遠藤英嗣「委託者の地位は相続により承継しない」(その3)委託者の地位の移転でも同じではないのか

信託フォーラム[1]の記事からです。

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この委託者の地位の移転の問題は、すでに「委託者の地位の承継」の問題として取り上げており、その問題点などについてはご理解いただいていると思っている。しかし、登録免許税という魔物に取りつかれて、今でも委託者の地位者移転に固執している士業も多いので、今回は、「委託者の地位の移転」に絞って考えてみたい。

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登録免許税よりは、信託目録の委託者に関する事項の欄を閉鎖するのか、変更で対応するのかという問題だと思っていました。委託者が亡くなっているのに、信託目録のその他の事項欄でも手当されずに放置されている場合、第三者が観て委託者の地位が分からないことが、公示という面からあまり良くないと思います。

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③(受益者)本信託の当初受益者は、委託者S及びSの配偶者Bである。なお、配偶者Bの受益権の割合は委託者兼受益者Sが民法第760条により負担している婚姻費用の範囲内とする」

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現在、私の場合ですが、ここで出てくる委託者という用語に関しては、信託契約書(案)を公証センターに提出した場合、このように訂正されます。議論の余地はありません。本当は委託者という語を付けて欲しくないのですが、何故なんだろうと感じます。

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法律を駆使した点は敬服するが、地位を取得した者は、権利は行使できないが、受託者から義務(法52条:信託財産が費用等の償還等に不足している場合の措置)の履行は求められそうであり、注意を必要としよう。

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信託法52条については、受益者も義務を負うので、原則として受益権を取得した者に委託者の地位が移転しても、特別な不利益はないのかなと感じます。

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その他

・受益権を取得する者に、委託者の地位を移転する場合、委託者の権利行使を禁止するという条項を入れたとき、委託者の権利行使の禁止を契約当事者でない次の委託者に義務づけられるのか。

私なら、次の条項をいれます。

(受益権)

受益権を原始取得した者は、委託者から移転を受けた権利義務について同意することができる。

(委託者の地位)

委託者は、次の各号の権利義務を受益者に移転する。

(1)信託目的の達成のために追加信託をする権利義務。

(2)受益権の放棄があった場合に、次の順位の受益者または残余財産の帰属権利者がいないとき、新たな受益者を指定することができる権利。

2          委託者は、受益者を変更する権利およびその他の権利を有しない。

3          委託者の地位は、受益権を取得する受益者に順次帰属する。

4          委託者が遺言によって受益者指定権を行使した場合、受託者がそのことを知らずに信託事務を行ったときは、新たに指定された受益者に対して責任を負わない。

・「委託者」には、「当初委託者」と、「地位の移転を受けて委託者になる者」とがいることを前提にして、両者の権利について書き分ける必要があるか。

信託行為時に委託者の権利について定めておけば、書き分ける必要はないと考えます。また、信託行為時に定めない場合は、受益権を取得しようとする人は、同時に委託者の権利について望むような信託の変更が同時になされなければ、受益権を放棄することを受託者と話して、信託の変更を行えば良いと思います。

・登記申請をすべき義務と、信託法上の地位(委託者、受託者、受益者)とは連動するか。

たとえば、母と長男と二男と三男がいて、ほかに母の相続人はいないという状況で、委託者母、受託者長男とする不動産の信託契約(委託者の地位は第2次受益者長男へ移転との条項あり)を締結後、登記申請をする前に母が死亡したという場合、信託を原因とする受託者への所有権移転登記をすべき申請人は、誰か。相続人長男、二男、三男か、新委託者長男か。

登記権利者は受託者長男、登記義務者は母で、代位申請するのは、新委託者(兼第2次受益者)の長男だと考えます(不動産登記法59条7号、99条)。

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[1] Vol.14 2020年10月 日本加除出版P102~

(一社)民事信託推進センターから著作権法違反の通知が届きました。

簡単にいうと、泥棒するな、ということです。

事前調整なく、最初に文書を送ってくるところから始まるのが民事信託推進センターという組織の方向性を表していているような気がします。岡根昇先生、山崎芳乃先生、押井崇先生また関係しているその他の先生、指摘ありがとうございます。記事に付けている意見を少し足していこうかなと思います。

