例えば、信託契約書にこのような定めがあった場合
受益者は、受託者の書面による承諾を得た場合に限り、その受益権の分割、放棄、譲渡その他の担保設定を行うことができる。
受益権は、受益債権+受益者としての地位です。
委託者が、最初の受益者となる場合、その受益者は信託法に基づいて受益権を放棄することが出来ません。委託者は信託行為の当事者で、自らの意思で受益者になったからです。
委託者、受託者以外の人が受益者として指定された場合、受益権の放棄は自由です。
この場合の受益者は、自分で進んで受益権を取得したわけではないので、もらう権利もあれば、もらわない権利もあります。
ただし、信託法に基づく受益権の放棄は、さかのぼって効力を発生させる、最初からなかったことになるので、受益権が放棄されて困る人がいる場合は、受益権の放棄は出来ません。困る人がいる場合というと受益者として受益権に担保を設定した後、受益権を放棄すると、担保設定者は困るので出来ません。
それでも放棄した場合、詐害行為取消しの対象になるかは、見解が分かれています。
ということで、受益権の放棄に、「受託者の書面による承諾を得た場合に限り」などの制限を付けることはできません。
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参考
寺本昌広「逐条解説 新しい信託法」
能見善久他「信託法セミナー3」