民事信託実務基礎講座第1回総論「民事信託の基礎」

講 師:筑波大学名誉教授 中央大学研究開発機構教授 新井 誠

禁治産(きんちさん)制度(2000年3月まで)

1999年3月31日までの主な民法の条文

第七条 心神喪失ノ常況ニ在ル者ニ付テハ家庭裁判所ハ本人、配偶者、四親等内ノ親族、後見人、保佐人又ハ検察官ノ請求ニ因リ禁治産ノ宣告ヲ為スコトヲ得

第八条 禁治産者ハ之ヲ後見ニ付ス

第九条 禁治産者ノ行為ハ之ヲ取消スコトヲ得

第十条 禁治産ノ原因止ミタルトキハ家庭裁判所ハ第七条ニ掲ケタル者ノ請求ニ因リ其宣告ヲ取消スコトヲ要ス

第十一条 心神耗弱者及ヒ浪費者ハ準禁治産者トシテ之ニ保佐人ヲ附スルコトヲ得

 後見、保佐という用語は、現在とは意味が違っていると思いますが、禁治産制度の際も利用されていて、現在に引き継がれています。以前、「準禁治産制度は廃止しない方が良かった。」と専門家が言っていたことを聴いて違和感を持ったことがあります。理由は、家族が困るから、現行制度で、浪費癖がある人を管理する制度はないから、というものでした。

民法の一部を改正する法律(平成11年12月8日)

附 則

(施行期日)

第一条 この法律は、平成十二年四月一日から施行する。ただし、第九百六十九条、第九百七十二条、第九百七十六条及び第九百七十九条の改正規定、第九百六十九条の次に一条を加える改正規定並びに次条の規定は、公布の日から起算して一月を経過した日から施行する。

(民法の一部改正に伴う経過措置の原則)

第二条 この法律による改正後の民法(次条において「新法」という。)の規定は、次条第三項の規定による場合を除き、当該改正規定の施行前に生じた事項にも適用する。ただし、改正前の民法(次条において「旧法」という。)の規定によって生じた効力を妨げない。

東京法務局 戸籍記載から登記への移行

http://houmukyoku.moj.go.jp/tokyo/page000466.html

 平成12年4月1日から成年後見制度が施行されたことにより,施行前に「禁治産宣告」「準禁治産宣告」を受けている方は,それぞれ「成年被後見人」「被保佐人」とみなされます。したがって,施行後においても宣告を受けた旨の戸籍の記載や後見人の権限は有効なものであるため,それらを証明するために戸籍謄本が使用できますが,戸籍謄本をその証明のために使用することに抵抗がある場合や成年後見制度を利用したい場合には,戸籍の記載を後見登記等ファイルに移す「移行の登記」を申請することができます。

 この申請により,登記が完了すると,「禁治産宣告」等の記載のある戸籍からこれらの記載がない戸籍に再製されることになります。

※ただし,浪費者等心神耗弱以外を原因とする準禁治宣告については,移行の対象外です。

 自動的に戸籍から登記システムに移行されるわけではなく、申請主義を採っています。申請をしていない方、浪費者等の準禁治産宣告については、現在でも戸籍に残っていることになります。代が下がって家系図を作成してみようとなった時、自分のご先祖が禁治産、準禁治産者と区別されて記載されているのをみて、何を思うのでしょうか。

(禁治産及び準禁治産の宣告等に関する経過措置)

第三条 旧法の規定による禁治産の宣告は新法の規定による後見開始の審判と、当該禁治産の宣告を受けた禁治産者並びにその後見人及び後見監督人は当該後見開始の審判を受けた成年被後見人並びにその成年後見人及び成年後見監督人とみなす。

2 旧法の規定による心神耗弱を原因とする準禁治産の宣告は新法の規定による保佐開始の審判と、当該準禁治産の宣告を受けた準禁治産者及びその保佐人は当該保佐開始の審判を受けた被保佐人及びその保佐人とみなす。

3 前項に規定する準禁治産者以外の準禁治産者及びその保佐人に関する民法の規定の適用については、第八百四十六条、第九百七十四条及び第千九条の改正規定を除き、なお従前の例による。

4 旧法の規定による禁治産又は準禁治産の宣告の請求(この法律の施行前に当該請求に係る審判が確定したものを除く。)は、新法の規定による後見開始又は保佐開始の審判の請求とみなす。

戸籍法

第三十一条 届出をすべき者が未成年者又は禁治産者であるときは、親権を行う者又は後見人を届出義務者とする。但し、未成年者又は禁治産者が届出をすることを妨げない。

  親権を行う者又は後見人が届出をする場合には、届書に左の事項を記載しなければならない。

 一 届出をすべき者の氏名、出生の年月日及び本籍

 二 無能力の原因

 三 届出人が親権を行う者又は後見人である旨

第三十二条 無能力者がその法定代理人の同意を得ないですることができる行為については、無能力者が、これを届け出なければならない。禁治産者が届出をする場合には、届書に届出事件の性質及び効果を理解するに足りる能力を有することを証すべき診断書を添附しなければならない。

