受益者指定権者+受益者変更権者=受益者指定権者等
1、家族信託・民事信託の設定後に、受益者を指定、変更する権限を持っている→受益者指定権等(信託法89条)
2、権限を持つ者の属性による分類
(1)委託者である場合
自身が持つ権利を留保している。
例 自身の後継者として指名した者を、健康や資質などの事情で変更する可能性を残したい場合
(2)受託者が持つ場合
委託者が、信託行為によって受益者指定権を作り、受託者は信託事務として引き受けている。通常の信託事務として、信託行為内の裁量権を持ち善管注意義務などの義務を負う。
例 自己信託をしている場合
(3)第3者が持つ場合
委託者が、信託行為によって受益者指定権を作り、第3者は委託者から受任している。
例 後継者の次の後継者を、親族ではない取締役に決めてもらう場合
3、受益者を変更、指定した効果
(1)指定、変更した場合
受益権が移転し、新たに取得した者が受益者
受託者は、変更前の受益者に通知義務(信託法88条)
(2)指定、変更できる範囲とその限界
信託設定行為の定め次第。全部の受益者、一部の受益者の変更、最初に1人だけ定めておいて、後に1人追加するような指定も可能。
しかし、信託目的に「受益者の生涯に渡る居住の確保」とあった場合に、何の支援処置も取らずに受益者を変更することは出来ないと考えられます。
4、受託者から受益者への受益権の内容を変更する場合
例 受益者へ給付する金銭を「毎月の上限として30万円」として定めている場合に、これを50万円とする。
(1)受益者指定権等を持つものが対応する[1]。
条文通りに読めば、受益者を変更、指定する権利を持つのみで、受益権の内容を変更することが出来るとするのは無理があると考えます。
受益者を新たに指定する場合など、結果的に他の受益者の受益権の内容が変わることはあり得ますが、その場合は、受益者の指定と信託の変更などを併せて行うのが妥当だと考えます。
(2)信託の変更による
受益権の内容の変更は、信託の変更と考える方が妥当ではないかと考えます。受益者を新たに指定する場合など、結果的に他の受益者の受益権の内容が変化する場合でも、先に信託の変更により受益権の個数を2つにするか、受益権の割合を50対50などで分けた後に、新受託者に受益権を割り当てることになると考えます。
5、リスク
(1)信託財産と受託者の財産を引き当てにしている債権者、受益者の債権者にとって、誰が受益者であるかは重要。
債権者の知らないところで受益者が変わると保全できない。
6、リスク対応
(1)信託契約書へ「受益権の譲渡禁止・制限特約」の定めを置く
(2)「受益権の移転に伴い債務も移転する。」という定めを置く。
(3)受益権への担保権設定
7、税[2]
(1)前の受益者が存命であれば、新たな受益者に課税。
対価なし→贈与税
適正な対価の負担あり→譲渡取得税
(2)税の考え方は、受益者指定権等の定めがある信託は、受益者連続型信託とされます(相続税法9条の3①、相続税法施行令1条の8)。
・なお、詳細はお近くの税理士にご相談ください。
【条項例】
(受益者指定権等)
第○条 本信託において、受益者指定権等は次の者が有する。
住所
氏名○○(委託者)生年月日
条件 指定、変更後の受益者は、委託者の民法上の親族とする。
(受益者指定権等)
第○条 本信託において、受益者指定権等は次の者が有する。
住所
氏名○○(受託者)生年月日
条件 指定、変更後の受益者は、受託者の民法上の親族のうち疾病などにより働くことが出来なくなった者とする。
[1]平川忠雄ほか『民事信託実務ハンドブック』2016日本法令P143
[2] 青木孝徳ほか『改正税法のすべて』大蔵財務協会 2007 P474~