加工 ラオスにおける民事関係法制に関する調査研究

法務省HPより

松尾 弘(慶應義塾大学)

大川 謙蔵(摂南大学)

平成 27 年 3 月

ラオスにおける民事関係法制に関する調査研究

松尾 弘 *1

大川 謙蔵 *2

〈目次〉 Ⅰ 序論

Ⅱ ラオスの政治・経済・社会 Ⅲ 民事関係法制の概要

Ⅳ 財産法制 Ⅴ 家族法制 Ⅵ 結論

【参考文献・参考情報】

Ⅰ 序論

 本調査研究は,ラオス(正式名称は「ラオス人民民主共和国」。以下,ラオスという)における民事関係法制を中心に,ラオスの法制度および法実務の現在の状況を分析するものである。本調査研究は,筆者らがこれまでにラオス,日本等で行った実地調査,インタビュー,資料・文献研究等に基づくものであり,情報の最終時点は,2015 年 2 月 28 日である。

 ラオスにおいては,①仏教の影響を受けた古代法,②フランスによる植民地時代に導入された近代法,③1975 年 12 月の王制廃止後に旧ソビエトやベトナムから導入された社会主義法,④1990 年代から導入された市場経済化を促すための法律と,国外から大きな影響を受けながらも,それをラオス社会に取り込み,独特な形でいわば「ラオス化」することにより,法制度が発展してきた。

ラオスは,現在は社会主義国であるが,1980 年代の後半から市場経済システムの要素を積極的に導入し,アジア諸国の中でも最も急速に,かつ安定的に発展している国の 1 つである。民事関係法制を中心とする法整備は,そうした経済発展を支えるものとしての側面と,そうした現実の変化を反映するものとしての側面をもち,両側面は相互作用の関係にあるとみられる。

以下では,とりわけ目覚ましい経済発展を示すようになった 1990 年代以降におけるラオスの民事関係法制の特色を分析し,今後の法改革の課題を検討し,さらには法整備協力のあり方についても展望する。

Ⅱ ラオスの政治・経済・社会

 1.政治体制の変遷

ラオスは国土面積約 236,800 ㎢,豊富な水資源,鉱物資源等をもち,潜在的な開発能力は高いものを秘めている。人口は約 658 万人(2013 年),人口成長率 2.2%であり,人口密度は 19 人/㎢にとどまる。宗教は主に仏教であるが,約 50 の民族を擁する多民族国家であり,多数派の低地ラオ族は約 56%にとどまり,丘陵地ラオ族(約 34%),高地ラオ族(約9%)と,文字通りの多民族・多文化社会である。

ラオスでは,1353 年にラオ族による統一王朝であるランサーン王国が成立した。しかし,18 世紀に北部のルアンパバーン王国,中部のヴィエンチャン王国,南部のチャンパサック王国に分裂し,シャム(タイ)およびカンボジアによる影響の下で,戦乱が続いた。その後,シャム(タイ)に従属するようになった前記 3 王国は,フランスにより,仏領インドシナ連邦に保護国として編入され(1889 年),フランスの植民地となった [1]

1945 年 3 月,日本軍の明号作戦により,仏領インドシナ連邦は解体し,同年 4 月,ラオスは日本の協力を受ける形で独立を宣言した。日本の敗戦後,再びフランスの植民地支配の下に置かれたが,仏領インドシナ連邦を復活させようとするフランスに対抗して 1946 年第 1 次インドシナ戦争が勃発し,1949 年,フランス連合内のラオス王国として独立し,1953 年 10 月,フランス・ラオス条約により,完全な独立を果たした。しかし,独立後のラオスでは,右派・左派・中立派による内戦が長期化した。

1973 年,アメリカのベトナム撤退を受け,1974 年に右派・左派・中立派の 3 派連合によるラオス民族連合政府が成立,1975 年の南ベトナム崩壊に伴い,同年 12 月,ラオス民族連合政府は王政の廃止とラオス人民民主共和国の樹立を宣言した。それ以来,ラオスでは社会主義政党であるラオス人民革命党による一党支配体制の下で,開発が進められてきた。

ラオス人民革命党は,革命直後の混乱と停滞を経て,1979 年以降は対外開放政策に転換し,1986 年の第 4 回人民革命党大会で「新思想」(チンタナカーン・マイ)・「新制度」(ラボップ・マイ)の導入を決定し,市場経済化を進めてきた。さらに,第 9 回人民革命党大会(2011 年)の決議を遂行するために策定された「第 7 次経済・社会開発 [2] か年計画」(2011~2015 年)は,「政治と治安,社会秩序の安定を厳格に保障する」ことを「総合目標」の 1 つに掲げた。また,「社会分野」の開発方針の中では,司法部門の主要目標の 1 つとして,民法典の編纂を掲げている 5。

 2.経済状況

 ラオスの主要産業は,2010 年段階では,農業(約 28%),鉱業(約 26%),サービス業(約 39%)である [3]。また,主要輸出品目は,鉱物,農産物・林産物,縫製品,電力等であり,主要輸入品目は投資関連財,消費財等である [4]。1 人当たり GDP は,2009 年に 907 ドル,2010年に1,088ドル,2011年に1,204ドルと増大し,経済成長率も,2009年は7.6%,2010 年は 8.1%,2011 年は 8.3%と順調にかつ急速に上昇している [5]

その要因として考えられるのは,①政治体制が比較的安定しており,経済取引や内外からの投資にとって好まれる安定した環境を提供していること,②それを受け,実際にタイ,中国,韓国,日本等からの投資が増大していること,また,③国内の資源開発,商品作物等の生産量も増大していることが挙げられる [6]

このようにラオス経済は,基本的に国内外からの投資を増大させ,比較的早くから輸出志向型の経済構造を取りつつあるように見える。そして,1990 年代から 2000 年代にかけては比較的安定した政治体制の下で,ゆっくり,着実に成長してきたが,2010 年代からは成長スピードが年々早くなっているように感じられる。

ラオスは 1997 年に ASEAN 加盟,2013 年に WTO 正式加盟を実現し,その準備過程において,銀行制度改革,税制改革,外国投資法の制定,国営企業の民営化等,経済構造を変更する手段として,関連する法整備を比較的早いペースで進めている点に特色がある。

 3.社会状況

ラオスは,仏教(上座部仏教)の継受を介して,インド,ミャンマー,タイ,中国等の文化的影響を受けつつも,倫理,文学,美術,芸能等の各分野でそれらをラオ語に反映させて取り込み,独自の文化を維持してきた。ラオス人の生活は,一般的に仏教の影響を強く受けており,信心深く,忍耐や受容の倫理を継承している。

ラオスは現在,首都のヴィエンチャン市を含むヴィエンチャン都および 17県(北部 8 県,中部 5 県,南部 4 県)から構成されている。現時点では社会主義による中央集権的体制の下で開発政策が推進される中,地方議会は存在せず,地方自治は将来的な課題として残されている。ラオスでは,かつて「各級人民議会及び人民行政委員会組織法」(1978 年 7 月30 日)により,県・郡・区の各レベルに地方人民議会が置かれたが,その後地方議会選挙は実施されない一方で,中央政府が地方行政委員を任命して地方統治を行ったために,地方人民議会も地方行政委員会も法令が目標としたようには機能せず,1991 年憲法によって地方人民議会も地方行政委員会も廃止された。その結果,地方の代表および意思決定機関は地方党委員会に一元化されることになった。その後,地方に対する権限移譲政策が行われ,県知事に権限が集中したが,これを監督する制度が不十分で,汚職が問題になった。これを監督すべく,地方人民議会を設置して地方行政機関を監督することが検討されたが,2009 年に設置が見送られた。このように今なお政府がラオス全土と人民を十全に掌握し,かつ地方の住民の意思を反映できる統治システムを構築しているとはいえない段階にあり,集権化と民主化の推進は重要な開発課題である [7]

すみれ

「北海道くらいの規模かな。」

 そうした社会状況の中で,ラオス社会の特色として看過できないのは,伝統的な村落の重要性である。ラオ人は伝統的にメコン川に沿った地域に北から南へと分散居住し,各地に村落を形成してきた。そうした小規模の村落が分立していたことも,隣国のタイ,カンボジア,ミャンマーや,外国勢力に対して劣勢を余儀なくされた原因でもあった。しかし,その反面,各々の村落には,一方で世俗の代表としての村長(ナイバーン)が共同作業の指揮やもめ事の解決等を行い,他方で寺院の僧侶やプー・ター神等の小祠の霊媒が農耕儀礼,村人の悩み事相談等を受け,包括的な生活規範を醸成していた。村落は自給自足的な農作業や宗教行事における共同作業を通じて,実質的な共同体を形成した。そうした自律的な小宇宙の中で,村落はより大規模な地域の政治勢力に関わりをもつことなく,村の範囲を相互に越えることなしに,共存し続けてきた [8]。  そうした村落の伝統は,現代のラオスにもなお根強く存続しているように思われる。この点については,各地の村落についての調査研究を蓄積してゆく必要があるが,その 1 例として,本調査研究では,ルアンパバーン県のパク・ウ村の村落における聴取調査の概要を記しておきたい [9]

パク・ウ村は,世帯数 94 戸,人口 474 人の地域コミュニティである。村の意思決定は,村委員会(村長,副村長,村の女性同盟・青年同盟・公安組織の各代表者等から構成される)が行っている。また,意思決定すべき問題によっては,必要に応じ,郡の役所,女性同盟(女性問題等について),が意思決定を支援することもある。

村委員会の構成員は,選挙によって選出され,任期は 3 年~5 年である。この選挙には,郡役所も協力している。選挙に際しては候補者リストが作成される。そのために,まず現職を記載したリストを作成し,ついで,自薦他薦により,リストに名前が付加する方法が取られている。18 歳以上の住民が選挙権をもつ。

パク・ウ村は 5 つのグループに分かれており,各グループにはリーダーがいる。この 5 グループおよび各グループに属する全世帯主の名前が,村の集会所の黒板にチョークで記されており,一目瞭然である(加除・修正も容易である)。

 出生・死亡は,村委員会に申告し,登録される。村委員会は,それを複数の村が集まった区に報告することになっている。

契約に基づく土地の売買等の権利移転の登記についても,村委員会(村長)が契約の真性を証明し(村長が契約書に署名する),その旨の証明書を発行することになっている。土地取引の当事者はこの証明書をもって郡の土地登記局に出頭し,登記することになっている。

番人

「村長が公証人のような役割をしているのかな。」

土地にかかる税(土地の利用目的によって異なる)は,区の役人が村に来て計算して請求する。村の構成員は,村委員会に支払い,村が取りまとめて区に引き渡す方法がとられている。これは村の連帯責任にも通じる制度であると考えられる。

 村長の報酬は毎月約 150,000 キープ(約 1500 円),副村長の報酬は毎月約 100,000 キープ(約 1000 円)である。村長はそれだけでは生活できないから,レストランの経営を本業としている。副村長の本業は農業であるとのことであった。村には公安組織があり(警察とは異なる),12 人がそれに属し,スケジュールを作成して24 時間体制で警備を行っている。公安組織の事務所はなく,村の入口に待機しつつ,時折見回りを行っている。

村には特別の役場はなく,簡易な作りの集会所が実質的に役場に当たる。村委員会の会議もここで開かれている(集会所が立てられる前は,付近の寺を使用していた。また,集会所に収容し切れないときも,寺で集会を開いている)。

