住宅等所有権の段階的移転 夫に先立たれたP女には3人の子ABCがいる。BとCは離れて暮らしているため、自宅は面倒をみてもらうAに譲りたい。

 

(『民事信託の理論と実務』2016 日本加徐出版 P280~)

1、夫に先立たれたP女には3人の子ABCがいる。BとCは離れて暮らしているため、自宅は面倒をみてもらうAに譲りたい。

2、P女が住宅・土地について自己信託を設定し、Aは設定日及び毎年の応当日に路線価などを基準にして120万円相当の面積について、受益権の一部を購入していく。

3、Aがすべて受益権を購入した時点で信託の終了。


自己信託設定公正証書

(目的)
第○条 本信託は、次の事項を目的として、第○条記載の信託財産を受託者が管理、運用、処分する。
(1)自己信託設定者とその家族の安定した生活
(2)Aに対する信託不動産の段階的移転

(信託財産)
第○条 本信託設定日における信託財産は、下の第1号から第2号までとする。設定後に第3号から第5号によって発生した財産も信託財産とする。
(1) 別紙1記載の土地と建物の所有権(今後、「信託不動産」という。)
(2) 金銭○○万円(今後、「信託金銭」という。)
(3) 信託不動産を売却した場合の代金や、信託財産の運用により得られた金銭
(4) 受益者から追加信託を受けた財産
(5) その他の信託財産より生じる全ての利益

(信託設定者)
第〇条 自己信託を設定する者の住所及び氏名は、次の者とする。
 住所                                 
 氏名 P女 生年月日           

(後任の受託者)
第○条 受託者の任務が終了した場合の後任受託者は、次の者とする。
住所                     
氏名 A 生年月日         

(信託財産の管理方法)
第○条 
1 受託者は、信託不動産について次の信託事務を行う。
(1)所有権の権利の変更登記と信託登記の申請
(2)信託不動産の性質を変えない修繕・改良行為
(3)信託不動産の受益権売買
2 受託者は、信託金銭について次の信託事務を行う。
(1)信託に必要な表示または記録
(2)受託者個人の財産と分けて、性質を変えずに管理
3 受託者は、信託財産から次の費用を支出することができる。
(1)登記申請費用
(2)その他の本信託に必要な諸費用

(計算期間)
第○条 本信託の計算期間は、毎年1月1日から12月31日までとする。最初の計算期間は信託の設定日から始まり、最後の計算期間は信託の終了した日までとする。

(公租公課の精算)
第○条 本信託の税金や保険料などは、信託の設定日の前はP女、信託の設定日とその後は、信託財産から支払う。

(信託財産に関する報告)
第○条 受託者は、計算期間に行った計算を、信託口通帳と固定資産評価証明書を提示する方法により受益者へ報告する。

(受益者)
第〇条 本信託の受益者は、次の者とし、各受益者は受益権を1個取得する。。
(1) 
住所                                
氏名 P女 生年月日
受益権の割合 Aの残り          
(2)
住所           
氏名 A 生年月日
受益権の割合(120万円/信託財産の価額)             
 
(受益権)
第○条
1 次のものは、元本とする。
(1)信託不動産
(2)信託金銭
2 次のものは、収益とする。
(1)信託財産から発生した利益
3 元本又は収益のいずれか不分明なものは、受託者が判断する。
4 受益者(1)、(2)は、信託不動産に無償で居住することができる。
5 受益者(1)は、受益権を売買により譲渡することができる。受益権を質入れ、分割及び担保設定その他の処分をするには、受益者(2)の同意を要する。

(委託者の地位)
第○条 委託者は、追加信託をする権利義務のみを受益者に移転し、本信託設定以後、
その他の権利義務を持たない。

(信託の変更)
第○条 
1 本信託の変更は、受託者と受益者全員の合意による。
2 受益者の人数に変更があった場合、各受益者に1個の受益権が指定される受益権の分割・併合があったものとする。

(信託の期間)
第○条 本信託の期間は、設定日から終了日までとする。

(信託の終了)
第○条 本信託は、次のいずれかの場合に終了する。
 (1)P女が亡くなったとき
 (2)Aが信託不動産の受益権全てを取得したとき
 (3)受託者と受益者全員が合意したとき

