第1 日 時 平成29年5月9日(火) 自 午後1時31分 至 午後4時44分
第2 場 所 東京地方検察庁総務部会議室
第3 議 題 公益信託法の見直しに関する論点の補充的な検討
第4 議 事 (次のとおり)
議 事
○中田部会長 予定した時刻が参りましたので,法制審議会信託法部会の第41回会議を開会いたします。本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。
本日は,小川委員,神田委員,岡田幹事が御欠席です。
まず,本日の会議資料の確認を事務当局からお願いいたします。
○中辻幹事 今回の部会では,特に新たに事務局の方から配布する資料はございません。本日の御審議は,前回配布の部会資料40を使用して行うことを予定しておりますので,部会資料40がお手元にない方がいらっしゃいましたらお申し付けください。よろしいでしょうか。
○中田部会長 それでは,積み残しの分ですが,部会資料40の第1の「5 公益信託の変更命令」及び「第2 公益信託と私益信託等の相互転換」について御審議を頂きます。前回の残りということで,審議事項は多くありませんので,続けて御審議いただきまして,もし必要があれば,適宜,休憩を入れることもあり得るということで進めさせていただきたいと存じます。
それでは,早速ですけれども,第1の「5 公益信託の変更命令」について御審議いただきたいと思います。事務当局からの説明は,前回,既にされておりますので,最初から意見交換に入ります。御自由に御発言をお願いいたします。
○松下幹事 12ページの5についてですけれども,ここでは(2)である権限を裁判所と行政庁のいずれに属せしめるかということが問題になっています。もっと早い段階で発言すべきだったようにも思うのですが,第二読会で裁判所と行政庁の権限分配が出てくる最後の箇所なので,一言,発言させていただきます。
以前の部会資料36で公益信託法8条について議論をいたしました。一般の信託では,裁判所の権限になっているものを主務官庁に移している規定ですけれども,そこで,部会資料では権限分配について,このような整理がされていました。受益者その他の信託関係者の保護とか,利害調整を通じて信託目的の達成を図るための権限は,公益信託の目的の達成を図るために,公益信託を監督する機関である公益信託の主務官庁の権限とする。信託関係者以外の利害関係人,例えば信託債権者などですが,の保護のための権限は司法裁量なので裁判所の権限とすると,こういう整理がされました。公益信託法8条をどうするかということについては,新しい公益信託法制でもこの趣旨を基本的に維持するという方向で議論がされたと記憶しております。ただし,主務官庁による包括的な監督は廃止されますので,信託の一般原則によれば裁判所の権限になるものが,公益信託であるがゆえに主務官庁の権限とされていたものを裁判所の権限に戻すということがあり得るということかと思います。
先ほど述べた誰のための権限かという区別は,ほかの論点にも当てはまるだろうと思います。そういう観点から,部会資料40の第1の5の「公益信託の変更命令」というのを見てみますと,信託の変更命令という制度は信託目的の達成のために,あるいは受益者の保護のためにする仕組みではないかと思いますので,その観点からすると行政庁の権限とするというのが落ち着きがよさそうな気がしますが,私,この辺は詳しくはありませんので,この点については御教授いただければと思います。
もう三つ,問題があると思うんですけれども,一つは理論的な問題として行政庁に対する申立権,(3)に出てきますけれども,申立権というのは観念できるのかどうかです。つまり,裁判所に対する申立権という観念は,我々はなじんでいる言葉ですけれども,行政庁に対する申立権というのが同じように観念できるのかどうかということが理論的には気になります。
それから,二つ目の問題として,裁判所の非訟手続であれば決定に対する不服申立ては即時抗告になりますが,行政庁の権限とする場合に不服申立てがどういう手続になるのか,これは行政不服審判になるのでしょうか,あるいは行政訴訟にいきなりなるのでしょうか,分かりませんが,それが公益信託の目的の達成という手続構造と適合的かどうかということが問題になるわけです。
それから,三つ目,最後の問題として,時間的にはその決定より前になりますけれども,判断資料の収集を始めとして,どのような手続で判断がされるのか。つまり,非訟手続と行政手続の違いというのでしょうか,そういうものを異同という観点から検討すべきであるという気がいたします。
今,申し上げた三つの問題は既にある問題で,別に新しく出てきた問題ではないんですけれども,私が不勉強のせいだと思いますが,余り物の本を見ても書いていないような気がしますので,検討する必要があろうかと思います。
最後にもう一言,検討の仕方なんですが,部会資料36には別表1というのが付いていて公益信託の監督における第三者機関,つまり,裁判所と行政庁の権限の一覧表というのがありますけれども,一通り議論したら,この別表に議論の成果を落とし込んで横串で刺してみて,相互に均衡を失しないように考える必要があろうかと思います。
○中田部会長 どうもありがとうございました。あちこちで出てくる問題ですけれども,それについての観点と申しますか,検討の仕方について御教示いただきました。ありがとうございました。
この点について何かございますでしょうか。
それでは,今の点も含めまして他の点でも結構でございます。変更命令についていかがでしょうか。
○深山委員 5の(1)については賛成いたします。
今,松下幹事から御指摘のあった(2)についてなんですけれども,ここが実際に機能する場面というのを実務的に推測すると,信託の事務処理の変更が必要になる場面が生じたときには,通常は信託関係者内部で信託の変更をする。しかし,それが何らかの事情で合意が得られないような場合に,(3)の申立権者の誰かが裁判所なり行政庁に申立てをして変更を求めると,こういう場面が想定できます。そういう意味では,以前の同様の論点でも申し上げたかと思いますが,信託関係者内部の意見の対立があって,そこに一種の紛争性がある場面ではないかという気がいたします。そういう紛争性のある場面での判断機関としては,行政庁よりは裁判所の方がふさわしいのではないかというのが以前も申し上げた私の意見でございます。そういう意味で乙案を支持したいと思います。
松下幹事が指摘された裁判所の権限一般について,信託法全体の理解の仕方というのは御指摘いただいたとおりだと思うんですが,この変更命令あるいは終了命令もそうかもしれませんが,この場面を具体的に考えると,裁判所の方がいいのではないかというのが私の意見です。
(3)については,申立権者に委託者を入れるかどうか,入れるとして,それをデフォルトルールにするかどうかというところですが,デフォルトルールとして委託者を入れるという,この提案に賛成したいと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 私は裁判所ではなく,行政庁が公益信託について専門性を有するという点では,行政庁がこの変更についての権限を持つべきだと思うんですけれども,変更命令ではなく,申請又は請求による信託関係人の請求による認可をすると,命令ではなく認可とするとすべきだと思います。それは行政庁の関与をなるべく小さくして私的自治を重んずると,民間による公益信託の促進という意味で,自治に任せるということを原則にすべきであると考えるからです。信託の変更については,原則,信託関係人の合意によりできるということをデフォルトルールとしつつ,例外的に事業目的や事業地域の変更などをする場合において,公益財団法人における定款変更における行政庁の関与と同等にすることが望ましいのではないかと考えます。
(3)については,委託者に申立権を与えるべきではないと考えます。また,従来より申しておりますように,運営委員会を重要な意思決定機関と位置付けることから,申立権者に運営委員会を加えるべきであると考えます。
○中田部会長 ありがとうございました。
委託者に与えるべきでないという御意見でございますけれども,これは(3)を逆にして,信託行為で定めれば可能ということでしょうか。それも駄目だということでしょうか。
○平川委員 結局,公益信託においては委託者の権限というのは,極力,制限されているという構造を持つべきであると考えますので,信託行為において定めるということもできないと考えます。
○中田部会長 分かりました。
ほかにいかがでしょうか。
○棚橋幹事 第1の5の(2)については甲案に賛成します。まず,変更命令自体は認定基準に沿って認定したものを事後的に一部変更するというものですので,認定作用に類似する実質を有するものと思えますし,また,行政庁が判断するということになれば,変更後の公益信託が認定基準に適合しているかどうかということも併せて判断することができますので,変更後の公益信託が認定基準に適合することが制度的に担保されることになると考えます。部会資料には,裁判所が認定基準に違反するような公益信託への変更命令を行うことは適切ではないということも記載されていますけれども,そのような御懸念があるということであれば,行政庁が判断主体となる方が適切と考えております。
○中田部会長 ありがとうございました。
ほかにいかがでしょうか。関連ですか。
○道垣内委員 1つ前の話題に関連する事柄でして,平川委員の御発言についてです。考慮すべき要素というのを明らかにするために,あえて反対するというところもあるのですが,平川委員の方から,変更が申し立てられて,それを認可するというシステムではないかということが出てきたわけですが,そのことと委託者を申立権者から外すというのがどういう関係にあるのかがよく分かりませんでした。
この制度を,合意による変更というのとは別途の制度であると考えたときには,合意が成立しないというのが前提になりますが,変更の申立てと認可という構造であると理解しますと,誰かが自分の案を認可してくれと申し立てるという話になります。しかし,それはおかしくて,飽くまで認可ではなくて,その提案内容について,裁判所なり,行政庁なりが判断して,変更を命令するというふうな枠組みにせざるを得ないのではないかと思います。手続の具体的な内容が変わってくるわけではないのかもしれませんが,構造の問題として,一言,申し上げておきたいと思います。
○吉谷委員 まず,(1)につきましては提案に賛成でございます。
(2)については甲案に賛成いたします。これは元が信託法第150条であるということですので,何らかの事情で信託事務処理の方法の変更を行う必要があると例えば受託者が考えるというわけです。それについては,公益目的の達成のためにはどのような方法がいいのかということを考えるというわけですから,公益事業の運営計画について公益目的に沿っているから,公益目的に対していい方法に変わっているのかどうかということを判断するということでありますので,これはほぼ認定のやり直しに等しいというようなことであると思われます。そうしますと,最初に認定する行政庁が行うべきであると考えるわけです。
確かに意見対立がある場合を想定しているかと思いますので,受託者が変更の申立てをしますと,信託管理人はそれに反対すると。もし,反対するのであれば,よりよい方法を提案する受託者へ変更を申し立てるとか,そういう形になっていくと。ですので,変更命令と受託者の更迭が,一体的に判断されるということになってくるのではないかと思われます。そういう点で,全て行政庁が行うというのが整合すると考えております。
その次の委託者にデフォルトで申立権を与えるかどうかということにつきましては,これはデフォルトで与える必要はないと考えております。信託行為で追加することは可能であると思います。これも以前から申し上げておりますとおり,委託者をデフォルトの公益信託の機関であると考えて,委託者がいるから,委託者がいいと言ったからということを前提として,いろいろな合意形成であるとかいったことをするという仕組みは必ずしも機能しないと。委託者がデフォルトでは入っていても,除くこともできるわけですから,それを前提とした制度設計をするというのは余りよろしくないと。追加した場合には,こういう機能を委託者に期待できるということを前提にして認定を行うべきであると思います。ですので,委託者はデフォルトで与えない方がいいのだと考えている次第です。
あと,1点,補足させていただきます。前回で,信託の終了命令のところで私の方からは信託行為の当時,予見することのできなかった特別の事情という要件があることは厳しすぎるのではないか,この要件は不要ではないかという趣旨の意見を申し上げました。例えば信託目的の達成,不達成により終了するべきであると受託者が考えているような場合だけれども,信託管理人は同意しませんというような場合に,信託行為の当時に予見する可能性がないというような要件がないと,申立てができないということですと,厳しすぎると想定していたわけです。
今回,信託の変更命令について,信託行為の当時,予見することのできなかった特別の事情という要件は,どうすべきかということについて触れさせていただきますと,結論としては,この要件はなくてもいいけれども,残っていても,それほど支障はないと考えています。信託終了の場合ですと,信託行為に予見できる終了事由を全て記載するというのは非現実的だと思うんですけれども,変更については一読のときの資料の考え方によりますと,簡易な変更は信託法の原則どおり,当事者が可能ということを前提とした提案であると考えております。そうしますと,それ以外のものについてはある程度,予見可能なことは信託行為に書いておけばいいので,そうすると,信託行為の当時,予見することのできなかった特別の事情という要件が変更命令に残っていても,特に問題になることはないかなと考えたということです。終了の方はない方がいいということとの関連で申し上げさせていただきました。
○中田部会長 ありがとうございました。ほかに。
○能見委員 恐らく以前に私が述べたことの繰り返しになると思いますが,いろいろな意見が出てきたので,それとのバランスをとる意味で発言させていただきたいと思います。先ほどどなたか,この変更命令で何が変更できるかという変更の対象について,私の聞き間違いかもしれませんけれども,信託目的等の変更というものも入っているかのように聞き取れたのですけれども,現行の信託法150条を公益信託にも適用するというときにも,この規定によって信託目的自体の変更まではやらないというのが基本的な理解だったと思います。飽くまでこの規定は信託行為で設定された信託目的を前提にしながら,その下で信託財産を管理する方法が適切でなくなったときに,それを信託目的等に沿って変更する,そういうときに使われる規定だと考えるべきだと思います。
公益目的の変更ということであれば,設立認可のときに公益性を判断する行政庁がここでも権限を有するということでもよいと思いますけれども,信託の事務処理の方法についての変更命令であれば,これは別に行政庁である必要はない。例えば助成型の信託において,こんなことが実際にあるかどうか分かりませんが,財産運用の方法が今まで信託行為で定めていたのではうまくいかなくなったので,別の方法を考えなくてはいけないとかいうような場合に,その変更命令の主体が行政庁でなければならないということはない。裁判所でも構わない。
