人役権的自己信託 「個人所有の里山を自由に散策して昆虫や季節の山菜を私的利用の範囲内で採取する権利(里山入山権)」や個人所有の海岸で海水浴をする権利(プライベートビーチ権)」等を物権的な権利として売却することができれば

 


(『民事信託の理論と実務』2016 日本加徐出版 P290~)

1、地役権は、設定行為で定めた目的(例:国道329号線に出るため)に従い、他人の土地(要役地)を「自己の土地の」便益に供する権利なので、他人の土地を単に「自己の」便益のために供する権利(いわゆる人役権)は、地上権(工作物・竹林の所有)、永小作権(耕作・牧畜)を除くと用益物権として設定することができない。

2、このため、そうした権利は賃借権として構成するしかないが、この場合20年を超える契約ができず(民法604条)、登記がないとその後に要役地を取得した者に対抗できない(民法605条)。また、建物所有目的以外の使用目的を適切に公示することが難しいという問題もある(不動産登記法81条1項6号)。

3、もし、「個人所有の里山を自由に散策して昆虫や季節の山菜を私的利用の範囲内で採取する権利(里山入山権)」や個人所有の海岸で海水浴をする権利(プライベートビーチ権)」等を物権的な権利として売却することができれば、建物建築に適さない土地の価値を有効活用できる。

4、何らかの原因関係に基づいて、承役地の所有者がこれを信託財産とし、相手方を第1受益者、自分自身を残余財産受益者として、(1)第1受益者に一定目的に従って承役地を自己の便益のために使用させること、(2)同目的のために承役地の権限を維持し適切に管理すること、(3)信託期間経過後に残余財産である承役地を残余財産受益者に返還することを目的とし、信託登記をすれば、受益権は実質的に人役権に近いものになる。受益権には譲渡性を付与することもできるし、譲渡禁止としたり制限を付したりしてもよい(信託法93条)。

5、物権である本来の人役権の場合、承役地(底地権)が売却されると対抗力のある人役権者は、承継人に対して当然に権利主張できる。これに対して、人役権的自己信託の場合、設定者は受託者として承役地の売却ができなくなるが、自己の有する残余財産受益権(底地権に相当)を処分することにより、同様の効果を得ることができる。

自己信託設定公正証書

(目的)
第○条 本信託は、次の事項を目的として、第○条記載の信託財産を受託者が管理、運用、処分する。
(1)第1受益者に里山散策を目的として使用させること。
(2)(1)のために信託財産を維持し適切に管理すること
(3)信託期間経過後に残余財産を残余財産受益者に返還すること

(信託財産)
第○条 本信託設定日の信託財産は、次の第1号から第2号までとする。設定後
に第3号から第4号によって発生した財産も信託財産とする。
(1) 別紙1記載の不動産の所有権(以下、「信託不動産」という。)
(2) 金銭○○万円(今後、「信託金銭」という。)
 (3) 受益者から追加信託を受けた財産
 (4) その他の信託財産より生じる全ての利益

(信託設定者)
第〇条 自己信託を設定する者は、次の者とする。
 住所                       
 氏名 甲 生年月日

(後任の受託者)
第○条 受託者の任務が終了した場合の後任受託者は、次の者とする。
住所                     
氏名 甲の子○○ 生年月日
 
(信託財産の管理方法)
第○条 
1 受託者は、信託不動産について次の信託事務を行う。
(1)所有権の権利の変更登記と信託登記の申請
(2)信託不動産の性質を変えない修繕・改良行為
2 受託者は、信託金銭について次の信託事務を行う。
(1)信託に必要な表示または記録等
(2)受託者個人の財産と分けて、性質を変えずに管理
(3)その他信託目的を達成するために必要な事務
3 受託者は、信託事務の一部について必要があるときは、受託者と同様の管理方法を定め、第3者へ委託することができる。
4 受託者が信託事務処理費用を信託財産から支出する場合、支出の前に受益者に対して前払いを受ける額及びその算定根拠を通知する必要はない。

(計算期間)
第○条 本信託の計算期間は、毎年1月1日から12月31日までとする。最初の計算期間は信託の設定日から始まり、最後の計算期間は信託の終了した日までとする。

