民事信託における監督機関の設置の意義

月報司法書士[1]の一般社団法人民事信託推進センター・代表理事押井崇司法書士・民事信託士「民事信託における監督機関の設置の意義」からです。

日本司法書士会連合会 月報司法書士

https://www.shiho-shoshi.or.jp/gallery/monthly_report/

一般社団法人民事信託推進センター

https://www.civiltrust.com/

「あなたの判断能力が低下した場合に備えて民事信託を活用し、今から信頼できる家族に託しておきませんか。」「そうしておかないと、硬直的な後見制度に依拠しなければなりませんよ。」おおよそこのような謳い文句で集客をはかる司法書士等のホームページが散見される。

 前段に異論はない。まさに民事信託を活用する積極的な理由である。問題は後段である。あたかも民事信託を活用しなければ取り返しがつかなくなるといった誤った認識を喧伝し、民事信託へミスリードする。この種の喧伝を行う司法書士等は、後見業務に携わっていない者が多いのではないか。後見業務の実務に精通し、誠実に業務に従事している者は、このような認識を持ちえないからである。

「あなたの判断能力が低下した場合に備えて民事信託を活用し、今から信頼できる家族に託しておきませんか。」「そうしておかないと、硬直的な後見制度に依拠しなければなりませんよ。」のような謳い文句で集客を図る司法書士のホームページがどこにあるのか分かりませんでした。

 問題は後段である。あたかも民事信託を活用しなければ取り返しがつかなくなるといった誤った認識を喧伝し、民事信託へミスリードする、については、書き方や捉え方の問題だと感じました。選択肢として、(任意)後見制度を民事信託と同列に載せるか、民事信託を上位に置くかの提案になるので、司法書士法3条上も意見が分かれる、というところが個人的には問題になるのかなと感じました。著者が問題だとしているあたかも民事信託を活用しなければ取り返しがつかなくなるといった誤った認識を喧伝し、民事信託へミスリードする、という事に関しては司法書士法2条(業務精通義務)に入ると考えられますが、私の認識とは違うと感じました。

 この種の喧伝を行う司法書士等は、後見業務に携わっていない者が多いのではないか。後見業務の実務に精通し、誠実に業務に従事している者は、このような認識を持ちえないからである、については、私は後見業務を専門で行っていた時期もありますが、どのような根拠で「このような認識を持ちえない」、と書かれているのか分かりませんでした。

「委託者が、信託契約などに基づき、受託者に対し、信託財産を移転し、受託者は、委託者が設定した信託目的に従って、受益者のために、信託財産の管理及び処分などを行う制度」

 信託財産、は財産に訂正(信託法2条1項)。委託者が設定した、は委託者及び受託者が設定した、に訂正(信託法2条、記事では信託契約が主とされているため。)。管理及び処分、は管理又は処分に訂正(信託法2条1項。実務では管理のみという民事信託は少ないので、及びを利用している可能性があります。)

「信託口口座」とは、受託者で名寄せされるが受託者固有の財産とはならない口座のことで、倒産隔離機能を有する口座である。

受託者で名寄せされる、という箇所が、よく分かりませんでした。

参考

令和3年9月17日東京地方裁判所判決平成31年(ワ)第11035号損害賠償請求事件

当該金融機関において、内部システム上、当該受託者の個人名義の預貯金口座(固有財産に属する預貯金口座)に係るCIF(Customer Information File。顧客情報ファイル)コードとは別異のCIFコードが備えられる、内部手続上、当該預金口座とは異なる取扱いがされる旨の規定が設けられるなど、当該預金口座から分離独立した取扱いがされる預金口座、の要件を満たす口座。

信託口口座を開設する予定の金融機関から契約書案のゴーサインが得られ次第、公正証書作成のために契約書案を公証役場に提示する。

 色々な方法があるのだなと感じました。私は契約書案を、公証人役場(公証センター)と金融機関に提示するのは、同時です。公正証書作成の日付を決めておいて(予定が変われば変更します。)、金融機関に提示することで返答が欲しい日もお願いすることが出来ます。公証人役場(公証センター)、金融機関、その他の機関全て同時進行になります。この場合は、1つの機関から指摘があって契約書案が変更になる場合は、他の全ての機関に連絡することが重要となります。

ただし、そのためには信託の知識だけではなく、遺言、後見、基礎的な税務に関する知識や経験が必要である。

 経験、に関しては経験者に訊くことで解決出来るのではないかと思います。経験を必要条件としてしまうと、民事信託支援業務を行う司法書士は、極端にいうといない、という事になります。また経験者の立場から書いているとすれば、今後、民事信託支援業務を行う司法書士は出てこない、という意味なのか、いずれにしても無理があると感じます。

そこで、私(司法書士)が信託監督人に就任します、と提案しても快諾されるケースは稀である。先に申し上げたように、民事信託を組成する目的の一つが「後見制度の回避」だからである。

 記事中の、「そうしておかないと、硬直的な後見制度に依拠しなければなりませんよ。」おおよそこのような謳い文句で集客をはかる司法書士等のホームページが散見される。前段に異論はない。まさに民事信託を活用する積極的な理由である。問題は後段である。あたかも民事信託を活用しなければ取り返しがつかなくなるといった誤った認識を喧伝し、民事信託へミスリードする。、との整合性が分かりませんでした。また、記事後半では民事信託に関して信託監督人や受益者代理人の設置を検討する必要があるだろう、と記載がありますが、具体的にどのような方法で設置するのか、分かりませんでした。

令和4年4月1日、一般社団法人民事信託士協会と一般社団法人民事信託推進センターが合併し、新たに一般社団法人民事信託推進センターが誕生した。民事信託支援業務の専門家である「民事信託士」の育成に引き続き注力しつつ、民事信託に関する研鑽を深め、健全な民事信託の発展に寄与する所存である。

民事信託推進センターで民事信託士の育成に注力するため、ということでしょうか。

1. 議題 宮城直会員除名の件 35/45 35人承認可決

https://miyagi-office.info/?s=%E9%99%A4%E5%90%8D


[1] 2022年6月、604号、日本司法書士会連合会P34~

加工デジタル・ガバメント推進標準ガイドライン 解説書(第3編第5章 要件定義)&要件定義ナイト

2022年(令和4年)4月20日

デジタル庁

https://cio.go.jp/guides

〔標準ガイドライン群ID〕 1009   〔キーワード〕 RFI、ヒアリング、要件定義書、機能要件、非機能要件   〔概要〕 標準ガイドラインの下位文書として、標準ガイドラインの記載の趣旨、目的等を理解しやすくするため、逐条的な解説等を記載した参考文書。

改定履歴

改定年月日改定箇所改定内容
2022年4月20日第5章1. 第5章2.・標準ガイドラインからの引用箇所について、標準ガイドラインの改定に合わせて修正
第5章2.・府省CIO補佐官の記載を削除し、関連箇所を修正 ・「齟齬」を「そご」に修正 ・府省共通システムの記載を削除 ・府省重点プロジェクトの記載を削除し、関連箇所を修正 ・デジタル・ガバメント実行計画の廃止に伴い、関連箇所を修正 ・文字情報基盤整備事業に関するWebサイトの所管団体及びURLを修正 ・中央省庁における情報システム運用継続計画ガイドライン~策定手引書を最新版の名称に変更 ・政府機関等の情報セキュリティ対策のための統一基準群を政府機関等のサイバーセキュリティ対策のための統一基準群に変更し、関連箇所を修正
2021年3月30日第5章2.・体裁を修正
第5章2.・データ利活用促進を含めたデータ要件を「データに関する事項」として集約して追加、及びデータマネジメント強化関連の修正・追加
2020年11月27日第5章3.・ODBに関する記載を削除
2020年3月31日第5章2.・機能要件、非機能要件及び情報システムの実現案についてPJMO全体で決定することの重要性について追加
第5章2.・要件定義書の記載における機能要件の定義で踏まえるべき内容を追加
第5章2.・機能要件定義対象要件と定義内容について一部追加
2019年2月27日・初版決定

目次

第5章 要件定義. 1

1. 要件定義の準備. 3

1) RFIの実施. 4

2) 事業者へのヒアリング等の実施. 7

3) 必要な資料の作成. 8

2. 要件定義. 9

1) 要件定義書の記載内容. 11

2) 要件定義書の調整・作成. 23

3. プロジェクト計画書の段階的な改定. 25

第5章 要件定義

PJMOは、「第4章 サービス・業務企画」で策定した業務要件を踏まえ、これを実現するための情報システムに求める要件(以下「情報システム要件」という。)として、情報システムの機能を定めた要件(以下「機能要件」という。)及び情報システムが備えるべき機能要件以外の情報システム要件(以下「非機能要件」という。)を明らかにするため、調達に先立ち、次のとおり、要件定義を行うものとする。

要件定義は、プロジェクトの目標を達成する上で、極めて重要な工程であり、要件定義が不十分なときには、計画の遅延又は情報システムの機能・性能が要求水準に満たないものとなる事態等が発生する可能性が高まるため、適切に実施する必要がある(1)

利用者の価値を最大化するサービス・業務企画を具現化し、政策目的及びプロジェクトの目標を達成するためには、情報システムに求める要件を漏れなく具体化し、意図を正しく事業者に伝えることにより情報システムの設計・開発、運用を滞りなく進められるよう準備する必要がある。

このため、要件定義では、サービス・業務企画内容を踏まえて、費用対効果等を勘案しながら、情報システムが備えるべき機能・性能等を明らかにするものとする。

また、要件定義のアウトプットである要件定義書は、後続の工程においてPJMOと事業者が業務や情報システムの目指すべき姿を共有するだけではなく、契約上の合意文書となる重要なものである。誤りや曖昧な定義が行われると、後続の工程に重大な影響を与えることから、適切な手順で確実に検討を進める必要がある。

要件定義は、情報システムの整備対象となるサービス・業務企画内容の規模と難易度から、PJMOが実施する場合と、事業者に外部委託する場合が想定され、その進め方が異なる。本解説書では、ガイドラインで示される事項について網羅的に解説するため、PJMOが要件定義を行う場合を主として解説するとともに、事業者に外部委託する場合の注意事項等を、場合分けとして記載する。

(1)「要件定義が不十分なときには、計画の遅延又は情報システムの機能・性能が要求水準に満たないものとなる事態等が発生する可能性が高まるため、適切に実施する必要がある」

「計画の遅延又は情報システムの機能・性能が要求水準に満たないものとなる事態等」とは、PJMOが行った要件定義が不十分で、内容に抜け漏れ・曖昧さが存在することにより発生する事態を指す。その例を次に示す。

1. 要件定義の準備

PJMOは、要件定義に先立ち、次のとおり行うものとする。

情報システムの要件定義は、世の中の技術動向やサービスの動向、各種事例、要件を実現する方式に関する情報等を踏まえて実施する必要がある。必要な情報を入手しないまま要件定義を行ったときには、費用対効果に優れた手法の採用漏れや、優れた先進事例を取り込むことができない等のリスクが発生することとなる。

したがって、要件定義に先立ち、これらの情報を収集する必要があるが、多岐にわたる情報をPJMOの知識や経験のみで網羅的かつ詳細に把握することは困難である。

このため、PJMOは、RFI及び事業者へのヒアリング等により、要件定義の前提となる情報を広く収集し、要件定義で十分な検討が行えるように準備する。

1) RFIの実施

PJMOは、要件定義の検討に際し、専門的な知見を広く取得するため、必要に応じてRFIを実施し(1)次の[1]から[4]までに掲げる事項を記載した説明書を作成するものとする(2)

  • (3)
  • (4)
  • (5)
  • (6)

なお、このうち[3]については、要件定義案の実現性、実現方法、それらの要件を実現するために必要な経費の見込み、要件定義案への修正事項(開発方式(クラウドサービスの活用、ソフトウェア製品の活用、スクラッチ開発等)、開発手法(ウォータフォール型開発、アジャイル開発等))等、事業者に具体的に求める内容について記載するものとする。

