信託財産

民事信託契約書のうち、信託財産を取り上げる。

1     信託財産
1―1            【条項例】

(信託財産―預金)

第○条 

1 委託者は信託契約締結後、信託財産目録記載4の預金を払い戻し、受託者に引き渡す。

2 受託者は、前項の払戻金を信託財産に属する専用口座を開設する方法により受託者自身の財産と分別して管理する。

(信託財産―不動産)

第○条 

1 信託財産目録1,2及び3記載の信託不動産の所有権は、本信託開始日に、受託者に移転する。

2 委託者及び受託者は、本契約後、前項の不動産について所有権移転の登記申請を行う。

3 受託者は、前項の登記申請と同時に、信託の登記の申請を行う。

4 前2項の登記費用は、受託者が信託財産から支出する。

(農地)

第○条 信託不動産のうち、農地法の適用を受ける土地については、次のいずれかのときに、本信託の効力を生じる。

(1)農地法に基づく許可を受け、許可通知書を受け取ったとき

(2)農地法に基づく届け出を行い、受理通知書を受け取ったとき

(3)農地法の適用対象から外れた場合

図 1 農地と信託財産

チェック方式

(信託財産)

第○条

1 本信託における財産は、次の第【  】号から第【  】号までとする。本信託の翌日以降に生じた第【  】号から第【  】号までの財産も、その種類に応じた信託財産に帰属する[1]

  • 別紙記載の不動産(以下、「信託不動産」という。)。
    • 別紙記載の金銭(以下、「信託金銭」という。)。

□(3)信託財産に属する財産の管理、運用、処分、滅失、損傷その他の事由により受託者が得た財産。

  • 受益者が信託目的の達成のために行う、自己が所有する金銭、不動産、債権およびその他の財産を信託財産とする追加信託[2][3]
    • その他の信託財産より生じる全ての利益。
    • 委託者は、本信託について特別受益の持ち戻しを免除する[4][5][6][7][8]
    • 本信託設定日における信託財産責任負担債務は、別紙記載のとおりとする。
    • 【                  】
1―2            信託設定時の信託財産

 信託財産を構成するための要件は、(1)金銭に見積もり得ること、(2)第3者に移転することが出来ることの2つをいずれも満たすことである[9]。(1)は、誰にとって金銭的な価値があればいいのか。原則として受益者にとって(付随して信託目的のために)、と考える。課税対象となるかという観点からは、国税庁の判断が1つの目安となる。

要件を満たす例として、金銭、不動産、債権などが挙げられる[10][11]。満たさない例として生命、譲渡制限や禁止条項のついた預貯金債権などが挙げられる。改正民法においては、譲渡制限のある預貯金債権を信託財産とする信託契約は有効であるが、受託者が悪意又は重過失の場合、債務者に対抗することができない(改正民法466条の5)。

 信託財産は、①委託者の財産から分離可能②受託者による管理ができる③承継できる価値がある、の3つがあれば良いという見解がある[12]。例として価値のない紙幣や大事な系譜の一部が挙げられているが、委任契約や遺言、法人制度の利用でも目的は達成できる。条件付きの贈与契約でも目的を達成できる可能性がある。信託財産になるかと問われた場合、信託財産にすることもできる、という回答をすることになる。受益者連続型の信託利用を想定しているとしても、受益者は受益権を放棄できることから、敢えて信託財産にする必要性、受益者のためになるのか、受託者の財産と別扱いで管理する意味はあるのかを再考する必要がある。ただし、主たる信託財産が金銭や不動産であり、それと共に価値のない紙幣や大事な系譜を加えることは、契約当事者の意思であり問題はない。

なぜ、ある財産を信託財産にしなければならないのか。信託財産を構成した結果、現れる効果は①目的達成のために、委託者の財産から分けることが必要であり(委託者の破産や死亡など)、②管理処分行為を託された者については、利益を受ける受益者のために適切な義務を規定することができるとの結論に辿り付く。

2     債務
2―1            債務は信託財産となりうるか

 信託法36条は、「委託者又は受益者は、受託者に対し、信託事務の処理の状況並びに信託財産に属する財産及び信託財産責任負担債務の状況について報告を求めることができる。」として、信託財産に属する財産と信託財産責任負担債務を分けていることから[13]、債務は信託財産とはなりえない。

受託者が債務引受をして、その債務を信託財産責任負担債務とした場合は、受託者は信託財産としてではなく、信託の目的に沿って管理・処分していくことになる。

2―2            信託財産責任負担債務

 信託設定前の抵当権は、受託者が債務を負うわけではないので、負担のついた信託財産である[14]。抵当権が登記されているのみの段階では、債務を負うのは受託者および信託財産ではなく、債務者である。被担保債権に係る債務が履行遅滞に陥っている場合は抵当権実行の可能性が高まり、信託法21条1項2号の信託財産責任負担債務となる。しかし履行遅滞に陥っている債務を負っている委託者が信託行為を行うことは、詐害信託の恐れがある。結果として信託設定前の抵当権を信託法21条1項2号の信託財産責任負担債務として処理することは不可能である。抵当権の被担保債権に係る債務については、債権者の承諾を得て信託行為に記載し、信託法21条1項3号の信託財産責任負担債務とする。

 なお信託設定前の抵当権は、信託設定前に生じた権利であり当然に信託法21条1項2号の信託財産責任負担債務を構成するという説もある[15][16][17]

図 2信託財産責任負担債務の構成(信託法21条)

2―3            信託財産責任限定債務

図 3 信託財産責任限定債務の構成

3     占有の承継
3―1            条項例

(信託財産に属する財産の占有の瑕疵の承継)

第○条 受託者は、信託財産に属する財産の占有について、委託者の占有の瑕疵を承継する。

不動産が信託された場合、自己信託を除いて、受託者は不動産の占有についての瑕疵を委託者から承継する。占有について瑕疵のある不動産を信託しても信託契約の当事者以外に対して、信託財産であることの対抗することができない。なお信託法15条は、信託設定時の信託財産に関する規定であり、信託設定後は受託者の信託事務処理に対する規律に従う。

4     信託財産に関するリスク

信託財産に関するリスクとして1点信託金銭に関して信託財産の独立性が担保される措置が可能かを挙げる。

5     リスクに対する対応

1点目に関しては、口座開設の要件として(1)受託者個人の口座が差押えを受けたとしても、信託専用の口座はその影響を受けないこと、(2)金融機関が受託者個人に対して有している債権を自働債権、信託財産を受働債権として総裁が行われないこと(3)受託者が亡くなった際、相続を証する書面を不要として、受託者の死亡が分かる書類と新受託者の就任承諾書の提出および身分証明書の提示で受託者の変更ができること(4)受益者が亡くなった際、相続を証する書面を不要として、受益者の死亡が分かる書類と受益者の身分証明書の掲示をもって受益者の変更又は残余財産の引き渡しが可能であることが求められる。口座名義は問わない。また受益者個人の通帳を管理する者が誰であるか、管理可能かを確認する必要がある。

6     信託財産目録・信託財産責任負担債務目録
6―1            信託財産目録の例(チェック方式)

別紙

信託財産目録

第1 不動産【自宅・貸地・貸家・墓地・         】

所在 地番 地目 地積       

所在 家屋番号 種類 構造 床面積[18] 

第2 金銭  

【金額】円

第3 その他

【仏壇・位牌・     】

以上

6―2            信託財産責任負担債務目録の例(チェック方式)