(公租公課の精算)
第○条 本信託の税金や保険料などは、設定日の前は設定者、設定日とその後は、信託財産から支払う。

(信託財産に関する報告)
第○条 受託者は、計算期間に行った計算を、固定資産税の納税通知書及び領収書と信託口通帳を受益者へ提示する方法により受益者へ報告する。

(受益者)
第〇条 本信託の受益者は次の者とし、各受益者は同じ割合の受益権を1個取得する。 
(1)住所                       
氏名 乙 生年月日
(2)住所                       
氏名 丙 生年月日
(3)住所                       
氏名 丙 生年月日

(受益権)
第○条
1 次のものは、元本とする。
 (1)信託不動産の所有権
 (2)信託不動産の里山入山権
 (3)信託不動産のプライベートビーチ利用権 
(4)信託金銭
2 次のものは、収益とする。
 (1)信託財産から発生した利益
3 元本又は収益のいずれか不分明なものは、受託者が判断する。
4 受益者は、受託者の承諾を得た場合、受益権を譲渡、質入れ及び担保設定その他の処分をすることができる。
5 受益者の受益権の割合は均等とする。今後受益者が増減しても同様とする。

(信託の変更)
第○条 
1 本信託の変更は、受託者と受益者の合意による。
2 受益者の人数に変更があった場合、各受益者に同じ割合の1個の受益権が指定される受益権の分割・併合があったものとする。

(信託の期間)
第○条 本信託の期間は、設定日から終了した日までとする。

(信託の終了)
第○条 本信託は、次の場合に終了する。
(1)受託者と受益者が合意したとき

(清算受託者)
第○条 この信託が終了したときの受託者は、引き続き清算の事務を行う。


(残余財産の引渡し方法)
第○条 清算受託者が、残余財産の帰属権利者に、信託財産の全てをその債権関係とともに引き渡し、最終計算の承認を得たときに、清算手続は終了する。

(残余財産の受益者)
第○条
1、本信託における残余財産の受益者は、甲とする。
2、残余財産の受益者は、自己の有する残余財産の受益権を自らの裁量で譲渡、質入れ及び担保設定その他の処分をすることができる。

(契約に定めのない事項)
第○条 本信託に定めのない事項は、受託者と受益者が協議の上決定する。


別紙1

信託財産目録

第1 信託不動産
1土地
所在      
地番      
地目      
地積

所在      
地番      
地目      
地積

第2 信託金銭 
金○○万円


以上


 

自己信託 リバースモーゲージの担保としての活用

自己信託設定公正証書

(目的)

第○条 本信託は、次の事項を目的として、第○条記載の信託財産を受託者が管理、運用、処分する。

(1)受益者の安定した生活

(信託財産)

第○条

1 本信託設定日の信託財産は、次の第1号から第2号までとする。設定後に第3

号から第4号によって発生した財産も信託財産とする。

(1) 別紙1記載の不動産の所有権(以下、「信託不動産」という。)

(2) 金銭○○万円(今後、「信託金銭」という。)

(3) 受益者から追加信託を受けた財産

(4) その他の信託財産より生じる全ての利益

(信託設定者)

第〇条 自己信託を設定する者の住所及び氏名は、次のとおりである。

 住所                                       

 氏名 甲 生年月日

(後任受託者)

第○条 受託者の任務が終了した場合の後任受託者は、次の者とする。

住所                                  

氏名 A(甲の連帯保証人である相続人など)生年月日

(信託財産責任負担債務)

第○条 受託者は、別紙2記載の債務を信託財産責任負担債務として引き受ける。

(信託財産の管理方法)

1 受託者は、信託不動産について次の信託事務を行う。

(1)所有権の権利の変更登記と信託登記の申請

(2)信託不動産の性質を変えない修繕・改良行為

(3)信託財産責任負担債務の返済を目的とする信託不動産の処分

2 受託者は、信託金銭について次の信託事務を行う。

(1)信託に必要な表示または記録

(2)受託者個人の財産と分けて、性質を変えずに管理

(3)必要に応じた信託財産責任負担債務の返済

(4)必要に応じた金銭の借入れ

3 受託者が信託事務処理費用を信託財産から支出する場合、支出の前に受益者に対して前払いを受ける額及びその算定根拠を通知する必要はない。

(計算期間)

第○条 この信託の計算期間は、毎年1月1日から12月31日までとする。最初の計算期間は契約をした日から始まり、最後の計算期間は信託の終了した日までとする。

(信託財産に関する報告)

第○条 受託者は、計算期間に行った計算を受益者へ報告する。

(受益者)

