渋谷陽一郎『Q&A 家族信託大全』第12章民事信託の補充論点と今後の活用

渋谷陽一郎『Q&A 家族信託大全』2023年、日本法令、第12章民事信託の補充論点と今後の活用。

Q958、遺言代用信託と成年後見人の権限の限界、現に、信託設定の後に、高齢者本人である委託者兼受益者の法定代理人として就任した後見人が、信託終了や受託者解任の意思表示を行うことで、本人の全体財産の管理を可能とするような試みがあると聞く(委託者兼受益者の後見人にとっては、信託の存在が、本人のための財産管理を計画し、遂行するうえで邪魔になると感じられる場合があるという)。について・・・後見人が委託者兼受益者(本人)の法定代理人として各種権限を行使することは、本人の身上監護・財産管理のために必要であれば、行使する義務があると考えます。ただし、権限行使の際は、受託者との話し合いや、家庭裁判所への事前の情報提供と意思決定判断の根拠を示す過程を経て行われるのが委託者兼受益者(本人)のためになるのではないかと思います。

Q959、成年後見人による信託変更権限(その1)、現に高齢で認知症である委託者兼受益者の生活支援を優先し、現在の弱者保護を図るべきか、あるいは、将来実現されるべき財産の承継の確実性を図るべきか、双方の目的の間で利益相反が生じている可能性もある。について・・・現に高齢で認知症である委託者兼受益者の生活支援が優先になると考えます(民法858条)。利益相反が生じる余地があるのか、信託行為の条項によるのかもしれませんが、分かりませんでした。

Q960、残余財産受益者の追加と受益権割合の変更であり、代理権の濫用行為になると考えられるので、成年後見人による信託変更行為は、無効となるという見解がある。しかしながら、遺言と信託は異なる制度なので、最終的な解釈がどうなるか、現段階ではよくわからないところが実情であろう。について・・・考え方としては、信託行為に信託変更・終了に関する信託行為の別段の定めはない、と本書では記載されていることから、受託者が合意するならば、信託の変更を行うことが可能となります(信託法149条1項)。また、信託の目的に反しないことが明らかである場合、成年後見人は単独で、信託の変更を行うことが出来ることになります(信託法149条2項)。

 論点としては、信託の目的に反しないことが明らか、という判断は、信託行為全体から行うことから難しい場面があることだと思います。受託者が辞任する可能性もあるのではないかと思います。信託の変更に関して、家庭裁判所が判断できるのか、委託者が契約当事者となって定めた残余財産受益者の受益割合を、1人から3人に変更して1:1:1に変更する合理的な理由があるのか、裁判所の判断になる可能性が出てくるのではないか、その場合の金銭面、時間、精神的コストと比較して他の方法を探ることは出来ないのか、などを考えて判断・決定していくことになると思います。

Q965、受益者代理人が保護すべき受益者の範囲、残余財産受益者となるべき者として指定された者の場合、信託終了の以前から受益者として監督機能を有していると言われるが、残余財産受益者となるべき者として指定された者と、信託期中の第二次、第三次受益者となるべき者として指定された者との違いは何かなどの疑問の声もあり、必ずしも議論が安定しているというわけではないことに注意しておきたい。について・・・委託者の死亡の時に受益権を取得する旨の定めのある信託等の特例(信託法90条1項)では、委託者(兼受益者)の死亡の時までは、受益権を取得していないので、信託期中の第二次、第三受受益者となるべき者として指定された者は、監督機能を持っていないと考えます。

Q966、信託監督人が保護すべき受益者の範囲、について。・・・解説は、信託法の公平義務の範囲内で、未存在の受益者の利益を図ることができる、という記載であり、信託法の条文の範囲内であると考えます。

Q972、受託者の権限濫用、不正行為等、受託者の解任に関しては、信託財産に利害関係を有する受託者が帰属権利者に指定されているような場合どうなるのか(信託条項の定め次第では帰属権利者たる地位だけ残るのか)、について・・・受託者を解任するかどうかと帰属権利者たる地位に関しては別なので、信託条項に別段の定めがなければ、帰属権利者たる地位だけ残るのが原則だと考えます。

 解任により損害が生じたといえるのか、について・・・やむを得ない事由がある場合(信託法58条2項但し書き)とはどのような場合なのかを考えて判断することになると考えます。例えば受託者が病気で信託事務を処理することが出来ない場合等。受託者が帰属権利者に指定されているような場合に解任することは、不利な時期の解任(信託法58条2項本文)には該当しないと考えます。受託者の地位と残余財産の帰属権利者の地位は異なるからです。

 信託行為の定めで信託監督人に対しても受託者解任権を付与することができるのか、について・・・消極に解します(金森健一『民事信託の別段の定め 実務の理論と条項例』2022、日本加除出版、P205)。

Q976、受益権差押の禁止、P1183の受益者は受益権の誤植だと思います。民事信託分野において、いわゆる民事信託による福祉型信託の高齢者、認知症患者、障碍者に対する生活支援のための受益権は、帰属上・行使上の一身専属兼なのか否か、一身専属権なのか否か、未だ議論が深められていない。について・・・受益権に対する差押えは、民事執行法上の債権差押え(民事執行法143条~)と同様に行われ、差押禁止財産の範囲で制限される(民事執行法152条)という考え方がしっくりきます。

