受託者の任務終了事由と信託管理人の資格

(衆議院HPより引用)

第一九六回閣第五六号

   成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律案

(信託法の一部改正)

第五十九条 信託法(平成十八年法律第百八号)の一部を次のように改正する。

  第七条中「又は成年被後見人若しくは被保佐人」を削る。

第五十六条第一項ただし書中「ただし、」の下に「第二号又は」を加える。

第百二十四条第一号中「又は成年被後見人若しくは被保佐人」を削る。

閣法 第196回国会56成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律案に対する修正案

 成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律案に対する修正案

 成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律案の一部を次のように修正する。

 第百十一条を次のように改める。

第百十一条 削除

 附則第一条第三号中「平成三十年十二月一日」を「令和元年十二月一日」に改める。

親族以外の成年後見人は、信託法164条1項の終了の意思表示ができない、は可能か。

家族信託専門コンサルタントで司法書士の川嵜一夫先生が、5月30日付メールマガジンに記載されていました。

「親族以外の成年後見人は、信託法164条1項の終了の意思表示ができない。」という条項を入れて、不動産登記の信託目録にも記録する場合がある。

任意後見を利用する必要があまりない場合(親1人子一人など)に、第三者による信託終了をさせないための条項のようです。

この条項は初めてみて、機能するのかなと考えてみました。

結論としてはケースバイケースになります。

私も現在、「本信託において、信託法164条1項は適用しない。」という条項を信託契約書に入れることが多いです。理由は、委託者兼受益者が1人で信託を終了させてしまうと、民事信託・家族信託の安定性が失われるからです。

さらに、

「受益者に民法上の成年後見人、保佐人、補助人または任意後見人が就任している場合、その者は受益者の権利のうち次の代理権および同意権を有しない。ただし、任意後見人、保佐人および補助人においては、その代理権目録、代理行為目録および同意行為目録に記載がある場合を除く。(1)本信託の終了に関する合意権。」という条項[1]を入れることもあります。

これは、親族に限らず民法上の成年後見人等に信託の終了に関する合意権を与えてしまうと、民事信託・家族信託が想定外のときに終了してしまう可能性があるからです。実際に機能するかは未だ分かりません。

ただし、任意後見契約に関する法律、成年後見制度の利用の促進に関する法律の趣旨、同委員会議事次第を読みながら、この表現なら調整可能だと確信したので自分で考えて入れました。信託財産に不動産がある場合、信託目録に記載はしません。信託の終了事由にいくつか記録して、「その他の事項は○○年第○○号月○○号信託契約公正証書(○○法務局所属)及びその変更を証する書面に記載」

と記録します。

さて、

「親族以外の成年後見人は、信託法164条1項の終了の意思表示ができない。」に戻ります。

この条項がどういう時に問題になり得るかというと、司法書士や弁護士が民法上の成年後見人に就いて、民事信託がされていることを知り、契約書で目にします。

「なるほど。私は法定代理人だけど、信託終了の意思表示は出来ないのか。」と考える司法書士や弁護士もいるかもしれません。

「何だこの条項は。法定代理人なんだから、信託終了の意思表示も可能に決まっている。これから自宅を売ろうとしているみたいだから、信託を終了させよう。」と考える方もいるかもしれません。

どちらが正しいのかは、成年後見人等の主観です。ただし、何が出来るかはある程度の範囲に落ち着きます。

信託を終了させたがっている成年後見人等を例に取ると、信託終了の意思表示自体は可能です。

理由は法定代理人だからです。

しかし、不動産登記は通りません。

親族以外の成年後見人だからです。よって、信託の終了を命ずる訴訟(信託法165条、166条)を提起することになります。

不動産売買契約はどうでしょうか?買主、不動産業者は受託者がどのような権限を持っているのかを調べます。その際に、受託者は忠実事務、善管注意義務を基に「成年後見人から信託終了の意思表示が届いていますけど、大丈夫ですよ。信託契約書には、信託法164条1項の終了の意思表示ができない、と書いてありますから。」と説明することになります。説明がなかった場合は、忠実義務違反、善管注意義務違反が問われます。

説明があった場合、買主は受託者と売買契約を行うでしょうか。不動産業者は仲介を行うでしょうか。私が買主だったら買いませんが、買うとしたら、この信託契約書を作成した人に対して、何かあった場合は責任を取る旨の書面を要求すると思います。

売買契約自体は、権限を持つ売主と買主の合意で締結出来て不動産登記も通るので、現金決済まで行うことが可能です(融資が絡むと別です)。

この場合も親族以外の成年後見人は、信託の終了を命ずる裁判(信託法165条、166条)その他の民法上の責任を問う訴訟を提起することになります。

預貯金はどうでしょうか。例えば、受託者が1億円分の預金を管理していて、同居している本人と自分の旅行、株式投資、金の売買、先物取引などを信託財産で信託契約に基づいて行っているとします。

