一度家族信託・民事信託を利用している人が、もう一度別の財産に対して家族信託・民事信託を利用する

 ある方が相談に来たことがありました。2017年だったか、そのくらいの時期です。事務所のホームページを読んで連絡していただきました。

 家族信託について知っていて、調べて来たようです。所有している不動産を法人で管理していて、不動産についても詳しいようです。

話してもいても、どこから専門家に任せるか、どこは自分で判断するのかが分かっている方だという印象でした。

 お父さんが所有している不動産についての相談でした。質問も、一緒にこの制度も使えるのか、使えなかったら家族信託は利用しない方が良いのか、答えやすい訊き方でした。

 

 相談を受けていて、家族信託を利用するとメリットの方が大きいような件であることを伝えました。ただ、不動産を担保に借入れを行っている金融機関があり、その金融機関が家族信託サービスを始め、利用を勧められているようです。借入れをしているので(関係があるかは分かりませんが)、今回の不動産などは、借入れを行っている金融機関の家族信託サービスを利用する、ということでした。

ただ、他にも家族信託を検討する物件があるので、その時は宮城さんにお願いしたいと言ってくださいました。

 

 少ない経験上ですが、この方はもう一度私のところに来ることはないと思っていました。金融機関のサービスの方が金額は高いですが、一度ある場所の長期間に渡るサービスを利用すると、不満がない限りは他のところを利用したいと思わないものだからです。私もそうです。新聞を取っている場合などが当てはまるのかなと思います。

 

それから、1年とちょっと経った頃。再度相談に来ていただきました。私は忘れかけていたので、意外でした。話を聞いてみると、金融機関の家族信託サービスの設定がやっと終わったとのこと。

信託契約書などを見せていただきましたが、本当につい最近終わったようです。

そして以前の相談時の通り、別の物件に対して家族信託を利用したいとのことでした。

内容は、金融機関が作成した信託契約書を同じ内容で、と言われたので、ちょっとチェックして過不足があれば修正するんだな、すんなり終わるんだろうな、と思っていました。

しかし、よくよく話を聞いてみるとそうでもありません。第2次受益者、年毎の書類作成、登記の仕方が少しずつ違っています。

 

金融機関作成の信託契約書と整合性を保ちつつ、修正していきます。最初から私が信託契約書の作成、信託登記申請を行うのとは、違う神経を使った気がしました。それでも3か月くらいで登記まで完了し、信託期中に入りました。

 

 人には色々な事情があるんだな、と感じる一件です。まだ始まったばかりですが。

 

「遺言書が絶対ではなくなった!?」というセミナーの内容の予想

(一社)家族信託普及協会からセミナー案内(3,000円)のメールが来ました。

内容の一部です。

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「遺言書が絶対ではなくなった!?」

    〜対抗要件主義の影響と家族信託     協会理事 菊永 将浩氏

⇒民法の改正に伴い、「遺言書さえあれば大丈夫」という時代は終わりました。

新たに設けられた「特定財産承継遺言」についての解説と、家族信託とのかかわりについて考えます。

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・「特定財産承継遺言」とは何でしょうか。

民法第1014条[1]に記載があります。遺言書の文言に、相続人に対して、「土地は相続人Aに相続させる。」などの記載が入っている場合です。

・なぜ、遺言書が絶対ではなくなったのでしょうか。遺言を書く人側から考えてみます。遺言は改正前から、自筆証書遺言であれば紛失、公正証書遺言であれば、遺言と違う内容の遺産分割協議が相続人の間で成立するなど、絶対ではありませんでした。

文脈からすると、特定財産承継遺言は、対抗要件主義の影響で絶対ではなくなった、という理解で良いのかなと思います。対抗要件主義とは何でしょうか。対抗要件というのは、既に成立した権利関係、法律関係を他人に対して法律上主張することができるために必要とされる法律要件、とあります。例として、不動産物権の変動における登記、動産物権の変動における引渡し、指名債権譲渡における通知、承諾など、とされています[2]。対抗要件については分かりましたが、対抗要件主義[3]に対する説明は見付けることが出来ませんでした。法律用語ではなく、対抗要件に対する思想のようです。