(清算受託者)
第○条 この信託が終了したときの受託者は、引き続き清算の事務を行う。

(残余財産の引渡し方法)
第○条 清算受託者が、残余財産の帰属権利者に、信託財産の全てをその債権関係とともに引き渡し、最終計算の承認を得たときに、清算手続は終了する。

(残余財産の帰属権利者)
第○条 本信託における残余財産の帰属権利者は次の者とし、法定相続分の割合で帰属する。
(1)A 住所 生年月日
(2)B 住所 生年月日
(3)C 住所 生年月日

(契約に定めのない事項)
第○条 本信託に定めのない事項は、受託者と受益者が協議の上決定する。


                                 別紙1
                   信託財産目録
第1 信託不動産
(1)土地
所在      
地番      
地目      
地積      
(2)建物      
所在
家屋番号 
種類 
構造 
床面積㎡

第2 信託金銭 
金○○ 万円
                                   以上

夫婦間契約の代替としての自己信託 自宅の購入にあたり、夫婦共働きなら具体的な返済の分担額に応じて土地建物を共有にすることもある。

 

(『民事信託の理論と実務』2016 日本加徐出版 P285~)

1、自宅の購入にあたり、夫婦共働きなら具体的な返済の分担額に応じて土地建物を共有にすることもある。

2、何らかの理由で夫婦関係が上手くいかず離婚すると、家の所有・使用関係、債務負担関係の三者にネジレが生ずる。

3、夫(妻)の単独名義の場合、住宅ローン貸主の了解を得て夫が自己信託を設定し、住宅・土地を信託財産、住宅ローンを信託財産責任負担債務、夫婦をそれぞれ受益者として信託目的において、離婚時の住宅の権利関係、居住権、ローンの内部負担関係等を定め、信託登記を行う。

4、万が一離婚した場合、名義を持っていない人の住む場所などが守られる。


自己信託設定公正証書

(目的)
第○条 本信託は、次の事項を目的として、第○条記載の信託財産を受託者が管理、運用、処分する。
(1)受益者の安定した生活
(2)受益者の共同財産である自宅の権利義務を明確にすること

(信託財産)
第○条
1 本信託設定日の信託財産は、次の第1号から第2号までとする。設定後に第
3号から第4号によって発生した財産も信託財産とする。
(1) 別紙1記載の不動産の所有権(以下、「信託不動産」という。)
(2) 金銭○○万円(今後、「信託金銭」という。)
 (3) 受益者から追加信託を受けた財産
 (4) その他の信託財産より生じる全ての利益
2 設定者は、本信託について特別受益の持戻しを免除する。

(信託設定者)
第〇条 自己信託を設定する者は、次のとおりである。
 住所                       
 氏名 甲 生年月日

(後任の受託者)
第○条 受託者の任務が終了した場合の後任受託者は、次の者とする。
住所                     
氏名 配偶者 生年月日
 

(信託財産責任負担債務)
第○条 別紙2記載の債務は、信託財産責任負担債務とする。 

(信託財産の管理方法)
第○条 
1 受託者は、信託不動産について次の信託事務を行う。
(1)所有権の権利の変更登記と信託登記の申請
(2)信託不動産の性質を変えない修繕・改良行為
2 受託者は、信託金銭について次の信託事務を行う。
(1)信託に必要な表示または記録
(2)受託者個人の財産と分けて、性質を変えずに管理
(3)信託財産責任負担債務の返済
3 受託者は、信託財産から次の費用を支出することができる。
(1)登記申請費用
(2)その他の本信託に必要な諸費用
4 受託者が信託事務処理費用を信託財産から支出する場合、支出の前に受益者に対して前払いを受ける額及びその算定根拠を通知する必要はない。

(計算期間)
第○条 本信託の計算期間は、毎年1月1日から12月31日までとする。最初の計算期間は信託の設定日から始まり、最後の計算期間は信託の終了した日までとする。

(公租公課の精算)
第○条 本信託の税金や保険料などは、設定日の前は甲、設定日以後は、信託財産から支払う。

(信託財産に関する報告)
第○条 受託者は計算期間に行った計算を、固定資産税の納税通知書及び領収書と信託口通帳を受益者へ提示する方法により受益者へ報告する。

(受益者)
第〇条 本信託の受益者は、次の者とする。受益権の割合は均等とし、甲の扶養義務の範囲を超えない。
(1)住所                       
   氏名 甲 生年月日 
(2)住所
   氏名 配偶者 生年月日    

