民事信託に関する問い

・受益者代理人と後見監督人の性質の違いはあるか?

受益者代理人は、受益者の代わりに受益者の権利をを行使します(信託法139条、140条)。信託監督人は、受益者とは独立した機関として受益者に認められている権利を行使します(信託法92条、132条、133条)。

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・受益者代理人の定めを設置しなければいけないことは流布されたのか?

 一時期、そのような記載がある書籍や勧める研修もありましたが、設置しなければならない、というような流布はなく、実務も専門家、案件それぞれの個別具体的な事情により設置したりしなかったりしていたのではないかというのが私の感覚です。

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・受益者代理人が就任すると、受益者の権限が制限されるのか?

 信託法139条4項で、原則として信託法92条に記載がある権利と信託行為において定めた権利を除いて、その権利を行使することができない、として受益者の権限を制限しています。ただし、信託行為に定めることで受益者の権限の制限を緩めたり、受益者代理人の権限を制限したりすることが出来ます。

・信託監督人に加えて、または信託監督人に代えて受益者代理人の設置を検討する場合とはどのような場合か?

 受益者代理人の設置が必須になる場合として、どのような場面が考えられるでしょうか。信託監督人という言葉に当事者が違和感を覚えてためらう場合、直ぐに成年後見制度を利用することを当事者が躊躇する場合、受益者の性格や年齢など、考えられることはありますが、必須とまではいえないなと感じます。

・会計法上の計算期間と税法上の計算期間の違いとはどのようなものか?

会計法上の計算期間・・・会社法431条、会社計算規則3条、法人税法22条4項。

税法上の計算期間・・・所得税法13条、所得税基本通達13-2。

 信託行為によって4月1日から3月末日までの計算期間としても、税法上は1月1日から12月末日となる。

・武田昌輔「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」

https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/03/25/ronsou.pdf

税法において明確な別段の定めのあるものについては、税法固有の目的から収益、損益について明確にされているので立法論の問題は別として、この公正処理基準の効力は及ばない。もっとも、別段の定めにおいても種々の会計的処理を定めているので、その処理について明確でない点は、この公正処理基準に従って計算すべきものと解される。

・法定調書とはどのようなものか?

所得税法227条、242条、信託受益権の譲渡の対価の支払調書(同合計表)、信託の計算書(同合計表)(所得税法227条)、信託に関する受益者別(委託者別)調書(同合計表)(相続税法59条3項)など。

・損益通算の規定とは何か?

規定を読んでいると、組合を参考にして信託に関しても定められているのかなと感じます。

国税庁タックスアンサー「No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算」

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1391.htm

改正税法のすべて 平成19年版112~P115

租税特別措置法41条の4の2、同法施行令26の6の2、同法施行規則18条の24

・信託銀行で信託口口座を作成する場合に、士業が関わる意味は何か?

 信託銀行は信託のプロ、信託銀行から学ぶことは多い、と民事信託に関わった頃からあらゆる書籍、研修で言及され続けています。なのに、なぜ信託銀行で民事信託の信託口口座を作成する際に士業が関わる必要があるのでしょうか。信託銀行で全て支援を行えば良いのかなと思います。信託銀行としては、全て信託行為の設定から終了まで支援して報酬をいただくことも考えているようです(実際に実施している信託銀行もあるのかもしれません。)ただし、現在は第三者委託の受託者(信託法35条)としての業務を主に行っているようです。責任の重さと報酬額の釣り合い、紛争性の大きさ、未確定な部分の多さなど、規模が大きい企業だからこそ、色々と考慮することがあるんだなと感じました。

・信託監督人の適任は税理士か?

 私は税理士が適任だと思います。会社法における会計参与(会社法374条~)のような感じでしょうか。信託財産に不動産がある場合、不動産登記申請時に司法書士から信託監督人の氏名か名称の記録を求められる可能性が高いと思います。おそらく住所や事務所の所在地は抵抗があるのではないでしょうか。会社の場合は、1つの会社に対して、1回履歴事項全部証明書に記録されますが、信託監督人の場合は、信託財産である不動産全てに記録されることが違いなのかなと思います。税理士にとって、どのようなメリットがあるのかが私には分からないので、今のところ税理士さんに信託監督人への就任をお願いしたことはありません。

・認知症の疑いはないか、受託者主導ではないか?

