2016年加工編
法制審議会信託法部会
第16回会議 議事録
第1 日 時 平成17年6月3日(金) 自 午後1時00分
至 午後6時15分
第2 場 所 法務省第1会議室
第3 議 題
信託宣言について
信託の公示について
信託の終了原因について
信託の清算について
信託財産に係る破産手続の整備について
裁判所の監督について
営業信託の商行為性について
合同運用について
遺言代用の信託における死亡後受益者の変更権の留保について
目的信託について
公益信託について
第4 議 事 (次のとおり)
議 事
● 時間が参りましたので,法制審議会信託法部会を開催したいと思います。
● それでは,今日の進行でございますけれども,終了のところだけ2つ合わせて行いまして,残りは資料の順に1つずつやっていきたいと思っております。
皆様御承知のとおり,これで二読を終わりまして,次は7月1日と15日になりますが,そこで中間試案に向けての取りまとめ作業をお願いしたいと思っておりますので,今日は何とか最後まで,場合によっては少し時間超過することもあるかもしれませんが,よろしく御協力をお願いしたいと思います。
● それでは,今日は1つずつということですので,1つずつ説明をお願いします。
● それでは,まず最初の,信託宣言についてでございます。
これは前回会議における指摘を踏まえまして,新たに3つの案を提案するものでございまして,前回会議におきましては,この信託宣言の当否について,おおむね次のような意見が示されております。
まず,肯定的な意見といたしましては,流動化取引における資金調達において,時間的・費用的コストを節約できること,あるいは損害保険会社の代理店の手元にある保険料やサービサーの回収金の資金管理スキームに有益であるというような指摘,銀行債権の流動化や事業の信託に資するという指摘,商法上のトラッキング・ストックに類した特定事業部門の切り出しによる資金調達に有益である,受託者の監督の問題については受益者によるチェックがあるのではないか,形式的には委託者と受託者は別法人でも,同一企業グループに属しているケースも多々あるのであり,実質を見た場合には異ならないのではないか,執行免脱は信託宣言だけに特別な問題ではないし,詐害行為取消しや罰則規定などの一般的な法理で解決すべき問題であるというような御意見がございました。
他方,これに消極的な御意見としては,やはり執行免脱ということが強く言われておりまして,債権者の立場からすると,執行免脱のおそれが懸念される。
契約であれば協力者が必要となるが,信託宣言では協力者を得ずして執行免脱が可能となってしまうのであり,債務者が容易に財産隠しを行えるという事情は,この信託宣言にはどうしてもついて回る問題である。
詐害行為取消権,詐害信託取消権の行使ができるとはいっても,訴訟をやらなければならないというのは手続的に重く,取消権の要件いかんでは,これで解決を図ることは難しい。
これと同種の御意見として,やはり訴訟を行うというのは当事者にとって大きなハードルであって,詐害行為取消権の行使を要することを前提に,その要件や立証責任を緩和するといったことで足りる問題ではないと思われ,一般的に信託宣言を認めることには反対であるといった御指摘がございました。
これ以外にも,例えば,信託宣言を有効とするとしても,いつ信託宣言がなされたのかが明らかにならないと困る場面が多いのではないかといった御指摘がございました。
これらの問題を踏まえまして,今回は,新たに3つの案を提案いたしまして,御意見を問うものでございます。
まず,甲案でございますが,信託宣言による信託の設定は,債権者詐害の危険が高いことを理由に原則として禁止した上で,現行法でも理論上,実務上認められております,いわゆる再信託についてのみ例外的に許容するものでございます。
これに対しまして乙案は,前回会議において,信託宣言による信託の設定が認められることによって,実務上さまざまな活用の可能性があり得ることが指摘されたこと等にかんがみまして,信託制限を例外なく許容することとし,債権者詐害の危険性に対しては,詐害信託取消権等をもって対応すればよいと考えるものでございます。
最後に,丙案は,いわば折衷的な見解でございまして,信託宣言を基本的に許容した上で,債権者詐害の懸念に一定の対処をしようとするものでございます。
ここでは,その対処の方法として,あくまでも一つの考え方としてでございますが,資料中に記載しましたとおり,1つは,信託財産に対する強制執行等の禁止の例外を認める方法,もう一つは,信託の効力発生時期に関する特例を定める方法とを挙げてみました。
まず,(1)は,委託者の債権者は確かに法律上,詐害信託取消権を有するとはいっても,現実的には常に執行の前に訴訟を提起しなければならないとすれば,その負担は重いとの批判に対応するものでございます。
つまり,信託宣言の場合には,委託者の債権者は訴訟を経ることなく,いつでも信託財産に強制執行をすることができるとしまして,この強制執行を排除するためには,委託者または受託者の側で,当該信託宣言が委託者の債権者を害するものでないことを立証しなければならないとすることによりまして,委託者の債権者による信託財産への強制執行を容易にしてはどうかと考えるものでございます。
次に,(2)の①でございますが,これは信託宣言による信託設定の効力が生ずる時期に関しまして,受託者と受益者との間の緊張関係,つまり受益者が現実に受託者に対する監督的権能を行使し得る状態に至って初めて信託設定の効力が生ずるとするものでございます。
これは言いかえますと,それまでは信託の効力が生ぜず,委託者の債権者は信託宣言された財産にかかっていけるものとすることによりまして,委託者にとっては,契約に比して信託宣言の方が相手方がいない分だけやりやすく,執行免脱が容易になる等の批判に実質的に対処しようとするものでございます。
次に,②でございますが,①によりますと,例えば,受益者が不特定または未存在の場合には,少なくとも受益者が確定するまでは信託設定の効力が生じないこととなりますが,場合によっては信託財産の委託者からの倒産隔離の効力が長期間生じないことによる不便もあり得ることにかんがみまして,信託宣言が公正証書によってなされた場合には,①の時期を待たず信託設定の効力が生ずることとするものでございます。
このように,公正証書によってなされる場合には,信託宣言による信託設定の事実及び時期が対外的に明らかにされることになりまして,委託者が信託宣言を利用して執行免脱を図ることは難しくなると考えてよいのではないかと思われます。
以上のような3つの案を踏まえまして,信託宣言による信託設定の可否についてどのように考えるべきかにつき,贈与契約による詐害行為との対比,あるいは担保・執行法制や破産法制の最近の改善内容等も踏まえまして,御審議願いたいと思います。
以上でございます。
● それでは,信託宣言について御議論をお願いしたいと思います。
前回の議論をもとに幾つか新しい提案が出ておりますので,それを含めて御議論いただければと思います。
● 前回と重複しないようにお話ししたいと思うんですけれども,流動化という視点からお話をさせていただきますと,流動化において,ある意味では当然のことですけれども,執行免脱ということは法的にあり得ないということを申し上げたいと思います。
流動化における信託宣言は,恐らく--恐らくといいますか,確実に,自益信託型となると思うんですね。
したがって,信託財産という財産の形式を考えますと,もともとの委託者といいますか,もともとの所有者の固有財産が信託財産に変わりますけれども,その時点においては,受益権ということで固有財産は保有している。
したがって,委託者の債権者というのは何ら侵害されていないことになりますと,その受益権が譲渡されることによって今度は現金が入ってきますから,したがって,委託者のバランスシート上も何ら,資産の項目が変わっただけでして,何ら変わらない。
破産法改正の際にも,適正価格の売買であることは必要だと思いますけれども,流動性がない資産が現金に置きかわったからといって,それによって特に債権者が詐害されることはないだろうという方向性で,破産法の改正もなされたと思いますし,したがって,流動化という視点から考えますと,信託宣言が執行免脱になることは,考える必要はないのではないかということを,まず1点,申し上げたいと思います。
それとの関連でもありますけれども,その他,信託宣言には,○○幹事がおっしゃったように多様な利用のされ方があると思うんですけれども,1つは,本来もともと他人のものというんでしょうか,弁護士の預かり金でもそうかもしれませんし,今,おっしゃった保険会社,損保会社の代理店の預かり金もそうかもしれませんけれども,本来であれば他人のものが,現金という形式をとったがゆえに,占有者イコール所有者ということで預けた人に帰属してしまっている。
それを信託宣言ということで本来の帰属者を帰属者として帰属させる。この場合には他益信託型なのかもしれませんけれども。
その場合も,今度は逆に,執行免脱ということもあり得ませんし,信託宣言をされた方が財政状態が苦しいときに信託宣言をすることによって,本来の受益者が救済されるわけですから,余り執行免脱の点を強調すると,信託宣言の正しい利用というものが逆に阻害されてしまうのではないか。
贈与型のものに関してだけ,執行免脱的な議論というのは登場するのかなと思います。
それとの絡みで,甲案,乙案,丙案の関連ですけれども,丙案というのは立証責任の転換をした--だけではないんでしょうけれども--というのが大きなポイントかもしれませんけれども,丙案の(1)そのものが,現行の信託法第16条の信託財産の独立の原則を,ある意味では変えてしまう議論でございまして,それは,信託宣言を通常の信託とは違う信託と,要するに,信託宣言によって信託が設定できるだけではなくて,ある意味で違う信託として概念づけるような感じがいたしまして,詐害性云々という議論に関しては,通常の信託と同様に信託宣言においても考えていけば,ほぼ十分なのではないか。
足りない点は,場合によっては様式性とか違うところで議論して,一たん信託宣言によって信託が開始された以上は,通常の信託と何ら異なるものではないということで取り扱うことが望ましいのではないか。
そうでないと,信託宣言で,仮に流動化でもいいですけれどもした場合,紛争になって,その時点において過去に遡って,信託宣言した,過去のある一時点において債権者を害するものであったかどうかが争点になってしまう。
そういう状況では,恐らく信託宣言をした委託者は財政的にも非常に問題がある場合でしょうから,非常に紛争が紛糾してしまって,逆にそういうものでは使いにくいということで,使われなくなってしまうのではないかという懸念を感じます。
● 結論的には,信託の設定の日を虚偽に遡らせて報告するということに対する何らかの歯どめを置けば,信託宣言を認めていいのではないかと思うのですが,しかしながら,現在予定されているこの信託宣言がどのようなものであるのかについて,2点質問をさせていただければと思います。
先ほどの○○委員の御発言に関連して,すごく気になったんですけれども,○○委員は,自益信託で,信託宣言で信託が設定される場合をおっしゃったんですけれども,そういうものは認められるのかということなんですね。
これは英米では一般には認められていない信託宣言ではないかと思います。
しかし,もちろん今回,受託者と受益者がイコールになったら即時に信託が終了するのではなくて,ある一定期間は休眠といいますか,受託者がその受益権を再び処分するという前提のもとに,信託の即時終了を起こさないという条文を置こうという話が出ておりますので,場合によっては,設定時にも一時期,3人が一緒になることを認めるということも,あるいは可能なのかもしれませんけれども,何かそのあたりは私は違和感がありまして,どうお考えなのかお教えいただければというのが第1点です。
第2点は公示の問題なんですが,例えば,信託財産が不動産であって信託宣言がなされるということになりますと,これは当該不動産が信託財産である旨の登記をしなければならない。
これは単独申請でできるというのが現在の不動産登記法の手続の中にあって,それにのるわけですが,○○委員のお話を伺ったり,あるいはこのペーパー,あるいは○○幹事の説明を伺っておりますと,何か中心になるのは,金銭債権が信託財産として信託宣言がなされるときのような気がするんですね。
さて,このときどうするのか。もうそれは,「この債権は信託財産である」という一方的な宣言で足りるという見方ももちろんあるでしょうが,債務者に対して「あなたの負っている当該債務は信託財産になった」「信託が設定された」ということを,確定日付ある書面によって通知または承諾をしなければ第三者に対抗できないということも,あり得ないではないような気がするわけです。
なぜそんなことを言うかというと,結局,公正証書を要求するということが,日付を遡らせることを妨げる唯一の方法ではないような気がいたしますので,2点目につきまして,解釈論になるのかもしれませんけれども,もしお考えのところがあればお聞かせいただければと思います。
● 御指摘の点,私個人の現時点での考えでございますが,前者につきましては,特に自益,他益を区別して議論していたわけではございません。
そうしますと,今,○○幹事がおっしゃったように,信託設定当初の段階では3者が同一という自益信託もあり得るわけでございますが,御指摘のとおり,過去の提案で,その場合には一定の時期までにそういう状態が解消されなければならず,したがって,受託者と受益者が同一という事態は解消されるだろうということを踏まえまして,信託宣言が許容される以上は,3者が同一というものも排除する必要はないのではないかと考えております。
第2点目につきまして,金銭債権の信託宣言につきましては,債務者に対する通知,承諾ということをもって債務者に対する信託宣言の対抗要件,あるいは他の債権者に対する,第三者に対する信託宣言による信託設定の対抗要件ということにするのが平仄の取れた考え方ではないかと考えております。
● 私も,遡らせるのを避けるためにはいいような気がするんですが,通常,信託事務の執行として,第三者に対して債権を取得することになって,第三者が,当該債権が信託事務の執行により生じたものかどうかが不分明である場合に,別に第三者に対して伝えるという制度にはなっていないわけですよね。
つまり,債権というものはそういうふうに,信託財産であるのか固有財産であるのかは所詮,公示されていないんだというふうに見ることもできるような気もいたしまして,そうすると,設定のときだけ必要だということになりますと,今度は設定のときの,日付を遡らせるのを避けるための特別な規律であると考えるのが1つあると思いますし,いや,債権についてもそういった形の公示制度を置くんだというのは,もう一つの考えとしてあり得ると思うのですけれども,ちょっとそのあたりが,公正証書の作成を要求するかどうかに若干関係してくるかと思いましたので,一言述べさせていただきました。
● 我々としても公正証書というのは,日時を確定する必要があると。
遡らせるのはよくないという観点もあって,要求している点が1つございますが,金銭債権が信託宣言された場合につきましては,御指摘を踏まえて,なお検討させていただければと考えております。
● ちょっと今,理論的な問題というんでしょうか,最初から3者一体という形でいいのかどうか,あるいは財産が金銭債権である場合の対抗要件……,信託財産であることの対抗要件なのかな--で,債務者,それから第三者との関係,両方問題がありますが,それと公正証書との関係などが問題となったわけでございますが,いかがでございましょうか。
● 多少違った観点からになるかもしれませんが,信託宣言という場合,具体的にどのような形で行われるのか考えたときに,恐らく流動化の場合には,契約書といいますか,文書がつくられることになろうかと思いますけれども,一般の形で信託宣言という要件を考えたときに,どういうことになるんだろうか。
恐らく口頭で宣言しただけというわけにはいかないと思うので,何らかの要式行為的な要件を定める必要があるのではないかという感じがしております。
それで,債権者詐害の弊害の除去というのは,この要式行為の工夫を図ることによってやるのも一方法ではないかと考えております。
先ほど来から御指摘がありましたように,恐らくこの信託宣言の債権者詐害の問題というのは,他人を巻き込まずにお手軽に執行不能財産をつくれるという点にあろうかと思いまして,この点を回避するためには,信託宣言を行う際に,第三者,できれば公的ないし中立的な立場の第三者がかかわることが望ましいかと思いますけれども,そういったことと,あと,日付を遡らせることができないようにすることが,先ほど来からありますように,重要なのではないかと思います。
そうすると,丙案の(2)の②に公正証書ということが言われておりますけれども,これは確かに一方法で,こういった形で制度を工夫していくことが一つの方向なのではないか。
ただ,ここには公正証書としか書かれておりませんけれども,公正証書に限ることなく,同じように第三者がかかわって日付を確定させるというような手段,例えば,法律家がかかわって文書を作成して確定日付を得させるとか,そういったいろいろな工夫があってもいいのではないかと考えております。
ちなみに,先ほど○○委員からも多少指摘がありましたけれども,丙案の(1)は,信託の安定性という観点からはちょっと問題があるような気がしますし,(2)の①も,恐らく受益者が知ったのはいつかということが争いになると思われますので,やはりちょっと難点があるのかなという気がしておりまして,②の要件を工夫していくことが一つの方法なのではないかと感じております。
● ○○委員の第1点目の御指摘で,流動化の部分での執行免脱というのは起こりづらいのではないかというお話がありましたけれども,流動化を前提にいたしますと,よく起こる類型としては,これはこの前,申し上げたんですけれども,やはり二重譲渡というのが非常に考えられるのではないか。
これは信託宣言ではなくて,普通の今,行われている流動化においても,債権の信託等についてはいつの間にか,もともとになる債権がないのにそれを引当てとしたような形の受益権が発行されていたというようなことが,事故として何例か起こっていると聞いております。
そういう弊害が類型的にあるのではないかということが1点です。
もう一点は,この会議は基本的には信託業法について検討する場ではありませんので,その規制内容についてお話しするつもりは全然ないんですけれども,信託宣言という一つの類型を考えた場合に,常に委託者が受託者になるわけですから,例えば民事信託で,個人にファミリートラスト的なものをやるんであれば,それは業の関係外のところにはなりますけれども,それ以外で,例えば営利法人であるとか商人がやる場合については,これは常に「業」ということになってくると思いますので,それはイコール業法の規制を受けることになると思います。
前回,いろいろな方々から信託宣言のニーズが言われましたけれども,これは多分,ほとんどが信託業に当たるんだろう。
そうすると,例えば事業の信託をある委託者が,例えば信託銀行でも信託会社でもないところがやるということは,それについてどういう規制をしていくのかが常に--その規制の内容をどうするかということを議論するのではなくて,常にそういうことがかかわってくるということを十分認識の上で,御議論いただきたいということが2点目でございます。
● 流動化,証券化の観点から信託宣言を用いる方法として,前回申し上げた例が幾つかあるかと思うんですけれども,その1つが,現に○○銀行を初め一部の信託銀行が,住宅ローン債権を証券化する際にSPCを設けて,一たんSPCに債権譲渡して,SPCを委託者,自らを受託者とする信託を設定して,その信託受益権を譲渡していくといった形の住宅ローン債権の流動化,証券化を行っているところです。
信託銀行が現にこのような形で住宅ローン債権の証券化を行っている意図としては,恐らく現--そもそも個人に対して住宅ローンを貸し付けた立場で,もともと自ら管理していた貸付債権,住宅ローン債権を引き続き管理し続けたい,受託者として管理し続けたいということにあるのではないかと思います。
そういう意図を最も単純にといいますか,実現させるには,もし信託宣言が可能であれば,SPCをつくってSPCに一たん債権譲渡して,SPCがオリジネーターである信託銀行を受託者として信託設定するというような一連の行為は必要なくなって,行おうとしていたことが実現できるのではないかと思います。
このような仕組みでの住宅ローン債権の流動化,証券化は,我が国の信託法とほぼ同じ体系の信託を持つ韓国において,韓国住宅金融公社が行っているところであるかと思います。
そういった観点から,今回の丙案の(1)に関しては,そのようにオリジネーターが受託者となるような信託を考えた場合に,いわゆる倒産隔離といいましょうか,オリジネーターに対する人的抗弁等を持っている者の影響が及んでしまうということで,好ましくないかと思いますので,丙案の(1)についてはちょっと困るなと思っております。
引き続き証券化,流動化に活用していくという観点からは,特に制約を設けない乙案が最も好ましいのではないかと考えております。
● 実務的な立場から発言したいと思います。
第1回,第10回で申し上げたことの繰り返しになって申しわけありませんが,本事項に関する銀行界としての意見は内部で分かれておりまして,今の段階でどの案がいいのかは申し上げられません。ただ,その後,追加的な議論も含め,各案についての意見を御紹介したいと思います。
まず,信託宣言を推進する立場からは,ニーズはいろいろあるよということについては,前回,申し上げたところでございます。
特に銀行債権の流動化については,我が国においては銀行と借入人との関係を維持するというところが非常に重視されておりますので,信託宣言というのは,その手法としてメリットがあるということは申し上げたとおりでございます。
御参考までにということなんですが,この点について若干付言するのであれば,仄聞するところによれば,欧州では近時,カバーボンドというものが注目されており,例えば,ドイツではファンドブリーフ法というものを制定していると聞きます。
これは信託宣言は直接関係しないという認識でございますが,1つの法によって,銀行,顧客の関係を変えずに一定のオリジネーター倒産リスクを排除した金融商品でございます。
ここで申し上げたいのは,本商品は直接信託宣言とは関係ないかもしれませんが,やはり他国も,法的インフラということを非常に重要視して,金融の活性化という観点から,こういう法制度を入れるところもある。
よって,我が国も活発な経済活動を支えるためには,実務ニーズに応じた法的インフラを考える必要があるのではないか。
もちろん,信託宣言だけに限られるわけではありませんが,先ほど申し上げました顧客と銀行とのリレーションということを考えれば,信託宣言というのは,この可能性を秘めているのではないかと思っております。
次に,信託宣言について消極的に考える立場からは,従来から議論されています執行免脱のおそれとか,権利関係が複雑になる,また,ニーズが余り具体的によくわからないにもかかわらず,デメリットが多いのではないかといった議論がございました。
その両論を考慮して,次に,丙案といいましょうか,何らかの制限を付すことでよいとするという考え方もございます。
ただ,その点,例えばということで,今回の提案について見ますと,先ほど○○委員もおっしゃったとおり,丙案の(1)はいささか問題があるのではないかと思っております。
と申しますのは,やはり信託の倒産隔離ということの,ある意味,原則が逆転しておりまして,委託者が債権者を害さないという挙証責任を負うことになれば,実務的には,証明を持つということはなかなか難しいかもしれませんし,また,格付機関がそれを認めて高格付けの金融商品を出すことを認めるかどうかについても,ちょっと疑問があります。
そうであれば,実際,信託宣言を認めたとしても使えないものになってしまうおそれがあるのではないかと思っております。
そこで,丙案(1)の趣旨を確認するための御質問が2点ございます。
この要件なんですが,主観的要件はないと認識しておりますけれども,この「債権者を害する」ということの中身について,若干御紹介いただければと思います。
例えば,資産超過であれば十分なのかということ。もし資産超過で十分であったならば,これは皆様方いろいろ議論あると思いますけれども,一緒に抱くという考え方もありますし,いや,そうではないということであれば,やはり実務的には受けがたい要件ではないのかなという議論にもなりそうです。
次に,先ほど自益信託か他益信託かという話も出てきましたが,現行,あえて(1)のような要件を定めなくても,現行の信託法第12条の詐害信託の規律で十分対応が可能ではないのか。
もちろん要件は若干変えておりますが。そうすると,考え方として,詐害信託というのは自益信託だけを観念しているので,ここであえて信託宣言に関する規律を設けようとしているのか,そこら辺の位置づけがよくわからなかったもので,御質問する次第でございます。
以上3つの案に対する意見を述べましたけれども,付言いたしますと,別途セキュリティ・トラストが議論されております。
この関係で信託宣言を考えますと,1点検討すべきことが出てくるのかなと思っております。
と申しますと,いろいろやり方があるとは思いますけれども,例えば,一たん設定を受けた抵当権を受託者が信託宣言をして行う,そして債権者に受益権をばらまくという方式であれば,例えば,実務においては,調達をするときに一たんアレンジャー的な人がアンダーライターとして総額引き受けを行うということもあるわけです。
そうした場合に,では,他人に売却する時点というのは,委託者が受託者になってしまうということもありますので,また,受益者ということも,3者並ぶということもあるんですけれども,そうした場合に,信託宣言の問題が出てこないか。
つまり,信託宣言を認めないと難しくならないかということでございます。
また,セカンダリーマーケットで,今まで持っていた銀行債権を,では今度,セカンダリーマーケットで売りましょうといった場合に,やはり信託宣言というツールがなければ,そういうことが難しくなるのではないかとも思っておりまして,セキュリティ・トラストの議論においては,この点もあわせて御検討いただければと思っております。
いろいろ述べましたけれども,最後にお願いでございますが,いずれにしても,現段階においては各--甲,乙,譲歩の丙案ですけれども,いずれの案か絞る段階ではないのではないかと思っておりまして,その点,広く意見を募って判断すべきだと思っておりますので,ちょっと先走った議論で恐縮でございますが,要綱試案を作成する際には各案を併記していただければと思っております。
● 今,○○委員から御指摘があった,債権者を害するとの要件の中身という点でございますが,これは詐害行為取消権の場合と特に区別しているわけではございませんので,例えば,信託宣言をする前であれば資産が十分あったのに,それによって債務超過に陥ったとか,あるいはもともと資産が債務超過にあったわけですが,信託宣言によってさらに悪化したというような,客観的に債権を害する状況を作出すれば当たるものと考えております。
ただ,この(1)の特徴というのは,先ほどから詐害信託取消権でいけばいいのではないかというような御指摘もあったわけですが,前回会議のときに,訴訟をするのが非常に負担だという御指摘があったことも踏まえているわけでして,訴訟しなくてもかかっていけるというところにございます。
その上でさらに,詐害信託取消権であれば債権者を害することを「知っている」という主観的要件が必要になるわけでございますが,ここは客観的に債権者を害しているか,いないかという状況を問題にするのであって,委託者に詐害の意思があったかどうかとか,そういう主観的な要件も問題にしない。
訴訟をしなくてもいいし,主観的な要件も問題とならないという意味で,詐害信託の取消権をもっては代替し得ない,かなり委託者の債権者にとって有利な規律を設けたつもりでございます。
ただ,詐害信託取消権ですと,まず信託のスキームを一たん壊した上で,委託者の債権者が信託財産とされていたものにかかわっていくわけでございますので,信託財産の独立性との抵触はないと思うのですが,各委員が御指摘になっておりますとおり,信託があったことを前提にしつつ,委託者の債権者が--その場合,信託財産ですので--信託財産にかかっていけるというのは,確かに信託財産の独立性との観点からの抵触というのは否めないのかなという気がしておりますので,そのような点も踏まえて,丙案については考えていきたいと思っております。
あと,まだ甲乙丙の各案を絞る時期ではないというご指摘につきましては,こちらでも検討したいと思います。
あと1点,ちょっと気になっていますのは,○○幹事が,公正証書とか,それ以外の方法もあるだろうということをおっしゃったわけですが,およそ信託宣言をするに当たってはこういう手続的要件が必須であるのかということでございまして,実務上の話を仄聞しているところですと,例えば再信託のような場合についてもすべて公正証書ということになると,これは結構大変であるという話も聞いておりまして,およそ再信託の場合は例外であるのか,それとも,もう信託宣言に当たるものは常に手続的な要件がかぶってくるのか,そこら辺についての御理解について教えていただければと思っております。
● 今の点については,私も詳しいことを存じ上げませんのて,詳しく検討しているわけではないんですけれども,基本的には,こういった第三者が関与する形で何らかの手続的要件を設けることを原則とした方がいいのではないかと,現段階では思っております。
ただ,実情に応じて弊害除去の措置が合理的な形でとられるのであれば,それは別途の手続なり監督といいますか,方法によることはあり得ようかと思いますので,それは具体的に御検討をお願いできればと思ったりしておるんですけれども。
● 確かに,過去の法務省の通達などでは,そもそも信託宣言ではないというような見解も示されているようですので,そうだとすると,再信託はそもそも信託宣言の範疇外だということで,仮に○○幹事のおっしゃるように,信託宣言については手続的要件がかぶるんだとしても,再信託はその範囲外だという整理もできるかなという気がしましたので,付言させていただきます。指摘を踏まえて検討したいと思います。
● 現実の信託銀行による住宅ローン債権の証券化についてなんですが,先ほど私が説明したような仕組みを用いて,○○銀行が○○銀行の信託勘定の住宅ローン債権の証券化を行ったケースが過去に3件ほどあるかと思うんですが,この場合に,オリジネーターが信託勘定で受託者として保有していた住宅ローン債権が,別の信託財産に変わっているわけですけれども,もちろん,先ほど申し上げたように一たんSPCをつくって,SPCに債権譲渡して,SPCを委託者としてオリジネーターを受託者として信託設定するということをやっているわけですが,もし甲案で改正されるとすれば,この場合のみ信託宣言の方法を用いた,SPCを使わない住宅ローンの証券化を行えると理解してよろしいんでしょうか。
● ○○銀行の例というのは……,今の御説明は,もともとの信託財産をまた別の信託財産にすると理解してよろしいですか。
● はい。
● さっきの再信託にちょっと似ているけれども,再信託の器が最初からあるわけではなくて,新たな独立の信託をつくるということですよね。まさに信託銀行,信託財産でもって信託宣言をする,そういうタイプですね。
再信託との関係,私も前に民事局長の通達で,再信託は許容されるという結論だけは知っていますけれども,理屈としてまだよく飲み込んでおりませんけれども,なかなか切り分けが難しいところがあるかもしれないけれども,今の○○銀行のは,恐らく典型的な再信託ではないんですよね。
再信託というか,通常やっているやつと。つまり,再信託というのは,○○委員に御説明いただいた方がいいかもしれないけれども,例えば何かマザーファンドみたいな……,もう別に既に信託があって,そこに信託財産が,いわば受益権を取得するというのを信託……
● 再信託といいますよりも,二重信託という言い方の方が当たっているかもしれませんけれども,例えば幾つかあるファンドがあったら,それを集めて1つのファンドに信託というものをつくって,下のファンドが委託者になって合同運用するために1つの信託をつくりますという,ある意味,運用機構の1つというふうに考えていただいたらいいと思いますし,多分そのときに許されたのは,基本的には実質的法主体説みたいなものがベースにあって,結局は,これとこれとは違いますよというのと,最終的には,それぞれのベビーの方,どのような受益者がいるということがあって,それの運用機構の一部分ですよというような位置づけで,基本的には信託宣言がないというようなことになっていたんであろうと思います。
● たしかそんなことだったかもしれません。思い出しました。
実質的法主体説みたいにして考えて,信託財産自体は受託者とは一応別の利益を代弁しているといいますか,実質的に別の主体であると考えると,典型的な信託宣言とは違ってくるわけですね。委託者が受託者とは別にいるということになりますから。
○○銀行のも,あるいはそういうふうに説明しようと思えばできるということですね。
それはちょっと今,再信託とか民事局長の通達がどこまで効力を持つかということを議論してもしようがないというか,もうちょっと一方的な議論をしたいと思いますけれども,あるいは現行法でもできるという理解のもとでされたのではないですか。
● 実際に行われた取引は,信託銀行が一たんSPCに債権譲渡して,SPCが委託者として,信託銀行を受託者として信託設定するという取引です。
● 最初のお話と同じですね。
● そうです。
● そのフローを通る必要はないという。
● はい。
● 今まで信託宣言についていろいろ御議論をいただいておりますけれども,いろいろなレベルの議論があって,1つはニーズのレベル,それから,ニーズがあるとしても,そういうことを認めることのメリット,デメリットというんでしょうか,そういうレベルの議論,さらに3番目には理論的に,○○幹事などから提起された,三者一体というのはそもそも英米の信託でも認めているのか。幾つか議論があると思いますので,さらに幾つか御議論いただければ。
● 先ほど業法との関連が出たもので,一言あれなんですけれども,もちろん,この場は信託法という私法の議論なので,業法的規制をまた別の視点からどういうふうにかけていくか,それはまた別の局面で議論されればいいのではないかと思います。
まず,やはり日本の私法として信託宣言をどういうふうにとらえるのかという議論で考えるべきではないか。
そう思うと,やはり多様な利用価値というのがあるので,これはやはり認められる方がいいのではないかと思います。
それから1つ,業法の観点を言っても仕方ないんですけれども,例えば,事業の信託の局面で,現行法であれば,例えば営業譲渡といったようなやり方をせざるを得ない場合に,もしこの信託宣言が認められると,もっとうまく使える局面があるのではないかと思うんですね。
例えば,A会社がある事業部門を持っている。その事業部門の事業に対して,B会社が一緒に事業をやりたいというか,ある意味ジョイントベンチャーを組みたい,こうなったときに,現行の考え方だと,多分このA会社のこういう事業を別会社化して,それでA会社とB会社が株主になってやる,そういうような切り出しの方法が1つ考えられるかと思いますけれども,例えば信託宣言が認められれば,A会社が,自分のある事業部門を信託宣言によって信託財産にして,この受益権の一部をB会社に出す。
そうすることによってB会社もこの事業に参画することができる,こういうようなやり方が,利用価値があるのではないか。
そうすると,これは引き続き受託者,A会社の事業として運営されますから,例えば従業員の雇用関係も変わらないし,表向き何も変わらない。
ただ,B会社がこの事業に受益者として参画する余地が出てくるということができるのではないかと思います。
さらにこれ,場合によっては期間限定を設ける。B会社がこの事業に参画する期間の限定,例えば10年間だよというようなことを設けて,10年間だけ受益権があり,10年後にBは離脱して,またAの単独の事業に戻るというような使い方もできるのではないかと思います。
例えばこういうような,これはそういう利用価値があるのではないかということなんですけれども,こういうようなときには,しょせんA会社とB会社でやっていることですから,業法的規制というのがどれほど必要なのかなという気もしますので,こういう観点からの利用も考えられるので,ぜひ積極的に考えていただきたいと思います。
● 私も,実務の観点から意見を述べさせていただきたいんですけれども,流動化をやっている立場からすると,この信託宣言については,乙案ということになるかと思うんですけれども,それ以外の立場も当然ございますので,執行免脱を許さないということを考えると,やはり何らか一定の要件で歯どめをかけざるを得ないかなとは思います。したがって,乙案ないし丙案を支持するという形になるかと思います。
ただ,その場合でも,先ほどから御意見出ていますけれども,(1)にあるように,いきなり信託財産にかかっていけるようなことについては,流動化を考えますと混乱もあるでしょうし,それ以外のケースでも,やはり望ましくないのではないかと思います。
そういう意味で,(2)の②の公正証書を作成するとか,先ほど○○幹事がおっしゃったような確定日付というのが一番いいのかなと思います。
ただ,1回こっきりの信託宣言であれば,それで全然問題ないのかなとは思うんですけれども,例として挙げられている損保の代理店の収入の部分とか,私の方で前に申し上げたサービサーの回収金の信託宣言とかいうときに,継続して入ってくるわけです。
そうすると,最初に1回だけこういう設定をしておいて,追加の分はもう全部継続してやられるという形でできるのであれば,全然問題ないとは思うんですけれども,毎回というようなことであれば当然……,毎回とか,余り長期間のあれは認められないといったことになると,ちょっと問題かなと思っているんですけれども,そういうことはないという理解で,1回でよろしいということでいいでしょうか。
● 一遍設定して,その後,追加していくことは,その部分は問題ないと思いますけれども,仮に,さっき○○幹事が問題にされた,委託者と--追加される部分は委託者が違うというふうに考えることはできるかもしれませんね。
でも,仮に委託者,受託者,受益者が同一だという状態ができたときには,恐らくこれは相当な期間内に解消しなくてはいけないということになるので,それをずっと続けることは,恐らくできないということになるのではないでしょうか。
ただ,損保などの場合ですと,先ほどちょっと言いましたように,一遍,最初に受け取ったお金で代理店が持っているお金を,その段階で信託宣言で信託をつくって,その後,入ってくるお金は送金する人間が委託者だと考えると,信託宣言ではない形でもって信託財産に入ってくるので,そこは何とか解消できるのではないですかね。
● これまで証券化,流動化との関係が出ておりまして,私,おくれて参りましたので,既に出た話題だったら申しわけないんですが,一般的に信託法で信託宣言を認める場合に,委託者兼受託者が自然人である場合にどうなのかということも詰めて検討しておく必要があるのではないかと思います。
とりわけ死亡との関係で,その先どうなるのか,相続法のルールとの関係でどうなるのかということを検討する必要があるのではないか。
一般の信託の場合に比べて,結局は信託宣言でも事実上の違いにすぎないのかなという気もするんですが,さらに私も考えたいと思うんですが,自然人にも及ぶということで,先の問題も検討しておく必要があるだろうということでございます。
● 信託法の中で制度をつくる以上は,法人だけに適用されるとか,そういう制度はつくりにくいところがあって,信託宣言を認めれば,当然自然人についても一応当てはまる。
● まず第1に,先ほど○○委員からニーズあるいはデメリットという幾つかの次元のお話が示されまして,私はニーズの方はよくわからないんですが,伺っておりますと,証券化等でニーズがあると。
仮にニーズがあるということを前提にしますと,特段信託宣言に対して,これを敵対的にある必要はないのではないかという印象を持ちます。
詐害行為あるいは執行免脱のおそれというのは別にここだけの問題ではございませんし,ここだけで過度にそこを強調するというのは,どうもアンバランスではないかという気がいたしまして,その点から,甲案は,ほかの財産の移転の法制との関係では,やや神経質なのではないかという気がします。
それに関連しまして,第2点ですが,冒頭の御説明にも,あるいは資料3ページの一番最後の3行にもございますけれども,強制執行法における財産開示制度,あるいは破産法の改正で新規に入ったのは重要財産開示義務ですが,これをどう評価するかですけれども,これは実は余り役に立たないのではないかと思います。
つまり,財産開示制度あるいは重要財産開示義務というのは,その時点でどういう財産を持っているかでありまして,過去どういう財産の移転があったかというのは追いかけない制度であるという整理でつくられていると承知しております。
したがいまして,1年前に不動産だったものが今,なくなっているということは,この制度では出てこない仕切りになっているはずでありまして,したがって,第1点とやや方向が逆のことを言うようですけれども,これは余り頼りにならない。
一般の,これ以外のツールで物を考えるしかなかろうということであります。
そう考えますと,乙案よりは丙案の方がいいではないかということになるのかもしれませんが,先ほど来,丙案の※についている(1)というのは,これまた過度な委託者の債権者の保護であるというのは先ほど来,御指摘があるところで,詐害性がないことをこの訴訟を受ける委託者,受益者側で証明するというのは,いかにも行き過ぎではないかという気がいたします。
仮にこういう手当てが行き過ぎで,しかし中間の案が考えられないとすると,もういきなり乙案まで戻ってしまうことになるのかもしれません。
以上が第3点です。
第4点は,質問でございます。
この(1)の中にある強制執行,仮差押,仮処分まではわかるんですが,競売というのは何を想定されているのか,ちょっとピンと来なかったのですが,これは担保権の実行なので,もともと委託者が持っていた財産に担保権がくっついていて,信託設定されたことで追及効がなくなるようなタイプのものを想定されている,つまり追及効の,典型的に言うと動産の先取特権みたいなことを考えていらっしゃるのでしょうか。
もし追及効があるなら,こんなことをしなくてもどうせ認められるのではないかと思いましたので,ちょっと御質問させていただきます。
● 最後の点でございますが,正直に言いますと,第16条とかの規律をそのまま持ってきたということで,余り詰めて考えたわけではありません。確かに,担保権がついていればそれで執行すればいいわけですから,ここに入ってこないので。
● 信託設定することで追及効がなくなって,担保権が行使できなくなるタイプのものがあれば含まれるのかもしれませんが,それをお考えだったのでしょうか,それとも,もっと一般的にお考えだったのでしょうかということです。
● 例えば動産売買の先取特権みたいな。そう言われればそうかもしれない。ちょっと考えてみたいと思います。
1つ,お伺いしたいことですが,財産開示制度というのは,当然委託者の現有財産が対象ですが,この信託宣言の場合には,委託者,受託者といったって同じ人なので,自分が信託財産として持っているものも開示の対象にするということは,およそ考えられないということでよろしいでしょうか。
● これは強制執行の準備段階ですから,委託者が自分の固有の財産……,これ,財産開示制度の前提となっている債務名義は,委託者に対する債務名義であるとすれば,当然委託者の固有財産だけを開示するということになるのではないでしょうか。
● たとえ受託者が同一人であっても,信託財産と性質を変えている以上はもう対象外なので。
● むしろ信託債権について債務名義があるのであれば,今度は委託者相手に,その信託財産について財産開示をかけられる,そういう整理になるのではないでしょうか。
● 細かい点で恐縮ですが,丙案の(1)について1点だけ。
今までいろいろな方がおっしゃった,実質論ではなくて形式論でございますけれども,たとえ(1)の強制執行の禁止の例外が認められたとしても,恐らく債権者には詐害信託の取消権自体はあるという理解でよろしいのでしょうか。
恐らくあるということなんだろうと思うんですが,その場合には,実体権としての詐害信託の取消権と,それから詐害的ではないものでない場合を除いて強制執行ができる,これが二重の規律になってしまって問題が生ずる場合もあるのではないか。
例えば,詐害信託の取消権を行使して訴訟して負けた債権者が,なおこの(1)によって強制執行することもできるといった状態になってしまうということで,そのような規律でよろしいのか,そういった二重の規律をすることが適当なのか若干疑問だということでございます。
第2点目も御質問でございまして,乙案であれ丙案であれ,仮に信託宣言を認めた場合に,例えば委託者と受託者が合意すれば何かができる,あるいは委託者と受益者が合意すれば何かができるという,いろいろな場面でそういう規律があり得ると思うんですが,そのような場合の規律について,特段,何といいますか,固有の規律を設けることを今のところ考えておられるのかどうか,ちょっと今,思いついたものですから,伺っておきたいと思っております。
● どうですかね,詐害行為信託と,それから丙案の(1)との関係。
● まず後者の,個別の類型ごとに問題があるかどうかの分析というのは,これまで十分検討しておりませんでしたので,類型ごとに少し検討してみたいと思っております。
前者については,確かに併存する。そうすると,訴訟物としては別なので,一方で負けても他方でできるということにならざるを得ないとなります。
解決するとすると,例えば,丙案(1)の方が一般の詐害信託より明らかに委託者の債権者に有利なので,この場合には特別法として,丙案の(1)が優先して,一般の詐害信託取消権はないというような整理ができればと思うんですが,そういう点はいかがでしょうか。
● 今のお話だと,例えば,詐害的な信託の時点では当該債権者の債権が弁済期になっていなかったような場合には,多分,詐害信託の取消権自体はあるんだけれども,強制執行できるのは,例えば5年後であるというような事態が生じ得るので,丙案(1)が優先するというような形の規律は難しいのではないかと考えておる次第でございます。
● わかりました。
● 先ほどからのいろいろな御意見を伺っていても,丙案の(1)というのは,どうもいろいろ問題があるということなので,仮に債権者を保護するにしても,詐害信託の中で多少要件を─これも可能かどうかわかりませんけれども,信託宣言の場合について軽くするとか,そんなことは考えられるかもしれないけれども,制度を別に設けるというのは適当ではないのかもしれませんね。
● ちょっと違う観点から。
先ほど○○委員から,事業の信託について,例えば営業譲渡であるとかそういったときにも利用価値があるのではないかというお話で,理論的に言ったら確かにそういう部分もあると思うんですけれども,例えば,今,ここで議論しているのは,その範囲というのは全然限定しなくてやるんでしょうかというお話なんですね。
先ほど○○委員の方から,個人も視野に入れたことを考えないといけませんというお話がありましたけれども,この範囲というのが,もともとは流動化の,ケイマンのチャリタブル・トラスト的なものであったり,直接自分が持っている債権を流動化したいとか,大体その2点ぐらいが主なニーズかなと私は思っていたんですが,要するに,範囲を非常に広げてしまいますと,先ほどの事業ということを前提にすると,果たしてそれだけでOKしてしまっていいんだろうか。
業法で規制する問題ということではなくて,多分,それこそ事業をやるということになりますと,事業についての私法的な規律をきちっと決めてからでないと,そういうことを参入させて果たしていいんだろうかという問題があるので,もしもそこまで視野に入れられているのであれば,この場において私法上の問題として,例えば事業についての信託宣言がなされたときの規律を詰めていかなければいけないのではないかと考えています。
そういう観点からいきますと,実際の皆さんが思っていらっしゃるニーズ,私は全くの反対派なんですけれども,流動化ということにほぼ限定されているのではないかという気がしますので,それをあえて幅広くとらえなくてもいいのではないかと考えていまして,ここから先はもう全く私の個人的な今回で,業界に戻ったら怒られてしまうかもしれませんけれども,それであるとすれば,それこそチャリタブル・トラストみたいなものをつくるような法制を考えれば,それによって信託宣言が必要だということであれば,それを組み入れた形のものをつくれば,それが私法のものがいいのか業法がいいのか,そこはすみません,私には判断つきませんけれども,そういう観点でやっていってもいいのかなと。
付言しますと,そういう観点で見ても,これは前にちょっと申し上げましたけれども,信託宣言というのはチャリタブル・トラストにとって不可欠なものではなくて,そもそもケイマンになぜチャリタブル・トラストを置いてそこに持っていくのかというと,基本的には,委託者からの倒産隔離と支配権を排除するということと,それと,信託を使うということになりますと当然,受益者からの排除ということになりますので,今,検討されている改正案の中で検討しますと,受益者からの支配を排除する方法はとられていますし,委託者の権利をゼロにすることもできる。
そうすると,あと何が必要なのかといったら,受益者というのをつくるか,つくらないかという話になると思います。
そうすると,信託終了時点まで受益者を確定しないような信託をつくるか,または目的信託を利用するか,そういうものをつくりましょうというのであれば,この場の議論としてよくわかるんですけれども,そうではないのに信託宣言をしましょうというのが,ずっとお話が出ていたので,私は全然よくわかりませんと。
そうしたら,あえて弊害があるようなものを入れるのではなくて,工夫して,限定して,みんなが有効に使えるものをつくればいいのではないですか,そういうことを以前から申し上げたかったので,今,ちょっと最後に申し上げました。
● ここでの信託宣言というのは,流動化のスキームの中で使えると便利だ,あるいは幾つかの事業の信託というのが例に挙がっておりますけれども,ニーズはニーズとしていろいろなものを挙げていただくと思いますけれども,ここで最後,決め手になるというんでしょうか,信託宣言を認めるかどうかというのは,やはりもうちょっと一般的に,先ほど○○委員が言われたような,個人の信託宣言というものもあり得る,あるいは○○委員が言われた,むしろ業法の適用のないようなというんでしょうかね,そういうところまで視野に入れた上で,一般的な形で信託宣言というものが適当なのか,適当でないのかということを詰めるべきなんだろうと思うんですね。
その際の一番の問題が,大体これは皆さん共通しているようではありますけれども,信託宣言の一番の問題は何かというところは,やはり債権者を害する可能性があるところだということなので,その点についての手当てが何とか十分できるというときに,さらにあえて信託宣言を積極的に否定しなくてはいけないのかというところが問題なのではないだろうかと思いますけれども,いろいろなお立場もあると思いますので。
もし新たに何か御意見を伺えれば伺いますが,大勢としては……
● 何か流動化で必要で,ケイマンのチャリタブル・トラストというところに議論が飛びますけれども,先ほどの○○委員の議論でも,例えば,信託銀行でなくてもノンバンクでもいいですし,事業会社でもいいですから,事業会社が今後,流動化をするときに,自ら信託宣言をし,自益信託型で流動化もできるんですよね。
ちょっと議論が,何かチャリタブル・トラストの議論に持っていって違う方に行くという論旨は,何しろ納得できないところがあるということ。
それは立場が違うからあれでしょうけれども,今,○○委員に触れていただいたように,これまで判例で「信託的」と認定されてきたものが幾つもあると思うし,また今後,そういうような事例も出てくると思うんですけれども,そういう解釈論,また,そうなったときの裁判所による認定というのは今後とも重要だとは思いますけれども,当初,信託設定行為ができなくても,人から預かっているもの,他人に渡さなければいけないものを信託宣言ということで自らの債権者から隔離するニーズというのは,掘り起こせば幾らでもあると思うんですね。
先ほど触れましたけれども,現金の場合,それを担保で現金を渡しても相手のものになってしまいますけれども,場合によってはそういう信託宣言をするとかですね。
ですから,○○委員が流動化に限られて,流動化がチャリタブル・トラスト云々というのは,もう全然そんなことはないし,流動化でも違いますし,今,○○委員におっしゃっていただいたように,かなりいろいろ出てくる。
今までこれがないことによって,紛争になった後に初めて「信託的である」ということで認められてきたものが,ようやく当初の段階で,信託宣言によって正しい形で法的に受益者の保護ができるようになるというような方向性もあると思うので,ちょっと申し上げておきたいと思います。
● 幾つか出された御意見に関係して,私もちゃんと出席できていなくて申しわけないんですけれども,間が抜けたことかもしれませんけれども,(1)が評判がよくなさそうで,しかし,これをやめてしまった一般的な話でいいのか,あるいは何か工夫するのかということに関連して,非常に単純な例で,先ほどから挙がっている例ですけれども,例えば私が100万円の現金を持っていた。
もうちょっと現実的に言うと,A銀行に100万円の普通預金を持っていました。ある日,そのうちの50万円を,Bさんを受益者とする信託を設定しますと私が勝手に宣言するわけですね。
それで有効に成立したときに,私の債権者が,(1)のところで言えば,その100万円の普通預金を差し押さえて取り立てようとした。
このときに,○○幹事がおっしゃった,私の信託の設定というのは何の公示も何もなしで,さっき時間が遡るという話が中心だったと思うんですけれども,それに関係なく,私がただ「50万円はBさんのために今日から信託します」と言った瞬間,財産が分離できる,そういう制度が信託宣言という制度なんだと思うんですけれども,何となく,(1)がいいかどうかは別として,何かないと,一般的な詐害信託ですとかでいいのかというのがちょっと気になるんですね。
それから,似たような話かもしれませんが,今の例で言うと,今度はその財産債務者というか,銀行に対する対抗要件というんでしょうね,銀行は何も知らされていなくて,私はただ宣言すれば,その瞬間,信託が有効に成立するということだとしますと,もちろん銀行は知らないわけですから,私の債権者がそれを差し押さえてきたときには,銀行は払う。
しかし,そこは,私が一方では異議を言うのか,いずれにしても,銀行は準占有者に対する弁済等で保護はされるんでしょうけれども,非常に困る。実務上,非常に混乱すると思うんですね。
ということで,恐らく抽象的に言えば2つあって,私がある日,宣言すればそれでいい,今の例で言いますと,半分だけでも幾らだけでも信託を設定できるという制度を設計したときに,何かやはり(1)的なものであって,先ほどのお話ですと,これをやめたとしても,それにかわるものというお話だったと思うんですけれども,では,どういうふうに構想しておられるのか。
それから,それが典型的な金銭債権のような場合に,債務者との関係で,普通預金の場合で言えば銀行との関係で,どうなのか。
もう一点だけ追加させていただきますけれども,これ,信託宣言が有効だとしますと,信託は成立しますけれども,私は多分,分別管理義務に違反しているんだと思うんですけれども,そのままにして何もしていないわけですから。
そういう場合は,前の信託法第1条の話とも関係してくるのかもしれませんけれども,結局,銀行の方は金銭債権いっぱいついているけれども,債務者の方からしてみれば何も起きていないわけですから,どうしようもないという話なのか。
その辺,もし整理がなされていたとすれば,復習になってしまったら申しわけないんですけれども,方向観を教えていただけるとありがたいと思います。
● 今,○○委員が挙げられた例で,信託宣言をしたときに口座が○○名義のままで,それで差押えが来たら,そうしたら口座名義もそのままで一方的に宣言したというだけですと,先ほど御指摘されたとおり,何の分別管理もされていませんので,固有財産の債権者,○○委員の債権者に差し押さえられて終わり。
銀行はそれで,差し押さえて債権者に弁済して終わりということになるだけのような気がいたします。
● 今の場合は,だから,信託がそもそも成立していないのか,信託は成立しているけれども対抗できないのか。どっちの整理なんでしょうかということなんですけれども。
● 先ほどからの多くの御意見は,この(1)がよくないという前提で考えているときに,やはり信託は信託宣言で成立する。
ただ,その成立する要件としていろいろな要式行為を要求するか,あるいは債務者に対する通知まで要求するか,そこは幾つかあり得ると思いますけれども,信託宣言で信託が成立するというときには,そういう付加的な要件,行為さえしていれば,そこで成立する。
あとは,分別管理していなければどうなるかという問題は,次の問題ということなのではないでしょうか。
どんなものがあり得るかですけれども,今のような事例ですと,公正証書で設定するだけではまだ足りなくて,やはり債務者に何か通知が必要であろう,そういう御示唆も含まれていたということでしょうか。
● よくわからないんですけれども,どういうふうにお考えなのかなと。
● 理論的に考えたときに,信託宣言というものは,さっき○○幹事が言ったように,もう要式行為と考えようということで,その要式としては,例えば公正証書作成を要求するというのが1つの考え方なんだと思いますけれども,ただ,それだけでは今の債権の場合に済まない問題があって,債務者に対する通知というものが必要だとなると,それを一体どうやって説明するかですね。
● ついでに,もう一点だけ。
公正証書を仮に要求しても,要式行為に,公正証書で「私が持っている100万円の普通預金のうちの50万円」というのでいいのかというのもあると思うんですね。
● 要するに,信託の定義のところに戻ってくるかもしれないけれども,財産は,やはりある程度分けなくてはいけないというところの問題かもしれませんね。
債権自体はそのまま全然変わっていない状態で置いてあるので,そういうものを信託宣言でもって「違う財産になりました」と言っていいのかどうか。
なかなか……。まさにそういうところは,少し理論的な問題として,もうちょっと詰めなくてはいけない問題があるような気がいたします。
大分御意見いただきました。大体の意見の分布は,信託宣言,できれば認めていった方がいいのではないかという御意見が多かったと思います。ただ,いろいろ課題もあるということで,今,○○委員が挙げられたような問題,あるいは債権者詐害に対してどう対応したらいいかといった問題も,なお残されております。ここに一応原案として出てきたものでは不十分といいますか,(1)が評判悪かったものですからね,何か代わりのものを考えなくてはいけないかもしれない。
ただ,(1)も,考え次第だけれども,これは結果的にどういう結論になったか覚えていませんか,英米の例を持ち出してあれですが,遺言代用生前信託などでもって設定者が変更権を持っているような信託の場合に,これはもう委託者の財産と同じである,信託は設定しているけれども委託者の財産と同じように考えて,委託者の債権者がそれにかかわっていけるという考え方は十分あり得る考え方ではありますよね。
それと同じように考えるということも1つではありますけれども,ただ,一方で信託宣言の効用というのか,まさに倒産隔離機能をねらって,それをもとにしていろいろな事業なり何かをしていこうというときに,委託者の債権者が比較的自由にかかわっていけるというのは,さっきの遺言代用の生前信託とは,やはり違った状況にあるかもしれないので,もうちょっと検討すべきかと思いますね。
まだ御意見あるかもしれませんけれども,一応今,方向性は確認させていただきましたけれども,よろしゅうございますでしょうか。
それでは,次にいきましょう。
● 続きまして,公示の問題に移らせていただきます。
第8でございますが,先般,信託法に第3条第3項という規定が入ったわけでございますが,それについての質問をさせていただいているところでございます。
現行法第3条第3項によりますと,株券廃止会社であっても,振替制度を利用していない会社の株式については,株主名簿に信託財産である旨を記載又は記録しなければ信託を第三者に対抗することができないこととされております。
このような株券廃止会社の株式については,その流通性が乏しいと想定されることにかんがみますと,信託の対抗のためには株主名簿への記載等を要求する現行法第3条第3項を維持することとしても不都合はないとして,甲案を支持する考え方が一方においてあります。
他方,前回提案いたしましたが,有価証券に関する特例を定めた第3条第2項の方は削除するという提案をしておりまして,これを踏まえますと,有価証券一般については信託の公示を不要とするのであれば,株券廃止会社の株式についても,信託の公示として株主名簿への記載等を要求することとしない方が整合的ではないか,特に不動産に関する信託登記とは異なりまして,株主名簿におきましては,当該株式が複数ある信託のうちどの信託に属するかまでを特定して記載することを要求するのは難しいと思われることにかんがみまして,株主名簿への記載等をもって信託の公示方法としても,信託の公示のみで信託に関する対抗要件を決することとはならず,結局不十分な内容のものにとどまってしまうのではないか,そうだとすれば,この第3条第3項は削除して,株券廃止会社の株式についても信託の公示を要しないとする乙案を支持するという考え方もあり得ると思われます。
そこで,この甲案と乙案のいずれの考え方が適切かについて,御意見を賜りたいと思っております。
なお,ここで仮に甲案を採用しますと,このような形での公示をどのように評価するかについても御意見を伺えればと思います。
つまり,これは6ページの(注4)にも書かせていただきましたが,信託の第三者対抗要件に関しまして,まず,動産や金銭債権のように特段の公示なくして,実体をもって第三者に対抗できるとするもの,それからもう一つは,ただいまの株券廃止会社の株式のように,受託者の固有財産とは区別される信託財産であるということについてまでは公示を要するとするもの,さらに,不動産のように受託者の固有財産のみならず他の信託の信託財産と区別される信託財産であるということについてまで公示を要するもの,こういう3類型があることになります。
現行制度のもとでは,登記・登録制度のある財産ではあっても信託の公示制度の用意されていないもの,このような種類の財産の公示についてどのように対処すべきかという点について,参考となりますので,御意見を伺えればと思っております。
なお,振替社債や預託株券等についての信託の公示の取扱い,それから不動産の信託登記における登記事項の取扱いの問題につきましては,現在,実務上のニーズを調査中でございまして,事務局内でなお検討を進めているところであるということを付言させていただきます。
● では,これについての御議論をお願いします。
新しい第3条第3項というのが設けられたばかりですけれども,第3条第2項を落とすこととの関係で,どうするかということですね。
● どちらかということを明確に言えないので,ちょっと控えさせていただこうかと思っていたんですけれども,ここの甲案,乙案という,ここの部分だけに限定いたしますと,基本的には,できるだけ省力化とか効率化を図った方がいいので,基本的には乙案の方がいいのではないかと考えています。
しかしながら,(注4)に書いてありますように,基本的に信託の公示という制度をどういう形でとらえるのかという問題では,若干業界内でも議論がありまして,多分,もともと第3条第2項を廃止したという観点からいきますと,それと第31条的なものがなくなったということからすると,信託の公示の目的というのは,どの信託財産に属しているかということで,対受託者であるとか対他の信託財産の倒産から隔離するための対抗要件だろうということだと思いますので,そうしますと,②みたいな形のものというのは中途半端な状況になる。
そういう観点からは外してしまった方がいいというのが,多分,理屈からいくとそうだろうと思いますので,そういう意見の者もありますし,とはいうものの,これはちょっと過去からの歴史的な経緯がありまして,昔といいますか,少し前ぐらいですけれども,銀行全体が信用不安になったときに,やはり銀行からの倒産隔離を図るための何らかの手段,対抗要件としての一つの制度があったということが,かなり対お客さんに対しての説明ということでやりやすかった部分もありますので,そういう観点からすると,やはり②的な対抗要件も残してもらいたい。
そういうことで,非常に煮え切らないんですけれども,どちらがいいとはなかなか言えないわけでございます。
ただし,1つだけ言えることは,例えば,対抗要件としてなくしてしまったとしても,これが信託財産であるという表示の制度は,例えば振替制度の中で残していただきたい。
これは多分,対抗要件という意味合いではなくて,分別管理の部分でどうしても必要なので,そういうところだけ残していただきたいというのは共通の認識なんですけれども,対抗要件のところまでいくのか,そうでないのかというのは,すみません,まだちょっと明確に申し上げられませんが,そういう状況でございます。
● 確かにこれは,公示制度一般をどう考えるか,特に信託財産……,ある信託財産と別な信託財産との区別も明確な公示が,いわば完全な公示だとすると,そこまでいかないような公示ですね。
そういうものをどうするかという問題とも関係しているということだと思います。
分別管理との関係は,これはあれですか,分別管理義務を実行しているということを示すことができるようなということですね。そういう制度は,やはりあった方がいい。
● また間が抜けた質問だったら申しわけないんですが,ただ,第3条第3項の意味がいま一つ,私,理解ができていないと思うんですけれども,さっきと似たような例で,私がある会社に対して1,000株の株を持っていて,株主名簿に私の名前が記載されています。
そのうちの,例えば500株は信託,つまり私は受託者として持っておりますということを書かないと,第3条第3項の言葉は,これをもって第三者に対抗することを……,その信託をですね─ということだと思うんですけれども,これは発行会社との関係でもそうだという趣旨なんでしょうか。
ちょっと今,何条になっているのか商法はあれですが,発行会社の方は信託でないということを示せば,例えば議決権の不統一行使を拒むことができるんですね。
ですから,私が1,000株持っている分について,500株についてはイエス,残りの500株はノーという議決権行使をしていったときに,仮にこの制度があって,これを発行会社は拒めるのか。
ちょっと今の条文は,私のこの六法によると第239条の4の第3項なんですけれども,それは別の話で,発行会社との関係には関係なく,第3条第3項というのは信託の公示ですから--という整理をされたのか。
本質でない質問でしたら結構ですけれども,すみません,もともと第3条第3項の趣旨が私,必ずしもよくわかっていないものですから。
● 確かに,言われてみると発行会社との関係も問題になりそうだけれども。いや,私はそっちは入らないのではないかと思っていたけれども,そういうものでもないのかな。
● すみません,そこはまだ事務局で十分検討しておらないところですので,ちょっとお時間をいただければと思います。
● それでは,少し検討させていただくということで。
● 公示一般という話が出ましたので,それについてお話しさせていただきたいと思うのですけれども,(注4)に関連しまして,あるいは第3条第3項の取り扱いの基底になる考え方としてどうかという点につきましてなんですけれども,1つ,(注4)に書かれているような幾つかの公示制度の中で,②のようなあり方をどういうふうに考えたらよいかというところの評価が問題になっているのではないかと思われます。
先ほど○○委員からは,ある意味,中途半端なやり方ではないかと,そういう点からすると,こういう中途半端なやり方はよくないのではないかという含みを持った御指摘が一方であり,しかし,そうはいっても……という点だったと思うんですが,私自身は,②のやり方というのもかなり有用なものではないかと考えておりまして,不動産登記のような非常に詳細な情報を出すというやり方が唯一の公示の方法ではなく,まず信託財産であるということはわかっていて,それが一体どの信託財産,どういう信託の,あるいは受益者がどうであるのかといった詳細については,そこには明らかにされないけれども,信託財産であるということは明らかになっているので,そこから先はさらなる調査という形のものは十分あり得るし,現行法でもあり得るのではないかと考えております。
債権譲渡登記なども同様な考え方ではないのかと思っておりますし,それから,少し違う話ではありますけれども,対抗力はそれで付与されるけれども,どういうことが対抗されることになってくるのか自体は調査してみないとわからないというのは,若干不規則ではありますけれども,借地借家法の対抗力などはそういうもので,どれだけ敷金があるのかというようなことは調べてみないとわからないというようなことですから,こういう2型のものというのは,並べてみると中途半端かもしれませんけれども,公示のあり方としてはそれなりに意味があって,もっと積極的に評価されるべきではないかという気がしております。
それから,公示一般については,制度がなければ,信託財産であるということが証明できれば信託であるということを対抗できる,そういう意味では,そんな公示なんてない方が省力化になるという面はあるんですけれども,他方で利害関係人ということを考えますと,当該人の名義になっているものが,一体自分たちがかかわっていける財産であるのかどうかがわかる手がかりというのは,なるべくあった方がいいのではないかと思いますので,むしろ公示は充実させていく方が本来で,ただ,それが「そんなことまでやるようでは,とても実効性がない。負担ばかりが増えて」というふうなときは,やめてしまった方がいいのではないかという気がしております。
第3条第3項というのは,正直この第3条第3項自体はどういうものかわからないのですけれども,したがいまして,もしこれが実務的にさして問題がない,それほどのコスト増でないのであれば,公示制度としてはあった方がいいのではないかと一方で思う反面,これがどういうふうな運営になっていくのか。
例えば,これをきっかけとして何かを知るというときに,これがきっかけとなるような仕組みになっているのか,だから見ることができるのかですとか,そういったあたりがちょっとよくわからないものですから,第3条第3項自体がどうなのかということは,正直言って,いずれともよくわからないということなのですけれども,一般的な問題としては,個人的にはそのように考えております。
● 私も前半部分については同感といいますかね,ほかの幾つかの公示制度でも,信託財産であることしか公示できないというのが幾つかあるという……
● 信託財産であることの公示ができなくて,普通の所有権の登記・登録しかできないというものがあるわけでございます。信託の登記ができない。
● あ,それがそもそもできないんですね。
● はい。それを導入しようと思っているときに,②型のもの,あるいは③型までいくものとか,そういうものがあり得るなと。
● 信託財産であることの公示はできるけれども,どの信託財産かということまでは公示できない,そういうタイプもありますか。
● それは今のものと,あと振替社債とかそういうものですね。
● 自動車なんていうのは,何でしたか。
● 自動車などは,所有権移転の登録はできますが,信託の登録制度がそもそもない。ですから,②型のものというのは,今の株券廃止会社の株式と,振替社債,登録社債のようなものだと思います。そして新たな制度を導入するときに,②型というのも考えてみるか,②型はやめるかというようなところです。
● しかし,この公示というものは,恐らく○○幹事の御意見,私も賛同するところが多いけれども,公示が簡単にできるものであれば,それはやはりあった方がいいだろう。
ただ,有価証券みたいに全部に公示しなくてはいけないというのは,これはとても現実的でもないし,適当ではないので,こういうものはやめていく,そういう切り分けだとしますと,結局同じことを繰り返して言うけれども,簡単に公示ができるんだったら残したらどうかという御意見でしたね。
● 今の流れと同じような議論なんですけれども,信託の公示というのは対抗関係と必ず結びついている。もともとそういう制度ですから。
だから公示が必要となると,しないと負けるという制度になっていると,やはりいろいろな観点から,やはり公示制度というのは縮小すべきではないかという議論になっていると思うんですけれども,他方で,何人かの委員がおっしゃったように,信託の公示というのは有意義な制度ではないか,こういう議論もあります。
弁護士会でも同じような議論がございまして,ですから,ここでの公示の議論というのは違うんですけれども,公示をできるような制度をつくっていただくけれども,かといって公示しないから負けるわけではなくて,公示しなければ,分別管理が不十分であれば,またそこで争いがあれば,場合によっては識別不能であるというような形で争いになっていくというようなことも,場合によってはあり得るのかなと思います。
あと,ちょっと間違っているかもしれませんけれども,債権譲渡登記のところで,譲渡原因のところに信託譲渡があったような……,もしかすると動産譲渡も今回それで変わりましたから,それは信託の公示ではなくて,単に譲渡原因の公示なんでしょうが,あれは,ある意味では信託として譲渡しているんですよという,広い意味で皆さんに告知をするような機能は,場合によっては果たしているのかなと。
ですから,それが違うところにチェックされていれば,もしかしてその登記自体が有効ではないということになってしまうかもしれませんけれども,そういう議論を差し置くと,あれは信託の公示制度ではないから,そこで公示しなくても別に負けるわけではないけれども,何らかの形で信託譲渡されているということは見ることができる,そういうような制度というのも他方,全然違う議論なのかもしれませんが,あってもいいのかなと思います。
● そういうこともあり得ますね。
そういう意味では,不動産も信託を原因とする,要するに登記ですか,信託登記そのものとは違って,ちょうど所有権移転のレベルにおける信託を原因とする登記というのは,あり得るということでしたよね。
違いましたっけ。--だから同じように,そのレベルだけにとどめて信託の情報を提供するということは,あり得る考え方で,不動産登記は別として,ほかの登記制度,あるいは公示制度においてそういう考え方を当てはめていくというんでしょうか,それがあるから……,その後,どうつながるかですね。
あえて本格的な公示までしなくていいというふうにいくかどうかというところでございます。
いずれにせよ,公示についての基本的な考え方をどうするかということと関係しているのが1つと,それから,この株式会社の株主名簿ですか,この登記というか,そこでの記録ですか,これ自体は非常に簡単なもので,できるということなんでしょうか。先ほど○○幹事が言われた2番目の問題。
● 関連して,○○幹事がおっしゃったことに私も賛成なんですけれども,仮にこの公示制度を維持するとしたら,利害関係人が株主名簿の,少なくともこの部分が見られないと機能しないと思うんですよね。
現在,株主名簿が見られるのは株主と債権者だけで,最近商法がしょっちゅう変わるものですから,私,条文に全く自信がないんですが,この六法によれば第263条ですけれども,そこの手当てを,だからといってほかの部分も見られていいかというのは……,ですから私,ちょっと前からこの第3条第3項というのがいま一つよくわからない--と言ってしまっては申しわけないんですけれども,いずれにしても,先ほどの○○幹事の趣旨に賛成でして,そういうことで言えば,もしこういう制度を維持するというか,つくっていく……,維持なのか何かよくわかりませんが--だとすれば,少なくとも信託についての利害関係人は,その部分は見られることにしないと公示としての意味をなさないのではないかと思います。
● 大体検討すべき論点は出てきていたような気がしますけれども,最後,決断としてどうするかは,やはり株主名簿における記載というものはどういうものであるかということにも大分関係するのではないでしょうか。
● 第3条第3項というのは,発行会社で振替制度を利用していないものとすると,非上場会社である。
そうすると,割と少人数な会社であって,そうすると,そもそも譲渡性もないような場合があって,名義書換会社のようなものも使っていない。
そうすると,果たして株主名簿に書かないと信託であることを対抗できないと言っても,実効性が果たしてどれだけあるのかといった実務的な観点からの懸念は,ないわけではございません。
● 公示制度全体については,まだ今後も議論は続くと思いますけれども,とりあえず今の,現行法の第3条第3項について,今,結論が必ずしも出たわけではありませんけれども,検討すべき課題を明らかにしていただいたので,それを検討した上で考えていきたいということにしたいと思います。
● では,終了原因と清算についての説明に移らせていただきます。
第61でございますが,これは信託全般に通ずる終了原因を包括的に定めた規律でございまして,前回提案から変更はございません。
なお,前回会議では,信託行為の定めにより受託者ですとか受託者以外の者に信託の終了権限を付与する場合において,このような終了権限を信託行為の定めにより無制限に付与することができるか,それとも受益者保護の観点からは,そのような終了権限の付与についても一定の限界があるものとすべきかという点について議論されました。
この点につきましては,まず,信託行為により信託の終了権限が付与された者がいる場合には,その者の判断により信託が終了する可能性があることは,受益者にとって予見可能であることですとか,終了権限が信託行為によって付与されたものである以上,原則として信託目的に反するような終了権限の行使はできないという,いわば内在的な制約が当然にかかるものであって,この意味においても受益者の保護は最低限図られていると思われるということにかんがみまして,特段の制限を設けずに終了権限を付与する信託行為の定めも許容されると考えているものでございます。
次に,信託の清算の方に移らせていただきます。
これは終了に引き続く清算手続の提案でございまして,前回会議での指摘事項を踏まえた新たな提案内容についてのみ説明申し上げます。
まず,軽微な点で,太字の3でございますけれども,前回提案においては現行商法等の規定に倣い条件付債権等については常に鑑定人の評価によらなければならないものとしておりましたが,利害関係人全員の同意があれば鑑定を不要とし,合意された金額の弁済をもって足りることを明記いたしました。
第2に,やはりこの条件付債権の評価という点に関しまして,前回会議において,例えば条件付債権が信託財産の清算手続では8割と評価された場合において,無限責任を負う受託者個人に対する債権としても8割になってしまうのではおかしいのではないかとの指摘がございました。
この点に関する事務局の検討結果は,資料11ページの1(2)に書かせていただいておりますが,具体的な処理手続について説明する前に,ここでの基本的な考え方を述べますと,信託が終了したからといって,いわば信託外部の関係者である信託債権者に有利,不利の影響が及ぶのはおかしくて,信託債権者の立場は信託終了前と変わるべきではないであろう。
他方,受託者及び受益者は,いわば信託内部の当事者なのであるから,信託の終了に伴い条件付債権が清算される過程で,仮に不利益を被ることとなってもやむを得ないであろう,以上を基本的な発想として考え方の整理を試みたものでございます。
その上で,まず,原則的な受託者が無限責任を負う信託債権の清算の方法については,次のとおりに考えております。
便宜上,合計100万円の停止条件付債権が信託財産の清算手続で50万円と評価された場合を念頭に置きますと,まず,①と書いてございますが,受託者と条件付の信託債権者との債権債務関係は,信託の清算手続とは無関係に,従来どおりの内容で続くものと考えます。
②として,信託財産の清算手続の方では50万円を受託者に交付して,停止条件の成就,不成就が確定するまで受託者に保管させた上で,残りの財産をもって信託財産の清算手続の方は結了させてしまいます。
③といたしまして,受託者は,停止条件の成就,不成就が確定した段階において,この結果に従って,預かっていた保管中の50万円を所持するものといたします。すなわち停止条件が成就した場合には,受託者は保管中の50万円に加えて固有財産から50万円を追加して,100万円を信託債権者に支払うことになります。
信託債権者の立場は,信託財産の清算の前後を通じて変わらないのに対しまして,受託者は50万円を自己負担しなければならなくなりますが,信託財産の清算手続は済んでしまっておりますので,改めて信託財産や受益者に補償請求することはできなくなります。
一方,停止条件が不成就に確定した場合には,受託者は信託債権者に支払う必要がなくなりまして,信託債権者の立場は,信託財産の清算の前後を通じてやはり変わらないのに対しまして,信託財産の清算手続は済んでしまっておりますので,受託者は,保管中の50万円を改めて信託の清算手続に回す必要はなくて,いわば50万円を利得できるという結論になるものというのが事務局の一つの考え方でございます。
以上に対しまして,受託者が個人責任を負わない有限責任信託債権の場合には,信託財産清算手続の中で直ちに50万円を信託債権者に支払う。
信託債権者は条件成就,不成就を待つ必要はなくて,評価に従って,その信託財産の手続の中で50万円もらうことによって,その弁済はすべて終了し,債権債務関係は一切残らないとしてはどうかというふうに考えているものでございます。
次に,提案9の方に移りますが,提案9に関しましては,清算受託者の便宜あるいは信託の柔軟性という観点から,保管の継続か競売かの二者択一に限らず,清算受託者としては,適正な任意処分による換価という方法もとり得ることを認めるべきではないかとの意見が前回,示されました。
しかし,前回会議でも示唆されたところでございますが,清算受託者としては,まず,清算目的のためであれば信託財産を任意処分して換価する権限を有しております。
これは2の(2)に書いてございますが,そもそもそのような権限を持っております。
しかも,信託終了時には信託財産を換価して,金銭でもって返還するという定めを信託契約に入れるという方法もありますし,仮に信託契約上は現物返還と定められている場合でありましても,例えば腐敗物については別であるというふうに約定の趣旨を合理的に解釈する方法によりまして,さらに場合によりましては,保管費用に要する補償請求権を行使するために信託財産を処分するという方法によりまして,すなわちこのようなさまざまな方法をもって帰属権利者の受領拒否等の事態に対応することは可能であると思われます。
したがいまして,このような場合には,保管義務軽減のために,この9の手続によるまでもなく,信託財産を任意処分できることが少なくないと思われます。
そうしますと,清算受託者がこの9の手続によらざるを得なくなるのは,かなり例外的な場合に限られると思われまして,このような場合についてまで任意処分の権限を認める必要はないと思われますので,保管の継続または競売の権利,両者どちらでもいいわけですが,これらの権利を認める前回の提案を維持することとしております。
なお,前回会議においては,この競売のための手続費用はどこが負担することになるのかとの問題も提起されました。
この競売は,厳密には清算目的のためというよりは,清算受託者の保管義務軽減のために行われるものでございますが,残余財産の給付に向けた清算事務処理の一貫として,清算受託者が信託事務を処理するために必要な費用と言うことはできると思われますので,補償請求権に関する規律に従い,信託財産から償還されることになりまして,その結果,当該信託財産に係る受益者または帰属権利者全員の負担に帰することとなるのが原則だと思われます。
といいましても,例えば,特定の帰属権利者が受領拒絶をしている結果として競売に至ったような場合につきましては,この者に対する競売費用相当額の賠償請求権,これは法的には民法第485条の弁済費用増加額の支払請求権と位置づけるものだと思われますが,このような請求権が別途,信託財産に帰属しまして,競売による売却代金からこの拒絶者に給付すべき金額と,この賠償請求金額との差引計算をすることによりまして,最終的には,この拒絶者の負担に帰することになると考えております。
● この信託の終了に関連して,何か御意見があれば伺いたいと思います。
● 終了原因について,若干御意見を申し上げておきたいと思うんですが,この終了原因について,1の(1)の⑥のところが前回も議論となって,今日コメントをいただいているところかと思うんですけれども,この点について,受益者の予見可能性ということが言われております。
この予見可能性ということについては,本当にそうであろうかといいますか,やや慎重に見る必要があるのではないかということを,一言申し上げておきたいと思います。
オーダーメイドの自益信託等の場合には,恐らく委託者兼受益者が契約内容を慎重に検討しながら作成していくということになりますので,予見可能性は確保されていると言えるんだろうと思うんですけれども,例えば他益信託の受益者や,その受益権の譲受人の場合に,多様性のある信託商品の中で,信託条項の1項目である変更権についてどれほど自覚的にこの受益権を取得することになるのか甚だ疑問であります。
この記述の中でも,終了権限などの内在的制約とか限界ということが言われているかと思いますけれども,恐らくそういった内在的制約や限界が争いになって検討される場合にも,そういった受益権の取得の実情ということも,その解釈に影響を与えるのではないかと思います。
終了権限が付与されることが認められるとしても,その権限行使は,場合によっては相当程度限定されたものとなる場合がかなりあるのではないかと思われるところでして,権限付与が認められるとしても,広くこれが認められるかのような記述は,若干慎重にお願いした方がいいのではないかということが,御検討いただきたい点であります。
それから,この権限行使の限界について,条項上,明確に限界の条項を定めないことにする場合にも,やはり解釈上,その限界についてはある程度の考え方といいますか,そういうことを示す必要があるのではないかと思います。
それから,終了権限を受託者以外の者に付与する場合には,これはやはりどのような者に付与するかということも重要ではないか。
そういった権限を付与される者があるとすれば,これはやはり受託者と同じように忠実義務を負うというような形の規律といいますか,そういったことを検討する必要があるのではないかと感じております。
それからもう一点,これは質問なんですけれども,もし終了権限の行使が濫用的であって問題があるというふうになった場合に,この権限行使はどういうことになっていくのか。
無効になるのかということと,それから,その場合に受益者がとり得る手段について,考えられるとすれば,例えば受託者の解任ですとか,あるいは受託者以外の者が終了権限を持っている場合には,その者の解任とかいうことが考えられるのかもしれませんけれども,もし問題になった場合の対応といいますか,そういった点について,もし御検討されているのであれば教えていただけると助かります。
● もし終了権限行使が濫用的な場合,無効であろうということは,事務局の考えでは終了自体が無効になるのではないか。
濫用的な権限行使であっても,いわば訓示規定にとどまるわけであって,終了自体は有効というわけではなくて,終了自体が無効になるのではないかと思います。
そうしますと,受益者がどういう方法をとり得るかということですが,無効確認というようなことまでしなくても,終了していないことを前提に,例えば配当の給付請求権を行使するとか。受託者であれば解任するということもできますが,それ以外にも,信託が終了していないことを前提とした受益権の行使ができるのではないかと考えております。
● 終了権限者に受託者と同じ忠実義務等を負わせることができるかどうかは,何か少し難しいかなという感じ……。これはつまり,どういう立場でこの終了権限を行使するかということですよね。
これは当然に,受益者の場合に終了させる場合だけではなくて,いろいろな場合があるんでしょうし,そんなところが1つ問題なのではないだろうかと思いますけれども,何か御意見があれば。
● 流動化という視点なんですけれども,終了,清算という流れでして,当然流動化でも最後がございまして,ウォーターフォールで終了するわけです。
それがここで言う信託法上の終了なのかどうかという議論はあるかもしれませんけれども,不用意につくった契約であれば終了と書いてあるかもしれませんが,そうすると,清算規定が信託行為とはかなり異なるケースがいろいろ出てくるのではないかと思います。
ということで,この信託の清算についてはデフォルト・ルール,信託行為に別段の定めがある場合にはそちらでも構わないというような,そういう趣旨なのか,信託の清算というような,ある意味では強行法規的な側面があるのか,どちらかわかりませんでしたけれども,現実的には,信託の終了時まで信託契約の中で書いてございますから,デフォルト・ルール化ということで御検討いただきたいということが1つ。
あと,後ほどの信託の破産にも絡むんですけれども,清算している過程において,どうも債務超過であるといった状況が生じたときに,商法の議論であれば特別清算に移行することになると思うんですけれども,この場合ですと破産の議論にいくのかどうかということで,破産の方は,認めるか認めないか両方の議論があるかと思うんですけれども,仮に認められる場合というのは,この中でよきに計らうといいますか,何か特別な規定が場合によっては必要なのか否か。
必要であるという主張ではないんですけれども,その辺,どのように考えていらっしゃるのかお伺いしたいと思います。
● ほかに関連してございますでしょうか。
● 先ほどの終了権限の付与された者の義務については,○○委員がおっしゃったように,忠実義務はやや困難ではないかと私も思いますということだけ付加させていただきます。
