加工内閣府第2回デジタル基盤ワーキング・グループ自筆証書遺言のデジタル化について
令和4年3月1日(火)
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2201_05digital/220301/digital02_agenda.html
議題1.自筆証書遺言のデジタル化について(SAMURAI Security株式会社、陰山司法書士事務所、法務省からのヒアリング)
議題2.公正証書の作成に係る一連の手続のデジタル化について(フォローアップ)(法務省からのヒアリング)
資料3-1【自筆証書遺言】論点に対する回答(法務省 御提出資料)
分野
自筆証書遺言のデジタル化について
省庁名
法務省
以下の論点について、下記回答欄にご回答ください。
自筆証書遺言は、民法上、書面・自書(署名を含む)・押印が求められており、デジタル技術を活用して作成することができない。 デジタル社会の実現に向けた構造改革が進められる中、昨年12月には、デジタル臨時行政調査会において、構造改革のためのデジタル原則が提示されたところであり、自筆証書遺言についてもデジタル原則を踏まえた見直しを検討すべきものと考えられる。
【論点1】自筆であっても、遺言の有効性等について争いは生じるものであり、デジタル技術の活用や民間サービスの利用等により、本人確認、真意の確認、方式の正確性等が担保されている場合に、遺言を無効とする理由はないのではないか。遺言の方式を法律で一律に定めるのではなく、本人確認、真意の確認、方式の正確性等が担保されているかという実質に着目するべきではないか。 仮に何らかの規律を設けるとしても、リスクベース・ゴールベースの規律や、技術の進展等を踏まえて機動的に対応し得るような規律(法律には原則を記載し、詳細は政省令で規律)とすべきではないか。
【回答1】 民法上、遺言をするためには、同法が定める一定の方式に従うことが要求されています(注1)。その趣旨は、遺言の場合には遺言者の死亡によって効力を生ずるという特殊性があること等を踏まえ、一定の蓋然性をもって遺言者の真意に基づいて遺言がされたとの判断が可能となるような方式をあらかじめ定めておき、これを満たすもののみを有効とすることで、遺言の有効性に関する信頼を確保してその効力をめぐる紛争の発生をできる限り予防し、その法的安定性を図ることにあります。
自筆証書遺言については、全文を自書すること等の方式を定めることで、遺言者がその内容を認識し理解した上で作成したものであって、遺言者の真意に基づくものであることを担保することとしています。
このような趣旨に照らせば、デジタル技術の活用等によって自筆証書遺言と同程度の信頼性を確保することができるのであれば、遺言者の選択肢を増やす観点から、新たな方式を設けることはあり得るものと考えています。このような方向で検討する場合には、デジタル技術の活用等により、具体的にどのような形であれば本人確認やその真意の確認が適正に担保されるかといった観点や、遺言者の負担の軽減といった観点から、検討を進めることになるものと考えています。
特に、遺言の場合には、その効力が発生する際には遺言者は既に死亡していることに加え、相続人や第三者が被相続人の判断能力の低下等につけ込んで自己に有利な遺言を作成させるというリスクがあるため、他の法律行為以上に、本人の真意の確認を慎重に行う必要があるものと考えています。
これに対し、遺言について、一定の方式を定めることなく、真意の確認等が担保されているものであれば効力を認めるとの規律を設けるのは困難であるものと考えています。このような規律は、遺言の外部的方式の問題と、遺言という意思表示自体の成立・効力の問題との区別を失わせるものであり(注2)、個々の遺言について、真意の確認等が担保されたものであるか否かについて常に個別的・具体的判断を要することとなって、遺言者自身にとっての予測可能性が害されるのみならず、遺言者の最終意思の実現や円滑な遺産の分割が阻害される結果を招来するおそれがあるためです。
また、遺言の有効、無効は、相続人だけでなく、相続債権者や被相続人に債務を有していた者など、多くの利害関係人に極めて大きな影響を及ぼすものであり、その信頼性の確保が重要であること等に照らしますと、遺言の方式を政省令で定めることについては、憲法第41条(国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である。)の趣旨等に照らし極めて慎重な検討を要するものと考えています。
→遺言の方式変更は形式的な変更に留まらないので、政省令ではなく法改正が必要。
