る記載は、認定規則第9条第3号ハの「公益認定を受けた法第7条第1項第3号に掲げる事項を記載した書類(変更の認定を受けた場合又は変更を届け出た場合にあっては、それらのうち最も遅いものに係る当該書類)の記載事項に含まれるものとして取り扱う。なお、本記入要領に沿った記載となるまでの間の変更認定申請の必要性(申請書記載事項の変更に当たるかどうか)の判断については、第4(2)参照。」
第3 審査に当たっての確認事項及び判断基準
〇 内閣府及び公益認定等委員会は、公益目的事業該当性を判断する基準について、累次及び今後の判断実例の蓄積を踏まえ、継続的に明確化に取り組む。あわせて、「公益性及び不特定多数性の確認のためのチェックポイントの判断基準」(以下「判断基準」後掲69頁参照)を踏まえた具体的な判断事例については、可能な限り公表を行うことで透明性を確保する。
また、判断基準等については、公益法人や企業・国民の意見を受けつつ、不断の見直しを行っていくものとする。
〇 公益事業を円滑に開始し、法人のチャレンジを促進する観点から、「事後チェック」の実施を前提に事前の審査は最小限とする。申請書の記載内容の確実性・合理性に関してリスクが想定される場合は、認定後、速やかに確認を行い、必要に応じ、勧告・命令等の措置を講じる。
(事業のまとめ方についての確認)
〇 事業をまとめた理由(類似、関連するものと整理できる理由)が、合理的であるかを確認する。また、公益目的事業該当性のない事業が含まれていないか確認する。
〇 事業の実態に照らし、他の事業と経理を区別して行う必要があるものが、まとめられていないかを確認する。例えば、将来のサービス提供等のため財産を確保しておくことが必要な事業や、特定の収入等に関して一定の目的以外に支出できないような事業をまとめると、適切な経理処理・財産管理を行うことが難しくなり、結果として受益者等に重大な不利益が発生する可能性がある。
(1) 事業の趣旨・目的についての確認事項
〇 公益目的(認定法別表に掲げる目的)及び不特定多数の者の利益の増進が主目的として位置付けられており、適切な方法で明らかにされているかを確認する。
〇 なお、申請書記載事項(添付書類を含む。)、法人の公表資料・公表態様その他一切の事情を考慮して、当該事業の実際の目的が別にあると判断することがあり得る(36 例えば、崇高な公益目的が掲げられ、形式的にホームページにおいて公表されていても、ホームページ等における情報の表示方法、法人役員の著書や発言内容等に照らすと、実質的な目的は、公益法人制度を利用して私的利益を実現することにあると考えざるを得ないような場合。)。
〇 定款の目的の範囲から外れた目的や、定款に何ら根拠のない事業は、公益目的事業として認められないことがあり得る。定款上の事業や目的が抽象的である場合などには、当該事業が定款上の事業や目的に根拠があるかの判断ができない可能性があることを踏まえ、定款には具体的に記載することが望ましい(37 定款上の目的は、公益目的事業を列挙して定める必要はないが、例に掲げる程度に、主な公益目的事業に即して定めることが望ましい。)。
例1:この法人は、在宅療養中の患者が安心して療養生活を過ごせるよう訪問介護事業その他療養中の患者を支援する事業を行い、もって、県民の健康と福祉の向上に寄与することを目的とする。
例2:この法人は、〇〇県の大学の在学生で成績優秀で向学心を有する者に対し、学資の支給等を行うことにより、青少年の健全な育成に貢献することを目的とする(38 FAQ問Ⅷ-1-④)。
〇 別表該当性の説明は、申請書の記載内容に基づき判断する。その際、社会通念に照らし、明らかに合理性を欠く場合を除き、合理性があると判断する(39 これは、公益法人が掲げる公益目的事業の「趣旨・目的」自体が、およそ別表各号の公益目的に含まれないという判断は慎重に行うという趣旨であり、公益目的事業の事業内容や手段について②~⑥の観点で確認し、当該公益目的事業が別表各号に掲げる事業に該当しないと判断することはあり得る。)。
〇 事業の趣旨・目的は、公益目的事業の関係者、法人関係者及び国民に対して明らかにされている必要がある。
(2) 事業の概要についての確認事項等
〇 幹となる事業の内容や事業構造にもよるが、概ね、幹となる事業の1割程度(40 一般的には経常費用で判断することを想定している。)(単発の事業にあっては3割程度)を超える事業は、「小さな規模」には当たらない。社会通念に照らして、事業計画等に記載された付随的事業が、幹となる事業の効果的な実施等に資することの合理性が疑われる場合には、追加的に説明を求めることがあり得る(41 説明を求めるに当たっては、合理性が疑われる理由を行政庁が示すものとする。)。
〇 収益性の高い事業を公益目的事業の一部として実施する場合は、①及び②を満たす必要がある。
① 幹となる公益目的事業の趣旨・目的のために実施されるものであること
② 当該事業の規模・内容・実施の態様が、幹となる公益目的事業の趣旨・目的に即したもの
であり、かつ、必要な範囲を超えて行われないものであること
〇 営利企業等が行う事業と類似する事業については、なぜ公益法人が当該事業を実施する必要があるか、当該事業を通じてどのように社会に貢献しようとし、そのためにどの様な態様で当該事業を実施しようとしているか等を確認する。その結果、公益目的事業としての特徴がなく、営利企業等による類似事業の実施状況を勘案して、高い税制上の優遇措置を受けるなどの社会的なサポートを受けてまで公益法人が実施する意義が認められない場合には、公益目的事業として認められない。
なお、公益法人が実施する意義については、多くの営利企業が社会貢献活動を行い、あるいは社会貢献を目的の一つとして活動を行うなど、同じ分野で、様々な類型の法人等が切磋琢磨しながら活動している実態に留意し、法人が事業を実施しようとする地域・社会の具体的な状況等に即し、かつ、法人全体の目的・事業内容との関連性(いたずらに小さな単位で事業を切り出すのではなく、公益目的事業全体として判断する。)を踏まえて判断する。
(3) 受益の機会についての確認事項
〇 不特定かつ多数の者に受益の機会が開かれているか、また、機会が限定される場合には、当該限定を行う合理性及び当該限定があっても利益が不特定多数の者に及ぶことについて合理的説明があるかを確認する。募集等を行う場合は、具体的な募集等の方法に照らし、実質的に一般に開かれていると言えるかを確認する(申請に係る審査時には、通常、募集要項など募集等に関する資料の提出が必要)。
〇 例えば、高度な学術に係る講習会事業において事業の質を確保するために参加者に資格要件を課す場合など、公益目的を達成するために必要な合理的な限定は認められる。ただし、事業の趣旨・目的に照らして対象者に不当な差別を設けることは許されない(42 FAQ問Ⅸ-⑤42)。
〇 不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するには、できるだけ多くの人が事業の恩恵を受けることができることが望ましいが、定款に定められた法人設立者の意思や資源提供者の意思を尊重することも求められる。「合理的な限定」であるか否かは、事業内容、事業規模、公益法人の成り立ち、収支の構造、濫用の可能性その他の事情を勘案し、「民間公益の増進及び活力ある社会の実現」の観点から判断する(43 FAQ問Ⅸ―⑨)。
(具体例)
① 学校に関しては、入学の機会が不特定多数の者に開かれていることを踏まえ、同窓会法人が行う特定校の教育活動(同校の学生生徒の国際交流活動、社会貢献活動など)への助成や同校在学生及び卒業生を対象とした奨学金支給について、公益目的事業として認めた事例
② 宗教精神に基づく社会貢献活動において、特定宗教関係団体からの申請に対して資金支援等を行う事業について、当該宗教のネットワークを活用して、より効果的な社会貢献活動を行うことができるとの説明を踏まえて公益目的事業として認めた事例
③ 特定企業の関係者のみを対象、特定企業職員等を主たる対象や特定企業職員の遺児を対象とした奨学金事業について、公益目的事業とすることは適切ではないと整理した事例
〇 現時点での受益者が特定少数であるとしても、将来的・潜在的に不特定多数の者が受益することが想定されるならば、受益の機会が開かれていると判断し得る。例えば、現に発病しているのが特定の少数者である難病患者を救済する事業であっても、潜在的には不特定多数の者が同じ病気になる可能性があることを踏まえれば、受益の機会が開かれていると判断し得る(44 FAQ問Ⅸ―⑥)。
〇 直接の受益者が特定少数であるとしても、その背後の不特定多数の者に利益が及ぶ場合には、不特定多数の者の利益の増進に寄与していると判断し得る。例えば、公庫が行う教育ローンの債務保証事業について、直接の利益を受ける対象が公庫であるとしても、債務保証利用者に利益があると判断した。
〇 受益の機会が開かれているか否かは、公益目的事業の内容に即して実質的に判断する。例えば、博物館事業において、開館時期がほとんどない(休眠)場合には、通常開かれているとは判断しない。
(4) 受益者の義務・受益の条件についての確認事項
〇 受益者の義務・受益の条件は、申請書に記載された公益目的事業の趣旨・目的(「第2 申請書記載事項」(2)①参照)に照らして合理的なものであるかを確認する。
〇 当該義務により、営利企業等や法人関係者に、合理的な範囲を超える利益が生じると見込まれる場合には、公益目的事業としては認められない。例えば、奨学金の支給者に対し特定企業への就職を義務付けるような場合や、資格付与や表彰に当たり法人関係者に不透明な見返りを求めるような場合は、公益目的事業としては認められない。
〇 当該義務や条件が、公益目的事業の趣旨・目的に照らして合理的なものであると言えず、社会通念に照らして不適切なものある場合には、公益目的事業の合目的性が確保されていないと判断し得る。
(5) 事業の合目的性の確保の取組についての確認事項
〇 事業内容に応じた適正運営の確保、事業内容に応じた専門家の関与、訓練、機材の確保、事業の趣旨に応じたプロセス(ニーズ調査や関係者の参加)の確保など、事業の趣旨・目的を踏まえ、必要に応じて、事業の質や成果を確保する取組がなされているかを確認する。
〇 選考等を行う場合は、原則として、以下を要する(申請に係る審査時には、通常、選考基準など選考等に関する資料の提出が必要)。
・ 選考過程における直接の利害関係者の排除
・ 事業内容に応じた専門家の関与(45 「専門家」とは、事業内容に応じて、企画、指導、審査等を行うのに必要な知識、技術、知見等を教育、訓練、経験等によって備えている者をいう。関与の形態として、必ずしも法人で雇用している必要はなく、事業を遂行するに当たって適切な関与の方法であればよい。)
・ 選考方法の透明性の確保(応募する可能性のある者、法人関係者、寄附者や国民に対して事前(合理的理由がある場合は事後)に明らかにされているか。(選考方法を示すことが適切でない合理的な理由がある場合には、その理由及び代替措置が講じられているか))
なお、理事会等の構成に係る説明(第1節第2⑤ア参照)により、事業に求められる専門性や公正性が確保されると判断できる場合、選考委員会の設置は不要である。
また、選考委員会等を設置する場合、一般に、奨学金など直接的な受益者を選考する際は公正性が重視されるのに対し、事業の実施者等を選考する際は専門性が重視されるなど、事業の性質等に応じて委員が選考されることが重要である。外部の有識者を委員とすることは、選考等の公正性・客観性確保の観点から有益であることも多いが、法人自治を尊重し、特段の理由がある場合を除き、法人外部の者から選考を行うことを求めない。
〇 研究・開発、博物館事業、表彰・コンクールなど公表が事業の趣旨・目的を実現するために当然求められる手段であることが多いほか、審査時点においては、キャンペーン・〇〇月間、資金貸付・債務保証等など公表によって透明性が確保されることにより、事業の適正運営が確保されると判断することもあり得る。
〇 このほか、公益目的事業の成果を適正に把握・評価し、公表するとともに、成果の評価を踏まえて事業内容を改善する取組は、事業の公益目的事業該当性を事前に評価することが容易ではない事業における、事業の合目的性の確保の取組として有効と考えられる。
〇 重大な不利益が発生するリスクのある事業について、当該リスクに応じた対応が確保されているかを確認する(申請に係る審査時には、事案に応じ、通常、個人情報保護、安全性確保、事業の透明性確保、不正防止、犯罪・違法行為防止、財産保全及び募集等に関する規程の提出が必要。財源については、第3章第1(2)①ア参照)。
(6) その他横断的な注記事項
① 飲食・パーティー
〇 飲食は、一般的には、その飲食を行う者が利益を得るに留まり、公益目的事業として費用を負担して飲食を提供することについては、当該公益目的事業の趣旨・目的に照らして合理性が必要となる。
〇 相応の対価を得て飲食を提供する事業については、法人税令第5条に掲げる事業に含まれると考えられるところ、事業の実態に応じて上記(2)により判断されることから、ここでは、公益法人が、相応の対価を得ることなく行う飲食の提供について注記する。
〇 公益法人が行う事業の趣旨・目的に照らして、当該飲食の提供を行うことに合理的な理由があり、相当の範囲で行う飲食の提供(公益目的事業の実施に係る費用として支出する場合を含む。) は認められる。例えば、被災地における炊き出し、表彰等に係る「晴れ」の場としてパーティーの開催、重要な事業を遂行のために理解を得ることが不可欠な要人の接待、外部の関係者を招いて開催する会議における食事、弁当等の提供、公益目的事業への協力者等への茶菓の提供等が想定される。なお、幹となる事業の効果的な実施等のために付随的に、小さな規模で行われる場合には、申請書への記載は不要である(第2 申請書記載事項(2)②参照)。
〇 なお、公益目的事業費か否かに関わらず、公益法人の関係者が参加する会合等における飲食の費用を公益法人が負担することについては、法人関係者に対して特別の利益を与えるおそれ、役員に関しては、役員報酬等の支給の基準に従った報酬等の支給(認定法第20条)への違反のおそれなどがあるほか、資源提供者の意思に反することも想定される。公益目的事業として合理性がある場合や、役職員の福利厚生の一環として行う場合などに、社会通念上相当の範囲で支出することは問題ないが、相当額の支出が想定される場合には、規程を定め、法人のガバナンスの下、透明性をもって支出を行うことが望ましい。
② 「寄附」事業(導管寄附)
〇 公益法人が、寄附金の使途(助成先)を具体的に指定して行われる寄附を受け入れ、当該指定された助成先に対して助成を行う場合がある。例えば、助成先を予め提示して寄附を募り、当該寄附を財源として助成を行う事業が想定される。
〇 こうした手法は、新たな社会貢献の手法として、近年増加している一方、本来、税制優遇を受けるべきではない寄附について、公益法人を単に経由(トンネル)することによって税制優遇の対象とすることは、公益法人に係る税制優遇を濫用した税逃れとして制度に対する信頼を失わせかねないものであり、制度の趣旨を踏まえて適切に行う必要性が特に高いことから、特に留意すべき事項について注記する(こうした事業は、付随的・小規模に実施される可能性もあることから、横断的な注記事項としている)。
(特に留意すべき事項)
ア 助成先の選定は、公益法人が主体的に行うことが必要である。その際には、公益目的事業の趣旨・目的に照らして、適切な対象が選定されることが求められる(上記(5)に記載した、「選考等を行う場合」参照)
イ 公益法人は、被助成者から提出される報告書等を通じ、助成した資金が適切に活用されているかを確認することが求められる。また、単に確認するにとどまらず、公益法人の事業の運営について透明性を高めるとともに、寄附者に対する説明責任を果たす観点から、HPにおける公表等の措置を講じることが望ましい。
ウ 助成先を予め提示して寄附を募る事業においては、公益法人が、被助成者に対する助成以外に使用する場合(手数料等)は、その額の算定が合理的であり、かつ、寄附者が当該事実を予め認識できる措置を講じる必要がある(寄附の募集に関して、寄附をする財産の使途について誤認させるおそれのある行為をすることは許されない(認定法第17条第3号))。
エ 助成先を予め提示して寄附を募る事業においては、寄附が集まらなかった場合に事業が実施できないことも想定され、そのような場合にも、適切な対応が行われる必要がある。
第4 変更認定事項と変更届出事項
(1) 基本的考え方
○ 基本的に、公益目的事業該当性の判断に影響する事業内容の変更は変更認定申請が必要であり、事業内容を変更しても、公益目的事業該当性に変更がないことが明らかな場合には、変更届出となる(第4章第3及び第4参照)。
○ 具体的には、「第2 申請書記載事項」に従って申請書が記載される場合に、申請書記載事項(46 第2章第2 申請書記載事項(1)に記載した通り、「事業の公益性に関する説明」は申請書記載事項に含まれない。)(字句の訂正その他の公益目的事業の内容に実質的な影響を与えないことが明らかなものを除く。47 令和6年の制度改革以前と異なり、規則上、申請書の記載事項に変更があっても軽微とされる事項が明記された新制度において、「公益目的事業の内容に実質的な影響を与えないことが明らかなもの」の解釈は、限定的に行う必要がある。)に変更がある場合は、原則として、変更認定申請が必要となる(認定規則第9条第三号ハ)。ただし、申請書記載事項に変更がある場合であっても、
(ⅰ) 事業の一部廃止(同号イ)、
(ⅱ) 各公益目的事業の申請書記載事項に変更なく、ア:事業の単位の統合、分割及び再編を行う場合、イ:吸収合併消滅法人から公益目的事業を引き継ぐ場合、ウ他の公益法 人から事業譲渡により公益目的事業を引き継ぐ場合(同号ロ及び内閣総理大臣告示1(1)~(3))は届出となる。
なお、今後は、判断の蓄積に応じ、第2節に定める事業区分に応じて、軽微な変更として届出化する範囲を広げることを想定している。
○ 「第2 申請書記載事項」に従って申請書が記載されておらず、申請書に詳細に記載されている場合についても、申請書の記載内容に変更がある場合は変更認定申請が必要とされるが、(2)に記載のとおり、認定規則第9条第3号ロに基づく内閣総理大臣の定め(当該変更後の事業が引き続き公益目的事業に該当することが明らかである場合)に該当するものとして取り扱うことで行政手続の簡素化を行う。
〇 また、緊急時において公益法人が機動的に公益活動を実施することが出来るよう、申請書に記載がない場合であっても、(3)の範囲では、届出により活動を行うことが出来ることとしている。
(2) 現行法人の移行措置について【P】 「内閣総理大臣の定め」と併せ記載を検討中
○ 現状、「第2 申請書記載事項」②~⑤について申請書に細かく記載を置いている法人については、次に掲げる変更について、各公益目的事業の事業区分ごとの事業の特性及び内容等に照らして、当該変更後の事業が引き続き公益目的事業に該当することが明らかである場合(内閣府告示)に該当するものとして取り扱う。また、事業の実績等については、変更申請時の状況を記載したものとして、申請書記載事項と考えない)
① 事業計画・事業報告への記載を前提に、付随的事業の追加又は変更
② 事業計画への記載を前提に、受益の機会について、趣旨・目的及び定款の範囲内で申請書に記載した支給対象等を拡大する変更(その際、申請書記載事項は変更しないものとする)。一度広げた対象を、申請書の記載まで狭める変更も同様とする。
③ 事業計画への記載を前提に、選考に係る質の確保についてチェックポイントに係る説明事項に実質的な変更がないことが明らかな変更(認定時の考え方を示すものとして申請書の記載は変更しない)
(3) 緊急事態における対応【P】 「内閣総理大臣の定め」と併せ記載を検討中
○ 自然災害その他の緊急事態にあって、当該法人の人材又は保有財産を活用して迅速に対応することが求められる場合において、短期間、対価収入(社会通念に照らしてその実施に要した費用を超えないことが明らかな対価収入を除く。)を得ることなく行う事業については、申請書に記載されていない事業であるとしても、引き続き公益目的事業に該当することが明らかであるとして、届出とする。この場合は、事業内容、事業の成果等について事業報告に記載する。なお、緊急事態を機に、新たな事業を実施しようとする場合には、変更認定が必要となる。
公益目的事業を特定の地域で公益目的事業を実施することとしている法人が、緊急事態にあって、短期間、当該地域以外の地域で公益目的事業を実施する場合も同様とする。
第5 監督に当たって特に考慮すべき事項(第6章監督 参照)
○ 「事前の審査から事後チェックへ」の考え方の下、監督の在り方を見直す。監督に当たっては、「申請書に記載された趣旨・目的に沿って事業が実施されているか」「申請書に記載された事業の質が確保されているか」など、第1から第3に記載のとおり申請書の記載をベースに監督を行うが、その際には、申請書の記載についての法人の解釈を十分に尊重し、細かな文言に拘ることなく、「公益目的の実現は確保されているか」「不特定・多数の利益が実現しているか」という実質的な観点を重視する。
(1) 事業の趣旨・目的について
○ 法人の事業(付随的事業を含む。)は、法人が設定(国民に約束)した趣旨・目的に沿って、合目的的に実施されている必要がある。法人の活動状況、法人の理事等の言動(法人外のものを含む。)その他一切の事情に照らして、公益法人の主目的は不特定多数の者の利益の増進ではないと判断し得る。
○ また、実質的に、公益目的事業の関係者、寄附者・社員等、及び国民が知り得る状況となっている必要がある。
(2) 法人の事業の概要について
○ 付随的事業について、事業の趣旨・目的及び幹となる事業の内容に照らして、不合理な内容であってはならない。
なお、申請書に記載のない事業を実施することは許されないが、法人の個別の事業が「申請書記載事項」に含まれるか否かについては、社会通念に照らして無理のない範囲で、法人の解釈を尊重する。その際、法人の掲げる公益目的事業の趣旨・目的に沿って合目的的に実施される事業については、申請書の記載に含まれると認め難いとしても、公益法人の創意工夫を阻害することは適切ではないこと、付随的事業については問題ではないことを勘案し、悪質性が認められない限り、まずは、変更認定申請を促すことを基本とする。
(3) 事業の受益の機会について
○ 申請書の記載内容に反し、実質的に、特定の範囲にある者に限り、又は、特定の範囲にある者を不相当に優遇する運用となっていてはならない。また、実際の事業内容に照らし、受益の機会を特定の者や集団に限ることが不合理なものであってはならない。
全体として、不特定多数の者の利益が実現していることが求められる。
(4) 受益者の義務・受益の条件について
○ 義務により、特定の者に相当の範囲を超える利益が生じている場合には、認定法第5条第3号又は第4号に反すると判断し得る。また、義務の内容によっては、受益者等に事前に知らせることなく、社会通念に照らして当然に求められる範囲を超えた義務を課すことは、透明性を欠き公益目的事業として不適切と判断され得る。
(5) 事業の合目的性の確保
○ 公益目的事業の趣旨・目的に照らし、申請書の記載内容に即して合目的的に事業が実施されている必要がある。また、リスクの高い事業について、申請書に記載された対応が適切に実施されている必要があるほか、現実のリスクを踏まえて対応されることが求められる。
第2節 具体的な事業区分ごとの当てはめ
〇 第1節において、公益目的事業該当性の判断に当たっての考え方を示したが、これは、過去の判断事例を帰納的に整理したものであり、これまでの考え方を改めるものではない。典型的な事業については、これまで(1)から(17)までチェックポイントが示され、多くの判断事例が蓄積しているところ、これを使用することで、より簡便に公益目的事業該当性を判断することができる。
〇 これに加えて、申請事例の多くを占める奨学金事業と、出資事業に関して、公益目的事業該当性を容易に判断できるよう、既存の17事業に2事業を加えて、19のチェックポイントを示すこととする。この19種類のチェックポイントは、多種多様な公益目的事業のうち一部の典型的と考えられる事業区分についての公益目的該当性の判断の考え方を整理したものであり、これ以外のチェックポイントに示されない事業は、第1節に示した考え方に従い、公益目的事業該当性が判断されることになる。具体的には、第2章第1節第3の「19事業区分非該当性事業の公益目的事業のチェックポイント」に基づき確認することとなるが、申請負担軽減等の観点から、そのすべてについてあまねく確認を求める趣旨ではなく、事業の特性に照らして軽重を判断し確認することにより、既存17事業と同等の確認を行ったものとする。
〇 また、公益目的事業該当性を法人及び行政庁が容易に確認できるよう、チェックポイントに該当する旨の説明について記載を求めることとしている。これらは、申請書記載事項そのものではないが、公益目的事業該当性について説明責任を果たすため、認定規則第45条第1項第4号に掲げる書類の一部として、継続的に作成する必要がある。
〇 事業の概要に記載された事業単位を目途に、以下に示す事業の特性に応じた、(1)から(19)の事業区分ごとに、公益目的事業のチェックポイントによりチェックする。その際に、事業の目的に照らして、統合又は分割してチェックすることとする。
第1 基本的考え方
〇 第1節(総論)の記載は、現行の17事業を含むこれまでの公益目的事業該当性の判断から帰納的に導いたものであり、17事業の公益目的事業該当性チェックポイントについては、簡便に公益目的事業該当性を判断するためのものとして、原則、現在の判断の構造は維持する(48 従来、「不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するもの」という事実があるかどうかを認定するに当たっての留意点とされていたが、現実の運用においては、「別表に掲げる種類の事業」という事実があるかどうかを認定するに当たっての留意点としても使われており、実際の判断の構造に変更はないと考えられる。)。
これまで「17事業に該当しない事業」とされてきた事業についても、過去の判断を変更するものではない(49 これまで「17事業以外の事業」として公益目的事業として認められた事業については、規則第48条に基づき「公益目的事業の種類及び内容」に係る書類を作成等するは当たり、従来どおりのチェックポイントに該当する旨の説明を行うものとする。)が、今後の「19事業に該当しない事業」の公益目的事業該当性の判断に当たっては、第1節の記載を十分に留意するものとする。
〇 公益目的事業該当性は、申請書記載事項、事業の公益性に関する説明(チェックポイントに該当する旨の説明に係る記載)、事業計画及び事業報告その他の添付書類により判断するものであり、公益目的事業該当性の判断要素の明確化を図る観点から、チェックポイントごとに、審査に必要となる判断要素及び行政庁の審査時に合理的に必要と考えられる書類・証憑類(50 行政庁が必要と認める書類(第4章第2⑫))を明記する(69ページ別表「公益性及び不特定多数性の確認のためのチェックポイントの判断基準」参照)。
〇 事業については、関連するものをまとめ(第1節 第2(2)記入要領参照)た結果、複数の事業区分に該当する場合には、該当する複数の事業区分のチェックポイントを用いて説明する必要がある(51 FAQ問Ⅷ-2-①②③)。(例えば、一定期間のセミナーの後、試験合格者に資格を付与する事業の場合、「講座、セミナー、育成」と「資格付与」の両方の事業区分のチェックポイントを用いる。)
〇 判断の予見可能性、連続性を確保する観点から、各事業の認定審査において参考となり得る事例については、随時、事例集に追記する。
〇 事業区分が示されている19事業については、審査事務の負担を軽減する観点から、以下の2段階で判断を行う。
① 第一段階
○ 申請書記載事項について、公益目的事業該当性の事実認定に当たり、個別事業ごとに、「事業の内容」、「事業名」及び「公益目的事業として求められる趣旨」、「有効な事実認定のための着目点」を明確にした上で、設定されたチェックポイント毎の「判断基準」(判断要素、添付書類)に基づき事実を確認する。
その際には、記載内容は合理性(常識的又は理論的に考えた結果として説得性があること)・現実性があるかに十分留意する一方、審査の現場に新たな負荷をかけるのではなく、過去の判断実例を踏まえ、現状行っている観点を明確化、具体化することとしたことに留意し、横出し、上乗せ審査を回避する観点から必要以上の具体性は求めない。
○ なお、総論において示される横並びの確認事項(例:自主公演事業における受益の機会)・追加確認事項は、審査時点においては、申請書の記載内容に照らして特段の必要性がある場合を除いて、確認するまでもない事項として取扱う。
② 第二段階
事業内容に照らし、総論の考え方に基づき、追加的に確認すべき特段の事情の有無を確認し、必要な確認を行う。
第2 19事業区分ごとの公益目的事業のチェックポイント
以下、事業の特性に応じた(1)~(19)の事業区分ごとに公益目的事業のチェックポイントを掲げる。
(1)検査検定
①事業の概要等及びチェックポイント
ア 事業の内容(52 事業の内容は、本ガイドライン上の定義を示す。以下同じ。)
「検査検定」は、申請に応じて、主として製品等の安全性、性能等について、一定の基準に適合しているかの検査を行い、当該基準に適合していれば当該製品の安全性等を認証する事業のことである。
イ 事業名
検査、検定、認証等
ウ 公益目的事業として求められる趣旨
公益目的事業としての検査検定は、製品の安全性、性能等について適切に確認することを趣旨としている必要がある。また、審査の質が低いとかえって、不特定多数の者の利益を害しかねない。
エ 事実認定の着目点
審査の公正性や質が確保されているかに着目して事実認定するのが有効であると考えら れる。
オ 上記を踏まえた「検査検定」のチェックポイント
(ⅰ)当該検査検定が不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与することを主たる目的として位置づけ、適当な方法で明らかにしているか。
(ⅱ)当該検査検定の基準を公開しているか。
(ⅲ)当該検査検定の機会が、一般に開かれているか。
(ⅳ)検査検定の審査に当たって公正性を確保する仕組みが存在しているか。
(例:個別審査に当たって、申請者と直接の利害関係を有する者の排除、検定はデータなど客観的方法による決定)
(ⅴ)検査検定に携わる人員や検査機器についての必要な能力の水準を設定し、その水準に適合していることを確認しているか。(例:検査機器の定期的点検と性能向上/能力評価の実施/法令等により求められる能力について許認可を受けている。)
②判断基準
後掲の「公益性及び不特定多数性の確認のためのチェックポイントの判断基準」参照
(2)資格付与
① 事業の概要等及びチェックポイント
ア 事業の内容
「資格付与」は、申請者の技能・技術等について一定の水準に達しているかの試験を行い、達していれば申請者に対して資格を付与する事業のことである。
イ 事業名
技能検定、資格認定等。文化及び芸術の振興に係るものについては、「(3)講座、セミナー、育成」を適用する。
ウ 公益目的事業として求められる趣旨
公益目的事業として「資格付与」は、技能・技術について一定の水準に達しているかについて適切に確認することを趣旨としている必要がある。
エ 事実認定の着目点
審査の公正性や質が確保されているかに着目して事実認定するのが有効であると考えられる。
オ 上記を踏まえた「資格付与」のチェックポイント
(ⅰ)当該資格付与が不特定手数の者の利益の増進に寄与することを主たる目的として位置づけ、適当な方法で明らかにしているか。
(ⅱ)当該資格付与の基準を公開しているか。
(ⅲ)当該資格付与の機会が一般に開かれているか(53 ただし、高度な技能・技術等についての資格付与の場合、質を確保するため、レベル・性格等に応じた合理的な参加の要件を定めることは可。)。
(ⅳ)資格付与の審査に当たって公正性を確保する仕組みが存在しているか。(例:個別審査に当たって申請者と直接の利害関係を有する者の排除)
(ⅴ)資格付与の審査に当たって専門家が適切に関与しているか。
②判断基準
後掲の「公益性及び不特定多数性の確認のためのチェックポイントの判断基準」参照。
(3)講座、セミナー、育成
①事業の概要等及びチェックポイント
ア 事業の内容
「講座、セミナー、育成」は、受講者を募り、専門的知識・技能等の普及や人材育成を行う事業のことである。
イ 事業名
講座、講習、セミナー、育成等。防災研修など社会的課題への対処、文化、芸術等の振 興を目的とした専門的知識・技能等の講座等が挙げられる。
ウ 公益目的事業として求められる趣旨
公益目的事業としての「講座、セミナー、育成」は、専門的知識・技能等の普及や人材の 育成を行うことを趣旨としている必要がある。
エ 事実認定の着目点
その事業内容につき、一定の質が確保されているか等に着目して事実認定するのが有効 であると考えられる。
オ 上記を踏まえた「講座、セミナー、育成」のチェックポイント
(ⅰ) 当該講座、セミナー、育成(以下「講座等」)が不特定多数の者の利益の増進に寄与することを主たる目的として位置づけ、適当な方法で明らかにしているか。
(ⅱ)当該講座等を受講する機会が、一般に開かれているか(54 ただし、高度な専門的知識・技能等を育成するような講座等の場合、質を確保するため、レベル、性格等に応じた合理的な参加の要件を定めることは可。)。
(ⅲ)当該講座等及び専門的知識・技能等の確認行為(受講者が一定のレベルに達したかについて必要に応じて行う行為)に当たって、専門家が適切に関与しているか(55 専門的知識の普及を行うためのセミナー、シンポジウムの場合には、確認行為については問わない。)。
(ⅳ)講師等に対して過大な報酬が支払われることになっていないか。
判断基準
後掲の「公益性及び不特定多数性の確認のためのチェックポイントの判断基準」参照。
(4)体験活動等
①事業の概要等及びチェックポイント
ア 事業の内容
「体験活動等」は、公益目的のテーマを定め、比較的短期間の体験を通じて啓発、知識の普及等を行う事業のことである。
イ 事業名
〇〇体験、〇〇教室等
ウ 公益目的事業として求められる趣旨
公益目的事業としての「体験活動等」は、公益目的として設定されたテーマについて体験を通じた啓発・普及活動を趣旨としている必要がある。
エ 事実認定の着目点
本来の公益目的と異なり、業界団体の販売促進や共同宣伝に使われていないかに着目して事実認定をするのが有効であると考えられる。
オ 上記を踏まえた「体験活動等」のチェックポイント
(ⅰ) 当該体験活動等が不特定多数の者の利益の増進に寄与することを主たる目的として位置づけ、適当な方法で明らかにしているか。
(ⅱ) 公益目的として設定されたテーマを実現するためのプログラムになっているか。(例:テーマで謳っている公益目的と異なり、業界団体の販売促進や共同宣伝になっていないか。)
(ⅲ) 体験活動に専門家が適切に関与しているか。
判断基準
後掲の「公益性及び不特定多数性の確認のためのチェックポイントの判断基準」参照。
(5)相談、助言
①事業の概要等及びチェックポイント
ア 事業の内容
「相談、助言」は、相談に応じて、助言や斡旋その他の支援を行う事業のことである。
イ 事業名
相談、助言、苦情処理等。支援を行うに当たっては、専門家を派遣することもある。
ウ 公益目的事業として求められる趣旨
公益目的事業としての「相談、助言」は、問題を抱える者に対して適切に助言等の支援を行うことを趣旨としている必要がある。
エ 事実認定の着目点
助言の質の確保に着目して事実認定するのが有効であると考えられる。
オ 上記を踏まえた「相談、助言」のチェックポイント
(ⅰ)当該相談・助言が不特定多数の者の利益の増進に寄与することを主たる目的として位置づけ、適当な方法で明らかにしているか。
(ⅱ)当該相談、助言を利用できる機会が一般に開かれているか。
(ⅲ)当該相談、助言には専門家が適切に関与しているか。(例:助言者の資格要件を定めて 公表している。)
判断基準
後掲の「公益性及び不特定多数性の確認のためのチェックポイントの判断基準」参照。
(6)調査、資料収集
①事業の概要等及びチェックポイント
ア 事業の内容
「調査、資料収集」は、あるテーマを定めて、法人内外の資源を活用して、意識や実態等についての調査、資料収集又は当該調査の結果その他の必 要な情報を基に分析を行う事業のことである。
イ 事業名
調査、統計、資料収集等
ウ 公益目的事業として求められる趣旨
公益目的事業としての「調査、資料収集」は、原則として、その結果が社会に活用されることを趣旨としている必要がある。
エ 事実認定の着目点
調査・資料収集等の結果の取扱いに着目して事実認定するのが有効であると考えられる。
オ 上記を踏まえた「調査、資料収集」のチェックポイント
(ⅰ) 当該調査、資料収集が不特定多数の者の利益の増進に寄与することを主たる目的として位置付け、適当な方法で明らかにしているか(56 発行物が、何らかの公益目的事業についての情報を普及するための手段として発行されるものであれば当該発行も当該公益目的事業の一環と整理することが可能である。)。
(ⅱ) 当該調査、資料収集の名称や結果を公表していなかったり、内容についての外部からの問合せに答えないということはないか(57 ただし、受託の場合、個人情報保護、機密性その他の委託元のやむを得ない理由で公表できない場合があり、この場合は、当該理由の合理性について個別にその妥当性を判断する。)。
(ⅲ) 当該調査、資料収集に専門家が適切に関与しているか。
(ⅳ) 当該法人が外部に委託する場合、その全てを他者に行わせること(いわゆる丸投げ)はないか。
②判断基準
後掲の「公益性及び不特定多数性の確認のためのチェックポイントの判断基準」参照。
(7)技術開発、研究開発
① 事業の概要等及びチェックポイント
ア 事業の内容
「技術開発、研究開発」は、あるテーマを定めて、法人内外の資源を活用して技術等の開発を行う事業のことである。なお、成果については、成果の発表や論文の発表を行うとともに、知的財産権の取得を行うのが一般的である。
また、例えば、学会誌の発行の場合には、論文の選考という事業が本体事業で、選考した論文を普及する発行が密接不可分になっている場合、この論文の選考が公益目的事業か否かという点をチェックすることとなる
発行物によって広く情報が普及されることが望ましいが、その分野を専攻する研究者の大半で構成される法人における学会誌の発行が学術の振興に直接貢献すると考えられる場合、配布が社員に限定されていても、上記1の「普及」に当たるものと考えられる。FAQ問Ⅸー②
イ 事業名
技術開発、研究開発、研究、システム開発等
ウ 公益目的事業として求められる趣旨
公益目的事業としての「技術開発、研究開発」は、原則として、その成果が社会に活用されることを趣旨としている必要がある。
エ 事実認定の着目点
成果の普及をしているかに着目して事実認定するのが有効であると考えられる。
オ 上記を踏まえた「技術開発、研究開発」 のチェックポイント
「(6)調査、資料収集」のチェックポイントと同じ。
判断基準
後掲の「公益性及び不特定多数性の確認のためのチェックポイントの判断基準」参照。
(8)キャンペーン、○○月間
①事業の概要等及びチェックポイント
ア 事業の内容
「キャンペーン、○○月間」は、ポスター、新聞その他の各種広報媒体等を活用し、一定期間に集中して、特定のテーマについて対外的な啓発活動を行う事業のことである。
各種広報媒体等とは、ポスター、リーフレット、新聞、テレビ、ラジオ、車内 広告、電光掲示板等。なお、キャンペーンの手段として特定の機関等に対する要望・提案を行う場合がある。
イ 事業名
キャンペーン、○○運動、○○月間等
ウ 公益目的事業として求められる趣旨
公益目的事業としての「キャンペーン、○○月間」は、公益目的として設定されたテーマについて啓発・普及を行うことを趣旨としている必要がある。
エ 事実認定の着目点
その趣旨から逸れて、販売促進や共同宣伝を行うのが主眼となっていないか、キャンペーンの一環として要望・提案を行う場合に、メリットが特定多数の者に限定されるような内容となっていないかに着目して事実認定するのが有効であると考えられる。
オ 上記を踏まえた「キャンペーン、○○月間」のチェックポイント
(ⅰ)当該キャンペーンが不特定多数の者の利益の増進に寄与することを主たる目的として位置付け、適当な方法で明らかにしているか。
(ⅱ) 公益目的として設定されたテーマを実現するプログラムになっているか。 (例:テーマで謳っている公益目的と異なり、業界団体の販売促進や共同宣伝になっていないか)
(ⅲ) (要望・提案を行う場合には、)要望・提案の内容を公開しているか。
.判断基準
後掲の「公益性及び不特定多数性の確認のためのチェックポイントの判断基準」参照。
(9)展示会、○○ショー
①事業の概要等及びチェックポイント
ア 事業の内容
「展示会、○○ショー」は、展示という手段により、特定のテーマ について対外的な啓発・ 普及活動を行う事業(文化及び芸術の振興に係る事業を 除く。)のことである。比較的短期間であるため、法人が会場を借り上げ、ブースを出展者に貸す場合が多い。
イ 事業名
展示会、博覧会、ショー、フェア等
ウ 公益目的事業として求められる趣旨
公益目的事業としての「展示会、○○ショー」は、公益目的として設定されたテーマについて啓発・普及を行うことを趣旨としている必要がある。
エ 事実認定の着目点
その趣旨から逸れて、販売促進や共同宣伝を行うのが主眼となっていないか、また、出展者を選定するに当たって公正性が確保されているかに着目して事実認定するのが有効であると考えられる。
オ 上記を踏まえた「展示会、○○ショー」のチェックポイント
(ⅰ) 当該展示会が不特定多数の者の利益の増進に寄与することを主たる目的として位置付け、適当な方法で明らかにしているか。
(ⅱ) 公益目的として設定されたテーマを実現するプログラムになっているか。
(例:テーマに沿ったシンポジウムやセミナーを開催/出展者にはテーマに沿った展示を厳守させている/テーマで謳っている公益目的と異なり、業界団体 の販売促進や共同宣伝になっていないか(58 公益目的と異なるプログラムになっていないかを確認する趣旨であり、公益目的と 異なっていない限り、製品等の紹介も認め得る。)/入場者を特定の利害関係者に限っていないか)
(ⅲ) (出展者を選定する場合、)出展者の資格要件を公表するなど、公正に選定しているか。(例:出展料に不当な差別がないか)
判断基準
後掲の「公益性及び不特定多数性の確認のためのチェックポイントの判断基準」参照。
(10)博物館等の展示
①事業の概要等及びチェックポイント
ア 事業の内容
「博物館等の展示」は、歴史、芸術、民俗、産業、自然科学等に関 する資料を収集・保管し、展示を行う事業のことである。
イ 事業名
○○館、コレクション、常設展示、企画展等
ウ 公益目的事業として求められる趣旨
公益目的事業としての「博物館等の展示」は、歴史、芸術、民俗、産業、自然科学等に関する資料に直接接する機会を不特定多数の者に与えることを趣旨としている必要がある。
エ 事実認定の着目点
テーマを適切に定めるとともに、展示内容にそのテーマを反映させているか、一定の質が確保されているか等に着目して事実認定するのが有効であると考えられる。
オ 上記を踏まえた「博物館等の展示」のチェックポイント
(ⅰ) 当該博物館等の展示が不特定多数の者の利益の増進に寄与することを主たる目的として位置付け、適当な方法で明らかにしているか。
(ⅱ) 公益目的として設定されたテーマを実現するプログラムになっているか。
(例:テーマに沿った展示内容/出展者にはテーマに沿った展示を厳守させている/テーマで謳っている公益目的とは異なり、業界団体の販売促進や共同宣伝になっていないか)
(ⅲ) 資料の収集・展示について専門家が関与しているか。
(ⅳ)展示の公開がほとんど行われず、休眠化していないか。
判断基準
後掲の「公益性及び不特定多数性の確認のためのチェックポイントの判断基準」参照。
(11)施設の貸与
①事業の概要等及びチェックポイント
ア 事業の内容
「施設の貸与(59 施設の貸与を行っている場合には、①当該施設貸与の目的は何であり、その目的となる事業が別表のどの号の事業に該当するか、②上記①の目的に照らして合理的な活動への貸与か否か(貸与先のどのような活動のために貸与するか)という視点で整理すること。)」は、公益目的のため、一定の施設を個人、事業者等に貸与する事業のことである。
イ 事業名
○○施設の貸与、○○施設の利用等(60 施設を効率的に利用する等の理由から公益目的以外で貸与するとともに、貸与以 外でも例えば公益目的の主催公演で使用することも多いが、この場合には、法人は公益目的での貸与(公益目的事業)、公益目的以外での貸与、公益目的の主催公演を区別した上で、 費用及び収益を配賦する必要がある。配賦後の公益目的事業に係る費用が、公益目的事業費となる。FAQ問Ⅸー③、61 公益目的での貸与を区別するに当たり、以下の点に注意する必要がある。)
定款で定める法人の事業又は目的に根拠がない事業は公益目的事業と認められない場合があるので、万一、現在の定款では公益目的での貸与が読み込めない場合、定款を変更するのが望ましい(旧ガイドラインⅠ1.参照)。FAQ問Ⅸー③
・ 公益的な活動をしている法人に貸与する場合であっても、当該法人の収益事業、共 益事業等のために貸与する場合は、公益目的での貸与とならない。
・ 定款で定める事業又は目的に根拠がない事業は、公益目的事業と認められないことがあり得る。 FAQ問Ⅸー③
ウ 公益目的事業として求められる趣旨
公益目的事業としての「施設の貸与」は、施設を貸与することによって公益目的を実現しよう ということを趣旨としている必要がある。
エ 事実認定の着目点
公益目的として設定された使用目的に沿った貸与がされるか等に着目して事実認定するのが有効であると考えられる。
オ 上記を踏まえた「施設の貸与」のチェックポイント
(ⅰ)当該施設の貸与が不特定多数の者の利益の増進に寄与することを主たる目的として位置付け、適当な方法で明らかにしているか。
(ⅱ)公益目的での貸与は、公益目的以外の貸与より優先して先行予約を受け付けるなどの優遇をしているか。
判断基準
後掲の「公益性及び不特定多数性の確認のためのチェックポイントの判断基準」参照。
(12)資金貸付、債務保証等
①事業の概要等及びチェックポイント
ア 事業の内容
「資金貸付、債務保証等」は、公益目的で個人や事業者に対する資金貸付や債務保証等を行う事業のことである。
イ 事業名
資金貸付、融資、債務保証、信用保証等としている。また、資金貸付、債務保証のほか、設備導入の援助(リース、割賦販売)等も含む。
ウ 公益目的事業として求められる趣旨
公益目的事業としての「資金貸付、債務保証等」は、公益目的として設定された事業目的に沿って資金貸付、債務保証等を行うことを趣旨としている必要がある。
エ 事実認定の着目点
事業目的として公益の増進を掲げていても実質的には構成員の共通の利益に奉仕するに過ぎないものになっていないかに着目して事実認定するのが有効であると考えられる。
オ 上記を踏まえた「資金貸付、債務保証等」のチェックポイント
(ⅰ)当該資金貸付、債務保証等が不特定多数の者の利益の増進に寄与することを主たる目的として位置付け、適当な方法で明らかにしているか。
(ⅱ)資金貸付、債務保証等の条件が、公益目的として設定された事業目的に合致しているか。
(ⅲ)対象者(貸付を受ける者その他の債務者となる者)が一般に開かれているか。
(ⅳ)債務保証の場合、保証の対象が社員である金融機関が行った融資のみに限定されていないか。
(ⅴ)資金貸付、債務保証等の件数、金額等を公表しているか。(対象者名の公表に支障がある場合、その公表は除く。)
(ⅵ) 当該資金貸付、債務保証等に専門家の適切な関与があるか。
判断基準
後掲の「公益性及び不特定多数性の確認のためのチェックポイントの判断基準」参照。
(13)出資
〇 ここでいう「出資」は、公益目的で、企業等に対して資金等の財産を提供し、その持分を保有する事業のことである。出資の結果として経済的利益がもたらされることが期待されるが、公益目的事業として行う出資は、経済的利益を主たる目的とはせず、営利企業が行う出資とは異なる公益目的事業としての特徴が必要となる。特に、対価性のある事業の中でも、経済的リターンの不確実性が高く、その直接的な対象が営利企業となることもあり、他の事業と比べ、社会的サポートを受けて活動する公益法人が行うことの意義を確認する観点が重要となる。
〇 公益法人は、自らが事業の実施主体になるだけでなく、資金提供等により他の社会的課題解決の活動を支援する事業も実施している。資金提供事業について、形態(助成、融資、株式保有等)、提供先(営利企業、個人等)は多様であり、その事業形態に応じて、公益目的事業該当性を確認するためのポイントは異なる。
主に特定の事業に対して行われる助成に対して、企業等に対して行われる出資の特徴としては、資金提供先に対して長期的に伴走した関り方が可能となる、出資によって得られる配当や持分を処分した場合に得られる資金を次の支援に使うことができより多くの社会課題解決のための活動を支援できる、個別の事業ではなく法人に対する資金提供であるため、資金の使途について資金提供先の裁量が大きく、支援による成果の把握が重要となるなどが考えられる。
○ 社会的課題解決に取り組む企業の中には、営利企業から十分な資金調達が困難なもの、技術が未確立で経営が不安定なもの、社会的課題解決により広く取り組もうとするものもあり、そうした企業の資金需要に公益法人による出資が応えることで、社会的課題解決が推進されることが期待される。
○ なお、公益法人における出資については、事例が限定されていることから、以下各項目を検討する際の参考になるように「例えば、…」として例を示している。これらは例示であり、これら以外の方法により各項目を満たすことが妨げられるものではない。
(ⅰ) 不特定多数の者の利益
当該出資が不特定多数の者の利益の増進に寄与することを主たる目的として位置付け、適当な方法で明らかにしているか。経済的利益の獲得を主たる目的とする出資は公益目的事業として認められない。
(ⅱ) 条件
ア 出資の条件等が公益目的として設定された事業目的に合致しているか。営利企業が行う出資と区別されるような公益目的事業としての特徴があるか。
例えば、社会的課題解決に主に取り組む企業であって営利企業から十分な資金調達が困難なものを対象としている、出資の継続想定期間が出資先の事業内容(社会的課題解決への取り組みは、通常、短期間での成果が上がりにくいと考えられる)に応じ適切に設定されている、出資以外の支援(人的支援など)と一体的に実施されるなど。
イ 出資時点だけでなく、出資による持分を保有している間において、公益目的事業として出資する意義が継続される仕組みとしているか。
企業等である以上、出資後に事業内容を変更することや中心となる人材が離職することなども想定され、そのような場合でも引き続き当該出資が当該法人の事業目的の推進につながることが担保されている必要がある。そのため、出資先の事業内容を継続的に把握し、公益目的事業として出資する目的が達成された場合や、出資の意義が損なわれた場合に、適切に対応できる仕組みが必要である。
(ⅲ) 機会の公正性
出資を受けるための機会が実質的に開かれているか。
例えば、HP等で出資対象を随時募っている、公募型としている、想定される出資対象者に幅広く情報提供等を行っているなど。事業目的のために最も望ましい者を選定するためにもできる限り機会が開かれていることは重要であるが、出資事業においては、適当なタイミングで出資を行うことも重要であり、また、法人の目的遂行に合致する出資対象が限られているなど公募に応じた者の中から選定するという手続を前提とすることが適当でないことも想定されるため、事業目的に照らし合目的に判断される。
(ⅳ) 選考の公正性
出資対象の選定基準及び選考フローが明確であり、透明性が確保されているか(特定の者の意向を反映した方針となっていないか。)。また、出資先から利益の供与を受けていないか。
例えば、出資先を選定するための選考のための委員会等を設け、出資先候補の役員や使用人となっている委員がいる場合には、当該委員は当該出資先候補の選考から外れる規定が設けられているなど。
(ⅴ) 透明性
出資先、金額、出資理由、出資先の活動状況、出資による成果(62 (参考)提供された資金が公益の増進のために活用されていることを明確化するとともに資金による効果を高めるため、出資先の事業が社会に対して与えた影響を定量・定性的に測定し、測定結果に基づいて事業改善や意思決定を行うことを通じて、正のインパクトの向上、負のインパクトの低減を目指すインパクト測定・マネジメントを取り入れることも望ましいと考えられる。)等を公表しているか。併せて、出資先との関係について透明性を確保するため、出資先に役員等を派遣する場合には、当該役員等が出資先から得ている報酬についても公表する必要がある。
(ⅵ) 専門家の関与
専門家など選考に適切な者が関与しているか。
例えば、出資先を選定するための選考のための委員会等に専門家が関与しているなど。
