渋谷陽一郎『Q&A 家族信託大全』第13章家族信託の基本・関連知識と日弁連のガイドライン等

渋谷陽一郎『Q&A 家族信託大全』2023年、日本法令、第13章 家族信託の基本・関連知識と日弁連のガイドライン等

Q1001、家族信託を用いる際にあり得るリスク、信託設定の後、委託者の気が変わって、信託の終了などが生じてしまうリスク、について・・・信託行為が信託契約の場合、一方当事者の意思表示により契約終了となることは双務契約一般にあり得ることで、リスクといえるのか分かりませんでした。

Q1005、家族信託と信託会社等による信託の違い、例えば、弁護士や司法書士が就任する専門職後見人であっても、毎年、横領事件が報道されるわけであるから、専門職や信託会社といえども完全に信用することは難しい世の中なのかもしれない。について・・・(一社)信託協会発行の会報信託には、ほぼ毎号、信託相談所という項目があり、営業信託業務に関する相談・照会、それに対する回答や対応状況が記載されており、一定の参考になると思います。

Q1007、家族信託の基本的な形、自己信託は、それほどには利用されていないようであるが、それは、多くの家族信託が認知症対策であることからであろう(受託者が認知症となってしまったら、にっちもさっちもいかなくなる現状がある)。について・・・自己信託が利用されていない理由は、残余財産の受益者(信託法182条1項1号)が受益者として認められない法解釈・運用がされているからだと考えます。税務上、贈与税回避のためには、信託設定時には自益信託にする必要があり、受益者も委託者となります。受託者兼受益者は禁止事項(信託法8条)、その状態が一年間経過すると信託の終了事由となります(信託法163条1項2号)。よって、税務の特例を認めるか、信託法の解釈を変更することが必要だと考えます。受託者の認知症は、予備の受託者を定めることで対応可能です。

Q1010、家族信託が利用可能な場合とは、委託者の推定相続人全員の同意(協力)が得られる場合である。について・・・私なら、障害を持ち判断能力を喪失している方を除いて、と追加します。浪費者対策としても利用可能ですが、紛争可能性を考えると、司法書士ではなく弁護士が相談を受けるのが適切かもしれません。

P1234、家族内における高齢者虐待や遺棄の発生なども、決して珍しいことではなかろう。について・・・任意後見契約を締結していない場合、締結していても任意後見人選任審判開始の申立てが見込めない場合は、法定後見制度の利用で対応することになると考えます。

P1251、生前の契約信託の設定であれば、受託者と協力して調整しながら信託を設定できるが、死後の遺言信託では、そのようなわけにはいかない。について・・・信託期中のことをいっているのであれば、その通りだと思います。信託設定の場面においては、受託者と調整することが可能なので当てはまらないと考えます。

Q1025、家族信託と銀行借り入れ、□家族信託に対する融資を実行する際に、金融機関は、高齢者である委託者兼受益者の意思確認を行うので、既に認知症を発症し、判断能力が減退した状況では難しい、について・・・裁量信託で記載のようなことが行われているとすると、信託をする意味がなくなるのではないかと思います。金融機関が、融資実行時に高齢者である委託者兼受益者の意思確認を行う根拠が分かりませんでした。根拠があると仮定して、判断能力が減退した状況であれば任意後見制度、法定後見制度、受益者代理人の定めを利用することにより、対応可能ではないかと思います。

Q1070、濫用的撤回不能信託への対処、について。信託法165条1項による申立てを選択肢に入れても良いのではないかと考えます。信託の終了を受託者と受益者の合意とする場合の例外として、受益者が受託者に対して、宣誓供述書により信託の終了を告げた場合を入れる余地もあるように思いました。

Q1076、家族信託と債務、信託法21条1項3号の場合、士業者が間違わないように注意すべきことは、一旦、民法上の債務引受によって、受託者の債務にしなければならないという点であり、委託者の信託前の債務は、信託行為の定めをしただけでは信託財産責任負担債務とはならないという点である、について・・・債務引受は、免責的債務引受が望ましいと思いますが併存的債務引受が現実的なのかなと思いました(道垣内弘人編『条解信託法』2017年弘文堂P101)。

Q1095、「信託口」口座の申込みのタイミング、金融機関の提携する専門家が作った契約でないと受け付けてくれないような場合、について・・・記事の引用に同意です。

Q1127、日公連と日弁連の勉強会による受益者、また、勉強会は、受益者を特定する事項として、氏名、住所、生年月日があれば足りるとしているが、本籍も記載しておくほうが、他の者が、後に関係者を追跡するのに便宜であるとしているが、本籍の記載については、センシティブ情報であり、消極に解すべきとの金森健一弁護士による指摘がある。について・・・本籍を、親族以外の他の者が追跡する必要が場面として、どのようなケースがあるのか分かりませんでした。

Q1152、家族信託の組成時における確定測量の要否について・・・隣地が多数、隣地の所有者が多数で共有の場合もあるので、図面を確認することは必要だと思いました。

Q1161、自家用車の信託

自動車登録令

https://laws.e-gov.go.jp/law/326CO0000000256#Mp-Ch_3-Se_4

(信託の登録の申請書)

第六十一条信託の登録の申請書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。

一委託者、受託者及び受益者の氏名又は名称及び住所

二受益者の指定に関する条件又は受益者を定める方法の定めがあるときは、その定め

三信託管理人があるときは、その氏名又は名称及び住所

四受益者代理人があるときは、その氏名又は名称及び住所

五信託法(平成十八年法律第百八号)第百八十五条第三項に規定する受益証券発行信託であるときは、その旨

六信託法第二百五十八条第一項に規定する受益者の定めのない信託であるときは、その旨

七公益信託ニ関スル法律(大正十一年法律第六十二号)第一条に規定する公益信託であるときは、その旨

八信託の目的

九信託財産の管理方法

十信託の終了の事由

十一その他の信託の条項

2前項の申請書に同項第二号から第六号までに掲げる事項のいずれかを記載したときは、同項第一号の受益者(同項第四号に掲げる事項を記載した場合にあつては、当該受益者代理人が代理する受益者に限る。)の氏名又は名称及び住所を記載することを要しない。

3運輸監理部長又は運輸支局長は、第一項各号に掲げる事項を明らかにするため、国土交通省令で定めるところにより、信託目録を作成することができる。

Q1168、日本で最初の家族信託の実態調査、一般社団法人が受託者となる場合は、委託者の親族だけではなく、専門家もその社員とすることで運営の適切性を確保しようとする例があるが、専門家が受託者の社員となる場合、その態様によっては専門家が受託者となっているのと変わらず、信託業に該当すると解されるリスクもあると考え、受託者の社員となるのを避ける専門家もいる。について・・・社員に加えて理事・監事についても同様にいえると思います。

P1459、信託口口座開設手数料の要否。・・・手数料不要が3割未満であるということが驚きでした。県内金融機関は今のところ無料ですが、今後は有料になる可能性もあるかもしれません。

参考 

「FATF 勧告25(法的取極)に関する調査」最終報告書

2024年3月26日 有限責任 あずさ監査法人

民事信託の形態および基本的特徴、基本情報および実質的支配者情報の取得プロセス

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