では,どちらもあり得るというときに,どっちがいいかということになると,先ほどどなたか,委員がおっしゃいましたが,この規定を使って変更命令で対処しなければならない場面というのは,当事者間に意見の対立があった合意による信託行為の変更ができない。そういう意味で関係者間に争いがある,争訟性があるということですので,そういうときの処理は裁判所に扱ってもらうというのがいいのではないかと,私も考えております。
それから,申立権者については,委託者が今,一番問題になっているかと思いますけれども,今のように信託目的を変更するのではなくて,単に事務処理の方法について変更が必要であるという状況で,それを変更するための申立てということであれば,申立権者を余り狭く限定する必要はなく,委託者であっても構わない。委託者も信託目的の下で信託事務が適切に行われていくことに利害関係を持っていますので,そういう委託者も申立権者に含めて構わないと考えます。委託者を申立権者の中に含めるという(3)の立場が適当であると思います。
○小野委員 前も発言しましたけれども,150条の立て付け,また,理屈からして信託契約そのものを変更するという観点からすると,裁判所以外にはあり得ないのではないかと思います。どっちかを選ぶということではなくて,150条の条文を見ても,申立てのときに変更後の信託契約の内容を明らかにするとか,又は即時抗告の議論も出てきます。では,認定機関たる行政庁は何もできないかというと,行政庁として業務改善命令とか,契約の内容ではなくて受託者の行為とか,信託業務そのものについて行政命令,行政上の措置はとることができるので,それによって別に問題はないと思います。飽くまで信託契約である以上,また,150条という立て付けからしても,150条の適用がある以上は,裁判所以外は理屈上もあり得ないと思います。
○林幹事 この点の弁護士会の議論を簡単に御紹介すると,(1)については当然,賛成だったのですが,(2)については行政庁も裁判所も両意見があったものの,裁判所の意見の方が強かったと思います。その根拠としては,争訟性もあるところですので,要件からしても裁判所の方がいいのではないかという議論でした。ただ,裁判所とした場合は,行政庁との兼ね合いというのを検討せざるを得なくなり,補足説明の中にも信託法168条と同様の規定を考える必要があるとありましたが,それはそのとおりであり,その手当てはすべきと思います。
一方,行政庁とすることについては,先ほど松下幹事からも御指摘があったように,不服申立ての手続をどうするかを書き込む必要があり,150条にも即時抗告の規定はあるわけですから,その辺りの手当てをしないといけないと思います。それから,変更の範囲につきましては,信託目的に及ばないとの御指摘もありましたが,弁護士会の議論では,変更の範囲に制限を加えなくてもいいのではないかという意見もありました。
それから,(3)については,これについても委託者の捉え方でいろいろ意見もあったのですが,(3)の御提案のとおりで賛成という結論が多かったところです。
○小幡委員 変更命令ですが,今の5条は削除するということですから,職権というのはなくなるわけですね。全部,申請によるということになります。そうすると,(2)の甲案,乙案のどちらかということですが,いろいろ,お話を聞いていて両論があると思うのですが,どこまで変更するのをイメージするかという話だと思いますが,変更した後も公益信託であり続けるための変更ということになりますね。
公益信託を変更して,また,公益信託で存続し続けるということになるので,そうすると,行政が関与してもよいと思うのですが,ただ,変更命令という名前が150条なので,これを行政庁がするというのは,やや違和感があるという感じはいたしますが,名前の問題です。松下幹事がおっしゃったことですが,もちろん,行政上のこういう行為でも,申請は誰々に限るということは幾らでもありますので,職権ではできなくて必ず申請により行政庁が審査して,命令というと強いのですが,こういう形の方がよりよいだろうという形の変更の申請に応じて審査して,それを行政庁が認定するというイメージだと思うのです。
そうであれば,別に行政庁がやるのでもよくて,公益信託としてきちんと変更した後も,機能するということを行政庁が審査するというのはあると思います。150条のところの変更命令という名前があるので,何か非常に強権的な感じがするということです。委託者を含むかどうかという議論はまたあるとは思いますけれども,イメージとしては私はあってもよいのではないかと思うのですが,ともかく,限られた申請者からの申請に応じて行政庁が審査するということは,おかしくはないという感じがしております。
○中田部会長 もし,変更命令という言葉を使わないとすると,何か適当な言葉はございますでしょうか。
○小幡委員 公益法人の公益目的事業であれば,いろいろな変更に対して出てきたものを認可とか認定でしたか,名前はいろいろあり得ると思いますが,同じような仕組みで,変更したいという申請に対して,軽微なものについては届出で足りるということになっているのですが,軽微なものでない場合は第三者機関にかけて変更認定するということになります。
○中田部会長 どうもありがとうございました。
○道垣内委員 今の小幡委員のお話が私にはよく分かりませんでした。例えば公益法人を考えますと,変更の主体は公益法人であるわけですね。そうすると,公益法人が自らの何かを変えたいと申し出て,それが認可されるというシステムは,それなりによく分かります。しかし,信託の変更は,公益信託の設定をもたらした契約の変更,信託行為の変更手続であって,そのような信託行為の変更の手続が認可であるというのはよく分かりません。例えば委託者でも受託者でも信託管理人でもいいですが,誰か特定の人が単独で変更権限を実体法上有し,その権限行使が認可されるということになるのでしょうか。私はそれは理屈上はあり得ないのではないかと思うのですが。
○小幡委員 命令と認可のどちらがきついと考えるかというのは,もしかすると行き違いがあるのかもしれませんが,私人間で決めたことについて,その効力発生を補完する形での認可というのがあります。命令というのは,その行為そのものを命じるという通常は,第一的な権限行使なのです。あくまで私人がやったことについて,補充的に行政庁が確認して効力を発生させるというのが認可という意味です。
○道垣内委員 その点では別に小幡委員のおっしゃったことを誤解しているわけではなくて,そうであるならば,作りとしては,委託者,受託者,信託管理人は,信託目的その他に照らして,うまく目的が遂行できなくなったときには,その合意により信託行為を変更する権限を有するということが前提とされ,その合意による変更の権限の行使の結果を認可するという形になるはずですよね。
そのような形にするというのであれば,それでも全然構わないのですけれども,ここで,今,問題にしているのはそうではなくて,例えば三人が信託関係者だとするならば,そのうちの一人がこうせざるを得ないと思うんですと言って申し出て,それに対して行政庁なり,裁判所なりが何らかの行為をするわけですから,その前提としての合意による変更というのが生じていないのだと思うのです。もちろん,合意による変更も自由に認めるわけにはいかないので,両方ともについて手続を作らなければいけない,というのであれば,それはそれで分かります。しかし,合意が調達できない場合について,それを裁判所なりが認可とするというのは,私はあり得ないことだろうと思います。
○小幡委員 その場合,そうすると150条を作り直さないと形がおかしい,ということですね。
○道垣内委員 そうですね。
○中田部会長 ありがとうございました。
今のやり取りで,命令,認可,それぞれの概念について認識の整理がかなりされてきたと思います。認定,認可については次回にも引き続き御検討いただくことを予定しておりますので,本日の今のやり取りも踏まえて,また,次回に御審議いただければと思います。
○山田委員 12ページの5の「公益信託の変更命令」の特に(2)について発言します。結論は,私は乙案が適当だと思います。理由は,いろいろな方々がそれぞれ御発言されましたが,小野委員のおっしゃっていることが多分,一番,私の考えに近いと思います。ですが,私なりの理由をこれから述べたいと思います。
参照したらよいと思いますのは,信託法149条と150条の両方を見て考えたらいいと思います。そして,受益者の定めのない信託というものを今回の公益信託にどれぐらい参考にするかという点については,当部会においても複数の意見があるということは承知しておりますが,一方では,261条1項の149条の読替規定を参考にするとよいと思います。
他方で,公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律を見ますと,認定に関する規定が4条にありますが,11条で変更の認定というのがあります。軽微なものについては13条で変更の届出で足りるという規定があります。法人と信託とをどこまで同じにすべきか,違いをどうするかというのはなお残されている問題だと思いますが,法人についての2階建て構造というのでしょうか,一般社団法人,一般財団法人で法人格を取得した上で公的認定を受ける,それによって税制上の各種の優遇を受けるという,この仕組みを私は信託においても,個別に考えて別の手当てをすべきところはあるとしても,基本的には同じ発想で臨むとよいのではないかと思っております。
そうしますと,公益信託の変更命令の話ですが,何人かの方が既におっしゃっていますが,149条に対応する関係者の合意,信託当事者の合意と言ったらいいのでしょうか,公益信託における関係者又は当事者の合意で信託の変更はできるというのがベースに置かれるべきだと思います。しかし,公益信託については公益認定を受けていますから,一旦公益認定を受けた後,信託を変更して,公益信託であることを濫用するのはもちろん認められるべきではありませんので,そうすると,信託が変更されたら変更の認定ですか,公益法人認定法の11条のこれに類するような手続を定めればよいのではないかと思います。話が細かくなるかもしれませんが,軽微なものであれば,そこまでも必要ないだろうというので,変更の届出についての13条に当たるようなものを用意すると。
その上で,しかし,149条に対応する公益信託の変更に必要な信託当事者の合意がそろわない場合があると,そろわないから,これは行き倒れになるのがよいだろうという考え方もあるかもしれませんが,信託法上の信託では,そこはそうではなくて裁判所の変更を命ずる裁判という方法で,合意が存在しない場合を補うことができるという規定になっていると,私は制度の趣旨を理解します。そして,公益信託においても,この信託法150条が用意している道筋は,あってよいだろうと思います。こう考えると裁判所が変更命令をするということになる。小野委員がおっしゃった結論に私も同じだというのはそのとおりです。
しかし,ここでも当初の信託は公益認定を受けて,税制上の各種の優遇措置を受けているということは,考慮する必要があります。しかし,関係当事者の合意ではなくて,変更命令という裁判所が関与する方法で行ったときに,変更の認定に係るものが不要になるのかというと,それは不要ではないのだろうと思います。裁判所の変更命令というのは,当事者の合意がそろっていないことを補うためのものですから,公益認定をして各種の税制上の優遇措置を取得すると,その後の変更には,軽微かどうかに応じますが,原則は変更の認定が必要だと思います。
こうなりますと,手続が二重になるのではないかというのが最後,解決すべきところかもしれません。裁判所で変更命令を受けた後,更にまた,変更の認定を受け直さなければいけないということになりそうです。その場合,例外的かもしれませんが,裁判所の変更命令に対して認定が得られなかったという例も出てくるかもしれないと思います。しかし,それについては,私は,あっても仕方のないことであり,手続の上で何らかのそうならないような仕組み,あるいは,問題を緩和する仕組みを,追加的に設ければいいのではないかと思います。
追加的な手続については,司法と行政をどう折り合わせるかというような問題で難しい問題であり,私は分からないのですが,変更命令の非訟事件がスタートするときには誰かが申立てをします。非訟事件の手続が継続している段階で,裁判所が,変更命令という決定をする前に,認定行政庁から意見を聴くということが考えられ,あるいは行政庁でなくて,認定行政庁の認定に対して意見を言う公益認定等委員会,それになるかどうか,まだ,決まっていないのかもしれませんが,仮に公益認定等委員会が公益法人における手続と同様に関与するのであれば,そこから,直接,裁判所が意見を聴いてもいいのかもしれないと考えます。認定をする行政庁を通す必要もないのかもしれないなと思うからです。そういう手続を設ければ,完全に一本の手続では終わらないのかもしれませんが,その意見を聴くというところで,しかし,二度手間になって判断が食い違うというようなことは避けて,もう少し手前のところで調整ができるというようなことが考えられるのではないかと思います。長くなり,申し訳ありません。
○中田部会長 ありがとうございました。ほかに。
○小幡委員 先ほど認可か認定と申し上げましたが,公益法人の場合は,認定ということです。今,正に山田委員がおっしゃった認定です。
○中田部会長 ありがとうございました。ほかに。
○棚橋幹事 先ほど乙案を前提に,168条又は行政庁の意見を聴くという方向の御意見があったかと思いますが,仮にそういう方向で議論を進められるのであれば,行政庁は,どのような事項について,どのような観点で,どういった意見を述べる枠組みとなるのか,行政庁の意見に拘束力があるのか,裁判所と行政庁の権限の違いなどについて整理していただいた上で,慎重に検討していただければと思います。
○吉谷委員 山田委員の御意見を聴いて,頭の中が非常に整理された気がするんですけれども,実務的な立場から直感的に思うところでは,行政庁が最初からやるという手続を採った方が多分,時間的にも労力の面でも低いコストで済むのではないかと思われるので,そうでないということが分かれば,また,違う意見になるかもしれないんですけれども,今のところ,直感の方を踏まえて先ほどの意見を維持したいと思います。
○中田部会長 ほかにございますでしょうか。
○道垣内委員 実は,私も小野委員が御発言になる前に,小野委員とほぼ同じことを申し上げようと思っておりまして,それに山田委員が根本的な理念としては近いという発言をされました。私は両委員がおっしゃったことに賛成で,コストが掛かるか,掛からないかという問題からすると,確かにコストは掛かるのかもしれませんが,理屈上は行政庁が勝手には変えることはできないだろうと思います。
○平川委員 先ほど多分,私の発言で信託の目的の変更というような言い方をしてしまったかもしれないんですけれども,目的事業の変更というのを想定しておりました。例えば公益信託の目的というのがエイズ撲滅のためというような目的であった場合に,それを達成するための事業として例えば研究団体に助成するというようなことをやっていたんだけれども,信託の規定の中にもそれを目的達成のための事業としていたんだけれども,さっぱりらちが明かないので,自分たちも資金が潤沢にあるので,自分たちで研究所を立ち上げようと,エイズ撲滅の研究施設を立ち上げるということになったというような目的事業の変更という意味で申し上げておりましたので,訂正させていただきます。
○中田部会長 大体,御意見はよろしいでしょうか。
5の(1)につきましては,特に反対という御意見はなくて,御意見を頂いた方は,皆さん,賛成ということであったと思います。