信託の清算の方の,今回,詳しく説明していただいた条件付債権の取り扱いについて,大変細かいところで恐縮なんですが,これは,評価された条件付債権の弁済自体は受託者に交付するということになりますと,受託者の固有の責任財産になりますので,そうしますと,条件付債権の方はまだ条件成就していないけれども,他の債権者がどんどん押さえてこられるというようなことになるとお考えなのか,それとも何らかの確保措置をセットで御検討になっているのかという点でございます。
確保措置がないのであれば,私自身は,深くは考えておりませんが,まだ債権者に交付してしまった方がいいのではないかという気がするものですから,その点についてお聞かせ願えればと思います。
● 具体的な措置と言われますと,ちょっとまだ十分検討しておりませんで,ただ,保管してとかプールしてとかいうのは,おっしゃるとおり,混ざってしまいますとほかの債権者がかかってこられて,意味がない。
あくまでこれは,この条件付債権者のための財産として確保されるべきものだというのが前提でございます。その方法については少し検討したいと思いますが,おっしゃるとおり,このような手続をとる以上は確保措置が必要になりますし,もしそれがうまくいかないようでしたら,一気に清算するということもあり得るかなと思っております。
● 私も同じことを申し上げようと思ったので,ちょっと付言しますと,そういう場合には,この御説明書とは違いますけれども,清算事務が結了していないという整理ができるのが,ある意味で従前の法定信託--その部分についてだけ法定信託として,清算が結了していないので,1に従って信託が残っているというような構成もあり得るのかなと思っていたわけです。
いずれにしても,やはりここの確保措置がなされなければ,受託者のクエスションリスクを負うということですので,ちょっと問題なのかなと思ったものですから,つけ加えさせていただきました。
● 一つの考え方かもしれませんね。
受託者に引き渡すというような表現がどこかに書いてあったので,ちょっと問題になったんだと思いますけれども。ほかの債権者がかかわっていけない,受託者の個人債権者はかかわっていけないような措置は必要だと。
● その措置があれば,このような処置の仕方で良いのかという点はいかがでしょうか。
例えば,仮に条件不成就ですと,言葉は悪いですが受託者が丸得するわけですけれども,それでも確保措置さえできていれば,とにかくプールしておいて,そして結論を見た上でどうするか。
50万円損するか50万円得するか,言ってみれば博打みたいなものでございますが。どちらがいいのか,一気に清算するというのがいいのか。
議論の過程では,こうしますと結論が長引きますので,いっそのこと,もう信託が終了したときには条件付債権者についても,仮に無限責任であっても一気に清算する方が,一気に解決できていいのではないかといった議論もございましたし,さらに申しますと,無限責任債権者は,常に信託財産にいけると知っているわけではなくて,自分は固有財産にしかいけないと思っていたら信託財産にもいけるとわかったという者,あるいは最初からいけると知っていた者について区別する必要はあるのかどうか。
知らなかった者についてはプールしておくという方法もあり得るにしても,知っていた者については,もう信託財産の清算の過程で一気に清算してしまうということもあり得るのではないかといった話も多少出ておりまして,そもそもどういう考え方が結論としていいのか。
これがよければプールの方法も考えたいと思っておりますが,またそういう御指摘もいただければと思います。
● 仮に私の言うとおり継続するものであれば,余った場合に,例えば受益者にまた改めて返す。これは受託者にとっても面倒なことだとは思うんですけれども,そういうことも可能なのかなという気もしております。
それが仮に信託行為で最初から定めていることであれば,それも一つの商品性として歓迎するのかなというふうにも思いました。
● 恐らく受託者のところにいってしまうわけではなくて,また受益者と--受益者というのは帰属権利者ということですね,あるいは分配しなくてはいけないということになりそうな気がしますね。
しかし,○○幹事が説明されたように,そもそもこういう解決でいいのかどうかというあたりが実際の問題として,もうちょっと検討した方がいいかもしれませんね。
それでは,休みの間にでも,また御意見があれば伺わせていただくことにして,ここで一たん休憩をいたしましょう。
(休 憩)
● では,準備ができたら始めてください。
● 終了のところで○○委員からお話があったのは,破産のところにも関係するんですが,特に信託債権と受益債権の優先劣後関係についての問題の御指摘ではないかと思われます。
これはむしろ皆様にいろいろ議論いただきたいと思っているところでございまして,過去の提案では,受益債権の方が劣後するとしておりますが,そこら辺が自由に定められるのか,あるいはそのような規律自体が適法なのかというあたり,もうちょっと皆様の意見を伺ってみたいと思っております。
● ほかに,終了のところに関していかがでしょうか。
● 前回お話ししたことの繰り返しになるかもしれませんけれども,くどいようですが,61の1の(1)の④について,いわゆる58条リスクの話を申し上げました。それについて,これで十分なのかどうかについて,まだ検討の余地があるというお話でございました。
同じ話をいたしますと,方向性については非常に賛成するわけでございますけれども,なお,このような条項で,ファイナンス目的の場合に,果たして安定的な信託ができるのかどうかについては,格付機関も含め,いろいろな取引当事者間のコンセンサスが出てくると思いますものですから,ここについては,ぜひともパブ・コメ等で意見を聞いていただいて,その上で御判断するのがよろしいかと思っております。
その際,これも前回申し上げましたけれども,ファイナンス目的ということについて前回の説明でいただきましたけれども,それについては要綱試案等で書いていただきたいということですが,1点だけ加えますと,ファイナンス目的といってもいろいろなタイプのストラクチャーがございまして,また,ファイナンスといっても,例えば真正売買の関係から,これはファイナンスかどうかという話もあるぐらいですから,ある意味で,ここで言うファイナンスというのは非常に広い意味でのファイナンスで,ちょっと具体的に全部記述することは難しいと思うんですけれども,そういうことがわかるように御説明いただければなと,ちょっとお願いしたいところでございます。
● 同じところですので,続けて申し上げさせていただきたいと思います。
私も,裁判所による信託の終了のところで,目的を基準とすることで,本当にこれで明確と言えるかどうかということは,前回,信託の変更のところでも申し上げたとおりでございます。
仮に目的が不明確であるとした場合には,目的に適合しないと認定するのは非常に困難であって,その結果,裁判所による信託の終了というのは機能しないということでもよろしいのかというあたり,仮にこの要件を維持するとすればということでございますが,そこが1点でございます。
もう一点は,他の原因によって信託が終了している,実体的に終了しているという場合,特に,例えば目的の達成が不能になって,既に信託が終了しているという場合には,既に実体的に終了していますので,④によって信託の終了の申立てがあったとしても,裁判所はこれで信託の終了を命じるということにはならないのではないかと考えております。
そのようなことでよろしいのかというあたり,若干確認的に申し上げさせていただきたい。よろしいとは思っておりますが,若干確認的に申し上げさせていただきました。
● 前者は,目的に適合しないこととなった場合というのが積極要件となっておりますので,信託の目的の趣旨がいま一つはっきりしないということで,適合しないという認定ができないということであれば,申立て自体は認められないという結論でいいのではないかと思っております。
それから,終了するまでもなく既に達成不能になっている場合は,もう当然終了しているかということでございまして,そういう場合,それにもかかわらず,言ってみれば④の方より①の方が広いわけでして,④は①に含まれるという感じになると思いますが,それでも,確認的に終了を命じていけないのかと言われると,当然そこは①に当たるんだから,裁判所としては④の申立てを却下するということがいいのかどうか,検討してみないとわからないところです。そういう場合は,理由の中で「この信託は目的の達成が不能と認められるので,この申立ては却下する」こういう書きぶりになるという感じでございますか。
● どこまで理由を詳しく書くかというのは,よくわからないんですが,実務的に,具体的に心配しておるのは,まさにおっしゃられたように,目的の達成が不能である。
にもかかわらず,ちょっと心配だから裁判所にというような申立ては,そういう目的で,この裁判所に対する申立てという制度があるわけではないというところを確認させていただきたいということでございまして,もしそういう余地があるのであれば,「他の原因によって信託が終了した場合を除く」といったところで,むしろ要件を明確化していただくことが考えられるのではないかと申し上げたところであります。
● 本来は生きている信託を終了させるのが,④の趣旨からすると,おっしゃる趣旨が妥当するのかなという直感がいたしますが,御指摘の趣旨を踏まえて検討したいと思っております。
● 余り明確にしない方がいいような気もするけれども。
終了のところは,ほかによろしいでしょうか。
それでは,ほかにも関連する問題,さっきの受益債権の問題もあるし,先に生きましょうか。
● では,続きまして,信託財産に係る破産手続の整備についてに移らせていただきます。
前回会議において各論的に特に問題指摘がなされた事項についての検討結果と,新たな問題提起を示したものでございます。
4点ほどございますが,まず,前回会議におきましては,手続を設けるべき信託の範囲について,信託債権の責任財産が信託財産に限定されていない場合についてまで破産手続の対象とする必要はないのではないかとの指摘がされました。
この点については,まず,信託債権の責任財産が信託財産のみに限定されることとなる,いわゆる有限責任類型の新たな信託制度を仮に導入することとした場合には,このような信託について,破産手続を導入することには異論がないことを確認したいと存じます。
その上で,問題は,受託者の固有財産も責任財産となる信託一般についても破産手続を導入する必要があるかという点でございまして,現行法上,いわゆる合名会社につきましても破産制度がありますので,受託者無限責任の信託に破産手続を導入したとしても,制度間のバランスを欠くものではないと思います。
もっとも,前回会議でも指摘がございましたとおり,受託者無限責任の信託と破産制度が果たして相容れるものなのかといった問題が生ずることは,否定できないところであると思われます。
このような問題点を含むことを踏まえた上で,さらに受託者無限責任の信託についても破産手続を導入すべきか否かということは,契約相手は受託者個人であるにもかかわらず,しかも自己の有する債権が信託債権であることの知,不知にかかわらず信託財産をも引当財産とすることができるという信託債権者の利益がどこまで保護されるべきかという点についての実質的判断にもよるべきものと思われます。
この点につきましては,有限責任取引の一定の浸透を初めとする現在の信託取引の実情ですとか,信託債権者の合理的な期待内容,さらには今回の信託法改正の全体を通じて見た場合の信託債権者に対する保護のあり方などを総合的に考慮することによりまして,現段階で結論を出すこととはせず,なお引き続き検討していきたいと考えております。
以上の点につき,その他にも考慮すべき要素,あるいは受託者無限責任の信託について破産手続を導入することの当否自体についても,御意見があれば御指摘いただければと思います。
続きまして,第2でございますが,前回会議におきましては,事務局より,残余財産の給付を内容とするものを除く受益債権も破産債権に含まれるとの考え方を示しましたところ,エクイティと位置づけられる受益債権がデットと同じく破産債権に含まれるというのは矛盾ではないか,受益債権を破産債権に含めてしまうと,信託財産が債務超過状態になるとの判断が極めて容易になされてしまうことになるのではないかとの問題指摘がされました。
この点については,まず,株式において,具体的に生じた配当請求権については破産債権となるものと介されていることにかんがみますと,仮に受益債権がエクイティの性質を有するものだとしても,一定の受益債権をもって破産債権と取り扱うことが矛盾であるとまでは言えないと思われます。
そして,破産手続の開始等により信託が終了した場合におきまして,いまだ履行されていない受益債権がどのように取り扱われることになるのかは,信託行為の定め方次第であると考えます。
ただし,これを資料中の説明に即して,より具体的に検討してみますと,一応次のように言うことができると思われます。
例えば,まず,破産手続の開始等による信託終了時において,履行期が既に到来している受益債権ですとか,あるいは一定の猶予期間に基づき期間収益を分配することを定めた株式類似の受益権において,期間収益の確定行為が既に行われていることにより発生済みの受益債権,このものについては,株式において具体的に生じた配当請求権と同様に,信託財産の破産手続において破産債権として取り扱われ,破産手続の中で清算されることになると考えます。
これに対しまして,破産手続の開始等による信託終了時において,履行期が到来していない受益債権ですとか,先ほど言いました株式類似の受益権において,期間収益の確定行為が未だ行われていないことにより未発生の受益債権,こういうものにつきましては,信託の終了をもって消滅し,あとは受益者または帰属権利者に対する残余財産分配請求権が残るのみであるとの信託行為の定めがあること,あるいはそのような趣旨の信託行為であると認定されることが一般的でありまして,したがって,信託財産の破産手続において破産債権として登場してくることはないのではないかと考えられます。
さらに,前回会議で挙げられた例に即してもう少し具体的に言いますと,例えば,100万円を管理・運用して毎月末に10万円ずつ10か月間給付するという定めをした信託契約におきまして,1か月経過後に信託が破産した場合においてどうなるか。
弁済期到来済みの当初の1か月分の10万円と,弁済期未到来の残り9か月分の90万円というものについて考えますと,最初の10万円は破産債権となりますが,残りの90万円については,破産により消滅するというのが信託行為の趣旨であると認定されるならば,破産債権とはならないと考えられます。
また,例えば有価証券の投資により,利殖の上で5年後に残額を返還してほしいという趣旨で50万円が信託されたところ,4年目に信託財産が破産したとしますと,この委託者の有する債権は,破産清算後に残額があれば交付されるべき残余財産分配請求権にとどまることが一般であると解されまして,やはり破産債権には含まれないのではないかと考えられます。
以上によりますと,破産手続の開始により信託が終了した場合において,受益債権は,破産債権としてではなく,破産清算終了後の残余財産の清算手続において登場してくるにすぎない場合が少なくないと思われまして,信託財産が債務超過状態にあるとの判断が容易にされてしまうとの懸念は当たらないように思われます。このような考え方につき御意見を伺いたいと思います。
第3に,前回会議におきましては,信託財産に係る破産手続をより簡便なものとする観点から,あるいは信託の破産の場合においては受託者がまだ正常に行為し得る能力がある場合もある上に,信託財産の状況を一番よく知っているはずの者でもあることにかんがみると,「裁判所が選任すれば,受託者も破産管財人に就任することができる」との特別の規定を信託法に設けることも検討に値するのではないかとの指摘がされました。
しかしながら,この点につきましては,破産管財人の公平・中立性の要請ですとか破産債権者の信頼の確保等の観点からしますと,破産債権の債務者であり破産財団たる信託財産の所有者である受託者本人が破産管財人に就任することが有益であるとは言いがたく,むしろ信託財産とは何ら利害関係のない第三者が破産管財人となって破産手続を進行させることが,破産手続のスキームに適合的であると考えられること,その他,資料に書いた理由によりまして,御指摘に係るような規定を設ける合理性は認めづらいのではないかと思っております。
最後に,前回会議におきまして事務局より,信託の終了による清算の場合と同様に,信託財産の破産手続においても受益債権は信託債権に劣後することになるとの考え方を示しましたところ,このような考え方によりますと,信託債権者に比べて受益権に対する投資家の方が劣ることとなって,信託を器として利用した流動化の局面などにおいて投資を募ることが困難となるおそれがあるのではないか,会社と異なり,信託では厳格な配当規制が存しないことを考慮するのであれば,受益債権を劣後させるのではなくて,受益債権の弁済についての否認権や詐害行為取消権の活用をもって対処すべき問題ではないか。
あるいは,未発生のものはよいとしても,既に発生した受益債権についてまで信託債権に劣後させるのは行き過ぎではないかなどの観点から,事務局の前回示した見解を疑問視する御意見が示されました。
この点につきましては,資料17ページの(注)に書いてございますとおり,受益債権に対する関係において,信託債権には共益的な色彩が見られることですとか,否認権や詐害行為取消権の行使にも一定の限界があり得ることにかんがみますと,信託債権を優先するとの事務局の考え方にも一応の合理性があるのではないかと考えるものでもございますが,しかし,この優先・劣後関係,信託債権と受益債権との優先・劣後関係は,先ほども御指摘があったとおり,非常に重要な問題でもございますので,引き続きぜひとも御意見を賜りたいと思います。
● まだいろいろ難しい問題が残されておりますので,いろいろ御意見をいただければと思います。
いかがでしょうか。
● 全体像ではなくて,いきなり最後のポイントの各論のところなんですけれども,先ほど私から信託の清算のところでコメントいたしました。
それも結局,受益債権と信託債権の関係のところを信託行為で別段に定めた場合に,それがデフォルト・ルールだから信託行為の方が優先的に適用されるのかどうかというところもありましたので,ちょっとその辺だけに絞って質問ないし意見を述べたいと思います。
いわゆる流動化でハイブリッド型というのがございまして,恐らくこの場で既に議論されているのではないかと思うんですけれども,その場合ですと,優先受益権とABL--ノンリコースローンですかね--は契約上,同列に取り扱われておりまして,それは今回の御提案ですと,既発生の部分と将来の部分とに分けておりますけれども,もちろん別にそういうわけではありませんでして,契約当事者間においては,それは同列で取り扱っております。
それが信託の清算とか,信託の破産手続を設けるかどうかの議論ですけれども,仮に設けるとした場合に,そういう局面において,ある意味では身分の違うものとして取り扱われるということ自体が,信託行為の定めとか信託の柔軟性にもとることになるのではないかと思います。
もちろん,新しい信託法ができて,それが序列が違うんだということが明らかになれば,そのような商品設計はされなくなると思うんですけれども,恐らく今,同列に扱われているというのは,投資家の方で,ローンで投資したいという方と優先受益権で買いたいというような投資家サイドの希望からでき上がっているものでございまして,そうすると,今までできたものが,信託法でこういう規定を設けることによってローンでしか出せなくなる。
それを,いや,ローンでは困るということになって,もう一回SPCに入れてそれを社債型にするとか,また手間をかけることになってしまうということで,今までできたことを,あえてそういうふうにする必要はないのではないか。
では,その限りにおいてはそのとおりなのかもしれないけれども,一般的な信託債権者が登場したときに一体どうするんだろうか,そういうことがこの間の破産手続の問題だとは思うんですけれども,ABL--ノンリコースローンにおける額面というものは,ある意味では信託財産が減れば,要するに,一般債権者が出ればその分へこむわけでして,ですから,ある意味では額面といいますか,表示上の額面にしかすぎないという側面を持っています。
その限りにおいては極めて信託受益権に近いものはございますし,片や社債型の信託受益権というのは元本があり,確定利回りであり,実績配当の信託においてなぜそれが可能かといえば,それは劣後受益権があるから可能であるということでございまして,極めて社債に近い性格を持っている。
ですから,経済的実質においては,単に当事者が勝手にそれを同じだと決めただけではなくて,経済的実質においてもほぼ同じものでございます。
ですから,これが信託清算のところの,先ほどの弁済の充当のところで,債権に先に充当し,その後に受益権に充当するというところに対しての,デフォルト・ルールでやる必要があるのではないかという発言にもつながりますし,また,この信託に対する破産制度を仮に設けるとしました場合に,その破産原因として債務超過ということを仮に規定する場合に,債務超過の債務に対して,ABLだけを取り上げるのか,場合によっては信託受益権の額面というものも取り上げるのか。
全く違う見方をして,ABLにおける額面というものは,ある意味では信託財産によって幾らでも減額されるものであるということになれば,債務超過のところの債務というものとしては,ABLは認識しない。
したがって,有限責任信託でも特約付でもいいんですけれども,幾ら一般債権者が増えたとしても債務超過にはならない。
どうしてかというと,ABLの額面が実質減っていくから。ですから,信託財産を超えてしまえば別ですけれども--というようなことで,逆に,そうすれば流動化に対して破産の手続というか,債務超過を倒産原因としたとしても,流動化には実質的に適用がないだろうというような議論にもつながっていくとは思うんですけれども,その辺が不明確なまま,または通常の発想ですとそういう発想はなかなか出てこないと思うので,そうすると,例えば信託財産,100のABLがあって,たまたま1の債務を負ってしまった瞬間に債務超過になってしまう。
でも,実質的にはそれはABLのサイガントでは99で済むわけですから,実質においては債務超過ではないと思うんですね。信託の債務超過が会計的にといいますか,この手続上どういうふうにとられるかということにも結びつくと思うんですけれども。
いろいろ申し上げて申しわけないんですが,結論としましては,今,幾つか提案がありましたけれども,それ以上に,信託行為の定めというものを優先的に取り扱ってほしい。
もちろん流動化だけが信託ではございませんから,一般論としての,また,デフォルト・ルールとしてのこういう取扱いというものは,それはそれでいいのかもしれませんけれども,既存のスキームというものが今後とも,信託法が改正された後も,ある程度使えるものであった方が,よりよいのかなという視点からの発言でございます。
● 今の関連で,受益債権と信託債権の優劣関係についてでございますが,まず結論だけ申しますと,私が今,考えているのは,受益債権は信託債権に劣後することもあるということでございます。
以下,付言いたしますと,まず,倒産手続で最も先鋭化します複数の債権の間の優劣関係というのは,基本的に,まず実体法が決める問題である。
それで,今次の倒産法の改正で入りましたとおり,約定劣後のようにですね,当事者の意思で決めることもできる,こういうものだろうと思います。
実体法で決める問題でありますから,倒産固有の問題ではなくて,例えば,どちらかの債権を執行債権として強制執行が始まって,もう片方が配当要求で入ってくるという場合でも同じように生ずる問題でありまして,倒産固有の問題ではないんだろうと思います。
したがって,最も先鋭化する破産手続の整備のところでこの項目が入っているのは,現象としては,もちろんそれで結構なわけですけれども,問題は破産と切り離して考えるべきだろうと私は思います。
そうやって考えますと,特に一般債権として性質が違うものでなければ,プロラタが原則なんだろうと思いますが,ただ,17ページの(注)にございますとおり,信託債権として扱われるのが信託上の事務処理に関するものに限定される。
その「受益者全体の利益のために支出された費用と同視し得るもの」というものがあるとすれば,全部ではないと思いますけれども,あるとすれば,これは民法の先取特権の共益の費用,これを通じて優先的破産債権のような扱いをし,結果として優先・劣後の関係がつく,こういう説明をすることになるんだろうと思います。
信託債権がすべてこの共益債権に当たるかどうかはよくわからない,そうではない場合もあるのではないかと考えましたので,冒頭申し上げたとおり,受益債権が信託債権に劣後することもあるだろうし,そうではないときもあるだろう。
それから,今,○○委員からもお話ございました,約束で優先関係を決められるということであれば,約定劣後の約定と認識できる限りでは,破産手続では当事者の合意で優先順位を動かすこともできるだろう,こういうふうに説明することになるのではないかと思います。
以上が4の受益債権と信託債権との優劣関係です。
御議論があるのはこの辺かと思いますが,あと2つだけ,ほかの点について簡単なコメントをさせていただきたいと思います。
1つ戻って,3の受託者が破産管財人となることの当否についてでございますが,結論としては,これ,何も規定を置かないということでよろしいのではないかと思うんですけれども,ただ,この場の議論が,受託者というのがおよそ破産管財人に就任するのは不適当であるということでまとまってしまうとよくないなと思いまして,一言だけ申し上げさせていただきます。
破産規則の第23条第1項では,破産管財人というのは,その職務を行うに適した者を選べということが書いてあって,何か特段の類型の人を排除する仕組みにはなっていないわけですけれども,例えば受託者が,信託財産が危殆に瀕しているというので,いわば事業の立て直しのプロみたいな人が直前に送り込まれて,その人が受託者として頑張ったんだけれども,もう遅くて破綻したというような場合には,その人を破産管財人にすることが適切な場合も恐らくあるだろうと思いますので,この場の議論の結論が,受託者というのはおよそ破産管財人にするのは不適切だということでまとまってしまうと困るなと思いまして,一応議事録に残しておきたいということでございます。
第3点でございますが,一番最初に戻りまして,そもそも破産手続の整備に係る全体の話でございますけれども,前回の信託法部会資料の9というところで随分詳しく,今年2月ですか,いろいろ論点が挙がっておりますけれども,一言だけ,その手続を組み立てる際の基本的な考え方について私の考えを申し述べますと,信託財産の破産専用の自己完結的な,よりシンプルなものをつくるというのは,恐らく要らないだろう。
つまり,現在の破産法をベースにしながら,あたかも相続財産の破産についてなされているように,個別のところで特則を置いていけばいいだろうと思います。
別個の自己完結性の手続が必要だという御意見は,ここでもどこかで出てきたような気がするんですけれども,それは恐らく,現在の破産手続は重たいという認識を前提にされているんだろうと思います。
しかし,昨今の破産手続の運用を見ますと,かなり大きい事件でも相当迅速に処理されていると思いますので,先ほど申し上げましたとおり,個別に特則が必要なところだけ,例えば申立権者ですとか破産財団の範囲ですとか,そういうものだけ手当てすればよくて,別個の自己完結的な破産手続をつくる必要はないだろうと思ってございます。
● 3点あるんですけれども,今,○○委員と○○幹事がおっしゃったことにも関係すると思います。
第1点ですが,優先・劣後。約定劣後はありと○○幹事がおっしゃったこと,私も基本的に,考え方としてそのとおりだと思っているんですけれども,ただ,いずれにしても,原則が平等なのか,原則が劣後しているのかということは決めなければいけないことだと思いますので,会社法で言えば,原則は株式は債務に劣後していますというのが出発点で,これは現在の商法ですと第131条の本文ですけれども,その場合に,債権の方が自分で自発的に約定で劣後していくのはいいんでしょうけれども,下の人が約定で上がるのは,多分だめだと思います。
それから破産法が,約定劣後の規定はあるんですけれども,あれは私の理解では,債権の間,下がるというものはいいと思うんですが,株式と同列あるいは株式より下に下がるという,実務で超劣後と呼んでいた,それにはどうも破産法上の文言が対応していないように思えるものですから,それは解釈問題だと思うものの,そういった点が論点としてはあると思います。
ただ,いずれにしてもデフォルト・ルールというか,出発点が,もともとイコールなのか優劣があるのか決めませんと,その上で約定劣後はありという話だと思います。それが1点目。
2点目は,○○委員がおっしゃったことと関係するのか関係しないのか,よくわからないんですけれども,つまり,優劣を設ければ新しい秩序になるかという話で,私は流動化の実務を知らないんですけれども,多分,信託については従来は信託債というか,株式会社形式の場合には社債で複層化というんですかね,マルチレイヤー,多層化のキャッシュフローを切り分けてやってきたと思うんですね,株式ではなくて。株式の中に優先・劣後を13種類つくるということはしませんで。
しかし,信託を使う場合には,信託債というものが今回はありということだと思うんですけれども,従来はっきりしなかったものですから,その代わりと言ったらなんですけれども,受益権を複層化するという使い方をしてきたように思いまして,ですから,どっちにそろえばいいとか悪いとかいうことではないんですけれども,もし今回,信託債というものがありということがはっきりすれば,恐らく受益権というのは流動化の器というか,箱として使われる場合には,株式会社の株式のようになっていくかもしれない。
「かもしれない」としか言えないんですけれども,そこの「信託債」というところとの関係があるような気がするというのが2点目です。
3点目は,この資料に書いてあるお話で,もともと優劣をつけても,株式会社の株式の場合には株主に--何というんですかね,発生した具体的なというんですかね,どこかに書いてある--配当請求権というのは劣後していない,破産債権で同等でやるという御指摘があるんですけれども,これはそもそもなぜそうかというのが私は疑問でして,今,考えられる答えというのは,それは株式会社は債権者保護のための配当規制をしていまして,配当規制を守って初めて具体的な配当請求権が出てくるはずなんですね。
したがって,配当規制に違反した,現在の条文だと第290条に違反した利益処分決議をしても,具体的な配当請求権は発生しないと私は思うんです。
したがって,そういう配当規制を前提としているからこそ,具体的に発生したものは同等ということになっているんだと思いますので,ちょっと信託の場合には,それは配当規制を想定しているわけではありませんので,この話は例の有限責任,無限責任も含めて,そう簡単ではないんですけれども,株主は原則は商法第131条で劣後だけれども,具体的に発生したものは同等なんだからというところは,ちょっと注意を要する。そのまま信託には当てはまらないような気がいたします。
● 2に関してでございますが,これも前回申し上げたところでございますが,結局,債務超過概念というのが明確でないというところもありまして,信託の安定性というのがどうなのかというところに若干の疑問があるということの文脈で,もちろん銀行として,債権者の立場からすると,破産をさせやすいというのも1つのメリットでありますけれども,総じてそういうプログラムに入るものとして,想定外の信託の上,破産がある場合には問題になりますので,そこら辺のバランスを考える必要があると思います。
その観点から,第1に,受益債権が破産債権であるということになった場合には,やはり信託が壊れやすいということにもなり得ますので,そういう意味で,やはりエクイティ的な取り扱いにしていただきたいということだと思います。
もっとも,やはり信託の柔軟性ということもございますものですから,そこら辺,デフォルト・ルールということで考え方が設計できるのであれば,それも一つの手なのかなと思っております。
ただ,第2に,受益債権についても手当てできたとしても,例えば不動産についても,これも前回お話しした例ですけれども,今,一瞬時価が下がった場合に即,債務超過になってしまうということもあり得て,そういった場合でも,予想外の債権者からの破産申立てがある場合にみんなが困ってしまうという状況があるということについて,どうするのかという話でございます。
そういう意味で,債務超過概念を考え直す必要もあると思うんですけれども,そこで,1つ中で議論が出ているのは,これは商事信託要綱の中で,具体的には第713条の第7項を読み上げますと,前項による債権者の破産申立てに対し,受託者が弁済をし,または相当の担保を供した場合には,裁判所は破産を宣告しないことができるということでございます。
受託者がかかる義務まで負うのかどうかという議論は別途あるかもしれませんが,やはり予想外の場合に,こういう救済手段を置いておくというのも一つのアイデアなのかなと思いました。
続きまして,4に関してでございますけれども,受益債権と信託債権の優劣関係でございます。
ここも,基本的にはデフォルト・ルールということもあるのかもしれませんが,ただ,実務的な感覚からすると,やはり受益債権は信託債権より劣後しているのかなと思っておりますので,原則的な取扱いというのは,そのようになるべきなのかなと思っております。
もっとも,これに対しては,投資家から十分な資金を集めることができるのだろうかとか,債務を負担することを禁止せざるを得なくなるのだろうかという疑問点がこの報告書にも書かれておりますが,前者については,これも実務的な感覚でございますが,そういう懸念はないだろう。後者についても,ストラクチャーの問題であろうと思っておりますので,懸念材料はそんなにないのではないかと思っております。
続きまして,3番目でございます。これも前回において私から問題提起したところでございます。
その場においてはなかなか賛同がなかったものでございますけれども,少なくとも,先ほど○○幹事からお話があったように,やってもいいなというケースもあるものでございますので,ここでは,多分この報告書もそういう趣旨だと思いますけれども,禁止はされていない,明文に規定をもってできるということは,例えば商事信託要綱にも書いてありますけれども,そういうようなことはしないけれども,逆に否定まではしていないということを確認したいと思います。
最後でございますけれども,そもそも破産の類型をどうするのかという話で,有限責任信託だけに限るのかということでございますが,これは理論的なことはともあれ,実務的な立場からは,やはり信託が立ち行かなかった場合の最後の出口としての破産制度,ないしは債権者の最終的な回収手段としての破産制度というもの,特に受託者が余り資力がない場合においては,やはり信託財産から回収したいということでございますので,そのニーズはあると思います。
例えば,これは保証人付の債権ということもあると思うんですけれども,幾ら保証人がそういう意味で無限責任を持ったとしても,当該債務者は破産制度の対象となるということでございますので,そういう意味で,受託者が無限責任を負っているからといって,通常型の信託類型において破産制度が妥当でないという考えには,必ずしもならないと思っております。
そういう意味で,通常型においても破産制度というのは必要だと思っています。ましてや有限責任類型においては当然必要になると思います。
● なかなか難しいですね。
● ○○委員から2番のお話が出ましたので,ちょっと言及させていただきたいと思います。
第9回の本席で私の方からも,受益債権を破産債権に入れるというのは,基本的には違和感がありますと。
エクイティと見るかデットと見るか,そういう問題は別にして,実務的な感覚からすると違和感がありますということと,やはり設定してすぐに債務超過になる可能性も大きいのでというお話をさせていただいて,それに対して今回の規律といいますのが,説明は15ページの②にありますけれども,履行期が来ていないものについては,信託の終了事由が発生したことを解除条件とする債権と位置づけることによって解決を図っていただいているということでして,正直言って,実務的な感覚はちょっと違うかなという感じはするんですけれども,こういう整理をしていただいて,履行期が来ていないものについては破産債権に含まない,そういう結果を生みますので,その結果といいますのは,基本的に実務上,非常にありがたい規律になっておりますので,こういう方向性で検討していただければと考えております。
● この破産の問題,実は弁護士会の方でも議論をしておるんですけれども,なかなか意見が進んでこないというようなことで,難しい問題だなと受けとめております。
現在の破産法との関係では,法人格がない者に破産能力を認めるという点で,かなり異例ですし,相続財産との関係でも,相続財産は,相続発生時点で財産が固定される状態になるんですけれども,そうではなくて,信託は日々動いているということで,かなりこれまでのものとは異質なものを破産させようとしているんだなという受けとめ方をしておりまして,いろいろ議論があるところで,未だ固まった意見になっていないのが実情です。
個人的な観点から,何点か意見を述べさせていただきたいと思うんですけれども,まず,第1点,この破産制度を導入する範囲についてですが,これは基本的に有限責任信託,新しい信託類型については債権者保護の観点からということがわかりやすいんですけれども,通常の信託の場合には,債権者保護というよりも,むしろ信託を終了させるメリットですとか,あるいは公正な第三者により信託の最後の処理をするというメリットの方が,むしろ重視されるような場合なのではないかと受けとめております。
そういったことを考えますと,通常の信託の場合にも破産の手続を整備した方がよいように思いますし,また,例えば受託者が破産した後に信託を処理しなければならないとなった場合に,やはり通常の信託の場合にも,手続がないとちょっと困るのではないかという感じがしております。
他方で,恐らく有限責任信託の方が,破産手続を具体的にどう規律していくかということを考える際には比較的やりやすいのではないかという気もしておりまして,どこまで法律,制度をつくるべきかというところは,ちょっと悩ましい問題かなと受けとめております。
それから破産原因について,基本的に債務超過を破産原因とするという前提で議論されているかと思うんですけれども,債務超過というのはなかなか難しい議論があるところですし,特に通常の信託の場合には,合名会社等の規律との平仄等も考えると,そこまで破産原因とせずとも支払不能を破産原因とするというような規律でよろしいのではないかと感じております。
関連して,受益債権の取扱いについて,今回,緻密な議論をいただいているかと思うんですけれども,1点気になっておりますのが,残余財産の給付を内容とするものを除くとしている点です。
この点については,いろいろな信託の類型があろうかと思うんですけれども,信託の中によっては,例えば土地信託で元本収受権を残余財産分配請求権的に構成している場合もあるように思いますが,こういった債権が破産債権から除かれるというのは,ちょっと違和感があるように思います。この点については再検討いただければと思ったりしております。
それから最後の,受益債権と信託債権の優劣関係について二,三,受益者の立場からということで御検討願えないかという点なんですけれども,信託財産が破産するに至る過程の中で,受託者の地位にあった元受託者といいますか,この方が,恐らく信託財産に費用償還請求あるいは報酬請求をしてくることになろうかと思うんですけれども,これとの関係で見たりしますと,受益者としては,受益者の債権が劣後するというのはどうも納得いかないという感じを持つのではないかと思います。
これは何というか,そういうものであると言ってしまえば,それはそうなのかもしれませんけれども,ちょっとここは慎重に検討する必要があるのではないか。
また,同じように,「信託債権者」と言っても多分いろいろな信託債権者がおられて,受託者の関連会社が信託債権者として登場してくる場合もかなりあるのではないか。
こういった場合でも,そういったところがみずからの報酬を確保して,あるいは費用の点はしようがないのかもしれませんけれども,確保して,みずからの受益権が劣後するというのは,どうも受益者の立場からすると,どうなのかなという感じがちょっとしています。
この辺については,恐らくいろいろな御意見や受けとめ方があるところかと思いますけれども,ぜひそういった点も若干御考慮いただければと思います。
この優先・劣後の問題については,弁護士会の中でもいろいろと議論のあるところで,劣後債権にすべきだという意見ももちろんありますけれども,この辺の取り決めについては,ぜひ慎重に御検討をお願いしたいと思います。
● 先ほど,優先・劣後を考えるときにどちらを出発点にするかというのが基本的な問題で,そこをまず決めてからその先を考えるべきだという御指摘があって,その上で,株式会社の場合,エクイティが劣後するのははっきりしていて,ただ,確定した配当請求権などは平等扱いになっているけれども,そのアナロジーも,そのままきかない面もあるかもしれない,それは配当規制などとの関係で違いがあるというふうな御指摘がありました。
それで,ちょっとよくわからなくなってしまったんですけれども,ここで言っている破産債権になるような受益債権というのは,実はかなり限定されているようなイメージなんですね。
清算時に生じる債務財産の給付の内容とするものは除いていますし,それのみならず,14ページから15ページあたりを細かく検討すると,結局破産債権にならないようなものも相当あるんだというようなことが書かれていることを前提とすると,一体何が残るんだろう,どういうものを典型的なものと想定したらいいのかというのがよくわからなくなってきたんですが,例えば,こんなものを考えると,エクイティに近いから劣後するという議論は成り立たないのではないかと思うようなものも多々あるような気がするんですね。
例えば配当は,信託の配当を決めた。所在不明だったので実際は配れなかった。それが破産になったら出てきたのでまとめて返さなければいけない。
こういうものが普通の信託債権と比べて劣後するんだろうかというと,何か非常に違和感があると言えばある。
あるいは,もっとひどいものだと,単に受託者が払い忘れていたというようなケース,後でまた払うんでしょうけれども。
これは受益債権なんだと思うんですけれども,かつ,これは破産債権になる受益債権だと思うんですけれども,こういうものを考えると,何か劣後……,これはもとはエクイティだからというのが余りアナロジーとして成り立たないような,性質決定として余り適正ではないように思います。
先ほどの,配当規制がない世界と配当規制がある株式会社は違うという議論も,今のようなものに関して,もう既に,ほかの受益者は過去ずっと前に得てしまっているようなものに関しては,やはり余り論点として関係ないような,違いとしては関係ないような気もいたします。
ですから,破産債権となる受益債権というのは大体どういうものがあるのかというイメージをもう少し固めないと,デフォルト・ルールも設定できないのではないか。
そういうものの中には,実は余り劣後という性格が適切ではないようなものが,実は結構あるのではないかというのが,今の私の印象です。
ただ,それはもう少しきっちり検討しないとわからないかもしれませんので,結論は留保したいんですけれども,もう一点確認させていただきたいんですけれども,仮にデフォルト・ルールとして設定した場合,どういう形で,そのデフォルト・ルールをどういう手続で変えるかということまで踏み込まないと,適切なデフォルト・ルールの設計はできないと思うんですね。
例えば,受益債権が劣後するというルールをとった場合には,ほうっておくと劣後するので,さっき言ったような種類の人たちまで劣後するんですが,この人たちを仮に対等にしようと思ったら,だれとの関係で,だれとどう約束すればいいのかがよくわからないんですね。
信託行為で書いたって,そんなの多分だめで,各債権者との関係で,同じところまでおりてくださいというのを個別に約束するとは思うんですけれども,何かそういうものが本当に適切なのかどうか。
原則平等としておくと,劣後するような種類の受益債権について劣後しようと書くことになるんですが,それは信託行為で書けば,多分できると思うんですね。
そうなると,デフォルト・ルールをどっちに設定するかによって,後で適切なアレンジメントをするときのコストが変わってきますので,まずどっちが原則かをネイチャーに応じて決めて,そこから先は適正な手続を考えればいいという手順だけではなくて,設定の仕方でその後の手続が変わって,コストが変わることも念頭において適切なデフォルト・ルールを考えないと,やはり手落ちかなという気がして,それを考えると,ますます何か平等扱いの方が,むしろ適切に,信託行為の中でうまく設定できるという意味でいいのかなという印象を,現段階では持っております。
● 関連するんですが,ちょっと違うポイントで,なおかつ解釈論的な議論なんですけれども,有限責任信託には適用があってもいいのではないか,こういう議論で,それは恐らく,有限責任信託は事業的なものに使われやすいだろうという前提だろうと思うんですけれども,場合によっては,有限責任信託というものはいろいろな,民事信託でも,仮に弁護士等が民事信託を受けようとしたら,固有財産まで引当てにする必要はないと思うので,有限責任信託を使うかもしれませんし,流動化の世界でも,でき上がれば使うかもしれません。
そうすると,事業をするから有限責任信託ということではなくて,有限責任信託は有限性だからという議論だと思うんですけれども,その中で仮に流動化とか,倒産手続の適用がないためにどうしたらいいかというと,恐らく破産申立制限条項を信託契約の中に入れるだろう,こういうようになると思うんですけれども,この辺は従前の実務でもやっているところなんですけれども,その辺でやや,解釈論的なんですが,確認的なところで,受益者は当初,当事者ではありませんけれども,通常は受益権を分割して投資家に売っていくという形なので,当初の破産申立制限条項というものは,恐らく転々と譲渡していく。
仮に有権証券化された場合でも,そういうものは譲渡していく。実際に社債型の流動化ではそういうふうにやっていまして,解釈論的にそういうものも有効なんだというような議論--どこまで有効かどうかわかりませんけれども--していますけれども,この場合,破産手続の適用を回避したいということを信託行為の中で定めることの有効性みたいなものも,可能であれば法律の中で確認していただけると,それによって破産の適用があるものとないものが,ある程度分けられる。
とはいっても破産債権者,債権者というのは第三者があらわれるわけですから,そういう身内だけの取り決めではどうしようもないところはあると思うんですけれども,そうすると,そこから先が先ほどからの債権と受益権の優劣の議論になると思うんですけれども,受益権で,先ほど優先受益権で非常に社債に近いものということを申し上げましたけれども,片や監督的機能しかないような受益権もあったりとか,受益権の債権額というものをなかなか確定しがたいというもう一つ別の側面もございます。これはあくまで流動化の世界だけの話なんですけれども。
そうすると,これも解釈論的な議論であって,立法論ではないのかもしれませんけれども,制度の中で,仮にABLの債権者は債権者としての身分を取得して分配を受ける。
それで原則に戻って,受益者はあくまでエクイティなんだからということによって,劣後的な分配しか受けられない。
といっても,信託契約の中でお互いにパリパシである,同じ身分であるという約束をしているわけですから,当事者の任意の履行に期待するというよりも,破産管財人なのか受託者の最後の権限として行使するのかわかりませんけれども,もう一度その中で再分配できるような仕組みをとっていただいて,最終的な身分の同じであるというところを確保できるようにしていただけるようなことも,これは契約でやればいいのかもしれませんけれども,そうすると,もう一つ当事者をつくり出す必要があると思うので,そのようなこともぜひ考えていただければと思います。
ですから,手続の中だけの特約有効性だけでは対応できないことを,分配した後にもう一回再分配するような機能を果たすというようなことです。
何か昔,議論したときに,劣後債の議論のところで,アメリカなどではそういうところまで破産管財人といいますか,トラスティがやるような機能を持っているというようなことも聞いたことがありますので,日本の倒産法では,今現在はそういうことは,それは当事者間において勝手にやればいいでしょうという議論なのかもしれませんけれども,そういう制度的な立てつけもあり得るのではないかと思いました。
● 2つ前の○○幹事の発言に関連することで,私の理解が十分でないから生ずる疑問なのかもしれませんが,ちょっとお話しさせてください。
63について申し上げたいと思いますが,62のところに,恐らく適切な,参照すべきことが書いてあるように思いますので,それを使わせていただきますと,2の(1)の②,③,④というところに3種類の債権が挙がっているように思います。それが63のところでも基本的な構造をつくっているのではないかと理解いたしました。
そうすると,債務超過を判断するときにどの債権をカウントするかという場合には,②と③を参入して④を外す,これはかなりクリアになったと思うんですが,優劣のところでの対象になっているのが何なのか,ちょっとよくわからないところがあります。
すなわち,②と③だけを比べていて,その劣後を16ページの4のところで言っていて,④が劣後するのはもう当然のことなのか,それとも,16ページに書いてある劣後に対する反対意見というところで念頭に置いてあるものは,④も②,③と同列にしようとしているのか,その辺の議論が私にとっては少し不透明に思います。
それから,私自身が優先・劣後を,②,③,④を,3段階にするのか,2段階にしてどこで切るのかというところについて意見を持っていないんですが,あるいは1段階のままというような意見を持っていないんですけれども,優先・劣後については今の点を明確にして事務局から問題設定をしていただけると,もう少しクリアに展開するのではないかと思います。
● ②と③と④の関係につきましては,事務局の考え方といたしましては,②と③の間が主たる争点で,④というのも一応観念できなくはないのかもしれませんが,破産との関係では,破産後の清算というところでしか問題になりませんし,一般の執行の局面などで残余財産というものが出てくることもあり得ないので,そういう意味で,実質的には②と③の間だけ議論すればいいという前提で考えておりました。
● ④が劣後するのは,もう当然であるということですね。
● はい。
● そうしますと,16ページの一番下の方のパラグラフですが,イの(ⅰ)は,よくわからないんですが,こういう意見を私が持っているわけではないんですが,これは④とも同列にすべしという議論なのではないかと思うんですけれども。既発生の配当分だけ同列であればいいということなのでしょうか。
● ただいま検討中です。
● 聞けば聞くほどいろいろ難しい問題があって,どういうふうに規律したらいいのか,ちょっとわかりませんけれども。
● まず,信託財産破産を認める範囲ということとも関連するんですが,先ほど○○幹事の方から,支払不能だけにしたらどうかというようなお話もあったんですが,今,検討しております限りでは,受託者が無限責任の場合に,その破産の原因となる支払い不能というのがどういうことなのか,非常に難しい問題があるのではないかと懸念しております。
要は,そのような場合には,信託財産の支払能力と受託者の支払能力をあわせ持ったような支払能力というものを観念しなければならないのか。
そうだとすれば,そのようなものを算定して,それで債務を支払うことが可能かどうか認定することになるのか。それは極めて困難な場合があるのではないかということを懸念しております。
さらに申しますと,今回,特約による有限責任債権というものを認めたといたしますと,特約による有限責任債権を支払う能力というのもあわせて検討する必要もあり得るのではないかということになりまして,問題がさらに複雑となるのではないかということを懸念しております。
相続財産破産につきましては,支払能力が観念できないということから,債務超過のみが破産原因とされておるわけでございまして,信託財産については,もちろん信託財産については支払能力があるという場合がかなり多いだろうということはあり得るとは思いますが,ただ,財産そのものが支払能力があると必ずしも言えない場合もあることをかんがみますと,支払不能を破産原因としない,少なくとも受託者が無限責任の場合には,支払不能を破産原因としないということも考えられるのではないかというふうに,今,考えておるところでございます。
2点目が,何点か御指摘がありました,破産管財人に受託者を選任するどうかという点でございますが,確かに規則上も,特段禁止されているわけではないというのはおっしゃるとおりでございますが,ただ,例えば破産管財人が選任されたときに,まず真っ先に何をしなければならないかといいますと,破産財団である信託財産を受託者の固有財産から分離することがまず真っ先に必要となるわけでございまして,そのときに,受託者と破産管財人が同一人であるということでいいのかというのが,恐らく裁判所が破産管財人を選任しようとするときに,当然懸念することになるのではないかということでございまして,この点はかなり,もちろん法律または規則上,不可能ではないというのはおっしゃるとおりでございますが,運用上はかなり慎重な検討を要するところではないかと考えておるところでございます。
最後に,受益債権の優先・劣後の問題でございますが,もちろん実体法の問題でございますので,むしろ実体験の問題として,現在の破産手続と整合的な範囲で御検討いただきたいと考えております。
デフォルトというお話ではございますけれども,それはある意味,信託に限った話ではない問題ではないかと考えております。
● お時間とってすみません。ちょっと劣後合意の点だけ。
既に○○幹事も,あるいはそういう含みをお持ちなのかもしれませんし,○○委員からも御指摘があったんですけれども,相対的な特約行為をどこまで認めるかというのは,破産法の改正の際には,絶対的な劣後特約についてはその効力を認めるけれども,相対的な劣後特約については,これは破産手続内では対応しないという判断をし,ただ,破産手続外での効力に影響を与えないという立場をとっていると思われますけれども,今回おっしゃっている特約による処理という話が,それを超えて「特定の債権者との間では」ということであるのだとすると,たとえ全員の合意を取りつけたとしても,破産手続では非常に困難ではないか。
しかし,信託においてはそういう処理をする必要があるということで入れるとしたときにも,もともと破産手続ではおよそ難しいのではないかという判断をしたこととの関係というのは整理が必要ではないかという点は,やはり御留意いただきたく,それを認めるのであれば,明文の規定や手当てが必要ではないかということです。
それとの関係で,○○委員が御説明になった幾つかの事例を考えますと,ABLと受益権が同列になるといったケースですと,これらについてはどっちも資本性を持ったものであるという,いわば絶対的劣後がされている中では,これは同等ということですから,それはやりやすいんだと思うんですけれども,しかし,そういうふうに,およそ本来はもう受益権というのも劣後的な,資本性を持った性格であるという形でやってしまいますと,ABLとの同列というのは割合に認めやすいかと思いますけれども,その中で社債型の受益権を持ってくるというのは,非常に困難を伴うのではないか。
むしろ逆に,これは○○幹事もおっしゃった点ですけれども,同列にしておいた上で,今度は劣後するようなものは,それは絶対的劣後ということで破産法第99条第2項による,そういう合意がされているんだという認定は,こちらの方はしやすいという面はあるのかなと。
私自身,受益債権というのは基本的にはむしろ劣後ではないかと考えているのですが,そういう相対的な劣後関係や,いろいろなものをつくり出したいというニーズからすると,今まで伺った限りでは,むしろ一般と同列にした上で,第99条第2項などを柔軟に使っていくということがあり得るのかなと思っております。
● なかなか難しい問題で,私自身は余りまとめる能力がありませんので。
今,大体の論点は出てきたと思います。何か今の段階でコメントがありますか。
● 優先・劣後関係のお話とか,いろいろ出てまいりまして,結局のところ,信託財産の破産を回避したいというニーズが一般的にありますというのが,実務サイドからの基本的なお話かと思います。
この点については,先ほど○○委員からも少しお話があったかと思いますけれども,破産回避特約の有効性の議論をここにも持ってこられると,事務局としては考えております。そこまでは申し上げることができるところかなと思っております。
それに加えまして,先ほど少しお話がございましたが,信託行為に書けば回避できるのだというふうに法律で決めてほしいというところになりますと,私の聞いておりますところでは,破産回避特約の有効性については,基本的には公序良俗との関係が問題になり得るところなので,やはり個別的に見ないとよくないのではないか。
つまり,ディスクローズをどの程度やったかというようなことも,その有効性の議論の中では反映され得るというような御意見もあると伺っておりますので,そういうところからしますと,信託行為に書けば必ず破産申立てできないというふうに法律で書くのが果たして容易なことなのかというのは,ちょっと消極的に考えなくてはいけないのかなと考えております。
それから,手続開始の申立てをした後に,申立てをした信託債権者--あるいは受益債権者かわかりませんが--に対する弁済を行う,あるいは担保を提供するというふうなことをした場合に,手続を止めていいのか。
前回も,ちょっと難しいのではないかと申し上げましたけれども,恐らく弁済してしまいますと,受託者が補償請求権を持つということになろうかと思いまして,その補償請求権を受託者が放棄するということであれば,もちろんよろしいんですが,そうでもなければ,やはり弁済をして,その債権者を黙らせたからといって,総体的に見ると債務超過状態を脱していないということになりますので,難しいのかなというのが前回申し上げたことでございますが,もう一度申し上げたいと思います。
● 今の,有益費の議論で解決できないのかと。つまり,いわば代払いというのが真に信託にとって有益であれば,その限りにおいて認められるというところで折り合いをつけることができないのか。補償請求権と……
● 必然性が認められる可能性が相当低いのではないかと思いますので,それは難しいのではないでしょうか。
つまり,優先されることになるのだから考えなくていいということですか。
● 事例としては非常に,何といいましょうか,だれが見ても破産はおかしいというときに,たまたまそういう申立てがあった。
そして,受託者として,そういう債権者は外した方が信託のためになるだろうといったときに,代払いをしてやるのであれば,多分,信託にとっては役に立つと思うんですけれども,多分,御懸念のところは,それが本来ならば払うべきでなくて,一般債権としてカットされる可能性があるにもかかわらず,100のものを100として払ったしまった。
よって,それを全額受託者が信託財産に対して請求するのであれば,もちろん放棄すればそれはともかくとして,全額請求するのは問題ではないのかというふ
うに理解したわけですけれども,そこ……
● 抽象的には,債務超過になっておりますので,債務超過状態であるにもかかわらず破産をさせろと債権者が言うことが信託全体のためにならないからというような議論が,果たしてそう簡単にできるのかということなんですが。
● 2点あると思うんですけれども,まさしく債務超過かどうかは別として,また,債務超過については会計上のこともあって争われるということで,入り口段階で,とりあえず破産手続自体をとめておきたい,それが信託のためになるというときに,こういう制度があったら便利ではないのかという話があると思います。
2番目に,確かに真実債務超過であったとしても,例えば不動産とか何かで,これは一時的な下落で将来は上昇することが見込まれているということであれば,受託者が100のものを100で払ったとして,100請求したとしても,最終的には,それは有益費の範囲の中で償還されるということであれば,それは理に適ったことではないかと思ったもので申し上げたわけですけれども。
● 今のお2人のやりとりについて,十分なコメントをつける能力はないんですけれども,もし○○委員の御懸念が,短期的な財産の下落でたまたま債務超過になったときを捕まえて,この債務超過もちょっと括弧がつくんですけれども,債務超過になったことを捕まえて,破産申立てがされて開始決定がされることを懸念されているのだとすれば,1つの解決は,やはり資産評価の部分ではないかと思うんですね。
つまり,DCFみたいな手法で,短期的な売り買いの値段が下がったからといって,債務超過を判断するときに資産評価まで一気に下げていいのかというところで解決すべき問題も含まれているような気がしますので,その点だけコメントしておきたいと思います。
● ありがとうございました。
この問題については今,伺った限りでも非常に難しい問題がたくさん入っておりますので,もう一回整理した形で事務局の方で検討いたします。
それでは,まだ御議論いただきたい点が幾つか残っておりますので。
● では,合同運用について御説明いたします。
まず,提案1に関しまして,合同運用を行うためには信託行為にその旨の定めを要するか否かについては,前回同様,これを必要とする甲案と不要とする乙案とを併記しております。
前回会議において,事務局としては,甲案については合同運用には主として分別管理義務上の問題があるとの観点を示しました,乙案については,合同運用には,分別管理義務上の問題も受託者の権限上の問題もいずれもないとの観点を示しました。
この点につきましては,いずれの案によりましても,実務上は信託契約において合同運用をすることを書いているのが通常だから影響はないだろうという意見が一般的でありましたものの,合同運用の理論的な位置づけあるいは考え方という観点から,まず1つの考え方として,合同運用を行うことは,規模のメリットとリスクの分散という観点から,基本的には信託目的に合致していることは明らかで,当然に受託者の権限の範囲内であると考えられ,かつ当該信託財産に帰属すべき共有持分権または受益権が計算上管理されていれば分別管理義務は果たされていると言えるから,特段の規定は不要であるとして,乙案を支持する見解と,もう一つは,受益権を購入する投資家にとって,適切なリスクの判断を可能とするためには,受託者に合同運用の権限があることが信託契約に明記されているべきであるとの観点から,甲案を支持する見解とが示されたほか,合同運用自体が利益相反行為に当たることもあり得ることにかんがみると,信託行為の定めによって忠実義務の例外に当たることを明示しておく意義もあるのではないかとの趣旨の御指摘もございました。
しかしながら,甲案を支持する見解のように,受益者によるリスク判断の便宜ということを強調していきますと,合同運用の権限がある旨を信託行為に定めておけば足りるというわけではなくて,取引先を初めとする合同運用の方法に関する適切な情報提供の必要性,ひいては受託者の権限を個別に限定し,その違反については取り消し得るものとすることまでが必要になってくるものとも思われます。
しかし,このような投資家たる受益者保護の観点からの要請は,業法の分野であればともかく民事一般法たる信託法の分野において,合同運用という局面における投資家保護の要請を重視して,受託者の権限に制限的な規定を設けることが適切かという観点については,疑問の余地があるものと思われます。
また,合同運用を行うことが利益相反行為に当たる場合も当たらない場合もあることにかんがみますと,当該合同運用が利益相反行為に当たるか否かという点については,特に合同運用に限った規定を設けるのではなく,受託者による相殺の場合と同様に,忠実義務に関する一連の規定にゆだねれば足りるのではないかと思われます。
次に,提案2及び3の本文中の説明は,集団的な投資運用を目的とする信託には,1つは,投資信託のように1信託複数受益者の信託財産が単独運用されているタイプと,もう一つは,貸付信託や合同金銭信託のように,1信託1受益者の複数信託の信託財産が合同運用されているタイプがありますが,この両者は,当事者の選択した法形式にこそ,1つの信託か複数の信託の集合体であるかという違いはあるものの,集団的な投資運用という実態には実質的な違いはないので,両者には同様な規律があるべきではないかとの問題指摘を踏まえた記述でございます。
そして,実務上の要請とかこれまでの事務局の提案内容にかんがみますと,合同運用タイプの信託における対処の必要性が高いと思われる事項,すなわち運用方法の変更をはじめとする信託契約の内容の変更に関する受益者の意思決定を,個々の信託の受益者の判断のみに委ねるのではなくて,合同運用団に属する信託の受益者全員の合意あるいは多数決によるものとすべきことにつきまして,いかなるアプローチによることが可能かについて検討したものでございます。
この点に関するアプローチの方向としては,(1)に記載しましたとおり,各信託における信託財産の運用実態に関する一定の客観的な基準あるいは要件を定めて,実質的に1個の信託と評価できるタイプの合同運用信託を選び出し,これについては当事者の選択した法形式の違いという点をいわば乗り越えまして,単一信託・受益者複数タイプの場合と同様の規律を及ぼすということをもって対処するという方向性が1つあります。
もう一つは,(2)に記載しましたとおり,当事者の選択した法形式の違いを重視し,合同運用はあくまでも複数の信託契約の束であるとの理解を前提とした上で,信託の変更に関する別段の定めの活用,すなわち,例えば「合同運用団の運用方法の変更は,同一の運用団に属する受益者全員の合意または多数決によって定めるものとする」というような特別の定めを,それぞれの信託契約に置く方法をもって対処するという方向性とが考えられます。
しかしながら,前者の,合同運用という実態に着目して受益者複数の単一信託と同様に取り扱う方法につきましては,前回会議でも指摘がありましたとおり,当事者は別々の信託という法形式を選択したにもかかわらず,実態として信託財産が合同運用されているために,例えば,運用方法の変更等の意思決定についても自己の意思のみによっては決められず,他の信託の受益者全員との共同の意思決定を要することになるとすれば,各受益者の予測を著しく害することになり,適切ではないと思われます。
もっとも,これも前回会議で示されたとおりですが,各信託契約において,自己の信託の信託財産が他の信託の信託財産と合同運用されることによって集団的な意思決定システムに組み込まれることになる可能性があるということを明記しておけば,予測を害することはないとの反論があり得るものと思われます。
しかし,当事者があくまでも1個の信託ではなく別々の信託という法形式を選択している以上は,受益者の予測可能性にかかわる事項が信託契約に明記されていれば足りると言うことはできず,さらに,当該合同運用の客観的な実態に関連して,受益者複数の単一信託と同一視するための適切な基準を設けざるを得ないと思われますが,これは後ほど御説明いたしますとおり,相当な困難を伴う作業だろうと思われます。
一方,後者,すなわち,信託の変更には同一の運用団に属する受益者全員の合意または多数決によるといった定めをそれぞれの信託契約に置くという方法によりますと,これによれば,自己の意思のみによることはできず,集団的な意思決定システムに組み込まれることになることについて,各受益者の予測が害されることになる懸念はないと思います。
そうしますと,「例外的な信託の変更方法を信託行為に定めることには特に制限を加える必要はない」という信託の変更に関する乙案によりますと,今,言いましたような,合意または多数決によるという定めをそれぞれの信託契約に置くことによりまして,運用方法はもちろん,いかなる変更についても,さらには24ページの(注3)及び別表に書いたとおり,変更以外にも,受益者の意思決定を要するその他の事項についても,同一の運用団に属する受益者全員の共同の意思決定によるものとすることが可能となりそうでございます。
これに対しまして,例外的な信託の変更方法を信託行為に定めることは不可能である,あるいは一定の限界があるとする甲案や丙案によってしまいますと,合意または多数決によるという定めをそれぞれの信託契約に置くという方法による対処にも限界があることになりまして,そうすると,合同運用されている信託財産の運用方法等の変更について,集団的な意思決定システムを導入する必要があるとの要請にこたえるためには,甲案または丙案の制限が,特に一定の合同運用の場合についてのみ緩和され得ることの合理的な根拠と,そのための客観的基準を設定する必要が出てくると思われますが,このような基準を定めることについては,23ページから24ページで一応の検討を試みたわけでございますが,容易な作業ではないと思われます。
以上のような問題意識を踏まえまして,合同運用に関する規律のあり方について御審議をお願いいたします。
● これも重要な問題だと思いますが。
● まず1点目は,第9回の本席におきまして,一般に利殖を目的とする信託の場合については,合同運用を行うことは,規模のメリットがあるということとリスクの分散を図れるということで信託目的に合致しているだろう,なおかつ権限の範囲内であるというふうに考えられるということと,あとは,合同運用している場合について,これは○○幹事からもお話がありましたけれども,それぞれの信託に共有持分権が帰属しているものと考えられて,その共有持分権が計算上,管理されていれば--多分これは帳簿により管理されていればということだと思いますけれども,分別管理義務が果たされているということで,特段の規律は要らないのではないかと一応主張させていただいています。
ただ,今回の規律を見て,それがよくわからなくなりました。
例えば甲案をとった場合に,書くことによって何が解除されているのかというのがよくわからなくなって,分別管理だけの問題が解除されるということなのか,それとも,ここに書いてありますように,例えば,当然忠実義務違反にかかるようなこともあるだろうし,権限にかかるようなこともあるだろう。
ところが,「合同運用しているんですよ」ということを書くことによって,そういうものが基本的に解除されますよということなのか,そうではなくて,ただ単に分別解除義務だけが解除されて,やはり忠実義務違反が起こっていたら忠実義務違反について解除するような形の,信託契約にその旨を書かないといけないのか,その辺がよくわからないので教えていただきたいというのが1点でございます。
もう一点につきましては,これも第9回の席上で,結局,受益者が複数の場合の意思決定についてと同じような形で,第三者に意思決定を委ねることができるのであれば,例えば単独受益者権的なことは抜きにして,それ以外の合意で行えるような行為については,他人に委ねることですべてできるのであれば,合同運用の場合についても複数受益者と同じような形でやればいいのではないでしょうかということで,これについても意見を述べさせていただきましたが,それについて,果たして規律上,全部そういうことが当てはまるのかどうかをチェックする必要があるだろうというような御指摘もありまして,私どもの方でもちょっと見てみたんですけれども,基本的に,何回も言って恐縮ですけれども,第三者に全部委ねられるということが前提であればまあいいんだろうなということで,これについてはこの前もいろいろと議論がありましたので,その結果どうなるかというのがよくわかりませんけれども,私どもの立場としては,そこで委ねられるというような意見を申し上げていますので,そういう方向でいきますと,これについても特段の規定を設ける必要はないと考えております。
● 私は,1のところはよくわからないんですけれども,余りこだわらないんですけれども,定義なんですけれども,2のところ及び3について,先ほど御説明のように,2に書いてある2つを同様の規律にする場合には,どの範囲でかという非常に難しい問題があるというのは,そのとおりだと思うんですけれども,ただ,やはり合同運用の場合は,単独運用の場合と違ったそういう規律が要るような気がしているんですね。必要ないなら,もちろん必要ないんですけれども。
前にも申し上げたかもしれませんけれども,経済自体を言えば,1つの信託契約,受益権が分割されている場合と,ここに書いていただいているとおり複数の信託契約があれば同じで,それはいいとしましても,それは合同運用の場合には,ファンドは1つのはずですので,そういうふうに考えますと,例えば,そこで信託契約の変更というのを挙げていただいていますけれども,個々の信託契約が1,000本ありますということですと,これ,変更する場合にも,1人が「ノー」と言って999人が「イエス」と言ったときは,もう非常に困るんですね。
その部分を除くと言ってもファンドは1つですから,そこを解散するとか。全部信託契約に決められるではないかということなのかもしれませんけれども。
そして,実務の話というか,現在の法制度のことを言えば,信託契約の変更については,それでもまだ,業法の話をするとよくないかもしれませんけれども,業法とか特別法が面倒見てくれているので何とか回っているということだと思うんですけれども,この24ページの別表の話になってきますと,今度,信託法が変わって,では忠実義務違反の行為の承認だと。
これは受益者の承認が要りますというか,あれば一定の要件のもとでできます,こうなったときに「はい,1,000本います。50人反対して950人賛成しました」と。
同意をとりに行くのも大変だと思いますけれども,ファンドは1つですから,利益相反行為ですから行為は1つなので,やるか,やらないかしかないんですけれども,例えばファンドの運用に関してある行為をやる場合に。これはやはり困ると思うんですね。1人でもノーと言ったらだめでは。
では,業法は面倒見てくれるかというと,私,面倒見てくれないと思います。
それは信託の変更だから規定があるのであって,どんどん今後,この信託法が変わって,こういう受益者のいろいろなアクションなり今の例で言うと,忠実義務違反の承認となったときに,それは,ではまた今の業法のような規定を設けましょうかとなると,どうも本末転倒のような気がしまして,やはりそれは信託法の中で手だてが設けられるべきではないかという気がいたします。
それで,どういう場合が合同運用か,私もよくわからないですけれども,それはともかくとして,ファンドが1つのような場合,それは非常に困難な作業なので最後はどうなるかわからないんですけれども,したがって,信託の変更よりも,私の感覚としては,むしろ24ページの別表の方にそういうものが必要になり,もしそうだとすれば,もちろん信託の変更についても,信託法の中で何らかの手当をし,なおそれに加えて業法なり特別法が,特別の見地からそれをさらに,場合によっては厳格にし,場合によっては緩和するという,そういう体系はあり得ると思うんですけれども,信託法の中で,要るような気がいたします。
もう一点だけですけれども,別表にないものとして,よくこれまで実務でも言われていた帳簿閲覧請求権みたいなものについては,帳簿閲覧請求権の方で手当てがなされていたんだったら,私の見落としですので結構ですけれども,ファンドは1個しかありませんので,とにかく1,000本あって,自分のところだけ1人が見せてくれと言われたので……,ちょっとどうにもならないと思うんですね。したがって,そういうところもできれば規定が,もしまだであれば御検討いただきたいと思います。
● 最初に,○○委員からあった甲案の意義ということですが,我々としては,甲案であれ乙案であれ,合同運用に権限の問題があるという認識はしておりませんので,甲案による場合は,これは分別管理義務を解除するための信託行為の定めということになると思っております。
ただ,書けば間違いなく権限があるということで,いわば当然補強するという意味はありますけれども,それがないと権限の問題が生ずるとは認識しておりません。
ただ,別途,忠実義務,利益相反行為の問題が生じてきますので,そういうときには,信託行為に定めがあれば,禁止の例外事由という意義が出てくる場合もあり得ると考えております。
それから,今,○○委員がおっしゃった前段は,もちろん合同運用というものを実質的に1つの信託と見る基準を何とか設定するという方向性は,もちろんあると思うんですが,それと対峙されるものとしては,各信託契約の中で信託の変更の権限は無制限にあるという方向性というのもあり得まして,前者の方向は,一つの十分あり得る考えとは思うんですが,後者では果たしてまずいのかというあたりが,事務局として,正直なところ,お聞きしたいというところでございます。
あと,帳簿閲覧請求権については,私の誤解でなければ,これは商法などでは100分の3とかしておりますので,合同運用を一つの信託と見ることによって分母が非常に大きくなりまして,だれもが行使できることにはならないということになるわけでございましょうが,我々の提案では,帳簿閲覧請求権は各自が持っている単独受益者権としておりますので,どのように構成しようが,その1人が見たいと言えば,それは合同運用に供されている財産全体についての閲覧請求権が生じてくるので,そこで1つの信託と見ることによって,閲覧請求権の行使がある程度制約されるという関係にはならないのではないかという印象を持っております。
● 後者には若干技術的な問題があると思うんですが,それは今日は時間の関係で省略しますけれども,前者のお答えの中で,信託契約で定められないかというのは,私もいつも考えているんですけれども,例えば1,000本あるときに,この別表の忠実義務の違反行為の承認を例にとりますと,承認を数えたところ,例えばのところで申し上げますけれども,49%は承認しないと言った,51%の人が承認すると言った。
その場合は承認したものと扱います,そういうものもありということはどうも……,結論がそういう趣旨ならわかるんですけれども,今の一般の承認の規定の方から,そういう定め方が信託行為でできるというのは出てくると考えてよろしいんでしょうか。
● 承認のところは,原則は全員の同意ですけれども,信託行為で定めれば多数決制度を入れることはできるというふうにしております。
この第三者に権限を付与するというところにつきましても,各信託契約に忠実義務違反行為の承認については,合同運用に供されている全受益者の多数決によるという信託行為の定めを置くことができれば,今,おっしゃった51%の賛成があれば免責されるという規定を定めることはできるのではないかと考えております。
● もう一点だけ。しつこくて申しわけありません。
そういう規定をあらかじめ定めるというなら,私も同じになると思います。
ただ,今の考え方だと,別々の信託契約ですから,1,000本と言っても。もしそういうふうに整理するのであれば,そういう規定を置かないと,今ある,現在の多数決というのは,1つの信託契約の中で多数いる場合の多数決,これは信託行為で決めますということですから,それだけではカバーし切れないと思うんですね。
ですから,信託契約が別々の場合であっても,それぞれの信託契約に例えばそういうものを定めると,1つの信託契約の受益者が,実は「ノー」と言った。
第2の信託契約の受益者も「ノー」と言った。にもかかわらず3,4,5と「イエス」と言ったら,「ノー」と言った人も拘束されますよということ,それを第1,第2の信託契約に定めておけばいいですというところまでいくのであれば,その部分の規定があればいいと思います。
そこまでいけば,ある意味で合同運用を定義しているのと同じことだと思いますけれども,ひょっとすると,テクニックとしてはその方がやりやすいかもしれませんね。立法技術としては。
● 各契約ごとに「ほかの受益者との多数決による」というのを全部置けばという前提で,それが何か問題があるかどうかという点で気になっているわけでございまして,それがもしいいとおっしゃっていただけるのであれば,そういう方法は十分あり得ると思います。
● ○○委員は,必ずしも否定的ではない,むしろそれは構わない……
● その辺はもう実務的な問題だと思うんですけれども。実務がそれで動くのであれば,何か立法技術としては,その方がやりやすいような気がするんですけれども。
何か,どういう場合が合同運用で特別ルールを適用しますかという,そこをどういう場合かを定義しようとしますと,やはり非常に困難になるので,一つ一つ全部信託契約に書いてくださいといって,それで実務が動くんであれば,その方が私は--その方がというか,立法技術としてはやりやすいと思いますので,そこは私は,どちらかにはこだわりません。
● いかがでしょうか。合同運用に関して,その根拠,どういうところに根拠を持ってそれを認めていくかという,重要な問題ではあるんですけれども,大体御議論が……
● 1の甲案なんですが,これはどういったタイプの定めがなされることが予想されるんでしょうか。
つまり,必要に応じて合同運用しますということで認められるのか。恐らくそのときにも,合同運用の合理性ということに善管注意義務というものがかかってくるんだろうとは思うんですけれども,必要に応じて合同運用するという規定で,運用の面については善管注意義務の問題として,一定の制約がかかるからそれでいいんだと思うんですが,先ほどおっしゃった,さまざまなことを多数決で決めるというふうなことが信託契約に規定されているときに,それが,善管注意義務の範囲内で合同運用がなされたらこうなりますというふうな,ある意味でアバウトな,どのような合同運用がなされるかは結局わからないという形のときに有効なのかは若干気になるんですが,有効であると言ってもいいんですかね。
● 必要に応じて合同運用ができるというような定めでも,別にそれで,ここで気にしているのは,損益が個々の信託財産でなくて共通して分配されるというところが,分別管理に問題があるのではないかという観点でございますので,必要に応じて,そういう共同体になるんだよということが書いてあれば,分別管理義務上の問題は,受益者はないと予測できるので,問題ないのではないかと考えておりますので,おっしゃるような柔らかな規定でも,別にいいのではないか。
「必ずやります」とか「どうやります」とか細かく書いていなくても,「本信託においては合同運用の可能性があります」ということが書いてあれば,それでいいのではないかという気がいたします。
● 分別管理義務の解除については,それはそのとおりかもしれませんけれども,先ほどおっしゃったように,いろいろなことを多数決で決めることになりますというふうなことを信託契約に入れたときに,非常に,必要に応じて合同運用しますということだけで,必要に応じて……。
分別管理義務を解除するために必要な特定と,多数決でいろいろな権利が縛られるというときの特定とが同じなのかというと,私は違うのではないかという気がするんですけれども。
● それは違うと思います。ですから「合同運用します」という規定も置きますが,それだけでは多数決にいかないわけでして,別途「この契約において合同運用されている場合には,これこれの事項については全員一致または多数決で決めます」という条項は別途必要になってくると思います。
● もちろん別途必要ということなんですが,「この信託契約によって合同運用されているときには」というのは,最初に分別管理義務を排除するという,必要に応じてというところで足りるわけですか。
● 恐らく,甲案の言うところの合同運用というのが,単に「合同運用します」と書いてあれば何でもいいよということだとしますと,恐らくそこは,やはり先生が御示唆されているかと思いますが,違うのかなという気がいたしまして,つまり,後ろの方の「意思決定をみんなで一緒にやります」というようなところは,結局のところ,どの信託だということがかなり明確にわからなければ,やはり有効性を認めがたいということになろうかと思いますけれども,それがただ「合同運用します」と書いてあって,その合同運用された先の人たちと結果的に一緒になりますよでは,もう少し何か必要だということになるのではないかなという気がいたします。
● 私は,イメージ的にそういうふうな気持ちを持っているんですが,しかし,本当にそれで実務は回るのかというのも若干気にはなるところでして,○○委員が,書いて有効ならばそれでいいとおっしゃったんですが,特定して書かなければならないとなりますと,本当にそれでいいというふうに○○委員もお考えなのかが若干気になるところなんですが。
● おっしゃるとおり,厳格な意味での特定が必要というほどのことではないんだろうと思いますが,つまり,結局のところ,公序良俗との関係ぐらいしか問題にしづらいのかなとは思うんですけれども,その中でも,およそこれでいいのかというような話と,ここまで書いてあればというような話と,事の性質に応じてと言わざるを得ないのかなと思います。
● どの程度特定しなくてはいけないかというところは,少し難しいかもしれませんね。
● 直接関係ない点ですが,○○幹事が指摘されたので,私,それに関連して重要だと思いますので,直接関連する点もあるのかもしれませんが,時間の関係で1つ申し上げたいんですけれども,法律を書くときの技術の問題点があると思うものですから,私はさっきのように申し上げたんですけれども,今の○○幹事とのやりとり聞いて思ったことですが,合同運用していないのに信託契約が全然ばらばらなものが5つある。私が受託者で。
しかし,この1本に書いておけば,3人がイエスと言ったら全部についてやっていいかというのは,私は疑問に思っているんですね。
ですから最初,そういうことで言うと,むしろ合同運用の実態がある場合に,2の話をしているんですから,私は。それをした方がいいのではないかといこことを申し上げて,それが非常に定義しにくいのであれば,契約で定めて,それで実務が動くのであれば,それはそれで結構でしょうというふうに流れてきたんですけれども,しかし,やはりそれは合同運用がある場合に限定されるのではないかと思いますが,恐らく契約は何でも書けばいいという話ではなくて,そこはもう解釈問題なのか,あるいは事務局はむしろ割り切っていて,全然違う信託だって一つ一つ全部書いておけば文句ないでしょうというところまでいったりすると,これは私もよく考えていないんですけれども,○○幹事がおっしゃったことは,分別管理義務を解除するための要件と,それからこっちの多数決を認めるというか,共用する,多数決による意思決定を共用する要件は別,全く私もそのとおりだと思いますので,その辺もうちょっと整理ができれば--整理できていないのは私だけなのかもしれませんけれども,ありがたいと思います。
● 後者の方は,少し難しいですね。
御指摘ありがとうございました。それでは,次に進みます。
● 遺言代用信託におけるところでございます。
第68でございますけれども,前回の指摘を踏まえまして,まず,提案3についての検討結果を示すとともに,委託者による死亡後受益者の変更権の行使と,信託自体の終了との違いについての考え方の整理を試みました。
まず,前回提案においては,遺言代用信託のうち死亡後受益者以外の受益者が存在しない態様のものについては,受託者に対する監督権権能の欠如を補う見地から,委託者側の監督的権能を強化する特別の規定を設けるべきか否かについて問題提起いたしました。
この点につきましては,前回会議における指摘を踏まえまして,提案3にありますとおり,この遺言代用の信託についてのみ特別の規定を設けることとはしないとの考え方を採用したものでございます。
次に,前回会議においては,委託者による死亡後受益者の指定の撤回と信託自体の撤回との理解に混乱が見られるとの指摘がされたことを踏まえまして,両者の関係について,改めて次のとおり整理したいと思います。
前提として,提案1の定義に基づき遺言代用信託に含まれることとなる信託に特徴的なのは,このような信託が設定された場合における委託者の通常の意思を忖度しまして,次の2点につきまして,一般の信託とは異なるデフォルト・ルールを設けることとしたことにとどまります。
すなわち1つは,死亡後受益者もあくまで信託契約の時点において既に受益者となっている者である以上,本来であれば委託者が一方的にその受益権を奪うことはできないはずであり,しかもこれが信託の変更の意思であるとすれば,本来であれば受託者の同意も必要となるはずであるにもかかわらず,委託者のみの意思で自由に死亡後受益者を変更できるとしたこと。
もう一つは,死亡後受益者の定義に当てはまる受益者については,委託者の死亡時までは受益者としての権利・義務を有しないものとしたことの2点でありまして,この2点以外の事項については,一般の信託と同様のルールが当てはまることになるわけでございまして,その意味で,一般の信託と異なるわけではございません。
これを信託の終了について申しますと,遺言代用の信託についても,信託の終了については,先ほど説明した信託終了原因の一般原則に従うべきことになるわけでございます。
そうすると,委託者及び受益者が共同して信託終了の意思表示を受託者に対して行うことにより,信託を終了することができるわけでございますが,遺言代用の信託においては,死亡後受益者は委託者死亡時まで権利・義務を有しないとのデフォルト・ルールが別途かかってきますので,結局において,デフォルト・ルールとしては,委託者のみが意思表示をもって,いつでも遺言代用の信託を終了させることができることになります。
もっともこれは,あくまでも委託者と受益者の共同の意思表示による信託終了の原則の適用例に当たるとの理解でして,遺言代用の信託において,当然に委託者に信託全体の撤回権が留保されているとの理解をしているわけではございません。
これと厳密に区別されるべきなのは,委託者が死亡後受益者の変更権を行使した場合でございます。
ここで言う変更権の行使には,委託者が一たん死亡後受益者の指定を取り消したことによって,だれも受益者に指名されていない状態が一時的に作出された場合も含まれると解しておりますが,この場合におきましては,当該遺言代用の信託は当然に終了するというわけではなくて,信託契約に別段の定めのない限り,信託はそのまま存続するものと考えております。