Q984、日本における撤回可能自己信託の可能性、論点1は、米国における信託宣言による撤回可能信託は、当初、委託者兼受託者兼受益者であるが、日本の信託法上、委託者兼受託者兼受益者とすると1年で信託が終了してしまうー中略ー。そこで、遺言代用信託の第二次受益権が定められ、それを委託者が取得していないことをもって、当初受益権とは別の受益権が存在するものと考えて(受益権の全部を有するわけではないと考えて)、信託法163条2号の適用はないと考えることができるのか。について・・・どのような考え方で適用があると考えるのか分からないので、適用がないと考えることは可能だと考えます。

 論点2は、第二次受益者に対して監視・監督権を付与することで、信託法163条2号を前提とする受託者と受益者の信頼関係および監督関係という信託の構造が認められると考えて、1年で終了しない状態であるということができるのか。について・・・1年で終了する場合の考え方が分からないので、1年で終了しない状態であるということも可能だと考えます。

 3つ目の論点として、自己信託の受託者を第三者に変える受託者変更は、信託法上可能なのか。例えば、不動産登記手続における受託者変更手続はどうなるのか。について・・・信託法上、禁止されていないので可能だと考えます。不動産登記手続における受託者変更手続は、新受託者と、前受託者・任意後見人、補助人、保佐人、成年後見人などの共同申請により行われると考えます。

経済産業省「スタートアップ育成に向けた政府の取組スタートアップの力で社会課題解決と経済成長を加速する」

経済産業省「スタートアップ育成に向けた政府の取組スタートアップの力で社会課題解決と経済成長を加速する」

2024年9月

https://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/index.html

・経済産業省が現在考えるスタートアップの定義

スタートアップとは① スタートアップとは、一般に、以下のような企業をいう。

1. 新しい企業であって、

2. 新しい技術やビジネスモデル(イノベーション)を有し、

3. 急成長を目指す企業

エンジェル税制

https://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/angeltax/index.html

・経済金融活性化特別地区によるエンジェル税制の特例

名護市HP

https://www.city.nago.okinawa.jp/kurashi/2021052700036

税の種類

所得税(特区版エンジェル税制)

根 拠

沖振法第57条の2、租税特別措置法第37条の13・第37条の13の2・第41条の19

租税特別措置法施行令第25条の12、所得税法第78条

対象法人

沖縄県知事の指定を受けた対象法人(指定会社)へ投資を行った個人に対する特例措置

※エンジェル税制に係る「指定」を受けるためには、まず「事業認定」を受けることが必要です。

内容

1.指定会社へ投資した年(1と2の選択制)

 1 「投資額-2,000円」を総所得金額から控除

 2 投資額を他の株式譲渡益から控除

2.指定会社の株式を売却した年

 売却により生じた損失を、翌年以降3年にわたって、他の株式譲渡益と通算(相殺)可能

※通常のエンジェル税制の要件を緩和(研究者等人数要件や赤字要件なし)

【参考】外形標準課税(減資対応)の制度変更について

外形標準課税の対象外となっている中小企業やスタートアップ(資本金1億円以下)について、引き続き対象外(新設法人も、事業年度末日時点で資本金1億円以下であれば対象外)。

ただし、当該事業年度の前事業年度に外形標準課税の対象であった法人(資本金1億円超)であって、当該事業年度に資本金1億円以下で、資本金と資本剰余金の合計額が10億円を超えるものは、外形標準課税の対象となる(令和7年4月1日施行予定)。

対象外

地域を支える中小企業が成長するために、自己資本の充実・資本蓄積の結果、資本剰余金が増加した場合。

「スタートアップの創業等のための融資・保証制度」

スタートアップ創出促進保証

「未公開株式の公正価値評価の促進」

・投資事業有限責任組合会計規則について

https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/keizaihousei/kumiaihou.html

インパクトコンソーシアム

窓口:EY新日本有限責任監査法人(事務局:金融庁 総合政策局総合政策課)(共同事務局:経済産業省 経済産業政策局新規事業創造推進室)

ロールモデルとなるスタートアップの表彰

J-Startup

https://www.j-startup.go.jp/?lang=ja

第4次選定から総務省、文科省、厚労省、農水省、国交省、環境省が推薦する有識者及びインパクト投資・インパクトスタートアップ分野の有識者を委員に追加し、新たに50社を選定。各種補助金等における優遇、民間企業「J-Startup Supporters」との連携支援などの取組を実施。

・・・あえて選定されない選択肢もあるのかなと思いました。選定された後、資金調達など長期に渡る支援を受けていなければ、選定を取り下げてもらう個とも出来るのか、分かりませんでした。

J-Startup Impact  インパクトスタートアップ支援プログラム

https://www.meti.go.jp/press/2023/10/20231006008/20231006008.html

外部有識者の推薦などに基づき、ロールモデルとなることが期待されるインパクトスタートアップ(社会的・環境的課題の解決や新たなビジョンの実現と、持続的な経済成長をともに目指す企業)を「J-Startup Impact」企業として選定し、官民連携で集中支援するプログラム。

J-Startup 地域版スタートアップ育成支援プログラム

https://www.j-startup.go.jp/local_3

J-startup OKINAWA

https://www.ogb.go.jp/keisan/policy_list/policy_01/startup

EF Polymer株式会社

https://ja.efpolymer.com

HelloWorld株式会社

株式会社Alpaca.Lab

https://alpacalab.jp

LiLz株式会社

https://lilz.jp

株式会社Payke

https://payke.co.jp

スタートアップ支援に積極的な地方自治体と連携し、政府の施策での加点や、J-Startupサポーターズからの支援等の各種施策を通じ、東京に集中するヒト・モノ・カネを地方へ流入させることで、地方でのスタートアップの成長の促進とエコシステムの拡大を目指す。