(2)については,甲案,乙案それぞれの御支持がありました。議論の中で変更命令が出るのはどんな場面なのかという問題や,あるいは対象となる変更の範囲は一体,何を想定しているのかという問題について,人によって若干違いがあったようですけれども,それがだんだん明確になってきたと思います。更に第三者機関が関与する目的は何なのか,何を保護しようとしているのか,それから,更に制度設計の在り方としてどうするのがより効率的か,例えば裁判所が判断するとすれば行政庁が関与する,その仕組みを練り上げる必要があるでしょうし,行政庁がするとすれば,不服申立てをする手続をどう考えるのかを検討する必要がある,こういった御指摘も頂いたかと存じます。
それから,(3)につきましては,原案でよいという御意見が比較的多くあったかと存じますが,原案に反対されて,信託行為で定めれば委託者も申立権者にし得るという御意見と,それから,信託行為に定めたとしても委託者は申立権者にすべきでないという御意見と,それぞれ,頂いたと思います。
以上の御意見を踏まえて,更に中間試案に向けて検討を進めていただくことにしようと思います。
次に進んでよろしいでしょうか。
それでは,次について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。
○舘野関係官 それでは,「第2 公益信託と私益信託等との相互転換」について御説明いたします。
まず,「1 公益先行信託」について御説明します。本文では,公益先行信託について規律は設けないものとすることでどうかとの提案をしています。
公益先行信託は,受益者の定めのある信託を設定し,信託行為において一定期間は信託財産又はそこからの収益を公益目的のために利用した上で,一定期間の経過後は残りの信託財産を委託者が指定する私人のために利用する内容の定めを置く等の方法によって実現することができます。そこで,部会資料37の第4の1の提案のうち,「許容しない」としていた部分の表現を「規律を設けない」という表現に改めた提案をしているものです。なお,アメリカにおいては,公益先行信託は受益者の定めのある信託の一類型であることを前提として,税法上の優遇措置の観点から議論されていることに留意する必要があります。
次に,「2 公益信託から受益者の定めのある信託への転換」について御説明します。本文では,信託法第258条第2項の規律を維持する(公益信託を含む受益者の定めのない信託においては,信託の変更によって受益者の定めを設けることはできない)ものとすることでどうかとの提案をしています。
本文の提案は,部会資料37の第4の2の提案の表現を信託法第258条第2項に即した直截的な表現に改めたのみで,実質的な内容及びその理由に変更はありません。また,公益信託において事後的な信託の変更により,受益者の定めを設けることを許容すると,その信託が継続している間に,公益活動に使われることを期待して,自らの財産を拠出した寄附者等の意思に反するし,その公益信託により利益を受けていた者の期待権を害するおそれがあり,公益性を理由に税制優遇を受けていた場合には,その公益信託の委託者等に不当な利益を与える可能性があることを本文の提案の理由として追加することが考えられます。
次に,「3 残余公益信託」について御説明いたします。本文では,残余公益信託についての規律は設けないものとすることでどうかとの提案をしています。
本文の提案は,部会資料37の第4の3の提案の内容を実質的に維持するものであり,その理由に変更はありません。残余公益信託の目的とするところは,公益信託法の中に特別の規律を設けなくとも,最初に私益信託を設定する際に,その信託行為において受託者に対し,一定期間後に公益信託の認定申請を行うことを義務付け,その期間経過後に受託者の申請により,公益信託の認定を受けることにより実現可能であること等から,そのような趣旨で部会資料37の第4の3の提案のうち,「許容しない」としていた部分の表現を「規律を設けない」という表現に改めた提案をしているものです。
次に,「4 受益者の定めのある信託から公益信託への転換」について御説明いたします。本文では,甲案として信託法第258条第3項の規律を維持し,受益者の定めのある信託から公益信託への転換を許容しないものとする,乙案として信託法第258条第3項の規律の例外として,受益者の定めのある信託から公益信託へ転換する場合には,信託の変更によって受益者の定めを廃止することができるものとするとの提案をしています。
本文の甲案は,部会資料34の第4の4の丁案と実質的に同一の提案であり,その内容及び理由に変更はありません。本文の甲案は,部会資料34の第4の4の丁案をベースに,その内容を直截的に表現して提案しているものです。本文の乙案は,部会資料34の第4の4の乙案のうち,実質的に公益を目的とするとの要件の内容が不明確であり,このような要件を設けても,それを行政庁が公益信託の認定時に判断することは実際には困難であることから,その部分を削除して提案しているものです。
次に,「5 公益信託から目的信託への転換」について御説明いたします。本文では,公益信託の認定を取り消された信託について,甲案として当該信託は終了するものとする,乙案として原則として当該信託は終了するものとする,ただし,信託行為に公益信託の認定の取消し後は(公益目的の)目的信託として存続させる旨の定めがあるときは,当該信託は(公益目的の)目的信託として存続するものとするとの提案をしています。
本文の甲案は,部会資料37の第1の3の甲案と同一であり,その内容及び理由に変更はありません。本文の乙案は,部会資料37の第1の3の乙案をベースに,原則として公益信託の認定を取り消された信託は終了するものの,例外として信託行為に,公益信託の認定の取消し後は(公益目的の)目的信託として存続させる旨の定めがあるときは,その信託は(公益目的の)目的信託として存続するものとすることを提案するものです。乙案を採用する場合には,公益目的取得財産残額の算定や公益信託の認定取消し後の(公益目的の)目的信託について監督する仕組み等を設けて,規律の実効性を確保する必要があり,制度として複雑になる等の問題点の指摘があり得ます。なお,本論点と関連して,「公益目的の目的信託」を新たな類型の信託として位置付け,その要件等について規律を整備するか否かも問題となり得ます。
最後に,「6 目的信託から公益信託への転換」について御説明いたします。本文では,甲案として目的信託から公益信託への転換を許容しないものとする,乙案として目的信託から公益信託への転換を許容するものとするとの提案をしています。
本文の甲案は,既存の他の信託が公益信託の認定を受けることを許容しないとする部会資料34の第4の4の丁案の内容を,受益者の定めのある信託と目的信託に場合分けし,後者について目的信託から公益信託への転換を許容しないものとすることを提案しているものであり,その内容及び理由に実質的な変更はありません。本文の乙案は,既存の公益を目的とする目的信託が公益信託の認定を受けることを許容する部会資料34の第4の4の甲案と実質的に同一の案であり,その内容及び理由に変更はありません。部会資料34の第4の4の甲案の既存の公益を目的とするとの要件は,認定の際に転換後の当該信託における公益目的の有無を行政庁が判断すれば足り,このような要件を設ける意義は乏しいことから,その部分を削除して提案しているものです。
○中田部会長 ただ今説明のありました部分につきまして御審議を頂きます。六つのパターンが示されておりますが,三つに分けて御審議をお願いしたいと思います。すなわち,まず,公益信託から私益信託への転換に関する1と2,次に私益信託から公益信託への転換に関する3と4,その後,公益信託と目的信託との相互転換に関する5と6について,順次,御審議をお願いします。
まず,第2の「1 公益先行信託」及び第2の「2 公益信託から受益者の定めのある信託への転換」について御意見をお願いします。御自由に御発言をお願いします。
○吉谷委員 1,2ともに提案に賛成いたします。1につきましては,公益先行信託というのは私益信託として現状でも可能なものでありまして,公益信託としてわざわざ位置付けるというニーズは不明であると思います。また,税制上の措置の観点からも問題があると思っております。2番につきましては補足説明のとおりで,特に付け加えるところはありません。
○深山委員 提案について結論を先に申し上げれば賛成をしたいと思います。1の公益先行信託,それから,2の部分の両方とも提案に賛成したいと思います。ただ,1について賛成の趣旨は,従前,許容しないものとするということを改めて規定を設けないとなったということを,許容されるという余地を認めたと理解した上でのことであります。補足説明を拝見しても,公益先行信託というべきものは実現可能であるということが記述してあります。
もっとも,そこでは二つの意味で実現可能と書いてあって,一つは私益信託の一つの定め方として,後日,公益認定を受けるということを受託者に義務付けるということで,これ自体は別にそういうことがあってもしかるべきだと思いますが,しかしながら,これは正に私益信託そのものでございます。もう一つの実現の例としては,「残余財産の帰属」の論点で乙案を採用した場合には実現可能であるということです。私は残余財産の帰属について乙案を主張しておりますので,そういう立場からすると確かにその延長線上の問題として,ここで許容しないというようなネガティブな規定がなければ実現できると思います。したがって,言ってみれば残余財産帰属の問題で,乙案を採ることを前提に賛成というような趣旨になろうかと思います。なので,吉谷委員とはニュアンスが違いますが,結論については一緒ということでございます。
○小野委員 前にも発言しましたけれども,私益というのを公益信託の真逆の意味で捉え,私の利益のための信託のように理解すると,適切ではないという議論に結び付きやすいと思いますけれども,私益信託をもっと単純に,公益目的の私益信託,要するに受益者がいる,受益者がいることで既に公益信託になりえない,あるいは,不特定多数要件は満たさないが目的から見たら明らかに公益である,がん撲滅のため,初めは何か不特定多数の方々に支援するけれども,ある一定の理由になったときにはがんセンターとか,特定の研究機関宛て受益者として支援するとか,私が想像する範囲というのは乏しいものしかありませんけれども,軽装備,柔軟,また,将来のいろいろな社会の状況にそぐうようなものにしようとしたときに,この部会の我々だけの創造力の範囲内で,これはけしからんというのはよろしくないのではないかと思います。
繰り返しになりますけれども,公益的私益信託というものは明らかに観念できる話だと思います。先々の別の機会でも,私益という言葉をくれぐれも私の利益と捉えない議論が必要と思います。要するに,受益者がいる信託に変えることは何がいけないのかという観点かと思います。
○中田部会長 取りあえず,1と2につきましては,そうしますと結論的にはどうなるんでしょうか。
○小野委員 当初の信託行為に規定する場合も,後に信託の変更による場合も,いずれも許容されるべきということです。
○中田部会長 1については,特に規律は設けないということが今回の提案でありまして。
○小野委員 元々許容しないとしていたのが,規律を設けないで果たして許容されることになるのか,明確ではないことになりませんか。
○中田部会長 先ほどおっしゃった公益的私益信託というのは,恐らくこれの制度の外で考えていて,それを禁止するわけではないということだろうと思うんですけれども。
○小野委員 公益的私益信託は別に議論をする機会があるということでしょうか。
○中田部会長 そうではなくて,公益先行信託についての独自の規律は特に設けないという,そういう提案でありますけれども。
○小野委員 すみません,できるという前提での提案であるとのことであれば,賛成ということになります。
○中田部会長 16ページの3というところに,公益先行信託という形でなくても同様の機能を実現することができるという代替方法が存在するということが,今回の提案の理由として示されているわけですけれども,そうしますと,小野委員のお考えになっていることと,それほど遠くないのかなと思ったんですが。
○小野委員 公益信託が終了したときに,何らかの規律を設けないでそれを私益信託に自動的にそれほどスムーズに移行できるのかなと。公益信託の終了の議論からしたら,公益信託を終了したときには類似目的の公益信託や公益法人に信託財産を移管するとか,いろいろな議論がありました。できるという大前提を置かれての御質問であれば,特に規定は置かないでいいですということになると思いますけれども,そうではない可能性もあり得る。要するに,ここに書いてあることが本当に実現できるのかなと思う素朴な疑問からの発言です。
○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。
ほかにいかがでしょうか。
○新井委員 1番目の公益先行信託については,規律を設けないということに賛成したいと思います。ただし,規律を設けないということの意味については,少し検討が必要だろうと思います。つまり,説明によりますと規律を設けないということは,規定がなくても実務的な対応が可能なので,あえて条文で許容するというようなことを言わなくていいという趣旨のように理解しました。ただし,一般の方にとってみて,公益先行信託について規律がないということが,一体,どういう意味を与えるのかということは,少し慎重に検討した方がいいのではないでしょうか。つまり,公益先行信託というものの信託法の中における位置付けです。こういうものを少し促進しようということなのか,それとも抑制的であっても仕方がないような趣旨なのか,その辺を少し明確にした方がいいように思います。
それから,2点目については,1点目と2点目,第1の類型と第2の類型の違いは何かというと,第1の方は当初から予定されていた,第2の方は事後的に変更するということの違いだと思います。第2類型については258条2項の規律を維持するということですが,果たして,これだけの理由で第1の類型は実務的に対応できるとして,2番目の方は認めないということの理屈として十分なのかという疑問があります。というのは,258条2項の規律というのは,公益信託を加味しなくても理解できる条文だと思いますので,一つの可能性としては,1,2とも許容するというのでしょうか,規律は設けないというのでしょうか,認める方向での考え方もあり得るのではないかと思います。
ですから,結論的に言いますと,1番目については賛成,ただし,規律を設けないことの意味についてはもう少し検討する必要がある。それから,2番目についても事後的な変更と当初から予定で,それほど本質的な違いがあるのだろうか。つまり,事後的な変更であっても実務的に対応が可能な場合もあるので,そうすると,利益状況は第1の類型と異ならないようにも思うので,その辺りの検討も更に必要のように思われます。
○樋口委員 三つのことを申し上げたいと思いますけれども,まず,第2という部分には転換という言葉が入っていて,しかし,中身を読むと変更という言葉も出てきて,変更と転換とどう違うのかというのが普通に読んでいくとよく分からない。普通は先ほど能見委員がおっしゃったように,信託の変更というのは,英語でいうとdeviationとかchangeでもいいんですけれども,特に裁判所が関与して行う信託の変更という話は,英語でいえばadministrative provisionsについての変更を認める,状況の変更に応じてということなので,信託の事務的な部分の変更をいうので,目的を変えるという話はないんです,そもそも。