第〇条 本信託の受益者は、次の者とする。

本店                                   

商号○○銀行        

取扱店○○支店           

(受益権)

第○条

1 次のものは、元本とする。

 (1)信託不動産の所有権

 (2)信託不動産への居住権

 (3)信託金銭

2 次のものは、収益とする。

 (1)信託財産から発生した利益

3 元本又は収益のいずれか不分明なものは、受託者が判断する。

4 受益権は2個とし、受益者、残余財産の受益者が各1個を取得する。

(1)信託金銭より信託財産責任負担債務の給付を受ける権利は、受益者

(2)信託不動産の所有権は、残余財産の受益者

(3)信託不動産の居住権は、残余財産の受益者甲

(4)信託金銭の所有権は、残余財産の受益者

(委託者の地位)

 第○条 委託者は、追加信託をする権利義務のみを受益者に移転し、その他の信託行為に記載のある権利は、亡くなったときに委託者の地位と共に消滅する。

(信託の変更)

第○条 本信託の変更は、受託者と受益者の合意による。

(信託の期間)

第○条 本信託の期間は、設定日から終了した日までとする。

(信託の終了)

第○条 本信託は、次の場合に終了する。

(1)受託者と受益者が合意したとき

(2)受託者が亡くなったとき

(清算受託者)

第○条 

1、この信託が終了したときの受託者は、引き続き次の清算の事務を行う。

(1)現務の結了

(2)信託債権の返済

(3)受益債権の返済

(4)残余財産の引き渡し

2、受益債権の返済は、清算受託者の裁量により、信託不動産の処分換価を行うか、返済を続けるかを決めることができる。

(残余財産の引渡し方法)

第○条 清算受託者が、残余財産の帰属権利者に、信託財産の全てをその債権関係とともに引き渡し、最終計算の承認を得たときに、清算手続は終了する。

(残余財産の受益者)

第○条 

1 本信託における残余財産の受益者は、甲とする。

2 甲が亡くなっていたときはAとする。

(契約に定めのない事項)

第○条 本信託に定めのない事項は、受託者と受益者が協議の上決定する。

別紙1

信託財産目録

第1 信託不動産

(1)土地

所在      

地番      

地目      

地積

(2)建物      

所在 

家屋番号 

種類 

構造 

床面積㎡

第2 信託金銭 金○○万円

以上

別紙2

信託財産責任負担債務

本店                                   

商号○○銀行        

取扱店○○支店                  

連帯債務者 甲

連帯債務者 A

設定時の債務金○○万円

平成○○年○月○日付ローン契約

融資限度枠2000万円

融資期間30年

以上

参考

(大垣尚司「自己信託―もうひとつの民事信託―」『民事信託の理論と実務』2016  日本加徐出版P281~)

事業承継型自己信託 個人事業の場合、事業と家計が法的に明確に区分されないことから、事業主が死亡して事業に関与しない相続人が登場すると、事業を承継する相続人が事業資産にかかる他の相続人の法定相続分を買い取ったり、最悪の場合事業資産の分割を請求されて事業継続が困難となったりする問題

 

(『民事信託の理論と実務』2016 日本加徐出版 P286~)

1、
(1)個人事業の場合、事業と家計が法的に明確に区分されないことから、事業主が死亡して事業に関与しない相続人が登場すると、事業を承継する相続人が事業資産にかかる他の相続人の法定相続分を買い取ったり、最悪の場合事業資産の分割を請求されて事業継続が困難となったりする問題がある。

(2)オーナー会社においては、オーナーが会社に対して株式を保有するだけでなく、自己の不動産を会社に無償で使用させていたり、その他の重要な事業資産を提供していたりする場合、オーナーの死亡によって株式だけでなく重要な事業資産が散逸してしまい、事業継続が困難となるリスクがある。

2、個人事業主が事業にかかる資産・負債を一体として信託する事業信託を自己信託として設定し、事業承継者とともに事業からの収益の分配を受ける受益者となった上で、当面は受託者として事業の運営にあたり、事業主が死亡後は承継者が受託者として事業運営にあたる。

