受託者の利益相反行為

 

利益相反 例外として許容される行為(個別事案に当てはめ)

1号の要件

(例)

第○条 

1 受託者は次の全てを満たす場合、信託不動産1及び2を、自己の固有財産として○○万円を下限として購入することができる。 

(1)受益者及び信託監督人の承認

(2)受益者が居住していないこと

(3)受託者の居住用として使用すること

2号の要件

(例)受託者○○が信託不動産を○○個人に売る場合

1、2の全てを満たすこと。

1、受託者が責任を持ったまま、受益者の承認を得ること。

2、信託行為にその行為を禁止する定めがないこと。

3号

(例)受託者が子、受益者が親、残余財産受益者、帰属権利者の定めがない。受益者の相続人が子1人である信託において、受益者の親が亡くなって受益権が子に帰属した場合

4号の要件

(例)

1、信託の目的の達成のために合理的に必要と認められる場合

2、受益者の利益を害しないことが明らかであるとき

1,2の全てを満たすこと。

又は、受益者が損するかもしれないが、

1、信託の目的の達成のために合理的に必要と認められる場合

3、信託財産に与える影響、

4、目的及び態様

5、受託者の受益者との実質的な利害関係の状況

6、その他の事情

1、3,4,5,6に照らして正当な理由があるとき

信託法

第三章 受託者等

第二節 受託者の義務等

(利益相反行為の制限)

第31条   受託者は、次に掲げる行為をしてはならない。

―略―

2   前項の規定にかかわらず、次のいずれかに該当するときは、同項各号に掲げる行為をすることができる。ただし、第二号に掲げる事由にあっては、同号に該当する場合でも当該行為をすることができない旨の信託行為の定めがあるときは、この限りでない。

(1) 信託行為に当該行為をすることを許容する旨の定めがあるとき。

(2) 受託者が当該行為について重要な事実を開示して受益者の承認を得たとき。

(3) 相続その他の包括承継により信託財産に属する財産に係る権利が固有財産に帰属したとき。

(4) 受託者が当該行為をすることが信託の目的の達成のために合理的に必要と認められる場合であって、受益者の利益を害しないことが明らかであるとき、又は当該行為の信託財産に与える影響、当該行為の目的及び態様、受託者の受益者との実質的な利害関係の状況その他の事情に照らして正当な理由があるとき。

受託者の利益相反行為

 

利益相反 原則として禁止される行為(例示列挙)

1号 

(例)信託財産の中の不動産を、受託者が買って自分の不動産にする行為

受託者個人の不動産を、信託財産の中の金銭で買って自分のお金にする行為

2号

(例)受託者が2つの信託について、信託間で1号のような取引をすること。

3号

(例)受託者が、信託不動産を売る場合、買主の代理人になること。

4号

(例)受託者が、個人の住宅ローンの担保として、信託不動産を提供する行為。

その他第三者との間において信託財産のためにする行為であって受託者又はその利害関係人と受益者との利益が相反することとなるもの

信託法

第三章 受託者等

第二節 受託者の義務等

(利益相反行為の制限)

第31条   受託者は、次に掲げる行為をしてはならない。

1  信託財産に属する財産(当該財産に係る権利を含む。)を固有財産に帰属させ、又は固有財産に属する財産(当該財産に係る権利を含む。)を信託財産に帰属させること。

2 信託財産に属する財産(当該財産に係る権利を含む。)を他の信託の信託財産に帰属させること。

3  第三者との間において信託財産のためにする行為であって、自己が当該第三者の代理人となって行うもの

4  信託財産に属する財産につき固有財産に属する財産のみをもって履行する責任を負う債務に係る債権を被担保債権とする担保権を設定することその他第三者との間において信託財産のためにする行為であって受託者又はその利害関係人と受益者との利益が相反することとなるもの

100万円の車を、200万円か1万円で売買 価格はコインの裏表で決める

遺留分に関する整理

1、遺言代用信託・後継ぎ遺贈受益者連続型信託における遺留分の考え方

(1)遺留分を侵害する「行為」に焦点を当てる[1][2]

  この場合、遺留分を侵害する「行為」は、当初の受益者の死亡のとき1回のみとなる。受益権は、受益者の死亡を始期とした始期付き権利と考える。

遺留分侵害行為は、委託者(被相続人)から受託者に、信託財産の所有権が形式的に移転した行為。

(2)信託法は民法の特別法であるから、遺留分請求権は発生しない[3]

   信託法は、民法の特別法であり民法に優先するので受益権の移動(移

転)は相続ではない。相続ではないから遺留分は発生しない。

(3)委託者(被相続人)が信託行為により、受益者に対して受益権という信託財産の実質的な利益を与える行為が遺留分侵害行為である。

(4)受益権は存続期間の不確定な権利とし、新たな受益者はその権利を取得する[4]

 存続期間の不確定な権利、というのがどのようなものなのか、現在のところよく分かりません。存続期間の不確定な受益権と考えると、遺留分の適用は委託者の死亡時1回のみと記載されていますが、なぜなのか分かりませんでした。

2、遺留分減殺請求の順序

(1)遺言信託

遺贈と捉え、1番最初に請求される(民法1031条)。

(2)信託契約(遺言代用信託、後継ぎ遺贈型の受益者連続信託)