(該当記事)任意後見と民事信託の連携

https://note.com/shi_sunao/n/nfdc3056d6c91

民事信託の研修を題材にしたnoteの記事、マガジンを研修の講師に購入していただいて感じること

https://miyagi-office.info/wp-admin/post.php?post=2053&action=edit

・note購入からご挨拶までの流れ

私ならここで、個人対個人で議論します。

家族信託実務ガイド編集部「地域金融機関と家族信託の専門家との提携の現状分析・今後の展望―信託会社、士業者、団体との提携―」

家族信託実務ガイド[1]の記事からです。

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※VIP先は「直接型」、そうでない先は「間接型」のような「折衝型」もある。

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金融機関から提案されている人をVIP型と捉えれば良いのかなと思いましたが、よく分かりませんでした。

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「信託会社は『受託者のプロであるから家族信託のプロでもある』」と考えるのは早計です。

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誰がそのように考えているのか分かりませんでした。

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なお信託口口座開設の審査における士業者との提携に関しては、金融機関で対応できない個別案件への対処を委託する場合、あるいは信託契約書の審査のみを委託する場合になどに大別されます。士業者への委託コストを顧客から審査費用を徴収する場合もありますし、金融機関が負担する場合もあるようです。

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金融機関が負担する場合があるのは初めて知りました。私は金融機関が負担した分は、何らかの形で顧客に返ってくると思っています。もし最終的に顧客負担が生じるなら、このような書き方は事実と違うのではないかと感じます。

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一方で、金融機関の担当者の方の話によると、士業者が作成して金融機関に持ち込まれる信託契約書の中には不完全なものが事実多いようです。

 書籍やネットに掲載されている信託契約書の条文を寄せ集めて作成した結果、条文ごとの内容が矛盾していたり、ひどいものになると、「一代限りで終了の信託」であるのに、第二受益者が記載されていたりといったレベルの契約書しか作成できない士業者も存在するとのことです。

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一代限りで終了の信託」であるのに、第二受益者が記載されている信託契約書も、契約書の構成次第では(例えば、残余財産の帰属権利者が信託終了事由の発生時の次順位の受益者とされている場合。)、矛盾していないと思います。

下はアンケートの感想です。

・信託口口座の付帯サービスで、インターネットバンキングが利用可能またはサービス準備中としている金融機関が56.6%あることが、意外でした。良い方向だと感じます。

・信託口口座開設手数料の要否では、不要が23.5%となっていることが意外でした。原則手数料は不要だと思っていたからです。信託契約書の審査について、専門家の関与や公正証書を求める段階で金融機関の負担は減っているので、有料にするにしても、その後の金融機関の利益(委託者死亡時の預貯金通帳の名義変更や受託者と取引出来ること)を勘案して決めて欲しいと考えます。

・信託口口座開設の条件に委託者(受託者)が既存取引先であること、を挙げている金融機関が7.5%あるのが意外でした。何かしら理念があれば、そのような金融機関があっても良いのかなと思います。

・取扱い後(準備中)に感じる課題として、信託行為の変更状況のチェック、担保を付けている不動産のチェックがなかったのが意外でした。


[1] 2020年11月第19号P24~

渋谷陽一郎「民事信託における「信託の登記」の作法―信託登記の共生主義に見る実体法(信託法)と手続法(不動産登記法)の交錯」

信託フォーラム[1]の記事からです。

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権利移転の登記及び信託の登記申請の留保について

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誌面で取り上げられていないのですが、私が気になったのは、登記申請の留保目的や受託者の権利義務とその法的効果などではなく、留保期間です。

私の場合ですが、信託契約公正証書を作成時に公証センターに同席し、その場で公正証書を預かり、登記申請に必要な書類に署名押印してもらいます。公証センターから帰ってその日に登記申請、間に合わなければ翌日ということになります。当日の朝に登記情報も取るので、不動産売買契約における決済の場面と少し似たような感覚で業務を行っています。