3、他の相続人は事業主の受益権を相続するだけで、事業資産に対して直接の権利行使ができなくなる。

自己信託設定公正証書(1)の場合

(信託の目的)
第○条 本信託は、次の事項を目的として、第○条記載の信託財産を受託者が管理、運用する。
(1)事業と家計を分けることにより、事業の継続を図ること

(信託財産)
第○条
1 本信託設定日の信託財産は、次の第1号から第2号までとする。設定後に第3号から第4号によって発生した財産も信託財産とする。
(1) 別紙2記載の甲が経営する屋号「○○屋」の事業遂行のために所有又は保有する有形資産及び無形資産(以下、「信託事業」という。)
(2) 金銭○○万円(以下、「信託金銭」という。)
(3) 受益者から追加信託を受けた財産
(4) その他の信託財産より生じる全ての利益

(信託設定者)
第〇条 自己信託を設定する者は、次の者とする。
 住所                       
 氏名 甲 生年月日

(後任受託者)
第○条 受託者の任務が終了した場合の後任受託者は、次の者とする。
住所                     
氏名 後継者候補○○  生年月日

(信託財産責任負担債務)
第○条 受託者は、別紙2記載の債務を信託財産責任負担債務として引き受ける。

(信託事業の管理方法)
第○条 受託者は、信託事業について次の信託事務を行う。
(1)信託事業における財産と自己の財産を分別して管理
(2)信託事業の運営
(3)会計・税務に関する事務(方法は、本信託設定前と同様のものとする)
(4)第3者への委託
(5)その他信託目的を達成するために必要な事務

(信託金銭の管理方法)
第○条 受託者は、信託金銭について次の信託事務を行う。
(1)信託に必要な表示または記録等
(2)受託者個人の財産と分けて、性質を変えずに管理
(3)信託金銭から受益者への信託財産責任負担債務の返済
(4)その他信託目的を達成するために必要な事務

(計算期間)
第○条 この信託の計算期間は、毎年1月1日から12月31日までとする。
最初の計算期間は信託の設定日から始まり、最後の計算期間は信託の終了日ま
でとする。

(公租公課の精算)
第○条 本信託の税金や保険料などは、信託設定日の前は甲、信託設定日以後は、信託財産から支払う。

(信託財産に関する報告)
第○条 受託者は、計算期間に行った計算を会計帳簿、税務申告書を受益者へ提示する方法により受益者へ報告する。

(受益者)
第〇条 
1 本信託設定時の受益者は、次の者とする。
(1)住所
氏名 甲
(2)住所
氏名 後継者候補○○
2 甲が死亡した場合、甲の相続人は法定相続分の割合で信託法第91条によって受益権を取得する。
3 次の順位の者が既に亡くなっていた場合には、さらに次の順位の者が、 受益権を取得する。   
4 受益権を取得した者が受益権を放棄した場合には、さらに次の順位の者が、受益権を取得する。   

(受益権)
第○条
1 次のものは、元本とする。
 (1)信託事業
 (2)信託金銭
2 次のものは、収益とする。
 (1)信託事業から発生した利益
3 元本又は収益のいずれか不分明なものは、受託者が判断する。
4 受益者(2)の受益権の割合は、受益者(1)扶養義務の範囲を超えない。
5 受益者は信託財産から生じた利益を受けることができる。
6 受益者は、受益権を譲渡、質入れ、分割及び担保設定その他の処分をすることができない。

(委託者の地位)
第○条 委託者は、追加信託をする権利義務のみを受益者に移転し、その他の信託行為に記載のある権利は、亡くなったときに委託者の地位と伴に消滅する。

(信託の変更)
第○条 本信託の変更は、受託者と受益者の合意による。

(信託の期間)
第○条 本信託の期間は、設定日から終了した日までとする。

(信託の終了)
第○条 本信託は、次の事由により終了する。
(1)信託事業の廃止
(2)受託者と受益者が合意したとき

(清算受託者)
第○条 この信託が終了したときの受託者は、清算受託者として次の清算事務を行う。
(1)事業の廃止の場合は、信託財産に属する債権の回収及び信託債権にかかる債務の返済
(2)残余財産の給付

(残余財産の引渡し方法)
第○条 清算受託者が、残余財産の帰属権利者に、信託財産の全てをその債権関係とともに引き渡し、最終計算の承認を得たときに、清算手続は終了する。

(残余財産の帰属権利者)
第○条 本信託における残余財産の帰属権利者は、信託終了時の受益者とする。

(契約に定めのない事項)
第○条 本信託に定めのない事項は、受託者と受益者が協議の上決定する。

別紙1

信託財産目録

1 資産
資産については、本信託設定日における○○屋の貸借対照表を基準とする。

(1)(流動資産)
事業に係る現金・預貯金、売掛金、棚卸資産、立替金、前払費用、未収入金及びその他流動資産

(2)(固定資産)
事業に係る土地、建物、建物付属設備、構築物、機械措置、及び建設仮勘定、工具器具備品、車両運搬費、ソフトウェア、保証金、長期前払費用及びその他固定資産

