法制審議会信託法部会 第40回会議 議事録


法制審議会信託法部会 第40回会議 議事録 第1 日 時  平成29年4月11日(火)   自 午後1時30分                         至 午後5時33分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題 公益信託法の見直しに関する論点の補充的な検討 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○中田部会長 予定した時刻が参りましたので,法制審議会信託法部会の第40回会議を開催いたします。本日は御多忙の中を御出席いただきまして誠にありがとうございます。   4月の人事異動により,本日の部会から,法務省民事局の川畑局付と渡部局付が,関係官として加わられることになりました。両関係官,簡単に自己紹介をお願いいたします。 ○川畑関係官 法務省民事局付として参りました川畑と申します。よろしくお願いいたします。 ○渡部関係官 法務省民事局付として参りました渡部と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○中田部会長 どうぞよろしくお願いいたします。   本日は,小川委員,神田委員,稲垣幹事,岡田幹事が御欠席です。   最初に,本日の会議資料の確認を事務当局からお願いします。 ○中辻幹事 お手元の資料について御確認いただければと存じます。前回,部会資料39「公益信託法の見直しに関する論点の補充的な検討(2)」を配布しております。また,今回新たに配布する資料として,部会資料40「公益信託法の見直しに関する論点の補充的な検討(3)」を事前に送付させていただきました。   以上の資料について,もしお手元にない方がおられましたらお申し付けください。よろしいでしょうか。   なお,今回の部会資料40ですけれども,本年1月の第37回会議で御審議いただいた部会資料37で論点として挙げておりました,公益信託の終了等の論点についての補充的な検討という趣旨で作成したものでございます。   第37回会議から余り時間がたっていないこともありまして,網羅的にではなく,現段階で更に検討していただく必要があると事務局の方で判断した論点を中心に記載しております。例えば,公益信託の名称や新法施行時に存在する既存の公益信託の取扱いの論点は,今回の部会資料40には記載していませんが,事務局としてはこれらも重要な論点であると考えており,特に後者については皆様の意見が大きく分かれていることを前提として,今後の中間試案に向けた作業を進めていく予定であることを御了解いただければと思います。 ○中田部会長 本日は,前回,積み残しになりました部会資料39の「第7 公益信託の信託管理人の辞任・解任,新信託管理人の選任」及び「第8 公益信託における情報公開」を御審議いただいた後,部会資料40について御審議いただく予定です。途中休憩前までに部会資料40の「第1 公益信託の終了,変更命令」の審議に入りまして,午後3時過ぎに切りのよいところで休憩を挟んで,その後,それ以降の御審議を頂くことを予定しております。   では,本日の審議に入ります。   まず,部会資料39の第7と第8について御審議いただきたいと思います。いずれも事務当局の説明は前回,既にされていますので,最初から意見交換に入りたいと思います。まず,「第7 公益信託の信託管理人の辞任・解任,新信託管理人の選任」について御審議をお願いします。御自由に御発言ください。 ○吉谷委員 第7につきましては,提案には反対でございます。それは受託者と信託管理人では,異なる規律がよいと考えているからです。受託者と信託管理人では,公益信託において果たす役割や,その重要性というものが大きく異なります。そのため個別に規律の在り方を考えるべきであると考えます。受託者は信託財産の帰属主体であり,信託事務の執行主体であり,認定や監督を受ける主体でもあります。公益信託の要であり,その適格性は,より慎重に判断されるべきです。   一方で,信託管理人は,受託者の信託事務の監督が任務でありまして,助成型のような,現在行われているようなものですと,年に数回チェックを行うということに業務内容がとどまっております。相当にパッシブな性格なものであると思います。   このような両者の差異からすれば,受託者は認定行政庁等による事前のチェックがなければ新たな受託者に信託事務を行わせるべきではないと思いますが,信託管理人につきましては,業務開始後の認定行政庁等による事後チェックでも足りるのではないかと考えております。そのために同じ規律にする必要はないと思います。   具体的な信託管理人の規律につきましては,これは一読のときの繰り返しではありますけれども,信託管理人の辞任には,信託関係人の同意や第三者機関の許可というのは不要であると考えます。辞任の要件としてやむを得ないというものを要求すべきでもないと思います。これはなり手確保の観点からということです。   信託管理人の解任・選任につきましては,信託行為で規定をしましたら,内部完結が可能という方法も十分に検討に値すると考えております。信託管理人のガバナンスにおける重要性に照らせば,辞任等については内部完結とはいえ,認定行政庁等への事前の届出等を義務付けるというような方法も考えられるとは思います。   また,受託者について,職権による解任を認めるべきということを申し上げておりますが,これは信託管理人にも当てはまり,職権による信託管理人の解任というのも認めるべき,あるいはそれができないのであれば,認定行政庁による信託管理人の解任,あるいは辞任の勧告等の処置が設けられるべきであると考えます。   その解任については,受託者単独での解任権というものは認められなくてもやむを得ないと思いますが,辞任と選任については,内部で完結できるべきであると考えます。 ○中田部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   吉谷委員のただ今の御発言の中で,行政庁という言葉が出てまいりましたけれども,裁判所か行政庁かという選択の場合には,ここでは行政庁という判断でございましょうか。 ○吉谷委員 さようでございます。 ○林幹事 弁護士会の議論では,基本的には,信託管理人の辞任・解任等について,受託者の辞任・解任等と枠組みとしては同様に考えるというので特に異論はなかったのですが,確かに信託管理人と受託者の違いというのが当然あるわけでして,同じ枠組みながら微妙に違うところをどう捉えるかというか,そういう点で考えるべきと思います。   その中では,解任申立権についてという論点の指摘がございましたが,それについても受託者に解任申立権を認めるかどうかという問題点があると理解しています。それについては,賛成意見が多かったと思います。   委託者に認めるのかについては,ほかの論点でも同様のところですが,委託者か受託者か,考えられる登場人物はこれぐらいだと思うので,少なくともどちらかというのは当然かと思います。 ○能見委員 別に違った意見があるということではなくて,先ほど吉谷委員が言われたように,信託管理人については,受託者よりも辞任に関しては軽い要件でもって辞任ができるという考え方に賛成いたしますので,その基本的な考え方に賛成するということだけ申し上げたいと思います。 ○中田部会長 辞任についての御発言と承ってよろしいですね。ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○平川委員 前回,欠席したのですけれども,当方の考えとしては,この信託管理人の辞任・解任,選任について,特に運営委員会というものを必置の要件とすべきだという見解を私ども採っているのですけれども,正にこのときにこそ,その運営委員会というものが機能を発揮するような場面であると考えておりまして,委託者や受託者を管理する立場にある信託管理人の辞任・解任や選任について,受託者が権限を持つということはおかしいと思いますし,そういう意味で運営委員会を創設して,前回の第5や6に述べました受託者の辞任・解任,新受託者の選任の規律に,この運営委員会というものが反映させられたものと考えれば,それをこの信託管理人の辞任・解任,新信託管理人の選任の規律においても適用するべきであると考えます。 ○中田部会長 ありがとうございました。   裁判所か行政庁かということについてはいかがでしょうか。 ○平川委員 行政庁に対する届出というような形で考えております。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○深山委員 結論としては,提案のとおりでいいのではないかと考えております。議論がされているように,受託者と信託管理人の役割が違うということは全くそのとおりであり,そういう意味では同じ規律でなければならないということでもないのですけれども,では,どこをどう変えなければいけないかと考えたときに,規律を変えるほどの差を設ける必要があるのかなと思います。   準用規定になるのか,同じようなフレーズで書き起こすのかという技術的な問題はありますけれども,いずれにしても,例えば受託者が任務をきちんと履行しているかどうかということと,信託管理人がその任務を適正に履行しているかということは,もちろん任務が違うので,判断の視点も変わってくるのでしょうけれども,しかし任務を適正に遂行しているかどうかという抽象的な言い方としては,同じような言い方になるのではないかなという気がいたします。   その意味では,条文として準用するか,あるいは同じような表現だとしても,おのずとその判断の中身は変わってくる。そのことを前提に,法律の規律としては,あえて変えるほどの必要はないのではないかという消極的な理由です。同じにすること自体に意味があるわけではないのですけれども,変えるまでの必要性は乏しいという消極的な理由から,提案に賛成したいと思います。 ○能見委員 先ほどの補足をしたいと思いますけれども,信託管理人の辞任に関しては,内部的に簡単にできるようにということで構わないということを申し上げましたけれども,その際に,先ほど運営委員会の意見が出ましたので,運営委員会を設けて,それの承認等を求めるというようなことについては,これは反対したいと思います。   これはそもそも運営委員会というのは,どういう位置付けで設けるかということに関連する基本的な問題ですけれども,運営委員会については,公益信託のガバナンスの一端を担うような役割を持たせるべきではないという考え方を基にして考えますと,これは私の考えですが,そうしますと信託管理人の辞任について,運営委員会の同意が要るというような規定は望ましくないと考えます。 ○新井委員 信託管理人の役割というのは,私益信託と公益信託で随分違うと思うのです。公益信託においては,信託管理人は必置の機関です。受益者(受給権者)の権利擁護という意味で非常に重い役割を持っておりまして,それで私益信託と公益信託で信託管理人の役割は異なりますが,公益信託においては受託者の役割にも匹敵する機能というのが非常に大きいと思うのです。したがって,私としては,あえて信託管理人と受託者の辞任・解任等について,分ける必要はないのではないかと思います。   さらに,私は運営委員会は設置すべきだという論者ですが,この部会では必ずしもそうではなくて,むしろそれは要らない,という意見もかなり強いと理解しています。そうすると,運営委員会を設置しないとすると,より信託管理人の役割が大きくなると思うのです。その意味でも,機能というのは,より受託者に近くなりますので,あえて両者を分けるということの必要はないのではないかと考えます。 ○山田委員 一度にたくさんのことが今,話題になっていると思うのですが,1点に絞ってのみ発言いたします。   新信託管理人の選任であります。同じ信託法部会資料39の21ページの公益信託の新受託者の選任というところが,ここにスライドされてきているのだろうと思います。したがって,新受託者の選任を行政庁が選任するのか裁判所が選任するのかということとともに議論することになると思うのですが,まず,新信託管理人の選任は裁判所が選任するのがよいだろうと思います。具体的に今,行政庁が選任することとすべきだという御意見が複数出ましたので,それと違う考え方を持っているということで申し上げたいと思います。 ○中田部会長 ありがとうございました。   もし,その理由を補充してくだされば。 ○山田委員 それは受託者のところでも多分申し上げたと思うのですが,認定行政庁の役割というのは,私人が作り上げた信託の仕組みをよしとするか,あるいはそれでは足りないとするかという受け身の立場に徹するべきであり,当事者が,あるいは関係人が,特にここの信託管理人が不在になったときの選任のように,誰かに協力してもらわなければならない,私人の中では新しい体制を作ることができないというときには,裁判所が,信託法が定めている規律と同様に裁判所が選任するという考え方で,私は,ここは臨んでいいのだろうと思います。 ○中田部会長 ありがとうございました。   今,山田委員から御指摘いただきましたように,いろいろな問題が入っているわけでございまして,受託者と信託管理人をどの程度近く見るのか,あるいは離して見るのかという点と,それから具体的な規律の在り方についての問題があると思います。   具体的な規律の在り方は,前回,受託者についてかなり御議論いただきましたので,それとの対応も考えながら,信託管理人について,ただ今頂いた御意見を踏まえて一つずつ,また御検討いただくということになると思います。   この第7については,大体よろしいでしょうか。   それでは,続きまして「第8 公益信託における情報公開」について御意見をお願いいたします。 ○川島委員 事務局案に賛成する立場で,2点申し上げます。   まず,1点目は,行政庁の情報公開について,今回,公益信託の認定,変更,取消し等の事項を公示しなければならないとの事務局案が示されました。   これについては異論ございませんが,部会資料36の別表5で,行政庁等における公表義務の欄で丸が付されていた事項については,これらについても公表義務を課すという理解でよいか,念のため確認をさせていただきたいと思います。   次に,受託者,行政庁における公告方法について,受託者における電子公告を認めるということについては,妥当と考えます。その上で,公益信託における情報公開については,その内容だけではなく,方法においても公益財団法人と,できるだけ同等のものとすることがよいと考えます。   そのような観点から,手間やコストがどれぐらい掛かるかにもよりますが,受託者,行政庁における閲覧を義務付けることが望ましいと考えますので,意見として申し上げます。 ○中田部会長 ありがとうございました。   第1点についていかがでしょうか。 ○中辻幹事 御質問にお答えします。   部会資料36の別表5で行政庁における公表又は公告義務がある書類として丸を付けているもの,例えば当該信託年度の事業計画書,収支予算書,事業状況報告書等の書類については,前回の提案時と同様に,事務局としては公表義務を課すべきであると考えています。   なお,前回,吉谷委員から,丸を付けたものや三角を付けたものについて公表・公告の義務を課すかどうかは個別に必要性を検討していくべきであるとの御指摘も受けておりますので,引き続き皆様の意見をお伺いしながら検討していきたいと思います。 ○中田部会長 川島委員,よろしいでしょうか。 ○川島委員 はい,ありがとうございました。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○樋口委員 この情報公開のところで一つ確認というのか,質問しておきたいところがあるのですけれども,これに,つまり信託行為を含めないという話がありますね,公告の対象としない。そこの文章は,私には理解がうまくできなくて,このまま3のところを読みますけれども,「ただし,これは法人の権利能力の範囲を画する定款」,定款の方は公表するが,「信託行為は受託者の権限を制約するもので,両者は性格を異にすることからすると,信託行為を公告の対象に含めることは妥当でないと考えられる」というのが,どうして妥当でないのかが本当に分からないので,ちょっと教えていただけると有り難いと思います。 ○中辻幹事 前回,事務局からは,実質上の理由として,信託行為にはプライベートなことも含まれているので,定款とは違いますということを申し上げました。その上で,道垣内委員から,理論的にも定款と信託行為とは性格が異なり,定款は書面しかないのに対し,信託行為は書面以外のものも含めて信託行為として解釈されるという御指摘を頂きましたので,そのような趣旨を3では表現したかったということでございます。一般法人でも公益法人でも定款は公開されるのに対し,一般の信託,すなわち受託者の定めのある信託の信託行為は公開されないので,それと異なる取扱いを公益信託ですることには十分な理由付けが必要であるようにも思います。これらの理由から,信託行為のうち公益信託の事業計画のような主要な部分が公開されるのであれば,あえてそれ以外の部分も含めて信託行為の全部を公開すべきとまでは言えないとしております。 ○中田部会長 樋口委員,よろしいでしょうか。 ○樋口委員 続けてよろしいですか,では,今に関連して。   プライベートなことが含まれるのではないかという,これもまた質問の形になるのかもしれませんけれども,3のちょっと上に「公益信託の内容のうち個人情報的なものの開示は慎重にすべきである」と。これと同じことを今おっしゃられたのかもしれない。そうすると,定款の中で個人情報的なことが入るというのは一切ないのでしたか。   それから,最後に信託と,つまり法人の方は何であれ,公益法人であれ一般法人であれ,定款というのは公表することになっているけれども,信託というのは,私益信託は大体公表されていないではないかというのは,そういう区分の仕方は,つまり法人か信託かという形で概念的に分けて,こっちに近いではないかという話は理屈としては分かりますけれども,これは公益信託なので,公益信託の一番基本的な柱ですよね,何しろ信託行為なるものが。それを,公益信託を作ろうという人が公表したくない,公表しなくていいというのが,本当は,私は理解ができないのですけれども,堂々と公表してというのは,更に言えば,ちょっとこれは言いすぎになるかもしれませんけれども,公益信託について,公益法人に比べて,まずガバナンスの問題がどうなのか。信託にはそもそもガバナンスがあるのかという話が伝統的にあるわけですよね。その弱さが信じられていて,そのためにも信託管理人は必置だというわけですけれども,一方では信託管理人のなり手というのを考えて,簡単に辞任もできるようにしようという議論も,実際問題としてあるわけです。つまり,信託管理人にも余り期待はできないということなのですね,はっきり言えば。   そうだとすると,肝はむしろ情報公開になるのではないかと思うのです。私は,たまたまネットに行ってみて,自分には歯が立たないということがよく分かりましたけれども,フォード財団の情報公開というので,ずらっと何とかバランスシートとか,そういう類いの話から今年度の活動とか何十ページにも及ぶ詳しいものというのが出てきて,あれが,私には歯が立たないけれども,あれだけの情報公開制度があるなら,本当に公益法人あるいは公益信託の活動を何らかの形で外部的にモニタリングするような機関というのが,そのうち出てくると思うのです。   出てきてしかるべきなのですけれども,特に税法上の恩恵を受けているという話であれば。それこそ公益活動としてやるような人たちが出てきたときに,やはり大事な情報は,きちんと公開するという方が,むしろ今後のガバナンスの在り方としては重要なのではないかと思っていて,その公益信託の最初の基本的文書である信託行為について,何か妥当でないから公開してなくてよいというのが,どうもうまく釈然としないのは,もしかしたら私だけなのかもしれないのですけれども,どうして困るのか,それは何か具体的な例で,こんなのはやはり公表すべきではないのですよねと言ってくださると,私も得心がいくかもしれないと思っております。 ○中田部会長 これは事務局の判断というよりも,前の第37回でしたかの審議の際に,信託行為については公開すべきでないという御意見があり,あるいは個人情報について配慮すべきであるという御意見があり,複数の委員,幹事の御意見があったのを,ここに反映しているというつもりだろうと思います。   