成年後見関係者と家族信託・民事信託関係者の役割整理

1、前提

(1)家族信託・民事信託関係者

・委託者 信託法2条

・受託者 信託法2条

・受益者 信託法2条

・受益者代理人 信託法138条

(2)成年後見関係者

・成年後見人(法定後見人)民法7条、843条

・任意後見人 任意後見契約に関する法律4条

・成年後見監督人 民法849条

・任意後見監督人 任意後見契約に関する法律4条

・家庭裁判所 民法863条、任意後見契約に関する法律7条

(3)信託行為に定めが必要な行為に関しては、定めがあるものとします。

2、委託者

(1)委託者の成年後見人

ア 民法103条の適用を受けるか

   民法103条は、任意代理人に関する規定であり適用はないと考えます。法定代理人である成年後見人の権限は、後見の事務として民法853条以下で法律として定められており、事務ができる行為は、代理権があると考えることができます。事務が出来るか迷う場合には、民法858条の解釈で対応することになると考えます。

現在の実務上、成年後見人が103条の規定を超えるような行為をするときには、家庭裁判所や成年後見監督人への事前伺いが必要となっていますが、運用上の扱いであり、適用を受けるかどうかとは別の問題になります。

イ 成年後見人として信託契約が可能か

   民法858条の解釈によると考えます。信託契約が本人のためになるのであれば、家庭裁判所も不可能と回答するときは、その理由を説明する必要があるのではないかと考えます。

ウ 成年後見監督人(民法864条)

   成年後見監督人は、信託契約が本人のためになるのであれば、同意を与えない場合にはその根拠を示す必要があると考えます。

エ 成年後見人が、信託銀行と成年後見制度支援信託契約を締結できる根拠

 成年被後見人のためだと最高裁判所が思っているから、だと考えられます[1]

(2)任意後見人

ア 任意後見人と成年後見人で異なる場合はあるか。

 任意後見人は、本人との任意後見契約によって代理権を与えられています。任意後見監督人が選任されて、初めて代理権を行使することができる所が民法上の委任契約とは違う部分です。任意後見人には代理権が定められており、民法103条の適用はないと考えます。代理行為について迷う場合は、任意後見契約に関する法律6条の解釈によります。

信託契約について具体的な設計が代理権目録に定められていない場合は、任意後見契約に関する法律6条の解釈によります。代理権目録に「不動産、動産及びすべての財産の保存、管理に関する事項」と定められ、「処分」が入っていない場合は、信託契約は財産の処分であり、信託契約の締結は不可能と考えます。

また成年後見人が信託契約を締結するのと比較し、平成19年9月1日以降に締結された任意後見契約については、厳しい解釈をすることになると考えます。

平成19年9月1日以降であれば、本人は信託契約を自ら締結することができました。また任意後見契約締結時に代理権目録に記載することもできました。それらをあえてしなかったのは、本人の意思であり、尊重することが求められると解釈することが出来るからです。

本人のためになるということをより明確に示すことが出来なければ、任意後見監督人の同意を得ることは難しいと考えます(任意後見契約に関する法律7条)。

イ 遺言と信託契約

成年後見人、任意後見人ともに本人の代理で遺言をすることはできません(民法973条、)。成年被後見人が遺言をするには制限があり、本人が遺言をするには、制限はありませんが、後日の紛争に備え成年被後見人と同様の対策をしておく必要があるという考えがあります(民法973条、[2])。

遺言は禁止、制限があることから、信託契約についても制限がかかると考えることが出来るでしょうか。

 遺言との関係で信託契約を観ると、遺言代用信託の場合その効果は遺言に近いものがあります(信託法90条)。

遺言は単独行為であるのに対して、信託契約は契約です。遺言は本人が亡くなった後に効力が発生するのに対し、信託契約は通常、契約締結日から効力が生じます(民法985条、信託法4条)。

 以上、遺言と信託契約はその効力において類似点があります。また信託契約は相手方との合意で成り立つ点、本人の生前に効力が生じる点において相違します。このことから、信託契約は本人の意思を生前から尊重することに加え、相手方(受託者)の意思とも合致することを求められることになり、効果の面で遺言と同じ様な面があっても、当然に制限されるべきではなく、本人の置かれた状況によって利用することが可能な場合もあると考えます。

(3)委託者の成年後見人

ア 追加信託が可能か

 委託者の成年後見人は追加信託が可能でしょうか。信託は、委託者の判断能力の低下や死亡によりストップすることがないように認められた法律であり、法律の趣旨から委託者に成年後見人が就任しても、成年後見人による追加信託は可能となります。