いずれにしても、新たな方式を定めることの当否や具体的にどのような方式を定めるかについては、遺言者の真意により作成されたものであることの適正な担保等が図られるか、遺言を作成しようとする者のニーズを的確に把握した上で、当該方式によって遺言の有効性に対する信頼等を確保することができるか、とりわけ、前述のとおり、第三者等が遺言の作成に不当に関与するリスクを増大させることにつながらないかといった観点から、慎重に検討を進める必要があるものと考えています。
(注1):民法第960条は、「遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。」と定めています。
(注2):遺言の方式とその成立・効力の問題は区別されるものであり、そのような法制は海外法制においても一般的です。このことは、遺言の方式については、我が国が昭和39年に批准したハーグ国際私法会議条約である「遺言の方式に関する法律の抵触に関する条約」及びその国内実施法である「遺言の方式の準拠法に関する法律」が適用され(なお、「法の適用に関する通則法」第43条第2項は、遺言の方式を適用除外とする旨を明定しています。)、遺言の成立・効力については「法の適用に関する通則法」(第37条第1項)が適用されることに端的に示されています。
遺言の方式に関する法律の抵触に関する条約(昭和39年6月10日-条約第9号)
http://www.pilaj.jp/text/yuigon_j.html
法の適用に関する通則法(平成十八年法律第七十八号)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=418AC0000000078_20150801_000000000000000
(遺言)
第三十七条 遺言の成立及び効力は、その成立の当時における遺言者の本国法による。
2 遺言の取消しは、その当時における遺言者の本国法による。
【論点2】 自筆証書遺言の作成において、デジタル技術を活用することにより、方式不備の防止が期待されるほか、時間的・地理的・金銭的な制約から専門家のサポートを受けることができない者であっても、自筆証書遺言が無効となるリスクを減少させることができるものと考えられる。一定の規律が必要であるとしても、電子文書や映像等による遺言を認めるべきではないか。
遺言者の真意の確認についても、デジタル技術の活用や民間サービスの活用等により、自筆以上の確実性が期待できるのではないか。
【回答2】 デジタル技術の活用によって御指摘のようなメリットが生ずることはあり得るものと考えていますが、そのような方向で見直しを検討するに当たっては、前述のとおり、遺言を作成しようとする者のニーズを把握した上で、当該方式によって遺言の有効性に対する信頼等を確保することができるかといった観点から検討を進める必要があるものと考えています。
【論点3】 令和2年7月から自筆証書遺言書保管制度の運用が開始されているが、遺言が不動産登記等の手続に活用されるものであることを踏まえ、そうした一連の手続のデジタル完結を目指すため、自筆証書遺言書保管制度に基づき法務局が保管している遺言について、データによる遺言書情報証明書等の交付を可能とするべきではないか。
また、現在は、遺言書情報証明書等の申請について、法務局における対面での手続又は郵送によることとされているが、申請手続自体もデジタル完結を図るべきではないか。
【回答3】 遺言書情報証明書には遺言書の画像情報が印刷されており、相続人等は、関係者の戸籍や住民票等を添付して同証明書の交付申請を行った上、自筆証書遺言書の原本に代えて同証明書を用いて、不動産登記や預金解約等の各種手続を行うこととなります。
そして、遺言書情報証明書は、制度の運用開始から令和3年12月までの約1年半の間に約750件交付されています。
遺言書情報証明書につき、その申請手続のデジタル化やデータによる交付を行うことについては、国民からのニーズの程度、申請に際して必要となる添付書面のデータ化の進展状況、遺言書情報証明書のデータを用いて行うことができる各種手続の範囲、費用対効果等を踏まえて検討する必要があると考えています。
【論点4】 自筆証書遺言のデジタル化のニーズを検討するに当たって、平成30年の法改正により可能となった自書によらない財産目録の添付について、その活用実績及び効果について把握し、参考とすべきではないか。自筆証書遺言であっても、少なくとも、自筆証書遺言保管制度により法務局に保管されている遺言書については、自書によらない財産目録が添付されている件数を把握することができるのではないか。
【回答4】自筆証書遺言は、第三者が関与することなく作成することができる文書であることから、法務省において、自書によらない財産目録を添付した遺言書の利用実績等を把握することは困難です。