(ⅶ) 対象との関わり方
公益法人は、議決権の50%を超える株式の保有が禁じられていることに留意が必要。
【その他】
なお、公益法人に対する寄附金に係る寄附金控除及び別枠損金算入については、所得税法及び法人税法において、「出資に関する業務に充てられることが明らかな」寄附金を除くとされている。
○所得税法(昭和四十年法律第三十三号)(抄)
(寄附金控除)
第七十八条 居住者が、各年において、特定寄附金を支出した場合において、第一号に掲げる金額が第二号に掲げる金額を超えるときは、その超える金額を、その者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除する。
一 その年中に支出した特定寄附金の額の合計額(当該合計額がその者のその年分の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額の百分の四十に相当する金額を超える場合には、当該百分の四十に相当する金額)
二 二千円
2 前項に規定する特定寄附金とは、次に掲げる寄附金(学校の入学に関してするものを除く。)をいう。
一・二 (略)
三 別表第一に掲げる法人その他特別の法律により設立された法人のうち、教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与するものとして政令で定めるものに対する当該法人の主たる目的である業務に関連する寄附金(出資に関する業務に充てられることが明らかなもの及び前二号に規定する寄附金に該当するものを除く。)
3・4 略
○法人税法(昭和四十年法律第三十四号)(抄)
(寄附金の損金不算入)
第三十七条 内国法人が各事業年度において支出した寄附金の額(次項の規定の適用を受ける寄附金の額を除く。)の合計額のうち、その内国法人の当該事業年度終了の時の資本金の額及び資本準備金の額の合計額若しくは出資金の額又は当該事業年度の所得の金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額を超える部分の金額は、当該内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
2・3 略
4 第一項の場合において、同項に規定する寄附金の額のうちに、公共法人、公益法人等(別表第二に掲げる一般社団法人、一般財団法人及び労働者協同組合を除く。以下この項及び次項において同じ。)その他特別の法律により設立された法人のうち、教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与するものとして政令で定めるものに対する当該法人の主たる目的である業務に関連する寄附金(出資に関する業務に充てられることが明らかなもの及び前項各号に規定する寄附金に該当するものを除く。)の額があるときは、当該寄附金の額の合計額(当該合計額が当該事業年度終了の時の資本金の額及び資本準備金の額の合計額若しくは出資金の額又は当該事業年度の所得の金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額を超える場合には、当該計算した金額に相当する金額)は、第一項に規定する寄附金の額の合計額に算入しない。ただし、公益法人等が支出した寄附金の額については、この限りでない。
5~12 略
(14)助成(応募型)
①事業の概要等及びチェックポイント
ア 事業の内容
「助成(応募型)」は、応募・選考を経て、公益目的で、個人や団体に対して資金を含む財産価値のあるものを原則として無償で提供する事業のことである。
なお、応募を前提としない助成については、非該当事業のチェックポイント(第3参照)により公益目的事業該当性を判断する。
イ 事業名
助成、給付(奨学金については(15)参照。)
ウ 公益目的事業として求められる趣旨
公益目的事業としての「助成(応募型)」は、原則として財産価値あるものの無償提供である。また、その事業の流れは、助成の対象となるべき事業・者の設定及び対象者の選考の二段階である。
エ 事実認定の着目点
ウに示した二段階で、公正性が確保されているかに着目して事実認定するのが有効であると考えられる。
オ 上記を踏まえた「助成(応募型)」のチェックポイント
(ⅰ) 当該助成が不特定多数の者の利益の増進に寄与することを主たる目的として位置付け、適当な方法で明らかにしているか。
(ⅱ)応募の機会が、一般に開かれているか。
(ⅲ)助成の選考が公正に行われることになっているか。
(例:個別選考に当たって関係者の排除)
(ⅳ)専門家など選考に適切な者が関与しているか。
(ⅴ)助成した対象者、内容等を公表しているか。(個人名又は団体名の公表に支障がある 場合、個人名又は団体名の公表は除く。)
(ⅵ) (研究や事業の成果があるような助成の場合、)助成対象者から、成果についての報告を得ているか。
②判断基準
後掲の「公益性及び不特定多数性の確認のためのチェックポイントの判断基準」参照。
(15) 奨学金
①事業の概要等及びチェックポイント
〇 奨学金事業とは、一般に、応募・選考を経て、学問その他を修める個人を対象に学費を給付又は無利息貸与・長期分割返済貸与などで支援する事業である。一般論として修学期間中の一方的な経済援助であることから、事業目的の公益性は認定され易い。
【事業の留意点】
・資金拠出者等の人材確保など実質的に資金拠出者の利益を目的とした事業運営が行われる可能性(受け手である奨学生に資金拠出者等のための義務を課すなど)
・多くの奨学生は経済基盤が脆弱であり、支給決定された場合には当該奨学金を前提に学業を継続する生活設計を行うこととなり、確実な奨学金の支給が特に重要となる。
・選考にあたり応募者の成績・将来設計・世帯構成や経済状況その他の機微な情報を扱う場合が想定され、その場合には個人情報保護の体制が特に重要となる。
〇 そこで、奨学金事業の公益目的事業該当性の判断に当たっては、応募及び選定の二段階での公正性が確保されているかに加え、事業の特性を踏まえ、特別の利益の排除、個人情報保護、奨学金給付の確実性の観点などから、以下の点から判定することが有効である。
(ⅰ) 当該奨学金が不特定多数の者の利益の増進に寄与することを主たる目的として位置付けられており、適正な方法で明らかにされているか。
(ⅱ) 応募の機会が、一般に開かれているか。
(ⅲ) 奨学金の選考が公正に行われることになっているか(例:個別選考に当たって直接の利害関係者の排除)
(ⅳ) 支給等対象者に当該奨学金事業の趣旨・目的に照らして、合理性のない義務(例:特定企業への就労など)を課していないか。また義務が有る場合その内容は応募者や支給等対象者に明らかにされているか。
(ⅴ) 奨学金の財源は、支給を約束した内容相応に確保されているか
(ⅵ) 応募者及び支給対象者等の経済状況・成績等の個人情報を取得する場合にその扱いは適切であり、そのしくみが公表されているか。
②判断基準
<応募の機会が一般に開かれているか>
〇 奨学金事業においては、出捐者が縁のある特定の地域や後押ししたい特定分野など、特定地域の学校/特定校/特定学科等に属する者のみを応募要件とする事業が多い。制度の趣旨を踏まえると、応募の機会は、可能な限り広く開かれていることが望ましいが、奨学金事業(特に給付型)の必要性は大きく公益性を認める得る範囲は大きいと考えられること、出捐をしようとする者の希望に反して徒に応募者の範囲を広げることを求めることにより、出捐される額が減少し、民間公益を却って委縮させる効果をもたらしかねないことに留意する。
〇 このため、奨学金事業において、応募要件を一定の範囲に限定することがあっても、当該限定の態様が、当該法人の目的、奨学金事業の趣旨・目的、当該奨学金事業の規模、財源等に照らして合理性がある場合には、応募の機会が一般に開かれていると認められる。
なお、応募の機会は実質的に開かれている必要があり、応募規定上対象に限定がなくとも、募集要項を特定校のみに送付するなどで、事実上限定されている場合には、受益の機会が開かれているとは言えない。
(例) 応募要件を特定の学校の在校生に限ることについて、①不特定・多数の者が当該学 校に入学可能であること、②法人の目的は在校生の経済支援を通じた人材輩出であり、③社員(卒業生・教職員等の学校関係者)の寄附を奨学金の主要な財源としていること、④在校生の数・事業目的等に照らして奨学金事業の規模が不相応に大きなものではないことなどの事情を踏まえて、応募の機会が開かれていると認めた事例がある。
(例) 応募要件を特定の町村居住者に限ることについて、①当該地域への居住等は開かれていること、②定款においては、有用な人材の育成、教育の水準の向上、地域社会の発展を目的に、特定の町村出身の学生に奨学金を給付する事業を行うとされており、③当該地域出身者からの寄附金等を主な財源としていること、④対象者数・事業目的等に照らして奨学金事業の規模が不相応に大きなものではないことなどの事業を踏まえて、応募の機会が開かれていると認めた事例がある。
<事業の財源との関係>
〇 奨学金給付の確実性の観点から、支給決定を予定している奨学生数(収入に応じて支給決定を行う対象数の調整を予定している法人にあっては、想定する最小の奨学生数とする。この場合は、約束期間確実に奨学金を支給することができるよう支給人員が調整される必要がある。)に対して約束した期間支給するだけの財源が確実に確保されている必要がある。
〇 過去の実績がある場合は、財務諸表等により確認する。
〇 実績がなく、外部からの寄附を予定されているとする法人については、必要に応じ、寄附確約の書面で寄附予定者の意思及び内容を確認する。寄附確約の書面で財源を確認した法人については、認定後、速やか(例えば認定後3か月)に実際の入金を確認し、入金が確認できない場合には、勧告等の措置を速やかに講じる。
〇 後掲の「公益性及び不特定多数性の確認のためのチェックポイントの判断基準」参照
(16)表彰、コンクール
①事業の概要等及びチェックポイント
ア 事業の内容
「表彰、コンクール」は、作品・人物等表彰の候補を募集し、選考を経て、優れた作品・人 物等を表彰する事業のことである。
イ 事業名
表彰、コンクール、○○賞等としている。なお、部内の者に対する表彰(職員の永年勤続表彰等)もあるが、ここでは対象から除く。
ウ 公益目的事業として求められる趣旨
公益目的事業としての「表彰、コンクール」は、適切な選考を通じて、優れた作品・人物等を顕彰することを趣旨としている必要がある。
エ 事実認定の着目点
選考の質や公正性が確保されているかに着目して事実認定するのが有効であると考えられる。
オ 上記を踏まえた「表彰、コンクール」のチェックポイント
(ⅰ) 当該表彰、コンクールが不特定多数の者の利益の増進に寄与することを主たる目的とし置付け、適当な方法で明らかにしているか。
(ⅱ)選考が公正に行われることになっているか。(例:個別選考に当たっての直接の利害関係者の排除)
(ⅲ) 選考に当たって専門家が適切に関与しているか。
(ⅳ) 表彰、コンクールの受賞者・作品、受賞理由を公表しているか。
(ⅴ) 表彰者や候補者に対して当該表彰に係る金銭的な負担(応募者から一律に徴収する審査料は除く。)を求めてないか。
判断基準
後掲の「公益性及び不特定多数性の確認のためのチェックポイントの判断基準」参照。
(17)競技会
①事業の概要等及びチェックポイント
ア 事業の内容
「競技会」は、スポーツ等の競技を行う大会を開催する事業のことである。
イ 事業名
競技会、競技大会、○○大会等
ウ 公益目的事業として求められる趣旨
公益目的事業としての「競技会」は、競技者に対して技能の向上の機会を提供するとともに、当該競技の普及を図ることによってスポーツ等を振興することを趣旨としている必要がある。
エ 事実認定の着目点
競技会の質を維持・向上するような工夫がなされているかに着目して事実認定するのが有効であると考えられる。
オ 上記を踏まえた「競技会」のチェックポイント
(ⅰ) 当該競技会が不特定多数の者の利益の増進に寄与することを主たる目的として位置付け、適当な方法で明らかにしているか。
(ⅱ) 公益目的として設定した趣旨に沿った競技会となっているか。(例:親睦会のような活動にとどまっていないか)
(ⅲ) 出場者の選定や競技会の運営について公正なルールを定め、公表しているか。
②判断基準
後掲の「公益性及び不特定多数性の確認のためのチェックポイントの判断基準」参照。
(18)自主公演
①事業の概要等及びチェックポイント
ア 事業の内容
「自主公演」は、法人が、自らの専門分野について制作又は練習した作品を演じ、又は演奏する事業のことである。
イ 事業名
公演、興行、演奏会等としている。芸術の鑑賞機会の提供のみならず高齢者、障害者が芸術等に触れ、癒される機会を提供すること等の福祉的なものも含まれる。
ウ 公益目的事業として求められる趣旨
公益目的事業としての「自主公演」は、法人の専門分野の公演により、芸術等の振興や不特定多数の者に対する芸術等に触れる機会の提供を行うことを趣旨としている必要がある。
エ 事実認定の着目点
公益目的として設定された趣旨を実現できるよう、質の確保・向上の努力が行われているかに着目して事実認定するのが有効であると考えられる(63 本事業区分の場合、特に当該事業が認定法の別表各号(例えば「文化及び芸術の振興を目的とする事業」)に該当するかが重要であるが、実質的に判断することとなる。)。
オ 上記を踏まえた「自主公演」のチェックポイント
(ⅰ)当該自主公演が不特定多数の者の利益の増進に寄与することを主たる目的として位置付け、適当な方法で明らかにしているか。
(ⅱ)公益目的として設定された趣旨を実現できるよう、質の確保・向上の努力が行われて いるか。
②判断基準
後掲の「公益性及び不特定多数性の確認のためのチェックポイントの判断基準」参照。
(19)主催公演
①事業の概要等及びチェックポイント
ア 事業の内容
「主催公演」は、法人が、主として外部制作の公演の選定を行い、 主催者として当該公演を実施する事業のことである。
イ 事業名
主催公演、主催コンサート等としている。芸術の鑑賞機会の提供のみならず、高齢者、障害者が芸術等に触れ、癒される機会を提供すること等の福祉的なものも含まれる。
ウ 公益目的事業として求められる趣旨
公益目的事業としての「主催公演」は、外部制作の公演を活用して、芸術等の振興や不特定多数の者に対する芸術等に触れる機会の提供を行うことを趣旨としている必要がある。
エ 事実認定の着目点
公益目的として設定された事業目的に沿った公演作品を適切に企画・選定することになっているかに着目して事実認定するのが有効であると考えられる。
オ 上記を踏まえた「主催公演」のチェックポイント
(ⅰ) 当該主催公演が不特定多数の者の利益の増進に寄与することを主たる目的として位置付け、適当な方法で明らかにしているか。
(ⅱ) 公益目的として設定された事業目的に沿った公演作品を適切に企画・選定するためのプロセスがあるか。(例:企画・選定の方針等の適切な手続が定められている/(地域住民サービスとして行われる場合)企画段階で地域住民のニーズの把握に努めている)
(ⅲ)主催公演の実績(公演名、公演団体等)を公表しているか。
判断基準
後掲の「公益性及び不特定多数性の確認のためのチェックポイントの判断基準」参照。
第3 19事業区分非該当事業の公益目的事業のチェックポイント
〇 19の事業区分に該当しない事業のチェックポイント(以下「非該当事業のチェックポイント」)については、多種多様な事業が含まれており、19事業にならって、「事業の内容」、「事業名」、「公益目的事業として求められる趣旨」、「事業認定の着眼点」を特定することは困難である。
このため、非該当事業のチェックポイントについては、第2章第1節第3に示す確認事項を踏まえた以下の通りとし、事業の特性に応じて軽重を付け、重要事項に集中して確認を行うこととする。
なお、事業の特性により、19事業との類似性が認められる場合において、19事業のチェックポイントを活用して公益性及び不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するか否かを確認することは許容される。
(ⅰ)事業の趣旨・目的について、公益目的及び不特定多数の利益の増進を主目的として位置付け、適切な方法で明らかにしているか。
(ⅱ)事業の概要が、事業の趣旨・目的等に則しているか。
(ⅲ)受益の機会が、一般に開かれているか
(ⅳ)受益者の義務・受益の条件は、事業の趣旨・目的に照らして合理的なものとなっているか。
(ⅴ)上記のほか、事業の合目的性を確保する取組が行われているか。
・選考等を伴う事業において、選考等の専門性・公正性を確保する取組が行われているか。
・事業内容に応じて、必要な透明性が確保されているか。
・重大な不利益が発生するリスクのある事業について、当該リスクに応じた対応が確保されているか。
・その他、事業内容に応じた適正運営の確保、事業内容に応じた専門家の関与、訓練、機材の確保等、事業の趣旨に応じたプロセス(ニーズ調査や関係者の参加)の確保など、事業の質や成果を確保する取組が行われているか。
第3章 公益認定基準等
〇 具体的案件における審査及び監督処分等については、法令に照らし、個々の案件ごとに判断する。なお、個別に説明を求めても、法人からの申請内容が具体性を欠く場合には、内容が不明確であるために、結果として不認定となることがあり得る。
第1 公益認定基準(認定法第5条)
(1) 法人の主たる目的(認定法第5条第1号)
〇 一般法人は、多種多様な事業を自由に行うことができるが、公益認定を受けるためには、認定法第2条第4号で定義される「公益目的事業」を安定的かつ継続的に実施するためにその利用可能な人的、経済的資源等を投下する意思および能力等を有している必要がある。そこで、公益目的事業を行うことを主たる目的とすることが、認定基準として設けられている。
〇 「公益目的事業を行うことを主たる目的とする」とは、法人が、「公益目的事業」の実施を主たる目的とするということである。申請時には、認定法第5条第8号の公益目的事業比率の見込みが50%以上であれば、公益目的事業を行うことを主たる目的とするものと判断する。
(2) 経理的基礎及び技術的能力(認定法第5条第2号)
〇 公益法人は、設立目的達成のため、将来にわたり安定的かつ継続的に公益目的事業を行うことが期待されており、そのために必要な財産、技術的能力を保有している必要がある。また、法人自身による適正な業務運営の確保や寄附者等に対する情報提供の前提として、その事業活動の実態等を正確に把握するため、当該法人が適切な会計処理を行う能力を備えている必要がある。そこで、公益目的事業を行うのに必要な経理的基礎および技術的能力を有するものであることが、公益認定の基準として設けられている。
なお、当該法人が事業を行うに当たり法令上行政機関の許認可等を必要とする場合は、公益認定申請及び変更認定申請に係る手続において、認定法第5条第2号に規定する事由について、許認可等行政機関の長の意見を聴くこと(認定法第8条第1項第1号)とされており、公益認定又は変更認定における審査に当たっては、許認可等行政機関の意見も情報源となる
① 経理的基礎
認定法第5条第2号の「公益目的事業を行うのに必要な経理的基礎」とは、ア)財政基盤の明確化、イ)経理処理・財産管理の適正性、ウ)情報開示の適正性とする。
ア 財政基盤の明確化
〇 公益法人が、安定的かつ継続的に公益目的事業を行うため、公益目的事業の性格や内容(例:資金不足等による中断等が社会に大きな不利益をもたらすか)、法人の事業計画(確保できる財源に応じて事業規模を調節する仕組みになっているか)等に応じ、適切に財政基盤が確保されていることが求められる。
〇 必要な収益等が十分に確保されているような場合には、債務超過等であることが、直ちに経理的基礎を欠くことを意味するわけではないが、万一、破綻した場合には、公益目的事業に使用されることを期待して寄附等を行った者の信頼を裏切ることとなることに十分に留意し、財政基盤の確保に努めることが求められる。また、公益財団法人については、純資産額が2期連続で300万円を下回った場合に解散することとされている(法人法第202条第2項)ことに留意する
(ⅰ) 行政庁は、申請時には、貸借対照表、収支(損益)予算書等により、財務状態を確認 し、法人の事業規模を踏まえ、必要に応じて今後の財務の見通しについて追加的に説明を求める。公益認定後に事業内容を抜本的に変更することになる法人にあっては、事業内容を変更した後の財務状態が分かる資料の添付を求める。
その際、経理的基礎を有することを明らかにする書類(認定規則第7条第2項第3号。申請書別添 経理的基礎)として、寄附金収入については、寄附金の大口拠出上位5者の見込み、会費収入については積算の根拠(会費について定める定款の条項(細則を定めている場合には細則を添付する。)、借入の予定があればその計画について、情報を求め、法人の規模に見合った事業実施のための収入が適切に見積もられているか確認する。
行政庁は、奨学金に係る事業など事業の確実な実施が必要な事業にあっては、最低限の財源が見込まれるかを確認することとし、必要に応じ、寄附等が確実に実施されることを示す文書(寄附を約束する文書等)の提出を求めるものとする。
また、行政庁は、必要に応じ、認定に当たり、事業内容に応じた財政基盤を速やかに確保しななければならない旨を法人に示すとともに、その確保(寄附の受領等)が認定後速やかに(例えば3か月以内)に行われない場合には、認定法第29条第2項に該当するものとして、直ちに認定法に基づく勧告等の措置を講じるものとする(詳細は第6章監督第1節第1(2)監督の基本的な考え方参照。)。
なお、寄附の意思及び能力ともに無いことが明白であるなど寄附等の確実な履行が見込まれないにも関わらず、寄附を約束する文書を提出して公益認定を受けることは、不正の手段により公益認定を受けること(認定法第29条第1項第2号)に該当し得るものであり、直ちに認定取消しとなり得るとともに罰則等の適用があり得ることに留意する。
(ⅱ) 認定後においても、財政基盤は、継続的に確保されている必要があり、確保されない場合は経理的基礎を満たしていないこととなる。
イ 経理処理・財産管理の適正性
〇 公益法人は、財務規律を遵守しつつ、公益目的事業のための資金その他の財産を確実に公益目的事業のために使用することが求められる。また、適正な経理処理・財産管理は、適正な情報開示の前提である。
(ⅰ) 財産の管理、運用については、法人の役員が適切に関与すること、開示情報や行政 庁への提出書類の基礎として十分な会計帳簿を備え付けること(64 法人が備え付ける会計帳簿は、事業の実態に応じ法人により異なるが、例えば仕訳帳、総勘定元帳、予算の管理に必要な帳簿、償却資産その他の資産台帳、得意先元帳、仕入先元帳当の補助簿が考えられる。区分経理が求められる場合には、帳簿から経理区分が判別できるようにする。)、不適正な経理を行わないこと(65 法人の支出に使途不明金があるもの、会計帳簿に虚偽の記載があるものその他の不適正な経理とする。が求められる。
(ⅱ) 公益認定の審査に当たっては、不適正な経理処理や財産管理を防止するための最低限のルールが機関決定され、組織的に講じる措置が整備されているかを確認するため、経理規程等の提出を求める。なお、公益法人の財産管理等は、公益法人のガバナンスの下、公益法人が自律的に行うものであり、特に必要がある場合を除き、行政庁が各法人の財産管理の適正性について確認するものではないことに留意する。
(ⅲ) 不適正な経理等が発覚した場合には、速やかに適正な対応がとられる必要がある。悪質なものを除き、不適正な経理が単発的に発生したことのみをもって監督処分等を講じることはないが、隠蔽や、原因を明らかにせず、適切に再発防止策を講じない、公益法人が受けた財産上の損害の回復(賠償請求等)をしない等の場合には、経理的基礎がないと判断し得る。
○ また、資産運用を含む財産の管理や契約は、法人の役員による適切な関与の下、適切に行われる必要がある。理事会の権限である重要な財産の処分・譲り受けや多額の借財(法人法第90条第4項)、利益相反取引の承認(法人法第92条)をはじめ、財産管理に関する重要な取引に関する関与(関係する規程の制定を含む。)が行われていない等の場合には、経理的基礎がないと判断することがあり得る。
ウ 情報開示の適正性
〇 計算書類その他財務関係の情報が適正に作成され、開示されていることは、社員・評議員などの公益法人関係者、公益法人に対する寄附者その他のステークホルダー(行政庁を含む。)が、寄附等により公益法人に提供した資源の活用状況や、財務規律の遵守状況等を確認し、各種意思決定を行う上での大前提である。
○ また、適正な財務情報の開示は公益法人の適正なガバナンスの基盤であり、公益法人は、公益目的事業の質の向上を図るため、運営体制の充実を図るとともに、財務に関する情報の開示その他の運営における透明性の向上を図るよう努めなければならない(認定法3条の2)。
(ⅰ) 申請時には、経理的基礎を有することを明らかにする書類(認定規則第7条第2項第 3号。申請書別添 経理的基礎)により、外部監査を受けているか、そうでない場合には費用及び損失の額又は収益の額が1億円以上の法人については、監事(2人以上の場合は少なくとも1名)を公認会計士又は税理士が務めること、当該額が1億円未満の法人については営利又は非営利法人の経理事務を例えば5年以上従事した者等が監事を務めることが確認されれば、適切に情報開示が行われるものとして取り扱う。
この経理事務の経験者について、5年というのは一つの目安であり、形式的に簿記検 定などの関連資格の保有者と定めることはないものの、会計について専門知識があり監事の職務を果たせる人物が求められる。
(ⅱ) 監事に上記(ⅰ)のような者をおくことを法人に義務付けるものではないが、このような 体制にない法人においては、公認会計士、税理士又はその他の経理事務の精通者が法人の情報開示にどのように関与するのかの説明を、申請書の添付書類に記載する。
経理事務の精通者については、形式的に企業会計の従事年数なり、一定の資格者なりを定めることはせず、有償無償も問わないが、どのような者が会計に関与しているかの説明をもとに個別に判断する。
(資産運用としての株式保有等について)
事業活動の財源を獲得する手段として、株式保有等の資産運用を行うことがある。資産運用は、法人の経営判断に属するものであり、「公益法人としてふさわしくない事業等(第3章第1(4)参照)」や「他の団体の意思決定に関与することができる財産(第3章第1(16)参照)」に該当しない限り、法人が自らの事業内容・財務状況、当該資産運用に係るリスクやリターン等を踏まえ、自主的に判断するものである。
法人の資産運用に関する判断を客観的に裏付けるものとして「資産運用規程(※)」を作成することが考えられる。
(※)項目としては、資産運用の目的、管理体制、資産運用の対象、運用主体等について定めることが考えられる。
このほか、申請書に添付された計算書類に重大な誤りがある場合又は計算書類若しくは収支予算書等の添付書類の内容に疑義(当該疑義が解消されなければ公益認定を行うことができないものに限る。)がある場合において、申請法人に修正又は説明を求めても、相当の期間(66 相当の期間は、修正又は説明を求める内容により異なるが、通常は1か月程度、理由がある場合であっても3か月程度が限度と考えられる。)内に適切な修正又は回答がない場合には、経理的基礎を有するものと認められないと判断することがあり得る。
(ⅲ) 認定後は、上記(ⅰ)又は(ⅱ)の要件を満たしていることについて、説明責任を全うする必要があることから、これらを説明する書類について、行政庁への提出・公表等の対象としている(認定規則第46条第1項第2号ト)。
(ⅳ) 財務に関する情報であって、法人において作成・備置・開示(認定法第21条第2項第1号及び第4号)するとともに、公表(認定法第22条)こととされる情報が、法令の定めに従って作成等されていない場合には、適正な情報開示が行われていないことになる。特に最終報告を踏まえた制度改革は、財務規律の柔軟化に見合う説明責任の充実を図るものであり、適切な情報開示の重要性は従来以上に高まった。単純な記載誤りや誤解に基づく間違いが単発的にあったとしても、直ちに監督上の措置の対象となるものではないが、複数回にわたり期限内に開示すべき財務情報に係る書類を提出しなかった場合や、提出してもその内容が著しく正確性に欠け、又は社会通念に照らして明らかに不適切な場合などには、経理的基礎がない疑いがあるものとして、認定法第28条第1項の規定に基づき勧告を行うなど、果断な措置を講じるものとする。
② 技術的能力
〇 適切に実施されれば公益目的事業に該当する事業であっても、専門技術を欠き、あるいは、コンプライアンスが確保されないなど不適切に実施されれば、想定した利益は実現せず、逆に大きな不利益が生じることにもなる。認定法第5条第2号の「公益目的事業を行うのに必要な」「技術的能力」とは、コンプライアンスを確保しつつ事業を適正に実施するための技術、専門的人材や設備、体制などの能力の確保とする。
〇 申請時には、公益目的事業の内容に係る申請書記載事項及び添付資料により、判断する。例えば検査検定事業においては、検査に携わる人員や検査機器の能力の水準の設定とその確保や、審査に当たって公正性を確保する仕組みが「公益目的事業のチェックポイント」に掲げられており、申請書記載事項等を踏まえ、当該チェックポイントを満たすことを確認する。
〇 このほか、申請書又は添付書類の内容に関して疑義(当該疑義が解消されなければ公益認定を行うことができないものに限る。)がある場合において、申請法人に説明を求めても、相当の期間内(67 相当の期間は、説明を求める内容により異なるが、通常は1か月程度、理由がある場合であっても3か月程度が限度と考えられる。)に適切な回答を得ることができない場合には、技術的能力を有するものと認められないと判断することがあり得る。
〇 また、事業を行うに当たり法令上許認可等を必要とする場合においては、認定法第7条第2項第3号の「書類」及び第8条第1号の意見の提出をもって技術的能力を確認する。
〇 コンプライアンスに関しては認定法及び法人法に定める体制があること(事業を行うに当たり法令上の許認可等を必要とする場合は、当該法令で求められている体制があることを含む)をもって技術的能力があると判断することを原則とする。ただし、事業内容に照らしてコンプライアンスの確保が特に必要な事業である場合又は当該法人についてコンプライアンスの確保に疑義がある場合には、追加的に説明を求めることがあり得る。
〇 事業に必要な技術的能力は、法人自らが全てを保有していることを求めるものではない。しかし、実態として自らが当該事業を実施しているとは評価されない程度にまで事業に必要な資源を外部に依存しているときには、技術的能力を備えていないものと判断される場合もありうる。
〇 認定後においては、公益法人として、コンプライアンスを確保し、法令、定款等を遵守して法人運営を行い、及び公益目的事業を実施しなければならず、これができない場合には、技術的能力を有していないと判断され得る。その際、根幹となる業務に関する明確なルールの存在は、理事会等のガバナンスを確保し、適正な法人運営を実現する第一歩であると考えられる。重要性の乏しい業務や個別の統制(理事会の関与など)が確保されている場合などに一律に規程等の整備を行う必要はないが、事業内容や規模など法人の実情に応じて、規程を整備することは重要である。
悪質な場合を除き、不祥事の発生をもって、直ちに技術的能力が欠如していると判断することはないが、例えば、容易に防止し得るにも関わらず漠然と不祥事を生じさせた場合、不祥事の発生に対して適切な対応措置が取られていない場合、法人の内外からの指摘等にも関わらず定款の定めに従った法人運営がされない場合などには、技術的能力を有していない疑いがあるものとして、認定法第28条第1項の規定に基づき勧告を行うことがあり得る。
〇 また、公益法人がテロ資金供与に悪用されないことは重要であり、リスクの高い活動等を行う場合には、適切な対応を執ることが求められる(参照:公益法人におけるテロ資金供与対策について(令和4年6月内閣府大臣官房公益法人行政担当室))。
〇 技術的能力の判断における公益法人の事務所について、総務機能のアウトソーシングが進められる中、書類の備置・閲覧請求対応等を適切に実施することが確保されるとともに、公益目的事業等の内容に即して必要な事務所機能が確保されることを前提として他法人等との事務所との同居や間借り、複数法人での事務所共有も許容され得る。
他法人等の事務所と同居する場合には、各法人の権利又は義務が混同されないように注意する。個人情報保護、営業秘密等については、法人として特に注意が必要である。認定後においては、申請時における法人の独立性を確保するための適切な財産管理・情報管理等の措置が講じられていないと認められる場合には、監督措置を講じる。
(3) 特別の利益(認定法第5条第3号及び第4号)
① 社員、理事等、使用人その他の当該法人の関係者に対し、特別の利益を与えないものとした趣旨(認定法第5条第3号)
公益法人は不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するために公益目的事業を行うことから、特定の者に対してのみ特別な利益を供与することは、公益法人として適当ではない。そして、当該法人の社員、理事等(理事、監事及び評議員)、使用人は、その法人における地位を利用して、自ら又は自らの親族等に対して利益を誘導し得ることから、特別な利益の供与を禁止すべき対象として特に考慮することとしたものである。そこで、公益法人が事業を行うに当たり関係者に対して特別の利益を与えないことが、公益認定の基準として設けられている(68 認定法第5条第3号に規定する者は、公益法人会計基準における「関連当事者」に含まれており、同会計基準に基づき、関連当事者との重要な取引について財務諸表の注記に記載する必要がある(当該注記の記載がない場合は、その記載すべき内容を記載した書類を、別途、法人において作成・備置きする必要があり、公表対象となる)(認定法第21条第2項第4号、認定規則第46条第1項第3号ホ、同条第3項、同法22条)(69 他の団体の意思決定に関与可能な財産の保有状況については、作成・備置が必要な書類とされ(認定法第21条第2項第4号)、公表対象となる(同法第22条)。)。
② 株式会社その他の営利事業を営む者等に特別の利益を与えないこととした趣旨(認定法第5条第4号)
〇 社会的サポートを受けて蓄積された公益法人の財産は、公益目的事業(公益目的事業の実施のために必要な収益事業や管理業務等を含む。)に使用されることが本来の姿であり、公益法人から他の団体等に寄附等によって財産が移転し、当該財産が受入先において公益目的事業以外の事業等に使用されることは適当ではない。また、利益の分配を行う株式会社にあっては、当該寄附が配当を通じて株主に分配される可能性もある。
〇 公益法人への寄附者としても、みずからが寄附をした財産が公益のために使用されることを期待しており、当該財産が営利企業等に流出する事態となれば、公益法人に対して不信感を抱き、公益法人制度に対する疑念を呈されることとなり得る。
〇 このようなことを防止するため、営利事業を営む者等に特別の利益を与える行為を行わないことが、公益認定の基準として設けられている。
○ 「株式会社その他の営利事業を営む者」につき、この場合の「営利事業」とは、最終的に事業による収益が会員又は設立者に帰属するかどうかにかかわらず、「利益をあげる事業」を指すものである。したがって、この「営利事業を営む者」には、営利事業を行う一般法人や営利事業を収益事業等として行う公益法人(公益法人の行う公益目的事業のために寄附その他特別の利益を与えるものは特別の利益供与に当たらない。認定令第2条第1号カッコ書き)も含まれる。
○ また、法人関係者(認定法第5条第3号)でも営利事業者でもないものを介在させることにより、本規定の趣旨を容易に潜脱することが可能となる場合がある。このような潜脱行為を防止するため、営利事業者に特別の利益を供与する活動を行う個人又は団体への特別の利益の供与を禁止している(認定令第2条第1号)。さらに、不特定多数の者の利益となることが期待できない社員等に対する共益的な活動を主たる目的とする団体への特別の利益の供与を禁止している(認定令第2条第2号)(70 認定令第2条第2号での会員又はこれに類するものとして内閣府令で定めるもの(認定規則第2条)には、例えば、会員以外で会員に類するものとして、「会員」という呼称を使用しないメンバー、構成員、組織員などが考えられる。)。
③ 特別の利益
〇 認定法第5条第3号及び第4号の「特別の利益」とは、利益を与える個人又は団体の選定や利益の規模が、事業の内容や実施方法等具体的事業に即し、「社会通念に照らして合理性を欠く不相当な利益の供与その他の優遇」がこれに当たり、「その事業を行うに当たり」とは、公益目的事業の実施に係る場合に限られない。その判断は、当該法人が行う事業の具体的な内容等に基づいて個別に行われ、申請時には提出書類等から判断する。
〇 なお、法人の関係者や、関係者が役員等を務める法人に対して、資金その他の財産の貸付や、事業の委託その他多額の費用の支出を伴う契約がある場合等には、当該貸付や契約等について説明を求めることがあり得る。この場合において、合理的な説明が得られないときは、「特別の利益」を与えないものであると判断できない可能性がある。
〇 認定法第5条第4号の「寄附その他の特別の利益」についても、「社会通念に照らして合理性を欠く不相当な利益の供与」に当たるもののみが問題となる。例えば、営利企業等に対して、公益目的事業として、公正な手続を経て助成金(71 公益的な活動を行う法人の運営体制の充実・透明性の向上等のための助成金等も含まれる。)を支給するような場合は、一般には、特別の利益に該当するものではない。
〇 設立者や資源提供者である企業(以下「設立企業等」という。)に何らかの利益が生じることは否定されないが(例えば、財団名に企業名を入れること自体、一定の宣伝効果があると考えられる。)、受益者に対し設立企業等のための義務を課す(例:奨学金の受給者に対し、設立企業等への就職を義務付ける)、事業の実施に当たって合理的理由なく設立企業等と独占的な契約を結ぶ場合などは、特別の利益に該当し得る。
〇 認定後においては、公益法人関係者との取引について情報開示(第5章第5●④ウ(ⅲ))や他の団体の意思決定に関与することができる財産の保有に係る情報開示(第5章第5●④ウ(ⅱ))、や利益相反取引に係る理事会への報告等の義務を果たすことは当然として、特定の営利企業と多額の支出を伴う契約を継続的に行うなど国民の疑念を招き得る行為を行う際には、できる限り情報を開示し、透明性を確保することが望ましい。
〇 確定的に利益が移転する場合に至らなくても、そのおそれがあると認められる場合には報告徴収(認定法第27条第1項)を求め、法人の回答から「特別の利益を与えないもの」であると判断できない場合には、認定法第28条第1項の規定に基づき勧告を行うことがあり得る。
(4) 公益法人としてふさわしくない事業等(認定法第5条第5号)
〇 公益法人は、公益認定を受けることで社会的信用を獲得し、その信用に基づいて広く国民各層に寄附等の支援を募ることが可能となる。ある公益法人が社会通念上不適当と認められる事業を行い、信用失墜を招いた場合、当該法人のその後の事業遂行に支障をもたらすおそれが生じるばかりか、公益法人一般の社会的信用も傷つけられ、公益法人一般の事業活動に支障が生じ得ることとなる。
〇 このような事態を防ぐため、社会的信用を維持する上でふさわしくない一定の事業や公の秩序、善良の風俗を害するおそれのある事業を行わないものであることが、公益認定の基準として設けられている。
〇 当該法人が事業を行うに当たり法令上行政機関の許認可等を必要とする場合は、公益認定申請及び変更認定申請に係る手続において、認定法第5条第5号に規定する事由について、許認可等行政機関の長の意見を聴くこと(認定法第8条第1項第1号)とされており、公益認定又は変更認定における審査に当たっては、許認可等行政機関の意見も情報源となる。
① 社会的信用を維持する上でふさわしくない事業
〇 社会的信用を維持する上でふさわしくない事業とは、それを行うこと自体は、法令に定める必要な手続等を踏まえている限り法令違反になるものではないが、具体的に行われる事業の内容、その実施方法等が社会通念等に照らした場合、公益法人が行うものとしては適当ではないと考えられる事業である。
〇 社会的信用を維持する上でふさわしくない事業は、認定令第3条で、ア)投機的な取引を行う事業、イ)利息制限法の制限を超える利息の契約等を行う事業、ウ)性風俗関連特殊営業が定められている。
〇 ア)「投機的な取引を行う事業」に該当するかどうかは、社会通念(個別の取引自体の客観的なリスク)や当該法人における専門的知見の有無、取引の運用方針、取引の規模・内容等具体的事情に照らして判断される。例えば、社会一般において「賭博」と称されるような事業は、投機的な取引を行う事業となる。ポートフォリオ運用の一環として行う公開市場等を通じる証券投資等はこれに該当しない(72 公益法人の「資産運用としての株式保有等」については、認定法第5条第2号経理的基礎、イ経理処理・財産管理の適正性参照。)。
② 公の秩序もしくは善良の風俗を害するおそれがある事業
公益法人が行う場合に限らず、社会の秩序もしくは一般の利益又は社会一般の道徳を害する可能性があり、違法となる恐れがある事業を一般的に指すものである。これに該当するかどうかは当該法人が行おうとしている具体的な事業に即して、委員会等が個別に判断する。
(5) 公益目的事業の収入及び費用(認定法第5条第6号)
<第5章第1 公益目的事業の収入及び費用 参照>
(6) 公益目的事業の実施に支障を及ぼすおそれ(認定法第5条第7号)
〇 公益法人は、他の認定基準(認定法第5条第5号、第8号等)に反しない限り、公益目的事業以外の事業(収益事業等)を行うことができるが、収益事業等を行うことによって公益目的事業の実施に支障を及ぼすおそれがないことも認定基準として求められる。これは、「公益法人」として事業活動を行う以上、その本来の目的である公益目的事業の実施に支障を及ぼすようなことがあれば、民間公益を増進するという公益法人制度の趣旨を損なうことになるためである。
〇 「公益目的事業の実施に支障を及ぼすおそれ」とは、収益事業等の事業内容、法人全体での資源配分の状況等に照らして、公益目的事業の円滑な実施が妨げられる可能性があることをさす。例えば、公益法人の行う収益事業等が構造的に赤字になる性質のものであり、当該事業を継続することによって当該法人の財政基盤を損なう可能性がある、公益法人が収益事業等へ投入する人員が過大になり、公益目的事業へ十分な人的資源を割り当てられない、といった状態が考えられる。また、公益法人の信用を利用して不適切な収益事業等を行う場合には、当該公益法人に対する信頼を毀損し、公益目的事業の実施に支障を及ぼすことにもなる。
〇 このような状態にあるか否かについては、当該法人が行う公益目的事業の内容や人員等の資源の利用状況その他の活動実態等を踏まえ、個別具体的に判断されることとなる。
(7) 公益目的事業比率(認定法第5条第8号)
<第5章第2 公益目的事業比率 参照>
(8) 使途不特定財産額の保有の制限(認定法第5条第9号)
<第5章第3 使途不特定財産額の保有の制限 参照>
(9) 理事・監事と特別利害関係があるものの割合(認定法第5条第10号)
〇 公益法人が特定の一族等から支配されるような場合には、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するという公益法人本来の目的に反した法人の私物化や専横的な運営が行われるおそれがあることから、同一の親族等が理事又は監事において占める割合に制限を設けている。
〇 具体的には、各理事について ① 配偶者、 ② 三親等内の親族、 ③ 当該理事と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者(認定令第4条第1号)、 ④ 当該理事の使用人(同条第2号)、 ⑤ ③④以外の者で当該理事から受ける金銭その他の財産によって生計を維持しているもの(同条第3号)、 ⑥ ④⑤の者の配偶者(同条第4号)、 ⑦ ③④⑤の三親等内の親族であって、これらの者と生計を一にするもの(同条第5号)である理事が理事の総数の三分の一を超えてはならないこととしている(①~⑦の関係を「特別利害関係」という)。
〇 監事についても同様である。
〇 上記認定令第4条各号(③~⑦)に掲げる者については、社会通念に照らして判断する。
〇 認定申請に当たっては、法人において基準に抵触することがないことを確認の上、確認書(73 様式30頁参照。確認書は、複数の確認事項をまとめて作成する。)を作成し、認定法第5条第9号に適合することを説明した書類(認定規則第7条第3項第3号)として提出する。確認書は、役員変更の届出等を行う際には添付する必要がある。
<3分の1の考え方>
規制の対象は、親族関係等にある理事又は監事の「合計数」である。例えば、監事の総数が2人の場合に別の団体からそれぞれ1人ずつ監事を受け入れたとしても、各々の団体に属するものは1人であり、「合計数」を観念することはできない。したがって、この場合は本基準に抵触することはない。また、監事の総数が1人の場合も、同様に「合計数」を観念することができないため、本基準が問題となることはない。一方、監事の総数が2人の場合に他の同一の団体から2人の監事を受け入れたときは、監事の「合計数」が2人となり、監事の総数の3分の1を超えてしまうため本基準に適合しないことになる。
(10) 他の同一の団体の理事・使用人等(認定法第5条第11号)
〇 公益法人が特定の利害を代表する集団から支配されるような場合には、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するという公益法人本来の目的に反した業務運営が行われるおそれがあることから、同一団体関係者が理事及び監事に占める割合について制限を設けている(74、3分の1の考え方、確認の方法については(9)参照)。
〇 同一の団体は、人格、組織、規則などから同一性が認められる団体ごとに判断する。ある他の同一の団体の関係者である公益法人の理事が当該基準の規律対象であるか否かは、それらの者が「他法人の理事や使用人」などと同視し得る程度に当該他の団体に支配・従属の関係にあるか、当該他の同一の団体の行動原理によって公益法人の運営が歪められるおそれがあるかという観点から判断する。
〇 同一の団体は、国の機関についてどこまで同一と捉えるかは、本号の趣旨に照らすと、当該法人の目的、事業との関係において利害を同じくする範囲と考えられ、一般的には事務分掌の単位である省庁単位となる。
〇 他の同一の団体の対象となる団体は、法人格の有無を問わないため、権利能力なき社団もこれに含まれる。
(11) 理事と監事の間の特別利害関係の排除(認定法第5条第12号)
〇 監事が本来の役割を発揮し、法人の適正な運営を確保する上で、理事と監事との間の特別な関係を排除し、理事からの独立性を高めることが必要であることから、同一の親族等が理事又は監事に占める割合についての規律((9))に加え、理事と監事の親族関係等(特別利害関係((9)参照))についての規律が設けられている。
〇 監事は、理事の職務の執行を監査する立場にあり(法人法99条1項及び197条)、監事は公益法人又はその子法人の理事又は使用人を兼ねることができない(法人法65条2項及び第177条)ほか、監事の任期が原則理事より長い(法人法66条・67条等)、監事の報酬等については定款又は社員総会で定める(法人法105条等)など、監事の地位を強化し、その独立性を担保するための仕組みが法人法において整備されている。
〇 理事と監事の親族関係については、立法当初、規律は置かれていなかったが、理事の配偶者が監事に就任していた法人で、不適切な財産管理が行われた事例等がみられたことも踏まえ、令和6年の制度改革において規律が設けられた(75 確認の方法については、(9)参照)。
〇 令和7年4月1日において特別利害関係にある理事及び監事がある場合であっても、当該理事及び監事の任期中に解任等を行う必要はなく、いずれかの改選期に対応すれば足りる(令和6年改正法附則第5条参照、76 施行の際に現存する公益法人については、改正法附則第5条第1項により、当該公益法人の全ての理事及び監事の任期が満了する日の翌日から、当該規定が適用されることとなる。施行日前に公益認定の申請をした一般法人についても同様である。)。
(12) 会計監査人の設置(認定法第5条第13号)
〇 公益目的事業のための財産の使用及び会計処理が適正になされているかどうかの監査を厳正に行うことは、公益法人の財務の透明性を高め、国民の信頼を確保する上で重要である。
しかし、会計監査人の設置をすべての公益法人に義務付けることは、特に小規模な公益法人の負担となる。
〇 このため、①法人法第2条第2号又は第3号に規定する最終事業年度に係る損益計算書の収益の額が100億円(認定令第6条第1号)、②①の損益計算書の費用及び損失の額が100億円(同条第2号)、③負債の額が50億円のいずれの基準にも達しない法人(同条第3号)を除いて、会計監査人を設置しなければならないこととしている。事業年度後の計算書類等の提出にあたりこれらの基準額を超えることが判明した場合には、あらかじめ社員総会等において当該計算書類等の承認に併せて会計監査人の設置及び選任をしておくなど対応が必要となる。
〇 一方で、突発的に収益の額が100億円以上となった法人等に直ちに会計監査人を設置することは容易ではなく、会計監査人を認定基準とした趣旨を鑑みれば、適切な者を選任することが重要であり、会計監査人の選任には一定の期間を要するものと考えられる。これらを踏まえ、会計監査人の設置に係る監督については、法人に対し会計監査人の選任に係る手続の状況や選任までの見通しなどについて説明を求めることとし、法人の置かれた状況や諸般の事情(77 新制度施行直後に提出予定の事業報告の数値により会計監査人を選任する必要が生じた法人は、直ちに会計監査人を選任することは困難と考えられることから、会計監査人の選任に係る手続の状況や選任までの見通しなどについて行政庁から法人に対して説明を求めることとし、やむを得ず困難であると認められる場合には、基本的に本件に対する監督は行わないこととする。)を考慮して行うこととする。
〇 公益認定を申請する法人は、認定法第5条第13号に基づく上記①~③の基準額を超える場合(一般法人が設立後最初の計算書類を作成する前に申請を行う場合は、③の基準額を超える場合)には、公益認定時に会計監査人が置かれていることが必要であり、申請書別添(法人の組織)において会計監査人の名称又は氏名を示すことが求められる。また、会計監査人の氏名又は名称については、開示・公表等の対象となる(認定規則第46条第1項第2号ニ)。
(13) 役員等の報酬等の支給基準(認定法第5条第14号、第20条)
①役員等の報酬等の支給基準(認定法第5条第14号関係)
〇 公益法人は、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するために公益目的事業を行うことを期待した国民からの寄附や税制上の優遇措置を受けて事業の実施や財産の取得・形成を行うものであることから、本来、このように取得した財産は公益目的事業に適正に使用されるべきものであり、役職への正当な対価としての報酬額を超えて、法人の理事等の利益のために費消されるべきものではない。
〇 このような観点から、公益法人の理事・監事・評議員(以下「理事等」という。)の報酬等が、一般の民間事業者の役員の報酬等や当該公益法人の経理の状況に照らして、不当に高額である場合には、公益目的事業に本来使用されるべき財産が、理事等に支払われる報酬等として費消されるという、本来の目的や寄附者等の意思に反する使用がなされることになり、法人の非営利性を潜脱するおそれがある。この場合、当該法人が継続的かつ安定的に公益目的事業を実施する上で支障が生じるおそれもある。
〇 以上のことから、公益法人について、理事等に支払われる報酬等が不当に高額なものとならないような支給の基準を定めていることが認定基準とされたものである。
〇 理事等に対する報酬等の支給の基準については、行政庁において、公益法人から提出を受けた書類の公表の一環として公表される。また、公益法人においては、支給基準を記載した書類を事務所に備置き、閲覧請求等に応じる義務があるほか、運営の透明性の向上の観点から、自らもホームページ等において支給基準を公表することが望ましい。
役員等の報酬等の支給(認定法第20条関係)
〇 公益法人が、理事等に対する報酬等の支給の基準を適正に定めたとしても、社員総会又は評議員会で当該基準に基づかない不当に高額な報酬等の支給等を決議してしまう事態が生じるおそれがある。この場合でも、適切な額の報酬等が支給されることを担保するため、公益法人には、報酬等の支給の基準に従って、理事等に対する報酬等を支給しなければならないことを義務づける。
ア 支給の基準について
(ⅰ) 報酬等について