2 承継する契約上の地位
事業に係る売買契約、継続的資材購入契約、不動産の賃貸借契約、リース契約、その他の契約における契約上の地位

3 その他
(1)事業に係る免許、許可、承認、登録、届出のうち、受託者の承継が法令上可能であるもの
(2)事業に属する知的財産権及びノウハウ並びにこれらの使用権及び実施権

以上


別紙2
信託財産責任負担債務

1 債務
債務については、本信託設定日における○○屋の貸借対照表を基準とする。

(1)甲が経営する屋号「○○屋」の事業に係る買掛金、未払金、未払費用、前受金、預り金及びその他の流動負債

(2)甲が経営する屋号「○○屋」の事業に係る長期未払金、預かり保証金及びその他の固定負債

以上

財産分離型自己信託(事業資産) 個人事業者の事業と家計は、法律上分けられていないので事業の失敗が家計を支える資産(たとえば住宅)に及んだり、逆に家計の問題が事業に及んだりするリスクがあり、金融機関は個人事業者に対する事業融資や住宅ローンの貸付けに対して慎重にならざるを得ない


(『民事信託の理論と実務』2016 日本加徐出版(株)P279~)

1、個人事業者の事業と家計は、法律上分けられていないので事業の失敗が家計を支える資産(たとえば住宅)に及んだり、逆に家計の問題が事業に及んだりするリスクがあり、金融機関は個人事業者に対する事業融資や住宅ローンの貸付けに対して慎重にならざるを得ない。

2、個人事業者が事業資産全体を対象に自己信託を設定すると同時に、事業関連の負債を信託財産責任負担債務とし、受益者を債権者、残余財産の帰属権利者を個人事業者とする。

3、自己信託設定後に発生した家計債務の債権者は、事業資産に強制執行することが出来ない。受託者は信託財産責任負担債務について無限責任を負担するので、信託債権者からみると債権保全上の問題はない。


自己信託設定公正証書

(事業融資を設定日に受ける場合)

(信託の目的)
第○条 本信託は、次の事項を目的として、第○条記載の信託財産を受託者が管理、運用する。
(1)自らとその家族の生活の安定に資すること
(2)事業資産と家計資産を分けて、事業の継続と家計の安定を図ること

(信託設定者)
第〇条 自己信託を設定する者は、次の者とする。
住所
氏名 甲 生年月日

(後任受託者)
第○条 受託者の任務が終了した場合の後任受託者は、次の者とする。
住所                     
氏名 ○○
生年月日 

(信託財産)
第○条 本信託設定日の信託財産は、次の第1号から第2号までとする。設定後に第3号から第4号によって発生した財産も信託財産とする。
(1) 別紙1記載の甲が経営する屋号「○○屋」の事業遂行のために所有又は保有する有形資産及び無形資産(以下、「信託事業」という。)
(2) 金銭○○万円(以下、「信託金銭」という。)
(3) 受益者から追加信託を受けた財産
(4) その他の信託財産より生じる全ての利益

(信託財産責任負担債務)
第○条 受託者は、別紙2記載の債務を信託財産責任負担債務として引き受ける。

(信託事業の管理方法)
第○条 受託者は、信託事業について次の信託事務を行う。
(1)信託事業における財産と自己の財産を分別して管理
(2)信託事業の運営
(3)会計・税務に関する事務(方法は、本信託設定前と同様のものとする)
(4)第3者への委託
(5)その他信託目的を達成するために必要な事務

(信託金銭の管理方法)
第○条
1 受託者は、信託金銭について次の信託事務を行う。
(1)信託に必要な表示または記録等
(2)受託者個人の財産と分けて、性質を変えずに管理
(3)信託金銭から受益者への信託財産責任負担債務の返済
 (4)その他信託目的を達成するために必要な事務
2 受託者が信託事務処理費用を信託財産から支出する場合、支出の前に受益者に対して前払いを受ける額及びその算定根拠を通知する必要はない。

(計算期間)
第○条 この信託の計算期間は、毎年1月1日から12月31日までとする。
最初の計算期間は信託の設定日から始まり、最後の計算期間は信託の終了日までとする。