村落が伝統的に果たしてきた重要な機能として,村落調停がある [10]。村落調停における紛争の実際例としては,①一般的問題として,自宅の庭に他人の鶏が侵入して糞をすることで迷惑を被っているという主張をめぐる紛争,隣家の屋根が長過ぎて,自分の家の庭に雨が落ちて迷惑であるという主張をめぐる紛争,子ども同士が一緒に遊んでいて喧嘩をしたという主張をめぐる紛争,②家族関係の問題として,夫が他県(市)で仕事をしていてなかなか帰って来ないという主張をめぐる紛争,⑤刑事に関わる問題として,窃盗(鶏を盗んだ等)をめぐる紛争等が典型的である。

調停は,紛争当事者が村落調停委員会に村落調停を申し立てることによって開始される [11]

 村落調停ユニットが調停を行うが,そのメンバーは首相令に基づき,選挙により,その結果に従って区の長が任命する。同メンバーは,教育を受けて知識がある人が選ばれるものとされているが,実際には青年同盟・女性同盟・長老グループ・公安組織等の各代表者が選ばれている。村落調停ユニットのメンバーには任期がない。自ら辞任することはできるが,その場合には後任を選ぶ必要があるものとされている。なお,村長はメンバーにはなれず,通常は副村長が村落調停ユニットのリーダーを兼ねることが多い。村人は,同メンバーは経験が重要であること,尊敬できる者がメンバーになる必要があること等により,同メンバーが交替することに対しては一般的に消極的であるとされている。同メンバーに対しては,日当等の支払はない。

 この村落調停は,前記首相令に基づくものとしては,2003 年から行われているが [12],パク・ウ村は 2011 年から「紛争のない村」(Case Free Village)として認定され,表彰されている [13]。この認定(表彰)制度が整備されたことにより,事件自体が減ったとされている。

実際,パク・ウ村では,調停不能となって裁判所に移管された事件はないとされている。  調停費用に関しては,通常は費用はかからない。例外的に,区の役人や他の村人に来てもらう必要があるような事件の場合には,その費用として 5 万~20 万キープ程度かかる。  調停に要する時間に関しては,最長で調停を 3 回実施し,7 日間かかった例がある。通常は,2,3 回であるとされる。

 村落調停の手続に関しては,①まずは 5 つあるグループの各リーダーが相談を受け,解決を提案する。また,複数のグループに関わる問題は,関連するグループのリーダー同士が話し合う。②それでも解決しないときは村長に相談する。③村長に相談しても解決しないときに初めて村落調停委員会が開かれる。

村落調停ユニットのメンバーの教育に関しては,過去の先例を用いた自己研鑚のほか,司法局の役人が時折村に来て,セミナー等を実施する。各村が 1 年に 2 回のワークショップを受けることができるとされている。

もっとも,パク・ウ村では,2003 年から調査時点までに 2 件しか調停は実施されていない。1 件は子どもによる金銭の窃盗,もう 1 件は離婚問題であった。最後のケースは 2005 年の離婚事件である。

調停に際しては記録を取り,保管している。当事者にも,調停の結果を記録したもののコピーを渡している。

 以上のように,伝統的な村落調停は,現在では国家制度に取り込まれつつも,基本的にはその機能を維持しているとみることができる [14]

Ⅲ 民事関係法制の概要

 1.ラオスの司法制度の現状

 ラオスの民事関係法制を検討するに先立ち,司法制度の現状を確認しておくことが便宜である [15]。ラオスの司法制度に関する主要データは,以下のとおりである [16]

 最高人民裁判所の統計(2013 年)によれば,ラオスには最高人民裁判所(1 か所),高等人民裁判所(3 か所),県人民裁判所または首都人民裁判所(16 か所),郡人民裁判所(39か所)が存在する [17]。裁判官数は約 375 人,軍事裁判官数は 29 人である。

 最高人民検察院の統計(2013 年)によれば,ラオスには約 348 人の検察官がおり,約 1070 人の検察事務官が存在する。

 ラオス弁護士会(the Lao Bar Association: LBA)に登録された弁護士数(2013 年 12 月 30 日)は 146 人であり,ほかに 23 人のインターン生が,近々弁護士登録する予定である。他に約 40 人の法律コンサルタントが活動しているが,LBA には登録されておらず,裁判所で弁論等の活動をすることはできない。

ラオスでは,人口比(10 万人当たり)で比較した場合の裁判官・検察官・弁護士という主要法曹人口の相対的割合において,裁判官の数が比較的多いのに対し,弁護士の数が極端に少ないという特色がある [18]。その一因は,政府主導による法運営の中で,事件解決のために職権主義的に関わる裁判官および検察官の果たす役割が大きいこと,それと相関的に,弁護士に固有の職務の意義やその必要性についての認識・理解が未成熟な中で,弁護士に対する実務的要請が少ないことにもよると考えられる。

 ヴィエンチャン首都裁判所に第 1 審が係属した民事事件数(2013 年)は,331 件であり,そのうち 166 件が判決済または終了済で,145 件が係属中である。他に同裁判所には 68 件の家事事件の申立があり,44 件が終了済で,24 件が係属中である。

 刑事事件は,同じくヴィエンチャン首都裁判所に第 1 審が係属した数(2012 年)は,931件であり,851 件が終了済,80 件が未済である。

 ちなみに,裁判官が 1 人当たり抱えている事件数は 200 件程度であるが,減少傾向にあるとされている。その原因として,39 の簡易裁判所が設けられ,高等裁判所も北部・中部・南部の 3 か所に設置されたことが大きいと考えられている。事件解決に要する時間は,事案によって大きく異なるが,証拠に問題がなければ,第 1 審では 2 か月程度,控訴審では 2 週間~3 週間で判決が下される。他方,証拠が不十分な場合は,裁判官が職権で調査できるし,しているとの回答が注目される。なお,裁判官の報酬は,現在は特に根拠法規がなく,

40 歳前後の裁判官で,正式な給与は 100 万キップ程度であるとの回答がされている 22。

 2.ラオス法の法源と個人の権利・義務  民事関係法制の制度的基盤として,最初に,ラオスにおける法源の状況および個人の基本的な権利・義務の根拠がどのように捉えられているかを確認しておきたい。

 ラオス法の法源としては,①憲法,②法律,③国民議会決議,④国民議会常務委員会の決議,⑤国家主席令,⑥政府決議,⑦首相による命令・決定・通達,⑧大臣による命令・決定・通達,⑨県知事による命令・決定・通達,郡長による命令・決定・通達,⑩村の規則がある。

 憲法は第 1 条から第 98 条まで存在し,その第 34 条以下の部分に第 4 章として「国民の基本的権利及び義務」を定め,またラオス国籍法 2 条 1 項において,ラオス国家に対する個人としての市民の権利義務の付与およびラオス国家の市民に対する権利義務の付与について定められている。ここでいうラオス国民(市民)とはラオス国籍を有する者であり(国籍法 2 条 1 項),ラオス国籍は出生,帰化,およびラオス国籍の再取得により取得される(国籍法 9 条)。なお,国籍法にはそれら以外にも,父母の一方がラオス市民である場合の子,無国籍者を父母として出生した子,父母が知れない子,および外国市民または無国籍者についての国籍取得に関する規定が存在する(国籍法 11 条ないし 14 条)。

 3.ラオスにおける民事関係法制の形成  ラオスにはフランス統治下で編纂された民法典(27 章 345 か条。1950 年 3 月 31 日法律68 号)23が存在したが,ラオス王国の独立(1953 年 10 月)後,クーデタを伴う内戦状態が続いた末にラオス人民民主共和国の成立に至ったため,形式的には承継されていない。  ラオスは 1975 年の王制廃止,ラオス人民民主共和国の設立以来,統治原理として社会主2014 年 11 月 25 日~12 月 2 日,2015 年 2 月 9 日~17 日におけるラオス裁判官(複数)へのインタビューによる。

  • 松尾 2007: 41 頁注 8,51 頁【表1】参照。義を採用している。ラオスにおける民事関係法制は,個別制定法の形式を中心に,1986 年の人民革命党大会における新思想(チンタナカーン・マイ)・新制度(ラボップ・マイ)の導入を契機に,1990 年を中心に相当短期間のうちに立て続けに形成された。その主要なものとして,1990 年に財産法,契約法,相続法,家族法,契約以外の債務法(2008 年 12月 8 日,契約法と合体し,契約内外債務法に統合),民事訴訟法(1994 年,2004 年,2012年に改正)が,1991 年には家族登録法(2008 年に改正),公証法が,1994 年には担保取引法(2005 年に改正)が,1997 年は土地法(2003 年改正)が制定された。2008 年には家族法,相続法,契約内外債務法等,民法関連法規の比較的規模の大きな改正が行われた。

ラオスの民事関係法制の制定準備プロセスでは,世界銀行の支援の影響が大きかったとみる分析もある [19]。しかし,民法関連の主要法規に関しては,まずは社会主義諸国の影響を無視することができない [20]。すなわち,1989 年にソビエト(当時)の法律アドバイザーがラオスを訪問し,社会主義法の改正についてアドバイスが行われた。1990 年の一連の立法のうち,財産法,契約法,契約外債務法(不法行為法),家族法,相続法の制定に際しては,ソビエトおよびベトナムの専門家がアドバイザーとしてラオスを訪れた。起草に際しては,ソビエト法,ベトナム法がモデルとされた。フランス法もわずかではあるが参考にされた。

なお,契約法および不法行為法は,2008 年に改正されたが,その際には外国人アドバイザーの手を経ずに,ラオス人のみによって起草された。

 他方,担保取引法(1994 年。2005 年改正)およびその施行のための首相令は,世界銀行グループに属する国際金融公社(International Finance Center: IFC)のアドバイザーがラオスを訪れ,起草支援をした。

 また,土地法(1997 年。2003 年改正)は,アメリカ(USAID),ドイツ(当時の GTZ。現在の GIZ),オーストラリア(AUSAID)の支援によって起草された [21]。また,アジア開発銀行(ADB)の支援でラオスのチームがオーストラリアに研修に行き,トレンズ・システム(Torrens System)について学んだ。2003 年の土地法改正は,土地登記手続など,主として手続規定が中心である。また,土地登記の管理が,財務省から資源・環境省が管轄する土地管理局に移管された。土地法は近い将来さらに改正が予想されている。とくに,土地のコンセッションの期限が到来した場合の更新,外国人を含む土地投資を促進するために土地使用権の種類を現在の 8 類型からさらに増やすことを計画している。

 一方,1990 年頃の立法初期においては,当時のラオス司法省の幹部(フランス語を解し,フランス民法の教育を受けている)に対し,アメリカのアドバイザーも関与した [22]。最近では,2008 年からアメリカが契約内外債務法を含む商事法のパフォーマンスを測定・評価するプロジェクトを実施している [23]

このような経緯を背景にして形成された現行ラオス民法の特色として,①個別立法積上主義による複数法規への分散,②比較的簡潔な条文構成,③フランス法的要素 [24]・社会主義法的要素・英米法的要素・国際取引法の要素の混合的性格,④ラオス人自身による立法と適用の試行錯誤の蓄積という特色を見出すことができる。