なお、原則としてクラウドサービスの利用を前提とした実現方式の情報も取得すること。

要件定義に必要となる専門的な知見は、その内容に応じて偏りなく幅広く収集する必要がある。

このため、PJMOは、市場調査や資料提供の要請を行うときには、その内容に応じて公平性を確保し、RFI等を通じて情報の収集を行う。

なお、RFIは、プロジェクトの規模を考慮して、準備着手の時期を判断する。

(1)「専門的な知見を広く取得するため、必要に応じてRFIを実施し」

「専門的な知見」とは、PJMOが要件定義を行うに当り、PJMOのみでは補完できない情報である。その例を次に示す。

「RFIを実施し」とは、PJMOがサービス・業務企画の実現可能性や整備する情報システムに係る有用な情報を得るために、RFIに係る説明書を作成し、RFIの実施について通知を行い、情報を収集することである。

RFIの実施を通知するに当たり、広く不特定多数からの情報を求めるときには、府省Webサイト上で公開する等の手法があるが、必要な情報を確実に得るためには、事業者団体への通知やプレス発表等によって積極的にアナウンスすることも効果的である。

なお、RFIにおける事業者の回答内容が期待した水準に満たない場合や、回答内容の確認のために追加の情報提供を求める必要が生じた場合等には、PJMOは、事業者に対して個別ヒアリング等を行い、不明点や情報が不足する点等を解消・補強する必要があることに留意する。

なお、機密性の高い情報を、事業者に対し提供する必要がある場合は、PJMOはあらかじめ守秘義務の誓約書を事業者に求め、当該誓約書の提出があった事業者にのみ機密性の高い情報を提供する。

(2)「次の[1]から[4]までに掲げる事項を記載した説明書を作成する」

「説明書を作成する」とは、PJMOが、事業者から必要な情報を適切に収集するために、RFIに先立ち、プロジェクト内容を正確に伝達するための説明書を作成することを指す。PJMOは、事業者に政策目的、プロジェクトの目的・目標及びサービス・業務企画内容等を正確に伝えられるよう、十分な準備を行う必要がある。

(3)「[1] 調達の概要」

「調達の概要」とは、PJMOが調達計画を明らかにするために、当該プロジェクトの調達計画の全体像と本調達が対象とする範囲を提示することである。

(4)「[2] その時点における検討内容、要件定義案の概要等」

「検討内容、要件定義案の概要等」とは、PJMOがRFIを実施する時点で、前提として既に定まっている事項や、検討の過程で整理した案の概要等を指す。要件定義の開始前時点では、プロジェクトの計画及び進行によっては、確定していない内容が存在する可能性もあるが、要件として求める方向性等があれば、それを記載することが望ましい。

(5)「[3] 資料提供を求める内容等」

「資料提供を求める内容等」とは、RFIにて提供を要請する情報の内容、その内容に含むべき事項等を整理し明確に定義したものである。プロジェクトで提供するサービス・業務を実現する具体的な方式、適合可能な技術、調達単位のあり方等に関する情報、実現に向けての大まかなスケジュール等の意見を求め、プロジェクトの実現可能性を高めることが重要である。

また、要件定義を有効に進めるために、未検討や未確定の事項についても、幅広く事例や動向等に関する資料の提供を求めることが有効である。

なお、パッケージ製品やクラウドサービスの適用を前提とするときは、ベンダに対して提供可能な範囲の業務要件定義資料を提供し、ベンダによる適合性調査(Fit&Gap)を依頼するだけでなく、パッケージ製品等のデモに職員が参加して機能の確認を行う、ベンダへのヒアリングを実施する、パッケージ製品やクラウドサービスの最新情報(非機能要件や標準・オプションの価格等も含む)を入手する等、実際に適合することを職員がチェックすることが重要である。

(6)「[4] 提出期限、提出場所、提出方法、提出資料における知的財産の取扱い等」

「提出期限、提出場所、提出方法、提出資料における知的財産の取扱い等」とは、提出に係る取り決めを定めた内容であり、その例を次に示す。

得られた情報に知的財産の制約がある場合、要件定義書等にそのまま用いることができないときがあるため、事業者に対して、公開済みで活用できる情報と、機密等を伴う情報とを区別できるような情報の明記を求める等の工夫も有用である。

2) 事業者へのヒアリング等の実施

PJMOは、有用な情報を得られるよう、公平性・競争性を確保した上で、事業者に対し説明会・個別ヒアリング等を逐次行い(1)、取得した情報を精査し、活用するものとする。

RFIにより、必要な情報を広く収集することができるが、PJMOの意図が伝わらない場合、必要な情報が得られない、情報の粒度が異なる、誤った情報が提供されるといった事態が発生するおそれがある。

そのため、PJMOが、事業者に対して、情報システムに求める要件を直接説明し、実現可能性等について意見交換をする機会として説明会やヒアリング等を実施することは、要件定義の内容をより精緻化し、設計開発工程以降での手戻りを防ぐ上で有効である。

なお、説明会・個別ヒアリング等では、公平性と無差別性を確保するため、RFIと同様の方法で、実施について通知を行い、得られた情報については、議事録に記載する等の方法により、RFIの事業者回答と同様に取り扱うことが望ましい。

(1)「事業者に対し説明会・個別ヒアリング等を逐次行い」
「説明会・個別ヒアリング等」とは、PJMOが、事業者に対して、情報システムに求める要件を直接説明し、実現可能性等について意見交換をする機会を指す。これらは要件定義を開始する前のみならず、要件定義の実施中に情報が必要となった場合においても、適宜活用することが可能である。

なお、ヒアリングには、既存業務システムの仕組みを理解し、業務要件を正しく伝えられる職員の参加が望ましい。

なお、機密性の高い情報を、事業者に対し提供する必要がある場合は、PJMOはあらかじめ守秘義務の誓約書を事業者に求め、当該誓約書の提出があった事業者にのみ機密性が高い情報を提供する。

3) 必要な資料の作成

PJMOは、「第4章5.業務要件の定義」において作成した資料のほか、要件定義に際し、必要な資料を作成するものとする。なお、既存資料を活用する場合には、現状の検討状況が適切に反映されていることを確認し、変更がある場合には更新するものとする(1)

RFI又は事業者に対する個別ヒアリング等で得られた情報は、要件定義や後の工程で適切に活用する必要がある。

このため、PJMOは、サービス・業務企画で収集した情報、業務要件定義の内容とともに、RFI又は事業者に対する個別ヒアリング等の実施結果、及び、その結果を分析した内容について整理した資料を作成する。

(1)「既存資料を活用する場合には、現状の検討状況が適切に反映されていることを確認し、変更がある場合には更新するものとする」

「既存資料を活用する」とは、既存の業務及び情報システムの資料を活用することである。「第4章2.現状の把握と分析」にて収集した資料が活用可能であれば、それらを用いてもよいが、これら既存システムに係る各種ドキュメントが最新の状態になっているかを確認することが重要である。また、この確認作業を通じて、職員の既存システムに関する知識の向上も期待できる。

なお、業務や情報システムの内容は運用期間中に変更や追加が行われることが多いため、要件定義に当たって正確な情報を収集するには、現行情報システム運用事業者や現行情報システム保守事業者より、最新化された資料を入手する。

RFIの実施結果については、情報の網羅性や粒度について確認を行うとともに、複数の情報間での整合性についても評価を行う。プロジェクトの実行可能性の考え方に影響を与える情報が得られた場合は、所要の見直しを行う。

2. 要件定義

PJMOは、次のとおり、業務要件、機能要件、非機能要件及び情報システムの実現案を具体的に定義し、これらを記載した要件定義書を作成するものとする。なお、作成に当たっては、「第4章 サービス・業務企画」において収集・作成した情報を基に定義することとし、要求する情報システムの特徴を踏まえ、記載内容の軽重を検討するものとする。また、定義した具体的な内容について、その必要性、網羅性、具体性、定量性、整合性、中立性及び役割分担の明確性の観点、さらに情報セキュリティ等の観点から、その実現可能性があることを確認するものとする。

なお、機能要件、非機能要件及び情報システムの実現案についても、情報システム部門のみで決定するものではなく、制度所管部門、業務実施部門を含めたPJMO全体で決定することが不可欠であることに留意すること。

また、検討に当たっては、PMO等の支援や助言を受けることが望ましい(1)

要件定義で定める業務要件、機能要件、非機能要件は、多くの関係者と共有し、内容を合意する必要があり、後工程の作業を実施する際の元情報としても活用される。

このため、PJMOは、これら要件を、網羅的かつ詳細に検討した上で、関係者が共有可能な文書として整備する必要がある。さらに、様々な要件を統合し、情報システム全体構成の実現案を作成することで、要件の抜け漏れを無くし、実現性の高い情報システムの全体像を明らかにする必要がある。

要件定義を事業者へ外部委託する場合

要件定義を事業者に委託するかどうかにかかわらず、PJMOは要件定義内容の決定について責任を持つ必要がある。ただし、その決定に至るまでの進め方については、次の点に留意する。

  • サービス・業務企画」で決定した内容を基に業務に必要な要件を検討し、内容を確定するものである。その際、事業者が作成する各項目の定義内容について、PJMOは全ての内容に目を通し、理解する必要がある。

なお、全ての要件について、サービス・業務企画を実現する上での重要性を事業者が判断することは困難であるため、PJMOと業務実施部門が中心となって要件の重要度を決めるとともに、要件を実現する際の難易度について事業者に情報を求め、重要度と難易度を基に、要件の優先度を調整する必要がある。

(1)「検討に当たっては、PMO等の支援や助言を受けることが望ましい」

「PMO等」とは、PMO以外に、政府デジタル人材、高度デジタル人材、外部組織の有識者や専門的な知見を持つ職員を含むことを指す。

1) 要件定義書の記載内容

要件定義書には、業務要件、機能要件、非機能要件及び情報システムの実現案を明らかにするため、原則として、次のアからエまでに掲げる事項について記載するものとする。なお、定義の時点において、未確定な要件については、それがプロジェクトを進める上でのリスク要因となり得ることに厳に留意し、その旨を要件定義書において明らかにするものとする(1)

ア 業務要件の定義

業務要件は、情報システムを活用した業務の内容を定義する。なお、当該要件は、「第4章5.業務要件の定義」により検討した内容を基に、他の要件等との整合性を確認し、更新するものとする(2)

イ 機能要件の定義

機能要件は、「デジタル社会の実現に向けた重点計画」に掲げる「デジタル3原則(①デジタルファースト:個々の手続・サービスが一貫してデジタルで完結する、②ワンスオンリー:一度提出した情報は、二度提出することを不要とする、③コネクテッド・ワンストップ:民間サービスを含め、複数の手続・サービスをワンストップで実現する)」を踏まえ、次のa)からe)までに掲げる事項をもって定義する(3)。なお、機能要件は、業務の質の向上、業務の効率化等に対する有効性等を踏まえ、優先度の高い機能から整備する必要があること、また、他の情報システムと連携する場合には相互運用性及びデータ互換性についても併せて記載する必要があることに留意するものとする。

なお、クラウドサービス(SaaS)等が提供する機能を利用する場合には、その利用する機能について記載するものとする(4)

ウ 非機能要件の定義

非機能要件について、次のa)からq)までに掲げる事項をもって定義する(5)。定義の内容は、業務・情報システム両面で必要な要件を、網羅するものとする。なお、非機能要件は、技術的に検討を要する事項を多分に含むことから、日本産業規格等のほか、RFI等を通じて、広く情報を取得し、実現性等の検証を行うものとする。

さらに、原則としてクラウドサービスの活用も検討するものとする(6)。クラウドサービスの選定に当たっては、「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針」を参照すること。

エ システム方式の決定

情報システムの実現案として、「ウb) システム方式に関する事項」で検討した内容を他の要件の内容と調整し、決定する。なお、この案は複数検討するものとする。

これにより「イ 機能要件の定義」及び「ウ 非機能要件の定義」に影響を及ぼす場合は、これらを更新すること(7)

