株式の譲渡等による株主名簿の名義書換手続
月報司法書士[1]の記事からです。なお、譲渡制限株式の譲渡を前提としている記事です。
株券を発行していない株式会社の譲渡制限株式の譲渡の順番
1 株主から、会社に対する譲渡承認請求(会社法136条、137条)
2 譲渡承認機関における株式譲渡の承認(会社法139条1項)
3 会社から株主に対する譲渡承認の有無の通知(会社法139条2項)
4 株式譲渡の当事者から、会社に対して株主名簿の書換請求
株式の信託(会社法154条の2)や、合同会社の持分譲渡(会社法585条)でも、同じような順序をたどります。株式、持分の譲渡当事者がお互いに会社の取締役、業務執行社員である場合には、準備をした後に1日で全て行うこともあります。信託の場合は、信託契約書を公証センター(公証人役場)で作成する際に、譲渡承認請求書、譲渡承認を証する書面(株主総会議事録など)、譲渡承認通知書に確定日付を付与してもらいます。
まだ電子情報を用いて行ったことはありませんが、会社法に情報の形式について制約はないので、今後は電子上の情報(+電子署名)で株式の譲渡手続と株主名簿の書換手続が完結するようになってくるのかもしれません。ただし、定款で書面に限る、などと定めた場合は、定款に縛られます。電子情報を用いる場合は、請求、承認、通知などの日時が上の順序になっていることが望まれます。
参考
国税庁 No.7105 金銭又は有価証券の受取書、領収書
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7105.htm
中小 M&A ガイドライン―第三者への円滑な事業引継ぎに向けて―https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2020/200331MA01.pdf
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei20/download/shoukei.pdf
中小企業庁 財務サポート 「事業承継」
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/index.html
株式譲渡の承認機関
取締役設置会社は原則として取締役会、取締役会を設置していない会社は株主総会が承認機関となり、定款で他の機関を定めることも出来ます(会社法139条)。
株主構成が代表取締役70%、取締役A10%、取締役B10%、取締役C10%の場合、代表取締役の所有する株式全てを取締役Aに譲渡する際に、承認機関を代表取締役と変更しました。取締役Aは、代表取締役の子であり後継者候補でした。現在の経営者が代表取締役であるうちは、会社の株式を管理することが出来るようにという仕組みです。
なお、私は利益相反を回避するため(会社法369条)、取締役会を設置している会社であっても承認機関を株主総会とすることが多いです。株式譲渡の効力発生日は、原則として株式譲渡の合意があった日です。会社に株主が変わったことを認定してもらうためには(議決権・基準日と関わってきます。)、株主名簿に記載・記録される必要があります。
株券発行会社については、株券を発行していない会社と異なる手続きが定められています(会社法128条、130条2項、131条2項、133条2項、137条2項、215条。会社法施行規則22条2項、24条2項)。一度だけ、会社を設立した後、株券を発行する、という方がいましたが、今に至るまで発行していません。当時少し調べたのですが、株券用の型紙などがインターネットで販売されていました。新人研修で、一度見たことがあるような、ないような記憶があります。
不動産の登記識別情報と性質は少し違いますが、個人的に株券は紙で作成する価値があると思います。
[1] 2021.3№589日本司法書士会連合会P55~