木村敦子「信託と遺留分に関する一考察―相続法改正をふまえて―」

「資産の管理・運用・承継と信託に関する研究[1]」の記事からです。

 今般の改正下で遺留分が金銭債権化されたことにより、遺留分制度について、[被相続人の行為に主眼をおき、それを制限するという見方]から、[一定の財産的価値の保障、さらにはその価値の調整という見方]に、より力点が置かれるようになったと考えられる。

 遺留分制度が金銭債権化(物権的効果が否定)されることにより、今までは被相続人が行った、(推定)相続人の遺留分を減殺させるような行為を事前に抑制的に制限する、という設計から(推定)相続人の遺留分額相当の金銭的な価値を予め保障する、という設計に代わったのだと理解しました。それでも前者は一定の効力を未だ持っています。

 その結果何が起こるのかというと、不動産など換価しにくい財産(特に居住建物)は被相続人の意思が尊重されやすくなり、お金に関しては相続人に(ある程度予想できる)保障された額が支払われる、紛争を一定程度抑止し、起こったとしてもなるべく早期に(不動産を担保に借入れをしてでも)解決出来るようになるのかなと考えます。

 生前信託の場合に限らず、共同相続人間の公平の観点から、各共同相続人が取得した利益の調整を重視すべきであるとも考えられる。つまり、遺言信託や遺言代用信託についても、(少なくとも共同相続人間については)受益権説による解決が望ましいと考えられる。

 しかし、生前贈与の場合と異なり、遺贈の場合には、その受遺者が共同相続人である場合も、その遺贈の目的を問うことなく、一律に相続財産から逸出した財産が考慮される。とすると、受益権説による解決が妥当とされるのは、共同相続人が当事者となる生前信託の場合に限られるとも考えられる。

 前段は同意です。後段を実務に当てはめると、例えば第2次受益者に孫がいる場合は、信託財産説で遺留分侵害額を評価する、という考えも可能であるように思われます。ただし、一定の財産的価値の保障、さらにはその価値の調整という観点からすれば、相続人であるか否かを問わず、一律に受益権説で評価することも妨げられないと考えます。

 信託の場面全般について受益権説が妥当すべきかについては、さらなる考慮が必要である。被相続人による相続財産の減少をもたらす行為とそれによる不利益の割当てという観点からの検討、あるいは所得した利益の調整という観点からの検討、いずれの観点からの検討においても、受益権説の立場を一般的に採るにあたっては、留意すべき点、不明な点が残されている。その意味において、本稿は、遺留分制度の理解や相続法上のルールを前提とした、相続法に内在的な解釈には限界があることを示したにすぎない。

・被相続人による相続財産の減少をもたらす行為とそれによる不利益の割当てという観点からの検討・・・信託行為の定め次第ではありますが、特に裁量型信託の場合に相続財産を収益不動産の管理などで大幅に減らしたとき、受託者には事務を行った根拠を説明する記録を残しておく必要があるように思います。

・あるいは所得した利益の調整という観点からの検討・・・信託金銭で不動産を購入し、信託財産に属する財産とした場合に20年超管理して信託金銭と信託不動産の価額の合計が信託の効力発生時よりも大幅に上がったとき、受託者が相続人であるか否か、第2次受益者であるか否かによりますが、受託者の貢献は考慮される要素の一つと考えられるのではないかと思います。東京地裁平成30年9月12日判決では受益権説を採っていますが、判断の理由について詳細な記載はなく、信託事務についての記録が提出されていれば、もっと多様な判断があり得たかもしれない、と思いました。

 


[1] (公財)トラスト未来フォーラム令和元年12月P173~