 1980 年代末以降における自由主義経済システムを導入するための一連の立法に対しては,ラオス内部でも,「世銀の主導に対応して一通りの早急な法整備を実施してきたものの,簡素な単行法の羅列の観を呈しており,内容的不足や深刻な不整合が存在すること」などへの危惧も生じていると指摘されていた [25]。その一方で,これらの個別単行法は裁判で適用され,試行錯誤的に部分改正も行われてきたことも看過すべきでないように思われる。

 概してラオスの立法は,外国法令をそのまま移植することはせず,ラオスの起草者自身が独自にアレンジし,原案を作成する方式をとっている。その他の点で,外国法・外国人の影響は非常に少なく,民事訴訟法に関してオーストラリアのアンドリュー・ウィルソン(Andrew Wilson)が協力した程度である。2003 年以降は日本人の専門家がほとんど唯一の外国人協力者となった [26]

 近年は民事訴訟法の改正(ラオスでは 2003 年改正憲法に基づき,司法行政権が司法省から最高人民裁判所に移管され,司法部の独立への動きが加速したことを背景に,権力分立へ向けた動きが加速した。その一環として,1990 年民事訴訟法(72 条~77 条)に存在した確定判決のやり直しを命じる監督審制度が,2004 年改正民事訴訟法で廃止され,上告制度が導入された(109 条~114 条)[27]。また,2012 年民事訴訟法改正の準備過程では,検察官の立会権を制限するなど,当事者主義の強化が争点になった。これについては検察院との間で議論が続いている [28]。また,国会との関係でも,裁判所の法解釈権限には制限があるとの理解が根強く残っており,そのことが判例集の作成・公刊,そうした活動を通じた判例(法)の形成に対しても制約要因となりうることにも注意する必要がある [29]。しかし,これらの点も踏まえつつ,全体的傾向として,ラオスでは司法部の独立に向けたプロセスをゆっくりと歩んでいるとみることができるように思われる),知的財産法の制定,企業法の実施,弁護士法の制定準備(ラオス弁護士会が起草し,現在は曖昧になっている外国法律事務所の設立に対する規制等も含む予定),包括的民法典の編纂準備へと進み,基本的にシビル・ロー体系の色彩を強めていることが注目される。

 このように経済・社会の変化に応じて個別立法積上主義で対応してきたラオスに対する法整備支援,とくに日本によるそれは,法令集,判決マニュアル,法律用語辞書,民・商法教科書等の作成支援等,ラオス人自身による法整備を比較的時間をかけて間接的に支援するプロセス志向型で実施されてきた [30][31]。こうした法整備および法整備支援のラオス・モデルが,今後,司法アクセスの拡充を含め,法整備と経済・政治・社会の発展の次の段階にどのように作用するか,注目される。

[32] 財産法制

 1.私有財産権の承認・保障  財産法は,ラオスの所有権秩序の根幹をなすものとして,基盤的な重要性をもつ。それは,財産権を定義し,それを 5 種類に分類し,各種財産権の対象,内容,取得,利用規制をしている。それは,一方では,「消費財,個人用途の商品,施設,住宅,家具,家畜及び個人所得」を対象とし,「必要に応じて自らの資産及び所得を占有,利用,収益,処分する権利」として「私有財産権」を定義し,その保護を保障している(財産法 1 条,2 条,20 条,21 条)。

これに加え,財産法と同日に成立した相続法(2008 年に改正)により,これを含む様々な財産権の法定相続または遺言による承継が認められたことにより(相続法旧 1 条・2 条・15 条・32 条・33 条,相続法 9 条・24 条など。財産法 35 条も参照),私有財産制度を承認している 36。

2.土地に対する所有権の観念  

ラオス憲法(2003 年改正)では,「土地については,国家共同体の所有に属し,国家は法律に従い,その土地を使用,譲渡及び相続する権利を保護する」(17 条)と規定する [33]。その結果,個々の国民(私人)がもちうるのは,国家によって認められた土地の「使用権」である [34]。もっとも,個々の国民(私人)が土地の「所有権」をもち,それが私人間で売買され,移転する旨の表現も行われている。

ラオス憲法制定に際して土地は誰のものかが議論され,国民全体のものであると観念され,財産法でも土地はラオス国家全体の所有とされ,個人には政府の管理下で使用権と相続権が認められるとされた [35]。その後,現在の考えでは,ラオス国民も土地の所有権をもっていると考えており,これについてはイギリス等のコモンウェルスにおける土地所有権概念(形式的には国王の所有であるが,実質的には国民が所有しうる)に類比する説明も行われている。

 こうした土地所有権観念の変化は,財産法・土地法の改正に反映している。元々財産法 20 条によれば,土地は自由に使用できず,売買も禁止されているが [36],市場経済の進展に伴い,政府通達により,土地の所有権は売買によって取得されることが認められた。2003 年土地法(改正)では,土地が売買の対象外である旨の規定が削除された。そして,土地使用権を売却,譲渡,交換によって他の者に与える権利が認められた(土地法 57 条。2003 年改正による)。土地法は,土地使用権は国家による割当てのほか,譲渡,相続によっても取得されると規定しており(土地法 52 条),土地使用権の保有者の権利として,土地を保護する権利,使用する権利,用益に関する権利,譲渡する権利,承継に関する権利を認めている(土地法 53 条~58 条)。

 こうした法意識の変化および政府通達に伴い,財産法自体を改正すべきであるとの意見も出ている。ラオスの法実務および一般市民の意識としては,土地に対する私人の「所有権」が成立するという観念が普及している。このことは,革命前後の土地所有権の連続性の経緯が影響を与えていることも考えられる。ラオスでは,革命時には,従来の土地を国家によって接収された者もあったが,土地の占有をそのまま認められた者も少なくなかった。

それらの者にとっては革命前の土地の占有(所有権に基づく)と革命後の占有は連続性をもっている。この事情(社会的実体)が,社会主義下での土地の使用権をも「所有権」と呼ぶ意識の基底にあるように思われる。これに加え,土地の使用権の期間が限定されていないこと,譲渡・担保権設定等の処分が自由であること,相続が認められることと相俟って,社会主義憲法下での土地使用権という建前にもかかわらず,一般市民がこれを「所有権」と意識することをごく自然なものにしていると考えられる [37]

 3.土地と建物との関係(建物の独立不動産性)

 土地と建物の関係,建物の独立不動産性は,ラオス法では明確でない [38]。担保取引法 22 条(不動産の性質の決定と価格評価に)は「不動産に関わる担保契約は,担保として使用されるかかる不動産の価額評価ならびにその区分,種類,大きさ,品質,数量,および所在といった当該不動産の特性に関する明確な記述を含むものとしなければならない」と規定し,担保権の客体を明らかにすることを求めているものの,建物が土地と独立した不動産かを明らかにしていない。

ラオスの法実務家の中には,(a)土地に担保権を設定した場合,担保契約書に建物を担保不動産に含めると明確に記載していなければ,建物は含まないとの見解と,(b)担保契約書に記載されていなくとも,建物および土地の付属物は担保不動産に当然に含まれるとの見解がある [39]。後者は,ラオスでは建物について独立した登記制度は設けられていないため,法実務では土地と建物を一体的に捉えることを前提にしつつ,事案に応じて利益調整を図っているという理解によるものと考えられる。

ポリー

「建物は登記の制度がないっていう国は結構あるんですね。」

 4.物権的請求権

財産権の保護に関しては,財産権に基づく請求権として,返還請求権,妨害排除請求権,財産権の侵害を生じさせるおそれのある障害の除去請求権,財産権の確認請求権の類型を規定する(財産法 57 条,62 条,63 条)。

その際,善意の占有者に対しては果実・収益の取得や費用の償還請求を認めるが,悪意の占有者には一切否定しており,時効取得の場合と併せ,悪意者に対する制裁的色彩が比較的強い(財産法 59 条~61 条)。

5.物権変動

(1)一般原則

財産法では,民法関連法規として,財産権の取得・喪失・消滅に関する財産法Ⅴ章(28 条~55 条。物権変動に対応する),財産権の保護に関する財産法Ⅵ章(56 条~68 条。物権的請求権に対応する)が重要である。また,後述のように登記が必要とされる不動産物権変動に関しては,土地登記に関する土地法(2003 年改正参照)10 章(43 条~51 条)[40],土地管理局がもつ土地登記の振興・土地評価の実施・土地登記の実行・土地権利証書の発行および土地統計の収集の権限と義務に関しては土地法(10 条 5 号)が規定している。

ラオス民法では,財産権は,原則として財産の引渡し(当事者間の授受)によって移転するが,引渡前であっても当事者間で財産権の移転時期を契約によって定めたときは,それによる(財産法 28 条 1 項。なお,契約内外債務法 41 条はこのことを前提にしている)。ただし,登記が必要とされている財産権は,「登記が完了した時」に移転する(取得者の下に財産権が発生する)(財産法 28条 2項)。かかる物権変動の原則を引渡主義と呼ぶべきか,当事者の私的自治に委ねている部分の広さをどの程度のものと解釈するかにより,意思主義的要素も無視できず,ファジーな性格を残している。財産法によれば,所有権移転の要件は以下のとおりである。

 【財産法 28 条】財産〔権〕の取得

 ①財産〔権〕の取得は,資産が法律に従い付与される〔引き渡される〕か,受領された際に発生する。〔資産における〕財産〔権〕は,かかる資産の付与または受領前に締結された契約に基づき取得することもできる。

②資産を別の個人に付与することを盛り込んだ契約,またはかかる資産が未だ登録されていない場合,財産〔権〕は,たとえ付与行為が発生していたとしても,登録が完了した際に発行するものとする。

 【財産法 29 条】資産の引渡し

 ①資産の引渡しとは,受益者として指定された組織または個人に資産を与えることである。

 ②〔かかる資産を〕受益者へ搬送することを目的とした運送業者または郵送による資産の付与,および輸送書類または荷物の引渡しは,かかる資産を受益者へ付与する行為とみなされる。

 ここでは,財産と財産権の概念的区別は必ずしも明確でない。したがって,所有権の移転は,財産の移転を基本に理解されている。登記すべき財産は,登記によってそもそも財産権が発生するかのように観念されている。「財産〔権〕は…登記が完了した時に発行する」という表現は,権利と形式が不可分のものという考え方が根強いように思われる。それゆえに,観念的な所有権の移転という概念は未発達であるようにも思われる。  

(2)不動産取引

 (ⅰ)法令の規定

ラオスの土地取引実務では,土地の所有権移転のために,①売買契約書,②譲渡証明書,③土地登記証が必要である。もっとも,土地法制定後も土地登記をせず,土地登記証がないまま,代替的文書(村長が発行した証明書など)によって土地の権利を証明し,土地取引が行われていた。しかし,現在の土地取引実務では土地所有権の移転を登記することが一般化してきている [41]。その際には,公証人の証明を受けた譲渡証明書と土地登記書が必要である。公証人は土地登記証(その真正さ,担保権設定の有無など)のほか,契約書の適性(例えば,僅かな額の借金のために土地に抵当権が設定されようとしていないか,利息はどうなっているか,水田の場合に土地だけか,作付米を含むか,被担保債権額が土地価格を超えていないかなど)も確認する。

すみれ

「公証人偉いね。」

1 個の土地の上に複数の抵当権を設定することは可能であるが [42],被担保債権の総額が土地の価格を超えないことが要件となる。このことも経済の発展状況に応じた法発展の例ということができよう。