理事等に対する報酬等とは、報酬、賞与その他の職務遂行の対価として受ける財産上の利益及び退職手当と定められていることから(認定法第5条第14号)、理事に対して、交通費実費相当額をお車代として支給する場合には、報酬等には該当しない。「お車代」などの名称の如何を問わず 、実費相当額を超えて支給する場合には、支給基準に盛り込むことが必要である。
役員が職員を兼務する場合において、職員としての勤務の対価として相応の給与を受ける場合には、当該給与は、報酬等に該当しない(78 なお、職員の勤務の対価としては不相応に高額な給与を受けることは、制度を潜脱するものであり、許されない。また、法人の職員等に対して、勤務の対価としては不相応に高額な給与を支給することは、当該者に対して特別の利益(認定法第5条第3号)を与えると判断され得ることに留意する。社員についても同様である。)。
(ⅱ) 無報酬について
報酬等の支給基準を定めるといっても、報酬等の支給を義務付ける趣旨ではなく、無報酬でも問題はない。その場合は、報酬等の支給基準において無報酬である旨を定めることになる。
非常勤理事や評議員に対し、職務遂行の対価として、各々の責任に見合った報酬等を支給することも可能である。職務遂行の対価として支給する日当や、交通費実費相当額を超えて支給するお車代等は、本基準でいう報酬等に含まれる。
定款において無報酬と定めている場合には、別途支給基準を定める必要性はない。定款において「原則」無報酬であるとしながらも、常勤役員等に対して支給することも「できる」と規定する場合には、支給する場合について定めておくことが必要である。定款で支給ができる旨の規定はあるものの、当面の間は役員報酬を支給する予定がないような場合は、支給基準において無報酬である旨を定める(この場合は、将来支給することとなった場合には支給基準の改訂が必要になる。)。
(ⅲ) 報酬等の区分、額の算定方法、支給の方法及び支給の形態(79 対象は、社団法人については理事及び監事、財団法人については理事、監事及び評議員であるため、これらを漏れなく定めていることが必要である。)
理事等に対する報酬等の支給の基準においては、理事等の勤務形態に応じた報酬等の 区分及びその額の算定方法並びに支給の方法及び形態に関する事項を定めるものとされている(認定規則第3条)。「理事の報酬額は理事長が理事会の承認を得て定める」のような支給基準とすることは報酬科目や算定方法が明らかにされず、認定基準を満たしたとは認められない。
なお、報酬等の額については、理事が自らの報酬等の額を定めることによるお手盛りを防止す観点から、社員総会又は評議員会の決議により定めることが必要である(法人法第89条)。したがって、理事長が理事の個々の報酬等の額を決定することは認められない(80 理事によるお手盛りを防止するという法人法の趣旨からは、一般法人においては、定款又は社員総会若しくは評議員会において、理事の報酬等の総額を定めることで足り、理事が複数いる場合における理事各人の報酬等の額を、その総額の範囲内で理事会の決議によって定めることは差し支えないと解されている。)。
〇 理事等の勤務形態に応じた報酬等の区分
理事等の勤務形態に応じた報酬等の区分とは、常勤役員、非常勤役員の報酬の別等をいい、例えば、常勤理事への月例報酬、非常勤理事への理事会等への出席の都度支払う日当等(81 非常勤の理事等に対する日当等が、交通費実費相当額を超える場合は、報酬等に該当する場合がある。)になる。
〇 その額の算定方法
その額の算定方法とは、報酬等の算定の基礎となる額、役職、在職年数等により構成される基準等をいい、どのような過程をたどってその額が算定されるかが第三者にとって理解できるものとなっている必要がある。
例えば、役職に応じた一人あたりの上限額を定めたうえ、各理事の具体的な報酬金額については理事会が、監事や評議員については社員総会(評議員会)が決定するといった規定は、許容される(国等他団体の俸給表等を準用している場合、準用する給与規程(該当部分の抜粋も可)を支給基準の別紙と位置付け、支給基準と一体のものとして行政庁に提出することになる。)。
一方、社員総会(評議員会)の決議によって定められた総額の範囲内において決定するという規定や、単に職員給与規程に定める職員の支給基準に準じて支給するというだけの規定では、どのような算定過程から具体的な報酬額が決定されるのかを第三者が理解することは困難であり、認定基準を満たさないものと考えられる。
また、退職慰労金について、退職時の月例報酬に在職年数に応じた支給率を乗じて算出した額を上限に各理事については理事会が、監事や評議員については社員総会(評議員会)が決定するという方法も許容されるものと考えられる。
なお、いずれの報酬についても、不当に高額なものとならないよう支給の基準を定める必要がある。
〇 支給の方法
支給の方法とは、支給の時期(毎月か出席の都度か、各月または各年のいつ頃か)や支給の手段(銀行振込みか現金支給か)等をいう。
〇 支給の形態
支給の形態とは、現金・現物の別等をいう。ただし、「現金」「通貨」といった明示的な記載がなくとも、報酬額につき金額の記載しかないなど金銭支給であることが客観的に明らかな場合は、「現金」等の記載は特段必要ない。
イ 役員報酬額の開示・公表について
(ⅰ) 基本的な考え方
公益法人は、公益の増進に寄与するものとして社会から高い信頼を得て活動することが求められる存在であり、各公益法人及び制度全体に対する国民の信頼性を確保するため、役員報酬に関して、実質的な配当又は利益配分が行われていると誤解されることのないよう、その支払いの状況や額の妥当性について一般の企業等よりも高いレベルで透明性の確保が要請されていること、及び今般の制度改正において、法人の経営の自由度を高める一方、国民の信頼を獲得する観点から、支給基準の公表に加え、実際の支給実績についても、一定の情報開示を行うことにより、国民に対する説明責任を果たすことが求められる。その際は、個人情報保護の必要性や、法人の事務負担等も考慮する必要がある。
このため、民間企業の中でも比較的大規模な企業の役員報酬の水準(内閣府令において、取締役の役員報酬水準を参考に、2,000万円とされた)より高額の報酬を役員が受け取る場合は、個別の金額及びその額とする理由について、一律に法人に説明責任を果たすよう求めることとしている。
なお、あくまで法人の説明責任を求めるものであり、後述ウ(に記載の場合を除き、当該水準を超える報酬を否定する趣旨ではない。例えば、職員が千人を超えるような法人、高度の専門人材(≒高額の給与)を多数抱える法人等の役員や、国・国際機関や大企業の長等と高度な折衝を行う役員など、法人に相当の報酬を必要とする場合や、法人の業務内容等に照らして、特に必要な人材を得るために高い水準の報酬を用意する必要があることも想定される。
また、説明責任を求める趣旨を踏まえると、「職員給与」や「顧問料」として受ける給与・報酬(旅費その他の経費の実費相当額の支給を除く。)を含めて透明性の確保を図ることとする。
〇 法人が法令の規定に基づき適正に文書の作成・開示等を行わず、当該説明責任を果たさない場合には、認定法の規定を遵守しておらず、又は経理的基礎若しくは技術的能力を欠くものとして、監督措置を講じることとなる。
ウ 「不当に高額」と考えられる報酬等について
(ⅰ) 基本的な考え方
民間の法人である公益法人の役員報酬等については、法人の業務や活動内容、財務の 状況、役員の職務の責任や困難度、経営戦略を踏まえた人材確保の必要性等を踏まえ、法人の適切なガバナンスの下で決定されるべきものである。法人に対する資源提供者(法人のサービスに対価を支払う者を含む。)を始めとするステークホルダーに必要な情報を開示し、その理解を得て支給される報酬に対して、行政庁が介入することはやむを得ない場合に限るべきである。公益法人の円滑な運営を図り、各事業においてより高い成果を生むためには、役員の人材として、当該高い成果を達成し得る優秀な者の確保が求められ、そのような者に対して、公益法人が相当の報酬を支給することは、法人自治の範囲と考えるべきである。公益法人の役員報酬は低額でなければならないという考え方は、場合によっては、公益法人が質の高い人材を得ることを難しくし、民間の公益活動の発展を妨げることになりかねない。
一方、仮に、法人のガバナンスが適切に機能していないような場合に、公益法人の役員の報酬等について法人自治に全面的に委ねるとして、高額な報酬の支給し続けた場合には、上記(13)①において記載した趣旨に反し、当該法人の信用失墜に留まらず、公益法人全体に対する国民の信頼を毀損する懸念も想定される。
したがって、不当に高額な役員報酬の支給額については、行政庁として「不当に高額」に関する考え方を提示することにより、真に国民の理解と支援の下に民間公益の活性化を図る上で必要であり、このような対応をとることが法人の理解を深め、法運用の予見可能性を高めるとともに、国民に対して考え方を明らかにすることに資すると考えられる。
(ⅱ) 「報酬等の支給の基準」との関係性について
実際の役員報酬等の支給額は、「報酬等の支給の基準」によって機械的に定まることもあるが、多くの場合、当該基準に従い、法人において具体的な支給額を決定することとなる。
認定申請の審査時は、報酬等の支給の基準が、「不当に高額な報酬等とならないよう」定められているか否かについては、法人のガバナンスにより、適切に支給額が決定されるとの前提に立って判断する。
監督に際しては、法人の実際の運用を踏まえて、「不当に高額な報酬等とならないよう」定められているか否かをその実施状況に照らして判断する。例えば、法人のガバナンスが適切に機能しておらず、実態として、高水準の報酬が継続的に支給されている場合は、当該運用に係る「報酬等の支給の基準」が「不当に高額な報酬等とならないよう」定められていない、又は、「報酬等の支給の基準」に従った合理性のある支給が行われていないとして、認定法第20条に違反した支給が行われていると判断し得る。
(ⅲ) 不当に高額の判断について
(ⅰ)で述べた通り、役員報酬については、法人の自律的なガバナンスの下で判断されるべきものであり、公益法人において適切に情報開示が行われている場合には、民間事業者の役員の報酬等及び従業員の給与、当該法人の経理の状況その他の事情を考慮して、通常想定される額を著しく上回り、これを放置すると公益法人制度に対する国民の信頼・信任を得られなくなると判断される場合に限り、行政庁として「不当に高額」と判断するものとする。
その際、「不当に高額な報酬」の額については、金額の絶対値のみに着目して判断することは、法人の多様な実態に照らして現実的ではなく、また、安易に上限を定めることは適切ではない。
以上を踏まえれば、例えば、合理的な理由がないにもかかわらず、「同種・類似法人の役員報酬の2倍超」の役員報酬が支給されるような場合は、不当に高額な報酬に該当すると考えられる。
なお、役員報酬に関する情報開示が適切に行われていない場合には、法人のガバナンスが機能していないと考えられることから、社会通念に照らして通常想定される額を大きく上回るときには、行政庁として「不当に高額」とみなし、必要な監督措置を講ずる余地がある。
(14) 理事、監事の外部からの選任(認定法第5条第15号及び第16号)
〇 公益法人が適正に運営されるためには、理事会(理事)による職務執行の監督、監事による職務執行の監査等を通じたけん制機能が発揮されることが不可欠であり、理事会や監事がその機能を発揮する上で、法人外部からの視点を取り入れることが重要であることから、理事及び監事の各一人以上は、法人外部の人材を選任することを公益認定の基準としている。
〇 立法当初にはなかったが、一部の法人において、理事による公益法人の私物化や内輪のみの法人運営が行われ、法人の機関が健全に機能しない例が見受けられたこと等を踏まえ、会社法における社外取締役等も参考に、令和6年改正法により公益認定基準として追加された。
〇 理事については、小規模な法人の事業や運営の実情などを考慮し、一定規模に達しない法人については適用除外としているが、監事については、監事の法人内における役割の重要性に鑑み、適用除外規定は設けられていない。
〇 外部理事の適用除外については、外部理事を確保し、外部理事が理事会等法人運営に適切に関与できるように情報提供等を日常的に行うための事務負担を考慮し、小規模な法人においては、常勤職員が1人もいないなど事務体制が特に脆弱な法人が多いことを踏まえ、損益計算書の収益の額が3,000万円未満、かつ費用及び損失の額が3,000万円未満の法人について適用除外としている(認定令第7条)。事業年度後の計算書類等の提出にあたりこれらの基準額を超えることが判明した場合には、あらかじめ社員総会等において当該計算書類等の承認に併せて外部理事の設置及び選任をしておくなどの対応が求められる。
〇 一方で、突発的に収益及び費用・損失が3,000万円以上となった法人等に直ちに外部理事を選任することや定款の改訂等を行うことは容易ではないところ、外部理事を認定基準とした趣旨を鑑みれば、適切な者を選任することが重要であり、外部理事の選任には一定の期間を要するものと考えられる。これらを踏まえ、外部理事の設置に係る監督については、法人に対し外部理事の選任に係る手続の状況や選任までの見通しなどについて説明を求めることとし、法人の置かれた状況や諸般の事情(82 改正法第5条第15号に基づく外部理事の設置について、施行の際に現存する公益法人は、改正法附則第5条第2項及び第3項により、当該公益法人の全ての理事及び監事の任期が満了する日の翌日から当該規定が適用されることになる。これら規定に基づき、新制度施行直後に提出予定の事業報告の数値により外部理事を選任する必要が生じた法人が、急遽の外部理事の選任、定款等の改訂等を行うことができない場合には、外部理事の選任に係る手続の状況や選任までの見通しなどについて行政庁から法人に説明を求めることとし、やむを得ず困難であると認められる場合には、基本的に本件に対する監督は行わないこととする。)を考慮して行うこととする。
〇 外部理事は次の全てを満たす者とする。
- 当該法人又はその子法人(83 一般社団法人又は一般財団法人がその経営を支配している法人として法務省令で定めるものをいう(法人法第2条第4号)とされており、法人法規則第3条に規定されている。)の業務執行理事(84 ①代表理事、②代表理事以外の理事であって理事会の決議によって一般社団法人の業務を執行する理事として選定されたもの(法人法第91条第1項第2号・第197条)及び③当該一般社団法人の業務を執行したその他の理事(個別の委任により業務を執行した理事))又は使用人ではなく、かつ、その就任前10年間に当該法人又は子法人の業務執行理事又は使用人であったことがない者
②-1 公益社団法人である場合はその社員でない者(認定規則第4条第1号)
-2 社員が法人である場合は、その役員又は使用人でない者(同条第3号)
③-1 公益財団法人である場合は、その設立者でない者(同条第2号)
-2 設立者が法人である場合は、当該法人又はその子法人の役員又は使用人でない者(同条第4号)
〇 外部監事は次の全てを満たす者とする。外部監事については、外部理事と比較して更に外部性を求めることとしており、業務執行理事以外の理事及び理事であった者についても、外部監事にはなれないこととしている。
① 当該法人又はその子法人の理事又は使用人ではなく、かつ、その就任前10 年間に当該法人又は子法人の理事又は使用人であったことがない者
②-1 公益社団法人である場合はその社員でない者(認定規則第5条第1号)
-2 社員が法人である場合は、その役員又は使用人でない者(同条第3号)
③-1 公益財団法人である場合は、その設立者でない者(同条第2号)
-2 設立者が法人である場合は、当該法人又はその子法人の役員又は使用人でない者(同条第4号)
〇 申請に当たっては、外部理事及び外部監事について、理事等の氏名、生年月日及び住所を記載した書類(認定規則第7条第3項第2号)において明らかにするとともに、法人において認定基準の外部理事又は外部監事の要件を満たすことを確認の上、確認書を作成し、認定法第5条第15号・第16号、認定規則第4条・第5条に適合することを説明した書類(認定規則第7条第3項第3号)として提出する。確認書は、役員変更の届出等を行う際には添付する必要がある。
また、代表理事、外部理事及び外部監事については、開示・公表等の対象となる役員等名簿(認定法第21条第2項第2号。第5章第5●(2)②参照)において明らかにするものとする。
(15) 社員の資格得喪に関する条件等(認定法第5条第17号)
〇 公益社団法人が、社員資格の得喪に関して不当に差別的な取扱いをするような条件(社員資格を合理的な理由なく特定の要件を満たす者に限定している等)を設けている場合には、社員総会の構成員である社員の意思が一定の傾向を有することで、当該法人が、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するという公益法人本来の目的に反した業務運営を行うおそれが生じる。そこで、公益社団法人においては、当該条件を付していないことを公益認定の基準としている。
〇 認定法第5条第17号イの「社員の資格の得喪」に関する定款の定めにおいて「不当な条件」を付しているかどうかについては、社会通念に従い判断する。当該法人の目的、事業内容に照らして当該条件に合理的な関連性及び必要性があれば、不当な条件には該当しない。例えば、専門性の高い事業活動を行っている法人において、その専門性の維持、向上を図ることが法人の目的に照らして必要であり、その必要性から合理的な範囲で社員資格を一定の有資格者等に限定したり、理事会の承認等一定の手続的な要件を付したりすることは、不当な条件に該当しない。
〇 認定法第5条第17号ロの「社員の議決権」に関する定款の定めにおいて「不当に差別的な取扱い」等を付しているかどうかについても、同号イと同様に、社会通念に従い判断し、当該取扱いに合理的な関連性及び必要性があれば、不当に差別的な取扱い等には該当しない。
〇 定款において、資格を有する者(会員等)の中から社員(代議員等)を選出する規定を設けている法人については、第4章第9(3)代議員制度を踏まえて判断する。
〇 申請に当たっては、社員の資格の得喪及び議決権に関する定款の条項(定款の他に細則がある場合は当該細則を含む。)、資格得喪に関する条項が法人の目的・事業内容に照らして合理的な関連性及び必要性があることについての説明、社員の議決権に関して社員ごとに異なる取扱いをしている場合に法人の目的に照らして不当に差別的な取扱いをしないものであることの説明を記載し申請書に添付する(申請書別添 法人の組織について)。これらは、社員その他の構成員の状況として、開示・公表等の対象となる(認定規則第46条第1項第2号イ。第5章第5●(2)④イ(ⅰ)参照)
(16) 他の団体の意思決定に関与することができる財産(認定法第5条第18号)
〇 公益法人は、公益目的事業を行うことを主たる目的とするが(認定法第5条第1号)、株式等の保有を通じて他の営利法人等に対して実質的な影響力を及ぼすことにより、営利法人としての活動を行うことが可能となり得る。このような行為は、一定の条件の下で公益法人に認められている収益事業等が無制限に拡大することを許容し、公益認定の基準、遵守事項の潜脱につながることから、認められるべきではない。
〇 このため、他の団体の意思決定に関与することができる株式等の保有をしていないことが、公益認定の基準として設けられている。
〇 公益法人は、議決権の過半数の株式を保有することはできない。無議決権株式を保有していたとしても、当該株式を発行する会社に対する実質的な支配権を与えられるものではないため、規制の対象とはならない。
〇 なお、他の団体の意思決定に関与することができる財産の保有状況については、作成・備置が必要な書類とされ(認定規則第46条第1項第3号ニ。第5章第5(2)④ウ(ⅱ)参照)、公表対象となる(同法第22条)。
(17) 不可欠特定財産(認定法第5条第19号)
〇 公益法人に「公益目的事業を行うために不可欠な特定の財産」(以下「不可欠特定財産」という。)がある場合、その安易な処分を認めれば、当該事業の実施に支障が生じるおそれがあるため、公益法人の自律的な意思決定を阻害しない範囲で、当該財産の処分について規制する必要がある。そこで、公益法人が当該財産の存在並びに維持及び処分の制限について必要な事項を定款で定めているということが、公益認定の基準として設けられている。
〇 不可欠特定財産とは、法人の目的、事業と密接不可分な関係にあり、当該法人が保有、使用することに意義がある特定の財産をさす。例えば、一定の目的の下に収集、展示され、再収集が困難な美術館の美術品や、歴史的文化的価値があり、再生不可能な建造物等が該当する。
〇 不可欠特定財産がある場合には、財産種別や場所・物量等を列記するなどの方法により、どの財産が不可欠特定財産に該当するのかが分かるように具体的に特定して定款に定めておく必要がある。当該事業に係る不可欠特定財産がある場合には、全て申請時にその旨を定めておく必要があり、認定審査時には、不可欠特定財産として記載されたものが、不可欠特定財産に当たるかを確認する。なお、公益認定前に取得した不可欠特定財産については、公益目的取得財産残額の算定から控除される効果がある。
〇 一般財団法人における不可欠特定財産(85 金融資産や通常の土地・建物は、処分又は他目的への利用の可能性などから必ずしも上記のような不可欠特定という性質はないと考えられることから、法人において基本財産として定めることは可能であるが、不可欠特定財産には該当しない。)に係る定款の定め(86 定款での定め方のイメージについては、モデル定款を参照。)は、基本財産としての定め(法人法第172条第2項)も兼ね備えるものとする。
〇 法人において定款に不可欠特定財産と定めた財産であっても、結果として当該財産が、不可欠特定であるとは認めらなかった場合、公益目的事業に認定されなかった事業の用に供されていなかったりした場合には、不可欠特定財産とはならない。そのため、公益認定の申請書においてどの事業の用に供するか明らかにする必要がある。
〇 不可欠特定財産については、財務諸表においてその旨の表示を行う。公益認定前に取得した財産については、その旨もあわせて記載する(87 令和6年会計基準では、「資産及び負債の状況」に関する注記(記載することにより財産目録とみなされる)に、公益目的保有財産(p.〇参照)かつ不可欠特定財産である旨(公益認定前に取得した財産についてはその旨も)の表示を行う。また、当該財産が基本財産と定められている場合は、その旨を表示することができる。同会計基準に移行するまでの間、平成20年会計基準を適用する場合には、貸借対照表において基本財産として表示するとともに、財産目録において基本財産かつ不可欠特定財産である旨表示する。)。
(18) 残余の財産の贈与、帰属先(認定法第5条第20号及び第21号)
○ 公益法人が公益認定を取り消された場合には、一般社団法人又は一般財団法人として存続し、その保有する財産は、原則として認定取消しを受けた法人が保有し続けることになる。しかし、公益法人は、「公益」の名の下で、社会的な信用を得るとともに、税制上の優遇措置を受けるなど、広く社会的なサポートを受けて活動しており、そうした社会的なサポートを受けつつ取得した財産については、公益目的事業のために使用等することが必要であり(第5章第4(1)参照)、かつ、当該公益法人が公益認定を取り消された場合には、当該財産が私的な領域に流出することなく、その目的に類似する公益活動に引き続き使用等される必要がある。公益法人が合併により消滅する場合であって、その権利義務を承継する法人が公益法人ではない場合も同様である(第4章第5参照)
○ このため、
・ 公益認定取消等の場合には、公益目的のために使用等することが求められる財産(公益目的事業財産)のうち、未だ費消等していないものの額(公益目的取得財産残額)に相当する額の財産を、類似の事業を目的とする他の公益法人等に対して贈与する旨を定款で定めている法人のみを公益認定することとし(認定法第5条第20号)、
・ 公益認定取消等の場合には、取消等の日から1か月以内に定款で定めるところにより他の公益法人等に対して贈与を行わせ、
・ 期限内に贈与されない場合には、国または都道府県に贈与する旨の契約が成立したものと みなして国等に贈与させる(認定法第30条第1項)等の仕組みとしている。
○ 公益法人が清算をする場合には、公益認定を取り消された場合と異なり、法人として存続し活動が継続することはないため、残余財産が引き続き公益活動に使用されるよう、清算の場合において、残余財産を、類似の事業を目的とする他の公益法人等に対して贈与する旨を定款で定めている法人のみを公益認定することとしている(認定法第5条第21号)。
ア 財産の贈与、帰属先
○ 公益認定の取消し等の場合には、公益目的取得財産残額に相当する額の財産を、次に掲げる、国、地方公共団体、法人等(以下「国等」という。)に対して贈与する旨を定款で定めていることを、公益認定の基準としており、この定款の定めは変更できない(認定法第30条第5項)(88 新公益信託法附則第27条による認定法改正により、類似の公益事務を目的とする公益信託が残余の財産の贈与先に追加することとされており、新公益信託法の施行前に公益認定を受けた法人については、附則第28条の規定により、新公益信託法の施行(令和8年4月を予定)後、認定法第30条第5項の規定に関わらず、1回に限り、公益信託を贈与先等として定めるための定款変更を行うことができるとされている。)。
○ 認定申請時には、公益目的取得財産残額の贈与先を「法第5条第20号に掲げる者」と定めることのみで足りる(89 定款での定め方のイメージについては、モデル定款を参照。なお、今回の法改正により、残余の財産の贈与先に関する規定が移動しているが(認定法第5条【第17号⇒第20号】)、既存の定款の定めについては、当然に読み替えるものと解釈して差し支えない。)。
(帰属先)
・ 国又は地方公共団体
・ 類似の事業を目的とする①他の公益法人、②学校法人、③社会福祉法人、④更生保護法人、⑤独立行政法人、⑥国立大学法人若しくは大学共同利用機関法人、⑦地方独立行政法人、⑧特殊法人(株式会社であるものを除く)(認定令第8条第1号)、⑨日本赤十字社(同条第2号)、⑩これら以外の法人で公益認定取消し後に処分される財産が、確実に公益目的に使用されること、及び帰属先の法人の関係者に分配されるものでないことを満たす法人(90 要件は以下のとおり。イ 法令の規定により、当該法人の主たる目的が、学術、技芸、慈善、祭祀、宗教その他の公益に関する事業を行うものであることが定められていること。ロ 法令又は定款その他の基本約款(ホにおいて「法令等」という。)の規定により、各役員について、当該役員及びその配偶者又は三親等内の親族である役員の合計数が役員の総数の三分の一を超えないことが定められていること。ハ 社員その他の構成員に剰余金の分配を受ける権利を与えることができないものであること。ニ 社員その他の構成員又は役員及びこれらの者の配偶者又は三親等内の親族に対して特別の利益を与えないものであること。ホ 法令等の規定により、残余財産を当該法人の目的に類似する目的のために処分し、又は国若しくは地方公共団体に帰属させることが定められていること。)(認定令第8条第2号)又は⑪【令和8年4月1日以降】類似の公益事務をその目的とする公益信託の信託財産(新公益信託制度の下で認可されたものに限る)
第2 欠格事由(認定法第6条)
〇 認定法第6条においては、第5条に規定する公益認定の基準等を満たす場合であっても公益認定を受けることができない場合を定めている。なお、認定基準とは異なり、本条が適用されるかについては、公益認定等委員会等(91 公益認定等委員会及び都道府県における合議制機関を指す。)における審査・監督を経ることなく、行政庁において事実関係に基づいて判断を行う。このため、欠格事由を理由として不認定とする場合(認定法第43条第1項第1号括弧書き)及び欠格事由に該当するとして認定取消しを行う場合(認定法第29条第1項第1号)に、公益認定等委員会等への諮問は行わない。
〇 公益認定の申請にあたっては、本条に規定する欠格事由(第1号イ及び第2号を除く。)に該当がないことを確認した旨を申告する確認書(様式集30頁参照)を提出しなければならない。各法人は、理事等から必要事項を聴取し、文書等で確認するとともに、必要な場合には調査等を行ったうえで確認書を作成することが求められる。公益認定後に確認事項に反する事実が判明した場合には、当該事実について十分に確認した上で、認定法第29条第1項第2号の規定に基づく取消しとなる可能性があるほか、罰則の適用があり得る。
〇 なお、確認書における確認事項を確認するために法人において取得した文書(例えば、理事等から提出を受けた誓約書、他の団体の理事等の兼務状況の届出書等)については、公益認定を申請するにあたり行政庁へ提出する必要はないが、10年は事務所等で保存しておくことが望ましい。
〇 確認書は、事業内容を変更する場合、役員を変更する場合等に行政庁に提出することとされている。ただし、変更認定申請の場合に確認を要するのは当該変更に係る部分に限定され、例えば、役員等に変更がない場合には、役員構成に係る認定基準及び役員等に関する欠格事由に該当しないことの確認は不要である。
〇 行政庁は公益認定にあたり、本条第3号及び第4号に係る事由については、申請法人が行おうとする事業に対して許認可等を行う行政機関に、本条第1号二及び第6号に係る事由については警察庁長官(行政庁が内閣総理大臣である場合)若しくは警視総監又は都道府県警察本部長(いずれも行政庁が都道府県知事である場合)に、本条第5号に係る事由については国税庁長官、関係都道府県知事又は関係市町村長に意見を聴くものとされている(認定法第8条各号)。
① 理事、監事及び評議員の人的属性(認定法第6条第1号)
〇 一般法人の理事、監事及び評議員(以下「理事等」という。)の中に公益法人の理事等として相応しくない人的属性を有する者がある場合には、その者の属性に鑑み、公益認定を受けられないこととしている。
〇 本号における欠格事由としては具体的には次のようなものがある。
・ 公益認定取消し(公益法人の申請に基づく取消しを除く。)の事実があった日以前1年以内に当該公益法人の業務を行う理事であった者で取消しの日から5年を経過しない者が理事等であること(認定法第6条第1号イ)。なお、令和6年改正法によって、公益法人が自らの経営判断に即して法人形態(公益認定を受けるか否か)を選択しやすくするとともに、公益法人における理事等の人材の流動性を確保する観点から、公益法人の申請に基づく取消しの場合は除くこととされた。
・ 認定法、法人法、一定の刑罰法規(92 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成3年法律第77号)の規定(同法第32条の3第7項及び第32条の11第1項の規定を除く。)、刑法(明治40年法律第45号)第204条、第206条、第208条、第208条の2第1項、第222条若しくは第247条の罪、暴力行為等処罰に関する法律(大正15年法律第60号)第1条、第2条若しくは第3条の罪)、税法に違反し、罰金の刑に処せられ、執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者が理事等であること。(同号ロ)
・ 禁固以上の刑に処せられ、執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者が理事等であること。(同号ハ)
・ 暴力団員又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者が理事等であること。(同号 二)
〇 なお、認定法第6条第1号イにおける「当該公益法人の業務を行う理事」とは、取消し原因となった事業に係る業務の執行を担当していた理事を指す。したがって、業務執行理事ではない者や、当該業務を担当していなかったことが明白な者は、対象とはならない。この規定は、取消し原因となった事実に係る業務の執行に責任がある不適切な者が他の公益法人の役員等となる場合には、適正な運営等に支障があることから、欠格事由に含めるものであり、単に取消しを受けた法人の理事であることを理由に認定取消しを無制限に連鎖させることを意図するものではない。したがって、当該者が理事等として在職している他の公益法人について自動的かつ当然に認定取消しとなるものではないが、当該他の公益法人において、認定取消しに係る事実を知り得たときから遅滞なく解任等の措置を講じていない場合には、行政庁は欠格事由に該当するとして公益認定を取り消す処分を行うことになる。
〇 公益認定時には、法人から提出された確認書、警察庁長官等の意見等により判断する。また、理事等が変更する場合も同様である。
認定(変更届出)後に、理事等が当該属性を持つに至った場合は、公益認定を取り消さなければならないこととされている(認定法第29条第1項第1号及び第2号)。このため、法人は、理事等の状況を適切に把握し、これらに該当する蓋然性がある場合には速やかに当該理事等を解任するなど必要な措置を講ずることが求められる。
② 一般法人の適格性(認定法第6条第2号)
〇 公益法人が公益認定の取消し(公益法人の申請に基づく取消しを除く。)を受けた場合について、当該取消しを受けた旧公益法人は、一定の期間、再び公益認定を受けることができない。行政庁を変更しても、公益認定を受けられないことに変わりはない。公益認定の取消しの事実は、確認書(様式集30頁参照)及び行政の記録等に基づき判断する。
〇 これは、公益認定取消しを受けた一般法人が公益認定の取消しの直後に改めて申請を行い、直ちに認定を受けることができるとすれば、行政庁が制裁の一つとして行う公益認定の取消し処分の意義を失わせしめることとなる等、制度的意義を確保するためのものである。従来、本号の適用については、公益法人の都合により公益認定及びその取消しを安易に繰り返させないようにする等の観点から、申請に基づく公益認定取消しの場合も含め公益認定の欠格事由としていた。しかしながら、公益法人が自らの経営判断に即して法人形態(公益認定を受けるか否か)を選択しやすくする等の観点から、令和6年改正法において、公益法人からの申請に基づく取消しについては本号の適用対象から除くこととする見直しが行われた。なお、公益認定を受けることができない一定期間は、一般法人の自由な活動を過度に制約することを避ける観点から5年としている。
③ 定款及び事業計画の適法性(認定法第6条第3号)
〇 定款及び事業計画の内容が法令又は法令に基づく行政処分に違反している場合には、公益認定を受けることができない。本号は、公益法人の組織体制及び事業運営について法令等に違反していないことを確保することを目的としている。なお、法人法の趣旨を没却・潜脱するような定款の規定は違法・無効となり得る(第4章第9参照)。
〇 申請時においては、定款及び事業計画並びに申請書に記載された事業の内容、法人が提出する確認書等により確認する。なお、定款及び事業計画の内容が法令又は法令に基づく行政機関の処分に違反していると疑うに足る理由があるときは、法人に追加的に説明を求めることができる。また、行政庁は認定法第8条の規定により許認可等行政庁の意見を聴くこととされているほか、勧告等を行おうとする場合には認定法第28条第5項の規定により許認可等行政庁の意見を聞くことができる。さらに、必要に応じ他の行政機関等に照会する(認定法第56条)。
④ 事業の適法性(認定法第6条第4号)
行おうとする事業に必要な許認可等を受けることができない場合には、公益認定を受けることができない。許認可等を受けることができない場合とは、申請に係る事業の内容や法人の組織体制等が許認可等に係る規制法令の基準を満たすことができない場合や欠格事由に該当する場合等が考えられる。本号は、公益認定の申請又は処分時までに許認可等を要するものではないが、少なくとも申請に係る事業内容を変更することなく許認可等を受けられる見込みがある必要がある。
⑤ 納税の履行(認定法第6条第5号)
○ 国税又は地方税について滞納処分が継続している場合又は当該処分が終了してから一定の期間を経過していない場合には公益認定を受けることができない。租税を納付せず滞納処分を受けている場合には将来も適切に納税しない蓋然性があり、そのような法人が公益認定を受け、税制上の優遇措置の適用を受けることは、国民等からの理解は得難いこと等を理由とする。なお、公益認定を受けることができない一定期間は、一般法人の自由な活動を過度に制約することを避けること、また、滞納の理由が単なる納税忘れや資金不足など悪質性が高くない場合も想定されることから、他号の場合より比較的軽減させ、3年としている。
○ 申請時においては、納税証明書及び国税庁長官、関係都道府県知事等の意見に基づき判断する(認定法第8条第3号)。認定後においては、納税証明書(認定規則57条1項1号)によるほか、関係行政機関、関係地方公共団体等から情報提供を受ける。
⑥ 組織の健全性(認定法第6条第6号)
暴力団員又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者によって事業を支配されている場合には公益認定を受けることができない。公益法人が暴力団員等の活動あるいは資金源に利用されることを排除することを目的としている。事業活動を支配するとは、社員、設立者、寄附者等であることを背景にして事業活動に相当の影響を及ぼすこと、資金提供、人材の派遣、取引関係、威力等により意思の自由を掌握するなど相当程度の影響力を及ぼすことである。
第4章 認定の申請等
第1 行政庁(認定法第3条)
〇 公益法人制度において、所管の行政庁は法人及び行政庁の双方にとって外形的に判断できる基準が望ましいとの考えの下、法人の事務所が所在する場所と事業を行う地理的範囲とに着目して、公益認定・監督処分等の権限を有する行政庁を定め、内閣総理大臣か都道府県知事かの所管行政庁を明らかにしたものである。
〇 具体的には、①2以上の都道府県の区域内に事務所を設置する公益法人、②公益目的事業の実施区域を定款で定める場合に2以上の都道府県の区域内において行う旨を定める公益法人、は内閣総理大臣(認定法第3条第1号イ・ロ)、それ以外の公益法人はその事務所が所在する都道府県の知事が行政庁(同条第2号)となる(93 認定法第3条第1号ハに基づく政令は制定されていない。)。また、公益目的事業を国内のほか海外でも実施する旨定款で定める公益法人は、内閣総理大臣が行政庁となる。なお、認定法第3条第2号で規定するとおり、第1号に掲げる公益法人以外の公益法人は、その事務所が所在する都道府県の知事が所管するのであって、例えば、唯一の事務所がA県に所在し、公益目的事業をB県の区域内のみにおいて行う旨を定款で定める公益法人を所管する行政庁はA県の知事となる。
〇 この場合において、法人の事務所及び事業を行う地理的範囲については次のような考え方に基づく。
(1) 事務所
〇 法人登記では、主たる事務所の所在地において、主たる事務所及び従たる事務所を登記することとなっているので(法人法第301条第2項第3号、第302条第2項第3号)、従たる事務所が他の都道府県に設置されているかどうかは、法人登記の記載に基づき判断する。
〇 定款、事業報告、パンフレット、ホームページ等において、支部、駐在所、その他の施設等の記載がある場合でも、所管を決定する際の判断基準とはしない。また、登記上の従たる事務所が事業の拠点としての実質を備えていない場合(例えば単なる倉庫程度)に限って、その旨の説明を付すことによって、法人は従たる事務所を設けていないものとして申請することができる。なお、海外の事務所は法人登記の対象ではないので、所管の行政庁に係る判断の材料にはならない。
(2) 事業を行う地理的範囲
〇 事業を複数の都道府県で行うか否かは、定款の記載によって判断する。定款において事業の実施区域が記載されていない場合には、「公益目的事業をニ以上の都道府県の区域において行う旨を定款で定めるもの」に該当しないものとして取扱う(94 法人が行う公益目的事業の実施区域についての定めは定款の必要的記載事項ではないが(法人法第11条参照)、定款上の事業の実施区域の定めによって申請先が異なってくるので、定款において明らかにしておくのが望ましい。)。
〇 事務所が一の都道府県の区域内だけにとどまる場合であっても、例えば芸術団体で他の都道府県でも興行している法人、学術団体や産業団体で他の都道府県からも幅広く社員、会員を組織し、全国規模又は広域での学術や産業の発展を図るなど、達成すべき目的が一の都道府県内に限定されない法人は、2以上の都道府県において事業を実施するものと考えられるので、定款で他の都道府県を含めて公益目的事業の実施区域を定めることとなる。
〇 一方で、公益目的事業を2以上の都道府県で行う定款の定めのある法人について、当該定めが実態を伴わない場合には、行政庁は実態に合わせた申請の指導を行うことがあり得る。例えば、ネットワークを通じて他の都道府県の居住者もアクセスが可能である情報提供事業、他の都道府県の居住者も購入が可能な物品頒布事業、他の都道府県の居住者も来場し又は利用が可能な展示又は施設運営事業など、事業の受益者が他の都道府県に存在していても、法人自らが県境を越えて他の都道府県で事業を実施しているとは評価されない場合、法人の事業計画書の内容等から他の都道府県で事業を行わないことが明白である場合、他の都道府県における事業が単発的であったり不確定であったりする場合、他の都道府県において共催事業を行うとしていても共催の実態がない場合などには、公益目的事業を2以上の都道府県において行う旨を定款で定めた趣旨を確認することがあり得る。海外も含めて事業区域を定めている法人についても同様の考え方で判断する。
〇 なお、定款で定めた実施区域において事業を行っておらず、実施されないことが明白な場合には、定款に従った事業運営がされていないものとして、監督上の措置の対象となり得るものとする。
第2 公益認定の申請(認定法第7条)
〇 本条は、一般法人が、公益認定の申請に当たって申請書に記載する事項及び添付する書類について規定するものである。
〇 申請書には、法人の名称、代表者の氏名、公益目的事業を行う都道府県の実施区域、事務所所在地、公益目的事業の種類と内容、収益事業等の内容を記載しなければならない(公益目的事業の種類及び内容の記載については、第2章第1節第2(2)参照)。
申請書には、定款に記載された公益目的事業の活動区域(全国又は事業を行う都道府県名)を記載する。
主たる事務所及び従たる事務所は、登記(法人法第301条第2項第3号及び第302条第2項第3号)された住所を記載する。従たる事務所が事業拠点としての実質を備えておらず、当該従たる事務所を設けていないものとして選定した行政庁に申請する場合は、申請書にその旨の説明を記載するものとする。
収益事業又はその他事業の内容を記載する際には、当該事業を反復継続して行うのに必要な許認可の名称及び根拠法令等を記載するものとする。また、収益事業の利益の額が0円以下である場合は、その理由又は今後の改善方策について記載する。
なお、申請書別紙1の基本情報として記載された情報は、原則として、「公益法人information」における法人概要として公表されることになる。
〇 申請書には、下記①~⑥の書類を添付して提出することとされている。
① 法人の定款(認定法第7条第2項第1号)
② 事業計画書及び収支予算書(同項第2号)
③ 事業に必要な許認可等を受けていることを証明する書類(同項第3号)
④ 経理的基礎を有することを明らかにする書類(同項第4号)
ア)前事業年度末日(又は設立の日)の財産目録(規則第7条第2項第1号)
イ)前事業年度末日(又は設立の日)の貸借対照表及び附属明細書(同項第2号)
ウ)事業計画書及び収支予算書に記載された予算の基礎となる事実を明らかにする書類(前年度の活動計算書等)(同項第3号)
エ)その他経理的基礎を明らかにする書類(同項第4号)
別添「公益目的事業を行うのに必要な経理的基礎」(様式集28頁参照)(財産基盤の明確化・情報開示の適正性に係る資料)
当該「公益目的事業を行うのに必要な経理的基礎」には以下の書類を添付する。
・経理規程等(不適正な経理処理や財産管理を防止するためのルール)
・会費に関する細則がある場合には、当該細則
・公益目的事業以外に使途を特定した寄附等がある場合には、使途の特定の内容がわかる書類(寄付規程、募金要綱等)
別表G(様式集19頁参照) 【P】令和6年会計基準における「活動計算書の注記(5)事業費・管理費の形態別区分」に準じて各会計区分別に形態別分類別(中科目別)の費用額を記載した収支予算書を作成している法人は不要
⑤ 理事等に対する報酬等の支給の基準(認定法第7条第2項第5号)(第3章第1(13)参照)
⑥ その他内閣府令で定める書類(同項第6号)
ア:登記事項証明書(認定規則第7条第3項第1号)
イ:理事等の氏名、生年月日及び住所を記載した書類(同項第2号)(「役員等名簿」様式集29頁参照)
代表理事・外部理事・外部監事について明らかにする。
ウ:上記のほか認定基準に適合することを説明した書類(同項第3号)
・ 認定法第5条第2号、第13号、第17号等に適合することを説明した書類として別添「法人の組織について」(公益社団法人の場合)又は(公益財団法人の場合)
定款のほかに社員資格の得喪に関する細則を定めている場合は当該細則を添付する。定款において会員等(名称を問わず、定款において法人の関係者として継続的に一定の会費等を支払う者をいう)を置く旨が定められている場合に、会員の位置づけ等に関する細則が定められている場合は当該細則を添付する(上記④エとして提出されていれば、二重に提出する必要はない。)。
・ 同条第4号、第18号等に適合することを説明した書類(「他の団体の意思決定に関与することができる財産保有の有無」様式集27頁参照)
・ 同条第6号に適合することを説明した書類として別表A(様式集11頁又は12頁参照)
・ 同条第8号に適合することを説明した書類として別表B(様式集15頁参照)
・ 同条第9号に適合することを説明した書類として別表C(様式集20頁参照)
・ 同条第10号、第11号、第12号、第15号、第16号等に適合することを説明した書類として確認書(様式集30頁参照)
エ:理事等が欠格事由に該当しないことを説明した書類(認定規則第7条第3項第4号)として確認書(様式集30頁参照。上記ウの確認書と同じ書面)
オ:法人の事業・活動が欠格事由(認定法第6条第5号を除く)に該当しないことを説明した書類(認定規則第7条第3項第5号)として確認書(様式集30頁参照。上記ウの確認書と同じ書面)
カ:滞納処分に係る国税・地方税の納税証明書(同項第6号)
過去3年以内に滞納処分を受けたことがないことの証明書・発行日から3ヶ月以内のも のである必要がある。国税にあっては納税証明書「その 4」。地方税にあっては、様式が自治体ごとに異なる。地方税(都道府県税及び市町村税)にあっては、納付義務がある税目について、すべての税目に係る証明書が必要。
キ:その他行政庁が必要と認める書類(同項第7号)
・ 第2章において「行政庁の審査時に合理的に必要と考えられる書類、証憑類(事業計画等に内容等が記載されていれば可)として示した書類
・ 複数の事業又は組織(事業所等)がある場合には、事業・組織の体系
〇 その他行政庁が必要と認める書類について、本ガイドラインに記載がない書類を求めるときは、行政庁は、申請法人に対して当該書類を必要とする理由を示すものとする。
〇 上記のほか、任意に「参考情報」の提出を依頼することもあり得るが、その際には、法人に対し、あくまで任意に求めるものである旨を示すものとする。
〇 代理人による申請については、業として報酬を得て代理申請が行われる場合、法令遵守の観点から、原則行政書士等(行政書士、行政書士法人、弁護士又は弁護士法人)からの代理申請のみを認めることとし、行政書士名簿への登録を行っていない弁理士、公認会計士又は税理士からの申請は無償で行っている場合を除き認めない(95 行政書士法第2条の規定では、弁護士、弁理士、公認会計士、税理士となる資格を有する者等は行政書士となる資格を有するが、行政書士となる資格を有するだけでは代理申請について業として報酬を得て行うことができず、弁理士、公認会計士及び税理士については、登録料を支払い行政書士名簿への登録を行った者のみが「行政書士」(又は「行政書士法人」)として法人の代理申請を業として報酬を得て行うことができる(行政書士法第6条、第19条1項)、96 弁護士(又は弁護士法人)については、弁護士法により法律事務全般を取り扱うことができる(弁護士法第72条)。個人又は法人が無報酬での代理申請は、民法上の代理行為(民法第99条)として行うことができる。)。代理申請には、委任状の添付が必要である。なお、代理申請を含め実態として法人の事務局機能、事業実施等について外部に過度に依存しているときには、公益法人としての技術的能力を備えていないものと判断される場合もある。
〇 行政庁は、公益認定をしようとするときは、次に掲げる者に対し、それぞれ掲げる事項について意見を聴くこととされている(認定法第8条)
① 許認可等行政庁(その事業を行うに当たり、許認可等を必要とする場合に限る。):認定法第5条第1号、第2号及び第5号並びに第6条第3号及び第4号に規定する事(第3章第1(1)・(2)・(4)及び第③・④参照)
② 警察庁長官等:認定法第6条第1号ニ及び第6号に規定する事由(第3章第2①・⑥参照)
③ 国税庁長官等:認定法第6条第5号に規定する事由(第3章第2⑤参照)
そのほか、審査に当たって必要がある場合には、認定法第56条の規定により、官庁、公共団体その他の者に照会し、又は協力を求めることは可能である。
〇 行政庁は、公益認定の申請に対する処分をしようとする場合(欠格事由に該当し、又は行政手続法第7条の規定に基づき、認定を拒否する場を除く。)には、委員会等に諮問しなければならない(認定法第43条第1項第1号、97 都道府県知事が行政庁の場合は、認定法第51条の規定により準用される認定法第43条。)。その際には、認定法第8条の規定による許認可等行政機関の意見を付さなければならないとされている。
〇 委員会の答申は公表される(認定法第44条)。行政庁は、委員会の答申を尊重して処分を行う。
〇 行政庁は、公益認定をしたときは、その旨を公示することとされている(認定法第10条)。具体的には、「公益法人information」において、①法人コード、②法人の名称、③認定を受けた後の法人の名称、④代表者の氏名、⑤主たる事務所の所在場所、⑥ 公益目的事業(原則として、申請書の事業名等を転記)、⑦収益事業等(原則として、申請書の事業名等を転記)を公示する。
〇 公益認定の申請は行政手続法上の申請であり、行政庁の決定は処分にあたる。行政庁の不作為に対しては不作為の審査請求(行審法第3条)や不作為の違法確認訴訟(行政事件訴訟法(昭和37年法律第139号)第3条第5項)によって、救済を求めることができる。また、不認定処分に対しては、法人は行審法に基づく審査請求(行審法第2条)や行政事件訴訟法に基づく取消訴訟(行政事件訴訟法第3条第2項)によって、当該処分を争うことができる。
○ 公益認定を受けた場合には、遅滞なく、事業計画書の作成・備置き等が必要である(第5章第5(1)(備考)及び同(2)⑥参照)。
第3 変更の認定(認定法第11条)
(これまでの経緯)
〇 認定法においては、従来、公益法人が公益認定の①公益目的事業を行う区域等、②公益目的事業の種類及び内容、③収益事業等の内容について変更する場合、内閣府令で定める軽微な変更に該当する場合を除き(98 軽微な変更については、第4章第4 変更の届出(認定法第13条)「軽微な変更」を参照。)、あらかじめ行政庁の認定を受けることとされていた。内閣府令においては、①について行政庁の変更を伴わない区域等の変更、②及び③について申請書記載事項の変更を伴わないものを軽微な変更とされていた。このうち、「申請書の変更を伴わないもの」については、FAQにおいて、事業の公益性についての判断が明らかに変わらず、申請書の参考情報として記載されているに過ぎない事項の変更と考えられる場合は届出とする運用を行ってきたが、どのような場合に変更認定が必要であるか曖昧との批判があった。
〇 変更認定手続には一定の期間を要し、公益法人の迅速な事業展開の阻害要因ともなり得るところ、最終報告においては、より柔軟・迅速な公益的活動の展開を促進する観点から、公益目的事業該当性の判断に実質的に大きな影響を与えない変更であって、かつ、当該変更後に不適切な事態が発生した場合には事後の監督手段で是正し得るものは、届出事項とすることとする方針が示された。
〇 これを受け、公益性の判断基準の明確化、申請書記載事項の明確化、変更認定事項の届出化を一体的に進めるとの考えで検討を進め、次の見直しが行われた。
・令和6年改正法により、収益事業等の内容の変更については、届出事項とする
・令和6年の認定規則改正により、公益目的事業の軽微な変更とするものの一部改正など、類型的に公益目的事業該当性に実質的に影響を与えないと判断されるものは、軽微な変更に含まれることとする
・ ガイドラインにおいて公益目的事業該当性の判断基準及び申請書記載事項を明確にする
(変更認定申請が必要な場合)
