金融機関が家族信託に取り組んで変わったこと

金融機関が家族信託に取り組むことで変わったこと

沖縄県においては、(株)琉球銀行が2018年1月4日に、(株)沖縄銀行が2018年5月15日に家族信託のサービスを開始しました。

https://www.ryugin.co.jp/corporate/news/9268/

http://www.okinawa-bank.co.jp/news_release/2018051500019/

また、(株)沖縄海邦銀行では、信託の機能を備えた信託口口座を作成することが出来ます。

金融機関が家族信託サービスを開始して、私の事務所で変わったことを挙げます。

1、セカンドオピニオンが取りやすくなった
今までだと、相談に来る方に「他の専門家の意見も聞いてみたらどうですか?」と助言するしかなかったのですが、「銀行口座はどこの銀行ですか?それなら銀行の提案も聞いてみたらどうですか?」と言えるようになりました。
 士業よりも銀行の窓口の方が敷居が低いと感じる方もいらっしゃり、地域金融機関を案内出来ることは、選択肢が広がります。
 また今までの金融機関の対応についても、事実を依頼者に伝えることが出来ます。
2015年に門前払いされたこと、2017年に東京の団体と金融機関を繋いだことなど失敗の方が多いですが。

2、セカンドオピニオンを行う機会が増えた
 逆もあり、金融機関の話を聞いて私の事務所にくる方もいます。「銀行の担当者からはこのような話を聞いたんですが、どうなんですか?」というような感じです。

3、共同研究は不可能
 県内地銀三行の信託担当者へ、学会などへの共同研究の呼びかけをしましたが、反応はありませんでした。目的は沖縄発の、沖縄型の商品・サービス開発に結び付けるためです。他の士業にも呼びかけましたが同じく反応なしでした。
 県内地銀三行ともに、自行で契約した家族信託は提携している士業としか業務を行わないのでお互い競争関係にあるからかもしれません。他士業にしても同様かもしれません。
 東京から来たコンサルタントにセミナーの講師を任せて、夜に接待する時間があれば、自分の頭で研究した方が良いと思うのですが、そんなことを考えているから反応がないのかもしれません。

20230329追記

「りゅうぎん家族de信託」の取り扱い開始について 2018/01/04

https://www.ryugin.co.jp/corporate/news/9268/

「お金の信託」取り扱い開始について2023/02/13

https://www.ryugin.co.jp/corporate/news/60856/

当事務所の顧客が家族信託を利用としたところ、相談を行った支店ではOKでしたが、本店から担当行員が来て、琉球銀行の取引のある司法書士じゃないと駄目だと言われ、別の司法書士が行うこととなりました。対価を支払っているのは誰なのでしょうか。

金融庁 顧客本位の業務運営に関する原則(改訂版)令和3年1月15日

https://www.fsa.go.jp/policy/kokyakuhoni/kokyakuhoni.html

 

チェック方式の自己信託設定証書(案)

自己信託設定証書
 
前文

 委託者【氏名】は、その所有する財産を信託財産とし、自己を受託者として信託を設定する(以下、「本信託」という。)。本信託はこれにより効力を生じる。

第1章 総則

第1条 (信託の目的)
□1 信託の目的は、次の各号に掲げるとおりとする。受託者は、信託の目的に従い信託財産を管理、運用、処分およびその他の目的達成のために必要な行為を行う。
□(1)受益者とその扶養義務者の安定した暮らし。
□(2)財産の円滑な管理および承継。
□(3)【                       】
□(4)【                       】
□2 信託目的の優先順位【                】

第2条 (信託財産)
□1 本信託における財産は、次の第1号から第2号までとする。本信託の翌日以降に生じた第3号から第5号までの財産も、その種類に応じた信託財産に帰属する。
□(1)別紙記載の不動産(以下、「信託不動産」という。)。
□(2)別紙記載の金銭(以下、「信託金銭」という。)。
□(3)信託財産に属する財産の管理、運用、処分、滅失、損傷その他の事由によ
     り受託者が得た財産。
□(4)受益者が信託目的の達成のために行う、自己が所有する金銭、不動産、
    債権およびその他の財産を信託財産とする追加信託。
□(5)その他の信託財産より生じる全ての利益。
□2 委託者は、本信託について特別受益の持ち戻しを免除する。
□3 本信託設定日における信託財産責任負担債務は、別紙記載のとおりとする。
□4 【                  】

第3条 (信託設定者)
□1 自己信託を設定する者は、次のとおりとする。
住所【                】  
氏名【             】生年月日【       】
□2 受託者の任務は、次の場合に終了する。
 □ただし、信託法58条1項は適用しない。
□(1)受託者の死亡。
□(2)受益者の同意を得て辞任したとき。
□(3)受託者に成年後見人または保佐人が就いたとき。
□(4)受託者が法人の場合、合併による場合を除いて解散したとき。
□(5)受託者が、受益者からの報告請求に対して2回続けて報告を怠った場合。
□(6)受益者と各受託者が合意したとき。
□(7)【受託者が○○歳になったとき・                】
□(8)受託者が唯一の受益者となったとき。ただし、1年以内にその状態を変更
     したときを除く。
□(9)その他信託法で定める事由が生じたとき。
□3 受託者の任務が終了した場合、後任の受託者は次の者を予定する。
   【住所】【氏名】【生年月日】【委託者との関係】
 □(後任の)受託者の任務が終了した場合、新たな受託者を次の順位で予定する。
  第1順位:任務終了前の受託者が、あらかじめ書面により指名した者。
  第2順位:信託監督人が書面により指定した者。
  第3順位:その他信託法に基づいて選任された者。
□4 任務が終了した受託者(その相続人のほか、信託財産を管理すべき者を含む。)
   は、後任の受託者が信託事務の処理を行うことができるようになるまで、受益
   者への通知、信託財産の保管その他の必要な事務を行う。
□5 受託者に指定された者が、本信託の利害関係人による催告から1か月以内
   に受託者に就任しない場合は、受益者は新たな受託者を定める。
□6 後任受託者は、前任の受託者から受託者としての権利義務を承継し、次の各
   号に記載する必要な事務を行う。
□(1)債務の弁済、費用の清算。
□(2)前受託者の任務終了が辞任による場合を除いて、必要な場合の債務引受け。
□(3)その他の信託財産の引継ぎおよび信託事務を処理するための受託者の変
     更に伴う必要な手続。
□7 【                       】

第4条 (受益者)
□1 本信託の第1順位の受益者は、次の者とする。
  【住所】【氏名】【生年月日】
□2 受益者の死亡により受益権が消滅した場合、受益権を原始取得する者として
   次の者を指定する。
   第2順位
  【住所】【氏名】【生年月日】
 □【住所】【氏名】【生年月日】
 □ 第3順位
  【住所】【氏名】【生年月日】
 □【住所】【氏名】【生年月日】
□3 次の順位の者が既に亡くなっていたときは、さらに次の順位の者が受益権を
   原始取得する。
□4 受益権を原始取得した者は、委託者から移転を受けた権利義務について同意
   することができる。
□5 受益者に指定された者または受益権を原始取得した者が、受益権を放棄した
   場合には、さらに次の順位の者が受益権を原始取得する。
□6 受益者に指定された者が、指定を知ったとき又は受託者が通知を発してから
  1年以内に受益権を放棄しない場合には、受益権を原始取得したとみなす。
□7 【委託者氏名】は、【委託者以外の受益者氏名】が受益権を取得することを承
   認する。


第5条 (受益権)
□1 次のものは、元本とする。
□(1)信託不動産。
□(2)信託金銭。
□(3)遺留分推定額。
□(4)【修繕積立金、敷金・保証金等返還準備金・        】
□(5)上記各号に準ずる資産。
□2 次のものは、収益とする。
□(1)信託元本から発生した利益。
□(2)□【賃料・             】
□3 元本又は収益のいずれか不明なものは,受託者がこれを判断する。
□4 受益者は、信託財産から経済的利益を受けることができる。
□5 【受益者氏名】は、【医療、入院、介護その他の福祉サービス利用に必要な費
   用の給付・生活費の給付・教育資金・      】を受けることができる。
□6 受益者は、事前に□【受託者・信託監督人】の書面による同意を得なければ、受益権の全部または一部を□【譲渡・質入れ・担保設定・その他の処分】することができない。ただし、信託財産または受益権に金融機関による担保権が設定されているときは、あらかじめ当該金融機関の承認を受ける。
□7 受益者は、遺留分請求があった場合は、受託者に事前に通知のうえ受益権(受益債権は金銭給付を目的とする。)を分割、併合および消滅させることができる。
□8 受益権は、受益権の額1円につき1個とする。
□9 【任意後見人の事務について同意する事項(    )・        】

第6条 (受益者代理人など)
□1
□(1)本信託の受益者【氏名】の代理人は次の者とし、□【本信託の効力発生日・
  受益者が指定した日・受益者に成年後見開始または成年後見監督人選任の審判が開始したとき・    】から就任する。
□(2)本信託の信託監督人は次の者とし、□【本信託の効力発生日・受益者が指定した日・        】から就任する。
  【住所】【氏名】【生年月日】【職業】
□2 受益者(受益者の判断能力が喪失している場合で、受益者代理人が就任していないときは受託者)は必要がある場合、受益者代理人、信託監督人を選任することができる。
□3 受益者代理人および信託監督人の変更に伴う権利義務の承継等は、その職務
   に抵触しない限り、本信託の受託者と同様とする。


第7条 (委託者の地位)
□1 委託者は、次の各号の権利義務を受益者に移転する。
□(1)信託目的の達成のために追加信託をする権利義務。
□(2)受益権の放棄があった場合に、次の順位の受益者または残余財産の帰属権
    利者がいないとき、新たな受益者を指定することができる権利。
□2 委託者は、受益者を変更する権利およびその他の権利を有しない。
□3 委託者の地位は、受益権を取得する受益者に順次帰属する。
□4 委託者が遺言によって受益者指定権を行使した場合、受託者がそのことを知
   らずに信託事務を行ったときは、新たに指定された受益者に対して責任を負わ
   ない。

第2章 受託者の信託事務

(信託財産の管理方法)
第○条
□1 受託者は、信託不動産について次の信託事務を行う。
□(1)所有権の移転登記と信託登記の申請。
□(2)本信託の変更により、信託不動産に関する変更が生じる場合の各種手続き。
□(3)信託不動産の性質を変えない修繕・改良行為。
□(4)信託財産責任負担債務の履行。
□(5)受託者がその裁量において適当と認める方法、時期及び範囲で行う次の事務。
  □売買契約の締結および契約に付随する諸手続き。
  □賃貸借契約の締結、変更、終了、契約に付随する諸手続き及び契約から生じる
   債権の回収および債務の弁済。
  □使用貸借契約の締結、変更、終了および契約に付随する諸手続き。
  □保険契約の締結または名義変更、契約の変更および解除。
  □保険金及び賠償金の請求及び受領。
  □リフォーム契約の締結。
  □境界の確定、分筆、合筆、地目変更、増築、建替え、新築。
  □その他の管理、運用、換価、交換などの処分。
  □【                  】
  □ただし、以下の事項については、□【受益者・信託監督人・       】
   から事前に書面(電磁的記録を含む。)による承認を得なければならない。
  □【                  】
  □【                  】
  □【                  】
□(6)その他の信託目的を達成するために必要な事務。
□2 受託者は信託金銭について、次の信託事務を行う。
□(1)信託に必要な表示又は記録等。
□(2)受託者個人の財産と分けて、性質を変えずに管理。
□(3)信託財産責任負担債務の期限内返済および履行。
□(4)本信託の目的達成に必要な場合の、信託財産責任負担債務の債務引受。
□(5)受託者がその裁量において適当と認める方法、時期及び範囲で行う次の事務。
□受益者への定期的な生活費の給付、医療費、施設費などの受益者の生活に必要な費用の支払い。
□金融商品の購入、変更および解約。
□不動産の購入、賃借。
□受益者の送迎用車両その他の福祉用具の購入。
□受益者所有名義の不動産に対する擁壁の設置、工作物の撤去などの保存・管理に必要な事務。
 □【                            】
 □その他の信託目的を達成するために必要な事務。
 □ただし、以下の事項については、□【受益者・信託監督人・       】
   の書面(電磁的記録を含む。)による事前の承認を得なければならない。
  □【○○万円を超える支出・       】
  □【                  】
□3 受託者は、信託目的の達成のために必要があるときは、受益者の承諾を得て金銭を借入れることができる。受託者以外の者が債務者となるときは、借り入れた金銭は信託財産に属する。
□4 受託者は、受益者の承諾を得て信託財産に(根)抵当権、質権その他の担保権、用益権を(追加)設定し、登記申請を行うことができる。
□5 受託者は、信託事務の一部について必要があるときは、受託者と同様の管理方法を定め、第三者へ委託することができる。
□6 受託者は、本信託契約に記載のない特別の支出が見込まれる場合は、本信託の目的に従い受益者の承諾を得て、支出することができる。
□7 受託者は、各受益者と信託事務処理費用を受益者の負担とする合意をすることができる。
□8 受託者は、受益者(受益者代理人、信託監督人、法定代理人および任意後見人が就任している場合は、それらの者を含む。)から信託財産の管理状況について報告を求められたときは、1か月以内に報告しなければならない。
□9 受託者は、計算期間の末日における信託財産の状況を、信託財産に応じた方法によって受益者(受益者代理人、信託監督人、法定代理人、任意後見人が就任している場合は、それらの者を含む。)へ報告する。
□10 受託者は、受益者から追加信託の通知があった場合、その財産に信託の目的をはじめとした契約内容に適合しない財産がある場合は、追加信託の設定を拒否することができる。
□11 受益者に対して遺留分請求があった場合、遺留分の額が当事者間で確定しないときは、受託者は調停調書その他の権利義務が確定する書面を確認するまで、履行遅滞の責任を負わない。
□12 受託者は、善良な管理者の注意をもって、受益者のために忠実に職務を遂行する。
□13 受託者は、土地への工作物などの設置により他人に損害を与えることのないように管理する。
□14 受託者は、信託行為に記載のある事務および受益者の事前同意を得た事務に関して、信託期間中及び信託終了後、信託財産に関する瑕疵及び瑕疵により生じた損害について責任を負わない。
□15 本条項に記載のない事項は、信託法その他の法令に従う。

第8条 (信託事務処理に必要な費用)
□1 信託事務処理に必要な費用は次のとおりとし、受益者の負担により信託金銭
   から支払う。信託金銭で不足する場合には、その都度、またはあらかじめ受益
   者に請求することができる。
□(1)信託財産に対して課せられる公租公課。
□(2)信託不動産の維持、保全、修繕および改良に必要な費用。
□(3)損害保険料。
□(4)信託監督人、受益者代理人およびその他の財産管理者に対する報酬・手数
     料。
□(5)弁護士等の士業その他の第三者へ委託した場合の手数料又は報酬。
□(6)受託者が信託事務を処理するに当たり、過失なくして受けた損害の賠償。
□(7)その他の信託事務処理に必要な諸費用。
□(8)【                  】
□2 受託者が信託事務の処理に必要な費用に関して、【金額】円を超える場合、事前に信託金銭の中から支払いまたは事後に信託金銭から償還を受けるときは、受益者に対してその額のみを通知する。ただし、算定根拠を明らかにすることを要しない。

第3章 信託の終了と清算

第9条 (信託の終了)
□1 本信託は、次に掲げる各号のいずれかの場合に終了する。
□(1)【氏名】が亡くなったとき。
□(2)信託の目的に従って受益者と受託者の合意があったとき。
□(3)信託財産責任負担債務につき、期限の利益を喪失したとき。
□(4)受益者と受託者が、○○県弁護士会の裁判外紛争解決機関を利用したにも
    関わらず、和解不成立となったとき。ただし、当事者に法定代理人、保佐人、
    補助人または任意後見人がある場合で、その者が話し合いのあっせんに応じ
    なかった場合を除く。
□(5)受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が1年間継続したとき。
□(6)受託者が欠けた場合であって、新受託者が就任しない状態が1年間継続し
     たとき。
□(7)信託財産が無くなったとき。
□(8)その他信託法で定める事由が生じたとき。
□(9)【                       】
□2 本信託において、信託法164条1項は適用しない。

第10条 (清算受託者及び手続)
□1 清算受託者は、本信託が終了したときの受託者とする。
□2 清算受託者は、本信託の受託者として行っている職務を終了し、次の清算手
   続きを行う。
□(1)信託財産に属する債権の回収および信託債権に係る債務の弁済。
□(2)受益債権に係る債務の弁済。ただし、残余財産の給付を内容とするものを
     除く。
□(3)清算手続きに必要がある場合、残余財産の帰属権利者に通知のうえ、財産の処分、担保設定および残余財産の帰属権利者による債務引受けの催告。ただし、債権者があるときはその承諾を必要する。
□(4)信託事務に関する最終の計算。
□3 残余財産の帰属権利者から最終計算の承認がされ、清算受託者が残余財産を帰属権利者に引き渡したとき(残余財産の帰属権利者による債務引受けが必要な場合は、事前に債務引受けを行うことを要する。)に清算手続きは終了し、信託財産の所有権は移転する。
□4 清算受託者は、清算結了時の現状有姿(債務引受けの状態を含む。)でもって残余財産を残余財産の帰属権利者に引き渡す。
□5 清算受託者による登記、登録、届け出および通知が必要な残余財産がある場
   合は、その手続きを行う。
□6 清算受託者の変更に伴う権利義務の承継等は、本信託の受託者と同様とする。


第11条 (信託終了後の残余財産)
□1 本信託の終了に伴う□【残余財産の受益者・残余財産の帰属権利者】は、次の順位により指定する。
第1順位
住所 ○○県○○市○○町〇―〇―〇
氏名 ○○○○
生年月日 昭和〇年〇年〇月〇日
第2順位
住所 ○○県○○市○○町〇―〇―〇
氏名 ○○○○
生年月日 昭和〇年〇年〇月〇日
第3順位
住所 ○○県○○市○○町〇―〇―〇
氏名 ○○○○
生年月日 昭和〇年〇年〇月〇日
□【                  】
□2 次の順位の者がすでに亡くなっていたときは、さらに次の順位の者を残余財産の帰属権利者に指定する。
□3 残余財産の帰属権利者に指定された者が当該権利を本信託の受益権と共に放棄した場合には、さらに次の順位の者を残余財産の帰属権利者に指定する。
□4 清算結了時に信託財産責任負担債務が存する場合で金融機関が求めるときは、合意により残余財産の帰属権利者は、当該債務を引き受ける(信託法181条)。


第4章 その他

第12条 (受益者の代理人が行使する権利)
□1 受益者代理人が就任している場合、受益者代理人は受益者のためにその権利
   を代理行使する。
□2 受益者に民法上の成年後見人、保佐人、補助人または任意後見人が就任して
   いる場合、その者は受益者の権利のうち次の代理権および同意権を有しない。
   ただし、任意後見人、保佐人および補助人においては、その代理権目録、
   代理行為目録および同意行為目録に記載がある場合を除く。
□(1)受託者の辞任申し出に対する同意。
□(2)受託者の任務終了に関する合意権。
□(3)後任受託者の指定権。
□(4)受益権の譲渡、質入れ、担保設定その他の処分を行う場合に、受託者に同
     意を求める権利。
□(5)受益権の分割、併合および消滅を行う場合の受託者への通知権。
□(6)受託者が、信託目的の達成のために必要な金銭の借入れを行う場合の承諾
    権。
□(7)受託者が、信託不動産に(根)抵当権、その他の担保権、用益権を(追加)
     設定する際の承諾権。
□(8)受託者が、本信託契約に記載のない特別の支出が見込まれる場合に、本信
    託の目的に従い費用を支出するときの承諾権。
□(9)受託者が、各受益者と信託事務処理費用を受益者の負担とする場合の合意
    権。
□(10)受託者が、本信託契約に記載のない特別の支出が見込まれる場合に、本
     信託の目的に従い費用を支出するときの承諾権。
□(11)受託者が、各受益者と信託事務処理費用を受益者の負担とする場合の合
     意権。
□(12)本信託の変更に関する合意権。
□(13)残余財産の帰属権利者が行う、清算受託者の最終計算に対する承諾権。
□(14)本信託の終了に関する合意権。
□3 信託監督人が就任している場合、受益者の意思表示に当たっては事前に信託監督人との協議を要する。

 
第13条 (信託の変更)
□1 本信託の変更は、次の各号に掲げる方法による。ただし、信託財産が金融機関に担保提供されている場合、受託者はあらかじめ当該金融機関の承認を受ける。
□(1)信託目的の範囲内において、受託者と受益者による合意。
□(2)その他信託法が定める場合。
□2 受益者が受益権を分割、併合および消滅させたときは、信託の変更とする。
□3 【                       】

第14条 (信託の期間)
 本信託の期間は、契約日から本信託が終了した日までとする。
□【                       】

第15条 (公租公課の精算)
 本信託の税金や保険料などは、本信託設定の前日までは委託者、以後は信託財産から支払う。

第16条 (計算期間)
□1 本信託の計算期間は、毎年1月1日から12月31日までとする。
□2 最初の計算期間は契約の日から12月31日までとし、最後の計算期間は1月1日から本信託の終了した日までとする【受益者が法人の場合は事業年度】。

第17条 (契約に定めのない事項の処理)
□1 本信託の条項に定めのない事項は、信託法その他の法令に従い、受益者及び
   受託者の協議により処理する。
□2 受益者及び受託者のみでは協議が整わない場合で、意見の調整を図り信託の
   存続を希望するときは、○○県弁護士会の裁判外紛争解決手続を利用する。
□3 【                        】

特約
□1 【遺留分権者の確認                  】
□2 【遺留分権者への対応                     】
□3 【信託変更の場合の届出                    】
□4 【受益者指定権者等の有無                   】
□5 【委託者による購入済みの保険、投資信託、株式の確認と今後の対応】
□6 【受託者の報酬                        】
□7 【受益者の指図権  無・有(                )】
□8 【受託者が指図に従わなくても良い場合】
□9 【法人がある場合の履歴事項証明書・規約・出資者名簿・     】
□10 【受益者・推定相続人に外国籍、日本以外の住所、居所がある方がいる場合【国名】     】
□11 【信託財産が日本以外にある場合【国名】         】
□12 【準拠法の選択【日本】・             】
□13 【任意後見人の事務について同意する事項(    )】

以上


別紙
信託財産目録

第1 不動産【自宅・貸地・貸家・墓地・         】
所在 地番 地目 地積       
所在 家屋番号 種類 構造 床面積 

第2 金銭  
【金額】円

第3 その他
【仏壇・位牌・     】
以上

別紙
信託財産責任負担債務目録

□ 1 金銭債務
    (連帯)債務者 【住所氏名】
    債権者    【金融機関本店】【金融機関名】【取扱店】
    【契約年月日・契約の種類】に基づく残債務の全て
    【当初金額】万円
    【利息】【損害金】

□2 保証債務
   (連帯)保証人 【住所氏名】
   (連帯)債務者 【住所氏名】
   債権者     【本店】【商号】【取扱店】
   【契約年月日・契約の種類】に基づく残債務の全て
   【当初金額】万円【利息】【損害金】

□3 担保権
(1)担保権者 【本店】【商号】【取扱店】
(2)【年月日】設定の【担保権の名称】
(3)登記 【法務局の名称】【年月日】【受付年月日・受付番号】
(4)被担保債権及び請求債権
   【年月日】付【契約名】に基づく残債務の全て
   【当初金額】万円 【利息】【損害金】
(5)(連帯)債務者 
   【住所】【氏名】
(6)不動産 
   所在 地番 地目 地積 共同担保目録第【番号】号
   所在 家屋番号 種類 構造 床面積 共同担保目録第【番号】号

□4 その他の債務
  不動産の賃貸借契約にかかる債務
  【管轄法務局名・受付年月日・受付番号】登記済み
  【賃料】
  □【存続期間・支払時期】
  □【賃借権の譲渡許可・賃貸物の転貸許可】
  □【敷金】
  □【賃貸人が財産の処分につき行為能力の制限を受けた者・財産の処分の権限
    を有しない者】
   □【土地の賃借権設定の目的が建物の所有】
   □【土地の賃借権設定の目的が事業用建物の所有】
   □【借地借家法22条前段・23条1項・38条1項前段・39条1項・高
     齢者の居住の安定確保に関する法律52条・大規模な災害の被災地にお
     ける借地借家に関する特別措置法第7条1項】

 □地役権の目的となっている承役地【所在 地番 地目 地積】
  【管轄法務局名・受付年月日・受付番号】登記済み
  【要役地】【地役権設定の目的】
   □【地役権の付従性の制限】
   □【工作物の設置義務等】
   □【図面確認】

 □地上権の目的となっている土地
 【管轄法務局名・受付年月日・受付番号】登記済み
  【地上権設定の目的】【地代又は支払い時期の定め】□【存続期間・借地借家法
  22条前段の定期借地権・借地借家法第23条第1項の事業用借地権・大規模
  な災害の被災地における借地借家に関する特別措置法第7条2項】の定め
  □【地上権設定の目的が事業用】
  地下又は空間を目的とする地上権の場合□【地下の上限の範囲・空間の上下
  の範囲】□【土地への制限】

□ 信託不動産の各賃貸借契約にかかる各敷金返還債務

□ 信託不動産の各賃貸借契約にかかる各保証金等の預り金についての返還債務

□【                        】

以上

信託目録
1 委託者に関する事項 □【住所】【氏名】
2 受託者に関する事項 □【住所】【氏名】・【本店】【商号】
3 受益者に関する事項等 □【住所】【氏名】
□【受益者氏名】の受益者代理人
 【受益者代理人の住所・氏名】
□【受益者代理人の住所・氏名】
□【受益の指定に関する条件】
□【受益者を定める方法】
4 信託条項 □ 【年月日】【公証人所属法務局名】公証人【公証人氏名】作成に係る信託契約公正証書(【年月日】第【○○】号)
【全部・第2次、第3次受益者のみ・     】

1信託の目的
□【信託契約書第   条   項   号 】

2信託財産の管理方法
□【信託契約書第   条   項   号 】

3信託の終了事由
□【信託契約書第   条   項   号 】

4その他信託条項
□【信託契約書第   条   項   号 】

その他の信託条項は、【年月日】付信託契約書及び変更契約書記載の通り。

備考 □【受託者が法人であるので、法人の構成員全員の住所氏名と、不動産を売却するには全員の署名および実印がある承諾書(3か月以内の印鑑証明書添付)が必要なことを信託目録に記載する】

□【どの不動産が信託財産か分かるように、信託した他の不動産を信託目録に記録する。】

□【                          】

以上

本人又は第三者の同意(承諾)を要する旨の特約目録(任意後見契約公正証書)


別紙
本人又は第三者の同意(承諾)を要する旨の特約目録
(任意後見契約公正証書・附録第1号様式に基づく)

□1 代理権目録記載事項のうち、次の事項については【年月日】締結の民事信託契約に関連して、事前に□【受託者・受益者(受益者代理人)・信託監督人】の同意を得なければならない。
【A  B  C  D  E  F  G  H  I  J  K  L M  N  】

□2 代理権目録記載事項のうち、【年月日】締結の信託契約に関連して信託財産に属した財産は受益者代理人などの信託関係者が優先する。
【A  B  C  D  E  F  G  H  I  J  K  L M  N  】

以上

法制審議会信託法部会第26回~30回,国会

第26回、第29回は入っていません。
2016年加工編
法制審議会信託法部会
第27回会議 議事録

第1 日 時  平成17年12月16日(金)  自 午後1時04分
                        至 午後5時05分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題  信託法の見直しについて
   
第4 議 事  (次のとおり)



議        事
● それでは,これから信託法部会を開催したいと思います。
  今日は,○○幹事の方で,また適宜分けて議論していくことになります。
  それでは,分け方,資料等について説明してください。


● 今回資料が直前になりまして,大変御迷惑をおかけしまして恐縮でございます。
  資料,全部で項目は多数ございますが,1個1個がそれほど多岐にわたるものでもないこともございまして,よろしく御協力をお願いしたいと思っております。
 

 分け方といいましても,今日の場合はばらばらとしておりますので,前から淡々と進めていきたいと思いますので,よろしくお願いいたします。
● それでは,お願いします。
● では,一番最初が,脱法信託と訴訟信託の問題でございます。
  脱法信託の禁止につきましては,パブリック・コメントのすべての意見が現行法10条を維持する試案に賛成意見でございましたので,そのとおりとするものでございます。


  訴訟信託の禁止につきましては,パブリック・コメントでは,現行法11条を維持すべきとの意見と,セキュリティ・トラストの利用局面にかんがみまして,正当な理由のある場合を例外基準として明記するか,あるいは現行法11条自体を削除すべきであるという意見とが示されております。
  

しかし,懸念が示されておりますセキュリティ・トラストにつきましては,主たる目的の解釈等によりまして有効と解することができると思われますことにもかんがみまして,現行法11条を維持することによって事案に応じた妥当な解決が図られると考えるものでございまして,このように提案させていただきます。
  以上でございます。

● それでは,脱法信託と訴訟信託について,御意見をいただければと思います。いかがでしょうか。
  ○○委員。


● 訴訟信託の禁止についてのこの規定については,この形で賛成でございますけれども,ちょっとだけ要望を言わせていただきたいと思います。


  解説の中に,正当な理由がある場合については,この主たる目的の解釈,脱法行為性,反公序良俗性にかんがみた個別判断で対応できますよということで書いてあるんですけれども,御承知のとおり,この関係で,弁護士法の潜脱がされないようにということがあると思うんですけれども,


皆さん御承知の,最高裁の平成14年1月22日の弁護士法違反かどうかの判断の際には,国民の法律生活上の利益に対する弊害が生じる恐れがなく,社会経済的に正当な業務の範囲内と認められる場合には,弁護士法73条に違反しないというのがございますので,このあたりを解説等に書いていただきたいなというふうに思います。


  特に,流動化の関係で,この73条の例外として,サービサー法でもって権利の実効のための債権の譲り受けというのが認められているわけなんですけれども,最近ちょっとサービサー協会の会報に載っている文なんですけれども,破産事件でサービサーが破産の申立て適格を有するかどうかというところでも同様に,相手方はサービサーの免許を持たないSPCが申立てするのは不適格だという形で対抗していたんですけれども,東京地裁の方でも,この最高裁の判断基準に基づいてSPCの方で,申立て適格があるということを認めております。
 


 それについても,平成17年1月22日,東京高裁でもその部分が維持されているということもございますので,このあたり,かなり考え方については定着しているのかなというふうに思いますので,ぜひ解釈等で,そういう解釈であれば問題ないんだというところを明確にしていただければ,実務上の指針になるのではないかなと思いますので,よろしくお願いしたいと思います。
● 何か,コメントがありますか。


● 御指摘の点でございますけれども,特に御懸念なのはサービサーにつきましては法律があるのでいいとしまして,セキュリティ・トラストの関係かと思うんですけれども,個人的な感触といたしまして,セキュリティ・トラストがそもそも訴訟信託に当たるのかと。担保権を取得するわけでございますが,それは常に執行行為を,最終的には意図しているとしても,任意売却という方法もあるわけでございますし,主目的とまで言えるのかどうかという点は,個人的にはどうかなという気がするわけでございます。

  しかし,仮にそれが訴訟信託,訴訟を主たる目的とする信託に当たるといたしましても,四宮先生の教科書,あるいは前に日弁連からいただいた資料,あるいはそれをおまとめになられた○○委員の御意見などを見ましても,正当な理由がある場合には,これは許容されていいのではないかということは解釈で対応できるということで,我々としても,そこはそういう方向で行きたいと思っておりまして,その一環といたしまして,今○○委員の方から御指摘のございました最高裁の判例の説示につきましても,解釈基準を明らかにする中で言及していきたいというふうに考えているところでございます。


● ほかに。
  ○○委員。

● ○○委員と同じ趣旨を述べ上げるわけですけれども,銀行界としては,御説明あるとおり,セキュリティ・トラストの観点から今そこお話ありましたように,正当な目的で取引をする場合には,規制が障害にならないようにということで,法律上の明確化をパブリック・コメントでも要望していたところでございます。


  もちろん,法律上の明確化というのは望ましいわけなんですが,立法上の困難ないしは解釈上の対応で可能ということであれば,○○委員もおっしゃったように,ぜひとも今後の運営で使いやすいようにという観点から,立法時の解説等で,この点を明らかにしていただきたいと思っております。
  以上です。


● そこは,そのように対応させていただきたいと思います。
● ほかにいかがでしょうか。--よろしいですか。
  どうぞ,○○委員。


● 立場上,○○幹事の御発言どおりのことで,あえてもう1度繰り返させてお時間的に申しわけないんですけれども,訴訟信託の禁止の信託法,現状の11条というのは,別に弁護士会にとって,もちろん関連は深いところではありますけれども,種々,多々の判例等もございますし,また判例の蓄積で主たる目的が何かというところで既に解決されている問題があって,もともと権利濫用無効の議論でありますし,また以前,かなり以前の議論に立ち戻ると,任意的訴訟担当との関連での正当理由という議論ではありましたから,ですから,すべて繰り返す議論は時間的にもったいないんですけれども,このただし書きいれるということは種々,いろいろ問題ありますから,現状のままでよろしくお願いしますということ。

  ○○委員も,また○○委員も,現状のまま,ただし最高裁の判例云々ということだったと思うんですけれども,あの判例自体はまさしく最高裁の判例で,弁護士法73条の関連で,読み方といいますか,正当業務性ということなので,違法阻却のような視点というふうに考えるんですけれども,それは別にこの条文だけではなくて,すべての法理に当てはまる問題だと思います。


  ですから,11条に関して最高裁の判例が特に強く当てはまるとか,または当てはまらないという議論では,特にないかと思います。
  以上です。

● どうもありがとうございました。
  それでは,脱法信託,訴訟信託については,これでよろしいでしょうか。
  それでは,次行きましょうか。


● 次は,第12,信託財産に対する強制執行等についてというところでございます。

  これは第22回部会で御議論いただきましたが,その提案から実質的な変更があった部分についてのみ,2点御説明いたします。

  第1に,受託者が信託事務を処理するに当たりましてした不法行為に基づく損害賠償請求権を有する債権者が,信託財産に掛かっていけるかという問題が従来よりあったわけでございまして,結局これは,受託者の無資力のリスクを受益者と被害者のいずれが負担するのが妥当かという問題であると位置づけられると思います。


  そのように位置づけた上でパブリック・コメントの多数意見なども踏まえまして,結論としては,事実的不法行為であるか取引的不法行為であるかを問わず信託財産に掛かっていけるとしてはどうかと提案したものでございます。


  これに対しましては,受託者の行為が信託財産のために行われた場合に,たまたま相手方がそれによって被害を受けたときに,受託者が無資力であるからといって信託財産に全然掛かっていけないというのはおかしいのではないかという指摘もございまして,前回に引き続きましてこのような提案をしたということになります。


  次に,第2に,4のいわゆる信託宣言によって信託が設定された場合の信託財産に対する強制執行の権利の特則に関しまして,期間制限を設けるべきであるという指摘があったことを踏まえまして,ここでは4の②のとおり,信託設定のときから2年間の期間制限を設けることとしております。


  以上でございます。
● それでは,この第12につきまして,いかがでしょうか。
  ○○委員。


● 先に,信託宣言の新たな規定の御提案についてございます。2年間ということについて意見を述べたいと思います。

  信託宣言の強制執行等の特例について,期間制限をどれぐらいの期間に設定すべきかというのは議論があると思います。多分,会社設立無効の関係かなとは思いますけれども,この2年という期間を設定した理由についてちょっとお尋ねしたいわけなんですけれども。


  では,それはさておき立法論としてこの2年が妥当かどうかということを考えますと,証券化の立場からは,取引安定性を考えると短ければ短い方がいいなということもありますし,ただ債権者の立場からすると,保全の可能性ということがあると長ければ長い方がいいかなということのバランスで悩むところでございます。

  そういうことでございまして,一概に決めるのは難しいというふうには認識しております。ただ,一応銀行として債権者の立場から考えますと,少なくとも債務者を通常モニタリングをしていて,詐害的な信託設定がないかどうかということ,また,そう認識したときに対応が可能な期間を確保したいという,そういう期間がどれくらいなのかなというふうに考えますと,実務上,通常少なくとも1年ごと債務者の決算書を聴取して,どういう財政状況なのかということをモニタリングをしますものですから,このモニタリングの間隔を考えれば,あとそれを認識して詐害信託への対応準備期間を考えれば,この御提案のとおりに2年は最低限必要だなというふうには思っております。

  ということを述べたいと思います。
  以上です。

● 詐害行為取り消しの場合2年ですから,それに合わせてという。
● ただ,この場合は,知ってからではなくてという話なので……。

● もちろんそうです。ちょっと早くなりますけれどもね。
● 念のためですけれども,この特別な規律に基づく強制執行は,設定のときから2年という客観的な時点から起算されますが,仮に2年が経過してこの権利が失われましても,一般の詐害行為取消権,あれは知ったときから2年ですから,そちらの方で訴訟を提起して取り消していくという方法は残るということを付言させていただきます。

● ですから,一応特例としてやりやすいというのを,設定してから2年間にするのか3年にするのかという,そういう議論が今なされていると思っていますけれども,その2年間といった,その設定の理由というのうが,もちろん詐害行為取消権の2年というのもあるんですけれども,あれは認識してからという話ですから,それを,設定してから2年間という,一種の特例を求めるときの期間として今回御提示があったというふうに理解しているわけですので,その2年間というのはどういう理由からなされたのかということをお尋ねしたいと,そういう趣旨でございます。


● それにつきましては,ただいま○○委員から御指摘がありました会社の設立無効の訴えですか,古い条文ですと商法428条で会社法ではどこに行ったかちょっとすぐにはわからないんですが,それにつきましては,成立の日より2年内に訴えをもって主張することができると,これを基本的に参考にしているということでございます。

● ほかに。
  ○○委員。


● この12の部分について,ちょっと私,議論を必ずしも十分フォローしていないのであれなんですが,1の信託財産に対する強制執行等の禁止で(8)の部分に下線が引いてあって,さっき御説明伺いましたが,ちょっとはっきりした自信はありませんが,これは英米信託法のルールとは異なるものだということだけは,やっぱりテークノートしておく必要があって,受益者と無実の被害者とどっちを保護するんだというときに,比較考慮すると当然こうだというのは,幾らでも本当は反論の余地があるということだけ申し上げさせていただきます。

● おっしゃるとおり,伝統的な信託法の理論とは違うということですね。


● そうですね。
● この不法行為によって生じた権利を含めるということについては,今○○委員から御指摘もありあましたように,いろいろ御意見があり得るところだというふうには,もちろん認識しております。

  ただ,アメリカ法がどうかというのをここでまた一から議論するというのは適当ではないと思いますけれども,英米法の中でも,今言いましたように,伝統的な法理は確かに不法行為債権は信託財産に係っていけないといいますか,当てにできないわけですけれども,たしかUTCなんかでは,それを少し修正する方向に動いているのではなかったかというふうにも記憶しておりますが,しかし伝統的な法理でないことは確かですね。


  ですから,皆さんから御意見がなければ,時間の節約で,私がちょっと感じたことを申し上げますと,信託事務を処理するについてという,一応枠といいますか,そういう行為を受託者がするについてした不法行為ということで,ちょうど715条とか,あるいは44条とかああいうところの規定の仕方と同じにそろえてあるわけですが,ちょっと気になりましたのは,信託財産に欠陥があるという,工作物責任が問題となるような場面なんですが,恐らく715条とか44条の場合には,これ問題は生じなくて,つまり717条で責任を追及するときには,被用者を通ってから使用者に行くというルートをとらないで,いきなり使用者,その財産の所有者に対して係っていくんだと思うんですね。それは法人の44条の場合も同じなんですが。

  そういうことで,44条とか715条の場合には生じない問題ですけれども,信託の場合には,工作物に欠陥があったときに,恐らく原案の趣旨は,それはこの条文でいけるという趣旨なんでしょうけれども,715条の文言と同じような文言であるために,そこが,こっちの方が広いんだという理解の仕方をすればいけると思いますけれども,通常715条そのものだといけない可能性があるのかなということをちょっと思いました。

● そこは文言を修正してということで……。
● 文言修正するのがいいのか,そこは……。


● この文言でいけるのではないかと,我々としては思っているわけでございますけれども。


● ですから,そこは明確にしておいた方がいいと思いますけれども。
  715条だと,恐らくいけない。


● 715条ではいけない。
● 恐らくいけないのね。
  あそこと同じように信託事務を処理するについてという表現なので,ここは工作物責任の場合にもいけるという趣旨であるということを明確にした方がいいと思うんですね。

  先に,○○委員でいいですか。

● ちょっと確認だけなんですけれども,信託財産に属する工作物による責任についてのお話が今ございました。

  それ以外に,受託者の被用者についてどうなるのかということが,(8)では必ずしも明確ではないように思うんですが,その場合の715条とか自賠法3条は,(9)に入ると読んでよろしいんでしょうか。


● 被用者が直接の責任を負うわけですか。被用者が実際に,現実に違法行為を行って,その背後に受託者がいるという場合に,被用者は直接普通の709条の責任を負っていくということになるのではないんでしょうか。


● 信託財産に係っていくことはできるかどうかということなんです。

● それは,一応受託者に責任が715条を経由して係っていくことによって信託財産にいけるのではないかというのが,その715条と同じような考え方でこちらはいるわけでございますが。


● そうすると,(8)で,今のは含まれるという理解ですね。
● はい。
● わかりました。


● ですけれども,ちょっと表現が,このままでいければいいと思いますし,今のような工作物責任とか,715条を通って受託者にいくときも,この(8)で含まれるようにということを明確にした方がいいということだと思いますね。
  ほかに。


  ○○幹事。
● 先ほどの○○委員のおっしゃった工作物責任の件なんですが,念頭に置いていらっしゃる例をちょっと確認したいんですが,2通りありまして,信託財産として引き渡されたときに既に瑕疵があって,それによって何かが生じたと,それは土壌汚染なんかの場合によくそういうような問題起こるわけですが,それでもう1つ,信託事務の処理として,例えば建物を建てるというときに,それに瑕疵があって工作物責任が生じたという場合とあると思うんですけれども,後者がこの(8)に含まれることは明らかであろうという気がするんですが,前者も含まれるという御趣旨で今議論がされたんでしょうか。

● 私はそのつもりで申し上げて,普通の715条だとそういうのは入ってこなくなるけれども,ここでは信託財産に責任を負わせていいのではないかという前提で,そういうのを含むというふうに申し上げたつもりです。


  それが適当かどうかという御意見でしょうか。
● 適当かどうかという感じがしますけれどもね。
● 典型的には,今のように土壌汚染も委託者の段階から汚染があって,そういうのを引き受けた。だけれども,これはしかし工作物責任というよりは,あるいは別な法律の責任かもしれませんけれども,信託事務の処理というのを介さないで当然に無過失責任を負わされるような場合があったときに,それが不法行為責任だとして,この(8)でやはりいけるべきではないだろうかという。


● 2通り話がありまして,工作物責任とか土壌汚染の責任とかを,どちらかといえば,所有者という個人が負うというものよりも何か土地自体の債務みたいに考えるということですと,その信託財産に係っていけるという結論は,それはそれなりにわかるところはあるんですけれども,もしそれがそうならば,それを(8)で読むというのはかなり無理があって,先ほど○○委員がおっしゃったように,この不法行為の問題において,信託事務を処理するについてしたという文言というのは極めて大切なんだと思うんですね。

  つまり,受託者という人が勝手に何かをやったということになりますと,それが取引であって,全く信託の事務の範囲に属さないようなことを勝手にやったということになりますと,それは信託に帰属しないという結論が導かれるのに対して,それが不法行為であるならば必ず帰属するということにはならないはずで,英米の伝統的な法理というのは,恐らく,不法行為であるとそれが信託の本旨に従っているわけはないのだから帰属しないという,こういう枠組みなのではないかというふうに思うんですね。

  そうしたときに,しかし信託事務の処理についてした場合には,やはり不法行為でも負わせるべきではないか。

もちろん,取引的不法行為の場合には,錯誤等でいけば当然に信託財産が差し押さえ得るのに,不法行為構成でいくといけないというのはそれはおかしいというのは,これはよくわかるわけで,しかし,勝手に受託者がやった行為について何らかの形で受益者に負担がいくというわけではないわけであって,まさにそれは信託事務を処理するについてしたというところの解釈の問題であって,そこの解釈を,あまりあいまいといいますか拡大をして,工作物責任なんかもここで読めるのだという形でもっていくというのは,今後この文言が,これがそのまま条文になるとは限らないわけですけれども,これが,例えばこのままの形で条文になったときに,この文言の解釈というものが無限定になる恐れというものを感じてしまうのですが。

● まさにそういう,無限定というのとはちょっと違うかもしれませんけれども,この文言で,果たして今のような工作物責任が入るのかどうかというのは私も疑問だったので,どうですかということを皆様に申し上げたつもりでございます。


  どんな対応が可能なのか,もし○○幹事の方で,結論はいいんだけれどもということであれば,何か御提案をいただけるとありがたいんですが。


● 聞かれると困るんですが。
● 結論はよろしいという御意見ですか。土地工作物責任に関しては。少なくとも。

● それはそうなんだと思いますけれどもね。
● むしろ信託財産自身が負うべきだというぐらいの議論があるわけだから,信託財産でいけないというのは,何かおかしい感じはしますよね。
● また,受託者が別個,受益者に対して何らかの責任を負うかどうかという問題を,一応わきに置いて考えて,土壌汚染や工作物責任によって被害を受けたものとの関係で言えば,その財産について差押え等ができても,それはおかしくはないというふうに思いますけれども。

● どうですか。
● 結論はおっしゃるとおり,信託財産自体に瑕疵があってという場合に,やはり信託財産が責任を負うというのは御指摘のとおり,実質的判断としてはよろしいと思いまして,我々は,あとそれが果たして(8)で読めるかというところにつきましては,読めるのではないかという気がしておったわけでございますが,今○○幹事がおっしゃったように,この(8)が無限定に広がるという懸念があるという御指摘も踏まえて,ちょっと書きぶりなどは検討させていただきたいと思っております。
● これ,工作物責任だけに限定されるんだったら,恐らく大したことないのかもしれませんけれども,似たようなものがあるというときになかなか書きにくいかもしれませんね。
  ちょっと書きぶりは検討させていただくとして,何か御意見が,どなたか手を挙げられましたか。
  


土壌汚染なんかも,土壌汚染対策法上の責任が何なのかというのもあまりはっきりしないですよね。不法行為なのかどうかということも含めて。
  ○○幹事。


● 詰めてはいないんですけれども,(8)で工作物責任のようなものが読めるかという点については,やはり読みにくいのではないかという気はいたします。
 


 ただ,それに対する対応を,(8)の文言を少し広げる,あるいは読み込めるような形で図るのか,この文言はやはり限定機能があるので,それは生かした上で,例えばまたはで何かつなぐとか,もう1つ号を立てるとか,そういうやり方もあるのではないかと。
  


どちらがいいのかと言うと,私自身は,これとは別にもう1つの概念として,信託財産によって生じた損害に対する権利だとか,何か文言の工夫ができるのであれば,ここの部分をただ単に広げる形で盛り込むよりは,まだそちらの方がいいのではないかと思います。

● 恐らくその方がよさそうな気がいたします。
  どうぞ,○○委員。


● ちょっとすみません。私,今の話と関係なくて。
  土地工作物責任のお話は,実際には信託財産が不動産である場合も多いので,非常に大きな問題ですね。アメリカであれ,日本であれ。だから,そこで問題がこうやって議論されるのはいいことだと思うんですが,前の一般論のところで,ちょっと先ほど○○委員の方も一言おっしゃってくださったので,少し敷衍だけ。

  つまりこういう例なんですけれども,例えば,私が車運転していますね。受託者もやっているんですね。あるとき受益者のもとへ,何らかの報告義務か何だか,この信託についての説明文書を持って駆けつける途中で人をはねます。不法行為ですね。

  それと関係なく私が人をはねます。はねられた人がやってきて,関係ない場合は私に掛かってくるだけですね。当たり前ですけれども。


  前者の場合にだけ,たまたまいろいろ発見してみたら,とにかく受託者であると。信託財産であると。それがあるではないかと。○○委員はもう破産もしていると。

これで,このはねられた人が保護されるという法理は,英米にはありませんので。UTCであれ,何であれ。
  だからそれは,はねてくれというふうにだれもお願いしてはいないんだし。それから使用者責任との大きな違いは,受益者には指揮権,監督権もないというのが原則ですので。

  そうすると,これで何で,つまりかわいそうな受益者とかわいそうな被害者がいて,これは,当然この被害者だよという話にはならないということだけ,ちょっと申し上げておきたいということです。

● 何かありますか。
● ○○委員からは,これまでそのような御教示をちょうだいしたところでございますが,一応今2つ挙げられた事例で,一方と他方で責任財産異なるというのは,通常の例えば民法の44条とか715条の行うについての「ついて」というところで,同じように起こり得るような,一般的に見ればそういう話なのだと思います。

  それで,受益者は指揮監督権はないだろうというのは,それはそういうことなのかもしれませんけれども,そういう理屈で推論していきますと,例えば株式会社であっても別に株主は業務執行権があるわけではないと。

それで,取締役がその職務について何か損害を与えましたというときに,株主はその損害を負わなくていい,すなわち会社財産は責任財産にならなくていいというような結論にはなっておりませんので,損失をどちらが負担するかという点から考えたときは,その契約関係によって利益を得ているのはだれかと,それによって,ここで言うと,受託者の無資力リスクというのをどちらが負うべきであろうかという観点から考えたときには,一定程度の考え方として成立するのではないかというのが,これまでの部会での議論ではなかったかなというふうに思いますので,ちょっと改めて確認させていただきたいと思います。


● ○○委員の挙げられた具体的な例がどうかというのは,信託事務の処理をするについてした,まさに今のような,取引的な不法行為でない場面の限界というのが多少問題であるというのはこの場でも議論されてまいりまして,今まで,したがって取引的な不法行為に限定した方がいいという意見まで強いものがあったかどうか,ちょっと今記憶しておりませんが,それに近い意見もあったのかと思います。

  ただ,取引的な不法行為かそうでないかという区別もなかなか実際に難しい場合もあって,多くは,しかし実際上ここで生じるのは取引的な場面で,取引的でない今のような場面についてどこで区切るかというのは,やはりこの信託を処理するについてという,その文言で切るしかないわけですけれども,信託の趣旨を考えてというんでしょうか,そこは適切に裁判所で判断してもらうということかと思います。


  ○○委員。
● しつこいんですが確認ですけれども,今出ている715条と信託との関係と,それから先ほど申し上げました受託者の被用者について信託財産に係っていくことができるかというのは,2つの異なるレベルの問題ですと。


● そうですね。
● 後者については,715条の責任を代位責任だというように理解した場合には,必ずしも受託者がした不法行為とは言いにくいのではないかと思います。


ですから,もし717条との関係で(8)を明確化するのであれば,715条も入り得るということは明確にしていただければと思いますが。


● 結論は,ここも全く私は異論がないんですが,どういうふうに……。ちょっと,すみません。歯切れの悪いこと言っているんですけれども,何を気にしているかというと,限定責任信託などの場面で,受託者が,少なくとも709条自身の不法行為を負ったときには,これは限定責任という利益を享受できなくて無限責任を負うと。

  恐らくそこは了解ができていると思うんですけれども,そこで715条の,つまり受託者の被用者が不法行為責任を行って715条の責任を負わされたときに,限定責任の方はどうなるかという問題はあまり,多少念頭には皆さん置かれたと思いますけれども,そう明確に議論されていないところはございまして,それへの影響というのを,ちょっと今どうなるかということを懸念したものですから,少し今慎重な言い回しをしております。


  これについては,○○委員,もしその2つ念当に置きながら議論すると,どういうことになるでしょう。


● 限定責任信託についても715条,717条がどうなるかということは,たしか事務局の方から,何かコメントを当時いただいていたと思いますので,またそれを参照していただいて,平仄のとれた形になればと思いますけれども。


● では715条は,ここではとにかく信託財産に係っていけるという意味での結論が明確になるように,表現等は少しこちらで任せていただくということでよろしいでしょうか。


  それでは,特にほかに御意見がなければ。--よろしゅうございますか。
  ○○委員の御指摘の点も踏まえまして,ここで,議事録には十分残るということになると思います。


  それでは,次に参りましょうか。
● では,次は忠実義務の問題でございまして,ここは第23回で部会で御議論いただきましたが,そこに引き続きまして,利益取得行為にかかる部分は除きまして,それ以外のところ,利益相反行為と競合行為の禁止のところにつきまして御審議をいただければと思っております。


  これは,ポイントとして6点ほど簡単に御説明いたします。
  第1に,提案の1でございますが,忠実義務の射程が信託財産の計算でする行為のみならず,固有財産の計算でする行為,典型的には競合行為でございますが,そこにも及ぶことを明らかにする表現を用いることが望ましいという指摘がございました。そこで,今回は「信託事務の処理」という後に「その他の行為」というのをつけ加えることを提案するものでございます。

  次に第2点といたしまして,提案2の(1)のウのところ,二重線引いてございますが,そこに関しまして,受託者と受益者との利益が相反する第三者との取引類型でございますが,この場合の利益相反関係というのが厳密な意味での受託者個人が利益を得る場合に限らず,間接的に受託者が利益を得る場合も含むことを明確にすべきであるという御指摘を踏まえまして,この「受託者」の後に「又はその利害関係人」ということを加えて,その趣旨を文言上明らかにしたというつもりでございます。

  第3に,(2)の③の二重線でございますが,これは禁止の例外に関しまして,現行法の22条2項の趣旨を維持するとしたものでございます。


  次に第4点といたしまして,④のところでございますが,これは試案の段階におきましては,ここで言いますと前段でございますが,「受益者の利益を害しないことが明らかであって,かつ,受託者がその行為をすることについて合理的な必要性が認められるとき」としておりまして,他方,前回提案のときにおきましては,後段の方でございますが,そのときの文言としては「信託の目的,その行為の性質及び対応,その行為をするに至った経緯その他の事情に照らして受託者がその行為をすることについて正当な理由があると認められるとき」という文言としておりました。


  ここでは,いわばそれを合体させました上で,その考慮事情といたしまして,前の事情と若干かえまして,ここでは受託者と受益者または信託財産との間の利害関係により着目した要素を具体的な考慮事情として挙げることとしたものでございます。

  続きまして,5番目でございますが,提案3の競合行為の禁止のところでございまして,前回の提案におきましては,2案提示しておりまして,1つは,自己または第三者の利益を図る目的であったか否かという,受託者の主観的要件をもって競合行為の正否を判断するという案と--これを甲案と申しますが--それからもう1つは,信託事務の処理として行うべき行為であったか否かによって競合行為の正否を判断すると。その上で正当な理由があるときには例外になるという要件を併せて設定するという考え方--これを乙案と言いますが--そのように提案しておりました。


  これに対しまして,甲案に対しましては,受託者の主観的目的を受益者が立証するのは困難である上に,禁止対象が狭すぎるのではないか等の批判がされまして,他方,乙案に対しましては,その「べき」というところで結局規範的要件を設定する以上,これに加えて,さらに正当な理由という規範的な例外要件を設ける必要はないのではないか等の批判がされました。
  


その上で,部会におきましては,この両案の収れんの方向性といたしまして,客観的判断によるべきものとしつつ,受託者と受益者との間の利益相反的な要素を組み込んでいくことで解決する方向性が示されたところでございます。

  ここでは,この最後の見解に従いまして,2つの要素,すなわち,1つは受託者が受託者として有する権限に基づいて信託事務として処理することができる行為をすることという純客観的な要件と,それからもう1つは,その行為をしないことが受益者の利益に反するという,客観的ではありますが規範性を含む要件と。この2つの要件を満たした場合に,初めて忠実義務違反に反する競合行為に当たるのだとしてはいかがかということを提案するものでございます。


  第6に,(注1)に関しましてでございますが,前回までの提案におきましては,受託者の受益者に対する通知義務は,正当な理由を根拠として利益相反行為が,あるいは競合行為がされた場合に限っていたわけでございますが,この通知義務が,受託者の形式的に利益相反行為,または競合行為に該当する行為を行った場合には,いずれの例外に該当するかを問わず,常に課されるべき義務であるという指摘がありましたことを踏まえまして,そのように改めているものでございます。

  最後に,前回の提案におきましては,受益者と第三者の利益が相反する場合は,善管注意義務の問題となるという整理をいたしましたところ,これは(※5),一番最後8ページのところに係るところを説明しているわけでございますが,このような善管注意義務違反という整理を是としながらも,任務懈怠等の単純な善管注意義務違反行為については損失てん補の問題にとどまるとしても,例えば第三者の利益を図るような善管注意義務違反の行為については,代理人の権限濫用に関する一般法理,具体的には民法93条ただし書きの類推適用によって行為の無効を来すとの考え方との平仄を図るべきではないかという指摘がございました。

  このような指摘を踏まえまして,(※5)におきましては,このような一般法理の適用があり得るということの理解を前提とすることとしたことを明らかにしたものでございます。
  以上でございます。

● それでは,忠実義務について,いかがでしょうか。
  ○○委員。


● それでは,何点か御意見等を申し上げたいと思います。
  まず最初に,間接取引の禁止のところで,2の(1)のウ,これについて,信託財産のためにする行為というものが入ったということについては,これは前回申し上げたことでもありますので,入れていただいたことについて感謝申し上げます。


  それとの半面で,利害関係人という言葉が入っておりまして,これについては,多分配偶者とか子供ということを前提にしたワードだと思うんですけれども,ちょっと利害関係人というと,例えば債権者みたいなものも入ってくるということも考えられますので,最終的には解釈論ということになるかもしれませんけれども,この辺について明確化していただきたいということが1つ。
  


それともう1つは,これは前回申し上げて,ひょっとして回答いただいたのかもしれないんですけれども,(2)のところの②の,「受益者の承認に代えて」,「他の受託者によって決する」というところがあるんですけれども,これは他の受託者によって決することができるけれども,受益者が承認すればそれでいいというふうに理解していたんですけれども,前回多分お聞きして回答いただいたのかどうかあまり記憶が定かでないので,これを再度御回答いただきたいということ。

  それと,最後にもう1つ,競合行為のところなんですけれども,ここについては前々から,信託銀行については生まれたときから銀行勘定と信託勘定で基本的には競合的な取引をやっているということで御配慮いただきたいということで,それに対して7ページのところで,象徴的な例であります競合貸付的なところの部分について,競合行為には当たらないというような形での御説明文がありまして,これについても非常にありがたいというふうに思っておるんですが,それがあらわれるような本文のところの書きぶりというのを,もう少し明確な形で御配慮いただけないかなということ。
  


それと,あともう1つ,通知のところなんですけれども,もちろん先ほどの競合貸付的なところが明確に競合取引ではないということであればそもそも問題ないんですけれども,先ほど申し上げたように,信託銀行というのは両方の取引を恒常的に行っておりますので,その辺の危険性というかそういうものが非常に多くありますので,そうしますと,競合行為的なところで通知を常に行わないといけないということになりますと,あらゆることを考えないといけないということもありますので,この辺のところの御配慮をいただけないかというところであります。

  以上です。

● では,順次お答えいたしますが,まず第1点目の利害関係人というところにつきましては,おっしゃるとおり解釈論と考えておりますが,我々が典型的に想定しておりましたのは,実質的に受託者と同視できるもの,すなわち,おっしゃったとおり妻とか子供と,そういうものでございまして,債権者のようなものは含まれないというふうに考えております。その点は,説明等で明らかにしていきたいというふうに考えております。
  


2点目の「代えて」につきましてですが,これは前回御質問があったことは認識しておりましたが,恐縮ながら回答はしておりませんので,今日初めて回答するということになるわけでございます。


  このときの理解といたしましては,現在でも同じでございますが,受益者はいるわけでございますが,受託者が複数いるときには,理念的には,その場合受託者が前面に出ていくのが信託のある姿ではないか。


  あと,会社法をごらんになっていただければおわかりのとおり,例えば利益相反取引とか競合取引につきましても取締役会が承認するということになっておりまして,これは実質的には共同受託者が承認するというものと同視できるのではないかということから,このようにしているわけでございます。
 


 そうすると,この場合,受益者がいても,その同意というのはこの②の規定によると無視されることになりまして,受託者の承認のみが対象となるわけでございますが,しかし,例えば職務分掌があるような場合につきまして,他の受託者よりも受益者の方が承認するのが的確ではないかというようなことも想定し得るのではないかと思います。


  そういうことを考えますと,それに対応するには,例えば①のところで,信託行為で許容する場合の条件として,受益者の承認があった場合にはその行為をすることができるとか,そのような定め方をすることによって対応していくことができるのではないかというふうに考えているところでございます。


  それから,最後に通知義務でございますが,おっしゃる趣旨は,本文中に書いた競合貸付を外していただいたことは実質的にありがたいと言っていただいたことは,まことにありがたいわけでございますが,ただ文言に反映するというのはなかなか難しいかなと思っております。


  それは,しかし,結局は通知を課されるのが常に義務になるというところの御懸念かというふうに拝察するわけでございますが,御承知のとおり,これただし書きがございますので,もしもそういう御懸念があるということであれば,ただし書きをもって通知を不要というふうに定めれば対応できますので,我々としては,競合行為の文言についてはこのままとした上で,もしも御懸念があれば,通知についてはそのような信託行為での対応が望ましいと考えているところでございます。

● では,いかがでしょうか。
  ○○委員。


● 御説明いただきましてありがとうございます。
  最後にお願いなんですけれども,今申し上げたように,競合的な取引というのは非常に信託銀行にとって重要な問題ですので,文言に反映できないということであれば,変な話ですけれども,あらゆるところで書いていただくとか,この場において今そういう回答をいただきましたので,常にそういう形の解釈をお願いしたいというふうに思います。


● そのところは十分対応したいですし,議事録も残っておりますので,そこは大丈夫だと思います。


● どうぞ,○○委員。
● 今○○委員がおっしゃったこと,ちょっとこだわりの話になるかもしれませんが,もちろん解釈等で解決するのであれば,そのように明確にしていただきたいんですが,この条文をちょっと並べたことを考えたときに,2の(2)の④のところで,実質的な解釈基準というものを含めた規律がありながら,3の競合行為のところで,実際には7ページの御説明の判断基準というのは大分かぶっているところがあるわけなんですけれども,そこについては解釈論であるということになりますと,ちょっとバランスがよくないのかなと。


  そうすると,反対解釈もされる余地もあるのかなと,ちょっと心配的な,そういうレベルの話でございますけれども,そういうことも踏まえて,もし解釈論でいくということであれば,その旨明確に御配慮いただければというふうに思っています。


● そこはその方向で,解釈論の方向で対応したいと考えております。
● ○○委員。


● せっかく○○委員が言ってくださって,私もそうかなと思ったんですけれども,2の(2)の②のところで,だから,受益者の承認を得たときというのが,これは普通ですね。しかしその後は,それは,共同受託者の場合は要らないよということですね。

● ええ。共同受託者の場合には,受託者が承認権あって受益者の承認は関係なくなるというのが,ここの考え方でございます。


● 共同受託者を置くのは,取締役会と同じだという会社法との類推をしているわけですか。


● 発想として似たところがあるのではないかと。任務遂行に当たって慎重にやるということとか機動的な運用とかあるわけでございますが,会社法にもそのように,ある取締役が利益相反行為をしたときには,それを除く取締役会で承認決議をするということがありますので,ここも,共同受託者がいる場合には,その者で承認決議をしていればいいのではないかというふうに考えているわけでございます。

● ここでの考え方といいますのは,共同受託の場合というのは,受託者間で相互に監視していると,要するに1人の受託者が悪いことをしないように他の受託者はいると,そういうことを委託者は期待しているというような考え方が前提になっておりますので,そうだとすると,受益者の承認にかえて他の受託者がその承認をするということについても,合理的な理由があるのではないかというふうに考えているというのを付言させていただきます。

● 御趣旨はわからないでもないですが,受益者の承認にかえてという,それこそ○○委員がおっしゃったように,④のところで,すごく一般的なこういう外す規定を一方で置きながら,今度は手続き的なところで,②で,そういう形でも外しておくということなんですね。

  だから2面で,とにかく忠実義務を外しやすいようにしているというふうに考えてよろしいわけですね。


● ②自体は,本来は受益者の承認という,非常に明確な解除事由ですよね。②自体は。
● ただ,ちょっとすみません,共同受託者というのが,○○関係官がおっしゃったように,まさに,結局モニタリングのシステムを--一種のガバナンスですよね--信託にガバナンスがあるかという議論があって,共同受託者というのはガバナンスの足らざるところを補うために置いておくものだという話なんですが,それを逆手にとって,ここで,忠実義務の免除をこういう形でやれるんですよというのが,ある趣旨で置かれているものをちょうど逆の方向に使っているという印象をぬぐえないということだけ,ちょっと一言申し上げます。

● これに関連してちょっと議論が出れば,私も個人的な意見を申し上げようと思ったんですけれども,今たまたま○○委員の意見が出ましたので。
  

私も,個人的にはちょっと大丈夫なのかなということを感じていまして,それは,共同受託者ですので,例えば自己取引なんかをするときにも,その財産がいわば合有の形になっていて,そのときに利害関係のある合有の1人を外して,例えば3人いたときに,ほかの2人でもって行為ができるのかというのはちょっと気になったんですね。


  それで,そのときに,受益者が承諾しているので,その当の利害関係のある受託者も含めて3人で自己取引としての信託財産を利害関係のある受託者に,例えば移転するというのはできると思いますけれども,それを外してしまってできるかどうかと。


  取締役会の場合には,個々の理事は別にそういう処分権限そのものを持っているわけではないので,そっちはあまり問題ないと思うんですが,信託の場合,果たして大丈夫かなということだけ,ちょっと気になったものですから,もし,何か。


● そこのところは解釈論に結局はなってしまうのかもしれませんけれども,例えば3人受託者がいて,1人の受託者に対して信託財産を売却するという場合に,だれが意思決定をするのかというのが1つ問題になり得て,その場合には利害関係のある受託者以外の受託者で意思決定をして,もう1人の受託者に対して信託財産を売却すると,そういう形になるのであれば,結局利害関係のある受託者というのは信託財産の売却の意思決定については登場してきませんので,結局利害関係のない受託者2人で意思決定をして売却をするという形になる。

それによって,ここで言っているところの受託者の承認というのがあったということになるのではないかと思います。
 


 ただ,もう1点,ここの(注2)のところに書いてあるんですけれども,要するに受益者の承認にかえて受託者の承認でいいということについて,信託行為でそういうことはいけませんよと,やはり受益者の承認にしてくださいというのは,先ほど○○幹事が申し上げたことと重複するんですけれども,そういうことはできますので,委託者の方でそういう形にしたいのであればそういうことができるというようには,一応なっております。
● そうですね。
  ○○幹事。

● 共同受託者は危ないという問題もあるのですが,それ以前に,他の受託者が承認する場合にはよいというのは,これは機能的には証明責任を転換する機能しか持たないわけですよね。


  つまり,他の共同受託者が不当な承認をしたということになると,その時点で善管注意義務違反の問題がさらに生じてくるということで,つまり,自己取引であるというふうに受益者が主張して責任の追及をしたときに対して,共同受託者の承認を得ているというふうに言えば,それが不当であるということを個別に立証しなければならないという,こういう形になる条文だと理解してよろしいんでしょうか。

  そして,それがそうだと仮に仮定したときに,それがいいのかというのがありまして,④というふうなのがあるんだから,受託者に,これは適切なんだというふうに証明させればそれでいいではないかというのもあり得ると思いますし,さらに,仮によいといたしましても,その証明責任の転換ということが妥当であるとしましても,そうすると①から④までの中でかなり異質なものになってしまうんですよね。②の第2文というのは。


  それを,ほかのものは,例えば④の事情というのとか③の事情というのは,そのことが立証できれば,もはや善管注意義務違反は問われないという結論を導くのに対して,②の後段だけがちょっと特殊な内容を持つことになって,それを並べていいのかなという気も若干するんですが。


● どうぞ。
● 確かにおっしゃるようなところもあるような気がいたすんですが,例えば①の信託行為にその行為をすることを許容する旨の定めがあるときというものについても,自己取引することはできますよと書いてあっても,あとは価額について善管注意義務の問題ということはあります。

● その限りでは,似たような構造がここでもあると。
  ほかにいかがでしょうか。


● そうすると,ちょっと前半申し上げた,他の共同受託者の承認が不当であるということは,もちろん主張して責任を追及することができるということですよね。


● はい,そうです。
● 責任の追及というか,他の受託者の承諾が承諾としての意味を持たないと,自己取引が解除されないわけですね。


● いや,そこは難しい。
● 承諾があれば自己取引の問題はクリアされて,あとは受託者の責任の問題が,別途善管注意義務違反として生じてくるのではないかという考えをしております。


● どうぞ。
● 結構難しいんですよね。

  そして自己取引違反自体も善管注意義務違反として処理をするということですから,自己取引義務違反としての善管注意義務違反と,自己取引避止義務違反ではないのだが,そのときの判断の善管注意義務違反というものとがあり得るというふうに,善管注意義務の中で2段階になってしまっているということですよね。


● 僕自身が勘違いしているのかもしれない。
  自己取引自体は善管注意義務違反に,今位置づけているの。

● いや。
● それは違うでしょう。


● 自己取引は善管注意義務違反の問題ではないです。
  それ自体は承認があれば,有効,無効の問題では……。


● 有効,無効の問題になるわけですよ,それは。
● はい。ただし,それと別途善管注意義務違反の問題は,別の類型としてあり得ますのでと。


● ごめんなさい。申しわけございませんでした。
● どうぞ。


● そうすると,今のは,行為の効力自体は有効であって,それを否定することはできないという御趣旨ですか。


● 受益者であればインフォームド・コンセントの問題になると思うんですが,受託者が承諾をしていれば,一応そこで行為の有効性はクリアされて,ただ受託者の承認が注意義務違反だということで,受託者の責任を問うていくという順番になるのではないかと思っておりますが。


  受託者が承認しているのもかかわらず,その承認が不当だったから行為が無効というのは難しいのではないかなという気がしているんですけれども。


● 完全な第三者ではなくて,自己取引だとすると,受託者の1人が信託財産を譲り受けるという場面ですよね。


● はい。他の1人ですね。そうすると,それが,善管注意義務違反が,いわば行為の有効,無効を左右するものにまで昇格するというようなことがあり得るという。


● 善管注意義務違反が問題なのか。
  要するに,本来受益者の承諾が必要なんだけれども,それにかわってこういう場合には,ほかの受託者の決定でいいと。それが結局,本来不当な決定だということになると,この②の要件といいますか②自体が落ちてしまって,自己取引がだめになるというふうに,ちょっと私はそう考えたんだけれども。


● 不当な承諾というのが,例えば知らずに承諾したとか,そういう場合でございますか。

  受益者だと,重要な事実を開示して承認を受けるというのが必要で,重要な事実も知らずに承認したら,これはだめだと。受託者が承認しているときにもかかわらず,その承認が承認としての意味を持たないというのは,どういう場合だろうかなとは。

● ②の中にちょっと違うタイプが入っている……。
  どうぞ,○○関係官。


● 例えば,利害関係のある受託者が他の受託者を支配しているような状況があって,他の受託者が承認をしたというような場合であれば,受託者による承認というのが行為の有効,無効に影響するということもあり得るのに対して,そういう別に状況にない中で他の受託者が承認をした場合であれば,有効とした上で,あとは善管注意義務違反,要するに,価額が適当でなければ善管注意義務違反の問題になるというようなことではないかというふうに考えておりますが。


● どうぞ,○○幹事。

● ちょっと感想的な意見を言って恐縮なんですけれども,共同受託者の場合に会社と同じように考えるというのは,会社の場合には機関としてしっかりしていますし,諸制度整っているというものと同じように扱うことは,ちょっとできないのではないかなという感じがするのと,それからもう1つ,やはり「受益者の承認に代えて」という言い方というのは,ちょっとやっぱりあまり軽々に用いるべきではないのではないかという気がしておりまして,もしこういった形で共同受託者の承認ということを制度として持つ場合にも,「代えて」というのとは,ちょっとやっぱり別のものというふうに考えるべきなのではないかと思うんですけれども。

● さっきのような結論だと,ちょっと結論も大分違うし,少し……。といって,独立の項目になるのかどうかよくわかりませんけれどもね。
  何かほかに御意見がございましたら。
  ○○幹事。


● 会社法の話題が出てまいりましたので,会社法と今問題となっております第19の(2)の②との局面との相違点について,一言申し上げさせていただきたいと思うのですが。

  まず第1点は,○○幹事が御指摘されましたように,会社の場合は,やはり取締役会という機関決定になっていると。利害関係のある取締役を除いて,やはり機関としての取締役会が決定をしているというのであって,多分共同の受託者が何人もいても,それでボードを構成しているわけではないので,状況が違うのではないかと。


つまり,会社法の方でも,取締役会が存在しないときには,このような利害関係の,利益相反が起こった場合の承認というのは社員総会にいくというのが原則だと思いますので,その点が1つ違うのかと思います。


  それからもう1点は,これは実質論なのですけれども,やはり会社の場合に,なぜこういった利益相反取引について,ボードがあれば,利害関係がある者を除いたボードの判断にゆだねているかというと,利益相反行為が非常に多種多様なものが含まれるようになって,会社にとってプラスになるものも多いと。

  特に企業結合関係が非常に複雑な形になってまいりますと,形式的にはこの利益相反に当たるけれども,会社にとってはプラスになるというのが,そういったたぐいの行為が出てきまして,それについての,いわばビジネスジャッジメントを行うという,そういう趣旨だと思います。


  信託においても,恐らく商事的な側面では,ビジネスジャッジメントを働かせるという局面が大いに考えられるとは思うのですけれども,信託法がカバーしているすべての局面において,そのようなジャッジメントを他の受託者にゆだねることを想定しているだろうかと。逆に,典型的な民事信託だったらば,他の受託者がいたら,むしろノーと言わなければいけないのが普通の注意義務ではないかという気もするのですが。


  そのあたり,第2点目の方はちょっと御質問も含まれますけれども,典型的な,例えば民事信託において利益相反の状況があったときに,他の共同受託者はどういうふうに行動するのが善管注意義務にのっとった承認の付与と言えるのかどうか,その点についての感触といいますか,お考えをお聞かせいただければと思います。

● 感触でございますが,○○委員がおっしゃられましたように,ビジネスジャッジメントでしょうか,形式的には自己取引あるいは利益相反取引になるけれども,それをする方が,信託財産ないしは受益者のために利益になるだろうという場合はあると思われますので,そういう事情を考慮して承認するのであれば,善管注意義務違反には違反しないと。


  しかし,それがむしろ否定した方が信託財産のためだというときであれば,これを承認すれば,これは少なくとも善管注意義務違反の問題にはなるだろうという,一般論でございますが,そういう考え方をしておるわけでございます。


● なかなか,判断自体はいろいろ難しい。かなり裁量性もあるかもしれませんね。ほかの受託者の。

  正当な市場価格で売却される場合であっても,望ましくないのでだめだということもあり得るんですね。

● それもあり得ると思いますね。
  やはりケースバイケースとしか言いようがないという感じはいたします。

● ほかにいかがでしょうか。
  どうぞ。

● 実質的なお話になるかもしれませんが,受益者の承認にかえて他の受託者等の決定にゆだねたときに,受益者の承認にゆだねるのが,常に受託者にとって義務が易しいことなのかどうかというのは,ちょっと実質問題わからないようなところもありまして,例えば,合理的無関心と言うとちょっと言い過ぎかもしれませんが,受益者の承認を得たということを一種の隠れみの的な形で運用されるという場合もあり得るところ,受託者が責任をとりなさいというふうにした上で,事後的にそれははっきりしてくるわけですから,そのときに何かあったら,だれか受益者がおかしいと,1人だれかが言えば,ひょっとしたら責任を問われなければいけないという厳しいプレッシャーの中で,他の受託者は判断しなければいけないということになるかもしれないと。


  そういう点も考えますと,実際の運用で見たときに,常に受益者の承認を得たというところに一本化すればそういう利益相反的な行為を防止できるかどうかというのは,ちょっと一概には明らかではないかなというような気がいたします。

  例えば,会社でも従来,損益計算書とか貸借対照表というのは,全部株主総会の承認だという話だったんですが,それが隠れみの的にというようなお話の中で,取締役会で決めなさいと,しかしその後,決めた後で何かおかしなことがあったら,それは決定権者たるあなたたちが責任を負いなさいということで,責任の所在を明確化することによってそれぞれの利益を確保しようとしていったというような流れの中もございますので,他の受託者に考えさせるというか承認の権限を与えたということをもって,直ちに受益者の利益がということでは必ずしもないのではないかという,それはちょっと実質的な判断で,法制的な議論ではないかもしれませんけれども,その点もいかがかなというふうにも思っております。

● いろいろなレベルの議論がありますけれども,根源的な議論は○○委員から言われている問題ですけれども,ちょっとそれはさておく--さておくというのは無視するという意味ではありませんけれども--易しい方からという。


  これは,先ほどから会社の場合と必ずしも同じではないのではないかという御議論もあり,必ずしも,共同受託者の場合,受益者の承認というのを原則として排除するというほどではなくていいのではないかという感じもするんですけれども,そこは会社法との平仄上,あるいは共同受託という考え方からおかしいということですか。

● ここでは受益者が多数になるような場合もあり得ますので,そういう意味では,受託者が複数の場合にはそちらの受託者の決定というのを優先してもいいのではないかというようなことと,確かに○○幹事おっしゃるように,会社の場合には取締役会というボードがあるのに対して,信託の場合は特にそういうボードはないと。


  そうは言いましても,ここでの考え方というのは,共同受託の場合には,原則としては複数の受託者で意思決定をして執行をしていくという意味では,実質的にはボードがあるのと同じではないかというように考えると,会社法と同じようなアナロジーで考えていくというのが適当ではないかというような考え方からつくったものではあるんですけれども。

● いかがでしょう。

● もう1点,民事信託におきましても,先ほど○○関係官の方が申し上げたことと重なるのかもしれませんけれども,受益者の中には無関心な者もおりますし,十分な意思能力がないような者もいると。そういうようなケースにおいて,委託者があえて複数の受託者を選任しているというのは,先ほど申し上げましたとおり,相互監視義務等もありますし,受託者というのは重い義務を受益者に対して負っていますので,そういう前提のもとであれば,他の受託者の意思決定によって自己取引等を解除するということを第1原則としてもいいのではないかと。

  そう考えますと,商事であっても民事であっても同じルールにのっとらせてもいいのではないかというふうに考えてきたということであります。

● 他の受託者が決定するという,○○委員のように多少問題はあるかもしれませんけれども,そのルールが,特に受益者が多いときなんかには確かに必要でしょうし,他の受託者が決めるということはいいとして,それが第1原則になるかどうかというところあたりですかね。1つはね。


  それからもう1つ,ちょっと今話を伺っていて,逆に受益者の同意というときにどうなるかということが気になったんですけれども。共同受託者の場面ですよね。


受益者の同意を得ると……何を同意するんだろう。つまり,同意を得ても,結局3人の共同受託者だったら3人の共同受託者で決定するんですよね。


  ですから,受益者の同意があると,通常はほかの受託者がもちろんそれに従うんでしょうけれども,受益者の同意があってもほかの受託者がだめだという余地はあるのかな。


● 条文の書きぶりでございますが,「代えて」ですから,ここでは言ってみれば受益者の同意は無関係であると。受益者の同意があろうがなかろうが,他の受託者,例えば3人いれば1人と利益相反行為が生じますので,残りの2人の受託者がオーケーと言えば,それだけでいいと。

● このルールはね。
● はい。
● 共同受託者の場合にも受益者の同意で構わないという……。
● そういう規定を置けばいいですが,このルール自体はそういうものではないですね。


● 多分,○○委員がおっしゃっているのは,受益者の承認に加えて他の受託者の承認も必要だということでしょうか。

● という場面が出るかどうかということ。
● そういう場面が出るとすれば,もちろん他の受託者がオーケーと言っていても受益者がだめと言えばだめですし,受益者がオーケーと言っても,そっちは他の受託者がだめと言ったら……。

● 普通は従うでしょうけれどもね。
● ええ。従うんだと思いますけれども,受益者が,例えばちょっと浪費家で,何でもオーケーしてしまうような人だった場合には,やはり善管注意義務というのを受託者は負っていますから,その場合にはノーと言うべきであるということだと思います。

● さて,いろいろな御意見が出ましたけれども,何か御感触があれば。
  ○○委員。


● すみません。こんな大議論になるとは思いませんでしたけれども。
  極めて実務的な形で落として考えますと,1つは,非常に軽微なものであったら共同受託者の同意を得て行うというのが,信託事務の円滑化のためには必要だろうなと思います。

  ただ,今度は逆に,割と重い話であったとしたら,同意を受ける方の側に立ってみると,これはやはり受益者の意見を聞いてくださいとか,同意をとってくださいというのが行動パターンになるのではないかなというふうに思いまして,そういう観点からいきますと,同意というのも,共同受託者の他の受託者の同意というものに加えて,受益者の一般の承認というものも加えていただけたらなと思います。

  共同受託者で同意する場合については,当然監視義務とか善管注意義務とかを踏まえた形で回答することになりますので,その辺については,1つの責任が加わるということになると思いますので,それはそれで意味があるのではないかと思いますし,軽微なものについても円滑化の観点から意味があると思いますので,共同受託者の同意というのも,なくするということではなくて,加えて受益者の承認というものも入れていただけたらなというふうに思います。

● いかがでしょうか。
  現在の案のままですと,今のようなことをしようとすると,信託行為に,そういう形で承認を求めるということを規定しなくてはいけないということになって,信託行為に書いていないとできなくなる。

● 受益者が複数の場合に,想定していない場面が出てきて,なかなか受益者の承認を得るのが大変だというのは,今回の信託法改正の大きなポイントの1つですよね。


だからそのために,受益者集会とか,あるいは受益者代理とか,いろいろな受益者側の方の仕組み,信託管理人であるとか,いろいろな仕組みをつくってという話を,ここで急に,今度は受託者サイドのところでもこれでいいんですよというのが,何だか非常に,私にとっては違和感があるということです。
  だから受益者複数の場合についてはこういう形で対処したではないですかという話の方へ持っていくのが普通なのではないんでしょうか。


● ○○委員の御意見はよく理解しているつもりでございます。
  ちょっといろいろ温度差のある御意見があると思いますが,○○委員の意見に完全に沿う形ではありませんけれども,この②の,受益者の承認にかえて決するという第1ルールを,もし必ずしも第1ルールにしないで--しないでというか,しないときにどうなるかというのは,まだちょっとさっき言ったように少し疑問を感じているんですけれども--やっぱり受益者の承認を得るというのが大原則であり,共同受託者の場合にも,受益者の承認を--書きにくいのかな。


以外とそれは--受益者の承認を得るというのを……。
  僕もちょっとまとめにくいんだけれども。共同受託者の場合にも,受益者の承認を原則として排除するのではなくて,受益者の承認があればできるようにすると。これは○○委員が言われたことなんだと思いますけれども。


  それだけだと,まだ○○委員の御懸念には十分には対応できないんですが,ただ受託者としては,多くの場合,特に重要な問題であれば受益者の承認を得るであろうし,また得ないと後でもって責任を負わされる可能性もあるわけですから,不安定なので,多くの場合は受益者の承認を得るであろうということになると,事実上,○○委員の御心配もかなりの部分はカバーできる。

  それでも困ると。受益者の承認を得ないでほかの受託者だけで決めてしまう可能性があり得て,これも選択肢としてはそういう方法でもって承諾するということはあるわけですけれども,それをとられては本当に困るというときには,今度はこれは,信託行為でもってそういうのはだめだということを明確にしてもらうというふうにすれば,最後のところでは○○委員の御意見というのも,ある程度は考慮される。


● すみません。本当に。私も,時間を,時宜に遅れているかもしれないことでこうやって引き延ばしても申しわけないんですが,今のような,本当にそういう場合は④で対処できるようなことなのかと思いますのでね。どうもという感じが,どうもつきまとうということなんです。

● ④は,最後の手段みたいな--最後の手段と言うとちょっと正確ではないかもしれませんけれども--受益者の利益を害しないことが非常に明確だというようなタイプについて対応しようというものですよね。④はね。


  ②はやっぱり,ちょっとそういうものではなくて,もうちょっと重要なもので,実質的に判断が必要で重要な事実を開示して,やはり受益者が承諾するということが望ましいというタイプで,そこはオーバーラップする場合もあるかもしれませんけれども,②と④は,一応この際それぞれ独立の意義があるという前提で考える。その上で②の中身としてどんなのがいいかということなんだと思いますが。


● そうですか。
  例えばですが,○○委員おっしゃったように,共同受託者の場合もやっぱり受益者の承認を得るということが原則であると。しかし受益者の承認を得ることが著しく困難である場合とかという場合には,共同受託者の中で利害関係のない他の受託者による判断にするとか,そういう補充的な話は……。


  言ってみたということですけれども。申し上げてみたという。

● 条文化という観点からすると,どういう場合に著しく困難なのかというのがなかなか難しいのではないかなという気がいたしますけれども。


● どうぞ,○○委員。

● 言葉だけの問題ですが,著しくというのが不明確だとしましても,この2の(2)の②のところに,「受益者の承認に代えて,受益者の利益と相反する関係にない他の受託者によって決することができるものとする」というように入れれば,受益者の承認があればそれでよいと。


それがない場合であっても他の受託者によって決することができるというようにしておいて,他の受託者が決する場合に不当な決定をした場合には,善管注意義務に反するという責任を問うということだと,少しは○○委員のお考えが入るのかなと思うんですが。

● 私もちょっとごたごた言ったのは,今○○委員がきれいにまとめてくださった,そういう趣旨のつもりなんですが。
  ○○幹事。


● もし受託者の承認でこの忠実義務が解除されるとしましたらば,他の受益者の利益と相反する関係にないというだけではやはり不十分で,当該受託者と,問題となる取引を行おうとしている受託者からの独立性という要件が,やはり最低限必要になるのではないかと思いますし,さらに詰めるべき点があると思います。

  ただ,繰り返しになりますが,やはり基本は受益者の意思というのが問題となるはずであって,私は先ほど御質問したのを,もう1度時間をとって恐縮ですが,言いかえますと,受益者がその取引はだめだと言っているのに承認をした受託者が,自分は善管注意義務を果たした承認をしたんだというときに,一体どこまで何を立証すればいいのかということだと思うのですけれども,やはり受託者として承認をする場合には,むしろ普通に考えると,非常に承認することが難しいというふうに考えるのが普通ではないかと思います。

  ですから,かえってこのような規定を置くと,むしろ正当な利益相反行為みたいなものもブロックされてしまうという,そういう恐れがかえって出てくるのではないかというような気さえするぐらいで,先ほどのようなことを申し上げたのですけれども,やはり受益者の意思が,まず第1の基本になるということだと思います。


● いかがでしょうか。
  どうぞ,○○委員。

● 今の○○幹事の意見と似たような意見になるんですけれども,利益相反行為ですからやってはいけないというところでスタートしている行為で,それについて受益者の承認がないのにほかの受託者が決められるという,そういう制度は,よくよく考えるとやっぱりよくないのではないかと。


  この④があるので,それで,合理的に必要とか利害を害しないとか,そういうこともできることになっているわけですから,ここはやはり「受益者の承認に代えて」という,この制度はつくらないようにした方がいいのではないかというふうに,私は思いました。


● ○○委員の御意見に近い御意見だと思いますけれども,他方で,いろいろな条件があるかもしれませんけれども,とにかく受益者の承諾を常に得なくてはいけないということになると,非常に多数の受益者がいたようなときに非常に困ることも生じ,利害関係のない受託者だけで決定できるという制度を残しておくことは,さらに,○○幹事の言われたように,いろいろな条件が必要かどうかということは検討する必要があるかもしれませんけれども,ほかの受託者だけでも決定できるという制度はあること自体は,それなりに必要なのではないかという感じはちょっとするんですね。私としては。

  ただ,受益者の承諾というのが原則であるといいますか,少なくともそれを求めるようにし--その後の条件が難しいんですが--それが難しいときとかいうときに,利害関係のない,それ以外の受託者で決定できるという方法でも構わない。

  せめて,何か2本立てにして,それでその両者を結びつける条件はちょっとなかなか難しいので,

うまくいい方法があるかどうか。
  ○○委員。


● ちょっと当たり前過ぎて,発言はばかってしまっているんですけれども,デフォルト・ルールをあくまで議論しているんであって,なおかつ問題があるかもしれないと言っているのは,いわゆる民事信託のような小規模な信託ではなくて,大規模な商事信託の事例だと思いますから,ですから信託行為に定めがあったとしても,もともと潜在的に利害関係がある共同受託者の承認にかえるような信託行為の定めというのは有効なんだろうかという,もし多少疑義があるとしたら,そこだけ払拭するようなことをして,デフォルト・ルールは,やっぱり○○委員がおっしゃったよりか皆さんが議論しているようなところに落としても,○○委員がおっしゃるような問題はないのかなと。

  それはそうだけれどもという議論なのかもしれませんけれども。信託行為の議論があまり出てこなかったもので,ちょっと発言させていただいたんですが。

● まだいろいろな……。
  何か,○○関係官,意見がありますか。


● 確かにおっしゃるとおり,これはデフォルト・ルールの問題ですので,原則としては受益者の承認を必要とするというふうに②を書いておいて,①のところで,他の受託者の承認というのもできますよというふうにするというのも当然あり得る話だと思いますし,この④のところで正当な理由というものもありますので,このようなことを,この部会での審議も踏まえてもう1度ちょっと検討させていただいて,もう1度御意見をお伺いしたいというふうに思いますけれども,それでよろしいでしょうか。

● よろしいでしょうか。皆様の御意見を一応……。
  どうぞ。


● 今の点なんですけれども,①の方は,その行為をすることというふうになっていて,行為はある程度限定する必要があるという前提ですよね。要するに,共同受託者が同意をすればそれで足りるというのは,抽象的なのでだめだという前提でよろしいか。

● 1つの行為について,他の受託者が承認をすればオーケーですよというふうに定めを置くことができるという趣旨です。


● おっしゃるとおりです。
  それでは今の御意見を踏まえて……。


● ちょっと一たん引き取らせていただいて,再度御意見を,いろいろ出ましたので,踏まえてもう1回提示いたします。


● ほかに,忠実義務に関してはいかがでしょうか。
  どうぞ,○○委員。

● 確認というかちょっと教えていただきたいんですけれども,説明でいきますと8ページの(※5)の部分ですけれども,民法の93条の心裡留保の議論ということなんですが,ちょっと確認というか理解のために御質問させていただくんですが,これは間接取引の場合で,受託者がみずから,または利害関係人に利益を図る意図で第三者と取引をした場合だという前提だと思うんですけれども,そうすると,後ほど議論するところの31の権限外行為と極めて類似の状況というか,同じ状況なのかなと思うんですけれども--間違っていればちょっと教えていただきたいんですけれども--仮に同じ状況だといたしますと,権限外行為の方は第三者の故意,重過失を問うというところで取引の安全を期待していると思うんですけれども,こちらの方の,仮に権限外行為であっても,受託者が自分の利益を得るような行為であるということを相手は過失によって知らなければ,こっちの方では過失責任であると,こういうような切り分けをしたという趣旨なのか,それとも私が何か根本的に理解が間違っているのかとか,その辺をちょっと,両者の関連を教えていただければと思うんですが。

● (※5)でよろしいですか。
● はい。

● ここは,まず前提といたしまして,受託者が全くの第三者と取引をして,その場合に,その第三者の利益を図るということを考えていましたと。それについて第三者の方が知り,または知り得べきだったと。実際に売却する内容はどういうものかというと,権限内だけれども価額が不適当であったという話ですので,受託者が自分の利益を図るということを,原則は前提にしてはいないということですけれども。

● すみません。そういうのは権限外なのか内なのかと,結構微妙だと思いますし……。
● 微妙ではあると思います。

● 内であれば,より第三者が保護されるべきような気がする……気がするというか,第31の議論との関連ですと。


● 前回の部会のときもそういう議論はたしか出たかと思うんですけれども,やはり第三者の方が受託者の意図というのを知っている以上は,そのような第三者は保護する必要はないのではないのかと。それについては,代理とのアナロジーでいけば,同じように考えていけばいいのではないかというふうな考えではあるんですけれども。

● 恐らく,権限内かどうかという問題で言えば権限内ではあるが,まさに濫用的な場合については,権限濫用と同じように単なる善管注意義務違反の単純な問題にはなりませんよと。これは代理の場合と同じですよね。

  代理の場合も,いわゆる権限濫用というのは,一応善管注意義務違反の問題ですけれども,心裡留保の規定が類推適用されるような場合には,単に損害賠償の問題ではなくて効果にも影響することがあると。それをここで持ってきただけ,だけと言うとあれですけれども,ここでも持ってくるということで民法の理論と一応平仄を合わせたということなんですが。

  ですから,完全な権限外の問題は,やっぱり31条の方の問題になってくるわけですよね。

  そこの間で,非常に連続的なものなので,そういう意味で平仄が合っているのかどうかというのは注意しなくてはいけないんだろうとは思います。
  ○○幹事,どうぞ。


● ○○委員がおっしゃったことに関連して2点あるんですが,先ほど○○委員の説明は○○委員の御疑問に十分に答えていないのではないかというふうに思うのは,代理の場合には,権限外のときには,相手方が権限内であるというふうに信じることに正当な理由があったというふうに,みずからの方で立証しなくてはいけないと。それが権限内のときには,本人の側が,お前は当該代理人の権限濫用を知り,または知り得べきであったではないかというふうに立証しなくてはいけない。

  つまり,やっぱり権限内のときの方が,本人は保護されにくいシステムになっているのに対して,こちらの場合には,両方とも,逆に権限内の方が厳しくなり得るのではないか。


31条の悪意,重過失というものの立証責任も受益者サイドにあると仮定すると,そこでバランスが崩れているのではないかということですので,代理ではバランスはとれているんだけれども,ここでは崩れているという御指摘ではないかというふうに思うのが第1点です。


  それも大変鋭い御指摘だと思うんですが,第2点は,私前回このことについて発言させていただいて,多少,私混乱したことを申し上げてしまったんですが,ここには受益者の利益と第三者との利益が相反する場合という話だけが書いてあるんですが,これ,自己取引で,例えば当該取引をやってもよいということが信託行為には書いてあると。

しかし,当該取引をするのに当たって自分の利益を図ろうというふうに,または第三者の利益を図ろうというふうに受託者が思っており,そしてそのことについて相手方が知り,または知り得べきであったということになりましても,これは同じく93条ただし書きを類推適用されるのではないかと思うんですね。


  だから,この(※5)の書き方をこのままやりますと,これは受益者の利益と第三者の利益が相反する場合についてだけはこうなんですよみたいなことになっているんですが,これは一般法理として適用される話ではないかという気がするのが第2点です。

● では,○○関係官。
● そこは,この(※5)につきましては,解釈問題と考えておりますけれども,確かに事務局内でも,そのように自分の利益を図る目的を第三者が知っている場合であっても同じではないかというような議論が出まして,そのあたりも確かにそうだなと,今○○幹事がおっしゃっていたのもそのことだろうと思いますけれども。

● 前半の御指摘もそのとおりだと思いますね。
  いずれにせよ,いずれにせよと何か逃げるようですけれども……。


● 少なくとも,どちらも受益者が本件では立証責任があって,しかし権限外だと重過失が必要だと。権限内だと軽過失でも無効と言えるというのは確かにバランスが崩れてはいるわけですが,しかし,片や31条の規律をちょっとこれから動かすというのは難しいところがございますし,こちらは民法の一般論ということなので,あとは解釈によって対応していくしかないのかなという気がするところでございます。

  93条ただし書きが軽過失になっているので難しいんですが,例えば信託の局面では重過失でなくてはだめとか,そういう手段を講じるという方法でバランスをとるというようなことかな。一般論ですと,そういうことも不可能ではないと思っております。

● いろいろ問題点があることは承知しておりますけれども,一応条文に出る部分に関連してはよろしゅうございますでしょうか。
  ○○幹事。


● 今の点はそれ以外なくて,あとは解釈論の世界だろうということは思います。


  条文に関しましては,1点だけ,2の(2)の④の一般条項的なものの書き方なんですが,一般条項だからいろいろな事情が考慮されるんだし,どう書いてもそう変わらないではないかと思われるかもしれませんけれども,やはりよく使われる可能性がなくはありませんので,考え方は整理して書くべきだろうと思うわけです。


  具体的に言いますと,④だけをそのまま見ましても,最初に「合理的に必要と認められ」と,この「合理的」というのは一体何によって決まってくるのかということが明確ではありませんし,次が,「利益を害しないことが明らかであるとき,その他」云々とあって,正当な理由があるときですが,何に正当な理由があるときというのが必ずしも明確ではないなど,ちょっとまだまだ洗練する余地があるのではないかなと思います。


  考えてみますと,多分,大きく分けると2つのパターンがあるのではないかと思います。1つは,受益者の利益を害さないものだから許されるというパターンと,もう1つは,受益者の利益を,一見すると害するように見えるんだけれども,しかし受託者の側がそのような行為を行うことに正当な利益がまさにあるという2つのパターンが,やはりこの中には含まれているのではないかなと思います。

  としますと,やはりそのことが明確になるような書き方をしていただく方が,解釈の指針が与えられるのではないか。そうしますと,恐らくは一番最初にある「合理的に必要と認められ」というのが,今言いました,受託者の側にそのような行為をすることについて正当な利益があるという場合の中に吸収されていくのではないかなという気がいたします。


  ですので,受益者の利益を害さないということ,並びに受託者の側にそのような行為をすることについて正当な利益がある場合と,書き方はここから先より洗練していただいたらよろしいと思うんですけれども,そのような整理をもとに書いていただくというのはいかがだろうかという提案です。

● いかがでしょうか。
  どうぞ。


● 今の御指摘を踏まえて,ちょっと書きぶりについては検討したいと思います。


● それでは,大変いろいろ御議論いただきましたけれども,今検討するというふうに申し上げた点を別として,それ以外の点については御承認いただいたということでよろしゅうございますか。


● 細かい話で恐縮です。
  ○○委員が冒頭質問されたことで,ちょっと確認をさせていただきたいんですが,2の(1)のウの間接取引のところで,利害関係人ということで,これは解釈論問題であるということでございまして,先ほど事務局の方から,経済上,実質上同視できるものということが御提示されました。


  ちょっとこの解釈に当たっては,もうちょっとなるべく明確化を望みたいという趣旨で発言するわけなんですけれども,すなわちここで例として述べられているのは個人であって,その例として配偶者,子供ということが例示がありました。


生計を同一する者であればそれはわかりやすいと思いますけれども,個人の場合でも,では孫はどうなんだとか,ほかの地縁あるものはどうなんだといろいろなものがあるわけでして,そういう状況があるわけでもそういう解釈ということだと思っております。


  御質問したいところは,では法人の場合はどうなのかということでございまして,例えば受託者の100%子会社ということであればどうなのか。例えば,受託者の100%子会社のために物上保証を信託財産において行うという場合は,これは経済実態上も同視されるものということとみなされそうでございますけれども,では50%子会社はどうなのかとか,では役員が同じであればどうなのか,これもいろいろ議論がございます。

  そこで,ここの議論というのは,そういう解釈で解決されるものだと思いますけれども,やはりこれは一応禁止されるというルールでございますので,それが当たるかどうかということについての基準というのを,なるべく明確化する基準を提示していただきたいと,そういうことでございます。
● 何かありますか。


● 最終的には解釈によらざるを得ないわけですが,直感的には,100%子会社はいいのではないかというか,これに入るのではないかという気がいたします。あとは,では50%はどうかとか,役員が共通だったらどうかというのは,言ってみれば法人格否認の法理と同じような局面で,形骸化事例とか濫用事例とか,そういうものに当たると実質的に判断されれば,ここで受託者同視できるのではないかということで,あれが1つの解釈指針になるかなという気がしておりますが,具体的には,やはり受託者と同視できるようなものであって受益者の利益に反するという観点から,このようなものに利益を共有させるのは,結局受託者との利益相反と同視できるんだというのが最終的な基準になるのではないかという気がしております。

● どうもありがとうございました。
  それでは,次に行きましょうか。

● では,次は分別管理義務でございまして,ちょっと飛びますけれども,10ページでございます。


  この点でございますが,この件は,第21回部会で提案しておりましたが,そのときは信託財産の性質に応じた個別具体的な分別管理の方法につきましては,信託法に定めを置くよりも,法務省令の定めによる方法によるとすることの方が,明確かつ柔軟な対応が可能となると思われるとの観点で,考え方自体は試案と変更はなかったんですが,「受託者は信託財産が適切に確保される方法として,法務省令に定める方法により分別して管理しなければならない」という趣旨の規定を提案しておりました。

  これに対しまして,そのときの部会では,分別管理義務は非常に重要な義務でありまして,基本的な管理方法については法律レベルで書いておいて,あとの細かいところは法務省令で対応できるとの規定にする方が望ましいという意見が,比較的多数出されました。


  そこで,今回の提案におきましては,登記登録できる財産ですとか動産,金銭,債権などに関する原則的な管理方法を法律上明文で規定しまして,保振機構を利用する場合など,それ以外の場合につきましては,法務省令の定めにゆだねるとすると。


  それから,あと分別管理義務の方法については,1の本文にありますただし書きのとおり,信託行為をもって別段の定めを設けることはできると。しかし2にありますとおり,登記登録義務を完全に免除してしまうことまではできないというところまでは,法律上明文で規定することを再度提案するものでございます。

  もっとも規定ぶりの問題にとどまるものでございまして,実質的な考え方自体は,試案段階から終始変更はしていないということだけは申し添えさせていただきます。

  以上でございます。

● それでは,これについて御議論お願いします。
  ○○委員。


● それでは1点だけ確認ということで,前回の提案から実質的な変更はないという御説明でしたので安心はしておるんですけれども,くどくて恐縮なんですけれども,2のところで,信託の登記または登録をする義務について免除できないというふうな形での記載がありますけれども,これについては前回の提案同様,信託行為に受託者が経済的な窮境に至ったときには,遅滞なく信託の登記または登録をする義務があるとされていると認められている限りにおいては,分別管理義務は課せられているというふうに解してよいということでよろしいでしょうか。

● そのように解していただいて結構でございます。
● ほかに。
  ○○幹事。


● すみません。分別管理義務について,ちょっと何点かあるんですが。
  まず,前回の議論を経て,今回具体的な規定を置いていただいた点は非常にありがたいというふうに考えております。その上でということなんですけれども,1つありますのは,預金について,できればこれは口座を別にすべきということを明示するということは御検討いただけないかと。

  これは,特に民事信託等を考えた場合には,やはり将来的に弁護士がやる場合もありましょうし,また一般の方が受託者になるという場合もあり得るかという気もするんですけれども,そういうふうな場合に,やはり預金口座は別であるということは,それを確保するということはやはり重要なことではないかというふうに考えておりまして,その点を条文上も明らかにするということはお願いできないだろうかと。


  この点については,強行法規とまでするかどうかについては議論があり得ると思いますので,そこは実務上の商事信託等の必要性にかんがみてということでよろしかろうかと思うんですけれども,少なくとも条文上そういった原則を明らかにするということを御検討いただけないかというのが第1点です。


  それから,この間の議論の中で,ちょっと私の理解があまり十分ではなかったのかもしれないんですが,この御提案の中で,1の②のロの中の金銭はいいんですが,その他のイに掲げる財産ですから動産以外の財産ということになろうかと思うんですけれども,これについても,基本的な考え方としては,これまでの議論としては,どちらかというとイに書いてある「信託財産に属する財産と固有財産及び他の信託の信託財産と外形上区別することができる状態で保管する方法」というのが,むしろ原則的な管理の方法なのかなというふうに理解をしておったんですけれども,


債権や有価証券等がこのその他の財産に当たるということになろうかと思うんですけれども,デフォルト・ルールとして,原則的な規定の仕方としては,やはりこれはロではなくてイの方に含めるべきなのではないかという感じがしております。


  それから,あと,これは若干ちょっと意見を述べさせていただいたところでもあるんですが,1のただし書きのところなんですが,「信託行為に別段の定めがあるときは,その定めるところによる」とあって,これは2の規律と合わせ読みますと,免除することもできるというようなふうに読めるかなという気がするんですが,やはり全く免除を認めるというところまではちょっと行き過ぎなのではないかという気がしておりまして。

  この表現ですと,例えば金銭についてはその計算を明らかにする方法が規律されておりますけれども,これも,では免除できることになるのかということになりますと,他方で規定されております帳簿作成義務等との関係でも,ちょっと誤解を与えかねないような表現になっているのではないかという気もしておりまして,ちょっとこの辺のところはぜひ御検討いただけないかというふうに考えております。


  具体的には,この信託行為の別段の定めというのはもう少し限定をして,例えば別段の定めの範囲を,分別管理の方法について別段の定めとか,そういった形で規律するということをお願いできないかというふうに考えています。


  この分別管理については,いろいろな消費者事件等の関係では,かなりこれが守れないためにいろいろな被害が拡大しているという事情もありますので,ぜひそういった事情もちょっとおくみいただいて,規律について御配慮いただけないかということです。


  以上です。
● どうぞ,○○関係官。
● 最後に御指摘いただいたところにつきましては,私どもとしましては,これは○○幹事当然御認識のとおりで,当部会においてそれ以外の理解をする人はいないと理解していますけれども,当然計算を明らかにする方法と書いてあって,信託行為に別段の定めがあるとしても帳簿作成義務みたいなものは当然に係ってまいりますので,それまでしなくていいと,それで帳簿作成義務については--帳簿等作成義務と言った方がいいかもしれませんが--あれ自体は強行規定で外すことはできないということですので,法制上はそれで当然であるというふうに理解しておりましたので,誤解する余地があるかないかどうか,書きぶりの工夫があるかないかどうかというのは,最後は法制的な整理としてこちらの方で考えさせていただければというふうに思います。


  それから,前段のロの物理的分別が原則ではないかという御指摘ですけれども,例えば債権というものを物理的分別と言ったとしても,それは何か物があるわけではございませんので,そういうのは通常は帳簿で明らかにするということなのではないかというふうに思います。


  物理的に外形上区別することができるような,動産のようなものについてはそれはそうですけれども,そうでないものについては,帳簿等で明らかにするということ以外に,金銭債権を物理的に分別するといっても,それが何のことを言っているのかわからないかと思いますので,それは,そういうものは,むしろロの計算を明らかにする方法ということなのではないかというふうに思います。


  預金債権を口座を別にしろというのを,一応基本法の中で,金融機関に預けている債権とかそんなふうに特出しして書くかどうかですけれども,それはむしろ,一応,金銭とかその他のイに掲げる財産以外の財産は計算を明らかにする方法というところを,これを原則としまして,それでその余の財産について,社会的な事情に照らして,①,②以外の方法よりももう少し適切な方法があれば省令で個別に列挙して書いていくという方向で,ちょっと検討させていただければというふうに思いますけれども。

● いかがでしょうか。
● 今の点なんですが,このイの外形上区別というのは,物理的なものと,それから例えば債権や何かの場合には口座を別にするとか,外形上何らかの形でとれる場合あるのではないかという気がちょっとしておるんですけれども。
  


できるだけ,別にしておくことをきちんと法文上はデフォルトとして定めておいた方がよろしいのではないかという趣旨の意見なんですけれども。


● 同じようなことかもしれませんが,我々としては物理的分別はもちろん1つの方法なんですが,やはり財産の形態に応じて最も適切な方法をとるというのがいわば本当の原則でございまして,そうすると,動産であれば物理的分別,有価証券も,これは動産ですかね,だから物理的分別,金銭債権であれば帳簿というのは,むしろ,それはそれぞれの財産によって原則であって,別に物理的分別がすべての原則とまでは考えていないというものでございますので,このように並列して書いていても,それは権利の種類に応じて最も適切な方法を明らかにしているという御理解でいいのではないかなという気がするところでございます。


  あと,口座によって分けるというのは,これ前も議論がございましたが,なかなかそれは現実的な対応が難しいというところもございまして,もし口座を別にすることが特に民事信託なんかで必要であれば,それはただし書きによって定めるということで対応することができるのではないかなという気がするところではございますので,ちょっと付言させていただきました。

● ほかに,御意見ございますか。
  ○○委員。


● 今のに関連しますが,ちょっと素朴な読み方の問題なんですけれども,2で,1の①に掲げる財産については免除できないという書き方をしているので,そうすると1の①以外は免除できるんだと。そうすると,1の②のロで,計算を明らかにすることを免除できると,そう読めることはそうですよね。


  そうすると,これはどういう意味なのかというのがちょっとわからないんですけれども。
● それは先ほどお答えしたとおりですけれども,これは考え方としては○○幹事のおっしゃったとおりで,帳簿等の作成義務というのは当然係ってきますので,そちらの方から考えたときに,信託財産の計算を,どういう収支があってというようなことは帳簿等作成義務の方から読めるのではないかと,とりあえずは考えていたと。


● だったらば,これは1の②のロは免除できないことにすればいいかなという,それだけのことなんですけれどもね。


● わかります。要するに帳簿作成義務の方から来るんではなくて,分別管理の問題として最低限計算はしなくてはいけない。そこは免除できない。

  実質は同じことになるんだと思いますけれども,理論的な説明としてどうするかということですね。

  これは,計算というのは,ほかにもこのロの計算だけではなくて,債権なんかも最低限計算は必ず必要なんでしょうし,それをうまくまとめて,そういうものは最低限しなくてはいけないということは,書こうと思えばできるかもしれないね。


● 書きぶりで,ちょっと調整をさせていただきたいと思うんですが。
● ほかに,よろしいでしょうか。
  これは,いろいろな財産の多様性も考えながら,そういう意味で柔軟な対応--柔軟というのは別に基準を緩くするという意味ではなくて--それぞれの財産の特徴に合わせて必要な分別管理義務を定めたいということと,それから法律の中では基本的なことを書きたいというのをうまく調和させるというのがねらいですけれども,多少ここに書いていない,今の預金などの問題というのは出てくるかもしれませんけれども,これも,場合によっては法務省令の方でうまく書けるのであれば書くということで対応したいというふうに考えておりますが。

  よろしゅうございますか。
  ○○幹事。


● 随分煮詰ってからこんな発言をするのはまことに恐縮なんですが,○○幹事がおっしゃったことにも関連するんですけれども,現行法の条文というのは分別管理しなさいと。金銭に関しては計算を明らかにすることでもよいと。これは,計算を明らかにするというのが,推奨されている分別方法なんですかね。

  だから,取り分けて物理的にしておくということが不可能な場合が多々あるというのは十分にわかるんですが,原則形態を,計算を明らかにするというところにするというところに,恐らく○○幹事がおっしゃっていた違和感があるのではないかという気がするんですけれども。


● これはしかし,パブリック・コメントで,金銭については計算ということで,パブリック・コメントを経た上で,特段の反対もなくというか現代的事情ではこうだという中で,一応できているというふうに理解はしているんですけれども。


● どうぞ。
● 現金は少ないと思いますので,あまり問題ではないかもしれませんが。
● どうぞ,○○幹事。


● 私も金銭はおっしゃるとおりだと思うんですけれども,金銭以外のものについては,やはり推奨する管理のあり方をもう少し書いた方がいいのではないかなという気がしておるんですけれども。


● できるだけそういう御意見を,今少なくとも法務省令のレベルではできるということだと思いますけれども,法律の中にうまく書けるかどうかということですね。これも併せて少し検討いたしますけれども,基本的には,この現在の線を,少なくともここに書いてあることは御承認いただけるとありがたいと思います。

  ○○委員。

● この金銭に計算という言葉は合うと思うんですけれども,金銭債権以外のものの場合には,法務省令がもしこの計算という言葉に多少拘束されてしまうと,なかなか書きづらいような気もするんですけれども,何となく信託財産であることを明らかにするような表示をするとか,何か,この計算という言葉が信託法における解釈ではそういう趣旨なんだという理解で議論は進んでいるのかと思うんですが,その辺は最後なので,もともとちょっと違和感があったんですけれども,ちょっと細か過ぎるかなと思っていたんですが。

● どうですか。
● 計算の意味につきましては,財産の帰属と収支を明らかにするという意味で,ここではそういう用語で用いておりまして,それで法務省令で定めるものは,管理する方法としてということですから,別に分別管理の方法ということであれば,財産の形態によりますけれども,省令として書く方法は柔軟に対応可能かなというふうには思っております。

● わかりました。
● 何とか対応できる。
  それでは,分別管理のところも御承認いただいて,あと法務省令などで定めるときの定め方などは引き続き検討させていただくと。しかし法律レベルでは,これを御承認いただくということにしたいと思います。


  それでは,少し休憩いたしましょう。

          (休     憩)

● それでは,再開したいと思います。
  では,○○幹事,お願いします。


● では続きまして,第26の消滅時効のところにつきまして,御説明いたします。

  この問題につきましては,第23回部会のときには,時間がせいていたこともあって最後に極めて短時間で終わってしまったというところがあり,そのときは試案のとおりだったんですが,今般改めて規律をかなり見直しまして,改めて提案するものでございます。

  まず,提案1でございますが,これは損失てん補責任等を基本的に債務不履行責任と位置づけた上で,その消滅時効の起算点を,民法166条1項に従い権利を行使することができる時,すなわち受託者の任務違反行為により信託財産に損失または変更が生じたときとしまして,その消滅時効期間については,167条1項に従いまして原則として10年間,ただし営業信託では5年間とするものでありまして,これは試案及び前回の提案から変更はございません。

  次に提案2は,受益者が損失てん補請求権を有する場合の特則,受益者についての特則を定めたものでございます。

  まず(1)でございますけれども,消滅時効の起算点につきましては,自己が受益者として指定されたことを知るに至るまで時効の進行は開始しないとするものでございまして,この点は試案及び前回の提案から変更はございません。


  これに対しまして,変更した点でございますけれども,消滅時効が進行を開始するためには,さらに受益者において受託者が任務違反行為があったことを知ったことをも要するとしていた点でございます。


つまり,今回の提案の考え方によりますと,消滅時効の起算点につきましては,受益者として指定されたことを知るに至るまでの間は進行しないという要件は付加されるわけですが,それ以外は民法166条1項に従いまして,「権利を行使することができる時」,つまり受託者の任務違反行為によって信託財産に損失または変更が生じたときとの要件に従うことになりまして,受益者がこの事実を認識するに至ることまでも必要とするかは解釈にゆだねることとしてはどうかと考えるものでございます。

  そもそもこのような問題意識が生じた発端といいますのは,受益者に後者の認識をも要求した上で,さらに10年間という消滅時効の期間を認めるとなりますと,消滅時効の完成まで非常に長期を要することにもなり得るわけでして,現行法にも例が見当たりませんし,いわば受益者にとっては,知るまでは進行しないし,かつ10年間と,いわばいいとこ取りをするような結果になってしまうので,問題はないかという懸念があったことでございます。


  部会におきましても,認識を必要とするかわりに,例えば3年とか5年とか期間を短縮できないかとの指摘もあったと記憶しておりますが,不法行為責任と位置づけるのであれば,例えば3年とすることもあり得るわけですが,債務不履行責任と位置づける以上は,期間を短縮化するといっても,その基準もなく難しいと言わざるを得ないところでございます。

  ところで,御承知のとおり,通説や従来の判例によりますと,この「権利を行使することができる時」の意義については,権利を行使する上で法律上の障害,例えば履行期の未到来等のないことを意味し,権利を行使することができるということを権利者が知らなかった等の事実上の障害は時効の進行を妨げないと解されてきておりました。しかし,近時は,この権利を行使することができることを現実に期待または要求することができる時期まで起算点を遅らせる裁判例や学説が見られるようになってきております。


  このように,受益者以外の権利者一般につきましては,民法166条1項の条文を前提とした上で,事案に応じて解釈により権利者の保護を図るという方法がとられている中で,ただ,受益者についてのみ,この民法166条1項の条文から離れまして,法文上の要件として常に任務違反行為による損害の発生の認識まで必要とするのは,解釈によるのであればともかく,実際に法文化するとなると,バランス上も妥当性を欠くように思われるわけでございます。


  そこで,前回の提案を改めまして,今回の提案のように,いわば民法一般の条文や解釈と同様のオーソドックスな方向に改めたものでございます。


  次に,2の(2)でございますが,試案及び前回の提案では,受益者に限らず他の受託者や委託者が損失てん補等請求権を有する場合についても除斥期間を設けることとしておりましたが,これを改めまして,消滅時効の起算点をその主観的認識に係らしめる受益者が権利者にある場合についてのみ,いつまでたっても消滅時効が起算点に至らない可能性があることを踏まえまして,権利関係の安定性の観点から,除斥期間の規定を併せて導入することとするものでございます。

  最後に(注2)でございますが,法人役員が連帯責任を負うこととなる損失てん補等責任についても,消滅時効及び除斥期間の規定を設けることとするものでございまして,消滅時効期間についてのみ信託類型を問わず一律に10年間とするほかは,提案1及び2の規定がそのまま当てはまることになるものと考えているところでございます。


  以上でございます。
● それでは,この時効に関連していかがでしょうか。
  ○○委員。


● 適用関係を教えてほしいんですけれども,損失補てん責任等の「等」なんですが,原状回復義務とか,あと一番関心のあるところですと利益吐き出し責任。そうすると,今申し上げたいずれの類型につきましても債務不履行責任ではないという整理,もともと発端は債務不履行責任かもしれませんけれども,利益吐き出し責任ですと,それは不当利得返還請求とか,原状回復不能であれば形成権かもしれませんけれども,物権的な請求権に近いものかと思うんですけれども,この「等」はどこまでカバーされているという理解なんでしょうか。


● 「等」は,我々の理解では損失てん補と原状回復は当然と。利益吐き出しは,なおペンディングですので,これは,もし入ればここに入ってくるし,その規律は同じことになると思うんですが,そこまで含んでおります。


  今おっしゃったところですが,我々の理解では,損失てん補と原状回復は基本的に受益者に対する信託事務遂行義務の不履行の問題で,債務不履行の責任ではないかと。


仮に利益吐き出し責任が入るとしても,これも信託の受託者として果たすべき債務の不履行によって生ずるものと認識しておりまして,それであれば同じ債務不履行という考え方でいけるのではないかと思っているところでございます。
● どうぞ。
● その趣旨は理解できるんですけれども,結構先鋭な対立があるのは,損害とみなすのか違うのかというところで,そうすると,債務不履行と性格づけられるからという理由づけになりますと,逆に利益吐き出し責任の方の甲案に近い議論が,ここで何か1つ形成されてしまうのかなというようなちょっと懸念もありまして,もちろん数字を持ってくるときに何らかの根拠が必要だということがあって,それは,そういう趣旨で述べているということはわかるんですけれども,その債務不履行と性格づけられるところは,利益吐き出し責任との関連ではちょっと強過ぎる趣旨ではないのかなと思って,ちょっと懸念があるんですけれども。


● 何かありますか。
● 利益吐き出し責任につきましては,まだ検討結果が出ておりませんので,そこまで厳密に詰めたわけではないので,これである立場をにおわせているわけでは全くないんですけれども,「等」と書いたのは,単純に原状回復は入りますねという趣旨は込めているということでございまして,利益吐き出し責任については(注1)に書いてありますとおり,なお検討事項ということですので,それがもし利益吐出しが入るということになった暁には,どのような規律が必要かというのはまた別途考える必要があるかなという気はしますが,何か基本的にはこれで問題ないのではないかという気がするわけですが,そこだけ不法行為にした方がいいという御趣旨でございますか。

● いや。法的な性格づけをあえてしなくてもという趣旨なんですけれども。
● そうすると,結論的には,この規律の対象で10年間,それはよろしい。

● そうですね。結論については特に。
● わかりました。
  書きぶりのところで,債務不履行と言ってしまうということですか。


● そうです。はい。
● それでは,そういう点は注意した方がいいということでいきたいと思います。


  ほかにはいかがでしょうか。
  ○○幹事。

● 適用がどういうことになるかということだけを確認させていただきたい趣旨なんですけれども,受益者が有するものの消滅時効は,信託管理人が選任されていて受益者自身がまだ存在しないというような場合は,どのようなことになるのでしたでしょうか。


  すみません。消滅時効の規律の内容を確認したいという趣旨なのです。

● 信託管理人がいれば,やはり法定代理人がいた場合と同じようになるんですかね。基本的には受益者が生まれて知るに至るまでは進行しないということでしょうか。


  法定代理人がいたら,法定代理人が知ったら消滅時効進行するということであれば,もしかすると信託管理人が選任されたときから進行するという発想もあり得るかなと,今ちょっと思っているところですが,ちょっと十分分析していなくて,むしろお伺いしていて恐縮なんですけれども。

● 申しわけありません。まさに両方の考え方があるのではないかと思ったものですから,明らかにしておかなくていいだろうかという問題関心でお伺いをしました。


● どちらの方が合理的だと,○○幹事としては思いますか。代理人的に考えるのか,別途に……。


● 受益者が,例えば未存在というような例のときに,信託管理人によって権利行使をさせるということからすると,権利行使の機会は確保されているということからすると,消滅時効が進行してもいいのかなというふうには思ってはいるのですけれども。


● 何か結論としては,やっぱり信託管理人がいて,本来損失てん補請求できる状況で,あるいは受託者の方からしても,未存在,将来の受益者の権利を保護する立場から今のような損失てん補請求するという権限を持っている信託管理人がいて,その状態のもとで時効期間が完成すると,受益者についてもなくなるというのが,何かわかりやすいですよね。

  そうではないと,全く別の,信託管理人と受益者の関係をどういうふうに理解するのかという,また難しい問題になりそうな気がするけれども。

  何か,皆さん,この中で御意見があれば,伺いたいと思いますけれども。い
かがでしょうか。


  基本的には,今のような受益者未存在の場合の受益者の利益は信託管理人が図るという立場だとすると……。

● 信託管理人が選任されたときから進行を始めるということですかね。
● それがわかりやすいけれどもね。それでは不十分だという点が,もしあるとするとどんな点かということですね。


  ○○幹事としては,今のでよろしいですか。


● 明確になることが望ましいのではないかというふうに考えておりまして,基本的には今のようなことでどうかと思っているのですが,もちろん,実は別の考え方をとったとしても,あとは20年でいくんだというのも十分あり得ることだと思いますので,どちらであるかが明らかになればいいのではないかと思っております。

● それであれば,基本的には○○幹事がおっしゃったことについて皆さん黙示の同意があるのかなという気がしますので,そちらの方向で考えてみますが,最終的には,どちらかに決めて,お諮りしたいと思っております。


● ほかにいかがでしょうか。
  今まで○○委員が,いろいろ時効に関連しては御発言もございましたけれども,このような案で。


● 権利を法律上行使できるときからという一般的な時効の規律と,それから任務違反が受益者にわかりにくいからディスカバリールールをとるということとの兼ね合いで,こういう本日の御提案が出ているかと思います。これはこれで1つのあり方かなというふうに思います。


  ただ,1点だけ確認したい点なんですけれども,26の1で「債務の不履行によって生じた責任に係る債権の消滅時効の例による」という原則を立てて,それで解説の中で,11ページの1,提案1についての第3パラグラフのところで,「「権利を行使することができる時」,すなわち,受託者の任務違反行為により信託財産に損失又は変更が生じた時」と置きかえているわけですが,これは直ちに置きかえられるかどうかについては議論があり得ると思います。

  ですから,むしろ端的に,説明文の方の規律を表に出していただいた方が紛れがないのではないかなというふうに思います。現に,除斥期間のほうについては,2の(2)に表に出しているわけですから,その方が疑義がないかなというふうに思います。


● いかがでしょう。
● 解釈は御支持いただいたと思いますが,ここでの起算点というのは,任務違反行為によって結果生じたときというふうに考えておりますが,あとは,そうすると,要綱案あるいは条文案の中にどういう書きぶりをするかというところですので,御指摘の趣旨も踏まえて,できるかどうかちょっとわかりませんが,書きぶり検討したいというふうに思います。


● と申しますのは,債務不履行によって生じた責任と書きますと,例えば不作為による任務違反などについては,ややあいまいになってくるかなという感じがいたしますので,今申し上げたようなことでございます。
● そうですね。

  今のような対応でよろしいのではないでしょうか。
  ほかにいかがでしょうか。
  もうちょっと細かい点で,解釈問題だと思いますので,これ以上ここで条文という形で対応する必要はないんですけれども,受託者が法人であるときの法人自身の消滅時効と,それから役員が連帯責任を負うというときの,その役員の連帯責任の時効期間が,一応,今(注2)というところですが,法人自身の方は,受託者自身の方は5年の商事の消滅時効というのがあり得るわけで,そのときに,この役員の方の消滅時効の期間というのは,ここでは一応今10年間とするということが書いてあるんですが,これがどういう関係になるのかということだけは,これは後で解釈問題として解決すればいいんだと思いますけれども,簡単に言えば,法人の方は5年でもって時効は完成しているときに,役員の責任が残るのか残らないのか。あるいは時効の絶対効,連帯責任ですから,負担部分についての絶対効ということでどうなるのかと。

  どっちが負担部門を追っているのかということから始まって,ちょっと(注2)がどうなるかというのは,少し個人的には気になっております。ただ,解釈で解決すればいいことかなというふうには思いますが。


  ほか,よろしいでしょうか。これ自体はいじる必要はないと。
  それでは,時効の部分は終えまして,次に移りましょう。


● では次は,第31の権限違反行為の取り消しでございます。

  4に関してのみですが,取り消しの原因を知ったときから1か月という期間制限,通説は除斥期間と解されておるんですが,四宮先生は短期消滅時効期間と言っておりまして,我々も時効によって消滅するということで明記しているわけでございますが,1か月は短過ぎるという批判が,当部会でもパブ・コメでも四宮先生も言われているところでございまして,3か月に延長することを提案するものでございます。
  以上でございます。

● これはいかがでしょうか。
  ここでは,一応期間制限,もちろんほかのことについて議論してはいけないという趣旨ではありませんけれども,他の点は一応固まったという前提のもとで,この権利行使の期間について,時効の期間だけ。
  ○○委員,どうぞ。

● 前も発言したと思うんですが,弁護士の感覚で言うと,こういう権限違反行為があったということを知った人が相談に来るまで1か月,2か月たってからで,それからすぐに弁護士が行動するというのは無理な場合が多くて,3か月というのはきついなというのが多くの弁護士の感想でした。


  半年ならしようがないかというぐらいの感覚的なものはあるので,それはお伝えしておきたいと思います。


● いかがでしょうか。今のに関連して。
  受託者サイドなんて言っては申しわけないけれども,○○委員,独立の見解として。


● これは前回も申し上げたところですけれども,商事信託での受託者という立場で考えますと,基本的には1か月でも長いということで,日々刻々信託財産が動いている中にあっては,1か月でも非常に厳しいのではないかなというふうに考えておりますが。


  今回御提案3か月ということで,これについては基本的には反対したいところなんですけれども,○○委員ほか御意見等がございましたのでいたし方ないのかなというふうに思っておりますが,これが6か月とか1年とかそうなると,やっぱりどうしても,なかなか巻き戻しというのは苦しい話になってしまいますので,3か月というところ以上はどうしても勘弁していただきたいなというふうに思います。

● ほかに。
  では,○○幹事。

● 今の意見の後に申し上げるのはちょっと気が引けるところあるんですけれども,多少,ちょっと弁護士会の方で意見が出ていたのが,ほかの法律の規律との関係でバランスがどうなんだろうという意見が出ていました。


  それで,民法の規律を拝見しますと,取り消しの行使期間は,追認できるときから5年と,行為のときから20年とか長いんですけれども,瑕疵担保責任でも,知りたるときから1年,行為のときから10年というようなことになっていて,やはりこの3か月,1年というのはかなり短いのではないかという感じがしております。


  今御指摘の信託が日々動いているという問題あるんですけれども,少なくとも受益者の犠牲のもとに,悪意,重過失の第三者が免責される期間としては,やはり3か月,1年というのは短いのではないかと。


  ちなみに,日弁連の意見書の中では,知ったときから1年,行為のときから10年という意見を挙げさせていただいているんですけれども,こういった期間というのもあり得るのではないかというふうに,個人的には考えております。

● ほかに,御意見ございますか。
  これもいろいろ御意見があるところ,まさに対立する御意見があるところですが,一応,現在の法律の1か月というのはとにかく変えようということで,今両端からの御意見がありましたけれども,多少両方が歩み寄れるところとして,今のところ3か月,これでももちろん短いという御意見,よくわかります。私も,個人的には6か月ぐらいはどうかというふうに思いますけれども,しかしみんなが合意できそうなというところで,3か月ぐらいで御承認いただければそうしたいというふうに思いますが,いかがでしょうか。

  それでは,弁護士会からの御意見はわかりますけれども,3か月で,とりあえず今回は少しは延ばしたということで,若干のプラス方向に動いたということで御承諾いただければと思います。

  信託法が,今後どのぐらい先にまた見直されるかわかりませんけれども,ベースが大分進歩したということであれば,また次回なりに,いろいろそのときの関係者の方々の御努力で改正されることもあるのではないかと思います。


  それでは,第31につきましても御承認いただいたということで,次に行きたいと思います。

● では次は,第32と,ここだけ第33と2つ併せて御説明をしたいと思います。

  まず第32でございますが,提案内容自体には変更ありません。
  2でございますけれども,本件につきましては第24回部会で取り上げておりましたが,受託者の費用前払請求権の行使可能時期との関連で,理論的にはこの請求権が民法649条によるのか民法460条によるのかと,どちらの性質によると見るのが妥当かというような御指摘と,あと前払いを受けることのできる時期についてはどのように考えるべきかという,解釈問題とは思いますが,その2点についての御指摘がございました。

  まず前者でございますが,前払請求権の性質につきましては,受託者というのは信託財産から直接支出することができまして,自己の固有財産で立替払いをすべき義務を負っているというわけではないという受託者の義務内容,権限の内容ですとか,受託者は信託との関係で信用を供与すべき立場にあるとまでは言えないという実質的な観点にかんがみますと,受託者は保証人とはやはり性質の異なるものでありまして,他人のために事務処理をするものに当たるものとして,この前払請求権は,民法649条の受任者の前払請求権の性質を有すると見るのが素直ではないかと思うところでございます。

  後者の行使可能時期でございますが,これも解釈の問題と申し上げたところでございますが,民法460条のように厳格に解する必要はなくて,債務が弁済期になくても,弁済期まで待っていたのでは信託財産から弁済できなくなる蓋然性があるというような場合であれば,行使できるのではないかというふうに思っているということを記載させていただきました。

  次に,第33の報酬請求権についてでございますが,これも提案内容自体は変更はございません。


  前回提案に御指摘があったのは,受託者が信託報酬を受ける前の受益者に対する通知義務について,任意規定という提案をしていましたけれども,これに対しましては,受益者または委託者に対する通知義務を強行規定とすべきではないかという御意見をいただきました。

  その結果,検討いたしまして,資料に記載いたしましたとおりでございまして,受益者に対し一定の条件,すなわち信託行為で報酬の額とか算定根拠を定めていない場合については,通知義務は強行規定とすると。

通知したくなければそういうことを定めればいいわけでございまして,そういうふうに改めるとともに,委託者に対する通知については特段の規定は設けないこととしてはどうかと考えるものでございます。
  以上でございます。


● それでは,今の第32と第33につきまして,いかがでしょうか。
  これは,提案自体は変更ございません。同じ提案のもとでの考え方を示したものでございます。

  それでは,よろしければ,次行きましょうか。

● では,第34でございます。
  まず,これは受託者が複数の信託に関する問題で,第25回部会で御審議いただいたところでございますが,今回はそこから提案内容に変更があった点についてのみ,3点御説明いたしたいと思います。


  まず第1に,1と書いてございますところですが,職務分掌がない一般の共同受託の場合におきまして,ある受託者が,他の受託者を顕名することなく対外的な執行行為を行った場合につきまして,これまでの提案では,その行為者の固有財産のほか信託財産にも効果が及ぶとしておりました。しかし,組合の場合には,他の組合員を顕名していない場合には,その他の組合員の固有財産はもちろんのこと,組合財産にも効果が帰属しないと解されております。

  そうすると,信託の場合にも同様に,信託財産にも効果は帰属せず,当該行為者の固有財産のみに効果が帰属すると考えることが相当と思うものでして,これは従来の考え方をここで変更させていただいたという点が第1点目でございます。

  第2に,(注4)についてと書いてあるところでございますが,受託者の複数の信託で,3人のうち1人が欠けて2人になったというような場合におきまして,1人補充するというときでございますが,残りの受託者の合意をデフォルト・ルールとしてではありますが,必要とするかについて,前回部会では両案併記しておりました。

  この点につきましては,この資料中にるる書かせていただきました理由から,デフォルト・ルールとしては,委託者と受益者の合意のみによって,欠けた受託者の分の新受託者の選任を認めることとしてはどうかと考えるものでございます。

  第3に,(注5)についてと長く書かせていただいたところでございますが,これは前からいろいろ問題になっているところでございまして,信託債権者が,信託債権に関して,共同受託者の1人に対して取得した債務名義をもって信託財産に掛かっていけるかという点につきまして,前回の提案におきましては,職務分掌の有無にかかわらず,受託者全員に対する債務名義を取得する必要があるという見解を展開いたしましたところ,特に職務分掌の定めがある場合につきまして,取引をするときには1人でいいけれども,執行するためには全員に対する債務名義を取らなければならないというのは,本来執行の局面で担保されているはずの取引上の権利が,実は担保されていないことになって,整合性を欠くのではないかという指摘がございました。

  この点につきまして,資料の3,(注5)についてというところで書かせていただきましたとおり,職務分掌型の信託の場合には,分掌された職務に関する管理処分権は分掌された職務を執行する受託者に専属しますので,当該受託者は,他の受託者のための法定訴訟担当者となるものと構成した上で,あとは執行文付与のあり方を検討するというアプローチも十分あり得るところであると思われます。

  そこでまずは,このように,ある受託者を他の受託者のための法定訴訟担当と考えることの是非につきまして,ぜひ御意見を賜れればと思っております。


  なお,以上はあくまでも職務分掌型の共同受託の場合でございまして,一般の共同受託の場合につきましては,ある受託者に専属的な管理処分権が帰属していると言うことはできませんので,法定訴訟担当という構成は無理でございまして,また,顕名しない限り実体的な効果も信託財産に帰属しない以上は,信託財産に係っていくためには受託者全員に対する債務名義を要求しても,取引相手方にとって酷ではないと思われますので,組合と同様に,受託者全員に対する債務名義を要するものと考えております。

  ということで,職務分掌のある場合についての法定訴訟担当と考えることの是非について御意見を賜れればと思っております。
  以上でございます。

● それでは,この部分について,いかがでしょうか。
  非常に込み入った議論も若干ございますけれども。
  ○○幹事,どうぞ。


● 最後の職務分掌型信託の場合の訴訟法上の取り扱いですけれども,結論としては,この資料にありますとおり,訴訟担当として構成するということでよろしいのではないかと思います。
 

 訴訟追行権というのは,実体法上の管理処分権を軸にして考えることになると思いますけれども,職務分掌型の信託の場合には,当該受託者というのは当該職務については管理処分権を実体法上与えられているということだと思いますので,それを訴訟手続に反映させれば,訴訟追行権あるいは訴訟担当として考えることになるんだろうと思います。


  執行のあり方が問題になるわけですけれども,これは今ここで議論した方がよろしいですか。それとももう少し……。


● いただければ,ぜひ。
● そうですか。

  考え方としては,単純執行文でいいのか承継執行文が要るのかというあたりが問題になるんだろうと思います。


特に信託財産が不動産の場合には,これ合有登記がされているわけですので,受託者1人の名前で債務名義ができているときに,それに対して強制執行できるのかということが問題になるんでしょうが。

  単純執行文でいければいいのかもしれませんが,仮に承継執行文が必要だとしても,民事執行法の27条の2項で,簡易にそれは出せるのかどうかということが問題になるんでしょうが,ここまでは信託事務処理のために債務名義上の実体法上の請求権が発生したんだということさえ言えればいいわけで,近い例で申しますと,民事訴訟規則の15条で,訴訟行為を必要とするのに必要な授権というのは書面で証明しなければならないとなっていますが,この程度の証明があれば執行分が出せるというふうに考えるのであれば,仮に承継執行文が必要だとしても,十分執行手続としてワークするのではないかと思います。
  以上です。

● どうもありがとうございました。
  ほかに,よろしいでしょうか。今までの御議論をかなり取り入れてはいると思いますが。
  よろしいですか。
● 今の執行以外の点でよろしいんですか。
● はい。

● 非分掌型の場合に,顕名がないと信託財産にも効果が帰属しないという点についてなんですが,この場合の相手方の保護はどうなるのかについてを確認したいんですが,権限違反行為の場合との比較ですとか,あるいは職務分掌型だと誤信した場合とか,相手方の保護も考えるべき場面があるのではないかと。
  特に,組合の場合にも表見代理を認めるという考えがあるものですから,それとの関係でどうなるのかということです。

● それでは,お願いします。○○関係官。
● そのあたりは組合と同じように考えておりまして,組合についても解釈によって第三者の保護をというのを図っていると。一般的に顕名主義というのになっていて,第三者が,民法の100条とか112条とか111条とか,あのあたりで保護されていると。
  それと同じようなことはここでも考えられるのではないかというふうに考えておりまして,それ以上に明文の規定を置く必要というのはないのではないかというふうに考えております。

● よろしいですか。
● 相手方が保護され得る場合があるということはわかりました。
  例えばですが,今の例で,職務分掌型だと誤信したという場合,どうなるんでしょうかね。つまり,単独でできると思っていた。

● そのあたりも,ちょっとこれは個人的な考え方ですけれども,そのように考えることについて正当な理由があって,それが民法の一般的な原則に従って第三者が保護されるべき場合に当たるのであれば,保護される場合もあり得るということだと思います。

● 今の場合の保護も,表見代理ということですか。
● だと思います。
● でしょうね。
● 顕名していないということですね。代理権踰越だったら110条とかですね。顕名でなかったら100条の方でいくのではないかと思いますが。


● 他の受託者を明らかにせずにやっているわけですね。
  非分掌型なんですけれども,相手は職務分掌型だというふうに思っていて,したがって,その人が単独でできるというふうに考えていたという場合ですね。組合ですと,その常務を単独でできるとか,それを越えたらどうなるかという,そういう話なんですが。

● 今のは単純な非顕名ではなくて,積極的にといいますか,分掌型だというふうに信頼したということに十分な理由があれば,そうするとやっぱり表見代理でいけますかね。

● そうですね。表見代理で帰責事由と正当理由とのバランスということになってくるかなと思います。
● そうすると,表見代理とそれから顕名の場合の100条とかの法理と両方が係ってくるという理解でよろしいですか。


● そういう場合もあると思います。そこは,どういうふうに行為者がやったのかということによって適用条文は変わってきますが,いずれにしても一定の場合に第三者が保護される余地は,民法の原則によって残っているというふうに考えております。

● ○○委員。
● また執行のところでちょっと質問なんですけれども,ちょっと私の理解が間違っているかもしれませんが,職務分掌型というものが大分以前の議論ですと,いわゆる適格年金のようなもので議論したと思うんですが,たしか前回ぐらいの議論のときに,そういうものはある意味では,この共同受託の規律以外のものになるよというような整理の仕方になっていたと思うんですけれども。
  


それはそれとして,そうすると,今日の議論でも,何となく私の中での理解でも,職務分掌というのは共同受託のある特定の方が,信託財産を信託行為上も実質においても扱っているような感じで何となく認識してはいるんですけれども,ただ,職務分掌というのは必ずしもそういう規律では議論されていなかったというか,ちょっと前にも言っていたんですが,別に職務分掌は職務分掌と言っているだけでして,信託財産の帰属,実質管理とはまた別の議論だったような気がするんですけれども。


  そうすると,信託財産と切り離して職務分掌というものがあり得るとすると,その職務分掌になった--いろいろな職務分掌それぞれがしているんですけれども--その人1人をつかまえて,信託全体に法定訴訟担当が及ぶと。


及ぶのが適切な場合もあるし,適切ではないような職務分掌もあるような気もしますし,なおかつ信託財産を,特に管理する職務分掌になっていないある受託者が法定訴訟担当で行為をし,先ほどの○○幹事の議論のように,承継執行文を得るというのは,何となくちょっと頭の中の整理がしがたいところがあるんです。

  要するにぐじゃぐじゃ言って申しわけないんですが,信託財産と職務分掌の関係が,もう1つ規律として何か必要なのではないのかなということを,ちょっと思った次第です。

  あと,不動産の場合ですと,一応合有登記がなされているという前提ですけれども,不動産以外のものですと,特に職務分掌があっても合有という整理なんでしょうが,ただ,名義は別の人の完全な名義になっていると。

  要するに,A,B,Cという受託者3名いて,A,B,Cがそれぞれ異なった形での職務分掌になっていて,あるBさんの名義になっている預金があるとかBさんの名義になっている何か財産があると。でも信託法上は合有であって,Aさんあての訴訟を起こして,職務分掌型であって法定訴訟担当で承継執行文ですというのは,果たして,そんなに執行わかりませんけれども,先ほどの○○幹事のおっしゃったような規則の15条で簡単にもらえるものなのかどうかと,その辺もちょっと教えていただければと思うんですけれども。

● どなたか。では,○○関係官。

● まず,執行の点につきましては,今検討中ということでございまして,果たしてそういうようなことができるのかどうか。単純執行文という形でできるのかどうか,それとも承継執行文というのが適当なのかどうかについては,もうちょっとお時間をいただいて検討させていただきたいというふうに思っております。


  ○○委員の1点目の,職務分掌のものというのはどういうものがあるのかというのは,ここでまず,原則形態というか一般的に想定しておりましたのは,例えばAという信託財産とBという信託財産があって,それが受託者1,2,3の合有になっていると。


Aという信託財産については,受託者1が単独で意思決定をし売却等もするというようなものを考えておりまして,その場合は,確かに信託財産自身は合有にはなっているけれども,売却という権限については受託者1が単独で意思決定をしているので,実体法上の管理処分権というのも受託者1が持っていると言うことができるのではないかと。


  そうだとすると,重複してしまいましたけれども,実体法上の,管理処分権は受託者1が持っている以上,法定訴訟担当として構成して,その受託者に対して債務名義を取れば,他の受託者にも既判力,執行力は及ぶと考えてもいいのではないかというふうに,今回は考え方を改めた次第ではあるんですけれども。


  十分答えたかどうかわかりませんけれども。
● ほとんどの側面答えていただいたので。
  では,今の事例ですと,受託者Aに対して職務分掌があるからといって,Bが実際に職務分掌で管理している信託財産に対しては係ってはいけない。あくまで職務分掌というのは信託財産と密接に関連していて初めて意味が出てくるという。

● 今のは不動産の売却の話をしましたけれども,例えば借入権限というのを受託者1が持っているというようなケースであれば,受託者1を被告として債務名義を取りますと。ほかの受託者が管理している信託財産にも執行することはできますと。それはなぜかと言うと,信託財産自体は共同受託者3名の合有ですから,そういう観点からはいけますということになると思いますが。

  そういうことが適当でないと思われる信託については,先ほど○○委員がおっしゃいましたとおり,年金信託のように別々のものであるというふうにしておけば足りるのではないか。要するに,共同受託にして信託財産が合有であるという前提をとる以上は,職務分掌型の信託で他の受託者が信託事務処理を独立してやっていたとしても,信託財産の限度では,他の受託者がやったことについても信託財産は責任を負わなければいけないというように考えている次第です。

● 今のでもちろん理解してはいるんですが,職務分掌というものが,いろいろな執行とか訴訟の面でも極めて重要になってくるメルクマールになっているんですけれども,職務分掌自体が--その言葉自体で解釈論で物語ってしまうのかもしれませんけれども--訴える場合でも訴えられる場合でも,共同受託なのか職務分掌なのかというのが必ずしも十分議論されていないと。かつては適格年金で議論しましたが,あれは別だということになってしまったところで,ちょっとわかりにくくなっているのかなと。それによって訴訟法的手続にも随分影響してしまうという点は大丈夫なのかなと,ちょっと思う次第なんですけれども。

● そこのところは,事務局としても意識してはいるところなんですけれども,なかなか信託の場合は,登記,商業登記みたいなものもないところもありますので,やはり信託行為を見て,署名して,訴訟上もということにならざるを得ないのかなというふうには思っていますけれども。


● ○○委員。
● 確かに,職務分掌という言葉が何か厳密に定義されているわけではないので議論がしにくいのかもしれませんが,スペクトラムの中に位置づけておくと,一番端っこには多分全く別々の信託が合って,受託者1が信託財産Aを信託で受けていて,受託者2が信託財産Bを受けていて,これは全然別でということであれば,もちろん受託者1に対して判決とったとしても,財産Bに対して強制執行できないのは当たり前ですね。これは一番ばらばらがはっきりしている場合で。

  それからもう片方では,共同受託で,しかも職務分掌も非排他的な管理処分権しかない。つまりお互いにみんなで決めるしかなくて,1人の人間を相手にして何か訴訟をやっても全員に対しては効力が及ぼさないと。こういう場合には,ここの資料で言いますと,20ページの下の方の(※2)で,非分掌型の信託と考えざるを得ない。

  職務分掌型というのは,その真ん中でして,共同受託なんだけれども,全体に対して効果を及ぼすには1人をつかまえればいいというものなんだろうと思います。これは今御説明があったとおり,それは何か特定の文言さえ信託行為の中から引っ張り出せば自動的に決まるというものではなくて,共同受託で受けている信託財産に対する管理処分権がだれに帰属するのかということを,信託行為の中から読み込んでいく行為にならざるを得ないのではないかという気がいたします。

  以上です。

● よろしいでしょうか。
  恐らく今のような御説明でよろしいのではないかというふうに思いますが。
  それでは,共同受託といいますか,共同受託全体というよりは今ここで御説明申し上げた点につきましても,御承認いただいたということでいきたいと思います。

● すみません。もう1点だけよろしいでしょうか。
● どうぞ。
● すみません。ごく短く済ませますが。
  記録に残すというだけの趣旨なんですけれども,受託者Aを,受託者の1人をつかまえて債務名義つくっても,それが信託財産に対して強制執行していいかどうかは,さっき言ったように,特に共同受託の場合には問題になることがあり得るわけですが,仮に限定責任信託ならば,給付訴訟の給付文言の中に信託財産の限度でというのがもし入っていれば,それは,その信託の財産に対して執行できるということは非常に明らかなので,そういう場合には,なるべく,そういう信託財産の限りでという責任財産を明示するような判決主文,これはちょうど限定承認なんかでも似てくるわけですけれども,すべきなんだろうと思います。

  これは,ない場合は確かに問題で,その債務名義で受託者の固有財産に対しても執行できるわけですから,この場合は確かに問題になるんですが,その場合には,先ほど言った承継執行文の問題にするか,さもなければ信託財産と固有財産の両方に係っていけるということをどこかで事実判断していく。信託財産にも係っていけるということを手がかりにして,強制執行していくということになるんだろうと思います。


  以上です。すみません。
● どうもありがとうございました。
  よろしいですか。

  それでは,次に参りましょう。
● では続きまして,受益権取得請求権についてでございますが,資料で言いますと22ページからでございますが,これは,これまでいろいろ御議論いただいた中身につきましては決まったものと考えておりまして,今回は手続等,請求手続と取得価額の決定手続に関する提案でございまして,基本的には新設合併とか,あるいは一般的な株式買取請求権に関する会社法の806条とか807条,あるいは116条,117条あたりの内容を参考にした上で,ここではそれも踏まえつつ,しかし独自に意思決定日とか,取得請求日という2つの基準日を設けまして,合理的と思われる流れを設定した趣旨でございます。
  以上です。