(受益権)
第○条
1 次のものは、元本とする。
 (1)信託不動産の所有権
 (2)信託不動産への居住権
 (3)信託金銭
2 次のものは、収益とする。
 (1)信託財産から発生した利益
3 元本又は収益のいずれか不分明なものは、受託者が判断する。
4 受益者が離婚した場合の権利義務関係は、次のとおりとする。
(1)信託不動産の所有権は、甲
(2)信託不動産の居住権は、○○
(3)信託金銭の所有権は、甲
(4)信託財産責任負担債務は内部での取り決めとして、甲が引き受ける。
(5)○○は、信託不動産の受益権を甲から毎年金60万円の割合で購入する。
5 受益者全員が合意した場合、受益権を処分することできる。

(委託者の地位)
第○条 委託者は、追加信託をする権利義務のみを受益者に移転し、その他の信託行為に記載のある権利は、亡くなったときに委託者の地位は消滅する。

(信託の変更)
第○条 本信託の変更は、受託者と受益者の合意による。

(信託の期間)
第○条 本信託の期間は、設定日から終了した日までとする。

(信託の終了)
第○条 本信託は、次の場合に終了する。
(1)受託者と受益者が合意したとき
(2)信託財産責任負担債務の期限の利益を喪失したとき
(3)受益者が1人となったとき

(清算受託者)
第○条 この信託が終了したときの受託者は、引き続き清算の事務を行う。

(残余財産の引渡し方法)
第○条 清算受託者が、残余財産の帰属権利者に、信託財産の全てをその債権関係とともに引き渡し、最終計算の承認を得たときに、清算手続は終了する。

(残余財産の帰属権利者)
第○条 本信託における残余財産の帰属権利者は、終了時の受益者とする。

(契約に定めのない事項)
第○条 本信託に定めのない事項は、受託者と受益者が協議の上決定する。

別紙1

信託財産目録

第1 信託不動産
(1)土地
所在      
地番      
地目      
地積

(2)建物      
所在 
家屋番号 
種類 
構造 
床面積㎡


第2 信託金銭 
金○○万円


以上


別紙2

信託財産責任負担債務

本店
商号 ○○銀行 
取扱い支店 ○○支店
設定時の債務 金○○万円(平成○○年○○月○○日付け住宅ローン契約) 

以上

非典型的家族の財産アレンジメント 法律婚以外のパートナシップについて、民法では適切に処理できない可能性があり、一方が亡くなった場合における実質的に相続権の確保をしたい。

 

(『民事信託の理論と実務』2016 日本加徐出版(株)P288~)

1、法律婚以外のパートナシップについて、民法では適切に処理できない可能性があり、一方が亡くなった場合における実質的に相続権の確保をしたい。
反対に、法律上のみの権利者による権利主張を制約したい。

2、パートナシップの開始にあたり、双方が自己の主要な財産について相手を第1受益者、自身を残余財産受益者とする自己信託を設定し、信託目的において双方が合意する財産関係を盛り込む。

3、共同生活開始後も、重要な財産については同様の自己信託の設定を行う。

4、設定者の死亡後は第1受益者が新受託者を兼ね信託財産を管理することとして、別途遺言により遺留分を侵害しない範囲で残余受益権を第1受益者に遺贈する。

5、その結果、法定相続人は信託財産ではなく残余受益権の残りを相続するにすぎず信託財産に対して直接の権利行使はできない。
住宅等について相手の居住権や利用権を確保するニーズがあるなら、信託目的にそのような内容を盛り込む。


自己信託設定公正証書

(目的)
第○条 本信託は、次の事項を目的として、第○条記載の信託財産を受託者が管理、運用、処分する。
(1)受益者の居住を中心とした安定した生活
(2)受益者が亡くなった場合の残余財産の受益者の安定した生活
(3)パートナシップが終了した場合の権利義務関係の円滑な承継

(信託財産)
第○条
1 本信託設定日の信託財産は、次の第1号から第2号までとする。設定後に第
3号から第4号によって発生した財産も信託財産とする。
(1) 別紙1記載の不動産の所有権(以下、「信託不動産」という。)
(2) 金銭○○万円(以下、「信託金銭」という。)
 (3) 委託者、受益者から追加信託を受けた財産
 (4) その他の信託財産より生じる全ての利益