また,ラオスの人々の一般的意識として,法実務家も含め,「登記簿に所有者として記載された者には所有権がある」と観念されるのが一般的であり,登記(形式)から概念的に分離された抽象的な権利(実体)の観念は明確でないように思われる。

売買等に基づいて土地所有権の登記を申請する個人または組織は,村落行政体,および地域または市町村の土地管理当局を通して,地方または都市土地管理当局に申請書を提出しなければならない。その際に提出すべき書類は,①土地取得証明書(国家による土地割当証明書,譲渡または相続の証明書),②農地または森林地の場合は土地証明書(3 年間の土地証明書を指す),③当初の所有者または土地が所在する場所の地方行政当局からの土地保証に関する証明書(これは,当初の所有者がかかる土地を現行所有者へ譲渡する権利を有していたという保証事項を盛り込んだ書類を指すものである),④その他の必要書類である(土地法 45 条)[43]。ちなみに,土地登記には職権による登記の場合と申請による登記の場合がある(土地法44 条)。

土地登記に関しては,土地法制定前から,すでに 1992 年土地所有・管理令(1992 年命令 99 号)に従い,世界銀行およびオーストラリアの支援を受けたトレンズ・システム方式の地積調査・土地登記・権原証書の発行のパイロット・プロジェクトが実施された 48。土地登記の後に(90 日間の異議申立期間の経過後に)発行される土地権原証書(いわゆる地券。様式・記載内容は土地登記簿と同様)は,土地使用権の「唯一の証拠書類」とされる(土地法 49 条)。その証明力が実際どの程度のものであるか,いわゆる公信力にまで至るかは,なお明確ではない。加えて,土地登記および土地権原証書の発行が進行する中で,法定の手続(財産法 28 条 2 項,土地法 45 条・51 条など)によらず,同手続の煩雑さや費用を回避するために,土地権原証書それ自体の授受による譲渡や担保権設定の例もあるといわれ,その定着や効力については,今後の推移をみる必要があろう 49。

(ⅱ)登記手続の実際  一方で,都市における土地取引は,公証局での手続(2009 年改正公証法による)と土地登記所での手続に二分される 50。公証人は司法省の中にある公証局(局長 1 人,副局長 2 人,専門官 13 人。そのうち,公証事務に関係しているのは 5 人),県・都の公証局(所長 1人,副所長 1 人,専門官 5 人),ヴィエンチャンの 9 郡のうち,離れた場所にある 2 郡の公証ユニット(所長 1 人のみ)に属している。公証は局長・所長だけがサインできるが,テクニカル・スタッフ(専門官)が補佐する。公証人は,①取引が真実に存在するか,②法律に照らして正当か(ラオス人同士の取引かなど)を確認する。公証に際して必要な書類は,①契約書(売買契約書など。土地の場所,番号も記載),②土地登記簿(①と合致しているかを確認),③土地登記簿が正当かどうかを証明する書類(「土地に関する正当性の証明書」。土地管理局が発行する。抵当権が設定されていないかどうかなどを証明するもの)である。公証の申請は,共同申請主義・当事者出頭主義・本人出頭主義であり,申請者の                                                                                                                                                 

拠として使用可能な物件の痕跡が何もない場合は,土地権利証書の写しが発行可能となる前に,土地が所在する場所の地方人民裁判所から裁定が下されなければならない。いずれの場合も,土地権利証書の写しの発行に先立ち,規制事項に従い,30 日間にわたる一般大衆への通告が行われなければならない(土地法 50 条) ヴィエンチャンの土地登記所でも,登記簿,地図,権原証書,譲渡証書等の作成実務を確認した(2003 年 8 月)。

  • このほか土地法は,登記関連部局における土地登記の事務処理手続(土地法 46 条),土地登記簿の構成(47 条),土地証明書(土地法 48 条),土地権利証書(土地法 49 条),土地管理局の権限と義務(土地法 10 条)について規定している。
  • ヴィエンチャン都・公証局長カンパイ氏からの聴取調査(2014 年 8 月 26 日)による。拇印を押す。

ついで,当事者が土地管理局(資源環境省の所管)に赴いて所有権,その他の権利の登記を申請する。登記が行われると,登記証書が 2 通発行される。①1 通(原本)は所有者本人に交付され,②もう 1 通(コピー)は登記所が保管する。登記証書の記載内容は,土地の用途,地図,所有者の氏名である。裏面には当該土地の所有者の移転経過などが記載される。③土地税(land tax)の納税を郡の登記所で行う。

なお,抵当権設定登記手続(2005 年担保取引法,2011 年担保執行首相令による)の場合は,抵当権設定者は,貸主(銀行)に①土地登記簿のオリジナル,および②土地登記簿が正当かどうかを証明する書類を提示し,土地価格の評価を受けて,金銭消費貸借契約をする。それについて公証局でチェックを受けたうえで [44],貸主(銀行)と借主が拇印を押して,確認を受けた旨の書類を 2 通作成する。1通は公証局に保管し,もう1通を土地関管理局にもってゆき,抵当権の記録をする。

 他方で,地方における土地取引は村長の面前での手続と土地管理局での手続に二分される 52。まず,①村長が土地の売買契約書(当事者,物件の同一性,合意内容などを含む)を確認し,サインをし,村の印を押す。ついで,②当事者が郡(district)の土地管理局に赴き,登記を申請する。登記が行われると,登記証書が 2 通発行される。①1 通(原本)は所有者本人に交付され,②もう 1 通(コピー)は登記所が保管する。登記証書の記載内容は,土地の用途,地図,所有者の氏名である。裏面には当該土地の所有者の移転経過などが記載される。③土地税(land tax)の納税を郡の登記所で行う。このように農村では村長が土地取引の公証人の役割を果たしている。

 (3)取得時効

 所有権の原始取得に関する規定(財産法 36 条~44 条)のうち,財産法 42 条は取得時効について定めている。すなわち,「他人資産の善意占有による財産権の取得」であり,①不動産については 20 年間,動産については 5 年間,他人の資産を自分が所有者であるのと同様に善意で継続して占有した者は,かかる資産に対する財産権者となることができる。こうした善意の占有は,公然,継続かつ平穏に表れている必要がある。この期間を経過した後,本来の財産権者は,上述の資産に対する返還請求権を有しない(財産法 42 条 1 項)。

②前記の者が資産を占有している期間がいまだ第 1 項の期間に満たないもののこれを善意で他人に占有を引き渡した場合,財産権を取得するのに必要な期間は,最初の者が占有を開始した日から計算し,上述の期間を経過した後,新しい占有者が財産権を取得する(同条 2 項)。③国有財産又は共同体財産は,いかなる場合であれ,第 1 項の期間が満了しても,善意の占有者の財産とはならない(同条 3 項)。

 取得時効の期間は,不動産は 20 年,動産は 5 年であるが,いずれも「善意で継続した占有」を要件にしている。この善意は時効取得に必要な期間中継続していることを要する点に特色がある。例えば,BがAから引渡しを受けたSの土地を 19 年 10 か月経った時点で,真の所有者Sから明け渡すよう申し立てられ,その後,占有開始時から 20 年 6 か月経った時点で訴えが提起された場合,Bの「善意」要件が満たされないことを理由に,取得時効の成立は認められない。

SがBに明渡しを申し立ててから提訴までの期間は制限されていないが,SのBに対する明渡しの申立ては書面で行わないと証明が困難であるから,例えば,慣習的に村長に依頼して書面による申立てをしてもらうことがある。

なお,ラオス法には,提訴時効があり,契約に基づく権利の場合,原則として契約期間終了時または損害発生時から 3 年で提訴時効が成立する(契約内外債務法 102 条)。

(4)善意取得

(ア)善意取得の根拠規定  善意取得に関連する規定として,財産法 58 条と契約内外債務法 42 条(旧契約法 40 条も同旨)および両者の関係が注目される。すなわち,財産法 58 条は,物権的請求権(所有権に基づく返還請求権。前述4)関連の規定の中で,真の所有者が財産の返還請求する際に,相手方たる占有者が他人の財産であることについて善意・無過失であったときは,占有者に対して「その財産の価値に応じた補償」をしなければならない旨を規定する(財産法 58 条 2 項)。一方,契約内外債務法 42 条は,売買及び交換に関する一般規定の中で,他人の財産を「市場での適切な価格」で購入した者が善意であったときは,真の所有者が返還請求するときは,「購入者が支払った代金」を償還すべきことを規定する(契約内外債務法 42 条 1 項)。各条文内容は,以下のとおりである。

 【財産法 58 条】善意による財産の非合法的占有

 ①財産を善意で保有する非合法的占有者とは,かかる資産が他の個人の財産であると関知しないか,〔相応の注意を払ったとしても〕関知し得なかったと思われる者のことである。

 ②この場合,当初の所有者がその財産の返却を要求した場合,かかる占有者は返却しなければならないが,所有者は資産価額に応じて占有者に補償しなければならない。当初の所有者は,財産を非合法的に引き渡した者から損害の補償を要求する権利も有する。

 ③占有者が付与または相続により財産を受領している場合,財産価額または損害に関する補償は一切ない。

 【契約内外債務法 42 条】違法に取得した財物の購入

 ①善意による財物の購入者は,自らが法律に適合して財物を購入したと信じている者であり,購入時における市場での適切な価格により購入したこと,並びに公然と,継続的に,平穏に購入し,かつ使用していることに示される。財物の所有者は,購入者が支払った代金を償還するときに限り,その財物を取り戻すことができる。財物の所有者は,自己の財物を違法に販売した者に対する訴えを提起する権利を有する。

 ②悪意による財物の購入者は,法律に反する財物を購入していることを知りながら,又は知りうる状況にありながら,その財物を購入した者であり,購入時における市場からみて不適切な価格により購入したこと,秘密に,非継続的に,又は非難されているにも拘らずに購入し,かつ使用していることに示される。財物の所有者は,購入者に対していかなる賠償も支払わずに,財物の返還を求める権利を有する。購入者は,販売者に対して,財物を購入した代金の返還を主張することができるが,裁判所に訴えを提起する権限を有しない。

 これらの規定について,注目すべきは,第 1 に,他人物売主Yから物を買った善意の買主Xの保護(善意者保護)は,いわゆる即時取得によるのではなく,①真の所有者AがXから目的物の返還を求めるためには価格賠償義務を負い,②Aがこの価格賠償義務を果たさないことにより,Aは目的物の返還をしないことにした(または返還請求しないことの反射的効果としてXは目的物の返還を免れることになった),それによってよるXの所有権取得が認められるという限りで図られることになる。これら①・②の 2 段階の説明により,《なぜ無権利者と取り引きしたのに権利を取得できるのか》,いわば無から有を生じるのはなぜか,という,即時取得制度の法的説明に対する根本的な疑問に答えるための 1 つの方

途を見出すことができるように思われる [45]。それは,真の所有者による返還請求権の制限が善意者保護の原初形態の 1 つと考えられることとも符合する [46]

しかし,現行日本民法の構成を所与の前提にしてしまうと,代価賠償義務(民法 194 条)は,即時取得の原則(民法 192 条)に対する盗品・遺失物の回復の例外(民法 193 条)の例外(市場や商人から取得した者に対しては,代価賠償を要する)と位置づけられていることから,即時取得――いわば無から有を生じる――こそが原則にみえてしまう。