● 手続的な流れを明確にしたということですが。
  ○○委員。

● 4のところの,受益権の取得価格の決定等のところなんですけれども,この規律というのは基本的に強行規定だと思うんですけれども,これについて任意規定化というようなことはできないんでしょうか。

  特に,価格の決定のところの部分について,非常に単純な信託であれば,例えば額面とか,そういうようなものであればそれだけで終わってしまうような気がしまして,そこの時点でまた協議を行ってというのはかなり迂遠なところもありますので,そういうことができないかどうかということと,あと,こっちの方は難しいかもしれませんけれども,信託財産というのも非常にいろいろな種類のものがありますので,換価処分するのに時間がかかるとか,60日というのでどこまでいけるかという部分もありますので,そういう意味合いも兼ねて,任意規定化というのができるのであればお願いできないかなということですが。


● いかがですか。


● 任意規定というところでございますが,そうすると受託者と委託者で決めてしまうということでございますが,やはりここは受益者の協議に参加するということも重要ではないかと思っておりますし,あと,例えば客観的な価額があるようなものであれば,それは協議と書いてあっても事実上それで決まるのではないかと,それほど協議がもめてということもないのではないかと思われますので,ここは,やはり協議は必要という強行規定でいければと考えておりますし,日数につきましても,これもほかの規律を参考にしているわけでございまして,なかなかこれを任意規定にするのは,やはり手続の流れですので明確に法律にしておいた方がスムーズに処理できて,いたずらに遅滞することがなくてよいのではないかというふうに思っております。


  逆に,短期間に設定し過ぎますと受益者の利益を害しますし,長期ですと手続が遷延しますので,そういう意味でも,このような期間を強行規定として定めることで御理解いただければというふうに思っております。


● ○○委員。
● 期間のところについてはなかなか難しいのかなというふうに思っているんですけれども,価格の決定のところの部分について,自益信託であらかじめそういうことを決めておくというような考え方で,信託契約に書くことによって,仮に事前に決めておくといいますか,そういう考え方というのはとれないんでしょうか。


● ○○関係官,どうぞ。
● そこのところは,先ほど○○幹事申し上げましたとおり,受益者の保護ということもありますし,事前に決めておくといっても,どういう形で決めるのかというところもあるし,さらに受益権取得請求というのが認められるのは,前からここで議論していただきましたとおり,非常に限られたものであるということを考えますと,なかなかそこで,信託行為にこういうふうに書いてあるからそれでいいではないですかということは言いづらいということと,実際に受益権の取得価格というのは,意思決定がされて,そのころの時価というふうな考え方になりますので,その時価というのを事前に決めておくというのが果たして合理的なのかどうかというのは,ちょっと疑問があるところではないかと思いますけれども。

● よろしいですか。
  多少簡易化というのができればありがたいという御趣旨の発言ではございましたけれども,取得価格についてこういう手続でもってきちんと決めるというのは,やはり原則にしたいということで御承認いただければと思います。
  ○○幹事。


● 2つあって,1つはあるいは確認になるのかもしれませんが,まず4(1)の協議が整ったということの意味ですけれども,これは受益者と受託者で,例えば仲裁契約を結んで第三者の決定に従いますということにした場合には,協議が整ったというのは,いわば仲裁判断が出た,第三者が決断を下したというふうに理解してよろしいんでしょうね。ここは。

● それはそうだと考えております。
● そうすると,もう1歩進んで,先ほどの御発言の問題意識につながるわけですが,事前に仲裁契約をしておく,例えば,信託行為の中で第三者の決定に従いますということをあらかじめ書き込んであるのはできないというのが,今の事務局の御趣旨でしょうか。

● そこのところは,解釈問題だと思うんですけれども,自益信託であればできてもいいのかもしれませんが,他益信託は少なくともだめではないかと思うんですね。信託行為の同意者に受益者は入っておりませんので。


  そのあたりは,今すぐには何とも。
● つまり,4の(2)で,必ず裁判所の手を煩わせないといけないのか,何かほかの道があるのかという問題意識です。
  すみません。これで,以上です。


● 何か,名案がありますか。
● 仲裁というのは,不服申立てとかもできるんですよね。
● むしろ一審限りで終わるから仲裁のメリットがある。


● 一審限りで終わる。
● もちろん,仲裁判断の取り消しの事由があれば別ですけれども,そういうものがなければ,それでおしまいというのが。


● 協議というと,やはり結論が出ないと協議が整ったと言えないのではないかという気がいたしまして,信託行為で仲裁判断にゆだねますよと書いてあるだけで協議が整ったというのはちょっと厳しいのではないかなという気が,今の時点ではしております。


● 先ほどお尋ねしたのは,4の(1)の方です。
  要するに,価格の決定が問題になりますという具体的なシチュエーションの出た後に仲裁の合意をすれば,それはよろしいのではないかと。


● その後で合意をして,しかしまだ判断は出ていないという段階。
● 協議が整ったというのは,要するに,第三者が……。
● 仲裁しますよという協議が整った。
● その仲裁判断が出たときには,それから起算して60日。それはよろしいんですか。

● それは大丈夫です。そっちは大丈夫です。
  仲裁契約をした段階でいいかと言われると,それはちょっと……。
● それは,まだ額が決まっていないので,起算点が来たと考えようもないと思うんですけれども。

● よろしいですか。
  どうもありがとうございました。
  それでは,これも以上のような御議論ございましたけれども,基本的に御承認いただけたというふうに思います。
  それでは,次に参りましょう。
● では次に,信託の変更につきまして,5に関してのみ,裁判所による信託行為の変更についての規定についてでございます。


  現行法におきましては,信託財産の管理方法に限定されている変更対象の範囲についてでございますが,ここでは実務上の具体的ニーズですとか,受益者の利益に適合しないと観念しやすいものであるかどうか,あるいは,性質上,裁判所の判断になじみ得るものかどうか等の観点から,信託事務の処理の方法,現行法にある信託財産の管理方法の変更はもちろん含まれると考えておりますが,あとは,例えば信託事務処理の委託が禁止されている場合に,それを解除するとか,それから信託財産の処分が禁止されている場合に,その禁止を解除するとか,こういうものを念頭に置いているわけでございまして,この限度にまで広げることとしております。


  また,このように裁判所の判断の対象事項を現行法よりも広げる以上は,変更後の内容について多様な選択肢もあり得るということになりますので,どのような内容の変更を求めるのかを申立人が特定して請求しなければ,裁判所による現実的,実効的な判断が困難となりまして,それは翻って,申立人を初めとする信託関係者の本来の意図,あるいは利益にも反することになりかねないと思われます。
 

 そこで,この変更の申立てをするに当たっては,申立人は変更後の信託行為の定めを明らかにしてしなければならないこととしたものでございます。
  以上です。


● それでは,これについて御議論ください。
  これも,いろいろな御意見ございまして,もっと広く変更できるようにすべきであるという意見から,それは難しいという両方の御意見がございまして,何とか妥協できるといいますか皆さんが合意できる,そういう部分を,一応今書いたものでございます。


  ○○幹事。
● 質問で,今ひょっとしておっしゃったのかもしれませんけれども,5の②で,定めを明らかにして申立てはする。裁判所の側の主観としては,これを認めるか認めないかどちらかにしてほしいということだったので,それはいいのかもしれませんけれども,しかし,事実を見ていくうちに,申立てではこういう内容の信託行為の変更を申立ててはいるんだけれども,しかしそれとは異なる方が公平にかなうのではないかというときに,この申立てとは異なる内容の変更は,命じられるという前提なんでしょうか。そうでないということなんでしょうか。


● そこは,申立ての中に含まれていると考えられればできると思いますし,あるいは訴訟運営の過程では,裁判所と当事者の間で協議をしていくうちに,当事者が申立てを変更することによって当然対応できるではないかというようなことで,現実的にはそのような方向で対応していけば大丈夫ではないかというふうに考えているわけです。

● これ,前のときに私申し上げたような記憶がちょっとあるんですが,同様の制度の1つとして民法上では事情変更の原則というのがあって,事情変更の原則については,もちろん細かい点では争いがあるのかもしれませんけれども,一般的な理解としては,あくまでも変更した事態に対応した契約内容が公平にかなうものとしてあるわけであって,それを裁判所は宣言するというようなイメージでとらえているのではないかと思います。

  ですので,当事者が変更の内容を明らかにして求めるということも必要ではありませんし,仮にそういうことを当事者が明らかにしていても,裁判所は何らそれに拘束されるのではなくて,変更した事態に即して,信義則かどうかわかりませんけれども,公平にかなった変更内容を明らかにするという理解だと思うわけですね。


  こういう理解をとるのか,それともやっぱり私的自治であって,当事者がこういう内容で変更してほしいというのを求める,そちらをやはり優先するのかという,制度のたて方としては,考え方としてはこういう2通りがあると思うんですよね。


  そのどちらをとるかというときに,今日の,今の御提案というのは,信託契約なんだから,あくまでも当事者が契約内容をこういうふうにしてほしいというのを決めることができるわけであって,他人は,裁判所はそれを押しつけることはできないという理解を前提にしたというふうに考えてよろしいんでしょうか。

  これは,事情変更法理にもかかわる非常に重要な立場決定の1つだと思いますので,確認をさせていただければと思います。
● 押しつけることはできないと言えばそういうことでして,そういうことを言えば,本当は何でも裁判所にやってくれと言われて,では裁判所で決めるという制度もあり得るとは思うんですが,ここでは,裁判所は現実的な判断の可能性ですとか,あと,それがどういうふうな変更をするのか,これ1人でできますので,どのような変更をすることがむしろ当事者の利益にかなうのかという観点からしますと,やはり変更後の信託行為の定めを申立ての趣旨として明らかにすることが目的にかなうのではないかということと,あとそれから,それについては,申立ての趣旨を前提として裁判所が判断していくという方向が,基本的にですが,いいのではないかというふうに考えているわけでございます。


● 苦心してお答えいただいているのは非常によくわかるわけなんですけれども,ポイントはやはり,当事者の申立てに裁判所は拘束されるかされないかだと思うのですね。


  拘束されるという制度の立場をとるのか,それとも,明らかにしないと判断できないので明らかにしてくれと,しかし拘束はされないという立場をとるのか,どちらなのかはやはりはっきりしておく必要があるのではないでしょうか。


  どちらもそれぞれ理由は立つのだろうと私は思います。ただ,事情変更法理で,今まで裁判所で実際の変更を認めたものというのが少なくとも最上級審レベルで全然ありませんので,現実には問題になっていないのですけれども,しかし勝本先生以来の理論においては,裁判所が決めるものだという理解--ドイツの理解を前提にしてだと思いますけれども--とられている中で,ではどうするという問題だろうと思うんですね。


  すみません。問い詰めるようで本当に申しわけないんですけれども,ちょっと気になるものでして。

● 拘束というと言葉が非常にかたいわけでございますが,やはり幅を持って,それを前提として判断するということがここの制度の考え方でございまして,両極端,もちろん,非訟なんだからという考え方もあれば,裁判所としての判断の可能性,あるいはそれの当事者への利益の適合性という両方の視野があるわけでございますが,その中で,このように申立ての趣旨を前提として,もちろん一言一句を拘束されるわけではございませんし,例えば申立ての趣旨で2つ,主位的,予備的とあれば,その間をとるというようなことは,それは実質的に申立ての中に含まれているということでできるというふうに思うので,そこまでだめだということは言う必要はないと思うんですが,例えば売却を求めているところについて賃貸にしろと,そういうところまではやはり難しいのではないかなというのが,この提案の考え方でございます。


● これは裁判所の方,どんなお考えなんですか。


● 基本的に裁判所に対する変更の申立てというのは,当事者間で変更についての協議を重ねたけれどもどうしてもデッドロックに乗り上げてしまった,その事態を何とか打開しようというのが基本にあるように思いまして,合意ではどうしても解決できない部分について,申立てをベースに裁判所がその当否を判断するというのが,裁判所の判断方法としては,現実的に機能するという意味では一番適切なのではないかというふうに考えているところです。

● 別に私の方でも問い詰めるわけではありませんけれども,とにかくきちんとこういうふうに変更してほしいという当事者の申立てがあって,裁判所はそれを認めるか認めないかの判断をするのが通常といいますか,それは判断の仕方としても簡単である。だけれども,たまたま裁判所がもうちょっと違うことを判断したいというときに,その自由はない方がいいと,そういう……。


  要するに○○幹事が言われたのは,そういうときに裁判所の実質的な判断で,当事者の申立てに拘束されないでちょっと違った判断ができるという立場もあり得るのではないかということを言われたわけですね。それに対しては,裁判所の自由が少し広がるわけですけれども,あまり広がると困るという御趣旨が含まれておりますか。先ほどの御意見の中に。


● それが広がり過ぎてしまいまして,どんな選択肢を選ぶのかというところについても裁判所が適切に判断するということになってしまいますと,なかなか判断ができないような場面というのが生じるのではないかというふうに考えております。


  現実的には,先ほど○○幹事おっしゃったように,こちらの方がいいのではないかというような心証を抱いたようなケースは,適切な訴訟指揮の中を通じて申立て等を適宜直していただくような形で対応して,あまり困った事態にならないような形で運用できるのではないかというふうに考えております。


● これは,事情変更の原則との関係で言うと,事情変更の原則に基本的には依拠しているかもしれないけれども,そのままではない--という言い方はちょっとあいまいだけれども--事情変更の原則の一般的な法理に事実上影響を与える可能性はあるけれども,それ自体を変更するものではないんだと。

● 事情変更の原則の昔からある通説的な理解が本当にそれでいいのかどうかということ自体,実は大きな問題でして,そういう意味では,こういうお立場をとった1つの制度ができるというのは,むしろ理論に影響を与えるという○○委員の御指摘というのはそのとおりかなという気がいたします。


  これがいいとか悪いとかいう問題ではなく,理論の方に波及するかなという気がいたします。


● ほかによろしいでしょうか。
● 質問なんですけれども,これ例えば,委託者の方から,申立てが変更後の信託行為の定めを明らかにしてされた場合に,それに対する対案と言いますか,そういうのを受託者とか受益者というのは出すことができるものなんでしょうか。

● それは,出して併合して審理するんですかね。
  事件のたてつけは,非訟事件手続法の方のそれを信託法の方に入れて考えるんですが,実際には意見を聞いたりすることもあるでしょうし……。

● 非訟事件手続法の一般的な法理に従うということになりますので,裁判所が職権で,例えば受託者なり受益者の意見を聞くということも当然できて,その中で受託者とか受益者が,こういうふうな対案がいいですと言うことはできると思います。

  先ほど○○幹事が申し上げましたとおり,そのような対案が出てきたら,それをまた申立ててもらって,その中で判断していくということはあり得るんだろうとは思っていますけれども。それも非訟事件手続法の総則の規律に従うことになります。


● よろしいですか。
  では,○○委員。


● すみません。大した話ではないんですけれども,私,借地非訟事件の鑑定委員等やっていまして,そういう裁判所の機能を,やはり形だけではなくて本当に重視しようという趣旨で,なおかつ裁判所はみずから判断できないではないかといったときに,当事者がちゃんとやってくれれば訴訟事件と同様大丈夫かもしれませんけれども,当事者非訟であって,本来だったら信託銀行の方の意見も聞きたいとか信託法の学者の方の意見も聞きたいと思ったときに,ツールが何もないことになってしまうのではないのかなと,ちょっと懸念もあるので,借地非訟のように大げさではなくても,また頻繁でもないかもしれませんけれども,そういうような意見を求め,それを参照しながら裁判所は判断する--最後はフリーハンドですけれども--というようなたてつけも,せっかくだから--大した話ではなくて恐縮ですけれども--検討してもよろしいのかなと思った次第です。

● いかがですか。
● その点については,先ほど申し上げたところにも関連するかと思うんですけれども,裁判所は必要に応じて職権で調べることができるということに加えてというお話でしょうか。


● そうです。
  あの場合には,普通の一般の人と鑑定士と弁護士と必ず3名で意見を出しますけれども,この場合でも,恐らく,いろいろなものあるでしょうけれども,事案に即して信託銀行の方と学者の方と普通の感覚を持った方みたいな,そうすると,ある意味では裁判所負担の軽減という趣旨もあるかもしれませんけれども,より公平--公平なのかわかりませんけれども--の判断ができるのではないのかなと。


  通常,非訟事件法にゆだねるだけではなくて,何か特別法があってもよいのかなと思った次第ですけれども。


● そのあたりは,職権で裁判所が信託銀行の人を聞くとか,そういうことも当然できると思いますので,そういう形で一般的に解決可能ではないかというふうに思いますけれども。


● おっしゃっているのは,現行法ですと11条で,裁判所は職権をもって事実の探知,及び必要と認める証拠調べをなすべしと,この辺の関係でございますれば……。

● 借地非訟の場合,ちょっと特別かもしれませんけれども,まず,すごいたてつけができ上がっていますよね。

● これで別に,裁判所が自分で必要と思えば証拠調べをすれば,○○委員がおっしゃるような信託の事案であれば,それに即した人から事情を聞くということはこの規定をもって対応できるので,それはこの運用ではないかなという気がいたしますが。それでもしよろしければ……。


● いや,いいんです。裁判所,いつも困るという話があったので,どうしたら困らないのかなと思った次第なんですけれども。

● ここで今のような御意見が出ましたので,今後は非訟事件手続法の中で,今のような職権で調べるときに○○委員が提案されたようなことをしてくれればいいということですね。


● はい。
● きちんとしたたてつけができていなくても。
  それでは,この信託の変更につきましても御了解いただいたということで,次に参りましょうか。
● では次は,第62の,いわゆる後継ぎ遺贈型の受益者連続の問題でございます。

  この問題につきましては,その有効性につきましてパブリック・コメントと第24回部会での結果がございましたが,それを総じて申しますと,遺留分制度の潜脱は認められないと,それから一定の期間に係る制限を設けると,その2点を前提とすれば,その有効性を認めていいのではないかという意見がほとんどであったと言うことができます。


  まず期間制限の点でございますが,一定の年数で区切るというのは必ずしも信託の目的の実現に沿わない可能性があることですとか,あと胎児の相続権に関する規定を受益者に準用している民法の規定などにもかんがみますと,胎児も含む現存する,信託行為のときに既に生きている,あるいは胎児を受益者とするものであれば可能と考えるのが無難ではないかと思われるわけでございます。
  


また,遺留分制度との関係につきましては,当然のことながらその潜脱は認められないと考えているわけでございます。
  もっとも,このテーマにつきましては当部会で十分な議論を尽くしたとは言いがたいところでございまして,将来個々のケースにおきまして,相続法等に照らして問題がないことを個別に確認していくのではないかと思われるところでございます。

  そこで結論といたしましては,信託行為において,先に述べました考え方を基本とする一定の期間制限を設けるとともに,遺留分減殺の対象とすることで一般に有効に成立するものであるという解釈を明確にしつつ,あとはこの新たな信託法において特段の規定を設けることとはせず,個々のケースの具体的判断にゆだねることとしてはどうかと考えるものでございます。


  以上です。
● それでは,これについて御意見を伺いたいと思います。いかがでしょうか。
  ○○委員。
● これは随分議論してきたところですし,事務局としても,恐らくはかなり力を入れてきたところだと思うんですが,恐らく今まで議論してきた趣旨は,解釈論を明確にするという視点よりも,そうした解釈論を--というのは解釈論ですから必ず反対説もありますし--ですからそういう解釈論だけではやっぱり制度設計では不十分だというところで,条文化しましょうという趣旨もこれまであったのではないのかなと思う次第なんですけれども,やっぱり今回解釈論にゆだねるというような結論に至ったのは,ちょっと何となくぴんと来ないところもありますし。


  あと期間のところも,これは,幾らここでこういう解釈論があると言っても,できるできない以上に,期間はどこまでかというのは今後ともどの説をとっても有力説になり得ないと言いますか--というのは論理的根拠がどれもないわけでして,永久はだめという以外はないわけですが--この辺の,特に期間の点については,せっかく信託法ができるわけですから,やっぱり制度設計としては何か入れないと解釈論にゆだねようがないのではないのかなとも思うんですけれども。

  何か少しでも足がかりになるような,手がかりになるような規定を--もちろん多くの側面においては解釈論にゆだねることになるんでしょうけれども--入れることはできないんでしょうかという質問。

  また,なぜこういう結論になったのかというあたりなんですが,いかがでしょうか。


● この問題につきましては,御承知のとおり,試案におきまして有効性について問うということにしたわけでございまして,事務局としては,その時点では少なくとも有効か無効かという判断は分かれ得るんだということと,決して条文化を見越したというわけではなくて,そのときの議論の次第によっては,今後の条文化をするのか,それとも解釈にゆだねるのか,あるいは否定だというふうになるのかを考えたいと思っていたわけでございまして,決して最初から条文に落とすことを念頭に置いてやっていたというわけではないのです。


  ここで一定の解釈指針を示すと,それだけでも非常に積極的な意義はあると思うんですが,部会において一応の有効性を確認し,かつ遺留分減殺の対象にはなるでしょうということと,期間制限は必要であろうということは,コンセンサスをいただければ,それは今後の実務での指針にはなると思うのでございますが,


ただ,現在なかなか,実務上こういう受益者連続型の,後継ぎ遺贈型の信託というのが必ずしも世の中にまだ発展していないという我が国の事情ですとか,あと形態によってやっぱりいろいろな類型があるのではないかと。


  例えば,生活保障のために賃貸借の上がりを給付するというようなものもあれば,言ってみれば,家を自由に使っていいと,所有権ではないですけれども非常にそれに匹敵するような利用権を与えるような受益者連続の形態もあるだろうと。

さまざまな形態がある中で,やはりそれによってどのような期間を設定するのがいいかというのも決められていくのがしかるべきではないかと思いますし,あと,遺留分の考え方につきましても,いつの時点で移転があったと見るのかというのも,その受益者連続の信託の設定の仕方によって違ってくるのではないかという気もするわけでございます。


  前回,最初の人が死亡したときに算定するのが適当ではないかという御意見もいただいておりまして,それはなるほどと十分思っているわけでございますが,それ以外の方法が果たしてあり得ないのかどうかというところも現時点では十分わからないというところがございまして,そうすると,かえって十分な議論を尽くさないまま規定を設けるというのは,逆に言うと,将来の発展の可能性というのもそこに羈束されるということもございまして,現時点では,最低限こういう条件を満たせば有効だと思われるというところをコンセンサスをいただいた上で,あと今後の実務の発展を見つつ,必要な時期にまた必要な対応をとるというのが現実的ではないかなというふうに考えている次第でございます。

● ほかにいかがでしょうか。
  これは私の個人的な意見で,多数意見でないことを前提の上で申し上げますけれども,私は,こういうものの規定ができれば,とりあえずそれはいいのではないかというふうに思います。その際に,しかし何がどういう形で規定ができるのかというところが結構難しい。


  1つは期間制限であり,もう1つは遺留分の減殺請求権なんですが,期間制限の方は,ここにきょうも,これも解釈の1つということなんだと思いますけれども,現存する者,胎児も含む,その者の間でならば,そういう者を連続受益者とするならば,期間制限の問題はクリアできる。つまりむやみに長い期間の信託が設定されるわけではないので,それで構わないのかなというふうに思います。

  さらに,これもまたちょっと私の個人的な意見で申しわけないけれども,ただ場合によってはそれでも少し短いという場合があるかもしれませんが,それは,委託者が生存中に,自分が死ぬまでの間に新たに出現した関係者というのがいれば,それを加えるぐらいというのがあり得るかなという感じではあります。これは信託の変更という形をとるのか,それはいろいろありますが。
  期間制限については,○○委員が言われたように,ちょっと1つの立場をとってしまうのは,もしかしたら信託の設定範囲を狭くしてしまう可能性もありますけれども,1つの,今申し上げた③の立場をとるということで割り切ってしまえばそれでいいのかなと。

  もう1つは,やっぱり遺留分減殺請求権については,どの段階でどうするかというのが,これは今○○幹事から説明ありましたように,いろいろな場合があり得るかもしれなくて,遺留分減殺請求権は潜脱できませんということは最低限明らかになるけれども,それだけで規定がうまくできるのかどうかというところが少し気になっております。


  うまい形での御提案と言いますか規定の仕方が皆さんの議論の中で出てくれば規定はできるのかもしれませんけれども,なかなか,遺留分減殺請求権は潜脱はできないというだけただ書くという規定でいいのかどうかという,そこら辺ですね。そこら辺がちょっと何かあいまいな感じの規定になるので,そういう規定をつくるという側からすると,少し気になるということでございます。

  それから,もう1つは,これは物の本などにも多少議論されている点でございますけれども,信託の種類によっては,実際上所有権とあまり変わらなくて,条件つきの所有権というものを転々と承継させるというタイプとほとんど変わらなくなってくるという場面があるので,それとの区別。信託は理論上は所有権そのものではなくて受益権なので,理論上ははっきりしているんですが,しかし実際上,所有権と同じような形で連続受益者がつくられるということに対する批判が出てきたときに,それにどの程度対応できるのかというような点も少し詰めなくてはいけない。


  今の,最後の点については,これも簡単に言えるかどうかわからないけれども,受益者の方の指図とか,受益者の方から信託財産を処分するということまではイニシアチブをとって言えないというところに最低限信託の縛りというのが係っていて,その点で条件つきの所有権を,あるいは期限つきの所有権を承継させるというのとは違うという説明が出来るかなというぐらいには思っております。


  ただ,ちょっといろいろなことを申し上げましたけれども,うまい規定ができるのかどうかというあたりについて御意見が伺えればと思うわけです。そこがうまくいかないと,最低限この解釈でもってこういうのができますということを言うことにもそれなりに意味はあると思いますが。そんなところですね。
  ほかに,何か御意見があれば。
  ○○委員。

● 解釈にゆだねるという場合に,期間制限の方なんですが,③の考え方を基本とするということで結構だと思うんですけれども,そこから大きく外れるものについては,信義則に照らして無効とするという,ここがよくわからないんです。

  大きく外れるものというのは,例えば現存するものなんだけれども,3代,4代にわたって指定するということがあり得るのではないかと思います。高齢者が自分の配偶者,息子,孫,ひ孫というように。それもやっぱり大きく外れるに入るのかなというような気がしますが,それ以外のことを考えていらっしゃるのかどうかと。


  それからもう1つは,信義則がここで出てくるというのは,ちょっとどうかなという感じがしまして,むしろ公序の問題なのではないかと思いますが,いかがでしょうか。


● いかがでしょうか。
● おっしゃるとおり,後段の部分につきましては,相続法とか,それから世襲財産を認めるかとかの,そういう問題の関連ですので,確かに信義則と言うともうちょっとパーソナルな問題なので,公序ということでいいのではないかなという気がしております。


  前段は,しかしどういう信託かにも,生活保障を目的としたのか家業承継を目的としたのか類型によっても違うと思うんですが,たとえ3代,4代であっても,別に現存しているものであれば,ここでは,それは大きく外れるというようには言えないのではないかなというふうに思っているわけでございますが,何代もいるとまずいという,また問題があれば教えていただきたいんですけれども,ここでの考え方は,現存しているということさえ言えればいいのではないかなというふうに考えているわけでございます。
  

逆に,そうしないと,メルクマールがあまりにも不明確になるのもいけないのではないかという気がしているわけでございます。
● あまり何代も拘束するべきではないのではないかなという,直感的な感覚があるわけです。それは,あまり拘束すべきでないということと,それから複雑化するということと両方ございまして,今3代,4代と申し上げましたけれども,同世代であればもっともっと可能になるかもしれません。それは,やっぱりちょっと長過ぎるのではないかなという気がいたしましたので。

  ただ,もちろんそれを書くということではなくて,大きく外れるということの解釈にゆだねるということでよろしいかと思いますが。私は,個人的にはそういう感覚を持っているということだけです。


● これはただ,同世代の場合には,まず普通の生前の場合にはできるわけですね。問題なく。生前信託というんでしょうか,途中に相続が絡まないような形で連続受益者を定めるということ自体は,一般論としてできると。途中に相続が入って,次の世代,次の世代とどんどん後の後まで決めるというのはどうもまずいということで。

  ですから同世代の場合には実際上はあまり問題にならないのかなという感じ。
● 実際にはないんだと思いますけれども,例えば10年置きぐらいの年齢差の人に対して順番に指定していく。もしそれが,先に死んだらこうなるとか,いろいろ複雑なことをすべて可能にするというのは,どうも適当ではないのではないかということなんです。
● ○○委員,どうぞ。

● 先ほどの○○委員の意見に対してなんですけれども,先ほど私が申し上げたように,何か足がかりがあれば,これも立法する非常に参考になると思うんですけれども。ですから,この信託はできますとか,そういう規定自体が,もともと解釈の議論なのかもしれませんけれども。

  ○○委員おっしゃったように,2つ,遺留分の点と,あと永久信託の禁止の点です。遺留分の方は,それもまた解釈論かもしれませんけれども,この後継ぎ遺贈型信託を認める考え,または非常にやや問題だという考え,いずれにしましても永久信託の禁止との関連だと思うんですけれども。

  まず最初の質問としましては,そもそも一般論として,永久信託禁止のような規定が今回の信託法改正の中で規定されるのかどうかということと,規定されるのであれば,その中で,一見制限的なんですけれども,それはできることを前提としての条文のような形で,後継ぎ遺贈型とはっきり言う必要はないとは思うんですけれども,現存しない受益者を対象にするとか許容しないとか,何らかの,制限的であるんだけれども,それはできることを前提として永久信託を禁止したという趣旨のものが入れば,それはできることを前提としての条文ですという議論ができると思うんですけれども。


  特にその永久信託の点は,どんなような,今考えでいらっしゃるのか教えていただければと思うんですが。
● 永久信託禁止のような規律を入れるということは,当面予定しておりませんので,あとは,公序良俗とかで判断するしかないのかなというふうに思っているわけでございます。

  ただ,目的信託につきましてのみ,この前御審議いただいたように,20年間という制限を設ける方向で考えておりますが,それ以外については,特段規定はないということでございます。今の検討状況ですが。

● すみません。そうすると,解釈論でこれが一応法制審における議論だということでは残るとは思うんですけれども,解釈論で現存する人だけに限るというのが,果たして公序というところまで議論が持っていけるのかなと思わないわけではないんですけれども。

  それは,いずれにしても,これを認めるような足がかり,ほとんど解釈論にゆだねることは全然構わないと思うんです。できることだけは解釈論にゆだねられて,できることを前提として,その後のことは制度設計で今詰めるわけにもいかないので,解釈論にゆだねるということでいいと思うですけれども。


  ですから,今後立法作業,また現在もそうかもしれませんけれども,いろいろな条文でこれを考えたときには,この条文が,ある意味では濫用されてもいけないとか思うものがあれば,そこで制限的な規定を入れていただくとか。何か,すべて解釈論ですというのは何となく……。その手がかりは何かありませんかというのは○○委員の御質問なんでしょうけれども,永久信託のあたりで何か入れられないかなというのは,私の方のお願いなんですけれども。


● すみません。今,○○委員のお話を伺っていてちょっと。
  恐らく,あまりに長期間の財産処分をさせてはいけませんよというお話というのは一般的にある。これはもちろん,皆さん御異論はないわけですが,恐らくそれも,信託の目的とか信託財産の内容とか,そういったものとの関係で,果たして公序良俗違反だと言わなくてはいけないのかそうでないのかということは決まってくるような性質の話ではないかという前提でこちらはとらえておりまして,そうすると,一般的に条文化というのはなかなか難しいのではないか。


  つまり,信託の形態,信託財産の内容,使われ方等々によって決まってくる話ですので,信託の期間設定について,目的信託のようにまた別の政策判断から短いところでというのはともかくとしまして,ある種のものについては長いものもいいでしょうし,ある種のものについてはあまり長いのは望ましくない。
  

恐らく,この後継ぎ遺贈型の受益者連続と言われるものは,相続法との関係があるので,どちらかというと短めの方がいいのかなというような判断があるところなんだろうと思うんですが,では,この後継ぎ遺贈型の受益者連続というものに着目して,一体どのような解釈のよすがとなるようなものを入れたらいいのかというのは,こちらとしてもなかなかいい妙案がございませんで,もう少しそのあたり,どういった条文であれば,あるいはどういった規範を書けば過不足なくうまくいくのかというところだと思うんですね。


  つまり,短くし過ぎるのも問題だ。これはもちろん言われるところでしょうし,長過ぎるのも問題だと言われるところでして,そのあたり,事務局の方も知恵を出せたらいいなというのはもちろんあるんですが,非常に難しいあたりの議論なのかなと思っておりまして。
  すみません。感想だけ。

● そういう状況で,一応原案はこういう形になっておりますが。
  ○○委員。
● 立法化の問題まで,いろいろ難しいハードルがあるんだと思いますが,ここに書かれている考え方の確認だけなんですけれども,③の現存する受益者であればという,これがよいという見解が示されていますが,この受益者というのは法人も含むという,そういうお考えでしょうか。その点はどうか。

● ここでは,相続法との関係でこういうものを限定するという趣旨で,実は今議論になりました永久権禁止の原則とかそういう問題になったので,法人の話も,出なければちょっと私も申し上げようと思ったんですけれども。


  受益者が法人であるという場合には,かなり長いものつくれるわけですよね。かなり長いといいますか,法人が続く限りというのもできなくはない。それに対して,それはこういう相続と全く関係ない場面で非常に長期の信託ができるわけですが,それをまさに禁止するかどうかという。

  永久権禁止のというのは必ずしも法人を念頭に置いていませんけれども,あまり長期なものは望ましくないので何かルールを設けるかというときには,まさに法人というのが一番長いものができると。それをどうするかという非常に難しい問題が出てきて,それは,しかしここでは直接扱わないという……。

● 考えていないという,入らないというそういう御趣旨ですかね。

● はい。
● よくあるのは,相続的な発想でいけば,自分が亡くなったら妻を相続人として,妻が亡くなったら,その後妻の親族にはやりたくないと,公益のどこかの法人にやりたいよと,その先までコントロールしたいという,そういう需要というのはあるんですけれども,そういう場合は,ここでは想定されていない。


● それはまた,ちょっと別な問題だと思いますが,私益信託と公益信託を結びつけるようなタイプですね。
● あるいはその先が,2番目の受益者が公益でない法人ということがあり得るかという……。


● それも,ここでは少なくとも念頭には置いていなかった。
  法人を受益者にする場合には,何か固有のやっぱり問題があると思いますので,それはそれで,どこかで本来議論した方がよかったのかもしれませんけれども,あまり期間制限そのものについてはここでは設けないという--目的信託以外は--そういう考え方できましたので,今まで,法人が受益者であるために長くなるという問題については議論してこなかったんですね。

  これも,仮に長くなったとしても,現在の信託法は,恐らくそれは当然に無効にするわけではなくて,公序良俗に反するというような何か理由があれば無効になることがあり得るということですかね。あるいは一部無効という形で,どこかで期間制限かぶってくると。しかし,それは解釈の問題にゆだねたいという。

  何か,御意見。
  どうぞ,○○幹事。

● ○○委員の発言と少し異なりますが,第62でございますけれども,事務局の提案のままであれば特に申し上げることはないのかもしれませんが,③を基本とする方向でというところに,1つ疑問というか教えていただきたいことがあります。

  現存する受益者であれば可能ということですが,これは受益者連続のタイプの信託においては現存する受益者であれば可能というふうに理解したらいいのか,それとも一般論として,信託の受益者は現存する受益者に限るという趣旨なのか。

● それではまずいですよね。

● 日本では行われているのかどうかわかりませんが,英米であると聞かれる,まだ生まれていない子供を,あるいは孫を受益者とするというのを,今こういう議論の余波で封じてしまうのは適当ではないだろうなと思いますので,ルールをつくらないならば,そういうことも将来の解釈論の中で明らかにしていくということになるかもしれませんが,受益者連続の第2次受益者以降とか何かそういう趣旨なのかなと思うんですが,そう理解してよろしゅうございますでしょうか。


● 我々の理解は,ここは現存,胎児も含んでいるわけでございますので,実質的には似てくるんですが,現存する受益者に限っているのは,当然この受益者連続タイプでの期間を限るための規律でございますので,一般の信託は当然現存していることは要しないということになります。

● そうすると,受益者連続というのは何なのかということですが,複数の受益者がいて,縦につながっているというんでしょうか,1人の受益権が終わったところで2人目の受益権が生ずるものと,そういうふうに考えたらよろしいですか。


● 縦に。ええ,そういうことですが。
● わかりました。
● ちょっといろいろな議論が発生しますけれども,もちろん連続受益者自体は,一般論として信託で許容していると。ですから,ここで議論しているのも,相続というのが,あるいは途中で死亡という形である受益者の受益権が消滅し,次の,その後死亡をきっかけとして次の受益者に移っていくという,そういうタイプのものに限っての限定であるということなのではないでしょうか。

● そうしますと,ちょっとあまりいい発言でないかもしれませんが,今○○委員が最後におっしゃったところは,確かに後継ぎ遺贈という問題をとらえていると思うんですけれども,死亡を原因とせずに受益権が終了するタイプの受益者連続であれば,現存する受益者,胎児を含む,でなくてもいいということになりますでしょうか。

● それはちょっと正面から議論していないと思いますけれども……。
● 理屈上は,ちょっと私,先ほどのポイントを得た発言だったかどうかわかりませんが,後継ぎ遺贈型の受益者連続の期間というのを限るためにこうしているわけですので,一般の受益者連続では別に構わないわけですから,単に受益者を縦につなげているということであれば,こういう現存を要するというような制限はかぶってこないということになります。


● 脱法的なのはありますよ。80歳になったら次に移るとかね。変なことをやろうとしたらできるかもしれないけれども。

  どうぞ,○○幹事。
● この解釈論にゆだねるというのは,それでよろしいかどうかという問題はちょっと置くとしまして,問題は,公序違反であろうというときに,今までの議論も,通常の議論及びこの部会での議論も,そこで言う公序というときにイメージするのは,やっぱり相続秩序というものがあって,それに反するような形での信託の使われ方をするのはよくないであろうというイメージだっただろうと思います。

  そして,そういう側面があるというのもまさしくそのとおりだろうと私も思いますが,今の議論を見ましても,ちらほらと,それで相続秩序そのものとはちょっと違う意味での公序もかかわっているという気が私自身はしていて,むしろそっちの方が重要ではないかなと思っている部類です。


  相続秩序だけですと,遺言制度がまさに認められているわけでして,そしてまた遺留分制度が認められているわけですので,民法が定める法定相続そのものとは異なった扱いというのが認められているというのがありますので,秩序といいましても少し緩やかな秩序かなと思います。


  しかし,もう一方にあり得る公序というのは,やはり所有権を初めとする財産権のあり方でして,それがやはりそれぞれの所有者,あるいは財産権の有する者がそれぞれの総意によってその使い方を決めていくことによって,世の中というのはうまく回っていくんだというのがあると。そして自然人の場合ですと,その自然人が,やっぱり寿命がありあますので,その人がかわっていくことによって,その時代,そのときに応じた使われ方をしていくので世の中うまくいくと,こういう意味での,広い意味での財産権秩序というのがあるんだろうと思います。

  それを,ある世代の人間がその後の財産の使われ方を決めてしまって,その後の人間がそれにのみ拘束されて,それがついてくる。永久である必要はありませんけれども,それが人の寿命を超えて長期に使われていくことによって,やはり本来予定されている財産権秩序が崩されてしまうと。そこに公序違反というのがあるという側面があり,かつ私はこちらの方がむしろ重要ではないかなという気がいたします。


  そういう観点から,ここで言う公序違反のあり方というのは決められるという側面もあろうかという気がいたします。そういう意味では,現存する受益者であれば可能というのが,今のような意味での公序とどうつながっているのか,つながっていないのかというようなことが問題になってくるかと思います。


  しかし,これはやはり,ちょっと当面はまだ解釈論にゆだねて,議論が熟すのを待つしかないのかなという気が,個人的にはいたしますが。
  以上です。

  こういう公序のイメージがあるということを,ちょっとやはり議事録に残しておくのも意味があろうかなと思っただけです。


● 今おっしゃった点はまさにそのとおりでして,○○委員がお帰りになったので私の説明が正しいかどうかも御判断できないかもしれませんけれども,いわゆる死手法というんでしょうか,一方で,死亡した人間が後々の財産のあり方を拘束するというのは好ましくないという考え方があって,しかし他方で,ある程度自分の財産の自由な承継の仕方というものも,あるいは利用の仕方というものも財産を持っているものが決めることができるという,その自由と,それからあまり長く拘束させるのは適当でないというものの,いわばバランスをどこにとるかという問題で,これはまさに1つの公序の問題なんだろうと思いますね。

  具体的に,それに合うためにどういうルールがそこから導かれるのかとか,あるいはどういう期間制限であれば,今のような観点からの公序の問題をクリアできるのかというのは,あまり今までそんなに議論されているわけではありませんので,そういう点は,確かにこれから詰めて議論しなくてはいけないというところだと思います。

  ただ,そこがそういう意味で,あまり議論としてもいろいろな可能性があるがために,逆にここで,こういう立場いいだろうというときも,相当根拠づけをしっかりしておかないと,将来,裁判官にあまり参考にしてもらえないということがあるかもしれない。

● この議論,これ以上は,すみません,一言。
  ○○幹事おっしゃるのは広い意味でわかりますけれども,もともとは福祉的な意味でも使われることが念頭に置かれていると思うんですよね。


  ある資産家が,ずっと自分の財産をどうこうしようというのに対して,我々も含めて,それはすばらしいことだという議論ではなくて,次の世代で,やはり自分で管理能力が十分ないところでだまされたりとかお金なくしたりとか,そういう福祉型について,ある程度これが役立っていくのではないかという視点なので,それも広い意味で--狭いのかもしれませんが--もう1つの大事な世の中の秩序だし,公序だと思うんですよね。


  ですから,それが広い意味での財産権秩序であって,というところから,そういう福祉型が全部否定的に扱われる,または議事録に今の○○幹事の発言が残っていることによって,結局分かれていたでしょうという議論で,せっかく設定したものが無効だとか言って,また紛争事になるというのも非常に寂しいことであるし,○○委員おっしゃったように,そういう議論がある以上,やはりできるというところで,でも濫用型はいけないよとか,ある意味では制限的な形でも,何か書いていただければ足がかりになると思うんですけれども。


  同じこと何度も繰り返して,これで最後にしますけれども。


● ○○幹事の発言を私の自分の方に引きつけての理解は,そういう問題から見るべきであるけれども,生存者間の間であればまあまあいいのではないかという--行き過ぎですか--御意見だったようにも理解できました。
  それでは,ほかに御意見がなければ……。
  どうぞ,○○委員。

● すみません。内容のことではなくて恐縮なんですけれども,最終的には,結論的としてというところに書かれているので,一定の条件があって一般には有効に成立するものであるという解釈を明確にしつつというふうに書かれているんですけれども,これはどういう形で解釈を明確にしていただけるんでしょうかということなんですが。


● どうですか。
● この時点,この場での皆さんの,基本的にこの考え方でいいのではないかというような……。
● があって,それで--すみません。これから後の手続的な問題というのはよくわからないんですけれども--要綱案とかというものがあって,例えばそういうものに書かれるというようなことなんでしょうか。そうではなくて……。
● 要綱としては出てこないですね。規律にしない予定ですので要綱案としては出ませんが,議事録とか,今後の運用の参考にということでございます。

● というのは,要するに,この場の議論でこういうような議論があって,方向性が何となくこんな感じでしたねということが,ここで言う解釈とことになりますかね。
● ええ,そういうことです。
● どうぞ,○○幹事。
● もしそうであれば,念のため確認させていただきたいのですけれども,③の考え方を基準とするということの意味なんですけれども,例えば,生存中は配偶者で,配偶者が死亡した場合には子供にというので打ちどめの信託を設定すると。ただ,その子供はまだ生まれていないと,例えば婚姻をしてすぐぐらいにこれはこういうことでというふうに,それはだめという理解なんでしょうか。


● それはできるのではないんでしょうか。現存している奥様と,生まれてくるであろう……。
● 胎児ではないので。
● ではだめですね。
● なので,③を基本とするというのは,③がぎりぎり外枠で必ずきっちりというわけではなくて,そこにさらに相当性の判断が入るという理解でよろしいでしょうか。


● 基本はこれですが,若干の幅とかは,もちろんその目的によってあり得るのではないかという気がいたしますので,今おっしゃったような例は,解釈の範囲ですが,生まれてくる子供のためにというのは,無効とまでしなくてもいいのではないかなという気はいたしますけれどもね。
● 若干③を広げるという方向でのあれですね,合理性があれば。
● 両方あり得る……。
● 両方あり得るかもしれませんが。
● もう一つというのは,したがって,比較的考え方を根幹に据えつつという程度のことかなと。


● そのぐらいですね。
  それでは,大分長く御議論いただきましたけれども,一応,以上の原案でまとめたいと思います。
  それでは,最後ですか。

● 公益信託についてでございます。
  公益信託につきましては,前回の部会におきまして,現行の主務官庁制を廃止すること,ただしその時期については公益法人法制の改正の動向及び内容を踏まえて,来年度以降のしかるべき時期として,それまでの間は,あくまでも暫定的にではございますが,主務官庁制を初めとする現行法の実質を変えないとすること,ただし私益信託分の全面改正を踏まえまして,実質を変えないために最低限必要となる調整規定を設けるとすることについて,御了解をいただいたところでございます。


  このような御了解を踏まえまして,今回の改正におきましては,公益信託のいわば上位概念として,20年間の期間制限のもとでの目的信託制度を導入される方向であるということに伴いまして,まず,公益信託については,一定の公益目的を有するとしてその存立を主務官庁が許可した目的信託を言うものとすること。それから第2点目として,公益信託については期間制限を設けないとすること。2に書いてございますが。この2点を規律として設ける必要が出てくるかと思います。

  それ以外の点については,私益信託の改正に応じまして,必要な限度で所要の規定を整備することとしたいと。基本的には現行法を当面維持していくことを提案するものでございます。
  以上です。
● これはある意味の基本的な方針についての御意見ということですが,いかがでしょうか。
  応急措置的なもので,公益法人制度の方の公益性の認定についての枠組みができた段階で,しかるべき改正をするということで。
  これは,よろしいですね。ほかに,なかなかちょっとありようがありませんので。
  それでは,これも御承認いただいたということで,めでたくというか一応終わったということになりますか。


● では次回の予定ですが,次回は1月20日と言いたいところなんですが,なお,いくつかの論点が残っておりますので予備日を設定いたしました。
  一応2つ設定しまして,1つは……出られる方だけでやむを得ないです。申しわけないですが……1月12日木曜日に,1時から5時まで,法曹会館の高砂の間でございます。
  それからもう1つが,1月17日火曜日に1時からやはり5時まで,これは17階の東京高検会議室というところでございます。
  あとは1月20日の金曜日にここの場所でということでございまして,一応予備日2回とあわせて3回あるわけでございますが,3回やるか2回やるかは次回の進行を見てというところでございます。

  では,今年はこれで終わりますので,どうもありがとうございました。
● 予備日2回あるうち,1つ減らすことがあるかもしれないけれども,12日の方はとにかくやるということですね。
● ええ。12日はやらせていただきまして,そこで万が一積み残しが出てしまったら17日ということもあります。ちょっとそこは,12日の様子を見て検討したいと思います。
● それでは,今日は,どうもありがとうございました。
  これで本日の会議を終わります。
-了-

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法制審議会信託法部会第21回~25回

2016年加工編


法制審議会信託法部会
第21回会議 議事録

第1 日 時  平成17年9月30日(金)  自 午後1時02分
                       至 午後5時45分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題
   第16 委託者の占有の瑕疵の承継について
   第17 信託事務遂行義務について
   第21 分別管理事務について
   第22 信託事務の処理の委託について
   第23 帳簿作成義務等について
   第25 受託者の損失てん補責任について
   第29 検査役選任請求権について
   第32 費用等の補償請求権について
   第37 受託者の解任及び辞任について
   第39 前受託者等の義務等について
   第48 受益権の譲渡について
   第52 受託債権等の消滅時効等について
   第53 私益信託における委託者の権利義務等について
   第63 遺言信託について
   第64 契約による私益信託における委託者の相続人の権利義務について
   第71 受益者が複数の場合の損失てん補請求と原状回復請求の関係

第4 議 事 (次のとおり)



議        事

● それでは,これから信託部の部会を開催したいと思います。
  皆さんお忙しい中おいでいただきまして,ありがとうございました。
  それでは議事の進め方につきまして,○○幹事からお願いします。


● それでは本日の議事でございますが,全部で16項目ございますけれども,16から22までを1番目,23から29までを2番目と,32から39までが3番目,48と52を4番目にやりまして,最後に53から64と。


あと71は新たなテーマでございますので,これだけちょっと独立して御議論いただければと。細かく言いますと6つになりますか,そういう感じでやらせていただきたいと思っております。よろしくお願いいたします。

● それでは続けて。
● それでは,まず第16の委託者の占有の瑕疵の承継について御説明を申し上げます。

  結論的には,試案にありました乙案を採用しまして,13条1項の趣旨を維持することを提案するものでございます。なお,2項は削除することを提案いたします。


パブリック・コメントの結果でございますが,信託の安定性や受益者の利益の観点から,1項を削除すべきであるという意見と,信託の濫用防止の観点から1項を維持すべきであるとの意見がございましたが,維持すべきであるとの意見が多数を占めました。


また,委託者が信託を濫用的に利用することによって,占有の瑕疵の治癒を図るという弊害を防止すべきであるとの要請は改正法のもとでも妥当すると考えられます。


そこで,1項の趣旨を維持してはどうかと提案するものでございます。
  また2項は,占有の行使力の点で特殊性を有する有価証券についても,占有の瑕疵が承継されることを示す注意規定であると解されておりますが,信託の場合におけるこのような特殊性をあえて2項を置かずとも1項により明らかであると解されます。


そこで,2項の注意規定は削除してはどうかと提案するものでございます。

  なお,パブリック・コメントでは,いわゆる自益信託と他益信託とで区別して取り扱ってはどうかという意見もございました。


しかし,両者の区別は相対的なものでございまして,例えば,とりあえずは他益信託で設定し,その後直ちに委託者が受益権を譲り受けるという形をとった場合でも,この見解によりますと占有の瑕疵を治癒できることになってしまいまして,妥当ではないと思われます。


そこで,この区別する意見は採用しないということとしております。
  また,学説上,13条を根拠といたしまして,権利変動に関する対抗の問題でも,自益信託の信託財産すなわち受託者には第三者たる資格を認めるべきではないという解釈が存することを踏まえまして,仮に1項を維持し,委託者の占有の瑕疵が承継されるということになりましても,受託者が第三者たる資格を否定される根拠とはならないという旨を明示すべきであるという意見がございました。


しかし,本提案の立場は,自益信託か他益信託かの区別を採用しないものでございますので,この学説の考え方を採用する前提を欠くというべきものでございます。


さらに申しますと,委託者からの倒産隔離が信託における重要な機能の一つであることには異論はないところでございまして,そのことは,委託者の債権者は,原則として詐害信託取消権を行使できる場合以外には,信託財産に対してかかっていけないとしていることからも明らかでございます。


1項は,あくまでも占有の瑕疵の承継についての局面に関するものでございまして,これを維持したからといって,それ以外の委託者の倒産からの隔離の場面におきまして,受託者が委託者とは,法律上独立の地位を有するものであることは,明示するまでもなく否定するものではございません。

  もっとも,受託者にこのような法律上独立の資格を認めることと,権利変動に関する対抗の局面や権利の瑕疵の承継の局面において,通常の取引の局面とは異なる信託の特質性を考慮した解釈を行うこととは矛盾しないものでございまして,受託者が権利変動の局面において対抗要件を必要とする第三者に当たるか,あるいは権利の瑕疵が原則として切断されるべき第三者に当たるか,といった点につきましては,一律に決するのではなくて,当該信託のスキーム,殊に受益者の利益を保護すべき必要性の程度に応じまして解釈によって対応することが,適切な結論を導くと考えるものでございます。


  以上が,第16についてのパブリック・コメントを踏まえた再提案ということでございます。

  続きまして,第17の信託事務遂行義務についてでございますが,これは試案のとおりとすることを提案するものでございまして,試案につきましては賛成意見が大勢を占めております。


もっとも「信託の本旨に従い」という抽象的表現を多用すべきではなくて,現行法4条のとおり「信託行為の定めに従い」とすべきであるとの意見もございました。


しかし,民法の委任におきましても,「委任の本旨」という文言の用いておりまして,「信託の本旨」というものを用いることは,このような立法例とも平仄が合うものと考えられます。


そこでこの提案でも「信託の本旨」との文言を用いることが相当と判断したものでございます。

  続きまして,第21の分別管理について御説明申し上げます。パブリック・コメントにおきましては,試案の方向に賛成する意見が大勢を占めましたが,金銭債権など物理的管理を観念し得ない金融資産ですとか,信託財産の管理を第三者に委託した場合などにつきまして,規定の明確化を望む意見がございました。


そこで,分別管理の方法につきましては,信託財産が適切に確保される方法として,法務省令で定める方法によるべきものとする,ということに規律を改めることを提案するものでございます。


このように法務省令で定める方法に委ねるとすることによりまして,信託財産の性質に応じた具体的な分別管理の方法,すなわち登記登録ですとか,帳簿によるか,物理的分別が必要か,などという点。


それから証券保管振替機構ですとか,海外カストディ等の適切な第三者に信託財産,特に券面のある有価証券の管理を委託した場合の分別管理のあり方,さらには新たな財産の取得の形態が開発された場合における分別管理のあり方,などにつきまして,信託法自体に定めをおく場合よりも,より具体的かつ明確に,さらに時期に応じた柔軟な対応が可能となると思われるからでございます。


なお,法務省令の制定の際には,改めてパブリック・コメントを通じて内容を確定していくことになりますが,想定される方向性といたしましては,基本的には試案及び補足説明に記載した内容を踏襲いたしまして,この資料の7ページに記載したような方向性で考えているところでございます。


  また,試案の補足説明におきましては,この資料の5ページの下の方に,少し小さなポイントで記載いたしましたとおり,信託財産が信託の登記または登録をすることができる財産である場合においても,信託行為において受託者が経済的な窮境に至ったときには,遅滞なく信託の登記登録をする義務があるとされていると認められる限りは,分別管理義務が課されていると解してよいと述べたことに関しまして,1つは一般的にこうした取り扱いを許容すべきではないという方向性の意見,その対極といたしまして,信託行為で定めれば登記登録義務を完全に免除できるものとすべきであるという意見,それからいわば中間的な意見といたしまして,現行実務では抵当権付債権の信託がされる場合の抵当権ですとか,重要性が低く,あるいはすぐに除去される予定の建物などについては,一時的とはいえ登記を免除することが一般的でありますので,この趣旨を明確化すべきであるという意見,などが寄せられました。


  しかし,最初の2つの両極の意見につきましては,まず信託の登記登録義務を完全に免除してしまうということは,要するに受託者からの倒産隔離を放棄してしまうものでございまして,もはや信託としての意義を認めることはできず,相当ではないと思われますし,他方におきまして,補足説明が許容しているような一時的な免除というものは,分別管理義務の主たる目的である,受託者からの倒産隔離を害することなく信託財産の効率的運用を通じて受益者の受益に資する場合があると評価できるのでありまして,信託行為に定めがあることを前提に,このような一時的な免除を認めることまで否定する必要はないというふうに思われるところでございます。
  


なお,最後の意見につきましては,経済的な窮境と申しますのは,信託財産の倒産隔離効果を確保するために信託の登記登録をすべき現実的な要請が顕在化する典型的な場合,これを挙げたものでして,抵当権付債権の信託における抵当権ですとか,除去予定の不動産の信託についても,信託の登記をすべき現実的な要請が顕在化する一定の事情が発生するまでは,登記登録義務を免除することができる,といたしましても,なお信託の意義を失うものではなくて差し支えないと思われます。


もっともいかなる事情が生じようとも,登記登録義務を免除してしまうということは,先に申しましたとおり,信託の意義を認めがたく妥当ではないと思われます。以上のような考え方を前提といたしますと,補足説明に述べたような,この小さなポイントの考え方を維持することでよいと思われるというのが,事務局の見解でございます。


  最後に,信託事務の委託について,第22について御説明を申し上げます。本日はこの第22のうち,提案の2の(1)にかかります甲案と乙案についてのみ審議願いたいとの趣旨でございます。後日,改めて全体について本日の御審議を踏まえて御提案する予定でございます。
  

この点につきまして,パブリック・コメントの結果は,受託者は原則として選任監督責任のみにとどまるとする甲案が,より多数意見を占めました。


なお,甲案と乙案を指示する理由として挙げられている意見の趣旨は,それぞれ資料の8ページと9ページに記載させていただいたとおりでございます。


いずれの考え方をとるべきかを改めて御審議願いたいわけですが,ただ社会の分業化,専門化が進んだ現代社会の経済実態を重視しまして,現行に比べて信託事務の趣意を他人に委託できる場合を実質的に拡大するという提案1の趣旨からいたしますと,甲案の考え方の方が一貫しているように思われるところでございまして,乙案によるときは結局受託者が相当な委託をもちゅうちょしたり,信託報酬の上昇を招くことになりまして,かえって受益者の利益にも資さない結果になるのではないかと懸念されるところでございます。

また,甲案をとった上で,現行法26条3項を削除するとなりますと,受益者の保護が後退するのではないかとの意見に対しましては,資料の9ページから10ページ,ぽつが3つございますが,そこに書きましたような方法があることにかんがみますと,決して受益者の利益の方が現行法よりも劣る結果になるとは言えないのではないか,と思われることにつきまして付言させていただきます。
  以上でございます。


● それでは,今説明があったところについて,順次御議論いただきたいと思います。


これからいろいろ決めていかなくてはいけないわけですので,合意ができるものについては決めていきたいと考えておりますし,また,いろいろ意見が対立するものについても,もしある方向性が出せるものであれば,その方向性を確認しながら進んでいきたいというふうに考えております。いずれにせよ,今の範囲で御自由に御議論をお願いいたします。


  皆さんから御意見がなければ,ちょっときっかけにということですけれども,順次ということで,この占有の瑕疵の承継ですが,現行13条の1項の趣旨のこれは非常にもっともなことで,一番典型的には,自益信託で設定して委託者には本来その瑕疵があって,例えば短期の取得時効などが認められない,そういう瑕疵のある占有であるときに,受託者に占有を移して,それは独立の占有だということで,そこで取得時効が認められるというのはおかしい,というのがその趣旨ですよね。

やはりそういう趣旨は生かした方がいいだろうということで,その点については全く問題がないというふうに思います。


ただ,この規定だけがあったとき,13条以降ないし今度の第16のこの規定があったとき,これはちょっと確認ですけれども,本当に委託者と全然関係ない受益者が設定されて,委託者と全く関係のない者が受益者になって信託が設定されて,その信託のもとで受託者の,例えばその今の取得時効とかですね,こういうふうなものは今後一切認められないということになるのか,あるいは何か余地があるのか,ここら辺はどうですかね。

● そこはこの規定を維持しますと,原則として信託財産の瑕疵を承継されるということになりますので,基本的に難しいということになると思われます。

● 私はですね,そもそも,ちょっと日本の法理とうまく合うかどうかわかりませんけれども,今の他益信託の受益者というのは,無償の受益者ですのでね,あんまり強い保護は与えなくてもいいかもしれないというふうに一方では思うんですが,ただ贈与などと比較すると,一切取得時効が認められる余地がないというのはどうかという気もちょっとするのでね,そこら辺のバランスをどう考えたらいいかというのは,この立場をとるのであれば少し説明を要するのではないかという気がします。

  ほかにいかがでしょうか。
  どうぞ,○○委員。


● ちょっと飛んでしまってもよろしいですか。21の分別管理義務のところなんですけれども,前回の要綱試案のところから変わって,政省令で定める方向をとりましょうというような御提案ですけれども,この方向性につきましては,やはり信託財産というものが多様化してきて,今後もますますいろいろなものが出てくるだろうということで,典型的な規律というのがいつまで持つかわからないという部分がありますので,そういう観点からいくと,割と柔軟に対応できるようなこういう省令で定める方法というのは,方向性としてはいいんではないかなと。こういう方向は賛成するということでございます。

  ただ,当然のことながら,細かく規定される限りにおいては,当然解釈というのがものすごく限定されますので,実務の立場からいくと,それでちょっと違ってしまえば全然適合しなくなるという,そういうような恐れもありますので,ここら辺については実務上の配慮というのをお願いしたいと。


具体的にはですね,例えばということで,ここでは7ページで動産というのが物理的な保管管理というふうに書いてありますけれども,例えばその動産においても動産信託で,もうちょっと具体的にいうと,例えばパソコンを信託をしているような場合については,ユーザーのところに貸し出したりしていますので,そうするとその物理的な管理というのに当たらないような,文言上かもしれませんけれども,そういう管理方法もありますので,その省令を書かれるときには,その辺のところの御配慮もお願いしたいと。


  あとは有価証券を預託した場合,これについては御配慮いただけるということで書かれていますけれども,証券の振替機構であるとか,カストディであるとか,あとここだけで切れてしまえばいいんですけれども,ほかに預託するようなものもありますので,ここで切ってしまうのか,それともそういうものを全部含めた形で規定されるのかというのは,ここら辺も実務上大きな問題があると思いますので,そういうところを御配慮いただきたいと。


そこら辺が明確に規定できるということで,こういう方法をとられるということですので,そういうことを期待しまして,ぜひとも実務上の配慮をお願いしたいということであります。


● 今の御意見についてですが,資料の7ページのところに書かせていただきましたけれども,もちろん法務省令を制定する際には,またパブリック・コメントを通じて内容を確定していくわけでございますが,今,○○委員から御指摘がありました,物理的な分別管理に限るのはちょっと規則が厳しいという点につきまして,資料7ページに「信託行為において別段の定めを置くことも許容されることを定めていく」という方向性で考えておりますので,最終的にはパブリック・コメントになるとはいえ,その点は,今までの提案と変えるところはなくて,御懸念には当たらないのではないかと思っております。


  それから,第三者に例えば有価証券を預託する場合も,まさに法務省令に落としておりますのは,いろいろな形態がこれから生み出されてくるということに柔軟に対応できるということを考慮してのものでございますので,現行法にありますような証券保管振替機構ですとか,海外カストディ以外についての預託の方式について,どのような分別管理をすべきかということについても,当然しかるべく協議の上,対応していきたいと思っております。

● はい。先に○○委員,どうぞ。
● この21番分別管理のところですが,まず今回の御提案のとらえ方としては,分別管理義務は強行規定であるけれども,法務省令で信託行為で別段定めを置くことも許されるというのは,要するに分別管理の方法について信託行為では定められると,そういうような理解でよろしいんでしょうか。

● 大きな問題だと思いますけれども,どうですか。
● 先ほどちょっと御説明したところの補足でございますが,法務省令で定めますのは,あくまでも分別管理の方法なのでございますが,ただその法務省令で定めることによって,何か定めた方法をとったから任意規定になるとかいう話ではなくて,あくまでも法務省令で定めるのは,基本的には分別管理の方法であって,この規定自体は強行規定であるということの性質自体が変わるものではないのだというふうに思います。


  ただしその動産,これは補足説明のときから考え方を変えているわけではございませんが,その登記登録することができないような財産については,信託行為で固有財産と集合して管理するというようなことを,許容されていくことにはなるのだろうというふうに思います。


その場合には,また今後扱うことになる識別不能のルールで,倒産隔離のルールはまあ働いてその信託の倒産隔離的な機能というのは維持される,という整理になるのかというふうに思います。


● わかりました。それでこの7ページの法務省令制定の際の考え方として,次のようなことだということで書かれているところで,債権がですね,信託帳簿上の計算管理というふうに書かれていますけれども,例えば預金債権でこの委託者1人,受託者1人,受益者1人というのは,素朴な信託で考えてみますと,口座は自分の固有財産の口座とは別の口座で,信託財産を分けて管理することを義務づけるというのは相当であるし,それを実行するのは簡単だと思いますので,そういうかなりきめの細かいつくり方になっていくのではないかという気がしますが,そうでしょうか。

● 処理の定め方については,またパブリック・コメントの際に検討されていくこと,より具体的に検討されていくことになると思いますが,基本的な考え方としましては,原則は口座を別々に個人の固有財産にかかる口座と別々に開設すること自体は困難なことではないと思いますので,受託者なにがしと書いて,それで固有財産と別の管理でやるというのが恐らく原則になりながら,ただ帳簿上,出し入れをはっきりときちんと管理している限りにおいて,どこまで認められるかという御要望もまたちょっとあるかもしれませんが。原則はおっしゃられたような形になるのではないかなと思います。

● 今の第1点と第2点に関係するんですけれども,この分別管理義務の規定が一応強行規定という形で規定されていて,だけど先ほど○○幹事から説明がありましたように,5ページの小さい字で書いてあるように,その一定の範囲での分別管理の措置をとらなくても許容されるようなことがあるという意味で,強行規定で出発しながら,ある程度緩くしている部分があるわけですね。


今,○○委員の質問は,その大きなレベルの条文のレベルよりはもう一つ下の,法務省令で規定したときの信託行為において別段の定めを置くということの意味であったわけですけれども,もう一つ上のレベル,法律のレベルでこの分別管理義務というものが,多少その性格がはっきりしないところがあって,繰り返しになりますけれども,強行規定で出発しながら多少許容されるところがある。


分別管理の処置をとらなくても分別管理義務に反したことにならない,という解釈を許容すると。


これは我々ここで議論してきたことなので,我々共通の理解があると思うんですけれども,条文にしたときですね,それが明確に出るのかどうかというのが気になっておりまして,もし今のようなある種の許容性というのを認めるのであれば,それはもうちょっと明確にした方がいいのではないかということを,ちょっと私は個人的に思っております。


これはちょっと○○委員の信託行為による別段の定めということとも少し関連する問題です。
  もう1点はですね,これも今,法務省令でもってどの程度のことを書くのかということと関係するんですが,分別管理義務というのは非常に重要な義務ですので,法律のレベルでも,例えばこの7ページ書いてあること,この程度のことは法律のレベルで書いておいて,さらに細かいこと,あるいはさっきの証券保管振替機構を使う場合の話とか,いろいろなことがたくさんほかにもあるでしょう。


こういうものは法務省令で対応できるように,そういうふうにした方がいいのではないかということを,ちょっと思っております。事務局とは少し違う考え方ではありますけれども,皆さんの御意見を伺えればと思います。


● 私,議論をしたことをすぐに忘れてしまいますし,そもそもこの話は私が考えついた話ではなくて,ここにいらっしゃるある幹事の方に教えていただいた問題ですので,その幹事の方に発言していただいた方がいいのかもしれないんですが,抵当権付債権の信託のときの抵当権の登記の話なんですが,例えばある債権について譲渡がなされたというときに,抵当権がそれに対して随伴していくわけですが,指名債権譲渡の対抗要件を備えていればですね,その抵当権についての登記をしなくても第三者に対抗できる,と言葉遣いは難しいんですけれども,それで抵当権行使できるんじゃないかという気がするというのか--。


そもそも抵当権者として登記面状に記載されている人が倒産した,破産したというときに,倒産財団,破産財団にその被担保債権が譲渡されている抵当権だけが帰属するということは考えられないわけでして,からっぽになりますから,そうするとそこでは第三者に対抗の問題が生じてこないわけですよね。


そこで,その被担保債権の方について,その信託の分別管理なり,あるいはひょっとしてその登記登録というのがあるかもしれませんが,こうしておけば抵当権についてはしておかなくてはいいのではないかというのが,恐らくパブリック・コメントに出てきた意見なのではないかと思いまして,私は他の法制度との関係で考えますと,またそして第三者に対抗できるという意味から考えますと,そのパブリック・コメントの意見というのは,ごもっともなところがあるんではないかという気がするわけです。


  さらにまた,例えば信託銀行が受託者となって,ある行為をしているというときに,例えば根抵当権を取得している。


根抵当権が銀行取引によって生じた債権であると--銀行取引だという言葉にするとまた問題があるかもしれませんが--ある種の広く被担保債権が規定されていると。


しかるに,例えば信託銀行が第三者に貸付をするというときに,その貸付の原資が銀行勘定の固有資産であるという場合と,信託の事務として貸し付けるという場合とがあり得るわけでありまして,しかしながら,それを両方とも根抵当権の被担保債権基準によりますと,被担保債権として含まれるという場合には,別段その信託の登記というものがなされていなくても,当該信託財産に含まれている債権というのは,担保つきのものになるのではないかという気がするんですよね。


したがって,すぐに壊す建物というのと,抵当権付債権の信託のときの抵当権というのが,並べてやっぱりやらなければいけないというふうに論じられるものなのか,この抵当権付債権における信託のときの抵当権の登記というものは,もうちょっと細かく考える必要があるのではないかという気がするのですが,いかがでしょうか。

● 私も実務の方からお伺いしているような話でもあるのですけれども,○○幹事の最初におっしゃられた抵当権付債権が譲渡されたときに,確定日付ある通知とか承諾があれば,第三者に対しても債権についてのそれがあれば,抵当権の登記を移さなくても対抗できるじゃないかというようなお話は,確かにそういう話になってこれまで進んできているところは,御意見の中でもあったかと思うのですけれども。


  1点目として,さもさりながら実務の方に聞くと,じゃあ債権の譲渡人の方でですね,転抵当とかを設定してしまったとかいうときに,本当に登記がなくて対抗できるんだろうかというようなところは,多少なりともその不安感を感じながらやっているというようなお話を伺ったこともあるのですけれども,そういう不安感もありながらやっている中で,例えば抵当権を実行するときとかいうことになりますと,いずれにせよ,これは移転の登記を経た上できちんとやっていかないといけないと思いますので,何も今回の手当てをしたからといって,現行の抵当権の実行があるときまで,抵当権の移転の登記を留保するという実務をやめましょう,というか,やめてくださいと言っているつもりもございませんで,今回の提案に基づいても,現行の実務はそのまま維持されて矛盾なくできるんではないかというのが,説明させていただいた趣旨なのですけれども。


● 第2点も伺いたいのですが,第1点のことから申しますと,例えばですね,ある信託銀行が債権の譲渡を受けたというふうにします。


そしてそれが信託財産に帰属したと。そうしたときに,実行しなければ,実行する際には当該信託銀行が抵当権者のところに記載されている状態にならないと実行できない。


それはそのとおりだと思うんですね。しかしながら,それが信託財産であるということを登記しなくても実行できますよね。

したがって,その実行のときには信託の登記が必要ではないか,ということにはならないんじゃないかと思うんですが。


● おっしゃる趣旨は,移転の付記登記さえされていれば,信託の登記がなくても実行はできるという趣旨でございます。


ただ実務上,移転登記だけして信託登記をしないといったことはできないといいますか,一緒にせざるを得ないという事態になっていますので,そうすると両方しないか,まとめてするかということになると,両方しないんでは実行できませんので,移転の付記登記と合わせて信託の登記を,実行の局面になったらせざるを得ないんではないかと。


しかしそれは,我々のその提案の窮境な状態というのを,「など」というふうに読めば,実行の必要性が生じた場合にも受益者の保護の必要性が生じて,信託の登記登録義務が生ずるという余地があるのではないかというふうに考えているところでございます。

● 根抵当権の方はいかがでしょうか。
● 今回の提案に基づきましても,現在の現行実務で行われていることについては,個々の被担保債権それぞれが信託財産,固有財産のいずれかに帰属するかということが明らかにされている限りにおいて,現在の実務はそのまま,別にこの規定に違反するということを言われることなく,肯定されてよいのではないかというふうに考えますけど。


● ○○委員の関係,そういうことですか。


● 根抵当権の場合につきましては,明確に,例えば信託勘定で幾ら出していて銀行勘定で幾ら,例えば100万円ずつ出していますという,そういう単純なものというのがほとんどなくてですね,根抵当権を1つばんと設定しますと,まず銀行勘定から幾ら出しています,信託勘定から別途長期の資金を出しました,救済の必要が出てきたので,じゃあまた銀行勘定から出しました,とかという形で,状態というのが日々,ある意味極端な言い方ですけれども,日々動いているような状態ですので,我々の方の不安としたら,それで何らかの受託者についての信用力が低下したような場合,破綻に近いような状態になったときに,果たしてそれが保全されるのかどうか。


というのは,そこが明確に,どこの部分がどう担保されているというのが,明確でない部分がありますので,そういう意味合いで非常に不安な部分があると。


そこで,その辺のところの規律というのをお願いしたいというふうに,前々から言っていたものなんですけれども。


● 先ほどの1点目の話にまた戻るようなところもあって,ちょっと確認だけさせていただきたいんですけれども,抵当権について信託の公示をしなくていいかどうかというようなお話で,先ほども少しお話出ましたけれども,抵当権は処分,委託者の権利違反で処分してしまうというような,転抵当ですとかね,お話が出ましたけれども,それとの関係での公示の問題というのがあるのかどうか。


それからちょっと考えられないのかもしれないんですが,抵当権をある種の価値権を把握しているというのは,これはありますので,抵当権そのものをその他財産権として強制執行するというようなことは,それはないという前提で考えた上で,それでしたらその信託の公示をしなくてもいいだろうと,いうようなお話をされていたということでございましょうか。


● そうですね。○○幹事が聞かれたのは。

● そうですね,結局,倒産隔離というふうに申しましても,かなりその意味合いがですね,倒産財団に含まれるか含まれないかというのが,倒産隔離という話として出てくるわけですが,倒産財団に空の抵当権だけが含まれるということにはならないですよね。


先ほど抵当権の処分の話が出たところで,処分は結構厄介なんですけれども,本当を言えば,空っぽのその抵当権ですと,処分されてもそれは抵当権の価値というのは被担保債権額に依存しますので,転抵当を受けてもですね,だめなんじゃないかと思うんです。


その辺は解釈論でございますので余り口出しはしないこととしましても,譲受人との形に,抵当権との処分を受けた人との関係が問題となるというのは,もし仮にそうだと仮定しても,倒産隔離が問題になるわけではないような気がしますので,そのちょっと意味合いが少なくとも,かなり違うのではないかという気がするんですね。

○○関係官がおっしゃるとおり,抵当権だけを差し押さえるということは考えられないわけでして。


● いずれにせよ,これは何か具体的に細かく,それで大丈夫だということを書く必要があるのかどうかという,そういう問題ですよね,○○委員が心配されているのは。


少なくとも法律のレベルで分別管理義務を負わせているというレベルの話としては,全く影響がない問題,実務的な現在のあれを変えるわけではなくて。

そういうことですので,何かさらにつけ加えて言っておきたいことがあれば伺いますけれども,これ以上細かいことも--。
  はい,○○委員。

● 21番分別管理に関して,ちょっと最初の問題に戻るような話で恐縮なんですけれども,やはり前回の試案の作成時点における考え方が変わっていないということを,この場で確認したいと思っている,と言いたいところなんですけれども,つまり試案時点では,まさしく本文に信託行為に別段定めある場合には,そもそもその分別管理が登記登録のないものについては免除されることもあり得る,ということを前提にして書かれていたと思うんですね。

現に,補足説明の51ページにそのようなことが書いてございますが,読みますと「信託行為において別段の定めを置くことにより,分別管理義務を免除できるものとした」というふうなことが書いてあります。


今回の書きぶりになりますと,政省令レベルで外すということもあるのかもしれませんが,やはりちょっと原則が変わったように思えて仕方がないんです。
  

じゃあ,この試案がパブリック・コメントを受けてこのように変わることに,何か合理的な理由があるのかどうかというのを,今さっきお話があったのかもしれませんけれども,私,ちょっと聞き漏らしたかもしれませんが,ちょっと私にはよく理解できないものでございます。


やはり,柔軟性を確保するためには,こういうことについて法律レベルで書いておく必要があると思います。冒頭,○○委員がおっしゃったとおり,政省令にすることはもちろんきめ細かい対応ができるということのためにはよろしいかと思いますけれども,やはり重要なことについては法律で定めるということも,必要ではないのかなというふうに思いました。
 


 それから,これからちょっと個別についての意見なんですけれども,2つございまして,1つは先ほどから出ていますカストディといいましょうか,第三者に委託するものでございますけれども,その考え方についてちょっと意見を述べたいと思います。


すなわち,これは信託業法でも同じような考え方をとっているんですけれども,委託先においても受託者の同等の分別管理を求めるかどうかということでございますけれども,私は少なくとも実体法レベルでは,そこまでは求める必要はないというふうに思っております。


  例えばどういうことかといいますと,有価証券における帳簿であれば,受託者を置いているところは,信託A,B,Cとかなったとしても,第三者委託のところで出てくると,そこは単に受託者名だけで十分ではないのかなと思っています。


何とならばということでございますけれども,それはやはり分別管理の意味というのが,受託者が倒産した場合に財産がごちゃごちゃにならないことと,受託者の倒産リスクから分離するということが目的だというふうに思っております。


したがいまして,第三者のところでこれがその受託者のものか,また信託Aなのか,信託Bなのかということが,もちろん明らかになることは望ましいんですけれども,明確化ならないとしても,例えばその受託者の方の帳簿等で明確化されていれば十分ではないのかなというふうに思っております。


したがいまして,そこのバランスについて御配慮いただければというふうに思っております。


  それから2つ目に,個別に政省令できめ細かく定めるということに関連するわけなんですが,世の中いろいろありまして,その中に例えば,これも寄託物ですけれども,その請求権というのは2つありまして,1つは所有権に基づく引渡し請求権というのがあると思うんですけれども,もう1つは何らかの寄託契約に基づく請求権というのがあると思うんです。


かように,例えば同じ経済的主張であったとしても,法律の性質決定が,例えば債権と所有権とこう一緒になっていたもの,ということもままあると思うんですね。


そうした場合に,これは決め方の問題だと思うんですけれども,例えば1つの決め手である債権はどうである,動産であるという法的な性質にしたがって定めるという方法もあると思うんですが,もう1つはいわゆる経済的な実体に即してカストディはこうである,こうであるというふうなことがあると思うんですけれども,場合によってはどれに当てはまったらいいんだろうかとか,そういったことで非常に混乱することもあるのかなというふうに思っているわけです。

  したがいまして,これは○○委員の指摘にもあるわけですけれども,実際にその政省令を決める場合には,きめ細かくするということは大切なんですけれども,そこは実務に応じて逆に問題になることもあるかもしれませんものですから,そこら辺も十分な検討が必要だと思いました。

● 第1点は,先ほどちょっと私も申し上げた,強行規定ではあるけれども任意法規的な性格を多少持つのか,持たないのかという問題ですね。ちょっとニュアンスが違ってきて--。今,何か補足説明ありますか。


● 今の御意見についてですが,まず試案に書いた考え方と現時点での我々の考え方,別に何も変わっているわけではございません。


ただ,今伺っていても我々が理解しましたように,例えば海外カストディに預けたときにどのような分別管理をすべきかとか,あるいは寄託物についてはどういう分別管理が正しいかとか,かなり非常に今,些細というか,複雑な問題でございまして,到底それを全部法律に書くということはできないというのも御理解いただけるところかと思います。
 

 じゃあ,基本的な部分を書いたらどうかという,もちろんそういう御指摘は十分あり得るところかと思うんですが,ただその一部を法律に書いて,一部を省令に書くというのも,なかなか見栄えの問題もありますし,あと実際どこで切り分けるかという難しい問題もございまして,それであればこの試案の考え方を維持することを前提として,将来的にはもちろんもう1回パブリック・コメントには付すわけではございますが,まとめて省令で書くという選択肢もあるのではないかというのが事務局の考え方でございます。

● 今のような点について若干意見なんですけれども,まず冒頭の方で○○委員の方からありました分別管理義務を免除できるというその補足意見のコメントについては,その言葉を額面どおり受け止める限りでは,なかなか賛成できないというふうに考えております。


ただ,試案の段階と今回の御提案と,若干分別管理義務の射程範囲が異なってきているのかなという感じがしておりまして,補足説明の段階では分別管理義務の内容については,物理的なその分別という前提で,恐らくとらえられていて,それによってその帳簿作成義務が免除されるものではないということが,恐らく前提になっていたのではないかというふうに理解しております。


今回,分別管理義務を考えるに際しては,帳簿作成義務のところまで取り込んだ形で,義務の中身を措定するというような立て方をされたのかなというふうに受け止めておりまして,もしそういうことであれば,そういった考え方もあり得るのかなというふうには考えております。


  ただ若干,先ほど問題になっておりました債権,特に預金との関係で,その先のことを御検討いただけないかなというふうに考えておりますのは,例えばその預金口座を分別するということを考えた場合に,もちろん別口座にするというのは原則だということをうたうということであれば,それはそれでお願いしたいことであるんですけれども,やはり実務上の要請から,それを帳簿だけの管理にするということも許容すべきだということが,恐らく議論としてはあるんだと思います。


その場合にも,そういったことが許容されるとしても,ただ単に帳簿だけつければいいということになるんであれば,それに対応する口座残高が確保されないという事態が起こったときに,やはりこれは分別管理義務が尽くされたことにはならないのではないかというふうに思われます。


そうすると,もし債権で帳簿上の計算管理で分別管理義務が尽くされるということを考えたときには,やはりそれとともにそれに対応する,例えば預金であれば口座残高であるとか,そういう財産が確保されるような措置といいますか,そういったものをあわせて求めていく必要があるのではないかというふうに考えているところです。


この点については,もちろん将来的にはパブリック・コメントのレベルの問題かもしれませんけれども,ぜひ債権,特に預金については,帳簿上の管理計算ということを考える際にも,そういった財産確保ということも含めた形での御検討をお願いできないかというふうに思います。


  それからもう1つ,この規定の規定ぶりといいますか,どういった規定をつくるかということとの関係の御意見なんですけれども,これはもし民事信託ということを考えた場合には,一般の人たちが,やはり法律の条文を読んで分別管理義務の内容がわからない,わかりにくいというのは,できればわかりやすくしてほしいという感じがちょっとしておりまして,やはり法務省令を見なければわからないというよりも,原則的な管理方法については,できれば条文に挙げていただいて,ただし法務省令によることができるとか,そういった形の規律をしていただけると,民事信託とかそういった分野との関係ではありがたいかなというふうに考えております。
  以上です。

● はい。ほかにいかがでしょうか。
  ○○委員。


● すみません。今,議論をお聞きしていまして,ちょっとわからなくなったところがありますので,2点ばかり確認させてください。


  1点目はですね,例えば債権の場合ですけれども,信託ごとまたは固有勘定と信託財産ごとで口座を分けるということが,ここでいう分別管理なんでしょうか。


私自身は,その債権というのが帳簿上の計算管理と書いてありましたので,その必要性はないというふうに考えておりましたが,そこは口座を分ける必要性があるのかということと,もう1つは,先ほど○○委員の方から,預託しているような場合については,所有権であったり債権であったりということがあるということですけれども,所有権の場合,共有というもの自体の概念というのは別に認められているのでしょうか,認められているものだと私は思っていたんですけれども,その2点,ちょっとお伺いしたいのですが。

● まず口座を開けるかどうかという点については,前も議論がございまして,そのとき私の方から,口座まで分ける必要はなくて帳簿一本でいいんではないかと答えた記憶がございます。


ただ,書物によっては口座も分けるべきではないかという議論もございましたし,私がそういうふうに答えたときに,ある幹事の方から,じゃあ差押えが来たときに競合の有無がわからなくなるのではないかという御指摘もございまして。なお,その分別管理プロパーの問題からいたしますと,帳簿で区別していれば口座まで開ける必要はないんではないかという気がするものの,ちょっとその点はまだこちらで結論が出ているわけではございませんので,今の御意見なども踏まえて,将来的には法務省令に落とすことができれば,法務省令のパブリック・コメントの段階までに確認,検討していきたいというふうに思っているところでございます。


  それから2点目の共有というのは,別に信託でも共有はあり得ると思うんですが,共有持分権が信託財産に帰属するという御理解でございますか。そういうことはあると思いますが。

● 帳簿については,例えば所有権ですので,動産みたいなものも当然あろうと思いますし,運用ということを前提に考えると,一番最初に複数の信託財産からまたは固有財産と一緒に当然物を買うということはあり得ますので,そうすると自動的に共有状態になってしまうというふうに考えられますので,当然そういう管理形態というのはあり得るというふうに考えてよろしいわけですよね。


● ○○委員,どうぞ。
● 先ほど分別管理のところでですね,○○幹事の方から,前は口座の物理的な区分,口座を設けての物理的な分別管理までは求めるものではないという説明があったので,ずっとそのつもりで考えてきていたんですけれども,債権の流動化の場合ですね,実際我々受託者ではないんですけれども,受託者から実際に流動化した債権の回収の委託を受けているという状況の中で,もし受託者の方の分別管理義務がかなりそういう物理的なものまで強化されるということになりますと,やはり委託者の方にもさらにそれが及んできてですね,例えば当社のように1,000万件くらいの債権のうちですね,もちろん固有の債権もありますし,A信託銀行,B信託銀行とか複数の信託銀行にお売りをして流動化しているようなケースで,かつ,個別の発生時期によって複数の流動化があるわけですね。


こういったものが一つの対お客様との関係では1日の約定日の中で1,000万件の入金があるわけですけれども,それが実際には多数の固有財産と複数の信託財産と,それに最終的に帰属するわけですけれども,そういったところの管理義務といったところがですね,次の信託事務処理の委託のところの,受託者の責任の範囲との問題とも絡まって,また業法の方とも絡まってですね,かなり重たくなってしまうのかなと。


不必要に義務が出てきて,せっかく帳簿上の管理でできるだけ効率的にこれをやっていこうという形で,業法の方も流動化型の信託会社,A信託会社も認められるような形で体制が行われてきているわけですけれども,そこが非常に,歯車が逆に動くのではなかろうかなというふうに,そういう印象を持ちましたので,ちょっと発言をさせていただきました。

● ちょっと伺いたいんですけど,これ流動化の場面で,信託財産だったら信託財産間のね,複数の信託財産間でもってそれぞれ別に例えば預金しなくちゃいけないとか,債権として物理的に--物理的という言葉はちょっと適当じゃありませんけれども--債権として分けなくちゃいけないというのは大変だろうというのはよくわかりますけれども,固有財産との関係でもその帳簿上の計算管理でないとやっていけないと,そういうことですか。

● 実際には,個別の債権ごとに譲渡している単発の債権もありますし,カード債権のように日々発生するようなものがございますので,そういったものについて,一括して請求管理,それから誰が債権者であるか,固有財産なのか信託済みの財産なのかということの区別をした上でですね,かつどの信託に入るべきものなのかというのは,コンピューター上で全部管理はされているんですね。


ですからその分が請求の時点では一律に,対銀行さんに対しては,一律に当社の口座に一たん入れさせていただきますけれども,その後の入金結果を一つ一つの分類に基づいて,固有財産に属するものと信託の何々口,信託の何何口というふうに分別の作業をやって,定められた期間までにその回収金を引き渡す,こういうことをやっているわけなんですね。


● まだ十分理解していないのかもしれないけど,その今,流動化の資産として債権などが問題となっている場合を考えられて--。


● 今のは,預金の方をちょっと考えたんですけれども。

● その回収というか,取り立ての段階の話をされているんですね。

● 取り立てた後の,信託銀行に引き渡すまでの管理というのがですね,現状もいろいろな方法で確実に引き渡されるような契約上の手当てとか,担保とか,そういったところで対応はされているんですけれども。


● 仕組みがよくわかっていないせいかもしれないけれども,固有財産がその中に入っているというのはどういうことなんですか。


● 一たん回収した段階では,すべての当社の固有財産に属する債権も,既に信託譲渡済みの債権も,一たんは同じお金として,色がついていませんので,お客様の口座を開いている銀行の当社の預金,固有財産としての預金口座の中に一たんはすべて収納されるわけですね。


● 債権回収というのは,なかなか難しい問題がありそうで。
  どうぞ,○○委員。


● たぶんそこでその銀行の口座に入金をしたところの部分というのは,多分それは信託固有の口座ではないかなというふうには思いますので,受託者,多分委託先のところの部分での分別管理というのはいろいろな問題があってですね,今,業法で問題になっているような形の,委託先に対して分別管理を課すとか,忠実義務を課すとか,そういう観点から見ると,今,○○委員がおっしゃったような形で,割と混在化しているような部分があるので非常に難しいと思うんですけれども,受託者単体で考えたときには,固有財産のものと信託財産を同じ口座に入れるということはほとんどないと思います。
債権として出す場合については。


● ちょっと私もそういうふうに今までは理解していたんですけれども,いろいろな債権の形もあり得るので,いろいろなというのは債権の形といいますか,いろいろな場面でその信託財産,債権,債権である信託財産,それから固有財産である債権,それが問題となる場面がありますので,債権についてはもう少し細かいことをいろいろと検討しなくてはいけないのだろうと思います。


ただ,ここで今,どの程度の合意を得るかということなんですが,ここでの趣旨は今のいろいろなものについてすべて細かく全部検討して,大体の方向性はここで議論して同意を得るということではないんですね。


むしろ,その法務省令に落としていいのかどうかということ,あるいは先ほど信託行為において別段定めを設けることができるというような,そういうのを,これも条文化へ落として省令のレベルでいいのかという,これはちょっと分別管理義務の性格にも少し関係しますけれども,そういうことを御議論いただければと思います。


細かいことについては,もし法務省令に落とすということであれば,またそれについては別途検討するということになります。

  いかがでしょうか。

● 恐縮ですけれども,先ほど私が申し上げたとおり,別段の定めで構わないということが,試案では本文に載っていたのが,この案ではそうでないということに変わった理由というのは,パブリック・コメントとかを受けて変わったんでしょうか。どういう理由があったんでしょうか。


● パブリック・コメントとかで,合意によりました基本的な考え方を変えたというわけではございませんで,基本的に管理方法を法務省令に落とすのであれば,その例外も許容されるということも,法務省令の中に1項目設けて規定したらいいのではないかという,ただそれだけの理由です。


● 繰り返しになりますけれども,私はその今の信託行為によって別段定めができるというのは,この分別管理義務に関するかなり重要な点なので,そういうことはやはり分別管理義務に関する法律上のレベルの条文の中で,書き方はなかなか難しいのかもしれないけれども,ある程度明らかにしておいた方がいいだろうと,いうふうに思いますね。
  はい,○○委員。

● すみません,多分その考え方を変えたということではないんだと思うんですけれども,温度が変わったのかもしれないんですけれども,何となく今回の規律を見てみますと,特に法律レベルで今おっしゃったような形の規律にもしましょうということになりますと,その倒産隔離とのリンケージというのが,以前よりかなり強くなったのではないかなという感じがしまして,そうすると,法律レベルでもっての分別管理義務を守っていれば,イコール倒産隔離が図られると,というようなぐらいの位置づけになっているような気がするんですけれども,そういうような意図を持たれているということではないんですか。


● 問題は,法律のレベルで守っているということの,法律は余り書いてない--。
● 法律で分別管理というのを強行規定でやりましょうというお話ですから,分別管理さえできていれば,それが受託者が倒産したときについては,常に隔離が図られていると。


● 具体的なたてつけについて中身を変えたつもりはございませんで,基本的な信託の基本的な考え方自体について,分別管理を通じる基本的な考え方自体について考え方を試案から変えたということは全くございません。


その前回の試案とよく比べていただければおわかりになりますとおり,「法務省令で定める方法により--」というところを加えたのと,そのただし書きを落としたという,ただそれだけの話ですので。

仮にこれにただし書きを加えれば,明確になる余地がふえたというだけで,別に不明確になったと,わからなくなったという批判を受けるいわれはないのではないかというふうにも思います。


  それで,特に試案で分別して管理しなければならないといったって,じゃあ債権の物理的分別なんてないので,じゃあ何をやったらいいんだとかですね,別に一般の民事信託を前提にされた方だけではなくて,実際の事業者の方からもそういう御指摘は多々いただいているところですので,そうであればもう少し明確にした方が,ユーザー,信託を活用される関係当社の皆様にとってはよいのではないかという観点から,できる限り努力をしてみましょうという気持ちを込めて書いているわけでございまして,繰り返しになりますが,1つ文言が入ったという以上に前回から全く何も変わっていないわけですから,それによって基本的な考え方が変わったとか,温度差が変わったとかいうことでは全然なくて,したがって基本的な考え方は全く同じであって,ただ不明確だという批判が幾つかあったので,それをできる限り,皆様のニーズに合わせて明確化していくように努力させていただきたいと,その旨御理解いただければと思います。


● ほかにいかがでしょうか。ほかの条文でも結構です。
  はい,○○幹事。


● それでは第22の方について発言させていただければと思います。毎回のように発言しておりますので,もう言いたいことはわかったから黙っておれということもあるでしょうけれども,私なりにもう少し違う表現で問題点だけは,明らかにしておきたいと思います。

  第22の2で(1)甲案,乙案とあって,パブリック・コメントの多数というのが,甲案賛成であるということです。


これはある程度予想はしておりましたけれども,ただやはり若干,甲案,乙案の意味についての誤解とまではいいませんけれども,そういったものがあるのではないかないう気もいたしました。


と言いますのは,例えば乙案が強行法規とまでは言いませんけれども,どのような信託であれ,必ずないしは原則として,他人に任せた場合でも,任された者の故意・過失があったときには責任を負うというようなもの,つまり適切に選任監督をしていたとしても,それだけでは免責されないというふうに必ずなるのだ,ないしは原則としてそうなるのだ,ということを前提とするならば,それは違うだろうというのが,甲案に賛成された方々の意見ではないかと思います。その解釈は非常に正しいと思います。

  要するに,これまで私,何度か申してきましたように,重要なのは契約で一体何を約束したかということでして,契約で自分自身ではなく,適切に財産の管理等をしてくれる第三者を選ぶということを約束したというときには,適切な者を選任監督できなければ責任を負うし,適切な者を選任監督しておれば,それでみずからのなすべきことはやったわけですから責任を免れると,こういう約束をしたときは,当然そうなるはずでして,そして多くの商事信託,とりわけ複雑なシステムを前提にした商事信託では,このような約束,つまり適切な財産の管理等を行ってくれる者を選任し,監督するという約束を明示的に行っているでしょうし,あるいは明示的に行っていなくても,その契約の性質からすると,当然そうなっているだろうと。


その意味では,甲案を支持しておられる方々の意見というのは,全くそのとおりだろうと思います。


  ただ,適切な第三者を選任し監督するという約束を行っているときはそうなんですけれども,そうではなくて,預かった財産を適切に管理するという約束を行ったときには,やはり適切に管理できなければ責任を負わざるを得ないと,いうことになるのではないかと思います。


そして,きょうの御説明の中では,22の1で,これまでと違って他人に処理を委託できるとするならば,甲案の方が平仄は合っていると。


要するに,他人を使っていいというんだから,適切に選任監督するという義務だけを負えばいいと,その方が平仄があるというふうにお考えなったのかもしれません。


それだけ見ているとそうかなとは思うんですが,ただ,何を約束したかというときに,財産を適切に管理するという約束をしたというときに,自分だけが1人で管理するんじゃなくて他人も使ってよいとすると,いうことが仮に1で認められたとしても,約束したのはあくまでも財産を適切に管理するということですから,結果として適切に管理されなければ,当然責任を負うと。


つまり乙案の内容というのが,当初の約束した内容,つまり財産を適切に管理するという約束をしたときには,やはり平仄は合っていると思います。


たとえ1があったとしても,乙案の方が平仄が合っているのではないかなと思います。

この2つの約束,つまり適切に財産を管理するという約束と,そして適切な第三者を適切に選任し監督するという約束,これどちらも可能ですし,そして自由に契約してよいだろうと思います。

  としますと,問題は,何をデフォルトにすべきかということだと思います。そのときにこれは信託法ですので,信託法の中のデフォルトとしては,契約内容はやはり適切に財産を管理するということが,やはりデフォルトでないとおかしいのではないかなという気がいたします。

もちろん,第三者を適切に選任し監督するという約束を行うことは可能ではありますけれども,これがデフォルトになりますと,何を約束しているのかというと,適切な第三者を選んで監督するということですから,これが信託かと。これだけ取り出すと委任に近いですよね。


これがやはりデフォルトではなくて,財産を適切に管理するということが,やはりデフォルトの契約内容ではないのかと。


そうでないと,何のために善管注意義務や忠実義務のようなお話をしているのかわからなくなってしまうと。そういう意味では,約束の内容のデフォルトはもし適切に財産を管理するという内容ですと,それを貫くならばやはり乙案というのが筋が通っているのではないかなという気がいたします。


  その上で,先ほども申しましたように,それに対してそれと異なる特約をすることはもちろん自由ですし,そしてまた,先ほど言いましたような契約の性質からすると,当然特約があると解釈できる場合が多いと思いますので,恐らく甲案を賛成された方が抱いておられるような危惧は,発生しないであろうというふうに思われます。

  それが1つで,もう1つだけちょっとつけ加えておきますと,民法で従来言われてきましたものとの整合性という点ですが,これはこの中にも若干指摘されていますけれども,復代理に関する規定がこれに対応するものとしてありまして。


復代理の規定ができますときに,多分この会の一番最初に申し上げたと思いますけれども,もともとの旧民法というのは,実は乙案の考え方でできておりまして,自由に他人に任してよい。


そのかわり,復代理人が適切な行為を行わなかったときには,責任を負わないといけないと,いうような形でなされていたと,いうのが現在の民法105条以下の規定ができるときには,旧民法とは違いまして,他人を自由に使ってはいけない。

自分でしないといけないというふうに,そこの原則を入れかえて,ただ例外的に特別な理由があって使ってよいときには,選任監督の過失に限られるというふうにしましょうと,いうふうにしたと。


  こういう2つの考え方があったんですが,今回の1で自由に使ってよいということにして,しかし,旧民法だと乙案なんですが,しかし1を採用しつつ甲案をとるというのは,旧民法とも現行民法とも違う新たな立場をとるということを意味しております。


これが果たしてうまく説明が可能なのかなというのが,民法学者の立場としては,やや心配があるところです。一体何が当事者間で約束されたことなのかと,それに応じて責任の範囲も決まってくるというのが,現在のかなり有力な流れでして,そこからしますと,やはり何度も言いますように,適切に財産を管理するという約束をしたのか,それとも第三者を選んで監督するということを約束したのか,そのどちらかに応じて責任の内容は決まってくる。


問題は,どちらをデフォルトにするかだということだと,いうことがこの問題の所在であるということを,結局同じことを言っているじゃないかということなのかもしれませんけれども,ちょっとこの場で申させていただきました。
  以上です。

● いかがでしょうか。
  信託において,今○○幹事が挙げられた復代理も含め,あるいは旧民法も含めてそういうのと,なぜ信託が違うのかというルールの違いをですね,やっぱり何か説明があった方がいいんだと思いますね。

ある種の政策的な判断もありますけれども,理論的にそれが耐え得るというためには説明があった方がいい,というふうに私も思います。


  なかなか私自身も十分説明できるのかどうかわかりませんけれども,信託をお持ちの受託者の負う一番中心的な義務は,適切に財産を管理する,あるいは財産の管理だけではないかもしれない,処分もありますけれども,まあ管理するということなんですけれども,やはりどういう形で管理するかというところについての,そこまで含めてのデフォルト的な合意があって,やっぱり従来は受託者が管理するというときには,受託者1人で管理するというのから出発して,他人を使ってもいいけれどもそのときにはもちろん受託者は全面的な責任を負いなさい,というそういう形で管理すること,管理の方式も含めて,形式も含めてもちろん考えていたわけですが,今度新しい,この現在のもとでは,もちろん信託財産を管理することが中心でありますけれども,適切な場合には第三者を使って管理するという何か合意で,反対に言えば,やっぱり自分で管理するという出発点を完全に捨てた,そういうところが今度の信託法の考え方ではないかというふうに思います。

  これだけではまだちょっと納得されないかもしれませんけれども,復代理とかいうところは,いろいろな規定の,そこでもあり得ると思いますけれども,やっぱり信託と違って代理権に基づいて何かを決定するという世界は,たとえ復代理人を使っても本来,やっぱり元の代理人の権限に集約されて,その代理人が決定すべき世界で,ちょっと信託と少し違うのかなという感想です。十分説明になっていないかもしれませんが,とりあえずそんな感じは持ちますね。
  ○○委員,どうぞ。

● やっぱり22ですが,これは既に出ていた話なのかもしれませんが,ちょっと確認ですけれども。この22には甲案,乙案それぞれありますけれども,これはいずれも立証責任を考えた上でのこういう表現だったということだったのでしょうか。


この請求原因がこの受任者の行為により,損害が発生したと。したがって,受託者は損害賠償なり,てん補責任で何らかの責任を負えというのが請求原因で,抗弁でこの受託者は選任,及び監督について過失がなかった,あるいは受任者に故意過失がなかったということを立証するという,そういうこれはお考えだったでしたでしょうか。


● どうですか。


● 立証責任について,大分議論がございまして,その点ももちろん無視しているわけでは全くないんですが,一応ここは実体上どういう規律を置くのが妥当かという観点から提案しているわけでございます。


ただ今の御指摘を踏まえて考えれば,確かに甲案であれば,受託者の方で自分に選任監督に過失がなかったということを立証することになると思いますし,乙案であれば,受任者の方に故意過失がなかったということを受託者の方で立証するということになるというふうに考えるところでございます。

● はい。
● もう1点ですけれども,甲案と乙案で,甲案の方が受益者の保護が後退することになるのではないかという意見に対しては,そうはならないのではないか,というような論調で書かれていますけれども,具体的にですね,受任者が故意または過失で信託財産に損害を与えた場合--受任者ですから受託者から委任を受けた人ですね--そういう場合に,選任監督に過失がなかったということを前提として,甲案,乙案で考えてみますと,26条3項は削除するという前提で,甲案の場合は,その場合は受任者は受託者の方と,信託財産に対して損害賠償義務があると,そういうことになりますよね。


それで乙案の方だと,受託者が損失てん補責任ですか,それを負うということになるので,結局責任を負う人が受任者なのかあるいは受託者なのか。


26条3項を削除しますから,どっちか片方のみにしかならないと思いますけれども,ということになるので,結局,その受託者が資力不足の場合どうだとか,そういったところで違いが出てくるような感じがします。


  それから,もう1つあるのがこの免責規定ですね。この受託者,受任者間で免責規定がある場合に,信託財産というか受託者が受任者に対して損害賠償請求しろとは言えないと。免責規定があるためにですね。


そういう場合に,受託者が任務違背になるから,受託者に損失てん補責任が発生するので,この受益者の保護としては十分なのではないかというようなことが書かれていて,その場合は結局,受任者の故意・過失のほかに受託者の任務違背も立証しなければなりませんので,受益者の立場からすれば,立証すべき事項がふえるということになりますので,やはりその限度では受益者の保護は後退していると,いうことにはなるかと思います。だから,あとはその程度ならばいいじゃないかというふうに見るかどうかと,そういうことかなというふうに思います。

● 私もそう思いますけれども,どうですか。


● 確かに資力の点とか細かいところは,いろいろ分析すれば,現行法の場合に比べて受益者の保護が欠ける部分がゼロとは言えないと思っておりますが,しかしその全体的な規律を総じて眺めますと,受託者の方の責任を追及することによって,受益者はしかし,ほぼ相当な損失の回復を受けることができるのではないかというふうに思われますので,あえてここで26条3項を維持するまでの必要性はないんではないかという価値判断が入っているということは否定できないところでございます。

● それは全然違わないとはやっぱり言えないと思うんですよね。でも一番大きなのは,今,言われましたけれども,受託者に対しては選任監督の過失がないということで,受託者にはいけなくて,受任者の方に過失があるのでそこにいかなくちゃいけない。


信託財産の方に損害を与えている,受任者が与えていますから,信託財産からの損害賠償請求があるということで,それを行使するといいますかね,受託者が行使する。


受託者が行使できなければ,場合によっては受益者がかわりに,代権的に行使することも考えられるかもしれませんけれども。そこの部分ですよね,一番もし大きな違いがあるとすれば。


ただ実体法的には,今のように信託財産に対する損害を与えているので,損害賠償請求権が信託財産にはあって,それを行使することで,まあ何とか受益者には損失を与えないようにすると,いうのがこの仕組みで。


全然違いがゼロだとは言いませんけれども,一方でこうやって社会的な分業のもとで,第三者を使わざるを得ない外国のカストディアなども使わざるを得ないと,そういう条件のもとで,どういうルールが適切だろうかということで選択された,提案されたルールだというふうに思います。

  ほかにいかがでしょう。はい,○○委員。

● 細かいことなんですが,大きなことはさっき○○幹事がおっしゃったことと,○○委員がおっしゃったことと,つまり信託の原型をどう見るかということの転換をここでどうとらえるかということに尽きると思うんですが,仮に甲案をとった場合のただし書きでございますけれども,そのただし書きでさらに軽減するという別段の定めが可能か。それはどこまで可能か。例えば選任監督について,重過失がなければとか,あるいは故意がなければとか,あるいは一切というようなことまで可能かどうかということでございますが,そこはいかがでしょうか。


● 重過失まで軽減することは,まあできると思っておりますが,さらにそれを越えて故意とか一切責任がないというのは,公序良俗といいますか,条理の範囲から難しいのではないかという気がしております。


これは規律から明らかではないですが,一般的にその重過失は可能だというのが,一般的な理解だと思いますが,そこを越えてまで信託行為を緩めていいというのは,難しいというふうに解釈していいんではないかと思っております。


● 今の規律は解釈に委ねるということであって,さらに,例えばこの甲案がぎりぎりで重過失なんかとんでもないという意見もあり得ると思うんですけれども,それはもう解釈任せということになるんでしょうか。


● 重過失に緩めることが信託行為に書いてあって,それがそれを承知の上で,受益者が受益を取得しているという事態があれば,それはそれでやむを得ないんではないかと思っております。


● 重過失はだめなんじゃないですか。
● はい。

● これ公序良俗の一般の議論に委ねるということですよね。
  ほかにいかがですか。○○幹事。

● 今日ちょっと初めて参加させていただきましたので,この会にどういうスタンスで臨めばいいのかということが,私自身ちょっとまだ図りかねているので教えていただきたいんですけれども。

  今の論点でいきますと,業法においては乙案,事実上の無過失責任を維持するというのが,まあ私の当たり前の感覚なものですから,そういう場合に,信託法と信託業法でそういった違いが出てくるということについて,そもそもこの場ではどういうふうにお考えになっていて,この場における業法を所管するものがどういう構えで意見を言うということが期待されているんでしょうか。


質問なんですが。
● 私から答えるべき問題かどうかわかりませんけれども,皆さんがそれぞれ違った理解を持っているかもしれませんが,ここでは信託に関する一般的なルールというのをとにかく改正というか,現在の社会に合ったようなものに変えていこうということで,現在の信託業法は,今までの信託法に基づいてつくられたものだという前提で考えております。


その上で,現在そのもとになっている信託法レベルの義務,受託者の義務などを見直しをする。そうしますと,現在の信託業法とこう食い違ってくる場面が出てくるかもしれませんが,そのときに--ここら辺からは私の個人的な意見ですけれども--できれば,それは信託,新しいこの信託法のルールに従って信託業法が調整をしていただければ一番ありがたいなと。


ただ,場合によっては,信託業法の観点から,特にこれは業法の場合には必要な規制なんだということで,正当化はあり得るかもしれません。


○○幹事には,どういう立場で御発言をお願いするというそこまでは僭越ながら私が言える立場ではありませんけれども,私は今のように,信託法と信託業法の関係を考えておりますので,それを前提に何か御発言をいただければありがたいと思っております。


● すみません。じゃあ先ほど私は,○○幹事がおっしゃったことに100%同感でございます。


● この点--はい,どうぞ。

● ちょっと事務局の方としては,これ甲案,乙案どちらがいいかというのを伺っている立場なので,事務局の立場を明らかにするというスタンスにはそもそもないわけではございますが,ただ信託における適切な管理処分のあり方は,当事者はどういうふうに見ているのがデフォルトとして考えるべきかというのはまさにおっしゃるとおりで,それについては全く賛同するところでございます。
  


ただ,これまでの信託法ですと,本来委託はできないというのが前提になっていたわけでございますが,今回の信託法のもとにおきましては,相当な場合にはまず委託できる。


これは自由に委託できるわけではなくて,あくまで善管注意義務のもとで相当だと思われる場合には,まず委託できるという規律があるわけでございまして,しかもその場合には,受託者は選任監督の責任はありますと。


さらに受任者は全く無責任というわけでは当然なくて,受任者の方は通常の故意・過失責任を負いますと。


そういうその相当な場合には委託できて,受託者は責任を一定限度負って,さらに受任者も故意・過失責任を負うという,一体のものとして,そういうのが現在の信託のスキームなんであると。


そういう理解を前提として,信託がつくられ,それに受益者も当事者として加わってくるということになりますと,受益者もそういうふうに,相当な場合には自分の利益のために委託してもいいんだという意思を持っているのが,むしろ合理的な意思の推測にかなうわけであって,それがその信託における適切な管理処分のあり方についての当事者の一般的な意思であるということも,不可能ではないような気がするというのが,事務局の--というか,私個人かもしれませんが--考えでございます。

  そうすると,決して甲案というのが,通常の信託投資の意思に反していて,むしろ乙案の方がかなうかというわけではなくて,甲案になっても,この新たな相当な場合には委託できるという信託法のスキームの中では,十分当事者の意思を反映したものという理解もあり得るのではないかという気がするところ,ということをちょっと付言させていただきます。


● ほかの方,いかがでしょうか。
  先ほど○○幹事が説明されたように,ある意味で出発点が全然違うというわけではなくて,第三者に委託するということがむしろ前提となっている,というもとでも,○○幹事の意見は甲ではなくて乙ではないかという,そういう意見だったわけですね。


● すみません。きょうのこの場においては,乙案の意見が多いと思いますけれども,甲案,乙案については,いろいろ実務の人数とか,今さっき○○幹事の方からありました全体のその規制のあり方といいますか,受益者の合理的な期待をもって考えるべきであって,そこはパブリック・コメントにも反映されていることも,両方併せ考えて決めるべきではないかなというふうに思っておりまして。


  ちょっと甲案の方,私自身が甲案絶対賛成という,そういう立場ではないんですが,甲案もやはり十分に傾聴すべき意見だというふうに思っておりまして,あえて発言したいと思っておりまして。


と言いますのは,やはり実務においては,ここの御説明,甲案指示の理由のところの②というところが多いかと思っております。


相当の理由ということになるかもしれませんけれども,現在においてはいろいろな操作というのは十分必要なことで,それをなくしてできないという業務がございまして。


そうした場合に,それを使うことが相当な理由ということであり,かつそれが委託先が責任を負うということ自体が,全部受託者にこうリスクとして寄せてこられるということになると,結局全体として,そういう信託スキーム自体が成り立たないというようなこともあり得ますので,ここは非常にバランスの問題が重要じゃないかなというふうに思っております。


もちろん,先ほど○○幹事がおっしゃられたように,行政の立場から何らかの規制が必要でありますし,またそれは,現行信託業法もこの部分についての督促がございますので,そこは一応分離して,そこら辺においてもバランスが必要だと思うんですけれども,そこは別途検討していただければとは思っております。


● ありがとうございました。
  これは確認ですけれども,業法の立場は今,乙案だと思いますけれども,乙案で別段の定めは許すんでしたっけ。別段的な定めで甲案的な立場をとるということはあり得るわけなんですね。


● 別段の定めで受託者の責任を軽減・監督にするのはできるという--。

● ええ,軽くなるのはもちろんできるんだけれども。今,○○委員が言いましたけれども,確かに甲案でなくてはいけないという絶対の理由というのは,もちろんあるわけではなくて,ある程度全体のその先のパブリック・コメントとかですね,それから今までの議論の中での多数意見というものを反映させて,甲案が今のところ優勢であるということだと思います。

今ここでは,○○幹事の御意見もありますし,○○幹事の御意見もありますし,今ここで甲案と決めるわけではございませんけれども,大体大勢がどういうものであったかということを確認はさせていただきたいというふうに思っております。
  よろしいですか。○○委員。


● やはり実務の立場から一言だけ言わせていただきたいんですけれども,これも前々から申し上げているところですし,きょうも議論が出てきたところでございますけれども,やはりその信託法をこう変えましょうと,現代化しましょうというところの中の1つの大きな柱として,当然その分業化,専業化というのが非常に進んでおりますので,それに対応するために,この1項のような形の規定が設けられて。この1項の規定を受けて,それじゃあ受託者の責任をどうするんだといった場合については,私自身はもう甲案しかないのかなというふうに考えています。

  業法的な観点からいくと,別途の考え方というのはおありになるんだと思うんですけれども,信託法上の観点からいうと,受託者が受益者のために自分が執行したり,他人に委託しながら一番ベストの形のものを選択して実務を遂行していくと。


そういうことをやっていくに当たって,選任するということ自体も1つの信託事務であると思いますので,そういう観点からいくと,全面的に受託者が責任を負ってというよりも,基本的には,やはりその選任監督というのがしかるべき規律なんではないかなというふうに考えています。


  それと非常に,あとはちょっと乱暴で個人的な見解なんですけれども,私の今までの実務的な感覚からいきますと,やはりその委託先が何らかの過失によって損害を与えました,といったときには,受託者としては基本的にその過失がどういうところにあって,どんな責任があるんだということを追及していって,当然場合によっては訴訟も提起しですね,それで信託財産を補てんすると,そういうふうに動くわけですけれども,乙案でありますと,基本的に委託者対受託者と受任者というような形の闘い方になってしまいますので--すごく乱暴な議論だということはわかっているんですけれども--そういう観点から言ってもですね,実際に受任者からその過失について信託財産を取り戻すというのは,甲案の方が非常にやりやすいかなというふうに感じておりますし,今まで実務的にもそういうふうに追及していく際に,それが何となく自分の責任になるんじゃないかというような不安もありましたので,甲案の規律というのは非常にありがたいなというふうに思っております。

● はい。

● 今の点に必ずしも関係するかあれなんですけれども,甲案,乙案を考えた場合に,今の受託者の受任者に対する責任追及を考えた場合に,甲案ですとまずは選任監督に過失があったかどうかということを受託者は考えるんじゃないかという気がするんですけれども,そうであるとすれば,その受任者への責任追及の実行を確保する観点からは,乙案の方がむしろ適切な行動を導くのではないかなという感じがするんですが。


  その点ともう1つ,これはほかの論点とも絡む点で御考慮いただけないかなと思っておりますのが,できれば民事信託のことを考えますと,そういった民事信託を利用する人たちの使いやすいといいますか,意識に合ったような規律をデフォルト・ルールとして掲げていただけるとありがたいというふうに思っております。


これは乙案の中でも,信託行為に別段定めがあるときには別段の定めが許されるというふうになっておりますものですから,恐らくそういった別段の定めをつくりやすい立場にあるのは,商事信託とかそういう分野に携わっている方々だというふうに思いますし,なかなか民事信託のことを考えた場合に,当事者の間でこの別段の定めを細かく決めていくということは,実際上なかなか難しかろうかというふうに考えております。


そういったことを考えたときには,デフォルト・ルールとしては,できれば民事信託の意識に適合するような形でのものをつくっていただけると助かるかなと考えております。
  以上です。


● それは具体的にどっちになるんですか。

● いや,そうすると乙案かなというふうに考えております。

● 民事信託の場合を考えた場合には。

● 今,個人間で信託契約をしてやっていく場合には,やはり乙案に従った形で責任を負うというのが,通常の考え方なんではないかなという気がしております。


● それは逆にとったんだね。
  はい,どうぞ。


● 前提としてですね,先ほど甲案によるときに,受託者が受任者に対して責任追及していくときに,その選任監督について過失がないと責任追及ができないとかおっしゃいましたですかね。


そんなふうにお伺いしたのですが,選任監督について過失がなければその責任を免れるものとするというのは,それは受益者に対しての話で,受託者,受任者の間は受託者と受任者のその選任契約で,仮にその選任監督について過失がなかったとしても,受託者,受任者間で受任者が債務不履行すれば,それは当然責任追及できるということで,わざわざ選任監督について過失を証明しないと責任追及できないなんてことはないんだと思いますけれども。

● それはおっしゃるとおりであります。そういうことを前提としたときに,受託者の立場でまず何を考えるかというときに,選任監督についての過失の方をまずお考えになってしまうんじゃないかなという,それがなければみずからはその責任を負わないというようなことで,安心されたりしないかなということをちょっと心配しているところです。


● 要するに,受任者に対する責任追及をする努力をしない可能性があると。

● どちらかというと乙案の方がしていただけるのではないかという期待をしておるところなんですけれども。

● そういうことをしないと,逆に善管注意違反に問われることになりますので,決してそういうことはないんではないかという気はいたします。


発想の順序として,まず自分の責任を免れたいなというのは,それは人間の条理かもしれませんが,しかしその後で受任者に故意過失があれば,それを責任追及すべきであって,それをしないと損失てん補責任は自分にかかってきちゃいますので,結果的にそういう恐れはないんではないかという気はいたしますが。


● 要するに,受託者の立場でそういうやりとりをしていく際に,何をこう考えるかということで考える,ということで意見を申し上げさせていただいた限りです。


● 2段階になっているわけですよね,自分自身の責任とそれから受任者に対する損害賠償請求権というのは信託財産になりますから,それはやっぱり適切に行使しないと,今度は今,○○幹事から説明があったように善管注意義務違反になるという。
  ○○委員。


● 今の件ですけれども,やはりその受託者的な立場になりますと,選任監督責任とはいえ,当然訴訟の提起された相手方といいますか,受けるのはみずからの受託者ですので,当然のことながら,それに対してはそういうことではありませんと,選任監督責任はありませんということを言います。


当然その選任監督がありませんというところを言う際にですね,やっぱり受任者のところについても過失があったことが,過失ではありませんという形の立証をしていく可能性も結構あるんじゃないかと思うんですよね。


すみません,そういうことをやりますと言っているんではなくてですね,甲案と乙案の比較からすると,どちらかというとそういう傾向に動いてしまうのかなというふうに思います。


● それではいろいろ御意見が,ごめんなさい,まだ終わっていなかった。
  じゃあ先に○○委員が,まだ初めてですから。

● 弁護士会で意見が分かれたわけで,私はちょっと甲案の方がいいのかなと思って一言発言するんですが,パブリック・コメントでも日弁連は乙案なんですが,弁護士会によっては甲案のようなんで。


民事信託の場合を考えて,受益者の視点に立つと,○○幹事がおっしゃる視点はわかるところがあると思うんですけれども,じゃあ私が民事信託で受託者になっているとする。


不動産を預かる,といっても,私が管理行為を全部やるわけにはいきませんから,そうするとやはり選任監督のところはデフォルト・ルールであって,もしかしたら選任監督に過失がなくてもあってもいいんだ,免責されるんだということはまずおかしいと思うんですけれども。


  やっぱり選任監督のところをしっかりするというところで,その中で管理業者を選任していくとかですね,そういう状況もあり,そういう状況の方がより適切なのかなと。

そうじゃないと何かおっかなくて預かれないなと思ってしまうし,およそ天変地変以外はですね,必ず過失があって損害が発生するわけですから,それに対して連帯責任を受託者が負わなきゃいけないと,もちろんその後で求償関係で受任者の方に請求していけばいいのかもしれませんけれども。


なかなかそれがたてつけであるということになると,ちょっと厳しいのかなと。

これはなかなか難しいところになりまして,やっぱりデフォルト・ルールでどこまで緩和できるのかという視点もあると思うんですけれども。

  また受託者の方がですね,選任監督さえスキャンすればいいんだということで,全部外に出してしまって楽にするという趣旨ではないんですけれども,先ほど○○委員がおっしゃっていたかもしれませんけれども,今後の信託を幅広く利用するというときにですね,受託者ができることというのは非常に限られていると思うので,その選任監督のところでしっかりと善管注意義務を果たす,忠実義務を果たす。


ですから選任監督というのも,もしかしたら民法上の選任監督というよりもっと非常に重い意味での選任監督義務が課せられていると。ですから,そこでのデフォルト・ルールでそれを緩和するということは,非常に問題があることではないのかなとは思うんですけれども,その選任監督が非常に重い義務であるということを前提とすればですね,受託者の視点に立っての議論になってしまいますけれども,甲案でも十分信託でも機能するのかなと思いますし,受益者も納得してもらえるのかなというふうに思うんですけれども。


● そうですね,この選任監督上の過失についての解釈,これがどの程度重い判断をされるかというのは,非常に重要な問題ですね。
  じゃあ,○○委員,どうぞ。

● 私も○○委員と同じようなことを申し上げようと思ったんですけれども。

  要は,リスクの負担を誰に分配するのが適当かという話だと思うんですけれども,仮に例えばその郵便であるとか,保振であるとか,誰もが使わなければならないようなことがあって,たまたまその受任をした者に過失があって,事故が起きたといったときに,結局その信託を使わなかったとしても,その委託者であった人はそれを郵便とか使ったわけですから損害を被ったと。


じゃあ,もし乙案になれば,信託を使えば,リスクがある意味信託会社が保険みたいな形でとるという形になると,それが妥当なのかどうかという話だと思うんです。


  今の時代,非常に極端な例で,誰もが使うという場合だと思うんですけれども,じゃあ場合によってはこれはそうした方がいいなと。だけど誰がベストなのかと。


いろいろな絶対必要な,あるいはそうじゃないというような場合には,それなりの責任が受託者に求められると。それなりのリスクテイクが受託者に求められると思うんですけれども,そこはやはり受託者の選任監督義務をもちろん相対的な考えになりますけれども,ものによっては重くとらえて,何でこんな人に頼んだんだ,こんな危ないところに,というところで,結局は責任を追及していくというふうに,リスクの分配を図った方が適当ではないのかと。


そういう意味で,甲案,乙案ということを比べれば,甲案の方がいいのではないかなというふうには思いました。


● どうもありがとうございました。
  それでは,よろしいでしょうか。
  ○○幹事。


● すみません。甲乙案が決まる,追加するという状況で案を絞る方向に入っているのに恐縮なんですが,2点だけ気にかかることがございますので,その点を確認ないしは御教示いただきたいと思っておりまして。


  甲案による場合ということなんですけれども,1つは選任及び監督の内容をどう考えるかということが出まして,それに関連しまして,その説明の10ページ等で書かれております不相当な免責規定を置いた場合,先ほどの○○委員の御指摘により,あるいはまたここでの説明というのは,選任監督とは別の問題としての善管注意義務違反だというふうに整理されているかと思うのですけれども,不相当な免責条項というのが無効ではないという前提なのかもしれませんけれども,こういう形で選任等の契約を締結してくるということが,選任監督の内容として,果たしてそもそも適切なのかというのが気になっておりまして。選任というのは,ただ単にどういう人を選ぶかということだけではなく,その契約によってどのような義務が負われ,どのような責任を負わせる形で他人に委託できるのかということになってくるんではないかという気がしておりますので,その契約内容等も含めて選任監督を尽くしたかということが言われるべきではなかろうかという気がするのですが,自信もないところですので,どう考えたらいいか,改めて確認させていただきたいと思います。

  もう1つ,甲案による場合ですけれども,甲案のような形をとりますと,むしろ選任及び監督にその義務内容が縮減されるというのが適切であるような場合が,1の相当な場合であるという形になって,逆に1の相当の場合はかなり絞られることにならないのかと。先ほど来,使わざるを得ない場合がかなり出されておりまして,これは○○幹事がおっしゃったように,乙案によってももう使わざるを得ないような場合というのは,選任監督というか,義務自体がそれなのですから,甲案でも乙案でも同じ結論になると思うんですけれども,もう少し自由に,よほどまずいという場合でない限り自由に使いたいというようなときに,果たして甲案によるとかえって1の場面が狭まらないか,というのが若干気になるところではあるんですが,その点はどう考えたらいいでしょうか。


先ほど○○幹事から,ここの相当の場合というのは自由に使っていいということではないという御説明もありましたので,改めて確認させていただきたいと思います。


● ○○幹事の御指摘のまず1点目の,不相当な免責条項を置いたこと自体が善管注意義務違反だということについて。それをしかし,例えばその内容は甲案によるときにそういう条項を置いたことが,甲案の選任監督責任のところで考慮されるべきではないかと。


仮にそこで考慮するというふうに考えたとしましても,それも選任監督の際に善管注意義務を果たしたかどうかということでありまして,適応の場面を2の(1)の選任監督についての過失で考えるか,そうではないところで考えるかという適応の場面を考えたとしましても,実際の注意義務を勘案するときには,具体的なその帰結については異ならない,ほぼ異ならないことになるのではないかというふうにちょっと思ったものですが,ちょっとまだ御指摘をよく理解していないかもしれませんが,とりあえずそんなふうに思いました。


  それから,2点目の相当な場合が甲案をとるときは狭まらないかというのは,一応私どもの原案では,その信託目的に照らして相当な場合ということで,中身自体は信託行為の解釈によって,その信託目的に照らして,ここはあなたの能力に頼んだところだよという場面と,そうではないと,社会的一般的にここまでは頼んでないだろうというところは委託することができるということで,必ずしもその法社会学的にそういうことになるんではないかという御指摘は,肝に命じなければいけないかもしれませんけど,法律論としては一応客観的に信託目的に照らしてどうかという観点から考えられると,いうことではないかなととりあえず思ったのですけれども。いかがでしょうか。


● はい,どうぞ。
● すみません,余りこだわるようなところではないんですが,では1点目の方は先ほどのような例ですと,選任監督における過失があると認定される場合も十分あり得るというお答えだったと理解してよろしいでしょうか。


● そこの問題かどうか,ちょっと僕らもはっきりわからない--,まあそういう場合もあるかもしれませんけどね。従来,普通に考えている選任監督とはちょっと違いますよね。


● 従来は誰を選ぶかということに力点を置いていたと思うんですけれども,先ほど来,信託における選任監督とは何か,あるいはそれは非常に重いものではないかと言われるときに--。


● ですから,それを含めることも可能かもしれませんけれども--。

● 先ほどの議論のところでは,選任監督の注意義務の話と全く別立てに,さらに善管注意義務違反のようなことを受益者が言っていかなければいけないのか,という点が議論になったように思われましたので。ただ非常に細かいことかもしれません。


● 少なくとも,選任監督以外の問題として,善管注意義務違反というのは一般的にはあると思いますので,ただ,今のような受任者を選ぶとき,受任者と契約するときの事柄,典型的には不相当な不適当な免責,特約を入れたような場合ですけれども,これはそうですね。


ちょっと僕の個人的な感じですけれども,本当は選任監督というよりは,先ほど事務局の方の説明からは,信託目的に照らして相当なという,これは信託目的の関係での相当な問題だ,というふうに説明されましたけれども,そこの問題ではないかという気がするんですね。


人だけではなくて,どういう形でもって人を選ばなくてはいけない,契約をしなくちゃいけないのか,受任契約をしなくちゃいけないのか,受任契約といいますか委任契約ですか,しなくてはいけないのか,それも相当性の問題の中に入ってくるような感じを,私はちょっと思いますね。

  この原案自体はどういうふうにできているかというのは,よくわかりますね,恐らく--。


● 原案は一応今,○○関係官が説明しましたように,1項については客観的に相当かどうかで,2項の方はそれを別の問題であると。


前の部会では,たしか1項と2項を連動して考えるべきではないかという御指摘もあったわけですが,事務局の考え方は一応分けて考えているというものでございます。


● その上で,不相当な契約みたいなものをどうするかという--。

● はい,それはもう2項の方の問題で。
● 2項の方で,はい。

  よろしいですか。これはこういう規定ができても,それについてのような考え方,解釈の問題として,まだいろいろな議論の余地があると思いますけれども。

  とりあえず,それでは今の16から22までですけれども,幾つかの規定については若干御意見がございました。


分別管理義務のところ,それから今の22の信託事務の処理の委託については,いろいろ御意見がございましたが,私の見た限りでは,皆さん,特に別に御発言をされなかった方は,原案で大体よろしいという御意見だというふうに伺えると思いますので,大勢としてはこの原案を賛成していると--。


若干意見はあるけれども,大勢は甲案の方を指示していると,そういう理解をいたしますが,それでよろしいでしょうか。今ここで最終的な決定をするわけではございません。


後でもう1回,本当にこの決定する段階というのはまたありますので,そのときにもう一度チャンスがございますが,ここでの大勢は今のようなものであったというふうに私は理解しましたが,よろしいですか。
  それでは,説明だけお願いしますね,次。

● では,帳簿作成義務から3つほど,時間の関係もありますので,説明だけいたします。

  第23でございますが,まず提案の1に関しまして,(2)と(4)の書類の保存期間について,試案では一律に書類作成のときから10年間としておりましたのに対して,起算時を,信託事務の終了時とすべきという意見がございました。


しかし,この意見のように,一律に信託事務の終了時から10年間という保存義務を課しますと,長期間存続する信託においては,受託者の負担が過大になることが懸念されるわけですが,他方,試案のように一律に書類作成時から10年といたしますと,信託の終了以前に重要な書類が廃棄されてしまうということがあり得て,受益者の権利保護に欠けるということが懸念されます。


  そこで,試案を改めまして,受益者にとってより関心の高いと思われます(3)(4)の信託財産の状況に関する書類,これはいわば資産や損益に関するBSやPLに相当するようなものでございますが,これにつきましては(4)のとおり信託の清算事務の結了のときまで保存義務を課す一方,これには当たらない帳簿その他の書類と,それから信託事務の処理に関する書類,(2)でございますが,これにつきましては,せいぜい書類作成時から10年間,それより前に信託が終わればそれまでということですが,せいぜい10年間の保存義務を課すということにして,受益者の利益と受託者の利益とのバランスを図ってはどうかと提案するものでございます。


  次に3の(1)の受託者に説明を求める権利に関しましては,資料12ページの2の(1)に書きましたところでございますが,試案を改めましてデフォルト・ルールとして委託者にもこの権利を認めることとしております。


これは後で説明いたしますが。それとあわせて,委任における受任者の報告義務に関します民法645条にならって書きぶりを修正しております。


この義務というのは,信託事務処理の経過の概要を説明する程度のものでありますので,その反面として,理由の明示は不要でありますし,法定の請求拒否自由も認められないものと考えております。


  それから,提案3(2)の書類の閲覧請求権に関しましては,これは理由を明示することは不要とするべきであるという意見がございました。


しかし,受託者にとりまして理由を明示されないと,どのような書類を開示すればよいかということが不明であります。資料12ページの2の(2)から13ページにかけて書いてあるところでございますが。


それから,閲覧拒否自由に該当するか否かの判断も困難であると。他の立法例,会社法を初めとして理由を明らかにすることが要求されていることですとか,株主の会計帳簿等閲覧請求権に関する最高裁の判例によりますと,理由を基礎づける事実の立証までは要しないと,具体的な理由の明示は必要だけれども,その立証までは要しないというように解されていて,この趣旨は信託にも当てはまるであろうと思われることなどに照らしますと,試案のとおり理由の明示を要求すべきものと考えるところでございます。

  それから最後でございますが,提案の(注1)と(注2),資料でいいますと13ページ以下にかかるところでございますが,これは受託者側における一定の情報を秘匿するニーズに配慮した制限を許容すべきであるという方向性の意見と,受益者側の帳簿等閲覧請求権の実効性に配慮した制限にとどめるべきであるという方向性の意見とが対立しております。


そこで資料14ページに記載しておりますとおり,甲案,乙案,丙案の3案を提示して意見を問うものでございます。

事務局としては,一応の考えはございますが,まずは皆様の御意見をぜひとも伺えればというところでございます。

  続きまして15ページの方に移りますが,損失てん補請求権ですが,これはパブリック・コメントでは賛成意見のみが寄せられましたので,試案をそのまま維持することとしたいと考えております。


ただし,この責任を任意に履行しない場合の債務名義の内容や強制執行の方法について問う意見がございましたが,分析しますと,この場合債権者としては,受託者に対する損失てん補または原状回復の作為請求をすると。


その上で,損失てん補につきましては,固有財産から信託財産に財産を移転するということになりますので,間接強制の方法によるということになると思われますし,原状回復につきましては,代替的作為義務であれば,原則として代替執行,現行法では間接強制もできるとなっておりますので,その両方,どちらかによると。


それが不代替的作為義務であれば,間接強制の方法,執行法の171条から173条の方法によって強制執行していくということになるものと思われます。


  最後に,検査役選任請求権でございますが,パブリック・コメントにつきましては,試案についておおむね賛成意見が占めましたものの,(注3)のところに関しまして,試案のように受託者が請求をした以外の,受益者全員に対して常に通知しなければならないというのは厳格に過ぎるという意見がございました。

前は強行規定としておりましたので,その点についての指摘でございます。そこで検討いたしましたものが,資料17ページ以下に記載しておりますが,調査の結果,事務処理に問題がないことが判明した場合における受託者,それからその通知費を負担することになる信託財産の負担の軽減の必要性という点,それから受益者として指定された者に対して受益権取得の事実を知らせたくないという委託者の意図の尊重という点,それから調査の結果,重大な違反が判明した場合には,(注4)にありますとおり裁判所による命令というものの可能性があるということ,あと会社法の上でも同様な規定があるということにかんがみまして,受益者に対する通知義務につきましては,任意規定とすることに改めることを提案して二重線を引かせているところでございます。ほかには変更点はございません。
  とりあえず,以上のところまで説明させていただきます。

● それでは,議論は休憩の後ということにいたしまして,ちょっと休憩ということにさせていただきたいと思います。


          (休     憩)

● それでは時間になりましたので,再開をしたいと思います。
  ただいま説明がありましたところについて,また御自由に御意見を伺えればと思います。いかがでしょうか。

  はい,○○幹事。
● 25まできましたでしょうか。
● 25まできました,はい。


● 何か学生が先生にする質問のようなもので申しわけないんですけれども,25とですね,先ほど大分時間をかけて議論をした22とを合わせてみると,どういうふうに考えたらいいかということを教えていただきたい点があります。


  第22の2で,仮に甲案でとった場合には,受託者は選任及び監督について過失がなければ,その責任を免れるものとすると,先ほどこの書きぶりは選任監督に過失がないことを受託者が主張するべきだろうと,ということでしたが,その前提にはある場合には受託者が責任を負うというものがあるはずだと思います。


それが恐らく第25になるのではないかと思いますが,そうするとここは受託者が信託財産に関して,その任務に違反する行為をした場合において,ここに掲げている事由に該当するときには,ここに書いてある請求を受益者はすることができるということですので,そうすると任務違反をしたと。


要するにアウトソースをしている場合にもですね,任務違反をしたということをまず受益者等が主張し,そしてそれに対して受託者は,いやこれは他人にアウトソースしているのであって,加えて私はそれの選任監督に過失がなかった,ということを言えれば免責されるという構造になるように,2つを読み合わせるとなると思われるんですが。


  だから,実質的に考えると,この任務に違反する行為というのが,結局何なのかということで,先ほども議論で,甲案をとった場合に甲案はどういう意味を持つか,というのが少し明らかになったと思うんですが,そこでの任務,まさに選任監督,アウトソースしたその先で起こった事故であれば,選任監督がその任務になるんだろうということですので,古い考え方で任務違反を客観的に考えて,過失を主観的に考えるという立場をとらなければですね,今恐らくこういう問題についてはとらないという考え方の方が一般的だと思いますので。


そうすると,両者がかなり競合しているように思われますので,もし今まで申し上げた私の疑問が成り立つのであれば,整理を要するのではないかなと思います。
  以上です。


● もっともですね。これ困るね。どうしますかね。どう考えますかね。

  端的に言えば,第22の信託事務の外部委託のときの任務違反というものをどう考えるかということですね。求償責任にも関連してね。何かうまい,それこそ○○幹事が質問するということは,○○幹事もそれなりに--。


● いや,わかりません。すみません,第25というのは当然のことですが第22だけを受けているのではなくて,自分自身でやることを主として念頭に置いてつくられているんだろうと思いますが,その第22で甲案のような考え方をとったときには,第25とのすり合わせが,書く必要があるのかどうかわかりませんけれども,整理が必要なのではないかなと思います。


● 25自体はもう一般的なもので,ここでの要件,任務違反というのが要件で,こっちをいじるということは恐らくできないので,22の方で--。


● 22の2についてですね,これはあるいは甲案,乙案どちらにも共通するのかもしれませんが,やはりこの無過失の受託者が主張して免責されるという,この構造が25に合っていないんじゃないでしょうか。


● 過失任務違背とほぼ同じに考えますとね,ええ。

● あるいは任務違背と区別される意味での過失というのを考えるか。

● だけど今度は逆に,そういうふうに考えても,任務違背と過失を別にしても,22の場合の任務違背って一体何かというのが出てくるんですよね。


  これはさっきの甲案,乙案,乙案の場合だとそういう問題は生じないのかな。余り表面化しないというだけですかね。


● しかし,乙案は受任者というんでしょうか,委託を受けた第三者の故意過失ですから,今の競合問題は生じない,ええ。


● はて,何か事務局でいい案があればあれだけど。

● 今,名案は思いつきませんが,御指摘の点を踏まえて書きぶりと思いますので,検討したいと思っております。

● うん。ほかにいかがでしょうか。
  ちょっとこれは個人的な意見です。25の損失てん補責任のところで,ここで原状回復と損失てん補というのが出てきまして,その2つの関係をどうするのかというのが,ここ自体,これはちょっとただ聞き流していただきたいというのは,これから申し上げることは私は積極的にこの25で改正した方がいいということではなくて,後のほうで受益者が複数いるときに,やはり損失てん補とそれから原状回復との関係というのが問題となって,後の方では原状回復を原則的な救済手段とするという考え方が出てくるんですね。


  そうしますと,この25のところでも,受益者が1人しかいないときにも,論理的には全く同じではないかもしれないけど,受益者1人のときにも原状回復と損失てん補というものが,2つの救済手段の関係がですね,つまり両方が考えられるとき,全く選択的なのか,それとも原状回復というものが優先するのか。


これは特に受託者の方からその原状回復に相当するような行為を自分で申し出ると。


自分でこういうふうに回復するから,だから損害賠償じゃなくて原状回復でいきたいと,いうことを受託者が言えるかと。そんな問題とも関連いたします。


ちょうど契約だと債務不履行とかいろいろな責任のところでキュアーというのが治癒というふうに言っていますけれども,債務者の方から損害賠償を請求されたり,解除を請求されたりした者が,治癒をする。


債務不履行瑕疵を治癒するという行為がありまして,それと似たような問題があるのかなと。最近の1つの大きな流れは,そういう治癒というのを認めていこうという考え方がありますので,そういう考え方を,一方で少し頭の隅に置きながら,この規定をどう考えたらいいかというふうなことをちょっと思っています。


ただそれを言い出して,原状回復と損失てん補の関係を全部もう一回見直すということになると非常に大変なので,私としてはそんな問題もありますというくらいの,非常に消極的な発言で申しわけないけれども,ことだけ指摘しておきたいと思っています。


  ほかに。25はよろしいですか。今まで少なくとも余り違う御意見はなかったと思いますし。検査役の選任と--。
  ごめんなさい,○○幹事。

● いいですか。25でそれぞれ1の損失てん補責任等a,bがあって,aまたはbに定める事項の請求をすることはできる,とありますけれども,一部について変更と損失ってもう完全に分けられるものではなくて,重なって起こり得ると思うんですよね。


その場合に,変更できる部分については,変更じゃない,回復できる部分については回復請求し,その他についてはてん補というのは当然あり得るということですよね。


ですから。これも書きぶりの問題だと思うんですけれども,そういった趣旨がよりクリアになるような書きぶりをしていただいた方がいいんじゃないかと思います。


● 原状回復して損害がなおあるという場合,幾らでもありますからね。わかりました。それは書きぶりの問題としてこちらで対応したいと思います。

  ほかに,25はよろしいでしょうか。
  それであれば,29検査役の選任請求について。○○委員,どうぞ。


● 23で--。

● 前の方ね。ごめんなさい,飛ばしちゃった。帳簿作成義務,はい。

● 帳簿作成義務等のところで,ちょっと2点申し上げたいと思います。

  1点目は1の(4)のところの信託財産の状況に関する書類についての保存義務のところでございますが,要綱試案では10年というところが,信託の結了の,清算事務の結了のときまでというふうに変わっておりまして,もちろんこれよりも短いものもあるんだと思うんですけれども,信託の中にはやはり期限がない,半永久的なものがありまして,例えば年金であるとか,そういうものも考えますと,半永久的な形で保存義務というのはちょっとしんどいかなという感じがいたしまして,この辺のところちょっと御配慮をいただけないかなというふうに思っております。


  それと2点目が注1と2のところの,甲乙丙案のところですけれども,これについてはその基本的には乙案支持ということで,ここの部分につきましては,甲案につきましては当初から当方の方でいろいろとお願いしていた分でございますし,丙案につきましても文書というのが非常に種類も多いですし,重要なものから軽微なものまでいろいろあるということですので,そこら辺のところ,契約によって開示しないでいいものができればいいんではないかと思いますし,特に顧客のプライバシーであるとか,営業上のノウハウ,特に今後は多分,知財なんかは非常にデリケートな問題なんかが出てくると思いますので,そういうところを契約で閲覧拒否というのができれば,そういうニーズに合致するんではないかなと思っておりまして,ここの分については乙案に賛成ということでございます。
  以上です。


● 第1点目は質問みたいなものかもしれない。半永久的な--期間。

● 半永久的な信託があって,年金信託などでというお話かと思うんです。ただここでは書類の範囲が限定されていて,我々が説明するところではBSとかPLみたいな,そういうたぐいのものくらいは,最後まで持っておいていただけないか。


それはその信託全般を並べるときに,やっぱりそれぐらいの資料は残しておいていただきたいというのが趣旨であるということが1点ございますのと,それから一応ただし書きがついておりますので,かなりの年限がたったものについては,委託者といいますか,受益者といいますか,そちらの方に引き渡すというようなことで対処しようとかですね,そういう余地があるのじゃないかないうところを踏まえていただければというふうに思っております。

● どうしてもという現行の実務からいくと,少し変えないと。少しといいますか,変えないといけない部分というのが結構あるんではないかな,というふうに考えておりまして,そういう観点から御配慮いただけれえばありがたいなと思うんですけれども。


そういうことをやらないといけないということであれば,ちょっとそこは検討したいとは思いますけれども。


● 具体的なイメージとしては,信託財産の状況に関する,どんな信託財産がどれだけあるかとかですね,そういうことだと思いますけれども,毎年,毎年といっても書類はもっと短期間でつくるかもしれませんが,最低限毎年1回分はあるでしょうね。こういうのをずっと積み重ねて保存しておくという,そういうことになるんですかね。そういうことのようですね。
  はい,○○委員。

● 23の関係ですが,3の(2)で受益者は理由を明示して閲覧または投資者を求めることができるという,この理由を明示してというところの関係で,これはどの程度のものを想定されているのかというのがちょっとお伺いしたいんですが。


受益者である以上,信託財産の現状を知りたいというような当然の要望のはずなので,信託財産の状況を知りたいというのが「理由を明示して」ということになるのかどうか。それはいかがでしょうか。


● 一般論から言いますと,この最高裁の判例を挙げてあるとおりでございまして,どんな書類を閲覧させていいのかと,それから請求の拒否事由に当たるかどうかという判断が可能な程度の主張はほしいと。

もちろん裏づけ資料までは要らないということですが,その判断が可能になる程度の理由の明示は必要ということになりますので,今,おっしゃった信託財産の状況を知りたいということでは余りに広すぎるので,もう少し具体的な理由というのを言う必要はあるのではないかという気がいたします。程度問題ではありますが,それだと全部という感じがするんですけどね。

● そういうことですと,この理由を明示してというのを入れるのに,まず反対したいということなんですが。いろいろな信託がありますけれども,一番素朴な形の信託でいくと,やっぱり受益者がこの信託財産の現状を知りたいんだというのは当然の話なので,それ以上のことを言え,言わないと見せないぞということになると,大変この,理由の明示がないから見せないということで,何かこう悪用される恐れがあると。


これは立派な信託銀行のレベルの話ではなくて,もっと個人レベルで信託がたくさん利用されるということになった場合に,大変困るのではないかと。やっぱりデフォルト・ルールとして,そういう理由,財産の現状を知りたい,今どんな財産がどれだけあるのか知りたいんだという,そういう程度の理由で十分だという,そういう制度の方がいいと思うんですけれども,いかがでしょう。

● ただ,今どういう信託財産があるかというのは,信託財産状況に関する書類として1の(3)に当たりまして--。

● 年に1回しか来ないんですよね。

● 年に1回,まあ未満でもいいわけでございまして,それを見ることによって,あとはその説明,説明というか状況報告義務を求めるということによって,相当程度カバーできるんではないかなという気がいたしますので。


しかも会社法とか,中間法人法でも理由の明示ということは要求されていますので,信託だけ理由の明示がなくても一切財産状況の書類が見れるというのは,少し幅が広すぎるんじゃないかという気がしているところでございます。


● その点は,例えばほかの会社法でこういう場合に拒絶事由があると。それを参考に決めるという,そういう書き方がされていて,それを広げる方向で何か検討されているようなんですが,その点も含めてですね,何か全体に拒否的な方向に行き過ぎていないかという心配があるんですが。


● 最後の点は,必ずしも広げるのがいいと我々が思っているわけではなくて,そこはまさに甲案,乙案,丙案で御議論ぜひともいただきたいところで,確かに乙案は先ほど御支持があったものは,あるいは甲案でもそうですが,広げるという方向に,方向性としてはあるわけでございますが,果たしてそれでいいのかという観点から,御議論いただければというふうに思っているところでございます。


● もっともな趣旨が含まれていると思いますけれどもね。どういうのが一番--○○委員が言われているのも,帳簿閲覧請求権一般の問題としてさっきの3の(2)のところですけれども,これが1の(2)か,だから,もし1の(2)が全体を受けているとすれば広すぎるかもしれない。


信託財産の状況だけであれば,おっしゃることはそれなりに相当,妥当するような気もしますけれどもね。


● ええ,私もそんな気がします。

● 一応,今,○○幹事が言ったように,信託財産の状況に関しては,1の(3)があることはあるけれども--こういうのは--。

● もしかすると,想定する信託がやっぱり違うことによって,明示すべき理由の範囲が,それは個別の信託を前提にして考えなくちゃいけないと,変わるということを前提にすれば,同じような思いでいるのかなという気もいたします。


  つまり,今,○○委員がおっしゃっている話というのは,恐らく個人と個人の間でやられていて,信託財産が別にそんなにいっぱいあるとか,そういうような話ですとか,あるいは帳簿につきましてもものすごく多数に上ってというような,いわゆる商事的な理由ではない状況を考えれば,見たいですよという,なぜ見たいのかといえばそれはやっぱり心配だからだということなんだろうと思うんですけれども,見たいですよと言えば出すのは簡単ではないかと。


つまり今,信託財産に入っているのはこれとこれとかですね,その程度のことだから,それを見せる理由としては,つまりどの範囲かというのを限定するという趣旨も,この理由の明示には含まれているというふうなことのようなんですけれども,範囲を限定するといっても2つしかないんだから,あんまり限定する理由もないし,それであれば理由は,心配だからちょっと今どういう状況になっているのか,信託財産の内訳はどうなっているのか教えてくれ,というので足りるのではないかと言われれば,それはそうなのかもしれないなと。


  ただその信託についても,当然御存じのようにいろいろ違いまして,合同運用していたらどうかとか,そういうような条件がありますので,一般には入れますけれども,個別の当てはめでは,やっぱり解釈はそれぞれ事柄の性質に応じて変わってくるんだろうとは思います。そういう御理解では難しいのでございましょうか。

● 一番最初の質問が,そこにかかわるような質問だったんで,そういうような解釈ならば,こういう書き方でもいいかなというふうに思いますけれども。


● 確かに,つい我々もこの会社と同じようにたくさんの受益者がいて,またたくさんの財産が日々いろいろ変動してたり,複雑な信託を念頭に置いてこれを考えてきましたけれども,非常に単純な信託におけると,民事信託なんかの場合だったら,もうちょっとこの理由というものを,少なくとも判例が言っているよりは,緩く解する余地はあるんじゃないかという気はしますよね。まあ,そういうことで。