だから,事務処理の方法で具体的には投資先で今までのようなことをやっていたのでは,すぐになくなってしまうではないかというような事例がそれに当たります。だから,もっと新しい投資先を開拓したらいいとか,何でもいいんですけれども,そういうようなことを考えた受託者が通常は裁判所のところへ行って,こういうことは信託条項には書いてないんだけれども,是非ともやらないといけないと自分は思っている,それに対して許可してくれる,それを認定というか,どうであろうが,裁判所の許可というのがあるというのが英米法の考え方です。だから,今,資料の1と2ですから,2というような大転換の話はどこにもない。だから,世界で初めてというのを作ろうという感じがするということです。パラダイム転換みたいな気がするということです,実は。
それで,二つ目は,私自身は1の公益先行信託とか,後で出てくる残余公益信託というんですか,そういうハイブリッド型というのも,アメリカでもやっているのだし,日本では特に今回の公益信託法の改正の正に目的としては,公益信託を拡大するという話にしないといけないと思っているんです。この法律を改正することによって,法律だけではできないことなのかもしれませんけれども,法律としてもとにかくもっと広げていくんだという,法改正はそのための手段だと。そのための手段として,現実的な策として,こういうハイブリッド型というのもやってみたらいいのではないかというのがまず私の結論としてはあるということです。
その上で,何も規定しないというのは危ない,逆に。16ページのところに,公益先行信託は,受益者の定めのある信託を設定し,信託行為において,一定期間は信託財産,それを公益目的のために初めのうちは利用した上で,一定期間の経過後は今度は私人のために,その私人というのはきちんと受益者として初めから指定しておくというので,そういう形でできるではないかというのはおっしゃるとおりだと思いますけれども,その前提としては公益先行信託はまず認定しないんでしょうね,公益信託とは。
しかし,二つ目の問題として,そういっても例えば樋口が,公益先行信託というのを始めました,10年間は公益のためにやるんです,是非とも協力してくださいというのまで禁ずるのでしょうか。公益信託については名称独占が認められると思いますけれども,公益先行信託になれば大丈夫なんでしょうか。何も規定しないのでは,かえってそれを悪用することも考えられます。それについてどうするか,分からないけれども,こういうのもきちんと,この部分については公益だというのだったら,日本のように認定しないと気が済まないという,とにかく認定制度ありきというところでは,責任を持って何もしないでどうぞというのではなくて,きちんと,この部分については公益性があるんですよという形の認定制度を採る方が日本的な感じがするんですけれども,私は。そこまでにします。
○中田部会長 3点あるとおっしゃいませんでしたか。
○樋口委員 名称独占との関係で,公益先行信託というのも名乗らせないというところまでやらないと,不十分です。しかし,そういう方向性は,結局,公益信託拡大について完全にネガティブなんです,本当を言うと。先ほどどなたかがおっしゃった,どういう方向性を採るかというと,だから,それはまた,どうなのかという気がします。そうすると,そういう悪用の事態も想定されるのに,何かあったときに何も規定しておかないという意識的判断をしたんですよといえば,立法担当者はその責任を問われると思います。こういう脅し的な言い方もよくないんです。申し訳ない,言いすぎたと思いますけれども。
○中田部会長 ありがとうございました。確認ですけれども,2番目の事後的な変更については,これを認めるのはパラダイムの転換のような大きなことであるというのは,結論的には慎重であるべきだという御意見ですね。
○樋口委員 ええ。
○中田部会長 1番目の当初から予定しているものについては,認めるのだとすると中途半端にするのではなくて位置付けが必要で,受益者のいる公益を目的とする信託についても,例えば名称との関係を詰めておくべきだと,こう伺ってよろしいでしょうか。
○樋口委員 そうです。
○中田部会長 ありがとうございました。
○林幹事 まず,1の方につきましては,弁護士会の議論では両論がありました。御提案に賛成で,認めないという意見も,それなりに強かったのですが,バリエーションという意味においては,認めてもいいのではないかという意見もあり,私個人としては後者の意見で今はおります。
今回の提案で,「許容しない」ではなくて「規律は設けない」に変わったこととか,私益信託においても実質的にできるとか,そういう御指摘の限りにおいては前向きに進んでいると思っているので,それは評価したいですし,少なくともその限りではできるようにと思うところです。ただし,規定があるか,ないかが大きくて,ないとできないという方向に働くかもしれません。税制の問題は悩ましいのですが,端的に受益者のいない公益信託として認めるということで税制のメリットも出てくるかもしれません。規定がなくてもできるではないかというような御指摘であれば,そこから,規定は要らないという方向もあるかもしれませんが,規定を設けてもよいという方向も考えていいのではないのかと思います。
「残余財産の帰属」のところで私も乙案なのですが,そちらで乙案だから,本論点の公益先行信託もあってよいという立場もあり得て,期間限定の公益信託的な考え方からすると,1についてはあってもよいのではないのかと思います。ですから,ここでは特に当初の信託行為において,委託者の意思として,そういうものを希望すると,そこが明確に出るわけですから,その意思を契約として尊重するということはあってもいいと思いました。
ただ,2の場合,つまり設定当初は全く想定せずに,後に信託の変更で対応するかについては,ハードルが高いように思いましたし,弁護士会の意見でもこれは認めないという意見で一致していたところだと思います。バリエーション的にはあってもいいという気はするのですが,なかなか,難しいかと思います。
○山本委員 分かっていないので質問をさせていただければと思うのですが,1について規律を設けないとしても,実質的に意図するところは実現可能であるという指摘があります。例えば10年間は公益目的で行い,その後は私益信託とするということですが,先ほどの御発言の中にもありましたけれども,このようなものを申請しても恐らく公益認定はされないのだろうと思いました。少なくとも,公益認定と税制優遇を一致させるという考え方からすると,認定はされないだろう。そうすると,認定されない場合において,最初の10年間,公益目的で信託をしているという場合のこの10年間には,どの規律がどう適用されることになるのでしょうか。それがよく分かりません。
公益認定を受けていないので,公益信託に関する規定が直接適用されることはないでしょう。ただ,性質に応じて準用なり,類推なり,何かが行われるのか。私益信託といいましても,10年間は受益者がいないわけですので,どのような規律がどう適用されるのかということがよく分かりませんので,御説明頂ければと思います。
○中辻幹事 事務局としては,最初の10年間は公益目的のために信託財産が使われるということを前提としても,その後は公益目的とは違う目的のために信託財産が使われるのであれば,全体としては受益者の定めのある私益信託としての性質を有する信託を設定したと言える場合があり,その場合には,最初の10年間についても受益者の定めのある私益信託の規律が適用されることになると考えておりました。
なお,先ほど小野委員から御指摘ありましたけれども,公益目的の受益者の定めのある信託という言葉を使っておりますが,公益認定を受けた公益信託とは別の類型として,受益者の定めのある信託が利用されて公益目的が実現されることは,むしろ望ましいと事務局としては考えております。余計なことまで付け加えましたが,質問に対してお答えになりましたでしょうか。
○山本委員 まだ,分かっていないのですけれども,受益者が少なくとも法律上はいないはずの最初の10年間において,何らかの法的な対応をしないといけないはずなのですけれども,そこで私益信託の規定がそのまま適用されるというのは,どうもうまく実情にそぐわないような気もするのですが,それでも基本的には私益信託の規定によるということなのでしょうか。
○中田部会長 前提を整理したいんですが,事務局の方の提案というのは16ページの3に書いてあるところだと思うんですが,これは受益者の定めのある信託を設定して,その収益を公益目的のために利用するということですので,ひょっとしたら少しイメージが違うのかもしれません。
○山本委員 先ほど来の議論からしますと,10年間は公益目的である,そして,それが終われば受益者をあらかじめ指定してあって,その受益者が受益するという仕組みではないかと思っていましたので,先ほどのような質問になりましたが,最初から受益者は法的にも存在する,ただ,収益を公益目的に充てるというだけであるというものであれば,名称としても公益先行信託と言えるのかどうか怪しいところがあるように思いました。
○中辻幹事 もう一つだけ付け加えさせていただきますと,深山委員が最初の方で御発言されましたが,代替案としては2パターンがございます。一つは中田部会長がおっしゃった受益者の定めのある信託を設定する方法,もう一つは公益信託の残余財産の帰属先の論点で解決する方法であり,後者であれば公益信託を当初の10年間行っている間はその信託には公益信託の規定が適用されることになりますので,受益者の定めのある信託の規定が適用されるパターン,適用されないパターンの2パターンがあるのだろうと思います。
○中田部会長 失礼しました。今御説明のあったとおりです。
○山本委員 分かりました。
○能見委員 先ほど小野委員が最初に言い出されて,その問題が先ほどから私も気になっていて,どこかで発言しようと思っていたわけですけれども,いろいろな観点があるのですが,まず,事実上の公益信託というのでしょうか,私益信託の枠組みを使っているけれども,そういう意味では受益者もいるし,受益者がガバナンスに関与する,そういう意味で完全な私益信託であるけれども,公益的な活動をするというのは,多くの方は全く問題はないと考えられていると思います。私もそれは問題ないと思っています。しかし,これについても解釈の争いが若干はあるかもしれないので,本当はどこかで,この議事録だけでもいいのかもしれませんけれども,あるいは要綱などではっきりと,それができるということを明記した方がいいだろうと思います。
ただ,ここの書き方ですが,1の公益先行信託のところで,規律を設けないとある。設けないけれども,私益信託を設定し,そこで信託財産を公益目的のために使うなどでして,事実上公益先行信託はできる。だから,それでいいだろうという説明の部分は余り理由になっていない。公益先行信託を認めることを主張する側は,公益を行う信託を先行させるわけですが,そこでは公益信託としての実態が欲しい,これは税制優遇も含めてですけれども,そういうことを公益先行信託では考えていると思いますので,アメリカの議論は必ずしも私は正確に理解していませんけれども,少なくとも今までの日本での議論は,そういうことを考えていると思いますので,事実上の公益活動ができればいいだろうというのは,十分な理由になっていないと思います。
ですから,本当は公益先行信託ができるとする規定を設けた方がいい。事実上の公益信託ではなくて,きちんとした公益信託を先行させて,その後,私益信託に変わっていくというのを実現するためには規定が必要です。私は規定を設けるべきだという意見ですけれども,もし,それができなければ,そういう規定がなかなか難しいというのであれば,次善の策として,事実上の公益信託というのを使うことになると思いますけれども,事実上の公益信託についても本当に大丈夫かどうか解釈のレベルで争われる恐れがありますので,できるということをどこかで明確にしておいてほしいというのが一つです。
それから,山本委員が言われたことは私も重く受け止めております。事実上の公益信託を先行させる,たとえば最初の10年間,幾らそれは私益信託であるからといって,受益者が全ての普通の私益信託と全く同じようにガバナンスに関与することでいいのだろうかという問題は確かにあるような気がいたします。ただ,事実上の公益信託であるから公益の認定は受けないけれども,公益信託と同様のガバナンスなどの仕組みは使わなくてはいけないということは,私益信託に与えられる基本的な自律性というのでしょうか,自由な自律という部分を大きく阻害することになると思います。痛しかゆしの点はありますけれども,結論としては,私益信託の枠組みを使うのであれば,私益信託の枠組みでやるしかない,公益信託の枠組みを押し付けないのがよいという感じがしております。
2の方については,本当はこれを可能にするのがいいと思いますけれども,この点については特に新しい意見といいますか,理由があるわけではありませんので,省略したいと思います。
○渕幹事 1の「公益先行信託」について,小野委員,それから,林幹事等が規律を設けるべきである,むしろ,積極的にカテゴリーとして認めるべきではないかと発言されました。その趣旨については御説明があったとおり,柔軟にいろいろな種類のカテゴリーの公益信託を認めた方がいいのではないかというようなことではなかったかと伺っておりました。確かに,委託者の立場から見るといろいろな選択肢があった方が,委託者にとってはいろいろな手段で公益を実現できるというような意味で,委託者にとっての私的自治といいますか,柔軟な選択が可能になるということなのだと思います。
しかし,前回か,前々回か,小野委員の御発言で非常に印象に残っておりますのが,信託の存続中に信託関係人の柔軟な意思決定で物事を決めていくべきではないかという,そういう方向での御発言です。そうだとすると,信託の設定の段階での柔軟さというか,いろいろなカテゴリーを認めるということと,その後の信託存続中における柔軟な運営というものは,当然,衝突する関係にあるわけです。その辺りについての小野委員のお考えを伺いたく思います。
○小野委員 いろいろなことを発言しているので,どういうコンテクストで発言したかなと思うところがあって,御質問に沿った内容となるか分かりませんけれども,公益信託は継続して運営されますから,その意味においては善管注意義務という観点からも柔軟性はどなたも認めることかと思います。ということと,公益目的とか終了時における残余財産の帰属のような大きい枠組みに従うということは衝突するということはないと思います。もっとも,今,渕幹事がおっしゃられたこととの関係で,当初の委託者の意思をそれほど尊重する必要がなく,柔軟に考えてもよい事例としては,例えば種銭公益信託のように,取りあえず,一定の財産は当然,必要ですけれども,公益信託を設定し,実際の運営は今後,寄附等によって公益信託を賄っていきましょうみたいなスキームの場合,これも,一つの公益信託の在り方と思うのですが,信託設定行為の内容と運営上の柔軟性が衝突することもあるかもしれません。もっとも,信託行為でそれを認めるという趣旨なので,衝突する状況ではないとも思います。回答になっていないのかも知れませんが。
