『信託フォーラム 2023年10月号』vol.20.日本加除出版
特集1 裁量信託─民事信託における受託者の裁量/特集2 空き地・空き家問題と信託/特集3 「新しい類型の信託」の今
巻頭言 民事信託の一層の普及に向けて(日本弁護士連合会 会長●小林元治)
2022年に日本弁護士連合会によって策定、公表された「民事信託業務に関するガイドライン」に拠り、適切な民事信託の利用を目指すこと。公益信託法の改正作業に対し注視していること。
対 談 比較法の視点から見る信託法研究と実際
( 東京大学大学院法学政治学研究科教授●溜箭将之× 中央大学研究開発機構教授●新井 誠)
溜箭将之「信託と遺留分の相克は解けないか : 英米法研究者の思考実験」2020-03-31、立教大学紀要論文
https://rikkyo.repo.nii.ac.jp/records/19415
KAKEN_溜箭将之
https://nrid.nii.ac.jp/ja/nrid/1000070323623/
東京大学での信託法の授業について、実務家の授業は多いが学生はそれほどではない。フィデューシャリー・デューティーは信託だけではなく会社法などにもあることを説明すると、学生の関心が上がることもある。
「継受論」について。ダイナミックな法の動きと、東西から伝わってきた日本の位置づけと捉えているように感じました。継受という系統だった言葉にはこだわりがなさそうです。
中国でも、家族信託のような資産承継の形が利用されるのではないか、という予想に同意です。
受託者規制について、安全性を確保しようとするとき、その方法しかないとすると、信託の可能性を狭めるのではないか、という指摘。公益法人改正作業についても同様。
税法について、信託を使いやすい建付けとなっているかといえば、消極。公益信託の次の段階として、ナショナルトラストというような法人格を持つ器の利用が考えられる、との指摘。 何百年単位の長期的な視点、海外とのビジネスとしての視点が必要との指摘。
関西学院大学法学部教授●木村 仁「受託者の裁量権行使とその責任」
受託者は、裁量権を行使するのに必要な受益者の情報を、どの程度調査する義務、権利があるのだろうか、という問題意識。アメリカ信託法との比較。日本の信託における受益権の譲渡性・被差押適格について、整理することが課題。
茨城大学講師●福田智子「民事信託における受託者の「裁量範囲」─アメリカ裁量信託における「受託者の裁量」を参考に」
民事信託の定義について、他益型信託が基本とされる、という記述に違和感を持ちましたが、第2次受益者への承継という意味で捉え、税法を考えなければ、本来の姿かなと思います。裁量の内容として明確かつ詳細な信託設定が求められることに同意です。
三井住友信託銀行 信託開発部長●吉田安廣「実務家から見た裁量信託の意義と可能性」
実務上、裁量権行使の態勢と税務の取扱いの二点が課題との指摘。金融機関が個人信託に関するサービスを提供しても収益性は高いとの予想。
法務省民事局民事第二課所有者不明土地等対策推進室長●山本貴典「所有者不明土地問題の解消に向けた相続登記の申請義務化・相続土地国庫帰属制度の創設に係る法務省の取組」
相続土地国庫帰属制度が始まり、令和5年4月27日から7月31日までの間に、全国で約730件の申請があったことの報告。
国土交通省住宅局住宅総合整備課 企画指導係長●城戸郁咲「空家等対策の推進に関する特別措置法の改正について」
空家等対策の推進に関する特別措置法の改正内容について。空家等活用促進地域、空家等活用促進指針などの紹介。接道規制の特例要件、用途特例適用要件の新設。市区町村長が指定できる空家等活用支援法人の創設。行政による指導、勧告が出来ることになったこと。略式代執行、緊急代執行が可能となったこと。市区町村長が民法上の財産管理制度の管理人請求にかかる請求を可能とした点は、成年後見制度と同様。
南山大学法学部准教授●中田裕子「空き家信託の意義と可能性」