  はい,どうぞ。

● 今のことと関連するような話ですけれども,今も議論があったように,理由明示について,信託の性質に基づいてかなりリアルに会社に被害あるということであれば,それではいけないのかなという気がします。


そうすると恐らく会社法ですとか,あるいは中間法人が想定しているような規律ですとか,あるいはその最高裁の判例が示しているような規範とはちょっとやっぱりずれてくるのではないかなというふうな気がするんです。


それで弁護士会の方でもその議論をしていた中で,やはりここらあたりの規律というのは,会社ですとか中間法人とは大分やっぱり様相が違うのであろうと。


したがって,その解釈としては御指摘あったような,特に個人信託の場合にはそういったその解釈があり得るんではないかというようなこともあったところで,それはぜひそういった方向で整理していただけないかというふうに考えております。


  具体的には,実は今回御提案いただいた3の(1)のところで信託事務の処理の説明を求めることができるということになっていますので,この説明を求めていく中で,帳簿等の閲覧請求を求めることに多分なっていくのではないかなという気がしておりますけれども,そういったときに理由の明示をつい立てとして,特に個人信託の場合に受益者が困るような状況がないように,ぜひ規律をお願いできないかというふうに考えております。


  全体のここの枠組みとしては,多分閲覧を認めるかどうかということを考える際に,3段階ハードルというか検討するところがあるんじゃないかと思うんですけれども,今の理由の明示のところと,それから一定の拒否事由に該当するかどうかどうかというところと,それからあとは対象となる書類の範囲を制限するというところとの関係で,恐らくどこの段階でどういうふうに規律するのが一番切りわけとして適当なのかという問題かなという気はしておるんですけれども,ぜひ適切に切りわけができるような規律をお願いしたい。


理由の明示の点に関しては,それがないと拒絶事由の該当性が判断できないじゃないかというような議論があると思うんですけれども,それは恐らく拒絶事由として,どういった事由を設けるかということに絡んでくる問題かと思いますが,例えばこの検討課題の15の13ページの一番下あたりで御指摘いただいております,信託財産に属する債権に係る債務者の情報ですとか,知的財産権の信託におけるライセンス契約における内容等の取得については,これは理由云々という問題よりも,むしろ情報の性質にかかわる問題ではないかなという気がしておりまして,そうするとその理由の明示との関係は薄いんじゃないかという気もしますし,また会社法の規定の中では,競業者からの請求を排除するような規定もありますが,これも理由とはちょっと関係がないかな問いう気がしておりまして,そういった観点からもこの理由の明示の問題について,御検討いただけないかなと。


  ちなみに拒否事由に関しましては,会社法等の規定に基づいてというようなことが提案されておりますけれども,これは恐らく追っての御検討ということになろうかと思うんですけれども,競業については,例えばどういった形で競業を考えるのかとか,そういった点についてよくわからないというような議論が多少ありましたので,その点だけ御紹介しておきます。
  


それから,先ほどの13ページの下の中で,受託者の営業上の秘密ということがうたわれておるんですが,これについては多少弁護士会で意見交換した中でも,ちょっとなかなかピンと来ないというとあれですけれども,例えば債権の債務者情報ですとか,ライセンス契約の内容等については,これは受益者の立場から,それをある程度出さないことが受益者の立場からも利益になるということが想定されるのに対して,やや受益者の立場とは対立的な受託者の営業の秘密ということを保護するという点では,かなり慎重に御検討をお願いしたいというような意見がありましたので,ぜひその点についてはよろしくお願いしたいと思います。


  それから,あと14ページの甲案,乙案,丙案についてなんですが,これについては若干留保つきで丙案を支持したいと考えています。

甲案についてはここに記載してある合理的に認められる限度を越える請求ということがあったときには,こういうふうになりますと,なかなか基準として判断が難しい。


これは基本的には受託者の側で,これに該当するかどうかを判断することにとりあえずはなるということになると思いますので,ややこれでは受託者の方が拒絶しやすくなり過ぎないかということを懸念しております。


丙案についてですけれども,これは先ほどの知財の関係ですとかを考えるとこういったことはあり得るではないかというふうにかんがえております。


ただ,丙案の内容ですと,文書を開示,閲覧させるかどうかという問題,文書全体というような書き方のようにお見受けするんですけれども,文書によっては,文書自体は出すけれども,例えば氏名の欄を伏すとか,かぶせるとか,そういったことも対応としてはあり得ると思いますので,できるだけ拒絶事由ですとか,あるいはいろいろな法益を保護することとの関係で,配慮しなければならないというところは理解できるんですけれども,そういったできるだけ受益者の開示請求を認めるような形での規律をお願いできると助かるのかなと考えております。
  以上です。


● どうもありがとうございました。
  ○○委員。

● 内容的なことではなくて,表現だけの問題なんですが,11ページの2,受託者の情報提供義務という見出しでございます。


これは試案の段階では,信託財産の状況に関する報告義務となっていたのが,非常にこう一般的な見出しになっている。その結果,3の(1)あるいは(2)との関係が,この2の見出しとどういう関係にあるのかというのがちょっとわかりにくい。


さらに言うと,2に情報提供義務という見出しをつけることによって制限的な影響はないだろうかと。


これだけだ,というふうになってしまわないだろうかという気がいたしますので,この見出しに変えられた御趣旨をお聞かせいただくとともに,もう少し整理した方がいいんじゃないかなというふうに思います。


● 今回お渡ししている資料では,見ておわかりになるとおり,変更箇所については二重下線を引いておりまして,今の見出しのところに引いておらないんですが,恐らく何か貼りつける際に間違えたというか,試案の表現がそのまま書いていたつもりだったのですが,いつの間にか間違っていたようでして,試案のとおりでございます。変更したつもりのところは,すべて傍線を引いてわかりやすくしているつもりでございます。申しわけございませんでした。


● 私の持っている資料が間違っているのかもしれませんが--。
  それはそれで結構なんですが,その結果今申し上げたように,一般的なことで情報提供義務という大きな見出しにすることに伴って,それがかえって混乱が生じないかということなんですが。


● 試案のとおり,信託財産の状況に関すると。報告義務という見出しを変えます。元に戻します。


● 元に戻すということですね。はい,わかりました。
● といいますか,変えたつもりではなかったということです。すみません。


● 先ほど14ページの甲,乙,丙というふうに3つ案がございます。これもさっき○○幹事から説明がありましたように,事務局としてはそれなりに考え方があるようですけれども,皆さんの御意見をむしろ,ある程度の御意見を伺っておきたいということですので,もし御意見があればお願いしたいと思いますが。


○○委員は乙案を主張され,それから○○幹事は丙案を主張されたという状況でございますが--。いかがでしょうか。

  そうですね,もしあれでしたら事務局の考え方を。

● まず甲案につきましてですけれども,まず1つは会社法にない閲覧拒否事由を加えることが適当かという問題があると。


それから甲案によりますときは,最終的に先ほど御指摘があったとおり閲覧対象から外れるかどうかというのは,現実に閲覧請求がされた上で,閲覧拒否事由に当たるかどうかが判断されるまでは明らかではないということになりますと,受託者,その信託の他の受益者ですとか,あるいは信託外の第三者,信託債権の債務者などにとっての予見可能性という点からは,どういう書類が外れるのかは実際やってもらわないとわからないという点で,いささか難点があるんじゃないかという気がしているところでございます。


  それから乙案についても同様に,会社法にない閲覧制限事由を加えるということの問題と,甲案と異なりまして,信託行為の定めによる閲覧制限を認めるという点は,受益者の閲覧請求権の制限について,委託者の意思も反映できるという点で妥当とは思われるんですが,他方,一定の重要な書類については,この閲覧制限は認められず閲覧に供されてしまうという点がございますので,やはり予見可能性という点からはそれに反する嫌いがあるということと,なお信託行為の定めのみによって閲覧制限ができるといたしますと,受益者に閲覧請求権に対する配慮にやはり欠けるところがあるのではないかという気がするわけでございます。


  丙案でございますが,甲案と乙案と異なりまして,会社法にはない閲覧拒否事由を加えるという問題点はございませんことと,乙案と異なりまして,信託行為の定めによる閲覧制限のためには,受益者の個別の同意をも必要とするとしておりますので,委託者の意思にも受益者の意思にも,利益にも配慮した内容となっております。


もっとも乙案と同様に,一定の重要な書類については,この閲覧制限が認められないわけですが,最後に書いてあります当該請求によって,受益者以外の第三者の利益を害する恐れのある情報の記載された文書につきましては,その重要性ということではなくて,受益者の同意をもって,あらかじめ一律に閲覧制限を対象としていくことができますので,予見可能性という点からもすぐれているのではないかという気がするわけでございます。


総じて受益者らと受託者,信託以外の第三者の利害調整がバランスよく図られる内容と,丙案はなっていると思われるのが,事務局の考え方ということでございます。


● いかがでしょうか。
  ○○委員 


● ちょっと確認なんですけれども,丙案のところの先ほどの御説明で,信託行為の定めで委託者の方の意思をと,受益者の個別の同意によって受益者の意思をということですけれども,当然自益信託であれば,信託契約に書いてあればいいということですね。


● 要するに,信託契約の設定と合わせてこういう同意もされているというふうに,2つの契約があったと見ることができます。その辺は大丈夫と思います。

● あるいは,まだ皆さんの御意見が必ずしも,考慮中ということなのかもしれませんが。


それでは,ちょっとまだ皆さんの意見が十分固まっていないということだと思いますので,この点はもう一度いずれ確認したいと思います。


  先ほど説明があったほかの点はいかがでしょうか。そうしますと,検査役の選任の請求はこれでよろしいでしょうか。


  それでは,特に反対はないというふうに判断いたしますので,ここまでは基本的に承認をいただいたと。さっきの甲乙丙に関しては,もう一度ぐらい御意見を伺う機会を設けたいと思います。

  それでは,次にいきましょうか。

● それでは次,第32から3つほどでございますが,まず19ページの費用の補償請求権のところでございます。

  本日は,この中で提案2の受益者から費用の補償を受ける権利についてのみ,御審議願いたいという趣旨でございまして,その上で後ほどまた全体について改めて御提案申し上げます。


  パブリック・コメントの結果というのは,甲・乙案というのが数の上でも,実質的にもほぼ同数にわかれております。それぞれの案を支持する理由として挙げられている意見の要旨は,この20ページから21ページのとおりでございますが,総括して言いますと,受益者の補償債務というのが,受益者が信託の利益を享受する反面として負担されるべき性質のものであるという甲案的な考え方をとるか,債務の負担に関する一般原則に照らして信託行為の当事者ではない受益者が,当然に補償債務を負担するというのは不自然であるという乙案的な考え方をとるかというところであろうと思われます。


なお,資料21ページの太字2に書きましたとおり,この甲案,乙案以外に仮に甲案がされない場合にはという留保も付したものもございますが,その上で信託行為に定められるときは受益者から補償を受ける権利を有するものとすべきであると。

補足説明の注に書いておきましたが,旧乙案の見解を支持するものも複数ございました。以上のようなパブリック・コメントの結果を踏まえまして,いずれの考え方を採用すべきか御審議いただきたいと思います。


  次に,第37の方に移りますが,受託者の解任につきましてでございますが,委託者及び受益者に自由な解任権を認める試案に反対する少数意見もありましたが,パブリック・コメントの大多数の意見は,試案に基本的に賛成するというものでございます。


もっとも,裁判所に対する受託者の解任請求の要件はより厳格化されてよくて,軽微な任務違反についてまで解任権を付与するのは妥当でない,との意見がございました。


現行法の47条の任務違反につきましても,ささいなミスや怠慢や不正確な行為については,解任事由に当たらないと解されております。


そこで,このような理解を正確に反映すべく,裁判所による解任事由に当たるためには,任務に違反したことだけでは足りず,その結果として信託財産に著しい損害を与えたことが必要であると,いうことを明記するように試案を改めることを提案しております。


  さらにパブリック・コメントにおきましては,多数の一般投資家を対象とする金融商品の場合には,受益者に対しての評価はさまざまなものになると考えられることから,一部の受益者による解任の可能性は回避すべきであって,一部の者からの裁判所に対する解任請求権についても,一定の制約が課されるべきであるという意見がございました。


  しかし,考えてみますと,受益者が多数による場合におきまして,委託者との合意による解任権を行使するには,そもそも原則として全員の同意を要するものでありますし,この自由な解任権の規律というのは,1(3)のとおり任意規定でございまして,信託行為の定めをもって受託者の解任のためには一定の非違行為を必要とするとか,受託者自身の同意を必要とするというような制限を課すことも可能でございます。

また,裁判所に対する解任請求権につきましても,解任事由があるとされるためには一定の重要な事実が必要とされることにかんがみますと,この提案のもとでも,金融商品のスキームの安定性が損なわれるとの懸念は当たらないと思われます。


  なお,辞任に関しましては,パブリック・コメントの大多数が試案に賛成する意見でございましたので,試案の規律をそのまま維持することとしたいと考えております。


  次に,第39の前受託者の義務というところでございますが,試案につきましては以下の2点を除きまして,賛成意見が大多数を占めましたので,以下の2点につきまして,変更すべきとの意見がなければ,試案をそのまま維持することとしたいと考えております。


  第1点は,この試案と同じ文言でございますが,1の(1),2の(1),それから3の(2)におきまして,前受託者等の受益者及び他の受託者に対する通知義務,これをこの試案ではデフォルト・ルールとしているわけでございますが,これを強行規定とすべきであるという意見がございました。


しかし,受託者に通知義務を課した趣旨というのは,受託者が欠けた場合におきまして,通常は受益者や他の受託者には速やかに新受託者を選任して,信託財産を適切に管理処分させる必要性があるということに配慮したものでございまして,そうすると,信託行為においてあらかじめ受託者が欠ける事態に備えて,後継の受託者を定めているような場合には,このような必要性は既に満たされていると言えるわけでございます。


それにもかかわらず,通知費用の負担をあえて信託財産に課してまで,他の委託者,場合によっては多数に及び得る受益者に対する通知を義務づける必要はないものと思われますので,試案を維持して任意規定にすることを提案するものでございます。


  第2点は,試案の1(1)につきまして,受益者以外の者に受託者の解任権が付与されている場合に,解任された受託者ではなくて,解任権者が受託者に通知することが期待されるのであって,解任されたものが通知することは期待されないのだから,解任された前受託者に通知義務を課すのは適当でない,という御意見がございました。


しかし,この意見のもとにおきましても,裁判所による解任の場合に誰が通知するのかという問題が残ります上に,信託行為によって解任権が付与された第三者が解任権を行使する場合には,解任事由も当該信託行為において定められるべきところでございますが,裁判所によって解任される場合と異なって,必ずしもその受託者に重大な非違行為があった場合には限られないわけですので,通知はおよそ期待できないとまでは言い切れるかは疑問がないわけではございません。

  それから,解任権者は受益者や他の受託者を把握しているとは限りませんので,解任権者に通知義務を課すといたしますと,多大な負担を課すことになったり,実効的な通知が困難になる恐れもございます。


また必要があれば,解任権を付与する信託法の定めにおいて,解任権者に通知義務があることを規定することで,対処することも可能でございます。


  以上の点をかんがみますと,通知義務のデフォルト・ルールにつきましては,解任の場合にも前受託者に義務づけるということが相当で思われるということで,そのまま試案を維持することを提案するものでございます。
  以上でございます。

● それでは,ここまでまた御議論いただきます。
  いかがでしょうか。それではですね,皆さんから御意見を伺いますが,きょう欠席された○○委員から第32の受益者に対する補償請求権についての意見を書面でいただいておりますので,ちょっとそれを読ませていただきます。

● それは○○関係官の方から御紹介させていただきます。


● それでは,私の方から御紹介させていただきます。文章をそのまま読ませていただきます。


  受益者に対する補償請求権について,我が国では現行信託法36条のもとでそれが認められており,ただし放棄可能ということの解釈によって,実際にはその意味を失う可能性があるということだと理解しております。


今次改正において,この問題が焦点の1つとなっており,既に私はみずからの意見を繰り返し述べているところですが,ここに再度申し上げる機会をいただければ幸いです。


  受益者に対する補償請求権は,英米信託法では認められないものであり,それは信託の本質にかかわるものです。それは次のような意味です。


受益者に終局的なリスク,無限責任が及ぶようであれば,勢い受益者は信託の運用に口を出したくなる,あるいは出さざるを得なくなり,それは共同事業であってもはや信託ではなく,英米法ではパートナーシップと見なされます。


だからこそ,受益者にも無限責任が及ぶことが認められることになります。繰り返しになりますが,これは信託ではありません。


仮に,受益者に終局的なリスク,無限責任が及ぶのに,受益者には一切口を出させないということであれば,信託はもっとも危険なスキームになります。


会社よりもリミテッド・パートナーシップよりも危険なものになります。投資スキームとしてばかりではなく,民事的な関係でも同じく危険なものであって,全財産を裁判所の監督のない後見人に委ねるようなものです。


  以上を要約すると,信託のあり方について,日本独自のことを考えるのは一般論としては否定しませんが,受益者に対する補償請求権は,概念的に信託というものの本質にかかわる点であり,しかも実際上も信託に対する不信を抱かせるような利用法に道を開くものであって,補償請求権なしということを明示するような改正が強く望まれることを申し上げます。御高配のほどよろしくお願いいたします。
  以上です。


● 以上のような意見が出ましたので御紹介します。
  それでは皆さんの方から,御意見をいただけたらと思いますが,いかがでしょうか。

  ○○委員。
● 私の方も,この点に関しましては繰り返し申し上げていますので,そんなに追加で申し上げることもないんですけれども,先ほど○○委員の方からの御意見ということで紹介されました,例えば共同で事業を行うようなものについては,パートナーシップというふうに見なされて,それはトラストではありませんと,そういうことから補償請求権はないんです,ということですけれども,日本における信託といいますのは,○○委員がおっしゃっている信託というのも当然ありますし,もう何回も言っていますけれども,土地信託みたいな形で共同の事業的な形で進める信託もあると。


要するに,かなり受益者の意思というのが反映されて,指図等を受けるようなものもあると。


なおかつ,特定金銭信託等については,運用の指図そのものを受益者が行うというものもあります。

そういう観点からすると,○○委員のいう英米法においては補償請求権があるということではないというふうに思っておりまして,それを日本に置きかえた場合については,受益者に対して補償請求権があってもそこはおかしくないんではないかなというふうに考えております。
  以上です。

● ほかにいかがでしょうか。この部会--。
  ○○幹事,どうぞ。


● 私もパブリック・コメントを経てなお意見は変わらないということで,以前にかなり長い時間をちょうだいして説明をさせていただいたかと思いますけれども,私自身は結論として,その○○委員の御見解として示されたところにやはり賛成で,乙案の方が適切ではないかと。


ただ,確かに共同事業的なあるいは受益者が指図をするというタイプのものもおよそ信託として認められないかどうかというと,そこは私自身はかなり疑念を持っておりますけれども,どちらがあるべき,あるいは典型的な信託像なのかというふうに考えたときには,受益者が指図をし,共同事業的なものはかなり特別なものではないかと。

またそういったときは,まさにみずから信託行為にかかわっており,その中で対応していくものでしょうし,乙案の立場によっても補償請求は最終的に認められるという点ではかわりがないのではないかと,いうふうに思っております。


  パブリック・コメントの中で寄せられた各種の理由につきましても,ざっと申し上げますと,甲案支持の理由として出されているところは,利益を享受する受益者が負担すべきであるという利益を得る者が損失もという報償責任的な考えかというのは,単純にそういうことではなく,指揮命令があるとか,やはり一定のコントロールを及ぼしているという場合にこそ認められるものではないかと思われますし,第2点目の受託者がリスクをコントロールできない場合があるということについても,より受益者の方がコントロールできるというのが信託なのかというと,そうではないだろうと思われます。


  第3点につきましては,これはむしろ別途手当てをすると。最終的には信託の終了に向けて各種の手当てを講じていくということですので,ここの部分は十分な手当てが図られると思われますし,また,第4点目で出されている受益者間の公平を害するということですが,むしろ指図があるような共同事業的なという場合の受益者を考えますと,そういう能動的な受益者と受動的な受益者がいるときに,一律に同じように補償債務が負わされるということの方がかえって不公平ではないか,というふうにも思われます。


そもそも基本的な考え方が違うところかと思われますから,ある意味水かけ論かもしれませんけれども,やはりパブリック・コメントを経てなお,乙案の方が適切ではないかというふうに考えております。


● ほかにいかがでしょうか。
  ○○委員。

● 確認をさせていただきたいんですけれども,そもそも私どもの立場としては,甲案支持ということで専ら議論あるところが,ここに書かれている理由の1のところでありますけれども,それはちょっとさておきですね,2のその他意見について出されたものについて,ちょっと前に議論が出たのかもしれませんけれども,ちょっと確認をしたいんですけれども。


  すなわち信託行為で負担をするということを書いた場合に,それは例えば受益権が譲渡されたとき,そうしたときにその譲受人というのは,当然に補償債務を負うのかどうかということですけれども。


民法でいくと債務引受になりますから,なかなか当然にということにはならないとは思いますけれども,ここに書かれている前提となっているのはそれのどちらなのかと。


仮に,そうではないと,単に自益信託だから信託契約にサインをしたわけだから,当然別途の合意と同様に補償債務を負っているだけであって,受益権の譲受人はそうではないというような,もし整理になるのであれば,逆に2の御解説の「その反面として,乙案を支持する立場から--」というところで,「信託行為に定めがある場合だけでは足りず」というところがちょっとよく理解できなくなってしまうわけで,何とならば別に,信託行為,少なくとも受益権である場合は,別にその別途の合意というのは信託行為に書かれようが,別途の合意であろうが,別途の契約であればそれは意思の合致があるわけですから,乙案をとったとしても,その合意がある限りにおいては,信託行為が定めがあった場合には,自益信託について補償債務を負うということが1つの整理ではないのかなというふうに思っておりまして。


ちょっとこの点についてお尋ねしております。仮に,もし受益権の承継に伴って,補償債務が当然に承継されるということであれば,甲案と乙案のその違いというのが,非常に隣接的になるのではないかなというふうに思いました。

● はい。
● 受益権譲渡の場合の考え方で,質問と1対1で対応しているかどうかわかりませんが,まず信託行為の定めを置いた場合に補償義務が生ずるというのは,これは何度も言うことでございますが,受益権の中に権利義務が含まれる,一体の物となると。


そうしますと,受益権が譲渡されれば補償債務もくっついていきまして,新受益者が補償債務を承継すると。


そのかわり,前受益者は特段の手当てをしない限り,補償債務を免れるという形になると思います。


これに対しまして,個別の合意によって補償義務を負担するということになりますと,受益権の譲渡があったからといって,新受益者が補償義務を負ういわれはないわけでございまして,別途合意をしない限り新受益者は補償義務を負わない。


そのかわり,前の受益者は譲渡したからといって,責任を免れるものではない。そのような結論になるというのが,我々の理解でございます。


● 乙案にとってもそういう--。
● 乙案がそうなるわけですね。乙案がこうおっしゃったように別途の合意ですから,譲渡人は残るけれども譲受人はないということになります。


● ほかにいかがでしょうか。
  私の理解では,この部会の中では今まで御発言いただいた方の中では,甲案の支持よりも乙案の方が多かったように思いますが,そういう理解でよろしいでしょうか。


  まだこれは恐らく,○○委員あるいは○○委員,甲案の方がいいという御意見をきょうも表明されましたが,それがパブリック・コメントの中は半々だったかもしれませんけれども,そのパブリック・コメントを踏まえた上でも,きょうは○○幹事が乙案の方が適当であるという意見を表明されました。

ほかの方々は,特に御意見を判明されませんでしたけれども,乙案が適当であるという御意見だというふうに理解させていただいてよろしいでしょうか。


  それじゃあ,これはきょう最終的な決定をするというわけではございませんけれども,いろいろな後のたてつけというんでしょうか,ほかの関連もありまして,放棄のところとかいろいろなところに影響しますので,基本的には乙案をベースにしてこれからほかの点も詰めていきたいというふうに思います。


よろしいでしょうか。
  ほかの点については,いかがでございましょう。今の32が一番大きな争点の1つだったわけですが,そこは解決したとして,37,39あたりはいかがでしょうか。


  これも先ほど一応事務局から説明がありましたが,その説明を了承するということでよろしゅうございますか。


  じゃあ,そういうことで37,39は御承認いただいたというふうに考えたいと思います。

  それでは先にいきましょうか。
● では次は,受益権の譲渡と消滅時効につきまして,御説明を申し上げます。
  第48,27ページからでございます。試案につきましては,次にあります2点を除きまして,賛成意見が大多数を占めましたので,これから申し上げます点について御異論がなければ,試案をそのまま維持するということとしたいと思います。

  まず,試案の3に関しまして,受益権の譲渡の場合においても,異議をとどめない承諾に抗弁切断の効果を認めるべきであるという意見がございました。

しかし,受益権の性質を権利義務の総体と位置づけた場合というか,今の一応のまとめですと,権利の相対と位置づけるという方向性でございますが,その場合でも単純な指名債権の場合と異なりまして,受益権というのは性質・内容の異なる各種の権利を包含するものでございますので,契約上の地位の移転の場合に準じまして,抗弁切断の効力を付与しないということも十分にあり得ると思われます。

また,仮に承諾に異議をとどめない限り抗弁が切断とされるといたしますと,受託者としては抗弁を承継させるためには,受益権の包含する権利総てに関して,いちいち異議をとどめる必要があることになりまして,受託者に相応の負担を課すことになると思われます。


また,異議をとどめない限り抗弁が切断されるとしますと,例えば信託行為が無効であって受益権が発生しない場合におきましても,受託者はその瑕疵を対抗することができないということになりまして,そのような結論というのは受益証券の有因性となじまないという指摘があり得るところでございます。


  これらの事情にかんがみますと,受益権譲渡の場合には,受託者の抗弁は常に承継されるとの試案の考え方が相当であって,反対意見は採用しないとすることでよいと思われるがいかがでしょうか,というのが第1点でございます。


  次に,試案の1の(2)につきまして,受益権の譲渡に関する信託行為の別段の定めを対抗できない第三者の要件について,善意に加えて無重過失,重過失がないことを要請すべきであるとの意見がございました。


ところで,この第三者について,善意のみならず無重過失が必要とされるという考え方自体には異論はございません。


しかし,指名債権の譲渡に関する民法466条2項におきまして,譲渡禁止特約を対抗できない第三者に当たるためには,善意のみならず無重過失を要すると判例上解されておりますが,その上で同項は現代語化された後も,善意とのみ規定されておりまして,そうしますと試案のとおり,善意とのみに規律しても,ここに無重過失まで読み込むことは当然に可能でありますし,民法の規定にも平仄が合うと思います。


そこで,試案を維持して無重過失の要件を明文化しないということでよろしいのではないかと思われます。


以上につきまして,御異論がなければ原案維持ということにしたいと思います。

  次に,29ページの消滅時効の点でございますが,試案につきまして,次の3点を除いて賛成意見が大勢を占めております。

  まず,第1に残余財産に関する権利の消滅時効に関する試案の2につきまして,信託終了後の帰属権利者の権利に関しては,残余財産が金銭以外の財産権である場合には,帰属権利者に所有権が移転して,帰属権利者が所有権に基づく物権的請求権を有することになりますが,物権的請求権が消滅時効にかかるか否かについては,消極的に解する見解が有力であるという疑問の指摘がございました。


試案におきまして,消滅時効にかかる残余財産分配請求権として観念しておりましたものは,あくまでも受益債権と同列に論ずべきものでありまして,つまり債権的な信託財産の給付請求権でありましたが,その趣旨を明確にするためには,試案では残余財産に関する権利としておりましたところを,残余財産の給付に関する債権と改めて明確化してはどうかと考えるものでございます。

  次に,試案の1(2)につきまして,通知だけではなくて権利行使の催告も必要とすべきであるという意見がございました。しかし,受益債権の消滅というのは,あくまでも消滅時効の援用によって生ずるものでございまして,通知に対する受益者の不回答によって生ずるものではありませんので,権利消滅の前提として権利行使の催告を要するという,論理的な関係にはないと言えます。


また,受託者にこのような通知義務を要求しましたのは,受益者に対する忠実義務ないし公平義務を負っている受託者の地位にかんがみまして,本来禁止されるべきものとは言えない時効援用権に付随して,いわば最低限の義務を課したにとどまりまして,それ以上に受託者の負担を重くする必要性があるかは疑問でございます。


さらに受益債権の存在及び内容の通知に加えて,権利行使の催告まで行うということをするか否かによって,受益者の利益に大きな違いが生ずるとも考えがたいところでございます。


そこで,権利行使の催告も必要であるという意見は,採用しないということでよろしいのではないかと思われますが,御意見を賜れればと存じます。


  最後に,1の(3)に関しまして,受益者の所在不明以外に正当な理由があるという場合は想定できないから,正当な理由は削除すべきであるという意見がございました。


しかし,この資料の31ページの①,②で挙げた事例など,事情のいかんによりましては,常に受益者に対する通知義務を課すことが相当ではないと思われる場合もあるわけでございまして,そうしますと,所在不明以外にも正当な理由がある場合には通知不要とする規律を設けることに合理性があると考えられます。

そこで,正当な理由がある場合を削除すべきとする意見につきましても,採用しないということでいきたいと考えておりますが,御意見を賜れればと存じます。
  以上でございます。


● それでは,ここまでで御意見を伺いたいと思います。
  はい。では,○○幹事。


● ここで聞くことではないのかもしれないんですが,48の受益権の譲渡の3の抗弁の話で確認させていただきたいんですが,これ有価証券が出た場合というのは,どう考えているんでしょうか。


有価証券のところを見たら,抗弁の話は全く書いていないように記憶しているんですけれども。


たしか67なんですけれども。この考え方は基本的にそのまま有価証券ででも当てはまるとお考えなんでしょうね,多分。つまり,理由づけが一体として地位を譲り受ける,包括承継的な性格なんだというんであれば,その譲り受けのやり方が有価証券であろうが,この民法の債権上と類似--類似と言ったのは,包括承継的な性格があるから,そう言ったんですけれども--それであろうが同じで,ただ善意取得についてだけ,証券の所持に基づく権利者としての推定が働くからそこは違うと。そういうふうに理解したんですが,それでよろしいんでしょうか。


● そういう御理解で結構かと存じます。
● 受益権の譲渡に関してはよろしいですか。
  それでは今,○○幹事が指摘されたのが,もちろんこの前提になっている理解ですけれども,それも含めまして,受益権の譲渡48についてを御承認いただいたというふうにしたいと思います。52の時効はいかがでしょうか。


若干の改正部分がありますけれども。
  はい,どうぞ。

● 本文については,これで結構かと思います。1つだけ御質問ないし御確認なんですが,31ページに正当な理由の例を2つ挙げておられますが,そのうちの第1の例の方なんですけれども,最終計算の承認行為があった後は云々とありますけれども,これは試案でいうと58信託の清算についての6の最終計算を指しているのでしょうか。


そうだとしますと,それに伴う免責の効果があることになると思いますが,それと時効との関係はどうなのかということです。

  もう1つ,この①についてより一般的なことなんですが,信託行為で定めることによって,その時効あるいは援用に伴う忠実義務の規範をどこまで自由に変えることができるのか,という問題がさらにあると思います。


そういう意味で,①については少しわかりにくいことがあると思いますので,御説明いただければと思います。


● はい,いかがでしょうか。
● ①の例というのは,おっしゃるとおりでたしかに信託行為でどのような定めを置いた場合に,それがそのまま正当な理由として認められるかどうかというところの1つの問題だろうと思います。


最終計算の局面のところで,確かに免責というのは入っておりますけれども,私どもの理解ではここでの免責は,若干範囲狭いものではないかというふうに考えておりまして,つまりどのような責任でも免責されるわけではない,ということになりますと,それと並存的にあらかじめ受託者が信託行為の中で消滅時効も--共益債権についてということになるんだろうと思いますけれども--定めておくということもあっていいのではないかなというふうに考えて,ここではとりあえず例に挙げたと。


つまり,そういうことを受託者サイドとして現実的にやるのではないかと,やり得るのかなということで,とりあえず書いたというところでございます。


  じゃあそれを越えて,今はこのような信託行為の歯どめを例に挙げたのですけれども,じゃあ一体どのような例がそのほかにも許容されるかというのは,ちょっとなかなか一概には申し上げにくいところはありまして。信託行為で消滅時効の援用を自由にできますという例を挙げていないのは,何でもかんでもというわけにはいかないのだろうなというのが,1つの判断ではあった。


ただ,じゃあどのような条件でというところまでは,ちょっとまだ解釈に委ねざるを得ないのかなというようなところで考えていたということでございますが。


● 今の御説明の中で,最終決算に伴う免責の効果については,またその部分で具体的に検討すればよろしいかと思います。


それから,信託行為に定めれば何でもこの時効に関する規範を左右できる,というのは適当ではないという御説明は,私もそのとおりだと思うんですが,であればこそ,①の例というのよりも,もう少しほかの例の方がいいんじゃないかなという気がいたします。

● わかりました。これはちょっと適当な例に考える,変えるかどうかね。
  ほかに御意見ございますか。
  はい,どうぞ。


● 何回か出た話の蒸し返しのようで恐縮なんですが,これ消滅時効,時効消滅したときには,その弁済の事実があるにもかかわらず,それを証する資料がないという場合は別なんですけれども,弁済していないんだけれども期間が経過したということで,かつそれを消滅時効を援用したという場合には,その財産は信託財産ではなくなるんですか。


当該その受益者がそのときに給付する権利がなくなるだけ,給付を請求する権利がなくなるだけであって,信託財産であることの性質は変わらないんでしょうか。


● 一番端的に申しますと,受益債権について受益者が放棄したのと同じ状態になるんだと思っておりまして,そうしますと,信託財産性というのが失われるということではなくて,それに対して実質的な次順位の方が取り分をとられるということになっており,例えば残余財産として,残余財産を帰属権利者にいくとか,そういうような関係になるんだというふうに整理しております。


● それが適当だと思いますね。よろしいでしょうか。
  それでは,52の消滅時効のところも御承認をいただいたというふうに考えたいと思います。


  それでは,先にいきましょう。
● では,続きまして遺言信託と契約信託の問題,第63と第64についてでございます。


  まず第63の36ページ以下でございますが,パブリック・コメントによりますと,遺言による信託設定を許容する試案に対しては,1件反対意見がありましたが,それ以外は賛成意見であったということ。


それから3につきましては,受託者の選任請求に関するものでございますが,反対意見はなかったので,1,3についてはいずれも原案どおりとしたいと思っております。


問題は2でございますが,これはやはり実質的にも意見が同数にわかれたところでございます。


  ところで,この甲案と乙案,補足説明にもいろいろ書かせていただきましたが,ちょっと切り口を変えて御説明しますと,まず委託者の地位が相続になじむか否かという法的性質論から考えてみますと,資料の37ページのイ以下に書きましたとおり,遺言信託における委託者の地位は,その性質上相続になじまないという乙案のA説の考え方と,それから遺言信託における委託者の地位についても民法の一般原則と異なるところはなくて,その性質上は相続の対象となるという乙案B説の考え方,それから当然ながら甲案の考え方とに分けることができると思われます。


その上で,この乙案A説によりますと,委託者の意思を介した説明をするのではなくて,そもそも委託者の地位の相続性を否定してしまいますので,法律行為の当時者としての地位,例えば詐欺を理由とする取消権や信託財産の受託者への引き渡し義務といったものが観念できると思われますが,こういうものあるいは信託法上の法定帰属権利者としての地位も承継されないこととするのか,仮に相続される権利義務があるとすると,その区別の基準や承継の法的根拠--相続ではないとするとどういう根拠で承継されるのか--というような問題について解決する必要が生じてくると思われます。


  一方,委託者の地位の法的相続性を肯定する甲案と乙案のB説では,このような問題は生じてこないと思われるわけですが,この両者の結論としては,正反対となりますのは,法的性質論とは別に,受益者と委託者の相続人との利害関係にかんがみまして,委託者の通常の意思をどのように考えるかについての実質論からの違いから生ずるものと思われます。


つまり甲案におきましては,委託者の相続人も委託者の地位を相続により承継することを原則とした上で,受益者との利害対立の恐れを回避するために必要があるのであれば,被相続人としては,信託行為である遺言において委託者の権利を縮減ないし消滅させるという定めを置けば足りるというふうに考えるものと思われます。

これに対して乙案B説によりますと,委託者の相続人と受益者とは信託財産に関して類型的に利害が対立する関係がある,という理解を前提といたしまして,被相続人の合理的な意思というのは,委託者の相続人に委託者の地位を承継させないということを,類型的に意図しているとみるのが相当である,としまして,このように委託者の意思の推定のもとに,原則として委託者の死亡を契機として,法的帰属権利者としての地位以外の委託者の権利義務を喪失する,という定めが置かれていると,いわば擬制するものと言えると思われます。

  それから次に,委託者の相続人は委託者の権利義務を有しないことをデフォルト・ルールとします,結論において共通するこの乙案A説とB説でございますが,信託行為の定めによってデフォルト・ルールと異なる取り扱いをしようとする場合の説明の仕方が異なってくると考えられます。


つまり,乙案B説におきましては,委託者の地位の相続性自体は肯定するものでありますところ,委託者の相続人が委託者の地位を有しないことをデフォルト・ルールとするのは,あくまでも委託者の意思を推定したことによるものに過ぎませんので,委託者が信託行為である遺言において明示的に相続人は委託者の権利義務を有するということになるということ。


つまり,相続を契機として委託者の権利義務が消滅するということはない,ということを定めれば,この定めが優先しまして,民法の一般原則に戻って相続人が委託者の地位を承継することとなると。


このように被相続人の意思を介した説明が可能であると思われます。正確に申しますと,ここでの信託行為の定めは,権利の相続性という属性を決定しているのではなくて,相続されるべき権利の範囲を信託行為によって決定しているのでありまして,あとは一般的な相続のルールにのるというふうに考えているわけでございます。

  なお,パブリック・コメントにおきましては,乙案を支持する見解の中でも,このB説のように委託者の地位を相続性自体を否定するのではなくて,委託者の通常の意思を推定に根拠を求める見解が多かったという印象でございます。
 

 これに対しまして,乙案A説によりますと,そもそも相続性を否定しますので,委託者が信託行為である遺言におきまして,相続人に権利義務を付与すると定めた場合におきまして,遺言によっているにもかかわらず相続以外の理由,つまり第三者のためにする契約というような特殊な法律行為として相続人が委託者の権利義務を原始的に取得するのだというように説明すると思われます。


しかし,この考え方につきましては,かなり技巧的な法解釈をとることが妥当であるかどうか。あるいは私人が遺言によって裁判所に対する権利を創設することになるということになりますが,このようなことが説明可能であるのか。


仮に相続人が委託者の権利義務を欲しないときに,相続放棄ではないわけですので,いかなる方法が可能であるかなどの問題を解決する必要が生じてくるというふうに思われるところでございます。


以上が乙案A説の場合の難点という感触でございます。
  次に,第64の契約による私益信託における委託者の相続人の権利義務につきましてでございますが,これも同様に甲案,乙案を挙げておりますけれども,パブリック・コメントの結果といたしましては,委託者の信託上の地位の相続承継を原則として肯定する甲案の方が優勢でございました。

それぞれの理由として述べているところは,この39ページに書かせていただいているとおりでございます。これも法的性質論から分析いたしますと,この資料の41ページの(3)というところに書いてございますけれども,委託者の地位はその性質上相続性になじまないとする乙案のA説の考え方と,相続性自体は問題ないと,対象となるという乙案B説の考え方と,甲案の考え方にわかれるということになると思います。

  なお,この資料におきましては,42ページの「いずれにしても--」以下に書いているところでございますが,これは基本的な視点でございますけれども,委託者の地位の相続性という法的性質論に関する限りは,遺言信託の場合と契約信託の場合とで特段区別される点はなくて,両者は統一的に解されるべきであると考えているわけでございます。


委託者の地位がその性質上,相続になじむかどうかということ。つまり,帰属上の一身専属性があるかどうかということは,設定方法によって変わることはなくて,あとは委託者の相続人と受益者との利害関係の相反性という実質的な点を考慮して,相続されるかどうかを決定することになると考えられるわけでございます。


その上で,委託者の地位の相続性を否定する乙案のA説の考え方によりますと,すべての権利義務の承継が否定されるのか,承継される権利義務があるとすればその区別や承継の法的根拠は何かという問題が生ずることにつきまして,先ほど述べさせていただいたとおりでございます。
 

 次に,委託者の地位の相続性を肯定する点において共通する甲案と乙案B説が,結論として正反対になることにつきましても,性質論から離れた実質論から生じるものであるということは,先ほど述べたところと同様でございます。


  また,委託者の相続人が権利義務を有しないことをデフォルト・ルールとする結論において共通する乙案のA説とB説におきまして,信託行為の定めによって異なる取り扱いをする場合の説明の仕方が異なってくるということ。

特に原則として相続性を否定した上で,しかし契約信託において権利義務を付与するという定めをした場合に,若干特殊な説明を必要とすることになるという点も,遺言信託に関して述べたところと同様でございます。

  なお,特に遺言信託ではなくて,契約信託の場合におきまして,乙案B説のような考え方,つまり法的性質論としては地位の相続性を肯定するものの,実質的観点から委託者の地位の承継を否定するという考え方,これが相当であるかどうかという点につきましては,このような前提となる理解が,自益信託の場合にも妥当するのかどうか,他益信託の場合についても信託の経済的利害,信託が経済的利益に基づいて設定されている場合ですとか,公益,準公益や扶養目的として設定されている場合には,相続人による権利行使を認める方が目的達成のためには望ましく,委託者自身にもかなうのではないか。


あるいは委託者の地位の承継を実質的に否定する考え方というのは,委託者の地位の移転を認める考え方との平仄が果たして合うのであろうか。


さらに言えば,委託者の相続人による不適切な権利行使が懸念されるという点は,遺言信託ではなくて契約による信託による場合においても,委託者の地位の相続を意図しないことが一般的であると類型的に推定するに足りるほどの社会的事実があるものと言えるか等の問題点をクリアする必要があると思われるところでございます。


これが契約の場合には,特に乙案をとった場合に特に検討する必要があると思われる点についてのお話でございます。


  次に,第53のところに戻りますが,試案に対しましては以下の3点を除きまして,賛成意見が大勢を占めております。32ページ以下でございます。


  まず試案では,委託者の権利を基本的に現行法よりも後退させる考え方をとっているのに対しまして,これとは逆に,委託者に原則として従来どおりの権利を残すべきであるとの意見がございました。


もともと信託においては,委託者が受託者を選任したのであって,信認関係も委託者と受託者間にあったのだから委託者の方が監督に適切である,というような理由を挙げるものでございます。

しかし,受益者の保護をいう点につきましては,試案の考え方におきましても,委託者としては信託行為に定めを設けて監督的権能を留保することができるということに加えまして,法定代理人が受益者の利益を代弁することも可能であると思われます。


また,受託者が委託者との間においても信認関係を有することを否定するわけではないのですが,委託者と受益者の意見衝突を避けて,信託の運営を効率化させるためには,委託者の権利と受益者の権利のいずれか一方を尊重する選択をせざるを得ないわけでございますが,信託の設定後は受益者こそが当該信託にもっとも強い利害関係を有すると考えられることにかんがみますと,受益者の権利の方を後退させるのは適当ではなくて,委託者の権利の方を後退させる方が妥当であると思われます。

これらの事情にかんがみまして,試案の考え方を従来どおり維持したいと考えております。


  第2に,別表の権利のうち,4の説明請求権と6と12の差止請求権につきまして,原則として委託者にも付与すべきであると。

試案では,デフォルト・ルールとしてはなしとしておりましたが,デフォルト・ルールとしてありとすべきであるという意見がございました。


ところで,この6と12の差止請求権につきましては,資料34ページに書きました理由によりまして,試案どおり委託者には原則として付与しないということでよいと思われます。


これに対しまして,4の説明請求権につきましては,これまで原則として認めておりました21の信託財産に関する書類の閲覧請求権に加えて,この信託事務の処理の状況に関する報告を受ける権利というのを,原則として認めることによりまして,委託者としては信託財産の状況のみならず信託事務の処理の状況も合わせて,信託の概況全体を把握できることになりまして,信託目的の設定者によりふさわしい地位を有することになると思われます。


つまり,信託の委任的側面として信託事務の処理の状況の報告を受ける権利というのを認め,財産的側面として信託財産の状況に関する書類の閲覧請求権を原則として有する,ということになるわけでございます。

そこでこの4につきましては,試案を改めましてデフォルト・ルールとして,委託者が有する権利と位置づけるべきと考えるところでございます。


  第3に,委託者の地位の移転に関しまして,試案に明記しておりました信託当事者全員の合意を得て移転する方法に加えまして,信託行為の定めによって移転することもできることを明記すべきであると,いう意見がございました。


この資料でいいますと,本文の2に関するところでございますけれども,この意見につきましては,補足説明でも実は備考欄の注で付記していたところでございますが,信託行為の定めに従って委託者の地位の移転を否定する理由はないと思われますので,これを本文中に明記することとしてはどうかと考えるところでございます。

● それでは,委託者に関連する問題ですけれども,53からいかがでしょうか。
  

53のところは,ある意味で原案的というんでしょうか,修正も含めて原案という形で出ているわけですが,遺言信託のこの63の2のところ,甲案と乙案が出ておりますし,また64のところも契約による私益信託の場合においての,委託者の,相続人の権利義務です。


これも甲案と乙案がございますので,これは皆さんの御意見を伺って決めていきたいと考えております。


  私の記憶も余りはっきりはしませんけれども,私がまとめることに対して御異論があれば,また御異論いただきたいと思いますけれども。


  委託者の地位につきまして,遺言信託に関しては,これは最後の甲案,乙案をとるかとは別にですね,遺言信託の場合の相続人というのは遺言者,つまり信託を設定した遺言者としたがってまたさらに言えば受益者と,利害対立する関係にあるので,相続人には権利を与えない方がいいのではないかという御意見が多かったように思います。


そのときの法律構成の仕方として,ここはいろいろな御意見があったと思いますけれども,一切委託者の地位というものを相続しないんだと,遺言信託の場合ですけれどもね,そういう考え方と,これは今甲案ですが,それから乙案のように一応相続性を否定するわけではないけれども,遺言者の意思,委託者の意思というのは相続人に権利を与えないことだというふうに考えて,結局相続人には権利義務を与えないという立場と,両方あり得る。


今のが乙案のB説ですけれども,これは必ずしも十分ここでは御議論はいただいてないように思います。


しかし,まあ結論は今申し上げたように,少なくとも遺言信託の場合については,委託者の相続人には権利義務を与えない方がいいのではないかという御意見であったのではないかと思いますが,いかがでしょうか。


  今のまとめ方でよろしかったかな。
  どうぞ,では○○委員。

● 意見が出ないので,今の乙案B説に賛成します。これは遺言者の意思からすれば,相続人に承継させないと。そういう意思であると。


だから乙案のA説の方は,理屈がやっぱり難しくなってしまう。Bの方は信託行為の定めで承継させることもできるんだという,そういう設定ですから,大変合理的でいいかと思います。


● どうもありがとうございました。
  ほかに御意見ありますでしょうか。


  私も個人的には,乙案のB説がいいのではないかというふうに思います。ただ,その何かやっぱり規定が必要なのかなと。つまり,遺言の解釈だけで一般論として,相続性があるというのを前提でなるべく,だけど遺言者の意思を根拠にして,一般的な意思を根拠にして,委託者の相続人に委託者の権利義務を与えない,相続させないというわけですが。


何か規定が,そういうことを可能にする規定が信託法の中に必要なのかもしれない,というふうに思うんですね。単に解釈だけでそういけるかというと,ちょっとそこは危惧をしているところなんですが,この点についても何か御意見があればと思いますが。


  これはどうですかね。何か--。
● 事務局としても,遺言信託だったら当然そうだというふうに読み込むのはなかなか難しいので,乙案B説の場合でも,規定があった方がいいんではないかなという感触を持っているところでございます。


将来的には,法制的なことですが,そういう印象でございます。
● そういうことでよろしいですか。
  では,余り反対はなさそうでございますので,今の乙案のB説でいくということで,何か適当な規定も考える。

  生前のといいますか,契約による私益信託の場合の甲案,乙案はいかがでしょうか。パブリック・コメントとしては甲案の方が多かったということですね。

それから説明の仕方,それから実質を考えても,甲案の方が支持者が多かったようでございます。この部会では--ちょっと私もはっきり覚えておりませんけれども--甲案を積極的に否定される方は,そんなに多くはなかったように思いますね。

  じゃあ,どちらがいいかということを理由づけは結構ですけれども,御意見だけでもいただかないと方向が決まらない。

  指名してあれですけれども,○○幹事,いかがですか。

● 私は実を申しますと,遺言信託においても,そんなにA説がとれないものかなという感じがして,実を言うとそういう気はしておりまして,相続人が何らかの権利取得をするというのも,相続人という立場にある人にそのような権利義務を認めるということで,いろいろ説明はつくんじゃないかという気は,実はしておったのですが,しかし乙案であることにかわりはありませんので,B説でということであればB説でもよろしいかなというふうに思っております。


  ただ,恐らくA説かB説かというのは,この契約による設定の場合に,もう少し変わってくるところがあるのかなという気がしておりますが,ただ,そうですね--。


● 整合性を考えなくてはいけないところがあるかもしれませんね。

● はい。むしろ結論を先にありきなのかもしれませんけれども。
● そんな結論はありません,こちらとしては。


● 私自身は,もうちょっと理論的な説明のところをおきますと,かなり委託者の意思というものが相当に尊重されていい話ではないかという気がしておりまして,委託者自身がもう自分で終わりたいというのであれば終わらせ,別の人に移転したいというのであれば,別の人に移転させるということでいいのではないかというふうに考えておるのですけれども,ただ一方で,委託者の地位の移転のところで,他の委託者,受益者及び受託者の同意を得て移転することを妨げないということですから,基本的に全関係者の同意を得ないと誰に自分の地位を承継させたいかということは決められないという設定になっており,かつ大もとのところ,それをやりたくなければ信託行為のところであらかじめ定めておいて,委託者の一方的な意思表示によって移転できるとか,そういうふうに定めておくという法制なので,そう委託者自身の意思が最大限尊重されるというようなことには,全体としてなっていない。


ある程度制約がかかってくるという仕組みなんだろうと思っていまして,それが本当にいいのか,っていう気にはなっているのですが。そうですね--。


● それは遺言信託の場合は,遺言者が自分で信託を設定するときにあらわす意思であるから,それはその委託者の地位を後から移転する場合と違って,その意思だけを考えればいいということで済むわけですよね。

● 自分は抜けるわけですので,最初から別の人しかあり得ないわけですから,別の人に最初から設定できるという想定ですよね。


その際はやはり,相続人でしかやっぱりあり得ないかというと,第三者を指定してもよろしいわけでしょうか。委託者としての各種の監督権限はだれだれに与えるという,信託行為で決めてよろしいものでしょうか。


● 不可能じゃないかもしれないですね。
● 可能かどうかによって,また違ってくるのかなという気はしているんですけれども。


● 委託者の地位を承継させるというのは,それはちょっと違うと思いますけれども,信託行為の中で委託者が持っているような権限を,信託行為としてだれに与えるかというのは,全く不可能ではないような気がしますけれどもね。


● 恐らく今言われたのは,それこそ細分化すれば,損失てん補はこの人を委託者として,また解任の申立権はこの人を委託者として,というようなことが可能になるんだとすると,まだそこまでは言えないんだろうと思いますけれども。


● 委託者なのかどうかね,それが。いろいろな権限を与えるということは可能性があるような気がするけど--。


● そこを自由に決められるのであれば,もう相続も否定してしまって,意思一本でというふうに実は考えていたのですけれども,そこは委託者の地位としてはもちろん別で,ある程度相対であって,かつ全体として移っていくとすると,相続による承継をするというのでもいいのかなという程度なんですが。すみません,ごちゃごちゃと申し上げながら。

委託者の地位という点では,無理だろうということでしょうかね。ですから,自分はこれだけ持っているけど,相続人に対してはこの半分しか与えないとか,そんなことは基本的にできないという--。


● 個別的に委託者の地位の,地位に含まれるような各種の権利ございますけれども,そのうちの一部だけ個別に承継させるというのは,相続人でありましたり,それから個別の承継がもちろん念頭に置かれると思いますけれども,そういった切り売りのようなものではなくて,地位に基づいて各種の権利を法律上認めているということだと思いますので,ある程度の一体性というものが必要だという理解をしております。

● ありがとうございます。

● 最後,結論がよくわからなかった,契約の場合はどういうことになるんですか。関連するということだったと思いますけれども。


● いや,そうであるでの法理でよろしいんじゃないかと。

● ほかに何か御意見がございますでしょうか。
  どうぞ,○○委員。


● 私ども自身,別にどっちの案ということではないんですけれども,単なる関心なのかも,ちょっと御確認したいところがございまして,それは法律関係が複雑になるのか,ならないかということについて,僕の意見でもありましたのでちょっとその観点から御質問したいんですけれども。仮に承継された場合に,複数になると思うんですけれども,その複数,多分2人とか3人とか承継された場合に,監督権を行使する場合には共同して行うことになるんでしょうか。


それとも一種の共有というふうに考えて,監督権の行使というのが管理権みたいなものだから,おのおの1人ずつが係る監督権を行使できるというふうになるんでしょうか。


そうするのであれば,結局受託者からすると,監督権を行使される人がふえてしまうと,そういう単純な整理ということでよろしいんでしょうか。


● 準共有っていうふうになるんだと思いますけれどもね。だから全員でという。相続人が数人いたときには,委託者の地位の権利行使をするときには,まとまってしなくちゃいけないということになるんだと思います。


内部でどういうふうに決めるかはまた別ですけれどもね,多数決で決めたいかどうかは,その内部で決めることができると思いますけれども,合意がなければ準共有ということで説明すると思います。

● だから,受託者の側の権利を行使するときにも全員でという。

● 恐らく,例えば書類帳簿閲覧請求権みたいな,単独で行使しようと思えばできなくはないのがありますけれども,これもやっぱりまとまっていくんだというふうに思いますけどね。僕はそう思うけれども,どうなんですか。

● 基本になるのはそうかなと思いました。あとはちょっと考えたこともないんですが,その権利の性質によって果たして処分までいくものなのか,管理的なものなのかによってわかれてくるのかなと。


帳簿ぐらいですとどうでしょうかね。管理行為だったら過半数とか,あるいは保存行為だったら1人でもできるでしたでしょうか。そこら辺は権利の性質によってではないかなという気がいたします。

一概にはちょっと言えないですが。基本になるのはそうだと思います。

● 私が余りリードしては,本当にそれほど強いどっちかっていうわけじゃないので。皆さんの御意見を伺って決めたいと思いますけれども。今の何人かの御意見は,契約の場合は甲案で構わないという,そういう御意見だというふうに変わってよろしいでしょうか。

  それでは,規約64の場合には甲案で,それから遺言の場合には乙案のBという線でいければと思います。そういうふうに組み合わせをとったときに,先ほど○○幹事が言われた整合性の観点から言えば,一応相続性はあるというもとで扱いますので,整合性はとれているということになりますね。

  それでよければ,じゃあ残りの最後のところで。

● すみません,53に一言言いたいんですけれども,受託者の権利義務ということで,今回説明請求権をこのデフォルト・ルールで認めていただくということでいただいているんですけれども,先ほどちょっと話も出たところなんですけれども,帳簿閲覧請求権はどうでしょうかということなんですけれども。


これは委託者の立場で何か問題があったときに,とり得る対応を考えたときに,説明請求権を行使して説明を受けるというのが,まず第1段階あると思うんですけれども,その次にとり得る手段というのが,考えられるところが,受託者監督人を選任するか,あるいはその解任とかいうことになるとちょっとドラスティックなところにいきなりいってしまうような気がしておりまして。

できれば,その帳簿等を見られると助かるかなという気がしておるんですけれども。その点,もし御検討いただけると助かるかなという気がしますが。


● 今の説明請求権と帳簿のところございますけれども,こちらの方ではパブリック・コメントに付された意見も踏まえて,意見の方も説明を求めるという方だけで,帳簿などの細かい資料についての閲覧というのはさすがに行き過ぎだろうという,恐らくそういう御判断で意見が寄せられていましたものですから,それに従ったというのが1つと,もちろんそれに加えて,じゃあもう一歩進んだらどうかという点も問題になります。


  その点については,こちらでももちろん検討はしたわけなんですけれども,やはり信託についての状況を知りたい,ということについては,契約当事者ですので当然に付与しましょうという判断は適当だろうと思っているんですが,それに加えて,信託についてのその先にある帳簿ですとか細かいような資料になりますと,これについては,信託によってはかなりのものがいろいろ出てきたりしますので,信託が大きな信託,あるいは商事的な信託ということになるのかもしれませんけれども,そこにはやっぱり受託者の負担という点もあるのかもしれませんし,利害対立あるいはそういったもろもろの委託者の地位について後退させるとしたことについての,制度的な理由かと思うんですけれども,そういったものがあり,信託についての説明を求めるというのと,やはり帳簿その他のものについて閲覧あるいは謄写をさせるというのとでは扱いを変えた方が,今回の委託者に関する全体の考え方の中ではふさわしいのではないかなというふうに考えたというところでございますが。

● 今のは説明ではありますけれども,何かさらにもし御意見があれば。

● 全体の御意見のあれでしょうから,この点には余りこだわろうという気はないんですけれども,実際上のことを考えるとその方が助かるかなという気がちょっとしておるという,意見だけ申し上げさせていただければと思います。


● 御意見を伺って,もし検討してみて委託者も加えた方がいいということになれば,また提示いたしますが,一応原案ということでよろしいでしょうか。

  それじゃあ,次いきましょう。

● 受益者が複数の場合の権利の関係でございまして,提案1というのは,受益者が複数の場合における損失てん補請求権と原状回復請求権につきまして,資料ですと45ページの(注2)のとおりに,各請求権がいわゆる単独受益者権であるという考え方をとることを前提といたしまして,ある特定の任務違反行為について,受益者ごとに別々の請求権を行使した場合に,受託者がいずれの義務を履行すべきかという点について検討したものでございます。


ですから,(注2)が前提となっております。
  ところで,信託における受託者というのは,信託の本旨に従いまして,信託財産をあるべき姿で管理処分することが求められていると思われます。


そこで,みずからの任務違反行為によって信託財産に損失及び変更を生じさせた受託者としましては,受益者に対して信託財産をあるべき姿に戻すこと,すなわち信託財産の原状を回復することをその債務の内容として負担しているものと思われます。


そうすると,原状を回復請求権と損失てん補請求権とが競合して行使された場合は,原状回復請求ができないとする特別の事情がない限り,原状回復請求が優先するものと考えるのが相当であると思われるわけでございます。


そこで両者が競合して行使された場合には,提案1のとおり受託者は原則として原状回復義務を履行することを要しまして,その上でなお信託財産に損失が生じております場合には,資料45ページの(注1)に書きましたとおり,その損失についてさらに損失てん補義務を履行すべきこととなるとしてはどうかと考えるものでございます。


  次に,提案2でございますが,一部の受益者から損失てん補請求がされた受託者がとることのできる対応について,検討したものでございます。


原状回復の優先性を前提といたしますと,一部の受益者の損失てん補請求に応じて,受託者が損失てん補義務を履行してしまった場合に,他の受益者はもはや原状回復請求をすることができないとの考え方をとるのは妥当ではないと思われます。


その反面,受託者が自発的ではなくて請求に応じて,損失てん補義務を履行した場合においても,その後に原状回復請求権がなされれば,受託者は常に原状回復にも応じざるを得ないといたしますと,受託者は二重に義務履行を強いられることになりまして,酷に失すると思われるわけでございます。


そこで,一部の受益者から損失てん補請求権を受けた受託者は,この義務を二重に履行せざるを得なくなる事態を避けるために,提案2のとおり,他の受益者に対して原状回復請求をするかどうかを催告することができるといたしまして,催告に対して回答しない受益者は,もはや原状回復請求をすることはできなくなるとしてはどうかと考えているわけでございます。
  


ところで,視点を変えて付言いたしますと,受益者からの請求のされ方については,どちらもまだ何も請求されていない場合,それから一部の受益者から原状回復請求されている場合,全部の受益者から原状回復請求がされている場合,一部の受益者から損失てん補請求がされている場合,全部の受益者から損失てん補請求がされている場合と,こういう5通りがあると思われるわけでございます。

まず,提案1で述べましたような優先性からいたしますと,一部または全部の受益者から原状回復請求がされていれば,受託者は原状回復義務を履行すべきことになると思われます。


そこで,まだどの受益者からも請求がない場合について,検討してみたところでございますが,この両請求というのは,いずれも受託者の任務違反行為に対する受益者の救済手段ですので,救済対象である受益者が原状回復ではなく損失てん補の方を望むのであれば,その意思を尊重するのが適当であるように思われるところでございます。


原状回復の優先性というのも,それは一般的には受益者の利益にかなうものと考えられることを根拠にするものですので,まずは救済対象である受益者の選択を尊重しつつ,選択が競合したときに原状回復の方を優先すればよいと考えるわけでございます。


  そうしますと,いまだ請求がない場合におきましても,受益者の選択の尊重ということを重視しますと,受託者としては受益者全員の意思をまずは確認するのが一貫した考え方ということになると思われますが,しかし請求が全くない段階におきまして,任務違反行為を自覚した受託者としてみずから責任を履行するのではなくて,あらかじめ受益者の意思を確認すべきだというのも,いささか違和感のあるところでございます。


そこで,いまだ請求がない場合におきましては,受益者の意思の尊重の要請を働かせるべき局面には至っていないものと考えまして,受託者において原状回復と損失てん補のいずれを履行することもできると考えてはどうかと思うわけでございます。


ただ,信託の性質と受益者の保護の要請からきます原状回復の優先性といいますのは,この場面でも尊重されるべきでございまして,損失てん補をしたものの後から原状回復請求がされた場合には,受託者は原状回復を履行せざるを得ないことになると思われるわけでございます。

そうすると,受託者としては二重の義務履行をしなければならなくなる危険性を回避するためには,原状回復の方を履行しておくべきことになろうと思われるわけでございます。


以上は,資料の45ページの(注3)というところの考え方でございまして,このように考えてはいかがかと思うわけでございます。


  そうすると,次に資料45ページの(注5)に書きましたとおり,全部の受益者から損失てん補請求のみがされていた場合について,それにもかかわらず受託者が原状回復の方を履行して損失てん補を免れることができるかという点が問題となってまいります。


もちろんこの場合,受託者としては損失てん補義務を履行しておけば,一切の責任を免れることになると思われますが,例えば任務に違反して信託財産の株式を売却したというような場合におきまして,任務違反行為のときの株価に比して現在の株価の方が下がっているというときには,受託者としては現状回復の方が得策だと判断する可能性があるわけでございます。

原状回復の優先性にかんがみますと,全部の受益者から損失てん補請求がされているとしても,なお受託者の方で原状回復の方を履行することが許されそうでございますし,受託者が現状回復をしてしまえば,結局損失の要件が欠けることになりまして,もはや損失てん補請求を追及し続けることができなくなると,いうようにも考えられるところでございます。

しかし他方,受益者の意思の尊重ということを重視すれば,全部の受益者が損失てん補請求をしているのに,受託者の方でいわば勝手に原状回復をするのは妥当でないように思われますし,原状回復がされれば,常に損失が回復されたものと言えるかという点につきましても,反対の見解があり得るところでございます。


このような(注5)の問題については,どのように考えたらよいかという点が,この(注5)の問題提起の趣旨でございます。なお,類似の問題は,一部の受益者のみから損失てん補請求が現にされている場合にも生ずると思われるところでございます。

  最後に,以上の説明でございますが,これは受益者に両請求権のいずれを行使するかの選択権があることを前提にしたものでございますが,これまでお話申し上げましたとおり,選択権があることに起因してかなり複雑な法律上の問題が生じてくることは否定できないところでございます。


そこで,資料46ページの(注6)に記載いたしましたとおり,法律関係の簡明化の観点などからいたしますと,受益者は原則として原状回復請求のみが可能であって,特別な事情がある場合には,逆に損失てん補請求のみが可能であるというふうにする考え方もあり得るところでございます。

この点につきましても,どのように考えるべきか,御意見を賜れればと思っております。
  以上でございます。


● それでは,この点について御意見を伺いたいと思います。なかなかこれを考えると難しい問題をたくさん含んでいるんですが,いかがでしょうか。

  はい,○○幹事。

● 難しいところで,何が問題なのかをちょっと突き止めたいという意味での質問をさせていただければと思います。

  これは前の第25で,15ページですが,の書きぶりをどうするかということで,先ほど指摘させていただいたところとも関係するかと思います。


要するに,原状回復請求と損失てん補請求,それぞれの内容がどういうものかということをもうちょっと詰めないと,難しくなるのかなと思います。


いずれにしましても,原状回復の優先性という御提案の考え方は,私も基本的にそれでよろしいかと思うんですが,それはあくまでも両者が重なる範囲内においてだと思うのですね。


ですから,重なるというのがどういう場面か。同一な任務違反行為に基づき,であっても,何て言うんでしょう,損失てん補請求の方からいいますと,原状回復請求にあるいは原状回復にかわる損失てん補というものと,原状回復をしてもなお残る損失のてん補というのがあり得るんだと思います。

請負でいいますと,修補と損害賠償の関係はまさにそうでして,修補にかわる損害賠償と,修補とともにする損害賠償というのは区別されておりますけれども,それと同じようなものがここでもあるのかなという気はいたします。


  ただ,原状回復としてどういうものをイメージするかによって,それがまた実際上は変わってくるのかもしれませんが,いずれにしましても,損失てん補に関して2つ分けられるとしますと,原状回復請求の優先性というのはあくまでも原状回復にかわる損失てん補と原状回復の関係に言えることであろうと。


原状回復とともにする,原状回復しても補われないような損失は,またそれとは別ではないかなという気がいたします。それがわかるような書きぶりをこの第71でもすべきかと思いますし,それが第25の書きぶりにもまたはね返ってくるのではないかなという気がいたします。


どうすればいいかというのは,なかなかちょっと具体的に御提案することができないんですけれども,そういったあたりが実は問題じゃないかなという気がいたしました。
  以上です。


● 全くそれはその点から同感ですが,規定の仕方を言われますけれども,○○幹事が今言われたように,原状回復とそれから損失てん補の優先性が問題になるのは,まさに重なっている部分だけであって,重なっていない部分は別途損失てん補が請求できると。


それは受益者が多数であっても同じであると。単独の場合はもちろんですけれども。という理解でよろしいんじゃないかと思います。具体的な何かいい例がもしあれば--。


● 具体的にいい例かどうかわかりませんけれども。
  例えば信託財産,ちょっと今ある例と違うかもしれませんけれども,信託財産に何か機械があってそれで何か生産していましたと,それでその機械が壊れてしまいましたと,したがって原状回復しろと言ってその機械を修理するなり設備を直すなり,新しい機械を入れるなりする,というのが1つの原状回復であると思うんですけれども,その壊れていた期間,それが稼動して売り上げが上がって利益があったじゃないか,というのはまた,その壊れていて放っておいたので,その間活動ができなくてその収益が落ちたじゃないか,というのはまた損失ということで追及できるというのが,いい例かどうかわかりませんが,それが1つの例かなと思います。


● はい。○○幹事。
● 今,○○幹事がおっしゃったことと矛盾することではないという趣旨で発言をしたいんですけれども,○○幹事は損失のてん補と現状の回復という効果の方からおっしゃいましたが,損失と変更というこの要件について,事務局がどう考えていらっしゃるのかというのを少し伺いたいと思います。


  例えば金銭がなくなった,盗まれたということが明らかだと,いうときにはこれどっちと言ってもいいんだと思う,原状回復も恐らく金銭の支払いになるでしょうから,一緒だと思うんですが,損失と考えて損失てん補,aの方の号で考えていらっしゃるのかなと思います。


それに対して,ある会社のですね,新日鉄でもソニーでもいいですけれども,株券が1万株盗まれたというときに,先ほど○○幹事が価格が変動したときの考え方を例として挙げられましたが,そのときは変更が生じたというふうに考えて,原状回復がまずあると。


しかし損失が生じたとも考えられると。同じ事実について,変更と損失,要件の方では両方に当たるということがあり得るという前提があって,原状回復の救済方法としての優先性,何かそういう話になるんでしょうか。

そこが,ある一つの事実である部分が損失,ある部分が変更がある,というのは認めた上でですね,同じ部分について損失でありかつ変更であるということを,あると考えているのか,それとも変更である以上は損失ではない,と考えるのか,そこがちょっとわからないので教えてください。


● そこはやはり,その物の見方で両方あり得るんではないかと思っておりまして,その株券を失った場合というのもまさに原状回復であれば同じ物を返すということですし,それを金銭的に損失と見れば損失てん補だと。


どっちでいくかというのは,受益者の自由でございますけれども,どちらでも,それは構成の仕方次第ではないかと思っております。

● ○○幹事が特に強調されたのは,25の1のa,bというところに書いてある要件のところですね。同じ事実が損失にも該当し,変更にも該当することがあるかと,簡単に言えば,ね。


● 今,あるということで。わかりました。
● はい。ほかにいかがでしょうか。
  どうぞ,○○委員。


● 71の1,2ともですけれども,例えば1番の原状回復請求の優先性であるとか,受託者の催告の規律という,いずれも少人数の非営業信託というのであればこういうのが妥当しますし,そういう規律なんだろうなというふうに思うんですけれども,やはり営業信託でなおかつ集団投資スキーム的なもの,これについてちょっと考えた場合,なかなかやっぱりワークしないんじゃないかなという感じがいたします。


  1つは,営業信託ですから,○○委員がよく言われる,金もうけの信託ということの観点からいきますと,やはり金銭賠償というのを投資者が念頭に置いてやっておりますので,損失てん補というのがやっぱり最初に来るんだろうなというのが1つ,それとあと実際上の問題で考えた場合ですけれども,ワンワン方式で1対1で考えればわかりやすいんですけれども,例えば投資信託みたいなもので,株の売買を日々やっていますというのと,受益者の入れかわりも激しくありますといったときに,それじゃあ原状回復というのは何か1つすぱっと切れば,そのときの財産はどれだけあって,じゃあその分を補てんしないといけないというのは出てくるかもしれませんけれども,それは多分大変な作業だろうなという感じがいたします。そういうことが1点。

  それとあと,我々信託銀行で信託事務をやっていましたら,やはり失敗もありまして,補てんすることもあります。そのときに基本的に金銭で補てんする場合もありますし,例えば株式とわかっていれば株式でそこを入れるという場合もあります。


ただ,例えばそれが数万円の場合もありますし,場合によったら数十円とかですね,そんなような場合もあると。そうすると,それをいちいち催告してどうなんでしょうかと,数千人,数万人のお客さんに聞くと,そういうのはやはり非現実的なところではないかなというふうに考えています。


  そういう観点からいきますと,1つは営業信託というものについて,デフォルトとして金銭賠償という形,損失てん補というのをデフォルト・ルールにしていただけないかということが,要望として1つあります。

それが難しいということであれば,せめて信託契約,信託行為に書くことによって,てん補であるとか原状回復とかですね,そういう方法を記載してそれに従うような形にしていただけないかなというふうに思っております。


● 後者は可能だと思いますけれどもね。
● 後者はあり得る。前者はなかなかそれは厳しいかなという感じです。


● 少し確認させていただきたいんですが,商事,営業信託であれば金銭であるという認識でいるというふうに今,発言されたと思うんですけれども,その実際にいろいろと今言われたようにミスをするということは当然あって,それを戻していると思うんですけれども,それは原則お金で戻しておられると,今,そういうおっしゃり方をしたんでしょうか。

● それは,その物自体が明確であれば,それはまさに原状回復するのを前提に考えていますけれども,例えば本当に原状回復といったって,例えば数万円のものがあったときに,それじゃあそれを原状回復するんですかといったら,その場合はその,どういうんですか,原状回復という定義というか,意味自体がどうなのかよくわからないのですけれども,それだけ損失が出たときに,物自体が外に出たことによって損失が出た,といったらそれを戻すという行為について,わかる限りにおいてはやっていますけれども,それがどこまで調査してですね,やっていけばいいかというのはわかりませんので,そこはその金銭賠償でやることというのが,金額が低額の場合には多いんじゃないかと思います。

● 今のは恐らく原状回復を認めることについての問題というのを御指摘されているんだと思うんですが,どちらかというと我々としては,商事信託,営業信託においても原状回復というのが受託者が人から財産を預かっているので,まず第一義的なものじゃないか,というふうに考えております。

その中で,試案の考え方というのは,原状回復は難しいですよというような場合はしなくてもいいです,というような考えをとっておりますので,今言われたところと試案において原状回復を認めているというのが,余り矛盾するような感じがしないのですけれども。実際の営みに近いような規範に,原状回復はなっているんじゃないかという気がするのですけれども。

● そういう形で明確に認めていただけるんであればですね,その原状回復するためにどれだけ特別の事情ですか,そういうものがあるのかないのかというのが,やはり複雑な信託になればなるほどわかりづらいですよね。


そうすると,ひょっとしたらこれをもうちょっと調査すれば,きちんと財産というのがわかって,それを原状回復できるのかもしれないけれども,まあそこまですることはないでしょう,ということも結構あるんじゃないかと思うんですよ。


明確に,例えば土地信託で建物の一部がどうかなりました,と言ったらそれはそれを修復しましょう,という話になると思うんですけれども,複雑な信託でなおかつ当事者が多くて,お金の出入りも多いというものについて,果たしてそういうのがわかるのかどうか。

そういうものをそんな調査をかなり要して,手間暇かかって仕方がないものについては,別にそれは金銭賠償でもいいですよというんだったら,それはそれで構いませんけれども,


● その調査がしにくいので金銭賠償ということなんですが,その金銭賠償すべき額というのは当然,その適切な額を算定しなくちゃいけないわけで,受益者との間でももちろんそういう義務があるということだと思うのですが,原状回復は調査してもなかなかできないんだけれども,お金に換算するのは非常に簡単だというのが,何となくよくわからないんでございますけれども。どういった例を,複雑な信託というのは--。

● 例えば,運用しているのが,たくさんの運用財産があった場合,例えば投資の中だったら基準価格が間違っていましたという形があって,入ってきたお客さんに対して高い基準価格だったらお金は高い基準価格で購入していますから,そういうお客さんに対してどういう形で対応していくかというふうに考えたときに,やっぱり考えていくとわからないところってたくさんあるんですよね。

● 今のは,仮に原状回復でやろうとしたら,どういうふうにしたらいいかというのはよくわからないと,そういう意味ですよね。確かに。


● ですから,そんなのは金銭賠償でいいですよ,っていうふうに割り切るというか,この規律というのはそういうことなんですよ,というんだったらそれは安心できるわけですけれども。


● どこまでカバーするかわかりませんけれども,25の方でしたか,原状回復と損失てん補の一般原則の方ですけれども,そこは著しく困難といわれて,これはちょっとあれかもしれないけれども株の費用がかかるとか,そういう場合は原状回復ではなくて損失てん補で構わないという考え方で,それでうまくカバーできないかという感じがするのが1つです。


しかしそれではうまくいかないので,損失てん補だけにというわけにはいかないでしょうけれども,受託者の方で,責任を負う方の受託者の方でどっちか選べるということになると,ちょっとこれは行き過ぎで,なかなかそこまでは行けない気がするんですね。

● そこのルールみたいなものを信託契約に書くというのは,それは別に構わないということですね。


● それは構わないと思いますね,僕の意見ですが。
  はい。


● これはやっぱりかなり難しい話で,催告権にも絡むんですけれども,受託者がすべき事柄なんですけれどもね。まず損失てん補請求を受けたとしますよね。


それに対して,原状回復を自発的にやったら,それはそれでいいわけですか。今,○○委員は--。


● 僕はさっきそういうことを言ったけれども--。
● だめかもしれないという。


● そこまで強くは言わなかったわけね。そういうこともあり得るんじゃないかという話をしたので。

● それで,そうすると催告はしなくてよいわけですね。
● そう,その立場をとればね。


● それとですね,その損害賠償をしてきた人がいるときに,損失てん補請求をしてきた人がいるときに,原状回復をすると過分な費用がかかるというふうな事情があるときには,催告はしなくていいんでしょうか。


● これは催告義務の関係ね。催告がなかなか難しいものがたくさんあるような気がする。


● これやっぱり催告は本当に,その商事信託で受益者が多数になると,やっぱり大変なことだと思いますので,どうやったら催告をすることを免れるのかというのは,考えておいた方がいいような気がするのですが。


● これは催告義務というよりは,催告することができるということですので,ちょっと紋切り型で恐縮ですけれども,自信があれば,来られてもただし書きでいけるというふうにすればやらなきゃいいし,自信がなかったらやるしかないということだと思うんですけれども。


● はい,○○委員。
● 例えば訴訟が提起されてですね,損害賠償請求の提起がされて,そういう観点からいくと訴訟告知をしても,まあわかる限りやりますということかもしれませんけれども,それで例えば負けてしまったらどうなるんですか。

● 訴訟をしなかった--。
● いや,ごめんなさい,訴訟告知をしても,全員にできるということは多分できないと思いますので,じゃあそれで訴訟をやったら負けてしまいましたっていって,そのうちをてん補しました,でもある人が出てきて,いや原状回復でないと嫌だというふうに--。

● それはしかし,その告知できない人には効力が及んでおりませんので,その人が請求するのは自由になりますので,我々の提案の考え方ですと,原状回復が来たらそれに応じなきゃいけないということになってしまいますね。


● そうすると,原状回復もやるということになってしまうという--。
● 損失てん補した部分については,不当利得として信託財産に求償していくと。そういう帰結でございます。


● 今までに少し関連するところなんですが,受益者が多数おりまして,受託者の1つの行為を理由に多数の受益者から損失てん補なり原状回復の訴訟が提起された場合に,そういった訴訟全般について,合一的に判断するというようなことについては,特に考慮する必要はないという前提でよろしいのかどうか,ということが1点目でして。


  それから第2点目で,その原状回復の裁判と損失てん補の裁判が2つ係属している場合に,それぞれの訴訟がどういった形で影響を与えるのかという点について,少しイメージが沸かないところがありますので,受託者として抗弁としてそういった原状回復の裁判がなされているということを,もう一方の訴訟に対して出せば,何らかの効力が生じるという整理になるのか,そのあたりについて御教示いただければと思います。

● 私の方から御説明いたしますと,まず原状回復請求訴訟と損失てん補請求訴訟について,類似必要的共同訴訟という形にして,両方が違う裁判所に提起された場合には,同一の審判をしなければいけないというふうにするという方法もあるのかとは思うんですけれども,なかなかそこまで,例えば期間を区切って一定の期間までにそのいずれかの請求をしなければいけない。訴えを提起しなければいけないという形にするのは,やはりその受益者の保護という観点から難しいのではないかと,いう形がいたしますので,今の前提というのは,各受益者が訴えを提起できて,仮に原状回復請求と損失てん補請求訴訟が両方起きた場合には,その受託者,被告である受託者の方が,現状回復請求訴訟も一緒に来ていますという形で,一緒に併合して審判をしてくれという形にして,同一の裁判所でやるようになれば,当然この原状回復優先性というルールが働きますので,原状回復の方を判断していくという形になるというようなことを考えておりますけれども。

● そうしますと,損失てん補の請求の方はその場合どういった終わり方になるんでしょうか。


● そちらの方は,現状同一な任務違反行為に基づいて原状回復がされましたと。原状回復がされたことによって,損失が発生していないということになれば,棄却されるということになると思いますけれども。

● いや,裁判のことまで考えるといろいろ難しいですね。これはまあ,きょう,ある意味で初めてお出しするもので,原状回復と損失てん補については,一般原則の方は既に御議論いただいておりますけれども,それとも若干は関連するし,きょうはここでは御承認いただくということとかしないでですね,次回以降もう一回検討するということでよろしいでしょうか。


ただ御意見があれば,伺っておきたいと思いますが。今,大体出たような御意見を,またこちらで検討したいと思います。よろしいでしょうか。
  どうぞ,○○委員。


● 1点だけ確認なんですけれども,先ほど損失てん補か原状回復かを信託契約に書いてということはいいんではないかということですけれども,催告の仕方とかというのもよろしいんでしょうか,考え方として。


● 例えば公告であるとか,そういうことでございますか。そこまではちょっと十分均一考えておりませんが,そこも合わせて検討したいというふうに思います。


● ちょっと催告のところはね,受益者多数だとちょっとネックになりますよね,たしかにね。
  はい,どうぞ。○○幹事。


● 今のことにも関係するんですが,信託契約でどちらの請求権を選択するか。例えば多数決あるいはその他の集団的意思決定の対象にすることは,これは認めないという前提と理解してよろしいでしょうか。


● そうすれば話は簡単なんでございますが,ここはやはり受益者の保護という観点からは,単独受益者権という規律がいいのではないかというのを前提にしていきたいと。これは後日,また議論されるところでございますが,一応それが前提の上での話でございます。

● バランス論として,受託者の責任を免除するのは,これは多数決でできるという御提案ではなかったでしょうか。


● 受託者の責任を免除するためには,原則として全員一致ということで,その多数決にするかどうか,多数決できるかどうかにつきましては,確かに我々の従前の提案というのはできるとすることが相当なんではないかと,いうことはしておりますけれども。


● 免責は多数決でできるけれども,救済の方法を選ぶことはできないと,多数決では。


● これは1人でできるんです。各自がそれぞれどの請求をするかでひしてしまうということで,多数決にできるかというか,信託行為で多数決でないとできないとしてしまうかという意味でございますか。

● 多数決で,少なくとも多数決で決められて,多数決ができなかったときには原則に戻るといいますか。


● 原則1人でできるという強行規定に考えておりまして,それをその信託行為で加重することはできないというふうに考えておりますので,常に1人でできるという方向で考えているところでございます。


● 請求権自体は多数決で免除できる。
● 責任は原則全員一致なので,本当は全員一致が必要なんですが,多数決でも許されると。こちらの方は,本来一人一人ができることでございまして,それを過重することはできないと。出発点が全然逆でございますので--。ちょっと検討してみますけれども。


● なかなか--。
  どうぞ,はい。
● なかなかあのわからないんですけれども。今の1人が請求した後に,多数決で免責することはできない。

● それはできるんです。それはできます。免責自体はできますから。
● 免責ができるっていうのはもう,その1人が損害賠償請求訴訟を起こしても,棄却になるわけですよね。


● 棄却でしょうね。結論的にはそうなってしまいます。
● そうすると,幾つかあと検討していただければありがたいんですが,これは例えば100万円損害が生じたといって損失てん補請求権をしたある受益者がいて,で,それに100万円支払ったと。しかしその後の人がやってきて,実は200万円だったからもう100万円払えというふうに言えば,それも認められるわけですね,ずっと。


● それは本当に200万であれば,残りの100万は認められるということになります。追加的な部分ですね。
● はい。
● よろしいでしょうか。何かほかに御意見があれば,伺っていきたいんですけれども。この規定自体がもうちょっと検討しないと。
  はい,どうぞ。

● 1点お伺いしたいことがありまして,損失てん補請求が受益者からされましたという場合に,原状回復を履行することが受託者の方で自発的にできるのかと。


受益者の方で原状回復か損失てん補請求かの一方の方を選択した以上,受託者はそれに従うべきなのかどうかという,ここの(注5),(注6)で書いたところについて,この点につきましてはどのように考えるべきかというのを,いろいろ事務局の方でも考えておりまして,例えば注文者のところですと,瑕疵修補請求と損害賠償請求の方は選択的に行使することが,原則としてできるという形になっておりますので,このあたりどのように考えたらいいのかというのを今後検討する参考に,御議論いただけると助かるんですけれども。


● なおさら難しいんだな。
  直ちに,すぐにこれだという意見がなかなか出にくい,難しい問題だと思いますので,もし御意見があれば,今の--。
● 今の話は2つに分けて考える必要があるような気がするんですが,つまり,損害賠償請求訴訟が起こって,それで判決が出てですね,それは履行方法と原状回復をしたということになりますと,そもそもその債務名義の内容と原状回復の内容とがイコールとは限らないわけですが,そういう判断の手続というものがどこかに必要となってきますよね。


  それに対して,口頭弁論終結時までの間に原状回復してしまいますと,損害がないという抗弁ができるような気がして。そうすると,自発的な原状回復をしますと,実質的にはいずれにせよ選択的にできるという結論が出てくるんじゃないかという気がしたりもするんですが,よくわかりませんけれども。余り自信はないですけれども。

● 私も○○幹事と同じ意見です。損失てん補請求される前に変更が生じて,損失てん補請求される前に自発的に回復する場合というのがありますよね。そのときに一たん変更があったんだから,損失てん補請求をそれ以上認める必要はないと思うんですね。そうであるならば,さらに損失てん補請求が一たんされたということで,みずから変更された状態を回復するということで,受益者から訴えられるということを避ける利益を,受託者から奪う必要はない。したがって,訴訟が提起されたとか,あるいは訴訟前でその損失てん補請求をされたからといって,受託者がとり得る方策は限定されないんだろうと。


  多分最後のところは,○○幹事の話の最初のところですが,判決が出てしまうと,それに基づく執行というのを封じるには,請求異議を出さないといけないですよね。請求異議で修補したんだからというのでは通らないんじゃないかなと。金銭の支払いを命じる,これは支払いじゃなくて作為なんですかね,こういう勘定から信託勘定に移しなさいという作為を命ずる判決に対して,修補したというのでは請求異議が認められる事由にはならないんだろうと。実質的にはやっぱり履行になってないんだろうというふうに思います。


● はい,どうぞ。
● 今,○○幹事,○○幹事,お2人とも,損害の基準時というのはやっぱり口頭弁論終結時になるんであるという,まず御見解だと思うんですが,すみません,私の理解が間違っているのかもしれませんけれども,一般的には債務不履行時を原則としてという理解なんですけれども,ここはなぜ口頭弁論終結時に遅れるのかと,それがその信託だからなのか,どういう理由なのかがちょっとよくわからなかったんですけれども。そこはどのような御説明が--。それとも前提が違うのかもしれませんが。

● それは損害賠償の額の評価時点というのと,損害賠償債権が存続しているかどうか,という問題は違うという話じゃないでしょうか。


● 損害の存在なんだろうと思うんです。損害の存在は口頭弁論終結時がやはり基準時であって,そこでその要件が満たされなくなってしまうので,損害賠償額のあるいは損害額の基準時の問題には入らないということなんじゃないでしょうか。


● 大体わかってきました。そうしますと,例えば価値の修補と損害賠償が選択できるというような場合について考えますと,私は君に瑕疵修補してくれなくていいから,お金で返してくださいということを言ったんだけれども,いやいや私は直したからと言われたら,それを受け取った上で,本当に瑕疵修補されているかなというのを調査するというのが結論になる。まあそれと同じ結論になんだろうと,そういうことになるわけですね。


● わかりました。
● なかなかね,請負なんかのことを考えるとちょっと難しい。信託はちょっと--。


● そうなんですけれども。請負はですね,そういうのが問題になるときに,注文者が引き渡し後のことが多いので,人のものをさわれるかという問題がそこに出てくるのに対して,自分の占有物に対してある一定のことをするという信託の場合と,なかなか微妙に違った問題が起こってくるのかもしれないですよね。事実としてはね。


● はい,○○委員。
● 最初に○○幹事がおっしゃったところに戻ると思うんですけれども,原状回復にかわるてん補と,原状回復とともにするてん補で,ともにするということは登記事実として残るわけで,あとは何をすれば原状回復をしたことになるかという問題だと思うんですよ。ですから,その組み合わせだけでそんなに難しいことはないのではないかと思うんですけれども。

● といってもまだ難しい問題がありそうだけれども。
  はい,○○委員。


● 架空の問題ではなく,現実的といいますか,あり得る現実性,本当かどうかわかりません,年金なんかですとおびただしい数の受益者がいらっしゃると思うんですけれども,あとまだ年金受給者にはなっていなくても将来の受給者の方のような方もいるとおもうんですけれども,そういう場合に受託者が何かこの損失てん補請求といいますか,何らかの形で信託財産を毀損してしまったときの解決が,やっぱり効率的に解決される必要があると思うんですけれども。


  その場合のことを考えると,個別の何人かの受給者たる受益者が訴訟を起こしてですね,多くの訴訟がほとんど和解で終わると思うんですが,和解で終わる分,和解では終わらせられないということがまず大きな問題として1つ生じるのかなと思いますし,訴訟告知をするといってもできないケース,または現在確定していない受益者がいるということになりますと,何か永久に,永久というと大げさだけど半永久的に訴訟は,とにかく判決で確定し,その確定した判決が間違ったということでちゃんと抗弁として利用でき,抗弁になるんですかね,既判力が及んでいませんからその判決が正しいんだということを主張して,みたいなことになってしまうので,何か多少既存の法的な,民訴的な視点でもそうですけれども,理屈もそうですけれども,効率的な解決が図れるようにしておかないと,数えられる範囲の複数の受益者の場合は構わないと思うんですが,ちょっとそれが何千,何万とかいう状況になってきますと,個々に権利があるということは非常に受益者保護にとってはすばらしいことだと思うんですが,解決できないという視点からすると,非常に何か社会的な問題になり得るのではないのかなというふうに感じたんですが。

● おっしゃるとおりですね。今御議論いただいているのも,いろいろな点を御議論いただいておりまして,損失てん補と原状回復,2つの救済手段の間の単なる抽象的な関係といいますか,1人の受益者の場合にも生じる問題ですよね。


それが多数の受益者でもって,今○○委員が言われたように,あるいは○○委員も指摘されましたけれども,多数の受益者のときの優先関係のルールというのを設けたときに,果たしてうまく機能するのかどうかという,そういう問題を御指摘いただいたと思いますけれども,これはもう一度検討したいと,そのように考えております。

● 今の○○委員の関係で,事務局の中でも1人の受益者が訴訟を提起したその効果が他の受益者にも及ぶ,というような制度をつくれないかどうかということを検討はしてみたんですけれども。


  例えば株主代表訴訟のような形にすれば,1人の株主が訴えを提起して,その効果が会社に及ぶと。会社に及ぶということの反射的な効果として,他の株主に及ぶということで,1人の株主の訴えの提起が究極的には他の株主に及ぶということなので,それと同じような制度にすることによって,1人の受益者は訴えを受託者に提起しましたと。

その訴えの確定判決の効果が,他の受益者にも及ぶというようなことができないかなというふうに考えたんですけれども,やはり他の受益者にとってみると,自分のあずかり知らないところで確定判決の効果が及んでしまって,それによって損失てん補請求とか原状回復請求をするという機会が奪われてしまうと。


そうだとすると,何らかの訴訟告知を受託者に義務づけるとか,訴えを提起した受益者に義務づけるとか,そういう制度も一応あり得るのかと思うんですけれども,そうだとすると受託者が任意に訴訟告知をするという,現行の民事訴訟法にあるような制度を用いるとしておけば足りて,特に他の受益者の情報を知らないことがありますので,訴えを提起した受益者が訴訟告知をするというのは現実的ではありませんし,かといって,受託者に義務的に訴訟告知をさせるというよりは任意で,この場合には訴訟告知をしようというケースと,これはほかの受益者は多分言ってこないだろうから訴訟告知はしなくていいだろうというような,それを選択というのかどうかわかりませんけれども,そういう裁量の余地は与えておけば足りるのではないかなということで,今のところはそういう制度は設けていないということなんですが,これはあくまで事務局の中で考えたことに過ぎませんので,ここで何か御意見等ありましたら,ぜひ述べていただけますと大変助かりますけれども。

● いかがでしょうか。よろしゅうございますか。
  それでは,ただいま出てきたような御意見をまた参考にしながら,もう一回練り直して,もう一回御提出したいと思います。
  それでは終わります。
  どうもありがとうございました。
-了-

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2016年加工編
法制審議会信託法部会
第22回会議 議事録

第1 日 時  平成17年10月7日(金)  自 午後1時00分
                       至 午後5時00分

第2 場 所  法曹会館 高砂の間

第3 議 題
   受託者による受益権の全部の継続保有の禁止について
   信託財産と固有財産等との識別不能について
   信託財産に対する強制執行等について
   善管注意義務について
   法人役員の連帯責任について
   受託者の権限違反行為について
   報酬請求権について
   受託者の職務の引受けについて
   信託管理人等について
   受益債権と信託債権との優先劣後関係について
   営業信託の商行為性について
   受益権の有価証券化について

第4 議 事 (次のとおり)

議        事

● ただいまから第22回信託法部会を開催したいと思います。
  いつものように,幾つものテーマがございますので,これを適宜区切りながら議論していきたいと思いますけれども,その区切り方につきましては○○幹事から説明をお願いします。


● テーマは全部で17ございますが,一番最初は,受託者による受益権の全部の継続保有の禁止と信託財産と固有財産等との識別不能の問題,善管注意義務,法人役員の連帯責任,それから報酬請求権と受託者の職務引受けを御審議いただきまして,次に,信託財産に対する強制執行と受託者の権限違反行為の問題を御審議いただきたいと思います。


そして,あと残りを後半で分けさせていただいて,全部で4つに分けたいと思っておりますので,よろしくお願いいたします。
● それでは,お願いします。


● では,資料の一番最初,受託者による受益権の全部の継続保有の禁止というところでございますが,パブリック・コメントにおきましては,試案の考え方,すなわち受託者は受益権の全部を保有する場合でも,受託者と受益者を同一人が兼任する状態が解消されることがあり得ることに鑑みますと,兼任状態が生じたことをもって直ちに信託を無効とする必要はないという考え方に対し賛成意見が多く寄せられました。


  ところで,この規律によっても,このような兼任状態は相当期間を超えて継続することは許されないものでございます。


この点につきまして,試案では,信託の終了事由として「兼任状態を解消するのに必要な期間を超えて,受益権の全部を保有していたとき」としておりましたところ,この期間の明確化を図るべきであるとの意見が寄せられました。

  この規律の趣旨といいますのは,受託者と受益者の兼任状態が生じている場合においては,実質的には受益者の受託者に対する監督関係が存在せず,信託のあるべき構造が損なわれているのでありまして,このような状態が長期間継続するのは望ましくないと考えるものでございます。


  ところで,これと類似の状況としましては,受託者の全部が欠けている場合がございます。


本規律の場合には,信託事務処理を行う者が欠けているわけではございませんで,監督関係が期待できないにとどまるわけですが,いずれの場合も信託の一部に機能不全の状態が生じていることには変わりないと思われます。


  そこで,このような不健全な状態を解消するためのいわば入院期間といたしまして,受託者の全部が欠けた場合には,「新受託者が就任しないまま1年を経過したとき」をもって信託が終了すると提案していること,これと同様に,受託者と受益者との兼任状態が生じている場合についても,1年間をもって兼任状態を解消するために必要な期間と考えるものでございます。
 

 以上によりまして,資料ですと42ページ,第57の1のcにございますが,兼任状態を解消しないまま1年を経過したときには信託が終了するものとして,期間を明示することを提案するものでございます。
  続きまして,第10の識別不能についてでございます。
 

 試案の考え方,すなわち信託財産と固有財産等とで識別不能状態にある各財産について,共有を擬制しまして,その持分の割合は均等であると推定しまして,さらに共有された財産の分割に関する規律を設ける。この考え方に対しましては,賛成意見が多数寄せられました。


  なお,この提案1の二重下線部は,(※2)に書いてありますとおり表現ぶりを見直したにとどまりまして,実質を変えているものではございません。
 


 その上で,資料3ページの2の(1)から(4)で個別の意見について検討しているところでございます。


  まず,(1)といいますのは,共有持分の割合を識別不能当時の価格の割合に応じるものとの提案に対しまして,時点についての処理が硬直的であり,その時々の割合に応じて共有割合を算定する,あるいはできることとすべきではないかとの意見について検討したものでございます。


  しかし,識別不能となった財産が同種・同等のものであれば,その後に財産の一部滅失ですとか価格変動が生じてもその効果は持分に比例して吸収され,持分割合は変化しないことになります。


また,仮に識別不能となった財産の品質等に若干の差があるために,本来であれば価格変動の効果は財産ごとに異なり,持分割合に影響するはずのものであったといたしましても,ここでの規律は識別不能の場合を対象にしているものでございます。


そうしますと,価格変動のあった財産が固有財産に属するものであったのか,あるいは信託財産に属するものであったのかが特定できないことが前提でございますので,価格変動の効果は信託財産と固有財産とで従前の持分割合に比例して吸収されるものとして処理せざるを得ず,結局,持分割合は変化しないことになると思われます。

  以上の次第で,この意見は採用しないこととしたいと考えております。
  次に,資料4ページの(2)ですが,「価格」の意義に関する御意見がございました。


  ただ,ここでの「価格」と申しますのは,民法第244条における一定時点における価格,すなわち時価を指すものでございますが,民法でも,この価格の意義をより詳細にした規定は置かれていないことなどに鑑みまして,この意見も採用しないこととしたいと考えております。


  次に,(3)でございますが,試案におきまして,識別不能当時の価格の割合の立証が困難な場合に備え,共有持分の割合を均等と推定することに対する意見についてでございます。


  まず,アでございますが,受託者の分別管理義務違反により識別不能となった場合につきましては,固有財産よりも信託財産を優先して保護すべきであるという旨の指摘についてでございます。
 

 しかし,この場合,受託者は損失てん補責任を負うわけでございますし,損失てん補責任の実効性の如何と信託の倒産隔離機能とは別個の問題でございますので,識別不能当時の時価の割合が証明できない場合に備えて持分割合を均等と定めることといたしましても,公平にかないこそすれ,信託の倒産隔離機能ですとか信託への信頼が害されることにはならないと思われます。
 

 次に,イでございますが,持分を均等と推定した場合には,計算上,信託に帰属すべき財産の総額を超える財産が信託財産と推定されるということが起こり得るから,均等との推定規定を設けることは妥当でない旨の指摘でございます。


  しかし,この場合,少なくとも信託財産に帰属すべき持分が一定の割合を超え得ないことが認められるわけでございますので,その割合を限度として持分の割合が認定されることになりまして,そもそも推定規定が働くことにはならないという整理をすればよいのではないかと思われます。

  最後に,資料5ページの(4)でございますが,これは受益者が複数の場合の共有物分割訴訟につきまして,受益者全員が訴訟当事者になる必要があるとしても,訴訟を提起するとの意思決定については信託行為の定めや受益者集会等により定めることができるとすべきであるとの指摘についてでございます。

  この点につきましては,このような意思決定については,信託行為の定めをもって第三者に意思決定権を付与したり,多数決制度によることなども可能であると考えております。


  なお,(※3)にございますとおり,共有物分割の手続の概要につきましては,試案に示したところに対して特段の異論は示されておりません。


  続きまして,強制執行のところは飛ばしまして,第18の善管注意義務に移らせていただきます。資料は10ページになります。


  これも試案の考え方,すなわち現行法第20条を維持して受託者は善管注意義務を負うこととした上で,これが任意規定であることを明らかにすること,そして,現行法第21条は削除することについては,いずれも賛成意見が大勢を占めております。


  なお,受託者の善管注意義務が任意規定であることを明らかにしていることに関しまして,善管注意義務の免除までは許されないことを明らかにすべきであるとの意見がございました。


  この点につきましては,受託者の善管注意義務を完全に免除する定めがある場合には,委託者は,信認関係を本質とする信託の設定意思をそもそも有していなかったと考えるのが合理的でありまして,それ以外に善管注意義務の免除は許されないとの特段の規定を要するものではないと考えております。


  また,善管注意義務に関する個別的,具体的な規定を設けることの当否に関しましては,両様の意見が示されております。


この点につきましては,資料10ページから11ページの①から④に示した理由によりまして,この提案以上に個別的,具体的な規定は要しないものとすることでよいのではないかと考えております。

  続きまして,第27,法人役員の連帯責任について御説明いたします。
  試案に対しましては,賛成意見が大勢を占めております。


  この提案,すなわち試案と同じでございますが,現行法第34条の規定の明確化と合理化を図ったものでございます。3点ございまして,まず1つは,受益者と直接の契約関係にはない理事等が責任を負うのは,受託法人が損失てん補責任等を負う場合であることを明確にしたこと,次に,受託法人の任務違反行為に理事等が関与しただけでは足りず,任務違反行為につき悪意・重過失があることを要求したこと,さらに理事等が負う連帯責任の内容も,損失てん補責任等であることを明確にしたこと,この3点の明確化,合理化を図ったものでございます。


  このように,試案の内容といいますのは,受益者との間で直接の法的関係にはない理事等の責任の内容を明確かつ合理的な範囲に限定し,理事等の利益と受益者の利益とを適切に調整する内容であると思われます。


そこで,試案のとおり維持することとしております。
  なお,仮に利益吐き出し責任を設ける場合については,この責任に関する理事等の責任負担のあり方について,別途検討することとしたいと考えております。


  続きまして,また1つ飛ばしまして,16ページの受託者の報酬請求権についてでございます。


  本日は,この第33のうち,提案2の(2)の甲案と乙案について御審議願いたいと考えております。


  パブリック・コメントの結果ですが,乙案,すなわち受託者が受益者から補償を受けるためには,受益者との個別の合意を必要とするという考え方の方が多数意見を占めております。


  なお,甲案または乙案を支持する理由として挙げられております意見の要旨は,それぞれ資料の17ページに記載したとおりでございます。


  いずれの考え方を採用すべきか御審議願いたいわけでございますが,あえて1点だけ付言いたしますと,原則無報酬であり,一定の事情があって初めて発生する信託報酬請求権と異なりまして,当然に発生する費用償還請求権につきましても,前回部会におきましては,受益者と受託者との個別の合意がない限り責任を負わないとする乙案の考え方で基本的なコンセンサスをいただいているところでございます。


このことに鑑みますと,論理必然ではないとは言えますが,やはり受益者から信託報酬を受ける権利についても乙案を採用するのが一貫しているように思われるところでございます。

  最後に,第35の受託者の職務の引受けについて御説明申し上げます。
  試案の考え方,すなわち被指定者に対する利害関係人の催告権を認めまして,回答がない場合には就任拒絶と見なすという考え方につきましては,寄せられた意見は,すべて賛成するものでございました。


もっとも回答の相手方につきまして,催告者に対しても常に回答すべきであるとの意見がございました。


  この後者の意見に触発されまして,回答の相手方について再検討いたしました結果,試案におきましては,回答の相手方を受益者としておりましたのを改めまして,原則として委託者,委託者が死亡している場合には委託者の相続人としてはどうかと,改めて提案するものでございます。

  被指定者が催告を受けて回答すべき相手方を考えるに当たりましては,まずは催告に基づくのではなくて,いわば自主的に信託の引受けの意思表示をすべき相手方を考えまして,その上で,催告に対する回答の相手方についてもこれと同様とするのが相当と思われます。


遺言指定者の就職に関する民法第1007条,第1008条の規定とも,この考え方が平仄が合うところでございます。


  なお,このように考えますと,少なくとも催告者のみを回答の相手方とする選択肢はとり得ないことになるわけでございます。


  そこで,被指定者が催告に基づかずに意思表示をすべき相手方について検討した結果が,資料19ページの(2)の①から④のとおりでございまして,かいつまんで申しますと,まず①が,受益者または信託管理人に対する回答がそもそも不可能な信託があり得るということ,②といたしまして,受益者の有無に対応して回答の相手方を変えるのは煩雑でございますし,被指定者が判断を誤るおそれもあるということ,③として,受益者に対して受益権取得の事実を通知したくないという委託者のニーズを尊重するということ,④といたしまして,委託者と被指定者は実質的には信託の設定という法律行為の対立当事者に準じる関係にあるものと考えられまして,そうすると,被指定者の意思表示は,いわば委託者からの契約の申し込みに対する承諾の意思表示に類するものと見ることができると思われますので,委託者に対して意思表示すべきものとするのが自然であることなどが考えられます。

  以上を総合いたしますと,資料19ページの(3)にありますとおり,被指定者が催告に基づかずに意思表示をすべき相手方,そして,これと同様に解すべき催告を受けた場合の回答の相手方につきましては,委託者とするのが適当と考えられるわけでございます。


  また,資料20ページの(※2)に書きましたとおり,委託者と被指定者が実質的には法律行為の当事者に準じる関係にあるという点を考慮いたしますと,委託者の死亡の場合には,法律行為の当事者としての地位を相続する相続人において,被指定者からの回答の相手方としての地位についても承継すると考えるのが適当であると思われます。


そこで,委託者が死亡している場合には,被指定者は委託者の相続人に対して回答すべきものとしております。


  なお,パブリック・コメントにおきましては,催告者に対しても常に回答すべきとの意見がありましたが,この点につきましては,資料20ページの(4)のとおり消極に考えております。


すなわち,催告に対する回答の場合のみ,委託者だけでは足りず催告者に対しても回答すべきとするほどの必要性があるかは疑問でございますし,催告者といたしましては,被指定者本人または委託者から回答の結果を知ることにさほどの困難があるとは思われないこと,さらに,遺言執行者の就職に関する民法の規定におきましても,催告があった場合でも,相続人のみに対する回答で足りるとされていることなどに鑑みまして,催告者に対する回答を法律上,義務づけるまでの必要性はないと考えられるからでございます。

  以上で,とりあえずの説明は終わらせていただきます。

● それでは,今の範囲で御議論をお願いします。


● 第5について,細かいことで恐縮ですが,(注)の第三者名義の場合というところで,中間試案では「同様とする」ということで本文と同様のような形で書かれていますけれども,以前の法制審での議論でも,また補足説明においても,その場合には直ちに無効であるといいますか,有効でないと書かれているんですけれども,以前も議論--余り議論にならなかったかもしれませんけれども,受託者が固有財産の保有をすること自体が違法とは見なされない以上,例えば受託者の子会社がそれを保有したとしても,何か違法,脱法とかいう目的が他に存在すればまた別ですけれども,単純な保有であれば同様とするということでしばらくの間,継続し,また,今の御提案のように,1年という期間を設けて,それで解消するというようなことでもよろしいのかなと思うんですけれども。
  


そういう視点で,この「同様とする」という趣旨が,従前どおり本文と同様なのか,また,補足説明にあるように,今の状況においても直ちに無効であるというような考えなのか。


無効だとすると,何か本文との間の平仄が立たないような気がするんですけれども,その辺はいかがでしょうか。


● ここで書いておりますのは2つの場合がございまして,1つは,明らかに脱法的な場合,すなわち事実上,自分が利益を得ているのに傀儡の者を受益者として立てている場合。こういうものについては,直ちに無効でいいのではないかと思っております。


  他方,正当な理由があって,受託者の固有財産が同一の信託の受益権を取得するわけではないが実質的には利益を得ることになるというような場合があり得ると思うんですけれども,そういう正当な理由で受託者の固有財産が信託の利益を享受しているという形式になる場合につきましては,この第5の規律の対象外でありまして,永続的に続いていいのではないかと考えているわけでございます。

● 同じく第5についての確認ですが,1年間の解消がなかった場合ということで,期間の明確化が新たに提案されていると認識しているんですけれども,これはデフォルト・ローとしてということですか。


すなわち,この第57の1のe,つまり受託者が欠けた場合を参考に1年と言われているわけですけれども,その第57の1のeというのはデフォルト・ロー,信託に定めがあれば別だということで規定されていると思うんですが,そうすると,本件での御提案もこの点はデフォルト・ローであるということでございますか。


  考えてみるに,やはり信託にはいろいろあるわけですから,明確化と言ったとしても,単純に1年ということで規するべきではなくて,物によっては変えることがあるのかなと思っていますので,その場合でもデフォルトの方がよろしいのではないかと思っていますけれども,いかがでしょうか。


● 例えば6か月で終了するとか,そういう場合でございますね。

  それは恐らくfの事由で問題になりまして,信託行為に定める終了事由が生じたときで,終了するという方向に持っていけばいいのではないかと思っております。長くする方はだめです。


短くする方はできますが,それはdがデフォルト・ルールというよりは,終了事由をfで定めたと考えればいいのではないかと整理しているところでございます。


● ですから,この第5の規定は,1年間入れる場合に,これはデフォルト・ローではなくて強行法規ということですか。


● これは,言ってみれば信託の構造に関する一種のポリシーというか,考え方を明らかにしたものでございまして,具体的な効果というのは第57の方でございますので,第5はデフォルト・ローではなくて,これは強行規定でございます。


第57の方は,多少の信託行為での変更は可能という位置づけでございます。

● まあ,そういうものでしょうね。
● 御説明の中では何度も出てきた言葉なので,指摘をするのは恐縮なんですが,1年というクリアな期間が書かれますと,1年なら常にいいんだという感じが漂ってくるような気がするんですね。


○○委員も○○幹事も,脱法のような場合にはもちろんだめだけれどもとおっしゃいましたので,もし最終的な要綱でその補足説明をつけるということですと,合理性があるような場合で必要性が認められるんだ,しかし,もちろん脱法的な場合はだめなんだということについてもお書きいただければと思います。

● 趣旨は確かに,脱法的なものはだめだというのは共通の理解ではありますので,書き方が難しいかとは思いますけれども,どこかに書ければ,それは。理解は同じですよね。


  これもポリシーは比較的明確だと思いますけれども,条文として書くときには,意外と難しい条文の1つであると思っています。


今のようにいろいろな例外というのかな,直ちにだめになる場合とか,この適用を受けない場合とかいろいろありますので,そこら辺の規定の仕方は難しいと思いますけれども,中身についての共通の理解としてここで確定しておきたいと思いますが,なお中身について,いかがでしょうか。


  ただ,○○幹事の言われたことは重要だと思いますけれども,今までは「相当の期間」ということで,「相当な期間」というのはケース・バイ・ケースで定まる可能性があったのが,今回は,直ちにだめになるものは別として,それ以外は1年間は大丈夫だということになるわけですよね。


それは明確性を図るがゆえに,多少割り切りをすることになるんだと思います。

それがいいかどうかということですね。いかがでしょうか。これも一つの選択肢ということで,よろしゅうございますでしょうか。

  それでは,第5については,書きぶりについてはなお検討するにしても,中身については以上のように確定させていただくとして,それ以外の点,識別不能あるいはそれ以外のことについて,いかがでしょうか。


● 先ほど御説明の中で,ある一定割合以上には信託財産が存在しないことがはっきりしている場合にどうするかという問題なんですが,例えば,信託財産があるとしてもせいぜい3割であるといったことが明らかになっていたときに,英米法では,たしか証明できないときにはなるべく信託の財産が多いと推定するという判例上の準則がありますので,3割が限度であるということになりますと,3割ということになると思うんですね。


  しかしながら,この案は,一般的に信託財産の方を優先するというのがないものですから,せいぜいあっても3割である,しかし実際には何割かよくわからないというときに,3割にはならないような気がするんですね。


だからこそ,それならば3割しかない,せいぜいあっても3割だというのに半分になるのかという話が出てくるのであって,必ずしもそれを限度として認められることになるのだから構わないというふうにはならないのではないかという気がするんですが。

● ○○幹事のおっしゃったことをうまく理解できたかどうかわかりませんが,今の推定割合について御指摘されていることは,むしろ信託側が多くとり過ぎるのが問題ではないかということなんですが,○○幹事がおっしゃっているのは,どちらかというとその逆で,信託が多くとれるというルールにはなっていないのではないかということですか。

● 私は,どちらにすべきかといえば信託財産の方を多くすべきだと思うのですが,それとは無関係に,せいぜいあっても3割であるということだけが証明されたときに,この案のままで3割だというふうにできるんだろうか,不明であるということにおいては変わらないことにならないのだろうかということで,どちらを優先すべきだという価値判断を含まないで質問させていただいているつもりなんですが。

● 識別できないということの意味だけですね。
  今のは,せいぜい3割だけれども1割かもしれないし,2割--あ,逆か。せいぜい……。そうですか。1割かもしれないし,それより少ないわけですね,信託財産の方が。


だけれども,その証明ができない。そういうときにこれを適用するとどうなるか,簡単に言えばそういう質問ですね。


● ええ。その割合を限度として持分割合が認定され,したがって推定規定が働くことにはならないという御説明になっているんですが,3割なのか2割なのか1割なのかわからないときに,証明できれば,もちろんそれはそうなるわけですけれども,当然には3割という認定にはならないわけですよね。


● ある意味で,今の信託財産を有利に扱っているところがあるわけですよね,3割までは認めてしまう。


3割の推定が実際にあるわけではなくて,単にせいぜい3割だというときに3割まで認めてしまえば有利になるわけで,そういう結論がここから出てくるかと。


● ええ。認めるのならば,その趣旨の条文みたいなものが必要であろうという気がするのですが。


● 今の例は,ほうっておくと半分まで信託財産にとられてしまう受託者としてどうするかということなのかなと拝察したんですが,そうであれば,受託者としては「3割まであります」というところで自白すればいいだけのことでは--自白すればというか,もうそれで「確かにそうです」と言ってしまえば,実際の裁判上はそれで認定せざるを得ないのではないでしょうか。そういうお答えはちょっとおかしいのかもしれませんが,実際の営みの話としては……。

● そうすると,3割までしかないことは明らかになっているけれども,しかし,その場合にも,形式的には3項みたいな均等であるという推定規定が働くので,推定規定を働かせないために,受託者は自白をして話をおさめないといけないという話になりますか。裁判の流れとしてはよくわかるんですが,教科書等には書きにくいなという感じはしますよね。

● 手続ではなくて実態だと冷たい感じがしますけどね。結論は,恐らく3割でいいんだろうと……。何かございますか。


● 今の場合で,逆に固有財産の方から見て3割は超えない場合は,どのようになるんでしょうか。今のは信託財産が3割は超えないという想定ですよね。今度は固有財産の方が3割は超えないという場合は。

● 逆の側からも同じ問題があるわけですよね。
● 今の話は,信託財産を優遇するというルールを打ち立てたことになっているのか,なっていないのかということなんですけれども。


● 同じようなルールになってしまうとは思いますが。

● ちょっと間違っているかもしれないけれども,固有財産が3割を超えないときは,7割までは信託財産であることが確定し,残りの部分がわからないので,残りの3割について半分にするというわけには……


● ただ,先ほどのように受託者が自白するというようなことになると,さっきの場合は,1割か2割かわからないところを3割までは認めるということですから,信託財産のためになるわけですけれども,そこで3割と言うと,ひょっとしたら固有財産は1割かもしれないのに3割というような話をするんでしょうか。

  非常に基本的な誤解をしているのかもしれませんが。

● どちらから言っても構造は全く同じですよね。何かうまい解決がありますか。

● ここは,恐らく裁判の過程でどこか裁判所が認定しますので,今おっしゃった例で言えば,普通は3割を超える固有財産はない,7割は信託財産であるという認定をするだろうと思いますし,そのように当事者間で,この場合はどちらが自白するんでしょうか,受益者の方が,あるいは受託者の方が3割しかない,3割を超えることはないと言って,受益者の方がそれを争わないとすれば,7割は信託財産という認定ができますので,この推定規定が働かないことには変わりないと思いますし,いずれにしても,3割の範囲でどこかで認定はされるのではないかという気がするんですね。

ですから,推定規定が働かないことには変わりないのではないかと思われますけれども。


● なかなか難しいですよね。具体的にどうなるのか,まだ私もすっきりわからないけれども,○○幹事の方の例で言えば,固有財産はせいぜい3割だということで,7割まではとにかく信託財産が確定し,残りの30%についてはいろいろわからないけれども,そこで行う推定というのは,もうこの条文による推定ではなくて……


● この条文自体は全体ですからね。残りの部分だけ均等と推定するというわけではないと思いますので。


● そこはゼロから30までの間で,今の○○幹事の話だと,裁判所の方で……。

● 一番もっともらしいところで認定していくのではないかという気がいたしますけれども。


● 今,出された問題を,手続に絡めないで実体法の考え方として何かうまく書けるのであれば,御提案いただきたいと思いますけれども。


● この問題自体は,恐らく民法の方の添付のところですかね,あそこでも全く同じ構造になっているのではないか。つまり,共有持分の割合が推定という規定自体,これは民法そのものにある条文を引っ張ってきているだけなものですから,もしかしたら,そちらの方の議論を見れば何か参考になることがあるのかなと……


● いや,それは怪しい。
● ……とすると,今ここでどうのという問題ではないのかもしれません。


● 決め手はないかもしれません。
  よろしいですか,今ここで具体的にどうなるかという答えは十分出せないかもしれませんけれども,今の場合,わかっている範囲,さっきの固有財産の方がせいぜい3割であれば,とにかく7割までは信託財産だという考え方,あとをどうするかというのは,先ほどの民法の規定ともにらみ合わせながら,解釈で決まることになると思いますけれども。


● 恐らく3割である,3割は超えないことは明らかだということが,実際の裁判の中で一体どういう過程で「そこは認定できる」という話になってきたのかが,抽象的な話としてはよくわかるんですけれども,それがいま一つ,ではどういう事情なんでしょうかということが。


● そうですね,そういうものにも影響されて認定されるということですね。わかりました。


  問題意識としては,こちらでもそういうことをにらみながら考えていきたいと思いますけれども,とりあえず,よろしいでしょうか。


● 今のと違って,逆に足りない場合で,今回の検討課題の説明の中では,受託者は無過失責任を負うから,損失てん補責任があるからそちらで解決できるではないかといった御説明なんですけれども,受託者が自ら預かるケースというのは,商事信託においては余り考えられない。民事信託でもそうかもしれませんけれども。

それで,例えば有価証券であれば,第三者たるカストディアンが預かっているということになると思うんですけれども,そうすると,前回の議論で,選任,監督に過失がなければ受託者の方は責任は負いませんし,カストディアンに対する請求権は持つかもしれませんけれども,そういう場合はカストディアンも破綻しているような事例だと思うんですけれども,その場合ですと,今のこの原則に従って,信託財産が特に有利に扱われるわけではなくて,共有持分ということになる。


  それも一つの判断かもしれませんけれども,今回の説明ですと,信託に対する信頼とか信託財産がより--よりといいますかね,信頼という観点から余り問題ないのではないかという話なんですけれども,そういう場合,やはり信託財産が有利に扱われてもいいのかな,また,そういう選択肢を受託者が持ったとしても,損失の補てんにならないという方が,逆に受託者にとっても,「どうしようもありません」という説明をせざるを得ないわけではなくて--と思ったりするんですけれども,不足している場合に,第25項の規律でのほぼ不可抗力による責任です,無過失責任ですというのが当てはまらないケースというのが,今,申し上げましたように,第三者が受任している場合という現実で,そのカストディアンが破綻したときには,現実的にもあり得る話ではないのかと思うんですけれども,その辺については今の規律のまま,しようがないという考えなんでしょうか。

● 資料に書かせていただいた,信託に対する信頼が害されないのではないかというのは,制度としての信託に対する信頼は害されないのではないかと。


つまり,今,言われているところで問題になっているのは,結局のところ,適切な受託者を得なかったことによる,適切な信託事務の遂行をしなかったことによる損害なわけですけれども,そこについては信託制度の問題というよりは,やはり適切な人を選ばないと限界はあるんだろうと思っておりまして,その点については,ここの問題ではない。


むしろここで考えるべき問題というのは,識別できないような状況になったときの,いわば物権的な帰属をどういうルールにするのがいいんだろうかというところなわけでして,それに対してもう一方,適切な受託者が選ばれなかった,あるいは適切な信託事務の処理ができなかったときのルールとしては,一般的には,やはり損失てん補なり原状回復なりの方で図るんだという整理をしている。


  それに加えて,今おっしゃいました,信託事務処理の委託の問題だろうかと思いますけれども,そちらについても,また個別にどういう責任を第三者に負わせ,どういう責任を受託者に負わせるのがいいのか,一般論の中でむしろそこは考えていかざるを得ない話でして,整理としては,私どもとしてはそう考えているわけです。

● 現に英米法ですか,あちらの方では受託者の,特に分別管理義務違反のときですけれども,そういうことを加味して物権的な救済についても信託有利にという考え方はあり得ることはあり得るんでしょうけれども,ここの原案自体は,そういう責任の問題と物権的な救済の問題は区別するという形でできていて,それをどう考えるかということですね。
  今の点についても,何かほかに御意見ございませんか。

● 第10の2の(1)の共有持分の割合についてですが,その当時における割合が一体どうなのか,変動した場合どうなのかということについてパブリック・コメントで御意見があって,それに対する検討があったという認識でおります。


  これはちょっと確認したいわけで,ある意味パズル的な話なのかもしれませんが,このペーパーで検討されていますのは,その変動が減った場合ないしはその中身が変わった場合ということがあると思うんですけれども,では,増えた場合どうなのかということです。


  例えば,ちょっと例としてお話ししたいと思いますけれども,ヒツジでも何でもいいと思うんですが,固有財産と信託財産が7対3でありました。その時点で識別不能になりました。


その後,ヒツジがまた2,これは固有財産だとわかっています。ただし,そのときには価格は2倍になっていました。そして,今はもう全部が識別不能になっていますと。ですから2回識別不能になっているという状況です。


  そうした場合に,固有財産と信託財産をどういう割合で分けたらいいのかという例を考えていただければと思うんですけれども,一つの考え方としては,あくまでも2段階で7と3があったわけで,それに固有財産として2が加わったのだから,これは7+2対3,つまり9対3である。信託財産が25%という話になると思います。

  もう一つの考え方として,その当時における価格ということを考えますと,新たに加わった固有財産の2というのは価格が2倍ですから,4である。


そうすると,算数なんですけれども,7+4=11対3,したがって,信託財産は21%。そうすると,考え方によって信託財産が25%か21%かということで違ってくると思うんです。


  頭の体操的な話で恐縮ですが,確認のために,これはどちらで考えたらよろしいんでしょうか。


● 後でちょっと補足してもらうかもしれませんが,私の感じでは,その場合,識別不能になったときの価格を考えて,最初の7対3は,そのごっちゃになったときの7対3で分けますよね。


後で固有財産に加わったということで,数としては,あるいは割合としてはその分が増えているわけですけれども,価格が違うので……,何というんですかね,7対3だから,10対2でまた分けるのかな。新たに2加わるわけですよね。


これは別に固有財産でなくても,全く違う,例えばもう一つ別な受益者のでもいいのかもしれないし,そういうものが加わって全体でわからなくなるのも同じで,要するに,高い価格のときに識別不能になったら,それはそのときの価格でまた全体をといいますか,今度は全部が12になっていますけれども,12を10と2に分けて,それで計算できませんか。


● それは一つの考え方だと思いますが。

● ええ,一つの考え方として。
● 仮の考え方としては,ちょっと御質問のことがよくわからないんですけれども,2段階で識別不能というものが生じるだろうと。例を確認しながらお話しさせていただきたいんですが,最初が10頭で……


● 10頭で,7と3。
● そこに後で2頭が加わりますという状況。それは固有財産。
● それは固有財産として加わった。ただ,今はもう全部識別不能になっている。だから2段階で識別不能があった。つまり,加わる場合は多分,2段階識別不能が出てくるという話で,減る場合はそういうことはないとは思うんですけれども。加わる場合は,2段階識別不能が生じ得る。


● 2段階目が起こるときにはヒツジの価格が倍になっているというのは,その12頭全部について倍になっているということですか。


● いえ,そのヒツジだけがですね。


● いろいろあると思うんですけれども,高級ヒツジみたいなものがいて……

● 例えば高級ヒツジが入ってくる。全体のヒツジの価格が2倍になるのであれば余り問題にならないと思いますけれども。まさに識別不能というのは,そういうところも一応,どういうふうに共有するかということを見なしで,ある意味で推定ですけれども,やるわけですから。


● そうすると,その2頭は高級だけれども,識別はできない状況になってしまう。そうすると,ほかの人に売るときには幾らで売れるんでしょうか。みんな倍で売れる……。


何かちょっと……,やはり識別できてしまうのではないですか。


● それが識別不能になっているという状況だということで。
● 2段階目でなくたって,第1段階目だって同じことが起こる。価格が違うとすれば。見かけは同じヒツジなんだけれども……


● おっしゃるとおりです。

● 実際分ければ……

● つまり,みんな同じように見えますという前提であるにもかかわらず値段が高いもの2頭と言われても,ちょっと。

● 2倍で調達してしまう。


● そのヒツジだけを2倍で調達してしまった。つまり,時価が関係するときには12頭全部,当初の1の値段でしか売れないんです。


● ただ,その当時の価格というのは識別不能の時点であって,売却の時点ではないですから。つまり,2加えたときには,その2というのは価格が2倍であった。


だけれども,売るときにはそれが全部また価格が下がって1になった場合。

● 価格の問題をどう考えるかはちょっと複雑ですけれども。
  余りこればっかり議論してもしようがないかもしれないけれども,後から加わる2頭以外の最初のヒツジも,これは調達価格は安いかもしれないけれども,後で2頭が加わるときに,そのときの客観的な価格があるわけですよね。


そうだとすると,そして,単に調達価格が違っただけで同じヒツジだとすると,後から加わる2頭についても調達価格をその基準にするのか,そのときの客観的な価格を基準にするのか。


  識別ができない同じものであって,そのときの客観的な価格がある時点で違うということが,そもそも想定しにくいですよね。


● そういう想定事由がないのであれば,それでよろしいんですが,加わった場合,どういうふうに考えるのかも検討する必要があるのではないかという趣旨でございます。


● 細かいところはもうちょっと詰めなければいけないかもしれませんけれども,2段階的に考えるということは,基本的な考え方だと思います。


● 私も同じことを考えていたんですが,2段階的に考えると,さらに条文を別に置かなくてはいけないかどうかがかかわってくるだろうと思うんです。


識別不能状態にある,その財産と新たな2頭とが混じるのか,それとも識別不能状態にあっても共有持分という形で識別可能であって,その共有持分との間で一緒になることを考えるのかによって規定の仕方が変わってくるのかなと思います。


● 1点,確認だけさせていただきたいんですが,御質問は,共有持分状態になっている10頭がいて,それにまた別の1頭が--1頭,1頭ですけれども,それが一緒になる。


ということになると,ここで共有持分が生じ,多分この共有持分割合に応じて,これだったら4分の1ですから,4分の1ずつA信託,B信託,C信託……というふうにぶら下がっていく,こういう状況ではないかと思います。


それは1,2,3というふうに書いておけば,当然解釈ができるのではないかと思います。


● 今の○○委員の御質問も,規定ぶりはともかく,最後の結論は,結局同じことになるという理解でよろしいですか。

  なかなか,まだ頭の体操のようなものが幾つもあるのかもしれませんけれども,今のような問題も意識しながら,条文にするときはさらに注意することになると思いますが,基本的な考え方として,大体よろしいでしょうか。


  では,今の細かい問題は宿題として残りましたけれども,基本的なことは御了解いただいたということで,第10についてはそのように扱わせていただきます。


  あと善管注意義務とか,あるいは法人の責任とか,幾つかまだ残っていますが,こちらについてはいかがでしょうか。


● 善管注意義務について,1点確認させていただければと思います。

  2,寄せられた意見についての個別的な検討の(1),善管注意義務の免除のところでございますけれども,ここには,受託者の善管注意義務を完全に免除するとの定めが信託行為に置かれている場合においては,委託者は信託設定の意思を有していなかったと解するのが合理的だと書かれているところでございますけれども,これは,こういったいわば丸投げ的な,全部免除的な特約がある場合は,そもそも信託の契約そのものがなかったと考えるのか,あるいはその特約だけが公序良俗違反ということで除かれるのかといったことについて,考え方の整理を教えていただければと思います。


  私がこれを質問いたしました背景ですけれども,私ども,業法であるところの信託業法を所管する立場でございまして,いわば商事信託の世界では,一般投資家と受託者たる信託会社との間に,経済学の言葉で言うところの「情報の非対称性」みたいなものがございまして,そういったことからすると,取引主体間の情報量と交渉力にかなり差がある場合がございます。

そういたしますと,私ども,一般投資家であるところの委託者とか,あるいは受益者を保護するという観点から申しますと,信託業法については善管注意義務の任意規定に関しては非常に慎重な検討をしなければいけないと考えておりまして,すると,一般投資家にとって,例えば善管注意義務を免除したときに,信託行為がなかったということは一体どういう意味を持つんだろうか,こんな問題意識でございます。

● 御質問自体も非常に重要な問題だと思いますし,さらにそのバックグラウンドになる今の御説明の点についても重要な問題だと思いますので,御意見を伺いたいと思いますけれども,先に,こちらから何かあれば。


● この点につきましては,事務局の中でも検討いたしました。そもそも善管注意義務の免除というものがどういう内容を含むのかという点がよくわからないというような議論をいたしまして,この点につきましては,以前の審議会でも同じような検討がされたかと思います。


  そもそも免除するというのがどういう内容かと申しますと,1つ考えられますのは,そもそも故意で何をやってもいいんだと。


例えば信託財産を壊してもいいといったことなのかなというようなことを考えまして,そういうようなことを信託行為で考えているのであれば,そもそもそういうものは信託を設定するという委託者の意思はないのだろう,そうだとすると,すべて信託というのは成立しなかった,信託行為自体が無効になるといった理解でいいのではないかと考えておりまして,そもそもここで「信託行為の定めにより免除することはできない善管注意義務は……」ということを書く意味がよくわからないということがありまして,ここで議論していただきたいことの1つとしましては,そもそも善管注意義務を免除するというのはどういうことを指しているのかということではないかと思っております。

それが明らかになって合理性があるのであれば,例えば,信託行為の定めにより,善管注意義務は価値を軽減することができるというようにする余地もあるかとは思っておりますが,そもそも免除というのが,先ほど申し上げたとおり何をやってもいいんだというのであれば,そういうものは信託ではないだろうということになるのではないか。それは解釈で明らかなのではないかというのが今の結論でございます。

● 信託財産の引渡しがあり,契約当事者間の契約があっても,この場合は無効と解する,こういうことでございますか。


● 無効という言い方がいいのかどうか,よくわからないところがありまして,所有権移転等を引用しているのかもしれませんし,いや,その場合は委任でもないのかもしれないしというふうな話ではあるのではないかと思います。


無効という言い方がいいのかどうかわかりませんけれども,信託という認定はされないのではないか,そういう趣旨でございます。


● 免除という言葉はちょっと強いかもしれませんけれども,現実的にあり得るのは,やはり損害賠償責任を心配して,そこについては故意・重過失以外は負わないとか,故意だけ負わない。そんなのないかもしれませんけれども。
  他方において,善管注意義務は義務として負っても構わない。なおかつ,信託財産を破損するようなことをわざとすれば,それは善管注意義務が免除されていたとしても,実質他人財産に近いものですから不法行為を構成すると思うので,ですから,免除,また免除に近い規定が契約上,入ったとしても,そもそもそこまで悪質といいますか,そこまで管理しないつもりはなくて,私は,それは主責任の方の心配からそういう規定になっていくのではないかと思うんですよね。

  そういう意味におきましては,やはり免除とか免除に近い規定が入っている場合には,本来その免除規定,また免除に近い規定自体が無効であって,そしてデフォルトルールとして善管注意義務が普通に課せられると解釈した方が,かえって信託も継続しますし,受益者保護にもなるのではないかと思うんですけれども。


● 普通の,いわゆる免除といいますか,今,○○委員が言われたような免責規定ですかね,その場合には,確かにこういう重過失を免責する部分はだめで,通常の善管注意義務を負わされる規定として考えれば,多くの場合はそれで解決するんでしょうね。


  どんな場合がそもそも信託にならないのか,私もまだ十分イメージがありませんけれども,免除そのものよりは,何をしていいかという行為義務の範囲の決め方とも関連して,そして何をやっても構わない,また,それによって損害が生じても責任を負わない,仮にそんなような規定があると,果たしてそういうものは信託と言えるかどうかが問題となる。そんなことではないかと私としては理解しました。事務局の説明は。

  ただ,多くの場合はそういう規定ではなくて,仮に損害が生じても責任を負わない,文言上は故意・重過失についても免責するような規定があったときに,これは故意・重過失の部分だけ否定すれば済む問題であろう,そういう感じがしますね。○○委員も,結局そういうことだったと理解してよろしいですか。

● そうですね,義務と責任を分けて規定することはあり得ますので,義務は負うけれども責任は負わないという……

● それもあり得ます。義務の方もすべて免除というか,何をやってもいいということになると,これはまた,果たして信託かどうかが問題となるということだと思います。

● 今のような極端な事例は,いろいろな考え方の中で一つの考え方を示されたと思うのですけれども,そこまでに至らない場合は,第18の「ただし,信託行為に別段の定めがあるときは,その定めに従うものとする。」というのはもちろん原則としてそうであって,このただし書きの限界というのは,公序良俗のような第90条の規定によって,つまり一般的な内容規制に関する規定によってのみ制約を受けるという理解でよろしいんでしょうか。


● 私はそう思っているけれども,どうですか。
● そういう理解です。


● そうですね。としますと,例えば今のような極端な責任を,信託と銘打ちながらおよそ責任を負わない,善管注意義務を負わない,ないしは実質的にはそれと等しいような免責規定をたくさん入れているということは,信託という契約の……,やはり公序良俗とは別の考慮から,信託である以上そのような制約がかかってくるのだという理解で先ほど御説明があったと考えればよろしいのでしょうか。


● そうですね,公序良俗そのものとは,ちょっとまた違った説明があり得るということだと思います。具体的にどういう場合がそうかというのは,なかなかいい例が……。


● すみません,先ほど御回答にあったと思うんですけれども,契約そのものが無効になるかならないかは,その時の状況次第ということなんでしょうか。


  例えば救済という観点からすると,信託という形で成立していた方が,ある意味,ほかの部分の義務が課せられていますから,できるだけそれは存続させるような形にした方が得策--得策というのは,受益者の側からして,救済額として得策ではないかと思うんですけれども。


● 確かにそういう問題もありますね。
  これはここだけの問題ではなくて,分別管理義務などについても全く同じような問題が生じると思いますけれども,分別管理義務を一切排除して,ごちゃごちゃにしていいなんていうのが果たして信託かというと,信託とは言いにくいわけですけれども,あれも信託であるというふうにしておいて,分別管理義務の免除の部分はだめだということで分別管理義務を負わせるという解決の仕方をするというのと同じ問題ですよね。


  そこは,この条文といいますか,この試案自体では,どちらになるかということまで必ずしも明確に書いてあるわけではなくて,解釈によって決まると思いますけれども,場合によっては「こんなものは信託ではない」というものがあり得るかもしれないというぐらいのニュアンスとして私は理解しています。


しかし,多くの場合は信託であることを認めた上で,排除している義務は,その部分は無効だということで本来のデフォルト的な義務が負わされるというのが,解決としては望ましいかもしれません。


● 先ほどの質問の趣旨をもうちょっとはっきり言った方がいいかなと思いますので,つけ加えさせてください。
  

通常の民法の売買とか賃貸借といった契約ですと,その契約の本質的な要素にかかわる部分について,例えば賃貸借と銘打ちながら,かなりその本質と違うようなことを当事者間で合意するというような場合に,それは賃貸借であるとか,あるいは売買であるとは言えないかもしれないけれども,しかし,契約は自由なんだから,そういう一種の無名契約のようなものとして効力を認めればいいではないかというのが民法の基本的な考え方だと思うんですね。


  ところが,信託の場合は,ちょっとそれとは違うという理解でよろしいんでしょうか。それが実はさっきの確認の一番根本にあったところなんですけれども。


● 私としては,違うとは言いたくない,そこは。基本的な構造は同じだと思いますけれども。

● 我々も,ほかの契約と違うということを申し上げているつもりはなくて,再度申し上げることになるかもしれませんけれども,これはパブリック・コメントに寄せられた意見の理解なんですけれども,第18に書いてある「信託事務を処理するに当たっては,善良な管理者の注意をもってしなければならない」これを完全に免除することはできるのかという,言われ方の問題のようなところが1つあるのかなと思っていまして,つまり,善良な管理者の注意でなくてもいい,自己財産と同一の注意でなくてもいい,何も注意しなくてもよくて,信託事務を処理するに当たって,信託目的に従って行動しなくもいいぐらいのことを言われる,それが完全な免除なんだろうか,そこまで言われているのであれば,それはもう信託ではない。

つまり,自己のために財産を使う,それはもう信託ではないという整理を我々としてはしておりますので,そこまで言われるのであれば,それは信託ではないということになってしまうのではないだろうか。


  それに対して--すみません,今,先生方がいろいろおっしゃっているのは,いや,そうではなくて,もう少し個別的な義務の軽減,あるいは免除の話なんだよということで,ちょっとパブリック・コメントに寄せられた意見の受けとめ,あるいは第18のただし書きの理解というか,そこのあたりがもしかしたら少し違っていたのかなという感じがするのですが。

● さらにつけ加えていますと,○○委員が非常に悩んでおられる,余り極端なことを言いたくないというお気持ちは非常によくわかるわけでして,要するに,善管注意義務を外したような財産管理契約という無名契約を考えるならば,それは信託ではないかもしれないけれども,そういう契約はあり得る,一般論からするとそういうふうになりそうだけれども,何とかそこから先をうまく説明できないものだろうかということだろうと思うんですね。
  


もう一つの考え方は,信託と言うかどうかは別として,他人の財産を扱いながら,およそ全く善管注意義務のようなものを負わない,受託者に相当する者がかなり適当なことをやれるといった契約自体が,公序良俗と言うかどうかは別として,やはり一般法理として,そのような財産を預ける者にとって非常に危険な,一方的な契約は許されないからではないんでしょうか。


そういう意味では,一般法理の一つのあらわれとして,この種の善管注意義務を外すような財産管理契約というのは,やはり無効なのだということが出てくるのではないでしょうか。


  その上で,その契約全体が無効なのか,それとも財産管理を約束した以上は善管注意義務に相当するものは必ず負うという強行法規のようなものがあるわけであって,それがそのまま適用されるだけであって,外せないというふうに考えるのか,どちらで考えるのが,より他の説明と整合的だろうかという話で済むのではないかなと,私は最初,直感で思ったのですけれども,どうもそうではない展開をしていたので,確認させていただいたということです。

● ○○幹事がおっしゃった,そういうのは公序良俗から無効だというお話ですが,ある財産を寄附したり,贈与だってできるわけですから,そういうものは,いわゆる財産管理契約でなかったのだというだけの話で,無名契約とさせない,したがって認めないということまでする必要があるかどうか,ちょっと今……。

完全に贈与して所有権を移転してしまうことだって当然できるわけですね,世の中的には。


それと信託の中間にあるようなものだと。そういうものを財産管理契約と言うかというと,そうではないのだろうという,それだけの話なのではないかという気が,ちょっと。


● 自分の財産を管理するという,そういう枠組みでの話ですよね。

  これはむしろ○○幹事に確認ですけれども,他人の財産を管理するもので,しかし善管注意義務を,ここでも完全に排除するということは微妙ですが,完全に排除するのはだめかもしれないけれども,それを軽減するようなものはあり得る,そういう御理解でよろしいですか。それはそれでいい。


● ええ。ですから,どこまでに限界があるのかというもので,それが,何かこれは信託だから,信託と言えないからというのでは,ちょっと説明が,ほかの契約と違い過ぎていて,そういう説明も,信託は特別だという説明はあり得るとは思うんですけれども,そうでない説明の仕方もあり得るのかなと思った次第です。


  結論は,そんな大きい違いがあるとは思いません。全部無効か一部無効かというのは残りますけれども。


● そうですよね,普通の財産管理,信託も含めてだけれども,普通の財産管理の場合の契約に共通する,いわば解決の仕方を提示したということですよね。


  恐らくそれで十分済むといいますか,信託でないというような場合を,これもたまたまパブリック・コメントがこういう形で出てきたので,それに対する一つの答え方として,そういう答え方がちょっと目立った形になりましたけれども,恐らく一般論から出発して,第18の善管注意義務の問題を考えるのであれば,信託行為で別段の定めがあれば,ある程度軽減できるけれども,それには一定の限界があって,およそ故意・重過失の場合でも構わないというものはもちろんだめで,そういう限界がある。


これはしかし信託の場合だけでなく,委任であれ,ほかの場合であれ同じような問題がある,あるいはそういう理解が一番一般的な理解としてわかりやすいかもしれません。


  特にこちらもそれで異論があるわけではありませんからね。

● 今の議論,何も異論はございませんけれども,このパブリック・コメントといいますか,提案されている文章の中に,今,議論になっているのは,むしろ認定規定化の限界といいますか,その辺が議論になっているのかなという気がしておるんですけれども,その限界があるということが表現として出てきていないかなという気がしておりまして,そこが1つ,もしそういったことも盛り込めるのであれば,何らかの形ではっきり書いた方がいいのではないかという気がするのと,それから,先ほど業法のお話が出ましたけれども,この辺については弁護士会や何かでも多少議論があったところですけれども,信託の一般法のレベルの問題と,それから業法のレベルの問題は,やはりちょっと違うのではないかという気がしておりまして,信託の一般法としては,こういった形で別段の定めを置くことが適当だと思いますけれども,両方のレベルで同じように任意法規化するかどうかについては,やはりいろいろ議論があり得るところだと思いますので,そこは,そういった観点も踏まえた方がよろしかろうと思っています。

● 2番目の論点も非常に重要な問題だと思いますので,また御意見を伺いたいと思います。


  最初の方に関して言えば,ここで「別段の定め」の限界がうまく書けるかどうかという問題なんですが,これは私の個人的な意見ですけれども,一般的に公序良俗の問題としても,故意・重過失の免責までは含んではいけないというのが大体決まった考え方ですので,少なくともそういう限界については,ここでわざわざ書かなくても一般的にはかぶってくるだろうというふうには思います。


  2番目の論点は,もうちょっと実質的に重要な問題だと思いますけれども,これは私よりもお詳しい方がほかにおられますので,信託一般法と,それから業法との関係みたいなものですね,この場は「業法はこういうふうにあるべきだ」ということを議論する場ではございませんけれども,何か御意見があれば。

● これはファクトの御説明ということでお話しさせていただけるとありがたいんですけれども,実は,ここの善管注意義務のところは,前回の信託業法の改正のときに,いえば強行規定に近い形で新しく導入させていただいたところで,その考え方としては,当時の立法担当者の意思としては,信託業への信頼性確保の観点から,一般的な義務規定を業法上も規定することが適当で,監督に当たっての受益者保護のための行動する根拠,あるいは職業としての受託については,一般の受託者よりも相当程度,やはりそういう義務の重いところを考えなければいけないということから,確かに○○幹事おっしゃるように,そこは一般法であるところの信託法と,それから,いわばプロの法律たる業法として規範の定めとは違う,そういう整理をしております。それがファクトです。


● この場で余り議論することは適当でないのかもしれませんが,仮にこの信託法が一般法でもって任意規定--任意規定といっても一定の限界があるわけですが,先ほどから問題となっているような故意・重過失みたいな場合には,もちろんだめだと。


ですから,ある種の軽減ができるだけである。そういうものが信託法に一般法でもって入ってきたときも,やはり業法は別に考えた方がいいのではないか,そういう御意見ということですか。


  先ほどまでは,今まではこれ自体が強行法規であったという前提だったわけですけれども。


● ○○委員おっしゃるとおり,もちろん,この信託法の改正を受けて私どもの業法をどうするかという議論があり得るわけで,そこはいろいろな考え方があると思いますが,先ほど申し上げましたように,私どもといたしましては,やはり受託者,それから委託者の間に情報の非対称性がある場合が結構多うございますので,そういった観点を踏まえて慎重に検討せざるを得ないのではないか,こんな感じでございます。


● 業法の観点からは,もちろんそうでしょうし,一般法の定め方としては,信託法としてはこれでよいかと思うんですけれども,先ほど何度も出ていますように,契約の内容規制に関する一般法理によって,やはり制約を受けてくることになる。


公序良俗がその代表例でしょうけれども,それによって制約を受けてくるというときに,やはりどういう契約であり,どういう主体がだれに対してどういう契約をしているのかというのは,やはり内容規制に当たって大きい意味を持ってくるんだろうと思います。


  やはりプロの業者が通常の一般の人間に対して契約するときには,やはり善管注意義務を負いませんよとか,相当軽減していますよというようなものが信託として行われている場合には,考え方によっては,厳しい内容規制が入ってくる可能性があるだろうというのは,やはり確認しておく必要があるのではないでしょうか。


  ここでただし書きが入ったので「よほどひどいものでない限り大丈夫」一般的にそう簡単に受けとめてよいかどうかはちょっと別問題として,次の問題としてあるというのは押さえておく必要があるかと思います。


● 業法と一般法は違うということもよくわかりますし,○○関係官がおっしゃったような形で,例えば情報に格差がある者同士,受託者と受益者について,それなりの規制をしなければいけないというのも理解できますけれども,もう御承知のように,信託というのはいろいろな種類がありまして,営業信託におきましても多種多様な信託があって,その状況が,今,おっしゃったような状況そのものにおさまるものでもありませんので,これもよく御承知のことだと思いますけれども,業法というのはその辺のところを割と,さじ加減という言い方はおかしいですけれども,いろいろな対応に応じた形で臨機応変に規制ができると思いますので,その辺のところを御配慮いただけたらなと考えております。

● ちょっと的外れになってしまうかもしれませんけれども,善管注意義務を免除するという意味なんですけれども,これは受託者の自己のものに対する注意義務まで軽減することになるのか,それとも一切何の注意義務も負わないということになるのかがよくわからないんですが,もし,善管注意義務を免除することが自己のものに対する注意義務にレベルを落とすということであれば,例えば貸付債権の信託を想定した場合で,受託者が信託銀行ですと,銀行業務も営んでいますと。


そして銀行業務として貸し出しをやっているので,それなりに貸付債権を,自己のものであってもきちんと管理しています,杜撰なことはやっていませんということがある程度わかる場合に,それを期待して,それでもいいというようなこともあり得るのではないかという気がしておるんですけれども。

● そこのところは,やはり免除をどういうふうに考えるのかという点に戻るかと思うんですけれども,委任でも同じような話がありまして,善管注意義務につきましては,自己の財産におけると同一の注意までは軽減することができる。

ただし,免除まではすることができないという議論がありますので,ここにおける善管注意義務につきましても,自己における財産と同一の注意までは軽減することができるというのを当然の前提にしておりまして,それ以上に免除はできないのではないか。


その免除というのが,何をやってもいいですよというのであれば,それは許されない。それは先ほど議論ありましたとおり,公序良俗とか契約の本質とかで制約されるのではないかという考え方でございまして,もう一度申し上げますと,自己の財産におけると同一の注意までには軽減できるというのを前提にしております。


● その点,よろしいですか。
● わかりました。


● ほかに,よろしいでしょうか。結構重要な,象徴的な問題であると思いますので,御意見があれば伺いたいと思います。


● 議論の整理だけですが,昔からある問題で,善管注意義務というのが債務の範囲を決めたことなのか,それとも過失の程度を決めたものなのかという問題が根底にあって,さらに債務の内容と過失とが峻別できるものなのか,それとも裏表なのかというのがあると思います。


それをどこから見るかによって,契約として認められるかどうかということと,それから公序によって規制されるのかというのは視点が変わってくるんだろうと思います。


● おっしゃるとおりでございます。
  よろしいでしょうか。それでは,ただいまのような御意見を踏まえながら,この規定について基本的には御了承いただいたと思いますけれども,説明等につきましてはさらに検討するといいますか,これでいいかどうか確かめながらまとめていきたいと考えます。


  それでは,法人の役員の連帯責任と報酬請求権,受託者の職務の引受け,残りの部分についていかがでしょうか。


  法人の役員の連帯責任につきましても,現行の規定からすると大分軽くなるようでありますけれども,これは,そもそもその法人である受託者が一応責任を負って,それが財産が足りないようなときに,またさらにその法人の理事に負わせるという信託にとっては二重の仕組みになっているわけで,ここは他には余りない制度なので,軽減してもいいのかなということであります。

