1、受益権の譲渡と制限
受益権は、原則としてあげたり売ったりと譲渡することができます(信託法93条)。
例外は、
(1)受益権の性質が譲渡を許さないとき
(2)信託行為に譲渡制限の定めがあるとき
です。
(1)の例として、特別障害者扶養信託が設定されているときが挙げられます[1]。守りたい受益者として、「この人!」と決まっているので、これを譲渡することは出来ません。
(2)の例として、「受益権を譲渡することはできない。」などの定めが信託契約書に記載されているとき。なお、定めがあるのに譲渡した場合、譲り受けた人をどこまで保護するかに関して、今後少し改正があります。
【現行】
(受益権の譲渡性)
第九十三条 受益者は、その有する受益権を譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2 前項の規定は、信託行為に別段の定めがあるときは、適用しない。ただし、その定めは、善意の第三者に対抗することができない。
【改正後】
(受益権の譲渡性)
第九十三条 受益者は、その有する受益権を譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2 前項の規定にかかわらず、受益権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の信託行為の定め(以下この項において「譲渡制限の定め」という。)は、その譲渡制限の定めがされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対抗することができる。
【解説】
2項は、1項全体の例外規定へ。
2、受益権の譲渡を他の人にも証明するには
(1)受益者が受託者に通知書を送る、渡す
(2)受益者が受託者の承諾書を得る
(1)、(2)のいずれかを文書にして、確定日付を公証人役場でもらわなければなりません。
方法の例として、通知書を送るなら、通知書を作って内容証明郵便にして送る。
承諾書を得るなら、承諾書を作って受託者に住所と名前を書いて印鑑を押してもらい、確定日付をもらいにいく。
3、登記との関係
受益権が譲渡されて受益者が変わり、信託目録に受益者の住所と氏名が登記されている場合、変更登記が必要となります(不動産登記法97条、103条)。
1、2、で示した通り、受益権の売買と同時に買主へ融資が行われる場合、受託者への通知書や承諾書で決済ができるはずです。しかしそれに加えて登記を必要とする場合も多いようです。
その理由としては、取引関係者は、受益権の売買と買主への融資は、所有権の売買と買主への融資と実質的に同じと考える。取引関係者は、信託登記を完了することで、1、2、をはじめ信託の実体まで含めて有効な取引が成立したと考える、などが挙げられます。
4、会社の株式譲渡との比較
(1)「当会社の株式を譲渡により取得するには、当会社の承認を受けなければならない[2]」という譲渡制限の定めがある場合
(1)の定めがある場合に、承認を受けないで譲渡した場合の効果はどうなるのでしょうか。
譲渡そのものは有効であるが、会社が承認するかは会社の自由であり、承認する場合は、譲受人を株主として扱い株主名簿の書き換えを行わなければならないと考えます。譲渡を承認しない場合は、今まで通り譲渡人を株主として扱うか、会社が株式を買い取る(会社法140条)ことになると考えます。
譲受人が譲渡制限を過失なく知らなかった場合でも保護されないという面では、会社法の方が譲受人にとっては厳しい処置を採って、その分株式の買取りで対応するという規律になっています。
【条項例】
(受益権の譲渡等)
第○条 受益者は、受益権を譲渡、質入れ及び担保設定その他の処分をすることはできない。
・金融機関が受益者の場合など
(受益権の譲渡等)
受益者は、受託者に事前に通知を行い、受益権を譲渡、質入れ及び担保設定その他の処分をすることができる。
・受益権の内容に含める例
(受益権)
第○条
1~4略
5 受益者が、受益権を譲渡、質入れ、分割及び担保設定その他の処分をする場合、受託者の事前承諾を必要とする。
[1] 新井誠監修『コンメンタール信託法』P300
[2] 法務省HP 2017年6月22日閲覧