別紙

信託財産責任負担債務目録

□ 1  金銭債務

    (連帯)債務者 【住所氏名】

     債権者    【金融機関本店】【金融機関名】【取扱店】

    【契約年月日・契約の種類】に基づく残債務の全て

    【当初金額】万円

    【利息】【損害金】

□2 保証債務

   (連帯)保証人 【住所氏名】

   (連帯)債務者 【住所氏名】

    債権者     【本店】【商号】【取扱店】

   【契約年月日・契約の種類】に基づく残債務の全て

   【当初金額】万円【利息】【損害金】

□3 担保権

(1)担保権者 【本店】【商号】【取扱店】

(2)【年月日】設定の【担保権の名称】

(3)登記 【法務局の名称】【年月日】【受付年月日・受付番号】

(4)被担保債権及び請求債権

   【年月日】付【契約名】に基づく残債務の全て

   【当初金額】万円 【利息】【損害金】

(5)(連帯)債務者 

   【住所】【氏名】

(6)不動産                                                               

   所在 地番 地目 地積 共同担保目録第【番号】号

   所在 家屋番号 種類 構造 床面積 共同担保目録第【番号】号

□4 その他の債務

  不動産の賃貸借契約にかかる債務[19]

  【管轄法務局名・受付年月日・受付番号】登記済み[20]

  【賃料】

  □【存続期間・支払時期】

  □【賃借権の譲渡許可・賃貸物の転貸許可】

  □【敷金】

  □【賃貸人が財産の処分につき行為能力の制限を受けた者・財産の処分の権限を有しない者】

   □【土地の賃借権設定の目的が建物の所有】

   □【土地の賃借権設定の目的が事業用建物の所有】

   □【借地借家法22条前段・23条1項・38条1項前段・39条1項・高齢者の居住の安定確保に関する法律52条・大規模な災害の被災地における借地借家に関する特別措置法第7条1項】

 □地役権の目的となっている承役地[21]【所在 地番 地目 地積】

  【管轄法務局名・受付年月日・受付番号】登記済み

  【要役地】【地役権設定の目的】

   □【地役権の付従性の制限】

   □【工作物の設置義務等】

   □【図面確認】

 □地上権の目的となっている土地

 【管轄法務局名・受付年月日・受付番号】登記済み

  【地上権設定の目的】【地代又は支払い時期の定め】□【存続期間・借地借家法22条前段の定期借地権・借地借家法第23条第1項の事業用借地権・大規模な災害の被災地における借地借家に関する特別措置法第7条2項】の定め

  □【地上権設定の目的が事業用】[22]

  地下又は空間を目的とする地上権の場合[23]□【地下の上限の範囲・空間の上下の範囲】□【土地への制限】

□ 信託不動産の各賃貸借契約にかかる各敷金返還債務[24]

□ 信託不動産の各賃貸借契約にかかる各保証金等の預り金についての返還債務

□【                        】

以上

6―3            追記 不動産登記記録中の信託目録に共同担保目録のような一覧性を持たせるための信託契約書の条項例

信託財産

第○条

1 本信託における財産は、次の第1号から第3号までとする。

  • 所在 地番 地目 地積
    • 所在 地番 地目 地積
    • 所在 家屋番号 種類 構造 床面積

 信託目録中のその他の事項欄に、信託契約における全ての信託不動産を記録することができ、どの不動産が同一の信託なのか分かりやすくなる。信託不動産に変動がないには有効だが、売却や信託財産の変更などがあった場合は、全ての不動産の信託目録変更登記が必要となることに留意する必要がある。


[1] 信託法16条、民法89条。

[2] 追加信託の法的な構成は、新たな信託設定と信託の併合を同時に行うものとして道垣内弘人『信託法』2017有斐閣P398。

[3]信託法16条1項1号の「その他の事由により受託者が得た財産」も追加信託に含まれるものとして、遠藤英嗣『家族信託契約』2017日本加除出版P123。

[4] 民法903条3項但し書。中田直茂「遺言代用信託の法務」『金融法務事情2074』2017金融財政事情研究会。

[5]道垣内弘人『信託法』2017有斐閣P63は、死因贈与。

[6]能見喜久「財産承継的信託処分と遺留分減殺請求」『信託の理論的進化を求めて』2017トラスト未来フォーラム研究叢書P123は、遺贈と生前贈与の中間であり、死因贈与に近いので、死因贈与に類する扱いをすることになろう、とする。

[7][7]岩瀬美智子「遺言代用信託についての遺留分に関する規律のあり方」『信託法研究41号』2016信託法学会P37は、委託者の権利が制限されていない原則的な規律による遺言代用信託については、遺贈とする。

[8] 注4から注7までのどの見解を採っても、遺留分減殺請求の順序には影響を及ぼすが、特別受益となる。

[9]四宮和夫『信託法〔新版〕』1989有斐閣P133

[10] 情報についてトラスト未来フォーラム76 三枝健治「情報の信託「財産」性についての一考察」

[11] 人格権について米村慈人「人格権の譲渡性と信託」水野紀子ほか『信託の理論と現代的展開』

[12] 遠藤英嗣『新しい家族信託』2016日本加除出版P102

[13] 民法177条。道垣内弘人『信託法』2017有斐閣P33

[14]道垣内弘人『信託法』2017有斐閣P120

[15]寺本昌広『逐条解説新しい信託法』2008商事法務P84

[16]村松秀樹他『概説新信託法』2008金融財政事情研究会P56

[17]伊庭潔『信託法からみた民事信託の実務と信託契約書例』2017日本加除出版P261

[18] 未登記建物の場合、固定資産評価証明書などから所在・構造・床面積を特定し、未登記である旨を付記する。表題、権利登記申請については、横山亘『信託に関する登記』2016テイハンP286~。

[19] 賃借人に使用収益させる(改正民法601条)、修繕義務(改正民法606条本文)、必要費の償還(民法608条)、

[20] 民法177条、借地借家法10条。

[21] 民法210条、280条。

[22] 不動産登記法78条1項4号、借地借家法23条1項、2項。

[23] 民法262条の2

[24] 改正民法605条の2第4項

前文及び信託の目的

民事信託契約書のうち、前文及び信託の目的を取り上げる。

1     前文
1―1            条項例

・委託者【氏名】と受託者【氏名】は、以下のとおり、信託契約を締結した[1][2]

・委託者【氏名】(以下「委託者」または「委託者【氏名】」という)は、受託者【氏名】(以下「受託者」または「受託者【氏名】」という)に対し、第1条記載の信託の目的達成のため、第2条記載の財産を信託財産として管理処分することを信託し、受託者【氏名】はこれを引き受けた(以下「本信託契約」という。また、本信託契約に基づいて設定された信託を「本信託」という。)[3]

・委託者【氏名】は、その所有する財産を信託財産とする信託契約を、受託者【氏名】と締結する(「以下、本信託」という)。本信託はこれにより効力を生じ、委託者は受託者に対して信託財産を引き渡す。

(前文+目的)

・第○条

委託者【氏名】(以下「甲」という)は、財産の管理・処分を目的として、本信託契約第○条記載の【氏名】の財産(以下「信託財産」という)を受託者【氏名】(以下「乙」という)へ信託し、乙はこれを受託し、次のとおり信託契約(以下「本信託契約」という)を締結した。

 本信託契約の締結により、甲の判断能力が低下したとしても、さらに甲が死亡した後においても、信託された不動産においては乙がその必要性を認識したときに確実に売却することを目的とする[4]

1―2            前文の意義

 日本国憲法における前文は、必ずしも具体的な法規を定めたものではないが、その法令の一部を構成し、各条項の解釈の基準を示す意味を持つ[5]

 法令に前文がある場合、各本条の前に置かれ、その法令の制定の趣旨、目的、基本原則を記載することが多い。ただし、近年は見出しを目的、基本原則などとして第1条に置くものが多い。

 前文の内容から直接に法的効果が生じるものではないが、その法令の一部を構成するものであり、各条項の解釈の基準を示す意義・効力を持つ。改正について憲法改正、法令改正の手続きを必要とする。

 契約書に前文を置く場合、契約の当事者及び法的性質を示すのが最低限の役割となる[6]。契約締結に至った経緯、契約の理念等を記載する際は、分けて考える必要がある。経緯・理念等が契約書本文の各条項を解釈適用する上で重要な意味を持つ場合は、その理由を付して契約書本文に条項として組み入れることを検討する必要がある。その他の場合は、和解契約における道義条項に類似するものとして、前文に記載するのが適当である[7]