  報酬請求権は甲乙がございますので,これは少し御意見を伺っておいた方がよろしいと思います。


● 例のごとく甲案支持でございますけれども,費用の補償請求権といいますのは,なかなか予見ができないところもありますけれども,報酬につきましてはある程度,どういうものかはお互い理解しているところでもありますので,信託契約に書けば受益者にいけるという形であっても別にいいのではないかと考えておりまして,やはり基本的には甲案支持ということでございます。

● 同じく銀行会ということになるかもしれませんけれども,少数派であることも認識しつつ,一応甲案という立場であることを明確にしておきたいということと,それから,1点御質問がございます。


  前回の○○委員の話にも関連するかもしれませんけれども,例えば複数の受益者がいた場合に,交渉の結果,片一方が有償,片一方が無償になったといったときに,事実上,有償であった方が口を出すことになると思うんですが,そうした場合に,受託者としての公平義務との関係が出てくるのではないかと思っております。
 


 ただ,法律的に考えると,その委任は無償が前提であって,かつ基本的には有償か無償かというのは善管注意義務等に余り影響を及ぼさないという理解でいるわけで,ですから結果として,法律的にはお金をもらおうがもらうまいが公平義務には影響しないという整理なのかもしれませんが,ただ,やはり事実上「もらったからには私にいいことしてよ」という話になると,公平義務としてはなかなかしんどい。


もしそれが事実上の話であって,それは受託者としてちゃんと公平義務を実現するために頑張って公平にしなさいということであれば,結果的に受託者としては,そういう,ある意味トラブルといいましょうか,そういう説明がしにくくなると,やはり個別にこの人はとったり,この人はとらなかったりというような扱いはできなくなってしまう,そういう整理になるのかなと思ってはいるんですけれども,そういう意味で,ちょっと確認なんですけれども,有償,無償に関して受託者の義務というのは変わり得るのかどうかを,いま一度確認しておきたいと思います。

● そこは有償であろうが無償であろうが公平義務には変わりなく,平等に扱うべきだと考えているところでございます。


● よろしゅうございますか。甲案御支持の方もおられましたけれども,ほかの方。

● バランス上ということで,乙案支持の意見も十分あることを申し上げたいということで,理由につきましては前回,費用等の償還について申し上げましたし,事務局の方で用意してくださった文書が十分に伝えていると思いますので,この点についても乙案がよろしいのではないか。


受益権の譲渡ですとか放棄ですとか法律関係も,そちらの方が非常に明確になるのではないかと考えております。


  それから,今,○○委員から御指摘のあった公平義務につきましても,これはもう既にお答えになったとおり,それによって変わるものではない。


  有償,無償というお話ですけれども,分配の局面においても管理の局面においても,それが一体どういうふうに変わってくるのか,受益権の内容に反映するものではないわけですから,それによって変わることがないのは当然であると考えております。

● 今のバランスをとるための発言なんですが,私も乙案でよろしいかと思います。


  理由はここに書いてあることと,さらに考えてみると,委任と事務管理との比較というのを考えてみました。


委任の場合は,契約があって特約があれば報酬が支払われる。事務管理の場合には,そもそも報酬はなくて,費用補償の問題だけが出てくる。


受益者との間には契約関係がないわけですから,むしろバランスから言っても,報酬というのは別段の合意がない限りは発生しないという乙案の方が筋が通るのではないかと思っています。


● バランスはもうとれたので,それはいいんですが,乙案の読み方なんですけれども,これは信託行為に定めがあって,その上で合意をするということなんでしょうか。


そして,その信託行為の定めとして要求される内容なんですが,抽象的に報酬が取れるという話なのか,それとも受益者との個別の合意をすれば受益者からも取れるという信託行為の定めが必要なのかということなんですが,私の個人的な考え方としては,報酬が取れるというのは,やはり信託財産から取れるという意味であろうと思いますし,委託者が信託の設定のときに,例えば無償で受益者に何かの利益を得させようと考えてやったにもかかわらず,受託者が受益者に「あなたからもお金をもらえば嬉しいな」と言って個別に合意するというのも妙な話でございますので,基本的には信託行為の中に,受益者との合意によって受益者から取ることもできるまでの定めが必要なのではないかと思うのですが,そのあたりの理解についてお教えいただければと思います。

● 事務局としては,信託行為に定めは不要であって,信託外で受託者と受益者が合意するということでいいのではないかと考えていたところでございます。


● そうすると,何の対価なんですか。信託行為の信託の設定によって,受益者に対する給付義務なら給付義務,ないしは財産の管理義務なら管理義務が発生しているわけですよね。


その上で受益者と個別に合意をして受益者から取るのは,何の対価なんですか。


● 対価と言うと,信託財産から取れるわけでございますので,受益者から取るのは,対価性といいますと,やはり受益者の利益をおもんぱかって信託財産の管理・処分をしたことの対価ではないかという気がいたします。

● いろいろな考え方があり得るかもしれないけれども,基本が信託財産から取れて,そこには対価性があって,受益者からも取れるというのは,一種受益者が担保するというような関係になるのかもしれませんね。だからこそ,また当然に生じるものではなくて,特別な合意が必要である。


● ○○委員の御説明はわかるんですが,それというのは,例えば信託報酬が信託財産から取れないといった状況があるときに,それが信託の終了に結びついてしまうというふうなとき,ないしは信託財産のうちで核となる信託財産を売却しないと信託報酬が取れないので売却をしてしまって,目的が達成できなくなって終了しそうになる。


それは困るということで受益者が払うということだと思うんですが,それというのは,ある意味では代位弁済のようなものでありまして,受益者が報酬支払義務を負っているという関係とは少し違うのではないかという気がするのですが。


● ええ,その2つは違うと思うけれども。ちょっと○○幹事の御意見を十分理解していなかったかもしれませんけれども,仮に今,信託の報酬だけに限定して考えると,これはその信託財産を管理して,そのサービスを提供することの対価として,それは当然発生する報酬請求権ですけれども,これは信託財産から取れる。


これが普通の形であると考えるわけですよね。その信託財産以外になお受益者からも取れるというふうにするためには,これは何か特別な合意が必要なのではないか。


● その信託報酬の額は,信託行為の定めに例えば「月々100万円」と書いてあって,受益者と個別に合意して30万円取れることになったら,信託財産かは70万円しか取れないんでしょうか。


そうなると,それは私が言っている代位弁済のような,第三者弁済のようなものではないかという話なんですが。


● ○○幹事がおっしゃっているところで,もう御趣旨は明確なのかもしれませんが,念のため確認だけさせていただきたいと思います。


  信託行為に定めていなくてはいけないのですかというお話は,受益者から信託報酬を取るということの意味なのかもしれませんけれども,まず信託財産から信託報酬を取れるということが書いていなければ,それはだめですと。


ただ,信託財産からではなくて「受益者から信託報酬を受けることができます」ということが信託行為に書いてある必要は当然ないわけで,言われているところは,信託報酬を信託財産から幾ら幾ら受けることができますとあって,それと同じ内容のものを受益者からとりたいのであれば,受益者との間で個別の合意を結んだらどうですか,そういうことを表現しているのが乙案の趣旨かと,それが第三者の弁済と同じようなものではないか,こういう御趣旨ですか。


  すみません,うまく言えていないような気がするのですが。


● そうすると,減るわけですね。受益者から取れた分だけ信託財産から取れなくなるわけですよね。


● それは,そうでしょうね。
● ええ,そういう関係です。


● 示せば減るけれども,合意をしなければ減らないのではないでしょうか。


ですから,何を例にするのが一番いいか,よくわかりませんけれども,保証人なのか連帯債務者なのか,そういう複数の責任財産に共同で帰属する,そういう債務というか,受託者から見ると請求権になるのではないでしょうか。


● 私が考えているのも,そういうことですけれども。


● ですから最初のところに戻って,何の対価かということに対する私の答えは,他の信託事務処理の対価なんだろうと思います。


そして,では何で対価を受益者が払うのか。合意で払うわけですけれども,その経済的な実質が基礎にあるのかというと,信託財産から利益を受けるのは受益者なので,そこをバイパスしてといいましょうか,直接取っても何ら経済的にバランスを失することにはならないだろうと思います。

  ただ,だからといって甲案がいいわけではなくて,乙案を私も支持するところでありますが,乙案は,そういうふうに説明できるんだろうと思います。


● ○○幹事の御意見と同じことですが,ある種の保証人みたいなものだということですよね。


● 申しわけありませんでしたが,大体頭の整理がつきました。そうしましたら,ゴシックで「信託報酬を受ける権利の行使方法」と書いてあるところが重要な意味を持ってきて,これは,信託報酬を受ける権利というものは信託行為によって定められている一つの権利であって,その行使方法として,受益者からの信託報酬の取得という行使方法が合意によって成立し得るということであると読むことができるような気がします。


  かつ,そうしますと,これは言葉遣いだけの問題ですが,2の(2)の「受益者から信託報酬を受ける権利」というのは,もうちょっと丁寧な言葉遣いをした方が,その趣旨がとりやすいのかなという気がするわけで,それは誤解をするのはおまえだけだと言われればそれまでなんですが,そういう気がいたします。


● 御趣旨はよくわかりました。その部分は少し表現を,今,議論して大体了解を得たような中身があらわせるように検討したいと思います。
  それでは,報酬のところもよろしいでしょうか。
  


さっきバランスと言われましたけれども,バランスだけだとどっちにしていいかわからないので,大体の方向としてどちらが多いのかを確認させていただければと思いますが,ほかの皆様の中で御意見は。


● 数を数えるなら,乙案の方に賛成いたします。
● よろしいですか,乙案。では,乙案が多数であるということだけ確認させていただきました。


  それでは,あと残り特に御意見がなければ,職務の引受け等,これは御了解いただいたということでよろしいでしょうか。


● 委託者に相続人がなくして死亡したときにはどうなるかについて,お教えください。


● 相続人不存在の場合ですね。相続財産法人の管理人に対して回答するということに……


● それならそれで,わかりました。

● ちょっと細かいことなんですけれども,相続の場合なんですけれども,遺言執行者等が選任されているときはどうなるんですか。


● 難しい問題ですね。いかがですか。


● そこは遺贈の場合の規律で,文言上は「遺贈義務者に対して」となっているわけでございますが,この場合,遺言執行者も含めていいのではないかと見解が分かれているところで,どちらとも言えないところでございます。


  どちらがいいかちょっと迷っているところでございますが,実質的には,遺言執行者がいればその人に回答するのがよりベターだと思うんですね。


ですから,遺言執行者がいる場合には遺言執行者ということでいいのかなという気がしておりますが。


● 現実的には,やはり遺言執行者だろうという感じはするんですけれども。遺言信託で仮に問題となるとすると,そもそも受託者が引き受けるかどうか問い合わせてくるのは遺言執行者ですよね,その段階では。


後で催告するのは,また別の人間があり得るかもしれないですけれども,やはり遺言執行者が正面に出ていますから,それがよさそうですけれども,相続の理論だとかいろいろなものとの兼ね合いで,そういう解釈でいけるのか,いけないのか。


  実質は余り問題ないと思うんですけれども,そんなところが問題なんだろうと思います。


  そういう意味で,これは遺言執行者を排除するつもりではなくて,原案としては,むしろ遺言執行者で構わないんだけれどもという……。


● 遺言執行者がいれば,この相続人に含めて解釈することは妨げないのかなと。そうすると,どっちに解釈してもいいということにはなると思いますが。


● そうしますと,この催告の相手方とかというのは,やはり遺言執行者等の問題というのは特殊なもので,基本的に委託者の地位自体の,どう言うんですか,基本的にはばらばらにしてはいけないわけですよね。


● 余り望ましくないでしょうね。


● あと,例えば委託者の地位自体,流動化等であれば当然移転させることもありますけれども,こういったものについてもそれに連れて移転するということですか。


● 法律行為の当事者としての地位が移転すれば,新たに委託者となった者が相手方になるのではないかと考えているところでございます。


● 民法の第1015条に「遺言執行者は,相続人の代理人と見なす。」という規定がありまして,また,第1012条を見ますと,遺言執行者は遺言の執行に必要な一切の行為をすることができるとなっておりますので,これは具体的に注釈等は見ていないんですけれども,相続人の代理人と見なされる以上は,確答する相手方として遺言執行者というのも当然いいのではないかという気が個人的にはいたしますけれども。


● 今のだと,専属的ではないということですかね。大体そんな解釈でよろしいのではないかと思いますが,よろしいでしょうか。


  それでは,これも今の解釈についてはもうちょっと詰めたいと思いますけれども,今のように,遺言執行者がいる場合には遺言執行者に対する確答でよろしいという--あ,どうぞ。

● 遺言執行者ですから,もちろん遺言信託の場合を前提としてということだと思いますので,契約信託で指定されているような場合は,また違ってくるという理解でよろしいでしょうか。


● そうですね,遺言信託の場合のことを考えております。


● もう一つ。先ほど若干議論があった点なんですけれども,だれに回答すべきかというのは,あくまで受託者側で調査すべき事項ということになりますでしょうか。


それとも,その確答を求める側が「だれだれに確答されたい」というようなことを明らかにすることになるのでしょうか。そこだけ確認させてください。


● 遺言執行者の就職の催告権というのが第1007条にございますが,あれも相続人に対して回答する。ああいうところも催告者が相続人を一々通知してやらなければいけないことになっているのかどうかという点は,いかがでしょうか。


  私の考えでは,受託者に指定された人の方で,相続人を探して回答する,あるいは遺言執行者がいれば遺言執行者でも相続人でもどちらでもいいんですが,催告する人がそれを一々通知してあげる必要はないと考えております。


● それでは第1区分,第8まではここまでとして,次に移りたいと思います。


● 次は,第12と第31について,関連いたしますので一緒に御説明いたします。

  資料ですと7ページでございますが,提案第12につきましては,ほぼすべての意見が改正試案の方向性について賛成でございました。

  以下では,第1点として,資料13ページにおける第31の受託者の権限違反行為の取消しとの関係で,この提案の1の(4)における「当該権限違反行為が信託財産のためにされたものであることを相手側が知らない場合」の要件に対する考え方が1点。


第2点といたしまして,(注)に記載した不法行為に関する問題について,この2点について御説明いたしたいと思います。


  まず,資料8ページの2(1),これが第1の問題を検討したところでございまして,試案におきましては,信託財産に属する財産について権利の設定または移転をする権限違反行為については,当該行為が信託財産のためにされたものであることを相手方が知らない限り,当該財産に掛かっていける,このような考え方を示しました上で,第31の補足説明の中におきまして,2つの考え方を示しておりました。


すなわち,取引相手方が信託財産のための行為だとは知らなかったと主張することにつきまして,1つは,取引対象となった財産について,現に信託の登記・登録がされていれば知らなかったとの主張はできないという考え方。


もう一つは,信託のためだとは知らなかったことについて,相手方に重過失があれば知らなかったとの主張はできないという考え方,この2つの考え方があり得ることを指摘いたしました。


  この点につきまして,この提案におきましては,前者の考え方,すなわち信託の登記・登録がある場合には,信託のためだとは知らなかったとの主張ができないとする考え方をとってはどうかと提案するものでございます。


  後者の重過失の場合には主張できないとする考え方によりますと,取引の相手方に対しまして,信託の受託者と取引をしているのかどうかの注意義務を課すことになると思われますが,これは取引の相手方に困難を強いるものであるように思われるわけでございます。


これに対しまして信託の登記・登録のある財産の場合におきましては,受託者の債権者がこのような財産に強制執行をした場合は,信託であることを対抗されて強制執行が排除されてしまうということに対比いたしますと,取引の相手方についても当該財産が信託財産であることを対抗されてもやむを得ないと思われる点が1点。


  それから,取引の相手方といたしましても,登記・登録のできる財産について取引しようとするのであれば,信託の登記・登録の有無ぐらいは調査すべきこととされてもさほどの困難を強いるものとは思われないという点が第2点。


  もう一つは,受託者の債権者の場合には執行が常に排除されてしまうわけですが,これと異なりまして,取引の相手方の場合には,信託のためだとは知らなかったという主張が許されないことになるにとどまりまして,なお受託者の権限違反行為について,善意・無重過失であれば救済される余地がありまして,取引の安全に対しても配慮した内容となっていることなどの点を指摘することができると思われます。

  これらの事情にかんがみますと,信託の登記・登録がある場合には,信託のためだとは知らなかったとの主張を許さないとする考え方を採用することが適切であると思われたわけでございます。


  そこで,今回の提案と試案との違いといいますのは,この1点についてのみでございまして,すなわち,現に信託の登記・登録のある財産については,取引の相手方において信託のためだとは知らなかったと主張することは許されず,信託のためであることを知っているものといわば同視されることになりまして,その結果,第12の1(4)から外れまして,一たん第31の権限違反行為についての取消権行使の可否のテストに服させることとした点でございます。

  これに対応いたしまして,資料13ページの第31の方におきましては,現に信託の登記・登録のある財産,典型的には不動産につきましては,「当該行為が信託財産のためにされたものであることを知り」という要件が常に満たされるものと考えまして,(2)から(1)の方に特出ししております。あとは権限違反行為についての悪意・重過失のみを問うことといたしました。
  


このような検討を加えました結果,本提案の内容を具体的に示しますと,資料14ページに書いてある①ないし④のとおりになるわけでございまして,①では,現に信託の登記・登録がされている不動産の権限取引の場合には,信託のためであることを知っているものと同視されることになりますので,第31の1(1)により取消権の行使の可否が決せられることになりまして,ここで取引ができないとすれば,取引の相手方は第12の1(3)によりまして,この信託不動産に掛かっていけることになります。

  これに対しまして,資料14ページの②のとおり,現に信託登記がされていない信託不動産の権限外取引の場合には,第31の1のいずれにも当たらないわけでございますが,これは要するに,信託財産であることの対抗ができないという理由によりまして,権限違反についての認識を問うまでもなく,取消権の行使ができないことを意味するわけでございます。


しかし,取消権の唯一の根拠であります第31により,取消しができないことには変わりがございませんので,取引相手方は,やはり第12の1(3)により,この信託不動産に掛かっていけることになると考えております。

  次に,信託の動産の権限外取引について考えてみますと,取引相手方が信託のためと知っているか否かによって分かれまして,信託のためと知っている場合には,14ページの③のとおり,第31の1(2)のイによりまして取消権の行使の可否が決せられることになりまして,ここで取消しができなくなりますと,第12の1(3)によりまして,やはり信託財産に掛かっていけるとなります。


  これに対しまして,信託のためと知らない場合には,第31の規律,すなわち当事者双方が信託のためとの認識自体は共有している場合に当たらないことになりまして,単に第12の1(4)の方によりまして,この信託不動産に掛かっていけることになります。


  最後に,信託のための権限外借入行為についてはどうかといいますと,貸付債権者が信託のためと知っているか否かによって分かれまして,信託のためと知っている場合には,資料14ページの④のとおり,第31の1(2)のロによりまして取消権の行使の可否が決せられまして,取消しができないとすれば,第12の1(3)によりまして,信託財産に掛かっていけることになります。


  これに対しまして信託のためと知らない場合には,第31の対象とならず,第12にも当てはまる場合がありませんので,結局,貸付債権者は信託財産には掛かっていけないということになります。


  以上がこの提案の考え方の,第12の1と第31の1との関係でございます。


  次に,不法行為の被害者が信託財産に掛かっていけるかという問題につきましては,パブリック・コメントの結果では,掛かっていけるとの意見の方が多数を占めております。


ただ,純然たる事実行為による不法行為の場合については,信託財産の独立性への配慮から,消極に解する見解もございました。


  この問題は,結局,受託者の無資力のリスクを被害者と受益者のいずれが負担するかという問題と言えますが,第1に,事実的不法行為といえども信託事務処理により生じたものに限定されているということ,それから,事実的不法行為と取引的不法行為との区別は必ずしも明確ではございませんが,取引的不法行為の場合に信託財産に掛かっていけることには,ほぼ異論がなかったことなどにかんがみますと,不法行為の被害者は,取引的不法行為であるか事実的不法行為であるかを問わず信託財産に掛かっていけるとすることが適当ではないかと思われます。

  なお,最後に資料7ページの末尾から8ページの冒頭に記載いたしました信託の設定時に債務の引受けがあった場合における当該債務に係る債権など個別のものにつきましては,信託財産に対して強制執行等ができる権利に当たる旨を明確化する方向で検討したいと考えております。


  続きまして,第31の方でございますが,資料で申しますと13ページからになります。


  本文については特段の異論は見られませんで,むしろ試案で(注)で示していた,この□の3点それぞれについて,意見が分かれております。


  なお,提案1の一部を変更したことは,さきに第12の関連で御説明したとおりでございます。


  まず,第1の□の取引相手方の悪意・重過失の証明責任についてでございますが,パブリック・コメントの結果では,取引の安全の観点から受益者に証明責任を負わせるべきであるという考え方と,受益者は十分な情報を有していないのが通常であるから,取引相手方に証明責任を負わせるべきであるとの考え方との両論がございました。


  この点につきましては,受益者が信任を寄せた受託者が権限違反を犯した場合であるということですとか,受託者の権限外行為も一応有効である上に,受益者が取引の当事者でないにもかかわらず第三者間の取引を一方的に取り消すものであることなどを考慮いたしまして,現行法どおり,受益者の方が証明責任を負うこととしてはどうかと考えるものでございます。


  次に,取消権の消滅期間につきましても,パブリック・コメントの結果は,取引の安全の観点から,現行法どおりの短期の消滅期間を定めるとともに,催告権は不要という意見と,受益者に対する催告権を導入することを前提に,消滅期間を延ばすべきであるという考え方とがございました。この点については,御意見を伺えればと考えております。

  最後に,有限責任取引の場合におきまして,善意・無重過失の相手方から受託者に対して民法第117条における無権代理人の責任と同様の責任の追及,すなわち受託者の固有財産からの履行または損害賠償の請求を認めるかという点につきましても,パブリック・コメントの結果は賛否両論が見られました。

  ところで,試案の補足説明で記載しておりましたが,無権代理人の取引の相手方が表見代理により本人に対して履行の請求をするためには,基本代理権ですとか正当事由の存在の立証責任を負担しなければならず,これは必ずしも容易ではないと思われます。


これに対しまして受託者の権限違反行為の場合には,受託者との取引の相手方が信託財産に掛かっていくためということになりますと,受託者の権限違反についての善意・無重過失のみが要求され軽過失は救われるわけですし,その証明責任も,先ほどの考え方によれば受益者側が負担することになるなど,利益状況はそもそも相手方にとってかなり有利なものとなっていると言えます。


そうすると,有限責任取引を締結した相手方に対しましては,約定どおり信託財産に対する請求の余地を認めておけば足り,それ以上に固有財産に対する請求という選択肢までもあえて付与する必要はないと思われるものでございます。


  説明は,以上でございます。

● それでは,ここで休憩いたしたいと思います。

          (休     憩)

● 再開したいと思います。
  先ほどの第12と第31,いかがでしょうか。


● 内容の確認でお聞かせいただければと思います。
  第12の1(3)と(4)に二重線が引いてあります。そして,(3)と(4)の関係を伺わせていただければと思うんですが,(3)というのは,第31云々で取消しがされていないものにより生じた権利で,(4)が,同じく権限違反行為なんですけれども,権限違反行為が信託財産のためにされたものであることを相手方が知らない場合に限る--によって生じたものだということなんですが,(4)の行為も,意味合いとしては,そもそも第31で取り消せない行為ということなんでしょうね。

そして(3)というのは,想像ですけれども,取り消せるけれども取り消していないという御趣旨なんでしょうかね。


多分そういう仕分けなのかなと思ったんですが,ただ,そうしますと,(3)と(4)をわざわざ並べる必要があるのかという気もちょっとしまして,要するに,取り消されない場合に一元化できるのかなという気がしただけで,意味内容の確認をさせていただければと思います。


● 今の御指摘は,実質的な内容は,先ほど○○幹事の方から御説明申し上げたとおりなのですが,ちょっと私どもの書き方がよくなかったかなと思います。


  補足説明,改正試案の場合におきましては,(3)は権限違反の行為で,相手方が信託財産のためにされたものであることを知っている場合として,(4)は,例えば,動産などのようなものについて権利の設定をする場合で,相手方が信託財産のためであるということを知らない場合という整理をしていたところ,(3)の知っている場合というときにつきまして,補足説明で書かせていただきましたけれども,信託の登記とか登録がある場合においては,それは相手方が知らなかったなんていうことは言わせる必要はないのではないかという御意見があったことを踏まえまして,したがいまして,その点については,信託の登記または登録があれば,相手方に「信託のためにしたことは知らなかったんだ」とは言わせないということで,したがって,第31の方は,第31の1の(1)の相手方が知っている場合を除いたわけでございます。

  それで,それ以外の(2)のものにつきましては,やはり相手方が知っている場合という要件は引き続きかかってくるとしないといけないかと思います。


したがいまして,ここで第31の1(1)または(2)に掲げるというふうにザクッと書いてしまったのでございますが,(2)に掲げる受託者の行為というのを文理に忠実に読みますと,確かに第31の1の(2)のイに掲げる行為ですから,借入行為と登記・登録ができない動産についての権利移転・設定行為をそのまま指すことになってしまいますので,○○幹事から御指摘のありましたように,(3)の中に(4)が含まれることにもなってしまうほか,改正試案を出す前に○○幹事や○○幹事から御指摘のあったような,相手方が信託のためだとは知らなかった場合について,取り消せないからといって信託財産に対して執行を認める必要はないではないかという御意見にも答えたような形には文理上,なっていないように読めてしまうかもしれませんが,ここの趣旨は,その実質を変えたわけではございませんで,条文ではないというところに甘えさせていただいて,第31の1(2)に掲げるという意味,第31の1の(2)の相手方が信託財産のためにされたものであることを知っている場合に限定した上で,第31の1による取消しがされていない場合と分けております。

● どういう場合はどうかという御説明は,おおむね「そうかな」と思って聞いたのですけれども,その上で,こうまとめていいのかということだけなんですが,(4)の場合は,相手方が知らないわけですから,第31では取り消せないですよね。

(3)の場合は,そもそも取り消せない場合も含まれているし,取り消せるけれどもまだ取消しが行われていない場合も含むということですよね。要するに,(3)(4)は,いずれにせよ第31によってもう決まることであって,つまり取り消すことがそもそもできなければだめだし,取り消せるとしても取消しの意思表示をしなければだめだ,そう理解してよいかということだけです。

● その点についてはそうなんですが,書き方の点で,第12の1の(3)の中に(4)は含まれているから,(4)を削ればいいかというと,そういう問題ではなくて,例えば借り入れなどをしたときに,信託財産のためにしたと思って受託者はやったんだけれども,相手方は,それは信託財産のためにしたことは知りませんでした,それが権限違反でしたというときに,確かにその場合,その受益者は取り消すことはできません。

だけれども,だからといって信託財産に執行できるというわけではなくて,その場合は権限違反で借り入れをしただけなんだから,それは固有財産に帰属させて,固有財産に執行させればいいでしょうという帰結になりますので,すみません,ちょっと書き方が悪い上にこんなことを申し上げて恐縮なんですが,(4)は(3)に含まれるので(4)を削ってそれで終わるかというと,そういう問題ではなくて,第31の1(1)によって取消しがされていないものと,第31の1(2)と書いて(信託財産のためにされたものであることを相手方が知っている場合における当該権限違反行為に限る。)という限定をつけた上で取消しがされていないものという,そういう整理になるかなということを申し上げたところであります。


● これは第31についての確認ですけれども,今,借り入れの例を挙げられましたけれども,これは第31の方で言うと,1の(2)のロに当たらないんですか。


● 借り入れですか。
● ええ。


● ロに当たります。したがって,受益者の取消しはできない。だけれども,第31で取消しができないものが全部信託財産に執行できますかというと,それはそうではないですよねというために,(3)のところで相手方が知っている場合に限るという限定を,借入行為についてはつけないといけない。そこを丁寧に書き分けないといけない。

● それが今の(3)の表現で落ちているということですか。
● そうです。そこは申しわけございませんでしたというか,経緯からそういうふうに書いてしまったのですが,説明ではそういう説明をさせていただいておりまして,条文を意識したものではないとはいえ,試案の書きぶりは,ちょっと正確ではなかったかなと思います。

● とりあえず,確認だけですので。
● 今の第31の1の(2)のロが借り入れに当たるということで,それは外すんだという御説明だと思いますが,このロについては,例えば権利の変更行為も入るのではないかと思うんですけれども,それも落ちてしまうことになるんでしょうか。

● 権利の変更と申しますと,例えば……。すみません,ちょっと具体的に。
● 一般的に言えば,不動産の対抗要件のところで権利の設定または変更というように言われている,その変更。いろいろなものがあると思いますけれども,この文字面だけですと,設定・移転行為以外ということですと,そういうものも入り得るのではないか。


それをまとめて除外するのが適当かどうか。むしろ借り入れについてが特別のルールがあり得るのではないかと思ったんですけれども。


● 権利の変更について……,そうですね,今まで具体的には考えてこなかったけれども,この表現だとそれが借り入れと同じ扱いになってしまうわけですよね。


今まで変更のことは余り考えていなかったけれども,借り入れと同じに扱った方がいいという積極的な意見があったわけではなかったですね,確かに。


  それは,もしそういう御意見であれば,表現をそれに揃えるように書き直すことはできると思います。いずれにせよ,借り入れがとにかく一つのキーポイントだったわけで。

  ごめんなさい,この点また戻るかもしれませんけれども,もし○○委員が関連することであれば。


● 十分理解しての質問かどうかわかりませんが,ただ,大ざっぱな質問なもので通用すると思うんですが,重過失の議論なんですけれども,今「信託財産のためにすることを知り」というところに重過失を入れるべきではないかというふうなことを言わんとしているんですけれども,そう言うことが,信託財産のためにしていなければ,そもそも信託財産に掛かっていけないんだと思って,仮に受託者の行為が信託財産のためであってもという議論だとすると,ちょっと言っていることが矛盾してしまうんですけれども,言わんとしていることは,民事信託を考えた場合,御説明にあったように,受託者名義ですから取引の相手方はわかりませんけれども,通常の場合というか,商事信託であれば信託会社は専業義務を課せられていますし,信託銀行であれば何々信託銀行ということですし,まして動産であれば分別管理ということで,分別して管理されていますから,ですから,取引の相手方というのはかなりの程度,ちょっとした注意義務をもってすれば信託財産であること等はわかると思うので,そういう場合でも取引の相手方を保護するような議論--と私は理解しているんですけれども,そうではないとすると意味がない議論になってしまうんですが,そういうのはどうなのかなと。

  要するに,分別管理,それから信託会社における専業義務という視点から,信託財産のために行動することは取引の相手方だったらわかり得るのではないか。


それからあと,信託の公示制度そのものがかなり軽減化されているという現実が,他方において分別管理で賄われるという全体の建てつけですから,そういう意味において,幾ら同じ受託者名義とは言いながらも,信託との取引ということが注意義務としてある程度は課せられてもいいのではないかというコメントと,あと,不動産とか登記・登録を要するものに関して,登記・登録がすべての判断の基準という建てつけのようですし,基準としてのわかりやすさはあると思うんですけれども,あと,以前にも議論した,背信的悪意者みたいなものは入るかもしれないという話だったと思うので,その辺の確認と,仮に登記・登録していなくても,信託銀行が信託財産として預かっていることを相手方が知っていれば,それはそれで悪意として,その効果というものは考えてもよろしいのではないかと思うんですが。

  細かいところの理解が間違っているかもしれないので,検討違いの議論かもしれませんけれども,そういう視点から何か御見解をいただければと思うんですが。


● ○○委員のおっしゃった最後の,当該財産が信託銀行が信託財産のために預かっていることを知っているかというのは,もう文言ばっちり,「信託財産のためにされたものであることを知り」というところに当たるかと思いますので,あとはその権限違反について,善意・無重過失であるか悪意があるかどうかを論ずればよろしいのかと思うのですけれども……

● それは,登記・登録を要するものであっても,もうそれはそこで決めるということですか。


● 登記・登録を要するものについては,信託の登記・登録がされていれば,相手方が信託のためにしていることを知らなかったとは言わせないというのが第31の1の(1)ですので,信託の登記・登録があるものについて,その登記・登録があれば相手方は「いや,私はあなたが信託のためにやったとは知らなかったよ」という主張はできなくて……

● 登記・登録を要するものが登記・登録していないんだけれども,分別管理され,信託財産として管理されていることを相手方が知っている場合。


● その場合は,信託の登記・登録をすることができる財産であれば,相手方は,これも前回,○○委員の御発言にもあったかと思いますけれども,背信的悪意者に当たらない限りは,それは信託の対抗問題として,相手方というか,受託者が信託であるということを相手方に言えないわけですから,先に履行してとってきてしまえば,それはもう対抗問題として相手方が勝つことになるのではないかと思います。

● 背信的悪意者というのは,結局悪意・重過失……,ちょっと昔の議論を忘れてしまったんですけれども,それほど加重されていなかったような気もするんですけれども。--いや,ちょっとわかりません。私の理解が間違っているかもしれませんけれども。

● 背信的悪意者ということであれば,それはもう受益者,これは信託であるということは対抗できますよという話になって,あとは軽減違反について別途,善意・無重過失かどうかというところで決せられることになるかと思います。


  あと,ちょっとつけ加えですが,信託の登記または登録をすることができない動産のようなものを売るときに,これも○○委員から,民事であれば確かにこの主張は妥当するけれども,商事であればいかがかという御指摘があったかと思うのですが,確かに分別管理はしてあるわけですけれども,何か実際の売買のときに,商事であれば動産をポッと出されたときに,それは信託財産の財布から来たか固有財産の財布かということを常に考えなければいけないという注意義務を若干なりとも課すことが適切かどうかということで,とりあえずこの案では重過失は問わずに,悪意か善意かだけを問うという案にさせていただいているということかと思います。

● そこは判断の分かれるところだから,いろいろな考えがあるのかもしれませんけれども,普通,民法的な議論をすると,故意と重過失はかなり同視されるような行為として考えますよね。


ですから,そういう意味において,悪意のみというのも何か強いような……。将来の解釈に委ねるという趣旨であれば,それはそれでいいのかなと思うんですけれども,ここの規律だけ「重過失」という言葉が結構はっきり出てくることによって,悪意は悪意だけみたいな感じもしますし,将来的に軽過失でいいんだという議論が逆にしにくいような規律にもなっているのかなと。


民法一般としては,やはり外観法理にしろ何にしろ--と言ったらちょっと間違っているかもしれませんけれども,やはり過失があれば責任があるということかと思うんですけれども,ここだけちょっと,ある意味では将来の解釈論が確定してしまっているのが分別管理,先ほども言ったように,信託の専業義務という視点からすると,信託財産が結局受託者,その受託者を信じたあなたが間違っていたんだと言われてしまえばそれまでかもしれませんけれども,分別管理されているものを取引した人が,重過失があるにもかかわらず保護されるようなシチュエーションというのは,民法的な視点からも信託を守る視点からも,何かちょっと感覚的にそぐわないところがありまして,再度確認している次第ですけれども。


● いろいろな問題があったと思いますけれども,1つは,信託の対抗という問題を正面に出しているために,信託の登記・登録ができるのにしていないと,もう信託を対抗できないということで,あとは背信的悪意者でないと受益者というか,信託が保護されないとなっていることがどうかというのが後半の問題ですよね。


  これは信託の対抗がもうできないと言われてしまうと,あとは背信的悪意者しかとにかく保護しようがないので,そこで過失があってもだめだとはなかなか言いにくい構造になってしまっている。これをどうするかが1つの問題であることは確かですね。

  もう一つは,あるいは○○委員の問題意識と私のと完全にオーバーラップするかどうかわかりませんけれども,信託の登記・登録をした場合であって,ですから,これは相手方はもちろん信託財産であることを知っているし,そういうときに相手方に要求される要件が,故意・重過失があれば取消しができて,しかし,軽過失があった程度では取消しができないという部分,ここもちょっと私は,個人的にはこれでいいのかどうかちょっと気になっていまして,特にこれ,今までの信託法第31条の取消権というのは,これも硬直的で,これを直そうというのが出発点だったわけですけれども,少なくとも今までの信託法第31条の取消権の場合には,登記・登録があると,これは相手方の善意だろうが無過失だろうが,それに関係なく常に取り消せるというので,これはちょっと極端である,とにかくこれを変えようと。

  変えようとなったんですけれども,今度は反対側の方に振り子が完全にいってしまって,故意・重過失の場合にしか信託の方は保護されない。おまけに挙証責任も受益者の方で証明しますので,受益者の方で,信託財産の取引の相手方が悪意または重過失があることを証明しないと保護されないということになって,従来の第31条の下で保護されていた受益者,あるいは保護されていた信託からすると,極端に取引の安全の方に移行してしまっているのではないかという気が個人的にはしております。

  信託財産というものはそういうものだと割り切ってしまうのも1つかもしれませんが,そこまで極端な議論をしなくても,法人などの場合で取締役が定款などで定められている,制限されている権限に違反して取引をした場合とのバランスみたいなものを考えた方がいいのではないか。

これも事務局にはちょっと調べていただいたわけですけれども,民法で言うと第54条の問題ですかね,全く同じ問題かどうかわかりませんけれども,取締役の権限が制限を受けているときに,その制限に反して取締役が取引をした。


そのときに第51条,条文上は確かにこれ,善意としか書いてありませんけれども,いろいろな解釈によっては善意・無過失の相手方を保護する,ですから過失があれば逆に保護しない,そういう規定として理解している人たちもいると思うので,民法第54条とのバランスみたいなものを少し考えた方がいいのではないかと思っておりまして,○○委員と多少共通するところがあるんだろうと思いますが。

● そのとおりですね。
● ただ,民法第54条は,条文上は善意だけになっているので,そこはちょっと問題と言えば問題なんですが。


● 他の箇所でもそうなんですけれども,民法と平仄を合わせるということで善意としか書かずに,ただし解釈論で多分,過失も入るでしょうと。ここも将来の解釈論に委ねるような規律,だから過失か重過失かこの場で決めずに,「善意」とかいう言葉を使うことによってという規律でもよいのかなという気がしております。


● さっき言われたように「重過失」とまで書いてしまうと,過失についての解釈がそこで決まってしまうのでということ。


● はい。

● ほかに,いかがでしょうか。
● 余り強く申し上げるつもりは全くないのですけれども,今の重過失の点で,権限違反の方も問題になっておりますけれども,もともとの信託への帰属の方で,御提案は登記・登録で一律に決するということで,重過失のような判断はしないということ,それも一つの割り切り方かなというふうには思っているのですが,ただ,それで大丈夫だろうかということも考えなくはないですので,その点だけお話しさせていただきたいと思います。


  1つは,もう既に出ておりますように,少し調べればわかるようなものについて調べなくていいかという点でございまして,特に,結局取消しが問題になるということは,権限違反について,悪意であるとか,あるいは重過失があるという要件を満たさないといけないわけですので,そのことは知っているというような状況において,それが果たして信託のための取引なのかどうか若干の調査をしなくていいのだろうか。

先ほど例に挙げられました動産のようなものは,安心してやってよいというのが適切であるとすれば,そのときには,もうそれで既に重過失はないと判断されると思いますので,どうなのかというのが若干気になっております。


  もう一つは,登記・登録との関係なのですけれども,これは恐らく信託の登記・登録のあり方とも関係してくるものではないかと思うんですが,現行法のような形であれば,もう登記・登録があれば当然に悪意擬制と同じという扱いで,それでよろしいと思うんですが,もう少し登記・登録のあり方が柔軟に,あるいは必ずしも現行のように確固としたものでないものが出てきたときに,当然登記・登録はチェックして取引すべきだということが常に言えるのかどうか,若干気になるところでして,これは事例自体は全然違う話ですから,引くのが適切でないことは理解しているんですけれども,動産の譲渡登記などですと当然それは見てしかるべきで,当然悪意擬制がされるような性質のものでもないということがありますので,登記・登録制度のあり方によっては,もう少し考える余地があるのではないか。

そうだとすると,登記・登録を見てしかるべきということは,当然重過失があるというので判断できるという仕組みも,より適切な結果を導けるのかなという気はしているのですが。


  ただそういう観点もあるのではないかということだけ,補足的に申し上げます。


● その点は,全くそのとおりだと思います。
● 今,○○幹事が御指摘になったポイントでございますが,2つ目の登記・登録されているものについて,信託の登記・登録のあり方が変わってくるような場合で,まさしく御指摘のあったとおり,動産の登記というのは別に,今回の場合,動産の登記をしてあったから信託云々という話ではなくて,(1)の話は信託の登記・登録がある財産についての話でございますので,動産の登記があれば,それを見たって信託のことはわからないことは,もちろんわからないわけでありますけれども,仮に,例えば信託の登記とか登録を免除しているというか,一時的に免除しているといったときに,第三者と受託者の取引をして,それで第三者の方が権利移転の登記も移してしまったようなときに,受益者と第三者とでどちらが勝つかといえば,それは第三者が勝つのではないか。


そこは権限違反云々という主観的要件を問題にすることもなく,そういうことになるのではないかと思いますので,信託の登記・登録の運用のあり方が確かに変わってくることは変わってくると思うんですけれども,第三者と受益者とでその財産を取り合いになったときに,ルールとしてどういうふうに決するかというふうに考えますと,その場合は,まず受益者としては,権利移転の登記をする前に信託の登記・登録をしなさいということを受託者に言って,受託者がそれを移した後で,それをもって取消権を行使するとかいうようなことになるのではないかと思います。

  すみません,ちょっとお答えになったかどうかわかりませんけれども。


● いずれにせよ,さっきから問題になっているポイントは恐らく大きく2つあって,登記・登録できるけれどもしていない,しかし,何らかの形でそれが信託財産であることがわかるような場合に,どこまで受益者というか,信託の方を保護し,取引の相手方の方が多少負担をすることになるのか。

今のところ,登記・登録できるのにしていないものは,もう一切信託が対抗できないので,これは当事者間の合意でもって免除している場合も同じような扱いになるということですね。これについての御意見がさっきから上がっている。


  ○○幹事の御意見は,私の理解では,登記・登録ができる場合で,かつしていて,そのときの相手方の主観的な要件の問題で,この原案がいいのかどうかは,どういう登録制度があるかによって違ってくるだろう。


現在の不動産の登記のように信託財産目録があって,そこでかなり詳しく信託財産の中身が判断できるようなものについては,例えば,それを見なかったら悪意というふうな推定が働くんですかね,そういうことで解決できるけれども,そういう信託財産目録のような,情報を完備しているような登記・登録制度ばかりではないので,そういうものについては果たして適当なのかどうか,不動産の登記と同じように扱っていいのかどうか,そういう問題ですよね。


  これも登記・登録制度がどうなっているのか,よくわかりませんけれども,今のところ不動産に関しては,現在の信託財産目録というのは大体同じような制度が引き継がれていく方向にあると理解してよろしいんですか。


それ以外のいろいろな登記・登録制度ですよね,こっちがまだはっきりしない。そういうもとで,どういうルールがいいか。


● 今の登記・登録制度のところで,信託目録が現在の制度と同じようなというお話がありますけれども,そこはそんな形なんでしょうか。少なくとも権限といいますか,そういう部分は書かれないというふうに,何となく……

● すみません,私がちょっと先走ったことを言ったかもしれませんが。

● またここの議論をしていただこうと思ってはいるのですけれども,逆に言えば,権限のところを書かれないというような整理がされた記憶もないんですが,いずれにしても,信託がどれであるかを信託の公示を見てわかるようにしなくてはいけませんね,少なくとも不動産についてはという,そこはたしか昔,パブリック・コメントをする前に御議論いただいたのかと思っております。

  その際に,では,どういう情報が特定のために必要なのかという観点から考えると,権限だけは要らないだろうといった議論がそう簡単にできるのか。


つまり,契約を特定するという作業の中で何が必要なのかという話を,またいずれしていただきたいとは思っておりますけれども,逆に言えば,権限は要らなくなるというのは,確かに効力の問題としては,権限の有無と信託の公示は切り離されましたけれども,それと,公示の際に何を書かせなくてはいけないのかというのとは直接にはリンクしない問題ではないかという感じがしております。


● また別途議論させていただきます。
● 公示の中身については,また御議論いただけると思います。

● 先ほど来,問題になっております,信託の登記とか登録をしていない場合に相手方が,それは信託財産であるとわかって取引をした場合については,例えば信託財産,受託者の固有財産に属する債務に係る債権者が信託財産だとわかっていて登記・登録をしていなかったら,そこは登記で差し押さえてしまったら,どっちが早く登記をとったかというような話で決することになりますので,確かに心情的に多少なりとも忸怩たるものはございますけれども,第3条でそういう整理をした以上は,やはりそうなるのではないか。

この嫌らしさというのは,通常の二重譲渡のときに,AさんがBさんに売ったことがわかっていて,もうBさんにいってしまったときでも,後から売買契約して登記を先に備えてしまえば勝てるという,その通常の対抗要件主義をとって決するというふうにしたことと同じ,そのときに思う気持ちと同じようなことなのではないか。

  それで,信託の登記・登録が制度として整備されている以上は,登記・登録を見ればどれがこの信託に属する財産かというのは,やはり明確になるように制度整備を図っていかなければいけないのかなとは思いますけれども。


  他省庁が所管しているものまですべて明確に確認したものではないので,その点はもう一度,信託の登記・登録制度自体は見てみる必要があるかと思いますけれども,現行法の建前は一応そこは区別されているんだ,特定できるんだという建前でできているのではないか。


そうではないと,信信間だって対抗要件で決するわけですから,それが登記で明らかになっていないということになると,法の建前自体がおかしいということになってしまうのではないかなとちょっと思いますので,補足させていただきました。


● 前回もちょっと質問させていただいたんですけれども,対抗問題であるということで,今,ちょっと話があるんですけれども,典型的な対抗問題とはちょっと違うのではないかという気がずっとしておりまして,必ずしも対抗問題としてとらえる必要があるのかなという気がしております。

  受益者の立場からすると,登記にそこまでの意味を持たせるのはちょっと厳しいなという気がしておりまして,これは私の方から申し上げるべき意見かどうかわかりませんけれども,ここで登記に重い,そういう登記によって取消しができるかどうか切り分けられることになりますと,かえって公示のところで多少柔軟にしたいという要請があるところとぶつかる場面が出てきはしないかなという気がちょっとしておって,そういったことですとか,先ほど○○委員から話がありました信託銀行等の実情等をお聞きすると,どちらかというと,登記・登録では切り分けずに,もう悪意・重過失だけで取消しの有無を切り分ける方がすっきりするように思うんですけれども。

● 以前からそういう意見もあったわけでして,ほかに御意見ございますか。
● 一般的要件の証明責任についてですが,お書きになられているところは14ページから15ページにかけてなんですが,少なくとも民法でこの種の問題をお話しするときは,権限がある場合とない場合を分けて,権限がある場合でも,さらに内部的な手続違反だとか,あるいは内部的な義務違反がある場合という分け方をした上で,どういう議論をするかというと,権限があれば効果は帰属するし,権限がなければ効果は帰属しない。

ただ,権限がなければ効果は帰属しないけれども,一定の特別な要件を満たす場合には,例外的に効果が帰属する場合を認めるという考え方だと思うんですね。


  そうしますと,権限外の場合は,やはり特別な要件,善意だったとか善意・無過失だったというようなことは,あくまでも相手方の方で証明責任を負うというのが通常の考え方だと思います。


その上で推定などで変わってくるのはもちろんありますけれども,それがベースですね。それに対して,権限はあるんだけれども内部的な義務違反だという場合は,内部的な義務違反があるというだけでは効果の不帰属は基礎づけられなくて,やはり権限があるわけですから,効果は帰属してしまう。


だから,義務違反があって,かつ相手方がそれを知っていたではないかとか,過失がある,あるいは重過失があるということまであわせて言わないと効果の不帰属は基礎づけられないので,この場合は財産を持っている側がそこまでの主張,立証をしないといけない。
  


この14ページから15ページに書かれている内容というのは,むしろ内部的な義務違反の場合に寄せて考えようというような御説明に近いのかなというふうに伺ったんですけれども,やはり権限という言葉を使う以上は,権限がないならば効果はもう帰属しないわけであって,そうすると,例外的に効果が帰属するということを,つまり受益者の側としては権限外だということを言えば足りて,相手方の方で,いや,知らなかったし重過失もないんだと立証責任を負う方が,少なくとも民法の考え方からは自然なのかなというふうに伺いました。


  ただ,これ商法はどうなっているのか,やや心配なところはありますけれども,少なくとも民法の普通の考え方からすると,この14ページから15ページに書かれていることは権限外なんだけれども,それについて相当政策的な操作をしておられるのかなという気がいたしました。

● 今の御指摘につきまして,相手側,受託者側,こちら側というお話がございましたけれども,受益者は,経済的な利益の実質的な帰属先という観点からいきますと,確かにこちら側なのでございますけれども,やはり受託者とは違う第三者なのでございまして,受託者と取引の相手方との取引を,取引当事者でもない第三者たる受益者がその効果を取り消すという話ですから,例えば第54とかいうようなときに,無効をどちらが証明するか,しないかということを考えるときには,実際に取引をやった理事の方と,それから相手方との証明責任,どうですかということを多分,考えて議論しているのだと思うのですけれども,本件におきましては,全くの取引当事者でない受益者がパラシュートのようにおりてきて「取消し」と言うわけですから,一般の民法のときの証明責任と同様に考えるべきなのだろうかと。


  そういうことを踏まえて,現行法は受益者の方に証明責任を課しているのではないかというのがこれまでの議論,資料等を拝見して考えたことなのですが,いかがでございましょうか。


● お考えは,もちろんわかるようなところはあることはあるんですけれども,法人の場合だって,法人自身がこれは権限外だというようなことを言う場合もあれば,それ以外の者が言う場合もあって,いろいろだろうと思うというのが1つと,それから,やはり受益者が言うのであれば,権限外だということを言わないとだめなわけで,権限外だということが言えてしまうと,もう本来は効果が帰属しないというふうになるのが民法の考え方からすると筋なのかなと。

そうすると,それ以上なぜまだ主観的要件まで言わないといけないのかというのは,ちょっと平仄が合わないのかなと。

少なくともここまで,しかも○○委員がおっしゃいましたように取引安全をかなり重視したような制度の仕組みになっている上に,証明責任のところまでさらに変えていくというのは,ちょっと--御説明わかることはわかるんですけれども,かなり一般原則から踏み出しているなという感じが否めないところです。


● 先ほど商法の方は御存じないと言われたんですが,例えば商法第42条,もう番号は変わったかもしれませんが,六法に載っているので言えばですけれども,表見支配人などのケースですと,悪意ならばそうではありませんという形でありまして,ある種の肩書を与えた場合には当然効果が帰属して,悪意ならそうではありませんといった形になっております。


代表取締役も似たような発想でして,ある種の包括的な代理権,代表権みたいなものを与えられるような外観を持っている場合,及び商法の場合は迅速な取引の補償といった別の要素があるんですけれども,あわせて証明責任が引っくり返っているんですね。


信託の場合,どちらかというと,当然に商事信託ばかりとは言えませんから,商法的な,迅速な取引の安全の保護という発想は正面に出しにくいかもしれませんけれども,包括的な代表権,代理権が与えられているような外観に近いような基盤は,あると考えるなら,この証明責任は一応は説明できる。

それが最終的に商法と同じだからいいんだというふうな,そんな簡単な説明はできませんけれども,全く説明がつかないわけではないような気がしました。


  あわせて,第31について質問させて痛きたいんですが,私,おくれて来て聞き逃したのかもしれないんですけれども,1の(2)の方で「信託財産のためのものであることを知り」と掲げられていますが,後半は権限についての悪意・重過失なんですけれども,意味が非常に違うような気がするんですね。

後半の悪意というのは,いわゆる表見法理などの悪意と同じような意味なんですが,前半は,悪意だから保護されないとかそういう話ではなくて,そもそも信頼できる信託財産の取引をしているという前提でやって,なおかつそれが権限外であることを知っていたからだめだという話,それを並列して悪意として書くような話なのか。


何かちょっと構造が違うわけですね。要件として書けばこうなのかもしれませんけれども,その辺わかりにくくなっているので,書き方だけなのかもしれませんけれども……


● 趣旨は,今,○○幹事が言われたとおりだと思います。
● その趣旨を,条文で書くときも何か工夫していただければと思います。


● 1の(2)の「信託財産のためにされたものであることを知り」ということですけれども,これ,取消しの積極要件という位置づけだとするならば,受益者の側で,当該行為が信託財産のためにされたものであり,かつそのことを相手方が知っていることを立証しないといけないということなんでしょうか。

でも,何か自然な流れというのは,当該行為は信託財産のためになされたものではないんだということを受益者の方が言い,それに対して相手方が,「いや,仮にそうだとしても自分は知らない」というようなことを言って争うのが普通の流れのような気がして,考え方はわからないではないんですけれども,何かどうも,前からずっとなんですけれども,もう一つ何か頭の中にしっくり入ってこないなという点と,今ちょっと言われた若干性格が違うのではないかというのと,リンクしているのかなという気がどうしてもします。

● これはいろいろな御議論がありますので,大きな方向はそれなりに御了解いただいていると思いますけれども,今の証明責任とか,それから--もちろん大きな方向も若干御議論あったわけですが,これでいいかどうか,もう一回確認していただくということでよろしいですか。

● 整理はついているのに私が読めていないだけかもしれませんが,強制執行というのは,引き渡しの強制を求めるというのも含まれますよね。


だから,信託財産に属する財産が売却されたという場合の,その履行を求める強制執行と,例えば,それが債務不履行になったとかいうふうなことで損害賠償請求権を持った,それで強制執行をしていく,損害賠償請求権の金銭債権の満足のために強制執行をかけていくという場合とは,かなり違うような気がするんですが,それは区別されているんですか。


  「信託財産のために」という言葉を使うときには,これは総信託財産という感じで,「信託財産に属する財産」というのは個別の財産という感じで,第31条では何となくわかるんですが,その言葉遣いも何となくそれでいいのかなという気もしますし,強制執行のときなどで第12の1の(4)などのときに,当該財産に対して引渡しを求めていくことができるというのと,損害賠償の問題とは,どう区別すればいいのかがよくわからなくてクリアなことが言えないんですが,御意見があればお聞かせいただき,あれでしたら再検討の際にその辺を書き分けていただければありがたいと思うんですけれども。

● ○○幹事の御指摘は,例えば信託財産に属する動産について取引をしましたというときに,相手方は確かに信託だということを知らなかったので,この財産だと信じたから,その信頼を保護していいではないかというのはあるにせよ,それで債務不履行になって損害賠償請求権の金銭債権に化けたときに,だからといって信託財産という,そちらの方にいかせるのは信頼の保護としてちょっと行き過ぎなところがあるのではないか,そういったものをきちんと(4)で書き切れているのかというお話だと思いますので,書き方をもう少し検討します。

● では,それも含めて検討させていただきます。


  それでは,不法行為についても御感触だけ伺っておきたいと思いますが,受託者の不法行為に基づく債権が発生したときに……


● 今,事実的不法行為と取引的不法行為の区別も必ずしも明確ではないし,信託事務処理過程における不法行為だからという,この2つの理由で信託財産に掛かっていってもいいのではないかという結論と書かれているんですけれども,やはり,区別が不明確というのはそのとおりかもしれませんけれども,被害者の方が信託事務処理であることを認識し,信託財産の存在を認識しているケースと,たまたま受託者が,余りいい例ではないかもしれませんけれども,交通事故を起こしたと,不動産の信託で。


それが一応,信託事務処理過程においてのことかもしれませんが,それが,わかりませんが,それが事実的と仮に呼んだときに,区別していい,また,区別しないと何か,信託の方がもしかして本来守るべき--というのも勝手な価値判断かもしれませんけれども,倉庫で物を預かっている場合,委任で他人の物を預かっている場合には,その物にかかわっていくわけでもないにもかかわらず,信託のときだけ何か,被害者の方が実は予想もしなかった財産にまで掛かっていけることができるような状況になってしまうと思うんですよね。

ですから,どこかで区別した方がいいと思って,結局は事実的不法行為と取引的不法行為で分けようではないかというのが一つの今までの議論だったと思うんですけれども,まだそこの区別が不明確だからということで,やはり恣意的に信託財産というふうに持っていってしまっていいのかなというところは,ちょっとまだ判断しかねるところがあるんですけれども。

● おっしゃることは,よくわかるつもりであります。取引的な不法行為に関しては,特に御異論はないということですね。


  確かに交通事故などの例を挙げられますと,果たしてその信託事務の執行の過程で自動車を運転して事故を起こしたときに,信託財産に掛かっていけるかというと,それはちょっと行き過ぎかなという感じもしないではないですね。

ただ,一方で,第715条と同じでいいではないかという意見もあり得るとは思いますけれども。

  皆さんの感触を。


● 私は,区別が難しいということと,それから,今,第715条を挙げられましたけれども,その同じような考え方で,どちらについても信託財産に対して掛かっていくことができるというのでいいのではないかと,もう割り切って考えました。

  割り切ってしまうと,さらにその先にまで行きまして,受託者の被用者についての場合,第715条の場合であるとか自賠法第3条の場合だとか,第717条の場合も,そこではもう切れなくなってしまうのではないかと思います。


● なるほど。

  まだ両論あるようでございまして,今日は○○委員も来ておられないので,ちょっと慎重を期して,全体の見直しの際にもう一回検討したいと思います。


● 例えば,年金の事務処理過程で事故を起こす,あり得ると思うんですよね。

そういう場合も,実は被害者の方が年金の財産にかかわっていける。何となく変というか,相手方が知っていても掛かっていけるんですかね。


● 信託財産の執行ということですか。

● ええ。信託銀行が年金事務処理をしていて,不法行為--だから取引的不法行為かもしれません,場合によっては債務不履行で構成できるけれども,どうも不法行為で構成した方が信託財産に掛かっていけそうだという判断のもとに掛かっていくということが,何となく不自然に思われるんですよね。

交通事故というのはちょっと,わかりやすい分だけ,また逆に違った意見もあるかもしれませんけれども。


● 私も,どういう要件でもっていくのがいいのか,第715条と全く同じ要件でいいのか,そこはもうちょっと検討した方がいいだろうという気がしますけれども,ただ,受託者の行為が信託財産のために行われた行為で,たまたま相手方がそれによって被害を受けたときに,受託者が無資力という場合もあり得るわけですが,そのときに信託財産に全然掛かっていけないというのはいいのかどうか,そういう判断なんですけどね。

  要件も含めて,少し検討させていただければと思います。


● これは私もどちらがあれという意見を持ち合わせているわけではないんですけれども,これ,もし不法行為で掛かっていけるとした場合,強制執行を認めた場合に,その後処理といいますか,信託財産から財産が出ていくわけですけれども,その後の,例えば受託者がそれを埋めなければならないのかとか,そういった点については。

● 受益者が,受託者に対して損失てん補責任追及をしていく。


● そうすると,基本的には,それは損失てん補請求の枠組みで処理されるという前提ですね。


● はい。
● それでは,これもいろいろ御意見いただきましたので,もう一回検討したいと思います。


  次に,13ページに□で2つほど,パブリック・コメントで出てきた意見に対してですけれども,消滅時効の話と無権代理人の責任について,代理と同じように考えるべきかどうかという話ですが,これはどうでしょうか。何か御感触があれば。

● まず,この1か月というこの期間ですけれども,やはり実務的な感覚で言うと短か過ぎる。


特に弁護士が日常的に,仮にこの取消権行使で相談を受けて何かする,そういう発想でいくと,取消権を行使するなと言うに等しいぐらいの期間であるという意見が多くの弁護士から出ています。

  それから,1年という方の期間ですが,これも報告自体が1年に1回義務づけられているような制度なので,短か過ぎると。


例えば,1月1日に何かそういう行為が行われて,12月31日に報告によってそのことが初めてわかった。そうすると,次の日にはもう1年たってしまうよということになりますし,これももう何年か,3年なり5年なりといった期間にしてもらわないと,なかなか使いようがないのではないかという感じがいたします。

  先ほどの立証責任が,本当は一番扱えるかどうかというところが大きいんですが,それに加えてこの期間の問題というふうに思います。


● 取消権の期間のところですけれども,先ほど○○委員の方から,受益者側から見たら1か月ではどうしようもないのではないかというお話でしたけれども,受託者の事務処理上の問題からしますと,当然商事信託でかなり大量の信託財産を日々動かしているという観点からいきますと,1か月でもなかなか,どうなるかよくわからんなというところがありまして,とはいうものの,やはりそういう期間設定も要るとすれば,やはり現行法と同じぐらいの期間が望ましいのではないかと考えております。

● ほかに,この点について御意見は。

  今,時効期間については両論の御意見があったと思いますけれども,無権代理の方は,これは一応原案といいますか,先ほどの説明ではなくていいというふうに考えておりますが,それでよろしいでしょうか。


  では,こちらはそういうことで。
  時効の期間につきましては両方に分かれているので,どちらが多数とも今,簡単には言えませんけれども,今度,見直しのときにもう一度伺いますので,そのときまでに御意見を固めておいていただければと思います。


  それでは,先を急がせていただければと思います。

● それでは,続きは第44の信託管理人等と,第51の受益債権と信託債権との優先劣後関係,あと,営業信託の商行為性と受益権の有価証券化という4つの論点を先にやらせていただきたいと思います。


  まず,信託管理人でございますが,受益者が現に存しない場合に限定して信託管理人の選任を認めるとの試案の考え方に対しては,賛成意見が多数を占めております。

まず,資料22ページの(イ)でございますが,受益者の一部が未存在の場合にも,信託の変更等の意思決定を可能とするためには,信託管理人の選任を認めるべきではないかとの意見がございました。

しかし,事務局の考え方でございますが,受益者の一部について未存在の者を指定した委託者としては,残りの受益者によって信託に関する意思決定がされることを期待していると考えることが合理的であると思われます。


そうすると,一部の受益者が未存在であるからといって信託に関する意思決定ができなくなるわけではございませんので,未存在の受益者のために信託管理人の選任を認める必要はないのではないかと思っております。


  もっとも,未存在の受益者と現存する受益者との間で利益相反関係があるときには,現存する受益者のみで意思決定がされるような場合があって,これが問題となるわけでございますが,この場合は受託者の公平義務の遵守に期待するほか,委託者において後述いたします信託監督人を選任して受託者の公平義務の遵守を監督させることなどによって,未存在の受益者の利益を図ることができるのではないかと考えております。


  次に,資料23ページのイの(ア)から(ウ)に関してでございます。
  まず,(ア)でございますが,信託の利益の受領権については,受益者との委任関係にない信託管理人が配当を受領して保管しておくよりも,受託者が信託財産の一部として管理しておくことの方が委託者の意思にかなうと思われますので,信託管理人にはこの受領権までは認めないこととしております。
  


ただ,信託管理人が受益者を保護するために受益債権を保全するための権利の行使,例えば受益債権の消滅時効中断のための措置をとるようなことまで否定するわけではございません。

  次に,(イ)の点でございますが,信託管理人の権限は,自益的な権利に限るべきであるとの意見がございました。しかし,信託管理人が未存在の受益者にかわって受託者を監督することが期待されているということですとか,受益者未存在の間にも信託の変更の必要性が生じたような場合におきまして,信託管理人にその同意権を付与することが相当と考えられることなどから,信託管理人には別表1,別表2,これは28ページから29ページにございますが,ここにありますとおり,共益的な権利や,信託に関する意思決定への合意権なども付与することが相当と考えております。

  (ウ)でございますが,信託管理人が選定されている場合には,最終計算は信託管理人の承認でよいとすべきであるとの意見がございました。

この点については,受益者が未存在の状態でも信託が終了することはあり得ますので,これを認めてよいのではないかと考えております。


  なお,この最終計算の承認権につきましては,これを受託者に対する監督的な権利であると位置づけますと,これは信託監督人等の話に多少入ってしまうんですが,別表1の範疇,監督権に属することになりまして,そうすると,後述の信託監督人とか受益者代理については,受益者と重畳的にのみ行使し得ることになると思われます。


  他方,これを受託者の責任の免除に類するものと考えれば,別表2の範疇に属することになりまして,信託監督人には認められませんし,受益者代理は専属的に行使できることになると位置づけるのかなと考えられるところでございます。


  それから,信託管理人に関する最後,資料24ページの(ウ)でございますが,資格について何らかの要件を設けたり,不適格者の範囲を広範なものとすることについてでございますが,消極的に考えております。

ただ,受託者不適格者に関する規律に準じまして,未成年者,成年被後見人,被保佐人,そして監督されるべき受託者自身を不適格者としてはどうかと考えております。


  次に,2の信託監督人についてでございますが,受益者が受託者を適切に監督できない場合に,受益者にかわって受託者を監督する者として,信託監督人は重要な役割を果たすという観点から,信託監督人制度を設けるとの考え方に対しては賛成意見が多数を占めております。


  もっとも,資料24ページの(ア)のとおり,信託監督人制度と受益者代理制度とを併存させることは不要であって,受益者が現に存しない場合の信託管理人制度と,受益者が現存する場合の受益者代理制度とを設ければ足りるとの意見がございました。


しかし,次のページの(イ)に書きましたとおり,信託監督人といいますのは,すべての受益者のための別表1の共益的権利を行使するものでありまして,信託の機関としての法的性格を有して,自己の名をもって権利を行使する。

ですから「信託監督人」という名称に仮称を変えているわけでございますが,そういう性質のものであるのに対しまして,受益者代理はあくまでも受益者の全部または一部のための代理人としての法的性格を有するものでございます。

  このような性格の違いにかんがみますと,併存させることが相当と考えております。


  それから,資料25ページの(ウ)でございますが,裁判所による信託監督人の選任につきましては,信託行為で信託監督人を選任していないという委託者の意思に反しない範囲で限定的に認めることが相当と考えております。


  そこで,裁判所による信託監督人の選任につきましては,信託行為の当時には予見できないような特別な事情が生じまして,受益者が受託者を適切に監督することが困難な場合に限られるべきであると考えております。

  したがいまして,他に受益者が多数であるというだけでは,この要件を満たさないと考えられますし,受益者が複数いる場合におきまして,一部の受益者によって受託者の監督が適切に行われているときにも,裁判所による選任要件を満たさないものと考えております。


  最後に,資料26ページのイでございますが,信託監督人が選任された場合に,受益者にも重畳的に権利の行使を認めることにつきまして,信託事務処理の円滑性を害するのではないかという意見がございました。

  しかし,そもそも信託監督人が行使する権利といいますのは,受託者の監督のために各受益者がそれぞれ単独で行使できる権利でございますので,重畳的な権利の行使を認めましても,いわば単独で権利行使できる受益者が1人増えたのと実質的には変わらないわけでございまして,信託事務処理の円滑性を害するとの批判は当たらないと考えております。


  最後に,3の受益者代理でございますが,受益者が特定多数の場合ですとか,時々刻々とと変わるため不特定とされる場合につきまして,受益者保護の観点から受益者代理の制度を創設するとの考え方に対しては,賛成意見が多数を占めております。


  まず,受益者代理の選任方法につきまして,26ページの3の(2)のアのとおり,受益者が時々刻々と変わる場合におきまして,裁判所による選任を認めないことに異論がございました。

しかし,この場合には,ある特定の時点を切ってみれば受益者は特定しているのでございますので,それにもかかわらず,信託行為の定めという私的自治によらずに裁判所が受益者代理を選任して受益者の意思決定権限を喪失させてしまうことになりますと,委託者の意思に反しますし,受益者の利益にも資さないことになると思われます。

  そこで,試案と同様に,裁判所による受益者代理の選任は認めないこととしております。


  それから,26ページのイの(ア)から(ウ)までの点でございますけれども,まず(ア)のとおり,受益者代理に対して信託の基礎的な変更に関する同意権を付与することに反対する意見がございました。

  しかし,信託行為の定めをもって受益者代理が選任されている場合には,受益者も受益者代理が選任されて意思決定権限を専属的に有することを認識しているわけでございますので,基礎的な変更に関する同意権を認めるとしても,不測の不利益を受益者に与えることにはならないと考えております。

  次に,(イ)でございますが,受益者代理が受益者に変わって信託の利益を受領する権限を信託行為で付与できるとすることについて,反対の意見がございました。


しかし,受益者以外の者が受託者から配当を一たん受領した上で受益者に配当を交付するというニーズは,現行の信託実務においても強く認められまして,信託行為の定めによりこのような方法を採用することを否定するまでもないと思われますし,受益者代理は受益者に対して民法上の受任者と同様の義務及び責任を負うことにかんがみますと,受益者代理に信託の利益の受領権を信託行為で付与することを認めても差し支えないと考えております。

  それから,(ウ)でございますが,受託者の受益者に対する通知義務の取扱いにつきましては,多数の受益者にかえて受益者代理に対して通知することを認めれば,信託のコストの削減につながるということ,受益者代理は受益者の代理人であるとの位置づけであるところを,一般代理では代理人に通知すれば本人に重ねて通知することまでは要しないと考えられていることなどにかんがみまして,受益者代理にのみ通知すればよいと解しております。


  最後に,28ページのウでございますが,社債管理者に関する会社法の規定に倣いまして,受益者代理が複数の受益者を代理して権利を行使する場合には,個別の受益者を表示することを要しないものとしてはどうかと考えておりまして,そのことは資料21ページの3の(2)のイで新たに規律を設けているところでございます。

  続きまして,第51の受益債権と信託債権との優先劣後関係に移らせていただきます。


  試案におきましては,本提案と同一の内容をパブリック・コメントに付しましたところ,甲案を支持する見解が多数を占めました。


  資料30ページの2以下に記載いたしましたとおり,甲案を支持する見解
といいますのは,実体法上,信託債権を優先されるとした方が公平の観念にかなうということ,あるいは一般の信託においては受託者の固有財産も責任財産となるとはいいましても,信託債権者の信託財産に対する信頼を保護すべきであることなどを主たる理由とするものでございます。

  これに対しまして乙案を支持する見解といいますのは,いわゆるABLスキームなどにおきましては受益債権と信託債権の経済的同一性をとらえまして,両方を同順位として組成している投資商品があること,あるいは信託行為により受益債権の劣後特約を締結することにより,柔軟なスキームの構築が可能となることなどを主たる理由とするものでございます。

  しかし,事務局の考え方でございますが,乙案の言う受益債権と信託債権との経済的同一性といいますのは,ABLスキームなど一部の信託についてのみ妥当するものであるということ。


確かに,乙案のように原則として両者を同順位とした上で,別途信託行為により受益債権を一律に劣後させる旨の定めを置くことができるとした方が,より柔軟なスキームの構築に資する面があることは否定できないと思われますが,甲案によりましても,取引による信託債権につきましては受益債権と同順位とする旨の特約を取引の都度,締結することなどによりまして,ABLスキームなどに対応し得るだけの柔軟性は確保できると思われることなどを指摘することができると思われます。

  以上のようなパブリック・コメントの概要と,とりあえずの検討結果を踏まえまして,いずれの考え方をとるべきかという点について御審議をいただければと思います。

  続きまして,資料50ページ,営業信託の商行為性に移らせていただきます。

  試案に対しては賛成意見のみでございます。ただし,信託法と信託業法との建てつけが強く関連されているとの理解を前提に,民事信託の拡充を図るという見地から,弁護士による信託の引受けは営業に該当しない旨のただし書きを付すことが相当であるという意見がございました。

  しかし,この規律は,営業的商行為に関する商法第502条に1号を付加するのと同様の効果を有するところでございますが,商法第502条には,特定の業種の事業については営業の解釈から当然に外れることを前提とした除外規定は置かれておりません。


このことにかんがみますと,特に信託の引受けに限ってこの意見のような除外規定を設ける必要はないものと考えております。


  なお,念のため,本提案はあくまでも私法上の商行為に関する規律でございまして,信託業法における信託業の解釈とは,理論的には別個の問題であることを付言させていただきます。


  続きまして,第67の受益権の有価証券化についてでございます。

  試案の考え方に対しましては,基本的に賛成する意見が多数でございましたので,以下では,個別的な意見に対する検討結果について御説明申し上げます。


  まず,資料51ページの(2)のアのとおり,そもそも受益証券の発行を信託法によって一般的に認める必要はないとの意見がございました。


しかし,有価証券の発行手続や効力に関する規定を,私法である信託法に設けることは当然でございまして,あとは受益者保護等の見地から,必要があれば業法をもって対処すればよい問題であると思われます。


  次に,受益権につき有価証券が発行されている場合には,受益権の譲渡に受益証券の交付を要することになるわけでございますが,資料52ページのイに書きましたとおり,受益証券が発行されているとは知らずに指名債権譲渡の方法によって受益権を譲り受けてしまった譲受人は,受益権は取得できないこととなって,その利益が害されることになりますので,受益証券の発行に関する公示制度を設けて,取引の安全を図るべきであるとの意見がございました。

  しかし,譲受人としては,受益証券の発行の有無をあらかじめ受託者に確認することが可能でございまして,(※1)のとおり,受益者名簿または受益権の原簿の作成,閲覧の制度を設けることもあわせて考えますと,このような公示制度まで設ける必要はないと考えております。

  次に,ウでございますが,受益証券を発行した信託を利用することにより,不動産の善意取得が認められたのと同様の結果になるのは不合理ではないかとの指摘がございました。


  しかし,受益証券が発行されている信託においては,不動産を信託財産に含めることを禁止するというのはおよそ非現実的でございますし,不動産の善意取得と類似の状況が生じますのは,主として不動産のみが信託財産である信託におきまして,単数ないし少数の受益権が証券化されている場合であると思われますが,合理的な判断としては,このような場合には流通性の付与を目的とした有価証券化がされることはないと考えております。

  結局,信託財産中に不動産を含めまして,これを受益権に化体させることにより善意取得の可能性を含む流通の強化を図ることは,信託の,いわゆる転換機能を重視する以上,むしろ当然あり得べき結論でございまして,先の批判は当たらないものと考えております。

  それから,資料53ページのエでございますが,無記名式の受益証券が発行された場合においても,受益者名簿が作成された場合には,受益者名簿への記載をもって受託者対抗要件とすべきであるという意見がございました。

  試案では,無記名式の受益証券については,受益者名簿の作成にかかわらず受益証券の占有をもって受託者と第三者の双方に関する対抗要件としておりまして,会社法における無記名社債についても同様の措置がとられております。

しかるに,無記名式の受益証券につきまして受益者名簿が作成されていない場合には,受益証券の占有で,受益者名簿が作成されている場合には受益者名簿の記載で対抗要件とするというような3つの選択肢といいますか,複雑な選択肢まで認める必要が果たしてあるのか,御意見を伺えればと考えております。

  最後に,提案に付記した(注)についてでございますが,まず,受益権を振替制度の対象にするかという(注3)につきましては,パブリック・コメントの結果を踏まえまして,積極的な方向で検討を進めたいと考えております。


  次に,(注4)の,いわゆる(仮称)信託債の制度に関しましては,パブリ
ック・コメントの結果,このような制度の整備に賛成の意見が多数寄せられまして,その場合,責任財産は信託財産のみとして,その発行には取締役会の決議を要しないものとすべきとの指摘がある一方,個人の受託者にも発行のニーズがあるとの指摘はございませんでした。

  そこで,資料53ページの①,②に書いてございますとおり,ここでの(仮称)信託債につきましては,株式会社が有限責任信託,仮に入ればでございますが--において発行する取締役会の決議が不要な社債であると構成することによって,ニーズにこたえた適切な落ち着きどころと言えるのではないかと考えております。


  この点についても,御意見があればお伺いしたいと思っております。

● それでは,たくさんありますけれども,よろしくお願いします。


● 第44の信託管理人等について,1点,御質問をお許しください。

  この信託管理人,信託監督人,受益者代理の制度でございますけれども,具体的にこの管理人,監督人,代理についてはどういった類型を考えておられるか。


自然人なのか法人なのか,あるいは業をもってなすものがここに入るのか,そういったことをイメージで教えていただければありがたいんですが。


● 特にどのというか,法人であれ個人であれ業者であれ,特にこちらでは特定の類型を念頭に置いているわけではなくて,適切に信託行為なり裁判所で選任されればいいのではないかと考えております。


● 第44の信託管理人等の22ページの(ウ),最終計算の承認のところなんですけれども,信託管理人の方についてはいいでしょうということで,あと,信託監督人とか受益者代理が選任されているときに最終計算の承認権限かどうかというところで,相当ではないということなんですけれども,これはまさに実務的な問題として,これとはちょっと違うところで,実際に配当を受領するといったところがありましたけれども,例えば顧客分別金信託とか社内預金引当信託,これは終了したときに資金を受け取ることになっていまして,受け取ると,やはりその人が最終計算の承認をするというのが一般的なことですので,今現在の実務はそういう形になっているんですね。

  といいますのは,各受益者は受託者の方からは顔が見えないということですので,各受益者に対して直接最終計算の承認をするということが実際にできないわけですね。このタイプの信託というのは,大体不特定多数の方々の財産を保全するための信託ということで,これから先も結構出てくるのではないかと思われる信託ですので,ここの部分については認めていただかないと,実務上しんどい部分があるかなと思います。

● 御意見はよくわかります。


● この資料を書きましたときは,ここまで受益者代理に認めるのは適当ではないのではないかといったことも考えたんですが,別表2をごらんいただきますと,例えば受託者の責任の全部又は一部の免除というのは受益者代理ができるとしておりますので,このように考えますと,受益者の代理人という受益者代理は,やはりこのような承認もできるようにした方がよろしいのではないかというふうに,今,事務局内部では考えておりまして,そのような考え方の当否につきまして,ここで御審議いただければと考えております。

● それに賛成するということですね。

● これは質問なんですけれども,22ページの(注3)のところで,これは今回変わったわけではありませんけれども,信託行為の定めで信託管理人と信託監督人または受益者代理の権限を変更することができるということなんですけれども,この権限の変更の範囲といいますのは,どこまでなんでしょうか。


  例えば,信託監督人といいますのは別表1の権利だけということですけれども,例えば別表2の権利というのは,これは契約によって変わるんでしょうか。

● ここのところも,第三者にどこまで別表2の権限を委ねることができるのかということと関連するかと思うんですけれども,仮にそちらの方でOKということになるのであれれは,信託監督人にそういう権限を与えることもできますが,ただ,その場合に,自己の名前でするのかどうかというのは第三者の方と平仄を合わせる。

少なくとも信託監督人が自己の名前で裁判所の権利を行使できるのは,ここに書いてある別表1の権利に限られることになるのではないかと思います。

● 1つは,信託監督人の裁判所による選任の要件のところなんですけれども,例えば高齢者や障害者が受益者である場合に,そういう立場にあるので十分監督ができないといったことになったときには,この要件は充足されることになるんでしょうか。

  実は,前回の中で,委託者の権限について制限するというような方向で確認いただいていると思うんですけれども,その中で,委託者側のとり得る手段として,この信託監督人を選任できるということがあったものですから,これが実際上,もし対応を考えるとすれば重要なところかなと思ったりしているものですから,ちょっと質問させていただいたんですけれども。


● その場合,その人だけが受益者ということで,ほかに適切に監督できる受益者がいないのであれば,それは選任要件を満たすと考えております。OKということでございます。

● そうすると,当初からそういう状態であっても,途中でそういう必要が出てきた場合には可能であると。


● 大丈夫です。
● 2つ目ですけれども,この御説明の中で,26ページから27ページの信託の基礎的な変更に関する同意権というところで,例として,会社の年金の受給権者に関するものが挙げられています。

この基礎的な変更まで認めるかどうかについては議論があり得るところかというふうには思っておるんですけれども,ここまで例として挙げられると,ちょっと難点が多いのかなと思っております。

  例えば,年金の関係で,軽微なものといいますか,余り重大でないものについては受益者代理で同意をすることは必要なことかなとは思いますけれども,例えば,ここには基礎的な変更に関する例として出てきているものですから,そこまでということになりますと,例えば受益権の引き下げ,かなり引き下げることを代理でできるかということになると,それはやはり行き過ぎではないかと思われますので,この点については,少なくとも例としては,余り適切ではないのではないかと思われます。御検討いただければと思います。


  3つ目に,これは意見なんですが,別表2の中で,先ほどもちょっと出ました12番の受託者の責任の免除に関する合意権なんですけれども,ここについては,受益者代理にこれを認めるということは,私の意見としては消極です。

やはり受益者の責任については余り簡単に免除できるというような規律をすることは,慎重であった方がいいと思いますので,この点については慎重に御検討いただけないでしょうかということです。

● まず,基礎的な変更の権限を受益者代理に与えるのかどうかという点ですけれども,ここは後で検討いたします第54の信託の変更のところと密接に関連するのですけれども,少なくとも受益者代理のところに限って申し上げさせていただきますと,受益者代理は委託者と受益者だけで解任もできますし,受益者代理と受益者との間につきましては善管注意義務の関係にありますので,仮にいけない同意等をすれば,損害賠償請求等もすることができるとなっておりますので,御懸念の点は,それで大分解消できるのではないかと思われますし,そもそも第三者に変更権限を委ねることにつきましても,事務局内部としましては,契約事由の原則があるので,そこをできないと言うのが果たして妥当なのかどうか。これはもちろん後で議論していただく点でございますが,そのように考えております。
  

それと同じように,責任の全部または一部の免除というものにつきましても,ここは受益者が多数の場合につきましては,やはり余り信託事務処理に関心を持っていないようなケースもあるかと思われますので,やはりこの点は信託の設計の中で,信託行為の定めに受益者代理を置くようなケースにおきましては,ここまで認めてあげても結構なのではないか,仮にこういうものが妥当でないと受益者が思う場合には,そもそもその信託の中に受益者は入ってこないということになるかと思いますので,それでカバーできるのではないかというのが現在の考え方でございます。

● 受益者代理について多少気になっている点が2点ございまして,1つは,受益者代理,「代理」という言葉がついているんですけれども,基本的にはこれは信託行為で定められるということで,具体的に受益者から何か授権があるというような関係ではないので,そこがちょっと,「代理」という言葉から感じるところとちょっと違うのかなという気がしておりますのと,信託の変更の場合には,変更の仕方について信託契約の中に書かれることになるんだろうと思いますけれども,この受益者代理の場合には,信託契約の中にどう書かれるかわかりませんけれども,もし代理を選任するということだけ書いて,その権限内容等が書かれないことになるのであれば,契約を見ただけではちょっとわからないといった問題もあるのかなという気がしておりまして,受益者の予測可能性等の観点からも,信託の変更の場面とはちょっと違うかなという気がしております。

● 一つの論点であることは確かだと思います。

  ほかに,いかがでしょうか。

● 信託行為の定めで裁判所の行為の代理権も与えられるという点が,やはり
……。


社債型の信託を考えれば理解できないことはないと思うんですけれども,これは信託制度ですから,あらゆる民事,普通の信託でも何でも可能なんですけれども,そこの段階でやむを得ない状況がある場合というのではなくて,いずれにしても信託行為の定めによって受益者代理が定められて,そうすると裁判所の権限も与えられるということになると,裁判における弁護士代理の原則とか,その辺が潜脱されるおそれもあるのではないか。

  それはそれとして違法である,脱法であるという議論をすることになるのかもしれませんけれども,一応そういう懸念が会内での議論ではされましたということをお伝えしたいと思います。


● その点に関しましては,現行法第8条につきましても,受益者が不特定の場合には信託管理人を選任することができるとなっておりまして,その中には,転々変化する受益者がいるから信託管理人を置くことができるんだという説明が立法・制定当時にはされております。

そう考えますと,今回の受益者代理というのは受益者が不特定の場合について,信託行為の定めで受益者を代理を置くということでして,現行法第8条第1項ただし書きの場合とほぼ同じことを考えていると言えますので,現行法の考えを維持しているという意味では,確かにおっしゃるとおり,弁護士代理の原則との問題があるかなということは認識してはおるのですけれども,どうにかなるのではないかなと考えてはいるんですけれども。


● 受益者代理にこれだけの権限を与えるのは,事務局の方もこんなに権限を与えてしまっていいのかと当初思っていたというお話がありましたけれども,私は今でも,こんなに権限を与えてしまうのか,なかなか受け入れ難いなと思っているところがあるんですが,いずれにせよ,権限を与える以上,義務も何かつくる必要があるのかなと考えたんですが,多数の受益者の場合の信託ばかりでなくて,どういう信託でも結局つくれることになりますから,何か義務の規定を考えられた方がいいのではないかと思いました。


● その点につきましては,(注4)で「信託管理人等の義務及び責任は,民法の受任者の義務及び責任と同様とするものとする。」という規定を置く予定ではございますが,これ以上に重い義務を課した方がいいという御意見でしょうか。


● そうです。
● 確かに権限が広いので,十分な義務も伴っていないといけないと思いますけれども,ここに書いてある以上にどんなことができるか,ちょっと検討してみたいとは思います。


  いかがでございましょう。ほか,よろしいですか。
  この信託管理人,それから監督人,受益者代理,結構重要な制度でして……


● 先ほどの義務を重くするという点につきましては,この部会の中でも御検討されたかと思うんですけれども,そのときの御検討の結果といいますのは,ここで仮に受任者の義務を重くすることになりますと,委任のところにおける受任者の義務との平仄が合わなくなるのではないか,そう考えますと,ここでは受任者の義務と同様にするということにした上で,解釈に委ねておくのが適当ではないかということではなかったかと思うんですけれども,その点はいかがでしょうか。

● そのときの受益者代理権限と今回の受益者代理の権限が随分違っているので。


● そのときも,「信託管理人」という名前であったかもしれませんが,できる権限について,このように広く認めるというところは同じであったと認識しておるんですけれども。


● 現行法との比較で言うと,今まで信託管理人という一つの制度で,実はいろいろなものをたくさんその中に盛り込んでおりまして,それを機能分化して整理すると,こういうふうに分かれて,これである程度適切な対応ができるのではないか。

いろいろ不十分であったり,細かいところでいろいろな問題はまだあると思いますけれども,基本的に,この信託管理人,監督人,受益者代理というふうに分けて考えると,今までの需要にも応ずることができるし,適切な対応ができるのではないかということだと思います。

  ただ,細かいところで今のように,受益者代理にもうちょっといろいろな義務があった方がいいとか,いろいろな問題があるわけでございますが,規定ぶりはもうちょっと検討いたしますけれども,もし基本的な御承認がいただければ……。

先ほどの御意見は踏まえながらまた検討したいと思いますけれども,いかがでしょうか。

● 受任者の義務だけで足りるかということで,公平義務のようなものはあり得るんでしょうか。社債管理者はそういう義務をたしか課されているんですが,あれは善管注意義務からも,当然には出てこないという前提で入っていたと思うんですが,多数の受益者を相手の管理人,例えば受益者代理などであれば想定し得るとすれば,多少考える必要があるような気は--重く,軽くではなくてですね。

● それは規定の形になっているんですか。
● 商法ですか。なっています。


● ある程度,類推適用がそんな簡単にできるかどうかわかりませんけれども,今の公平義務みたいなものが,例えば解釈なりで加わる可能性があるのではないかという感じは,ちょっとしているんですけれども。規定がないとどうかという気がいたしますけれども。


  いかがでしょうか。大筋では御承認いただけるということで,よろしいでしょうか。

  ほかの点は,いかがでしょうか。
● 第51の受益債権と信託債権の優先劣後関係について,確認と意見を述べたいと思います。


  そもそもこの問題については審議の後半に入れておりまして,十分な審議がなされているかというと,もうちょっと議論が必要なのかなと思っております。


問題の立て方であるとか受益債権の考え方について,パブリック・コメントにも出ましたように若干の混乱が,また認識の違いがあるように思われまして,実際に資料30ページの(注1)にありますように,こういうような問題の立て方についての認識の分かれがあると思っております。

本点については,そこら辺の問題の立て方について,まずは共通認識を持っておかなければならないと思っています。


  そこで,一つの確認なんですけれども,私はこの問題について,以下の3つのレベルに分けて考える必要があると思っておりまして,一つの整理の仕方なんですけれども,1つは,いわゆる受益債権について,例えば信託計算が終わって期限が到来して,具体化された債権についてどうであるのかという話です。

2つ目は,期中の債権でありまして,典型的な問題状況としては,いわゆる社債型の1年に100万円払うというような受益債権である。これを債権と言うのかどうかはまた別の議論になりますけれども,そういう期中においてどうなのかという話です。


3つ目につきましては,信託が終了したときに残余財産の分配において受益債権がどうなのかという話です。

  私は,この3つに分けますと,ここで論じるべきものは2番目なのかなと思っております。すなわち,1番目について具体化された債権については,恐らくこれは受益債権であれ信託債権であれ,通常の一般債権であるわけですから,これは同順位であるということについて,余り異論がないような気がしております。

ですから,ここで余り論じる必要はないのかなと思っております。それから,3番目の残余財産の分配権については,これは受益債権の方が劣後するということも認識は同じであるのかなと思っております。そこで,2番目がここで議論するべきものなのかなと思っております。

  まずはこのような問題の立て方でよいのかどうかということを,提案なのかもしれませんけれども,ちょっと御確認したいと思います。


  そこで,私ども銀行界としてもいろいろ議論した中で,そういう問題の立て方とか状況がよくわからないなという中で,意見としては甲案,特に信託債権者の立場から,甲案の方がいいのかなと現時点で思っているわけでございますけれども,それについての理由を述べたいと思います。

  1つは,前提としては,やはりエクイティといいましょうか,実務的な認識としては,一部例外的な実務運用はあるかもしれませんけれども,全般としては,やはり信託債権と受益債権と比べれば信託債権の方が優先すると思っているわけでございます。

そのように実務運用がされているということでございます。

  2番目に,経済実態的に考えますと,仮にそれが,信託という財産があって,それに対してのファイナンスということを考えれば,今まで信託債権が優先するというふうに考えていましたので,引当財産というのは信託財産であると思って与信の判断をしていたということでございます。

ところが,これが仮に受益債権も同列である,かつ,それがいわゆる社債型の定期給付型も同順位であるということになりますと,その債権の額が一体幾らなのかということは,もちろん信託契約とか見なければなりませんし,また,それの変更もあり得ることを考えれば,当然のことながら,自己の信託債権の同順位者というのがもちろん増える,プロラタになるわけですけれども,増える。

また,その受益債権の金額も十分に計算できないということもあり得るわけです。


  そうしますと,その信託財産に係る与信全体を見ますと,いえば信託債権者からすると,隣にいる受益債権の金額がわからないだけ,ある意味,保守的に与信判断をすることになると思いますので,全体の枠としては与信額が下がるのではないかと思っています。


いわゆる萎縮効果になってしまうのかもしれませんけれども。

  そうすると,いわゆるファイナンスの観点から,また経済的な観点からすると,やはり債権者をまず保護して,そして受益債権を劣後させる方が,デフォルト・ローであることを前提にしますけれども,その方が経済的には妥当だと思っています。

  2番目に,実務的な観点からして,受益債権というのもいろいろ,設計によっては劣後債権,優先債権とかあるわけでして,これが信託債権と並びますと,この3つの中で一体どれが優先するのか,よくわからなくなってしまうのではないかと思っています。


信託債権があって受益債権があって,これが同順位であるとなるのが乙案なんですけれども,その中で,受益債権の中で優先劣後というのが出てくると,では,その2つの受益権の中では優先劣後があるわけですけれども,信託債権との関係が,そこだけではわからないわけですから,これは実務的にもなかなかうまくいかないのではないかと思っています。


  これは一部パブリック・コメントにもありますけれども,あとは理論的な話で,これは一つの商品設計的な議論だと思うんですが,やはり受益債権というのは受益権としてのコントロール権を持っているわけですから,株券とも同じだと思うんですけれども,そういうものがあるからこそ,一般債権よりは劣後することが妥当ではないかと思っております。

  他方,乙案に関してのニーズがあることは認識しておりますけれども,これはやはり信託全体からすると,私どもの認識では,それほどないのではないかと思っておりまして,そうすると,全体的にはどちらをとるかということであれば,甲案の方がよろしいのではないかと思っております。

  無論,甲案としたとしても,これはデフォルト・ローであって,先ほど○○幹事から,同順位としたいのであれば同順位の特約を設ければいいという御説明がありましたけれども,そういうふうな対応でやればいいと思いますし,現状もそうしているのではないかと私は思っております。


  ただ1点,御提案とすれば,この提案では乙案のときの劣後特約が有効であるということを裏の意味から認めることを明記する,明確化しておりますけれども,甲案であったとしても,今度は逆に,同順位特約が信託法上,有効であるということの明確化を図っていただければありがたいなと思っております。

● 今の○○委員のお話,また,この甲案,乙案の今回の検討課題の中の説明でも,立法提案ですから,ある意味では政策的な視点からの議論が中心になっていると思うんですけれども,この論点に関しましては,まさしく検討課題の中でも書かれているように,実体法の問題ということなので,やはりまずそこから考えていく,そしてその後に,甲案,乙案どちらがいいかというわけではなくて,仮に実体法上,劣後することにいろいろな問題があるとしたら,その問題点について逐一条文といいますか,立法的に対応しておく,こういうことをしないと,一般的に優劣を決めてしまった場合,今,デフォルト・ルールというお話がありましたけれども,相対でのデフォルト・ルール--相対で契約するのは別にデフォルト・ルールというわけではありませんから,一般的にだれかとだれかが約束したからといって優先劣後が全部引っくり返ることはないと思うので,デフォルト・ルールではないと思うんですよね。実定法上,もう順位が決まるということだと思うんです。


  そうすると,余り例はないかもしれませんけれども,実体法の議論ですから議論しても構わないと思うんですが,例えば信託受益権に担保をつけたい。

それは受託者にとっても将来何らかの形で,その信託財産が毀損されたら嫌だとかですね。そのときに,受益債権に担保をつけるといったときに,その担保は有効や否や。


民法的には有効なはずですけれども,ところが,担保付債権が無担保の一般債権より劣後するというシチュエーションが生じるわけですね。それが一つの例。


  もう一つ二つ,似たような例としては,一般債権が強制執行したときに,配
当加入していたときにどういう扱いになるかということもありますし,逆に,担保をつけなくても受益権者が,受託者が配当してくれないので強制執行していった,そのときに,他の一般債権者が入ってきたときに,強制執行した人が実は劣後的に扱われる。


それは扱えばいいではないかという一つの議論があるかもしれませんが,そういう実体法上の問題がある。


  もっと由々しき状況としては,信託の破産とか受託破産とか,そういう状況に関連するのかもしれませんけれども,一般的に劣後するということは,最終的に信託債権が弁済できないときに,受託者から受益者に対する受益権,受益債権の支払いというものが,ある意味,法的には,本来払うべきものでなかったのに払ってしまったということで,受益者は不当利得を得た,株に関して言えば違法配当を得たようなシチュエーションが生じてしまうのではないかと思うんですね。


払った時点においては,それは認識しなかったかもしれませんけれども,最終的にはそういう状況が生じる。また,そういう状況が生じるがゆえに,受託者としてはやたらに払うわけにはいかないというような,やや萎縮的な効果も出るかもしれません。


  ……等々いろいろ考えていきますと,やはり手続法レベルの議論は別としまして,一般的に債権に優劣をつけるということは,実体法上,いろいろな問題が生じてしまう。だから,そこから先の,とはいいながらも甲案がいいんだという議論は政策的な議論ですから,それはそれで傾聴に値しますけれども,そうすると「受益権とはこういうものである」とか,いろいろと例外的な扱いということを議論し,規定していく必要が出てくると思うんですね。

  ここから先は判断の分かれるところですが,そういうような非常に難しい問題を果たして議論していくというか,個々に解決していくべきかどうかというと,従前でも,この議論というものは特にクローズアップされずに,またはそれぞれ思うところもあってやってきたのかもしれませんけれども,今の段階で優劣をつけることによる立法というものが,逆にどれだけ意味が出てくるのかなという意見を持ちます。意見です。


  その辺は価値判断の問題だと思うんですけれども,実体法の問題としては,多少頭の体操的なところがあるかもしれませんけれども,やはり債権に優劣をつけるということは,いろいろなところでひずみが生じるのではないかと思いました。


● なかなか難しい問題をたくさん提起されましたね。

  時間の関係もありますので,議論が途中になるかもしれませんけれども,あとお一人ぐらい。


● 最後,どうせ詰め切れないと思いますので,一言だけ申し上げますが,○○委員の3つの分け方,見事だと思うんですけれども,計算して確定している受益債権,既に発生している。

これは当然に平等ですよねというのは,必ずしも当然でないような気がします。
つまり,株式の配当ですと,配当制限等がいろいろあって,むやみに配当してはいけないというのがあるわけですので,それが決定したという場合と,例えば信託行為で月々何十万円と決めて受益とさせることになって,それが弁済期が到来したということになりましても,それは本来は債権者に弁済した残りの額を払うべきなのであって,30万円の弁済期が到来したからといって当然に平等になるわけではないような気がいたしますので,結論としては平等にするということでいいのかもしれませんけれども,「異論がない」とおっしゃられたので,異論もあり得るのかなということを,もし検討する際には考慮に入れていただければと思います。

● そこも含めて,恐らく議論があるところだと思います。

● 私も3つに分けられたところで,ちょっと。

  3番目の残余財産なんですが,ここは恐らくパブリック・コメントでは,すみませんが,私どもの補足説明の書き方が悪くて勘違いされた方がいらしたと思いますけれども,恐らく部会の中では皆さん同じようなお考えで,②は定期的な話で,まさに今の①のところ,その具体化した,あるいは確定したから何か性質が変わるんだというところが私もよくわからないところがございまして,これは確認なんですけれども,受益債権ですと物的有限責任になりますということなんですけれども,その性質自体も失われる,そんなことはないわけでございますよね。


● それは同じでしょうね。
● 「独立性がある債権になります」と言ったからといって,物的有限責任制は失われない。


だけれども,順位としては平等になるというのは,どういう理屈でそういうことになるのかなと。つまり,受益債権と言えば物的有限責任だというような,コアといいますか,そういう重要な性質があって,そこは変わらないんだけれども,順位の問題としては,弁済期が来たからというような異存があり得るのかどうか,その辺が私にはいま一つわからなかったんですが,今日はもう時間がないので,また次回以降かと思いますけれども。


● これは予想どおりというか,政策である程度決めるべき場所かもしれませんけれども,理論的には非常に難しい問題を抱えておりまして,すみませんが今日はたくさん残してしまいまして,また次回,もうちょっと効率的にやりたいと思いますけれども,今の問題も含めて,これはもう一度ここで御議論していただくことにいたします。


● ほかの論点でも議論があるんですが,それは次回以降,持ち越しということでよろしいですか。


● すみません,次回にさせてください。それでは,これで終わります。
-了-

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

2016年加工編
法制審議会信託法部会
第23回会議 議事録

第1 日 時  平成17年10月21日(金)  自 午後1時03分
                        至 午後6時40分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題  信託法の見直しについて

第4 議 事  (次のとおり)

議        事

● それでは,これから法制審議会の信託法部会を開催したいと思います。
  前回の積み残しも若干ありますので,それを含めてまた適宜区切って行っていきたいと思いますが,最初にちょっとお断りをしておきたいのですが,私が大学の仕事の関係で途中で退席をさせていただきまして,その後,議論が残っていた場合には○○委員に部会長代理として議事の進行をお願いしたいと考えておりますので,よろしくお願いいたします。


● 最初に,審議スケジュールのことでお手元にお配りしました紙について御説明いたします。おかげさまで部会の審議も着々と進んでいるわけでございますが,しかし,御承知のとおりなお議論すべき論点も多々ございまして,あくまで予備日という位置づけではございますが,1月20日ということで,部会長とも相談の上,案として提示させていただきました。


予備日とはいってもほぼ確実な予備日ではございますが,ただ実質的な議論は12月中に終えまして,1月20日は実質的議論はほとんどないものを期待しているところでございますので,そういうことで1月20日を追加するということで御了承いただければと思いますが,よろしいでしょうか。


  では,そのようにさせていただきますので,どうぞ御協力をお願いいたします。


● では,本日の議事に入ってください。


● それでは,本日の議事でございますが,まずは前回の積み残しからやらせていただきたいと思います。前回の最後の時間で,信託管理人等と受益債権と信託債権との優先劣後関係,それから営業信託の商行為性と受益権の有価証券化,この4つについて御説明いたしまして,信託管理人等につきましては議論が終わっていると承知しておりますので,本日は前回途中になりました受益債権と信託債権との優先劣後関係からまた御意見をちょうだいできればというふうに思っております。


● それでは,積み残された議論につきましていかがでございましょうか。
  優先劣後関係につきましては,これもかなり理論的には重要な問題だと思います。


従来余りはっきりしていなかった点でございますが,ある程度明確にし,まだ解釈でいろいろ多少グレーゾーンが残るかもしれませんけれども,大体こんなところでいいかどうかということですね。


  では,○○委員から先にどうぞ。

● 前回の議論の続きということでちょっと確認ということですが。優先劣後に関して,議論の土台を明確化してほしいという問題提起をしたわけでございますが,その後に○○委員の方から,例えば株式会社における違法配当の場合には結果として債権者が株主に対して取り返すことができることがあるという御指摘であるとか,あと○○関係官の方から債権の方に有限責任性があるというような指摘があったと思いますけれども。


ただ,もちろん受益債権と信託債権についていろいろな制限があるということは承知しておりますが,ここで多分議論すべきということはそういう特質は別として,じゃあ,例えば倒産した場合に配当表において一義的にそれが劣後債権となるのかどうかというその基本的な考え方をここで議論するのがよいのではないのかなと,そういう問題提起でございます。


  ちょっと前回の意見を再度繰り返させていただきました。

● そうですね。私が申し上げたのもある程度そういうことなんですけれども,これ細かい問題はいろいろ残るかもしれませんが,基本的にはどういう立場をとるのか。


ただ,基本的といいましても,この受益権が具体化する前と具体化する後で違うかもしれませんので,そういうことも含めて,しかし,基本的な考え方を一応ここで確認しようと,そういうことです。

  では,○○委員。

● ちょっと前回の繰り返しになるので一言だけで。やはり理論的なというと大げさですけれども,ちょっと理屈の面での幾つか指摘を前回させていただきましたけれども,ぜひその辺についてクリアにならなければなかなか難しいのではないのかということと--これはほぼ前回の繰り返しですけれども。


  あと,ちょっと別の研究会で議論したときに出た議論なんですけれども,例えば既発生の信託債権といってもいろいろなバリエーションがあり得るのではないかということ考えられると思います。例えば実際に信託の解約で済むようなもの--例えば信託元本を10年に分けて10回ずつ払いますと。


ですから,収益部分の株式配当のような収益部分に対する信託元本を配当しますと,配当といいますか配りますと。ですから,その信託の解約でもいいと思うんですけれども。


じゃあ,それがどの時点で既発生で,どの時点で未発生なのかとか,いろいろなバリエーションがあって,それぞれについての優先劣後を考えていくんだろうかというようなことも考えます。

  また,理論的に,民法の世界の議論かもしれません,理論的に債権について優先劣後を設定するというのは極めて困難な問題が多いのではないか。


私の投資実績,例えば中間法人の出資とか債権だと思うんですけれども,そういうのに関しては例えば払い戻しができないとか,要するに弁済をしないという形で優先劣後性をある程度担保していると思うんですけれども,信託債権についてはそういうことはもともと意図されているものではありませんし,株式についても本来出資したものは戻ってこない立て付けになってますけれども。


信託というのはやはり受益者に配当して初めて意味があるわけですから,それに対して一般的に劣後ですということにしたときの弊害もありますし,それは考え方というか政策的理論だからいいですけれども,理屈の面でなかなかすべてのシチュエーションに立法的に対応するというのはどうしても漏れが出てきてしまうのではないのかなと,こんなふうに思いますけれども。


● 重要な御指摘だと思います。なかなかすべてを見渡した上でどういうルールが建てられるのかということだと思いますけれども,なかなかそれが難しいであろうと。


特に優先劣後をつけるとなると難しいだろうと,そういう御指摘ですね。
  ほかに御意見ございますでしょうか。


● パブリックコメントの結果をちょっと見せていただくと,この点については必ずしも甲案支持が圧倒的多数というふうに私感じませんで,乙案を支持している意見,あるいは補足,どちらでもないけれども,いろいろな意見が寄せられているわけですけれども。それ踏まえて,ちょっと意見というよりは質問になってきてしまうかと思うんですが。

提案の中で乙案の方の注として,乙案を採用した場合において信託行為によって劣後特約が一律に効力を有しないことにはならないことを前提としているというようなことを書いてあるんですが。


甲案についても,特約による同順位の合意を強制力あるものだという形で認めるということはできないんでしょうか。


  甲案について合意による同順位化を認めるというふうなことにすれば,ひょっとしたら恐らく,いろいろな意見を提出された方はいらっしゃるかと思うんですけれども,大多数の方の,少なくとも実務面でのニーズは満たされてくるのではないかなというふうな気がしておるんですけれども,いかがでしょうか。
● どうぞ,何か。


● 甲案の場合ですと,信託行為で定めたことによって信託債権を劣後させるということはできませんけれども,ただ個々の取引において受託者と信託債権者が合意することによって受益債権と同順位するという特約もすることは可能だと考えております。


ですから,契約ごとにやらなければいけないという手間はかかりますけれども,そういう特約も当然できるのではないかという前提で考えております。


● よろしいですか。そこまでは恐らく甲案を指示される方も大体認めてくださると思っていますけれども。甲案というのは,私が言うべきことではないかもしれませんけれども,信託実務などではある程度こういうものだという前提で考えてきたものでありまして,そういう意味ではどういう順位にするという立場は多少実務的な感覚からするとかなり大きな変更を強いられるというところがあるわけですね。

ただ,理論的に甲案というのは難しいということになってしまえばもちろん甲
案はとれないと思いますけれども,いかがなものでしょうか。ほかに御意見ございますか。
 
 ○○委員などはどういうふうに。信託協会はもう既に御意見が出ているかもしれませんが。


● 信託協会というふうにいいますと意見が割れておりますので,明確にどちらかということは言えないんですけれども。いわゆる実務的感覚といいますか,今まで信託業界にとってはやはり甲案といいますか劣後するというような感覚のもとで実務を行ってきたというところがあります。

ただし,やはり乙案のところのよさというものもありますので,今のところは業界内で議論していても両案あるというところですので。


● 確かにどちらも特約である程度乙案から出発しても優先劣後つけることはある程度できるし,甲案から出発しても同順位にする特約もある程度可能であるというので,両者はかなり接近はするんでしょうけれども,非常に細かいことをいうといろいろそのしやすさというか,難易度があったりするんだと思いますが。


  ここでの御意見は,甲案,乙案,相半ばしているとそんな認識でよろしいんでしょうか。今までもし御意見を言っておられない方は,あえすどちらを強く支持するほどではないというそういう御意見だということでございましょうか。

  はい,○○幹事。


● どちらを支持するというわけではないんですけれども,解釈論的にはいろいろわからないところがありまして,もちろん債権について責任財産限定特約がついている場合とついていない場合で大分利益状況が違うんだと思うんですが,仮に受託者が債権者に対して固有財産から弁済したということになりますと,その求償権というのは現行法ですと他の債権者が先立つことになるわけですよね。


そうなりますと,その信託債権より恐らく勝つんじゃないかなという気がするんですが。


  それでいいのか,そういう解釈論でいいのかというのが1つ前提にありまして,そうなりますと甲案かなというふうに思うんですが。


先ほどから出ております特約との関係でそのシステムというのがどういうことになるのかというのがちょっと頭の中で整理がついておりませんで。


つまり,債権者同順位であると,破産状態では同順位であるというふうになったときに,では,受託者が固有財産から支出したということになりますと,その求償権というのは同順位であるという性格を持った形で生じるというふうに考えないと,受託者が弁済すると債権者がといいますか,同等ではなくなるという,受益債権の額が減っていくということになりますので,その辺もちょっと解釈論的にはよくわからないですね。


  さらにもっと言えば,これ私発言したのかだれかの発言なのか思って書いたかわからないんですが,私のところのメモには受益債権に担保を信託財産からつけたらどうなるのだろうかという鉛筆書きのメモがあるんですが,これはどなたかが発言されたのか,自分が思ったのか,2週間たつと全部忘れてしまいますのであれなんですけれども。

そういうときにはどうなるのかなというのがわからないんです。私は基本としては甲案の上でそういうふうなところについての解釈的な整備をしていくということなのかなと思っていますが。

● ほかに,○○委員,どうぞ。

● 私も甲乙どちらかというわけではないんですが,甲案が理論的に不可能かというとそれは必ずしもそうでもないんじゃないかという気がいたします。


すべての債権は平等であってという原則があるのかもしれませんけれども,しかし,それは一定の場合に比例弁済を受けるということであって,政策的にあるカテゴリの債権を優先するあるいは劣後するということはできなくはないんじゃないかなというふうに思います。


  ですから,最終的には実務の御要請との関係にも立つと思いますが,理論的に甲案が不可能だというわけではないのではないかと思います。


● ○○委員。


● 基本的というところで○○委員に反論するのは極めて大変なチャレンジなんですが。

先ほど○○幹事もおっしゃられた,債権だと担保つけられますけれども,そのときに一般債権との関係で担保実行しようとしたときの関連はどうなるんだろうかということと。


あと,前回も申し上げたかと思うんですけれども,年金なんかであり得るかもしれません,ずっと配当していって企業が破綻して,最後の方の配当をしようとしたところにちょっと足りなかったと,信託債権も残っていたというような状況のときに,以前に配当された方々は不当利得,全員といいますか比例配分でしょうけれども,不当利得になると思うんですね。


実行の理論は別としまして。そういう場合に,政策的にそれでいいのかという議論もありますけれども,これは政策の議論なんですかね。


そういうことになるとすると,結局最後まで銀行の劣後ローンとかそういうのもそうですけれども,要するに債権に順位があるというとやはり既に上位債権は全部払った後に初めて払うというところまでその優先劣後性というのが担保されることになるんじゃないかと思うんですけれども。


  ちょっと後者の方がやや理論的なのかもしれませんけれども。政策的かもしれませんけれども。配当管理の点,○○委員が書かれた信託協会のところにもちょっとその辺の議論はされていたと思うんですけれども。


それは強制執行との関連でもそうやっていうんですが,その辺はどういうふうに理論的に解決されるのかお伺いできればと思うんですが。


● 何かございますか。
● その優先劣後が一体どの舞台,場面で出てくるかという問題だと思うんですね。それで,その執行の場面でどういう順位をつけるか。それは,実体法ルールに従って配当するということになると思うんです。


それから,破産の場面でどう扱うのかというような,その場面場面で優先劣後が決まってくるわけでして。それぞれの場面においては,優先劣後というのは政策的に決まり得ることだろうと思うんです。


そうしますと,一律にある債権について優先させられ劣後させるということが絶対に不可能だということにはならないだろうということです。


● わかりました。どうぞ。


● ○○委員がおっしゃっている,○○幹事がおっしゃったところなんですけれども。劣後するという前提のもとでの受益債権に担保をつけるというのがおかしいのではないかというか,どうなるんだろうということなのですが。


すみません,ちょっとよくわからなかったんですけれども,一般債権に担保をつけることは可能で,そうすると労働債権と優先権のある債権が結局優先していってしまうわけなんですけれども。


それとはちょっと違うことになり得るだろうということなんでしょうか。つまり,抵当権なら抵当権の効力が勝つのは当然なのかなという感じがいずれにしてもするのですが。


● 劣後に担保がついたときに一体順位がどれぐらい繰り上がるのかという議論だと思うんですね。それは倒産の手続の中に入っても劣後的債権との順位はどうなんだろうかとか。


劣っているもの同士の中でもいろいろな順番づけがまた出てくると思いますし,担保というのは普通は1ランク上といいますか,担保がつくことによって一般債権よりも優先弁済権が確保されますけれども。劣後債権に優先弁済権が確保された都に一般債権との関連ではまだ一般債権は超えられないんじゃないのかと思うんですよね,一般的に劣後していれば。


そこも立法的に対応して担保つけた場合には,一般債権よりも上になりますという2段階しますということで対応するのであれば,それは1つの考え方かなと思いますし。


  ○○委員がおっしゃるように,それは執行のところで法整備をするということであればそれはそれかもしれませんけれども。理屈では別につけられないんじゃなくて,つけた後の一般債権との順位はどうなるのかという質問なんですけれども。

● 恐らく一般債権よりも優先権のある債権等々,先取特権ですね,そういうものよりも上にいくというのが抵当権の効力として認められているので,そちらが優先していくんじゃないのかな。


つまり1個上がる2個上がるという議論というよりは抵当権の効力として優先権のある債権よりも,先取特権よりも上にいく,あるいは一般債権よりも上にいくということにならざるを得ないのかなという気がするのですが。そういう整理ではよろしくないのでしょうか。

● それはそれでもいいというか,よくもないんですけれども,気がするんですけれどもね。弁済はされたけれども,受領した後はとっている人が先受領してしまったみたいなことになるんじゃないかなと思うんですけれども。


ですから,普通劣後債権とか無担保であることが多分前提だと思うんですよね。

銀行の劣後や何かで。担保つけるということ自体の,議論自体の整合性がなくなってしまうので。


● 今まで余り議論したことのない問題で。
  どうぞ,○○幹事。


● 感想めいたことで恐縮なんですけれども。一般的にはやはり○○関係官のおっしゃったようなことになるのではないかと。抵当権という形で担保権がついているのであれば,被担保債権が本来は劣後する性格の,もともとは一般債権であれば劣後するものであったとしても,担保債権になっている以上はそちらでカバーされるのであれば,優先的な地位がそのまま付与されることになるのではないかと,破産手続後に発生した利息ですとかそういうのは本来劣後的な破産債権でなるところ,被担保債権であればカバーされるということになるのではないか。間違っていたらまた訂正していただきたいのですが。

  ただ,○○幹事のおっしゃった点は,本来資本的なというか,そういうような性格であるものについておよそそのような優先的地位を付与することが受益債権の性質に反しないかという問題提起ではないかというふうに思いまして。例えばこういうことがあるのかわかりませんけれども,株主の地位から発生する一定の請求権を被担保債権として抵当権をつけることができるのかとか,約定劣後破産債権になるようなものに論理矛盾に近いわけですけれども,担保権をつけることができるのかとか。


そういう点から出てくる御議論なのではないかと思います。

  ただ,その点につきましても,もともと甲案であれ乙案であれ,合意によって債権の順位を左右するということは可能であるという前提で,したがって,もう少し高くするということは妨げられない,あくまでデフォルトの問題だという整理をしているということと受益債権というのはやはりそういう完全なエクイティーよりはもう少し操作性の余地のあるものと。


ただ,それによって実質的に劣後する人の合意なくして設定できてしまうということが若干嫌らしい面はあるのかもしれませんけれども,そういうふうに考えますと,○○関係官のお答えのようなことになるのではないかというふうに今は理解しております。

● ○○委員も同じ問題に関連してでしょうか。
● ちょっとごめんなさい,混ぜ返す話になるかもしれませんけれども。劣後という意味がやはり大切であって,例えば劣後債権と相殺をするという場合に,例えば一般債権と劣後債権と相殺を考えるときに,例えば相殺適状状況が劣後債権の方が早かった場合に相殺してしまったというときに,結果としてどちらが優先しますかというと劣後債権が優先することもあるわけです。

また,劣後といっても例えば銀行劣後債みたいに劣後のやり方として停止条件付きな劣後債権ということであれば,そもそも担保をつけたとしても当該被担保債権が発生しないからそれは劣後になるという話だと思いますので。

  ですから,ここは私のきょうの一番の話と同じで,やはり想定するシチュエーションをどこに置くかということを定めて,基本的にはどう考えるかということを議論しなければ,多分いろいろなパーツパーツでやるといろいろな状況があってそれは違いますよねという議論になるので,非常に混迷するのではないのかなと。実際にその内部で検討したときも非常に混迷していますので。


そこまでいろいろ議論するのであれば,非常にこの議論,テーマというのは重いというかもっと検討すべきことが多いとは思っております。


● それはおっしゃるとおりでして,今もいろいろなシチュエーションごとに必ずしも同じでなくて多少政策的な観点からもバリエーションがあり得るということでもありますし,すべてを詰めきって議論するというのは非常に大変な問題なんですね,これは。


そういう意味で理論的に本当にこれで耐え得るかというところはもうちょっと検討しなくてはいけないと思いますけれども,ここでは皆さんの御意見の中で必ずしもどちらでなくてはいけないというほど強い御意見はなかった。


ただ,理論的にはどちらの方がいいのではないかということで,今,甲案を支持される方と乙案を支持される方とが両方おられるという状態ですけれども。しかし,理論的に十分どちらかでも耐え得るものであればどちらでもそれほど異論はないと,そういう御意見だったというふうに一応理解いたしましたが,それでよろしいでしょうか。

  もしそれよろしければ,これは理論的に詰めますけれども,甲案であっても乙案であっても理論的に詰めた結果であればどちらでも構わないという御意見だったのかなと思いますが。


  ○○関係官,何か補足がございますか。

● これはもしかしたらこういう考え方があるのかという程度のお話ではあるんですが。甲案と乙案の違いのところで,特に甲案側からの意見として,会社であれば配当規制のようなものがあるけれども,信託においては一般的に配当規制はとにかく今はないということなので,やはり甲案がいいのではないかというような御意見がありまして。


あるいは乙案の方がいいという御意見の中にも実は一般の信託においても配当規制,会社と同じような配当規制というのは通常での信託にというのは無理なのかもしれないですけれども,例えば純資産額がマイナスになっているときに,それを超えて受託者が弁済というか,支払をしたというときには,何らか受託者が責任を負うとか,あるいは受益者のところに取り戻しに行くというか,不当利得の返還を請求するというようなこととセットで乙案なんだというようなお考えもあるやに聞いているんですけれども。

  その乙案を御支持される,御支持というか,いいかもしれないというような御見解の方の中にはやはりそういうほかの,つまり,ここでどういうようにするというだけにとどまらず,そのほかのもう少し手当とセットで乙案がよいのではないかという意見もありそうだという話も少し伺ったのですが,その辺いかがか,もしよろしければとお話を伺えればという気が。


● いかがでしょうか。○○委員の意見は少しそれに近いですか。
● ですね。私は近いといえば近いし,甲案というのは理屈で成り立たないんじゃないかといまだにちょっと思っているところがあって。


政策的に甲案の趣旨はわかるし,乙案にとってもセットでという議論もわかるんですけれども。ですから,そういう趣旨だといったらいいんでしょうか。


● わかりました。どうぞ。

● 先ほどの,ちょっと私どもの立場を明確にするために発言するだけなんですけれども。


どちらでもいいという強い希望があるというわけではないんですけれども,どちらかということであれば,銀行業界としては債権者の立場から立つと甲案の方が望ましいなということは前回の審議でもお話ししましたとおりでございます。


ただ,強い希望があるのかと言われると,そこはまだ検討中だということでございます。


● わかりました。恐らく御意見の分布はこういうことだと思いますけれども。多少政策的な観点を入れると甲案の方がいいのではないかという御意見が,政策的な観点からは多少多いのではないかと思います。


理論的に甲案で本当に大丈夫なのかということについての,しかし,御懸念もあり,そういう観点から乙案を支持される方もおられる。意見分布としては大体そういうことなのではないでしょうか。

  その政策的な観点からということであれば,甲案の方が支持者は若干多いと。

しかし,本当にこれで理論的に大丈夫かということは,まだちょっと詰めますけれども,基本的に甲案でいけるかどうかという観点から議論させていただいて,やはり理論的に難点があるということであれば,また乙案に戻ることはあり得るかもあれませんが。


とりあえず今の段階でそういう整理をさせていただくということでいかがでしょうか。


  それでは,理論的に本当に大丈夫かという観点から甲案をもう一回詰めていただくけれども,甲案の方で基本的にいくということでよろしいでしょうか。


  はい。それでは,あと営業信託の商行為性と受益権の有価証券化ですね。

● 私ちょっと発言しますと申し上げたので,すみませんけれども,しばらくちょっと発言させていただきたいんですけれども。日弁連としてパブコメで書きましたように,信託業法と信託法はそもそも実体法と業法というので違うんだと,これはだれから見てもそのとおりなんですけれども。

商行為に関する信託法の定義規定,現行法でも今回の改正案でもそうですけれども,と,信託業法における定義規定がほぼ,ほぼというか全くといっていい,同じ表現を使われております。


それぞれの業法に応じて解釈が違うんだという議論も今後あり得るのかもしれませんけれども,現在のところ信託業法の解釈でも商行為法における解釈と同じ解釈をとられているようでして,昨日も議論したときに国会答弁みたいなところまでいきまして,営利を目的として反復継続ということで,反復継続はしても営利目的が例えば弁護士とかにはならないんじゃないか。


弁護士である必要はなくてNPOの場合もならないんじゃないかというような議論があったところ,いや,国会答弁においては営利性というのは収支合い償うことというふうに答弁されていると。

それは商行為法における営利性の,商行為の502条の営利性に関する通説の見解ですから,特段それはそれでいいと思うんですけれども。

  そうすると,収支合い償うことということは弁護士が報酬を得てやることということも入ってしまいますし,弁護士ということを強調すると余り皆さん御賛同いただけないかもしれませんけれども。両方とも違う法律だと言いながらも,今申し上げましたように,文言も同じですし解釈も同じだろうということの結論としましては,民事信託においても収支合い償うことが前提で反復継続すればすべて信託業法の対象となってしまうと。


もちろん,信託業法というのは非常によくできた精緻な法律ですから,それによって悪質な信託行為,信託業が取り締まれるという側面もありますけれども,かたや実体法としての信託が使われればたまたま民間の人が一生に一回やる場合だけであるということですと,ここでの信託法の改正の議論,また弁護士会でも相当時間を割いて議論しておりますけれども,高齢化社会において今度信託法改正によって民事信託というのをいろいろな形で使っていきましょうという議論からすると,ちょっと流れというか方向が違うのではないかと。

もちろん,民事信託一般について信託業法とは別な形で何らかの規制法ないし規律というものを設けられるかどうかは全然別の議論ですけれども,商事信託を前提としている信託業法が民事信託についてもほぼすべからく適用になってしまうという状況というのはやはり問題ではないか。


特に弁護士会としましても今後この民事信託の分野で活躍したいというふうに思っているわけですから,そのときに信託業法の世界に入る。現行法ですと株式会社しかできませんから,弁護士はそこから排斥されているといういうことになります。


  ということで,両者違う法律なんだということは今申し上げたように,とはいいながらももう理屈の解釈論でも同じなんですよということが1つと。


それから,じゃあ,例外規定を設けることは解釈論でも可能じゃないですかというのは今回の検討課題での御説明ですけれども,それは今申し上げたように,解釈論,営業についての解釈論というのは商行為法で何か争いがある議論ではなくてもうほぼ確立された一般通説ですから,その中で新たに解釈論を展開するというのは,孤立無援で頑張ることは不可能ではないかもしれませんけれども,普通の弁護士であればそこまでチャレンジングにやるということはあり得ないわけでして。


ということで,解釈論での対応というのは極めて困難であると思います。

  ただし書きのことの適正さという議論もございますけれども,趣旨は違いますけれども,商法502条の本文にはただし書きがあります。


小規模事業者に関しては商行為にならないというようなただしがありまして。信託業というのはすべからく一般的法的性格として商行為性を帯びているのだということであれば,本来ただし書きがあることが不適切ということになるかもしれませんけれども,信託というのは民事信託から発展して商事信託が盛んであるという現状からしましても,信託行為そのものがそもそも行為として,受託行為するということはそもそも行為として商行為性を帯びているわけではありませんので,という意味においてはただし書きをおくということは502条の立てつけからしましても信託法,信託の受託という視点からしましても,特に不思議ではない,おかしくはないのではないのかなと思います。

  あと,また弁護士会で議論したとき,立法例というところまでいきまして,そうすると何か--何かといいますか,手元には資料あるんですけれども--米国のイリノイ州のフィディシャリアクトの中に信託業に対する例外規定として,弁護士業だけじゃなくて幾つか載っているんですけれども,会計士さんとかですね,やはり弁護士の業務として受託をする場合にはそれは例外ですというような例外規定もございます。


  ですから,一見弁護士会の身勝手なパブコメのように思われるかもしれませんけれども,決してそんな趣旨ではございませんでして,立法例もありますし,やはり弁護士が今後活躍する,弁護士である必要はなくて,その方,それ以外の正当な業務をされる方々でも適切なただし書きの文言が考えられればそこに含めても構わないと思うんですけれども,商行為に該当しないということを明確にしていただくことによって,信託業法の適用がないということがまた明らかになると思います。

● ほかいかがでしょうか。

● まず,信託はそもそも商行為性がそれ自体あるものではないというお話ですけれども,例えば商法502条を見ますと,寄託の引受とかあるいは作業または労務の請負とか,ここらになってくるとこれもやはり当然に営業行為といえるかと,商事性を帯びるかというと,やはりそうも言えないのではないかという気がしますので。


信託だけ特別扱いできるかというのは商法502条との関連でいうとなかなか難しいのではないかなという気がするというのがまず1点でございます。


  それから,おっしゃるとおり,弁護士の方とかNPO法人が民事信託のために活躍していただきたいというのは,それは発想自体は非常に歓迎しているところでございますけれども,じゃあ,どこまでの範囲が主体が果たして商行為性を省かれるのかという規律の仕方も難しいところでございますし,民事信託という言葉自体もなかなか定義しにくいというところがございまして。あとは仮に少額の報酬であっても,1件10万円とかそういうのでも反復継続して民事信託やればやはりそれは商法の観点からいうと商行為と言わざるを得ないのではないかなという気がしているのでございます。

  ○○委員のおっしゃる趣旨は,問題はむしろ商法あるいは信託の引受が営業的商行為になるというところではなくて,むしろ業法が弁護士の方が活躍するにあたっての支障になると,そちらの方の問題ではないかなという気がするわけでございますが。


そこは何か商法の適用があるとまずいということなんでしょうか。それともやはりこれは業法の方から引っ張られている議論だというふうに理解させていただいてよろしいんでしょうか。


● 繰り返しになってしまうんですけれども,信託業法は同じ定義を使っていることによって実質商行為についての信託の受託について業として取り締まっている法律ではないのかなと,こういうふうに解釈されるんですけれども。


その場合,今の御発言にありましたように,現行法でも弁護士がやることは解釈論として十分できるんだろうと。それはある意味では弁護士会が萎縮しているだけであって何の問題もないんだということであれば,日弁連としても確認規定はぜひ入れてほしいとは思いますけれども,現行法における解釈がネックになったということでそれはそれでありがたいことだとおもうんですけれども。

  商行為ということが信託業法の対象とほぼオーバーラップしていると,こういうふうに解釈されるものですから,そこで弁護士が行う反復継続している信託の受託というものは商行為ではないということを明記していたたくことには意味がありますし。例えば弁護士は委任業務,請負業務というものを民法的に言えば反復継続してやることを業としておりますけれども,だれもが常識としてそこで報酬を得たとして収支合い償っていると思うんですが,商行為とは思っていない,思っていないというか商行為ではないはずですから。今の仮にそれが法律事務の処理として民事信託を継続して行う,弁護士も専門化しておりますから,高齢者を対象とするような専門の弁護士であれば継続反復して何らかの形で高齢者とか弱者のために受託者になると思うんですが。


それは決して今の○○幹事の御発言とは違って,現行上においても商行為にはならないとこういうふうに理解するんですけれども。はからずもそういう御発言があるぐらいですから,やはりここでは明確にした方がいいんじゃないのかなと今ちょっと強く思いましたけれども。


● なかなか商法とも関連して難しい,商法の先生はきょうはおられないのかな。

  どうぞ。
● 商法の専門ではございませんけれども,信託業法という話が出たもので。

● はい,どうぞお願いします。
● 補足だけさせていただきますと。○○委員が御指摘のとおり,先般の国会答弁,信託業とは何か。


例えば反復継続であるとか収支に対するような形である営利目的であるか,そういったことも考慮して,これは事実でございますし,私どもの解釈も変わっておりません。


問題は,恐らく私ども信託業法の中でいわば参入規制に当たるところがあって,いかなるものが信託業できるのかというところにあるわけですけれども。御指摘のように,これは株式会社経営体でやっていただいて登録または許可制というふうになっています。


  事実,これは事実の御説明だけなんですけれども,実は私の記憶に間違いがなければ,あれば訂正しますけれども,確かに法曹関係の方が株式会社をつくられて信託会社として参入しておられるというケースも最近ございます。
  以上です。

● その例は信託業法にのっとるために会社をつくったんだというふうに当然理解できますし。そこで法律業務やるとすると,株式会社は法律業務できませんから,逆に弁護士法違反の問題が生じているのではないかと,これが日弁連での議論なんですけれどもね。


  ですから,それはそういうふうに何か問題点を指摘するというよりも,やはり弁護士が,営業として,商売としてやるという弁護士さんがいれば別ですけれども,弁護士がある意味では多少純粋な気持ちで,もちろん収支合い償う必要はありますけれども,高齢者から財産を預かるというような場合,高齢者といいますか弱者から財産を預かるというような場合に,じゃあ,わざわざ株式会社をつくってやらないといけないんだと。かたやそれは弁護士法違反じゃないですかという議論もかいくぐらなきゃいけないというような制度ではないんじゃないのかなと思うんですけれどもね。

  悪質な例をとらえると信託業法というのはより広くカバーすべきだという議論になってしまいますが,ここではどちらかというと純粋な議論とか悪質な弁護士じゃなくてまっとうな弁護士が純粋な気持ちでやるという前提で構わないと思うんですけれども。


現在の信託業法でも営利を目的として信託の引き受けをするというところで,弁護士が報酬を得て高齢者から財産を一度ならず2回預かった場合にはそれは信託業法違反であると,このような解釈になるのでしょうか。


● 個別の多分事例に照らしてみてそのとき考えてみるということになるんだと思うんですけれども。


● 純粋な事例で,悪質事例じゃなくてですね。
● どうなんですかね。


● 悪質なものまでそれでいいんですかという議論になっちゃうのはもちろん心配だと思うんですけれどもね。


● まさにそこのところを気にしているわけでして。主観的な要件が入るもんですから,そのときの個別の案件のいろいろな要素絡めて見てそのときに監督あるいは業法の立てつけの観点から判断していくということになるのだろうと思うんですね,そこは。


アプリオリにこのケースはもうガバッと排除してくれというのはなかなかそれは難しいと思います。

● 取締監督当局としてそういう御発言されるのは同じ立場に立てば理解できるんですけれども,結局そういうことによって弁護士会は今までも,また今の解釈のままですと今後とも受託者になるという選択はとっていないですね。


ですから,信託法改正になってこれほど議論して,また日弁連のバックアップチームが毎回何時間も議論して,結局弁護士会は何もできないという,株式会社をつくるということは弁護士会株式会社をつくるなんていうことは現実的にあり得ませんから。


もちろん個人的に商売といいますかね,本当に営業目的で株式会社をつくるようなケース,大阪とか東京で1件ずつあったという話を聞いておりますけれども。そういう目的じゃない場合にもできるようにしていただけるというのが解釈論として正しい方向ではないのかなと思うんですけれども。

● これは弁護士会の問題だけでなくて,業法に関連しますと私も個人的には,この中でもそういう御意見持っている方がおられると思いますけれども,やはり先ほど○○幹事からも説明ありましたように,非営利法人ですかとこれからは場合によっては公益法人が幾つもの公益信託を受託するということが現実的な問題としてあり得る。


そのときに,これは業法の問題ですから,ここで今議論しなくてもいいかもしれませんが,業法の問題としては収支合い償うというところの解釈によるのかもしれませんけれども,それによって,公益法人の場合は弁護士とまたちょっと違う点もあるかもしれません,必ずしもそれでもって収益というか利益が上がらなくても,それこそトントンでゼロであっても公益法人の場合に受託するということはあり得ると思いますけれども。


そういう形態による信託の受託,場合によっては反復受託が業法でいうところの業としての信託でないという解釈ができるとそれは非常にありがたいのではないかというふうに思いますので,ちょっと要望ですけれども。


  ただ,その問題とここでいう商行為とするかどうかという問題とが,確かに関連はあるのかもしれませんが,理論的には直接は関連がないということでよろしいですか。


つまり,両者が実質上影響するというのではないかということですよね。

● ちょっとこの論点ばかり議論して申しわけないんですけれども。そこは理論的に違うというのは恐らく法律家としては当然でそうだと思うんですけれども,ただし,ただし書きを置くという点については,弁護士は収支合い償う目的を持って継続反復したとしても,それは商行為にならないという。


ですから,あくまで商行為性の有無だけの議論としてそれについてはぜひ御検討いただければと思いますし,それは弁護士がということだけじゃなくて,今先生御指摘されたようなほかの形態であっても一定の場合には商行為にならないという例外規定,たまたまこれ以外にもあるのかもしれませんけれども,イリノイ州のフィディシャリアクトの中では10項目にわたって例外規定が書かれていますけれども,その中の一部は弁護士に限らず会計士さんもそうかもしれません。


あと,業法上お金を扱った,資産を扱わざるを得ない場合,それを今後信託宣言するかもしれませんけれども,そのときにそれが業法ですということにならないと思いますね。

  ですから,例外規定を検討するということにはぜひこの場の議論としてはそこまでの要望にしたいと思うんですけれども,ぜひ今後とも御検討いただければと思うんですけれども。

● それはちょっと検討はしてもらうということにいたしますが,ただこれ本当に商法とも関係する恐らく問題でもあると思いますので,直ちに適切な回答が出るかどうかわかりませんけれども,要望事項として検討するということにしたいと思います。

  ほかにこの点についていかがでしょうか。

  よろしゅうございますか。それでは,金融庁の方には業法との関係についてはいろいろ御配慮をお願いしたいとは思いますけれども,ここでの検討課題としては商行為の問題でして,これについてはただし書きというのは可能なのかどうかということについての御要望があったということで一応まとめさせていただきたいと思います。


  それでは,あと残り1つ,有価証券化はいかがでしょうか。

  ○○幹事,どうぞ。

● 恐らくここにいろいろな先生がおられると思いますけれども。この受益権の有価証券化,現行の証券取引法やこれを改組拡大するプロジェクトである投資サービス法と密接に関わっておりますので,現在金融庁が検討していることを御紹介しながら幾つかコメントをしておきたいと思います。


  証取法のカバレッジが狭く投資家保護の必要性に機動的に対応できていない背景に,法律の構造が画一的で硬いということが挙げられてきました。


すなわち,有価証券に指定すると,発行体には原則開示義務が課せられ,販売するのは原則証券会社になり証取法の行為規制がついてきますので,もっと自由にお金を集めたいという人はなるべく証取法以外の手段を模索するということになっております。

  例えば組合という法形式によるファンド,最初はベンチャーファンドとして使われておりましたが,そのうち公開株式や金銭債権などにも投資したいということになってきますと,それは投資信託とどう違うんだということになりまして,昨年の証取法改正で一定の類型の組合への出資持分がみなし有価証券ということになりました。


  このように必要が生じるたびに証取法を改正して有価証券を追加するのはいたちごっこになりますので,投資家保護のための基本的なインフラとして分立した投資関連の法制を一元化し,有価証券の概念もより包括的にくくり直そうとうい構想が投資サービス法でございます。


  一元化するとさまざまな投資商品というのが対象になりますので,当然規制も画一的では困るということになりまして,投資商品によっては開示は相対でもいいとか,販売業者として証券会社並みの要件はいらない,例えば自己資本規制というのは必要ないとか,公益性も投資商品の性質に応じて,○○委員の言葉でいう柔構造化,柔らかい弾力的な構造に仕組んでいくといことになります。

  この法律のもとでは当然信託受益権についても投資商品の1つとして規定する方針でございまして,信託受益権という投資商品の性質に応じた規制の柔構造化が図られるということになります。

要は,伝統的な投資商品である株式や社債のみならず,組合であれ信託であれ合同会社であり,投資のビークルとして使われるものは投資サービス法に取り込んで,過不足のない規制の枠組みを整理していこうとしております。


したがって,ここにございますように,信託法で受益権の有価証券化を可能とするのであれば,その仕方,施行のタイミングなどについては今後よくよく御相談をさせていただきたいということでございます。

  つまり,今申し上げた投資サービス法の施行前に信託受益権を証取法の有価証券にしますと,先ほどの硬い構造が適用されますので,受益権の販売業者を新たに証券会社にならなければならないとか,株式などと同じ発行継続開示規制が課せられるということになりますし。


逆に,信託受益権を証取法上の有価証券にしませんと,同じ有価証券でありながら投資家保護のルールに差異が生じますし,振替制度の対象とすることもできないということになります。


  両方の法制というのが同じタイミングでいきますと受益権販売業者も自動的に投資サービス法の販売業者,投資サービス業者に吸収されて過不足ない規制がかかるということでございます。


  また,この資料,受益権について有価証券,受益証券を発行できるようにするという提案は券面の存在を前提にしているように見えますので,証取法の構造について念のため申し上げておきますと,先ほど組合の出資持分を見なし有価証券に指定したと申し上げましたが,券面が存在するかどうかという区分はしておりません。


株券や社債券のように券面が存在するものは存在しない場合もみなし有価証券,有価証券とみなすという構造になっておりまして,株券不発行会社の株式もみなし有価証券でございます。


先ほどの振替制度も証取法上の有価証券しか対象にできませんのが,信託受益権全般が券面の有無に関わらず証取法上の有価証券になりますと振替制度の対象にできるということになります。


  なお,やや細かいところですけれども,証取法の発行継続開示規制の適用上は信託自体を発行者とみなす必要があるという指摘があったという記述がありますが,財産である信託を発行者とみなすということはあり得ないので,信託の当事者である受託者ないしは委託者または両方が開示義務者ということでございます。

  いずれにしても現在の証取法を前提に信託受益権の有価証券化を検討しますと,双方の関係の整理とかつなぎが結構なものになってしまうんですけれども,たまたま私たちまさに信託のようなさまざまな性格を持ち得るツールを投資のビークルとしてみるとどう整理すべきかという検討を並行的にやっておる最中ですので,両方がうまくつながっていくように御相談させていただきたいということでございます。
  以上です。


● それはぜひ連携を持ちながら進めていけるとありがたいと思います。

  この有価証券化についてのこの提案につきましてはいかがでございましょうか。

  ○○委員。
● まず,投資サービス法の御議論かと思うんですけれども。投資のビークルとして信託が利用された場合という前提で,なおかつ前提かと思うんですけれども。


その場合に,現行法でもいろいろな法律の適用がありますから,いろいろな証取法だけじゃなくて,証取法の適用がなければ信託業法,不動産特定事業法とかいろいろありますけれども。


投資ビークルとして利用される場合というのはそれはそれで当然といいますか,1つの流れかなとは思うんですけれども。信託の場合には,先ほどの議論でもそうですし,民事信託としての利用というものを強く日弁連としてもまたこの審議会でも考えておりまして,その場合に民事信託についてまで過剰な規制が及ぶということはまた,過剰といっては申しわけないですけれども,民事信託で本来民法の行為が実は投資サービス法ですといって,なぜならば民事信託と商事信託というのは区別はつきませんという議論に巻き込まれていくんじゃないのかなという--懸念のしすぎかもしれませんけれども,持たないわけではないです。


というのは,投資サービスというのは広く横断的にというのが前提ですし,信託というのはそこに財産を入れて転換機能を果たすわけですから,その転換機能の結果,その信託受益権を販売するのか,それを弱者のためにまた相続のために利用するのかとか,そこの差だけのような気もしますから,その辺の民事信託における利用というものが投資サービス法に一たん入ってその後に出るというような,それによって制度が担保されているんだということになりますと,実体法としての信託法というものが何のための議論なのかという議論にもなりますし,やはり制度としては違うんじゃないか,先ほどの議論ともつながると思うんですけれども。


商売として民事信託やる方はそっちで下がってもいいのかもしれませんけれども,通常の弁護士の場合でもその他公益法人の場合でもそうですけれども,本来投資サービスの適用ではないのではないかと,その辺についてはぜひ御配慮いただきたいということと。


  あと,有価証券化できる受益権というのは株券と同様じゃないかというような趣旨のもし御発言だとしますと,株券というのは別に発行する前から,発行しても発行しなくてもそれが有価証券であるということはまた議論する余地すらなく明確ですけれども,この場合にはもともと信託受益権という指名債権類似ですけれども,法律上の権利について一定の場合,また当事者が選択した場合,有価証券化ができるという議論ですから。


もともとの有価証券と信託受益権というのはやはり法的性質が根本から違うんじゃないかというふうに思います。


  なおかつ,私法上の有価証券と証取法上の有価証券というのはもともと概念的にも,先ほどの議論にもつながりますけれども,根本的に違うわけですから,私法上の有価証券がすべからく証取法の対象になるという議論ではもちろんないかとは思うんですけれども。

仮に今後議論が拡張して証取法の議論でも投資サービス法の議論でも私法上の有価証券について,証取法上の有価証券が発行できるということはそれは投資性がある,流通性があり得るんだという議論になりますと,やはり民事信託においての有価証券の利用というのは今のところ余り深く考えられていませんけれども,それが利用されるケースもあり得るかと思うので。


ですから,その辺について民事信託において萎縮効果がないようにぜひ御配慮いただきたいというふうに思うんですけれども。


● 重要な御指摘だと。
  ○○委員,どうぞ。


● 先ほど○○委員の方から民事信託ということでの御指摘ございましたが,信託業界の方としましても,私法信託といいますよりも営業信託というふうに考えていただいた方がいいと思うんですけれども。


私法上の有価証券化につきましては,もう何年も前から信託業界としてはお願いしていた件でありますけれども。その理由といいますのは,当然今はほとんどないですけれども,今後の信託の発展のことを考えますと,当然受益権の中には転々流通させて受益権が多数の者で,なおかつ転々流通させた方がいいような種類のものがあるということでこういうお願いをしてきまして,法務省の方からもこういう御提案をいただいたということでございますけれども。


  そのときの私どもの考え方というのは,基本的には有価証券化するというのはある一定の受益証券に限定したものであって,転々流通する必要のないものについては基本的には当然必要がないわけでから,私法上の有価証券としても必要もありませんし,ましてや業法的な問題としての例えば証取法とかの対象になるというようなことは今まで考えてもみなかったもんですから,ちょっと驚いているような状況でございます。


  営業信託におきましても,今回の御提案で出ていますけれども,遺言代用の信託であるとか,後継ぎ遺贈型信託というのが当然ありますから,これが証取法であったり投資サービス法,投資サービス法の範囲というのがまだ検討中ですので,どういう形になるかそこがよくわかりませんけれども,投資のビークルというような形の観点で見られるというのはやはりちょっと違うんではないかなというふうに考えておりまして。


  今,法務省の方でもこういう私法上の有価証券化の方を御検討されていますし,金融庁の方では投資サービス法等を御検討されておりますので,私どものニーズというのはこういう状況でございますので,お含めいただいて,両省庁でいろいろと御協議いただいて,すべからくうまくいくような形でお願いしたいと思います。


  以上でございます。

● 今大体共通する御意見だったと思いますけれども,○○委員,どうぞ。

● 私は○○委員とほぼ同じことで,かぶってしまうんですけれども,私法上の有価証券を認めるということについては,先ほど○○委員がおっしゃられたように,流動化の観点からも非常に喜ばしいということで歓迎している立場なんですけれども。


先ほどの○○幹事のお話のように,将来の投資サービス法の関係であればそれはそれまたいろいろなこれからの議論がされていかれると思いますので,そこについてはここでコメントするということではないとは思うんですけれども。

現行の証取法の対象の有価証券となると,先ほどもある程度の御配慮をいただいているような御発言だったかとは思いますけれども,いろいろ障害が出てくるのではないかなというふうに考えております。


  流動化の場合,現行信託受益権が投資家の方で持ちきりになっているケースがかなり多いとは思いますけれども,今後もっとこの市場拡大する場合においては転々流通するということが当然考えられますし,その場合の権利移転が容易になるという点では有価証券化というのは非常に望ましいわけでございます。


  しかしながら,最初からそういうふうに転々流通するというふうに仕組む場合と,そうじゃなくて,一定程度まで特定の投資家が持っていて,その後に改めてまたそれを分割して流通させるとかいろいろな手法がございます。


そういったことを考えますと,最初から一律に有価証券化された場合についてはやはり証取法の規制になるということは,先ほどもお話ありましたように,硬い規制の中の問題でありますとか,オリジネーターとしてその取扱いの資格の問題とかそういったことも出てまいりますので,ぜひそのあたりも配慮していただきまして,一律の規制にならないようにということでお願いしたいというふうに思います。


● どうぞ。

● 経済産業省でございますけれども。投資サービス法についてはいろいろとそのファンドの多様な形態とかそういうこともありますので,そこは個別に実態に合った本当に必要な規制にしてもらいたいということで,これは当省と金融庁の方でもお話をさせていただいているところであります。


  その関係でいきますと,そういった意味では本件につきましてもそういった意味で実態にいかに合わせて必要に合わせてということが確保されることが必要だというみなさんの御意見に全く同感でございます。


  それから,○○幹事からお話がありました投サ法,新しくできる制度では非常に柔構造の規制になるので,こちらにうまくつながるようにというそういった御趣旨の発言だと思いますので,そういった意味でぜひ,特定の今の証券取引法で硬い規制の方に入って,この新しい信託の制度がいろいろな意味で動かなくなるということをどうやって防ぐかというそういう方向性での御議論かと思いますので,ぜひそういった方向で政府内でも意見を調整させていきたいと思います。

● どうもありがとうございました。先ほどから出ている議論は,やはりこの有価証券化といっても受益権の有価証券の場合には,もちろん投資のために有価証券化される場合がほとんどでしょうけれども,将来的にはそうでない場合もあり得て,そういうものについては,これは投資サービス法との関係の問題なのでここでの問題ではないかもしれませんけれども,投資サービス法の関係では御配慮をお願いしたいということでございました。


  それでは,有価証券化の中身については特に御異論がないというふうに了解してよろしいでしょうか。


  では,先に○○委員,その後○○関係官,お願いします。

● 注4の部分なんですけれども,信託財産のみを引き当てとする債権,信託債を認めるかどうかというところで,今回有限責任信託に限定するというようなことを提案されているわけですけれども。


信託債権を認めるのであれば,必ずしも有限責任信託に限定せず,既存の形態の信託であっても特に構わないのではないかなという気がいたします。


  それとあと,受託者が株式会社である必要も必ずしもないのかなという気がいたします。


● 信託財産を引当てにした債権,ちょっと一種の社債みたいなものかもしれませんけれども,そういうのを発行するのを有限責任に限定しないで,既存のものについても認めたらどうかと,そういう御意見。

● そうです。現実にABLと呼ばれている仕組み,アセット・バックト・ローンと呼ばれている仕組みで,受託者が信託財産のみを引当てに借入を行うということは広く行われいるわけですけれども,それに代用するということを考えれば,実態的には変わらないと思うんですけれども,それをただ単に債権に置き換えるということが可能になってもいいんじゃないかというのが。

  それとあと,受託者が株式会社である必要があるかということなんですけれども,これは恐らく社債が発行できるのは株式会社だからというところからきているのかもしれませんけれども,受託者は必ずしも株式会社に限らないんじゃないかなと。


外国法に基づく会社であるとか,その他いろいろな形態はあり得るのではないかなと。


場合によっては法人であるということを要求するということはあり得るかとは思いますけれども,株式会社でなくても,例えば学校法人債とか医療法人債いったものも現実にございますし,それとバランスとる上では株式会社に,受託者が株式会社であることを要求する必要はないんじゃないかなという気はいたします。


● わかりました。
  ここまで何かありますか。


● こちらの意見というのは別にその株式会社に限定したらどうかということを申し上げているつもりではありませんでして,恐らく実務上のニーズという意味ではさすがにこういったことをやるのは信託業務なのかなということで,とりあえず今の規制ですと株式会社ということですし,寄せられている意見も恐らくは株式会社が発行するということなのかなということで社債というふうに書き,その上で取締役会決議というのをまずは書いたということですので,具体的なニーズとしてこういう形態の法人でというのがあれば,それはそれでということなのかなというふうに思います。