(公租公課の精算)
第○条 本信託の税金や保険料などは、信託設定日の前は甲、信託設定日とその後は、信託財産から支払う。

(信託財産に関する報告)
第○条 受託者は、計算期間に行った計算を会計帳簿、税務申告書を受益者へ提示する方法により報告する。

(受益者)
第〇条 
1 本信託設定時の受益者は、次の者とする。
(1)本店
   商号 
   
(2)本店
    商号 ○○銀行
    取扱店○○支店

(受益権)
第○条
1 次のものは、元本とする。
 (1)信託事業
 (2)信託金銭
2 次のものは、収益とする。
 (1)信託事業から発生した利益
3 元本又は収益のいずれか不分明なものは、受託者が判断する。
4 受益者は信託金銭から、信託財産責任負担債務の範囲で利益を受けることができる。
5 受益者は、受益権を譲渡、質入れ、分割及び担保設定その他の処分をすることができない。

(委託者の地位)
第○条 委託者は、追加信託をする権利義務のみを受益者(2)に移転し、本信託設定以後、その他の権利義務を持たない。

(信託の変更)
第○条 本信託の変更は、受託者と受益者の合意による。

(信託の期間)
第○条 本信託の期間は、設定日から終了した日までとする。

(信託の終了)
第○条 本信託は、次の事由により終了する。
(1)信託事業の廃止
(2)受託者と受益者が合意したとき
(3)信託財産責任負担債務の期限の利益が喪失したとき

(清算受託者)
第○条 この信託が終了したときの受託者は、清算受託者として次の清算事務を行う。
(1)信託財産に属する債権の回収及び信託債権にかかる債務の返済
(2)受益債権にかかる債務の返済

(清算事務の終了)
第○条 清算受託者が、次の事務を終えたときに清算事務は終了する。
(1)受益者および残余財産の帰属権利者に最終計算の承認を得たとき、または信託法184条3項に当たるとき
(2)残余財産がある場合は、帰属権利者への給付


(残余財産の帰属権利者)
第○条 本信託における残余財産の帰属権利者は、甲とする。

(契約に定めのない事項)
第○条 本信託に定めのない事項は、受託者と受益者が協議の上決定する。


別紙1


信託財産目録

1 資産
資産については、本信託設定日における○○屋の貸借対照表を基準とする。

(1)(流動資産)
事業に係る現金・預貯金、売掛金、棚卸資産、立替金、前払費用、未収入金及びその他流動資産
(2)(固定資産)
事業に係る建物付属設備、構築物、機械措置、及び建設仮勘定、工具器具備品、車両運搬費、ソフトウェア、保証金、長期前払費用及びその他固定資産

2 承継する契約上の地位
事業に係る売買契約、継続的資材購入契約、不動産の賃貸借契約、リース契約、その他の契約における契約上の地位

3 その他
(1)事業に係る免許、許可、承認、登録、届出のうち、受託者の承継が法令上可能であるもの
(2)事業に属する知的財産権及びノウハウ並びにこれらの使用権及び実施権

以上


別紙2


信託財産責任負担債務

1 債務
債務については、本信託設定日における○○屋の貸借対照表を基準とする。

(1)甲が経営する屋号「○○屋」の事業に係る買掛金、未払金、未払費用、前受金、預り金及びその他の流動負債

(2)甲が経営する屋号「○○屋」の事業に係る長期未払金、預かり保証金及びその他の固定負債

以上

財産分離型自己信託(家計資産) これから個人事業を始めるにあたり、万が一うまくいかない場合も家族のために住むところだけは保証したい。

 

(『民事信託の理論と実務』2016 日本加徐出版(株)P279~)

1、これから個人事業を始めるにあたり、万が一うまくいかない場合も家族のために住むところだけは保証したい。

2、債権者の承諾を得て、あらかじめ住宅・土地について家族と住宅ローンの借入先銀行を受益者とする自己信託を設定し、住宅ローンを信託財産責任負担債務とする。

3、仮に事業が破綻しても、別途家族が連帯保証人等の立場で住宅ローンの返済を継続できるなら、事業資産に対する強制執行等に連動して住宅ローンにかかる期限の利益を喪失するといった事態を回避することができる。