新たな事業の創出及び産業への投資を促進するための産業競争力強化法等(※)の一部を改正する法律

2024年9月2日

https://www.meti.go.jp/press/2024/09/20240902001/20240902001.html

税理士法人における社員の資格変更

税理士法人の社員の資格変更

社員A

代表社員 B

と社員2名が登記されている税理士法人。社員Aも税理士法人を代表することが出来るようにするために。理由は社員Aが従たる事務所における唯一の社員であるため、従たる事務所の近くで金融機関口座を開設したいなど。

税理士法人を代表する社員

税理士法

https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC1000000237#Mp-Ch_5_2

48条の21(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び会社法の準用等)において準用する会社法599条。

会社法

https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086#Mp-Pa_3-Ch_3-Se_2

(持分会社の代表)

第五百九十九条 業務を執行する社員は、持分会社を代表する。ただし、他に持分会社を代表する社員その他持分会社を代表する者を定めた場合は、この限りでない。

2 前項本文の業務を執行する社員が二人以上ある場合には、業務を執行する社員は、各自、持分会社を代表する。

3 持分会社は、定款又は定款の定めに基づく社員の互選によって、業務を執行する社員の中から持分会社を代表する社員を定めることができる。

4 持分会社を代表する社員は、持分会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。

5 前項の権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。

・税理士法人の社員は、原則として、全社員が代表です。しかし、社員Aは現在、会社法599条1項但し書きにより、代表権を制限されている状態といえます。社員Aに税理士法人の代表権を持たせるためには、制限されている代表権を解くため、代表社員Bを資格変更により社員Bとする登記申請を行うための準備が必要となります。

・総社員の同意書(今回は定款で代表社員を定めていたため、定款変更に係る税理士法48条13)。

・社員Aの印鑑届を行う場合は印鑑届出書・印鑑カード交付申請書など(組合等登記令1条、別表記載により税理士法人の登記について組合等登記令を適用。組合等登記令25条で準用されている商業登記法9条、9条の4など。)。

・登録免許税・・・非課税(課税根拠が記載されている法令がないため。)。

第26回九州ブロック会員研修会本人確認・意思確認の再考 ~デジタル時代における人・物・意思の確認~

第26回九州ブロック会員研修会

本人確認・意思確認の再考 ~デジタル時代における人・物・意思の確認~

社会から司法書士に期待される本人確認・意思確認 ―過去から未来への展望石田京子 早稲田大学大学院法務研究科教授

  1. 社会と司法書士、その変遷

(1)司法書士制度の歴史概観➔制度的建付けとしては、明治5年から司法制度を支える専門家。

歴史概観

明治5年(1872年)司法職務定制第10章「証書人・代書人・代言人職制」

「各区代書人ヲ置キ各人民ノ訴状ヲ調成シテ其訴訟ノ遺漏無カラシム」(42条1項)後の公証人、弁護士と共に、司法を担う職務として代書人が位置付けられる。

明治19年(1886年)旧登記法制定「登記事務ハ治安裁判所ニ於テ之ヲ取扱フモノトス」

大正8年(1919年)司法代書人法司法代書人と行政代書人の分化。司法代書人は地方裁判所の所属とされ、所属裁判所の認可を受けて職務を行っていた。

代書人(1872年)⇒司法代書人(1919年)⇒司法書士(1935年)

当初は「代書」人・司法「代書」人。1919年司法代書人法により、初めて法的資格としての位置づけが与えられる。当時は裁判所所属。「裁判所に提出すべき書類」の代書業務。(1887年登記法制定)

昭和10年(1935年)司法書士法司法代書人から司法書士へ

戦後の司法書士(1950年)から司法制度改革以前(2000年頃)

昭和25年(1950年)司法書士法全面改正

司法制度改革以降(2002年以降)

平成14年(2002年)司法書士法改正により、簡裁代理権が業務に。

令和元年(2019年)司法書士法改正により、第1条に使命規定が置かれ、懲戒権者が法務大臣に。

(2)社会と司法書士の関係変化➔法改正を重ねるごとに、社会における位置づけは変化していった。

(3)「代書人」から「専門家」へ

2.専門職倫理としての「司法書士行為規範」

(1)プロフェッションとは何か?➔単なる「職業」ではない。

「学識(科学または高度の知識)に裏付けられ、それ自身一定の基礎理論をもった特殊な技能を、特殊な教育または訓練によって習得し、それに基づいて、不特定多数の市民の中から任意に提示された個々の依頼者の具体的要求に応じて、具体的奉仕活動をおこない、よって社会全体の利益のために尽くす職業」

(2)司法書士のプロフェッション性➔その法的基盤、職業倫理

理念を基にするとすれば、法専門職は社会と契約し、公益的役割を担う引き換えとして、一定のマーケットについて公的に独占を認められている。

(3)専門職倫理としての「司法書士行為規範」➔各章冒頭で書かれている「基本姿勢」に注目

「司法書士行為規範」は直接司法書士を法的には拘束しない。

司法書士の行動を規律する法源:司法書士法、所属する司法書士会会則等。

懲戒事由(司法書士法47条、48条):「司法書士がこの法律又はこの法律に基づく命令に違反したときは、法務大臣は、当該司法書士に対し、次に掲げる処分をすることができる。」

