公益信託法の見直しに関する中間試案
目 次
第1 新公益信託法の目的………………………………………….. 1
第2 公益信託の定義等……………………………………………. 1 1 公益信託の定義 …………………………………………….. 1 2 公益信託事務の定義………………………………………….. 1 3 現行公益信託法第2条第1項の削除……………………………… 1
第3 公益信託の効力の発生………………………………………… 1 1 公益信託の成立の認可………………………………………… 1 2 不認可処分を受けた信託の効力…………………………………. 1
第4 公益信託の受託者……………………………………………. 2 1 公益信託の受託者の資格………………………………………. 2 2 公益信託の受託者の権限,義務及び責任………………………….. 3
第5 公益信託の信託管理人………………………………………… 3 1 公益信託における信託管理人の必置……………………………… 3 2 公益信託の信託管理人の資格…………………………………… 3 3 公益信託の信託管理人の権限,義務及び責任………………………. 4
第6 公益信託の委託者……………………………………………. 4 1 公益信託の委託者の権限………………………………………. 4 2 公益信託の委託者の相続人…………………………………….. 4
第7 行政庁 ……………………………………………………. 4 1 公益信託の成立の認可・監督を行う行政庁………………………… 4 2 行政庁の区分 ………………………………………………. 4
第8 公益信託の成立の認可の申請…………………………………… 5 1 公益信託の成立の認可の申請主体……………………………….. 5 2 公益信託の成立の認可の申請手続……………………………….. 5
第9 公益信託の成立の認可基準…………………………………….. 5 1 公益信託の目的に関する基準…………………………………… 5 2 公益信託の受託者の行う信託事務に関する基準…………………….. 5 3 公益信託の信託財産に関する基準……………………………….. 5 4 公益信託の信託行為の定めに関する基準………………………….. 6
第10 公益信託の名称……………………………………………. 6
第11 公益信託の情報公開………………………………………… 7 1 公益信託の情報公開の対象及び方法……………………………… 7 2 公益信託の公示 …………………………………………….. 7
第12 公益信託の監督……………………………………………. 7 1 行政庁の権限 ………………………………………………. 7 2 裁判所の権限 ………………………………………………. 8
第13 公益信託の受託者の辞任・解任,新受託者の選任…………………. 8 1 公益信託の受託者の辞任………………………………………. 8 2 公益信託の受託者の解任………………………………………. 8 3 公益信託の新受託者の選任…………………………………….. 8
第14 公益信託の信託管理人の辞任・解任,新信託管理人の選任………….. 9 第15 公益信託の変更,併合及び分割……………………………….. 9 1 公益信託事務の処理の方法に係る信託行為の定めの変更……………… 9 2 公益信託の目的の変更……………………………………….. 10 3 公益信託の併合・分割……………………………………….. 10
第16 公益信託の終了…………………………………………… 10 1 公益信託の終了事由…………………………………………. 10 2 公益信託の存続期間…………………………………………. 11 3 委託者,受託者及び信託管理人の合意による終了………………….. 11 4 公益信託の終了命令…………………………………………. 11 5 公益信託の成立の認可の取消しによる終了……………………….. 11
第17 公益信託の終了時の残余財産の処理…………………………… 12 1 残余財産の帰属権利者の指定………………………………….. 12 2 最終的な残余財産の帰属……………………………………… 12
