1、賃貸不動産であるアパートを信託しました。委託者兼受益者はA、受託者はAの子です。
2、所有権移転及び信託の登記を済ませました。なお、信託目録の信託財産の管理方法として、「賃料の受取および回収」の記載があります。
3、アパート家賃の振り込み先口座となる信託口口座も開設しました。
4、AとAの子は、アパートの住人に対して、「所有者」がAからAの子に変わったので、今後はこの口座への振り込みをお願いします、と信託口口座が記載された書類を渡して一戸一戸挨拶をして回りました。
5、アパートの住民は、所有者が変わったのだと理解して賃料を信託口口座へ振り込みました。
・この場合、振り込まれた賃料は、信託財産になるのでしょうか。
原則として、信託財産であるアパートの住人から振り込まれた賃料は、信託財産となります。
AとAの子がアパートの住民に対して、信託財産であるアパートの賃料を、信託口口座へ振り込みをお願いする行為は、信託のためにする意思があると推定されます。
Aも一緒に挨拶に回っていることから、信託目的に反することはなく、Aの子の権限の範囲内と推定されます。
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ベストプラクティス
4、の説明で所有者が変わったとの説明は、間違いではないと考えますが、誤解を招く可能性もあるかもしれません。賃貸人が変わったと説明し、登記記録のコピーも一緒に渡す方法もあるのではないでしょうか。
渡す時には、所有権移転にマーカーをひき、登記の際、信託目録には受託者の権限として賃料の受取りを明記して、そこにもマーカーをひくと良いのではないかと考えます。
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アパートの賃料は、当然に信託財産になるのか。
賃料は、信託財産であるアパートの管理により得た財産であるため、当然に信託財産になると考えます(信託法21条1項3号)。
受託者から受益者へ賃料の給付を行い、受益者の手元、口座にお金が入ったとき、このお金のことを難しい言葉にすると、何と呼べばいいでしょうか。条文の言葉を借りれば、「受益権を有する受益者が受託者から信託財産に係る給付として受けた金銭」
となります。
民法上の法定果実は、出てこないのではないかと考えます。
なお異なる説として、渋谷陽一郎『民事信託のための信託監督人の実務』日本加除出版(株)2017 P254
「なお、賃料は信託不動産の法定果実(民法88条2項)であるが、信託行為の定めによって信託財産としている。」
私がこの文章を書くなら、
「賃料は、大きな枠で捉えると不動産の使用の対価として受け取る法定果実(民法88条2項)です。ただし信託不動産に関しては、信託行為が効力を生じることにより信託法が適用され、16条により当然に信託財産に属する財産となります。信託が終了すると、賃料は法定果実に戻ります。」
となります。
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参考:
信託法16条、21条、26条、27条、32条4項、97条
民法88条