ただし、「職責」(司法書士法2条)としての品位保持義務の解釈に用いることは可能。

依頼者が司法書士に対し、債務不履行に基づく損害賠償請求など、民事上の請求を行い、これが司法書士の専門職としての行為規範に影響を与える可能性もある。

•各業務分野における基本姿勢

不動産登記業務・・・第43条司法書士は、不動産登記業務を行うにあたり、登記の原因となる事実又は法律行為について調査及び確認をすることにより登記の真正を担保し、もって紛争の発生を予防する。

商業・法人登記業務・・・第49条司法書士は、商業・法人登記業務を行うにあたり、登記原因及び添付書面等の調査及び確認をすることにより真正な登記の実現に努め、もって取引の安全と商業・法人登記制度の信頼の確保に寄与する。

供託業務・・・第52条司法書士は、供託業務を行うにあたり、実体上の権利関係を的確に把握し、登記手続、裁判手続その他の関連する手続を踏まえて供託の目的を達成させる。

裁判業務等・・・第54条司法書士は、裁判の公正及び適正手続の実現に寄与する。

成年後見業務等・・・第69条司法書士は、成年後見業務等を行う場合には、本人の意思を尊重し、その心身の状態並びに生活及び財産の状況(以下「心身の状態等」という。)に配慮する。

財産管理業務・・・第74条司法書士は、他人の財産を管理する場合には、自己の財産又は管理する他者の財産と判然区別することが可能な方法で各別に保管するなど、善良な管理者の注意をもって行う。

民事信託支援業務・・・第80条司法書士は、民事信託支援業務を受任したときは、信託目的の達成に向けて、委託者、受託者、受益者その他信託関係人の知識、経験、財産の状況等に配慮して業務を行う。

・軸となる価値

誠実義務:委任契約を超えて「誠実に」業務を行う義務。では誰に対して?どのように振る舞うことが専門職として誠実

守秘義務:法専門職が依頼者のために適切な仕事をするための義務。いかなる時に守秘義務が発生し、どのような場合に解除が認められるのか。

利益相反回避義務:紛争性のある事件における規律。ある依頼者の秘密を守り、他方の依頼者のために誠実に業務を行うことができるか。一般の利用者はそのようなふるまいをどのように考えるか。(では、紛争性のある案件とそうでない案件を扱う法専門職において、どのように考えるか。)

法曹倫理(弁護士倫理)で論じられる問題の多くは、弁護士以外の日本の法専門職にも当てはまるものが多い。

一方で、いわゆる隣接職には、その特有の職務における行為規範も存在する。(近年の本人確認義務・意思確認義務の強調などは司法書士の特徴であろう。)

現実に法専門職を規律する具体的ルールは、時代と共に変化する。

10年前に問題なかった実務の態様(あるいは、みんながやっていたこと、「この程度で良いよね」)が、今は問題となる。場合によっては、懲戒の対象となる。

国民の消費者意識、法専門職の存在の顕在化、日本社会の国際化、法専門職内部(ひとつの専門職、または複数の専門職間において)での競争の激化。

法律専門職であり続けようとするならば、個人としても、集団としても、これらの動向に敏感であることは不可欠。

・・・法令に基づかない多数決による人や意見の廃除は、出来ないと思います。

3.本人確認・意思確認の過去・現在・これから

(1)本人確認と意思確認➔いずれも、今日の文脈では司法書士としての「誠実義務」に基づく。

犯罪収益移転防止法の規律を除くと、どうか?どうして司法書士には、依頼者のなりすまし等を防ぐ義務があるのか?

・・・不動産取引を例にすると、不動産登記法177条だと考えます。物件変動の対抗要件として登記が必要→登記申請代理人として、登記後に紛争が起こることは防ぎたい→登記が確実にされる必要→依頼者のなりすまし等を防ぐ必要→本人確認が必要。

(2)なぜ本人確認「義務」、意思確認「義務」なのか➔「代書」モデルから「専門家」モデル、あるいは、「形式的処理モデル」から「実質的処理」モデルへ

(3)司法書士に対する期待は本人確認義務、意思確認義務をどう変えていくか➔令和2年最高裁第二小法廷判決の草野判事の補足意見をどう捉えるか?

最高裁第二小法廷令和2年3月6日判決

「司法書士法は,登記等に関する手続の適正かつ円滑な実施に資することにより国民の権利の保護に寄与することを目的として(1条),登記等に関する手続の代理を業とする者として司法書士に登記等に関する業務を原則として独占させるとともに(3条1項,73条1項),司法書士に対し,当該業務に関する法令及び実務に精通して,公正かつ誠実に業務を行わなければならないものとし(2条),登記等に関する手続の専門家として公益的な責務を負わせている。

このような司法書士の職責及び職務の性質と,不動産に関する権利の公示と取引の安全を図る不動産登記制度の目的(不動産登記法1条)に照らすと,登記申請等の委任を受けた司法書士は,その委任者との関係において,当該委任に基づき,当該登記申請に用いるべき書面相互の整合性を形式的に確認するなどの義務を負うのみならず,当該登記申請に係る登記が不動産に関する実体的権利に合致したものとなるよう,上記の確認等の過程において,当該登記申請がその申請人となるべき者以外の者による申請であること等を疑うべき相当な事由が存在する場合には,上記事由についての注意喚起を始めとする適切な措置をとるべき義務を負うことがあるものと解される。」