図 1民事信託契約書における前文と信託の目的条項の位置付け

2     信託の目的
2―1            条項例

(信託の目的)

第○条

1          本信託の目的は、次のとおりとする。受託者は、信託の目的に従い信託財産を管理、運用、処分およびその他の目的達成のために必要な行為をする。

(1)受益者とその家族(扶養親族[8])の安定した暮らし。

(2)財産の円滑な管理および承継。

(目的)

第○条 本信託は、次の事項を目的として、第○条記載の信託財産を受託者が管理、運用、処分する。なお、第1号を優先する。

(1)信託した不動産の賃貸による受益者の生活の安定。

(2)信託した不動産の売却による受益者の生活の安定。

2―2            一定の目的が、信託行為にどのようにして現れるか

 信託法2条における「一定の目的」は、受託者の従うべき行為基準となる。信託行為の中で、受託者がどのように行動することが求められているのかが記載されている部分が一定の目的である。

 受託者は、委託者がいなくなったとしても信託行為の際に作成された文書を理解し、受益者のために行動することが必要とされる。

 信託契約書に、受益者の安定した生活に資する、と抽象的な記載があり、その他に受託者の具体的行為の定めがない場合には、これが信託目的となり、受託者はその都度この信託目的を解釈しながら信託事務を執行していくことになる。

 受託者の具体的行為として、受益者への毎月○○万円を上限とする生活費の給付、預金として管理する、不動産は賃貸不動産の○○の管理のみ第三者へ委託する、などの定めがある場合はどうか。受益者の安定した生活に資する、という記載を大枠に考え、生活費の給付などを行うことが目的となる。

2―3            信託行為時の信託の目的条項の定め方

 信託の目的の複数記載、並列的記載、事情変更による信託の目的の変更は認められる。[9]

 信託の目的は、当該信託の指針であり行動基準[10]との考えがあるが、「受託者の」行動基準であり、信託財産の管理、運用、処分及びその他の信託目的達成のために必要な行為をするための定めのことを指していると考える。

 まとまりのない信託の目的は困る、願いと目的は明らかに違う、情緒的で重複気味なものは困る[11]という考えがある。しかしまとまりのない信託の目的も受託者が理解し受益者のために信託事務を行うことが可能であれば有効であり、信託行為時における願いと目的の違いは明らかではない。委託者が願いを記載することにより、受託者がそれに従い行動できるのであれば、その願いが信託の目的となる。ただし、後任受託者や次順位の受益者(指定がある場合)が読んで理解できるような記載が求められる。

 情緒的で重複気味の記載があっても同じである。他に受託者の信託事務に関する記載がなく、その中から受託者が具体的行動を起こすことが可能であれば、情緒的で重複気味の記載が信託の目的となる。

民事信託契約書の条項に、「信託の目的」がない場合はどうか。ないとしても、受託者の信託事務などで信託の目的が明らかであれば、その信託は一定の目的を持つ信託として有効となる。例えば、受託者の信託事務条項に「受託者は、その裁量により信託不動産を管理・運用・処分することができる。ただし、信託金銭が○○万円以下になり受益者の安定した生活が保てなくなる場合に限る。」との定めがあれば、受益者の安定した生活が信託の目的となり、受託者はそのために信託金銭および信託不動産を管理・運用・処分する。

 また「信託の目的」条項がない民事信託契約書において、信託財産に不動産が含まれれる場合、信託登記

 受益者が複数いる場合に、信託の目的条項の中に「特に高齢の受益者を支援する」など具体的に記載し、一方の受益者から受託者の公平義務違反が問われないようにする、との考えがあるが、[12]記載があれば公平義務違反に問われないとは限らない。

図 2同一の信託行為における公平義務の位置付け

 記載があっても「受益者らへの生活費などの給付は、受託者の裁量による」と定められている場合には、劣後する受益者からは、受託者の判断基準が明確ではないとして公平義務違反または善管注意義務違反を問われる可能性がある。

 そのような記載がなくとも、受益権が金銭給付の一種類であれば、一方に月10万円、一方に月20万円を給付すると信託行為で定めても公平義務には問われない。高齢の受益者に給付する金額を高くするのであれば、受託者に問われる可能性があるのは善管注意義務違反である。公平義務違反が問われる場合としては、信託金銭が1000万円、収支がプラスマイナスゼロにも関わらず高齢の受益者に対して20万円を超える不必要な金銭(例:新車の購入代金)を給付したときなどを想定することができる。

2―4            (専らその者の利益を図る目的を除く。)について

 かっこ書きが入ったのは、その者(受託者)が利益を長期間に渡って得ると、信託財産の独立を基礎づけることができず、信託が成立したとはいえないので改正によりそのことを明確にしたとされている[13]

 アパートを信託した場合、受託者が賃料の全てを実質的に取得することができるような信託行為は成立しないと考えることが出来る。受託者=所有者とほぼ同義になり、信託財産の独立が保てないからである。

 専らとはどの程度なのか、参考となるのは信託法163条2項である。受託者が受益権の全部を取得しても、1年以内でその状態の解消が、売却などによって予定されているならば有効だとされている[14]。これは実務上のニーズから生まれたものであるが、法律が期間の限度を示しているものと考えることができる[15]。 

 この点から、割合については信託目的との関係もあるが、2分の1を超える同一種類の受益権を1年以上取得し続けていると「専ら」と指摘される可能性があることを一つの基準と考える[16]。なお、信託設定後は信託法8条によって処理される。

2―5            信託の目的が信託行為の時とは違う基準として使われる場合

信託の存続可能性を判断する際の基準として、信託法149条(関係当事者間の合意等)2項1号、同項2号、同条3項2号、150条(特別の事情による信託の変更を命ずる裁判)1項、163条(信託の終了事由)1項。

3     信託の目的に関するリスク

 ここでは5点のリスクを挙げる。1点目は公序良俗による制限(民法90条)である。信託の目的に記載があるものとして、「信託財産の運用のため、受託者は麻薬の売買を行う」、「信託財産の運用益は、各賭博場の主催者に交付する」などが挙げられる。信託の目的に記載はなくとも、信託設定の動機が公序良俗に違反する場合として、委託者が受益者に賭博による借金を背負っていて、返済手段として信託の目的に「信託財産を株式に投資して毎年の利益を受益者に交付する」などが挙げられる[17]

2点目は脱法信託(信託法9条)である。反社会的勢力が、一般市民を委託者、受託者として自らは受益者となる場合などがある。受益者ではなく指図権者となっている場合も、所有しているのと同一の利益を享受しているのならば、本条の適用対象となる可能性がある。信託財産について特許権法25条など法律上の権利に関する資格制限がある場合に、信託を利用してその権利を持っている状態(受益者が25条に規定する「日本国内に住所又は居所(法人にあっては、営業所)を有しない外国人」で受益権が特許権の利用の場合)にある場合も本条の適用対象となる。また、信託の目的条項に不動産流通税の節税、などと記載がある場合は、削除するか不動産の円滑な承継などと訂正する必要がある。なぜなら不動産取得税、譲渡取得税が非課税となるのは、信託の目的を定めた信託行為に対して、法律の定めにより非課税となる、という順序を辿る。節税を信託の目的として信託行為を行った結果、非課税となるわけではない。よって信託の目的として脱法と指摘される可能性がある。

 3点目は訴訟信託(信託法10条)である。信託行為時における主たる目的が訴訟行為[18][19]であった場合、その信託は無効となる。

 4点目は詐害信託(信託法11条)である[20]。信託法11条の適用対象は図3に示す。

図 3 信託法11条の構造

 5点目は信託の目的が、信託の変更及び終了(信託法149条、150条、163条)事由となり得ることである。ここでいう信託の目的は、信託法2条1項における「一定の目的」と同義であるのか明確ではない。明確ではない事由が起こった場合に信託の変更又は終了が信託行為の内部の者の間でなされると、外部関係者が予期しない不利益を受ける可能性がある。逆に信託の目的が「受益者が20歳になるまで月20万円の学費の助成」など明確な場合は、信託の目的に反するか反しないか、受益者又は受託者の利益を害さないか、目的達成か不達成かの判断を行いやすくなる。