また、導入するクラウドサービスやパッケージ製品を「システム方式」として先に定め、「ア 業務要件の定義」、「イ 機能要件の定義」及び「ウ 非機能要件の定義」を検討することもできる(8)

要件定義書は、後工程である設計・開発、各種テストの入力情報のみならず、運用開始後における継続的なサービス・業務改善活動の基礎情報としても利用され、継続的に維持される。

要件定義書の内容に曖昧さや抜け漏れがあると、後工程で実施される作業や作成される成果物に影響を与え、提供するサービス・業務の内容・質を低下させ、プロジェクトの目的・目標の達成を阻害することになりかねない。

このため、本項で定める各項目に従って内容を定義することにより、後工程に必要となる情報を網羅しつつ、プロジェクト全体への影響を考慮しながら、各項目の定義を調整し、確定するものとする。

なお、パッケージ製品やクラウドサービスの適用を前提としているときは、パッケージ製品やクラウドサービスの適用を意識しながら、各項目を定義する。

また、既存システムを改修する場合、要件定義書は、当該改修に係る内容のみを記載した要件定義書を作成するのではなく、必ず、既存の要件定義書を追加・修正の上、該当ページを差替える等、要件定義書の全体の整合性を保った状態で最新化することが必要である。

(1)「なお、定義の時点において、未確定な要件については、それがプロジェクトを進める上でのリスク要因となり得ることに厳に留意し、その旨を要件定義書において明らかにするものとする」

「未確定な要件」とは、PJMOが要件定義書を作成するときに、確定するために必要な判断材料が未確定なために、その時点では決定できない要件を指す。

例として挙げると、関連法案が審議中である場合や、要件に影響がある他のサービス・業務企画内容がやむを得ない理由により確定していない場合等、である。

プロジェクトを進める上でのリスク要因となり得る」とは、「未確定な要件」の内容が確定しないまま、事業者が情報システムの設計・開発を行ったときに、その要件が確定した際、契約変更を伴う委託内容の変更が発生する可能性があることを指す。

その旨を要件定義書において明らかにする」とは、やむを得ず内容の確定が困難な要件が発生したときは、その対象と理由を要件定義書において明示することを指す。

既存の情報システムを更改又は改修する場合

要件定義書の各項目は、既存業務・情報システムの要件定義書を基に情報の追加・変更をすることが効率的である。さらに、既存の要件の変更であるか、新規の要件の追加であるかを明確にすることは、後工程において事業者との認識そごを予防する上で重要である。

ア 業務要件の定義

PJMOは、「第4章5.業務要件の定義」により検討した内容を引継ぎ、業務要件とし、他の要件等との不整合がある場合は更新した上で、定義を確定する。

(2)「なお、当該要件は、「第4章5.業務要件の定義」により検討した内容を基に、他の要件等との整合性を確認し、更新するものとする」

「他の要件等との整合性を確認し」とは、「イ 機能要件の定義」、「ウ 非機能要件の定義」、「エ システム方式の決定」の結果に伴う見直しや、「1.1) RFIの実施」や「1.2) 事業者へのヒアリング等の実施」で得た情報を基に、情報システム化への実現方式の難易度や費用から、業務要件の見直しを行うことを指す。

また、パッケージ製品やクラウドサービス(SaaS/PaaS/IaaS)の適用を前提としているときは、パッケージ製品やクラウドサービス(SaaS/PaaS/IaaS)の最新版における情報と、「第4章5.業務要件の定義」で検討した際にインプットとした情報を比較して、内容の差異を確認する。

なお、この段階において、プロジェクト計画に影響を与える内容が明らかになったときには、PJMOはPMOに相談し、サービス・業務企画の方向性の変更も含めて検討するものとする。

イ 機能要件の定義

機能要件は、「ア 業務要件の定義」で定義した業務要件を実現するために情報システムに求められる要件を定義するものである。

このため、PJMOは業務実施部門と連携し、業務要件の内容と情報システム化対象範囲を正しく理解し、情報システムが実装する機能を整理し、機能要件として定義する。

機能要件では、業務要件で定義した利用者による情報システムの使い方を、画面、帳票、データ、処理内容等に具体化して、定義する。

なお、PJMOは業務実施部門と連携し、利用者の利便性への寄与、提供するサービスの質や業務効率の向上等の観点を意識し、検討対象となる機能に優先度を付け、対象機能を選択し、定義することに留意する。

(3)「機能要件は、「デジタル社会の実現に向けた重点計画」に掲げる「デジタル3原則(①デジタルファースト:個々の手続・サービスが一貫してデジタルで完結する、②ワンスオンリー:一度提出した情報は、二度提出することを不要とする、③コネクテッド・ワンストップ:民間サービスを含め、複数の手続・サービスをワンストップで実現する)」を踏まえ、次のa)からe)までに掲げる事項をもって定義する」

デジタル3原則については、デジタル社会の実現に向けた重点計画(令和3年12月24日閣議決定)を参照すること。

機能要件の定義対象事項を示せば、表5-1のとおりである。

表5-1

機能要件定義対象要件と定義内容

定義する事項記載事項内容
a) 機能に関する事項情報システムにおいて備える機能について、処理内容、入出力情報・方法、入力・出力の関係等を記載する。なお、他の情報システムが類似の機能を持つ場合は、その機能を活用することも検討する。業務要件を実現するために必要な情報システムの処理に関する事項を明らかにする。 機能要件定義として整理した機能の一覧は、パッケージ製品やクラウドサービス(SaaS)との適合性確認を行う際に、比較検討の基となる情報として利用することもあるため、機能単位で優先度を明確にすることが重要である。あらかじめ想定していた要求の全てを担保することを必須とすると、利用できるサービスの選択肢が限られたものとなるほか、カスタマイズ等の費用が上乗せされることとなるおそれがある。他方、優先順位の低い一部の要望を任意の提案事項とすることで、サービスの選択肢の幅が広がる、カスタマイズ等が不要となる等、パッケージ製品やクラウドサービス(SaaS)本来のメリットを最大限活かした案件形成が可能となる可能性があることに留意し、実現する機能の決定に際しては、想定する要件を必須事項と任意事項に分け、任意事項についても優先順位を付けた上で、RFI等を通じて情報収集を行い、事業者から幅広い選択肢について提案を得られるように配慮すること。
b) 画面に関する事項情報システムにおいて表示される画面について、画面の概要や表示イメージ、画面の遷移や入出力の基本的考え方等を記載する。画面の説明やデザイン、画面の遷移等、標準的な画面に求められる構成要素(項目、ボタン等)の要件を明らかにする。 また、画面を構成する項目やボタンの配置ルール、画面の基本的な遷移パターン等、画面の設計に係る方針も明らかにする。 なお、機能要件定義では、当該システムの画面に関する全体方針及び現時点における個別画面の構成要素を定義するものとし、個別画面の詳細な項目定義や構成要素の配置は、「第7章 設計・開発」で確定する。 また、情報システムの画面は、業務を流れに沿って処理する上で重要な役割を担うものであり、業務効率や利用者満足度に関わるほか、適切なアクセス権限の設定単位に関わる事項のため、業務実施部門が中心となって検討することが必要である。
c) 帳票に関する事項情報システムにおいて入出力される帳票について、帳票の概要や表示イメージ、帳票の入出力の基本的な考え方等を記載する。なお、業務のデジタル化を前提に、帳票は最小限にすることが望ましい。帳票の説明やデザイン、種類、様式、標準的な帳票に求められる構成要素(項目、罫線等)の要件を明らかにする。 また、帳票を構成する項目の配置ルール、帳票の印刷方式等、帳票の設計に係る方針も明らかにする。この際、法令で定められた様式やOCR帳等、記載事項やサイズについて厳密な指定がある場合や、逆に要件として示すものは表示イメージに留め、設計において確定することが許容される場合を、それぞれ明記する。 情報システムが提供する帳票は、業務実施手順や業務効率と密接に関わる事項のため、業務実施部門が中心となって検討することが必要である。
d) データに関する事項情報システムにおいて取り扱われるデータベースや入出力ファイルといった全てのデータについて、データモデル、データ定義、データの利活用方法、オープンデータの範囲と方法、データ項目の標準化等、データに関する要件を記載する。また、原則として、政府において標準化されたデータ名称、データ構造等を採用するとともに、各データが当該情報システム内における利用だけでなく、他の情報システムとの連携やオープンデータとしての活用が行われることを前提として、リスク管理を適切に行いつつ品質が維持されるようデータマネジメントに留意すること。業務要件を実現するために必要な情報システムで取り扱うデータに関する事項を明らかにする。データはデータ項目及びデータ項目の集合であるファイル(入出力を行うファイル含む)、テーブル、データベース等、全てのデータについて、その要件を明らかにする。データ要件としては、データ定義、データモデル、データ利活用方法、オープンデータ範囲と方法(API等の実装方法含む)、データ機密性定義と管理方法、マスターデータ標準化及びデータ項目標準化(コード含む)のレベル等を具体的に記述する。システム間のデータ連携でデータの流通が増大する中、その容易性と安全性の確保を目的に、連携に欠かせないデータ項目の標準化、連携方法の標準化等、連携の基本となる実装方針を明確にするとともに、その前提となるオープンデータ化などのデータ利活用の方針を明示することが重要である。 また、データに関する要件は全て「データに関する事項」として一元的に整理することで、俯瞰的・総合的にシステムで使用するデータを把握できることとなり、後続の設計・開発の品質を高めかつ将来の変化に柔軟に対応できるようになる。
e) 外部インタフェースに関する事項整備する情報システムと他の情報システムとの連携(外部インタフェース)について、外部インタフェース一覧として、相手先の情報システム、送受信データ名、送受信タイミング、送受信の条件の基本的な考え方等を記載する。 外部インタフェースについては、オープンなAPIとしての活用が行われることも想定して整備を実施するよう留意すること。当該情報システム以外の情報システムと情報連携を行う際に必要となる事項を一覧表レベルで明らかにする。なお、外部とのインタフェースにおいては、一般に提供されている標準的なAPIの利用をまずは検討するとともに、独自でAPIを作成する場合には標準的なAPIの実装を心がけること(標準ガイドライン群のAPI導入実践ガイドブックおよびAPIテクニカルガイドブックを参照のこと)。
(4)「なお、クラウドサービス(SaaS)等が提供する機能を利用する場合には、その利用する機能について記載するものとする」

「クラウドサービス(SaaS)等が提供する機能を利用する場合」とは、PJMOが当該情報システムの機能として、クラウドサービス、他の情報システム、ソフトウェア、ツールが提供する機能を利用することを指す。

この際、個別の業務要件に対する適応箇所、不適合箇所を明確にし、サービス・業務企画内容に対する適合度合いが、客観的に理解できるよう記載するものとする。

ウ 非機能要件の定義

情報システムが稼働するためには、PJMOは、「イ 機能要件の定義」で定義した要件だけではなく、稼働環境やサービス・業務を円滑に開始するためのユーザ教育等、情報システムを稼働・運用する上で必要となる機能以外の要件も検討し、定義する必要がある。