最高裁第二小法廷令和2年3月6日判決

委任者に対する義務

①申請人となるべき者以外の者による登記申請であること等を「疑うべき相当な事由が存在する場合」には,②契約解釈から導かれる「適切な措置」をとる義務が認められうる。

第三者に対する義務

委任者以外の第三者が当該登記に係る権利の得喪又は移転について重要かつ客観的な利害を有し,このことが当該司法書士に認識可能な場合において,当該第三者が当該司法書士から一定の注意喚起等を受けられるという正当な期待を有しているときは,当該第三者に対しても,上記のような注意喚起を始めとする適切な措置をとるべき義務を負い,これを果たさなければ不法行為法上の責任を問われることがあるというべき。

草野耕一裁判官の補足意見

「「職業的専門家」とは長年の研さんによって習得した専門的知見を有償で提供することによって生計を営んでいる者のことであり,「依頼者」とは職業的専門家と契約を締結して同人から専門的知見を提供する旨の約束を取り付けた者のことである。」

(依頼者以外の者に対して知見の提供を怠ったことを理由として法的責任を負う、特段の事情として以下を挙げている)

〔1〕法的には依頼者でないにもかかわらず職業的専門家から知見の提供を受け得ると真摯に期待している者がいること。

〔2〕その者がそのような期待を抱くことに正当事由が認められること。

〔3〕その者に対して職業的専門家が知見を提供することに対して真の依頼者(もしいれば)が明示的又は黙示的に同意を与えていること。

•プロフェッションとしての司法書士という地位を確立すれば、「第三者からの一般的な期待」は高まる方向に。

•(草野意見)「上記の場合,職業的専門家たる者は,その者の期待どおりに知見を提供するか,しからざれば,時機を失することなくその者に対して自分にはそれを行う意思がない旨を告知する法律上の義務を負っていると解すべきである。」

自分が依頼者に対してどのような義務を負っていて、関係者がどのような期待をする可能性があるかを適切に予測し、適切な対応をすることが求められる。

(相続登記の義務化を受けて、個別に様々な場面を想定して、どのような説明義務・告知義務があるかを検討する必要がある。)

→例えば、相続人申告登記の申出制度があること・過料が科される要件の告知。

4.まとめ:この先の司法書士に求められるもの

(1)日本社会の変化からの要請:技術革新と価値の多様化にどのように対応するか

•「依頼者に対する義務」については、専門家としての委任契約に基づく注意義務。(業務が重なる部分については、弁護士と同水準。

・専門職倫理の側面:既存の法専門職倫理に追加すべき行為規範や見直すべき行為規範がないか?

→行為規範は、見直し・追加のみで少なくする・削除する方向の条項はないのか、気になります。

・リーガルサービスを独占していることの裏返しとしての、アクセスを提供(促進)する責任。技術を使えない個人が取り残されてはいけない。

→同意です。

・依頼者に対する誠実義務とIT化:どこまで効率化してよいのか。「依頼者に寄り添うこと」の重要性は変わらないのではないか。

→寄り添う、が時間であれば、事務の効率化が進むほど寄り添う時間を取れることになるので、事務所内部の効率化できる部分は可能な限り進める、依頼者間では、依頼者別に対応することになるのではないかと思います。

CCBEコア原則憲章

https://www.ccbe.eu/documents/publications

(2)グローバルな変化:司法書士は国際的な法曹倫理の動向に無関心でいられるか

ODR Tyler Technologies

https://www.tylertech.com

一般の人々がこれらのサービスを使い始めるとき。

(3)司法書士が法専門職であり続けるために

日本司法書士会連合会 司法書士行為規範

https://www.shiho-shoshi.or.jp/association/intro/reguration

近時の法改正及びデジタル化から見る司法書士の本人確認

日司連常任理事隂山克典

犯罪収益移転防止法改正の経緯

平成2年4月FATF「40の勧告」

平成2年6月大蔵省から金融機関へ通達

平成4年7月麻薬特例法の施行

平成6年6月第一次対日相互審査

平成8年6月FATF「40の勧告」改訂

平成10年8月第二次対日相互審査

平成12年2月組織的犯罪処罰法の施行

平成13年10月FATF「8の特別勧告」

平成14年7月テロ資金提供処罰法・改正組織的犯罪処罰法の施行

平成15年1月金融機関等本人確認法の施行

平成15年6月FATF「40の勧告」再改訂

平成20年3月犯罪収益移転防止法の完全施行

平成20年10月第三次対日相互審査

平成24年2月FATF「新40の勧告」

平成25年4月改正犯罪収益移転防止法の完全施行

平成26年6月日本に関するFATF声明公表

平成26年11月改正犯罪収益移転防止法の成立

令和3年8月第四次対日相互審査

令和3年8月マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策に関する行動計画の公表

令和4年12月犯罪収益移転防止法の改正

令和6年4月犯罪収益移転防止法の施行

財務省「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策に関する行動計画(2024-2026年度)」を策定しました(令和6年4月17日)

https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/councils/aml_cft_policy/20240417.html

犯罪収益移転防止法により司法書士等に課せられている主な義務

法4条、本人特定事項、取引を行う目的、(自然人)職業、(法人)事業の内容、実質的支配者の確認

法6条、取引時確認のために取った措置に関する記録の作成等(確認記録は特定取引等に係る契約が終了した日その他の主務省令で定める日から、7年間保存)

法7条、顧客等の確認記録を検索するための事項、当該特定受任行為の代理等を行った期日及び内容その他の主務省令で定める事項に関する記録の作成(取引記録等は、当該取引又は特定受任行為の代理等の行われた日から7年間保存)

法11条 取引時確認、取引記録等の保存、疑わしい取引の届出等の措置を的確に行うため、当該取引時確認をした事項に係る情報を最新の内容に保つための措置を講ずること。

司法書士の特定業務

別表(第四条関係)