 どの程度可能か、という問題に関しては、成年後見人には成年被後見人の身上監護の事務があるので、その妨げにならない範囲に限られることになります。

イ 信託の変更が可能か

 委託者の成年後見人が信託の変更を行えるとしたら、どのような場合になるのでしょうか。まず、単独で信託の変更を行えるという定めがあったとしたら、信託の目的が変わったり、受託者の負担が急に増えたり、受益者の利益が急に変更になったりするため、この定めは信託法149条4項によっても定めることは出来ないと考えます。仮に変更されても委託者の成年後見人に対して不法行為による損害賠償請求(民法709条)が可能と考えます。またこのような定めがなされても受託者単独で、又は受託者と受益者の合意で信託の変更の定めを変更することになると考えます(信託法149条2項、3項、150条)。

 次に、受託者と合意して信託の変更を行うことが出来るでしょうか。信託法149条2項2号を参考に、信託の目的に反しないこと、受益者の利益に適合することが明らかであるとき、の要件を満たせば成年後見人と受託者の合意で信託の変更はできると考えます。アと同じく成年後見人の身上監護の事務に妨げにならないことも前提要件と考えます。

 受益者と合意して信託の変更をする場合は、受託者の利益を害することが明らかであるときは、変更することができると考えます(信託法149条3項1号)。成年後見人の要件は、ア、イと同様です。

ウ 信託の終了が可能か

 信託法163条1項2号から8号については、委託者の成年後見人が関与することが出来ないので考慮しないこととします。

 信託の目的が達成されたとき、信託の目的を達成することができなくなったときは、信託の終了事由とされています(信託法163条1項1号)。信託目的が客観的に判断できないような場合(例:受益者の安定した生活)、委託者の成年後見人が信託を終了させることは難しいと考えます。

委託者のみで信託の終了を行うことができ、委託者が残余財産の受益者又は残余財産の帰属権利者という定めがある場合は、信託財産の独立性が疑われ、信託とみなされない可能性があります[3]。委託者の成年後見人は、成年被後見人の保護になる場合は、そのことを指摘できると考えます。

 受託者と合意して信託を終了させることが出来るでしょうか。信託目的に反することがなく、受益者の不利益にならなければ、終了することが出来ると考えてもおかしくないようなに思えます。他に信託財産の状況も検討状況に入れて、裁判所に特別の事情による信託終了の申立てをすることができる要件(信託法165条)を準用するという考え方も採ることができます。この場合には、委託者の成年後見人を監督する家庭裁判所に対する説得もしやすいのではないかと考えます。

エ 成年後見人が委託者の推定相続人で、信託行為時における残余財産の帰属権利者の場合は、イ、ウの行為は可能か

 これは、成年後見人が自ら財産を取得するために信託を変更、終了することができるのか、ということです。イ、ウで検討した定めることができない場合、信託とみなされてない可能性がある場合は、エについても同様と考えます。

 成年後見人が残余財産の帰属権利者の場合であっても、裁判所に特別の事情による信託終了の申立てをすることができる要件を準用する場合、信託の変更、信託の終了は可能と考えます。

 成年後見人が残余財産の帰属権利者となるのは、信託行為時であり、その際、成年後見人は誰がなるのか分かりません。家庭裁判所は、必ずしも申立人が推薦する候補者を成年後見人に選任するとは限りません。成年後見人になるのは推定相続人の意思だけでは決めることが出来ないことであり、裁判所に特別の事情による信託終了の申立てをすることができる要件を準用する場合には、ある程度の範囲に限られるかもしれませんが、客観的な要件も満たすことから可能と考えます。

オ 成年後見人は、信託の残余財産の帰属権利者を定めることができるか。

 成年後見人が信託の残余財産の帰属権利者を定めることは、不可能だと考えます。なぜなら残余財産の帰属権利者が定められている時は、それが委託者の意思であり、定められていないときは、信託法により残余財産の帰属権利者が法定されているからです(信託法182条)。

カ 成年後見人は、信託の受益者の変更、受益権の割合の変更が可能か

 成年後見人が、信託の受益者の変更、受益権の割合の変更が可能でしょうか。当初から変更について明確な基準があれば可能と考えます(例:孫が20歳になったら、受益者に加える。子が住宅を購入したら受益権の割合を減らすなど)。

そうでなければ、信託の終了と同じように裁判所へ特別の事情により信託の変更を命ずる申立ての要件を準用することが考えられます(信託法150条)。 

キ 成年後見人は自身を指図権者とすることは可能か

 不可能と考えます。信託行為において委託者が指図権者と定められている場合、委託者は自身の財産に関する権限を一定程度留保したものとして自身の意思が信託に反映されることを考えて信託設定したと推定されます。これを成年後見人が行使することは難しいと考えます。