  それから有限責任信託にするかどうかという話は,まさに個別の責任限定特約を置き換えて債権の性質として信託財産に責任が限定されると,そういったものをつくってはどうかという御趣旨のそういう立法提案だったのかなということでして。


そうしますと,限定責任信託というところと規制の調和というのが必要になってくるんじゃないか,そういう指摘がありましたということでございますので,それが必要と考えるのか,それともそうではないのかというところが1つ議論していただくとよろしいのかなということなんですが。

● そういう意味では原案は別に限定しているわけでは必ずしもないと。
● すみません,手短に。


● すみません,さっき○○関係官も手を上げて,関連して。

● 実は,注4,○○委員の御発言と関連するものですから,ちょっとすみません。

少しだけ心配性なものですから,もう少し掘り下げて御質問したいんですが。恐らくこれは信託の事務及び管理ができるということから信託に係る借入,アセット・バックト・ローンみたいなものができるというところから始まって,じゃあ,その借入でやればよいのであればこの信託債というのが発行できるのではないかという,こういうロジックでこの信託債という仕組みが考えられているのでしょうか。

  ちょっと,なぜ信託債というのがここで突然出てきているのかいうそのロジックみたいなものを御説明いただけるとありがたいです。


なぜならば心配性だと申し上げた理由は,さっき○○幹事から申し上げたのと同じ理由で,社債に関してもいろいろな発行開示規制等も,流通する場合にはですね,関わらざるを得ないと考えている場合があるものですから,ちょっとその背景を伺おうと思いまして。


● はい,いかがでしょうか。
● この注4の記載が出てきたというのは,もともと前段階の研究会でやっておったときもそうですし,この法制審でも指摘がされたから入れたということでございまして。


恐らくそのときは言われておりましたのは,信託財産を引当てとする社債,あるいは社債という必要はないんですけれども,債権ですね,券面を発行したいというニーズが実務上ありますという話がありまして。

しかもそのときには,責任が限定されたタイプを望んでいるんですというような話がございました。


恐らく御提案者の方たちはそれが信託債というような性質のものであって,社債というような位置づけではなくて,もうちょっと別の社債なんかとはまた異なるタイプの券面だというお話だったのかなと思うんですけれども。


  そういった御提案を踏まえてこちらの方で検討していったところ,とりあえずのところは社債であって,しかも責任が限定されるタイプの社債なんだというふうに整理するのではないかなと。


特に株式会社が発行する場合には。そういう整理で,しかもなおかつ限定責任信託との整合性をどういうふうにとるのかといったところを議論していただく必要があるのではないかということでこうしてきたということでございます。


  それと,開示の話とか証取法上の開示の話とかというのはその上でお考えいただくというような話になるんじゃないかなと思いますけれども。


● よろしいでしょうか。バックグラウンドは今のようなことだということです。

  それでは,○○委員,どうぞ。


● 手短かに。実務のニーズですけれども,例えばジェイリートなんてリート債というのが盛んに発券されています。


ですから,ローンでできるからツールとして債権というのも必要だという,そのとおりなんですけれども。これができるようになると非常に使われることになると思います。

他方,法的考え方ですけれども,これを社債と裏づけちゃいますと,それこそ何々銀行,何々信託銀行債社債ということになって,それ自体投資家にとっても非常に混乱を来すものだと思いますし。


私の記憶が間違っていなければ,海外の信託財産が社債を発行しているケースも,法的には受託者なんですけれども,信託財産というのは全面的に出てきて債権だという格好をしていまして。


いわゆる企業の社債だというようなイメージではなかったと思うんですね。ちょっとそれは事実関係の問題ありますから余り強くは言えませんけれども。


  ですから,社債という整理をすると,会社法の問題とか,もちろん証取法の関係とかありますけれども,複雑になりますし,なおかつこれ特に責任財産限定特約つきの債権とみていただいてといいと思いますが。


その場合に,信託銀行にとって別に多額な借財をしているわけでもありませんし,本来社債規制の中が前提としていることと全然違うものですから,立法論である以上,これは信託債という社債とは性質の異なったものだよ,特に責任財産限定特約がついている場合という前提でいいと思うんですけれども。


というような議論がされると,また機動的に信託で借入をするのとほぼ同じように機動的に発行できて,それが実際に市場とかのニーズにも見合うのではないのかなと思うんですけれども。

● 恐らくこちらの趣旨もそういう意味で社債であることを積極的に主張しているということではありませんので,今,○○委員が言われたようなものであるというふうに理解しております。


  説明等につきましては,またもうちょっと適切な説明で検討するということでよろしいですかね。

● 基本的には社債と言わざるを得ないのではないかという話と,あと恐らく社債の規定を相当借りてこざるを得ないのかなというようなところもあって社債と言っているわけですが。


仮に限定責任信託となりますと当然名称を付すと,限定責任信託として取引行為を行うには名称を使用するということになるんだと思いますので,登記もしておりますし。そういったことが券面上には表示されるというようなことにはなるわけですけれども,それとはまず……。


● おっしゃったように,それはそれでそうだと思うんですけれども,限定責任信託がきょうも議論されますし,制度設計によってどの程度利用されるかという議論もあるとは思うんですけれども。

現状,ノンリコースローンというのは非常にボリューム等も多くて非常に使われていますから,ノンリコースローンの代替として,またローンとしての貸付ができないけれども,それは貸金業とかいう手順ありますけれども,社債という形式であれば投資家として投資してもいいという機関投資家というのは多々あると思うので。


  ですから,限定責任信託を利用しなくても責任財産限定特約つきの債権形式であれば,社債とは違った規律,また社債の特例としての規律というものを考えてもいいというような議論があってもよろしいのではないかなという提案なんですけれども。

● そうすると,まさにその信託についての限定責任の信託におけるいろいろな規制と,それからその特約とのバランスをどう考えるのかというようなところなんだろうと思うんですけれども。恐らく有価証券ということにしますと,転々流通しても次の譲受人に対してその限定責任の効力が対抗されるというようなことになりますので,恐らく,これはパブリックコメントで寄せられた意見ですけれども,限定責任と同じような規制をやはりかけておかないとまずいのではないかというような話はあったわけなんですが。


そこは特約があるからその効力を譲受人との間で認めていいだろうと,そういう御趣旨。


● そうですね,実際今SPC形式で社債形式で出す責任限定特約付社債ということで一応流通する可能性があって発行しております。それは有効であるということは,多分それほど疑われていないと思います。

● それも含めて検討してもらいましょう。

  ほかにいかがでしょうか。よろしゅうございますか。

● 今伺っておりまして,結局受益権が信託法に定めて受益証券になった場合の規制の仕方については別途検討するとしまして,この1,2についてはこのとおりでいいというふうに事務局としては理解しておりますので,それでよろしければこの方向で進めたいと思います。


  この資料の中では1点,無記名式の受益証券については受益証券の占有によるというのが受託者対抗要件として我々考えているわけでございますが,その中でもエというところに書いてあるんですけれども,受益者名簿を作られた場合には受益者名簿への記載をもって無記名式であっても対抗要件をするべきだという要望はあったわけでございますが。


そうしますと,無記名式でありながら,場合によっては受益者名簿への記載が対抗要件になり,場合によっては占有が対抗要件になるということで非常に区々になりまして,会社法上の無記名社債でもそこまでの区別はされておりませんので,事務局としてはこの提案のとおり占有をもって一律に無記名式の受益証券については受託者対抗要件とするという方向でいいのではないかというふうに思っておりますが,そこについてもそれでいいということで御承認いただいたということでよろしいでしょうか。

● いかがでしょうか。その方が簡易であるということだと思います。わかりやすいと。よろしいですか。

  では,これはそれは了解していただいたということで。


● では,前回の積み残し分の最後として,信託の変更・併合・分割それから終了関係を説明させていただきたいと思います。


  資料33ページからでございますが,提案の1と2については特段異論がございませんでしたので,変更はありません。提案3と,それから(注2)との関係で,資料ですと34ページの2の(1)のとおり,信託行為の定めに基づいて第三者に信託の変更権限を付与したという場合に,変更できる範囲を制限するべきか否かという問題点について検討したところを御説明申し上げます。


なお,パブリック・コメントの結果としては両論あるというところでございました。


  ところで,制限を設けるべきであるという見解というのは,変更できる範囲に制限を設けないと関係者,特に受益者の予見可能性を害する恐れがあるということを理由としております。


しかし,事務局としてはその必要はないと考えるわけでございますが。その理由といいますのは,ここにも書いてございますけれども,まず信託行為において第三者に信託の変更権限が与えられ,しかもその範囲に特段の制限が課されていない場合におきましては,受益者としては,信託行為の内容,すなわち第三者にこのような制限のない変更権を付与されているということは認識できるはずでありまして,それにもかかわらず予見可能性を一般的に害するとまでいえるか疑問がないではないということ。

  それから,第三者の変更権限も信託行為に与えられたものである以上は信託目的に従うなどの制約は当然かかるであろうということ。


また仮に受益者を害するような変更がなされた場合には,その内容にもよりますが,受益権取得請求権をもって救済を図ることも可能でございますし。


さらに,仮に第三者による変更が余りにも不合理な場合にはその変更が公序良俗違反として無効とされることもあるというふうに考えます。


そういうことからこのような制限は設けなくていいのではないかというのが事務局の見解ということでございます。


  このような方法によっても救済できない場合は,もはや信託法の守備範囲外の問題でありまして,消費者契約法等の問題で対処すべきではないかと考えているわけでございます。


  次に,提案4と(注3)と(注4),裁判所の変更の問題でございますが。これにおきましては,試案では,変更の対象を現行法どおり信託財産の管理方法に限るという甲案と,より広い範囲まで認める乙案とを対比してパブリック・コメントに付しております。


  その結果,資料ですと35ページにありますが,甲案にとどめるべきである見解,すなわち裁判所の判断対象としての適格性ですとか,信託スキームの安定性,私的自治を重視する見解と,私的自治で対応できない場合の裁判所の後見的関与に対する期待から乙案を支持する見解とに分かれております。

いずれの考え方が適切かにつきまして,特に乙案の方向に進む場合には具体的にいかなるニーズあるいは事例が想定されるのか,あるいは乙案を合理的に限定するような第3の考え方はないかといった点も含めて御審議をいただきたいと思っております。


  なお,甲案の中で示しておりました変更の要件につきましては,より明確な要点にすべきであるという指摘がございました。そこで試案におきましては,「信託財産の管理方法が信託の目的に適合しなくなることとなったとき」,としておりましたが,ここではそれを改めまして「信託財産の管理方法が信託の目的その他の事情に照らして受益者の利益に適合しなくなることとなったとき」と改めまして明確化を図っているということを付言させていただきます。


  続きまして,信託の併合の方でございます。パブコメではほぼすべての意見が試案に基本的に賛成するものでありましたので,ここでは試案をそのまま維持しております。以下パブコメで指摘のあった2点につきましてのみ考え方を御説明したいと思います。


  まず第1点は,信託の併合におきまして,信託の変更における第54の2の(1),資料ですと33ページになりますが,それを準用しているというところについての指摘でございます。


指摘の内容といいますのは,結局信託の併合というのは信託の関係全般に影響を及ぼす重大な事項であることにかんがみますと,併合の有効性が事後的に争われることになる可能性は可及的に排除すべきであって,三者間の合意の例外となる信託の目的に反していないことが明らかであるとか,受益者の利益に適合することが明らかという要件についてより明確化を信託の変更の場合よりも図るべきではないかという主張かと推測するわけでございます。


  しかし,受託者は信託財産に固有の利害を有しておりませんので,リスクを犯してまで信託の併合による利益を追求するよりは,事後的に併合が無効とされ責任を追求されるような事態を避けようとするのが合理的な行動だと思われるわけでして,そうしますと,仮に受益者の利益に適合すると明らかといえるか疑問があるような場合には慎重を期して受益者の同意を得た上で信託の併合を実行するという運用がされることになると思われるわけでございます。

  そうすると,この明らかという法律上の要件についてはこれ以上明確化する必要はないのではないかと考えているわけでございます。


  なお,信託の併合の関係で,提案では第54の4,すなわち裁判所による信託の変更の規律も準用するという形になっておりますが,第54の4における裁判所による変更の範囲に関する審議の結果如何,特に変更の範囲を信託財産の管理方法に限るという甲案が採用される方向となりました場合には,信託の併合という行為の性質上,裁判所による変更の規律は信託の併合には準用されず,裁判所に対して信託の併合を請求することはできないということになると思われるということ,すなわち準用の対象は第54,ただし(2)及び4を除く,そのようになるのではないかと思われることを付言させていただきます。


  第2点は,この2の(1)の一定の事項が明らかにされる手続を明確化する必要があるとの指摘でございます。これは例えば会社法における合併契約等の備置に関する厳格な手続的規定を信託法にも導入することを示唆するものと解するわけでございます。

しかし,この信託の併合の規律というのは大規模な信託に限らず,小規模・個人的な信託も含めまして,あらゆる規模,類型の信託の併合に適応されるものですので,それにも関わらず重厚な手続を課すこととなりますと,機動的な信託の併合の支障となりまして受益者の利益にも資さない結果となる恐れがあると思われます。


  そこで,2の(1)の一定の事項につきましては,最低限,関係当事者が併合に合意する時点で明らかにされていることが確保されていれば足りまして,それ以上の手続規定は設けず,各事項について合意に至るスケジュールについては関係当事者の事情に応じて柔軟に定めることとしてよいのではないかと思われるわけでございます。


  次に,信託の分割の方でございますが,これもほぼすべての意見が賛成意見でしたので,試案をそのまま維持しております。

  なお,信託の併合の場合と同様に,一定の事項を明らかにする手続を明確化する必要があるという指摘がございますしたけれども,この点につきましては,ただいま申し上げましたように,最低限,関係当事者間において分割の合意がされる時点において明らかにされていれば足りると考えているところでございます。


  また,(注3)になりますが,信託の分割によって信託債権者を信託財産ごとに切り分けるニーズがあるという試案の問題提起に対しましては,不動産流動化の実務においてこのような切り分けのニーズがあるとの意見がございましたので,一定の債権者保護手続を条件にそのような切り分けを可能とする規律を整備することを考えております。


  なお,信託の併合のところで述べましたように,信託の分割につきましても,裁判所による変更の範囲に関する審議の結果によりましては,裁判所による変更の規律は信託の分割には準用されないということになると思われることを付言させていただきます。


  続きまして,信託の終了事由,第57の方に移らせていただきます。パブコメでは試案に対しておおむね賛成意見が占めましたが,1のcの裁判所に対する終了請求権に関する規律と,1のdの兼任状態を解消するに必要な期間を超えた場合に関する規律について異論ないし意見が示されております。


  このうち1のdの兼任状態の解消の問題につきましては,解消するのに必要な期間という試案の提案を明確化を図る必要があるというものでございましたが,これは前回部会で述べましたとおり,1年間という期間を明記することとしております。


これに対しまして,1のcの裁判所に対する終了請求権の問題につきましては,まず試案では信託を継続することが信託の本旨に適合しないこととなった場合という要件を要件としていたことにつきまして,信託の本旨を初めとしてこのような要件を認定することが困難であるという指摘がございました。


  そこで,この指摘を踏まえまして,この提案では「信託を終了することが信託の目的その他の事情に照らして受益者の利益に適合することが明らかである場合」と改めて要件の明確化を図っているものでございます。


  ちなみに1のaと1のcの関係でございますが,信託の目的が達成不能とまではいえないものの終了させる方が受益者のためになるときには1のcにより終了させることになるというふうに考えております。


  また,この1のcに関しまして,流動化取引におけるスキームの安定性の観点から,委託者が請求権者となっていることに反対する意見がございました。


確かに信託をファイナンス目的で利用する場合におきましては,委託者がいったん受益者となった上で受託者が第三者から借り入れた金銭によって委託者に受益権を償還しまして,その結果委託者が劣後受益権を持ち,第三者が信託債権を持つという状態に至ることがあるわけでございますが,この場合,唯一の受益者である委託者としてはもはや本来のファイナンス目的を達成しているともいえますので,信託を終了させても債権者は害されるものの,委託者兼受益者の経済的利益は害されないようにも思われるわけでございます。

  しかし,この場合におきましても,信託の目的その他の事情としましては,当初から折込み済みの第三者からの借入も含めた一連のスキームが円滑に機能することによってファイナンス目的を達成することにあると考えるのが妥当であると思われるわけでして,そうしますと,単に受益権の償還を受けたからといって第三者の信託債権が残っている状態で信託のスキームを終了させてしまうこととなれば,信託の目的その他の事情に照らして受益者の利益に適合することが明らかであると認めることは難しいと,できないということになるのではないかと思われます。


したがいまして,委託者を請求権者に含めても意見にかかるような不都合はないと思われるところでございます。なお,念のため申立権の不行使の特約をもって対処することも可能であるということも言うまでもないところでございます。


  続きまして,資料44ページの(注1)から(注3)の問題について御説明いたします。まず,(注1)につきましては,今後信託の利用の進展が予想されることも踏まえまして,信託の濫用防止の観点から会社の解散命令の制度に準じた信託の終了命令のような制度を設けることが相当と考えるものでございまして,パブコメの結果も制度設置に賛成する意見が多数でございました。


  それから,(注2)につきましては,信託行為に職務分掌の定めがある場合におきましては,欠けた受託者の権限は他の受託者が承継するということになるわけでございますが,信託行為に職務分掌の定めがあるときにおきましては,欠けた受託者の行っていた職務のうち信託財産の保管及び引継ぎに関する事務を残りの受託者が行うことにするということを考えております。

  この資料の作成時には単独受託者につき任務終了があった場合と同様と考えていると,(注2)の説明の4行目に書いてございますが,これは現在では考え方が変わっておりまして,相続人でありましても信託財産の保管とか信託事務の引継ぎに必要な行為をするわけですから,まして残りの受託者はそれぐらいの義務は課されてもいいのではないかという考えに基づきまして,任務の終了した受託者の行っていた職務のうち信託財産の保管及び引継ぎに関する事務を残りの受託者が行うということにしたいと考えているわけでございます。


  ただし,この考え方のもとにおきましても,共同受託者の一部の任務が終了したことによりまして信託財産の保護に欠ける状態が生じていることに変わりはございませんので,任務の終了した受託者と同一の権限を有する新受託者が1年以内に選任されない場合には,やはり信託は終了するということには変わりがないと考えているところでございます。


  それから,最後に(注3)でございますが,これは民法653条の定める委任の終了事由といいますのは,委任者または受任者の死亡・破産ですとか,受任者の後見開始,資料では禁治産という不適切な用語を用いておりまして,おわびして訂正申し上げたいと思いますが,後見開始という当事者の一方に関わる事情でございまして,知らない相手方に対抗はできないということが非常に言いやすいわけでございますが,信託の終了事由の方は,信託当事者の全員が了知し得る事情であるか,あるいは信託当事者のだれもがあずかり知らない事情であるかというような違いが委任の場合とあるわけでございまして,そうすると信託の終了事由が生じたことを知らないことによって不測の不利益を被る当事者の救済をいかに図るべきか。

そもそも図るべきか,ということについて一体どのように対処したら方がいいのか,非常に複雑な問題が生じそうな気がいたしますが,御意見を伺えればというふうに思っております。

  次に,信託の清算のところでございますけれども,パブコメにおきましては,試案全体につきましては特段の反対意見がございませんでしたので,個別意見について若干御説明を申し上げます。


  まず,資料47ページの2(1)に書きましたが,提案の2の1の清算受託者の職務の内容,それから,提案3の帰属権利者等への残余財産の給付の制限に関しまして,信託行為に別段の定めがあるときはその定めに従うものとするということとすべきであるとの意見がございました。


  しかし,この意見があげますような不動産流動化のための信託では現状有姿のままで不動産と債権債務関係がそのまま受益者に交付されるのが通常であるという例につきましては,こういう信託のスキームであることを関係当事者全員が合意しているのでありますから,あえて信託行為が優先する旨の定めを置かなくても当然許されることになると考えられれば足りると思うわけでございます。

  むしろ一般的には,清算受託者は信託が終了した以上,信託債権者を含む全関係者に対しまして,いわば中立的な立場に立つものとして速やかに現務を結了して信託債権者に弁済してから残余財産を帰属権利者に引き渡すという義務を負うことになると考えるべきであると思われます。


  そうすると,全債権者の同意もないのに,単に信託行為の定めのみをもちまして清算手続を行うこととしたり,行わないこととしたり,信託財産に属する債務の弁済前でも帰属権利者等に対する信託財産の交付ができるとするのは不適当でありまして,これが可能であるかのような誤解を招きかねない規律を設けるのは妥当ではないと思われます。


したがいまして,この意見は採用しないこととしたいと考えております。

  それから,資料48ページの(2)に記載したところでございますが,受託者が長期不在のため信託が終了した場合には,裁判所が職権で清算受託者を選任することができるとすべきであるという意見がございました。


しかし,清算受託者も受託者であることには変わりがありませんのが,受託者の選任に関する規律にしたがいまして,委託者と受益者との合意,または利害関係人の裁判所に対する請求によって清算受託者を選任することができますので,この意見に対しましては既に試案の内容をもって答えているものと思われます。


  なお,意見の中にはさらに信託財産管理人が当然に清算受託者に就任することとすべきであるという意見ですとか,裁判所の職権で清算受託者を選任できることとすべきであるという意見もありましたが,いずれも資料48ページに①,②で書いた理由から採用しないものとしております。

  最後に,資料48ページの(3)に書きましたとおり,必要財産を留保して信託財産を既存権利者に引き渡した後で留保財産では債務の弁済が足りないこととなったときの措置を定めておくべきであるという指摘がございました。


  この点につきましては,株式会社等の有限責任制度に見られる債権者保護措置としまして①の受託者の損失てん補責任,それから②の受託者から帰属権利者に対する返還請求権,それから③の信託債権者から帰属権利者に対する返還請求権を整備することが相当であると考えているものでございます。
  以上でございます。

● それでは,ただいまの信託の変更のところから最後のところまで,いかがでしょうか。
 

 ○○幹事,どうぞ。
● それでは,信託の変更の4の点につきまして,裁判所としての意見を言わせていただきます。裁判所といたしましては,甲案に賛成する立場で意見を述べさせていただきたいと思います。


  変更の場面につきまして,管理方法の変更に限定しない乙案につきましては,パブリックコメントを通じて実務庁の方にも意見を聞いてみたんですが,やはりどういった事案を念頭においているのか,それからどのようなものを対象に判断をするのか,それからどういった要件に基づいて,その要件に基づいて判断した結果,どのような法律効果を生じるのかというあたりについて全く理解することができないような状況でして,やはり裁判所として判断ができるようなたぐいのものではないのではないかという議論が体制を占めたところでして,このままこのような制度になってしまいましても結局変更というものにつきましてうまくニーズに裁判所として応えていくことができないのではないかということで,結局そういったものに応えていけないということになるのではないかということに帰着いたしました。

  それで,ここからは意見といいますか,御質問させていただきたいところなんですが。


もし仮にそういった具体的なニーズがあるのであれば,そのニーズをうまく変更に反映できるような何らかの制度設計というものを,きょう来ていらっしゃる法務省の方々ですとか学者の先生方に何かいい案が対案としてあるのであれば,そちらの方で検討できないかというのが裁判所としての考え方でございます。

  以上です。
● いかがでしょうか。

  確かに乙案ですといろいろなのが出てきて大変は大変なんですけれども。ただ,契約なんかでも,余り裁判所は認めないかもしれませんけれども,事情変更の原則で契約の改定とかいうのは理論的にはあり得るわけですよね。

余りそれも範囲は限定されていない。実際上は当事者がこういうふうに変更した方がいいだろうということを申立てるんだと思いますけれども,なかなか対案は難しい。


● そういった場面ですと,この変更の要件にありますように,例えば受益者の利益に適合することが明らかであるとか,信託の目的に反しないことが明らかであるとか,そういった明らかであるというような事情の方が先に満たしてしまうのではないかというふうに思われるところでして,やはり裁判所の判断にはなじまないというところは変わりはないだろうというふうに思っております。


● ほかにいかがでしょうか。○○幹事。


● この乙案に対するパブリック・コメントの乙案に賛成する意見の理由を拝見していますと,裁判所の後見的な作用を期待するという意見,これはあたかも家事事件における裁判所の関与のようなものを期待してらっしゃるのかなと思うんですが,ただ(注4)がついておりまして,これがあることによって乙案の意味は大きく変わってくるのではないかと思うわけであります。


  (注4)は,余りに無範囲な無限定なものが裁判所に持ち込まれることを恐らく懸念して,当事者は必ず変更内容を提示して請求しなければいけないと。


裁判所は提示された内容の許可,不許可しかしないんだということです。こうなりますと乙案のもともと,多分(注4)がなかった乙案とは全然意味が変わってきて,もともと乙案のアイデアというのは当事者は自分では無力で保護すべきものであって,裁判所が広く手を差し伸べていろいろ助けてあげようという発想だったはずなのに,(注4)がつくことで,自分で裁判所が「うん」と言ってくれる内容をつくらなきゃいけないということになってしまったわけで。


  この乙案だとすると,一面では今裁判所の方から御懸念がありましたような,懸念というのは(注4)をつけ加えると余りなくなってくる,逆にですね,裁判所は不適切だとか不許可と言っちゃえばそれでいいといことになるわけですが,ただそれはもともと乙案の意図したところなんだろうかという気がするわけでございます。

  私,結論としてはこれは甲案で仕方がないのかなと思うんですが,乙案のようにすると,結局この(注4)のようなものがつかざるを得ないとすれば,それは乙案というのはなかなかとりにくいんだろうということであります。
  以上です。

● 乙案のもともとのというのはいろいろな源流があるかもしれませんけれども,やはり信託財産の管理方法に限らず,変更必要とするけれども,当事者間の合意がなかなか得にくいという場合に,裁判所の判断でできるとありがたいということで。


合意ができにくいというのは当事者が判断能力がないからというよりは,いろいろ利害も錯綜していていできないという場合も当然含まれているわけですよね。


  しかし,○○幹事の趣旨を逆にとってしまうことになるかもしれませんけれども,(注4)がつくことによって乙案といってもそれほど裁判所にとって大変なことではないのだから,乙案でもいいのではないかという意見にもなり得るところではありますね。

  何か御意見があれば。いかがでしょうか。これもなかなか具体的なニーズでこういう場合があってというのが,あるいはしょっちゅうこういう場合があるんだというそういう具体的なイメージがあるわけではないので,なかなか抽象的なところだけで議論しておりますので,そういう意味では決め手がないのかもしれませんけれども,もし御意見があれば。

  ○○幹事,どうぞ。
● 意見というよりは質問なんですけれども。やはり(注4)についてなんですが,恐らく先ほど○○委員がおっしゃられましたように,事情変更の原則で日本の裁判所では契約改定というのは理論的には認めるのかもしれませんけれども,実際には認めていないところなのではありますけれども,理論的に言うならば,契約改定を認める場合に事情変更の原則のもとで当事者の側がこういう内容への改定を請求するというようなことをしないといけないというふうに考えているかというと,恐らくそうではないと思うんですね。


要するに事態は変更して,その変更した事態に則して公平とか考えられる契約内容を確定するということであって,当事者がこれという必要があるかどうかというのが,日本では余り議論していませんけれども,もとになってますドイツの議論を見ましても,当事者の側にそのようなこういう内容での改定を請求する権利があるというような議論の立て方はどうもしていないようですので。


ちょっと違う考え方がこの(注4)ではあるのかなという気がいたします。そういう意味では事情変更の議論からしてスッと出てくるものかどうかというのがやや疑問があるというのが(注4)の内容であり,かつ,そして,ここから先はむしろ○○幹事にお聞きすべきなのかもしれませんけれども,この内容で改定してくれといったら裁判所からけられた場合に,じゃあ,この内容でという別の内容でというふうになっていく可能性についてはどう考えればいいのかというような問題等はらんでるんじゃないかなと思います。


つまり,いつまでたっても終わらない可能性もあると。

  そういった問題をはらんているということからしますと,乙案を前提にして(注4)をつけるというのはちょっといろいろな意味で問題があるのではないかなという気がいたします。


ちょっとその点お聞かせいただければと思います。

● ○○幹事,いかがですか。

● これは現行法でそうですけれども,非訟事件ですので規範力がないということですから,裁判所がその変更申立てがあってそれを退けて,それはしかしもちろん規範力の問題以前かもしれませんけれども,いくらでも続くことはあります。


正しい答えがどこかにあるとして。近いところまでずっとグルグル回っていつまでも手続が終わらないということも理論上はもちろんあり得ますが。

ただ多くの場合には,こうは言いながら,非訟事件の中ですぐ近くまできてるんだったら裁判所がこんなあたりはどうですかみたいなことは事実上あって,しかるべき許可がされるということがあるんだろうと思いますけれども,ただそれに多くを期待してくれるなというのが先ほどの裁判所からの御意見ではないかというふうに私は忖度いたしました。


● 通常の契約の場合は当事者2人しかいないという前提ですので,問題は今言われたような形で処理可能なのかもしれませんけれども,信託の場合はいろいろな当事者がほかに複数存在するわけであって,そううまくいくのかなという不安はちょっとあるかなと。


そういう意味ではやはりちょっと(注4)というのは現実に,理論的にもそうですし,現実にどうなんだろうかなというのはちょっと感じるところです。


● 何かございましたか。
● 先ほどの(注4)に関しましてですが,これも許可,不許可と申しましても,結局は法律要件,効果がほかのものと違いまして具体的に書かれているわけではございませんので,結局許可,不許可の判断に当たりまして裁判所としては何をよりどころにして許可,不許可の判断をすべきなのか,その反対する当事者の方々とは別の判断を下す根拠はどのあたりにあるのかというあたりについては以前問題としては残っているように思いますので,その点にもつきましてもやはり問題があるように考えております。

● はい,いかがでしょうか。何か御意見があれば。

● ちょっとずれるかもしれませんけれども,この信託の変更と,それから併合分割についての論点でございますけれども,受益者の権益の保護ということで遅滞なく通知するとか,あるいはそういったいろいろな要件をはめていただいているわけでございますけれども,どうしても私ども信託業法所管省からいうと,受益者の保護の方にかなり重点がかかるケースが考えておられまして。


例えばなんですけれども,1点御質問させていただきたいのは,例えば受益権者が多数おりまして受益権者代理などを定めている場合で,それで例えば信託行為で別段の定めをしていれば信託の併合分割なんかはそれに従うということになるわけですが。

例えば受益権者の代理にそういった信託の併合分割というようないわば大きな権限を委ねている場合,果たして本当にその受益権者の権限を保護できるのかという観点から,例えば受益権者でありというものについて例えば具体的に義務を負わせるとか禁止行為とか責任を規定する,そんな考えはございますでしょうか。質問でございます。


● いかがですか。
● 受益権代理のことでございますれば,受益権代理は受益者の代理人という位置づけでございますので,善管注意義務とか委任の規定を準用しますと。


受益者との関係で善管注意義務をもって事務を処理するという義務は課されることになります。

● 了解しました。
● ○○委員。

● 以前も議論になったかもしれません,仮に弁護士が受託者となって財産を預かって,不動産だとして不動産の管理方法の変更というとき,その売却まで入るのかどうかというと,恐らく今の信託業法でも管理型と運用型と分けて,管理には売却というか処分はいけないというようなたしかそんな解釈だったと思うので。


そうすると,売却を仮にすべきであるというようなときに,それは上の方の受託者の決定でいいのかしもしれませんけれども,信託の目的ということの解釈論を,当然争いがあるという前提で争いがあった場合,裁判所に頼むというか,裁判所のせいにするとか裁判所を頼りきるわけではなくて,一定の解釈論を確立する,自分がそう思っても紛争の解決になりませんから,そうすると何もしない方が安全だということになってしまうと思うんですけれども。


  とすると,乙案が幅広く無制限に使われたら困るという趣旨はよくわかるんですけれども,信託の変更の例外規定の確認的な意味で使われるのではないかということでたしか今までの法制審でも議論されていましし,そのたびに裁判所を頼るのはということの議論はあるかと思うんですけれども,やはり一定の法律解釈を裁判所の後見的な役割として確認できるという制度があった方が紛争を未然に防ぐという意味においても非常に有用ではないのかなと思うんですね。


  ですから,無制限の乙案ではないし,また(注4)がちょっと拘束的であってちょっと違った方向がいいといったときにどうなのかわかりませんけれども,ある意味では,繰り返しになりますけれども,2に書いてある1の例外規定の確認的な意味での後見的作用としての裁判所の役割ということが恐らく現実的には必要になってくるのではないかと思います。


● その役割も果たすでしょうね。
  はい,どうぞ。


● 先ほど来,(注4)の評判が余りよろしくないのですけれども,もともと原案を議論しておったときには事情変更の方に対応するためというふうに考える中で,裁判所の方々からどこまで判断できるかという問題が御提示いただいた中で,(注3)のようないろいろな要件をプラスすること,それから○○幹事がおっしゃられたようなお話もあるのですけれども,当事者としては何も判断能力がないというだけではございませんで,事情変更があってやはり明らかにこういうふうにした方がいいというふうに思うような場合もあり得るだろうということで,それでそういった幾つかの御指摘に対応するために生まれてきたのが(注4)だというふうに理解しております。

  それで,○○幹事の御指摘があったように,事情変更の法理にぴったり当てはまるかと言われると,確かに忸怩たるものがあることは否定しがたいところではありますけれども,そのさまざまな実務の必要性と裁判所の御判断される能力というものを勘案した中で生まれてきたのが(注3),(注4)ではないかというふうに思います。


  それで,先ほど仮に(注4)をとって許可,不許可だけにしたときでも,裁判所の方として何を基準に判断されるかがよくわからないというお話がございましたけれども,それは単純に,別に事務局として甲案,乙案どちらにコミットするものでもございませんけれども,その点だけを申し上げれば,それは事情変更があったということを勘案して,当該変更された内容がその信託目的の趣旨に照らして適当かどうかという通常の法律判断の中で判断されるということに,禅問答のようですけれども,ありていに言うとただそれだけの話ではないかなという気がちょっといたしますけれども。


● 確認ですけれども,○○委員の意見は,やはり乙案に一応賛成だということですね。

● ええ。基本的なことですけれども,仮に受託者で変更したいと思って,それを非訟事件じゃなくて訴訟事件として法律関係の確認をするということが可能であれば乙案もいらないのではないかと,そのときにはちょっと受益者か何かを確認して訴えるんですかね。


やはり法律関係確定させたいという希望はどの変更にとってもあり得ると思うんですね。

  反対がなければもともと三者合意でいけるわけですが,必ず反対があるからこそ2があるわけでして。そのときに権利関係確認するときに,また乙案以外の何か訴訟,法的手段,手続的な手段があればそれによって恐らくスムーズに進行できるのではないかと思うんですけれども。

● 今の御指摘なんですが,その変更された後の権利を前提に給付訴訟を提起するということについては,通常の訴訟どおり特に妨げられるものはないという理解だとすれば,先ほどの解釈論を固めるですとか,そういったことについての御懸念も払拭できるというふうに理解してよろしいのでしょうか。

● そうですね,そうだと思います。ただ,給付訴訟,給付だけじゃなくて契約関係を変えるわけですから,すみません,私の未熟さかもしれませんが,なかなか従前の訴訟形態,要するに契約当事者なりある一当事者が契約関係変えてほかの方にその契約関係でいいという確認訴訟を起こすということは現行の通常の発想でも可能,給付訴訟じゃないと思うんですね,給付に至る前の話だと思うんですが。不動産を処分するとかですね。


● その受託者の決定によって変更された法律の。


● 1の例外全部そうだと思うんですけれども,三者の合意じゃないということですね。


● ええ。十分検討できているわけではないんですが,それは訴訟として提起された場合には,何らかの判断をするようなものになるのではないかという気がいたしますが,その点につきましては。


● 私が言っているのはコンテクストで乙案というのは非常に現実的には有用ではないかという議論だと思うんですけれどもね。


● 重複になる部分もあるのですけれども,今,○○委員のおっしゃったことは,やはり給付訴訟なり確認訴訟なりでできる枠組みのことを多分おっしゃっているのであって,もともとの4のアイデアというのは形成作用を多分問題にしているんだと思うんですね。


先ほど私は判断能力がないというようなことを言ってちょっとそれは撤回いたしますけれども。つまりだれもが交渉を押し切る力を持ってなくて,泥んこになってる状態でどうしたらいいかということじゃないかと思うんです,問題状況は。


そのときに,この33ページの2では処理できないことについて権利関係を新しくつくるのが4の本来のもともとの役割だと思うんですね。先ほど申しましたけれども,だとすると,(注3),(注4)のない乙案というのはもともとそれは非常に広い権限で,しかし,それを縛りましょうというのは先ほどの(注4)でありまして。


それは現行法どおり,対象事項を絞ろうというのは甲案だろうということだと思うんですね。


  ですから,乙案をとっても(注4)のような形で,先ほど事務局から追加で御説明ありましたけれども,なかなかなお硬直的だなという感じが払拭できないものですから,どちらかというのであれはまだ甲案の方が,現行法維持の法がいいのではないかというのが先ほど申し上げた趣旨です。


● はい。なかなか難しいですね。私の個人的な意見は別に言っても,言うのも適当ではないと思いますけれども。先ほど○○委員が挙げられたように,信託財産の管理だけれども,やはり売却しなくちゃいけなくて,そのときに受益権あるいは利害関係人の合意が必ずしも十分にとれない,意見が対立している,そんなようなときにやはり甲案よりは少し広い範囲で判断がもらえるとありがたいことはありがたいですね,裁判所に。

  わかりました。どうぞ。○○幹事。

● 乙案がいいかどうかはわからないんですけれども,甲案の意味がいまひとつよくわからないんですけれども。


ちょっと私が聞き逃しているないしは理解できていないだけなのかもしれませんけれども。甲案というのは受益者の利益に合致しなくなる,なっているというのが前提ですよね。


そして,信託財産の管理方法は変更した方がよいという場合というのは,2の(2)のbで一般的には受託者にいける場合ということなんでしょうか。その変更請求をできる場合ということになるんでしょうか。


  もし仮にそうだとしますと,本当に裁判所の関与が必要になってくるのは,例えば子どもが3人いて経済状態が同じだから月々30万円ずつ給付するというふうになっているときに,1人が大きなけがをしてしまったとか病気になってしまったということを考えて。そうしますと,親がそもそも信託を設定した趣旨というものが子どもに安定した生活を送らせるということにあったというふうにみたときに,10,10,70というふうに変えるというふうな,受益者間の利益が対立する,つまり受益者の利益に適合するようにするのではなくて,信託目的を達成するように,どちらかといえば複数受益者のうちのある種の受益者の利益を犠牲にする場合というときにこそ働くんじゃないかという気がするんですが。


  そうしますと,乙案が難しければそれは仕方がないんですけれども,甲案にそんなに価値があるのかというのがちょっとよくわからないんですけれども。


● 甲案はやはり狭いんでしょうね,そういう意味で。今のように受益者の間の分配を変えるよなんていうのは甲案の枠ではやはりできない。


まさにそういうことが必要だというふうに○○幹事は考えられるとすれば,それは甲案では実現不可能である,だから,乙案だという脈絡なわけですけれども。


● 甲案にそんなに意味があるとは思えないということなんですけれども。

● ですから,これは信託財産の管理方法だけの小規模な何か変更で,しかしこの2の各号といいますか,当事者間の合意あるいは単独で何かできるようなのにはぴったりと当てはまらない,そういう場合を救済するということなんでしょうね。○○幹事はそういうものはもうないんじゃないかと,むしろ……


● ないというか,極めて狭いですよね,2の(2)のbで。


● 大体これが解決できちゃうから余りないんじゃないかというそういう趣旨ですね。


  そういうことも言えるかもしれないし。甲案自体が確かに非常に狭いので,できれば少し拡張したいと思いますけれども。

  何か,どうぞ。

● 私は乙案が難しくなるという,私そういう意図はもともと持っていないんですけれども,しかし,にもかかわらずなんですけれども。


やはり事情変更の原則と違うものだと割り切ってしまえばいいんですけれども,割り切れるのかなというのがずっと引っかかってるもので,あえてなんですけれども。


やはり(注4)で当事者が変更内容を提示して,それがよいか悪いかのみだというのはやはり,先ほど日本の事情変更の原則では余り議論されてないとは言いましたけれども,しかし,当事者がどのような内容に変更しろと言ってるのかに拘束されずに,裁判所としては当該事態において事情変更の原則要件を満たしている限りは適当と考える契約内容を確定できるということは多分,少なくとも日本の今の議論の中では異論がないんじゃないかなと思います。


  ただ,本当にそれでいいのかどうかという段になりますと,私個人的にはちょっと本当にそんな裁判所の後見的な介入を広く認めるのがいいのかどうかという,私個人的には疑問は感じてはいるんですけれども,ただ一般に言われている議論がそのようなものだとしますと,信託に関しては(注4)のようにいくのだというのは何かより積極的な理由が必要になってくるのではないかなと,その理由が本当にあるのだろうか,出せるのだろうかというのがちょっと疑問があります。


  ○○委員がおっしゃいましたように,信託でももちろんそうですけれども,契約はもっとより広いものであっていろいろなシチュエーションが出てくるけれども,一般法理として事情変更の原則そのように認められていてそのように言われていると。


しかし,信託は違うんですよというのはなかなかちょっと言いがたいので。ここで(注4)のようなものを認めるとしますと,何か大きく一歩踏み出すのかなという感じがします。


個人的にはそれもいいのかなと実は思っているところはあるんですけれども,ちょっとそこをしっかり考えてやりませんと影響が大きいかなという気がいたします。何度も同じことで恐縮ですけれども。
  以上です。


● わかりました。これも単なる意見分布,御意見おっしゃらない方もおられると思いますけれども,もしかしたら私のまとめ方が正しくないかもしれませんが,やはり甲案は狭いという認識を持っている人が多いことは多い。


乙案がこのままの形でいいのか,またこの(注4)をくっつけることはかえって理論的にはすっきりしないという御意見も今ありましたけれども。できれば甲案よりは少し広いものが本当は望ましいのではないかという御意見が多いことは多いのではないかというふうに思っております。

  今後,ここではちょっと時間でこればかりやっているわけにもいきませんのてで,甲案よりは少しやはり広げる方向で何とかできないかということで少し検討はしていただくと。


しかし,どうしても裁判所が難しいということになると,拒絶権があるというふうには私思いませんけれども,しかし,理論的な意味で難しいということであればそれは挫折するかもしれませんが,とりあえず少し広めに考えるということで,少し議論は進めさせてください。


● すみません,1点だけ。先ほど私が挙げたような例を考えますと,ちょっと私今慌ててほかのところを見ていて確認できないまま発言するんですが。


54の2の(2)のbの受益者というのは多数決とかで,複数受益者のときに多数決とかで決まる受益者であり,4の受益者というのは単独受益者でいいということですね。

  だから,どうも申しわけございません。

● 54の別のところなんですけれども,1つだけ。これは説明の部分の説明の仕方のお願いなんですが,35ページに極めて非常識な信託行為の定めはというところがございます。それが公序良俗に違反する点はわかるんですが。


その次に,別段の定めに基づいて不合理な変更がなされた場合も公序良俗違反と認定されることもあるというこういう説明なんですが。不合理な変更をするときはむしろ権利濫用になるのではないかなという気がいたします。


公序良俗だけですとかなり限定的な感じがいたしますので,説明だけですけれども,お願いできればと思います。


● そうですね。そっちの方が理論的かもしれません。では,これは改めさせていただきます。
  それでは,今から休憩にいたします。

          (休     憩)

● それでは,変更の点はいずれにせよ重要な問題がたくさんまだ残っておりますので,よろしくお願いします。


  では,○○委員,どうぞ。

● 信託の変更権限を第三者に与えるというその件で,35ページのところですね。これで制限を特に設けることなく与えるというそういう考えが示されていますけれども,最後のところに書いてある「消費者契約法等で対処する」というこの一言で具体的に消費者契約法でどのような対処をすることを考えられたのかをちょっと伺いたい。


● いかがでしょうか。
  今のところすぐ思いつくのは,○○幹事の方が詳しいかもしれないけれども。第三者に非常に広範な権限を与えて,それが……


● 前回というか,前ここ議論になったときに出てきたのが,第三者への一方的な変更権限を与えることで,不当条項にならないかと,ここのことだと思うんですが。


● そうですね,一般的な条文としてはそれしかないでしょうね。

● ええ。それで,この消費者が委託者兼受益者で,その消費者と受託者との信託行為,信託契約,その中に例えば受託者に変更権限を与えるとそういう条項が入っていった場合に,それが消費者契約法を適用されることによって不当条項として無効となることがあり得ると,それはあり得るかなというふうに思います。


● 一般論としてね。
● それとはまた別の形の信託特有の問題として,受益権の転々譲渡ということ,いわゆる金融商品としての受益権というのを考えた場合に,受益権を取得した人というのは信託契約の契約当事者には入っていないので,例えば受託者に一方的な受益権の内容を変更する権限があるというような信託の受益権であった場合に,そのことを知って取得すればそれはそれということになるのかもしれませんが,知って取得するとは限らないと。


そういう場合に,この受益権を取得した人は消費者契約法ではやはり余りぴったり適用できないのか,それとも受益権を取得する契約の中にこの受益権はこういう受益権であるというものがあって,その受益権の内容として受託者が一方的に変更権限を有する受益権であるというのが入っていて,それが消費者契約法,受益権の譲渡契約に消費者契約法が適用されて,それで受益権の内容を一方的に受託者が変更できるという条項だけが,その受益者との関係でだけ無効になるというようなことがあり得るのかどうか。


  そうすると,多分受益者が多数いる場合はちょっと余り混乱して変なことになるし。そういう場合は消費者契約法というのは使えないということになるような気もするんですが,これは消費者契約法に詳しい学者の先生方の御意見を伺いたいんですけれども。

● 契約関係が移転するとかそういう場合の話ですよね。基本的には消費者契約法,いやいや,これも私も余り詳しくないのだけれども,最初の当事者間で一応まず固定して考えて,そこで消費者契約法を適用したときに不当条項になるかどうかによってその後の,もしそこで不当条項だということになればその地位を譲り受けた人間もそれを主張できるというだけじゃないかと思うんですが。


  ですから,実体法的にバラバラになることはなくて,その場合には,ただ,ある受益者は主張しないという場合はあるかもしれない。ある受益者は主張する。


だけれども,当初の関係でもってその契約自体が消費者契約法でいうところの条項が不当条項に当たるかどうかというのを判断するというのが基本なんじゃないでしょうか。どうですか,○○幹事あるいは○○幹事。

● こういうのは質問した方が楽だということで質問なんですが。そうなのかなという今の御説明聞いて思うところなんですけれども,しかし,○○委員が後半の方に言われた受益権の取得契約に,一方が事業者であり他方が消費者であるというような場合に,消費者契約法が適用されないかという多分それは適用されるだろうと思うんですよね。

それ自体はやはり消費者契約ですから。問題は,その場合に受益権という目的物がどういうものであるかということがその信託行為によって定まっていて,その信託行為の中に不当条項に相当するようなものが仮にあったという場合に,これに消費者契約法は適用されないのだということをどうやって説明すればいいのかなというのがちょっとまだ確信持てないもので,私が聞くのはいかがなものかと思うんですが。どうなんでしょうかということですね。ちょっとまだ答え出てないので。


むしろどういう理由があり得るんだろうかということですね。それ自体消費者契約であることは間違いないという場合に。


● 何かありますか,○○幹事。
● 今のお話というのは大もとの受益権のところで不当条項があり,その受益権の中身を規定している信託契約の中に不当条項があり,それが消費者契約法の適用を排除するかどうかという……

● そこは事業者だったような場合ですかね。
● 信託行為そのものが,先ほど言われましたように,消費者契約だという前提でいける場合というのは割とすっといくのかなと思うんですけれども。


そういう論理では仮に難しいというようなことになった場合に,もう1つの論理考えられるというのが○○委員の御指摘で。仮にそれが何か難しいのかなというふうに考えるときに,じゃあ,一体どうして消費者契約であることは間違いないけれども,不当条項規制というのが直接は妥当しないということになるとするならば,それをどう説明すればいいのかなというのがちょっとわからない。

もし説明できないとすると適用されるのかなという気もしてくるということですね。

● どんな例が適当なのかわかりませんけれども,最初の受託者と受益者の間で,受益者というか,自益信託型で,その委託者兼受益者がそれ自体も事業者で受託者に一方的な権限を与えている,しかし,その事業者はそれを販売して受益者に消費者に販売している,例えばそんな場合ですよね。

そうすると,やはりその場合には受益権を販売するという契約は消費者契約で,もう商品の中身といいますか,販売する中身はもう既に決まっているんだけれども,契約はその販売の中身そのものというか,それを移転するという行為ですけれども,やはり消費者契約を適用してその販売の中身の不当な条項は無効になるというふうに考えるんですかね。結論はその方がよさそうな気がしますけれども,ちょっと理論的にまだ。

● その適用をちょっと排除するような理由づけというのが,契約内容そのものは譲渡契約だけであるというふうに本当に言い切れるのかですよね。


商品自体の性状を決定しているものがあるわけであって,このような性質を持った目的物を譲渡するという契約ですから,契約内容は構成しているんじゃないかなという気は……

● そういうふうに考えれば適用される可能性は。

● はい,してくるかという気はして,そうじゃないということをどう言えば言えるだろうということですね。

● はい。そういう意味ではちょっとここでは結論は出ないかもしれませんけれども,消費者契約法がやはり今のような譲渡契約の段階でも適用される可能性はあるのではないかという有力な意見があった。
  どうぞ。

● 今の議論をお聞きしていて,もしこれ受益者の立場で,例えば何かその種の裁判をやらなきゃならないということになった場合には,ちょっとなかなか難しそうかなという気がしていて。もう少しやはり受益権の変更については何らかの手当というのがないと,ちょっと受益者としては……


● 要するに,不当条項で争うよりはもっと信託法の中に制限があった方がありがたいと,そういう御趣旨ですね。


● ええ。まさに変更権を第三者に与えるときに無制限でいいのかどうかというそういう問題だと思いますけれども,ここについて何か御意見ございますでしょうか。○○委員。

● 今変更の内容について制限を設けたらどうかというお話ですけれども。そこの制限というのは事項についてということを多分想定されているんだと思うんですけれども。

そうであるとすると,(注2)のところにありますけれども,基本的に合同運用というものが広く一般に信託で使われておりますけれども,その場合の意思決定といいますか,変更するときの意思決定というのがうまくいかないということになるんじゃないかと思いますので。ここは事項についての制限というのはちょっと見合わせていただきたいなというふうに思っております。

● という御意見がございました。いかがでしょうか。

  こういう限界を設けるときには何か案はございますか。○○委員。

● 先ほども私の意見も消費者契約法だけだと不安だなという前提で制限が一定限度設けられるべきではないかというそういう意見で。その場合の制限としてはやはりこの目的とかそういう基礎的事項として別の項目のところにたしか列挙されていたのがあったと思うんですが,そういったものにしたらどうかなというふうには考えたんですが。どこでしたっけ,ちょっと。

● 取得請求権のところでの対象事項のような制限を設けるということでしょうか。


● そうですか。事務局としてはああいうのは,取得請求権の方で対処できるんだから,ここは無制限でいいんじゃないかということなんですか。


● 結局両方が相関関係にあるわけですよね。取得請求権の方を余り制限しすぎちゃうとここで変更権を全く無制限にして取得請求権も制限されていると,かなり,というそういう選択が最悪の選択かなというふうな懸念があるんですね。


ですから,どこまでカバーできるかという問題とも言えると思います。


● 今説明ありましたように,取得請求権の方では一応一定の配慮をしているということですね。


● 取得請求権の方は事務局としては強行規定でいって配慮しようと思っていますので,その上にかつ信託目的の制限とかあるいは変更の公序良俗違反,あるいは権利濫用であれば排除されるということなども合わせて考えますと,変更の範囲についてまで制限を設ける必要はないのではいかというのが事務局の考えでございます。

● すみません,その取得請求権の方は反対した受益者は請求できるとかそういうのではなくて,特に不利益を受ける人が請求できるというそういう前提のされ方をしていたと思うんですが。


そうなると,前もちょっと話題になりましたけれども,当初方針を変えちゃうというような場合でもとにかくただつき合っていくしかないということになって,投資信託なんかを例に考えると大変困った事態になっちゃうなというそういう心配をしたんですね。

● 反対受益者の取得請求権のところにつきましては,○○委員のおっしゃるとおり,信託目的の変更につきましても受益者が不利益を被る場合に限って取得請求権を認めたらどうかという提案を今まではしておりました。


これにつきましては,次回以降検討する予定でございますが,パブリック・コメントではその不利益を被るという場合に限らず認めるべきではないかというような意見もございましたので,これも踏まえてもう少し信託目的の変更につきましては,例えば重大な変更という形で取得請求を認めた上で,その場合には不利益を被った受益者以外の受益者,一般の受益者につきましても取得請求を認めるという方向もあり得るのかなというふうに今では考えておりまして。その点につきましては今後検討したいと思っております。

● いかがでしょうか。

  これはその取得請求権と密接に関連する問題でありまして,とりあえずといいますか,とりあえずここでは制限をしないという原案でいかしていただいて,取得請求権のところでもしやはり十分ではないということであればまた戻って議論していただくこともあり得るということで先に進ませていただいてよろしいでしょうか。

  それでは,そういうことでお願いします。

  ほかの信託の併合,分割,終了事由,清算で何かありますでしょうか。


● 先ほどの信託の変更との関係なんですが,4の議論のところで甲案の管理方法の変更という意味では狭すぎるというお考えで,それより広げることができるかどうかを今後検討していくというような方向性が示されたところですが。それを前提といたしまして,併合ですとか分割の場面にその規定を準用していくのかどうかというところなんですが,併合分割につきましては,やはり単なる事情変更のような発想とは全く違うものがありまして,信託の構造自体を変えていく,会社でいうところの合併だとか分割みたいな判断をやらなければならないところありますので,やはり簡単にそういったことを併合分割に準用していくということにつきましてはやはり裁判所の判断という意味ではなじまないということと,裁判所としては判断すべきものではないのではないかというふうに考えているところですので,御検討いただければというふうに思っております。


● 1つの信託の中身の変更とほかの信託との問題というのは確かに性質が違うということは十分踏まえた上で,先ほどの○○委員のとりまとめも踏まえつつ,どこまで広げるか,その場合には信託の併合,分割は,しかし,除外すべきかというところは十分留意した上で検討したいと思っております。


● あり得る選択肢ですね,今みたいなのは。

  ほかに,では,まず○○幹事からどうぞ。

● 投資信託についても併合の規定がありませんので日本ではできないということで,これを何とかしてくれという要請がここ数年ずっとメーカーサイドからいただいておるんですね。


投資家サイドではなくて。諸外国で投資信託ファンドの併合というのは,例えば投資家に人気が出なくて規模が小さいままのファンドをたくさん維持するのが大変だから併合しようとか,あるいはパフォーマンスが悪いファンドをいいファンドで埋め合わせようとか,もっぱらと言い切っていいかどうかわかりませんけれども,メーカーの都合で行われるということで,信託一般にこれを広げていいのかどうかわかりませんけれども,金融というものをながめている目からこの話を見ると,受益者による何の関わりもないままに行われるというのはやはり相当に違和感があるということは申し上げておきたいと思います。

● いかがでしょうか,今のような御意見も踏まえまして。

  今の御意見はある意味で受益者の利益のためになるようなものはいいかもしれないけれども,受託者のむしろ都合というか効率性とかそういうことでもって合併するのは適当ではていと,そんなことですかね。


● 投資信託の話をどこまで一般化できるかわかりませんけれども,商品として失敗したようなものを併合するというニーズが別に悪いとは申し上げない,それはそういうニーズがあると思うんですけれども,そうであれば当然受益者集会がいいのかその他のガバナンスの方法がいいのかわかりませんけれども,受益者の意思と無関係にメーカーの都合で併合分割が行われるということが私の常識ではちょっと考えにくいというそういう意味で申し上げました。


● 提案させていただいております案におきましては基本的には多数決原理だって別に信託行為の定めがないと適用になるものではございませんで,原則54の1と同じように委託者,受益者及び受託者の合意により行うことができるということでございまして,多数決原理が書いてなければ受益者全員の同意がないとできないというのが出発点になっているわけでございます。

  それで,2で,(1)で信託の目的に反しないことや受益者の利益に適合することが明らかであるとき等々の要件を満たしたときに受益者の関与が一定限度外れるということだけでございまして,別に受益者の利益を無視したままできるようにするという立て付けにはしていないわけでございます。


  このような手当は必要となると考えられます1つの例としまして,例えばそれこそ会社でいうところの簡易合併とかいったようなくじらがめだかを飲み込むような信託の併合のときに,くじら側信託の受益者の全員の同意を一律にとらなければいけないということが果たして受益者,皆さんの便益にかなうのだろうかというと,そういうことではないのではないかということでございます。

  それから,米国におきましてはむしろ我々よりもさらに進みまして,もちろん受託者の義務つきという前提でありますけれども,併合などにつきましても受託者の裁量でできるというようになっているというふうに理解しておりますので,それを踏まえますと私どもの方が,そういう言い方が適当がどうかわかりませんが,適時適切に皆様方の利害に配慮した規定になっているのではないかというふうに考えているところであります。

● ほかにいかがでしょうか。合併だけではなくて分割も含めて。
  ○○幹事。

● 清算ですが。質問です。第58の清算を本日の最初の方での話題になった第51と関係させてお伺いしたい点がございます。第51は甲案,乙案一定の方向性,○○委員から示されましたが,まだ両方の可能性残っていようかと思いますので,それぞれとの関係で事務局に御説明をいただけるとありがたいと思います。

もし甲案をとった場合,第51で甲案をとった場合ですが,第58で2の(1)のbのところで,信託財産に属する債務の弁済というのがありますが,ここでは第58ではひとくくりになっているけれども,この中に第51が埋め込まれて,甲案に従ってまず信託債権に弁済が行われ,そしてその後受益債権に行うべしと,そういうふうに読むのだろうかということが質問です。


  そしてもう1つは,どこで読んだらいいんでしょうか,第58の2の(1)のc,そして3,それから4のあたりを組み合わせることになると思いますが。残余財産の帰属についても,本来の帰属権利者と,それから残余財産受益者というのが2通りありますが,この受益者の方に着目したときには,残余財産受益者とそうではない一般の受益者との関係は清算の局面においては3のところで結局弁済の順序がつけられていると。


同じ,広くいうと受益者になるけれども,残余財産受益者と一般の受益者はここでは弁済の順序がつけられているので,それは第51のような規律を考えるならば,書いてくださいという趣旨ではないんですけれども,残余財産受益債権はその他の一般の受益債権に劣後すると,そういうものがあると考えたらいいのかどうかということです。2つ目
  

それから,次に乙案の方ですが,もし乙案に立った場合には,第58の2の(1)のbでは,信託財産に属する債務の弁済というのは受益債権であろうが信託債権であろうが同じなので,まさにこの58の2の(1)のbのとおり,中は区分けせずに弁済をしていくというふうに考えていいのか。


  そして,もう1つは,甲案をとったときの2つ目の質問と並ぶものになりますが,2の(1)のc,それから3,それから4の(1)のbというあたりを組み合わせて出てくるところですが。


いわゆる残余財産,受益者が持っている残余財産の給付を内容とする受益債権について着目するならば,この受益債権については第51の乙案をとったとしても信託債権に劣後すると。


ここでは順序で定めていますが,実体法の優先劣後の関係におき直すことができて,第51のところの乙案をとっても同順位とすると,これでいいですが,書くとするならばですね,ただし,残余財産受益者が有する受益債権については信託債権及び残余財産受益者が有する受益債権以外の受益債権に劣後するとそういうふうに考えていいのでしょうかということをお伺いできればと思います。


● まず,甲案の方を前提としますと,2の(1)のbのところでいうところの信託財産に属する債務,これは本当は2つに分けられて,時期的前後関係からいくとまず信託債権を払って,その後受益債権にいきますということになるんじゃないかという御質問だと思いますが,それはそのとおりでございます。


  他方,乙案の方についてもおっしゃったとおりでございまして,乙案をとれば恐らく同時期にどんどん払ってくださいというような一応の順序になるだろうということかと思います。


  それから,甲案をとった場合の残余財産との関係ですね,特に残余財産受益者というのを今回新しく作っておりますけれども,そちらとの関係で順位が違うという表現をどういう意味にとらえるかということかと思うんですけれども,一等第51のところはまさに優先順位,つまり執行手続などにおいてどの順序で分配するかというような話ですので,普通は一般債権同士であれば同順位,それで優先権のある債権になっていますとその上にいってというような,その局面でいわれるところの順位を問題にしておるつもりでございまして。

  恐らく先ほど○○幹事がおっしゃったところというのは,私の理解ですと,むしろ受益者に対する給付内容の違いであって,つまり残余財産受益者に対する給付の内容というのはすべての信託の終了が生じて,そのときにabcという職務を行うと。


その職務が行った結果,残った残余財産といわれるそういうものがあって,その給付を受けるというのがこの受益者の受益債権の給付内容なんだという整理でございまして。


そうしたときに,じゃあ,甲案で劣後という必要があるかどうかというのは余り言ってもしょうがないというか,全部終わっちゃった後のはずですねということではあるんですけれども,劣後しているといってもいいのかもしれないという気がしておるところでして。


● 私なりに今の○○関係官の説明で理解できたところを申し上げると,経済的には優先劣後ということで,私が最初に申し上げたように並べることができるけれども,それを支えている法律構成が第51の考え方と第58の残余財産関係のところとが違って,残余財産関係の方は額面がなくて,要するに残ったものなんだと。であるがゆえに劣後するんだと,経済的にはという御説明になるわけですね。

● まさにおっしゃるとおりでございまして。
● わかりました。


● 受益権の優先劣後をいろいろな形でつけるところあると思いますけれども,そういうときも恐らくその停止条件構成といいますか,そういう構成したりすると思いますけれども,それと同じようなことで考えればいいんじゃないかと。


● わかりました。
● よろしいですか。

  ほかにいかがでしょうか。○○幹事。

● 終了のところで教えていただきたいところが,細部にわたりまして恐縮なんですけれども。57の(注1)ですね,44ページの(3)で書かれている点なんですけれども。会社法824条に準じた規律を設けるとするのが相当であると。


濫用防止というのはやはり非常に重要になってくるというのは全くそのとおりだろうというふうに考えておるのですが,具体的なルールのイメージについて教えていただきたいと思っておりまして,824条ですと裁判所による解散命令という形ですので,恐らく裁判所による信託の終了命令というのが3本立てでつくと,濫用目的での設定,それから設定後の濫用的運用,もう1つは実体がないというようなタイプなのかと思うのですが。


それらについて適用されるべきものだというふうに説明されているのですが,そういうふうな裁判所による終了命令という構成を考えるということでよろしいのかということと
  

もう1つ,信託の濫用目的での設定ということになりますと,そもそも無効ではないのかという気がするものですから,有効とした上で終了というふうにかけていくというのが果たして適切なのか,あるいは無効との関係どうなるのか,会社法ですと設立の無効について期間制限等もあるようですので,そういうこととの関係もあるのかなという気がしておりますので。特に当初からそういう濫用目的で設定されている場合の無効との関係について教えていただければと思います。

● まず,手続がどうなるかということですけれども,基本的には事務局としては会社法にそろって同じような機能を果たすべきものだと思っておりますので,裁判所への申立てというのが一番ありそうかなという感じで考えております。


  それから,濫用目的である場合に,会社の設立と違って契約でありますので信託でそういうような要件で終了命令を入れるのがどうかというようなお話かと思うんですけれども。


考えられる事例といたしますと,普通は委託者と受託者双方が濫用目的についてよく知っているということが一番ありそうで,そういう場合は公序良俗ではねられる可能性が非常に高いんだろうと思うんですけれども。


またそれと信託を使ったマネー・ローンダリングといいますか,そういうようなことを考えますと,受託者も余りよく知らないということもありそうな気がいたしまして,あるいは委託者と受益者はよく知っているけれども,受託者はよく知らないというようなことがあるのかと。


そうすると,そういった事例に対処するためにその設定者,委託者の意思を問題,委託者だけの意思を問題にするというようなところで何か差がつくのかなというようなことを少し考えておりまして。


ただ,もしそれが一般の公序良俗との関係でそういう議論はちょっとおかしいんじゃないかということがあれば,恐らくは設定段階というよりもその後の使われ方に着目して終了させるというのが基本的な機能になるのかなというような気がいたします。

● よろしいでしょうか。何かどうぞ。
● いえ,御説明はわかりました。何となく脱法ですとか動機の不法ですとかそういうもので,かつ今の例ですと,受託者は本来余り利害関係を持たない,実質的な利害関係を持たないのだとなると,そもそも終了命令になると前提としてそういうのが有効であるということが前提になってしまうのかなというのが気になったものですから。問題関心だけお伝えします。


● 最初から有効じゃないという方がすっきりしてるということでしょうね。

● そうですね,そんな感じがちょっとすることはするのですけれども。

● 舌足らずだったのかもしれないですけれども,恐らく双方の当事者の意思なんかが公序良俗の判断の中では忖度される部分が相当あるのかなということで,受託者が知らないときにちょっと公序良俗で無効とはしにくいと,ただ相当悪質な目的で使われているということなので,そこはまた別な配慮でというようなことがあり得るのかなという,そういうことです。


つまり,ちょっと有効といわざるを得ないんだけれども,設定時の不法な目的あるいは実際の使われ方も不法になっているんだろうとは思うんですけれども,それで終了させるというような位置づけで考えられないかなということなんですが。

● とりあえずはよろしいですか。はい。
  ほかにいかがでしょうか。どうぞ,○○委員。


● 第57の1のc,また58条リスクのことを申し上げますけれども。いわゆる証券化,流動化における解除リスクというのを排除したいという中でいろいろ議論がなされて検討されたということでございますけれども。

この新たに出てきました第57の1のcの文言を見ると,若干以前の議論,つまり試案に書かれている議論と,それから委託者の云々ということでこの本資料においても43ページのところの(2)のところで書かれていることとちょっと整合性がないのではないのかなというようなことがありまして,ちょっとその趣旨の御質問と,もしできるならば御配慮いただきたいということで申し上げたいと思います。


58条リスクというのは特にファイナンス目的の場合には信託は壊れないという期待をもって当初もそういう期待を,受益者も当初はそういうスキームの中で投資家が集まって,またその利害関係人と債権者も含む利害関係人もそのスキームに加わると。


そこでそういう予測可能性のもとにリスクが明確になってバランスがとれてビジネスができるという,そういう文脈だと思います。

  現に例えば試案の補足説明でも証券化,流動化目的の信託では中途で信託が終了することは関係当事者に大きな不利益を生じるのが通常であるため云々ということで,関係当事者ということも2つ目には書いてるわけですので,当初の受益者の期待と,それからごめんなさい,ちょっと話を戻しますけれども。


その当時,おかしくなってからの受益者ということと状況が違ってきたとしても,事情が変更があってその当時において受益者の利益にかなうとしても,やはり当初の受益者の利益のために成立したスキームであれば,事情の変更後の場合で当該受益者に対して仮に確かに受益者のためになるんだろうかと思ったとしても,やはりそこはそれだけを忖度して終了とすべきだというふうに考えるのはちょっとやりすぎなのかなというふうに思っています。

  また加えて,ちょっと戻りますけれども,補足説明のところで,関係当事者への配慮というのが書いてあります。


そこはさっき申し上げたところですけれども,いわゆる信託債権者とかも含む関係当事者の不利益がないように組み立てられているわけですから,そこの利害関係も含めて合わせ勘案して終了させることが妥当かどうかということを考えるべきだと思います。


現にまた43ページのところで,繰り返しになりますけれども,中ほどに書いてあるのは,中途で信託を終了することはその他関係当事者にとっては大きな不利益を生じることが通常であるから云々と書いてあるわけですので。


そういう意味で終了させるときに考えるべき事情というのは,この原案の文言だけを見ますと,受益者の利益に適合することが明らかである場合というふうに書いていますが,そうではなくて,やはり当初の受益者を含む利害関係人の利益関係を含んで全体的に見て判断すべきだというふうに思っているわけです。

  そうすると,1つの考え方としては,批判はあるところかもしれませんが,試案の考え方の方がいいのかなとも思うわけなんですけれども,その点いかがでしょうか。

● 試案の考え方というか,試案で懸念していた,あるいは達成しようとしていたことを変更しようというふうに事務局が思っていないということはもちろん重々御承知で,問題は書き方あるいは読み方の問題なのかなという気がしておりまして。


事務局も当然ながら信託の目的あるいは信託の本質といったような契約,最初の信託契約締結時の諸事情に照らして受益者の利益というふうに言っていいのかどうか,そういうところからこの照らして云々というような文言を入れているところでして。


  つまり,受益者の利益と裸で言うと恐らく裁判時点における受益者にとっての経済的利益とかそういうことだけで判断されそうなんだけれども,そういったような受益者の利益ではなくて,信託の目的なのか,あるいは契約締結時の事情などに照らして縛られた中での受益者の利益なんだと。


つまり,ファイナンス目的であれば自分のことだけ考えて中途で終了してしまえば,今取り分が多いと,そういうのは信託において受益者の利益と,信託における受益者の利益として認められているものではないんだと。


理解としてはそういう理解で。問題はそれをどういうふうに文言に落とすかというところだと思うんですけれども。そのあたりの考え方を目的に照らしたところでの受益者の利益なんだ,あるいは受益者の利益に適合すると目的に照らしてもいえる,そういう場合であればというのはまさに今申し上げたような趣旨でして。


  あとは,この書き方だと,ちょっとそのあたりの趣旨がよくわからない,あるいはそのあたりについてはよく解説なんかで処置してくれというような話なのかもわかりませんけれども,考えていることは試案の段階からさして変わってはいなくて,あとはその表現の問題なのかなと。あるいは事務局はそういうつもりで表現を変更してみましたということでございます。

● 今さっきの○○関係官の話であれば理解できました。要は,当初の受益者を含む関係当事者も含む広い意味での受益者の利益を考えるという話なんですが。


ただ,繰り返しになりますけれども,お願いとすればやはりちょっとこの文言だけで法文化になってしまうと,多分誤解が出てきますので,そこら辺はこの趣旨が明確になるように条文等には御配慮いただきたいと思います。


● はい。そういう意味では先ほどの事務局からの説明の繰り返しですけれども,裁判時の受益者の利益だけを考えるものではないと。ただ,若干どこまで広がって入ってくるのかというのはもしかすると微妙に○○委員の意見と同じではないのかもしれませんけれども,いずれにせよこれはこういうふうに限定するものではないので,文言でうまくあらわすことができれば検討してもらうということにいたしましょう。

  それでは,ほかにいかがでございますしょうか。よろしゅうございますか。

  この42ページ,信託の終了のところの(注3)のところが,「なお検討する」というふうになっておりまして,これももし御意見があれば伺いたいと思いますが。信託の終了事由の対抗について。

民法の規定を参考にして整備するかどうかということですけれども。いかがでしょうか。


  では,これは直ちには御意見がないかもしれませんので,御意見をお寄せいただければ子細検討いたしますけれども,一応事務局の方に任せていただけるということでよろしいでしょうか。


  それでは,終了,変更から清算までいろいろ御意見いただきました。必ずしも皆さんの御意見すべてをうまく取り入れることができるかどうかはわかりませんけれども,大体のところは御承認いただいたというふうに考えます。


個別にまた異なる御意見をお持ちの方もおられるかもしれませんけれども,それもできるだけ配慮するよな形でまとめていきたいと考えます。


  それでは,ここまでは終了させていただいたことにさせていただいて。次に,本日の問題。


● では,本日の資料に基づきまして,まず最初に忠実義務とその違反の効果と,この2つにつきまして御議論をいただきたいと思います。資料でいうと2ページからになります。


  概要を説明いたしますと,まず忠実義務の提案1でございますが,パブコメでは受託者の忠実義務について総則的な規定を設け,これを効力規定とするという試案の考え方については賛成意見が大多数を占めておりますので,以下個別的な意見に対する検討の結果について御説明いたします。


  まず,資料4ページのアというとおり,そもそも忠実義務は強行規定とすべきであるという意見がございますしたが,受益者の利益の保護と私的自治の尊重の観点から受託者の忠実義務は任意規定とするのが相当と考えるものでございます。


  次に,イのとおり,提案1について禁止対象と例外規定を明確化すべきであるとの意見が複数ございました。


しかし,まず,提案1で総則的な規定を設けておりますのは,受託者の忠実義務違反として具体的に想定される行為類型といいますのが提案2以降でほぼ網羅しているとは思われますものの,なおこれ以外に違反行為はないと断言することもできないという理由もございます。


したがいまして,提案1の対象となる行為類型をさらに具体化するということは困難である上に相当でもないと考えるものでございます。


  また,ここでの「忠実」というのは,提案2以下の利益相反行為のように形式的に判断されるべきものとは異なりまして,実質的に判断されるべき概念であると考えておりますので,問題となっている行為について信託行為で許容されている場合ですとか,受益者の承認がある場合などにおきましては,あえて例外規定を設けるまでもなくここの「忠実」義務に違反していないと評価することができると思っております。

  つまり,例外規定を設けますのは,利益相反行為など忠実義務違反行為の該当性を一たん形式的に判断した上で実質的に違法性がない場合を救済するためでありますので,そもそも忠実義務違反性を実質的に判断することとしている提案1に関しては例外規定を設ける必要はないと考えるものでございます。


  それから,ウでございますが,忠実義務を一切免除することはできないことを明らかにすすべきであるとの意見がございました。

しかし,この①,②で記載しましたとおり,あえて画一的な規定を設けるよりも信託を設定した当事者の意思の合理的な解釈によって適切な解決を導くことができると思われます。


  また,③に記載しましたとおり,具体的な違反類型を定めた提案2以降におきましても相当程度特性された行為を信託行為の定めで許容していれば禁止の例外を認めるということから推論いたしますと,提案1に関しましても相当程度特定された行為を許容していれば禁止の例外が認められる反面,包括的な免除規定は許容されないということが含意されているといえます。


  したがいまして,意見のような特段の規定は要しないものと考えております。

  次に,提案2の利益相反行為の禁止でございますが,受託者と受益者の利益が形式的に相反する行為を広く禁止の対象とした上で例外要件を求めるという試案の考え方自体については賛成の意見のみが占めております。


  その上で試案の考え方の一部に対する反対意見なども踏まえまして,提案内容の一部を変更しております。まず,提案2の考え方でございますが,2の(1)で受益者の利益を受託者が害する恐れが高い,いわばより悪性の強い行為類型といたしまして,受託者が単独で行い得る行為,すなわちアとイと,それから受託者と受益者の利益が相反する行為,すなわちウでございますが,これらを取り上げた上で(2)で例外要件を定めているといういうものでございます。


  まず,個別的な意見のうち5ページのアのところにございますが,信託財産間取引については受託者の主観的意図を問うことなく客観的に利益相反性を判断すべきであるという意見がございました。


この意見は直接的には提案本文の(1)のイの①に関するものでございますが,この②も含めまして,これらの行為は民法108条の双方代理に類似するものでございますので,この意見のとおり受託者の主観を問うことなく利益相反性を判断すべきものと考えております。


この点は試案では明示しておりませんが,それまでの審議を含め,試案でも同じように解していたところでございます。

  次に,5ページのイに関しますが,試案では受託者と第三者がする取引でありまして,かつ受益者の利益と第三者の利益とが相反するもの,例えば信託財産を外部に売却する場合については,「受託者が受益者の利益を犠牲にして第三者の利益を図る目的」がある場合に限り利益相反行為になるものとしておりました。


しかし,これに対しましては,利益相反行為となるか否かは客観的な基準によって判断すべきであるとの意見が複数示されました。


  そこでこの提案におきましては,受託者と第三者がするいわば外部取引につきましては,利益相反行為に該当するか否かの判断基準から受託者の主観的目的要件を外しますとともに,利益相反行為となる行為類型はを受益者を害する恐れが高い場合に限定するために,次の2類型に絞っております。

  1つは,受託者,または経済的に受託者と同視し得る例えば子どもですとか妻ですとかそういう者と受益者との利益が相反する場合,すなわちウの場合,間接取引のウの場合のみが忠実義務の問題となるといたしまして,先ほど言いましたように,受託者が第三者と取引をして第三者の利益のもとに受益者に損害を与える場合。


受益者と第三者との利益が相反する場合,例えば,信託財産を外部に安く売ってしまったというような場合につきましては,忠実義務ではなくて善管注意義務違反の問題となるにすぎないものとして整理を改めているところでございます。


  それから,次に6ページのウでございますが,利益相反行為の例外に関しまして,試案におきましては,「受益者の利益を害しないことが明らかであって,かつ受託者がその行為をすることについて合理的な必要性が認められるとき」というのを挙げておりました。


これにつきまして,本案では,提案本文にありますとおり,信託目的,行為の性質,受託者の事情,受益者側の事情など,より幅広い事情を総合的に考慮するとの要件に改めているところでございます。


  また,試案におきましては,受益者の承認を例外要件として挙げておりましたが,この提案では(2)の②というところにございますとおり,共同受託の場合で他の受託者がいる場合にはその他の受託者の承認をもって受益者の承認に代えることとしているわけでございます。受託者がいる以上は受益者は前面に出てこないという発想でございます。

  それから,7ページのエでございますけれども,受益権に係る取引については利益相反行為の禁止に該当すると考える必要はないという意見がございました。


事務局でも基本的にはその方向性でいいのではないかと思っておりますが,御意見があれば伺いたいと思っております。


  次に,提案3の競合取引の禁止でございますが,規定を設けること自体については賛成意見が大多数を占めております。


もっとも試案では受託者の固有財産による取引の機会を不当に奪うことがないように,競合行為が禁止されるのは受託者に受益者の利益を犠牲にして受託者または第三者の利益を図る目的がある場合に限られることとしておりました。


しかし,この点につきましても,競合行為となるか否かは客観的な基準によって判断されるべきであるとの意見が複数示されております。


  そこで,この競合行為の禁止につきましては,甲案と乙案の2案を資料2ページ,3ページにありますとおり示しております。


  甲案といいますのは,基本的に試案の考え方を維持いたしまして,受託者が自己または第三者の利益を図る目的をもって競合取引をする場合に限って禁止の対象とするものでございます。このように主観的要件を付加いたしますのは,会社が営む一定の事業の部類についてのみの競業を避ければよい取締役の場合と異なりまして,受託者の場合には固有財産で行い得る行為との競合が広範に及ぶということがあり得ますことからしますと,取締役の競業避止義務のように客観的基準のみによって違反性を判断するときには,禁止されるべき競合行為の範囲をしかるべく限定することができず,過剰な規制に陥る恐れが懸念されるということからでございます。

そこで,主観的要件を付加することによりまして,競合取引の禁止の対象を合理的な範囲に制限しようとしております。

  これに対しまして,乙案といいますのは,パブリック・コメントの意見を入れて試案を改めまして,受託者の主観的要件を排除し,受託者が「信託事務処理として行うべきであった取引を自己または第三者の計算で行った」か否かを客観的,形式的に判断しようとするものであります。


もっとも,乙案の場合には甲案に比しまして,受託者が固有財産で行う取引が広く禁止の対象となりかねませんので,提案本文の(2)①の②の例外に加えて,3ページにアンダーラインが引いてあります③の例外もこの乙案の場合には加えることが不可欠になってくると考えております。


  それから,提案4の利益取得行為の禁止につきましては,パブリック・コメントの結果では甲案と丙案にそれぞれ極めて多数の支持が集まりましたが,規定を設けないとする丙案がやや優勢でございました。


それぞれの意見の概要は,資料の9ページから10ページのところに示させていただいているところでございます。


  この点につきましてはパブリック・コメントの結果なども踏まえまして,いかなる考えをとるべきか御審議願いたいと思っております。

  次に,忠実義務違反の効果の方でございますが,試案に対しましては,いわゆる利益吐き出し責任の部分を除きまして,次の指摘以外は賛成意見が占めております。


その指摘といいますのは,信託財産間取引については各信託の受益者の利益を考慮する必要があるから,受益者の善意,悪意を問わず一律に無効との取扱いをすべきではないという意見が複数示されていたところでございます。


しかし,これには事務局としては反対でございまして,やはり信託財産間取引というのは,自己取引と同様に,受託者が単独で行い得る行為で,典型的な忠実義務違反行為の一類型でありますので,これを無効とすることがこのような行為の抑止につながると思われますし,また信託行為の定めや受益者の承認がある場合はもちろん,「信託の目的,その行為の性質及び態様,その行為をするに至った経緯その他の事情に照らして受託者がその行為をすることについて正当な理由があるとき」という要件に該当すれば無効とはならないのでありますから,必ずしも受益者が不測の損害を被るというわけではないと考えられます。


  そこで,やはり受託者内部で行われる利益相反行為の危険性に鑑みまして,試案のとおり,例外事由に該当しない限り無効と解することが相当と思っております。


  次に,提案4に関係します利益吐き出し責任につきましては,甲案の支持する見解と乙案を支持する見解が相半ばしたほか,そもそも何ら規定を設けるべきではないという意見も12ページの上に示したとおり6件ほどございました。


それぞれの意見の概要はここに○で記しているところでございます。

  このパブリック・コメントの結果を踏まえまして,いかなる考え方をとるべきであるか。仮に甲案によったとしても,その規律の対象を会社法と同様に競合取引に限るべきか,それとも利益相反行為にも及ぼすべきかなど全般につきまして御議論をお願いしたいと思っております。

  以上でございます。

● それでは,重要な忠実義務の部分でございますが,これについて御意見を伺いたいと思います。いかがでしょうか。

  では,○○幹事からどうぞ。

● 忠実義務の中の主に3と4項について意見を述べさせていただきます。
  この3については甲案,乙案並立されておりますけれども,甲案ではやはり主観的要件がこの許容される行為と許容されない行為を切り分ける基準ということになっておりますので,受益者がこの目的を立証するということはかなり困難だろうというふうに思われます。


こうした観点からすると,甲案にはかなり難点があるのではないかというふうに考えております。


  先の部会の中でも,こうした忠実義務違反等の問題については,私的エンフォースメントの観点から適正な規律をという御意見もあったかと思いますけれども,そうした観点からもこの甲案というのはやはり難点があるのではないかというふうに考えております。


  これに対して乙案ですけれども,乙案は今回新たに御提案いただいた中身で,この忠実義務違反の行為をまずは形式的,客観的な基準によって切り分けようということですので,こういった形であれば比較的受益者の立場から問題提起をする,責任を追求していくといったことを甲案に比べるとできやすいのかなという印象を受けております。


  他方で,この考え方というのは恐らく例外事例,③のところで実質的には適正な行為をどう切り分けようという御発想かと思うんですけれども。


この規律の仕方を,表現の仕方を拝見しますと,恐らくこれについては受託者の側でこの正当な理由であるかどうかということを立証せよというような前提になっているかと思うんですけれども,こういった規律のあり方であれば,信託においては本来受託者が情報を基本的に持っていて,受託者がその受益者に対して情報提供義務を負っているというような構造からしても,それを訴訟上の立証責任の分配ということに引きつけて考えますと,そうした立証責任の分配という観点からも合理性があるように思われます。


  それから,この乙案については,アメリカの統一信託法典の条項を拝見しますと,基本的にこういったような形での規律がされているようにお見受けしますけれども,もしそういった形で米国との法律との平仄といいますか,海外でもこういった立法事例があるということであれば,国際化という観点にもかなうものではないかというふうに思います。


  それから,4についてなんですけれども,これはちょっとなかなか意見を申し上げるのがちょっと微妙な問題もあるんですが。


基本的には甲案の考え方を支持したいというふうに考えています。ただ,甲案に対する批判意見を拝見しますと,若干甲案の中身といいますか,禁止される対象というものをもう少し整理する必要があるのかという印象を受けております。


禁止される行為が利益を生み出した行為自体なのか,それとも利益を信託財産ではなく保有財産に帰属させた行為なのかといったことがややちょっと意識的にもう少し整理されてもいいのではないかというふうな気がしております。


  例えば従前の議論の中では土地を更地として管理すべきことを依頼された受託者が,その上に店舗を立てて商売をして収益をあげてしまったというような事例ですかと。


あるいは不動産を売却した受託者が購入した相手方から自動車が収受した場合というような例が挙げられておりましたけれども,こういった例を見たときに例えば前者の例ですと,土地の上に店舗を立てて収益をあげる行為をこの忠実義務違反の規律として規制するのか,あるいはそれとも収益を自己のもとに帰属させた行為を忠実義務違反としてとらえるのかと,そういった2つの局面といいますか,側面というのがあり得るように思われます。


後者の自動車の収受の場合についても,自動車の収受が問題なのか,それともそれを自己の財産に帰属させたことが問題なのかといった整理の仕方というのがあり得るのではないかと。


  そういうふうに考えますと,前者の問題,つまり例えば建物を立てるですとか,自動車をもらった行為自体はむしろ善管注意義務の問題として整理をして,自己に帰属させた行為を忠実義務違反として整理することも可能なのではないかというふうに思われます。こうした観点から,この甲案を整理することができないかというのが,というふうに考えております。


  それから,甲案への批判的意見としては,今のように考えますと,結局それは利益相反の問題ではないかと,2項ですか,の問題ではないかというような意見があるいはあり得るかと思うんですけれども。


やはり自己取引の場面と今の場面というのは恐らく違ってくるだろうと思われますので,そういった観点からするとやはり独立に利益取得行為をきちんとした規定を置くということは大事なことではないかというふうに思います。


  それから,もう1点,この甲案の支持する意見の中では,この要件の中に不当な利益を取得する行為という文言に対して,「不当な」という限定は必要ないのではないかというような意見が,これは○○でしたでしょうか,出されているかと思います。


本来の信託財産を利用した利益の帰属からすると,基本的にはやはりこれは信託財産に帰属させるべきであるということが本筋であるというふうに思われますので,この「不当な」という限定を除くというのは検討されてよい考え方なのではないかというふうに思われます。


  そうした場合には,さらに,それではいかなる場合にも自己の利益に帰属させることはできないのかといった議論があるいはあるのではないかと思います。


この場合には,私は必ずしも現段階ではそうするのがいいと思っているわけではないんですけれども,例えば先ほどの3項の競合取引の禁止のところの(2)の3のような規定をあるいはむしろ例外規定として設けるというようなことも選択肢としてはあり得るのではないかというふうに思われます。


  基本的には以上のようなことで,3の競合取引の禁止については乙案,それから4の方については若干ちょっと留保付きではありますけれども,甲案を支持したいと思います。
  以上です。

● どうもありがとうございました。いろいろ難しい問題を提起するところでございますけれども,できるだけ多くの方に御意見いただきたいと思いますが,いかがでしょうか。

  ○○委員,お願いします。

● 何点かありますので,続けてお聞きしたいと思います。

  まず,19の1のところの一般規定でございますけれども,これにつきましては前回の要綱試案のところと変わっておりまして,補足説明を見ますと,忠実義務というのは基本的に任意規定だという記載がございますので,任意規定であるのであれば前回の要綱試案と同様に信託行為の定めに従いという形のものがあってもいいのではないかなというふうに考えております。


私どもの方の営業信託で考えますと,基本的には信託契約というのが基本ですので,信託契約の定めに従ってやっていればそれは大丈夫だろうというところが非常に強くございますので,そういう形の規律を入れていただければなというふうに思います。


  次に,2の利益相反行為のところの(1)のウのところです。これは第三者との間における利益相反行為,間接行為の部分と思うんですけれども,ここについては基本的には自己との利益相反行為のみであるということと。


あと,信託財産に関して,ここには担保設定とか書いていますけれども,信託財産に関して行うものに限定されているのか否かということをお聞きしたいということであります。


  次に,2の(2)の②,複数受託者の場合の例外規定なんですけれども。先ほど複数の受託者の場合については他の受託者の承認を得れば受益者の承認を得る必要がないといことでしたけれども,逆に受益者の承認があればそれはそれでいいのではないかと思いまして。

これ両方ともいいですよというのであればいいんですけれども,受益者の承認があってもだめだというのはちょっとおかしいのではないかなと思いますので,ここは受益者の承認があってもいいという形にしていただければなというふうに思います。


  それと,次に2の(2)の③のところでございます。ここの部分につきましては,要綱試案では受益者の利益を害しないことが明らかであって,かつ受託者がその行為をすることについて合理的な必要性が認められるときというところから比較いたしまして,極めて実務的に落として考えますと,信託目的のほかいろいろなファクターを勘案しながら受託者というのは判断してきますので,ここの部分については非常に実務に則した形の規定になったなというふうに考えております。ここについては積極的に賛成したいというふうに思います。


  続きまして,3の(1)の競合行為でございますけれども,これは以前から申し上げているように,競合行為といいますのは,信託銀行といいますのはもう本当に何回も申し上げますけれども,信託業務と銀行業務,その他いろいろな業務をやっておりますので,象徴的に言えますのは,信託勘定と銀行勘定の両方から貸出している場合というのも非常に多うございます。


そういうことを考えますと,非常に日常的な形の事務でございますので,これを厳しく規制されますともう身動きがとれないということでありますので,ここにつきましては主観的要件による限定がかかってきます甲案,これ前回と同じような考え方と思いますけれども,甲案の方を支持したいというふうに思います。

  4番のところにつきましても,実はちょっと別の研究会でこういう忠実義務のところの契約書の検討をやったわけですけれども,そのときにこの利益取得行為とかというのをどういう形であらわしたら忠実義務違反にならないのだろうというふうに検討いたしましたが,やはりこれは全部書いていくしかないのかなということで,そういう観点からしますと,要するに間接的な取引でどこでどういう形の収益が得ているかというのがわかりませんのが,全然これ普通の銀行業務または併営業務等をやっている中で得ている収益,そういうものがございますので,ここについてはかなり限定的にしていただかないと困るということで,基本的には丙案というふうなものを支持したいというふうに考えております。


  それと,最後に,例の利益吐き出しのところでございますが,これはもう今まで何回も議論がありまして,特に象徴的に書いていただいていますのは,12ページのところの部分で忠実義務違反の行為につきましては,まず無効ということが主張できますと。


それと,介入権的権利がありますということと,あとは物上代位みたいなものも当然あるということですので。


私が考えるに,これでやはりほとんど満たされるのではないかなと思います。それにプラスアルファーで利益吐出し責任というのをわざわざ入れる必要性というのがないのではないかなと思います。


  前回,先ほど○○幹事の方からもお話ありましたけれども,普通の更地の上に建物を立てて営業をして収益を得ると,こういうのはすごく希有なケースであって,こういうケースまでも勘案しながらこれが利益取得だからとか,これは利益を吐き出すんだと,こういう形のことまでは考えることもないのかな。


これについても,例えば先ほどの無効であるという主張であるとか,物権的な形の主張というのが十分でき得るのではないかなと。


当然損害賠償という形でもできると思いますので,これについては利益吐き出しのところの部分についても甲案,乙案ではなくて,こういう規律はなしということでやっていただければなというふうに考えております。

  以上でございます。
● ほかにいかがでしょうか。


● 忠実義務についてでございますけれども,恐らくこれ先ほどお話ししました信託法と信託業法とのパラレルの関係のところでの1つでございまして,1点ちょっとまずファクトの御説明からいたしますと。


私ども信託業法28条の方に忠実義務の規定を入れさせていただいておりまして,これは法令及び信託の本旨に従い信託財産に係る受益者のため忠実に信託業務を行わなければならないという規定になっておりまして。


この規定が入った趣旨は,やはりプロである信託会社と一般投資家との間の情報量,交渉力の格差ということを留意するとともに,私どもどちらかというと委託者,一般投資家である委託者,受益者を保護するという観点がございまして,そこでかなり忠実義務のいわば任意規定化については慎重に考えた結果こういうことを入れさせていただいているというまずファクトでございます。


  先ほどほかの委員からも御指摘ございましたけれども,これまでの要綱試案でございますと受託者は信託事務を処理するに当たっては法令及び信託行為の定めに従いというふうに入っていたわけです。


ここの総則のところですけれども,確かに御説明を○○幹事の方からいただいたわけでございますけれども,逆にこれ1点御質問で,法令及び信託行為の定めに従いというのをあえて落とした方がよいというか,その方がよろしいという何か理由のようなものがございましたらちょっと教えていただきたいですけれども。


逆にいうと入っていても構わないのではないかとも思われるんですが。

● ここでは忠実という言葉を先ほど言いましたように実質的に考えていますので,あえて書かなくてもこの「忠実」の意味として読み込めるのではないかということもありますし。


果たして除外事由というのが信託行為の定め,それから承認,それ以外にも例えば正当な理由がある場合といろいろなものがあるわけでございますので,そういうのを全部書き切るということもできませんので,忠実という言葉の中に全部ひっくるめて読み込んでもらいたい。


その一部たけ抜き出して書くというのはちょっと非常にアンバランスでありますので,あえて落としたということでございます。


● 今の点ですけれども,法令というのを落とすのは○○幹事が説明していた以上に私が補足することはないとは思うんですけれども,私はこれは落とした方が絶対いい,体系的にいいと思います。


恐らく信託業法の規定がどこからきているかといいますと,全くいきなり出てきたのではなくて,これは商法254条の3,現在の会社法とは別の規定ですけれども,会社法の規定にもとがあるんだと思います。


254条の3は簡単に言いますと法令,定款に従い忠実にと書いてあるんですね。

そこで書かれている意味は,法令定款遵守義務,狭い意味での忠実義務,善管注意をまとめてその1行で書いてあるわけです。

  それで,信託業法,どうしてそういう書き方になったか私わからないんですが,28条の忠実義務の方は狭い意味での忠実義務と法令遵守義務が規定されていて,注意義務だけまた別の条文になっているんですね,こういう体系というのは私ちょっと整理の仕方としては理解しがたいと思います。


現に投信法などは法令定款遵守義務なくなっておりまして,忠実義務と善管注意義務だけの2本立てになっております。


法令遵守義務を書くのであれば,書いて私はいいと思いますが,少なくとも忠実義務とパッケージで書くのはおかしいと思います。


それは法令を守って,かつ忠実に,かつ善管注意義務を果たしてやるべきだと書くのであれば,例えば信託事務の執行の一般規定の方に入ってきて両方にかかると。


それと別に忠実にもやるしという規定があり,善管注意義務に尽くしてやるというそういう整理になっていれば非常にきれいなんですけれども,忠実義務の中にこれを放り込むと非常に体系的に変だと思いますし,信託業法の方こそなぜ商法の注意義務だけ抜き出して別立ての条文にして全然性格の違う法令遵守義務と忠実義務でパッケージのようなつくりをとったのは,私はむしろそっちの方が疑問に思われますので,私こういう整理はむしろ概念としてはきれいになっても中身が根本的に変わるかどうかわかりません。


ただ,中身に関して言いますと,法令違反があった場合,例えば独禁法とか信託の利益を守らない法令違反があった場合に直ちにそれが何らかの法的効果をもたらすか否かという議論が商法の方では254条の3の規定,つまり法令定款遵守義務をめぐって最高裁判例までありまして,またそういうある種の難しい問題を引きずり込むという意味でも余りこういうところで妙な言及の仕方もしない方がいいと思いますので,少なくともつくるとしたらこれがずっときれいだと思いますし,信託業法もでき得るならこれに合わせて直していただけないかなというふうにむしろ思うわけであります。

● 今,○○幹事がおっしゃって,私も思い出しまして。信託行為の定めを落としたというのはまさに実質的に判断しているからということでございますが。


法令というのは,今,○○幹事がおっしゃった難しい問題もあるのと,あといわば当たり前のことなので書くまでもない,そういうことの議論がありました。ちょっと補足いたします。


● 原案ができた理由はそういうことだということでございますね。
  ○○委員。


● ちょっと長くなるかもしれませんけれども,19,20について一連の意見を述べたいと思います。

  この点については,私から何回も同じようなことをお話ししていますし,また○○としても意見書を提出しておりますので,骨子だけということになるのかもしれません。また,新しい提案に関してはちょっと若干お話ししたいと思いますけれども。


  まず,第1の忠実義務の話ですけれども,ここは試案と比べて「信託行為により」という言葉が落ちているということについて,ちょっとこれはどうしたのかなというふうな疑問があります。


先ほど○○幹事の方から御説明は一応ありましたけれども,やはりここは任意規定ということであれば,これは全体的な条項立てもそうですけれども,任意規定であればその任意規定であることを明確化するということではなかったかと思いますものですから,ここだけあえて任意規定であるということであることを前提とするけれども,書かないというのはやはりおかしいものですので,そこは書いていただきたいなというふうに思っています。


  2つ目に,従前からの例外規定を設けてほしいという話をしております。


その点,先ほどの御説明ないしは今回のペーパーでは承認を得ている場合とかについては当然忠実義務として評価できることはできるというふうに書いてございます。


一種の解釈論で解決しようということだと思いますけれども,果たしてそういう解釈論が成り立つ得るのかどうか。もし解釈論があるのであれば,別に2,3,4で例外規定をこと細かく書く必要はないわけですので,なぜその2,3,4で例外規定を明確に書いておいて1で例外規定が明確に書かないのかというその差がちょっとよくわからないところであります。


  もちろん,1は総則規定ですので例外規定を具体的に書くということは限界があることは承知しておりますけれども,それならば何らかの例外規定があるということを明確化する必要があるのではないかと思っております。

  それから,総則的な話かどうかわかりません,ちょっと付言しますと,公平義務というのが一体どういう扱いになったのかというのがちょっとわからないんです。


その点ちょっと後でお教えいただければと思います。従前から私どもは公平義務と忠実義務というのは別にして議論すべきではないかというふうに思っているわけですが。


今回の提案でどういうふうに整理されているのかというのは今改めてお尋ねしたいと思います。

  次に,2でございますが,その点は特段ございません。

  3の競合行為のお話でございますが,この点は先ほど○○委員からお話があったように,銀行としては特に信託を兼営している銀行としてはいろいろな業務をしているということでございますので,やはり競合行為というのが過剰に制限されてしまうと非常に動きがとれなくなってしまうということは事実でございます。


  加えて,なぜ専業信託会社に頼まなく信託銀行に頼むか,お客さんが依頼するかというのは,やはりいろいろな業務を行っていると,それによってノウハウがあるというそういうシナジー効果を期待して取引に入るというようなこともあると思いますから,そういう競合行為を過度に縛ることによってかかる兼営的な行為を過度に萎縮させるということはやはり避けていただきたいというふうに思っております。

  その観点から今回の甲案,乙案というのを見ますと,ちょっとどちらの案に賛成するのかというのは今決めかねているところでありますが,ただ,甲案,乙案の柱書きについてどれほどの差異があるのかなというふうに思っているわけです。


もちろん立証責任が違うということは先ほどもお話があったと思いますけれども。


  と申しますのは,例えば甲案に関してですが,どちらも広いという話を申し上げたいんですけれども,甲案でいうと,確かに目的を持ってという主観があるわけですが,競合行為といっても結局およそ商人であれば自己のためにいろいろなビジネスをするということがあるのは当然の話であって,そうしますと自己の利益を図る目的をもって行うということは当たり前の話なのかなということを思っているわけです。


  そうしますと,今回いわゆる受益者の犠牲の行為をという要件を外しましたけれども,その外したことによってここの残った意味というのが非常に明確さを欠くのではないのかなと。


ここでいう目的を持ってというのはどういうものなのかというのがちょっとよくわからなくなったということでございます。


  他方,乙案で信託事務処理として行うべきであった取引というこの「べき」ですけれども,これもそうであるべきというのがどこまで客観的に言えるのかどうかという話と。


また,べきというのは,これもここで明確化したいわけですけれども,例えば信託事務処理として行える,行うことが可能であるものはすべて,じゃあ,これは信託のものであるというふうにするということであれば,これは非常に広い概念になると思います。


そうしますと非常に受託者としては萎縮的な効果が出てきますけれども,そういうときに,じゃあ,どういうときに行うべきであるのかどうかというのが不明確であって,その不明確さが残る限りにおいては非常にこの乙案でとらえる事象というのは非常に大きいのではないのかなと思っています。

  そうしたところ,結局乙案の(2)というのは,甲案と乙案の柱書きが乙案が広いということを前提にしてその救済のために③というのを入れると,そこで正当な理由があれば救おうというそういう配慮があるいうことの御説明がありましたけれども,今度は正当な理由ということが一体何なのか,またその正当な理由を立証するのは受託者のサイドであるということからすると,この例外規定を実際使えるというのが本当に多いものかどうかということもありまして。そうしますと,この甲案,乙案の中身をもっと明確にしないとどこまでワークするのかなということがちょっと疑問であったということでございます。

  続きまして,4でございますが,これは従前から申し上げているとおり,私どもとしては丙案ということでございまして。結局「不当な」という言葉が非常に不明確なものですから,効果が出てくること等が大きなことでありますし,またほかの2,3等の類型によってすっきりさせることが多いのではないかというふうに思っているわけなんですが。


ここは次に申し上げます利益吐出しのところと合わさって4という,ここが拡大になると非常に大きなインパクトがあるということを懸念しているということでございます。


  そこで,最後に,利益吐出しの話をいたしますと,ここもまず第一に前々回に指摘しましたように,パブコメの結果は甲案,乙案ということの意見が同数が多かったという話ですけれども,ただ,選択肢にないにもかかわらず設けるべきではないという意見がここに書いてあります,少なくとも6件あったということをメンションしたいと思います。


  また,甲案の中でもよく見ますと甲案,乙案とどちらかと選べれば甲案だという言い方をしているように見えるものもあります。


実際はもし選択肢があるのであれば設けるべきではないというようなことと思われるようなものもあったことを合わせてメンションしたいと思います。


  やはり利益吐出しルールがなぜ問題なのかということは,これは従前いろいろ申し上げたことで,ここではそれほど繰り返しはいたしませんし,先ほど○○委員からもお話がありましたけれども,やはり1点,この法的体系が今の日本でどれだけの位置づけを持っているのかということの議論をいたしましたけれども,やはりこのルールがほかの取締役であるなり委任であるなり,その影響がどういうものになるのかどうかということも合わせて考える必要があるのではないかというふうに思っております。

そういうことを考えると,やはりこの時点で整理がないまま決めてしまうということはちょっと時期尚早ではないかとも思います。


  ちょっと長々お話しいたしますけれども,以上です。

● 両案になっているところはちょっと議論いただくとして,1,2だけ答えますと。

まず,信託行為の定めを書くべきかというのは,これはほかのところも任意規定であることを表すために書いているという意味だけからすると書くということもあり得るかなという気がしますが,ちょっとそこは検討したいと思いますが。


  他方,ほかの除外事由も書くということになると,何か逆にそれ以外の事情というのは除外事由にならないのではないかという反対作用みたいなものを起こすのではないかという気がしますので,むしろ忠実という中で読み込んでいくということで十分対応できるのではないかという気がしております。


  それから,なぜ2から3あるいは4を設けるとすれば例外規定を書いたのに1には書かないかというと,これは2の(1),3の(1)とかでは形式的にまず判断して,その実質で飛ばすのを例外規定でやっているからでございまして,1の方は忠実で全部読むものですから,あえて例外規定はいらないという整理をしているわけでございます。


  それから,公平義務については,今回,忠実義務の方がある程度見込みがついたらやろうと思っておりまして,これは別途規律を設けるという方向で考えているところでございます。

● ○○委員。

● まず,1について一言述べたいと思います。忠実に,あるいは法令か信託行為というところは今の議論に特に意見をさしはさむところではないんですが,信託事務を処理しなければならないというところについて一言申し上げたいと思います。


  前の要綱試案と比べますと,ちょっと限定されてているように思います。このような文言で規律ができ上がったとしても,全体として忠実義務ということの趣旨を,例えば競合取引が禁止されている,あるいは利益取得行為が禁止されているということを合わせて読むことによって,厳密な意味での信託事務の処理に限定せずに,その周囲にある信託事務の処理として行わなかった行為についても忠実義務はかかるんだという解釈十分にあろうかと思いますが,しかしでき上がってしまったらそういうふうな解釈を試みるということになると思いますけれども,現段階でどういうふうにつくっていこうというときには,忠実義務というのは信託事務の処理についても係る義務だと思いますが,信託事務の処理に関連するそれ以外の受託者の行動についてもまさに競合取引の禁止とか利益取得行為の禁止が問題になるようにかかってくるものだと思いますので。

この1の信託事務を処理しなければならないというこの表現,もう少し工夫できないかということをお願いしたいと思います。


ただ,どういうふうにすれば今の私が申し上げたことを実現するかというちょっと案が持ち合わせておりませんので,そういうレベルでの意見でございます。


  それから,もう1つは,2の(1)のウなんですが,これ○○幹事の最初の御説明の中にありましたところですが,間接取引であって,そしてどのような間接取引をここで外形的にまず原則禁止するかというと,受益者と受託者の利益相反であると。


これはさかのぼってみると,アに対応する間接取引だと思うんですが。イに対する間接取引というのもあり得るのではないかと。


同一の受託者が2つの信託を預かっていて,A信託で借入をすると。だけれども,貸主はそれだけでは貸してやらないと。それでB信託を持っているのでB信託で保証するとか,この今のウの表現をそのまま使うならば,B信託で物上保証するというようなこともあり得るんだろうと思うんですね。


それもイの間接取引型としてまさに双方代理ですか,双方代理の信託版になろうかと思いますので。同じようにここに規制にせしめるべきではないかなと思います。


確かに自己取引型のものと信託財産型取引のものとを禁止する趣旨は少し異なるんだろうと思いますが,間接取引に広げたときに信託財産間取引の間接取引をあえて外す理由はないように思います。
  

それから,あともう1つですが,2の(2)の①と②の関係について一言申し上げたいと思います。これも具体的な意見があるということではないんですが,工夫をお願いしたいという趣旨のことなんですけれども。①で信託行為に許容文言があればそれでいいと,これもちろん賛成でありまして,そこにはどの程度具体的に許容するかという問題があるというパブリック・コメントでも指摘された問題があると,それもそのとおりだと思います。


  しかし,その上で1つ具体的な例を挙げると,例えば信託行為に重要な事実を開示せずに受益者の承認を得たときに許容するというような定めがあったときにどうするかというような問題があるんだろうと思います。


私実質的にはそれは(2)の①で許すべきではないんだろうと思うんですね。2の②の趣旨を反映させるべきなんだろうと思います。


そして,そうだとすると今の私の意見,実質的な意見に御賛成が得られるとすると,①と②を今のような形で並列して書いても確かに解釈でそのくらい出てくるだろうということかもしれませんが,これも今これからルールを書こうというときですから,あるいはそういうことをにじみ出すことができる書き方があるならば,工夫をお願いできればと思います。
  以上です。


● 何かございますか。

● 信信間の間接取引は恐らく入るんだろうなという気がします。

● これは入るでしょうね。

● それから,①,②の書き方については検討したいと思いますが。一番最初のところは,おっしゃるとおり,ここで固有事務なら何でもやっていいというわけではもちろんなくて,事務局としては信託事務処理遂行義務の中にはこういう例えば競合取引をしないという不作為義務も入っているというようなことで読んでいるつもりですし,会社法でも株式会社のために忠実にその職務を行わなければならないと355条でありまして,その上で競合取引の禁止とか利益相反行為の禁止とか書いてあるので,それとの平仄も合っているのではないかという気はしているところでございますが,御指摘を踏まえて検討したいと思います。

● 実質は全く異論がないところなんですけれども,表現がね,競合取引みたいなのはこれで入るのかというのが気になるということだったと思いますけれども。


  いろいろな論点がまだございます。とてもちょっとあれですけれども。
  ごめんなさい,○○委員,どうぞ。


● すみません,重要なポイントなので,大分重複わたるところあるかもしれません,なるべく簡単に申し上げたいと思うんですけれども。

  まず,1の規律ですけれども,これは非常に重要な変更であったと私理解します。

やはり具体的な忠実の具現化のところで別段の信託行為の定めということが書いてありますけれども,この説明の中でも忠実義務を一切免除するようなことはもともと信託の本質に反すると書いてあるわけですから,2からのところで信託行為の別段の定めでどんどん免除されていったとしても,やはり信託の本質であるところの忠実義務は残るという趣旨においてもこれは単に表現だけの問題ではなくて,信託行為の定めに従いということがなくなったということは非常に重要ですし,やはりこの規律というのは今のままであるべきではないかというふうに思います。


  それから,ちょっと細かいようですけれども,善管注意義務と忠実義務を論理的に分けて議論しましょうというところで説明をされていますけれども,やはり忠実義務というのは信託のかなめであって,それの対応が利益吐き出し責任であると,こういうふうに学んできた次第ですから,利益吐出し責任の議論は後ほどいたしますけれども,忠実義務と善管注意義務と果たしてそんなに論理的区別できるんだろうかと。

要するに受益者のために忠実に,要するに受益者の利益ということを最大限図りましょうという議論だと思いますが,ほぼ善管注意義務と一部,またかなりの程度オーパーラップしているところもあると思うので,信託と第三者との取引のところで受託者の利益を図る場合と第三者の利益を図る場合を分けて考えるということは,考えようによっては整理としてはわかりやすいんですけれども,その効果の利益吐き出し責任というところからすると,そこをそんなに截然として分けるべきかどうか,果たして分けられるのかどうかというところではちょっと考え方としてやや疑問がなきにしもあらずというように思います。

  それから,競合行為のところ,甲案,乙案,先ほどの○○委員も話していたところですけれども。


信託事務処理として行うべきという乙案の,この「べき」のところで一定の価値判断が入っているわけでして,そうすると乙案をとった場合でも信託事務処理として行うべきであったけれども,正当理由があるという状況というのは果たして考えられるんだろうかというところで,乙案をとる場合はやはりこの3の正当事由の場合の例外というのが本来いらないはずではないのかなというふうに思います。


  それとか,信託銀行の方とかこの4のところの反対が強いようですけれども,信託銀行がこういう信託勘定ではなくて銀行勘定において業務を行う場合というのは,どう考えても信託事務の処理に当たってとかいうところに該当しないわけでして,それが該当しているんだけれども,固有業務,銀行業務であるというところの議論自体が非常にわかりにくい議論なのかなというふうに思います。


そんなに懸念するような話ではなくてですね。もうちょっと濫用事例を考えていただければ,この4の意味というのは十分あるわけでして,固有業務でやっていることが4で不当であるという議論が登場する可能性というのはあり得ないし,なおかつもともと信託契約の中で特段の規定を書けばいいだけですから,心配なところが,限界事例があるようでしたらそのように対応すればほぼまかなえるのではないのかなと,かように思いました。


  あと,利益吐出し責任,今のところと絡むんですけれども,不当な利益という言葉の不当性というものの議論の仕方とまた解釈論の議論あるかもしれませんけれども。


私の理解では,利益吐出し責任の利益と不当というのはある意味では対応関係にもあるのかなと,それは利益吐出し責任の論理的根拠をどこに求めるのかという議論ともつながるかと思いますけれども,かように思います。


ですから,4というのはやはりあってしかるべきものではないのかと考えます。

  あと,最後の利益吐出し責任ですけれども,既に繰り返し述べておりますけれども,忠実義務と善管注意義務というのはかなり近いんだけれども,そこに差があるのはやはり忠実義務の信託の,委任と違って信託のかなめであって,その効果として利益吐き出し責任があると,ここで初めて意味があるんだと。


利益吐出し責任がなくて忠実義務があるといったらほとんど善管注意義務があるというのに等しい,完全とはいいませんけれども,近くなるわけでして。


やはり信託のかなめであるところの利益吐き出し責任というものをなくすというような立法というのは不適切ではないのではないのかなと思いますし。


  あと,今回の検討課題の説明の中で両説については説明書いてありますが,これよりも補足説明における説明の方が非常に説得力がありまして,今の甲案,乙案支持だけでいきますと,何か乙案が随分弱気みたいなあれですけれども,皆さんパブコメ読んだ方はこの補足説明にさらに加えて言う必要はないのではないかと思って議論されていると思うので,ここだけの理由づけでは決してなくて,補足説明にしっかり書いているところを,要するに信託の中心のかなめであるというあたりがやはり重要なポイントだと,かように思います。
  以上です。

● すみません,ちょっとまだこの忠実義務についてはまだこの後続けていただきたいと思いますけれども,先ほど最初に申し上げたように,ちょっと私5時で退出しないといけないものですから,途中で退出いたしますけれども。私は今,○○委員の利益取得行為の禁止ですとか,利益吐出し等については個人的には全面的に賛成ですが。


  それから,忠実義務と善管注意義務との関係というのは非常に難しい問題でして,構成としてはどっちに構成するということも可能なんだと思いますけれども,やはり効果が違ってきて,第三者との間接取引において,第三者の利益を図るというタイプですね,これが今度は善管注意義務の方に出ちゃったというので忠実義務の問題になっていないので,これはしたがって効果としては,利益吐き出しの問題もありますけれども,一応有効であると,行為としては許されると。


だけれども,損害を与えれば損害賠償の問題になるということで善管注意義務の問題になっているというそういう整理なのかというふうに思いました。


  この辺もこれでいいのかということも含めてさらに続けて御検討いただきたいと思いますが,1,2分交代のために時間をいただきます。


          (休   憩)

● それでは,再開させていただきます。

  本日の進行でございますけれども,今まさに御議論していただいています忠実義務というのは非常に重要なところでありますので,さらに議論を深めていただくというわけですが,なかなか部会長もいらっしゃらないところで最終的に決定することも難しいかもしれない。


そこで,今からしばらくの間さらに御議論を深めていただいて,事務局でも検討を深めていただくというふうにしたいと思います。それを大体20~30分ぐらいいたしまして,その後できる限り進めていって,進行については後ほど○○幹事の方からお願いいたします。

  それでは,先ほどの点についての補足と進行についてお願いいたします。

● まず,進行ですけれども,最初に,今,○○委員かおっしゃったように,忠実義務等をやりまして,あとは最後の限定責任信託をやりまして,あとはできるところまでということでございます。


  2点補足ですが,1つは,先ほど○○委員がおっしゃった忠実義務と善管注意義務の仕切りというのは,○○委員もおっしゃったとおり,事務局としては自己取引類型ですとか受託者と受益者の利益が相反するのは悪性が高いから効果に及ぶと。


受益者と第三者の利益が相反する場合はそこまで悪性が高くないといいますか,そういう観点から効果までは及ぼさないで損失てん補の問題にとどめるというような仕切りをしているという,行為の悪性と,あとやはり受託者内部でできる行為かどうかという容易さとかそこら辺で区別をしているということでございます。


  あと,信託財産間取引で先ほど○○幹事の方から間接取引型の信託財産間の取引も書き忘れているではないかという御指摘がありまして,私それはそうかもしれないと申したんですが,ちょっと内部での打合せを確認した結果,これは意図的に外しているんでございまして,結局事務局としては受託者と受益者の利益が相反するのが基本的に忠実義務の問題で,外部のもの,第三者との利益が相反する場合はそれは善管注意義務の問題だとしておりますので,他の信託財産をある信託財産の債務のために担保に供したというのも第三者の,第三者というか他の信託が第三者でございますので,そこに効果が及ぶ行為であるということになりますと,これは事務局の認識しています忠実義務の範囲からは外れてくるわけでございます。


いわゆる信託財産間取引というのは例外的に民法108条の仕切りに入るので含めておりますが,それ以外の信託外の第三者が絡むものについては善管注意義務の問題というふうに考えておりますので,その仕切りからいたしますと先ほど○○幹事の方から御指摘があった問題は善管注意義務の問題であるというふうにこの提案では考えているところでございます。

● それでは,今の点も含めまして,忠実義務あるいはその効果について議論を続けたいと思います。


  ○○幹事。

● 簡単に。今までの議論を伺っていてちょっと1つ気になった点なんですけれども。


1項,一番最初のものですね。ここで「信託行為の定めに従い」というのを復活させるべきであるという議論が出て,それを契約自由とのコンテクストで議論されているようなのですが,ここを従来の表現に戻してそういう効果が得られるかというと私そんなことはないと思うんです。結論としては○○委員と同じなんですけれども,ちょっと理由づけは違うとは思うんですが。

  従来の規定ぶりは受託者は信託事務の処理をするに当たっては法令及び信託行為の定めに従い行うと書いていたんですが,法令が落ちたのはさっき言った理由で私支持するんですが。


これは会社法の規定でいえば定款遵守義務に相当する定めでありまして,これは違反すれば結果責任ですよという規定,忠実にやっても違反すれば責任はありますよという規定であって,決して任意法規化を定めている意味合いはもってこないし,このまま条文化してもそんな意味は持って来ない,解釈されないと思います。


もし任意法規化を書きたいのであれば善管注意義務と同じように,ただし信託行為に別な定めがある場合はみたいな書き方をしなきゃいけないんですが,こういう書き方をしますと,今度は2項以下と完全にオーバーラップしますので,非常に書きにくい。


  したがって,私はさっき言った「信託行為の定めに従い」というのを入れるとちょっと忠実義務の性格がまた違う種類の義務をここに書き込むので,純化されないという問題はありますが,内容は別段反対するわけではありませんが,さっきから言われているような効果はそれでもたらされないと思いますので,それを前提に議論した方がよろしいのではないかと思います。私は余りそういうことというのは入れない方がいいと思います。それが1点です。

  2点目は,善管注意義務,忠実義務の関係なんですが,取引の効果については今整理されたとおりなんですけれども,観念的にある行為が忠実義務違反行為であり,かつ善管注意義務違反行為であり,かつ違った取引の効果のみならず責任の内容においても違う内容をもたらすということは,従来からも会社法の領域ではよく認識されてきたことです。


有名な最高裁判例がありまして,利益相反取引をした場合に無過失責任の規定が従来あったんでが,それを生じる以外に内容がばかげていたという理由によって善管注意義務違反,従来は266条1項5号の法令違反なんですけれども,それにも当たる。


両方は併存するというような整理がされていました。新会社法のもとではまた変わったんですけれども,観念的にはこういう発想が維持できると思いますので,そういう観点で別次元のものとしてこの責任と善管注意義務違反というのを別次元のものとして整理するという方向性は私は正しいと思うのですが。


  正しいとすると今度は気になるのが競合行為の禁止の甲案,乙案であります。


とりわけ乙案で,これは○○委員が指摘されたことがほぼ私も同じ印象を持つのですが,信託事務処理として行うべきであったと書いてあるここのところに善管注意義務的な内容が読み込まれてしまう危険が非常に高いような懸念を持っております。

つまり,信託事務処理として行うべきであった,やれることでやったら信託がもうかったはずでしょうと。しかし,やらなかったと。


それは基本的に善管注意義務の中身でもあり得るんですけれども,ちょっとやったらよりもうかったことを例えばほかのお客さんのためにやっていたら当然これに当たる,あと救済は2の(2)の③ですというのはちょっと整理としてやや問題,乙案は広いところをカバーしすぎているのではないかと懸念を持っています。


  恐らく行うべきであったというのは,これは○○委員も指摘されたと思いますが,ある種の価値判断を含んでおりまして,「べき」の内容というのは利益相反関係がなかったなら恐らく信託としてやったであろう,やることが自然であっただろうというようなそういうふうな内容が暗黙のうちに含まれているんだと思うんですが。


ちなみにアメリカの統一信託法典を言及された方がいらっしゃいましたので,今ちょっと古い草案なんですが見てみますと,やはりそこでも単純にやれたこととは書いてなくて,あるいはやるべきであったこととは書いてなくて,利益相反関係があったようなことが書かれているんですね。


フィデュシャリー・インタレストとパーソナル・インタレストの対立みたいなものはそこでも適用の要件になっていたと思いますので,だからやはり「行うべきであった」の中にはそういう利益相反的な環境を読み込まないといけないんだろうなと,乙案をとるとすれば,と思います。


  そうなってくると,甲案とそう変わってこなくなって,ただ目的というふうに書いてあるところが唯一違うんですが,目的というのがちょっと狭すぎるというのであれば,甲案の目的を客観化するという方向でドラフトし,あるいは乙案の行うべきであったの中にある種利益相反的なものをさらに具体的にイメージ的に書き込んでいく。


結論は同じところに収れんすると思うんですけれども,そういう形でこれは解決すべき問題なのではないかと思います。


  ちなみに,昔ありました受益者は信託の利益を犠牲にしてとか何とかいう表現は,あれはさすがに何といいますか,善意みたいなものを,ことさらに害するような目的があるようなことが要求されるように理解されるとすれば狭すぎますので,それを落としたことはよいと思うんですけれども。


さらにこれ客観化,利益状況を書くことで客観化した方がいいのかなという気はしております。そうすることによって善管注意義務とのオーバーラップといいますか,マージしてしまうことを概念的には防げるんだと思います。
  以上です。


● 今,甲,乙の収れんの方向性を示唆されたわけですけれども,何か具体的な御提案というのはございますか。

● そこまではよく考えていません。
● はい,わかりました。
  では,ほかに。○○幹事。


● 甲,乙の話ではなくて別な話なんですが,まず先ほど○○幹事がおっしゃったことなんですが,私もなるほどとというふうに思ったんですけれども。第三者との間でやった取引というのはここの忠実義務違反の中には含まれていないと。

気持ちはわかります。と申しますのは,第19のつくり全体がまず形式的な形で該当,不該当というのを押さえて,それである一定の場合にはいいというふうに解除をするということになると,第三者との間の取引が形式的に全部忠実義務違反になるということはあり得ないわけですから,それは外した方がきれいにいくというのはよくわかるんですが,しかしながら,これは一時別のコンテクストだったと思いますが,○○幹事がおっしゃったと思いますけれども,例えば代理権の問題につきまして自己取引だけではなくて,第三者の利益を図るという目的を持って取引をしたというのも代理権濫用という領域で考えられてきたわけでありまして,第三者の利益を図る目的で第三者と信託財産との間での取引をしたというときに,なぜ忠実義務違反から外されて善管注意義務違反の問題になるのかというのは私にはよくわからないわけです。

  それには若干また関連するところがありまして,あと内容について2つ申しますと。


1つは,やはり相手方が知っていれば無効になっちゃって全然おかしくないという気がするのが第1点と。第2点は,先ほど○○幹事がおっしゃったように,善管注意義務違反というのはいずれにせよ起こるんですね。


これは確認しておきたいんですが,仮に利益相反行為に関してここに,現在の第19に書いてある利益相反行為に関して受益者の承認があったとしても,それは起こるんですよ。


不当な判断が悪い取引をした場合に善管注意義務違反が。つまり,利益相反行為に,だからつまり,善管注意義務というのは広く全体に及んでいるわけであって,第三者の取引は善管注意義務違反の問題になり得るというのは当たり前の話なんですが,それをそれだけでよいのかというと,僕はおかしいのではないかというのが第1点です。

  第2点は非常につまらない話なんですが,4の利益取得行為の禁止のところの文言が私よくわからないですが,と申しますのは,不当な利益を得ちゃいけないと。


不当な利益を得ちゃいけないのは私当たり前だと思うんですが。そうなると,許容する旨の定めがあるなんていうことがあり得るんだろうか。ないしは受益者の承認を得たら不当な利益でもいいんだろうかというのがすごく気になってくるわけでありまして。


その不当性という評価的な概念を表のところに置いているので,(2)のところと多分合わなく,解除事由のところと例外事由のところと何か平仄が合わなくなっているような気がするんですが,ちょっと。


もちろんこれ多分善解いたしますと,何を主張,立証すれば受託者側は一応その責任を免れ得るのかという問題に関わってきて,同意があるいうことがあれば,それでもなお善管注意義務違反である等々について受益者側から主張,立証していかなければならないということで,立証責任を転換させるとか,あるいは忠実義務のフェーズではなくて善管注意義務のフェーズに移すというふうな意味なんだとは思うんですけれども,何かこのまま率然と読みますと不当なときも許容するときはいいみたいになって何か変な感じがするんですが。後ろの話は細かい話ですけれども。


● まず,○○幹事の御指摘になられました忠実義務という問題があったと
しても善管注意義務の問題も起きるというのはおっしゃるとおりでして,例えば信託行為にその行為をすることを許容する旨の定めがあるときというこの中で例えば自己取引をすることができますというふうこと等が書いてあったとしても,実際に自己取引をする場合にその価格というのが適当でなければ当然善管注意義務違反を問われることになりますので,そういう意味では忠実義務違反と善管注意義務違反とはその範囲でオーバーラップしてくると,両方とも問題になる場合があり得ると。

  それに対しまして,第三者と取引をする場合,受益者の利益と第三者の利益が相反する場合につきましては,今回の整理ですとそれは善管注意義務違反の問題として考えれば足りて,忠実義務違反の問題というのは原則としては出て来ないと。その例外というのがここで申し上げました間接取引というものでして,第三者と受託者が取引をするけれども,受益者の利益と受託者の利益,ここはかぎ括弧つきの「受託者」ということでして,例えば○○幹事も申し上げましたとおり,受託者の配偶者とか子どもとの利益が相反する場合については間接取引に当たるというふうに考えておりますけれども。


そういう形で第三者との取引につきましては第三者も出てきますので,基本的には忠実義務違反というよりは善管注意義務違反の問題として考えた方が適当なのではないかというふうに考えております。


  このように考えるようになりました経緯といたしましては,パブリック・コメントの意見の中で受益者の利益と第三者の利益が相反するようなケースについても客観的に判断すべきではないかというような意見が多数寄せられまして,それで考えてみたんですけれども,そうしますと,受益者の利益と第三者の利益が相反するというのはまさに善管注意義務違反の問題ではないかと。


試案ですとそこのところは第三者の利益を図る目的をもってというような形で整理していたんですけれども,第三者の利益を図る目的というのはまさに善管注意義務違反の行為で善管注意義務違反をしたというものに当たるのではないかというふうに考えられますので,そのように考えるのであれば第三者の利益と受益者の利益が相反するような受託者と第三者の取引につきましては善管注意義務違反の問題として考えれば足りるのではないかというふうな整理を今回したところでございます。

● ○○幹事,よろしいでしょうか。


● そういう論理をとりますと,自己取引でもそうですよね。善管注意義務違反でよいということになりませんか。


● そこのところも自己取引をしてその経済的な利益というのが第三者に帰属するというのも当然あり得るかと思うんですか,それは内部的な取引をするので特に悪性が強いということ,双方代理,自己契約みたいなものが民法108条で禁止されているので入れていこうというふうに考えております。


その点では確かに完全に論理一貫しているとまでは言えないんですけれども,そういうふうに整理をしています。


● ちょっとすみません,続けて申しわけございません。例えば第三者の利益を図る目的で第三者と信託の財産の取引をしたとします。第三者が故意または重過失でもいいんですが,悪意または重過失ですね,ごめんなさい。


で,それが自己の利益を図るというものであったということを知っていたというふうにします。このときは権限外取引なんでしょうか。もしこれが仮に善管注意義務違反の問題であるということになると,権限内取引であって,31条によっても取り消せない取引になりますよね。


そうしますと,第三者が悪意,有過失ないしは重過失であっても,当該取引が取り消された無効になったりすることはないということになりませんか。


それはその民法の代理の議論とかとの間で平仄が僕は合わないような気がするんですが。


● そこのところにつきましては確かにおっしゃるとおり検討したところでございますが,確かに代理人ですと権限濫用行為をしたことについて第三者の方が悪意であれば無効ですとかになるというのに対して,ここでは善管注意義務違反の問題となりまして,あとは損失てん補請求の話になってしまって,確かにその限度では一貫していないところはあるといえばあるのですが,そこのところは信託で全く代理と同じように考えなければいけないわけではないのではないかというのが事務局の考えでございます。

● それはそれでもいいんです。信託は全く代理と同じ考えでなくてもよい,それはそのとおりだと思うんですが。じゃあ,その信託の何がそれを正当化するんですか。


● 確かに第三者の方が知っているという前提ですので,このように言えるのかどうかわかりませんが,信託の場合は代理と違って顕名等をするということもありませんので,本人,完全権者であるというところに違いがあるのではないかというふうに考えておりますが。

● それは私は過失なのか重過失なのかというところに反映されている処遇ではないかというふうに思うんですが。ちょっとそれは水かけ論になりますのでやめますけれども。

  4の不当の話,ちょっとだけ。つまらない話ですが。
● ここは確かにおっしゃるとおりでして,前にこの部会の中でほかのところのコンテクストでも議論がされたかと思うんですけれども。例えば前の議論ですと受益者の利益を犠牲にして自己または第三者の利益を図る目的を持ってと書いてあるの信託行為で許容する旨の定めがあるときというのは適当ではないのではないかというのはおっしゃるとおりです。


そこのところは今回受益者の利益を犠牲にしてということをとったことによってある程度合理的になったかと思われますが。確かにここのところでも不当な利益を取得する行為となっていて,それを許容するという定めがあるなんていうのはあり得るのかというのはおっしゃるとおりのところはありまして。

  経緯を申し上げますと,当初は例外規定の中に③として正当な利益,正当な理由がある場合にはオーケーなんですよと書いてあったんですけれども,そうしますと原則として利益を取得する行為というのはすべて禁止されるというのが本当に適当なのかどうかというところがちょっと疑問がありまして,もう大分前からでありますけれども,不当な利益を取得する行為というのを利益取得行為の禁止として対応していこうという形になっております。

● まず,1点目の,第三者の利益を図る目的をもってというところを考えたときに,例えば何か,○○委員がどういうお考えであるかですけれども,何か信託財産を処分する権限は信託行為に与えられていたと。


それで,ある市場価格より安い価格で売りましたと。それはもう両者みんな知ってましたというようなときに,それが何か利益を図っているということで無効などということにされてしまいますと,これは世の中的にも健全な状態にはならないのではないかというような実質判断も1つあろうかと思います。


  それから,2番目の不当な利益というのは,確かにこれはまさに不当なというところがうまく説明できないじゃないかということがあるとすれば,ひょっとしたら甲案とか利益吐き出し責任を設けるということの議論の脆弱性をあらわしているのかもしれない。


  すなわち何かといいますと,ここでやりたいことは,何かの信託財産に損失を超えていないにも関わらず,受益者が信託財産に返さなければいけいというものは何かというものをとらえなければいけないと。それを利益という形でとらえましょうという提案をしているわけでございます。


  ただし,例えば補足説明にも書かれておりますように,大口,信託財産と固有財産と大口のロットで売ったら手数料が大幅にディスカウントされれ,それで信託財産も固有財産も利益を得たと言われるウィン・ウィン・シチュエーションのような場合に,じゃあ,固有財産が利益を得たんだからそれ返せというようなてことがハッピーな結果を招きますかというとそういうことではないですということで。


したがって,これまでの部会の議論の中でもすべての利益を返還しなければいけないのではないのではないかという御指摘があったことを踏まえまして,ここは一応不当なということで書かせていただいているわけでございまして。


  この不当なというのはむしろ何か利益吐出し責任とかあるいは利益返還の特則みたいなものを設けようとするのであれば,何等かの外延をもって規定しなければ,確定しなければいけない文言がそこに入るということでありまして,それが私どもにただちにいい知恵がないものですから,ちょっと不当なという言葉でとりあえず置かせていただいているということで,むしろ御議論いただくべきは,この実質というのをどういうふうに確定していくかというふうなことなんじゃないかというふうにちょっと拝察いたしました。


● ○○幹事。

● 今の利益取得行為の禁止で(1)と(2)の関係なんですけれども,単にこういうことにすぎないんじゃないかと思いますが。(2)で1の禁止の例外と書くからこれわけわからなくなるということがあるだけであって,(2)で①,②の場合は不当な利益を取得する行為に当たらないものとするというだけのことではないんでしょうか。


● まあ,そういう構造をとるかどうか。

● そういう書き方をする以外に多分,○○幹事言われるように書き方がないんじゃないんじゃないかなという気がしたというだけのことです。すみません。

  それと,もう1点,ちょっと今言われた点で前半の方に言われた世の中的にはうまくいかないことになるんじゃないかという点に関して言いますと,これ○○幹事言われましたように,代理の場合につきましては第三者の利益のために図る行為をするというのが相手方について相手方が知りまたは知ることができたという場合には,代理権濫用の問題として無効とするということを認めていますから,ちょっとやはりそれとの平仄の問題はどうしても出てくるんじゃないでしょうか。


  私最初に伺ったときに,善管注意義務の問題にするというふうにされるのはそれはそれでいいのかなと思ったんですけれども,その場合でもやはり相手方が知りまたは知ることができた場合というのは代理権濫用のような一般法理にのせていかれるのかなというふうに思っていたんですけれども,そうではないという趣旨だったのでしょうか。

● そうですね。ただ,事務局内で検討いたしましたときはそういうものは善管注意義務に問題とせず第三者が悪意,重過失の場合には取消し得べし行為と,無効ですかね,にするという余地はあるのかという議論はいたしたんですけれども,結論としては今のところはそう考えていないと。

● 否定だったわけです。そうすると,ちょっと一般法理との平仄がやや合いにくいのかなという気はいたします。そして,仮に一般法理と同じように考えるとしますと,広く善管注意義務の中に2種類が少なくともあり得て,第三者の利益を図るような行為をするという善管注意義務違反と,それ以外に本来きちっとやってないといけないのがばかなことをやったという意味での善管注意義務違反あって,前者の第三者のためを図ってはいけないというような意味での善管注意義務違反については相手方がそれを知りまたは知ることができた場合は一般法理により無効になるけれども,それ以外のばかなことをやったというだけのときには多分無効にはならんのだろうと思うんですね。


そういう意味では善管注意義務の中に2種類を設けることになる,果たしてそれがいいのかどうかという問題はちょっと残るのかなと思います。


ただ,事務局のお考えがそもそも一般法理にもうのせないのだとしますと,その問題は発生しませんけれども,そうすると代理との平仄がちょっとかなり合いにくいのではないかという気は私もいたします。
  以上です。


● ○○幹事が先ほどからの後段の論点なんですが,実は私もこれは変だなと思って考えてみたんですけれども。そもそもこの甲案というものの規定自体がある意味ではトートロジーみたいな書き方になっていることから多分そういうことになるんじゃないかと思っていまして。


それで,この甲案の不当なという要件をもう少し客観的な,外形標準で仕切れるような概念になってれば逆側で(2)の方でもそれを許容するとかという書き方ができるんでけれども,ある種トートロジーになっているのが変なことになっているということだと思うんです。


  それで,他方でこの不当というのを落としたらいいじゃないかというような御指摘も一部から出ていますけれども,この不当を落とすとこれは明らかに処理に当たって利を受け入れてしまった,けれどもこれは全く受益者,あるいは委託者等と関係者にとって何ら実損を与えていない,むしろ利益を図っているような行為についてまで否定することなのでこれは明らかにやりすぎだと思います。

  したがって,こういった極めて不明確で,かつある種トートロジーというか論理矛盾みたいな難しさのままでこういった規定をおく意味が一体どこにあるのか必ずしも理解できないと思いますけ。


  それからもう1つで,これはコストがある話で,こういった非常に不明確な要件の禁止行為があるということになると,当然先ほどから議論出ていますけれども,特約で何でも置かなきゃいけないんじゃないかとか,あるいは怖いからやめておこうかというビジネスを萎縮する効果の方を私は非常に懸念いたしますので。


  そういった意味でやはり事業者の創意工夫をいかに生かすかという観点も踏まえると,これは丙案しかないのではないのかなと思います。
  以上です。


● 先ほど○○幹事が甲案について4の(1)について問題を提起されたわけですが,これは甲案をとるとしたらこういう問題があるということでしょうか,それとも甲案あるいは乙新よりも丙案の方がいいという御趣旨でしょうか。


● 丙案がいいという趣旨はありません。

● ほか,先ほど文言について御発言された方も○○幹事と同じように理解してよろしいわけですね。

  ○○幹事はむしろ丙案の方がよいという御意見だと承りました。
  なかなか議論が収れんできない状況でして,19の1については試案との対比でこれでいいのかどうか。ここでは多分任意規定,任意法規ということの概念が人によってちょっと違っているのかなという感じもいたします。


全面的に排除するというのを任意規定というのか一部なのか。あるいは信託行為との関係についても先ほど○○幹事が分析されたような問題があると思います。


それから,3については,甲案,乙案,両論あるわけですが,第3の方向としてむしろ甲,乙の間,収れんを図れないだろうかという御提言もありました。


それから,4については,これも対立が多いわけですが,甲,乙をとる場合の表現の問題と,それから要件効果が一緒になっているのではないかという問題と両方あるでしょうから,それを整理するということになると思います。

  ここではそれぞれのお立場からの御議論があったということで,また次回に続けて次回に決着をつけるということにしたいと思います。よろしいでしうょか。


  それでは,20についても利益吐出しは,これも両論あって,ただ受託者の立場になられることが多い信託銀行あるいは銀行の方はどちらかというと消極的で,同じく受託者の立場になられることがおありになる弁護士会の方では必ずしもそうでもないというように理解いたしました。


  というあたりがもしよろしければ次に進めさせていただきます。

● 一言言わせていただいていいですか。
● どうぞ。

● 利益吐出し責任に関しての規定化の懸念の1つとしてちょっと述べ忘れましたので。いわゆるこれはビジネスが萎縮してしまうという類型に入るかもしれませんけれども,濫訴的な請求というのが出てくるのではないかと,それが萎縮効果になるのではないかというお話でございますけれども。


19の忠実義務の意味合いが不当だということも含めてあいまいであることに相まって,何らかの形でその受託者に責任を追求することというのが多くなるのではないかということがあります。


  また加えて,その規定のやり方が結局ある意味,たとえていうならばサブマリン訴訟みたいな形で,いえば受益者がずっとそういう違法的な状況があることを知って,そのままずっと待って,利益がたまったところである日訴訟するというようなことも考えられます,もちろんそういう人が世の中にいっぱいいるとは申しませんけれども,そういったことも考えると,やはりその可能性を斟酌する受託者からすると,なおビジネスに対する萎縮効果が出てくると,そういう点も合わせて考えていただければと思います。

● では,今の点も含めて検討し,さらに次回に議論を進めていただくということにいたします。

  それでは,次,お願いします。

● では,ずっと飛びまして,資料の最後の限定責任信託というところでございますが。31ページでございます。名称の問題ですが,試案では有限責任信託といっておりましたが,ここでは株式会社等の他の有限責任類型の制度とは異なりまして,出資者や受益者の有限責任性が問題となるわけではなくて,一定の種類の債権を除けば責任財産が信託財産に限定されることになって,業務執行者である受託者がその固有財産をもって責任を負わないという点に特徴があるということを明らかにすべく,限定責任信託との名称に改めているわけでございます。

  パブリック・コメントにおきましては,このような制度が導入されれば民事,商事を問わずさまざまな分野で有効な活用が可能であるとの意見が大勢を占めております。このような結果を踏まえまして,本提案では限定責任信託の制度の創設を提案するとともに,制度の骨格案を示したものでございます。
  

なお,限定責任信託の受託者としては,法人のみならず個人もなれることは当然のこととして考えております。


  提案2でございますが,取引相手方の利益を考慮いたしまして,必要な事項が登記されて公示され,第三者の予見可能性が確保される状況にいたって初めて限定責任信託の効果を享受できることとすることを提案するものでございます。


  それから,3の(1),(2)でございますが,これは一般の信託における帳簿作成義務等の規律に準じますとともに,作成すべき帳簿等の内容をこの信託の性質にかんがみまして,具体的に会計帳簿,BS,PLなどとしたものでございます。


  それから,(3)と(4)でございますが,これは債権者にとって唯一の引き当てとなる信託財産を確保するための措置として財産分配の制限規定を設けるとともに,制限に違反した場合の受託者や受益者の責任内容について会社法等の規定と同様の内容を提案するものでございます。


  それから,提案5の方にいきますが,限定責任信託における取引債権者や不法行為債権者の保護の強化のために,受託者に対していわゆる第三者責任を課すことを提案するものでございます。


  それから,提案4と6でございますが,この類型の信託の受託者と取引した場合には,責任財産が信託財産に限定されるということにつきまして,取引相手方の予見可能性を確保するために受託者に対して限定責任信託の受託者であることの明示を義務づけますとともに,客観的な公示手段としての登記制度の整備を提案するものでございます。


  なお,受託者が個人責任も負う既存の類型の信託につきましても,受託者において信託財産に責任が限定される旨を明示して取引をすれば,限定責任の効果か導かれるとするか否かにつきましては,一方的な明示のみで限定責任の効果を発生させることについて消極の意見が大勢を占めましたが,合意に基づく責任財産限定特約の有効性を確認する規定を置くべきであるとの意見がございました。


  この点でございますが,しかし,当事者間で責任財産限定特約を締結することは実務上一般的に浸透しておりまして,これが無効であるとは解されていないことなどにかんがみまして,あえてその有効性を確認する特段の規定を設ける必要まではないと考えているものでございます。
  以上でございます。


● それでは,新しい名称ですが,限定責任信託について,御意見をお出しください。
  では,○○幹事。


● 一言申し上げておきたいという趣旨で,以前に大分時間をちょうだいしましたので,私自身はこのような制度を現時点において,かつ信託法の改正作業の中で取り上げることが適切なのかという点については非常にもともと疑問を持っております。


その点は変わっておらないということを申し上げたいということが1つございます。仮に信託と名のつく組織法制を整理する必要性があるということであれば,そのようなものとして別途取り上げるべきでしょうし,また,仮につくるといたしましても,信託法とは別立てで別立法によって各種の組織法制との関係を考えつつこれが何を担うのかということを整理してやるべきではないのかというふうには思っております。

  一般的にはそう思っておるのですけれども,そうは申しながら,この中身について少し以前から気になっております点を改めて確認させていただきたいのですが。


大変細かい点ではあるのですけれども,4の特定の有限責任信託の受託者である旨の明示というのが義務づけられておりまして,このしなかったときの効果がどうなるのかというのが以前から気になっております。


たしか最初にこの提案がされたときにお伺いしたときは,それは信託契約の中身に書き,それによるのだというような御回答もあるのかと思うのですが,それでは取引債権者からはわからないでしょうからそうではないのだろうと思うのですけれども。


  なぜかと申しますと,もしこれが明示されなかったと,それによって相手方が誤認したというような場合には,これは受託者も固有で責任を負うんですというような場合には取引債権者であればわからないときにそういう保護が与えられるにもかかわらず,不法行為債権者等一切そのような機会のないものについてもなお限定責任ということがどう正当化さていくのかというのが前から気になっておりますものですから,個別の話ではあるのですけれども,その点についてお考えをお聞かせ願えればと思います。

● まず1点目の明示されなかった特定の限定責任信託であるということを明示されなかった場合におきましては,通常の信託と同じように受託者は無限責任を負うということになって,それが権限内の行為であれば信託財産に対して執行することができる,そういう期待のもとに取引をしているわけですから,そういうことになるのであろうというふうに思います。


  それから,取引的な不法行為をしたような場合につきましては,5に書いてございますように,第三者に対する責任ということで,5の要件を満たすときにおきましては,受託者が固有財産で個人責任を負うということもあり得ることになろうかというふうに考えております。

● そうしますと,そういった一切機会のない工作物責任の被害者とかそういった人との関係で限定責任になる理由,正当化はどういうところに求められているのでしょう。


● そういった方々との関係で限定責任が認められる理由といいますのは,通常の信託とは違いまして,財産分配規定とか違法に分配したときの受託者の責任とかいったように,通常の信託とは異なった債権者保護手続,保護的な規定が設けられているからということになるかと思います。

その合名会社が工作物を持っていたとき,株式会社が工作物を持っていたとき,あるいは合同会社が工作物を持っていたとき,あるいは有限責任組合が工作物を持っていたときにおきまして,これらの各種の組織法制と債権者保護手続という点におきまして遜色がない手当がされているのであれば前者の場合において債権者が有限責任になるのと同様に,本件においても有限責任になるというふうに考えればいいのではないかというふうに考えております。

● 取引債権者については特段に保護を過重していると,そいう制度をつくっていると……


● いや,取引債権者の保護を加重してというよりは,その取引債権者はそういう期待をもって入ってきているわけでから,そのような保護を過重してというわけではなくて,期待に見合った手当をしているというだけのことではないか。
● では保護行為責任のようなものだととらえればよろしいですか。


● 保護行為責任ですか,まあ,すみません,ちょっと。
● いや,結構です。
● ○○委員。


● もちろんこの制度等については賛成です。そういう賛成を前提として今の議論の関係についても幾つか質問なり意見を述べたいと思うんですけれども。


何となく今の質疑の中で1つの新しい組織形態としての認識のような形での議論があったかと思いますし,なおかつそういう使われ方もあり得ると思います。


それを全然否定する趣旨でもないんですけれども。これをもって活発に利用できれば,要するに信託自体に法人格はないにしろ,こういう制度を導入することによって類似の効果がもたらされる。それはちゃんと公示制度によって担保されているというような趣旨で。


  そうすると,これは質問ですし,なおかつ多分制限されていない趣旨だとは思うんですけれども,これを利用するといったら別にSPCをつくってそれが有限責任信託をやるというような趣旨じゃなくて,信託銀行がある信託についてこれは有限責任信託ですと,ですから決して組織形態とか事業形態を前提としなくてもよろしいわけですよね。今,納得されているみたいですけれども。わかりました。

  そうでないと利用されないといいますか,要するに会社法の一メニューであると,今,○○幹事がおっしゃったように,別の法律というのはいかにも何か会社法の特則みたいな形のイメージになってしまっていますけれども,決してビジネストラスト,類似の機能もあるかもあるかもしれませんけれども,そうでない機能も果たし得るという前提ですと理解します。そうじゃないとなかなか利用促進にはならないと思います。

  あと,公示制度というのは今後検討されるんだと思うんですけれども,そうすると重装備の公示制度か軽装備なのかといろいろあると思うし,重装備の方がいいという議論もある反面,そうすると何か非常に重い制度になってしまってなかなか利用できないというところはあると思うんです。

公示制度についてどんなイメージでいらっしゃるのかなということと。一定の公示がされていれば,その取引のときに明示する必要というのは,それは明示しないことによる責任というのは違う形で生じるかもしれませんけれども,明示している形で限定責任信託とは違った効果になるみたいなのもちょっと何か違和感を感じないでもないですけれども。

● まず,1点目の訂正でもないのですが,確認でございますけれども。ちょっと組織法制というふうに申し上げましたけれども,何もだからといって事業を前提としたような会社法の特則みたいなものを意識したものでもございません。

  それから,米国でも別にビジネストラストというふうに俗称言われており
ますけれども,その規定を詳細に読んでまいりますと,別に営業のためではない公益または収益を伴わないもの,あるいは,パーマネントのものであるかテンタティブなものであるかも問わない,ある種合法的なものすべてに使えるんだという確認規定があったりしますので,そのビジネストラスト,米国におきましても別に事業だけの目的でできているわけではないという点も踏まえまして立法させていただいているんだということも確認させていただきたいというふうに思います。

  それから,登記事項は何かということにつきましては,イメージというか,公示すべき事項でございますけれども,基本的には例えば限定責任信託の目的ですとか,あるいは何か信託に名称をつけるのであれば限定責任信託の名称ですとか,それから受託者の氏名とか住所とか限定責任信託の効力の発生といったようなことを登記することになるのではないかというふうに,そのような方向で関係当局と調整をさせていただきたいというふうに思っております。


  それで,やはり,ただ取引のときに限定責任信託ですよということが,しかもどの限定責任信託ですよということがわかりませんと取引をした相手方は登記所にいってどれだろうかというとっかかりがございませんので,その点での明示はやはりいるのかなというふうに,取引のときにはいるのかなというふうに思っております。

● わかりました。追加で,関連して。そうすると,組織法じゃない使われ方もあるし,いわゆる器としての使われ方,また弁護士が受託するときもこういう財産で何も知らなくてもいいわけですから,という使い方をすると,この分配制限のところ,一定の何か必要だというところまで理解できますけれども,例えば組織法的に300万とかいうのが出てきてしまいますと,別に高額な受託をしているときには300万は大した金額じゃないかもしれませんけれども,もっと弱者のためといいますと300万といいますと300万というのは結構大きい金額ですので,その辺については組織法ではないケースということもよく知っていただいて御検討いただければと思います。


