税理士・公認会計士 成田一正 司会:弁護士 奈良正哉
弁護士 伊東大祐 オブザーバー:弁護士 坂田真吾 弁護士 菅原万里子
信託フォーラム[1]の記事からです。なお、税に関する見解は税理士、法令上司法書士が業務として行うことができないものについては、弁護士への最終確認をお願いします。
信託はお金なり財産を預けて、誰かに管理してもらう制度になりますので、財産を扱う以上、税理士の先生方の手助けは必要だと思います。
私なら、編集段階で次のように訂正してもらいます。「信託はお金などの財産の所有権を受託者に移転して、管理処分してもらう制度になります。財産の移転を伴うので、税理士の先生方の手助けは必要だと思います。」
登録免許税や不動産所得税は、それを受益権化しておいて、それを流通させれば節約になります。
私なら、編集段階で次のように訂正してもらいます。信託の効力発生時と信託期中において、登録免許税や不動産所得税は、所有権を受益権化して、それを流通させれば売買や贈与などと比較して、結果として節税になります。ただし、信託の終了時においては、どのように終了するかによって変わります。
すなわち、相続人より得た財産からそれぞれの相続人の負担した債務を控除し、その残余が課税額となります。
私なら、編集段階で次のように訂正してもらいます。各相続人が得た財産からそれぞれの相続人の負担した債務を控除し、その残余が課税額となります。
例えば信託自体が債務超過の場合、そのマイナスの部分が残余財産といえるのか、他の相続財産からマイナスとして差し引くのが無理であるとすると、信託で一部切り出したことで結局、課税上不利になるのではないかという問題が議論されています。これについては、9条の2第4項の適用が原因だとして、終了させなければ9条の2第6項が適用され、受益権の評価として積極、消極財産がそのまま取得されたというみなし規定が働くので、それで切り抜けようとというのが一般的な対処法となっています。
遺言代用信託(信託法90条1項2号)において、信託財産の内容によって課税上の有利不利がある、という議論があるということを初めて知りました。また、相続税法9条の2第6項の適用を受けるために信託を終了させない、という対処が一般的になっているということも初めて知りました。
ここで、一番困るのは、もう委託者は新たに債務負担をする能力がない状況になり、受託者の判断で信託内借入れをした場合です。この場合委託者=被相続人に債務が帰属していたとはいえません。そいういう場合に、終了させない形にする検討がされているところです。
債務控除(相続税法13条)の適用を受けられないとして、信託を終了させないという形にした場合、いつ信託を終了させるのだろうと思いました。
これは信託法が、終了時には清算受託者による清算が行われていることを前提とした規定しか置いておらず、民事信託によく見られる、現状有姿での権利義務の承継を想定していないため、相続税法もそれにならい、信託終了の規定を置いたものとみられます。
「民事信託によく見られる、現状有姿での権利義務の承継」について、あまり見たことがないので、新しい見方だなと感じました。
相続税法9条の2について、時期のメモ
相続税法(贈与又は遺贈により取得したものとみなす信託に関する権利)
第九条の二
第1項・・・信託の効力が生じた場合
第2項・・・信託の効力が生じたとき以後、信託が終了する前で、新たに受益者等が存するに至った場合
第3項・・・信託の効力が生じたとき以後、信託が終了する前で、受益者等が新たに利益を受ける場合
第4項・・・信託が終了した場合
第6項・・・信託の効力が生じたとき以後、信託が終了する前
2018年に、某金融機関が東京国税局に照会をしたところ、当局の考え方を示している部分が幾つか出ています。すなわち、信託が終了した場合、清算受託者は債務を弁済した後でなければ残余財産を残余財産受益者等に給付することができないと信託法181条でされているが、以下の条件があれば相続税法の債務控除の対象となると考えてよいか、という問いです。
1番目として信託契約において実質的な債務の存在が受託者にあることが明示的であり、その実態を覆すようなことがないこと。2番目として、信託終了時に信託法181条の規定のとおりでなく、信託財産責任負担債務を残し未清算のまま清算結了し、帰属権利者に財産及び債務が帰属していること。3番目として、2について債権者から同意が得られており、かつ争いが生じていないこと。
2018年の段階でこのような照会があったことを初めて知りました。1番目の「信託契約において実質的な債務の存在が受託者にあることが明示的であり」の部分が、どのような記載であれば足りるのか分かりませんでした。
3番目の争いが生じていないこと、というのは、相続人の同意書などで足りるのか、基準があれば分かりやすいのかなと思います。単に争いが生じていないこと、とするとどのように区別するのか難しい感じがします。裁判所に係属中であること、などとすると、係属していないことを税務署に報告するための情報について考えないといけなくなります。
私は、信託法181条について、債権者の同意があれば残余財産を残余財産受益者等に給付することが出来ると考えていました。担保設定されている場合は、必要財産の留保もされていると考えます[2]。
基本は、委託者からも多額の連帯保証を取るのが普通の発想でしょう。―中略―そこで、委託者が連帯保証をしていた場合、信託終了時には保証債務が残りますが、債務控除の対象になるのでしょうか。
連帯保証について、多額、少額などの概念はないのではないかと思います(民法458条、大判大正6,4.28)。信託期中に委託者が連帯保証人となる契約を行った場合、委託者の死亡後にその連帯保証債務は、信託財産責任負担債務になるのでしょうか。私は、委託者の死亡後は相続人の法定相続分に従って、債権者に対する連帯保証債務を当然に承継するものだと考えていました(最判昭和29年4月8日)。
残余財産とは債務を弁済した残りの財産のことをいうので、両建てで債権債務を両方承継していくような場合には、そもそも残余財産が帰属する者という要件充足が観念できないのではないかと思います。
一度条文を確認してみます。相続税法9条の2
4 受益者等の存する信託が終了した場合において、適正な対価を負担せずに当該信託の残余財産の給付を受けるべき、又は帰属すべき者となる者があるときは、当該給付を受けるべき、又は帰属すべき者となつた時において、当該信託の残余財産の給付を受けるべき、又は帰属すべき者となつた者は、当該信託の残余財産(当該信託の終了の直前においてその者が当該信託の受益者等であつた場合には、当該受益者等として有していた当該信託に関する権利に相当するものを除く。)を当該信託の受益者等から贈与(当該受益者等の死亡に基因して当該信託が終了した場合には、遺贈)により取得したものとみなす。
「残余財産の給付を受けるべき、又は帰属すべき」となっているので、必ずしも給付を受けた(例えば通帳にお金が入った。)わけではありません。お金を請求する権利を持った場合のことについて、記述しているのだと思います。そして、権利を持った場合に、たとえ受け取っていなくても課税されるのであれば、「両建てで債権債務を両方承継していくような場合」も「残余財産が帰属すべき者」として観念することができるのではないかと思いました[3]。
受益者等の定義は9条の2第1項に、「当該信託の受益者等(受益者としての権利を現に有する者及び特定委託者をいう。以下この節において同じ。)」とされていますが、ここに帰属権利者を読み込むことはできるのでしょうか。
相続税法9条の2第1項は、信託の効力発生時の条項なので、帰属権利者を読み込むことは出来ないと思います。
[1] Vol.15 2021年4月 日本加除出版P25~
[2] 寺本昌広「逐条新しい信託法〔補訂版〕」P378
[3] 参考として、能見義久・道垣内弘人編「信託セミナー4」2016有斐閣P72~