(信託設定者)
第〇条 自己信託を設定する者は、次のとおりである。
 住所                       
 氏名 A 生年月日

(後任の受託者)
第○条 受託者の任務が終了した場合の後任受託者は、次の者とする。
住所                                            
氏名 B 生年月日 

(信託財産責任負担債務)
第○条 別紙2記載の債務は、信託財産責任負担債務とする。

(信託財産の管理方法)
第○条
1 受託者は、信託不動産について次の信託事務を行う。
(1)所有権の権利の変更登記と信託登記の申請
(2)信託不動産の性質を変えない修繕・改良行為
(3)信託金銭が○○万円以下になった場合の信託不動産の処分
(4) 信託設定者が死亡し、受益者が信託不動産に居住する必要がなくなった場合の信託不動産の処分
2 受託者は、信託金銭について次の信託事務を行う。
(1)信託に必要な表示または記録等
(2)受託者個人の財産と分けて、性質を変えずに管理
(3)信託財産責任負担債務の返済
(4)その他信託目的を達成するために必要な事務
3 受託者は、信託事務の一部について必要があるときは、受託者と同様の管理方法を定め、第3者へ委託することができる。
4 受託者が信託事務処理費用を信託財産から支出する場合、支出の前に受益者に対して前払いを受ける額及びその算定根拠を通知する必要はない。

(計算期間)
第○条 本信託の計算期間は、毎年1月1日から12月31日までとする。最初の計算期間は信託の設定日から始まり、最後の計算期間は信託の終了した日までとする。

(公租公課の精算)
第○条 本信託の税金や保険料などは、設定日の前は設定者、設定日以後は、信託財産から支払う。

(信託財産に関する報告)
第○条 受託者は、計算期間に行った計算を、固定資産税の納税通知書及び領収書と信託口通帳を受益者へ提示する方法により受益者へ報告する。

(受益者)
第〇条 本信託の受益者は、次の者とする。
 (1)住所                       
    氏名 B 生年月日     

(受益権)
第○条
1 次のものは、元本とする。
 (1)信託不動産の所有権
 (2)信託不動産への居住権
 (3)信託金銭
2 次のものは、収益とする。
 (1)信託財産から発生した利益
3 元本又は収益のいずれか不分明なものは、受託者が判断する。
4 信託設定者が死亡した場合の受益権の帰属は、次のとおりとする。
(1)信託不動産の居住権は、B
(2)信託金銭は、B
(3)信託財産責任負担債務は内部での取り決めとして、Bが引き受ける。
5 受益者は、受託者の同意を得て、受益権を譲渡又は質入れ、担保設定その他の処分をすることができる。

(委託者の地位)
第○条 委託者は、追加信託をする権利義務のみを受益者にも移転する。その他の信託行為に記載のある権利は、亡くなったときに委託者の地位と共に消滅する。

(信託の変更)
第○条 本信託の変更は、受託者と受益者の合意による。

(信託の期間)
第○条 本信託の期間は、設定日から終了した日までとする。

(信託の終了)
第○条 本信託は、次の場合に終了する。
(1)受託者と受益者が合意したとき

(清算受託者)
第○条 この信託が終了したときの受託者は、引き続き清算の事務を行う。

(残余財産の引渡し方法)
第○条 清算受託者が、残余財産の帰属権利者に、信託財産の全てをその債権関係とともに引き渡し、最終計算の承認を得たときに、清算手続は終了する。

(残余財産の受益者)
第○条 本信託における残余財産の受益者は、Aとする。

(契約に定めのない事項)
第○条 本信託に定めのない事項は、受託者と受益者が協議の上決定する。

別紙1

信託財産目録

第1 信託不動産
(1)土地
所在      
地番
地目      
地積

(2)建物      
所在 
家屋番号 
種類 
構造 
床面積㎡


第2 信託金銭 
金○○万円


以上


別紙2

信託財産責任負担債務
本店
商号 ○○銀行 
取扱い支店 ○○支店
設定時の債務 金○○万円
(平成○○年○○月○○日付A及びBを連帯債務者とする住宅ローン債務の2分の1の金額)