 今まではこの方法でやってきましたが、今後、直ぐに登記申請を行うことが出来ない場合があるかもしれません。

・委託者や受託者が印鑑を忘れた。

・建物が登記されておらず、土地家屋調査士に依頼しているが、信託契約公正証書の作成時点では表示の登記が完了していない(公証センターの予約が、この日しか取れなかった場合)。

その他にも、意図しないイレギュラーな場面が出てくると思います。そして、留保した(登記申請出来なかった)期間が長いと(例えば1か月)、その理由に関わらず、信託の成立・効力・対抗要件に関して受託者または専門家を含めた関係者の責任が問われる場合があるんだろうなと感じます。

ここは個別具体的に判断されると思います。現状で分かりやすいのは、対抗要件でしょうか。

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第10 信託の登記を留保することの法的リスク

―略―第一は、受託者は、信託法上の強行法規である分別管理義務に違反することになり、信託違反、つまり、強行法規違反である信託の違法状態を生じ得る。このような受託者の登記申請義務の履行懈怠の場合、不動産登記法99条の受益者による信託の登記の申請券の代位権行使も可能となろう。

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 この部分を読んで私が思ったのは、場合によっては受託者の支援を行う司法書士(司法書士法3条1項1号に基づきます。)と受益者(委託者まで含むかは信託行為の内容によります。)の支援を行う司法書士を受任段階から分けることで上手くいく場合もあるのかなと感じました。受益者代理人に司法書士が就くということではありません。

 イメージに少し近いのは、不動産売買における買主と売主にそれぞれ登記申請代理人が就く京都方式です。

 信託行為時は、1人でも大丈夫なのかもしれませんが、期中に受益者の利益と受託者の事務がぶつかる場合があるかもしれません。任意後見人、成年後見人などが就いていて、代理権の内容がどのようになっているのかにもよると思いますが、原則はこれらの法定されている人が受益者を支援する方が自然に思われます。

原則に当てはまらない場合、本来受託者を代理して登記申請する予定の司法書士が、受益者を代理して登記申請すると、何かしっくりと来ない感じがするのですが、私だけでしょうか。信託監督人に司法書士が就任(就任予定を含みます。)している場合、その司法書士が司法書士法3条1項1号を根拠として、受益者による代位登記申請を代理する事例はあって良いのかなと感じます。

この方式を採用すると、共同受任(アドバイスをする人と、実際に動く人で受任して、アドバイスする人がお金を多くもらうやつ)や相談料・チェック料をもらって責任0よりも良い形に収まるような気がします。信託契約書は専門家2人が受託者側、委託者(兼受益者?)側の立場で読み合わせ、信託期中は受託者側、受益者側でそれぞれ個別に支援します。揉めそうな場面でクッションが2つあることで紛争に発展する可能性が低くなるような気がします。信託法上の利益相反は別に考えなければいけませんが、司法書士法上の利益相反に該当する事例は少なくなるように思えます。使えそうなケースがあれば、やってみようと思います。


[1] Vol.14 2020年10月日本加除出版P39~

「信託口口座に対する強制執行(試論)」

信託フォーラム[1]の記事から、気になった部分です。

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そうすると、B銀行としては、執行債権の性質を調査することなく、第三債務者の陳述(民執147条)においては、固有口及び信託口の各預金の存否及び支払の可否を回答することになる。―略―そうすると、B銀行としては、甲信託口及び固有口の双方預金に差押えが及ぶことを前提に、支払にも応ずるほかない。

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私は、債務者乙に対する債務名義なので、信託口預金の存否について回答する必要はないと思いました(存否について回答しないので、支払いの可否も回答しないことになります。)[2]。回答を求める場合には、当事者目録に「乙こと委託者甲、受益者丙の受託者乙」、差押債権目録に「債務者が第三債務者に対し甲信託口名義で有する下記の債権」の記載を追加する必要があると思います。

私は、甲信託口に差押えは及ばないと思います(信託法23条)。その結果B銀行が支払に応じることはないと考えます。

なお執行裁判所と債権者に過度な負担を求めないという運用について全面的に賛成です。

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[1] Vol.14 2020年10月 日本加除出版P71~

[2] 「金融機関の法務対策5000講1巻」2018きんざいP1417

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