これを非機能要件と呼び、この内容について、次のa)からq)までに掲げる事項をもって定義する。

(5)「非機能要件について、次のa)からq)までに掲げる事項をもって定義する」
ç 表5-2 非機能要件定義対象要件と定義内容

非機能要件の定義対象事項を示せば、表5-2のとおりである。

定義する事項記載事項内容
a) ユーザビリティ及びアクセシビリティに関する事項情報システムの各機能におけるユーザビリティ及びアクセシビリティについて、日本産業規格等を踏まえつつ、情報システムの利用者の種類、特性及び利用において配慮すべき事項等を記載するとともに、国民向けの情報システムの整備に当たり、デジタルデバイドが是正され、全ての国民がその恩恵を受けられるよう、ユニバーサルデザインの考え方等に配慮するものとする。具体的には、障害者・高齢者を始めとして誰もがICT機器・サービスにアクセスできるよう、整備する情報システムの内容に応じ、総務省が公開している情報アクセシビリティ自己評価様式(通称:日本版VPAT)の書式に基づき、アクセシビリティへの対応状況(あるいは対応予定)を記載するように応札者に求めることで、可能な限り、障害の種類・程度を踏まえた対応状況を確認することにより、環境整備の推進に努める。利用者から見たサービス・業務を遂行する上での使いやすさを明らかにする。 ユーザビリティとは、利用者が情報システムで実現される機能を用いて、実施したいことを確実かつ効率的に行うための要素であり、利用者の満足度にもつながる非常に重要な事項である。 アクセシビリティとは、情報システムが提供する情報や機能へのアクセスのしやすさを指す。そのためには、利用者の年齢、身体的制約、利用環境等を配慮することが必要とされる。
b) システム方式に関する事項クラウドサービス、ハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク等の情報システムの構成に関する全体の方針の案について記載する。情報システムを実現するために必要となるクラウドサービス、ハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク、稼働環境等を明らかにする。 同一の機能を持つ情報システムであっても、実現の方式は多様であり、それによって調達コストは大きく異なる。システム方式は、情報システム設計の基本的な前提条件であるため、定義時点において明確にできる範囲内で複数の方式を検討し、メリット・デメリットを明らかにすることを推奨する。
c) 規模に関する事項情報システムの規模について、機器数、設置場所、データ量、処理件数、利用者数等を記載する。なお、データ量、利用者数等については、ライフサイクル期間における将来の見込みも記載すること。機器数、保有するデータ量、単位時間当たりの処理件数、利用者数等の情報システムを構成し、規模を特定する要素を定量的に明らかにする。規模は、性能や信頼性に関する要件を検討する際の前提条件となり、機器の仕様や配置等の設計、調達コストに関わる基本的な事項であるため、将来の見込みも含めた上で試算することが重要である。
d) 性能に関する事項情報システムの性能について、応答時間、バッチ処理時間等を記載する。特に、「第4章5.業務要件の定義」において検討した内容に照らし、性能が過度にならないよう適切な要件とすること。規模に係る要件を前提とした情報システムが備えるべき処理能力を明らかにする。 性能は、業務効率や利用者満足度に関わる重要な事項であるが、過度な要件を設定することで調達コストを押し上げることのないよう、業務要件を満たすことを基本として、サービス・業務の実施において必要十分となる要求レベルを検討する必要がある。
e) 信頼性に関する事項情報システムの信頼性について、稼働率等を記載する。特に、「第4章5.業務要件の定義」において検討した内容に照らし、過度にならないよう適切な要件とすること。情報システムの構成要素の不具合や故障に際しても、情報システムの機能が停止せずに、正常な動作を保ち続ける能力(可用性)と、データの不整合等を回避する能力(完全性)を明らかにする。 なお、障害や大規模災害等により情報システムの機能が停止した場合に、必要最低限の業務を継続及び回復するために必要な情報システムの機能の維持・復旧に係る要件は、「継続性に関する事項」にて定義する。
f) 拡張性に関する事項情報システムの性能及び機能の拡張性要件について記載する。特に、将来の機能改修や、社会情勢の変化、技術の変化、利用状況の変化等に対して、柔軟で効率的な対応を行うことを念頭に、要件を定めること。運用開始後のサービス・業務環境の変化に対応することを目的として、性能や機能をあとから向上させるための要件を明らかにする。 拡張性は将来の調達コストにも関わるため、サービス・業務企画における環境分析に基づいて、定義時点において想定されるサービス・業務の変化を明確にし、要件を定義することが重要である。
g) 上位互換性に関する事項情報システムを構成するOS及びミドルウェア等のバージョンアップ時における情報システムの改修の許容度等を記載する。運用期間中のハードウェア及びミドルウェア等のバージョンアップに対して、運用を継続するために必要となる情報システムの改修の許容度や情報システム構築時の制約を明らかにする。 パッケージ製品のバージョンアップやクラウドサービスのサービス内容と価格体系の将来的な変更についても考慮すること。 なお、上位互換性は、将来の調達コスト、可用性及び情報セキュリティの維持にも関わるため、過去のバージョンアップの頻度や影響等の情報を収集しておくことが効果的である。
h) 中立性に関する事項情報システムの中立性については、いわゆるベンダーロックインの解消等による調達コストの削減、透明性向上等を図るため、市場において容易に取得できるオープンな標準的技術又は製品を用いる等の要件について記載する。なお、技術又は製品について指定する場合には、指定を行う合理的な理由を明記した上で、クラウドサービス、ハードウェア、ソフトウェア製品等の構成を明らかにすること。また、情報システムを利用する端末についても、特定のハードウェア又はソフトウェアに依存しないよう留意すること。情報システムを構成するハードウェア、ミドルウェア及びソフトウェア等がオープンな標準的技術又は製品であること等の制約を明らかにする。 オープンな標準的技術又は製品であるとは、原則として、 の全てを満たしている標準的技術又はその標準的技術を採用している製品をいう。 また、技術又は製品について指定する場合の合理的な理由を得るには、特定のプロジェクトに閉じた視点ではなく、影響を与える他のプロジェクトも含めた広い視点で、コスト・セキュリティ・保守性等を考慮する必要がある。 本事項は、いわゆるベンダーロックインの解消等により将来にわたる調達コストの削減、透明性向上等を図るため、特定事業者に不必要に依存した情報システムとならないよう要求する事項である。 なお、デファクトスタンダードとして広く利用されている製品群については、供給を行う事業者において競争性が確保されるものであれば、内部仕様が公開されていなくても中立性の趣旨において問題とならない場合もある。また、特定の事業者に依存する製品であっても、保守や改修、次期更改の際に他の技術又は製品への移行に過大な工数を要しない場合は、当該製品を選択することも可能である。
i) 継続性に関する事項情報システムの運用の継続性について、障害、災害等による情報システムの問題発生時に求められる機能やシステム構成、その目標復旧時点及び目標復旧時間等を記載する。特に、「第4章5.7) 業務の継続の方針等」において検討した内容に照らし、過度にならないよう適切な要件とすること。  障害や大規模災害等により情報システムの機能が停止した場合に、必要最低限の業務を継続又は回復するために必要となる対策、指標値等の要件を明らかにする。 なお、継続性について過度な要件を設定することで調達コストを押し上げることのないよう、自府省の業務継続計画を参照し必要十分な要件を定義する。  参考 中央省庁における情報システム運用継続計画ガイドライン~策定手引書(第3版) (令和 3 年 4 月内閣官房情報セキュリティセンター)
j) 情報セキュリティに関する事項情報システムの情報セキュリティ対策に関する事項について記載する。特に、「第4章5.8) 情報セキュリティ」において検討した内容に照らし、過度にならないよう適切な要件とすること。また、記載に当たっては、自府省の情報セキュリティポリシーを参照の上、要件を適切に定めるものとすること。  情報の機密性、完全性、可用性を確保するための要件を明らかにする。 これらは、自府省が扱う情報を適切に保護し、業務の継続性の確保、業務に対する信頼の維持のために重要な事項である。 また、情報セキュリティについては、自府省の情報セキュリティポリシーを参照し、要件を定義する。 なお、過度な情報セキュリティ要件を設定した場合、情報システムの利用者の利便性を損なうことがあるため、十分に検討した上で要件を定義する必要がある。  参考 政府機関のサイバーセキュリティ対策のための統一基準群」及び「情報システムに係る政府調達におけるセキュリティ要件策定マニュアル (令和3年7月7日内閣官房情報セキュリティセンター)
k) 情報システム稼働環境に関する事項クラウドサービスの構成、ハードウェアの構成、ソフトウェア製品の構成、ネットワークの構成、施設・設備要件等について記載する。なお、稼働環境については、既存の環境を最大限活用し、不要な調達を行わないこと。機能要件及び非機能要件(規模、性能、信頼性、拡張性、上位互換性、中立性、継続性、情報セキュリティ等)を実現するためのハードウェア構成、ネットワーク構成、施設・設備要件等を明らかにする。 なお、公平性や無差別性を確保し、より良い提案を受けるために、事業者が代替案を提案する余地がどの程度あるか等の前提条件も明記することも留意する。
l) テストに関する事項情報システムの設計から運用開始に至るまでの全てのテストについて、テストの種類、目的、内容、実施者、合否判断基準、テスト実施環境等を記載する。情報システムが備えるべき機能要件及び非機能要件の実現状況を段階的に確認する行為であるテストに係る要件を明らかにする。テストには、ソフトウェアの設計に基づいて事業者が行うものと、PJMO及び情報システムの利用者の視点で行うものがある。
m)移行に関する事項本番環境への業務移行、システム移行及びデータ移行について、移行時期、移行方式、移行対象、移行環境等を記載する。移行には、既存のサービス・業務から新たなサービス・業務へ移行する業務移行、既存の情報システムが保有する資産を新たな情報システムへ移行するシステム移行、既存のサービス・業務で利用しているデータを新しいサービス・業務に移行するデータ移行が存在するため、3種類の移行に係る要件を明らかにする。 なお、新たなシステムへのデータ移行に備えるため、事業者に対してデータ構造が把握できる情報等の設計書を納品すること、運用保守事業者はデータ移行作業に必要なデータ構造がわかる情報を常に最新化した上で維持し、契約完了時にはそれらを納品することを要件として定めることが重要である。 なお、既存の情報システムが存在する場合、サービス継続の方針をどのように設定するかによって移行に係る作業内容や作業量が根本的に異なることに留意し、サービス継続の優先度に応じた移行要件となるように留意すること。
n) 引継ぎに関する事項情報システムの開発、運用等について、他の関係事業者への引継ぎに関する要件を記載する。情報システムの安定的な運用を実現するため、関係事業者や要員の交代に際して、円滑かつ効率的に引継ぎ作業が行われるための要件を明らかにする。 設計・開発事業者から運用事業者及び保守事業者への引継ぎ及び当年度の運用事業者から翌年度の運用事業者への引継ぎや、PJMOの交代について、あらかじめ想定した上で要件定義書に記述する。 なお、開発事業者は、運用保守事業者が適切に設計書等をメンテナンスし情報システムを適切に運用保守できるよう設計書やソースコード、テストコードを引き継ぐこととし、引継ぎに必要な情報を明確にし、引継ぎ時に不要なコストが発生しないよう留意する。
o) 教育に関する事項情報システム部門、業務実施部門等を中心とする情報システムの利用者に対する教育について、教育対象者の範囲、業務実施手順やシステム操作説明等のマニュアルの作成、教育の方法、研修環境等を記載する。新たなサービス・業務を利用者が活用するために必要な教育に関する要件を明らかにする。 また、職員の人事異動やサービス利用意向により随時新たな利用者が加わることを前提として、機能の理解や操作への習熟を維持するために必要となる、情報システムの利用者の区分ごとに必要な教育について記述する。
p) 運用に関する事項情報システムの運用時間、運用監視、障害復旧、その他の運用管理方針、運用環境等に関する要件を記載する。なお、この運用要件は、次のq)に掲げる保守要件と明確に区別して記載すること。情報システムの運用は、情報システムの設計された仕様及び構成の変更を原則として行わずに、稼働状態を維持して、情報システムを用いたサービス・業務が成立させることを目的とした行為である。詳細な内容は「第9章 運用及び保守」で検討することになるが、運用要件によって、情報システムの機能要件及び非機能要件に求める内容が異なることが考えられるため、要件定義段階で概要を明らかにする。
q) 保守に関する事項情報システムを構成するクラウドサービス、ハードウェア、ソフトウェア製品、アプリケーションプログラム等の保守、サポート体制、保守環境等に関する要件を記載する。なお、この保守要件は、情報システムの機能改修及び更改と明確に区別して記載すること。情報システムの保守は、機能維持、品質維持等、情報システムを設計された仕様どおりに動作させることを目的とした行為である。詳細な内容は「第9章 運用及び保守」で検討することになるが、保守要件によって、情報システムの機能要件及び非機能要件に求める内容が異なること、ハードウェア又はソフトウェア製品の選定に影響することが考えられるため、要件定義段階で概要を明らかにする。 なお、開発事業者が作成した設計書等の納品物においては、運用保守やその引継ぎ、開発改修、次期開発に向け最新化の維持が必要なものを明確にし、保守対象として引き継ぐものとし、運用保守事業者は、当該設計書一式を最新状態に保ち、開発改修作業が行われる際には、PJMOを通じて最新の情報を開発事業者に提示するよう留意する。
(6)「さらに、原則としてクラウドサービスの活用も検討するものとする」