以上


遺言公正証書


第○条 遺言者は、下記不動産の受益権を、法定相続人に遺留分に応じて相続させる。
信託受益権が残る場合は、全てBに遺贈する。

1 土地
所在
地番
地目
地積

2 建物
所在
家屋番号       
種類      
構造 
床面積


第○条 遺言者は、その所有にかかる手元現金、権利を有する下記預金債権及び一切の信託受益権をB(生年月日)に遺贈する。

1 (株)○○銀行○○支店
普通預金 口座番号○○ 
口座名義人 A信託口

2 (株)○○銀行○○支店
普通預金 口座番号○○ 
口座名義人 A                  

第○条 遺言者は、次の費用等をBに負担させるものとし、遺言執行者に対し、その負担者が取得する財産から随時支出する権限を与えるものとする。
 (1)遺言者の葬儀費用
(2)遺言者の未払い租税公課、入院費用、日常家事債務などの一切の債務
 (3)遺言執行に関する一切の費用(ただし、登記・登録に係るものを除く。)
2 遺言者は、不動産の登記手続に要する費用は、本遺言により当該不動産を取得する者にそれぞれ負担させるものとし、遺言執行者は、負担者が取得する財産をその費用の支払いに適宜充当することができる。

第○条 遺言者は、本遺言の執行者として次の者を指定する。
 住所                
 氏名  ○○  生年月日             
2 遺言者は、遺言執行者に対し、遺言の執行上必要があれば本遺言対象財産を適宜換価し、換価困難な財産については無償処分する権限を与える。また、不動産の登記手続一切、預貯金の解約、名義変更、払戻しなど本遺言の執行に必要な一切の行為をなす権限を付与する。

第○条 この遺言の公正証書正本は、前記遺言執行者が保管する。

以上

人役権的自己信託 「個人所有の里山を自由に散策して昆虫や季節の山菜を私的利用の範囲内で採取する権利(里山入山権)」や個人所有の海岸で海水浴をする権利(プライベートビーチ権)」等を物権的な権利として売却することができれば

 


(『民事信託の理論と実務』2016 日本加徐出版 P290~)

1、地役権は、設定行為で定めた目的(例:国道329号線に出るため)に従い、他人の土地(要役地)を「自己の土地の」便益に供する権利なので、他人の土地を単に「自己の」便益のために供する権利(いわゆる人役権)は、地上権(工作物・竹林の所有)、永小作権(耕作・牧畜)を除くと用益物権として設定することができない。

2、このため、そうした権利は賃借権として構成するしかないが、この場合20年を超える契約ができず(民法604条)、登記がないとその後に要役地を取得した者に対抗できない(民法605条)。また、建物所有目的以外の使用目的を適切に公示することが難しいという問題もある(不動産登記法81条1項6号)。

3、もし、「個人所有の里山を自由に散策して昆虫や季節の山菜を私的利用の範囲内で採取する権利(里山入山権)」や個人所有の海岸で海水浴をする権利(プライベートビーチ権)」等を物権的な権利として売却することができれば、建物建築に適さない土地の価値を有効活用できる。

4、何らかの原因関係に基づいて、承役地の所有者がこれを信託財産とし、相手方を第1受益者、自分自身を残余財産受益者として、(1)第1受益者に一定目的に従って承役地を自己の便益のために使用させること、(2)同目的のために承役地の権限を維持し適切に管理すること、(3)信託期間経過後に残余財産である承役地を残余財産受益者に返還することを目的とし、信託登記をすれば、受益権は実質的に人役権に近いものになる。受益権には譲渡性を付与することもできるし、譲渡禁止としたり制限を付したりしてもよい(信託法93条)。

5、物権である本来の人役権の場合、承役地(底地権)が売却されると対抗力のある人役権者は、承継人に対して当然に権利主張できる。これに対して、人役権的自己信託の場合、設定者は受託者として承役地の売却ができなくなるが、自己の有する残余財産受益権(底地権に相当)を処分することにより、同様の効果を得ることができる。

自己信託設定公正証書

(目的)
第○条 本信託は、次の事項を目的として、第○条記載の信託財産を受託者が管理、運用、処分する。
(1)第1受益者に里山散策を目的として使用させること。
(2)(1)のために信託財産を維持し適切に管理すること
(3)信託期間経過後に残余財産を残余財産受益者に返還すること

(信託財産)
第○条 本信託設定日の信託財産は、次の第1号から第2号までとする。設定後
に第3号から第4号によって発生した財産も信託財産とする。
(1) 別紙1記載の不動産の所有権(以下、「信託不動産」という。)
(2) 金銭○○万円(今後、「信託金銭」という。)
 (3) 受益者から追加信託を受けた財産
 (4) その他の信託財産より生じる全ての利益