自己信託設定公正証書

(目的)
第○条 本信託は、次の事項を目的として、第○条記載の信託財産を受託者が管理、運用する。
(1)受益者の安定した生活
(2)家計資産と事業資産の分離

(信託財産)
第○条 本信託設定日の信託財産は、次の第1号から第2号までとする。設定後に第3
号から第4号によって発生した財産も信託財産とする。
(1) 別紙1記載の不動産の所有権(以下、「信託不動産」という。)
(2) 金銭○○万円(以下、「信託金銭」という。)
 (3) 受益者から追加信託を受けた財産
 (4) その他の信託財産より生じる全ての利益

(信託設定者)
第〇条 自己信託を設定する者の住所及び氏名は、次の者とする。
住所                       
氏名 甲  生年月日

(後任受託者)
第○条 受託者の任務が終了した場合の後任受託者は、次の者とする。
住所                                            
氏名 ○○  生年月日

(信託財産責任負担債務)
第○条 受託者は、別紙2記載の債務を信託財産責任負担債務として引き受ける。


(信託財産の管理方法)
第○条 
1 受託者は、信託不動産について次の信託事務を行う。
(1)所有権の権利の変更登記と信託登記の申請
(2)信託不動産の性質を変えない修繕・改良行為
2 受託者は、信託金銭について次の信託事務を行う。
(1)信託に必要な表示または記録
(2)受託者個人の財産と分けて、性質を変えずに管理
(3)信託財産責任負担債務の返済
3 受託者は、信託財産から次の費用を支出することができる。
(1)登記申請費用
(2)その他の本信託に必要な諸費用

(計算期間)
第○条 本信託の計算期間は、毎年1月1日から12月31日までとする。最初の計算期間は信託の設定日から始まり、最後の計算期間は信託の終了した日までとする。

(公租公課の精算)
第○条 本信託の税金や保険料などは、設定日の前は甲、設定日とその後は、信託財産から支払う。なお、支出の前に受益者に対して前払いを受ける額及びその算定根拠を通知する必要はない。

(信託財産に関する報告)
第○条 受託者は、計算期間に行った計算を、信託口通帳と固定資産評価証明書を提示する方法により受益者へ報告する。

(受益者)
第〇条 本信託の受益者は、次の者とする。
 (1)本店                    
    商号        ○○銀行        
    取扱店                   
・受益権の割合は、住宅ローンの残債務の金額/信託財産の価額
  
(2)氏名 ○○
     住所
     生年月日   続柄:配偶者
     ・受益権の割合は、(1)の受益者の残りの割合

(受益権)
第○条
1 次のものは、元本とする。
 (1)信託不動産
 (2)信託金銭
2 次のものは、収益とする。
 (1)信託財産から発生した利益
3 元本又は収益のいずれか不分明なものは、受託者が判断する。
4 受益者(1)は信託金銭から、信託財産責任負担債務の範囲で、住宅ローン契約に基づき利益を受けることができる。
5 受益者(2)は、信託財産に無償で居住することができる。
6 受益者(2)は、受益権を譲渡、質入れ、分割及び担保設定その他の処分をすることができない。

(委託者の地位)
第○条 委託者は、追加信託をする権利義務のみを受益者に移転し、本信託設定以後、
その他の権利義務を持たない。

(信託の変更)
第○条 本信託の変更は、受託者と受益者の合意による。

(信託の期間)
第○条 本信託の期間は、設定日から終了した日までとする。

(信託の終了)
第○条 本信託は、次の場合に終了する。
(1)受託者と受益者が合意したとき
(2)信託財産責任負担債務の期限の利益が喪失したとき

(清算受託者)
第○条 この信託が終了したときの受託者は、引き続き清算の事務を行う。

(残余財産の引渡し方法)
第○条 清算受託者が、残余財産の帰属権利者に、信託財産の全てをその債権債務関係
とともに引き渡し、最終計算の承認を得たときに、清算手続は終了する。

(残余財産の帰属権利者)
第○条 本信託における残余財産の受益者は、甲とする。

(契約に定めのない事項)
第○条 本信託に定めのない事項は、受託者と受益者が協議の上決定する。

別紙1

信託財産目録

第1 信託不動産
(1)土地
所在      
地番      
地目      
地積

(2)建物      
所在 
家屋番号 
種類 
構造 
床面積㎡


第2 信託金銭 
金○○万円


以上


別紙2
信託財産責任負担債務

本店                    
商号○○銀行        
取扱店                   
債務者 甲
設定時の債務金○○万円
(平成○○年○月○日付住宅ローン契約金○○万円における残債務)

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