「原則としてクラウドサービスの活用も検討する」とは、非機能要件として定義する複数の項目において、クラウドサービス(SaaS/PaaS/IaaS)が利用可能かを検討することを指す。また、標準でAPIが提供されるクラウドサービスの活用を検討し、機能要件との整合を取り、必要な非機能要件を定義する。

エ システム方式の決定

「イ 機能要件の定義」及び「ウ 非機能要件の定義」の定義結果から、整備対象の情報システムに対する要件が明らかになるが、様々な技術要素の組み合わせにより、最終的な情報システムの全体像は複数の実現案が考えられることがある。

このため、複数の実現案が考えられる場合は、メリット・デメリットを考慮し、とり得る実現案を数案に絞り記載する。

なお、予算要求時に作成した情報システムの構成に係る全体の方針及び構成図等も、併せて更新するものとする。

(7)「これにより「イ 機能要件の定義」及び「ウ 非機能要件の定義」に影響を及ぼす場合は、これらを更新すること」

「これにより「イ 機能要件の定義」及び「ウ 非機能要件の定義」に影響を及ぼす場合は、こちらも更新させること」とは、PJMOが情報システムの実現案を確定する際に、「イ 機能要件の定義」及び「ウ 非機能要件の定義」の関連項目の内容を変更し、整合性を担保することを指す。なお、情報システムの実現案が複数存在するために、関連する機能要件及び非機能要件が確定できないときは、該当する要件とその理由を明確にすることが重要である。

(8)「導入するクラウドサービスやパッケージ製品を「システム方式」として先に定め、「ア 業務要件の定義」、「イ 機能要件の定義」及び「ウ 非機能要件の定義」を検討することもできる」

「導入するクラウドサービスやパッケージ製品を「システム方式」として先に定め」とは、要件定義を行う前にサービス・業務を実現する具体的な手段としてクラウドサービスやパッケージ製品が特定されていることを指す。

この場合、クラウドサービスやパッケージ製品が提供する機能や利用方法等に合わせて、業務要件、機能要件及び非機能要件を検討することになる。

2) 要件定義書の調整・作成

PJMOは、要件定義書を、関係機関、情報システムの利用者等と調整し、作成するものとする。なお、他のPJMOが実施するプロジェクトと相互に密接に関係する場合には、それぞれのプロジェクトにおける要件定義書間の整合性が確保されるよう調整するものとする。

なお、PMOが指定したプロジェクトに係る要件定義に対して第一次工程レビュー及び第二次工程レビューが実施されることについては、「第6章3.3) 第一次工程レビューの実施」及び「第7章3.第二次工程レビューの実施」参照。

また、PJMOは、要件定義の調整後に内容を変更する必要が生じたときは、関係機関等との再調整を行った上で変更内容を要件定義書に反映するものとする(1)

PJMOは、この要件定義書が、次工程以降及び後続のプロジェクトにおいても、引き続き使用されることに留意する。

提供するサービス・業務が他のサービス・業務・情報システムと連携する場合に、PJMOが関係者への情報共有等を疎かにすると、サービス・業務が成立せず、プロジェクトの目的・目標が達成しないおそれがある。

このため、PJMOは、連携するサービス・業務・情報システムを把握し、関係者に情報を提供し、調整をする必要がある。

特に、地方公共団体や独立行政法人等の府省以外を含む関係機関との調整が必要な場合は、十分な情報共有と調整をすることが必要である。

このため、PJMOは、関係機関との検討会議や説明会等を実施し、その結果を踏まえて要件定義書を調整し、作成する。

また、当該プロジェクトが、PMOが指定したプロジェクトのときは、第一次工程レビュー及び第二次工程レビューを実施し、要件定義書の内容がプロジェクト目的・目標達成に向け妥当であるか確認するものとする。

要件定義を事業者へ外部委託する場合

ステークホルダーとの調整はPJMOが実施し、事業者には決定事項を伝達する。事業者は要件定義書への反映作業を担当するものとする。

(1)「また、PJMOは、要件定義の調整後に内容を変更する必要が生じたときは、関係機関等との再調整を行った上で変更内容を要件定義書に反映するものとする」

「要件定義の調整後に内容を変更する必要が生じたとき」とは、PJMOが要件定義の内容を関係機関等と調整した後で、調達後の事業者の決定に伴い当該事業者の提案内容を採用した結果、要件定義書の内容に変更が必要と判断した場合や、設計・開発工程において事業者が検討の過程で要件定義書の内容の変更を申し出、PJMOが了承した場合等を指す。

PJMOが要件定義書の内容の変更が必要と判断したときは、それまでに決定された情報と変更する該当箇所との整合性を保ち、更新する必要がある。

なお、変更に当たっては、プロジェクト管理要領の変更管理の管理手順に従って、確認、承認を得る必要がある。

3. プロジェクト計画書の段階的な改定

プロジェクト推進責任者は、適時、プロジェクト計画書を段階的詳細化し、当該計画書の内容を更新する(1)

要件定義書の作成に伴い、プロジェクト計画書で定義した内容も具体化・詳細化されるため、その内容については、PJMOがプロジェクト計画書に反映させ、関係者に周知する必要がある。

なお、プロジェクト計画書の各項目に大幅な変更が発生する可能性があったときは、PJMOはプロジェクト計画の軌道修正も含めて検討する。

プロジェクト計画書への反映については、標準ガイドライン解説書「第3編第2章 プロジェクトの管理」を参照すること。

(1)「適時、プロジェクト計画書を段階的詳細化し、当該計画書の内容を更新する」

「適時、プロジェクト計画書を段階的詳細化し」とは、PJMOがプロジェクト計画書を最新の状態に保つために、要件定義書の内容が変更されたときは、その変更内容に応じて、プロジェクト計画書への反映を行うことを指す。

民事信託の登記の諸問題(10)

登記研究[1]の記事、渋谷陽一郎「民事信託の登記の諸問題(10)」について、考えてみたいと思います。

この点、準物権的救済(受益者取消権等)の実効性の確保や受託者権限に対する規範性(拘束性)に鑑み、信託の目的を鈍化・峻別し、明確化して公示することが大切である。信託の目的は、信託が終了するか否か(信託法163条1号)や信託の変更権者の選択(信託法149条2項1号、2号、3項2号)その他の具体的な基準ともなる現実的なものである。

 例えば、受益者の介護その他の生活支援・受益者が現在の住居を離れなくてはならなくなった場合の、不動産の売却、などのように一定程度信託の当事者間で明確になっているのならば、信託目録の信託の目的欄への記録も可能だと思います。介護その他の生活支援の場合は、受益者の死亡により信託の終了、不動産の売却の場合は、売却時に金銭信託なども終了して清算に移るのか、その後も他の信託財産に属する財産について信託を続けるのかは最初に検討、という形を採るのかなと思います。

受託者の権限として「財産の管理又は処分」が記されているが、それは、それ自体が独立した権限とされて、後の「及び」で、その他の必要な行為が付加されている形の文の構造となっているのだろうか。あるいは、「財産の管理又は処分」は、直後の「及び」という接続詞で「その他の」と並列にされ「信託の目的の達成のために必要な行為」の例示とされているのだろうか。

財産の管理又は処分それ自体が独立した権限とされて、後の及びで、その他の必要な行為が付加されている形の文の構造となっているのだと考えます。[2]

また、信託法26条の文言は、「管理又は処分」と「or」で結び、択一的に記しているところ、「管理及び処分」と(and)で結ぶのは、法令上の文言とは異なる(その効果の差異は何か)。

  受託者が、信託財産に属する財産の管理も処分も行う、と信託行為で決めた、ということだと思います。効果は管理、処分、信託の目的を達成するために必要な行為のうち、管理と処分行為については第三者対抗要件を備えるということになると考えられます(不動産登記法177条)。

信託不動産の賃貸借契約の締結や解除は管理行為とされるので(民法252条参照)、管理権限に限定された受託者でも、収益物件の信託が可能かもしれないが、処分権限を有しない受託者による賃貸借は短期賃貸借に限られることはないのか否か(民法602条)、借地借家法の適用関連も含めて確認しておきたい(ちなみに、兼営法の規定上、信託財産の貸借は、処分と同分類である)。

 処分権限を有しない受託者による賃貸借は、民法602条の短期賃貸借に限られると考えます。例えば、受託者を貸主として、第三者と土地の賃貸借契約(期間5年)を締結した場合、借地借家法の適用を受けません(借地借家法9条。)。受託者を貸主として、受益者と建物の賃貸借契約(期間3年)を締結した場合、借地借家法が適用されます(借地借家法29条~。)。

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また、残余財産の帰属権利者への帰属は、信託の終了後に生じるので、それが信託期中における弱者保護を重視する福祉型信託の目的たり得るのか否か、という論点がある(重要な問題である)。

 資産(財産)承継と福祉型信託の目的は両立し得ると思います。ただし、信託財産に属する財産の現在の状況どのようなものか、どのように承継したいのか、各親族の意思など個別具体的な状況によるのだと思います。このような場合、財産の状況や親族の意思によっては、信託を利用しない、という選択になることもあり得ると思います。

それでは、「(3)高齢者の変わらぬ住居の維持」という信託の目的からは、受託者による自宅不動産の売却が許容されるのだろうか。売却が許容される基準は何だろうか。そのような判断を形式的に行うのは容易ではない。

許容される基準や要件は、信託行為で定めておけばよいのではないかなと思います。

将来の資産残高を減らさないため、高齢者に対する余計な支出を避けたい、と信認義務を忘れて短絡する場合もあろう(受託者自らが承継人の一人となっていれば猶更だ)。

 この辺りは、信託を利用しなくても、同居の親族であればやる人はやると思うので、任意後見、法定後見制度との併用を考えておく必要があると考えます。

しかしながら、信託終了・清算の結果としての資産承継を、高齢者の認知症対策であり、生活支援の福祉型信託において、受託者が達成すべき「信託の目的」として、信託期中の目的と同列にし得るのか、よく考えてみたい。

 私は現在のところ、このような目的は利用していませんが、当事者が望めば両立可能だと思います。その際注意する点は、福祉型信託において守る財産と資産承継において守る財産を分けることです。


[1] 892号、令和4年6月、(株)テイハン、P34~

[2] 法制執務委員会『ワークブック法制執務』平成19年ぎょうせい、P672、P742

死後事務委任契約の周辺

・死後事務委任のお話し。10年くらい前には、ほとんど聞いたことがない業務・・・成年後見制度が出来た時からあった業務。

法務省「成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」が平成28年10月13日に施行されました。

死後事務

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00196.html#10

・最近、地域包括のケアマネさんから「死後事務委任で、研修会してもらえませんか?」ってご依頼をいただきました。ところで、死後事務委任って、業務の受任経験はありますが、セミナーは今回初めて。どのように、進めたら満足度がアップするか?死後事務って、こんなことやって、法律的にはこうで、こんな問題点があるのでなんて話しをしたら、まぁ、寝ます!(笑)そんなことは興味がないです。・・・話し方によるかなと思います。質問しやすいような雰囲気と、途中質問OKです、と合間に言ったり、自分から訊いたりしてみれば、眠らないかもしれません。疲れていたり、義務的に来た人だったりすると眠くなるかもしれません。