その上で,樋口委員は,いや,信託行為も公開すべきであるという立場から今,るる御説明いただいたかと存じます。   ほかにいかがでしょうか。 ○道垣内委員 話を二つに分けて考える必要があるのだと思うのですね。妥当でないか,妥当であるかという問題と,理屈上,可能なのか,可能ではないのかという問題とです。   私が発言させていただいたのは,専ら後者のつもりで発言させていただきました。つまり,定款については,登記対象であるということからしますと,それが文書として作成されていることが前提であり,そして,その範囲内,そこに書かれている文言の範囲内で,会社が権利を有し義務を負うという形になるわけです。会社を作るという際に,発起人たちが集まって,定款にはこう書いてあるけれどもこうしようということを合意していても,それは登記されていない内容ということになりますから,効力を有しないことになります。   それに対して,信託行為というのは法律行為という言葉に対応する概念であって,信託が信託契約によって設定されるということになりますと,その契約解釈の問題です。そうなると,信託行為を開示するというのは,契約文書の開示にとどまらない可能性があるわけです。解釈も含めた形での信託行為というのを公開の対象とするというのは,少なくとも定款とパラレルに考え得る問題ではないのだろうと思います。例えば,文書をして作成されたもの以外に,いろいろな合意があるときに,では,文書だけ公開すればいいのか,文書外の合意を公開しなければいけないのかという問題が生じてくるはずであって,そうなると,定款とパラレルだから信託行為も開示対象としましょうというのは,理屈上は難しいのではないかということを申し上げた次第です。   それは非常に限界的な問題であって,普通ならば公益信託が文書ベースで設定され,その文書が信託行為そのものであり,その文書に従って様々なことが決められるというのは,それはそのとおりだと思います。   しかし,理論上は必ずしもそうはならないのではないか。そうすると同じに規定するというのは,理屈上は不可能ではないかということを申し上げた次第です。 ○樋口委員 今の道垣内委員の意見には異論があります。一つは,定款だって解釈の余地は幾らでもあるのではないだろうか。だって,結局のところは文書ですから,そういう話はないかなというのと,認定するかどうかの段階で,信託行為を含めて検討対象にした上で,認定しているのですよね,何らかの形で。そうではないですか。 ○山田委員 そうだと思います。 ○樋口委員 すみません,ありがとう。 ○山田委員 小幡委員に伺えば,認定されていますので,実際のところをお話しいただけるのかもしれません。 ○樋口委員 基本的なところでね。そうすると,認定の際には,きちんと何とかやっているのに,情報公開はしないというのも何だかという。こっちは妥当でないうんぬん,それから,つまり可能だということです,簡単に言えば,今の道垣内委員の議論のレベルのところと同じところで言えば,それが契約であろうが何であろうが,きちんと認定してやっているわけですから,その段階で可能だというのだったら,情報公開だって可能だろうと思いますけれども,可能である上に,それは道垣内委員は別の問題だということで,それについては御意見を言わなかったけれども,やはり公開原則の方が妥当なのではないかと私は考えるということです。同じことを繰り返して恐縮でした。 ○能見委員 定款と信託行為はもちろん,道垣内委員が言われるように,恐らく違う要素が加わってくると思いますけれども,ここで考えるべきは,公益信託の場合に,できるだけ公開できるものは公開するというような方針を採るかどうかという観点から考えればいいのではないかと思います。   そうしますと,確かに信託行為として文書になっているものについて言えば,それについての解釈が加わったりするので,文書としての信託行為だけでは全てが決まるわけではないわけですが,文書として存在する信託行為は原則公開する,特に公開を妨げるべき要素がないのであれば,すなわち個人情報などの問題がなければ,それは公開すればいいではないかと私としてはむしろ単純に考えたい。繰り返しになりますが,基本的な考え方は,公開できるものは公開するということでいいのではないかということであります。   それからもう一つ,これはもう少しいろいろ複雑な問題が絡むことで,簡単に言えないのですが,信託行為を公開することで,受託者の権限の範囲がある程度明確になります。それゆえ,権限違反の処分があったとき,受託者による信託財産の権限外処分があったときに取消権の問題が出てくるわけですが,現在の27条の取消権というのは,相手方が権限外処分であることについて悪意,重過失がないと取り消せないということになって,非常に取消しが難しくなっているわけですが,信託行為が公開されていますと,相手方の悪意,重過失が言いやすくなります。もちろん,信託行為における書き方にもよりますが,受託者の権限が信託行為で明確に書いてあれば,その開示されている信託行為を見れば,相手方にすぐ分かるような状態になっているのであれば,権限違反処分についての相手方の重過失は認定しやすくなりますので,権限違反の信託財産処分行為の取消しが容易になり,それは結局,公益信託の財産を確保,保護することにつながります。本当は,私益信託にも同じ問題があるわけですが,少なくても公益信託においては,信託行為を開示することで,このようなメリットもあるということです。この2番目は理由はちょっと付け足しの理由かもしれませんが,私としては公開できるのであれば,公開していいのではないかと思います。 ○吉谷委員 議論が,信託行為という書面,信託契約書あるいは遺言というものを公開するべきなのかどうかということだと今,理解しましたのですけれども,第36回の資料の別表5には,信託行為の内容を示す書類というのが公開対象となっておりますので,信託契約書であるとか遺言であるとか,そのもののコピーをPDFとかで張り付けるということは,あえてしなくてもいいのではないかと思います。   それは不動産登記でも,昔は,信託原簿で契約書のコピーなどを登記簿の謄本にも,一緒に出していたと思うのですけれども,今は信託目録となって,信託行為の内容を示す書面で十分だとなっていますので,あの趣旨からすると今の提案の内容で十分なのだろうと思いますし,遺言とか契約とかで公開されるとなってしまうと,取りあえず何か余り書くのはやめておこうみたいな発想に,逆に書面の作り方としてなってしまいますので,余りそういうことはよろしくなくて,むしろ信託行為の内容を示す書類の中に,今お話しになられたような趣旨の内容が十分に盛り込まれていればよろしいのではないかと理解しております。 ○道垣内委員 吉谷委員がきれいにまとめてくださったので,特に言うべき事柄はないのですけれども,定款だって解釈の余地があるではないかということでして,それはそのとおりなのですが,文書の文言解釈なのですね。   それは信託行為の解釈と本質的に違うものです。そして,能見委員がおっしゃったのは,正に吉谷委員がおっしゃったように,文書化されているものがあれば文書化されているものを出せ,あるいは,合意文書そのものではなくても,別の整理の仕方をした書面を出せという話と,信託行為を出せという話は,全然論理的には違う話です。吉谷委員が前々回か何かの議論の話としておっしゃったところの信託行為の内容を示す書類を出せということであれば,私は反対するつもりはありません。ただ,信託行為を公開しなさいという文言は,私は論理的には認め難いと申し上げているだけです。 ○新井委員 基本的には私は,この提案に賛成です。その上で申し上げたいのは,今の我々の議論は,信託財産をこれまでの金銭から不動産にも拡大しようとなっております。   そうすると不動産ですと,信託目録というのを必ず添付しないといけません。信託目録の記載事項というのは,必ずしも一定のものがあるわけではないのです。契約内容を抜粋した省略版を載せたり,非常に詳細なものを載せたりするということがあるわけです。ですから注意点としては,この公示というときに信託目録に記載する機微情報をどのように調整していくかというのが本当の論点のように思われます。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ○小幡委員 私も情報公開は,基本的にはできるものはした方がよいと思います。今のは技術的な問題で,信託行為と言わないで,その内容を示す書類ということでよろしいと思います。   個人情報的なものの開示を慎重にすべきとありますが,個人情報というのは,何を指しているか。例えば,確かに遺言そのものを貼り付けろというのは,適当でないので,このように御本人たちにとって開示したくないと思うものは当然あると思うので,そういうものは外すべきだと思うのですが,一般には,個人の名前が出るというのは幾らでもあり得るわけですから,それを個人情報で駄目という趣旨ではないですねという確認と,もう一点,行政庁による情報公開も信頼を高める上で有用とありますが,それは行政庁が認定するから当然のこととして,それについては公表するというのにすぎないのであって,基本的にはやはり自ら情報を公開していただくという形がほとんどではないかと私は思います。   今の個人情報に関しての意見です。 ○中田部会長 前半に出てきました御質問の点については,いかがでしょうか。 ○中辻幹事 現在の公益信託の受託者がほとんど信託銀行であることを前提とすれば,どの信託銀行が受託者でありその本店所在地がどこかは既に公開されているものですし,個人情報で駄目ということはないと思います。その上で,誰が委託者で誰が受託者であるかは公益信託の基本的な情報として原則的には公開されるべき情報なのだろうと思います。もっとも,御指摘の遺言の場合もそうですけれども,無記名の寄附のように個人の委託者が自らの氏名や住所を公開したくない場合はあるかもしれませんし,それは新たな公益信託を仮に個人の受託者が引き受けることになった場合にもあり得る話で,そのような部分で個人情報というのを考えて行かなければならないように思います。 ○林幹事 弁護士会の議論では,部会資料の第8の御提案には基本的には賛成でした。個々の規定というか,情報開示の個々の内容によるという面もあるのでしょうけれども,基本的には賛成であったと思います。   先ほどの信託行為等の件については,これは個人的な考えですが,信託行為そのものは基本的に公開すべきではないというところは理解できるのですが,一方で,個々の公益信託の基本的な構造というか,その内容は情報公開の方法によって公開されてしかるべきだと思います。部会資料36の表の理解を十分できていないのかもしれないのですが,何か基本的な構造を示す書類が,開示の対象になっていれば,それで十分ではないのかと思います。それは,ほかの方の御意見と同じと思います。 ○吉谷委員 第8の提案につきましては,賛成と申し上げておきます。   ちょっと感想めいたことだけ付け加えさせていただきますと,現行の公益信託というのは,大体余り寄附を受けないようなものが多くございます。ここで言う行政庁による開示,公示のところの趣旨なのですけれども,情報公開ということであると認識しておりまして,というか,よくホームページとかで紹介をしたりとか,そういったような活動というような趣旨ではないと理解をしているというところでございます。   実際に,公益信託を紹介したり,寄附を寄り募ったりとかいうことの目的ではないと。そういうものについては,自主的にやりたい公益信託の受託者がやればよいのだろうと考えているところです。 ○中田部会長 いろいろ御意見を頂戴いたしました。この(注)の信託行為という言葉がちょっと多義的なものであったのかもしれません。法律行為というレベルのものなのか,それとも契約書や遺言そのものを指すのか,そうではなくて,信託行為の内容を示すものを指すのか,それによって捉え方が違ってくるのかもしれません。   恐らく契約書や遺言書のコピーをPDFで公開しろということまでにはならないのではないかと伺っておりました。そうしますと,先ほど吉谷委員が一つ目の発言の際におっしゃってくださいました,信託行為の内容を示す書面について公開するという方向で,様々な御意見を頂きましたけれども,その辺りに収束するかなと伺っておりましたが,いかがでしょうか。そういう理解でよろしいでしょうか。   では,そういったことを含めまして,頂いた御意見を基に,この第8について,更に検討していくということにしたいと思います。   よろしいでしょうか。   ありがとうございました。   それでは,部会資料40に入ります。   まず,「第1 公益信託の終了,変更命令」のうち,1から3までについて御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。 ○舘野関係官 それでは,部会資料40について御説明いたします。   まず,「第1 公益信託の終了,変更命令」につきまして,「1 委託者,受託者又は信託管理人の合意等による終了の可否」について御説明いたします。   本文では,甲案として,公益信託の委託者,受託者又は信託管理人その他の第三者による合意又は単独の意思表示によって公益信託を終了することはできないものとする。乙案として,原則として,信託関係人の合意等による終了を禁止するが,例外として,公益信託の委託者,受託者及び信託管理人の合意がある場合に,公益信託を終了することについてやむを得ない事由があるときは,公益信託の認定・監督を行う行政庁等(以下「行政庁」という。)の許可を受けて,公益信託を終了することができるものとする,との提案をしています。   本文の甲案は,部会資料37の第1の4と同一の提案であり,その内容及び理由に変更はありません。甲案では,公益信託には,信託法第164条を適用しないこととした上で,仮に信託行為において公益信託の信託管理人の合意等によって公益信託の終了を可能とする旨を定めた場合であっても,同法第163条第9号の例外として,当該信託行為の定めが無効になることを想定しており,その旨を補足説明に記載しています。   次に,本文の乙案は,今回新たに提案するものです。一旦設定された公益信託は,公益すなわち不特定多数人の利益に寄与するものであり,その継続性,安定性及び確実性が重要であることから,原則として,信託関係人の合意等による公益信託の終了を認めるべきではないと考えられます。   しかし,例えば,文化財的価値のある古民家の保存・公開を目的とする公益信託等において,その事業がうまくいかず,支出が収入を大幅に上回る状況が続いているような場合には,社会的意義の乏しくなった公益信託を継続させて信託関係人に無用な負担を強いるよりは,公益信託の終了を認めた上で,信託財産を他の公益活動に用いられるようにする方が合理的かつ効率的であると言えます。   また,そのような場合に,信託法第165条を活用しようとしても,同条の要件を満たさないために,それが妨げられることが想定されることから,乙案は,信託関係人の合意等による終了を原則として禁止するものの,例外として,公益信託の信託関係人の合意がある場合に,公益信託を終了することにつきやむを得ない事由があるときは,公益信託の認定・監督を行う行政庁の許可を受けて,公益信託の終了を認めるべきである,としています。   次に,「2 公益信託の終了命令」について御説明いたします。   本文では(1)公益信託における信託法第165条第1項の権限は,甲案として,行政庁が有するものとする。乙案として,裁判所が有するものとする。   (2),(1)の終了命令の申立権者は,委託者,受託者又は信託管理人とする。ただし,委託者については,信託行為において申立権を有しない旨を定めることができるものとすることでどうか,との提案をしています。   本文(1)の甲案及び乙案の各提案は,部会資料37の第1の6(1)の甲案及び乙案と同様の提案であり,その内容及び理由に変更はありません。   公益信託の終了が客観的には相当であるが,認定基準違反に該当しない場合などに公益信託の認定取消しとは別途信託法第165条第1項による信託の終了命令を認める意義があると考えられることから,その旨を補足説明に記載しております。   本文(1)の甲案は,信託法第165条第1項の信託終了命令の要件の判断主体については,当該公益信託の情報を有し,受託者に対して立入検査の権限等を行使できる立場にある行政庁の方が裁判所よりも判断主体として適切であるとする考え方です。   これに対し,本文(1)の乙案は,公益信託の認定取消しと信託法第165条第1項による信託終了命令を併存させる場合には,前者は公益認定に関するものとして行政庁が行うのが相当であり,後者は私法上の効力に関するものとして裁判所が行うのが相当であるとの考え方です。   次に,本文(2)の公益信託の終了命令の申立権者については,部会資料37の第1の6(2)では,委託者の申立権については,信託行為による増減が可能であることを前提としつつ,委託者を含む甲案と委託者を含まない乙案の両案を提示していました。   しかし,委託者の申立権について,信託行為による増減を可能とするならば,信託法上の規律と実質的な相違はないことから,今回の本文(2)の提案では,終了命令の申立権者を委託者,受託者又は信託管理人とするが,委託者については信託行為で終了命令の申立権を有しない旨を定めることができるとの提案に変更しています。この提案は,受託者及び信託管理人については,信託行為において終了命令の申立権を有しない旨を定めることができないことを一応の前提としています。   次に,「3 残余財産の帰属」について御説明いたします。   本文では,(1)公益信託は,その信託行為において,残余財産の帰属すべき者(以下「帰属権利者」という。)の指定に関する定めを設けなければならないものとすることでどうか。   (2),(1)の定めの内容は甲案として,信託終了時の全ての残余財産を当該公益信託と類似の目的を有する他の公益信託若しくは公益法人等又は国若しくは地方公共団体に帰属させることを定めたものでなければならないものとする。乙案として,信託終了時の残余財産のうち,公益信託の認定時における信託財産については,私人を帰属権利者として定めることを許容するが,公益信託の認定後に信託財産に加わった財産については,当該公益信託と類似の目的を有する他の公益信託若しくは公益法人等又は国若しくは地方公共団体に帰属させることを定めたものでなければならないものとする,との提案をしています。   また,(3)信託行為における帰属権利者の指定に関する定めに掲げられた者の全てがその権利を放棄した場合の残余財産は,甲案として,清算受託者に帰属するものとする。乙案として,国庫に帰属するものとする,との提案をしています。   本文(1)の提案については,部会資料37の第2の1(1)柱書きの提案と同一であり,その内容及び理由に変更はありません。   今回の部会資料では,部会資料37の第2の1(1)柱書き以外の提案から,特に支持がなかった甲1案を削除し,甲2案を本文(2)の甲案として提案しています。   本文(2)の乙案は,部会資料37の第2の1(1)の乙案と同様の提案であり,少し表現を改めておりますが,その内容及び理由に実質的な変更はありません。   なお,残余財産の帰属先に「類似の目的」の要件を外すことについては,信託財産の帰属先が寄附者等の意思に反する可能性があることから慎重であるべきと考えられます。   また,(2)の乙案を採用する場合には,信託財産の価額の変動等に対応する規律を設ける必要が生じ得るために制度設計が複雑になり,公益信託の軽量・軽装備のメリットを損なう懸念があると考えられます。   以上でございます。 ○中田部会長 ただ今説明のありました部分について御審議いただきたいと思います。終了に関する三つのポイントですけれども,まず,終了の方法に関する1と2について御意見をお願いいたします。 ○深山委員 まず,1の信託関係人の合意による終了についてですが,一切,合意による終了を認めないという甲案は,やはり不都合が生じるのではないかという意味で反対をいたします。   乙案も,原則は認めないというスタンスですけれども,例外的にやむを得ない事由があるときに認める余地を残すという点で,これを支持したいと思うのですが,更に,乙案には行政庁の許可を受けてという手続的な要件が加わっております。これは不要ではないか,あるいは必ずしも合理的とも言えないのではないかと考えます。   