登記情報[1]の記事からです。
第三者の範囲には、観念的な公益の代表としての登記官も含まれており、この問題は、後続の登記と登記官の審査との関係でも決定的な欠陥を露呈します。
第三者について、大きな範囲でいうと当事者に対する語(当事者以外)。ある法律関係又は事柄について直接関与するものを当事者といい、それ以外の者を第三者といいます[2]。不動産登記法には、第三者という語が25個使用されています。第五条、第四十条、第五十条、第五十五条、第五十八条、第六十六条、第六十七条、第六十八条、第七十一条、第七十二条、第八十一条の二、第百九条、第百四十一条です。
不動産登記法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=416AC0000000123
民法177条で使用されている第三者は、当事者および包括承継人以外のすべての第三者(無制限説)ではなく、登記欠缺(けんけつ)を主張することに正当な利益を有する第三者でなければならない(制限説)とされています(大連判明41.12.5)。
不動産登記法の目的をみてみます。
(目的)
第一条 この法律は、不動産の表示及び不動産に関する権利を公示するための登記に関する制度について定めることにより、国民の権利の保全を図り、もって取引の安全と円滑に資することを目的とする。
次に、不動産登記法の登記官の条文をみてみます。
(登記官)
第九条 登記所における事務は、登記官(登記所に勤務する法務事務官のうちから、法務局又は地方法務局の長が指定する者をいう。以下同じ。)が取り扱う[3]。
条文を読む限り、観念的な公益の代表とは何か、法務大臣の監督の下にある登記官が観念的な公益の代表としての第三者に含まれるのか、私には分かりませんでした。また、登記官が登記欠缺(けんけつ)を主張することに正当な利益を有する第三者に含まれるのかについては、登記官が原則として持っている実質的審査権の限りにおいては含まれる可能性はありますが、その範囲に留まるのではないかと思います。
(信託目録の「その他の信託の条項」に)「平成29年4月20日付金銭・不動産管理処分信託契約証書及びこれに付随する変更契約書記載のとおり。」と登記することは認められないものと考えます。
前提として、私は引用のような登記申請を行ったことはありません。なぜ行わないかというと、記録する意味がないと考えるからです。後続登記を申請する際に、平成29年4月20日付金銭・不動産管理処分信託契約証書や、これに付随する変更契約書を登記原因証明情報を提供すれば足ります。
実務家による書籍では、認めるものしか探すことは出来ませんでした[4]。登記官と登記申請を行う側の認識が逆になっています。
申請(代理)する側からは、認める理由としては様式が定まっていないから、という理由が多いように感じます。委託者と受託者など当事者の側からは、第2次・第3次受益者、建物の滅失登記が可能(受託者の権限で取り壊し可能。)、(根)抵当権の設定登記申請が可能(受託者の権限で借入れ可能)、のような記録を、親族を始めとして誰でも取得することが出きる登記記録に掲載するのは躊躇するということがあると思います。
結論としては、現状の不動産登記制度において引用のような登記申請がされた場合、登記官が認めることが出来ない(却下)ということは不可能ではないかと思います。記事からも根拠法令の記載を探すことは出来ませんでした。ただ、記事でも触れられていますが、書くと余計な混乱を招きかねない可能性もあると思います。信託契約書をどこかに隠しているのではないか、知らない間に変更されているのではないか、など余計な印象を親族をはじめとした第三者に与えてしまうのではないかと思います。すると不動産登記法の目的は果たせなくなります。このような記録から訴訟等が増えたり登記官への問い合わせが増えたりすると、引用のように、近い将来認められなく可能性はあるのではないかと考えます。
法定終了事由は、信託法に規定されている周知の事項であることから、ことさら、「信託の終了の事由(10号)」として登記をする必要性はないと考えています。
登記申請を行う側からは、とても良い判断をいただいたと思います。全ての法定終了事由に関しては、登記を記録しなくても信託の終了の登記と附随する登記申請を行うことが出来るようになります。また、認めないではなく必要性はないという判断なので、依頼者が忘れないように、安心できるように記録しておくことは認められます。自由度の高い設計が可能となります。
用語の定義や信託不動産目録等が、当然のように登記されています。
初めて知りました。用語の定義については、どのような記録の仕方なのか分かりませんが、気を付けたいところです。信託不動産目録については、どうにかして同一の信託行為にかかる不動産(例えば土地とその上の建物など。)は、登記記録で管理したい、というのは、私もやったことはありませんが思います。難しいところですが、現状は登記申請を行う側で受付番号と信託目録番号で管理していくしかないのかなと感じます。イメージとしては共同担保目録ではなく株主名簿です。
受益権者甲某に相続が開始したからといって、相続を原因としてその他の信託の条項の内容が直ちに変更される性質のものではなく、信託当事者による信託契約の内容が変更されてはじめて、変更の登記の可否が問題になると考えられます。
記事に記載の通り、その他の信託の条項の内容が自動的に変更されることはありません。私は、「信託契約の内容が変更されてはじめて」という部分が分かりませんでした。信託契約書の内容によりますが、契約内容を変更しなくても、信託契約書と変更の事実を証する情報を提供し、登記申請においてその他の信託の条項の変更を行えば、信託契約の内容の変更は必要がないと考えます。なお、受益権持分(割合)については以前記事で書いた通り私は利用できないと考えるので使いません。
[1] 712号 2021.3 きんざい P14~
[2] 法令用語研究会編「法律用語辞典第4版」2012有斐閣
[3] 七戸克彦監修「条解不動産登記法」2013弘文堂P62~P84
[4] (一社)民事信託推進センター編集協力「民事信託実務ハンドブック」2016日本法令P185~P186。遠藤英嗣「家族信託契約」平成29年日本加除出版P171~P172など。