・興味があることは「自分の抱えている問題が解決するかどうか」つまり自分に関係することですよね。となると、一番最初に聞かなければいけないのは

「どんな人が参加するか?」あ、ここまでの話し、受け売りですよ。参考にしているのは、こちら「スティーブ・ジョブズの脅威のプレゼン」僕がセミナーを組み立てるとき、どうやったら上手く組み立てられるか、参考にした本です。

・・・分かりませんでした。

・では、ケアマネさんはどんな問題を抱えているのか?どんな相談があるのか、それは聞くしかないですよね。地域包括では、高齢者に関する相談を日々たくさん受けています。介護認定を受ければ、事業所につなぐことになり、ある意味自分たちの手を離れます。財産管理的には後見が必要になったりしますよね。一方で、介護認定を受けなければ、地域包括のケアマネさんがその方をサポート(?)していきます。・・・地域包括支援センターのケアマネジャー(介護支援専門員)は、市区町村民が介護認定を受けると、直ぐに事業者に繋ぐわけではありません。

・つまり、自分で暮らしていけるし、介護も必要ない、元気な高齢者ですよね。

一方で、その方が一人暮らしで、身寄りがないとその方は漠然とした不安を抱えるんですよね。・自分が亡き後、葬儀やお墓はどうしよう、とか・自宅もいつかは空家になるから売却した方がいいのではないか、とか・家の中の処分や荷物はどうしよう、とかなどなど。

・・・介護認定を受けていないと元気か、というと分かりません。漠然とした不安を抱えることはあると思います。

そのような、相談を受けたときに明確な答えがない。でもでも、我々には答えがあるじゃないですか。・亡き後の財産については、遺言があるとスムーズですよ、とか・認知症なって、施設に入ったら自宅を売却したいなら、法定後見や、任意後見がありますよ、とか(信託は受託者になる人がいないから難しい、専門家は受託NG)・家の中の荷物の処分や、葬儀やお墓なら、「死後事務」ですよ。ほら、ここで、死後事務が出てきた。・・・出てきましたね。

そしてケアマネさんが「よければ、死後事務に詳しい専門家に相談してみますか?」おお〜!我々専門家としては、ラッキーな展開(笑)こんな風に、地域包括のケアマネさんが、対応できるようになると、相談した人も安心ですし、ケアマネさんも、相談者のお役に立てて、嬉しいですよね。

・・・仕事事務に詳しい、ラッキーな展開、というのがよく分かりませんでした。

となると研修会の組み立てとしては、ケアマネさんが相談を受けそうな事例が良さそうですね。高齢者からこんな相談を受けた。どんな問題があるか? ⇒ ここで問題を深掘りして聞く体制を作るどんな解決策があるか?という流れにするのが良さそうです。■■ セミナーの目標は?もちろん参加されてもらう人に、死後事務など制度のことをわかってもらうこと。いっぽうでこちらのしたごころ下心は紹介をもらうことですよね。

・・・いっぽうでこちらのしたごころ下心は紹介をもらうことですよね。ですよね、といわれると分かりませんでした。

そのためには二つハードルがあります。1つ目は、参加した人が、死後事務について、相談者に言えるようになること。案外これ難しいですよ。逆の立場で考えれば例えば、親の認知症について相談を受けた。夜に、財布がないとか、カバンがないとか、といわれて、家族はつらい思いをしている。そこで、地域包括を紹介しようとしても、地域包括でどんなサービスが紹介できるか説明できます?#僕は、ギリギリかも (笑)・・・・

那覇市地域包括支援センター

在宅福祉サービス、通所サービス事業、在宅サービス事業、助成制度等、

その他の事業、在宅福祉サービス、

地域包括支援センターは、高齢者の介護予防や介護保険・福祉に関する様々な相談に応じ、各種の公的な保健・福祉サービスの紹介・相談などを行う総合窓口です。

平成30年度より、那覇市地域包括支援センターを18ヶ所(旧:12ヶ所)へ増設しました。より身近な地域の総合相談機関として、高齢者のみなさんが住み慣れた地域で、いきいきと安心して暮らしていくための、さまざまな支援を行います。

※一部担当圏域が変更となった地域がございますので、下表によりお住まいの地域を担当する地域包括支援センターをご確認下さい。

https://www.city.naha.okinawa.jp/fukusi/koureisyafukusi/soudan/chikihoukatu.html

 ただ、私達士業と同じように、ケアマネジャー(介護支援専門員)の中にもすごく勉強家で業務範囲を超える知識を持っている方もいます。逆の方もいます。

 別な問題。生命保険を相続でどう活用するか研修会を受けた。お金や不動産をたくさん持っていらっしゃる男性からの相談。自分が亡くなったら妻(再婚)の生活を支えたい。前妻との間の子どももいる。では、お金は生命保険信託を使えばどうなるとか。子どもの遺留分対策として、生命保険をどう使うとか、説明できます?そもそも、これが保険で解決できるってピンと来るのって、案外難しいですよね。自分の専門の中でどうするか考えちゃうので。ですから、死後事務も簡単に説明できると思わない。もう、ちょー大雑把で、「こんな感じ」って言うのを理解してもらって、「後は、こっちに任せて」って言うのが伝わればいいのかなって思います。・・・生命保険信託を利用すると、保険会社から妻に定期的な送金が可能になる。子どもの遺留分対策としては、相続財産に入らない保険金から支払うことが出来るように、生命保険に加入しておく。ちょー大雑把、というのがどういう範囲なのか分かりませんでした。「死後事務に詳しい専門家に相談してみますか?」と整合性があるのか、分かりませんでした。

 それから、2つ目のハードルは、自分を選んでもらうこと。簡単に言えば、・よく知らない人・性格的に合わない人って紹介したくないじゃないですか。そうすると、仲良くなることが大事。そうすると、グループワークみたいなことをして、一緒に悩んで考えるという形も良いのかなって思います。

・・・人それぞれで良いのではないかと思います。

民事信託のあれこれメモ

信託契約書作成

委託者 父A

受託者 長男〇(信託設時に委託者の既存債務を引き受ける)

受益者 父A

信託行為 信託契約

信託財産 金銭,不動産(居住用,賃貸用)

信託の終了 受益者父Aの死亡

帰属権利者 長男〇,二男△

(第二次受益者 長男〇及び二男△両名)の場合

 信託事務処理の第三者への委託

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=418AC0000000108

(信託事務の処理の第三者への委託)

第〇条 受託者は,信託財産目録記載の建物の管理を第三者に委託することができる。

・信託法28条1項1号に基づく条項

・「第三者」には委託者や受益者も含まれるが,それらの者に対する委託によって,信託の実質が失われるような場合には許されない(信託として認められない場合がある)。例えば,全ての信託事務の処理を第三者へ委託することは認められない。

例2

(信託財産の管理方法)

第〇条 

〇 受託者は、信託事務の一部について必要があるときは、受託者と同様の管理方法を定め、第三者へ委託することができる[1]

(善管注意義務)

第〇条 受託者は,信託財産の管理,処分その他の信託事務について善良な管理者の注意をもって処理しなければならない。

信託法29条2項に基づく条項

・信託法と同内容の規定を信託契約書に記載すること。信託法29条2項ただし書きに基づく条項については、慎重。

例2(信託財産の管理方法)

第○条

〇 受託者は、善良な管理者の注意をもって、受益者のために忠実に職務を遂行する[2]

(分別管理義務)第〇条 受託者は,信託財産に属する金銭及び預貯金と受託者の固有財産とを,以下の各号に定める方法により,分別して管理しなければならない。

  • 金銭 信託財産に属する財産と受託者の固有財産とを外形上区別することができる状態で保管する方法

(2)預貯金 信託財産に属する預貯金専用の口座を開設し、当該口座で管理する方法

信託法34条1項2号ロによる分別管理方法を,同条1項ただし書きの「別段の定め」により,変更した条項

・金銭を預貯金債権で管理する場合には,受託者に信託口口座の開設を義務付ける。

・趣旨は,①信託財産であることの証明を容易にするため,②受託者が忠実義務違反行為を起こす際の心理的バリアになる(条解280頁)。

例2

(信託財産の管理方法)

第○条

(2)受託者は信託金銭について、次の信託事務を行う。

□信託に必要な表示又は記録等[3]

□受託者個人の財産と分けて、性質を変えずに管理[4]

(帳簿等の作成等,報告及び保存の義務)

第〇条 本信託の計算期間は,毎年1月1日から同年12月31日までとする。ただし,第1期の計算期間は,信託開始日から令和〇年12月31日までとする。

2 受託者は,信託事務に関する計算並びに信託財産に属する財産及び信託財産責任負担債務の状 況を明らかにするため,信託財産に係る帳簿その他の書類又は電磁的記録を作成しなければならない。

3 受託者は,前項の帳簿等に基づき,第1項の計算期間に対応する信託財産目録及び収支計算書を当該計算期間が満了した月の翌月末までに作成しなければならない。

4 受託者は,前項記載の信託財産目録及び収支計算書の内容について,受益者に報告しなければ ならない。

5 受託者は,第2項に基づき作成した帳簿等は作成の日から10年間,第3項に基づき作成した信託財産目録及び収支計算書は信託の清算の結了の日までの間,保存しなければならない。

・信託法37条に基づく条項

・民事信託では,極めて重要な条項。

・信託法37条3項に基づいて,受託者が受益者に報告しなければならない対象 は,同条2項の「財産状況開示資料」(貸借対照表(財産目録),損益計算書(収支計算書))であり,同条1項「帳簿」は報告の対象となっていない(信託法37条3項)。

受託者の辞任・解任

(受託者の辞任)

第○条 受託者は,委託者及び受益者の同意を得て,辞任することができる。

(受託者の解任)

第○条 委託者及び受益者は,いつでも,その合意により,受託者を解任することができる。

信託法57条1項本文,58条1項に基づく条項

 受託者の解任を制限する条項の可否。委託者、受益者の意思のみによって解任可能な信託に関する法定安定性と、受託者候補の心証。信託行為の説明時に正確に可能か。・・・委託者、受託者それぞれ意思のみで受託者の解任が可能な信託にするのであれば、受託者のみの意思で受託者を辞任可能にして清算条項を付けないと、受託者としても職務執行しずらいと感じます。

例2

第〇条 (受託者)

□受託者の任務は、次の場合に終了する。

 □ただし、信託法58条1項は適用しない。

□受益者の同意を得て辞任したとき。

□受託者が、受益者からの報告請求に対して2回続けて報告を怠った場合。

□受益者と各受託者が合意したとき[5]

□【受託者が○○歳になったとき・                

□受託者が唯一の受益者となったとき。ただし、1年以内にその状態を変更したときを除く。

□その他信託法で定める事由が生じたとき。

信託費用の償還

(信託費用の償還)

第〇条 受託者は,信託事務処理に要する費用を,直接,信託財産から償還を受けることができる。

2 受託者は,信託財産から,信託事務処理に要する費用の前払を受けることができる。

信託法48条1項,2項に基づく条項

 信託法上,受益者に義務は課せられていない。受益者から(本条項は,「信託財産」から)費用償還又は前払いを受けるには,受託者と受益者の「個別合意」が必要。

例⒉

第〇条(信託財産の管理方法)

□ 受託者は、本信託契約に記載のない特別の支出が見込まれる場合は、本信託の目的に従い受益者の承諾を得て、支出することができる[6]

□ 受託者は、各受益者と信託事務処理費用を受益者の負担とする合意をすることができる。ただし、受託者に就任して1年を経過した場合は合意があるものとみなす。

第〇条(信託事務処理に必要な費用)

□ 受託者が信託事務の処理に必要な費用に関して、【金額】円を超える場合、事前に信託金銭の中から支払いまたは事後に信託金銭から償還を受けるときは、受益者に対してその額のみを通知する。ただし、算定根拠を明らかにすることを要しない。

信託報酬

(信託報酬)

第〇条 受託者は,無報酬とする。

(信託報酬)