○ 公益法人は、①公益目的事業を行う都道府県の区域(定款で定めるものに限る。)又は主たる事務所若しくは従たる事務所の所在場所の変更(従たる事務所の新設・廃止を含む。)、②公益目的事業の種類又は内容の変更をしようとするときは、内閣府令で定める軽微な変更を除き、行政庁の認定を受けなければならない(認定法第11条第1項)。
なお、変更認定が不要となる「内閣府令で定める軽微な変更」をした場合には、変更の届出(認定法第13条第2号)が必要となる(第4章第4参照)
○ 具体的には、次の場合に変更認定申請が必要となる。
① 公益目的事業の実施区域又は事務所の所在場所の変更であって、行政庁の変更を伴う もの(認定規則第9条第1号及び第2号により、行政庁の変更を伴わない場合は軽微な変更とされている)
・ 定款で定める公益目的事業の実施区域について二以上の都道府県から一の都道府県の区域内に変更するもの(内閣総理大臣→一の都道府県の知事)及び一の都道府県の区域内であったものが、定款を変更して二以上の都道府県の区域内となるもの(一の都道府県の知事→内閣総理大臣)
・ 登記を変更する事務所の所在場所(従たる事務所の新設又は廃止を含む。)の変更であって、事務所の所在場所が二以上の都道府県の区域内であったものが同一の都道府県の区域内となるもの(内閣総理大臣→都道府県知事)及び同一の都道府県の区域内であったものが二以上の都道府県の区域内となるもの(都道府県知事→内閣総理大臣)
② 公益目的事業の種類又は内容の変更であって、次に該当しないものについて変更認定申請が必要となる。
ア:事業の一部廃止(認定規則第9条第3号イ)
イ:事業の統合、再編、承継その他の変更であって当該変更後の事業が引き続き公益目的事業に該当することが明らかであるものとして、内閣総理大臣が定めるもの(同号ロ)
ウ:ア・イのほか申請書記載事項(最新のもの)の変更(字句の訂正その他の公益目的事業の内容に実質的な影響を与えないことが明らかなものを除く。)を伴わないもの(同号ハ)
すなわち、公益目的事業の種類の変更は、一部廃止の場合を除き、変更認定が必要となる。
・ 公益目的事業の内容の変更は、公益目的事業該当性に実質的に大きな影響を与えないものとして軽微な変更と整理されたものを除いて、変更の認定を要することになる(変更認定事項と変更届出事項について、第2章第1節第4参照)。
〇 上記に反して、認定を受けることなく変更した者は、罰則が適用される可能性がある(認定法第62条第2号及び第3号)
〇 変更認定の申請書には、変更に係る事項を記載しなければならない。申請書には、第2①~⑥に掲載した添付書類のうち変更に係るもの(認定規則第10条第2項本文)のほか、次の書類を添付する。
・ 当該変更を決議した理事会の議事録の写し(同項第1号)
・ 当該変更が合併又は事業の譲渡に伴う変更である場合(変更届出事項の場合を除く。)には、その契約書の写し(同項第2号)。
・ 行政庁が必要と認める書類(同項第3号)(具体的内容等については、第4章第2⑥キ参照)。
〇 行政庁の変更を伴う変更の認定申請は、行政庁の変更を伴う場合には、変更前の行政庁を経由して行うこととされている(認定法第12条第1項)。この場合において、申請書の提出を受けた行政庁は、速やかに変更後の行政庁に連絡し、関係書類を送付するものとする(99 現行システムは、公益法人が複数の行政庁とやり取りする仕様となっていないため、行政庁の変更を伴う変更認定申請に関係する行政庁は、相互に密接に連絡を取り、法人に不都合が生じないようにすることが求められる。100 行政庁が認定又は不認定の処分を行ったときは、直ちに従前の行政庁に通知する(認定規則第12条第2項)。認定の処分がされた場合には、変更後の行政庁は、変更前の行政庁から遅滞なく、関係書類等の引継ぎを受けなければならない(認定規則第12条第2項・第3項))。
〇 公益認定基準(認定法第5条)及び欠格事由(認定法第6条)の規定は、変更認定において準用されており(認定法第11条第4項)、公益認定と同じ基準が適用される。
ただし、変更認定申請を行う公益法人は、一度行政庁の公益認定を受け、行政庁の監督の下で活動する法人であり、公益法人の業務運営全般について改めて審査を行う意義は乏しく、行政効率に反するだけでなく、その審査に時間を要することは柔軟・迅速な公益的活動の展開を阻害することになりかねない。
したがって、認定法に基づく勧告処分等が行われ、又は報告徴収(第6章第3節第2参照)若しくは立入検査((第6章第4節第2参照)の結果を踏まえて具体的な監督処分等が検討されている場合を除き、変更認定申請に係る審査においては、変更認定において申請のあった変更内容についてのみ行い、それ以外の基準については適合しているとして取り扱うことを原則とする(101 これを前提に、内閣府においては、変更認定申請に係る標準処理期間を40日に設定している。)。この場合において、審査の過程で変更内容以外に確認すべき事項が生じた場合には、変更認定申請に係る審査とは切り離して、監督上の措置の必要性について検討を行うものとする。
勧告処分等に対する公益法人の対応が明らかにならない限り、又は、報告徴収若しくは立入検査の結果を踏まえた検討結果が出なければ、認定法第11条で準用する認定法第5条及び第6条に適合等するか判断できない場合には、行政庁(公益認定等委員会)は、それまでの間、変更認定申請に係る審査を保留することが出来るものとする。
〇 行政庁は、公益認定をしようとするときは、許認可等行政庁(変更に係る事業を行うに当たり、許認可等を必要とする場合に限る。)に対し、認定法第5条第1号、第2号及び第5号並びに第6条第3号及び第4号に規定する事由(第3章第1(1)・(2)・(4)及び第2③・④参照)の意見を聴かなければならない(認定法第11条第4項)。そのほか、審査に当たって必要がある場合に、認定法第56条の規定により、官庁、公共団体その他の者に照会し、又は協力を求めることは可能である。
〇 行政庁は、変更の認定申請に対する処分をしようとする場合には、原則委員会へ諮問し(認定法第43条第1項第1号(102 都道府県知事が行政庁となる場合は、認定法第51条の規定により第43条の規定が準用される。)、委員会からの答申を受けて認定又は不認定の処分を行う。当該答申は公表される(認定法第44条第1項)。
〇 行政庁は、変更認定をしたときは、その旨を公示することとされている(認定法第10条)。法人コード、法人の名称、代表者の氏名、主たる事務所の所在場所、公益目的事業(変更後のもの)、収益事業等(変更後のもの)のほか、変更に係る説明について公示する(認定法第11条第4項・第10条)。
〇 行政庁は、変更認定をした場合において、定款の変更があった場合には、当該変更後の定款、公益目的事業等の種類及び内容に変更があった場合には、変更後の公益目的事業の種類及び内容、事業計画及び収支予算書等に変更があった場合には、変更後の事業計画及び収支予算書等を、行政庁における公表(認定法第22条第2項)の対象とするものとする(認定法第22条第2項)(第5章第5●(5)参照)。
※ 定款の変更については、不認定とする答申があった場合であっても、公益法人において有効な改正が行われている場合には、改正後の定款が公表対象となることを踏まえ、処分前に公表をすることとして差し支えない。
第4 変更の届出(認定法第13条)
公益法人の適正な運営を確保するため、行政庁が把握しておく必要がある事項について変更を行った場合に、遅滞なくその旨を届け出るべきことを求める。なお、公益法人の合併に伴う変更については、変更の認定(認定法第11条)、合併による地位の承継の認可(新設合併の場合。認定法第25条)又は合併の届出(認定法第24条)を行う必要がある。
① 「名称又は代表者の氏名」(認定法第13条第1項第1号)
公益認定を受けた法人を特定するために必要な情報で変更の届出があった場合には、その旨は公示される(認定法第13条第2項)。
② 収益事業等の内容の変更(同項第2号)
令和6年改正法で追加された(第3参照)
③ 公益目的事業を行う区域等、公益目的事業の種類及び内容の軽微な変更(同項第3号)
下記「変更届出事項」表参照。
④ 定款(同項第4号)
法人の基本文書であり、法人名や事業内容の変更を伴わない場合も含め、行政庁として把握しておく必要がある。なお、定款は、行政庁における公表の対象である。
⑤ 内閣府令で定める事項の変更(同項第5号)
ア:代表者を除く理事等又は会計監査人の氏名若しくは名称(認定規則第13条第2項第1号)
イ:役員等の報酬等の支給基準(同項第2号)
ウ:事業を行うに当たり法令上必要となる行政機関の許認可等(同項第3号)
変更後の許認可の内容について「別紙2 法人の事業について(様式集6頁)」記載し、許認可等を証する書面を添付する。許認可等に期限がある場合において、これを更新した場合も変更に含まれる。
〇 公益法人は、上記の変更を行った場合には、「遅滞なく」、つまり、正当な又は合理的な理由による遅滞を除き速やかに届け出ることが求められている。例えば、添付書類の観点から変更にかかる登記手続が必要な場合、登記手続が完了して登記事項証明書の提出が可能になるまでの合理的な期間後すぐに届出がされなければならない。
公益認定の際に提出を要する書類(第4章第2①~⑥参照)に掲載のうち、当該変更に係るものを添付した届出書(認定規則第第13条第1項)を提出しなければならない(同条第3項)。変更の届出を怠ること等は過料の対象となる(認定法第66条第1号)。
○ 行政庁は、財産目録等として提出された書類のうち、変更の届け出があったものについては、認定法第22条第2項に基づき、公表するものとする。
○ 変更の届出事項
根拠条文
変更内容
備考
認定法第13条第1項
第1号
名称又は代表者の氏名の変更
第2号
収益事業等(収益事業又はその他事業)の内容の変更
(例)収益事業等の新設・変更・廃止のいずれも届出対象
第3号
認定規則第9条各号(公益目的事業の「軽微な変更」として以下が届出対象)
第1号
行政庁が内閣総理大臣である公益法人の公益目的事業を行う都道府県の区域の変更(定款に定めるものに限る。)又は事務所の所在場所の変更(従たる事務所の新設又は廃止を含む。)であって、当該変更後の公益目的事業を行う区域又は事務所の所在場所が二以上の都道府県の区域内であるもの
行政庁の変更を伴う場合は変更認定事項
第2号
行政庁が都道府県知事である公益法人の事務所の所在場所の変更(従たる事務所の新設又は廃止を含む。)であって、当該変更前及び変更後の事務所の所在場所が同一の都道府県の区域内であるもの
第3号イ
公益目的事業の一部の廃止
(例)公1、公2・・・と公益目的事業が複数ある場合に公○を削除するもの
(例)一の公益目的事業が細分化されている場合にその一部(公1-1、公1-2-2等)を削除するもの
(注)一の公益目的事業のうち、幹となる事業を廃止して、付随的事業のみを存続することは通常想定されない。そのような場合は、行政庁において、当該事業の公益目的事業該当性について法人の説明を求め、必要に応じて監督措置を講じることがある。
第3号ロ
公益目的事業の統合、再編、承継その他の変更であって、当該変更後の事業が引き続き公益目的事業に該当することが明らかであるものとして、内閣総理大臣が定めるもの
ⅰ 各公益目的事業の申請書記載事項等に変更なく、事業の単位(公1,公2、細分化された公1-1、公2‐3など)の統合・分割・再編などを行う場合
統合の例:公1‐1と公2‐3を新公3‐1と新公3‐2とするなど
分割の例:公3を新公4と新公5にする、公3‐1を新公3‐3及び新公3‐4とするなど
再編の例:公1‐1と公2‐4、公3‐1~3を統合して新公1とし、公1‐2と公2‐1~3を統合して新公2とするなど
ⅱ 公益法人である吸収合併存続法人が吸収合併消滅法人からその公益目的事業をその申請書記載事項等に変更なく引き継ぐ場合(吸収合併存続法人の定款目的の範囲内であることは必要。)
ⅲ 公益法人が他の公益法人の公益目的事業の譲渡を受け、その公益目的事業を申請書記載事項に変更なく引き継ぐ場合(譲渡を受ける公益法人の定款目的の範囲内であることは必要。
ⅳ 自然災害その他の緊急事態にあって、当該法人の人材又は保有財産を活用して迅速に対応することが求められる場合(特定の地域で公益目的事業を実施することとしている法人が、当該地域以外の地域で事業を行う場合も含む。)において、短期間、対価収入(社会通念に照らしてその実施に要した費用を超えないことが明らかな対価収入を除く。)を得ることなく事業を行う場合
ⅴ 事業区分ごとの事業の特性、内容等に照らして当該変更後の事業が引き続き公益目的事業に該当することが明らかでとあるもの定めた場合
第3号ハ
公益認定を受けた認定法第7条第1項第3号に掲げる事項を記載した書類(変更の認定を受けた場合又は変更を届け出た場合にあっては、それらのうち最も遅いものに係る当該書類)の記載事項の変更(字句の訂正その他の公益目的事業の内容に実質的に影響を与えないことが明らかであるものを除く。)を伴わないもの
(例)固有名詞が記載されている場合などであって、字句や名称の修正等、形式的な変更であることが明らかな場合など
第4号
定款の変更(名称、事業内容の変更等に伴い提出された場合を除く。)
第5号
認定規則第13条第2項各号
第1号
理事(代表者を除く。)、監事及び評議員又は会計監査人の氏名若しくは名称
第2号
理事、監事及び評議員の報酬等の支給の基準(認定法第5条第14号)
第3号
公益目的事業又は収益事業等を行うに当たり法令上必要となる行政機関の許認可等
〇 事業の実績等・事業の日程や財務数値などについては、事業報告に該当年度のものを記載すれば足りるため、申請書に記載することは適切ではないが、現に記載されている場合には、申請時の状況についての参考情報として、申請書記載事項以外に記載されたものとして扱うこととする。
第5 合併等の届出(認定法第24条)
〇 公益法人が合併等の組織変更を行う場合(103 法人及び行政の関係者が合併に係る手続を容易に理解できるよう、合併に係る手続について類型別に、示した資料を今後作成予定。)や公益目的事業を全て廃止する場合に、あらかじめ行政庁に届出を行うことを義務づけるもの。変更の認定を要する場合以外、合併や事業の一部譲渡については合併や事業譲渡に伴う組織や事業内容の変化を適切に把握するため、事業の全部譲渡及び公益目的事業の全部廃止については、認定取消しを確実に行うため、事前の届出義務を定めている。
〇 本条の内容(適用場面)
(合併に伴うもの)
・ 吸収合併存続法人(法人法第244条第1号)であって、認定法第11条第1項各号の変更の認定を要しない場合
・ 吸収合併消滅法人(同号。被合併法人)になる場合
・ 新設合併消滅法人(法人法第254条第1号)となる場合であって、認定法第25条第1項の認可の申請をしない場合
(事業譲渡・全部廃止)
・ 事業の一部譲渡(公益目的事業の内容の変更が認定規則第9条各号の軽微な変更に該当する場合又は収益事業の内容の変更である場合に限る。)を行う場合。
・ 事業の全部譲渡(当該事業の譲渡に関し変更の認定の申請をする場合を除く。)又は公益目的事業の全部廃止を行う場合(これらの場合、全部譲渡又は廃止を行った公益法人は公益目的事業を実施しないため、公益認定の取消しの処分が行われることなる。)
○ 公益法人が、認定法第24条第1項第1号に基づき合併の届出を行う場合においては、合併契約書の写し及び当該合併を決議した理事会の議事録の写しを、同項第2号に基づき法事業の全部又は一部の譲渡を行う場合においては、譲渡契約書の写し及び当該譲渡を決議した理事会の議事録の写しを、公益目的事業の全部廃止を行う場合においては、当該廃止を決議した理事会の議事録の写しを添付(認定規則第59条第2項)した届出書(様式第6号)を行政庁に提出しなければならない(認定規則第59条第1項)。
○ 公益法人が消滅する合併で、その権利義務を承継する法人が公益法人ではない場合には、定款の定めに従い、公益目的取得財産残額に相当する財産の贈与を行わなければならない(公益認定法第30条)。このため、合併の届け出に当たっては、公益目的取得財産残額の見込額及びその算定の根拠を記載した書類を添付しなければならない(認定規則第67条第1項)。合併の日の前日(104 認定規則第66条第3号参照)における公益目的取得財産残額が届出をした見込額と異なる場合には、同日から3ヶ月以内に公益法人の権利義務を承継した法人は、公益目的取得財産残額の変動の報告(様式第12号)を行わなければならない。報告には、見込額からの差分の明細、非償却資産の時価の根拠を記載した書面等を添付しなければならない(認定規則第68条)。
○ 吸収合併存続法人が、認定法第24条第1項第1号の規定による合併の届出をし、当該合併により認定法第13条第1項各号に掲げる変更があった場合、合併の効力発生後、遅滞なく、当該変更があった旨を記載した書類及び当該変更に係る認定法第7条第2項各号に掲げる書類を行政庁に提出しなければならない(認定規則第59条第3項。第3章第1(19)公益目的事業財産、公益目的取得財産残額及び区分経理 参照)。
〇 内閣府は、法人及び行政の関係者が合併に係る手続を容易に理解できるよう、合併の類型ごとに、合併に係る手続を分かりやすく示すものとする。
第6 合併による地位の承継の認可(認定法第25条)
〇 新設合併(法人法第254条~第260条)により新設合併消滅法人の権利義務が新設合併により設立される法人(以下「新設法人」という。)に包括承継される際、公益認定にかかる消滅法人の地位について当然承継させることは適当ではないため、行政庁の認可を必要とするもの。
〇 新設合併契約を締結した公益法人(2以上あるときはその一)は、新設合併契約書、定款の案その他の書類を添付した認可申請書(様式第7号)を提出し、行政庁が、認定法第5条の公益認定基準に適合し、認定法第6条の欠格事由のいずれにも該当しないと認めて認可(認定法第25条第2項)をした場合には、新設法人は、新設法人成立の日に、消滅法人の公益認定に係る地位を承継する(同条第3項)。
○ 地位の承継の認可の申請には、認定法第7条の規定が準用される。その際、添付書類について「定款」を「新設合併契約書及び定款の案」と読み替える等とされていることに留意する(認定法第25条第4項)。また、添付書類については、読み替えて準用される認定法第7条第2項第1号から第5号までに掲げる書類(第4章第2参照)のほか、認定規則第60条第2項各号に掲げる書類を添付する必要がある。これらの書類は、新設合併により消滅する法人の当該合併を決議した理事会の議事録の写し及び滞納処分に係る国税及び地方税の納税証明書が求められること、法人設立前であるために登記事項証明書が不要であること等を除き、基本的には当該合併によって設立する新設法人について、認定規則第7条に掲げられている書類と同様である(第2 参照)。
○ 地位の承継の認可申請が行政庁の変更を伴う場合には、上記一の公益法人(105 上記一の公益法人以外の公益法人は、認定法第24条第1号の合併の届出を当該法人の行政庁に提出する。)が、所管の行政庁に申請書を提出し、変更前の行政庁から変更後の新設法人を所管することとなる行政庁に提出され(認定法第25条第4項・第12条第1項)、新設法人を所管することとなる行政庁において審査される。
審査した行政庁は、認可又は不認可の処分を行ったときは、直ちに変更前の行政庁(合併により消滅する公益法人がニ以上ある場合にあっては、それぞれの公益法人を所管する行政庁とする。)に通知する(認定規則第12条第2項)。地位の承継が認可された場合には、通知を受けた行政庁は、遅滞なく、消滅する公益法人に係る認定法の規定に基づく事務に関する帳簿及び書類(電磁的記録を含む。))を引き継ぐほか、変号後の行政庁が必要と認める引継ぎを行う(認定法第25条第4項において準用する第12条第2項・認定規則第12条)。
○ 新設合併による新設法人の地位の承継の認可は公示される(認定法第25条第4項において準用する第10条)。
○ 内閣府は、法人及び行政の関係者が合併に係る手続を容易に理解できるよう、地位の承継の認可手続を含め、合併の類型ごとに、合併に係る手続を分かりやすく示すものとする。
第7 解散の届出(認定法第26条)
〇 公益法人が法人法第148条又は第202条に掲げる事由により解散した場合は、一部の場合(106 合併により解散した場合及び破産手続開始の決定により解散した場合であって当該破産手続が終了していない場合)を除いて、清算手続を開始することとなる(法人法第206条第1項)。本条は、公益法人が解散した場合に、解散から清算の結了までの清算手続における一定の事務の完了ごとにその旨を行政庁に届け出ることを、当該解散した公益法人の清算人(破産管財人)の義務として定める。
これにより、法令に従った清算手続を確保し、社会的なサポートを受け蓄積された公益法人の残余財産が、定款に定める者に対し適正に帰属されるよう、行政庁として把握するものである。
〇 具体的には、①合併以外の理由により解散した場合には、解散の日から1か月以内にその旨(登記事項証明書を添付)を、②債権者に対する公告等の期間が経過したときは、遅滞なく、残余財産の引き渡しの見込み(残余財産の引き渡しを受ける法人が認定法第5条第20号イからトに掲げる法人であるときは、その旨を証する書類を添付)、③清算が結了したときは、遅滞なく、その旨(登記事項証明書及び決算報告書を添付)することとされている。また、残余財産の引き渡し見込額に変更があったときも、届出が必要とされている(認定法第26条・認定規則第62条)
○ 第5条第20号イからトまでに掲げる法人に該当する法人である旨を証する書類として、当該法人の登記事項証明書の提出を求める。
第8 公益認定取消しの申請(認定法第29条第1項第4号)
○ 公益法人が経営判断として一般法人として活動することを選択する場合、当該公益法人はいつでも公益認定の取消しを申請することが可能である。公益法人からの公益認定の取消しの申請があった場合には、行政庁は公益認定を取り消さなければならないとされている。
○ 認定取消しの申請については、その効果の重大性を踏まえ、申請の理由を記載した申請書を提出して行うこととし、認定取消しについて決議した理事会の議事録を添付するものとする。また、当該申請には、公益目的取得財産残額の見込額及びその算定の根拠を記載した書類を添付しなければならない(認定規則第67条)とされている。添付書類には、取得財産残額の見込額(第5章第4(3)③参照)及び公益目的取得財産残額に相当する額の財産を贈与する予定の相手方を記載し、算定に当たっての明細及び贈与を予定する相手方法人の登記事項証明書(107 解散の届出に当たり、当該法人の登記事項証明書の提出を求めることと同趣旨。)(財産の引き渡しを受ける法人が認定法第5条第20号イからトに掲げる法人である場合に限る。)をあわせて添付する。
原則として申請の理由は問題とならないが、認定基準違反や欠格事由への該当があり、欠格事由(認定法第6条第一号イ及び第2号)への該当を逃れるために申請が行われたと認められる場合には、行政庁として、認定法第29条第1項第4号以外の理由で公益認定取消しを行うことがあり得る。
○ 行政庁は、上記の添付書類の見込額を精査し、贈与すべき公益目的取得財産残額が適切に算定されていない場合には、その額を増額し、又は減額する(認定規則第67条第3項)。また、財産の引き渡しを予定する法人が、認定法第5条第20号の要件に該当しないときは、行政庁は、必要な補正を求めるものとする。
○ 公益認定の取消しの申請に係る具体的な手続については、「公益法人information」に掲載の「公益認定の取消しの申請に伴う手続について(平成28年10月)」を参照する。
第9 定款に関する留意事項
〇 特例民法法人が移行認定又は移行認可を受けるに際しては、その定款の内容が認定法等に適合していることが移行認定又は移行認可の基準とされていたところ(整備法第100条第1号)、行政庁が審査を行うに際しての考え方を示すため、「移行認定又は移行認可の申請に当たって定款の変更の案を作成するに際し特に留意すべき事項について(平成20年10月10日内閣府公益認定等委員会)」(以下「留意事項」という。)を示していた。
〇 一方で、公益認定においては、認定法第5条第20号及び第21号に規定する定款の定めがあることが認定基準とされているほか、定款の内容が法令に違反しているものは、公益認定を受けることができないとされている(認定法第6条第3号)ことからも明らかなように、法人自治による定款内容の決定及びこれに基づく法人の運営は、法人法及び認定法の明文の規定やその趣旨を潜脱・没却しないものであることが前提となる。移行期間完了後も、定款にどのような定めが置かれているかという点は、認定の審査と不可分の関係にあるため、実務者の間では、認定の申請及び審査においても引き続き留意事項が参照されている。
〇 そのため、今般、留意事項記載事項のうち引き続き実務者にとって有用と考えられる事項を整理し、以下に記載することとする(定款での定め方のイメージについては、モデル定款を参照のこと。)。
(1) 役員等(理事、監事及び評議員)以外の者に一定の名称を付すこととする場合
〇 法人法は、法人のガバナンスを確保するため、理事、監事、社員、評議員、代表理事、業務執行理事及び会計監査人などの法人のガバナンスを担う機関を法定し、これらのものの地位と役割に関し、選任・解任手続、資格、定数、任期、権限、責任、設置義務の範囲、報酬、欠員が生じた場合の措置等についてそれぞれ規律を設けることにより、ガバナンスを担うこととなるものの位置付けを明確化し、併せて機関相互の権限関係をも規定することにより適正な法人運営がなされるよう図っており、対外的にも、法人のガバナンスを担う立場にあるものの地位や役割を明らかにしている。
〇 また、法人法は、法人が事業活動を行うに際して、その相手方が不測の損害を被るのを防止するため、対外的に法人を代表する権限を有する理事を「代表理事」と規定した上で(法人法第21条、第162条第1項)、法人が、代表理事以外の理事に「理事長」その他法人を代表する権限を有するものと認められる名称を付した場合には、当該理事がした行為について、善意の第三者に対してその責任を負う(法人法第82条、第197条)ものとしている。
〇 上記の法人法の趣旨を踏まえ、公益法人においては、役員等(理事、監事及び評議員)以外の者に対して、法律上の権限はないが、権限を有するかのような誤解を生じさせる名称(役職)を付す場合(108 例えば、代表権のない者(代表権を有しない理事を含む。)に対し、「理事長」など法人を代表する権限を有するものと認められる名称を付した場合には、法人が表見代表(法人法第82条)ないし表見代理(民法第110条等)の責任を負う可能性がある。)には、原則として、定款に、その名称、定数、権限及び名称を付与する機関(社員総会、理事会等)についての定めを設けることが望ましい。
(2) 法律上の名称を定款において通称名で規定する場合
〇 法人法は、法人のガバナンスを確保するため、法人の重要事項の意思決定、業務執行の決定、職務の執行を行う機関として、社員総会、評議員会、理事会、代表理事、業務執行理事等の機関を法定し、その構成員、招集手続、決議方法、権限、瑕疵ある決議の内容や手続の是正方法等についてそれぞれ詳細な規律を設けるとともに、機関相互の権限関係を規定することにより適正な法人運営がなされるよう図っている。
〇 上記の法人法の趣旨を踏まえ、
- 法人の運営に際し、法律に根拠のない任意の機関(会議体)を定款に設けて運営する場合には、当該機関の名称、構成及び権限を明確にし、法律上の機関である社員総会、評議員会又は理事会等の法定権限を奪うことのないように留意する必要がある(法人法第35条第4項、第178条第3項等参照)(例えば、一部の理事と事務局員等で構成する「常任理事会」や「常務会」を設け、当該機関において理事会の審議事項の検討等の準備を行うこととすることは可能であるが、それに加えて、「当該機関の承認がない事項については理事会で決定することができない」旨の定めを設けることは、理事会の権限を制約することとなるため許されない。なお、定款に記載することなく、当該機関の運用において法定の機関の権限を制約するような運用をすることも、許されない。)。
② 法の名称とは異なる通称名や略称を定款に使用する場合(例えば、社員総会を「総会」、代表理事を「理事長」と表記するような場合)には、「法律上の名称」と定款で使用する名称がどのような関係にあるのかを、定款上、明確にすることが望ましい。
(3) 代議員制度
〇 定款に、当該(公益社団)法人に会費を納めている会員に選挙権を与え、会員の中から社員を選出するための選挙を行い、当該選挙により選出された者を任期付きの社員とする旨の定めを設ける、いわゆる代議員制を採用する際には、法人法・認定法の趣旨を潜脱・没却しないものとする必要がある。
〇 一般社団法人における社員総会は、役員の人事や報酬等を決定するとともに、定款変更、解散などの重要な事項の意思決定をすることができる法人の最高意思決定機関である。そのため、一般社団法人の実態としては社員となることができる資格のある者が多数いるにも関わらず、社員の範囲を狭く絞って社員総会を運営し、多様な意見を反映する機会を設けることなく、構成員のうちの一部の勢力のみが法律上の「社員」として固定されてしまうような場合には、当該一般社団法人の実効性のあるガバナンスを確保することができなくなる。例えば、社員総会で議決権を行使することとなる「代議員」の選定を理事又は理事会で行うこととすると、理事や理事会の意向に沿った少数の者のみで社員総会を行って法人の意思決定をすることともなりかねないため(法人法第35条第4項、認定法第5条第17号イ参照)、会員の中から社員(代議員)を選定する方法は特に留意する必要がある。また、社員の範囲を狭く絞ることにより、法人法が社員に保障した各種の権利を行使できる者の範囲が狭まることとなり、社員権の行使により法人のガバナンスを確保しようとした法の趣旨に反することともなりかねない。
〇 以上のような問題意識を踏まえ、公益社団法人が代議員制を採る場合に、「定款の内容が法令に違反」せず、「社員の資格の得喪に関して、当該法人の目的に照らし、不当に差別的な取扱いをする条件その他の不当な条件を付していないものであること」その他の認定基準を満たすと判断されるためには、合理的な理由がある場合を除き、定款の定めにより、以下の5要件を満たすことが重要である。
① 「社員」(代議員)を選出するための制度の骨格(定数、任期、選出方法、欠員措置等)が定款で定められていること。定款における「社員の資格の得喪」に関する定め(法人法第11条第1項第5号)の内容として、少なくとも、定款において、社員の定数、任期、選出方法、欠員措置等が定められている必要がある。
- 各会員について、「社員」を選出するための選挙(代議員選挙)で等しく選挙権及び被選挙権が保障されていること。代議員(社員)の選定方法の細部・細則を理事会において定めることとしても、少なくとも、「社員の資格の得喪」に関する定め(法人法第11条第1項第5号)の内容として、上記の内容を定款で定める必要がある(認定法第5条第17号イ参照)(110 認定法第5条第17号イについては、第3章第1(15)参照。各会員の選挙により「社員」を選出する代議員選挙においてもこの理は妥当し、代議員選挙の運用に際し、会員間の選挙権・被選挙権等に一定の差異を設けることが当該法人の目的、事業内容に照らして合理的な関連性及び必要性があれば許容され得る。)。
③ 「社員」を選出するための選挙(代議員選挙)が理事及び理事会から独立して行われていること。①で、社員(代議員)の選出方法を定款に定めた場合でも、理事又は理事会が社員を選定することとなるような定めは法人法第35条第4項の趣旨に反する。定款の定めにおいては、②の内容とともに明記することが考えられる。
④ 選出された「社員」(代議員)が責任追及の訴え、社員総会決議取消しの訴えなど法律上認められた各種訴権を行使中の場合には、その間、当該社員(代議員)の任期が終了しないこととしていること。例えば、社員が責任追及の訴えを提起したものの、訴訟係属中に任期満了により当該社員が社員の地位を失った場合には、代表訴訟の原告適格も失うおそれが高い。そのため、比較的短期間の任期の社員を前提とする代議員制においては、事実上、任期満了間際に社員が訴権を行使できなくなるため、社員に各種の訴権を保障した法の趣旨を踏まえ、上記の内容を定款に定める必要がある。
⑤ 会員に「社員」と同等の情報開示請求権等を付与すること。法人法は、「社員」によるガバナンスの実効性を確保するため社員たる地位を有する者に各種の権利を付与している。このような法人法の趣旨を踏まえ、社員の法人に対する情報開示請求権等を定款の定めにより「会員」にも認める必要がある。
〇 複数の種類の会員資格(例えば、個人会員、法人会員、学生会員、名誉会員、賛助会員等)を設けている公益社団法人にあっては、どの種類の会員が選挙権・被選挙権を有するか(上記②の要件)、情報開示請求権等を付与されるのか(上記⑤の要件)を定款に明示することが必要である(111 なお、社員(代議員)の選挙を他の法人や団体に完全に委ねることは不相当である。例えば、提携先の法人等(連携法人・連携団体)との間に、法人の目的、社員(構成員)の構成等について密接な共通関係がある場合であっても、社員(代議員)の選出に際しては、この考え方が没却されることのないように、公益社団法人の責任者による一定の関与の下にその社員(代議員)の選挙が行われることが必要であることに留意すべきである。)。その際には、認定法第5条第17号ロの趣旨、すなわち、議決権について不当に差別的な取扱いを禁止することにより社員総会における意思決定に偏りが生じることを防止するとともに、資力を有する一部の社員によって社員総会の運営が恣意的になされることを防止しようとした趣旨を踏まえつつ、当該公益社団法人の事業活動に関心を持ち、その法人の重要事項の意思決定の過程に関与すべき立場にある種類の会員に選挙権・被選挙権等を付与することとなる(会員の種類間で区別を設けることが、当該公益社団法人の目的、事業内容に照らして、合理的な関連性及び必要性があれば許容される。)(112 代議員制を採用する公益社団法人に限らず、複数の種類の会員資格(例えば、個人会員、法人会員、学生会員、名誉会員、賛助会員など)を設けている公益社団法人が、特定の種類の会員のみをもって「社員」とする旨の定款の定めを設ける場合も同様であり、当該公益社団法人の事業活動に関する重要な事項の意思決定に関心を持ち、これに関与すべき立場にある種類の会員のみを社員とすることが、当該公益社団法人の目的、事業内容に照らして、合理的な関連性及び必要性があれば許容される。)。
(4) 社員総会及び評議員会の決議要件(定足数)並びに理事の選任議案の決議方法
〇 法人法は、社員総会(評議員会)に理事の選任権を形式的に付与しているだけでなく、理事の選任過程の適正を確保するため、種々の方策を講じている。すなわち、法人法は、社員(評議員)1人に1議決権を付与する(法人法第48条第1項本文、第178条第1項、第189条)だけでなく、社員総会(評議員会)を招集するに際しては、理事の選任議案の内容をすべての社員(評議員)に通知するものとし(法人法第39条第1項、第2項第2号、第4項、第38条第1項第5号、第41条、第42条等)、理事及び監事に社員(評議員)への説明義務を課している(法第53条、第190条)。さらに、法人法は、社員(評議員)が自分自身で議案の提案権を行使し、別の候補者を役員とする選任議案を提案し、その議案の要領を招集通知に記載することを請求することができることともしている(法人法第43条から第45条まで、第184条から第186条まで)。また、決議に際しても、総社員の議決権(議決に加わることができる評議員)の過半数を有する社員(評議員)の出席を要することとされている(法人法第 49 条第1項、第 189 条第 1項)。
このように、法人法は、あらゆる規律を通して、選任手続を可能な限り慎重ならしめ、社員総会(評議員会)における実質的な審議を経て適正に理事が選任されるための種々の方策を講じている(認定法第5条第17号イ及びロも参照)。
〇 この点、仮に、公益社団法人における社員総会の普通決議の決議要件(定足数)の定款の定め(法人法第49条第1項)として、この要件を大幅に緩和したり、あるいは撤廃する定めを設けた場合には、総社員のうち、ごく一部の社員のみで理事の選任が決定されることとなり、上記の法の趣旨が没却されることとなる(公益財団法人における評議員会の普通決議の決議要件(定足数)については、撤廃することはもちろん、緩和すること自体も認められていない(法人法第189条第1項)ため、評議員会の普通決議の決議要件(定足数)を緩和する内容の定款の定めは無効となる。)。
また、理事の選任議案を社員総会(評議員会)で決議する方法について、例えば、 4人の理事の選任議案の決議(採決)を4人一括で決議(採決)することとした場合には、本来、1つ1つの議案(1人1人の理事の選任議案)ごとに賛成又は反対の意思を表明することができるはずの社員(評議員)に対して、全議案についてすべて賛成か又はすべて反対かという投票を強制することとなり、上記の法の趣旨が没却されることとなる。
〇 以上のような法の趣旨及び考え方を踏まえると、
① 公益社団法人が、定款の定めにより、社員総会の普通決議の決議要件(定足数)を大幅に緩和し、あるいは撤廃することは、僅かな社員のみによる意思決定が可能となり、「社員の議決権に関して、当該法人の目的に照らし、不当に差別的な取扱いをしないものである」と判断できない可能性がある。この点、定款の定めにより、社員総会の普通決議の決議要件(定足数)を緩和することとする場合には、例えば、普通決議の決議要件(定足数)の定めとして、「総社員の議決権の3分の1を有する社員の出席」を要することとする程度の定めを設けることが考えられる(このような定めを設けた場合には、総社員の議決権の6分の1(約16.7パーセント)を超える賛成さえあれば理事を選任又は解任することができることとなる。)。なお、定款に社員総会の普通決議の決議要件(定足数)についての定めを設けない場合には、法人法第49条第1項の原則どおり、「総社員の議決権の過半数を有する社員の出席」が必要となる。
② 社員総会又は評議員会で理事の選任議案を採決する場合には、各候補者ごとに決議する方法を採ることが望ましく(114 議決権行使書面による議決権の行使の結果、社員総会の開催前に、複数の役員の選任議案のすべてについて過半数の賛成がそれぞれ得られているような場合であって、社員総会において、議長が複数の役員の選任議案を候補者全員一括で決議(採決)することを出席している議場の社員に諮り、それに異議が出ない等のときは、役員候補者全員の選任議案を一括で決議(採決)することも許容され得る。)、定款に、社員総会又は評議員会の議事の運営方法に関する定めの一つとして、「理事の選任議案の決議に際し候補者を一括して採決(決議)すること」を一般的に許容する旨の定めを設けることは相当でない。
(5) 社員総会及び評議員会の理事の選任権限と第三者が関与できる範囲
〇 社員総会又は評議員会の理事の選任権限は、定款の定めをもってしても奪うことができないため(法人法第35条第4項、第178条第3項)、定款において、社員総会又は評議員会以外の機関がその決定をくつがえすこととなるような定めを設けることはできない。
また、「理事の選任は、○○(例えば、代表理事、設立者)が行う」との定めは、社員総会又は評議員会の理事の選任権限を奪っており無効である。このほか、「社員総会(評議員会)において理事を選任する場合には、○○(例えば、代表理事、設立者)の同意を得なければならない」旨の定めは、社員総会又は評議員会以外の者(機関)に拒否権(事実上の決定権)を与えることとなり得るため無効である。なお、「社員総会(評議員会)が理事を選任又は解任する場合には、○○(例えば、設立者、定款で指定した者)の意見を参考にすることができる」旨の定めは、社員総会又は評議員会以外の者(機関)に拒否権(事実上の決定権)を与えているとまではいえないため、許容される。
(6) 評議員の構成並びに選任及び解任の方法
〇 評議員は、一般財団法人の運営がその目的から逸脱していないかを監督する重要な立場にある。すなわち、法人法においては、一般財団法人の運営の適正を確保するため、評議員の資格を有している者に対し評議員会の議決権を与え、理事、監事、会計監査人の選解任権、報酬等の決定権を与えて役員等の人事権を独占させた上、決算の承認、定款の変更など法人運営における重要事項の最終的な意思決定権を付与している。さらに、評議員には、理事の違法行為の差止請求権、役員等の解任の訴えの提訴権など法人の適切な業務運営を確保するための種々の権利も付与されている。評議員は、このように広範かつ強大な権限を有することに加えて、4年間の任期が保障されており、自らの意思で辞任しない限りは原則としてその地位を失うことはないなど、その独立性も強く保障されている。
〇 このように、法人法においては、評議員が人事権等の重要な権利を適切に行使することにより一般財団法人の適正な運営が確保される仕組みとなっており、税制上の優遇措置を受けることとなる公益財団法人の業務運営が公正に行われるためには、広範で強い権限を付与されている評議員の人選が非常に重要となる。そのため、公益財団法人の運営が、特定の団体や勢力の利益に偏るおそれがなく、不特定かつ多数の者の利益のために適正かつ公正に行われるためには、評議員会を構成する評議員が公益法人の一般的な業務運営に一定の知見を有しているだけでなく、当該法人の運営の公正さに疑いを生じさせない立場にある者が評議員会の一定の割合を占めることが法の趣旨に適う。
〇 この点、例えば、評議員の選任及び解任を「評議員会の決議で行う」こととすると、評議員の人選が特定の団体や勢力の関係者で占められた場合には、以後の評議員の選任も当該特定の団体や勢力の関係者によって占められることとなり、公正かつ適切な法人の業務運営を確保するために設けられた仕組みが有効に機能しないおそれがあるだけでなく、①当該法人の役員等の人事権等の重要かつ強大な権限を掌握した評議員の人事が評議員で構成される評議員会だけで行われ、いわば最高意思決定機関の人事を最高意思決定機関だけで行うこととなってしまい、②評議員の人事を身内だけで行い、外部の者が関与する余地がなくなるため、当該法人の運営が特定の団体や勢力の利益に偏り、その運営の公正さに疑いを生じさせるおそれがある(認定法第5条第3号及び第4号等参照)。
〇 以上のような考え方を踏まえ、評議員の選任及び解任方法を定款に定めるに際しては、当該法人と相互に密接な関係にある者ばかりが評議員に選任されることのないようにする必要があり、これを確実に担保することができる方法を採らなければならない。
そのような方法としては、
① 「評議員の構成を認定法第5条第10号及び第11号に準じたものにする」旨を定める方法
又は
② 評議員の選任及び解任をするための任意の機関として、中立的な立場にある者が参加する機関を設置し、この機関の決定に従って評議員を選任及び解任する方法が望ましい。
なお、上記②の方法を採る場合において、評議員を選任及び解任する任意の機関(評議員選定委員会)に参加する中立的な立場にある者に対しては、当該法人の関係者から、評議員候補者の経歴、評議員候補者とした理由、当該候補者と当該法人及び役員等との関係、兼職状況等、候補者が評議員として適任と判断した理由を説明することとなる。そのため、評議員候補者の原案は理事会において用意した上で、評議員を選任する任意の機関の構成員にそれを諮ることとする運用も差し支えない。
また、評議員を選任する任意の機関の構成員として、「中立的な立場にある者」のほかに法人関係者(評議員、監事、事務局員等)を加えても差し支えないが、理事又は理事会による評議員の選任を禁止した法人法第153条第3項第1号の趣旨を踏まえ、理事が構成員となることは許されない。評議員が構成員の過半数を占めることとする定款の定めも望ましくない。なお、評議員の選任及び解任を、一定の知見を有する中立的な立場の法人(事業体)に委ねることは何ら差し支えない。この場合には、評議員を選任等する任意の機関の構成員のすべてが「中立的な立場にある者」となる。
〇 評議員の選任及び解任方法として、例えば、「評議員の選任は、評議員会の推薦を得た上で、理事会が行う」旨の定めのように、理事又は理事会が評議員を選任し、又は解任することを内容とする定款の定めは無効である(法人法第153条第3項第1号)。
〇 「評議員の選任及び解任の方法」が特定の団体や勢力の利益に偏った方法でされた場合には、当該公益財団法人の事業が行われるに当たり、当該特定の団体や勢力に対し特別の利益が与えることがないか慎重に判断するとともに、監督に当たっても留意が必要となる(認定法第5条第3号及び第 4号等参照)。
(7) 代表理事の選定方法
〇 法人法は、理事会を設置している一般社団法人の代表理事は、理事会で選定及び解職することとしている(法人法第90条第2項第3号及び第3項)。代表理事を選定等する権限を理事会に付与した法人法の趣旨は、理事会による代表理事の職務執行の監督権限の実効性を確保するところにある。すなわち、代表理事から職務の執行の状況の報告を受け、代表理事の職務の執行を監督する責任を負う理事会がその職責を全うするためには、理事会が代表理事の選定及び解職権を有していることが必要であるとの考え方に基づき、法人法は、一義的に、理事会に代表理事の選定等の権限を付与したものと解される。換言すれば、代表理事が違法又は不当な行為をした場合において、理事会に代表理事を解職する権限が留保されることにより、理事会による代表理事の職務執行の監督権限が機能し、ガバナンスが確保されるということとなる。特に、税の優遇措置を受ける公益社団法人については、そのガバナンスを適正に確保する要請が強いことから、認定法は公益社団法人の機関設計として理事会を必置とし(認定法第5条第17号ハ)、理事会を通したガバナンスに期待しているところが大きい。
〇 そのため、公益社団法人において、理事会のみで代表理事の選定等を行うこととせず、代表理事の選定等の過程に社員総会を関与させることとする場合には、理事会によるガバナンスの確保を図ることとした法の趣旨を踏まえ、理事会の法定の権限である代表理事の選定及び解職権限を実効的に担保することができる内容の定款の定め(115 例えば、「理事会は、代表理事を選定及び解職する。この場合において、理事会は、社員総会の決議により代表理事候補者を選出し、理事会において当該候補者を選定する方法によることができる」などの定款の定めであれば、理事会が最終的に責任をもって代表理事の選定及び解職をすることができることとなる。)を設けることが望ましい。
〇 なお、代表理事が欠けた場合の取扱いは、以下のとおりである。
① 代表理事が欠けた場合又は定款で定めた代表理事の員数が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した代表理事は、新たに選定された代表理事が就任するまで、なお代表理事としての権利義務を有することとされている(法人法第79条第1項)ため、仮に、代表理事が1名のみの法人において、代表理事が任期の満了又は辞任により退任したとしても、当該代表理事は、後任の代表理事が選定されるまでの間、なお代表理事としての権利を有するだけでなく、その義務も負うこととなる。
② 代表理事が在任中に死亡し又は所在不明になった場合には、理事会を開催して新たな代表理事を選定することとなる(法人法第90条第2項第3号)(116 代表理事が急死したような場合に、新たな代表理事を理事会で選定する際には、新たな代表理事の選定議案に理事の全員が同意すれば現実に理事会を開催する必要はなく(法人法第96条)、理事会の招集手続(法人法第 94条第1項)も不要となる。)。また、内紛等何らかの事情があってそのような理事会を開催することができない場合には、理事等の利害関係人は、一時代表理事の職務を行うべき者を選任することを裁判所に申し立てることができる(法人法第79条第2項)。
③ 「代表理事に事故がある場合は、代表理事が予め定める順番で理事が代表理事の職務を代行する」旨の定款の定めは、理事会の代表理事の選定権限を奪い、(将来の)代表理事の選定を代表理事が行うことを許容するものとなるため無効である。
④ 代表理事を1人ではなく複数名選定することは可能であり(117 代表理事として選定された理事は、当該法人の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する理事(法人法第77条第4項)として、その氏名及び住所が登記され(法人法第301条第2項第6号、302条第2項第6号)、代表理事を複数名選定したときは、その全員が代表理事として登記される。)、その場合には各自単独で代表権を行使することができるため、例えば、2名の代表理事のうちの1名が死亡したとしても、他の1名の代表権に影響を及ぼすことはない(なお、2名の代表理事につき権限の分担を定めても、その分担は法人内部の関係に止まり、外部に対しては原則としてその権限分担の効力を主張することはできない(法人法第77条第5項)。)。
(8) 理事会・評議員会の運営方法
〇 理事及び評議員は、その個人的な能力、資質、手腕に信頼を受けて法人の運営を委任された者であることから(法人法第64条、第172条第1項、民法第644条)、理事又は評議員は自ら理事会又は評議員会に出席し、議決権を行使することが求められる。また、理事会(評議員会)は、理事(評議員)が参集して相互に十分な討議を行うことによって意思決定を行う場である。したがって、理事会(評議員会)に代理人が出席して議決権を行使することを定めることは認められないし、理事(評議員)が理事会(評議員会)に出席することなく書面等によって理事会(評議員会)の議決権を行使することも認められない。
このほか、理事(評議員)が一堂に会することなく、議案の賛否について個々の理事(評議員)の賛否を個別に確認する方法で、過半数の理事(評議員)の賛成を得て決議するようないわゆる持ち回り決議も認められない(仮に、理事会又は評議員会の決議方法として、代理人による議決権の行使、書面による議決権の行使又は持ち回り決議を許容する旨の定款の定めを設けたとしても無効な定めとなる。)。
〇 もっとも、遠方に所在する等の理由により現に理事会(評議員会)の開催場所に赴くことができない理事(評議員)が当該理事会(評議員会)決議に参加するため、例えば、電話会議やテレビ会議のように、各理事(各評議員)の音声が即時に他の出席者に伝わり、出席者が一堂に会するのと同等に適時的確な意見表明が互いにできることにより、相互に十分な議論を行うことができる方法であれば理事会(評議員会)を開く場所が物理的に同一の場所である必要はなく(法人法規則第15条第3項第1号括弧書き、第60条第3項第1号括弧書き参照)、このような方法による議決権の行使は、有効な議決権の行使となる。
また、理事会設置一般社団法人及び一般財団法人は、理事が理事会の決議の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき理事(当該事項について議決に加わることができるものに限る。)の「全員」が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたとき(監事が当該提案について異議を述べたときを除く。)は、当該提案を可決する旨の理事会の決議があったものとみなす旨を定款で定めることができる(法人法第96条。評議員会については、定款の定めを設けることなく全員同意による決議の省略が可能である(法人法第194条第1項)。)。このような定款の定めを設けることにより、例えば、電子メールにより理事会(評議員会)決議を行うことが可能となる。
〇 なお、理事(評議員)の議決権の数は1人1個であり、「可否同数のときは、議長(代表理事、評議員会議長)の決するところによる」とするような定款の定めを設けることにより、特定の理事(評議員)のみ2個の議決権を与えることとなるような定款の定めは無効である。
第5章 公益法人が遵守すべき財務規律等
公益法人は、認定法に基づき財務規律等を遵守し、公益認定基準等に適合するほか、法人法その他の法令を遵守して事業を実施し、法人を運営することが求められる。
第1節 財務規律
第1 公益目的事業の収入及び費用(認定法第14条及び令和6年改正認定法附則第3条並びに認定規則第15条から23条まで、第46条及び附則第2項から第6項まで)
(1) 規律の趣旨
○ 公益法人は、公益目的事業に係る収入をその実施に要する適正な費用に充てることにより、5年間で収支の均衡(以下「中期的収支均衡」という。)が図られるようにしなければならない。公益目的事業に充てられるべき財源の最大限の活用を促すため、収入に見合った公益活動の実施を確保する規律である。
○ 公益目的事業に係る収入に関する規律としては、従来、「公益目的事業の実施に要する適正な費用を償う額を超える収入を得てはならない」(改正前認定法第14条)といういわゆる「収支相償原則」が設けられていた。当該規定の運用については、旧ガイドラインに基づき、単事業年度で公益目的事業の収支状況を判定し、黒字(収入が費用を超過する状態)が発生した場合はその後2年で同程度の赤字(費用が収入を超過する状態)とすること等によって収支を均衡させることを求めるものであった。
