信託フォーラム[1]の記事、後藤隆士「特定委託者について」からです。税に関する事柄が出てきます。最終判断は、税理士に確認をお願いします。
自益信託であっても、信託の変更に関与し得る受託者(信託法149条)が帰属権利者と指定(同法182条)されている場合、相続税法9条の2第1項に基づき、受託者に対して贈与税が課税されないか、という問題を生じる。
なぜ、贈与税課税の問題が生じるのだろう?という疑問が湧きました。相続税法9条の2は、1項から5項まで全てみなし規定です。受託者が残余財産の帰属権利者(信託法182条1項2号)に指定されている場合、受託者は受益者ではありません。また信託の効力が生じた場合における、信託財産の給付を受けることとされている者でもありません。
受託者が残余財産の帰属権利者を兼ねる場合、相続税法9条の4により相続税が課されるのに、信託の効力発生時に贈与税も課税されるのは酷な感覚を持ちます。
議論の実益は、撤回権(信託の終了)、指図権、受益者指定・変更権、追加信託、信託の併合・分割、受託者の辞任に対する同意権、裁判所に対する受託者の選・解任請求権などが「信託の変更をする権限」に当たるか、という点だと思われる。
私は、相続税法施行令1条の7にある通り、ほとんどの信託の変更は軽微な変更をする権限に当たり、相続税法9条の2第5項における信託の変更をする権限には該当しないと考えます。
参考
相続税法(贈与又は遺贈により取得したものとみなす信託に関する権利)
第九条の二 5 第一項の「特定委託者」とは、信託の変更をする権限(軽微な変更をする権限として政令で定めるものを除く。)を現に有し、かつ、当該信託の信託財産の給付を受けることとされている者(受益者を除く。)をいう。
相続税法施行令(信託の変更をする権限)
第一条の七 法第九条の二第五項に規定する政令で定めるものは、信託の目的に反しないことが明らかである場合に限り信託の変更をすることができる権限とする。
2 法第九条の二第五項に規定する信託の変更をする権限には、他の者との合意により信託の変更をすることができる権限を含むものとする。
信託法149条所定の権限が「信託の変更をする権限」に当たり得ることに変わりなく、また、「信託の目的」の意義を広くとらえる上記3の立場を採っても、「信託の目的に反しないことが明らかな場合」に限り信託の変更を出来るかどうかは、当該信託の信託目的及び受託者の変更権限の内実に関わる信託行為の定めの解釈を通じた個別判断になるはずであり、結局、本稿の整理と検討の段階では、冒頭の例のように、帰属権利者として指定されている受託者については、一般論としては、特定委託者に当たる可能性は否定しきれないと思われる。
1「信託法149条所定の権限が「信託の変更をする権限」に当たり得ることに変わりなく」について、当たり得ることはそうなのですが、その可能性は低いと思います。
2「「信託の目的」の意義を広くとらえる上記3の立場を採っても、「信託の目的に反しないことが明らかな場合」に限り信託の変更を出来るかどうかは、当該信託の信託目的及び受託者の変更権限の内実に関わる信託行為の定めの解釈を通じた個別判断になるはずであり、」については同意です。
3「結局、本稿の整理と検討の段階では、冒頭の例のように、帰属権利者として指定されている受託者については、一般論としては、特定委託者に当たる可能性は否定しきれないと思われる。」について、否定しきれないことはそうなのですが、その可能性は低いと思います。1でも可能性は低いと記載しましたが、相続税法施行令1条の7にある「信託の目的に反しないことが明らかである場合に限り信託の変更する権限」は、公証人を含む専門家が設定する信託行為の効力が発生する段階では、ほとんど全ての権限と言っていいと思います。信託の目的に反する権限を設定することは、専門家の職業生命を失う可能性があるからです。
その結果、ほとんど全ての権限が相続税法9条の2第5項が定める「軽微な変更をする権限」に該当し、特定委託者ではなくなります。
[1] Vol.15 2021.4、P13~