第18 公益信託と受益者の定めのある信託等の相互変更等………………. 12 1 公益先行信託 ……………………………………………… 12 2 公益信託から受益者の定めのある信託への変更……………………. 12 3 残余公益信託 ……………………………………………… 12 4 受益者の定めのある信託から公益信託への変更……………………. 13
第19 その他 …………………………………………………. 13 1 信託法第3条第3号に規定する方法による公益信託………………… 13 2 新公益信託法施行時に存在する既存の公益信託の取扱い…………….. 13 3 罰則 …………………………………………………….. 13 4 その他 …………………………………………………… 13 1
第1 新公益信託法の目的 新公益信託法は,公益信託の成立の認可を行う制度を設けるとともに, 受託者による公益信託事務の適正な処理を確保するための措置等を定める ことにより,民間による公益活動の健全な発展を促進し,もって公益の増 進及び活力ある社会の実現に寄与することを目的とするものとする。 第2 公益信託の定義等 1 公益信託の定義 公益信託は,学術,技芸,慈善,祭祀,宗教その他の公益を目的とする 受益者の定めのない信託として,行政庁から公益信託の成立の認可を受け たものとする。 2 公益信託事務の定義 公益信託事務は,学術,技芸,慈善,祭祀,宗教その他の公益に関する 具体的な種類の信託事務であって,不特定かつ多数の者の利益の増進に寄 与するものとする。 3 現行公益信託法第2条第1項の削除 現行公益信託法第2条第1項を削除するものとする。 第3 公益信託の効力の発生 1 公益信託の成立の認可 公益信託は,当事者が信託行為をし,かつ,行政庁による公益信託の成 立の認可を受けることによってその効力を生ずるものとする。 2 不認可処分を受けた信託の効力 公益信託として新たに信託を成立させる場合に行政庁から不認可処分を 受けても当該信託を受益者の定めのない信託として有効に成立させる旨の 信託行為の定めがあるときは,当該信託は不認可処分を受けた時から受益 者の定めのない信託としてその効力を生ずるものとし(注1),当該信託 については信託法第11章の規定を適用するものとする(注2)。 (注1)上記のような規律については,新公益信託法の中に規定を設けるのではなく, 解釈に委ねるべきであるという考え方がある。 2 (注2)行政庁から不認可処分を受けた受益者の定めのない信託について,信託法 第11章の規定を適用するが,一定の事項につき信託法第11章の特則を設けるべき であるという考え方がある。 第4 公益信託の受託者 1 公益信託の受託者の資格 公益信託の受託者は,次の資格を満たさなければならないものとする。 ⑴ 公益信託事務の適正な処理をなし得る能力を有すること(注1) 【甲案】公益信託事務の適正な処理をなし得る能力を有する法人である こと 【乙案】公益信託事務の適正な処理をなし得る能力を有する者(法人又 は自然人)であること(注2) (注1)受託者がその信託財産の処分を行う場合には,当該公益信託の目的に関 し学識経験を有する者又は組織(運営委員等又は運営委員会等)の意見を聴く ことを必要とすべきであるとの考え方がある。 (注2)受託者の資格として,自然人が公益信託の受託者となる場合には,公益信 託の信託財産の適切な管理・運用をなし得る能力を有する法人と共同で受託者と なることを必要とし,その法人と共同で公益信託事務の適正な処理をなし得る能 力を有することを必要とするとの考え方がある。 ⑵ 受託者が自然人である場合(⑴で乙案を採用する場合) ア 信託法第7条に掲げる者に該当しないこと イ 禁錮以上の刑に処せられ,その刑の執行を終わり,又は刑の執行を 受けることがなくなった日から5年を経過しない者に該当しないこと ウ 信託法その他の法律の規定に違反したことにより,罰金の刑に処せ られ,その執行を終わり又は執行を受けることがなくなった日から5 年を経過しない者に該当しないこと エ 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律第2条第6号に規 定する暴力団員又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者 に該当しないこと オ 公益信託の成立の認可を取り消されたことに責任を負う公益信託の 受託者又は信託管理人でその取消しの日から5年を経過しない者に該 当しないこと ⑶ 受託者が法人である場合 業務を執行する社員,理事若しくは取締役,執行役,会計参与若しく はその職務を行うべき社員又は監事若しくは監査役のうちに,上記⑵ア ないしオのいずれかに該当する者がないこと 3 2 公益信託の受託者の権限,義務及び責任 ⑴ 公益信託の受託者の権限,義務及び責任は,受益者の定めのある信託 の受託者の権限,義務及び責任と同様であるものとする。 ⑵ 受託者の善管注意義務は,軽減することはできないものとする。 第5 公益信託の信託管理人 1 公益信託における信託管理人の必置 公益信託の信託行為には,信託管理人を指定する旨の定めを設けなけれ ばならないものとする。 (注)美術館や学生寮の運営等を公益信託事務としている公益信託においては,会社法 がその規模等に応じて監査役,会計参与,会計監査人等を置かなければならない会社 を定めていることを参考にして,公益信託事務の規模等に応じて,公益信託の信託行 為に,事務処理及び会計の監査権限を有する者を指定する旨の定めも設けなければな らないとする考え方がある。 2 公益信託の信託管理人の資格 公益信託の信託管理人は,次の資格を満たさなければならないものとす る。 ⑴ア 受託者又はその親族,使用人その他受託者と特別の関係を有する者 に該当しないこと イ 委託者又はその親族,使用人その他委託者と特別の関係を有する者 に該当しないこと ⑵ 信託法第124条に掲げる者に該当しないこと ⑶ 信託管理人が自然人である場合 前記第4の1⑵に掲げる者に該当しないこと ⑷ 信託管理人が法人である場合 業務を執行する社員,理事若しくは取締役,執行役,会計参与若しく はその職務を行うべき社員又は監事若しくは監査役のうちに,前記第4 の1⑵に掲げる者に該当する者がないこと (注)上記⑴から⑷までに加え,当該公益信託の目的に照らしてふさわしい学識,経 験及び信用を有する者(公益信託事務の適正な処理の監督をなし得る能力を有する 者)であることを必要とする考え方がある。 4 3 公益信託の信託管理人の権限,義務及び責任 ⑴ 公益信託の信託管理人の権限,義務及び責任は,受益者の定めのある 信託の信託管理人の権限,義務及び責任と同様であるものとする。 ⑵ 信託管理人の権限は,信託行為の定めによって制限することは原則と してできないものとし,信託管理人の義務及び責任は,信託行為の定め によって制限することはできないものとする。 第6 公益信託の委託者 1 公益信託の委託者の権限 公益信託の委託者の権限は,受益者の定めのある信託の委託者が有する 権限と同様とした上で,信託行為により制限できるものとする。 2 公益信託の委託者の相続人 公益信託の委託者の相続人は,委託者の地位を相続により承継しない ものとする(注)。 (注)信託行為に別段の定めがあるときは,その定めるところによるとする考え方が ある。 第7 行政庁 1 公益信託の成立の認可・監督を行う行政庁 現行公益信託法第2条第1項及び第3条の規律を廃止し,公益信託の成 立の認可・監督は,民間の有識者から構成される委員会の意見に基づいて, 特定の行政庁が行うものとする。 2 行政庁の区分 現行公益信託法第10条及び第11条の規律を改め,公益信託事務が行 われる範囲が1の都道府県の区域内に限られる公益信託の成立の認可・監 督を行う行政庁は都道府県知事とし,公益信託事務が行われる範囲が2以 上の都道府県の区域内である公益信託の成立の認可・監督を行う行政庁は 国の行政庁とするものとする。 5 第8 公益信託の成立の認可の申請 1 公益信託の成立の認可の申請主体 公益信託の受託者になろうとする者は,当該信託について行政庁による 公益信託の成立の認可の申請をすることができるものとする。 