○ この収支相償原則については、上記改正前認定法第14条の規定の文言もあって、単年度の収支赤字を強いるものであるとの誤解が生じたほか、収支相償の判定において過去の赤字が考慮されず、細かな事業単位ごとの均衡が求められることで、財源の効果的な活用が困難になっているとの課題が生じていた。
○ このため、公益目的事業に充てられるべき財源の活用促進という制度趣旨を確保しつつ、法人の経営判断で財源の配分を行い、公益目的事業への効果的な活用をより促進するため、公益目的事業の収入と適正な費用について、中期的に均衡を図る趣旨が明確となるよう法律が改正され(中期的収支均衡)、その判定は、公益目的事業全体について、過去に発生した赤字も通算した収支差額に着目して行うことが認定規則において規定された。また、将来の公益目的事業の発展・拡充を積極的に肯定する観点から、公益目的事業に係る従来の「特定費用準備資金」及び「資産取得資金」を統合しつつ、資金活用の柔軟性を高めた仕組みとして、「公益充実資金」が創設され、当該資金の積立ては、法律上、中期的収支均衡において費用とみなすこととされた。
(2) 中期的収支均衡の判定方法
○ 公益法人は、毎事業年度終了後、以下のプロセスで当該事業年度の収支や残存剰余額(黒字)などに関する算定を行い、その数値及び計算の明細を行政庁に提出する必要がある(当該情報が令和6年会計基準に従い、財務諸表の附属明細書において表示してある場合は別途の提出は不要)(認定規則第46条第1項第4号及び同条第3項)。
○ 中期的収支均衡を図るべき期間(内閣府令で定める期間)は、5年間とされており、発生から5年間を超える残存剰余額がなければ、当該法人の中期的収支均衡は図られているものとされる(118 中期的収支均衡の規律の趣旨(公益目的事業に充てられるべき財源の有効活用)に鑑み、欠損額(赤字)の残存については収支の算定上通算可能な期間を限っているほかは、特段の制限はない。なお、赤字の継続により、事業を実施するだけの財政基盤が損なわれる場合には、認定法第5条第2号の「経理的基礎を有している」と認められなくなる可能性がある。)(認定規則第15条及び第21条)。
① 通常の算定方法(様式集45頁参照)
ア 当該事業年度の収支(剰余額/欠損額)の算定(認定規則第16条第1項及び第2項)
○ 当該事業年度における、公益目的事業に係る「収入額」と「費用額」の比較を行い、以下により、「年度剰余額」又は「年度欠損額」を算定する。
(収入額≧費用額の場合)
年度剰余額=収入額ー費用額
(収入額<費用額の場合)
年度欠損額=費用額ー収入額(法人の判断で年度欠損額は0とすることができる(119 欠損額を繰り越すことで、翌事業度以降に剰余額が出た場合に通算し解消することができるが、継続して単事業年度で収支が均衡している法人(毎事業年度、一定額の寄附収入があり、その額だけ支出している法人等)などで、欠損額の繰り越しを望まない場合に、残存欠損額の計算・管理の負担を軽減できるよう当該規定を設けている。))
○ なお、旧制度の収支相償において実施していた、公益目的事業の単位ごと(公1、公2・・・) の収支の比較は行わない。ただし、事業単位ごとの収支の状況は、財務諸表(令和6年会計基準では「活動計算書の注記(会計区分及び事業区分別内訳)」、平成20年会計基準では正味財産増減計算書内訳表)において開示することとされており、構造的に収入が費用を上回る事業がある場合には、行政庁が公益目的事業該当性の観点から確認を行うことがある。
(ⅰ) 「収入額」は、次に掲げる額の合計額とする。
・当該事業年度の損益計算書に計上すべき公益目的事業に係る経常収益(一般純資産 に係るものに限る。)の額(120 令和6年会計基準では、活動計算書の注記である「会計区分及び事業区分別内訳」に記載された公益目的事業会計に係る経常収益・経常費用の額を使用する。当該内訳は一般純資産に係る会計区分及び事業区分別内訳を示したものである。なお、同会計基準では、平成20年会計基準と異なり指定純資産から一般純資産への振替を行わず、指定純資産区分において、寄附者等による使途の指定に従って中長期的に収益と費用が均衡することから、指定純資産に係る経常収益・経常費用は、いずれも算定に含めていない。令和6年会計基準への移行までの間、平成20年会計基準を適用する場合は、正味財産増減計算の内訳表の一般正味財産の部における公益目的事業会計に係る経常収益・経常費用の額を使用する。同会計基準では、寄附者等による使途の指定に従って指定正味財産から一般正味財産への振替を行い、当該振替額を一般正味財産において費消することから、一般純資産(一般正味財産)に係る経常収益・経常費用には、いずれも指定正味財産からの振替額が含まれている。
・当該事業年度の公益充実資金の取崩額(公益目的保有財産の取得・改良に充てた額を除く)(121 取崩額のうち、費用計上されない資産の取得等に充てた額は控除するもの。)
・当該事業年度の収益事業等から生じた収益(利益)(管理費のうち収益事業等に按分されるもの(122 管理費のうち収益事業等に係る管理費を按分する際には、一般純資産・指定純資産の双方に係る管理費を含める。具体的には、活動計算書における(「管理費」×「収益事業費」)(「収益事業費」+「公●事業費」) の計)。その他事業に係る管理費も同様に按分する。)を除く)の50%(123 収益事業、その他の事業のうち、赤字となった区分がある場合は、当該区分を除いた収益の50%を計算する。)(収益事業等を行う公益法人に限る)
(ⅱ) 「費用額」は、次に掲げる額の合計額とする。
・当該事業年度の損益計算書に計上すべき公益目的事業に係る経常費用(一般純資産 に係るものに限る。)(公益充実資金の取崩し又は剰余金の解消策により取得した公益目的保有財産に係る減価償却費を除く(124 公益目的保有財産に関し発生する費用が2重計上されないよう、公益充実資金の取崩し(積み立て時に費用計上)又は剰余金の解消策(後述)により取得した公益目的保有財産に係る減価償却費が含まれる場合には、当該額を費用から控除するもの。))
・当該事業年度の公益充実資金の積立額
イ 過去の剰余額・欠損額との通算(認定規則第16条第3項及び第4項)
(ⅰ) 当該事業年度に年度剰余額が生じた場合
当該事業年度に年度剰余額が生じた場合、前事業年度から繰り越した過去4年間の各事業年度の欠損額(その合計額を「過年度残存欠損額」という。)があれば、これらと通算を行い年度剰余額の全部又は一部を解消し、通算後に残る額を当該事業年度の「暫定残存剰余額」とする。下記のA~Cの場合に応じて当該事業年度の暫定残存剰余額は算定される。
A 過年度残存欠損額がない(通算する過去の赤字がない)場合
⇒ 暫定残存剰余額=年度剰余額
B 過年度残存欠損額がある(過年度残存欠損額≧年度剰余額)(過去の赤字で当該事業年度の黒字の全部を解消できる)場合
⇒ 暫定残存剰余額=0
C過年度残存欠損額がある(過年度残存欠損額<年度剰余額)(過去の赤字で当該事業年度の黒字の一部を解消できる)場合
⇒ 暫定残存剰余額=年度剰余額-過年度残存欠損額
(ⅱ) 当該事業年度に年度欠損額が生じた場合
当該事業年度に年度欠損額が生じた場合、前事業年度から繰り越した過去の各事業年 度の剰余額(その合計額を「過年度残存剰余額」という。)があれば、これらのうち発生事業年度が古いものから順に通算を行い、過年度残存剰余額の全部又は一部を解消する。下記のA~Cの場合に応じて当該事業年度の残存欠損額は算定される。
A 過年度残存剰余額がない(解消する必要がある過去の黒字がない)場合
⇒ 残存欠損額=年度欠損額
B 過年度残存剰余額がある(過年度残存剰余額≧年度欠損額)(当該事業年度の赤字で過去の黒字を一部解消できる)場合
⇒ 残存欠損額=0
C 過年度残存剰余額がある(過年度残存剰余額<年度欠損額)(当該事業年度の赤字で過去の黒字を全部解消できる)場合
⇒ 残存欠損額=年度欠損額-過年度残存剰余額
ウ 剰余額の解消策(認定規則第17条)
当該事業年度に発生した暫定残存剰余額がある場合又は当該事業年度に生じた欠損額で解消し切れていない過年度残存剰余額がある場合には、それらの全部又は一部を以下の事項に充てることで、解消することができる(解消策によって解消される暫定残存剰余額又は過年度残存剰余額を「解消額」という。)。
(ⅰ) 公益目的保有財産の取得又は改良(同条第1号)
公益目的保有財産の取得等については、その時点では費用が発生しないものの、公益目的事業のための資本を整備するための支出であることから、剰余額の解消策として認めるもの。
暫定残存剰余額又は過年度残存剰余額を充てた分が解消額であり、公益目的保有財産の取得又は改良に当たり、公益充実資金の取り崩し、借入金など他の財源もある場合には、それらを除いた額が解消額の上限となる。
当該資産に係る減価償却費が後年度に費用計上された場合、中期的収支均衡の計算上、当該資産に係る費用が2重計上されることになるため、当該資産に係る減価償却費は経常費用の額から控除される。
剰余額の解消策として金融資産を取得する場合には、剰余金が単に金融資産に形を替えて活用されずに死蔵されることを防ぐ必要があるため、過去に公益目的事業を継続するためにやむを得ず取り崩した公益目的保有財産を回復する場合、公益目的事業のために直接財産を費消することと比較して、中長期的に同程度以上の公益目的事業の拡大となることが見込まれる場合など、金融資産から生じる果実が公益目的事業の充実のために使用される見込み・必要性が求められる。
(ⅱ) 災害その他の公益目的事業の実施が著しく困難となる事態として内閣総理大臣が定めるものにあって、公益目的事業を実施するために必要な資金の不足を補うために不可欠なものとして行った借入れに係る元本の返済(同条第2号)
新型コロナウイルス感染症拡大のように予測困難な事業環境の変化においては、法人の 責によらない事由で公益目的事業に生じた欠損を埋めるために借入れを行い、その際、事業回復によって借入金の元本返済を行うことが必要な場合があり、その場合、借入(資金不足の発生)から元本返済(剰余額の発生)が中期的収支均衡の期間を超えることがあり得る。
そのため、「災害その他の公益目的事業の実施が著しく困難となる事態として内閣総理大臣が定める事態」において、公益目的事業を継続するために必要となる運転資金が不足したために行った借入の元本返済のための支出については、「当該事態により資金の不足が生じた事業年度における欠損金(認定規則第16条第2項に規定する年度欠損額の算定方法を基礎として内閣総理大臣が定める方法で算定した額)」を上限に、解消策と認めるものである。
今回、「令和2年年度及び令和3年度新型コロナウイルス感染症の感染拡大」を内閣総理大臣が定める事態とし、旧ガイドラインⅠ5.(2)(3)で定める計算方法で費用が収入を上回る額」を「内閣総理大臣が定める方法で算定した額」とする。
本規定の対象となる借入は、具体的には、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、公益目的事業を継続するために必要となる運転資金が不足したために行った借入である(事業拡大のための固定資産の取得のための借入など新型コロナウイルス感染症拡大と関係のない借入は除く。)。
解消額とすることができる額については、具体的には、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で資金不足が発生した事業年度における収支相償の判定上の「費用-収入」の額とし、資金不足が発生した事業年度以降の事業年度における収支相償の判定上、剰余金が発生し、上記借入に係る元本の返済を行った場合に、上記旧ガイドライン5.(4)②に従い行政庁によって剰余金の解消額とされた金額があれば、その額は除いた額を上限とする。また、本規定による過去の解消額があれば、当該額も上限額から控除する。
本規定を利用する法人は、資金不足が生じた年の計算書類、行政庁への定期提出書類、金融機関等からの借入の明細、今後の返済見込み、当該事業年度における返済実績等の書類をもって、その借入が事業拡大のための固定資産の取得等のためのものではなく、事業継続のために必要な運転資金に充てるためのものであったこと等、本規定に適合することを行政庁に説明し、その確認を受ける。
【「収入-費用」の額の算定(旧ガイドラインⅠ5.(2)及び(3))】
(2)収益事業等の利益額(注1)の50%を繰入れる場合
①以下の合計額を収入とする。
i損益計算書上の公益目的事業の会計に係る経常収益
ii公益目的事業に係る特定費用準備資金(認定規則第18条)の当期取崩し額
iii損益計算書上の収益事業等会計から公益目的事業会計への資産繰入れ額
(実物資産を繰入れた場合は帳簿価額相当額(注2))(注3)
(注1)収益事業等における利益から、管理費のうち収益事業等に按分される額を控除した額。
(注2)収益事業等からの利益を実物資産で繰入れる場合には、繰入時の実物資産の帳簿価額に相当する額が収益事業等の資産から公益目的事業財産となり、同額を支出して、当該実物資産を取得するものと見なす。この場合の当該実物資産は公益目的保有財産となる(認定法第18条第5号)。
(注3)法人が収益事業等を行っていない場合にはⅲは除かれる。
②以下の合計額を費用とする。
i 損益計算書上の公益目的事業の会計に係る経常費用
ii公益目的事業に係る特定費用準備資金の当期積立て額
③上記①と②の額を比較する。
⇒ 【②が①を上回る部分の額が「収入-費用」の額】
(3)収益事業等の利益額を50%を超えて繰入れる場合
①収入として以下の合計額を算出する。
i損益計算書上の公益目的事業の会計に係る経常収益
ii公益目的事業に係る特定費用準備資金の当期取崩し額(注)
iii公益目的保有財産の取得又は改良に充てるために保有する資金(認定規則第22条第3項)(以下「公益資産取得資金」)の当期取崩し額(注)
iv公益目的保有財産の当期売却収入(帳簿価額+売却損益)
(注)資金積立て時に、収支相償の計算上、費用として算入した額の合計額。
②費用として以下の合計額を算出する。
i 損益計算書上の(公益目的事業の会計に係る経常費用-公益目的保有財産に係る減価償却費)
ii公益目的事業に係る特定費用準備資金の当期積立て額(上限あり(注))
iii公益資産取得資金の当期積立て額(上限あり(注))
iv公益目的保有財産の当期取得支出
(注)「(各資金の積立て限度額-前期末の当該資金の残高)/目的支出予定時までの残存年数」として計算される額。
③(②-①)の額について収益事業等から資産を繰入れる(利益の100%を上限、実物資産を繰入れた場合は帳簿価額相当額(注))。
(ⅲ) その他行政庁の確認を得た支出(同条第3号)
上記のほか、公益法人が行う公益目的事業の内容やその他の個別事情を勘案し、当該 公益目的事業の実施のために必要不可欠であるとして行政庁の確認を得た支出については、解消策として認める。
例えば、事業の開始当初に大きな支出を伴い(借入れ等によって資金を調達)、その後、対価収入が発生する(中期的期間を超えて借入金を返済する)事業は、見込んでいた収益が得られなかった時には財政面が不安定となり、事業継続が困難になることから、一般的には経理的基礎がないと判断される。しかし、霊園、病院など事業の性質上、どうしても収支均衡を満たすこと困難な場合があり、そうした事業については、確実な収益を見込み、かつ、借入れから返済完了までの全期間を通じた見通しが確認できるような場合には、個別の事情を勘案して、行政庁において、法人の策定する事業の長期計画等を基に、経理的基礎や必要性を案件毎に判断し、剰余額の解消を認める。
エ 残存剰余額等の算定(認定規則第18条)
中期的収支均衡が図られているかを判定するために必要となる、過去の赤字との通算(上記イ)及び剰余額の解消(上記ウ)を経てなお残存する当該事業年度分と過年度分の黒字(当該事業年度に生じた残存剰余額及び当該事業年度前の各事業年度に係る残存剰余額))を算定する。また、翌事業年度に繰り越すことができる赤字(当該事業年度に生じた残存欠損額及び当該事業年度前の各事業年度に係る残存欠損額)等を算定する。
・ 当該事業年度前の各事業年度に係る残存剰余額=過年度残存剰余額-(年度欠損額(ある場合))-(解消額(ウで措置を講じた解消額がある場合。))(125 年度欠損額及び解消額の控除については、過年度残存剰余額のうち発生事業年度が古いものから過年度残存剰余額を上限に順に控除。)
・ 当該事業年度に生じた残存剰余額=イ(ⅰ)で算定した暫定残存剰余額-解消額(ウで措置を講じた解消額から残存剰余額から控除した額を除いた額がある場合)(126 暫定残存剰余額がない(当該事業年度の収支が赤字の)場合、残存剰余額=0)
・ 当該事業年度前の各事業年度に係る残存欠損額=過年度残存欠損額-年度剰余額(ある場合)(127 年度剰余額の控除については、過年度残存欠損額のうち発生事業年度が古いものから過年度残存欠損額を上限に順に控除)
(注)収益事業等からの利益を実物資産で繰入れる場合には、繰入時の実物資産の帳簿価額に相当する額が収益事業等の資産から公益目的事業財産となり、同額を支出して、当該実物資産を取得するものと見なす。この場合の当該実物資産は公益目的保有財産となる(認定法第18条第5号、認定規則第26条第7号)。
⇒ 【②が①と③の合計額を上回る部分の額が「収入-費用」の額】
・ 当該事業年度に生じた残存欠損額=イ(ⅱ)で算定した残存欠損額(128 暫定剰余額が生じた(当該事業年度の収支が黒字の)場合、残存欠損額=0)
② 特例算定方法(様式集46頁)
○ 公益法人が収益事業等を行う場合、どの法人も収益事業等から生じた収益の50%は公益目的事業財産に繰入れなければならないが、法人によっては、公益目的事業の財源確保のために必要がある場合には自発的に50%を超えて繰入れることができる(認定法第18条第4号及び認定規則第39条)。この場合において、公益目的事業の財源確保のために必要な範囲で公益目的事業に繰り入れた金額は、収益事業等の収益の100%を上限に、法人税法令上、損金算入が認められることになる(みなし寄附金額の損金算入。法人税令第七十三条の二)。
○ 上記の損金算入を利用しつつ、収益の50%を超える繰入れは、法人において資金等を繰り入れなければ公益目的事業を実施するための財源が不足するとの判断に基づいて行うものであることから、通常の算定方法に代えて、事業費以外の公益目的事業のための資金需要・資金供給として、公益目的保有財産の取得・売却等を加味して収支を比較し、キャッシュベースで資金等が不足する場合に、その不足額を限度として50%超の繰り入れを行うことができる。
ア 資金不足の確認(認定規則第19条第1項)
当該事業年度における、公益目的事業に係る「特例収入額」と「特例費用額」の比較を行い、「特例費用額」が「特例収入額」を超える事業年度(資金不足の事業年度)にあっては、通常の算定方法に代えて、特例算定を行えるものとする。特例算定の適用可否を判断するため、まず収益事業等から生じた収益の50%を特例収入額に算入して、特例費用額との比較を行う。特例費用額が特例収入額を超えるときは、その差額相当分の収益を収益事業等から追加的に繰り入れることが可能となる。
(ⅰ) 「特例収入額」は、次に掲げる額の合計額とする。
・ 当該事業年度の損益計算書に計上すべき公益目的事業に係る経常収益(一般純資産に係るものに限る。)の額
・ 当該事業年度の公益充実資金の取崩額
・ 当該事業年度において公益目的保有財産を処分することにより得た額
・ 当該事業年度に収益事業等から生じた収益(利益)(管理費のうち収益事業等に按分されるものを除く)の50%(収益事業等を行う公益法人に限る)
(ⅱ) 「特例費用額」は、次に掲げる額の合計額とする。
・ 当該事業年度の損益計算書に計上すべき公益目的事業に係る経常費用(一般純資産に係るものに限る。)(公益目的保有財産に係る減価償却費を除く(129 減価償却費は当該事業年度に実際の費用支出が行われているわけではない(資金の減少要因となっていない)ため除くもの。))
・ 当該事業年度の公益充実資金の積立額(上限あり)
・ 当該事業年度における公益目的保有財産の取得価額又は改良に要した額
・ 過年度特例残存欠損額の合計額
… 過去4年間の各事業年度に特例算定を行った結果残存している赤字(過年度特例残存欠損額)の合計額。なお、通常の算定方法による過去の赤字は、算定方法が異なっているため、加算することができない。
【特例費用額に算入できる公益充実資金の積立額の算定方法】
上記の収益の50%超繰り入れの趣旨に鑑み、恣意的な積み立てによって、費用額を拡大することを防ぐため、特例費用額に算入できる上限を計画的に資金を積み立てる場合の1年間の積立額として、今後積立てなければならない見込み金額を積立てを行う計画期間で除した額(積立基準額)を費用算入できる上限額とする。具体的な計算方法は以下のとおり。
Ⅰ 前事業年度末時点で各公益充実活動等a~n(公益充実資金の目的として設定された、個別の事業実施や資産取得等の活動)に積み立てられていると考えられる額(仮想按分額)を算定する。具体的には、公益充実活動等xに係る仮想按分額をRxとすると、以下の式で算定される。
Rx=A’(公益充実資金..資金全体..の前事業年度末の額)×B’….(公益充実活動等….の前事業年度末の所要額)C’(前事業年度末の積立限度額(資金全体))
Ⅱ 各公益充実活動等a~nについて、今年度以降、各活動実施までに積み立てる必要がある額(必要積立額)を算定する。
公益充実活動等xに係る必要積立額(Yx)=Bx(公益充実活動等xの当該事業年度末の所要額)-Rx
Ⅲ 各公益充実活動等a~nに係る積立基準額を算定する。
公益充実活動等xに係る積み立て基準額(Zx)=YxDx(公益充実活動等xの実施までの期間)
Ⅳ 全体の積立基準額(公益充実資金の費用算入上限額)を算定する。
積立基準額(Z)=Za+Zb+Zc・・・Zn
【参考】通常算定と特例算定の場合の相違事項(相違事項下線)
通常の算定
特例算定
収入額
当該事業年度の損益計算書に計上すべき公益目的事業に係る経常収益(一般純資産に係るものに限る。)の額
(同左)
当該事業年度の公益充実資金の取崩額(公益目的保有財産の取得・改良に充てた額を除く)
当該事業年度の公益充実資金の取崩額
当該事業年度の収益事業等から生じた収益(管理費のうち収益事業等に按分されるものを除く)の50%(収益事業等を行う公益法人に限る)
(同左)
(なし)
当該事業年度において公益目的保有財産を処分することにより得た額
費用額
当該事業年度の損益計算書に計上すべき公益目的事業に係る経常費用(一般純資産に係るものに限る。)(公益充実資金の取崩し又は剰余金の解消策により取得した公益目的保有財産に係る減価償却費を除く)
当該事業年度の損益計算書に計上すべき公益目的事業に係る経常費用(一般純資産に係るものに限る。)(公益目的保有財産に係る減価償却費を除く)
当該事業年度の公益充実資金の積立額
当該事業年度の公益充実資金の積立額(上限あり)
(なし)
当該事業年度における公益目的保有財産の取得価額又は改良に要した額
(なし)
過年度特例残存欠損額の合計額
イ 特例残存欠損額の算定方法(認定規則第19条第2項)
○ 特例算定を行う公益法人は、特例費用額が特例収入額を上回る部分の額を上限に収益事業等から生じた収益を繰り入れた上で以下の方法で特例残存欠損額を算定する。「特例費用額」-「特例収入額」-「収益事業等から生じた収益の50%を超えた繰り入れ分」を「特例暫定欠損額」とし、「特例暫定欠損額」-「過年度特例残存欠損額の合計額」を特例残存欠損額とする。
○ 特例費用額には、過年度特例残存欠損額も含まれているところ、「過年度特例残存欠損額の合計額」が「特例暫定欠損額」を超える場合には、当該事業年度の収益の繰り入れによって、過年度特例残存欠損額の一部又は全部が補填されたことになり、当該事業年度の特例残存欠損額は0となる。
【参考】特例残存欠損額の帰属イメージ
特例収入額
特例費用額
経常収益
経常費用(除く減価償却費)
公益充実資金の取崩額
公益目的保有財産の売却額
収益事業等からの繰入額
公益充実資金の積立額(上限あり)
公益目的保有財産の取得額
特例暫定欠損額
過年度特例残存欠損額
ウ 残存剰余額等の算定(認定規則第20条)
○ 中期的収支均衡が図られているかを判定するために必要となる、当該事業年度に生じた残存剰余額及び当該事業年度における当該事業年度前の各事業年度に係る残存剰余額等を算定する。特例算定を行えるのは欠損が生じている場合であり、当該事業年度の残存剰余額は0となる。
・ 当該事業年度前の各事業年度に係る残存剰余額=過年度残存剰余額-(解消額(ある場合)(130 特例算定の場合、過年度残存剰余額(通常の算定方法で発生した過去の黒字)について(1)③解消策のうちイ又はウを講じることができる(公益目的取得財産の取得等は特例費用額に含まれるためアは除く。)。
・ 当該事業年度に生じた特例残存欠損額=上記イで算定の額
・ 当該事業年度前の各事業年度に係る特例残存欠損額=当該事業年に発生
・【特例暫定欠損額<過年度特例残存欠損額の合計額(当該事業年度に新たな赤字が発生せず、特例算定で過年度の赤字の一部又は全部補填することが出来た)】の場合、前事業年度において算定した各事業年度に係る特例残存欠損額のうち当該事業年度に補填されなかった額。
・【特例暫定欠損額>=過年度特例残存欠損額の合計額(当該事業年度の特例算定で過年度の赤字を補填できなかった)】の場合、過年度特例残存欠損額そのままの額。
③ 行政庁による監督
○ 中期的収支均衡の制度は、公益目的事業の実施に当たり、仮に多額の剰余額が生じることがあったとしても、5年間という中期的な期間内において計画的に解消することができる制度としている。公益法人が中期的収支均衡を欠くと判定された場合には、公益法人が適切に財源を活用しておらず、公益目的事業の構造に課題があるとして、そのような法人を放置することは公益法人制度への信頼を損ねることから、行政庁は、原則として、勧告を行い、事業構造の見直し等を求めることとする。
○ 他方、中期的な期間における収支状況は基本的に法人の経営判断に委ねるべきであり、行政庁は、毎事業年度の定期提出書類によって法人の状況を把握するにとどめ、中期的な期間が経過する前には、原則として監督上の措置や指導を行わないものとする。ただし、4年前の残存剰余額が多額であり、当該剰余額発生後の各事業年度も黒字が継続し、事業の拡大等が伺われないなど、そのままの事業状況では翌事業年度には中期的収支均衡が図られていないと判定される可能性が高い場合には、事業の見通し等について、報告徴収を行うことがあり得る。
④ その他
ア 公益法人が合併した場合の措置(認定規則第22条)
公益法人が他の公益法人を吸収する合併を行った場合又は新設合併を行った場合、非吸収法人又は新設合併により消滅した法人の過年度残存剰余額、過年度残存欠損額及び過年度特例残存欠損額は、他の法人を合併した法人又は新設法人に引き継がれる。
イ 過去の数値がない場合の措置(認定規則附則第3項から第6項まで)
新制度施行後最初の事業年度や公益認定を受けた事業年度においては、過去の数値(過年度残存剰余額、過年度残存欠損額及び過年度特例残存欠損額)が存在しないことから、これらの数値に係る部分は考慮せずに、当該事業年度に生じる残存損剰余額等を算定する(①通常の算定方法の場合、残存剰余額=年度剰余額-解消額と、残存欠損額=年度欠損額となり、②特例算定方法の場合、特例費用額における過年度特例残存欠損額は0として算定する。)。
ウ 旧制度において生じた剰余金の取扱いについて(認定規則附則第2項)
○ 従来の収支相償原則では、収入の額が費用の額を超える場合には、「公益目的保有財産に係る資産取得、改良に充てるための資金に繰り入れたり、当期の公益目的保有財産の取得に当てたりする場合には、本基準は満たされているものとして扱う。このような状況にない場合には、翌年度又は翌々年度に事業の拡大等により同程度の損失となるようにする。」「事業の性質上特に必要がある場合には、個別の事情について案件ごとに判断する」旨が旧ガイドライン等において定められていた。
○ 中期的収支均衡への移行に際し、解消されないままの剰余金が残っている法人が存在することが想定されるが、当該剰余金は旧制度の取扱いに沿って解消される必要がある。したがって、施行日以後に開始する最初の事業年度(新制度が適用される初年度)において、従来の収支相償の下で解消されずに残っている剰余金がある場合には、年度欠損額があればまず年度欠損額と当該剰余金とを通算し(複数事業年度の剰余金がある場合には古い事業年度のものから通算する)、通算後の額を当該事業年度の年度欠損額とする。
○ また、剰余金を、公益目的保有財産の取得又は改良に充てることで解消することもできる。さらに、事業の性質上特に必要がある場合には、剰余金について個別の事情について案件毎に判断する。
【行政庁による監督の考え方】
発生から2年以上が経過した剰余金が解消されずに残っている場合、行政庁は当該剰余金の解消について必要な監督措置を執ることとし、当該剰余金以外の剰余金が解消されずに残っている場合、行政庁は翌事業年度における解消計画を確認し、翌事業年度においても更に解消されずに残る剰余金がある場合、当該剰余金について必要な監督措置を執ることとする。
(3) 公益充実資金(認定規則第23条及び第46条)
○ 旧制度における収支相償の判定においては、旧ガイドラインにおいて、将来の特定の事業に充てるための資金(特定費用準備資金)の積立てを費用に算入するほか、将来の公益目的保有財産の取得・改良に充てるための資金(資産取得資金)の積立てを剰余金の解消策として認める取扱いがなされていた。新制度の中期的収支均衡においては、将来の公益目的事業の発展・拡充を積極的に肯定する観点から、認定法第14条において、公益目的事業を充実させるため将来において必要となる資金(公益充実資金」)として積み立てたものについては、中期的収支均衡の判定上費用とみなすこととしている(131 資金の積立ては、ある資金について、その使途等を法人が意思決定した状態であり(財務諸表上で表示)、積立てを行った段階では損益計算書上の費用としては計上されないものであるが、法人の効果的な資金活用を促進する観点から、法人が財源をどのように活用するのかという経営判断に着目することとし、将来の公益目的事業を充実させるための資金の積立てを行った場合、その積立額を収支均衡の判定上、費用に含めることとするものである。)。
○ 公益充実資金は、公益目的事業に係る特定費用準備資金(旧規則第18条)及び資産取得資金(旧規則第22条第3項第3号)を統合し、法人の実情や環境変化に応じた柔軟な資金管理が可能となるよう、使途変更の柔軟性等を高めたものとして創設するものである。細かな事業単位ではなく大括りの設定(事業単位を横断する使途の設定を含む。)ができるほか、透明性の確保を前提に、事業環境の変化等に対応した資源分配(公1から公2への目的変更、事業の実施から資産取得への変更を含む。)を行うことができることとしている。その積立は中期的収支均衡だけでなく、他の財務規律(公益目的事業比率及び使途不特定財産規制)においても費用の算定上加味され、また、公益充実資金は、使途不特定財産規制における控除対象財産となる効果がある。
○ そのため、公益充実資金として認められるためには、一定の使途具体性(目的、時期、必要額等)等が必要であり、以下を満たす方法で積み立てが行われる必要がある。
① 公益充実資金の要件(認定規則第23条第1項)
ア 公益充実資金の目的(認定規則第23条第1項第1号)
将来の特定の活動の実施又は将来の特定の公益目的保有財産に係る資産の取得若しくは改良(以下「公益充実活動等」という。)に係る費用等の支出に充てるために必要な資金として積み立てられるものである必要がある(既存事業を維持するために将来の収支変動に備えた積立てや将来の収入減少に備えた積立ても可能。繰越金、予備費等、将来の単なる備えとして積み立てる場合は本要件を満たさない。)。「必要な資金」というためには、当該公益充実活動等が実施されることの見込み(蓋然性)があることが求められる。当該特定の活動の実施に当たっては、定款や変更の認定(認定法第11条)等を要することも想定されるところ、公益法人の機動的な事業展開のために必要な資金を確保できるよう、行政庁による公益目的事業の変更認定を受ける前であっても、その申請を行政庁に行っている、理事会で決定した計画等で事業内容を確認できるなど具体的に活動の実施が見込まれる場合には、公益充実資金の目的として当該事業に係る公益充実活動等の設定が可能である。
イ 必要な情報開示がなされていること(認定規則第23条第1項第2号及び第46条)
法人として資金の使途等について説明責任を全うする必要があり、当該事業年度の終了後、次に掲げる事項を記載した書類(当該情報が令和6年会計基準に従い、財務諸表の附属明細書において表示してある場合は当該財務諸表)(認定規則第46条第1項第7号及び同条第3項)を作成し、備え置くとともに、行政庁に提出する必要がある。また、法人自らも、インターネットの利用その他の適切な方法により当該情報を速やかに公表する必要がある(認定規則23条1項2号)。
(ⅰ) 当該事業年度の末日における公益充実活動等ごとの内容及び実施時期(認定規則 第23条第1項第2号イ)
公益充実資金の目的とする公益充実活動等は複数設定することも可能であることから、 それぞれの公益充実活動等ごとに内容及び実施時期を明らかにする必要がある。実施時期が例えば10年先などの将来を予定している場合には、不確実性が大きくなるため、その事情等を明らかにする必要がある。
(ⅱ) 当該事業年度の末日における積立限度額(公益充実活動等ごとの所要額の合計額をいう。以下同じ。)及びその算定根拠並びに公益充実資金の額(認定規則第23条第1項第2号ロ及びニ)
必要以上の資金が積み立てられることがないよう、公益充実活動等ごとに必要となる金額(所要額)を算定、各公益充実活動等の所要額の合計額を積立限度額とし、それらの額をその算定根拠とともに明らかにする必要がある。所要額の見積もりは、過去の実績や類似の事例等を踏まえ、その時点における合理的なものとなっていれば足りる。実施時期が近づくことに伴う見積もりの精緻化に伴い、必要な所要額の見直しを行う。
(ⅲ) 当該事業年度の公益充実資金の取崩額及び積立額(認定規則第23条第1項第2号ハ)
財務規律においては、公益充実資金の積立ては費用とみなし、取崩しについては収入(又は費用の控除)として加味されることから、当該事業年度における公益充実資金の取崩額及び積立額を明らかにする必要がある。
積立ての段階では、積立額と各公益充実活動等は紐付けられず、各公益充実活動等にいくら積み立てたのかは定まらないため、公益充実資金全体としての積立額を、取崩しの段階では、実際に公益充実活動等が実施されていることから、各公益充実活動等に充てた公益充実資金の取崩額を明らかにする必要がある。
(ⅳ) 前事業年度の末日における公益充実資金に関する情報(認定規則第23条第1項第2号ホ)
中期的収支均衡の算定において、公益充実資金の積み立て・取り崩しを反映するため(132 特例算定における、特例費用額に参入可能な公益充実資金の積立額の上限を算定する際に、前事業年度の公益充実資金の数値が必要となる。)、当該事業年度の公益充実資金の情報に加え、前事業年度の末日における公益充実活動等ごとの内容及び実施時期、積立限度額及びその算定根拠並びに公益充実資金の額を明らかにする必要がある。
ウ 公益充実資金を公益充実活動等以外の支出に充てるために取り崩す場合について特別の手続が定められていること
○ 公益充実資金はその積み立てた総額を管理するものであるから、公益充実活動等の実施時期や優先順位の変更により、当初想定していた公益充実活動等から他の公益充実活動等に資金を流用することは、公益充実資金の「公益充実活動等以外の支出に充てるため取崩し」には当たらない(133 なお、法人内部における資金管理の必要性から、自らの意思決定により、特定の公益充実活動等から他の公益充実活動等への資金流用に制限を設けることを妨げるものではないが、財務規律の判定においては、一つの公益充実資金として取り扱われる。)。それとは別に、法人として予期せぬ事態に対応するための資金が必要になる場合、社会経済の変化等に対応して機動的に公益目的事業を実施するための資金が必要になる場合など、状況変化等に応じて、公益充実資金を目的とした公益充実活動等以外の支出に充てるために取り崩すことは、資金の有効活用の観点から妨げられるものではない。他方、公益充実資金は法人の意思で一度使途を決定し、財務規律における効果を持つことにもなることから、目的外で取り崩す場合について法人としての手続が定められていることを求めるものである。
○ 例えば定款に「公益充実資金の管理は別途、理事会で定める手続による」と定め、目的外取崩しは理事会決議に委ねるということが考えられる。
エ 事業年度の末日における公益充実資金の額が積立限度額を超えていないこと(認定規則第23条第1項第4号)
オ 貸借対照表の注記や財産目録又は附属明細書に表示され、他の財産と区分されていること(134 令和6年会計基準では、「資産及び負債の状況」に関する注記に記載することとされている。同会計基準に移行するまでの間、平成20年会計基準を適用する場合には、貸借対照表において特定資産として表示する必要がある。)(認定規則第23条第1項第5号)
② 公益充実資金の取り崩しについて(認定規則第23条第2項)
○ 公益充実資金は資金の目的の支出がなされた場合に、当該支出の額を取り崩すほか、正当な理由がないのにも関わらず、当該資金の目的とする公益充実活動等を行わない事実があった場合には、積立限度額から当該公益充実活動の所要額を控除し、控除した後の額が公益充実資金の額を上回る場合には、その上回る部分の額を取り崩す必要がある。
○ なお、上記のとおり、事業環境の変化等に対応して使途を変更することは可能であるが、合理的理由なく、繰り返し事業の実施時期を延期するような場合には、当該資金の目的とする公益充実活動等を行わないと判断することがあり得る。
【財務規律での効果について】
中期的収支均衡
(通常)
中期的収支均衡
(特例算定)
公益目的事業比率・
使途不特定財産保有上限
収入額
取崩額(資産取得等に充てた額(実額)を除く)
取崩額(実額)
取崩額(資産取得等に充てた額(実額)を除く)
費用額
積立額(実額)
積立額(上限あり(計画的に積み立てた場合の算定値)
積立額(事業実施のために積み立てられた算定値)
③ 公益認定申請時の確認(認定法第5条第6号)
○ 公益認定申請時には、認定法第7条第2項第2号により提出する収支予算書の対象事業年度に係る見込額及び認定規則第7条第3項第3号の書類(認定法第5条各号に掲げる基準に適合することを説明した書類)を基に中期的収支均衡が図られることが見込まれるものかを審査する。
○ 同号の書類には、公益認定を受けた場合のその認定の日の属する事業年度に係る収支の見込み等(公益認定を受けた日からのものに限る)を記載する。なお、当該事業年度や当該事業年度以降の5年間に残存剰余額が発生することが見込まれる場合には、その解消見込み(事業拡大、公益目的保有財産の取得予定等)を併せて記載する必要がある(135 中期的収支均衡の規律は、事前に将来の収支に関する計画を求め規制するものではなく、結果として、残存剰余額が解消されずに残っている場合に、均衡が図られていないものと判定するものであることから、公益認定の審査段階では、将来の各事業年度に関する具体的な収支の見込みまで求める必要はない。)。
【参考】中期的収支均衡の判定フロー(通常の算定方法)
【参考】中期的収支均衡の判定フロー(特例算定)
第2 公益目的事業比率(認定法第15条)
(1) 公益目的事業比率の趣旨
○ 公益法人は、公益目的事業を行うことを主たる目的とし(法第5条第1号)、また、「公益法人」の名の下、国民からの寄附等を受けつつ事業活動を行うものであることから、公益法人が行うすべての活動の規模に占める公益目的事業の割合が、少なくとも、その半分を占めていることを求めるもの。事業の規模を測る指標として費用を採用し、公益目的事業の実施にかかる費用の額(以下「公益実施費用額」という。)公益実施費用額+収益事業等の実施に係る費用の額.以下「収益等実施費用額」という。+公益法人の運営に必要な経常的経費(以下「管理運営費用額」という。)を公益目的事業比率として定義し、この値が100分の50以上となることを公益認定基準として設けている (136 事業費が少額であっても管理費が過大であるだけで、事業規模が大きく算定され、公益目的事業の実施状況が適正に反映されなくなるおそれがあることから、事業と直接に結びつかない管理費については、公益実施費用額に含めないこととしている。)。
○ 公益目的事業比率の算定の基礎となる費用額は、基本的には、損益計算書上の各事業費、管理費となるが、事業規模を測るという趣旨を踏まえると、ボランティアの支援を得て事業活動を行う法人や、数年に一度大きな事業を行うような法人などについて、単純に毎事業年度の財務諸表上の「費用」で事業規模を測ることができないため、必要な調整を行うことしている。
(2) 公益目的事業比率の確認
○ 公益認定申請時には、認定法第7条第2項第2号により提出する収支予算書の対象事業年度に係る見込額及び認定規則第7条第3項第3号の書類(法第5条各号に掲げる基準に適合することを説明した書類)を基に公益目的事業比率が100分の50以上となることが見込まれるものかを審査する。
○ 公益目的事業比率の適合状況については、毎事業年度終了後、その数値及び計算の明細を行政庁に提出する必要がある(様式集51頁、当該情報が令和6年会計基準に従い、財務諸表の附属明細書において表示してある場合は別途の提出は不要)(認定規則第46条第1項第4号及び同条第3項)。
(3) 公益目的事業比率の算定
認定規則第24条第2項の損益計算書(経常費用)に計上すべき「事業費」「管理費」の定義は次のとおりとする。
① 事業費:当該法人の事業の目的のために要する費用
② 管理費:法人の事業を管理するため、毎事業年度経常的に要する費用
(管理費の例示)
総会・評議員会・理事会の開催運営費、登記費用、理事・評議員・監事報酬、会計監査人監査報酬。
(事業費に含むことができる例示)
専務理事等の理事報酬、事業部門の管理者の人件費は、公益目的事業への従事割合に応じて公益目的事業費に配賦することができる。管理部門(137 管理部門とは、法人本部における総務、会計、人事、厚生等の業務を行う部門である。)で発生する費用(職員の人件費、事務所の賃借料、光熱水費等)には、事業との関連性によって事業費に算入する可能性のある費用が含まれており、法人の実態に応じて算入する。
○ 認定規則第32条(認定規則第24条第2項の「事業費」及び「管理費」のいずれにも共通して発生する関連費用の配賦について定めるもの)の「適正な基準によりそれぞれの費用額に配賦しなければならない」については、例えば以下のような配賦基準が考えられるが、これ以外に適当と判断した基準があればそれを採用することができる(138 過去の活動実績、関連費用のデータなどから法人において合理的と考える程度の配賦割合を定めればよく、その算定根拠を詳細かつ具体的に記載する必要はない。)。配賦が困難な費用(共通費用)については、公益目的事業と収益事業等とに関連する費用は収益事業等の費用として、公益目的事業又は収益事業等と法人の運営に係る費用に関連する費用は法人の運営に係る費用として経理することができる(認定規則第32条)。なお、各費用がどのように配賦されたのかは、令和6年会計基準に従い、活動計算書の注記(事業費・管理費の形態別区分)において明らかにする。
(配賦基準)
配賦基準
適用される共通費用
建物面積比
地代、家賃、建物減価償却費、建物保険料等
職員数比
福利厚生費、事務用消耗品費等
従事割合
給料、賞与、賃金、退職金、理事報酬等
使用割合
備品減価償却費、コンピューターリース代等
○ 公益目的事業比率の計算は、公益法人が行うすべての活動の規模に占める公益目的事業の割合が、少なくとも、その半分を占めていることを求める観点から、「事業の規模」を測るものであることを踏まえ、損益計算書上の「事業費」「管理費」(139 令和6年会計基準では、活動計算書において費用を活動別分類により表示することとされており、公益目的事業の事業費、収益事業等の事業費、管理費を活動計算書上で把握することができる。同会計基準に移行するまでの間、平成20年度会計基準を適用する場合は、正味財産増減計算書内訳表により、これらの事業費・管理費を把握する。)に以下の調整を加え、公益実施費用額、収益等実施費用額及び管理運営費用額を算定する。
○ 以下の調整項目のうち、③から⑤までは任意適用(法人の判断で適用の有無を選択可)であるが、ある項目を公益目的事業について適用する場合には、公益目的事業以外の事業や管理運営に係る業務においても適用することとなる。例えば公益目的事業において自己所有地に係るみなし費用額を算入した場合に、収益事業等においても自己所有地を使用しているときは、当該収益事業等についてもみなし費用額を算入する。複数の事業等で使用している土地については、面積比など合理的な基準により、それぞれの事業等に配賦する。また、一度算入することとした場合には、正当な理由がある場合を除き、当該取扱いを毎事業年度継続しなければならない(認定規則第27条2項、第28条2項及び第29条3項)。なお、③から⑤まではそれぞれ別個の調整項目であり、ある項目を適用した場合に、他の項目も適用しなければならないということではない。
① 引当金に係る調整(認定規則第25条)
引当金については、繰り入れた段階で費用として損益計算書に計上されることから、当該事業年度における取崩額を費用額から控除する。
② 財産の譲渡損等(認定規則第26条)
公益法人の経常的な事業活動以外における、財産の譲渡損失、財産の評価換えによる評価損、財産の運用損失については、事業規模を図る指標として適当ではないことから、費用額に算入しない(これらを経常費用に計上している場合には控除する。)。
③ 土地の使用に係る費用額(認定規則第27条)
自己所有の土地を使用して事業を行う場合、他者所有の土地を使用して賃借料等を払う場合と比べ、事業内容は同一であっても、費用額で測定した事業規模が小さくなることが想定される。このため、このような場合には、公益目的事業比率の計算に係る事業費の算定において、法人の判断で、土地の使用に係る費用額の算入を可能としている。費用額に追加的に算入できるのは、「土地の賃借に通常要する賃料の額から当該土地の使用に当たり実際に負担した費用の額を控除」した額である(認定規則第27条第1項)。この場合の「土地の賃借に通常要する賃料の額」の算定方法については、不動産鑑定士等の鑑定評価、固定資産税の課税標準額を用いた倍率方式(倍率は、一般には3倍以内とする。)、賃貸事例比較方式や利回り方式など法人の選択に委ねる。
④ 融資に係る費用額(認定規則第28条)
自己資金等を使用して低利又は無利子の貸付事業を行う場合、他者から資金を調達して事業を行う場合と比べ、事業内容は同一であっても、費用額で測定した事業規模が外小さくなることが想定される。このため、無利子又は低利子の貸付事業を行う場合には、公益目的事業比率の計算に係る事業費の算定において、法人の判断で、当該貸付金の資金を外部からの借入によって調達した場合の利率により計算した利子の額と、当該貸付金に係る利子の額との差額を算入可能としている。この場合の「借入れをして調達した場合の利率」については、例えば、前事業年度末の市場貸出金利を用いることが考えられる。
⑤ 無償の役務の提供等に係る費用額(認定規則第29条)
無償の役務提供や便益の供与を受けて事業を行う場合には、実際は経済的な資源が投入されているにもかかわらず、無償であるために、事業内容は同一であっても、費用額で測定した事業規模が小さくなることが想定される。このため、法人の判断で、これらの資源投入に当たって通常発生する費用を算定し、事業の規模として評価することを認めることとしている。実際の支払いを伴わないことから領収書といった外部証憑はなく、これに代わる証憑の作成、保存等を条件として算定や報告の信頼性を担保することが必要である。なお、市価より低廉な価格で供与される場合も同様である。
ア 認定規則第29条の「役務」等(140 理事、監事、評議員については報酬等支給の基準の定めに従うことになり、無報酬の理事等の理事等としての職務の遂行は、費用に算入可能な「役務」には含まれない。)は、次の条件を満たすものを対象とする。
(ⅰ) その提供等が法人の事業等の実施に不可欠であること
(ⅱ) 法人は提供等があることを予め把握しており、法人の監督下において提供等がなされること
(ⅲ) 通常、市場価値を有するものであること
イ 認定規則第29条の「必要対価の額」は、役務の提供を受けた法人において当該役務の提供に関して通常負担すべき額をいい、合理的な算定根拠に拠るか、役務等の提供地における最低賃金に基づいて計算する。
ウ 認定規則第29条第4項の「役務の提供があった事実を証するもの及び必要対価の額の算定の根拠」については、法人において、提供者の住所、氏名、日時、役務等の内容、単価とその根拠、法人の事業との関係を記載した書類を作成するものとし、その概要については、公益目的事業比率の適合状況及びその明細(認定規則第46条第5号)として開示対象とし、説明責任を果たす必要がある。
⑥ 公益充実資金又は特定費用準備資金に係る調整
公益充実資金又は特定費用準備資金については、その積立額を費用額に算入し、取り崩した場合には、原則として、その取崩額を費用額から控除することとしている。これは、複数年度ごとや単発で大型事業を実施する場合においては、準備期間と事業実施年度を通算すると一定規模の事業費に達する場合であっても、単年度では実施年度と準備期間で事業費に著しい差異が生ずる可能性があることから、単年度ベースで判定を行う公益目的事業比率において、法人が要件を満たし一定の具体性を持って積み立てる資金である公益充実資金又は特定費用準備資金の積立については、費用額に算入する調整をするものである。
ア 公益充実資金について
公益充実資金は事業実施のための費用に充てるための積立てと資産取得等に充てるための積立ての双方を目的とすることが可能であり、中期的収支均衡における剰余額・欠損額の算定においては、いずれを目的とする積立てであっても区別せずに費用額に算入される。これに対し、公益目的事業比率の算定においては、当該事業年度における公益充実資金の積立額のうち事業実施のために積み立てられた部分に係るものを費用額に算入し、取崩額のうち資産取得等に充てた部分以外に係るものを費用額から控除する。
これは、一般に、資産取得等がそれをもって直ちに事業活動の規模を表すものとは言い難いことから、公益目的事業比率の算定には含めないこととするものである(減価償却資産については、「減価償却費」が事業費に計上される。また非減価償却資産である土地に係る費用については、上記(3)により、公益目的事業比率の算定において考慮することを可能としている。)。
(ⅰ) 費用額に算入する額の算定
公益充実活動等ごとの所要額を基に、事業実施のために積み立てられた部分に係る積立額を計算する。公益充実資金は、積立て時には目的ごとに積立額を区別しておらず、事業実施のために積み立てられた実額を特定できないため、以下の按分計算を行う。
公益充実資金(資金全体)の積立額×各公益充実活動等(事業実施に係るものに限る)の所要額の合計額積立限度額(全ての公益充実活動等ごとの所要額の合計額)
(ⅱ) 費用額から控除する額の算定
取り崩し時には具体的な使途が特定されているため、その実額を基に「公益充実資 金(資金全体)の取崩額」から「資産取得等に充てた額」を控除した額を公益目的事業比率算定上の費用額から控除する。
イ 特定費用準備資金について
特定費用準備資金は、公益目的事業以外の将来の特定の活動の実施のために特別に支出する費用(事業費・管理費に計上されるもので、引当金の対象となるものは除く。)に係る支出に充てるために保有する資金である。当該事業年度における特定費用準備資金の積立額全額を費用額に算入し、取崩額全額を費用額から控除する(認定規則第31条第1項及び第2項)。特定費用準備資金として認められるための要件の内容は以下のとおりである(同条第3項)。
【特定費用準備資金の要件】
(ⅰ) 「資金の目的である活動(収益事業等又は公益法人の運営に係るものに限る)を行うことが見込まれること(認定規則第31条第3項第1号)」とは、活動の内容及び時期が費用として擬制できる程度に具体的なものであることを要する。法人において関連する事業をまとめて一の事業単位として経理を区分する際に、その事業単位で設定することも、その事業単位の中の個々の事業で設定することも可能である。活動時期が単年度である必要はないが、法人の規模、実績等に比して実現の見込みが低い事業や実施までに例えば10年の長期を超えるような事業は、積立て対象として適当ではない。繰越金、予備費等、将来の単なる備えとして積み立てる場合は本要件を満たさない。
