澤野芳夫「信託契約公正証書作成の留意点」

浅草公証役場公証人 澤野芳夫

 

家族信託実務ガイド[1]の記事からです。

公正証書作成件数推移の概況

以下、日本公証人連合会が正規に公表しているもの以外は概数で表示しています。

―略―

民事信託件数

平成30年1月~6月計 1000件

平成31(令和元)年1月~6月計 1200件

令和2年1月~6月計 1400件

日本公証人連合会が全国の民事信託件数の概数を把握していることに驚きました。

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私が平成31年に那覇公証センターに照会したときには、そのような調査はしていないという回答だったからです。数字をみると、現実的な数字かなと感じます。遺言公正証書の作成件数と比較すると約2%~3%ですが、決して少なくないという印象を私は持ちました。業界内で大きく取り上げてられている割に少ないというズレも何となく納得です。

信託契約公正証書作成の留意点

―略―

金銭の追加信託についても、例えば「信託口座への入金をもって信託財産の追加とみなす」という文言は、①委託者の意思能力がなくなった場合にも追加信託として認められるかという問題点や、②前記の学説のように追加信託も契約とみると、委託者、受託者の関与がない追加信託を認めて良いかという問題点があるので避けたほうがよいと思われます。

私が考え得る方法

方法1、信託法26条の範囲で、受託者から受益者に信託事務に必要な費用として金銭を信託財産に属する財産として追加してもらう構成にする。

 

方法2、信託法146条を利用して、委託者の地位を追加信託の権限に限定して受益者に移転する。受益者の意思能力がなくなった場合に備えて受益者代理人を選任しておく(または選任できる規定を定めておく。)。不動産の場合、信託法上は有効ですが、不動産登記法の構成上、登記が出来ません。

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(2)委託者の意思確認の重要性

―略―

この関係で、信託契約の中に終了事由として「受益者は、受託者の合意により、本件信託を終了することができる」との条項(以下、「本件条項」という)があった場合、それが上記別段の定めにあたるとして、委託者兼受益者が信託を終了するには、受託者との合意を要すると解される余地があるので注意を要します。(東京地裁平成30年10月23日判決金融法務事情2122号85頁参照)。本件条項は上記別段の定めにあたり、委託者兼受益者が信託を終了させるには、受託者との合意が必要となると解さざるを得ないと思いますが、そうすると、遺言では、遺言者の最終意思を尊重するということで撤回が自由とされている(民法1022条)のに、資産の承継という目的を有する点で遺言と同様の目的をも有する信託においては、委託者兼受益者が自由に撤回(終了)できなくなるのが妥当といえるのかという問題が生じます。

・上記別段の定めにあたるとして、委託者兼受益者が信託を終了するには、受託者との合意を要すると解される余地があるので注意を要します。(東京地裁平成30年10月23日判決金融法務事情2122号85頁参照)。について

「受益者は、受託者の合意により、本件信託を終了することができる」との条項を入れたとしても、「その他信託法で定める場合」と信託行為に定めている場合は信託法164条1項の委託者は単独で信託を終了することが出来ます。

 

・遺言では、遺言者の最終意思を尊重するということで撤回が自由とされている(民法1022条)のに、資産の承継という目的を有する点で遺言と同様の目的をも有する信託においては、委託者兼受益者が自由に撤回(終了)できなくなるのが妥当といえるのかという問題が生じます。について

委託者兼受益者が自由に撤回(終了)できる信託を設定すると、受託者に就任する人が少なくなると思われるので、避けたほうがよいのかなと感じます。本当に委託者や受益者と受託者の関係が悪くなった場合には、信託法163条1項1号か同法165条により信託を終了せざるを得ないのかなという印象を持ちました。

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信託契約の条項において、「本信託は、委託者が事理を弁別し判断能力が不十分になったときに効力を発生する」(判断に客観性を持たせるために医師2名以上の診断書を必要とすることなどが考えられます)などとすることにより、―中略―停止条件付信託契約はこのような不都合を生じるおそれがありますので、注意をする必要があります。

信託契約ではなく自己信託にして、受託者が後継受託者を誰からみても正常な状態で指名しない限り信託が終了するような仕組みにすれば良いのではないかなと感じました。

(4)「受託者は、信託不動産の瑕疵及び瑕疵により生じた損害につき責任を負わない」という条項について

著者も民法上の責任を負うなど注意喚起していますが同意します。またこのような条項を入れることにより、受託者にとってより不都合な解釈がされるのでないかと思います(例えば、信託設定時から損害が生じることを知っていたのではないか、など)。

 

[1] 2021.2第20号P2~日本法令