1、信託設定時の信託財産
要件(1)、(2)をいずれも満たすこと[1]
(1)金銭に見積もりうる
(2)他の人に移転することができる
満たす例:お金、不動産、債権など[2][3]。
満たさない例:生命、譲渡制限や禁止条項のついた債権など
というのが、通説ですが、(1)は、誰にとって金銭的な価値があればいいのでしょうか。課税されるかはともかく、課税対象となるかという観点で、国税庁でしょうか。
信託財産は、
①委託者の財産から分離可能
②受託者による管理ができる
③承継できる価値がある、
の3つがあれば良いという見解があります[4]。例として価値のない紙幣や大事な系譜の一部を挙げられていますが、委任契約や遺言、法人制度の利用で可能と考えられます。受益者連続型の信託利用を想定しているとしても、受益者は受益権を放棄することができるので、遺言の付言事項や委任契約の付随条項で定めることもできます。
条件付きの贈与契約でも目的は達成できる可能性があります。信託財産になるかといわれたら、信託財産にもなる、信託財産にすることもできる、という答えになります。
また、受益者のためになるのか、受託者の財産と別扱いで管理する意味はあるのかを考えると、妥当とはいえないと考えることができます。
なぜ財産を信託財産にしなければならないのかを考えると、信託財産の要件としては
①目的達成のために、委託者の財産から分けることが必要であり(委託者の破産や死亡など)、
②管理処分行為を託された者については、利益を受ける者のために適切な義務を規定することができる財産であることが必要(お金、不動産など)、
との結論を出すことになると考えます。誰にとっては、受益者にとって、となり付随して信託目的のために、と付け加えることが妥当ではないかと考えます。
2、債務
(1)債務は信託財産となりうるか
(信託事務の処理の状況についての報告義務)
第36条 委託者又は受益者は、受託者に対し、信託事務の処理の状況並びに信託財産に属する財産及び信託財産責任負担債務の状況について報告を求めることができる。
として、信託財産に属する財産と信託財産責任負担債務を分けていることから[5]、債務は信託財産とはなりえない。
受託者が債務引受をして、その債務を信託財産責任負担債務とした場合は、受託者は信託財産としてではなく、信託の目的に沿って管理・処分していくことになる。
(2)信託財産責任負担債務
(3)信託財産責任限定特約
3、占有の承継
(信託財産に属する財産の占有の瑕疵の承継)
第○条 受託者は、信託財産に属する財産の占有について、委託者の占有の瑕疵を承継する。
不動産が信託された場合、自己信託を除いて、受託者は不動産の占有についての瑕疵を委託者から承継します。占有について瑕疵のある不動産を信託しても当事者以外に、これは信託財産です、と対抗することができません。なお、信託法15条は、信託設定時の信託財産に関する規定です。
4 信託財産に関するリスク
(1)信託することができる財産か
(2)金銭に関して、信託財産の独立性が担保される措置が可能か
(3)信託する財産が複数の種類である場合、種類別に管理・処分方法が定められているか。
(4)
【条項例】
(信託財産)
第○条
1 契約をした日の信託財産は、次の第1号から第3号までとする。契約後に、第4号から第5号によって発生した財産もその種類に応じた信託財産とする。
(1) 別紙1記載の株式(今後、「信託株式」という。)
(2) 別紙2記載の不動産の所有権(今後、「信託不動産」という。)
(3) 金銭○○万円(今後、「信託金銭」という。)
(4) 受益者から追加信託を受けた株式、不動産及び金銭
(5) その他の信託財産より生じる全ての利益
2 委託者は、本信託について特別受益の持ち戻しを免除する。
(信託財産)
第○条 本信託設定日における信託財産は、次の第1号から第2号までとする。設定後に第3号から第5号によって発生した財産も信託財産とする。
(1) 別紙1記載の不動産の所有権(今後、「信託不動産」という。)
(2) 金銭○○万円(今後、「信託金銭」という。)
(3) 信託不動産を売却した場合の代金や、信託財産の運用により得られた金銭
(4) 受益者から追加信託を受けた財産
(5) その他の信託財産より生じる全ての利益
(信託財産)
第○条
1 本信託設定日の信託財産は、次の第1号から第2号までとする。設定後に第3号から第4号によって発生した財産も信託財産とする。
(1)別紙1記載の甲が経営する屋号「○○屋」の事業遂行のために所有又は保有する有形資産及び無形資産(以下、「信託事業」という。)
(2) 金銭○○万円(今後、「信託金銭」という。)
(3) 受益者から追加信託を受けた財産
(4) その他の信託財産より生じる全ての利益
(信託財産)
第○条 本信託設定日における信託財産は、次の第1号から第2号までとする。設定後に第3号から第4号によって生じた財産も信託財産とする。
(1) 別紙1記載の生命保険契約の保険契約者の地位
(2) 金銭○○万円(今後、「信託金銭」という。)
(3) 受益者から追加信託を受けた財産
(4) その他の信託財産より生じる全ての利益
(信託財産―預金)
第○条
1 委託者は、信託契約締結、信託財産目録記載4の預金を払い戻し、受託者に引き渡す。
2 受託者は、前項の払戻金を信託財産に属する専用口座を開設する方法により受託者自身の財産と分別して管理する。
(信託財産―不動産)
第○条
1 信託財産目録1,2及び3記載の信託不動産の所有権は、本信託開始日に、受託者に移転する。
2 委託者及び受託者は、本契約後、前項の不動産について所有権移転の登記申請を行う。
3 受託者は、前項の登記申請と同時に、信託の登記の申請を行う。
4 前2項の登記費用は、受託者が信託財産から支出する。
(農地)
第○条 信託不動産のうち、農地法の適用を受ける土地については、次のいずれかのときに、本信託の効力を生じる。
(1)農地法に基づく許可を受け、許可通知書を受け取ったとき
(2)農地法に基づく届け出を行い、受理通知書を受け取ったとき
(3)農地法の適用対象から外れた場合
[1]四宮和夫『信託法〔新版〕』1989有斐閣P133
[2] 情報についてトラスト未来フォーラム76 三枝健治「情報の信託「財産」性についての一考察」
[3] 人格権について米村慈人「人格権の譲渡性と信託」水野紀子ほか『信託の理論と現代的展開』
[4] 遠藤英嗣『新しい家族信託』日本加除出版P102
[5] 道垣内弘人『信託法』2017有斐閣P33