(信託設定者)
第〇条 自己信託を設定する者は、次の者とする。
 住所                       
 氏名 甲 生年月日

(後任の受託者)
第○条 受託者の任務が終了した場合の後任受託者は、次の者とする。
住所                     
氏名 甲の子○○ 生年月日
 
(信託財産の管理方法)
第○条 
1 受託者は、信託不動産について次の信託事務を行う。
(1)所有権の権利の変更登記と信託登記の申請
(2)信託不動産の性質を変えない修繕・改良行為
2 受託者は、信託金銭について次の信託事務を行う。
(1)信託に必要な表示または記録等
(2)受託者個人の財産と分けて、性質を変えずに管理
(3)その他信託目的を達成するために必要な事務
3 受託者は、信託事務の一部について必要があるときは、受託者と同様の管理方法を定め、第3者へ委託することができる。
4 受託者が信託事務処理費用を信託財産から支出する場合、支出の前に受益者に対して前払いを受ける額及びその算定根拠を通知する必要はない。

(計算期間)
第○条 本信託の計算期間は、毎年1月1日から12月31日までとする。最初の計算期間は信託の設定日から始まり、最後の計算期間は信託の終了した日までとする。

(公租公課の精算)
第○条 本信託の税金や保険料などは、設定日の前は設定者、設定日とその後は、信託財産から支払う。

(信託財産に関する報告)
第○条 受託者は、計算期間に行った計算を、固定資産税の納税通知書及び領収書と信託口通帳を受益者へ提示する方法により受益者へ報告する。

(受益者)
第〇条 本信託の受益者は次の者とし、各受益者は同じ割合の受益権を1個取得する。 
(1)住所                       
氏名 乙 生年月日
(2)住所                       
氏名 丙 生年月日
(3)住所                       
氏名 丙 生年月日

(受益権)
第○条
1 次のものは、元本とする。
 (1)信託不動産の所有権
 (2)信託不動産の里山入山権
 (3)信託不動産のプライベートビーチ利用権 
(4)信託金銭
2 次のものは、収益とする。
 (1)信託財産から発生した利益
3 元本又は収益のいずれか不分明なものは、受託者が判断する。
4 受益者は、受託者の承諾を得た場合、受益権を譲渡、質入れ及び担保設定その他の処分をすることができる。
5 受益者の受益権の割合は均等とする。今後受益者が増減しても同様とする。

(信託の変更)
第○条 
1 本信託の変更は、受託者と受益者の合意による。
2 受益者の人数に変更があった場合、各受益者に同じ割合の1個の受益権が指定される受益権の分割・併合があったものとする。

(信託の期間)
第○条 本信託の期間は、設定日から終了した日までとする。

(信託の終了)
第○条 本信託は、次の場合に終了する。
(1)受託者と受益者が合意したとき

(清算受託者)
第○条 この信託が終了したときの受託者は、引き続き清算の事務を行う。


(残余財産の引渡し方法)
第○条 清算受託者が、残余財産の帰属権利者に、信託財産の全てをその債権関係とともに引き渡し、最終計算の承認を得たときに、清算手続は終了する。

(残余財産の受益者)
第○条
1、本信託における残余財産の受益者は、甲とする。
2、残余財産の受益者は、自己の有する残余財産の受益権を自らの裁量で譲渡、質入れ及び担保設定その他の処分をすることができる。

(契約に定めのない事項)
第○条 本信託に定めのない事項は、受託者と受益者が協議の上決定する。


別紙1

信託財産目録

第1 信託不動産
1土地
所在      
地番      
地目      
地積

所在      
地番      
地目      
地積

第2 信託金銭 
金○○万円


以上


 

自己信託 リバースモーゲージの担保としての活用

自己信託設定公正証書

(目的)

第○条 本信託は、次の事項を目的として、第○条記載の信託財産を受託者が管理、運用、処分する。

(1)受益者の安定した生活

(信託財産)

第○条

1 本信託設定日の信託財産は、次の第1号から第2号までとする。設定後に第3

号から第4号によって発生した財産も信託財産とする。

(1) 別紙1記載の不動産の所有権(以下、「信託不動産」という。)

(2) 金銭○○万円(今後、「信託金銭」という。)