空家等、の定義について。リバースモーゲージと信託の活用について。今後の課題として、その他空き家を特定、予防するような仕組み作り。
新潟県弁護士会リーガルサービスセンター委員会 空き家・所有者不明土地問題対策部会副部会長、同信託部会部会長 弁護士●田中篤子/同空き家・所有者不明土地問題対策部会副部会長、同信託部会副部会長 弁護士●近藤千鶴「空き家問題の解決における民事信託の活用可能性と実務上の課題」
新潟県弁護士会において、空き家対策としての民事信託が積極的に活用されていない背景・要因について。なんとなく時間が過ぎる、売却が難しい、親族間紛争への懸念、税制上のリスクなど。今後の空き家対策として、まちづくりの視点から。
東京国際大学商学部教授●鯖田豊則「自己信託の現状と展望」
自己信託について、主に信託会社、金融機関の活用例について。民事信託でいえば、公証実務と信託口口座を開設する金融機関の理解が課題だと考えます。
弁護士●山口正徳「後継ぎ遺贈型受益者連続信託の現在と未来」
後継ぎ遺贈型受益者連続信託の著者の活用事例の紹介。今後の活用事例として、自社株を信託財産に属する財産とする民事信託の利用が増えるのではないかという予想。
住友林業株式会社 資源環境事業本部 技師長●寺澤健治「日本の森林・林業における現状と課題と所有からみた持続的な森林経営に向けた解決策について」
まずは地籍調査完了と相続登記の申請。その後に所有と経営を分けること。森林経営管理制度の紹介。信託に関しては信託会社を受託者とする提案。
日弁連信託センター 弁護士●伊庭 潔「令和5年度信託法学会における研究発表を傍聴して」
主に受託者の権利義務についての発表に興味を持ったという報告。
京都大学大学院総合生存学館教授●長山浩章「原発廃止措置にかかわる信託を導入した資金管理スキームの提案」
米国、英国の原発廃炉基金への信託の導入状況の紹介。日本における活用可能性として、積立金方式にすることが可能か、信託銀行としてビジネスとして成り立つか、見当が必要との指摘。
森・濱田松本法律事務所 弁護士●松井秀樹「監査役等の選任・報酬の決定プロセスにおける独立性の確保」
監査役の選任と報酬について、執行側が決定している面があるのではないか、という問題意識。コーポレートガバナンスコードとの乖離。
監査役になる方は、監査役にならなくても他に仕事がある方で、報酬や選任について話し合いで納得がいかなければ辞任することができれば、独立性は保てるのではないかと思いました。
弁護士●佐々木育子「親族間紛争のある事案の民事信託」
共有不動産の信託は、考えることが多くなり、さらに紛争性があると難しい面があると感じました。私が相談を受けた場合は、弁護士さんを紹介したいと思います。任意後見契約の代理権目録の活用は良いなと思いました。
一般社団法人投資信託協会●青山直子「白鳥教授の投資信託研究入門 第20回」
投資傾向について。
家族信託への招待 第20回(弁護士●遠藤英嗣)
税理士●菅野真美「信託と税金 no.20」
令和4年12月20日東京国税局文書回答について。条文ではなく文書回答にした対応に疑問。帰属権利者である相続人は、適正管理の責任を潜在的に追うのではないか、という疑問について。同意です(民法918条、940条、1012条)。
民事信託と登記 第11回(渋谷陽一郎)
ここからはじめる! 民事信託実務入門 第5回(弁護士●金森健一)
公証人●原啓一郎「信託契約公正証書はどのようにして作られるか」
公証役場に信託契約書のドラフトを送る前に、金融機関や証券会社の事前チェックが必要な場合は、終わらせておくこと、との指摘。個人的には同時進行が望ましいと感じます。内容についての修正指摘が入ると、時間を費やすので、修正依頼が入った順番に修正して双方へ送ることが、依頼者の利益に資すると思います。
みずほ信託銀行信託プロダクツ業務部企画チーム参事役●山北章夫「セキュリティ・トラストの活用例について」
被担保債権を単位とするのではなく、債務者単位での担保権管理が可能になれば、活用が進むとの指摘。