○渕幹事 小野委員のお考えを正すという印象になってしまって恐縮でありますが,そのつもりではございません。もし,先日おっしゃったように柔軟な信託存続中の信託関係人による意思決定を尊重したいということであれば,むしろ,こういう委託者にとっての選択肢を広げる規律を設けないというか,むしろ,認めないという方向の結論になるのが筋ではないかなと疑問に思ったので発言させていただいた次第です。特に矛盾はないということであれば,それで結構です。
○中田部会長 最初にカテゴリーをたくさん作って,その代わり,そのカテゴリーに当てはまった以上は,後は最後までそれを貫くという考え方と,入り口は広くしておいて,後は柔軟にするという二つの方向があるのではないかという御指摘だったと思いますが,必ずしも対立するわけではないというのが小野委員の御理解,御説明だったかと存じます。ほかに。
○新井委員 第1類型の公益先行信託の意味が議論になっていると思いますけれども,それについて少し私の意見というか,質問をしたいと思います。16ページの3ですけれども,公益先行信託は,受益者の定めのある信託を設定し,信託行為において,一定期間は信託財産又はそこからの収益を公益目的のために利用した上で,一定期間の経過後は,残りの信託財産を委託者が指定する私人のために利用する内容の定めを置くことで実現することができるということが書いてありまして,中辻幹事もそういう趣旨のことをおっしゃったと思います。
ただ,ここでの議論の前提となっている公益信託というのは,公益認定を取ったものを一応の前提としていると思います。16ページに書いてあるような多様なもの,これを公益信託に含めるという考え方はもちろんあると思います。それはそれでいいと思いますけれども,ただ,両者を一緒にして議論する,正に第1類型がそうなんですけれども,そういうやり方をするといろいろなバラエティが出てきて,本当に議論の仕方として妥当なのでしょうか。私は第1類型というのは,公益認定を取った公益信託が正に先行している,そういうことで考えるのが一番ピュアな理解だと思うんですけれども,すごく外縁を広げるということでもいいのでしょうかというのが私の質問です。
○中辻幹事 もっと検討の対象を絞った方が議論の前提が浮き彫りになるという御指摘であると受け止めましたので,それは今後の検討に生かさせていただきたいと思います。事務局としては,公益目的の受益者の定めのある私益信託の活用について触れないまま,公益信託にだけ特化して検討するよりは,少し間口を広げて検討してみようというくらいで考えていたものでございます。
○平川委員 1の点については,公益信託として認定を受けられるような公益信託としては,法律関係の複雑化や税制優遇の観点から,許容しないとすることが妥当だと思います。公益的な私益信託というのは,許されてもいいと思いますけれども,その場合には公益信託という言葉や,それと紛らわしい言葉は使ってはならないとしなければならないと思いまして,準公益信託とか,公益類似信託とか,公益的信託とか,そんなような公益先行信託というだけでは,認定を受けた公益信託と混同して,不当な詐欺まがいのことが起きる可能性があると思いますので,そこのところは厳密にすべきだと思います。
2の方につきましては,公益信託を受益者の定めのない信託の類型とすることには,公益信託を目的信託の一類型とすることには反対するという意味で,信託法第258条第2項の規律を維持するという観点からではなく,公益性を担保する根幹を揺るがすこととなるという観点から,受益者の定めのある信託への変更を不可とする案に賛成します。ただし,受益者が公益法人等であり,その背後に不特定多数の受益者が存在して,公益性を認定できるような場合もあり得ると思いますので,そういう場合には例外的に認めるということはあり得ると思います。
○深山委員 ここの議論は,何人かの方から御指摘があったように,やや整理というか,前提を確認する必要があると思うんですが,先ほど新井委員が御指摘になったとおり,私もここで議論すべきことは公益認定を受けた公益信託が先行して,それがその後に,例えば補足説明の例でいえば,10年後は私益信託に転換することを認めるかどうかということを念頭において規定を設けるかどうかと,こういう議論です。したがって,補足説明16ページのところの実現できる例として二つある前段のところと後段のところは,先ほど中辻幹事に御説明いただきましたけれども,前段の方の例というのは純粋な私益信託の話ですから,参考までに書いておくことには意味があるかもしれませんけれども,ここの議論の例にはならないし,ましてや,こういうことを私益信託として実現できるからということを理由に,ここでの議論をするということもふさわしくない。
後段の方の例というのは,残余財産の私人への帰属を認めることを前提に,その私人に帰属させるときに単純に戻すのではなくて,私益信託に転換するということができるということで,これは正にここでの議論を検討する上で想定されている場面なんだと思います。そういう理解で,私は残余財産の帰属の論点については乙案を採ることを前提に,そうであれば,重ねて何かここで公益先行信託ができるということを書かなくても実現できるので,この提案に賛成すると申し上げました。
先ほどはそこまでで止めたんですが,仮に残余財産の帰属の論点で甲案ということになった場合には,そういう意味では何も規定を置かなければ,自然の理解としてはできないという解釈が出てくる,それが自然な解釈だと思います。それは私は反対したいと思いますので,先ほどの意見を別に変える気はないんですけれども,仮に残余財産の帰属の論点で甲案が採用される場合には,仮にそれを前提にしても,公益先行信託という形で後に単純に私人に戻るのではなくて,私益信託に転換するという限度では認めるという意味で,積極的に認めるという趣旨の規定を置くべきだという意見を付け加えたいと思います。残余財産の帰属の論点について諦めたと思われたくなかったので,先ほどは言わなかったんですが,予備的な主張としては,そういうことを主張したいと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○山田委員 繰り返し出ていることかもしれませんが,事務当局がこの資料をどういう趣旨で作られたかということを教えていただきたいという質問をさせてください。15ページのゴシックのところですが,「1 公益先行信託」,公益先行信託(注)で(注)に飛びますが,委託者が信託を設定し,一定の期間,公益目的のために用いるがうんぬんとあります。これは,設定したときに公益認定を受ける場合もあり,受けない場合もあり,広くオープンで考えよう,そして,一定期間の間に,公益認定を受ければですが,税制優遇はあるという場合もあるし,ない場合もある。そこをオープンで考えようということで,公益先行信託について考え方を一定の整理をした,これでどうかというお尋ねになっているのでしょうか。
○中辻幹事 御質問に端的にお答えしますと,オープンに考えているということでございます。補足説明の1行目に書きました「公益先行信託は,委託者が信託を設定し」という部分の「信託」の前には何も修飾語を付けていないわけですが,それは受益者の定めのある私益信託と,公益認定を受けた受益者の定めのない信託の両方を考えているという意味を込めています。
○山田委員 分かりました。ありがとうございます。
○道垣内委員 山田委員の質問に対して,中辻幹事は,そうですとお答えになったのですが,本当にそうなのですか。と申しますのは,ここに書いてあることはメカニズムが二つあって,公益認定を受けるかどうかだけの話ではないと私は理解していたのです。
どういうことかというと,まず1つめのものとして,例えばある特定の者を受益者にする信託を設定するが,その人には10年後から受益させればよいと考えられるため,10年の間は,運用益は赤十字だとか,そういうところに寄附をするという形にしているとします。これは,私が普通に信託を設定して,10年間の間の資金の運用方法とか,資金の使い道とかをそう定めているというだけであって,それだけの話ですよね。そして,そのときに,最初の10年間の部分について公益認定を受けられるかというと,それは受けられないのだろうと思います。
それに対して,例えば10年間という期限が付いた信託を作り,その間の信託目的は公益目的であるのですが,しかし,10年経った段階で,元からあった財産の額については,帰属権利者はそれをもって新たに私益信託を設定するという義務を負っているというメカニズムも考えられます。このときは,前半部分と後半部分というのは信託が違うわけですよね。したがって,前半部分の信託について公益認定を受けるということは可能になると思います。
すべてがオープンになっていて,いろいろなやり方がある,認定を受けるか否かであるというのではなく,公益認定を受け得るかたちで公益信託先行型の信託を設定しようとしますと,それは後ろの信託は別の信託であるというふうな法律構成をするということが前提になっているのではないかでしょうか。
○中辻幹事 事務局としては,公益先行信託として,信託の存続期間全体を通じて受益者の定めのある私益信託の形を採るパターンと,公益信託が10年存続した後に公益信託を一旦終了させた上で私益信託を設定するパターンの2つを想定し,後者では信託設定当初に10年後の信託終了を前提として公益認定を受けることを前提としているわけですが,その信託が10年経過後に終了するのではなく私益信託に変更して同一性を維持したまま継続することを前提として当初の公益認定を受けるというパターンも論理的にはあり得ると思います。そのような御指摘であるとするならば,その点についても,また別途考えていこうと思います。
○道垣内委員 私はそれが可能だと言ったわけではありません。公益信託が終了して,それがそのまま,同一性を保った形で私益信託に転換していくというものについて認めるのならば,特別な規定がないと認められないと思います。しかし,同一性がなく,帰属権利者がそのような公益信託の設定義務を負っているというものは,特段の規定がなくてもできるのではないかと思いますし,更には10年の間は受益者には受益させないで,運用益は公の利益のために使うという定めをするというのは当然に可能です。その二つは規定がなくてもできる。これに対して,同一性を保って性質を変えるというのは規定がなければできないと思います。
○藤谷関係官 今,道垣内委員がおっしゃったところで,かなりクリアになったと思っていまして,ここは多分,抽象的に,公益,私益と連続すると考えると難しくなってしまうのですが,小野委員がちょっと遡ったところで具体的に最初はがんの撲滅,小野委員だったと理解しますけれども,ある段階で特定の研究所みたいなところに割り付けるというような話だったと思うんですが,恐らくこの問題というのは正に今,道垣内委員が言われたように一回,公益認定を受けてしまうと,それが本当にどんな私益のところにもいくというようなものは,残余財産の帰属のところでの議論との平仄上,あり得ないんだと思うんです。
ただ,そこで行き先が特定の公益法人ないし,それに類するもの,そこをどこまで広げるかというのは,そちらの論点ですが,先ほど小野委員が挙げられた例というのは,正にそういう例だったのではないかと。ただ,特定の公益法人を受益者とするような形で財産がいくというのは,これ自体は公益信託ではないので,公益目的のための私益信託ということになりますが,それであれば,残余財産の帰属のところのハードルもクリアできそうであると。そう考えていくと,恐らく今,道垣内委員がおっしゃったように,二つは別の世界の話ではないのかということも平仄が合うような気がいたします。
それから,税の観点から一つだけ付け加えておきますと,今の現行法上,特段の規定がなくてもできると整理してくださったようなものであっても,全く税制優遇がないわけではありません。そのようなものであっても,10年間先行している間,公益的なものにいっているのですから,行き先が適切な寄附控除の要件を満たすものであればという条件付きですけれども,寄附控除は取れますし,その結果として,一回,法人税,所得税みたいのは掛かるかもしれないけれども,それを打ち消すというようなことも不可能ではないと。細かく言い出すといろいろあるんですが,決して認定が取れれば100%の税制優遇,認定がなければ全く税制優遇がないというような世界ではないのだということは,一つ述べておく価値があるかと思いました。ありがとうございます。
○樋口委員 私も深山委員と道垣内委員の話を聞きながら,残念ながら深山委員の意見に賛成できないんですけれども,公益信託で最後のところの帰属権利者を私人にというのは,無理なのではないかなと思うんです。前にも紹介したように,例えば日本で病院なんかは公益信託とか,公益法人のところから全部外してしまって,医療法人という別の法律になっているんですけれども,医療法人も今までは,代々,病院というか,経営者のものだという意識が強くて,結局,それが廃業になったときも自分のところへという話が最近の法改正で駄目になっているわけですよね,新設のものは。
だから,それまで相当の税制上の優遇を受けているわけですから,医療法人であれ,何であれですけれども,だから,そういうようなものが結局,最後,帰属権利者という私人にいくというのは,大体,理屈の上でも受託者にとっては,日本では帰属権利者と言っているかもしれないんだけれども,結局,受益者ですから,最終的な,だから,利益相反の典型になるんです,それまでは別のもののために。だから,受託者は一体誰のために行動するのかという話になって,収拾が付かなくなるような話になるので,公益目的で一貫しないといけない。
しかし,深山委員がおっしゃるようなことが可能であれば,実はこういう何とか何とか信託なんて言わないで,取りあえず,認定も受けて10年間,それで10年間が終わったところで財産が帰属権利者のところへいって,帰属権利者が新たにまた私益信託を,つまり,ここで終了して新たに私益信託をというのをやればいいではないかというんですが,本当はそんなことをやるのだったら,続けさせていいのではないかという気もします。わざわざ,ここで一旦,切るというのは信託登記であれ,何であれ,無駄な話を,同じことを結局やっているのだったら,帰属権利者が私人になれるということを仮に前提としても,それができるのだったら,ここで初めから認めたっていいではないかという,中身としては同じで,かつスムーズに移行する。それから,一番初めの委託者の意思がそのまま貫徹するという意味でも,それを否定するような話にならないような気がするということです。
○中田部会長 ほかによろしいでしょうか。
○神作幹事 1と2について御議論を聞いていて,大分,理解できたところもあるのですが,まだ,少し不明な点もありますので,その点について御確認をさせていただきたいと思いますけれども,私は1で基本的に書いてあるのは公益信託ではなくて,公益的だけれども,公益認定を受けるということは前提としていないと。それで,公益信託からいわゆる受益者の定めのある私益信託に移るというのが2で書いてあって,それで,一旦,ワインドアップして,それで,帰属先を私人にというのが16ページの3の「また」のところで書いてあると理解したのですけれども,それまでの話というのは,基本的には公益信託とは違う話ではないかと理解しておりました。