一 宅地又は建物の売買に関する行為又は手続

・・・宅地又は建物の売買による所有権移転登記手続など。

二 会社の設立又は合併に関する行為又は手続その他の政令で定める会社の組織、運営又は管理に関する行為又は手続(会社以外の法人、組合又は信託であって政令で定めるものに係るこれらに相当するものとして政令で定める行為又は手続を含む。)

・・・株式会社の設立、組織変更、合併、会社分割、株式交換、株式移転、定款の変更、取締役若しくは執行役の選任又は代表取締役若しくは代表執行役の選定など。持分会社の設立、組織変更、合併、合同会社にあっては会社分割、定款の変更又は業務執行社員若しくは代表社員の選任など。一般社団法人又は一般財団法人の設立、合併、定款の変更、理事の選任又は代表理事の選定など。

三 現金、預金、有価証券その他の財産の管理又は処分(前二号に該当するものを除く。)

・・・財産管理業務など。

依頼の主体確認の対象者

自然人である顧客等(依頼者)から依頼を受ける場合・・・顧客等(依頼者)(法4条1項)

自然人である顧客等(依頼者)の依頼を代理人等から受ける場合・・・顧客等(依頼者)+ 代表者等※(代理人等)(法4条4項)

法人である顧客等(依頼法人)から依頼を受ける場合・・・顧客等(依頼法人)+ 代表者等※(代表取締役等)(法4条4項)

国等、人格のない社団又は財団から依頼を受ける場合・・・代表者等(担当者等)(法4条5項)

本邦内に住居を有しない短期在留者(観光者等)であって、旅券等の記載によって当該外国人の属する国における住居を確認することができないもの(一定の取引を行う場合に限る。)・・・氏名、生年月日が記載のある旅券、乗員手帳、船舶観光上陸許可書。

本邦に在留していない外国人及び外国に本店又は主たる事務所を有する法人・・・日本国政府の承認した外国政府又は国際機関の発行した書類等であって、本人特定事項の記載のあるもの。

 自然人である顧客等の本人特定事項及び確認の方法・・・マイナンバーカード対面確認アプリ。

【在留カード等に係る本人確認書類の整理】

•在留カード、特別永住者証明書…交付時16歳未満の書類には顔写真が表示されない。

•精神障害者保健福祉手帳…やむを得ない場合は顔写真が表示されない。

•外国人登録証明書(平成24年改正命令)…一部の書類には顔写真が表示されない。

【犯収規則、平成24年改正命令】

・「顔写真のない本人確認書類」に位置付けるため、犯収規則(第7条)等を改正。

https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/jafic/hourei/data/kaiseishiryo20181130.pdf

「公的個人認証サービスの署名用電子証明書(マイナンバーカードに記録された署名用電子証明書)」を用いた方法(規則6条1項1号ワ)

法務省 商業登記電子認証ソフト 署名者の電子証明書表示・有効性確認

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00027.html

本人確認書類

自然人の場合

規則7条1号イ・・・運転免許証等(運転免許証、運転経歴証明書※)、在留カード、特別永住者証明書、個人番号カード、旅券等、身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、療育手帳、戦傷病者手帳(当該自然人の氏名、住居及び生年月日の記載があるものに限る。)

規則7条1号ロ・・・官公庁から発行され、又は発給された書類その他これに類するもので、当該自然人の氏名、住居及び生年月日の記載があり、かつ、当該官公庁が当該自然人の写真を貼り付けたもの

規則7条1号ハ・・・国民健康保険、健康保険、船員保険、後期高齢者医療若しくは介護保険の被保険者証、健康保険日雇特例被保険者手帳、国家公務員共済組合若しくは地方公務員共済組合の組合員証、私立学校教職員共済制度の加入者証、児童扶養手当証書、特別児童扶養手当証書若しくは母子健康手帳(当該自然人の氏名、住居及び生年月日の記載があるものに限る。)又は特定取引等を行うための申込み若しくは承諾に係る書類に顧客等が押印した印鑑に係る印鑑登録証明書

規則7条1号ニ・・・印鑑登録証明書(ハに掲げるものを除く。)、戸籍の附票の写し、住民票の写し又は住民票の記載事項証明書(地方公共団体の長の住民基本台帳の氏名、住所その他の事項を証する書類をいう。)

規則7条1号ホ・・・そのほか、官公庁から発行され、又は発給された書類その他これに類するもので、当該自然人の氏名、住居及び生年月日の記載があるもの

規則7条2号イ・・・当該法人の設立の登記に係る登記事項証明書(当該法人が設立の登記をしていないときは、当該法人を所轄する行政機関の長の当該法人の名称及び本店又は主たる事務所の所在地を証する書類)、印鑑登録証明書(当該法人の名称及び本店又は主たる事務所の所在地の記載があるものに限る。)

規則7条2号ロ・・・イに掲げるもののほか、官公庁から発行され、又は発給された書類その他これに類するもので、当該法人の名称及び本店又は主たる事務所の所在地の記載があるもの

外国人及び外国に本店又は主たる事務所を有する法人の場合

規則7条4号・・・第一号又は第二号に定めるもの(この場合において、第一号中「当該自然人」とあるのは「当該外国人」と、第二号中「当該法人」とあるのは「当該外国に本店又は主たる事務所を有する法人」とする。)のほか、日本国政府の承認した外国政府又は権限ある国際機関の発行した書類その他これに類するもので、第一号又は第二号に定めるものに準ずるもの(自然人の場合にあってはその氏名、住居及び生年月日の記載があるものに、法人の場合にあってはその名称及び本店又は主たる事務所の所在地の記載があるものに限る。)

