信託契約書の中に、
(議決権行使に関する指図権)
第○条
1 本株式の議決権行使にあたり、委託者兼受益者は、指図権者として受託者に指図することができる。
2 委託者兼受益者の指図がない場合、受託者は自らの裁量に従って議決権を行使することができる。
まとめると、
・委託者兼受益者は、実質的に議決権を行使することができる。
・委託者兼受益者が議決権を行使しない場合は、原則に戻り、受託者が議決権を行使する。
他に、決めておいた方が良いことはあるのでしょうか。
指図権者は、受託者に指図しない場合、株主総会の何日前までに指図しないことを伝えるか。例えば、7日前までに、など。
受託者は、指図権が行使されるのか、されないのかいつまで待てば良いか分からなくて不安定な状況に置かれます。
指図がない場合は、今後も受託者が議決権を行使していいのか、それとも株主総会ごとに指図があるかどうか待つのか。契約書とは別に覚え書や別紙などで最低限定めておく必要があると考えます。
また、受託者が指図に従わなくても良い場合を定めることも考えられます。
・議決権には独立した金銭的価値がなく、
それのみを独立した信託財産とすることはできないし、
受益権の内容とすることもできない、
という考えは取れるのでしょうか。
信託行為の設定時であれば委託者と受託者、信託開始後であれば、委託者と受託者、受益者との間で金銭的価値を認めることは、契約自由の原則からして可能です。国税庁は原則として金銭的価値を認めていません。
議決権のみを独立した信託財産とすることはできません。理由としては、信託当事者以外の人に対しての換金可能性の低さ、議決権のみの移転・処分が困難なことが挙げられます。
議決権のみを受益権の内容とすることはできない、というのは独立した信託財産とすることができない以上、できないと考えられます。上の文章が議決権は受益権の内容とすることはできない、という意味であれば、それは信託行為によって株主が持っている権利の一部として、実質的に受益権の内容とすることはできる、といえます。
・指図権はそもそも委託者が持っているのか、受益者が持っているのか、信託行為で誰に与えるか、委託者と受託者が決めることができるのか。
採れる考え方
指図権者は契約関係にはないが、受益者に対する信認義務を負っていることを前提とします。
→本来委託者にある権限が信託行為によって、指図権者に移転する。
→信託行為の中で、指図権者と委託者または受託者との委任契約を締結する。
・合併や増資、解散する場合の株主総会決議は、指図権を行使するのに基準があるのでしょうか。
考えられる備え
(1)協議
(2)協議が整わない場合は、信託契約の終了
・信託目的が、指図権を行使する指針の一つとなるか。
考えられる備え
(1)信託目的に優先順位をつける
・取引先や従業員に対する説明はどういう風に行うのが良いのでしょうか。あるいは実質的に代表者は変わらないと判断して、説明しない方が良いのでしょうか。
・役員構成はどういうタイミングで代える判断するのが良いのでしょうか。
1、信託行為と同じタイミングで受託者を代表取締役にする。取締役の変更も考える。
2、指図権を受益者が持っていて、行使ができる状態の間は、変えない。
参考
・商事信託法研究会報告「指図型信託における指図権者の位置づけ」
・須田力哉「指図を伴う信託事務処理に関する法的考察―不動産信託を例として―」
・山田裕子「事業承継目的の株式信託について」
・会社法311条
・信託を活用した中小企業の事業承継円滑化に関する研究会「中間整理―信託を活用した中小企業の事業承継の円滑化に向けて」
・資産評価企画官情報第1号 資産課税課情報第6号 審理室情報第1号
平成19年3月9日 国税庁課税部資産評価企画官資産課税課審理室「種類株式の評価について(情報)」
・信託法35条