また、自筆証書遺言書保管制度に基づき法務局に保管されている遺言書についても、法務局においては、自書によらない財産目録を添付した遺言書か否かを区別せずに保管しているため、直ちにその件数を把握することは困難です。
【論点5】 書面による場合に、自書による署名がなされていれば、全文の自書は必要ないのではないか。また、印として実印が求められているわけではなく、「押印」を義務付ける必要はないのではないか。
【回答5】 民法第968条第1項が自筆証書遺言についてその全文(財産目録を除く。)の自書を必要としているのは、遺言が遺言者の真意に基づくものであることを担保し、第三者等が遺言の作成に不当に関与するリスクを低減させるなどのためであり、全文を自書することにより、文書の記載自体から遺言者が全文の内容を認識し理解した上で記載していることが明らかになります。
そのため、書面による場合に、自筆証書遺言に署名がされているからといって、全文の自書を不要とすることには慎重な検討が必要であると考えます。 また、同項が自筆証書遺言に押印を必要としているのは、当該遺言が遺言者本人の意思によって作成されたものであることを担保することに加え、押印により文書を完成させるという慣行を踏まえ、作成途中の遺言書の下書きと完成した遺言書とを区別する意義も有しているものと考えられます。
この点、自筆証書遺言が遺言者の死後に自宅等から発見されることが多い現状に鑑みると、近時の行政への申請手続における押印の見直しの状況等を踏まえたとしても、これを不要とすると、この点に関する紛争を増加させるおそれがあり、書面による場合に、自筆証書遺言の押印を不要とすることには慎重な検討が必要であると考えます。
なお、ここでいう自筆証書遺言の見直しの当否及びその内容の問題と、デジタル遺言のような新たな方式を定めることの当否及びその内容の問題は、区別して議論されるべきものと考えられます。
【論点6】上記を踏まえ、自筆証書遺言の見直しについて、今後どのような体制で、いつまでに何を行うかを示していただきたい。
【回答6】 遺言の作成においてデジタル技術等の利用を可能とすることについては、それによるメリットが想定されることを前提としつつ、前述のとおり、遺言者の真意により作成されたものであることの適正な担保等が図られるか、相続の当事者や一般国民からの信頼が確保されるか、遺言を利用する者にとってデジタル化した遺言のニーズがどの程度あるか等の観点からの調査を行った上で検討していくことが相当であるものと考えています。
また、諸外国等において、遺言の作成においてデジタル技術等がどのような形で遺言の作成に活用され、運用されているかを調査することは、我が国における遺言法制の在り方を検討するに当たっても有用ですので、諸外国等における遺言法制やその実情等を調査することが相当であると考えています。
そこで、令和5年度中に、上記の各調査を行うなどの必要な検討を進めてまいりたいと考えています。
【論点7】取組を進めるに当たっては、「遺言」という閉じた世界だけで考えるのではなく、関連する仕組みも含め、社会全体の将来像を意識しながら取り組むことが重要である。
現在、死亡・相続ワンストップサービスの実現に向けた検討が進められているが、遺言のデジタル化だけでなく、相続手続に必要となる戸籍謄本、除籍謄本、遺産分割協議書など一連の書類のデジタル化を進め、一連の死亡・相続手続のデジタル完結を実現することで、国民の利便性が高まると考えられる。
法務省においては、死亡・相続手続の将来像を見据えながら、関係省庁と連携して、必要な取組を積極的に進めるべきであるが、法務省の見解如何。
【回答7】現行法では、相続の開始後、相続人が、相続の放棄・承認の選択をした上で、遺産分割協議等を経て被相続人の財産の承継を行うことが予定されており、また、遺言がある場合も、受遺者は遺贈を受けるかどうか選択することができます。
このように相続による財産の承継については、相続人の自主的な判断が尊重されていることから、この場面における死亡・相続ワンストップサービスの実現に当たっては、それぞれの相続人の自主性との調和のとれた制度とすることが重要ですが、その実現については、関係する制度を所管する府省と連携して、引き続きデジタル庁における法定相続人の特定に係る遺族等の負担軽減策の検討に積極的に加わる予定です。
なお、法務省においては、戸籍謄抄本の添付省略等に向けて戸籍情報連携システムを整備し、令和6年3月から稼動させる予定であるところ、これにより、戸籍謄抄本の請求者の負担軽減を図ることができるよう、デジタル庁等の関係府省と連携しつつ検討を進めてまいりたいと考えています。
→法務省 戸籍情報連携システムに関するお知らせ