それで,私が申し上げたいのは,信託の場合は利他的に利用するということができると,そういう制度になっておりまして,委託者以外の者を受益者にすると,その受益者の採り方によっては非常に利他的なことが私益信託でもできるということだと理解しております。そういう意味では,公益という言葉の使い方に気を付ける必要があって,私益信託の中にも利他的な他人を受益者にしてあげるということで,私益信託の枠の中で利他的なことというのは幾らでもできるわけで,そこに信託の非常に大きなメリットがあると思いますので,利他的な信託というのと,それから,誰かが認定するところの公益というのとが,1の公益先行信託というときにお話を伺っていると,イメージが発言されている方によって公益の捉え方が違っているのではないかと思ったのです。要するに,公益信託というときは,誰かが認定した公益だという前提で整理した方が,話がすっきりするのではないかと思いました。
そこでまた,御質問ですけれども,1の公益先行信託というのは16の3の「また」より上の部分は,今,申し上げたような利他的なものではあるけれども,公益認定は受けていないという前提で理解してよろしいでしょうかという,また,すみません,山田委員の御質問に戻る感がありますけれども,いま一度,御確認させていただければと思います。
○中辻幹事 「また」よりも上のところで言っている信託ですけれども,ここは飽くまで受益者の定めのある信託で公益認定は受けていないものを意図しております。公益信託であれば不特定多数の利益,すなわち,公益が必要とされるわけですが,ここでは神作幹事がおっしゃったように,私益信託ですと間口がより広いので,不特定多数にこだわらず,利他的なもの,それも含めて公益と表現できるようにも感じておりまして,御指摘も含めて今後整理していきたいと思います。
○中田部会長 大体,よろしいでしょうか。
言葉の整理がまだ十分でなかったかもしれませんので,若干,議論が出ましたけれども,15ページの1の「公益先行信託」というのは,最終的には規律を設けないというネガティブな意味ですので,広く対象にして,そういったものを包摂するような一般的な規律を設けないという,その程度のことであり,いろいろなものが入っているのだろうと思います。そのことと16ページの3に出ている二つの例との関係が若干入り組んだので,少し御議論があったと思いますけれども,最後の方で大体収束してきたかと存じます。
その上で御意見を伺っていますと,1の「公益先行信託」については原案に賛成といいますか,規律は設けないということに賛成という方が比較的多くいらっしゃったように伺いましたけれども,ただ,それが皆,同じ意見というわけではなくて,積極的にこういうものは置くべきではないという方と,残余財産の帰属権利者について乙案を採ることを前提とした上でという留保付きで認めるという方と,それから,事実上,できるのだから,これでいいかなという方と,幾つかあったと思います。そうしますと,事実上,できるということの意味をより明確にする必要があるだろうということになりそうです。
そこで出てきた御意見ですと,名称ですとか,適用法規だとかということをよりはっきりさせて,一体,何ができるのか,できないのかということを明らかにし,疑義のないようにする必要があるのではないかということが,原案に賛成される方からも頂いたと思います。他方で,反対だという御意見も複数の方から頂戴いたしました。
2については,賛成の御意見が大多数であったと思いますけれども,その中でも結論は賛成なんだけれども,理由が違うという平川委員の御指摘であるとか,結論的には反対であるという御意見も頂いたと存じます。ということで,もう少し概念を整理した上で,次の段階まで検討を続けたいと存じます。
当初は全部,一気にと考えていたのですが,まだ,幾つかございますので,一旦,ここで休憩を挟ませていただきたいと存じます。3時40分まで休憩いたします。
(休 憩)
○中田部会長 それでは,再開いたします。
続きまして,部会資料40,第2の「3 残余公益信託」及び第2の「4 受益者の定めのある信託から公益信託への転換」について御審議いただきたいと思います。御自由に御発言ください。
○吉谷委員 まず,3番でございますが,提案に賛成です。これは補足説明のように特段の規律を設けなくても,実務上,対応可能なものであると考えます。
4番ですが,3に賛成したという立場からすると,甲案に賛成ということになるのではないかと考えております。実務上は一般的な受益者の定めのある信託を信託の変更によって,3で説明されているような信託に変更するということを一回,手続を踏めば,公益信託の設定ができるということになりますので,甲案でよろしいのではないかと思われます。特に信託の変更によって転換する,形式的に同一の信託のままで転換するという必要性はないと考えます。
○深山委員 まず,3の「残余公益信託」については,結論としては提案に賛成したいと思います。理由については,補足説明の中の,特別な規律がなくても実現可能であるので設けないという趣旨において賛成いたしますが,気になるのは18ページの補足説明3の1文目を見ますと,「部会資料第37の第4の3の提案の内容を実質的に維持するものであり,その理由に変更はない」と書いてあるんです。37の第4の3は上の四角で囲ってあるように,これは許容しないと書いてあるわけです。それを維持するもので理由も変わらないというところを見ると,これはとても賛成できないんですが,その後を読むと実現可能であるからとあり,これは説明としてどうも整合性がないと私は思うんですが,従前の提案を改めて許容するという趣旨で設けないという提案と理解した上で賛成したいと思います。
次の4については乙案に賛成したいと思います。一般論としては258条3項という規律があるわけですけれども,甲案のように単純にそれをそのまま公益信託の転換へ適用しなければならないかというと,実質的に考えると,従前の信託につき公益認定をきちんと受けた上で,そして,認定を受けられた場合に,以後,公益信託として認めることを否定する必要はないのではないかと思います。どういう経緯なり,事情で,こういうことが現実に行われるかというのは,必ずしもイメージはしにくいところもあるんですが,一定の段階で公益認定を受ける,そして,認定が得られた場合に公益信託に転換するということを否定しないという意味では,乙案に賛成したいと思います。
ただ,この場合に,今までの議論もそうですけれども,「転換」ということが法律的に何を意味するのか,つまり,従前の信託と転換後の信託というのがどこまで同一性があるのか,ないのかということについてはいろいろ議論の余地もあると思います。そういう問題があるとは思いますが,それはさておいて,およそ公益信託への転換を認めないとする必要はないという意味で,乙案に賛成したいと思います。
○道垣内委員 3のところについて,これでいいと思うんですが,以前の議論をいろいろ忘れておりますので確認したいのですが,公益信託は信託宣言でできることにするのだったでしょうか。自己信託ですね。
○中辻幹事 現在の法律ではできないと思います。以前の部会資料では,新たな公益信託法の規律として自己信託を認める案と認めない案の両案を出していました。
○道垣内委員 両案は現在でも並存しているという状況なのかもしれませんが,3について,既存の仕組みでできますよねというためには,恐らく信託銀行が当該信託銀行を受託者とする公益信託を設定するということを認めないと,うまくいかないのではないかなという気がします。受託者が公益信託の設定義務を負うというとき,A信託銀行が公益信託の設定義務を負うわけだけれども,そのときにA信託銀行を受託者にできないとすると,実務上,面倒になるのかなという気がしますので,御検討いただければと思います。
○能見委員 私も同じことを考えていたのですけれども,3のところで正式な意味での残余公益信託は設けないけれども,事実上できますよというときに,どういうことが実際に行われるのか,という点です。私益信託を設定して,その受託者が一定の段階で公益信託の認定申請を行うと書いてありますけれども,まず,ここで認定審査を行うというのは,私益信託がそのまま,公益信託に変わるということではなくて,この段階で元の私益信託の信託財産を使って受託者が新たに公益信託を申請する,新たに公益信託を設立するということで,前の方の私益信託と後の方の公益信託は,別であるという前提なのか,あるいは同一という場合も考えているのかということが問題となります。同一になりますと恐らく4の問題になるので,別に公益信託を設定するということを恐らく考えているのでしょうね。
別のものだとすると,別の公益信託を設定するときに二つぐらい方法があり,一つは道垣内委員が今,言われたように現在の私益信託の受託者がその信託財産を使って,新たに公益信託を設立する方法です。その際,最初の私益信託の受託者が公益信託の受託者にもなるとすると,最初の私益信託の受託者が委託者になり,自分が公益信託を受託するという形になる。そこで自己信託が生じるので,それができるかどうかというのが,今,道垣内委員の言われたことだと思います。
それから,もう一つの方法は,私益信託の受託者が信託財産を使って公益信託の申請を受けるわけですけれども,もともと残余公益信託は最初の私益信託の委託者に意思に基づいて後の公益信託を設定するので,元の委託者の言わば代わりにというんでしょうか,元の委託者が相変わらず後の公益信託の委託者だというような方法も,もしかしたらあり得るのかもしれません。公益信託の財産は先行する私益信託の財産で,その受託者が処分するわけですが,実質的には元の委託者が公益信託の委託者であると考えることで,自己信託ではないという考え方もあるかもしれないということです。いずれにしても,幾つかの方法があり得るので,ここで18ページに書いてある,事実上,できるから我慢してくださいというときの事実上できるというのが何なのかというのを,明らかにしておいた方がいいだろうという感じがいたしました。
○中田部会長 ありがとうございました。
○樋口委員 私もお二人の意見に並んで,18ページの3というところで,それで,2点だけ申し上げますけれども,今度はきちんと二つということを数えて,自分の頭の中で,つまり,これは事実上,できるではないかと。本当に同じことができるのかどうかを今,お二人は問題にしているので,しかし,仮にできるのだったら,規定を設けたっていいではないかという気がするんです。同じことなのだったら,何で規定を設けないのだろうと。
それで,なぜ,規定を設けた方がいいと考えるかというと,私のはもちろん政策論なんですけれども,結局,PRなんですよ。今度,公益信託法が改正されました。それで,それは公益法人法の改正に並べて,今度,公益信託法も改正されましたというんですけれども,そのときに,当然,一つ問題になるのは公益法人法と公益信託法と全部が同じなのだったら,本当に要るのかという話すらあるんですよ。これは何か違いもあった方がいいという気がしているんです。残余公益信託とか,先ほどの公益先行信託みたいなハイブリッド型は多分,公益法人ではもちろん今はないのだし,今後もきっと考えられないのではないかなと思うんですよ,分からないんだけれども。法人法を知っているわけではないから。
しかし,信託というのは本当に融通無碍なので,受益者をいろいろな形で交代させ,だから,私益の中に公益を入れる,かつてのヨーロッパなら収益の10分の1は教会にとにかく上げるとかいうようなことだってずっと昔からしてきたわけですから,しかし,正に信託だから,公益信託というのも公益法人でできないことができるんですというPR材料としては,同じことができるというのだったら,同じことをきちんとはっきりできますよと,書いてあげた方がいいのではないかというのが一つ。
二つ目ですけれども,ここに認定申請を義務付けと書いてあります。この段階で義務付けというのを一応,義務はあるけれども,誰がエンフォースするのでしょうかという疑問があります。一番初めから信託が設定されていれば,もちろん,アトーニージェネラルだか何だか,いろいろな関係者という話になるんだと思うんですけれども,ここで一定期間後に公益信託の認定申請を行うことを義務付けとすると,義務と書くのはいいんですけれども,一体,それは誰が,どういうインセンティブで,だから,誰も知らないんですから,これは,私益信託しかなかったんですから,だから,それが本当に実現するのだろうかと,義務ですよというだけで,という疑問が湧きました。
○中辻幹事 最後の義務付けですけれども,事務局としては信託行為で受託者に義務付けられた債務を,受託者が委託者に対し負うものと考えておりました。したがって,受託者が信託行為に違反した場合に,どのような信託法上のサンクションが用意されているのかということは,また,別なのでしょうけれども,少なくとも委託者が裁判所に受託者を民法上の債務不履行で訴えることは可能であるように思います。
○樋口委員 いやいや,委託者は大体,亡くなっているものなんです。
○中辻幹事 確かに遺言による信託設定の場合には,委託者が不存在のときがあり,受託者の債務不履行責任を追及する主体が存在しないという事態はあり得ますので,その点も含めて更に検討したいと思います。
○能見委員 今の樋口委員の言われたことについて,最初の方は普通の私益信託ですから,私益信託の信託行為の中で受託者の義務として一定の時期に公益信託を設立して,当初の財産は公益信託に移すということを義務付けているのだろうと思います。ですから,そういう受託者の私益信託における義務を誰が履行を請求できるかというのは確かに難しい問題がありますが,それをしないと受託者としての義務違反が生じ,そのことによる損失補填責任については受益者が追及できることは問題がない。厳密な意味での履行請求とは異なりますが,義務違反をすると責任を追及するということを主張することで,間接的に義務の履行を求めることができるのではないかと思います。
私益信託の後の公益信託に関連しては,今,アメリカで議論されている信託のデカンティングというものがありますが。これが参考になります。この制度自体は,公益信託を設定するということに使うものではありませんが,ワインを別の容器に移すデカンティングというのがありますが,この考え方を信託の場合に応用して,1つの私益信託があるときに,別の新しい私益信託の器を作って,そこに元の信託の財産を移すというものです。このときに最初の信託の受託者が,これは普通,裁量信託になっており,その裁量権の範囲でもって新しい信託を作って財産を移すわけです。最初の私益信託が裁量信託になっていると,受託者の義務違反ということは問題にならないのでしょうけれども,仮に裁量信託ではなく受託者に新しい信託を設定する義務があるとすると,最初の信託の受託者の義務を追及できる人が追及するという形をとるのではないかと思います,
○中田部会長 ありがとうございました。
○小野委員 バックアップチームの議論の中で,特に座長の矢吹弁護士より具体的例をもう少し議論すべきではないかという指摘を頂きました。私益先行で後,公益信託という残余公益信託についてですけれども,生涯独身率が増え,子どもがいない場合,兄弟,姪に財産がいくより,公益に使いたいが,生前は特に認知症になるかも知れない自らのために財産を使い,その死後については国庫にいくよりも自分が指定した公益のために使ってほしいと,こういうような公益に自分の財産を使うということを,もっと積極的にPRしたらどうかというようなことを座長も言っております。
ということで,繰り返しになりますけれども,今の状況からすると,生涯独身の方が増える,その財産を国庫ではなくて,また,遠い相続人ではなくて,自ら考える公益のために使うというニーズはかなりあるのではないかと思います。規定を設ける,設けないについては,先ほど樋口委員がおっしゃったように,PRという観点からも,こういう目的のために使えますよということは,十分,意味があることですし,積極的に認めていくということになると思うので,是非,規定をしていただきたいと思います。