第〇条 受託者は,毎月末限り,月額〇万円の信託報酬を受ける。

・信託法54条1項に基づく条項(信託行為に受託者が信託財産から信託報酬を 受ける旨の定めがある場合に限り,信託財産から信託報酬を受けることができる)。

・民事信託では,受託者は無報酬であることが多い。

・信託法54条1項により,民法648条2項(委任における受任者の報酬の支払時期)が準用されている結果,報酬は後払いとなる(受託者の信託事務が終了しなければ報酬を受け取れない)。

例⒉

受託者の報酬の定めを置かない。無報酬の定めも置かない。

(受益者)

第〇条 本信託の当初受益者は,委託者〇とする。

2 前項の当初受益者が死亡したとき,同人の有する受益権は消滅する。

3 前項の場合には,第二次受益者として〇及び△が,以下のとおり,新たな受益権を取得する。

〇 信託財産目録記載2(土地)及び同(自宅)2の不動産に係る受益権

△ 同1(土地)及び同2(アパート)の不動産に係る受益権

・後継ぎ遺贈型受益者連続信託にする場合には,受益者の死亡により受益権は消 滅すると明記する(受益権が相続の対象とならないことを明確にする)。

例⒉

第〇条(受益者)

(1)本信託の第1順位の受益者は、次の者とする。

  【住所】【氏名】【生年月日】

(2)受益者の死亡により受益権が消滅した場合、受益権を原始取得する者として次の者を指定する。

   第2順位

  【住所】【氏名】【生年月日】

 □【住所】【氏名】【生年月日】

 □ 第3順位

  【住所】【氏名】【生年月日】

 □【住所】【氏名】【生年月日】

□次の順位の者が既に亡くなっていたときは、さらに次の順位の者が受益権を原始取得する。

□受益権を原始取得した者は、委託者から移転を受けた権利義務について同意することができる[7]

□受益者に指定された者または受益権を原始取得した者が、受益権を放棄した場合には、さらに次の順位の者が受益権を原始取得する。

□受益者に指定された者が、指定を知ったとき又は受託者が通知を発してから1年以内に受益権を放棄しない場合には、受益権を原始取得したとみなす。

□【委託者氏名】は、【委託者以外の受益者氏名】が受益権を取得することを承認する。

(受益権、受益債権の内容)

第○条 受益者は,受益権として,以下の内容の権利(以下「受益債権」という。)及びこれを確保する ために信託法の規定に基づいて受託者その他の者に対し一定の行為を求めることができる権利を有する。

(1)信託財産目録記載の信託不動産を生活の本拠として使用する権利

(2)信託財産目録記載の信託不動産を第三者に賃貸したことによる賃料から給付を受ける権利

(3)信託財産目録記載2の信託不動産が処分された場合には,その代価から給付を受ける権利

(4)信託財産目録記載1の金銭から給付を受ける権利

(受益権の譲渡,質入れの禁止)

第○○条 受益者は,受益権を譲渡又は質入れすることはできない。

・信託法2条7項の受益権とは、信託行為に基づいて受託者が受益者に対し負う債務であって信託財産に属する財産の引渡しその他の信託財産に係る給付をすべきものに係る債権(以下「受益債権」という。)と規定している。

・残余財産受益者の指定したとき、「本信託が終了したときの残余財産の帰属すべき者として,本信託終了時の受益者を指定する。」には,この受益債権の内容が影響するので注意。

・信託法93条2項,96条2項に基づく条項

・趣旨は,委託者の親族以外の者が当該信託に関わることを防止するため。

例⒉

第〇条(受益権)

1 次のものは、元本とする。

□(1)信託不動産。

□(2)信託金銭。

□(3)遺留分推定額。

【修繕積立金、敷金・保証金等返還準備金・        】

□(4)上記各号に準ずる資産。

2 次のものは、収益とする。

(1)信託元本から発生した利益。

(2)□【賃料・             】

(3)元本又は収益のいずれか不明なものは,受託者がこれを判断する。

(4)受益者は、信託財産から経済的利益を受けることができる。

(5)【受益者氏名】は、【医療、入院、介護その他の福祉サービス利用に必要な費用の給付・生活費の給付・教育資金・      】を受けることができる。

 受益者は、事前に□【受託者・信託監督人】の書面による同意を得なければ、受益権の全部または一部を□【譲渡・質入れ・担保設定・その他の処分】することができない。ただし、受託者の書面による同意は、信託財産または受益権に金融機関による担保権が設定[8]されているときは、あらかじめ当該金融機関の承認を受ける[9]

(6)受益者は、遺留分侵害額請求があった場合は、受託者に事前に通知のうえ受益権(受益債権は金銭給付を目的とする。)を分割、併合および消滅させることができる[10]

(7)受益権は、受益権の額1円につき1個とする[11]

(8)【任意後見人の事務について同意する事項(    )・        】

信託監督人

(信託監督人)

第〇条 次の者を,信託監督人として指定する。

住 所

氏 名

職 業

2 信託監督人は,受益者及び受託者の同意を得て辞任することができる。

3 信託監督人の報酬は,以下のとおりとする。

事務処理1時間当たり 〇万円(消費税込)

(受益者代理人)

第〇条 次の者を,当初受益者の受益者代理人として指定する。

住 所

氏 名

職 業

2 受益者代理人は,受益者及び受託者の同意を得て辞任することができる。

3 受益者代理人の報酬は,以下のとおりとする。

月額〇万円(消費税込)

・民事信託では,士業のサポートなしに信託を適切に運営することはできない。

タイムチャージ方式か,月額方式かについては,事務内容に照らして判断する。

・監督される立場の受託者が,監督する立場の受益者代理人を選任できるとすることは明らかに不適切。

例⒉

第〇条(受益者代理人など)

□1

(1)本信託の受益者【氏名】の代理人は次の者とし、□【本信託の効力発生日・

受益者が指定した日・受益者に成年後見開始または成年後見監督人選任の審判が開始したとき・    】から就任する。

(2)本信託の信託監督人は次の者とし、□【本信託の効力発生日・受益者が指定した日・        】から就任する。

  【住所】【氏名】【生年月日】【職業】

(3)受益者(受益者の判断能力が喪失している場合で、受益者代理人が就任していないときは受託者)は必要がある場合、受益者代理人、信託監督人を選任することができる。

(4)受益者代理人および信託監督人の変更に伴う権利義務の承継等は、その職務に抵触しない限り、本信託の受託者と同様とする。

第〇条(受益者の代理人が行使する権利)

□1 受益者代理人が就任している場合、受益者代理人は受益者のためにその権利を代理行使する[12]

□2 受益者に民法上の成年後見人、保佐人、補助人または任意後見人が就任している場合、その者は受益者の権利のうち次の代理権および同意権を有しない。ただし、任意後見人、保佐人および補助人においては、その代理権目録、代理行為目録および同意行為目録に記載がある場合を除く[13]

□3 受託者の辞任申し出に対する同意権[14]

□4 受託者の任務終了に関する合意権[15]

□5 後任受託者の指定権[16]

□6 受益権の譲渡、質入れ、担保設定その他の処分を行う場合に、受託者に同意を求める権利。

□7 受益権の分割、併合および消滅を行う場合の受託者への通知権。

□8 受託者が、信託目的の達成のために必要な金銭の借入れを行う場合の承諾権[17]

□ 9受託者が、信託不動産に(根)抵当権、その他の担保権、用益権を(追加)設定する際の承諾権[18]

□10 受託者が、本信託契約に記載のない特別の支出が見込まれる場合に、本信託の目的に従い費用を支出するときの承諾権。

□11 受託者が、各受益者と信託事務処理費用を受益者の負担とする場合の合意権[19]

□12 受託者が、本信託契約に記載のない特別の支出が見込まれる場合に、本信託の目的に従い費用を支出するときの承諾権。

□13 受託者が、各受益者と信託事務処理費用を受益者の負担とする場合の合意権。

□14 本信託の変更に関する合意権[20]

□15 残余財産の帰属権利者が行う、清算受託者の最終計算に対する承諾権[21]

本信託の終了に関する合意権[22]

□16 信託監督人が就任している場合、受益者の意思表示に当たっては事前に信託監督人との協議を要する。

(信託の変更)

第〇条 信託法149条1項から3項の規定に代えて,信託の目的に反しないこと及び受益者の利益に適合することが明らかであるときに限り,受託者は,信託監督人の同意を得て,書面又は電磁的記録による意思表示により信託を変更することができる。

・信託法149条4項の「別段の定め」

・別段の定めとして,元の信託法の規定に信託条項を付加するのか,元の 信託法の規定と信託条項を入れ代えるのかを明確にする。

・・・・信託の変更に受益者が関わることを想定していない?元の信託法の規定に信託条項を付加する場合には,「信託法○○条のほかに」元の信託法の規定を信託条項に入れ代える場合には, 「信託法○○条に代えて」などと規定する。元の信託法の規定に信託条項を付加する場合、最終項に、その他信託法に規定する場合、を記録すれば足りるのではないかと思います。

例⒉

第〇条(信託の変更)

□1 本信託の変更は、次の各号に掲げる方法による。ただし、信託財産が金融機関に担保提供されている場合、受託者はあらかじめ当該金融機関の承認を受ける。

□(1)信託法149条1項に代えて、信託目的の範囲内において、受託者と受益者による合意[23]

□(2)その他信託法が定める場合。

□2 信託法149条のほかに、受益者が受益権を分割、併合および消滅させたときは、信託の変更とする。

【                       】

(信託の終了)

第〇条 本信託は,以下の各号に該当する事由が生じたときは終了する。

(1) 委託者〇が死亡したとき。

(2)その他信託法が定める信託終了の原因があるとき。

・本条1号は,信託法163条9号に基づく条項

・「終了事由」(信託法163条各号)と「終了の原因」(信託法164条以下も含む)との使い分け。

例⒉

第〇条(信託の終了)

□1 本信託は、次に掲げる各号のいずれかの場合に終了する。

□(1)【氏名】が亡くなったとき。

□(2)信託の目的に従って受益者と受託者の合意があったとき[24]

□(3)信託財産責任負担債務につき、期限の利益を喪失したとき[25][26][27]

□(4)受益者と受託者が、○○県弁護士会の裁判外紛争解決機関を利用したにも関わらず、和解不成立となったとき。ただし、当事者に法定代理人、保佐人、補助人または任意後見人がある場合で、その者が話し合いのあっせんに応じなかった場合を除く[28]

□(5)受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が1年間継続したとき。

□(6)受託者が欠けた場合であって、新受託者が就任しない状態が1年間継続したとき。

□(7)信託財産が無くなったとき。

□(8)その他信託法で定める事由が生じたとき。

□(9)本信託において、信託法164条1項は適用しない[29]

□(10)【                       

(帰属権利者等)

第〇条 本信託が本信託契約書〇条(信託の終了)1号に定める(委託者〇の死亡)により終了したときの残余財産の帰属すべき者を,以下のとおり指定する。

(1)別紙信託財産目録記載1の土地,同1の建物(自宅),同2の土地及び同22の建物(アパート)については,△を帰属権利者として指定する。

(2)信託財産である金銭については,□を帰属権利者として指定する。

(3)上記(1)及び(2)に記載のほか,信託終了時の信託財産につき,不動産については△を帰属権利者として指定し,金銭等その余の財産については,□を帰属権利者として指定する。

2 本信託が本信託契約第〇条(信託の終了)2号(その他信託法が定める信託終了の原因)の定めにより本信託が終了したときの残余財産の帰属すべき者として,本信託終了時の受益者を指定する。

・受益者の死亡終了とそれ以外の原因での信託終了で,残余財産の帰属先を分ける。

・民事信託においては,信託の終了時の処理は非常に重要(不動産の単独所有or不動産の共有など)。

・信託終了時の課税関係にも細心の注意を払う。例えば,小規模宅地の特定の適用範囲など。

例⒉受益者の死亡終了とそれ以外の原因での信託終了で,残余財産の帰属先を分けない例

第〇条(信託終了後の残余財産)