4     対応
4―1            専門職及び金融機関の対応方法

 1点目の公序良俗による制限(民法90条)に対しては、公序良俗違反により無効となった場合に備えて、委託者、受託者及び受益者に表明保証条項および違反にかかる損害賠償条項、口座の閉鎖条項を定める。貸付けがある場合または貸付けの予定がある場合は、相殺条項を定める。信託口口座開設時に、相殺に関する受託者の事前承諾を求めるなどの対応を考える。

 2点目の脱法信託(信託法9条)に対しては、信託財産について特許権法25条などの所有の資格制限がないかの確認、受益者及び受益権の内容の確認が必要となる。

 3点目の訴訟信託(信託法10条)に対しては、信託設定の経緯、信託行為時における信託目的、他の信託条項との総合解釈、受託者の職業、委託者と受託者との関係などの確認[21][22]が求められる。

4点目の詐害信託に対しては、委託者の負債(保証を含む)及び責任財産の確認をする、表明保証条項を設ける、などにより対応する。

5点目の信託の目的が信託の変更及び終了事由となり得ることに対しては、(1)信託法149条4項による定めを設ける、(2)当事者間では重要な変更ができないように金融機関への事前または事後の報告義務を必要とすることを定める、(3)信託法150条の申立てをする前に、金融機関へ事前または事後の報告義務を課することを定める、(4)信託法163条1項1号による終了による場合は、金融機関への事後報告の義務を課することを定める、などの対応が考えられる。

4―2            追記・不動産登記における信託の目的

 信託の目的条項がない民事信託契約書において、信託財産に不動産が含まれているとき、信託目録中の信託の目的(不動産登記法97条1項8号)を登記申請できるか。民事信託契約書中に、受託者が信託財産(信託不動産)の管理又は処分をする旨が記載されている場合は、信託登記の申請情報において信託の目的を抽出し、記載して申請することが可能と考える(登記原因情報として民事信託契約書または別途登記原因証明情報を作成し添付する)。受託者が行うその他の信託目的の達成のために必要な行為についても同様と考える。

 また、受託者が信託不動産の処分(売却等)を行うためには、信託目録中の信託の目的欄に「処分」の記録を要するという考えがある[23][24]。しかし、信託登記は信託行為後に行われるのであり、信託の効力が発生しているということは、信託法2条1項における「前略―財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為―略―」を行う権限が受託者に付与されていることを意味する。

 よって、信託目録中の信託の目的欄に記載すべきは、「処分できること」ではなく(任意的記載事項となる。)、受託者による信託財産の管理又は処分その他の当該目的の達成のために必要な行為の「制限」であると考える。信託目録中の信託財産の管理方法(不動産登記法97条1項8号)についても原則として受託者は信託法26条の信託財産に属する財産の管理又は処分及びその他の信託の目的の達成のために必要な行為をする権限を持つ[25]。従って、記載すべきは受託者の権限に対する制限、受益者が受託者の行為によって権利を有することがないにも関わらず信託行為によって認められる権限、及び登記先例上必要な記載[26]となる。


[1] 新井誠編『高齢社会における信託制度の理論と実務』2017日本加除出版P179

[2]伊庭潔『信託法からみた民事信託の実務と信託契約書例』2017日本加除出版P117

[3]遠藤英嗣『家族信託契約』2017日本加除出版P204

[4]杉谷範子『空き家にさせない!「実家信託」』2017日本法令P221

[5] 参考として『法律学小事典』2016有斐閣

[6] 田中豊『法律文書作成の基本』2011日本評論社P342、『民事訴訟における事実認定』2008法曹会P210

[7] 『書記官事務を中心とした和解条項に関する実証的研究』2002法曹会P38

[8]受益者に扶養親族である配偶者などを含めることなく、信託財産から(受益者の個人通帳を経由して)扶養に掛かる費用を支出するために記載。

[9] 「信託の目的の定め方の相談に答える」遠藤英嗣『信託フォーラムvol.7』2017日本加除出版

[10] 「信託の目的の定め方の相談に答える」遠藤英嗣『信託フォーラムvol.7』2017日本加除出版

[11]遠藤英嗣「信託の目的の定め方の相談に答える」『信託フォーラムvol.7』2017日本加除出版。河合保弘『家族信託活用マニュアル』2015日本法令P284を指していると思われる。

[12]遠藤英嗣「信託の目的の定め方の相談に答える」『信託フォーラムvol.7』2017日本加除出版

[13] 別冊NBL編集部『別冊NBL104号信託法改正要綱試案と解説』2005(株)商事法務P75

[14] 村松秀樹ほか『概説信託法』平成20年(株)きんざい P5

[15]『信託法改正要綱試案と解説』P208要綱試案の段階では、必要な期間とされている。

[16]参考として信託法113条。

[17]道垣内弘人「信託法入門」2007 株)日本経済新聞社P57~P58

[18] 破産手続開始、強制執行について最判昭和36年3月14日。

[19] 更生債権の届出について最判昭和42年5月23日。

[20] 委託者と受託者が共に悪意の場合について、道垣内弘人編著『条解信託法』2017弘文堂P67。

[21] 寺本昌弘『逐条解説 新しい信託法』2007(株)商事法務P54~P55、前掲別冊NBL104号P22

[22]道垣内弘人編著『条解信託法』2017弘文堂P62

[23]杉谷範子『空き家にさせない!「実家信託」』2017日本法令P177、斉藤竜『ゼロからはじめる「家族信託」活用術』2018税務研究会出版局P138など。

[25] 七戸克彦監修『条解不動産登記法』2013弘文堂P604

[26] 登記研究604号121号、659号171号など。

民事信託・家族信託契約書の標準化試論

はじめに

1    民事信託契約書のアウトライン
1―1               典型契約・有名契約(信託法2条2項1号、4条1項、信託業法2条1項、8項、3条、7条、50条の2、商法502条13号)

 信託法という法律に規定のある典型契約であり、名称が定義されている有名契約です。私法上の権利義務関係を扱うのは営業信託も同様であり、民事という用語は本来不要です。現在のところ、信託の引受けを行う受託者の範囲を限定するという意味で利用されています。

 なお、当事者の性質に着目すると、個人対個人の契約は消費者契約法の適用がある民事契約・消費者契約となります。

1―2               不要式契約・諾成契約(信託法第4条1項)

 民事信託契約の様式について、信託法に定めはなく、不要式契約とされています(ただし、自己信託は要式契約です。信託法3条1項3号、信託法施行規則3条)。また委託者と受託者の意思表示のみで効力を生じる諾成契約です。

1―3               有償契約[1](信託法2条1項)

 委託者は、所有する財産を信託財産とし、受託者は、その財産の管理または処分などを行う権利義務を引き受ける有償契約です。

1―4               双務契約(信託法2条1項)

 委託者は、所有する財産を信託財産とする義務を負います。受託者は、信託目的に従って信託財産を管理または処分などを行う義務を負います。契約当事者の双方が互いに債務を負担する双務契約です。

1―5               処分証書

 信託契約が行われたことを示す意思表示その他の法律行為が記載された文書であり、処分証書です。

1―6               契約自由の原則(契約締結の方式の自由)

 民事信託契約を締結するか、受託者は誰にするか、どのような内容の信託契約を締結するかは、委託者と受託者の自由な意思に委ねられ、契約自由の原則が働きます。例え不備がある信託契約であっても、違法でなければ契約の効力は生じます。不備な部分は効力が生じない、または契約当事者及び受益者が不利益を被るという結果を導きます。