実質的な要件として,やむを得ない事由というのが要件として定められることによって,やむを得ない事由がないにもかかわらず,やめてしまうということが,仮にそういうことがあったとすれば,何かの形で訴訟等の中で,実体的な規律としては,終了の当否を判断する余地は出てくると思いますが,手続的に行政庁の許可というものを要件としてしまうことについては不相当であるという意味で,この点は反対したいと思います。   それから,次の2番目の終了命令については,これは,(1)については乙案の裁判所が有するということが相当であると思います。やはりこれもいろいろな場面が想定されますけれども,少なからず司法的な判断を要する場面というのも想定し得るところですので,裁判所が判断機関としては行政庁よりもふさわしいと考えるところであります。   (2)については,賛成いたします。 ○道垣内委員 深山委員に確認をしたいのですが,第1の1の乙案を採ったときの行政庁の許可の話なのですが,訴訟で争うというときの訴訟の構造は,どういうことをお考えなのでしょうか。誰が原告になって,どういうふうにするのか。 ○深山委員 恐らく終了してしまうことについての利害を持つのは,その受給者であったり,あるいは将来の受給を期待している人,潜在的な受給者のような人が,それは困ると,あるいは不適当であるというようなことをするのかなと思いますが,それも考えづらいなとは思っておりました。つまり,この人というふうに,がちっとした原告適格的なものが想定しにくいという問題意識は私も持っておるのですが,しかし,それは不可能ではないだろうということと,そうだからといって,この行政庁の許可がいいのかというのは,また別の問題ではないかなという気もいたします。 ○道垣内委員 不可能ではないだろうとおっしゃっているのですが,私は不可能ではないかと思います。将来のポテンシャルな受給者という人が終了を争えるかというと,それはちょっと無理なのではないかと思います。 ○山本委員 質問というか確認をさせていただきたいのですけれども,まず2の方では,信託法165条第1項が前提とされていて,公益信託の場合であれば,信託行為の当時予見することができなかった特別の事情により,信託を終了することが信託の目的及び信託財産の状況その他の事情に照らして相当となるに至ったことが明らかであるときというのが,要件になっています。これと1のやむを得ない事由があるときとの関係が,どのような関係にあるのかというのをお教えいただけるでしょうか。 ○中辻幹事 事務局としては,第1の1のやむを得ない事由という要件と信託法165条の要件は,異なる意味で使っています。第1の2の公益信託の終了命令については信託法165条の要件がデフォルトとして存在するので,その文言を尊重してそのまま使っているのですが,第1の1の信託関係人の合意による公益信託の終了については特にデフォルトがないこともあり,やむを得ない事由という文言を使っているものです。 ○山本委員 165条の1項の文言を見ますと,特に後段の方で,信託を終了することが相当となるに至ったことが明らかであるときとされていますが,これはやむを得ない事由に対応するのではないか,少なくともそのように理解しやすいように思います。   ただ,165条第1項では,信託行為の当時予見することができなかった特別の事情によりという限定があって,これは,やむを得ない事由の場合には,必ずしも常に要求されるものではないのではないか,そこに違いがあるのかもしれないという気もします。   もしそうだとすると,1の方で,合意があれば,やむを得ない事由があるときに,更に手続を経て終了するというのは,2よりは少し緩和されていると理解するのではないかとも思いましたが,必ずしもそうではないというお答えだったのでしょうか。 ○中辻幹事 山本委員御指摘のとおり,165条1項による終了には,信託設定時に予見できなかった特別の事情という,かなり厳しい要件が定められておりますので,それより広い意味で,第1の1のやむを得ない事由という文言を理解するという考え方は十分あり得ると思います。 ○中田部会長 よろしいでしょうか。 ○渕幹事 山本委員の御質問に関連するのですが,やむを得ない事由に関する第1の1の4番のところでの事務局の御説明について,少し伺います。   古民家の保存という例が挙がっており,赤字になってしまうということから,社会的意義の乏しくなった公益信託事務をやめてもいいのではないかというようなことが書かれていますが,この例と,その後の一般論がどういう関係にあるのでしょうか。若干そごがあるような気がいたしました。   すなわち,古民家の保存とか公開といった目的に,もはや社会的な意義が乏しくなってしまったというようなことを,この例で示されたいのか,それとも,古民家の保存・公開ということには意味があるのだけれども,それを公益信託という手段で行うことが不適当になったというような例としてこれを示されたいのか,あるいは両方なのでしょうか。その辺りについて御説明を頂ければと思います。 ○中辻幹事 古民家の保存・公開の例について言えば,その社会的意義が全くなくなってしまうということはなくて,赤字であっても続けることに公益的な意義が認められるけれども,そのような公益信託の受託者に最後までずっと古民家の保存・公開を継続させるのは酷であるような場合を想定しておりました。もっとも,古民家の保存・公開に社会的な意義がなくなった,あるいは非常に乏しくなったことをもってやむを得ない事由があると言える場合もあるように思います。その上で,渕幹事の御質問に直接お答えするならば,両方の例を示すものであるということになると思います。 ○渕幹事 そうすると,場合によっては,かなりこれは広くなり得るということでしょうか。というのは,公益信託というのは,ある一時点で設定されるのですが,その後,社会的な状況が急速に変化するようなことも大いに想定されるわけです。そうするとかなり多くの場合に,元々考えられていた目的と大分違うことを継続しなくてはいけないということは十分想定されると思うのです。165条よりは大分広いということになると,現実には,ここでのやむを得ない事由というのは,かなり広いものになると考えてよろしいでしょうか。 ○中辻幹事 そうですね。山本委員の御指摘にもありましたけれども,165条1項は事情変更の法理に基づくもので厳しい要件が課されていますので,第1の1の信託関係人の合意にプラスして行政庁の認定を条件に公益信託を終了させるという場面では,公益信託を継続させることの社会的意義や,信託関係人,特に受託者の負担について,165条1項の要件よりは柔軟に考える余地があるように思います。   ただし,以前の部会で樋口委員から御指摘がありましたけれども,受託者がいったん公益信託を引き受けたのであれば,それは責任を持って最後までやりなさいという考え方もありますので,やむを得ない事由を広く柔軟に認めていくのですねと絶対に言い切れるかといえば,そうではなくて,社会的,公益的意義があるのだったらできるだけ公益信託を続けていくべきであるという考え方もあるように思います。 ○渕幹事 分かりました。私が広いとか狭いとか言ったのは,曖昧で不適当だったと思います。乙案の内容についてよく分かりました。どうもありがとうございました。 ○吉谷委員 私どもも,公益信託の終了命令につきまして,信託行為の当時予見することができなかった特別の事情というところにつきまして,ちょっとここは厳しいかもしれないなと思うところはございます。ですが,そこに行く前に1,2の全体についての意見を述べさせていただきたいと思います。   まず,1ですけれども,これはどちらかといえば乙案に賛成です。ただし,デフォルトでは委託者を合意権者にする必要はないと考えています。   2の公益信託の終了命令の(1)につきましては,どちらかといえば甲案の行政庁に賛成です。(2)につきましては,委託者をデフォルトで申立権者とする必要はないと考えております。   まず,「どちらかといえば」と留保を付けさせていただきました理由なのですけれども,この後でも出てきます認定取消しが信託終了事由になるかどうかという論点につきまして,私どもは認定取消しによって信託が終了すべきであるという立場を採っております。かつ,信託関係者が単独で認定取消しの申請をするということもあり得べき,認めるべきであるという立場です。   この立場が採用された場合には,1の乙案でありますとか2の終了命令の規律との関係を整理するべきであるとまず考えます。信託終了についての我々の全体的な立場をお話ししますと,当然,終了となるというような場合以外に合意とかで任意に終了できるというのは余り望ましくなくて,行政庁等の何らかの関与があるべきと考えております。   認定取消しによる終了なのか,許可を受けて合意終了なのか,終了命令なのかという,そういう形式はともかくとしまして,信託関係者の全部又は一部が申出を行って,それで何らかのやむを得ない事由があるという場合には,行政庁等の決裁を経て信託が終了するということが可能な仕組みであるというべきだと考えます。そうでないと,合意終了であるとか,終了事由を信託行為に任意に定めることが認定段階で認められないということですので,何らかのそれに代わる仕組みが必要であると思っております。   そのために,もし公益認定の取消しというのが終了事由にならないという場合でしたら,信託関係人の合意とやむを得ない事由がある場合に終了できないというのは,非常に実務上も困りますので,1は乙案でなければならないと思いますし,2の信託関係人が単独で申し立てる場合にも,信託行為の当時予見することができなかった特別の事情というのがなくてもやむを得ない何かがありましたら申し立てて終了は可能というふうにしていただきたいと考えております。   一方で,公益認定取消しが終了事由となるということを前提にした場合で考えますと,ちょっと気になりましたのは,6ページの補足説明の3のところの後ろの方に「そうすると」というところがありまして,そこで公益信託を終了することが客観的に相当である場合であっても認定基準違反に該当しないというような場合があると。そのような場合があるのかどうかということが疑問ではあるのですけれども,もしそのような場合があるということであれば,やはり終了命令の要件はやむを得ない事由で十分なのではないかと考えます。   そういう場合がないということであれば,許可による終了とか,終了命令の制度が別になくても成立するのではないかと考えているところです。   裁判所か行政庁かというところにつきましては,終了命令制度を残すのであれば,その認定基準違反に該当するのかどうかというところの論点との関係からは,裁判所の判断で終了できていいということについては疑問があります。   あと,委託者について,デフォルトで申立権者とする必要はないと言いました理由ですけれども,これは委託者を監督機関とするという位置付けには違和感があるというところです。委託者がいるからということで,委託者と信託管理人の合意でとかいう形で物事が進むことを期待するのは余りよろしくなくて,委託者が機能しなくても成り立つような仕組みというものを考えるべきであると考えております。   あと,ついでにちょっと委託者関連で申し上げますと,前回,委託者の地位は相続されないという前提で議論が進んでいたと思うのですけれども,それで,その立場には賛成なのですけれども,それであればその旨を法令で規定していただく必要はあるのだろうと思いますので,付け加えさせていただきます。 ○中田部会長 ありがとうございました。   ただいまの御発言の中で,終了命令と,それから認定基準違反による取消しとの関係について,それぞれの場合について御検討いただいたわけですが,どちらかを選ぶとすると,その二つを並行させるのではなくて,一方だけの方がむしろよいとお考えでございましょうか。 ○吉谷委員 いや,そこが本当によく分からないところで,終了事由があるのに認定取消ししないというような場合が,私には考え付かないのですけれども,それは多分,認定取消事由を広く考えているからだと思いますので,そこが広いのであれば,終了事由のところは余り要らないのではないかと思うのですけれども,そこがちょっと曖昧なのだとしたら,両立していてもいいのではないかなと。どちらを採用するかは,むしろ行政庁の方の裁量があってもいいかもしれないと思います。 ○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。 ○小野委員 第1の1についてのコメントですが,一つ一つ論点を取り上げて,何か悪い事例を想定して,それを前提に議論したりするよりも,もうちょっと分かりやすく全体を通した論理的な説明の方がよろしいのではないかと思います。バックアップチームでもそのような議論をしました。それは何かというと,やはり契約に基づく公益信託ですから,私的自治というのは最大限尊重すべきではないかという点です。   それによって状況によっては弊害うんぬんというのは別の議論であって,まず私的自治,そうでないと個々の論点が,それぞれ想定する事例によって全然違ってくることになりますし,それを反論しても,また違う事例を想定した反論をするわけですから,かみ合わないことになるかと思います。   そういう観点と,あともう一つは,行政庁か裁判所かと,何かメニューとしてAかB,どちらかですかという議論で,Aの方がよく知っているからとの議論がありますが,裁判所というのは,正直,手続法的にも,非訟事件手続法というのがあって,それによってしっかりと申立てをすれば判断しなければいけないと。恐らくここでいう行政庁の許可というのも,あたかも裁判所的な機能をもつ裁判所代替機関としての行政庁の許可という意味で全体的に使われているのではないかという雰囲気の中で議論がなされている感じがありますけれども,これは行政上の許可ということになれば,非訟事件手続法上の許可とは違いますから,全然意味合いが違ってくると思います。その辺を前提としないと,行政庁はよく知っているからというような議論になって,よく分からなくなっていくと思います。   ですから,もし行政庁の許可ということを残すのであれば,裁判所と同じような機能を果たす行政庁の許可ということで,その手続とか,また忌避手続とか,どうやって証拠を提出するのか,認定するのかとか,そういう手続があることを前提とする必要があると思います。行政庁はよく知っているのは確かで,認可しているわけですけれども,それだけの議論ではないという前提が必要と思います。そうでないと本当によく知っているところがという議論で,あとは,手続は全く同じように流れていくと捉えられていると思います。   という前提で,第1の1のコメントをさせていただきますと,やはり163条9号がまず認められるという前提がないと何が何だか分からなくなってしまうと思います。一方,甲案,乙案,補足説明を見ると,信託行為で,合意で終了するということも認めないかもしれないし,また,そういう意見もあり得ると述べられています。   そういう意見があり得るというのは分かりますし,また,信託行為に9号の合意による終了が入っていなくて,当事者がいろいろ検討した結果,やはりこれは終了した方がいいと。終了した後の効果は,別のところの議論ですけれども,私人がそれを自由勝手にできるわけではなくて,どの見解を採っても,公益的な形で使われることは確かでしょうからということで合意することは認められるべきであると思います。   乙案を採る場合,先ほど申し上げたように,やむを得ない事由の行政庁の許可って一体何ですかという問題が残る。やむを得ない事情というのは,法律用語としても適切ではない。旧信託法で,信託銀行の方は,第三者委託はやむを得ない事由がないとできないというところで随分苦労して,膨大な量の論文が出ていますけれども,それの亡霊とは言いませんけれども,同じような議論をするのではなくて,実際にどういう事例がやむを得ない事由なのかということを,ガイドラインで述べ,先例を積み重ねていかないと,もし行政庁に任せるとしたら,行政判断というもので前に進まなくなるおそれがあると思うのです。   いずれにしても,甲案,乙案ではなくて本来丙案ということで,当事者が任意で合意して終了したいのであれば,そういう私的自治というものは認めるべきではないかと。   その効果としてどうのというのは,また別ですが,やりたくない人を永久に拘束しなければいけないような仕組み,行政庁に行ったところ,できないことはないではないかと言われるような話というのは,どう考えても今の時代にふさわしくないと思うのです。   それが不適切うんぬんということであれば,権利濫用とか,いろいろな法理がございますから,違う形で何か対応すればいいわけでして,それを乙案ということで対応するというのはふさわしくなく,繰り返しになりますけれども,私的自治というものを前提とされるべきではないかと思います。   ですから,乙案であるとしたら,裁判所の許可ということで,非訟事件手続法の中でやむを得ない事由をきちんと述べて,裁判所に判断してもらうということだと思います。 ○林幹事 この乙案なのですが,どちらかというと乙案の方で考えたいところで,本論点の先般の部会資料37における議論で,合意による場合もないと不都合が生じ得るからということと,ただ合意だけでは不十分というので何らかの機関の関与が必要であるという議論があって,乙案が出てきたということは理解はしています。ただ,弁護士会の中では,そういうところはおおむね理解しながらも,例えばやむを得ない事由もあって,それで関係人が合意して,行政庁に許可をもらいに行くのだけれども,裁量で許可してくれないということで止まってしまうようなことがあるのかどうか。それだったらやはりおかしい。というのも,やむを得ない事由が要件としてあり,要件があるのにやめられないのではおかしいという議論がありました。ですので,そのときに行政庁が許可してくれないときどうできるのかが問題であり,それは行政処分だから,行政処分の不服申立手続で争えると考えるのか。それができるような制度として組むことができるのか問題になります。   ただ,行政で,許可で,裁量でというふうになると,そもそも争うのが難しくなるというのかが議論になり,そうすると小野委員の言われたことにつながるのですけれども,行政がよく知っているからといって行政に判断してもらうのがよいのか,実体的な判断だったら裁判所の方がいいのではないのかという議論にもなりました。それはほかの論点でも同じような理解だったのですが,行政庁とする場合は,しかるべく許可してくれないときは争えないと駄目であり,そういう制度が担保されるべきであると思います。 ○平川委員 この1の1につきましては,やはり私的自治を重んじるという観点から,行政庁が許可を与えるとか,その終了について介入をしてくるということを最小限に抑える必要があると思います。   また,委託者についても,この終了の合意を認めるべきではないと思いますので,まず原則としては,公益信託の委託者,受託者又は信託管理人その他の第三者による関係人の合意によって公益信託を終了することはできないということを原則としつつも,信託行為においてその別段の定め,やむを得ない事由について終了する合意をするということは認めるとしつつ,やはり先ほどから申しております運営委員会の合意というものをそこに,先ほどガバナンスに関与させるのはどうかというお話がありましたけれども,委託者を抜きにしてしまいますと,受託者,信託管理人だけになってしまいますので,やはり三鼎する状態というものは必要なのではないかと思います。   したがって信託関係人の選・解任を認めたり,あるいは信託の終了という重要な側面においては運営委員会というもののガバナンスに対する機能を認め,それによって私的自治を確保するということを丙案として提案します。   2の(1),(2)につきましては,(1)については,甲案に賛成いたします。(2)については,やはり丙案を提案し,委託者というものは,そもそも申立権者に入れるべきではなく,受託者,信託管理人又は運営委員会をこの信託終了命令の申立権者に入れるべきと考えます。   (1)についての理由としましては,行政庁が権限を持つというのは妥当であると考えるということと,公益法人制度においては認定取消しの権限は行政庁にありまして,取消事由として,当初の認定条件違反のほか,その後の認定条件の違反,法令や行政機関の処分に対する違反等も含まれております。そのこととの整合性という点で,行政庁に権限を認めるのがよいと考えます。   (2)については,委託者は公益信託への財産を出してしまった以降においては,公益信託に対して関与する権限をやはり極力少なくすべきであるという観点から,申立権者から外すべきであると考えます。   そして,運営委員会につきましては,重要な意思決定機関と位置付けることから,申立権者に加えるべきだと考えます。 ○棚橋幹事 まず,質問が2点あります。先ほど吉谷委員のお話の中にもありましたが,部会資料の6ページの3に,「公益信託を終了することが客観的に相当であるが認定基準違反に該当しない場合などに終了命令を認める意義がある」という記載があるのですけれども,その具体例を教えていただけると理解がしやすいかなと思いますので,具体例があれば教えていただきたいというのが質問の1点目でございます。   質問の2点目ですが,例えば終了命令の申立ての際に,終了命令の理由として認定取消事由と同様の事由が主張される場合,その事由は終了命令の枠組みの中で判断することになるのかということを教えていただければと思います。 ○中辻幹事 まず,質問の1点目,部会資料6ページの公益信託を終了することが客観的に相当であるが認定基準違反に該当しない場合の具体例ですけれども,先ほどの古民家の例で言えば,最終的に公益信託の認定基準をどのようなものかとするかによりますし,「やむを得ない事由」がある場合に信託関係人の合意等による公益信託の終了を認めるか否かにもよりますが,公益信託設定後の事情の変更により古民家の公開・保存という公益信託事務を受託者が継続することが関係者への特別利益の供与等の認定基準には違反しないけれども合理性を欠く状況になったことが明白であるようなケースを想定しています。   次に,質問の2点目,終了命令の申立事由の中で,認定取消しの事由と同じようなことが主張されていた場合に,どちらの枠組みで判断するかという点については,第一読会でも論点として取り上げさせていただきましたが,公益信託の認定取消しと終了命令を併存させて両者は別々に判断するという考え方がある一方で,公益信託の認定取消しと終了命令はどちらかに一本化して同じ枠組みで判断すべきであるという考え方もあるように思います。 ○棚橋幹事 ありがとうございました。   今,御質問したことを前提に,裁判所の意見を述べさせていただきますけれども,基本的には一読と同様ですが,裁判所としては認定基準の関係と,情報,資料や知見との関係という観点からは,2の(1)の点については,甲案が適切だと考えております。   終了命令の申立ての中で,認定取消事由と同じような事由について判断することもあり得るということですと,裁判所が認定基準違反を判断することになりますが,認定基準については行政庁が判断すべきと考えておりますし,情報や資料といった観点からみますと,終了命令の要件は当時予見できなかった特別の事情と,信託の目的,財産の状況等に照らして終了することが相当であることというものですが,認定行政庁は認定当時の御事情もよく御存じであろうと思われますし,特別の事情の有無や,終了が相当かどうかということは,認定やその後の検査・監督を通じて,信託事務の内容や信託目的など,当該公益信託の実情をよく知っている行政庁が最も実情に沿った判断ができるのではないかと考えておりますし,ほかの公益信託との関係での知見も活かした判断ができるのではないかと考えております。   他方で,裁判所の方では,問題となっている当該公益信託については,申立てがあって初めてその存在を認識し,申立て時に提出された資料などから分かる情報を知り得るにすぎないということになりますので,認定時点や監督を通じて分かる情報,認定当時の状況,ほかの公益信託の実情といった知見を有していない状況ですので,行政庁という公益信託について情報も知見も有している機関がある中で,本当に裁判所が一番適切な判断主体なのかという点については疑問があります。 ○道垣内委員 結局,5の公益信託の認定を取り消された場合の信託について,どうするのかというのが先決問題なのだろうと思うのですね。   当該信託が終了するというとき,甲案も乙案も一見,終了するという感じがするのですけれども,甲案と乙案とでは作りが全然違っていて,乙案というのはある種の意思推測なのだろうと思うのですね。成立のところでも議論がありましたが,公益信託として,いろいろな税務上の恩典とか,そういうものが受けられないということならば,信託を設定しないという意思ではないかというのを原則として考えるか,そうではないと考えるかというのはあるわけですが,いずれにせよ,それは意思の問題である。   それに対して,甲案というのは,恐らく公益信託から公益認定というものが欠けたら本質的要素がなくなるために,当然終了するという考え方なのだろうと思います。   さて,5においては,公益信託の認定を取り消すというのが行政庁の権限であるというのは当然であろうと思います。そうなりますと,現在,議論の対象となっている2のところに戻りますが,2においても行政庁が有するというふうにするのは,それほどおかしいことではないというか,ある種,自然なのだろうと思います。   しかし,本当にそうなのかというのが私にはよく分かりませんで,行政庁というのは当該信託において公益認定をしているということだけであると考えますと,公益認定が外れたからといって,その信託が当然に終了するということに本当はならないのではないか。公益認定を外す,ないしは付けるという権限がある行政庁が,終了させるという権限を有するということに直結するのは,私はおかしいと思います。   したがって,私は,5においては乙案だと思いながら,2の1においては乙案ではないかなあと思います。もちろん5について甲案も不可能ではありませんで,当該信託における本質的な要素というのは何なのかという問題に関わってくるわけですから,そうならば2においても,甲案にしてもいいかなという気もします。しかし,余り私は適切な規律ではないと思います。   さて,そこで1に戻りましたときに,1においては,認められるときも行政庁等であるということが前提になっているわけですけれども,本当にここも行政庁なのかというのは気になるところです。やむを得ない事由について,山本委員がおっしゃったことは前回の受託者の解任についても,同じく問題となった構造がここにも存在するということですが,説明の4ページのところに書いてありますように,その許可を取り消すということに対して行政庁が判断権限を持つというのはよく分かるのですが,終了させる合意が正当か否かということについて行政庁が判断権限を持つというのは,私は構造としてはおかしいと思います。 ○中田部会長 ありがとうございました。   今,5とおっしゃいましたのは,第2の5,20ページを指していらっしゃるわけですね。 ○道垣内委員 はい,20ページです。すみません。 ○中田部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○林幹事 先ほど2の方について述べるのを忘れた点があるので,簡単に。   弁護士会の中の議論としては,2の(1)については両意見あったのですが,乙案の裁判所というのが多かったと思います。   それから,2の申立権者については御提案に賛成の意見も多かったのですが,一部反対意見もあって,特にその委託者についてデフォルトが逆だという意見がありました。本文には委託者は入らずに,「ただし」の方で委託者が信託行為で加えられる。そういう規律の方がいいのではないかという意見も,少数ながらあったというところを申し上げます。 ○小野委員 道垣内委員のおっしゃられたことに,かなり重複するところがあるのですけれども,歴史的なことを述べますと,165条は旧信託法の58条の関係で随分議論してできた規定なのですけれども,何を言わんとしているかというと,先ほどの議論でありましたが,認定の取消しはできないのだけれども,取り消した方が,この信託は終了した方がいいときに発動するような議論,そういうような趣旨で作られた規定ではないのです。   ですから,立法趣旨も,また,165条1項の条文を見ても,何も悪いことをしている信託の業務を終了させるために裁判所が発動して終了するという規定にはなっておりません。議論がまず前提として混乱していると思います。またそもそも認定基準の取消しはできないけれどもけしからんという状況で,行政庁が立ち入って,その信託を終了するということ自体は,私的行為を無効にする権限はないと思うので,それは終了命令なのか,その命令に従わなかったらどうのという話なのかなと思います。書きぶりからすると私的行為を無効にするような効果を与えるような規定になっていますけれども,繰り返しになりますが,元々の信託法165条の規定はそういう趣旨ではありませんし,先ほども発言したことの繰り返しになりますけれども,行政庁にそれだけの権限は本来,私法上ないというのは当然の議論かと思います。ということを付け加えたいと思います。 ○中田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。 ○小幡委員 よく理解できていないのですが,そもそも本当は合意で終了させてもよいかもしれないけれども,公益信託なので,余り安易な気持ちで始めてもらっても困るし,当事者の合意だけで終了というのはまずいだろうという考え方でこういう話になっていると思うのですが,他方で,165条の方で本当に予見し難いような出来事が出てきたときには対応できるわけです。   同条によらない場合に,絶対駄目というのではなくて,合意でも終了できる場合もあってよいというときに,何らかの機関のチェックを介在させることによって,勝手な合意ではなく認めてよいという正当化をする制度を作った方がよいという話でしょうか。   結局,合意による終了を認めるわけなのですが,それを単に当事者の合意だけではないようにした方がよいと考えたときに,どこが入るべきかという話ですね。   確かに,皆さんおっしゃるように,そこで当事者の合意にチェックを入れるために,行政庁が出てくるというのも多少奇妙な話だなと私も直感的には思うところはあります。   そうすると,そこで裁判所が出てくるのか。165条の方があるので,幾つか制度が何か重なってしまうという,そういう感じになってしまいますね。   一点お伺いですが,公益法人の場合,公益目的事業の全部廃止というのは届出でできますよね。明渡関係官,そうですね。条文上はそうなっていますが,あれは届出だけでオーケーなのですか。 ○明渡関係官 廃止は届出だったと思います。 ○小幡委員 そうですよね。合併とかもありますが,公益法人の方の24条の3号で公益目的事業の全部の廃止というのはあらかじめ届け出るということで,届出だけでできることになっているのですが,その後,ただ,どういう整理をしますか。   要するに,公益認定の取消しをすると,今度,残余財産贈与とか強制的に流れていきますが,他方で,自分たちでやろうと思って認定を受けていた公益目的事業を全部やらないことにするのは届け出るだけでオーケーになる。そうすると,今回の公益信託について,合意だけで廃止できないというのも,確かに,単なる合意というのではまずいのかもしれないのですが,公益法人とのバランスがどうかなと思った次第です。 ○平川委員 公益法人の場合は,取消しの申請があれば行政庁は取り消すこととされていますけれども,その場合,別に公益法人が解散するわけではなく一般法人に移行するということになって,ちょっと仕組みが違う。 ○小幡委員 そこは生き残れる,一般法人としてですが。公益認定だけなくなるという話になりますが。ただ,少し気になるのがバランスの問題です。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ○樋口委員 今の小幡委員がおっしゃっていたバランスの問題というのは,ずっとここで私自身が気になっていたことで,公益信託の終了・変更で,変更の話はほとんど出てきていないけれども,二つ書いてありますよね。   それで,その比較の視点からすると,まず私益信託の終了変更命令という話と比べて,どう考えるべきなのかということですね。基本は,私益信託に関わるところの百六十何条であれ,163条だか165条だか,それをベースにして議論しているわけですよね。しかし,公益信託だからという話でどうするかという話になっている。   165条なんかも,はっきり受益者の利益のためにという,当たり前ですけれども,私益信託だから。それが指針になっているのだけれども,公益信託の場合は,受益者がいなくて,それで,うまく整理して話をすることができないけれども,それは非常に残念ですけれども,公益信託の終了・変更命令については,私益信託と比べてやはり別の考え方で,簡単には終了させないどころか,後で出てくる,シープレの話が出てきますけれども,本当は信託財産,公益信託財産というのをできるだけ継続して,信託の目的が達成され,あるいは達成不能になった場合ですら,とにかく何とか継続させるという話があるわけですよね。別の公益信託につなげてというようなことまで考える。   だから,それは私益信託であり得ないようなことなので,だから私益信託との比較という点で,やはりこれは終了はそう簡単にはできないという話で一貫できるかどうか。しかし,こうやってやむを得ない事由だか何だかというので合意なんていうのを入れる余地があるかどうかというのをどう考えるかということが,一つのポイントなのだろうと思うのですね。要するに,この場面でまず私益信託の条文から公益信託の問題を考えるという発想自体が再検討する必要があるように思います。それだけ性格が違うということです。   もう一つは,今度は公益法人との比較があって,公益法人というのを本当,私は何も知らなくて,これで今,何とかかんとかという検索や何かで見ると簡単なのですね,どうやら解散というのが。つまり公益法人は解散が簡単にできるらしい。そういうものと公益信託は別なのですよという話をどううまくつなげたらいいかという課題がありますね。いや,今,私が解答を持っているわけではなくて,勝手な悩みをしているということを申し上げているだけなのです。   それから,最後に1点だけ。これは私的自治ということを言われている。やはり私的自治の範囲で公益活動をやるのだ,だからそれが公益信託なのだという意味ではそうなのかもしれませんけれども,日本のように,あらかじめ公益認定という制度を入れておいて,それで,あと私的自治という話がどうも,それだったら初めから認定の方も事前の規制ではなくて,後からやってくださいよという,税法上の優遇措置が後であるかもしれないみたいな話の方が本当はすっきりするのに,初めに公益認定というような重い制度を作っておいて,しかし私的自治ですよというのがうまく理屈として合うのか。やはり,しかし合わせないといけないという話で,今こうやって悩んでいるのかというところです。 ○中田部会長 ありがとうございました。   変更命令について,また後ほど別項で出てくるわけですが,共通した問題の御指摘を頂いたと存じます。 ○明渡関係官 先ほどの小幡委員の関係で正確に申し上げますと,公益認定を取り消したいという場合は申請してもらって,これは処分を行います。ただ,それは取り消さなければならないとなっておりますので,出てくれば自動的にといいますか,事務処理をするという形になっています。   一方,法人が解散する場合には,解散した後1か月以内に届出をするというような形に,公益法人の場合はなっております。   すみません。先ほどちょっと不正確でしたので。 ○小幡委員 要するに公益目的事業をしていたけれども,その公益法人が,自分からもうやめたいというわけですね。その場合は自分から申請して,やめられるという制度にはなっているというのが公益法人の方なのです。公益信託の方が,その合意で,やめたいというときに,今,税法上は確かに税制優遇を受けるためには合意では駄目ということになっているのですが,もし公益信託の制度に認定というのをかませるとすると,そういうことも言われなくなるということがあり得るかということですが。公益法人とのバランスから考えると,絶対合意が駄目というのも厳しすぎるのではないかという感じがするということです。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。   大体御意見を頂いたと存じます。   1については,甲案に賛成される御意見はなかったように伺いました。乙案に基本的には賛成だという御意見が比較的多くあったわけですが,ただ,その場合でも第三者機関が行政庁なのか,それとも裁判所なのか,あるいはその第三者機関の関与の仕方,更に終了命令との関係について様々な御意見を頂きました。   更に,丙1案として小野委員のおっしゃったような私的自治を押し進めるという考え方と,丙2案として平川委員のおっしゃいました運営委員会を組み込むという御意見等を頂きました。   2につきましては,甲案行政庁,乙案裁判所,これはそれぞれ両論,御意見を頂きました。   (2)の委託者の権能につきましては,どの程度の役割を与えるのかについて幾つかの御意見があったと思います。   認定取消しとの関係については,そもそも認定義務違反の場合にどのような帰結になるのかということと,それから認定取消しになるとして,認定取消しと終了命令との関係を整理すべきであるということの御指摘を頂いたと思います。   大きくいうと,更に,私的自治と公益を認定するという仕組みの中で,公益の維持というのをどうするのかということ,それから公益信託と公益法人との異同を分析することという御指摘を頂いたかと存じます。   以上のような本日の御議論を踏まえまして,更に検討していただくということになろうかと存じます。   ほかに,この1,2について御意見はございませんでしょうか。   それでは,ここで一旦休憩を挟みたいと存じます。後ろの時計で38分まで休憩し,38分に再開いたします。           (休     憩) ○中田部会長 それでは,再開したいと思います。   続きまして,「残余財産の帰属」に関する3について,御意見をお願いいたします。 ○深山委員 残余財産の帰属のうち,まず(1)については提案に賛成いたします。その上で,定めの内容についての(2)ですけれども,乙案を支持したいと思います。   ここは,残余財産の帰属という,最後の終わった後の処理という形で論点が整理されていますけれども,もちろんそういう面はあるのですが,そもそも公益信託について一定の期間,それが確定的な期間であれ不確定な期間であれ,一定の期間を限定して公益信託を設定するということを認め,そのしかるべく定められた期間が終了した段階で,委託者の下に財産が戻るということを認めるかどうかということが大きな論点と理解しています。   私はそういう信託があっても構わないし,そういうニーズに応える必要があるだろうと思います。これは先ほどの議論にも影響する公益信託観といいますか,信託をどういう制度として理解するかということに最終的にはつながるのだと思うのですが,従来の一つの主流の考え方というのは,公益財産に拠出したものは,もう永久にその公益財産たる性質を変えないで,委託者の手を離れた公共の財産になるのだと。したがって,委託者が手放した後に運営等に関与することも認めるべきではないし,ましてや,後から委託者の手元に戻るということは考えられないのだという考え方が一つあったのだろうと思います。   正に公共のために手放した財産という位置付けで制度を考えるという,そういう公益信託像,公益信託観というものがベースにあって,それは少なからず支持がなされていたのかもしれませんけれども,私は今回,抜本的な制度の見直しをするに当たって,そのようなものでなければならないと考える必要はないだろうと認識しています。もちろんそういう信託があっても構わないわけですけれども,そうではなくて,もう少しニーズを広く拾い上げる意味で,期間限定の信託というものも認めていいだろうと思います。   そういう意味で,遡ればそういう制度設計の根本的な考え方に関わる問題だと思いますが,一度手放した財産が二度と戻ることはないという考え方を採る必要は必ずしもないという意味で,乙案を支持したいと思います。   (3)のところは,ここは乙案の国庫に帰属するということを支持したいと考えます。 ○中田部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○平川委員 3の(1)については,法務省案に賛成いたします。   そして(2)の1の定めの内容としましては,甲案に賛成します。   (3)については,乙案に賛成いたします。   (2)の理由としましては,今ある公益信託においても,既に各主務官庁の行政指導及び税法上も私人への残余財産帰属は認めておりませんし,また,実際の公益信託設定事例においても私人帰属を規定する信託条項は皆無と認識しております。このような状況において,新公益信託においても,私人帰属を認め得る考え方である乙案を採ることは難しいのではないかと考えます。ただし,帰属権利者の対象は公益信託だけでなく,広く公益認定法第5条17号並みに拡大すべきであると考えます。   公益認定法においては,公益法人の残余財産を類似の公益信託に帰属させることを認めていませんけれども,公益信託法の本改正に伴っては,公益信託法を改正して相互的に,リシプロカルにすべきであると考えます。   私人への帰属について,日本においても英米におけるチャリタブル・リード・トラスト的なものを普及させていくべきであるとは考えますけれども,米国においてもこれと公益信託は別物の扱いとなっていると認識しておりまして,米国においてはチャリタブル・リード・トラストやチャリタブル・リメインダー・トラストは,日本の公益信託法に相当するインターナル・レベニュー・コード501条C3項のチャリティーとは直接関係がなく,税法上,一定の優遇措置を別の税法の規定で優遇していると理解しております。   (3)につきましては,公のために支出された財産が受託者に帰属するということは想定できないものでして,当然,国庫に帰属すべきものと考えます。 ○中田部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○林幹事 弁護士会の議論としては,3(1)については賛成で,飛びまして(3)については,乙案で国庫帰属というので一致していました。   特に(3)につきましては,清算受託者に帰属するとなると,清算受託者に利益を取らせる必要もないし,また負担の多い資産を押し付けることになるかもしれないので,両面において乙案ということでした。   問題は(2)の方ですが,これは甲案,乙案両方あったところですが,私自身としては,先ほど御指摘もあったとおり,今のところはまだ公益信託像が確定していないところですが,より広く利用される方にと考えたときは乙案の方がよいのではないかと思います。まだ今のところは甲乙を維持してパブコメに付すべきだとは思っています。   あと,細かいところですが,類似の目的については,御指摘もありましたが,引き続きなくてもいいのではないかという意見もありました。また,定めの内容で,国又は地方公共団体というところもあるのですが,これは必ずしも要らないのではないのかという意見もありました。 ○吉谷委員 (1)につきましては,提案に賛成いたします。   (2)につきましては,甲案に賛成です。乙案は,公益信託財産の一部が私人に帰属するということですので,これは私益信託であると思われます。このようなものを公益信託とする必要はなく,私的自治ということであれば,私益信託で御対応いただければよろしいのではないかと思います。   また,特に税制上の措置を獲得するという観点からも,乙案のようなものまで公益といってしまうのは余り適当ではないと考えます。 ○神作幹事 私も3の(1)には賛成で,(2)については甲案を支持いたします。   その理由は,もちろん理論的には乙案のような考え方もあり得るとは思いますけれども,しかし,公益信託に拠出された財産についてはプライベートの領域に戻ることがないことを確保しておくことは,公益信託に対する信頼性を確保する上で非常に重要な前提であると思います。   特に,現在は余り日本では活発に行われているとは言えないかもしれませんけれども,将来的に寄附が行われるというようなことを考えると,寄附したものが私的な領域に戻るということは,公益信託制度としては考えられないのではないかと思います。   もし,乙案の①のような考え方を認めるとすると,非常に複雑な利益相反関係が惹起されますので,現在考えているガバナンスの議論では足りない,重装備の制度を設計し運用していく必要があると考えます。したがって,(2)は,私も乙案というのは採り得ないのではないかと思います。   (3)は,乙案を支持します。これまでの委員の方の御発言のとおり,私も乙案を支持いたします。 ○能見委員 税務当局の賛同が得られるかといった実現性の有無はともかくとして,基本的な考え方としては,私は深山委員の考え方に近い考え方をしており,3の(2)の中のどちらかを選択するのであれば,乙案になるかと思います。   乙案のもとでは,今,神作幹事が言われましたように,寄附などの扱い方が問題になるということですけれども,寄附のうち,信託設立時の信託財産とするための寄附については,委託者以外に拠出者ないし寄附者がいる場合でも,これら寄附者の間でいろいろな話合いをして合意をした結果,こういうふうにしようということで帰属権利者の定めをするわけですから,そこは問題ないと思います。また,公益信託が設立された後から加わってくる寄附についても,乙案の②のような処理をするということであれば,寄附者の期待を害することにはならないのではないかと思います。   それから,(3)の甲案,乙案なのですが,このどっちかということであれば乙案なのですけれども,私は,個人的には国庫ではなく地方自治体に帰属するというのがよいのではないかと思っています。こういう場合の帰属をどこにするかについては,民法の相続人不存在の場合の国庫帰属の原則との調整が必要なのですけれども,自治体に帰属するというような考え方もあり得るのではないかと思っています。活動範囲が1つの自治体の範囲に限られるような信託については自治体,それ以外のものについては国庫,そういうことも考えられるかもしれません。ただ,これは民法の相続人不存在のところの規定で相続財産は国庫に帰属することになっていますので,公益信託の残余財産の帰属のところだけ地方自治体とすると民法との不整合といいますか,それと違う考え方を採ることになりますので,信託法だけでこういう考え方を採用することができるかどうか分かりません。ただ,こういう考え方もあるということだけメンションしておきたいと思います。 ○沖野幹事 残余財産の帰属の,特に(1)と(3)なのですけれども,(2)において乙案のような考え方を採った場合には,①の点で帰属先を決めるということが必須になってくるのですけれども,そうでない考え方によりますと,(1)で指定に関する定めを置かなければならないものとされるのは,前提としては残余財産は,①の目的をどうするかという問題はあるにせよ,公益信託や公益法人,あるいは国若しくは地方公共団体のいずれかに帰属させるという中で,具体的にどこにするのかという点をあらかじめ決めておく,その具体性の程度はあるにせよ,という意味になるように思われます。   そうしたときに,具体的に決めておくことで,残余財産の帰属についての関係が明確になりますし,事務処理としてもやりやすいとか,終了の後処理も迅速にできるといったことがあるのですけれども,これはどのくらいの定めが許容されるのかということで,例えば類似の目的を有する他の公益信託若しくは公益法人というような定めでもよろしいのか,それともここはかなり特定した○○大学とかということになるのかという点でして,少し気になっておりますのは,これが仮に極めて具体的な特定の仕方をされた場合には,そこが拒否をし,帰属権利者として権利を放棄するということになりますと,財産としては十分価値もあり,類似の目的にも使えるという中で,そのためのほかのところに何とかできないかというような方法は,この後に出てくる4をどうするかという問題もありますけれども,直ちに(3)のところに行って国庫なり誰かなりに帰属するということでよろしいのか,それともその間に,極めて具体的であるならば,ほかに類似の目的のどこかに渡すようなことができないか。その中には,あるいは自治体ということも出てくるのかもしれませんが,そういう要素は一つ入らなくていいのだろうかというのが1点目です。   もう1点は,逆に先ほどの古民家の例なのですけれども,古民家は社会経済的に維持する意義も疑わしく,かつ経済的にも全くペイしない状態になっている。そういう財産は,押し付けられても困るという場合もあるわけで,特に,もしも最終的な帰属というものが,極力類似のものとして活かしていけないか,公益活動のために活かしていけないかというのを,具体的な目的との関係で努力したけれども,どこも駄目だったという場合は,どこもそういうものを引き受けなかった,要らないと言われた財産ということになるわけです。それは,もう国庫に任せてしまえばいいのだということでいいのか。とりわけこの帰属,最終的な帰属を考えるときの財産というのが,誰が取得すべきなのかという望ましい財産であって,そういうものを誰が得ていいのかと,一旦,公益に拠出したからにはということになるのか,それとも,言わば忌避される財産であって,誰が責任を負うべき財産なのかという両方の可能性や観点が出てくるように思われて,そこに至るルートは両方あり得ると思うのですけれども,この帰属権利者の決め方と,その決め方が非常に特定していて,そこから拒絶された場合には直ちに最後の放棄された残余財産の帰属に行ってしまうのかということとも関連しているように思われるのです。   それで,責任を負うべきという言い方は適切ではないのかもしれませんけれども,責任を負うべきということになれば,一方では最初に拠出した委託者というようなことも間に入ってくる可能性もあるように思うのですね。ですから,どういうルートを考えて,最終的な財産がどのような財産と想定するのかというイメージによっては,大分考え方が違ってくるのではないかと思われるのですけれども,どういうことがこれの前提としては想定されているのでしょうか。 ○中辻幹事 事務局としては,抽象的なのかもしれませんけれども,「当該公益信託と類似の目的を有する他の公益信託」のような文言が公益信託の契約書の中に記載されている場合を想定しておりました。   そうではなくて,個別具体の公益信託が契約書の中で帰属先として挙げられる可能性もあるとは思いますが,そうしてしまうと,沖野幹事の御指摘のとおり,特定の帰属先に断られてしまったら,直ちに清算受託者ないし国庫に帰属するのかという問題が生じてきますので,どちらかと言えば抽象的な文言の方が望ましいようにも感じます。   2点目,残余財産の最終的な帰属先についてですが,私どもとしては,例えば民法239条で無主物の不動産は国庫に帰属するとされておりますが,公益信託の残余財産となった不動産が無主物と言えるのかといえば,元々は委託者の資産ですのでそうではない。そうすると,信託法の原則のとおり清算受託者,すなわち受託者に帰属させるという選択肢が出てくるということを想定しておりました。沖野幹事御指摘のように,最初に拠出した委託者に戻るという選択肢も論理的にはあり得ると思います。 ○中田部会長 (2)の方はどうですか。マイナスの財産というか。 ○中辻幹事 そうですね。プラスの残余財産について誰も引受け手が現れないということは余り想定できないと思っています。他方で,誰にとっても使い道がなく,しかも公益性も失われてしまったような不動産であれば,単に皆に断られたからといって誰かに行くべき性質のものとも言えませんので,最後に残るマイナスの財産もイメージして御議論いただいた方がよいのかなと思います。 ○沖野幹事 状況は分かりました。私もこの最後の帰属権利者の一番最後の(3)というのが,望まれる財産が残るというよりは,処理できない財産が残るという場合ではないかと考えられまして,何か議論のイメージが,あるいは逆の方向のイメージで受託者にそういうものを得させていいのかといった話ですとか,委託者にそんな戻してもいいのかという話になっているようにも思われました。   もちろん林幹事がおっしゃったように,負担の部分に着目して,受託者にそういう負担を負わせるべきではないということも言われたわけなのですが,ただ,信託法一般は受託者が最後の帰属先となっておりますので,それとの関連ということもあるかと思われて,更には帰属権利者として国が指定されて,国が拒絶したときに,しかしやはり国に行くというようなことにもなるわけなのでしょうけれども,それで本当にいいのだろうかというのは,やはり気になっているところではあります。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ○道垣内委員 沖野幹事のおっしゃったことは非常によく分かるのですが,私はこの提案を読んで,具体的な法人名,具体的な公益信託名が記載されているということを頭の中に描いていました。   というのは,そうしないと,清算受託者の裁量権限が重くなりすぎるというか,大変だろうと思うのですね。どこまでが類似の目的の信託なのかの判断は大変です。そうすると,清算受託者において,例えばこういうところにトライしてみて断られたら,もはやもういいですということの定めを置くということが認められなければならないのではないかと思います。しかし,私も十分に勉強しておりませんけれども,清算受託者の権限について,そういう細かな規定が置かれるというのは,必ずしも前提になっていないのではないかという気がするわけです。そうなりますと,それだけの裁量権限を与えて,なるべく努力しなさいというのには無理がある。   ただ,これは公益法人に関連する法律の解釈・運用というのがどういうふうになされているのかということと密接に関係いたしますので,それとのバランスが必要なのではないかという気がいたします。 ○能見委員 沖野幹事から,(3)の残余財産としてどんなものをイメージするかという発言がありました。マイナス財産みたいのは一番問題になると思いますけれども,マイナスというのは余り正確ではないと思いますが,恐らく一定の価値はある。例えば建物なんかにしても,それ相当の価値があるけれども,それを維持していくためには,これから相当な費用が掛かることが予想される。そういうような財産が,ここでは問題になるのではないかと思います。   それは建物であるとか,あるいは場合によっては絵画のようなものであっても,これをきちんと保存して管理していくためには大変な費用が掛かるというので,その帰属権利者として指定された者がそれはとてもできませんというような場面が一番問題になるのだろうと思います。もちろんいろいろな場合がありますので,どんな場合を想定したらいいかと余り単純に範囲を狭めるわけにいかないと思いますけれども,今のような場合が一番問題となるかと思います。   実は,先ほど私が最終的な帰属先として自治体というのを提案したのは,建物みたいな場合を考えておりまして,地方の民家などは,その地方にとってはそれなりの価値があり,人々の関心も高い。従って,地方自治体としては費用が掛かっても維持したいと考える可能性がある。しかし,国は全然関心がないということも相当あるのではないかと思いました。しかしながら,これら財産の存在する自治体であれば,自治体といっても,県,市町村など,いろいろな単位があるかもしれませんが,いずれにせよそういうところであれば,これら財産を有効に保存して活用していくということも考えられると思います。民法の原則と整合的でないと採用しにくい案かもしれませんけれども,以上のようなことも考えて,自治体というのはどうかという意見を述べたわけでございます。   それから,話はまた更に脱線しますけれども,現在,国レベルで所有者が分からない不動産をどうするかという議論をしていると思いますけれども,それをどうするかということについていろいろな議論があるところですけれども,この所有者が分からない不動産の中には,本当は所有権放棄が簡単に認められれば,所有者不明でさまようことが避けられる場合もあると思いますが,不動産所有権の放棄が簡単に認められないために,所有者はどこかにいるけれども誰であるか分からないという不動産が出てくることになります。   こういう不動産についても,放棄を認めて,国ではなく,自治体に帰属させれば,自治体であれば引き取ってもいいという場合があるかもしれない。そんなことで,話を元に戻しますと,財産をできるだけ有効活用するという観点からすると,3の(3)の点について,自治体に帰属するという選択肢があるとよいと思います。先ほど述べたことの補足です。 ○樋口委員 少なくとも2点申し上げます。   今の地方自治体の話なのですね。地方自治体の話は,そういうことは十分あり得るのではないかと私も思っていて,民法が全てを支配しているわけではないというのが一つと,そんなふうに民法学者を敵にする必要もないのですけれども,少なくともここでは,前に私が覚えているところでは,つまり認定機関というのがどこかの,つまり公益信託認定委員会というのが中央に一つだけあって,それでおしまいではなかったですよね。都道府県単位で作るという話になっているのなら,それは本当に別個の手続なので,こういうときに,終了時にその認定した地方自治体が何らかの関心を持ってということはあっていいような気がするのですね。だから民法の原則に余りこだわらなくていいのかなというのが,これは能見委員の応援のつもりで言っているのですが,1点。   二つ目は,これは言うまでもないのですけれども,今,終了から始めているのですけれども,次の類似目的の公益信託としての継続の方がまずやはり話としてあって,どうもこれでうまくいかないという場合に終了。実際には今,重なっているところを議論しているのですね。類似の目的のためにという話と。   だから,話としてはやはり公益信託については簡単に終了,先ほど公益法人やなんかとどう違わせてというところで悩んでいるところの一つなのですけれども,向こうは簡単に終了できる。何で公益信託の場合は終了できないのかと言われると,なかなかという感じがするのですけれども,やはり公益信託の方は継続を考える。4を先に考えて,その後で終了,帰属,権利者みたいな話を考える方がやはり順番としては正しいような,正しいか正しくないかよりは適切ぐらいの話だと思いますが,と感じます。   三つ目の沖野幹事がおっしゃったそのマイナスのというのはやはり難問で,これはそれこそ民法の先生の方が十分御存じで,所有者がいなくなった財産で,本当に引受け手がなくて,例えば自治体であれ国であれ,かえって困るというものが相当に出てきているようで,これは公益信託の財産であるという,不動産であれ何であれというのは,その大きな場面のごく一部なのだと思うのですけれども,やはりここでも考えておかないといけないようなことで,単に国庫に帰属だけでいいのかなという感じは私もいたします。 ○中田部会長 ありがとうございました。ほかは。 ○樋口委員 それは,つまりプラスとマイナスをはっきり区別して議論すべきことだと思います。 ○中田部会長 沖野幹事の御提示くださいました問題について,分けて考えるべきだということだと思います。 ○深山委員 いろいろ論点があるのですが,帰属については,先ほど(3)のところで,最終的に乙案を支持すると言いましたけれども,それ以外に地方公共団体というのもあるのではないかというのも,なるほどなと思いました。   申し上げたかったのは,(2)のところについて,先ほど私の意見は申し上げましたけれども,その後の意見を聞いて感じたところとして,一つは,樋口委員が御指摘になった,信託の継続ということにも関係する点をまず申し上げると,委託者がなるべくこういう公益に供して末永く使ってほしいという考えであれば,その意思は尊重されてしかるべきだと思います。   しかし,先ほど私が例に出したように,一定の期間,公益信託に供したいと,その期間限定を元々の設定者である委託者が望む場合であれば,それはそういう意思も尊重してしかるべきだと私は考えます。そういう意味で,期間限定で委託者に戻る信託というのもあっていいと考えます。   先ほどそれに対して神作幹事から乙案を採り得ないというふうに言われ,研究者から理論的に採り得ないと言われると非常にショッキングなのですが,そこで想定しているのは,神作幹事が触れられたような後から寄附するような人であり,そういう人にとってということをおっしゃったと思います。確かにそういう人が拠出したものが委託者のところに行ってしまうというのは問題ではないかと言われれば,それはそういう面があろうかと思います。しかし,まず一つは,乙案も①のほかに②が用意されていて,元々委託者が拠出した財産の帰属の問題と,その後に加わった財産とを区別しているということで一つその問題をクリアしているという面があります。