・追加信託をすることが出来る者
委託者
根拠は信託設定の際に財産を出した人であること。
受益者
受託者に対する費用償還を根拠とする考え[1]
委託者のみが追加信託する権利を持つという考え(法制審議会信託部会2回、3回)
最初の委託者は最初の受益者でもある、という前提で委託者の地位は受益権が何らかの理由で移転した場合はそれに伴って移転するという定めを設けるという考え[2]
・法制審議会における追加信託に関する発言(出典:法務省HP)
(1)法制審議会信託法部会第2回会議
―次に,2の(5)でございますが,これは,受託者が信託財産からも受益者からも補償を受けることができない場合,例えば信託目的の達成を妨げる場合であるとか,あるいは,受託者の売却権限が制限されている場合に当たるため信託財産を処分することもできず,受益者に対する補償請求権も認められていないという信託である場合,このような場合には,一定の手続,すなわち,受益者に対する履行の催告や委託者に対する通知等の手続を経た上で信託を終了させる権限を受託者に与えるものでございます。
受託者が費用の補償を受けられない場合においても信託事務を継続して行わなければならないとするのは酷であることから,受託者に対して,このような慎重な手続的要件のもとに信託を終了させる権限を付与することとしたわけでございます。
なお,ここで委託者に対する通知を要求しておりますのは,信託が終了いたしますと信託設定者である委託者の意図が実現しないことになりますので,信託の終了を回避するための手段をとる機会を委託者にも付与することが適当であると考えられるためでございます。例えば,通知を受けた委託者としては,金銭を追加信託することによって,あるいは信託財産の処分制限を一部解除することによって受託者の補償請求権を満足させ,信託の終了を回避することができることになると思われるわけでございます。―
(2)法制審議会信託法部会第17回会議
―ところで,信託契約に関連した債務のうち未履行状態にあるものとして想定することができますのは,例えば委託者の債務の局面で言いますと,委託者が報酬を支払う旨の定めがある場合が未払いのある場合の報酬支払債務というもの,それから委託者が一定の事由が発生した場合に,追加的に信託財産を拠出する旨の定めがある場合の追加信託義務,あるいは信託契約締結後において,まだ信託財産の引渡しが未了である場合の引渡しに係る債務などを観念することができるものでございます。
他方,受託者の債務といたしましては,信託事務遂行義務と,あとは法定帰属権利者たる委託者に残余財産を支払う義務というあたりを観念することができるわけでございます。
もっとも通常の信託契約におきましては,委託者が報酬を支払うことですとか,追加信託をするというような特約が締結されることは少ないと思われますし,引渡し未了という観点につきましても,通常の信託契約では締結直後に履行されているだろうと思われますので,これが問題になってくることはまれであろうと思われます。―
―1つは,これはそもそも論でございまして,大分前の議論のときでも申し上げたことではございますけれども,そもそも委託者と受託者の間の権利義務において,双方未履行で問題となる対価関係,対価性がないというふうに整理ができないかどうかということでございます。
すなわち今までの事務局の整理に従えば,委託者の債務とすれば費用報酬支払債務,追加信託履行債務,信託財産引渡債務というのがございまして,受託者サイドの債務としては,ここに書いてございますとおり,信託事務遂行債務,残余財産支払債務いうことがございます。―
【条項例】
第○条
1 委託者は、追加信託をする権利義務のみを受益者に移転する。
2 委託者は、本信託に記載のある権利のみを持ち、委託者の地位は、受益権の移転に伴って受益者に帰属する。
解説
受益者は、信託事務に必要な費用のみにとどまらず、幅広く信託目的達成のために追加信託を行うことができます。また、第二次受益者も同じように追加信託の権利を行使することができます。
(追加信託)
第○条 委託者は、本信託契約の信託目的を達成するために、信託財産として金銭その他の財産を追加信託することができる。
(追加信託)
第○条 委託者は、受託者の同意を得て、金銭を本信託に追加することができる。
解説
このような定めの場合、委託者しか追加信託の権利がないので、第2次受益者は追加信託を行うことができないことになります。
(追加信託)
第○条 受益者又は受益者代理人は、信託財産として金銭その他の財産を追加信託することができる。
解説
追加信託に関する記載がこの条項のみの場合、追加できる財産は信託事務処理達成に必要な費用に限られる可能性があります(信託法52条など)。
(信託金銭の管理方法)
第○条 受託者は、信託金銭が信託事務処理を行うのに足りない場合には、受益者に対して、不足する費用相当額を明らかにして追加信託を請求することができる。
解説
・受託者が信託事務を処理するための費用として、受益者に対し追加信託を請求することができる、という定め
(信託不動産の管理方法)
第○条 受益者を債務者として金銭を借入れ、受託者が当該債務について信託不動産について担保設定をしたときは、受益者は、その手続に要した費用を控除した借入金の残金につき、追加信託しなければならない。
解説
・受益者が金銭の借入れを行った場合は信託財産になる、という意味で追加信託の条項を定める例
(信託財産)
第○条
1 契約をした日の信託財産は、次の第1号から第3号までとする。契約後に、第4号により発生した財産もその種類に応じた信託財産とする。
(4) 受益者から追加信託を受けた株式、不動産及び金銭
解説
・追加信託する者を受益者とし、信託財産の条項に含める例。
[1] 渋谷陽一郎『信託目録の理論と実務』2014 民事法研究会P278
[2] 能見善久ほか『信託法セミナー3』P263~