沖縄県司法書士会信託登記研修
令和6年2月22日
「民事信託に関する登記」
第3期民事信託士 川田光子司法書士
第1 信託目録
第2 信託の終了に伴う登記
第3 信託期間中の登記
第4 おわりに
不動産登記法97条の構造(信託の登記の登記事項)
第九十七条 信託の登記の登記事項は、第五十九条各号に掲げるもののほか、次のとおりとする。
一 委託者、受託者及び受益者の氏名又は名称及び住所
二 受益者の指定に関する条件又は受益者を定める方法の定めがあるときは、その定め
三 信託管理人があるときは、その氏名又は名称及び住所
四 受益者代理人があるときは、その氏名又は名称及び住所
五 信託法(平成十八年法律第百八号)第百八十五条第三項に規定する受益証券発行信託であるときは、その旨
六 信託法第二百五十八条第一項に規定する受益者の定めのない信託であるときは、その旨
七 公益信託ニ関スル法律(大正十一年法律第六十二号)第一条に規定する公益信託であるときは、その旨
八 信託の目的
九 信託財産の管理方法
十 信託の終了の事由
十一 その他の信託の条項
2 前項第二号から第六号までに掲げる事項のいずれかを登記したときは、同項第一号の受益者(同項第四号に掲げる事項を登記した場合にあっては、当該受益者代理人が代理する受益者に限る。)の氏名又は名称及び住所を登記することを要しない。
3 登記官は、第一項各号に掲げる事項を明らかにするため、法務省令で定めるところにより、信託目録を作成することができる。
2項について、平成19年9月28日法務省民二第2048号通達
1項8号から11号までは抽出、という用語について、どのような方法なのか気になりました。条項の中で必要な部分を抜き出すのか、条項全てを抜きだすのか、どちらかになると思います。要約するのは、要約する人の主観による割合が大きくなり、登記官も判断することが出来ないため、難しいのではないかと思います。
不動産登記法97条1項11号
信託の設定(年月日信託契約を締結した旨)の条項が必要か・・・任意条項です。後続登記に必要となることがあるのか、公示する必要があるのか・・・信託行為の年月日、委託者、受託者は、他の条項により公示されるので、分かりませんでした。
信託行為に、全ての信託財産を記載する必要があるのか・・・各不動産につき、信託目録が作成されるので、不要かなと思いました。共同担保目録のような機能を果たすのかもしれませんが、一つの不動産が信託財産に属する財産ではなくなった場合、他の不動産全てについて変更登記の申請が必要なため、あえて記録する必要は、あまりないのではないかと思いました。
残余財産の帰属権利者(信託法183条)として、〇年〇月〇日○○地方法務局種族公証人○○作成同年○○号、と記載することができるか?