しかし,即時取得制度は,①《何ぴとも自己のもつ以上の権利を他人に移転することはできない》という原則から出発し,② 所有者に価格償還義務を課すことによる善意者保護制度による所有権取得(所有者が価格償還をしてまで取り戻すことを止めた結果としての善意者による取得)を経て,③取引安全をさらに強化するために,価格償還による取戻しを制限した結果として成立したものと位置づけることが可能になる。このように③段階の即時取得制度は,②段階の価格償還義務の段階を介し,さらに取引安全を強化するためのその発展形態として位置づけることにより,法的説明が可能になる。ラオス法は現在この第 2 段階にあると位置づけることができる。

この形態の善意者保護は,即時取得制度に比べると,所有権の保護にややウェイトを置く形で,取引における善意者保護に配慮しており,静的安全と動的安全とのバランスの取り方として,注目される。以上のような意味で,ラオス現行法における善意取得制度の現状の確認は,重要な意味をもつものと考えられる。

 第 2 に,財産法 58 条と契約内外債務法 42 条は,規定内容がほぼ重複しているようにみえる。その一方で,所有者が占有者に償還すべき価額につき,財産法 58 条 2 項は「資産価額に応じて…補償」と規定するのに対し,契約内外債務法 42 条 1 項は「購入者が支払った代金を償還」と規定しており,両者の関係が問題になる。実務上は,財産法 58 条 2 項の「資産価額」は取得時における「市場価格に基づく代価」を意味すると解釈することにより,買主Xが売主Yに支払った代価を意味するものとして,契約内外債務法 42 条と統一的に解釈している [47]

 例えば,①X所有の水牛をAが無断でBに 70 万キップで売却した場合,その後XがBに返還を求めた時点では当該水牛が 100 万キップに値上がりしていたときでも,70 万キップを償還すればBから返還を受けることができる。

この場合,Bが目的物の使用利益を得ていると考えられるから,Bとしては 70 万キップの償還を受けることが衡平であろう。それに対し,②XがBに返還請求をした時点で水牛の値段が 50 万キップだったときでも,70 万キップを償還しなければならないとすると,Bにむしろ利益を与える場合もある。とくに減価償却が行われる資産の場合,Bは使用利益と元の資産価値の双方を取得できることになり,この場合はむしろ返還請求時の時価を償還すべきとする方が衡平な場合もある。ラオスの実務家の中には,値段が下がったときは支払った金額を払わなければいけないが,上がったときには,(a)AB間の契約時にBがAに支払った代金額であるという見解と,(b) 最初に支払った金額を現在の時価に換算すべきであるとの見解があり,なお流動的である。

将来的にはこれら 2 つの規定は新立法によって一本化されることも考えられる。

  • 善意の主張・立証責任

 「善意」(財産法 58 条 1 項,契約内外債務法 42 条)については買主Xが立証責任を負うものと解されているが,善意の推定規定(日本民法 186 条参照)はないことから,訴訟では両当事者ともに証拠を提出することを求められており,それに従ってどれだけの証拠を提出できるかが重要になってくる [48]

  • 果実の返還  

他人物売主Aからの取得者Bが所有者Xに目的物(例えば,水牛)を返還する際に,Xの取得後・返還前に生じた果実(例えば,生まれた水牛の子)も返還すべきかについて,ラオスの実務家の間では,(a)Xの取得時に水牛が妊娠していれば返還すべきであるが,Xの取得後に妊娠したときは返還しなくともよいとの見解,(b)妊娠時期がXの取得前か後かを問わず,子牛も水牛から「生じた」果実(財産法 60 条 2 項)であるとすれば,XがAから代価賠償と引き換えに返還請求されるまでに生まれた子牛はXのものになるが,「生じた」の解釈によるとの見解がある [49][50]

(4)財産権の内容・用益物権関連

いわゆる用益物権については,財産法には規定がなく,財産権の行使範囲に関する規定の中に,相隣関係的な法規が存在するにとどまる(財産法 46 条~54 条)。そこには,隣地から越境した樹木の枝や根の切取権(ただし,所有者への通知後 7 日以内に返答がない場合。財産法 48 条 1 項),囲繞地通行権(財産法 49 条 1 項),排水溝の敷設権(財産法 50 条)などが含まれている。

他方,土地法は,財産法よりも遅く 1997 年に制定されたが,2003 年に改正された。これは,1990 年財産法に基づく市場経済システムの導入に伴い,土地使用権の分配(設定)や侵害をめぐって紛争が頻発し,社会問題化したことも背景にしているとみられる 58。土地法は,土地所有権が国家共同体に帰属することを規定する(土地法 3 条。なお,2003 年憲法 17 条も参照)一方で,土地に対する使用権の設定 [51],その譲渡,相続,使用,果実収取等を承認する(土地法 13 条,52 条~58 条,65 条~66 条。なお,2003 年憲法 17 条も

参照)。また,外国人の使用権は最大 30 年(更新可能),外国投資家の使用権は最大 50 年(更新可能),経済特別区の場合は最大 70 年(国会決議によって更新可能)とされている(土地法 65 条)。もっとも,土地法の規定上,更新は「事案に応じて」とされており,国家による土地管理が前面に出た規定となっている。

また,公用収用に対する損失補償も規定されている(土地法 71 条)[52]

  6.債権法関連

 (1)契約法

 (ア)契約の成立要件・有効要件

 契約内外債務法に関して注目されるのは,①契約の有効要件(前提要件)としての約因(契約法 5 条・6 条,契約内外債務法 10 条 4 号・14 条)[53],②確定無効(絶対無効)と不確定無効(相対無効)との区別(契約法 13 条・14 条,契約内外債務法 19 条・20 条)など,フランス民法的要素との連続線の指摘は,制度の連続性という観点からも,興味深いものがある。この点については,①の約因のほか,契約の理由(契約法 9 条,契約内外債務法14 条),取消事由における一方的不利益や非良心的契約(契約法 14 条,契約内外債務法 19 条),契約の履行が困難になった場合の通知義務と契約終了原因としての承認(契約法 22 条・33 条,契約内外債務法 29 条・38 条)などと併せ,契約法の制定過程における世界銀行やアメリカのアドバイザーを介して,英米法の影響とみる見解もある [54]

しかしまた,おそらく制定過程からみるかぎり,フランス法教育を受けたラオス司法省の担当者と,英米法の影響下にある世銀・アメリカの担当者との意見が合致した結果とみることが妥当ではないだろうか。正確な検証を要する問題であるが,フランス民法典の影響を受けたラオス王国民法典と現行ラオス民法との間には形式的な連続性は切断されていても,実質的ないしインフォーマルなレベルでは,一定の連続性が存在することはむしろ自然であるように思われる。

 契約の有効要件に関しては,原始的不能の契約の効力が問題になる。ラオス民法では,契約が有効に成立するためには目的物が現実に存在し,かつ履行可能でなければならないとされており(契約内外債務法 13 条 2 項「(契約の)目的は明確で,現実的で,合法的で,社会的秩序に反せず,かつ履行可能でなければならない」。なお,同法 10 条 3 号も参照),原始的不能の契約は無効と解されている [55]。ちなみに,契約の終了原因の 1 つとして「契約の履行が不可能であるとき」が挙げられ(契約内外債務法 38 条 1 項),後発的不能による債務の消滅も認められており,原始的不能の場合とともに,「不能なことを行うべき債務はない。」(Immpossibilium nulla obligatio est.)[56]との一般法理を具体化している点で,首尾一貫している。

 契約内外債務法によれば,錯誤による契約は,自発的意思を欠いた契約であり(同法 11 条 1 項・2 項),無効事由とされているが(同法 10 条,18 条),それが確定的無効原因か,不確定的無効原因かは,条文上はやや不明確な状況である。というのも,不確定的無効原因を列挙する同法 19 条 2 項が,錯誤による契約を挙げていないからである。しかし,確定的無効とされるのは「国家又は社会の権利に関係する無効な契約」(同法 20 条)であるのに対し,不確定的無効は「私人の権利に関係する無効な契約」の場合であるから(同法 19

条 1 項),不確定的無効と解しているようである [57]

 他方,詐欺による契約は,自発的意思を欠くもので,無効原因となり(同法 10 条,18条),かつ不確定的無効原因として明示的に列挙されている(同法 19 条 2 項)。

 いずれにせよ,無効な契約については,契約の取消しを請求することにより,履行した財産の返還等,原状回復を請求することができる(相手方が応じない場合は裁判上の請求による)[58]。なお,詐欺者が相手方に給付した財産は,国家が没収するものとされる(同法23 条 2 項)。詐欺による契約や不法行為では,刑事手続と民事手続は密接に関連するものとして捉えられている。

【契約内外債務法 22 条】

 ①〔不確定的〕無効な契約については,取消しを請求することができる。

 ②契約当事者の一方が,締結した契約が〔不確定的〕無効であることを知ったときは,その契約を取り消すために,相手方に直ちに通知しなければならない。相手方が契約の取消しに合意しない場合は,通知した契約当事者は,裁判所に契約の取消しを請求する訴えを提起しなければならない。

【契約内外債務法 102 条】

 ①建築に関する契約の提訴時効は 10 年とし,その他の類型の契約及び損害賠償請求の提訴時効は 3 年とする。ただし,法律に別段の定めがあるときは,この限りでない。

 ②提訴時効は,契約期間の終了した時,又は損害が生じた時から算定する。

 ここで両条文の関係が問題になる。起草者によれば,「相手方に直ちに通知しなければならない」(契約内外債務法 22 条)というのは,通知が遅れると相手方の不利益も増大するので,速やかに通知することを求めたにとどまり,通知しなかったからといって,救済を受ける権利が消滅するわけではない [59]。契約内外債務法 102 条の期間制限の範囲内で取消しができる。この帰結を矛盾なく説明することは一見困難に思われる。

しかし,契約内外債務法 22 条は直ちに通知すべきとの行為規範を,同 102 条の出訴期限は裁判規範と解することにより,ひとまず説明は可能である。ラオス民法では,前者のような行為規範がけっして珍しくないこともその背景事情として念頭に置く必要がある。

(イ)債務不履行責任と瑕疵担保責任

ラオス民法は,債務不履行を理由とする損害賠償責任の要件として,債務者の過失,その他の帰責事由を要件としておらず,条文上の構成からは,一般的な帰責事由主義をとらず,契約責任主義を採用しているようにみえる。また,瑕疵担保責任もそうした債務不履行責任の一環として捉えられている。

 【契約内外債務法 33 条】(契約不履行の効果。旧契約法 36 条)

 ①契約不履行は,契約に定めたとおりの品質を伴わない,期限に間に合わない,若しくは誤った場所における契約履行等,契約当事者の一方による全体的契約不履行,部分的契約不履行又は非合理的な契約履行である。

②契約当事者の一方が契約不履行を行ったときは,その当事者が加えた損害を賠償する責任を負わなければならない。ただし,契約不履行が不可抗力によって生じたときは,この限りでない。

 【契約内外債務法 40 条】(販売する物の品質。旧契約法 38 条)

 ①販売する物の品質は,契約の内容に従って適正でなければならない。販売した物が,契約に定められた品質を伴わないときは,売主はその物について責任を負わなければならない。

 ②買主が,その物が品質を伴わないことを知ったときは,買主は,品質を伴った同一の種類の物との交換を請求する,価格の減額を請求する,又は契約の解除を請求する権利を有し,並びに損害賠償を請求する権利を有する。