  あと,感覚的な発言で申しわけないんですけれども,UCCのファイリングのように何か問い合わせをするということによってその信託財産の範囲がわかるとかそういうような方向もあり得るのかなと。


そうじゃないと非常に重い装備になってしまって全部公示しましょうとかいうようないわゆる物権と同じような議論になってしまうとなかなか使い勝手が悪くなってしまうし,そこから漏れているのが結局どうだったのかみたいなことにもなってしまうのかなというふうに感じました。
  以上です。

● 限定責任信託に関して,今出ています公示制度のことも含めてちょっと意見を述べたいと思いますけれども。私どもとしてはいろいろなビジネスニーズがあるということで,それを前提に限定責任信託というのは賛成であるという立場をとっております。他方,債権者としましては,やはり十分な債権者保護の手当が必要だというふうに述べております。


  具体的には,そんなに詳細に詰めているわけではないですが,ここに書かれているようなある意味で会社法並びになるのかもしれませんけれども,であれば実務感覚としてはそんなものなのかなというような感触は今のところしております。


ただ,他方,今度ユーザーの立場としてこれでは重すぎるよと,これではワークしないよということであれば,ワークしないので,そのユーザーサイドの意見もちょっと聞いてみたいとは思っております。


  そこで,公示制度について述べたいと思うんですけれども。我々債権者としては当該貸付が有限責任信託であるかどうかということを探知したいというニーズがございます。


もちろんこの提案にあります4のところで明示があるというところである程度カバーできるのかもしれませんが,ただ取引に入る場合の調査として当該相手方が限定責任信託なのか,それとも信託だけれども無限責任を負っているものなのかということが非常に関心事があるわけです。


  そこで,探知しやすい制度というのが望ましい話だと思っております。そうしますと,これは公示制度の個別論になるのかもしれませんけれども,ほかに登記制度がありますよと,そっちも見て,例えば法人であれば商業登記簿も見てください,またほかの登記簿を見てくださいということになると,取引コストとしては上がってしまう,かさんでしまうのかなというふうに思っていますので。


これは私見ですけれども,何らかの関連性が出てくるような,いわゆる一覧性があるものができればいいなとは思っています。

  ただし,そこでちょっと思いますのは,今回,先ほど個人も限定責任信託の対象であるという御説明がありました。そもそも個人まで限定責任信託のニーズがあるのかということは,記憶にある限り今までの議論でどういうニーズがあったのかというときに,例えばパイロット事業であるとかプロジェクト事業とかいうような例示の中には余りなかったようなものでございますので,そこのニーズが本当にあるのかなというところがあります。

  そのニーズの話をなぜ議論するのかといいますと,公示制度の話に絡みますけれども,個人で公示をするということはなかなか現実には難しいのかな,プライバシーのこともありますし,あと戸籍とか住民票とかどう連関させていくのかということもありますので。

そうしますと,新たに取引に入るときにどういうふうに探知したらいいのかということが障害になるのかなという若干懸念を持った次第でございます。


  そうしますと,そのニーズの高さと,それから取引コストの問題とどうバランスしていくのかなというようなこともちょっと思った次第であります。

  以上です。

● 個人がやられるニーズにつきましては,私よりは○○委員に補足していただいた方がいいかもしれませんが,パブリック・コメントにおきましてはそういった高齢者の皆様の不動産とか工作物などを預かるというようなお話もお伺いしておりますし,その他にもいろいろお伺いしておりますので,ニーズがないということではなくて,当部会でパブリック・コメント前に出たときにはそういう事業に関連したものが多かったということではないかなという気がしております。

● 恐縮ですけれども,先ほど○○委員の質問で公示制度はどういうものをお考えなのかという話があったんですけれども。その中身についてはさっき説明があったんですが,連関といいましょうか,一覧性といいましょうか,例えば限定責任信託の登記というのが商業登記簿謄本に何らかの形で指定されるのかどうかというところまで今議論がされているのかどうか。


もしそういう場合をよしとする方向性で議論するのであれば,個人の場合にそういうことがあり得るのかどうかということ。ちょっと次の話で恐縮でございますけれども,ちょっとお尋ねしたいと思います。


● 登記所に限定責任,例えば信託登記簿というようなものを備えまして,その閲覧というものを考えるということはあり得るかなというふうに思います。


  それから,先般施行されました有限責任事業組合契約におきましても,当然これは個人が組合をつくる場合も前提にされてつくられておりまして,そのときに同様の開示手続が設けられているわけですから,別に特段何ら考えられないということではないというか,当然に考えられるということだというふうに思っております。


● 最初のところは○○委員,○○委員の問題意識も重なるところでございますが,2点,質問をお許しください。

  1点目は,財産分配の制限について法務省令で定める方法によって算定されるということですけれども。今○○委員の方から300万という例えばイメージの御発想がありましたけれども,ここのところはどういう具体的なイメージを持ってこの省令を定められるかどうかというのをちょっと教えていただければ,現時点においてで結構ですから,ありがたいと思います。


  この問題意識は,財産分配の制限の方法いかんによっては分配の制限がされることで受益者が害されることもあり得ることでありまして,そこのところをちょっと教えていただければということであります。


  第2点目の御質問でございますけれども,公示としての登記の整備のところでございますけれども,私どものような立場から考えると,例えば受益者かわざわざ登記のところを見に行くかどうかというところはちょっと,一般の投資家の方がこれは限定責任信託かどうかということで確かめにその公示を見に行くという,登記簿を見に行くということはどうなのかと考えると,果たしてその登記だけでどのような財産分配が課されているのか,受益者には本当に把握できるんだろうかと心配をいたしまして,こういう登記だけで明示性方法というのは十分なのかどうか,この辺のところをちょっと教えていただけないでしょうか。

● まず1点目の,財産分配制限の方につきましては,例えば合同会社ですとか,それから有限責任事業組合契約におきましても,両方とも経済産業省令あるいは法務省令を見ないと詳細はどういうふうになっているかはわからないわけでございますが,先般施行されました有限責任事業組合契約におきましては,当初の出資額が300万を下るときにはその出資額が限度で,300万を超える出資額のときには300万が限度というような規定になっております。


  それから,LLCにつきまして,合同会社につきましては,一応純資産額すべて配当できる,要は債務超過にならない限りは配当できるというふうに規定する方向だというふうに,まだ法務省令は,ちょっとこれは言い過ぎかもしれませんけれども,法務省令の検討作業中でございますが,そんなような中で検討をするというふうに担当部局から伺っておりますので。いずれにしましても信託法ができましたときは,両方とも施行された後になりますので,そういった利用者の規定をちょっと見ながら適切にパブリック・コメント等を通じて省令をつくってまいりたいというふうに思います。

  それから,2番目の御指摘にございました受益者との関係でございますけれども,こういう公示制度というのが要求されますのは,むしろ趣旨としましては,債権を有限責任にするというその債権者との関係で必要になるのではないかというふうに考えておりまして。


受益者が必要になるのはむしろ会計処理とか損益計算書ですとか貸借対照表とか,あるいは営業報告書的なものですね,受託者がきちんとやっているのかというようなものを受益者に適時適切に開示していくということがむしろ重要なことでございまして,それは有限責任である受託者が有限責任であるか無限責任であるかを問わず両方必要なことではないかというふうに考えております。

  債権者と受益者は,信託債権者と受益者はむしろここでは利益相反関係にある種立ちますので,その意味から考えましても,受益者というのはむしろ計算書類とかそっちの方をいかに開示していくかということの方で関わってくることではないかというふうに考えております。

● ちょっと私の理解がもしかしたら不十分かもしれないんですけれども,この提案の中で提案5の部分なんですが,この規定との関係で不法行為,特に先ほどちらっと出ました工作物責任ですとか,製造物責任ですとか,そういった責任を受託者にとっていくということは制限されるという前提でのご提案なんでしょうか。

● 工作物に関しては,まず占有者としての責任は当然に負うという前提で,所有者であるから負いなさいという責任については,信託財産に工作物の所有権があって,それについては制限はされていくということを申し上げたのですけれども。


● そうすると,占有者として受託者がその責任を負うということはあり得ると。


● それは当然にあり得ると。
● それから,先ほどの製造物責任については何か影響を及ぼしますでしょうか。


● 普通に負うのではないかと。
● 普通に負うという理解でよろしいんですね。

● 法定の責任は負わないということですから,例えば所有者責任とかそういうものは負わないんですけれども,製造物責任ですとか709条の責任とかそういうものは負います。


● 先ほど○○幹事が提起された問題,今の質疑で明らかになってきたと思いますけれども,受託者個人が709条の責任あるいは占有者責任を負うということはあるという前提のようです。

  ついでにお聞きしますと,私聞いていいかどうかわからないんですが,使用者責任は負うんでしょうか。あるいはそれは外観理論の適用があるかどうかについて,ついでですから御確認いただければと思うんですが。


● いや,使用者責任は,それは一般に709条で負うんですから,それも受託者の従業員が何かやったときに受託者個人の監督責任について監督の職務をまっとうするについて過失があれば負うということになろうかと思います。


● 今までの議論とちょっと違った質問になってしまうんですけれども,2点質問させてください。


  5の第三者責任なんですが,使用者責任とかそういう話じゃなくて,文言なんですけれども。第三者と書いてありますですね。これ言うまでもなく,もともとの商法266条の3の第三者責任の規定を下敷きにしたような書き方になっていると思うんですが。


あそこの第三者は株主も含むというふうに普通は解釈されていまして,下級審判例ありますけれども。株主が直接被った損害ですね,そういったものが含まれるんですが。

それでいくと,ここは受益者も含み得るのかどうか。つまり,そういう問題を提起することになってしまうんですね。ただ,これは限定責任信託であるがゆえにこれが入ったんだとすれば,そういう人が入ってくれたらちょっと非常に変な感じもするのですね。


第三者責任で商法のあの規定を下敷きにしてしまったときにちょっとその辺の整理はしておいた方がいいのかなというふうな印象は受けます。


  また,あそこでも間接損害,直接損害いろいろ議論があるんですけれども,あれはどっちを含んでも債権者との関係ではいいと思うんですけれども,ちょっと整理をまたしていただければと。もし答えがある,とりわけこれ受益者を含むという答えなのであれば,その実質的根拠を伺いたいとは思いますけれども,それが1点です。

  もう1点は,もしこの手の信託が本当にいいかどうかはちょっとやや留保するんですが,仮に認めるとすれば,財産分配の制限が必要であることは異論の余地はないとは思いますが,この現在の規定は私が見たところ,新会社法の合同会社の規定を相当下敷きにしたようにも読めるんですが,よく比べますとかなり違う点がございまして。


まず,違いが私の理解しているような違いがあると理解していいかどうかを聞かせていただいて,それからどう説明されるかというのを伺いたいんですね。
  1つの違いは,合同会社の場合は違法な財産分配,純資産の範囲内云々,法務省令というのは同じような額が決まると思うんですけれども,違反した場合は,合同会社の場合は受け取った社員は無条件で返還しなきゃいけないんですね,会社に対して。

それに対して,分配をした社員は過失責任--過失責任といっても表面的には転換した過失責任を負うんですね。


実際分配した社員から求償を受けたときは受け取った社員は善意であれば返さなくていいというそういう仕切りになっていたと思うんですが。これ見せていただきますと,まず第一の違いは,信託の場合,これ違法な分配した場合は受託者は無過失責任なんですね。


会社法の方は無過失の反証を許していますけれども,それがないということは従来の株式会社と同じ無過失責任と理解していいかどうか。それが1点目。


  2点目は,受け取った受益者は,これは返さなくてよくて,ごめんなさい,悪意でないかぎりは返さなくていいのかどうか。唯一返さなきゃいけないルートは受託者が弁償して求償を受けて,その場合の悪意の場合だけが返せばいいのかどうか。


  もし,これ書き方なんですが,そうじゃなくて,いや,当然に返さなきゃいけないというのを前提にしているのであれば,それは書かないと現在の合同会社の規定は違法配当が無効ではない,有効であることを前提に返還請求権を書いている,それに合わせて書いているのであれば変えておかないとこれは返還義務ないということを意味する規定になってしまうので。


そもそも,でも,理解として基本的に返さなくていいという,受益者は返さなくていいという前提,それは無過失責任と受託者がなっていることとのバランスでそうなっているんだというふうなそういう理解でよろしいんでしょうか。


ちょっと整理を教えていただければと思います。

● 基本的に無過失責任というわけではございませんので,○○幹事のおっしゃられた合同会社との,まず払って,求償をするときに善意であれば株主は払わなくていいんだけれども,そうでないときには払わなければいけない……


● 受託者は無過失責任ではない。
● ええ,ない。

● 受託者はそうすると計算違いしたけれども,それはもうやむを得なかったという抗弁が許されるというわけですね。

  それで,次に,その責任を負って求償するときは制約がかかる。その第3に違法な分配をしても,受益者は当然に返す義務はないと理解してよろしいですか。

● 合同会社の分配を受けた社員と同様に。
● それは,書かないと。

● ちょっと書きぶりが,御指摘の趣旨はわかりましたので。
● 書かないとそれはないというふうに読めてしまいますので。

 では,全く合同会社と同じにするという御趣旨ですね。

● ええ,そうです。
● わかりました。

● 原則的には○○幹事と同じで,そもそも反対なんですが,そうも言ってられないような雰囲気を感じておりますので,その範囲内で申し上げますと。


先ほどから工作物責任が問題となっていて,占有者としては責任を負うんだけれども,所有者としての責任というのは制約されるだろうという話なんですが,それは条文の操作としてはどのようなことによって結論が出てくるのかというのがよくわからないわけであります。つまり,限定責任信託であっても所有者であることには変わりがないと思いますので,そうなりますと責任制限がかからない。


責任制限がかかるのはどこなんだろうかと思ったら,1の,ごめんなさい,第12の1の(1)から(4)まで掲げる件についての債務について信託財産のみをもってその履行の責任を負うというところが問題だなというふうに思って12を読んでみますと,第12の1の(1)から(4)までの間に工作物責任は入りそうもないんですよね。


  これは,もし私の読み方が正しいとすると,12を直すべき問題かなという気がします。


● そのつもりでいます。直します。

● それであって初めて,それで12の(5)みたいなのをつけ加えて,第12の(1)から(5)というふうにすることによって導かれるのかなという気がします。


● 前回,第12の資料を御提示したときに,できる限り明確化するように努めるというふうに書きましたので,その(1)から(4)だけではなく,(5)だけでもなく,もう少しふえる。ただ,それをちょっとどこまでできるかという作業をしておりまして,そこの方を御指摘のとおり直す予定でおります。したがって,(7)になるか(8)になるかわかりませんが。

● 大体御議論はこのあたりでしょうか。どうも,今,○○幹事や○○幹事のおっしゃいましたように,原則的にはどうも釈然としないがという御意見は,恐らく法人格と責任制限の分離ができるかどうかという問題と,仮にできるとして,それを信託という制度の枠の中で,特に一般法としてできるかどうかについての御疑念がおありだろうと思います。ただ,両幹事とも,しかし,パブリック・コメントの結果などからしてもこれが大勢であるので,それを前提としてさらに改良する方向を具体的に御提示いただいたというふうに理解いたしております。

  どうもここでの大勢は,そういう消極的な容認論を含めて,この限定責任信託を導入すくというのが多数の意見だというように理解してよろしいでしょうか。


● 消極的にも容認をしているつもりはありません。

● 失礼しました。それでは,消極論もあるけれども,多数は導入に賛成であるというまとめでよろしいでしょうか。


  その上で,この具体的に,例えば公示のあり方ですとか,財産の分配規制,広く言えば債権者保護手続の充実,さらに不法行為債権者をいかに保護していくかという具体的な問題についてさらに検討していただくということになろうかと思います。


● では,最初に戻りまして,時間の関係もあって1個ずつできるところまでやりたいと思います。

  最初,受託者不適格者でございますけれども,1つは,破産者を除外し,その余を維持するという提案に対して,多くの賛成意見が占めております。少数意見のうち,破産者は一定期間は受託者となれないとすべきとの意見ですとか,被補助人は受託者となれないとすべきとの意見については,資料に記載したとおりいずれも採用しないこととしたいと思っております。

● では,1つずつということですので,第4について何か御意見はありますでしょうか。

  これは前にも出てきておりますし,特に御異論がないということで進めさせていただいてよろしいでしょうか。


● では,次,第22でございますが,これはちょっといろいろあると思いますが。資料ですと14ページになります。

  まず,提案2の(1)に関しまして,パブリック・コメントの結果ですとか,前々回の審議を踏まえまして,受託者は原則として受任者に対する選任,監督責任を負うにとどまるとの考え方を採用するとともに,提案3において現行法26条3項は削除するということを提案しております。


  この点に関しまして,パブリック・コメントでは,受益者保護の見地から現行法26条3項の削除には反対するという意見がございます。しかし,資料15ページに記載しておりますが,委託できる場合を実質的に拡大するとともに,受任者に受託者と同一の法定責任を負わせないとした方が全体としては受益者の利益にかなうと,現代社会では特にそのように思われるということ。


26条3項を削除しても,毎回言っておりますが,なお受益者の利益を保護するための方策は種々あるということ。

  あと,信託のスキームでございますが,やはり受任者の責任は受託者が全面に出て追求し,受益者は受託者の責任を追求するという方が適合的であるということなども考えまして,消極説といいますか,この反対意見は採用しないというふうにしたいと思っております。


  2以下は五月雨的なことでございますが,1つは,提案1の規律のもとでも受託者の自己執行が必要となる場合はもちろんあり得るということは含意しているつもりでございます。


  それから,他人の範囲については,会社の従業員のように独立性のない狭義の履行補助者は除くということのほかは,例えば法律義務や外貨建て資産の保管事務などの専門的な事務の委託を受ける弁護士ですとか,保管業者,あるいは機械的な事務の委託を受ける運用業者,いずれのようなものでありましても,およそ信託事務の内容,性質を問わずその委託を受ける者すべてが含まれると解しているものでございます。


  それから,3番目,少なくとも信託法のもとではたとえ全部であっても,相当である場合には許容し得ると考えております。これに対しまして,信託行為によって委託を一切禁止されている場合はどうかというのは,それにもかかわらず信託目的に照らして相当である場合に該当する余地はないのではないかと考えているところでございます。


以上につきましては,資料15ページから16ページについて記載しているところでございます。
  以上です。


● 1つずつということになりますが,第22についていかがでしょうか。

● この規律で賛成なんですけれども。1つ質問させていただきたいのは,通常,第三者が過剰な負担または信託行為以外で負担をするのは大変じゃないかという議論からされていますけれども,積極的に第三者が事務委任契約の中で同じ義務を負うということを認めた場合,なぜそんなことを認めるかというと,受託者と同じ義務を負うことによってその効果といいますか,固有財産,要するに受任者の債権者から信託財産を守ることができるということになると思うんですけれども。


そういうところはそういう効果をもたらすというような議論は可能なのかどうか。要するに,信託財産が第三者のもとにいっても信託財産として守られた方がいいという観点からの質問なんですけれども。


● おっしゃる意味は,第三者というか受任者が直接受益者に責任を負うというような契約を受託者と結べるかということでございますよね。


● そういう類型もあるかもしれませんし,第三者と受託者の間が通常ですと事務委任契約のようなものを結びますけれども,その中で受託者と同じ義務を負いますと。その効果として受託者として同じ効果を享受できるかという。


● 恐らくそれは第三者のためにする契約と同じように考えれば,そういう契約はできて,あとは受益者がその利益を享受する意思表示といいますか,享受して,受託者に対する責任と同じ責任を受任者に追求できるということになるのではないかと考えておりますから,それはできるというふうに事務局としては結論しております。

● では,信託財産として受任者の債権者から守られる。
● 受任者の債権者ですか。


● はい。事務委託を受けた方ですね。
● 受任者の債権者はそもそも信託財産にかかってこれないですよね。


● ええ,かかってこれないけれども,受任者名義に,そうか,名義とはまた別
ですかね。名義も移ってる場合という前提で議論しちゃってるんですけれども。


そうですね,事務処理だけであれば名義は移ってないかもしれませんね。名義が移っている場合という前提で,カストディアンとか有価証券ですと占有者が処理者となるケースもあり得ると思うので,その場合に信託財産としての。


● 所有者となってしまうと,ちょっとそれに信託財産としての効果を付与して受任者の債権者の責任の追求から免れるというのは難しいんじゃないかという気がいたします。


● はい。
● ほかに。○○関係官。

● またかとお叱りを被るかもしれませんけれども,あえてちょっとすみません。今,○○幹事が非常に注意深く信託法の世界ではとおっしゃっていただいたので,それでフットノートをつけさせていただくようなものですけれども。


私どもといたしましても,現在非常に業務の分業化,専門化が進んでいますので,この信託法の中の世界で信託事務の処理を第三者に委託することができれば実質的に拡大しておられる点については,これは賛成いたします。


  ただしというところが,私が申し上げなきゃいけない点なんですが。この業法との立て付けの世界で私ども信託業法の中の世界で申しますと,やはり委託先と直接の契約関係のない受益者の保護を徹底するという観点ございまして,受託者の責任を事務処理の委託に関して軽減するというのは私ども大変慎重に考えておりますという注釈だけでございます。

● ありがとうございました。
● もしかしたら今のところに関係するかもしれないこと,一言なんですけれども。御提案の中身ですと16ページの真ん中あたりで全部委託がされているということで,それで選任,監督責任ということになっているわけですけれども。それで現行法の26条3項を削除するということの御提案が一緒に出てきているわけですけれども。全部を委託するといったときに,その委託を受けた先が全くその責任を負わないというようなことで果たしていいのかと。ちょっとそれは行きすぎではないかというような気がしております。

  ちょっと多少弁護士会の中でも議論しましたけれども,ちょっとやはり行きすぎではないかというふうな意見が出てきています。ただ,これは信託法でどこまで手当をするのかという問題かなという気も,先ほどもちょっと業法のお話をお聞きして思いましたけれども,ちょっとこの点は個人的には信託法でもし手当ができるものであればきちんとした方がいいのではないかなというふうに思ったりしますけれども,切り分けがということであればほかの場面に委ねるものかとも思います。ちょっとその点だけ。


● それでは,○○幹事。
● 2点だけで,1点は,どちらも確認なんですが。14ページで二重線が引いてある部分なんですが,これは前回ちょっとありましたが,証明責任をどちらが負うかで,この書き方はやはり受託者の方が選任及び監督について過失がないことについて証明責任を負うという当初の考え方を維持しておられるというふうに。

● それはその考え方でございます。
● そう理解してよろしいわけですね。それが1つです。
  それから,もう1点は,16ページの他人の範囲のところで,狭義の履行補助者はこの他人には入らないということを書いておられて,これは狭義の履行補助者に関しては一般法理によるという御趣旨なんでしょうかということですね。


● それはそういうことです。
● ただ,その際にはちょっと注意しておく必要がありますのは,結論は全然変わらないんですが,従来は自己執行義務があって代理人と別に狭義の履行補助者を考えることにはすごく大きい意味があったんですね。つまり代理人は使ってはいけない,しかし,狭義の履行補助者は使ってよいという意味で,従来の信託法26条1項の例外を認めることによって広く他人を使えるようにしようというような意図でこの区別が行われていたわけですね。

ところが,今回は26条1項を変えますので,基本的には使えるという方向へ移るわけですよね。そうすると,その限りでは,つまり26条1項限りでは代理人と狭義の履行補助者を区別する必要というのはそれほどなくなったと,そういう意味ではこの区別は26条1項に関してはそうする必要はないのですが。ただ,恐らく違いが出てくるのは,維持されるというか,26条2項の方で選任,監督の過失についてのみ責任を,選任,監督について過失がなければ免責されるというようなルールが適用されるのが代理人であって,狭義の履行補助者に関しては原則として狭義の履行補助者の故意,過失について受託者は責任を負うのだと,そこにのみ恐らく代理人というか,他人と狭義の履行補助者を区別する意味が出てきたのだと,そういうことをちょっと確認しておく必要があるかなと思うんですが,いかがでしょうか。


● おっしゃるとおりの趣旨で,そこだけ違いが出てくると理解しております。
● ほかに。22については。○○幹事。


● 16ページの(4)なんですけれども,相当な場合であっても委託することができないという定めがあるときに,いや,相当な場合であるといって委託ができないという結論自体は全くもってそのとおりだろうと思うのですが,この間にはさまれている,前回との関係で間には有力説として,やむを得ない場合には代理人使用が認められるという考え方がはさまれて,最後,しかしながらで否定されているのですが。相当な場合とやむを得ない場合というのはそもそも別ではないかと。

およそ他人に委託できないということが明らかにされている場合であったら,やむを得ないという場合にまでそれが妥当するのか。あるいはそういうときにも禁止するような条項が果たして効力を持つのかというのは別途議論があり得るように思いますので,ちょっとここの論理関係と相当な場合とやむを得ない場合との取扱いというか関係というか,どうお考えになってるんだろうか。単純に「まず」以下のパラグラフがなければ余り疑問を持たないんですけれども,少し疑問に思いましたものですから。

● 御趣旨を確認させていただきながらですけれども。仮に,ここに書いてございますように,相当な場合であっても委託することができないという定めがある場合に,相当な場合に当たるということで委託することができると解する余地はないとしているこの結論自体はよろしい,一般論としてよろしいのだけれども,その契約の解釈次第によってはやむを得ない場合にまで絶対やってはいけないというような契約の趣旨の理解という必要はなくて,ものによっては契約の趣旨に,この規約の解釈によれば,やむを得ない場合には確かに信託行為の,具体的に列挙はしてないんだけれども,黙示の合意を含めて考えれば,やむを得ない場合には委託できるというふうに考える余地がある場合は委託できるというふうに考えてよいのではないかという御指摘であれば,そうではないかというふうに思います。


● これは信託行為に照らして相当ということになるんじゃないでしょうか。その程度の信託行為の定めであれば。やむを得ないときには,しかし,委託していいよというのはそれは相当であるということで読みきれるのではないかという気がいたしましたけれども。

● そういう解釈もあるかもしれません。ただ,そうであれば,多分ここの説明はちょっと正直わかりにくいのではないかと思いますので。記載は少し検討していただいた方がいいかもしれません。

● いらないことに口はさんで申しわけないんですが,この16ページの一番下の上記の指摘というのは1段落目の指摘のことですよね。
● そうです。


● そうですよね。多分これ2段落目って後から入ったんじゃないですか。1段落目と3段落目が素直に文章が続いているんですよ。それで,多分やむを得ないというときにはこういう見解もあるから,最後の防波堤があるよねというそういう話が真ん中に入っちゃったんじゃないかと思うんです。すみません,変な勘繰りを入れてしまいました。

● 以上については幾つか御確認的な質問が出ましたが。
  ○○委員。

● 確認的な。第45の方で受益者の権利,信託行為によって奪えない権利とずっと,受託者に対する権利が出てきますよね。例えば帳簿閲覧請求権とか名簿の閲覧請求権,いろいろ説明ありますけれども。信託事務処理の一切を任せるといっても,ここに書いてあるようなものについては受託者は当然義務として負ちゃっていますし,任せちゃった後でも義務を負っているわけですから,結局は任せられないというような趣旨なんでしょうか。いろいろな状況において事務処理任せる状況でつくると思うんですけれども。受託者に最後にどの程度のものが残るのかなというところをちょっと確認したくて質問するんですが。

● どんな義務が最後に残るということになりますでしょうか。


● そうですね,この45の義務の中で例えば見ると,帳簿閲覧請求権がありますけれども,帳簿をつけるという義務があるとか,受益者の名簿閲覧請求とか,そのあたりですかね。説明義務も説明できないといけいなと,これは任せておいても説明しなきゃいけないんでしょうけれども。この中で拾っていくと,任せた後にどうなっていくのかなみたいなのがあって,少しは残るという前提と理解しているんですけれども。

● 契約当事者としての違いはもちろん残ると思うんですが,信託法上の義務はこの考え方ですと何か帳簿の例えば作成義務でも委託できるような気がするんですけれども。だから,あえて特に残さないという選択肢もあり得るのではないかという気がするんですが。

● なるほど。そうすると,この単独受益権で強行法規といってももともと信託行為とか相当性ある場合は任せているわけですから,請求しても……


● 受託者についてはですね。まあ,重畳的に義務を負うみたいに考えれば受託者に請求,例えば帳簿であれば,第三者にはつけてもらっているけれども,残りみたいなものが受託者にもあって,少なくとも閲覧責任は応じるというような義務が残るのではないかということですね。そう言われればそういう気もしますけれども。ちょっとはっきりわからないですね。


● 場合によっては全部任せちゃった方が妥当なケースもあるかと思いますけれど。


● 申し上げるほどのことではないのですが,恐らく義務自体を負っているので,帳簿閲覧請求権,請求があれば対処しなくちゃいけませんということですから,その請求があったときに対処できる体制はもちろんとっておかなくちゃいけないんですけれども,あるかどうかわかりませんけれども,作成行為自体は他人に任せた方が容易にできるというのであれば,任せた上でその結果は常に自分の手元に適時適切に保存しておくというだけのことを多分,今。

● そうですね,それすらなくなるわけじゃなくてということですね。
● ええ,それは義務との兼ね合いですので。

● 受託者が何を委任できるかというのと,それから受益者の権利が残るのか。その反面として義務が残るのかということの整理だと思いますが,大体今のような説明でよろしいでしょうか。

● 1点だけ,確認なんですが。この16ページの御説明ですと,信託事務処理のを全部を他人に委託するというふうに信託行為に書いた場合にも,相当でない場合にはそれが認められないということがあり得るという理解を前提にされているんでしょうか。それとも,書けばできるという前提なんでしょうか。ちょっとそこだけ確認させていただけますでしょうか。

● 書いてあれば委託できると。それ以外に相当な場合というのか別途あるという理解でございます。
● 書いてあればできると。
● 書いてあればできると,はい。


● わかりました。
● 御確認,御質問,多数出していただきましたが,基本的にはこの第22の原案自体はこれでよいというように承りました。その上で,細部をさらに検討していくというように承りましたが,それでよろしいでしょうか。
  それでは,第22はそういうことで了承ということにいたします。

● では,第26の事項につきましては異論がなかったので,原案どおりというふうにしたいと思っておりまして。利益吐出し責任についてはその議論の状況,今後の検討を踏まえて検討したいということでいかがでしょうかということでございます。
● 第26については試案のままということで。

● 試案のままで,異論は全くなかったものですから。
● では,よろしいでしょうか。
  では,これも了承ということで。
  では,大分長時間御議論いただきました。もう時間も相当過ぎておりますので,本日はこれで閉会といたします。
  どうもありがとうございました。
-了-

・・・・・・・・・・・・・・・・・・


2016年加工編
法制審議会信託法部会
第24回会議 議事録

第1 日 時  平成17年11月4日(金)  自 午後1時00分
                       至 午後6時50分

第2 場 所  検察庁17階東京高検第2会議室

第3 議 題  信託法の見直しについて

第4 議 事 (次のとおり)
議        事

● それでは,時間になりましたので,これから法制審議会の信託法部会を開催したいと思います。


  今日もたくさんの議題がございますが,大変申しわけございませんけれども,この間と同じように,私,5時から授業がありますので,いったん,5時で休憩して,その後○○委員に座長を引き継いでいただきたいと思います。
  それでは,きょうの資料から,○○幹事,御説明お願いします。


● では,本日用の資料,検討課題の(18)というものでございますが,4点ほど修正といいますか訂正がございます。


  一番最初は,既に皆様のお手元にメールか何かで届いたかと存じますが,詐害信託の取消しについて,当初の資料から差しかえたものをお配りさせていただいております。それが第1点でございます。

  それから,もう1つ差しかえという意味では,当初の資料では36ページ以下の受益権取得請求権についての資料も差しかえさせていただいております。
  

あとは誤記の訂正が2カ所ございまして,1つは,資料の28ページになりますけれども,報酬請求権のところの3の(1)でございますが,第32の1(3)及び(6)となっておりますが,これは(7)の間違いでございますので,御訂正いただきたいと思います。
  

それから,あともう1つは,資料の31ページと35ページのところで,「受益者名簿の閲覧等請求権」という文言が使われておりますが,これは「他の受益者に関する情報を求める権利」というように,第24に合わせて訂正させていただきたいと思います。
  以上が,資料の修正,変更でございます。


  それでは,きょうの進行でございますけれども,今回の資料,それから前回の積み残しの資料とございますが,きょうは,会場の都合で,何とか延長できるということですので,今後の都合もございますので,積み残しも含めて全部できればいいと思っておりますので,ぜひとも御協力をお願いいたします。
  進行につきましては,事務局の方から,まず議論をいただいた方がいいと思われるものから,順次分けて行わせていただきたいと思っております。

● では,お願いします。
● それでは,まず一番最初,本日の資料になりますが,信託の意義等についてという方から始めさせていただきます。


  この第1といいますのは,信託の意義及び効力発生時期に関する試案の第1と,それから委託者みずからが受託者となる信託,すなわち信託宣言の有効性に関する試案第68の双方に相当するものでございます。


それで,信託の意義と効力発生時期につきましては,賛成意見が大多数を占めましたので試案の内容を実質的に維持しております。
  


また,信託宣言につきましては,パブリック・コメントによりますと,民事,商事双方の分野において,多様な利用可能性・ニーズが指摘されておりまして,信託の目的ですとか信託当事者の属性に注目して許容できる範囲を一定に制限するということは,相当ではないと考えられます。

  そこで,信託宣言を一般的に許容するとともに,債権者詐害のために濫用される懸念にも配慮して,次のような種々の措置を講じる予定でございます。
  

第1に,提案1の(3)のとおり,設定方法の特例として,常に公正証書等の書面によってしなければならないものとしております。


  それから,2番目に,提案の2の(3)のとおり,効力発生時期の特例といたしまして,一般の信託のように,合意または遺言のみによってではなくて,公正証書等の証明力の高い文書が作成された時点,または受益者に対する確定日付ある通知がされた時点としております。


  第3に,その下の「※」のとおり,信託宣言におきましては,詐害信託取消しの要件を緩和することとしております。


  第4に,資料ですと4ページの上段になりますが,仮に受益者の定めのない目的信託を認めることといたしましても,信託宣言による目的信託の設定につきましては,特段のニーズも指摘されておりませんこともあり,認めないこととしたいと考えております。


  そのほか,4ページのその次に書いてございますが,公益的見地から,会社の解散命令の制度に準じた,いわば信託の終了命令の制度を導入いたしまして,これも,信託宣言の濫用防止にも資するものと考えております。


  とりあえず,以上について御審議いただければと思います。

● それでは今の信託宣言を含めまして,信託の意義につきまして御議論いただきたいと思います。いかがでしょうか。


● 信託宣言について,意見とそれから確認をしたいと思います。
  銀行界としましては,パブリック・コメント意見の際に意見集約しましたところ,試案の乙案ないしは丙案,つまり,何かの形で信託宣言を導入するということに賛成というのが多数でございました。


  この立場から,総論的には本案は条件付きであるが信託宣言を導入するものであるということと理解しておりますので,非常に評価しているということが言えます。


  その観点から,では実際に,条件が一体どういうものが適当なのかということについて,先ほど御説明あったところですけれども,ちょっと整理いたしますと,まず第1に,信託宣言の日付をさかのぼらせない等,法律関係の明確化のために書面化を行うこと。


  それから2番目に,詐害行為に対する対応として,その救済コストの低減による一定の抑制と理解しております。本点は,非常に難しい論点でありまして,信託宣言の推進と,それから弊害防止のバランスをいかに図るかということでありまして,いろいろ考えるところあるわけですけれども,仮にその信託宣言を推進する立場に立った場合に,まず述べました,書面化につきましては,中間試案の段階での案,つまり公正証書等ということでございましたけれども,それとの比較においては,確定日付による案ということも付加されておりまして,こういった,これは公正証書よりも費用及びその手続も非常に簡単でございますので,そういうところでいきますと,例えばエスクローのように,小額,迅速性を要求する取引にも利用されやすくなったということで,これも一定の評価ができると思います。


  問題は,ここに2のところの「※」のところで書いてあります点でございますけれども,これは特に流動化を利用する立場から,これは正当な流動化だということとしても,債権者の行為によって,キャッシュフローが一時とまってしまうということの懸念がありますので,そうしますと,倒産隔離性の観点から,格づけ機関等,投資家がどう判断するのかというところは,ちょっと非常に気になるところでございまして,その点,慎重に検討をいただきたいと思っております。
  

そこで,質問でございますけれども,2つございまして,1つは,この「※」の規律でございますが,これ第3の詐害信託の規律との関係はどうなるのかということでございます。


  この案でやりますと,例えば受益者が善意の場合では,これはどうなるのかということですが,これは,私思うに,詐害信託の本則第3が適用されると。


したがって,取消しの対象にならないという,そういう理解でおりますけれども,つまりこの第1の「※」のところと第3の関係を教えていただければと思います。


  2つ目のご確認のところですが,ここで「※」のところの上から4行目のところで,「受益者等による異議の主張があったときは」ということで,「等」という言葉がございますが,この「等」には何が入るのか。


具体的に,受託者というのは入るのかどうかということでございます。つまり,もしこれが受託者が入ったとすると,例えばその受益者に対する善管注意義務であったり,または場合によっては,信託行為によって差押えがきたとしても,受託者としては迅速にそれに異議を申立てるということをした場合には,例えば流動化において,そのキャッシュフローがとまってしまうことの問題を極小化することができる。


つまり,受益者からの請求を待つまでもなく対応することができるというふうに思うわけですけれども,この点,受託者が「等」に入るのかどうかということについてお尋ねしたいと思います。

● それでは,ご質問の,まず1点目でございますけれども,これは,前も御説明しましたとおり,訴訟を要しないという点で,特殊性あるわけですけれども,それ以外の点につきましては,基本的に第3と同じ規律になってきますので,受益者が善意であれば,この執行に対しては止めることができるということになると考えております。


 それから,受益者等の「等」の意味でございますが,これは御指摘のとおり,受託者も入りますので,受託者が異議を言って,とりあえず止めるということができると考えております。

● ありがとうございました。
● この信託宣言のところの,この簡易な,いわば詐害行為取消しを裁判でやらなくても簡単にできるというやつと,詐害行為本来の規定との関係というのは,確かにちょっとわかりにくいところありますけれども,今の説明のとおりですね。裁判でやらないところ以外は詐害行為取消権のところの規律が,全面的にかぶると。

  ほかにいかがでしょうか。


● 信託宣言のところで,2点ちょっと確認させていただきたいんですけれども,1つは,信託勘定でやっている信託は,二重信託ですけれども,前回,試案の方ではそれの規律があったかと思うんですけれども,今般については,なくなっているということは,それは,信託宣言でないというふうに理解したらいいのか,それとも,信託宣言なので,同様の様式を整えないといけないということなのか。


  私どもの方は,こういう規律になったとしても以前の民事局長の回答というのは生きているというふうに理解しておりますので,そういう方向でお願いしたいということであります。


  2点目は,信託宣言で,登記登録制度のある財産については,登記登録制度というのは創設されるのかどうか。これは創設されるべきだと思いますけれども,その2点について,ちょっと確認させていただきたいと思います。

● まず第2点目の方から先ですけれども,登記については,当然信託宣言に合わせて整理する方向で検討を進めております。


 それから第1点目の方の,二重信託の関係なんですけれども,今現在実務でよく行われているそのマザーファンドをつくってというようなあたり,あのあたりの実際の法律構成がどういうあたりなのかというところを,また少し教えていただきながら,もう少し検討をした方がいいのかなという感じでおりまして,つまり,本当の信託を,そのたびに設定しているというふうに見るべきなのか,また別の見方があり得るのかなど,ちょっと実務の方の実際の仕組みの方をよく見てみないといけないのではないかなという気もしているところでございます。


● よろしいでしょうか。
● ご相談させていただきます。
● ほかに。

● 導入について賛成です。パブリック・コメントでもそういうことなので,ほぼ明らかではないかと思うのですけれどもちょっと1点確認をさせていただきたいんですが,信託宣言において委託者兼受託者がみずから受益者となることを指定するということも,もちろん許容されるという前提でよろしいでしょうかということですかね。


  あとパブリック・コメント,補足説明の方に弁護士の場合とか,そこら辺出ていませんか,金銭を預かった場合のことが出ていますけれども,そういう多様なニーズというものはいろいろと考えられるのではないかと思います。

  あと,事業を担保にするというようなこともこの信託宣言によって非常に可能になるのではないかと。ですから,まだまだいろいろ,パブリック・コメントによって新しい用途とかいろいろ例が記載されておりますけれども,そのほかにもいろいろとこの信託の転換機能というものと組み合わせますと多様な用途があるのではないのかと思いますので,導入について賛成です。


● 1点目の御質問の点ですけれども,おっしゃるとおり,委託者,受託者,受益者が同一人というものも可能と考えております。


● こちら資料の4ページに,信託宣言に対する,消極に考える考え方に対する基本的な考え方,御説明いただいておりまして,大変わかりやすくて感謝をいたします。


  他方,私どもといたしましては,やはり3つの論点に分けてこの信託宣言に関する,いわば懸念というものをちょっと述べさせていただければと思います。


  1点目でございますけれども,これは具体的に言うと,4ページの下から8行目ですけれども,私ども念頭に置いておるのは資産流動化スキームの場合なんですけれども,信託宣言で,資産流動化がされた場合に,やはり私どもといたしましては,資産の裏づけのない信託受益権,あるいはその資産を過大に評価した信託受益権を販売される恐れはないのかという,そういった懸念を持っておりまして,こちらに書いていただいておりますように,子会社株式の売却とどこが違うのかという論点もあろうかと思いますけれども,会社法では,会社設立に伴うガバナンス等が発揮されるわけでございまして,そういった意味では,この信託宣言では,特に資産流動化のスキームに照らしてみれば,いわば構造的に,資産の裏づけのない信託受益権等が発行されるこの恐れを内包しているのではないかという懸念がございます。

  それから2点目でございますけれども,これはページ4の一番下のところでございますけれども,私どもといたしましては,信託宣言において,信託設定時に,固有財産から信託財産への移転が明確に,本当に行われるのかどうかという心配をもう有しておりまして,例えば,その信託期間中に信託財産に帰属すべき財産が,第三者に二重譲渡される恐れがある場合に,具体的にどのような措置が講じられるのかといったことを心配しております。


  ここに御説明いただいておりますように,債権譲渡等につきまして,第三者や対抗要件は確定日付ある通知承諾でいいんだということで,ここでも具体的に言うと,前のページの2の(3)の②で,例えば確定日付ある証書による信託の通知というような措置が講じていただいておられるわけですけれども,本当にこれで足りるのかどうかということを心配しております。


  その第2点に関連するポイントで,例えばその信託の設定時に,固有財産から信託財産に財産が明確に移転したかどうかについて,例えば第三者の検証を入れるというような補完する措置が必要なのではないかなというふうに考えております。

  それから第3点でございますが,二重譲渡につきましては,債権には帳簿を備えて分別管理義務を課しまして,ちゃんとやるということでありますし,善管注意義務違反,忠実義務違反を問うていけばいいと,違反した場合にはですね,ということも考えられようかとは思いますけれども,他方,その信託行為で別段の定めをしていればそれに従うという,いわば任意規定化の流れがございますから,その信託宣言の場合,こういった別段の定めで善管注意義務,忠実義務等について緩和が可能ということでございますので,果たしてこれは本当に大丈夫なスキームであろうかということについて若干懸念がございまして,以上,この3点,述べさせていただきます。

  以上です。

● 3点,ないし,あるいは4点目もあったかもしれませんけれども,これについては。
  では先にどうぞ,○○委員。

● 今ちょっと,流動化に関連して資産の裏づけがないとか,もしくは資産に比べて過大な信託受益権が発行されてしまう可能性があるということの御指摘をされたかと思うんですけれども,確かにそういった御懸念はあるのかもしれませんけれども,実際に流動化をやっている立場からしますと,小口もしくは私募的なものであれば別ですけれども,一般に我々の方として,率先している多額で多数の投資家向けに発売,販売するということでのスキームをやる場合については,基本的に,格づけ機関等の第三者を入れて,格づけをとってやっておりますので,その中で資産の裏づけ等がないかどうかというのは当然のチェックがされますし,今回のスキームの中でも我々としては一定の要件の,全く条件なしでの信託宣言というのは希望はしておったんですけれども,確かに一定の懸念はあるので,今回,公正証書等でもって設定の日付とか設定事実が明確にされるということもございますし,この要件のもとであれば,先ほどのような御懸念というのは非常に少ないのではないかなというふうに思っておりまして,流動化の観点で,先ほど言われた第1の観点の部分は,ちょっと当たらないのではないかなというふうな感想を持っております。


● では,どうぞ。同じ関連でしょうか。
● その関連でございます。
  経済産業省といたしましては,この信託宣言の制度つくるということ自体について,基本的な条件を課することなく認めるべきだという意見を出しておりまして,その点について,あまり,基本的には考え方変わっていないんですが,というのは,少なくとも我々の理解しているところ,現在の消費信託の多くというというのは,自益信託ですので,そういった意味で,そもそも詐害行為について,どこまで懸念する必要があるのかというところについても若干疑問を持っております。
 

 ただ,いろいろと御議論をいただいておりまして,特に債権者保護とのバランス等々,いろいろな関係者の利益保護というのは重要な課題だと思いますので,少なくともその公正証書等の客観的な形式要件を課すると,この点については賛成です。


  それで,他方で,この詐害信託取消しについて,若干,非常に,特例的な取り扱いを設けるということについては,ちょっと我々,当初のパブリック・コメントを出した時点の検討との関係で言うと,若干,忸怩たる思いというか,あまりもろ手を挙げて賛成というわけではないのですけれども,ただ他方でいろいろな懸念もありますし,これをもって信託宣言自体のクレデビリティが下がるということがあってはいけないと思いますので,そういった意味では,こういった厳しい特例的な扱いをされるということ自体については,やむを得ないのかなというふうに思っております。


  それで,ただ,他方で流動化スキーム等々については,プロではないんですが,ただ一般論として申しますと,そういった受益者への空売りのリスクとか,そういった御指摘だと思うんですけれども,金融庁さんからの御提言というのは。


しかしながら,この資料にもありますとおり,まさに子会社を設立して売却する場合とどこが違うのかという点は,ございますし,会社法のガバナンスという御議論もあるんですが,ちょっと必ずしもここにそこがきれいにパラレルに,対応しているのかというところも疑問ありますので,それほど,会社組織の場合には,保護が全うされていて,こちらの信託法のこの新しいスキームで,その点についての手当てがされていないとまでは,われわれとしては言えないのではないのかなというふうに思いますので,そういった意味では,あまりそういった点の懸念を強調されることというのは,必ずしもよくないのではないかというふうに思うところであります。


  それで,一般論として,当然,受益者の保護という観点ももちろん重要なことだと思うんですけれども,ただ,この信託宣言の場合は,これちょっと信託業法の規制ですので,基本的には金融庁さんの話だと思うんですけれども,ただ,信託宣言の場合,あくまでも委託者と受託者は,これ同一,定義上,そういうことになっておりますので,そういった意味からすると,受益者保護のみという観点であれば,例えばいろいろな大衆,一般投資家保護という観点のためには,現在であれば証券取引法の規制がありますし,また,現在金融庁の方で,より一般的な,横断的な投資サービス法というのも検討されていると聞いておりますので,そういった意味で,必要があれば,むしろそちらの方で機能的に対応されるのが望ましいのではないかなと思いますので,あまりこの信託宣言について,そういったリスクを強調して,あまり抑制的に,規制的に制度を設計すること自体に,非常に懸念がございますので,その点申し上げたいと思います。
  以上です。

● どうもありがとうございました。
  では,ちょっと先に,いろいろな委員の方がこの点御意見がおありなので,○○委員,どうぞ。


● 私も先ほどの○○関係官からの御意見に対しては,ちょっと異論がありまして,ざっくり言って,資産の裏づけがない場合があるかもしれないではないかということについては,やはりそれは,委託者なり受託者なりが,同一人物ですけれども,きちんとしたことをやっているかどうかということは,例えば,事業者間で行われる,プロ同士で行われるといいますか,そういう中では,ちゃんとそういう確認が行われた上でなされている。

  例えば,子会社をつくって株式の譲渡のときだって,子会社の中身がどうか,ちゃんとした資産なり営業権みたいなものを持っていて,その株式の価値に見合うものを持っているのかどうかというのは,ちゃんと確認の上,譲渡を受けるということをやっていますので,少なくとも事業者間,プロ間あるいはこういう民事基本法というレベルでは,そういうことを前提にした上での規制,ルール化ということでいいのではないかなと思います。


  そういうことができない,そういう信託の中身について,きちんと精査することができないような一般消費者向けといいますか,そういうものについては,今度一般消費者保護の観点から,保護をすべくどういうルール化をしていくかというのは,それは別の視点からあるかとは思いますけれども,この民事基本法という意味では,現在ここで御提案いただいている枠組みということでいいのではないかな,十分なのではないかなというふうに思います。
  以上です。


● どうもありがとうございました。
  ○○委員もどうぞ。

● 特にお話ししないでおこうと思ったんですけれども,いろいろと御意見がありましたので,ちょっと一言だけ申し上げたいと思います。

  二重譲渡であるとかについての弊害のお話が○○関係官の方から出まして,私自身はやはりかなり類型的にある話なんだろうと,債権については非常にやりやすいものだろうと思います。

  ここに書かれているのは,子会社を売却するときの話というものの従前のやり方とは全く違うと思いますので,ですから,私自身の考え方としては,ここに書かれているような規律があったとしても,弊害は防止し得ないのではないかと。

  それで,基本的には反対なんですが,とは言うものの,皆様方もこの方向でということであったとすれば,ここにつきましては,まさに○○関係官がおっしゃっていますので,信託業法の方で,例えば,兼業規制であるとか,あとは一般事業会社が参入する場合については,当然,業であるわけですから,業法の規制をかけると,そういう形のものをご検討いただければなと。この場の議論にはなじまないかもしれませんけれども,そのあたりのところをよろしくお願いしたいと思います。
  以上でございます。


● 皆さんが議論されている点の追加のポイントなんですけれども,先ほど私の方から,受託者が受益者として指名可能ですかという質問をいたしまして,もちろん可能ですという回答だったと思うんですが,流動化の側面で言いますと,これは受益権を販売するという行為を受託者がすることになりますから,通常の信託と異なりまして,受益者と受託者の間で契約関係が成立いたしますと思うんですね。
 


 したがって,ガバナンスの提示についてはさんざん議論したように,信託法そのものがガバナンスのシステムですから,受益者というのは受益権として独自に,別に契約関係立たなくても独自にいろいろな権利を持っております。


それは,いろいろな信託においてもこういうフロードがあってはいけない。また,受託者に対してちゃんと監視しなくてはいけないという観点からの議論ですけれども。


  それにつけ加え,契約関係に立つということで,先ほど○○委員もおっしゃっていましたけれども,通常の市場取引として契約関係立てるということになりますから,または間に証券会社が介在すれば,そこで引受行為が行われるかもしれませんし,ですから,そういう信託宣言だからフロードが強いということは逆に,委託者が一たん受益権を取得して,それを販売するときの,そこで受益権の中身をかえるということはないかもしれませんけれども,委託者経由で,委託者がもし困窮状態になったときの問題という別の側面を考えると,逆に,より健全な流動化のスキームではないのかなと。

  要するに委託者がみずから信託宣言をするというケースもありますし,私が申し上げているのは,信託銀行に対して譲渡した後に,信託銀行がみずから信託宣言をして,流動化するという,こういうケースもあると思うので,後者の場合,前者の場合,後者の場合にだと,より委託者のフロードから委託者自身の問題が解決できると思いますし,先ほど冒頭言いましたように,契約関係に立つことができるので,受託者,受益者間というのも,それなりに契約の中で規律することはできると思います。

● 御議論の中で,会社との比較のお話がございましたので,会社法を勉強している者の観点からコメントさせていただきたいと思いますが,完全子会社の株式の売却とのアナロジーで言うと,信託宣言を利用する場合に,大きな制約をかける必要がないのではないかと,会社法のガバナンスのようなものはそれほど大きなウエートを置くべきではないのではないかというような御指摘もございましたけれども,会社法的な観点からいたしますと,やはり信託と会社との間には幾つかの大きな違いがあろうかと思いますので,その何点かを御指摘させていただければと思います。

  やはりまず第1は,設立規制でございますけれども,もし子会社を設立するという場合であれば,出資が確実に履行されるようなもろもろの諸制度がございまして,先ほどの財産の裏づけがあるかないかというところにもかかわってくるかと思いますけれども,一応会社法の方では,少なくとも,資本,払い込まれるべき資本に相当する額が実際に払い込まれているかということについては,会社法上,さまざまな手当てがなされている。


  例えば現物出資の制度などは,その代表かと思いますけれども,もしその信託財産を金銭以外で当初信託財産として設定しようというようなときに,その評価について,やはり会社法の方は現物出資による調査等の制度があるという点があると思いますし,その点とも関連いたしますが,資本制度というのがそもそも会社法の方にはございまして,信託には資本制度に相当する制度がございませんので,ここでも,簡単に会社と信託とを比較するということはできないかと思います。


  また,計算書類の公示,それから計算書類に当たっての監査等も,やはり信託と会社とでは違いがございますので,完全子会社の株式の売却,あるいはその募集,発行等が,特段の制約がないからという議論が,ただちに信託宣言に当てはまるかどうかということについては,もう少し慎重に議論をする必要もあるのではないかというふうに感じた次第でございます。

● 今の御指摘のありました,例えば株式会社をつくるときはそうですが,例えば合同会社をつくるときなどにありましては,別に裁判所の選任する検査役の調査というようなものは必ずしも必要ということではないのかと思います。

  それから,○○幹事御指摘のとおり,設立の際に,確かに裁判所の選任する検査役の調査などが必要だということは御指摘のとおりなのでございますが,これは何のためにこれは要請されているかというと,設立した会社に対して,債権を有した債権者の保護ということになっているのではないかと思います。


  したがって,設立して取得した完全子会社の株式をだれかに譲渡するときに,そこに検査役の調査が入って会社を時価で洗い直すというようなことは,特に要求されているわけではございませんで,むしろ設立した会社の債権者の保護という観点から株式会社制度の信頼性という観点から想定されているということかと思いますので,先ほど御指摘があったような,受益権を売却するときに,受益権の信託財産自体がどうかというところ,すなわちここで言うと,完全子会社の株式を譲渡するときにその会社の資産の裏づけがどうかということで,裁判所の選任する検査役の調査が生きているわけではないということだと思います。


  例えば,会社を設立した後,確かに出資資本はそれだけあったということは確保されますけれども,その後,いろいろな営業やってまいりますと,それは資本が棄損したりすることも多々,いろいろあるかと思います。


それはむしろ,その会社法のガバナンスという観点から申しますと,ある会社の株式をだれかに譲渡するときに,その会社法の規定がかかってくるということでは,必ずしもございませんで,それはむしろ一般の私人間の取り引きに,会社法の世界でもゆだねられているとうことなのではないかなと思います。


  ここで書かせていただきましたのは,情報の非対称性という観点が存するから,受益権を売却するときに情報の非対称性というものが存するから,これは認めてはならないんだというような御指摘に対して,信託であれば信託財産ということなんですけれども,設立した会社ということになりますと,事業内容はさまざまですから,普通の信託の場合よりも情報の非対称性というのは高いと思われます。


  それにもかかわらず,そこについて,規制はないではないかという観点から,このような規律を書かせていただいているということかと思います。

  だからといって,では対象を相手にするときにディスクロージャー規制もなくていいかとか,そういう問題はまた別のお話として議論する話でございまして,情報の非対称性が存するから,信託宣言をというような話であるとすると,それは違うのではないかということを,もっと情報の非対称性が高いものを,高いと思われるものを例にして書かせていただいたというのがここの規律の趣旨でございます。

  あと,受益権を売却するときの情報の非対称性という話をいたしますと,別に信託宣言ではなくても,通常の委託者と受託者が別の場合であっても,自益信託であれば受益権を高く売却したいというような欲望には駆られるのが通常であると思います。


資本主義社会であれば自分のものを高く売りたいというインセンティブが働くのは当たり前のことですので。そのときに,譲受人は別に受託者と比べて,第三者なんではありますから,そこについても当然情報の非対称性というのは存在するわけで,そのときに信託財産の中身をチェックしなくてはいけないというときに,譲渡人にここを見せてくれと言うか,第三者に見せてくれと言うかという,言ってしまえばそれだけの違いと言えばそれだけの違いでありまして,どちらの方がどうだというようなことではないのではないかというふうに思います。


  それで,もっとさらに情報の非対称性が高いものと言いますと,例えば新株発行を会社が募集するというようなときであっても,言ってみれば,これは自分の会社の株価を所与のものとして,この株価が適正な価格でいかがですかというふうに応じるわけですけれども,その場合であっても,別にまさに自分自身を売っているわけですけれども,そのときに,第三者のチェックが必要だというような話は,あるかもしれませんが,それはその法的なものとして要求しているというよりは,通常の格づけ機関が,この会社の信頼度はAAAですとかBBですとか,そういうような話の中で解決されていく。その延長線上で同じように考えればよろしいのではないかというふうに提示させていただいているということかと思います。


  二重譲渡につきましても,例えばこれは信託宣言ではなくても,委託者から受託者に対して,例えば動産を信託しましたと,それでところが,動産,委託者から他の人に対して,それを売ってしまいました,信託とは別の第三者に売ってしまいましたとかいうようなことで,最初は信託設定したつもりだったんだけれども,そうでもなかったというようなことは別にあり得ることかと思いますので,特段ここで取り上げるというような話ではなくて,それはむしろ,何か大衆性のあるもので問題があるとすればディスクロージャー規制等々という,そちらの方でちょっと考えられるべきではないかなというふうに書かせていただいていると,そんなことでございます。

● いろいろな議論がありますけれども,先ほどから議論になっておりますのは,ちょっといろいろ局面が違う問題はあったように思いますけれども,1つは,信託宣言という形でもって信託が設定されることが必ずしも明確でないとか,あるいはその時期の問題ですとか,それが明確でないために,債権者が害される,委託者が債権者を害される可能性があるということについての問題点。
 

 これは設立の時期を明確にするとか,書面性を要求するとかということによって明確にし,かつ債権者は簡易な手続でもって詐害行為取消権に実質的に行使することができるという形の手当てをすることで対応しようというのがこのスキームですね。


  それから,先ほどから主に議論されておりますのは,こういうふうにして設定された信託宣言で設定されたときのその受益権の中身,これが,その財産は裏打ちがないとかいうことから来る問題点。


これも先ほど会社との比較などからいろいろな議論されましたけれども,そういう観点からの正当化が可能であると,私はここら辺,あまり専門ではございませんけれども,お話を伺っておりますと,信託と会社の場合の比較の議論はそれなりに意味があると思いますし。


  それから,○○委員が指摘されましたように,受益権の中身について利害関係を持つのは,恐らくやっぱりその後の受益者権を譲り受ける人間だと思いますので,その観点から大丈夫かどうかと,受益者権を買い取る人間自身もチェックをするでしょうし,そこが十分できるようなことになっているかどうかという問題だろうと思います。

  それから,それ以外のもうちょっとテクニカルな問題として,二重譲渡の問題が大丈夫かとか,いろいろな問題があるんだと思いますが,少なくとも二重譲渡に関しては,今,○○関係官が説明したように,恐らく信託宣言特有の問題ではなくて,普通の信託でも二重譲渡,受託者に譲渡して,それがさらに別な人間に譲渡されると,委託者から別な二重譲渡がされると。対抗要件がある財産については,一応,一義的に明確でしょうが,対抗要件のない財産もありますし,対抗要件と言っても動産の場合には明確でないために,実際上,二重譲渡的なことが行われる。

  そういう,大きく分けると3つの問題群があるのではないかと思います。
  それぞれについて,さらにもし御意見があれば伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。


● すみません,ちょっと今回の提案の内容について1つ御確認といいますか質問なんですけれども,まず,信託宣言による信託の効力の②のところで,受益者の1人に対する確定日付ある証書による通知ということは提案されているんですけれども,これ,委託者兼受託者が受益者でもある場合は,自分自身に対する通知で確定日付ある証書による通知でいいのかという点,ちょっと教えてください。
  実務上の,ちょっと問題になりますが。

● 確かに1つの問題かもしれませんね。登記ですと,もうちょっと客観的かもしれないけれども。


● ちょっとそこのところは,まだ十分想定していなかった局面でございますので,ちょっと検討させていただきたいと思います。


● それで,信託宣言に関しましては,民事的な目的含め,さまざまな用途あろうかと思いますけれども,ちょっとあえて,資産流動化,証券化に限定してちょっと申し上げたいんですが,資産流動化,証券化,想定した場合でも,いろいろ使い道があるということは以前からこちらの部会でも私の申し上げてきたところかと思うんですが,今まで指摘されてきている弊害についてちょっと現実踏まえて,私自身の感触申し上げさせていただきますと,資産の裏づけのない信託が設定されるのではないかとか,あるいは二重譲渡の懸念があるのではないかといった御懸念,御指摘というのは,受託者によるチェックが働きにくいということではないかなと思うんですけれども,受託者による牽制,チェックが働きにくいとしても,流動化,証券化の場合は,究極的に受益権をだれかに販売することで,資金調達する仕組みですので,受益者または受益権を取得する人によるチェックというのは,当然入り得るのではないかという気がいたします。

  それと,これも何度か申し上げたことあるんですけれども,現実に信託銀行が住宅ローン債権を証券化する際に,みずから保有している住宅ローン債権を一たんSPCに譲渡して,SPCが委託者,みずからが受託者として信託設定するというスキームでの住宅ローン債権の証券化というのが多々行われているわけですけれども,この場合,委託者はSPCなわけですけれども,もともとその住宅ローンを生み出して,原取得して維持管理してきたのは委託者ということで信託宣言ではないんですけれども,事実上,委託者と受託者が同一ではないかと思われるような資産流動化の取り引きというのは行われてきているということ,ちょっと御指摘させていただきたいと思います。


  それと,信託宣言に関するさまざまな弊害があるがために,今回の御提案ということで,詐害信託取消しの手続を経ることなく簡易にその効果を得られるというようなところなんですけれども,これは流動化,証券化考えた場合に,多少ちょっとこういう条件というのは制約になるかな。


ただ,異議の主張ということで,受益者等が先ほど受託者も含むということだったわけですけれども,これで相当程度緩和されているのではないかと。


  あと,また,指摘されている懸念の,固有財産から信託財産に移ったことが,明確にわかるようなものがないのではないかということなんですが,資産の流動化,証券化考えた場合,ほとんどの場合が債権ですね。


貸付債権等の債権ですし,債権は不動産というものが大多数だと思います。今後,一部に動産というものもあり得るかも知れませんけれども。


  例えば,信託の公示制度を手直ししていくとかですね,あるいは流動化,証券化される資産としても債権が圧倒的に多いわけですけれども,債権に関しては,例えば動産・債権譲渡特例法の手直しによって,固有財産から信託財産に移ることについて何らかの公示制度で,公示制度をもって対抗要件にするというようなことも併せて考えていくことで,手当てはできないのかなというような気はいたしております。

● 最後の点に関連して,ちょっと私も思いますけれども,不動産の方は公示制度をそれなりに検討するということのようでございますが,ほかの公示制度もいろいろありますので,信託宣言をもし設けるとすると,できるだけその部分では対応しなくてはいけないという気がしますね。


  どうしても公示制度はないものが,少し不明確な部分が残って,これはちょっと嫌なところではあるんですけれども,ただこれは信託宣言だから特有の問題ではなくて,信託宣言であると一層わかりにくい感じがいたしますけれども,しかし,理論的には信託宣言特有の問題ではなくて,どこかで申し上げた機会があると思いますけれども,金銭などについても,一体いつ,信託が設定される時期は一応明確になっていますけれども,実際財産がいつ移転するのかなんていうのは,必ずしも明確でないところが残って,ただ,これは申し上げたように,信託一般に恐らく関係する問題なんだろうというふうに思います。
  ほかに御意見があれば。

● 先ほど○○委員が整理していただいた以外の問題でもよろしいでしょうか。
● どうぞよろしくお願いします。


● 2点ございまして,1点は,この「※」の内容についてお教えいただきたいと思います。
 

 3つほどありまして,1つは「※」の権利,債権者の権利というのは期間制限があるかないかということです。


  それから2番目は,委託者兼受託者が死亡するなどして,2つの地位が分離した場合に,この規律は及ぶのかどうかという点です。


  それから3番目は,委託者兼受託者が破産した場合にどうなるのかと。特に倒産隔離との関係で,○○委員からも御指摘があったわけですが,破産の場合の処理について,もしお考えがあればお聞かせいただきたいと思います。
  まとめてご質問してよろしいでしょうか。


● はい,どうぞ。
● 全然流動化と関係ない話なんですけれども,相続との関係でどうなるかということです。遺留分減殺の対象になるのかどうか。


なるとした場合に,いわゆる自益型の場合と,それから他益型の場合とで基準値が変わってくるのかなというような感じもいたしますけれども,その点について,お教えいただければと思います。

● 大きく分けると2つの問題ね。
  最初の「※」のところに関連しての説明としていかがですか。


● 期間制限は,この規定は詐害行為取消権が行使できなくなったときには,この規定はかからない,この規定の適用はないというのが論理的な帰結になるのかなというふうに思います。


  委託者兼受託者が,その後に分かれてしまったような場合についても,このような規律がかかるかという話につきましては,以後,分かれてしまったら,このような規律はかからないということでいいのではないかというふうに思いますけれども。


  あと,正しく御質問を理解したかあれですけれども,受託者が死亡したような場合におきましては,受託者が死亡して,受託者の任務が終了して,それでその受託者交代が起こるということで,別に,受託者の地位を,委託者が相続するわけではないわけでありますから,どなたかほかの方が受託者として選任されて,それで,受益者から見ると,典型的な民事だとすると,例えば,障害をお持ちの方が受益者だったときに,自分の親が受託者だったんだけれども,破産しましたというときに,今度は受託者が,自分のおじさんになるとかいうような形で続いていくということではないかというふうに,とりあえず考えております。

● よろしいですか。今の「※」の部分に関して。

● 破産の関係につきましては,一般の詐害信託取消権についても同様の問題があるわけでございます。それは後日,破産について,まとめて提案するときに規律を提示しようという方向で考えておりまして,基本的には否認権の問題に近いと思うわけでございますが,破産した場合には委託者の破産管財人になるんですか,同じような権利を行使していくことができるということになるのではないかと,今の時点では考えております。


  あと,遺留分減殺というのが,ちょっと私もよくわからなかったんですが,どういう局面で,どういう問題になってくるという御趣旨でございましょうか。


● 委託者の相続人たちが,相続財産が減ってしまったということで,遺留分減殺をしたいと考えるわけですが,そのときに,自益型の場合ですと,受益権が相続財産になるのでしょうから,遺留分減殺の対象にならなくて,受益権を贈与なりしたときに,対象になるのかなと。


  それに対して他益型の場合ですと,信託宣言をしたときに,受益者に対する贈与になるのかなというふうにぼんやり思ったんですが,そういう理解でいいかどうかということです。


● そうなるんではないでしょうか。
  そもそも詐害行為になるかどうかというところも似たような問題が恐らくあると思うんですよね。今までの財産が信託設定されて,受益権に変わっているだけだ。


自益型ですと。そのときに,先ほどもちょっとどなたか御発言ありましたけれども,詐害性があるのかどうかという問題,これはこれでちょっと恐らく信託の中身に関連して,一種の定期預金をしたようなものだというふうに考えると,別に詐害性はないのかもしれませんけれども,非常に拘束性の強いものを,それで設定したなんていうことになると,詐害性が出てくる可能性もあるかもしれないと思っておりますが。

  遺留分の方は,もうちょっと,恐らく単純なのかな。受益権という形で残っていれば遺留分の侵害というのは基本的にないのではないかと思いますが。


● 私が申し上げたのは,そんな本質的なことではございませんで,それは信託宣言特有の問題というよりは,例えば委託者がだれか信託銀行に信託財産を,預けまして,それで受益権をもらって,その受益権を相続人に渡すというときと一般的に他益信託の形で設定したときとどう違うか。


そのときに遺留分減殺の規定はどのようにかかってくるかという問題と全く同じ問題で,検討はいたしまして,○○委員が御指摘いただいたとおりだと思うのですけれども,信託宣言特有の問題ではないということだけちょっと確認させていただいたと。

● 恐らく,今,○○関係官のおっしゃったようなことだと思いますが,事実上,その遺留分減殺にとって,しにくくなるのかなということがあるかないかがまだ十分自分の中で整理できていないところです。


多分,理論的には今おっしゃったようなことになると思うんですが,さらに,これが相続の場合にどうなるかということは,詰めて検討しておいた方がいいのかなというふうに思います。


● それでは,○○幹事,どうぞ。
● 私,個人的には,信託宣言の必要性及び妥当性そのものに疑問も持っておりますけれども,その点はひとまず置きます。


その上で,試案の中身について伺いたいのですが,ちょっと話が難しいものですから,議論をずっと伺っている間についつい自己の世界に入って陶酔してしまいまして,考えにふけってしまって,十分に皆さんの議論を拝聴できていないような気がしますので,ひょっとして出た問題をもう1度繰り返すことになるかもしれませんで,その点は大変申しわけなく思います。

  第1の質問なんですが,先ほどから自益型という話が出ているんですけれども,信託宣言で自益型というのを本当に認めるのでしょうか。もちろん資産流動化等の局面において,一たん自分を受託者としてある財産を取り分けて,それでその後に受益権を販売するという形をとるというニーズがあるというのはわからないではないのですけれども,もしそのときに限って,その自益型というのを認めるというのでしたらば,どのような,今まで信託の終了のところで,受託者が受益権の全部を固有財産で取得した場合には適当な時期で売らないとだめだよという規定があるわけですが,それでは,その信託宣言でみずからを受益者にしたといったときには,それではいつまでそれを持っていてよいのかというのは,この信託の意義等についてという条文案,試案ですが,からはどうもわからないような気がするわけです。

  私個人的には,売却をするために,一たん持つというのならば,信託の効力自体を売却して受益権が第三者になった時点で発生させるべきであって,自分の財産を取り分けて,自分が受益者であるというふうな形の信託宣言を認めるというのには,賛成できません。

  2番目なんですが,2番目,3番目は細かい話なんですが,先ほどから出ております「※」のところなんですが,これは最後の行,「債権者は,当該信託の設定が債権者を害することを債務者が知っていたことを証明しなければならないものとする」というわけですが,これは受益者の善意,悪意は,この場合は問わないというふうなことなのでしょうかということ。先ほど,何か○○委員の方からも出たような気がしますけれども,ちょっと確認をさせてください。

● 今の御指摘で,自益型のものであれば,改正試案の前のときに御指摘もありましたように,○○委員からも御指摘がございましたように,基本的に,債権者詐害にならない方向で活用がされることになるかとは思うのです。


  ずっと委託者兼受託者となって,受益権を持ち続けているということではなくて,これは既に,前回の,前々回かもしれませんが,御審議で御了承いただいたとおり,1年間,だれにも売らずに持っているということになると,その信託は終了するということになりますので,そこと同様の規律がかかってまいりまして,1年以内に売却できなければ,それはその時点で信託は終了するということになろうかと思います。

  例えば,これは諸外国,例えば米国などにおきましても,このような使い方もされるのではないかというふうに理解しております。


  それから「※」のところにつきましては,先ほど○○幹事の方からお答えをさせていただきましたが,受益者の善意というのを受託者が証明すれば,これは他の人に売買したときに,その売買,ある物を買った人が善意であった場合というふうに機能的に同視できるでありましょうから,その執行はとまるという手続で考えております。

● よろしいですか。○○幹事。
● とりわけ,最後の説明に関連するのですが,そうすると,その信託宣言の原則形態というのは自益型なんですか。

  つまり,受益者というのがほかにいるということを前提にすると,その「※」のところの案においても,受益者の話を正面から書かなくてはいけないような気がするんですが,債務者に受益権が帰属して,それがいくのだというふうに考えると,この債務者に同視することができるというふうな理屈が出てくるような,それは棄却するんですが,そうすると,委託者兼受託者兼受益者であるというのを原則形態として,受益者が第三者になるというのをそれのバリエーションとしてとらえていくという,こういう発想になるんでしょうか。

● すみません。ちょっと御質問を正しく理解したかどうかわかりませんけれども,自益が原則であるか他益が原則であるかというのは,それは民事,商事の使われ方で,言ってみれば,国民の皆さんがお決めになることではと,私どもとしてどちらが原則で,どちらが例外というようなことを申し上げるようなつもりもないのですけれども,その場合に,適時適切に債権者,関係者の利益保護に配慮するようにルール整備をしたい。その結果考えたのがこの案であるということでございまして。

  すみません。そんなことを聞いているのではないんだという話かもしれませんが。
● 「※」のルールとの関係。


● ニーズがどちらが原則かという話ではなくて,条文の書き方とか法の定め方として,どちらを原則形態でどちらをバリエーションとして考えるのかと,というふうな形で規定していくのかという問題ですから,国民が決めることではない--国民がもちろん決めるんですが,法律は,利用者が決めることではないような気がするんですが。


● まさに「※」のルールのところがどういう書き方をするかという問題ですけれども,これはだから受益者が別にいる場合には,先ほどの御説明のように,その受益者が善意であるということになると結局取消しができないのと同じように,こちらの簡易な形でもかかっていけなくなると。


受益者が同一人物である場合には,これは恐らく第三者と考えないということになるんでしょうけれども,それはそれで別な扱いをするという,それだけのことなのではないでしょうか。


● 今,○○幹事が指摘された点と関係する点で,まず第1点申し上げさせていただきたいと思いますが,この信託宣言で,例えば流動化のようなニーズを考えているときには,たとえ一時的には委託者イコール受託者イコール受益者となるにしても,いずれはやはり第三者たる受益者が出てくるということを念頭に置いているはずではないかと思われます。


  逆に言うと,委託者イコール受託者イコール受益者で,ずっと最後まで行くようなものというのは,考えられないのではないか。そんなことのために信託宣言を認める必要は全くないのではないかと思いますので,そういう意味では,この自益か他益かという言葉自体が非常にコントラバーシャルだというのは承知しておりますけれども,信託宣言の場合は,やはり受益者は別に,最後はいるんだという,こういう前提で議論を進めないといけないのではないかと思いました。

  ちょっとそれとはまた関係なく,3点,申し上げさせていただきたいのですが,ちょっと話がまた戻って恐縮なのですけれども,先ほど会社との比較の中で現物出資に対する検査の制度があると。


これは専ら債権者保護のためであるという○○関係官からの御説明ありましたけれども,むしろ資本制度自体の債権者保護の機能が低下していることと相まって,最近の会社法の方では,むしろこの調査というのは内部的な株主間の公平の確保になると。


  つまり,金銭で出資した人と現物で出資した人とがいて,現物で出資したものの評価が過大に高ければ,いわば,それだけ割り負けると言いますか,そのような不公平が生ずると。


  この,例えば受益者間の公平の問題のようなことを考えると,私はこれは契約ベースで解決するというのは,非常になかなか難しい問題があって,もう少し組織的と言いますか,制度的にとらえて考える必要も出てくるのではないかと思っております。

  それから,第2点は,先ほどこれまた○○関係官より合同会社は設立の規制が非常に緩いので,それと比較すれば信託もという話がありましたが,この合同会社については,業務執行社員の忠実義務とか強行法規にされておりまして,新会社法の593条の第5項でございますけれども,それともアナロジーで考えると,この信託の方は原則として任意法規化しようという動きがありますので,やはり合同会社と簡単に比較していただくことにも,難しい点があるのではないかというような気がいたしました


  それから,3番目に,これ,もうちょっと根本的な点なのですけれども,情報の非対称性についてどう見るかということなのですが,私はむしろ信託法というのは情報の非対称性があると。


それが簡単には埋まらないということを前提に,だからこそ受益者を保護する必要があると,そういう,信託法というのはまさにそのためにあるのではないかというふうに思っていたのですが,むしろ今までの議論の中では,そういう必要があったら開示だったら証取法,あるいは投資サービス法でやればいいと。消費者保護だったら消費者契約法ですか,その他あるいは民法の一般法類でやればいいと。


  このように,むしろ信託法の受益者の保護の多くの役割がむしろ信託法以外のところに期待されているような,そのような印象を受けたのですけれども。

  もちろん,私も方向としては信託法の任意法規化に賛成している者なのですけれども,この情報の非対称性がある点は,例えばほかの会社なんかと同じではないかという議論を,信託法の改正の論議の中ですること自体が,私は信託法における受益者保護という考え方から,やや,伝統的に考えられてきた受益者保護とは,やや違和感があるような感じを持ちましたので,その点について,御教示賜れればと思います。


● 今の,現在の,最初に御指摘いただきました検査役の調査の件ですけれども,確かに裁判所の選任する検査役の調査は債権者保護だけではなくて,株主間の平等を図るためにあるというのは御指摘のとおりかと思います。

  それは,しかし,どういう局面で問題になるかと言いますと,既に既存の株主がいて,第三者割当増資で,その第三者に現物出資でやってもらいましょうというときに,その価格が不相当だったりしますと,株主間の利益の移転が,実質的に起きてしまうもので,そこを調整しましょうということだったかなというふうに思います。


  かつて商法部会で,100%子会社の現物出資をするときには,裁判所の選任する検査役の調査はいらないではないかということを議論したことがございました。


そのときは,株主間の利害の調整というのは必要なくて,むしろ株主はこれでいいと言っているだけであると。すなわち,現物出資した親会社,完全親会社たる会社のB/S,帳簿,仕分けを見てみますと,左側に資産50と立って,右側に株式50と立てるだけで,それで,株主が1人である限りにおいて,株主に対する配当化の利益というのは,その後の仕分けがきちんとつけられている限りにおいて,全く変わりません。


  例えば,子会社の方で,資産X,資本Xというふうに置いた上で,このXが幾つになるかということが,その会社の配当可能利益に影響を与えるわけではございません。精算したときにその財産が全部返ってくるわけですから,精算したときに返ってくる財産という形でも変わらないので,要は100%子会社をつくったときの裁判所の選任する検査役というの考えますと,それは純粋に債権者保護のためでありまして,そのときに100%子会社でやるときに,株主保護のために裁判所の選任する検査役の調査が働いているということは基本的にはないのだということで。

  それでただし,債権者のためというものがあるから,裁判所の選任する検査役は必要ですよねというのがこれまでの商法との整理だったのではないかというふうに思います。


  今のような観点で,それでその後でその株式をだれかに譲渡するときは,それは,裁判所の選任する検査役が最初に入っていたからと言って,その後,転々する事業活動で会社の財務内容も変わっていますし,そこを裁判所の最初の選任する検査役が入っていたから,その後の時価が全部適正だということではないのではないかということだと思います。


  今の信託宣言を,完全子会社をつくる場合のアナロジーに全く同じというふうには申しませんけれども,基本的に委託者兼受託者で,受益権を委託者が全部持っているというときには,受益権は全部同一人物に帰属しているわけでございますので,そのときに,何か株主間とか受益者間の平等を図るというような話は,ここは基本的に問題は起きないんだということだと思います。

  したがいまして,何でも検査を入れればいいということではなくて,その検査というものが,いろいろな局面において,どういう機能を持つかということを考えて入れていかないと,整合ある法制度はできないのではないかというふうに考えているということなのでございます。


  あと,売却したときに,確かに情報の非対称性というのはあって,会社もあって,信託もそれが多いからだというようなお話だったかと思いますけれども,善管注意義務というのは,基本的には会社も受託者も,今受益者になる人に対して負う,今受益者である人に対して負うというのが善管注意義務,忠実義務であるわけでありまして,これから善管注意義務,忠実義務を負うかもしれない,将来の潜在的受益者に対して負っているということでは,一応法制度のたてつけではないのだというふうに思います。


  例えば,昨今いろいろ議論されているたてつけから行きますと,商法のたてつけを強調していきますと,例えば株主はひょっとしたら善管注意義務,非常に,ちょっと愚かな話をすれば,ひょっとしたら取締役というのは粉飾決算をした方がいいのかもしれないと。


株主のためにはですね。それはなぜかと言うと,株価が高くついて,その株価を高く売ったら株主は利益受けるからと。


  そんな議論はないのですけれども,将来の株主に対して,今の取締役がどういう義務を負うかということを,必ずしも商法の善管注意義務とか忠実義務というところで,措定できないからこそ,証取法でディスクロージャー規制とか,こういう金融法規というのがかかってきているというのが,現在の法制度でありまして,そこがうまく措定できないから,証取法と商法をどういうふうにつなぐかというのが今まで皆さん悩まれていることなのではないかというふうに思います。

  したがって,将来の受益者になる人のために,今受託者は,別に善管注意義務とか忠実義務を負っているわけではなくて,それはあくまで現在の受益者のために負っているのだということだと思います。


  それで,一たん受益者となった人に対して,善管注意義務なり忠実義務をいかに負うかということについては,それは現在,例えば取消権の適用範囲を拡大しようとか,違法行為の差止請求権の制度を設けようですとか,ディスクロージャー規定を整備しようとか,あるいはいつでも解任できるようにしようとか,そういったところで,受益者,受託者間の情報の非対称性と言われるような問題というものを解決していこうということかというふうに思います。


  それから,情報の非対称性で,受託者に対する監督ということを御指摘されることはもちろんだと思います。それは,それ自体として正当なことだと思うんですけれども,何でこういう情報の非対称性という議論が出てくるかというと,ここに,いわゆるプリンシパル・エージェントのような関係が措定されるわけでありまして,プリンシパル・エージェントのような関係というのは,そもそもエージェントの専門的な能力というもの信じて,それを生かしましょうというところが,そもそものプリンシパル・エージェントが生まれてくる前提のスタート地点なのでありますから,何も米国におきましても,情報の非対称性があるプリンシパル・エージェントで,そのエージェントを締め上げたらいいというような結論にはなっていなくて,エージェントを締め上げると,今度はエージェントの創意工夫とか能力とかいうものができなくなってくるので,かえってプリンシパルのためにならないのではないかと。

  したがって,ではそのエージェントの創意工夫を生かしつつ,プリンシパルの監督というものをいかに働かせていきますかというのが米国での経済学での悩ましいところというか,議論だと思いますので,情報の非対称性ということを前提に,受託者を常に縛れば受益者のためになるというような結論は,もちろんそんなことおっしゃっていないんだと思うんですけれども,ということではないんだという,当たり前のことを1つ確認させていただければと思います。


  それから信託宣言の場合も,常に委託者,受益者が同一であるというようなことが常に措定されているわけではございませんで,当然それは,最初は自益だけれども,その後転売されるというようなことを考えた上で,制度は,そういう場合を念頭に置いて制度をつくっているんだということを申し述べさせていただきたいと思います。

● ちょっと先ほど私の申し上げたことが誤解されているのではないかというふうに恐れましたので,あえて。


  先ほどいろいろな一般大衆投資家の保護に関して,証取法とか投資サービス法でということを申し上げましたが,それは別に,この信託法自体で,受益者の保護についてのスキームを備える必要がないということを申し上げているのでは,全くございません。


  あくまでも,これは要するに基本法として,受益者の保護としてのスキームというのを,きちんとこの信託法の中で整備されるということだと思います。

  私が申し上げたかったのは,ただ,要するに,このような委託者と受託者が同一のスキームについて,信託業法で規制するということは,やってしまいますと,いろいろな意味で,過重なことになってしまって,せっかくおつくりいただこうとしている,この信託宣言のスキームが実質的に世の中でワークしないようなことになってはいけないので,そういった意味で,本当に何をどういう観点から規制しなければならないかということは,それぞれの法体系のもとで厳密に規制の必要性を検証する必要があるという趣旨で申し上げたものであります。


● ありがとうございます。
  恐らくそういう趣旨で皆さん理解されたと思います。
  いいでしょうか,○○幹事,とりあえず。
  では,○○幹事からどうぞ。


● 前の方の話にさかのぼりますが,○○委員が御発言になった中で,公示制度のお話がありましたので,ちょっとそれについて事務局のお考えが,もしあればお伺いしたいということろでございます。

  不動産については,所有権の移転があったときに,登記原因が信託になるという制度とともに,信託財産がキャッシュを持っていたときに,いわゆる信託の設定ではなくて,キャッシュで不動産を買い取ったときに,登記原因が,所有権移転の登記原因は売買になるのとともに,さらに信託の登記というのがあるように思います。

  したがって,それを受け皿にして考えると,今回の信託宣言について,所有権の移転は確かにないと。委託者の手元で所有権移転していないけれども,信託を公示して,それによって信託であること,受託者からの倒産隔離を図る信託であることを第三者対抗できるということは,可能だろうし,必要なんだろうと思います。

  他方で,登記というのは,最近不動産だけではなくなりまして,債権と動産とが加わるようになりました。


この債権と動産の登記制度,実はちょっと私,自信がないんですけれども,私の理解しているところでは,動産所有権の移転とか債権の譲渡の登記原因のところに信託というのは書かれることはあるかもしれませんが,不動産について申し上げた第2の例である信託財産にキャッシュが入っていて,それで買い取った場合には,債権登記簿上,あるいは動産登記簿上,その買い取った財産が信託財産であるということは,あらわれない,あらわす余地がないのではないかと理解しております。


  そうすると,債権,動産についての今の登記制度を,基本的にそのまま置いておいて,そして信託宣言の公示をそこに載せようというのはなかなか難しいだろうと思います。

  難しいところを実現するという方法もあるかもしれませんが,難しいから差し当たってそこはできないだろうというふうに立った場合には,債権や動産については,確かに登記制度はある。


けれども,やはり登記簿上は公示されないんだということで信託宣言も行われると。


信託宣言は不動産しかできないということにはなり得ないわけですから,そういうふうに考えたらいいのかどうか。事務局の今の登記制度についての見通しをお聞かせいただければと思います。


● 今のおっしゃったとおりで,動産とか債権については,それは信託の登記ができないということと,公示ができないということで,信託宣言はもちろんできますが,現時点での公示制度を前提にやるということでございます。

● そうすると,もう答えは用意されているんだろうと思いますが,信託宣言の中身が動産であったり,債権であったときに,それが信託宣言が行われた結果,信託宣言については,今第1のところに書いてあったような形で要件を具備することになると思いますが,その財産について,要するに信託財産に入ったんだと,要するに固有財産の債権者がそれを差押えられない,あるいは固有財産が,倒産したときに倒産隔離がそこに生ずるというのは,何をもってそれが実現することになりますか。

● それは結局は分別管理によって行って,あとはそれに基づいてそういう執行がかかってきたら立証すると。その手段としての分別管理をもって一応の公示ではないんですけれども,制度的にこれが信託財産になったということを明らかにするということでございます。

● わかりました。
  私もそれしかないのかなと思いますが,さっきの○○委員の発言が,そのまま流れていると,何か動産や債権についても不動産に似たような公示制度ができるのかなというような印象も持ちましたので,お伺いした次第です。

● ちょっとそこら辺は,私もあまり専門ではないからよくわからないけれども。そうですか。できないんですか。それは。
  何か登記制度があって,債権譲渡についての,一応,対抗要件の制度がそこであって,しかしそれは信託宣言のときは使えないという……。


● 登記という観点からいきますと,分別管理という話になるんですけれども,通常の,普通の信託で受託者が委託者から債権を信託されたとき,あるいは動産を信託されたときというのは,基本的に分別管理で,帳簿で書いてありますとか,あるいは倉庫を別にしていますということで,固有財産の債権者が入ってきたときに,それを証明することになるわけですけれども,幸か不幸か,書面を要求しておりますので,信託宣言でやった場合はですね,こちらの方が,債権者に対する証明度という点では,書面がないとそもそも信託設定を対抗できませんので,こちらの方がまだ証明度の高さはやや高くなっているのではないかと,ちょっと感想めいた話ですけれども。

● はい。どうもありがとうございました。
● ただ,書面は存在するけれども,外からは調べにかからない限りはわからないわけですね,そういうことですよね。


ですから,さっきの期間制限の問題と関係するかもしれないけれども,いつ設定されたかというのがわからないと。可能性がある。
  ○○幹事,よろしいですか。

● はい。
● いや,何か解決策の提案があるのであれば。

● 質問に入る前にずっとお話し申し上げたように,私ももうそれで仕方がないのかなと思いますが,信託宣言については,なるべく何が移ったか,はっきりさせる方法いろいろあるのを動員しようという雰囲気はあったように思いますので,したがって,その雰囲気はうまくいかなかったんだということかなと思います。


● 雰囲気というか,いじらないとするとうまくいかないということよね。
● ええ,そうですね。


● まさにその問題は非常に関心がございまして,どこから言ったらいいのか,いろいろあるものですから。

  ちょっと今の債権のところから言いますと,信託の公示の問題は財産権の処分そのものについてどうかという話と,それから信託であることの公示という2面があり,信託宣言ということになりますと,財産の移転そのものについての公示が,一切,基本的に使えないと,今の制度ですと,手当てをしないと同一人格のもとでということですから,不動産登記も,そもそもどうなるのかというのがちょっとよくわからないのですが,そこから。

● 今の不動産登記法の世界でも,実は実例として信託財産から固有財産に移るというのはありまして,委付の登記とこれは呼ばれておりますけれども,それ自体は,所有権はもちろん移転しないわけですけれども,信託の登記が結果的にははずれることになっていて,実際上は,所有権移転の登記と似たような,固有財産とする旨の登記と,たしかそういう表題の登記が,所有権とともにされるということになっております。


  ですから,それのいわば応用形というのが,信託宣言の行われる逆になるだけだというような認識でおります。


● それは債権の場合はどうかという話ですね。
● すみません,ちょっと不動産の話にせっかくいきましたので,そうしますと,例えば抵当権設定なんかも現行法では登記もできるということで理解してよろしいですか。


つまり固有財産のための信託財産に対する登記設定,忠実義務の問題はないとしまして,あるいは信信間での登記設定なんかもできるという理解でよろしいでしょうか。


つまり大もとの,これが完全にできるとなると,ほかのものにもいろいろ波及するだろうと,まず不動産ですけれども,現行法でできるかどうか調べてきませんでしたので,申しわけございません。


● それは,つまり信信間で,あるいは信固間で,あるいは銀貸しとかですね,それに抵当権が設定できるかということですか。


● できるかどうかは,実体法の問題としてはできると思うんですけれども,忠実義務の問題とかをはずせば。できると言っていいのか,ちょっと悩ましいところですが。登記がどうなっているかと。

● そこがまさに1つ問題だと思っておりますが,まず,つまり銀貸しみたいなものを行ったときに,契約をしたと言えるのかどうかですね。ここまで言っていいのかどうかよくわかりませんけれども,同じ人格同士で,意思表示と意思表示の合致があった契約と言えるのかどうかというような話がありまして,そこに債権が発生したと見ることができるのかどうか。債権が発生していれば,担保権は恐らくつけることができるのでしょうということになりますので,それを受ける公示というのが要請されてくると,そういう関係になるんだろうとは思いますが。

  今の取り扱いの中では,私の聞いている限りでは,そういった申請は多分なかったはずですので,考えられてはいないんだろうと思います。


● 申し上げたかったのは,ちょっと実体法上,できるかどうかというのは,ただちに実はわからないんですけれども,仮に,できたとして,登記の部分で,あるところ手当てをすると,実は,ほかにも波及するものがないかというのは,不動産登記についても気になっているところです。


  債権の方に戻しますと,債権譲渡につきましては,債権譲渡登記がかなり普及をし,非常に成功をしているというふうに聞いておるわけですけれども,そもそもやはり信託によって,既に移っているんだと,したがって,それと競合したときには負けるんだというようなことがあり得るとすると,それも本来は同じ登記制度に載った方がいいわけですけれども,その部分を手当てしていくということになりますと,結局すべて登記登録あるもの全部に手当てをしていくと,知的財産とかですね,そういうものまで含めて手当てするということになりますので,単純に信託法に1個置けばできるならともかく,申請の書式ですとか,いろいろ考えると,ちょっと非現実的ではないのかと。

  そうだとすると,信託宣言ができる財産の種類とかを絞るか,絞らないで,もうそこはしようがないということで頑張るか。


ただ,しようがないというふうにしたときに,これからこれが入ると,債権譲渡登記を見にいって,あるいはないことの証明とかをもらっても,しかし信託設定されている可能性は,信託宣言でされている可能性はあるということで,しかもそれを知りたいと思えば,公正証書か,確定日付ある証書ですけれども,どこに公正証書あるかわかりませんし,受益者だれか何かもわからないので,端緒もないと。


  ひたすら譲渡人の言うことを信じるというような話の,そういう制度を導入するということになるのではないか。どこまで信託宣言が使われるかという問題はありますけれども,かなり影響は大きい話ではなかろうかという気はしております。


  もう1つは,先ほど動産の場合はよくわからないということで,私,動産の場合,ますますわからないのですが,178条の問題というふうにいたしますと,対抗要件としての引き渡しがあるわけですが,これは一体どう考えたらいいのか,自己の間で引き渡しということはおよそ考えられないので,178条の局面では,つまり,設定されたということ自体は,もう当然に対抗可であって,あとは,16条ですとか,そういう分別管理の問題というふうに考えたらいいのか,それとも占有改定はできているというようなことを考えたらいいのか。そうすると,178条は満たすけれども,192条の話は出ませんと。


  先ほど二重譲渡の問題は,全くほかの場合と変わりありませんというお話をされたようにも思ったんですけれども,理論的には,ちょっといろいろ違うところあるのかなと思いますので,引き渡しの問題などは,およそ,同一人格間である以上は,引き渡しということはあり得ないという理解の上で,単に信託を対抗する強制執行なり,動産なりの局面で,その問題として考えるのみであるという理解でよろしいのかどうかというのも,もしお考えありましたら教えていただきたいと思います。

● 債権の問題ですけれども,例えば,債務者に,債務者情報センターというか,債務者に聞けば全ての債権がどこに帰属しているかというのが,今の法制上で,別に,そうなっているわけではもちろんないのですね。


債権譲渡登記をしたときに,譲渡人から譲受人にこの債権が移ったということは最低限わかりますけれども,譲受人がその債権をさらにどうしたかというのは,登記を見ても,必ずしも同じものかどうかというのはわからない。


  債権譲渡登記制度というのは物的編成ではなくて,人的編成をとった以上,宿命として,既にどこか,何かを見れば絶対にわかるようになっているというふうには,もう既に制度としてなっていないので,その時点でもうその点についてのルビコン川は既に渡っているということではないかというふうに思います。

  さらに,その上で,譲り受けたときに,例えば今の債権譲渡登記で,もう譲渡人が信託設定ということであれば,債権を信託設定でやったということであれば,登記原因を見ればわかるかもしれませんけれども,受託者の方が信託設定ではなくて,受託した金銭で,信託財産たる金銭で債権を譲り受けたというようなときには,譲渡人は,譲受人がどこでとっているかというのはわかりませんし,債務者であっても単に譲渡したと通知するだけですから,債務者の方でも信託勘定でとったかどうかというのはわかりませんし,要は,分かるのは譲受人だけという世界になっているわけでありまして,それはもう,譲受人に聞いて,それでやってみて功を奏さなかったらほかの手段をとるというようなことになっているというのが現在の制度のたてつけなのであるかと思います。
  


それで,動産とか債権について,常にこのものがだれの所有権にあるかというのを公示していないとだめだというようなことには,我が国法上,そもそもなっていないのですね。


債権者というのは,別に固有の債権者に対する固有の財産に対する信頼を持っているわけではないわけでございまして,何かある動産を譲渡したんだけれども,引き続き賃貸借しているとか,あるいは占有改定で持ち続けているとか,そのときに執行したときに契約書を見せたら執行をとめられるということは当然あるわけでして,したがって,何かすべてのこの世の財産はだれかに実質的に帰属しますということが公示できていないといけないというような法制度には,我が国民事法上は,そのようにはなっていない。

  したがって,その原則が維持されているという,ただ,それだけのことという言い方はちょっといけませんけれども,そういうふうに考えられるのではないかというふうに思います。


● 信託財産であることの公示は,幾つかの公示制度で十分に対応できていないということで,今のように金銭で買って,信託財産で買ってもそれが公示できないということは,しようがないと言えば,しようがない点,そこも改正しない限りは改正できないことなんだと思いますけれども。


  信託宣言の場合に,そもそもの移転の部分さえも公示ができないというところが恐らく違っていて,それは,何とか不動産の方でできるんであれば,債権譲渡の方もできないのかという感じはいたしますね。


  ちょっと○○関係官もいろいろお考えの上で,相当苦労されたところだとは思いますけれども,あまり信託宣言について,やっぱり不透明な部分が残ると,結局信託宣言に対する信頼性が失われて,業法の方でやっぱり規制すべきだなんていうような議論にもなる可能性があって,私は,個人的にはやはり,こちらの信託法の方でもってできるだけ明確な形で信託宣言はされたということがわかるような手当てをすることが,できればですが望ましい。


  法務省の所管の中でできることと,それから,外でなかなかできにくいこともありますけれども,せめて債権のあたりはどうだという感じはいたします。


● 債権につきましては,確かに債権譲渡の登記というのはございますけれども,何もこれは,債権譲渡の登記が唯一の対抗要件という登記登録制度ではないので,信託法3条で言うところの登記登録すべき財産のところの登記とはまた違う意味であるということは,何度かこちらで確認されていることかなと思いますので,何かそこで載るんだったら,ここでも載らないと不整合ということでは恐らくないのだろうと思います。

  それで,○○委員の御指摘や,○○幹事の何らか,例えば明確性とかですね,それから占有改定によるようなものというような話がございまして,それはもう,一定の様式性を要求して,それで制度の設計としてはこういうことを,こういう様式的な行為をしないと対抗できないよというふうにして,効力としては発生しているとかいうようなことでも,考えられなくはないのですけれども,書面でやらないと,そもそも効力が,書面でやらないと効力の前提を欠くわけでありますし,それから公正証書なりをつくるとか,あるいはその旨を受益者に通知するということをしていないと,そもそも効力は発生しませんという厳しい様式的な縛りをかけて,そこで初めて効力が発生するんだというような形で考えていますので,それによって,一種の普通の取引で言うところの対抗要件を取得したというふうに同じように考えられないかということでどうかということで提示させていただいているということかなというふうに思います。


● 恐らく公示の持っている2つの機能のうちの,対抗要件の方は書面でもって効力発生要件ということで,そちらは客観的には確定する問題なんでしょうけれども,対抗要件制度が持っている公示機能と言うんですか,やっぱり外に見せるという部分がもうちょっと何とかならないかという問題なんだろうというふうに思いますけれども。

● 私自身がちょっと了解していないだけかもしれませんが,○○委員がおっしゃいましたように,ちょっと3条の問題を出されましたので,3条によっても,委託者から出ているということが,基本的に達成されるわけですよね。債権譲渡登記などであれば。


そこすらも達成されなくなるということの問題をどう見るかということだと思いますので,そういう御趣旨でおっしゃったのかとは思いますが,一応,確認。
最終的には政策判断だとは思いますけれども。


● 私どもの基本的な発想というのは,移転の部分と信託に入るという部分は,別々の段階が基本的にはあると思っておりまして,信託の公示というのは,信託になった,信託財産に入っているという,そのことであるというふうに理解しております。


  そこからすると,信託宣言というのは,移転していない以上,第三者に移転していない以上,それを公示上,反映させることはできなくて,あとは信託の公示を,ではつけるかという話なんですけれども,それは確かに不動産登記は受けられる制度になっているからうまいこと動くでしょうし,不動産登記制度並びのその他の登記登録制度も所要の整備を行っていくという方向で考える,そういう話だとは思うんですが,債権や動産譲渡の登記については,債務者対抗要件,第三者対抗要件というふうに分かれているとか,ほかにも公示方法があって,なかなか信託の公示というのは載せにくいという議論が,たしかあったということで,ちょっとあそこに信託の公示を入れるのは難しいのかなと思っておりまして,そうすると,債権や動産の登記制度に信託の公示とはまた別の情報を示すというような,ちょっとまた別の登記というのを入れるということを検討するかどうかだと思うんですが,ちょっとそこまでは何か……。

● いや,登記制度でそんな無理なことはあまりお願いは難しいんだと思いますけれども,不動産で,設定の段階でもって何らかの形で信託宣言というか,どういう形で表示するのかわかりませんけれども,それができるんであれば,要するに,その場合は信託財産になったということが,示されるということなんですかね。不動産の場合には。


  移転の方はできないけれども,信託財産であることを示すことはできるんだと,不動産の。


● それは,移転はもう公示してはいけないわけでして,移転はもちろんしていないわけですけれども,信託に入ったのは信託に入っているので,そこは信託の公示をつけるということを行います。


● 不動産はそういう信託財産であることを示す方法があるので,できるということですね。


● はい。そのような信託の公示制度は,債権や動産について,つけられるのであれば同じようなことは行われると思うんですけれども,そこがちょっと難しいのではないかとずっと思ってきましたものですから,我々としてはちょっと対処が難しいかなと。


● 理論的にはよくわかります。ただ,そのまさに移転の部分を,だから,移転とは言わないけれども。


● 委託者から出ているというか,そういうことなんですけれども。

● 信託宣言によって括弧つきの移転ですけれどもね,そういう形の公示ができないものかという,恐らく議論なんだろうと思いますけれどもね。


● 動産の引き渡しは,基本的にそういう概念はないという理解してよろしいですか。

● 引き渡しね,どうですかね。

● 動産についても同じだろうと思っておりまして,動産については,信託の公示は,あるいは信託の公示なくして対抗できるということになっておりますので,信託宣言の局面で言えば,もちろん占有改定などなくして対抗できるというようなことになるのではないかと思っております。


  つまり,委託者から出ていくという,まさにその部分を信託の公示というものが引き受けているのではないかと,こういう理解。


● なかなかこれは,信託宣言というか,信託の本質にかかわる問題で,受託者と,それから信託財産の関係,さっきちょっと○○幹事もちらっと言われた抵当権登記ができるかという問題などとも共通する,非常に難しい部分でして……。

● ぜひ○○委員おっしゃるように,つける方向で検討していかれて,何となくシステム的にはあそこに載せるだけであって,法律の目的をちょっと変えるだけかなみたいな。


  あと,公示と対抗要件というように,全部論理的に結びつけるからあれですけれども,当然の理屈ですからしようがないんでしょうけれども,重過失がない限り,結局,取引第三者は保護されてしまいますよね。

ですから,その重過失に対するやっぱり公示制度があることによって,だから3条の公示とは違った意味だと思うんですけれども,重過失性をより認定しやすくなるという趣旨だと思うんですけれども。


● 1つはまさに,動産の公示というのは技術的にどうされるんでしょうという単純な質問をしたかっただけですので,それは今の議論で相当難しい問題だなというのがわかったということで結構なんですが。


  もう1つ,ちょっと自分の,何を質問しようとしてたのかという記憶はやや薄れつつあるんですが,「※」の部分で,もう1点だけ,非常に技術的な質問がありまして,これ,詐害信託取消しの手続を経ることなくするところに意味があるのだという,それは非常によくわかるんですけれども,その上で,これはこの場合に,この効力がどうなるのでしょうかね。


  要するに,信託宣言,そのものの効力はどうなるのか,これはあくまでも手続によることなく,取り消せるということなのか,それともそうではなくて,信託宣言あったということを,否認するという表現はよくないのかもしれませんが,要するにあくまでも委託者の固有財産であるものとみなすことはできるというような趣旨なのでしょうかということです。


  これ,先ほど,不動産の場合は,少なくとも公示がされ得るわけで,そして登記原因明らかにして,信託宣言に基づいて信託の登記が行われているときに,しかしその信託宣言よりも前に委託者に対して債務名義を持っていたというものであったとしても,強制執行はかけられると,これ信託法に書くのかどこに書くのかちょっとよくわかりませんが,それができるとした上で,しかしその受益者は異議を主張できるということなんですね。

  この受益者の異議というのはあくまでも,信託宣言が有効であるということを前提にした異議なんだろうと思うんですね。


  それに対して,債権者の側は,最後ですけれども,「当該信託の設定が債権者を害することを債務者が知っていたことを証明しなければならない」,このポリシー自体はいいと思うんですけれども,これが一体何らか,信託宣言の効力自体を否定するというのであれば,詐害信託の場合と同じことなんですけれども,そうではなくて,一体,これ,どういう法律構成になっているのかという技術的なところをちょっとお聞かせいただければと思います。

● 質問を正しく理解したか恐縮ですけれども,別に詐害信託の取消しも,この場合も,信託自体を取消すというよりは,信託に伴った財産の移転というものを取消すわけですから,したがって,例えばA,B,2つの財産が信託宣言によって設定されて,それで被担保債権というのが1億で,その観点からいくとAだけ戻してくれれば結構だというようなことが,例えば詐害信託のあったときには,そのAを戻せというだけでありまして,その信託自体をばつにするということではないわけでありまして。

  それとの関連でいくと,それはその信託の設定自体を取消すというよりは,その財産に執行できると。


そのときに受益者の異議というのは有効でしたというよりは,むしろ詐害意思があったということを私は知りませんでしたということを受益者は言う。あるいは受託者は,そういう受益者がいましたということを言うということになるんだと思いますけれども。


● 相対的なと言われると。
● 理論的にはよくわかるんですけれども,よくわかるというか,理解はできるんですけれども,ただ,一般の,通常の理解ですと,やはり委託者の所有物であるからこそ委託者の固有債権者にとっては責任財産であるという建前が普通なのではないでしょうか。


  信託宣言が有効であるとしますと,同じ当事者間で,固有財産から信託財産移るということではありますけれども,それに対して,なおその信託宣言の効力自体を維持しながら,なお責任財産だと,委託者の固有債権者にとっての責任財産だというような構成というのが,一般の考え方からして,すっと出てくるのかなという疑問がちょっとあるということですね。

  効力否定してしまえばもう簡単なんですけれども,効力維持したままというのは,何かある種責任説みたいなもの,考えるのに近いのかなという感じがちょっとしたというだけです。はい。


● ちょっと私も実はこの規定と,詐害信託の関係については,もうちょっと質問も,というか自分なりの疑問もあるんですが,ちょっとこれは後でやるとして,今の○○幹事の関係で言いますと,信託宣言は一応やはり有効に設定されて,たまたまこの簡易な詐害行為取消しというんですか,この権利を行使してくる債権者との関係だけで相対的に,詐害行為と同じですけれどもね,その行使する債権者との関係だけで相対的に取消しというか,取消しという観念を入れるかどうかですね。そこで。


  取消しという観念を入れて,執行できるというふうに言うか,あるいは全然取消しという観念は入れないで執行できるというふうにするか。

  後者だと説明がつきにくいだろうと。

● 現行の多くの制度から見ると。

● 詐害行為からとね。これはどちらでも取消しの観念を入れてもよさそうな気もするけれども,どうなんですか。

● 一括してできたところ,どう説明するかという話だろうと思いまして,それはその詐害行為取消しと同じ要件であれば責任財産にかかっていけるというのは,その前提として,この執行手続,あるいは執行債権者との関係では,その信託の効力を主張させることはできない。それは無効であるといってもかまわないような気がするんですが,という前提である。そこは間違いないわけでして。

  ただ,いずれにしても,結論的に書くところはこの要件をクリアしていけば,執行手続に入ることができるよと。


● その説明の仕方として,今のような,相対的な取消しという観念を入れるということでも構わないのではないかと。ただそこまではっきりと書くかどうか,条文でね。ということですよね。


● そこまでは必要ないのではないかなという感じは何となくしているんですけれども。理論的には,信託の効力はないという前提なんだろうなとは思いますが。


● ちょっとよくはわからないんですけれども,取消しという観念入れた方がわかりやすいなというのは1つあるというのと。


● 確かにね。

● 期間制限等,先ほど同じように合わせて入れるとおっしゃっていましたけれども,もし,取消しというのを入れないで,期間制限というのはどういう期間制限なのかなというのも,ちょっと,最初お聞きしたときわかりにくかったもので,この質問を思いついたということではあるんですけれども。


● 仮に,取消し入れないとすると,これもここで書いてあるのも簡易な何か権利行使なんでしょうけれども,その権利行使についての期間制限ということにはなるんでしょうけれどもね。


  ○○幹事が言われたように,結果的に説明するときに取消しというのを前提に説明するという方がわかりやすい感じはしますね。特に詐害行為取消しそのものとの比較で言ったときにはわかりやすいかもしれない。


  ちょっとここら辺は,少し,もうちょっと検討させてください。

● これ,どういうふうに働くかだけちょっと教えていただきたいのですが,例えば,先ほどの債権ですと,移転がないので,対抗要件を備えるというすべは全くなくて,財産債務者に対する通知とかも関係ないということで,そこで,債権者の方が,相変わらず委託者兼受託者である人の固有の財産であるということで債権を押さえてきたときに,受益者は異議を出すわけですけれども,その内容は,通常は信託であって,もう固有財産ではないという話だと思うんですが,信託宣言によってされているというときには,その異議は何ら意味を持たないということになるんでしょうか。

● 今のような話ですと,例えば固有財産の債権者が来たときに,まず執行をかけてきましたと,まずそれで受託者または受益者の方が,これは信託財産ですと,まず一言言います。


そうすると債権者の方で,その財産は信託宣言によって設定された財産で,私はその詐害意思を知っていましたよということを債権者の方に言って,今度は受託者または受益者の方で,いや,私はそんな意思はありませんでしたと言って否認するか,あるいは受益者は善意ですよと言ってやってとめるかという,そういう手続フローになるのかなというふうに思いますが。

● 異議の主張というのは,およそいかなる異議,ここは信託だという異議の主張があれば認定する理解でよろしいでしょうか。


● はい。
● わかりました。すみません。
● では,○○関係官,どうぞ。
● ちょっと別の観点からの御質問でもよろしゅうございますか。
● はい,どうぞ。


● ちょっと,もしよろしければ事務局の方から教えていただきたいんですけれども。
  3ページの2の2行目に,パブリック・コメントからの抜き出しのところで,「これを導入することが」,これというのは信託宣言のことですが,「を導入すれば国際潮流に沿うこと」という1節がございまして,もし事務局の方で,この国際潮流とはいかなることを指すのかということについて,もしご存じであれば御教授いただければありがたいなと思います。


  もちろん,信託宣言そのものについては,大正11年の立法当時から非常に議論があって,そういう意味ではむしろ国際潮流というよりは,歴史は繰り返す的なそういう問題意識なんですけれども,私どもが考えております,所管する商事信託,特に流動化スキームの場合で,○○幹事がおっしゃったような特に自益型の場合は,ひょっとしたら世界でも相当このスキームが最先端を行くようなスキームになるかもしれないという観がありまして,私ども不勉強かもしれませんけれども,何か国際潮流として,特に自益型の流動化スキームとして信託宣言を利用する場合,何かそういったことがあるのかどうか,ちょっと御教授いただければと思います。


● 国際潮流に沿うことというのは,これは意見書の中から,いただいた中から意見があったものを書いたものでございますが,私どもが知る限り,米国とかあるいはヨーロッパ等で,信託宣言等については特段の,例えば不動産のときは何か書面がいるとか,詐欺防止法の観点から書面がいるとかいうような規制があるかもしれませんが,欧米では一般に認められておって,それで,例えばヨーロッパ信託8原則か何か忘れましたけれども,その中にもあるのだというふう伺っております。


  それで,例えば,流動化的な使い方という観点から考えますと,例えばいわゆるビジネストラストのようなものを使われるときには,実際の自分の財産を信託宣言で,信託設定して,信託証書を出すということで,言ってみれば,対象となった財産というものを,それによって資金調達をして,一種流動化と同様の機能を有しているというふうに評価はできるのではないかというふうに,そういう使われ方もあるというふうに認識しております。

● よろしいでしょうか。
  これも,諸外国でどういうふうに使っているかということについては,いろいろ議論あるようでございますけれども,信託宣言一般に関して言えば,一般には認められていると。どういう場面に使うかによっては,いろいろな国によってまた違うということなんであろうと思います。

● 設定の方法について,ちょっと1点,ちょっと心配な点がございまして,申し上げたいんですけれども,この御提案の内容では,要するに,委託者兼受益者が,私製文書をつくって,それでその確定日付のある通知書を出せば効力を発するという方法を取り得るということになっているんだと思うんですけれども,そうしますと,要するに,みずから私製文書をつくって,通知書を出すだけで,できてしまうという点が,ややその弊害除去という観点からすると,ちょっとお手軽にでき過ぎはしないかなという心配がちょっとありまして,これ1つは,公正証書,私署証書であれば,その信託宣言自体がきちんと公に確認されるということになると,公証人で確認されるということになると思うんですけれども,その私製の証書だけで通知ということになりますと,通知の中身で,あなたは受益者になりましたという通知だけでは,多分,信託宣言の中身まではそこには盛り込まれないことになるのではないかという気がちょっとしておりまして,そうすると,弊害除去という観点からすると,ちょっと十分かなという気がしております。

  公正証書,私署証書であれば,そういった点は,恐らくそれはないかと思うんですけれども,私製の書面でできるという点については,若干懸念がありますので,その点,ちょっと一言申し上げさせていただきました。

● 通知は,信託宣言の内容も通知することになるかと思います。
  それで,お手軽にできてしまうという点については,例えば贈与契約を書面でやるというようなことであってもあるわけでございまして,必ずしもこれがお手軽かというと,一部の方から厳しいというふうに,こんなことまでしなくてはいけないのかとおっしゃる方もいる反面の中で,いろいろなことを考えて,この辺でどうかということを御提示させていただいているということ,御理解いただければと思いますけれども。

● そうすると,通知の中に,その内容を盛り込まなければならないという前提での。そすると,できればその趣旨を明確にしていただけると助かるかなという気はしていますが。

● はい,わかりました。
  信託宣言は,特に皆さん御関心もあり,またいろいろ議論もあるところですので,またそれに関連して,先ほど少し信託の基本的な構造そのものについてのいろいろな議論も出てまいりました。


  大きな方向としては,皆さんは信託宣言を認めていくということで,大体よろしいという感触を私,持っておりますけれども,なお細かい部分,先ほどの登記制度の対抗要件についても,なおもう少し検討してみたらというふうに思いますし,今の○○幹事の御指摘の部分も含めまして,その辺はもうちょっとリファインした形で,最終的にまとめてもらうということでよろしいですか。

  一応,そういうふうにまとめさせていただければと思います。また,恐らくこれは,あと2回議論するチャンスは恐らくないのではないかと思いますので。


● いや,まだあります。
● これについて2回議論するチャンスあります。
● これについて2回は。あと1回です。


● ないですね。ですから,恐らく次回には,もう最終的に決まると思いますので,そういう意味で,皆さんの御意見があれば,事務局の方にお寄せいただくというのが効率的だと思いますので,お願いいたします。


● 信託宣言のところではないんですが,意義のところでよろしいでしょうか。
● はい。
● 前回の要綱試案のところと比較しまして,信託契約の効力発生時における債務の引き受けというところの記載がなくなっているんですけれども,これについては,債務の引き受けというのがなくなったのか,それとも入っているんだけれども,どこで読んだらいいのかということが1点。
 

 それと,債務の引き受けができることによって,事業自体の信託ができるというようなお話であったと思うんですけれども,事業自体の信託といいますのは,私自身,別に反対しているわけでも何でもないんですけれども,それだけができるということだけで,ちょっとそこは心配だなという感じがいたしまして,例えば,整備法とかで,何らかのものは御検討される予定があるんでしょうかと。


  例えばですけれども,事業が商法上の営業というところまで広まった場合
ですけれども,ではこれ営業譲渡というのと,経済的効果は全く同じだということになりますと,そうすると,総会の決議というのは要るんでしょうかということになると思います。


その場合も,自益信託であったら,実際に動いていないんだから同じではないのという考え方もあるでしょうし,他益になったところで,または譲渡があったところでそれは必要だという考え方もあると思います。


  そこら辺がよくわからないのと,例えば雇用ということを考えたときに,では信託で雇用されているというのは,どういう状況を言うのか,ではだれがその雇用について責任を持つのか,そこら辺のところがよくわからないところでして,例えば,今からやりましょうと行ったときに,それをどうやっていったらいいかわからないので,現実の問題として,それなりの指針めいたものであるとか,整備的なものというのは,何か御検討されているのであれば,教えていただきたいと思います。

● 債務を含むというのは,別にパブリック・コメントの結果,賛成多数というかすべて賛成ということで,その方向で維持したいということでございまして,ちょっと記述がないのは失念いたしましたということで,申しわけありませんでした。その方向は維持するということで,原案どおりということでございます。

  それで,整備法令でどこまで整備するかというお話で,ただ,今,お伺いしたようなお話ですと,例えば,それこそ事業をだれかに信託して,対価が通常の営業譲渡ではお金であるところを,それが受益権でしたというような場合であれば,それは恐らくは,今変わってしまいましたけれども,昔で言うと,245条の決議が要るということになるのではないかと,それが素直な帰結ではないかというふうに思われます。

  それで,自益の場合に,株主総会決議は自分でやっているんだから要らないのではないかという点につきましては,私も心の中ではそういうふうにできたらなとも思いますけれども,100%子会社をつくったりとかするときの会社分割ですとか,あるいは現物出資の形でいわゆる営業譲渡のような形で100%子会社をつくるときも,現在の商法ですと,総会の特決が要ることになっていますので,それとの並びでいくと,要るということになるのではないかなというふうに思います。


  ただ,○○委員が御指摘いただいた,何か,整備を図らないと何か動かないことはないかということについては,ちょっと貴重な御指摘ですので,私どもでもう1回,ちょっと関係法令を見直した上で,必要な法制度があれば考えたいと思いますし,実際の運用の面であれば,関係各方面にその旨をちょっと議論を提起してまいりたいというふうに思います。


● では,そういう事業の信託ということに恐らく関連するもの。
  はい,どうぞ,○○幹事。

● 同じような趣旨のことですが,担保権の設定が信託の意義の中に入っておりまして,これ要綱試案と同様であって,実質的には賛成でございますが,担保権の設定を信託法上の信託として行うことができるということを明らかにし,さらに何かこの信託法の中ではもう手当てしないというようなお考えでしょうか。


● 信託法の中で,何か手当てが必要であろうという御意見ですか。
● いや,特に思いつくことはないんですけれども,要綱試案のときの説明では,関連法に挙げておりましたけれども,なお,スムーズに行われるようにするためにはどうしたらいいかを検討するというふうに書かれておりましたので,その答えとしては,あるとしても,関連法にとどまるということになりますか。


● ほかの法律の方がね,いろいろ。
● 信託法では,この限度で,現時点での考えでございますが,あとは不動産登記法とか民事執行法とか,そちらの関連法での整備ということになるのではないかなというふうに考えております。


● はい,わかりました。
● それでは,大変時間をとりましたけれども,ちょっと次の説明だけして,お願いします。

● 本当は,一番最後に行こうかと思ったんですが,詐害信託の方に,いろいろ議論が及びましたので,第3の方,続けて御説明したいと思います。

  パブリック・コメントの意見は試案の方向性に基本的に賛成するものでございましたので,まず,個別的な指摘を踏まえたものでございますが,受益者の善意のみを要求し,無重過失までは要しないとしたこと。民法と平仄を合わせております。

  それから,これは書きぶりを明示したというだけで,受益権の譲り受けについては,譲り受けた当時ということを各所に明文化したこと。

  それから,あと,提案2の譲渡請求権の行使については,やはり詐害信託取消権と同様に,訴訟上の行使を必要としたこと。

  このような3点について,明確化を図っております。
  問題は,過去の部会及びパブリック・コメントでも指摘がありましたとおり,1の(1)の(b)に関するところでございまして,詐害信託の受託者が信託債務を負担した後に,詐害信託取消権が行使されたという場合に,善意の信託債権者を保護すべきではないかという点でございます。


  今回の提案では,このような善意の信託債権者の保護にも配慮することといたしまして,詐害信託取消権が行使された場合には,善意の信託債権者は,受託者が委託者に移転する財産の価額の限度で委託者の財産に請求できるとすることを提案するものでございます。


  その結果,委託者の財産について,取消権を行使した委託者の債権者と信託債権者,後者は財産の限度はございますが,が競合して委託者の財産にかかっていくということになります。


  このように,善意の信託債権者に対する委託者の責任を,一定の価額の限度に限ることといたしましたのは,善意の信託債権者が保護されるべきなのは詐害信託取消権の行使によって,善意の信託債権者が害される金額,すなわち受託者から委託者に移転することとなる財産の金額でございまして,委託者の責任もこの限度とすることが相当であると考えられるからでございます。


  この資料では,会社法の分割の例を挙げておりますけれども,取消権が行使された局面を見ますと,比喩的に言えば,分割されて新しい会社の方に,財産が一部戻っていくという関係に似ているなという気がいたしまして,それが会社法の条文ですと,承継した財産の価額を限度として債務の履行を請求することができるというふうに書いてありますので,それも参考にしまして,戻った財産の価額の限度で,信託債権者は執行していくことができるとしてはどうかと考えたものでございます。
  以上でございます。


● それでは,10分間の休憩にさせてください。

          (休     憩)

● それでは,再開したいと思います。
  先ほどの説明,詐害信託取消権のところですが,御意見伺えればと思います。
● 簡単なことなんですけれども,確認なんですけれども,先ほどの御説明にもありましたけれども,8ページのところの,(2)のところの上の段のところのここにおいてというところの部分の意味なんですけれども,実際には,信託財産自体が委託者に戻ったところで,補償請求権がある場合については,かかっていけると。


ということは,ほかの委託者の債権者と同じような形で,かかっていけるというような理解でよろしいのかどうかということと,もう1つは,信託の債務なんですけれども,先ほどの意義のところで,債務の引き受けも認められるということですので,当初から債務の引き受けをした分についても,やはり同様の形の整理になるのかどうか。

  ちょっとこの2点,お聞かせいただければと思います。
● まず前段については,補償請求権も信託債権者と同様の取り扱いとするということでよろしいのではないかというふうに思います。


  それから,当初から引き受けていた,当初から信託債権者であった人だって,当然,そういう信託財産が来るだろうなと思って,免責的債務引き受けに同意しているかもしれませんので,それが,戻ってしまうということですから,特段別異の扱いをする必要はないのではないかというふうに考えております。


● よろしいですか,それで。
● これは以前から申し上げていましたけれども,受託者がリスクを負うという部分がありますので,そこら辺のところは相殺する形で残った分だけ弁済というふうには申し上げていたんですけれども,こういう形であれば,この方向でやむを得ないのかなと。


● ほかにいかがでしょうか。
● 何点か確認したいんですけれども,受益者との関連で議論しているんですが,あとABLの貸主ということで,信託債権者としての貸主ということで出てくるんですけれども,ほかにそのレンダーが信託受益権に担保を設定するということもよく行われていますので,ですから信託受益権に対して担保設定した第三者とか,あと,レンダーだけではなくて,信託財産との取引をした第三者との関係とか,いわゆる詐害行為取消権の相対効とか絶対効とかいう議論との関連で,ほかの受益者以外の第三者が登場したときの保護の関係がどうなるのだろうかというところは,ちょっと既に議論されたのかもしれませんが,私自身わからなくなってしまいまして,あと,そのときに重過失なのか軽過失なのかとかですね,権限外行為との議論とかの関連との整合性の議論も出てくるのではないのかと思いまして,その辺ちょっとお伺いできればと思います。


● 基本的には信託財産の取引をする相手の保護の問題ですね。

● 最初に,例えば信託財産にものを移転して,受託者がだれかにそれを譲渡しましたというときは,それは一般の424条と同じような取り扱いになるかと思いますので,受託者からその財産を譲り受けた人が,一種の詐害行為取消権で言うところの受益者とか転得者と言われる地位になるので,その人が,悪意であれば,相対的に委託者から受託者へのところを,その人の関係で取消すということになるのではないかというふうに思います。


  信託財産の受託者のもとにあって,受益権に質権を設定したときに,その質権設定者が善意であったけれども受益者が悪意だった場合というような場合におきましては,これはたてつけをしますと,受益者が悪意だったら……。

● もうしないという立場になりますね。
● ということになってしまうかと思いますね。
● つまり絶対的になってしまうということですか。


● というか取引債権者は,今のような信託財産の取り戻しそのものについては,固有の利益を主張できないという考え方でできているようですね。これは。それがいいかどうかは御議論いただければと思いますけれども。

● 今の設問の前者の方ですと,受益者悪意で,取引第三者が善意の場合だと,民法424条の詐害行為取消しの対象になりませんけれども,信託法における詐害信託取消しの対象になるとすると,絶対効の効果は受けてしまうんですか。

  受益者が悪意であれば,常に信託は取消されて,信託の取消しというのは絶対的効力があるんだというたてつけなんですか。


● そうね。ちょっとアンバランスですかね。
  いや,どうですか。専ら受益者,いわゆる信託の受益者ですね,それとの関係で決めていくという考え。今まであまり信託財産と取引関係にあった債権者とか質権者とか,そういうものについての議論はあまり今までしてこなかったような気がするので,それをどう扱うかですね。


● すみません,回答を誤解しまして,不動産が信託財産として設定されて,それを処分してお金にかえて受益者に分配してくれるみたいな信託で,不動産を仮に処分をしたときの譲受人が善意であったときも,一般的な詐害信託取消しがかかると。


● 不動産の譲受人が善意であったら取消さないですね。

● それは取消さないんですよね。この信託法の詐害行為取消しの特則を使ったとしても,それは全くということですね。


● 受託者から出てしまったら,別にこの世界の,受託者,受益者のコミュニティの信託法の詐害信託取消権で扱う話ではないので424条の方で扱って,その人が善意か悪意かということを決するということだと思います。


● そうですね。ただ,受益権に対する質権設定は信託設定によって移転した財産に対する抵当権設定みたいなものとは全然性質が違うという説明ですか。


  すみません。回答の理解を確認しているだけなんですけれども。

● それはそうですね。

  受益者1人でも善意であれば,そもそも取消せないわけですけれども,受益者全員悪意で受益権に質権を設定していたというふうにしたところで,それはちょっと財産自体は戻ってしまうかなと。


● 受益権に対する,ちょっと僕もわからなくなってきたけれども,受益権に対するいろいろな取引関係にあるものと,それから信託財産に対しての取引関係にあるものと両方あるんでしょうけれども,受益権に対する取引関係にあるのは,受益権の譲受人と同じような扱いをすればよろしいのではないですか。


● そう言えば,そうですね。
● そうでしょうね。
● それであれば。
● 何か,もしうまく解明する御議論があればどうぞ。


● ちょっと別の,大きな全体の構造を聞きたい話ですから,どうぞ。
● そうですか。もし今の件について,さらにもし。
● ○○幹事が確認したことの再確認なんですが,不動産の場合の取引の相手方が善意で,不動産を譲渡したと,信託財産の不動産の場合ですね。受益者が悪意の場合に,先ほどの御回答ですと,その場合には,詐害信託の取消しの対象にはならない,受益者悪意であっても。ただ信託は終了していないという前提ですから,対価は信託財産に入っていると思うんですけれども。

● ええ。それはだから,通常の詐害行為のときに物,例えば,受益者悪意で,転得者善意というときに,物が行ってしまいましたというときに,悪意の受益者に対して価格賠償請求ができますねという意味で,信託財産に対して価格賠償請求するという話はあると思いますけれども。


● 最後の,だから信託財産がさらに出ていったときの,転得者とか,それが善意であればそれは取り戻せないと,そこは424条と。


● 詐害信託には該当するけれども,取り戻せないというのと,詐害信託にも該当しないというのと。


● そこの言い方ですけれども,悪意の受益者に対しては,詐害信託としての権利が行使できると。だから出ていったものが,取得者が善意であれば,そこからは取り戻せない。そういう意味では424条と基本的には同じ構想ですね。


● なるほど。はい。
● これも何か議論すると,なかなかわかりにくいところがあって。今までも案は出てきたんでしょうけれども,そんなに集中的に議論がなかったものですから,今のような細かい問題についてちょっと見落としなんかがあるかもしれませんので,もし御議論があれば。
  ○○委員,どうぞ。


● 細かくなくて,むしろ全体像をまず確認したいと思います。
  424条のではなくて,この詐害信託について,まず被告がだれになるのかということ。それから,何を取消すのかということ。それから,効果としてさっきも出てきたんですが,信託の終了が生じるのか生じないのかという,まずその基本的なイメージを共有したいと思うんですが。

● まず1として,被告は,財産が受託者のもとにあれば,受託者が被告になると。もしそれが受益者に給付されていれば,受益者にいきますけれども。詐害信託取消訴訟の対象になった財産が受託者のもとにある限りにおいて,被告は受託者になる。受託者は,それで,受益者は善意でありますよということを証明しないといけないと。しない限りは取り戻されてしまうということになるかなというふうに思います。


● それから終了するかどうか。
● その場合,財産が戻ってくるときに,例えば,一部戻っただけで,まだこれでも当初の信託目的は達成されるよということであれば,別に信託は終了しないということだと思います。


  そのかわり,ほとんど全部取られてしまって,これではこの目的を達成しようがないよねということであると,終了のところの,信託の目的達成あたわざるときというところの要件にかかって,そこで終了するという整理になるかなというふうに思いますけれども。

● 2番目にお聞きした,何を取消すのかというのはどうでしょうか。
● 財産の処分を取消す。


● それでは被告についてなんですが,委託者も債務を負担するという場面があるわけですよね。その場合には委託者は,別の訴訟で被告になるというイメージですか。


●  すみません。今1の(b)の関係ででございますか。
● ええ。
● それは違う訴訟でという話になります。
● ○○幹事。


● 先ほど取消し対象は,何か財産の処分を取消すと。例えば,○○幹事が出された例かもしれませんが,不動産が信託財産として信託が設定されて,その不動産を受託者が売って,金銭にかえていて,現在金銭が信託財産になっているというときには,これは取消せないんですか。

● 先ほどの○○委員の質問にお答えした類例だと思うのですけれども,その場合に,仮に受益者が悪意で,あるいは全員悪意で,もちろん受益者が1人でも善意あればそもそも取消せないわけなんですけれども,受益者が全員悪意で,受託者から売った財産,不動産を譲り受けた人が善意でありますというときにはその譲り受けた人に対しては取消権は行使できないと。


  それで,受託者に対しては,そこにある金銭を価格賠償という形で,取り戻せると。通常の詐害行為取消権のときに,債務者が受益者に渡して,受益者が転得者に譲渡しましたというときに,受益者は悪意ですけれども,もう譲渡してしまいましたと。


転得者は善意ですというときに,転得者から取り戻せませんねというときには,その受益者,悪意の受益者は価格賠償責任を負うというのと同じ取り扱いをするということを先ほど答えたということですね。


● そこへ善意とか同じなんですかね。今の場合,受益者が悪意なので,財産が処分されていなければもちろん受託者から取り戻せるけれども,処分されていて,受益者全員悪意だけれども,取得者が善意であって,かわりに金銭が入っているという例でしたか。○○幹事のは。売却したので。


● はい。
● ですからその場合には,もとの信託財産そのものは取り戻せないけれども,価格賠償,価格の返還というのができると。受託者から。


● それは受託者が悪意であることが要件になるわけですよね。
● 受託者は問題にしていなくて。
● いや,受託者は問題にしていなくて,ここは受益者が全員悪意であればということで。受益者が1人でも善意であれば,そもそも取消せない。


● いや,それはそうなんですけれども,どうして財産の処分を取消すということにこだわる必要があるのかがよくわからないんですが,信託の設定行為を取消すということにはならないんですか。


● その設定行為を取消すという意味は,取消しされたら信託をただちに終了してしまえということですか。


● 全部になってしまうからということですか。なるほど。
● ええ。そういうわけではないと。
● はい。

● ただ,それは同じなんではない。信託設定が取消されていても,相対的にと言いますか。

● 一部しか取消しのない,目的物の一部しか戻らないときは信託は残りの財産にそのまま継続されますので,信託自体は取消すのではなくて,その財産の処分を取消すという構成にしているわけですから。


● でも財産が仮に1つの場合であったら。
● それはそれで目的不達成で信託終了という。


● 不達成で終了になるけれども,取消しによって信託が終了してしまうわけではなくて。


● 信託は取消しとは考えていないです。
● 考えていないのね。だからそこは同じなんですよね。
  だから,それは,普通の,信託という形ちょっと複雑だけど,普通の424条の譲渡とか譲与された場合と同じに考えればいいのではないんですか。


● 中身が424条と同じではないかと,取消しの対象は同じ話になるのではないかと思うんですけれども,それをどう説明するかというときに,424条も法律行為の取消しを裁判所に請求するというときに,あまり厳密に考えていないのかもしれませんが,売買契約によって移転したときに,財産権移転行為を取消すというよりは,売買契約を取消すというふうに考えて,ただ一部取消しなので,残るというような説明をしているのではないかと思うんですが,この場合に,わざわざ,信託契約を取消すのではなくて,処分行為を取消すというと,何か物権移転行為の独立性を認めるのかとか,そういう議論になるのではないかというので,法律関係がどうなるかの説明としてはそういう趣旨ですという説明の方が,424条との関係でもあつれきがないような気がするんですけれども。

● 私の説明が悪かったかもしれませんけれども,取消された財産についての信託関係はなくなるわけですから,その点については,○○幹事にも御指摘されたとおりの説明の方がよかったかもしれませんけれども。


● 用語法だけの問題かと思いますけれども。
● 今のと関係するかどうかあれなんですけれども,そうすると,例えば先ほどの事例で,受託者が不動産を例えば処分しましたと。代金が入ってきましたといった場合に,その入ってきた代金というのは,信託財産として観念されることになるんでしょうか。


● ええ,14条の規定が働きますから,信託財産以外の何物でもないですね。
● わかりました。はい。
● ○○委員,どうぞ。


● ノンリコースローンのレンダーが委託者に対して請求権を持つというような規定でここ書いてありますが,先ほどの取引した第三者ですね,物権的な処分行為だけではなくて,お金を貸すというような行為も含むというように第三者を考えると,なおかつ,ここでの説例としては,ノンリコースローンのレンダーですから,委託者の資力よりも,信託財産に対する資産の価値に対してお金を貸しているわけですから,ですから,その場合に,詐害信託が取消されたとしても,あくまで信託財産に対しての何らかの物上保証的な観念をした方が,ある意味では,レンダー保護に資することになって,今の提案ですと,それほどもともと資力のない委託者,または詐害信託をするほどの委託者ですから,あまり意味がないし,なおかつ第三者保護のさっきの議論ともちょっと必ずしも整合しないのかなと思ったことが1つ質問の点なんですが。


  あと,ちょっと違うポイントなんですけれども,破産法改正のときに,適正価格売買の否認の議論がいろいろあって,一定の着地点を見つけたと思うんですけれども,そのときに,民法の詐害行為も変わるや否やみたいな議論がよく座談会何かでされていて,きっと解釈論的には変わっていくのではないですかみたいな議論があったと思うんですけれども,その場合,信託実体法の中で,詐害信託を規定するというときに,仮に取引第三者が悪意であったとしても,適正価格を払って受益権を取得,信託に入れるとかですね,または信託受益権を取得する場合に,適正価格を払っているような場合に対しては,民法と同じ規律するのか,民法を1歩踏み出した破産法の実体法と同じ規律するのか,その辺の議論はせっかく破産法であれだけ議論したんだから,それだったら破産法に,どちらかというと,寄せた方がいいのかなと思っての質問なんですが,いかがでしょうか。


● 1つ目の物上保証みたいな話も,ちょっと内々には私ども考えたことは考えたのですけれども,ここは,いわば委託者の債権者と信託債権者とのバランスをどうとるかというような中で,どちらに寄せすぎても,利害調整としていかがなものかという中で,御提示をさせていただいている案だということを御理解というか,御議論いただくというか,いただければなというふうに思いまして,通常であれば,財産が委託者のもとに戻って終わりなんですけれども,そこについて一定の程度,執行が可能になったという意味において,信託債権者もある程度保護はしているというふうに考えられないかということでありまして,逆にそこで信託債権者が全部取ってしまうというふうにしますと,今度は委託者の債権者はどうなるのかという話にもなってまいりますので,そのバランスを考えた上で,一応,御提案させていただいているということを,ちょっと御理解いただければと思います。


● バランスですからあれです。でも,買った人は保護されるけれども,ほぼ同じように,買うお金を貸した人で,なおかつその方保護されないみたいな,善意の第三者まで,善意の貸主と善意の買主を前提としたときに,何か貸主がやや不利,ややというか,圧倒的不利に扱われているような。信託財産を買った人は先ほどの議論だと,保護されますよね。


善意ですから。信託財産だけを手当てにノンリコースローン出したレンダーは,ある一定の範囲では保護されますけれども,信託財産に対しての物上保証的なものはなくなってしまって,保護されないという意味でのバランスもちょっと欠いているのかなと思うんですけれども。

● その場合も,ちょっと理屈としてどうかという話もあるかもしれませんが,一応,貸し出しをしたときにあって,受託者,現金幾ら,債務幾らと書いて,現金が何か,資産に化けているんだとすると,貸したというのは,別に,単にお金を贈与したとかいうわけではなくて,貸したお金というのは何らかの資産に化けているわけですから,通常受託者がうまくやっている限りにおいては,相応の担保は,相応の財産は受託者のもとに残っているはずであるというふうに考えますと,単に受託者から買った人と比べてバランスを失しているとまで言い切れるかどうかというのは,ちょっとあれなんですけれども。


● 物は買えるけれども,お金は残っているはずであるという。
● 残って,何かほかのものに化けているはずであると。複式簿記を前提とする限り。現金,債務で,現金が出て,左側に何か立っているはずですから,という。

● ABLのスキームで,お金は委託者にもどってしまいますが,信託財産だけが残る形なので。


● というのは,信託財産にお金を貸した債権者の方は,財産が取消されて委託者に戻るけれども,それ以外に,なお信託財産のところに少しお金が,要するに,お金,別の形で残っていればそれは行かない場合があるわけですよね。


● はい。
● それが残っているであろうと,そういうことなんですね。
● ABLのスキームを前提とすると,お金は,委託者はそのために信託財産を信託設定したので,お金は信託の一部解約とかいう形で現物交付にかえて委託者のもとに戻っていますから,できあがりの姿というのは,一部受益権が,理想的な受益権が委託者は持っていて,信託財産としては信託財産そのもの,不動産とか債権ですね,それに対してノンリコースのレンダーがいるという,こういうたてつけなものですから。


  だから,今の状況にはならないんですけれども。

● 基本的には,やっぱり○○委員,あるいは○○関係官も説明されたと思いますけれども,この取消しを認めるニーズ,それは当然取消して委託者が債権者がそれにかかっていく利益と,それから貸し付けをして,特に信託なので,実質上,あたかもそれを担保に貸しているような,実際に担保権を設定するのはまた別なんだと思いますけれども,そういう債権者の保護を何か調整できないかということですよね。

  もし,取消しを一切認めなられないということになると,委託者の方の債権者の方は0だということになるし,その取り戻しを認めておいて競合させるような形にすれば利害調整ができないだろうかというのが,恐らくこの原案なんだと思いますけれども。

● そうすると,適正価格,その対価は何らかの形で委託者のもとへ入っていると,取消す必要はないのではないかという2番目の質問とも絡んでくると思うんですけれども。


● なるほど。これは難しいね。
  ちょっとあまり戦線を広げてもよくないかもしれないけれども,僕が言いたかったのは,普通の詐害行為取消しの場合にも同じような問題は生じ得ますよね。ただ,お金を貸したような利害関係人が出てきたときに,転得者としては保護されないということになれば。


● それだと困窮している企業に対してお金を貸したりすると。
● もっと保護しようという議論ですね。
● という議論ですね。処分した場合とかですね。


● 確かにそういう問題もあるようには思いますけれども,一応,ある程度の利害関係の調整を図るという考え方からできておりまして,今の○○委員のような意見も踏まえながら,また検討してもらうということにしますけれども,とりあえず,原案を基本にさせていただければと思います。
  はい。○○委員。


● 細かい点ですが,1の(1)の(a)の,「受益権を譲り受けた当時」というのが入っておりますけれども,この解説を拝見しますと,いわゆる自益信託で受益権が譲渡された例を考えているように読めまして,それだったら理解できるんですが,この文言だけ読みますと,他益信託で,悪意の受益者が善意者に譲渡するという場合も入るかのように読めまして,そうすると,不適切な場合が出てくるかなという気もしますので,そこは区別した方がいいのではないかなと思うんですが。


● いや,それは悪意の受益者から善意の受益者に対して譲渡した結果,1人でも善意の人が出てくれば取消せないと。


● そういうことなんですか。

● ただ,悪意の受益者に対しては,価格賠償等ができるという,悪意の受益者に対する受益権の譲渡請求ができることの裏返しとして,通常の詐害行為取消権で,悪意の人が善意の人に渡してしまったからもうだめだよということはさせないぞということは,悪意の受益者に対して,価格賠償,譲渡してしまった受益者に対して価格賠償していくということになるのかなと思いますけれども。


● 僕もちょっとはっきりしなかったんだけれども,僕も今○○関係官のように理解していて,詐害行為取消しの一般の場合と同じように,転得者を善意の場合に保護するというのを同じようにここで当てはめて考えると,受益権を譲り受けた人間が善意であった場合には,それは,保護されると,そういうことですね。

● それだったら理解できます。
  もし1人でも善意者がいる場合に取消せないという効果が出てくるんだとすると,どうかなと思ったんですが,転得者とパラレルに考えて価格賠償ということであれば,それで理解できます。


● この詐害行為取り消しも,細かいこと考えると恐らく,まだまだ問題が出てくるのかもしれませんけれども,一通りよろしいでしょうか。御議論いただいたこと。


また後で気がついたような点がありましたら,これも先ほど言いましたように,もう時間的にあまり余裕がありませんので,御意見があれば,積極的に事務局の方におっしゃっていただくようにお願いしたいと思います。
  それでは,次行きましょう。


● では,次は,いわゆる後継ぎ遺贈の受益者連続という問題について,御議論をいただければと思います。
 

 これにつきましては,その有効性を認めて,多様な相続ニーズにこたえるためにその導入に賛成しながらも,期間的に一定の制限が必要であるという意見が多数寄せられましたけれども,他方,我が国の相続制度との調整や,遺留分制度との関係の調整がついていない現段階での導入は時期尚早であるというような反対意見も少なからず存在したところでございます。


  そこで,この資料中に記載しましたような反対意見の内容も踏まえまして,このような信託の有効性については,どのように考えるべきか,仮に有効性を認めるとした場合でも,信託法において,いかなる規律が必要,あるいは可能なのかにつきまして,御審議をいただければと思います。
  以上でございます。


● どういう規律が可能なのかということについても,ここではまだ土台となるような原案というのは出ていないわけでございまして,むしろ皆様の御意見の中から,可能であれば,こういう規律が可能,考えられるということがあれば,御提案をいただきたいという趣旨でございます。
  いかがでしょうか。どうぞ,○○委員。

● 弁護士会としても,この点は昨日議論しまして,○○の見解としてはパブ・コメでもそのようになりましたけれども,賛成であるということです。

  やはり,この反対論は2点,民法の相続秩序云々という議論ですけれども,遺留分については,これは計算の問題なので,遺留分を否定するという提案ではないと思うので,計算の問題なので,それは信託受益権が金額的に計算できるという前提だと思いますから,ということは当然だと思いますので,特に問題ないと思いますし。


  前者の方が,相続秩序云々ですけれども,相続秩序というのは,ここで何か大上段な議論してもしようがないんですが,所有権の議論から出てきている節もかなり強いのではないのかと思いますし,あと,何か戦前を引きずるみたいな議論も多少あるかもしれませんけれども,いい面をとらえますと,ここの場でもいろいろ議論したように,やはり障害児のいる親御さんの議論とかですね,または昨今の中小企業の事業承継の議論とか,いい面も多々あります。
  


ですから,相続秩序云々というニーズに,今現在の相続秩序云々というのがあるとしたら,それが多少,今日的な社会から見るとちょっと不都合になっている点もあるのではないのかと,こんな大上段に議論してもしようがないんですが,と思います。

  あと,反論もあるかもしれませんけれども,現状でも,財団つくるとか,または公益信託を設定するとか,類似のように,自分が死んだ後も,自分の財産が何らかの目的のために使われる制度というのはあると思うので,とにかく,所有権の絶対性から来た議論という面に,やはり相続秩序の面で強いのではないのか。

  要するに信託自体は所有権の制度を指定したわけではなくて,受託者が所有権を持つわけですからできるわけでして,この今御提案されている,後継ぎ遺贈型の受益者連続信託が持つ,今後の社会をにらんで,非常にいい面というものをやはり看過してしまうと,せっかく信託をつくっても特に,今後の社会において,十分機能しないことになってしまいますので,ぜひ導入するという方向で検討していただければと思います。


● 私も個人的にはできれば規定というか,認められるといいと思っているんですが,ただ,ここにもありましたように,期間についての議論というのがございまして,一体先の先の先まで決めるような連続受益者と言いますか,そういうのが可能なのかとかですね,どこかで期間制限をしたらいいのではないかという議論が他方であって,そうなると,それに正直に対応しようとすると,それはなかなか期間制限の設け方というのが,どうしたらいいか悩ましいところなんですけれども,もしそれについて,もし御意見があれば,○○委員の方は。

● ○○としましては,パブリック・コメントの中で意見を,たしか一定の期間に限るべきだみたいなもの出ていたと思うんですけれども,ロジックとして,どの期間が一定の期間なのかという,理屈では説明しがたいところもあると思うので,その辺は信託の変更とか,違ったところで,別にこの形の信託ではなくても,非常に長い信託を設定したときに,それが社会のニーズとか,状況と合わなくなってきたときに,信託の変更で対応するというたてつけだったと思いますから。

● 財団法人なんかですと,一応,そういうことでよさそうなんですが,またそれから信託の場合でも,ある種の集団信託,年金信託とか,そういうものについては,あまり期間ということを心配しなくてよさそうなんですけれども,個人が受益者になって,自分の子の子という,抽象的に受益者を指定しようと思えば,自分の子孫を抽象的にどんどんつけ加えていくこともできたりして,そういうのが,それでも構わないと割り切ってしまえばいいんですけれども,反対も恐らくあるのではないかと思いまして,それに対する,何か,うまい対応があればいいのではないかという感じなんですね。

● はっきり覚えていないんですけれども,たしか弁護士会の議論では,要するにあると想定できる自分の子供,孫,今の時代であれば長生きしますからひ孫とかですね,それの大体平均余命ぐらいのところまでをとらえる,ひ孫までいくか孫までいくかわかりませんけれども,というような議論があったかと思うんですけれども,どちらにしても理屈ではなくて,切らなくてはいけないところはあると思うんですが,少なくても1次相続人だけではなくて,2次相続人まではカバーする期間,またはその世代間で切るというものありますけれども,そうすると,ひ孫以降までの期間なのか,世代をとらえるのかというところの議論かなという,そんな議論が弁護士会ではしました。
● 世代で切るというのも1つかもしれませんね


  ○○委員は,何か。
● いろいろ心配性なものですから,どんなケースがあるかということを考えているんですが,先ほど○○委員の挙げられた,利用方法として,障害児の場合と中小企業の事業承継の場合を挙げられたんですが,両者,ちょっとニーズが違うのではないかなという気がします。
  


生活保障というのはかなり必要性があると思うんですが,家業維持の方につきましては,半面で,世襲財産をつくり出す弊害であるとか,あるいは他の方法によってそれを実現することができる。


それから,期間の制限という意味でも,生活保障であればある程度は限定できるんですが,家業維持ですと,当然には出てこなくて,非常に永続的になってしまう。そうしますと,どうもここで考えるとしても,生活保障の方を中心に考えていく方がいいのではないかなという気がします。


  とりわけ委託者が自分の死んだ後,第1次受益者の遺産やあるいは生活を事実上拘束すると。あるいはさらにその後の世代を死んだ方が長い間拘束してくというのは,どうも何か適当ではないのではないかなという気がいたします。