死因贈与と捉え、遺贈の次、生前贈与の前に請求される(民法1033条、東京高判平成12年3月8日)。

・備考

遺言により、遺留分減殺請求について順序指定、割合指定をすることが可能(民法第1034条)。

3、遺留分減殺請求の効果

(1)民法改正後

  金銭債権が発生する、と改正された場合

 受益債権でも良いか。

 分割給付の受益債権でも良いか。


[1] 能見善久「財産承継的信託処分と遺留分減殺請求」トラスト未来フォーラム研究叢書『信託の理論的深化を求めて』2017 P121

[2] 伊庭潔『信託法からみた民事信託の実務と信託契約書例』2017 日本加除出版P288 

[3] 他に生命保険との類似性も指摘する。河合保弘『家族信託活用マニュアル』2015日本法令 P50~

[4]平川忠雄ほか『民事信託実務ハンドブック』2016日本法令 P153

貸借対照表・損益計算書

受益者○○様

                           受託者○○

            (会計基準)1、収益の認識:実現ベース

2、未収入金:計上せず

信 託 貸 借 対 照 表

              (○○年○○月○○日現在)     

(単位:円)

資産の部

【流動資産】

普通預金     19,900,000

流動資産計    19,900,000

【固定資産】

(有形固定資産)

建物       3,000,000      

土地       25,000,000

修繕積立定期預金  5,000,000

固定資産合計   28,000,000  

資産の部計    37,900,000  

純資産の部

信託拠出金    38,000,000   

未処理金損失      100,000   

剰余金計     37,900,000   

信託損益計算書

(○○年1月1日から○○年12月31日)

費用の部

租税公課          100,000

損害保険料          30,000

当期損失          130,000

次期繰越損失        130,000

信託の計算(受託者)

・信託法37条

第三十七条   受託者は、信託事務に関する計算並びに信託財産に属する財産及び信託財産責任負担債務の状況を明らかにするため、法務省令で定めるところにより、1、信託財産に係る帳簿その他の書類又は電磁的記録を作成しなければならない。

2   受託者は、毎年一回、一定の時期に、法務省令で定めるところにより、2、貸借対照表、3、損益計算書その他の法務省令で定める書類又は電磁的記録を作成しなければならない。

1、その他の書類の例

(1)信託契約書の財産目録

(2)固定資産税評価証明書

(3)固定資産税納付書のコピー

(4)預金通帳のコピー

(5)税務申告書のコピー

(6)その他の書類との組み合わせ

2、3の要件

信託財産と信託財産責任負担債務(信託財産で返済しても良い債務)が、どの位あるか分かること

・信託計算規則

(信託帳簿等の作成)

第4条   法第37条第1項 の規定による信託財産に係る帳簿その他の書類又は電磁的記録(以下この条及び次条において「信託帳簿」という。)の作成及び法第37条第2項の規定による同項の書類又は電磁的記録の作成については、この条に定めるところによる。

2  信託帳簿は、一の書面その他の資料として作成することを要せず、他の目的で作成された書類又は電磁的記録をもって信託帳簿とすることができる。

3  法第37条第2項に規定する法務省令で定める書類又は電磁的記録は、この条の規定により作成される財産状況開示資料とする。

4  財産状況開示資料は、信託財産に属する財産及び信託財産責任負担債務の概況を明らかにするものでなければならない。

5  財産状況開示資料は、信託帳簿に基づいて作成しなければならない。

6  信託帳簿又は財産状況開示資料の作成に当たっては、信託行為の趣旨をしん酌しなければならない。

・企業会計基準 実務対応報告23号

受託者の会計処理

Q8 受託者は、どのように会計処理するか。

A 新信託法において、信託の会計は、一般に公正妥当と認められる会計の慣行に従うものとする(第13 条)とされている。

これまで、信託は財産の管理又は処分のための法制度であり、これを適切に反映するために、その会計は、主に信託契約など信託行為の定め等に基づいて行われてきたと考えられる。

むろん、信託の会計を一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準じて行うことも妨げられないものの、新信託法においても、信託は財産の管理又は処分の制度であるというこれまでの特徴を有しているため、今後も、これまでと同様に明らかに不合理であると認められる場合を除き、信託の会計は信託行為の定め等に基づいて行うことが考えられる。

ただし、次のような信託については、債権者が存在したり現在の受益者以外の者が受益者になることが想定されたりするなど、多様に利用される信託の中で利害関係者に対する財務報告をより重視する必要性があると考えられるため、当該信託の会計については、株式会社の会計(会社法第431条)や持分会社の会計(会社法第614条)に準じて行うことが考えられる。この場合には、原則として、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準じて行うこととなる。

(1) 新信託法第216条に基づく限定責任信託

(2) 受益者が多数となる信託(この点については、Q3 のA3(2)②を参照のこと。)

なお、受託者が信託行為の定めに基づくなど財産管理のための信託の会計を行ってい

ても、受益者の会計処理は、原則として、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に基づいて行うことに留意する必要がある。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

受託者の会計は、原則として信託契約(信託行為)で定めた基準で行ってください。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

受益者○○様

                            受託者○○

             (会計基準)1、収益の認識:実現ベース

2、未収入金:計上せず

信 託 貸 借 対 照 表

              (○○年○○月○○日現在)     

(単位:円)

資産の部

【流動資産】

普通預金     19,900,000

流動資産計    19,900,000

【固定資産】

(有形固定資産)

建物       3,000,000      

土地       25,000,000

修繕積立定期預金  5,000,000

固定資産合計   28,000,000  

資産の部計    37,900,000  

純資産の部

信託拠出金    38,000,000   

未処理金損失      100,000   

剰余金計     37,900,000   

信託損益計算書

(○○年1月1日から○○年12月31日)

【費用の部】

租税公課          100,000

損害保険料          30,000

当期損失          130,000

次期繰越損失        130,000

PAGE TOP