あと,転換うんぬんという議論ですが,私としては単純な法的発想で,当初信託設定行為によって信託財産が受託者に移れば,それで一つの信託が成立しているわけで,それが目的信託から受益者のいる信託になろうが,その逆であろうが,契約レベルにおいては単なる信託契約の変更,又は元々の信託行為中の契約の規定に従った推移にしかすぎないと思います。税法上は税独自の世界があるかもしれませんけれども。公益認定が取れるかどうかという別の問題はありますが,基本は信託行為レベルの議論と思います。
○中田部会長 最後の4についての御意見は,そうしますと,可能にすべきではあるのではあるのだけれども,それが信託の変更という,この概念に狭い,広いがあるのだろうと思いますけれども,その方法を更に検討すべきであるということでしょうか。
○小野委員 はい,そうです。信託行為の変更が認め難い状況があるとしたら,積極的に認めるような規定も必要かと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
○平川委員 3の「残余公益信託」につきましては,これを認めるという規律を設けるということになると,その設定をしたときに事前に公益認定を受けておくということだと思うんですけれども,まず,規律を設けないとすることで賛成します。私益信託の終了時点で公益信託への転換を図り,その時点で公益信託設定の認定を取るということが法律関係を簡素化するものであり,私益信託の設定の当初の段階で,将来の時点での公益信託となることについて事前に公益認定をするということは,実務的にも将来の事情変更ということもありますし,困難が伴うのではないかと思いますので,これも許容する必要も実益もないと私は考えます。したがって,規律を特に設けることは必要がない。
4につきましては乙案に賛成しまして,理由としては受益者の定めを廃止する信託の変更をする時点で新たに公益信託としての認定を受け,公益信託の要件を満たすものを公益信託に転換するということを可とすることについては,公益の増進に資すると考えますし,何ら弊害はないと考えます。
○吉谷委員 先ほど御議論がありました3の「残余公益信託」の18ページの3番の事例のところでございますが,このような類型については,自己信託の規定の適用がないと考えて行われているスキームというのが存在するのではないかなと考えております。ただ,その上で,それはある種の解釈の問題であるということかもしれません。ここに出ている事例以外にも,私益信託の帰属権利者に対して再度,信託を設定するということを義務付けた上で,帰属権利者とするというやり方がありますので,そちらの方は特に解釈の疑問はそれほどないのかなと思いますので,どういうものを実務上の例として載せるのかというところは,いろいろ,考えるところはあるかと思いますが,お話させていただきました。
○林幹事 まず,3の「残余公益信託」の方は,弁護士会の議論ではこの御提案で賛成という意見が多かったと思います。ここでは,一応,当初,事前に公益認定を受けるということを想定して検討しましたが,あえてそこまで必要はなく,あるいは信託行為の中に書き込めば,事後的には実現できるとも考えられるので,その前提では,御提案の通り残余公益信託の規定は設けないことに賛成という意見も多かったところです。ただ,そうではありながら,信託設定の段階で当初から意思が固くて,どのタイミングで公益認定をするかは,それぞれに判断するという,この御提案の中でもそうなるのかなと。だから,それは比較的早く出したかったら出せばいいのか,認定がおりるかどうかはその場面というか,認定する側の問題なのかもしれませんけれども,そんなふうには理解しました。
4については,弁護士会としても乙案の意見で一致していたところです。前回の議論の際も申し上げたのですが,当初は私益信託で,特定の病気の子どものための信託ではあるが,一定のときから同じ病気の人たちのために,広く公益信託にするというようなニーズが十分あり得ると思っています。その点で,実質的に公益という要件を落とした形で提案いただいていることは評価しているところです。
信託の変更によってという点を乙案で付け加えられていると思うのですが,それは関係者の利益に配慮してということでもあって,評価できる部分でもあります。ただ一方,要件としてそれだけに限定するというのか,あるいはそれこそ信託行為に書いてあったら,その辺はもう少し緩く考えてもいいかもしれない,という議論もあったところです。基本的には乙案ですし,信託の変更の手続をとることによって,関係者の意思を確認した上で対応するというところは評価しているところです。
○道垣内委員 林幹事の御意見は,3について事前に公益認定を取るというものだったのか,どうなのかというのが,少しよく分からなかったんですけれども,3について私益信託の設定の段階で将来の公益信託について公益認定を取得するというのは,システム上,不可能だと思います。つまり,財産が幾らあるか分からないですよね。公益認定の場合には,示された公益目的を達成できるだけの安定的な資産があるかどうかということも,考慮の対象になってきます。しかるに,公益信託開始時にはどれだけの資産があるかはわかりませんが,残っている資産で公益目的の信託をしますから,今の時点で公益認定をしてください,というのは,あり得ない話だろうと思います。
仮にもしそれがあり得るとしますと,今度はそのような認定を受けたときには,先行する私益信託においての資産の運用方法とか,受益者への給付についての制限的な規律を定めなければならないということになりますが,それは無理だと思います。したがって,これは終了した段階で公益信託を設定するのであり,その時点で公益認定を受けるのだということなのだろうと思います。
しかし,そのときに本当は,樋口委員がおっしゃった問題があり,それは非常に重要なものです。理論的には受益者ができるということなのでしょうが,受益者はどちらかといえば公益信託の設定について利益相反の地位にいるのですね。だらだらと続けてくれた方が自分はたくさんの受益ができるわけであり,期間が来ましたので,公益信託にしてくださいということを,一定の手続を用いて受託者に強制することは,受益者に余り期待できることではありません。そこに,問題は残っているのだろうと思います。
更にもう一言,付け加えますと,能見委員がおっしゃったことで微妙なところがあったような気がするのですが,公益信託を設定するというのが私益信託の終了時の帰属権利者としての受託者の役割なのか,それとも,ある一定の段階が来たときに,残余財産について公益信託を設定することが受託者の役割として求められるのかというのは,理論的には詰めておいた方がよい問題ではないかと思います。恐らく後者の方が作りとしてはスムーズなのではないかなという気がします。樋口委員が指摘された問題点は解決されていませんが。
○山田委員 これまでの各委員・幹事の御発言とうまく絡むかどうか分からないのですが,3と4を併せて発言させていただきたいと思います。公益信託でない信託があって,それがその後,認定を受けて公益信託になるという道は,是非,作ってほしいというのが私の一番強い意見です。最初から公益認定を受けるということで,厳密な意味での前後関係はよく分からないのですが,最初から公益信託として出来上がるというものも,もちろん,あってよいのですが,そうではなくて,公益信託でない信託が公益認定を受けて公益信託になるという道は作ってほしいというものです。
その上で,信託の個数という話をさせてください。厳密にこれを定義することができるのかどうか分かりませんが,信託法3条に定められている三通りの方法のいずれかで,今,信託行為と呼ばれているもので成立し,そして,信託法163条以下の規定に基づいて終了する,こういう時間的な幅のある,人間に例えるならば生まれて亡くなるまで,この例えがいいかどうか分かりませんが,これを一つと考えるとしますと,その一つの信託で前半は公益信託ではない信託だけれども,ある時期から公益認定を受けて公益信託になるということです。その公益認定を受けた時点から税制上の公益信託に与えられている優遇を受けられるようになるということです。それ以降は,残余財産の扱いなどは,全部,公益信託の規律に置かれるべきであると思います。そういうものを是非,作ってほしいと思います。それが公益信託を増やす道にもなるでしょうし,今,幾つか御発言に出てきたように,具体的な例としても,それはありそうだなということで,何とか使い道が広がるのではないかと思います。
ただ,そのときに3と4が,ざっくり言うと両方が認められればいいのですが,問題の性格が3と4で違うのではないかという感じを今,持ち始めております。といいますのは,4の方は信託法258条第3項という規律があるので,それを除くとすればいいのかもしれませんが,何で公益信託の場合には除外できて,公益信託でない受益者の定めのない信託の場合は駄目だとされているのかというところが今,私は十分に258条第3項の現存のルールを乗り越えられるだけの理由を持ち合わせておりません。ですから,もし適当な理由があれば乙案でいいと思うのですが,甲案にならざるを得ないところがあるのかもしれないなと感じております。
そうすると,ぱっと見ると4の方が実現可能性が高いと思える面もあるんですが,3のように,要するに受益者というのは当初の信託行為の中で定められているときまでしか受益権を持っていないんだと,したがって,信託の変更という手続を経ずにできるんだという考え方に,3の方です,となり得るように思われ,少なくとも3は残してほしいと思います。ただ,3については受託者の義務,1個の信託ということですから,残余権利者がうんぬんではなくて,受託者が,自分が受託者である信託が公益認定を受けるということをしてもらうわけですが,そのエンフォースの方法というのは先ほど中辻幹事が考えますとおっしゃっていただいたところですが,是非,考えていただきたいなと思います。委託者は死亡している場合が遺言信託に限らず,あろうかと思いますので,現実的なエンフォースの方法を考えることができるといいと思っています。
○中田部会長 ほかにございますでしょうか。
○道垣内委員 エンフォースの方法について一言だけ申しますと,受託者が何らかの義務を履行しないときについて,エンフォースの方法は信託法上,定めがないですよね。信託法上,何が定められているのかというと,結局,受託者の解任及び損失填補請求しか定められていないのだろうと思います。3について帰属権利者としての義務というよりは,受託者としての義務だと考えた方がスムーズだろうと申し上げたのは,強いて言えば,解任という方法があるというためなんですが,ただ,それも本当は誰が解任申立てをするのかという問題は,先ほど申し上げましたように誰も利益を得ませんので,残ったままです。
○小野委員 今の点で思い付きなんですけれども,これを積極的に法文上認めて,この残余公益信託の場合には信託管理人を必置とするとして当事者を設ければ,受託者がサボっても信託管理人が善管注意義務を尽くせばチェックできるのではないかと思います。そういう意味においても規定があれば,より実効性のあるものになるのではないかと思いました。
○中田部会長 大体,よろしいでしょうか。
○神作幹事 19ページの4について申し上げたいと思います。「受益者の定めのある信託から公益信託への転換」ということで,これは私は弊害は余り考えられず,むしろ,方向としては非常に望ましい方向なのではないかと思います。例えば乙案を拝見しますと,私益信託が信託の変更を経て公益信託の認定を受けると。この前提としては,258条3項の例外を設けるということが考えられるわけですけれども,気になりますのが4の表題は「転換」と書いてあって,今日のこの会議でも樋口委員から御指摘があったと思いますけれども,乙案は単なる変更ということになっております。
私は率直なこれも直感的なことなのですけれども,私益信託から公益信託に変わるときに組織の実質や実態,少なくともガバナンスの構造は相当大きく変わると思いますし,かなり実質的な変更があるのではないかと。そうすると,単に258条3項の規律の例外を設けるだけで済むのかというのがございまして,例えばもう少し変更について,会社でいえば組織変更に類似したような規律を検討すると,例えば利害関係人の利益調整等は必要がないのかどうか,私は一種の信託という組織におけるファンダメンタルチェンジズが起こるのではないかという気がいたしまして,そうすると,単なる信託行為の変更で移るというだけではなくて,もうちょっと考えなければいけないことがあるような気がいたします。
そのときのポイントというのは,本来であれば,一旦,清算して終了して,それで新しく作ると,その手間を省かせてやるということでありますので,清算とか終了についての規律,それから,新しく公益信託を新設するときの規律のうち,どれが省いてもいいものなのかという観点から,検討する必要があるのではないかと思いますけれども,しかし,方向としては,私は4については乙案の方向で,しかし,今,申し上げたように乙案も恐らく簡単ではなくて,先ほどの実質的な信託のファンダメンタルチェンジズに当たるという前提の下で,規律を整備するということが考えられるように思われます。
○中田部会長 ありがとうございました。
ほかによろしいでしょうか。
3については,賛成される御意見の方が多数であったと思いますが,事実上,できるということの意味が,一体,何なのか,その内容を更に詰める必要があるのではないかという点,あるいはエンフォースが期待できないというのは,一般的には他の信託でも同じだけれども,とりわけ,この場面ではインセンティブのある人がいないではないかというような御指摘を頂いたと思います。また,同一性を維持しながら,形態を変えるということの持つ意味を更に詰めるべきであるということがあったと思います。
4については,乙案に賛成される方の方が多くいらっしゃったと思います。ただ,その上で,258条3項との違いをどのように説明するのか,もっと言うと,信託の変更と言うけれども,最後に神作幹事から御指摘いただきましたように,一種の組織変更のようなことで,かなり大掛かりな検討が必要になるのではないかというような御指摘も頂いたかと存じます。こういったことを踏まえて,更に中間試案に向けて検討していただきたいと思いますが。
○平川委員 今の大きな組織変更にもつながってしまうという話のところで,登録免許税が掛かるような財産の場合には,同じ受託者でも新たな登録免許税が掛かることになると,公益信託への変換というのが実務的には費用の問題が障壁になりますので,論理的にはそうかもしれないけれども,何とか同一性が保たれた同じ信託勘定だという理論を築けると,実務的にはいいと思いました。
○中田部会長 御指摘,ありがとうございました。
それでは,次に進んでよろしいでしょうか。
それでは,最後になりますけれども,第2の「5 公益信託から目的信託への転換」,第2の「6 目的信託から公益信託への転換」について御審議をお願いします。御自由に御発言ください。
○深山委員 5の「公益信託から目的信託への転換」について,まず,この議論の立て方について少し留意すべきと思うのは,タイトルはともかくとして中身を見ると,認定が取り消された場合の処理といいますか,その後のことを甲案,乙案で単純に終了するのか,あるいはただし書が付いて,一定の信託行為の定めがあれば目的信託として残るかというような議論になっております。