完全オンライン方式による登記申請

 商業登記電子証明書のみではなく、マイナンバーカードによる電子証明書や特定認証業務電子証明書を送信することで、他の取締役は事業者署名型電子署名を活用できる。

 PDFデータの名称を変更すると、電子証明書の検証ができなくなるという性質をもっているため、管理には注意が必要(PDFデータに電子証明書を埋め込む形式の場合は、ファイル名を変更しても問題ない)。

日司連公的個人認証有効性確認システムとは

 公的個人認証(マイナンバーカード)の署名用電子証明書の有効性を確認することができる。

 PDFに埋め込まれた電子証明書が、マイナンバーカードによって電子署名された電子証明書であるか、一致性を確認できる。

デジタル時代の本人確認方法

 司法書士のみが対面を求め続けることができるか。

電子署名に関する動向~リモート署名や事業者署名型電子署名について~

電子署名の形式

 申請用総合ソフトを活用した場合、XML形式の署名が付与されることも・・・XMLの場合は紐づくイメージ。埋め込みをせず署名データを生成しているため、元のデータに変更を加えると、検証不可となる。

 あくまでも、当該メールアドレスに送付されたリンクからのアクセスがあったことを示すのみであり、身元確認が適正になされているかは別問題。この点は、メールのやり取りや名刺に記載されているメールアドレス等から立証していくことになると思われる。サービスによっては、身元確認を実施することもある。履歴記載の時刻につき、どの時刻源を採用しているかは事業者に確認する必要がある。

渋谷陽一郎『Q&A 家族信託大全』第11章民事信託の実務の基本的枠組み

渋谷陽一郎『Q&A 家族信託大全』2023年、日本法令。第11章民事信託の実務の基本的枠組み

 Q705、民事信託解説書の選び方について・・・寺本昌広『逐条解説新しい信託法』2008年、商事法務、村松秀樹他『概説信託法』2008年版、2023年版、商事法務、別冊NBL商事法務『信託法改正要綱試案と解説 (別冊NBL no. 104)』2005年、商事法務、大蔵財務協会『改正税法のすべて平成19年版』2007年、書籍としてはこの辺なのかなと思います。

 その他には大垣尚司先生、道垣内弘人先生など、ご自身の状況に合わせて勉強していく形で良いのかなと個人的に思います。

 インターネット上では、信託法制部会の議事録や国会答弁を読むことが出来ます。

Q713、信託の消極的要件、受託者の損失補填義務等が完全に排除されていないこと、につて・・・限定責任信託(信託法2条2項12号)はどのようにせいりするのか、分かりませんでした。委託者が圧倒的な指図権を有し、かつ、受託者から信託財産の管理の委託を受けるなどして、受託者の信託判断の余地が全くなく、受託者が単に認容する義務を負うにとどまるものではないこと、について・・・圧倒的な、全く、などの文言から、信託行為の条項から受託者の権限(信託法26条但し書)が制限ではなく、ないという状態を想定しているのかなと思いました。

Q726、信託契約の公正証書化の意義、公証人による当事者の確認と法的検討について・・・士業が信託行為の案に関わっている場合、二重チェックになり、安定する一方で当事者のコスト負担は大きくなります。信託口口座開設のために選択肢が公正証書化しかないとすれば、士業が関わる場合に公証人が行うことと、金融機関が行うこととの棲み分けが必要なのではないかなと感じます。

 公証センター(公証人役場)のリソースがさけるなら、士業を入れない信託行為の書類作成について公証人のみによる関与の割合が多くなっていくことも良いのかなと思います。

 遺言、任意後見契約を信託行為と同じ日に公正証書化するのであれば、当事者の負担感は抑えられるのかなと思ったりしますが、正解は分かりませんでした。

 

Q775、居住用物件と委託者兼受益者の管理事務、委託者兼受益者は居住するに際して、具体的な義務を一切負わないのだろうか。について・・・土地の工作物等の占有者の責任(民法717条)を負うと考えます。

Q792、受託者の変更に伴う信託契約の見直し、信託変更は誰と誰との間で行うべきか、受託者交代時において、委託者兼受益者の判断能力が喪失されている場合どうするか。・・・信託法と成年後見等関連法令、信託行為の内容に従って必要な信託契約の見直しを行っていくものと考えます。

Q795、受益者の変更に係る受託者の事務、なお、新受益者が受益権を取得したことを知らない時は、受託者が通知することを要するが(信託88②。信託行為の別段の定めが可能。)、その際、旧受益者にあわせて作られていた受益債権の内容を、新受益者に対してアジャストしなくてもよいのか、という問題を生じ得る。について・・・新受益者は受益権の放棄(信託法99条)権があるので、受益権の内容条項を中心に見直す必要はあると思います。

Q803、修繕積立金、信託財産修繕のための積立金を留保するため、信託行為であって、その計算方法を定めておきたい。について・・・私は修繕積立金の確保を受託者の信託事務として定めるのみで、計算方法を定めていません。計算方法を定めることによってこう着しないか、気になるからです。今後、ケースによっては必要なのか検討したいと思います。

Q809、信託元本組入、一般に、信託契約書上、受託差は、各計算期日において、純収益から、信託事務処理のための積立金、修繕のための積立金、公租公課のための積立金、保険料のための積立金の金額の合計額について、各信託期日の翌日、信託の元本に組み入れる、という趣旨の定めがおかれている。について・・・一般に置かれていることを初めて知りました。今後この定めを入れるかどうか考えます。