  そうしますと,仮に第1次受益者の生活保障を主眼といたしますと,例えば世代で区切るということがあり得るのではないかなという気がします。それは期間で区切りますと,どうもその信託目的がかえって実現しにくくなるのではないかなという気がします。


  それからさらに外国法では,第1次,これは受遺者ですが,第1次受遺者の資格,あるいは第2次受遺者の資格というような角度から限定している法制もありますので,そういった,だれが受益者になり得るのかという面からの限定も考えうると思います。

  それから,もう1つ,信託設定行為自体は,本来自由であるべきなのですが,あまり複雑にしますと,委託者の死後の,さっき申し上げた人々の生活や財産を非常にコントロールするということになる,そういう弊害もありますので,できれば認めるにしても,シンプルなものにした方がいいのではないかなというふうに思います。


● 今の,ちょっと僕も誤解したかもしれませんけれども,どこかで切るというときには,第2ぐらいまで認めるということなんでしょうか。


● 第1を自益だとしますと,第2ということで,つまりは,委託者の死んだ後の1世代というのが,1つの目安かなというふうに思います。

● ほかに何か御意見ございますか。
  では先に○○委員,どうぞ。


● 制限というのはあまり議論したことがないので,どれが適当なのかというのはよくわからないんですけれども,実務上のニーズということだけで申し上げますと,先ほど○○委員がおっしゃったような感じでありまして,基本的には目に見える範囲内のものに対して2次,3次ぐらいの承継をさせたいということと,あとは遺留分を侵してまでというようなことは考えていないと,そういう形でのニーズで,それで,最終的にやはり何年というのもどうかと思いますので,世代として2世代というか,3世代というのか,そこら辺のところが最終的なところの,落としどころということではないかなと。実務的な観点からしたら,そういう感じがいたします。


  生活の保護の問題だけではなくて,やはり事業承継というのも昨今結構そういうニーズがございますので,そういうことも視野に入れていただければなというふうに思います。


● 信託一般からすると,まだ未存在の受益者というのを受益者にすることで切るんですけれども,1つの考え方としては,何世代というのもちょっとなかなか区切りにくいので,このタイプの信託に関しては,未存在の受益者はだめだけれども,現存する受益者であれば何世代でも構わないというようなやり方で切るというのも客観的に切れるかもしれない。

● 私もそれ考えたんですが,最終的に公益に使ってほしいという場合もあると思うんですね。そうしますと,あるいは胎児でも構わないだろうと思います。
  ですから,信託行為時に確定できるというようなあたりで切れるんではないかなというふうに思いました。


● ○○幹事,どうぞ。
● ○○委員がおっしゃってしまったので,同じなんですが,やっぱり民法の遺言について965条で重用される886条を基準にして,胎児まで認めるという以外に,やっぱり切りようがないような気がするんですね。そして,そういうふうに最初の設定者から特別に相続なら,相続そのものではないわけですが,相続類似の形で,胎児も含めて指定されている,つまりここで言えば,妻というのには生きている間の受益権というものがその時点で相続類似の形で発生していて,長男にはその死亡後にその受益を受けるという権利が,その時点で相続として発生していると,相続類似の形で発生しているというふうに考えないと,遺留分というのはやっぱり計算は,計算の問題だというのはそのとおりなんですが,計算できないんだと思うんです。


  なぜならば,仮にその妻に行ってしまって,そして,妻のまた財産の中から,当該受益権が長男に行くときの遺留分の算定ということになりますと,ではその遺留分の侵害というのはどの時点で起きるのかという問題が起こってくると思うんですね。

  そうではなくて,やっぱり最初の遺言なら,遺言代用的な話だと,その段階で,設定者が直接に長男に対して,ある一定の期間の受益権を与えたと,それを遺留分算定の基礎として計算していかなければならないと思いますので,民法886条の基準でいくほかはないのではないかというふうに気がしておりますけれども。

● ここまでの範囲まで,連続受益者を設けることができるかという問題と,それは今の○○委員,あるいは○○幹事,私も基本的に現存する,胎児も入れて現存するということでいいと思うんですけれども,次の問題は,今○○幹事が言われた遺留分減殺請求権というんですか,遺留分侵害をどこの時点で判断するかで,今の○○幹事の,すべて最初の段階でもって,すべてについて判断すると。
  

しかし,そのときにも,だれの相続に,つまり最初の受益者といいますか,今委託者です,か,委託者に相続があったというふうに擬制して,生前でやる場合もありますけれども,それで,例えば第2受益者が,最初は自分だとして,第2受益者が妻だとすると,妻の後に子供がいて,その子供にいく受益権が遺留分の侵害になるかどうかを判断するときに,父親の相続について判断するのではなくて,妻の相続について仮定して判断するんですか。そのときの財産を計算して。


● いや,だから,それは無理なんだと思うんですよ。だから最初の父親の相続のときに判断して,妻には生きている間の受益権が相続されていると,相続ではないんですが,譲渡されているということを遺留分侵害の基礎として計算をしていくというほかはなくて,その時点で,相続の法理を妻から長男への移転において考えるのではなくて,最初の委託者が当該長男に対して,妻が死亡した後の受益権というものを遺言なら遺言によって与えているというふうに計算せざるを得ないのではないかと思うんですが。


● それなら可能ですね。
  では,これもまだちょっと詰めなくてはいけない問題がございますので,今のような御意見を参考にしながら,ちょっと最終的にどうなるかはなかなかまだちょっと予測できないところありますけれども。


● 1つだけよろしいですか。
● どうぞ。
● 今のは,そもそも認めるか認めないかという話で,仮に認めたとして,その後の規律は,一般の信託とすべて同じという理解でよろしいのでしょうか。例えば信託の変更や終了などのあたりというのはどうなるかというのも,一たん認めると,考えないといけない問題,それなりにあるのではないかなという指摘だけで。

● まだそこまでなかなか行き着かない,前段階でとどまっていますけれども,基本的には大体同じでいいんだと思いますが,変更だとか幾つかの問題があるかもしれませんね。


  どうもありがとうございました。では,さらに検討させてください。
  次,ではいきましょうか。


● では次は,また少し中間の,受益者複数の問題について,やらせていただければと思いますので,第45からでございます。

  まず,受益者が多数に上る信託について,第45でございますが,信託法の定めにより,単独受益者権を制限することも,一定の範囲で可能とすべきであるとの意見が多数を占めております。


  確かに受益者が多数に上る信託ですと,濫用的な権利行使によって,信託事務処理の円滑性が害されまして,他の受益者の利益が害される可能性が受益者少数の信託に比べて高いと考えられます。


  そうしますと,単独受益者権の重要性に十分配慮しつつも,なお一定の権利については,株主における権利行使のように,集団的な処理を可能とすることにも合理性が認められると思われます。

  ここで問題は,受益者が多数に上る信託を,受益者の数はナンセンスだと思いますので,数以外のどのような基準で類型化するかでございますが,この点につき,今回の提案では,受益権につき,有価証券を発行するとの定めのある信託をもって,この類型に当てはまるとしてはどうかと考えております。


  その理由でございますが,受益者が,有価証券化されていれば多数に上ることが一般に多いことですとか,受益権が転々流通することによりまして,受益者間の関係が希薄になって濫用的な権利行使や意見対立の可能性も類型的に高いと思われることですとか,あるいは受益権の内容を割合的にとらえることが可能であるので,株主と同様の制限を認めることが容易であるということなどが考えられます。

  あと,どのような単独受益者権について,信託行為による制限を設けるべきかにつきましては,その信託への影響の重大性ですとか,受益者間の意見対立の可能性などを考慮しまして,会社法などの規定も参考にいたしまして,31ページの(注2)と,それから33ページに記載しましたとおり,5つの権利,裁判所に対する検査役選任請求権と,受託者の違法行為の差止請求権,帳簿等の閲覧等請求権,以上は会社法にも規定がございます。それから裁判所に対する信託の変更,または終了請求権,これはその重大性にかんがみましてということでございますし,権限違反行為の取消権につきましては,意見対立の可能性があるということで,これらの権利につきまして,それぞれ33ページに記載したような制限を設けてはどうかと考えております。

  あとは(注3)のとおり,受益者が訴訟を提起して勝訴したというときには,信託財産に求償をするような規定を設けていきたいと,会社法にも類似の規定があったかと存じますが,そのような規定を整備したいと考えております。


  次に,第46の受益権取得請求権の問題でございますが,パブリック・コメントでは,受益者保護の観点から,取得請求権に関する規定を設けることには賛成意見が多数を占めましたが,これを強行規定とするかについては賛否が分かれましたものの,賛成意見の方が優位を占めております。

  まず,強行規定として受益権取得請求権を導入すべきかという点につきましては,あらゆる信託の変更についてではなくて,受益者の利害に重大な影響を与える可能性のある内容の信託の変更などがされる場合に限定して,受益者が合理的な対価を得て当該信託から離脱する機会を,強行規定として認めることが,受益者の保護の観点からやはり相当ではないかと考えるものでございます。
  


そこでさらに問題となりますのは,このように強行規定として取得請求権を認めるべき信託の変更等の範囲でございますが,この点につきましては,受益者の利害に重大な影響を与える可能性のある事項との観点から,提案1のとおり,まず新しい資料の(1)の①から④までの信託の変更と,それから,信託の併合及び分割に限った上で,さらにその信託の受益者間の権衡に変更を及ぼすものにつきましては,信託行為の定めをもって,取得請求権の対象から外すことができる上に,損害を受ける恐れがある受益者に限って取得請求ができるとすること。それから信託の併合及び分割につきましては,損害を受ける恐れのある受益者に限って,取得請求権ができるとすることとの限定をしているところでございまして,その理由は資料中に記載しているとおりでございます。

  それから,取得請求権を行使できる主体の限定という観点からは,さらに提案2のとおり,問題となる変更等に賛成した受益者に限り除かれるものとしております。
  

変更等につきましては,典型的には第三者に意思決定権が付与されている場合のように,受益者が常に信託の変更等に関与ができる仕組みとはなっておりませんので,反対した受益者のみに限ることが相当ではないからでございます。


  なお,ここで賛成と言いますのは,あくまでも積極的に賛成の意思を表明した受益者のことを考えておりまして,たとえば信託行為の定めによって,いわゆるみなし賛成の制度を設けることも可能と考えておりますが,そこで賛成とみなされた受益者については,取得請求権は失わないものと考えております。


  それから,提案3の関係では,(1)の②において,中止条件を定めるか否かは,任意的なものであるということを付言させていただきます。


  その他,受益権の取得価格を公正な価格とすることの意義ですとか,取得原資を原則として信託財産とすることなどにつきましては,資料中に記載したとおりでございますので,そちらに譲らせていただきます。


  最後に第47の受益者が複数の場合の意思決定についてというところでございますが,この点につきましては,パブリック・コメントを踏まえまして,次の2点につきまして,検討,改善をした以外は試案を維持しております。


  まず,受益者集会に関する規律を任意規定としている点につきましては,定足数や決議要件など一定の事項については,強行規定とすべきであるとの意見がございました。


しかし,信託行為の定めによりまして,そもそも第三者に対して意思決定の権限を付与することも可能としていることに照らしますと,受益者集会について強行規定を導入する意義は疑問でございまして,定足数や決議要件についても,任意規定とした上で,受益者の保護は先ほど申しました一定の事項について,受益権取得請求権を強行規定として付与することをもって,解決することが相当と考えるものでございます。

  次に,議決権の数の算定方法につきましてでございますが,これは2の(2)のアのところに関係いたしますけれども,試案では,信託行為の解釈に基づく受益権の個数によるとしていたわけでございますが,その後の審議の経過ですとか,パブリック・コメントの意見を踏まえまして,このアのとおりに改めております。


  すなわち,信託行為の定めによりまして,さまざまな内容の受益権を創設できるという信託の特性ですとか,信託を設定した委託者の合理的な意思,受益者間の実質的な衡平,私的自治の尊重ですとか,信託に関する特別法の定めなどにかんがみまして,まず,受益権が口数,元本持分など,均等の割合を単位として数量化されている場合には,その単位の数量に応じて議決権を有するものとしまして,そうでない場合には,受益権の価格によるものといたしますが,ただ,信託行為の定めで,例えば各受益者がそれぞれ1個の議決権を有するとの定めがあれば,それが一番上に繰り上がるというような規律にすることを提案しているものでございます。

  その他は,資料中に記載したとおりでございますので,そちらを御参照いただければと思います。
  以上でございます。


● それでは,今の3つの問題につきまして,御意見伺えればと思います。いかがでしょうか。


● 多数受益者の意思決定方法等につきましては,従来から,特に受益権取得請求権の強行法規化について疑問を投げかけていたわけですが,その観点から,ちょっと第46を中心に,ちょっと意見とそれから確認をしたいと思います。


  今回のパブリック・コメントを受けての御提案というのは,一応,完全化しておりませんので,そういう意味で,完全に私どもの意見とはとってはいないわけですが,ただ,実際の中身を見ますと,特に,④のところで,これは特に定義がよくわからないということで,さらにちょっと問題視をしていたところですが,一定の解説等も含めての中身の明確化と,それから信託行為に定めのあるときはこの限りではないということで,一定の任意法規化が図られているのではないかというふうに思っておるわけで,そこの点については,御配慮をいただいているなというふうに認識でございます。


  そこで,完全にちょっとこれについてどうかということは,また別途ちょっと発言するかもしれませんが,その前に,特に銀行界にとって,関心があるセキュリティ・トラストについて,このシンジケーションとの兼ね合いで,この受益権取得請求権がどういうインパクトを持つのかという観点で,ちょっと2点御確認したいと思っています。

  1つは,先ほどの④の意味合いでございますけれども,ここの受益債権の内容の変更がされることについての信託行為の定めというのは,具体的にどの程度記載する必要があるんでしょうか。


なかなかちょっと抽象的な御質問でございますけれども,極端な例としては,例えば変更があり得ることについて合意をするという規定だけでいいのか,それとも,また別途の極端の話として,その変更され得る内容を,あらかじめ具体的に記載しておくというところまで必要なんでしょうか。もし何かその基準があるのであればお示しいただきたいと思います。


  思いますに,ある程度,受益者に対して,そういう変更がある,その中身を予測可能性がある程度に記載されていればそれでいいのではないのかなというふうに思っております。


あまり厳格に書いてしまうと,なかなか実務としては窮屈なものになるのではないかなという問題でございます。


  それから,①,信託目的の変更ですけれども,これも従前から内容について,またはその強行法規性について,会社法等の関係も含めてパラレルに考えてもどうなのかという疑問を持っていたところでございますが,お尋ねしたいのは,この信託目的について,例えばセキュリティ・トラストの観点で言いますと,例えば,この点はどうなのかということですけれども,信託財産の入れかえ自体を行うということが信託目的の変更に当たるかどうかということです。

  これは次元の違う議論なのかもしれませんけれども,例えば,信託行為の中で,信託目的としてA債権の被担保債権として,担保を信託を設定するといった場合で,そこに当該担保目的物の特定をしないという内容であれば,いわば信託物ですね,物自体の変更,入れかえというのは,これは信託目的そのものの変更ではないということであるから,よって,①の規律には抵触しないという,そういうふうに考えてよろしいんでしょうか。

  ちょっとここが,実務的には大きな問題,関心事ですので,あえてお尋ねする次第でございます。


● まず,前者の方の,受益債権の内容の変更,これがどの程度,信託行為の中に書いてあればいいかということで,恐らく抽象的には,先ほどおっしゃったように,受益者として,変更の内容,もちろん予測できなくてはいけないという話だろうと思います。

例えば,ある一定の条件が成就したときには,ここからここの範囲内で,受益債権が切り下げられますとか,そういうことが書いてあればもちろんここに当てはまって大丈夫ということになるんだろうと思いますけれども,どういう条件が,どういう事情が生じたときにどこまで切り下げられるかというのはおよそなしで,とにかく変更があり得ますというのだとちょっと厳しいのではないかなというような気がいたします。

  つまり,手続的な,だれがどういう手続をとったら変更する,あるいはその前提としての条件とか,その結果どの範囲内で減ることがあり得るのかといったことが書いてあれば,大丈夫だというようなぐらいのことで,考えているということでございます。

  それから,セキュリティ・トラストにおいて,担保の目的物の変更があったときに,信託目的の変更と言えるかどうか,当たるかどうかは,恐らく一概には言えなくて,やっぱり担保は非常に重要なので,担保目的物が変わるというのだったら,それはもう信託の目的の変更に当たるのだと言わなくてはいけない場合はあるかもしれませんけれども,ただそこはいずれにしても,契約条項に書き込んでおけば,つまり担保の入れかえについて,書き込んでおけば,それはその信託の目的の変更には当たらないということが逆推知というか,逆に推認されるというような関係になると思いますので,実務上は,そういうふうに手当てをしていただくのではないか。
  


繰り返し申しますと,信託目的の変更に当たるかどうかは,一概には多分言えないんだろうと思いますけれども,信託,担保目的財産の変更というのが,この信託においてあり得るんだということが書かれているのであれば,それが信託目的の変更に,つまり担保の入れかえが信託目的の変更に当たるということは多分ない,こういうような話なのかなと思います。

● ですから総合的に考えて,その当該入れかえとかの変更がその目的に当たるかどうかと,抵触しないかということが,その信託行為全体から見て読み込めるかどうかと。


細かい話ですけれども,よって,例えば信託契約の中に目的何とかというようなことだけではなくて,ほかのところで入れかえがあり得るようなことが前提であるのであれば,それを含めて目的を判断して,この①に抵触するかどうかということを判断すると。

  よって,結果的に見れば,実務上,契約行為の工夫いかんによれば,大分柔軟な対応が可能であろうという,そういう整理になるという理解でよろしいでしょうか。


● おっしゃるとおりでして,信託財産が変更すること自体,一般的にあり得る,信託に通じてあり得る話ですので,基本的には信託財産がかわったからと言って,信託目的に変更があるというふうに直結する話では,もともとないわけですし,それに加えて,信託の契約書の中に入れかえがあり得ると書いてあるんであれば,それが信託目的の変更に当たらないというふうに言いやすいのではないかと。そういう認識でいますが。

● わかりました。
● 私はあまり詳しくよくわかっていない部分だから,口出しするものではないのかもしれないけれども,信託財産,ここでは信託目的の変更であるということになってしまうと,これはおよそ信託行為でもって,例外を設けることはできないという前提ですね。

  ですから,信託財産の変更というのが,信託目的の変更でないということを明らかにするようにしておくと,そういうことなんですよね。
  ほかにいかがでしょうか。


● この45から46,47の規定についての方向性なんですけれども,私ども,実務化の方から見まして,信託の柔軟性と受益者の保護というのを兼ね合わせたい規律ではないかなと思いますので,賛成いたします。


  賛成した上で,1点ちょっと要望と,1点御質問ということで,要望の方は46のところの1の③,今回変わったところですけれども,受託者の義務の全部または一部の免除というところなんですけれども,ちょっと細かいところで恐縮なんですけれども,例えば運用を目的とするような信託で,運用の対象財産がいいものができて,それを入れましょうと言ったときに,分別管理のところの義務については一部契約で免除したりとか,そういうようなことも結構あるのではないかと思うんですけれども,こんな場合についてはやはり入ってくるというようなことになるのではないかなと思いますので,受益者にとって,そんなに問題があるようなものでなければ,ここら辺のところに御配慮をいただきたいというのが要望としての1点です。

  質問は,31ページのところの部分で,これも言わずもがなということだろうと思うんですが,2のところの(1)の下の方のところですけれども,ここの,権利の行使に関して協定を結ぶということですけれども,これについては基本的に信託契約,自益信託であれば信託契約で書くということが,これを満たすことだと思うんですけれども,その場合は,当然(注2)というものに限定されることなく,そういう協定が結ばれるのかどうか。


これはそうだと思うんですけれども,それが1点と,それとあと,それを敷衍してということなんですけれども,ほかの局面で,よく受益者の個別の承認というのが出てくるんですけれども,この承認というのは,当然,不利益についての説明等があって,それで受益者の方がオッケーすればそれはそれでいいということだと思うんですけれども,例えば,受益権が譲渡されるような場合について,受益権の譲渡人が譲受人に対して,こういう受益権ですよというような,いろいろな説明をすると思うんですけれども,そういうところで,例えば説明がなされているということであれば,これはそういう,協定と言ったらおかしいですけれども,受益者の個別の承認がとれたというふうに考えていいのかどうか。


  こちらの方,ちょっと教えていただきたいと思います。

● まず一番最初の③の点,これは確かに,事務局としてもいささかもしかすると広いなというので,例えば,善管注意義務や忠実義務であればいいのかなという気はしますが,分別管理義務とか,それから第三者への委託などについて,一部の軽減,そういうものも入ってくるというと,ちょっと確かに広いかもしれないという気もしておりまして,④とのバランスなどもありますので,今の御指摘なども踏まえまして,この③についてはどのようにするか,検討をしたいというふうに考えております。


  それから,2番目の信託契約ですることができるという点は,御指摘の点は,(注2)に限定されず,いかなる権利についてもできると考えております。

  あと,譲渡人が合意をしたときに,それが譲受人に承継されるかという点でございますが,これは,信託行為で制限しているのであれば,それが受益権の中身になると思いますので,そういう受益権を譲り受けた場合には,それは譲受人もそれに制限されるということになると思うんですが,全く個別の合意ですと,ちょっとそれを説明したからといって,直ちに承認があったとみなすのは難しいのではないかなと。


  やはり,個別の同意を新受益者から得てもらわなければいけないのではないかと。もちろん,裁判所が認定する場合に当たって,1つの事情にはなると思うんですが,最終的な立証すべき事実は,新受益者が承認しているということではないかなという気がいたします。


● よろしいですか。
  ほかにいかがでしょうか。


● 3点ほど意見及び質問があるんですが,1つは,受益権取得請求権についてなんですが,この規律を前提としますと,受益者の立場からすると,受益債権,ある受益権の内容が,例えば切り下げられるですとか,それから,受益権あるいは受益債権がリスクが大きなものにかえてしまう,かわってしまうという場合に,問題となるといいますか,紛争となる場合が比較的多いように思うんですが,そういった場合であっても,基本的にはこの衡平を害さない限り,この買取請求権の対象とはならないということになりますと,そういった場合には,もし受益者がそれを問題に,何か問題があるかどうか検討するとすれば,もともとの変更の点を問題にするといいますか,その変更が合理的であったかどうか等を検討することに,恐らくなるのではないかと思うんですけれども,何と言いますか,全体のたてつけとしては,そういうように思われます。


  果たしてそれでいいかどうかというのは,ちょっとやや受益者の立場からすると,どちらで争う,変更を争う余地があるほうがいいのか,それとも買取請求権で救済されるというふうに確定的に決まってしまうのがいいかというのは悩ましいところかという気はするんですけれども,ややそういったあり方でいいかなということについては,ちょっと疑問を感じております。これは意見です。


  それから,2点目は確認なんですけれども,第45の先ほどの受益者の権利の制限についてのところで,33ページのこの条件についてで,100分の3以上ということが書いてあるんですが,この括弧内が,これを下回る割合を定めた場合には云々というふうにあるんですが,これは下回るというのがどちらの方を指しているのかというのが,ちょっと,という点の確認なんですが,要するに,100分の4とか5とか,そういうふうに要件を加重することは許されないという趣旨という理解でよろしいですか。

● そういうことでございます。
● それから,もう1点,これもちょっと感覚的な意見で申しわけないんですけれども,複数の場合に意思決定方法について,45ページのあたりで,基本的には受益権買取請求権で解決するというような方向が示されております。


  これも,受益者の立場からしますと,多数決によって,みずからの権利内容等が変更される,あるいはその信託のあり方が変更されるというようなことですので,果たして,この受益権買取請求権だけですべてカバーされるというふうになるのかなという気がしておりますけれども,ここの多数決との関係では,例えばこの多数決によって,これ前に,信託の変更のところでの質問させていただいた点とも関連するんですけれども,例えばこの多数決で,信託目的の,全く別のものにかえてしまうとか,あるいは信託の内容を全く別のものにかえてしまうとか,そういうことも,許容されるというような前提なのか,あるいはそれはまた,要するに,そういった一般的な信託の縛りがある程度あって,多数決で決められる事項についてある程度限界が,これは解釈上ということになるのかもしれませんが,あり得るのかどうなのか,その辺について,ちょっと教えていただけると助かるんですけれども。

● 事務局の考え方といたしましては,特に,多数決で変更できる事項については制限はないと。したがいまして,御指摘のあった目的ですとかについての変更も多数決でできると。


  そのかわりに,そういうものについては,受益権取得請求権を強行的に付与すると。信託行為でそれはなしとすることはできないということでバランスを図っているというつもりでございます。

● そうしますと,目的について,全く異なるものについての変更ができるということになるんでしょうか。あるいは,何らかの信託行為の解釈等によって限定を図るということがあり得るということなのか,その辺はいかがでしょうか。


● 信託目的の変更につきましては,原則として委託者の合意というのも必要になりますので,受益者が多数決で合意したからといって,直ちに信託目的が変更できるというわけではありませんで,その場合には,委託者,受託者の合意というのも必要になりますので,そういう観点からしますと,信託目的が今までのものとは全くかわったとしても,信託目的の変更をされることによって,委託者の権利というものが害される可能性というのはあるわけですけれども,委託者の合意というのを要するので,問題ないのではないかというふうに考えております。

● ある種の歯どめというんでしょうか,逆に言えば歯どめにもなるわけですよね。委託者も同意しなくてはいけないという。しかし,そういう要件をクリアした場合には,どんな目的の変更でも可能であると。


● 先ほどの○○幹事からの御発言と関連する点でございますけれども,またおしかりを賜るかもしれませんが,信託の併合,分割などの重大な変更についての意思決定の仕組み,かなり御工夫をいただいておりますけれども,やはり,他方,一方で,任意規定化という流れは,これはもう重々承知しておりますけれども,例えば,こういった重大な信託の併合,分割について,本当に任意規定の中で,うまく受益者保護の仕組みができるんだろうか,意思決定の仕組みがどうなるのと,ちょっと私は懸念をしております。


  2番目のポイントは,これと関連するんですが,受益権の取得請求権は強行規定化するという御方針であるとしても,例えば,定足数とか決議要件といったことについて,これは,委託者と受託者の合意で自由に決められるという点についても,さらにもう少し強い何らかの規律が必要ではないかという懸念を持っております。
  以上,テークノートしていただければ幸いです。

● まず,第1点目の信託の併合または分割についてという点ですけれども,我々としましては,お答えになっているかどうかわかりませんけれども,やはり受益権取得請求権というものを強行規定とすることによって,受益者の保護というのを図ることができるのではないかというように考えておりまして,その限度において,信託の併合または分割の方法については自由に決定できるというのが契約自由の原則から妥当なのではないかというふうに考えているところでございます。


  2点目の点につきましても,やはり,契約自由の原則からすれば,原則としてその変更の方法等につきましては,自由にするというのが信託の柔軟性という観点から適当なのではないかというように考えております。

● ○○幹事。
● 1点質問させていただきたいんですけれども,46の受益権取得請求権の1の(1)の④で,ひょっとしたらさっき○○幹事が質問されたことと重なるのかもしれませんが,これを素直に読みますと,受益者間の不平等な変更がある場合だけがこれでカバーされているように読めて,一律に非常に大きな権利の制約を課す場合というのは,これはかぶらないようにも読めます。


  一番その典型は,譲渡を制限する場合で,これは別途書かれているからよろしいんですが,それ以外に,一律に受益者の受益権の中身を変更してしまうというケースで,というのは,ちょっと信託目的の変更にもかからないようなものになると,ちょっと何か落ちていないかなという心配があります。


  例えば,信託であるかどうかわかりませんが,会社法なんかですと,株式について,会社が買取請求できるという,会社の方の意思決定で強制的に株式を取得できるような条項をつけるというのは非常に慎重な,総株主の同意みたいなものが要求されたりするという形になったりするんですけれども,それに類するようなこと,例えば,受益者の多数決によって,一定の値段で受益権を買い取りますと,多数決でいつでも特定の値段で追い出されるという,信託の変更が例えばされるとき何かは,これは,1の受益権取得請求はかぶらないというようにも読めるんですが,ちょっとそういうことなのかどうか。

  また,それだったら,ちょっとそれでいいのかということを,お答えいただければと思います。


● まず,④のところにつきましては,受益者間の取り扱いを異にするような変更がされた場合に限っておりまして,前に部会で議論されたときにも受益債権の内容を一律切り下げるというものにつきましては,受益者の多数決で決まったんだから,それに従うというのが妥当なのではないかということで,今のところは,このような形にしております。


  確かに,○○幹事おっしゃるとおり,受益権を強制的に取得することができるというようなものにつきまして,受益権取得請求権を認める必要が,もしかしたらあるのかもしれないと,今,個人的には思いましたけれども,今のところそういうものは含まないというふうに考えております。

● 取得請求だからではなくて,その変更を認めたら,その後で確実に例えば多数少数の問題が起きるようなタイプのものというのは少なくとも何か考えておかないと,1回,一律に,形式的に権利を,内容を変更するかのような,ステップをかませれば何でもできるということにだけ,ならないように工夫していただければと思います。

● はい。なかなか規定の仕方が難しいのかもしれませんが,趣旨はよくわかりましたので,ちょっと検討してもらうことにいたしましょうか。
  ○○委員,どうぞ。


● 細かい点ですが,47の受益者複数の場合の意思決定方法で,受益者集会の招集権なんですが,信託監督人も招集権を持っているわけですけれども,任意規定化するという場合には,ここも任意規定になるんでしょうか。むしろこれは何か残っていてもいいのかなという気もいたしますが。
● そうですね。いかがですか。

● 一応,現時点では任意規定化なので,これも信託行為定めれば不要ということになるというのが考え方でございます。


● ちょっと検討させていただきましょうか。
  ほかにいかがでしょうか。
  ○○委員。


● この46番,受益権取得請求権のところですが,先ほどまで出てきた幾つかの点と重なる部分がありますけれども,この1の(1)①,②,③,それから(2)で,損害を受ける恐れのあるというのを意識してとられたというのはよくわかります。


  ただし,このやっぱり,④が何かあまりにも狭い感じがして,これを受益権を金融商品として流通して取得する受益者という立場で見ると,自分の,やっぱり知らない,例えば,第三者に変更を権限を与えた場合とか,ちょっと考えてみますと,知らないところで,受益債権の内容をかえられて,しかもそれを持ち続けなければいけないということになってしまいますよね。


そうすると,そもそもそんな受益権は買うなという,そういうレベルの話になっていってしまって,私募投信なんかで考えれば,市場で売れないような受益権になりますから,それを内容をかえられても持ち続けなくてはいけないということになってしまうので,ちょっとこれはもうちょっと広くすべきなのではないかと。特にこの権衡に変更を及ぼすものと,やっぱりこの限定が限定し過ぎなのではないかという気がします。

● 先ほど○○幹事の意見と共通するような問題で,これはちょっと検討させていただきたいと思います。


  ほかよろしいでしょうか。大体御意見を伺ったというふうに思いますが。

  それでは今出てきました意見を踏まえまして,また最終的な案は検討させていただくということにいたしたいと思います。特に御意見が多かったところについては検討したいと思います。

  それでは,次。

● では次は,償還請求権と補償請求権の問題でございまして,第32と第33のところでございます。

  まず,費用の補償を受ける権利につきましては,まず,提案2のとおり,受益者に対する費用の償還を受ける権利については,信託行為の枠外において個別の合意をするものとして位置づけることを明らかにいたしました。


  あとは,細かい点として,1の(1)では,委任に関する民法650条に規
定振りを合わせたところが二重線の部分でございます。

  それから,提案1の(2)におきましては,受任者の費用前払請求権に関する民法649条を参考にいたしまして,受託者に信託財産から事務処理費用の前払いを受ける権利を認めまして,あと3の引渡拒絶権ですとか,4の損失てん補義務の先履行,それから(注1)の信託の終了をさせる権利についてもそれぞれこの前払いを受ける権利も対象とする内容に改めております。

  あと,提案1の(3)におきまして,受託者による信託財産の任意処分権が任意規定であることを明らかにしております。


  問題は,提案1の(5)と(6)のところでございますが,これはいずれも受託者が信託財産から費用の補償を受ける権利につきまして,他の信託債権者に対する優先性を付与する場合と,その優先性の内容について,合理性が認められる範囲に限定したものでございますが,試案にあった(5)に加えて(6)を新たに加えております。
 


 まず,(5)におきまして,信託財産に属する特定の財産の価値の維持,増加に寄与した必要費や有益費については,当該財産の代価に限ってではございますが,最優先の効力を認めるとしております。この点は試案から変更はないつもりでございます。


  これに対し,今回の提案では,(6)を追加しまして,受託者の支出した一定の共益性のある費用については,共益費用の一般先取特権と同じ程度にとどまるわけですが,しかし信託財産に属するすべての財産に対する効力を付与することとしております。


  具体的に言いますと,例えば,A,Bの各信託財産があるといたしまして,A信託財産が競売に付されたというときに,受託者がこのA信託財産に必要な保存費用を支出していたというのであれば,受託者はA信託財産の競売代金につき,(5)に従いまして,一般の信託債権者はもちろん,A信託財産につき,登記済みの抵当権を有する信託債権者にも優先することができることになります。

  これに対しまして,B信託財産に必要な保存費用を支出していたというのでございますと,受託者はA信託財産の競売代金につきましては,(6)に従いまして,一般の信託債権者には優先しますが,A信託財産につき,登記済みの抵当権を有する信託債権者には劣後するということになるわけでして,これは民法336条でも同じような規律になっているわけでございます。

  このような具体例自体は,かつて第5回部会でも示していたところでございますが,このような結論を導くには,(6)があることが相当であると思われましたので,今回(6)を追加することとしたわけでございます。

  次に,提案1の(7)でございますが,受託者が信託財産から費用の補償を受ける権利の性質につきまして,債権ではなく,一種の形成権であるという理解を前提に,信託財産につき,競売手続が開始された場合には,受託者は費用補償を受ける権利を有することを文書で証明することによって,配当要求できるとしたものでございます。


  なお,この場合の証明文書につきましては,一定の証明力の高い文書に限定することが相当かつ可能であるのかという点につきまして,もし御意見があれば伺いたいと思っております。


  その他,資料の26ページの(5)以降の記述は,パブリック・コメントでの個別の指摘に対する解釈を示したにとどまりまして,提案に具体的に反映させているものはございませんので,資料中の説明に譲らせていただきます。


  次に,第33の報酬請求権でございますが,これも提案2のところで,受益者から報酬を受ける権利につきましては,信託行為の枠外で個別の合意を要するものとして位置づけております。


  その他,試案に対しましては,おおむね賛成意見が占めましたので,試案の内容を基本的に維持しております。


  ただ個別の指摘を踏まえまして,(注1)のところで,受託者は受益者に対してのみ通知義務を負う。委託者に対してはそういう義務を負わないとしまして,しかもこれは任意規定であるということ。


  それから,信託行為に信託報酬の額とか算定方法の定めがあるときには,デフォルト・ルールとしての通知義務をも負わないとしたことなどに改めております。


  なお,パブリック・コメントには指摘がございましたものの,受託者が信託報酬の額を決めたときの受益者による異議ですとか,裁判所による報酬額の決定につきましては,特段の手続を設けることとはしないということにつきましては,資料の29ページに記載したとおりでございます。

  以上でございます。

● それでは,32と33のところについていかがでしょうか。
  ○○委員,どうぞ。

● まず,1点,御質問なんですけれども,今般の御提案で,前払金について,受けることができるというのを入れていただいたんですけれども,これは,時期的に言って,例えば,極端な例でいくと,借り入れをしましたといったときに,借り入れをしたという時点において,当然債務は確定するわけですから,それで前払いができるのかというのと,逆に,いや,やっぱり期限の利益というのがあるので,そこのときまではというのか,これは,いずれなのかということが1点です。

● これの時期だとか,いろいろな問題はありそうな気が。
● それはちょっと委任の前払請求権と同じ考え方をしていますので,そちらがどう解されているかで,それ次第ですので,民法に詳しい方から教えていただければと思いますが。


● 委任の方も,あまりはっきりしないけれども,ただ,信託は,深刻というか,信託の場合にはこれは形式的には自己取引的な,信託財産を移すわけですよね。自己取引に該当して,利益相反行為の禁止に一応形式的には該当するけれども,これが認められる限りでは,利益相反行為とならないということですね。


  では,どういう範囲で利益相反行為にならないのかということで,今のように,一体いつ前払いを受けられるのか。それから,逆に,今度,前払いを一応受けたけれども,結局その目的に使わなかったというようなときに,ちょっとどういう扱いを受けるのかというのも,ちょっとよくわからないんですが。


● 損失てん補責任とかそういうことで対処していくのではないかなと。
● 損失てん補責任。
● 基本的には,前払い請求を認めることについての議論もあったわけでございますが,資料に書いたように,受益者は受託者を監督できるしというようなことで,前払い請求権自体は認めているわけでございますので,あとは,受託者のもとに帰属した前払いに基づいて受けた財産を目的に使わなかったということは,任務違反行為ということになって,それはそれに対して損失てん補でいくのではないかなという気はしておりますけれども。

● いろいろな場合があるんでしょうけれども,本来使う目的があって,しかし,使わなかった,あるいは流用してしまったとか,そういうところの違反なんでしょうけれども,使う予定だったけれども,使う必要がなくなったとかね。そうするとやっぱり戻すというようなことをどこかでするんでしょうけれども,いずれにしても,どこからどこまで,さっきの○○委員の一体いつからという問題でしょうけれども,いつからいつまでが,この前払費用として信託財産から受託者に財産を移すことが許容されるのかという,そこら辺があまりはっきりしないというところですね。

  何かいい御意見があれば,あるいは,何かもう既に考えたことがあれば。いかがですか。

  あまり早く,さっきのように,借り入れをしたので,もうそのときから前払費用をもらっておくというのは,それはちょっとおかしな感じがしますけれども,いつからいいのかと言われると。普通はやっぱりどうなんですかね。やっぱり弁済する……。しかしそんなに遅く。

● 先になってしまうと,ちょっと意味がなくなってしまうので。
● あまりそんなすぐではないんでしょうけれども,しかし,弁済期そのものではないでしょうけれども,ちょっと前というぐらいなんでしょう。感覚としては。
  ○○幹事。


● すみません。前払いの時期そのものではないんですが,現在の四宮先生の教科書とかにも書いてあると思いますし,英米の教科書にも書いてあることですが,支出権限というものは書かなくていいんでしょうか。


  つまり,今考えられている債務を支払うというのを,前払いプラス固有財産からの支出というふうにとらえるのか,それとも信託財産を使って,その費用の支出ができるというふうにとらえるのか,後者もできるわけですよね。


● 直接やる場合ですよね。
● それが本則であって。
● 本当はね。

● 委任の場合,前払いであるのは,もちろん財産がある程度来ている場合もあるかもしれませんけれども,ある種の債務の支払いを行うに際して,原資が受任者にないわけですよね,基本的に。


そこで委任者から原資を移してもらうという行為をしなくてはいけないわけですが,信託の場合には,信託財産としてそこにあるわけであって,そうすると,委任で前払いがあるから信託でもあるという形にはならなくて,もちろんあってもいいのかもしれませんけれども,基本は,支出権限の方ではないか。例外的に前払いが認められる場合があるというだけではないのかと思うんですが。

● 僕も基本的にはそう考えているんです。だけれども,前払いがあっても,あるいは必要な場合もあるかもしれないので,それはあえて反対しないというぐらいのニュアンスなんですけれどもね。

● だから,例外的な位置づけを与えるのか,それとも前払いというものが権利として,前払請求というものが権利として1個確定したものとしてあるのかによって,先ほどのいつもらえるのというものも,議論の雰囲気といいますか,方向性は大分変わってきますよね。


● おっしゃるとおり。
● 私は例外ではないのかと思うんですが。
● 信託は直接支弁しようと思えばできるという前提ですからね。
  何かいい整理の仕方,あるいは提案ございますでしょうか。
  ちょっとこれ,僕は出てきた経緯も今ちょっとあまりはっきり覚えていないけれども,実務的に,やはりこういうのは必要な場合があるという御感触だったんでしたっけ。

● これもともと出てきた経緯は,結局例の甲案,乙案,あのあたりの議論の中で,受託者として有限責任信託であれば,もちろんでしょうし,そうではない信託においても,費用等を取りっぱぐれることがあってはいけないのではないかと,そことの見合いのようなもので,委任において前払いが認められているんだから,それと同じような限度においては認めても構わないのではないかというようなところで,費用の前払いを認めて。


費用の前払いを受けられないのであれば,その信託事務できません,その信託を続けることはできませんねというようなことになってくるのではないかと,そんなような話だったんではなかったかなと思います。

  費用の前払いと,それから債務負担の場合の関係については,民法はどうも649条で費用を要するときはその前払いと,それから,650条の2項の方で,受任者は委任事務を処理するのに必要と認められる債務を負担したときは,委託者に対して代払いを請求できる。弁済期にないときは,相当の担保の提供を求めることができると,こういうような規律になっておりまして,こちらの方では649条を見てつくっておりますので,恐らく債務負担,すぐに,前払いというようなことには多分ならないはずでして,現実的にもう債務を固有財産で負担せざるを得ないということがわかった時点とか,恐らくそういう解釈になるのではないかなと今思うのですが,その点については,ちょっと,なお検討してまた部会の方で御報告したいと思います。

● ちょっと今,細かいことまではちょっとつけ加えませんけれども,今○○関係官が言われたような,基本的な両者の関係を押さえておくということで,よろしいでしょうか。


  今も直接弁済をできるわけだし,しかし他方で固有財産から弁済しなければいけない場面が予想できて,補償請求を取りっぱぐれるという可能性があるというような状況のもとでもって,この前払いを求めることができるというのが基本的な考え方であると。


  それに基づいて,具体的に何か規定がかけるのかかけないのか,ちょっとそこはよくわかりませんけれども,少なくとも,解釈のスタンス,考え方を明らかにしておこうということはできるのではないかと思います。


● 今,○○関係官がおっしゃったことはよくわかるんですが,もしそういうふうな実務的なニーズにこたえようとするならば,弁済期が到来しなくても,早めに取っておかなければ怖くて仕方がないという,こういうことになると思うんですよね。


  それに対して,弁済期が到来して,まさに固有財産から支払わなくてはいけなくなったときに取れるというんだったらば,直接の支弁をすればそれで済むわけであって,そういうふうに考えたときに,それでは,実務的に怖いと,責任財産限定特約を付していないということになったときに,受託者が個人的に債務を負担せざるを得なくなって,かつ費用が取れなくなるということになったらかなわないということで,前払いを受けたいと,そこにこたえようとするのだったらば,それなりの要件が必要になってくるような気がしまして,まさに650条の2項に近いような話なのかもしれませんけれども,ちょっとこのままでは使えないのは明らかですが,何か,先ほどおっしゃった○○関係官の解釈というのが,○○関係官のおっしゃった,出てきた経緯というのとうまくつながっていないような気がしたんですけれども。

● おっしゃるとおりかもしれませんが,結局のところ,費用を現実に,固有財産だと思いますが,固有財産の方から費用として負担せざるを得ないことが,予見できるのではないかと,今言われたような,受託者としてこれはできないと,この信託事務として債務負担はできない,なぜならばというのは,それはやっぱりある程度客観的な裏づけをもって将来これは費用負担せざるを得ない,そういったような客観的なところを重視したのが,たしか649条の費用を要するときというような解釈だったかなと思いまして,そういう意味でございますが,なおちょっと検討したいと思います。

● ではこの点に関しては,そういうことでよろしいでしょうか。少し検討させてください。

  ほかに何かございますか。
● ほかのポイントといいますか,確認の点と質問の点があるんですけれども,この優先権といいますか,先立ちてという権利ですけれども,何か四宮先生の本を見ると,両説あって,通説と違う説がある。


1つが先取特権説で,もう1つは絶対権説であるということを書かれておりまして,これの説明は通説の方の絶対権説を取って,担保権よりも優先するというような解釈を,今回は正式に採用するという趣旨,そういう説明,それの確認ということなんですが,そうすると,前回でしたか,前々回でも私の方が発言しました,債権に優劣があるところの議論ともちょっと関連してくるのかなと思いまして,そうすると,債権の優劣の規定も,こういうような形での記載ぶりになり得るのかなとかですね,またはこういう絶対権的なものを明示するということは,あのときの議論と同じように,債権譲渡した後に,その債権の絶対権的な性質がどうやって,維持されていくんだとは思うんですけれども,とかですね,全部理屈っぽい議論で申しわけないんですけれども,ほかの論点もあるのかなと思います。


  わからないというのは,行為に明確にする必要性がやっぱりあるから,こういう議論なのかもしれませんけれども,そういう債権の優劣という従前からの議論とも関連するというところの御質問,確認なんですけれども。


  それとあと補償請求権について,金銭債権とみなすということで,執行の側面での議論をされていると,これは非常にわかりやすいと思うんですけれども,他方において,やはり形成権という,従前からの説明といいますか,信託法の説の中でもそのように説明されていますけれども,形成権というのは,形成的なものということだと思うんですけれども,信託財産か固有財産かの分類というのは,形成権というと,いつでも随時形成権を行使して,右行ったり左行ったりできるみたいな感じになってしまって,何か,説明的としての形成権というのはわかるんですけれども,ある意味では,固有財産と信託財産というのは,要するに形成権の行使は何をもってやるかというのは,単独行為で何でもいいみたいな感じで書かれているので,ここはある意味では本質的ですし,なかなか答えが簡単に出ないから議論になるんだと思うんですけれども,信託財産と固有財産の分類というのはそう簡単に,右行ったり左行ったりしていいものなのやらどうなのやらというあたりとか,では,補償請求権を差押えたいと思ったときに,一体どういう規律になっていくのかとかですね,恐らく事務局としてもこの辺深く検討して,こういう形で報告されたと思うので,その辺の,信託内部における,このみなす権利のたてつけの議論とか,優先性についての議論についても,その辺の議論をお知らせいただければと思うんですけれども。


● まず最初の,この優先権というのは,確かに現行法上,先立ちてに解釈はあるのは御指摘のとおりですが,必ずしも優先権説をとったというわけではなくて,ご覧のとおり,およそあらゆる補償請求権が優先するというわけではなくて,その財産に限り,かつ必要費,有益費と認められるものに限って,一番優先するということで,むしろ民法の第三取得者の担保物に対する必要費,有益費の支出の規律に合わせている方でございまして,信託法の四宮先生の書いておられます優先権説をとってきたというのとは発想が違うかなと考えるところでございます。


  それから,補償請求権が形成権かどうかというお話で,行ったり来たりというか,一たん行ったらそれっきりではないかという気がして,固有財産から,これの場合ですと,信託財産から固有財産に行くんですかね,それを1回行使するかどうかという問題だと思っております。


  差押えられるかどうかという問題は,前から○○委員がおっしゃっていたところでございますが,請求権でしたら,差押え,もちろんできるわけでございますが,請求権だと,だれか,人に対して,ある履行を請求して,それによって実現するというものですが,こちらの方はだれか相手がいて実現するというものではないので,請求権なり債権という構成は,どうしても難しいのではないかと思います。


  むしろ一定の意思表示によって,法律効果を発生させることはできるという考え方からすれば,形成権類似ということでいいのではないかなと思って形成権と書いているわけでございますが,その上で,差押えができるかというと,この補償を受ける権利とは違うんですが,取消権とか解除権とか,そういう形成権が差押えできるかという問題がございまして,それは,債権ではないことは当然ですが,民執法167条のその他の財産権にも当たらないというふうに解されております。


  他方,代位行使はできるかというと,代位行使はできるというんですね。そうすると,こういう形成権それ自体は財産的価値がないけれども,その結果,生ずる,その形成権の行使の結果生ずるところまで見ると,全体として責任財産を構成するというふうに言えるのではないかと思われますので,差押えはできないけれども,代位行使はできると。


  そうすると,この補償を受ける権利についても,やはり差押えはできなくて,ただ,債権者が,この場合は受託者の債権者が代位行使をして,受託者のもとに移ってきた固有財産化した財産について強制執行していくというプロセスを経ていかざるを得ないのではないかなと。


ちょっと差押えを直にするというのは,どうしても,民執法には乗らないのではないかという気がしているところでございます。

● 差押えはできないということですけれども,これ譲渡もできないということですよね。

● 差押えというのは譲渡ができるから差押えできるわけですから,無理ですね。

● 私もですが,差押えできないということは,受託者はそしたらその中に入らないということになるんでしょうか。それも妙だなという気もするんですが。


● そこはまた別に,受託者の権利を現実化させるんだと思うんですね。つまり,難しい話なんですが,受託者が交代した場合に,新受託者に対して,この補償請求権というのは信託財産の限度ではあれ,かかっていけるというふうに現行法も書いてありまして,そこでは形成権が受託者が,別人格になったことによって,債権に転ずるというようなことに多分なっているのではないかなと思いまして,破産の局面ではそちらに合わせることになろうかと思うんですが,では,そうではなくて,形成権でなおあり続けている状態で,差押えや譲渡を観念できるかというと,なかなかちょっと簡単にはいかないのなかと。


  恐らくここは,所詮は解釈論の世界に入ってしまうのだろうとは思いますけれども,そう簡単ではないのかなというのが,とりあえずの我々の検討の方向です。


● 先ほどちょっと途中で問題になったのと関連しますけれども,やっぱりこれ,受託者が信託財産に対して持っている権利というのは一体何かという問題なんですよね。

さっきの強制執行との関係では金銭債権とみなすという形になっていますけれども,それ以外の場面では,形成権だという説明をしていて,要するに,自分の財産に対する権利なので,債権だというふうには構成しないという,一応説明ですね。


  これは,議論しだすと,大変な問題に,行き当たるところがありまして,私の感じでは,ある程度解釈論にゆだねた方がいいのではないかと,ここで全部詰め切って,これはだめだというふうに否定してしまうよりは,解釈論にしておいた方がいいのではないかという感じがするんですが。


  ほかの点で,そういうことでちょっと議論を封じるわけではありませんけれども,ちょっとそんな感触を私は持っております。

  関連して,あるいはほかのことでも結構です。いかがでしょうか。

● 考え方の確認なんですけれども,受益者から費用の補償を受けるとか,受益者から信託報酬を受けるとか,そういう個別の合意をすると,それができるということになっていて,こういう場合に,受益者が費用補償分を払うとか,あるいは信託報酬分を払った場合に,これ考え方としては,受益者は信託財産に求償できるという,そういうのが原則的な位置づけになるんでしょうかということ。


● 受益者から信託財産にですか。
● ええ。
● あまり考えたことないけれども。どうですかね。
● それはこの受益者が受託者と合意をした趣旨とかいうんですか,本来信託財産からだと考えれば求償できそうなんですが,やっぱり自分は請求を受けたら払いますと。


別に求償するということまで予定せずに合意をしているのであれば。ただ,当然信託財産にいけるというわけでもないという気がするんですけれども。

● そうですね。明確にそこに,別個に払いますという合意があれば,そういうことになるんだと思うんですが,特に原則的な考え方というんですかね,この前,このテーマが議論になったときに,保証債務的なものだよという御意見というか,御説明があったような気もしたんですが。


  例えば,報酬請求権だと,信託行為で,信託財産から信託報酬を払うというふうに決めてあるという場合に,受益者と個別に合意して,受益者も請求あれば払いますよと。払った場合には何か信託財産に求償できていいような気もするんですけれどもね。


● 受益者に対する請求権というのは信託の枠外の合意であると。ということなので,もしそういうことを言い出すと,例えば,では信託財産と受益者,どちらが先に行けるかとか,いろいろ問題になってくるので,そこはもう受益者に対する補償をした場合に,求償できるかどうかは,まさにそのときの約定次第と言わざるを得ないのではないかなという位置づけをしているところではございます。


● 一種の連帯債務的なものなのかもしれないし。ちょっと考えさせてください。

信託財産が負担するのが原則だというときに,こういう特約があって,受益者にもいけるというときに,受益者が最終的に負担してしまうのはおかしな感じもしますので。ちょっと理論構成も含めて少し検討させていただければと思います。


● 2点要望と,1点質問です。

  要望といたしますのは,抵当権付の債権者に,受託者が弁済した場合,代位するということで,1の(3)と書いてあるんですけれども,当然そのときの抵当権というのは,混同消滅しないということだろうと思います。


  それと,あと,受託者への債権譲渡した場合について,その抵当権も生きるということだと思いますので,こういうところからしますと,先ほどの信託宣言のところで議論がありましたけれども,○○幹事からもお話ありましたけれども,銀信間の取引とか,信信間の取引のときに,抵当権を設定するということが実務上,これからもニーズがありますので,その辺のところをよろしくお願いしたいと。

  これが金銭債権なのかどうか,よくわかりませんけれども,抵当権が設定できるような形の規律をお願いしたいというのが1点です。


  2点目は,(7)のところの,証明力の高い文書というのが,すみません,本を読んでも受託者としてはどういうものを出したらいいのかというのがよくわからないので,こちらの方への御配慮をお願いしたいというのが要望の2点目です。


  3点目の質問については,(3)のところの,ただし書きで,別段の定めがあるときは,その定めに従うものとするということが入っているんですけれども,これというのは,待機義務を外すというようなことは考えられていないんですかということです。


● 1の(3),待機義務。
● 説明にはそのような説明はないんですけれども。
● わかりました。


● 1の(3)のところ。
● そこだけ。
● 外し方として,両面いけるのかということですね。
● そう。

● 一応,両面いけるということになっていますね。
● 第1点は,ちょっとまたさっきの大問題にいくことになりそうなので,ちょっと私も言いたいことはあるんだけれども,ちょっと後で,後でというか,また御議論伺って,どこかで言うチャンスはあるかと思います。


  それでは申しわけないんですが,10分休憩させていただきたいと思います。

          (休     憩)

● それでは,お疲れのところ恐縮ですけれども,再開させていただきます。
  この後の進め方ですけれども,とりあえずは,今議論しております第32,
第33について,もう少し御議論いただきました上で,今回の資料,それから前回の積み残しの資料を検討していくということになります。


  それでは,補償請求権,報酬請求権について,御意見ございましたら,お出しくださいますよう,お願いいたします。

● 最終的に債権がどうかというのは,解釈論に寄るのだからあまり深入りするなというのは○○委員のおっしゃるとおりだと思うんですが,これ,利息はつくんですか。


● 補償請求権にですか。
● そう。
● つきます。


● 英米法はそもそも,法定利率という観念がないわけですが,アメリカ法のこと,ちょっと調べる機会があって調べてみますと,これは裁判所の許可によって,一定のレートがとれるという仕組みになっているようで,そういう。それは一般の法定利率そのものがそうですので,結局法定利率がつくというのがアメリカ法であるというだけで,別にそれが特に決定的になるわけではないんですが。それだけです。


● 今おっしゃったように,性質論について,これはやり出すと大変なことになるという,○○委員の残されたこともあるわけですが,もちろん議論してよろしいかと思いますけれども,大体問題点が出てきたでしょうか。


● 別のところで,報酬請求権で,すみません,ちょっと一言だけお願いなんですけれども。


  報酬額に対する異議については,確かにちょっと制度上どうするかというのは難しいかなという気はしておりますが,やはりお手漏りの危険があるという構造はありますので,これで,例えば会社法ですとか,あるいは忠実義務等の規定との関係で,バランスがとれているのかというのは,若干ちょっと疑問には感じております。


  ただ,今回の御提案の中では,(注1)のところなんですけれども,ただし書きのところで,この通知に関して,別段の定めがあるときには,それに従うという言い方だと,これを任意法規化することが提案されています。この点については,ぜひ従前の規律を維持する方向でご検討いただけないかというふうに考えております。


  忠実義務違反の問題もあるんですけれども,この報酬請求権の問題というのは,信託である以上,必ず出てくる問題で,かつ濫用はやはり起こりやすい場面だというふうには思いますので,何らかの形で,第三者のチェックが入る機会というのはやはり必要ではないかと。


  そういう観点から,最低限この受益者に対する通知ですとか,あるいは委託者に対する通知というものを維持する形で御検討いただけないかというふうに思います。


  この理由のところで,30ページのところで,受益者として指定されたものを知らせたくないというニーズがあるとういうことは,これはこういう場合あろうかと思うんですけれども,こういう場合には受益者にかえて,委託者に通知をするとか,そういった形で,だれかには知らせるというような形での規律をぜひお願いできないかと思います。

  以上です。

● ちょっといただいた御指摘を踏まえて,委託者ですかね,委託者に通知というのはもしかするとあり得るかもしれないので,ちょっと検討いたします。

● ○○幹事。

● 記録にとどめるためだけに発言しておきますが,先ほど私が委任費用の前払いとの関係についてちょっと発言をさせていただいたんですが,休み時間に○○幹事の方から御教授いただきまして,私のような見解というのは,結局,委任の費用の前払いの話ではなくて,保証人の事前求償権の話に類似したものとしてこれをとらえようという話なのではないかと。

そこと平仄を合わせるということも考えられるのではないかというふうなことを御指摘いただきました。

  まさに仮に責任財産限定特約がない場合の受託者の地位というものを,保証人的にとらえるというふうに仮定しますと,そこらあたりに類似が求められるのではないかということを,全くもって休み時間中の受け売りでございますが,発言だけさせていただきます。


● 確かに何と近づけて考えるのかというのは難しいですよね。委任と考えるのか保証と考えるのか。別のところで,650条の3項が出ていますけれども,それも委任の方は無過失で,こちらは過失ですから,また違うのではないかとかということありますが,多分,参考のために参照しているということではないかと思います。

  ただ,今の御意見もまた,検討させていただくことになると思います。

● 今の○○幹事が触れた委任との関連の650条のところの注2のところの議論なんですけれども,私が読んだ理解では,そういう説明があったかないかちょっと忘れてしまったんですが,第三者に損害賠償ができる限度において過失があってもと書いてあるので,ですから,結局過失相殺した後の金額ということで,実質過失がないときの,一切過失がなくて,差額分というんですか,そういう趣旨において,もしかしたら民法の規定との整合はとれているというような金額をという趣旨なのかなと理解しているんですけれども,その辺確認できたらと思うんですが。

● 結論的にはおっしゃるとおり,過失相殺後の損害額について,両方にいけるという理解をしているわけでございますが,よろしいでしょうか。


● それでいいです。はい。
● 結論については多分,御異論がないと思うんですが,その650条の,本来の趣旨と比較すると,ちょっとずれているのかもしれない。650条の3項というのは,もうちょっと別の局面で使われていたのが広がっていったというのがありますので,そのずれがあるかもしれませんが,結論としては,これでよろしいということでしょうか。


  ほかに。32,33について,御意見はございませんでしょうか。
  では今いただきました御意見,御指摘を踏まえて,さらに検討していただくということで,基本的にはこの方向でいくということで進めさせていただくということになると思います。

● では続きまして,相殺について,御説明いたします。
  第14,10ページでございます。

  太字の1には,賛成意見のみでしたので,そのままにしております。問題は(注1)と(注2)のような第三者保護規定を設けるべきかという点につきましては,賛成意見は多数を占めておりますが,1つは,民法478条の類推適用によれば足り,信託のみに特殊な救済を設ける必要はないという,本質的な反対意見と,信じるに足りる正当な理由という書きぶりをしておりました点が不明確である。これは反対意見というよりは,修正意見みたいなものでございますが,その2点の指摘が,結構多数ございました。

  まず,規律は不要だという意見でございますが,相殺について,民法478条の類推適用は問題となる通常の場面でございますが,これは私が申し上げるまでもないことかと存じますが,例えば銀行からの相殺について考えますと,自動債権となります銀行の貸付債権の債務者と,受働債権となります銀行への預金債権の債権者,これが別人であります。

これに対しまして,信託でございますと,自働債権と受働債権というのは,いずれも受託者という同一人に帰属するという点で特殊性を有するわけでございまして,このような点にかんがみますと,資料13ページに記載しましたとおり,民法478条と同じ趣旨の第三者保護の規律が及ぶことを確認的に明示しておくことが相当であると考えられます。

  ということで,こういう規律を設けてはどうかと考えているところでございます。

  また,信じるに足りる正当な理由というのは不明確だという指摘につきましては,表現ぶりを今回改めまして,民法478条と同様に,第三者の善意,無過失を要する行為であるということを明確化して,(注1)の1,2と(注2)に書いてございまして,これによって,批判にこたえているものと考えております。


  以上のとおり,(注1),(注2)のような規律を明文で設けてはいかがかと考えております。

  その他,パブリック・コメントの指摘についての解釈論を示したものにとどまりまして,提案に具体的に反映したものはございませんので,資料中の説明に譲らせていただきたいと思います。

  以上でございます。

● それではこの相殺についていかがでしょうか。
● 細かな議論になって,テクニカルな議論になってちょっと申しわけないんですけれども,1点,質問させてください。

  受託者からの相殺については,ここでは扱わないという整理をされると書かれておられまして,それは忠実義務でカバーしている話なんだという整理だと,これは論理的には確かに考えられる整理であって,それできれいに,忠実義務の方の,利益相反取引などの処理で,うまく収まればそれでいいと思うんですけれども,ちょっと忠実義務の規定ですね,利益相反行為の禁止に関する規律の方で,ゆだねると,どういう帰結になるかについて,確認させていただければと思います。それしないとゆだねていいかどうかが,ちょっとはっきりしないものですから。

  ゆだねるとどうなるかなのですが,まず,14の1に相当する状況ですね,信託財産に債権が帰属していて,固有財産が債務を負っているときに,これを相殺,受託者の側からするということを考えますと,これは固有財産の債務を信託財産で返していることになりますので,忠実義務の方の規定で言いますと,受益者の利益と相反する行為の,幾つか挙がっている中で言うと,(1)のウというやつで,固有財産に属する債務に係る債権の担保として信託財産を第三者に提供したりとか,いうのが挙がっていますが,それとほぼ同じなので,これに当たって,忠実義務との関係が問題となるという整理になりそうに思いました。

  それで,もう1つ,逆のケースなんですが,2の方で,信託財産に債務が帰属していて,固有財産が債権を持っている,固有財産に債権が帰属していて,信託財産が債務を負っている場合に,14の2に相当する場合に,受託者の側からする場合ですが,これは,信託債務を固有財産で返すのですから,原則構わないのですが,原則何にも引っかからない,忠実義務の問題起こさないんですが,仮に信託財産も同じ債務者に対して,お金貸していたとすると,信託財産に属する債権で相殺するのか,固有財産に属する債権で相殺するのかという問題が起きてしまうので,したがってその場合にはいわば競合貸付の債権回収と同じ問題が起きるということになるために,14の2で相当するシチュエーションで,受託者から相殺する場合は,競合貸付的な状態が存在する場合に限って,今度は忠実義務の規定で言うと,第19の3の競合取引の禁止に引っかかって,規制されると,こういうことに,仕切りでよろしいですね。

● そのとおりでございます。
● 仮にそうしますと,その効果はどうなるかなのですが,忠実義務の方の第20にいきますと,前者のケースですと,1のdに当たる,つまり利益相反取引の場合ですから,1のdに当たって,第三者が利益相反行為であることを知り,または重大な過失によって知らなかった場合は取消すことができるということで,原則相殺は有効なんだけれども,相手が悪意である場合であったりすれば,これは相殺を取消せると。


その場合,悪意の対象というのは,普通に考えれば利益相反であることの認識は,自分がどちらから借りているか,つまり,自分は信託財産から借りて,固有財産に対して債権を持っているんだという認識があれば利益相反であること,その相殺が利益相反であることはわかるはずですので,当然それは,取消せることになるんですが,14の(注1)で書いているような状況で,どちらから借りているかわからない的な状況があった場合は,仮に重大な過失がなければ,取消しはできないということで,同じ借り入れ先が混同しているようなケースであっても,14の1のように,第三者から相殺していく場合と,受託者から相殺された場合では,有効性の要件は変わってくるという理解でよろしいのか。


仮にそうだとすれば,その説明はどちら側からイニシアチブとったかで,保護要件が変わっても構わないからだという整理なのかということが,この有効性に関する1つ目の疑問です。

  2つ目は逆に,2の方のシチュエーションですと,固有財産が債権を持っていて,信託が債務を負担していて,競合貸付的な状況で,受託者が相殺した場合,この場合は,競合取引ですか,それの禁止に引っかかるので,第20の2によって,効果が決まることになります。


その第20の2というのは,当該行為は第三者の,受益者は,当該行為が信託財産のためにされたものとみなすことができるという規律でありまして,第三者の利益を害する場合は,その限りではないと。
  


これで考えるということは,これのみなしによって,相殺がなかったことになるというよりは,信託財産との方で相殺が起きた状態になるんですが,問題はただし書きで,第三者を害する場合というのはあるだろうかということなんですが,これは,第三者は,どちらの債権が消えるかだけなので,基本的にそういうことはないと考えてよいのかどうか。


もしそうだとすると,借り入れ先を誤解していたようなケースみたいなケースであっても,およそ無効になることはあり得ないということで,第14の(注2)に,相当するシチュエーションですね,第三者からする場合であれば,第14の(注2)に相当するシチュエーションについては,忠実義務違反的な場合について,受託者がする場合については全く考慮しないという,そういう整理をされたんでしょうか。

仮にそうだとすれば,それは今言ったすべてのケースの結論というのは,整合的に説明できているんだろうかという疑問がないわけでもないんですが,ちょっと最後のところの結論は,仮に正しいとしたら,簡単に説明お願いできますでしょうか。


● 結論と帰結については,今○○幹事の御説明されたとおりであるかというふうに思います。
  それで,相互の整合性についても,ついているはずだと信じているわけでありますけれども。


● 相手方が,つまり借り入れ先を誤解していたケースについての,有効性というのが,随分いろいろなところで違ってくるんですね。相殺が有効になる要件が。それが受託者がイニシアチブをとった場合が,第三者がイニシアチブをとった場合かだけで変わってくるんだったら,まだわかるんですけれども,そうではない違いも出てきているところで,そこがちょっと整合性があるのかなというのが,素人的によくわからなかたということなんですけれども,それは問題ないんでしょうか。

● ちょっとすみません。検討してみます。直ちにすぐ答えられませんが,ぱっと考えた感じでは問題はないはずだと思いますけれども。

● ○○幹事。
● 実は言われた,第1のシチュエーションで,紛争,いろいろな形で起こり得るとは思うんですけれども,まず単純に,受託者が債務者に対して,履行請求をしていくときに,債務者の方が,第2のシチュエーションは逆ですね,受託者の方が相殺するという場合が外れるのはどうかという問題ですね,そちらで言いますと,債権者が受託者に対して履行請求するときに,受託者の方が,その相手方に対して反対債権を持っているというので相殺するというようなシチュエーションで,この段階だけだと,債権持っているとさえ言えば,相殺はできそうなんですけれども,それに対して,相手方の方が,いや,受託者が持っていると称する債権というのは信託財産に属する債権ではないのかと言ったところで,忠実義務の問題になりますと,受益者が取消さない限りは,債権,債務そのものはあり,かつ相殺も効力も否定されることはないですから,この2人の当事者間だけだと,相殺が有効として扱われてしまうと,悪意だったとか,重過失だったとかいうこともそもそも言うまでもなく,これだけだと相殺ができてしまうと。

  ただ,この紛争が終わった後で,ひょっとすると,受益者が取消してくるかもしれないと。取消されると,相殺効力を失うので,改めて債権者が受託者に対して履行請求していくというような手間をどんどんとっていくという形になっていく。


  それが果たしていいのか。要件が平仄合わないというのは,かもしれないというような○○幹事が指摘されたことですけれども,紛争形態として,こんなパターンになっていいのかというのが,よりちょっと実践的にいいのかなという問題としてあると。


  第14の中に両方全部含めてしまうのだとすると,相手方が今のような相殺というのは許されないのではないかということで,履行請求そのまま認められるという可能性出てくるわけですけれども,この規律から外すというのは,今のような二度手間になる可能性を,容認するという立場決定でもあるというのはちょっと意識する必要があるのではないでしょうか。
  以上です。

● そうすると,○○幹事は,この外すということ自体,もう1度考えたほうがよい。


● もう1度考える余地があるのかなという気がしないではないなというのをお聞きしていて思ったということですね。


  もちろん,受益者が取消すかどうかが,決定的なポイントであって,受益者が取消さないんだったら,別に相殺認めてもいいのではないかというのは1つの立場だとは思いますけれども,何か後で取消してくると,何か本当にこれでいいのかなというもやもやとしたものが残るという,それだけのことです。


● 恐らく,相手方が無資力の場合に,どういう問題が出てくるかということがさらにあるでしょうから,忠実義務の一般ルールにゆだねる場合の効果をさらに詰めて,検討していただいて,詰めていくということでよろしいでしょうか。


  今,多分,即座にすべての細かいところまで詰めきれないと思いますので。
  今の点を含めてほかに相殺について。

  では,○○委員。


● これもちょっとはっきり書いてあるので,確認的な発言なんですけれども,何度も議論しているように,取引のときは善意,重過失ですけれども,相殺という,これとりひきとはちょっとずれるというような,これだと過失という要件で,やはり相殺についての取引保護については少し弱める,または通常の取引と同じように扱うと,こういうような判断をやっぱり事務局としてはされた,相殺はちょっと違うというそういうこと,そう書いてありますので,そうだと思うんですが。

● 通常の権限違反の場合には,信託事務であるということは認識した上で,その権限内か権限外かという話であるのに対して,これは信託財産に帰属するか固有財産に帰属するかというときに,実際固有財産に帰属はしているんですけれども,その帰属自体がわからなかったというのを,弁済という局面に限って,信託という特性に関して救済しましょうということですから,別に主観的要件が異なったからといって,別に理論的な整合性がとれないということではなくて,むしろ,478条との整合性を考えれば,このような主観的要件をとるのが妥当なのではないかというふうに考えているということであります。

● 13ページの説明のところに,相殺は可能であることを確認して融資を受けたがみたいな,だから,何となく通常の取引行為において,お金を借りる場合に,後に相殺を考える場合には,信託からの借り入れか否かを確認するような注意義務が,いけないという議論ではないんですけれども,ちょっとそんなふうに読むのかなみたいなことで,弁護士会でも議論していたこともありまして。

  だから,一般の人,金融機関同士であれば別に当然でして,銀行取引する人はある意味ではそこまでの義務あるというのは。なかなか一般の人が信託銀行から住宅ローン借りるときに,それがどこからの借り入れだったかというのも,過失ありという認定はちょっと厳しいのかなと,そんな議論なんですけれども。過失がないということなんでしょうが。


● 普通はそうなんでしょうね。
  それでは,この14の方向性については,パブリック・コメント前から出ていたことで,特に御異論がないかと思いますが,しかし,効果の点をさらに詰めて,検討するということで,14についてはその程度でよろしいでしょうか。
  それでは次に進ませていただきます。


● では続きまして,第23と第24について,御説明申し上げます。
  まず,帳簿作成義務等についてでございますが,帳簿の閲覧拒否事由が問題になっておりまして,第21回の部会におきましては,甲,乙,丙案をお示しいたしましたところ,乙案を指示する見解と,丙案を指示する見解とが示されました。

  今回はその際の審議内容ですとか,その後の検討も踏まえまして,丙案をベースとしつつ,受益者単数の信託の場合には,閲覧拒否事由をさらに限定するという考え方を提案するものでございます。

すなわち,受益者,委託者,受託者,信託外の第三者のそれぞれの利益のバランスをよく図ることのできる内容であるという点からは,丙案が基本的に妥当と思われるわけですが,ただ会社法の規定を参考に閲覧拒否事由を定めることにつきましては,そもそも多数の株主を前提とする会社の規定の中には,受益者が単数の信託には適切に当てはまらない事由があると思われるわけでございます。

  そこで,受益者以外にその利益を保護すべき者がいるかどうかという観点
から,提案の3の(3)と(4)の①,②というものにつきましては,受益者の単数,複数を問わず閲覧拒否事由となるとする反面,(注1)の③から⑥の事由につきましては,他に保護すべき受益者がいる場合,すなわち受益者が複数の場合の信託についてのみ,閲覧拒否事由となるとすることによりまして,丙案よりも関係者の利益保護のバランス,特に受益者の閲覧請求権の実効性に配慮した趣旨でございます。

  なお,第21回の部会では,帳簿閲覧請求に当たり,理由の明示を必要とすることの妥当性についても議論が及びましたが,資料の16ページに記載しましたとおり,理由の明示はやはり必要とは考えておりますが,その理由の明示すべき程度や内容は信託の類型によって異なってくるものと考えておりまして,この点は,前回の審議会で,最後にそのように御説明させていただいたところと承知しております。

  続きまして,第24の,他の受益者に関する情報を求める権利と。前は,受益者名簿の作成義務に関する規律としておりましたが,この試案の考え方に対しましては,賛成意見が多数を占めております。

  ところで,受益者名簿の作成に関する規律を提案いたしましたのは,意思決定に関する権利行使を望む受益者のために他の受益者の情報を知るための方法を確保することにあったわけでございますが,そうだとすれば,端的に受益者が他の受益者に関する情報を求める権利を有するということを確保すれば足りるわけでございまして,名簿の作成に固執する必要はないものと考え直したわけでございます。

  このような観点から,今回の提案1におきましては,受益者の複数の場合には,受益者が理由を明らかにすることによって,他の受益者の情報の開示を求めることができるといたしまして,そのために,受益者が受益者名簿を作成するかどうかについては,あくまでも信託行為を定める委託者及び受託者の任意の判断にゆだねることとしております。


  もっとも,自分の個人情報ないし,プライバシーを他人に知られたくないという受益者の正当な期待ですとか,あるいは他の受益者に関する情報をわからせたくないという委託者のニーズにこたえることのできる信託の設計を可能にするという観点から,他の受益者の情報を開示する義務については,あくまで任意規定にとどまると。


原則は義務があるわけですけれども,信託行為で外すことができるという位置づけにしております。


  さらに,提案2におきましては,株主名簿の閲覧請求に関する会社法の規定を参考にいたしまして,他の受益者の情報の開示請求に対する受託者の拒絶事由を法定することとしております。


  もっとも,提案1のとおり,そもそも情報開示請求の権利自体を任意規定としていることですとか,株主名簿については信託外の債権者にも閲覧請求権があるわけですが,ここでは他の受益者に関する情報を求める権利を有するのは受益者に限っているということなどにかんがみまして,この拒絶事由に関する規律も任意規定でございまして,信託行為をもって増減できるものと考えております。
  以上でございます。

● この23,24について,御意見ございますでしょうか。
● 若干意見とお願いを述べさせていただきます。

  23の3のところですけれども,まず,これもしかしたら前回申し上げるべき点だったのかなという気もするんですけれども,御容赦いただければと思います。

  3の(1)のところで,状況の報告を求めることができるというふうに,表現ぶりが改まっております。今回,これに合わせて表題もかえられているようですけれども,これは,報告という表現よりも,むしろ現行法どおり,説明という表現の方がよろしいのではないかということで,できれば,そういった形でお願いできないかと。


  例えば,個人の不動産の管理の信託を,考えた場合でも,報告という言葉ですと,事後的な報告という印象を受けますし,他方,説明ということであれば,管理方針等についても説明を求めることができるというようなこと,あるいは不明点については質問ができるというような感じがいたします。


  報告という言葉は,国語的に告げ知らせることということになっておりますし,結果を,与えられた任務の結果などについて述べることというようなことになっていて,説明という,よくわかるように述べること,解き明かし教えることというその国語的な意味でも,やはりこちらの方が適当なのではないかというふうに思われます。

  民法の委任の規定に倣って報告という表現にしたということが前回の御説明であるんですが,委任と信託を比較しますと,委任に比べて,信託というのは,他人の財産を預かるものであるということですとか,あるいは期間も長期にわたる,それから,委任のように当事者に当然にその解除権が認められているわけではないということですとか,という特性がありますので,やはり,委任に比べて受益者や委託者等,関係者の監督を図る必要性が高いのではないかというふうに考えております。

  そうするとやはり,言葉としては,報告という言葉よりも,説明という言葉をぜひ維持していただけないかというふうに考えております。それが第1点です。


  それから2番目ですけれども,3(3)の規律についてです。この規律については,基本的な方向性については賛成したいというふうに考えておりますけれども,閲覧対象から除外する範囲が広範になり過ぎないように,合理的な切り分けができるように,ぜひお願いしたいというふうに考えております。


  この規律の内容については,何点か御質問をさせていただければと思います。

  1つは,この規律の中で,信託の定めということが言われておりますけれども,これはどこまで具体的に定める必要があるのかという点です。具体的な書面を特定することまで必要なのか,あるいはその抽象的な定めでも許容されるのかどうかという点。


  それから,また,この規律の中で,受益者以外の第三者という表現が用いられている文がありますけれども,この第三者の範囲をこの信託行為の定めの中で定めておくことが必要かどうか。信託行為の定め方について御教授いただければというふうに思います。


  それから今の点に関しまして,第三者の中には受託者が含まれるのかどうかと。これは,個人的には,この第三者に,受託者を含めるというのは,若干問題ではないかというふうに考えておりますけれども,この点についても御教授いただければと思います。

  それから,この要件の中で,受益者の同意が要件とされておりますけれども,受益権が譲渡された場合には,この要件の充足についてはどう考えればいいのかということについても,教えていただければ助かります。


  それから,あと,(注1)についてなんですけれども,この点については,基本的には集団信託と個人の場合の切り分けで,こういった別異の規律を設けるという方向性については,基本的に賛成したいと思うんですが,ただ,この切り分けの方法として,この御提案の中では,受益者が単数か複数かということによって,切り分けがされております。これは,やや切り分けの線として,ちょっとやや厳しいのではないかという感じを持っております。


  個人的な色彩の強い信託の中には,親族の何名かが受益者となっている場合も少なくないというふうに思われるんですけれども,こういった場合については,やはり(注1)の規律にいかずに,(4)の規律で収めることが適当ではないかというふうに思われます。


  なかなかこの切り分け方が難しいであろうというふうには拝察するんですけれども,感覚的には受益者が一定の個性を持った特定少数のものである場合には,この(4)の規律だけでいくというふうにするのが適当なのではないかという感じを持っております。

  もし,その切り分けの方法として考えられるのであれば,例えば,信託の目的が特定のものの利益のために設定されたものかどうかということとか,あるいは受益権が不特定の者に譲渡が予定されているかどうかとか,そういった切り分け方とか,あるいは,どうしても難しい場合には,人数的な切り分けとか,そういった規律を御検討いただくことはできないかということです。この点,もし御検討いただければお願いしたいと思うんですが,よろしくお願いします。
  以上です。

● 3点について,御意見,御質問があったわけですが。
● 報告のところだけ,後で説明いたしますが,まず,第三者のこの信託行為の定めの具体性ということですが,これ,結局ここは第三者が,受益者が予見可能な範囲の状況を書いておけばいいだろうということでございまして,およそあらゆる文章なんていう書き方はだめだと思いますが,他方具体的に一々特定しなくてはだめというのも厳しすぎますし,そこは条理で判断するしかないのかなという気がしているところで,ちょっとそれ以上に,事務局からこう書かなくてはいけないとか,そこまで言えるような筋合いではないかなと思っております。

  それから,受託者も第三者に含まれるかというのは,これはやはり,信託債権の債務者であれ,ライセンスを受けている第三者であれ,受託者の場合でも入るのではないかというのが事務局の考え方でございます。


  それから,あと,個々の受益者,信託行為定めて,受益者の同意を得た場合に,それが譲渡されたらどうなるかということでございますが,これは個人的な感じでございますけれども,信託行為だけで定めれば,それが受益者の内容になって,それが転々流通すると思うんですが,受益者の同意がかんでおりますので,やはりそれによって,直ちにそういう性質の受益権になるということは難しくて,やっぱり譲渡されたら,また新たに譲受人の受益者の同意がないといけないのではないかという気がしているところでございます。

  人数の切り分けというのは,ちょっとなかなかそれはしかし,どういう,なかなか難しいとは思うんですが,ちょっとそこは検討させていただきたいと思います。


  あと1点,ではちょっと説明をお願いします。

● すみません。3の(1)の報告の書き方の問題でして,このあたりは結論的には法制的な事柄ですので,ある程度お任せいただきたいと思うんですが,その前提としての,実質のところが問題なのかと思います。


  先ほどおっしゃったお話というのは,基本的には信託であれば,受託者から何が聞けるかというのが委任と違って,質的に違いがあるんだと,恐らくそういう前提で説明という言葉のほうがいいのではないかということをおっしゃったのかなというふうに思うんですけれども,むしろそのあたりは信託事務の処理の状況についての,受託者に対して,報告を求められますし,それから信託財産の状況については,これはまた,信託法においては,一定の時期になったら,積極的に報告しなくてはいけないということですし,さらには,信託の帳簿なり何なり,これを作成し,あるいは取得したものを保管して,見せなくてはいけないと,こういうようなルールになっておりますので,むしろ我々としては,そこが上乗せになっていると,信託財産というものを委託者から預かり,受益者のために保管するという点において,そこが上乗せになっているということなのかなというふうに認識しておりまして,そうすると,別に3の(1)のところの信託事務の処理の状況,これを報告というふうに言ったから問題があるという感じは,正直あまりしていないと。


むしろ説明と言うと,何かいま一つあいまいな感じもいたしますので,そこは委任と同じような表現ぶりで,別に報告と言ったからと,委任でも同じだと思うんですが,事後的な報告だけというふうなことでは恐らくないはずだと思いますので,表現ぶりですけれども,その前提の実質については,今申し上げたようなところを,事務局としては考えているというようなところでございます。

  それから,若干,先ほどの○○幹事の発言の補足ですが,3の(3)ですが,同意を得るため何を書かなくてはいけないかということで,ここは,ほかのところの同意なんかとちょっと違いまして,あるいは信託行為ですね,何を書くかですけれども,ある程度,秘匿することができる情報について,法律で定めを設けておりますので,つまり第三者の秘密的なところですね,そういった情報でなくてはいけないとかいったような制限を設けておりますので,そのあたりも踏まえて,判断されることになるはずではないかと思います。

  あとそれから,受益者の同意を得ておいた場合に,ではその譲受人に対しては,どうなのかと新たに同意を取り直さなくてはいけないのかどうかという話ありまして,ちょっとここは,検討が必要かなというふうに思います。


  先ほど○○幹事が申し上げたように,同意の効力は譲受人に引き継がれないんだということもあるかと思いますけれども,あるいはそれだとちょっと第三者の情報の秘匿なんかの関係では少しどうかなというようなところもありますので,あるいは,こういうふうにもう信託法で,同意を得た受益者,閲覧,当初の対象にしないというような記述まで設けるという前提ですので,そこまでしてしまったら,その効果は引き継がれるんだと,譲受人ですね,そういうことも考えられてもいいのではないかなというような気もいたしますので,ちょっとそこは,なお検討させていただきたいというような感じがいたします。
  以上です。


● その点については,慎重に御検討お願いできればと思うんですけれども,先ほどの報告のところについては,要するに受益者の立場からすると,多分質問をしたり,いろいろなもう少し詳しく教えてくださいというようなやり取りを,多分したくなる場面が,特に個人的なものの場合,多いのではないかと思うので,そういったことができやすいと言うとあれですけれども,そういった形の表現ぶりを御検討いただければと思います。

● おっしゃることはよくわかります。恐らく我々の認識は,委任でも,報告を一方的に受けるというような話ではなくて,もちろんそれに伴って,質問したりというのは想定されているはずなので,何か特に今言われたようなことを想定して表現ぶりをかえるというと,何か,委任の方に変なバックフラッシュがあっても困るかなというような気もいたしましたので,発言いたしました。


● 多分,実質的なイメージはそんなに違っていないと思うので,その表現の問題だと思いますが,多分,ほかの法制との関係もあるでしょうから,今のような,趣旨は共通の理解だということで,よろしいでしょうか。

● 先ほどの,受益者の同意を得たということで,譲受人との関係の話で,意見といいましょうか,確認なんですが,基本的には譲受人も新たにとらなくてはいけないという話であるという,その趣旨というのは,結局,もしそうであるのであれば,譲受人というのは,例えば,受益者以外の第三者の利益を害する恐れのある情報についても,閲覧謄写請求ができるという,そういう趣旨ですか。


  もしそういうことであれば,やはりこれは,そういう規律というのは,やはり受益者の譲渡によって,そういう情報が開示されるか開示されないかと分かれるというのは,ちょっと合理的ではないなというふうに思うわけなんですけれども。


  ちょっとそこで御質問なんですけれども,そもそも,私も議論は追いついていっていないのかもしれませんが,この「かつ受益者の同意を得た場合には」という要件が入った経緯というのは,これ,ちょっと20回の会議で提案された甲,乙,丙案からは,ちょっとかけ離れているような気がするんですが,ここの趣旨,そもそもこれを置いた趣旨と,つまり,信託行為に書いただけでは足らず,受益者の同意を個別に,当初の受益者は信託行為だけで十分なのかもしれませんけれども,置いた趣旨というのは,これは一体どういうところなんでしょうか。

● これは前回の丙案にも,受益者の同意によりという要件が入っているような気がいたしますが,入れた趣旨といいますのは,信託行為の定めで一方的に受益者の閲覧請求権を奪うというのは受益者の権利保護の観点から望ましくないので,ここの受益者の同意も要件とする必要があるのではないかという,受益者の権利保護の重要視というか,そちらの方向から入れたということでございます。


  そういう経緯で入ってきたわけでございまして,ただ,最初のときに,信託スキームをつくるときに,自益信託であれば,同意を要件として設定すればいいわけですし,他益信託の形であれば,同意しなければ受益権を売却,取得できないというようなスキームをとれば,受益者となる以上は,同意しなければいけないということになるかと思うんですね。

  先ほどちょっと私の方からは,同意が,よって,信託の受益権の中身になると言えるのかどうかというような疑問もあるというふうなことも言ったんですが,この点はなおちょっと検討したいと思っております。

● よろしいでしょうか。
● 今の関連なんですけれども,ここで閲覧除外にする根拠として,実質的にどういったことが考えられるかということで,1つは受益者の同意ということと,それから文書の性質ということと,2つの要素があるのではないかという気がちょっとしておりまして,例えば,この記述していただいております受益者以外の第三者の利益を害する恐れのある情報というのは,これはむしろ文書の性質から除外することが正当化されるような気がするんですけれども,例えば,前段の方の,1の(2)の書類については,むしろ同意がその根拠になるのかなという気もしておりまして,ややちょっと性質が違うという見方もあり得るのかなという気がしているので,そういったことも含めて検討いただけないかというふうに思います。

  それから,そういったことで考えたときに,文書の性質から,同意要件は比較的薄くてもいいというような発想がもし出てくるとすれば,この第三者に受託者を含めるというのは,ややちょっとやはり問題があるかなという気がしておりますので,併せて御検討いただければと思います。よろしくお願いします。

● 今の○○幹事の御発言で,確認なんですが,前半の資料というのは,信託財産の状況に関する資料を作成する基礎になった資料のうち,重要でないものということでして,それに対して,後半の方は確かに第三者の利益を害する恐れがあるものではありますけれども,逆に言えば,これは信託財産,例えば,信託財産に属する債権の債務者情報とかで,詳しいものみたいなことになっていたときには,それは知った方が受益者にとってはためになるんだろうけれども,見せないという選択をするものですので,むしろ性質に応じてということであれば,前半の方は,重要性が乏しいものという縛りになっていますので,こちらの方がむしろ性質上ではないか。


  後半の方については,確かに,第三者の利益を害する恐れのある情報ではありますけれども,ではそれは信託の受益者にとってみたら重要な情報であるかもしれない。


それを見せなくていいということなので,こちらについては,同意というのを考えたというのが事務局の方の整理ではあるんですが。とりあえず,申し述べた上で,また検討いたします。


● 受益者保護という観点からいきますと,○○幹事のおっしゃることもよくわかるんですけれども,受託者としてのやはり信託事務の執行ということからいたしますと,前回乙案というのが提示されておりましたけれども,今回についても,基本的には乙案を支持したいというふうに思っております。


  受益者が単独と複数であるものに分けるということについては,こういう方向性はいいのではないかと思うんですけれども,本当に極めて実務的なところからいくと,他益の信託の場合がやはり困るかなと。御承知のように,適格年金とかでありますと,年金に係る情報というのは非常に大量でなおかつ長期間にわたるものがありますので,これが全部見せられるということがなかなか厳しいものがありまして,(3)のところの規律でいきますと,他益の信託ですので,受益者の同意というのが,これとれないということになります。したがいまして,実務上,かなり制約を受けるようなことになりますので,ちょっと考え方としてどうかなと思うんですけれども,例えば受益者代理の同意のみであるとか,年金信託ということに限定して考えますと,委託者というのが非常にきちっとしたところですので,そういうところが監視しているというところもありますので,何らかの特別の配慮をお願いできればなと思います。

  そういうことがなかなか理論的に難しければ,やはり乙案支持で,甲案に書かれているような要素も入れていただかないと,なかなかちょっと厳しいかなということで,御配慮をいただきたいということであります。


  それと,先ほど○○幹事の方から,受益者以外の第三者の利益というのも,受託者が入るか否かというところですけれども,これはぜひとも入れていただかないことには営業上の秘匿というのは絶対必要なことですので,ここはお願いしたいと思います。


  以上であります。


● 24のところでのちょっとだけ確認なんですけれども,先ほどの○○幹事の御説明のところで,2の受託者の拒絶事由のところで,ただ信託行為に別段の定めがあるときはその定めに従うものとするということで,この拒絶事由の増減ができるという御説明をいただいたかと思うんですけれども,1の(2)の趣旨と,これが設けられているのは,基本的に個人情報保護ということで,制約する方向ということで,御説明があったと思うんですけれども,その趣旨からすると,2の方も,これをふやすのはわかるんですけれども,ここの中から減らすというのはどういうことかなというふうに,ちょっと疑問に思いました。


  と申しますのは,これ任意規定でございますので,個人情報保護法の適用がある場合とすると,例えば株主名簿の閲覧請求の商法の規定の場合であれば,これ強行規定的に規定されているので,今たしか第三者提供の制限の例外で,法令に基づく場合という整理がされているかと思うんですけれども,こういう任意規定だということになると,以前も発言させていただいたことがあると思うんですけれども,なかなかそこが難しいのではないかと。


  そうなると,もう1つの適用除外である,人の生命,身体及び財産の保護のために必要であって,同意を得ることが困難である場合というものが該当するということになって,例えば2の①,こういうケースでは本人の意に反しても,他の受益者等の権利,受益者としての権利行使のためにどうしても他の受益者と一緒になって行動しないといけないというようなケースがあるようなときには可能だというふうに考えられると思うんですけれども,こういったものを,例えば外してしまうというようなものだと,やはり問題ではないかなと,個人情報を考えた場合は問題ではないかなと思うので,この拒絶事由を減らすというのは,ちょっと私の中で納得いかなかったものですから,ちょっとそのあたりの御説明をいただけたらと思うんですが。


● あくまで信託行為で初めて減らすわけでして,一応デフォルトとしてはこれだけあるわけですが,ふやすのはいいんだというのは御異論ないと思うので,減らすのも,信託行為で減らせばいいわけで,減らしたら,そういう信託に入りたくない人は受益者にならないというだけではないかと思うんですが,何かその。


● そういう理解です。最初に契約の方で,受益者が契約の中に入っていれば,いいんですけれども,後から転々流通するものであればそこまで明確に理解できるのかな,どうなのかなというふうにちょっと思ったものですから。

● 後から減らすのであれば,信託行為の変更の要件を満たす必要が出てくると思いますが。


● 後からというか,そういう信託行為がある分を,明確に認識した上でやっていれば,もちろん問題はないのかなとは思うんですけれども。


● 後から受益者が気づいた場合ですか。
● はい。
● それは,どうしようもない……。ちょっと気づかなかったのが悪いというか,そう言うと厳しいんでしょうか。しかたがないのではないかなという気がいたしますけれども。


● ○○幹事,関連ですか。
● まさに同じ点を聞こうと思っていたんですが,24の1も2もいずれも任意法規化されていると。その趣旨はおおむねは理解できるんですけれども,やはり拒絶事由をふやしていく方向でも実は問題が本当にあって,一切見せないのだというような形での定めが信託行為に最初からあってと,それが果たして常に許されるのかというのは,やっぱり考えないといけないポイントで,もともとの制度の趣旨というのは,やっぱり受益者の権利行使を容易にするというような制度趣旨があって,やっぱりその,およそこういうものが見られないことによって,受益者の権利行使が,実際上,権利はあるんだけれども,行使できない,非常に困難になってしまうというようなときには,やはりこのような信託を設定する以上は,そして受益者というものを存在を認めるということである以上は,やはり,いかに個人情報といいましても,他人の権利がそれによって大きく制約されるということであれば,管理しないといけないという側面もあろうと思いますので,完全任意法規化ではなく,何らかの制約がやっぱりちょっとないと,困ったことが生じるのではないかなという危惧は,私も持っていまして,その意味では,今の御発言,全くそのとおりかなという気がいたしました。

 逆の意味でも,この完全任意法規化という点については,ちょっと考えるべきポイントがあるのではないかなという気がいたしました。


● 方向は逆の方向ですけれども。
● 同じ趣旨ですね。はい。


● 今1についても触れられましたけれども,逆に1で,開示事由を広くしたときに,今度は個人情報保護法との関係でどうなのかということもあるでしょうから,両面ですね,信託行為で決めれば何でもできるのか,それから逆に個人情報保護法の23条でしたか,その規定との関係でどう考えるのかという,両方の方向でさらに検討するということでしょうか。

  ちょっと私,先ほどうっかりしまして,○○委員の御発言と○○委員の御発言が関連するかと思って続けてしまったものですので,○○委員の御発言について,事務局の方から。


● 乙案,丙案がどちらがいいかというのは,御指摘を踏まえてまた検討したいと思います。

  基本的にやはり,受益者の権利の重視という観点からは,乙案よりは丙案ではないかなというのが今の考えでございます。その後は,譲渡されたときにどうかというのはまた改めて検討したいと思っております。


  あと,受益者代理に言えばいいかというと,やはり受益者代理は個々の受益者の権利までは奪えませんので,やはり個々の受益者が同意をする権利というのは受益者代理によっては代替できないのではないかということで,そこは,受益者代理に通知すれば同意というのは難しいのではないかなと考えております。


  あと,これは先ほど他益信託のとき困ると言っておられたんですが,他益信託のときに,例えば,この情報の開示をしないことに同意しない者については受益者となることができないとか,そういう定めをして,同意をあった者しか受益者になれないとすることは難しいということでございますか。

● いや,そういうようなことは許されるのであれば,比較的検討はできるのかなという感じはしています。


● ただ,それが適法であれば対応策はあるけれども,そういうことが許されるかどうかということですか。
● はい。
● ちょっとそこは,また考えたいと思います。
● お願いします。
● ほかにいかがでしょうか。


● 24の関係ですが,任意規定として,この拒絶できる範囲をどこまでも広げられるということにしてしまうと,45番で,この受益者の権利の制限のところで100分の3という,有価証券化した場合ですね,という要件を設けた案が出ていますので,それとの関係で,帳簿閲覧請求権があると言ってみても,100分の3,集めることが,ほかの受益者だれかがわからないので,できませんというようなことになってしまいますが,その辺は何か,そういう場合でもこれがあるから大丈夫だというのはありましたか。

● 特にそこについては,対応しておりませんので,多数決,全員一致,100分の3いずれも,ほかの受益者がわからないとできないということから,受益者の情報を求める権利が必要ではないかという話が出ているわけでございますが,ここではそういう必要性はわかりつつも,個人情報の保護という観点からその制約を設けることは可能ではないかという仕切りをしているわけでございますので,100分の3ということにした結果,100分の3を持っていない人が帳簿閲覧できない結果になるということは,もし他の受益者に関する情報を求める権利が付与されていない場合には,それは仕方がないのかなという気がするところでございます。

● そうすると,この100分の3という方を,ちょっと帳簿閲覧請求権ぐらいは外していただくとか。


● これは一応会社法の規定に倣ってのことでございますので,もしそういう御意見であれば,そういう御意見は,それはそれであり得るというか,検討はいたしたいと思いますが。


  24とのバランスといいますか,どちらをとるかというか,そういう観点はございますけれども。帳簿閲覧は外したほうがいいのではないかということですか。

● ええ。と思います。はい。
● その場合には,情報を求める権利の方は,任意規定でいいと。
● そういうセットになりますね,はい。


● 1つだけよろしいでしょうか。
  先ほどからの説明もありまして,これまでの説明もそうなんですけれども,最初から,こういう他の受益者に関する情報を求める権利などがもう制限されているような信託だったら,最初から入らなければいいではないかというのは全くそのとおりの側面あるんですけれども,こういう点まで熟慮の上,受益者になるかというと,そういう場合もあるでしょうけれども,そうでない場合決して少なくなかろうという気がするんですね。


  要するに本体部分とは別の細々とした権利が,実は制約されているというところまで,目が届かないまま受益者になるというような場合は,今日の休憩2回ありましたけれども,何回かの前の議論にも若干出てはいましたけれども,信託法以外の問題なのだという図式で本当にいいのかというのは,ちょっと気にはずっとかかっているところでして,そういう意味では,任意法規化するという全体の流れはよろしいのかもしれませんけれども,やはり一定の制約というのをちょっと考えないと,行き過ぎたところが出てくるのではないかなという気がいたします。

  特にこの問題に関して言いますと,ちょっとそういう思いが,先ほど発言しましたように,あるなという気がいたします。


  そういう意味では今の100分の3の云々の問題がクリアされたとしても,なおちょっと問題残るのはあるのではないかなという気がいたします。それだけです。


● 今もう既にお帰りになった○○委員が言っておられたことですが,今回デフォルトで他の受益者の氏名などを把握することをほかの受益者に認めましょうということにしているんですが,いやそれと逆になぜほかの受益者の名前などが見られることになるんだろうねと,つまり受益者が複数いるんだけれども,何かそこに集団性みたいなもの,あるいは団体性みたいなものが信託においてはあるんだろうか,そういうところに私は若干の疑問があるというようなこともおっしゃっておられまして,それに対しては,私はそれはそれなりに答えはできるのかなとは思ってはいるんですけれども,例えば,今言ったような,つまり受益者間に団体性があるのかというような問いが発せられた場合,どのようなことを考えるべきなのかというようなところ,もし何かございましたら少しお教え願いたいのですが。

● 今のところに関係するかどうかは,直接関係するかどうかはちょっとよくわからないところあるんですけれども,その受益者がほかの受益者の情報を求める必要性というのは,基本的には,ここには全会一致の原則だということが書かれていますけれども,多数決で決める場合には,やはり多数決で決まったことを,受け入れるといいますか,それが強制されることになる以上,その多数決の意見の形勢については,ある程度,やっぱり参加の機会ではないですけれども,働きかけの機会というのが保証されてもしかるべきなのではないかなという感じがちょっとしております。

  それで,実質的には,これ,氏名,名称を必ず知らなければそういう機会が得られないのかどうかという点については,いろいろな制度を設ければ,それにかわるものができるのかもしれないというふうにも思いますし,あるいは,受益者が見られない場合に,ほかの人がそれを閲覧して,代替的なことができるというようなことも制度としてはあり得るのかなという気がしなくはないんですけれども,いずれにしろ,受益者が全くそういった働きかけといいますか,ルートが全くないというのは,ちょっとやっぱり厳しいかなという感じがしておりまして,実は弁護士会で議論したときも,これが全くないというのはちょっと行き過ぎではないかという議論がかなり出ておりましたので,何らかの工夫というものをお願いできないかなと。具体的なあれがなくて申しわけないんですけれども,という気はしております。

● すみません。これも基本的に受託者的な立場と言いますか,営業的な感覚からいきますと,例えばここに書いてある24のところの,デフォルトルールとして氏名または名称及び住所であるとか,受益権の内容と書いてありますけれども,例えばこれ開示するんですけれども,これ買いますかというお話を金融商品でしたら,やっぱり私自身が考えても受益権の内容を開示されるというのは嫌だなという人が結構いるのではないかと思うんですね。


  そうしますと,やはり,逆に当然そういうものは重要だというふうに考える方もいらっしゃると思いますので,ここはやっぱりいろいろな信託商品というものがありますので,デフォルトというのを堅持していただけたらなというふうに思います。


● 大体,御意見が出てきまして,一方で受益者の権利,あるいは受益者たちが集合するという機会を保証すべきではないかというのがある。他方で,幾つかの要素があるんですが,プライバシーとか個人情報の保護の問題,それから信託行為で自由に定められるというのが原則ではないかということ。あるいは受託者としての仕事の円滑というのも,ひょっとしたらあるのかもしれませんが,そういった関係を調整していくということが必要になると思います。


  本日も幾つか出ておりますけれども,その両者を何とか調整する具体的なアイデアとか工夫とかございましたら,ぜひ事務局の方にまた出していただきたいと思います。


  それからもう1つ,任意法規化をどの範囲で認めるのかということが,またこれ大きな問題でありまして,これについては,さらにまた検討していただくということにしたいと思います。


  ほかにこの2つの23,24について,ございますでしょうか。

● 大分以前の議論のとき,信託実体法と業法との関連で,業法において実体法よりも緩めるわけにはいかないという議論が,私うろ覚えであったかと思うんですけれども,もしかしたらこの議論というのは,皆さんの議論はいろいろな側面で議論したかもしれませんけれども,弁護士会的に言えば,民事信託において,だれが受益者か知らないのは変だなと思う反面,○○委員がおっしゃるように,金融商品買ったときに,どこのだれがそれを買っているかというのは別に知る必要もないし,教えたくもないというのはわかりますから,ここではある意味では議論が逆転していて,信託業法の方で,やっぱり金融商品としての方は緩めればいいのであって,ここでの議論はどちらかというと,民事信託的な発想,ですから,受益者多数といってもある意味では少数多数という,複数かもしれないけれども,少数であると,要するに,ぐらいのつもりで議論しないと,この溝は埋まらないのかなと。

  もちろん,民事信託でもという議論はあるかもしれませんし,業法と信託実体法がどちらが緩くてどちらがきついということのもともとの,何か原理原則論が別個あるのかもしれませんけれども,一応,かつてその議論があったことによって,どうしてもこちらがデフォルトルールでなくてはいけない,任意規定でなくてはいけないというのは,まず大前提にあるのが,多少議論の出発点であると,今みたいな議論も多少は役に立つかなと思いついたんですけれども。

● そうですね。信託法と業法との関係を含めて考えるということですが,ここはまず信託法のあり方を考えていくと。その際に,今おっしゃったような,今までと違う発想もあるのではないかという,御示唆だと思いますが。

● 今の点について,簡単にちょっとコメントしますと,必ずしも業法で規制されるべき場合ということと,それから,金融商品等で,受益者の匿名性を求める場合というのは,一致しない場合もあるのではないかなと思いますので,ちょっとそのすみ分けがうまく本当に適応するかどうかというのは,ちょっと慎重に考える必要があると思います。

● 事務局の中では,民事信託につきましてもこのような規定というのは任意規定にする必要があるのではないかというようなことを考えました。


その点につきましては,この19ページ以下に書いてあるようなことなんですけれども,具体的に申し上げますと,受益者の中には仲の悪い人がいて,委託者である親が,子の兄弟の1人については,どういう内容の受益権を与えたかということを受益者間同士では知らせたくないというようなニーズも,もしかしたらあるのではないかと,そうだとすると,こういう規定について,強行規定として,絶対受益者間でだれが受益者になったかとか,その受益者がどういう受益権の内容を持っているのかとかいうのを知らせなければいけないとまでする必要はないのではないかなというようなことを考えた次第でして,そういう意味からは商事信託も民事信託も,任意規定とするのがあるべき姿ではないのかなというふうに考えた次第でございます。


● 基本的に任意規定にするということは大体了解が得られていると思うんですが,それをどこまで徹底できるのか,貫徹できるのかという問題だろうと思います。

それをさらに詰めていただくということにいたしまして。
  ほかにございますでしょうか。
  では次に進みましょう。


● 申しわけありませんが,もう一頑張りで。前回の積み残し分をやってしまいたいと思いますので,恐縮でございますが,いつまでも積み残しておくわけにもいかないものですから。

  差止請求権からでございまして,前回資料の18ページからでございます。
  受託者の違法行為の差止請求権というところでございますが,試案では,提案1のみを示していたところ,賛成意見のみでございました。

ただし,委託を受けた受任者の違法行為について,受益者の受任者に対する差止請求権を認めるべきかについて意見が分かれましたが,この点につきましては,受任者に対する差止請求については,受益者が前面に出るのではなくて,受任者との契約当事者であり,信託財産の管理を含む信託事務処理をゆだねられています受託者の適切な判断に任せることが信託のスキームに適合的である等の理由から,これは認めないこととしたいと考えております。

  次に,新たな提案2にかかわるところでございますが,受託者の衡平義務違反のケースでは,受益者間に不公平が生ずる結果,信託財産全体を見れば損害が生じないものの,一部の受益者には損害が生ずる場合がありますので,損害を受ける恐れのある受益者に差止請求権を認めるべきであるとの意見がございました。

  この意見は基本的に正当であると思われますが,一部の受益者に多少なりとも衡平を欠く損害が生ずれば差止請求ができるとするのでは,信託事務処理の円滑性が損なわれるという恐れがございます。


  そこで,信託事務処理の円滑性の利益の保護と,各受益者の利益の保護とのバランスから,一部の受益者に著しい損害が生ずる恐れがあるときに限って,この受益者に差止請求権を認めることを新たに提案するものでございます。
  以上が第28についてでございます。


  続きまして第41の受託者の交代に伴う法律関係でございますが,パブリック・コメントの結果は試案に総じて賛成意見でございましたので,本提案では試案をそのまま維持しております。


  資料の21ページの2以下でございますが,個別意見を踏まえた検討結果を示したものでございます。

  このうち,最初の(1)のアというところでは,前受託者の任務終了後,権利義務承継前の権限外行為については,取引相手方の保護を図ると。これに対し,権利義務承継後であれば,もはや相手方の保護を図る余地はないという考え方を示しているわけでございます。

  また,資料23ページの(3)におきましては,共同受託者の一部の任務が終了した場合のデフォルト・ルールの考え方について示しているものでございます。


  特に,職務分掌の定めがある場合につきまして,任務の終了していない方の他の受託者は,職務分掌により,権限外の事項であるから,何もタッチしなくてよいというのではなくて,曲がりなりにも受託者である以上は,相続人等にすら課されている義務の内容,すなわち任務の終了した受託者の行っていた事務のうち,信託財産の保管及び事務の引き継ぎに必要な行為くらいは義務づけることを考えていることに御留意いただければと思います。

  それ以外につきましては資料中の説明に譲らせていただきたいと思います。

  続きまして第42の信託財産管理人というところでございますが,まず,基本的に賛成意見が多数を占めておりますが,試案におきまして,共同受託者の一部が欠けた場合にも信託財産管理人の選任を認めておりましたが,この提案では,全部が欠けた場合のみに選任を認めることとしております。


  また,裁判所に対して,受託者の辞任または解任の請求がされたに過ぎない段階でも,信託財産管理人を選任することを認めるかにつきましては,試案では検討事項としておりましたが,この提案では消極的に考えております。

  これらの点についてのみ,簡単に御説明しまして,あとは資料中の説明に譲りたいと思っております。

  まず,試案を改めまして,受託者の全部が欠けた場合に限ることとしたという点でございますが,これは資料26ページのイというところに詳しく書かせていただいておりますが,簡単に申し上げますと,共同受託者の場合におきましては,職務分掌の定めがないときは,受託者の一部が欠けても残りの受託者が信託事務の処理をすればよいので,問題は職務分掌の定めがある場合でございます。


  しかし,職務分掌の定めがある場合におきましても,残りの受託者に対して,任務が終了した受託者の行っていた職務のうち,信託財産の保管及び引き継ぎに関する事務を行う義務は課すことを考えておりますので,そうであるとすると,これに加えて信託財産管理人の選任の余地まで認めておく必要はないと考えられるわけでございます。

  そういうことで,受託者の一部が欠けた場合については,信託財産管理人の選任は認めないというふうに考えを改めたものでございます。


  次に資料の27ページの(3)のところになりますが,試案の(注1)というところで書いていたんですが,裁判所に対して受託者の辞任または解任の請求がされたに過ぎない段階でも,信託財産管理人を選任する余地を認めるかどうかにつきまして,検討事項としておりました。


  この点,パブリック・コメントでは意見が分かれておりますが,1つは,受託者の権限を失わせることになる信託財産管理人の選任には相応に慎重な判断を要しまして,辞任,解任の申立てがあったに過ぎない段階で,この判断をすることは容易ではなくて,相当の審理時間を要すると思われるということがございます。

  そうだとすると,むしろ非訟事件であります受託者の解任の裁判を経た上で,信託財産管理人の選任の要否を判断するというプロセスをとっても,時間的なロスは少ないと思われるわけでございます。


  そういうことで,この問題について,あえて申立てがあった段階で,管理人の選任を認める必要性というか,緊急性というか,そういうことはないのではないかということで,消極に結論しているわけでございます。


  もっとも,このような非訟事件を本案とする保全処分の申請は認められないと,信託財産管理人と同様,職務代行者の選任も認められないと考えておりますが,他方,選任決議の無効確認の訴えですとか,受託者の地位不存在の確認の訴え,これは訴訟事件でございますので,これを本案として,受託者につきまして,民事保全法上の職務執行停止,代行者選任の仮処分の申請をすることは可能と考えられます。


  したがいまして,この場合の職務代行者の権限等につきましては,結局規定を整備する必要があるものと考えているところでございます。


  続きまして,第49の被指定者による受益の拒絶の説明をさせていただきます。


  この提案は,前回までの部会で,受益権は権利の総体であるとの位置づけをとることとした結果を踏まえたものでございます。

  一般的に権利の放棄は自由ですが,放棄の効力は遡及しないと考えられるわけでございます。しかし信託では民法の一般原則と異なりまして,受益者として指定された者は,受益の意思表示をすることなく,信託の利益を享受できることになるわけでございます。

  そこで,被指定者が信託の利益の享受を自己の意思に反して強制されるものではないということを明らかにするために,被指定者は受益を拒絶する旨の意思表示をすることができることと,その効力は第三者の権利を害しない限度で,遡及するということを明文化したものでございます。

  なお,このように受益の拒絶がされますと,被指定者は,既に給付を受けた部分については,不当利得として信託財産に返還することになりますし,被指定者の受益権は,当初から消滅することになりますので,ほかに受益者が指定されない限り,その信託は目的不達成により終了することになると考えております。

  なお,被指定者は,過去の利益は享受した上で,将来の信託の利益のみ拒絶するという選択肢をとることも可能だと考えております。これは,法律的には一般的な債権の放棄というか,債務の免除と,特に異なるところはなくて,将来の受益債権の放棄ないし受益債務の免除と構成されることになると思われますが,いずれにいたしましても,この場合は受益権は将来に向かって消滅しまして,他に新たな受益者が指定されない限り,当該信託はやはり目的不達成により終了することになると考えております。
  以上でございます。


● 全部で4項目ありますが,最初に28の差止請求権についていたしまして,その後41,42をまとめてして,最後に49というふうに進めたいと思います。


  まず,差止請求権について,御意見ございますでしょうか。これは新たに入ったのは,2の公平義務違反の場合ということですね。特にこの御提案でよろしいというふうに受け賜ってよろしいでしょうか。

  それでは,28については,この御提案ということで。
  それでは次に,41と42,受託者の交代,それから信託財産管理人について,御意見お出しいただけますでしょうか。


● 意見というか,確認的なところなんですが,たしか包括承継か個別承継かという議論を以前したときに,これは個別承継であるというような話だったかと思うんですが,41の方で,新受託者が権利義務を選任のとき,就任したときに引き継ぐということで,信託財産の帰属と権利義務がずれるのはやむを得ないというような理解なんでしょうかというような確認です。


  それからもう1つはちょっと違うんですが,3の方で,ノンリコースローンをしていたときで,受託者の交代があったときに,前受託者が固有財産を持って弁済の責任を負うと書かれているんですが,そういう場合は違うという,通常の場合を前提としているのであると,こういうふうな読み方でよろしいのかどうかと,その辺を確認したいと思いました。


● 前者に関しては,信託に関する権利及び義務の承継というのは,信託財産の移転も含めておりますので,権利義務の承継時点と財産の帰属時点はずれないということになると思っております。


● では,権利は移るけれども,もし残っていればそこに対して承継に基づく引き渡しがと,そういう……。

● そうですね。そのときに信託財産の所有権も前受託者から新受託者に移転するということになるわけでございます。
  あと,もう1点は,すみません。3の。


● すみません。つまらない質問かもしれませんけれども,債務の3のところで,前受託者が,ノンリコースローン,信託財産のみを引き当てとする借り入れを信託がしていたときに,承継したときにはその約定どおり,別に固有財産で債務を負わないという理解でよろしいでしょうか。

● それは(注3)の信託財産のみを責任財産とする債務というのと同じということになりますので,限定特約があるときも負わないと。新受託者にのみ移るという理解でございます。


● わかりました。
  42の方でもよろしいですか。
● はい,どうぞ。


● 似たような質問なんですけれども,信託財産管理人はあくまで管理するだけであって,その所有権までは取得しないというような,たしか以前の説明であって,そのとおりかなと思うんですけれども,それでも,管理人として保存行為をするというような,以前の議論の確認なんですが,ということでよろしいんでしょうか。

● そのとおりでございます。


● そうすると,前受託者といいますか,任務を終了した受託者のところに所有権が残っていて,その受託者が取引行為をすると,これは,きょうも随分議論しているところの,重過失がない限りは取引の相手方は保護されるという規律から,全く外れてしまって,所有名義は残っているけれども,本来一切権限がない財産で,なおかつ受託者でもない財産の取引という,それがどう保護されるかわからないんですけれども。

● 資料中に書いたかと思うんですが,任務は終了したけれども,まだ新受託者が選任されていない段階では,所有名義が残っておりますので,その場合には……すみません,信託財産管理人が選ばれてしまった後ですか。

● そうですね。
● そうすると,全く無権限になるわけですね。


● 所有名義は残っているけれども無権限。


● この資料中の説明は,信託財産管理人が選任される前の段階だと,まだ保管の限度での権利義務は残っているので,権義違反ということだったんですが。信託財産管理人が選ばれると,名義人ではあるけれども,全く無権限ということですね。そこはどうなるのか,ちょっと考えさせてください。

● 今の点は,信託財産管理人が選ばれていない場合については21ページに,前受託者がどうなるかというのは出ているわけで,信託財産管理人が選ばれた場合にどうなるのかというのは,今の御質問であったわけですね。


● そうですね。
● 第42の信託財産管理人の(注6)ですが,この職務代行者につきまして,選任の要件について,どのようにお考えになっておられるかということと,その終了時期について,どのようなことを今の時点でお考えになっているのかというあたりをお聞かせいただければと思います。


● 私の方からお答えします。
  まず,職務代行者の選任の要件につきましては,民事保全法23条2項と同じ要件であるというふうに考えております。ですので,それ以上でもそれ以下でもないということになると思いますけれども。
  私がもしかしたら問題意識を理解していないのかもしれませんけれども。

● その御説明ですと,受託者の解任を本案とする仮処分というような御説明だったように思うんですが,この要件が参考になるという理解でよろしいんですか。


● ここの説明のところで書いておりますのは,受託者の解任を本案とするようなものではなくて,例えば選任決議無効の訴えを本案とした場合に,民事保全法23条2項に基く代行者の選任ということになりますので,そう考えますと,民事保全法上の要件に当てはまる。一般の民事保全の話というように考えているんですけれども。


● 私の説明がちょっと不正確だったかもしれないんですが,解任の申立ては非訟事件なので,保全の本案にならないと。これに対して,当初の選任決議の無効確認の訴えとか,地位不存在確認の訴えというのは訴訟事件なので,そういうものを本案とする職務代行者の選任というのは普通の民事保全法23条2項に乗ってやっていくということでございますが。

  要件は,民事保全法と特に変わるところはないというふうに考えております。
● 終了時期についてはいかがでしょうか。


● 終了時期につきましては,例えば本案で結論が出たというものであれば,また民事保全法一般の要件として終了するということになるかと思いますけれども。


● 裁判所の方で実際に審理されるお立場で,今ので大体大丈夫でしょうか。

● この職務代行者というのは,受託者解任の裁判の継続中に,信託財産管理人を選任できないという,間隙を埋めるための制度という理解でよろしいんですか。


● いえ,前はそういう提案をしていたんですけれども,受託者の解任の申立てというのは非訟事件ということになりますので,その非訟事件を本案として民事保全法上の職務代行者というのは選任できないというふうに考えまして,さらに非訟事件を本案として特別の保全処分というものを設ける必要があるのかどうかということも,以前は検討しておったのですけれども,きょう○○幹事の方から説明ありましたとおり,そういうものを結局非訟事件類似のものとして設けたとしても,受託者を解任するという場合の判断とほぼ変わらないということになりますので,そういう形での職務代行者なり,信託財産管理人というのの選任は認めないというように,考え方を改めております。

● そうすると,結局,特別の規律というよりも,民事保全法に乗るようになったということでございますね。
  ほかに41,42についていかがでしょうか。
  大体,それでは,この御提案,これ自体が41については,要綱試案から変わりがないわけですし,42についても若干の修正はありますけれども,今御説明いただいたというようなことで,よろしいでしょうか。
  それでは,41,42については,こういうことで,最後49,被指定者による受益の拒絶についてですが,いかがでしょうか。

● 私が,初歩的なこと理解していないがための発言になるかもしれません。お許しください。


  まず1点は,これは他益信託にかかわることと理解いたしました。そうだとしますと,次に,この他益信託の受益者である第三者は,信託の利益を享受することに確定する方策は特にないように思うんですが,それは必要がないというふうに考えられたのでしょうか。

  享受しない旨の意思表示をすると,そこで決まるわけですが,享受する旨の意思表示は必要ないと。しかし,享受する旨の意思表示をしないままずっといくと,いつでも享受しない旨の意思表示ができるということになりますでしょうか。


● 利益の享受については,意思表示を要しませんので,ずっと黙っていればもらえて,いつでも放棄すれば遡及的に放棄ができるという考え方でございます。


● それはそれで,論理的には一貫しているようなんですが,そして確かに何か不都合が生ずるかと言われると,だれも痛まないのかもしれませんが,何かやや不安定な感じが,直感的にはするんですが。


● 知っていてもらっていてという場合なら,放棄が権利濫用みたいな,放棄と言ってはいけないですね,拒絶の意思表示が権利濫用みたいなことはあり得るのかもなという気はいたしますけれども。

● それはもう,この外で,一般的な民事法の権利濫用の考え方でいくと。
● 特に受益者の受益の意思表示というような文言持ってこない限り,権利濫用でいくしかないのではないかと思います。


● 仮に考えますと,もう一歩進むと,この1の,享受をしない旨の意思表示をすることの放棄みたいなことがあり得るかなと。しかしそれは煩雑かなと,私も固い意見があって申しているわけではないんですけれども,権利濫用の一歩手前か一歩先にはそういうものもあり得るかなと思ったんですが,それは必要ないだろうというお考えですか。

● そこまでは必要ないのではないかと考えております。
● 最初に申し上げた自益信託ですと,それで受益をすることを覚悟というか,当然意図しているから,この規律いらないということだと思うんですが,他益信託の場合にも,それと実質的に同様の場合というのはあるのではないかなというふうに考えたからであります。


● 恐らく,そういうのはあっていいんだろうと思うんですが,ただそれをあらわすほどのものなのかというか,それは一般的に,放棄すると,ある種の権利を行使しないということ,それはあってもいいと思うんですけれども,明記するかというようなところの感覚の問題かもしれませんが。

  つまり受益を拒絶しないという意思表示に,何らかの効力を認めるというのは,あってもいいんだろうとは思いますけれども。


● ちょっと最後まで詰めて考えていないんですが,受託者に立たれる側の方に伺いたい面もあるんですけれども,補償請求権が受益者に対しては,原則できないということになりましたから,問題は生じないのかなと思うんですが,何か受益者にチェリーピッキングと言うんでしょうか,うまくいけばそのまま黙っていて,何かだめになると,ずっとたった後で放棄と言って遡及してしまうと。


  それは,最後は権利濫用で封ずることができるのかもしれませんが,何かちょっとそれが気になったところがあります。
  ですが,ちょっとこれ以上は,具体的な意見があるわけではありませんので,結構です。


● 今の○○幹事のお考えというのは2つがあって,不安定なのがよくないというのと,それから,受益者が選択をして,後になって拒絶することで利益を得るのがおかしいというのと,両面ありますね。
● おかしいですね。そうですね。


● 両方の意味で,もう少し考えた方がいいという御意見かと思いますが,場合によっては,もっと早期に確定した方がいい。つまり,消極的に規定するのではなくて,受益の意思表示の方から規定した方がいいと,そういう御意見ですか。


● いえ,そうではございません。そうではございませんで,パブリック・コメントの中にあったという29ページの下から2つ目のパラグラフの,被指定者が相当の期間にわたって受益者として行動している場合には,放棄できない場合があり得るのではないかというのが1つと,それから,あともう1つは,今既に申し上げたように,信託の利益を享受しない旨の意思表示をすることの放棄というのがあり得るかなという,その2つです。


● すみません。もう1度繰り返させていただきますけれども,あり得ていいんだと思うんですが,それは例えば,ある種の権利を与えたというときに,その権利の放棄ができるというのは,何か当たり前のような気がして,だから要らないのではないかと。

ここであえて受益の拒絶というのを書いているのは,普通の権利放棄ではなくて,遡及的に何か権利を取得しなかったということだから書いているのだと思うんですね。

  今○○幹事がおっしゃっている,享受をしない旨の意思表示をしないということすらも,一般法理の世界で,先々行使しないからというのは,それは当然できるのではないかなという気がするんですが。


● それは要求されると。わかりました。それでしたら結構です。
● ほかにいかがでしょうか。


  では,この49につきましても,今,御指摘をいただきまして,内容がさらに明確になったと思いますので,大体このあたりで。
  どうぞ,○○幹事。

● 大変細かいことで,今ちょっとお伺いをしていて,何となく実質論として若干違和感があるというところはあって,例えば履行請求までしている受益者が,後ほど拒絶の意思表示をすると,いうようなものが,でも禁反言とするほどのこともないのか,後から返してもらっても,別にそうたいして,受託者としては,変えてくる分には手間ではないというようなことでいいのであれば,濫用でもないということで,実質はそれでいいのかなという感じはするんですが,若干,自己の前の行為と矛盾しているという感じがするときに,法定追認的なものが入ってもいいのではないかというのは,何となく理解はできるところ。


  もう1つ,すみません,これ拒絶の意思表示なのか,放棄なのかというところなんですけれども,確かに,さかのぼってやるという分は,最初からなかったことにという意味で,受益の意思表示をしない,拒絶の意思表示をするという説明の方が適うようにも思うんですけれども,他方で能動的な行動をしていた場合に,いわば一たんは権利取得をしたけれども,放棄をするという説明の方がなじむ場合もあるのかなという気がしまして,ただ何か,口座に振り込むというのは口座情報出さないと無理でしょうから,何らかの権利行使的な行為をしていて,しかしそれはなかったことにというのは,これ放棄になじむと思うんですが,それを拒絶の意思表示というふうにしてしまうと,まさに矛盾していないかという話が出そうな気がしまして,すみません,内実に反対しているわけではないのですが,ちょっと若干いろいろ気になるところあるのかなと。どういう説明をするかだけの問題かもしれませんので,何が気になるかまた改めて整理させていただきたいと思いますけれども。


● 言葉遣いの問題とかの関係かなという気もしますが,御指摘を踏まえてちょっとどのように記述するかについては検討したいと思います。

● 権利濫用でいくのか,信託の利益を享受しない旨の意思表示をすることの放棄なのか,それとも自己の先行行為に矛盾するという信義則で否定するのかということの整理をしていく必要があると思います。

  先ほど法定追認ということもおっしゃいましたが,それも1つの構成をとったことが前提になるのかなという気がいたしますので,さらに検討して詰めていただくということでお願いしたいと思います。


  ほかにございますでしょうか。
  それでは,随分遅くなってしまいましたけれども,ないようでしたら,この程度にいたしまして,あと次回。


● では次回,2週間後の18日1時から,またこの会議室でやります。よろしくお願いいたします。
-了-
 
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2016年加工編
法制審議会信託法部会
第25回会議 議事録

第1 日 時  平成17年11月18日(金)  自 午後1時07分
                        至 午後5時08分

第2 場 所  東京高等検察庁 第2会議室

第3 議 題  信託法の見直しについて
   
第4 議 事 (次のとおり)



議        事

● では,これから法制審議会の信託法部会を開催したいと思います。
● それでは,本日席上配布いたしました資料に基づきまして御審議いただきたいと思っております。
  
どの項目からやるかというのは,適宜こちらの方で調整していきたいと思いますので,よろしくお願いいたします。
● では,お願いします。
● では,まず最初に,帳簿作成義務のところから御審議いただきたいと思います。


  それでは,まず内容について,変更というか検討した点について御説明いたしますが,ここでは主として2点について御審議を願いたいと思っております。

  まず,閲覧拒否事由に関しまして,前回会議の提案におきましては,(注1)の③ないし⑥の事由につきましては受益者が複数の信託一般に適用があるとしておりましたが,受益者が複数とはいってもなお個人的な色彩が強い信託があることを理由に,この提案に反対する意見が示されておりました。


  しかし,検討いたしますと,③ないし⑥の事由と申しますのは,いずれも請求者以外の他の受益者の利益を害する内容の要求でございまして,個人的な色彩の強い信託であれば許容されるという筋合いのものではないと思われます。


そして,本当に個人的な色彩の強い信託であれば,委託者が信託行為において閲覧拒否事由を制限するという対応をとることも可能であると思われます。

  これらの事情にかんがみなますと,前回の提案,すなわち受益者が複数の信託であれば,信託行為で除外されていない限り,一律に③ないし⑥の閲覧拒否事由の対象となるという提案を維持したいと考えているものでございます。


  もう1つは,前回の提案におきまして,受益者の同意を得て閲覧対象書類を制限できるとした場合に,このような制限が譲受人に承継されるのかという点が問題となりました。


  この点につきましては,このような制限につきましては,受託者が受益権譲渡人に対して有するに至った一種の抗弁事由でございまして,受益権の譲渡に関する規律に従いまして,譲渡人にも対抗することができることになるというふうに整理しております。

  このように承継されると考えているわけでございますが,開示制限の対象となり得る書類は,この資料にございますとおり,重要でないものですとか,第三者の利益を害する恐れのあるものに限定されておりますし,前受益者が,いわばその後の受益者も代表して閲覧対象の制限に同意しているというふうにも見ることができますので,譲受人の利益を不当に害するものとはいえないと考えるものでございます。

  まずこの点につきまして,御審議をお願いいたします。
● それでは帳簿作成義務等につきまして,主として今の2つの点,説明がございましたが,それを中心にしてその点で,それ以外でももちろん結構ですので,御議論お願いいたします。

● 前回問題提起させていただいたところですので,意見を述べさせていただければと思います。


  まず閲覧拒否事由についてなんですけれども,この③以下の拒否事由についてどう考えるかということですが,前回の受益者が単数か複数かで切り分けるということを維持されるという御提案なんですけれども,若干,具体的に見ると,やややはり問題が残るのではないかという感じがしておる点がございます。


  御指摘いただいている内容の中で,③の受益者の共同の利益を害する目的での請求ですとか,⑤の利益を得て情報を第三者に通報するための請求については,これは個人的な信託の場合にも権利行使を認めるべきではないというのは御指摘のとおりだと思うんですが,他方で④の受益者が信託に係る業務と実質的に競争関係にある業務を営んでいる場合ですとか,あるいは⑥の過去2年以内に利益を得て第三者に情報を通報したことがある者である場合という,この類型については,こういった事情があった場合があるとしても,定型的に拒否事由としていいかどうかということについては,個人的色彩の強い信託の場合には,なお疑問があるのではないかというふうに考えております。
  

例えば④については,今後信託がいろいろな使われ方をしていくということを考えますと,例えば家業の一部を信託して親族を受益者とするということも,あるいはあり得るのかもしれない。


そういった場合に,当該受益者が同業を営んでいるような場合には,むしろ監督の実効を図るという観点からは,権利行使を認める場合が適当な場合もあるのではないかというふうにも考えられます。


  それから⑥については,集団信託でそういった行為をした者であっても,例えば親族間の信託の帳簿を見せてほしいといった場合に,これを定型的に拒否すべきかどうかについては,なお疑問があるように思われます。


  こういった観点から,個人的色彩の強い信託には,③以下を適用することについては,なお問題があるように思われます。

  こういった点から,受益者が単数か複数かで切り分けるというのは,やはりちょっと切り分けの方法としては問題ではないかというふうに考えております。

切り分けの方法について記載いただいております①,③について,御検討いただいておるところなんですけれども,何とかこれを明確化する方向でできないかというのが率直なところです。


  あと,いろいろ申し上げて申しわけないんですけれども,もう1つ切り分けの方法としては,個人的色彩の強い信託を切り分ける方法として,例えば委託者と受益者が同一主体か,または親族関係がある場合とか,そういったところで切り分けるという方法はどうだろうかということも,あまりこなれた案ではないんですけれども,何とかそういった形で合理的な切り分けができないかということを考えております。


  切り分けの基準として,適当な基準が見出せない場合にどうするかということは,これはその先もう1つ考えなければならないことかなという気はしてはおるんですけれども,そういった場合には,やはり拒否事由を広く認める方向ではなくて,閲覧を広く認める方向で規律することを御検討いただけないかなというふうに思います。
  

恐らく,あまり意見を述べる機会がないと思いますので,若干ちょっと補足させていただきますと,この間意見を述べさせていただいてきているところですけれども,やはりこの受託者の情報提供義務というのは,極めて重要なところかというふうに思います。

  信託事務処理の適正確保という観点もありますけれども,さらに一,二点補足させていただきますと,信託の事務処理が受益者の目に触れることによって,信託事務処理自体が改善されていくというような効果というものも期待されるのではないかというふうに思われますし,またこの会議の場では,受託者の萎縮効果ということが論じられることがありますけれども,逆に受益者の,あるいは委託者の萎縮効果ということも考える必要があるのではないかというふうに思われます。


  信託をしたことによって,情報がなかなか出にくくなるという事態があるとすれば,やはりそれは委託者ないし受託者にとっては信託を利用するに当たって,ちゅうちょする1つの理由というふうになりはしないかということが懸念されます。

  こういった観点から,ぜひできるだけ広く認める方向で規律を整理するということを御検討いただけないかと。


  この閲覧請求の問題については,基本的には,最終的に,例えば裁判所で結論がどうなるかということもあるんですけれども,やはり受託者との間で,閲覧の拒否を認めるかどうかをめぐって紛争となること自体が受益者にとっては負担となることですので,こうした事態は可及的に除くような方向での規律をお願いできないかというふうに考えます。
 


 そうした観点からすると,御提案の方向とはちょっと若干違うんですけれども,むしろ規律ができないということであれば,信託法の取り決めとしては①と②を拒否事由とするということで統一するということを御検討いただけないだろうかと。

  広がって考えますと,③以下の事由というのは,集団信託の場合には①の事由を類型化したものとも考えることができると思われますので,むしろこの①の中にも読めるというふうに考えるとすれば,この①と②の事由だけを拒否事由として規律すると。あとはある程度解釈にゆだねていくというような方向もあり得るのではないかというふうに考えております。
  以上が,前段の問題についてです。
  

それから閲覧対象制限についても,長くなって恐縮ですが,一言意見を挙げさせていただければと思うんですけれども,1つ,若干この点については質問があるんですが,この要件の中で,1(2)の書類または当該請求によって受益者以外の第三者の利益を害する恐れのある情報の記載された文書ということを,要件というふうに書かれてあります。
 

 これは,御説明の中では受益者の権利の保護,害しないということの理由の中で,対象となる書類を限定しているという記載のところで触れられているところなんですけれども,この書類の対象の限定について,実効確保を裁判所による救済を求めることができるのか,具体的にはこの文書の対象に外れるかどうかということを,裁判所に問うことができるのかとどうかということを,1つ質問させていただければというふうに思います。

  それから制限の承継については,資産流動化での利用や,ライセンス契約の相手方の内容の秘匿の場合には,制限が受益権の譲受人に承継されるとする規律によらざるを得ないというふうに,私も考えます。しかし,これ前回も述べさせていただいたんですけれども,やはりこの第三者の中に,受託者を入れるというのは,やや問題があるのではないかというふうに思われます。
  


流動化やライセンス契約の場合には,こういった制限の承継を認めていくということに合理的理由があると思いますけれども,受託者の利益を害する書類というものについて承継を認めるということについては,やや正当化が難しいのではなかいかというふうに考えておりまして,この点については御検討いただければと思います。
  長くなってすみません。以上です。


● 重要な問題でございます。ありがとうございました。
  今のに関連して,御意見ございますでしょうか。
  ○○委員。


● 今の○○幹事の御意見のところの最終的な,最後の部分のところの,受益者以外の第三者の利益のところの部分について,受託者については排除した方がいいのではないかというような御意見だと思いますけれども,これについては前回も申し上げたんですけれども,まさに信託というのはいろいろな種類のものがございまして,そういうストラクチャーそのもの自体を売りにしているというようなものもありますので,そういった営業上の秘密であるとか,受託者が秘密にしたいことというのも当然のことながらありまして,そういうことのところへのご配慮は,やはりいただきたいなというふうに思っております。

  それと,これも前回申し上げたことなんですけれども,10ページの2のところの帳簿閲覧等と請求の対象の制限の承継についてということで,これについてはこういう形で整理していただいて,規律していただくというのは非常にいいことだろうと思います。

  ただ,受益者が多数の場合については,自益信託で受益権が譲渡される場合以外に,これもこの前申し上げたんですけれども,当初から他益の場合,典型的にいうと年金信託のようなものがありまして,これについての対応といいますか,実務上やはり秘密にしないといけないという部分もありまして,これについては,この規律ではなかなか対応ができないということで,これについては前回も申し上げたんですけれども,受益者代理というところへの報告をして,それで同意をするという形の規律を入れていただけないかということと,あとは,これは○○幹事の方からお話がありましたけれども,他益の信託であったとすると,他益の信託の受益者になるというところの部分で,閲覧の制限に同意しないと入れないというようなことができるのかどうか,それの方についても,認めていただけたならというふうに思っております。
  以上です。

● ありがとうございました。
  いかがでしょうか。


● 私は1点なんですけれども,受益者の同意を得て帳簿閲覧請求を制限した場合ということですが,信託行為で制限している場合の議論では,あくまでここに書いてあるように,個別の受益者との間で合意したというケースという理解でよろしいんですかという質問と,その場合には,その制限というのが承継していくというのは,要するに抗弁として成り立つというのは何となく,ちょっと違うのではないのかなという。
  


当初から信託契約の中で制限されるのは通常の議論ですし,その前段の方の議論でもあると思うので,その場合には初めから制限されていますから,そもそも抗弁ではなくて,そういう制限されたものがくっついた受益権が転々と譲渡されていくというような整理の方が通常ではないのかなと思うんですけれども。

● 確かにその方がわかりやすい気がしますね。
  幾つか,○○幹事,ありますか。


● まず今御指摘のあった,同意があった場合について抗弁になるかどうかというお話ですが,私どもでは,とりあえず受益者の個別の同意でいいのではないかと思っていたわけでございますが,受益権に付随する制限だというふうに考えるとすると,やはり信託行為に定めて,これについて受益者の同意があった場合には閲覧制限ができると。

そういうふうにすれば,受益権に付随する事由というふうに説明しやすいので,承継されると,受益権自体の内容ということになりますので,そこは今お話を伺っていて,そういう考え方も1つ成り立ちうるなという気がしております。ただ,受益者の同意が必要ということについては御異論がないと思うんですが,そこはよろしいでしょうか。

● 個別の同意も要らなくて,信託行為で制限されていれば,それはこの権利だけではなくて,いろいろなものがそうだと思うんですけれども,信託行為の中で受益権の持っている契約上の性質を定めるわけですから,そういうものとして受益権は転々と移転していくものであるというんですから,もともと受益者の同意の議論ではないと思うんですけれども。

  ただ,個別に受益者が同意した場合には,その方に対しては制限するのは当然ですけれども,隠れた同意が転々と譲渡されて,次の方は,もともと信託契約を見たら,フルにディスクローズされることが書いてあったんです。

いや,3代前の受益者が実は制限していましたのですから抗弁ですとは,何となくちょっと違うのではないのかなというふうに思った次第なんですけれども。

● 基本的な考え方は,受益権そのものに伴う制限となっているかどうかということなんだと思いますよね。信託行為でもって制限していれば,まさに信託の中身でもあり,受益権そのものについての制限であるということ,これは承継されて構わないと。


ですから,○○委員が問題にされているのは,信託行為で制限されていなくて個別に制限に同意したような場合ということですね。ここまで承継させなくてはいけないのかどうかという問題だと思いますけれども。

  ここの帳簿閲覧請求権に対する制限というものが一体どういう性質なのかというところは,私もよくわかりませんけれども,補償請求権とかいうのはとにかく完全に外のもの,信託の外の同意だというふうにしましたが,こちらはどの程度のものなのかということですね。


  とりあえず,信託行為で定めた場合には,これは承継されるということで,恐らく異論はないと思いますけれども。


● ただその場合には,信託行為で閲覧請求権を奪ってしまうということになるところが,ちょっと事務局としては懸念があるわけで,信託行為で定めた場合に閲覧請求できなくなるとしてしまって,果たしていいのだろうかと。

  ここは,さらに受益者の同意というのがあるからこそというのを,受益者の利益保護を重視しているところがございますので,そういう意味で言うと,信託行為で定めれば制限できるんだったら,そもそも構造自体が,受益者の保護からすると不足だということになるので,信託行為プラス受益者の同意というのならあり得るかなという気がするんですが,受益者の同意なしというのは,ちょっとまずいのではないかという気がしておりますが。

● そうだったんですか。そういう考えで。
● ちょっと問題の整理の仕方が,私が悪かったかもしれないけれども,これは先ほどから御議論いただいているように,非常に重要な受益者の権利ですので,単に形式的にというか,受益者が知らないところで信託行為で定められただけでは,制限されるのはどうも適当ではないだろうということで,受益者がやっぱり関与しているという形の同意が必要だと。

  それを,しかしどういう形で,またやるか。自益信託であれば信託行為そのものでやろうというのはできますけれども,他益信託なんかの場合に,関与していないのでどうするかというのが第1の問題であり,信託行為の形であらわれないときにどうするかというのが,次の問題ですかね。

● この点は,前回の会議でも私の方から質問差し上げたところなんですが,まず押さえておきたいのは,自益信託の場合は信託行為に書けば,これはその同意があったというふうにみなされて,受益権が譲渡されたとしてもその後に及んでいくということは,これはそういう理解でよろしいんですか。

  問題になるのは,ですから他益信託のときだということでございますか。

● そうですね。自益のときもおっしゃるように,1つの紙に書いてあったとしても,それは信託契約プラスこの受益者の同意が,2つの合意がされていると見ることができると思いますので,自益信託の場合には実質的には問題が生じないと。

  他益のときに,今の○○委員の御指摘を踏まえれば,信託行為で受益者の同意があれば閲覧請求権を制限できますと書いておいて,受益者の同意をとったときに,この制限がかかってくるという理解ができるのではないかと考えているところでございます。


  あと,先ほどの御質問のあった点ですけれども,このように受益者の同意を必要と考えておりますので,それであれば,たとえ第三者が受託者であっても,受託者のノウハウについての制限ということについて受益者がそれを同意していれば,それは別に制限事由になっていいのではないかなというのが,我々の考えでございます。

  あと,重要な情報か否か,あるいは第三者の利益を害するおそれのある情報か否かというのは,これは当然,最終的に訴訟になったときには司法判断の対象になるだろうと考えております。

  あと③以降の事由は,特に③,⑤はいいと言っていただいたんですが,④とか⑥とかの事由はどうかということでございますけれども,例として出されたのが家業の維持とか,そういう場合でございますが,そうすると,そもそも受託者の方で拒否しなければいいわけなので,一般的にはこれが閲覧拒否事由になっていても,閲覧請求があった場合に受託者の方で,これは他の受益者の利益を害する性質がないなということで閲覧させればいいのではないかと思っておりまして,あくまで法律の規律としては,こういうものを閲覧拒否事由とした上で,あとは信託の性質に応じて受託者の判断にゆだねればいいのではないかなという気がしております。

  共同事業を行っている場合とか,あるいは前に悪いことをしたという場合,共同事業の場合というのは,これはやはり他の受益者の利益を必ずしも害さないわけではないと。


やっぱり他の受益者に影響を及ぼすということは考えられますし,⑥は,若干制裁的なニュアンスが出てくるわけでございますが,やはり以前1度こういうことをした者については,なおこの新たな請求によって,他の受益者の利益を害する恐れが,一般的に,類型的に高いだろうというふうに言えると思いますので,この④と⑥の事由についても,他の受益者を保護するという観点から閲覧拒否事由として定めておいた上で,あとは受託者の方の判断にゆだねるということで,信託の類型に応じて対応できるのではないかというふうに考えるわけでございます。

  切り分けは,確かになかなか名案がないということで,単複というのは極めてシンプルなわけでございますが,この資料には,ほかの理由は十分規律として明確ではないと。


  親族関係というお話がありましたけれども,それも決して明確ではなかなかないわけでございまして,何親等以内だったらいいかとか,同居しているのかどうかとか,なかなか名案はないので,やはり単複で分けるということで,この原案維持ということで御承認いただけないかというのが事務局の考えでございます。

● 何か,いかがでしょうか。
  それでは,幾つか御意見もありまして,多少修正する余地がないわけではないかもしれませんけれども,この③から⑥までについては,基本的には受益者複数の場合には,ほかの受益者を害する可能性があるということで入ってはいるわけですけれども,裁判にまでなれば,これは実際には害していないとかとうことでもって,該当しないということでもって判断されるんでしょうけれども,先ほど○○幹事が言われたように,入り口の段階でどうかというところは,確かに重要な問題ですので,あまり萎縮効果というんでしょうか,受託者の方からとりあえずは拒まれるというのは,受益者の保護という観点からすると,問題がないわけではないというふうに私も思います。

  思いますが,しかし同時に,他の受益者を害する可能性があるということであれば,これらの理由,③か,ないし⑥の事由に該当する場合に,拒否できるということについて正当性が,またないわけでもないので,ここら辺は皆さんの御感触をお伺いしたいと思っておりますけれども,これで信託の健全性が図られるというのであれば,それでも許容できるという御意見であれば,この原案で,とりあえずはいってみたいというふうに思いますが。
  ○○委員。

● この③,④,⑤,⑥の,この点ですけれども,実際の運用の仕方がどうなるかにもよるということもあるかもしれませんが,特にこの④ですよね。これ,先ほど○○幹事の方から,受託者が家業の繁栄を考えれば拒否しない選択をすればいいんだというような御説明ありましたが,受託者に問題があると思われるときに,開示請求というのは出る場合が多いわけなので,そうすると,そういう受託者が拒否してしまいますから,そうすると実質的にというところが,どういうふうに規定されるかにもよるかなとも思ったんですが。

  例えばアパートの賃貸業なんていうのは幾らでもある話で,信託財産がアパートだった場合に,アパート賃貸して運用していると。受益者の1人がやっぱり自分がアパート持っていたというと,実質的には競合関係になってしまうんですかね。そうすると拒否されてしまうと。それはやっぱり何か変な感じがあるんですけれどもね。


● そこは,だから実質的にという判断で,当然になるわけではなくてという含みが,この実質的にという言葉に少しあるんだと思いますけれどもね。

● ただ,賃借人の取り合いという競合関係なんでしょうかね。それで見られないというのが,何かやっぱり不都合な感じがしますが。

● もしかしたら,今○○委員が言われたように,この中で比較的問題になりそうなのが,やっぱり④かもしれませんね。


  いかがでしょうか。この④のあたりについて御意見があれば。

● 規範的な概念を少し入れることはできないんですか。ほかのところは,不当な利益を得るとか,ここだけは競争禁止上見せませんという規範になってしまって,ちょっと①,②自体が,ある意味では規範的な要素,不当性とか不適当性というのを基準としていて。先ほど○○幹事がおっしゃったように,それ以下のところは,ある意味では①,②の具体的な形で書いたようにも思われるんですけれども。


そうすると,④だけ,④があらゆる状況においていけないとは思いませんけれども,不当にとか,不当が強過ぎるんであれば,何か競争用に有利に用いるためにとか,何でもいいんですけれども,ちょっと少しだけでも規範的な概念を入れることができないかなと思います。

● 実質的にというのが,ある意味でいえば規範的な要素として。実質的には狭くなる範囲もあれば,広くなる範囲も,○○委員がおっしゃったように,これを根拠に拒む場合もあるでしょうけれども,こんなのは実質的には競争関係にないんだということで,閲覧拒否事由にならないという判断もあり得るわけでございまして,かつ受託者がおかしな人で,何でもこれに当たると言って拒めば,それは最終的には訴訟で争えば,もちろん受益者の方で勝てる場合だって十分あるわけでございまして,受託者がむやみに拒否するというのはほかの理由でも十分あるわけですので,その場合は,最終的には訴訟での解決にゆだねざるを得ないし,それをもって受益者は権利を確保できるという考え方をとることができるのではないかなという気がいたしますが。

  そういう意味で言えば,会社法に倣っているということもあって,これをもって十分規範的な要素も含み,適切な対処が,最終的にはできるのではないかなという気がしております。

● いかがでしょうか。
  これ,会社法は全く同じ文言なんですか。


● 会社法は,請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み,またはこれに従事するものであるというときということですので,同じ文言でございます。

● 基本的にはここら辺は,いずれも会社法に則りながらつくったわけですね。

● 特に受益者が複数の場合は,株主が複数の会社と基本的に似た構造になるのではないかということでございます。


● いろいろ御意見があるかもしれませんけれども,会社法であるルールというのを,ここでも大体同じようなルールを設けるということで入っているものでございまして,さっきの④に関しては,私もちょっと,どこまでこういうことでもって拒んでいいのかという感じはしないではないんですが,実質的にという概念を,それこそ規範的に適用してもらうと。あるいはそういう前提で,この④を考えるということでいかがでしょうか。


  なかなか条文をつくる際に,会社法と違う条文をつくるというのはつくりにくいということもあるかもしれませんが。


● 必要があると思えば会社法とは異なる条文とすることは当然ですが,ここは会社と似た構造にあるのではないかなというわけです。


● それでは,とりあえずはこの原案の方向で少し進めさせていただいて……。
  どうぞ,○○委員。


● ちょっと質問なんですが,受益者複数の場合で全員が一致した場合には,単数と同じように考えてよろしいんでしょうか。


● 全員が一致して何をするわけですか。
● 請求を。
  そうしますと,個人的な色彩の強い場合に,全員が一致することによって,請求できるようになるかなと思ったんですが。


● それでよさそうな気もしますね。
  2人受益者がいて,2人とも請求しているという場合であれば,これは。
● それはいいのではないかと,1人と考えるんだろうなと思います。他の受益者の利益を害するというのが,この③~⑥の趣旨ですから,2人が一致しているんだったら,あとは①,②だけの問題かなというふうに思います。


● ちょっと今の場合も,今○○委員が言われて直ちにみんなそうだろうと思ったと同じように,解釈でそうなるとは思いますけれども,文言としても明確にできるのであれば。


● 条文でどこまで入れるかはこちらで対応させていただきたい,ゆだねていただければと思いますが。


● よろしいでしょうか。
● ちょっと1点よろしいですか。
● はい,どうぞ。


● 先ほど○○委員が御指摘されたことをもう1度確認させていただきたいんですけれども,我々事務局の提案といたしましては,委託者と受託者の合意だけで,帳簿等の閲覧請求権の一部というのを制限するということは適当ではないのではないかという考えのもとに,信託行為の定めプラス当初の受益者の合意というものがあれば,一部制限していいのではないかというように考えておりまして,当初の受益者が合意している以上は,受益権の内容として,そのような帳簿が見られないという権利が受益権の中に発生しているので,それを承継した後の受益者についても,それが及ぶというように考えておりまして,これについては合理的な考え方ではないのかなというふうに思われますのが,まず1点と。