もちろん,この場合においても別途,信託目的の達成,不達成という信託終了の一般事由に該当することがあり得るわけですが,これに該当するかは委託者が死亡後受益者の変更権を行使した際の意図及び事情の如何によるわけでありまして,例えば死亡後受益者以外には受益者がいないにもかかわらずその指定を取り消し,しかも,もはや二度と新たな死亡後受益者を指定するつもりはないというのであれば,目的の達成,不達成に該当することとなる場合もあり得るでしょうし,さらには,このような変更権の行使自体が信託自体の終了の意思表示に相当するのだと解釈,認定される場合もあり得ると思います。
しかしながら,委託者としては,本来の信託終了の意思表示をすることが可能であったにもかかわらず,あえてこの方法によることなく死亡後受益者の変更権の行使という方法をとったものである以上,原則としては,信託自体を終了させることまでは意図していないのが通常であると考えるべきだと思います。
● この点について,いかがでしょうか。
● 遺言代用の信託の規律については,基本的にはこの方向性でお願いしたいと思っているんですが,2点ばかり要望事項といいますか,お願いがございます。
まず1点目は,この遺言代用の信託につきましては,基本的には遺贈として位置づけられるのか,生前贈与として位置づけられるのか。
ここの部分については,たしか以前の議論で線引きが困難であるということ,脱法的に使われたりするようなこともあるので,解釈に委ねるのが相当であるのではないか,そんなふうに整理されたように記憶しておりますけれども,ただ,そうしますと,実務上の観点からすると,やはりなかなか使えない。
やはりリスクがある上で,お客様にも説明できないということでありまして。そこで,線引きが難しいということであったとすると,例えばセーフハーバー・ルール的なもので,例えばこういう要件を満たしたら生前贈与ですよ,少なくとも生前贈与ですよといったような,これは規律と言うのはちょっと不自然かもしれませんので,説明文であるとか,そのほかの方法でも構いませんけれども,何らかのセーフハーバー的なルール,線引きが一番いいんですけれども,それができないということであればセーフハーバー的な形のルールを何らかの形で御提示いただけないかということが1点目。
2点目につきましても,この規定とは直接関係はないんですけれども,このところで申し上げるしかないかなということで。
それは受益者連続の部分の検討についてのお願いであります。
これは皆さん御承知のように,例えば委託者が自分が死亡するまでは自分が受益者になって,それで死亡したときには自分の奥さんが受益者になる。
またその奥さんが死んだら,子供が何人かいて,そのうちの1人が障害を持っている,その人に受益者にならせよう,こういうタイプの信託というのが考えられまして,実際,実務上も相談があるということです。
ただ,なかなか実際,実務上やっていいのかというのが今もよくわかりませんので,やはりお断りすることが非常に多いという状況でございますので,信託法の世界ではできるんだろうなとは思っておるんですけれども,相続法との関係であるとか,そういう連続していったら何年ぐらいまでいいんだろうかとか,その辺の制約,制限というものもあるんだろうなという気もいたしますので,その辺についての規律の御検討もお願いできないかなということでございます。
● まず,遺言代用信託が遺贈なのか死因贈与なのかという点につきましてですけれども,確かに1つは,常に生前行為でありますので,遺贈は,遺言でやるのでちょっと性質が違いますし,それから,死因贈与というのは死亡を効力発生時とするのに対しまして,この遺言代用の信託は生前に既に効力を発生するという意味でも,そこも違うということで,遺贈か死因贈与かと言われると,どちらとも違うという感じがいたすわけでございまして,そういう意味でも,なかなかこれがどちらに当たるかという解決が果たしてできるのか,その場面,場面で解釈によって対応していかざるを得ないのではないか,そういう直感がいたしますが,それにもかかわらず,指摘を踏まえて,事務局の中でももう一度議論したいと思います。
もう一つは受益者連続の場合で,一般的に,例えば最初の10年間はAで,その次はBでその次はC,こういうのがいいということは問題ないと思うんですが,いわゆるAが死亡したらBでBが死亡したらCという,そういう形の受益者連続というのは,御指摘のとおり,いわゆる後継ぎ遺贈と同様の問題がありまして,後継ぎ遺贈については民法上,原則としては許されないのではないか,相続法秩序を曲げるという観点からそういう議論はされておりまして,他方,信託法のいろいろな教科書を見ますと,信託を使えばいいという議論が大勢かなという気はしておりますが,果たして信託法上有効であって,民法との関係においては問題がないと言えるのかどうかということなどにつきまして,これは非常に難しい問題ではございますが,こちらについては少なくとも慎重に,今後,検討していきたいと考えております。
● 基本的に,ここの考え方は,この遺言代用信託について,委託者が死亡したらそこで受益者が確定するというような,死亡後受益者が確定するような,そういうつくりになっているかのように読んだんですけれども,2に書いてあることなんですけれども,これは死亡した後も権利がまだ不確定な,つまり撤回されるような状態に置いておいて,だれか自分の指名変更権の後継者みたいなものを指定するような種類の,そういう別段の定めはできるのでしょうか。
そういうことができるかどうかは,ここを見ただけではよくわからないので。
ここは別段の定めができることについて,文言上はかなり狭いものを想定しているように思えるんですけれども,どのぐらい今の点が自由に設定できるのかというのが質問です。
もう一つは,今,言ったような面倒くさい話ではない世界ですけれども,死亡後受益者を変更する手続,方式については何も規定しないのかということです。
なぜ伺うかといいますと,これは,実はこのルールとほとんど同じようなルールが生命保険についてありまして,また,それが私から見ると非常によくないルールをとっておりまして,要するに,こことの対比で言うと,ここですと受託者に対して変更を申し出るというのが一番素直かと思うんですけれども,生命保険の方の最高裁判例によると,だれに対して言ってもいい,生命保険の保険契約者はだれに対して言ってもよくて,それによって,当事者間では少なくとも有効に受取人が変更されて,保険会社には対抗できないけれども,後で不当利得関係が生じるみたいなルールになっているんですが,何も規定を置かないでほうっておきますと,ここも同じような解釈をされる可能性が少なからずあって,死亡後受益者の変更については,特に法律では決めていない,したがって委託者が意思表示すればそれでいいんだと。
さすがに受託者との関係では,それでは困るだろうから,受託者が知らなかったら債権の準占有者に対する弁済のような方法はもちろんあるだろうけれども,当事者間では有効に死亡後受益者が変更されているといった解釈につながりかねないんですが,言うまでもなく,それは遺言代用のシチュエーションを考えると,死亡後の無用な紛争を惹起することになるので,むしろ方式などは限定をかけておいた方がルールとしてはいいと思うんですが,何も置かないと,どうもそう債務者が解釈してくれるかどうかよくわからないような状況,生命保険との対比で言うとですね--と思いますので,場合によっては何か,意思表示の相手方なり方式なりを書いておく方がいいかもしれません。
もう一つ,保険でよく問題となっているもう一つの問題は,遺言によって受益者を変更できるかという話で,仮に受託者への意思表示があるなどと言ってしまうと,これ,遺言によって死亡後受益者を変更することが,受益者の変更として可能か。
遺贈の効果としてではなく,変更の効果として可能かどうかというのも必ず問題として起きそうなものですので,可能であれば手当てしておくといいと思います。
ドイツのBGBの第三者のためにする契約には,そういう規定も実は置かれていたりするんですけれども,参考にされればと思います。
● 御指摘の2点目,3点目につきましては,確かにここには規律を置いておりませんが,一般的な受益者変更権の行使の規律というのは別途置いておりまして,例えば受益者変更権を持っている者が受託者以外の者であるときは,受託者に対する意思表示をすることによって変更し,新たな受益者になった者に通知するというデフォルト・ルールを置いておりますし,遺言によってできるかというところも,そこでは,受託者はだめだけれども,受託者以外の者が変更権を持っているときは遺言でもできるという規律を置いております。
ですからこれは,遺言代用の局面に書いていないことは信託の一般のルールに従うとなると,その規律がかぶってくるというのが答えになります。
第1点目の理解は,先生の質問の趣旨を私,十分理解しているかどうかわからないので,とりあえず我々の規定の趣旨だけ申し上げますと,これは遺言代用の生前信託契約がされた時点で,受益者にはなります。
受益者とはなるけれども,原則として受益者としての権利・義務がない受益者というものがずっと生じます。
それがデフォルト・ルールでございまして,信託契約で「この死亡後受益者には権利・義務を当初から与える」というふうに書けば,権利・義務を有することになる,そういうふうに2項では定めているというのが我々の趣旨でございます。
● それだと死亡後に,なおかつ死亡後も変更権に服するような形で不動的な状態をつくり出すことができるかどうかについては,2項は何も言っていないという理解……,私もそう読んだんですけれども,それはできるのかできないのかというのが質問だったんですけれども。
● 規律によりますと,死亡すると権利・義務を有しますので,そうしますと,勝手にその権利を奪うことはできないということになりますので,その場合は,委託者が死亡すると,変更権を相続して変更できる者がいればなおこれに服することになりますが,そういう者がいない場合には確定する。
この場合も,受益者変更権者が死亡した場合の規律を別途設けておりまして,確定するようになっていましたね,委託者が持っている場合は。そうしますと,この場合も,受益者としての権利・義務を有する者として確定すると,もう変えられないということになると思います。
● ○○幹事の御指摘は,御質問の内容については,これは直接触れていないと思いますけれども,そういうものがあった方がいいという趣旨は全然ないんでしょうね。
余り必要ないような感じがしたんですけれども。保険などとの関係で……
● 最初の質問については完全にニュートラルだったんですけれども,死亡後一定の期間とか,だれかに代わりに変更権を持ってもらって,もう少し様子を見てほしいというふうなことを仮に委託者が思ったときに,それを達成する手段がないのではないかという質問だったんですが,今のお答えだと,ないという答えのようなんですが,そこまで厳格にしなければいけないのかなという含みです。
確定した,決定的な反対というほどの強い意見ではないんですけれども。
● ○○幹事が答えられたように,その場合には,そうすると,死亡後だれがその権限を持っているかという問題を解決しなくてはいけないことになるわけですね。
● もちろん,書いておいた場合です。
● 既に議論されたことの繰り返しなんですけれども,一応弁護士サイドの意見ということで。
遺言代用生前信託,今度,制度をつくるという方向性は明確なようですけれども,どうしても,民法の方の議論にやや遠慮がちなところがあるような感がいたします。
ただ,民法の方は物権を変えない限り,所有権概念を変えない限り,新しい物権制度をつくらない限り恐らく,あと,先ほど議論された後継ぎ遺贈とか受益者連続型遺贈とかできませんから,まさにこの場といいますか,この遺言代用信託をつくるということは,決して信託でいろいろなプログラムをつくって,あとは民法の世界に「どうぞ」と言ったところで,向こうには議論できる土壌がございませんから,この場での議論ということで,ぜひまず認識する必要があるのではないか。
当然認識されていますし,先ほど○○幹事もそういう観点から検討したいとおっしゃっていましたけれども,民法に戻したとしても,こちらの議論だと思うんですね。
信託法においては,もはや所有権ではなくて信託受益権ということに置きかわっておりますし,なおかつ受託者が存在していまして,決して死者がああしろこうしろと死んだ後まで言っているわけではなくて,受託者という財産の名義人が存在していて,その中で受益者が連続していくという規律でございますから,ですからこの中で,先ほど○○委員も,では,どの範囲だったらいいんでしょうかということをオープンエンドのクエスチョンとして今後,検討しましょうということでは,この遺言代用生前信託とか,前回議論しましたところの遺言信託とか,結局ほとんど遺言と同じものであって,別に遺言すればいいだけであって,何もそこで信託は必要ないということに帰着してしまうかもしれない議論だと思います。
したがいまして─これは意見だったですね。○○幹事から既に○○委員の発言に対して回答ありましたけれども,ぜひこの民事信託ということも,今回の信託法改正の中で非常に大きな目玉でございますから,そうすると,民事信託で何があるかというと,こういう時代ですから,高齢者の持っている,特に今の高齢者というのは資産をいろいろ持っていますから,それが世代間においていかに引き継がれていくかということと,引き継がれていく中で,その財産がいかに有用に,または今,持っている方がいかに自分の意思をある程度反映させた形で引き継いでいくかということが,今回の信託法改正に問われているわけですけれども,その辺についても,ここだけで,仕組みをつくるだけであって,あとは民法の相続の世界に投げるということではなくて,この場でぜひ議論していただきたい。
したがいまして,後継ぎ遺贈類似,また受益者連続信託型ということは重要であるということまでは,恐らく多くの方は賛同していただけると思うんですけれども,その後のこともある程度詰めておかないと,結局できない制度をつくってしまう。
弁護士が依頼されても,こういう制度があるけれども,だれかがどこかで無効という議論をされたときにどう対応するんだろうか。
なおかつ民法の世界の方では,もともと所有権から発想して,所有権を制限できないではないですかというところから,できないと。
それがあたかも相続法におけるドグマのように議論されているけれども,では,仮に新しい物権ができたとしたら,それでも相続法は否定するのかというと,多分だれもそんなところは議論されていないと思うので,繰り返しになって,しつこいようで申しわけないんですけれども,ぜひそういう点から,前向きに議論していただきたいと思います。
● 大変有益なといいますか,重要な御指摘だと思います。
大きな視点から見ても,やはり今回の信託法の改正の中で将来のことをに
らんでおくと,民事信託というものが発展すると土壌というものも,この際,この信託ではつくっておきたい。
そういう意味では,この遺言代用生前信託というのはどの程度のものができるか。
今回,第1ラウンド,第2ラウンド,なかなか時間がとれませんでしたけれども,さらに引き続き検討する中で,十分その可能性も含めて,民法の議論との対決といいますか,信託の場面からいろいろ議論するということがとにかく必要になってきて,なかなか難しい議論がたくさんあるとは思いますけれども,もうちょっと集中的にやりたいと考えております。
● 単純な確認ですが,先ほど○○幹事が御質問された点との関係で,死亡後
に変更権の留保のようなものがあり得るかというときに,相続とパラレルに考えますと,自分が死亡した後の受益者というのは,例えば妻にする,妻が死亡すると子にするというような,これがそもそもできるかというような問題ですけれども,仮にできるとして,一応そうしておくんだけれども,妻に変更権を与えておくというようなタイプの遺言代用の信託というのは可能であると理解してよろしいんですか。
● 今この枠組みで,ここに書いてあることでそういうことまで含んで書いてあるかどうかは別ですけれども,遺言代用の信託というものにおける変更権ですかね,受益者の変更権。
これは多少特別なルールには服するかもしれないけれども,変更権の一種で承継させようと思えば承継させることもできると考えれば,今のようなことも可能ではないかと個人的には思います。
ただ,そういうものを可能にするためには,やはりこれ明確にしないと,やはりそんなのだめだという議論が出てきて使えなくなるというさっきの問題になりますので,そういう観点から詰める必要があるのではないでしょうか。
今日は○○委員がおられなくて,○○委員は,恐らくこの代用の信託についてはおっしゃりたいことがたくさんあるのではないかと思いますけれども--いや,非常に積極的な御意見をいただけると思いますけれども,今日はちょっと御都合でいらっしゃいません。
いずれにせよ,これは中間試案を出す上での土台でして,また引き続き検討していただきたいと思っております。
● その議論が大切なことは全く否定しないんですが,前回も申し上げたことなんですが,第68の問題なのかということについては一言だけ申し上げておきたいと思います。
受益者連続ができるかという問題は,別に死亡を始期とする信託でなくても起こる問題であって,しかし,委託者が死亡後にずっとつけて,長い間拘束された状態といいますか,順々に受益者が変わっていくという状態にある財産をしてよいのかという問題,一般の話であって,別にそれが委託者の死亡を始期にするかどうかというのは余り大きな問題ではないと思いますので,第68のコンテキストとはちょっと違う問題だということで御議論いただければと思います。
● それを独立に取り扱っているわけではないので,そういうことで,今ここで議論していただいているんだと思います。そういうことでよろしいでしょうか。
● そこは御指摘のとおり,恐らく新たな項目をこの近くに1個設けて。違うことは十分わかっていますけれども,この文脈でたまたま議論されたので,民事信託の一環としてここら辺に設けようかなと。独立の項目として考えております。
● それでは,次に移ります。
● 目的信託でございますけれども,提案自体は変更ございません。
目的信託を認めるか否かにおいては,信託における受益者の中核的重要性ですとか,信託制度と法人制度との平仄,受益者がいないことから生ずるガバナンス上の問題,財の固定管理の懸念など,いわば理論的な観点からの分析,検討が必要となることは申し上げるまでもございませんが,現実的な問題として,新たに目的信託を導入することの社会的,経済的ニーズ,需要が果たしてどのぐらいあるのかという観点からの検討も重要であることは否定できないと思われます。
この点につきまして,これまでの会議におきましては,純粋な公益目的の信託の周辺にある信託の受け皿としての意義が認められるとか,今後のいろいろなニーズを先取りするような新たな制度としての意義はあるのではないかといった指摘もございました。
事務局としては,このような意義についてももちろん評価するものでございますが,目的信託の位置づけ,ニーズを詳細に検討する観点から,資産流動化の取引において目的信託を導入すれば,いわゆるケイマンのチャリタブル・トラストの代替的機能を営むものとして極めて有益であるとの指摘について,(注)において問題提起を行っております。この点につきまして,本日,特に御意見を教えていただきたいと思っております。
ここ,ちょっと付言いたしますと,例えばSPCの株式につき信託を設定した上で,SPCの発行する資産担保証券がすべて償還された後で初めて受益者が確定することとなるといった前者のスキームですとか,SPCの発行する資産担保証券を保有する投資家の多数を受益者とするといった後者のスキームをとることができると仮定いたしますと,資産担保証券の償還に先立ち信託スキームが解消されて,SPCに対して受益者等の影響が及ぶこととなって,ひいては資産流動化の目的が達せられなくなってしまう,こういうリスクが回避できるようにも思われるわけでございます。
このような信託スキームを設定することについて,法制上あるいは実務上いかなる問題があるのか,これらのスキームに比べて目的信託はいかなる点において有利であるのか,前述のような信託の設定が受益者の確定可能性ありとして許容されるのであれば,そもそも初めから目的信託としての設定を認めてしまっても大差ないこととなるかなどの諸点について,ぜひとも御意見を伺わせていただいた上で,目的信託のニーズというものをまた判断していきたいと考えております。
よろしくお願いいたします。
● それでは,今,説明がありましたように,このニーズについてお願いします。
● 実際,これまでのところ,ケイマンで言えばチャリタブル・トラストをよく利用する,最近では中間法人に置きかわってきていますけれども--という大きな,ケイマンでチャリタブル・トラストを使っているというのは過去,また現在の実務ですけれども,では,もう少しグローバルに見たときに,チャリタブル・トラストがSPCの株式保有形態として一番適切かというと,もちろんそういうことはありませんでして,それが事務局からの目的信託の御提案だと思うんですけれども,実際に,日本国内はやや保守的な対応なのかもしれませんけれども,海外のABSですと,チャリタブル・トラストではなくてケイマンのパーパストラストを利用しているというケースが多々ある,このように聞いております。
聞いておるだけではなくて,実際そうだと思います。
そういうことで,流動化という視点からまず最初に申し上げますけれども,目的信託を導入するということは,まさしくこの目的が資産流動化とか,この当該取引ということで目的がなされるわけですから,まさしく受託者がSPCの株式を保有するに最もふさわしい信託の形態であって,そこでのもともとのチャリタブル・トラストというのは,ある意味では代用的な意味合いにしかすぎない。ですから本来,資産流動化という視点からしましても,目的信託というのは非常に有用であって,現在の,ある意味ではよそで行われている基準,標準でもあるということが言えると思います。
それから,流動化というのは,ある限られた側面ですけれども,弁護士会での議論ですと,目的信託というのは非公益ですけれども,非公益というのは非常に多様といいますか,非常に幅広い概念ですけれども,現在の公益信託というものが非常に限られているということもありまして,極めて公益に近いんだけれども,公益信託に該当しないような信託というものを遺言の中で遺言信託で設定したい,こういうような希望が結構あるということを弁護士会内部の議論をしたときに出てきました。
具体的には,具体的かどうかわかりませんけれども,やはり自分の財産を処分するわけですから,広くあまねく何々の研究のためということでは,なかなか資産家の方が遺言信託で信託を設定するということはあり得なくて,自分の出身の学校とか,何々のロースクールとか,そういうような限られた,でも恐らく一面においては公益的だと思うんですけれども,そういうような形での信託設定というのを希望する例がある。
ただし,現在においては公益信託という器しか用意されていませんから,そういう形での信託設定はできないということもあって,この非公益的目的信託ですかね,目的信託ということは,もし制度として導入されれば,流動化に限らず,民事信託の分野においても多様に利用されるのではないか,こういうふうに弁護士会のある委員が非常に強く言っておりました。
そういうことで,流動化という視点でも,本来,世界的な流れの一つの到達点でもありますし,なおかつ民事信託ということにおいても,公益信託の幅がどれほど広がるのか,狭まるのかというこの後の議論にもよりますけれども,非常に有用であるということで,ぜひ導入していただきたいと思います。
あと,(注)のところの議論ですけれども,現行法において,また,今回の信託法改正において,受益者が最後まで固まらない。この最初の「・」ですけれども,償還時に確定されるような信託というものは,まだ多分,制度としては検討されていないような,私益信託であれば始めから受益者は決まっているわけですよね。ですから現行法でも,また,信託法改正においても,この最初の「・」が可能であれば,これはこれで有用なやり方なのかもしれません。
2番目の「・」の投資家多数云々というのは,本来,SPCの株主というのは投資家であるという一つの究極的な側面であるかもしれませんし,なおかつ実際の証券化の世界では,そういうような仕組みもあります。
あと投信などでのエクイティ型では,まずこれと同じということも言えると思うんですけれども,ここで重要なことはガバナンスでございまして,そうすると,ガバナンスの多数投資家,また転々と移転する,変動する投資家が一々行使するというよりも,やはり受託者に任せるというような仕組みの方がよろしいのかな,このように思いまして,多数投資家を受益者とし,受託者に権限を行使させるという,一種のチャリタブル・トラストと同様な仕組みということにおいても,目的信託と同様な機能が達成できないわけはないですけれども,より直截的な制度としては,目的信託ということでつくり上げるということが,恐らく一番望ましいのではないのかなと思います。
○○幹事からも御説明ありましたように,中間法人を実際使っているというのも,ある意味では目的信託を使っているのを法人制度に代用しているというような言い方ができると思います。
では,中間法人制度でいいではないかというと,中間法人の場合には,中間法人という器にSPCの株式を入れますけれども,実際には,そこの理事の個人の信頼に最終的には帰着しているわけですね。
そこで変なことをしないという。受託者の場合には,最終的に受託者に対する信頼に置きかわりますけれども,信託制度を利用するということは,信託法の中に受託者の義務とかいうことははっきり書いて,受託者責任ということはかなり制度的にも明確でありますし,恐らく信託銀行とか,業としての信託を担当する方がそこでの受託者になるわけですから,より信頼性の高い制度ができ上がるのではないかと思います。
● 1点だけ補足いたします。
上の「・」でございますが,現行法のもとでも,受益者が現実に確定していなくても,確定可能性があればいいというのが通説でございます。そうしますと,このようなスキームも現行でもできるというのが我々の考え方でございます。
ですから,もしこれが,いい制度だとすると,では目的信託なくてもいいのかという問題が出てきます。後段については,ガバナンスの観点から目的信託の方がいいというお話だったと思うんですが,前段についてどういう点が目的信託の方が長所があるのか,あるいは,こちらに短所があるのかというところを教えていただければと思います。
● 回答いたしますと,SPCは証券化の倒産隔離という機能もありますけれども,もう一つは,オフバランスシートの機能を果たすというところもあると思うので,最終的に確定するところの受益者と言っても,恐らく初めから,ケイマン的な発想であればチャリティとか,どこかの慈善団体とかそういうふうになるという前提だとすると,今度は公益信託の議論に絡んできてしまうというのと,そこでもう一回委託者が登場するようだと,ちょっとオフバランスシート,SPCではないのかなと。ただ,倒産隔離的な機能は,議決権をそこで制限することができるので,できないわけではない。
ちょっと今,思ったことだけの発言なんですけれども。
● 実際の流動化・証券化取引で,ケイマンのチャリタブル・トラストが扱われている事例をちょっと考えたみたんですけれども,恐らくSPC,会社の株式をケイマンの信託会社が信託宣言の方法によって信託設定して,そのSPCは何らかの,そうですね,通常ですと資産を取得して社債なり何なりを発行して,それで償還していくということ。
終了するときは,その会社の残余財産,通常ですと,多分200ドルとか何かそのくらい残すんだろうと思いますけれども,数万円のお金を残して会社を清算して,それを慈善団体ですとか赤十字社といったところに寄附してお終いというような形をつくっているかと思います。
これとほぼ同じことを,信託宣言と目的信託をあわせればなし得るのかなという気がいたします。
あと,SPCの中立性,倒産隔離性については,例えば資産流動化法で,特定目的会社に関して特定持分信託という制度が用意されているわけですけれども,実際の流動化・証券化取引で社団あるいは法人を器として使う場合には,さまざまな事情があって,ケース・バイ・ケースですけれども,株式会社が使われる場合もあり,有限会社が使われる場合もあり,あるいは中間法人が使われる場合もあり,さらには,会社法成立後は,ひょっとしたら合同会社を使うというようなケースも出てくるかもしれません。
いずれにせよ,現実に用いられている証券化取引で使われる会社は,さまざまな種類があるということですね。
そのさまざまな種類の会社の持分について,それが株式であるのか何と呼ぶのかは別として,こういった形でそのSPCという会社の中立化,倒産隔離性の確保ができるという意味では,歓迎したいと思います。
(注)のところで,現行法制下で何かできないかということなんですけれども,1つ目はともかく2つ目の「・」については,税務上の問題が発生する可能性が高いのではないか。
すなわち投資家にとって,いきなり受益者ということで何らかの財産を取得することになりますから,投資家が個人であれば所得税,あるいは法人であれば法人税がかかってしまうということで,かなり敬遠されるのではないかという気がいたします。
また,1つ目の「・」の場合は,確定する受益者をだれにするかというのは非常に悩ましいところで,流動化,証券化を考えればオリジネーターにすることになるのかなという気がいたします。
それであれば特に問題は,問題はというか,税務上の問題は余りないのかもしれませんけれども,オリジネーター以外の人を受益者にするということであれば,やはり受益者になって受益権をもらってしまう人は税務上の問題が発生してしまうので,だれがなり手があるのかなというのが悩ましいところで,ひょっとしたら,海外のチャリタブル・トラストで受益者を慈善団体とか,どうせ寄附もらっても税金がかからないところにしてあるのは,そういったところにあるのかもしれません。
何か感想的なコメントになってしまって,すみません。
● 私は,流動化等についてどれだけの需要があるのかは十分にわかりませんし,それをまた妨害しようというつもりもさらさらないのですが,そのように本当に必要な目的信託というものを認めていこうといったときに,本当に信託法にこのような条文を置くことでそれに対応するのがいいのかというのが,何か極めて疑問な気がいたします。
と申しますのは,先ほど出ました半公益といいますか,非私益なんだけれども公益信託としてはなかなか認められないようなNPO的なものをつくろうとか,あるいは資産流動化のための特別目的会社に対応する,株式を信託財産にするようなものをつくろうとか,それはわかるんですけれども,例えば,第69の乙案に書かれているような形で仮に条文化されるとすると,結局,差押不可能定期預金をつくるということですよね。
もちろん,そのつくった時点で債権者詐害の状態にあれば,債権者詐害信託として取り消し得ることになるわけですが,なければ,大丈夫なうちにどんどん目的信託をつくっておけばよいということになりそうな気がするんですね。
もしそういったことを避けようということになりますと,乙案の第2項の「一定の期間」というのを,やはりかなり短くせざるを得ないのではないか。そうなりますと,今度は,先ほど申し上げましたような準公益信託とか,あるいは資産流動化のための目的信託というものの需要に添えない結果になるのではないか。
したがって,目的信託というものを一般的に認めるという形で本当に書けるのかというのは,私は,かなり疑問な気がいたしまして,それならば,資産流動化なら資産流動化のためにつくればいいのではないかという気がするのですが。
● また重要な点でして,なかなか頭の痛いところではあるんですね。ただ,資産流動化だけではなくて,目的信託の,先ほど○○委員が言われた公益周辺的なというんでしょうか,そういうものも視野に入れたときにどうするかということですね。
単に資産流動化のための器だけではないので,もうちょっと信託一般的な問題がないだろうかというのが目的信託をこの中に置くという立場からの考え方なんだとは思いますが。
● 今,○○幹事がおっしゃった差押禁止財産をつくるのではないかという懸念について,ちょっと思うところでございますが,1つは,これは委託者の財産からは離脱している財産でございまして,委託者が差押禁止としながら引き続き利益を享受するという形態のものではないという,委託者の責任財産からは離脱しているので,執行妨害というか,差押え逃れという懸念が果たしてどれだけあるのかという疑問がないわけではないという気がいたします。
それから,目的信託という以上は,ある程度目的が具体的に決まっていなければいけないので,そうすると,その目的に従って,例えば信託債権が発生すれば,それについては当然この信託財産となる目的信託の信託財産には,その債権者がかかってこられることになりますので,純粋な意味で差押禁止財産をつくるということには,必ずしもならないのではないか。
そうすると,だからその期間を短くするという議論にも必ずしもつながらないのではないかなという気がしているところでございますが,もし何か誤解があれば御指摘いただければと思います。
● 帰属権利者を委託者にはできないんですか。
● それはできます。
● その間の受益が,信託期間中の受益者への分配によって信託財産がどれだけ減少するかというのは,当該目的財産のつくり方の問題ですから,私は事実上,やはり,差押不可の定期預金をつくることは十分に可能だと思います。
プラス目的を定めなければいけないんだからとおっしゃるわけですが,目的は完全な私益でも構わないことは,資産流動化に使えるということで明らかなわけですから,例えば私が法律の本をある一定限度購入するという形でつくろうと思っても,私はできるのではないかと思うんですが。
● 私益というところはできるでしょうね。
● 今の○○幹事のお話でございますが,中間法人--今はNPOもありますし中間法人もありますし,ですから中間法人を使ってどこかの……,何でもいいですよね,信託法改正の審議会のためということで中間法人をつくって,そこに基金を入れる。
そういう優良なものもあるし,全然優良でないのもあるかもしれませんけれども,現在の法制度としては,もはやそういう制度を認めているわけでして,要するに,公益法人しかない,または株式会社をつくるしかない,株式会社の場合は代用性はあったかもしれませんけれども─と違って,そうなっている以上,それは別でも構わないんですけれども,ここで目的信託,要するに非公益中間法人型信託というものをつくったからといって,それは執行免脱の要素が極めて強いという議論は,何か制度的にも,もはや許容されているものですし,本当に悪質な,病理的な目的信託の利用があれば,それはそれでいろいろと法的な対応の手段はあるのではないか。
制度そのものがやや病理的なものであるというふうな感覚は全く受けないんですけれども。
● 議論の仕方としては,もうだめなのがいっぱいあるではないかという感じが,私は○○委員の話を聞いていて感じるんですけれども,そういう議論は可能なのか,私はちょっと。
● 中間法人にということですか。
● いえ,そういうわけではないんですが,例えば差押えができない定期預金のような形で悪用しようとすると,できる制度が多々あるというのは,余りあれですよね,また新たに入れるということの理由にはならなくて,だから,○○委員がおっしゃるように,病理的なものに関してはまた別個対処すればよいということは,おっしゃるとおりで,それでよいということならばそれでよいのですけれども,私は,そのような懸念があるということになりますと,やはり「一定の期間」というのを短くせざるを得ないのではないかという気がいたしまして,そうすると,私は,最初に申し上げているように,目的信託を認める,必要な領域において認めることに全く反対しているわけではなくて,一般的な制度にすることによる一定の期間の短さ,それで全体の使いにくさをもたらすということを懸念しているだけであって,その点,誤解がないようにしていただきたいんですけれども,それならば,やはり必要な部分につくった方が合理的なのではないかというだけなのです。しつこくて申しわけございません。
● 期間の問題は,それなりに重要な問題だと私も思います。これは目的信託をどういう形で使うかですけれども,流動化で使うときは,恐らく一定の期間が来るんでしょうけれども,それ以外の,もうちょっと非公益だけれども私的な--私的なと言うと変かな,やはり非公益なんですけれども,受益者がいないという意味では。そこに信託財産を設定して,受益者がいないので,そういう意味では受益者のイニシアチブでもって信託を終了させるということがないような信託が続く。そしてある種の財の固定化が生じるということだと思います。だれも債権者がいないわけではないけれども,債権者がかかっていけないような財産がつくられる。
その後,一定の期間が必要なのではないかという議論が出てくるというのは,そういう脈絡ですね。
● 期間のところについて,流動化,証券化の観点から。
今,日本においては国債とか社債といったものの年限というのは,最長でも30年だろうと思うんですけれども,流動化,証券化に関しては,最近,住宅ローンの証券化が非常に盛んになっておりまして,住宅ローンを裏づけにした証券化商品の最終年限は,35年になっているものが多いです。これは金融機関が個人に住宅ローンを出す場合,通常最長35年で出しているというところに由来しております。
御参考までに。
● 流動化の方で言えば,ある程度,今のようなものを見越して,何年ぐらいの期間を超えては存続してはならないという形で,仮に目的信託が許容されても,その期間さえ十分気をつければ何とかなるかもしれないという話ですね。
● 議論の仕方なんですけれども,中間法人があって,だから目的信託もいいではないかという議論は,何かちょっと変な感じがします。
中間法人がつくられた本来の趣旨というのは,決して流動化のためにつくられたのではないと思います。
それが結果として,しかしこれにも使えるではないかということで現に使われているけれども,流動化の観点からすると,中間法人というのはあたかも流動化のためのものだというような雰囲気かもしれませんが,決してそうではない。
むしろ目的信託においても,本来,何のために必要なのか,それが仮にほかの目的にも使われるということがあり得るのかというのが筋であって,仮に流動化のためにこそ必要だというんだったらば,流動化の観点から対応すればいいのではないかと思います。
● 新しい中間法人よりも,今,議論されている非営利法人とか,あるいはそこにおける非営利の財団とか,そういうものとパラレルの問題があるということかもしれませんね。これも○○委員がお詳しいと思いますが。
● それは……,今日は次もやるんですか。
● はい,今日は最後ですから。
● では,そこでやります。
● 今の御指摘との関係で,少し気になっているところが,通常の私益信託との関係でして,例えば子供の養育のためにやりたいというときに,未成年者なり,成人でもいいんですけれども--を受益者にして,扶養ですとか教育を受けさせるために信託を設定するというような場合,端的に受益者にしてしまいますと,莫大な債務を負って差押えがかかるというので,目的信託にすればだれも差し押さえてこないと今の使い方は考えられるわけですけれども,そういう,本来私益信託で想定されるようなものを,その部分,何らかの問題があるということで,それも適正なんだというふうに考えるのであれば,私などはそれでいいのかなという感じはしないでもないんですけれども,扶養とかそういう目的であれば。
ただ,そこの部分がやはり問題であるというときに,目的信託にすれば大丈夫というのは,何か問題があるような感じがいたしますので,何のために必要なのかというときに,一般的な,受益者がいるような形での信託と目的信託の役割分担みたいなものを考えていく必要があるのではないかという気がいたしますので,付言いたします。
● 今のも,法人のところでも同じような議論ができるんだと思いますけれども,まず非営利の財団法人をつくって,実際には利益を享受するような人をそこで想定するとか,ちょうど目的信託を使って受益者ではないけれども利益がそこにいくような形をつくるということですね。
財団法人のときは,そんなものでも構わないのではないかという議論をちょっとしたんですけれども,信託で果たして適切かという問題がありますね。
● ちょっと御賛同を得られるとは思えないんですけれども,先ほど来,目的信託についての有用性と弊害について御議論があったと思いますけれども,これについては,今日の最初の信託宣言についても同様だと思いますので,私自身は,もう目的信託プラス信託宣言で,特別法で1つのものをつくってしまえば,それでいいというふうに考えておりまして,例えばここの公益信託の受け皿の部分については,まだ公益信託の分野で1つ議論というのがあり得るのかなと思っておりますので,そういう方向性でお願いできればと考えております。
● その弊害につきましては,銀行業界の中でも若干の議論はしております。ただ,信託宣言については,受益者が決まっているということですので,最終的な執行が,1回が2回になる,そういう議論がございましたけれども,ただ,執行がどこかの受益者に対してできるということはありますので,そういう意味で,今,○○幹事がおっしゃるような一定期間執行不可能な財産をつくるということとは,ちょっと性質が違うのかなと思っております。
よって,どちらかというと,そういう詐害的なことが起こり得るのであれば,ここは比較論でございますけれども,信託宣言よりは目的信託の方が悪用の--もちろん2者ということもございますけれども--あるのかなということがあります。
そうしますと,むしろ信託宣言と目的信託を同列の規律にすべきでないかという議論よりも,分けて議論することが必要ではないのかなと思っております。
● 1点だけ,ちょっと気になっているところなんですけれども,通常の私益信託に比べて,目的信託の場合には受益者による監督の可能性といいますか,そういったものがちょっと弱まるのではないかという気がしていて,制度的に,何かそこをちょっと補完するような手当てを検討する必要があるのではないかという気がしています。
例えば,信託管理人ですとか受託者監督人ですとか,そういったものを活用することも1つ考えられるのかもしれませんけれども,そういった,流動化のことを考えると,強行法規とまでしなければいけないかという問題はあろうかと思いますけれども,そういった手当てがされるような方向に誘導するような規律というものを,ちょっと御検討いただけないかなと思います。
● 受益者がいませんので……,信託管理人のところの規定は今,はっきり覚えていませんけれども,置くことは……
● ガバナンスの問題については,もちろん認識しておりまして,今回の資料には書いていないですが,たしか前に配った資料では,受益者の代表をするという意味の信託管理人ではなくて,別途ガバナンスの観点からの信託管理人というか,そういう制度を設ける必要があるのではないかということは,当然問題意識として持っておりますので,その方向で,設けることとなれば,その方向でも検討していきたいと思っております。
● これは,やはりどうも根本問題が重要な問題であって,流動化の観点からもさらに詰めなくてはいけませんけれども,先ほど○○委員からいろいろ御指摘がありましたけれども,中間法人よりはこちらの方が目的にかなっているという御議論などは,いろいろ参考になるように思います。
それでは,公益信託も含めて,また。
● それでは,公益信託について簡単にご説明いたします。
公益信託につきましては,今年の秋以降,当部会において公益信託に関する法改正の内容について本格的に審議いただきたいと思っておりますが,それに先立ちまして,公益信託制度のあり方に対する基本的な骨格となる部分について,改正の方向性についての当面の意見を賜りたいとの趣旨に基づく問題提起でございます。
(前注)に書いてございますとおり,公益信託と公益法人とは類似の機能及び規律を有する制度でありますところ,公益信託法制の改正に当たっては,並行して行われている公益法人法制の改正動向を注視し,その改正の具体的内容が相当程度固まったところを踏まえた上で,公益法人に関する規律と同様の規律を設けることとするかを含めて検討していくことが適当であると考えております。
このような観点を踏まえつつも,今後,公益信託の規律を考えていくに当たり当面念頭に置いておくべき最も基本的な事項として,次の2点を挙げることができると思われます。
第1は,公益信託の設定に関し,現行の主務官庁による許可制を維持すべきか否かという点でございます。
公益法人法制の改正においては,許可主義を見直し,民間の有識者から構成される委員会の意見に基づいて,一般的な非営利法人について公益性を判断する仕組みを設けることとされております。
この点については,公益法人と異なり,公益信託には法人格がないことですとか,公益法人の許可制について,問題視されているような弊害等については,公益信託では特段指摘されていないと思われること等の事情の違いがあることをかんがみますと,公益法人と公益信託とでは必ずしも平仄を合わせる必要はないとの見解もあり得るものの,類似の機能を有し,類似の規律が採用されている公益信託についても,公益法人の設立に関する規律と平仄を合わせて許可主義を廃止すべきではないかとの見解が有力でございます。
もう一つは,今の延長線にある問題でございますが,公益信託の監督に関し,主務官庁が監督する旨の現行の規律を維持すべきか否かという点でございます。
公益法人法制の改正においては,公益制の判断主体が必要な監督上の措置を講ずるとの方向で制度を検討することとされております。この点につきましても両様の見解が信託についてはあり得るわけですが,公益法人法制の改正内容と平仄を合わせるべきであるとの見解が有力であると思います。
この2点について,当面の考え方をお聞かせいただければ大変ありがたいと存じます。
なお,以上のほか,公益信託の終了ですとかその後の財産の帰属先の問題,あるいは(注)において指摘した各論的な問題についても,御意見があれば賜りたいと思ってございます。
● それでは,御意見をお願いいたします。
● 目的信託の議論と公益信託の議論は,当然連続的な議論でして,現在,公益信託が狭いがゆえに,非常に公益性が強いところの非公益的目的信託の必要性がありまして,ただ,では公益信託の幅を広げれば目的信託は要らないかというと,そんなことはなくて,やはり公益信託の幅も広げていただいて,課税の方は課税の方でまた検討されればいいと思うので,公益信託は狭く,場合によっては目的信託ももしかしたら制度的に難しいということになりますと,やはりこれだけの資産,財産の承継ということを考えているときに,有効な形での財産の処分というか,承継ということができなくなってしまうので,今の議論だけからしますと,公益信託の許可主義ということが,やはり問題ではない。いわゆる広げてほしいというような意見です。
● 税務問題は,今,政府税制調査会でやっておりまして,近々報告が出ると思いますが,ここはそれを切り離した形で,制度論なんですけれども,主務官庁制という問題と許可制という問題と2種類の問題があると思います。
主務官庁制に伴う弊害というのが,例えば縦割り行政に伴う弊害というものをやめるにはどうしたらいいかというので,第三者機関による判定というスキームが出ているんだと思います。
それが公益法人と公益信託とで,現在の主務官庁制に伴う問題が多いのか少ないのかというのは,これは事実の認識の問題で,よくわかりませんので,それに伴ってということになりますが,しかし,法人の方を主務官庁制をなくすのに信託だけ残すというのは,どうも何かうまくいきにくいのではないかなという感じがいたします。
それからもう一つ,許可制の問題なんですが,公益法人の法制では2段階を考えていて,準則主義で非営利法人を直ちに設立することができて,その上で,第三者機関の判定を受けたものを公益性のある法人と判断しようという,こういう2段階になっていると思います。それを信託の方に持ち込むとしますと,第1段階に相当するものが何なんだろうかということがはっきりしません。
そこで,ひょっとしたら目的信託というのが第1段階であって,その上で,公益性を第三者機関なりが認定したものが公益信託になるという,そういうスキームが考えられます。
しかしながら,目的信託を導入するかどうかについては先ほど来,議論もありましたし,仮に導入するとしても,目的信託に対する規律と,それから公益信託に対する規律とは相当違ってくるのではないだろうか。
非営利法人の上に公益法人を抽出するというのとは,ちょっと違ってくるのではないかという気がしますので,今のような2段階のスキームがうまく組めるだろうか。もし組めないとすると,むしろ一段階にしてしまって,その第三者機関が公益信託の設定について,許可ではなくて,何というんでしょうか,認定というんでしょうか--をするというようなワンステップも考えられるのかなと思います。
いずれにしましても,公益法人法制の方がどうなるかというのは,まさに今,詰めていらっしゃることだと思いますので,それを見た上だということになると思います。
あと,細かい点で1つだけなんですが,3番目の残余財産の帰属先について,これは現行の制度を維持しようというような御提案かと思うんですが,現行の制度は,帰属権利者がいないことが前提になっていて,そうすると,委託者が帰属権利者を自由に決めることができるということが前提になっていると思います。
私はそれでいいと思うんですが,公益法人法制の方でそのようになるのかどうか,よくわかりませんで,そことの整合性,バランスというものも問題になるかなと思います。
● 先ほど申し上げましたように,目的信託については必ずしも賛成ではないんですが,それはちょっと置いておきまして,仮に目的信託を入れたときに,チャリティーコミッションみたいなものをつくる制度にしたときに,それは何を意味するんだろうかということが,○○委員のおっしゃったことと関係しているんですが,すごく気になります。
つまり,法人制度におきましては,第三者機関が認めなければ法人になれないわけであって,法人格を取得できないんですよね。違うんですか。
● 法人格は取得できます。非営利の法人格。
● では,同じなんですか。
● 非営利の法人格を取得できて,あとは税の優遇措置がくっついてくるかとか。
● では,パラレルで考えていいのかもしれないんですが,先ほど○○委員の発言にもありまして,そうかなと思いながら私,聞いていたんですが,仮に税の優遇措置に関してはまた別個の基準で考えて,チャリティーコミッションが考えるのは公益法人の認可の問題である,そしてそれは広く認めていこうという話になりましたら,何を認めるんだろうかというのがすごく気になるんですよね。
もしそれを認めてもらえなくても,目的信託として生き残るわけですよね。そして,今までは,認めてもらうというのは,恐らく受益者が確定していなくても信託として成立することを認めてもらうとともに,税法上の優遇措置を受けられるということを認めてもらうということだったんですが,今度チャリティーコミッションみたいなものをつくったときには,何を認めるのかが気になります。
2点目,これは小さな話なんですが,全体の規定の仕方なんです。
公益信託の終了時の規定とか,いろいろな規定というのが,「こういうふうな定めをしておかなければコミッションによって認可されませんよ」という話として規定していくのか,それとも「コミッションで認可されるとこういうふうになりますよ」というふうに規定していくのか,2通りの規定の仕方があると思うんですね。
後者の規定の仕方というのは,ある意味ではすごくおかしいような気がいたしまして,例えば,帰属権利者みたいなものがどこそこになりますという規定が仮にあったとしますよね。
しかるに,私人を帰属権利者として指定している申請が出てきて,それを公益信託としてチャリティーコミッションが認めて,しかし強行規定が適用される結果,帰属権利者が公の主体になるというのは,何か非常に持ってまわったやり方で,変な気がするんですね。
そうすると,結局,認められるためには何が要件になっているのかという書き方をした方が素直なのではないかという気がいたします。
後者は全くもって思いつきであり,議論すべきような話ではないと思いますが,ちょっと前者のことが気になります。
● 法人の制度とこっちで本当にパラレルかどうかというのはよくわかりませんけれども,法人の方は,恐らく法人の類型としては,もう非営利法人しかないんですね。
ですから,こっちで言う目的信託,受益者がいない信託というものしかない。あと税の優遇措置がくっついてくるためには,目的が公益であることを認定してもらう,法人の場合ですと。
そうすると,重要なねらいは,課税当局が判断するのではなくて,何とか委員会というところでもって公益性を認めると,税の優遇措置がくっついてくる,それは大体よろしいんですか。税の方は今,議論しているかもしれませんけれども。
それは後で補足していただくとして,そこにだから公益性を認定するということの独自の意味があると,少なくとも当初は考えておりました。ですから,信託も同じような形がとれるのかどうかということですね。
もう一つ,さっき気になったのは,仮に信託の方では,やはり公益信託という類型が必要なので,「公益信託」という言葉は積極的に使って信託の中に置いておく,諸外国にも公益信託というのはありますから,ちょっとそこで法人と違う形をとって,ただ,そこで言う公益信託というものについて,さらに2つの考え方があり得て,税の優遇措置と連動するかどうかというのは,これは一応切り離した上で,要するに,プライベートなというか,今で言えば許可主義の,許可を受けない公益信託というものを,とにかく一定の要件を規定した上で認めるという法制度をとるかどうかですね。
例えば,帰属権利者というのは公益団体とか,要するに私人ではいけないとか,そのルールがいいかどうかは別として,幾つかの要件を定めて,その要件さえ満たしていれば,あとは公益目的で受益者がいないというタイプの信託を認める。
その上で,信託法としてはそこまでやって,あとその信託が本当に税の優遇措置を受けるかどうか,これは外の,先ほどの主務官庁に相当するような何とか委員会とか,そういうものに任せる。そんな仕組みが,考えようと思えば考えられるんですね。
税のことも含めて,○○委員から補足していただけますか。
● 税につきましては,方向性としては,第三者機関が公益性を認定すると税の優遇をそのまま自動的につけるという方向の議論になっているということは,新聞でも既に報道されているとおりでございます。ただ,最終的にどうなるかは,あと二,三回の審議を経まして,近々正式な形で公表されると思います。
制度論につきましては,今,○○委員がおっしゃいました,認定されない,認定前の公益的あるいは広い意味での公益的な信託というものをどう位置づけるのか,それをさっき出てきた目的信託の重要な一部分として位置づけるのか,それとも公益信託の予備軍といいますか,準公益信託のようなものを考えるのか。その準公益信託的なものと,それから流動化目的のための目的信託とを一括りにするのか別に考えるのか,そのあたりかと思います。
● ○○委員が最初に発言されたこととほぼ同意見なんですけれども,ちょっとつけ加えたいこともありますので,発言します。
1と2については,私の意見としては,どちらも主務官庁による許可制は廃止し,そして主務官庁による監督も廃止すべきだと思います。
それに代わるものとしては,公益信託として何を考えるかというところが問題ですが,基本的には,非営利法人法制に付随する公益性認定の仕組みに合わせるべきだろうと思います。
理由ですが,社団法人とかも非営利法人法制に入ってきますので,一般化すると少しぼんやりぼやけてくるかもしれませんが,具体的に公益信託と比較すべきは,現行の民法上の財団法人だろうと思います。
現行の公益信託と民法上の財団法人は,ほぼ類似する目的のための社会的な存在であって,そして,民事法上の仕組みが違うけれども,他方で主務官庁による許可と監督という点は共通したものだったように思います。
したがって,寄附行為をする者,あるいは公益信託の委託者になる者は,どちらを選ぼうかというのは,基本的に民事法的な規律に着目して,コストの面とか安定性の面とか,そういうことでどちらかを選択してきたのではないかと思います。それはそれで適切なことだったのではないかと思います。
したがって,民法上の財団法人に代わる制度が,非営利法人制度の中の公益性認定を受ける財団法人型のものになる。
そこでは新設される委員会で公益性認定を受けるということになり,そして監督も,恐らくその認定の更新とかに絡む形で委員会がするというつくりになるのであれば,他方で公益信託については,これまでの縦割り,主務官庁制の許可制,監督制を残しておくというのは,公益信託の委託者,そして財団法人の寄附行為者になる者がどちらを選ぶかというときに,民事法的な規律だけでなく,別の,今までは存在しなかったノイズというんでしょうか,それでどちらが自分の考えていることがより実現しやすいかということを判断しなくてはならなくなって,恐らく今後は,こういう制度がこれまで以上に広く社会で使われることがよいと思いますので,そのためには無用な,あるいは有害な障害になってくるだろうと思います。
したがって,30ページのところには,公益法人にはいろいろ問題が指摘されてきて,今,改革になっているけれども,それと同様の問題は公益信託には果たしてあっただろうかということでありますが,たとえなかったとしても,制度の平仄を合わせないということが問題になる,そういうふうに考えるべきだと思います。
その次ですが,ここがちょっと○○委員もおっしゃっているところであり,私もよくわからないところなんですが,そうすると,公益的な信託をつくろうとして,受益者は特定していない。
しかし,新設される委員会で公益性認定を受けなかったときに,どうなるのかという問題なんだろうと思うんです。○○委員もおっしゃっていた問題だろうと思うんですが。
それは,信託としても成立しないというのは一つの答えだと思うんですが,しかし,それは恐らく適当な答えではないのではないかと思います。では,それが第69の目的信託そのものなのかどうかは,目的信託についての私の意見が定まらないのでよくわからないんですが,しかし,公益性認定を受けられなかった信託であって,受益者が確定していないのは,それで信託として無効になってしまう,そういう制度にはすべきではないのではないかと思います。
● 今,最後におっしゃった点につきましては,法人法制の方で非営利財団法人をつくることになるかどうかはまだ決まっていないんだと思いますけれども,それとのバランスも考える必要があるのではないかと思います。
● 非営利財団の方は比較的,これもいろいろな意見があったわけですけれども,広い非営利財団を考える。要するに,ここで言う目的信託的な非営利財団というものと,それから,今,○○幹事が言われたのは,本来,公益的なことをねらっているのであって,そういう意味では,公益とはちょっと違うということを意識しつつ,非営利の目的信託なり,あるいは目的財団,そういうものとはちょっと違うんですね。
ですから,恐らく3つぐらい円があって,認定を受けられるであろう公益信託と,その周辺にあって,公益なんだけれども認定を受けられない,あるいは認定を受けないでやっていきたいという場合もあるかもしれませんね。それからもっと外の,本当の非営利の,公益でない非営利のもの。
どこまで認めるか。財団法人の方もどこまで認めるか,そういう議論がいろいろ関連していて,信託も基本的には合わせた方がいいんだろうと思いますけれども,信託は信託で独自の,許可制とか主務官庁制については,これはもう完全に合わせた方がいいと思いますけれども,どの範囲でもって信託を認めるかということについては,あるいは信託独自の考え方があり得るかもしれない,そんなふうに思います。
● 公益信託,目的信託でもいいんですけれども,事業型ということが考えられると思うんですね。要するに,単に財産を管理して奨学金のように寄附するという単純型ではなくて,何か,財団法人に近いものかもしれませんけれども,私も財団法人の理事やっていますけれども,やはり財団法人というのは寄附行為が変更できないという大きな,致命的な問題も抱えていますから,信託の柔軟性ということは非常に重要ですから,パラレルではあるけれども,信託のよさというものはある。そうすると,財団法人がやっているような事業型ということも考えられるという。
あと,目的信託でも公益信託でもそうですが,その担い手ですけれども,受託者。信託銀行が財産管理機能とか安全性,信用力という意味ですぐれているということは,これまでの歴史が証明するところでありますけれども,公益信託にしろ目的信託にしろ,その内容によっては,場合によっては,あとNPOみたいなところは適切かもしれませんし,ある程度紛争含みであれば--紛争含みと言うと適切ではありませんけれども,法律関係ということにおいては,また個人的な信頼という意味においては,手前みそですみませんけれども,弁護士とか弁護士会というのが適切である,かように思いますから,そういう担い手がどうあるべきかということも,今後の論点としてぜひ検討していただきたいと思います。
● 担い手は,実際問題として非常に重要な問題ですね。
● 公益信託それ自体というよりは,その場合の裁判所の関与という問題について若干申し上げておきます。
公益法人において監督のあり方がどうなるのか,まだ全く,ある意味で十分詰まっているわけではないので,どのようになるのかわからないということが前提ですが,ただ,公益性の認定を初めといたしまして,やはり公益的な観点からの監督というものがあります。その上は,その部分を裁判所が担うということは,実際上も,それから政策的に言っても不適当であって,そういうわけにはいかないだろうということだけ申し上げておきたいと思います。
そういう意味で,公益信託における裁判所の関与というものは,なるべく最小限,それがあるとしてもなるべく最小限のものとしていただく必要があろうかなと考えているところでございます。
● チャリティー委員会みたいなものができるのであれば,それということも考えられますよね。
公益信託についても,まだまだ議論はあると思いますが,何分法人制度の方の影響を非常に受けるもので,こちらで先行するわけにもいかないところがあります。--ということで,このぐらいで一応終えるということでよろしいでしょうか。
では,今日は長い時間どうもありがとうございました。
-了-
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2016年加工編
法制審議会信託法部会
第17回会議 議事録
第1 日 時 平成17年7月1日(金) 自 午後1時02分
至 午後6時49分
第2 場 所 法務省第1会議室
第3 議 題
信託法改正要綱試案(案)第1~第42について
第4 議 事 (次のとおり)
議 事
● それでは,法制審議会の信託法部会を開催したいと思います。
きょうは,信託法改正要綱試案(案)について,御議論いただければと思います。
(幹事・関係官の異動紹介省略)
● 本日席上配付の資料が2部ございます。1つは,信託協会の方から「信託法の改正について」という意見書を出していただいておりますので,これにつきましては,その趣旨を簡単に○○委員の方からお願いできればと思います。
● それでは,時間もありますので,ごく簡単にしたいと思います。
本件のペーパーにつきましては,先ほど○○幹事の方からお話ありましたように,信託協会としての意見を取りまとめたものでございます。
ただ,1点だけちょっとお断りしたいのは,要綱試案での対応というのが間に合いませんでしたので,基本的には二読の資料をベースにしたものでございます。
内容につきましては,要旨といいますか,結論だけ簡潔に御説明したいと思います。
まず1点目は,信託宣言についてでございますが,もう結論だけ申し上げますと,導入に反対したいということでございます。
2点目,2ページの2の忠実義務のところでございますが,これについては,総論的には規律の外延とか内容について明確化していただきたいということと,各論的には,4のところの利益取得行為の禁止と利益吐き出し責任についての規律というのを不要としていただきたいということでございます。
次に,3ページのところの3の受託者の有限責任信託の許容についてでございますが,まず1の新たな類型の信託の創設については,法務省の提案に賛成ということでございまして,ただ,①に書いていますけれども,工作物責任のような無過失責任を受託者の固有財産が負担しないこととされるべきであるということと,それと,明示というのは必要だと思いますので,公示制度の導入というのはいたし方ないのかなというふうに考えておりますが,それに当たっては簡便で低コストのものにしていただきたいということでございます。
次に,(2)の既存の類型の信託でございますけれども,これについては法務省の提案に賛成ということでございまして,明確化する意味合いでも規律化していただきたいということでございます。
4ページの4の補償請求権につきましては,これは以前から申し上げていますけれども,受益者から補償を受ける権利を受託者が有することをデフォルトルールとしていただきたいということと,特に補償請求権を信託の外側で締結された従たる契約とするというような考え方には反対であるということでございます。
次に,5の多数受益者の意思決定における,みなし賛成制度と公告についてということですが,これについては現行の実務も踏まえまして,公告による特別決議事項の賛否を諮ることを信託法上も可能にしていただきたいということと,あと合同運用信託のところの部分についても多数決ができるような形のものにしていただきたいということでございます。
最後に,5ページの6の不動産の公示制度についてですけれども,これについては,信託法の改正の内容に踏まえまして,特に忠実義務の任意規定化によって,固有勘定と信託勘定が取引ができるような形になりますので,そういうものであるとか,抵当権の信託の解禁等がございますので,これを踏まえたような登記法制にしていただきたいということと,その手続を明確化していただきたいということでございます。
以上です。
● ありがとうございました。
それからもう一つ,やはり席上に日本弁理士会知財流通流動化検討委員会の方から,「信託法改正」に関する意見ということで,やはり部会の方に御意見をいただいておりますので,これについては,ここに御出席の方がおりませんので,内容を御紹介することは差し控えさせていただきますが,今後の検討議論の参考としてごらんいただければと思っておりますので,よろしくお願いいたします。
● それでは,きょうの本来の議題でございますけれども,この信託法改正要綱試案(案)というのを御議論いただくということでございます。きょうの議事の進め方も含めまして,○○幹事から説明お願いします。
● 本日の進め方でございますが,第42番までを議論していただければと思っておりまして,分け方はこちらの方で適宜させていただきますが,基本的には,これまでの提案から変わったところを中心に御説明をさせていただきたいと思っております。
総則関係を最初にやって,信託財産関係をまとめてやりまして,受託者についてはいろいろと議論もあるかと思いますので,これを4つなり5つなりに分けて適宜時間を割り振っていきたいと思っておりますので,よろしくお願いいたします。
● 予定は5時ですけれども,前回アナウンスしましたように,ちょっと延びることもあるかもしれませんので,その点をお含みおきいただきたいと思います。
それでは,早速分けて説明してください。
● それでは,総則関係というところでございますが,まず前提といたしまして,まず資料に記載しております★印の関係でございますが,これはこの規律の中で何が強行規定になるのかというものを★で示しているものでございます。
ここでの対象になります事項は,受益者の権利を信託行為で制限できるかにかかわるものと考えておりまして,信託の構造ですとか枠組みに関する事項,例えば第5の受託者の利益享受の制限ですとか,第8の信託財産の範囲ですとか,あるいは第11の受託者の相続財産からの分離ですとか,こういうものについては,そもそも信託行為がここでいう強行規定か,任意規定かを議論する前提を欠くものと考えておりますし,第3の詐害信託のように,第三者の権利に係る事項についても,やはりここでの議論の前提を欠くものだと考えておりまして,あくまで受益者の権利を信託行為で制限できるかという観点から,★を付しているものでございます。
それからもう一点でございますが,全体を通じてのルールということで,委託者についての書き方でございますが,デフォルト・ルールとして委託者に権利があるもの,例えば第37の受託者の解任・辞任につきましての1の(1)ですとか(4),それから2の(1)と,こういうものにつきましては委託者を明記しておりまして,このようにデフォルト・ルールとして委託者に権利があるものについては文中に「委託者」と明記しております。
他方,デフォルト・ルールとして委託者に権利がないもの,すなわち後ほど説明いたします委託者の権利の別表で×とあるもの,信託行為で付与して初めて委託者に権利が認められるものにつきましては,「委託者」というのを明示しておりません。
例えば一例を申しますと,第12の2の第三者異議のようなものですとか,第23の帳簿閲覧請求権のようにデフォルト・ルールとしては委託者には権利が認められないもの。
損失てん補請求権とか,差止請求権,検査役選任請求権なども同じでございますが,そういうものについては「委託者」と書いてありません。
書いていないから絶対だめだというのではなくて,信託行為の定めで委託者に権利を付与すればいいということで,統一的に御理解いただければと思っております。
以上を前提といたしまして,第1の信託の意義から,前回までの提案からの変更点を中心に御説明いたします。
まず,1の信託の意義につきましては,この2つの要素を信託の意義づけとする点について特段の変更はございません。
2の信託契約の効力というところですが,細かい点ではございますが,前は「信託は」と書いておりましたが,ここを「信託契約は」と直しておりまして,
これは,遺言信託は遺言者の死亡によって受益者となる者の承諾にかかわらず効力が発生しますので,ここから除外されることを明らかにいたしますとともに,前はたしか「当事者の合意」と書いてありましたのを,ここは委託者となるべき者と受託者となるべき者との諾成契約であるということを明らかにすべく,このような書きぶりをしているものでございます。
それから,第3に信託契約の効力発生時における債務の引受けというところでございますが,これも前は「信託設定の時」としておりました。
ここで申し上げたいのは,債務につきましても,信託の効力発生の当初から信託財産に含めることができるということでございまして,遺言信託で債務を含む包括財産を信託するということもあり得るのでしょうが,遺言信託では受託者が職務を引き受けないと債務が移転しないと思われますので,信託効力発生時に信託財産の一部として債務の移転の効果が生じさせることはできるということが申し上げにくいという事情がございます。
そういうことで,ここは契約と同時にということを強調したいために,信託契約ということで限って明記させていただいているものでございます。
なお,セキュリティトラストに係る民事執行法とその他の法令との関係につきましては,従来どおり,引き続き検討をさせていただきたいと思っております。
続きまして,第2でございますけれども,脱法信託の方につきましては従来と変更はなく,訴訟信託の禁止というところにつきましても,現行規定の趣旨を維持するものとするとさせていただいております。
基本的には現行規定の方向で考えておりまして,最終的に当法制審の意見やパブリック・コメントの結果を尊重して決定をすることとしたいと考えているものでございます。
第3に,詐害信託についてというところでございますが,これは前回の提案では,ただし書きで「受益者として指定されたことを知った当時において」と書いてあります。
前回の提案では,「受益者として指定された者が受益者となったことを知った当時」と,実質的には同じ文言でございますが,このような文言を提示して御意見を求めておりましたところ,特に反対がなかったということなので,それで確定させていただいております。
続きまして,次のページの2でございますが,これは「この場合において」からの書きぶりに係るところでございますが,この2といいますのは,詐害信託取消権に準じます信託法上の特別の請求権として受益権の譲渡請求を認めたものであるということは,従来より御説明申し上げてあります。
ただし,前回の提案におきましては,債務者の詐害意思を知っている受益者に対して譲渡請求できるという積極的な書き方をしておりましたのを,このように書きますと,債権者側で受益者の悪意の立証責任を負うのではないかという誤解が生じますので,ここでは受益者側で善意の立証責任を負うものであるということを明らかにすべく,ただし書の形で書き直しているというところでございます。
続きまして,第4につきましては,★印が抜けておりますが,一種,受益者を保護する仕組みの一環でございますので,★印を書き加えておいていただければと思いますが,従来から変更はございません。
なお,部内での検討では,例えば未成年者などにつきましては,当事者が未成年者でも受益者としていいと言っていれば,あえて排除をするまでもないのではないかというような議論もございまして,未成年者などにつきましても,不適格者とするべきか否かにつきまして,身分法関係との調整も併せて検討していきたいと思っていることを付言させていただきます。
次に,第5でございますが,まずこの規制の対象となりますのが固有財産で受益権を取得した場合であることを明らかにする書きぶりとさせていただいております。
前回の会議におきまして,固有財産で取得した場合と信託財産で取得した場合とを区別して考えるべきであるという指摘がありましたことを踏まえ,この記述が現行法9条と同様に,固有財産による取得に関するものであることを明らかにいたしますとともに,ここではこのような地位の兼任状態を許さないという,いわばポリシーを明らかにすることを規定するにとどめまして,信託の終了事由となることにつきましては,別途,第57の1の④と書いてございますが,他の終了事由と併せて信託の終了事由のところに列挙することといたしました。
なお,信託財産で取得した場合についてはどうなのかというご指摘も前回ございましたが,仮に全受益権を取得すれば信託財産はゼロとなりまして,一般には目的不達成により終了することになると思われるわけでございますが,なお再売却を予定しているのであれば,終了させる必要もないと思われるわけでございます。
この場合は,自己株式の取得と同様な状態となると思われますところ,そのときの受益権の行使の可否,議決権とか,そのようなものにつきましてどうなるかというものについては,なお検討していきたいと考えております。
続きまして,信託の公示についてというところでございますが,従来から書き加えたところは(注)の第2文と申しますか,「株券廃止会社の株式に係る公示方法を定めた同条第3項の規定の趣旨は維持するものとする」という点でございます。
前回提案におきましては,現行法の3条3項を維持する見解と削除する見解とを併せて提示しておりましたが,現行法3条3項の公示というのは,確かに信託の登記に比べて,その公示内容には限界がある。
すなわち当該株式が複数ある信託のうち,どの信託に属するかまでは特定できないという限界があるとしても,一定の限度で有用性を認めるべきである。
すなわち,少なくとも当該株式は受託者の固有財産とは異なる信託財産であるということまでは公示できるという点には意義があるという意見が大勢であったと思います。
そこで,現行法3条3項につきましては,これを維持することに結論したものでございます。
第7の裁判所の監督につきましては,現行法第41条第1項の規定を削除するという方向で,前回より提案の変更はございません。
とりあえず,冒頭につきましては以上でございます。
● それでは,ここまででいろいろ御意見をいただきたいと思いますが,いかがでしょうか。
○○幹事,どうぞ。
● 最初に恐縮なんですが,いずれも細かい話なものですから,ちょっとお許しいただければと思います。
まず第1の2なのでございますが,その信託契約という言葉を使った趣旨として,遺言信託等を除くということがあるんだというふうな御説明を伺いました。
そうなりますと,この信託契約という言葉は,契約による信託という意味なんだろうかという気がするんですよね。
信託を設定する契約というふうな債権契約ないしは物権契約みたいなものを考えますと,それが合意によって効力を生じるというのは,ある意味では当然のような気もいたしますので。
そうしますと,遺言信託という言葉との対応関係から言うと,契約信託なんではないかなと。ちょっと言葉が,私の無理解だけかもしれませんが,若干誤解を招き得る言葉になっているのではないかと思います。
2番目に,信託契約と書いてありますのでその言葉を使いますが,合意によってのみ効力が生じるということと,信託そのものの財産的な,信託財産をめぐる法律関係について効力が生じるというところとの関係なのでございますが,委託者と受託者の合意によって,信託設定契約によって,その所有権が委託者から受託者へ移るということになりますと,占有の移転というものがなくても,信託自体が,当該財産が信託財産になって,信託が発生しそうな気もするんですけれども,場合によっては管理・処分を受託者ができる状態にならなければ,信託そのものの信託財産をめぐる法律関係としては発生していないというふうに考えることもできるのかもしれません。
解釈問題として行えばよい問題なのかもしれませんけれども,立法するに当たりましては,本当はもうちょっと明確化した方がいいような気もしますし,補足説明等をお書きになられることがございましたら,若干その点についても御解説いただければというふうに思います。
2番目に,第3なのでございますが,これ受託者の善意,悪意は関係ないということででき上がっているわけですけれども,受託者は単なる導管であってパススルーされるからということとは限らないような気がするわけであります。
つまり委託者が悪意,受託者が悪意,受益者が善意という形で詐害信託の取消しがなされないという場合を考えますと,場合によっては,受託者というのは,他の債権者を詐害することに加担したということで不法行為責任を問われる可能性もあるのではないかと思いまして,場合によっては,補足説明等でお書きいただく方がよろしいんじゃないかというふうに思います。
第5でございますが,続けて申しわけございません。先ほど固有財産の保有する状態のことについておっしゃいまして,かつ信託財産のときはどうかというふうなことで御説明いただきました。
しかしながら,信託財産で保有するという場合には,当該信託財産で保有する場合と,他の信託を信託財産として保有する場合とに分かれるわけでありまして,他の信託の信託財産として保有するという場合は,単なる投資として持っているということですので,説明等の場合に分けてお書きになられた方がよろしいんじゃないかというふうに思います。
最後に第6でございますが,現行法もそうなのでございますけれども,今まで何の異議も唱えていなかったんですが,信託を対抗できないという言い方が本当に論理的に正しいのかというのがよくわかりませんで,当該財産が信託財産であることを対抗できないと言うべきなのではないかというふうな気がいたします。
これも,その説明等で済む問題なのかもしれませんけれども,若干御検討いただければと思います。
以上です。
● 特に第1点目は,別な場所でも議論したときに,多少この案でもって明確でないためにいろいろ質問が出たことがありますので,場合によっては,もうちょっと明確にしておいた方がよろしいかもしれません。
ただ,余り議論はしていないので,そこをどうするかですね。第1点というか,第2番目の点ですか,今,○○幹事が言われた財産権の移転に関する問題というのは,ある意味では暗黙の前提にしていたような気もしますし,つまりこの信託契約があっただけで,意思主義的に信託財産の所有権が受託者に移転するものではないというふうに,私などは暗黙の了解をしておりましたけれども,必ずしもこの案でもってそういうふうに理解しない方もおられるかもしれないので,そこを……
● 私はそう理解しない。
● 事務局としては,むしろ諾成契約というところで,意思表示の合致により所有権は移転すると考えております。
その結果,受託者は忠実義務ですとか,信託財産である物の引渡請求権を取得することになります。
他方,物の管理は確かにできませんので,占有改定というようなものがあれば,委託者に対してしかるべく管理せよということを言えるにしても,原則として,物の管理責任というのは発生しませんし,物の管理を前提とする受益者に対する受益債務の弁済というようなものも生じないと,そのように理解しておりまして,意思主義というところに徹底していいのかどうかというのは,御疑問があるようですので,なお御意見をいただければと思うんですが,事務局側としては,諾成契約である以上は意思表示の合致のみによって,所有権も受託者に移転すると考えておりました。
● 忠実義務,例えば競業禁止義務とか,そういうのがかぶってくるのは当然だと思うんですね,最初の信託契約が設定された段階で。
仮にこれは財産権が移転しなくても,その場合にはこういう場合があるんだろうと思う。
問題は信託財産,どっちみち対抗要件が必要だという場合には,それで解決できるのかもしれないけれども,内部的な義務の問題と対抗要件は要らないような場合ですかね。
● それは物権行為の独自性みたいな,現実の引渡しがあって初めて移転するという……
● それをとるのはちょっと嫌なので,そこはもうちょっと違う説明をしておきたいという気がしますけれども。普通の売買契約の場合にも,純粋に意思主義というのを徹底するわけではなくて,何らかの行為があると,そのときに所有権が移転するという合意をしているという解釈をするので,そういう意味では,その信託財産の管理がなされるときに,信託財産の名義が移転するという考え方も十分あり得るかもしれない。
ちょうど不動産について,所有権が移転するのが登記のときだとか,いろいろな言い方しますけれどもね。
私の趣旨は,ここに書いてあることでもって,どういう立場を前提にしているかというのは必ずしも明確ではないために,やはりいろいろな議論が出てしまって,いろいろな議論が出ることはいいのかもしれませんけれども,ある意味で誤解に基づいた意見が出てくるというのは困るかもしれないという,そういう趣旨ですね。
ただ,今この条文を見ると,私の理解と○○幹事の理解とも違うということがわかったので。
● 意思表示だけで所有権が移転するのではなくて,やはり別の何らかの管理が可能になる状態に受託者が置かれることによって,初めて所有権が移転するというような合意があるというように解釈認定するということでしょうか。
● 実際上は,対抗要件が必要とする場合が多いでしょうから,不動産だとか,そういうものについては余り問題はないのかもしれません。
つまり,占有は相変わらず委託者のもとにあるけれども,所有権は移転していて,例えば現在の16条みたいな,受託者から倒産隔離の効力が生じるかどうかという問題ですけれども,これも対抗要件を必要とするというのであれば,実際上は余り関係ないのかもしれませんね。
● 恐らく,信託の終了のところでも同じ問題がありまして,終了したときに,所有権が直ちに移転するかどうかという問題については,我々はそこは沈黙しておりまして,解釈にゆだねるというスタンスをとっているわけでございますが。
ですから,2につきましてもこういう書き方をしつつも,所有権移転時期についてはあえて明確化していないという解説もできるわけですが,内々の考えとしては,所有権は直ちに移転すると思っておりましたので,ちょっと御説明させていただきました。
● 確かに,終了の場合,全く同じ問題が生じるんですね。
● ただ,もちろん登記のときに所有権が移転するとの意思表示をすることもできるわけでございますが。
● ここでは,これをすべて一から議論し直してどうするかということを決めるのが目的ではないと思いますので,とりあえず中間試案といいますか,パブリック・コメントを求める上で適切な形で表示されているかどうかということを考えた方がいいと思いますけれどもね。
今の点に限りません。今その議論をしましたけれども,ほかの点も含めていかがでしょうか。
○○委員。
● 細かいところで1点意見と,もう一つ,御質問,御確認の点がございます。
1点は,訴訟信託の禁止というところでございますけれども,この中間試案の案というのは,現行法の趣旨を維持するものとするということでございまして,としますと,第2読会で出てきました提案の中で,読み上げますと,「ただし,そのような信託行為をすることについての正当な理由がある場合には,この限りではないものとする」という点が削除されているという,こういう理解でございます。
この点については,一部,弁護士会の代表の方から御意見もございまして議論があるところというのは認識しておりますが,他方,第2読会の方で私の方から削除に対する反対意見を申し上げたところでございます。
したがいまして,ここではその実質内容を議論する場ではないと理解しておりますけれども,いずれにしても,その点について議論が分かれているということでございますので,中間試案で出す段階においては,この点についても一応その選択肢があるということを明記していただければというふうに思っております。
それから,1点,これは今さらながらの御質問なんですけれども,同じく詐害信託の(注1)のところでございますが,「債権者は,債務者に詐害意思のある限りにおいて常に取消しが可能であるものとする」ということでございますが,これは補足説明で明記していただきたいという趣旨もあるんですけれども,挙証責任が一体どちらにあるのかということが書きぶり自体ではよくわかりませんものですので,その点ちょっと御質問したいということと,明確化していただきたいと思います。
といいますのも,やはり目的信託の場合,使い方はいろいろ議論があるところでございますけれども,やはりその安定性によっては,仮にチャリタブル・トラスト的なものの使い方があるのであれば,それの詐害性がどれだけ壊れやすいのかどうかということについて,商品としての安定性というところにもつながるものですので,その点ちょっと議論の前提として明確化していただきたいと,そういう趣旨でございます。
● 今,○○委員がおっしゃったのは,債務者の詐害意思の立証責任がどちらにあるかと。
● おっしゃるとおりです。
● 事務局としては,取消権を行使する者が,債務者が債権者を害することを知って信託を設定した場合であるということを立証すべきであるということを書いているつもりでございまして,そこは一般の民法の詐害行為取消権の場合と同じく,債権者側で債務者の詐害意思は立証しなければいけないと。
それに対して,民法で言えば受益者ですか,ここでも受益者になるわけですか,側で自分の善意を立証するという同じ仕組みで考えているわけでございます。
書きぶりとしてはこれでよくて,補足説明で書いておけばということでよろしいですか。
● できればということですけれども,もし自明ということで,ただ単に私の理解不足ということであれば,別に結構でございます。本席において明確化したということで結構でございますけれども。
● 一応,趣旨は今,○○幹事が説明されたとおり,一応明確にしてあるはずなんですが。
蒸し返すようで申しわけないけれども,さっきのあれは金銭の場合も同じように考えているの,信託財産が金銭の場合。
● 金銭の場合も特に変わるところはないと思っておりますが,どういう点が。
● つまり,委託者が金銭を占有していますよね。それで信託を設定する意思を示して信託契約を締結する。そうすると,金銭についても受託者名義の財産になったということで,倒産隔離されるということですか。
● 金銭については,所有と占有が一致するからという御趣旨……
● というか,意思主義でもって,もう金銭についても所有権は受託者に移転するものだというふうに考えて,それとも占有が残っているので,金銭については所有権は移転しないというふうに考えるのか。
● そこは,金銭は要するにまだ委託者が持っているわけですね。そこについては,金銭の所有権は移転しないのではないかなと考えておりますが,所有と占有が基本的には一致するというところで考えております。
● 特定性があってもね。
● ええ,特定性があっても。
● そうであれば,実質はそんなに違わないのかもしれません。
さっき問題にしたのは,そういう対抗要件を要求しないで財産の移転ができるという財産について,場合によっては債権者を害することになってしまわないかという,そういう問題なので,金銭が恐らく一番問題だと思いますけれどもね。
ごめんなさい,どうぞ,○○委員。
● ここで申し上げるべきか,後の第68の信託宣言のところで申し上げるべきかなんですけれども,詐害信託のことにつきまして,後の信託宣言を認める場合において,一定の要件のもとで認めるという案が1つ示されておるわけですけれども,そこの中では,詐害行為があった場合については,この第3の通常の場合の詐害信託としての取消しということを行わずに,いきなり強制執行の禁止の例外として対応するという案が注に書かれているわけですね。
そこで,実際に同じ詐害行為において,信託宣言の場合とそれ以外の場合で,債権者の取消権の行使について差を設けるということについての何らかの注記なり,補足説明の中などでちょっと言及していただいた方が,ここの問題だけじゃなくて,いわゆる信託宣言における債権者の保護の観点で深い議論ができるのではないかなというふうに思われるんですけれども,いかがでございましょうか。
● そうですね,信託宣言についてはおっしゃるとおり,第68で甲乙丙案と提示しておりまして,丙案については一定の要件として,例えば詐害信託宣言の場合に強制執行を容認するという,しかし,これは1つの提案として書いているわけでございまして,必ずこれをとるかどうかというのがはっきりしませんので,もし,第3の方に書くとすると,信託宣言においては別途考慮の余地があるかを検討するというぐらいのことを書き得るかなと思います。
絶対に緩和するかどうかまだわかりませんので,そのような非常にあいまいな書き方であれば,一応ここに書いておいて,第68も見てくださいねという趣旨を明らかにするということにはしたいと思います。
● ほかにいかがでしょうか。さっき○○幹事が言われた幾つかの点はいかがですか。