改正前は、遺言書の文言に、相続人に対して、「土地は相続人Aに相続させる。」などの記載が入っている場合、遺言者が亡くなったと同時に(登記や登録がされていなくても)指定された人に渡るとされていました(最判平成3年4月19日、最二小判平成14年6月10日、最二小判平成5年7月19日)。

それが改正されて、土地の価格が相続人Aの相続分を超える場合、超えた部分については、登記をしないと他の人に主張することが出来ないようになりました。

もしAさんが土地について登記をしなかった場合、相続分を超えた部分については、他の相続人Bさんが登記をすると、BさんがAさんに優先することになります。

おそらく、このような意味で「遺言書が絶対ではなくなった!?」ということなのかと考えました。だから、家族信託なら受益権を遡及取得出来る。という提案をするのかまでは分かりませんでした。


[1] (特定財産に関する遺言の執行)

第千十四条 前三条の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ適用する。

2 遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第八百九十九条の二第一項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。

3 前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に規定する行為のほか、その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる。ただし、解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。

4 前二項の規定にかかわらず、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

[2] 法令用語研究会編『法律用語辞典第4版』2012有斐閣P738

[3] 東京司法書士会民法改正対策委員会編『Q&Aでマスターする相続法改正と司法書士実務』P185 平成30年 日本加除出版

連絡なしにコロナで変わる(一社)民事信託推進センター

昨年、(一社)民事信託推進センターへ、WEBでのセミナー開催を提案しましたが、費用を理由に断られました。

昨日、メールが流れてきました。
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ー略ー

2020 年度民事信託実務入門講座

7.インターネットでの受講方法
・講義は、当面の間、Zoom(Webinar)を利用して受講していただきます。視聴に際しては、初めて利用される場合 Zoom の約款に同意し、アプリをダウンロードしていただく必要があります。視聴いただく環境によって、ご覧いただけない場合もあります。また視聴にかかる通信費等は視聴する 方の負担となります。
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 コロナがあって変更することは分かるのですが、私だったら事前に連絡したかなと思います。費用の問題でもなかったようです。また、これが出来るのだったら講師は全国の専門家が出来ることになり、可能性が広がります(必ずしも東京に行く必要はありません。)。
zoomのチャット機能、slack、Microsoftのteams。オンラインでテキストのやり取りも出来るのですが、今回は提案を止めます。どうなるのでしょう。

「任意後見と家族民事信託の連携」について

「任意後見と家族民事信託の連携」[1]という記事を読んでの感想です。

・受託者が任意後見人を兼ねることについて

信託法8条を根拠として、受託者と任意後見人を兼ねることは可能という考え[2]

・受託者が信託監督人や受益者代理人を兼ねることは出来ない(信託法124条、137条、144条)ことを根拠に、利益相反の関係に立ち、兼ねることは出来ないという考え。

2つの考えを示した後で、著者は、任意後見人の範囲は広く信託財産に含まれない固有財産の管理をはじめ身上監護(身上保護)等であり、当該任意後見人の「職務」が主に受託者の事務と任意後見人の事務を分掌するものであれば、実務上利益相反することは少ないので、就任は可能、としています[3]

 私も同意見です。この際、任意後見人の「職務」をどのように定めるかがポイントだと考えています。任意後見監督人が代理権目録と信託契約書を読んだ際に、どこが自分の仕事なのか、何を監督すれば良いのか、どのような場面で任意後見人の代理をする可能性があるのか、分かる必要があります。この点を、任意後見契約書と信託契約書の両方について、可能な限り明確に、明確に出来ない部分はどちらの契約が優先すると記載が必要だと考えます。


[1] 「市民と法122」遠藤英嗣P62~

[2] 横浜駅西口公証センターHP https://www.yokohama-notary.com/publics/index/21/「任意後見人も、信託の枠組みにおける受託者も、ともに本人又は受益者(両制度を併用する場合、当然ながら同一人物ですので、以下単に「本人」と言います)に対し、善管注意義務等を負って、本人の財産を管理・処分する立場にありますので、任意後見人と受託者の立場に矛盾はありません。受益権行使などの場面では、具体的状況や契約内容によって利益相反などの問題が浮上することは考えられますが、任意後見監督人、受益者代理人などのツールを活用することによって有効・適切に対処することができるでしょう。」

[3] 遠藤英嗣「全訂 新しい家族信託契約」2019日本加除出版P171

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