・・・登記はされる。理由は却下事由に該当しないから、という消極的理由。
当初受託者および後任受託者の指定方法について、記載する必要があるか。・・・不動産登記法97条1項1号で受託者は記載事項とされているので、当初受託者の記載は不要ではないかと思いました。後任受託者の指定方法については、後続登記申請に係わるため、必要だと思いました。
受託者は、信託不動産に関し、受益者又は委託者を債務者とする抵当権等の担保を設定する登記手続、担保権を変更・抹消する登記手続等を行うことができる、という条項について。・・・登記手続は登記官が行う事務であり(不動産登記法9条)、受託者が可能なのは、登記の申請に限られるものと考えらえられます。
受託者は、信託契約前に設定された根抵当権(債務者は、現在の受益者又は委託者ではない)の登記を抹消する申請をすることができるか。について・・・事前に入手できる条項であり、根抵当権の登記事項が特定されていれば、可能であると考えられます。その他信託の目的を達成するために必要であると受託者が判断する一切の行為を行うこと、と定めていた場合、信託の目的から総合判断することになると思われ、受益者の不利益にもならないことから抹消登記が可能と判断される可能性もありますが、上記のとおり事前に入手できる情報は、信託行為で特定することが望ましいと思われます。
契約期間中に受益者に相続が発生した場合における本信託の受益者は、所定の様式による届け出書を受託者に提出することにより、指定することができる、という条項について・・・受益者が亡くなっているので、本信託の受益者はその時点でいないのではないかと思われます。そのように考えると、所定の様式による届け出書を受託者に提出するのは誰か?何を指定するのか分かりませんでした。
登録免許税7条2項の構成
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=342AC0000000035
(信託財産の登記等の課税の特例)
第七条 1項略
2 信託の信託財産を受託者から受益者に移す場合であって、
かつ、当該信託の効力が生じた時から引き続き委託者のみが信託財産の元本の受益者である場合において、
当該受益者が当該信託の効力が生じた時における委託者の相続人(当該委託者が合併により消滅した場合にあっては、
当該合併後存続する法人又は当該合併により設立された法人)であるときは、
当該信託による財産権の移転の登記又は登録を相続(当該受益者が当該存続する法人又は当該設立された法人である場合にあっては、合併)による財産権の移転の登記又は登録と
みなして、この法律の規定を適用する。
参考
・平成29年6月22日付 東京国税局審理課長回答「信託契約の終了に伴い受益者が受ける所有権の移転登記に係る登録免許税法第7条第2項の適用関係について」
・平成30年12月18日付名古屋国税局審理課長回答「信託の終了に伴い、受託者兼残余財産帰属権利者が受ける所有権の移転登記に係る登録免許税法第7条第2項の適用関係について」
みなし受益者(信託法183条6項)は、登録免許税法7条2項の受益者といえるのか。について・・・原則として受益者(信託法2条1項6号)ではありません。信託法183条6項により、信託の清算中に限り、受益者とみなされ、信託の清算中に限り、登録免許税法7条2項の適用を受けると考えられます。登録免許税法7条2項の、信託の信託財産を受託者から受益者に移す場合は、清算は終了していると思われるので、受益者に当たらなくなると考えらえます。
(帰属権利者)
第百八十三条 1項から5項略
6 帰属権利者は、信託の清算中は、受益者とみなす。
信託終了後の登記の目的、申請人、登録免許税法7条2項の適用について。
・令和6年1月10日民二第16号民事局民事第二課長回答信託財産を受託者の固有財産とする旨の登記の可否について(通知)
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その他の検討事項
・民事信託を利用して、委託者兼受益者の兄弟に軍用地料などを暦年贈与することができるのか、について・・・定期金給付契約に該当しない条項を定める必要があると考えられます。
国税庁 No.4402 贈与税がかかる場合
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4402_qa.htm
・民事信託を活用して受託者以外の者が金融機関で住宅ローンを組む際に、委託者兼受益者所有の土地に担保設定することができるのか?・・・信託行為に明確に記載され、信託目録に記録されている場合、可能だと考えます。なお、私なら担保設定の際に、受益者の承諾情報の提供があることを要件とします。
・ 民事信託を活用して受託者または受託以外の者が住宅を購入、建築する際に、現金の贈与を適法に行うことができるか?について・・・信託の目的が何なのか分かりませんが、必要な条項は次のようなものが考えられます。
受益者として、受託者、受託者以外の者を入れること。
贈与時の信託財産の残額に対して、いくらまで贈与できるのか、具体的な計算式があること。
・節税のためにアパート建築のための信託内借入のために、民事信託を活用することについて・・・分かりませんでした。
受託者が信託財産である土地に受託者所有の賃貸不動産を建築したいと考え、信託内容を変更して利益相反行為を予め許容する定めを信託契約書に追加して変更登記を行い、その後、信託した土地を担保にして賃貸不動産の建築資金借入を行えるか、について・・・信託内容は誰が変更したかによる面もあると考えます。私なら担保設定時に受益者の承諾書があることを要件とします。