ク 成年後見人が委託者の推定相続人で、信託契約における残余財産の帰属権利者の場合は、カ、キの行為は可能か

 上記ウと同様の結論になると考えます。

ケ 委託者の推定相続人(成年後見人以外)が信託契約における残余財産の帰属権利者の場合、成年後見人はオ、カの行為は可能か

 上記ウと同様の結論になると考えます。委託者の推定相続人が残余財産の帰属権利者であったとしても、異なることはないのではないかと考えます。

コ 受託者は、委託者の成年後見人と信託報酬について協議することは可能か。

 信託法54条では、委託者は原則として受託者の信託報酬には関わらないので、受益者又は受益者代理人と協議することで足りるのではないかと考えます。

信託行為に、委託者と協議して受託者の信託報酬を定めるという定めがあったとしても、結論は同じだと考えます。

サ 受託者と成年後見人は、「信託報酬は協議して定める」と信託契約を変更することは可能か。

 上記カ、コと同様の結論になると考えます。

(4)(3)で後見監督人が就任している場合、結論は変わりうるか。

 後見監督人の職務に制限はあるか。

(3)において後見監督人が就任している場合、原則として結論は変わりませんが、後見監督人の職務は個々の見解に左右されることもあり、良く言えば画一的ではなく、案件によって方針が変わることもありうるので、結論は変わりうると考えて良いと思われます。

民事信託・家族信託が設定されていたからといって、後見監督人の職務が変わるということは基本的にはありません。なお、後見監督人に信託行為の契約書などを閲覧する権利があると考えた場合、信託設定時に委託者の能力などに疑いがある場合などは信託設定について調査などを行うことが考えられます。

(5)委託者の任意後見人

 任意後見人の場合、ア~サの結論は変わるか。任意後見監督人の職務に制限はあるか。

 任意後見契約締結時の代理権目録に記載がない場合、ア~コの職務を行うことは難しいのではないかと考えます。裁判所への申立てができる事項に関しては、その要件を準用して任意後見監督人の同意を求めていくことになると考えます。

本人のためになるということをより明確に示すことが出来なければ、任意後見監督人の同意を得ることは難しいと考えます(任意後見契約に関する法律7条)。平成19年9月1日以降の任意後見契約については、上記1の(2)の通りです。

3、受益者

(1)受益者と成年後見人

(ア)委託者の場合との違いはあるか

  受益者は受益権を持っています。

(イ)受益者代理人が選任されている場合の成年後見人の権限は、制限されるか。

   原則として制限されないと考えます。管理する財産が分かれているからです。

(ウ)受益者の成年後見人は、追加信託をすることが可能か。

    成年後見人の身上監護の事務に支障がない限り、追加信託をすることが可能であり、必要とされると考えます。

(エ)(ウ)の場合、受益者代理人が就任しているときは結論が変わるか。

   受益者代理人が就任していても、結論は変わらないと考えます。管理している財産が分かれているからです。

(オ)受益者の成年後見人は、後任の受託者を指定することができるか。

    受益者の成年後見人は、後任の受託者を指定することはできないと考えます。成年後見人の事務には財産管理もありますが、信託財産は別扱いとされており、受益者の財産ではないからです。

    受益者の成年後見人は、身上監護の事務に支障が出るようであれば、利害関係人として裁判所に対して新受託者選任の申立てをすることが可能と考えます(信託法62条)。     

(カ)受益者代理人は、(オ)の行為が可能か。

    受益者代理人は、自らが代理する受益者のために、受益者の権利に関する一切の行為をする権限を持っているので、(オ)の受託者を指定することも可能と考えます。

(キ)受益者の成年後見人は受益権の譲渡が可能か。

    受益者の成年後見人が受益権の譲渡を行うことは、不可能だと考えます。受益権は成年後見人が管理する財産ではないからです。成年後見人が身上監護の事務をするために不動産の受益権を譲渡する必要があるのであれば、受託者とともに信託の変更及び受益者代理人を選任し、受益者代理人が受益権の譲渡を行うことが適切な事務だと考えます。    

(ク)受益者代理人は(キ)の行為が可能か。

  受益者代理人が受益権の譲渡を行うことは可能だと考えます(信託法139条)。

(ケ)受益者の成年後見人は、受益者代理人へ就任することが可能か。

  可能と考えます。成年後見人と受益者代理人は、扱う財産が違うからです。適切な人が見つからない場合など、受益者代理人を成年後見人候補者として申立てをせざるをえないケースもあるかもしれません。