こういう場面も考えておかなければいけないとは思うんですが,タイトルにあるように公益信託から目的信託への転換,恐らくこれは事後的なといいますか,当初から想定されているわけではないけれども,ということが前提なのかなと思うんですが,それは何も認定取消しの場合に限られないのだろうと思うんです。認定が取り消された場合というのは,何らかの取消事由があるという場面なので,そういう場面に限定していえば,甲案でいいという気もするんですが,しかし,今,申し上げたように公益信託から目的信託への転換ということを議論するのであれば,認定取消しの場合でない場合も視野に入れるべきです。そこの議論がここから抜けて落ちているような気がするということを一応,指摘したいと思います。
6については,目的信託から公益信託への転換ですが,これは許容するという乙案を支持したいと思います。これは先ほどの4にもやや似たような場面だと思うんですが,当初は目的信託からスタートしたものであっても,どこかの段階で公益認定を得て公益信託に転換していくということについては,あえてこれを否定する必要はないと思いますので,乙案を支持したいと思います。
○中田部会長 5について認定取消しの場合には甲案でよいけれども,より広く検討すべきだという御意見を頂戴しましたけれども,例えばどのような場合に転換を認めるべきだというお考えがもしありましたら,お願いいたします。あるいは一般的にということで,更に検討せよということであれば,そう承りますが。
○深山委員 認定取消しのような場合ではなくて,一定の意図なり目的,もちろん合理的な意図なり目的に基づいて,当初,公益信託であったものをある段階から目的信託に変えるということは,一般論としては私は認めていいと思っています。これは,何度か同じような議論が出てくる期間限定の公益信託を認めるかどうかということにつながる議論だと思っているんですが,そういう意味でいうと,一定の期間,例えば10年間は公益信託として財産を供するんだけれども,当初,定められた時期にはそれが目的信託に変わるという意味では,期間限定の公益信託ということを許容することになります。
ただ,どういう具体的なニーズがあるのかというのは,私も実は余りイメージができていなくて,観念的にいうと,そういう期間限定の公益信託で,その後は目的信託という一種の私益信託に変わるというものがメニューとしてあってもいいのではないかなという抽象的な考え方です。一切それを否定してしまう必要はないと。ただ,ここに提案があるように認定が取り消されたような場合,何かしら問題があると判断されたものについて,その後,目的信託への転換を認めるというのは,普通に考えると望ましくないのだろうなという意味で意見を申し上げましたが,一般化すると期間限定信託という意味での転換はあっていいのというのが私の考え方です。
○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。
ほかにいかがでしょうか。
○山田委員 深山委員のおっしゃったことと実質的に共通すると思うのですが,具体的には5については乙案が望ましいだろうということを申し上げます。公益認定の取消しについても,どういうイメージを持つかという点についてはまだ開かれているのかもしれませんが,公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の29条というものを手掛かりにしますと,1項の4号に公益法人から公益認定の取消しの申請があったときというものがあります。要するに,何か不祥事があったときに取り消されるというのが1号から3号までの例ですが,4号としては別にそういうのがなくても,当該法人が公益認定を取り消してくれと申請したら,認定行政庁が認定を取り消すという仕組みになっているように思います。公益信託においても,こういう考え方は大いに重要参考例になるのではないかと思います。
そうしますと,深山委員のおっしゃった実質は公益認定の取消しに流れ込んでくるように思います。したがって,公益認定の取消しを柱書きにしたこの表現で乙案につなげることで私はよいと思いますし,私が理解するところでは,深山委員のおっしゃっていることも,ここに対応するのではないかなと思います。
あとは補足説明の中に書いてあることですが,公益法人認定法30条の公益目的取得財産残額に関する,あるいはその前提となる公益認定の取消し等に伴う贈与,これは残余財産の行き先に関するルールに平仄を合わせるべきですが,私の意見としては公益法人認定法30条のようなルールが伴わざるを得ないだろうと思い,それでよいのだろうと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
○平川委員 5について甲案に賛成します。乙案というのは,公益信託というのは目的信託の一類型であるとか,あるいはそれであるために目的信託を前置するというような,公益信託を設定する前に目的信託が前置されているかのごとくの考え方から来るのではないかと思うのですが,こういう考え方については信託関係が複雑化することから反対の立場を採ります。公益信託と目的信託は,前者が後者に包括されるのではなく,並列的関係に立つと整理することから,公益信託が終了した場合には,目的信託として残存するということはあり得ないという立場を採ります。
公益法人制度において,一般法人と公益法人の2階建てとしたことから,各種の法律関係において複雑化,煩雑化を招いておりまして,例えば公益認定を取り消された場合,当該一般法人は1か月以内に公益目的残存財産を他の同類の公益法人や地方公共団体に寄附しなければならないなどの縛りが設けられているとか,安易に同様の制度とすべきではないと考えます。
6につきましては乙案に賛成します。元の素性が目的信託であろうと,通常の私益信託であろうと,信託の転換というか,変更というかは別として,変更する時点で新たに公益信託としての認定を受け,公益信託の要件を満たすものを公益信託として認定するということを可とすることに何ら弊害はなく,公益増進に資するものであると考えます。
○吉谷委員 まず,今,平川委員が発言されたところで,公益信託が目的信託の一類型なのかどうかというところに関連してなんですけれども,私どもの方は以前から意見として,公益信託は目的信託の一類型というような形でよろしいのではないかという意見を申し上げていたと思います。ただ,その趣旨というのは,立法技術として公益信託の法律を作るのに,目的信託の規定を読み替えるというやり方を採るということについては,異論がありませんということで申し上げていたわけでありまして,少なくとも公益信託というのが目的信託の一類型でなければならないと,積極的に考えていたわけではないということをまずお伝えしておきたいと思います。
公益信託と目的信託との間には,非常に大きな断絶というのがあるんだと考えているところであります。公益信託は公に拠出されたものであって,それゆえに税制上の取扱いもその他の信託と区別されるとかいうもの,あるいはその認定も必要であってということがあります。つまり,公益信託のブランドであるとか,信頼性であるとかというものを確立するためには,目的信託との間には一線を画すると考えた方がよろしいのではないかとまず思います。
その上で,5番と6番につきましては,5番については甲案に賛成です。委託者の当初の意思であるとか,税制上の措置とかの関係からしますと,目的信託として存続を認めるべきではないと考えます。
6番につきましては甲案に賛成です。これは3や4と同じ理由でありまして,実務上は新たな公益信託として始めればよいというだけでありまして,信託としての同一性を保って転換しなければならないというニーズは,特にないのではないかと思います。制度を余り複雑化するよりは,シンプルな形で対応できるのであれば,その方が分かりやすいと思われます。
そのバリエーションを増やすことによって,利用が促進されるのではないか,今度,こういうふうなことができるようになりましたと,宣伝しやすいのではないかというお話が先ほどありましたけれども,それは公益信託法が変わりましたと,公益信託というのは,こういう使い方ができますということを宣伝することによってなされるのであって,法制がどうなっているかということを見て,一般の方々が,こんな法律がこんなふうに変わったので,こんなことができるようになったのだと思われることはまずないのだろうと思うんです。なので,同じことが実質的にできるのであれば,あえて複雑な制度を設ける必要というのはないと思われます。
○林幹事 まず,5の「公益信託から目的信託への転換」ですが,弁護士会の議論では,甲案で当然終了という意見もそれなりにあったのですが,私はここでは乙案に賛成と申し上げたいと思います。
ここでは公益認定が取り消されたという前提になっていて,取消しに関してはいろいろ論点があり得るのですが,取消事由はもとよりですが,一旦,取り消された後,その後,手続的にどうなるのかは問題です。
特に取消しに対して争っている場合,結局,行政訴訟なのか,分かりませんけれども,取り消されたら,一旦,終了してしまい,争った後,取消しの命令なりが否定され,取消しではない状態になったときには,公益信託に戻るのだと思います。そうすると,その間の存在はどういうものになるのか問題です。あるいは手続上,保全なりの方法で何らか利益を確保される方法が残されるのか,そういう心配がありますし,その間の存在が何なのかということになって,それを公益的な目的信託的に理解するのか。そういうところが気になった問題点です。
それから,もう1点は補足説明にあったかと思いますが,認定が取り消されてしまうと,公益目的の資産ははき出さないといけないから,結局,それが残らないのでという議論があったかと思います。ただ,必ずしもそうでないのではないのかという気はします。取消しを想定したとき,何をもって取り消されるのかがあって,公益性がなくなったから取消しというのだったら理解はできるのですけれども,公益性は残したままだけれども,別の事由で取り消されるという場合があり得て,それは実質的な存在としては公益性を持ったまま,公益認定のない信託になって,それは公益的目的信託になるのでしょうから,その限りでは,私個人の意見としては,資産をはき出すという前提で議論する必要は無く,同一性を持ったまま,公益認定のない公益的な目的信託として残ってもいいのではないのかと思いました。その辺りをどう規律するかということがあって,乙案で信託行為に定めがあればという御提案は,一つ傾聴に値すると考えました。
それで,6については先ほどの3とか4とかと同じような議論で考えます。ですから,バリエーションを認めるという意味においても乙案に賛成ですし,これであっても信託契約なり,信託行為に書いてあることであれば,その点を私的自治的な観点からも重視していいのではないのかと考えました。ですから,6については弁護士会の意見は乙案で一致だったので,その前提の意見になります。
○中田部会長 ありがとうございました。
5について認定の取消しがあって,公益目的取得財産を引き継ぐこともあり得るんだということでございましたけれども,その場合には,しかし,公益信託としての規律は受けない,監督も受けないという理解でよろしいでしょうか。
○林幹事 その場合の規律としては,補足説明にもあったのですけれども,公益目的の目的信託という新たな類型なりを設けて,規律するというものがあっていいと思います。目的信託につきましては,私は,これまで,現行法よりも,もう少し広く活用されるようにするにはどうするのか,そこを考えるべきだと申し上げていたところですので,その前提ですと,公益的な目的信託という新たな類型に対する規律を積極的に考えていただけたらと思います。
○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。ほかに。
○新井委員 5類型については認定取消しの場合ですけれども,これについては甲案に賛成したいと思います。
それで,6番目についてですけれども,私が繰り返し,ここで発言してきたように目的信託と公益信託というのは全く別の類型の信託ですので,両者がお互い,相互に入れ替わるようなことは認めるべきではないと思っております。そして,ここで申し上げたいのは,先ほどファンダメンタルチェンジという話がありました。それで,日本の目的信託の場合には委託者の権限が非常に強いわけです。そして,更に信託法施行令3条で受託者の要件が限定されているというようなことも加味すると,同一性を持ってチェンジするということは,まず,難しいのではないかと考えます。したがって,6については甲案,許容しないという説に賛成します。
そして,その上で,今,問題になっていませんけれども,7,8というのがありまして,これは公益信託から目的信託,目的信託から公益信託への変更ということですけれども,これについても認めないということでよろしいのではないかと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
大体,御意見を頂戴したということでよろしいでしょうか。
5については,少なくとも認定取消しの場合については,終了するという甲案に賛成される方の方が多くいらっしゃったと思います。ただ,その上で,より広く考えるべきであるという御指摘も頂きました。また,乙案でいいのではないかという複数の御意見も頂きました。
6については,それぞれの御支持があったと思います。この6の問題というのは,多分,より広い問題につながっていくことで,従来から2階建てというような制度にするかどうかというような御議論もありましたし,公益信託の効力が一体,いつ,発生するのかというようなこととも関係すると思いますので,今後,更に検討を進めていきたいと存じます。
ほかに御意見などはございませんでしょうか。ないようでしたら,本日の審議はこの程度にさせていただきます。
今後のことでございますけれども,前回,事務当局から御案内があり,皆様から御賛同いただきましたとおり,第二読会が終わるこの時点で,民法,信託法及び行政法関係の有識者をこの部会に参考人としてお呼びすることを予定しております。具体的な人選は,前回,私に御一任いただいておりましたけれども,このたび,行政法の研究者であります東京大学の山本隆司教授及び民法,信託法の研究者である同志社大学の佐久間毅教授を参考人として部会にお招きするということで,両教授から御内諾を頂くことができました。そこで,次回,6月6日(火曜日)の部会では山本隆司教授を,次々回,7月4日(火曜日)の部会では佐久間毅教授に参考人として御出席いただき,ヒアリングを実施したいと存じます。
この点も含めて次回の日程等について事務当局から更に説明してもらいます。
○中辻幹事 次回の日程は,6月6日(火曜日),午後1時半から午後5時半までということになります。当日は,今,中田部会長から御紹介ありました山本隆司教授から,新たな公益信託制度を設計する際の行政法上の論点についてお話ししていただいた後,若干の質疑応答を行う予定です。また,行政庁が公益信託の認可を行うのか,認定を行うのか等の論点について事務局で部会資料を用意いたしますので,ヒアリングが終わった後,山本教授御同席の上で,それらの論点について皆様に御審議いただくことも予定しております。
○中田部会長 ほかに何かございますでしょうか。
ないようでしたら,本日の審議はこれで終了といたします。本日も熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。
-了-