私に言わせると,元々期間限定の公益信託であるということをうたっている公益信託に,つまり,いずれ残った財産が委託者に戻るということを承知でなお寄附する人がいるのであれば,それも認めてもいいような気も私はするのですが,しかし,この乙案は,②を用意して元々の財産と後から加わった財産を区別しているという意味で,その問題を解消しているのだろうと思います。   そもそも,金銭の助成みたいな従来の公益信託をイメージし,第三者が寄附をするとか,あるいは寄附を集めるという場面を想定すると,それがいずれ委託者に行ってしまうのは問題だという発想につながると思うのですが,今回見直そうとしている公益信託というのは,そういう助成型とか寄附を募る型に限らず,例えば不動産を信託会社に供して,生存中,災害に遭った人の仮住まいとして使ってもらうとか,あるいは留学生に使ってもらうとかいう公益信託を設定をして,それが何十年後という縛りでもいいし,自分が亡くなったときという縛りでもいいのですが,一定の期限が来たときには,それは戻してもらって子供たちに相続してもらう,こういう場面を考えると,およそその利害相反が大変なことになって重装備しなければという議論にはならないと思うのです。   ですから,先ほど言いましたように,いろいろな信託があってしかるべきなので,やはりそこはいろいろな可能性を許容する,そういう柔軟な制度設計という意味で,最初から委託者に戻るのは一切なしというふうにして,一度出したら永遠に戻ってこないものでしかあり得ないと考える必要はないだろうというのが私の意見です。   最後にもう1点,税制のことが,どうしてもこの問題の議論として登場し,税制優遇を受けているのだから,あるいは受けるのだからということが問題になりますが,まず一つは,今の税制がそうだということが,この新しい制度後も,必ず同じ制度が維持されるというものでもないだろうと思いますし,それなりに見直しをされてしかるべきだと私は思います。   もちろん見直しをするのは財務省等々ですから,どうなるか分からないという問題はありますが,現在の税制ありきで議論する必要はないし,議論すべきではないというのが私の考えです。   更に言えば,もしかしたら,そういう信託については税制優遇は与えられませんとなることもあるとは思います。少なくとも公益信託の中身によって,税制優遇の内容だったり,その程度が変わってくるということは,それは当然あると思うのです。極論すれば税制優遇ゼロというのもあるかもしれない。税制の問題として,そういうことがあったとしても,実体法の規律として,あるいは公益信託の仕組みとして一切そういうものを認めないということにする必要はなくて,税制優遇は乏しいかもしれないけれども,こういう公益信託を作りたいという人がいたら,それはその意思を尊重してしかるべきではないかというのが私の考えです。 ○中田部会長 10ページの第2パラグラフに,乙案を採用する場合について,新たな問題点の指摘が事務当局の方からされています。これは先ほど神作幹事のおっしゃったこととも共通するところもありますが,やや別のことも入っているのですけれども,これについてもし御意見がございましたら,この機会にお出しいただければと思います。 ○深山委員 単純な寄附だけでなくて,その収益が誰に帰属するかということを問題にしているのかなと思うのですが,最終的には,乙案の①の方に分類される財産か②になるのかという当てはめというか,その判断になるのだと思います。抽象的に言えば,元々の財産の果実みたいなものは元々の財産の方に帰属するという考え方にもなるのかなと思うし,そこは状況次第というか,その中身次第で個別に判断することになると思うので,そういうことを踏まえても,先ほどのような考えをしているということでございます。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ○吉谷委員 いろいろ御意見を聞いておりまして,意見としては,余り複雑な制度にどんどんしていくのはよろしくなかろうと思うところです。   最終的に国に行くのか地方公共団体に行くのかというようなこともございますけれども,公益認定を受けるところで,残余財産の帰属権利者として,1番目に公益法人どこそこというのを指定して,そこが要りませんと言った場合には国に行きます,あるいは地方公共団体の方で認可いただけるのであれば地方公共団体に行きますというふうに信託行為に書いておけば,それで解決するのではないかと考えておりまして,それを法律で細かくどんどん定めていくということを追求していくことの実益は余りないのではないかと考えます。   そしてまた,乙案につきましては,先ほどの繰り返しではありますけれども,余りこれも複雑な制度にするのはよろしくなくて,更に,先ほど部会長から信託財産の価格の変動等の問題について提起されましたけれども,私はこの乙案というのは,これは設定時のものが元に戻りますよというだけではなくて,後から加わった寄附等による財産を基にして最初の不動産なりというものが維持されて,それが戻るということになりますので,これは私人のために寄附を集めているというに等しいような内容になってしまうのではないかと思います。   それで,税の手当がなくてもいいのではないかというふうな御意見もあり,そこは全く意見が対立するところではありますけれども,公益と公益ではないものというのをシンプルに分けるということが,公益信託というもののブランド的な価値というのを維持するためにも,非常に有効なのではないかと考えております。 ○新井委員 まず,全般としましては,(1)については賛成,(2)については甲案に賛成,それから(3)については乙案に賛成ということを申し上げた上で,気になりましたのは沖野幹事の発言です。   つまり古民家のような,マイナスの財産になった場合のその帰属,処理をどうするのかという問題についてちょっと気になりましたので,私の考え方を申し上げていろいろ御意見を伺えればと思います。   古民家のようなものに限らず,当初不動産の運営がうまくいくと予想して信託をスタートしたけれども,うまくいかなかった例というのは,御存じのように判例にあった兵庫県の青野運動公苑のような事件でもあるわけですね。   あの場合は自益信託でしたので,損失分を信託銀行である受託者が固有財産から補填しておいて,求償の問題になったということで,その委託者又は受益者に求償するか,信託財産に求償するかという問題になったのだろうと思います。   ですから,当初うまくいくと思っても,そういうような結果になることがあるとすれば,古民家のような非常にリスクのあるものについては,そもそも受託者は受託しない,というのが受託者のスタンスではないでしょうか。   なぜならば公益信託には,受益者がいないとされているわけですから,受益者に求償できない。それから委託者も舞台から去るわけですから委託者にも求償できない。そして,信託財産もマイナスだということで,非常に動きが取れない状況となります。そういうことをシミュレーションして,多分受託するかどうかを決めるのだと思うのです。ですから,一般的な受託者の義務を受託者がどう判断するかという問題で仕切ればいいのであって,マイナスの財産になるものをどのように最終的に帰属させるかということと一応分けて考えた方がいいのではないかと少し考えたのですけれども,もし沖野幹事の方で御意見があれば,お伺いしたいと思います。 ○沖野幹事 ありがとうございます。事前に受託者がそれを計算して,受託者の行動として決定をすべきだというお考えだとすると,むしろ(3)では甲案にした方が,最後は自分に来る以上は,それをあらかじめ考えてということを生じやすいようにも思われ,そうでなければ,最後は全部国庫に任せてしまえばいいのだということにもなりそうに伺ったのですけれども。そうすると,そこが新井委員の結論として逆になるのかなというふうにも伺ったのですけれども。 ○新井委員 (3)の甲案はないと思います。 ○沖野幹事 そうですか。 ○中田部会長 新井委員の御発言は,受託者にはリスクのあるものは受託しない義務がある,それに反して受託した以上は,最終的な責任を持つべきことにならないだろうかという御指摘かと伺いましたけれども。 ○新井委員 恐らく受託した以上はそうなるので,一般論としては受託しない方向に行くのではないかと私としては考えました。 ○吉谷委員 以前,神田委員が公益信託で借入れができるのかということをおっしゃっていたと思うのですけれども,先ほどの残余財産がプラスかマイナスかということにつきましては,借入れなどがあって,清算して,その結果,土地建物を売って,借入れが返せなくてマイナスだということであれば,それは受託者が負担するという,受託者のリスクということであろうと思っておりまして,先ほどから話題になっていますのは,別に債務とかで清算する必要がなくて,でも維持するためには経費が掛かりますと,古民家として維持することには経費が掛かるということだと思います。   ですので,先ほど私が申し上げましたのは,例えば地方公共団体が認可しますということであれば,最終的には地方公共団体の古民家になるというリスクを承知の上で,認定なり認可なりを地方公共団体がされるのだと理解いたします。ですので,これも監督されるわけですから,本当に不要な価値のなさそうな古民家などというのは公益認定されないだろうと。その上で,事情が変更してしまった場合には,それは国なり地方公共団体のものになるということで仕方ないのではないかと思います。   ですので,元々その想定として,この残余財産が最終的に誰に帰属するかというこの(3)につきましては,やはり何らかのプラスの価値があるということが前提になっている。ですので,清算受託者に帰属しないという観点で,私どもも従来から国庫に帰属することで結構ですと申し上げておりますので,マイナスの価値の資産というものの意味合いがちょっと,どういうふうに考えるべきなのかということについては,私の考えは今話したようなものというわけです。 ○中田部会長 ありがとうございました。   確かにマイナスの財産というと少し多義的な感じがいたしますが,必ずしも債務ということではなくて,資産ではあるのだけれども,維持管理に負担が多く掛かり,結果としては赤字になってしまうような財産を意味しているのだろうと伺っておりました。   それについて一般的なといいますか,プラスの財産と今のように負担の大きい財産とを区別して検討すべきではないかという辺りに多分なっているのだろうと思います。 ○道垣内委員 話を更に混乱させるようで大変申し訳ないのですが,古民家の事例がずっと挙がっているのですが,それは余り現実性がなくて,より現実的な問題としては,不動産で産業廃棄物が地下に存在する例は幾らでもあるのですね。9億円の土地が産業廃棄物を掘り出すのに8億円掛かるということならば,まだ1億円で売れるのですけれども,それは逆のときもあるのですよね。その土地のその面積からすると5億円ぐらいの市場価格であるが,産業廃棄物を取り出すのに6億円掛かるという場合も実際に存在するわけです。そのときに受託者って,掘り出さなければいけないのか,それとも埋めたままで国庫に引き渡せばいいのかというのは,これはよく分からない感じがします。古民家だって,皆さん古民家の保存に熱心なようですが,誰も行かない,維持にべらぼうにお金が掛かるというのだったら壊せばよいと思いますが,そうだとしても,壊すにはお金が掛かるわけですよね。しかるに,受託者は壊さなければいけないのだろうか。土地の値段がないようにするために地上権付き古民家を考えると一番分かりやすいと思うのですが,最後はどうすればいいのかというのを決めないと,マイナスの財産,プラスの財産というふうに言うと何となく整理できた気がしますが,現実的に考えると訳が分からない問題が多々あるような気がいたします。 ○渕幹事 新井委員と沖野幹事のやり取りを伺っておりまして,財産の価値がプラスかマイナスかという問題ももちろんあるのですけれども,最初の時点で受託者にモラル・ハザードが起きないような制度設計をする必要がある,そういうことなのかなと思った次第です。 ○林幹事 マイナスの財産というのを私も前回のときも意識していたのですけれども,それは要するに誰も引き受けたがらない財産というものなのかと思われるのが1点です。誰も引き受けたがらないというのは何かというのもあるかもしれないのですけれども,そういうことなのかと思いました。 ○小野委員 議論の前提なのですけれども,終了する前に認定を取り消されたときは,もはや公益信託ではなくなっているのですけれども,その後,それが何なのかという議論はあるかもしれません。終了後に清算手続に入ると思うのですが,もはや公益信託ではないのでどう考えるのか,それともそれでも過去を引きずってという議論なのか。これまでの助成型で信託銀行が受託者となる場合は信託財産が明らかなのでそれは別として,個人が受託者になったりする事業型の場合,ここから先は国庫ですとかの線引きが不明であったり,何かいろいろな状況がある中で,特定の古民家だとか,不動産の価値が上がっている場合とか特定の状況を捉えて何か議論するとやはり見えにくくなるのではないかと思って,結論としては,深山委員が述べたように,原則として自由ではないかと。本来,信託なのだから,信託として扱えばいいのであってというところを出発点とすればよろしいかと思います。   あと,利益相反うんぬんと議論もありましたけれども,元々信託行為で定める話なので,信託行為で定めたときに,それがよからぬ信託行為であれば,そもそも認定のところで適切に認定が得られないというような仕組みであることを前提とすれば,認定もされて,それでも駄目ですと,場合によっては廃棄物です,場合によっては価値がある,場合によってはどっちか分からないみたいな,場合によっては固有財産と全然区別が付かないみたいなときに,無理に引き剝がすというような議論までする必要はないような気がいたしました。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ○林幹事 もう1点だけ。国庫帰属の点なのですけれども,実務的にどうかというのがあって,私自身は,それほど事案を担当したことがないので分からない面もあるのですが,相続財産管理の場合で,プラスの資産があって,最終的に,国庫帰属させようとする場合に,なかなか国庫が受けてくれないことがあるようです。金銭に換えていると受けてくれるのだけれども,そうでないと国は余り受けたがらないというような実務があるように聞いたことがあるので申し上げます。 ○明渡関係官 公益法人の場合の残余財産の帰属についての御質問がありました。   実際,定款においてどのように規定するかというふうなことにおいては,例えば認定法5条17号に掲げるものとのみ定めることでも可というような運用になっております。現実にどれくらいの法人が,個別の法人を定款で指定しているのかというのは,データを取ったことがないのでそこは分かりませんけれども,例えば公益認定を取り消したときに贈与する先,これも同じような規定になっておりますが,通常それは取り消された後に,この法人に贈与するというふうな話が出てきますので,恐らく個別の法人をあらかじめ定款の中では定めていないことの方が多いのではないかと思います。 ○中田部会長 ありがとうございました。   大体よろしいでしょうか。   (1)については,この指定に関する定めを置かなければならないということは御異論がなかったと思います。   (2)については,甲案と乙案とそれぞれ支持される方がいらっしゃいました。論点も,もう既に出ていることかと存じます。   (3)については,国庫に帰属ということを基本的に支持するという方が大多数であったと思いますが,更に新たな論点として,国だけではなくて地方自治体も対象とし得るのではないかということと,それから,負担の大きい財産については区別して検討すべき必要があるのではないか,こんな御指摘を頂いたかと存じます。   これらについて更に検討をして,また新たな案を御覧いただくことになろうかと存じます。   よろしければ,次に。 ○山本委員 少し発言させていただいてよいでしょうか。(3)で,乙案により国庫に帰属するものとすることになるとした場合について,先ほどの議論の中で出てきた問題なのですけれども,例えば古民家の例でも何でもよいのですけれども,実際にそれを持続的に維持していこうとするとコストが掛かる。その元の所有者,つまり委託者が一人では到底担えないと考えて,それを打開する道として,例えば広く寄附を集めるために,公益信託という形でお金を集めて,何とか維持することを図ろうとしたけれども,それが結局うまくいかない場合には国庫に帰属するとしますと,要するに,潰すか税金で維持するかどちらかだという選択になっていくことになります。そのような見通しの下で,先ほどの問題なのですけれども,持続可能性を考慮して,特に最後には税金で負担することも考慮して考えると,やはり公益信託として認定できないというようなことが起こるのではないかという指摘がありました。これは,認定基準として,そのような考慮が入ってくるということなのでしょうか。そこを少し確認させていただきたいのですが,よろしいでしょうか。 ○中田部会長 この御発言は小野委員でしたでしょうか。 ○山本委員 事務局でもいいですが。 ○小野委員 そうですね,総合的に恐らく判断するのではないかと思うのですけれども,公益だけ崇高な目的が書いてあって,信託契約,信託行為を見ると,前に善管注意義務の任意規定かどうかという議論もありましたけれども,善管注意義務はないわ,随分,自分勝手なことを書いてあるということになれば,それがどういう要件でどこで引っ掛かるかというところまではすぐには答えられませんけれども,やはり広く見たときに,その公益性においてやや問題ありということになるのかと思います。ちょっとそんなイメージでおりました。 ○山本委員 公益性から見てという表現で捉えられているのかどうか,疑問の余地がありますけれども,御意見としては理解しました。事務局の方から特にないということでしょうか。 ○中辻幹事 御指名ですのでお答えします。   事務局としては,認定行政庁は,公益信託の受託者が委託者から拠出された信託財産を用いて予定されている公益信託事務を遂行する見込みがあるかないかという点について判断することを想定しておりました。   ですので,山本委員がおっしゃられたような最終的な帰属先に関連する税金面の問題意識まで含めて認定行政庁が認定の可否を判断するということは想定していなかったというのが率直な答えです。そこまで認定行政庁の判断要素とすることが適切なのか否か,私は今,確たる解答を持ち合わせておりませんが,御指摘を踏まえて検討させていただきます。 ○吉谷委員 私はてっきりそこまで考えて,複数年の計画において成り立つのだということの検証までされた上で,公益認定がされるのだと考えておりました。 ○樋口委員 たまたま私が知っていることですけれども,医療法人,東京都の医療法人部会という委員会に出ているのですね。そうすると認定基準の中に,新規のものは2年間の経営計画で,これで一応安定できているはずだという,そういうものが出てきます。更に言うと,これは皆さん御存じかもしれませんが,医療法人法の改正があって,帰属の相手先は,残余財産の帰属先は今まで個人でよかったのですけれども,それはいかんということになり,国,地方公共団体,公的医療機関の開設者,他の医療法人,医師会に限定されるということに,今なっています。 ○中田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,この点については更に検討するということにしまして,続きまして,「4 類似目的の公益信託としての継続」,「5 公益信託の変更命令」について事務当局から説明をしていただきます。 ○舘野関係官 それでは,御説明いたします。   まず,「4 類似目的の公益信託としての継続」について御説明いたします。   本文では,甲案として,公益信託法第9条を削除するものとする。乙案として,公益信託法第9条を改正し,信託の目的の達成又は不達成の場合において,信託財産があるときは,行政庁は,受託者の申立てにより,その信託の本旨に従い,類似の目的のために公益信託を継続させることができるものとするとの提案をしています。   本文の甲案は,公益信託法第9条を削除するとした部会資料37の第2の2の乙案と同一であり,その内容及び理由に変更はありません。   本文の乙案は,今回,新たに提案するものです。   