 家庭裁判所が、適切な人を見つけることが可能であれば、第3者が成年後見人

に選任されると受益者代理人の負担も重くならずに済むと考えます。

(コ)受益者の成年後見人は、信託の情報開示請求がどこまで可能か。信託行為の受益権の内容に関して、受託者に意見を言うことが可能か。

 受益者の成年後見人は、信託に関して情報開示請求が可能でしょうか。請求することは可能であると考えます。

ただし、貸借対照表、損益計算書などの書類又は電磁的記録に限られます。通帳の写しを信託帳簿、財産状況開示資料としていない限り、開示請求することはできません(信託法38条6項)。

信託関係者、主に受託者が開示請求に応じる義務はあるのでしょうか。家庭裁判所で要求されている報告に必要な限りの義務があるのか、別扱いの財産なので義務はないのか、今のところ私には分かりません。

(サ)受託者の信託財産の処分行為に関して、受益者の成年後見人は同意権者となることが可能か。

 信託行為に、受益者の同意が必要である。受益者に成年後見人が就任している場合は、成年後見人が同意賢者となる、というような定めがない限り、受益者の成年後見人が同意権者となることは不可能だと考えます。

(シ)(サ)の場合、受益者代理人が就任しているときでも受益者の成年後見人が同意することは可能か。

 (サ)について定めがある場合でも、受益者代理人が就任しているときは、受益者の成年後見人が同意権者となることは不可能だと考えます。

(ス)受益者の成年後見人は、受託者と合意して信託の変更、信託の終了を行うことが可能か。

  (サ)の結論と同じになると考えます。

(セ)(ス)の場合、受益者代理人が就任している場合に結論は異なるか。

  (シ)の結論と同じになると考えます。

(2)(1)で後見監督人が就任している場合、結論は変わりうるか。

 後見監督人の職務に制限はあるか。

  後見監督人に就任している場合でも結論は変わらないのではないかと考えます。民事信託・家族信託が設定されているからといって後見監督人の職務に制限はないのではないかと考えます。

(3)受益者の任意後見人

(ア)受益者の任意後見人は、受益者代理人に就任することが可能か。

  可能と考えます。任意後見人は任意後見契約により、受益者代理人は信託行為により、扱う財産が異なるからです。

(イ)任意後見人の場合、(1)のア~セの結論は変わりうるか。

  任意後見人の場合、原則として任意後見契約に記載のある事項のみの代理権に限られます。よって、任意後見契約又は信託行為にその旨の記載があれば、結論においては(オ)に関して受託者の指定も可能、(キ)について受益権の譲渡が可能、(シ)については、受益者代理人と同順位で受益権の譲渡が可能になると考えます。

(ウ)任意後見監督人の職務に制限はあるか。

4、信託制度と成年後見制度

1 受託者と成年後見人の意見が対立した場合

(1)優先順位

2 受託者と任意後見人の意見が対立した場合

(1)任意後見契約に関する法律10条

(2)優先順位

3 受益者代理人と成年後見人の意見の対立

4 受益者代理人と任意後見人の意見の対立

5 信託行為に優劣を定めることが可能か。

範囲

制限

6受益者の任意後見人が、受託者を兼務することは可能か。

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参考

(権限の定めのない代理人の権限)

民法103条 権限の定めのない代理人は、次に掲げる行為のみをする権限を有する。

1 保存行為

2 代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為

(成年被後見人の意思の尊重及び身上の配慮)

民法858条   成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。

(本人の意思の尊重等)

任意後見契約に関する法律6条  任意後見人は、第二条第一号に規定する委託に係る事務(以下「任意後見人の事務」という。)を行うに当たっては、本人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。


[1] 詳細な検討は、小林徹「家族信託と成年後見制度」新井誠ほか編著『民事信託の理論と実務』2016 日本加除出版 P31~

[2] (公社)成年後見センター・リーガルサポート『任意後見実務マニュアル』2007 新日本法規 P210

[3] 道垣内弘人『信託法』P409

受益権の共有、受益者の複数

1、受益権の共有と捉えられる定め

(受益者)

第○条 

1 本信託の受益者は次の者とする。

(1)

住所

氏名 A 生年月日

2 Aが亡くなった場合、受益権はAの法定相続人が信託法第91条により取得する。

3 次の順位の者が既に亡くなっていた場合には、さらに次の順位の者が受益権を取得する。   

4 受益者に指定された者、又は受益権を取得した者が、受益権を放棄した場合にはさらに次の順位の者が受益権を取得する。

5 受益権の割合は、受益者の数に応じて均等とする。

2、受益権の共有と捉えられないようにするための条項

(受益者)

第○条 

1 本信託の受益者は次の者とする。

(1)

住所

氏名 A 生年月日

2 Aが亡くなった場合、受益権はAの法定相続人が信託法第91条により取得する。

3 次の順位の者が既に亡くなっていた場合には、さらに次の順位の者が受益権を取得する。   

4 受益者に指定された者、又は受益権を取得した者が、受益権を放棄した場合にはさらに次の順位の者が受益権を取得する。

5 受益権は、受益債権の額1円につき1個とする。

・割合で定める方法

(受益権)