2 公益信託の成立の認可の申請手続 公益信託の成立の認可の申請は,必要事項を記載した申請書等を行政庁 に提出してしなければならないものとする。 第9 公益信託の成立の認可基準 (前注)本項1から4までの成立の認可基準の他に,次に掲げるものを認可基準 とするものとする。 ・公益信託の受託者の資格(前記第4の1) ・公益信託の信託管理人の資格(前記第5の2) ・公益信託終了時の残余財産の帰属権利者を信託行為で定めていること(後記 第17の1) 行政庁は,公益信託の成立の認可の申請がされた信託が次に掲げる基準に適 合すると認めるときは,当該信託について公益信託の成立の認可をするものと する。 1 公益信託の目的に関する基準 公益信託事務を行うことのみを目的とするものであること 2 公益信託の受託者の行う信託事務に関する基準 公益信託の受託者が行う信託事務が,当該公益信託の目的の達成のため に必要な信託事務であること なお,当該信託事務が収益を伴うことは許容されるものとする。 3 公益信託の信託財産に関する基準 ⑴ 公益信託の信託財産は,金銭に限定しないものとする。 ⑵ 公益信託設定当初の信託財産に加え,信託設定後の信託財産の運用や, 委託者又は第三者からの拠出による事後的な信託財産の増加等の計画の 内容に照らし,当該公益信託の存続期間を通じて,公益信託事務を遂行 することができる見込みがあること 6 ⑶ 信託財産に,他の団体の意思決定に関与することができる株式等の財 産が原則として含まれないことを必要とし,例外として,当該株式等の 財産の保有によって他の団体の事業活動を実質的に支配するおそれがな い場合は当該株式等の財産が含まれることを許容する(注)。 (注)公益信託の信託財産に他の団体の意思決定に関与することができる株式等の 財産が含まれるか否かを公益信託の成立の認可基準としないという考え方がある。 4 公益信託の信託行為の定めに関する基準 ⑴ 信託行為の定めの内容が,次に掲げる事項に適合することとする。 ア 委託者,受託者若しくは信託管理人又はこれらの関係者に対して特 別の利益を供与するものでないこと イ 特定の個人又は団体に対して寄附その他の特別の利益を供与するも のでないこと ウ 受託者及び信託管理人の報酬について,不当に高額にならない範囲 の額又は算定方法が定められていること エ 公益信託の会計について (ア) 公益信託事務に係る収入がその実施に要する適正な費用を償う額 を超えないと見込まれるものであること (イ) 遊休財産額が一定の制限を超えないと見込まれるものであること (ウ) 公益信託に係る費用のうち当該公益信託の運営に必要な経常的経 費の額が一定の割合以下となると見込まれるものであること(注) (注)エ(ウ)の基準は不要であるとする考え方がある。 ⑵ 公益信託事務が金銭の助成等に限定されている公益信託について,上 記⑴エの基準は適用しないものとする。 第10 公益信託の名称 公益信託の名称に関して,以下のような規律を設けるものとする。 1 公益信託には,その名称中に公益信託という文字を用いなければなら ない。 2 何人も,公益信託でないものについて,その名称又は商号中に,公益 信託であると誤認されるおそれのある文字を用いてはならない。 3 何人も,不正の目的をもって,他の公益信託であると誤認されるおそれ のある名称又は商号を使用してはならない。 4 3に違反する名称又は商号の使用によって事業に係る利益を侵害され, 又は侵害されるおそれがある公益信託の受託者は,その利益を侵害する 7 者又は侵害するおそれがある者に対し,その侵害の停止又は予防を請求 することができる。 第11 公益信託の情報公開 1 公益信託の情報公開の対象及び方法 現行公益信託法第4条第2項を廃止又は改正し,新たな公益信託の情報 公開の対象,方法については,公益財団法人と同等の仕組みとするものと する。 2 公益信託の公示 行政庁は,公益信託の成立の認可やその取消し,公益信託の変更,併合・ 分割の認可をしたときは,その旨を公示しなければならないものとする。 第12 公益信託の監督 1 行政庁の権限 現行公益信託法第4条第1項の規律を改め,行政庁は,次の権限を行使 するものとする。 ⑴ 行政庁は,公益信託事務の適正な処理を確保するために必要な限度 において,受託者に対し,その公益信託事務及び信託財産の状況につ いて必要な報告を求め,又は,その職員に,当該受託者の事務所に立 ち入り,その公益信託事務及び信託財産の状況若しくは帳簿,書類そ の他の物件を検査させ,若しくは関係者に質問させることができる。 ⑵ 行政庁は,公益信託が成立の認可基準のいずれかに適合しなくなっ たとき等に該当すると疑うに足りる相当な理由がある場合には,受託 者に対し,期限を定めて,必要な措置をとるべき旨の勧告をすること ができる。 ⑶ 行政庁は,上記⑵の勧告を受けた受託者が,正当な理由がなく,そ の勧告に係る措置をとらなかったときは,当該受託者に対し,その勧 告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。 ⑷ 行政庁は,上記⑶の命令を受けた受託者が,正当な理由がなく,そ の命令に従わなかったときは,当該公益信託の成立の認可を取り消さ なければならない。 8 2 裁判所の権限 裁判所は,信託法が裁判所の権限としている権限を原則として有するも のとすることに加え,現行公益信託法第8条が裁判所の権限としている権 限を有するものとする。 第13 公益信託の受託者の辞任・解任,新受託者の選任 1 公益信託の受託者の辞任 現行公益信託法第7条の規律を改め,受託者は,委託者及び信託管理人 の同意を得て辞任することができるほか,[やむを得ない事由/正当な理由] があるときは裁判所の許可を得て辞任することができるものとする。 2 公益信託の受託者の解任 ⑴ 委託者及び信託管理人の合意による解任について 委託者及び信託管理人は,[受託者がその任務に違反して信託財産に 著しい損害を与えたことその他重要な事由があるとき/正当な理由があ るとき]は,その合意により受託者を解任することができるものとする。 ⑵ 委託者及び信託管理人の合意がない場合において,受託者がその任 務に違反して信託財産に著しい損害を与えたことその他重要な事由があ るときは,裁判所は,委託者又は信託管理人の申立てにより,受託者を 解任することができるものとする。 委託者については信託行為において受託者の解任の申立権を有しない 旨を定めることができるものとする。 3 公益信託の新受託者の選任 ⑴ 委託者及び信託管理人は,信託行為に新受託者に関する定めがある場 合は,当該定めに従い,信託行為に新受託者に関する定めがない場合は, 信託法第62条第1項の方法により新受託者を選任することができるも のとした上で,新受託者になろうとする者は,行政庁による新選任の認 可を受けるものとする。 ⑵ 信託法第62条第1項の場合において,同項の合意に係る協議の状況 その他の事情に照らして必要があると認めるときは,裁判所は,利害関 係人の申立てにより,新受託者を選任することができるものとした上で, 新受託者になろうとする者は,行政庁による新選任の認可を受けるもの とする(注)。 9 (注)行政庁による認可を必要とせず,裁判所が新受託者を選任する前に,行政庁に 意見を聴くものとする考え方がある。 第14 公益信託の信託管理人の辞任・解任,新信託管理人の選任 公益信託の信託管理人の辞任・解任,新信託管理人の選任の規律は, 公益信託の受託者の辞任・解任,新受託者の選任と同様の規律とするも のとする。 第15 公益信託の変更,併合及び分割 (前注)行政庁に対する変更,併合及び分割の認可の申請は,いずれも受託者が行 うことを前提としている。 1 公益信託事務の処理の方法に係る信託行為の定めの変更 ⑴ 現行公益信託法第5条及び第6条を廃止又は改正し, ア 公益信託事務の処理の方法に係る信託行為の定めの変更は,委託者, 受託者及び信託管理人の合意等がある場合には,行政庁による変更の 認可を受けることによってすることができるものとする。 イ 裁判所は,信託行為の当時予見することのできなかった特別の事情 により,公益信託事務の処理の方法に係る信託行為の定めが信託の目 的及び信託財産の状況その他の事情に照らして公益信託の目的の達成 に支障になるに至ったときは,委託者,受託者又は信託管理人の申立 てにより,信託の変更を命ずることができるものとする。 