追加信託について
民事信託実務研究会のメールマガジン記事(2019/08/02、2019/08/23)から、少し考えてみたいと思います。
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引用
おはようございます。
民事信託実務講座メルマガです。
本日は、私、鳥取の谷口がお送りしますね。
民事信託契約書を作成する中で、必ずといっていいほど盛り込むのは、追加信託の条項です。
信託が開始した後になって、追加で、別の財産を信託する必要性が生まれた場合に、この条項が生きてきます。
しかし、追加信託という言葉、気軽に使ってはいるものの、結構、難しいところもあるのです。
追加信託という言葉は、信託法に規定がありません。
信託法の原則では、1回1回契約するたびに、別個の信託が新しく組成されるという規定ぶりになっています。
1度成立した信託に、後から財産を追加するような規定は、法律のどこを読んでも存在しません。
引用終
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私の考えは少し違います。
追加信託の条項は、必ずといっていいほど盛り込む条項ではないし、信託が開始した後になって、追加で、別の財産を信託する必要性が生まれた場合に、この条項が生きてくるとは考えていません。
なぜなら、記事の中にもあるように、信託法に規定がないからです。信託法、民法その他の法律に規定がない条項は、あってもなくても良いと考えています。
ただし、私が作成する信託契約書には追加信託の条項が出てきます。何故かというと、追加信託する権利を委託者から受益者に移転するためです(信託法145条、同法146条)。
この条項は、委託者や受益者に法定後見人や任意後見人が就いた場合、受益差に受益者代理人が就いた場合、第2次受益者が現れた場合に活用するために導入しています。
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引用
しかし、昔から実務上、追加信託は普通に行われてきました。
そうでないと、投資信託で次から次へとお客さんが新たに投資していくような行為を説明できませんね。
このような追加信託を、理屈上、どのように説明するのか。
1つの説明の仕方は、「新たな信託の設定と併合を黙示のうちに行うものだ」という考え方です。
1000万円の金銭信託があって、さらに1000万円を追加信託して2000万円の信託にします。
この場合、今までの1000万円の信託が存在して、次に、別個の1000万円の信託が新たに組成されます。
そして、この2つの信託は、一瞬だけ、別々に存在したかと思うと、すぐに合体して1つの信託になってしまう、という考え方です。
他の説明の仕方は、「信託財産を変更するという信託の変更の一種である」という考え方です。
今までの信託は、1000万円を元本とするものだった。
これを合意により変更し、2000万円を元本とするという信託の変更をする。
いずれの説明の仕方を取るにせよ、追加信託は、信託財産を大きく増やします。
そうすると、受託者の責任も重たくなりますし、委託者から受託者への財産の所有権の移転も起きます。
従って、委託者と受託者が明確に合意した上でないと、追加信託という重大な行為は危険であると考えられます。
引用終
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追加信託の理屈に関する私の理解は、信託行為毎に異なる、というものです。それが不動産であれば、原則として新たな信託の設定(不動産登記法97条、同条98条、不動産登記規則176条)となります。しかし、信託設定時に予め追加で信託する予定の不動産として信託契約書に記載しておけば、理屈の上では信託の変更となります。
また、当初の信託財産と追加で信託するお金の割合、受益者の固有財産と追加で信託する財産の割合、受託者と受益者、推定相続人、遺言を書いているなら遺言との関係など、関連性の中で決まってくると考えます。
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引用
最近、他の方が作った信託契約書の案を拝見するにつけ、下記のような内容が増えてきたと感じます。
1 委託者は、本件信託財産に金銭を追加信託することができる。
2 前項の追加信託をする場合、委託者は、受託者指定の銀行口座への入金により行うものとし、当該入金の事実をもって追加信託の合意があったものとする。
3 受託者は、前項の入金を受けとたきは速やかに追加信託を受けた旨の書面を委託者に対し交付する。
しかしながら、私は、このような案は望ましくないと考えています。
まず、このような案は、委託者と受託者の合意がなくても追加信託が可能になっています。
委託者が受託者の銀行口座に入金すれば、合意があったものとみなすという規定ぶりは、強引であると考えます。
合意がないにもかかわらず、合意があったものとみなすというのは、危険ではないでしょうか。
例えば、受託者が知らないうちに、委託者が1000万円を口座に振り込んでいた。
受託者も知らないうちに、自分が管理処分すべき財産が増え、責任も加重されてしまう。
ちょっと乱暴ですね。
そして、もしも受託者が入金の事実に気づかないうちに、信託の終了事由が発生したら、どうなってしまうのでしょう。
この追加信託は有効に成立した上で、信託は終了して清算手続に組み入れられるのでしょうか?
それとも、受託者が気づいておらず、実体は合意が成立していないので、追加信託は成立しないで、清算手続から除外されるのでしょうか?
このような疑問が生ずる、不安定な法律関係を招来します。
従って、追加信託をする際には、必ず、委託者と受託者が明確な合意をした後に行うべきだ、と考えています。
追加信託を、ATMに入出金する時のように気軽にとらえると、思わぬトラブルを招来することになるかもしれないので、注意しましょう。
引用終
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追加信託について、委託者と受託者の合意は必須か。これに対する私の考えは、信託行為毎に変わる、です。
委託者(私の場合は受益者)の合意が必要な信託行為(追加信託)もあれば、必要のないものもあると思います。
必要な例としては、追加信託が予定されていない不動産の追加信託。
必要のないものとしては、信託設定時に定められている受益者の自宅のバリアフリー化に伴う工事が挙げられます。