第○条

―略―

受益権は、本信託設定時の受益債権の総額に対する、各受益者が有する受益権債権の割合の1%につき1個とする。

(信託の変更)

第○条 

1 本信託の変更は、受託者と受益者の合意による。

2 受益権が移転した場合、受益権の個数は、移転日における本信託の受益債権の総額に対する、各受益者が有する受益権債権の割合の1%につき1個とする。

3 前項の場合、各受益者に計算後の受益債権が指定される受益債権の分割・併合があったものとする。[1][2][3]

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2017年10月22日追加

http://201http://www.tsubasa-trust.net/2017/09/blog-post_11.html7年9月11日月曜日

受益者ごとに異なる受益債権の定め

2017/911

これは、谷口毅先生の記事です。

削除されていますが私がコメントした分が入っているような。

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2017年10月28日追加

2017年8月3日木曜日 司法書士谷口毅先生

受益者複数と受益権共有

「受益者複数」と「受益権共有」は、別の概念ですよ!という話です。

例えば、投資信託をイメージしてみてください。

みなさんが投資信託を買うと、「受益権の保有口数 5000口」などと書かれた運用報告をもらうと思います。

投資信託は、受益権が小口の口数に分かれ、多くの投資家が保有しているのですね。

これが「受益者複数」であります。

一方、5000口の受益権を保有している投資家が死亡したら、どうなるのでしょうか。

5000口の受益権の一口一口が、法定相続人全員の共有状態となりますね。

これが、「受益権共有」です。

「受益者複数」とは、複数の受益権が存在し、それぞれが別個の受益者に帰属すること。

「受益権共有」とは、1つの受益権について、複数の受益者に帰属すること。

似て非なる概念なんです。

例えば、以前の記事「受益者が複数の場合の意思決定」においては、受益者が複数の場合は、特段の定めがない限り、全員の一致で意思決定をするものだと書きました。

しかし、受益権共有の場合は、民法249条以下の、共有に関する規定が適用されるのですね。すると、保存行為であれば、各共有者が単独ででき、管理行為であれば持分の過半数で決定し、変更であれば、全員の同意で行うことができると考えられます。

そして、例えば、1個の信託に対して3個の異なる受益権があって、1つ目については受益者A、2つ目については受益者B、3つ目については受益者CDEが共有、となっているとします。

この場合、信託全体の意思決定の方法としては、「A」「B」「CDE」の3人の受益者なのだ、と考えます。

つまり、CDEが共有している受益権については、受益権共有なので、民法の規定に従って意思決定を行う。

その上で、CDEの決定を1人分の意思決定と考え、受益者Aも1人分、受益者Bも1人分、として、合計3人の意思決定で物事を決めることになります。

最後の決定については、「複数受益者」として考えるのですね。

理論的にはこうであっても、実際の適用場面を考えると、難しいですね…

この点の議論が、実務家の間ではほとんどなされていないと思いますし…

気づいている人が少数派なのかな?

具体的に受託者を解任したい場面や信託の終了の決定をしたい場面、受託者に金銭の給付を請求したい場面などで、どのように意思決定を行うのか、まだ、私の中では十分に考えがまとまっていません。

また、受益者複数と受益権共有を明確に区別するような契約書の作成が求められると考えられますが、これも、私の中では十分に考えがまとまっていません。

読んでる皆さん、誰か考えてくださ~い!

ってか、実務家のみなさん、誰かこの論点で議論してください…

ってことで、今日はこの辺で。

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「実務家のみなさん」というか、「自分の友達の実務家の皆さん」とか何とか書くか、

安易に使わないで欲しいと思います。

実務家を全員知っているわけでもないだろうし。


[1] 道垣内弘人『信託法』2017 有斐閣 P323、P351、P393

[2] 新井誠監修「コンメンタール信託法」2008 ぎょうせい P332

[3] 村松秀樹ほか「概説 新信託法」2008 金融財政事情研究会 P245

家族信託の融資

 家族信託の融資について、受託者(債務者)が亡くなって新受託者が就任した場合、受益者にも債務履行を請求できるのか。

(1)信託行為後の融資

(2)受託者は信託財産のためにする意思で融資を受けた

(3)融資は受託者の権限内の行為

(4)融資された金銭は信託財産責任負担債務となる

(5)信託口口座へ入金がされている

(6)限定責任信託ではなく、責任財産限定特約もされていない

(7)受益者は連帯債務者、連帯保証人、担保設定者ではない

(1)から(6)の事実を前提とします。

1、受託者(債務者)が死亡した場合、後任の受託者が就任を承諾すると、債務はその時点で自動的に後継受託者には移らないと考えることができます。後継受託者は、自らが債務者となって債務を負ったわけではないからです。

