市民と法[1]の記事「渋谷陽一郎「信託契約書から学ぶ民事信託支援業務(2)日弁連ガイドラインの概要と依頼者は誰かという問題(2)」からです。
この点、遺産分割協議の場合と同様、司法書士は、どこまで、それらの関係者の利害の調整者となりうるのか(なることは可能なのか)、中立調整という役割を担うことは可能なのか(中立調整の定義は何か)、などのクリティカルな問題を生じる。
司法書士がどこまで、関係者の利害の調整者となりうるか、について、選択肢を全て示して、利害関係者の一人が反対の意思を表示した場合、賛成の意思を表示しなかった場合、意思表示をしなかった場合、だと思います。
中立調整の定義は、分かりませんでした。よって中立調整という役割を担うことが出来るかどうかも分かりません。法律整序事務と中立調整とは異なることを前提としています。
この点、家族信託をめぐって事後的に紛争が生じた場合でも、信託契約案の作成が原因であると主張されれば、それはさかのぼって組成時から潜在的紛争性を秘めていた事件であると評価されるリスクを生じうる。
公正証書遺言案の作成においても、同じようなリスクはあるので、作成する司法書士はそのリスクを許容する必要があると感じました。
信託の場合、そうはいっても、法律整序的な関与といえども、信託の素人である信託当事者の信託行為の意思形成過程に対して、事実上、影響を与えてしまうリスクがある。
任意後見契約書(案)の作成など他の業務についても、法律行為を行う当事者の意思形成過程に対して影響を与えます。登記申請においても、法的効果などを説明して署名や押印をもらい、その過程で意思形成に影響を与えていると考えられます。影響を与えない業務というのが思い浮かびませんでした。
注意すべきは、司法書士は、選択肢の一部を提示するのではなく、すべての選択肢を提示する必要があることである。
同意です。すべて、というと難しく感じますが、依頼者に提示する時点で司法書士が知っている選択肢(施行日が確定している法改正も含みます。)、という範囲だと理解しています。
それでは、信託契約書案の作成において、司法書士が、信託当事者や利害関係者(委託者の推定相続人等)に対して、調整型の関与を行うことは可能であろうか。
すべての利害関係者に対して、調整型の関与を行うことは難しいと思います。利害関係人を把握することが難しい場面があるからです。信託契約書案作成の委任契約書において、利害関係人の範囲は特定してもよいのではないかと思います。
仮に、中立調整を称しつつ、―中略―中立義務違反で訴えられたら、当該司法書士は、どのように抗弁するのだろうか―略―
中立義務が、司法書士業務の関係法令にあるのか分かりませんでした。
さらにいえば、関係者の利害が一致して友好的であればよいが、少しでも利害が対立している場合あるいは利害が事後的に対立した場合には、結局、中立調整者を標榜した司法書士がその責任を問われることになるという意味では、重い業務となる。
最初から依頼を受けないか、委任契約を辞任することで対応可能だと感じます。
[1] 140号、2023年4月、民事法研究会、P88