 ③買主は,購入した財物の品質を検査し,購入した物に瑕疵を発見した場合は,売主に直ちに通知しなければならない。その義務を怠ったときは,買主はその瑕疵について責任を負わなければならない。

 ここではまず,(ⅰ)債務不履行に対しては,条文上はとくに過失等の一般的な帰責事由を要することなしに損害賠償請求が可能とされ,ただし「不可抗力」の場合は損害賠償責任を負わないとされている。したがって,条文構成上は契約責任主義を採用しているとも解される [60]。しかし,不可抗力の場合には契約不履行はないのか,契約不履行ではあるが損害賠償責任を負わないのか,また,そもそも不可抗力の場合になぜ損害賠償責任を負わないのかについては議論がある。少なくとも法実務家の間では,不可抗力の場合には契約不履行はあるが損害賠償責任を負わず,その根拠は不可抗力に対しては自己の行為も落ち度もないゆえに責任がないからであるとする見解が圧倒的であり,実質的には帰責事由主義的に解釈されていることに留意する必要がある [61]

 つぎに,(ⅱ)売買目的物の瑕疵についてはこれを契約不適合と解する主観的瑕疵概念がとられており,その結果,売主の瑕疵担保責任を債務不履行責任として位置づけている。そして,(ⅲ)買主の救済方法として,瑕疵に対しては,①損害賠償請求,②代物請求(追完請求),③代金減額請求,④契約解除が可能である。このうち,不可抗力の場合,①は免責されるが,②・③・④は免責されない(契約内外債務法 33 条 2 項,40 条 2 項)。これらの条文の内容は,旧契約法 36 条・38 条と同旨であり,実質的には「国際物品売買契約に関する国際連合条約」45 条,46 条~52 条,74 条~77 条に沿ったものであると考えられる。

もっとも,①損害賠償の範囲については定めがなく,今後の立法課題といえる [62]

 さらに,およそ買主には(商人,事業者といった限定なしに一般的に)検査・通知義務が課され,それを怠った買主は瑕疵について自ら責任を負わなければならない。これは消費者にとってはかなり厳しい義務を課すものといえる。しかし,これは,ラオス法には商人,事業者,消費者の区別がないうえに,かかる検査・通知義務を買主に課した背景として,ラオスでは外国製品を売る者が多いので,時間を経ってから品質についてクレームをつけられても困ってしまうことが多いからという立法理由も考慮に入れる必要がある [63]

  • 他人物売買

ラオス法では,他人物売買契約が有効か無効か,法令上は明確でない [64]。実務家の理解では,売買契約は所有権移転を生じさせるものであるが,他人物売買では所有権を移せないから,売主が自分に所有権がない土地を売ったときは契約が無効であり,買主は契約無効に基づく代金返還請求を行う [65]。なお,他人物売買の買主からの転得者は,善意で買っていれば契約内外債務法42 条 1項の保護が認められ,悪意であれば同法 42条 2 項に従う。  売買契約は「売主が買主に対して財産の所有権を移転する義務を負い,買主が財産を受領し,かつ,合意した価格に従って代金を支払う義務を負う,契約当事者による合意である」と定義されている(契約内外債務法 39 条 1 項)。他人物売買も有効と解されている。それは,例えば,売主Aが買主Bに対し,鶏 10 羽を 10 日以内に仕入れて引き渡すという契約をすることが実際に合理的な取引として要請されていることによる。

  • 二重売買

 二重売買が有効かどうかについては,解釈が分かれている。財産法 28 条の解釈として,

起草者の見解は有効との立場である [66]。例えば,Aが所有する場合バイクをBに 1000 ドルで売却し,Bは代金を支払ったが,引渡しを受けていないうちに,AがCに 1500 ドルで売

却して引き渡してしまった場合。(a)Cが所有権を取得し,AはBとの契約の不履行に基づいて損害賠償の債務を負う。市場の現実では,先に引渡しを受けた方が所有権を取得するのが一般的である。(b)第二売買は違法であるから無効で,CはバイクをBに引き渡し,AはCに代金を返還し,損害を賠償しなければならない。(b)説をとる者もいる(違法な取引を奨励することになるのを懸念する)。しかし,契約法,財産法の起草者であるダヴォン氏は明確に(a)説をとる。

  • 契約類型契約類型として,請負契約のほかに建設契約や運送契約を別類型として設ける点は,一般消費者の活動に関する民事契約と生産活動に関する経済契約とを区別する社会主義的な発想が辛うじて残存しているとみうるであろうか。その点の区別が具体的な効果の相違とどの程度連結するかは,規定が簡素なこともあり,不明確である [67]。あるいはまた,陸上・

水上の運送業者の債務や商取引に関する特則を民法典に編入していた旧民法典の承継とみる余地があるかも知れない(旧民法典 XIV 章,XV 章参照)。

(2)不法行為

(ア)一般不法行為の要件・効果  一般不法行為の要件・効果については,契約内外債務法 83 条~91 条(旧契約外債務法 1 条~9 条参照)が定めている。それによれば,自己の行為によって他人に損害を生じさせた者は,自らが生じさせた損害を賠償する責任を負う(83 条。ただし,損害が自己防衛,合法的な職務執行,又は被害者の過失により生じたときは,この限りでない)。

 「損害」とは,「既に生じている,又は将来において確実に生じる等,確実性を有する損害でなければならない」とされ,「将来において起こりうる,又は起こり得ない損害は,確実な損害とはみなさない」(84 条)。その際,「損害」を①財産的損害だけでなく,②生命又は健康上の損害,③精神的損害を含むものと捉えていることが注目される(85 条)。

 何ぴとも,自己の不法行為と生じた損害の間に「因果関係」が存在する場合に限り,その損害を賠償する責任を負うが,原因は損害を生じさせるために不可欠な事象であり,損害の前に発生し,損害の直接的事由でなければならない(87 条)。

 積極的損害および消極的損害 [68]の賠償の算定は「加害者の過失に適合するように」行わなければならない(91 条 1 項)[69]

 そして,「過失」とは「法令に反し,かつ故意または不注意によって他人に損害を与える作為又は不作為」である(86 条)。   不法行為でも,民事と刑事は密接に結びついている。例えば,交通事故の被害者が加害者に損害賠償請求するためには,証拠書類の作成をしてくれる警察の役割が大きい。なお,ラオスでは民事裁判でも裁判官が証拠収集をする権限をもっており,それを通じて刑事裁判の結果も参考にする。

  • 共同不法行為  

ラオスにも共同不法行為の規定はあるが [70],複数人が「協力して」行為したことが前提となっていると解釈されており [71],Yの飲酒運転による交通事故とZ病院のA医師の手術ミスによる医療過誤が連続して生じた場合,Y・Z・Aの過失は分けて考えるべきで,共同不法行為とみることはできない。

  • 特別の不法行為

特殊の不法行為として,使用者責任,監督者責任,動物所有者・占有者責任,物の所有者・占有者責任を規定している(契約内外債務法 92 条~95 条。旧契約外債務法 10 条~13条参照)。物から生じた損害に対する責任(約内外債務法 95 条。旧契約外債務法 14 条)は,土地工作物(日本民法 717 条等)などに限定せず,広く物の所有者または占有者の責任を肯定している点が興味深く,参考になる。

 (3)担保法関連

(ア)関連法規  債権担保についての規定は,契約法 5 章(24 条~31 条)/契約内外債務法第Ⅱ部・第 1章・D節(34 条~36 条)(実体法と手続法の未分離。ただし,法理論の上では区別が意識されている)のほか,担保取引法が 1994 年に制定され,2005 年に改正された。

 2005 年担保取引法は,無体物,将来確実に生じることが証明できる事業または活動の財産や果実,物に対する権利またはその果実も,担保の客体としうることを定めた(担保取引法19条)。経済活動の活性化による担保財産の拡大の要請を背景とするものであろうか。  担保取引法の特色の 1 つとして,あらゆる種類の担保契約は登記所において登録しなければならず,不動産による担保契約は当該不動産の所在地の土地管理事務所で登記しなければならないとされている(担保取引法 31 条 1 項)。このような包括的な担保登録制度は,欧州復興開発銀行(EBRD)による「担保取引に関するモデル法」(Model Law on Secured Transactions)の影響を受けているものと考えられる。そのようなモデル法をラオスの取引実務に導入することが可能かつ適切であるかは,今後引き続き検証すべき重要な課題である。

ちなみに,不動産の担保(抵当)の場合は,土地権原証書の裏面に担保取引の内容が記載することができるように,記載欄が変更されている [72]。したがって,不動産の担保(抵当)に関しては,現行制度上は,登録と土地権限証書の裏面記載という 2 重の担保記載がされることになる。

担保取引法によれば,担保契約は登録日以降に正式なものとなり,登録をしない担保契約は,契約者間で効果をもつものの,登録をした担保契約と同様の優先権をもたないものと規定されている。さらに,登記事務所または土地管理事務所で行われた担保契約の登録は公開され,閲覧可能にしなければならないとも規定されている(担保取引法 31 条 2 項・4 項・5 項)。これは,当該不動産について取引関係に入ろうとする第三者が,担保取引の内容についても容易に確認できるようにすることにより,担保不動産の流通を促すための規定とも解される。しかし,実際には,担保権付きで取り引きされることは,現在の実務においてはまだ存在しないようである [73]

 (イ)担保権の設定手続

 不動産に関する担保とは,債権者に対する債務の返済,その他義務の履行を確保するために,例えば,土地の区画,建物もしくは工場といった債務者の不動産,他人の不動産に対する債務者の使用権,またはこれら所有権や使用権を証明した書類を担保として設定されるものである [74]。それは,①公証人または三人の証人を伴う村長立会いの下,または②3 人の証人立会いの下,書面で締結されなければならず [75],その際には,当該不動産の評価,区分,種類,大きさ,品質,数量,所在等,その特性に関する明確な記述を含まなければならない [76]

すみれ

「不動産の品質もなんだ。」

その際,同一不動産に複数の担保権を設定することは,理論上は可能であるが,実際には土地の登記書を債権者に渡すことが多いので,後順位担保権の設定は事実上困難である(先順位担保権者が承認する場合に限られる)。また,被担保債権の合計額が目的不動産の価額を超えてはならないという制約がある [77]

 動産に関する担保は,①物質的(有形の)品目 [78],②所有権の証書・株券・債券等の書類,③倉庫物品,④知的財産,銀行貯蓄口座,契約上の権利,売掛金を含む無形資産,事業運営を行うための承認・許可・権利に基づく利益,⑤将来的に発生し得るプロジェクトや活動からの資産または利得に設定される [79]。このうち,②・④・⑤は法的性質としては権利質に当たるというべきであろう。

また,③は流動動産 [80],⑤は将来の集合債権譲渡担保を含むものと解される [81]。①について,債務者が目的動産を占有する非占有担保も [82],債権者または両当事者が合意した第三者による占有も [83],いずれも「動産に関する担保」として認められる。債務者が合意期間内に債務の返済を怠った場合,物質的品目は債権者の財産となるが,物質的品目の価額が債務よりも高い場合は,債権者が差額を支払うか,債務者と合意したとおり物質的品目を売却するか,オークションにかけることができる [84]