2、債務は死亡した受託者の相続人に及びます(信託法76条、民法896条)。

3、債権者は、死亡した受託者の相続人に対して債務の履行を請求することができます。

4、また相続人が債権者に対して債務の履行を行った場合、新受託者や信託財産法人管理人に償還を請求することができます(信託法75条6項)。

・ただし、受益債権など、信託財産に属する財産のみを持って履行する責任を負う債務については、前受託者は履行責任を負いません。

5、新受託者は、信託財産の帰属主体となり、責任財産を信託財産に限定しながらも、重畳的な債務引受をして、債務者となったことになると考えることができます(信託法75条8項)[1]


[1] 道垣内弘人『信託法』P287~

信託設定時の信託財産

1、信託設定時の信託財産

要件(1)、(2)をいずれも満たすこと[1]

(1)金銭に見積もりうる

(2)他の人に移転することができる

満たす例:お金、不動産、債権など[2][3]

満たさない例:生命、譲渡制限や禁止条項のついた債権など

というのが、通説ですが、(1)は、誰にとって金銭的な価値があればいいのでしょうか。課税されるかはともかく、課税対象となるかという観点で、国税庁でしょうか。

信託財産は、

①委託者の財産から分離可能

②受託者による管理ができる

③承継できる価値がある、

の3つがあれば良いという見解があります[4]。例として価値のない紙幣や大事な系譜の一部を挙げられていますが、委任契約や遺言、法人制度の利用で可能と考えられます。受益者連続型の信託利用を想定しているとしても、受益者は受益権を放棄することができるので、遺言の付言事項や委任契約の付随条項で定めることもできます。

条件付きの贈与契約でも目的は達成できる可能性があります。信託財産になるかといわれたら、信託財産にもなる、信託財産にすることもできる、という答えになります。

また、受益者のためになるのか、受託者の財産と別扱いで管理する意味はあるのかを考えると、妥当とはいえないと考えることができます。

なぜ財産を信託財産にしなければならないのかを考えると、信託財産の要件としては

①目的達成のために、委託者の財産から分けることが必要であり(委託者の破産や死亡など)、

②管理処分行為を託された者については、利益を受ける者のために適切な義務を規定することができる財産であることが必要(お金、不動産など)、

との結論を出すことになると考えます。誰にとっては、受益者にとって、となり付随して信託目的のために、と付け加えることが妥当ではないかと考えます。

2、債務

(1)債務は信託財産となりうるか

(信託事務の処理の状況についての報告義務)

第36条  委託者又は受益者は、受託者に対し、信託事務の処理の状況並びに信託財産に属する財産及び信託財産責任負担債務の状況について報告を求めることができる。

として、信託財産に属する財産と信託財産責任負担債務を分けていることから[5]、債務は信託財産とはなりえない。

受託者が債務引受をして、その債務を信託財産責任負担債務とした場合は、受託者は信託財産としてではなく、信託の目的に沿って管理・処分していくことになる。

(2)信託財産責任負担債務

(3)信託財産責任限定特約

3、占有の承継

(信託財産に属する財産の占有の瑕疵の承継)

第○条  受託者は、信託財産に属する財産の占有について、委託者の占有の瑕疵を承継する。

不動産が信託された場合、自己信託を除いて、受託者は不動産の占有についての瑕疵を委託者から承継します。占有について瑕疵のある不動産を信託しても当事者以外に、これは信託財産です、と対抗することができません。なお、信託法15条は、信託設定時の信託財産に関する規定です。

4 信託財産に関するリスク

(1)信託することができる財産か

(2)金銭に関して、信託財産の独立性が担保される措置が可能か

(3)信託する財産が複数の種類である場合、種類別に管理・処分方法が定められているか。

(4)

【条項例】

(信託財産)

第○条 

1 契約をした日の信託財産は、次の第1号から第3号までとする。契約後に、第4号から第5号によって発生した財産もその種類に応じた信託財産とする。

(1) 別紙1記載の株式(今後、「信託株式」という。)

(2) 別紙2記載の不動産の所有権(今後、「信託不動産」という。)

(3) 金銭○○万円(今後、「信託金銭」という。)

(4) 受益者から追加信託を受けた株式、不動産及び金銭

(5) その他の信託財産より生じる全ての利益

2 委託者は、本信託について特別受益の持ち戻しを免除する。

(信託財産)

第○条 本信託設定日における信託財産は、次の第1号から第2号までとする。設定後に第3号から第5号によって発生した財産も信託財産とする。

(1) 別紙1記載の不動産の所有権(今後、「信託不動産」という。)