2    標準化に対する見解の相違
2―1               肯定(積極説)と否定(消極説)の主な見解

私が拾うことの出来た主な見解をまとめると、図1のようになります。

図 1肯定(積極説)と否定(消極説)の主な見解

肯定(積極説) 否定(消極説)
・新井誠編『民事信託の理論と実務』2016日本加除出版(株)P22大垣尚司氏発言「民事信託は、商事信託と異なり約款等による契約の標準化がなされないため、契約コストが大きくなると同時に、不備の可能性も高まる。このため、弁護士・司法書士や研究者が率先してさまざまな種類の民事信託にかかる契約を起草・公開して、契約内容の標準化を図る努力が欠かせない。」 同書P278「なお、こうした自己信託の持つ匿名性は財産秘匿等の濫用に対する抽象的な懸念につながる。少数の不適切な利用例のために自己信託全体が「いかがわしいもの」と見られることのないよう、制度に対するリテラシー向上のための努力や設定証書の標準化等の努力が欠かせない。」   宮田浩志『家族信託まるわかり読本』2017近代セールス社P111~ 「問題の多い契約書のひな型がインターネットや書籍等で出回っているのも事実です。」
・渋谷陽一郎『民事信託における受託者支援の実務と書式』(株)民事法研究会 P12「民事信託のベストプラクティス③ 標準的な信託条項は存在するか  「それぞれの信託財産の信託類型に応じて民事信託の信託条項は、実務上、標準化されつつある。民事信託は長期にわたる財産管理の仕組みとして、実務に必要不可欠な信託条項がある。そのような必要不可欠な信託条項は、個別の信託でさほど異なるわけではない(微調整は必要となろうが)。独創的な信託条項をつくろうとして、必要不可欠な信託条項を欠落させてしまっては元も子もない。まずは標準化されつつある信託条項が、実務上、どのように機能しているのかを理解したい。  なお、標準化された信託条項の場合、―略―契約締結事務の法律事務性が低くなるので、当該契約に対する支援者の範囲を広げることになりうる。いわゆるオーダーメイド型の契約書の起案は、実質的に新たな法律関係の形成に関与することになる場合があり、法律事務として当該契約に対する支援者の範囲を狭める結果となろう。」  
・渋谷陽一郎『民事信託の実務と書式』2017民事法研究会 P43「支援者業務の価値(報酬額)を高めるため信託契約のオーダーメイド性が強調される場合があるが、その結果として、法律事務や法律相談に関する規制処方(代表的には弁護士法72条本文など)に抵触するリーガル・リスクを高めるというパラドクスがある。民事信託の普及のための標準化(それによる低額化)が重要なゆえんである。」 ・遠藤英嗣『家族信託契約』2017日本加除出版P47「家族信託の契約は、依頼者の考えや要望をもとに自由な発想により1つ1つオーダーメイドで製作され、同じものは二つとない。」    
渋谷陽一郎『民事信託のための信託監督人の実務』P17 「財産管理の実務はアートではない。民事信託の契約書は、具体的で継続的な民事信託の現実の実務の集積の上に成り立っている。個々のリスクが検証され標準化された民事信託の契約書があり、それを事例に応じて修正することで個別の民事信託契約書ができる。-中略―また、各資格者の業務の適法性のためにも、標準化が必要となる」  
・『高齢社会における信託制度の理論と実務』日本加除出版(株)P131~ 「家族信託を普及するために、考えるべきことは、「単純でわかりやすい信託契約」を作成することである。まず信託目的を絞ること。様々な目的を一つの信託契約に盛り込もうとしても、複雑でわかりにくくなり、想定外の事態に対処することが困難になる  また、受託者や受益者は複数を避けたり、信託期間も出来るだけ短い期間としたり、受託者の変更などはなるべくせず、受託者や受益者の死亡など、異例な事態が生じた場合には、ただちに終了にすることなどの考慮が必要である。  そして金融機関としての「ひな形」を作成しておき、個別の信託契約の大きな差異が生じないようにすることが必要と思われる。」吉原毅城南信用金庫相談役「家族信託の発展と金融機関の対応について」より一部抜粋  
2―2               用語、意味、使用例

図 2用語、意味、使用例

用語[2] 意味[3] 使用例
雛型 物の手本、様式、書式 なし。
書式 証書・願書・届書などの、書き方のきまり。   ・NPO法人遺言・相続リーガルネットワーク編『実例にみる信託の法務・税務と契約書式』2011日本加除出版 ・(一社)民事信託推進センター編『有効活用事例にみる民事信託の実務指針』P77第3章事例にみる民事信託の実務と書式。
標準  標準には、強制的なものと任意のものがあり、一般的には任意のものを「標準(=規格)」と呼んでいます。標準化の意義は、自由に放置すれば、多様化・複雑化・無秩序化してしまうモノやコトについて ・経済・社会活動の利便性の確保(互換性の確保等) ・生産の効率化(品種削減を通じての量産化等) ・公正性を確保(消費者の利益の確保、取引の単純化等) ・技術進歩の促進(新しい知識の創造や新技術の開発・普及の支援等) ・安全や健康の保持 ・環境の保全等 上記の観点から、技術文書として国レベルの「規格」を制定し、これを全国的に「統一」または「単純化」することです。    一例ですが、トイレットペーパーのサイズは日本のJIS規格によって標準化されています。114mmと決められています。真ん中の空洞部分の直径は38mmのものが主流です。直径はロールの状態で120mm以下と定められています。この標準化により、日常生活でどこのメーカーの商品を買ってもホルダーに取りつけることができ、困ることなく使用することができます[4] なし。  
定型 きまったかた。一定の形・型。 なし。
オーダーメイド 和製語。注文によって作ること。また、その品。 遠藤永嗣『家族信託契約』2017日本加除出版P21。
契約書例[5] 1、契約の成立を証明する書面。 2、民事訴訟法学では、意思表示ないし法律行為が記載されている文書(処分証書)[6] 堀鉄平ほか『相続対策イノベーション!家族信託に強い弁護士になる本』2017日本法令P64。 ・伊庭潔『信託法からみた民事信託の実務と信託契約書例』2017日本加除出版
条項例 1、箇条にした項目。条目。 2、[7]本来は、法令の規定中の「条」と「項」を指すが、実定法上「条項」と用いられるときは、「条規」と同じく法令の規定という意味。 ・渋谷陽一郎『信託目録の理論と実務』2014民事法研究会P98、P166など。
モデル 型、型式。 模範、手本。 ・日本司法書士会連合会 財産管理業務対策部民事信託業務モデル策定ワーキングチーム「民事信託の実務」2017年「はじめに」より太線筆者―「連合会としては、「民事信託の普及」という目標を一定程度達成した今、実務に対応できる事例、契約書案、契約書の解説、登記及び税務、司法書士の関わり方を示す時期にあると考え、今般、民事信託の業務モデルを作成する運びとなりました。第1弾として「高齢者の財産管理~自宅不動産の管理処分信託~」の事例を紹介させて頂きます。」―
2―3               民事信託契約の成立過程[8]

本稿では、大まかに3つの過程を辿るものとします。

(1)契約当事者の契約関係

(2)契約書原案又は骨子の準備

(3)契約の背景と内容について資料、インタビューなどによる捕捉、加除修正。

2―4               民事信託契約を契約書にする目的[9]

(1)契約当事者間における行為規範の明確化

(2)危急時または紛争発生時における裁判規範の明確化

2―5               民事信託契約書の特徴

 主に親族間の契約であり、既に何らかの関係があります。そして民事信託を設定した後も、その関係は続きます[10]。そのため民事信託契約書の本文では、当事者間の行為規範を明確にすることに焦点を当て、民事信託の中における委託者、受託者、受益者その他の関係人の権利義務を具体化することが必要と考えられます。

 全く同じ親族間の関係というものはありませんが、解決したい問題や叶えたい希望は一定の範囲で分類することができるものと考えられます(家庭裁判所における調停、審判は分類されています)。

2―6               民事信託契約書の全体的構成

本稿では、6部構成を採ります[11]