  重要なことは,不動産であれ,動産であれ,担保契約は政府の財務担当部局の登録事務所で登録されなければならず,不動産に関わる担保契約は,当該不動産の所在する土地管理事務所で登録されなければならない。担保契約は,この登録日から法的効力をもつ(効力要件主義)ことに注意する必要がある [85]

すみれ

「動産や債権の場合は、証明書の裏に記載とかないのかな。」

なお,担保目的で買戻し特約付き売買が用いられることもある [86]。この場合,目的物は債権者が占有することになる。

 (ウ)担保権の効力

 債務者が約定期間内に債務の返済を怠ったときは,①債権者は,金利を含めた債務の返済を求め,そのために当該不動産を担保設定者(所有者)が売却するためのオークションを提案する権利をもつ [87]。それが行われた場合,担保権を設定した債権者は,当該不動産から,遅れて担保契約を設定した債権者および担保権をもたない債権者に優先して弁済を受ける権利をもつ。また,②債権者は,担保財産の所有権を獲得する権利をもち,これを行使することにより,設定者はその所有権を失う。さらに,③債権者は,担保契約で合意したとおり,担保財産を売却ないしは保有することができる [88]

 他方,債務者は担保の対象となっている不動産を売却または譲渡する権利をもたず,また,担保権設定契約に従い,当該不動産を債務者が占有しうる場合でも,債務者は当該不動産を契約条件に従って「適切に使用および保護し,当初の状態に保たなければ」ならず,「債権者からの承認なしに,当該不動産について評価減を生じさせることはできない」[89]。  担保不動産を無権原で妨害する第三者に対しては,まずは所有者が明渡しを請求することができ [90],所有者が明渡請求しないときは,担保権者(債権者)が債権者代位権を用いて,明渡請求権を行使することができる [91]

Ⅴ 家族法制

1.家族法の法源と歴史

 ラオスの家族法に関連する法源として,親族関係については,「2008 年ラオス家族法」(以下,家族法に関しては断りのない限り 2008 年家族法を扱う)があり,そこには婚約,婚姻,離婚,親子関係一般,認知,養子縁組および一部の国際私法規定が定められている。この家族法は 1990 年ラオス家族法を改正したものであり,家族法は 1990 年法を部分的に受け継いでいる。相続関係については,「2008 年相続法」がある。この法律も「1990 年遺産及び相続財産基準法」を改正したものである。

さらに,国際条約を批准し,国内法化した「2004 年女性の発展及び保護法」,および「2006 年児童人権保護法」がある。家事事件の手続については,1990 年民事訴訟法,それを改正した 2004 年民事訴訟法を経て「2012 年民事訴訟法」が規定し,ラオス在住の内外国人に義務づけられる家事登録については 1991 年家事登録法を改正した「2008 年家事登録法」が規定をしている。

なお,民法典自体が存在しないことから,上記に挙げた法律以外の他の法典にも,それぞれ内容の重複する規定が存在している。これらの間については,民法典改正作業における 1 つの課題でもある。

現在における親族問題に関する中心的法典は 2008 年家族法である。しかしその内容はラオスの伝統的慣習を現在でも幾つか受け継いでいる。歴史的にラオスはフランス植民地であり,それ以前は純粋に慣習法であった。フランス植民地時代に各種の近代的な法典が整備されていった。家族法もその 1 つであり,ルアンパバーン王国やヴィエンチャン王国において 19 世紀に用いられていた慣例集から示唆を受けて(慣例集の大部分は戦争,火災および洪水等で消失したようである),1908 年に最初の家族法が成立している。この法典は,ラオスの慣習とフランス私法の一般原理との間での一種の妥協を実現したものとされる [92]

その後1927年法典が現在の社会主義体制になるまでの主要な家族問題に関する法典であり,その内容を 1965 年に修正・補足されている。ここに記載されている内容は現在の 2008 年法においてもいくつか維持されている。

 2.家事登録制度

(1)家事登録制度の概要  

ラオスでは,家族関係につき一定の登録が求められる。この家族登録制度は,ラオスの家族法において極めて重要な役割を果たしている。家族登録制度に関する法規定が,家事登録法(訳語によっては家族登録法と訳される。以下,条文を表す際には「家事」とする。)である。家事登録法は 1991 年に施行されていたが,この法律をもととしながら,大幅に加筆修正した形の改正が 2008 年(全 59 条)に行われ,現在は後者が施行されている。

家事登録は省庁として,司法省と治安維持省の双方がかかわっている。司法省は出生,死亡,婚姻,離婚などの身分関係を中心とした登録を管轄し,治安維持省(91 年法制定当時は内務省)はラオスに居住するラオス国民のみならず外国人も対象として出生をはじめとする身分事項,家(家族)[93]の所在地,国籍などラオスに居住するすべての人民を,一元的な登録制度のもとに管理把握している(外国人につき,家事 7 条)。実際の生活に関連する内容のものは村の行政当局単位でそれぞれ管理されている。

村民は,例えばそれぞれ村の運営に関する費用分担や大掃除などの勤労奉仕分担を担っており,その際に「家事登録簿」が用いられる。原則として同一の家(家族)に同居する者が使用人を含めて同一の「家事登録簿」に掲載され,成人に関しては顔写真と証印と共に登録事項が列記されている。銀行口座開設,不動産取引,自動車運転免許証交付等につき日本の戸籍抄本のように「家事登録簿」のコピーの呈示やその提出をすることにより公的な身分関係および登録事項の証明書として用いることができる。

家(家族)を移転すると新旧の所属「村」の行政当局に転出・転入を届け出て,転居先の村の行政当局から証明書を交付された上で郡の行政当局に届け出て,新しい「家事登録簿」の交付を受ける。新しい「家事登録簿」には転居元の村名と転居年月日も記載される。ただし実際には「家事登録簿」記載の場所以外に移転していても一時的移転として移転先の村の行政当局に通知のみを行い,郡の行政当局における正式な手続を留保することもある。この場合には新しい村の行政当局において村民としての基本的な義務を果たすが,選挙人名簿など公的な扱いは「家事登録簿」に記載されている場所をもとに行われるようである。

家事登録を申請する者は,自己の居住する地区の村長により認証された申請書を家事登録局へ提出しなければならない。都市より離れている地方の場合には,自己の居住する村長に対して登録することができる(家事 12 条)。家事登録局は申請証を受理した後,30 日以内にそれらの申請書を審査しなければならない(家事 13 条)。ラオス市民,在留外国人,および無国籍者の家事登録は,彼らの居住する所の治安維持部門の家事登録局において手続がなされる(家事 16 条 1 項)。その登録の後,15 歳以上のラオス市民および在留外国人は,身分証明書を保持しなければならない(同条 2 項)。

 これらの家事登録は,家族構成員の記録,国家の社会および経済の管理・発展のための基礎情報であり,また人口の統計を記録するためにもなされている(家事 10 条 1 項)。なお,家族法,国籍法および家事登録法などの法律で用いられる「永続的住所」または「住所」について法律上の定義の有無は現行法上不明である。日本の住所,居所,常居所,本籍地などの概念との一致があるのかについては定かではない。

 外国における家事登録は,外務省の管轄にある当該国家のラオス人民民主共和国大使館または領事館における家事登録単位においてなされる(家事36条)。

 以下では,家族法に関連する部分を中心として家事登録法の内容を確認する 102。

 (2)家事登録項目

 家事登録業務としては,1.家族登録簿の登録および身分登録証の発行,2.出生の登録,3.婚姻の登録,4.離婚の登録,5.失踪の登録,6.死亡の登録,7.養子縁組の登録,8.父性の認知または後見人選任の登録,9.姓および名の変更の登録,10.国籍変動の登録,11.転居の登録がある(家事 9 条)103。以下では,出生,失踪,死亡,婚姻,離婚,養子縁組,認知,姓名の変更,国籍変更,転居の順に見ていく。

 (ア)出生登録

 出生の登録は,出生率の統計を記録し,社会発展のための基礎情報である家族構成員の増加および人口の増加を記録するためにもなされるものである(家事 10 条 3 項)。

この登録は,子が家,病院,または出産に関連する施設で出生した場合,家長またはその代理人が病院等の証明書に基づき,彼らの居住するところの村長に文書または口頭でその出生を通知しなければならない(家事17条1項)。その他の場所で出生した場合には,出生地を管轄するところの村長へと通知をしなければならない(同条2項)。

102 なお,1991 年家事登録法の全訳については,小川監修/伊藤=大川 2012a: 48 頁,2012b:

49 頁以下参照。

103 1991 年法では住居建築・取壊しに関する登録もなされていた。

外国で出生した場合は,その国内におけるラオス人民民主共和国大使館または領事館における家事登録単位に通知を行う(同条3項)。これらの通知は,出生後30日を超えない期間中にしなければならない(同条4項)。保護者のいない子を発見した者は,速やかに発見地を管轄する村の村長または警察に通知しなければならない(同条5項)。以上の通知を受けた後,村長は5日以内に出生証明書を発行しなければならないとされる(同条6項)。この出生証明をもって,申請者はその交付後30日以内に,郡の家事登録を扱うこと登録官に出生証明記録と共に出生を届け出なければならない(家事18条1項)。外国における場合には,大使館または領事館における家事登録単位が通知を受けた後5日以内に出生に関する家事登録を行う(同条2 項)。

  • 失踪登録  失踪とは,家族との音信が 2 年以上ない場合,または事故による場合には 6 か月間音信がない場合において,裁判所の判断によりなされるものである(家事 3 条 3 項)。この失踪の登録は,失踪者の財産,権利,利益および義務を保護し,ならびに失踪者に対して請求をなす者のためになされる(家事 10 条 5 項,民事訴訟法 337 条 2 項)。

失踪の登録は,裁判所の判断が後 30 日以内に,その者の居住する司法部門の家事登録局においてなされる(家事 21 条 1 項)。在留外国人,外国人,または無国籍者の失踪の場合,司法部門はその受理につき治安維持省まで報告を行わなければならない(同条 2 項)。

  • 死亡登録

 死亡の登録は,相続開始の根拠として,また死亡率を記録するためになされるものである(家事 10 条 6 項)。

この登録につき,家族の構成員が死亡した場合,家族の代理人が村長に報告を行う(家事22条1項)。死体を発見した者は,村長または警察に死体の場所を速やかに通知しなければならず(同条2項),この場合は村長または警察が5日以内に死亡を認定する。重症患者の治療にあたった医師,助産師などの医療従事者は,その患者または新生児が死亡した場合には死亡証明記録を交付しなければならない(同条3項)。

裁判所が死亡宣告を行った場合には,その者の代理人が裁判所の判断を受けた後,または裁判所の判断を知った日から5日以内に,その者の居住する所の司法部門の家事登録局に通知を行う(家事23条)。この死亡宣告は,当該人物が戦争または自然災害における場合において,それらの事態が終了してから2年後に,裁判所によりなされるものである(民事訴訟法337条2項)。なお,民事訴訟法には「通常の失踪を理由とする死亡宣告」に関する規定が存在せず,家事登録法3条4号においてそれに関する規定があり,それによると,当該死亡宣告は,家族との音信が3年以上ない者に対してなされる。

  • 婚姻登録

 婚姻の登録は,夫婦もしくはその一方,または夫婦の両親もしくはその一方の居住する郡または市における家事登録局へなされる(家事19条1項)。この認定は3日以内に行われる(同条2項)。ラオス市民と外国人との婚姻の登録は,県または中央直轄市の家事登録局においてなされる(同条3項)。外国におけるラオス市民間の婚姻の登録は,当該国のラオス人民民主共和国大使館または領事館の家事登録単位においてなされる(同条4項)。