 まず、医師から認知症の診断をされたことで、直ぐに信託設定は不可能と判断するのは少し違うのかなと思います。親族とは日常生活、財産管理についてやり取りが支障なく出来る方がいらっしゃるからです。金融機関などから借入れがあり、第三者が関わっているかなどによっても変わりますが、直ぐに信託設定は不可能と決めつけることは委託者本人の意思を摘むことになるのではないかと思います。

 受託者主導、というのがどのようなことを指しているのか。委託者の子供のうちの一人が自分が全ての財産を引き継ぎたいために、委託者を引っ張って信託行為を半ば無理やり設定させる、ということなのでしょうか。このような傾向は遺言でも任意後見(判断能力喪失後から亡くなるまでの財産管理について)でもあるのではないでしょうか。民事信託だけの問題ではないと思います。

 受託者主導だから紛争性がある、信託行為として問題がある、という考え方も専門家からの見方になっているような気がします。結果論ですが、紛争になるときは委託者主導でもなります。専門家の仕事は、誰が主導しているのかに関係なく、信託行為の内容を法令に従った内容にすること、個々の案件に応じて信託行為の内容を考えること(例えば裁量型信託にせず他の親族の同意などを必要とする条項を設ける。)、紛争性があるとして、その発生を抑えるようなアドバイスをすること(例えば法定相続分に関しては保険加入を検討する。)、紛争が起こっても早期に解決出来るような仕組みを作ること(例えば、ADR機関の利用を予め信託行為で定める。)だと思います。

・信託法164条について、日本の信託法において、原則として、受託者の合意だけで信託を終了することは出来ないのが前提か?

 元々委託者の財産について、受託者に所有権を移転し、管理運用を任せるのが信託とすれば、委託者と受益者が、この仕組みが必要なくなったと合意した場合に終了出来ることは、前提であり妥当だと思います。

参考

道垣内弘人編「条解信託法」弘文堂P701~702

・多様な信託形態は遺言代用信託の増加とは相反するか?

 遺言代用信託契約での記載内容は多種多様であり、金融実務、公証実務によって画一的にならざるを得ない面があるのではないか、というのが現在の私の考えです。自己信託の設定や信託契約書の内容について、根拠なく駄目だと言われることが何件かあります。

・監視・監督は必須なのか?信託監督人の利用が少ないのは課題か?

 必須とは言えないのではないかと思います。また監視・監督の関与の強弱によるのではないかと思います。監視されるのは嫌だという方もいると思います。何かあれば直ぐ3日以内に報告書を提出して下さい、と内容証明郵便が送られてくるような監視・監督であれば、受託者としても困ると思います。月に一度、年に2回など定期的に書類を提出しながら世間話でも出来る監視・監督であれば、委託者兼受益者も安心できるのではないかと思います。

・遺留分を侵害している民事信託の設定は、金融機関から信託口口座の開設を拒まれることがあるのか。

 そもそもですが、遺留分を侵害しているかを知るためには、委託者の家族関係を知ることが必要となります。金融機関にそのような権限があるのでしょうか。誰か知っていたら教えてください。

・信託の効力発生時期を財産権の移転を条件にする方がよいのか?

 信託財産目録に記載された金銭を信託口口座に入金し、不動産登記を申請したときを信託の効力発生時期とする、という方法は良いなと感じました。

・本人の意思能力低下後に追加信託を行うことは、禁止されるべきか?

 信託行為に不動産であれば具体的記載、金銭であれば金額か上限が記載されていれば可能だと考えます。ただし、不動産登記法の構造上、本人の判断能力がない場合には、追加信託を行うことが出来ません。

・追加信託は公正証書を必須とするべきか?

 当初の信託行為に記載があるのであれば、委託者と受益者の合意があれば必須とする必要はないと思います。ただし、案件によります。また公証実務の電子化の進み具合にもよります。

・終了時の規定として、一般承継人の協議はどうか。

 残余財産の帰属権利者は一般承継人の協議による、という定めを設けると、信託期中の財産管理について疑義が出たりする可能性が多いのかなと感じます。私は受益者を第2次、第3次まで定めておいて、信託終了時の受益者を残余財産の帰属権利者とすることが多いです。