(1)表題

(2)前文

(3)本文

(4)後文

(5)日付

(6)署名(記名)押印

3    1、2、を踏まえて
3―1               違うのか?同じではないか。

(1)図1の肯定と否定の主な見解は、真っ向から反対の立場を取っているように読めます。

 しかし、宮田浩志『家族信託まるわかり読本』では、活用事例を無限ではなく22に絞っています。そこには依頼者のニーズが多い、活用しやすいなど何かしらの理由があると考えられます。また事例ごとに、契約書の様式も自ずと一定範囲は決まってくるではないかと考えることもできます。

 遠藤英嗣『家族信託契約』の見解は、信託契約だけでなく、契約書全般に対していえることです。売買契約書、金銭消費貸借契約書においても、個人間の契約の場合、専門職が作成する契約書は依頼者の考えや要望をもとにします。自由な発想は、信託法その他の法規に反しない限り、という注釈が必要です。

(3)図2の用語の意味や使用例をみると、「雛型」、「標準」、「定型」の使用例がありません。あれば、どなたか教えて下さい。

「雛型」に関しては、写して(コピー&ペーストして)終わり、というあまり良くないイメージがあるから、という理由を考えることができます。

「モデル」は、司法書士が司法書士に向けたものであることを考慮する必要があります。

 「標準」、「定型」は、なぜ使用されていないのでしょうか。又は使用されているとしてもあまり目立つことがないのでしょうか。私見ではありますが、まだニーズが掴みきれていないこと、ニーズを形にするには時間、量ともにまだ足りないことが1つ考えられます。

 しかし、それは「標準」、「定型」を研究し実現するという目的を妨げるものではなく、民事信託に関わる人の利益を考えるなら非難されるものではありません。

3―2               今後の展望

(1)民事信託実務の中で、その目的を反映し合理的であると考えられる契約書の様式が生き残る[12]

(2)民事信託契約書の様式は、法律文書であることの普遍性と、時代による変化を伴う。よって標準契約書などの作成ではなく、契約書などの標準化を目的とする。

(3)民事信託契約書と契約後の業務の標準化について、「文脈」「論理」が必要。


[1] 道垣内弘人編著『条解信託法』P29

[2] 標準化、定型化の「化」は、形や性質がかわること。かえること。新村出編『広辞苑第五版』1998岩波書店

[3] 特に注釈がない場合は、新村出編『広辞苑第五版』1998岩波書店による。

[4] (一社)日本規格協会HP「JISとは」より引用。

[5] 「例」について、過去または現在の事物で、典拠・標準とするにたるもの。新村出編『広辞苑第五版』1998岩波書店。法令用語ではないことにつき、法制執務研究会編『新訂ワークブック法制執務』。2007ぎょうせい。

[6] 田中豊『法律文書作成の基本』2011日本評論社P295

[7] 条項について、法令用語研究会編「法律用語事典」2012)有斐閣

[8] 専門職による提案から始めるものとして、平川忠雄ほか『民事信託実務ハンドブック』

2016日本法令P34~。依頼者のニーズから入るものとして、堀鉄平ほか『相続対策イノベーション!家族信託に強い弁護士になる本』2017日本法令P21~。活用例から入るものとして、遠藤英嗣『家族信託契約』2017日本加除出版P323~

[9]田中豊『法律文書作成の基本』2011日本評論社P306

[10]田中豊『法律文書作成の基本』2011日本評論社P345

[11] 信託法の条文の順に契約書を作成するものとして、伊庭潔『信託法からみた民事信託の実務と信託契約書例』2017日本加除出版

[12] 参考として、田中豊『法律文書作成の基本』2011日本評論社P340

書籍の紹介『民事信託の実務と書式』

民事信託・家族信託における受託者の善管注意義務・専門家の善管注意義務[1]

参考:渋谷陽一郎(本稿本文では著者と記載します。)『民事信託の実務と書式』2017民事法研究会P7~

1    信託法における受託者の善管注意義務(信託法32条、212条1項、信託業法28条2項)
1―1            信託法における受託者の注意義務
1―1―a       客観的な水準

 受託者は、信託が設定された目的(委託者の意図)を達成するために信託事務を行います。その際の注意義務は、受託者が信託事務を行う際に、注意する、気を付ける客観的な水準[2]とされています。

 たとえ信託契約書に、自己の財産を管理するのと同一の注意をもって信託事務を処理する、と定めていた場合でも、受託者の職業や契約締結時の状況(例:受託者が委託者へ「この注意義務のところは気にしなくてもいいよ。」と言って契約書の読み合わせを行う。)から信託事務と認められず、受託者の個人的な行為として認定される可能性があります。

 裁判官が、受託者に善管注意義務があるのかを判断する基準は、主に2つと考えられます。

(1)もし一般の人がみると、この受託者の仕事ぶりをどう思うだろうか(信託財産が収益不動産3棟もあるのに、管理会社に対する監督が不十分ではないか。信託事務が主に金銭管理で単純なのに、責任が重すぎはしないか。)。

(2)信託契約書の1つの条項ではなく、契約書全体(目的、信託財産や受託者の信託事務など)から導く。

1―1―b       概観(忠実義務との関係)

図 1忠実義務との関係

忠実義務
例示としての 競合行為の避止
例示としての 利益相反行為の制限
信託事務の行為基準として、善良な管理者の注意基準でもって事務など行う、行わない又は第3者へ委託し、監督する(信託法28条、29条)。
個別具体的な判断を求められる場合

 忠実義務が求めるものは、受託者の主観によって受益者の利益になるように信託事務その他の行為をすることです。

 善管注意義務が求めるものは、受託者の就任中に個別具体的な判断が必要な場合に、基準となる客観的な水準です。

1―1―c       自己の財産におけるのと同一の注意との比較

図 2注意義務[3]

注意の種類 善良な管理者の注意  自己の財産に対するのと同一の注意
注意の内容  その人の職業、地位、置かれている状況に応じて普通に要求される客観的な水準。  その人の個別的、具体的能力に応じて要求される水準[4]
1―2            義務違反と責任
1―2―a       義務違反を問う基準となる時

 受託者の行為時とされています[5]。ある信託契約の作成を行った際、委託者兼当初受益者が居住している家屋について、火災保険未加入であることが分かりました。80歳を超えて1人暮らしの方です。

 保険未加入のまま、受益者の居住家屋が自然現象により火災に遭った場合、受託者と私の責任はどのようなものになるのでしょうか。幸い人に不幸はなく、その他の動産などの被害は考えないものとします。

 信託契約書の作成中および効力発生後も何度か私から受託者へ言っているのですが、仕事が本当に忙しいようです。公正証書の作成、信託専用口座の開設手続きも受託者の仕事の都合により遅れてきました。

 行為すべきであるのに行為しなかった場合(保険を掛けるべきであったのに掛けなかった)は、信託の効力発生後1か月経過時に保険加入手続きをしていなければ、その時から義務違反の状態であると考えます。

 それでもこの方が受託者となったのは、受益者が信頼している人が他にいな

いからです。そして信託以外の方法では、解決できない事情がありました。何も

しないことを選択肢に入れた結果、信託がベストと断言は出来ませんが、ベター

だと判断しました(その他に財産管理委任契約、任意後見契約、遺言を公正証書にしています)。

1―2―b       義務違反の効果 損失てん補等(信託法40条、92条、105条、)[6]

   損失てん補等の内容

   ア 信託財産の現状を受託者の個人財産で回復する(100万円が50万円になったら、50万円足す)

   イ 土地を売ってしまって買い戻すことが出来ない、などの場合は、土地の価格相当のお金を、受託者の個人財産から信託財産へ補填する。

 火災の場合、2つの方法を考えることができます。なお2つとも受託者個人の財産から支払う必要があります。

(1)現状の回復をするとすれば、受益者(就任中であれば受益者代理人、契約書の記載次第で法定後見人等)の承諾を得て、以前と遜色のないような家を建築する。

(2)受益者等の承諾を得て、以前と同様な家屋を建築するのに必要なお金を信託財産に入れる。

 上記に加え、受託者は土地の工作物等の占有者及び所有者の責任(民法717条)も負うと考えられます。

1―3            主な判例(業法上の受託者の場合[7]

