1、信託の設定
信託の設定について考えることは、信託の効力発生要件について考えることに繋がります。
信託の効力発生要件について考えることは、信託の効力が発生しないのは、どのような場合であるかを考えることに繋がります。
信託法2条1項から読み取ることができるのは、
1、財産が存在し、それが受託者に帰属すること。
2、達成すべき一定の目的が定められていること。
3、受託者は目的を達成するために、目的に従って財産の管理、処分その他の必要な行為を行う義務があること。
ある行為があり、それが「信託」と決定されるためには、上の3つが基本的には求められると考えることができます[1]。
反対に考えてみると、
(1)財産と性質決定できないもの(例:消極財産である債務)、受託者に帰属することができない財産(例:生命[2])
(2)目的とよぶことが難しいもの、目的がすでに達成されているもの、目的の達成が不可能に近いもの(例:信託財産を1年間で100倍にする)
(3)受託者に財産の管理、処分などを行う能力がない場合(例:重度の認知症)
などは、信託と決定されず、決定されない以上、信託が始まらないので機能することはないことになります。
2、信託行為
信託を設定するため、信託法に定められた方法に従って行う行為を信託行為といいます(信託法2条2項、3条)。
形式的な3つの分類[3]
(1)信託契約
委託者となる者Aが、受託者となる者Bとの間で、AからBにある財産を処分する旨、および、Bが一定の目的に従い、財産の管理や処分など、その目的達成に必要な行為をする義務を負う旨を定める契約を締結するという方法
(2)遺言
Bに対しある財産を処分する旨、およびBが一定の目的に従い、財産の管理や処分など、その目的達成に必要な行為をする義務を負うことを内容とする遺言をAがするという方法です。遺言信託と呼ばれることがあります[4]。今後、遺言による信託行為を遺言信託と記載します。
(3)信託宣言
Aが、自己の有する一定の財産について、自らを受託者B(=A)とし、一定の目的に従い、財産の管理や処分など、その目的達成に必要な行為を自ら行うことの意思表示をするという方法です。自己信託と呼ばれることがあります[5]。今後、信託宣言のことを自己信託と記載します。
意思表示は、
①公正証書(パソコンで入力した文書データに電子署名を行い、公証人役場に送信して電子認証を受けることにより作成する公正証書を含む。)の作成
②公証人の宣誓認証を受けた宣誓供述書の作成
③確定日付のある、必要な要件を記載した証書(パソコンで入力した文書データに電子署名を行い、公証人役場に送信して日付情報の付与(確定日付)を受けることにより作成する証書を含む。)を作成し、受益者となるべき者に対する通知を行う
のいずれかの方法で行います。なお、③の方法によるときは、受益者となるべき者に通知が到達したときに効力が発生します。
3、信託の設定者に関するリスク
(1)委託者となる者の判断能力リスク[6]
最低限、委託者となる者が3つを認識していることが必要です[7]。
①信託する財産がどれか、特定されている。
②信託すると、信託した財産の所有者ではなくなるが、所有者とほぼ同じ権利持ち、その権利が侵されたときの救済を求めることが出来る。
③信託すると、信託した財産は受託者に帰属し、受託者自身の財産とは別扱いで管理する。
対応方法
①面談による確認(主に上記の3つの質問と信託の必要性)と記録の保管
②書類の確認(本人確認書類、信託設定証書の各条項、特に信託目的、信託財産、受託者の信託事務、信託の変更、終了条項)
③法定の成年後見人が就任した場合、法定代理人として信託の変更、終了の権限を持つことになるので、任意後見制度の利用の有無の確認。
(2)受託者となる者の判断能力リスク
最低限、受託者となる者には次の理解が必要です。
①受託者として信託財産を管理、または処分することになること
②受託者として信託の目的に従って、受益者のために信託事務を行う義務があること。
③信託財産と受託者個人の財産は、別に管理しなければならないこと。
④債務について、原則として信託財産が足りない場合は、自身の財産から返済する義務を負うこと。
⑤信託財産で他人が損害を受けた場合は、所有者として責任を負うことがあること(民法717条ただし書)。
対応方法
①面談による確認(主に上記の5つの質問と信託の必要性)と記録の保管
②書類の確認(本人確認書類)
①一般社団法人の場合は監督官庁がない。
②法人内部も親族であることが多く、適切に統治されるか分からない。外部役員として専門家を入れた場合、法人運営費用が大きくなる。
対応
①法人の履歴事項証明書、定款の確認(目的、理事会、監事設置の有無、理事、社員の数)。
②主に5つの理解ができている親族が1人いるのであれば、親族、専門家を含めた第3者への委託で対応できないかの確認。
(4)信託行為の要式不備リスク
対応
①自己信託は要式行為であるため、信託法4条3項、信託法3条の要件を満たしているかの確認。
4、条項例
(前文)
委託者【氏名】と受託者【氏名】とは,次のとおり,信託契約を締結する。
(信託の設定)
第○条 委託者および受託者は、信託契約(以下、「本信託契約」といい、「本信託契約」によって設定される信託を「本信託」という。)を締結する。
第○条 委託者は、信託の目的に基づき、第○条記載の財産を受託者に信託し、受託者はこれを引き受ける(以下、「本信託契約」といい、「本信託契約」によって設定される信託を「本信託」という。)。
前文
委託者○○(以下「甲」という。)及び受託者●●(以下「乙」という。)は、次のとおり、信託契約を締結する(以下「本信託契約」といい、本信託契約によって設定される信託を「本信託」という。)。
[1] 道垣内弘人『信託法』2017有斐閣P3
[2] 人格権の信託設定可能性について検討したものとして、米村慈人「人格権の譲渡性と信託」水野紀子『信託の理論と現代的展開』2014商事法務
[3] 前掲道垣内弘人P29
[4] 平川忠雄ほか『民事信託実務ハンドブック』2016日本法令P136など。
[5] 信託法附則2項見出し、信託業法50の2条など。
[6] 信託設定時、設定後の委託者等の判断能力について整理したものとして、冨田雄介「家族信託と委託者等の判断能力」『信託フォーラムvol.6』日本加除出版P106~
[7] 他に条項ごとに委託者の意思確認を求める方法として、前掲平川ほかP48
[8] 新井誠、大垣尚司『民事信託の理論と実務』2016 日本加徐出版P157~大貫正男「一般社団法人を受託者としたモデルの構築」法人後見人の選定基準などと比較して一般社団法人が受託者となる基準を示している。
[9] 『信託フォーラムvol.1』2015日本加除出版P61~伊藤大祐「弁護士における民事信託の取組みと展望」