民事信託手続準則案2

民事信託手続準則案[1]

4「信託口」口座の開設に関する手続準則案と確認事項

委任された信託登記代理の付随業務として民事信託支援業務を行う司法書士は、信託登記の原因関係である不動産信託に関連して信託財産に属する金銭が存在し、将来存在する可能性がある場合、信託当事者に対して、信頼できる金融機関において「信託口」口座を開設することを助言し、その理由、内容および「信託口」口座を欠く場合の危険を説明しなければならない。

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前提

・信託登記の原因関係である不動産信託に関連して信託財産に属する金銭が存在し、将来存在する可能性がある場合

信託財産の中に、お金が入っていない場合、将来もお金を使わない・お金が入ってこない場合、という事例はやったことがないし、これまで聞いたこともない。

賃貸不動産などの収益物件ではなくても、固定資産税を払ったり、受益者の生活費に回したり、お金を使う場面・お金が入ってくる場面というのは必ずといっていいほどある。

ということは、この前提は「場合」と記載はありますが、司法書士が民事信託支援業務を行う場合は絶対条件を注意的に記載していると思われます。

内容

・信託当事者に対して、信頼できる金融機関において「信託口」口座を開設することを助言し、その理由、内容および「信託口」口座を欠く場合の危険を説明しなければならない。

幸いなことに、沖縄県では全ての地方銀行で信託口口座を作成することが出来ます。信用金庫やJAは個別対応になります。

ただし、信託口口座を作成する基準が銀行の利益を優先させ過ぎるように感じることがあります。

システム上不具合があったり、資金洗浄防止の関係があったりで信託口口座を開設しても融資などに結びつかない場合、対応してもらえなかったりします。金融機関が「出来ない。」という場合、どのような理由かを聞くと反論出来るところが見つかることが多いです。

しかし、金融機関が「出来ない。」という場合、理由や理屈ではなく「出来ない。」のが私の実務経験上の実感です。

信託口口座を作成する期間もばらつきがあったりします。どのような依頼者でも同じような期間で作成していただける地方銀行もあります。

逆に依頼者によって機関のばらつきがある地方銀行もあります。

1つ経験したのは、ある地方銀行での信託口口座開設です。民事信託契約書を公正証書にする1か月前から地方銀行に信託口口座開設をお願いしていました。

公正証書を作成した翌日、依頼者に必要書類を持って金融機関に提出してもらいました。2週間ぐらい後に信託口の預金通帳が出来たか、電話をかけてみると、担当者が「一度図にしてFAXしてくれませんか。」と言われたので即日FAXを送信しました。

その一週間ぐらい後にもう一度訊いてみると、「これからどこかおかしいところがないか、みてみる。」と答えてくださいました。

金融機関の方に理屈は通じないと思っているので、その後2か月くらい電話しては出来ていない、本部に確認中などの返事が続きました。

以前、別の依頼者の際に3週間で作成してもらえたので、さすがに遅いと思い、依頼者に今までの経緯を伝えました。

依頼者がすぐに反応してくれて、担当者に直接電話をしてくれました。

翌日、担当者が事務所にきて、「もう少し待ってください。」と直接伝えにきて、その2日後に通帳が出来ました。

依頼者は、融資も受けていたし返済も一度も遅れたことがない方です。電話で、「今までお宅に迷惑をかけたことがありますか?」と強くいったそうです。

依頼者が直接言った方が良い場合もあるんだなぁと思うと同時に、そんなに急に態度を変えて、少し恥ずかしくないのかなと心配になりました。


[1] 渋谷陽一郎「民事信託支援業務の手続準則試論(1)~(3)」『市民と法』№113~№115(株)民事法研究会

民事信託手続準則案2

民事信託手続準則案[1]

