渋谷陽一郎『Q&A 家族信託大全』第12章民事信託の補充論点と今後の活用

渋谷陽一郎『Q&A 家族信託大全』2023年、日本法令、第12章民事信託の補充論点と今後の活用。

Q958、遺言代用信託と成年後見人の権限の限界、現に、信託設定の後に、高齢者本人である委託者兼受益者の法定代理人として就任した後見人が、信託終了や受託者解任の意思表示を行うことで、本人の全体財産の管理を可能とするような試みがあると聞く(委託者兼受益者の後見人にとっては、信託の存在が、本人のための財産管理を計画し、遂行するうえで邪魔になると感じられる場合があるという)。について・・・後見人が委託者兼受益者(本人)の法定代理人として各種権限を行使することは、本人の身上監護・財産管理のために必要であれば、行使する義務があると考えます。ただし、権限行使の際は、受託者との話し合いや、家庭裁判所への事前の情報提供と意思決定判断の根拠を示す過程を経て行われるのが委託者兼受益者(本人)のためになるのではないかと思います。

Q959、成年後見人による信託変更権限(その1)、現に高齢で認知症である委託者兼受益者の生活支援を優先し、現在の弱者保護を図るべきか、あるいは、将来実現されるべき財産の承継の確実性を図るべきか、双方の目的の間で利益相反が生じている可能性もある。について・・・現に高齢で認知症である委託者兼受益者の生活支援が優先になると考えます(民法858条)。利益相反が生じる余地があるのか、信託行為の条項によるのかもしれませんが、分かりませんでした。

Q960、残余財産受益者の追加と受益権割合の変更であり、代理権の濫用行為になると考えられるので、成年後見人による信託変更行為は、無効となるという見解がある。しかしながら、遺言と信託は異なる制度なので、最終的な解釈がどうなるか、現段階ではよくわからないところが実情であろう。について・・・考え方としては、信託行為に信託変更・終了に関する信託行為の別段の定めはない、と本書では記載されていることから、受託者が合意するならば、信託の変更を行うことが可能となります(信託法149条1項)。また、信託の目的に反しないことが明らかである場合、成年後見人は単独で、信託の変更を行うことが出来ることになります(信託法149条2項)。

 論点としては、信託の目的に反しないことが明らか、という判断は、信託行為全体から行うことから難しい場面があることだと思います。受託者が辞任する可能性もあるのではないかと思います。信託の変更に関して、家庭裁判所が判断できるのか、委託者が契約当事者となって定めた残余財産受益者の受益割合を、1人から3人に変更して1:1:1に変更する合理的な理由があるのか、裁判所の判断になる可能性が出てくるのではないか、その場合の金銭面、時間、精神的コストと比較して他の方法を探ることは出来ないのか、などを考えて判断・決定していくことになると思います。

Q965、受益者代理人が保護すべき受益者の範囲、残余財産受益者となるべき者として指定された者の場合、信託終了の以前から受益者として監督機能を有していると言われるが、残余財産受益者となるべき者として指定された者と、信託期中の第二次、第三次受益者となるべき者として指定された者との違いは何かなどの疑問の声もあり、必ずしも議論が安定しているというわけではないことに注意しておきたい。について・・・委託者の死亡の時に受益権を取得する旨の定めのある信託等の特例(信託法90条1項)では、委託者(兼受益者)の死亡の時までは、受益権を取得していないので、信託期中の第二次、第三受受益者となるべき者として指定された者は、監督機能を持っていないと考えます。

Q966、信託監督人が保護すべき受益者の範囲、について。・・・解説は、信託法の公平義務の範囲内で、未存在の受益者の利益を図ることができる、という記載であり、信託法の条文の範囲内であると考えます。

Q972、受託者の権限濫用、不正行為等、受託者の解任に関しては、信託財産に利害関係を有する受託者が帰属権利者に指定されているような場合どうなるのか(信託条項の定め次第では帰属権利者たる地位だけ残るのか)、について・・・受託者を解任するかどうかと帰属権利者たる地位に関しては別なので、信託条項に別段の定めがなければ、帰属権利者たる地位だけ残るのが原則だと考えます。

 解任により損害が生じたといえるのか、について・・・やむを得ない事由がある場合(信託法58条2項但し書き)とはどのような場合なのかを考えて判断することになると考えます。例えば受託者が病気で信託事務を処理することが出来ない場合等。受託者が帰属権利者に指定されているような場合に解任することは、不利な時期の解任(信託法58条2項本文)には該当しないと考えます。受託者の地位と残余財産の帰属権利者の地位は異なるからです。

 信託行為の定めで信託監督人に対しても受託者解任権を付与することができるのか、について・・・消極に解します(金森健一『民事信託の別段の定め 実務の理論と条項例』2022、日本加除出版、P205)。

Q976、受益権差押の禁止、P1183の受益者は受益権の誤植だと思います。民事信託分野において、いわゆる民事信託による福祉型信託の高齢者、認知症患者、障碍者に対する生活支援のための受益権は、帰属上・行使上の一身専属兼なのか否か、一身専属権なのか否か、未だ議論が深められていない。について・・・受益権に対する差押えは、民事執行法上の債権差押え(民事執行法143条~)と同様に行われ、差押禁止財産の範囲で制限される(民事執行法152条)という考え方がしっくりきます。

Q984、日本における撤回可能自己信託の可能性、論点1は、米国における信託宣言による撤回可能信託は、当初、委託者兼受託者兼受益者であるが、日本の信託法上、委託者兼受託者兼受益者とすると1年で信託が終了してしまうー中略ー。そこで、遺言代用信託の第二次受益権が定められ、それを委託者が取得していないことをもって、当初受益権とは別の受益権が存在するものと考えて(受益権の全部を有するわけではないと考えて)、信託法163条2号の適用はないと考えることができるのか。について・・・どのような考え方で適用があると考えるのか分からないので、適用がないと考えることは可能だと考えます。

 論点2は、第二次受益者に対して監視・監督権を付与することで、信託法163条2号を前提とする受託者と受益者の信頼関係および監督関係という信託の構造が認められると考えて、1年で終了しない状態であるということができるのか。について・・・1年で終了する場合の考え方が分からないので、1年で終了しない状態であるということも可能だと考えます。

 3つ目の論点として、自己信託の受託者を第三者に変える受託者変更は、信託法上可能なのか。例えば、不動産登記手続における受託者変更手続はどうなるのか。について・・・信託法上、禁止されていないので可能だと考えます。不動産登記手続における受託者変更手続は、新受託者と、前受託者・任意後見人、補助人、保佐人、成年後見人などの共同申請により行われると考えます。

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