(2) 金銭○○万円(今後、「信託金銭」という。)

(3) 信託不動産を売却した場合の代金や、信託財産の運用により得られた金銭

(4) 受益者から追加信託を受けた財産

(5) その他の信託財産より生じる全ての利益

(信託財産)

 第○条

 1 本信託設定日の信託財産は、次の第1号から第2号までとする。設定後に第3号から第4号によって発生した財産も信託財産とする。

 (1)別紙1記載の甲が経営する屋号「○○屋」の事業遂行のために所有又は保有する有形資産及び無形資産(以下、「信託事業」という。)

 (2) 金銭○○万円(今後、「信託金銭」という。)

 (3) 受益者から追加信託を受けた財産

 (4) その他の信託財産より生じる全ての利益

(信託財産)

第○条 本信託設定日における信託財産は、次の第1号から第2号までとする。設定後に第3号から第4号によって生じた財産も信託財産とする。

(1) 別紙1記載の生命保険契約の保険契約者の地位

(2) 金銭○○万円(今後、「信託金銭」という。)

(3) 受益者から追加信託を受けた財産

(4) その他の信託財産より生じる全ての利益

(信託財産―預金)

第○条 

1 委託者は、信託契約締結、信託財産目録記載4の預金を払い戻し、受託者に引き渡す。

2 受託者は、前項の払戻金を信託財産に属する専用口座を開設する方法により受託者自身の財産と分別して管理する。

(信託財産―不動産)

第○条 

1 信託財産目録1,2及び3記載の信託不動産の所有権は、本信託開始日に、受託者に移転する。

2 委託者及び受託者は、本契約後、前項の不動産について所有権移転の登記申請を行う。

3 受託者は、前項の登記申請と同時に、信託の登記の申請を行う。

4 前2項の登記費用は、受託者が信託財産から支出する。

(農地)

第○条 信託不動産のうち、農地法の適用を受ける土地については、次のいずれかのときに、本信託の効力を生じる。

(1)農地法に基づく許可を受け、許可通知書を受け取ったとき

(2)農地法に基づく届け出を行い、受理通知書を受け取ったとき

(3)農地法の適用対象から外れた場合


[1]四宮和夫『信託法〔新版〕』1989有斐閣P133

[2] 情報についてトラスト未来フォーラム76 三枝健治「情報の信託「財産」性についての一考察」

[3] 人格権について米村慈人「人格権の譲渡性と信託」水野紀子ほか『信託の理論と現代的展開』

[4] 遠藤英嗣『新しい家族信託』日本加除出版P102

[5] 道垣内弘人『信託法』2017有斐閣P33

信託の設定

1、信託の設定

信託の設定について考えることは、信託の効力発生要件について考えることに繋がります。

信託の効力発生要件について考えることは、信託の効力が発生しないのは、どのような場合であるかを考えることに繋がります。

信託法2条1項から読み取ることができるのは、

1、財産が存在し、それが受託者に帰属すること。

2、達成すべき一定の目的が定められていること。

3、受託者は目的を達成するために、目的に従って財産の管理、処分その他の必要な行為を行う義務があること。

ある行為があり、それが「信託」と決定されるためには、上の3つが基本的には求められると考えることができます[1]

反対に考えてみると、

(1)財産と性質決定できないもの(例:消極財産である債務)、受託者に帰属することができない財産(例:生命[2]

(2)目的とよぶことが難しいもの、目的がすでに達成されているもの、目的の達成が不可能に近いもの(例:信託財産を1年間で100倍にする)

(3)受託者に財産の管理、処分などを行う能力がない場合(例:重度の認知症)

などは、信託と決定されず、決定されない以上、信託が始まらないので機能することはないことになります。

2、信託行為

信託を設定するため、信託法に定められた方法に従って行う行為を信託行為といいます(信託法2条2項、3条)。

形式的な3つの分類[3]

(1)信託契約

 委託者となる者Aが、受託者となる者Bとの間で、AからBにある財産を処分する旨、および、Bが一定の目的に従い、財産の管理や処分など、その目的達成に必要な行為をする義務を負う旨を定める契約を締結するという方法

(2)遺言

Bに対しある財産を処分する旨、およびBが一定の目的に従い、財産の管理や処分など、その目的達成に必要な行為をする義務を負うことを内容とする遺言をAがするという方法です。遺言信託と呼ばれることがあります[4]。今後、遺言による信託行為を遺言信託と記載します。

(3)信託宣言

 Aが、自己の有する一定の財産について、自らを受託者B(=A)とし、一定の目的に従い、財産の管理や処分など、その目的達成に必要な行為を自ら行うことの意思表示をするという方法です。自己信託と呼ばれることがあります[5]。今後、信託宣言のことを自己信託と記載します。