信託の公示に関しては,言葉遣いが適当かどうかわかりませんけれども,今まで信託の公示ということで,当該財産が信託財産であることを主張する,あるいは対抗するという言葉,そういう意味で理解はしてきたので,これ自体は恐らく余り誤解はないとは思うんですね。
ただ,言葉の表現として正確さを期するかどうかということだと思います。
それから,固有財産で取得するという件についての御注意も,これはもっともだと思います。どこかで説明するか,しないかは別として。
● 今の第5の点は補足説明で説明させていただこうかなと思います。
あと,公示のところの書きぶりについては,検討させていただきたいと思いますが,御趣旨を踏まえて誤解のないような書き方をしたいと思っております。
● 信託契約というのは,信託を設定する契約のことなのか,契約による信託のことなのかということだけ,ちょっとお伺いできればと思うんですが。
● 必ずしも明確な違いがよくわかりませんけれども,仮に遺言信託を除いて,普通の契約でもって信託が設定される場合において,その信託を設定する契約と信託契約とが,どこが違ってくるということになるんでしょうか。
● 信託を設定する契約が合意によって成立しても,信託は目的物の所有権,占有が移るまで発効しない,効力を発しないという規律は十分に可能ですよね。
● それはだれもとっていない,それは僕もとっていないです。
● いやいや,可能ですよね。だから私にとってみると,信託設定契約が合意によって効力を生じるというのはある意味で当然の話であって,問題は,信託が効力をその時点で発生するかということなんじゃないかと思うんですけれども。
● わかります。そのときのまた信託が効力を発生するということの意味が多少多義的であって,そこはさっき私がいったような考え方と,○○幹事が言ったような考え方があり得ると,そういうことですね。
● 少なくとも,遺言信託という言葉とパラレルじゃないんですよね,信託契約という言葉は。契約信託の方が漢字の順番としてはいいんじゃないかと思うんですけれども。余りこだわるわけじゃありません。
● おっしゃる趣旨はよくわかりました。うまく書き切れるかどうかわかりませんけれども,検討していただきましょう。
○○委員。
● 表現だけの問題なんですが,第5で固有財産で保有する状態が継続した場合という書き方が,現行の9条に比べると非常に例外的で限定的な場合であるかのように読めやしないかという不安です。
まず,固有財産ということがここで初めて出てくるわけですが,当然,信託財産か,固有財産かという前提の理解があると思うんですが,初めて見ると,固有財産というのは何だろうか。
そうすると,固有財産で取得した場合に限って信託は存続させない。現行の9条よりも随分限定されたというように理解されると,意見が適切に出ない可能性がありますので,これは9条との関係を明確にしておいた方がいいのではないかという表現だけの問題です。
● その点は誤解が生じないようにした方がいいと思いますので,表現は考えてみたいと思います。
ほかにここまででいかがでしょうか。
どうぞ,○○委員。
● 1点,第3の詐害信託の(注2)のところなんですけれども,ここに記載されている内容は,受益者が悪意の場合に,現物を受領している場合に債務者への返還を請求することができるということで,こういう規律は必要だというふうには思うんですけれども,民法424条1項の取消権の行使でこれをするという御説明が若干よく理解できないところがありまして,424条でいくということになりますと,受益者が悪意であることが必要になるということになりますし,この424条の場合でいくときには,そうすると取消しの対象が何になるのかというところがちょっとよくわかりにくいところがありまして,この辺はちょっと御説明いただけると助かるかなと思っておるんですけれども。
● ちょっと私も議論の経緯は忘れたけれども,卒然とこれを読むと,民法424条1項の取消権を行使するということの意味ですね,要するに。それがどういう趣旨だったのかというのが。
● 前回から実質を変えているつもりはないのでございますが,424条でいくときには,当然相対的取消しということなので,別に受託者が善意である必要もなくて,悪意の場合であっても,その受益者に対してその取消権を行使することができて,そのときは仮に信託財産で詐害して設定した物が委託者から受託者のもとにいって,受託者から受益者のところにいっているときは,通常の受益者に対する取消しプラス請求ということで,その委託者のもとに返しなさいということをすれば,現行の枠組みの中で解決できるのではないかというふうに,それであくまで相対的取消しですので,その物が債務者たる委託者のところに戻ってくる。
● すると,そのときには受託者の主観的要件というのは……
● いや,別に現在でしたって,例えば受益者,転得者とあるときに,その転得者に対して取消権をやるときに,受益者が善意である必要はないですよね。
それと同じことではないですか。受益者または転得者が善意であるときはこれにあらずというふうに424条では書いてあるかと思うんですけれども,ただし書で。
● 申しわけありません,私の理解がちょっと十分でないのであればよく考えてみたいと思うんですけれども,そうしますと,取消しの対象というのは信託行為自体を相対的に取り消すと--ごめんなさい,先ほどのあれですと信託契約になるんでしょうか。
● 行為自体ではなくて,信託に伴ってなされた財産の処分を取り消す。
● 恐らく問題は,424条を信託の場合に適用するときに,その要件も完全に424条そのものの要件を要求して,かつ取り消される行為が委託者と受託者との間の行為を取り消すと,そういう形でもって,ここで考えているのかということですよね。今,相対的な取消しというのはわかりますけれども,要件としては……
● 要件としては,民法の規定です。
● 民法の規定そのものの要件で,そのもとでやはり取り消すことは取り消すと,そういうことですか。
● はい。ということが,その物に着目して返すというときには,そういうふうに処理すれば足りるのではないかと。
したがって,2の本文で,以前は受益権の譲渡の請求と,それから現物の返還というふうに書いていたんですけれども,現物の返還の方は民法の方でいけるというふうに書けば,信託法で規定すべきは受益権の債務者への譲渡の請求だというふうに書いておけば,足りるのではないかと。
● 必ずしも,まだ僕の理解がよくわかって--どうぞ,どなたか説明していただければ。
● 先に説明じゃなくて,わからないことを伺ってから説明いただくと。
これ,第3の1は詐害行為取消しの特則で,要するに詐害行為である信託契約を取り消すというもので,2の方は受益権が存続するわけですから,信託契約は取り消さないものだという,そういう位置づけではないんでしょうかという質問なんですが。
● 1の方は,受託者に対して請求することになるかとは思うんですけれども,1に通じて,この取消権が行使された結果として,その信託契約全部がなくなってしまうということではなくて,例えば取消権だって,現行法だって民法第424条第1項に規定する取消権を行うことを得ですから,あくまで被保全債権の範囲でなされた処分を取り消すというところの前提は変わらないわけですから,信託自体を取り消して,委託者であることも,受託者であることも全部なくしてしまいましょうということではなくて,信託に伴ってされた財産処分行為の一部を取り消すという考え方であります。
1の取消権が行使されたときに,その信託契約が全部なくなってしまうということを必ずしも前提にしているわけでもないのだということだと思いますけれども。
● 今ちょっと詐害行為取消しとの関係について,私自身が理解しているところとつき合わせていただきたいのですけれども,先ほどのお話ですと,受託者の悪意を要件としないのは,受託者が詐害行使取消しで言えば受益者になり,受益者が転得者の地位になって,かつ受益者と転得者の双方悪意を民法上は要求されていないからというお話で,もう一つ,この場合の取消しの対象となるのは,信託に基づくいわばその履行前の給付行為の部分であるという御説明だと伺ったんですが。
まず,前者について言いますと,受託者が詐害行為取消しにおける受益者に当たり,受益者が転得者に当たるという構造自体がそうとらえていいかというのが,信託の場合問題ではないかという点が,1つは理論的な問題としてはあるだろうと。
さらに,若干一般論的なことを申し上げますと,受益者と転得者の双方悪意は要求しないというようなたしか最高裁の判決があったと思いますけれども,どのくらい確立した判決なのかという問題はあったようにも思います。
それで,私自身はむしろ,受託者の悪意を要求しないというのは,信託の特殊性から,そもそも信託において詐害信託的に,424条的なことをやるときには固有の利益を有しないということで除かれるのかなというふうに理解しておりました。
それからもう一つ,信託に伴って,あるいはそれを基礎としてされた給付行為を取り消すということの意味なんですけれども,先ほどのような受益者,転得者の位置づけをした場合なのですけれども,これ私の誤解でなければ,一般的に民法424条の詐害行為取消しの場合は,転得者との関係でも取り消されるのは大もとのところ,債務者と受益者の間のところは取り消されて,それに乗っている転得者が無権利者になるということで,転得者に対する給付行為の部分,受益者から転得者への部分を取り消すということではないように理解していたのですが,仮にそういう理解が正しいとすると,単純に424条パラレルではなくて,やはり特殊な取消しをここで用意しているという説明になるのではないかという気がしたものですから。
● ええ,そういう感じがしますね。
○○委員。
● 今の○○幹事の後段との関係ですが,前の文章ですと,信託を設定するために財産の処分をした場合というふうになっていて,取消しの対象はその処分であるということが表現からは受け取りやすくなっていたんですが,今回の案ではそこを簡略化して,処分というのがなくなっておりますので,その結果,信託設定自体が取消しの対象になるのではないかというような理解が出てくるんだろうと思います。
ですから,そこはまず明確にした方がいいと思うんです。
さて,それを明確にした上で,果たして一体何が取り消されるのかということになりますと,先ほど○○幹事は給付とか履行というようにおっしゃったと思うんですが,信託設定行為と,それからそれに基づいてなされる財産処分との関係が一体何なのか。
特にその信託契約を諾成契約と見た場合に,それに伴ってなされる財産処分というのが,完全に単なる履行なのか,それとも別個の取消しの対象となる独立した契約なのかというあたりがどうもはっきりしないから混乱が生じると思うんです。
いずれにしても,問題点を明らかにするためには,もとの文のように,財産処分をということを出しておいた方が,議論の対立点が明らかになるのではないかと思います。
● ○○委員,どうぞ。
● よくわかっていないで質問というか,発言するんですけれども,この受益者として指定されたという表現からすると,これは他益信託だけを意味しているのかなというふうに思えるんですけれども,その辺の確認と,もし仮にそうだとすると,金融商品等では自益信託が使われることがほとんどだと思うんですけれども,自益信託については前段だけで,信託設定時に債務者が悪意ですと,転々と譲渡されている金融商品に対して詐害信託ということで取り消されてしまうのかなと,ちょっとわからなくて質問なんです。
その自益信託,他益信託とか,この自益信託の場合の受益権が転々譲渡されたときの悪意,善意とか,あと自益信託の場合は受益権が分割されますから,その場合の関係とか,その辺をちょっとお知らせいただければと思うんですが。
● ちょっと自益信託の部分が,他益信託を念頭に書かれていることはたしかであるんですけれども,自益信託の場合どうなっていくかというところが少しわかりにくいんですが,いかがですか,これは。
● 自益信託の場合に,そもそも自益信託の設定自体が詐害と認定されることがどれくらいあるかという議論はあったかと思うんですけれども,自益信託の設定自体が詐害的になるときには当然債務者も悪意ですし,受益者も悪意ですから,それは取り消せるということになるかと思うんですけれども。
それが,その受益権が転々譲渡されたときには,その受益権を取得した人が取得した時点において善意か悪意かということで考えていくということになるかと思います。
● すると,この指定されたことを知ったというのは,自益信託も前提として受益権の--当初,委託者兼受益者というのは悪意なんですけれども,必ずそれを譲渡する前提ですから,その受益権の譲受人が譲り受けた時点で悪意かどうかで,個々別々に判断していくという,この条文が適用になっていくということですか。
● はい。
あと,○○委員から御指摘のあった前回は処分と書いてあったではないかと,今回,信託というふうに書いたことによってという点については,前回から実質を変えるつもりはございませんで,あくまで信託設定のための処分ということで今回も考えていたのですが,やや表現が冗長過ぎたかなと思って,今回信託を設定したというふうに書けば,それでわかるかなと思って表現をちょっとまとめてしまったということでありまして,もう少しわかりやすく書いた方がよろしいということであれば,ちょっとまた検討させていただきたいと思います。
● じゃ,ちょっと表現を検討していただくことにしましょう。
それでは,次に行きましょうか。
● では続きまして,信託財産関係というところについての説明に移らせていただきます。
まず,第8でございますが,これは文言自体は前回までと変更ございません。
なお,前回の部会におきまして,通常の信託の運用によって得られた財産が信託財産になるということと,非常に例外的な事態によって得られた代償物が信託財産になるということを同一の条文で規定するとわかりにくいのではないかという御指摘がございました。
この点を踏まえれば,例えば1つの案として,「信託財産の管理又は処分その他信託目的の達成のために必要な行為により受託者が得た財産」というのを第1類型,それから「信託財産の滅失,毀損,その他の事由により受託者が得た財産」というのを第2類型として,別個に提案するということも考えられるわけでございますが,これはかなり法制的なマターでありまして,中間試案,パブリック・コメントの段階でそこまで区別する必要はないだろうという考えのもとに,原案のまま書いているということを付言させていただきます。
それから,第9,第10,実質本体には変わりないのでございますが,第9の(注)のところで,ここにも財産の分割に関する規律を設けるという注を書かせていただきました。
前回の提案におきましては,第10の識別不能の局面についてのみ,共有物分割のルールを設けるものとしておりましたが,この共有物分割のルールは第9で共有とされる場合についても必要となりますので,第9の局面でも規律を設けることとしております。
両者の規律内容は,基本的に同じ内容になるかと思われるところでございます。
それから,続きまして第11は,これは何も変更はございません。御異論はなかったところかと認識しております。
第12がちょっとややこしいところでございますが,まず変わったところといいますと,①と②という規律を設けたところでございますが,第12は第31の権限違反行為の取消権のところと密接に関連しておりますので,両者をちょっと絡めながら,まず第10について御説明いたしたいと思いますが,第16回の会議,前回の会議におきまして,第31の信託違反行為の取消しのところで,受託者が信託財産のために行為をする意思を有していることはもとより,受託者との取引の相手方も受託者が信託財産のために行為をしているとの認識を有している場合に限定して第31を規定してはどうかという取りまとめがなされたものと理解しております。
このような取りまとめを踏まえますと,第31におきましては,後ほど御説明いたしますが,受託者が信託財産のためにした行為で,相手方も当該行為が信託財産のためにされたものであることを知っている場合,すなわち両者とも信託財産のために行為したとの認識を有している場合に限定して規定するものといたしました。
そのような第31においての取扱いを踏まえまして,第12の(3)の①のとおりの手当てを行うこととしておりまして,これは要するに両者とも信託財産のためにと認識していたけれども権限外でありましたというときには第31の取消権の対象となりまして,取消権が行使できないもの,あるいはしないものにつきましては,信託財産にも固有財産にもいける。
すなわち,信託財産に対して強制執行できるという規律を書いているものでございます。
同じ趣旨は前回の提案にも書いてあったかと思いますが,第31条について,両者とも信託財産のためにした行為と認識している場合に限定したことを踏まえたものであるということが,解釈上違ってくるところかと思います。
問題は②の方かと思うのですが,まず受託者が信託財産に属する財産に関する権利の設定又は移転,これは典型的には信託財産に属する特定物の売買でございますが,このような行為をした場合におきまして,受託者の取引の相手方が,その行為が信託財産のためにした行為との認識を有していないというときには,それが権限違反の行為だという認識についても当然有しないはずであるということになるわけでございます。
この場合,しかし,当該相手方というのは,その財産が信託財産であるということは認識してはおりませんが,ともかくその受託者が権利者であるところの信託財産に属するその財産を信頼して取引に入ったのですから,その財産に対する相手方の信頼を保護する必要があると思われるわけでございます。
そこで,第12の(3)の②を規定いたしまして,相手方は,この信託財産に属する特定物に対して執行していくことができるということにしたわけでございます。
これに対しまして,例えば,受託者が信託財産のために借入れをしたんだけれども,権限違反であったという場合につきまして,取引の相手方が,受託者が信託財産のための行為をしたという認識を有していないという場合,この場合におきましては特定物を信頼したわけでもありませんし,信託財産を引当てにすることを信頼したわけでもありませんので,信託財産に対して執行を認めるほどまでに相手方の信頼を保護する必要は必ずしもないのではないかと思われます。
そこで,②のいわば反対解釈といたしまして,信託財産に属する権利の設定または移転に当たらない場合,例えば今申し上げた債務負担のような場合には,相手方は固有財産にはかかっていけるとしても,信託財産にはかかっていくことができないということにしたというのが,この②の趣旨でございます。
それから,あと差押えでございますが,従来より,(1)の信託財産について信託前の原因によって生じた権利,(2)の受託者の権限に属する行為により生じた権利につきまして,もう少し細分化して書くべきか,例えば受益債権ですとか,租税債権ですとか,信託財産による所有者責任に基づく不法行為責任ですとか,設定時の債務の引受けによる債権と,そのようなものについてまで細かく書くべきかどうかという点については,なお検討させていただきたいと思います。
それから,注のところでございますが,受託者の不法行為について生じた債権について,信託財産にもかかっていけるかという問題は従来よりございまして,信託財産を保護する観点からの否定説と,債務不履行との平仄から取引的不法行為は含むとする説,信託財産が利益を得ているということを重視して事実的不法行為まで含む説など,種々の説が示されておりましたが,この点についてはなお検討させていただきたいというところでございます。
ポイントは(3)の①と②を,特に②を新たに設定したと,こういう場合だけは信託財産への執行を保護するということにしたというところでございます。
続きまして,第13の受託者の倒産の場合における信託と倒産手続との関係というところでございますが,まずここで説明したいことは3点ございまして,第1は,前回提案におきましては,差止請求権,1の(2)のところでございますが,これを受託者倒産の場合における信託財産の取扱いとして説明しておりました。
破産管財人による処分の差止め,再生債務者等による処分の差止めについて1の(2),2の(2)で提案している点でございます。
このような差止めの制度を設けることについては特段異論がなかったと思いますが,その位置づけを変えたというところにポイントがあるわけでございまして,本来,信託財産の管理・処分は受託者にゆだねられまして,受益者はいわば背後に控えているわけでございますが,現行法は第16条,ここでいうと第12に当たりますが,に相当する個別執行の局面では,受益者が前面に出て異議の訴えにより換価を阻止することが認められております。
これに準じまして,包括執行としての性格を有する倒産手続の局面におきましても,各受益者が前面に出て差止請求権を行使することによって,信託財産の処分を阻止することができるとすることが整合的でありますので,両者を連続的に位置づけることがこの理解を明らかにするということで相当であると思われまして,第12に続けて,第13のところに差止請求権を持ってきたということでございます。
続きまして,第2に,前回の会議におきまして,信託財産の保護をより実効的なものとする観点から,このような差止めの制度を認めることに加えて,さらに受託者が破産したときには,裁判所が職権で信託財産管理人を選任してはどうかという御指摘がございました。
しかし,受託者が適切に分別管理を果たしている場合につきましては,必ずしも信託財産管理人を選任する必要はないと思われますが,信託財産管理人を裁判所が職権で選任することとした場合には,無用な費用負担が受益者に及んでしまうということですとか,信託財産管理人の選任は相当な費用を要するものであることにかんがみますと,選任は受益者の意思決定によるとするのが合理的でありますので,これらの観点から,職権で信託財産管理人を受託者破産の場合に選ぶというのは,必ずしも相当ではないというのが事務局の当面の見解というところでございます。
最後に第3といたしまして,前回の会議で委託者の倒産の場合に,委託者の破産管財人が双方未履行双務契約に係る解除権を行使することができるか否かという問題が提起されていたところでございます。
ところで,信託契約に関連した債務のうち未履行状態にあるものとして想定することができますのは,例えば委託者の債務の局面で言いますと,委託者が報酬を支払う旨の定めがある場合が未払いのある場合の報酬支払債務というもの,それから委託者が一定の事由が発生した場合に,追加的に信託財産を拠出する旨の定めがある場合の追加信託義務,あるいは信託契約締結後において,まだ信託財産の引渡しが未了である場合の引渡しに係る債務などを観念することができるものでございます。
他方,受託者の債務といたしましては,信託事務遂行義務と,あとは法定帰属権利者たる委託者に残余財産を支払う義務というあたりを観念することができるわけでございます。
もっとも通常の信託契約におきましては,委託者が報酬を支払うことですとか,追加信託をするというような特約が締結されることは少ないと思われますし,引渡し未了という観点につきましても,通常の信託契約では締結直後に履行されているだろうと思われますので,これが問題になってくることはまれであろうと思われます。
また,万が一,これらの債務の未履行状態になりまして,破産法53条1項の適用があるといたしましても,これによって契約を解除することは,相手方に著しく不公平な状況が生じることによって解除権の行使ができないと。最高裁が平成12年判決に出した,たしかゴルフ場会員権に関係する判例で,解除権の濫用ということで排斥した事例があったかと承知しておりますが,そのように解されるところでございます。
以上を考えますと,多くの場合については,委託者の破産管財人が解除権を行使することはできないと,特段の規定をあえて設けなくても不合理な事態は生じないと考えられるところでございます。
他方,仮に破産管財人の解除権の行使を一律に禁止するといたしますと,例えば信託財産の引渡しが未了である場合についても解除権の行使が制限されることとなってしまうとすれば,不合理ではないかと思われるわけでございます。
以上の点を踏まえまして,委託者の破産管財人等による解除権の行使につきましては,特段の規定を設けないのが相当ではないかというのが当面の事務局の見解ということでございます。
続きまして,第14でございますが,相殺につきましては,これも特に変更するところはございません。
ただし,(注1),(注2)というところでございますが,これは従来,受託者の権限違反の行為というところで記載していたものでございますが,ここで問題となりますのは,受託者の権限の有無という問題ではなくて,受託者と相手方との間で取引の効果の帰属先について認識が異なる場合についての問題でございます。
特に相殺の場合には,相手方の相殺の規定を保護する必要が高いと思われるところから,相殺のところに位置づけを変えたわけでございます。
ただ,あえて規定を設けなくても,債権の準占有者弁済に関する解釈によって対応可能ではないかという考え方もあり得ると思われますので,規定を設けるか否かについてはなお検討したい。位置づけについては相殺のところに持ってきたということでございます。
第15につきましては変更ございません。
第16でございますが,これは従来,部会では甲案ということでほぼ一致した御意見をいただいておりまして,民法187条の原則と,あとは権利濫用などの一般原則にゆだねていけばいいということであったわけでございますが,部内で再検討いたしましたところ,甲案がいけないというわけではなくて,現行法13条に特に不都合な部分がないのではあれば,あえて削る必要までないのではないかという考えもあり得るのではないかと思われまして,そういう観点から,現行法を維持するという乙案と対置させることによりまして,あとは一般の方の意見を聞いた上で最終的に決定したいということで,両案併記になっているというところでございます。
以上です。
● それでは,ここまでで御議論お願いします。
○○幹事。
● 1点だけなんですが,第12の,これはまさに問題だとおっしゃったところなんですが,1の(3)の②なんでございますが,これはある財産が信託財産であるということを第三者に対抗できるということとの関係についてはどのようにお考えでしょうか。
つまり,不動産ですと,もちろん登記がないと第三者に対抗できなくて,登記を見たときには,それは知らない場合でいいのかという問題にも結びつきますけれども,知っているということになるのかもしれませんけれども。動産等で登記登録がなくても信託財産であるというふうに言えるということになりますと,信託財産のためであることを第三者が知らないで当該財産を購入するというふうにいったら,当然に執行できるのかというと,例えば民法192条とかの適用がないとだめなんじゃないかという気もするんですが。
ちょっと私も頭を整理できていないんですが,もし対抗の関係がありましたら,教えていただければありがたいんですが。
● ちょっと対抗の問題が果たしてここで生ずるのかというのは,我々ちょっと十分認識しておりませんで,特定の財産を信用している場合には,その財産についてかかっていけるというのがここでの趣旨と先ほど申し上げましたが,それにつきましては,その財産について第三者に対する信託の対抗要件を備えている必要が,果たして執行債権者の関係であるのかというと,それがちょっとどういう局面で問題になってくるのでしょうか。対抗要件がないと執行できない可能性があるという御趣旨でございますか。
● 違います。対抗要件がなくても,当該財産が信託財産であることを受益者は取引の相手方に対して対抗できるんじゃないか。
そして取引の相手方は,例えば動産なら何でもいいですけれども,特定物の購入契約が信託事務の執行としてなされたものと思っていないわけですから,通常ならば,当該財産に係る受託者の個人的な契約というのはできなくて,受益者は,当該財産は信託財産だから,受託者が--信託財産はされているからいいのか。
● 僕もちょっと似た疑問を持ったので,続けて便乗しますけれども。ここで問題となっているのは,やはり信託財産であることが,むしろ本来であれば対抗できるというんでしょうか,信託財産であることがむしろ当然の前提で,この相手方,第三者に対しても,信託財産であることは本来は主張できるんだけれども,こういう要件,知らないという要件が第三者の方にあると,そうすると信託財産であるにもかかわらず,かかっていけるようになると,そういうことですよね。
● 信託財産であるにもかかわらず,しかも相手方は信託財産のためにしたということは知らなくてもいけると。それは,そのものを信じているからだということでございます。
● ええ,だからある種の善意取得を使うのかどうかわからないけれども,信頼保護ですよね。そういう規定なんだな。
それで,信頼保護だとすると,こういう知らないというだけの要件でいいかどうかという細かい問題はまたあると思いますけれども,これは議論したんだったっけ。知らないということだけでいいのか……
● 知らない場合は保護する必要はないのではないかというような話がございました。
そもそも権限違反についての善意(無重過失)ということを書いておりましたところ,知らない場合には,そんな善意(無重過失)ということを問題にするのはナンセンスであると,そういう御指摘をいただきまして,改めて考え直したわけでございますが。
それでは,知らない場合は一切信託財産にかかっていけるとする必要はないかなというのが,最初部内では議論したわけでございますけれども,しかし,ある特定の財産を信用して買った人にとってみれば,それが果たして受託者の固有財産であったのか,信託財産であったのかにかかわらず,保護されてしかるべきではないかと。
何の落ち度もないのに,そのものに着目して買った人が保護されないのは,それはちょっとおかしいのではないのかという観点から,特定物の売買のようなものについては,第三者が知らない場合であっても,認識にかかわらず,そのものを引き渡すよう請求することができるというふうにしたわけでございます。
他方,例えば貸し付けたというような場合であれば,それは確かに受託者の財産総体を認識しているかというと,信託財産も受託者の固有財産と勘違いするということもあり得ないではないんですが,やはり保護の必要性という観点からしますと,特定の財産に着目している場合に比べれば,保護の必要性が劣るだろうということで,信託財産に対してはかかっていけないというのがここの考え方で,そういうふうに分けたというのが筋道ではございますが,ちょっと対抗関係というのはちょっと私も理解できないんですけれども。
● 従来のというか,現行法の16条と31条の関係と似ているわけですけれども,債務負担行為みたいのはだめなわけですよね,16条に。
31条の方はもうちょっと広く相手方を保護しているところがあって,その考え方はある意味で発展させている。
典型的には,要するに信託財産の中に入っている,例えば動産を第三者に売却したときに,相手方は特定の財産を買うつもりで買っているわけですね。こういう取引行為が,相手方が信託財産のためにされたものであることを知らないときには……
● 知らなくても。
● 知らなくてもですか。知らなくても,要するにその信託財産に対する債権を持って引渡しを,その当該信託財産についてということなのかな。
● そうですね。当該信託財産に対して,この場合は特定物ですから,引渡し……。
● 要するに簡単に言えば,今のように信託財産に入っている財産を買った人間は……。
○○幹事。
● ですから,例えばAさんがBさん所有の動産を占有しているという状態にあって,そのBさん所有の特定動産を第三者Cに売ったという場合ですよね。それで,Cは当該動産のことをまさに当てにしたのだから,当然に所有権が取れるとか,引渡請求ができるとかということにはならなくて,それをCの保護を規定するのが民法192条なわけですよね。
そうすると,そこには一定の要件が係っているわけですが,信託財産であるときには,確かに第三者所有の動産ではなくて,自己所有の動産であるということで,先ほどの192条の典型的な場合とは異なるわけですが,しかしながら,当該財産が信託財産であるということは,登記登録なくして第三者に対して主張できる状態にある。
主張できるというのは,このときに受託者が主張できるというふうに考えますと,わけがわからなくなるんですが,例えば受益者が主張できる状態にあるわけであります。
そうなると,ここにも本来は192条みたいなものが起こらないとという条文がないと,本来は第三者は保護され得ないんじゃないか。
占有改定による引渡ししかなされていないとすると,判例法理に従いますと,これは保護され得ないんじゃないかというふうに思うわけですし,そうすると,信託だから通常の192条が適用される場面よりも,より保護するということの正当化が何かの形で必要であるということになるんじゃないかと思うんですが。
● ○○幹事の御指摘は,例えば固有財産に対する債権者が,その信託財産たる動産に執行していったときに,通常であれば分別管理していますよと言って,それを証明さえすれば執行をカットできると。
ところが,今回の取引行為のような場合には,信託財産でしたよということを受益者が言ってもだめで,執行されてしまうというところのバランスがとれていないのではないかというような趣旨かなというふうにお伺い申し上げました。
それで,それもいろいろと議論をしたわけではありますけれども,まず固有財産に属する債権者が執行していったときには,その債権者は別にその財産を信頼したというわけではないので,そういう場合には証明ということで対抗できるだろうと。
ところが,ともかく信託財産に属するその財産をというものを信じて取引をしたときには,その信頼は保護していいのではないかと。
192条の適用がまさに適用される場合ではないという場面はそのとおりでありまして,ここでの問題は,この財産を預けてくださいと,預けて管理してくださいとお願いしたその受益者と,それからそれを信頼して取引に入った第三者との利益の利益衡量をどの範囲で行うかという問題かと思いまして,これはもう定型的に受託者に対して預けているのですから,それでその財産だということを第三者というのは信じたのですから,その場合には,これを保護していいのではないかと。
現行31条でも,こういう場合は多分取り消せない,今回の我々の提案でも取り消せない。
取り消せないんだけれども,その執行はできないというような状況にするのではなくて,やはり取り消せなくて,取引は所有者たる受託者との間で有効に成立するという考え方をした以上は,それをやはり執行できるというところまでいけないとおかしいのではないかというふうに考えた次第であります。
先ほど座長が御指摘になりましたように,16条と31条がそろっていないというところは,従来から指摘があったことかと思いますけれども,31条で取り消せないとしたもののうち,信託財産を信頼したと。
とにかくもう信託財産にあるその物を信頼したというときには,192条よりもさらに進めて執行できるというふうにしていいのではないかというふうに,前回の議論を踏まえてちょっと考えたということかと思います。
● わかりやすくするために,ちょっと質問させていただきたいんですが,要するに趣旨は大体わかったような気はするんですけれども,そうしますと,紛争が起こったときにだれが何を主張,立証すればよいということになるんでしょうか。
先ほど○○幹事が言われたAさん,Bさん,Cさんで,Cから強制執行していくんだろうとしますと,Cは何を言い,それに対して受益者なんでしょうか,は何を言い,そしてまたそれに対してCは何を言えばいいのかというのをちょっと整理して教えていただけますでしょうか。
そうしますと,この1の(1),(2),特に(2)と(3)の①,②の意味がわかるんじゃないかなと思うのですが,いかがなんでしょう。ちょっと説明をお願いできればと思います。
● そこに対して僕は答えることはちょっとできませんけれども,前提としてもう1回自分の理解を確かめたいんですが。
これは,信託財産に対する強制執行ということで,要するに16条に相当する現行の規定の問題ですよね。
一定の債権者がその信託財産に対して強制執行していく。この場合,当該第三者が買った信託財産の範囲を超えて,およそこの第三者はいわば信託財産一般にかかってくる債権があるというふうにみなしている。
だから,その分が192条の問題より少し範囲が広がっているわけですよね。そこで債権者が差し押さえをしてきたときにどうなるかという,そういう状況を扱っているわけですね。その上で何を証明して,どっちが何を言うのかということ……
● 受益者等の異議が問題なんでしょうから,正確に言いますと,やはり受益者からまず何を言えば足りるのか。それに対して強制執行をした人間は何を言えるのかという形で整理していただけますと,わかりやすくなるんじゃないかなと思います。
● そういうことですよね。
● まず,権利者の方から執行していくわけですね,特定の財産に。それに対して,受益者の方が,それは信託財産ですという異議を言うと。異議を言うといたしまして,それに対してしかし……
● 信託財産であるというだけで言えるということは,先ほど○○幹事がおっしゃったように対抗できるということですよね,その限りでは。
● 第三者が執行していって,それで受益者の方で信託財産ですというふうに言ったのに対して,第三者の方で,私は受益者が信託財産のためにした取引で,この財産がそういう契約に基づいて取引に入ったのであって,その財産が信託財産であるということは知りませんでしたということを言うと。
12の1の(3)の②の要件に当たりますよということを第三者の側で主張するということになります。
● もう一度おっしゃっていただけますか,ちょっと聞き逃してしまったので。
● 第三者が執行していって,それで受益者の方でこれは信託財産ですよということを主張したら,もう1回第三者の方で,私は12の1の(3)の②の要件に該当しますということを,その権利を主張する第三者の方で証明する。
● 今のことと,12の1の(3)の柱書きの受託者の権限に属しないというのは,どこに出てくることになりますか。
● それは受益者が恐らくまず言うんでしょうね。これはやはり状況はあれでしょう,従来の31条の状況を前提にしているわけですよね。
信託財産であって,それを処分したけれども,その権限違反の処分であって,そういう意味では本来効力は生じないけれども,従来の31条でも相手方が一定の範囲を……
● 執行してきまして,第三者に言うといたしまして,それは信託財産のためにしたけれども,権限外だと言うとすると,今度,第三者の方で,それはしかし自分は受託者個人に帰属するものと思って買ったんだということを主張するというような仕組みになってくるのではないかと。
● この行動としては12の1の(2)が来るんでしょうね,(2)になるかどうかわかりませんが。
要するに,信託財産だと受益者が主張したときに,第三者の側で,いや,これは信託財産に帰属するような行為が行われたんだということを言えれば,それで大丈夫ですけれども,仮にそれが言えないとすると(3)が出てくるという構造という御説明だったわけですか,今のは。
● はい。
● 恐らくシチュエーションはちょっと違って,相手方が信託財産であることを知っているような場合には権限に属するという言い方をするんでしょうけれども,相手方がそもそも信託財産であることを知らないというときには,権限の範囲かどうかということは恐らく言えないので。
そうすると,3の方に来る。しかし,いずれにせよ,相手方は2を言うか,3を言うかでしょうね。その上で,3の問題として何を言うか……
● 普通の人間にとってわかりやすいのは,(3)の②の部分というのは,多分受託者の固有財産に属するものだと思ったという,信頼を保護するのだという方が,多分普通の人間はわかりやすいんだろうと思うんですね。
それが②のような書き方になっているので,ちょっと頭の中で相当大きい変換をしないとわからないという状況になっているのかなと思います。そうしますと,しかし本当に②のような書き方でいいのだろうかという気はちょっとしないではないですね。
そして,受託者の固有財産に属するものと信じたんだという言い方をしてきますと,先ほど○○幹事がおっしゃいましたように,これは民法で言うと192条の問題と近い制度として位置づけられるのかなという気がしてくるとなると,本当に善意要件だけでいいのだろうかという問題が,やはりまた浮かび上がってくるような気がするんですが,いかがでしょうか。
● 大分問題点は明らかになってきたと思いますけれども,ほかの皆さんもいかがでしょうか。
○○委員。
● 先ほどの○○関係官の説明のときに,分別管理されていることを前提に話があったような気がするんですけれども,分別管理は別に対抗要件ではなくて義務だけですので,別に受託者がぐちゃぐちゃに管理していようが,信託財産は信託になると思うんですけれども,それが議論の出発点が1つあったので少し気になった,それはたまたまそうおっしゃっただけなのかもしれませんけれども。
あとも,○○幹事がおっしゃられたように,公示との関係が,今192条との関連で持っていくんだと,要するに対抗関係ではないんだという議論に引っかかっているのかなと思うんですけれども。
そうすると,不動産,動産,債権,動産,債権だけで区別すれば,債権なら準占有者弁済の192条だけじゃなくて,議論になっていくのかなとも思いますし,果たしてそういう整理だけではなくて,何かやはり公示制度に対する特例みたいな意味合いがどうも出てきちゃうような気がしますと,そうすると,せっかく公示の方が緩和されたにもかかわらず,結局信託財産というのは受託者が処分することによって,結構保全が図られなくなってしまうというようなところもあってですね。
あと,もし対抗関係の議論,まだちょっと私はこだわっているのかもしれません。
対抗関係の議論をする場合,通常の場合,対抗というと,債権の譲受人,動産の譲受人でも,差押債権者でも,破産管財人でも同列に扱われますから,この場合だけ,対抗関係で議論する前提であれば,譲受人だけがより優遇されているというような状況も何となくちょっとぴんとこない。
もちろん192条で議論するんだということで全体が整理されれば,それはそれでいいのかもしれませんけれども,という感想めいた意見ですが。
● いかがでしょうか。これは,前からある意味で二転三転している難しい問題の一つだったと思いますけれども。
ちょっと今恐らくいろいろな問題が関連して,公示の問題,対抗の問題,それから要件もこれでいいのかどうかも含めて,ちょっと今とっさに答えるよりは……
● 次回15日がありますので,そのときまでに,今の御指摘を踏まえて,なお書き直すべきかどうか,ちょっと検討して再提示させていただければと思いますが。
● 非常に難しい,かつしかし重要な問題だと思いますので,慎重に検討した上でもう1回御提案したいということにさせていただければと思います。
● 現行法の解釈の問題として,例えば現行法である財産が信託財産であって,それを権限違反で処分をしましたと。
取引の相手方は,それが仮に特定物だったとして,それは信託財産であるという認識は全くないわけですから,当然,権限外であるということについて悪意(重過失)であるはずもないというような場合には,31条によって当然受益者から取り消されるということはないわけですけれども,この場合,16条の世界にいって,現行法はどういうふうに解されているかといいますと,信託事務の処理というところを厳格に解していきますと,もうこれは執行できないんだということになっちゃうんですけれども,その31条では取り消せなくて,契約自体は有効に成立するんだけれども,その執行はできないということは,現行法ではとりあえずそう考えているのか。
それとも,それは当然の前提として,そういうものは執行できるんだというふうに考えているのか。
現行法はどのように解したらよろしいかですが,それがちょっと明らかにこれまで文献,論文,議論等でされてこなかったものですから,とりあえずこう考えてはどうかということで,③と②というのを想定してみまして,○○幹事がおっしゃられた固有財産のためだと思ったということを書くのが普通,信頼したというのが普通じゃないかとおっしゃられたところは,まさにそれを裏から,だから信託財産のためだと思わなかったというふうに変えてみたということで,実質的におっしゃられたことと同じことと書いているつもりではあるわけですけれども。
● もう1点よろしいでしょうか。次回までに御検討いただいて,解明していただきたいということだけなんですが,取消しが問題になるケースでは,多分強制執行が起こったケースで取消しが問題になるようなケースとしては,強制執行が起こったときに,受益者の側が,これは受託者の権限外の行為であって,実際には取引行為が行われたのかもしれないけれども,それを取り消すと言ってしまえば,第三者の強制執行を行う権利が消滅するということになりますから,これでまさしく異議を述べることはできるんだろうと思うんですね,それは1つのルートとしてあると。
もう一つが先ほどのやつで,強制執行が来たときに,いや,これは信託財産だと。
だから,強制執行は許されないのだというルートもあるような気がするんですよね,あるような。
そうすると,これは2つが並立するのかという問題をちょっと考える必要があって,本当に取消しのルートは割とわかりやすいんですけれども,先ほどの信託財産だというようなことで異議を述べるというのが,本当に成り立っているのか,成り立っていないのかというようなことをちょっと次回までに御検討いただいて,御説明願えればありがたいなと。
ちょっとそのあたりの整理をきちんとしておきませんと,何か平仄を合わそうとして,返っておかしなことになる可能性もあるかなという気がいたします。
ひょっとすると,相当議論があったところなのかもしれませんけれども,そのあたり,次回にこちらの頭がすっきりするように説明をお願いできればと思います。
● どうぞ,○○幹事。
● なるべく短く済ませますが,○○関係官がおっしゃった問題というのは,まず第1に,登記登録すべき財産に関しては,悪意とか関係なく取り消すことができるということになりますので,そうなりますと,先ほど第12の1の(3)の②というものについて,単なる知らないという話なのか,登記登録があればそれは対抗できて,知っているというふうにみなされることになるのかという問題が出てくるような気がいたします。
次に,じゃ,登記登録すべからざる財産については,31条と16条はおかしいじゃないかという話なんですが,それはおかしいと思うんですね。
結局,処分という言葉の解釈で合わせようとすると,31条の処分というのは占有改定による引渡しなんかはなく,現実の占有が移った場合だけなんだと,現実の引渡しがあった場合だけなんだという解釈論も成り立ち得ないではないんですが,ちょっとそれは余り妥当な解釈だとも思いませんで,それは多分31条と16条は,取り消せない場合には--ごめんなさい,矛盾しているんじゃなくて,取り消せない場合には,私は引渡し請求は16条でできるんだというふうに思います。その点では○○関係官に賛成なんですが。
そうしたときには,他人の財産を持っていて売買したときには,192条で善意(無過失)という要件とか,占有改定では足りないという要件が係ってくるのに対して,信託財産であるならば,悪意または重過失の場合にだけ限るとか,あるいは現実の占有が移っていない段階でも保護されるというところで,その違いが出てくるわけですが,その違いについて,192条というのはあくまで他人の名義の財産であると。
しかるに,信託に関しては受託者の自己名義の財産であると。だから,違う結論が出てきてもいいんだというふうに説明するか,あるいは合わせるかということが必要となってくるわけであって,○○関係官がおっしゃるように,特定の物を信じた人を保護しなきゃいけませんよねという話は,やはり独立して考えることはできないわけであって,日本の法制度として,いろいろなところに特定の人,特定の物を信用した,特定のものが引当てになるということを信用した第三者の保護の制度があるわけであって,そこともし仮に要件を変えるとするならば,それは何によって正当化されるのかということが,やはり明らかにされる必要があるのではないかというふうに思うわけであります。
● 今の点がまさに問題となる点だと思いますので,それを踏まえて,もう1回整理しておきたいということであります。
ほかの点はいかがでございましょうか。
○○委員から。
● ちょっと1つ,単純な質問なんですけれども,第13の受託者の倒産の場合における部分なんですが,こちらの1の破産のところは★にしてあって,2の再生のところはしていないその意図といいますか,趣旨を御説明いただけますでしょうか。
● ちょっと済みません,こちらの間違いで,これもつけておいていただければということでございます。
● よろしいですか,今ので。
● はい,ありがとうございます。
● 同じく第13の受託者倒産に関連して,先ほどの事務局の御説明がありました委託者及び受託者の倒産があった場合の管財人による解除権について意見を述べたいと思います。
本論点につきまして,私の方から問題提起をいたしまして議論をいただきまして,また事務局からも,その受託者の倒産に関しましては,検討課題の(8)のところで御説明いただきまして,また委託者の倒産に関しましては,先ほどいろいろ実務の観点及び判例の観点からの御説明をいただいたところでございます。
そういう点からしまして,大体は実務的には安心できるのかなというふうには思っております。
ただ,これもどこまで追求するのかという話でございますけれども,やはり実務の観点から,その説明だけで十分安心できるのかどうか。
または信託というものについて,やはり倒産隔離というのが主要な要素であるということであるのであれば,ここであえて双方未履行双務契約の解除に関して,破産法の特則になるのかもしれませんけれども,双方未履行双務契約を破産管財人が解除できるという規律は適用されないということを明記してもいいかなというふうに思っております。
これについてはもちろん,いや,そこまで必要ないという,そういういろいろな議論があると思いますものですから,またその要否についても十分この本席においてもまだ議論はされていないと思いますので,そうしますと,この時点では,中間試案のパブリック・コメントのときには,こういう規律の明確化ということについてどうかということも1つ提案として書いていただければとありがたないというふうに思っておるわけでございますけれども。
● いかがでしょうか。先ほど一応この13のもとでどういうふうに考えるべきか,これ直接は触れておりませんけれども,委託者の倒産についてはどういうふうに考えるべきかについての見解は今まで議論してきたところを踏まえながら,先ほどのような説明があったわけですが,さらにもうちょっと明確な形で意見を聞く際に書いた方がいいということですね。
● パブリック・コメントに載せるということ自体は別に問題ないかと思うんですけれども,1点だけ確認させていただきたい点というのは,先ほどこちらから申し上げたのは,基本的には契約による努力で回避可能でしょうと,あるいはさらには,その判例まで踏まえれば,ほとんど大丈夫な場合が多かろうということは申し上げたわけですけれども,他方で,じゃ,完全に解除権を適用除外するということの説明が容易なのかというと,そこはまた倒産には倒産の方の理由といいますか,双方未履行双務契約の解除権を認めた理由というのがあると思いますので,一律に解除権を排除するというのは,説明は容易ではないということも,私どもとしては申し上げたかった点ではあります。
ただ,それを踏まえてもなお,やはりパブリック・コメントで聞いた方がいいという御趣旨であれば,載せた方がいいのかなとは思いますが。
● 多分2つのレベルだと思います。おっしゃるとおり,大層の話としては,従前の判例等の確認をするという意味で,これ立法的には非常に難しいかと思うんですけれども,明確化,確認的な意味として行うということもあるわけなんですが,もう一つのレベルとしては,先ほど申しましたように,信託というのはその倒産隔離というのが非常に重要なものであるということであれば,あえて破産法の特則として,これについてはかかる解除権というものはもう適用がないということを明確にする。
つまり,従前の判例等,また実務的な議論を超えて,倒産隔離を重視するという立法を創設的につくるということについてどうなのかということを世に問うということが必要ではないのかなという意見でございます。
● 私から言うべきことじゃないかもしれませんけれども,信託もいろいろなところを乗り越えるというんでしょうか,民法とも違うようなルールをつくったり,倒産法関係の破産とか,そういうものの考え方のいわば例外を設けたりするということはもちろん不可能ではないんですが,恐らくなかなか倒産は倒産の方でもって,そういうことでは困るというような強い意見も出る可能性があって,なかなか出しにくいのではないかという感触を持っております。
○○幹事,どうぞ。
● 今の点について2点申し上げたいのですが,まず第1点は,解釈上,仮に解除権というのはめったに発生しないと,あるいは類型的に発生しないという解釈論をとるとしても,確かに破産法では,この改正で56条という対抗要件が,賃貸借については53条で適用しないという明文をつくって,この場合にははっきり解除権は発生しませんという規律をしていますので,そういう規定ぶりはないわけじゃないんですけれども,しかし,ほかにも解除権って発生しないんじゃないかと言われている類型のものはあるわけでありまして,そういうものとの対比で,信託契約における委託者破産の場合は解除権が発生しないというルールを,その条文で書くことが,果たして法制上バランスがとれているかということを考えなきゃいけないだろうというのが1つであります。
それから2つ目は,先ほど御説明があったことの事例のいわば裏返しになるんでしょうけれども,解除権って類型的に発生しないと言っちゃっていいんだろうかと。
つまり契約だけ結んで何もまだ履行していなくて,管財人はどう考えてもこれは負担だと思っていると,委託者の財産状態が悪くて。
こういう場合がおよそないかと言われたら,実際はないのかもしれないですけれども考えられるわけで,解除権を類型的に発生させないということ自体が判断としていいのかどうかだと思いますので,パブリック・コメントに載せて,委託者破産の場合の規律の明確化をする必要があるかどうかを試案本体あるいは補足説明で聞くことがよいのではないかと思いますが,やや慎重に考えた方がいいかなという印象を持っております。
以上です。
● ○○幹事がおっしゃったとおりだと思っておりますし,私自身は事務局の御説明にあったように,解釈によるということでいいんじゃないかというふうに思っておりますけれども,仮に制約するといたしましても,先ほど例に挙がったようなものは,むしろやはり解除権を認めるべき場合もあるのではないかと思われまして,もし制約するとすると既に現実に引渡しがされて,受託者による運用等が開始しているとか,何かもう一つ限定を付すことになるんじゃないかと思われまして,もし仮にパブリック・コメント等にもその旨を書くとすると,仮にそういうことを置くとすると,どういう限定が必要かというようなことまで聞いていただく必要があるんじゃないでしょうか。だから,繰り返しますが,私は解釈でできるのではないかと思っております。
● 私も○○,○○両幹事に賛成でして,破産法53条については,いろいろなところで例外を認めるべきだという意見があちらこちらへ出てくるわけですが,それを一つ一つ類型化して規律していくということはかなり難しいわけでして,ここでも委託者破産の場合だけを取り出して規律するというのは,どうも全体として見るとバランスがよくないのではないかなと,解釈にゆだねるということでいいのではないかと思います。
● 第12の2の強制執行に対する受益者等の異議というところですが,これ異議を言えるのが受益者と受託者ということで委託者が抜けていますが,それについては先ほどの説明でデフォルトとしてないだけで,入れようと思えば入れられるんだということで,それでいいと思うんですけれども。
民事信託で受益者が知的障害者のような場合に,もう受益者から異議は期待できないと。
受託者が例えば倒産状態で何もできないというような場合は,やはり委託者が異議を出すしかないということが想定されますので,いずれにせよ,委託者が異議を言えるような形態もちゃんとできるということがはっきりわかるようにしていただく必要があって,この★印が強行規定的なものだってぱっと理解しちゃうと,あれという感じになるんですが,受益者に不利な定めを強要しないという趣旨で,委託者に異議を言えるようにすることが受益者に不利な定めかどうかとか,それをとにかく考えなきゃいかんということになっちゃいますので,何か一言,そういうのもできますよというのを書いておいていただけるといいかなと思ったんですけれども。
● いかがですか。最初の一般的な説明,委託者の扱い方と関係しますけれども。
● 委託者,今ありました2点のうち,恐縮ですが,後の方は委託者に権限を付与するのは当然受益者にも有利だと思っておりますので,あえて書くまでもないのかなとは思いました。
他方,受益者が能力的に問題があるとか,要保護性が強いという場合があるということですが,我々の提案では,後の方になりますが,信託管理人制度の拡充というところで,そういう受益者のためには受託者監督人というような制度を設けることができるということを提案しておりますので,必ずしも委託者にその権限を当然に付与するということにしなくても,原則どおり,信託行為があれば付与することにしておいて,必要がある場合には,このような受託者監督人のようなものを選任すると。
これは選任権者は利害関係人ですよね。利害関係人ですから,だれであっても必要があると思えば選任請求はできるわけですので,そちらをもって対応すればいいのではないかなという気がしておりますので,あえて規律を逆転させるまでの必要はないという気がしております。
● いずれ,もうちょっと細かいレベルで,この試案といいますか,案のところで議論しなくてもいいと思いますけれども,今の場合,成年後見制度を発動させることももちろん……
● だれがということですか。
● 今の受益者について。
● それはできますね。
● そういうことの議論もどこかではされていると思いますが,成年後見の方,私は両方どちらも選択的にできるんだと思いますけれども,成年後見の方で後見人を選ぶということもできるし,今の何でしたっけ……
● 受益者監督人でございます。
● 受益者監督人ですか,そちらを選任することでもできる。しかし,どっちがよろしいかということについては,また第2ラウンドとして,もうちょっとこれから議論した方がいいんだと思いますが。
そういう形で,受益者で自分でみずから権限を行使できない者については,一応制度はあることはあるということだとは思いますが,いかがでしょうか。あるいは何か。
● やはり弁護士会で議論したときも,そういう制度がありますねという議論もあったんですけれども,といっても,通常設定するのは生前,まだ生存中なわけですから,委託者がまさしく自分の障害者の子供,受益者たる子供に対して最もふわさしい監督といいますか,いざというときの権限があることは何も失わなくていいんじゃないかみたいなのが大層を占めたのと,あと手続規定だと思うので,当事者適格の問題があるので,デフォルト・ルールとしての云々という冒頭のお話はわかるんですけれども,ここではっきり書いておかないと,当事者適格なしということを言われてしまうのではないかというふうな議論もございました。
● 確かに,委託者は何といっても,少なくとも,当初--当初からという場合はまたちょっと別かもしれませんけれども,委託者が少なくとも受益者を選んでいるというような場合には,受益者についての一番の利害関係を持っている可能性が高いですから,委託者が出てくること自体は全く問題ないでしょうね。
ただ,デフォルト・ルールといいますか,最初から書いていないとできないということですよね。
● 信託行為で,最初から変更とか,信託行為に書いていないと……
● 委託者の場合は。そこが1つ制約になるかもしれませんね。
● さっき言ったのは,デフォルトで委託者を入れた方がいいと,そうおっしゃっているわけではないのでございますね。
● そうですね。書いておかないと,契約で入れたとしても,手続論としては,契約で入れたから当事者適格が生じるわけではないと。
ですから,信託行為に入れれば,当事者適格ありますことを明文化しておくことが重要なのかなと。
● それはおっしゃるとおりだと思いますけれども,そのあたりは委託者の方の権限のところで,表の形になっているのでよく読みにくいかもわかりませんけれども,その中で別段の定めを置いて権利を行使できますということを注とか表とかで記載しているところでございますので,合わせて読んでいただければわかるということにはなっているかと思います。
もちろんこれ条文ではございませんので,全体としてわかりやすい試案ということにしなくちゃいけないとは思うのですが。
逆に,その委託者を1つずつ書いていきますと,信託行為に定めがある場合に限るというようなこともいろいろ出てきまして,非常に読みにくくなったものですから,とりあえずそういう整理をさせていただいたということでございます。
補足説明の方で記載することは十分可能でございますので,それでよろしいのではないかと。
● よろしいでしょうか。今説明の中にもありましたように,これに関しては,むしろデフォルト・ルールで,つまり信託行為がなくても委託者がいた方がいいんだという考え方ももちろんあり得るのかもしれませんけれども,すべての場合にそれが望ましいかどうかというのは,必ずしも言えないかもしれない。
つまり,最初から知的障害といいますか,受益者自身が自分で権限行使できないような場合には,これは逆に恐らく委託者は自分の権限を留保するような形で入れると思いますけれども,そうでないごく普通の信託において,後から受益者が権限行使できなくなったときに,デフォルト・ルールで委託者が入ってきていいのかというと,そこはまさに委託者と受益者の間の利害の対立の問題として,そう簡単に言えないところはありますよね。
ほかにいかがでございましょうか。--よろしいですか。時間もちょうど3時になったので,一たんここで休憩しましょうか。
それでは,15分休憩いたします。
(休 憩)
● 時間になりましたので,再開したいと思います。
また幾つかに区切ってということですので,○○幹事からお願いします。
● では,受託者関係に入りますが,ちょっと1個ずつが割と重たいものですから,信託事務遂行義務から信託事務処理の委託までご説明を申し上げます。
第17と第18でございますが,これは,これまでは善管注意義務等についてとして両者を含めておりましたが,受託者の信託事務遂行義務と信託事務処理に当たっての注意義務の基準というのは明らかに違う問題でございまして,現行法でも,4条は前者の問題,20条は若干あいまいではありますが,一般的には後者の問題と解されております。
そこで,ここでも明確に分けて規律することが相当だと考えまして,第17と第18と分けているところでございます。
続きまして,忠実義務等についてというところでございます。
まず,表題でございますが,1のところで公平と書いてございますが,ここでは従来,公平義務というのを別途取り上げておりましたけれども,一応合わせて書いておりまして,忠実義務に関する1,2,3,4,それから公平義務に関する1,5を合わせて規律しているものでございます。
今回非常に丸めて書いておりまして,むしろこれの方がわかりやすいという方もいるのかもしれませんが,まず2の(1)でございますけれども,受託者は,受益者の利益と自己または第三者の利益とが相反する行為をしてはならないものとすると。
これは従来言われておりました,いわゆる第1類型として,自己取引で受益者と受託者間の利益が相反するもの,例えば受託者が信託財産を購入するとか,信託財産に権利を設定するとか,そういうものでございます。
それから第2として,前回まで言われておりました信託財産間取引で,受益者間の利益が相反するもの,受託者が複数の信託財産を受託している場合。それからもう一つが,いわゆる第三者間取引と言われておりましたものでして,そのうちの1つは,受益者と受託者の利益が相反すると。
例えば,受託者が自己の債務のために第三者に信託財産を担保に供するというようなものがありますでしょうし,もう一つが,受益者と第三者の利益が相反する場合。
これは典型的には,信託財産を受託者が直接第三者に安く売ってしまうというような場合とかがあると思います。
このように,利益の相反関係というのは,受益者と受託者間,受益者と第三者間,受益者・受益者間とあるわけでございますが,それらを全部まとめて,この(1)というところに言い尽くしているつもりでございます。
それから,3の競合行為の禁止というところにつきまして,(1)が今回のパブリック・コメントでの提案でございますけれども,これも従来は,受益者と受託者または第三者の利益が相反する場合と,それから受益者と受益者間の利益が相反する場合。
後者は,複数の信託を受託して他の信託の計算でやった場合でしょうし,前者の方は,受託者が受益者に信託財産に属するべき機会を奪って,例えば有価証券を購入して利益を得たというような場合が典型だと思いますが,そのようなものをすべて含めて競合行為の禁止というところで挙げているつもりでございます。
若干,細かいところに入りますと,まず例外の2の(2)の③で,受益者の利益を害しないことが明らかであって,かつ受益者がその行為をすることについて合理的な必要性が認められるときと書いておりますが,これは受益者の利益を害しないことが明らかであるときに,受託者がいつでも自由に自己取引ができるというわけではなくて,受益者の利益を害しないことをもって直ちに自己取引等が許容されるわけではないという趣旨を明らかにするという観点から,合理的必要性という要件をここに書き加えているというところでございます。
それから,次に4の利益取得行為の禁止につきましては,これまでどおりの甲乙丙案を提案して,意見を聴取したいと考えているところでございます。
それから,5の(1)でございますが,これがいわゆる公平義務について規律しているところでございます。例外要件もあわせて,公平義務の観点をここにまとめて書いているということになります。
なお,ここには書いていない点で1点補足でございますが,受託者が受益者から受益権を取得する行為についてどう考えるかというご指摘がありまして,一方では,受託者の忠実義務は信託事務,すなわち信託財産の管理処分の対象である信託財産にかかわる行為に関する問題であって,受益権に関する取引については忠実義務の問題とはしないという考え方と,受託者と受益者の間における受益権に関する情報量の差異や,受託者は受益者のために行動しなければならないという点を重視すると,受益権の取引についても忠実義務の問題とする考え方がございました。
この受益権の取得行為が忠実義務違反行為になり得るか,なお検討したいと思うわけでございますが,ただ,この場合,取引の相手方は受益者本人でありますので,当該取引が詐欺等によって取り消される可能性があるというようなことは別といたしまして,受益者本人の同意がある以上,少なくとも真意の同意があれば,忠実義務違反の問題はいずれにしても生じてこないのではないかという気もいたすところでございます。
もし御意見がありましたら,補足説明で書くことかと思われますが,いただければと思うところでございます。
次に,第20の忠実義務違反等の効果でございますが,これも忠実義務違反と公平義務違反とを併せて規定しているものでございます。
まず,1の①でございますが,いわゆる自己取引と信託財産間取引は無効とするものとするといたしまして,行為の有効・無効は,第三者の注意や故意過失と無関係に判断すると。
他方,受託者の忠実義務違反等を理由とする損失てん補責任等については,あちらが故意過失があるというのが原則になっておりますので,それと併せて過失責任であろうと。
もちろん立証責任は受託者が負うわけでございますが,過失責任だろうと考えているということを付言させていただきます。
それから,②は従来どおりでございまして,③につきまして,ここに①の取引に係る信託財産に関する受託者と第三者との取引というのは,直接想定しておりますのは,まず信託財産Aを受託者Bが自己取引で買いましたと。
これは①の取引というところによりまして無効でございますが,そのように無効であるにもかかわらず,その信託財産を第三者に売ったという場合,言ってみれば,転々譲渡のような場合をここで書いている趣旨でございます。
実は,ここで抜けておりますのは,受託者が信託財産を直接第三者に売ったという場合が抜けているわけでございまして,そのようなものにつきましては補足説明で書くつもりでおりますが,その③のところにもしもやはりきちっと書くべきだということであれば,そのようなことでちょっと書きぶりを改めて,受託者が信託財産を第三者に売却した場合,信託財産について第三者と取引をした場合とか,1の取引に係るという要件をかぶせないような書きぶりを考えていくべきかなと。
補足説明で書くべきか,本文で書くべきかなどについて,ちょっと検討しているというところでございます。これは,3の③でも同じということになります。
それから,3でございますが,これが公平義務違反の効果について定めたものでございまして,①にあります信託財産間取引というのは,あえて申し上げるまでもないとは思いますが,受託者が複数の信託を受託している場合における他の信託財産との取引ということで考えております。
公平義務違反とは関係のない信託にとってみれば,別の信託の公平義務違反のため無効というのは厳しいのではないかと。
第三者との取引と同様に扱うべきではないかという考え方も示されているところではございますが,この場合,同一の受託者内の取引でありまして,第三者との取引に比べて取引安全の要請が低く,かつ,仮に第三者取引として取り消すべき行為としますと,だれの悪意(重過失)を判断すべきかという問題も生じてくると思われますので,この場合は信託財産間取引についても無効と考えているところでございます。
最後に,利益吐き出し責任でございますが,これまでと同様,甲案と乙案の両論併記とさせていただいておりまして,難しい問題でございますが,このままパブリック・コメントに付させていただきたいと思っているところでございます。
次に,分別管理でございますけれども,まず1の細かい点でございますが,これまでは,信託財産は固有財産及び他の信託財産と分別して管理しなければならないものとするとしておりましたが,「信託財産は」という始まりがどうかなという気がいたしましたので,「受託者は信託財産を」という書きぶりに改めているというところを付言させていただきます。
それから,11ページの2でございますが,これは,これまでは金銭については分別管理義務の例外として位置づけておりましたが,金銭についても,あくまでも分別管理義務の対象ではあって,ただし帳簿管理の方法をもって分別管理義務を尽くしたと考えればよいのではないかということで考え方を改めまして,実質的には変更はないんですが,帳簿をきちっとつけていれば,分別管理をしたことにすると。
分別管理をしなくて帳簿をつけるというのではなくて,考え方を改めたという点でございます。
次に,第22の信託事務処理の委託についてというところでございますが,まず一番最初,1の出だしでございますけれども,本提案が現行法の自己執行義務につき方針転換をしたものであることが明らかになるように,現行第26条1項に定める自己執行義務を見直しというのをうたったというところでございます。
次に,「信託行為の定めによる場合」というのを新たに追加しております。
これは信託行為で委託を許容する旨の定めがあるにもかかわらず,例外的に委託が不相当とされる場合がある可能性があるというのでは,現行法よりかえって厳しくなる懸念があるというところの指摘があったことを踏まえまして,現行法と同様に信託法に定めがあれば,常に委託可能であるという趣旨を明記しているものでございます。
次に,太字の2でございますが,従来は甲案だけだったのでございますが,新たに乙案というものを加えております。前回の部会では,甲案として,選任・監督のみを提示しておりましたけれども,選任・監督だけでなく,すべての責任を負うことをデフォルト・ルールとするのが当事者の意思にかなうのではないかとか,選任・監督に責任を限定し,かつ26条3項を削除するということになりますと,受益者の保護が現行法に比べて後退するのではないかという指摘がされました。
そこで,受益者としては,第三者に適法に委託した場合であっても,最終的な履行まで責任を負うべきであり,特に第三者が受益者に対し直接に責任を負う旨の26条3項を削るのであれば,それとのバランスから受託者の責任を重くしておくべきであるという考え方もあるというところに照らしまして,甲案のほか,乙案を新たに併記させていただいたものでございます。
あとは,3については従来どおり,これは削除するということで,2の方で検討したいと考えているところでございます。
● それでは,ここまでで御議論いただきたいと思います。
○○関係官,どうぞ。
● 個別論点というよりは,若干一般的な話で恐縮ですので,最初に話させていただきます。
信託業法を所管している立場としまして,この信託法が柔軟化しまして任意規定化するということは,基本的に望ましいと思っています。
というのは,受益者保護というのが大事であると同時に,信託が自由に使われ,いろいろな形で多様な形で使われて,より取引が発展していくということが,マクロの日本の金融とか経済にとって望ましいことだと思っているからでございまして,そういう前提でお話ししたいんですが。
信託業法は行政法規でございますので,基本的には,そのルールを定めた場合強行規定になりまして,それに反した人については行政的なサンクションでいくということになるんですけれども,昨今,金融証券で言われている部分のエンフォースは,行政処分でやっても余り効果がないんじゃないか。
特に何らかの形で一般投資家と言われている方が被害を受けたときには,民事的に損害を取り戻せると,あるいは不当に得た利得を吐き出させるとか,そういった形でのエンフォースの方がより効果的だという御意見,それから行政だとリソースが限られているので,十分な被害救済がされないということで,いわゆるプライベートアトーニーというのを日本ではなかなか導入できないみたいなんですが,それもわき見に見て,一般人がそのルールを守っていただくような手段があった方がいいという御意見もあります。
最初に申し上げたとおり,任意規定化に基本的に賛成で指示しているということでありますので,決してこれでどうこうということではないんですが。
そうしますと,行政のルールがあるから,受益者保護はそっちで図りましょうというふうにはなかなかいかなくて,受益者保護のためには,やはり民事法規で十分なものができた方がいい。
それは商事だけ,あるいは業としてだけじゃなくて,一般のルールも含めて一般法ですので,おのずと業法のようなハイスタンダードなものにはならないと思いますが,そういった考え方で幾つかチョイスが示されているところがあります。
あるいは,信託協会からいろいろな論点が示されていることがあって,個別の話は今後業界調整の後の話なものですからコメントはいたしませんが,全体的な哲学としては,民事的な効果,特に受益者の保護の効果というものを少し念頭に置かれて,いろいろ御指針を賜れると,マーケットの活性化なり,自由化の中で効果があるのではないかというふうに考えている次第であります。一般的な話で恐縮でございます。
● どうもありがとうございました。非常に重要な指摘だと思いますので。今のことは,別に強行法規をふやせということを意味するわけではなくて,そのサンクションとしてのところを十分にせよということにつながる……
● デフォルト・ルールの設定であるとか,あるいはその効果の考慮に当たってということであります。
● どうもありがとうございました。
ほかにいかがでしょうか。
● 弁護士会で議論したところで大きな話だけのところなんですけれども,忠実義務のところで,法令及び信託行為の定めに従いというふうに書いてありまして,例えば信託事務遂行義務ですと信託の本旨に従いと,こう書いてありまして,やはり忠実義務というのは先ほどの御発言でもありましたように,信託の根本みたいなものですから,これは信託行為の定めに従いということよりも,やはり信託の本旨に従いとか,その方がより適切ですし,他との平仄もありますし,なおかつ,信託行為の定めの方は,第19の2の(2)の①の方で信託行為にその他許容する,要するに信託行為の中で具体的に書くこと,また軽減できるような書きぶりになっておりますから,その方がよろしいんじゃないかというような議論がございました。また,私もそう思います。
それから,これは個人的見解なんですけれども,公平義務と忠実義務,法律によっては一緒に書いてあるものもありますけれども,これを並立的に並べることというのは,単に表現だけの問題なのかどうなのかなというところもあります。
今まで別途の議論として議論してきたところということもありますしというのが第2点目。これはどっちがいいということではなくて,単にそう申し上げるだけなんですけれども。
あと,以前これが議論になったときも,この目的とか,結構強いんじゃないかというような議論もあったと思うんですけれども,害する意図とか,それぞれ出てきますけれども。
この辺も前回のこの場での議論でも,ちょっと主観的要件が強過ぎるんじゃないかという議論もあったと思うので,何か選択的な提案といいますか,もうちょっと軽めの--軽めといいますか,義務が十分履行されるような提案というのもあってもよろしいのかなということ。
最後にもう一つ,何度もこの場で議論ありましたし,あと○○委員の方からもこの場でも,また信託法学会の場でもありましたけれども,一般的免除というものはもともと認められるような筋合いのものではないという話もあったと思うんですけれども,その辺はこの提案の中で書くのか,補足説明の中で書くのかわかりませんけれども,柔軟化ということで信託行為を定められる場合は別ですよというところで,一般的免除が認められるようなものではないんだというあたりも必要なのかなと。
それは翻って言うと,先ほどの忠実義務のところを,信託行為の定めに従いというよりも,法令及び信託の本旨に従いとかというふうに変えていくことで,多少はカバーできるのかなというふうに思います。
とりあえず大きなポイントだけ。
● いずれも重要な御指摘でありますが,皆様の御意見はいかがでしょう。
● 第19,忠実義務等及び第20,忠実義務違反等の効果に関して意見2つと,それからちょっと確認というか,御質問が1つございます。
先ほどの○○関係官のお話にも関係するわけなんですが,総論として,やはり○○関係官のおっしゃられたこと,個人的には非常に賛同するところがあるわけなんですが,私のこれからの意見というのは,それを踏まえてということになるかもしれませんが,やはりそうしたときには,そのルールの明確化,それから当該ルールの妥当性といいましょうか,過度なルールづけであれば,その実務に効果がありまして,ゆえにバランスのとれた合理的なルール化を目指したいと,そういう意味で,この19,20について本席において議論したところでございます。
その点,これは前回も申し上げたところでございますが,2点意見ございまして,1つは,総則のところでございますけれども,総則については効力規定とするということを前提とした規定ぶりだというふうに思っております。
そのときに,それを効力規定とするのであれば,例外規定ということを明確化すべきであるというお話を申し上げました。
その点,本件については法令及び信託行為の定めに従いということで,信託行為について別の定めがあるのであれば,それは別のものであると,例外になるというようなことにも読めるとは思うんですが,ただ,例えば19の1の(2)の①,②,③のような例外規定というのが,第1の類型に当たるのかどうかというような,その例外規定の範囲についてまだ明確ではないのかなというふうには思っております。
また,これも前回の議論と同じことを繰り返すわけなんですが,第19の1と,それから2,3,4,5の関係がちょっと不明確であると。
例えば2のところの頭書きのところに,3の競合行為を除くというふうに書いてございますが,もし1と2以下の関係が,2,3以下に係る部分については1は含まないということであるのであれば,1の受託者の忠実義務等というところで括弧して,2,3,4,5の行為を除くというようなことで,もしそれを意図されているのであれば,それを明確化していただいた方がよろしいのではないかというふうには思っております。
それから2つ目でございますが,今回,忠実義務とそれから公平義務を一つの規律として整理されたということでございまして,これは私も精査しておらないんですけれども,そういう整理は可能かとは思います。
ただ,やはり前回から問題視と言いましょうか,ちょっと疑問視しています第20の4の利益吐き出し責任ということがどうなるのかということに,今回の整理について不明確になっているということでございますので,その点ちょっと申し上げたいんですが。
私の理解によれば,従前の議論というのは,その公平義務に関しては,利益吐き出し責任というのは余り明確な議論として出てこなかったと思っております。
今回それを改め,ここの書きぶりでも受託者が第19に違反することにより利益云々というようなことが書いてございますので,これは公平義務違反の場合の場合でも,特則としてその利益吐き出し責任が出てくるというふうな理解でおるわけですけれども,それはこの審議の流れからいかがなものかなというふうには思っております。
もちろんパブリック・コメントでそういう意見を聞くということも正しいかと思うんですが,ただ,そうするのであれば,やはりここの点については,忠実義務の問題と公平義務の問題と別に聞くということも一つの案ではないのかなと思います。
と申しますのも,公平義務において利益吐き出し責任が出てくるという場面というのは,なかなかちょっとにわかに想起しにくいということもありまして,そういう意味で,そもそもここに一律に規律をするのかどうなのかというのは,ちょっと疑問に思っております。
最後に,これは質問でございますが,これは前回の議論の不連続性の話でございますけれども,検討課題(10)のところでの忠実義務等の効果のところで,検討課題の(10)の1ページのところでございますけれども,*1のポツ3つのところで,こういう効果も書いてあるわけです。
読み上げますと,第三者が善意(無重過失)である場合,または悪意(重過失)の第三者に対して,受益者が取消権を行使しない場合にあっては,受益者の選択により,第三者間の取引の効果が信託財産に帰属する旨の主張,損失のてん補,原状回復(または利益吐き出し)の請求を行うことができるということでございますけれども,この規律というのは,今回の提案では一体どうなったのかということについて,ちょっとお尋ねいたします。
拝見するところによれば,確かに第20の2のところの②で言えば,信託財産の帰属主張というのは認められているのかなというふうには思いますけれども,その1の場合には書いてございません。
これは当然,無効ということだから書く必要がなかったというのかどうか,ちょっと私にはよくわからなかったところです。
また,損失てん補とか原状回復,利益吐き出しについてはどう整理されているのかということも併せて,確認のためお尋ねしたいところでございます。
以上です。
● ちょっと論点がいろいろ今多岐にわたっておりますので,少し集中的にと言いまいりますか,その論点についての議論も少し方向が違う議論もありますので,とりあえず忠実義務,これも余り簡単に整理できませんけれども,順番にやっていきましょうか。
今,一応忠実義務と,それから公平義務を含めた議論がされていると思いますので,そこからいきたいと思いますけれども。順番に1の方から言えば,1については,○○委員が言われた受託者の忠実義務の総論的な規定を設けるということについてのその意味合いということですね。
● これは,我々,効力規定と理解しておりまして,デマケーションとしては2ないし忠実義務,公平義務も入っていますが,2から5までに当たるものはそちらで言って,それに入らないもの,例えば前に挙げている例で言うと,非常に重要な情報利得行為のもの,特に悪質のものについては1でかぶってくるかなと。
その場合は,例外の規定が必要になってくるかなというのはおっしゃるとおりでして,そこをちょっとどうするかというのは検討しなければいけないと思っておりますが,信託行為の定めという書き方をしている限度では,例外の①みたいなものは入っておりますので,あと承認のようなものを書くかどうかとか,その辺はちょっと考えたいと思っております。
● 明確化,補足説明ないしはこの文章でその関係がわかるようにしていただければ,よろしいのかなというふうには思っております。
● これ皆様に,補足説明というのは別途つくということを……
● ちなみに,補足説明は従来配っているような資料をまとめたものを取りまとめますので,200ページ程度のものになると思います。そちらにもちろん解説を書きますので,念のため。
● ということで,この忠実義務1の方はよろしいでしょうか。あとは……
はい,どうぞ。
● 先ほど1のところで,情報利得行為で悪質なものは含まれると,こういう御説明でしたけれども,これ条文ではないので文言にこだわるのもどうかと思うのですが,信託事務を処理するに当たってという文言は,例えば純粋に自己の営業のために使うときには,およそ信託事務の処理とは無関係にそういう行為がなされていると思いますし,典型的には9ページの4で挙げられているような,その信託財産を利用して不当な利得を得ると。
これも信託事務の処理とは全く関係ない,個人的な事情で行われていることもあるかと思いますけれども。
この忠実義務の射程は,これは信託事務を処理するに当たってという文言とどのような関係にあるのかというのをちょっと御確認させていただければと思います。
● 2,3,これは信託事務処理に当たってということで,4のようなものがもし入るといたしますと,これはおっしゃるとおり,信託事務処理プロパーではないんですが,いわば信託財産ないし受託者の地位を利用してというようなことで,広い意味で言うと,信託事務処理に当たってと考えることもできるのではないかと思っております。
他方,もうちょっと正直な理由といいますか,表面的な理由は,信託事務を処理するに当たってを書かないとしますと,受託者は受益者のために忠実に行動しなければならないという,言ってみれば非常に間が抜けたような文章になってしまうものですから,何か修飾があった方がいいのではないかということで,信託事務を処理するに当たってはということで,2ないし4も含めているというつもりでございます。
● 決して狭くとらえるつもりではなくて,今の○○幹事が言われたようなものを含めるつもりではあるんですけれども,表現がなかなか難しいということですので。これは少し検討させていただくといたしましょうか。
それから,○○委員から出ましたこの法令及び信託の定めに従いというところに,信託の本旨というのが入るべきではないかということはいかがでしょうか。
● 第17のところで信託の本旨に従いという文言を使っておりますのは,第17では受託者が処理しなければならない信託事務の内容というのはどういうものなのかというところを問題にしており,その場合につきましては,信託行為に明確に書いてあるものだけではなくて,その裏にある委託者の設定した目的というものに従わなければならないというふうな形にするために,信託の本旨に従いという文言を使っております。
それに対しまして,第18では,信託行為に別段の定めがあるときは,その他の定めに従うという形にして,これは任意規定であるということを明確にしていると。
それと関連いたしまして,第19の1のところにつきましても,信託行為の定めに従いという形にしておりますのは,まさに第17のところでどういう信託事務の処理をしなければならないのかというのが決まった上で,その信託行為の定めに従うと。
要するに忠実かつ公平に行動しなければならないということに関する例外を認めるという趣旨で書いているようなところがありまして,ここで信託の本旨に従いという文言を使ってしまうと,その例外を認めるというのが非常にあいまいになってしまうのではないかというようなことも考慮いたしまして,信託行為の定めに従いという文言を使っているというようなところがありますが,ここのところは前々から,その信託の本旨に従いという文言の方がいいという意見があることは認識しておりまして,信託行為の定めに従いという文言がいいのか,信託の本旨に従いという文言がいいのかにつきましては,議論をしていただければというふうに考えております。
● どうもありがとうございました。ということではありますが,いかがでしょうか。
● 先ほど指摘させていただきました2の(2)の①が,ちょうど17と18の関連,信託行為に許容する旨がある場合ということで,例外だからいけないんですかね。
忠実義務の具体化は2の(2)の①には入っていないということなんでしょうか。何かちょっとリダンダントな……
● 確かに,ここのところの書きぶりも,信託事務を処理するに当たっては,受益者のために忠実かつ公平に行動しなければならないものとするとした上で,ただし,以下の場合には例外を認めるとした上で,①,②の要件を書くという方が明確なのかもしれません。
● ややこしくするだけかもしれませんが,もともと聞きたいと思っていたことなんですが。
まず,例外の方についてお聞きしたいんですけれども,2の(2)の①もそうですし,ほかのところでも何度か出てくるんですが,信託行為にその行為をすることを許容する旨の定めがあるときというのが例外だと。
この定めがあるときって,どういうものをイメージしておられるかということは,先ほどのことともちょっと関係するんですが,何か明示的な約定を定めておくというようなイメージが,この言葉によって思い浮かぶのかなと思います。
ただ,例外に関して言いますと,明示の定めが必ずしも明確な形であるとは言えないけれども,当該信託行為の趣旨に照らすと,受益者がそういう行為をすることは許容されるということが法意全体の趣旨からは出てくるという場合も,やはり例外というのは認められるのではないかと思います。
明確にこれはできますということを書いておかない限りはだめだというものでは,やはりないんじゃないかなという気がいたします。
そうしますと,例外の書き方としましては,定めがあるときだけではなくて,定めがあるとき,その他信託行為の目的に照らしてそういうことが許容される場合という書きぶりに本来なるんじゃないかなと思います。