(ⅱ) 「他の資金と明確に区分して管理されて(同項第2号)」おり、「目的である支出に充てる場合を除くほか、取り崩すことができないものであること又は当該場合以外の取崩しについて特別の手続が定められていること(同項第3号)」との関係において、特定費用準備資金は、各特定費用準備資金単位でどの事業に関する資金かが判別できる程度に具体性をもって、また相互の違いが明確になるよう適宜の名称を付した上(例:建物修繕費用準備資金、事務所移転費用準備資金など)、目的、取崩しの要件等を定めた貸借対照表の注記(資産及び負債の状況)上で表示されることを要する。また、実施時期が近づくことに伴う見積もりの精緻化や、事業環境の変化等を踏まえてその目的や性格が変わらない範囲での資金の見直しや事業の予期せざる損失への充当等を行うことは可能である。
(ⅲ) 特定費用準備資金について、合理的理由なく事業の実施時期を何度も延期し、実質的に同一の特定費用準備資金が残存し続けるような場合は、「正当な理由がないのに当該資金の目的である活動を行わない事実があった場合」(認定規則第31条第4項第3号)に該当し、資金は取崩しとなる。
【財務3基準での特定費用準備資金の効果について】
中期的収支均衡
公益目的事業比率・使途不特定財産額の保有の制限の上限額算定
収入額
影響なし(141 特定費用準備資金は、収益事業等又は法人運営に係る事業実施のために積み立てられるため、中期的収支均衡へは影響しない。)
取崩額
費用額
同上
積立額
第3 使途不特定財産額の保有の制限(認定法第16条)
(1) 使途不特定財産規制の趣旨
○ 公益法人は、公益目的事業を実施することを主たる目的とし、広く社会的なサポートを受けつつ活動する法人であるため、公益法人が保有する資産は、公益目的事業を始めとする当該法人の事業活動・法人運営に有効に活用されるべきであり、公益目的事業の実施とは関係なく財産が法人内部に過大に蓄積されること(死蔵)は適当ではない。一方、社会経済情勢の変化等に対応しつつ、安定した法人運営を継続するため、一定程度自由に使用・処分できる余裕財産を確保することは当然に必要である。このため、公益法人の保有する資産(ストック)について、現に使用されておらず、かつ引き続き使用されることが見込まれない財産を「使途不特定財産(142 令和6年改正法により、現に使用されておらず、かつ引き続き使用されることが見込まれない財産の名称が「遊休財産」から、当該財産の性質をより端的に表す「使途不特定財産」に変更された。)」と定義し、過分に使途不特定財産を保有することについて制限を設けるものである。
○ 具体的には、公益法人が保有する使途不特定財産の額が1年分の公益目的事業費相当額を超えてはならないこととしている。
○ 一般的には、1年分の公益事業費相当額の自由に使用・処分できる資産を保有していれば、社会環境・事業環境の変動にも対応可能と考えられるが、法人によっては、それでは、予見することが困難な事態(自然災害、パンデミック等)が発生した場合において安定的な法人運営に支障を来すことも考えられるため(現に我が国で令和2年に始まった新型コロナ感染症の拡大において、手元資金が不足し、不安定な事業運営を余儀なくされた法人があった。)、一定の要件を満たす「公益目的事業継続予備財産」(詳細後述)については、保有制限の対象となる「使途不特定財産額」の算定上控除できることとしている(143 新型コロナ感染症の拡大により、文化・芸術系の公演事業、国際交流・会議施設運営事業、外国人技能実習生の受入れ事業、病院事業など対価収入を主な収入源とし、事業を実施できない場合でも固定費がかかる法人を中心に、手元資金が不足するなどの課題が生じた。これを受け、令和6年改正法により、「公益目的事業継続予備財産」が措置された。)。
(2) 使途不特定財産額の算定
○ 各事業年度の使途不特定財産(公益目的事業その他の事業等に現に使用されておらず、かつ、引き続きこれらのために使用されることが見込まれない財産)の額は、法人が保有する全ての財産の額から、負債(基金を含む。)の額、使途が特定されている財産の額(控除対象財産の額(対応負債の額を除く))、公益目的事業継続予備財産の額を控除した額であり、具体的には、以下の計算式によって算定される(認定規則第36条第2項)。
使途不特定財産額=総資産額-(負債額+一般社団・財団法人法第131条の基金の額)-(控除対象財産の額-控除対象財産の対応負債額)-公益目的事業継続予備財産額
- 控除対象財産について
「公益目的事業その他の事業等に現に使用されておらず、かつ、引き続きこれらのために使用されることが見込まれない財産」(認定法第16条第2項)については、使途不特定財産となるところ、以下の財産については、「使用又は使用される見込みがある財産」であることから使途不特定財産に該当しない「控除対象財産」としている(認定規則第36条第3項)。これらの財産は、貸借対照表の注記や財産目録又は附属明細書に表示され、他の財産と区分される(144 令和6年会計基準では、「資産及び負債の状況」に関する注記(記載することにより財産目録とみなされる)、「使途拘束財産の内訳と増減額及び残高」に関する注記、「指定寄附資金の発生年度別残高及び使用見込み」に関する注記を記載することとされている。これらの注記において財産の区分を表示する際には、控除対象財産の区分を表示する(特定資産と表示する必要はない)。同会計基準に移行するまでの間、平成20年会計基準を適用する場合には、貸借対照表において基本財産又は特定資産として表示するとともに、財産目録において該当する資産ごとに控除対象財産の区分を記載する。)。
ア 公益目的保有財産(継続して公益目的事業の用に供する公益目的事業財産)
○ 公益目的事業に継続的に使用している公益目的事業財産(断続的であっても、長期にわたって継続して使用している場合は継続的に使用しているものとする)が該当する。複数年度にわたって保有し続けることが想定されており、固定資産(土地・建物等の実物資産のほか、運用目的の金融資産も含む。)が基本的に想定される。公益目的事業財産を支出することにより取得した固定資産であっても、公益目的事業の用に継続的に供されていない場合には、公益目的保有財産に含まれない。
○ 以下の財産は、公益目的保有財産に該当する。また、使用実態に鑑み法人が公益目的保有財産であることを表示した公益目的事業財産が該当する。
・ 不可欠特定財産(認定法第5条第19号、第18条第6号)
・ 定款に定めた基本財産(法人法第172条第2項)のうち、公益目的事業財産に該当するもの
・ 寄附等によって受け入れた財産で、交付者の定めた使途に従って公益目的事業に継続的に使用されている公益目的事業財産(145 令和6年改正前の認定規則第22条第3項第5号の財産(「交付者の定めに従って使用している財産」)と区分されていたもの)。
○ 運用目的の金融資産の場合は、原則として取り崩すことなく、その果実(配当金等の金銭)を継続的に公益目的事業の財源に充てることを目的として保有するものである必要がある(146 法人の財務状況等に照らし必要がある場合には、当該金融資産を取り崩すことが妨げられるものではない。)。
○ なお、果実が公益目的事業の財源として活用されていない場合には、公益目的事業の財源に充てることを目的として保有していると言えない。また、当該財産の果実は、継続して使用する性質のものではないため、公益目的保有財産には該当しない。継続的に使用されなくなった場合には、公益目的保有財産ではなくなることに留意する。
イ 法人活動保有財産(公益目的事業を行うために必要な収益事業等その他の業務や活動に継続的に使用している公益目的事業財産以外の財産)
○ 特定の使途に継続的に使用されている公益目的事業財産以外の財産(「継続的に使用」の考え方は、「公益目的保有財産」と同じ。)が該当する。公益目的事業財産以外の財産で、複数年度にわたって保有し続けることが想定されており、区分経理(147 「区分経理」については、第5章第4(2)区分経理を参照。以下区分経理について同様。)上は、収益事業等会計又は法人会計に計上された固定資産が基本的に想定される。
○ 以下の財産は、法人活動保有財産に該当する。また、使用実態に鑑み法人が法人活動保有財産であることを表示した財産が該当する。
・ 定款に定めた基本財産(法人法第172条第2項。公益目的事業財産を除く。)
・ 寄附等によって受け入れた財産で、交付者の定めた使途に従って特定の業務又は活動に継続的に使用されている財産(公益目的事業財産を除く。)(148 令和6年改正前の認定規則第22条第3項第5号の財産(「5号財産」)と区分されていたもの。)。
○ また、運用目的の金融資産の場合における、要件やその果実の取扱いについては「公益目的保有財産」と同じである。
○ 「その他の業務や活動」には公益目的事業のための業務や活動も含まれる。公益目的事業財産以外の財産で事実上継続的に公益目的事業に使用している財産(例えば、公益認定を受ける前に取得し公益目的事業財産としていない財産)についても、法人活動保有財産に該当する。このような財産は、法令上、公益目的事業以外の用途に使用することも可能であることから、法人活動保有財産と整理する(区分経理上は、収益事業等会計又は法人会計に計上される。)。
ウ 公益充実資金
詳細は【第1(3)参照】。
エ 資産取得資金(特定の法人活動保有財産の取得又は改良に充てるために保有する資金(149 公益目的保有財産の取得を目的とする場合は、公益充実資金として積み立てることとなる。なお、公益目的保有財産と法人活動保有財産の共用財産の取得等の場合は、使用割合等に応じて公益充実資金と資産取得資金の両方で積立てを行うこととなる。)。)
○ 特定の法人活動保有財産の取得又は改良に充てるため、法人の任意で積み立てる資金であり、区分経理上は、収益事業等会計又は法人会計に計上され、特定費用準備資金と同様の要件を充たす必要があり、特定費用準備資金の規定が準用される(認定規則第31条及び第36条第4項)。
○ 特定費用準備資金に関する規定の準用に関し、「資金の目的である財産を取得し、又は改良することが見込まれること」(読替え後の認定規則第31条第3項第1号)については、取得又は改良の対象とその時期が具体的なものであることを要する。取得又は改良の対象やその時期について、事業環境や財務状況等の変化を踏まえて変更することは可能である。減価償却引当資産は、対象が具体的であれば資産取得資金に該当する。
○ 「資金の目的である財産の取得又は改良に必要な最低額が合理的に算定されていること」(読替え後の同第4号)については、市場調達価格とする。
○ 資金について、合理的理由なく取得・改良の実施時期を何度も延期し、実質的に同一の資金が長期に渡り残存し続けるような場合は、「正当な理由がないのに当該資金の目的である財産を取得せず、又は改良しない事実があった場合」(同条第4項第3号)に該当し、資金は取崩しとなる。
オ 特定費用準備資金
詳細は【第2(3)⑥(ⅱ)イ参照】。
カ 指定寄附資金(寄附その他これに類する行為によって受け入れた財産であって、当該財産を交付した者の定めた使途に充てるために保有している資金(当該資金から生じた果実を除く。)
○ 寄附者等による使途の定めについては、公益目的事業のための寄附であれば、「公益目的事業に充てるためのもの」であることが明らかであればよい。寄附者等の意思によって、更に具体的な使途を指定すること(公1事業のため、公1事業の○○のため等)も可能。収益事業等のための寄附であれば、具体的な事業への使途指定が必要(複数の事業からなる収益事業等の場合は、収1事業の○○のため。単独の事業からなる場合は、収1事業のためで足りる。)。法人運営のための寄附の場合は、管理費のためといった指定が必要。寄附の目的が公益目的事業、収益事業等及び法人の運営にまたがる場合には、それぞれにどれだけの資金を充てるのか明らかにする必要がある。
○ 寄附者等による使途の定めに従って保有する資金(金銭、預金のほか有価証券等の金融資産を含む。)は、寄附者等による使途の定めに従い、公益目的事業若しくは収益事業等その他法人の業務又は活動に費消されるべく待機しているものであり、これらの使途に使用されることが見込まれる財産であることから、控除対象財産とするものである。
○ 当該財産自体を費消するのではなく、当該財産を継続的に運用しその果実を事業の財源として使用することを目的とする場合は、①公益目的保有財産(1号財産)又は②法人活動保有財産(2号財産)として整理する(果実を事業の財源として使用することを目的としつつ、事情に応じて当該財産を取り崩すことが想定される場合にも、1号財産又は2号財産として整理するものとする。)。
○ 指定寄附資金が控除対象財産として正当に位置付けられるためには、当該資金が相当の期間内に費消される見込みがあることが求められる。「相当の期間」については、交付者の意思、使途の内容、財産の規模等に応じて変わるものであり、一律に定めることはできないものの、長期に渡って使用されず、合理的な理由なく具体的な使用時期を明らかにできないような場合には、公益目的事業若しくは収益事業等その他法人の業務又は活動に費消されるべく待機しているとはいえない。使用見込みを明らかにするため、令和6年会計基準の損益計算書の注記(指定純資産のうち指定寄附資金の発生年度別残高及び支出見込み)においては、指定寄附資金の発生年度別残高及び使途目的計画を開示することとされた。当該資金が長期(目安としては取得後10年)にわたり使用されておらずその理由等が明らかでない場合、行政庁において報告徴収により説明を求めることがあり得る。
○ 指定寄附資金から派生して取得した果実は、寄附等により受け入れた財産そのものでないため、指定寄附資金には該当しない(150 令和6年改正前の認定規則第22条第3号第6号に基づき、新制度施行前に同号の財産に区分していた果実(相当の期間内に費消することが見込まれるもの)については、引き続き指定寄附資金に区分することができるが、同号の規定に基づき相当の期間内に費消する必要がある。)。
② 控除対象財産の対応負債額の算定
使途不特定財産額の算定上、負債が二重で減算されることがないよう、控除対象財産の額から控除対象財産に対応する負債の額を控除した後の額を総資産額から控除する必要がある。控除対象財産に対応する負債の額は、具体的には、以下のア又はイの計算式で算定される(認定規則第36条第7項又は第8項)。
ア 個別対応方式(認定規則第36条第7項)
○ 控除対象財産と個別の対応関係が明らかな負債をまず特定する。控除対象財産から、負債との個別の対応関係が明らかな額と指定純資産から充当される額とを控除した財産額の中には、資産の各科目との対応関係が明らかでない負債に係るものが含まれうるが、これを資産の各科目との対応関係が明らかでない負債の額と一般純資産額との割合に基づいて算出する。すなわち、対応負債額は
A各控除対象財産と個別対応する負債額+..控除対象財産額-A-指定純資産額..×B(負債額-引当金の額-各資産に対応する負債の合計額))(B+一般純資産額)
となる。
イ 簡便方式(認定規則第36条第8項)
○ 控除対象財産より、指定純資産から充当される額を控除した財産額の中には負債に係るものが含まれうるが、これを負債の額と一般純資産額との割合に基づいて算出する。すなわち、対応負債額は (控除対象財産額-指定純資産額)×A(負債額-引当金の額)(A+一般純資産額)となる。
③ 公益目的継続事業予備財産と法人の公表事項について
使途の定まっていない財産のうち災害その他の予見し難い事由が発生した場合においても公益目的事業を継続的に行うために必要な限度において保有する必要があるものとして認定規則に定める要件を満たす公益目的事業財産については、「公益目的事業継続予備財産」(以下「予備財産」という。)として、「使途不特定財産額」の保有制限の算定上控除することとしている。予備財産が必要な事情、必要な財産の額等は法人によって異なることから、一律にその保有目的や上限額等を定めることとはせず、法人において合理的に説明できる額の財産を保有できることとしている。上記第4(1)使途不特定財産規制の趣旨に反するような蓄財はあってはならず、また、法人の事業内容、事業環境等の事情変化によっては、予備財産が不要となることも想定されることから、継続的に説明責任を全うする必要がある。このため、予備財産を保有する法人は、毎事業年度の終了後、予備財産の額や保有する理由等について、財務諸表の附属明細書等において開示するとともに、インターネットその他適切な方法で自ら公表することとしている。これらの情報は、行政庁に提出することとされており、行政庁は、予備財産の必要性を継続的に確認する。
ア 法人の実情に鑑み資金を保有する必要性があること
○ 予備財産の要件として、第一に「当該公益法人の事業内容、資産及び収支の状況、災害その他の予見し難い事由の発生により想定される公益目的事業の継続が困難となる事態、当該事由が発生した場合においても公益目的事業を継続的に行うための平時の取組の状況その他の事情に鑑み、当該事由が発生した場合においても公益目的事業を継続的に行うための資金を保有する必要性があること」が規定されている(認定規則第35条第1号)。
・ 以下の(ⅰ)から(ⅳ)までの内容その他の要素に即して、社会通念に照らして合理的な必要性を説明できることが必要である。法人の事業内容や法人を取り巻く状況等は千差万別であり、予備財産を保有する必要性も多種多様である。予備財産は、法人の多種多様な事情に鑑みて災害等の予見し難い事由が発生した場合においても公益目的事業を継続的に行うために必要な財産であることから、当該事情を踏まえた必要性があることを要件とされている。以下の4つの観点に沿った説明がすべて必要なわけではなく、全体として、必要性が合理的に説明できれば、それで足りる。
(ⅰ) 公益法人の事業内容
法人の事業内容としては、研究事業、公演事業、助成事業など様々な類型があり、その事業内容・所在地等に応じてリスクは異なる。
(ⅱ) 資産及び収支の状況
保有資産の内容や収支の構造などに応じて、不測の事態における課題は異なる。
例えば、「収入のほとんどを事業の対価収入が占めており、事業を実施できない場合、収入が途絶える」「事業を実施するために必須となる高額な機材がある」などの事情が想定される。
(ⅲ) 災害その他の予見し難い事由の発生により想定される公益目的事業の継続が困難となる事態
予見し難い事由としては、暴風や豪雨、地震等の自然災害、原子力事故等の大規模事故、感染症のまん延、紛争、国際情勢の変化に伴う経営環境の変化などが想定され得る。「予見し難い事由」とは、事由の発生が全く予想できないという意味合いではなく、その発生時期や規模、態様等が予見し難いという意味合いとして用いている。このため、予見し難い事由の規模、種類、態様等について、詳細・網羅的な想定を用意する必要はないが、「予見し難い事由」(151 「予見し難い事由」は網羅的に挙げる必要がないことに留意する。予備財産の使用については、公益目的事業のために使用し、処分しなければならないという以外の制限はなく、例えば、地震に備えるために必要としていた予備財産を、洪水被害からの復旧に使用することに問題はない。また、予備財産として確保していた財産を、法人の事情変更等により、通常の公益目的事業のために費消等することも想定される。)の発生によりどのような事態が生じるか、一定程度、合理的な説明がなされる必要がある。
例えば、自然災害については、自治体等が提供するハザードマップを参考に被害を予測することが考えられるほか、感染症について過去の事例(海外の事例を含む。)を参考にするなどが考えられる。
(ⅳ) 不測の事態に備えた平時の取組
(ⅲ)で想定する事態に備えて、法人の財務状況等に照らし可能な範囲で、防災の取組、パンデミック等を想定した投資、資産に対する保険などを行うことが考えられる。平時の取組にはコストがかかることに留意し、法人の財務状況等に照らして負担にならない範囲で対応を行っていれば足りるものとする。なお、事業規模等に照らして多額の予備財産を保有している場合には、「事業継続マネジメント(152 緊急事態においても、重要事業を中断させない、中断しても早期復旧できるようにするための、平時からのマネジメント活動のことであり、「事業継続計画」の策定等が当たる。)」等の緊急事態が発生した場合のリスクに対する計画的な取組みを行うことが求められる。
(その他の事情)
その他当該法人の固有の事情があればそれを考慮する。
イ 予備財産の限度額が算定されていること
○ 予備財産の要件として、第二に「前号(上記アの要件)に規定する必要性に基づき、前号に規定する事由が発生した場合においても、公益目的事業を継続的に行うために必要な限度額が算定されていること」が規定されている(認定規則第35条第2号)(153 なお、予備財産の要件でありながら、予備財産自体の額でなく限度額としているのは、限度額については必然性に基づく説明が可能である一方、予備財産の額は、限度額と公益目的事業会計に属する「使途が特定されていない財産」額から決算の結果として算定される額であり、要件としては前者が相応しいからである。)。
○ 災害等の予見し難い事由の継続期間や規模の大きさ等を独自に想定し、必要となる資産の額(限度額)を厳格に算定することは困難であるため、上記第一の必要性と公的機関等における各種検討結果・研究内容、過去に発生した類似の事例を基に、法人の平時の取組で容易に抑制できる部分については、そうした取組を前提として限度額を算定する。必ずしも厳密な積算を求めるものではなく、社会通念に照らして不合理でない程度の説明があれば足りるものとする。
◎ 高額な機器で研究を行う法人が(ⅰ)(ⅱ)、地震による機器の破損(ⅲ)に備えて、予め緊急時においても研究機器の調達が可能な調達先(首都直下地震を想定している場合は、首都圏外の調達先を探す)を確保(ⅳ)しておき、その再調達価格分を予備財産の限度額として算定
◎ 演奏会を行う法人が、(ⅰ)、感染症のまん延による演奏会の開催中止(ⅲ)及び中止期間の固定費の支払い(ⅱ)に備えて、予め演奏会事業停止時の縮小体制計画を作成(ⅳ)し、当該体制の下で、一定期間最低限の事業活動を維持するための固定費分を予備財産の限度額として算定
といった説明が考えられる。
ウ 予備財産額が限度額を超過していないこと
予備財産の要件として、第三に、予備財産額が限度額を超えていないことが求められる。予備財産は、法令上、使途が特定されていない公益目的事業財産であることから、予備財産額は公益目的事業会計上の使途が特定されていない財産の額(対応する負債の額を除く)を上回ることはない。区分経理を行っていない法人の場合、公益目的事業財産等を全て公益目的事業のために使用等する必要があることから、予備財産については、当該法人が保有する全ての使途が特定されていない財産の額(対応する負債の額を除く)を超えないことを要件としている(認定規則第35条第3号)。
(3) 使途不特定財産の保有上限額の算定等
① 保有上限額の算定方法<原則>(認定規則第34条第1項)
○ 使途不特定財産額の保有上限額となる「1年分の公益目的事業相当額」は、原則として、前事業年度までの過去5年間の各事業年度の公益事業費相当額の平均額としている(154 令和6年改正前は当該事業年度の公益目的事業費相当額を上限額としていたが、各事業年度の公益事業費相当額は事業年度の末日まで確定せず、当該事業年度の公益事業費相当額を算定の基礎に含めた場合、保有上限額の予見可能性が低くなるため、過去5年間の数値を用いることとしている。)。5年分の平均とするのは、単年度の数値だけで保有上限額を決定した場合、突発的に公益事業目的事業費が急激に減少すると、保有上限額も急変し安定性に欠けるためである(155 他方、あまりに長期間の数値で上限額を決定した場合には、法人の現在の事業規模から乖離した数値になることを踏まえ5年間としている。)。
○ 具体的には、以下の計算式のとおり。
ⅰ 保有上限額=各事業年度のⅱの額の合計額事業年度数
ⅱ 各事業年度の公益目的事業費相当額(※1)=Aの合計額-Bの合計額
A=「損益計算書に計上すべき公益目的事業費」+「商品製品譲渡時の原価額」+「公益充実資金の積立額(資産取得等に係る部分を除く。計算方法は、第2 (3)⑥ア(ⅰ)の費用額算入の算定式に同じ。)」
B=「引当金の取崩額」+「財産譲渡時の損失、評価損、運用損失(※2)」+「公益充実資金の取崩額(資産取得等に充てた額を除く)」
(※1)期間が1年でない事業年度については、「Aの合計額-Bの合計額」を事業年度の月数で割って12を掛けた額とする
(※2)損益計算書に計上する公益目的事業費にこれらが含まれる場合に限る
② 保有上限額の算定方法<特例>(認定規則第34条第2項)
○ 公益目的事業が急速に拡大しているような場合、上記①の算定方法によれば、法人の現在の事業規模に応じた財産を確保できない事態も生じ得る。このため、当該事業年度又は前事業年度の数値を基礎とした方が、公益目的事業の規模を測る指標として合理的である場合、保有上限額を以下の計算式で算定することができることとする。
保有上限額=当該事業年度又は前事業年度の上記Aの合計額-当該事業年度又は前事業年度のBの合計額
○ この算定方法を採用する場合、法人の意思決定で原則よりも保有上限額を高くすることから、その事情が対外的にも明らかになるよう、その事情(合理的な理由)について財務諸表の附属明細書等において開示しなければならない。
③ 保有上限額の算定における調整(移行期間・過去の実績に関する調整)
保有上限額は、公益法人としての過去の事業活動の実績値を基礎に算定するが、過去5年間の全部又は一部の実績がない場合があることから、以下に掲げる場合に応じて、それぞれ調整を行う。
ア 公益法人としての活動実績が5年以上ある法人
○ 過去5年間における各事業年度の数値を基礎に上限額を算定する。
○ 令和6年の制度改革前の旧制度の下では、各事業年度の公益目的事業費等から当該事業年度の保有上限額(1年分の公益目的事業費相当額)を算定していたことから(156 令和6年改正法により、公益目的事業費相当額の算定に関係する制度に変更はあったが(「公益充実資金」の創設)、公益目的事業費相当額の算定において用いる数値の考え方に変更はないことから、新制度における算定の基礎に含めることとしている。)、新制度施行から5年が経過するまでの間は、旧制度下で算定した各事業年度の公益目的事業費相当額も含め、過去5年間における各事業年度の数値を基礎に上限額を算定する。
(例)令和9年度(新制度施行から2年経過後)における上限額算定は、令和4年度から令和6年度までの各事業年度に旧制度で算定した公益目的事業費相当額+令和7年度及び8年度に新制度で算定した各事業年度の公益目的事業費相当額の平均額となる。
イ 公益法人としての活動実績が5年に満たない法人
○ 公益法人として5年間の活動実績がない場合は、公益法人としての活動実績がある分(旧制度下で算定した各事業年度の公益目的事業費相当額を含む。)について、上記ア同様に上限額算定の基礎とする。
(例)令和6年度に認定を受けた法人の令和8年度における上限額算定は、令和6年度に旧制度下で算定した公益目的事業費相当額+令和7年度に新制度で算定した公益目的事業費額相当額の平均額とする。
○ なお、公益認定を受けた最初の事業年度(認定を受けた日の属する事業年度)においては、算定の基礎となる公益法人としての活動実績が存在しないため、当該事業年度は当該事業年度の公益目的事業費相当額を保有上限額とする。公益認定を受けた日の属する事業年度の翌事業年度以降は、算定の基礎となる公益法人としての活動実績が蓄積されることから、その数値の平均額を上限額とする。
(例)算定の基礎となる公益事業費額は、
・公益認定の翌事業年度…前事業年度分(認定された年度)
・公益認定の翌々事業年度…前々事業年度分(認定された年度)
+前事業年度分(認定された翌年度)
と、5年分以内で増えていくことになる。
(4)公益認定申請時の確認(認定法第5条第9号)
公益認定申請時には、認定法第7条第2項第2号により提出する収支予算書の対象事業年度に係る見込額及び認定規則第7条第3項第3号の書類(認定法第5条各号に掲げる基準に適合することを説明した書類)を基に、使途不特定財産規制に適合することが見込まれるものかを審査する(認定法第5条第9号)。
第4 公益目的事業財産、公益目的取得財産残額及び区分経理(第18条、第19条及び第30条並びに認定規則第39条から第43条まで及び第65条から第70条まで)
(1) 公益目的事業財産(認定法第18条及び認定規則第41条)
① 公益目的事業財産(区分経理を行う法人)
○ 認定法第18条においては、公益法人が保有する財産のうち、以下の財産を「公益目的事業財産」として、内閣府令で定める正当な理由がある場合(③参照)を除き、公益目的事業のために使用又は処分しなければならないことを義務付けている。
○ 下記アからエまで及びカは、公益法人が公益認定を受けた日以後に、公益目的事業のために取得した財産、オは、公益法人が公益目的事業を行うために不可欠なものとしてその維持及び処分の制限について定款で定めた財産でありキは公益認定を受けた日以後に、法人が自らの意思で公益目的事業財産とした財産であり、クはこれらの財産から派生した財産についても公益目的事業財産とするものである。合併法人及び特例民法法人から移行認定を受けた法人については、これらの原則に加え、ケ又はサの調整を行うものである。
○ 公益目的事業財産は、公益法人の会計基準に従い、公益目的事業会計に計上することとなる。
○ 法人が寄附等で取得した財産の一部について公益目的事業以外への使用が定められている場合も含まれる。下記ア及びイの「公益目的事業以外のためのもの」については、公益目的事業以外への使用が明らかであれば足り、使途が個別具体的に定められている必要はないが、一部を公益目的事業以外のために使用する旨を定める場合には、「一部」について具体性をもって定められる必要がある。
ア 公益認定を受けた日以後に寄附を受けた財産(認定法第18条第1号)
(公益目的事業以外のためのものを除く)
イ 公益認定を受けた日以後に交付を受けた補助金その他の財産(同条第2号)
(公益目的事業以外のためのものを除く)
ウ 公益認定を受けた日以後に行った公益目的事業に係る活動の対価として得た財産(同条第3号)
エ 公益認定を受けた日以後に行った収益事業等から生じた収益の2分の1(同条第4号)
公益法人は、公益目的事業を実施することを主たる目的とする法人であり、公益法人が行う収益事業等は、公益目的事業を行うための収入を確保する一つの方法として、付随的に行われるものであることから、収益事業等からの収益の半分は公益目的事業として使用することが求められる。
オ 不可欠特定財産(上記ア~エを除く)(同条第6号)
カ 公益認定を受けた日以後に徴収した経費(社団法人の会費(一般法人法第27条))のうち、その徴収に当たり使途が定められていないものの額の2分の1又はその徴収に当たり公益目的事業に使用すべき旨が定められているものの額に相当する財産(同条第8号及び認定規則第41条第1号)
○ 経費徴収の根拠は定款の定めに基づくことが必要であるが、具体的な使途については理事会決議に基づく内部規程(細則)に委任することが可能である。会費についての細則は、公益認定申請に当たって添付する必要がある(第3章第1(2)ア(ⅰ)参照)
○ 社団法人において、会員の中から選挙によって選ばれた者のみを社員とする場合の社員以外の会員が支払う会費は、社員から徴収する経費に準じて公益目的事業財産の額を計算する。返還を予定しない入会金についても同様である。
○ 公益目的事業以外に使途が定められているものは公益目的事業財産にならないが、徴収に当たっての、例えば、「法人の運営に充てるため」のような一般的な定めは、「徴収に当たり使途が定められていないもの」とする。
○ なお、公益財団法人等の会員や賛助会員が払う会費(実質的に対価その他の事業に係る収入と認められるものを除く。)は、一般的には、社団法人の社員が社員たる資格に伴って定款で定めるところにより支払う会費とは性格が異なり、認定法上は基本的には寄附を受けた財産に該当するものと考えられる。
キ 公益認定を受けた日以後に公益目的事業財産以外の財産で公益目的事業会計に計上した財産(認定法第18条第7号及び認定規則第40条)
・ 認定法第18条第7号の内閣府令で定める方法は、財産目録、貸借対照表又はその附属明細書において、財産の勘定科目をその他の財産の勘定科目と区分して表示する方法とされているところ(認定規則第40条)、財産を財産目録又は貸借対照表等における公益目的事業会計に計上することをもって、公益目的事業財産となる。
したがって、収益事業等会計又は法人会計の財産を公益目的事業会計に移動させた場合、当該財産は公益目的事業財産となる。
・ 公益目的事業財産以外の財産を公益目的事業に費消等する場合、その費消等は公益目的事業会計に計上されるため、公益目的事業財産となった後に、公益目的事業に費消等されたこととなる。これは、公益法人は、公益目的事業を行うことを主たる目的としており(認定法第5条第1号)、その資源を最大限活用して公益目的事業を実施する法人であることを踏まえた取扱いである。なお、他会計から公益目的事業会計が借入を行う場合は、公益目的事業会計に負債が計上されるが、公益目的事業財産から他会計への債務の返済が認められる場合には制限が設けられている(認定規則第38条第2号。③イ参照)。
ク 上記アからキまでの財産を運用し、支出し、又は処分することにより取得した財産(認定法第18条第5号及び認定規則第41条第4号)
・ 当該財産から更に派生した財産についても含まれる。
・ 「処分」には、公益目的事業財産である財産の全部又は一部を公益目的事業財産以外の財産とする場合(公益目的事業以外に使用する財産に位置付けを改める場合、当該財産の公益目的事業への使用割合を減少させる場合など)も含まれる。この場合には、公益目的事業財産以外の財産とした財産に相当する額を「処分することにより取得した財産」として公益目的事業会計に振り替え、公益目的事業財産の額を維持する必要がある。
ケ 吸収合併により他の公益法人の権利義務を承継した法人については、上記アからクまでに加え、当該他の公益法人の公益目的事業財産であった財産(認定規則第41条第3号)。
コ 新設合併契約により成立した他の公益法人の権利義務を承継した新設法人については、上記アからクまでに加え、他の公益法人の公益法人の公益目的事業財産であった財産(認定規則第41条第3号)。
サ 特例民法法人から移行認定を受けて公益法人となった法人については、移行時において
一)公益目的事業の用に供する財産
二)公的目的事業のための財産の取得又は改良のために保有する財産
三)その他公益目的事業に充てるために保有する資金(認定規則附則第2項)。
なお、当該法人については、認定規則第41条第4号が読み替えて適用されており(認定規則附則第3項)上記一)~三)の財産を運用し、支出し又は処分することにより取得した財産についても公益目的事業財産となる。
② 公益目的事業財産等(区分経理を行わない法人)
○ 収益事業等を行わない法人は、一定の要件を満たせば区分経理を行わないことができるが(第4(2)③)、その場合、法人が保有する公益目的事業財産が財務諸表において明らかとなっていないことから、明らかに公益目的事業財産に該当しない「法人の運営を行うために必要な財産として内閣府令で定めるもの」を除き、全ての財産を公益目的事業のために使用又は処分しなければならない(認定法第19条第2項で読み換えて適用する認定法第18条)。当該財産は「公益目的事業財産等」として、公益目的取得財産残額の算定の基礎にもなる(認定法第19条第2項。第4(3)③イ参照))。
○ 「法人の運営を行うために必要な財産として内閣府令で定めるもの」は、その使途が法人の運営のためと特定され、かつ、他の財産と区別された財産であり、使途不特定財産の保有規制における控除対象財産(認定規則第36条第3項各号)のうち、法人活動保有財産、資産取得資金、特定費用準備資金及び指定寄附資金(法人活動保有財産及び指定寄附資金にあっては、公益目的事業の用に供するものを除く。)が該当する(認定規則第44条)。これらの財産は、仮に区分経理を行う場合、いずれも法人会計に帰属する財産であるが、区分経理を行わない場合であっても、貸借対照表の注記や財産目録又は附属明細書に表示する必要があるものであるため、特定可能な財産である。
③ 内閣府令で定める正当な理由
公益目的事業財産を公益目的事業以外のために使用、又は処分することができる正当な理由として以下の場合が認められる。
ア 収益事業等を行わない法人が、日々の法人運営に充てる運転資金として、法人の運営を行うために必要な財産以外に財源が必要な場合(規則第38条第1号)
○ 適正な費用に限り、財源の不足を補うために必要な限度において、公益目的事業財産を支出することが可能。
○ 公益目的事業財産を支出可能な範囲については、法人会計上の資金を管理費に充て、なお資金が不足する場合に、その不足を補うために必要な限度において可能となる。
(ⅰ) 区分経理を行う法人においては、法人会計上に使途不特定財産がある場合には、当該財産を管理費の財源とすべきだが、法人会計上の法人活動保有財産は、当該財産を処分し財源に充てた場合、かえって継続的な公益目的事業の継続が妨げられることから、原則、不足額の算定上考慮しない。
(ⅱ) 区分経理を行わない法人においては、上記の法人の運営を行うために必要な財産やそこから生じた果実を管理費に充て、なお資金が不足している場合に限り、その不足額とする。(ⅰ)の場合と同様に、法人活動保有財産については、原則、不足額の算定上考慮しない。
管理費に割り振る収益は、法人会計の収益に直接計上する(中期的収支均衡の判定(認定法第14条)においても公益目的事業に関する収入からは除かれることとなる。)。
イ 公益目的事業財産に係る債務を返済する場合(同条第2号及び第3号)(157 特例区分経理(後述)の法人は除く)
○ 法人内部の公益目的事業会計への他会計からの債務の返済については、以下の場合において、財産目録又は貸借対照の注記に適切な表示が行われているものに限り、返済が認められる。第4(1)①キのとおり、公益目的事業財産以外の財産を公益目的事業のために費消等する場合、当該財産は公益目的事業財産となるが、以下の場合については、他会計から公益目的事業会計へ財産を貸借したものとして取り扱われ、その返済は公益目的事業財産を減少させる正当な理由として認められる。
(ⅰ) 公益目的事業の一時的な資金不足
区分経理をする法人において、短期的な資金繰りを目的として他会計の資金を一時的に公益目的事業に費消する場合。例えば、公益目的事業会計上に「短期他会計借入金」といった一年以内に返済される見込みのある勘定科目で負債を計上することが必要となる。なお、短期他会計借入と計上したのにもかかわらず、翌期決算時においても引き続き債務の返済ができていない場合は、返済が認められず、また、公益目的取得財産残額の算定において負債として考慮されない(認定規則第66条第3号)。
(ⅱ) 資金不足により公益目的事業を継続することが困難な場合
資金不足により、公益目的事業の継続が困難な場合にあって、本来、公益目的事業以外に使途が定められている法人活動保有財産、資産取得資金、特定費用準備資金又は指定寄附資金を財源に資金不足を補う場合。例えば、公益目的事業会計上に「長期他会計借入金」といった勘定科目で負債を計上するとともに、貸借対照表の注記((1)会計区分別内訳)に、資金不足の状況など借入の理由、借入の財源・金額を記載する必要がある。なお、公益目的事業の資金不足がないのにもかかわらず公益目的事業会計に繰り入れた場合、法人活動保有財産等の要件を満たさない財産を財源とした場合、注記において適切な表記がなされていない場合等には、返済が認められず、また、公益目的取得財産残額の算定においても負債として考慮されない(認定規則第66条第3号)。
○ なお、公益目的事業を継続するための資金不足が恒常的な場合には、当該法人の経理的基礎が疑われる可能性がある。
ウ 善管注意義務を払ったのにもかかわらず財産が滅失又はき損した場合(同条第4号)
エ 財産が陳腐化、不適応化その他の理由によりその価値を減じ、当該財産を廃棄することが相当な場合(同条第5号)
オ 国等(認定法第五条第二十号に規定する者)からの補助金その他国等が反対給付を受けないで交付した財産(特定の公益目的事業を行うために使用すべき旨を定めて交付したものに限る。)の全部又は一部に相当する額の財産を、当該公益目的事業の終了その他の事由により、当該公益目的事業のために使用する見込みがないことを理由に、当該国等に対して返還する場合(同条第6号)
(2) 区分経理(認定法第19条及び認定規則第42条及び第43条)
○ 公益法人を含む一般社団・財団法人の会計については、その行う事業に応じて、一般に公正妥当と認められる会計の慣行に従うとされているところ(法人法第119条及び第199条)、公益法人については、更に、一般に公正妥当と認められる公益法人の会計の基準その他の公益法人の会計の慣行を斟酌しなければならない(認定規則第14条)とされており、令和6年会計基準に従って会計を処理することが求められる。
○ なお、公益法人は、令和7年4月1日以降に開始する事業年度から令和6年会計基準が適用され、3年間の移行期間の後、令和10年4月1日以降に開始する事業年度からは、全ての公益法人が同会計基準に従って会計を処理することが求められる。それまでの間は、引き続き従前の公益法人会計基準(平成20年会計基準)によることができる(本ガイドラインでは、会計基準については特に記載のない限り令和6年会計基準の適用を前提としているが、必要に応じて、平成20年会計基準を適用する場合の取扱いについても記載している。)。
○ 公益法人が作成すべき会計関係の書類としては、貸借対照表及び損益計算書並びにそれらの附属明細書(一般法人法第123条第2項及び第199条)、財産目録(認定法第21条第2項第1号)及びキャッシュ・フロー計算書(158 キャッシュ・フロー計算書については、認定法第5条第14号の規定により会計監査人を設置しなければならない法人にのみ作成義務がある。)(認定法第21条第2項第4号及び認定規則第46条第1号)がある。
○ また、関連して、収支予算書(認定法第21条第1項及び認定規則第45条第2号)を作成する必要があり、これらの書類(キャッシュ・フロー計算書を除く)について経理を区分する必要がある(認定規則第48条)。
○ 貸借対照表において必要な情報が表示されている場合は、当該表示をもって財産目録とみなすことができるとされている(認定規則第49条第6項)。令和6年会計基準においては、「資産及び債務の状況」に関する注記として、財産目録に記載すべき事項と同様の情報を記載することとされており、当該注記の記載がある場合は、別途、財産目録を作成する必要はない。この場合における、財産目録に係る定時社員総会・定時評議員会等の承認手続(認定規則第51条)については、当該注記のある計算書類の承認をもって財産目録に係る承認がなされたものと整理される。
① 区分経理の趣旨
○ 制定時の認定法においても、公益目的事業と収益事業等の事業活動の実態を確認できるようにするとともに、収益事業等から生じた収益が公益目的事業に活用されることを確保するため、収益事業等に係る会計については、公益目的事業に関する会計から区分して特別の会計として整理すべきことが定められていた。
○ 令和6年の制度改正においては、公益法人の柔軟・迅速な公益的活動の展開を可能とする財務規律の柔軟化や行政手続の簡素化・合理化を進めることに伴い、公益法人自らがその事業運営について一層の説明責任を果たしていくことが求められることから、分かりやすい財務情報の開示を図るため、原則として全ての法人について、区分経理が義務付けられた。
○ これにより、公益目的事業と収益事業等の事業活動をフロー面で確認(公益目的事業比率や中期的収支均衡の算定にも利用)できるだけでなく、法人が保有する公益目的事業への使用が義務付けられる財産(公益目的事業財産)が明確になり、公益法人の財務状況の透明性が一層高まるとともに、公益目的取得財産残額の算定も容易になる。
② 区分経理の方法(認定規則第42条等)
○ 公益法人は、貸借対照表及び損益計算書について、公益目的事業に係る経理(公益目的事業会計)、収益事業等に係る経理(収益事業等会計)及び法人の運営に係る経理(法人会計)の各経理単位の内訳の表示を行うとともに、損益計算書の各経理単位の内訳について、複数の公益目的事業又は収益事業等を行う場合は、各事業ごとの内訳の表示を行わなければならない(各経理単位の内訳表示及び各事業単位の内訳表示を以下「区分経理」とする。)。
○ 各事業ごとの内訳は、公益目的事業については、公益認定を受けている事業単位(「公1」「公2」…)、収益事業等については、法人で設定している事業単位(「収1」「収2」…、「他1」「他2」…)とする(159 「収益事業」とは、一般的に利益を上げることを事業の性格とする事業である。「その他の事業」には、法人の構成員を対象として行う相互扶助等の事業が含まれる。例えば、構成員から共済掛金の支払を受け、共済事故の発生に関し、共済金を交付する事業、構成員相互の親睦を深めたり、連絡や情報交換を行ったりなど構成員に共通する利益を図る事業などはその他の事業である。)。
○ 当該内訳情報は、公益法人の会計基準に従い(160 令和6年会計基準においては、貸借対照表の注記として「会計区分別内訳」を記載するとともに、活動計算書の注記として「会計区分及び事業区分別内訳」及び「指定純資産の内訳」を記載することとされている。なお、平成20年会計基準を引き続き適用する場合は、貸借対照表内訳表及び正味財産増減計算書内訳表を作成する必要がある。ただし、令和10年3月31日までに開始する事業年度までは、「特例区分経理」(後述)の適用が可能である。)、財務諸表の注記(6.貸借対照表の注記
(1) 会計区分別内訳及び18.活動計算書の注記(2)会計区分及び事業区分別内訳)において表示することとし、初めて区分経理を行う公益法人は、公益法人の会計基準に基づき、保有する財産を帰属する会計区分に適切に仕分けする必要がある。
○ なお、複数の会計区分にまたがって支出される費用は、適正な基準によりそれぞれ会計区分の費用額に配賦しなければならないが、配賦が困難な費用(共通費用)については、公益目的事業と収益事業等とに関連する費用は収益事業等の費用として、公益目的事業又は収益事業等と法人の運営に係る費用に関連する費用は法人の運営に係る費用として経理することができる(認定規則第32条)。また、複数の公益目的事業又は収益事業等を行う場合において、各事業ごとに配賦することが困難な場合は、公益目的事業又は収益事業等に係る経理において、共通収益及び費用として表示することができる(認定規則第42条第2項ただし書)(161 損益計算書における費用配賦の結果は貸借対照表にも反映されることに留意が必要。)。
○ なお、令和6年改正法の施行(令和7年4月1日)から3年が経過するまでの間(令和10年3月31日まで)に開始する事業年度においては、認定第19条第1項の規定の適用(収益事業等の収益の50%超を繰り入れ)を受ける法人以外の法人においては、貸借対照表の経理単位の内訳の表示を省略することができる(認定規則第42条第3項。以下「特例区分経理(162 経過措置として、新制度施行後3年間は旧制度の規定(ガイドライン等)で義務付けられている方法と同様の経理方法を可能とするもの。)」という。)。特別区分経理をする法人は、財産目録及び収支予算書の区分も不要である(認定規則附則第9項)。一方、区分経理を前提とした新たな制度(公益目的取得財産残額の算定、公益目的事業財産を公益目的事業以外に使用等できる場合)については、適用されず、従前どおり毎事業年度の公益目的取得財産残額に準ずる額の算定(定期提出書類の別表Hの作成)の必要がある。
③ 区分経理を行わないことができる公益法人の要件(認定規則第43条)
小規模法人の負担等に配慮し、収益事業等を行わない公益法人であって、各公益目的事業ごとの内訳を損益計算書に表示している場合(単一の公益目的事業のみを行う法人の場合、損益計算書の作成をもって当該要件は当然に満たす)には、区分経理を行わないことが出来ることとしている。この場合には、法人運営を行うために必要な財産以外の財産を、全て、公益目的事業のために使用等しなければならないとされている(第4(1)②参照)。
(3) 公益目的取得財産残額(認定法第30条及び認定規則第65条から第70条まで)
○ 公益目的取得財産残額は、公益法人が取得したすべての公益目的事業財産から、公益目的事業を行うために費消等した公益目的事業財産などを控除して得た額を指しており、ある時点における公益目的事業財産の額を把握できていれば、これを基礎として公益目的取得財産残額の把握も可能である。
しかし、旧制度においては、一部の法人を除き、公益目的事業財産とそれ以外の財産を明確に区別するようになっておらず、公益法人がある時点で保有する公益目的事業財産の合計額は明らかではなかった。そのため、各事業年度における公益目的事業財産の増加と減少から公益目的増減差額を算定し、当該額と各事業年度の末日における公益目的保有財産の帳簿価格の合計額を公益目的取得財産残額に準ずる額として算定することとしていた。
○ 令和6年の制度改正により、公益法人の作成する貸借対照表について、公益目的事業会計、収益事業等会計及び法人会計の各経理単位の内訳を表示することを義務付けることで、貸借対照表の公益目的事業会計の部分において、公益法人が各事業年度末において保有する公益目的事業財産の合計額が表示されることとなった。これを踏まえ、公益目的取得財産残額の算定方法が公益目的事業会計の純資産額を基礎に算定する方法に改められた。
① 公益目的取得財産残額の贈与
公益認定の取消し等の場合(163 公益法人でなくなる合併の届出をする場合(法第24条第1項第1号(権利義務を承継する法人が公益法人である合併に係るものを除く。)又公益認定の取消を申請する場合(認定法第29条第1項第4号)。)には、公益認定取り消し等となった法人(以下「認定取消法人等」という。)は、認定法第5条第20号に規定する定款の定めに従い、公益目的取得財産残額に相当する額の財産を国等に贈与する必要がある。取り消し等の日から1か月以内に贈与契約が成立しないときは、当該認定取消法人等を所管する国又は都道府県が当該残額に相当する額の金額について、贈与を受ける旨の書面による契約が成立したものとみなすこととされている。
- 認定取消し等の場合の手続(公益目的取得財産残額関係)
ア 行政庁に対し、公益法人でなくなる合併の届出をする場合(認定法第24条第1項第1号(権利義務を承継する法人が公益法人である合併に係るものを除く。)又公益認定の取消を申請する場合(認定法第29条第1項第4号)には、公益目的取得財産残額の見込額(見込額の算定方法はウ参照)及びその算定の根拠を記載した書類を添付しなければならない。なお、行政庁が法人からの自発的な申請によらず公益認定の取消をする場合には、公益認定取消となる法人に対し公益目的取得財産残額の見込額を通知する。
イ 行政庁は、上記アの添付書類の見込額を精査し、贈与すべき公益目的取得財産残額が適切に算定されていない場合には、その額を増額し又は減額する。
ウ 認定取消法人等は、上記ア又はイの公益目的取得財産残額の見込額と公益認定の取消し等の日(合併の前日又は公益認定取消の日。以下同じ。)における公益目的取得財産残額(実際に贈与する必要がある額。当該公益認定の取消し等の日における下記③の方法で算定した額)が異なるときには、取消し等の日から3ヶ月以内に様式第12号に両者の変動の明細を記載した書類を添付して行政庁に提出しなければならない。
エ 認定取消法人等は、取消し等の日から1月以内に認定法第5条第20号に規定する定款の定めに従い、公益目的取得財産残額に相当する額の財産の贈与契約が成立したときは、取消し等の日から3月以内に、様式第13号による報告書を行政庁に提出しなければならない。その際、各契約に係る契約書の写し、贈与の相手方が公益法人、国又は地方公共団体以外の場合、相手方が贈与対象として認められる法人であることを証する書類を併せて提出しなければならない。
オ 認定取消法人等から、取消し等の日から3月以内に、上記エの行政庁に対する報告書の提出がない場合は、当該贈与契約は成立しなかったものとみなされる。この場合、認定取消法人等から、内閣総理大臣が行政庁である場合にあっては国、都道府県知事が行政庁である場合にあっては当該都道府県に対する公益目的取得財産残額に相当する額の財産の贈与契約が成立したものとみなされる。行政庁はその旨を認定取消法人等に通知する(認定法第30条第4項)。この通知をもって、国(又は都道府県)は認定取消法人等に対し、みなし贈与契約に基づく債権を取得する。
③ 公益目的取得財産残額の算定
ア 区分経理を行う法人の場合
○ 区分経理を行う法人の場合、公益目的取得財産残額の見込額は、認定取消し申請等を行った時点で行政庁に提出されている直近の事業年度の財産目録等における貸借対照表の区分経理情報を基に、((ⅰ)+(ⅱ))-((ⅲ)+(ⅳ)+(ⅴ))で算定する((ⅱ)及び(ⅴ)は該当する場合のみ。)。見込額が零未満となる場合は、零とする。
○ 見込額は、前事業年度の末日の数値で算定するため、公益認定の取消し等の日までの間の変動を反映した額が公益目的取得財産残額となる。
(ⅰ) 「公益目的事業会計の資産の額」から「同会計の債務(164 公益目的事業会計が収益事業等会計又は法人会計に対して有する債務については、上記【第4(1)①キ】の表示が適切になされている債務に限り控除が可能)の額」を控除した額
(ⅱ) 公益目的事業財産のうち次の資産(以下「時価評価資産」という。)について時価評価し、帳簿価額を超える場合のその超える部分の額