(1)東京高等裁判所平成17年2月17日判決

 著作権を信託財産とする著作権等管理事業法上の信託契約において、「信託受託者には、著作権を侵害するか否かが問題となった時以降、それを侵害するものか否かについて真摯にかつ具体的に調査検討し、著作権侵害の結果が生じることのないようにする方策をとるべき注意義務がある。」

(2)大阪地方裁判所平成25年3月29日判決

 年金信託における運用受託機関の受託者は、基金よって示された運用指針を遵守し、委託された範囲を超えて助言義務は課されていない[8]

1―4            なぜ、善良な管理者の注意には、「財産・もの」が入っていないのか

 なぜ、善良な管理者の注意は、「他人の財産に対するのと同一の注意」ではないのでしょうか。人(相手方)・財産・ものに対する注意ではなく、その人の職業や地位などに応じて(例え何もしていなくても、対象となる相手が管理時点で分からなかったとしても)生じる注意だと考えることが出来ます[9]。信託法3条3項における自己信託の場合、受益者が委託者及びその家族のときにおける受託者も、原則として善管注意義務を負います[10]

 民事信託契約書における受託者の注意義務として善管注意義務を記載しなければ、金融機関には通用しない[11]との考えもありますが、記載は最低限の(形式的な、受託者に自覚を持ってもらう意味で)義務と考えることもできます。

 記載がなければ信託法上、当然に受託者は善管注意義務を負います。また自己の財産におけるのと同一の注意義務を定めていても、善管注意義務違反を問えるケースはあります。また、義務を軽くしたからといって違反と問われた場合の責任が軽くなるとは必ずしもいえません。定める義務(違反かどうかのメルクマーク)とその義務違反の効果としての責任(具体的には賠償額など)は別に考えます。

1―5            (例)自身が個人タクシーのドライバーであった場合

(1)仕事でお客さんを乗せて運転するとき

(2)自家用車を1人で運転するとき

(3)自家用車に、高齢で後部座席の手すりに捕まっている親とチャイルドシートに乗っている子を載せて運転するとき

 事故が起きた場合、(1)から(3)までの全ての場面において個人タクシーのドライバーとして善良な管理者の注意義務が考慮されます。その責任の軽重は、ケースごとに異なります。

1―6            受託者は、ミスや失敗をしないのか

 私たちが業務上ミスをするように、受託者もミスをします。私が信託契約書を作成した件で、受託者が信託財産であり受益者が居住している家屋に対して、火災保険を掛けていない事例があります。信託の効力発生から6か月が経過しています。

 また受益者代理人が、受益者の個人通帳から受益者に渡す生活費をATMで引き落とそうとして、暗証番号を3回間違えてしまうということがありました。

1―6―a       では、どこまで注意すれば良いのか

 あらゆる事態が想定される以上、ミスは避けられないと考えられます。では、どこまで注意すれば良いのでしょうか。

(例)

(1)委託者自身が管理していたアパートの信託で、不動産の知識がない受

  託者が、信託事務として当初は管理を第3者(賃貸管理専門の業者)

  へ委託する(信託法28条も2項、3項を基に一種の義務と考える)。

   賃貸管理専門の業者をどのように選択するかについては、委託者が懇意

  にしていた宅地建物取引士が推薦する3社の中から説明を聞き、受託者が

  善管注意義務を負って選択する。

(2)非公開会社の株式の信託で指図権の定めがない場合、後継者である受託者

   は、株主総会において議決権を行使する際、会社経営者としての注意をもって行使する(通常求められる注意)。

(3)金銭の信託について、株式投資の経験が豊富な委託者に代わり受託者が信

   託事務を行う際、株式投資を止めること、又は損失の上限を決めて上限に

   達したら次の受益者に通知し、株式投資を止めること(義務水準の限定)。

    損失の上限に達するまでの受託者の信託事務には、通常求められる注

   意が働くと考えます。

1―7            受益者代理人の善管注意義務(信託法140条)

 受益者代理人は、受託者同様に善管注意義務を負っています。信託行為に別段の定めを置くことができません。

1―7―a       具体的事例

  (1)前述の火災保険未加入の場合

    受益者代理人は、受益者と同様に信託法92条における権利を行使することができます。受託者の行為の差し止め(信託法44条)、取消(信託法27条)などです。では、行為をしていない受託者に対して行為をするように請求することはできるのでしょうか。保険に加入している家に受益者が居住することが受益権であるとして、受託者に対して加入を催促(信託法2条7項)することは、可能であると考えます。

  (2)前述のATMで暗証番号を3回間違えてしまった場合

   相談を受けた当初、軽いミスだと思ったのですが、金融機関の事務取扱い

  上、受益者本人が窓口まで来て暗証番号を変更するように言われました。受

  財産管理委任契約に基づき、代理人口座を作成できると言っていたのが出

  来ないというのです(現在、本部にて検討してもらっています)。

   この受益者にとっては、金融機関の窓口まで行くのは負担です。受益者代

  理人は、善管注意義務に違反していますが、その効果としての責任までは問

  えないと考えられます。なぜなら、ATMで暗証番号を3回間違えることは

  誰にでも起こり得ることだからです。

図 3 注意の水準

2    専門家の善管注意義務
2―1            各専門家によって注意義務の重さ(=重くなるほど義務違反と認定され易くなる)が異なる。

 著者は、民事信託の専門性や実務経験の多さを表示して民事信託の支援業務を受託した場合、その表示通りの注意義務を負うとします[12]

2―2            具体的事例(前述の火災保険未加入の場合)

 私が委託者・受託者と交わした業務委託契約書では、善管注意義務及び免責事由について記載がありません。そのため当然に司法書士としての善管注意義務を負います(司法書士法21条、民法644条)。相談過程、業務委託契約書における業務指針の解釈及び契約書作成後の経過などが考慮され、私の義務違反か否かと責任の有無及び程度が決まっていくものと考えらえます。

2―3            備考 利益相反関係
2―3―a       専門家が委託者と受託者との信託契約書を作成する場合

 専門家が委託者から報酬を受け、委託者、受託者が損害を受ける可能性がある場合、(例えば委託者の意思能力について推定相続人から指摘を受ける)利益相反関係にあるといえます。

 許容されるかの判断の目安は、委託者と専門家の非対称性を考慮に入れて、委託者への信託の成立要件の説明、表明保証の請求、公正証書の作成、医師の診断書入手、他の法定手段の説明などを尽くしたかによると考えます[13]

2―3―b       専門家が信託期中に、受託者の信託事務処理支援と受益者の支援(受託者への監督を含む)を併行して行う場合

 受託者の信託事務処理を支援した結果、受益者が損害をうける可能性がある場合(例えば、受託者が信託財産である不動産を売却した結果、今後信託不動産について道路計画があり価格が上がることを知っていた第2次受益者から取消請求をされた)、利益相反関係にあるといえます。

 許容されるかの判断の目安は、信託目的との合理性、必要性の有無、信託契約書への記載、契約書全体の解釈などから総合的に導き出されることになると考えます。

3    【条項例】

(受託者の善管注意義務)

第○条 受託者は、本信託の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって信託事務を処理する。

(受託者の善管注意義務)

第○条 受託者は、本信託の本旨に従い、自己の財産を管理するのと同一の注意をもって信託事務を処理する。

(受託者の任務[14]

第○条 

1 乙(受託者)は、信託財産の管理、処分その他の信託事務について、善良な管理者の注意をもって処理するものとする。

2 乙(受託者)は、前項の注意をもって処理する限り、事由のいかんを問わず、信託財産に生じた価格の下落その他の損害が甲(委託者兼受益者)に生じてもその責めを負わない。