https://www.moj.go.jp/MINJI/kosekirenkei.html
(公社)商事法務研究会
デジタル技術を活用した遺言制度の在り方に関する研究会報告書
2024(令和6)年3月
https://www.shojihomu.or.jp/list/digital-igon
資料2自筆証書遺言のデジタル化について
陰山司法書士事務所 司法書士隂山克典
司法書士業務と遺言の関連性について
➢ 不動産登記、商業登記をはじめとした各種登記申請の手続代理
➙ 遺言書を登記原因証明情報とする登記手続も多数
➙ 民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)により、相続登記の義務化が法制化されたため、遺言書の重要性は高まると思われる
➢ 地方裁判所や家庭裁判所等へ提出する裁判書類の作成
➙ 遺言の有効性を確認するための訴訟書類、遺言の検認申立書作成など➢ 成年後見人や遺言執行者等としての財産管理
➙ 遺言の内容に沿った相続手続の執行、内容に疑義がある場合の訴訟など➢ 遺言書の作成の支援
➙ 意思の実現のためのサポート
遺言書のデジタル化に係る諸外国の取組状況について第196回国会 参議院 法務委員会 第21号 平成30年7月5日元榮太一郎委員「紙の遺言書を必要としないで電子情報だけで完結するデジタル遺言ということがあるべき未来の姿ではないかなというふうに思っております」小野瀬厚政府参考人「アメリカにおきましては、一部の州においてビデオ録音や電子署名の付されたコンピューターファイルの形式の遺言が認められておりまして、また、韓国や中国におきましては、録音による遺言が認められているものと承知しております。」
アメリカの一例・・・アメリカ統一州法委員会(Uniform Law Commission)は、2019年7月、統一電子遺言法(UniformElectronic Wills Act)を承認
統一電子遺言法の制定状況等
州法による電子遺言
➢ Florida(2021年2月20日最終閲覧)Statutes732.523「Self-proof of electronic will.—An el ectronic will is self-proved if」
➢ Nevada Revised. Statutes133.085「Electronic will. 1. An ele ctronic will is a will of a testator that」その他、アリゾナ州、イリノイ州の規律が見受けられる
相続が発生した際、自筆証書遺言が原因で生じる紛争について
➢ 訴訟になる事案の多くは、判断能力を有していたか否かが争点になっていると思われる
➙ 東京地裁令和3年7月16日判決(令和元年(ワ)第30518号) 有効➙ 東京地裁令和3年4月22日判決(平成30年(ワ)第33173号・平成30年(ワ)第34196号) 有効
➙ 東京地裁令和3年3月3日判決(令和元年(ワ)第25537号) 無効など
➢ そのほか、本人の自書によるものであるか否かについても争われることがある
➙ 東京地裁令和3年6月23日判決(令和元年(ワ)第20063号) 有効
➙ 東京地裁令和3年4月28日判決(令和元年(ワ)第18640号) 有効
➙ 東京地裁令和3年3月4日判決(平成30年(ワ)第10423号・令和元年(ワ)第20888号) 無効など
- 遺言書保管法に基づき保管された遺言につき、デジタル交付の可能性➙ 相続手続のデジタル化への第一歩とならないか・・・同意です。画像データに遺言書保管官が電子署名を付した遺言書情報証明情報あれば、印刷された遺言書情報証明書と同様の信頼性が確保されると考えられます。
→デジタル遺言作成が法改正により可能となった場合
□遺言者の本人確認情報が運転免許証、マイナンバーカードからマイナポータルから電子署名と併用、または変更。
1、司法書士が遺言書に付与された電子証明書の有効性確認などを行う
2,デジタル遺言に公的個人認証を付与
3、司法書士が本人確認及び意思確認を行ったことの記録として、電子証明書を付与。
・・・司法書士が公正証書遺言における公証人の役割のうち、本人確認及び意思確認を行う。収益の移転防止に関する法律により、特定取引時に司法書士が行っている本人確認などと類似。
2と3の順序が逆ではないのかなと思いました。
犯罪収益移転防止法施行規則6条1項1号ワに掲げる本人確認方法
3、登記に必要な書類を送信・・・委任状、住民票、被相続人の戸籍の附票など。委任状以外の官公庁が保管している書類については、デジタル遺言が実現した際、システム連携がどの程度進んでいるかによって紙かデータになる。