部会資料11ページの5に記載したような,新薬の研究開発を行う研究者への助成を行う公益信託について,日本よりも先にアメリカで新薬Aが開発された場合に,当該信託が終了し信託の清算が行われることは,公益目的のために信託財産を拠出した委託者の具体的な意思に反するという見方もあり得ます。   そして,そのような場合には類似する新薬A’の研究開発を助成する公益信託として継続させることが委託者の意思の尊重や公益への寄与の観点から相当と言えるケースもあることが想定されます。   そうすると,公益信託法第9条を改正し,信託の目的を達成した場合又は信託の目的を達成することができなくなった場合において,信託財産があるときは,行政庁は,受託者の申立てにより,その信託の本旨に従い,類似の目的のために公益信託を継続させることができるものとする考え方があり得ることから,これを乙案として提案しています。   次に,「5 公益信託の変更命令」について御説明いたします。   本文では(1)公益信託法第5条は削除するものとすることでどうか。   (2)公益信託についても信託法第150条を適用することとし,同条に基づく変更命令の権限は甲案として行政庁が有するものとする。乙案として裁判所が有するものとする。   (3)。(2)の変更命令の申立権者は,委託者,受託者又は信託管理人とする。ただし,委託者については,信託行為において申立権を有しない旨を定めることができるものとすることでどうかとの提案をしています。   本文(1)の提案は,公益信託法第5条を廃止又は改正するとする部会資料37の第3の1,柱書き第1文の提案と同様であり,その内容及び理由に変更はありません。   また,本文(2)前段の提案も,公益信託についても信託法第150条を適用するとする部会資料37の第3の1の柱書き第2文の提案と同一であり,その内容及び理由に変更はありません。   なお,本論点の検討に当たっては,信託法第150条では,信託の目的の変更を裁判所が命ずることはできないと考えられている点に留意する必要があります。   なお,本文(2)後段の提案の甲案を採用し,行政庁が公益信託の変更命令を行うこととした場合には,行政庁が変更後の公益信託が認定基準に適合しているか否かも併せて判断することができます。   これに対し,本文(2)後段の乙案を採用し,裁判所が変更命令を行うこととした場合には,裁判所が認定基準に違反するような公益信託への変更命令を行うことは適切でないため,変更後の公益信託が認定基準に適合しているか否かの判断を行うための知見や資料を行政庁から入手できるようにするための仕組みを用意することが必要であり,例えば信託法第168条を参考として,裁判所は同法150条に基づく公益信託の変更命令申立てについての裁判をする場合には,行政庁の意見を求めなければならないものとすることが考えられます。   さらに,本文(3)で提案している公益信託の変更命令の申立権者について,部会資料37の第3の1(2)では,委託者の申立権については信託行為による増減が可能であることを前提としつつ,申立権者に委託者を含めない甲案及び申立権者に委託者を含める乙案を提案していました。   しかし,信託行為による増減を可能とするのであれば,現在の信託法上の規律と実質的に相違がないことから,今回の本文(3)では,変更命令の申立権者を委託者,受託者又は信託管理人とするが,委託者については信託行為において変更命令の申立権を有しない旨を定めることができるとの提案に変更しています。   この提案は,受託者及び信託管理人については,信託行為において変更命令の申立権を有しない旨を定めることはできないことを,一応の前提としています。   以上でございます。 ○中田部会長 それでは,まず「4 類似目的の公益信託としての継続」について,御審議をお願いいたします。 ○道垣内委員 4について,結論としては,甲案に賛成なのですが,その賛成の理由を説明したいと思います。   信託法150条というのがあって,信託の変更ができるということなのですが,この点については京都大学の吉政さんの「ジュリスト」の御論文があって,実はこの150条で対応すべきときとは,多くの場合,信託行為の解釈問題ではないかという主張がされているわけです。つまり,例えば国債のみに投資することになっているときに,それは「国債」という意味なのか,それとも「元本割れがない安定した資産」という意味なのかという解釈の問題として考え得る余地が結構あるのではないかという議論です。   4の話というのは,私は正にそういう話ではないか。とりわけ,今,例としてAという難病とA’の難病というのが出ておりますけれども,私は医学の知識がないのでよく分かりませんけれども,AとA’というのが仮に類似しているとするならば,それはAと書いてあったって,A’の新薬の開発にも使えると信託行為を解釈することは十分にできるし,その解釈ができる範囲でなければ,12ページに書いてありますような委託者の意思の尊重という観点から正当化できないのではないかという気がします。委託者の意思の尊重という観点から正当化できるのならば,信託行為を委託者の意思を尊重して解釈すれば足りるのではないかという気がいたします。   とは言いながら,結論として,それほど絶対に甲案でないといけないと思っているわけではありません。ただ,理屈上はそういう問題が4についても5についても隠れているということを指摘しておきたいという話でございます。 ○中田部会長 ありがとうございました。ほかに。 ○樋口委員 4については,もちろん乙案をという趣旨で,それは言わなくても分かるような話だと思いますけれども,今,道垣内委員がおっしゃったのは,一つの筋としては,歴史的には分かるのですね。アメリカでは,やはり委託者の意思というのを尊重するのが信託だという話になっていて,公益信託についても,委託者が例えば何々大学のためにと言ったら何々大学,その大学がなくなって,では,別の大学でいいのかというと,それは絶対駄目だというような話にしていたわけです。   しかし,アメリカ法の傾向ははっきりしていて,リステイトメント等でも,とにかくジェネラル・パブリック・インタレストというのがキーワードかな。本人はとにかくこういうところでという,それをできるだけジェネラルに解釈して公益のために,先ほどどなたかおっしゃった,一旦公益のために供与された財産を無駄にしない。それがたまたまその機関がなくなったり,病気がなくなったりというのであれば,やはりそれに類似した,だから場合によっては,難病AとA’という話ですけれども,難病でなくてもいいわけです,本当はね。広い伝染病みたいな話でもいいわけです。そういう話で存続させようという傾向が明確に見られる。だから,それはそれでいいのですけれども,道垣内委員がおっしゃったのは一つの筋だけれども,アメリカでは過去の議論であるということをちょっと強めに申し上げたのかもしれないけれども。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○能見委員 私も樋口委員とこの問題に関して近い立場を前にも表明したと思いますけれども,乙案に賛成という立場ですが,一つ,確認しなくても明確なのかもしれませんけれども,先ほどの帰属権利者の定め方との関係でいいますと,帰属権利者がどんな形で定められていても,この4の,つまり信託目的の達成又は不達成で終了するときには清算段階に入るわけですが,その段階で受託者としては申立てをすると,このルールが適用されるという理解でよろしいですね。そういうことで,こちらのルールの方が少なくとも受託者の申立てがあれば,これが優先するということになるのだろうと思います。   ちょっとそのときに気になったのは,受託者は裁量権があるのか,つまり申立てをしないのも自由だし,するのも自由だという程度に考えるのか,あるいはもう少し強くこのルールが適用されるとした方がいいという考えを私は持っていますので,申立てをするか否かは受託者の裁量で自由だというよりは,類似目的で存続するという方向性がより強く採れるような,そういう内容のルールにした方がいいのではないかという感じを持っております。そのためにどういうふうに直したらいいかというのは今この場では言えませんが,類似目的で存続することを優先するという基本的な立場があると思います。   それから,委託者の意思の尊重ということでいうと,これは私が何か新しい論拠を付け加えることができるのではなくて,樋口委員の言われたとおりでありまして,委託者の意思が,ある種の特定の公益のためというときに,類似目的とはいえ,当初の目的と少しはずれてくるということがあり得る。それを許容するわけですが,委託者はやはりそれは嫌だという,自分が設定した公益信託は本当に当初の目的のためだけに限定したいというような意思があるのであれば,それが表明されればこの類似目的のルールは適用されないことになろうかと思います。そういうように調整すればいい。委託者の意思としてしてはそこまで強くない。Aという研究でないと駄目だという意思が明確になっていないのであれば,Aという研究のための公益信託が目的達成又は目的達成不能で終了する場合に,できるだけ類似の公益目的のために公益信託を存続するという方向でこのルールを適用することができる,そんなふうに考えたらどうかと思いました。 ○平川委員 私も乙案に賛成します。このシープレ原則は,公益信託の特色を表す象徴的な原則ですので,これをやはり公益信託法の中に残して,原則的な概念的な規定として,飽くまで委託者の公益目的を実現させようとする意図を明確に示した規定として,残しておいていただきたいと思います。やはりこの日本の公益信託制度においても,この規定を欠くということは考えられないと思います。   樋口委員の前の37回の御発言でもありましたけれども,当初は適用条件というのは厳しく決められていたようだけれども,その公益概念において類似というものを少し,より解釈を広げていくという方向性がアメリカの動きでもあるということなので,そういうことも参考にして考えていくべきだと思います。 ○林幹事 まず,4の類似の目的の公益信託の継続についてですが,これは先般の部会資料37の提案の際には,定めの対象となるものが受けなかったときということを前提にして議論していたかと思いまして,だから,適用場面は少ないのではないのかというような話を申し上げ,あるいはほかの先生方からは,もっと早いタイミングでこれが適用されたらいいという御意見もあったので,それを受けて,今回の部会資料でこういうふうに出てきているのだと理解はしています。ただ,前の残余財産の帰属のところと,この4の関係というのをどう捉えるのかというのが若干分かりにくいという議論は弁護士会でもしていまして,先ほどのお話だと,単純に併存するからどちらでもいいようなことなのか,それでいいのか,3と4の関係性が分かりにくかったという議論がありました。それが,まず1点です。   そういうところもあって,この論点では,弁護士会の議論では甲案の方が多かったのですが,乙案もあってもいいという意見もありました。個人的には,直感的にはシプレ原則は残った方がいいような気もしているのですが,その3とか4の関係をどう捉えるのかというのも一応考えておかないといけないように思いました。   それから,先ほどの沖野幹事の御発言にもあって,その3のところで,例えば甲案で抽象的にこのように書いてしまっていいのであれば,この4の乙案というのは,そこで尽きてしまうようにも思いました。あるいは,その3のところで具体的に書かないといけないとすると,先ほどの御指摘もありましたけれども,そこで漏れたときにどうフォローするのかを考えると,この4がないといけないと思いますし,場合によっては,前回の部会資料37の案の方が筋が通っているかもあるかもしれないというようないろいろな意見が出ました。ですから,3において甲案なりのときでもどう書くのかであったり,あとは4と3の関係であったりを,もう少し整理してもいいのではないかというような議論がありました。 ○吉谷委員 4について申し上げますと,どちらかといえば乙案であろうと。3のところで,残余財産の帰属につきまして,類似の目的の公益法人なども指定できるというふうにされたとしますと,それほどニーズがあるということもないのだろうなとは思っています。その指定されたところに渡せばいいのではないか。   そういうものも特に指定されておらず,国あるいは地方公共団体にというような場合で,何らか継続した方がいい場合があるかもしれないという程度かなとは思いましたけれども,という趣旨で,どちらかといえば乙案です。 ○樋口委員 議論の仕方として,こういう議論の仕方をするのが本当はいいのかどうか,よく分からないのですけれども,率直に第1点としては,この4の乙案みたいな話をなくしてしまいますと,私がもうアメリカに行くこともないのですけれども,例えば外国で日本の公益信託の説明をするときに,今度,日本の公益信託法は改正されたのだよと,日本ではシープレという原則は公益信託について認めないことにしたのだよというのは,何だかすごく言いにくいのですね。どうしてという感じで世界中から思われるような感じがして,いや,それに代わる方法はきちんとあるのですよとか,先ほどの帰属権利者のどうのこうのと説明はするのだと思うのですけれども,何でもインターナショナルな基準に合わせればいいというふうな議論をするのもちょっと,自分でもどうかなと思うのだけれども,何か率直にまずそういう。先ほど平川委員がおっしゃったように,公益信託と言えばシープレというのが,あるいはサイプレといっている人もいるのですけれども,そういうのは何かもうキャッチフレーズみたいにあるのですね。税制のものも,もちろん実際にはそっちの方が大きいのですけれどもね。   それから2点目としては,吉谷委員が言ったようなことと能見委員がおっしゃったことと絡めて,これはやはり受託者は申し立てなくてはいけないというようなことにした方がいいような気も私もしていたのですが,一方で考えると,多分,英米でも義務付けてはいないと思うのですよね。何にもしないでぼやっとしていたら,誰かに訴えられることはあるかもしれないのですけれどもね。   つまりどういうことかというと,多分,選択肢は幾つかあって,例えば公益信託がこれで大体どうも目的不達成とか達成という話になったときに,しかし財産はありますというときに,やはり一つの手段は合併,同種の公益信託との合併,あるいは公益法人との。同じことなのでしょうけれども,終了させて帰属権利者がどこかの似たような公益法人であれ公益信託であれというそういう手段もある。それからここで,この公益信託として独立独歩として,しかし類似の目的でずっとやっていくというのも選択肢の一つとしてあるという感じもあるのですね。   そのときに最後の手段はシープレといっているのだと思うのですけれども,でも実際の方法は,シープレでも,方法としてはほかのところへ財産を移してというのも,もしかしたら概念的にはむしろシープレ法理の中に入っているのかもしれないです,考え方としては。   ともかくちょっとコメントいたしました。 ○中田部会長 ありがとうございました。   先ほど能見委員の御発言の中で,委託者が明示的にこれだけに限るといった場合は別だとおっしゃいました。それは結局,道垣内委員のおっしゃっている解釈の一部の問題かと思うのですけれども,樋口委員は明示的に委託者がこの目的以外には使ってほしくないと言った場合は,どうお考えになりますでしょうか。 ○樋口委員 ちょっと留保を付けて,暫定的にお答えすると,やはりそれは,私がアメリカ法を代表しなくていいのですけれども,アメリカでもそれは仕方がないことにするかもしれません。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ○新井委員 今の点について,私の考え方を申し上げます。   まず,私は乙案に賛成です。それで,この乙案で非常に重要なのは,受託者の申立てによりというところだと思います。終了して,帰属権利者に帰属するというルートがあります。しかし,受託者としては,別の選択肢も考え,そのときの判断を行政庁に仰ぎ,行政庁はいろいろな事情を忖度して,別の可能性を考えるというルートはあってもいいのではないかということで,私はこの「受託者の申立てにより」というところが非常に大きな意味を持っていると考えますので,この乙案は正にそこがポイントではないかという感じがします。   そう申し上げた上で,したがって受託者だけではなくて,信託管理人にも申立権を与えてもいいのではないかと考えます。 ○道垣内委員 2点申し上げたいのですが,1点目は,先ほどの能見委員がおっしゃった,これ以外には使ってほしくないとされていたならば,それはさすがに類似目的のための公益信託の継続というのは生じないという話ですが,私も仮に乙案を採っても,そうあるべきだと思いますけれども,そのような考え方は,結局,乙案の限界というものを当事者意思,委託者意思に置いているのだと思うのですね。   それに対して公益信託の本質はシープレであるというふうな言い方をしますと,ある財産が公益に付されているという,その本質からこの原則が来るという考え方になって,それとは異なる考え方ではないかという気がいたします。   私は,公益信託の本質というものがどこかにあると思いませんので,仮に4の乙案を入れる場合も,能見委員がおっしゃった話とか樋口委員が賛成された話とかで,限定を本人が付している場合には,それは乙の申立権は発動しないだろうと思います。   第2点目なのですが,私は,4の乙で行われるというときに,受託者の申立てというのは内容がかなり特定されていなければならないと思います。つまり,AとA’の話にしますと,Aという新薬を開発するための基金であるところ,いや,Aはできてしまったので,A’にしますと申し立てて,それで行政庁がA’という新薬を開発するための基金として考えるときに公益性があるのかという判断をして,それで認めることができるというわけです。抽象的に,類似目的にしたいと思うのですけれどもいいですかと申し立てれば,行政庁が類似のものを見つくろってくれるという制度ではないと考えています。   そうしたときに,新井委員がおっしゃったことなのですが,信託管理人に認めるというのはおかしいと思います。受託者が自分ができる範囲でこういうことをやるということで申立てをして,それで認められるか,認められないかという勝負なのだろうと思います。   最後に一言申し上げますと,お前は乙案を前提に話しているけれども,お前は甲案賛成と言ったのではないかとお思いになる方がいらっしゃるかもしれませんが,私は甲案賛成と申し上げたときから,それほど甲案に固執しているわけではなくて,どちらかといえば乙案が,委託者の意思の問題だということを主張したい,いずれにせよ,委託者意思の問題である,というのが私の根本でございますので,個人的には矛盾しておりませんので,お断りしておきます。 ○能見委員 先ほど述べたことと同じことを,ちょっと違った観点から言うだけなのですけれども,類似目的の公益信託として,そのまま継続するというこの4のところの乙案で,これは帰属権利者の定めのところで類似目的の公益信託若しくは公益法人,こういう形で抽象的に帰属権利者が定められていても,この4の乙案というものの意味があるということを,前回触れた点ですけれども,もう一度強調しておきたいと思います。   これは,帰属権利者のところで処理しますと,公益信託が清算結了までいって,そこで残余財産として残ったものだけが帰属権利者に行くわけですけれども,そういう意味で残余財産を誰かに帰属させるためには清算しなくてはいけないということになります。しかし,4のところの類似目的のために同じ公益信託が継続するということになりますと,その清算はしなくていいことになりますので,ここはいろいろな状況次第ですけれども,かなり大きな違いがあるのだろうと思います。   そういうことで,帰属権利者がどういうふうに定められていても,類似目的の公益信託として継続するということができるということに意味があると思います。 ○山田委員 4でございますが,乙案が,今御議論いただいているところの御意見を伺うと,望ましいのではないかなと,自信はないのですけれども,思うに至っております。   しかし,行政庁が公益信託を継続させることができるものとするという点に,私はすごく抵抗があります。すなわち本来は当初信託の定めに基づくと,信託の目的の達成又は不達成で信託が終了するということです。