(一社)民事信託推進センターテーマ別勉強会「信託税務2つの事例の考察を中心として」
令和2年11月10日
研修の中から、民事信託・家族信託におけるお金(受益権を持つ受益者)の(暦年)贈与(譲渡・指定・設定・変更)について考えてみます[1][2]。私見です。税務についての最終確認は税理士さんにお願い致します。なお、司法書士法3条1項2号に基づく業務を前提としています。
・可能とした場合、信託目的の条項はどのような記載になるか。
財産の円滑な管理及び承継、で原則として足りると考えます。依頼者の要望を聞きながら、受益者の学資、社会人になってからの当面の生活費、受益者とその扶養親族の安定した暮らし、など
・民法上の贈与契約(民法549条)か。
信託法上の受益者の設定、指定、変更、または受益者からの受益権譲渡(信託法2条、89条、93条)にあたり、民法上の贈与契約とは異なります。税務上、贈与税の課税対象となります(相続税法9条の2)。
・受益権という権利を贈与する点(民法上の贈与契約では、財産とされるもの全て)
・書面によらない贈与の撤回(民法550条)が適用されない。例えば、受益者からの受益権の無償譲渡の場合、書面がなければ履行が終わっていない部分について、当事者のいずれも、いつでも撤回することが出来る。
・受益者が3歳として、受益者となること、受益者に指定されること、変更後の受益者となることが出来るか。また、受益権の譲渡について当事者となることが出来るか。
受益者となることは出来る。相続税法第9条の5は、胎児も受益者となることを認めている。受益者となることが出来るので、受益者にしていされること、変更後の受益者になることも出来る。受益権の譲渡については、契約を有効に締結する能力が求められるため、不可能と考えられます。状況として、お年玉をもらってありがとうと言うことが出来て、後で封筒を開けて金額を数えることが出来るくらいの能力は必要だと考えます。
・受益者であることの結果として110万円貰った場合、貯金してよいのか。
信託の目的(ここでは条項のみではなく信託行為全般を指します)、次第ですが、原則として禁止されていなければ、可能と考えます。
・受益者指定権・変更権により受益者となる場合、受益者となるための条件を付けなければいけないか(例えば、テストで50点以上取ったこと。)。
条件を義務付ければ連年贈与とみなされず、贈与税が課税されないという考えは、条件を付けなかった場合と比較してあまり変わらないのではないかというのが個人的な印象です。条件を義務付ける必要はないと考えます。
・受益者となった者は、お金を貰わないことも出来るのか。
受益権は権利(ここではお金を請求する権利と受益者が持つ権利一般)であり(信託法2条)、権利の行使は受益者に任させているので、お金を貰わないことも可能です。なお信託行為の当事者でない受益者は、受益権の放棄を行うことができます(信託法92条、99条)。
・受益者指定権・変更権により受益者となる場合、受益権の譲渡により受益者となる場合、受益権の分割が行われているのか。
私自身は、信託行為時に受益権の分割を行います。信託行為時に行わない場合は、分割の必要があると思います。100分の1などの単位の受益権を持つ受益者としていると、信託財産の増加、減少によって変わってきてしまうのではないかと考えます(特に2年目以降)。
参考
相続税法
第9条の2 贈与又は遺贈により取得したものとみなす信託に関する権利
信託(退職年金の支給を目的とする信託その他の信託で政令で定めるものを除く。以下同じ。)の効力が生じた場合において、適正な対価を負担せずに当該信託の受益者等(受益者としての権利を現に有する者及び特定委託者をいう。以下この節において同じ。)となる者があるときは、当該信託の効力が生じた時において、当該信託の受益者等となる者は、当該信託に関する権利を当該信託の委託者から贈与(当該委託者の死亡に基因して当該信託の効力が生じた場合には、遺贈)により取得したものとみなす。
2 受益者等の存する信託について、適正な対価を負担せずに新たに当該信託の受益者等が存するに至つた場合(第4項の規定の適用がある場合を除く。)には、当該受益者等が存するに至つた時において、当該信託の受益者等となる者は、当該信託に関する権利を当該信託の受益者等であつた者から贈与(当該受益者等であつた者の死亡に基因して受益者等が存するに至つた場合には、遺贈)により取得したものとみなす。
3 受益者等の存する信託について、当該信託の一部の受益者等が存しなくなつた場合において、適正な対価を負担せずに既に当該信託の受益者等である者が当該信託に関する権利について新たに利益を受けることとなるときは、当該信託の一部の受益者等が存しなくなつた時において、当該利益を受ける者は、当該利益を当該信託の一部の受益者等であつた者から贈与(当該受益者等であつた者の死亡に基因して当該利益を受けた場合には、遺贈)により取得したものとみなす。
4 受益者等の存する信託が終了した場合において、適正な対価を負担せずに当該信託の残余財産の給付を受けるべき、又は帰属すべき者となる者があるときは、当該給付を受けるべき、又は帰属すべき者となつた時において、当該信託の残余財産の給付を受けるべき、又は帰属すべき者となつた者は、当該信託の残余財産(当該信託の終了の直前においてその者が当該信託の受益者等であつた場合には、当該受益者等として有していた当該信託に関する権利に相当するものを除く。)を当該信託の受益者等から贈与(当該受益者等の死亡に基因して当該信託が終了した場合には、遺贈)により取得したものとみなす。
5 第1項の「特定委託者」とは、信託の変更をする権限(軽微な変更をする権限として政令で定めるものを除く。)を現に有し、かつ、当該信託の信託財産の給付を受けることとされている者(受益者を除く。)をいう。
6 第1項から第3項までの規定により贈与又は遺贈により取得したものとみなされる信託に関する権利又は利益を取得した者は、当該信託の信託財産に属する資産及び負債を取得し、又は承継したものとみなして、この法律(第41条第2項を除く。)の規定を適用する。ただし、法人税法(昭和40年法律第34号)第2条第29号(定義)に規定する集団投資信託、同条第29号の2に規定する法人課税信託又は同法第12条第4項第1号(信託財産に属する資産及び負債並びに信託財産に帰せられる収益及び費用の帰属)に規定する退職年金等信託の信託財産に属する資産及び負債については、この限りでない。
相続税法基本通達
9の2-4 信託に関する権利の一部について放棄又は消滅があった場合
受益者等の存する信託に関する権利の一部について放棄又は消滅があった場合には、原則として、当該放棄又は消滅後の当該信託の受益者等が、その有する信託に関する権利の割合に応じて、当該放棄又は消滅した信託に関する権利を取得したものとみなされることに留意する。
[1] 相続税法21条の5、29条11、租税特別措置法70条の2の4
[2] 笹島修平「信託を活用した新しい相続・贈与のすすめ」平成30年大蔵財務協会P206~