例外に関してもう少し続けて言いますと,(2)の③なんですが,害しないことは明らかであって,合理的な必要性が認められるときですが,合理的な必要性というのが,信託行為の趣旨と離れて何か客観的に判定できるという趣旨だとするならば,ちょっとそれはいかがなものかなと。
やはり当該信託行為の趣旨から見て合理的だということでないとやはりいけないだろうとしますと,①と③というのは実は同じようなことを,つまりは信託行為の目的に照らして許容されるような場合に当たるのかどうかというふうに統合できるのではないかなという気がいたします。
同じことは,次のページの4の(2)の①にも言えますし,そしてまた5の(2)の①及び③も言えるんじゃないかと思います。正当な理由があるときというのは,やはり信託行為の目的に照らして正当と言えるかどうかということがやはり問題でして,何かそれと離れて客観的な正当性というのが問題になるわけではなかろうという気がいたします。
そうしますと,定めがあるときというのはもちろん入れていただいていいんですけれども,もう少し広く契約の目的から,信託行為の目的から見て許容されるというのが出てくるのではあろうと。
そうしますと,翻って言いますと,一番もとへ戻るわけですが,19の1の法令及び信託行為の定めに従いというのも,何かこの定めというのが明示的なものに限るというような事柄ではなかろうと思うわけですね。
やはりその契約なり,信託行為の趣旨に照らして忠実かつ公平に行動しないといけないというのが,やはり流れからというと自然なのかなという気がします。
ちょっとだらだら申し上げて申しわけありません。以上です。
● 半分ぐらいは賛成だけれども,ちょっと半分は少し違う意見を持ちます。全体をカバーする方は広くていいんだと思いますけれども,例外の方は,特に2の(2)の①を,ここを信託の本旨まで入れると,なんか少しあいまいになってしまう感じがして……
● ③を統合してというようなイメージなんですが。
● ③はもうちょっと何か限定的なものではないかという感じがしますので,この辺,皆さんいろいろ感触はあると思いますけれども,○○幹事のように1つにまとめたらどうかという御意見もあり得ると思いますし,私はどちらかというと,信託行為でも明確に許容するという場合には,忠実義務の例外になるわけですが,あるいは個別の承諾。
しかし,それ以外は非常に客観的に何か定型的に限定された場合にだけ認められる,許容される,これは③の場合ですね。
ちょっとそういうふうに考えていましたので,ちょっとニュアンスが違った理解の仕方をしているかもしれません。
いずれにせよ,しかし,いろいろこれニュアンスを込めて理解すると,いろ
いろな理解の仕方があり得て,ちょっと皆さんの御意見を伺った方がよろしいのではないかという気がいたします。
○○委員の意見は,例えば信託の本旨というのを入れるとしても,19の1のところには入れるけれども,あとの方にはむしろ入れないという御意見なんでしょうか。それとも○○幹事的な御意見だったんでしょうか。
● 心配しているのは,忠実義務が一般的に免除されるとまずいのかなと思ったりするところもありまして,ですから,1の方で信託の本旨ということを入れることによって,大きな意味での忠実義務というのは存在しているんだということを一応高らかにうたっていただいてということで。
ですから,2の(1)のは○○委員のおっしゃるように,限定的にといいますか,明示されている範囲においてのみ軽減されるという理解でよろしいかと思っております。
● ほかに御意見いかかでしょうか。
○○委員。
● 19の1の先ほどの○○関係官のお話は,忠実義務の規定が余り不明確になるのは安定性を欠くから,信託行為の定めで限定できる,例外を認めることをはっきりさせておいた方がよかろうという御趣旨だったと思います。
明確化するというのは私も賛成なんですが,しかし,ここに信託行為の定めに従いと書くことで明確になるだろうかというと,かえって複雑になるんじゃないかという気がいたします。
つまり,これを一読しますと,忠実義務という広いものがあって,さらに法令,信託行為の定めにも従ってきっちりやりなさいよというように読めるのですが,ところがそうではなくて,むしろ信託行為で定めれば,何か例外を設けることができるという趣旨だとしますと,2以下との関係が不明確になりますので,むしろ1は一般的な規定であるんだとすると,そこでその例外をわざわざ書くのはかえって混乱するのではないだろうか。むしろ1はより一般的に規定しておいた方がいいのではないかなというふうに思います。
● ほかにいかがでしょうか。
○○委員,どうぞ。
● 私おくれて参ったので,一番重要なところをお伺いしていないので,1点,きっとリダンダントな話になって恐縮なんですが,この忠実かつ公平にというので,忠実義務と公平義務をとにかく1つに組み入れたということ,私だけのためにこういうことをちょっとお願いするのは申しわけないのかもしれないんですが,ちょっとお聞かせ願えれば。
その1項で言えば,法令及び信託行為の定めに従いというのがなくて,とにかく忠実義務の一般理論だよという方が簡明かなという,今の○○委員のおっしゃることの方が私も簡単なような気がしますが。
ついでにもう1点ですが,これは○○幹事のコメントについてのということなんですが,やはり○○幹事の発想は,これやはり信託契約ですから,契約の解釈の一般理論で,契約の趣旨,目的というので例外というのが出てくるんだという,そういうところから出てきていると思うんですね。
ただ,やはり信託の契約は少し性格が違っていて,明らかに裁量権を一般の場合ですけれども,受託者の方にゆだねて,そのかわり,そのリスクを普通の司法たる,一般法たる,司法的なということですが,信託に関する司法的規定の一般法たる司法のところでできるだけ,先ほどそちらの方からも御発言がありましたけれども,濫用の危険を防ぐような司法のスキームをつくっておくというのが普通の考え方かなと私は思うんですね。
そうすると,この例外については,やはりまず普通に例外をつくりたいんだったら,明示の規定を入れておきなさいよ。
そうでなければ,重要な事実を開示して受益者の承認を得ておきなさいよ。それでもやはり足りない場合があるので,③で定型的に何のかんのという話だと思うんですが,こういう非常にやはり限定的な話であってというところを強調しておかないと,やはり忠実義務というのも結局単なる契約上の一つの義務であってという話になりかねないような,普通の契約の解釈論で持ってこられるのは,ちょっと信託という契約の趣旨から,それこそ本旨からして少し感触が違うのかなというふうに理解しております。
ちょっと短くていいんですが,一番初めのところだけ。
● 義務と一緒にするという点ですか。これは一つの大きな問題かもしれないけれども,いかがですか。
● 忠実義務と公平義務というのは非常に似ているというのが事務局の理解でございまして,複数の信託財産がある場合は忠実義務,1個の信託財産で複数の受益者がいる場合は公平義務という理解をしているわけでございます。
そうすると,その要件とか効果につきまして,確かに公平義務が教科書などでは別途独立に記述されていることは認識しておりますが,その要件,効果につきましてはさほどの違いが出てこないのではないかと理解しておりまして,そうすると,規律としてあえて別個にしなくても,1つのものとしてくくって提案していってもおかしくないのではないかなというところが事務局の理解で1つにまとめているというところでございます。
端的に言うと,若干違うとは言え,法的に区別するような問題とまでの必要性はないのではないかというのが現時点での事務局の理解でございます。
● 先ほど御質問があったと思いますが,そうすると,公平義務違反の効果についてというのも第20に含まれるということなんですね。
● ええ,第20の3ですね,公平義務違反というのは。1つの信託の受益者間の利益が相反する行為の禁止に違反する行為の効果というのが公平義務違反の効果で,ただ,利益吐き出し責任は公平義務にかかわるかというのは,確かに問題があるところでございまして,もしも利益吐き出し責任というのが,受託者が忠実義務を負っているのであって,受託者の責任を重視するという観点を重視いたしますと,公平義務の場合には多分受益者というんですか,受益者間の問題なものですから,受託者が利得を得るというのがちょっと想定しにくいと。
そうすると,果たして利益吐き出し責任というのを公平義務に観念することができるかというのは,確かに一つの問題かなという気はしております。
現時点では明確に排除できるかというまでの自信もないので,このようにひっくるめて書いてあるわけでございますが,4について,公平義務が係るかどうかという問題はちょっとここではあえて触れていないというのはございます。
3は明確に公平義務の問題で,4は,そこはちょっと沈黙しているということでございます。
● 私も今の○○幹事の説明に賛成ですけれども,公平義務の場合に問題となるのは,もちろん1つの信託の中のある受益者とほかの受益者の利益が相反するような場面において,受託者が公平に扱わないで一方の受益者の利益を優遇したという場面ですよね。
したがって,責任としては受託者に責任が生じますけれども,受託者が利益を吐き出さなくちゃいけないような場面というのは,やはり出てこないんじゃないかという感じがしますね。○○委員もそういう御意見だったと思いますけれども。
ですから逆に言えば,一緒にしても,その利益吐き出しの問題はそちらにはかぶってこないということになるのかもしれない。
● 結果的にはそうなのかもしれませんけれども,文の明確化という観点から,及び繰り返し言いますけれども,従前の本席における議論の流れからすると,今の段階で公平義務というのを4というところも含めて議論するのが適当なのかどうかということですので,もちろんこれはこれからの議論になるかもしれませんけれども,4に関しては,私としてはその現状,忠実義務のサンクションとして考えて,もしパブリック・コメントでそういう新たなで議論が出てくるのであれば,あわせて議論するという方が,この本席の議論に沿っているのかなというふうに思っているわけです。
● わかりました。あるいは少し説明のところでつけ加えていだたくか,何らかの形で。
○○幹事,どうぞ。
● 本当は2に戻らないといけないのかもしれませんが,ちょっと公平義務の関係が出ておりますので,中身を確認させていただきたいだけなんですが。
先ほど,公平義務違反の効果の中心点は第20の3だという御説明がありまして,このうちの一番典型例とされている自己取引と信託財産間取引というこの例なのですが,公平義務違反で自己取引ですとか,信託財産間取引というのを何だか非常に異例な感じがいたしまして,どういうものを具体的に想定されているか,ここちょっと中身を御説明いただけると。
余り例外的かなと思っておりまして,そうすると,単純に効果の点でもパラレルに置くというのもどうなのかなという気がしているというのが背景にありまして,お伺いします。
● 自己取引というのは,受託者は当然のことながら信託財産の取引をして,受益者が複数いて,受益者間で利益が違う。
例えば,ある受益者は社債によって利益を得ていて,ある受益者は株式によって利益を得ていて,しかし,受託者がその信託財産のうち株式だけについて自己取引をしたということであれば,株式を有している受益者には利益になって,社債を有している受益者にとっては不利益になるというような場合が,公平義務違反の自己取引ではないかなという気がいたしますし……
● 自己取引なんですよね。
● ええ。
● ですから,両方かぶってくるということですね,忠実義務違反でもあり,公平義務違反である。
● 自己取引は忠実義務違反ですから,そうですね。
● 普通,株式というのは,市場から株式を買ってくるとか,第三者と取引するんだけれども,その取引の類型がこっちに有利とか,こっちに不利とか,そういうことじゃないかと思うんですけれども。
● それは非常にわかりやすい例ですね。
● むしろ,そういうのが典型例じゃないかと思ったものですから。ただ,念頭に置かれているのはそういう事例で,したがって,当然忠実義務違反でもあると。
● 自己取引という概念自体が信託財産との取引になりますので,そうすると,忠実義務と確かにかぶってきてしまいまして,その中で受益者が複数いて,受益者間に利益の不均衡が生ずる場合,忠実義務の中で特に公平義務に違反する場合かなと思うんですが。
受益者が1人であれば自己取引ですけれども,受益者が複数いて不利益が生ずるような自己取引は,公平義務違反の自己取引に当たると--にも当たるといいますか,両方にひっかかるという考え方でございます。
● 信託財産間の方は,そうしますと……
● これは,受託者が複数の信託を受託しておりまして,ある信託と別の信託間で取引をするという場合を念頭に置いているわけでございます。第三者との取引と同じようなものでございます。
● それで,特定の受益者がこちらの信託についても受益者であるような場合で,ある信託受益者が複数の信託の受益者を兼ねているような場合は想定しておられるんでしょうか。
● ある信託の受益者が複数いて,その間で不利益が生ずると,ある信託と別の信託--別の信託は別に受益者1人でも何でもいいわけでございますので。その取引によって,A信託の受益者が複数いる場合には,その複数の受益者間で不公平が生ずると。
例えば,今の社債と株式の例で言えば,社債についてだけ他の信託財産と取引をしたことによって,もとの信託財産の受益者間に不均衡が生ずるという場合が,この信託財産間取引という例でいいのではないかなと思っておりまして,受益者が共通な場合を念頭に置いていたわけじゃないんですけれども。
● 具体例はわかりましたけれども,それは信託財産間である必要もなく,自己取引である必要もないのではないかと。それが典型例だとも思えないのですが。
● 例えば,信託財産間,公平義務ですから,1つの信託の間の受益者が--受益者というか,その1人の受託者のもとに--そうか,いろいろな場合があるのかな。
1つの信託でもって受益者が複数いる場合,その受益者間で利益が相反するような行為,これはさっき○○幹事が言われたやつですね。
それから,1人の受託者のもとに複数信託が--しかし,これは複数の信託にしちゃうと,これはやはり忠実義務の方の問題にすべき問題かもしれませんね,そっちは。
それから,さっき○○幹事が言われた自己取引であり,かつ受益者の一方に利益を与え,他方には利益を与えないという場合が,余りそうたくさんはあり得ないと思いますが,観念的にはあるのかもしれませんが,そのときは○○幹事が言われたように,忠実義務違反であり,自己取引ですから。
同時に,受益者間の利益を公平義務に反するということで,両方のルールがかぶさってくるということは,観念的にはあり得るということなんじゃないでしょうか。具体的にどういう場合が一番いい例かはよくわかりませんけれども,観念的に考えるとあり得るかもしれない。典型例ではない。
● その限りではおっしゃるとおりだと思うんですが,これを一番最初に出してきて,義務違反の効果はこれですと言われることに,やや。
これはそもそも忠実義務とセットにしたことによって出てきたんじゃないかなというところに端を発しておりまして,問題意識はそういうところです。
● また例によってアメリカの話になって恐縮なんですが,やはりアメリカでも,公平義務というのは忠実義務とは別個の意味で,非常に難しい問題だと言われているんですね。
ただ,アメリカの場合は,信託法自体は民事信託から出てきているものだから,やはり民事信託の例でまず悩みを抱えるわけです。
一番典型的なのは,ちょっとここにおられる方にはみんな釈迦に説法になるかもしれないんですが,一番簡単なのは,とにかく信託を設定して,まず収益受益者というのを,普通は例えば配偶者だったりしますが,配偶者が生きている間は収益を,生きている間ちゃんと生きていけるように,生活していくようにと収益を,つまり例えば株式なら配当がそこへちゃんといってというわけですよね。
債権なら,そこから利息が毎月毎月払われてという,この収益がいくという収益受益者というのがいますね。それで,この奥さんが亡くなったときに,子供にとにかく残った元本を全部ぽんとあげるというのが一番簡単な民事信託の原型みたいなものだと思うんですが。
そのときに,公平義務というのは,1つの信託の中に収益受益者と元本受益者という異なる種類の受益者を抱え込むために,この単純に平等ということが言えなくなる。
同じ収益受益者で,2人いてというなら2分の1ずつでいいわけですよね,何も規定がなければ。ただ,信託行為にこっちに厚くと書いてある,優先劣後が書いてあればそのとおりにするだけの話ですから。
でも,今みたいな質の違いがあると,3つの点でまず問題になるんですね。
第1点が運用のやり方ですよね。運用の方針を定めるときに,株式で運用すると下がるかもしれない。国債だったらきっと大丈夫だろうというんだと,元本受益者は国債にしてもらいたいんですね,元本だけは絶対大丈夫ですから。
でも,国債の利率が本当に低いときには,やはり毎月の生活費を考える収益受益者の方は,やはり少しリスクが高くてもリスクの高い方へという,これでどっちを選ぶかというので,ここでの公平というのは一体何なんだろうかというのが1つ,まず問題になりますよね。
それから2つ目に,もう3つはやめて2つにします。2つ目に,例えば信託で運用するその費用というのを,もちろん費用を受益者が費用補償請求権でもちろん回収するし,報酬の方もここの中から回収するんですが,一体元本部分から取るのか,収益部分のところからもらっていいのかというのも,これもまた1つ問題になって,これはこれでまたという話になるんですね。
これはやはりなかなか悩ましい問題でという話になっていて,おのずからこういう,この受益者間には利益相反の関係があるわけです。
だから,公平義務というのに一体どういうふうに立ち向かえばいいかというのが難しい問題になるので,それは忠実義務と非常に似てはいると思うんですけれども,その信託財産間の取引と似た面を持ってはいると思うんですが,ちょっと今みたいなシチュエーションを日本で今すぐ考えなければいけないかどうかという問題がまずあるのかもしれませんけれども,余り単純に公平という概念を使っちゃって,忠実かつ公平だというので,その概念自体が今まで実質がないものだから,概念がひとり歩きしてというのも困るかなというような懸念を少し持ったということなんです。
● わかりました。恐らく,今これ最後まで突き詰めて議論するというのはなかなか難しい感じがするんですが,私も忠実義務と,それから公平義務というのは似た義務であるという認識までは共通していますけれども,これまた感触で申しわけないけれども,公平義務の方が多少受託者の裁量性が少し広いかもしれないので,そういう意味では,忠実義務ほど厳しくないかもしれないという感触もちょっと持っていたりします。
ただ,それを一緒にできるのか,最終的にはできるのかもしれないし,あるいは一緒にするのは適当じゃないのかもしれないんですけれども,そこはなかなか今すぐに決めかねるところがありまして,皆さんもいろいろな御意見があるという感じであります。
そういうことで,ちょっとこれは時間の関係もありますけれども,今御意見があれば伺うということにして,ここで最後までは詰めないということで御議論ください。
じゃ,どうぞ,○○幹事。
● 恐縮なんですが,先ほどの3の点で,いずれも自己取引,信託財産間取引に当たるということになると,基本的には忠実義務違反の類型で,しかしながら,忠実義務違反にはならない,要件が足らないということで,その例外に当たるような場合を,この部分が一番意味のあるものとして考えればいいんでしょうか。
● 何か例を挙げていただけるとありがたい。忠実違反にも該当し,それから公平義務の問題にも該当しそうな例で……。
● この3を置くことにどういう意味があるかということで,それで公平義務違反の効果が--10ページ,第20の3の効果のところを置くことがどういう狙いであるのかということでして,自己取引,それから信託財産間取引が無効であるということで,この局面を本文では挙げておられる,3も含めて。
そうしたときに,自己取引や信託財産間取引ということになれば,自己取引,双方代理の類型ですから,基本的に忠実義務違反にいくんだと思うんです。
そうすると,これがあることの意味は,その類型であるにもかかわらず,忠実義務違反にはならないけれども,公平義務違反がなるがゆえに無効とするということを導きたいのか,そうでなければ,忠実義務違反で常に無効で,そうすると,一方で公平義務違反の効果というのが,このように無効というのがいいかというと,何かちょっと強過ぎるような気もしておりまして,典型的に念頭に置く場面というのは,自己取引とか信託財産間取引ではないだろうと思うものですから,そういうものを念頭に置いたときに,典型例として出される効果がこれ以外にもあると思うんですが,ここでわざわざ入れておくということの意味がどこにあるのかというのがちょっとわからなくて。
● まさに最初に,○○幹事がこの①についてどうかということの御意見を伺いたいということだったと思いますけれども,やはりここで言う自己取引というのに該当しちゃうと忠実義務違反に本当は当たって,そちらで解決すべきだけれども,そこで何らかの理由で無効にならないときに,こちらでさらに重い規制が待っていて,忠実義務の違反では無効にならないようなやつがこっちでなるというわけではないですよね。
● それは,それで救われれば大丈夫だと思っております。
● だから,そうするとやはりここでの自己取引というのは要らないのかもしれないという気もしたけれども。
● 3のところで自己取引というのをあえて入れておりますのは,恐らく公平義務違反の場合と,それからいわゆる忠実義務違反の自己取引の場合とで,行為の外形的な側面は信託財産と固有財産の取引ではあるんですけれども,その例外要件を見てみましたときに,公平義務の観点からいくと,例えば不利益を受ける受益者の承諾を受けてというような要件になっており,あるいは別段の定めを置くときも,公平義務に着目した置かれ方がするだろうと。
そういうところで,例外まで考えますと,同じ行為であっても,これは忠実義務によって無効になる,それからこれは公平義務違反のため無効になる,両方あり得るので,①というので自己取引も入れているのではないかと。
ここにはちょっと書いておりませんけれども,それとは別に,受託者と第三者が取引をする第三者間取引みたいなものもあって,それはあるとは思っているんですが,ちょっとここでは書いていないということであるんですけれども,もう一度申し上げますと,自己取引の方も公平義務違反だから,自己取引の中で一部無効に帰結してしまわざるを得ないものも一応観念はできると。
その例外要件が違うからということはあり得るのかなと思ってやったんですけれども。
● 例えば,受益者が2人いて,AとBという受益者がいて,信託財産を固有財産に,自己取引だから,受託者が自己取引をしたときに,忠実義務の方の問題だと,ちょっとシチュエーションは違うけれども,その当該受益者の同意があればオーケーだということになるけれども,公平義務の場合ですと,その利益が対立している,例えば両方の受益者の合意がないとだめだとか……
● 忠実義務だと,受益者全員の合意が原則ですし,公平義務だと,不利益を受ける人から,とりあえず承諾をいただければいいという考え方はあり得るんだろうと。
● 利益を受けるね,利益を受ける……。
● 不利益を。
● 不利益を。まさに受益者間で対立するような自己取引がされて,そのときの不利益を受ける方の受益者がと。確かに形式的にはあり得るのかな。
● 形式的な話として,論理的な可能性としてはあり得るかなということでございます。
● 幾つかお話しさせていただきたいと思うんですが,まず,この忠実義務と公平義務の点について,例えば忠実義務の例外要件にはなっている,つまり,信託行為の定めでこういうのはいいですよと書いてあると。
したがって,忠実義務の方は信託行為の定めでクリアするんだけれども,それにのっとって行っていることが,特定の受益者にとって非常に有利になって,ある別の受益者にとっては非常に不利益になると。
このシチュエーションというのは,忠実義務には触れていないけれども,公平義務の違反にはなり得ると。私はそういう意味では,論理的にはあり得る話なのではないかと思っております。
ちょっとこれ2つ目の話に入るのですが,この受託者による受益権の買取りについてなのですけれども,私は実は一番そういう局面が起こるのは,この受託者が受益権の取得のようなケースだと思っているんです。
ただ,これは忠実義務の範囲には入りませんよという,そういう最初の御説明だったと思うのですけれども,やはり受託者による受益権の取得というのは,本来やはり忠実義務の広い網の中にかけて,あとはその情報をきちんと出すと。
先ほど,民法の一般の原則によっても,それこそ詐欺ですとか,あるいは錯誤等あり得るということでしたけれども,一般的なこの情報提供義務というのは,普通の取引だったらそう簡単には認められないのではないかという,私が誤解しているのかもしれません。
むしろこういったものも含めて忠実義務を構成し,そうやって受託者による受益権の取得を含めたときには,この公平義務の局面で3の①のようなシチュエーションが問題となることが現実にあり得る,
つまりある受益者からは買い取ってやるけれども,別の受益者からは買い取ってやらないと。
そのやり方が非常に不公平であると,そういうシチュエーションがあり得るのではないかと思いますので,ちょっと話が混乱してまいりましたけれども,私の理解では,公平義務というのは,むしろやはり信託義務の処理に際して問題となる局面が中心であるのではないかと。
これに対して忠実義務というのは,信託事務の処理の内と外にかかわらず起き得るという点で,公平義務というのは忠実義務に重なる部分はあるけれども,むしろ善管注意義務の方に近い部分もあると。
そういう忠実義務と善管注意義務のまさに中間的と申しますか,狭間にあるような義務なのではないかと理解しております。間違っているかもしれませんが,私は以上のように考えております。
● 恐らくそういう問題とつながってくるのは,論理的には,だからこういうことがあり得るにしても,無効ということでいいのかという問題にちょっとつながりそうな気がしますね,あるいは損害賠償だけなのかもしれません。
○○幹事,どうぞ。
● 今最後に○○委員がおっしゃったことと同じことになってしまうかもしれません,お許しください。
○○幹事の疑問を私なりに敷衍させていただくと,10ページの第20の3は,これいずれにしてもちょっとお考え直しいただくことになるんじゃないかと思うんですが,ここで,今も話題に出た受益権の取得とか,それからその運用を,今まで株式と国債半々ぐらいにしていたのを一方に傾斜させた運用方針を変更すると,そういうようなまさに公平義務違反になるような行為についての効果が,この3からはちょっと全然読み取れないというところが,次の場面に検討していただくことなのではないかと思います。
今のような受益権の取得とか,国債を大量に株式に入れ替えるというのは,第三者の証券会社と取引するわけでしょうから,それが義務違反になったときに,この3では有効になるのか,無効になるのか,無効になるところだけ書いてあるから,有効なのかもしれないんですけれども,そういう解釈をする必要は今ないと思いますので。そこをどっちかお考えいただいて議論の対象にすると,公平義務に対する効果ということが,見通しがよくなってくるんじゃないかと思います。
● わかりました。大体いろいろ御意見が出て,問題点も明確になってきたと思いますけれども。ちょっと公平義務のところは,少し整理をするという形でもう1回議論していただく……
● 確認だけさせていただきたいのですが,自己取引も一応はあり得るという前提で,こちらは無効と書かせていただきました。
それから,今,○○幹事から御指摘ございましたように,第三者と取引をした場合の効果というのが抜けておりまして,これは1も同様なのでございます。
1の方ももちろんあり得るわけですけれども,書いていないと。そこは一応補足説明レベルで書こうかなという内部の話だったんですが,やはりよくわからないだろうというのは御指摘のとおりだと思いますので,それも書きたいとは思います。
ただ,先ほどからそれはまた別に,善管注意義務の系統ではないか。それで,その場合には恐らく利益相反による無効とか,取消しとかということは観念しづらいのではないかということを恐らくおっしゃられているような感じもいたしまして。
ただ,その点につきましては,これまでの公平義務違反についての議事進行というか,議論の中では,どちらかというと無効,忠実義務違反と同じ系統の効果を与えようということではありましたので,どういたしましょうか。
善管注意義務として整理する方向にシフトすればよいのか,あるいは忠実義務として,つまり先ほど私が申し上げましたような無効あるいは第三者間との取引については,恐らく取消しということになろうかと思いますけれども,そういう整理でいくのか。
● これは大問題なのでそう簡単に決められないと思いますけれども,ただ,第三者との取引が取消しまでいくのかどうかというのは,ちょっと気になることは気になるな。
● 信託外の第三者ですか。
● はい,信託外の。
● これは今ちょっと説明がありましたが,それはやはり権限外の行為と,第三者取引は,その取引の安全を図る必要が大きいので,原則有効だけれども取消しができるという規律をかぶせていくと。
● ええ,まさにだから公平義務違反というのが,そこまで強いかどうかということなんですよね。
● 取消権すらもないようなものではないかということですか。
● ちょっとそんな感じもしないではない。いや,ほかのいろいろな御感触があるかもしれませんけれども。
どうぞ,○○幹事。
● 完全に忠実義務と全く並列にするということが,必ずしも効果の面を見ても適切ではないんじゃないかというふうに申し上げたつもりで,善管注意義務の系統にいけというような趣旨ではもちろんなく,かつ,○○幹事がおっしゃいましたように,忠実義務の類型に形式的に該当するものであって,かつ信託行為の定めで許容されている行為,自己で株式の取引をするとかであっても,特定の受益者により有利になるというようなものであるときには,公平義務の観点から問題視されることがあり得るというような点は,まさにそのとおりかと思いますので。
ただ,先ほどから繰り返しておりますように,忠実義務の系統であるという決定をした上で,まずは自己取引類型を無効にするという立て方が,もともと一番公平義務が典型に置いていたものとはかなり性質が違うのではないかと,そういう局面があるということは了解いたしておりますけれども,それを完全に善管注意義務に持っていけとまでは申し上げているつもりはないものです。
● なかなか扱いが難しいですね。僕も善管注意義務に完全に解消するというわけでもないような気がしているけれども。
ちょっと今結論,方向性もいろいろな議論があるので,ちょっと今ここでまとめ切れませんので,大変申しわけないけれども,ここはちょっと検討させていただくということで,少しいろいろな意見が反映できるような,そういう案にさせてください。
それからもう一つ,○○幹事から出てきた意見,それから○○幹事からも説明があった受益権を取引する,受益権を取得するというやつですね,受託者。
これはまた本当に大変大きな問題で,アメリカなどでは一応忠実義務の問題に入れた上で,恐らく受益者が同意しているということでもって許容されるんだと思いますけれども,それを入れるかどうかというのはなかなかこれも難しい問題。現に信託実務では,それを今までずっとやってきたということもあって,なかなか難しい問題ではあります。
ただ,理論的にも両方あり得ると思いますけれども,仮に入ったとしても,これも○○幹事が説明をされましたように,実際には受益者の承諾があるということで,その承諾がちゃんとしたものであれば許容されるということで,実害はないのではないかとは思いますけれども,ここも何か感触があれば,御意見を伺いたいと思いますが。
● やはり信託実務的な観点からいきますと,やはり忠実義務というような理解のもとで全然やってきておりませんので,まさに忠実義務的なところで判断しないといけないのは,みずからが判断しないといけない。みずからが双方の立場に立って判断しないといけないというところが悩みの種で,それを解決するためにはどうするんだろうというときには,一番簡単な方法はお客さんの了解をとりますと。
要するに,相手方との間で契約関係に立ってしまえば,それで--もちろんその情報をちゃんと伝えるとかというものはありますけれども,それがちゃんとした取引でしょうというところがあって,受益権を売買するに当たっては,受益者という1人のちゃんとした人が出てくるわけですから,その人との間で合意してやっていくということですので,実務的な観点からいくと,忠実義務の範囲外というふうに整理していただきたいというふうに考えています。
● わかりました。これは説明の中で……
● これは補足説明の中で,両論あり得るということを書くかなという感じで考えております。
● そのようにさせてください。
ちょっと大変時間をとってしまいましたけれども,ほかの分別管理と自己執行義務もありますが,ここはいかがでしょうか。
● 済みません,その前に忠実義務のところのまさに利益吐き出しのところでございまして,もう前からずっと申し上げていますので,どうこう言うつもりはございませんが,基本的には丙案を立てていただきたいということでございまして,今までサンクションとして重過ぎるであるとか,外延がよくわからないのでというようなことで反対であるというふうに申し上げていましたので,要するに丙案として特段の規定を設けないものとするというものを立てていただいて,皆さんの御意見を伺いたいというふうに考えております。
● どうぞ,○○幹事。
● 今のところとは違って,忠実義務のところで1点といいますか,幾つかちょっと申し上げたい点があるんですが,競合行為の禁止のところについてです。
1つは,この競合行為の禁止の(1)のところの要件が,やはりなかなか受益者の立場からすると重いので,受益者の方でこれを使うというのはなかなか実際のところ難しいだろという感じがしております。
それと,この(1)と(2)の関係なんですけれども,文章を素直に読ませていただきますと,(1)の方で受益者の利益を犠牲にして,自己または第三者の利益を図る目的の行為を禁止して,(2)のところでその例外というような書き方になっておりまして,この書き方を素直に読みますと,(2)で定めると,こういった受益者の利益を犠牲にして,自己または第三者の利益を図る目的ができるかのような印象を受けるんですけれども,ちょっと文章の書き方としてどうなのかなと,ちょっとこういった書き方はやや問題があるのではないかというような印象を受けております。
それと,競合行為についてもう1点意見を申し上げておきたいのは,競合行為が問題となり得るなり方としては,場面としては2つあるのではないかというふうに思っております。
1つは,受託者が受益者の利益を奪う場合。これは典型的な競合行為の禁止の場面ということで想定されている,例えば信託財産の取引を行っていたものが,その中で有利な条件とか情報に接したときに,これを固有財産の取引としてやってしまう場合,これは典型的な場面だと思うんですけれども。
もう一つは,受託者が受益者の利益を損なう場合というのが,信託の場合には出てくるんじゃないかと。例えば,受託者がその信託財産と固有財産の区別をはっきりせずに投資取引を行っていて,そこでマイナスが出てしまったと。そのマイナスを信託財産に帰属させるというようなことをしてしまった場合。これは,商事信託の場合には余り考えられないのかもしれませんけれども,民事信託の場合には十分あり得る話で,こういった行為もある程度目配りをして,こういったことが起こらないようにしておく必要があるのではないかというふうに考えております。
今の通常の競合行為の場合と違って,信託の場合というのは,要するに取引を行う名義が受託者,信託でやる場合も,固有財産でやる場合も受託者ということになるので,その取引の振り分けといいますか,そういう問題が出てくるわけで,そこで信託の競合行為特有の問題が出てくるのではないかというふうに思っております。
今の後者の問題について,もし御検討いただいている点があれば教えていただければと思います。もし,その点についても何か御検討をお願いできるのであれば,御検討いただけないかというふうに思っているんですが,何かパブリック・コメントの直前で申し上げて申しわけないんですけれども,御教示いただければ助かります。
それからあと1点だけ,(注1),(注3)で記載されているこれは情報提供に関する問題ですけれども,以前にも意見を述べさせていただきましたので詳細は述べませんけれども,やはり受益者が権限行使をする際の入り口となる重要な権利ですので,ここに書かれているように,一般的にその情報提供の内容について緩やかにするというのは,やや問題があるのではないかというふうに考えております。
以上です。
● ちょっと御確認だけさせていただければと思うのですが,固有財産で取引をしてきて,それでマイナスが生じたので,それを信託財産に帰属させるというのは,例えば具体的にはどういう取引が。
● 民事信託の場合には,余り受託者の方が,これは信託財産,これは固有財産というふうに区分けせずにといいますか,余り意識せずに取引をする場合というのがあるのではないかと。そういった場合に,例えば後で損が出たことがわかったと。じゃ,これは損が出たから信託の方にくっつけようとか,あるいは逆に得が出たから固有財産の方にくっつけようとかというようなことが可能になってしまうのではないかという事態をちょっと懸念しておるんですけれども。
● 何か物を買うときに,例えば固有財産で株式を買ったと仮定して,それが固有財産から出ていて,それでその物が入ってきたら,それは固有財産ですよね。それを損が出たので信託財産に押しつけようということであれば,それは自己取引になる……
● 恐らく分別管理がきちんとできている前提であれば,余り問題が出てこないのかなという気もしなくもないんですけれども,分別管理がきちんとされていない場合に,要するにあいまいな形で取引をして,事後的にこの取引はこちら,この取引はこちらというようなつけ方をするという心配がないかということなんですが。
● 一般的にはもちろんある問題だと思いますけれども,今,○○幹事が言われましたように,競合取引の問題なのか,あるいは分別管理の問題なのか,どちらで考えたらいいかという問題がありそうな気がしますけれどもね。御意見自体はわかりましたので,ちょっと今この競合行為の禁止の中にそういうもののルールを入れるというのは,ちょっと難しいような気がしておりますけれども,どこかでそういう説明を加えるということは可能かもしれません。
● それは可能かもしれません。ちょっとこの規定自体をいじるということは,今のところ考えていないというところでございます。
● ただ,もう1点の方の主観的な要件がこれでは厳し過ぎるのではないかというのは,御意見が先ほど○○委員からもございましたし,これはその意見があったということで対応していただくということにさせていただければと思います。
ほかにもいろいろあったかもしれませんけれども,今これ全部の案をここでもう1回一から見直すというわけはいかないので……
○○委員,どうぞ。
● 書き方の問題ですけれども,今,○○幹事の方からあったのと同じ点なんですけれども,8ページの3の競合行為の禁止で(1)と(2)があって,(1)では受益者の利益を犠牲にして,こうこうこうの利益を図る目的を持ってこういうことをしてはならないと。例外に当たれば,そういう受益者の利益を犠牲にして自分の利益を図る目的を持ってやってもいいということになりますが,これはそういう趣旨なんですか。
● そういうときも,そうならないという感じなんだと思うんですけれども。
● もちろん,こういう目的でやることが許容されるというわけではありませんから,違うんだと思いますが……
● 書き方の問題だと思うんです。
● わかりました,表現の問題ですね。
● パブリック・コメントをとる場合に,これだけで妙な反発が出るかなと。
● わかりました。じゃこれは,中身は恐らく同じことを考えていると思いますけれども,表現を少し検討するということで。
ほかに,それでは分別管理と自己執行義務の関連--自己執行義務といいますか,第22に関連してはいかがでしょうか。
○○委員。
● 第22の内容というよりは,むしろ書き方の問題を2点指摘させていただければと思います。
まず,第22の1で処理を委託する権限で,委託できる場合として信託行為の定めによる場合,または他人に信託事務の処理を委託することが相当な場合と,先ほど申し上げたことと一緒なんですが,相当な場合というのは一体どういうふうにして決まるのだろうというとき,やはりこれは信託行為の目的に照らして相当かどうかというのは決まるんだろうと。先ほどの例外よりは,こちらの方がやはり趣旨としてはすっと来るのかなと思いますので,こちらこそやはり信託行為の定めによる場合,その他信託行為の目的に照らして,他人に信託事務の処理を委託することが相当な場合という書き方の方が適切かなというふうに思います。それが1点。
もう1点は,2の責任に関する書きぶりなんですが,甲案,乙案あったということで。ただ,乙案の方,それから(2)の方もそうなんですが,証明しなければと証明責任の所在を明らかにしようという書きぶりなんでしょうけれども,実体法の問題ですので,書きぶりはこう露骨に書かなくても,要するに受託者は,乙案で言いますと,信託事務の処理を委託されたものに故意または過失がなければ責任を免れることができるというような書きぶりでよいのではないかなというふうに思います。
そうしますと,甲案の方も,書きぶりとしては,選任及び監督について過失がなければ責任を免れることはできると。そうしますと,どちらがより適切かという判断をしやすくなるのではないかなという気がします。なんか一方のみが証明しなければという書きぶりというのは,なんかちょっといかがなものかなという気がします。
それとの関係では,(2)の方も,要するにこれは不可抗力を理由として免責をむしろ認めるという趣旨なんじゃないんでしょうか。ただ,不可抗力免責を認めるためには,1に違反することがなかった場合にも,損失が生じた場合に限るんだということなんじゃないかなという気がいたします。突然何か不可抗力が出てくるというのがちょっとよくわかりにくくて,やはり1の違反に関しては不可抗力免責を認めるんだけれども,こういう場合に,つまり1に違反することがなかった場合でも損失が生じた場合には,不可抗力を理由として責任を免れることができるという書きぶりの方が,私がそう思うだけなのかもしれませんが,少しはわかりやすいのではないかなという気がいたします。
以上です。
● わかりました。民法の中にも若干似たような規定がたしかあったような気もしたけれども,確かにここだけ証明という問題が出てくると,少し違和感を感じないではないですね。これはちょっと表現を工夫していただくこということにいたしましょう。完全に落とせるかどうかわかりませんけれども,甲と乙案のところはなしでも書けそうな気がしますね。
それから,今の1の方はどうですか。信託の本旨でしたっけ。
● 目的,どちらでも結構だと思いますけれども,信託行為の目的に照らして相当な場合と,何もなしに相当というよりは,やはりそういうのをつけ加えておく方が明確になるんじゃないかと思います。
● これは目的にするか,本旨にするか,いろいろ選択肢はあるかもしれませんけれども,要するに相当性を判断する基準というものを示した方がいいということですね。これも検討させてください。
ほかに分別管理の方はよろしい--ごめんなさい,○○幹事。
● 分別管理ではなくて,再委託の方なんですが,第22なんですが,甲案の説明を,このようなことをお書きくださればというふうに思うということであります。つまり,甲案だけ出てきますと,これよほど受益者が不利益を被るかのように見えるんですが,恐らく3つほど話があるんだと思うんですね。1つは,委託先が何か債務不履行をしたということになりますと,委託先に対して損害賠償を請求することというのは,受託者が信託事務の執行内容としてなすべき事柄であって,かつ損害賠償として入ってきた金銭は信託財産になるんだと思うんですね。そういうことは,やはり無用な誤解を甲案について巻き起こしますので,説明には書かれた方がよろしいんじゃないかというふうに思います。
同じことで2番目ですが,ちょっと話を聞きますと,再委託先との間で,再委託先が非常に低い注意義務を負うというふうな契約にした場合には債務不履行責任をとれなくなってしまうので,先ほどの1で申し上げたことですが。そうすると,その賠償が取れないんじゃないかという意見がちょっとあるようなんですけれども。それというのは,私,委託先の注意義務を不合理に軽減する契約を再委託契約として締結するということ自体が,恐らく善管注意義務違反なんだと思うんですね。そういうことをやはり説明には書かれた方がよろしいんじゃないかというふうに思います。
3番目なんですが,委託先に対して直接に受益者が責任追及できるかという問題がありまして,これは私は結構難しいような気もするんですが,何か直接いけばよいというふうなことの議論もあったような気もいたします。これは最後のところは解釈論にもなりますので,どらちかに決めうちして説明を書くべきだとは申しませんけれども,甲案については,さまざまな方法がバックアップ措置としてはあるということを補足説明でお書きいただければと思うわけであります。
● そうさせていただきたいと思います。ほかよろしいでしょうか。まだ御意見があるかもしれませんけれども,とりあえず42までいくというのにまだ半分しかきていないというのはどうしたらいいか。
では,次に行きましょう。
● 第23の帳簿作成義務からご説明致します。
まず,前回の提案で1の(1)「帳簿」のみとしていたのを「帳簿その他」とした趣旨は,帳簿の作成というのを,例えば民事信託で課されると厳し過ぎるのではないかということで,帳簿またはその他の書類と書いて,必ずしも帳簿ではなくてもいいということを明らかにしたという趣旨でございます。
それから,1の(2)で,前回提案では「信託事務に関する重要な書類」としておりましたが,ここでは「信託事務の処理に関する書類」といたしまして,それとの関連で,閲覧請求につきましても,受益者はこの(1),(2)の書類を閲覧請求できるということになりまして,重要じゃなくてもいいという点では,受益者の閲覧請求の対象,それから保存義務の対象は広がっているものでございます。
それから,1の(3)で信託財産の状況に関する書類として,前回提案のありました信託の収支に関する書類を落としておりますが,これも民事信託などでPLのようなものをつくるとなると,ちょっと厳し過ぎるのではないかということで,財産目録に類する信託財産の状況に関する書類のみとしております。
それから,1の(4)でございますが,これは(3)の書類,信託財産の状況に関する書類は,3の(1)で閲覧・謄写の対象になりますので,その前提として保存義務があるということを明記しております。
次に,(5)でございますが,これは中間法人法や会社法で裁判所の提出命令に係る制度がございますので,それに類するものをここに新たに導入したということでございます。
次に,3の閲覧・謄写請求の方でございますが,3の(2)で1(2)の書類というのは,これはさっき申し上げましたように閲覧の対象が拡大していることになります。
それから,(注2)ですけれども,ここでは信託行為の定め等によりまして,一定の書類を閲覧・謄写請求の対象としないこともできるとするかどうかをなお検討するということで,このような検討事項を設けることは前回と同様でございます。
ただ,前回におきましては,その対象につきまして,「帳簿,これに関する資料」については常に開示の対象とすると。「信託事務に関する重要な書類」については信託行為で除外できると。言ってみれば,書類の性質に応じた形式的な区分をしていたわけでございますが,今回は,書類の性質というよりは,信託財産の状況に関する書類の作成基礎となった資料のうち重要なものを除きということで,重要なものは書類の性質を問わず,信託財産の状況に関する書類と関連性があるものであれば,すべて見せなければならないこととしております。
つまり,例えば鉛筆1本を購入したときの帳簿,伝票ですとか,そういう軽微なものについてまでは必要ないということで,信託行為で除外できるものの対象を,書類の性質というよりは重要性によって区分するという提案に改めているところでございます。
最後に,(注3)のところでございますが,信託財産の合同運用の場合を前提といたしまして,信託行為に定めを置くことを条件に,当該信託の受益者以外の第三者,例えば合同運用されている別の信託の受益者も,他の信託の信託財産を含む合同運用財産全体に関する帳簿等を閲覧できるとするものでございます。
合同運用形態がとられる場合には,各信託の受益者が自己の信託財産の運用状況を把握しようといたしますと,合同運用財産全体の内容の開示を受ける必要があることになるわけでございますが,本来ならば,他の信託の信託財産に関する部分についてまで閲覧請求できるかは疑問でございます。そこで,信託契約に定めを置くことによりまして,合同運用に係る受益者間については,相互に他の信託の信託財産に係る部分を含む合同運用財産全体の内容の開示を受けることを可能にするという考えに基づくものでございます。
次に,第24の受益者名簿についてでございますが,1つはただし書で任意規定としている点でございます。受益者の情報を受託者が常に把握できるとは限らないという御指摘なども踏まえまして,前回の問題提起に従い,任意規定としたものでございます。
それから,(注5)でございますが,受益者名簿につきましても,信託行為等によって閲覧等請求権の制限ができるとするかどうかについて,前回に引き続き検討事項としておいております。
続きまして,第25の損失てん補責任等でございますが,まず一番最初のところでございますけれども,「受益者が信託財産に関してその任務に違反する行為をした場合」というふうに書きました。前回提案では,「故意または過失により法令または信託行為の定めに違反する行為」としておりましたが,法令違反に故意過失を観念しがたいという御指摘ですとか,ここでは受託者側で帰責事由の不存在を立証すべきであるのに,故意過失と書くと,あたかも請求する側がその立証責任を負うとの印象を受けるということもございますので,「任務違反行為」と改めたものでございます。
それから,①と②の関係でございますが,前回の提案におきましては,1として原状回復責任,2として損失てん補責任と順序で提案していたものでございますけれども,ここでは,受益者がどちらでも任意に選択して行使できるという,従来も同様な考え方ではございましたが,それをより明確にする観点から,①,②として併記して列挙しているということでございます。
次に,第26の消滅時効等の点でございますけれども,(注)に書いております利益吐き出し請求権につきましては,その法的性格を分析した上で検討をするべきであるという御指摘がありましたことを踏まえまして,その検討を踏まえた上で規律の整備をするということを明記しております。
なお,前回の会議におきましては,この場合,委託者または他の受益者につきましては,消滅時効の起算点と,それから除斥期間の起算点がいずれも信託違反行為のときとなってしまうというのが,若干違和感があるのではないかというご指摘もございましたが,この点につきましては,受益者については特に信託違反行為の存在の認識が難しいのに対しまして,契約当事者である委託者とか,いわば仲間内である他の受託者については,受託者の信託違反行為の存在を認識すべき状況にあり得ると言えることから,受益者を保護する観点で,受益者についてのみ信託違反行為があったことを知ったときというように主観的認識を踏まえた起算点としております。その関係で,結果的に受益者以外のものについては除斥期間と消滅時効の起算点が客観的な信託違反行為の時期に一致してしまいますが,受益者保護の趣旨にかんがみて,特に御異論がなければ,このままとしておきたいと考えているところでございます。
それから,第27,第28は特に変更ございません。
第29の検査役選任請求権についても特段の変更はございませんので,一たんここで打ち切らせていただきます。
● それでは,ここまで御議論お願いします。
5時になったら一遍休憩するというので5分ぐらいしか時間ありませんけれども,とにかく貴重ですから,御議論があればお願いします。
○○委員。
● 1点,小さなことかもしれないんですが,第24の受益者名簿の作成義務のところは,(注1)で電磁的記録をもってというので書いてありますね。第23の帳簿作成義務で,書類を作成しなければならないというようなことをはっきり書くのが,今どうなのかという気が少しいたしますが。
● この点につきましては統一いたします。帳簿の方につきましても,現在でもe-文書法というのができまして,電磁的記録で作成できるとなっているはずですので,その点は配慮いたします。
● どうぞ,○○委員。
● 第23について,書類のことについてコメントしたいんですけれども,重要な書類というところから,その書類というところに変更があったというふうに認識しているわけなんですけれども。そうした場合,やはり実務の観点からどこまで保存しなければならないのかということでございまして,例えば銀行ではよく同じ書類を幾つも幾つもコピーをしてとか,いろいろな部に来てとか,そういうこともあるわけで。この提案を見ますと,それらを全部保存しなければならないという話にもなりそうでございまして,そうすると非常に窮屈な規律なのかなというふうに思っています。
その点,もし重要な書類ということが妥当でないという場合でも,やはり必要性の原則とか,そういうところである程度,不要なものは必要でないというような考え方も導入できればというふうに思っています。
したがいまして,パブリック・コメントの時点では,この書類の内容,その程度について重要なのか,そうでないのかということについての選択肢ないしは補足説明でそこら辺のことについても意見を問うということをしていただければ,ありがたいなというふうに思っております。
それから,第25に関して,前回,忠実義務のところで質問したつもりでいるんですが,その点について併せて御確認なんですけれども。繰り返しますけれども,忠実義務のところで,検討課題の10のところで2の(1)①,*1の3つ目でございます。例えば自己取引の違反の効果として,損失てん補責任,原状回復とかどうなのかという話でございまして,そこの点について忠実義務の今回のパブリック・コメントの御提案のところでは明示してなかったというわけなんですが,これは第25のところで含まれているという理解でございますかということです。
● そちらの方でできるということなので,あえて明示しなかったということで,受託者に忠実義務違反行為があれば,それが故意過失に基づくものであれば,損失てん補責任を負うということは,この記述を読んで明らかだから書かなかったということであります。
● そうしますと,前回の検討課題の(10)のところで,ポツ3のところの提案というのは,損失てん補責任,原状回復の請求というところが書いてあるんですが,その要件として,第三者の善意(無重過失)である場合とか,悪意(重過失)の第三者に対して受益者が取消権を行使しない場合とか,そういう要件が片やあったわけなんですけれども,今回の第25の提案というのは,そういう要件はないと。
● 故意過失の要件ですか。これは受託者が,故意過失が不存在という立証責任を負うわけでございまして,任務に違反する行為とだけ書いているのは,請求者側である受益者側にはその立証責任はないということを明らかにする趣旨でございます。これは債務不履行責任の本質を持っているものと考えておりますので,受託者側で帰責事由がないという立証が必要となると理解しております。
● 重要な書類の範囲。
● 重要な書類の範囲,全部保存してもらいたいんですけれども,ちょっと重過ぎるという感じでございますか。
● その射程がよくわからないということで,関してというのは,同じ情報を幾つもコピーするということもあると思いますし,また例えばそれを集計するとか,そういうことも含むとも思いますし,ある程度その線引きが必要なのかなというふうに思っておりまして,そこら辺,この書きぶりではちょっと限界が見えないのかなと。そうすると,本質的には,事務的に非常に重い規律にもなりかねないのかなということでございますので,その辺ちょっと御配慮いただければという趣旨でございます。
● わかりました。今これを直すといいますか,そういうことではなくて,そういうことについての意見が出るようにということをしてほしいということですね。
● わかりました。
● それでは,これから10分休憩して,また再開したいと思いますので,よろしくお願いします。
(休 憩)
● それでは,再開したいと思います。引き続き御議論いただければと思いますが,いかがでございましょうか。
○○委員。
● 第25に関連するんですけれども,これだけじゃなくて大きいポイントといいますか,私だけがわからないことかもしれませんけれども。第25あたりから,信託財産と受託者との間の行為といいますか,ここにおいては受託者が信託財産に対して義務を負う。信託財産といいましても,他の受託者が権利を持つ。あと後ろの,恐らくもうすぐ議論されると思うんですけれども,もう少したつと,受託者の方が信託財産に対して権利を持つという,要するに同一法人格内における権利とか義務の議論が出てくると思うんですけれども。
例えば,それに対して,受託者の第三者が差押えをできるのか,債権者で行使できるのかとか,要するにそういう信託のやむを得ない部分ですけれども,それをどうやって認識するのか,また考えるかというあたりを,要綱試案のこのところというわけじゃないんですけれども,その補足説明か,それについてどういうふうに考えていくのかというあたりの議論というものが,このあたりで必要なのかなと思って,ちょっと発言させていただいた次第なんですけれども。
● あるいは,もうちょっと具体的な例を御説明いただいた方がよろしいかもしれませんけれども,信託の内部構造,受託者と,それから信託財産あるいはほかの受託者も含まれるかもしれませんけれども。
● 受託者に対する損失てん補等の請求を受託者の義務として認識すれば,信託財産が権利者になると思うんですね。他のところでいけば,受託者が権利者,補償請求とか報酬請求では権利者であって,信託財産が義務者ということになりまして,それは履行される分においては,別にそこに残った後の信託財産だけだと思うんですけれども,履行される前の権利として認識できれば,それを差押えたいと思う債権者もいるかもしれませんし,差押えできないとすると,例えば受託者はその権利を行使しないままいるとか,理論的な議論だけなのかもしれませんけれども。その信託の内部構造について,どうしても一定の権利とかを認識せざるを得ないと思いますし,もしこのままでいけば,それは債権なのかどうかという議論にも結びついていくと思うんですけれども。
● 本来,法人であれば,そこはもうちょっと明確かもしれないけれども,信託であるということで,信託財産といっても受託者名義の財産であり,そういう意味で,受託者が信託財産に対してその権利という形のものを持っているかどうかと,そういうことですね。それに対して,例えば受託者の債権者が差押えしてくるとか,あるいは債権者代理権を行使するとか,そういう問題ですね。
どこで書くのが一番適切なのかわかりませんけれども,ちょっと私の感じでは,受託者の補償請求権とか,ああいうところで一番明確になるような気もしたんですけれども。あえてここじゃなくても,そちらで書くということでもよろしいんでしょうか。それとも,どこかで……
● この機会に1回議論できればということで,ちょうどここが最初のポイントだったので。
● ここは損失てん補だと思うんですけれども,私としては,この場合も受益者の権利という形で,ただ損失てん補という形で戻す先は信託財産ですので,そういう意味で信託特有の問題がありますけれども,今,○○委員が言われたことは,どちらかというと,受託者が信託財産に対して何か権利を持っている場面で主として問題になるかと思ったんですけれども。
● そうですね,それが一番わかりやすいと思いますね,受託者も債権者という……
● わかりました。今のことについて何か。
● 受託者の債権者が,受託者がそういう債権を持っていることを認識する機会を付与するべきだという話でございますか。
● そうじゃなくて,それを債権として認識して,例えばそれを差押えるとか,そういう法律の理解,理論的な理解,そういう理解でよろしいのかどうか。
● 被差押債権になるかということですね。
● そうですね。同一法人格なので,全部内部関係ですという議論がある反面,信託ですからやむを得ず,受託者と信託財産の間にどうしても権利関係を認識しての議論はしていると思うんですけれども。
● 今まで一般的には,受託者の例えば補償請求権,信託財産に対する補償請求権も,差押えは余り考えなかったかもしれないけれども,代位行使ができるというふうに私なんかは漠然と考えていたんですけれどもね。ただ,厳密には--ただ,代位行使といっても,いろいろ難しい問題があるかな。債権であるということ,受託者の信託財産に対する債権であるということを言わなくても,代位行使などはできそうな気もしますけれども,受託者の権限をただ行使するという意味で。だけれども,差押えだとかいうことになると,ちょっと違ってくるかな,特にね。
何か御意見ございますでしょうか。恐らく,信託というものについての理解をしてもらうという観点から,今のような問題点といいますか,信託というものはこういうものであるということを書けばいいということなのか,あるいは積極的に,さらに受託者のそういう権利というものは債権者が差押えたり,代位行使できるんだということまで書いた方がいいかというと,どちらでしょうか。
● 実務的といいますか,感覚的には,今まで準法主体説的に権利として認識して契約書をつくったりとかやってきているところもあるんですけれども,それは既存の80年前にできた信託法だからしようがないという議論で来ていたところもあると思うんですね,実務と現実と信託法との乖離であるみたいな。ところが,今般信託法が改正になるわけですけれども,割とそこの部分がどうしてもクローズアップ,理論的にもされるのかなと思うところもありまして,それについて当部会としてはこういうふうに考えているというようなところが,何か理論的に示すことができればわかりやすいと思うんですけれども。
● これはなかなか難しいところで,恐らく意見が一致しない可能性もあるんですけれども,一方では,今のように受託者の権利というんでしょうか,権限というんだったらいいのかもしれないけれども,権利とか債権とかという形で説明しようとすると,受託者の信託財産に対する権利というのは認めるべきではないという意見が一方でありそうな気がするんですね,やはり信託だから。同一の人格内の問題で,単に信託財産をどう管理するかという問題でしかなくて,受託者の権限の問題でしかない。
だけれども,他方で--他方でといいますか,私は,だから信託はどういうふうに説明すべきかというレベルで議論しようとすると,なかなか議論はしにくいけれども,個別の問題でもって,受託者の補償請求権などが債権者の代位行使の対象になるかとか,差押えの対象になるかとか,そういう問題は十分議論できるし,ここで明らかにできるものはしておいた方がいいような気がします。それをさらにどういうふうに説明するかというのは,恐らくここではなかなか統一できないのではないか,議論はした方がいいと思いますけれどもね。いかがでしょうか。
○○委員。
● 本日出させていただいたペーパーのところの部分にもよるんですけれども,基本的に,例えば補償請求権について信託財産を担保にとるとかというようなことも当然イメージをしておりまして,そのときに本当に登記できるんだろうかというようなお話がありまして,そのときの関係というのが,やはり法主体的なことを考えれば当然できるんでしょうけれども,そうでなければ,なかなか考え方として難しいというところがあって。実務的には,やはり担保にとりたい部分も当然ありますので,その辺のところの整理といいますか,実務的な感覚としたらできるというふうに思っておりますので,何らかのそういう方向性が出ればありがたいなとは思いますが。
● いや,私もできるというところはあるんですけれども,どう説明するかというのはなかなか難しいので,そこが躊躇しているという点ですけれども。例えば,先ほど議論した忠実義務のところでも,自己取引というのを--自己取引そのものじゃないかな,あるいは固有財産にいっちゃうから。でも,そうですね,そこで忠実義務,形上,忠実義務の違反になりそうだけれども,信託財産の上に権利を取得するとか,ちょっと今も十分整理できていないけれども,登記が対応していない問題が大分なんかあるような気もしているん
ですけれども。ちょっとあいまいな言い方をして申しわけないけれども。
● 今,登記の話も出ましたけれども,お二方のおっしゃったのは,基本的には補償請求権に限定して考えて,その補償請求権についての,○○委員は担保権の設定を認めてほしいと,補償請求権は債権ではないので,いわゆる担保物権が設定できるかどうかはあやしいところがありますよね。その点について,でも実際上のニーズがあるので対処してほしい,そういうお話だと伺ってよろしいですか。
● 補償請求権にかかわらず,例えば信託勘定間においての貸し借りと言っていいのかどうかわかりませんけれども,そういうものを観念して,例えば投資信託であれば,貸付信託の勘定からお金を貸し付けていると。それについて,投資信託の土地建物を担保にとっているということを実務上観念しながらやっているわけですけれども,そういうことが本当にできるかどうかということも関係しております。
● 今のは恐らく,まさに同じ法主体で契約を結んでいるのかというような話そのものではないかと思いますが,それをパブリック・コメントで聞いた方がいいというのではないですよね。
● そういうことではなくて,そういうことについての方向性,もちろん我々にとったらいい方向性でということですけれども,何らかの議論というものをしていただきたいなと。
● わかりました。それ自体は非常に私も重要であり,興味を持っている問題点でありますけれども,今,○○関係官からありましたように,必ずしもパブリック・コメントで聞く必要はないかもしれない問題なので,どこかで多少信託というものを説明する際に,どこか説明の中でちょっと触れていただくということはあるかもしれませんけれども,そういう扱いをさせていただくということで,とりあえずよろしいでしょうか。議論自体は,この場でもまた,後のテーマでもしていただければと思いますけれども。ちょっと今も,どういう場面が一番問題なのかわかりません。むしろ信託銀行の方がいろいろ御存じだと思いますけれども。さっき言いましたように,登記の関係でもしかするといろいろ,現在のままではうまくいかない問題があるのではないかという気がちょっとあるんですけれども。これもそういう議論はいずれにせよ,信託銀行サイドからはどっちみち意見としては出てくるでしょうから,ここであえてやらなくてもいいかもしれませんけれども,関連するテーマでもし言及しておく必要があれば,コメントしてください。
● 第28について質問したいんですが,今よろしいんでしょうか。
● いいですよ。
● これまでに聞いておくべきことだったのかもしれませんが,第28の趣旨なんですが,法令もしくは信託行為の定めに違反する行為をし云々で,やめることを請求できるというのは,差止めという言い方をすれば差止めなんですが,先ほどの忠実義務の定義からしますと,忠実義務を履行せよという履行請求と見ることもできるのではないかと思います。
そうしますと,通常の債権債務ですと,債権債務があれば,債務履行請求というのは当然できるということになるはずなんですか,この第28を見ますと,信託財産に著しい損害が生ずるおそれがあるときはという限定を加えています。ということは,ここから先は質問なんですが,忠実義務に限らないのかもしれませんが,忠実義務を例にとりますと,忠実義務というのはもう当然あるんだけれども,履行請求というのは当然できるものではない。履行請求というのは,こういう信託財産に著しい損害が生ずるおそれがあるときに限って履行請求を認めるんだという趣旨でこれを説明されるのか。それとも,ちょっと差止めに引きずられたためにこういう要件が出てきたのであって,通常の債権債務と同じように考えてよいともし考えるとするならば,当然に履行請求はできないとおかしいということになると。ですので,この趣旨を多分以前説明されたんだろうと思うんですけれども,単に失念しているだけかもしれませんので,ちょっと御説明いただければと思います。
● いかがでしょうか。
● ここで,信託財産に影響が及ぶということ,著しく損害が生ずるおそれがあるときとかぶせておりますのは,権利行使によりまして,それを履行請求と見るか,差止請求と見るかはともかく,他の受益者に対して影響が及ぶだろうと。それによって信託事務が停滞するわけでございますので,そういう観点からすると,常に請求できるというのは問題であるという観点から,法的な性質づけは確かに今,○○幹事がおっしゃるように,履行請求と見る見方もあるんでしょうけれども,受託者の信託事務処理の停滞を,むやみに停滞するのを防ぐ必要があるという観点から,一定の要件を請求者に課しているということでございまして,差止請求と見るか,履行請求と見るかというのは,ちょっとそういう法的な分析というのはどちらもあり得ると思うんですが,趣旨はそういうことでございます。
● 訴えの提起を想定すればそうなのかなと思うんですけれども,ただ,ここにありますように,信託行為の定めに違反する行為をしているときに,信託行為の定めを守れという請求というのは,普通履行請求ではないのかなという気が,最初見たときふっと思いまして,そうすると,この要件設定で本当にいいのかなというのはちょっと気になったということです。
● これは私だけの理解かもしれないけれども,信託の場合に,受益者と受託者というものが直接の契約関係というんでしょうか,そういうのに必ずしもないということもあって,純粋な履行請求なのかどうかというのはちょっとわからない。外国の信託法の中には,しかし履行請求というのを認めるところも,理論的には認めているところもあったように思います。しかし,今申し上げたようなこともあって,履行請求まではちょっと踏み切っていないと。しかし,差止めの方は,やはりこういう要件のもとで損害が信託財産に生じるという場合には,いわば法律の規定に基づいて,この規定があるから差止めが認められるというのが一つの理解の仕方としてはあり得るのかなと思いますけれども。
ただ,前置きをしましたように,これは私の理解ですので,ほかの理解もあるかもしれません。
いかがでしょうか。ちょうど株主と取締役の関係ですかね,あれも直接の関係は必ずしもないのと同じかもしれません。
よろしいですか。さっき議論してきたところと比べると,大体パブリック・コメントを聞く上ではこのぐらいでよろしいかと思いますが。じゃ,先に行ってよろしいでしょうか。
● では,受託者の権限の範囲から,第30から第34までご説明いたします。
まず,受託者の権限の範囲でございますが,前回,甲案として,「受託者は,信託行為の定めに従い信託財産の管理又は処分その他信託目的の達成のために必要な行為を行う権限を有するものとする」と,それから乙案といたしまして,「受託者は,信託財産の管理又は処分その他信託目的の達成のために必要な行為を行う権限を有するものとする。ただし,信託行為に別段の定めのある場合には,この限りでないものとする」と,両案併記いたしまして,かなり御議論もいただいたところでございますが,結論的には,甲案か乙案かというよりも,その実質といたしまして,受託者の有する権限というのは,信託目的達成のために必要なものについては広く及ぶというのをまず原則とした上で,信託行為において,前回は信託行為に別段の定めとだけ書いてあったんですが,それを信託行為において制限する方向で定めを設けることができるということを明らかにするのが適切ではないかということで,第30というような形でまとめさせていただいたところでございます。
なお,受託者の行為が権限外であることにつきましては権限違反を主張する側で,取消権を行使するのであれば受益者の側で立証すべきものでありまして,受益者は信託行為が信託目的の達成のために必要なものではないことや,信託行為による制限に違反したものであることなどを主張・立証していくことになると思われることを付言させていただきます。
次に,権限違反行為の取消しの関係でございますけれども,まず1といたしまして,先ほど第12のところで御説明いたしましたとおり,この規律の適用対象というのは,受託者もその相手方もともに信託財産のために行為をしているのを認識している場合に限定するというまとめに応じまして,ここで1として,受託者が信託財産のためにした行為が,相手方が,当該行為が信託財産のためにされたものであることを知りという要件を付加させていただいております。
それから,あと細かい点でございますが,(注1)で相手方の主観的要件の証明責任を受益者と相手方のどちらが負うかについては従来と同様,なお検討事項としておりますのと,(注3)のとおり,有限責任の特約をしているような場合でございましても,相手方が個人にいけるかという点につきましても,引き続きの検討としております。
それから,取消権の消滅につきまして一月または1年というのは,一応ここではこう書いておりますが,特に一月というのは短すぎるというような一般的な指摘がありますこと,それから前回の部会で,取引相手方から,取消権を行使されるかどうかについての催告の規律を設けるべきではないかという御指摘があったことを踏まえまして,この点については,いずれも今後検討していくことを(注2)に記載しております。
次に,第32でございますが,まず1つ細かい点は,1の(2)で,前回提案におきましては,受託者に信託財産を処分する権限が付与されていない場合というのも,このただし書で任意処分できないということを明記しておりましたが,ここでこれを落としておりますのは,例えば,管理目的不動産を処分するような場合だと思われるわけですが,そのような権限違反行為というのは,結局信託目的の達成の妨げになる場合に含まれるだろうということで,あえて別途書く必要はないと思われ削除しているものでございます。
次に,大きな点でございますが,受益者から費用の補償を受ける権利について,甲案と乙案を提示している点でございます。この甲案でございますが,これは受託者は原則として受益者に対して補償請求権を行使することができるとするものでございまして,現行法の規律を維持するものでございますが,考え方として,受益権というのは受益者の要する権利義務の総体であって,補償債務は受益者が利益を受ける反面として,当然に負担すべき性質のものとして,受益権の内容として一体として組み込まれると。権利義務と一体のものが受益権だという理解をしているものでございます。
これに対しまして,乙案というのは,前回,受益権の譲渡というところで提案したものを持ってきたものでございまして,かつての乙案とは違います。ここでの乙案というのは,現行法の考え方を大きく転換いたしまして,受益権というのは権利の総体であると位置づけまして,補償債務を受益権の内容から切り離しまして,補償債務は受益権とは別個の信託外の規約に基づく責任であると考えるものでございます。
あと,(注1)の点でございますけれども,これにつきましては,甲案によるにせよ,乙案によるにせよ,受託者が受益者に対する補償請求権を有しないことがあり得るわけでありますので,受託者は信託財産から費用の前払いを受けることができるとするとともに,(注3)に書いてございますとおり,一定の手続を経た上で信託を終了させる権限を受託者に与えるという,保護を厚くするということを提案しているものでございます。受託者が費用の補償を受けられないにもかかわらず,信託事務を継続して行わなければならないとするのは酷でありますので,一定の手続のもとに信託財産を終了させると,その前提として,費用の前払いを受益者のみならず,信託財産に対しても認めるということを新たに提案しているものでございます。
それから,最後に損害補償請求権につきましては,これは前回におきまして,受託者に過失がある場合であっても,過失相殺後の損害については補償を受けられるものとすべく,提案といたしまして,自己に過失なくして受けた損害の文言を改めて単に受託者が受けた損害として提案しておりました。今回は,その趣旨をより明らかにすべく,提案本文の文言としては自己に過失なくというふうに書いておいておりますが,(注4)におきまして,過失相殺後の残額について請求できるということを明らかにして,前回と同様の趣旨を明らかにしているものでございます。
次に,報酬請求権の方に移りますが,まず(1)のところで①,②とありまして,実はこれまでの提案ではこのほかにさらに1つございまして,「受託者が営業として信託を引き受けた場合」というのがありました。現行法でもそのような規律になっているわけでございますが,後ほど提案いたします営業信託に関する規律によりまして,営業として信託の引受けを行う行為というのは,営業的商行為とみなされまして,その受託者は商法4条によって商人となりまして,この商人が商法512条により報酬請求権を有することは,新たなここの②によって既に明らかにされておりますので,それ以上に受託者が営業として信託を引き受ける場合というのを,ここに挙げるまでの必要はないと考えたものでございます。
それから続きまして,18ページの信託報酬を受ける権利の行使方法でございまして,ここでも甲案と乙案というのを併記させていただいております。
まず,甲案でございますけれども,これはやはり報酬債務というのが受益権の内容に一体的に組み込まれると理解する点で,補償請求権の場合の甲案と同じでございますが,ここで補償請求の場合と違うのは,こちらでは原則としては受益者にいけず,信託行為に定めがある場合に初めていけるという意味で,従来の乙案を維持しているものでございます。
乙案というのは今回新たに挙げた考え方でございまして,先ほどの補償請求権に関する乙案と同様の考え方に基づきまして,受益権は権利の総体であると位置づけまして,報酬債務を受益権の内容から切り離しまして,報酬債務は信託とは別個の,受益権とは別個の信託外の契約に基づく責任であると考えるものでございます。
最後に,第34,受託者複数の信託でございますが,これは余り変わっているところはないのでございますけれども,1つは,細かい点でございますが,19ページ,太字の3の(1)のところで,やむを得ない事由があれば委託できるというふうに規律しております。前々回の提案では,やむを得ない事由があるときについては,その受託者を除く他の受託者の過半数で決定するという提案をしていたのに対しまして,それでは他の受託者が判断に窮することがあるという理解を前提に,前回の提案では,やむを得ない事由があるときには,その受託者が他の受託者に委託できるという規律を設けることにしてはどうかという問題提起をしておりましたが,これで特段の御異論もなかったので,後者の考え方を維持させていただいたというものでございます。
それから,次に4のところでございますが,4の(1)で受益者に対する責任というところで,実はこれまでの提案におきましては,受益債務については,各受託者は信託財産のみをもって,その履行の責めに任ずるという旨の規律を置いておりましたが,その趣旨は受益債権について物的有限責任を定めるとした,後ほど説明します第50から当然のものだと理解されますので,ここでは重複して記載することはしなかったというところでございます。
最後に,(注4)でございますけれども,前回,共同受託者の1人に対する確定判決は,信託財産を責任財産とする限度で,他の受託者にも効力を有するとの規律を設けることを前提にいたしまして,ここの前段に書きましたとおり,1人の債務名義をもって合有財産であります信託財産にもかかわっていけるという考え方をお示ししましたところ,後段に書いてありましたとおり,他の受託者に対する手続保障あるいは執行文付与のあり方,執行文をとるときの問題,また別途訴訟が必要となってしまっては意味がないので,執行力も拡張しなければ意味がないのではないかというような御指摘等々ございまして,そのような批判的な見解と原案を指示する見解と両方あったわけでございますが,この点については非常に難しい問題がありますので,なお検討事項とさせていただきたいということで,留保しているものでございます。
以上でございます。
● それでは,今の範囲におきましていかがでしょうか。第30から第34までということですが。
○○委員,どうぞ。
● 第32の費用等の補償請求権のところでございますけれども,これの2のところの受益者から費用の補償を受ける権利ということで,これは以前からいろいろと議論になっておりましたところの甲案,乙案,以前は民事信託というようなことで丙案もあったと思うんですけれども。
このうちの乙案のところの部分が,先ほど○○幹事からお話ありましたけれども,受益権の譲渡のところの部分でこういう新しい考え方が取り入れられて,乙案という形になっておりますけれども,これに加えまして,当初の前回提案におけます乙案,これをぜひとも入れていただきたいというふうに考えています。前回の規律のところを見ますと,基本的には受益者から補償を受ける権利を有するものとすると,ただしということでデフォルトルールがどちらなんですかという規定のされ方をしていたわけですので,それによって,甲案,乙案ということで書いたら入るのか,書かないと入らないのか,その違いということがありましたので,我々の方の理解としては,デフォルトルールをどちらにするんだというような理解をして議論をしていたわけですので,これについては前回分の,その案を支持するということではないんですけれども,選択肢として3つの選択肢を入れていただきたいということでございます。
● 要するに,受益者に対するいわゆる補償請求権というのがデフォルトの状態であるかないかという問題と,それからないといいますか,契約をすれば認められるというときのその説明をどうするかというのと,大きく分けるとその2つがあるんだと思いますけれども,○○委員の今の御趣旨は……
● 前回の乙案も残してほしいということですね。
● 私どもの方としては,今,○○委員のおっしゃった前回の乙案というのを積極的に御支持される方が特にいなかったかなということで,3つ書くのもいろいろと複雑になりますので,2つにしたということでございます。この場で前回の乙案がいいのではないかという御指摘があれば入れたらいいと,そういうようなことではないかと思います。こちらはその程度です。
● いかがでしょうか。確かに,この中間試案でもっていろいろパブリック・コメントを聞くという場合でも,ある程度ここでもっていろいろ意見が対立していて,その上で意見を聞くというのが一般的でして,この中で全然支持者もいないときに,そういうのを特に甲,乙,丙という形でその一つの案として出すということは,恐らく今までもやっていなかったんだと思います。そういうことで,ここでやはり前回の乙案を支持するという方がおられれば入るんだと思いますけれども,あとは説明の中で,今ここに書いてある甲,乙を説明する中で,そこから読み取ってもらうということになるんじゃないでしょうか。
● ちょっと補足しますと,かつて甲,乙,丙と提案していたときは,○○委員は甲案だったわけでございますが,丙案は余り人気がなくて,ほとんどの方が乙案だったわけでございます。一体として権利義務があるという前提で,しかし原則なしと。
ところが,先ほど○○関係官の方が言いましたように,受益の譲渡のところで,新たな今回の乙案を提案したところ,我々の理解としては,従来の乙案を支持していた方々は,基本的に新しい乙案の方がよりベターであるという理解を前提として乗り換えたというか,そうなっているだろうということで,もうこの2案に絞っているということでございますので,そういう理解が正しければ,まあこの2つかなということでいいのではないかというのを,ちょっと補足いたします。
● 私が申し上げたいのは,もう少し基本的なところからいきますと,要するにそもそもあるのか,ないのかというところの部分から考えると,ここで言う甲案,乙案ということになるんだと思うんですけれども,前回の甲案,乙案というのは,あることが前提でデフォルト・ルールをどうするんですかというところの話だったのではないかと思うんですよね。書き方見ていましたら,そういうふうな書き方になっていますので。そういう観点からいくと,乙案を選択しようというような考え方が出てくる可能性も結構あるのかなと。
● あることを前提とするデフォルトという趣旨が,ちょっといまひとつよく理解できなかったんですけれども。
● 例えば,これ乙案をとった場合については,これ条文化するときには全然規律がなくなってしまうということではないんでしょうか。
● それはいろいろ選択肢はあり得るんだと思いますけれども,条文のときの話というよりは,まずは具体的なルールを世の中に問えばいいと思いますが。
● いや,要するにそういうところ,補償請求権というもの自体が世の中から消えてしまうという話になってしまうんじゃないかと思うんですよね。
● それは信託外の特約ということになったとしても,それはやはり信託法の中で,どこかで規定することになると思いますので,全然なくなるということはないと思うんですね,そういう意味では。
● それは規定されるということでよろしいんでしょうか。
● それは,私は信託外の問題であっても,やはり信託法の中に規定しないとわからなくなりますから,つまり特約をすれば補償請求権が認められるようになるということについてですね,それはなくちゃおかしいですよね。
● そうですね,最終的には法制的なことではございますが,わかりやすさという意味ではあった方がいいのかなと。
● ここで言う甲案,乙案のところの私どもが懸念している乙案というのは,今申し上げたところで,要するに日本においての信託法の中で,考え方として補償請求権というものがなくなるんだと,それを一番懸念しておりますので。
● 御趣旨はかなりよくわかりました。じゃ,そのことを踏まえて御意見……
● 場合によっては,3案立てるのが不自然だということであれば,そういうような形の補足での御説明をしていただくとか,そういうことでも別に構いませんが。
● 御意見ありますか。
○○委員。
● 今の点ですが,ちょっと別の角度なんですが,甲案の書き方なんですけれども,現行法36条2項の規定の趣旨を維持しという,わざわざコメントが入っているというのが少し,その甲と乙との書き方としては不均衡ではないかという気がします。例えば,4ページの第8ですとか第9においては,現行法の規定の趣旨を維持しということで,もう1つだけの提案を出しているわけです。こういうものとの並びで言うと,現在出ている17ページの甲案,乙案の甲案の方が,むしろこの部会における原案であるかのような印象も与えるかもしれませんから,これはニュートラルにした方がいいのではないかと思います。
● そうですね,当然これはニュートラルにすべき問題だと思いますね。
○○委員。
● 考え方としては,○○委員のおっしゃったことと大分重なるんですけれども,信託法の中で補償請求権というのを認めるか,認めないかというところで甲案,乙案というふうになるのではないかという理解をしていて,乙案というのは,そういう意味では補償請求権というのは信託法の中では認めないのではないかというふうに思っているわけです。ちょっと私の理解が不足しているのかもしれませんけれども。
と申しますのは,そういう意味では,乙案について立てるとしても,そこは補足説明等で説明を十分にしていただきたいんですが,基本的には,信託契約外で行うということであれば,信託法の規律の入る余地が余りないのではないか。例えば,受益権の譲渡と補償債務の移転ということについては別に関係ないよと,または受益権の補償債務の契約としての引受けについて,例えば多数決の原理が働くのかとか,これも多分ないと認識しているわけなんですが。そうしますと,結局乙案というのは,ある意味信託法の中では補償請求権は認めないというようなことだと思うんです。
そうしますと,多分選択肢としては,そもそも認めるか,認めないかという甲案,乙案という整理になっていて,恐らくやはり認めた方がいいねという甲案の中で,じゃ,どういう選択肢があるかということで,どちらをデフォルトにするかという整理だと思うんですね。そこにおいて,やはりいろいろな考え方があると思うんですが,例えば乙は嫌だけれども,甲も嫌だけれども,原則は甲案的に補償請求権はあった方がいいんだけれども,デフォルトは反対だという方もいらっしゃるかもしれませんので,そういう意見も取り入れるためには,例えば3つ立てるという○○委員のおっしゃるやり方もありますし,または1つの妥協案なのかもしれませんけれども,甲案の説明のところで,どちらをデフォルト化することについてはなお検討するというようなところで,別の角度から意見があれば求めるというやり方もあるのではないかなと思います。
● なかなか難しいな。御意見はよくわかったんですけれども,ちょっと感触としては,信託法の中でまず補償請求権というものが信託法上あり得て,しかし,それを実際に認めるか,認めないかが,そのデフォルトをどっちに設定するかによって違ってくると,そういうことですね。
私自身はちょっと理解が違っていたのかもしれないけれども,ここで言う乙案というのを認めても,補償請求権について信託法の中に全然規定が出てこないというのは,いろいろな意味で信託法の全体を不明確にするので,仮に説明の仕方としては,信託--要するに受益者の地位に当然伴うような補償請求権あるいは受益者の方からの義務ですけれども,そういうものではないにしても,したがって,契約によって信託外のものとして認めるにしても,何かそれを理解する手がかりというのが信託法になくちゃいけないだろうと考えていたんですね。そうすると,3つというのは余り意味のない,どっちみち信託法には規定があるので,意味のない区別なのかと思ったんですけれども。信託法の中には全然規定が出ないということもあり得るということになると,○○委員や,あるいは○○委員がおっしゃることも一理ないではないという気もしてきたけれども,どうですか。
● 今の段階でどこまでというのは非常にお話ししにくいところがございますけれども,ただ,補償請求権といっても,ここで問題にされておりますのは,受益者に対する補償請求権だと思いますが,信託財産に対しての補償請求権はもちろん残りますと。