意思表示は、

①公正証書(パソコンで入力した文書データに電子署名を行い、公証人役場に送信して電子認証を受けることにより作成する公正証書を含む。)の作成

②公証人の宣誓認証を受けた宣誓供述書の作成

③確定日付のある、必要な要件を記載した証書(パソコンで入力した文書データに電子署名を行い、公証人役場に送信して日付情報の付与(確定日付)を受けることにより作成する証書を含む。)を作成し、受益者となるべき者に対する通知を行う

のいずれかの方法で行います。なお、③の方法によるときは、受益者となるべき者に通知が到達したときに効力が発生します。

3、信託の設定者に関するリスク

(1)委託者となる者の判断能力リスク[6]

最低限、委託者となる者が3つを認識していることが必要です[7]

①信託する財産がどれか、特定されている。

②信託すると、信託した財産の所有者ではなくなるが、所有者とほぼ同じ権利持ち、その権利が侵されたときの救済を求めることが出来る。

③信託すると、信託した財産は受託者に帰属し、受託者自身の財産とは別扱いで管理する。

対応方法

①面談による確認(主に上記の3つの質問と信託の必要性)と記録の保管

②書類の確認(本人確認書類、信託設定証書の各条項、特に信託目的、信託財産、受託者の信託事務、信託の変更、終了条項)

③法定の成年後見人が就任した場合、法定代理人として信託の変更、終了の権限を持つことになるので、任意後見制度の利用の有無の確認。

(2)受託者となる者の判断能力リスク

最低限、受託者となる者には次の理解が必要です。

①受託者として信託財産を管理、または処分することになること

②受託者として信託の目的に従って、受益者のために信託事務を行う義務があること。

③信託財産と受託者個人の財産は、別に管理しなければならないこと。

④債務について、原則として信託財産が足りない場合は、自身の財産から返済する義務を負うこと。

⑤信託財産で他人が損害を受けた場合は、所有者として責任を負うことがあること(民法717条ただし書)。

対応方法

①面談による確認(主に上記の5つの質問と信託の必要性)と記録の保管

②書類の確認(本人確認書類)

(3)受託者が法人の場合のリスク[8][9]

①一般社団法人の場合は監督官庁がない。

②法人内部も親族であることが多く、適切に統治されるか分からない。外部役員として専門家を入れた場合、法人運営費用が大きくなる。

対応

①法人の履歴事項証明書、定款の確認(目的、理事会、監事設置の有無、理事、社員の数)。

②主に5つの理解ができている親族が1人いるのであれば、親族、専門家を含めた第3者への委託で対応できないかの確認。

(4)信託行為の要式不備リスク

対応

①自己信託は要式行為であるため、信託法4条3項、信託法3条の要件を満たしているかの確認。

4、条項例

(前文)

委託者【氏名】と受託者【氏名】とは,次のとおり,信託契約を締結する。

(信託の設定)

第○条 委託者および受託者は、信託契約(以下、「本信託契約」といい、「本信託契約」によって設定される信託を「本信託」という。)を締結する。

第○条 委託者は、信託の目的に基づき、第○条記載の財産を受託者に信託し、受託者はこれを引き受ける(以下、「本信託契約」といい、「本信託契約」によって設定される信託を「本信託」という。)。

前文

委託者○○(以下「甲」という。)及び受託者●●(以下「乙」という。)は、次のとおり、信託契約を締結する(以下「本信託契約」といい、本信託契約によって設定される信託を「本信託」という。)。


[1] 道垣内弘人『信託法』2017有斐閣P3

[2] 人格権の信託設定可能性について検討したものとして、米村慈人「人格権の譲渡性と信託」水野紀子『信託の理論と現代的展開』2014商事法務

[3] 前掲道垣内弘人P29

[4] 平川忠雄ほか『民事信託実務ハンドブック』2016日本法令P136など。

[5] 信託法附則2項見出し、信託業法50の2条など。

[6] 信託設定時、設定後の委託者等の判断能力について整理したものとして、冨田雄介「家族信託と委託者等の判断能力」『信託フォーラムvol.6』日本加除出版P106~

[7] 他に条項ごとに委託者の意思確認を求める方法として、前掲平川ほかP48

[8] 新井誠、大垣尚司『民事信託の理論と実務』2016 日本加徐出版P157~大貫正男「一般社団法人を受託者としたモデルの構築」法人後見人の選定基準などと比較して一般社団法人が受託者となる基準を示している。

[9] 『信託フォーラムvol.1』2015日本加除出版P61~伊藤大祐「弁護士における民事信託の取組みと展望」

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