・ 土地又は土地の上に存する権利
・ 有価証券
・ 書画、骨とう、生物その他の資産のうち最終提出事業年度の末日における帳簿価額と時価との差額が著しく多額である資産
(ⅲ) 不可欠特定財産の額(時価評価資産に該当する場合は(ⅱ)又は(ⅴ)により加減算した額)
から、当該不可欠特定財産に対応する負債を除いた額
(ⅳ) 基金(一般法人法第131条に規定する基金)の額
(ⅴ) 時価評価資産について時価評価し、帳簿価額を下回る場合のその下回る部分の額
(時価評価資産の時価評価の算定について)
公益目的取得財産残額の算定に必要な資産の評価に当たっては、過大な費用をかけることは適当でないと考えられ、例えば、以下の方法が考えられる。
○土地又は土地の上に存する権利の評価方法について
土地は公示価格、固定資産税評価額を基に算定した価額や不動産鑑定士が鑑定した価額などが考えられる。土地の上に存する権利については、建物等の定着物がなく、かつ、使用収益を制約する権利の付着していない上記で求めた土地としての価額に、土地の上に存する権利割合(路線価図や評価倍率表で表示されている)を乗じて評価額を求める等が考えられる。
○有価証券の評価方法について
市場価格がある場合の有価証券については、市場価格を用いた時価評価を行うものとする。時価は算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格をいう(時価算定会計基準第5項)。市場価格がない(市場価格に関するインプットを取得することが困難な場合も含む。)株式等については、修正簿価純資産法による実質価額での評価や、それも困難な事情がある場合には、取得価額又は帳簿価額とする。
○書画、骨とう、生物その他の資産のうち最終提出事業年度の末日における帳簿価額と時価との差額が著しく多額である資産の評価方法について
① 書画、骨董等これに類する動産について、真贋鑑定を行い、鑑定書又はそれに類する証明書等を付すことでその価値が高まると認められる場合は、鑑定人等に鑑定を依頼するものとする。また、見積価額が比較的低額と認められる財産で、適当な取引事例があり評価可能と認められるときは、売買定例価額や精通者意見等を参考にするなど、合理的かつ簡易な方法で評価をすることが認められる。
なお、美術品等の評価に当たっては、その種別、作者別、年代別等による市場価格又は類似品の取引における価格を参考として評価することになる。
② 生物等の評価は、種類別、血統別、畜令別等に従い、そのものと同種同等のものの取引における価格を参考として評価する。
例えば、牛馬等の評価については、当該牛馬等の血統書、鑑定書又は証明書(馬歴等記録の証明書)の添付の有無によって、その価格に相当の差異があることが考えられる。
イ 区分経理を行わない法人の場合
○ 区分経理を行わない法人の場合、公益目的取得財産残額の見込額は、上記ア区分経理を行う法人の場合の算定方法における(ⅰ)を(ⅰ)’に置き換えた上で同様の方法(((ⅰ)’+(ⅱ)の額)-((ⅲ)+(ⅳ)+(ⅴ)。見込額が零未満となる場合は、零とする。))で算定する。
○ 見込額は、前事業年度の末日の数値で算定するため、公益認定の取消し等の日までの間の変動を反映した額が公益目的取得財産残額となる。
(ⅰ)’「法人の貸借対照表における純資産の額165」から「法人活動保有財産、資産取得資金、特定費用準備資金及び指定寄附資金(法人活動保有財産及び指定寄附資金にあっては、公益目的事業の用に供するものを除く。)から、これらの財産に対応する負債の額を控除した額」を控除した額
ウ 経過措置(認定規則附則第10項)
○ 上記に記載のとおり、令和10年3月31日までに開始する事業年度については、特例区分経理が可能なところ、特例区分経理の方法により貸借対照表を作成している法人にあっては、旧制度の別表Hにより、毎事業年度、公益目的取得財産残額に相当する額を算定する。作成した別表Hは、認定規則第57条第1項第2号の「行政庁が公益法人の事業の適正な運営を確保するために必要と認める書類」として行政庁に提出する。
○ 認定取り消し等の場合には、公益目的取得財産残額に相当する額に調整を加え、公益目的取得財産残額を算定する(毎事業年度算定する公益目的取得財産残額に相当する額は、行政庁に提出されるため、上記【(3)②ア】の公益目的取得財産残額の見込額の行政庁への提出は不要である。)。
165 第4(1)③エの【資金不足により公益目的事業を継続することが困難な場合】において、法人活動保有財産、資産取得資金、特定費用準備資金又は指定寄附資金(法人活動保有財産及び指定寄附資金にあっては、公益目的事業の用に供するものを除く。)を公益目的事業のために費消等し、公益目的事業財産等から回復していない分があればその額を除く(認定規則第67条第2項第3号)。
【参考】公益認定取消しに関する流れ(取消しの申請があった場合)
【参考】公益認定取消しに関する流れ(行政庁による取消しの場合)
第2節 情報開示
第1 財産目録等の備置き・閲覧、公表等(認定法第21条・第22条)
〇 公益法人は、不特定かつ多数の者の利益のために活動することから、社員や評議員、寄附その他の資源提供者、サービスの受益者その他のステークホルダーはもとより、国民に対し広く情報開示を行い、透明性の高い事業運営を行うことが求められる。情報開示は、ステークホルダーや国民によるチェックの前提であり、法人が説明責任を十分に果たすことで、法人のガバナンスを通じて公益法人の適切な運営が確保されることが期待される(166 認定法第21条に定めるもののほか、社員総会又は評議員会の議事録(法人法第57条及び第193条)、理事会の議事録(法人法第97条及び197条)及び会計帳簿(法人法第121条・第199条等)について、特定のステークホルダーは閲覧等の請求が認められている。)。
〇 また、公益法人の運営状況や公益目的事業の実施状況等を具体的に把握できるようになることで、公益法人に対する企業や国民からの寄附等の支援が促進されることが期待される。加えて、公益目的事業の内容やその成果、公益法人のガバナンスなどについて、企業や国民が容易に比較できるようになり、質の高い事業を行う法人に対して寄附等の支援が集まることを通じて、民間公益の活性化が期待される。
〇 以上のことから、公益法人は、一般法において作成・備置きすべき書類に加え、認定法で定める書類を作成し、事務所に備え置くことが義務付けられている(認定法第21条第1項・第2項。以下これらの書類を「財産目録等」という。)とともに、これらの書類については、何人も閲覧等を請求することができる(法人に正当な理由がない限り拒むことができない)とされている。
〇 公益法人において作成・備置きを要するこれら書類のうち、毎事業年度開始前に作成するもの(下記(1)参照。)と毎事業年度終了後に作成するもの(下記(2)参照)があり、前者の書類は当該年度の末日まで、後者の書類は5年間(従たる事務所においては3年間)、主たる事務所及び従たる事務所に備え置く必要がある(167 一般法人が公益認定を受けたときは、遅滞なく作成し、備え置かなければならないとされている)(認定法第21条第1項カッコ書き及び第2項カッコ書き)(認定法第21条第1項第2項)。これらの書類は、電磁的記録として作成することができる(同条第5項)。
〇 備置きされた財産目録等に記載された情報は、何人も閲覧を請求することが出来るとともに、法人から提出を受けた行政庁において公表される(行政庁における公表の際に個人情報の秘匿等は行わない(168なお、役員等名簿については、住所等のあるものとないもの2様の提出を要する(住所等入りを作成すると(閲覧)公表用の住所等が削除されたものが自動作成され、2様提出するしくみである)。)。このことを前提に、公益法人は、事業報告を含む財産目録等に個人情報を記載する場合には本人の了解を得るなど、個人情報の適切な取扱いに留意する必要がある。
(1) 事業年度開始前に作成・備置きする書類(認定法第21条第1項)
〇 認定法第21条第1項は、事業年度開始前に作成することが求められる書類として、当該事業年度において実施する事業の計画等を定めている。計画等を変更した場合には、変更後の書類が備置き及び閲覧請求の対象となる。
〇 法人が、毎年度行う事業の計画について、その裏付けとなる予算(資金調達・設備投資を含む。)とともに策定し、役員等が、計画の進捗状況を確認しつつ、必要に応じて的確な軌道修正をすることは、法人が、内部統制を利かせつつ、円滑に法人運営を行う上で重要である。また、法人の計画等を法人関係者や国民に示すことで、法人の事業内容の透明性が高まり、寄附等の支援を考える企業や国民の利便性にも資するものといえる。
〇 なお、本ガイドラインにおいて、公益目的事業該当性の判断は申請書記載事項及び事業計画等の添付書類で判断することとしているとともに、法人の経営判断で機動的に社会変化に対応した事業展開を行うことができるよう、事業の拡大・縮小など法人の経営判断に委ねて差し支えない事項は事業計画等に記載されることを前提に申請書記載事項は出来る限り簡素化することとしていることに留意する。(第2章 冒頭、第1節第2参照)
〇 事業年度開始前に作成すべき書類の具体的な内容は、認定規則第45条以下に定められている。
①事業計画書(認定規則45条第1号)
当該事業年度に行う事業の計画を記載する。定款及び申請書には抽象的・包括的に記載されている事業について、事業ごとに(申請書に記載された公益目的事業との対応関係(公1-1-1等の公益目的事業の体系の中での位置づけ等)、その具体的な実施方法(公益目的事業該当性を確保するための取組を含む。)、規模等について記載しなければならない。申請書において、事業計画書に記載する旨を定めた事項については、必ず記載する。また、申請書において規程、要綱等において定めることとしている場合には、当該規程(規程の変更があった場合は変更箇所が分かる書類を含む。)・要綱等を法人のHPにおいて公表するものとする。HPにおいて公表を行わない場合には、事業計画書に添付しなければならないものとする。
②収支予算書(認定規則第45条第2号)
○ 当該事業年度の計画を裏付ける、損益計算書と同様に公益目的事業に係る経理(公益目的事業会計)、収益事業等に係る経理(収益事業等会計)及び法人の運営に係る経理(法人会計)の各経理単位の内訳の表示を行うとともに、各事業ごとの内訳は、公益目的事業については、公益認定を受けている事業単位(「公1」「公2」…)、収益事業等については、法人で設定している事業単位(「収1」「収2」…、「他1」「他2」…)に区分された数値を記載する(169 令和6年会計基準においては「活動計算書(本表)」、平成20年会計基準においては「正味財産増減計算書内訳表」の区分が相当する。)。なお、各法人において、指定純資産の部と一般純資産の部に分けるなど更に細目を設けることもできる。
○ 収支予算書により、収支の見込み(経理的基礎)、財務規律の状況などが確認できる。
③資金調達及び設備投資の見込みを記載した書類(認定規則45条第3号)
〇 資金調達(借入)や設備投資(固定資産の取得)は、法人経営において極めて重要であり、法人のガバナンスの下、透明性を確保しつつ、計画的に実施することが求められるが、上記②の損益ベースの収支予算書においては明らかにならない。
〇 このため、(1) 資金調達の見込みについて、当年度における借入について、予定の有無、借入先、金額及び使途、(2)設備投資の見込みについて、当年度における重要な設備投資(除却又は売却を含む。)について、予定の有無、支出又は収入の予定、資金調達方法又は取得資金の使途について記載する。なお、(2)については、財産の価額、法人の総資産に占める割合、財産の保有目的等を考慮の上、法人において「重要な設備投資」であると判断するものについて記載する、また、財源見込みとして、例えば、公益充実資金や資産取得資金を取り崩して使用する場合はその旨、借入金等による場合はその旨を明らかにする。
④公益目的事業の種類及び内容、収益事業等の内容を記載した書類(認定規則第45条第4号)
〇 公益法人は、公益法人が公益認定を受けて行う「公益目的事業の種類及び内容(認定法第7条第1項第3号)」は、公益認定の申請書に記載されている。申請書の記載は、いわば、国民に対する約束であり、申請書(変更認定を受けた場合又は変更を届け出た場合は、最も遅いものに係る当該書類)に従い公益目的事業を実施する必要があり、申請書に従わないで実施された事業については、公益目的事業とは言えない。また、収益事業等についても申請書(変更を届け出た場合は最も遅いものに係る当該書類)に従って実施する必要がある。
〇 行政庁が公益認定をしたときは、その旨が公示される(認定法第10条)が、公益において明らかにされる内容のみでは、当該事業の内容を国民が知ることができない。そこで、公益法人の透明性を確保するとともに、その事業等に関して法人関係者及び国民のチェック機能を高める観点から、令和6年の制度改革により、申請書に記載した公益目的事業の種類及び内容等について、開示対象に追加することとしたものである。
なお、本書類に記載する内容は、令和6年の制度改革前は、事業年度終了後に提出する書類の添付書類(非公表)として提出を求めていた定期提出書類の別紙3「法人の事業について」に記載されていた内容と重複する内容があるが、公益目的事業の実施状況につい事業報告の記載事項とされた(認定法第21条第4項。認定規則第53条第1号)ことに伴い、事業報告との重複を整理し、記載内容を明確化した上で、公益法人が毎事業年度に実施する公益目的事業及び収益事業の内容等を開示する書類として位置づけを改めたものである。
〇 原則として、公益目的事業の種類及び内容(認定法第7条第1項第3号)並びに収益事業等の内容(同項第4号)として、行政庁に提出した書類(変更の認定を受けた場合又は変更を届け出た場合にあっては、それらのうち最も遅いものに係る当該書類)の記載事項とする。ただし、当該記載事項に個人情報、公にすることにより当該法人の他正当な利益を害するおそれがある情報その他公にすることが適切ではない情報については、記載を省略することができるものとする。
(備考) 公益認定を受けた後に遅滞なく提出する書類について
公益認定を受けた事業年度については、公益認定を受けた後、遅滞なく作成し、閲覧等に供する必要がある(認定法第21条第1項カッコ内)。上記①事業計画及び②収支予算書について、申請書に添付したものと変更がない場合は、当該事業計画書及び収支予算書が認定法第21条に基づき作成されたものとして取扱って差し支えない。④公益目的事業の種類及び内容、収益事業等の内容を記載した書類について、行政庁に提出した申請書と変更がない場合も同様である。
(2)事業年度終了後に作成・備置きする書類(認定法第21条第2項)
〇 事業年度終了後に、当該事業年度の実績等に関して作成し、備え置くことが求められる書類は、認定法第21条第2項及び認定規則第46条に定められている。財産目録、役員等名簿、報酬等の支給の基準及び内閣府令で定める書類である。また、法人法に基づき、毎年度、作成・備置きが求められる書類として、各事業年度に係る計算書類等(貸借対照表、損益計算書及び事業報告並びにこれらの付属明細書(監査報告又は会計監査報告を含む。)を作成し、備え置く必要がある(法人法第123条第2項・第129条第1項・第199条)。
このほか、定款(法人法第14条第1項・156条第1項)及び社員名簿(法人法第31条・第32条第1項)についても、備置き等が必要とされている(170 ここでは、認定法第21条第4項に基づく閲覧請求、第22条第2項に基づく公表等の対象となる書類を示しているに留まり、法人法に基づき作成又は備置きが必要な書類を網羅するものではない。)。
〇 法人が、事業の実績等や、資金や資産の活用状況、認定基準の遵守状況等について、寄附者等を含むステークホルダーに対する説明責任を果たすことは、法人のガバナンスを確保する上で重要であるとともに、法人運営の透明性を高めることで企業や国民の信頼が高まり、寄附等の支援を考える企業や国民の利便性にも資するものである。
① 財産目録(認定法第21条第2項第1号)
〇 公益法人が、どのような目的で、どのような財産を保有・共用し、また、どの財産が公益目的事業財産に該当するか否か等認定法における財産区分を明らかにするため、財産目録の作成・備置き等を義務付けることとしている。
〇 公益法人が、法人法に基づき作成する貸借対照表においては、必ずしも上記目的が実現できるか明らかではなかったことから、貸借対照表とは別に作成する必要があった。しかし、令和6年改正法により、公益目的事業財産が明確化されたことを踏まえ、公益法人が作成する貸借対照表(関連する注記を含む。)において認定規則第49条第1項から第4項までの規定により財産目録に表示すべき事項が表示されているときは、その表示をもって財産目録とみなすことができることとされた(同条第6項)。この場合には、貸借対照表の作成及び備置き並びに閲覧請求に対する開示等が行われているときは、貸借対照表とは別に財産目録の作成等を行う必要はない(171 令和6年会計基準では、貸借対照表の注記として「資産及び負債の状況」を記載することとされており、当該注記において財産目録に記載すべき情報が表示されていれば、当該注記の表示をもって財産目録とみなされることとなる。)。
② 役員等名簿(認定法第21条第2項第1号)
〇 公益法人が、どのような者によって運営・統治されているかを明らかにするため、理事、監事及び評議員の氏名及び住所を記載した名簿の作成・備置きを義務付けている。これらの者に関しては、認定基準(認定法第5条第3号、第10号~第12号、第15号及び第16号)適合性や欠格事由(認定法第6条第1号)非該当性等について、国民によるチェックの対象とする観点からも、透明性の確保が求められる。
〇 なお、法人法で作成・備置きが義務付けられている社員名簿については、認定法第21条第2項には記載されていないが、同条第5項の規定に基づく開示、第22条の行政庁への提出等の対象となる。また、会計監査人の氏名等についても作成・備置き等の対象としている(認定規則第46条第1号ニ)。
〇 なお、個人情報保護の観点から、役員等名簿及び社員名簿の住所については、原則として開示等の義務の対象とはしていない(認定法第21条第6項、第22条第2項)。
※ 現行の内閣府のシステムにおいて住所を開示対象から除外する対応できないため、行政庁への提出については、作成義務のある社員名簿に加え、住所を除外した社員名簿の提出を求めている。住所等を記載した役員等名簿を作成し、自動作成される住所等のない役員等名簿とともに提出する。
③ 役員報酬等の支給の基準(認定法第21条第2項第3号)
<役員報酬等の支給・支給基準(認定法第5条第14号・第20条解説)参照>
④ 内閣府令で定める書類(認定法第21条第2項第4号・認定規則第45条)
ア キャッシュ・フロー計算書
〇 法人が自発的に作成している場合又は会計監査人を設置しなければならない場合(認定令第6条)には、キャッシュ・フロー計算書が対象となる。認定法規則第50条及び第51条に定めるほか、公益法人会計基準に従って作成する。
イ 運営組織等の概要(認定規則第46条第1項第2号)
公益法人の運営組織等について、透明性を高める観点から、次に掲げる情報について、作成・備置き等の対象とする。
(ⅰ)社員その他の構成員の数その他の状況(公益社団法人に限る。)(第2号イ)
社員に係る認定基準(認定法第5条第14号)該当性について国民によるチェックの対象とする観点から、社員の数、社員の得喪に関する定款及び細則の定め(法人の目的、事業内容に照らして当該条項が合理的な関連性及び必要性があることについての説明を含む。)、議決権に関する定款の定め(社員の議決権に関して当該条項により社員ごとに異なる取扱いをしている場合、法人の目的に照らして不当に差別的な取扱いをしないものであることについての説明を含む。)について情報開示の対象とする。
加えて、代議員制をとる法人については、社員権の行使により法人のガバナンスを確保しようとする法人法の趣旨に反することにならないよう、適切な運営が求められるところ(第4章第9(3)代議員制度 参照)、代議員を選出する会員(名称を問わない。)の数についても情報開示の対象とする。
(ⅱ)評議員、理事及び監事の数その他の状況(公益財団法人に限る)(第2号ロ)
常勤・非常勤別(172 最低でも週3日以上出勤する者は「常勤」、それ未満の者は「非常勤」とすることを基本として判断する。)の評議員数、評議員の報酬の総額等について情報開示の対象とする。
常勤・非常勤別の理事数、監事数、理事の報酬等の総額等、監事の報酬等の総額等について情報開示の対象とする。
(ⅲ)理事等の当該事業年度に係る役員報酬、賞与その他の職務遂行の対価(職員兼務の場合における報酬賞与等を含む。)として法人から受ける財産上の利益の合計額が2,000万円を超える者が存する場合には、当該額及びその必要の理由。(第2号ハ)
支給基準だけでは、実際の報酬額等は不明であり、支給の基準に従って支給されている(認定法第20条)ことの確認ができないため、上記の記載を求めるものである(173 役員報酬等の支給・支給基準(認定法第5条第14号・第20条解説)参照。)。
その必要の理由としては、当該役員の業務内容や属人的な能力その他当該報酬の評価の基礎となった事情、民間企業に限らず広く社会通念上同等と認められる法人等の役員の給与等の諸要因に基づく説明などが想定される。
(ⅳ)会計監査人の有無及び設定している場合にあってはその氏名又は名称(第2号二)
公益法人の経理的基礎等を明らかにするため、情報開示の対象とする。
(ⅴ)職員の数及び常勤職員の数(第2号ホ)
公益法人の事務処理能力等を明らかにするため、情報開示の対象とする。
(ⅵ)社員総会、評議員会及び理事会の開催年月日及び主な決議事項(第2号へ)
公益法人が法人法その他の法令に従い、適正に運営されていることを明らかにするため、情報開示の対象とする。
(ⅶ)情報開示の適正性及び経理的基礎を担保する状況(第2号ト)
公益法人として、適正な情報開示を行う体制が整備されていることを明らかにするため、情報開示の対象とする。(174 第3章第1節第1(2)経理的基礎及び技術的能力(認定法第5条第2号) <経理的基礎>③ 情報開示の適正性 参照。)あわせて、財政基盤の状況を明らかに会員等(名称を問わず、定款において法人の関係者として一定の会費等を支払う者を言う)の数および会費等に係る定款等の定めを開示対象とする。
(ⅷ)事業・組織の体系(複数の事業又は組織がある場合に限る。)(第2号チ)
複数の事業又は複数の組織(施設や事業所等)がある法人は、法人全体の事業・組織の全体像、各事業の位置付けや関連性の状況を分かりやすく示す観点から、事業・組織体系図を情報開示の対象とする。
ウ 事業活動に関する重要な事項について記載した書類(認定規則第46条第1項第3号)
公益法人の事業活動について、透明性を高める観点から、次に掲げる情報について、作成・備置き等の対象とする。
(ⅰ)寄附を受けた財産の額、金融資産の運用収入の額、資産、負債及び期末純資産の額(第3号イ、ロ、ハ)
公益法人の収入・資産の状況について、他の情報と併せて公益法人の活動に係る基本情報を国民に分かりやすく、一覧性をもって示す観点から、書類の作成・備置きを求め、情報開示の対象とする。
例えば、金融資産の運用収入がある場合は、損益計算書(活動計算書等の資産運用益、運用収益等)より転記し、法人全体の金額の記載を要する。
なお、今後、デジタル化を進める中で、計算書類から自動転記できるようになれば、転記作業が不要となる。
(ⅱ)他の団体の意思決定に関与することができる株式その他の認定規則第6条に定める財産についての保有の有無(第3号ニ)
公益法人が、議決権により他の法人に影響力を行使し得る場合に、その透明性を確保するため、情報開示を求める。認定基準(認定法第5条第3号、第4号及び第15号)の適合性について、国民によるチェックの対象とする観点からも、透明性の確保が求められる。
なお、上場企業の株式であって、当該企業の株式等の5%を超えない範囲で保有するものについては、記載を不要とする。
(ⅲ)関連当事者との取引に関する事項及びその明細(第3号ホ)
公益法人の運営において、認定令第1条に定める公益法人関係者に特別の利益を与えることは許されない。したがって、公益法人がそうした公益法人関係者と取引をした場合には、透明性を確保することから、情報開示の対象とする。認定基準(認定法第5条第3号)について、国民によるチェックの対象とする観点からも、透明性の確保が求められる。
関連当事者との取引の内容については、平成20年会計基準第5(14)(注17を含む。)において、財務諸表に注記しなければならないとされ、関連当事者の範囲及び重要性の基準の詳細については平成20年会計基準の運用指針に示されていた。
最終報告において、法人運営の透明性の一層の向上を図る観点から、理事会での承認が必要な役員の利益相反取引、法人と密接な関係を有する特別の利益供与が禁じられている者との取引等について開示情報の拡充が求められたことを踏まえ、令和6年の制度改正により、関連当事者との取引に関する事項及びその明細について、認定法第21条及び第22条の対象として追加するとともに、会計基準(運用指針)を見直し、関連当事者として、当該公益法人の役員又は評議員及びそれらの近親者等(175 平成20年会計基準の注17においては、このほか、①当該公益法人を支配する法人、②当該公益法人によって支配される法人、③当該公益法を人と同一の支配法人を持つ法人が定められるとともに、運用指針6.(1)において役員・評議員(近親者を含む)が議決権の過半数を有している法人等が定められていた。176 近親者は、配偶者及び三親等内の親族、事実婚関係と同様の事情に有る者それらの者から受ける金銭その他の財産によって生計を維持する特別な関係にある者をいうとされている(令和6年会計基準の運用指針))に加え、①当該公益法人の使用人及びその近親者、②社員及び基金の拠出者等(公益社団法人の場合)、③設立者等(公益財団法人の場合)が対象となるなど、認定令第1条に定める特別の利益を与えてはならない法人の関係者については、関連当事者に含まれることとされた(177 令和6年会計基準の運用指針Ⅹ.関連当事者関係、関連当事者の定義参照。)。
公益法人の役員、使用人、社員・基金拠出者(公益社団法人の場合)及び評議員・設立者(公益財団法人の場合)及びこれらの者の近親者との取引(一般競争入札による取引、取引の性格から見て取引条件が一般の取引と同様であることが明白な取引、役職員等に対する報酬・給与等の支払は除く。)について、100万円を超えるもの(178 当該取引先との間の当該事業年度における取引の合計額(総額)が100万円を超える場合。)は開示対象となり、取引先の氏名等、法人との関係、取引内容、取引金額等について財務諸表に注記することが求められる。
関連当事者の定義、関連当事者の具体的範囲、開示対象となる基準(重要性の基準)等については令和6年会計基準(平成20年会計基準を適用している法人にあっては平成20年会計基準)の定めるところによる。
なお、令和6年会計基準及び平成20年会計基準において、該当する取引は財務諸表に注記しなければならないとされており、必要な情報が注記されていない場合には、当該財務諸表は適正に作成されていないことになる。したがって、財務諸表が適正に作成されている場合には、当該関連当事者に関する書類は作成を要しないこととなる。
これを踏まえ、「事業活動に関する重要な事項(様式集44頁)」においては、関連当事者との取引の有無のみ記載を求めることとしている。この場合において、令和6年会計基準等により注記を要する取引がない場合には、関連当事者との取引は「無」と記載するものとする。
(ⅳ)海外への送金の有無及びそれに関連するリスクの軽減策の有無(第3号へ)
公益法人が、テロ資金の供与に利用されることがあってはならず、特に、海外送金等を行う場合には、その透明性を確保するとともに、リスク低減対策を取ることが求められる。こうした観点から、公益法人において海外送金の有無、テロ資金供与等のリスク低減対策の実施の有無を情報開示の対象とする。
海外への送金の当該事業年度の合計金額が100万円を超えず、かつ、下記①~③の活動を行っていない場合には海外送金を行っていないとして差し支えない。
リスク低減対策としては、内閣府が特定したリスクのある活動(下記①~③)に応じて、①~③に記載したようなリスク低減対策が取られているか否かを記載する(179 ①~③に掲げる個別の措置が執られているかではなく、全体として必要なリスク低減対策が執られているかで判断する。①~③の複数に該当する場合も同じ。)。なお、公益法人は、個々の事業や取引におけるリスクの大きさに応じて、自らが直面するリスクを低減させるための措置を実施する必要があり、リスクが高い場合には、より厳格な対応が求められる一方で、リスクが低いと判断される場合には、より簡素な措置を行うことが許容される。さらに具体的な内容については、公益法人におけるテロ資金供与対策について(令和4年6月内閣府大臣官房公益法人行政担当室)を参照する。
① テロ行為にさらされている地域やその周辺(180 「テロ行為にさらされている地域やその周辺」の範囲については、最新の国際テロの情勢等を踏まえて判断する必要があるため、国際テロ情勢に係る動向を取りまとめている「国際テロリズム要覧」(公安調査庁)や、テロ情報を含めた各国の現地情勢を取りまとめている「海外安全ホームページ」(外務省)などの情報も踏まえて、事業の実施国・地域がテロ行為にさらされている地域やその周辺に該当するかどうかを確認することが重要である。)で活動する場合、
◎ 事業を実施している国・地域及びその周辺におけるテロ行為の発生状況を確認する。
◎ 現地での法人運営や事業実施に当たっての手続等を定める。
・現地の協力団体や現地職員、事業の受益者の選定等に当たっては、テロ組織等との関わりがないことを確認。
・現地での事業の実施状況について確認。
・現地での金融機関の口座からの引き出しや経費の支出に当たっての手順を定める。
・現地で目的外の資金等が悪用された(悪用される蓋然性が高い)場合の対応について定める
など
② 海外で事業を実施するため、事業者等への委託や助成等を行う場合
◎ 事業の委託先や助成団体、現地の協力団体等を選定する際の基準を設ける
◎ 事業の協力団体や助成団体等が事業を実施した場合、事業の実施状況を確実に確認する。
③ 相当量の資金を取り扱い、海外への送金や海外で現金の取扱いを行う場合
◎ 海外の送金先の口座等の確認を行う
・金融機関を介して海外送金を行う場合、送金先の国・地域の金融機関宛ての送金を行っても問題がないことを確認する。
・海外の送金先の口座は、送金しようとしている団体等の正式な口座であることを確認する
など
◎ 海外への資金送金や現金の移動を行った場合、相手側が受領したことを確認できる手段を持つ
エ 中期的収支均衡に関する数値及びその計算の明細を記載した書類(認定規則第15条から第23条まで)
オ 公益目的事業比率に関する数値及びその計算の明細を記載した書類(認定規則第24条から第32条まで)
カ 使途不特定財産額に関する数値及びその計算の明細を記載した書類(認定規則第33条から第37条まで)
キ 公益充実資金について公表事項を記載した書類(認定規則第23条第1項第2号)
ク 公益目的事業継続予備財産について公表事項を記載した書類(認定規則第37条第1項及び第2項)
ケ 特定費用準備資金について備置き・閲覧等の措置が講じられるべき事項を記載した書類(認定規則第31条第3項第5号)
コ 資産取得資金について備置き・閲覧等の措置が講じられるべき事項を記載した書類(認定規則第36条第4項)
サ 指定寄附資金について備置き・閲覧等の措置が講じられるべき事項を記載した書類(認定規則第36条第5項)
〇 財務規律の適合状況等について、透明性を確保する必要がある。エからサまでの書類は、計算書類等に記載されている場合又は該当するものがない場合は作成を要しない(認定規則第46条第3項)。(181 それぞれの内容については、各規律(認定法第14条~第16条等)参照。182 令和7年4月より前に開始した事業年度におけるエ~コの書類の取扱いについて、①現行制度に従って作成した別表A、別表B及び別表Cを、それぞれ、エ、オ及びカに係る書類として取り扱い、キ及びクについては対象となるべき事項がないものとして取扱い、ケ、コ及びサについては、それぞれ、旧制度における、特定費用準備資金、資産取得資金及び5号財産・6号財産に係る規律の下で改正前の認定規則第18条・第22条の規定に従い、備置・閲覧等の措置が講じられた書類を、それぞれ、ケ、コ及びサに係る書類として取り扱うものとする。)
(公益充実資金及び公益目的事業継続予備財産)
公益充実資金については規則第23条第1項第2号(第1(3)イ参照)、公益目的事業継続予備財産については、認定法第16条第3項(第3(2)③参照))により、必要事項を公表する必要がある。公表が必要な情報は計算書類等又はエ若しくはカの書類に含まれている場合には、キ又はコの書類として改めて提出する必要はない。
(特定費用準備資金)
特定費用準備資金(第2節第3の3(3)④(ニ)参照)については、資金を目的外に取崩す場合における特別の手続の定め並びに積立限度額及びその算定の根拠を記載した書類を備置き、閲覧の措置が講じられていることが必要である。計算書類等又はカに掲げる書類において提出されている情報については、ケの書類として改めて提出する必要はない。特別の手続の定めについて計算書類等においては任意記載事項であるため、計算書類等に記載していない場合は、備置きしている当該書類の提出が必要となる。
(資産取得資金)
資産取得資金(第2節第3の2(1)④参照)については、資金を目的外に取崩す場合における特別の手続の定め、積立限度額及びその算定根拠について、備置き、閲覧等の措置が講じられていることを要し、その内容を記載した書類を備置、閲覧の措置が講じられていることが必要である。計算書類等又はカに掲げる書類において提出されている情報については、コの書類として改めて提出する必要はない。特別の手続の定めについて計算書類等においては任意記載事項であるため、計算書類等に記載していない場合は、備置きしている当該書類の提出が必要となる。
(指定寄附資金)
指定寄附資金((第2節第3の2(1)⑥参照))については、広く一般に募集されたものである場合には、その旨、募集期間、受け入れた財産の合計額、募集の方法、募集に係る財産の使途として定めた内容、金銭以外のものがある場合にその金銭以外のものの内容、広く一般に募集されたものでない場合には、当該財産を交付した者の個人又は法人その他の団体の別(国若しくは地方公共団体又はこれの機関である場合にはこれらの名称)、受入日、受け入れた財産の合計額、当該財産を交付した者の定めた使途の内容、金銭以外のものがある場合の金銭以外のものの内容を、備置き、閲覧等の措置が講じられていることが必要である。
⑤ 事業報告の記載事項について
〇 事業報告は、申請書及び事業計画に記載された公益法人の事業の実施状況等について、社員や評議員及び寄附者その他の国民に対して説明責任を果たすために作成される書類と言える。
〇 事業報告には、法人法に基づき、①法人の状況に関する重要な事項、②体制の整備についての決定又は決議の内容が有る場合のその内容及び運用状況の概要について記載が必要(法人法規則第34条)とされているが、これらに加え、令和6年の制度改正により、③各事業年度における公益目的事業の実施状況、④当該公益法人の運営体制の充実をはかるための取組を記載しなければならないこととなった(認定法第21条第4項、認定規則第53条)。
〇 公益目的事業の実施状況として、申請書に記載され、事業計画において具体的な実施方法や規模等が示された公益目的事業の実績(実際にどのように実施されたのか)を示すことが求められる。事業の公益性を確保する取組の実績(チェックポイントに適合することの説明、事業計画書に記載された事項の取組の説明等を含む。)や、申請書において、事業報告に記載する旨記載されている事項についての記載が必要である。また、申請書に記載された公益目的事業との対応関係(公1-1等の公益目的事業の体系の中での位置づけ)を明らかにする必要がある。このほか、公益目的事業の質を改善するための自主的な取組、公益目的事業の成果や、公益目的事業の実績に対する測定・評価(インパクト測定・マネジメント等)などについて記載するなど、より一層の透明性の確保を図ることが望ましい。
〇 また、運営体制の充実を図るための取組(183 運営体制の充実については、法人の参考となる事例を今後提供する予定。)には、公益法人が自発的に行ったガバナンスに関する取組を記載する。令和6年の制度改正では、公益法人にガバナンスの更なる充実に向けては、各法人が、法人の事業、規模等の多種多様性を踏まえ、それぞれの実態に合ったガバナンス強化策を講じることが重要であるとの考えの下、運営体制の充実及び透明性の向上を公益法人の責務とするとともに、事業報告においてその内容を開示することとしている(透明性の向上に係る取組については、事業報告に記載しなくとも自明であることから、必要的記載事項とはしていないが、法人の自主的な取組として記載することは排除されない。)。法人の事業、規模等の多種多様性を踏まえたそれぞれの実態に合った自主的なガバナンスの充実等の取組を記載する。例えば、外部理事・監事にどのような者を選任したか、外部理事・監事の役割を全うするためにどの様に情報提供等を行っているか、評議員(184 「最終報告」においては、理事が評議員の選任に実質的な影響力を行使するような不当な関与を排除する方策として、評議員の選任及び解任をするための評議員選定委員会を設けて候補を選任すること等が推奨されている。)の選任及び解任方法等について外部理事・監事に準じた準則を設ける、理事等からの実質的な影響力行使を排除した評議員選定委員会を設けるなどといったことも自主的な取組に含まれる。上記②体制の整備についての決定又は決議の内容(185 法人法規則第14条には次に掲げる体制を整備するとされている。)が有る場合のその内容及び運用状況の概要も含まれる。法人法規則第14条のほか、会社法施行規則第100条に規定する体制については、比較的規模の大きい法人には参考になることも多いと考えられる。
〇 なお、これらは、上記①法人の状況に関する重要な事項に含まれるとも考えられるところ、必要事項が分かりやすく記載されていれば、事業報告の構成や様式については、法人の自治に委ねられる。
⑥ 公益認定を受けた後、遅滞なく提出する書類について(認定法第21条第1項第2項カッコ内)
上記の書類について、公益認定を受けた日の属する事業年度にあっては、当該公益認定を受けた後遅滞なく作成することとされている。また、上記の書類に加え、社員名簿を行政庁に提出することとされている(認定法第22条第1項三番目のカッコ内)。
この規定は、公益認定を受けた時点における公益法人の運営状況等を行政庁を含むステークホルダーが把握できるようにすることを目的とするものであり、分かち決算をした公益認定を受ける前の事業年度と公益認定を受けた事業年度の終了時点における公益法人の運営状況や
①理事の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制
② 損失の危険の管理に関する規程その他の体制
③ 理事の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制
④ 使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制
⑤ 監事がその職務を補助すべき使用人を置くことを求めた場合における当該使用人に関する事項
⑥ ⑤の使用人の理事からの独立性に関する事項
⑦ 監事の⑤の使用人に対する指示の実効性の確保に関する事項
⑧ 理事及び使用人が監事に報告をするための体制その他の監事への報告に関する体制
⑨ .の報告をした者が当該報告をしたことを理由として不利な取扱いを受けないことを確保するための体制
⑩ 監事の職務の執行について生ずる費用の前払又は償還の手続その他の当該職務の執行について生ずる費用又は債務の処理に係る方針に関する事項
⑪その他監事の監査が実効的に行われることを確保するための体制
公益目的事業の実施状況等を示すためのものとは区別される。したがって、公益認定を受けた事業年度の終了後には、当該事業年度の決算を踏まえた書類の作成・提出等が求められる。
そのうえで、認定法第21条等の趣旨は、公益法人としての活動の透明性を確保することにあることを踏まえると、公益法人としての活動の透明性を確保する必要性を超えて、公益認定を受ける前の一般法人としての活動について透明性を確保する必要性は大きくはない(このため、認定規則第46条第2項の規定により、同条第1項各号に掲げる書類は作成を要しないこととされている。)
以上を踏まえ、公益認定を受けた日(当該日が公益認定を受けた法人の事業年度の初日である場合を除く。)の属する事業年度において作成等を求める書類について、公的法人としての透明性を確保するとともに、公益認定を受けた法人の負担軽減の観点から、以下のとおり取り扱うものとする。
(ⅰ) 財産目録
公益認定を受けた日の前日時点で、認定規則第49条に従い作成される必要がある。財産目録の作成には、通常、決算を必要とするところ、特段の事情がない限り、認定前の期間について必要な決算手続が行われた後、速やかに提出された場合には、遅滞なく提出されたものとして取り扱う(186 財産目録の作成のみを目的に、一年度内求めるに二度の決算を求めることは、原則として行わない。)。
(参考) 公益認定を受けた年度に係る計算書類等については、当該事業年度の開始の日から公益認定を受けた日の前日までの期間と公益認定を受けた日から当該事業年度の末日までの期間とに分けて作成するものとされており(認定規則第57条第2項)、事業年度終了後、3か月以内にその双方を行政庁に提出する必要がある(認定法第22条第1項)(187公益認定を受けた後遅滞なく提出しなければならない書類に分かち決算をした計算書類等は含まれていない。)。
(ⅱ) 役員等名簿
公益認定申請の際に提出されたものと同一のものである場合は、当該名簿を備え置くことで法令の義務を果たしたものとして取扱うとともに、提出済である旨を届出書に記載することで、提出(第22条2項)があったものと取扱うこととする。
(ⅲ) 役員報酬等の支給の基準
(ⅳ) 社員名簿
法人法第31条に基づき作成している直近の社員名簿。
(ⅴ) 定款(認定法第13条の規定により届出がある場合を除く。)
名称について理事が更正した定款(第6参照)を、規則第57条第1項第2号により行政庁が必要と認める書類として提出する。
(3)閲覧請求等について
〇 (1)及び(2)に掲げる書類に加え、法人法において作成・備置きが義務付けられている定款、社員名簿、事業報告及び計算書類等(財産目録等)については、何人も、公益法人の業務時間内において、閲覧の請求をすることができる(認定法第21条第5項)。
〇 「業務時間」は、公益法人の実施事業及び法人運営(外部からの問合せへの対応を含む。)を適切に実施できる「業務時間」であり、閲覧の権利を定めた法律の趣旨に反することのないよう、事業の実態に即して、常識的・合理的な範囲で業務時間を定める必要がある。
なお、事業の実態に即して合理的に定めると、一般的な業務時間より短い業務時間となる場合には、例えば、法人ウェブサイト上に備置き資料(理事評議員等の住所は黒塗り又は削除で可)を掲載し公表する等の措置を講じることが求められる。
〇 役員名簿及び社員名簿の住所については、当該法人の社員又は評議員以外の者から請求があった場合には、閲覧の対象から除外することができる(認定法21条第6項)。
〇 財産目録等については、公表を前提に作成する必要があり、個人情報の保護等の観点から公表できない情報は記載すべきではないが、万一、記載されており、当該情報を開示することが法令に違反する場合には、法令違反となる限度において閲覧の対象から除外することができる。この場合において、公益法人は、遅滞なく行政庁にその旨を報告しなければならない。
(4) 行政庁への提出等(認定法第22条第1項)
○ 上記(1)の事業年度開始前に作成する書類については、事業年度開始の日の前日までに、上記(2)の事業年度終了後に作成する書類については、毎事業年度経過後3月以内に行政庁に対して提出しなければならない(認定法第22条第1項)。
〇 (1)の書類については、理事会(社員総会または評議員会の承認を受けた場合にあっては、当該社員総会又は評議員会)の承認を受けたことを証する書類を添付する(認定規則第56条)。この場合において、「公益目的事業の種類及び内容」及び「収益事業等の内容」に係る書類は、事業内容の変更について決議した理事会の議事録の写しで足りるものとし、過去に提出している場合には、改めて提出は不要とする(事業内容の軽微な変更等であって理事会の議決を経ていない場合には、添付は不要)。
〇 (2)の書類には、認定法第6条第5号の欠格事由である国税及び地方税の滞納処分を受けていないことを確認するため、滞納処分に係る国税及び地方税の納税証明書等を添付する(認定規則第57条第1項)。
・ 国税については、公益法人に対し滞納処分を執行した場合には、国税当局から行政庁に対して通知が行われることとなっていることを踏まえ、法人が、同号に該当しないことを説明した確認書(様式集61頁参照)の添付があれば、特段の事情により行政庁が必要と認める場合を除き、納税証明書の添付は不要である。
・ 地方税については、当該事業年度における法人の納税義務がある税目の全てに係る納税証明書を添付する(過去3年以内に滞納処分を受けたことがないことの証明でも可能)。最初の事業年度の事業報告の際は、認定申請書に添付した納税証明書の対象期間の末日から当該事業年度の末日までの期間を対象とした納税証明書を添付する。
〇 また、公益認定を受けた後遅滞なく提出する場合にあっては、認定規則第57条第1項第2号の書類として、定款(認定法第9条の規定を受けて名称を変更したもの)を添付する(認定法第13条の規定により名称の変更を含む定款変更の届出がなされた場合を除く。)。
【財産目録等について】(備置き・閲覧、行政庁における公表等の情報開示対象)
書類
根拠
定期提出書類
認定法22条1項
事業計画書
認定法第21条第1項・第5項
認定規則第45条第1~4号
〇収支予算書
〇資金調達及び設備投資の見込みを記載した書類
〇公益目的事業の種類及び内容・収益事業等の内容
○財産目録
認定法第21条第2項・第5項
〇役員等名簿
〇報酬等支給基準
〇キャッシュ・フロー計算書 ※1
認定法第21条第2・第5項
認定規則第46条第項
〇運営組織等概要 ※1
〇事業活動等概要 ※1
○定款 ※1
法人法第14条・第31条・第32条・第156条
認定法第21条第5項
×
社員名簿
〇
<計算書類等> ※1
貸借対照表
損益計算書
認定法第21条第5項
法人法第129条第1項・第199条
〇
事業報告
これらの附属明細書
(監査又は会計監査を受けている場合)
監査報告
会計監査報告
中期的収支均衡の書類 ※1
認定法第21条第2・第5項
認定規則第46条第1項
〇※2
公益目的事業比率の書類※1
認定法第21条第2・第5項・第5条第8号・第15条
認定規則第46条第1項
〇※2
使途不特定財産額の書類※1
認定法第21条第2・第5項
認定規則第46条第1項
〇※2
公益充実資金の書類 ※1
認定法第21条第2・第5項
認定規則第23条・第46条第1項
〇※2
公益目的事業継続予備財産の書類 ※1
認定法第21条第2・第5項・第16条
認定規則第37条・第46条第1項
〇※2
特定費用準備資金の書類※1
認定法第21条第2・第5項
認定規則第31条・第46条第1項
〇※2
資産取得資金の書類 ※1
認定法第21条第2・第5項
認定規則第36条第3項・第4項・第46条第1項
〇※2
指定寄附資金の書類 ※1
認定法第21条第2・第5項
認定規則第36条第5項第6項・第46条第1項
〇※2
※1 書類については、公益認定を受けた後遅滞なく認定法第21条第2項各号に掲げる書類を作成する場合にあっては、作成を要しない(認定規則第46条第2項)。
※2 関連当事者との取引に関する事項、財務規律に関する書類(上記表中の※2)は、計算書類等(貸借対照表の注記・事業報告など)に記載されている場合及び該当するものがない場合には作成を要しない(認定規則第46条第3項)
(5) 行政庁による公表(認定法第22条第2項)
〇 行政庁は、この法律又はこの法律に基づく命令の規定により公益法人から提出を受けた財産目録等(188 役員等名簿又は社員名簿にあっては、これらに記載された事項中、個人の住所に係る記載の部分を除く。)を公表するものとされている。
「この法律又はこの法律の命令の規定により公益法人から提出を受けた財産目録等」は、第22条第1項の規定により提出された書類に限らない。
具体的には、
①:公益認定申請書及び添付書類(認定法第7条・認定規則第7条)
○ 第7条第1項第3号(公益目的事業の種類及び内容)及び第4号(収益事業等の内容)について記載した申請書について、財産目録等に該当するものとして取り扱う(②~⑤において同じ)。
なお、役員名簿、理事等に支給する報酬等の基準、事業計画書及び収支予算書については、認定法第21条第1項又は第2項の規定により、公益認定後遅滞なく提出された書類を最初の公表対象とする運用とする((2)⑥参照)。
○ また、定款については、申請時に提出された名称を公益法人と改めたものについて提出を求め、公表対象とする(189 公益認定を受けた場合には、その名称中の一般社団法人又は一般財団法人の文字をそれぞれ公益社団法人又は公益財団法人と変更する定款の変更をしたものとみなされる(認定法第9条第1項))。
②:変更認定申請書及び添付資料(認定法第12条第2項・第3項/認定規則第10条)
③:変更届出(添付資料を含む。)(認定法第13条・認定規則第13条)
④:合併等の届出に係る添付資料(認定法第24条・認定規則第59条)
⑤:地位承継認可申請等に係る資料(認定法第25条・認定規則第60条)
○ 公益法人から行政庁が提出を受けた財産目録等(役員等名簿又は社員名簿の個人の住所の記載部分を除く)については、提出された書類を行政庁において公表する。
改正認定法施行前は、提出された財産目録等について、行政庁に対する閲覧・謄写の請求手続(改正前認定法第22条第2項第3項)を経て開示されていたものであるが、改正法施行後は、認定法第22条第2項により、法人から提出された財産目録等については、提出された書類がそのまま、閲覧・謄写といった手続を経ることなく、インターネット上で一般公衆が見ることができる形で公表される。
〇 書類の公表においては、法人から提出されたものがそのまま掲載される。なお、法人からの提出書類に個人情報等が誤って含まれていたなどの合理的理由がある場合には、差し替え(提出書類を公表に適した黒塗りを施すなど)を行うことは可能である。
〇 令和7年3月31日までに提出された書類については、法律施行後も、行政庁による公表の対象外であり、なお従前の例により、行政庁が閲覧・謄写等手続に対応する(令和6年改正法附則第8条第2項、令和6年改正前の認定法第22条第2項)。
第3節 その他規律等
第1 名称等(認定法第9条)
〇 公益認定を受けた一般法人は、その種類に従い、公益社団法人又は公益財団法人という名称を用いなければならない。定款は当然に変更されたものとみなされる。このため、公益認定を受けた時点で、定款変更の効力が生じることから、書面の定款上の名称は遅滞なく変更することが望ましい。
〇 公益法人は、その高い社会的信用を保つため、名称が保護されており、公益法人ではない者が公益法人であると誤認される名称等を使用することはできず、何人も不正の目的をもって、他の公益法人と誤認されるおそれのある名称等を使用することはできない。
〇 申請法人である一般法人が、株式会社である出捐企業の商号又は商標をその名称に用いるに当たり、適正な手続を経たものとなっているかは、出捐企業において確認・検討されるべき事項であり、公益認定申請の審査等において申請法人に確認することはしない。
第2 寄附の募集に関する禁止行為(認定法第17条)
〇 公益法人が寄附の募集に当たり不適切な行為を行った場合には、公益法人制度に対する社会的信用が失われ、寄附などを通じた公益活動に対する国民の意欲が減退し、ひいては公益法人による公益的な事業活動が阻害されるおそれがある。したがって、このような行為は、公益目的事業の適正な実施を期待して公益認定を与える認定法の目的に著しく反するものといえる。そこで、公益法人の従業者による執拗な寄附の勧誘または要求等寄附金の募集に係る一定の行為が禁止されている。
〇 公益法人は、本条に加えて、寄附金を得るための活動において、寄附される財産の使途について誤認させるおそれがないように配慮義務を課している「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律(令和4年法律第105号)」の対象になることにも留意する。
第3 会計監査人の権限等(認定法第23条)