受益者に対する補償請求権の関係で,現行のもとでも幾つか規定が置かれているところあるかと思いますが,例えば引換えというか,同時履行といいますか,そういった債務履行関係の条文とか,ああいうところで残すかどうかというのは,今後も議論の余地はあり得るんだろうというふうに思います。
あるいは甲乙案と,妨げないというふうに書いてございますけれども,こういうような確認的な条文を置くということはもちろんそれは考えられる。ただ,本当に置かれるかどうかは今後の議論だろうとは思っております。
あるいは,信託法ではないかもしれませんが,信託業法の方では恐らくこのあたりを規制するような規律は置かれるかもしれませんということもあるかもわかりませんし,それはちょっとまだ先の話になるのかなという気はいたします。
● いかがでしょうか。
○○幹事。
● もし,御懸念がこの2案併記である場合に,乙案によれば信託法から規定がなくなってしまうということに対してどう考えるかという点にあるとすると,旧来の乙案が復活しても,その点に対する答えが端的に返ってくるかどうかというのはちょっとわからないところがあるんじゃないかというふうに考えておりまして,むしろ御懸念の点がそこにあるのであれば,その部分を補足説明なりで書いていただいて,同意を立てる方がより端的に御懸念には合うのではないかという気はいたします。
それから,規定が入るかどうかという点ですけれども,もちろんその条文化作業はもっと先のことだと思いますが,あるいは先ほどお話のあった忠実義務の中で,受益権の買取りなどがどう評価されるかという話が出まして,それと同じ局面ではないですけれども,信託事務処理について受益者との間で最終的に補償をさせるという特約を結ぶことが,果たしてその受益者のために行動すべき受託者として許されるのかというのは,あるいは懸念が出ることかもしれませんし,そういった手がかりになるところはやはりあり得るし,考えられることだと思いますので,そこはまだいろいろと考える余地はあるかと思います。
● そこまで入れるとまた難しい気がして……
どうぞ,○○関係官。
● 済みません,一言だけ。信託業法で,これについての規定が置かれるかどうかというのは,ちょっと私が未熟なだけかもしれませんけれども,やや違和感があると思うんですけれども。原則的には置かれないと考えた方がよろしいんじゃないでしょうか。
● 業法の話については,○○関係官がおっしゃったとおりになるのではないかとは思います。
● 恐らくどこかで規定をするか,しないかで重要な問題,今ちょっと○○幹事が言われたことと関係するんですけれども,こういう特約は全く信託法外の問題であるということにして,そうすると,こういう契約をしたときに,この契約の効力が認められるかどうかも余りはっきりしないと,つまり契約の一般の問題で,場合によっては忠実義務に反するという解釈が将来出てきたりして,認められなくなってしまうかもしれない。
いや,私は個人的には,この補償請求権というのはなくていいんだと思っていますけれども。
しかし,今までのこの議論の中でも,特約があれば,それは認めていいのではないかという議論が比較的多かったということを考えますと,それが完全に一般の契約の問題に解消させられて,それが認められるかどうかも今後の課題であるというのは,もしかすると,相当大きなギャップが現在の実務との間にはあるかもしれないという気はいたしますね。
何かいいアイデアがあればと思いますが,いかがでしょうか。少なくとも,ここでの中間試案へのまとめ方としては,今のような○○幹事が言われたように,今の乙案というのをとる場合には,今のは引き続いてそういう問題が出てくるということで,それでもいいか--いいかというか,説明を見た上で意見を述べる人たちはそれでいいかどうかということの判断を示してもらいということで,少し丁寧にこの乙案についての説明を書いておくという形で,とりあえずはいろいろな意見は出てくるとは思いますけれども,むしろ今後の実際のまとめ方の問題かもしれません,私が申し上げているのは。
じゃ,少し言葉を尽くして説明をしていただくということで,乙案をとった場合の可能性,これも確定的に今どういうふうになるというわけでもないので,可能性でしかないんですけれども。
● ○○委員の御意見では,乙案をとったとしても,それは信託法の中に補償請求という概念は残ってもしかるべきではないかと。私も,ここは税の議論する場じゃないんですけれども,全く第三者に対して損失補てんするみたいなことはできないという議論もあるかもしれないんですが,枠の残るということはまた別の議論だと思うんですけれども。
乙をとったら大変なことになるよという補足説明は,やはり乙案支持派としては,乙案でも別に信託法の中の規律として補償請求というのが合意すれば,もう従前と同じように機能するかもしれないということでいいと思うんですけれども。
● 私もそういう意見なんですけれども,ですから,余りこの乙案を説明で脅かすというのはよくないわけで,しかし,乙案をとった場合どうなるかがまだよくわからないということなんで,そこで非常に中間試案の出し方が難しい。
これはかなり重要な問題だと思いますので,ちょっと今御意見がなければ,少し検討して,次回にもう1回出させてください。よろしいでしょうか。
それでは,ほかの点はいかがでしょうか。
○○委員,その後,○○幹事。
● 34番と22番の関係なんですが,信託事務処理の委託ですね。受託者が複数の場合に,第三者に委託する場合は相当な理由があれば委託できて,ほかの受託者に委託する場合はやむを得ない事情が生じたときに限ると,これはこういう結論になるということでよろしいんですか。
● 第三者の委託というのは,広く委託することが現在の世の中では信託事務の処理に当たって有益だからということで広げたわけでございますが,信託受託者が複数いるというのは,委託者としては複数の受託者にして相互の監視といいますか,慎重な事務処理をしてほしいと。
効率性を念頭に置いていることもある反面,慎重な事務処理を期待しているわけですから,お互いに委託し合って人数が減ってしまったのでは,その委託者の意思に反するということでございますが,信託の受託者間の委託については原則としてだめという現在の規律を維持しているというもので,規律は逆転しております。
● よろしいでしょうか。では,○○幹事。
● 別の点でございますが,第31の1の権限違反行為の取消しでございます。
まず意見を先に申し上げ,実質的な意見を申し上げますと,2行目ですが,相手方が当該行為の信託財産のためにされたものであることを知らない場合には,1行目の場合に当たった場合,すべて有効で取り消せないということになると理解をいたしました。
もしそうだとすると,例えば信託銀行が信託財産のためにデリバティブ取引をしたと。
しかし,その信託行為で定めている権限に属しないという場合に,相手方である証券会社なのか,銀行なのかわかりませんが,そこが,そのデリバティブ取引が信託財産のためにされたものであることを知らなかった,要するに固有勘定で取引をしていると思っていた。
この場合は全然取り消せないということになって,そのデリバティブ取引で幾ら損失が出ても,信託財産にその効果は帰属するということを意味しているように思います。
そうすると,先ほどの第12ともしかすると関係するのかもしれませんが,第12はこれ強制執行の問題ですので,もうその損失分を支払っちゃった後に受益者が,いや,これは権限外のデリバティブ取引をしたんだから回復したいというふうに考えたときに,信託銀行ならば固有勘定で回復できるのかもしれませんが,そこでもし足りなかったときに,そういう権限外の取引をした相手方との関係を不当利得にして回復するということが,私は実質的には望ましいだろうと思うんです。
そもそも権限外であるし,相手方は要するに固有財産の取引だと思っていたわけですから,信託財産から支払ったものを取り返すことはできていいんだろうと思うんですね。
それは私の単独意見でありますから,ここで甲案,乙案を立ててほしいとは申し上げませんが,この第31の1の意味するところを,ぜひ補足説明で詳しく書いていただいて,どういう場合は信託財産に帰属し,どういう場合は帰属しないのか。
帰属する場合も,どういう場合に取消しができて,事後的に不当利得という効果が得られるのか。
その本来帰属するけれども,後から取り消せる場合がこの第31の1であると,こういうふうな形で,わかりやすい形で権限外行為についての帰属,不帰属の問題を説明していただけると,もしかすると,私と同じような意見も出てくるかなというふうに思いますので,お願いをいたします。
● 今のデリバティブ取引の帰属という意味が,お使いになれらる方で物権的に帰属とか,債権的に帰属とかいろいろな意味で使われることがあるので,ちょっと誤解を招くといけませんのでちょっと違った言い方になるかもしれないのですが,今のデリバティブ取引の話は,まさしく証券会社は信託事務だとも思っていないわけで,したがって第31の1の要件にも当たらないので,その取消しはすることはできないと。
それで,たとえそれによって証券会社が信託財産に対してデリバティブ取引の--証券会社が賭けに勝ったという言い方も変ですけれども,賭けに買ったとして,それで債権を持つことになりましたというときに,じゃ,先ほど説明いたしました強制執行のところで執行できるかという話になると,ちょっと先ほど○○幹事から要件等について御指摘を受けたところなので,そこは考え直さないといけないかもしれませんが,その実態的な話からいくと,権限に属しない行為であって,(3)に当たって,それで当該行為が信託財産のためにされたものであることを第三者が知らない場合という,その(3)の②に当たって,それが信託財産に属する財産に関する権利の設定とか移転ではないので,結局その信託財産に対して執行することはできなくて,したがって固有財産に対して執行ができるだけだという結末になると。
さらに,その上を超えて,信託財産から勝手に払っちゃったときに,受益者がそれを取り消して,相手方は信託事務だとは思っていないわけですから,権限外だということもおよそ知りようもないわけですが,そのときに果たして受益者が取り消して取り戻させるということまで認める必要があるかというと,この案ではとりあえずそこまでの必要はなくて,そこは受託者と受益者の内部的な関係で整理してはどうかという案なのですが,○○幹事の価値判断もあり得るということは,補足説明で明らかにさせていただきたいというふうに思います。
● 幸い,このバージョンについての私の理解は間違っていないということが今わかりましたが,その上で今のような場合に支払った分も取り替えさせること,あり得るべしだと思いますので,案を立てていただきたいということまでは申し上げませんが,そういう場合にどうなるかということを補足説明の中でわかりやすいように書いていただければと思います。
● これはたしか前の案で,この帰属についての認識の食い違いというんでしょうか,その問題と権限違反の問題というのがちょっと一緒になっていたのを分けて考えた方がいいだろうということで分けた結果,権限違反の方はそれぞれが両方とも信託財産についての取引であるということを前提にした上で権限違反の場合に,どういう場合に取り消せるかという,これは非常にすっきりしたわけですけれども,もう一つの帰属についての食い違いがある場合,この場合をどうするかについてがいろいろな意見がまだあって,○○幹事のような意見とか,ちょっと私もどっちがいいのかまだよくわかりませんけれども,とりあえず整理としてはすっきりしてきたんだと思います。
これをもとにして御意見を伺うということでよろしいでしょうか。その分けたことの意味なども,補足説明の中で少し明確にしていただければと思います。
ほかは,○○幹事。
● また第34に戻るんでございますけれども,お教えいただきたいんですけれども,これは複数の受託者がいたときには,職務分掌の定めがある場合であっても,常に全信託財産が合有になるというものであると考えてよろしいわけでしょうか。
● 共同受託者の合有に基づいた場合には,職務分掌がある場合であろうが,それ以外の,例えば財産が分属している場合であろうが,合有になるという考え方に基づいております。
● ということは,複数の信託財産があって,それぞれについて単独で何かをするというふうな定めがあるときも必ず合有になっていて,例えば3人共同受託者ですと,3人の名義を連ねて第三者と取引をするということになる。
● 本来は,名前を3人とも出すか,あるいは代表者という名前を出して第三者と取引をすると。それによって,他の受託者全員と信託財産にも効果が帰属するというのが事務局の理解です。
● それはばらばらに,甲財産はAという受託者に属させるということはできないということですか。
● それでもしかし,それが共同受託という合意のもとにただ名義--名義といいますか,所有名義ですか,所有者を例えばとりあえず甲にしておくというようなこともあり得ると。
しかし,それが共同受託の形態である以上は全員の合有になるという理解をしているわけでございますが。
● いや,それは実態と名義を分ける考え方もしれませんが,対抗要件の具備とかをする義務を負っているとすると,単独の名義にすると義務違反になるということなんですか。
● 例えば,ある1人だけが移転登記と信託の登記を備えて,ほかの人たちは信託の登記もないと。それで……
● 私の方で補足いたしますと,○○幹事が申し上げましたとおり,共同受託の場合は信託財産の所有形態は合有となる以上は対抗要件という点につきましても3人の名義という,そこで名義と使っていいのかわかりませんが,そういう形になると思います。
● それとは別に,例えばその3人が財産をいわば分属させるような形でもって名義を別々にすることは,それは合意があればできるということですか。ここで言う共同受託ではないということなのかな。
● そうです。
● ですから,○○幹事の言われたような分属というのがそういうものであれば,ここの共同受託ではないけれども,それはそれで信託契約の内容としてできるということなんだと思いますけれども。いまひとつ釈然としない……。
● いや,よくわかりませんけれども,現行の信託実務と整合的なのかということについて,○○委員とか御意見を伺えればありがたいんですけれども。
例えば,現在の信託銀行の中で,共同受託の形をとって信託財産をすべて資産管理の信託銀行に移転してしまっているという信託銀行が幾つかあると思うんですけれども,それはもはやもうできなくなるということなんでしょうか。
● 僕の理解は,ここで言うある意味で共同受託というものが狭いというんですか,この共同受託ではないと。
しかし,年金だとか,いろいろなもので分属させると,それぞれが通称共同受託とは言っているけれども,それぞれが別々に財産を管理しているというタイプがあるわけですよね。
● いわゆる年金信託において共同受託的な形なんだけれども,それぞれ別々で信託を受託しているような形態のものあります。
それであれば,別に共同受託ではありませんので自由にできると。そういうものが今結構ふえてきています。あとは業務委託契約でもって幹事を決めて事務を執行していくと,そういうタイプのものが1つあります。
それと,今おっしゃった財産の保管をする専門の銀行がありますので,それに対して財産を移管してというようなタイプの部分については,基本的には共同受託という形になると,そこは思います。
そういう意味合いでは合有という形でもって,逆に言えば,そういうタイプのものは合有という形でやっていかないと,なかなか難しいのではないかなと思いますので,そこら辺のところを御配慮いただいた規定ではないかなというふうに考えておりますが。
● 今のような資産管理をどこかに集中させる,共同受託だけれども,資産をどこかに集中させると,そういうことですね。
● そうですね。ですから,実際には1つの信託銀行しか資産は持っていないと,実質的にですね。
● それは,しかしここの規定で言うと何になるんだ。これは整合的なの,よくわからないけれども,大丈夫なんですか。
● 合有ということ……
● 合有であるけれども,どこかに--つまり入り口でもって,例えば3つの受託者が共同受託者として財産を引き受けるけれども,だけれども,実際にはその中のどこかに財産を集中させると。
合有だけれども,財産をどこかに集中させる。例えば登記なんかも,これはこのもとで可能だということ……
● 例えば不動産を購入すると,保管受託者が不動産を購入しますという場合には,その3人の受託者がいれば,3人の受託者の名義ということになりますので,そういう点では,保管受託者だけの単独名義にするということはできなくなってしまうという点は,共同受託者という形をとればなってしまわざるをえないと思います。
● 例えば,不動産の場合について今現在の実務だけで言いますと,不動産の場合については財産保管銀行に移すということはしておりませんので,ですから,そういう問題で困った問題というのは起きないと思うんです,現時点においては。
ですから,そういう形で集中しているのは大体有価証券に限定しておりますので,有価証券のところで不都合が起こるということはないと思いますので,実際の実務に影響があるというふうには余り思いませんが。
もちろん,これから先に保管するのが,不動産もすべて保管するというようなタイプのものがもしも出てきたら,それは不都合が出てくるのかもしれませんけれども,ちょっと普通に考えて,そういうものが出てくるのは現状では余り考えられませんので,そういう意味合いでは,そんなに不都合はないのかなというふうに考えていますが。
● 有価証券であっても,3人の受託者の合有ですと。だけれども,どこかに集中的に保管させると,そこで1人の受託者が集中的に保管しているけれども,それは単独の名義のものではなくて,合有財産を1人が管理していると,そういう扱いになるということですよね。
● そこでは,やはり不動産と同じように,名義といいますか,それは3人名義ということに。
● いや,実務もわかっていないのに実務で困るんじゃないですかというふうに私が言うのは変なんですが,皆さんずっと柔軟化してくれ,してくれという話が多かった中で,なぜカストディアン・トラスティとマネージング・トラスティとを分けて共同受託の形態をとるというのが困難になるようなことについて,実務的な問題を感じないのか。それを私の実務に対する理解というものが不十分だからであるというのならば,私全然構わなくて,私,実務をやっているわけではございませんので構わないんですけれども。
本当にマネージング・トラスティとカストディアン・トラスティとを分けてやっていくということが,本当にこの要綱案で可能なんですか。
● 有価証券が1つは集中したときに,その名義というのはやはり3人の受託者の名義なんだけれども,1人が管理しているというふうに見るのか,それとも名義自体も1人の受託者に移せるのか,その違いですよね。
それで実務がどういうことを要求していて,この規定で十分大丈夫だということなのか,もうちょっと緩和してほしいということなのか,そこですね。
○○委員。
● 先ほど○○委員は,不動産の場合には合有になっていますという話の後,前回たしか○○関係官の方から合有登記ありますというような記憶があるんですけれども,私が聞いたある信託銀行の方は,土地信託の場合には合有じゃない例もあるような,逆に幹事名義でやっているという話もあったので,先ほどの土地の場合には必ず合有名義とすることがこれの入り口ですということになってしまうと,特定の実務だけなのかもしれませんけれども,その土地信託のある実務とはちょっと違ってくるし,それが先ほどからの議論でも,それは全然違う形での共同受託ですということになると,せっかく信託法改正の中で共同受託という規律を設けているのに,それとは違う規律が法律には書いていないけれども,でも可能だという議論がまたどこかで1回しておかないと,それは結局,個別信託での受託者間における合意にしか過ぎないんだと,決して1つの信託としては認識されないんだということでいいのか,やはり違った意味なのかというところを考える必要が出てくると思うんです。
● いかがですか。
● 私自身が業界で議論していた中で不都合があるというふうな議論がありませんでしたので,こういうふうに申し上げていますが,御指摘を踏まえて,ちょっとそこは検討させていただくということでよろしいでしょうか。
● とてもパブリック・コメントに適しているのかもしれないので,今変えなければいけないわけではなくて,出してみていろいろな意見を……
● そうそう,ここで決める必要は必ずしもなくて,これに対するパブリック・コメントをもらえばいい。
● 弊社でやっている実務において問題はないと思いますけれども,当然いろいろなタイプのところがありますし,○○幹事がおっしゃったように,私どもはちょっとおかしいなと思っていても,そういう形でやっておられるところもそれはあるかもしれませんので,それはそういうことを再度踏まえて,ちょっと検討させていただきたいと思います。
● わかりました。それではこれ,とりあえず今一応これはこれで1つの案になっていますので,これをもとにしてどういう結論になるかという説明を加えていただくことで,コメントとして皆さんにはそれで適当なのかどうかということを御意見いただくということで,○○委員のところも御意見いただければと思います。
● この第33の報酬請求権のところで,1の(2)のところあたりかと思うんですけれども,パブリック・コメントで聞いていただくか,若干問題提起をしていただけないかと思っておりますのが,この相当額の決め方の問題で,これまでの御提案の中で,受託者の方で決められるというような前提で,受益者の方に通知をすればというようなことで来ていたかと思うんですけれども,この報酬の決め方というのは,かなり受託者の利益と,それから受益者の利益が衝突するような側面もあるので,決め方についてはややきちんと配慮した規定が必要なのではないかという感じがしております。
成年後見や遺言執行でも,後見人の報酬や遺言執行者の報酬の決め方についての規定がありますし,これは裁判所の関与ということになっていると思うんですけれども。
そういったこととの関係ですとか,あるいは営業信託の場合には,恐らく信託契約等で決めている場合が多いんじゃないかというふうに思うんですけれども,そういった中でこういった形で受託者が決めることができるというふうな規律をするのがどうなのかというのがちょっと気になっておりまして,むしろある程度そういった裁判所の関与ですとか,手続的に決定に至るには多少ハードルがあった方がかえって,例えば契約できちんと決めるとかということの要因になっていいのではないかというふうに個人的には考えています。
そういった関係で,多少これまで補償請求権の陰に隠れてといいますか,ちょっと発言の機会がなかったので申しわけなかったんですけれども,この点についてもちょっと御検討いただけないかというふうに思います。
以上です。
● 報酬請求権も,ある意味で利益相反の問題で,ただ,報酬請求権というものはその利益相反の1つなんだけれども,例外的に一定の場合に認めるというのが恐らく伝統的な信託の考え方であり,欧米の信託の考え方でもあると思いますので,今の御指摘自体は非常に重要な御指摘だと思います。説明等の中で対応していただくということにいたしましょう。
● 1つ質問なんですが,報酬請求について甲案,乙案というのがありまして,乙案というのは今回初めて。
● 前,受益権の譲渡請求のところに出ていたんですが,それは確かに補償請求権を念頭に置いた書き方をしておりましたが,同じことだろうということで,厳密には初出でございますけれども,受益権を権利義務の一体として見ないで,信託外の契約として報酬請求権も考えるという意味で言えば,補償請求権と統一的な考え方ができるということで挙げているものでございます。
● そうなんですが,報酬請求権について一般的に乙案という意見はあるんでしょうか。
● 補償請求権でも乙案があったので,報酬請求権でも乙案はあり得るのではないかと考えたんですが。
● 関連的にはあり得るかもしれませんが,むしろ補償請求権についてを念頭に置かれて,報酬請求権の方も2本に立てておられて,報酬請求権の方の乙案というのは余りここでは出ていなかったし,むしろ甲案の方が一般的な考え方じゃないかと思うんですが。
● 今回新たに乙案を立てることによって,受益権の中から義務の部分,報酬義務の部分を外して信託外の契約と考える考え方を支持するという考え方も十分あり得るのではないかと思われまして,別途乙案を出してきたところでございます。
御指摘のとおり,部会での議論は補償請求権でしかございませんでしたけれども,補償請求権の中でこの新たな乙案を支持する見解が比較多かったと。
それが結局,受益権を権利性だけにして義務の部分を外すという考え方が適切だという理解を私どもいたしまして,そうすると,その考え方と平仄を合わせるという意味で報酬請求権についても新たに乙案を出しても問題ないのではないかと考えているわけでございます。
● 統一的に理解すること自体が何か一つの判断を含んでいるような気がするんですね。
それで,報酬請求については甲案の方が多分一般的な考え方になるんじゃないかと思うんですが,それに引きずられて,補償請求の方も甲案ということにならないだろうということなんですが。
● 報酬のところの甲案ですと,信託行為に定めがございますと,他益信託において受益者が報酬義務を負うということになります。
他方,費用については費用の補償の方の乙案をとりますと,他益信託の受益者は負わないと。
そうすると,報酬の方は,信託行為に書けば他益信託の受益者は負担するんだけれども,費用は負担しないというのが,どちらかというと,費用と報酬で報酬の方をより保護するべきという判断は余りないのかなということで,こちらの方で勝手に推測してということではございますが,乙案を載せたということなんです。
● 補償請求権と報酬とちょっと違う感じがするのは,補償請求権というのは,本当に予想外の補償請求をされて困るということがあるために,やはり否定的な意見が強いんだと思いますけれども,報酬の方は,これも報酬がどのぐらいかによるかもしれないけれども,ある程度予測可能性があって,確かに○○委員が言われるように,余り甲案で違和感を感じない人が多い可能性はやはりある。
そういう意味で,構造は確かに同じようにすることもできるんだけれども,どうもその最後の実質的な配慮のところが,考慮のところが,ちょっと考え方が実際には違った方を選択する可能性があるということですね。それを受けて,○○委員はちょっと違和感を感じると。
● ええ,そうなんです。補償と報酬とを統一的なものだとすることは一つの選択で,そうすると,報酬について甲をとると,補償も甲をとるのが論理的にそうなるだろうというものじゃないんじゃないか。
甲と乙がたすきがけというクロスする選択もあり得るわけでして,それを答えやすいようにしておきませんと,何か説明によっては両方とも甲あるいは両方とも乙でなければいけないというようになると,ちょっと誘導することになるんじゃないかなという気がいたします。
● 決して我々は同じ甲甲,乙乙というわけではなくて,たすきも十分あり得ると思っていますので,補足説明で気をつけて書くようにいたします。
● そういう理論的な議論ではないんですけれども,乙案のように書くのであればというか,乙案を見て思ったんですけれども,委託者が報酬を払うというケースも,それが非常に便利である。要するに信託財産が不動産だけでキャッシュがないときに,だれが報酬払うのかという,費用のところにも実は絡んでいて,そこでも申し上げるべきだったと思うんですけれども。
何でもそういうのは信託外で合意すればいいという議論は当然あると思うんですけれども,もしそうだとすると,例えば信託行為の中であれば,損金性というのは当然費用の負担ということで認められるべきだとは思うんですけれども,そうじゃないとすると,払う行為そのものが何か贈与みたいな議論に結びつくとか,税の議論じゃないとしても,信託の枠の中で合意できるということが必要だし,またそういう議論を聞いたことがございまして。
ですから,乙案があれば,逆に受益者との間,また委託者の間とか入れていただいた方がいいと思いますし,それは同じ議論でさっきも言いましたように,費用のところでも同じように,信託財産を毀損しないでキャッシュをだれが負担するかというのは,当事者は委託者,受益者だけですから,そのどちらかが負担できるようなたてつけがあった方がよろしいのかなと思います。
● 委託者の話はこれまでも出てきたので,それもうまく含めるような形にしないとまずいかもしれないですね。
確かに,またこれ議論をし出すと,さっきの補償請求権の問題と同じでなかなか決着がつきませんけれども,問題点は十分これでわかったと思いますので,少しそれに対応するような説明にしていただければと思います。
ほかによろしければ,次の方へ行きたいと思いますけれども,よろしいですか。--はい。
● じゃ,あとは35番から最後までまいりますが,35番は従来どおりで,書きぶりが若干変わっているだけで,何も変わりはございません。
第36につきましても,基本的に変更はございません。
第37につきましてでございますが,1点だけでございますけれども,解任のところで,これまではただし書として,1の(1)でございますが,委託者の解任が信託目的に反しないときは受益者のみで行うことができるとの規律を設けることを提案してまいりましたが,このような場合については,委託者と受益者が合意で解任するとか,また信託行為で受益者のみで解任できる旨を定めておけばよいわけであるし,逆に信託行為にこのような定めがない場合にまで,受益者の解任が信託目的に反しないと言えるかは疑問ではないかというような考え方も踏まえまして,この場合を削除しているというところが変わっております。
それから,次に第38でございますが,これは解任及び辞任以外の受託者の任務終了事由についてということでございまして,これまでは,実は解任,辞任,破産手続の開始以外に受託者の任務終了事由をまとめてきた規律はなくて,ただ任務終了を前提にその後の取り扱いについて定めた規律を置くのみでございましたので,ここでその他任務終了事由を併せて取りまとめて列挙していくことにしたということでございます。
なお,①は強行規定と認識しておりますので,★がつくと。他方②につきましては,これはただし書が本来あるべきところでございまして,ただし,信託行為に別段の定めがある場合にはこれに従うと。
委任の場合と同じように考えているわけでございますので,ちょっと訂正・補足をさせていただきます。
続きまして,第39でございますが,これは何点か変わったところがございまして,まず1の(1)と,それから2の(1)と,それから3の(2)と,これはいずれも任務が終了した前受託者とか,あるいは相続人等,それから前受託者ですね,3の(2)も。
それらが通知義務を負うという規律を新たに導入してまいりました。このうち,受益者に対して通知をするといいますのは,前受託者を早期に選任し,信託財産は前受託者の固有財産や,あるいは破産財団にまぎれてしまうというようなことを防止するための措置をとるという利益を保護するために,このような通知をすべきものといたしました。
また,他の受託者に対する通知といいますのは,意思決定や責任の連帯負担など,多くの局面で共同受託者は利害関係が深くございますので,通知をしてその利益を保護するという趣旨でございます。そういうことから,この3つの通知義務を設けてきたということでございます。
それから,2点目といたしまして,3の(1)でございますけれども,23ページでございますが,これも新たな提案でございまして,受託者破産の場合についてのみ,前受託者の破産管財人に対する信託財産の内容等の通知義務を課しております。
これは,破産管財人というのは前受託者や相続人などとは異なりまして,破産者の財産の管理・換価に当たる者でありますので,信託財産が誤って売却されてしまうおそれが類型的に高いと思われます。
そこで,このような過誤を防止するために,特に信託財産の内容,所在等を認識させる機会を破産管財人に付与すべく,前受託者に係る通知義務を破産の場合には課しているというところでございます。
それから,3点目といたしまして,費用の償還請求につきましては,2の(3)と3の(4)には規律を置いていますが,1の(2),(3)の場合については置いておりません。
この考え方といいますのは,相続人とか管財人というのは,規律がなければ当然費用償還できないと思うわけでございますが,少なくとも1の(3)の場合には,前受託者の権利義務を有しているわけでございますので,受託者としての費用償還請求権を有すると考えられると思ったからでございます。
なお,(2)につきましても,権利義務が縮減されるとは言いましても,なお,受託者に類する関係にあると思われますので,あえて補償請求権の規律を置かなかったわけでございますが,(3)と異なりまして(2)は受託者とは言えないという印象もございますので,場合によっては費用償還の規律をやはりここでも置くべきかなという気もいたしますので,御指導を願えればと思っているところでございます。
あとは,3の(3),3の(4)につきましては,かつては,受託者倒産の場合における信託財産の取扱いについてというところから分けて持ってきたというところでございまして,その片割れは,先ほど受益者から破産管財人に対する差止請求という規律のところにいったわけでございますが,残りがこっちに来たとなっているところでございます。
第40については,今度は新受託者の選任等につきまして新たに規律を設けたということで,前回までの提案を改めてここにまとめたということ以外に何も変わりはございません。
第41につきましても,特に何も変わりはございません。なお,24ページの(注2)のところでございますが,1点誤植で2の(1)と書いてありますが,3の(1)の間違いでございます。
それから,25ページ,(注6)は新設でございまして,相続人等の事務の引継ぎに関する規定を設けるというのは細かい点でございますが,この4で,前受託者から新受託者への事務の引継ぎに関する規律は前から置いていたわけでございますが,相続人等から新受託者への承継,前受託者が死亡した場合に関する規律が欠けておりましたので,その規律は当然補充する必要があるということで,ここに注記させていただいております。
あと,第42につきましては,提案本文の変更があったというわけではなくて,前回問題提起していたところについて決め打ったということにとどまるわけでございますが,念のため補足しておきますと,まず信託財産管理人の選任につきましては,前回は承諾辞任とか,特約辞任のときについては除外するという提案をしておりましたが,それに対しては,これをあえて除外する必要もないし,辞任にもいろいろな事由があるだろうという御批判をいただきましたので,今回は改めまして当初に戻しまして,任務終了事由を問わないということにしているわけでございます。
それから,2の信託財産管理人の権限につきましては,民法103条の権限と同様のものを有するということを前回提案して問題提起しておりましたが,特段異論がなかったので,これを維持したというものでございます。
それから,3の民法の受任者の義務と同様とするというのもこれと全く同じでございまして,現行非訟事件手続法と同様に,民法の受任者の義務を規定するということにすることとしております。信託財産管理人は名義人となりませんので,受託者と同様の義務とするまでもなく,受任者でいいのではないかというような考え方に基づくものでございます。
それから,(注1)でございますけれども,裁判所に対して辞任の,または解任の申立てがされた場合について管理人を選任することができるかというものにつきましては,これも前回に引き続きましてなお検討したいと考えております。
前回は積極的な御意見もいただいたところでございますが,なお検討課題としてパブリック・コメントに付したいと思っております。
最後に,(注6)のところの仮処分によって選ばれました職務代行者につきましては,信託財産管理人の権限と同様の権限ということで,これは前回問題提起しておりましたところ,異論はございませんでしたので,そのまま維持するということでございます。
以上でございます。
● それでは,今のところ第42まで御意見。
○○幹事。
● 小さい話で,かつひょっとして申し上げたことがあったのかもしれないんですが,第37の1の(3)の書き方なんですが,これですと,やむを得ない事由があったときにも解任できないというふうな定めもできるということになりますか。
● 我々が想定しておりましたのは,受託者の同意がある場合とか,それから損害については損害賠償しなくても,やむを得ない事由があった場合でなくても損害賠償しなくていいという定めを念頭に置いていたわけでございますが,確かにやむを得ない事由があっても,とにかく受託者の同意を要するんだという定めも許されるのではないかという気がいたします。
そのかわり,(4)で裁判所に対する解任請求をしていくという方向に行くのではないかという気がしているところでございます。
● 解釈論としてはそうかもしれませんが,それの方がいいんですかね。よくあるから,いいのかもしれませんけれども。結構です。どうも済みません,小さい話で。
● ほかにいかがでしょうか。
○○委員。
● 細かいことで2点ございます。第36の合併ないしは会社分割の受託者の変更ということですけれども,これは前回の提案では法人ということであったわけですけれども,これが株式会社になっている理由がどうなのかという話です。
考えれば,新会社法においても持分会社の場合は合併とか,そのうちの合同会社の場合には分割とかあるとは思います。
また,今後,公益法人改革でどうなるかわかりませんけれども,公益法人の場合も受託者になって,かつそういう合併とか,変更がある可能性もあると思いますけれども,本提案の場合,株式会社と限定した理由は一体何なのかということです。
別にする理由はないのではないのかなというのがちょっと私の意見でございます。
それから,2つ目は第39について,通知義務を課したというところが新しいところでございますけれども,その中で,第39の2で受託者の死亡等による任務終了の場合ということですけれども,この場合,ほかの規律と違って通知義務がある場合は,その事実を知っているときはということが入っているわけです。
このような制限をした理由は何なのかという話なんですが,恐らく成年後見とか,保佐人とかいった場合には,そこまで知っている場合があるのかとかというようこともあるので,そこまで義務を課すのは過酷であるというような配慮があったのかなというふうには思っておるわけなんですが。
他方,これはもう価値判断になるわけなんですけれども,法人における清算人というのがその事実を知らないということによって,通知義務をなくすということが妥当なのかどうかということもちょっと疑問に思いますものですから,まさしくここの限定をした理由というのをお尋ねしたいと思います。
● まず,法人,株式会社についてというのはここでは代表的なものとして挙げておりまして,特別法にも会社分割,合併ができる場合はあるようでございまして,網羅的に現時点で調べておりませんので,代表的なものを挙げて,あとは整備で対応していきたいという趣旨で書いているというものです。
それから,あともう一つ,その事実を知っているときというのはおっしゃるとおりで,相続とか,少なくとも成年後見開始とかいう場合については,必ずしも後見人とか,それから相続人がその事実を知っていない可能性があって,そういう場合にも通知義務を課せられるというのは酷であろうということから除外しているという趣旨でございますが,ちょっとこれでは問題があるということであれば,またコメントをいただきたいというところでございますが,趣旨ということであれば,そういうことでございます。
● これが入っていたかどうかは別としても,そういったものであれば,清算人というのはちょっと特異なものなのかなという気もいたしましたので,そこを補足説明等で切り分けていただくような御配慮があれば,ありがたいなとは思います。
● 第42の信託財産管理人なんですけれども,今の御説明,また今までの議論でも,信託財産管理人は受託者ではないということなんですけれども,その場合の財産の名義というのは,辞任した,またはやめた受託者の名義のままにとどまるということなんでしょうかという確認と,場合によっては,それはやはり何かリスクがあり得るケースもあると思うので,受託者じゃなくても信託財産管理人名義にするような規律というのも考える必要があるかどうか,考えてもいいんじゃないのかなと思いますがどうでしょうか。
● とりあえず,名義のところについて私からまず答えておきます。第41の1のところで,信託財産の帰属について書いてございますので,前受託者死亡による場合は法人とみなしますが,死亡以外の場合には前受託者に帰属するものとみなしまして,新受託者が選任されますと権利義務が承継されますので,その時点で,今度は2の(1)のアとイというような場合になって,任務終了事由が解任とか許可辞任の場合には,任務終了の時点にさかのぼって,前受託者から新受託者に所有権も移ると。
それから,それ以外の場合には,この場合は特約辞任と承諾辞任の場合につきましては,新受託者が選任された場合に初めて移るということで,ですから,新受託者が選任されるまでは,とりあえず前受託者が名義人になっているところは変わらないというところでございます。
あと,○○関係官の方から補足を。
● 信託財産管理人というのは裁判所が選任する法定の管理人ですけれども,信託財産管理人が信託財産の所有者,名義人になるとすると,例えば所有者責任みたいなものも負う可能性というのが出てきて,そうすると,実際に就任するという人がいなくなってしまうのではないのかなというような感じが直感としてはいたします。
確かに,信託財産の名義というのを前受託者,例えば解任された前受託者においておくのは不適当であるというようなことはもちろんあるんだとは思うんですけれども,それに対する解決の方法として,信託財産管理人に対して,信託財産の所有権を移すというのが実際いいのかなというのはちょっと疑問ではあるんですけれども。
● これ,前受託者のもとで,例えば不動産の信託財産なんかに,何か終了したことの公示というのはできるんでしょうか,前受託者はもう現在は権限がないという。
名義はとにかく残すということですよね。だけれども,受託者としては権限が行使できないようにしておくということが必要だということですよね。
● 受益者等に対する通知義務が新たに課しますので,それを受益者が知って,そういうことをしないように監視するとか,早く新受託者を選ぶとか。
信託財産管理人が選ばれますと,前受託者から新受託者に権限が移りますので,専属的になりますので,前受託者は法律上は何も手を出せなくなる。
名義だけあって手は出せるわけはない。しかし,名義はあることによって,それを例えば第三者に売っちゃって,第三者が善意無過失であれば,権利を取得できるというような懸念かと思いますが,それについてはちょっと今のところ,前受託者の善意に期待しているところでございますけれども,特に手当はないです。
● これもちょっとリスクが全然ないかと言われると,やはりあるような気もするので,何かうまい手当があればいいかもしれませんけれども,いろいろな御意見を伺うということで,原案としては今の点までは書かないけれども,コメントをいただくということにいたしましょうか。
どうもありがとうございました。ほかにいかがですか。
○○委員。
● 聞き漏らしたかもしれませんけれども,37の2の受託者の辞任の(2)というのは,★印はつくんですか。
● ええ,入れるようにいたします。済みません。
● それではこれで終わります。どうも長いことありがとうございました。
-了-
2016年加工編
法制審議会信託法部会
第18回会議 議事録
第1 日 時 平成17年7月15日(金) 自 午後1時01分
至 午後4時10分
第2 場 所 法務省第1会議室
第3 議 題
信託法改正要綱試案(案)の補足について
信託法改正要綱試案(案)第43~第70について
第4 議 事 (次のとおり)
議 事
● 法制審議会信託法部会を開きたいと思います。
(幹事の異動紹介省略)
● 今日は中間試案公表前の実質的に最終回でございます。次回は○○参考人においでいただきまして御講演をいただくということでございますから,今日が審議をする最終回でございます。
そういうことで,最後までやらなくてはいけないものですから,できるだけ効率的にやるせよ,大分時間がかかることもあるかもしれません。御協力をお願いしたいと思います。
● 本日は,まず,前回第42までやりましたうち,いろいろな御指摘を踏まえて事務局の方で検討し,あるいは提案内容を若干変更した点について,前回の案の補足及び今回の修正事項の補足として配りました資料に基づいて御説明したいと思います。
続きまして,第43以降から適宜,受益者と委託者,変更と終了,民事信託,営業信託,特殊な信託と4つか5つぐらいに適宜分類して進行したいと思いますので,どうぞよろしくお願いいたします。
では、最初は,前回の第42までのうち,御指摘を踏まえてこちらで提案を見直した点につきまして,「補足」と題します資料に基づきまして,その要点だけを御説明させていただきたいと思います。
まず,第3,詐害信託についてでございますが,この中では,特に線が引いてございますが,(2)を追加した点でございます。
改正要綱試案の前回の案において(注2)として記載していたものにつきましては,その注において記載された考え方を公表するに際しては,もう少し理解が容易になるように記載した方がよいのではないかという指摘がございました。
そこで,1の(2)に本文として記載することとしたわけでございます。
1の(2)といいますのは,信託された財産を受託者が受益者に対して給付してしまった場合において,その給付された財産を受益者から取り戻すために民法第424条第1項の取消権を行使する際の特則を定めたものでございます。
第424条第1項を形式的に適用いたしますと,受益者が現実に給付を受けた時点において,善意であるかどうかによって取消権行使の可否が決せられることになると解されかねないわけでございますが,ここでは受益者が受益権を取得したことを知った時点において善意・無重過失--現行法を踏襲して「無重過失」というのを書き加えておりますが--であるかどうかによって,取消権行使の可否が決せられることになるという点を定めているものでございます。
続きまして,第5,受託者の利益享受の制限において,(注)として「第三者の名義をもって信託の利益の全部を享受する場合についても,同様とする」という文言を付加したいと考えております。
これも前回会議において,受託者が受益権の全部を固有財産で保有すると規律した場合に,現行法が「何人ノ名義ヲ以テスルヲ問ハス信託ノ利益ヲ享受スルコトヲ得ス」と規定していることに比較しまして,規律の対象が狭くなったと受け取られる可能性があるとの指摘がございました。
そこで,第三者名義で信託の利益の全部を享受する場合も,現行法と同様に,信託を存続させないとすることを注記したわけでございます。
なお,この場合におきましては,第三者の名義で受益権を取得することによりまして,受益権の全部を固有財産で取得することの禁止を潜脱しようとするものでございますので,受託者と受益者を兼ねる状態を解消するのに必要な期間が経過しなくても,直ちに信託が終了するものと考えております。
本来の兼任状態が生じました場合には,その兼任状態が解消されるまでに必要な期間は終了しないとしているわけでございますが,ここで「直ちに終了してしまう」としている点について若干御説明しておきますと,固有財産で取得したとき,一定の期間,存続させておきますのは,転売など正当なニーズがあるからであると考えられます。
そういたしますと,第三者名義で取得するというのは,正当なニーズがあるのであれば,あえてこのようなことはしないはずでありますので,存続させておく意味はないと思われますので,直ちに終了すると考えているわけでございます。
続きまして,第12,信託財産に対する強制執行等についての補足でございます。
第12は,前回会議における指摘などを踏まえまして,信託財産に対して強制執行等を行うことのできる権利は実体法的にどのようなものかという観点から,とりあえず整理しましたものでございます。
パブリック・コメントに付すに際しましては,証明責任の点はさて置くといたしまして,強制執行等を行うことのできる権利は何かというのを,まずもって明らかにしようという趣旨で,ここに記述させていただいております。
すなわち,(1)が,現行法と同じく,信託財産について信託前の原因により生じた担保権等の場合,(2)が,相手方の効果帰属意思の対象を問わず,受託者が信託財産のためにした権限内の行為による場合,(3)と(4)は,いずれも受託者が信託財産のためにしたものの,権限外の行為である場合につきまして,まず(3)が,相手方も信託財産に効果を帰属させることを知っていた場合,(4)が,相手方は受託者が信託財産に効果を帰属させる意思であったことを知らなかった場合について,それぞれ規律しているものでございます。
これは,結論的には前回の提案内容から実質的な変更はございませんが,前回の指摘に基づきまして,このように同様の結論に至るまでに検討した点などについて,補足して御説明申し上げたいと存じます。
ここで主として検討の対象となりましたのは,(4)の場合でございます。
前回も申し上げましたとおり,(4)の場合につきましては,受託者と第三者間の取引の性格,すなわち信託財産について権利の設定または移転をするものであるか否かによって,その取扱いは異なることとしているわけでございます。
すなわち受託者の取引相手方のうち,受託者に貸付けなどをした一般債権者につきましては,受託者のもとにある個別の財産を信頼したわけではないので,信託財産に対しても強制執行ができるとしてその信頼を保護するまでのことはないと考えられます。
そして,それにもかかわらず信託財産に対して強制執行がなされた場合には,受益者が信託財産であることなど必要な証明をすれば,正当な異議として認められることになります。
これに対しまして,信託財産に属する特定の財産について取引が行われた場合には,取引の相手方は受託者が権利者であるところのその財産を信頼したわけでございますので,このような信頼は,受託者に対する一般債権者の信頼よりも保護に値すると考えられます。
そこで,この取引債権者においては,信託財産に対して強制執行等をすることができるとしたわけでございます。
ところで,この後者の取引の相手方の信頼を保護するという点につきましては,例えば,寄託における受寄者と取引した相手方については,受寄物たる財産を信頼したとはいいましても,民法第192条等を経由しない限り保護されないということとのバランスが問題となるのではないかとのご趣旨の指摘が前回ございました。
しかしながら,委託者及び受益者は信託のメリット,信託財産に独立性が付与されることですとか,受託者が所有者であるからこそ行い得る柔軟で実効的な管理処分を受けられることなどのメリットを享受すべく,あえて信託という法律構成を選択して財産を受託者の所有に移したものである以上,寄託者が完全に所有権を留保している受寄物の場合と異なりまして,取引の安全がより優先されることになっても,決してバランスを失するものではないであろうと考えている次第でございます。
もっとも,以上のような理屈は,信託の公示が整備されていない信託財産,典型的には,動産の場合には適切であると思われますが,信託の登記・登録制度が整備され,現に登記・登録されている信託財産についてまで取引の相手方があくまで信託財産のための取引であるとは知らなかったことを主張,強弁できるとして取引の安全を保護すべきかというのは,別の判断もあり得るところでございます。
すなわち,このような登記・登録がされている場合におきましては,取引相手方が信託財産のための取引であると知らなかったと主張することは許されないと考えまして,第31の1において取消権行使の可否を論ずる対象とするものといたしまして,第12では(3)の場合に従いまして,受益者が取消権を行使できる場合であるか否か,すなわち当該取引が委託者の権限外の行為であったことにつき取引相手方に悪意・重過失があったと言えるか否かによって,信託財産に強制執行ができるか否かが決せられるとする考え方もあり得ると思われるわけでございます。
そこで,「相手方が信託財産のためにされたものであることを知っていたとき」という要件との関係で,信託の登記又は登録がある財産につきましては,このような考え方があることについて補足説明で丁寧に論じることとしたいと考えている次第でございます。
以上が第12についての検討結果の補足説明でございます。
続きまして第20,忠実義務違反等の効果についてでございます。
まず,補足説明の1の③と④でございます。前回は③だけ書いておいたわけでございますが,④も追加させていただきました。
③というのは,厳密に言いますと①の取引に係る,すなわちいったん自己取引をしてから受託者がさらに第三者と取引をする形態というのが素直な読み方でございますが,前回の指摘などを踏まえまして,いわゆる第三者間取引,すなわち受託者が直接に信託財産について第三者と取引する形態,例えば信託財産を第三者へ売るとか,自己の債務の担保のために信託財産を債権者の担保に供するような場合なども含まれることを,④として明記したのが第1点でございます。
続きまして4の,いわゆる利益吐き出し責任の関係についてですが,前の提案ですと損失推定の規律を設ける甲案と,正面から利益吐き出し責任を認める乙案を併記しておりましたが,何の規定も設けないという丙案も設けるべきではないかという指摘が前回ございました。
しかし,少なくとも競合行為につきましては甲案,すなわち損失推定の規定を導入することがあり得るといたしますと,何も規定を設けない丙案をとることは,結論的にはあり得ないと思われるわけでございます。
会社法におきましても,第356条第1項第1号における競合取引に関しましては,第423条第2項において,甲案と同様に損害額の推定規定が設けられているわけでございます。
そうしますと,丙案というのは結論的にはあり得ないと考えられるわけでございまして,あとは甲案と乙案の適用範囲の問題に収斂されるのではないかと理解いたしまして,ここでは現行の提案のとおり甲案,乙案を併記した上で,その適用範囲についてはいろいろな意見があることを補足説明で対処したいと考えている次第でございます。
なお,前回の会議におきましては,公平義務の性格づけに関しまして,公平義務というのは信託事務の処理に関して問題となる局面が中心であるのに対しまして,忠実義務というのは信託事務の処理の内外にかかわらず起きる問題であって,公平義務というのは忠実義務と重なる部分はあるけれども,善管注意義務に近い部分もある中間的な義務ではないかという御指摘ですとか,公平義務違反の典型的な場合としては,自己取引などよりも,むしろ市場や第三者といった外部と取引することによって,一方の受益者の不利になる場合の方が典型例ではないかといった御指摘をいただきました。
ここでは,後者の指摘に対応するべく,4ページの3,公平義務違反の効果のところにつきましても,③のほか④を加えまして,受託者が直接信託財産を外部の第三者と取引する場合も公平義務違反の場合に含まれることを明記するとともに,前者の指摘,すなわち公平義務違反の性格づけにつきましては,これまで当部会におきましては,公平義務は,どちらかといいますと忠実義務の系統として議論されてきたのではないかと認識される経緯を踏まえまして,試案の本文としてはこのままとさせていただきつつ,性格づけについての指摘があったことを補足説明で言及させていただきたいと考えている次第でございます。
続きまして,第32,費用等の補償請求権についてでございます。
この点につきましては,2,受益者から費用の補償を受ける権利につきまして,従来は,ここに書いてあるもの以外に,かつての乙案というもの,権利・義務が一体としてではあるけれども,原則としては受益者の補償請求権がないという規律を設けるべきではないかという指摘がありました点でございます。
この点につきましては,旧乙案については部会の審議で特段の支持者がいなかったと理解されるにもかかわらず,一つの案として出すのはいささか不自然ではないかということでありまして,従前の乙案を併記すべきと主張する意見と申しますのは,結局,今回の乙案--新乙案によりますと,信託法上に受益者に対する補償請求権に関する言及がなくなることも懸念されるという御趣旨ではないかと理解されるわけでございます。
そこで,この(注3)にありますとおり,2において乙案を採用した場合には,受託者と受益者との間で個別に費用の補償の合意をすることを妨げない旨などを明文で規定する方向で検討する。
確約はできないわけでございますが,そのような方向で検討することを明文でうたいますとともに,そのかわりといたしまして,旧乙案--甲案の第2案といったものは本文には入れず,しかし,このような見解があることを補足説明で言及するということで対処させていただければと考えております。
最後に,第38と第39の関係でございますけれども,前回の試案におきましては,現行法第42条と同様に,受託者が解散した場合には,その清算人に信託財産の保管義務を課すとしておりました。
しかし,受託者が解散したことにより任務が終了した場合にも,受託者であった法人は清算法人としてなお存続しておりますので,清算法人自体に保管義務等を課せば足り,その期間たる清算人に保管義務を課す必要はないと考えられます。
そこで,第39の2から清算人を除くとともに,1に前受託者たる清算法人を含めることといたしまして,それに伴う調整を第38と第39の3で行ったと考えた次第でございます。
前回の御指摘を踏まえた見直しについては,以上でございます。
● 前回,御議論いただいた部分について,さらに若干の検討を加えたということですが,ここまでのところで,いかがでしょうか。--よろしゅうございますか。
前回,共同受託者も少し議論になったと思いましたけれども,あれは……。
● 前回の部会の中では,信託財産を合有とすることについて,そのままでいいのかという点が問題になったかと思いますけれども,この点につきましては,補足説明の中で具体的に記載したいと考えておりまして,今回の資料の中には書いていない次第でございます。
● ……ということで,いかがでしょうか。--よろしゅうございますか。今回の要綱試案ということで,これに対していろいろ御意見をいただく。その御意見をいただくようなものとして,ここでの議論が適切な形で反映されているかどうか御検討していただくということだと思いますが。
● 合有のところのお話について,今,富澤さんの方からお話があったように,補足に書いていただくということで結構でございますけれども,もともと「合有」という言葉で1つに括られていたものが,実際上の問題として,登記上の名義はどうなるんだろうかとか,実質的な保管はどうなるんだろうかというところでの解釈について,それぞれの考え方がちょっと違っていたようなところがありますので,できればそこら辺のところを分析していただいて,その上で,補足という形で結構ですけれども,御意見を聞くような形にしていただければと思います。
● では,そういう形の補足説明をしていただくことにいたしましょう。
それでは,前回の部分につきましては以上でよろしいということでありましたら,今日の議論に入りたいと思います。
● それでは,本日は第43,資料で言いますと27ページから,とりあえず受益者と委託者の点について,主要なポイントと思われる,特に従来の議論からの変更点について簡単に御説明申し上げます。
まず,第43でございますが,これは特段変更ございません。
続きまして,第44の信託管理人等につきましては,3点ほど御説明させていただきたいと思います。
第1点は形式的な点でございまして,1の(1)で「受益者として権利を行使することのできる者がいない信託」と冒頭に書いた点でございます。
現行実務におきましては,受益者が変動する年金信託などにつきましても不特定の受益者がある場合に該当するとして,信託管理人を選任しておりますが,このような場合につきましては,ある一定の時点をとらえれば受益者は特定していると言えるわけでございまして,新たな制度であります受益者代理を選任すれば足りると考えられるわけでございます。
そこで,このような趣旨を明らかにするために,現行法の文言を改めまして,「信託管理人が選任されるのは,受益者として権利を行使することができる者がいない場合であること,つまり,年金信託の場合はここに入らないことを明らかにするというものでございます。実質的には,これまでの提案からの変更はないつもりでございます。
次に,第2点でございますけれども,3,受益者代理の(2)におきまして,前回の提案では,受益者代理に対して「信託の利益を受領する権利その他債権の実現を保全するために必要な権利」を付与することはできないとしておりました。
しかし,これに対しましては,受益者が複数の場合においては,受益者にかわって受益者代理に配当を受領する権限を付与するニーズが,例えば社内預金引当信託などであるという指摘がございました。
そこで,このようなニーズを踏まえまして,受益者代理に対して受益者にかわって配当を受領する権利を認めることとしまして,そのような除外規定は設けないこととしたわけでございます。
前回提案でも,受益者代理が個々の受益者と配当受領に関する契約を締結すればよいのではないかと思っていたわけでございますが,たくさんの受益者と契約を締結するのはなかなか大変なことであって,一括して信託行為で定めることができるとする方が簡便でございますし,しかも,受益者も重畳的に配当受領権を有すると解すれば何ら弊害もないと考えまして,このように提案を改めている次第でございます。
3点目に,(注1)と(注3)にかかわる点でございますけれども,(注1)におきましては,現行法第8条第1項ただし書の規定の趣旨を踏襲いたしまして,信託行為の定めにより信託管理人または受託者監督人が選任されている場合におきましては,裁判所は信託管理人等を選任することはできないことを明らかにいたしました。
これに対しましては(注3)のとおり,信託行為で定められた信託管理人または受託者監督人につきましては,その権限が変更,すなわち縮小される可能性もあることを考えますと,別途,いわば全権を有する信託管理人等を裁判所が超常的に選任できることを許容すべきではないかという指摘もあり得るのではないかと思うわけでございます。
しかしながら,7ページの①,②に書いてございますとおり,信託行為で権限を縮小している場合には,その信託行為の定めを尊重すべきであるということですとか,権限が競合すればその判断に窮する場合もある。
法律関係が複雑なものになるおそれがあることなどを考慮いたしまして,(注1)(注3)のとおり重畳的に選任することはできないという方向で提案させていただいているわけでございます。
続きまして第45,信託行為の定めによる受益者の権利の制限については,特段の変更はございません。
続きまして,第46の受益権取得請求権につきましては,3点ほど御説明をさせていただきたいと考えております。
まず,前回の提案におきましては,取得請求権が認められる①から⑥の個別の事由に関しまして,信託の目的の変更については,受益者を害するおそれがあるものですとか,信託の併合または分割についても受益者を害するおそれがあるもの,受益債権の内容が変更であって,受益者間の公平を害するおそれがあるものに係る信託の変更について,受益権の取得請求ができると各論的に記述したことに加えまして,冒頭の方におきましても,変更によって損害を受けるおそれがある反対受益者が受益権取得請求権をすることができるとしておりました。
しかし,前回会議におきまして,本文と柱書きのいずれにも「受益者を害するおそれ」とか「損害を受けるおそれ」と書くのは重複ではないかという指摘がございましたので,今回の提案では,「信託の変更がされることにより損害を受けるおそれがある受益者」と柱書に書くことにして,①から⑥の方では,いちいちそのようなことは書かないようにしたものでございます。実質には,何ら変更はございません。
それから,前回の提案におきましては,⑥の「受益者間の衡平を害する」という要件は不明確であって,本文または補足説明で明らかにすべきではないかという指摘がございました。
この点は,受益債権の内容の変更に係る信託の変更がされた場合でございましても,当該変更が信託目的に反しない限りは,一部の受益者に損害を与えるおそれがあるとしても,当該受益者には受益権取得請求権を認めないことを意図しているわけでございます。
したがいまして,例えば信託行為の定めにより受益権が複層化されているような場合におきまして,受益債権の変更により劣後受益者に損害が生ずるおそれがあっても,その変更が信託目的に反するものでない限り,劣後受益者は受益権取得請求権をすることができないことになるわけでございます。
以上のようなことは,補足説明で記載させていただきたいと考えている次第でございます。
第3点でございますけれども,これは,前回の提案の(注2)にかえまして,今回,補足資料の8ページで(注2)と(注3)を設けている点でございます。
特に補足の(注3)の方で,「特別決定事項に係る信託の変更に関して受益者が関与できる場合にあっては,決定に賛成した受益者は受益権取得請求をすることができないものとする」という記載をしている点について,若干釈明させていただきたいと思います。
受益権取得請求を付与すべきか否かというのは,要するに,信託の変更に関しまして,その受益者に自己の意思を表明する機会があったか否かによって決せられるべきものでございまして,この機会があったのだとすれば,反対意見を表明した受益者にのみ取得請求権を付せばよいと考えられるわけでございます。
しかし,信託の変更に当たりましては,受益者集会の方法による場合であってもその他の方法による場合であっても,その手続については特段の制限はなく,信託行為で自由に定められるものと考えておりますので,いかなる場合であれば意見を表明する機会があったと言えるのかを一律に定めることは困難であると考えられるわけでございます。
そこで,少なくとも,いわば最大公約数的に,変更に賛成した受益者については,禁反言の原則に照らしましても取得請求を認める必要はないことは明らかであると考えまして,その旨を示したわけでございます。
実質的には,決議事項について個別の通知をしていれば,反対者しか取得請求権ができないと思われますし,公告や,あるいは第三者の決定による場合であれば,賛成者はできないけれども,それ以外の者はできるということになるのではないかと思うわけですが,この考え方自体は維持しつつ,取りまとめて簡略化して,(注3)として書いてみた次第でございます。
続きまして,第47,受益者が複数の場合の意思決定についてでございます。
これにつきましては,まず,形式的な点でございますけれども,前回資料の31ページ,3の(5)におきまして,任意規定として「(1)から(4)までにかかわらず,信託行為に別段の定めがあるときは,その定めに従うものとする」としているところでございます。
これは(3)の場合,受益者集会の決議の効力は,すべての受益者に対して効力が及ぶものとするという点までもが任意規定なのかと。
直感的には少し不自然な気がしたわけでございますが,要するに,ここの趣旨は,信託行為の定めにより,受益者の種類ごとにいわゆる種類受益者集会を設置して,当該種類受益者集会ごとに決議を行った上で当該種類受益者にのみ決議の効果が及ぶとすることを許されるという趣旨で明記しているということでございます。
第2点目は,極めて些細な補足的なことでございますが,やはり31ページの(注1)で,受益者集会の招集手続に関しては所要の規定を設けるという中で,受益者に対する招集通知をするという点につきましては,信託行為の定めにより自由な制度設計を認めるという観点からは,公告による招集通知も認めてよいのではないかと考えているところを付言させていただきます。
第3点目といたしまして,前回の部会におきましては,受益者から受益者集会の招集請求がされた場合におきまして,その請求がとるに足らない事由であるようなときにも招集しなければならないというのは相当ではないのではないかという指摘がございました。
しかし,受益者による受益者集会の招集に関する規定は任意規定でございますので,信託行為に別段の定めを置くことによりまして受益者による受益者集会の招集請求を制限することはできると考えておりますので,これによって解決することができると考えているわけでございます。
なお,裁判所に対して受益者集会の招集請求をすることを認めるかどうかにつきましては,やはり3の(1)のイで「信託行為に別段の定めがない限り」と,任意規定であるとしている点からいたしますと,難しいのではないかと思われるわけでございますが,なお検討事項として補足説明で触れることにしたいと考えております。
続きまして資料32ページ,第48,受益権の譲渡についてでございますが,2点ほど御説明申し上げたいと思います。
まず,第38の1の(2)に関する点でございますが,これまでの提案におきましては,信託行為に別段の定めがある場合のほかに,受益権の譲渡が信託の目的に反するときも受益権の譲渡をすることができないと明記しておりました。
しかし,このような場合につきましては,通常,合理的な意思解釈により,信託行為に別段の定めがある場合と認定されるものと考えられますので,これをあえて明記することなく,削った次第でございます。
それからもう一点,これは32ページには書いていない点でございますが,前回の会議におきまして,受益権の譲渡の第三者対抗要件について,確定日付がある通知又は承諾を要するものとしている点に関しまして,確定日付を具備するのはコストを要するので,しかるべき者が委託者となっていることにかんがみれば,確定日付を不要とすべきではないかとの指摘がございました。
しかし,受託者であるからといっても一般の債務者と比較して恣意的に通知または承諾の時期を遡らせるおそれが定型的に乏しいとまで言うことは難しいと思われますので,このような考え方は採用しておりませんことを付言させていただきます。
続きまして,第49,受益権の放棄についてでございます。
これは第32,第33で甲案を採用した場合の1を記載した点,それから,やはり第49で2という場合,第32,第33で乙案を採用した場合の2を記載した点が新たな変更点でございます。
その趣旨につきまして,若干補足して御説明したいと思います。
試案におきましては,受託者が受益者に対して補償請求権または報酬支払請求権を行使できる場合につきまして,第32と第33で御承知のとおり2つの案を提示したことを踏まえまして,第32,第33の甲案,すなわち受益権は受益者の有する権利・義務の総体であるという考え方を採用した場合に関する規律,これが第49の1でございます。
それから,やはり第32,第33のところで乙案,すなわち受益権というのは権利の総体にとどまるという考え方を採用した場合の規律,これが第49の2でございます。これを分けて提示しているわけでございます。
第49の1におきましては,受益権の放棄ができる場合に関しまして,ここで【乙案】に加えまして,新たに【甲案】を提示しているわけでございます。甲案は,受益者が受託者に対して受益権の放棄をしない旨の意思表示をしたときに限り,受益権の放棄を認めないものでございまして,【乙案】①のように,信託行為の定めによって放棄できない性質を有する受益権を作出することを認めないものといたしまして,受益権の放棄の可否については自益信託,他益信託というような区別をすることなく,同様の取扱いをするというものでございます。
これに対しまして,第49の2の方の考え方は,次のようなものでございます。
受託者の受益者に対する補償請求権等につきましては,受託者と受益者との間の個別の合意によって発生するものとの考え方をとる場合におきましては,受益権は権利の総体と位置づけることになりますので,そうすると,受益権の放棄というのは単なる権利の放棄にとどまることになりまして,これを放棄できることは,義務の放棄を伴うものでない以上,いわば当然のこととして,規律をあえて設ける必要性は存しないということにもなりそうでございます。
しかし,受益者一般についてはそのように言えるといたしましても,信託行為の定めにより自己の意思とは無関係に受益者として指定された第三者につきましては,信託におきましては民法の一般原則とは異なり,受益の意思表示を要することなく当然の利益を享受するとしておりますので,その反面といたしまして,その受益の強制を継続されるわけではないということ,すなわち,信託においても利益であっても放棄できることを明らかにするために,受益権の放棄に関する規律を設ける意味があると考えるわけでございます。
また,受益者として指定された第三者によって受益権が放棄された場合の効果,すなわち受益者が既に受けた利益はどうなるのかという点を明らかにすることは,他の受益者や帰属権利者との間の法律関係の錯綜を防止することにもなると思われるわけでございます。
そこで,第49の2におきましては,受益者として指定された第三者は受益者を放棄することができまして,その場合の効果といたしましては,その第三者は当初から受益権を取得しなかったものと見なす,すなわち受け取った利益は信託財産に還元されることになって,他の受益者ですとか帰属権利者の利益になることを明らかにしたものでございます。
なお,これによりますと,今,申しましたとおり,受益者を放棄した第三者が放棄の時点までに受けた利益は不当利得として返還することになると思われるわけでございます。
以上が第49の変更についての御説明でございます。
続きまして,33ページの第50につきましては,特段変更ございません。
それから,第51,受益債権と信託債権の優先劣後関係について,新たに1項目を立てました。
これまでは,主として破産に関する規律の整備のところで議論をしていただいておりましたが,前回部会において,両者の優先劣後関係について同順位とする見解と受益債権が劣後するとの見解の双方でかなりの議論をいただいたこと,それから,優先劣後関係というのは,信託財産に係る破産手続との関係のみで問題になるものではなくて,終了その他,種々の局面で問題になり得る重要な事項であることにかんがみまして,ここでは新たに独立の項目として取り扱うことといたしまして,しかしながら,両案併記をして意見を問いたいと考えている次第でございます。
第52でございますけれども,これにつきましては2点ほど御説明をいたします。
いずれも1の(3)にかかわる点でございますけれども,まず,受益者の所在が不明である場合の基準時につきまして,これを明らかにする観点から,時効期間の経過時が基準時であることを明示することといたしました。
この点につきましては,受益債権の時効援用と忠実義務の抵触を図ることが目的であることにかんがみますと,受益者の所在不明の基準時は時効援用時とするのが合理的であるという考え方もあるとは思うのでございますが,しかし,受益者の所在不明の基準時を時効援用時といたしますと,事後的に真実の権利者であると称する者が請求してきた場合には,時効援用によってこれに対処することが困難となると思われますので,時効期間経過時を基準時とするのが合理的であると考えまして,これを明確化したわけでございます。
それからもう一点,細かい点でございますけれども,1の(3)で,従来は「通知をしなかったことについて正当な理由がある場合」ということにあわせまして,受益債権が存在しないと信ずるに足りる相当な理由がある場合との例示をしておりましたが,これは同じようなことを書いているということで,削除したわけでございます。
もっとも,これが正当な理由がある場合に該当することについては変更はございませんので,補足説明で,そのような場合も含まれることを例示しておこうと考えている次第でございます。
最後に,委託者の関係でございますけれども,これは1点だけでございます。
35ページ,第53の2,委託者の地位の移転でございますが,前回の提案におきましては,委託者の地位の移転に関しまして,これと同様の考え方を提起していましたところ,特段の御異論もなかったものでございますので,そのとおり,全関係者の同意があれば移転することを妨げないことを,2に明記したという点でございます。
とりあえず,以上でございます。
● それでは,ただいまの委託者の権利のところまでで,御議論をお願いいたします。
いかがでしょうか。
● まず確認の1点目は,第46の受益権の取得請求権でございますが,先ほど○○幹事の御説明で,前回提案の取得請求権が生ずる受益者の要件について,ちょっと書きぶりが変わっているということでした。
その中で,これはまさに解釈問題になるかもしれませんけれども,私どもにとって非常に重要なところなのでお聞きしたいのですが,個別の通知によって各人に照会がなされた場合については,賛成をした者,それ以外の者,要するに,明確に反対した者について取得請求権を認める,公告についてはだめですよというお話があったと思うんですが,これについては,いわゆるみなし賛成制度と呼ばれる部分についても適用されるのかどうかということです。
長くなりますので,1つずつ切らせていただきます。
● みなし賛成の場合にも適用されると思いますが,みなし賛成といいましても,現行法でも公告によって,貸付信託法の場合のように,一定期間置いて異議がなければそのまま承認したものとみなすという場合もあるでしょうし,投信法のように,個別に書面を交付するという場合もあるでしょうから,みなし賛成の場合にも適用はあるわけですが,それが今,おっしゃった,個別の通知による場合か公告による場合かによって取得請求権を行使できる者が違ってくる,そういう理解でございます。
● 続きまして,第49の受益権の放棄でございますが,これもすみません,言わずもがなでございますけれども,前回の受益権の放棄の議論の中で,補償請求権というものが信託外の問題で,信託外のところで契約すればそれで認められるということで,それ以外についてはないといったお話だったんですが,これをそのまま踏襲しますと,2の方の案でいきますと,当たり前のことですけれども,信託の中には当然,補償請求権というものはないわけですから,信託外で契約が締結されたものについては信託上の法理で拘束されることはないということでしょうか。
もうちょっと言いますと,一番最初,補償請求権はどういう形の場合にあるんですかということを合意すると思うんですが,当初の契約が書かれていればそれに常に拘束される,これは当たり前のことだと思うんですけれども,そういうことでいいのかどうかということです。
● 2の場合につきましては,権利ですから,利益を放棄することができるという意味があるということで書いているわけでございまして,別途受益者が受託者と合意することによって負担した義務は,当然に免れるわけではございませんので,ここで放棄できるのは,あくまで権利の部分だけでございまして,当然に,義務の方は放棄できるわけではない。
したがいまして,一たん合意したものについては,免除でもされない限りは引き続き負い続けると理解しているものでございます。
● それはもう完全に一般法の世界でということでございますね。
● はい。
● 3点目は委託者のところで,今まで余り議論がなかったと思うんですが,委託者の権利自体を放棄することは委託者の意思で,多分,特段の制限はないのではないかと考えておりますけれども,委託者が権利を放棄した場合については,例えば委託者,受益者,受託者の3者で合意しなければいけないようなものがあったときには裁判所の方に申立てをしないといけないのか,それとも,それを除く2者間だけで合意して決定してしまっていいものなのか,例えば契約で書けば何らかの調整が図れるものなのか,そこら辺のところをお聞かせいただければ。
● それは,委託者の同意を不要とした信託行為,信託契約の趣旨によるのではないかと思われまして,その趣旨が,あくまで委託者の同意権を行使しない,同意を要しないわけではなくて,ただ行使しないという趣旨であれば,それはやはり委託者から同意を得られない以上,裁判所への申立てが必要となるわけでございますし,委託者の同意をそもそも要しないという趣旨で放棄したのであれば,それは受益者と受託者のみの合意によって,例えば信託の変更などができることになるのではないかと考えているわけでございまして,あくまで信託行為の中での放棄の定め方によるのではないかと考えているわけでございます。
● 当初の信託行為の定め方によって決せられるということで,後から委託者の意思によって決定されるわけではないということですか。放棄の趣旨というのが。
● 当初,信託行為で書いておけば問題ないわけでございますが,そこで書かなかった。そして後から「もう要りません」と言った場合ですね。
それは,やはり放棄の趣旨ではないかというわけでございまして,厳密に言えば信託の変更に近いものでございますが,そこまで言わなくても,委託者の放棄がそもそも自分の同意を不要とするような趣旨での放棄であれば,あと2者だけでできると考えてよいのではないかと考えております。
● もう一点は,要請事項でございます。ここの部分で申し上げた方がいいのか,ほかの部分かよくわかりませんが,合同運用について,この試案を見せていただくと別立ての項目が以前と比べてなくなってしまっているということがありますが,合同運用につきましても,私どもの方の関係からすると非常に重要な事項でございまして,この場においても,例えば信託行為の定めを要件とすべきかとか,要件とすべきとした場合についてはどのような効果が生じるのかといった議論がなされたと思うんですけれども,そういう観点から,何らかの形で別立てで,例えばパブリック・コメントを求めるとか,それがなかなか難しいとすれば,例えば複数受益者の中の一部分で,一般的な形で「合同運用については,こういうふうに考えているんだ」といったことを設けていただけないかということでございます。
● 最後の点につきましては,合同運用,確かに大項目としては消えておりますが,情報入手のところと信託の変更のところでは,これまでの議論の成果を踏まえて記述しているわけでございまして,これに対するコメントをいただければよろしいのではないかと思っておりますが,それでよろしいでしょうか。
● 合同運用というもの自体をどうとらえて,どう考えていくのかというのは一つの重要な問題ではないかと考えておりまして,もう少し一般的にといいますか,変更のところで言及されている部分を敷衍していただくとか,受益者複数のところでもいいと思うんですが,個別の部分に入るということではなくて,もう少し一般的な形で記載いただければと考えておりますが。最終的にはお任せいたしますけれども。
● では,分別管理のところで少し丁寧目に記載させていただくということで対応させていただきたいと思います。
● ほかにいかがでしょうか。
● 第50,51,52に関連して,特に第51なんですけれども,ここで「受益債権」という言葉が登場していますが,この「受益債権」という言葉が何を意味するのかわかりにくいところがありますので,この範囲についてきちんと説明する文を加えておいた方がよろしいのではないかという気がいたします。
特に第51において,ここで「受益債権」と言った場合に,株式に例えれば既に確定した配当のようなものだけを指すのか,あるいは残余財産を享受できる部分も指すのかで,かなり違った結論になり得ると思いますので。
● 御指摘を踏まえて,そのような方向でわかりやすく記載するように努めたいと思います。
● 今のこととの関連ですが,「受益債権」という言葉がわかりにくい理由のもう一つに,43ページに「残余財産受益者」という概念が新たに出てきまして,そこで「残余財産の給付を内容とする受益債権」という概念も出てまいります。
このことと劣後的受益債権の関係が必ずしも明確でないようにも思いますので,これも含めて,受益債権には幾つか種類があると思いますから,その順番を明確にしていただければと思います。
● 恐らく,確定したもの,未確定の配当請求権のもの,残余財産分配請求権のようなもの,いろいろそのようなものがあると思うので,そこら辺がわかりやすくなるような記載に努めたいと思います。
● まず,第46につきましては,繰り返しになると思いますけれども,本件についてはセキュリティ・トラスト等,いろいろ重要な問題もありますので,丁寧な説明をお願いしたいということでございますが,とりわけ第46の⑥受益者間の衡平を害するものについて,丁寧な説明をお願いしたいと思います。
この点については先ほどの御説明もありましたし,従前の資料もございましたけれども,特に1点,例えば信託行為にあらかじめ定められた条件範囲で変更権者が変更を行う場合において,それはあらかじめ関係者が甘受したものであるということなので,受益者の衡平を害さない,よって,特別決定事項ではないと考えられるかどうかについては実務上,重要でございますので,その点について,もし今,御意見があればお伺いしたいですし,その点についての御説明を補足説明でお願いしたいと思っております。
それから,第51でございます。
これについては確認したい点と意見がございますが,まず,第51につきましては,そもそも今回,初めての提案ということでございまして,その中で,この提案の中身が一体どういうものなのかということについて,これも同じ話ですけれども,丁寧な御説明をお願いしたいと思っております。
特に,「同順位」というのが一体何を意味しているのかについて,私自身よくわかっていないところもありますものですから,そこを御説明いただきたいと思っているわけですが,例えば,貸付信託における総合配当率のように,信託利益をあらかじめ定めた場合に,信託決算前に既に信託利益請求権が存在しているということを前提としていて,それについても同順位であると考えるのかということです。
そうすると,ちょっと私の理解とは違うんですが,つまり,信託利益とはそもそも信託財産から生じた利益相当額から信託費用相当額を差し引いたもの,それから生じるというものですので,ある意味,株式の配当みたいなものでございますので,そうすると,あらかじめ定めたものについてまで同順位であるということは,若干実務感覚から離れているのかなとも思っております。
乙案にするとしても,例えば,信託終了時の残余財産の給付を内容とする受益債権は除くという,その他のものとしては同順位にするものとか,多分,乙案の中身について何らかの制約をするか,また,乙案について説明する必要があるのではないかと思っております。
2つ目に,これは意見にもなるんですけれども,第51に「乙案を採用した場合においても,」云々という注書きがございます。
先ほど申し上げましたように,乙案というのは原則的な扱いとはちょっと違うのかなと思っておりますし,また,認可という観点からは「こういうものもできる」というのもいいかもしれませんが,ただ,実際の原則的な扱いをしようと思った場合,つまり乙案を前提とした場合で,劣後契約を結んでいわゆる劣後関係を確立したいという場合に,信託行為によってそれを可能ならしめるのかということについて,(注)は若干そこにちゅうちょを覚えたような表現になっていることに不安を覚えております。
すなわち,「劣後特約が一律に効力を有しないことにはならないことを前提としている」と書いてありますが,直截に「当該劣後特約が有効であることを前提としている」ないしはこういうふうに信託法を直すのであれば,そういう劣後特約が有効であることを確認ないしは総説するようなものが必要ではないかと思っております。
何となれば,通常の劣後特約,これは一般的に有効と考えられていますけれども,あくまでも債権者と劣後となる者との,受益者との合意となりますものですから,そうしますと,すべからく信託債権者と契約しなければならないのかということもありまして,それはなかなか実務的に難しいという話だと思います。
そうすれば,やはり乙案で原則的な劣後関係を結ぶという場合には,やはり信託行為で規定することによって劣後契約が有効であるということにならないと,実務的な対応としては,ちょっと不安が残るのかなと思っておりますので,ここはそういう前提ということをお願いしたい,ないしは確認したいと思っております。
● 何点か御指摘ありました受益債権と信託債権との優先劣後関係について申し上げたいのですが,まず,残余財産の分配を内容とするような受益債権と信託債権との関係,それから,そうではない,その残りの確定した受益債権とよく言われるようなタイプのものとでは,少し取り扱いが違うのではないか。
つまり,残余財産の受益債権との関係は,当然に劣後するという関係ではないかというのは御指摘のとおりだと思います。
ただ,事務局の方でそこに特に差をつけませんでしたのは,実質的には確かに劣後的な取り扱いにはなると思うんですが,ただ,それはあくまでも,残余財産の分配ということは信託債権者に対するいわゆる清算的なものが終わった後に発生するということから来ているのであって,いわゆる「優先劣後関係」と言うときの優先劣後ではないのではないかと考えたので,特にここでは整理しなかったということでございます。
ただ,補足説明におきましては,いずれにしましても2つの種類に分けて,その関係を明示させていただきたいと考えております。
それから,○○委員から御指摘がございました(注)のところでございます。
確かに「一律に効力を有しない」と書いているのですが,ここで申し上げたかったのは,劣後特約も一部の債権者との間の劣後特約みたいなものは,破産法などとの関係では必ずしも効力を有しないというか,そのとおりに扱われる余地はない場合があると一般的に言われているところに配慮して書いているものでございますので,そのあたりも補足説明の中では詳しく説明させていただきたいと考えております。
● あと一点補足いたしますが,取得請求権のところで「衡平」という言葉について,信託行為で定められた裁量権の範囲の場合はどうかというお話がありました。
この場合,事務局といたしましては,裁量権の範囲での受託者の行為によって差が生ずるという場合は,ここの衡平を害する場合には当たらないであろう,したがって,取得請求権は発生しないという方向でいいのではないかと思っておりますので,その旨を補足説明で記述していきたいと考えております。
● ほかに,いかがでしょうか。
● まず,第44の受託者監督人について,既に以前の部会で議論はしているんですけれども,受託者監督人が受益者の認められた権利を行使することができるという趣旨--これはこれで構わないんですけれども,これが代理人としてなのか本人としてなのか。この辺は補足説明の中で議論されるのかもしれませんけれども。
あと,仮に裁判上も行使できるとなりますと,弁護士会という視点もあるかもしれませんけれども,訴訟信託的な部分もちょっと出てくるものですから,その辺の性格づけというか,定義づけを。制度としては全く反対ではないんですけれども,ちょっと確認したいと思います。
