日本組織内司法書士協会『司法書士目線で答える会社の法務実務』2018、日本加除出版Q28与信管理

Q 与信管理とは何ですか。

・与信・・・取引の相手方に返済能力があることを信用してモノ・お金を供与すること。

・与信取引・・・商品を販売する場合において、先に商品を提供して、後で代金を回収する形態の取引。

・与信管理・・・「与信取引を行ってもよいか」、「与信取引を行う場合、取引限度額をいくらに設定すべきか」について取引先ごとに判断し、定期的に見直していく業務プロセス。

与信管理の目的

 取引を行う場合に、事前に許容できるリスクを把握し、リスクが発生しても損害を最小限に抑えること。

・・・与信管理を全くしていない場合(相手方の本店所在地も特定できない。)。預貯金債権の仮差押空振り→一部取下げ→今後、取引時に相手方に信用情報(銀行支店等)を提供するようにアドバイス。

・・・会社応接室においてある金融機関のカレンダー、ティッシュなど。

・・・業種による管理(卸売業)。

与信管理の方法

信用情報の分類
入手先入手情報
取引先      決算書(直近3年分)
勘定科目明細書
法人税申告書
会社案内、商品カタログ
信用調査会社信用調書
法務局  法人の履歴事項全部証明書
不動産がある場合、全部事項証明書・公図

法人の履歴事項全部証明書のチェックポイント

 項目チェックポイント対応
商号商号を変更している場合旧社名のネット検索、経営者への変更理由確認。
本店登記記録が新たに編成される、別管轄の登記所への本店移転。家賃が安いエリアへの本店移転。頻繁に移転を繰り返している。閉鎖事項証明書の取得、経営者へ移転理由を確認。
目的本業と関係なさそうな業務が追加されている。経営者へ確認。
資本金の額減資取引の相手方に、減資の理由(欠損填補、大会社に該当することの回避、外形標準課税の節約)を確認。
役員解任、辞任の登記がされている場合。任期が過ぎているのに何らの登記もされていな場合。経営者に経緯を確認。

代表者の住所非表示措置に伴う影響。

 項目チェックポイント対応
不動産の特定本店・営業所の所在場所、代表者の自宅の土地建物。 
所有権の登記名義人取引先の法人、法人の代表者、関連会社。 
差押・仮差押・所有権移転の仮登記の有無 取引の回避
抵当権者・共同担保の確認ノンバンクや個人名義の抵当権者の有無。 
    

与信管理を意識した契約交渉

 契約書に規定すべき条項

  • 期限の利益喪失条項・・・消滅時効の起算開始時に関わる。

・・・到来・経過させる。

  • 所有権留保条項・・・買主が占有していることで、商品の回収困難の可能性(民法192条など。)。
  • 出荷停止条項・・・継続的な契約の場合。

 担保の取得

  物的担保の取得

法定担保物権・・・留置権(民法295条、商法31条、521条)、先取特権(民法303条、商法842条等)。

約定担保物権

 典型担保物権・・・質権・抵当権など。

 非典型担保物権・・・仮登記担保権、譲渡担保権、所有権留保など。

約定担保権の取得時

 迅速性が求められる。・・・担保を取得しようとしている物が、売却や付合などで無くなる可能性。他の債権者が先に担保を取得する可能性がある。

 価値が明白で、担保取得や(実行)処分が容易な物から。・・・債権がいくら回収できるのか、担保取得や実行のコストと比較して。

  人的担保の取得

保証・・・根保証かつ連帯保証。個人を保証人とする場合、民法465条の2の適用。

連帯保証取得時

債務弁済の資力がある者が優先。取引先の親会社、関係会社、代表者個人。保証意思を確認できる書面・情報を入手すること(保証契約書、取締役会議事録、公正証書など)。

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