  あと,先ほど○○委員の方から,受益者代理でこの合意というのをすることができないのかというような御指摘がありまして,この点につきましては事務局の中でもいろいろ考えておりまして,受益者代理というのは受益者に対して善管注意義務等の義務を負うという観点からは,合意を受益者にかわって受益者代理がするというようなことをしていいのではないかというようにも思える反面,やはり受益者の合意がなければ,このような重要な権利の制限というのを認めるべきではないのではないかというようなところが,なかなか悩ましいところでありまして,この点につきまして,ここで御審議いただければというように考えております。


  よろしくお願いいたします。
● いかがでしょうか。
● 私の関連のところだけ,一応簡単に。
  ここの規律としては,受益者保護になるから,それはそれでよいと私は思います。


  ただ,ほかではそういうもの出てこないし,あと信託というのは,受託者と受益者が合意しても,それが受益権の中身になるというのは,あくまで個別合意であるということでほかのところはきていると思いますので,ちょっとここだけ特殊な,特別な扱いということでいいのかなとは思うんですけれども。


  何か他に影響すると,知らない間に受益権の内容が,あるとき変更していて,それが信託行為とは別に存在しているというのが,ここだけの規律であればいいんですけれども,ほかのところとの関連でもそういう解釈が出てくるのは,ちょっと心配かなと思うんです。


  ただ,ここでは全然それで構わないと思いますけれども。

● 確かに実質論としては,何かよさそうな気もするけれども,信託の構造論として考えたときどうかという問題ですね。

  ちょっと,少し留保させていただきたいと思いますけれども,信託行為で定められていて,受益者が同意していることについては,これは問題ないと。


しかし,信託行為で書かれていない形で受益者の同意があったというときに,どういう扱いをするかということについては,ちょっとこれは引き続き検討させていただくと。


● やはり,これは個人的な見解ではありますけれども,受益者だけの合意があった場合について,信託行為の定めがない以上は,それは承継されないと。


もちろん自益信託であれば別ではありますけれども,他益信託の場合は,信託行為に書いてあって,かつ受益者の合意がある場合に限って,承継された受益者にもそのような制限というのが及ぶと。


  だから少なくとも受益権を譲り受けた受益者というのは,信託行為を見れば,そのような制限がある信託の受益権を譲り受けたんだなというのはわかるというところで,受益者の保護は図れるのではないかというようには思いますけれども。

  その点につきましては,もう1度検討いたします。

● 今の場合も,信託行為の中に書かれるという,信託行為に書くのは,他益信託であれば委託者と受託者ですけれども,それにプラスして受益者の同意があるという場合には,受益権そのものの制限として承継されて構わないだろうと。恐らく実質的には,そこは御同意いただけるんだと思いますけれども。


  それ以外の場合に承継というのがあり得るかどうかということについては,もうちょっと検討させていただきたいと思います。
  よろしいでしょうか。


● 今,○○関係官がおっしゃったことに,私賛成いたしますけれども,1点ちょっと確認させていただきたいのは,もう既に御議論がなされたことかもしれませんが,承継する場合,受益権が有価証券化されていたときに,有価証券上に,こういった制限がなされているということは必要的記載事項とされることを考えておられるのか。有価証券化されている場合とそうでない場合とで,随分またシチュエーションが違うかと思います。
  

特に有価証券化されている場合には,有価証券上にその旨がやはり書かれていないと,不測の損害と申しますか,生ずる恐れがあるような気がいたしますけれども,この証券化されている場合の承継の扱いについて,コメントいただければ幸いでございます。

● いかがでしょうか。
● 現時点では,ちょっと直ちに考えていなかったところでございまして,また追って返事させていただければと思いますが,○○幹事の御意見としては,そこはやはり載せておいた方がいいということですね。


● ええ。有価証券化された場合には,それは必要的な記載事項とすべきではないかと考えます。

● ほかに。
  ○○幹事。

● 記載の意味内容なんですが,それというのは,受益者の同意が必要であるというふうな実体法規があるとするならば,制限されるというふうに書いてあっても,それは制限されるという意味には解釈されなくて,受益者の同意があるときに制限されるという解釈になるんだと思うんですね。


  そうすると,それが信託行為に書かれているから,譲受人はわかると,そして対抗させてよいということには,やはりならないと思いますし,有価証券化するときに書くとしましても,書いたとしても,それはあくまで同意があったときには制約されるという意味内容でしかありえないのではないかと思うんですが。


● 理論的には,何かそんな感じもするし,難しいですね。
  今の問題は,しかし,有価証券の場合はまたちょっと,基本的には同じ問題だと思いますけれども,とりあえずはさておいて,普通の信託行為の場合に,ただ書いてあっただけでは承継されないだろうと。実質的に受益者の同意があったという。それはそういうことでいいのではないんですかね,しかし。結論は。


  だから,ちょっと不明確にはなりますけれども,例えば受益権を承継した人間からすると,信託行為には一応制限が書いてあると,だけれども実質的に同意がないということを証明できれば,そうしたら閲覧請求できるということになる。ですから信頼したことによる,何か不利益が受益権の承継人に生じるというわけではないと。


● 有価証券が発行されているときに,どういうオペレーションになるか,ちょっと具体的にうまく想定できないんですけれども,次のようになるのであればこうなるのではないかと思うんですが。


  一たん有価証券が,信託が設定されたとともに受益者に渡されると。しかしその後受益者が同意をしたら,その同意は受託者に対してするんだろうと思いますので,そのときにその有価証券に同意が行われたということを,追加して記載するということはできないんでしょうか。そうすると,今○○幹事がおっしゃった問題は,そこで解決するように思うんですけれども。


  しかし,有価証券というのは,その後信託が成立した,信託行為が行われたときの有価証券というものは,記載内容がその後変更できないんだということになると,○○幹事の,恐らく最初の疑問の発端にある,そこで書けるのは閲覧が制限されているということではなくて,同意があったら閲覧は制限されると,その状態しか書けないのではないかということかと思うんですが,その前者の方の,操作というか取り扱いが可能であれば,○○幹事の御提案の問題も解決するように思います。

● ちょっと,有価証券に後から書けるのかどうかとか,よくわかりませんけれども。
  どうぞ,○○幹事。


● 有価証券はわからないんですが,問題は,有価証券になったとしても信託行為になったとしても,共通のところがあるのではないかというふうに考えておりまして,仮に有価証券では逐一書かなくてはいけないということになると,信託行為オンリーである場合に,自分が譲り受ける受益権が,閲覧制限がかかったものであるのかどうかというのは,それはやっぱりわからないわけで,恐らく信託行為等で逐一追加してというようなことは,なかなか,逆に考えにくいのかなと。


  個別対応を,個別同意というのは考えているわけですので,有価証券の場合は,エキストラでということは対応可能であればできるのかもしれませんけれども,大元の信託行為の問題は残るのではないかという気はいたします。


  その際なんですけれども,1つは,記載の内容がどういうふうなものになるのかということで,同意があれば制限される性質のものであるというときも,その同意をだれからとるのかというと,先ほど御説明の中では当初受益者という限定をされていて,文章の中ではそういう限定は必ずしも明確ではないと思うんですけれども,当初受益者の同意があれば,そのような性格のものとして譲渡されていきますということまで記載されていれば,制約が当然自分に,自分が同意していなくてもかかってき得るものであるというところまではわかると。

  そのときの記載は,同意そのものを明らかにしているというよりは,そういうような性格を持った受益権であるということと,譲受人に対しては一種の公示の性格でしょうから,そこは一種の警告の公示になっていて,そのような制限のかかったようなものを,あなたは譲り受けようとしている可能性があるので,実際に,では制限がかかっているかどうかは,当初受益者の同意があったのかどうかにかかってくるわけですので,そこは調べてくださいという,一種のノーティスファイリングみたいな,そういうような機能を,そこで実は,譲受人との関係では持たせているということになると説明せざるを得ないのではないかと思うんですが。
  


ただ,さらに言うと,そうしたときに,そういう当初受益者の同意はないので制限がありませんという説明を受けて購入したところ,実はそうではなかったというような場合にどうなるのか等々の問題はかかってくるように思いますけれども。


● それは,また次の段階の問題として,ただ信託行為に書かれている内容の意味については,私も今の○○幹事と基本的に同じ考え方ですけれども,それによって警告を受けるということですよね。譲受人としては。実際に同意があるかどうかは,その同意があるかどうかを調べて,どちらかということを判断すればいいと。


  少なくとも信託行為に記載されていることを信用したことで,何を信用したかということですけれども,当初の受益者が本当に同意していれば,この制限を受けますよという警告があり,そこまでを信じているわけですね。


実際に同意がなかったので請求できるんだということになれば,これはこれでもちろん受益者にとっては,いずれにせよ受益者としては信頼を害されたということは別に生じないわけで,そういうことで問題はないのではないかという気がいたします。


  ただ,○○幹事が言われた次の問題ですね。記載がそこまでにとどまっているために,つまり受益者の同意があるということまで記載されていないために,受益権を譲渡する人間が,同意があるんですよと言って譲渡したけれども,実はなかったときにどうなるか。


  ただ,これは,また個別の取引の問題として,そういう受益権を譲渡した人間の責任の問題として解決すればいいのではないかという気もいたしますけれども。


● それで,今のような理解が御提案のものであるとしたときに,ここからちょっと確認をさせていただきたいのですけれども,承継も含めて,問題となる同意をする受益者というのは,当初受益者に限るという理解でよろしいんでしょうか。


  仮に,机上の空論かもしれませんが,有価証券でもなくて,何者かに譲渡されていった場合に,当初の受益者は同意しなかったけれども2番目の人が同意したというような場合は,この場合の話ではなくて,実は信託行為の定めプラス個別同意でセットによって,受益権の性格自体を抗弁権つきのものにかえていくというものには乗らなくて,それは単にその人が,いわば閲覧制限,単純に放棄したというだけで,後の人には承継されないと,そういう理解でよろしいんでしょうか。

● 私の説明では最初と言ったかもしれませんが,別に2番目でも3番目でも,譲受人が承諾をすることは可能でして,その場合は,当初の受益者が同意していなければ,それは完全な閲覧請求権があるような受益権であったと。


しかし,譲受人のところで同意が得られれば,そこで,言ってみれば受益権の性質が変じまして,閲覧制限つきの受益権というものになって,それがその後の受益者に転々譲渡されて引き継がれていくということになるのではないかなという気がしております。


  ですから答えを端的に言いますと,別に当初の受益者に限らず,その後の譲受人であってもいいし,そのときに初めて受益権の性質が制限つきになるというふうに考えているものでございます。


● そういう旨を,さらに記載していくことになるのかと思います。
● どこまで記載できるかというのは,一たん引き取って記載するとか,できるのかとかありますので,それは記載事項等の問題がありますので,ちょっとお時間をいただければと思いますが,性質的にはそういうことかと思っておりますが。


● ○○委員。

● 金融商品的に考えますと,まさに有価証券化したものということを前提に物事を考えますと,やはりそういう,途中で同意したり同意しないとか,そういう話になると,非常にややこしい話ですし,そういうものが金融商品として成り立つかというと,なかなか難しいのではないかなというふうに思います。


  したがいまして,やはり信託行為で,一番最初にどういう形になっているかという,この受益権の性格というのはこういうものだということを書いて,もちろん有価証券化した場合には,それを有価証券に書いて,それでも,例えば保有した人については同意したものとみなしますというような形でないことには,なかなか実務上の観点からいくと,回っていかないのではないかなという感じがするんですが。


● 確かに,今の○○委員の御意見はもうちょっと先を行く意見かもしれませんけれども,途中の受益者の同意で制限つきになったりならないというのは,何か不安定な感じはちょっとしますね。


  ちょっとここは検討させていただきましょうか。それでさらに,今○○委員が言われたようなことが可能なのか。特に証券化のときのことにまでは,私も証券となると,本当にはどういうのが一番いいのかというのはなかなかわかりにくいところありますので,ちょっと検討させていただきたいと思います。

  ○○委員。

● 参考になるかどうか,単なる考え方の1つとしてのみお聞きいただければいいんですけれども,今の話お聞きしていますと,やっぱり信託行為で,基本的には帳簿閲覧請求権が制限されるという効力が基礎づけられるんでしょうけれども,しかしその効力の発生が受益者の同意によって,それによって効力が発生するというような構成に近いのかなと思いました。


  それで,受益者の同意というのが,当初受益者ではなくて,とにかく受益者が同意したことによって,この制限というのは効力が生ずるというような構成に近いとしますと,ではどういう要件,条件があれば効力発生を認めていいのかと。


そのときに同意という厳格なものが必要だと考えるのか,今おっしゃったような,もう少しそれを広くとらえるような考え方でもいいのかというような問題の整理になるのかなという気はしたんですが,そんな感じでよろしいんでしょうかというだけです。

● 御指摘のとおりでございまして,今簡単な方法というのは,最初に○○委員がおっしゃった,この受益権を取得した人は,おおよそ同意したものとみなすというやり方ですよね。


それがいいのかどうか,実はよくわからないのですけれども,そういう点も含めて,そういう同意を擬制するに近いものでございますが,それが受益者の利益保護の観点から,果たして可能なのかどうかという点を含めて,その点もちょっと時間をいただいて検討したいと思います。


● 2点だけなんですけれども,今の議論の方向の中で,受益者の同意について若干薄めるといいますか,そういったあれもあるような気がするんですけれども,私はそういう方向には必ずしも賛成しませんが,もしそういう方向で議論をするとすれば,やはり実質のところといいますか,書類をどの範囲で閲覧制限するかということについては,やっぱりきっちり決めていただく。


そこのところで,そこをきっちり決めることによって,保護の実効を図るというようなアプローチが必要なのではないかというふうに感じておりますのが1つと。


  それからもう1つは,実は前回の会議の中で,同意については承継されない場合であれば,○○委員の方から,では同意した場合だけに譲渡をするというようなことは許されるのかといった発言があったかと思うんですけれども,あれはどちらかというと,そういうことはちょっと難しいのではないかというニュアンスをちょっと感じたんですが。

  規律のあり方というか現場のやり取りを考えますと,そういったあり方というのが,ある意味,1つ合理的な解決の仕方としてあり得るのかなという気がしておりまして,理屈づけとしては,本来,要するに譲渡制限もなし得るわけですから,譲渡制限したものを解除する条件として,そういった同意を要件にするということを許容するとか,そういったアプローチがあり得るのではないかというふうに感じております。
  以上です。


● 確かに,今の○○幹事の御意見,もっともな点たくさんありまして,やっぱり同意の意味,それが薄まるのであればルールを明確にしてほしいと--制限の範囲といいますか--ということでございますので,それも含めて,仮に薄めるというような方向の提案をするような場合には,その点も含めて検討したいというふうに考えます。


  それでは,まだ御意見があるかもしれませんけれども,今申し上げたような点を中心に,特に承継の場合について,もうちょっと検討してみたいと思います。
  それでは,次いきましょうか。


● では次は,受託者が複数の信託の問題というところでございます。
  これは,ちょっと詳細に。5点ほど御審議いただきたい点がございます。

  まず,説明資料に基づきまして,説明の(1)でございますが,職務分掌型の共同受託では,この規律によりますと実体法上合有になるわけでございますが,実務上は単独名義で登記・登録をしたり,特に有価証券につき,証券口座を単独名義でしているということへの配慮を求めるという意見がございました。


  しかし,共同受託の場合における信託財産の所有関係につきまして,信託行為の定めをもって任意に規律できるとしますと,各受託者の信託財産に対する共有持分を認めることにもなりかねず,妥当ではないと思われます。

  やはり共同受託の場合の信託財産の所有関係は,一義的に合有と解することが,法律関係の複雑化を避けるためには有益だと考えるところでございまして,公示においても,このような合意という法律関係を適切に公示することが望ましいと考えるものでございます。

  次に(2)でございますが,信託事務の執行の場面における委託につきましては,他の受託者に対する委託を原則として禁止するまでもないと考えられますので,相当な委託を認める一般原則を定めた第22の規律にゆだねることで差し支えないと考えまして,今回の提案からは落としております。


  これに対しまして,重要な信託事務の意思決定については,他の受託者に委託することは原則として禁じられるべきであると考えられまして,これとは発想の異なる一般原則の規律にゆだねることは適当でないと思われますので,ここに3として残しているところでございます。

  次に説明の(3)に関しまして,提案の4の(2)②,アンダーラインの部分に書いておりますが,職務分掌の定めのある共同受託において,一定の要件のもとに取引の相手方を保護する特別の規律を設けることとしております。


一般の共同受託の場合におきまして,受託者の1人が適法な意思決定は得たものの,他の受託者の名前は顕名せずに,自己の名で取引をした場合,あるいは職務分掌の定めのある共同受託の場合において,受託者の1人が,その所掌事務に関して単独で信託事務を決定し執行した場合,いずれも他の受託者は,その固有財産をもってしては責任を負わないのが原則でございます。


  そして,この場合には,他の受託者の名前が出されていない以上,取引の相手方としても,相手となった受託者以外の受託者の固有財産をあてにしてはいないのが通常であると考えられるわけでございます。


  しかし,仮に取引の相手方において,他の受託者も固有財産で責任を負うと考えるのが相当であると認められるような場合には,その信頼を保護する必要もあるのではないかと思われます。


  ところで,今申し上げた例のうち,一般の共同受託の場合におきましては,各受託者はその固有財産との関係でも相互に代理権を授与しているとみなしておりますので,民法100条ただし書きの類推適用によりまして,取引の相手方は,いわば本人というべき他の受託者の固有財産にもかかっていくことができることになりまして,特にこの信託法で規律をするまでもないと思われます。


  これに対しまして,職務分掌の定めのある共同受託の場合におきましては,相互の代理権授与との擬制というのは,信託財産に効果が及ぶ限度にとどめておりまして,他の受託者の固有財産との間でこのような擬制をしておりませんので,民法100条ただし書きの類推適用によって,他の受託者の固有財産にもかかっていけるとすることは困難であると思われます。したがいまして,取引の相手方を保護するために,特に規律を設ける必要があると考えるわけでございます。


  そこで,取引の相手方におきまして,当該取引が信託事務の処理としてされたことと,他の共同受託者が存在することを認識していること,これで顕名があったのと同様になるわけでございますが,これに加えて職務分掌の定めがあることについて,善意・無過失であるということの要件を満たせば,他の共同受託者の固有財産にもかかっていけることとしたものでございます。
  

次に説明の(4)におきまして,従来より問題になっております,合有の信託財産に対する強制執行の方法について論じております。


  パブリック・コメントでは,1つの債務名義でいくべきであるという考え方と,執行手続き上の難点から,共同受託者全員に対する債務名義を取得する必要があるという意見とに分かれておりました。
 

 ところで,職務分掌の定めの有無にかかわらず,共同受託者の1人よる取引の実体法上の効果は,少なくとも信託財産を責任財産とする限度では,他の受託者にも及ぶと考えているわけでございますが,執行手続き上は,合有の信託財産の帰属者である受託者全員に対する執行力が現存していることを明らかにするために,執行文が必要になると解されます。

  その方法としては,受託者全員に対する債務名義を取得して,単純執行文を得るか,あるいは1人に対する債務名義を取得して,他の受託者に対する承継執行文を得るかという,いずれかの方法になると考えられるところでございます。
  

しかし,後者の承継執行文という方法によりますと,債務名義上の債権が信託債権であって,かつ他にこの信託債権に関する共同受託者がいるということを執行文付与機関に証明しなければならず,これは決して容易なことではなくて,結局執行文付与の訴えの手続によらなければならないという可能性が十分あると思われるわけでございまして,それから民法上の組合財産における強制執行についても,組合員全員に対する債務名義を取得しなければならないと解されているところでございます。


  あと,実際の取引相手方の保護の観点から懸念があるという点につきましては,職務分掌の定めがある場合のみでございますが,訴訟の過程で他の受託者がいるということが明らかになることは少なくないと思われまして,それがわかれば相手方としても,他の受託者に対する訴訟も追加して提起することができると思われるところでございます。

  こういう点を総合考慮しまして,単純執行文による方法,すなわち全員に対する債務名義をとって,それは併せてとればいいわけで,必要的共同訴訟ではないと考えておりますが,債務名義を順次とって,単純執行文を得て執行していくということにするのが相当と結論したわけでございます。
 

 最後に(5)でございますが,共同受託者の1人の任務が終了した場合に,これを補充するに当たって,原則として残りの受託者の同意を要するものとすべきかにつきまして,今般新たに甲案と乙案とを提示しているわけでございます。


  これはあくまで,例えば3人が2人になったときに,3人に戻すという場面だけでございまして,また4人にふやすというのは,別途,信託の変更になりますので,全員の同意が必要になると考えているわけでございます。

  このようにもとの状態に戻すときにつきまして,あくまでデフォルト・ルールにとどまるものでございますが,委託者と受益者の合意のみでいいのか,他の受託者の同意も要するのかという点につきまして,いずれをデフォルト・ルールとすべきかにつきまして,御審議をいただければと思います。
  以上です。

● それでは,ここでもいろいろ御議論があるかもしれませんが,よろしくお願いいたします。

● 何点かございまして,ちょっと教えてほしいところもあるんですが,合有の点なんですが,まず,これ財産というのは不動産,動産,それから金銭債権,有価証券もある動産かもしれませんけれども,金銭債権の場合も,ちょっと今まで金銭債権の合有というのはあまり観念したことないんですけれども,不可分債権のような形なんでしょうかという,ちょっとその規律が,これは教えていただきたいという視点なんですが,わかりにくいなということが,まず第1点なんです。


  それと,ちょっと順不同になってしまうかもしれませんけれども,民事信託の場合,受託者が複数の場合というのは,普通は商事信託を観念するかもしれませんけれども,海外,米国の例なんかですと,民事信託といいますか相続等遺言信託等の場合には,例えば弁護士と親族と,場合によっては信託会社,信託銀行がなるという,複数で民事信託の受託をするというケースが多いというふうに聞いておりますので,その場合を考えますと,これはちょっと確認的な視点なんですけれども,4の(1)のところ,2人以上の受託者がその任務に違反する行為をしたことにより損失補てん責任等を負う場合は,各受託者は連帯債務者と
すると。


  これでほぼ明確なのかもしれませんけれども,職務分掌の規律があった場合に,ある人が信託行為,忠実義務とか善管注意義務に違反したときには,他の受託者は連帯責任を負わないと。


それぞれ別々に何か違う違反があったときに,違う違反であってもそこだけくっついて連帯債務になるとか,ちょっと必ずしも文言上は明確ではないので,確認してほしいという意見が弁護士会でもありましたので。

  弁護士会の意見としましては,職務分掌の定めがある場合には,やはりそれぞれが責任を負っているのではないかと。その方が,恐らくよいのではないかという議論がありました。


弁護士は受託者になるケースをちょっと念頭に置いて,受益者の保護という視点が違うのかもしれませんけれども,なかなか自分の責任範囲ではないことまで責任を負うというのはちょっと厳しいのではないのかなという視点で,ちょっと確認していただきたいという視点がございました。それが2点目です。


  それから,幾つかあってすみませんけれども,3番目として執行のところなんですけれども,○○幹事の御説明のように,訴訟の段階で明らかになるかもしれませんけれども,それでも執行したらまだほかにいて,第三者的なものですから請求異議かわかりませんけれども異議が出たと。そうするともう1回訴訟をすると。また債務名義とればいいのかもしれませんけれども,というよりも,執行文付与の訴えを認めることと結局は同じではないのかと。


ですから,執行文付与の訴えを認めるというルートは残しておいていただいた方がよいのではないかと,こういう議論がございました。その辺もちょっと御検討いただければと思います。

  ちょっと幾つかあってすみませんけれども,あと職務分掌の定めがある場合,適格年金の場合には別の議論ですというのが,どこか(注)か何かにあったと思うんですけれども,私の情報が正確かどうかわかりませんけれども,シェアの変更みたいなことが時々行われると聞いておりますけれども。


そうすると,別々の信託ですと,シェアの変更があった場合に,一たんそれが信託を終了し再信託が行われたみたいなものを,擬制的に観念してということになるというのも,何となく現実と違うのかなと思ったりします。その辺は,どちらかというと信託銀行の方のコメントかもしれませんけれども。


  ですから共同受託の場合でも,これだけが唯一の共同受託の規律ではなくて,他にもいろいろのバリエーションがあるし,それが信託の柔軟性ではないのかなというようなふうに思ったりします。


 まだいろいろありますけれども,また思い出しつつ,また。

● ではとりあえず。
  もし今の議論に関連する点がございましたら,まず先に御意見を伺いたいと思います。

  ○○委員。

● 私も,ほかにも何点かあるんですけれども,今の関連する点から申し上げますと,1つは,大きな問題として,共同受託の要件というのがちょっとよくわからないなということで,1を見ますと,1つの信託で複数の受託者であるということは,すべて,例えば共同受託の要件がかぶってくるのかということなんだろうと思います。
 
 先ほど○○委員からもお話あったように,例えば適年のようなものについては,受託者が単独で信託事務の決定及び執行を行い,信託財産を単独で所有している者については,受託者を複数だけれども,この射程外とするというふうに書いてありますので,例えばこの規律が適用されるものというのは,ここでありますように決定が単独で行われるということであるとか,あとは結局信託財産が単独であるというものについては,ここに入ってこないと。というような形の整理の仕方の方が,わかりやすいのかなというふうに思っております。
  


方向性としては,ここに(※2)で書かれている方向性というのは非常にありがたいことだろうと思うんですけれども。


● 2番というのはどれですか。
● 19ページ。
● 最後の適年の話ですか。

● はい。
● ありがたいということと,1つの信託と見るということとの関係は。1つの信託と見なくて……。

● 要するに,適格年金といいますのは,基本的には1つの契約書の中に全部入っているわけですよね。そうすると,これはそうだから共同受託ですよというふうになってしまいますと,この規律が全部かぶってくると。そうすると,いろいろな不都合が出てきますと。


  そうではなくて,1つの契約書に書いてあるんだけれども,でも単独で決定して,単独,分有状態になっているものについては,ここの適用はありませんという話であったとすると,それは大体,いろいろな問題があるんですけれども,8割方の問題はそれで解決されてしまうということですので,そういう意味合いでありがたいことだということです。


● 今までの,共同受託で合有だというルールをそのまま適用されては困る。それを外すという限りでは,この(※2)の方向は賛成するという意味ですね。わかりました。


  いろいろなレベルの議論がありますけれども,先に,やっぱり複数の信託,この基本的な考え方,合有という考え方,それから今のと密接に関連しますけれども,合有というものとは違うタイプの複数の信託というものについて,何を考えるかと。

  これはもうばらばらの信託だというふうに考えて,あとはばらばらの信託としてのルールを,ただ当てはめるだけでいいのか。それとも何か,もうちょっと中間的なものがあった方がいいのかというのが,恐らく基本的な,まず論点だと思いますので,そこについて少し御意見を伺えればと思いますが,いかがでしょうか。


  ここの案は,あくまで合有というふうになるようなタイプの,複数の受託者についてのルールを設けているということだというふうに,私は理解しておりますが。

  いかがでしょうか。
  ではまず,○○委員から。

● 若干,実務的なところで補足いたしますと,以前は,特に年金とかについては,法律レベルではないんですけれども,例えば適格年金であると国税庁の方の所管だったものですから,例えば契約のひな形みたいなものがある程度決められていたというところがあって,そうすると共同受託でなければいけなかったというような特殊事情があったということですね。


  ですから実務上,そっちの一面ではしなければいけないと。一面では実務上は,ここに書かれていたといいますか,現在の法律の規定とはギャップがあったということでしたけれども,今はそういうものがなくなっていますので,そういう意味合いからすると,単独でしてしまえる土壌ができ上がってきたということですので,ただ以前の契約がそのまま移行して,どうこうできるかというのは別の問題だと思うんですけれども,当然信託契約を,これだけ法人とかかわるわけですから,変更するということですので,そこら辺のところも変更して,対応ができるようになるのではないかなというふうに思っております。

● わかりました。
  ○○関係官,どうぞ。
● 今○○委員がおっしゃったこととほぼ重なるところがあるんですけれども,先ほどお話に出ておりました,1つの信託で複数の受託者があるときという点につきましては,当然適格年金信託みたいなものは入らないというふうに考えておりまして,それについては信託契約の解釈,要するに信託財産が単独で所有されており,単独で意思決定をし執行をするというような場合については,複数の信託契約というのが重なり合っているというように考えることができるのではないかというように考えておりまして,そういう観点から,この第34の規律というのは当てはまらないということになると思います。

  それで,適格年金信託のような信託というものを,別個の類型として信託法に書くということもあり得るのではないかとは思うんですけれども,そういうような形で書いてしまいますと,逆に信託の柔軟性を損なうというようなこともあるのではないかというように考えておりまして,そのような観点から,現行法でもあるような,この信託財産の合有となるというような信託についてだけ,共同受託として規律しておけば足りるのではないかというように考えた次第でございます。

  あと,○○委員のおっしゃっておりました,金銭債権がどうなるのかという点につきましては,これは信託財産を合有となると考えます以上は,分割債権にはならないというように考えるほかはないのかなというように考えております。


  あと,職務分掌の定めがある場合につきまして,各受託者が連帯責任を負うというのは適当ではないのではないかというのはおっしゃるとおりでして,これは受託者が任務違反行為をした場合に責任を負うということを前提にしておりますので,職務分掌の定めがある場合には,前提として,ある任務違反行為について,職務分掌の定めのある受託者が2人とも任務違反をしていなければ,連帯責任にはならないということになりますので,職務分掌の定めがある場合には,原則として相互監視義務というのはないので,その受託者だけが負うということになると思います。


  ということなので,例えばAという違反行為をした受託者がいて,Bという違反行為をした受託者がいて,その各受託者が責任を負うからといって,それも連帯責任になるというわけではございません。
  そういう御回答でよろしいでしょうか。


● ○○幹事,どうぞ。

● 2つのタイプの分け方の点なんですけれども,第34に含まれるもので職務分掌の定めがあるものは,信託行為は1つであると,職務分掌の定めがある。しかし職務分掌が行われた後は,職務分掌が行われた限度でですけれども,すべての職務を,もし分掌しているとしますと,独立してそれぞれの受託者が決定,執行すると。


  それと,適格年金について今例で挙げられたような,別々の信託であると。結果はそれでいいんですけれども,1枚の信託契約書に書かれていて,受託者A,B,Cとなっていたときに,どうやって区別するのかというのが,○○関係官のお話ですと,最後の決めどころは,信託財産が合有になるか単独所有かというところにあるようなんですが,それはある意味では効果であって,やはりその前に,信託行為のレベルでどっちなのかというのを分けられないと,論理的にはおかしいのではないかなと思うんですが,それは恐らくすべての事情を考慮してどちらかと分けるのだと思うんですけれども,ややまだ,これできっちり分けられるのかなというところがわかりません。


  それから,それと関連するんですが,あともう1つは,この事務局の提案をよく理解したいための質問ですが,第34の世界に入って職務分掌がある場合に,これは信託財産はあらゆる財産は合有になるだろうと思うんですが,独立で決定,執行できるということは,独立で,単独で処分できるということになりますが,合有財産というのは,本来は恐らく合有者全員の意思によって処分をすることになるんだろうと思うんですが,そこが単独でできるというのは,この職務分掌の定めの中に,ある種の代理権が与えられていて,その他の受託者を本人とする代理権が1人の者に与えられていて,その権限に基づいて1人で処分できると,そういうふうに考えたらよろしいんでしょうか。

● そのとおりです。
● わかりました。


● 最初の方の質問,途中の処分ではなくて,信託財産の合有か単独かというのはむしろ効果であって,信託行為のレベルで何か分けられないかという点はどうですかね。


● その点は,まさにおっしゃるとおりなところがあると思うんですけれども,やはり,事務局の提案としましては,効果という点を前提にして考えていたと。要するに,職務分掌の定めがある受託者が,単独で意思決定をし執行した場合には,信託財産の限度ではその効果が及ぶと。


  それに対して適格年金信託のような場合については,1人の受託者が意思決定をし執行をすると。だけれども,信託財産が単独所有になっているから,他の受託者が合有という信託財産に執行するという問題は起きてこないんだと。


  やはりその効果,確かに,効果で信託契約がどういうものなのかという性質決定をしていいのかどうかという問題点はあるかとは思うんですけれども,なかなかそれ以上にうまい切り分け方はないのかなというような悩みがあるところでございます。


● あともう1つ関連して。申しわけありません。
  職務分掌のところで,私勝手に自分で前提を立ててしまったんですが,これはすべての職務を分掌しても,第34に当たり,職務分掌だということになると考えてよろしいでしょうか。


  ここでもし,何かは分掌できないんだというのを残すと,適格年金タイプと区別できるかなと思ったんですけれども,そうではなくて,すべてを分掌しても,やはり34の世界に入るものはあると。


● そうです。
● わかりました。
● では,○○幹事。

● 今のは入り口の定義の議論。
● どういう意味ですか,入り口というのは。
● ○○幹事,2つおっしゃいましたよね。その中の後半にかかわるものでも,今発言してもよろしいんでしょうか。それとも。


● 構いません。○○関係官も少し答えられたし。
● わかりました。
  分掌のシステムが,先ほど,代理ですかというふうに○○幹事おっしゃって,○○関係官がそうお答えになったんですが,それに関連して幾つかお伺いしたいんですけれども。


  現在の,ここに出てきている提案におきましては,4の(2)の②というのがあって,第三者に対して,債務を分掌に従って行為をして負担したときにも,当然②は,他の受託者の固有財産には相手方はかかっていけないという話になっておりますよね。

他方で,信託財産に対して執行するというときには,共同受託者全員の名義に対する債務名義をとらなければならないということなんですが,それではどうやってとれるんだろうかというのがわからなくて。


  例えばA,B,C3人が共同受託者なんだけれども,Aが職務分掌の定めに従って,ある種の債務を負うという法律行為を行ったというふうにいたしましたときに,A,B,C3人訴えますと,A,B,C3人に対して単なる支払請求という形で訴えを提起していきますと,B,Cは,お前最初の行為時に知らなかっただろうと。

だから俺らは債務を負わないんだと。それは4の(2)の②によるんだというふうに言いますと,B,Cに対する請求が棄却されて,Aに対する債務名義しか取得できないような気がするんですが,B,Cに合わせて,債務者にする債務名義というのはどうやってとれるのかというのをお教えいただければありがたいんですが。

● どうぞ,○○関係官。
● この点につきましては,信託財産の限度においてのみ,その義務を履行する責任を負うというようになっておりまして,債務自体はA,B,C3名とも債務を負担すると。ただし責任財産が信託財産の限度になるというような理解ですので,そういう意味では債務名義はとれると。


  ただ○○幹事がおっしゃるように,相手方にしてみると,取引をした相手方であるAしかわかりませんので,そういう意味では,いざ執行をしてみると,いや実はこれは信託財産に執行してしまったんだと,信託財産がA,B,C3名の合有になっているんだということで,驚いてしまうのではないのかなというようなところはもちろんあるんですけれども,その点につきましてはその訴訟の中で,訴訟告知なりを,当然Aはするであろうと。

  要するに,そういうものをしなければ,信託財産に対して債権者は執行することができなくなるので,結局Aの固有財産に対して執行されるという可能性が高まってしまうというところもありますので,当然そういう訴訟の中で,これは信託債権であって,A,B,C3人の信託財産,合有のものがあるということは明らかになるのではないのかなというような提案が,今回の提案でございます。

● 先ほど私が申し上げたことは誤解であるというのがよくわかりました。ありがとうございました。

  もう1点関連いたしまして,代理ということをもって説明するとしたときに,4の(2)の②というのが,どういうことで正当化され得るのかというのがよくわからなくて。


  実質上としては,A,B,Cの3人が共同受託者で,Aが単独名義で取引をしているというときには,Aのことしか期待していないではないかと,これはよくわかるんですが,代理であるという説明になりますと,B,Cの固有財産にもいけるというのが筋になってしまうような気がするのですが,いかがなんでしょうか。

● それは確かに,一般の代理というふうに考えますと,責任財産が信託財産だろうが固有財産であろうが代理しているというように考えるのが当然でありますので,そのような結論になるんだと思うんですけれども,ここでは信託財産の限度においてのみ代理をするという,いわゆる特殊な法定の代理というような構成で考えておりまして,そういう意味で正当化できるのではないのかなというように考えてはおるんですけれども。


● よろしいですか。
● そうすると,相手に,これは信託事務の執行だよというふうに言ったとすると,Aが。無権代理であると。


● 信託事務の執行だよと言って,その信託財産の限度では,B,Cも責任を負うというところは前提なんですけれども,それはB,Cが固有財産で責任を負わないというところで,無権代理という御質問でしょうか。


● 例えばただし書きに当たる場合なんですが,A,B,C3人が共同受託者で,Aがあることについて単独執行権限を持っていたと。私は実はA,B,C3人が共同受託者の信託の受託者なんだよと。

でもこのことについては僕個人でやっていいんだよねというふうに言って,相手方と取引をした場合には,相手方はこのただし書きの要件を満たすことになりますから,B,Cの固有財産にも執行していけることになりそうなんですが,それは,与えられた代理権を,本当は優越しているということになるんですか。


● その固有財産の限度では,優越しているということになると思います。
● そうすると,そう言ってはいけないんですね。

● そうですね。職務分掌の定めがある受託者である以上は,その信託事務の処理ですというのであれば,これは責任財産が,自分だけが固有財産で負うんですというところまで言わなければいけませんということになるんだと思いますけれども。

● ということは,ちょっとただし書き,もう1個要件が必要だということですかね。


● 受託者側のと。
● 職務分掌は定めがあることについて,善意で過失なかったときと。そうか,わかりました。申しわけありません。どうもありがとうございました。


● ○○委員。
● 確認なんですが,職務分掌の定めがある場合の相互代理権の有無について,最初,○○幹事は,一般の場合と違って,この場合にはないというようにもおっしゃったのかなと思ったんですが,それとの今の御説明との関係を御確認したいのと,もう1つあります。


  相互監視義務がないということを○○関係官おっしゃったと思うんですけれども,それも今の法定の代理があるということを前提としての,相互監視義務がないと考えていいのかどうか。

● 私の説明が不正確だったかもしれないんですが,普通の共同委託の場合は,固有財産に効果が及ぶという意味で代理権があるわけでございまして,この職務分掌のある場合には,信託財産に効果が及ぶ限度で代理権を持っているという意味で,そういう意味で,先ほど○○関係官の方から特殊な代理権と申しましたが,その代理権の向いている先が固有までいくかいかないかという違いがあるというのが前提でございます。


  そういうことで,固有財産までいく方については,普通の民法の代理とかわらないと思うんですが,職務分掌のある場合について固有財産にいくというのが民法の代理の議論では難しいので,こういう特別な規律を設けてきたというところでございます。


  あと,相互監視義務につきましても同じ話かと存じますが,一般の共同受託であれば,相互に代理権を授与し合っているという意味で,相互に監視義務があるわけでございますが,職務分掌のある場合については,信託財産に効果が及ぶという限度でしか代理権がないということで,固有財産間での代理権に基づく相互監視義務,そういうものは出てこないのではないかということで,職務分掌の場合には,受託者間での相互監視義務というのはないというふうに考えているわけでございます。

● ちょっと私も関連してですが,○○委員と同じ,これはきっと,○○委員がまた別のことをおっしゃるかもしれませんが,ちょっともとへ戻って,やっぱり共同受託というのは何のためにやるんだろうかという話があると思うんですね。ちょっとここまで緻密につくられた議論から,一挙にもとに戻るような話で恐縮なんですけれども。

  それは2つあって,1つはやっぱり相互監視なんですね。1人では悪いことするけれども,とにかく英米法でも,やっぱり信託財産の安全ということをまず第1に,信託法というのはずっと昔からはつくられてきて,それが最近いろいろ,安全だけではだめだよという話になってきているわけですから,もともとのルールは,やっぱり共同受託者いっぱい使っているのは,何といっても1位は相互監視という話がある。

  しかし,相互監視で何でも財産を凍結していても意味がないので,やっぱりそれぞれの専門家を雇用して,共同受託者にしておいて,まさに職務分掌でもいいですが役割分担をして,より効率的に運用しようという,これがある種二律背反みたいなところがあるので,この調整をうまくやるというのが,共同受託者のルールをどうやってうまくつくるかという話だと思うんですが。

  そこで,今のような,ちょっと○○幹事の御発言も私が誤解しているのかもしれませんが,こういう職務分掌を役割分担を決めると,もう相互監視がないんだよという話は,やっぱりそういう趣旨ではないんでしょうね。幾ら何でも。つまり職務分掌,役割分担はあるけれども,やっぱり相互監視義務は残るというのが普通の発想だと思うんですね。


  それがしかし,相互監視義務の程度というのが,一定の限度で当然これが少なくなって,ここでも,例えば共同受託者の全員一致で合手的行動なんていう話が,もうなくなってきているのと同じ発想になっていると思うので,職務分掌したら,もう相互監視義務はないんだよと,それが何とかの財産の限度の範囲内であれ何であれですが。とりわけ信託財産については,同じように何らかの関係が残っているというのなら,やっぱり何らかの相互監視義務はちゃんとありますよと。


  アメリカの統一信託法というのではっきり言っているのは,信託違反をやっているようなことに気づいた場合には,当然何か言わないといけないというのがはっきり書いてありますので,相互監視義務が全くなくなるという話はないですねということを,確認しておきたいということです。

● 確かに全くなくなるというか,レベルの問題かと存じておりまして,一般の共同受託であれば,例えばパーフェクトな相互監視義務があって,お互いに注意していて,信託が違反行為があればそれに気づくべきであると。

それに気づかなければ,過失があって連帯責任ということになると思うんですが,職務分掌のある場合にはそこまでの相互監視義務はなくて,ただおっしゃったように,仮に違反行為があることを認知していれば,それは差し止める必要があると。
  

共同受託でもなければ,知っていてほうっておいてもいいわけでございますので,そういう意味でいえば,職務分掌のある場合には,中間的な相互監視義務がかかっているという方が,より正確かなという気がいたします。そういうことで理解しております。

● そうすると,その中間的な相互監視義務に違反したときは,やはり連帯して損害賠償責任を負うということでよろしいわけですか。

● そうです。知っていてほうっておいたら,そこは任務違反行為があったということになります。


● ちょっとさらに関連して教えていただきたいのは,共同受託者で,多数決で行為を決定することができますよね。そこの話が,ちょっと私うまくリンクできていなくて。


多数決で,一番簡単なのは5人なら5人いて,3対2であると。3人で決定したということに対してほかの2人が,これが信託違反になるような行為を決定するんだと,今のような完全に相互監視義務というのがありますので,3対2で負けたからあと仕方がなかったという話では済まなくて,2人は何かしないと,4対1でもそうだと思いますけれども。


  しかし信託違反になるような行為ではないけれども,自分としては信託財産というのはもう少しうまく運用できると思ったけれども,多数はこういう方針でやっているというような場合に,その行為に対する責任関係というのは,これは職務分掌のときと同じような話だと考えてよろしいですか。それとは全然また別の話で,これはもちろん,たまたま4対1,あるいは3対2で決定しただけであって,全体の話なんだと。

● 反対している場合については,原則として任務違反に当たらないというふうに考えておりまして,ですから意思決定に関与しているか,意思決定で賛成しているか,あるいは反対していてもみずから職務執行した場合については,任務懈怠責任を負うと思うんですけれども,意思決定で反対し,かつ執行にも関与していないということであれば,これは責任は生じてこないというふうに理解しております。

● そのあたりは善管注意義務違反の問題でして,反対はしたから直ちに責任を負わなくなるとまで言えるのかどうかというところは,ちょっと問題があるかと思いますけれども,○○幹事申し上げましたとおり,反対をしていれば責任を負う可能性が少なくなるという限度では,そのように言えるのではないかと思いますけれども。

● ○○幹事。


● 相互監視義務と,それから先ほどの○○幹事の御質問とも関係するのですが,もし仮に,この相互監視義務というのが程度が緩和されたものであれ,存在するのだということになりますと,第34の規律が適用される共同受託と,それ以外の複数受託者がいる場合の境界といいますかその区分は,やはり監視義務があるかどうかということに求められることになりますでしょうか。

  先ほど,効果の方から規律を考えられたということがございましたけれども,これまでの議論を伺うと,むしろ相互の監視義務が残っているか否かということが,1つ大きなポイントとなるようにも思われ,実は前田庸先生を座長として商事信託要綱というのを構想いたしましたときには,相互監視義務の有無という点で,単なる複数の受託者がいる場合の規律と,それからいわゆる共同受託者がいる場合の規律を区別するという,そういうことを提案したということがございますので,○○幹事の御質問の繰り返しになりますけれども,もう1度確認させていただければと思います。


● おっしゃるとおり,相互監視義務がかかっているのは非常に重要なメルクマールでございまして,最終的には信託行為の解釈になりますが,信託行為を解釈した結果,共同受益者間に何らかの相互監視義務がかかっているものは,やはりここでいう共同受託になるのではないかというのが,素直な解釈だというふうに考えております。

● どうぞ,○○委員。
● 今の相互監視のところで,相互監視義務は必要だとは思うんですけれども,先ほどちょっと前の発言で,相互監視義務違反があって,ある受託者が違反行為をし,善管注意義務違反をし,何か米国のニューズレターか何かで取り上げられている例だと,使ってしまったとか,あわてて共同受託者がそれを報告し対応したというようなケースがあるとか聞いたことあるんですけれども,最近の。


  そういう場合ですと,片一方で監視義務違反が仮に軽微なものがあったかもしれませんけれども,その下にもう1人の悪質な善管注意義務違反の連帯債務まで負うというのは,何となく,それぞれがそれぞれの義務違反の範囲で責任を負えばいいのであって,ですからその程度がひどくなれば,ある意味では共同不法行為に近づくような形になるかもしれない。お互いに善管注意義務違反があったかもしれない,に近づくと思うんですけれども。

  先ほどの4の(1)で私が確認求めたところの規律の話なんですけれども,今も申し上げたように,相互監視義務違反の違反行為と,監視された側が犯したところの善管注意義務違反とは,それぞれ別個の違反行為であって,損害についても別個に考えるべきだと,4の(1)には,やはり該当しない。


  ですから4の(1)が適用になる場合というのは,ある意味では書かなくても当然,民法の原則の当然みたいな状況なのかなと思うんですが,あえてこう書いてあるところが,やはりちょっとでも違反があると,連帯債務になってしまうのかなというのも,ちょっと思って確認する次第なんですけれども。

● 難しいですね。
  何か,○○関係官,ありますか。


● そのあたりにつきましては,やはり受益者の保護という観点からは,ある任務違反行為があって,それについて一方の受託者が相互監視義務に違反するようなことをやったのであれば,その受益者は連帯責任を負うという方が適当なのではないかというような考え方でして,先ほど私が御説明しましたのは,Aという任務違反行為があって,それに対してBさんは何もその責任がないというようなケースは,当然連帯責任を負いませんよというようなものでしたので,Aという任務違反行為をして,それについて受託者Bが監視義務を怠っているというのであれば,それについてはやはり連帯責任を負った上で,受託者相互間での求償関係の話とすればいいのではないかというような考え方でありますけれども。

● それは厳しいですね。わかりました。

● 少し考え方の対立が今あると思いますけれども,やっぱり相互監視義務がある以上は,その義務違反というのがあれば,やはり連帯責任を生じるというのが原案であり,先ほど○○委員も,恐らくそういう考え方に近い考え方だったんだと思いますね。

  今,議論の中で明らかになってきたことは,職務分掌型であってもとにかく,適格年金型と言っていいかどうかわかりませんけれども,単独の信託が幾つもあるという場合と違って,やっぱりそれなりに相互監視義務,その程度がどのぐらいかはまた別ですけれども,相互監視義務があると。これが,複数の信託や,単独の信託がただ同時に存在しているのとはやっぱり違うということですね。


  その効果,この辺が議論されていると思いますけれども,一応原案,それから先ほど○○委員等が言われたのは,やっぱり相互監視義務を前提とした上での義務違反があれば,連帯責任を負わざるを得ないのではないかと。その点はちょっと重いかもしれませんけれども,一般的には,やっぱりそうなるのではないですかね。


  それはもちろん,分割まではいかなくても,それぞれの義務違反の程度に応じた責任というのは,これは議論としてあり得ると思います。ただ,こういう共同受託の場合に,やっぱりそれなりに,その共同受託によってねらおうとするものとの関係ですよね。○○委員の言われた。

それによってある種の信託が健全に行われることを,やっぱりねらっているということがあるとすると,やむを得ないのではないでしょうかと。○○委員の言われるのもよくわかりますけれども。


● 信託で統一した方が,共同受託者に弁護士がなって,この先信託銀行も出てくると思うんですけれども,信託銀行も金を預かり,多分弁護士とかが不動産の管理を担い,当事者に何も担わせないということはないのかなとは思うんですけれども。

● ですからそのときの……。
● ちょっと,かなり萎縮的な……しようがないのかもしれませんけれども。


● そのときの,信託銀行が片方で財産を管理していて,そのとき,万が一管理の失当というか,あるいは信託違反による損害というのは莫大なものが予想されるとき,もう1人の受託者がどの程度の監視義務を負っているかという,そのレベルで恐らく調整するんだと思いますけれども。


  その義務違反をすることを知っていて,もう1人の受託者がやっぱり見逃しているということであれば,これはやっぱり連帯責任を負わざるを得ない。

  大分議論が煮詰ってきて,いろいろなことが明らかになってきたと思いますけれども。

  ○○委員。
● 確認のためだけの質問なんですけれども,先ほど来から,職務分掌の定めがある場合について理解は深まったと思うんですけれども,職務分掌の定めがない,通常の,どっちが通常がわかりませんけれども,共同受託の場合に,相手方が共同受託者のうちの1人と取引行為をして,かつほかに共同受託者がいることを知らなかったという場合であっても,この場合に,後で他に共同受託者がいるということがわかれば,他の共同受託者に対して,その固有財産にまで責任を追及することができるという理解でよろしいわけなんでしょうかと。


● いかがですか。普通の職務分掌がないタイプの信託の場合。
● それは勝手に自分の名前でやってしまったときですね。意思決定はあったけれども,単独名義でやってしまった。

● そうそう。
● そういう場合,それは相手方において,これは共同受託であって,それを知り,または知り得べきというんですか,民法の100条のただし書きで言うと。本人,実質的には他の受託者が本人に当たると考えられますので,その顕名がなかったかわりに,他の受託者が責任を負うべき場合ということを認識していることを立証すれば,かかっていけるのではないかと考えております。

● 行為時に,他の共同受託者がいるということを相手方が認識していたということが要件になるということですか。


● これが共同受託者であるということを知っているか,または知り得べき場合であったということであればいいのではないかと思います。


● それは要件になるということですね。
● はい。

● やっぱり顕名に相当するようなもの,かわるものが要るという御理解ですね。

  そうすると,やっぱりそれは条文に書かないとだめなのではないですか。

● 代理の場合には御承知のとおり,授権と顕名と法律行為でしたか,授権と法律行為はあるので,顕名がなかったというときなので,顕名のかわりに代理意思を知り,または知り得べき行為だったですか,民法100条ただし書きの要件。だから書かなくてもあちらでいけてしまうのではないかなというふうに思ったんですが。


● ただ,今のパターンで,相手方が他の共同受託者の固有財産にも責任を追及しようという前提で主張してきているというときに,他の共同受託者の方は,いや職務分掌の定めがあったのだということを言うと,固有財産についての責任は原則免れると。


  それに対して,この4の(2)②の二重線が引いてあるところで,他の共同受託者がいることを知っていて,かつその職務分掌の定めについては知らなかったと,過失もなかったということも立証するんでしょうか。そうすると,固有財産に対する責任追及はできるという流れに乗ってくるわけですよね。

  そうすると,何か一連の流れからすると,原則規定が信託法ではなく一般法理だというのでよろしいんでしょうかね。

● 職務分掌の定めがあるときだけは,やはり信託法に書かなければいけないのではないかと思っておりまして,職務分掌がある場合であれない場合であれ,顕名にかわるものとして,代理意思とそれを共同受託と知り,または知り得べきであったと相手が言えば,これは原則として他の受託者の固有財産にもかかっていけると。

  しかし職務分掌のある場合については,受託者の側で,いやこれは職務分掌があるんだというふうに別の受託者が言えば,とりあえず責任は免れるわけですが,これに対して,さらに再抗弁になるんでしょうか,善意,無過失だと,こういうふうに言えば,今度はまた,他の受託者にかかっていけるという構造になるのではないかと思っておりまして,第1段階は民法100条でいけると思うんですが,職務分掌の中に,域に入ってくると,これは信託法に書かないといけないのではないかなと考えているんですけれども。


● 今のでちょっとわかってきた点と,ちょっとわからない点が残るんですが,この二重線が引いてあるところでは,他の受託者が存することを知っていたというのが,少なくとも要件になるはずですよね。

しかしこれは,今の御説明ですと,一番最初の請求をしていく段階で知っていたということが言えれば,それと重なるということなんでしょうけれども,最初の請求をする段階で,知り得べきであったということまで広げるんでしょうかね。


  知り得べきだったというので,責任追及はできるということなんですかね。一応原則としては。そこはいかがなんでしょうか。ちょっとさっき素通りしたところですけれども。

● 民法100条ただし書きでいけると思っていましたので,その知り得べきでもいいかと思ってはいたんですが,そうするとここも同じように並べなければいけないということになりますね。


● 何か,なぜ違うのかという問題が生じはしないかという点なんですが。

● ここのところは,職務分掌の定めがある場合については,原則として1人の受託者で意思決定をして執行をすることができると。第三者が責任財産として期待をしているのは,その職務を実行した受託者であるので,一般の代理と比べて保護する場合というのを限定していいのではないかというような観点から,他の受託者が存することということを知っている場合に限るという形で限定をかけているということを,事務局としては考えていたのですけれども。

● そうすると,立証責任どうなるんでしょうか。最初に知り得べきであったというだけで請求できるというときに,どうすれば受託者免責可能かというところなんですけれども。それはやはり職務分掌が定めがあったということを言えば足りると。

それに対して再抗弁で,自分が知っていたということまでわざわざ言わないとだめなんでしょうかね。かつ職務分掌の定めについては全員無過失だったという。


何かちょっと,何か若干の違和感があるんですけれども。違和感がないでしょうか。


● 他の受託者が存することを知っていたか否かは,職務分掌の主張があって初めてで初めて問題になってくるので,もしフローチャート的にいうと,○○幹事がおっしゃったように,とりあえず知り得べきだったと言って,職務分掌だと抗弁で言われたら,再抗弁で初めて,いや知っていたというふうに言わなくてはいけないという流れになってくると思うんですね。


  それはその最初に知っていたのに,主張しなかったからそうなってしまうわけでございますが,ちょっとそこについては,今○○関係官の方から言いましたように,特に保護をすべき要請が高いときなので,このようにしたということでございますが,ちょっと1度,今すぐにはちょっとわかりませんので,検討します。

● ○○幹事。
● 今のちょっと○○幹事のお答えが,少し疑問が生じてきたので申しわけありません。


  代理に基づいてこの問題を考えるというのは私も賛成なんですが,今の顕名にかかるところは,民法100条のただし書きというのは,私は依拠すべきルールではないのではないかと思います。


なぜならば,実質論を先に申し上げますと,100条のただし書きというのは,これが主張できると,代理が成立しますので,代理人が法律関係から離脱できるということだと思うんですね。


だから,相手方が知り得べきだった場合にも,行為をした代理人は,行為をした人は代理人になるので,離脱ができるということだと思うんです。


  ただこの今第34では,行為をした人間は受託者として固有財産でも責任を負った上で,そして,しかし代理のような関係で,他の受託者との関係が代理あるいは代理類似の問題になると。


そうすると,相手方が知り得べきだったというのは,それ,相手方にある種の責任を求めようとしているわけだと思うんですが,そういう状況があって初めて相手方が,ほかの受託者に対しても,権利行使ができるようになるというのは逆転しているんだと思うんです。


  したがって,代理のように考えるというのはいいんですが,行為者が離脱するという状況がありませんので,100条のただし書きで考えるべきでないと。


  そうするとどうなるかというと,○○幹事の最初の多分御意見と逆の方向に行くんだと思うんですが,ここでは顕名なしで,客観的に共同受託であれば相手方が知っていようが知るまいが,知るべきであったであろうがなかろうが,他の受託者に対して責任追及できるということになるのではないかと思います。


  そうすると,多分理由は少し違うんですが,形式論というんでしょうか,条文の構成だけでいうと,商法の代理が顕名に関して,民法のような要件なしに,顕名のない場合にも代理成立させますので,それに近いものになっていると。商事だからというのではなくて,そういうふうに考えたらいいのではないかなと思います。

● 今ので非常によくわかってきたんですけれども,今の○○委員の御意見に関して,さらに説明を要するであろうというのは,商事ではないけれども,しかしにもかかわらず,なぜ信託の共同受託の場合には,顕名なしでも,当然に他の共同受託者に効果帰属ができるというふうに考えるのかというのは,やっぱり1つは,それでいいともし考えるとするならば,やっぱり説明はつけ加える必要があるのではないかなという気がいたします。それだけです。


● 先ほど何人かが関連して恐らく手を挙げられていたのは,○○委員と○○幹事が……。


● ○○幹事と全く同じでした。
● では○○委員から。


● ちょっと私は,直接関係するんだけれども,どうもちょっと方向が,自分で言うのも何ですが,ピント外れのような感じですが,○○幹事も○○幹事も,それからそれに全面的に賛成する○○幹事も,やっぱりちょっと,私からすると違うような感じなんですが。


  つまりこういう問題は,私が多分勉強不足なんでしょうけれども,アメリカ法ではあんまり問題にならないというのはどうしてかということを考えながら聞いていたんですね。それはやっぱりさっきのことに戻るんですが,共同受託制度というのは何のためにあるのかというと,2つの目的があって,1つは相互監視で,1つは役割分担だというわけですよね。
  

この間が,なかなか緊張関係があるけれども,いずれも結局信託の安全と運用というか,つまり受益者のためという話で出てきているわけですね。今ここで問題になっているのは,取引の相手方をどういう形で保護しようかということを考えて,皆さん物すごく苦労されていて,代理構成であれ何であれという話が,アメリカの信託法というのを私が本当に理解しているかどうかわかりませんが,アメリカの信託法が考えている話で全然ないですよね。

  そうすると,これ一般的に,職務の分掌も何にもなくて,私が受託者の1人です。複数の。それで取引関係に入っていますね。だれかに。相手には全然信託の話もしていないわけです。

共同受託者がこれだけいましてねという話もしていなくて,普通にやっている場合には,だから当然,それで何らかの責任を負う場合には,信託財産で責任を負うだけではなくて,私の固有財産で負うわけですよね。責任を。それは当たり前のことだというだけの話で,あと共同受託者は何の関係もないというのが普通だと思うんですね。

● ただ,共同の意思決定が介在すれば,もちろん責任問えるわけですね。
● 取引の相手方に対してですか。取引の相手方が。
● 実質がそういうものがあれば。背後にね。


● しかし私だけが取引の相手方になっているんですよ。
● わかりました。もしかすると,少し,今ここで信託の大議論まではちょっとしたくないんですけれども,信託についての英米的な考え方というのは,やっぱり非常に,信託のために行為をする受託者にだけ,法人格があって,まさに行為をしているのはその人間だと。


だけれども,信託財産という特別な財産がくっついている。そういう発想なので,それを共同受託の場合にも当てはめていって,少なくとも行為のレベルではそれぞれの受託者の行為というものを考える,そういうことですよね。お互いに信託行為の債権者との関係で共同受託であるということによって,特別な責任は生じないと。

● 共同受託というのは,取引の相手方のための制度ではないから。
● それは1つの考え方なのかもしれませんけれども,恐らく従来の共同受託,日本の共同受託は,そこは連帯責任的に考えてきていて。

● 受益者に対して連帯責任を負うのは当たり前のことですよね。だから相互監視という話が出てくるので。相手方の取引のときでも,これだけの共同受託者でみんなでやっているんですよということをわかっているんならみんなで責任を負うのは当たり前だと思いますけれども,何もなくて私が堂々とやっているというときに……。

● ですからこそその相手方が出てきているのが1人だけのときに,その背後に共同受託者がいないようなときに,そのときに他の共同受託者に対する責任まで追及できるのかと。


できるのであればその理論は何かというのを,○○委員から言わせれば信託の重要な部分ではないということになるのかもしれないけれども,その部分を今議論しているんだと思います。

● いや,わかっているんですけれども。
● ですから,もしかしたら○○委員の意見は,突き詰めれば,そういう場合に行為をしている人間についてだけ責任を負わせればいいということなのかもしれませんが。


● 多分そうなっていると思うんですね。アメリカで。
  こういうタイプのものでかかっていく場合は特に。


● ただ合有タイプで,信託行為の決定については原則として全員が関与するというタイプで,その関与の仕方はいろいろな,さっきの相互代理とかいろいろな形があると思いますけれども,そういう形で実質的には同意していると。だけれども行為に出てきているのは1人だというときに,ほかの共同受託者に対しての責任を問えるかということですね。

● だから,すみません。もうおわかりと思うんですが。
  取引の相手方が,私に対して,私の固有財産にまでかかっていって,それで十分で,その後私はどうするかというと,これみんなで決めたからではないのと。


こっちの方へ私が持っていく話であって,この取引の相手方が何ら期待していない,これら一連の人たちに,何でかかっていけるんだろうという発想になるような気がするんですね。


● そこでさっきから,民法にある顕名しなかったときの本人の責任とか,そういうものとの関連を議論していて,民法には,一応そういうときには本人の責任を追及できる余地があるので,それと同じような解決はどうかというところから,いろいろな議論が,今出発しているんですけれども。

● こういう議論を見たことがなかったものだから,非常に斬新であるということなんだけれども。

● 民法等との整合性も,やっぱりとれるものならとっておきたいということですね。

● 現行法を前提にいたしますと,全員で意思決定をし,全員の名前で執行をするというようになっておりまして,今回のこの提案につきましても,過半数で意思決定をするという意味では現行法は維持してはいないんですけれども,3人の名前で執行するという点では,現行法を維持しているというようなところがあるということを前提といたしまして,なぜこのようにしているのかと申しますと,先ほど○○委員がおっしゃいましたとおり,第三者の側から見て,各受託者の固有財産に対して執行をするということを認めるのは,第三者から見て,受託者が顕名をしているという場合に限れば足りるのではないかというようなことを前提としておりますが,これが果たして,共同で意思決定をしていれば,別に各受託者の名前を原則形態である共同受託の場合にも,出さなくても各受託者の固有財産に対して執行をすると,そこまで第三者の保護というのを図る必要が,果たしてあるのかという点につきましては,今の○○幹事と○○幹事の話を聞いていても,ちょっとどうかなという感じはいたしておるんですけれども,この点につきまして,もう少し審議をしていただけますと助かりますけれども。


● 先ほどの○○幹事の意見には賛成される方がおられたと思いますが,○○幹事はちょっと逆の方向なんでしょうね。


● 仮にそうだとしても,まさに今のような御意見あるわけであって,説明が絶対に必要になってくるであろうというのは,間違いなかろうという気がします。

  仮に,何の顕名に相当するものなく固有財産にいけるという前提とりますと,先ほど言いましたように,それに対して,他の受託者の方は,職務分掌の定めがあるのだということを抗弁として出し,それに対して職務分掌の定めがあることを知らなかっただけではなくて,他の受託者が存することを知っていたというようなことまで,やっぱり言わないといけないのかというのは,やっぱりちょっと要件として違和感があるところかなというのは検討課題としては残るかなと。

  それに対して,最初から他の共同受託者の固有財産にまでいくとするならば,最初からやっぱり知っていたと,そういうものの存在を知っていたということは要件だというと,整合性は出てくるのかなという気はするというのが,私の一番最初の質問とつなげて言うとそういうところですが,やっぱりちょっと,どういう理由に基づいて,全く顕名がなく,かつ知っていたということも要らないと言えるのかというのは,ちょっと問題としては残るであろうということですね。

  信託財産についてはいいと思うんですけれども,固有財産になると,やっぱりちょっと問題が残ると。

● 大変御議論いただきましたけれども,恐らく,ほかにもまたいろいろなバラエティあるかもしれませんけれども,論点は明確になったと思いますので,少し検討させてください。今の点に関しては。


  この共同受託者に関しては,一通り,御意見,今いただきましたけれども……。

  ○○委員が,別なことでとおっしゃっていました。ごめんなさい。

● 別というか,関連してということになるかもしれませんが,職務分掌がある
場合のところのお話なんですけれども,4の(2)の②のただし書きのところの要件なんですけれども,ここの要件で,実際に職務分掌を与えられてやっている方はいいんですけれども,やっていない方の分の救済といいますか,そういうようなことというのは,ちょっと考えられないのかなと。


  例えば,何らかの帰責事由があるというようなことを要件的に追加してもらえないかなということが1つと,あとはそれに関連して,登記についてはまた後で議論があるんだと思うんですけれども,職務分掌とかという場合については,信託目録が残るんであれば,そういうふうなところも記載があるのではないかと思うんですけれども,そういう記載があれば,要するに受託者としては固有財産で責任を負わないというようなことが言えるのではないかなと思うんですけれども,その辺のところをちょっと御検討いただければと思うんですが。

● その点につきましては,検討いたします。


  あと1点,最後にお願いなんですけれども,(注4)の甲案,乙案につきまして,今のところ何も御意見出ておらないんですけれども,事務局としましては甲案のような考え方も十分あり得るのかなというふうに考えておりますけれども,この点につきまして,御意見をいただければ幸いでございます。
● ○○委員。


● すみません。引き続き。
  これについて,乙案でぜひともお願いしたいということでして,やはり,すみません,いろいろな受託者の方々が入ってくるということもありまして,ただ別段の定めがあるということでありますので,どうしてもこだわるという話ではないんですけれども,例えば,これによって業法で強行規定になってしまったと,そういうことになってもあれですので,基本的には,やはり受託者というものの意向を聞いていただいて,やっていただきたいという趣旨で,乙案ということであります。


● ほかにいかがでしょうか。
  3人いたうち1人が減ったときに,もとに戻すのに,残りの受託者の意見を聞かなくてはいけないのかという問題ですね。何か御感触あれば。
  ○○委員。


● これもさっきの相互監視義務と連関していると思います。
  程度が弱いものであるにせよ,もしそれがあるのであれば,乙案もあり得るかなと。

● 今の甲,乙の関係ですけれども,裁判所の選任のときは,結局自分のあずかり知らない受託者が入ってきてしまうわけなんですが,それはもうしようがないというのはあきらめた上で,合意の場合は,何かそことの関係を考えるとしようがないのかなという感じもしないではないんですけれども。感想だけです。


● では,○○委員。
● 同じ方向の意見ではつまらないと。
  委託者が,最初に共同受託者を複数決めているわけですから,そのうちの1人が書けた場合,委託者と受益者が合意すればそれで十分だというふうに,理屈の上では考えられますし,現実的に考えれば,委託者及び受益者は,自分たちに不利になるような受託者を選びたくないわけですから,その際には既に残っている受託者とうまくいくかどうかというのは,当然検討した上で選ぶであろうということなので,この甲案でいいのかなというふうに私は思います。


● なるほど。理論的には十分,あるいはそっちの方がすっきりしているのかもしれません。

  わかりました。これはやはり両方の御意見があるということで,ちょっと最終的な検討は,また次回にさせてください。皆さんの方から御意見があれば,また改めて長い時間をとって議論をすることはできないかもしれませんので,メール等でもって御意見を伺えればと思います。

● 強制執行の件は,いかがでしょうか。
  先ほどの弁護士会での議論を,もう1度繰り返させていただきますと,全員を当事者とするのではなくて,執行文による訴えを認める方向を残していただいた方が,結果的にはわからない人が出てきたらどうするかということの議論なんですけれども,その方がいいのではないのかと。


● 非常に重要な問題で,別にネグレクトするつもりはなくて,休みの後にしようかと思っただけです。
  はい,どうぞ。


● ただ,執行文の訴えというのは,前提として執行文付与機関に申立てなければいけないわけで,そこでの判断,いろいろ異議とか複雑なそういう手続とかもあり得るわけでして,それよりもやはり,組合の場合などの規律の仕方にもかんがみて,各受託者に対して債務名義をとって執行していくというルートさえ認めておけば,あえてそれ以外の複雑な手続のルートを認めるまでの必要はないのではないかなというふうに考えてはおります。


  事務局としては,ここはやはり共同受託者それぞれに対して,債務名義をとって執行していくというルートがオーソドックスではないかなと考えているんですけれども。


● すみません。あまりしつこくなって嫌ですが,ただ取引するときは職務分掌の定めが1人,相手方だけでいいんですよね。取引するときは1人でいいんですけれども,裁判するときはみんなでないといけないというのは,何となく,本来裁判によって担保されているのが取引ではないのかと思いますし。


  あと,どう頭を整理していいかわからないんだけれども,組合の場合にも任意で訴訟担当は認められるという議論があると思うので,あと,大体被告になる場合が事例で,こんな議論しています。


任意訴訟担当だと原告になる事例が趣旨かもしれませんけれども,では原告になって訴えるときにはどうするのかというと,また全員なんですかという抗弁で,実はほかにいるのではないですかみたいなのも,さっきの職務分掌の定めというのは,結構1つの規範として機能しているにもかかわらず,裁判になったときにだけ,全員相手ですというのは,何か整合性がなくて。


  ですから,どちらでもいいのか,結果は同じようにも感じるんですけれども,ちょっとその辺が問題ではないのかというような議論もありましたということを,御紹介いたします。


● 事務局といたしましては,執行文付与の訴えで立証していくのと,その第三者,他の受託者に対して債務名義をとるのとでは,債権者が要する労力については,ほぼ代わりがないのではないのかなというようなことを検討いたしました。


  それに,まず加えまして,一般に信託債権に対して訴訟が提起された場合には,先ほど申し上げましたとおり,被告になった受託者が,自分のほかにも共同受託者がいるんですよと,信託財産がありますよというようなことを言った上で,訴訟告知等をするということがほとんどではないのかなというように考えておりまして,さらにそれに加えて執行文付与の訴えというようなことまでするのが,実際問題あり得るのかなというようなことを考えております。


  この点につきましては,実務の裁判所の方の御意見も聞いてみたいところではあるんですけれども,事務局としてはそのように考えた次第でございます。


● 何かございますか。

● 私の感覚といたしまして,共同受託者に対しまして,訴訟を提起して債務名義をとる過程というのは,通常考えてもそんなに簡単に終わる裁判ではないんだろうと思うんです。


請求原因にしても抗弁にしても,いろいろな事実認定ですとか,法律上の判断入ってくると思われるものが,それが承継執行文の手続に乗せることによって,裁判所の書記官の手続の中で,しかも相手方の言い分を聞かないで出せてしまうというのは,非常に違和感を感じているところでして,あくまで手続保証という観点で,第一次的にせよ,執行文付与機関によって判断を経るということが,少し問題があるのではないかというふうに考えているところです。

● なかなかこれも重要な問題で,皆さんの御意見があればお聞きしたいと思いますけれども,ほかの方の。

● ちょっと確認ですけれども,先ほど説明の中で,訴訟告知をするであろうからという御説明がありましたが,それは要するに訴訟告知をするであろうから,ほかの受託者がそれでわかるので,その受託者相手にまた別個に訴訟を起こして債務名義をとれと,そういう趣旨なんですかね。


● その3人に対して債務名義をとらなければ,信託財産に対しては執行できないというような考え方を前提にしておりますので,そのような形になると思われます。


● 訴訟告知をしておくと,ほかのA,B,CのうちのAだけに,訴訟を起こして,B,Cが訴訟告知されれば,B,Cに対する訴訟が簡単に済むだろうと,そういうレベルのことですね。


● 簡単に済むだろうというと,この内容によるかとは思うんですけれども,一般的に職務分掌の定めがある場合につきましては,そのAという受託者だけが意思決定をし執行をしておりますので,BとかCとかは,その内容については把握をしていないということになりますので,仮にBないしCに対して訴訟をされたとしても,なかなかB,Cとして有意な抗弁等というのが本当に言えるのかなというのは確かに問題としてはあるんですけれども,やはり信託財産が合有という前提をとる以上は,3名に対して債務名義をとると,組合の考え方と同じように整理してはどうかというように考えている次第です。


● この点についても,まだ異なる御意見をお持ちの方もおありだというふうに認識しておりますけれども,とりあえず今の御意見ももう1回踏まえながら,一応検討いたしますけれども,原案を軸にしながら,どの程度今のような方向が取り入れられるのかどうか,もう1回裁判所の御意見も改めてお伺いしながら検討したいというふうに思います。

  それでは,大変時間がかかりましたけれども,やっぱりこの共同受託者の問題は重要な問題であり,恐らくまだ本当は問題は残っているかと思いますけれども,とりあえずここで一たん終えたいと思います。

  時間がないので10分の休憩ということで,お戻りください。

          (休     憩)

● それでは,また再開したいと思います。
● それでは,資料冒頭の方に戻りまして,第13,第39,それから第51というところについて御説明をいたします。


  第13でございますが,ここでは主として3点について御審議いただければと思っておりまして,1つは,差止請求権の創設と範囲に関する問題でございまして,試案の段階では信託の本質である倒産隔離の面での受益者の保護の観点から,破産管財人に対する差止請求権のみを認めておりました。

しかし受益者の保護の観点からしますと,倒産隔離の場面に限らず,受託者不在の間の信託財産の保護のための権能を受益者に与えることが望ましいと考えられます。


  つまり,破産管財人等に限らず相続人や前受託者も,保管すべき信託財産を処分してしまう恐れがあり得るので,これらの者に対する差止請求権を認めることが,受益者の利益保護にかなうと考えるわけでございます。


  そこで,信託財産の保管義務に伴う債権的な正確を基本としつつ,信託財産の保護のための物権的な性格をも具備した特殊な権利として,広く保管義務者全般に対する差止請求権を,受益者に対して認めますとともに,保管義務に伴うことの裏面として,前受託者の保管義務が失われる時点,すなわち新受託者等が事務処理をできるようになった時点をもって,この差止請求権は消滅するものと考えております。

  すなわち受益者不在の間の受益者の差止請求権に関する判決の効力というのは,新受託者等には承継されず,新受託者等は別途所有権等に基づく引渡請求訴訟を提起することができるし,かつ提起しなければならないと。そしてこのような個別的な解決の積み重ねこそが,結局は紛争の解決に資するのだというのが,この資料の趣旨でございます。
 

 もっとも,このような考え方に対しましては,受益者による差止請求権に関する判決の効力が新受託者に承継されないのは,紛争の一回的解決や,信託財産の保護の観点から問題ではないかという指摘もされております。


  そこで,受益者が差止請求訴訟で勝訴した場合には,新受託者等に判決効が拡張されると。その反面,受益者が敗訴した場合には,新受託者は別訴を起こすこともできるとしまして,いわば判決の効力を片面的に拡張してはどうかという主張がございます。


  このような指摘を踏まえまして,どのように考えるべきか御審議いただきたいと思います。

  第2に,この差止請求権は,前述のとおり,基本的には受託者の保管義務,受益者に対する保管義務に由来するものですので,信託債権者には認められないものと考えております。


  第3に,委託者破産の場合の双方未履行双務契約による解除権の問題でございますが,この場合の解除権を制限する規定を設けるべきだという意見が寄せられておりますが,しかし制限に関する明確な要件を定立することが困難であるということや,双方未履行債務の対立状態を解消する手立ても,資料に記載したとおりあるということなども考慮すれば,このような規定を設ける必要はないと引き続き考えるものでございます。

  続きまして,少し飛びまして第51の信託債権と受益債権との優劣関係というところでございます。


  前回会議におきまして,受益債権は信託債権に劣後するという考え方を前提にした上で,その実務上の弊害の有無や,理論的な説明の可否について検討すべしということにされました。
  

まず実務上の弊害についてでございますが,信託債権の劣後特約は有効でございまして,その効力は信託財産の破産手続においても維持されるという手当てをするとともに,すでに発生した受益債権に対する弁済は有効であって,不当利得とはならず,しかも受益債権に担保権を付すことも可能であるなどと考えることによって,実務上の弊害の恐れは排除できるのではないはないかと考えております。

  また,理論的な説明といたしましては,信託債権は信託財産の価値の維持増加に貢献するものであって,かつ信託をコントロールする権利を有してもいないことなどを根拠にして,信託債権が優位になるということができると思っております。

  なお,仮に受益債権と信託債権とを実体法上同順位といたしますと,信託財産が不当に害されることを防ぐためには,受益債権に対して,いわゆる配当規制を併せて導入することが不可欠であると思われるわけですが,このような配当規制を信託一般に導入するといたしますと,信託スキームの硬直化を招くことになりかねず,決して妥当ではないと思われます。


  また,未弁済の受益者の保護という問題がありますが,これは資料中にも記載いたしましたとおり,一般的な規律として信託債権の優先性を否定すべきほどのものとまでは言えないというふうに考えております。


  以上のような考え方を前提に,実体法上,受益債権は信託債権に劣後するということを改めて提案するものでございます。

  以上でございます。
● それでは以上の点につきまして,どうぞ。
  ○○委員から,まず。

● すみません。第51もあるんですが,まず委託者破産についての3番,双方未履行双務契約の解除権について,質問と意見を述べたいと思います。


  この点は従前から,私どもとしてちょっとこだわっているところでございますけれども,改めてちょっと述べさせていただきたいと思います。


  双方未履行契約については,委託者倒産の場合の倒産隔離を図るためにぜひとも規定化をお願いしたいというのが私どもの立場でございますけれども,他方その立法技術上容易でないということも理解しておりますので,いかに解釈等で倒産隔離を実現するかが課題だというふうに理解しております。

  この点,今回も御検討いただいておりまして,この点事務局の努力は多といたしたいと思いますけれども,なおその倒産隔離が十分に図られたと安心するためには疑問も残りますので,その点,隔離主体という観点から質問を行いたいと思っています。3点ございます。


  1つは,これはそもそも論でございまして,大分前の議論のときでも申し上げたことではございますけれども,そもそも委託者と受託者の間の権利義務において,双方未履行で問題となる対価関係,対価性がないというふうに整理ができないかどうかということでございます。


  すなわち今までの事務局の整理に従えば,委託者の債務とすれば費用報酬支払債務,追加信託履行債務,信託財産引渡債務というのがございまして,受託者サイドの債務としては,ここに書いてございますとおり,信託事務遂行債務,残余財産支払債務いうことがございます。


  ですからこの権利らが,それぞれ両当事者で対価性がなく,よって双方未履行契約にそもそもならないと整理できないかということでございます。

考えましたのは,コメンタールによれば,こういう双方未履行契約の解除権という制度の趣旨というのは,法律上並びに経済上,相互に関連性を持ち,互いに対価性な意味を持ち,互いに担保視するべきものであって,民法の同時履行抗弁権と同様,両者の公平を保持するためとされていると。


  委託者と受託者とのかかる対価関係があると言えない場合は,そもそもこういうものに当たらないと解釈できないのかということでございます。


従前にも御質問したかと記憶しておりますけれども,現時点における事務局の見解を改めてお聞きしたいと思います。


  なお,この点考えますと,以上述べた両当事者の個々の債務のうち,信託事務遂行債務については,費用報酬債務と対価関係が一見ありそうにも思えます。


これも何か苦しいところではありますけれども,ただ信託事務遂行債務を考えれば,これは専ら受益者に対するものであるというふうに考えることができますので,そういう意味で,ここで言う委託者と受託者の対価関係と言えないというふうに議論が整理できないかどうかということでございます。

  2つ目は,これは単なる確認でございますけれども,今回受託者の債務からの説明,ある意味では理論武装をいただいたわけなんですが,これは従前の御説明でいただいた委託者債務の説明と,付加的に考えていったらどうかという御提案の趣旨なのかということでございます。

  すなわち,これら2つの考え方と,それからそれぞれに従う実務上の手当てとを,合わせ技であれば倒産隔離が図られるような実務が図られるのではないかというのが,事務局としての御提案の趣旨なのかということを,確認したいと思います。


  3番目でございますが,今回の御説明のことでございます。今回の御説明のことについては,自益信託でも妥当するのかどうかということです。もしそうであれば,実務上は信託事務遂行債務とか,帰属権利の受益者に対するものに対しては,これは受益者に対するものとして組み立ててやれば,倒産隔離は実現可能になると思います。

  これは考えますに,やはり事務局がおっしゃるとおり,実際上もやはり証券化においては対応可能ではないのかなということと思われますので,実効性も高いのかなと。それでとりあえずここの御説明で実務は回るのかなというふうには,私は思っています。


  ただ,ちょっと考えますに,やはり自益信託でもそういうふうになるのかなというのは,ちょっと若干疑問でございますので御質問しているわけなんですが,すなわちこれは,信託契約は委託者と受託者との間で成立するというものであるので,あくまでも委託者と受託者の間の契約で双方未履行性を考えればいいということで,ではそういう債務が受益者に寄せられれば,双方未履行契約性がその契約にはないという,そういう整理だと思います。


  ただよく考えてみれば,自益信託の場合には,同じ人が,方や寄せられた受益権にかかる債務を負っているわけですから,そうすると非常に何かレトリック的に,それで本当にいいのだろうかと。かかる双務性というのは,個人と個人との間では解決されていないのではないのかなという疑問がございます。


  もしこういう1つの契約関係で2つに立場を分けるということが可能であれば,例えば通常の取引であったとしても,権利関係を2つに分けて,契約自由の原則ですから,そして一方の地位,権利を全部寄せてしまえば,残った権利義務関係については倒産隔離が図られると,双方未履行契約の関係にならないというふうに整理されるようなことも可能となっているような気もするんですけれども,果たしてこの考え方でよいのかなというふうに思います。

  今申し上げたのは非常に極端な話なのかもしれませんが,これはそうではなくて,信託だから,つまり委託者と受益者という地位が法律上明確になっているから,ちゃんと委託者の債務というのは消すことができるのであれば,双方未履行性がないと。


よって受益債権であったとしても,御説明があるように,双方未履行契約性を消すことができるということかということでございます。


  決して今回の説明を否定したいとかそういうことではございませんで,本説明をより強固にしたいと,安心して倒産隔離ある信託を使いたいということでございますので,よろしく御見解を賜りたいと思います。


  それで最後でございますけれども,前回も申し上げましたが,いずれにしても解釈で解決するということであれば,これは法律に書かれないものですので,いずれにしても本解釈については後日,立法後,法務省担当者としての解説書で,この点を詳細に明らかにしていただければというふうに思います。

  以上です。

● いろいろ質問が来ましたけれども,いかがですか。
● まず第1点目だと思いますが,信託事務遂行債務,対価的な関係というか,債権債務が双方に対立する関係になるかどうかですね。この信託事務遂行債務が。


○○委員がおっしゃっていたのは,信託事務遂行債務というのは対価的な関係にはないというふうに言えないかということかと思いますが,ただここはやはり一概にはちょっと言いにくいところがありまして,つまり確かに他者に対する,第三者,他益信託を特に前提にしますと受益者に対する給付をしてもらう,させる,そういう債権があり,その債権の報酬をまた支払っているという関係ですので,基本的にはやはりこれはやってもらうから報酬を払っているんだという関係にあると言わざるを得ないのではないかというのが,大原則かと思います。

  ただ現行法と違って,少し話しがかわってきているのではないかという話がありそうでして,それは委託者の地位を後退させたということの影響がどう出るのかなということなんですが,ただそうは申しましても,受託者の解任ですとか,受託者選任するとか,そういった局面においては委託者の権利は残しておりますし,その他裁判所に対する申立て権等々もろもろ,デフォルト状態では残しているということがあり,その前提としては,やはり信託事務を着実に遂行させて,受益者に受益をさせるということについて,委託者の権利を一定限度残しているというふうなたてつけなのではないかなという気がいたします。

  そこまで考えると,一概に委託者について,何らの対価性のある債権が残っていないというふうに言い切れるのかどうかというのは,これはもう解釈論と言わざるを得なくて,そこは解釈次第ですので,どちらでもあり得るのかもしれませんけれども,絶対大丈夫ということが言えるのかというのは,我々としてはどうなのかな……むしろ委託者としての権利義務というものをなくしてしまえば,もちろんそういうような議論はないはずですので,委託者の地位のところで議論いたしましたけれども,信託行為に定めを置いて,信託法上の委託者の権利というものを失わせると,これはもう全然できていいでしょうということについては異論がなかったわけですから,そちらの方に従って,委託者の権利を失わせるということをすれば,恐らくは実務上は問題ない。


  安心してやりたいというのが実務界からの強い要望だと思っておりますので,安心してやる観点からすると,そこまでやっていただければ大丈夫。


これは言えるんだと思うんですけれども,ではその手前どのあたりまで言ったら対価性があるのかないのか言われても,なかなかちょっとお答えは難しいのかなというところであります。


  ただ,絶対に対価性があるというつもりもないんですが,そこは解釈で明らかにできる範疇を超えているかもしれないなというのが,我々の認識というところかと思います。


  それから今回は受託者の債務についての面を取り上げておりますけれども,○○委員が先ほどおっしゃいましたように,補足説明で書いたような委託者側からの債権,こちらの方を失わせるという手立てで,双方未履行双務契約に当たらないと言うことができるというのも,これはもちろん当然の前提と。それに加えて,こちら側についてもこのような考え方ができるのではないか。


  これらの選択を組み合わせることによって,特に資産流動化を初めとした商品スキームにおいて,倒産隔離効を万全なものとするということは,商品設計に若干の影響を与えるかもしれませんけれども,できるのではないかなというような気がしているところでございます。


  それから最後3点目のところの,自益信託との関係をどう考えるかということですが,正直申し上げて,ここもまた解釈論ではないかという気がするんですけれども,確かに委託者と受託者との契約関係を見て,それから受益は第三者にいっているところを形式的にとらえれば,他益型についてはこのような形になるでしょうと。それがたまたま自益だった場合はどうかと。


  それはもう,たまたまそうだったんだから,関係がないということも相当程度言いたくなるんですが,他方でやっぱりそこは実質を見ざるを得ないのではないかと○○委員のような議論があり得るのではないかと言われれば,それはそうかもしれないなという感じがいたしまして,そこはちょっとどちらがいいのか,我々としてもよくわからないなというような感じがするところでございます。


  最後に,法律上規定を設けるか設けないか,これからの御議論かと思いますが,設けないこととなった場合に,この法制審における議論がこれこれこういうふうにされましたということは,もちろん議事録上は明確になっておりますし,それに加えて解説書等の中で,こういう議論がされたということを言っていくというのはもちろん,ここでの議論を一般の人たちに知っていただくというのは1つの重要なことだと思いますので,そういうことは恐らく法務省としてやっていくことになるんだろうなという気がいたしておりますが。

● 1点確認したいんですけれども,先ほど私の方の3番目の質問で,自益信託型についてどうなのかという点について,事務局としては解釈は分かれるのではないかということでございました。


もちろん解釈の問題ですからそういう問題もあろうかと思いますけれども,仮にでは,それは,やはり疑問があるねといった場合に,そうすると例えば今回の事務局の御提案のとおり,信託事務遂行債務とか,残余財産の関する支払債務とかを受益権に寄せただけでは,やはり倒産隔離の問題は完全に消えないということですか。

● 一番典型的に問題になりそうなのは,形式的に考えれば,私は当たらないと思うんですけれども,双方未履行双務契約というような範疇にですね。たまたま受益者が,だけれども委託者と同一人物だったときにどうかと,そういう議論ではないかという気がいたしまして。


  つまり,委託者が多数の受益者のうちの1人でした。たまたま。というような事例をここで想定するのか,それとも先ほど言われたような,よく言うところの委託者兼受益者,1人の委託者が1人の受益者を兼ねていて,受託者1人ですというような一番典型的な自益信託を考えるかで,話はそれは随分違ってきそうな気がいたしますけれども,私が申し上げたのは,1人の受益者が1人の委託者を兼ねている場合どうかと。


実務上はそういう例はあまり想定されていないのかなと思いましたのでそういう答え方をしたんですが,そうではなくて,多数の受益者がいる中でたまたま1人だけという場合は,私はそれは全然話が違うのではないかなという気がしますけれども。

● ありがとうございました。
● なかなか立法化は難しいので,いろいろな解釈,あるいはいろいろなやり方で何とかならないかということについてのやり取りだったと思いますが。
  ○○委員。


● この件ですけれども,やはり流動化,証券化関係者の間からは,信託契約を双方未履行双務契約の解除権の対象にならないようにすることを明確化してほしいという,非常に根強い需要があるわけですが,今の議論ちょっと伺った限り,委託者サイドのことにちょっとフォーカスされていたかと思うんですけれども,もちろんそれは十分よくわかるわけですが,受託者サイドの解除権については,これを排除するような規定を設けることは検討できないのかなと。
  と言いますのは,受託者の破産は信託の終了事由になっておりますし,受託者の民事再生あるいは会社更正は当然に終了事由にはなりませんけれども,受託者の交代の規律等をきちんと設けますので,受託者サイドの解除権を排除することによる弊害というのは,ちょっと素人考えかもしれませんけれども,特に思いつきませんので,委託者サイドの解除権の排除に比べれば,信託法の中での立法化というのはやりやすいような気がするんですけれども,いかがでございましょうか。


● それについてどうでしょうか。
● 受託者倒産の場合の双方未履行双務契約の解除権については,補足説明にも書きましたし,昔部会でも議論したかと思いますけれども,基本的には適用はないはずであるというふうには考えておりますが。


それを明文で明らかにする必要まであるのかと,こちらの方は相当程度明らかで,ほかにも破産法上も,自由財産関係の契約は適用にはならないのは当然ですねと言われているところでもあり,そこまで明確化する必要は果たしてあるのかという感じがしております。

  逆に,委託者の解除権の方は手をつけないということになると,それはそれで変なアンバランスで,委託者の方の解除権は相当広く認められるのではない
かというようなふうに受け取られても困るような気もいたしまして,そこはいずれにしても両方とも解釈論で,ただ解釈の内容というのは,受託者の倒産の場合については基本的には適用はないはずだということで,全く御異論はなかったかと思いますし,委託者の解除権については,もう少し難しい問題あるけれども,ここにあるような手立ては十分に可能であろうというようなことを,我々は今のところ考えているということですが。
● ○○委員。


● この論点で。
  ○○委員と○○委員がおっしゃったとおり,反対ではあるんです。やむなくこういう規定になるような感じしまして。なおかつ排除はできなくて,一応この双方未履行双務契約の適用がある状況になってしまったという後のことを,ちょっと確認したいんですけれども。
  


通常の契約関係と違って信託の場合は,信託との取引が行われている第三者が,この場合は特にあり得ると思うんですけれども,ちょっと上のところに出てきますが,特に責任財産限定特約つきのノンリコースのレンダー,貸主との関係で,この双方未履行双務契約の解除が行使された後はどうなっていくんだろうかと。
 


 取引ですから,信託財産の譲受人との関連というのもあるかもしれませんけれども,一番現実的なところですとノンリコースレンダーはどうなんだろうかとか,あと観念的にはあり得ないのかもしれませんけれども,自益信託の受益権を対価を払って取得した受益者がいる場合,その場合の受益者,何もゼロになってしまうのかもしれませんけれども。


  いろいろな側面で信託との取引関係が生じていると思うんですが,その場合はどういうふうになるのかというあたりを,ちょっと教えていただければと思うんですけれども。

● いかがでしょうか。


● 今の双方未履行双務契約の解除権があった後の,特にノンリコースローンの債権者どう扱うかというのは,○○委員が前から心配されているのはよく存じ上げているので。なかなかどういう帰結になるのかというのはよくわからないところありまして,信託に限らず,ほかにも似たような状況は十分生じ得るんだろうと思います。

  つまり,ほかの契約がたまたま双方未履行双務契約で解除されてしまった場合に,第三者が何らかの利益を持ってその契約に入ってきていたと。1つはノンリコースローンかもしれませんし,もう1つは第三者に譲渡されていたような場合とかあるのかもしれませんが,そのあたりの帰結というのは,一般の破産法の中でも解釈論となっているのかと思いますけれども,今言われた例についてどうなのかというのは,今この場では,ちょっとまだよくわからないようなところはありますが,第三者保護は何らかの形で図られる必要はあるのかなというような気はするところではありますけれども。


  今すぐどうかというのは,すみません,ちょっとよくわからないところありますので。


● 信託の清算になるわけではないんですか。信託の終了,清算という理解では,あくまでない。

● 双方未履行双務契約の解除によって,信託が終了を来すのではないかということですか。

● はい。そうすると清算規定の適用があるという考えもあり得るのかなと。ちょっとわかりません,私もちょっと……。

● ○○委員。
● 何点かあるんですが,今の点にだけ特化して私の意見を申し上げますと,まず53条の管財人の解除権を排除するのは,やはり理論的にはかなり難しいだろうと思います。


53条全体について,どこまでが解除権の対象となる契約かというのは,ここ以外にもいろいろな問題があるのですが,あるいは53条に当たるんだけれども,解除権がないと,この平成12年の最高裁の判決とかあって,確かに議論全体が不明確なのですが,だから変な言い方になりますけれども,ここだけ難しいわけではなくて,全体に難しい業務なんだというふうに考えざるを得ないんだろうと思います。


  ぎりぎりの場面で,やはり解除権は残しておかないといけなない局面というのは,どこかに残る可能性があり,それが絶対ないといわない限りは,やっぱり解除権を排除するという理屈はなかなか出しにくいのかなという気がいたします。


  以上が前半で,仮に解除した場合にどうなるのかという○○委員の御質問ですが,私は信託の終了の規律にいくものだというふうに思っております。

ちょうど信託の契約というものは相対の契約のようでもあり,何か組織をつくる契約のようなものでもあるのですが,その後者の側面に着目しますと,ちょうど会社の設立の場合の規律にやや似てくるのではないかと。結局会社の解散みたいな規律をしていくことになるんだと思うんですけれども,それとのアナロジーで考えられるのかなというふうに私は考えておりました。
  以上です。


● 何となくそういうのが素直な感じの,素人ながらいたしますけれどもね。
  あるいは○○委員が問題にされていたのは……。


● 1つとして信託債権,債務がある以上,支払われますけれども。ちょっと受益権の譲受人は不利ですけれども。

● 確かに。
 

 ほかに,先ほどこの倒産関連では,前回とかわった部分についての説明等がありましたけれども,いかがでしょうか。差止め請求の根拠なり,差止め請求できるもの,そして差止め請求を判決でもってとった場合の,効力の及ぶ人的な範囲ですね。

● 今の,まさに判決効のあたりどうなのかというのは,ちょっとまた手続法の観点もありますので,事務局の方でもう少し検討してみたいなというふうには思っているところです。

● これは私の意見を申し上げるというよりは,議論の整理だけしておいた方がいいかなという程度の話なんですけれども,受益者の差止請求権,これはつまり受託者が解任等でいなくなった場合,それから死亡等で相続人が保管している場合,あるいは破産して管財人がやっている場合,以下破産管財人で代表させていただきますけれども,こういう場合に受益者の差止請求権というのを,理論的にどうやって根拠づけるかというところで,事務局はずっと御苦労されているというふうに拝見しております。
 

 今回は5ページの4行目に書いてあるとおり,保管義務に伴うものという形で整理されているわけで,これが1つのあり方なんだろうと思います。こう考えますと,将来受託者が出てきたときに持つ引渡請求権,物権的な権利とは切り離された存在ということになる。


受益者固有の権限というふうに考える方向に傾きがちであり,果たしてそういう受託者が持っているような物権的な権利とは別に,保管義務からは差止請求権のような権利が導けるかということが理論面で問題となると同時に,受益者が,例えば処分禁止の仮処分か何かかけている。あるいは申立てをしている。

あるいは仮処分命令が出た後に,新受託者が選任されても,実体権が全然違うわけですから,新受託者は受益者が得ていた有利な地位というのを引き継がないということになるんでしょうが,果たしてそれでいいのかどうか。ということが問題になろうかと思います。


  以上の保管義務で整理するのが1つ目の構成だとしますと,2つ目の構成は,新受託者が将来持つべき物権的な権利というのを,受益者が暫定的に保全をするために前倒しで借りてきて使う。訴訟でいうならば,訴訟担当のような,時間的に先行する管理権限を持つという構成が考えうるんだろうと思います。これは,多分もとの案がこれに近かったんだろうと思います。

  こう考えますと,受益者が行使している権利というのは,新受託者が登場するまで,法律に基づいて与えられた質的な一部,新受託者だったら引き渡せと言えるところを,処分するなという形で質的に縮減されて持っている,いわば保全を求めるための権利だということになりましょうから,新受託者が出てきたら,もとの姿に戻って,しかもそれは承継されて,引き渡し請求なり何なりにつないでいけるということになるんだろうと思います。


  受継を説明できる点では,そちらの方がいいわけですが,ただ問題は,そういう訴訟担当のような構成をしますと,一受益者が,仮に受益者がたくさんいて一番訴訟の下手くそな受益者が出てきてそれで負けてしまった場合に,新受託者,あるいはほかの受益者が,損を,敗訴判決の効力を受けるという形で不利益を被らないかということになるわけですが,問題は,だから最後,先ほど○○関係官がおっしゃったように,一受益者が負けたときに,新受託者がなお引き渡し請求できるという説明ができるかどうかにかかってくるということなんだろうと思います。


  特に,私の強い意見を申し上げるというわけではないんですが,問題としてはそういうことなのではないかということであります。
  以上です。

● ○○委員。
● 私も議論の整理だけでして,もし○○幹事のおっしゃっているような方向でいくと,非常に便利でいいなという気はいたします。ですからぜひその方向で検討していただきたいんですが,最後のところの,受益者が負けたときに新受託者がもう一遍やって勝つことができるということを,非常にうまい話なんですけれども,少しうま過ぎるかもしれないので,そこが理論的にうまく説明できるかどうかというところだろうと思います。


  他方で,本日お出しいただきました第1の構成につきましては,○○幹事からおっしゃいましたような弱点と申しますか,差止め請求権の実体的な根拠は何だろうかということが,必ずしもはっきりしないという御指摘だったと思います。


多分この原案というのは,保管義務を前受託者等が負っている。逆に受益者の方から言うと,保管請求権を持っている。それが受託者不在の場合には,受益権を保護する必要性が高まるものですから,差止め請求権にまで強まるというような説明になるだろうと思います。


  そうするとそこでの問題は,受託者不在の場合とは何かということでして,1つの考え方は,就職するまでというのが一番理論的にはすっきりすると思います。


その間は保管義務を負っている。ところが原案は,事務処理ができるようになるときまでということになっておりますので,新受託者が就職後,事務処理ができるようになったときまでの間は,保管義務が果たして観念できるのかどうかという問題が出てくるんだろうと思います。

  ただ,それも受託者不在の場合というものの解釈の仕方によるわけでして,受託者不在の場合というのは,受託者が存在しない状態と,受託者が就職したけれどもいまだ事務処理ができない状態と。いずれにおいても受益権の物権的な保護の必要性が高まるというふうに考えれば,それは何とかなるのではないかと思います。


  そうすると,その先の問題がありまして,新受託者が自己の権限に基づいて引き渡し請求を前受託者に対してしたという場合,あるいは仮処分を申請したというときには,事務処理が既に可能になっているではないか。


とすると,受益者の差止め請求権は,実体上の根拠を欠いて,かつ新受託者の引き渡し請求が認められるまでの間に,時間的な空間があいてしまって,そこが問題ではないかということが次に出てくることだと思います。


  それもしかし,受託者が就職したけれどもいまだ事務処理ができない状態というものの解釈によるわけでして,前受託者が争っている以上は,まだ仮処分申請をしたとしても事務処理ができないというように,もし解釈することができれば,そこは理論的には何とか説明ができるかもしれないというところだと思います。


  結局そうしますと,どちらも理論的な特質があるわけですけれども,実際上考えて,2回訴訟と申しますか,差止めをすることがいいのか,それとも1回で引き継がせる方がいいのかということの実質的な判断。それから,あと実際上の便宜ということになる。そのあたりが大体問題点かなというふうに思っています。


● どうもありがとうございました。
  先ほど事務局の方からも少し説明がありましたけれども,判決があったときにどうなるかということについては,もうちょっと詰めて考えたいということでございます。

  差止請求権の根拠等につきましては,先ほどから2人の御指摘もございましたけれども,なかなか説明の仕方は苦しいところあるのかもしれませんけれども,少しこの範囲を拡張する,請求権延長の範囲を拡張するということに伴って,説明の仕方を工夫しなくてはいけないということからきているものでございます。


  しかし,それで何とか説明ができるということであれば,それはこの点は御承認いただければと思いますが。


● 今,○○幹事と,それから○○委員にまとめていただいたようなところが,理論的にはいろいろあると。ただ,いずれにしても一応は説明は可能だというふうに,我々もちろん思っておりまして,まさにこれも先ほどおっしゃいましたけれども,最後の最後,受益者は,何人かいれば勝つまでずっと訴えが適宜できるというようなのは,非常に受益者保護には資するありがたい考えなんですが,果たしてそれができるのかどうかと,そこだけですね。


  できるのであればやれればいいのではないかというふうに,我々としても思いますので,そこだけちょっともう少し考えさせていただいて,結論をだしていきたいなということでございます。


● では,○○幹事,どうぞ。
● たびたびすみません。

  受益者が特にたくさんいる場合に,1人出てきては負け,1人出てきては負けと,そうすると相手をする破産管財人等はたまらないわけですけれども,こういう場合には,ほかにも例がありますが,口頭弁論を必要的に併合するとか,あるいはその前提として,管轄もし1つに絞れるならば,併合も非常に容易になるだろうとか,そういうところで手当てをしていくことになるのかなというふうに思っていまして,何回も応訴しなければいけない破産管財人等の地位は,一応,どこかでは配慮が必要だろうという気がいたしております。
  以上です。

● ほかの点についてはいかがでしょうか。先ほど13と39,51について事務局から説明があったわけでございますが。

  どうぞ,○○委員から。

● 結論についてどうこうとか反対とかそういう趣旨ではなくて,何度も同じような議論していて申しわけないので,ちょっと手短に質問したいんですけれども,そもそも実体法的にそういう債権の優劣を区別することはいかにというポイントが私の中にはあったんですけれども,聞くところによると,中間法人の基金とか,生保の出資金とか基金とか,そういうのは立法例としても存在するということなんですけれども。


  今回この実体法レベルで規定するとして,どのような規定の仕方になるんであろうかという質問なんですけれども,それぞれの問題になるような側面において返還請求できないとか,基金とか出資類似であれば清算するまで返しませんと言えば済むんですけれども,なかなかそうもいかないので,先取特権みたいな形もあるかもしれませんし,優劣という形で書くのかもしれませんけれど。


  ただ,優劣というような形で実体法上書くと,さまざまな側面において疑義が生じてくるのではないかという懸念もあります。懸念があっても,別にいけないという趣旨ではないんですけれども,この実体法レベルでの,今回取り扱うということの方法,規定の仕方等をお知らせ願いたいということと,それとの関連で,実体法レベルでどういう側面で優劣が登場してくるのであろうかと。


  弁済期において支払いができる場合には,別に優劣の議論ではないですと,たしか解説があったと思うんですけれども,それでは,受益権と信託債権が同時に弁済期が来れば,足りなければ優先するものが払うと,これはこれで簡単な話なんですけれども,倒産する前の話ということで考えると,来るべき将来,不足することが予想されている場合に,受益権に対して支払わないということが,その優劣から来るのかどうかとか,実体法レベルで規律した場合に,どういう側面においてその実体法が適用されるのであろうかというあたり,特に弁済期においては問題ないんだけれども,いつかそうではないときが来る。

  そうするとこれは,いつかが近い将来なのかずっとなのかということになると,またもとの議論に戻ってしまって,最終的に言うと大概と不当利得になるのではないですか議論が登場してしまうかもしれません。その議論をぶり返す趣旨ではないんですけれども,その辺をお知らせ願いたいということと。

  それと反面的な趣旨で,そうすると優先権を持った債権者というのは,受託者に対して一般債権者としての地位以上に優先権としての何らかの法的な権利を取得し,そうするとそれの義務を履行しなかった受託者に対して法的な責任を負うというような,そういう,今までは何か優先劣後というのは反射的なあれで,それは契約で決めますから,何ら優先の方には権利を与えていないようなのが普通の契約条項の取り決めの仕方なんですけれども,ある意味では優先の方にも何らかの実体法的な権利が与えられるようになるかとか,ちょっとその実際にこの優先劣後を規律するという前提においての議論として,その辺をちょっとお知らせ願えればと思います。

● 規定の仕方というのはなかなかどういう例があるのか,これからよく考えていかなくてはいけないなというふうに思うんですが,例えば相続財産破産の局面ではありますけれども,相続債権者の債権というのは,受有者の債権に優先しますというような書き方がされていたりします。


  優先するというふうな書き方をするというのも,もちろん1つあるでしょうし,あるいはここにありますように,劣後するということでおくれるというふうな書き方もあるのではないかなという気がしておりまして,そこは実質の表現の仕方,どういうのがいいのかというのは,また何か御意見があれば教えていただきたいんですけれども。

  その働く局面がどういう局面かといえば,基本的には執行,破産等々,民事裁判手続の中で,配当を受ける段階で,実体法上の優先順位に従うということがございますので,その局面で働くのではないかなという気がしております。


  それで,先ほどおっしゃった恐らく倒産状態というか,支払い不能に近いような状態で,支払ってしまうと偏頗弁済になりますねというような状況でどうしたらいいのかというのは,恐らく,よくわからないのですが,優先劣後構造になっているから出る問題というよりかは,同順位の中で支払い不能になった状態で,一部債権者に支払っていいのかというような話があると思うんですね。


  その局面と,何か劣後させたから大きく変わるのかなというのが,何か,すみません,にわかによくわからず,同じような問題なのではないかなと。


劣後するかどうかにかかわらず,支払い不能,一般的に弁済期より先払えないというような状況だと思いますので,その状態で支払っていいのかというようなことを言われたのかと思いますが,それは優先劣後とは,直接は関係がないような気も,今直感的にはしているところでございます。

● いかがでしょうか。
  どうぞ,○○委員。

● 第51でございますけれども,ちょっと違う論点でよろしいでしょうか。
  優劣についてもちょっと前回から御意見を申し上げているところでございますけれども,前回と同様,私どもとしては劣後という,ここに書かれている方向性で,すなわち優先劣後の範囲意味合いを明確にしてほしいと,整理してほしいという考えでございまして,その観点からしてみれば,今回の御提案の御説明を見ますと議論がその方向性で整理されてきたという印象を持っております。


  ただ2点,ちょっと疑問ございまして御質問いたしますけれども,まず受益債権が弁済期になるなど,当該債権が確定または具体化された場合にどうなのかという話でございます。


この点についても,私は以前,これは同順位ではないのかというふうなことを申し上げたことがございますけれども,ただ本件を見ますと,※1の注からしても,これもこの債権だとしても,他の場合における受益債権と同様劣後するという整理だと理解しております。


  ただこの点を,ぶり返しになりますけれども受益債権での物的責任とか,一般債権との差異はあろうとも,基本的には配当場面とかそういう破産状況になったときに,確定,具体化した債権としては,通常の一般債権と同じ順位ではないのかなというふうに思っていたものですから,若干違和感が残るところでございます。

  これは実務的な感覚からすると,同じエクイティたる株式とパラレルに考えていたわけですが,もちろん株式とも違うわけなんですが,ここの違いがどこから来るのかという,ちょっとこれは,同順位であるということの理屈がないからということなのかもしれませんけれども,逆になぜ確定,具体化された債権まで劣後するのかということについて,理論的な根拠をお尋ねしています。

  従前の御説明でちょっと若干触れられたのかなというふうには思っておりますけれども,ここにも書いてありますように,配当規制があるからこそ一般債権と株式の場合には議論できるわけで,逆にこのような手当てがないのであるから,やはり劣後にすべきだと,そういうような理解でよろしいんでしょうか。
  

ですから1点の御質問としては,確定,具体化した債権は劣後する,理論的な根拠を,改めてちょっと御教示いただければというふうに思っております。


  なお,付言するのであれば,劣後の手当てとして,では逆に配当規制を捨てろというふうに私は言っているわけではなく,有限責任信託の議論は別として,かような規制というのは信託の柔軟性を損なうので,すべきではないということでございまして,この点は事務局の考えと同じだと思っております。

  2つ目の御質問は,もっとも,確定,具体化した債権が劣後するとしたとしても,考えてみれば,実務的に,ではどういうときに問題になるのかなと思ったところ,やはりここの※1に書いた事案ぐらいなのかなというふうに思っておりますので,では劣後するから,違和感があるからということで,結論として同順位であるべきだというところまではこだわりはいたしません。


  ただ1点ちょっと細かい御質問ですけれども,ちょっと確認したいんですが,先ほどの○○委員の御関心にも関係するわけなんですけれども,確定期日に弁済を受けることができなかった受益債権者が相殺をするといったときに,受益債権が劣後債権であることを理由として,他の一般債権者との問題とならないということを確認したいと思います。


  つまり,実際発生したものについての回収場面において,劣後というときの意味合いの話になりますけれども,これは前回の私の関心と重なりますが,劣後というふうに整理した場合に,破産における配当における劣後ということはわかりますけれども,その他の回収手段,これは抵当権をつけるとかいうことも含みますけれども,受益債権者が相殺によって回収する場合には,別段一般債権との関係では問題にならないと。

もちろん信託法の相殺制限の範囲内ということを前提としますけれども。という点を,ちょっと御確認したいと思っています。

  以上です。

● いかがでしょうか。
● まず前者の方の,確定した分について,なぜ同順位になるのかという話ですが,そのもう1歩前に,まず大前提として,受益債権を信託債権に劣後されることについての理論的説明があるんだと思います。


その点については,この資料の中では3の(1)のところで,一応2つの,これまでもずっと指摘されているところでございますけれども,そういった理由を挙げさせていただいていると。

  まずここについて御納得をいただけるかどうかが1つの分岐点だと思いますので,ここで御納得いただかなければ,もちろん○○委員の御質問には入らないわけで,そこは納得いただいているという大前提で,今度入っていきますと,では劣後させなくてはいけないという実体法上の関係にはあるんだと,それは合理的あるというようなときに,では確定して具体化したということの意味ですけれども,例えば配当決議みたいなものをして,具体的に配当額が決定した。それで,そういうことをした瞬間に同順位になる,そういうことを恐らく言われているんだと思います。


  ではそれが本当にいいのかどうかで,そのことと,本当はでも実体法上は劣後させなくてはいけないということとのバランスをどうとるかという問題だと思います。


その点についての1つのバランスのとり方というのが,会社法における配当規制なのではないか。つまり,過大な,上位にいる信託債権者を害するような配当額の決定というのは,いろいろな方策で実際上できない,そういうことにされているのに対しまして,信託法上はそういう手立てをつくらないんだとすれば,同順位にするということまではやっぱりいき過ぎであって,劣後化させるしかない,こういうような結論なのかなと。

  恐らく実務上の,今までの御認識とは違うということは,それはあるんであろうとは思うんですけれども,他方で実務上の認識と申しましても,今まで信託財産の破産というのもございませんでしたし,実際信託が破産状態になるということも,理論的にはいろいろあったんでしょうけれども,現実問題としてはまさに直面したというほどのことはなかった。そういう状態での議論だったということなのかなという気がいたします。

  ただいずれにしてもその大前提は,信託債権に対して受益債権は劣後するんだというところは,そうなんだろうなというところを,お認めいただいた上での話だと思いますけれども,今の点はそういうことになるのかなと思います。

  それから相殺の関係ですけれども,各種の相殺規制,いろいろな法律にありますけれども,そういった中で行われる分には,問題はないということではないかなと思っておりますが,何か間違いがあったら御指摘いただきたいですけれども,とりあえず私はそう思っております。

● ありがとうございました。わかりました。
● ○○委員。
● 違う点ですが,追加の点で,先ほどから議論しているノンリコースローン,この中でも責任財産がいて,特約つきの,貸主ということ出てきますけれども,合理的な解決の方法として,身分が下がって受益債権と同列に扱うという対応なんですけれども,このコンテキストにおいては,それなりに合理性があるのかなという気はしないでもないんですけれども。

  銀行の方々の関心かもしれませんけれども,昨今は通常の事業法人とか個人に対して,住宅,アパートローンや何か,ノンリコースローンをしています。

それは信託のコンテキストではありませんけれども,そういう場合に,その債権の地位が,他の一般債権よりも借主さんが倒産したときに下がるという議論はないと思うんですけれども,こういう信託の実体法,又は信託の倒産という側面だけ,そういうことを規律するということが,他への影響とかあり得るのではないのかというのが,ちょっと私なりに心配といいますか,整合性の議論ももちろん背面であるんだとは思うんですけれども,その辺についてどうかというのと,あとは,ノンリコースローンの特約というのにもいろいろ程度の差があると思うんですけれども,それによってあるとき身分が極めて低い立場になるというのも,なかなか整理として難しいのかなと思うんです。


結論としてはやむないと思っているのでいいので,どちらかといえば質問としては前者の方なんですけれども,それについての御意見いかがかと思うんですが。


● 私の方がうまく理解できているのかどうかわからないですけれども,物的有限責任とかといったところが理由で受益債権を劣後化しているわけではなくて,受益債権劣後化の理由は,ここに書いてありますとおりのところですので,それが一般のノンリコースローンの順位に波及するということはないのかなというふうに思っておりましたけれども。

● 一応切り離して考えたいということだと思いますが。

  ほかにいかがでしょうか。--よろしゅうございますか。なお,いろいろ御議論があるかもしれませんけれども,今確認できたことは,基本的に受益債権を劣後させるという大きな考え方については,一応御理解いただけると。


  これが実体法上の優劣だというときに,どういう場面でもって影響が出てくるかということについては,これはちょっと規定の仕方の問題もあるかもしれませんけれども,一応の考え方については,○○関係官から今説明がありましたけれども,多少解釈論の問題も残されていると思いますけれども,これについては,そういう意味で,すべてここで全部詰め切れているわけではございませんけれども,基本的な考え方をもとにして考えていくということになるんであろうと思います。

  それでは,大変急がせて申しわけございませんけれども,もう少しだけいかせてください。

● 次は,受益者の指定変更権と目的信託のところでございます。

  第60からでございますが,これは一般の受益者指定変更権の問題でございまして,特に受託者がこの権利を有する場合のデフォルト・ルールのあり方について御審議いただければと思っております。


  試案におきましては,受託者以外の者が変更権,指定権を有する場合と,受託者がこの変更権等を有する場合とでデフォルト・ルールを逆転させておりまして,受託者については,遺言によって行使することはできない,かつ,死亡に伴い新受託者に承継されるとしておりました。

  これに対して今回の提案では,あくまでも一般原則の場合と同様に,遺言によって行使することもできますし,死亡に伴い承継されないとすることに改めたものでありまして,このような考え方に変えた理由につきましては,資料中に記載したとおりでございます。


  あくまでデフォルト・ルールに過ぎないものではございますが,このような考え方の妥当性につき,御意見があればお伺いできればと思っております。

  次に,遺言代用信託における変更権等の問題でございまして,この新しい資料で言いますと第61ですね,ここについてでございますけれども,主として次の2点について御審議をいただければと思っております。


  まず遺言代用の信託に関する規律を設けることについて,賛成意見が多数を占めましたけれども,現行相続法体系との整合性に疑問があるという指摘がございました。


しかし,この意見は,具体的には受益権の付与と,遺留分減殺及び特別受益の持ち戻しの対象との整理がついていないということを指摘するものだと思われますけれども,受益権の付与は遺留分減殺や持ち戻しの対象となると考えられますし,その評価も決して不可能ではない。


十分可能であると考えられるのでありまして,遺言代用の信託に関する特則を設けることを否定する理由とはならないと考えております。

  次に,遺言代用の信託におきましては,提案1にありますとおり,委託者が死亡するまでの間は,受益者としての権利義務を有する受益者がいないことをデフォルト・ルールとしておりますが,パブリック・コメントにおきまして,このような制度を設ける以上,委託者が死亡するまでの間は,委託者が受益者としての権利を行使できる等の手当てをすべきであるという指摘がございました。

  今回の提案2におきましては,基本的にこの指摘を容れまして,遺言代用信託の委託者につきましては,提案1により受益者として権利義務を有する者が存しないこととなる間におきましては,受益者としての権利を行使できる者がいない点において共通性を有する目的信託における委託者の権利と同様の権利を委託者に付与することとして,一般の信託の場合よりも,委託者の受託者に対するガバナンスを強化してはどうかと考えるわけでございます。

  ちなみに,死亡後受益者に委託者死亡前から受益者としての権利義務を有することを定められている場合ですとか,他にも権利義務を有する受益者がいる場合は,このような委託者に権利を付与する必要がないわけでございまして,あくまでもほかに受益者としての権利義務を有する者がいないという場合でございます。

  具体的に委託者にどのような内容及び性質の権利を,目的信託と並べて付与するかにつきましては,次の目的信託のところにおいて御説明したいと思います。


  目的信託,第69でございますが,公益信託以外の信託で受益者の定めがない,このような目的信託につきましては,資料中に書きましたとおり,民間資金を導入した非営利活動の受け皿としての機能が期待されるということですとか,資産流動化目的に有用であることなどを理由に,その有効性を支持する見解が多数を占めております。


  そこで今回の提案におきましては,目的信託の有効性を一般に承認した上で,他方におきまして,濫用の恐れやガバナンスの欠如への懸念にも配慮して,まず提案2のとおり,その存続期間,有効期間を設定から20年に限定しまして,さらに提案3のとおり,目的信託の委託者の権利を,一般の私益信託における委託者の権利よりも強化することとしてはどうかと考えるものでございます。


  なお,目的信託における委託者の権利の具体的内容は,別表に詳しく列挙させていただいたところでございますが,要するに一般の私益信託と異なりますのは,第1に,信託行為で制限できないものとされている受益者の権利につきましては,強行規定,すなわちこの表で言いますと「◎」として委託者に付与することとしまして,さらに第2点として,35番以下の通知・報告受領権ですとか,免除・承認権につきましても,これもデフォルト・ルールとして委託者に付与することとしているわけでございます。

  もっとも,受益者の存在を前提とします,例えば配当請求権や受益権取得請求権はもちろん,信託監督人や受益者代理に関する権利,あるいは他の受益者の情報を求める権利などにつきましては,当然のことながらここには入ってこないということになります。


なお,特に,一般の私益信託と異なりまして,目的信託につきましては,詐害信託取消権の要件を緩和するということと,いわゆる信託宣言により目的信託を設定することはできないとしているということにも御留意いただければと思います。
  以上でございます。

● それでは,ここまでの御議論をお願いいたします。
  もちろん,大体よろしいということであれば,あえて寝た子を覚ます必要はないんですが。

  第60はいかがでしょう。どうぞ,○○委員。
● 第60のところの部分でちょっと確認なんですけれども,受益者の指定権等が行使される場合において,効力が発生する時期というのがちょっとよくわからないんですけれども,これはいつ発生する。


● これ,以前の資料には書いておりましたが,受託者以外の者が指定権を行使するときは,受託者に対する意思表示によって,行使しまして,それが到達したときに効力が生ずるということになります。


  あと,受託者自身が変更権を有する場合には,これはその行使によって受益者となる者に対する意思表示によって効力が生ずると。それについては,規律に入れていくということになると思います。

● どうぞ。
● 目的信託についてよろしいでしょうか。

  当省,例えば地域の産業クラスターづくりですとか,あるいは地域の中小企業支援などやっておりまして,そういったところからの要望を聞いていますと,例えばこういうケースがありまして,こういった金の使い方として,ここにパブリック・コメントにはそれで意見の概要ということで書かれておりますけれども,補足いたしますと,例えば大企業が,精密機械ですとか,あるいは計測機械,高価な物をこういった形で利用しまして,例えばある地域の工業団地ですとか,あるいは産学連携とか,そういった形での中小企業者がそれを利用すると,そういう,例えばインキュベーター施設をつくろうと。


  こういう場合について,その当該機械について,これ当然各中小企業では買えないというような場合について,当該地域の特定の企業と,実際に請け負うところについては当該地域の特定の者について委託をして,その人が受託者となって,その当該機械等を信託財産とするような目的信託,これを設定すると,ちょうどそういった地域の,ある程度は限定されているけれども,特定の者には限定されないという,そういった中小企業等の利用のニーズというのにこたえることができるようになるのではないかということが考えられております。

  それから福祉等での利用の例がここに並んでおりますけれども,例えばこれも使い方としては,ある特定の地域の企業が,例えば社会福祉法人等に,一定の金銭ですとか財産的な価値のあるものを信託しまして,その当該社会福祉法人等がいろいろなケア施設ですとか,リハビリ施設等,そういった高齢者ですとか身体に障害のある方,こういった方のケアをするような施設,こういったものについての目的信託,これを設定することで,ある意味ではいろいろと企業の社会貢献,地域への貢献,こういったことのための手段ということでも使えるようになるのではないかという形で,ある程度地域でのいろいろな利用というのが,この目的信託については活用可能ではないかというふうに考えているところでございます。


● 今おっしゃったような使い方が,まさにできるんだろうと思いますね。
  ポイントは,いずれにせよ,公益信託というものが今後できるかどうかわかりませんけれども,それに近いようなものもあるかもしれませんけれども,そこまでいかないようなもので,受益者がとにかくいないというタイプの信託,こういうものの使い道として,今のようなことがあると思います。
  ○○委員。


● 今のことに補足なんですけれども,例えばこういうこともあり得るかなという例なんですけれども,起業なんかを促進するために,業界団体とか経済団体のようなところが,ある一定のお金を出して,基金,信託をつくって,非常に優秀な技術やアイデアを出してきた何か母体に対して,支援をしますよと。
  

そういうような形での,したがって,信託の時点では受益者も決まっていないしあれなんですけれども,そういう形で,今までだと恐らく財団法人か何かの形態をとらざるを得なくなるのかもしれませんが,これは信託という形を使うことによって,容易にやれる。そういう可能性も出てくるかなというように思います。

● 今のようにして,仮に何か給付とか支援を受けるという人が出てきたときに,その人は,決してしかし受益者ではないと。そこがポイントだと思いますけれども,今のような遣い方も十分あると思います。
  ○○委員。


● 以前から導入については賛成なものですから,同じように賛成の意見を述べさせていただきたいんですけれども,例えば,もうここに書いてありますけれども,オープンソフトのソフトウェアなんか,現状は何ら仕組みもなく使っている形ですけれども,十分有効性があると思うんですが,そうすると,期間は長いほうがいいと,幾らでも長ければいいという議論とは違うんですけれども,ソフトウェアの存続期間であればよりいいとは思うんですけれども,これに関しては,どこで区切るのかという,所有権のところから20年と聞いていますけれども,先ほどの事業の場合も,20年後にどうなるのかという議論があると思います。ただ,あるとないとでは全然違うので,これが導入されれば非常に有用だと思います。


  あと流動化の観点ですと,流動化のために入れる必要はないんですけれども,これが入ると,ケイマンのチャリタブル・トラスト代替手段として中間法人を使っていますけれども,中間法人自体も法律が今度かわりますし,本来の姿であるところの目的信託を使ってそれを達するということも可能になります。


  ただ昨今一番ボリュームの多いのは住宅ローンなんですが,その住宅ローンで,一応住宅ローンは30年とかあります。そうすると20年というのは,では住宅ローンの期間として適切なのかという。


ですから20年というのは十分長いんですけれども,一般の取引においては20年以上の取引というのはないはずなんですけれども,美術館にしろ,あと図書館をつくるとかですね。


  目的信託の本来的な姿で何かしようとすると,財団と極めて類似でも非常に軽装備でできるものなので,そうすると,できれば20年がさらに延長できるような形とか仕組みとかもあればと思うんですけれども。

● ここ20年というのは,いろいろなやり方があると思いますけれども,ここで絶対的に終わるというものでは恐らくなくて,ここでとにかく一遍は見直すという,そういうことなんだろうと思うんですね。


ここで前の信託を存続させながら,延長という言い方はちょっと微妙かもしれませんけれども,ある種の延長をするとか,終わる直前に,信託財産を処分するような形で,同じ目的で処分して続けるというようなこともできるかもしれません。

  ただ税の方がどういうことになるのか,ちょっと気にはなっておりますけれども。そういうところの手当てさえあれば,この20年の期間に,とにかく一遍は考慮して,続けるか続けないかをとにかく受託者としては判断しなくてはいけない。


  続けるときには,何かとにかく手を打って続けることが可能なんであろうというふうに思います。

● どういう形になるんですか。
● ここではしたがって,絶対に20年を超えて延長するようなことが一切できないということまで言っているものではないと。20年で一応終わるのが原則ですけれども。あまり言い過ぎるとあれかもしれませんけれども,例えば,これは信託宣言にも関連してくるかもしれないけれども,前の受託者が再信託を,あるいは信託宣言みたいな形で持って再信託をするとか,何かそういう方法もあり得るのかもしれません。


  ここで今,そういうところまですべてだめだと言っているものではないというふうに理解しております。

  ○○委員。

● 目的信託について疑問を呈する立場というのは2つあって,1つは受益者を中核とする伝統的な信託のイメージと違っているではないかという理念の問題が1つある。


  それからもう1つは,これによって何らかの副作用と申しますか,弊害が出てこないだろうかということがあって,他方で,非常にこれは有用な制度であるということで,今回両方の,理念の点は違うかもしれませんが,両方のことを考えた御提案だと思います。

  それを前提として,私自身ちょっとまだ,いいのかなという気持ちはあるんですけれども,仮にこれを前提とした場合に,二,三,御確認というか,御質問したいと思います。


  1つは,先ほど来出ております非営利法人法制との関係ですけれども,この非営利法人法制の中で,非営利で非公益の財団というのが認められるかどうかというのはまだわからないかもしれませんが,仮にそれが認められたとすると,それとこの目的信託との機能分担をどのように考えるのか。


  それから逆に,それぞれについて弊害防止策ということが講じられていると思うんですけれども,それ両者,やはり並び併せて検討する必要があるのではないか。


そうしませんと緩い方に流れていって,かえって制度全体としてうまくいかなくなるだろうと思います。そうしますと,今の○○委員のおっしゃった延長の仕方というのは,これは結構重要な問題になってくると思いますので,そこはさらに詰めていただければいいと思います。


  それからあとは細かい問題ですけれども,詐害信託について委託者だけの詐害意思で判断するということになっておりますが,これは破産における否認の場合も同じと考えてよいかどうかです。


  それからもう1つは,遺留分減殺についてはどうなんだろうか。当事者双方の認識というときに,だれの認識を考えるのか。受託者を考えるのかどうかというあたりです。


  以上です。

● どうぞ。
● まず1つ目の,非営利の財団法人が仮にできた場合の役割分担というお話かと思いますけれども,まさしく○○委員が御指摘いただきましたとおり,非営利の財団法人自体は検討中だと思いますけれども,仮に非営利財団法人の要件として,まだもちろん検討中だとは思いますけれども,何らかの設立時の出資金額規制みたいなものが仮にかけられるとしますと,それ以上の財産がないとあちらの方では設立すらできないということになるかと思いますが,こちらはそういう設立時の財産規制自体はなく立ち上げることができるというような違いは,まず決定的に1つ違うのかなと思います。

  それから法制的な議論ではなくて,機能論的な議論かもしれませんが,仮に財団法人をつくるというふうになりますと,1つ法人をつくって,そこに外からそれを管理できる人,役員のような形,あるいは使用人のような形で連れてくるというイメージになるかと思いますが,この信託スキームを使う場合におきましては,だれかから連れてくるというよりは,あなたの持っている組織体としての機能というものに着目して,あなただからこれをあなたにお願いするというような形で。


  こういったものを仮に法人でやろうとしたりしますと,組織体の持っているノウハウ,組織に化体されたノウハウの人たちを,みんな法人で雇わなくてはいけないという話になるかもしれませんが,そうではなくて,既にそういう有機的なノウハウがある方々のところに,あなただからこの財産をお願いして,一定の目的のために使ってもらうというような使い方で,機能分担というのが図られるのではないかなというふうに,ニーズを伺った中で,そのように感じております。


  それから2点目の,破産の場合も否認の場合も,それはまさしく同じような取り扱いになるのではないかなと思いまして,それから向こうの濫用防止とこちらの濫用防止をそろえなければいけないということなのでございますが,私どもの方は,いわば受託者と言われる人の主観的要件を問題にすることなく,委託者の主観的な意思で常に詐害行為の取消権の行使は可能だというふうにしておりまして,これは,要は債務者以外の者の主観的要件を問題とせずとして取消権を行使できるというのは,なかなか他の法人制度,とりわけ非営利の財団法人とかいったような場合でも,これはないのではないかというふうに思いますし,あちらの方は恐らく法人ですから,期間制限というのはかからないと思いますので,その意味でこちらの方の期間制限があるというのもございます。


  それから会社法の824条並びの規定を設けて,もし仮に,これは直接目的信託に直結する問題ではございませんけれども,不当な信託がつくられたときは,終了することもあるということでございまして,その意味からいきますと,濫用防止措置という限りにおいては,一応私どもなりに万全を尽くしたかなというふうに自負いたしておるところであるかというふうに思います。

● 目的信託も,なお○○委員が言われたように,いろいろ検討しなくてはいけない点はたくさん……。

  どうぞ。先に○○委員,その後○○委員で○○幹事。
● 目的信託につきましては,業界でもちょっと議論したんですけれども,今の○○幹事であるとか,○○委員が言われたような形の目的で設立してやっていくというのは,非常にいいことだろうと思いますし,信託業界の方でもやはりそういうふうに利用すればいいなという意見はあります。


  一方で,全体観からいくと,やはり消極ということで,これは信託宣言と同様にやはり弊害が非常に大きいということで,私は確認しておりませんけれども,議論の中で出たところによると,欧米ではマネロンに使われ始めているということで問題になりかけているというような意見もありましたし。

  それと私自身の疑問としては,目的信託で非営利的というか公益的な形で使われる部分と,基本的に自分の範囲内で使われるもの,例えば以前出ていました,民事信託でペットの信託とかというのがあったと思うんですけれども,それで考えると,基本的には自分のための信託に近いようなものから,要するに,他人の,もう完全に他人に移転してしまったのと同様の信託,それがごちゃまぜになったような状況なのではないかなということで。

  例えば税のこと,これは税の議論をする場ではありませんけれども,例えば公益信託で信託したときには,それが相続財産に歳入されるかどうかというのは以前かなり問題になりましたけれども,基本的には自分の財産から離れているのか離れていないのかというのが,目的信託の場合はよくわからなくて,よくわからないというのは,もちろん目的信託だからよくわからないんですけれども,その辺のところの整理がなかなかつきづらいんだろうなという感じがいたします。

  すみません。方向性として反対ですというほどのことも言えませんけれども,議論している中で,そういう弊害もありましたということだけを,ちょっとお伝えしたいと思います。


● ○○委員が言われたのと共通する面がありますけれども,非営利法人の方にも,恐らく同じような問題があって,そちらでの無条件に全面的に認めるのではないということになると,やっぱり同じような議論を,こちらでもせざるを得ないのかと思いますね。

● みずからのところに近いところであるとすると,委託者が権限を持つというのは,完全に意味がなくて,それは何をやっているのかあまりよくわからない。

弊害の防止ではなくて,委託者が権限を持って委託者がやっていくというのは,弊害防止には何も役に立たないのではないかなというふうに思いますので,ですから絶対だめですという話ではなくて,その辺の整理が,ちょっとついていない状況なのかなというふうに思いました。

  それと,すみません,流動化の関係で,これというのは使えるんですか。委託者が権限を持って,これは強行規定で持つんですよね。それでもそこは割と使いやすいということなんでしょうか。

● 信託宣言に伴って,目的信託を使っている,バミューダとかケイマンとかですけれども,一番,ご存じだと思うんですが,資産流動化法の持分信託が,ある意味では目的信託類似だと思うんですけれども。現行法ですから持分信託にしているんだと思うんですが。

  なおかつ現在の案と言いますか,なおかつそれが妥当だと思うんですけれども,基本的には信託をいじくるとか,受益権をどうこうするのではなくて,監督的機能なので,将来的には格づけ機関がどう判断するかでもいいんですけれども,持分信託についても格づけに元付けはあると,こういうふうに格づけは判断していますけれども,そうするとそれ以上のたてつけになっていれば,これが資産流動化に使われないというわけではないと思うんですね。

  それは使い勝手として中間法人とどっちがいいのかという議論が出てくるかもしれませんし,どっちがよりガバナンスが強いのかという議論もあるかもしれませんけれども。


● そういう観点で,何となく私自身は非常に使い勝手が悪いのかなという感じがして。だから目的信託はやめましょうという話ではなくて,そういうような目的に使うためには,そういうたてつけにした方がいいのではないかなと,逆に思いますし,要するに目的信託というもので,すべてごった煮状態になっていること自体が,有用性ももちろんあるし,弊害もあるしというところの部分で,なかなかちょっと整理がつきづらいのではないかなというふうに思っております。

● なかなか利用目的でもって類型化するというのは難しいところがあると思うんですね。今○○委員もちょっと言われたけれども,やっぱり委託者の利益のためにするものではないと。


そしてまた委託者に権限が残っているのは監督的な権限であるということで,委託者が勝手にできるような信託にはしないということなんだと思いますけれども。


  なお,いろいろ検討すべき点があることはおっしゃるとおりだと思います。
  順番に,では○○委員,どうぞ。


● 公益信託のメリットが逆にあるだけに,実際に目的信託がどの程度使われるのかというのが,疑問だというふうな意見もあるように今思ったんですけれども,それともう1つ○○委員の方がおっしゃられた,自分のために使うのか,純粋に本当に公益的に使うのか,いろいろなものがごっちゃになっているのではないかということもおっしゃったんですけれども,そのあたりについてちょっとだけ,私の考えを述べさせていただきますと,公益信託でも結局は,先ほど税法上の話がありましたけれども,個人の場合ですと,公益信託になれば寄付金控除とかで,税法上のメリットがあると。

  法人の方も損金算入されるとか,それからまた,個人のところは先ほどありましたけれども,相続財産から除外されるとかいうメリットがあるので,やはり目的は公益性であっても,結局はやっぱり自分のためというところも,やっぱりあるのではないかなと。


そういう意味では,公益信託であろうと目的信託であろうと,そこは全然かわらないのではないかなというふうに,まず思います。


  それからもう1つ,公益信託のところのメリットを財団法人と比較したようなものを見ますと,同じ認可が要るんだけれども,運営コストが非常に安いですよと。


信託銀行の方できちんと管理しますから,そんなにコストかからずにできますよというようなところがあるんですけれども,したがってまた,額がそんなに大きくなくても小さな額でも公益信託ができるというようなところが強調されているようです。

  そういったもの見ますと,またさらに目的信託として公益性までないものが,同様に使われるとなると,もうちょっと小さい金額でも使われるので,前○○委員が言っていたようなペット信託とか,あと○○委員の言われているような老後の管理関係の,特になくなった後の自分の墓の管理とか供養とか,そういったもののために使うとか,そういったものも考えられるのではないかなと。

  それからそういったビジネスを,また弁護士さんだけではなくて,事業会社も取り組んでいくということも考えられるのではないかなというふうに思われます。


  さらには,先ほどちょっと○○委員の方でもお話ありましたけれども,起業として,今度は中小企業なんですけれども,オーナーが引退すると,息子に家業を継がせたいと。


しかし親としてあまり長くいると息子が育たないので引退してしまうんですけれども,どうも受け入れ能力とか開発力とか,そういったところにちょっと心配だというときに,ファンドをつくっておいて,息子のために,この会社のために,きちんとすばらしい技術を発明するとか能力を発揮するような人に,そこの中から報奨金を支払うと,そういうような形で使うというようなことも考えられるのではないかなと。

  ということで,民事的にも,商事的にもいろいろいい目的のために使えるのではないかなというふうに考えております。


● ありがとうございました。
  では○○幹事,どうぞ。

● ○○委員は紳士なのでお品がよくおっしゃったんですが,現在の案における20年を超えて存続できないというのは,弊害を防止しようという趣旨で書いてあるのであって,この機会にもう1回考えようという期間ではないと思いますけれども。


  したがって私は,○○委員が先ほどおっしゃったものは,ほとんど脱法行為であって無効ではないかというふうに思います。そのことは記すだけにしても,発言をしておきたいと思います。

● 私が申し上げたのは,財団法人についても同じような意見があるわけですけれども,永久に存続する,信託ですから拘束を受けて存続するわけですが,そういうものについて,財の流通性を阻害するという観点から,公益についてはともかく,非営利の目的での財団法人も含めてですけれども,公益信託とかそういうものについては望ましくないという意見があるわけですね。


  それに対する,そういう立場からこれを理解した場合にはという話です。そういう場合には,財産をもう1回処分するチャンスを与えて,どうするかということを検討すると。これは財団法人についても恐らく同じ制度が,一定の期間にもう1回見直すという制度があり得ると思いますけれども,そういう観点からの説明です。

  これをしかし,目的信託にはもっと積極的な弊害があるので,とにかく20年で一遍つぶせというような,そういう理解をされる方がおられることはあり得ると思います。あるいは○○幹事もそういうことなのかもしれませんけれども。


  ただこの案が,どっちの立場でそれをやっているかということは,別に原案として明確にしているわけではないので,私の個人的な意見を申し上げたということです。


● 別にけんかするつもりもないんですが。
● これも説明のために。
● 1点だけ。
  現在の公益信託にせよ公益法人にせよ,解散時に出資者に戻っていくということにはできないわけですよね。

● 公益法人だとできますね。
● 公益法人だとできるわけですね。
● いや,公益法人というか,条文はありますけれども,実際上そういうものができないということになっていますね。教科書的なもとで,今。


● 目的信託はできるわけですね。
● できると思いますね。
● それはやっぱり,何て言うか……。


● 帰属権利者を定めることは,恐らく。受益者はだめだけれども,帰属権利者はあり得るのではないですか。概念的には。


● そうでしょうね。
● ただそれを認めないというふうにつくることは,まだ可能ですよね。
● そこが,存続を認めていくという際に,存続を認めるということが,例えばシンプル・イズではありませんけれども,いろいろなところの,また目的にそれが動いていくというだけなのか,最後はある種のところに帰ってくるんだけれども,それの期間を自由に延長できるのかということによって,大分イメージが違うんだと思うんですね。

● その点,全く同感です。
  そこはやっぱり,目的信託というものをどういうふうにつくるかということについての,皆さんの御意見に基づいてつくられていくと思いますけれども。これだけではまだ,目的信託についてのいろいろなルールとして,まだ十分なものはすべてここに書き込まれているわけではまだないので,どういうものをさらにつけ加えていくかということを,恐らく議論せざるを得ないというふうに思うんですけれども。


  それからこの四角に囲みの中ではなくて,後の方にも,先ほど私,延長するときは信託宣言という形もあり得るというふうに申し上げましたけれども,設定する段階では信託宣言という形で目的信託をつくることはやめた方がいいのではないかという説明も出ているわけでございまして,それ以外にも幾つかここに書いてございますが。


  無条件で全部認めていいというわけではないということなんでしょう。
  ○○幹事,どうぞ。


● 目的信託についてではあるんですけれども,この中身の詳細というより,今いろいろな利用方法等を伺っておりまして,若干これをどう考えたらいいのかと思うところがございますので,一応こういう問題もひょっとしたらあるのかもしれないということで。


  裁量信託との関係なんですけれども,今例に出されたものの幾つかは,特定の限定された範囲の中の人が使えるようにとか,具体的に,受益者ではないけれども,結局受益ができるという内容のものが,幾つか例としてはあったように思われます。


  そういたしますと,その規律自体としては,実は一定の画された範囲のものから,受託者が適切と思う人に受益させると,いわゆる裁量信託ではないのかと。そういたしますと,目的信託か裁量信託かによって,ここに記されましたような期間ですとか,委託者の地位ですとか,各種の規律が変わってくる。しかも強行規定でかかってくるということになると,いずれをいずれと考えたらいいのかといった問題が出てき得るのではないかという気がしておりまして。

  とりわけ,今回の信託法の改正提案の中では,裁量信託についての規律というのがほとんどないように思われますので,そうしますと,よくわからないもの同士の間で,これをどう認定したらいいのかといった問題が出てくるように思われ,どう考えたらいいのか,目的信託も,ですからそういうものでできるものは,基本的にそれは裁量信託というふうに考えていった方がいいのか,それともまたさらに何らかの切り分けを考えていくのか,ちょっと問題としてはあるような気がいたしましたので,解決の方法も何も持っておらないんですけれども,御留意いただければと思います。

● 個人的な感想ですけれども,裁量信託で受益者がいないということになれば,これは目的信託の方に来てしまうんでしょうけれども,裁量信託で,しかし受益者に選定されたものは受益者であるということになると,受益者としての信託の監督,あるいは終了とか変更も含めて一定の範囲で,受益者がその信託を左右,常にできるわけではないでしょうけれども,できる可能性があって,その部分が単純な目的信託と裁量信託と違うところなのかな。


  それによって,いろいろな使い分け,似てはいるけれども,信託を設定する者からすると,使い分けがなされるのではないだろうかと。


受益者に権限を与えて,受益者の立場からの信託のコントロールというのを認めたいと思えば,裁量信託であって,繰り返しになりますけれども,受益者に選ばれた者は受益者の権限を持っているということなのではないか。目的信託はやはり,受益者,絶対に出てこないんだと。


● ただ,受益者を選ぶかどうか,あるいはどういう受益権を与えるかどうか自体が裁量にかかっているので,そういう人が一体受益者としてのどういう権利を,どの程度で持つのかというのは,今回全く規定がないということですので,それと目的信託との機能分担があるのかどうか。


  それとも,それは裁量信託になった場合はどうなるかはもちろんわからないんだけれども,いずれにせよ委託者が適切に,思うところを設定しというところでいいのかというのがあるときに出てきた場合に,これは目的信託であると認定した方がいいのか,裁量信託であると認定したらいいのかというような問題が出てこないだろうかというのが,問題かなということです。

● 限界は難しい場合があるかもしれませんね,確かに。
  もちろん信託の設定のときの意思によって決まるものだと思いますけれども,やっぱり最低限受益者という者を定める意図のもとでつくられている信託かどうかということなのではないかと思いますが。

  どうぞ。

● 先ほど,若干ちょっと補足でございますけれども,委託者のもとに帰属権利者として最後に財産が戻ってくることもあり得るではないかというお話がございましたけれども,それは現在の公益信託でもあり得ることですし,中間法人とかいうような法制を使ったときでもあり得ることなのではないかなというふうに思いまして。


  それで濫用防止という観点から考えたときには,他のこういったある種財産の独立性を持ってやるような事業なり活動をするときに,どういう濫用防止というか,そういうところでやってはいけないことは,当然これでもやってはいけないわけですけれども,その観点から,どういう措置を講じたらいいかというところで,まず設定時を確保しましょうと。


  それから○○委員から詳細に御説明ちょうだいしたとおり,財産の永久禁止則とかいうような話にひっかからないように,20年を超えて存続できないようにしましょうと。


  それから期中で仮に何か公序良俗違反的なことがあれば,会社法類似の規定で,達成できるようにしましょうと。

  それから何のガバナンスも効かないような財産をつくっては問題だということであれば,監督的な権能について受益者と同様のものを委託者に与えるようにしましょうということで,一応多方面から考えて,一応提示させていただいているということではないかなというふうに思います。


  それで,先ほど○○委員の御指摘で,委託者の権限を行使しても濫用的な防止措置にはならないではないかというようなお話がございましたけれども,それはその受託者と言われる人が,その財産を自分の志として出資した目的に従って使ってくれているかどうか。


だれも受益者みたいな自分のところに牽制を働かせる人がいないということを寄貨として,せっかく財産を拠出した委託者という人の意思を無視して,自分のために,あるいは他の目的のために使っているのではないかということを防止できるという意味においては,それは相応に意味があることであろうというふうに考えているところなのでございます。


  また,ごった煮というお話がございましたけれども,こういう法制を考えますときには,それはお使いになるユーザーの皆様がいろいろ工夫をされて制度発展のために御努力されるというのは,それは当然のことなのでございまして,何か我々が,この目的だけにしか使わせないというような,そういう傲慢な態度で立法に臨むのは不遜ではないかとも思っておりまして。

  むしろあり得るとすると,濫用的な防止措置というものを,どれだけ他のものとの平仄に配慮しながら構築できるかというようなことなのではないかと思いまして,それでパブリック・コメントでもいろいろ,さまざまなニーズが指摘されておりますので,それを踏まえてこのような案を提示させていただいているということではないかなというふうに思います。

● 今の,ちょっと若干先ほど気になっておりますガバナンスのことで,○○委員も御指摘された点ともあれなんですけれども,受益者は要するにガバナンス権を行使することに利害関係を持つと思うんですけれども,委託者は一たん信託をしてしまうと,必ずしもそこに利害関係を持つかというと,やっぱりちょっとそこは落ちるのではないかという気がしていて,それでいき方としては,信託管理人とか信託監督人とかを置くというようなことで,そこを保管するというような考え方もあり得ようかと思うんですけれども,そういった御検討というのはどうなんでしょうかということなんですけれども。

● 信託管理人を置くというのは,当然選任請求権を「◎」にしておるところから明らかなとおり,それはやろうと思えば当然できるという前提で考えておりまして,それで,先ほど委託者というのは,出してしまった以上利害関係はないかと申しますと,恐らくそんなことはないのではないかというふうに思いまして,例えば今例として挙げられたようなものの中で,あるお金を出して,それを何か起業に貢献した方に,その奨励金として出すようなファンドをつくろうというようなときに,その受託者というのがその目的に従わず,他の目的に使ってしまっていたというようなことであれば,それは私が出した用途,私がベンチャー企業を推進しようと思って出した用途について,お金が使われていないということであれば,それは自分の志に歯向かうものですから,そういうときにはそれは当然に違法行為の差止めみたいなことだってできたっていいでしょうし,何か自分のところにお金が戻ってこないと自分は利害関係がないなどという,そんな考え方をとる必要もないのではないかというふうに思っているところなのですけれども。

● 要するに法律的なシステムとして,どういうふうに組み込むかということなのかなという気もするんですけれども,1つ気になりますのは,例えば,長期20年の信託を組んだときに,委託者が亡くなった場合に,その後だれがどういった形で実行あるいは監督できるのかという問題もあるのではないかという気はしますし,強行法規にするかどうかというところは問題あろうかと思うんですけれども,やはり原則として信託管理人をつけるとか,信託監督人をつけるとかいうあり方というのはあってもよろしいのではないかという気が,ちょっとするんですけれども。


● ちょっと時間がないので,このぐらいにさせていただきますけれども。信託管理人を設けるというのは,十分もちろんあり得る制度で,もし現在の法制度のもとでもってこういう信託が,現在規定はありませんけれども,できるとすれば,信託管理人を置くということになると思いますので,その点も含めて,目的信託についてはまだ相当いろいろ詰めなくてはいけない問題があると思いますので,検討させていただければと思います。

  ちょっと最後時間がなくなって申しわけございませんが,きょう目的信託のところまで一応は終えたことにいたしますけれども,なお議論が残っている可能性がありますので,前回最初にちょっとだけ確認のために,前回言い残した点があるかどうかというのをお伺いして,先に進めていきたいと思います。

● では次回は,本日の残りの続きをやりまして,あと新たな資料に基づきまして議論をいただきたいと思います。


  日時は12月2日金曜日で,1時から,今度はいつもの20階の会議室でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
-了-

 

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