あと,これは確認的なことなんですけれども,第48の「善意の第三者に対抗することができない」民法と同じということで,それはそれで全然問題ないと思うんですけれども,判例上,民法の場合,例えば重過失もこの善意で読み取っていると思うんですが,全体を通じて,「善意」とか「知っている場合」と言う時に重過失をどこまで入れるのか。
場合によって重過失が入っている例と入っていない例があったりしますので,その辺は,なるべく民法の表現に合わせるというところで,あとは解釈論等に委ねるということなのかどうか,全体を通じてもうちょっと,そういうポイントがあり得るのかなと思った次第です。
3番目は,既に事務局から回答いただいたところとほぼ同意見なんですけれども,先ほど○○委員からあった第51の受益債権の取り扱いの乙案について,やはり信託債権,受益債権というのは,債権であることは,もうこの部会における議論では一貫して通しているわけですから,その内容として,配当受領権ということを1つおっしゃっていましたけれども,それは金銭債権的な性格を有しているところの受益債権の金額的な評価の議論という点もあると思いますが,条件的な面ということもあると思いますけれども,それによって債権があたかも株式のように法的な性格として劣後化するというのは,何か乙案自体がまたわかりにくくなるのかなと思います。
いろいろな考えがあるとは思うんですけれども。ですから,やはり債権である以上は債権としての規律という意味で,乙案,先ほどの事務局からの回答がよろしいかと思います。
前回,前々回でしたか,この辺は当部会で議論して,例えば信託財産の社債というんですか,信託債というものが認められれば,多少この現実的な需要が減るかもしれないという議論もあったかと思うんですけれども,現実において受益権というのが金融商品として,あたかも社債的受益権として流通しておりますし,受益権の監督的機能というのは,単なる債権以上に重要なものだと思いますので,それが場合によっては劣後化するということになりますと,実際に行われている実務にも,逆に悪影響--先ほども実務に悪影響すると言いましたけれども,違う実務に対しては非常に悪影響すると言いますので,その辺はよろしくお願いしたいと思います。
● まず第1点の,受託者監督人の権限行使はだれの名でするかという点でございますが,かつての資料には「自己の名」と書いてあったものもあった記憶がございますが,これは受益者が現存している場合でございますので,受益者の名で行う。したがって,一種の代理人的な形での権利行使になると考えております。
そうしますと,訴訟信託のように本人になるわけではないので,訴訟信託のような問題は生じてこないのではないかと考えているわけでございます。
それから,悪意あるいは重過失の書きぶりが整っていないという点は,まさにおっしゃるとおりでございますが,なぜか信託法は悪意・重過失を明示しておりまして,したがいまして,詐害信託のところですとか取消権のところは,それに倣って「悪意・重過失」と書いておりますし,今,御指摘のあった受益権の譲渡につきましては,一応民法の規定に合わせて「善意」と書いているわけでございますので,提案としてはこのとおり,今までの文言を踏襲して,あとは必要がある範囲で適宜,補足説明で対応するということで御容赦いただければと思っております。
最後の点につきましては,御意見を踏まえて,第51の整理に当たって検討して,補足説明に反映させたいと考えております。
● 第48と第53かな,受益権の譲渡と委託者の地位の譲渡というか,移転について,これはあるいは受益権が有価証券化される場合の後の方の規定と関係するかもしれませんが,一部で投資家が受益者兼委託者というんでしょうか--になっている場合で,特別法で有価証券化されている場合が多いかもしれませんけれども,受益権が移転されると委託者の地位もついていくというのが普通の取り扱いだと思うんですけれども,現在の要綱試案の考え方は,第48で譲渡したら,第53で「委託者の地位もついていきます」とあらかじめ信託契約に書いておけばそれでいいのか,第53を見ても,何か受託者の個別の同意が要るように思えたりして。
あるいは,有価証券化されているような場合にはデフォルト・ルールとして,ただ,これも委託者兼受益者の場合ですけれども,原則ついていきますと。
ただ,信託行為で残したい場合は残すこともできますというようなことは,今の要綱試案では無理なのかというあたりを教えていただければと思います。
● まず,有価証券化された場合について申し上げますと,50ページのあたり,(注2)の一番最後のところに「受益証券の譲渡に伴う委託者の地位の承継に関する規律等を整備する」と。
この中で,○○委員から今,御指摘のあったような当然移転というものができますよという規律を設けますということを書こうかと思っております。
また,今,申し上げました信託法の定めで委託者の地位も移転できる。これは恐らく問題ないところかと思いますので,それもまた当然,信託行為で書けばいいという前提でございます。
委託者の地位の移転のところにつきましては,特に一身専属的であるということなどを強調されて,委託者の地位の移転ができないというような見解も非常に強いところかと思いますので,その中で最も問題が少ないであろう3者の同意というのを書きまして,これをやれば移転することを妨げないのだと。
そこだけ確認して,もちろん,では,その余の部分が反対におよそ何もできないのかというと,そうではなくて,そこは先ほど申し上げたような話があるという前提でございます。
● 第45と第47の関係についてでございますけれども,先ほどの御説明の中で,例えば受益者集会の決議事項について,任意的な決議事項も認める趣旨であると言われたと思うのですけれども,信託行為に基づいて,何か新しい権利を認めるというような場合に,第45が適用されることになるのかどうか。
表題を見ますと「信託行為の定めによる受益者の権利の制限」この「信託行為の定めによる」というのは,恐らく制限だけにかかると思うのですけれども,この信託行為で創設した受益者の権利,これの制限については第45の射程の外であると理解していいでしょうかというのが第1点目の御質問であります。
● 信託行為で単独受益者権として創設した場合でございますか。そのような権利を単独として付与しているという積極的な意思表示をしている以上は,それを制限することは難しいのではないかと思われるというのが直感的な印象でございますが。
● ここに挙げられていない権利を信託行為で創設したときには,それはもうどのような内容,単独にするのか多数決にかかわらせるのか,それはもうすべて信託行為で自由に決めることができる,そういう前提ですか。
● そこは信託行為の定め次第ではないかという理解でございます。
● 今の御質問は,そのように信託行為である権利を創設したときに,権利の行使方法について定めが置かれていない,そういう信託契約がもしあったときに,そのような受益者の権利の行使の方法,つまり単独受益者権なのか,それとも多数決にかからしめられるのか,それは信託行為の解釈ということになるかと思いますけれども,デフォルト・ルールはあるのでしょうか,それともこれは,もしそういう定めがなかったときにはどのようにして受益者がその権利を行使すればよいのでしょうか。
● 今までの事務局の考えでは,特にデフォルト・ルールを設けるわけではなくて,まさにおっしゃったとおり,信託行為の解釈によるのではないかと考えているところでございます。
余り明確な答えができなくて恐縮でございますが,信託行為の解釈次第かなという理解でございます。
● 御確認したいのは,そのときに第45がかかってきて原則は単独だということには,もちろんならない,そういう理解でよろしいでしょうか。
● それは,なりません。
● 2点目の御質問でございますけれども,受益者集会の制度と,それから受益者集会制度以外のその他の方法でという点の区別に関する御質問でございますけれども,書面投票制度については所要の規定を整備するということでございます。
それは31ページの(注3)に書いてございますけれども,例えば書面投票ではなくて書面決議というのは,受益者集会の枠の中で,その任意法規性の中で決められることと理解していいのか,それとも,これは受益者集会の枠は超えてしまって,第47の1に戻ってその他の方法になるのか,その点。
すなわち,書面決議の場合には,場合によっては物理的な集会は開かない,みんなとにかく書面だけで意見を出して,そこで決めてしまう。物理的な集会が必要か,必要でないかという点で,ここの(注3)で想定されております書面による議決権の行使とちょっと違う面があると思いますので,書面決議ということまで受益者集会の任意法規性の中で認められる趣旨かどうかを御確認するとともに,みなし賛成制度についても同じような御質問がありまして,このみなし賛成というのを受益者集会の中に組み込む,任意法規性の中で組み込むことが許容されると解されているのかどうかという点について,御確認させていただければと存じます。
● 御質問の趣旨が十分把握できているかどうかわかりませんが,結論的なところだけ申し上げますと,書面による決議の制度,投票ではなくて決議の制度であれ,みなし承認の方法であれ,そこは受益者集会以外の方法として,いわば総論的に信託行為で定めれば,そのような制度を導入することも可能ではないかと考えているわけでございます。
あと,我々としては,前の提案では書面による決議制度についても一応の規律を多少設けておりましたが,ここでは一つのサンプルにとどまるわけでございますが,受益者集会の規律のみを定めまして,あと,その中で利用できるものについては,書面決議等についても満意を図っていただきたいという趣旨で考えているところでございます。
● ほかには,いかがでしょうか。
● 第46の受益権取得請求権について,先ほど御意見があった⑥に関しては「受益者間の衡平を害する受益債権の内容の変更」と要件は設定しておりますが,この点については前回の御提案の中で,少数者は多数の決議に従うべきだということで,一理あるかなとも思うんですけれども,他方で,受益者の立場からしますと,この規律によりますと,受益債権の内容が衡平を害さない形であれば,いかように切り下げられても受益権取得請求権を行使できないということで,やや受益者にとって酷なのではないかという気がしております。受益者が,多数決によって受益債権の内容の切り下げを甘受しなければならないリスクを負わなければならないのではないかということで,全体の御議論等あろうかと思いますけれども,できればここについては,例えば「受益債権の内容の重大な変更」とか,そういった形での規律というのは案としてあり得ないかと考えております。
これは意見ですが,何らかの形で反映していただけると助かります。
2つ目は質問ですが,第49の受益権の放棄のところで,2の乙案を採用した場合。
御提案の内容は,当初から受益権を取得しなかったものとみなすということになっておりますが,この乙案を採用した場合に,受益者の方で将来のものだけを放棄することはできないのだろうか。その点の可否について教えていただければと思います。
もう一つ,第53,私益信託における委託者の権利義務等について,これまでの議論の経緯の中で,原則として委託者には監督権限等を与えないことをデフォルト・ルールとするという提案になっておりますけれども,特に弁護士会等で議論をしておりますと,やはり民事信託等の場面では,例えば受益者が未成年ですとか障害者である場合には,むしろデフォルト・ルールとして監督権限があるといった形の規律があった方が助かるといった意見も出されております。
そこで,そこを合理的な形で,何らかの形で限定して委託者に権限を残すということは考えられないか。
例えば,受益者が未成年ですとか受益者がいない場合とか,あるいは受益者が障害者等の場合に限って,デフォルトとしては監督権限を付与するということは考えられないかということで,そういった点についても,もし可能であれば御検討いただければと思います。
● とりあえず思い当たるところでコメント申し上げますが,まず,一番最初の「衡平を害しない」の解釈については,1度事務局の方で検討して反映させるかどうか考えたいと思いますが,ただ,一律に受益権の内容を不当に切り下げるというのは,場合によっては目的の変更に当たってしまうのではないか,そちらの条項で規律される場合もあるのではないかという気がしております。
あと,未成年者等につきましては,監督の必要性が高いというのはまさにおっしゃるとおりでございまして,御指摘のとおり,その場合に委託者の権利を残すというのは,一つの方法としてはあり得る選択肢ではあるわけでございますが,では,いかなる場合について切り分けるかというのがなかなか,未成年者ぐらいでしたらわかりやすい,あるいは,例えば目的信託等とか公益信託とか,そういう類型的なものであればいいのでございますが,保護の必要性が高いときには委託者の権利を残すというのは,なかなか切り分けが難しい。
そういたしますと,他方,御承知のとおり,受託者監督人というような制度も設けておりますので,そのような保護の必要性が高い受益者が出てきた場合には,利害関係人が監督人を選任することによって,委託者にかわってといいますか,委託者が本来やるべきような行為を受託者監督人が行使することによって,受益者を保護するという考え方があり得るのではないかと思うわけでございます。
● 受益権の放棄については,私の理解が不十分だったのかもしれませんが,この乙案を採用した場合というのは,補償請求権というのは信託の外側になるので,それとはリンクしない……
● ここで提案いたしましたのは,自分の意思に反して利益を強制されることはないという原則が民法第537条にありますので,信託行為に定めを置くことによって第三者に利益を強制するのはいかんだろうということを考えておりまして,将来分についてだけ「もうもらいませんよ」というふうにする,それはできるのではないかとは思いますけれども,信託行為で定めて「もう絶対あなたにはこの利益をあげます」ということを書くのは無理でしょうということを書いているんですけれども。
● 先ほどの○○幹事の質問で,受益者集会とか受益者が複数の場合の意思決定方法についてのところなんですが,31ページの(注1)で書いている「所要の規定を整備するものとする」という「所要の規定」は,完全な任意法規として整備するという趣旨ですね。
そうすると,例えば招集通知を行わない受益者集会というのも構わない。余りひどくなったら,そういうのはそもそも意思決定方法とは言えないからだめといった一般法的な公序良俗,今,何も規定のないような種類の団体の集会というのは,そういうふうに判断されるんですが,そういうふうにやる。
ただ,デフォルト・ルールに則れば,方法としてそれ自体が不適切なものとは判断されないという程度のありがたみのあるデフォルト・ルールを用意する,そういう御趣旨ですね。確認ですけれども。
● そういう趣旨でございます。
● 27ページ,第44,信託管理人等についての2番,受託者監督人の(2)で,「受託者を監督するために受益者に認められた信託法上の権利(第45の別表「受益者の権利」参照)」と書いてありますが,これは28ページの受益者の権利から1番,2番を除いたもの,そういう理解でよろしいんでしょうか。
● そのとおりでございます。
● それから,30ページの(注2)「特別決定事項に係る信託の変更権限を第三者に委ねた場合において,」こういう場合は受益権取得請求権の行使を認めるという記載ですが,これはまだ御説明されていない第54の信託の変更についてというところと関係しますけれども,第三者に特別決定事項に係る信託の変更権限をゆだねることができるかどうかについて,まだ検討するというような位置づけだったような私の記憶なので,ここは「第三者に委ねることができるとした場合」とか,そういうような意味なのかなと思ったんですが,ここは「委ねることができる」という前提をとったということなんでしょうか。
● 今,御指摘の点でございますけれども,変更のところに関係するわけでございますが,後ほど御説明いたします変更の本文では,変更権を委ねることができるということを提案しておりまして,それを前提に書いているのが,この(注2)でございます。
ただ,第54の変更のところの(注2)で,変更権限を全然付与しないという選択肢はないと思っておりますが,一部制限することもあり得るということを付言しておりますので,そのような場合には,ここの(注2)も当然それに連動して影響を受けてくるということで,一体として読んでいただければわかるのではないかと考えております。
● 受託者監督人の関係で,(1)の②,裁判所が選任する方法のところで「受益者が受託者を十分に監督することができないおそれがある」云々というところ,ここに言う受益者というのは,個々の受益者というよりも受益者全体を見て十分な監督が期待できない,そういうものという理解でよろしいでしょうか。
例えば十分に監督ができないような場合として,後見が必要なケースだとかそのような場合にも,後見人という形ではなく,受託者監督人という形で選ぶことができるということなんでしょうか。
私としては,そういう個別的な利益を保護するという制度と,それから,受益者全体としての利益を保護する制度というのはちょっと違うのかなと理解しておりましたもので,これは全体としての受益者の利益の保護のための制度--もちろん受益者が1人しかいないときは,それは当然1人だけの受益者の保護ということになるのかもしれませんけれども,そういうものだと理解していたんですけれども。
● 御指摘のとおり,ここで考えておりますのは受益者全部ということでして,受益者が1人の場合は,当然その受益者となります。
● よろしいですか。ほかにいかがでしょうか。それでは,先にいきましょうか。
● 続きまして,信託の変更と終了のところを御説明させていただきたいと思います。
変更のところでございますが,御説明したい点は2点ほどございます。
まず,これまでの提案におきましては,3者の合意を要しない信託の変更については太字の2でまとめて記載しておりましたが,ここでは(1)と(2)に分けて規律しております。
このように区別して規定いたしましたのは,(2)は,受託者の関与なく信託の変更がされる場合でありますところ,これまでの提案のように,受託者に信託の変更の通知がなされる前にも信託の変更の効力が生ずるといたしますと,受託者の利益を害するおそれがあると考えられるからでございまして,したがいまして,受益者と委託者が受託者に対して変更の請求をするという形にいたしました。
その結果の効力の発生については,(注1)にありますとおり,その到達したときに形成的な効力が生ずると考えているわけでございます。
2点目でございますが,(注2)につきまして,先ほどちょっと御指摘がありましたが,ここで合同運用信託のことについて記載しております。
これは一定の内容の信託の変更について,例外的に変更の方法の定めを許さないとした場合には,合同運用を行う信託については自由度が相当程度損なわれかねないということを指摘したわけでございます。
その反面といたしまして,例外的な変更方法に対する制限を加えないとすれば,合同運用を行う他の信託の受益者との共同の意思決定制度を導入する旨の定めを個々の信託に置くことによりまして,あたかも一つの信託であるように同様の状態をつくることができると考えておりますことを注で付言させていただいたところでございます。
続きまして,第55と第56でございます。
ほとんど実質的な変更はないわけでございますが,ただ1点,非常に細かいところでございますけれども,第55の2の(2)で「第54(2(2)を除く。)」と。
先ほど言いました委託者と受益者で,信託の変更を受託者に請求する場合を除くとしておりまして,信託の分割の場合におきましても同様に,2の(2)を準用から除くという規律を設けております。
信託の併合といいますのは,同一の受託者に係る複数の信託財産を,1つの新たな信託における信託財産とするものでございますが,受託者の関与がなく信託財産が変わってしまうのは妥当ではないと考えられますので,この2の(2)は除くことにいたしまして,両方で同じ手当てを行っているわけでございます。
すなわち,請求を受けてというよりは,受託者の方がむしろイニシアチブをとって,合同運用主体となるべきではないかと考えているわけでございます。
なお,これは単に語句の訂正ということで,将来的になるわけでございますが,ここで強制執行に関する第12の規定を,併合の中でも分割の中でも「第12の1(3)の①若しくは②」と書いてありますのは,先ほど御説明いたしましたとおり,第12の1の(3)及び(4)というように,いろいろなところにありますが,それは当然,全部平仄を整えさせていただく予定でございます。
続きまして,信託の終了の関係でございますけれども,まず,信託の終了事由につきまして,これは6点ほど御説明申し上げたいと思います。
第1点目でございますが,これまでの案におきましては,信託を終了させることが信託の目的に反しないことが明らかな場合において,受益者が信託の終了の意思表示を受託者に対して行ったときというのを挙げていたわけでございますが,これを削っているわけでございます。
すなわち,委託者と受託者が共同してでなければ終了の請求はできないということになるわけでございます。
なぜかといいますと,信託を終了させることが信託の目的に反しないと言えるかどうかは,必ずしも容易に判定できないと思われますので,このような場合には,裁判所に対する終了の申立てによることが合理的であると考えられるからでございます。
続きまして,これの反面といいますか,④におきまして,受託者が受益権の全部を固有財産で取得した場合についての終了原因の規律を追加しております。
これは従来,利益享受の制限のところで,前の方で規律していたものでございますが,終了原因になるものであることを明らかにするために,ここに位置づけを明らかにしたものでございます。
なお,かつての提案では「相当な期間」とだけ書いていたわけでございますが,その趣旨の明確化を図る観点から,「受益者と受託者を兼ねる状態を解消するのに必要な期間を超えて,」と文言を改めているところでございます。
続きまして3点目でございますが,③にかかわる裁判所に対する終了申立ての点でございますが,これは従来「信託の目的に適合しないこととなった場合」というのを,「信託の本旨」に改めている点でございます。
ここは①と③で同じ「信託の目的」を使っているという点で重複があったわけで,説明がなかなか難しい点でございましたが,ここでは「信託の本旨」と,「信託の目的」よりもやや上位概念であります文言を使うことによりまして,③の場合と①の場合との違いを明確にする。
実質的には,①というのは当然に終了してしまう場合でございますので,その場合はいささか厳格に規律いたしまして,他方,③の裁判所によって終了できる余地は,もう少し柔軟に認めていくべきではないかという考えに基づいているものでございます。
あとは(注1)(注2)(注3)にかかわる点でございますが,(注1)というのは,会社法で解散命令の規定が設けられましたので,それと同様に信託の終了をさせる規律を設けるかどうかを検討したいという点でございます。
それから(注2)でございますが,これは「受託者の一部が欠け信託財産管理人が選任されている場合の取扱いについては,なお検討するものとする。」と書いておりましたところですが,ちょっと書きぶりを明確化いたしまして,補足説明の方の13ページにございますが,「受託者の一部が欠け,その任務を他の受託者が承継せず,かつ,新受託者が就任しない場合」というように改めて提案したいと思っております。
その趣旨は,このような場合についても新受託者が就任しないまま1年が経過してしまうと,信託を終了させてしまうのかどうかという点が問題になりますので,この点を検討課題としたいということで,その趣旨は,一部が欠けて他に業務を承継する人がいない場合,したがいまして,形式的には⑤の場合に近いわけでございますが,そのような場合を終了事由として規定すべきかどうか検討課題としたいという点でございます。
最後に,(注3)でございますけれども,これまでは,信託終了の事由は委託者,受益者または受託者がこれを相手方に通知したとき等でなければ相手方に対抗できないという規律を提案しておりましたが,この1に挙げる終了事由のすべてについて,このような問題が適用されるわけではない。
例えば委託者と受益者が共同して信託の終了の意思表示を受託者にした場合には,3者が当然知っているわけですので,このような規律が適用になる余地がないと思われますので,このような観点から,すべてに適用されるものでもないと考えられますので,規定の整備についてどのようにするかは,なお検討したいということを明記したところでございます。
最後に,信託の清算についてでございますけれども,これにつきましては,細かい点でございますが,1点だけ補足して説明を申し上げます。
といいますのは,43ページの5と6の間でございますが,実は,従来はここに清算受託者の信託財産から補償を受ける権利というのがございまして,「清算受託者は,補償を受ける権利に基づき,信託の終了事由が生じた後に受益者又は帰属権利者に帰属した信託財産について強制執行等をすることができるものとする」という規定を置いていたわけでございますが,これを削除したという点でございます。
従来の提案の趣旨というのは,補償を受ける権利はあるけれども,それがわずかな額である。
他方,信託財産はかなりの巨大な額に上るというようなときには,とりあえずそれを引き渡しておいて,その上で,信託財産としての特定性が維持されている限りは強制執行等を許容するというものでございましたが,そもそも受託者としては,補償請求権,すなわち信託財産に属する権利を有している以上,その弁済を受けるまでは信託財産を引き渡さなくてもいいわけでございますし,また,受託者が受益者から費用等の補償を受けることができる場合には,このような規律に頼る必要はないと思われるわけでございます。
また,受益者から費用等の補償を受けることができない場合についても,先ほど言いましたように,引き渡さないでいることですとか,あるいは個別の費用の補償につき合意を得てから引き渡す等の対応をすることもできまして,それによって受託者は損害を防止することができると思われますので,この規律については削除したところでございます。
あとは,第59でございますけれども,信託財産の破産に関する規律の整備につきましては,これまでの審議の結果を踏まえまして,いわゆる有限責任信託を創設する場合には,信託財産の破産を設けることを本文に記載しました上で,それ以外の類型の,いわゆる一般的な信託についても破産制度を設けるかどうかについては,なお検討したいということを注で明記したところでございます。
とりあえずは,以上でございます。
● ただいまの終了のところまでで,いかがでしょうか。
● 1点目は,信託の終了事由のところでございますが,先ほど○○幹事からの御説明で,終了事由のところで,信託を終了させることが信託の目的に反しないとされるかどうかは,容易に判定可能でない場合が少なくないということで,そこの部分を終了事由から削除されたということですけれども,一方,信託の変更の部分で,委託者の関与を不要とした形で信託の変更を認める際に,信託の目的に反しないことが明らかであるというような形のものを要件として入れられているということが1つと,もう一つは,裁判所が関与する場合につきましても,先ほど「信託の目的に適合しないこととなった場合」を「信託の本旨に適合しないこととなった場合」と変えられたということですけれども,信託の変更については依然,これは甲案に限定していますけれども,信託の目的に適合しなくなることという,ここの部分の平仄といいますか,ここについては特段の意味の変更があるのかないのか,そこら辺のところを教えていただきたいということが1点目です。
2点目は,信託の清算について,これも先ほど○○幹事から御説明がありましたが,清算受託者の信託財産から補償を受ける権利というのが削除されているということで,ここについてはそんなにこだわりはないんですけれども,信託の結了時に費用の償還請求みたいなものが判明しましたというときに,そもそもこれは取れるものなのでしょうか。
例えば不当利得であったり,そういう理由でもってもともと取れるということなんでしょうか。
それであれば,別に,清算の受託者の信託財産から補償を受ける権利がなくても,それは取れるんだなと思うんですけれども,その辺のところを教えていただきたいと思います。
● まず,信託の終了の方では信託の目的に反しないことが明らかな場合を削った。
しかし,信託の変更の方では,信託の目的に反しないことが明らかである場合には受益者と受託者だけでできるという規律が残っているのはなぜかという点でございますが,ここは終了の方が変更よりも重大な事項であるということで,終了の方の要件を重くしていると理解していただければ結構でございます。
それから,「信託の目的」と「信託の本旨」という言葉が食い違っているではないかという点がございますが,そもそも変更の方は両案併記という位置づけにとどまるものでございまして,必ずこの文言になると決まっているわけではないんですが,事務局の考え方といたしましては,信託の変更,特に管理方法の変更というのは非常に具体的,ある程度形式的なものでございまして,信託行為に具体的に書かれた信託目的によって左右されてしかるべきものではないか。
これに対しまして信託の終了というのは,信託自体を終わらせてしまうものでございまして,信託の管理方法の変更に比べれば非常に重大な事項でございまして,単に信託行為に書かれている具体的な目的にとどまらず,例えば信託が設定された経緯ですとか,それから関係者をめぐる周辺的な事情,あるいは社会・経済的な事情,判断が難しいことは重々承知の上で,しかし,そのような周辺的な事情も十分考慮した上で決すべきであるのがあるべき姿ですし,恐らく裁判所が認定するに当たっても,そのような周辺的な事情を全部考慮してやるのではないか。
書いてあることに基づいてのみ判断することはないのではないかということで,あえて上位概念である「信託の本旨」という文言を用いているところでございます。
なお,最後に御指摘がございました,清算についての規律を削ったというところでございますが,確かに,渡してしまった後に債務が発覚するとか発生するとかいうこともあるわけでございまして,補償請求権ですかね。
その場合につきましては,本来渡すべきであったもの以上のものを返してしまったことになるわけでございますから,事務局としては,不当利得を原因として,引き渡された帰属権利者等に請求していくことはできるのではないかと考えておりまして,その点につきましては,補足説明で言及していきたいと考えている次第でございます。
● ここで言う補償請求権というのは,両論で挙がっています信託外のところでの補償請求というようなことを考えているのか,もともと信託財産に求償すべきものがてきていないような状態で渡されるのて,その分については,別にそういう特約がなくても請求できると考えてよろしいんでしょうか。
● 信託財産ですので,受益者の補償請求云々とは直接関係がないと思いますので,その甲案,乙案の問題とは別途,いずれにしてもできるという考えでございます。
● 今の御質問に対するお答えの確認をさせていただきたいんですが,目的と本旨ですか,先ほどの御説明によりますと,目的というのは信託行為に書かれた,ないしは明示された目的というようなニュアンスでお答えになられたかなと,そして本旨というのはもう少し上位概念で,信託行為が行われた経緯などなどからさらにもう少し広く,どういう趣旨で行われたのかというのを指すというようなお言葉のように受け取ったんですけれども,そういう理解で本当によろしいんでしょうか。
「本旨」とか「目的」という言葉が出てきますのは,契約で言いますと債務のところでして,「債務の目的」という言葉も非常に多義的な言葉ではありますけれども,債務の内容と同義語で用いる場合というのはもちろんありますし,民法というのはそういう書き方をしているわけですけれども,しかし,債務の内容そのものとは別の意味で「目的」というのを使う場合もありまして,これが債権や債務というのは一体何のために,どういう目的で--まさに目標のようなものですね--で行われたのか,それを区別する言葉として使われる場合がある。
ただ,その場合でも,目的というのはあくまでも契約なら契約の内容になっている目的,個々の当事者の主観における目的というのはもちろんありますけれども,それとは別に,やはり契約の内容になっている目的がどういうものであり,それがまさに債権,債務の内容を規定してくるという理解だと思うんですが,いずれにしましても,「目的」という言葉を使うときには,書かれているかどうかは別として,その契約の内容になっている目的ということなのだろうと思います。
先ほどの御説明は,その目的よりはもうちょっと狭い,「書かれている」というニュアンスなのかなという気がいたしました。
そして,もう一つの「本旨」というのは,それとは違うと言われましたけれども,この本旨も,やはり契約の内容になっているものでないと考慮されないのではないかと思います。
そういう意味では,先ほど民法で申し上げた内容と区別された「目的」という言葉と「本旨」という言葉の間には,私は,本質的な差はないように思ったのですが,もう少しわかりやすく御説明いただけないでしょうか。
● 今,○○幹事がおっしゃった話と○○幹事の話,非常に難しい話を含んでおりまして,よくわからないところがございますけれども,まず,○○幹事は,先ほど債権,債務の目的というようなおっしゃり方をしたかと思うんですが,私どもはどちらかというと,例えばここで典型的に申しますと,これは「信託契約の目的」と置き換えられる話であり,あるいは「信託契約の結んだ本旨」というようなつもりで使っているのかなという気がしております。そこが1点。
ただ,それで結論において何か違いが生じるのかはよくわからないところもございますが,まずそれが1点でございます。
そうすると,では,契約の目的といったときにどういったことを念頭に置くのか,あるいは信託の「本旨」か「目的」かで何か違うかというところでございますが,私ども事務局では,基本的には,「目的」と「本旨」は違いがあるのだという前提で考えております。
同質かどうかと言われると,性質的には余り変わらないのかもしれませんけれども,「本旨」の方が,より広いものを含む,つまり,広い内容を含むのだと。
この局面で申しますと,信託の終了というのは,まさにその契約を終わらせるべきかどうかという話でございますので,恐らくはその契約自体,あるいはこの契約の中で,受託者にどういう目的をもって信託財産の管理,処分に当たらせるのかというようなところとは少し違った事情を考慮しないと,その信託を終了させるべきかどうか判断しにくいのかなというようなところがございまして,その意味で,終了につきましては,「目的」というよりは「本旨」という言葉を使っております。
繰り返し申しますと,信託の目的というのは,基本的には受託者に対してどういうことをさせることによって,何を得ようとしていたのかといった話かと思うんですが,「本旨」と言うのであれば,それよりはもう少し広い事情を含むのではないかと考えているということと,そういう事情も踏まえることが信託の終了の裁判所の判断の局面では必要になるだろう,そういうことかなと思っております。
● 「信託の本旨」とおっしゃっているものも,信託契約の内容であるということは変わりないのですね。
● 契約の内容であるということの……
● 一般的な一方当事者の意図とかそういうものではなくて,両当事者の,あるいは複数の当事者の合意された目的である,あるいは本旨であるという点は変わりはないのですねということです。合意の内容かどうかです。
● 事務局を代表した答えになるかどうか,ここに来るともうよくわからないのでございますけれども,合意というのが,もちろん○○幹事がおっしゃっているのは,信託契約に記載したとかそういう趣旨ではなくて,恐らく契約を実際に締結するに至るまでにどういう事情を説明して,どういうことで受託者が「では,やりましょう」と言ってというようなところをいろいろ考えて,そんなところに全然出てこないような話,出てこないような主観面をもって「信託の本旨」と言うわけではないのだろうということをおっしゃっているんだと思いますが,そうであるとすれば,私は,同じ答えになるのかなと。
つまり,「信託の本旨」というのは契約の内容になっているという表現をとるべきなのかなという気がいたします。
すみません,うまい答えになっているかどうか,よくわかりませんが。
● もう補足だけですけれども,非常に微妙な概念の使い方なので,事務局の中では一貫しておられるんだろうと思いますけれども,受け取り手の側で混乱し,あるいは多様な使われ方をしてあらぬ方向へ行く可能性もなくはありませんので,もしこういう言葉遣いを区別してされるのであるならば,やはり慎重に,言葉の説明はきちっとされるべきだろうと思いますし,可能ならば,余り混乱が生じないように統一した方がいいのではないかと個人的には思いますけれども,その程度でございます。
● 「目的」と「本旨」というのは,いろいろなところで苦労する概念でして,基本的には,単に一方当事者の主観的なものではなくて,やはりその信託を設定する……,契約で設定すれば,やはりその両当事者の何らかの意味での合意を本拠にする目的であり,また,本旨だと思うんですね。
いろいろな場面で使われ方が違うと思いますけれども,信託の終了のあたりが,先ほど信託の本旨も考慮しながらということでしたけれども,例えば,目的が達成できるかどうかなんていうのは,まさにこれは目的であって,本旨とはちょっと違いますね。
そういうところは明確なんですけれども,どこまできれいに明確にできるかといあたりが難しい。
これはまた○○幹事にいろいろ御意見を伺いながら,次のラウンドできれいにしていきたいと思います。
● 先ほどの○○委員の御質問に対する○○幹事のお答えのもう一つの方なんですが,つまり,払い過ぎていた場合に後から回収できるか,不当利得になるかという問題なんですが,それは第58の6との関係はどうなっているのだろうかという気がいたします。
と申しますのは,6の最終計算でいきますと,払い足りない場合には,もはや払わなくていいはずなんですよね。にもかかわらず,なぜ払い過ぎた場合だけ取り返せるのだろうか。
計算書類を出して承認をしたら,それで終わりというのが6の趣旨なのではないだろうか,払い過ぎたときだけ取れるというのはおかしいのではないかと私は思います。
今,ここで解釈論を決めるべきだとは申しませんけれども,必ずしもそういう結論にはならないのではないかということは,一言しておきたいと思います。
● わかりました。6の関係で,確かにそのような考え方もあるということにつきまして,補足説明で付記させていただくということでよろしいでしょうか。
● はい。
● 先ほど○○委員が話されたのは,ここで言っている信託の清算の議論なのかなと。
ある意味では信託契約の内容の議論であって,信託の清算というのはもう一歩後の議論なのではないかなと思います。
ですから,今の○○幹事の発言も,○○委員がおっしゃったシチュエーションというものが信託の清算であれば,承認の議論,出てきますけれども,そうでなくて,信託契約の内容としての信託事務の一環であれば,承認の議論は出てこないのかなと。
なぜそんなことを申し上げるかといいますと,もともと確認しようと思っていたんですけれども,あと,前回これが議論になったときに,これをデフォルト・ルール化できないだろうかというようなことを申し上げましたところ,事務局の方から,契約の中で信託の終了または信託の清算という法的な決められたものとは別途,契約上の規定として行使すれば,それはそれで済むわけであって,それがない場合,また,そのさらに先にこれが行われる場合の規定だからというような雰囲気ではなかったのかなと思います。
そのときには受益権と信託債権の優劣の議論もあったので,非常に重要な問題かなと思っていたんですけれども。
それで,同じことの繰り返しになりますけれども,とはいいながら,実際の信託契約の中では「信託の終了」という言葉も使われてきましたし,今後,信託法が改正になれば使いにくくなるのかもしれませんけれども。
あと,実際にこの清算とは違った形で終了して,契約上の清算といいますかね,清算と言わないのかもしれませんけれども,現務の完了が行われまして,そうすると,基本的に恐らく受益者が,帰属権利者ではないんですけれども,受益者に対して信託財産が交付されるという状況になりまして,そうすると,全く空の信託が最終的に残っているという段階でこの規定が適用になる,こういう理解でよろしいかどうかということと,仮にそうだとしても,その場合には,この規定でいくと,空であっても,やっぱり帰属権利者が要るという理解になり得るのかなと。
そうすると,委託者--あ,違いますね。信託事務の……,何を申し上げようとしたかというと,最終計算の清算のところで,受益者及び帰属権利者に対して承認を求めなければいけないというときの,空ではあるんだけれども,まだ帰属権利者を観念しなければいけないとすると,これでいくと,委託者になるのかなと思うんですけれども,そうすると,またここで,空の信託であっても委託者からの承認がもう一回必要になるというところで,本来,要らない委託者の関与というのが出てきてしまうのかなというあたりなんですけれども。
今の規定ぶりがいけないとか,何か書いてほしいということではなくて,そういう信託契約の中で,この信託法の規定とは別途,信託の終了についての取り決めをすることについては,それはそれで有効であるというようなこととか,空になったときの帰属権利者というのは,本来どう考えるのか,その辺を補足説明あたりで議論していただければと思うんですけれども。
● ○○委員がおっしゃいましたように,実際上,契約をいろいろ操作することによって,契約の終了事由が生じる前にいろいろなことを整理するという定めがつくられることもあるかもしれません。
ただ,恐らく先ほど○○委員がおっしゃったのは,そういう形をとらないで,純粋にここに普通に乗ってくるようにした場合を言われていたのではないかと思って聞いておりました。
それから最後,○○委員がおっしゃったような,終了事由が発生する前にいろいろな,実質的な意味での清算的な行為を済ませてしまおうということをやった場合にも,最後に帰属権利者たる委託者が出てきて計算の承認を受けなければいけないのではないか。
それはおっしゃるとおりではあるんですが,他方で,その委託者が出てくるのは法定帰属権利者として出てくるにすぎませんので,指定帰属権利者として適宜の受益者なら受益者なりがというのを定めることになるのではないかという気もいたします。
● 信託の「目的」,それから「本旨」について,追加して意見を述べさせていただければと思います。
終了の事由として目的云々を当事者に判断させる,これはなかなか難しい話であるということが補足説明の方に書いてあるわけでございますけれども,当事者にとって判断が難しい,当事者がわからないものは裁判所にはよりわからないところでございまして,その場合に,やや危惧しておりますのは,例えば目的あるいは本旨とした場合に,裁判手続上の規範として機能するのかどうかという点が危惧しているところでございます。
特に,目的にしましても本旨にいたしましても,かなり抽象的なものになり得ますので,例えば「目的」を「こういうふうに考えられる」あるいは「ああいうふうにも考えられる」となりますと,結局,個々の案件で「まあ目的に反するとまでは言えない」というような判断に落ち着いてしまって,せっかくこのような制度を設けたにもかかわらず,制度として機能しないことにならないのだろうか。
特に終了の関係で申しますと,「目的」よりも,より抽象的な「本旨」という基準になっておりますので,それが機能するんだろうかというところが危惧されております。
ここについては○○委員も先ほど御指摘されましたけれども,その内容の具体化といいますか,そこを御検討いただければと。
例えば,変更にいたしましても終了にいたしましても,このような手当てが必要とされるような具体的な状況があると思うんですね。
それぞれのそういう状況が生じる類型ごとに,例えばこういう場合,こういう場合といった形の例示でも結構だと思うんですけれども,何か立法の段階でもそのあたりを入れていただく等も含めて,御検討いただければと思います。
● 御指摘の点は検討課題として,補足説明で触れるか,あるいは今後,立法の過程で検討したいと考えます。
● まず,信託の目的と本旨の話に戻りましたので,一言コメントさせていただきたいと思うのですが,特に信託の終了の場合に,信託の目的よりもさらにレベルが高い概念として本旨というのを考えるというのは,例えばアメリカなどにおきましては,一定の節税の目的のために信託を選んだ。
ところが,その後,税制が改正されてしまって,信託契約を締結したまさにその信託の本旨,信託自体そのままやってくれて全く問題ないんですけれども,そもそも信託契約を選んだという,そこの本旨と申しますか,そのレベルで全く目的に適合しなくなったということはあり得るかと思いますので,私としては,言葉をどう使うかということはまた検討する必要があるかもしれませんけれども,
信託契約の内容とはまた別の次元での,何らかの本旨なり何かを観念するということは,意味のあることではないかと思っております。
第2点目は,信託の変更についてでございますが,これは御要望でございますけれども,信託の変更における4の裁判所に対する変更の請求と,それから受益者集会で決議があった場合との関係について,これまでも申し上げさせていただきましたけれども,この両者の関係についてパブリック・コメントで聞いていただければと思っております。
すなわち,受益者の意思決定の仕方も,受益者集会からその他の方法まで非常に多様なものがあるのですが,もし仮に非常に機能している受益者集会というものがあるといたしますと,そこで受益者集会が決定したにもかかわらず,他の受益者あるいは受託者等が4の要件を満たしているといって信託の変更を,あるいは裁判所に申し立てる。
例えば,受益者集会で変更しないと決めたときに,受託者がその変更を申し立てることもあるでしょうし,受益者集会の決議で破れた少数者が変更の請求を申し立てるということもあるかと思うのですが,私といたしましては,せっかく受益者集会で自治的,自立的な決定をしたにもかかわらず,そういう局面でまた裁判所に行く余地があるというのは,何となく受益者集会の制度,趣旨との関係で気になる点があります。
ただ,他方で,受益者集会が大幅に任意法規化されるとともに,その他の方法が認められていますので,そういう意味では,最後は裁判所に頼る途が残されていることも必要だと思うのですけれども,一定の要件のもとで,38ページの(注3)に尽きているかとは思うのですけれども,裁判所に請求するための要件の中で,こういった受益者集会の決議等があった場合についても,ぜひパブリック・コメントで聞いていただければと思います。
● わかりました。
● 第57の1の①は★がついておりませんけれども,これは任意法規と考えてよろしいんでしょうか。
そもそもこれが提案されたときに,これは現第56条に倣ったものであるという御説明があったと思いますけれども,現行第56条であると,第59条の反対解釈として,強行法規なのかなとも思っておりますし,また,2つ目に,これは本旨か目的かという議論にもつながるかもしれませんけれども,ある意味①というのは当たり前の話なのかなと思っておりまして,仮にこれが,この御提案のように★がつかない任意法規だということであれば,信託の目的達成が不能であったとしても信託は継続するというような信託を認めるのか,ないしは,そういうことを定めれば,それ自体全体が目的であるから目的の拡大がというふうに解釈するのか,そこら辺はよくわかりませんが,いずれにしても,この①は任意法規かどうかを確認したいというのが1点です。
2つ目は,第59の破産でございますけれども,2つございまして,1点目は確認でございますが,注書きで「一般の信託についても整備するものとするかどうかについては,なお検討するものとする」ということでございますが,これは本文において,新たな信託類型としての有限責任信託を創設する場合において,なお検討するということなのか,仮に有限責任信託を創設しない場合には,この一般の信託ということは考えないのか。
また,これは全く別の問題として一般信託における破産を考えて,そのときの選択肢として有限責任信託の場合のみ定める,定めないという,そういうこともあるのか,どういう場合を想定されているのかをお知らせいただければと思います。
2つ目は,できれば検討していただきたいというお願いなんですけれども,従前から私ないしはほかの委員からも,簡易的な清算手続を願いたいという御意見があったと思います。
よって,本文の試案として書くのか,補足説明としてそういう意見があったというふうに書くのかは別にして,「簡易的な手続ないしは特別清算に倣ったような手続についても,なお検討する」というようなものをお願いしたいと思っております。
● 最初の御質問は,強行法規でございます。①でございますね。★は,後で訂正します。
それから,最後におっしゃいました簡易的な清算手続というのは,破産手続の簡易な方法といった御趣旨でございますか。
● 考え方として,もちろん清算手続の一環なのか,破産に関する規律の1形態なのか,また,その間の形態なのか,いろいろ考え方がございますけれども,一つの意見としてあったのは,特別清算に倣った手続ないしはそのような簡易な手続ということでしたから,そのような意見がパブリック・コメントにおいて承知できるように,補足説明,できれば意見として選択していただければありがたいんですが,それは別として,どこかに付言していただければありがたいと思っています。
● 最後におっしゃいました信託財産の破産の関係,簡易な手続を設けてはどうかというお話。
確かに議論がございまして,○○委員から簡易なものをというお話があったかと思うんですが,部会の中では,どちらかというと消極的な意見が多かったということで,本文には入れていないということでございます。
ただ,おっしゃいましたように,補足説明の中でそういう御意見があったということは触れて,御意見をいただけるような状況にしたいと考えております。
それから,先ほど聞き落としたところがございますが,注の関係で,一般の信託についてはなお検討しますということにしてあるところの……,すみません,何とおっしゃいましたか。
● 本文に「新たな信託類型として有限責任信託を創設する場合には」と書いてございまして,そこで注書きが出てきているわけですが,そこの関係がどうなのかという話で,あくまでも一般の信託における破産制度を考えるのは,有限責任信託が創設されることを前提としているのか,それとも有限責任信託の創設が,第59の提案でたとえ否決されたとしても,なお通常の一般信託において破産手続を検討することを考えられているのか,そこら辺はニュートラルなのか,そこら辺の御見解をお尋ねしたいということです。
● これは前回ですか,前々回かもしれませんが,部会で御議論いただいたところでございまして,有限責任信託を設ける場合には,破産の制度を設けることについては異論がない。
では,それ以外の場合についてどうするかというのはいろいろ御意見があったので,両様ですということでございます。
恐らくその中では,有限責任信託を設けない場合でも,信託財産の破産を一般の信託に用意することはあり得る選択肢だろうと思っておりまして,特にそれを否定するつもりはございません。
ただ,そこはいずれにしても,なお検討する事項ということでございますので,パブリック・コメントでの意見照会の結果を踏まえて,秋以降また検討することになろうかと思います。
● 信託の変更の3で,別段の定めがあるときには変更の定めを認めるということで,(注2)で,変更することができる事項の範囲について制限を設けることができるかどうか検討することになっておりますが,制限を設けない場合について,従前の提案ですと乙案になろうかと思うんですけれども,その理解をしたいという趣旨の質問なんですが,その案によりますと,第三者に変更権限を与える規定というのは,一般的には民法の法理に反しない限り有効だと言った後で,その場合の権限行使がどこまで認められるかというのは,またもう一段,別の問題があるというのは第2読会等でも議論があったところかと思うんですけれども,その上で,こういった形の権限行使が認められるのか,あるいは限界に抵触するのかということで3点御質問したいと思います。
1つは,権限行使をして信託契約の内容を変更するという場合に,契約の同一性がなかなか認められないようなものへの変更はどうなのか。
2つ目は,信託目的の中で,目的に同一性が認められないものへの変更はどうなのか。
3つ目が,受益債権を変更する場合で,合理的な理由がこれといってないにもかかわらず受益債権を引き下げるような変更が認められるかどうか。
例えばこういった3つの点について,権限行使の限界という問題が生じてくるのか,その辺について御教示いただければと思います。
● ちょっと検討したいということですから,休憩後にお答えするということでよろしいでしょうか。
(休 憩)
● それでは,先ほどの御回答から。
● 先ほどの○○幹事からの点でございますけれども,結局,信託の変更の権限を付与するのも信託行為によるものですから,信託の目的によって拘束されるものであろう。
そういたしますと,例として挙げられました同一性のないものへの変更とか,目的の同一性のないものへの変更というのは無理ではないかと思われます。
それから,受益債権の変更を合理的な理由もないのに一方的に切り下げるというのも,一般的な法理,権利濫用等の法理に照らして,やはり許されないのではないかと思われているというところでございます。
● それに関係して2つ御質問ですけれども,1つは,今のお話ですと,変更権の限界の根拠みたいなものがどこにあるのかということなんですけれども,結局,信託行為の定めによって授権の範囲が限定されるといった考え方になるんでしょうか。
それとも何かまた別の考え方になるのか,その辺の整理を教えていただければということ。
それから,もし限界があるといった場合に,変更行為の効力についてはどう考えればいいのか御教示いただければと思います。
● 前者のお話,限界というのは,具体的な限界を設けるかどうかを提案にしているわけですけれども,そういうものがなくても,およそ信託行為を付与されるものである以上,終了のところでも議論があったわけでございますが,信託の目的の範囲で行使されるべきものであろうということで,その「目的の範囲で」というのが一種の暗黙の制限かなと考えているわけでございます。
さらにその中で具体的に制限を設けるかどうかは,いろいろな議論があり得るのではないかと理解しているところでございます。
それから,仮に違反した場合については,それは変更権限の行使が無効だということですので,変更がされていないものと同様になるのではないか。
したがいまして,関係者は変更がないものを前提に請求していくことができるのではないかと考えているところでございます。
● 今の変更権限の限界あたりの問題について,できればパブリック・コメントの説明の中で多少なりともコメントしていただけると,ちょっと議論がしやすいかと思うので,御検討をよろしくお願いいたします。
● その点は配慮したいと思います。
● 併合と分割について,1つは,例えば新規信託分割(仮称)というのは,後の方で信託宣言についてどういう立場をとるにせよ,これによる信託宣言と同じですよね。これは常に認めるという趣旨でよろしいかと。
それから,もうちょっと一般的な質問の仕方をしますと,この効力発生時期はいつなのか。
注を見ますと,例えば,分割の方で言いますと「分割をする時期」と書いてあるんですが,これをアナウンスすれば,そのときに財産関係も移動してしまうのか。通常ですと,例えば有価証券の場合には,紙がある場合にせよ,振替制度の場合には口座ということですけれども,紙であれば渡さないと移転しませんし,口座であれば口座の記録を書き換えないと移転しませんけれども,この場合はどうせ受託者名義なわけですから,宣言すればその段階で,A信託から分離してB信託に移ってしまう,その移る時期は自由に決めていいということでよろしいかどうかというあたり。
もう一点は,非常に細かい点なんですけれども,債権者保護手続を踏む場合の格別の催告というのを仮にしなかった場合には,その効果としてどういうことをお考えなのか。併合とか分割が無効になるということまでお考えなのか。
これは感触で結構です。私が誤解しているかもしれません。
● まず1点目の,新規信託分割によって新たな……,受託者の中でその信託を分割するのが信託宣言になるかというお話ですが,すみません,ちょっと御質問の趣旨ですが,委託者と受託者が同一である信託を設定するのが信託宣言で,1つの信託財産の中にある信託財産に2つに分けて,A信託をa信託とb信託に分けて,それで受益者は別々に1つの信託に対して受益権を持ち続けるという話になるのですが,それが信託宣言かというのは,委託者は……,受託者が同一……。
● 厳密な意味での信託宣言そのものではなくて,信託宣言を設定するのに非常に近いではないかという御趣旨だったと思いますけれども。
● とにかく受託者の一方的な決定でできる場合があるわけですよね,手続としては。
ですから,受託者の一方的な決定で,いわば委託者の同意も何もなく,もちろん委託者も受益者も何もなく信託をつくり出せる,そういう意味ですね,今,○○委員がおっしゃったような意味で。
そして,その時期まで選んでいいかというのが関連しての質問です。
● 時期については,差し当たりこの提案では,新規信託分割とか吸収信託分割をする一定の時期を定める定めの中で自由に定めまして,それで,その時期が来たら受託者はそういうような分別管理義務をしなければいけないという義務がかかっていくということになろうかなと。
したがって,それをしなかったことによって何かおかしなことが起きたら,受託者は責任を問われることになっていくのかなと思います。
それから,債権者保護手続の関係につきましては,これも商法の債権者保護手続とどこまで平仄をとった考え方をするということだと思いますけれども,例えば併合で,債権者を害するおそれがないことが明らかでないにもかかわらず債権者保護手続をしなかったということであれば,原則に帰って無効だと考えるのが論理的であるかなとは考えております。
● いろいろな考え方があるのかもしれません。損害賠償だけで解決するとか,幾つか考え方があるのかもしれませんけれども,原則は無効にするということですかね。
さっきの併合,分割と信託宣言というのは,恐らく時期が大きな問題で,同じ受託者でというか,右から左に移して違う信託にしてしまうということですから,ある意味で,外からよくわからない。
そういうことで,どの時期に信託が,あるいは別な信託になったのかはっきりわかった方がいいのではないか,そういう含意がおありだったと思います。信託宣言にも共通の問題があると思います。
ほかに,いかがでしょうか。--よろしゅうございますか。
それでは,先に進みましょう。
● 続きまして,民事信託に特有なルールというところ,第60からの御説明に移らせていただきます。
第60は何も変更がございませんので,このままでございます。
第61も,特に御説明すべき変更点はございません。
第62でございますが,これは従前の部会で後継ぎ遺贈型の受益者連続の問題についての検討は重要であって,独立の項目として議論すべきではないかという御指摘が多々ございましたことを踏まえまして,新たに独立の項目として,部会での議論はまだ十分されていないことでございますので,とりあえずパブリック・コメントで意見を聴取したいと思っているところでございます。
一般的に,受益者を複数の者にするのは後継ぎ遺贈型でなければ問題ないわけですが,ここで書いてありますような,夫が生前は自分を受益者とし,死亡後は妻を,妻の死亡後は長男を,まあだれでもいいわけでございますが,そのような第二次的な信託というんですかね,そこのところが後継ぎ遺贈型ということで問題になってくるのではないかと理解しているわけでございます。
学説を見ますと,後継ぎ遺贈と受益者連続の信託は異なるんだから,民法上,後継ぎ遺贈が無効でも受益者連続は有効であるという考え方と,民法上,無効であるならば信託法上は有効だとしたとしても,結局,最終的には無効と解すべきであるという説があるところでございます。
民法上,無効と解する説の重要な根拠は,1つは,存続期間を定めた所有権は認められないというものでございますが,しかるに信託法上有効という立場からは,これは,受益権というのは期限を定めることも,あるいは帰属者を変更することもできるのであって,期限付の所有権を創設するものではないという反論があるところでございます。
一方,民法上,やはり無効であるという立場からは,後継ぎ遺贈というのは相続法上の秩序を意思で曲げるものであって,それは信託の場合であっても何も異ならないんだから,結局,民法でできないものが信託でできるというのはおかしいのではないかということで,無効とならざるを得ないと結論するものだと思われます。
この点につきましては,まだこれから御議論を,特に9月以降いただくことになるかと思いますが,とりあえず,一つの問題として立てた上でパブリック・コメントに付したいということで,第62とさせていただきました。
第63,第64は,いずれも相続人の権利・義務が特に重要になるところでございますが,いずれも変更はございません。
甲案,乙案両論併記といたしまして,とりあえず関係者の皆様の意見を聴取したいと思っているところでございます。
次に,営業信託のところでございますが,第65は変更ございません。
第66,有限責任信託につきましては,中身自体は何も変更はございませんが,(注1)のところで,この有限責任信託というのは何か一般の方にはわかりにくいのではないかということで,いわば定義的なものといたしまして,取引債権ですとか所有者責任のようなものについては限定される,そうでなくて第709条のような責任については,これは受託者の固有財産も責任を負うということを明らかにして,パブリック・コメントに付したいと思っているところでございます。
それから,第67,有価証券化のところでございますが,ここの変更点はまとめて1点でございまして,2の(3)と(4)の,受益者名簿の作成と対抗要件のところでございます。
今回の提案は,記名式の受益証券を発行したときは受益者名簿が要る,無記名式なら要らないというのが1点と,受託者対抗要件につきましては,記名式は受益者名簿の記載であって,無記名式は占有による。第三者対抗要件は,いずれも占有によるというものでございます。
御承知のとおり,かつては対立する形で乙案として,無記名式でも受益者名簿を作成するとか,あるいは受託者対抗要件としては,無記名式でも名簿の記載によるといったような提案を併記していたわけでございますが,ここでの審議の結果を踏まえまして,従来の甲案に一本化させていただいた次第でございます。
続きまして,第68から最後まででございますが,まず,信託宣言でございますけれども,甲案,乙案,丙案を併記してパブリック・コメントに付すところは従来と変わりがないところでございまして,重要な問題でございますので,一般の意見をいろいろ聴取した上で,最終的に部会の結論を出していただきたいと思っているわけでございます。
ただ,ちょっと変えましたのが,(注)の2の最後のパラグラフのところでございまして,これまでの提案におきましては,委託者または受益者が,その信託の設定が債権者を害するものでないことを証明しない限り,委託者に対して信託の設定前に債権を有する者は信託財産に強制執行ができるという形を提示しておりました。
すなわち,債権者の方で委託者に詐害意思があることの立証責任を負うものではなくて,委託者または受益者の方で,委託者の詐害意思がないことを証明しなければならないと提案していたわけでございますが,詐害信託取り消しの場合におけることと平仄を合わせまして,債権者の側に債務者の,委託者の詐害意思についての証明責任を負わせるという方向に提案を改めているというものでございます。
第69,目的信託も非常に難しい問題でございますが,従来通りの内容の両案併記という形でパブリック・コメントに付したいと思っております。
第70につきましては,公益法人法制につきましてはある程度方向が定まってきつつあるところでございますけれども,公益信託につきましては,公益法人法制の改正の動向を踏まえた上で,9月以降,慎重に御検討をいただきたい。
前回の議論では,主務官庁制の廃止というのはおおむねそのような方向ではないかというお話もあったわけでございますが,とりあえず現時点では,まだ十分な審議もしていないところでございますので,パブリック・コメントについては,このような形で付させていただいてはどうかと提案させていただくものでございます。
● それでは,今の範囲について御意見を伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。
● 後継ぎ遺贈について,パブリック・コメントに付するというのは当然のことかもしれませんけれども,今回の補足説明が,両説ある理由を書いている趣旨でそうなっているのかもしれませんけれども,やや「相続秩序に反する」という説明が強くて,当然これに対する反論というのは私が申し上げる必要もなくて,幾らでも考えられるところでして,やはりもうちょっと対等に議論していただいた方がいいのかなと。
いわずもがなですけれども,民法の秩序というのは,信託そのものが民法の秩序に反しているという議論もあって,別に相続だけの話ではなくなるわけですし,受託者という所有者というのはちゃんと存在していますから,物だけが自然に動いていくといいますか,物に意思が伝わって物が死者の意思を承継していくわけではありませんし。
あと,そういう理屈だけの議論ではなくて,実際にこれを必要としている障害者の例でも,高齢者の例でも,弁護士として遭遇する相談事例でもいろいろありますから,今回これを認めていただくことが,やはり今回の信託法改正の目玉でもある。
両説あるのは当然わかります。ですから,議論としては,なるべくこれが必要とするような背景とか,その辺もぜひ議論していただきたいし,理屈を言えば,別に遺留分というのは計算できる。
計算は多少困難かもしれませんけれども,相続があるわけですから遺留分は計算できるわけですし,法定相続人に対する法的な期待権というのもあるわけではありませんし。
ですから,相続秩序というのは非常に強い言葉ですけれども,それを具体的に議論していくと,またいろいろと反論がある。両方に反論があるかもしれませんけれども。ぜひ前向きな形での補足説明であってほしいとお願いします。
あと,信託宣言のところなんですけれども,私も議論に参加したかつてのところですと,当部会においては,もちろん反対説,慎重説もあったかと思うんですが,大方において非常に前向きな議論であったかと記憶しております。
提案ですから甲,乙,丙という形で併記されるのはやむを得ないことかとは思うんですけれども,実際に当部会においても非常に前向きな議論でありましたし,それは理屈上も,先ほどの○○委員の議論,理屈上も別にそういうところ,受託者が委託者になるということは理屈上も,あと再信託の議論でももう既に存在しておりますし,ですから,そういう理屈の面ではもう問題ないはずですし,そうすると,実態として信託宣言が必要かどうかというところになりますと,今までの部会の議事録とか,また,今後出る議事録を見れば全部議論されてはいますけれども,これがグローバルなスタンダードですし,実際に,第三者からの預かり金というものを信託宣言によって保護することが受益者のためですし,民事信託的な場合であれば,弁護士の預かり金であればそれは依頼者の保護になりますし,これを否定する必要性はなくて,これがあることによって世の中,非常にスムーズにいくことが今後,幾らでも考えられると思うんですね。もちろんそんなことは今さら議論しなくてもあれなんですけれども。
ですから,その辺をわかりやすく説明していただかないと,「信託宣言」という言葉自体が信託契約とは全然違うもの。
ところが,実際には先ほどの信託の併合,信託の分割,または再信託のところで,信託契約という形において実際に法的には同じことをやっているわけですから,何か全然違うもの,異質なものを導入しようとしているんだからというところで議論が入っていくと,実際の社会的なニーズというところを斟酌されないおそれもあるのではないか。
そんなことをこの場で申し上げてもしようがないんですけれども,ぜひパブリック・コメントに付すときの補足説明においても,今までの議事録等に反映されているところの,この信託宣言を必要とする社会的な,また今後のニーズ,今後の発展みたいなものをぜひ強く言っていただければ,かように思います。
あと,若干細かい点で,信託宣言のところで質問がありまして,丙案のときの一定の要件というところで,幾つか要件が書かれておりますけれども,前回の議論にもありましたけれども,自益信託型の信託宣言を考えたときの,当初,委託者兼受託者が信託受益権を譲渡した後の受益者との関係なんですけれども,委託者のところに信託宣言をしてとどまっている場合においては,(注)の2に書いてあるように,もともと同一人格ですから,詐害行為取消しをするまでもなく救済できるというのはわかるんですけれども,受益者のところに行った段階では,もともとのこちらの第3の2と同じ規律に服する,こういう理解だと思うんですけれども,その辺でよろしいかどうか。
一定の要件というのが,今後,逆に厳しくなり過ぎてしまって信託宣言が非常に,受益者がいつ取り消されるかわからないみたいな状況になると,また使いにくいものになってしまいますから,あくまで受益者が登場した段階では,通常の規律と同じところに服するんだというあたりも,ちょっと確認がてら質問させていただきたいと思います。
● まず,最後のところにつきましては,受益者が登場した段階では,そのとおり,第3の規律に服する。
3者同一の場合,一定期間存続することは認められるわけでございますが,その場合でも,信託財産としての独立性を付与されますので,信託財産にかかっていけるか受益権にかかっているかという点の違いはありますが,実質的には同じであるというのは,おっしゃる趣旨のとおりでございます。
その後,受益者が出てきたときには第3の2の規律に服するということで,御理解のとおりかと存じます。
あと,信託宣言につきましては,部会でのこれまでの審議を踏まえて補足説明に反映していきたいと思います。
賛否両論あったところでございますが,それぞれの主張の根拠となる点,あるいはニーズになる点なども含めて記載していきたいと考えております。
受益者連続につきましては,これは我々としては,まだ議論も十分されていないものですから,虚心坦懐に中立的に書いているつもりでございまして,現段階で一方の方向性を押し出して補足説明を書くというのも,なかなかどうかなという気がいたしますが,一方に偏っているように受け取られない表現を心がけていきたいと思っているところでございます。
● 表現の仕方が難しい。
● 1点は,今の後継ぎ遺贈についてですが,第62の書き方だけがほかと違っていまして,「~ものとする」ではなくて,あるいは甲案,乙案でもなくて「どうか」と聞いていますのは,これはまさに審議をしていないからという前提だと思いますので,そこは別に○○委員に反対する趣旨ではないんですけれども,ニュートラルに書く。
もし細かく書いていくとなると,今度は何世代まで認めるかという,細かいその先の議論なども出てきますから,そこはできるだけ意見が出やすいような形にしていただいたらいいと思います。これは一般的なことです。
もう一つは,もう既に出ているかもしれませんけれども,第60以下について,民事信託を主として念頭に置いた規律関係,あるいは営業信託を主として念頭に置いた規律関係というようにブロックをつくっているわけですが,このブロックをつくったことに何か特別の意味があるのかどうか,今,御教示いただければと思います。
● 御承知のとおり,今まではまとめて提案していたわけでございますが,いささか整合性を欠く順番づけになっていたということで,まず,ある程度意味のあるところをまとめて書きまして,かつ,この我々の信託法の改正というのが決して一部分のみを見ているわけではなくて,信託全般を見渡しているものであるということを一般の方によりよくわかってもらうためには,ある程度,民事信託を中心としているもの,それから商事信託を中心としているもの,それにかかわらず総則的なものと分けて書いた方が誤解を避ける上でいいのではないかということで,あえて章立てをさせていただいたということでございます。
● 将来,法律の中でもこういう形式になるということまでは,含意していない。
● それは,違います。例えば信託宣言などは,もし入れば前の方に来るでしょうし,有限責任信託も,民事でも絶対ないというわけでもないですし,それは必ずしも一致しているものではございません。
あくまでパブリック・コメントに付す場合に,一般の皆様に正しく理解していただくための配慮でございます。
● 重箱の隅を虫眼鏡で見るようなことを言って申しわけないんですが,49ページの第67の2の(5)の関係で,この間,民法が現代語化されたときに,民法第192条に正式な見出しがついて,「即時取得」になったんですよね。新会社法で株券のそれについてどう書いてあるのかは,私,見ていないからわからないんですが……,ですから,やはり「即時取得」なのではないでしょうか。私がどちらがいいと思っているということではなくて。
● 信託法にとっては,もう善意取得……,即時取得でしたっけ。
● ちょっと今,私もこれ調べていて,有価証券のときは「善意取得」と書いている例が多いんですが,これは有斐閣の見出しがそうなっているだけで,必ずしも丸括弧の法律的な見出し,法律の中の一部である見出しではないので,ちょっと御確認いただきまして,あれしてください。
● 確認させていただきます。
● 今の件,商法の第五百二十何条かには見出しはついているはずですので,会社法改正の整備法での商法改正をごらんいただくと何か書いてあるはずだと思います。私,知らなくて申しわけありません。
それから,○○委員がおっしゃったことに触発されて,私もこの資料をいただいたときにちょっと気になっていたんですが,前回欠席してしまったものですから。
営業信託と民事信託というふうに分けているんですけれども,私の頭では民事信託も営業信託になるので,例えば信託銀行が後継ぎ遺贈を,こういうものをやるというのは幾らでも今後,期待できまして,その場合は営業信託になると思うんですね。
ですから,言葉にいちゃもんをつけるという趣旨では決してありませんけれども,ちょっと誤解を招くかなという気がするので,では何か名案はあるかと言われますと,ないんですけれども,一応感想として申し上げておきます。
● 厳密な意味では正確な表現ではないんですけれども,先ほど○○幹事が言われた趣旨,私と少しニュアンスが違うかもしれないけれども,例えば今回の改正においても,余り民事信託について重点的に議論していないのではないかというような意見に対して,この部分などを強調することに意味があるということだと思いますね,1つは。
● そのとおりです。
● 表現が正確かどうかという点は,少し検討してみる余地はあると思いますけれども,何かいい表現の仕方があればお知恵を拝借できればと思いますけれども。--今の○○委員の御意見も踏まえて,ちょっと検討させていただければと思います。
ほかに,いかがでございましょうか。
● 第66の有限責任信託ですけれども,基本的には,新しい類型の信託について中心に書かれていまして,既存の分については,もちろん注で書いていただいて,御検討いただくというようなことが書いてあるんですけれども,多分この場の議論においては,私個人の認識だけかもしれませんけれども,議論があって,例えば有限責任性を明示するとか,合意するとかといった議論もあって,ある一定の方向性なり対立点が出たように思うんですけれども,そういうことを踏まえますと,1つの案として立てていただいてもいいのではないかと考えております。
もう一点,先ほど来,出ています民事信託と営業信託のところについても,私自身も何となく違和感を感じておりまして,民事と商事という分け方でもないし,営業,非営業という形でもないので,あとはまさに民事信託--ここで書かれている民事信託というもの自体についても,○○委員が先ほどおっしゃいましたけれども,やはり信託銀行もこれから注力していくようなものでありますので,何となく違和感を感じております。
とはいえ,私自身も全然いいアイデアがないものですから,その辺のところも御意見を申し上げるにすぎないわけですけれども。
もう一点,特殊な類型の信託というのは,まさに特殊だからということで入れていただいているのかもしれませんけれども,そのところで,特殊だからここの部分を何とかしましょうというような御意図があるということではないですよね。
● 別に特段の意図があるわけではなく,ほかにうまく入らないからということでございます。
あと,有権責任信託のところでコメントをいただきましたけれども,部会の審議におきましては,我々の認識といたしましては,今,○○委員がおっしゃった「合意した場合」というのは,いわゆる有限責任特約を結んでいる場合で,今と特に変わらないであろう。
問題は,一方的に一定事項を明示した場合に有限責任になるかどうかというところでございますが,そこについては,審議の過程では決して一義的に決まるものではなくて,賛否両論あったと理解しているわけでございます。
そういうことで,あえて1項目を立てるということではなくて,なお検討事項として注に落としているわけでございまして,このような,どちらかというと有限責任信託に類型を設ける点に比べると,注の位置づけでいいのではないかと認識している次第でございます。
あと民事信託,商事信託は,文言が確かに余りよくないという……。例えば「信託の民事的利用」とか書けばいいんですかね。ちょっと考えたいと思いますけれども。
● すみません,余りこだわりませんけれども。
有限責任の部分につきましては,そこはちょっとこだわりがありまして,基本的には,有限責任というもの自体が認められるかどうかは,もう今の御時世では当たり前のことかもしれませんけれども,それを明確化するのが一番最初に考えたことでございまして,そういう観点からすると,それを前面に出していただきたいというのが1つと,それと,対立があったということは,そういうことが前提にあって対立があってということであれば,例えば甲案,乙案で立てていただいてもいいのかなと。
私どもの方は別に合意でもいいと申し上げておりますけれども,そういう立て方もあるのかなと考えております。
● 今,おっしゃった点は,有限責任特約の効力が果たして信託法上,きちっと認められるのかどうか懸念があるということでございましたら,それは我々としては,特約を結べば物的有限責任の効力が生ずるということについては問題ないと考えておりますので,その点を補足説明できちっと論じていくことで対応したい。
それ以上にということは,ちょっと御容赦いただければという理解でおりますが,よろしいでしょうか。
● 最終的にはお任せいたしますけれども,先ほど○○委員からもお話がありましたけれども,破産のところも問題もありますので,例えば新類型かだめになりましたといったときに,それでそのものもありませんよということになりますと,全く何もないという話で,それでは破産の規定など要らないではないかという話にもなりますので,その辺のところをお含みおきいただきたい。
あとはお任せいたします。
● しかるべく対応したいと思います。
● 弁護士会の立場として。
民事信託でも有限責任信託を,弁護士が受託者になる場合は当然使うことを考えておりますから,営業信託のところでこれ入ってくるというのは非常に,整理の仕方がないにしろ,逆に有限責任信託は特殊類型に入れていただいても構わないと思いますので,ぜひ。
そうでないと,なかなか民事信託を弁護士が弁護士業務としてやることは,なかなか難しくなってしまって,それによって弁護士が困るだけではなくて,一般の方も困る状況になり得ると思いますので,よろしくお願いします。
● この辺は,微妙な問題があるんですね。
ほかに,いかがでしょうか。
● 第68の信託宣言について,若干のお願いでございます。
丙案に関しましては,前回の議論で丙案の(注)の2の手当てというのが倒産隔離を害するのではないか,従前の場合は特にですね--という意見がありまして,今回,考証責任を転換したという御配慮があったことは非常に評価できることだと思いますが,これでいいかということについては,なお議論があるところだと思います。
ここは,この(注)のところで「例えば,」と書いてありますので,そこは事務局も御認識だとは思いますけれども,まだ丙案における手当てというのが本席においても,私の認識としては,まだ「これでいい」というものがないという認識でございますので,補足説明のところでは,この点においてはまだいろいろな議論があり得るということを付言していただければありがたいと思っております。
● 事務局としても,まだいろいろな案があり得るなという中で,一つの例示として挙げているということですので,そこはきちっと明示して対応したいと思います。
● ほかに,いかがでしょうか。よろしゅうございますか。--おかげさまで,一通り中間試案に向けては御議論いただいたことになります。まだいろいろ,御議論いただいたものをまた反映させるという作業がありますけれども,これはこちらに一任していただければと思います。できるだけ皆様の御意見を反映させたいというふうには考えております。
● それでは,本日の会議はこれで終わります。
-了-
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2016年加工編
法制審議会信託法部会
第19回会議 議事録
第1 日 時 平成17年7月29日(金) 自 午後1時30分
至 午後3時57分
第2 場 所 法務省第1会議室
第3 議 題
第4 議 事 (次のとおり)
議 事
● それでは法制審議会信託法部会第19回の会議を開きたいと思います。
暑い中お集まりいただきまして、大変ありがとうございました。
きょうは、前回あるいは前々回から予告しておりますように、筑波大学の新井教授に信託についてのお考えをお話しいただきまして、その後質疑応答をしたいというふうに考えております。
資料等につきましては、○○幹事の方から配布資料について説明していただけますか。
● 配布資料でございますが、かなりの部数がありますので一つずつは紹介いたしませんが、事前に資料を配付させていただいております。
それから、本日、○○参考人の方から追加資料といたしまして、この新聞のコピーでございますが、これを配付させていただいているところでございます。
本日の配布資料といたしましては、以上でございます。
● それでは、これから○○参考人にお話をいただきたいと思いますけれども、時間的な配分はどんなふうに。
● ○○参考人の方からの御講演を1時間半ほどいただきまして、3時をめどといたしまして、そこで若干休憩を挟みまして、あと質疑応答で、一応4時には終了するという見込みでおりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
● それでは、○○参考人お願いいたします。
● ○○と申します。よろしくお願いします。
○○幹事の方から最初にここで話をするようにというお話があったときに、私としては大変躊躇いたしました。
といいますのは、私がここで話をしようとしていることは、当然、こちらにいらっしゃる委員の方は御存じのような話ばかりで、余り役に立ちそうもないというふうに考えたからです。
しかし、その後、参事官とお話する過程の中で、とはいうものの、一応今日こういう形で話をする機会があれば、それはそれで意味のあることかなというふうに思い直しまして、お引き受けすることにいたしました。
1時間半という長い時間で、内容的には乏しいものになるかもしれませんが、その点あらかじめお断りさせていただきたいと思います。
私の話のテーマとしましては、レジュメに掲げましたように、「高齢社会における民事(個人)信託制度の必要性」ということで話をさせていただきたいと思います。
最初に、ニーズ・活用例というところ、このあたりは簡単にしてほしいという意見と、いや、実はよくここが知りたいんだという意見がありまして、その中間あたりのところでお話をさせていただきたいと思います。
東京都杉並区の老女失踪事件というのがありました。これは、杉並区在住の高齢の女性がおりまして、資産家なんです。価値のある不動産と多額の預貯金をお持ちでした。
家族構成としては、高齢の女性の方と40代のお子様が1人なんですが、重度の知的障害者。その女性の方は、希望としては3つ希望をお持ちでした。まず第1の希望は、不動産を死ぬまで売りたくない。
悪徳業者などもいますけれども、そういう処分の強制から免れて、死ぬまできちっと持っていたい。2番目の希望としましては、自分が亡くなったら、その不動産を娘に承継させたい。
3番目は、今度娘が亡くなったら、杉並区のお世話になった福祉施設の方に承継させたい、そういう3つの希望をお持ちでした。
この方の場合はどういうことになったかというと、悪徳業者に財産をだまし取られ殺されてしまったというのが杉並区老女失踪事件でした。
このときに、私、杉並区の方から相談を受けまして考えたのが信託の活用ということでした。
先ほどの3つの希望ですけれども、まず第一の希望である不動産を死ぬまで売りたくない、これは何かいい方法があるかということですけれども、信託を使って名義を変えておく。
信託目的として、死ぬまで売らないんだというふうにしておくという、信託で名義を変えておくこと自体が財産のプロテクトになるというふうに思うわけです。
2番目の希望ですけれども、知的障害のある娘に財産を承継させたい、そのこと自体は割合に簡単にできるわけですが、承継させたとしても、その娘が財産管理能力はありませんので、今度はその財産が収奪の対象になるということで、第三者にきちっと管理させた上で、利益だけがその娘に行くというスキームはないかということで考えてみると、これも信託が極めて適しているわけです。
そして、3番目の娘が死んだ後、今度福祉施設の方に財産を承継させたいと
いうのも、いわゆる後継ぎ遺贈ということで、信託を用いればできるというふうに思うわけです。
それで、私は当時、いろいろなところに働きかけたわけですが、当時バブルのころでして、信託銀行はこの分野は全く関心がないということで、けんもほろろであったということで、私としましては、個人信託制度の必要性を痛感した事件ではあったのです。
そして、ニーズも高いと思っているのですが、まだ実現には至っていないというわけです。
資料の最初のものですけれども、衆参両議院の方で附帯決議が信託業法の改正に際してついておりまして、それによると、福祉型信託の活用を検討すべきである。
私は、この福祉型信託の原点というのが、まさにこの東京都杉並区老女失踪事件にあるというふうに考えております。もう少しこういう高齢者、障害者のための財産管理の手法として、信託というものがあっていいのではないか。ニーズはあるけれども、まだ実現していないというふうに考えております。
2番目が、横浜市社会福祉協議会横浜生活あんしんセンター報告書についてお話ししたいと思います。
この横浜生活あんしんセンターといいますのは、高齢者、障害者の財産管理とか保全を行う社会福祉協議会の中にある独立したセンターです。
そして、成年後見法施行後は、法人後見人として法定後見とか任意後見の業務を行っています。ここで実際に信託のニーズがないかということで検討しましてまとめたのがこの報告書です。これから紹介する3つのケースはすべて実際のケースに基づいています。
最初のケースが、金銭を受託する場合ということで、この報告書の25ページをごらんください。
金銭を受託する場合ということで、信託銀行は信託された金銭を原資として通常の生活費・療養費等を定期金として支払い、さらに諸事情の変化により臨時の出費の必要が生じた場合には、センターとの相談・協議等に基づき臨時の費用を支払います。
利用者は脳梗塞のために外出が困難であり、また、妻も痴呆状態のために自分自身では金銭管理が困難な状況です。
夫婦は現在バリアフリー化した戸建住宅に居住しています。
子供は長女のみで他の都市に居住しています。
自宅をお持ちで、年金は夫婦合わせて910万円、預貯金総額4,000万円。
利用者の意向としては、今後も夫婦そろって自宅で暮らすことを強く希望しています。
利用者はこれまでに蓄えた資産を有効に活用し、自分や妻の生活費や療養費に充てて安定した暮らしを維持したいと思っています。
利用者は、自分や妻の病状が変化した場合等の臨時の出費にも対応できるようにするとともに、自分の死後も妻に安定した在宅生活が送れるように手配しておきたいと考えています。
スキームとしましては、利用者はセンターと任意代理契約と任意後見契約を締結します。これにより、センターは任意代理人となるとともに、任意後見受任者になります。
なお、妻の意思能力の状況により、センターには妻の法定後見人にもなってもらいます。
利用者は信託銀行と信託契約を締結し、金銭を信託銀行に信託します。第1受益者を本人、夫の死亡を停止条件として第2受益者を妻とします。
受託者は夫の生存中は夫に対して、また、夫の死亡後は妻に対して信託収益を支払います。定期金は夫婦の通常の生活支援や療養費等に利用されます。
事項のうち重要な事項が発生し、定期金では賄えない出費の必要が生じた場合には、受託者はセンターとの相談・協議等のもと臨時の費用を定期金とは別に支払います。
信託スキームのメリットとしては、任意後見人と信託銀行による高度な安全性を持った資産管理と、円滑な資産の承継の2点が挙げられるというふうに思います。
これが第1の事例です。
第2の事例としては、28ページをごらんください。自宅不動産を受託する場合です。
親の死後の障害のある子供の生活をいかに確保していくか、いわゆる「親なき後」の問題に関する一つの対策として、自宅を信託することが考えられます。
利用者の状況ですけれども、75歳の利用者と70歳の妻は、長男とともに戸建住宅に住んでいます。
長男は精神障害者で、地域作業所を利用しています。
夫婦には他に次男がいますが、次男は既に独立しています。
利用者は入退院を繰り返し体調に自信がなく、世帯全体の今後について不安を抱いています。
資産の状況は、自宅をお持ちで、年金は3人合わせて300万円、預貯金・株券等3,000万円をお持ちです。
利用者の意向としては、自分や妻の死後、長男に確実に資産を承継したいと思っています。
利用者は、長男に承継した自宅で安定した生活を送ってほしいと考えています。