委託者については信託行為において変更命令の申立権を有しない旨 を定めることができるものとする。 ウ 受託者は,上記イの変更命令の後,行政庁による変更の認可を受け るものとする(注)。 (注)行政庁による変更の認可を必要とせず,裁判所が信託の変更を命ずる前に, 変更後の信託が公益信託の成立の認可基準を充足するか否かについて,行政庁に 意見を聴くものとする考え方がある。 ⑵ 上記⑴アの例外として,公益信託事務の処理の方法に係る信託行為の 定めの軽微な変更をするときは,受託者は,その旨を行政庁に届け出る とともに,当該変更について委託者及び信託管理人の同意を得ていない 場合には,遅滞なく,委託者及び信託管理人に対し,変更後の信託行為 の定めの内容を通知しなければならないものとする。 10 2 公益信託の目的の変更 ⑴ 現行公益信託法第6条を廃止又は改正し,公益信託の目的の変更は, 委託者,受託者及び信託管理人の合意がある場合には,行政庁による変 更の認可を受けることによってすることができるものとする。 ⑵ 現行公益信託法第9条を改正し,公益信託の目的を達成したとき又は その目的を達成することができなくなったときは, ア 委託者,受託者及び信託管理人の合意がある場合には,公益信託の 目的を他の公益目的に変更し,行政庁による変更の認可を受けること によって公益信託を継続できるものとする。 イ 委託者が現に存しない場合には,受託者及び信託管理人は,その合 意により,公益信託の目的を類似の目的に変更し,行政庁による変更 の認可を受けることによって公益信託を継続できるものとする。 3 公益信託の併合・分割 現行公益信託法第6条を廃止又は改正し,公益信託の併合・分割は,委 託者,受託者及び信託管理人の合意等がある場合には,行政庁による併合・ 分割の認可を受けることによってすることができるものとする(注)。 (注)裁判所は,信託行為の当時予見することのできなかった特別の事情により,信託 行為の定めが信託の目的及び信託財産の状況その他の事情に照らして公益信託の目的 の達成に支障になるに至ったときは,委託者,受託者又は信託管理人の申立てにより, 信託の併合・分割を命ずることができる旨の規律を設けるものとする考え方がある。 第16 公益信託の終了 1 公益信託の終了事由 公益信託は,次に掲げる場合に終了するものとする。 ⑴ 信託の目的を達成したとき,又は信託の目的を達成することができ なくなったとき。 ⑵ 受託者又は信託管理人が欠けた場合であって,新受託者又は新信託 管理人が就任しない状態が1年間継続したとき。 ⑶ 受託者が信託法第52条(第53条第2項及び第54条第4項にお いて準用する場合を含む。)の規定により信託を終了させたとき。 ⑷ 信託の併合がされたとき。 ⑸ 信託法第165条又は第166条の規定により信託の終了を命ずる 裁判があったとき。 ⑹ 信託財産についての破産手続開始の決定があったとき。 11 ⑺ 委託者が破産手続開始の決定, 再生手続開始の決定又は更生手続開 始の決定を受けた場合において,破産法第53条第1項,民事再生法 第49条第1項又は会社更生法第61条第1項(金融機関等の更生手 続の特例等に関する法律第41条第1項及び第206条第1項におい て準用する場合を含む。)の規定による信託契約の解除がされたとき。 ⑻ 信託行為において定めた事由が生じたとき。 2 公益信託の存続期間 公益信託の存続期間については,制限を設けないものとする。 3 委託者,受託者及び信託管理人の合意による終了 【甲案】公益信託の終了は,委託者,受託者及び信託管理人の合意がある 場合には,行政庁による公益信託の[終了の認可/成立の認可の取消 し]を受けることによってすることができるものとする。 【乙案】公益信託の終了は,委託者,受託者及び信託管理人の合意のみに よりすることができるものとする。 