この場合は、成年後見人等の管理している通帳に幾ら入っていて、その金額で業務が出来るのか、本人の1億円がゼロになっても生活していけるか、などのバランスが考慮されることになります。

金融機関は、信託契約書を保管していて、成年後見人等からの信託終了の意思表示だけでは、民事信託・家族信託専用口座を解約する可能性は低いのではないかと考えます。

信託の終了を命ずる訴訟(信託法165条、166条)の判決文などが必要になってくると思われます。

いずれにしても、訴訟になってしまうと時間とお金を費やして、精神的負担が生じます。

私の感想は、表現が少し過激かな、というものです。


[1] 任意後見契約に関する法律第2条1項1号。成年後見制度の利用の促進に関する法律11条1項5号。民法13条、17条。平成28年12月20日第6回成年後見制度利用促進委員会議事次第

信託契約1個につき、受益権は1個?

宮田浩志司法書士と河合保弘司法書士が、2018年の講座で言っていました。紙では残っていません。

「受益権は、お皿の上にお菓子がいくつか載っているようなもので、信託契約1個につき、受益権は1個。」

何が言いたいのかというと、書籍などに受益権の割合は、配偶者が2分の1とか長男が3分の1に指定するような書式例があるので、その否定だと思います。

その後、こう言っていました。

「あえて書くとしたら、扶養の範囲内(民法877条など。)。」

聞いていて、なぜ信託契約1つにつき、受益権が1個なのか聞きたかったのですが、良く分からない答えが返ってきそうで止めました。

私は、受益権を割合で分けることについては、少し疑問で機能しないのではないかと思っていて、実際に利用したことはありません。

信託財産がお金だけなら、ある程度割合で決めることが出来るかもしれません。

また共有の不動産1筆について、信託契約前と同じ割合の受益権を定めることも可能だと考えます。

ただし、収益不動産が複数入ってくると、会社の株式が入ってくると、信託財産責任負担債務が入ってくると、と考えるとややこしくて2分の1ずつの均等なら何とかなるのかもしれませんが、3分の1ずつなどは計算が出来ないんじゃないか、と思います(実際に計算方法が分かる方がいらっしゃったら、教えてください)。

信託契約1個について、受益権を複数にする必要がある場合は信託契約で100個とか1000個とか、複数にするときの単位を決めておけば良いと思うのです。

他に考えられる方法は、A不動産の受益権、B不動産の受益権など信託財産ごとに受益権を特定しておく方法。

他には、どんな方法があるでしょう。

受益権が共有になると、受益者代理人が就任していない限り、信託する意味が少し薄れていくのではないかと思います。

法人の目的 信託業法に抵触しない信託の引き受け

一般社団法人の設立の際、依頼者と「将来民事信託の受託者になり得るかもしれないですね。」と定款の目的欄に主要な事業に追加して「信託の引き受け」を記載しました。

那覇公証センターに定款案を提出したところ、「信託の引き受け」を「信託業法に抵触しない信託の引き受け」に訂正の指示があり、直ぐに訂正しました。

「信託業法に抵触しない信託の引き受け」は、あらゆる書籍で観ることができます[1]

ただし、その理由については家族信託・民事信託であること、信託業法に抵触しないことを強調する、という目的に書いてある通りの理由しか今のところ聞いたことがありません(他にあれば教えてください。)。

その他に、法人の目的で「~業法に抵触しない○○」という記載の仕方はあるのでしょうか。

例えば、建設業法に抵触しない建設、宅地建物取引業法に抵触しない宅地建物取引。

私は未だ見たことがありません。

まず基本法としての信託法があり、特別法として信託業法があります。受託者においても、信託法第7条の資格要件を満たした者は、個人・法人を問わず受託者となることが出来るのが原則です。例え法人の目的に記載が無くても。

沖縄県内の現在の金融機関は、法人の目的に信託の引き受け、不動産の管理、等が入っていないと信託口口座を作成出来ません。

 例外として、仕事(業、営業、業務)として信託の引き受けを行う場合は、免許が必要国が定めた免許が必要になる、という形です。

このような考えを辿ると、家族信託・民事信託では、「信託の引き受け」の方がまともだと以前から思っているのですが。

「信託業」が×なのは、特別法があるから分かります(少し宅地建物取引業法の場合に似ています。)。

受託者の営利を目的としないのが信託法なのだから、同じことを2回書いているようで変な感じです。

でも公証センターから指摘されたら訂正します。


[1] 遠藤英嗣「新訂新しい家族信託」2016P593など。