相続に関する法律改正のお話(主に遺言と遺言執行者について)
民法(相続関係)改正の概要
(1)施行日
2019年1月13日、2019年7月1日、2020年4月1日[1]。この日付の共通点は、何でしょうか?
答えは、民法のうち、相続に関係する部分の法律改正の効力発生日です。
2019年1月13日は、自筆証書遺言の方式緩和に関する法律の改正日です。ひとつ飛ばして、2020年4月1日は配偶者(夫または妻)の居住の権利に関する法律の改正日です。そして3つ目の2020年7月1日が、遺留分など、その他の相続に関する法律の改正日です。
今回は、少し施行日にこだわります。理由を説明します。
例えば、同じ内容、方法で自筆証書遺言を書いたとします。2019年1月12日に書いた遺言は無効で、2019年1月13日に書いた遺言は有効になる、という可能性もあるのです。
図 1相続に関する法律改正の効力発生日
(1)自筆証書遺言の方式緩和 |
2019年 1月13日 |
2019年 7月1日 |
(1)、(2)以外の相続に関する 法律の改正 |
2020年 4月1日 |
(2)配偶者(夫または妻)の居住の権利に関する法律の改正 |
(2)民法(相続関係)の改正項目
次にどのような項目が改正されたのか、全体を少し見てみます。主に6つの項目に分けられます。改正理由としては、社会情勢や家族の在り方の変化が挙げられています。
図 2民法(相続関係)の改正項目[2]
配偶者の住む権利を保護するための制度の新設 |
遺産分割などに関する見直し |
遺言制度に関する見直し 今回 |
相続の効力等に関する見直し |
相続人以外の者の貢献を考慮するための制度の新設 |
- 自筆証書遺言作成の現状
今回は、遺言をゆいごん、と読みます。法律上の呼び名は「いごん」ですが、ゆいごんでも間違いではありません[3]。
平成29年度、自筆証書遺言の検認数は、1万7,394件[4]となっています。検認とは、自筆証書遺言を書いた方が亡くなった後、子どもなどが家庭裁判所に遺言を持っていって有効な遺言であることを確かめることをいいます[5]。作成された件数とは一致するとは限りませんが、大まかな数を掴むには適している資料だと考えます。
図 3自筆証書遺言の検認申立件数の推移[6]
- 遺言と遺言執行者に関する改正点
ア 遺言編
Q.自筆証書遺言の方式は、どのように緩和されましたか。
A 自筆証書に財産の目録を添付する場合には,その目録については自分で書く必要はないことされました。
財産の目録として,登記事項証明書や預金通帳のコピーを一緒に綴ったり、パソコン等で作成したりする等の方法を採ることができるようになりました。
※注意
自分で書かない財産目録を作成する場合には、その目録の各ページに署名と契印が必要です(新法968条2項)
Q 遺言書の本文が記載された同じページに、財産目録を印刷することはできますか。
A 自書による本文とは、別の用紙で財産目録を作成する必要があります。
Q 財産目録にする署名と押印は,印刷面ではなく白紙の裏面にすることもできますか。
A 財産目録の用紙の印刷面・裏面のどちらかに署名と押印すれば有効です。
イ 遺言執行者編
遺言執行者は、遺言の内容を実現するために働く人です。
Q 遺言執行者の職務上の重要な変更点は何ですか。
A 相続人に遺言内容を通知する義務が課された点と、相続人に「相続させる」と記載された遺言がされた場合に,遺言執行者が相続登記など必要な行為をする権利が与えられた点です(新法1014条2項)。
Q 預貯金について遺言がされた場合、遺言執行者は預貯金の払戻しや解約ができますか。
A 改正により、預貯金(特定された口座の全額)を相続させる遺言がされた場合には、遺言執行者は預貯金の払戻しや解約をする権限があることが明確にされました(新法1014条3項)。
Q 遺言執行者になった場合、相続人に行う通知の内容はどのようなものですか。
A(1)遺言執行者になったこと
(2)遺言の内容
の2点を通知する必要があります(新法1007条2項)
・今後について
おさらいをしてみます。
- 今年から来年4月にかけて、民法の相続関係について改正の効力が発生するので、施行日について注意
- 自筆証書遺言については、今まで全文を自署する必要があったのが、財産(どの不動産、どの預貯金)などは、ワープロで作成したりする方法が可能になった。
- 遺言執行者になった方は、他の相続人に通知をする義務がある。預貯金は原則として一人で解約して遺言の内容通りに配分することが出来る。
3つの点を押さえておきたいと思います。
なお、2020年7月10日から、法務局が自筆証書遺言をチェック・保管してくれる法務局における遺言書の保管等に関する法律が導入されます[7]。こちらも自筆証書遺言を検討する場合は要チェックの法律です。
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・法務省HP法制審議会-民法(相続関係)部会http://www.moj.go.jp/shingi1/housei02_00294.html
・関根稔「相続法改正対応!! 税理士のための相続をめぐる民法と税法の理解」2018年ぎょうせい
・堂薗幹一郎, 野口宣大「一問一答 新しい相続法――平成30年民法等(相続法)改正、遺言書保管法の解説」2019年商事法務
・東京司法書士会民法改正対策委員会「Q&Aでマスターする相続法改正と司法書士実務―重要条文ポイント解説162問―」2018年日本加除出版
・最高裁判所司法統計HP
平成29年度家事審判・調停事件の事件別新受件数(家庭裁判所別)
[1] 「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(平成30年政令第316号)」
[2] 東京司法書士会民法改正対策委員会「Q&Aでマスターする相続法改正と司法書士実務―重要条文ポイント解説162問―」2018年日本加除出版を基に筆者作成
[3] 『法律用語辞典』P1120、2012年 有斐閣
[4] 最高裁判所司法統計 平成29年度家事審判・調停事件の事件別新受件数(家庭裁判所別)http://www.courts.go.jp/app/sihotokei_jp/list?filter%5Btype%5D=1&filter%5ByYear%5D=&filter%5ByCategory%5D=3&filter%5BmYear%5D=&filter%5BmMonth%5D=&filter%5BmCategory%5D=
[5] 『法律用語辞典』P315、2012年 有斐閣
[6] 最高裁判所司法統計を基に筆者作成。
[7] 「法務局における遺言書の保管等に関する法律の施行期日を定める政令」(平成30年政令第317号)