3-(2)高齢の委託者に対する直接面談

委任された信託登記代理およびその付随業務としての民事信託支援業務の受任を受ける際、依頼を受けた司法書士の本職は、委託者に対して、司法書士事務所または依頼者の指定した場所にて直接的に対面することで、自ら面談を行い、委託者の本人確認および委託者の判断能力が正常であり、依頼者が信託およびその内容を理解しうることを確認することを要する。また、当該司法書士本職は、委託者に対して、当該民事信託の意味・しくみ・効果・危険等を十分に説明したうえで、依頼者の信託設定意思および信託不動産の処分意思を確認しなければならない。なお、当該司法書士本職は、面談の詳細、確認の方法・結果、司法書士の判断を民事信託調書として作成する。

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一般的に、売買契約よりも意思確認のレベルが高くなります。

理由

・売買契約よりも市民の浸透がなく、普段使用することの少ない契約だから当事者が理解するための細かな説明を必要とします。

・一般的に売買契約書よりも民事信託契約書の方が複雑な仕組みであり、長期に渡る契約であるから、契約開始時と委託者の判断能力が落ちてきた場合の意思確認が必要となってきます。

特に民事信託契約の効力が発生した後、数年後に変更登記を伴う民事信託契約書の変更がある場合で、公正証書にしない軽微な変更の場合、注意が必要になります。

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民事信託手続準則案[1]

(9)違法行為の助長

信託登記代理委任の付随業務として民事信託支援を行う場合、司法書士は、司法書士法、信託法、信託業法をはじめとする民事信託および司法書士業務に関する関連法令すべての法令遵守に努め、民事信託の脱法性なきこと等を確認し、利益相反の信託や公序良俗違反の信託の組成、受託の権限濫用や不正その他の信託当事者の違法行為を助長させてはならない。

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最初の方は、司法書士法の範囲内と考えます。

「利益相反の信託や公序良俗違反の信託の組成、受託の権限濫用や不正その他の信託当事者の違法行為を助長させてはならない。」

この部分は考える必要があると思います。

利益相反関係に立っただけで駄目なのか。

利益相反行為を行った場合に駄目なのか。

善管注意義務・忠実義務の縛りはどこまで効くのか。

司法書士法の範囲内で業務を行っていても、公序良俗違反を問われる場合があるのか。

当事者が知っていて違法行為を行おうとしている場合、知らないで行おうとしている場合に、どこで委任契約を止めれば責任を負わないのか。

民事信託支援業務は、民事信託が終了するまで継続する契約にする必要があるのか。その場合、継続的な面談や報酬規程についても最初に盛り込む必要があるのか。

など実践しながら考えていきたいと思います。

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民事信託手続準則案[1]

(8)法令順守確認義務

司法書士は、信託登記代理委任およびその付随業務として民事信託支援を行う場合、支援する民事信託それ自体の法令遵守および司法書士業務としての法令遵守のために、当該民事信託および民事信託支援業務に関連する法令が遵守されていることの確認を行い、依頼者に助言する義務を負う。

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 当たり前のようで、現在のところ難しい問題だと感じます。

例としては、信託借入れの可能性とそれに伴う債務控除の可否が挙げられています。

信託法その他の法律に照らして可能であっても、金融機関独自の判断で信託口口座の開設が不可能になったことがあります。

信託借入れについても、金融機関が可能といって民事信託を行って、いざ債務控除が出来るのか、というのは、税務署が判断することなので税務署への事前確認が必要になります。

このような場合、依頼者としては直接お金を払った、相談を最初に受けた専門家に対して不満を持つのが感覚として妥当だと思います。

それが司法書士なら、借入れが出来なくても司法書士へ。

それが金融機関なら、顧問税理士が個別に判断していても税務署が債務控除できないとなったら、金融機関へ。

それが税理士なら、登記出来なかったとしても税理士へ。

弁護士なら、出来て当たり前と思われているので弁護士へ。

不満の矛先は向かうので、分からないことは分からない、最終判断を行うのは誰なのかを明確にして動きながら、依頼者にも説明する必要があると感じます。


[1] 渋谷陽一郎「民事信託支援業務の手続準則試論(1)~(3)」『市民と法』№113~№115(株)民事法研究会

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