スキームの構成ですが、信託契約の締結に際してセンターは任意代理契約あるいは任意後見契約を締結します。
委託者は受託者に自宅を信託します。同時に、将来の修理・改築に備えて、一定の金銭を信託します。
信託目的の一つとして、委託者の生存中は自宅を委託者に使用貸借させること、並びに委託者の死後は障害者である子に使用貸借させることを明記します。
任意後見開始後、センターは、本人の生活維持の一環として自宅の状況、同居人の有無等を随時調査し、必要に応じて受託者に報告します。また、センターは自宅に修繕等の必要が生じた場合には受託者に連絡・相談します。
受託者はセンターとの相談・協議等の上、修繕費等を支払います。
在宅生活ができなくなり、自宅の確保が不要と判断されるようになれば、受託者は信託事務の一つとして自宅を処分します。
スキームのメリットとしては、信託することにより自宅の所有権は受託者に移転するため、親なき後においても詐欺等により自宅が処分されることや賃借権の発生により不動産価値の下落を防止する点が挙げられます。また、自宅の現金化が必要になった段階での処分も容易になります。
これが2番目の例です。
3番目の例としては、37ページをごらんください。グループホームの信託です。
センターの利用者の中には、「自宅をグループホームにし、子には自分の死後もそのグループホームで生活させたい」という方がいます。グループホーム化した自宅に子を住まわせることについては、横浜市が設置を進めているグループホーム制度の中での活用が考えられます。
それにより、障害者本人の自立を支援し、地域での自主的な援助活動を尊重するという事業趣旨を生かすことができるように思います。
スキームとしては、不動産管理処分信託を活用することが可能です。
利用者は知的障害者である子と、自分名義の自宅で生活しています。
子供にはほかに姉が1人いますが、姉は既に結婚しており、利用者の死後に子の面倒を見ることは困難な状況です。
資産の状況等は、自宅をお持ちで、年金2人合わせて200万円、預貯金2,000万円という状況です。
利用者の意向としては、自分の死後自宅をグループホーム化し、障害のある子をそこで生活させたいと考えています。
子が自宅をグループホーム化するための一連の手続を実施することは困難であるため、利用者はできれば自分の生存中にその手続を終えておきたいと考えています。
利用者は、自宅のグループホーム化が規格等の関係で困難であれば、子を既存のグループホームで生活させる一方、自宅を活用して子の生活費を確保したいと考えています。
スキームのメリットとしては、最初に、信託することによりグループホームの所有権は受託者に移転するため、詐欺等により利用者の死後にグループホームが処分されることを防止できること、次に、グループホーム制度を通じて自宅資産を有効活用し、子の生活費を捻出できることが挙げられています。
これら3つは、現実に横浜市にあったケースに基づいて構想されたスキームであるわけですが、これについても現在に至るまでニーズはあるわけですが、実現しておりません。
これについては、報告書の45ページをごらんいただきたいのですけれども、生活あんしんセンター所長の山田弁護士がまとめの最後のところに、民間の金融機関とも密接な連携を図りながら、より広い支援ネットワークをつくっていかなければならないと考えているということをおっしゃっているわけですが、現在に至るまで信託とのネットワークというのは実現していないという状況であります。
その次に、信託銀行の関係のことを見てみたいと思います。
御存じのように、信託銀行は遺言信託ということでもうビジネスを始めておりますが、遺言信託というのは、実は遺言執行のことが多いというふうに言われております。そういう中で注目されるのが、パーソナルトラストと安心サポート信託というものであります。
まず、パーソナルトラストというものですけれども、これについては、この資料の「パーソナルトラスト」のしくみのところでしょうか、相続対策の事例、パーソナルトラストを活用した事例というものが出ております。
これをごらんいただくとわかるのですけれども、障害のあるお孫さんのた
めに信託を活用して、きちっとした財産承継を図りたいというニーズが書かれております。
このパーソナルトラストは、合同運用して金銭信託という商品に特約をつけているものですけれども、特徴としましては、同意権者というものを置いているという点、それともう一つは、成年後見制度との連携を考えているという、この2つが大きな特徴かと思われます。
そして、成年後見制度については、リーガルサポートとの連携なども図るようなシステムになっているということに注目したいと思います。
その次に、安心サポート信託について見てみたいと思います。
これについては、ケースの紹介として、1から5までありますけれども、例えば、ケース2のところで、配偶者が要介護状態になっている。片時も目を離せない。
自分に万一のことがあったら、その後の財産管理はどうすればいいのだろうかというようなニーズ。あるいはケース3のところで、子供が障害のため財産管理が難しい。
今はまだ親が2人がかりで世話をできるが、親が亡くなった後も財産が守られるようにしてほしい。いわゆる親なき後の問題、こういうものが具体的なケース・ニーズとして紹介されています。
この安心サポート信託も、合同運用して金銭信託という商品に特約をつけることになっておりますが、今度こちらの方は、同意権者ではなくて指図権者という制度を使っているという点に注目したいと思います。
同意権者、指図権者という違いはあるのですが、基本的には同一のスキームというふうに考えてよろしいかと思います。ただ、不動産は含まないという点にも注目しておきたいというふうに思います。
いずれにしても、信託銀行の一部にはこういうようなビジネスの展開も始まったということであります。
その次に弁護士会ですけれども、ここではまず、関西方面のある弁護士法人が信託業法の改正というのを契機にしまして株式会社を設立して、そして信託業法上の免許の取得というのを予定しているそうです。そして、そこでは今私が申し上げてきましたような個人信託を行いたいというような動きがあります。
したがって、弁護士さんが受託者として、業として個人信託業務を行うという動きが実現する可能性もあるというふうに聞いております。
それから、東京弁護士のオアシスというのは高齢者・障害者の委員会ですけれども、こちらでも、もし可能性があれば、今まで申し上げてきましたような親なき後対策に関する信託を行ってみたいというような意向もあるようです。
個々の弁護士さんも、私が理解しているところではもう幾つか信託契約を締結して、個人信託を既に受託しているというケースもあるようです。ただし、
これについては弁護士が信託業務を行うということについて、信託業法上どう位置づけるかという問題はまだ未解決の問題として残されているように思われます。
司法書士業界ですけれども、これは不動産の個人信託のニーズが非常に大きいというふうに聞いております。司法書士業界全体もこの分野に大きな関心を寄せています。
それで、リーガルサポートという公益社団法人がありまして、これは全国の司法書士3,000名でつくっている社団法人ですけれども、このリーガルサポート自体ができれば不動産の個人信託業務を行いたいということで積極的に考えていたわけですが、御存じのように、信託業法上は株式会社に受託者が限定されているということで、社団法人が免許を取得するという可能性は現在のところはありませんので、参入できないという状況になっております。しかし、その辺の障害がなくなれば、ぜひリーガルサポートも不動産の個人信託を行いたいというふうに聞いております。
不動産業界ですけれども、これも建物に福祉的な付加価値をつける。福祉的な付加価値というのは、建物の構造を福祉的にするということだけではなくて、例えば介護サービスであるとか医療サービスを入居のときに付加するというようなスキームを考えるときに信託を使いたいというような検討も一部では始まっているように私は理解しております。
今申し上げてきましたように、私の目から見ると少なくとも個人信託のニーズというのは大変大きくて、活用例もいろいろなところにあるというふうに思われます。
ですから、今般の信託法の改正に際しては、ぜひその辺をもっと普及させるような形の措置をとっていただければ私は大変ありがたいというふうに考えております。
ニーズ・活用例を生み出す社会的背景ですけれども、これは高齢社会の進展ということに尽きます。
高齢化率というようなことが言われます。これは、65歳以上の高齢者が人口に占める割合ですけれども、7%を超えたのが1970年、わずか24年後の1994年には14%、2014年には25.3%、高齢者人口は3,199万人になるというふうに言われておりまして、こういうような状況は世界の高齢化の中でも類を見ないものだというふうに言われております。
それに伴って痴呆性とか虚弱高齢者の数はどんどんふえています。2002年には150万人、2015年には250万人、そして2025年には323万人が痴呆性あるいは虚弱高齢者等になるだろうというふうに言われております。
そのほかに、知的障害者が現在でも約60万人、精神障害者は200万人いるというふうに言われています。こういう日本の21世紀の状況を考えると、先ほど申し上げました衆参両議院の附帯決議にあるように、福祉型信託の重要性というのは何人も否定できないのではないかというふうに考える次第です。
そして、財産管理ニーズの変化ということにも注目したいというふうに思います。
経済の高度成長、所得の平準化、資産価格の高騰というようなことに伴って、日本の財産管理のバックグラウンドが変わってきたというふうに考えます。
最初に、フローの面では高齢者の社会保障等が国際的に見ても高い数字に達していまして、大半は一応の暮らしに心配がなくなったことを挙げることができます。
2番目に、高齢者の持つ資産の価格が高騰し、いつの間にか高齢者の中には相当の資産家が誕生したこと。
そして3番目に、高齢者の身辺から資産・生計を管理する家族等が減少したことを挙げることができます。つまり、新しい財産管理のニーズが生じているわけです。
従来のように、地縁・血縁に頼らない、第三者による財産管理のニーズというのが今求められていると思います。そして、その一つが信託制度ではないかというふうに考えるわけです。
海外に転じてみます。
まず、イギリスにつきましては、デイヴィッド・ブラウンビルという方の資料を用意させていただきました。
この資料の中では、例えば118ページをごらんいただきますと、無能力、インキャパシティーというのを広くとらえています。
物理的理由に起因する無能力というのが118ページに書かれておりますが、従来の日本では、意思無能力というときにこういう見方はないのですが、こういうものも広くとらえて無能力というふうに定義し、さらに119ページですけれども、障害を持った子の将来の扶養・介護というものも無能力の中に含めて理解しております。
そして119ページには、私的家族信託の導入の意義を3点にまとめています。
119ページの右の方ですけれども、最初に、代々の家族のために財産を適法に設定された信託財産として信託化しておけば、信託化された財産は信託設定者本人の固有の財産から切り離され、本人に関して制定法上の無能力者制度が適用されることになったとしても、その影響を受けることがない。
2番目に、財産をこのような形で信託財産化しておけば、本人不在の場合や本人が法的無能力者となった場合も、信託財産については、これにかかわらず、引き続き安定した管理運用が確保されることになる。
そして3番目に、家族信託を利用すれば、信託設定者の意向やその置かれている事情を十分反映した条件を定めた信託を設定することが可能であり、法律上の後見人制度や財産保全管理人制度やEPA、EPAというのは持続的代理権授与制度のことですが、日本では任意後見に相当します。このEPAを利用した場合と比較して、より大きな状況対応力や柔軟性が確保できるということでまとめられております。
つまり、イギリスでは高齢者・障害者の無能力に備えるための信託というものもあって、実務家が既にこういうのをまとめているということに注目したいと思います。
アメリカについてですけれども、これはエドワード・ホールバック先生の資料を用意させていただきました。
82ページをごらんいただきますと、信託が利用される理由ということで、4つほどホールバック先生は挙げていらっしゃいます。
まず、82ページの方で財産の管理運用ということが挙げられ、85ページで遺言検認手続きの回避、86ページで財産権に制約を付すということ、88ページで節税目的というような信託が利用される目的が掲げられておりますけれども、これらはすべて個人信託の類型に属するということに注目したいと思います。
そして、ドイツですけれども、これにつきましては北海道大学の藤原正則教授の「ドイツにおける遺産承継」という論文を用意させていただきました。
196ページをごらんいただきますと、先位・後位相続の紹介がなされています。
この先位・後位相続という制度の利用によって、家産が家族から遺失することを防止できる。例えば、妻を相続人として、妻の死亡後は息子を相続人とすると遺言しておけば、そこでは妻の生前の処分権は制限されているから、妻に生涯の遺産への収益を保障しつつ、夫は家産を息子に伝えることができるというような説明がなされております。
ドイツには、成文制定法としての信託法というのは存在しないわけですが、民法上先位・後位相続というものがあって、これは信託的性質を持つものだというふうに理解されております。
フランスについては、山口俊夫先生の「概説フランス法 上」を用意させていただきました。
これの540ページをごらんいただきますと、継伝処分の紹介があります。
継伝処分は原則として禁止されておりますが、例外的に、恵与者の子または兄弟姉妹が継伝義務者とされ、かつ、これらの継伝義務者の現在または将来生まれる子が継伝指定者とされる場合には許される。その倍、継伝指定者は継伝義務者の子で一等親の者に限られ、かつ、男女長幼を問わずすべての子が受益者となるものでなければならないというふうに解説されておりまして、フランスにもやはり成文制定法としての信託法は存在しないわけですが、この継伝処分というのは信託的性質があるというふうに考えられているわけです。
以上の比較法をまとめてみますと、まず、意思能力喪失者の財産管理として信託が用いられています。障害者の財産管理についても同様です。そして、高齢者の老後生活の保障というものも信託という財産管理制度の大きな利用目的になっています。
つまり、高齢社会の財産管理として信託は既に海外でも利用されているということが言えるわけです。しかし、我が国ではこのような視点が欠落しているように思われるわけです。
法技術として一つの例を示してみますと、例えば受益者連続の問題があります。コモンローの国、例えばイギリスとかアメリカでは、この受益者連続というのはサクセスベネフィシャリーということで、信託の技術を用いて実現できるわけです。
信託を有しない大陸の国では、ドイツでは先位・後位相続、フランスでは継伝処分という形で行われるわけですが、日本には今まで信託でこういうことがなされていないのみならず、民法の中にもこういう制度がないということで、全く明文の規定を欠いているわけです。そういう意味では、受益者連続ということに光を当ててみれば、日本は後進国というふうに言ってもよろしいかと思われるわけです。
次に、分類及び法的基礎に移りたいと思います。
個人信託はどんなふうに分類したらいいのかということですけれども、まず最初に掲げてある分類は私のテキストにある分類ですけれども、簡単に申し上げておきますと、最初が不動産管理信託ということで、杉並区老女失踪事件で申し上げたように、名義を信託的に移転しておくこと自体が不動産のプロテクトになるということに着目した制度であるわけです。
もちろんこういうものがまだ普及しているわけではありません。法的な問題としては、これが受動信託に当たらないかというような問題があるわけですけれども、こういう活用があります。
その次の信託利用不動産担保年金式融資というのは、いわゆるリバースモーゲージのことです。リバースモーゲージというのは、高齢者が年金式に資金を獲得して、その資金で本来福祉で受けられるサービスよりも少しレベルの高いサービスを実現したいというときに使うものですが、不動産に抵当権を設定すればこういうような資金は獲得できるわけですが、抵当権を設定するということではなくて、信託を設定する、つまり信託を設定して、その受益権に質権を設定して融資を受けるというような利用方法も可能です。
抵当権方式と信託方式を利用すると、もちろん私は信託方式がすぐれていると思うわけです。
なぜならば、信託というのは財産管理制度ですので、単なる融資ということではなくて、高齢者がお住まいになる不動産の管理も受託者は行えるということで、利用者には安心感がある。あるいは亡くなったときに清算、場合によっては処分するわけですが、そのときに抵当権方式ということになりますと、これは民事執行法の手続に基づいた処分になるわけですが、信託にしておけばマーケットでの売却ができるということで、信託方式というのがすぐれているわけですが、これはほとんど実現しませんでした。
リバースモーゲージというのは武蔵野市で始まりまして、武蔵野市から今度世田谷区とか東京の幾つかの区で実用化されるのですが、実用化された折に信託方式も使ったらどうかということだったのですが、ほとんど利用がなされなかったというのは、私としては非常に残念だというふうに思っておりますが、そのうちにバブルが崩壊しまして、金融機関が一斉にリバースモーゲージから後退したということで、最近は非常にこれが低調です。
ただ、一部の信託銀行で最近リバースモーゲージを始めようという動きもあるようですので、そういうようなスキームにまた改めて信託の活用を考えるということも意味があるのではないかというふうに考えております。
それから、老人ホームの信託。これは老人ホーム自体を設備信託というのを利用してつくるというようなことも考えられるでしょうし、入居者が老人ホームに入るときに信託を用いて、自分の財産とホームに預ける財産を分別するとか、あるいは入居保証金を信託にしておいて、現実に利用した分だけ信託の中から支払ってもらうというような活用方法もあろうかと思います。
私の分類はそういうような説明でよろしいかと思います。
2番目の分類として挙げておりますのは、扶養型信託、遺産分割型信託、生前・死亡後連続型信託、事業承継型信託というものです。
これは、先ほど紹介しました関西のある弁護士法人が信託会社を設立したいという話を申し上げましたが、そこが行いたいと予定している信託スキームということになります。
まず、扶養型信託というものは、委託者が本人、親族その他の関係者の扶養のために財産を信託し、その収益を要扶養者が受け取るというものです。
特徴としましては、信託財産家ら発生する収益を委託者の指定する受益者に配分する契約であるため、委託者に痴呆が発生したり、事故による意思能力の喪失が発生したり、浪費癖等があっても、信託契約期間中は受益者の利益が確実に保護されるということが挙げられています。
2番目の遺産分割型信託というのは、委託者の相続発生後、指定された受益者が信託期間中、信託財産からの収益を受け取るというものです。
この特徴としましては、信託財産から発生する収益を相続発生後、信託期間中は委託者の指定した受益者に配分することができます。遺産分割を遺言、法定相続人による遺産分割、信託が医者の裁量による分割の3つの種類から選択することができ、信託契約終了後は遺産分割に従った財産の帰属が実現します。
また、遺産分割を随時するとか、一定期間凍結する信託も選択できます。さらにオプションとして、配偶者の生存中は配偶者を受益権者とし、配偶者死亡後、子供に信託財産を相続させる信託もあります。
3番目の生前・死亡後連続型信託といいますのは、生前の扶養型信託と死亡後の遺産分割型信託を連続して受託する商品で、今申し上げた1と2を組み合わせるスキームとなります。
特徴としては、信託財産から発生する収益を委託者の指定する受益者に生前から死亡後信託契約終了まで配分する契約であるため、委託者は安心して自分の意思を信託会社にゆだね、実行を任せることができるというものです。
そして、最後の事業承継型信託といいますのは、会社の事業承継者がまだ十分に育っていない場合や事業承継者がまだ決まっていない場合に、信託会社が会社のオーナーが所有する株式を受託し、信託会社が株主として議決権行使を行うことにより、会社の運営を監督する。
信託期間終了後は、オーナーの事業承継者に株式を戻すことにより、事業承継をスムーズに行うというものであります。
こういうものも、もし弁護士法人が設立を予定している信託会社に免許が与えられたということになれば、動き出すものというふうに考えられます。
3番目の分類が、ここに掲げられているような3つの分類ですが、これはある信託実務家が分類したものであります。
まず、自己の行為能力減退に備える信託は、これまで自分で財産管理を行ってきたひとり暮らしの高齢者が、行為能力の減退に備えて、自分のために金銭信託を契約し、存命中の生活や療養・看護費用などの交付が確実に受けられるようにしながら、財産の保全を図る、そういう信託です。
2番目の「伴侶亡き後問題」に備える信託は、痴呆が進行して行為能力を亡くした妻のために夫が遺言で信託を設定し、自分亡き後も妻が存命中の生活費、療養・介護費用、その他随時に必要となる費用の支払いに不自由しないよう配慮して、妻の一身専属型受益権を構成した上、妻死亡後による信託終了時の残余財産の帰属権者を指定するという信託です。
最後の「親亡き問題」に備える信託といいますのは、長年にわたり障害の世話をしてきた年老いた母が、自分が先立った後も、これまでどおりこの生活が維持され、かつ財産が散逸することのないように願い、自己存命中の自益型受益権を死亡と同時に子に承継させて、ですから、これは他益型受益権へ転換されることになりますけれども、子存命中に必要な諸経費をすべて信託財産から給付するようにし、子死亡による信託終了時の残余財産を、子が長年世話になった関係者に帰属させるように指定するという信託であります。
このように、日本でも幾つかの分類があって、実現に向けた相当の検討がなされているということかと思います。
4番目の分類が、実はABAですけれども、アメリカのバンカーズ・アソシエーションの方の「THE TRUST BUSINESS」というものからとった分類であります。
これの37ページ以下をごらんいただきますと、個人信託サービスというのは安全、心の平和、支配というものを売る商品であるということが書かれておりまして、39ページのところで、個人信託というのはいろいろなライフステージのさまざまなニーズに応じた信託を提供できるということで、ここに掲げましたような未成年者の保護から帳簿管理・資産管理に至るまでのニーズが個人信託によって満たされるというような説明がなされています。
分類としては以上のようなことがあろうかと思います。
そして、法的基礎ということですけれども、どうしても個人信託が意思無能力への対応、あるいは相続後の自己の意思の実現が図れるかということですけれども、これは信託の転換機能と言われることに求めることができると思います。
これは言うまでもなく、信託というのは、委託者が自己の有する財産権を自分の支配権から離脱させることによって信託財産の委託者が持っている属性を消し去るわけですね。
したがって、委託者がもし能力がなくなれば、当然、成年後見制度が発動されるわけですが、委託者の支配権から財産を離脱させることによって、その成年後見制度の適用がないようにする、あるいは信託をしていることによって相続の問題も回避するというのは、すべて転換機能から来ているということが言えるかと思います。
そして、転換機能の一つとして、私は財産の長期的管理機能というのがあるのではないかというふうに考えております。その中には意思凍結機能、これは何かというと、委託者が信託行為のときに設定した意思というのが、委託者、受益者が意思能力を喪失しても、あるいは死亡しても持続する、そういうのを意思凍結機能というふうにとらえてよろしいのではないか。
受益者連続機能というのは、信託期間中であれば、受益者を変更して構わない。
受託者裁量機能、利益分配機能というのは、当然信託の機能としてあるだろうというふうに考えております。
いずれにしても、法的基礎として信託の転換機能というのはこれからの個人信託を活用する上で非常に重要な視点で、この転換機能こそが信託が個人信託として大いに用いられるべき根拠だというふうに私は考えております。
以上のことを申し上げた上で、いよいよ立法上の課題ということに移りたいと思います。
第1点目に、意思凍結機能の承認ということを考えていただきたいと思います。
意思凍結機能といいますのは、信託の転換機能の一つであるわけです。これは今申し上げたように、委託者または受益者が意思能力を喪失しても信託は持続する。したがって、信託というのは高齢社会における財産管理として有用だということで、私はこういう信託の機能、これは先ほどイギリスの文献でも見たように、もう既に海外の信託の文献の中にも書かれているわけですので、ぜひ、こういう機能を信託の機能として認めていただきたいというふうに考えております。
ところが、私の見るところ、こういうような視点は本部会においては今まで全く議論がなされていないというふうに理解しておりまして、大変残念に考えております。
最近、井上聡弁護士がNBLの813、61ページに新しい信託法のイメージというのはビークルとしての色彩にあるというようなことが書かれておりまして、私もこういう見方というのは相当部分妥当するのではないかというふうに思います。
もちろん信託がビークルとしての性格を持つということは重要なことで、私はそのこと自体はいささかも否定するものではありませんけれども、ただ、信託が個人信託というものの重要性ということを申し上げてきましたので、ぜひ、こういうような信託の持つ意思凍結機能というものについても十分に留意していただきたいというふうに思っているわけです。
ですから、信託におけるビークルとしての色彩ということを強調することだけでは、信託の意思凍結機能は生じてこないということが言えるかと思います。
この意思凍結機能については、明文の規定は必要ないというふうに思われるわけですが、ぜひ、信託の機能としてこういうものがあるということを何らかの形で議論していただいて、どこかにそういうものを残していただければというふうに考えております。
ただ、そうはいっても、理論的な課題もあるわけです。それは何かといいますと、信託の意思凍結機能というものをもって受益者保護は十分と言えるのかという問題です。
特に2000年4月に任意後見制度がスタートしまして、任意後見制度とのバランスをどう考えるかという問題があろうかと思います。
これはどういうことかといいますと、信託の意思凍結機能というものは、信託財産を委託者の支配権から切り離す。そして、受託者は非常に厳しい忠実義務を初めとするいろいろな義務を負って信託財産を管理している。そうすると、受益者保護というものも、信託をすることによって十分に図られるだろうというふうに従来考えられてきたわけですが、任意後見制度の中の議論としましては、任意後見監督人というものが登場してきました。
これはどういうのかというと、本人と任意後見受任者が、本人が意思能力のあるときに任意後見契約をするのですが、そこで締結した代理権が発効するためには、家庭裁判所が選任する任意後見監督人の選定というのが前提になっています。
つまり、公的機関の関与する監督人の選任というものが、意思能力なき後の代理権の存続の前提だということになって、そういう制度がスタートしたこととのバランスを考える必要があるというふうに思うわけです。そこの点は、信託の議論としてもぜひお考えいただきたいというふうに考えております。
ただ、民法学会の議論は、この点は私に言わせると非常に無関心でして、民法学会の通説は、いまだに民法111条に依拠しまして、本人が能力あるときに代理人に代理権を授与すれば、それは当然に持続する。
なぜならば、民法111条で代理権の消滅事由とされているのは、本人の死亡のみである。したがって、本人の意思能力喪失は代理権の消滅事由になっていないのだという説明がまだなされておりまして、ほとんどの教科書でそう書かれている。
そのことによって非常に混乱も起こっているということで、きょうお配りした信濃毎日新聞の7月18日の記事というものを用意しておりました。
任意後見というのは、通常、任意後見を発効する前に任意代理契約というのを結んでおくわけですね。任意代理契約というものがもし任意後見を必要とせず、本人が能力なくなった後も効力が生ずるというふうに考えると、任意後見監督人を選任してもらう必要がないわけです。
一部の業者は、そのことを濫用しておりまして、任意後見契約が非常に有用な制度だということで、言葉巧みにセールストークをもって契約させながら、実は任意後見監督人を選任せず、つまり、公的な監督なしに任意代理の範囲で好き勝手なことをしているというような実態がもう既に生じています。
ですから、まず一つは、これは本部会とは直接関係ないのですが、やはり民法学会には通説の持つ社会的な機能というものをきっちり認識した上でリツオンすべきではないかということを申し上げたいのと、本部会に対しては、意思凍結機能を機能させるための前提としての受益者保護というものを任意後見制度とのバランスでどう考えるかということをぜひ検討していただきたいというふうに思います。
具体的に申し上げますと、やはり任意後見監督人とのバランス上、受託者を監督する機関というものが必要かと思われます。そして、それは場合によっては裁判所の後見的関与をつけ加えるというようなことにして受益者保護を図るということが妥当であるようにも思われるわけです。
いずれにしても、意思凍結機能が信託にあるということをぜひ御留意いただいて、そういう機能が発揮できるような形での御検討をいただければ、私としては大変ありがたいというふうに考えております。
2番目に、受益者連続機能を承認していただきたいというふうに考えております。
まず、受益者連続と信託終了による残余財産の帰属権利者指定というものは区別すべきであると考えます。
受益者連続というのは、最初に設定された信託、原信託が継続している真に受益者が交代することをいいます。
残余財産帰属者指定というのは、原信託が終了して、原信託における清算事務が完了した後の残余財産の帰属権者を指定することであって、本来の受益者連続には当たらないと考えます。
信託法63条の受益者は、残余財産引渡手続のために擬制された法定信託における受益者であり、原信託の受益者ではないからです。
この前提の上で私はまず第1に、原信託における受益者連続は、実現可能、適法かつ公序良俗に反しない限り、信託法1条を根拠に有効と解します。
第2に、信託行為による残余財産帰属者指定は、62条により当然有効であると考えます。
このように、現行法でも既に受益者連続機能は承認されているというふうに考えますけれども、現在信託法の立法作業を行っている本部会におかれては、ぜひ、立法的にも正面から受益者連続機能を認めていただきたいというふうに考えます。
これは先ほど申し上げたように、既にそういうニーズは我が国にもあり、それを検討したいというような研究もなされているということからそういうふうに申し上げたいと思います。
しかしながら、受益者連続を阻む要因というものもあるというふうに考えます。
まず第1が、民法学説においては後継ぎ遺贈というものが必ずしも承認されていないということが挙げられます。
2番目に、判例においても後継ぎ遺贈の法的効果については統一した見解が出されていないということがあります。
最高裁の昭和58年3月11日判決というのは、後継ぎ遺贈に関して幾つかの解釈の可能性を認めたものの、確定的な結論には至っていないということが言えます。
そして、一部の学説が、ある類型の受益者を明確に否定しているということがあります。
実務の中にはそういうような強い論調の受益者連続否定論があるためにちゅうちょしているというふうにも聞いております。そのことを少しこれから申し上げたいと思います。
米倉明教授は、特殊ケースにおいては無効との見解を示されています。米倉教授は、民法上の後継ぎ遺贈が無効ならば、信託の受益者連続も無効となるが、みずからは民法上の後継ぎ遺贈は有効と解するとされた上で、信託の受益者連続も特殊ケース以外は有効と解しておられる。
ちょっと複雑な構成ですが、米倉教授が無効とされる特殊ケースというのは、要するに、契約で設定した信託、生前信託において、自己の死亡を原因として相続人を二次あるいはそれ以降の受益者として連続させるケースのことです。
米倉説による無効理由は、生前信託により相続人を対象として死因処分をすることが相続分の指定や遺産分割方法の指定に当たり、これらの指定を遺言によらないで実質上実現することは許されないというものです。
この米倉説に対しては反対意見もありまして、私も次の2つの理由から反対であると考えます。
第1は、民法上の後継ぎ遺贈と信託の受益者連続とは同質のものではなく、民法上の後継ぎ遺贈の有効、無効にかかわらず、信託の受益者連続の有効性は信託法1条により維持されると解されると思います。
すなわち、民法上の後継ぎ遺贈は財産の所有権を遺贈者の意思で連続させるものでありますが、信託の受益者連続は受益権という財産交付請求権を委託者の意思で転換、これは自益から他益です。そして連続、これは他益から他益でありまして、問題となる権利の質が異なると考えます。
第2に、生前信託によるこのような死因処分は、相続分の指定や遺産分割方法の指定には該当せず、死因贈与に相当する行為と解されると思います。
そもそも自己の死亡を原因として特定の財産を特定の相続人に与える行為は、それが遺言によるものであれば遺贈、契約によるものであれば死因贈与であるというふうに解することができるように思います。
いずれにしましても、本部会は立法作業を担当しているわけですので、一部学説の立場も十分に尊重しながらも、ぜひ正面から受益者連続機能を認めていただきたいというふうに考えております。
比較法的には、受益者連続を認めない先進国というのはないということは既に申し上げたとおりです。
3番目に、rule against perpetuitiesの導入について申し上げたいというふうに思います。
信託期間を限定するということに関して、我が国信託法には明文の規定はありません。
ただし、これは他益信託一般に必要な原則ではないかというふうに考えます。というのは、特に受益者連続機能を認めることになりますと、信託財産が家族世襲財産となるという不安もあるわけですから、ぜひこのrule against perpetuitiesについては導入していただきたいというふうに思います。
我が国の実務では、先ほど検討しましたパーソナルトラスト、これでは信託契約期間は原則上限20年、安心サポート信託では上限25年とされています。
民法上の時効期間、賃貸借の存続期間等を参考にして20年とか25年にするのが妥当であるように思われますし、実務上もそれで支障はないというふうに思います。
ところで、UTCにはrule against perpetuitiesに関する明示の規定はありません。これとの関係で、アメリカのダイナスティトラストについて少し述べておく必要があろうかと思います。
永続性を否定する従来のコモンローでは、信託を設定したときに、指定された者の死亡後21年を超えない時点で信託が移転されるか、あるいは消滅することが確実である限り有効であるとされています。統一州法委員全国会議が採択した統一法上の永続性についてのルールは成り行きに任せる、ウエイト・アンド・シー、形勢観望とか言ったりしますけれども、そういう選択肢も残しています。
つまり、信託が設定されたき、生存している個人の死亡時から21年を超えない時点で移転されるか消滅することが確実であるか、または信託設定から90年以内に移転あるいは消滅しない場合は、財産の権利は無効であるとしています。
しかしながら、1990年代の初めに、この永続性に関する従来のルールが注目を集めることになりました。統一州法委員全国会議が信託をより使いやすくする努力をしているにもかかわらず、州では別の方向に進み始めたというのです。
そのジェネレーション・スキッピング・トランスファー・タックスと100万ドルの税控除を採用した結果、サウスダコタ州は、信託の永続性禁止を放棄することになり、サウスダコタ州への信託の誘致活動も始まりました。
連邦免許銀行は、サウスダコタ州に支店を開設し、サウスダコタ州に100万ドルの税控除を使った信託を設定すれば、後に発生する遺産税、エステード・タックスを永久にゼロとすることができるというふうな宣伝を始めました。これがダイナスティトラストと言われるものの始まりです。
もし100万ドルを10%の複利、40%の税金を想定すると、実質金利は6%となりますけれども、これを運用すると、サウスダコタ州のダイナスティトラストは150年後には62億5,000万ドルに膨れ上がることになります。
すると、直ちにこの利益の上がる信託業務に参入するため、サウスダコタ州に続いて信託の永続性を放棄することをデラウエア、イリノイ、アラスカ及び幾つかの州が決定しました。
しかしながら、ダイナスティトラストが出てきたことに関して統一州法委員全国会議は注目しており、ジェネレーション・スキッピング・トランスファー・タックスの100万ドル控除のための信託については、以下に述べますように非常に懐疑的な意思表示を行っています。
引用です。
長期間を考えると、このような信託の管理は大変扱いにくいし費用がかかる。政府の統計によると、結婚した夫婦は平均して2.1人の子供を産む。この仮定を使うと、信託が設定された150年後には信託の受益者となる子孫の数は100人以上となり、250年後には2,500人、350年後には4万5,000人となる。500年後には生存する受益者は、驚いたことに340万人に達するというような根拠を挙げて、ダイナスティトラストについては必ずしも賛成しないというようなことを言っております。
それで、アラバマ、アラスカが非永続性を放棄しています。デラウエアは不動産の110年を除き放棄、イリノイは信託が永続するという書類が必要だ。あるいはユタ州とワイオミング州は、信託期間は1000年というような規定があるようです。
いずれにしても、アメリカではダイナスティトラストというのがブームになっているわけですが、ここはアメリカに追随せず、アメリカでも統一州法委員全国会議とかアメリカ法律家委員会が否定的な立場をとっているということですので、しかも、我が国はダイナスティトラストを認めるインセンティブはないように思われますので、ぜひ、rule against perpetuitiesに関する明文規定というものが必要ではないか。
そして、現状の実務にもさしたる支障はないというふうに考えます。
4番目に、信託管理人制度の強化・多様化について述べます。
現行信託法8条の硬直性を見直すべきであると考えます。現行信託法8条は、受益者が不特定、未存在のときに信託管理人は置けるというふうになっているわけですが、受益者が特定しているときも信託管理人は必要であるわけです。こういうような形にしていただければと思います。
受託者が監督する機関、受託者監督人というんでしょうか、これが新たに設置されるということであれば大変望ましい。要綱思案はそういう方向に進んでいるように思われます。
もっとも、先ほど申し上げ任意後見監督人とのバランスを考えますと、委託者が監督機関を設置することで十分に実効的な監督ができるかという問題が生じます。
とりわけ、受益者が意思能力を喪失した後は、何らかの形で裁判所が関与するか、監督機関を弁護士等に限定する、つまり資格者に限定するというようなことも一案かと思われます。
さらにはも形式的に監督機関を設置するよりも、受益者の後見人等が信託行為で指定された指図権者あるいは同意権者として受託者をチェックするような体制が最も実効的であるように思われます。
なお、これは信託と後見との連携の必要性ということになりますので、後で述べたいと思います。
5番目、個人信託における受託者の義務。
個人信託における受託者の義務というものは、私の考えでは任意法規化すべきではないと考えます。
これは、高齢者取引における適合性原則あるいは受益者保護というものを考慮してのことです。
受託者が業法上の免許を取得した業者あるいは弁護士であるということを考えて、受益者の同意があれば、信託財産である、例えば不動産の賃借が可能であるというような解釈をとったときに、果たしてどういう問題が生ずるかということを考えてみます。
例えば、弁護士が信託スキームの中で受益者の同意を得て信託財産に賃借権を取得するということ、これは忠実義務を任意法規化すればできるわけですが、信託法上それが可能であったとしても、恐らくそういうことをすると弁護士は懲戒を受ける。
今までの懲戒事例をひもといてみますと、それは弁護士の懲戒事由に当たるというふうに私は考えます。そうすると、信託法上許容されていても、弁護士倫理として許されないという問題があります。
したがって、少なくとも個人信託の分野については忠実義務というものは任意法規化する。
個人信託以外の分野はどうするか、それは議論があってもよろしいと思いますが、個人信託の分野についてはそう考えてはどうかと思います。
そもそも我が国において忠実義務というのはどれぐらい遵守されてきたのかということを考えてみます。
既に私はテキストの中で書いているのですけれども、この話をすると常に思い出すのは、JASRAC事件と言われる事件です。このJASRAC事件、つまり日本音楽著作権事件というのはどういう事件かとごく簡単に申し上げますと、日本音楽著作権協会というのは、音楽著作権者の音楽使用料を受託者として徴収管理しているわけです。
これは年間1,000億円ぐらいの信託財産になるんですが、そのうちの77億円分をある受益者に貸し付けをして、その受益者がそのお金で建物を建てて、そしてJASRACがその建物の中に入居したという事件であります。
これは私の目から見ますと、典型的な忠実義務違反の問題であるわけですが、これが係争した裁判所において、裁判官はこれが忠実義務であるということを最初から最後まで一貫して認めなかったという事実があります。
これは単なる融資の条件の問題だ。当事者が同意すれば、いかような形でも融資ができるんだという形で処理されました。
したがって、私が見るところ、日本においては、少なくとも裁判所においてはと言うべきなんでしょうか、裁判所を初めほとんど忠実義務というのは遵守されていないというのが実態ではないのか。
そういう中で、私の申し上げているのは信託一般ではなくて個人信託の分野で申し上げているんですが、個人信託の分野で忠実義務を任意法規化するというのは非常に問題があるのではないか。
私はテキストの中で、忠実義務の死ということを書いているんですが、ぜひそのあたりも本部会において十分に検討していただければというふうに考えております。
信託銀行の場合には、銀行勘定と固有財産の双方がありまして、忠実義務を任意法規化してほしいという要請は私は非常によく理解できます。しかし、それは基本的には信託業法とは経営法の問題ということでよろしいのではないか。
個人信託の分野における受託者の忠実義務というのは、やはり強行規定ということでよろしいのではないかというふうに思いますが、こちらの委員の方には異論もあろうかと思われますが、ぜひその辺は検討していただければ、私としては大変ありがたいと思います。
6番目、7番目、8番目、このあたりは時計をにらみながら少しまとめてお話をさせていただきたいと思います。
個人信託における受託者の資質としては2つが重要であると思います。
まず1つは、長期にわたり信託行為の定めに従って適切な財産管理と信託事務を遂行し得る能力を備えた受託者としての財産管理能力、それからもう一つが、受益者の生活状況、健康状況等のきめ細かな見守りができる身上監護者としての保護能力です。
個人信託においては、これらの受託者としての財産管理能力と身上監護者としての保護能力との連携が必須でありまして、受託者と身上監護者とが綿密な連携をとることによって財産の保全並びに受益者の実需に即した適切な財産給付が可能になると思います。ここに後見と信託とが連携する必要性が出てくるわけです。
ある信託実務家は次のように述べています。
高齢者あるいは障害者の生活支援等のために信託が独立して利用されることがあるかもしれないが、しかし、信託が独立して利用されるよりも、本人の生活支援等に関係の深い任意後見制度等と併用される方が効率的に生活支援等がなされるものと思われる。
この意味で、信託は任意後見制度とのバックアップシステムと考えるというのがある信託実務家によって指摘されておりますが、このことはとりわけ信託銀行に当てはまるというふうに考えておりまして、極めて的確な指摘ではないかというふうに考えます。
それで、後見と信託との連携ですけれども、3つのタイプがあるというふうに考えます。
第1の形態としては、財産管理を信託で担い、身上監護を成年後見人等が担当するという形態があります。それぞれの機能と得意分野を生かしながら、互いの不得意分野を補完し合えるということになります。
2つ目の形態は、財産管理における分担、連携です。大きな財産を信託財産として管理運用し、信託財産から給付された、いわば財布がわりの金銭の管理と、そこからの日常的支払いを後見人等が担当するという連携です。これによって、財産管理に関する後見人等の負担が大幅に軽減できることになります。
3番目の連携の形態は、信託財産の給付面における連携です。受託者が管理している信託財産からの給付内容について、受益者の後見人等が信託行為で指定された指図権者あるいは同意権者として受託者と協議しつつ、給付の指図や同意を行うという連携です。日ごろから受益者の生活面の三間森を行う後見人等が信託財産の給付指図等にかかわることによって、実需に沿った適切な財産給付が確保できるというふうに思います。
受託者を担う立場としては、個人信託分野での信託の活用、普及を図るため、親族たる後見人だけではなく弁護士、司法書士、社会福祉関係者など後見業務を担う専門家、実務家との連携、相互補完の事例を数多く積み上げ、被後見人等の身上監護面や生活にマッチしたきめ細かい財産管理や財産給付が可能となる連携モデルをつくっていることが必要であるというふうに考えます。
立法上の課題としては、同意権者、指図権者の位置づけが重要です。
同意権者、指図権者は、信託行為によって指定された受益者の後見人等に限定するか、それとも同意権者によって同意権の行使、指図権者による指図権の行使を信託管理人の職務と考えるのか、あるいは受託者監督任の監督に含むものと考えるのか、それとも同意権者を独立した機関として規定するのかという問題があります。
いずれにしても、既に実務で用いられている同意権者、指図権の位置づけを明確にしていくことが実務のより効果的な運用に資するというふうに考えます。
そして、法定後見、任意後見、信託の優劣の問題があります。
まず、法定後見と任意後見との関係ですけれども、これは任意後見契約法の10条の規定がありまして、そこでは、任意後見優先の原則がうたわれています。本人の利益のため特に必要があると認めるときは法定後見が発動されますが、それ以外は任意後見が優先するというものです。
法定後見と信託との関係はどうでしょうか。任意後見契約10条が類推適用されるということになるのでしょうか。この辺の検討も必要かと思われます。
任意後見と信託との関係はどうでしょうか。両者の内容が抵触する場合の優劣についての規定は必要でしょうか。あるいは受託者が個人信託を受託する際に、任意後見登記を調査する義務を侵して、抵触を事前に回避するということが賢明な手段ということでしょうか。この辺の検討も必要かと思われます。
親族後見人が親族等からの批判を受けて法定代理人として信託設定をするということが既に実務上行われているというふうに聞いております。
これは、親族後見人が自己の行っている後見事務の透明性を確保するという必要からです。
親族後見人が信託を設定するという場合、法定代理権と信託との調整が必要になるように思われます。つまり、そこでの信託受託者というのは、法定代理人と複数後見的な関係になるのか、あるいは履行補助者となるのか、その辺の整理も必要かと思われます。
いずれにしても、法定代理人が信託を設定するというケースはこれからふえていくものと思われます。
そこをスムーズに行えるような規定が必要かというふうに思われます。
そして、任意後見人がその代理権の範囲内で信託を設定する場合にも同様の問題があると思いますので、これについても検討いただければ幸いです。
9番目、現行法23条の存置と現行法62条の明確化。
現行法23条は、個人信託受託者は長期間にわたる財産管理に関して善管注意義務、忠実義務を負うわけですけれども、事情変更への対応というものを受託者に容易に認めるためにある規定だと思われます。
これについては、個人信託の分野では必要な規定だと思いますので、ぜひ、現行法23条のような趣旨を存置していただければというふうに思います。
現行法62条ですけれども、これは実務上不都合が生じているというふうに聞いております。
これは他益信託による一身専属的受益権とか期限付き受益権が終了した場合の信託行為で定めた帰属権利者の範囲が不明確なため生ずるものです。つまり、原信託の受益者というものを帰属権利者に含めることができるのかどうか。今実務ではそれを特約で決めているようなのですが、62条の趣旨は必ずしもその辺が明確でありませんので、この辺は明確にしていただければ、実務上も大変ありがたいというふうに思われます。
そして、立法上の課題の最後ですけれども、生前信託と死因贈与・遺贈について述べたいと思います。
ここでも米倉先生の説をまず紹介させていただきます。
米倉教授は、契約で設定した信託、生前信託において、自己の死亡を原因として相続人を二次受益者として連続させるケースを無効としています。米倉説による無効の理由は、生前信託により相続人を対象として死因処分をすることが、相続分の指定や遺産分割方法の指定に当たり、これらの指定を遺言によらないで実質上実現することは許されないというものです。
先ほどの2の受益者連続機能の承認のところで既に述べましたように、この米倉説に対しては反対意見があり、私も先ほど申し上げた理由から反対です。もう一度申し上げたいと思います。
第1は、民法上の後継ぎ遺贈と信託の受益者連続とは同質のものではなく、
民法上の後継ぎ遺贈の有効、無効にかかわらず、信託の受益者連続の有効性は信託法1条により維持されるものと解されます。
すなわち、民法上の後継ぎ遺贈は財産の所有権を遺贈者の意思で連続させるものですが、信託の受益者連続は受益権という財産交付請求権を委託者の意思で転換・連続させるものであり、問題となる権利の質が異なるからです。
第2は、生前信託によるこのような死因処分は、相続分の指定や遺産分割方法の指定には該当せず、死因贈与に相当する行為と解されます。そもそも自己の死亡を原因として特定の財産を特定の相続人に与える行為は、それが遺言によるものであれば遺贈であり、契約によるものであれば死因行為であると考えます。
これは先ほど申し上げたところですが、その次がここでは重要かと思われます。
死因処分行為の対象となった財産以外の依存の分割を考える場合、その死因処分行為の対象財産と受益者の相続人について、相続分の指定や遺産分割方法の指定があったものとみなして、それ以外の遺産の分割方法を決めることは理解できます。
しかしながら、遺産処分行為そのものを相続分の指定や遺産分割方法の指定と解するのは妥当ではないように思われます。その死因処分行為自体はあくまでも遺贈もしくは死因処分です。
民法は、生前行為による死因処分として、死因贈与を容認しており、これに準ずるものとして相続人を対象とした生前信託による死因処分としての受益者連続及び残余財産帰属者指定を有効と解しています。この場合も、相続人の遺留分減殺に服すべきことは死因贈与の場合と同様であると考えます。
生前信託と死因贈与・遺贈については、以下のように明確にしておくことは課税上の関係あるいは民法を援用する際にも必要なことではないかというふうに考えます。
あと10分で残りのⅤのところをまとめたいと思います。
Ⅴは個人信託からやや離れるのですけれども、信託法改正に望むことということで何点か述べさせていただきます。
最初に、信託の実質の尊重ということについて申し上げたいと思います。
これはどういうことかというと、本部会においては、一体どのような信託類型を普及させたいというふうに考えるのかということが重要ではないかと思われます。
信託というのは、申し上げるまでもなく、財産権の名義を委託者から受託者に移転し、転換機能を生じさせるというのが信託の本質であるように思われます。
しかしながら、私が議事録を拝見した限りでは、その辺の視点が非常に弱いように思われるわけです。
先ほど、井上弁護士の本部会の目指すところが、信託のビークル性であるということを申し上げました。それはそれとしてわかるのですが、もう少し本来の転換機能を生かすような場面の検討もぜひしていただきたいというふうに思います。
その観点から見ますと、例えば要綱思案における第1の2でしょうか、当事者の合意だけで信託の効力が生ずるというのは、名義の移転によって信託が効力を生ずるという従来の信託の理解からは相当隔たっているように思われるわけです。この辺もきちっと整理していただきたいというふうに思います。
それから、信託宣言を許容するかどうかということについても、委託者から受託者への財産権の移転ということが本当に行われているのかどうか、そこをどう見るかということをぜひお考えいただきたいと思います。
これは目的信託についても同じでして、それから事業の信託、これについても同様な視点から、なぜこれを信託にするのかというような検討が必要ではないでしょうか。
ところで、不動産の流動化、証券化のスキームで行われている信託というのは、御存じのように、まず信託をして、そしてその信託受益権を直ちにSPCに譲渡するというスキームです。
なぜ、そこで信託をするかといえば、それは転換機能とは全く関係ないことだと私は理解しております。
1つは、不動産流通税の問題、不動産流通税を回避したいということ。それから、不動産特定共同事業法の適用を回避したいという理由で信託を用いる。
ですから、信託をしたことによって倒産隔離が使用ずるわけではなくて、SPCに譲渡することによって倒産隔離が実現するというふうに私は理解しております。
そうすると、そのような信託、つまり不動産の流動化、証券化で行われているような信託、これは考えようによっては非常にフレキシブルな信託が既に実務で行われているわけですね。
これ以上さらにフレキシブルに必要があるのでしょうかということを私はお伺いしたいわけです。つまり、いろいろこれから信託を柔軟な形にして、いろいろな信託を普及させたいということなのですが、例えば今申し上げた類型の信託について、果たしてこれが信託と言えるのかどうか、そのあたりの整理もやはりきちっとしていただかないと、ますます信託の本質、私の言うところの信託の実質から離れた信託ということが生じてきて、非常に希薄化されるというような心配を持っております。
そして、少し順番を変えますが、先に3の濫用への対応というところを申し上げた方がよろしいでしょうか。
私の見るところ、信託が今濫用されています。これは一部勢力が信託を濫用して、私の目から見ると社会問題になっているというふうに思われるんです。
当然、こちらは議論の前提として実態の把握をされていると思うんですよね。
つまり、不動産登記法の中で信託を設定しているものから受託者が信託銀行であるものを除けば、それがほぼ濫用のケースとみていい。
これが一体日本でどれくらいあるのか。普通の弁護士さんであれば、一、二件そういう事例は抱えているはずなんです。それが全国に何件あるのか。あるいはサガイ信託の訴訟の件数を把握してもいいと思うんです。そういうように、一部勢力による信託濫用の実態というものをきっちり調査して--もう調査されていると思うんですが、そういうようなケースに基づいて、この濫用についてどう対応するかというようなことも、やはり本部会においてはきっちりとしたポリシーとして出していただく必要があろうかと私は考えております。
そういう立場から見ると、信託宣言、目的信託、有限責任信託、あるいは受託者の忠実義務の任意法規化というのは、一部勢力にとっては極めて好ましい制度だというふうにも言えると思うんです。
しかも、これは1つの信託の中ですべてできるというふうに理解しております。
したがって、信託宣言で目的信託を行い、有限責任にし、忠実義務を任意法規化する、そういう信託が先ほど申し上げたような信託の実質ということからして果たして可能なのかどうか。濫用の歯どめということとのバランスにおいて、ぜひここのところは検討していただきたいというふうに私としては希望しております。
それともう一つ申し上げたいのは、任意後見制度が先ほど2000年4月にスタートしたと申し上げました。これは本人が能力がなくなったときに、民法の原則と違って、任意後見監督人が選任されなければ発効しないという制度です。
この制度について、一部の弁護士さんは、これは余りにも重たい制度だ。私的自治の制度からはいかがなものかということでいろいろな批判をされました。
5年たった今、どういう状況にあるかというと、その重いと言われた任意後見制度すら既に濫用の兆しが見られています。一部の悪質な業者は、任意後見契約を濫用して高齢者を食い物にするというような実態も見られるわけです。
したがって、ぜひともこの濫用の問題というのは真摯に考えていただきたいと思いますし、私は、きょう主として申し上げた個人信託の分野、とりわけ高齢者・障害者が関与するような信託においては、やはり受託者の忠実義務の強行規定化ということは、ぜひその方向で考えていただければ私としてはありがたいというふうに思います。
少し戻りまして、2番目の商事信託への偏りということであるわけですけれども、この商事信託の必要性はいささかも否定しません。こういう類型の信託があるべきだというふうに私も考えております。
しかしながら、今までの議論は余りにもそこのところに偏り過ぎていたのではないか。
ですから、外部から見ると、ビークル性を取り入れただけの信託法になるのではないかというような危惧もされているわけです。
ですから、商事信託はさらに効率的に普及できるようにすると同時に、それのみならず、やはり信託のいろいろなバランスを考えて、個人信託も公益信託も、あらゆる類型の信託がバランスよく発展できるような形にしていただきたい。
商事信託だけに偏っているというような誤解はぜひ避けるようにしていただきたいというふうに思います。
そして4番目ですけれども、比較法とのバランスということで申し上げたいのは、私が議事録で拝見してきたところでは、比較法の検討は偏っているように思われます。
これはUTCのみに限定されていたというふうに私は思うのです。
例えば、今OECDが信託について注目しており作業しております。これは要するに、9・11以降のいろいろな問題、信託の悪用事例にいかに対応するか、オフショアーにおける信託の濫用事例、こういうものに対応するような作業もやっておりますので、そういうものもぜひ参考にしていただきたい。
それからスイス、これもハーグの信託条約を批准するために信託法を制定しました。
例えば、日本も大陸法国ですので、大陸法国でまさにできたての信託を持っている、例えばスイスのこういう事例も参考にしてみるというようなことも必要ではないかというふうに思うわけです。
そして、私が見るところ、信託の基本法としては、やはりビークル性だけを強調した信託法というのはやや異例ですので、比較法的にももう少しリーズナブルな線に落としどころを見つけたらどうかというふうに考えております。
日本の信託法の改正は世界的にも注目されています。日本がどういう信託法をつくるかというようなグローバルな影響もぜひ考えて、もう少しいろいろな比較法の検討がなされてもよろしいのではないかというふうに考えております。
5番目が、信託業法とのバランスということです。
これは御存じのように、業法の29条1項では、信託財産に損害を与えるおそれがない場合を除いて、自己と信託財産との取引、信託財産と他の信託財産との取引をしてはならないというふうに規定しており、そして業法の29条3項では、そのような取引をした場合には、書面の作成と受益者への交付を義務づけているという規定になっております。
それで、信託業法の29条と受託者の忠実義務の任意法規化というのは著しくバランスを欠くことになります。
信託法を改正すれば、信託業法についてはさらなる改正があるというふうにも聞いているわけですが、その辺もにらんで、ぜひこの辺は検討していただきたい。
そのときに、ぜひ信託業法と経営法との差異というものに注目すべきではないかと考えます。つまり、信託業法に基づく信託会社は専業義務を負っているわけです。
信託銀行は、銀行業務と信託業務を兼営しているわけです。それで、忠実義務の任意法規化というのは、免許業者であって兼営業者である信託銀行については任意法規化したいという、その気持ちあるいは理屈、実態はよくわかっているつもりです。
しかしながら、専業義務を負う信託会社についてまでそうする必要があるんだろうかというようなあたりも検討する必要はあろうかと思われます。そして、一般の民事信託、とりわけ個人信託の受託者を規制する信託法にとっては、やはり忠実義務の問題、ここのところは厳格に考えていただきたいというふうに私は考えております。
そして、これは書いてありませんでしたが、6番目として追加で申し上げたいのは、自益信託と他益信託の区別の軽視ということです。
私が非常に強く感じておりますのは、本部会はいろいろなアイデア、柔軟な思考をして、非常に多面的な展開をしているということではすばらしい議論を展開しているというふうに思うんですね。
ところが、非常にかたくなに拒絶しているものもあるんです。それは何かというと、自益信託と他益信託の区別です。
私は立場上申し上げますが、この本を自益信託、他益信託の分類に従って展開しているという立場をとっておりますので、これは申し上げざるを得ないのですが、それだけいろいろなところを柔軟にしながら、なぜ、他益と自益の区別だけかたくななまでに拒絶するのか、それが私には理解できない。
つまり、他益信託と自益信託という区別も、それが絶対だとは決して思っておりませんが、一つの有力な考え方ではないのか。例えば、受益者の補償請求権の問題なり受益権の放棄というようなことを考えるときに、一つの考えるヒントにはなり得ると思うんです。
しかし、それをかたくなに拒絶してしまったということでありまして、私としては、今後の展開が非常に楽しみである。それはどういうことかというと、こちらにいらっしゃる先生方が、それほどまでにかたくなに拒絶しましたので、信託法ができた後、自益と他益の区別を御自分の論文なり著書の中で述べることは決してないだろう。
そうなった場合に、一体どうやって信託をうまく分類していくのかなということで大変楽しみにしております。
私はかたくなに拒絶された自益と他益の分類になお固執して今後も議論を展開するという、本来アナログ人間ですので、そういうことをしていきたいということを考えております。
時間を恐縮して申しわけないんですが、最後に一言。
いずれにしても、きょうは貴重な時間をいただいて、私のつたない報告を聞いていただいて、心から感謝しております。それで、ぜひ個人信託の有用性というものを信託法の中でお認めいただいて、それが普及できるようなことにしていただければ、私としては大変ありがたいと思っております。
御清聴どうもありがとうございました。
● 大変どうもありがとうございました。
それでは、20分まで休憩して、その後質疑応答をしたいというふうに思っております。
(休 憩)
● それでは時間になりましたので、審議を再開したいと思います。
ただいま非常に貴重な御報告をいただきました。非常に内容豊かだったと思いますが、この報告につきまして、皆様の方から御自由に御質問、御意見、また○○参考人の方からも御自由に御発言をいただくというふうにしたいと思います。
ということで、いかがでございましょうか。どうぞ、皆様の方から御自由に御発言ください。
● 1つ確認と、それから1つ具体的な問題についてお教えいただきたいと思います。
きょうの○○参考人の御報告、非常に明快で有益でありがたいと感謝しております。
大きなというか確認の問題ですが、個人信託という言葉の意味ですけれども、それはどの部分が個人であることを指しているのかをまずはっきりさせていただいた方が全員が理解を共有できると思います。
もう一つは別の問題ですので、とりあえず。
● わかりました。では、とりあえず個人信託ということで○○参考人がどういうことをお考えになっているかということですね。
● ありがとうございます。
個人信託という言葉は、日本語でそう言っているんですけれども、英語で言
うとファミリートラストなりパーソナルトラストということになるんでしょうか。
ただ、パーソナルトラストというのはある銀行が使っていましたので、意識的に避けました。
それで、要するに、英米で言われているようなことですね、家族間の財産管理であるとか、家族間の財産承継、商事信託とは一応別だという意味で個人信託というふうに理解しているんです。
ですから、明確な定義をするというのはなかなか難しいのですけれども、恐らく委託者とか受益者は家族のメンバーのことがほとんどだろうと思います。
受託者については、もちろん法人もあっていいだろうということで、英語で言えばファミリートラストの意味だというぐらいでお答えになったでしょうか。
● わかりました。どうもありがとうございます。
もう一つ具体的な問題でございます。受益者連続機能の承認ということをきょう1つ具体的にお示しいただきまして、それは非常によく理解できることでございます。
ただ、○○参考人のお話は、それとrule against perpetuitiesの導入とがセットになっているのではなかろうかと思います。仮にrule against perpetuitiesの導入がないことになった場合に、それでも受益者連続機能を承認すべきか。
承認すべきだとして、別の歯どめが何か考えられるだろうかという点についてお教えいただけますでしょうか。
● 私は、申し上げたように受益者連続とrule against perpetuitiesをワンセットでやるべきだというふうな意見を持っています。そうでないと、結局ずっと続くということになると非常に問題があるというふうに考えます。
今、○○委員がおっしゃった、もしそうでない場合の歯どめということになると、これは非常にまた難しい話になりますね。例えば、信託目的によって制限するのかというような議論になるのですが、私としてはそこは非常に考えにくくて、要するに、他益信託がずっと継続し、かつ委託者の意思がずっとそれに付着するというのはどこかの時点で切るべきだというふうに私は考えております。
ですから、歯どめよりは、ぜひセットでお願いしたいというふうに考えております。
● どうもありがとうございました。
● 私もちょうど受益者連続の話を伺いたかったんですが、それは飛ばしまして、その1個上の意思凍結機能の承認というところで一言お伺いしたいんですけれども、○○参考人は先ほど、条文化せよという話ではないという話をされたんですけれども、具体的に意思凍結機能を承認するということは、それを正面に置く条文を置かないとしても、他の条文のどんなところにその考え方が響いてきたり、あるいは解釈論のところに響いてくるというふうにお考えなんだろうか。
例えば、ある設定後の信託条項の変更とか、そういうところに響いてくるんだろうか、どこなんだろうかというのがちょっと気になりましたので、それによって達成されようとしている他の箇所の立法論といいますか、そういうのについてお教えいただければと思うのですが。
● まず、意思凍結機能自体については明文の規定は多分要らないだろう。今、○○幹事のおっしゃったこととの関連で言いますと、1つは監督だと思うんですね、意思凍結機能を持っている受託者の監督をどうするか。
それはさっき申し上げたように、任意後見監督人との関係でどういうふうにバランスをとるかということです。必ずしも任意後見監督人と同じにしなくてもいいんですが、やはり監督ということが必要でしょう。
もう一つは、長期間にわたりますので、義務をどこまで課し、逆にどう緩和するか。それは長期間善管注意義務を負っているということですと、やはり現行法23条みたいなものも必要と思いますので、そのあたりの規定です。
ですから、直接意思凍結機能の明文規定による承認は要らないとしても、随所に個人信託の意思凍結機能のことを考慮していただいた規定を入れておく。
そして、その説明のところにこういう個人信託にも対応しているんですよというような説明があって、総体として意思凍結機能が認められるということかなと理解しておりますが、それでお答えになりましたでしょうか。
● どうもありがとうございました。
● 私も、いわゆる後継ぎ遺贈型の受益者連続の話とrule against perpetuitiesに関しての質問でございますけれども、今回の要綱思案の62条で御提案がありますように、今回それを認めるべきかという提案がなされているわけです。
それで、従前は何年にすべきかというのは注意書きで入っていたんですが、今回それが落ちているので、多分補足説明で出てくると思うんですが、ただ、何をすべきかどうかということを考える際に参考までに教えていただきたいということなんですが、○○委員と同じ質問になるかもしれませんけれども、このrule against perpetuitiesがなければどういう弊害があるのかという話ですが、私の理解が不足なのかもしれませんけれども、先ほどの御説明では2つ、つまり1つは、現行民法との平仄の問題と、もう一つは、何年後には非常に多くの受益者が出てきてしまう。
よって、非常に管理とかが難しいという文脈と理解したわけですが、それに加えて、社会的な問題というのがそこにあるのではないかなというふうに思っております。
といいますのは、某協会でアメリカの信託の御教授が御講演されたのを拝聴したことがあるんですけれども、やはりダイナスティトラストということからわかるように、基本的に大金持ちの一族が、その資産が分散されないようにそういう信託を使っている。
税金とagainst perpetuitiesのルールの緩和と伴って、社会的に二極化がふえているという御指摘があったと思うんです。
そういったことを日本に置きかえて、本籍で信託について議論するときに、こういう法的な話とか実務的な話に加えて、社会的な側面ということも考える必要はあるのではないかと個人的には思ったりもしまして、よって、御質問なんですけれども、この点に関する先生の御意見と、それからアメリカとかほかの国における経験というのを御紹介いただければありがたいと思うんですけれども。
● ありがとうございました。
御指摘のとおりでして、アメリカのダイナスティトラストというのは一部の富裕層が活用したいと、金融機関もそれにこたえているということで、相当なボリュームのビジネスが展開されているようですが、それに対する批判もあって、法律家はどちらかというと批判的で、その背景にあるのは、まさに今御指摘のあった点でして、資産の二極化みたいなことになるというようなことの指摘があるように思います。
そのことを申し上げた上で法律論としましても、まず1つは、受益者の数が飛躍的にふえる。
私エピソード的に紹介したこともあるのですが、そのほかに2つ指摘したいのは、1つは、受益者連続というのは委託者、亡くなった委託者の意思が信託財産にずっと付着する。
これは英米ではデッドハンドコントロールというふうに言うんですが、それは民法の体系からするとおかしいわけですよね。やはり所有者が生存していて、その所有権を行使する。
ところが、亡くなった人の意思がある所有権に付着しているというのは理論的にはまずいだろうということが1つと、それから、これは四宮先生の言葉ですけれども、物資の流通を阻害する。つまり、例えば不動産に受益者連続型の信託というものが設定されていて、何十年も何百年も売れないということになると、取引関係の活性化というのを阻害して、これは民法90条に反する。
原理的にはその2つの面からも少し制約すべきで、やはり一定の期間は要るのかなというふうに私は考えております。
● 私が発言するのはあれですが、財産が集中するということに関連しては、日本だと--諸外国もあるけれども、遺留分減殺とか、それは受益者連続を認めても重ねて適用するということはあり得ると思うんですけれども、○○参考人はそこはどういうふうにお考えですか。
● 遺留分の問題……
● 相続という形でもって、受益者連続一般ではなくて、やはり死亡をきっかけにして連続するという形をとると、そこには相続があるので、信託の仕組みによって移転するにしても、遺留分減殺請求権は認めるという考え方があり得るかもしれないと思うんです。
● そうですね。ただ、受益者連続でいったときに、第二次受益者以降のものを全部遺留分減殺でかけられるかという議論は必要かもしれませんね。
● ごめんなさい、私が勝手に。
ほかにいかがでしょうか。
● ○○参考人が最後の方で濫用のお話がありまして、今回のいろいろ新しいメニューをふやす中で、例えば有限責任信託とか目的信託とか信託宣言、こういうのを組み合わせるとより濫用ができるのではないかという話だったと思うんですけれども、他方で、○○参考人がおっしゃる個人信託を今後進展させるためには、やはり有限責任信託というがあった方がより柔軟な対応といいますか、固有財産で信託債務を弁済するという仕組みから逃れることができるということもありますし、目的信託も、公的信託がどの程度認められるかによって違ってくるかとは思うんですけれども、それでもどうしても公益信託から外れる部分に関して目的信託というのは非常に有用である。
ですから、先ほどの○○参考人が横浜市の事例で最後にどこかに寄与したいということをおっしゃっていましたけれども、あれは公益信託になるので、カバーできればいいんですけれども、仮に公益信託として認定されなくても、目的信託があればできるかもしれないとか、信託宣言も、ちょっと観点が違うかもしれませんけれども、他人の財産を預かっている場合、ただし、預かる行為自体が信託行為とは認定できない場合に信託宣言で、それを自分の信託財産として管理するというような視点で、ですから、どういう制度でも濫用はあるし、現状でも濫用されているし、より柔軟な制度、多様なメニューになれば、よりいろいろ悪用する人はいるかもしれませんけれども、他方において、それ自体が有用に個人信託の分野で利用できるのではないかと思うので、その辺についての○○参考人の御意見と、結局つまるところ担い手の議論ではないのかな--
それだけではないかもしれませんけれども、思うところもありまして、私は弁護士会から来ている弁護士ですから、弁護士が正しいと思いますし、既存の信託銀行も当然ふさわしいと思いますけれども、今後登場するところの信託会社が全部正しいかどうかというのはわからないところもあるかもしれませんが、その辺の担い手についてどう考えるかということと、その辺までを含めて現行の信託法の改正の中で対応するということは現実的に法制度として可能なのか、その辺について、仮に○○参考人が言うような形で信託法の改正がなされたとしても、それによって濫用事例が減るんだろうかとか、民事信託という意味で、高齢者の在宅管理という意味において、それが非常に幅広く利用されて、高齢者にとって非常に有用な制度になり得るのかどうかという、そうすると担い手の議論とか担い手のあり方の議論とか、その辺も関連してくるのではないかと思うんですけれども、その辺についての○○参考人の御意見をお知らせいただければと思うんですが。
● ありがとうございました。
まず、担い手のことについて言うと、特に私がきょう話をさせていただいた個人信託の分野については、信託法に直接的な規定を盛り込むというのは難しいと思うのですが、ただ、そのことも想定しながら議論していただく必要があるだろう。
それから、今度、信託業法の改正なり兼営法の改正ということもあるんでしょうか、そういうこともにらんだ上でこちらとしては議論を進めていっていただく必要があろうかなというふうに思います。
つまり、株式会社だけに限定されるということで果たして可能なのかどうか、弁護士法人、司法書士法人をどうするか。そのときに、もちろん責任の問題がありますね。
さっき申し上げたように、今度弁護士会が株式会社をつくってやる。そのあたり、弁護士さんが個人でやる場合の担い手の問題と、株式会社組織にする場合、それから弁護士法人にする場合、いろいろなオプションがあると思うんですが、そのあたりをどういうふうにしていくのか。その担い手の類型を選ぶかによって責任の類型も違ってきますので、そのあたりもできればこちらでぜひ議論していただいて、個人信託の基本モデルみたいというんでしょうか、担い手の推奨モデルみたいなものぐらいは置いていただいた方がいいのかな。
ただ個人信託できますよということだと、正直言って私も非常に心配です、いろいろな個人がいますので。ですから、○○参考人がおっしゃったように、担い手のことも考慮しながら、ぜひ検討していただきたいというふうに思います。
それから、濫用の話ですが、○○参考人がおっしゃったとおりで、どんな制度にも濫用があるのですが、立法するときにやはりそれが可能な限りないようにベストを尽くすべきではないかというふうに思います。
あとはどういうふうな実務の運用になるかということなんですが、信託宣言にしても目的信託にしても、一番気になるのは、そちらの方はむしろ濫用よりも信託のセオリーですね、信託をどう考えているかというところが私にはよくわからない。
部会の目指すところがよく見えてこない。では、信託宣言で何をやりたいんですかと、私きょう、個人信託でこういう例があるということを申し上げましたけれども、では、信託宣言は何なんだ。
事業信託についてはきのうかおとといの日経金融に出ておりましたけれども、あれが本当に可能なのかという議論です。そういうのを少し詰めてやってみていただいたらどうなのか。
少なくとも日経金融の事業信託で見たところ、あれは信託なのかなと素朴な疑問を持ったのですけれども、そういう議論をざせていただいた上でどうでしょうか、濫用の問題、少し考えてみたらどうかと思いますけれども。
つまり、信託宣言というのは特に制約はないわけですよね。どんな目的でもいいというのが今こちらのお考えだと思うんですよね、公正証書にするかどうかは別として。
そうした場合の濫用というのはすごくあるのではないでしょうか。それでも倒産隔離なりいろいろな信託のいいところは全部とれるわけですよね。それがほかの法制度との関係でバランスがどうかなという点が気になります。
お答えにならなかったかもしれませんけれども。
● 私も○○参考人と一部似た感覚を持っていますが、個人信託という分野で、あるいは民事信託と言ってもいいかもしれないけれども--広げるとなると、とにかく担い手もいろいろなタイプのが出てくるし、そういう奏で、そっちは広げたいんだけれども、しかし、広げることによって濫用に誓いものも出てくるかもしれない。
だけど、それを恐れて信託宣言とかそういうのを制約していいのかというと、私の場合はそこは制度として残しておきたいと思うんですけれども、しかし、悩みがあることは確かですね。
ほかにいかがでしょうか。
● ○○参考人のお話の中に信託銀行についても言及していただいていましたので、若干述べさせていただきたいと思います。
○○参考人のお話の中で、ある一定の時期だったと思うんですけれども、こういう個人の信託について、信託銀行は非常に消極的だったというような部分もありまして、確かにそういう部分もありまして、これは結構時代的な背景が大きかったんではないかと思いまして、○○参考人のお話の中で、入れていただいた私どもの安心サポート信託とかパーソナルトラスト、こういったところにもついても、まさにある程度信託銀行、銀行界全体そうですけれども、落ち着いて、これから先どういう形で信託制度なり金融制度を考えていこうかという中で、やはり民事信託といいますか、こういう個人の信託というのは重要であるというふうに理解しておりまして、この部会の中でもぜひとも御検討いただきたいというお話をさせていただきましたので、きょうのお話は非常に心強いお話だったと思います。
もう1点、非常にありがたいお話といいますか、私ども方でずっと主張させていただいていた信託の弊害について、先ほどもお話がありましたけれども、まさに民事的なところでの信託を前提にする限りにおいての弊害というのは、やはり心配なものがたくさんありまして、それによって信託制度全体の信頼性を失うというようなおそれがありますので、ここについては、これは前から申し上げていますけれども、これはこの場の方々にということですけれども、御検討いただきたいなというふうに思っています。
その際に、○○参考人にお伺いしたいんですけれども、先ほど、忠実義務を任意規定化するんではなくて強行規定化するというようなお話がありましたけれども、これについては今現在、我々信託銀行がやっているような実務を前提にする限りは、任意規定というのがふさわしいだろうと、そこら辺のところは御理解いただいているということですので、そういうことを前提にする限りにおいて、1つ御指摘されたのが、一般信託法の方で強行規定にして、業法でそれを緩和するというようなお話がありましたけれども、例えば、信託法の中で、この場で検討するわけですから、今、忠実義務を一つの事例として出しましたけれども、こういう塀外的なものを検討するに当たっての類型化といいますか、信託法の一般手法の中での類型なり何なりを考えて、それで例えば民事的な信託についてはこういう規律、商事的な信託についてはこういう規律というような類型化という観点で見て何かお考えはありますでしょうか。
● そうですね、理論的な可能性としてはそれも考えられるのではないでしょうか。
商事信託類型と、例えば個人信託、民事信託類型と分けて、忠実義務なんかも少しそこで差を設けるということはあってもいいかもしれませんね。ただ、立法技術的には非常に難しいのではないでしょうか。
そういう懸念はありますけれども、こちらでそういうような方向を選択するというのも一つのオプションだとは思います。
私個人としては、信託法と信託業法と経営法、そのあたり、これで一貫して信託制度をサポートしているわけですから、その中で違った類型の義務を違ったように規定するというのが望ましいと私個人としては思っていますけれども、類型別に義務を規定するという、そのあたりがこちらとしては一番リーズナブルな生き方かもしれません。
お答えになっていないかもしれませんが。
● ありがとうございました。
● ここで余り積極的な議論を展開というかお互いに討論する場ではないのかもしれないけれども、従来、信託銀行は監督規制をされていて、そういう意味で担い手としては安心なので、そこで公益班のところではいろいろ緩くしていても大丈夫だ。
だけど、それをしたい担い手に対する規制がないようなところでは厳しくしないと危ないという議論ですよね、今のはある意味で。それを信託法の中に持ち込んでくるというのは、非常に簡単に言うと、ちょっとこういう言い方は語弊があるかもしれないが、信託銀行に適用されるのは非常に緩くなって、それ以外は厳しいという、何となくちょっと変なことになるのでね。
● 今、担い手という意味合いではなくて、基本的にはまさに信託の種類、類型というようなこと。
● だけど、そうすると民事はあれで、商事は緩いというね……、ここでは余り議論しない。
● 感想めいたことなんですが、学会の縦割りで商法をやっているものですから、商事信託ということについては書いたことがあったんですけれども、きょう○○参考人がおっしゃっていただいたようなことについて書いたことがないものですから、感想を申し上げたいと思うんです。
○○参考人から正しく御指摘いただきましたように、商事信託についても改正の必要はあるとおっしゃって、きょうは○○参考人が御報告された分野について、おっしゃっている実質について私も全く違和感がないのみならず、ほとんど賛成であり、ぜひそういう検討がなされるべきだというふうに思います。
ただ、1点多少違うかもしれないと思いますのは、どこまでを信託法改正でやれるかということでして、実は、私の感覚では、商事信託の観点から信託法改正が求められるのは、現在の信託法が商事信託を阻害している面があって、それを特別法でこれまで緊急避難的に解決してきた面がかなりあるというふうに思っているからです。
例を挙げるまでもありませんけれども、受益権の有価証券化、多数決による信託契約の変更、その他信託法上必ずしも規定はありませんので、特別法でこれまで対応してきた。
今後もそれでもいいのかもしれませんけれども、そうすると、個別に全部特別法をつくっていかなければいけない、あるいは受益者多数の場合について言えば、特別法によってその対応は違っていたりしまして、したがいまして、そういう観点から言いますと、商事信託が今後発展していく上では、ほかにもいろいろな論点はあろうと思いますけれども、信託法をここで改正していただく必要があるという論点がかなり大きい。これは○○参考人も賛成してくださっているという理解。
今日、○○参考人がおっしゃったことは、私も将来ぜひ実現していただきたいと思うんですけれども、手短に申しますと、私のような法形式よりは機能を重視する感覚からしますと、障害になるのは信託法よりも次の3つだと思います。
第1は、相続法、代理人・後見法を含めての民法の体系、第2が業法、そして第3が税法だと思います。もうちょっと具体的に申しますと、先ほどの意思凍結、あるいは受益者連続というものを信託にだけ認めて、代理人、相続には仮に認めない。
そういう選択肢をしていいのかどうか。私の感覚では、信託を優遇するような、そして委任・代理・相続ではだめという政策判断というのはいいのかどうか、私は専門ではないのでわかりませんけれども、直感的には機能論者としては両方整備すべきように感じますけれども、その点はわかりません。いずれにしても、そういう問題があります。
それから、業法の問題は先ほどから出ていますけれども、信託銀行は今でもやれます。
ただ、信託会社になればできるからいいんですが、だれでも個人でもということになりますと、今、業法はないわけでして、仮にいいということになりますと、恐らく委任についても同じ問題があると思うんです。すなわち、きょうお配りいただきました新聞でいいますと、だれでもいいということになりますと、Bさんとここの新聞に書いてあるんですけれども、Bさんが受託者になるというだけの話であって、もしそこに家庭裁判所が選任した監督人のチェックという、新聞の図でこういうものが必要だという議論、これは○○参考人がおっしゃった議論で私も賛成ですけれども、そうだとすると、委任の場合であっても、信託の場合であっても、どちらを利用したとしても、こういう制度が必要になってくる。それはまさに後見制度との調整というふうにおっしゃった。
したがって、言葉はいいかどうかわかりませんけれども、先ほどもお隣の桜井さんと雑談していたんですけれども、今、投資サービス法とか金融サービス業法という法制度を議論しているように、業法として高齢者財産管理業法というかそういうものが必要になってきて、そういうものがないと、受益者保護という言葉でおっしゃいましたけれども、高齢者・利用者の保護が図れない。
その場合の法形態は、言わば商事信託の方で会社形態と信託形態の両方が--先ほどビークルという言葉をお使いになりましたけれども、つかれるのと同じように、こちらの方では委任形態もあるし、信託形態もある。ただ、どちらの形態をとったとしても、財産管理業をする人に対する業者規制、あるいはここでいう後見規制というんでしょうか、そういうものを横断的に整備しませんと、結局、一方を閉めると他方へ行くということになるように思います類似が両方の問題です。それから3点目に税法の問題があろうかと思います。
以上が私の雑駁な感想なんですけれども、もう一、二、もしお許しいただければ。
1つは、信託のニーズということですけれども、なぜ信託が余り使われないのかということで、先ほどリバースモーゲージということがありました。○○委員からは、そのときの時代の背景ということもあるという御指摘がありました。
私は、きょうの個人信託の分野で、なぜ信託が使われないのかというのは、いろいろ法制度上の理由もあると思いますけれども、やはり業法の理由とか税法の理由が大きくて、結局、信託を使うことがよりコストになるから、ほかの形が使われているという、そういう話だと思います。
逆に言いますと、なぜアメリカやイギリス、あるいはその他で信託が使われているかというと、信託を使わない方がよりコストになるというか、信託の方がより合理的であるということではないかと思います。
一、二例を挙げますと、例えば税ということで言いますと、これは○○参考人の本に書いてありますけれども、特定贈与信託、これはもし税の恩典がなかったら恐らく全く使われないと思います。
つまり、他益信託は贈与税というのは全く英米と反対の考え方でありまして、そういうところが非常に使われなくなっている、もっと一般的に言うと信託が使いにくくなっている大きな理由のように思います。
そこで、もう1点、例えば信託法を強めますと、濫用というところでの御指摘の実質は私も全く賛成なんですけれども、信託を閉めると、結局信託が使われないので、委任とかがほかへ行くのではないかというのが私の感覚なんです。
そこが非常に悩ましいところで、ですから、忠実に閉めるのであれば、高齢者相手のこういうサービスは委任の忠実義務も--忠実義務とは呼んでいませんけれども、現在の法律はやはり強行法規にしてもらわないと困るというのが私の感覚でして、それは先ほど申し上げました財産管理業法みたいなものでやるのか、あるいは私法のところで横断的にやるのかという、そういう話のような感覚がいたします。
つまり、信託だけを締めつけるとほかへ逃げていかれてしまうので、逆に今度いい信託は、かえって今度は使いにくくなるというのが悩みであるように思います。
これは、これまで商事信託の分野で主として議論してきましたけれども、きょうのお話を伺って非常に難しい話だなという感想を持ちました。
以上です。
● 何かコメントがありますか。今のは○○委員の御意見だけれども。
● 御指摘ありがとうございました。○○委員らしい御指摘で、大変示唆的でありがとうございました。
まず、意思凍結機能について、信託だけでやらせるというふうには私も考えておりませんで、コンペティターとしては、例えば任意後見契約というのもあるわけですので、当事者がどちらかを選択するということでいいと思うんです。
ただ、任意後見契約の方は御存じのように裁判所も関与するということになったので、そうすると、信託の方はどうか、完全に私