[1] 本稿で具体的事例を考える際、民法上の債務不履行責任、不法行為責任は考えないものとします。

[2] 道垣内弘人『信託法』2017 有斐閣P168

[3]『法律学小事典』2016 有斐閣P909 

[4] 自己の財産に対するのと同一の注意が認められる場合について、信託目的との合理性を求めるものとして、能見善久ほか編『信託法セミナー2』2014有斐閣P8-P9沖野発言。

[5] 村松秀樹ほか『概説 新信託法』2008きんざいP90

[7] 詳細な解説について新井誠編『信託法実務判例研究』2013有斐閣

[8] 金融庁「信託会社等に対する総合的な監督指針」平成29年6月現在3-5-2

[9] 民法298条、400条、413条、644条、659条、827条、918条、926条、940条、944条など。

[10] 道垣内弘人『信託法』2017有斐閣P167では、自己信託における受託者の義務負担について、単独行為としての義務負担行為として捉える。

[11] 遠藤英嗣『家族信託契約』2017日本加除出版P236~P237。著者は、信託事務の処理の第三者への委託(信託法28条)を活用することを挙げている。

[12] 村松秀樹ほか『概説 新信託法』2008きんざいP91は、受託者について実際にはそのような能力がなくても表示通りの注意義務を負担するとしている。

[13] 日野正晴『詳細金融商品取引法』2016きんざいP741~を参考にした。

[14] 堀鉄平ほか『家族信託に強い弁護士になる本』P72~P73より引用。かっこ書きは筆者。善管注意義務の具体的内容についての記述はない。

合意条項

信託契約書

第○章 合意条項[1][2]
第○条(信託契約の前提と口座開設金融機関の処理)
□1   委託者および受託者は、信託契約を締結するうえで次の各号について説明を受けた上で確認、合意する[3]
□(1)私たちにとって家族信託を利用することが、他の方法と比べて良い方法だと理解しました[4][5]
□(2)今回設定する信託の目的を確認しました[6][7]
□(3)委託者に債権者がある場合、信託を設定することによって損害を与えないことを確認しました。[8]
□(4)受益者に債権者がある場合、追加信託を設定することにより損害を与えなことを確認しました。
□(5)委託者は、信託を設定することにより、その財産の名義が受託者に移転することを理解しました[9]
□(6)委託者は、信託設定日における信託財産に、契約不適合となるような欠陥などが見つかった場合、その欠陥などを修復する義務があることを確認しました[10]
□(7)受託者は、個人の財産と信託財産を分けて、信託目的のために事務を行うことを理解しました。[11]
□(8)受託者は、信託財産に不動産がある場合、所有者または占有者として建物などの工作物に対する責任を負う可能性があることを確認しました。[12]
□(9)受益者が亡くなった際、遺留分などの対応方法を確認しました。[13]
□(10)信託の設定にかかる実費、金融機関への手数料、専門家報酬など費用負担について理解しました。[14]
□(11)信託目的を達成するために必要な信託財産は、充分であることを確認しました。[15]
□(12)金銭、不動産、自社株式、受益権の割合その他の本信託に関する税務について、専門家より説明を受け理解しました【専門家氏名】。[16]
□(13)信託財産に不動産がある場合、信託目録の記録事項について、専門家より説明を受け理解しました【専門家氏名】。
□2   委託者および受託者は、次の各号に掲げる金融機関の対応について説明を受けたうえで確認、合意する。
□(1)受託者の任務が終了したとき、後継受託者が存在する場合には、当行は、当該信託契約に基づき、当該預金を後継受託者の信託専用口座に変更します[17]
□(2)後継受託者は、名義変更手続きに当たり当行所定の書式により届けるとと   もに、受託者が変更になったことを証する書類を提示するものとします。[18]
□(3)信託が終了した場合は、信託契約に基づき、当行は信託された金銭を残    財産受益者または残余財産の帰属権利者に払い戻します。払い戻し手続に当たっては、信託契約終了の事由を証する書類、本人であることを証する書類を提示するものとします[19]
□(4)信託財産に当行に対する借入金等の債務がある場合において、当行が必要と認めるときは、後継受託者が当該債務の引受をすることを承認し、実際に債務引受が行われた時に、払戻しの手続を取ります[20]
□(5)信託財産に当行に対する借入金などの債務がある場合、当行は当該債務と相殺したうえで、払戻しの手続を取ることが出来るものとします[21]
□(6)信託契約が変更になった場合は、受託者、受益者(受益者代理が就任している場合は受益者代理人)は、2週間以内に、当行所定の書式により届けるとともに、変更契約書の原本を提示します[22]
□(7)委託者、受益者、受託者およびその他の当該信託契約の関係者は、住所または連絡先に変更があった場合、死亡もしくは被後見人になった場合、 その他の信託契約にかかる重要な異動があった場合は、速やかに事実を証する書類を提示し、当行所定の書式により届け出るものとします。
□(8)当行所定の変更届を提出することを怠り関係者が損害を被った場合、当行はその責任を負いません。

    【説明・確認年月日】【説明・確認者氏名】


[1] 委託者、受託者にチェックを入れてもらう。

[2] 公正証書を作成するのであれば、契約書の中に合意条項も含める。

[3] 渋谷陽一郎『民事信託のための信託監督人の実務』2017日本加除出版P21~「金融機関の民事信託関与によって、民事信託実務に対して、金融庁の監督の目が間接的に届くことになるといえる」

[4] 『信託フォーラムvol4』2015日本加除出版P6道垣内弘人「財産が隔離されるという法的効果をもたらすものだけを信託として把握すれば日本法においては足りるはずであって、逆に言えば、そのような効果をもたらす要件を備えたものだけを信託であると性質決定することが、日本法の全体の体系の中の捉え方としては妥当なのではないかと考えたわけです。」

[5] 『信託フォーラムvol4』2015日本加除出版P132大垣尚司「実は、ファイナンス信託を考える上でもうひとつ重要な視点があります。それは、「信託でなくてもよいことを不必要に信託でやらない」ということです。」

[6] 信託法2条1項

[7] 信託会社等に関する総合的な監督指針3-2-4人的構成に照らした業務遂行能力の審査(2)②ハc

[8] 信託法11条

[9] 信託法2条3項、5項。

[10] 参考として、渋谷陽一郎『民事信託のための信託監督人の実務』2017日本加除出版P126

[11] 信託34条、寺本昌広『逐条解説新しい信託法』2008商事法務138、村松秀樹他『概説新信託法』2008金融財政事情研究会P112~

[12] 民法717条、信託法53条1項1号、トラスト60研究叢書『基礎法理からの信託分析』2013P75~秋山康浩「受託者が土地工作物の所有者として責任を負う場合に関する一考察」

[13] 法務省法制審議会民法(相続関係)部会「中間試案後に追加された民法(相続関係)等の改正に関する試案(追加試案)」遺留分請求権の法的効力及び法的性質の見直しにより、現段階で金銭債権とする案があり、受益債権が金銭債権である受益権を、遺留分権利者に与えて受益者代理人を付ける対応を取ることができると考えることができる。

[14] 信託業法施行令12条の5、信託業法施行規則30条の17

[15] 信託業法25条

[16] 金融庁「金融仲介機能のベンチマーク」2016(10)外部専門家の活用

[17] 信託法56条、57条、58条、62条。

[18] 信託法62条、75条、77条。

[19] 信託法163条から166条まで。175条から184条まで。

[20] 『CSのための金融実務必携』2015金融財政事情研究会P673~債務承継手続きのあらまし。天野佳洋監修『銀行取引約定書の解釈と実務』2014経済法令研究会P94~担保。

[21] 天野佳洋監修『銀行取引約定書の解釈と実務』2014経済法令研究会P151~相殺、払戻充当。

[22] 信託法149条、150条。天野佳洋監修『銀行取引約定書の解釈と実務』2014経済法令研究会P231~届出事項の変更。

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