それを終了させずに継続させるということは,ちょっと微妙なところもあるのですが,やはり私人間の法律関係を形成する側面があるのだと思うのですね。放っておけば終了するわけですから,終了させずに今のまま続けなさいということになります。したがって形成する側面が十分にある。したがって,そのような規律は慎重に考えるべきだと思います   それから,目的は,これは恐らく継続させることに伴って,変更するのだと思うのですね。類似であれ,AからA’なのかAからBなのか分かりませんが変更する。それを行政庁が行う,認定等委員会の意見を聞いた上でということだと思いますが,ということについては,選任とか解任とかいろいろあったところで,大幅に行政庁が出てくるなら,ここで行政庁ではなく裁判所が関与すべきであると頑張ってもしようがないなと思うのですが,そういうところを裁判所がということでもし解決するならば,公益認定を受けていたという公的な性格は十分にあるけれども,私人間の法律関係を行政庁が形成するということについては,極めて慎重に扱うべきだろうと思います。   そうすると乙案はこのままでは,先ほどいいのではないかと冒頭で申し上げましたが,私の意見としては,このままではやはり反対と言わざるを得ません。   そうすると,どうしたらいいか。乙案の心をいかすにはどうしたらいいかということで,十分に検討していないので自信はないのですが,信託の変更なのではないかなと思います。   信託法上の信託の変更で信託の目的が変えられるかというのは,よく分からないのですが,もしできないとしても,公益信託についてはできるとして,そして,そうすると149条の考え方,あるいは,これは受託者の定めのない信託については手直しが加わっているのかもしれませんが,それを参考にしながら当事者が目的を類似目的に変えるというふうにして,しかし,それは当初の公益認定の対象とは違ってまいりますので,公益認定等委員会の意見を聞いた上で,認定それから認定の取消しそしてその間の監督をする行政庁がそれを,それが認定なのか認可なのかよく分かりませんが,それは技術的に詰めればいいことだろうと思いますので,行政庁の関与が必要だというような作りに,形を作り替えると,心は残っているのではないかと思われ,それであれば私は賛成したいと思います。 ○中田部会長 今の御提案は,目的の達成又は不達成の場合,終了事由になっているのを少し繰り延べるみたいな考え方でしょうか。終了してしまえば,変更できないのではないかという議論があるわけですね。 ○山田委員 ですから,その前になるのではないでしょうか。あるいは,遡って変更するみたいな考え方を取り入れるのだろうと思います。客観的に達成又は不達成があるから,終了しか道がないのではないかという考え方を採ると私の考え方は成り立ちませんので,そこは大人の知恵で,当初信託行為の中に定められている終了事由である信託目的の達成又は不達成がある場合においても,その前に効力が生ずるものとして信託を変更するということが考えられると良いという意見です。 ○中田部会長 分かりました。時系列としては,目的の達成又は不達成が起きた後でアクションが生じると思うのですけれども,それを何らかの形でみなすというような対応を考えるということでございますね。 ○山田委員 そうですね,はい。この乙案は,実質はそういうことですよね。おそれがあるとか,そういうのではなくて,その事実があるということを前提にしているので,それを私は何か修正した上で作った方がいいだろうということではないのですが,考え方として,行政庁の関与の仕方というものは,今申し上げたところが強い意見としてあるということです。 ○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。 ○新井委員 今,山田委員のおっしゃったことなのですけれども,私はこういうふうに理解しました。   信託目的はそのままで,ただ,現に受託者が遂行している信託事務の処理,これが現下の情勢に適合しなくなったので,したがって,目的が達成できないような状況に至ったというときに,目的はそのままで信託条項を変更するものとして,信託の変更をするということについて,行政庁なり裁判所が後見的に関与してくる,そういう理解をしておりますが,山田委員も賛成していただけますでしょうか。 ○山田委員 少し違うと思うのですけれども,私の意見の実質は実現していると思いますので,私は特に構わないと思います。 ○中田部会長 よろしいでしょうか。 ○小幡委員 今の話はまた議論していただければよいと思いますが,乙案のところで,私も山田委員がおっしゃる前に,ちょうど同じようなことを考えておりまして,行政庁は類似の目的のために公益信託を継続させることができるものとすると,これはどういう意味なのかということです。基本的に,そもそもこの認定というのがどういう意味合いを持つのかというのがクリアにならないでずっと来ているような気がしていて,つまり認可のような効力要件なのか,そうではなくて公益のための信託で,税法上の優遇を与えるための意味もあって確認,公益信託であることを確認するというような行為として整理するのか,その辺りも余りはっきりしなかったのですが,ここで継続させることができるというのは一体どういうことかを含め,そういう問題が潜在的にあると思います。   それから,先ほどのここの乙案の読み方として,委託者がどうしても嫌だと言っているものを継続させないのですから,それはその信託の本旨というところで読むのかなと思うのです。委託者の意思がはっきりしていれば,それは信託の本旨がそういうことだという読み方になると思うのですが,そういうことを行政庁が確認するという役割を担うことになる,つまり,これは公益に資するものであるという確認,公益の認定ということは当然よいのですが,こちらのほうは,勿論できないことはないと思うのですが,委託者の意思に沿っているかとか,ある意味,非常に私法上の私人間の関係のことについて行政庁がコミットするという,その役割をここで担わせるということになるのかなと思いまして。   もちろん,私人間の行為について,効力要件として行政庁が認可するというのは幾らでもありまして,それは私人間の事柄に直接関与していなくても最終的に効力を補完するという形の認可というものですが,今回考えられているものが何なのか,そうでもなくて確認というか認定,公益法人の場合,2階建てなのですが,そもそも公益信託の方もいろいろあるようで,信託,目的信託とか議論があるようですが,いずれにせよその辺りが余りクリアでないと思っております。また,この辺りもお考えいただければと思います。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ○沖野幹事 4についてなのですけれども,あるいは山田委員がおっしゃったことと関連するのかもしれないのですが,私は乙案の考え方というのは,行政庁の点を除けば現行法でも可能なのではないかとは考えておりまして,その一つは,信託目的の達成あるいは不達成の場合に目的を変更して続けていくということが,それほど異例であって,規定がないとできないことなのかという点ですけれども,実際にというか,確かに論理的には,目的達成・不達成という事実が生じますと終了事由になってしまう,信託が終了して清算に入ってしまうわけですけれども,どうもそのような事情が生じているのではないか,しかし,変更すれば続けていけるし,変更すること自体は問題がないとか,関係当事者は全員合意しているということであれば,変更して続けていくということは,今の信託法の下でできることではないかと。確かに論理的にはどう説明するかという問題はあるのですが。   もう一つは,信託財産破産の場合に,破産法244条の13で,債権者の同意による破産手続廃止の申立てというのがありますけれども,一旦,破産手続開始で終了事由が生じて,破産による清算に入るのですけれども,同意による廃止で手続をやめてしまうと。このときには信託を継続させなければならないので,確か変更の手続をとらなければいけないというのが立案担当者解説だったと思います。   そうすると,終了事由が生じていて,既に破産手続による清算に入っていても,一定の場合に目的というか,それを一旦変更をして清算をやめるということは一応,もちろん規定があるからということはありますけれども,それほどおかしなことではないのではないのかなというところもあります。  とはいえ,それが本当に解釈で十分できるかということが不透明な部分もないわけではないので,そうだとすると,乙案のような考え方を明示するということに意味があるのではないかと。なるべく続けていった方がいいということなら,こういう可能性はあるのではないかと思っております。   その際に,更に二つなのですが,一つは,もしできたら山田委員にお伺いしたいところなのですけれども,信託の変更というときに,私はちょっと乙案を見たときには,これは例えば,その前に出てきておりました許可を得て継続させるというのは,受託者を主体に継続させ,しかしそれについては許可が必要だというような構成もできるかと思ったのですけれども,そうではなくて端的に信託の変更とするとなると,それは信託関係者全員でというような,受託者だけではできないということでよろしいかというのが一つです。山田委員のお考えによると乙案のどこを変えることになるのかということです。   もう一つは,それとは関係ないところなのですけれども,信託を継続させるというのは,当該受託者が自ら受託者としてこの信託を,しかし類似の目的のために継続させていくということだと思うのですけれども,先ほどの帰属権利者との関係のところで,帰属権利者の指定というものが幅広に指定されるというか,ほとんど3の(2)の甲案であれば,甲案に掲げられているようなものがほとんどカバーされるような指定であるならば余りその必要はないのですけれども,吉谷委員からは,もっと特定のどこどこと指定しますということであり,そうだとすると,その類似の目的のためには幾らでもほかに渡すところがあるのに,でも,特定された先に入っていないために,あとはこの規律に行かざるを得ないとか,あるいは清算受託者というところに行かざるを得ないという,その間を埋めるためにこういった,自分が継続していくということだけではなくて,指定された帰属権利者が拒否をしたような場合に,しかし,より適切なところを考え付くところがあるのであれば,その一つが地方公共団体かもしれませんけれども,そういったところに許可を得て渡すことができるというような規律も別途考えられるのではなかろうかと思われます。あるいはこれまで議論があったのかもしれませんけれども,この4の乙案にどうこうということではなくて,乙案とともに,そのような帰属先についての受託者の申立てによる帰属先ということも考えられてよいのではないかと思ったものですから,あるいは少し御議論なり御検討なり頂ければと思います。 ○中田部会長 今の御発言は,10ページの下の方に部会資料37の第2の2というのがございまして,その段階での甲案があるわけですけれども,これに近いようなことを更に検討すべきだということになりますでしょうか。 ○沖野幹事 37の部会資料の甲案は,飽くまで公益信託を継続させるということですので,受託者の下で信託を継続させていくという選択肢だと理解していたのですけれども,それに対してどこかに与えてしまう,渡してしまうというところの範囲がその帰属権利者を指定して非常に狭いような場合に幅を考えていたのですけれども,ちょっと誤解しておりますでしょうか。 ○中田部会長 いえ,37の第2の2は,帰属権利者の全員が放棄した場合について,継続させることができるということですよね。 ○沖野幹事 そうですね。その意味では場面は共通している,方法は違うけれどもということです。すみません,失礼しました。 ○中田部会長 ありがとうございました。   山田委員に対する御質問がありましたが。 ○山田委員 発言を補足する機会を与えていただきまして,ありがとうございます。   私はこの「受託者の申立てにより」というところは,このまま残すべきではないと思っております。   ただ,具体的にどう作ればいいかというのは,149条とそれから261条ですか,受益者の定めのない信託について読み替えている規定を詳細に検討しないとなかなか出てこないのですが,方向だけを申し上げますと,信託管理人が必置としますと,受託者と信託管理人の合意というのでしょうか,それは必要だろうと思います。それに加えて,委託者をどうするかということが問題となるのですが,これは大きな問題の一つに含まれるかなと思います。すなわち公益信託について委託者の関与というのを設立した後,どこまで認めるかということに関わります。   私自身は,そこは,委託者は公益信託にやはり一番関心を持っているものですから,口を出させていいだろうということを一般的には思っておりますので,したがって委託者も入れて考えるのが今の私の意見ではありますが,そこだけ委託者を必ず残すべきだというのではありませんで,公益信託である以上,委託者の関与は遮断していくべきだとなるならば,ここでも委託者は落ちるだろうと思います。それが149条の1項をベースにしたところであり,2項,3項と少しずつ細かな規定がありますので,それに合わせたものも可能な範囲で,複雑にならない範囲でフォローしていくのが望ましいだろうと思います。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ○山本委員 これは確認なのですが,山田委員が先ほどから主張されているように,当事者が変更するのであって,行政庁はそれを認定というのか分かりませんけれども,判断するというような仕組みでよいとすることは賛成なのですが,その際に行政庁が,元の乙案もそうなのですけれども,何を基準に判断するのかという問題があると思います。   この乙案の書かれているところからすると,その信託の本旨に従い類似の目的であるか否かを判断するということなのでしょうか。それ以上の何か判断が更に付け加わって行われるのかどうかという点についてはいかがなのでしょうか。   例えば,目的は類似しているかもしれないけれども,既に当初から目的の達成あるいは不達成まで一定期間が経過していて,その間の活動状況等から見て,これは無理であるというような評価,ないしは更に一定の手直しをしないとできないというような評価まで含めてここで行えるのかどうか。これは,道垣内委員が最初に述べられた考え方からしますと,飽くまでも当初の信託行為の趣旨から決まるというのであれば,そのような評価は直ちに出てこないのではないかと思います。この辺りが,道垣内委員のおっしゃる甲案と,現在の乙案ないしは山田委員の修正を加えた乙案との差なのかもしれないと思ったのですけれども,そうでないのかどうかということを確認させていただければと思います。 ○中辻幹事 公益信託法第9条は,旧信託法73条からの継続の条文であり,主務官庁制を前提としています。そこでは,条文どおり公益信託の継続が信託の本旨に従うものかどうかが第一の考慮要素となるものの,主務官庁の監督権限は広いので,それ以外の点についても幅広に考慮しつつ公益信託の継続の当否を判断するという解釈があり得たのだろうと思います。   さはさりながら,新たな公益信託において主務官庁制を廃止し,それに代わる行政庁の権限を従来の主務官庁の権限よりも縮小することを指向するならば,最後は解釈になるのでしょうが,行政庁は信託の本旨のみに沿って継続の当否を判断するべきことになるのではないかと考えます。 ○山本委員 ということは,道垣内委員がおっしゃった留保付きの甲案と,ここで述べられている乙案は,本質的には変わらないという理解でよろしいのでしょうか。 ○中辻幹事 道垣内委員がそうお考えになるかというのは別として,私の方は同じようなことになるのかなとは思います。 ○山本委員 ありがとうございました。 ○中辻幹事 すみません。せっかくの機会ですので,樋口委員に一つ御質問させていただきますでしょうか。   英米法のシプレ原則では,類似目的の判断は裁判所が行うものとされています。今回の部会資料の提案では,現行の公益信託法9条が類似目的の判断は主務官庁が行うものとしていることからそれを尊重して行政庁を主体としているのですが,樋口委員の御意見としては,行政庁なのか裁判所なのか,どちらになるのか御教示いただければと思います。 ○樋口委員 本当は確固たる意見がないので,どちらでもいいというのは無責任かな,やはり。   前にも申し上げましたけれども,こうやって公益の認定庁を作ったときに,裁判所とどういう役割分担をする仕組みがいいのかというのはやはり難問で,だから,英米流でいえば,裁判所がこういうシープレであれ何であれ作り上げてきた法理なので裁判所へ行けば何か答えてくれるということなのですね。しかも裁判所はエクィティーの裁判所なので,裁量権があって,これとこれしか判断しないなんていうことはないのですね。   ただ,一般的に言えば,これは本当に類似の目的で,公益のためにきちんとやろうとしているかというのを判断して,どうぞと言ってお墨付きを与えるということだと思うのですが,そういう役割を行政庁が担ってくれるなら,それはそれでと取りあえずは考えておりますけれども。 ○中辻幹事 ありがとうございました。 ○中田部会長 大体よろしいでしょうか。   乙案を支持される方が多くいらっしゃいましたが,その乙案を前提としても,委託者が明示的に排除した場合には,それを尊重するという御意見を何人かの方から頂きました。そうすると,思想的には道垣内委員の御指摘になられた意思解釈の問題とつながってくるところがあるのではないかということだろうと思います。   その上で,更に信託管理人にも申立権を与えるべきか,行政庁がどのように関与すべきか,行政庁なのか裁判所なのかというような問題点の指摘を頂き,更に乙案とは別に,むしろ信託目的の変更によって対処し得るのではないか,その場合には,終了についてどのように考えるのかということと関係してくるだろうという御指摘を頂いたかと存じます。今日頂いたような御意見を基にしまして,更に検討を進めたいと存じます。   大変申し訳ないのですけれども,時間が来てしまいましたので,「5 公益信託の変更命令」,そして「第2 公益信託と私益信託等の相互転換」については,次回に持ち越しということにさせていただきたいと存じます。   それでは,事務当局の方から,次回の議事日程等について御説明をお願いいたします。 ○中辻幹事 次回は,5月9日(火曜日)の午後1時半から午後5時半まで,場所は法務省で開催します。具体的な部屋については,後日皆様に改めて御連絡いたします。   今回の部会資料40について積み残しの論点が残りましたので,次回は,部会資料40の残りの部分を御審議いただくことになります。   なお,現時点で,7月まで部会開催の予定日を皆様に確保していただいております。その中で,この場に御参集の委員幹事以外の民法及び信託法の研究者や,また,小幡委員から御指摘ありましたけれども,行政庁が公益信託の認定を行うのか認可を行うのかなどの論点について行政法の研究者を参考人として招致し,それらの参考人のお話を踏まえて今後の御審議を行っていただくことが有益ではないかと考えております。   参考人の具体的な人選は中田部会長に御一任いただければ有り難く存じますけれども,参考人の招致について,この部会で了解を頂けるようでしたら,今後,事務局の方でヒアリングの実施に向けた調整に入ります。   その際は,従前の審議日程を生かす方向で努力しますが,参考人の御都合が付かなかったような場合には日程の変更を御願いする可能性もありますので御海容いただければ幸いです。 ○中田部会長 ただ今のお話は,取りあえずは既にお示しいただいている日程の確保は引き続きしていただくということで,ただ,ひょっとしたら変更があるかもしれないということでございます。   事務当局から参考人ヒアリングの実施を含む今後の日程についての提案がありました。もちろんこの部会には民法,信託法,行政法の専門家が大勢いらっしゃるわけでございますけれども,第二読会の終わる段階で,部会の外からの御意見も伺ってみて,今後の審議の参考にするという御趣旨だと思います。   ということで,事務当局の御提案のように進めるということでよろしいでしょうか。   それでは,そのように進めることにいたします。   そのほか御意見などございますでしょうか。   ございませんようでしたら,本日の審議はこれで終了といたします。   本日も熱心な御審議を賜りまして,ありがとうございました。 -了-

PAGE TOP