4 公益信託の終了命令 信託行為の当時予見することのできなかった特別の事情により,公益信 託を終了することが信託の目的及び信託財産の状況その他の事情に照らし て相当になるに至ったことが明らかであるときは,裁判所は,委託者,受 託者又は信託管理人の申立てにより,信託の終了を命ずることができるも のとする。 委託者については信託行為において公益信託の終了命令の申立権を有し ない旨を定めることができるものとする。 5 公益信託の成立の認可の取消しによる終了 公益信託の成立の認可を取り消された公益信託は,終了するものとする (注)。 (注)原則として当該信託は終了するが,信託行為に公益信託の成立の認可の取消後 は受益者の定めのない信託として存続させる旨の定めがあるときは,当該信託は受 益者の定めのない信託として存続するものとするという考え方がある。 12 第17 公益信託の終了時の残余財産の処理 1 残余財産の帰属権利者の指定 ⑴ 公益信託の信託行為には,残余財産の帰属すべき者(以下「帰属権利 者」という。)の指定に関する定めを置かなければならないものとする。 ⑵ 上記⑴の定めの内容は,信託終了時の全ての残余財産を当該公益信託 と類似の目的を有する他の公益信託若しくは類似の目的を有する公益法 人等(公益法人認定法第5条第17号イないしトに掲げる法人を含む。) 又は国若しくは地方公共団体に帰属させることを定めたものでなければ ならないものとする(注)。 (注)公益信託の成立後の寄附等により信託財産に加わった財産の帰属権利者につ いては上記⑵に掲げた者を指定するものでなければならないとした上で,公益信 託の成立時に拠出された信託財産の帰属権利者については委託者等の私人を指定 することを許容する考え方がある。 2 最終的な残余財産の帰属 帰属権利者の指定に関する信託行為の定めに掲げられた者の全てがその 権利を放棄した場合の残余財産は,国庫に帰属するものとする。 第18 公益信託と受益者の定めのある信託等の相互変更等 1 公益先行信託 公益先行信託(信託設定当初の一定期間は信託財産の一部を公益目的の ために供するが,一定期間経過後は,残りの信託財産を私益目的のために 供する信託)について行政庁が成立の認可を行う制度は設けないものとす る。 2 公益信託から受益者の定めのある信託への変更 公益信託について,信託の変更によって受益者の定めを設け,受益者の 定めのある信託とすることはできないものとする。 3 残余公益信託 残余公益信託(信託設定当初の一定期間は信託財産の一部を私益目的の ために供するが,一定期間経過後は,残りの信託財産を公益目的のために 供する信託)について行政庁が成立の認可を行う制度は設けないものとす る。 13 4 受益者の定めのある信託から公益信託への変更 【甲案】受益者の定めのある信託について,信託の変更によって受益者の 定めを廃止して公益信託とすることはできないものとする。 【乙案】受益者の定めのある信託について,信託の変更によって受益者の 定めを廃止して公益信託とすることができるものとする。 第19 その他 1 信託法第3条第3号に規定する方法による公益信託 【甲案】信託法第3条第3号に規定する方法により公益信託をすることは できないものとする。 【乙案】信託法第3条第3号に規定する方法により公益信託をすることは できるものとする。 2 新公益信託法施行時に存在する既存の公益信託の取扱い ⑴ 新公益信託法施行時に存在する既存の公益信託は,新公益信託法の適 用を受ける公益信託への移行について,行政庁による移行の認可を受け ることを必要とするものとする(注)。 (注)一定の要件を満たしている既存の公益信託については,届出等の簡易な移行手 続を許容するとの考え方がある。 ⑵ 新公益信託法施行時に存在する既存の公益信託について,移行の認可 を受ける前は,現行公益信託法が適用されるものとし,移行の認可を受 けた後は,新公益信託法が適用されるものとする。 ⑶ 移行の認可は,新公益信託法の施行日から一定の期間内に受けること を必要とし,移行の認可を受けなかった信託は,上記の期間経過後に終 了するものとする。 3 罰則 現行公益信託法第12条の規律を改め,罰則について所要の措置を講ず るものとする。 4 その他 その他所要の規定を整備するものとする。 以上