□(1)本信託の終了に伴う残余財産の帰属権利者は、本信託の清算結了時の【受益者・受益者の相続人・【氏名】・        】とする[30]

□(2)清算結了時に信託財産責任負担債務が存する場合で金融機関が求めるときは、合意により残余財産の帰属権利者は、当該債務を引き受ける[31]

(管轄裁判所)

第○○条 本契約に定める権利義務に関して争いが生じた場合には,○○地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

・委託者(委託者の地位を承継した者を含む。)と受託者の間で効力が生じる。

例⒉管轄裁判所を定めない例。

第〇条(契約に定めのない事項の処理)

□1 本信託の条項に定めのない事項は、信託法その他の法令に従い、受益者及び受託者の協議により処理する。

□2 受益者及び受託者のみでは協議が整わない場合で、意見の調整を図り信託の存続を希望するときは、○○県弁護士会の裁判外紛争解決手続を利用する。

□3【                】

援用方式の信託目録

東京法務局不動産部門首席登記官 横山亘登記官の見解(登記情報712号15頁以下など)

・信託目録に,「令和○年○月○日○○○○作成に係る公正証書第○条のとおり」

と記載することの是非

2 FATF金融活動作業部会対応(FATF第4次対日相互審査報告書)

https://www.fsa.go.jp/inter/etc/20210830/20210830.html

・審査報告書概要から抜粋

「国内外の信託,特に信託会社によって設立されていない,あるいは管理されていない信託の透明性に関しては,課題がある。法執行機関は,より複雑な法的構造を有する実質的支配者情報を備えるために必要な手段を有していないようであり,法人や法的取極めに関連するリスクは十分に理解されていない。」

・審査結果を受けた国の行動計画

項目:民事信託・外国信託に関する実質的支配者情報の利用・正確性確保

行動内容:信託会社に設定・管理されていない民事信託及び外国信託に関する実質的支配者情報を利用可能とし、その正確性を確保するための方策を検討し、実施する。

民事信託契約の公証実務

判例タイムズ2021年6月号~10月号

民事信託の例(後継ぎ遺贈型受益者連続信託)

信託契約の方式

・書面性は要求されておらず、公正証書による法的必要もないが・・・金融機関(信託口口座)との関係

・代理人による締結(とりわけ、委託者)

・東京地裁令和3年9月17日判決(家庭の法と裁判2021年12月第35号134頁)・・・代理人により作成された信託契約につき、金融機関から信託口口座開設を拒絶されたこと等を理由とする、作成に関与した司法書士に対する損害賠償請求訴訟

・公正証書作成の場合の例外的取扱い

・「家族信託実務ガイド」第23号22頁以下

次男

受託者について

・停止条件付き信託契約

以下のような条項はどうか?

・本信託は、委託者が精神上の障害により後見相当となったときに開始する。

・・・難しい。

登記手続能力に注意?

・「本信託は、医師により、委託者が精神上の障害により保佐又は補助相当となったと診断されたときに開始する。」・・・難しい。

・「本信託は、医師2名以上により、委託者が精神上の障害により保佐又は補助相当となったと診断され、2通目の診断書が作成されたときに開始する。」

補助→保佐→後見とのグレードとの関係・・・難しい。後見でも難しい

信託目的と条項との関係

 利害対立の諸相・受益者の生活の安定と、財産の承継

・遺言代用信託が遺留分を侵害しているか否かについては、受益権割合によって判断する(多数説)と東京地裁平成30年9月12日判決(金融法務事情2104号78頁)。

目的条項の機能

・受託者が信託事務を行う際の指針

・受託者が信託財産についてある行為をしようとする場合に、それが権限内の行為か否、ある結果につき受託者の善管注意義務違反があったか否かを判断する基準

・信託終了の判断基準(163条1号)

・信託の変更(149条2項)・追加信託の基準など

以下のような条項で大丈夫?

「受託者は、信託不動産の瑕疵により生じた損害につき、賠償の責を負わない。」

「受託者は、信託不動産の瑕疵担保責任を免れるものとする。」・・・民法717条、民法562条など

条項例についての提言

ア 「受託者が、本信託の期間中及び本信託終了後、信託不動産の瑕疵に関して固有財産から支出したとき、及び信託不動産の瑕疵により生じた損害の責任を負い第三者に賠償したときは、委託者に対して求償することができる。」(判例タイムズ1483号31頁)

あるいは、

「・・・第三者に賠償したときは、受託者に任務懈怠がある場合を除き、委託者に対して求償することができる。」

後継ぎ遺贈型受益者連続信託(91条)

・ 受益権を「承継」する旨規定する条項

・期間制限に注意(ペット信託など)

民事信託と任意後見の比較

・信託:財産についての管理、処分

・任意後見:財産の管理・処分+身上監護

・老人ホーム入居契約、医療契約等の場合に違いが出る

・新たにローンを組む場合には信託の方が適している・・・任意後見契約の代理権目録に記録可能。金融機関と事前調整出来るのでは?

・信託の方が裁量の幅が大きい

民事信託と任意後見の併用の有用性

・追加信託の際にも委託者に意思能力必要→信託単体だと、委託者の判断能力が低下すると信託の変更・追加信託等はできない・・・信託法146条との関係と、根拠規定が分かりませんでした。

・追加信託時に医師2名以上の診断書を取って保管しておく・・・公正証書作成と比較して、どのような意味があるのか分かりませんでした。金融機関との関係も考える必要があるように思います。

(3)任意後見契約と併用(任意後見契約の代理権目録に、「信託契約における受益権の行使に関する事項」、「信託契約の変更に関する事項」のように明記する)・・・代理権目録と、信託行為との整合性を予めチェックしたいと思います。

自動送金について

・併用の場合の留意点

・受託者(とりわけ、帰属権利者でもある場合)が任意後見人を兼ねることができるか・・・原則として可能と考えます。

・任意後見監督人の役割(現在の家庭裁判所実務は主に横領防止)

・親族の中からの任意後見人の確保

・信託+法定後見の場合の東京家裁の運用

・信託監督人・受益者代理人の活用・・・・・個別具体的な運用が望ましいとは思いますが、家庭裁判所の受け入れ容量もあるので、当事者で予め決められるところは、たとえ後から受け入れられなくても決めておいた方が良いと思います。

金融機関での信託契約書のチェックポイント

• 自己執行義務

• 善管注意義務・忠実義務の免除

• 信託事務や信託財産に関する帳簿等の作成の免除

• 信託終了時の最終計算の承認を求める義務の免除

・受託者の辞任、解任の規定

・信託法28条(前提:自己執行義務)

・信託法29条2項ただし書、信託法31条1項、32条1項、信託法31条2項、32条2項

・信託法34条2項

・信託法184条1項、信託法184条

・不可条文例(受託者の辞任) 受託者の任務は、下記の事由に該当したときに終了する。

(1)信託法第56条1項各号に掲げる事由

(2)後継受託者の同意を得て辞任したとき

 信託法57条1項本文では、受託者は、委託者及び受益者の同意を得て辞任できる旨規定されているが、信託契約にこれとは異なる規定がある場合、受託者は、委託者及び受益者の同意を得た場合には辞任できず、後継受託者の同意を得た場合にのみ辞任できる(=信託法の原則的な規定を排除する趣旨)のか、それとも、委託者及び受益者の同意を得た場合だけでなく、後継受託者の同意を得た場合にも辞任できる(=信託法の規定に加えて事由を付加する趣旨)のかが不明確である。補足文言の追加を検討する必要あり。・・・その他信託法で定める場合、と追加すれば良いのではないかと思います。受託者の解任についても同じ。

東京地裁平成30年10月23日判決金融法務事情2122号

・受益者連続型の信託契約において、受益者死亡による信託終了の定めがない場合又は信託期間の定めがない場合に、半永続的に信託が継続することにならないか。・・・信託法164条1項で終了などで終了可能だと考えられます。

チェック内容

・遺留分を侵害している場合、取り扱わない金融機関もある。・・・金融機関の自由なので、依頼者が望めば変更。

 金融機関が、預金者が高齢等により意思能力を喪失したことを知ることが出来る場合は支払停止の措置・・・窓口業務の場合、郵便物が届かない場合以外で、どのようなタイミングで知ることが出来るのか、教えて欲しいと感じました。預金者の生活に必須な公共料金等については、例外的な対応は可能な金融機関もあるとのことですが、棲み分ける根拠は何なのだろうと感じます。


[1]信託法28条1項1号、35条

[2] 信託法29条、30条。

[3]「倒産隔離」については、大垣尚司ほか編『民事信託の理論と実務』2016日本加除出版P255注18の見解を採り使用しない。貸金庫と銀行預金を例として説明するものとして、桐生幸之介『不動産の信託による都市創生』2017実務出版P231

[4] 信託法34条。『家庭の法と裁判』35号、2021年2月日本加除出版P141、P142「【1】受託者を預金者とし、【2】外観上、当該受託者個人の名義と区別できる表示が付され、【3】当該金融機関において、内部システム上、当該受託者の個人名義の預金口座(固有財産に属する預金口座に係るCIF(Customer Information File。顧客ファイル)コードとは別異のCIFコードが備えられる、内部手続上、当該預金口座とは異なる取扱いがされる旨の規定が設けられるなど、当該預金口座から分離独立した取扱いがされる預金口座)。」

[5] 信託法56条1項7号。

[6]信託法26条但し書

[7] 信託法91条の読み方として、道垣内弘人『信託法』2017有斐閣P385、道垣内弘人『条解信託法』2017弘文堂P476、477、法制執務委員会『ワークブック法制執務』2007ぎょうせいP642

[8] 「信託受益権担保」「質権と国税との優先関係」『金融機関の法務対策5000講Ⅳ』2017きんざい

[9] 不動産所有権について、伊藤眞ほか『不動産担保 下』2010金融財政事情研究会P131~。改正民法466条から468条まで。

[10]債権・動産担保について、伊藤眞ほか『債権・動産担保』2020金融財政事情研究会P78~85。株式会社の株式について会社法180条から182条の6、183条、184条。

[11] 村松秀樹他『概説新信託法』2008金融財政事情研究会P255。道垣内弘人『信託法』2017有斐閣P351。

[12] 信託法139条。

[13] 任意後見契約に関する法律第2条1項1号。成年後見制度の利用の促進に関する法律11条1項5号。民法13条、17条。平成28年12月20日第6回成年後見制度利用促進委員会議事次第P7。成年後見制度利用促進基本計画2017年、3成年後見制度の利用の促進に向けて総合的かつ計画的に講ずべき施策(4)制度の利用促進に向けて取り組むべきその他の事項①任意後見等の利用促進。

[14] 信託法57条1項但し書。委託者および受託者が本信託のために定めた条項であり、法定後見人および代理権目録に記載のない任意後見人の権限は及ばないと考えられる。

[15] 信託法56条1項7号。

[16] 信託法62条2項の新受託者への就任催告を行うことは出来る(信託法92条1項16号)。

[17] 受託者の行う借入れに対して差し止め請求することは可能(信託法44条、92条1項11号)。

[18] 受託者の行う担保設定に対して差し止め請求することは可能(信託法44条、92条1項11号)。

[19] 信託法48条5項。

[20] 合意が可能な見解として、遠藤英嗣『家族信託契約』P32

[21] (清算中の)信託財産の現状報告請求、書類の閲覧請求は可能(信託法92条1項7号、8号)。

[22] 信託法166条の利害関係人には、法定後見人および代理権目録に記載のない任意後見にも含まれると考える。

[23] 信託法149条1項1号。

[24] 信託法164条3項。

[25] 参考改正民法542条。

[26] 渋谷陽一郎『信託目録の理論と実務』2015民事法研究会P393~

[27] 中村克利ほか「不動産信託受益権質権実行に関する法律と実務」『事業再生と債権管理』2010きんざいP29~P38

[28] 信託法163条1項9号、166条、信託業法85条の7。

[29] 信託法164条1項但し書。

[30] 信託法182条、183条。

[31] 信託法181条。

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