渋谷陽一郎『Q&A 家族信託大全』第10章

渋谷陽一郎『Q&A 家族信託大全』2023年、日本法令。  

  • 第10章 民事信託の実務論点

Q669、受益権証書と受益証券について。受益権証書と受益証券の違いについての解説がなされています。信託法185条は、受益証券を発行する場合のみ、信託行為に定めるとしており、受益証券を発行しない旨の信託条項は、不要だと考えます。信託法に規定のない受益権証書についても、同じ考え方になると考えます。

Q676、受益者等が存しなくなってしまった信託と税務リスクについて、受益者連続型信託において、信託期中、個人である受益者、指定していた次の受益者も想定外に死亡、その次の順位に指定した受益者は出生していないなどの事情で、信託の終了事由に該当しない場合には、受託者が法人とみなされ、死亡した受益者から受託者に対する信託財産の遺贈とみなされ、課税リスクが生じる。について・・・信託の終了事由をどのように定めているのか、気になりました。また、目的不達成により終了させることも可能だと思います(信託法165条)。

Q677、跡継ぎ遺贈型の受益者連続信託(信託法91条)の期間経過の都度、信託を再設定すれば事実上永久信託も可能という士業者もいるが、信託法の潜脱とならないか注意したい。について・・・経験はありませんが、委託者・受託者が個人であれば、信託を再設定する場合は委託者・受託者ともに異なる人物である可能性が高く、信託法の潜脱には当たらないと考えます。よって、もし私に依頼が来た場合は、原則として受任すると思います。

Q678、連続受益権に対する差押え、中間の連続受益者は、連続受益権の処分を禁止されるのが一般だ。の記載について・・・連続受益権の処分が禁止されるのが一般というのが実務であるということを、初めて知りました。後順位受益者を予備的に定めている場合は、禁止されないのではないかと思いましたが、一般的に禁止される実務が浸透している理由は、信託の目的で明確に定めている場合を除いて、何なのだろうと思いました。

 受託者の承諾を得て処分できるとする民事信託契約書もあるが、受託者が許諾した場合、その後の連続はどうなるか(許可の基準は何か)。について・・・受託者の許諾の基準とその後の連続については、受益権の処分(譲渡)に関する契約書と信託契約書の整合性によると考えます。

 中間の連続受益権への差押えや連続受益者の破産開始決定申立てによる連続受益権の破産財団化の場合は、どうなるのか。事実上、中間の連続受益者の信用力が信託に混入しないか。について・・・中間の受益者の連続受益権に差押えが行われることによって、中間の連続受益者の信用力が信託に混入する理由が分かりませんでした。差押えが禁止・制限される債権など、原則として民事執行法の債権執行(民事執行法143条~。)の規定に従うと考えます。

 受益権の譲渡禁止・制限の定めがある場合はどうなるのか、について・・・受益権の譲渡禁止・制限の定めは、信託関係者内部の定めであり、信託債権者には及ばないと考えます(信託法93条)。

Q681、受益者連続と遺留分、第二次受益者や第三次受益者が、委託者の地位を承継している場合はどうなるか。について・・・委託者の地位を承継しているか否かに関係なく、受益者に相続が開始した場合に遺留分権者がいるときには、遺留分が生じると考えます(民法1042条~)。

Q683、複層化信託と税務リスク、節税目的の信託の組成それ自体が租税回避行為と評価されるリスクはないだろうか注意したい。について・・・私は信託の期間が分からないこと、信託財産の価額評価が変わり得ること、税務通達が変更し得ることが、複層化信託を利用するリスクだと考えていて、利用したことがありません。信託の組成それ自体が租税回避行為と評価されるとすると、相続税法基本通達9の3-1は、どのような場合に利用されることを想定しているのか、気になりました。

Q685、受益者連続における登記実行処分の確実性、祖父が、孫の代まで資産や事業の承継関係を拘束してしまってよいのか、という論点もある。について・・・孫(第2次受益者以降の順位の受益者)は受益権の放棄が出来るので(信託法99条)、問題はないと思います。

Q688、帰属権利者の決定と遺産分割協議という論点(その2)、について、帰属権利者の指定や変更を、信託の変更によって行うという学説(能見善久=道垣内弘人『信託法セミナー4』2016年、有斐閣、P111~。)に同意です。

Q690、受益者間の遺産分割協議という論点、遺産分割協議が成立しない、という可能性はあり得ることだと思います。成立しない場合は、通常の相続と同じく、遺産分割調停などの家事手続に載せて処理することになると考えます。

Q695、信託監督人の普及の遅れ、野球において、選手経験のない監督は存在しないし、いても役に立たない。について・・・野球に関する規則の中に、監督就任の要件に選手経験が必要とされる記載は、見つけることが出来ませんでした。いても役に立たないのか、選手・野球未経験で甲子園に出場した監督はいます。インターネット上で調べていただきたいと思います。

Q697、後見人の権限行使不可条項、受益者に対しては制限せず、後見人についてだけ、その代理行為を禁止するという信託条項は、そのままの規定通り、実効性があるのだろうか。について・・・受益者と後見人の権限が重複するよりは、先に委託者の意思が入っている信託の安定性を重視して権限を分けるのは、悪いことなのか、分かりませんでした。私は権限を分ける条項を利用しますが、後見人の法定代理権を、信託行為で不可に出来ると考えているわけではなく、信託行為時の委託者の意思として記載しています。受託者と後見人が対立関係に至るかどうかは、受託者による趣旨説明と個人差がある後見人の理解度によると考えます。Q698の、万が一法定後見人が選任される事態に至ることも想定して、どこまで信託に関する権利を委ねるかをよく考えて、信託行為の定め(信託契約書の信託条項)を検討すべきという指摘がある。という他の書籍の引用をしていることとの整合性が分かりませんでした。

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