 従前の禁治産制度では、本人のためではなく、そのとりまきのための制度だったという事例の紹介がありました。親戚などが本人のお金で海外旅行に行った、などです。

成年後見制度と介護保険制度(2000年4月から)

 成年後見制度創設の機運は、福祉関係者から高まったようです。当初、法律家からの関心は薄かったとのことでした。そして現在でも民法学者の成年後見制度への関心は低いとの指摘がありました。

 成年後見制度の理念は、ノーマライゼーション。本人の意思により、家庭や地域で通常の生活をすることができるようにするという考え方。インクルージョンとは、各人の違いに注目するということでは共通であり、違いを乗り越えるのがノーマライゼーション、違いを包摂するのがインクルージョンという理解をしています。ノーマライゼーションを土台、インフラとしてインクルージョンな社会を目指すという順番になるのだと思います。

 身上保護ではなく、身上監護(民858)である意味。私は、「身上」という言葉が重い(一身上の、など。)、保護も上から見下されているみたいだし、監護はもっと厳しく監督されている、というイメージを持ってしまいます。

参考

新井誠「成年後見制度利用促進法の施行と成年後見制度の展望」障害法 第1号(2017 年)

付録として成年後見制度に関する横浜宣言。

https://disability-law.jp/wp-content/uploads/2017/11/%E6%96%B0%E4%BA%95%E8%AA%A0%E3%80%8C%E6%88%90%E5%B9%B4%E5%BE%8C%E8%A6%8B%E5%88%B6%E5%BA%A6%E5%88%A9%E7%94%A8%E4%BF%83%E9%80%B2%E6%B3%95%E3%81%AE%E6%96%BD%E8%A1%8C%E3%81%A8%E6%88%90%E5%B9%B4%E5%BE%8C%E8%A6%8B%E5%88%B6%E5%BA%A6%E3%81%AE%E5%B1%95%E6%9C%9B%E3%80%8D-1.pdf

上記の論文では、「身上監護」ではなく、「身上の保護」を採用したのは、「監護」という用語が与えるパターナリステックな印象を払拭して、少しでも本人中心主義を志向したいとの意図に基づく。とされています。任意後見の導入には反対が多かったが、参事官の変更(元福岡高裁裁判長 小林 昭彦)により、風向きが変わったと聞きました。「パブリックコメントで潰されるから、やりましょう。」と反対派を押し切って進めたら、パブリックコメントには、賛成が圧倒的に多かったということです。

・民事上の代理権と商事上の代理権の違い。

 民事では本人の意思が重視されるが、商事では取引のスピードを求める傾向がある、というのは、確かにあるのかもしれないと思いました。不動産登記法、商法と民事は違う。ドイツの代理制度は民事商事問わない。法令に関して、遅れた民主主義?論文は色々出ているようです。第一次、第二次世界大戦の影響が大きいようです。

成年後見関係事件の概況(最高裁判所)―令和2年1月~12月―

 補助が成年後見制度で一番多く使われるべき制度である、と新井教授は指摘していました。私も同感です。

車のナンバー858

 民法858条に倣い、車のナンバーを858にしている方が何名かいるようです。その方の名前を聞いて、私にはやっていることが矛盾しているような気がしました。

横浜宣言の意義

 この頃が司法書士が一番輝いていた、熱があったというのが新井教授の指摘です(今は民事信託でどうやってお金を稼ごうかということしか考えていない、というようなことも指摘あり。)。私もこの頃は成年後見人を受け始めたころでした。世界に発信出来るなんてすごいなと素直に思っていました。また通訳でも外国語に堪能な司法書士が各地から集まって運営していたと、後日のレポートなどで読みました。

・信託の機能について

新井教授は物権説という立場の方です(物権的効果・・・物権変動)。

 対して現行の信託法は、債権説で構成されています(信託法2条、債権的効果・・・債権的拘束)。また、転換機能という用語は新井教授が生み出した言葉なので、名前を入れること、と指摘がありました。他益信託が本来の信託の姿であるという指摘もありました。税制を気にしなければ、直ぐにでも出来ることです。また今の実務でも実際は他益信託に近い運用になっていると思います。

 私は、成年後見人を20件くらいこなしてきました。しかし、今は就任していません。理由として、成年後見の報酬では事務所経営が出来ない、登記などの片手間でやっている司法書士もいるが、そのようなやり方はしたくない。高額な報酬が見込める案件に応募が集中する。約2年くらい、応募しても全て落とされた時期があった。というような理由があります。

 新井教授の指摘は、もっともなところが多いです。しかし、リーガルサポートや民事信託推進センターの役員の人しか知らないのではないかなと思います。多忙で仕方がない部分があると思いますが、目立たなくても懸命に実務を行っている司法書士に対して目が届いていないと感じることが多く、少し残念です。