Q814、計算事務の委託、行政書士やFPなどの専門職も支援に適していよう。について・・・計算事務の委託の文脈で行政書士が出てくるのは適しているのか、分かりませんでした。

Q826、信託監督人の設置の判断、成年後見制度における後見監督人が設置される場合を参考にすることについて、同意です。親族・第三者との間で紛争がある場合については、信託を行うのかどうかの判断を含め、弁護士を紹介することが適していると個人的に思います。

Q827、信託監督人への同意見の付与、同意見者となるからといって、必ずしも監督者としての中立性が害されるというわけでもないかもしれない。について・・・監督者は後見人、受託者を本人、受益者のために監督するので(信託法131条4項)、中立性は求められていないのではないかと思います。

Q832、受益者代理人の職務と不正リスク、信託金の配当に関しては、それを認知症にり患した受益者に代わって、受託者から直接受益者代理人の口座に入金するような形で受領できるのか、認知症患者の名義の預金口座では凍結されてしまいかねないか、について。・・・受益者代理人の権限はあると考えられます(信託法139条)。ただし、受益者代理人は受益者の代理人なので、口座名義は成年後見人同様に受益者代理人であることが外観上、金融機関システム上分かる必要があると考えます。受益者代理人の選任の有無に関わらず、判断能力を失った人の名義の預金口座は、原則として凍結されると考えます。

Q833、信託監督人の合意書、新しい受益者が、信託内容を理解し、信託監督人制度を理解するためには、かような合意書を締結することが望ましい。しかし、新しい受益者が未成年者、あるいは、認知症患者などの判断能力が減退した者である場合等もあり得るので、そのような場合にはどうすべきか、検討を要する。について・・・未成年者であれば法定代理人が、判断能力が減退した方で、成年後見制度の利用を必要とする程度であれば、成年後見制度の利用を行い後見人等が合意書の締結を行うことになると思います。

Q840,裁判所による信託監督人の選任、なお、信託法131条4項の「受益者が受託者の監督を適切に行うことができない特別の事情がある場合において、信託行為に信託監督人に関する定めがないとき」というような裁判所による信託監督人の選任の規定があることから、当初の信託行為の定めがない場合、信託期中、信託の変更を行うことで、信託監督人の選任を行うことはできるのだろうか、委託者兼受益者の自益信託の場合はどうなのか、について。・・・裁判所が関与せず、信託行為中の信託の変更条項に従って信託監督人を選任できるのか、という論点だと思います。受益者代理人の選任(信託法138条)に関する定め、信託法131条4項のような定めが受益者代理人にはないことから、信託の目的に反せず、信託の終了事由に該当せず、信託変更の当事者に受益者(受益者代理人、成年後見人を含みます。)が入っている場合は、信託変更により信託監督人の選任を行うことが可能だと考えます。委託者兼受益者の自益信託の際も同様だと考えます。

Q842、信託登記事項証明書、というものが分かりませんでした。

Q843、賃貸物件の信託譲渡時の賃借人のへの通知、賃貸管理会社への通知が多いのではないかと思います。

Q893、9.12判決で残された信託と遺留分の問題、また、遺留分減殺された受益権については、その結果、いかなる内容の受益債権を準共有するのだろうか(減殺請求された受益者の障害に限定されるのか、遺留分権利者の生涯に変化し得るのか)。について・・・受益権の個数を分けておけば(例えば1円につき1個)、準共有という問題は生じないのではないかと思いました。

Q903、10.23判決―信託契約の拘束力、委託者兼受益者であれば、受託者を解任することもできるのがデフォルトルールである(信託法58条1項)。この点、(一般論として)受託者兼帰属権利者が、当初より、委託者兼受益者の心変わり(他の推定相続人の存在)の可能性を想定して、用意周到に信託法のデフォルトルールを修正した技術的な信託条項を仕組むような場合をどのように考えるべきか、よく考えたい。について・・・受託者の解任について、委託者兼受益者が自由に解任できる条項については、私は何かしら解任事由という制限を付けることが必要だと考えています。そうでなければ、いつ解任されるか分からない信託に、受託者として責任を持つ人を探すのは難しいのではないかと思います。

Q904、合意終了等に関する信託条項のひな型リスク、について・・・合意できない場合は、信託法165条(特別の事情による信託の終了を命ずる裁判)で手当てが可能ではないかと思います。

Q906、合意終了と単独終了、について・・・委託者兼受益者による単独終了(信託法164条1項)を定める場合、何かしらの客観的な終了事由を追加する必要があるのではないかと思います。

Q929、委託者からの倒産隔離、について・・・登記研究463号、昭和61年4月30日民三第2777号民事局第三課長回答「信託による所有権移転の登記のある不動産に対して破産登記等の嘱託の受理の可否について」を根拠とする記載に同意です。

Q940、信託目録の仕組み、信託目録について、私なら信託不動産という用語は省略すると思います。登記記録から信託不動産であることが分かるからです。

信託契約書を単に引き写し、長文の信託条項を転記するのでは、第三者が即座にみてわかるものになっておらず、公示の機能を果たすことができない。について・・・信託契約書の信託条項を、可能な限り信託目録に転記しやすいような形で作成するが良いと思います。信託契約当事者、関係者に分かりやすいものであることが望ましいこと、信託契約書から要約や抽出をすると、信託契約書と信託目録の齟齬が生じる恐れがあること、信託契約書から要約・抽出された信託登記の申請を審査する登記官の負担が増すと思われることが理由です。

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