(3) 受益者から追加信託を受けた財産

(4) その他の信託財産より生じる全ての利益

(信託設定者)

第〇条 自己信託を設定する者の住所及び氏名は、次のとおりである。

 住所                                       

 氏名 甲 生年月日

(後任受託者)

第○条 受託者の任務が終了した場合の後任受託者は、次の者とする。

住所                                  

氏名 A(甲の連帯保証人である相続人など)生年月日

(信託財産責任負担債務)

第○条 受託者は、別紙2記載の債務を信託財産責任負担債務として引き受ける。

(信託財産の管理方法)

1 受託者は、信託不動産について次の信託事務を行う。

(1)所有権の権利の変更登記と信託登記の申請

(2)信託不動産の性質を変えない修繕・改良行為

(3)信託財産責任負担債務の返済を目的とする信託不動産の処分

2 受託者は、信託金銭について次の信託事務を行う。

(1)信託に必要な表示または記録

(2)受託者個人の財産と分けて、性質を変えずに管理

(3)必要に応じた信託財産責任負担債務の返済

(4)必要に応じた金銭の借入れ

3 受託者が信託事務処理費用を信託財産から支出する場合、支出の前に受益者に対して前払いを受ける額及びその算定根拠を通知する必要はない。

(計算期間)

第○条 この信託の計算期間は、毎年1月1日から12月31日までとする。最初の計算期間は契約をした日から始まり、最後の計算期間は信託の終了した日までとする。

(信託財産に関する報告)

第○条 受託者は、計算期間に行った計算を受益者へ報告する。

(受益者)

第〇条 本信託の受益者は、次の者とする。

本店                                   

商号○○銀行        

取扱店○○支店           

(受益権)

第○条

1 次のものは、元本とする。

 (1)信託不動産の所有権

 (2)信託不動産への居住権

 (3)信託金銭

2 次のものは、収益とする。

 (1)信託財産から発生した利益

3 元本又は収益のいずれか不分明なものは、受託者が判断する。

4 受益権は2個とし、受益者、残余財産の受益者が各1個を取得する。

(1)信託金銭より信託財産責任負担債務の給付を受ける権利は、受益者

(2)信託不動産の所有権は、残余財産の受益者

(3)信託不動産の居住権は、残余財産の受益者甲

(4)信託金銭の所有権は、残余財産の受益者

(委託者の地位)

 第○条 委託者は、追加信託をする権利義務のみを受益者に移転し、その他の信託行為に記載のある権利は、亡くなったときに委託者の地位と共に消滅する。

(信託の変更)

第○条 本信託の変更は、受託者と受益者の合意による。

(信託の期間)

第○条 本信託の期間は、設定日から終了した日までとする。

(信託の終了)

第○条 本信託は、次の場合に終了する。

(1)受託者と受益者が合意したとき

(2)受託者が亡くなったとき

(清算受託者)

第○条 

1、この信託が終了したときの受託者は、引き続き次の清算の事務を行う。

(1)現務の結了

(2)信託債権の返済

(3)受益債権の返済

(4)残余財産の引き渡し

2、受益債権の返済は、清算受託者の裁量により、信託不動産の処分換価を行うか、返済を続けるかを決めることができる。

(残余財産の引渡し方法)

第○条 清算受託者が、残余財産の帰属権利者に、信託財産の全てをその債権関係とともに引き渡し、最終計算の承認を得たときに、清算手続は終了する。

(残余財産の受益者)

第○条 

1 本信託における残余財産の受益者は、甲とする。

2 甲が亡くなっていたときはAとする。

(契約に定めのない事項)

第○条 本信託に定めのない事項は、受託者と受益者が協議の上決定する。

別紙1

信託財産目録

第1 信託不動産

(1)土地

所在      

地番      

地目      

地積

(2)建物      

所在 

家屋番号 

種類 

構造 

床面積㎡

第2 信託金銭 金○○万円

以上

別紙2

信託財産責任負担債務

本店                                   

商号○○銀行        

取扱店○○支店                  

連帯債務者 甲

連帯債務者 A

設定時の債務金○○万円

平成○○年○月○日付ローン契約

融資限度枠2000万円

融資期間30年

以上

参考

(大垣尚司「自己信託―もうひとつの民事信託―」『民事信託の理論と実務』2016  日本加徐出版P281~)

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