〇 公益法人の会計監査人については、法人法第107条第1項の規定によるもの(各事業年度に係る計算書類(貸借対照表及び損益計算書)及びその附属明細書)のほか、内閣府令で定める書類(財産目録及びキャッシュ・フロー計算書)を監査し、会計監査報告に当該監査の結果を併せて記載し、又は記録しなければならない。
〇 会計監査人は、上記書類が、我が国において一般に公正妥当と認められる公益法人会計の基準に準拠して適正に作成・表示されているかを監査するものとする。
第6章 監督
第1節 監督の基本方針
第1 監督の目的及び監督の基本的考え方
(1) 監督の目的
〇 公益法人は、行政庁から公益法人として認定を受け、行政庁の監督の下に置かれる中で、「公益」を名乗り社会的な信用を得るとともに、高い税制上の優遇措置を受けるなど広く社会的なサポートを受けている。
〇 公益法人の監督について、令和6年の制度改正前の制度の下では、
① 法令で明確に定められた要件に基づく監督
② 法人自治を大前提としつつ、民による公益の増進のため公益法人が制度に適切に対応できるよう支援する
③ 制度への信頼確保のため必要がある場合は、問題ある公益法人に対し迅速かつ厳正に対処する
④ 公益認定申請等の審査、定期提出書類等の確認、立入検査などあらゆる機会を活用して実態把握に努める
ことを監督の基本として示していた(「監督の基本的考え方」(平成20年11月21日 内閣府))。また、立入検査は、公益法人として遵守すべき事項に関する公益法人の事業の運営実態を確認することを目的に、概ね3年を目途に全ての法人に対する立入検査が一巡するスケジュールで実施することとするとともに、立入検査の際は、公益法人制度に関する法人の理解を深め、適切な法人運営の実施を支援する観点から制度の詳細について説明等を行うこととするなど、法人の運営支援に力点を置くものであった(「立入検査の考え方」(平成21年12月24日(平成26年5月14日一部改訂)))。
〇 最終報告では、法人が社会的課題の変化等に対応し、より柔軟・迅速で効果的な公益的活動を展開していくことができるよう、法人の自主的・自律的な経営判断がより尊重される仕組みに転換するとともに、公益法人のガバナンスや説明責任の充実を図り、国民からの信頼をより強いものとする方針が示された。
その上で、監督については、「法人運営の透明性の一層の向上や、ガバナンスの充実により、国民によるチェック機能や法人自身の自浄作用の向上を図った上で、なお生ずる不適切な法人に対しては、公益法人制度の信頼性を確保するため、行政庁が迅速に実効性の高い措置を講ずる」こととされた。
〇 不適切な法人が公益法人として存在し続けることは、公益法人制度に対する国民の信頼を失わせることになるため、法人自治を前提としつつも、最後の防波堤である行政による監督の果たす役割は重要である。
公益法人制度の適正な運営及び公益法人制度への信頼確保を図り、最終的には「公益の増進及び活力ある社会」を実現するため、適切に、公益法人の監督を行う。
〇 以上を踏まえ、今般、ガイドラインにおいて、「監督の基本的考え方」(平成20年11月21日 内閣府)及び「立入検査の考え方」(平成21年12月24日(平成26年5月14日一部改訂))を更新し、監督の基本方針、具体的な基準等を示すこととする。
(2) 監督の基本的考え方
〇 最終報告では、不適切な事案の発生を予防するための一律的なチェックから、「事後的に実効性の高い措置を講ずる重点的なチェック」へという方針が示されている。
令和6年の制度改正では、
① 柔軟・迅速な事業展開を促進する観点から、申請書記載事項に照らして、事業の公益目的事業該当性に実質的に大きな影響を与えない変更であって、変更後に不適切な事態が発生した場合には事後の監督手段で是正し得ると想定されるものは、届出事項とするとの方針の下、収益事業の内容の変更等、これまでの変更認定事項だった事項の一部を届出化するとともに、認定等審査に当たって申請者に対して求める書類も簡素化・合理化する(第4章参照)
② 財務規律の柔軟化・行政手続の簡素化により、法人の経営判断で柔軟・機動的な事業展開を可能とする一方、原則として外部理事・監事を義務付けるなど法人のガバナンスの強化を図るとともに、開示情報の拡大等により法人の説明責任の強化を図ることとされたが、「事後的に実効性の高い措置を講ずる重点的なチェック」は、これらの見直しとセットとなるものである。
〇 新しい公益法人制度の下では、公益法人のガバナンスが確保され、情報が適切に開示されて国民や寄附者等のステークホルダーが法人の業務の実態を把握できることを前提に、法人自身が公益目的事業の適正な実施に努め、仮に問題が発生したとしても、法人自らが自浄作用を働かせ、問題を解消することが期待されている。
こうした中、行政が従前のような一律・網羅的な細かい監督を行うことは、かえって民間による公益活動の活力を削ぐことになりかねない。公益法人の自主的・自律的な経営判断を尊重し、国民によるチェック機能と法人自身の自浄作用により公益法人の適正な運営を確保することを第一に考え、それでもなお適正な運営が確保されない法人に対して、公益法人制度の信頼性を確保するために、行政庁が実効性の高い監督措置を講じることを、監督の基本的な考え方とする。
(参考1) 最終報告では「事後的に実効性の高い措置を講ずる重点的なチェック」へという方針の下、 下記に取り組むこととされている。本章における考え方は、この内容を踏まえたものである。
① 現行の定期的・網羅的な立入検査の実施を見直し、内外からの通報や関係省庁との連携を重視し、着実・迅速な情報収集と事実把握を行い、不適切事案の端緒をつかんだ法人に対して機動的・集中的に立入検査を実施する。
② 行政庁における定期提出書類等の事後チェック強化の手法を確立する。特に今般の改革により変更認定手続のうち届出化する事項は、その事後チェックが実効的なものとなるようにする。
③ 監督・処分に当たっての基本的な考え方をあらかじめ策定・公表することで、法人の予見可能性を高め、自律や自発的な改善を促しつつ、不適切事案には果断に処分や罰則を適用する。
④ 法人に対する行政庁の勧告・命令等の監督処分の実施状況やこれらを踏まえた法人の改善状況については、内閣府が一覧性をもって公表する。
⑤ 行政庁による監督を待たずに自律的な改善をした法人に対する監督措置の減免など自発的改善を促すための方策を検討する。
〇 行政庁は、公益認定等の審査、定期提出書類等の確認、点検調査(定期的な立入検査をいう。詳細は第4節第3参照)、外部からの情報提供等、日ごろから各種機会を活用して法人の実態把握に努める。
実態把握の結果、公益法人のガバナンスが確保されており、十分な情報開示がなされていると認められる場合には当該法人については、
・ 点検調査の間隔を長くする
・ 定期提出書類の確認等で仮に問題が発見された場合であっても、行政庁が直ちに監督処分等を想定して報告徴収等を行う(第3節参照)ことはせず、まずは法人による自主的な問題解消を見守る
等、法人自治を尊重した監督等を実施する。これにより、監督等による公益法人側の負担を軽減し、公益法人が自主的にガバナンス確保及び情報公開の徹底に取り組むことを促す。
ただし、法人から助言等を求められた場合、行政庁は適切に対応することとするが、法令等に即して是正を求める指摘ではないことを明確に示した上で助言等を行う。
〇 実態把握の結果、公益法人のガバナンスが確保されているか疑義がある場合や、情報開示が不十分と疑われる場合等、法人による自浄作用が期待できないと考えられる場合は、行政庁は、是正・改善を求める指摘や報告徴収・立入検査により事実関係の確認を行う。
報告徴収や立入検査は、法令等で定められた要件・手続に基づいて行う。また、是正・改善を求める指摘や報告徴収・立入検査による事実関係の確認は、これらが監督処分等の端緒として行われることを踏まえ、監督の最終的な目的(公益の増進及び活力ある社会の実現)に照らして必要な限度にとどめる。
〇 他方、不適切な事態の発生に対して法人の自浄作用により改善を図っている旨、法人自らの報告があり、客観的にも改善の事実が認められるような場合には、事案の重大性その他特段の事情がない限り、既に判明している事実について重ねて報告徴収・立入検査による事実関係の確認を行うことはしない。
〇 実態把握や報告徴収・立入検査等により認定基準に適合していない等、認定取消し事由に該当すると疑うに足りる相当の根拠を得た場合は、速やかに勧告を行うとともにその内容を公表する。法人が正当な理由なく勧告に係る措置をとらなかったときは、当該措置をとるべきことを命令し、その旨を公示する。勧告及び命令は、法令等で定められた要件・手続に基づいて行う。
〇 命令によっても必要な措置が講じられなかった場合や、認定基準に適合しておらず、かつその状態を放置することが公益法人制度への信頼確保に悪影響を及ぼすと考えられる場合等は、速やかに公益認定を取り消し、その旨を公示する。なお、実態把握や報告徴収・立入検査等により、公益法人が欠格事由に該当していることが明白である等、認定法第29条第1項各号に該当する場合には、勧告及び命令は要さず、直ちに認定取消しの手続に入る。
認定取消しは、法令等で定められた要件・手続に基づいて行う。
〇 最終報告では「不適切事案には果断に処分や罰則を適用する」こととされている。これは、法律に規定する監督処分等の要件に該当すると認められる場合は、いたずらに指導や報告徴収等を繰り返すのではなく、法律に基づき、監督処分等を迅速・厳正に行うという趣旨である。
なお、適切な情報開示は法人の経営判断を尊重する大前提であり、適切な情報開示が実施されていない法人に対しては、自律的なガバナンスの確保が十分でないことから、必要な監督処分等を講じるものとする。
〇 なお、移行法人(公益目的支出計画を実施中の一般法人をいう。以下同じ。)については公益目的支出計画の履行を確保する観点から監督を行うこととされており、移行法人が公益の目的のための支出(整備法第119条第2項第1号各号の支出をいう。)を行う限りにおいて公益法人と共通の考え方で監督を行う必要があると考えられることから、原則として公益法人の監督に準じた考え方で監督を行う。
すなわち、移行法人については、公益目的支出計画の履行に関係がないその他の運営や法人のガバナンス全般には監督が及ばず、監督措置の要件が公益法人に比べて限定されていることに留意する。
〇 また、令和6年の制度改正では、運営体制の充実を図るとともに運営における透明性の向上を図るように努めることを公益法人の責務とするとともに、国は、これらに取り組む法人の取組を促進するための支援を行うこととされた。
これを踏まえ、内閣府は、本ガイドライン(事例集を含む。)を作成し、公益法人関係者が公益法人制度を容易に理解できるよう周知を図るとともに、公益法人の要望に応じた助言を行うことなどにより、各公益法人の取組を支援することとしている。あわせて、内閣府は、監督に係る透明性確保及び公益法人の予見可能性の向上のため、行った監督処分等の内容を整理し、一覧性をもって公表することとしている。
(参考2)本章の補足
監督を含め、公益行政は、各行政庁が、それぞれの実情に応じて適切に判断して実施するものである。しかし、行政庁の対応に大きな差があることは、法人の誤解や実務の混乱を招く可能性があり、望ましくない。
令和6年の制度改正の趣旨は公益法人や国民にも広く周知されているところであり、行政庁には、手続の簡素化・合理化により認定等審査を迅速化し、 「事後的に実効性の高い措置を講ずる重点的なチェック」を行う仕組みを前提とした対応が求められる。そのため、今般、行政庁の対応の原則を定めるとともに、法人等の予見可能性を高めるため、監督の考え方をガイドラインに記載することとしたものである。
内閣府は、監督事例の情報共有や個別の事案への対応についての相談対応を行う等、引き続き、各行政庁と連携して監督に臨むこととし、その蓄積を踏まえたガイドラインや事例集の内容を随時見直すこととしており、都道府県においては、それらも参考にして監督に当たっていただきたい。
(参考3)事前審査を合理化し、事後チェックの強化を図る例
①経理的基礎の確認(寄附の状況の審査・確認)
公益認定申請時:
経理的基礎の充足を証する書類として寄附確約書の提出があった場合、それを裏付ける証憑類(個人の預金通帳の写し等)までは求めず、寄附確約書上の記載のみの確認に止める。
事後チェック:
寄附確約書のとおりに寄附がなされているかについて検証し、事業実施のための収入が確保され、事業の実施に支障がないか確認する。(第3章第1(2)①ア参照)
②変更認定手続から届出化された事項(収益事業の追加等)の確認.変更届出時:
届出時に提出された書類についての形式的な確認に止める。
事後チェック:
定期提出書類等確認時や点検調査時に、事業の実施状況、公益目的事業比率が保たれているか、収益の繰入れが適切に行われているかなどについて、実態を確認する。
第2節 定期提出書類の確認
〇 事業計画書、事業報告を始めとする定期提出書類は、法人の責任において書類を作成し、法人として意思決定した上で提出することが求められるものであり、定期提出書類の内容は、それ自体が法人による制度理解及びガバナンスの実情を示すものと言える。
〇 定期提出書類が提出された場合は、速やかに確認を行い、記入漏れや明白な誤り等があれば事実上の行為として指摘を行う。しかしながら、法人の責任において作成すべき文書の記載内容について、行政庁が細かく指導することは行わない。なお、「事実上の行為」とは、行政処分に当たらない行為という趣旨であり、公益法人に応答義務を課すものではなく、あくまで公益法人による任意の協力を前提とするものであることに留意する。
〇 そもそも定期提出書類の提出がない法人や、必要な事項の未記載や重大な誤りがある法人は、情報開示の適正性を欠き、法令遵守が徹底されていないと認められることから、経理的基礎や技術的能力の欠如が疑われるとして、速やかに監督処分等を行う。
〇 定期提出書類の確認において、その業務の実態に疑義がある場合は、まずは、事実上の行為として確認を行う。それによっても疑義が解消されない場合は、報告徴収や立入検査等によって法人の実態を確認する。なお、疑義の程度や問題の重大性・切迫性によっては、速やかに報告徴収や立入検査を行うことも妨げない。
第3節 報告徴収の実施方針(認定法第27条)
第1 報告徴収の趣旨
〇 行政庁及び公益認定等委員会(各都道府県設置の合議制機関)は、公益法人の事業の適正な運営を確保するため、公益認定等の審査、定期提出書類等の確認、点検調査、外部からの情報提供等、日ごろから各種機会を活用して法人の実態把握に努めることとしているが、このような実態把握の手法だけでは更なる監督上の措置の必要性を判断するために必要な事実を把握できないことも想定される。そのため、認定法第27条において、「公益法人の事業の適正な運営を確保するために必要な限度において」、公益法人に対し、「その運営組織及び事業活動の状況に関し必要な報告」を求めることができることとしている。
〇 「公益法人の事業の適正な運営を確保するために必要な限度」や「その運営組織及び事業活動の状況に関し必要な報告」の範囲は、個別の事案に応じ、第1節第1(1)で述べた監督の目的や上述の報告徴収の趣旨に照らして判断する。
〇 第1節第1(1)に記載のとおり、監督は、公益法人制度の適正な運営及び制度への信頼確保を図る観点から行うものであり、報告徴収は、勧告、命令、公益認定取消しという監督処分等の必要性を判断するための事実確認の手段である。この観点に照らせば、公益法人制度の適正な運営及び制度への信頼を脅かす状況には至っておらず、監督処分等の検討の必要性が視野に入っていない段階(どのような法人に監督処分等を行うかの判断に当たっては第6節第2参照)では、「公益法人の事業の適正な運営を確保するために必要な限度」には当たらないことが多いと考えられる。
なお、報告徴収に対する回答において事実関係及び法人としての改善措置等が明確にされた場合において、監督処分等を行うまでの必要性はないと判断するときは、監督処分等を行わないこともあり得る。
〇 また、報告徴収に対する報告をしない場合や虚偽の報告をした場合には罰則を科すことにより、その実効性を担保することとしていることから、行政庁がその権限を行使するには、それにふさわしい必要性や相当性が求められるが、一般には、事実上の行為としての確認で目的を達成できると考えられる場合は必要性や相当性は認められない。
〇 「その運営組織及び事業活動の状況に関し必要な報告」の範囲も、その後の監督処分等の検討に必要な事項を聴取することとし、単に適正な法人運営を確保する上での懸念点にとどまるような事項の確認は「必要な報告」には含まれないことが多いと考えられる。
第2 報告徴収の実施方針
〇 前述のとおり、報告徴収は、その後の監督処分等を検討するために行う。報告徴収を行う場面として、例えば、以下のような場合が考えられる。
① 定期提出書類の確認の結果、申請書の記載に基づかない事業実施や認定基準不適合等の可能性があると認められる場合(法人に対する事実上の行為としての事実確認のみでは、十分な事実確認ができない場合)
② 点検調査の結果、申請書の記載に基づかない事業実施や認定基準不適合等の可能性がある事象が発覚し、法人に対して更なる調査等を行う必要があると認められる場合
③ 認定法等に基づく各種手続(変更認定申請等)の懈怠がある場合
④ 報道や外部からの情報提供等により、申請書の記載に基づかない事業実施や認定基準不適合等の可能性、コンプライアンス上の課題があると認められる場合
〇 ④の場合、必要な範囲で当該法人や関係府省への照会等により事実上の行為としての事実確認を行った上で、報告徴収の実施の要否を判断する。なお、外部からの情報提供については、取扱いに十分注意する(第5節参照)。
また、不祥事案について公益法人から自主的に報告があった場合は、当該報告内容を精査の上、さらに報告を求めるべき事項があれば報告徴収を実施する。
〇 報告を求める内容は、個別の案件に応じて適切に判断する。認定基準等適合状況に関する事実関係のほか、認定基準等に不適合となった原因、役員の責任、今後の改善方策等について報告を求めることが考えられる。
〇 報告徴収を受けた公益法人は、必要な調査等を行い、法人としての意思決定をした上で報告する。
〇 なお、報告を求める期限は、発出後1か月後を標準とするが、個別事案に応じて、緊急性、法人における調査や意思決定に要する期間等を勘案した上で判断する。
第3 報告徴収結果の処理
〇 法人からの報告書を受けた後の対応としては、概ね以下が想定される。
・ 認定基準不適合等の事実が認められる場合は、法人に対し、監督処分等を行う。
ただし、法人の行為に悪質性がない場合や報告において法人の自律的な改善措置が明確に示されている場合等、監督処分等を行う必要がないと判断される場合(第6節第2参照)には、当該報告内容を了とし、今後の監督において、法人の改善状況を引き続き注視することとして差し支えない。
・ 報告徴収事項に対する回答内容について事実確認等の必要がある場合は、法人に対して事実上の行為としての照会(法人の役員等との対話を含む。)を行い、その結果を踏まえ、必要な対応を検討する。
・ 報告徴収事項に対し十分な回答がなされていない場合は、回答不十分な事項について、再度の報告徴収を求める。法人が意図的に回答を拒否しているとみられる場合は、行政庁において罰則の適用(過料に係る裁判所への通知)を検討する。
第4節 立入検査の実施指針(認定法第27条)
第1 立入検査の趣旨
〇 行政庁及び公益認定等委員会(各都道府県設置の合議制機関)は、認定法第27条において、「公益法人の事業の適正な運営を確保するために必要な限度において」「その職員に、当該公益法人の事務所に立ち入り、その運営組織及び事業活動の状況若しくは帳簿、書類その他の物件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができる」とされており、基本的には、報告徴収(第3節参照)と同様の趣旨である。
〇 報告徴収と同様、立入検査も監督措置の一環と位置付けられており、勧告、命令、公益認定取消しという監督処分等のための事実確認の手段である。ただし、報告徴収と異なり、職員が実地に確認することで法人の担当者とコミュニケーションをとりつつ詳細な事実関係を確認することができる一方、法人による調査を必要とするような事項の確認はできないこと、法人の担当者の見解が必ずしも法人としての意思決定を得たものではないこと等に留意する。
〇 立入検査には、具体的な監督処分等の必要性の判断を念頭に置いて行う立入検査と、公益法人による公益目的事業の実施状況等に問題がないか実地に確認することを目的とする立入検査が存在する。そのため、これまでは、概ね3年を目途にすべての公益法人に対する立入検査が一巡するスケジュールで立入検査を実施することとしていた。この種の立入検査は、具体的な監督処分等の必要性の判断を念頭に置いて行うものではないものの、立入検査で問題が発見されれば監督処分等を行うものであるため、「公益法人の事業の適正な運営を確保するために必要な限度」に含まれる。
〇 令和7年度より、内閣府では、内部的に、具体的な監督処分等の必要性の判断を念頭に置いて随時に行う立入検査を「重点検査」、実態把握のために定期的に行う立入検査を「点検調査」と区別して扱うこととしており、本ガイドラインにおいても重点検査と点検調査は区別して取り扱うが、結果的に両者の性質を併せ持つ立入検査も想定され、実際に行われた立入検査がどちらに該当するか整然と区別することが困難な場合もありうる。
第2 重点検査
(1)重点検査の実施方針
〇 報告徴収と同様に具体的な監督処分等の必要性を検討することを想定している場合や、具体的な監督処分等の必要性の検討を想定しないまでも事業内容の確認を要すると考えられる場合公益目的事業の実施状況等を確認するために行う。そのため、事前に検査間のインターバル等を定めることなく、必要に応じて機動的・集中的に行う。
〇 例えば、以下のような法人に対しては、重点検査によって実態を確認することが考えられる。
① 定期提出書類の確認や点検調査の結果等により、法人の事業活動の状況等が認定基準に抵触している可能性があると認められる場合において、その背景、法人運営の実態、事実関係等を確認する必要が認められる法人
② 法人内外からの情報提供等により、速やかに事実関係を確認する必要が認められる法人
③ 過去の監督や審査の経緯に照らし、報告徴収や勧告に対する報告等の内容、定期提出書類の確認結果等を踏まえ、法人運営の実態について確認する必要が認められる法人
④ 業務運営を他の主体に依存しており法人の自律的な運営状況を確認する必要性が高い法人
⑤ 上記のほか、法人運営の実態、事実関係等を直ちに確認する必要が認められる法人
〇 重点検査を行うに当たっては、直近の事業報告を確認した上で検査に臨むこととし、原則として事前に、立入検査実施通知書を作成し法人へ送付する。
〇 重点検査においては、事実を的確に把握し、法人に対して客観的に問題点を示した上で、法人の主張を十分に聴取し、法人の理解や認識を確認することを基本とする。
(2)重点検査結果の処理
〇 重点検査の結果、認定基準不適合等が認められた場合もしくはその疑いがあると認められた場合は、必要に応じて報告徴収により更なる事実確認を行った上で、監督処分等を実施する。
第3 点検調査
(1)点検調査の実施方針
〇 「事後的に実効性の高い措置を講ずる重点的なチェック」の取組の一環として、従来の一律・画一的な立入検査ではなく、手続及び検査事項等を簡素化した上で、公益法人が遵守すべき事項についての注意喚起及び制度理解の醸成に努めることを目的として、法人の自己点検、対話に重点を置いた手法で実施する。
〇 点検調査においては、法人の実態に応じた助言や注意喚起を行う。例えば、
① 新規に公益認定を受けた法人等、公益認定制度に習熟しておらず、今後の法人運営に不安を抱いていると考えられる法人に対しては、公益認定後の手続について相談に応じ、法人の疑問点を解消するとともに、制度理解不十分に起因する理事会運営や財産管理の不備、提出書類の漏れ等の防止を図る観点から、公益法人制度に係る助言等を行う
② 定期提出書類において、記載誤りや記載漏れなどが多く事務処理能力が十分でないと考えられる法人に対しては、法人役員と問題を共有する等組織として改善が図られるよう助言等を行う
③ 定期提出書類の内容が不十分な法人やHP等による情報開示が殆ど行われていない法人に対しては、情報開示の必要性に係る助言等を行うということが考えられる。
〇 点検調査のサイクルについては、基本的には、すべての法人を対象として、概ね10年以内を目途に行うこととし、法人のガバナンス状況等に応じて柔軟に判断する。点検調査に関する計画を策定する際、上記①~③のように注意喚起及び制度理解の醸成を行う必要性が高いと考えられる法人があれば、優先的に選定する。
〇 点検調査を実施する際は、あらかじめその旨をメール等にて法人に連絡する。
〇 点検調査は、あらかじめ「自己チェックシート」及び「備置き書類一覧」を法人から事前に提出を受け、相談内容等を把握の上、実施する。調査時には原則として総覧的な書面の確認は行わず、主として対話により進行することとする。一般的な点検調査の時間は2~3時間程度を想定している。
(2)点検調査結果の処理
〇 点検調査の結果、法令違反等の重大な問題点が発覚した場合は、必要に応じて、重点検査や報告徴収の実施を検討するなど、臨機応変に対応する。
第5節 情報提供の取扱い
第1 情報提供の意義
〇 本ガイドラインでいう情報提供とは、公益通報を含む行政庁外部からの情報提供の全てをいう。
〇 公益通報とは、公益通報者保護法(平成16年法律第122号)第2条に規定された要件を満たす情報提供であり、行政庁は「通報対象について処分又は勧告等の権限を有する行政機関」として外部の労働者等から受ける通報(いわゆる2号通報)のことをいう。なお、公益法人制度において、公益通報の対象となる事実(通報対象事実)は、認定法第5章に規定する罰則又は過料の対象となる事実である。
〇 これまでも、情報提供は、公益法人の不適切事案の端緒をつかむ上での重要なものであった。令和6年の制度改正により、情報開示対象が増えるとともに、公益法人に透明性向上の努力義務が課されることを踏まえ、法人のステークホルダーを含む国民によるチェックを公益法人の適正運営の確保の重要な手段と位置づけており、監督における情報提供は、より一層の重要なものとなっていることに留意が必要である。
第2 情報提供の取扱いに係る留意事項
〇 秘密保持及び個人情報保護を徹底する。
例えば、「公益通報者保護法を踏まえた国の行政機関の通報対応に関するガイドライン(外部の労働者等からの通報公益通報)」(国の行政機関向け)では、下記のとおりとされている。各行政庁におかれては、地方公共団体向けガイドラインも参考に適切に対応する。
① 通報又は相談への対応に関与した者は、通報又は相談に関する秘密を漏らしてはならない。② 通報又は相談への対応に関与した者は、知り得た個人情報の内容をみだりに他人に知らせ、又は不当な目的に利用してはならない。
③ 各行政機関は、特に以下に掲げる事項について十分な措置を取った上で、通報対応の各段階において遵守すべき事項をあらかじめ取り決めて、通報又は相談への対応に関与する者に対して十分に周知する。
ア 情報を共有する範囲及び共有する情報の範囲を必要最小限に限定すること
イ 通報者等の特定につながり得る情報(通報者等の氏名、所属等の個人情報のほか、調査が通報を端緒としたものであること、通報者等しか知り得ない情報等を含む。)については、調査等の対象となる事業者に対して開示しないこと
ウ 通報者等の特定につながり得る情報を、情報共有が許される範囲外に開示する場合には、通報者等の書面、電子メール等による明示の同意を取得すること
エ ウに規定する同意を取得する際には、開示する目的及び情報の範囲並びに当該情報を開示することによって生じ得る不利益について、明確に説明すること
オ 通報者等本人からの情報流出によって通報者等が特定されることを防ぐため、通報者等に対して、情報管理の重要性について十分に理解させること
〇 公益通報の要件に該当しない情報提供(匿名など)であっても可能な限り公益通報と同様の取扱いになるように努める。
第3 情報提供への対応
〇 行政庁に情報提供があったときは、正当な理由なく通報の受付又は受理を拒んではならない。
〇 行政庁において情報提供を受け付けたときは、秘密保持及び個人情報の保護に留意しつつ、情報提供の内容となる事実等を把握するとともに、情報提供に関する秘密は保持されること、個人情報は保護されること、情報提供受付後の行政庁の対応の流れ等を、情報提供者に対し説明する。
〇 情報提供内容となる事実について、当該行政機関が権限を有しないときは、権限を有する行政機関を、情報提供者に対し、遅滞なく教示する。
〇 情報提供への対応について検討するに当たっては、情報提供内容を裏付ける内部資料、関係者による供述等の存在のみならず、情報提供者本人による供述内容の具体性、迫真性等踏まえ、柔軟かつ適切に対応する。情報提供内容の事実確認については、まずは手持ち情報(申請書、定期提出書類等)及び公開情報(法人ホームページ等)から行う。なお、情報提供の内容の真実性が直ちに明らかでない場合においても、公益法人制度の信頼性等に重大な影響を及ぼす可能性が認められる場合には、同様に対応する。
〇 調査の実施が必要と判断した場合、法人に接触する当たり、情報提供に関する秘密を保持するとともに、個人情報を保護するため、情報提供者が特定されないよう十分に留意しつつ、遅滞なく、必要かつ相当と認められる方法で行う。
〇 行政庁は、調査の結果、認定基準不適合等が認められた場合若しくはその疑いがあると認められた場合は、必要に応じて報告徴収等により更なる事実確認を行った上で、監督処分等を実施する。
第6節 監督処分等の適用方針(認定法第28条・第29条)
第1 監督処分等の趣旨
〇 公益法人への監督は、「公益の増進及び活力ある社会の実現」を最終的な目的として、公益法人制度の適正な運営及び制度への信頼確保を図る観点から行うものであり、公益法人の適正な運営を担保する手段として、認定法は監督処分等を規定している。
〇 税制優遇等の社会的恩恵を受けつつ、不特定多数の者を対象に公益目的事業を行う公益法人については、継続的に認定基準に合致していることが要請される。そのため、定期提出書類等の確認や立入検査等によって認定基準に合致しない実態等が判明し、かつ、法人による自浄作用が期待できず、当該問題を放置することが公益法人制度の信頼に影響を及ぼすと考えられる場合等は、認定基準不適合等の状況を是正するための強制力のある監督手段が必要となる。
〇 一方で、公益法人の自主性・自律性を尊重する観点からは、初動の対応として行政庁がいきなり強制力を伴う命令を発することは望ましくないという考えから、認定法は、まずは法人が自ら改善措置を講じることを促すよう、行政庁による勧告を行うこととしている。公益法人が勧告に正当な理由がなく従わない場合、行政庁は、勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。公益法人がこの命令に従わないことは、公益認定の必要的取消事由となる。なお、報告徴収や立入検査は必要に応じて実施するものであり、勧告の前に必ずしも実施しなければならないものでないことに留意する。
第2 監督処分等の適用方針
〇 認定法上、認定基準不適合は任意的取消事由とされており、少しでも認定基準に適合していない事実があれば、すべて監督処分等の対象になるわけではない。一方で、法人の自主的・自律的な経営判断を尊重する一方で、「事後的に実効性の高い措置を講ずる重点的なチェック」の観点からは、果断に監督処分等を行うことも必要であり、このバランスが重要になる。
〇 どのような法人を監督処分等の対象とするかは、個別事情を踏まえて判断する必要があるが、当該法人を放置することが公益法人制度への信頼を損ねる可能性が高いと判断される場合に監督処分等を行うことを基本とする。なお、公益法人による自浄作用が期待できず、かつ、当該法人を放置することが公益法人制度への信頼を損ねることが明白である場合には、報告徴収や立入検査を行わずに監督処分等を行うこともあり得る。
(参考4)「公益法人制度への信頼を損ねる可能性が高いと判断される場合」の例
一般に、認定基準不適合、財務規律違反、定期提出書類の提出懈怠(必要な事項の未記載や重大・明白な誤りを含む。)等は、「当該法人を放置することが公益法人制度への信頼を損ねる可能性が高いと判断される場合」に該当する。よって、やむを得ない事情があったと認められる場合を除き、見直し等の必要な措置を取るべき旨の勧告を行うことを原則とする。
一方、重要ではない事項の記載漏れ、軽微な誤りや誤解による誤りについて直ちに監督処分等を講じる必要はなく、事実上の行為として改善事項等を指摘する。
また、法令違反(第29条2項3号。一般法人法、個人情報保護法、労働法令、消防関係法令等の違反)については、一義的には、これらは認定法に基づく監督ではなく、法人のガバナンスの下で法令遵守が図られるべきものであり、認定基準である技術的能力の欠如が疑われるような重大な場合を除き、法令違反があったからと言って直ちに認定法に基づく監督処分等を検討することはしない。必要に応じ、事実上の行為として改善事項等を指摘し、法人の改善を促すことを基本とする。
〇 上記を基本的な考え方とした上で、行政庁において、下記に掲げる点も考慮し、監督処分等を行うかどうかを判断する。
・ 認定基準不適合等の態様・程度(公益法人制度への信頼に対する影響はどの程度か、どの程度の関係者に不利益を及ぼしているか。)
・ 故意性の有無(当該違法・不当行為が故意・過失によるものか。)
・ 常習性の有無(当該違法・不当行為が反復継続して行われたものか、一回限りのものであったのか、期間はどの程度であったか。)
・ 組織性の有無(当該違法・不当行為が担当者個人の判断で行われたものか、あるいは役員等が関わっていたものか。)
・ 悪質性の有無(法人として問題を認識した後に隠ぺいを図るなど悪質な行為が認められたか、合理的な理由なく是正改善に向けた姿勢がとられないなどの対応がないか、虚偽報告や虚偽答弁などの事実が認められるか。)
・ 自律的な改善の姿勢の有無(自律的・自発的な改善を図っているか。)
・ 法人の運営管理体制の適切性の有無(役職員の法令及び制度等の認識の欠如、ガバナンス不全等が根本的な要因となっていないか。)
○ なお、行政庁は、不利益処分の基準を設定し、かつ、これを公にしておくよう努めなければならない点にも留意する(行政手続法第12条)。
〇 また、監督処分等を進める中で、法人のガバナンス改善の兆しが見られ、自発的な改善に取り組む姿勢が見られた場合は、法人による自発的な改善を待つこともあり得る。
(参考5)定期提出書類の提出懈怠に係る内閣府の対応
定期提出書類の提出懈怠は明確な法令違反であり、法人のガバナンス能力が疑われる事案であることから、①によっても提出がなかった場合、速やかに②以降に進めることとしている。
① 提出期限後2週間提出がない場合
(a)公文書による督促、(b)報告徴収、(c)立入検査のいずれかを実施する。
② 上記①後、1か月間程度提出がない場合
勧告を実施の上、公表する。
③ 提出期限後、2か月間程度提出がない場合
罰則の適用に係る手続(裁判所への過料事件の通知等)を行う。
④ 勧告後、実施期限内に提出がない場合
命令を行い、公示する。
⑤ 命令後、1か月間程度提出がない場合
公益認定取消し
第3 行政手続法の手続
〇 公益法人に不利益処分(行政処分)を行う場合(認定法に基づく命令と認定取消しを行う場合)、行政手続法に基づく意見陳述のための手続を執るとともに、理由を示さなければならない(行政手続法第13条第1項、第14条第1項)。
〇 認定法第28条第3項の命令は不利益処分に当たるため、弁明の機会の付与が必要となる(行政手続法第13条第1項。弁明の機会の付与の代わりに聴聞を行うことも可能。)。弁明の機会の付与は、書面審理で行うため、公益法人は、弁明書を提出して行う。
認定取消しを行う場合は、聴聞をしなければならず、弁明の機会の付与に代えることはできない(行政手続法第13条第1項)。聴聞は口頭審理であるため、処分の名宛人となるべき者(公益法人)は聴聞期日に出頭し、意見陳述を行うことになる。
〇 聴聞等においては、公益法人側が過去の証言を撤回することや新たな反論をしてくることも想定される。このような場合に備え、行政庁は、明確かつ客観的な証拠を準備すること等が求められる。
○ このほか、聴聞手続その他不利益処分を行うに当たっては、「行政手続法の施行に当たって(総務事務次官通知平成6年9月13日付け総管第211号)」の「第三 不利益処分関係」の内容を踏まえ、適切に行う。
第7章 公益法人行政担当室の業務運営方針
第1節 事務処理状況の公表
〇 認定法第48条は、公益認定等委員会によるその事務の処理状況の公表について定め、 委員会の事務運営の透明性を確保し、公正な事務執行を担保すること、そして国民に対する説明責任を果たすことを目的としている。
〇 また、認定法第57条においては、内閣総理大臣及び都道府県知事(行政庁)は、公益法人の活動の状況、公益法人に対して行政庁がとった措置その他の事項についての調査及び分析を行い、必要な統計その他の資料の作成を行うとともに、公益法人に関するデータベースの整備を図り、国民にインターネットその他の高度情報通信ネットワークの利用を通じて迅速に情報を提供できるよう必要な措置を講ずるものとされ、公益法人全体の実態を総合的かつ多面的に明らかにし、寄附やボランティアを行うにふさわしい公益法人を比較検討し、選択するために必要な情報を提供するとともに、公益法人制度があまねく国民に浸透し活用され、社会的課題の解決に向けた公益活動の一層の活性化に資するものとなることを目的としている。
〇 具体的には、内閣府(内閣総理大臣及び公益認定等委員会)は、都道府県と共同で運用する公益認定等総合システムの業務処理情報や法人から提出された事業報告等のデータから、毎年度「公益法人の概況及び公益認定等委員会の活動報告」等に、公益認定等委員会の事務処理状況、公益法人の活動の状況、公益法人に対して行政庁がとった措置その他の事項についての報告、調査を行った結果を取りまとめて、「公益法人information」において、公表している。
〇 なお、上記において、各都道府県に設置されている合議制の機関の事務処理状況に関するデータについても、公益認定等委員会の事務処理状況に関するデータと併記して公表し、参考として移行認可を受けて特例民法法人から移行した一般法人の概況も掲載している。
○ 最終報告においては、公益法人行政に関する全ての手続のデジタル完結・ユーザビリティの向上として、内閣府において一元的な情報開示プラットフォームとなる情報システムを整備し、申請等のデジタル完結、ユーザビリティの向上、行政の提供する情報のオープンデータ化、公益法人が毎年度提出する定期提出書類作成の負担軽減を図ることとされた。
内閣府公益法人行政担当室においては、一元的な情報開示のプラットフォームの提供について、今後継続したDX推進により、国民にとって利便性の高い形で公益法人の情報・データを提供するシステム整備を進める。
第2節 行政庁による公表(認定法第22条第2項)
〇 公益法人は、不特定かつ多数の者の利益のために、国民からの寄附及び税制優遇措置等の下活動することから、国民に対し広く情報開示を行い透明性の高い事業運営を行うことが求められている。情報開示により、外部理事、社員、評議員その他の公益法人関係者が公益法人の業務運営に関する情報を把握し、公益法人のガバナンスを機能させるほか、国民によるチェック公益法人関係者等が気づきの点を指摘すること等を通じて法人の自浄能力が発揮されること)が期待される。
〇 また、法人の財務状況や資金の使途、ガバナンス等に関する透明性が高まることで、国民の公益法人に対する理解が深まり支援が促進される効果が期待できる。加えて、多くの公益目的事業の開示情報を容易に比較できる形で公表することにより、透明性高く、質の高い公益目的事業を効果的に実施する公益法人に対して寄附が集まることで、民間の公益活動が全体的に活性化することが期待される。
〇 公益法人から行政庁に提出された財産目録等(役員等名簿又は社員名簿に記載された事項中、個人の住所に係る記載の部分を除く。第5章第5参照)について、行政庁による公表が規定され(認定法第22条第2項)ている。「公益法人information」等のプラットフォームを通じて情報公開される。
第3節 国の支援(認定法第3条の2第2項)
〇 認定法第3条の2第1項において、公益法人が、より国民からの信頼・協力を得られる存在として更なる発展を遂げるために、ガバナンスの充実や説明責任について公益法人が果たすべき責務を明記し、公益法人の自発的な取組を促進することの重要性を確認している。
〇 同時に第2項において、公益行政を所管する国に対して、自主的・自律的な公益法人の取組を後押しすることを義務付け、民間公益の活性化に資する活動を行っていくことを求めている。例えば①インパクト測定・マネジメントに関する国内外における取組事例調査、事例集の作成・展開、②自律的ガバナンス充実や透明性確保の取組の好事例の収集・展開、③公益的活動を行う他の団体を広く支援している法人等中間支援団体等の支援等が考えられる。
第8章 移行法人
第1節 公益目的支出計画等(整備法第119条)について
〇 旧制度からの移行期間は平成25年に終了しているが、公益目的支出計画の変更の認可(整備法第125条)の基準であり、移行法人の監督(整備法第128条・第129条)において準拠すべき、公益目的支出計画に係る移行認可の基準(整備法第117条第2号)等について、本節でその運用を明らかにする。
〇 具体的案件における審査及び監督については、法令に照らし、個々の案件ごとに判断する。なお、法人からの申請内容が具体性を欠き、個別に説明を求めても、内容が不明確である場合には、結果として不認可となることがあり得る。
第1 公益目的支出計画が「適正」であることについて(整備法第117条第2号)
○ 公益目的支出計画が「適正」であることについては、以下の事項を確認する。
① 公益目的支出計画に記載された実施事業等(190 実施事業及び特定寄附をいう(以下同じ。)。実施事業とは、整備法第119条第2項第1号イ又はハに規定する事業をいう(以下同じ。)。特定寄附とは同ロに規定する寄附をいう。)について、整備法第119条第2項第1号の「イ」、「ロ」又は「ハ」に該当していること
② 実施事業等を行うに当たり、特別の利益を与えないものであること
③ 実施事業を行うのに必要な技術的能力を有していること
④ 公益目的支出計画における実施事業等に係る収入と支出の計算が整備法及び整備規則に則って行われていること
○ なお、公益目的支出計画に記載する実施事業等について、認可申請を行う法人は、公益目的支出計画に実施事業等ごとに記載することを要し、それぞれについて内容、収益・費用に関する額等を記載する。収益事業や共益的事業など実施事業に該当しない部分が含まれている場合にはこれを区分し、実施事業に該当する部分について記述する。
○ 公益目的支出計画の実施期間については、移行認可の際には、社員等を含む法人の関係者の意思を尊重し、原則として、法人において定めた期間で認めたものである。一旦、関係者の意思を尊重して決定されたものである以上、その確実な実施が求められるところであり、変更にはやむを得ない事情や合理的な理由が必要である。
変更認可は、延長にはやむを得ない事情があり合理的な対応であるのかどうか、及び延長された期間の全体を通じて確実な実施が見込まれるものであるかどうかの二点が確認された上でなされる必要がある(191 FAQ問Ⅹ―1-①)。
(1) 公益目的支出計画に記載された実施事業等について、整備法第119条第2項第1号の「イ」、「ロ」又は「ハ」に該当していることについて
申請において、実施事業等については事業区分ごとに内容及び収益・費用に関する額等が記載されており、整備法第119条第2項第1号「イ」、「ロ」又は「ハ」に該当することを要する。また、実施事業について定款に位置づけられていることを要する。
① 「イ」として記載した支出(事業)について
当該事業が公益目的事業であるかどうかは、認定法における公益目的事業と同様に判断する。
② 「ロ」として記載した支出について
当該支出(特定寄附)の相手方が、認定法第5条第20号に掲げるいずれかに該当することを確認する(同号の「ト」として同法施行令第9条に該当する場合は、その条件を満たすものであることを確認する。
③ 「ハ」として記載した支出(事業)について
○ 当該事業は、民法に基づく旧制度において、旧主務官庁の監督の下において公益に関する事業と位置付けられており、移行認可の際に、旧主務官庁の意見を尊重して、ハに該当する事業として認められた事業である。
〇 移行後において実施事業として「ハ」の事業を新たに追加することはできない。(イ(公益目的事業)の要件を満たす場合には、イに該当する事業として、変更認可手続を経て追加することはできる。)
(2) 特別の利益
実施事業等を行うに当たり「特別の利益」(認定法と同様の考え方とする。)を与えることとなる事業又は寄附は、実施事業等とは認められない。
(3) 技術的能力
実施事業を行うために必要な許認可等の有無を確認するほか、当該実施事業に必要な「技術的能力」(認定法と同様の考え方とする。)を法人が有しない場合は、その事業は実施事業とは認められない。
(4) 公益目的支出計画における実施事業等に係る収入と支出の計算が整備法及び整備規則に則って行われていること(192 法人が公益目的支出計画に記載する「実施事業等」については、支出の総額が収入の総額を上回ることを要する。なお、複数の実施事業等を盛り込む場合であり、それらの実施事業のうちいくつかの実施事業については、支出額が収入額を上回らないものであっても上記を満たす限り可能とする。)
○ 公益目的支出の額は、整備規則第16条に規定する「公益目的支出の額」のうち、同条第1号の実施事業に係る事業費とは、実施事業の目的のために要する費用とする(193 令和6年会計基準を適用する場合の実施事業の費用は、一般純資産における費用計上額と指定純資産における費用計上額を合算した額(活動計算書において実施事業に係る事業費として計上されている額)となる。)。また、事業費に含むことができるものの取扱いについては、認定法と同様の考え方とする。実施事業資産についても、当該実施事業資産を複数の用途に供している場合には、認定法と同様の考え方とし、当該用途に応じて区分するものとする。同条第2号の当該事業年度において支出をした特定寄附の額について、整備規則第14条第1項第1号に規定する時価評価資産を寄附した場合には、 当該資産の算定日(移行の登記の前日)における時価をもって特定寄附の額とする。
○ 実施事業収入の額については、整備規則第17条第1項に規定する「実施事業収入の額」のうち同項第1号の「実施事業に係る収益」とは、原則として次のとおりとする。
① 実施事業の実施に係る対価としての収益(入場料、手数料等)
② 使途が実施事業に特定されている収益
③ 法人においてルールを設定し、実施事業収入と定めた収益
〇 また、同項第2号の「実施事業資産から生じた収益」とは、例えば実施事業資産の売却益などが該当する。なお、使途が実施事業に特定されている積立金(基金)の運用益について、実施事業の財源を実施事業に係る収益又は実施事業資産から生じた収益とした場合には公益目的支出計画が終了しないと予想される場合には、実施事業に係る収益又は実施事業資産から生じた収益としないことができる。
〇 このほか、使途の制約の解除、減価償却の実施及び災害等による消滅により、使途が実施事業に特定されている指定正味財産を費消した場合には、その費消した指定正味財産額が実施事業の費用に計上される一方で、その費消した指定正味財産を一般正味財産へ振り替えることに伴って費用と同額が実施事業の収益に計上されることにより、公益目的財産額が減少しないという現象を避けるため、使途が実施事業に特定されている指定正味財産(移行の登記をした日の前日までに受け入れたものに限る。)について、使途の制約の解除、減価償却の実施及び災害等による消滅により、当該指定正味財産を一般正味財産へ振り替えることに伴って生じる収益については、実施事業に係る収益又は実施事業資産から生じた収益としないことができる(194 平成20年会計基準における取扱いは本文のとおりであるが、令和6年会計基準では、指定純資産から一般純資産の振替は通常行わないことから、振替に伴い公益目的財産額が減少しないという事態は想定されない。)。
第2 公益目的支出計画を確実に実施すると見込まれることについて(整備法第117条第2号)
○ 法人が「公益目的支出計画を確実に実施すると見込まれること」とは、実施事業等以外の事業及び管理運営を含む法人活動全般について、その財務的な影響により実施事業等のための資金が不足するなど公益目的支出計画の安定的な実施が妨げられることがないと見込まれることとする。
○ 移行後においては、多額の借入れ等や資産運用方針の大幅な変更などを行うことにより申請時の収支の見込みが変更される場合には、事前に行政庁に届け出ることを求める。
なお、これらの活動により公益目的支出計画が当初の実施期間内に完了しないこととなる場合には、あらかじめ整備法第125条第1項に規定する公益目的支出計画の変更認可を受けなければならない。
第3 移行法人の計算書類について(整備規則第42条)
移行法人が行政庁に提出する計算書類の作成について、損益計算書(正味財産増減計算書)は、内訳表において実施事業等に関する会計(実施事業等会計)を他と区分し、更に実施事業等ごとに表示する。整備規則第31条第5号の「収支予算書」の作成も同様とする(195 平成20年会計基準における取扱いは本文のとおりであるが、令和6年会計基準では、活動計算書(従来の正味財産増減計算書に相当)において実施事業に係る事業収益及び事業費を区分するほか、活動計算書の注記である「会計・事業区分別内訳」において実施事業会計を区分することとしている。なお、移行法人についても、令和6年会計基準は、令和7年4月1日以降に開始する事業年度より適用するが、令和10年4月1日より前に開始する事業年度までは従前の会計基準(平成20年会計基準)を適用することができる。)。
第2節 実施事業等の変更に伴う公益目的支出計画の変更認可の必要性
第1 事業を廃止する場合
(1) 事業の一部(例 公○事業の一部)の廃止により計画期間が変わらない又は短くなる場合
〇 整備規則において、各事業年度の公益目的支出計画の額又は実施事業収入の額の変更があり、かつ、計画期間が長くならない場合は、「軽微な変更」に当たることとされている。この反対解釈として、各事業年度の公益目的支出の額又は実施事業収入の額に変更がなく、結果として計画期間が変わらない場合は、「変更」に該当せず、届出も不要である。 そして、計画期間が変わらない場合に届出が不要であるならば、計画期間が短くなる場合に届出を求める合理的な理由がないことから、この場合にも届出は不要である
〇 整備法が移行法人に対して公益目的支出計画の作成を義務付けた趣旨は、寄附や税制優遇を受けて形成された移行法人の財産が、適正に公益目的に費消されることを担保することにあることからすれば、かつて認可を受けた事業の範囲内で公益目的支出計画を実施することが可能であり、かつ、計画期間が変わらない又は短くなるのであるから、新たに認可を受ける必要又は届出を行う必要はない(整備法第125条第1項及び整備規則第35条第3号)。
(2)一の事業(例 公○事業)の廃止により計画期間が変わらない又は短くなる場合
〇 事業の廃止については、公益目的支出計画の記載事項である実施事業の一部が削除されることとなるため、支出計画に変更があったものとして、認可を受ける必要があるようにも思われる。しかし、ある一の事業の全部が廃止されることは、当該事業の実績がない状態が継続することと概ね同義であり、このような場合において認可・届出が必要とされていないこと、
○ また、上述の公益目的支出計画の作成を義務付けた趣旨を踏まえれば、かつて認可を受けた事業の範囲内で公益目的支出計画を実施することが可能であり、かつ、計画期間が変わらない又は短くなるのであるから、変更認可・届出を要する「支出計画の変更」に当たるとまでは言えず、新たに認可を受ける必要又は届出を行う必要はない(整備法第125条第1項)。
(3)事業廃止により計画期間が長くなる場合
事業の廃止に伴い、計画期間が長くなる場合は、計画変更の認可が必要となる(整備法第125条第1項及び整備規則第35条第3号イ)。
第2 事業を追加する場合
事業を追加する場合、新たに追加する事業が、公益目的支出計画の対象として適当であるか否かを確認する必要があるため、計画変更の認可が必要となる(整備法第125条第1項及び整備規則第35条)。
第3節 公益目的支出計画の完了確認請求について
○ 移行法人は、自ら作成した公益目的支出計画に基づく公益のための支出をすることにより、公益目的財産額に相当する額の全額を公益の目的に支出した場合には、公益目的支出計画の実施が完了したことの確認を行政庁に求めることができる(整備法第124条)。
○ 確認を受けた移行法人は、当該確認を受けた日から公益目的支出計画に基づく支出の義務が解除され、行政庁による監督や公益目的支出計画実施報告書の提出義務がなくなることとなる(整備法第123条)。