すみれ

「新しい建物に住まなかったら、新しい家族登録にはならないのかな。」

  • 離婚登録

離婚の登録は,離婚の統計をとるためであり,独身者の状況の確認,再婚の可能性の確保,離婚増加に対する政策,ならびに家族を強固な社会的集団とするためになされるもの

とされる(家事 10 条 4 項)。

 任意離婚および裁判離婚は,離婚前にその夫婦が居住していた郡または市の家事登録局において登録される(家事 20 条 1 項)。ラオス市民と外国人との離婚の登録は,県および中央直轄市の家事登録局においてなされる(同条 2 項)。家事登録局は,申請を受けた後30 日以内に登録し,ならびに両者に対して離婚証明書を交付する(同条 3 項)。

  • 養子縁組登録

養子縁組の登録は,縁組を確証するため,ならびに養親子関係を保障するためになされるものである(家事 10 条 7 項)。

 この登録は,子の両親または後見人の居住する所の司法部門の家事登録局になされる。受理後 30 日以内に認証,登録される(家事 24 条 1 項)。ラオス市民の子を養子にしようとする外国人は,審理のために司法省へ申請書を提出しなければならず,その提出を受けた司法大臣は受理後 30 日以内に審理を行わなければならない。司法大臣より許可が下りた場合には,司法省は 5 日以内に養子縁組の登録および認証をしなければならないとされる

(同条 2 項)。

  • 認知または後見人選任の登録

 認知または後見人選任の登録は,子の扶養および教育をする両親が不在の場合に,子のための後見人を確証,認証するためになされるものである(家事 10 条 8 項)。

 認知または後見人選任の登録は,父の居住する所の,または認知もしくは後見人選任の裁判所の判断がなされた所の司法部門の家事登録局において手続がなされる(家事25条1 項)。家事登録局は,裁判所の判断が出た後に,または村長により後見人の指名がなされた日から10日以内に登録を行い,かつ認知または後見人に関する証明書を発行しなければならない(同条2項)。

  • 姓名変更の登録

 姓名の変更の登録は,新たな姓名へ変更することが必要な理由を確証し,犯罪行為のような違法行為のために変更することを制限するためになされるものである(家事 10条 9項)。

この登録は,成年の場合には,申請者の居住する司法部門の家事登録局において手続がなされる。未成年の場合には,その両親の居住する所の家事登録局において手続がなされる(家事26条1項)。司法部門の家事登録局は,申請を受理後5日以内に登録し,かつ姓名の変更に関する証明書を発行しなければならない(同条2項)。

  • 国籍変更の登録

国籍変更の登録は,元の国籍を確証し,新たな国籍を承認し,ならびに国籍を変更した者の生活を管理および助成するためになされるものである(家事 10 条 10 項)。

この登録は,国会委員会による国籍変更の承諾を受けた後に,申請書を受理した後 5 日以内に司法省の家事登録につき責任を有する部局において手続がなされる(家事 27 条)。

  • 転居の登録

転居の登録は,個人または家族の現住所を記録し,住所および職業を管理および編成し,ならびに社会の安全及び規制を保障するためになされるものである(家事 10 条 11 項)。  この登録は,家族の構成員または家族の全員が他の場所へ住居を変更する場合に,家長またはその代理人が自己の居住する所の村長へ 3 日以内に通知を行い,その後住居移動の申請書を司法部門へ提出する。住居の移動とは,同一郡内における村から村,同一県内における郡から郡,または他の県への移動のことをいう(家事 28 条 1 項)。新居に移動する

場合,到着後 24 時間以内にその居住する所の村長に通知しなければならない。村長はすべての文書が正確かつ完全であるかどうかを監査し,その者の通知を受けた日から 3 日以内にその者に対して新たな居住証を認証する(同 3 項)。転居の登録は,新たな居住者の居住する所の家事登録局において,新たな居住者に対して家事登録簿を作成するためのその地の村長による証明書が受理された後 5 日以内に手続がなされることとなる(同 4 項)104。

104 なお,家族法等の法令に「~日以内」という記載があるが,これらは原則として「労働日」を示しており,休日はその日数に含められないのが原則である。  

3.家事事件の裁判手続

 (1)裁判所における手続

 つぎに,家族法制において重要な役割を果たしているもう 1 つの制度である家事事件裁判手続についても考察する。

 ラオスにおける裁判所は,首都のヴィエンチャンにある最高裁判所,地域(パーク)裁判所(高裁),県・首都裁判所 17,地区(ケート)裁判所が存在する [94]。ラオスでは三審制がとられており,地域裁判所が第 1 審となる場合は県・首都裁判所が控訴審となり地域裁判所が上告審を担当し,県・首都裁判所が第 1 審となる場合は地域裁判所が控訴審となり最高裁が上告審を担当する。地区裁判所には,①民事部,②刑事部,③家事部が存在し,県・首都裁判所以上の裁判所には,①民事部,②刑事部,③家事部,④商事部,⑤少年部が存在する。家事問題が裁判となった場合には,この家事部が事件を担当することとなる。家事事件において 3 億キープを超えるものについては県・首都裁判所が第一審となり,3 億キープ以下または財産に関係しない事件は地域裁判所が第 1 審となる(2012 年民事訴訟法21 条,22 条)。家事に関する非訟事件は地区裁判所が第 1 審となる。

 家事部は,2012 年民事訴訟法 44 条において裁判に関する管轄が,同 45 条において審判に関する管轄が規定されている [95]。裁判については,①離婚,婚姻資産(もしくは負債)の分割のような夫婦関係の事件,②子の養育に関する請求,③配偶者,親,または成年に達してはいるが労働できないもしくは無能力である子の扶養費用に関する請求,④親族関係の地位確認,⑤子の監護権に関する請求,⑥親権および養親の子に対する地位の終了,⑥里子としての地位,⑦子の認知または父の定め,⑧子の氏名・国籍の決定のような,子の利益に関する事件,⑨法律違反,婚約の拒絶,婚姻前の性的関係,その他の事由から生じる損害に関する事件について規定がある。審判については,①無効な婚姻または法律に従わない婚姻の解消に関する請求,②裁判所に対する協議離婚の認証請求,③協議離婚による婚姻財産の分割の認証の請求,④裁判所に対する離婚による子の監護権の変更の審判請求,⑤裁判所に対する離婚による子の監護権について父または母にその手段を実施することの請求,⑥その他家事事件に関する請求について規定がある。ただし,裁判所としては以上のような事案に対し,係争中であっても和解を勧めなければならないとされており(2012 年民事訴訟法 46 条 1 項),和解がうまく行かなかったとしてもそこからさらに 3 か月待つ必要がある(同条 3 項)。

 なお,2012 年民事訴訟法 50 条には,家族の結束についての審理に関する規定があり,それによると,離婚,養子縁組,認知,親権,および扶養に関する審理は,家族法の定めるところによりなされるとある。

 (2)村落調停の手続

 このような裁判手続以外に,村落調停 [96]と呼ばれる調停制度が存在しており,家事事件に関してもまず村落調停を行うことが訴訟提起の要件とされている。ラオスでは伝統的に村長が村における紛争を解決するという慣習があり,現在の村落調停もそれに由来し,1997 年に政府の要請を受けて司法省が設置した [97]。全国の各村に村落調停のための村紛争調停機関が設置され,委員長1名,副委員長 1 名または 2 名およびその他の委員からなる。この調停機関の構成員となるには,法学教育を受けたかどうかは要件とはされておらず,調停委員会は①建国戦線の村支部,②村当局,③退役軍人会,④女性同盟の村支部,⑤青年同盟の村支部,⑥少数民族を代表する長老,⑦村の公安組織などの代表から選出される。調停費用は 10 万キープとされ,当事者が折半する。村落調停に付することが認められない事件として,原則として刑事事件,国家・集団の利益に関わる事件,既に裁判所または経済紛争解決センターで解決した事件などがあるが,家事事件に関しては村落調停が使われることが多い。なお,かつては,この村紛争調停機関において離婚を扱うことは認められていなかった。離婚は裁判所においてのみ認められていたことがその理由であるが,後述するように家族法により,それまで認められていなかった当事者の合意に基づく裁判所の関与を必要としない離婚手続(協議離婚)が認められることとなったため,村紛争調停機関においても離婚を取り扱うことが可能になった [98]

 村落調停の実際,評価,課題等については,各地で実地調査を積み重ねる必要がある [99]

 4.宗教と家族法制度との関係

ラオス人民民主共和国において,国教としての宗教が定められているわけではないが,なお国民の多くはラオス仏教を信仰する仏教徒である。社会主義体制の中において,宗教問題が歴史的には存在していたが,現在ラオス仏教はラオスの文化の中心をなすものとして尊重され,1991 年の以前の憲法の制定時には,ラオスの国旗に仏塔を冠することとなっ

[100]。現在の憲法 9 条には,仏教徒その他の宗教の信者による合法的な活動を尊重・保護をするという規定を備え,また同 43 条に宗教の信仰または不信仰の権利・自由に関する規定も備えている。

以上のように,信仰の自由を保障し,また社会主義国家であることから,例えばインドやインドネシア [101]などにみられるような信仰する宗教によって適用される法律や裁判手続が異なったり,宗教裁判所があったりするような人的不統一法国ではなく,ラオスでは上記に挙げた法律に基づいて問題が処理されることとなる。

 5.親族法

 (1)家族法制の概要

 ラオスには未だ民法典が存在しないことから,家族法が法源としてもっとも重要であり,全 55 条からなり,第 1 条から第 5/1 条までが第 1 部総則とされている。

家族法では,新婦持参金(結納),婚姻,離婚,養子縁組,夫婦関係,夫婦の財産,親子の権利・義務に関する原則,手続と措置について規定し,これらにより,家族を保護および発展させ,家族をラオス社会において文化的で安定した基本組織にし,男女間の自由な意思と平等に基づく婚姻関係を通して家族関係を確立させ,ラオスの伝統や習慣を守りかつ発展させ,家族を国家の発展および平和な社会を構築する基本組織とするとされている(家族法1条)。ラオスでは家族を社会の基本組織とし,夫・妻・子および家事登録簿によって証明される家族関係を構成し,同居するその他のメンバーのことを家族という(家族法 1/1 条)。なお,ここでいう「基本組織」とは,社会における一番小さい組織の単位のことである(家族法 1/3 条 5 号)。その他のメンバーとは,姻族としての父,姻族としての母,祖父母,夫婦の兄弟姉妹,甥姪その他の者をいう(家族法1/3 条 1 号)。また,家族関係では男女は平等とされる(家族法 2 条)。

(2)婚姻の成立

(ア)婚姻前の関係

婚姻に関し,男女は自己の意思のみに基づいて婚姻関係を形成し,国や家族の強制などによって婚姻や婚姻相手を強制することは認められない(家族法 3 条)。また,一夫一婦制がとられている(家族法 4 条)。

さらに,婚姻関係前に関する幾つかの規定も存在している。第 1 に,婚約に関する規定が家族法 6 条に存在している。

婚約とは,定義規定である家族法 1/3 条 2 項によると,男女が将来夫婦になるように婚姻をさせる目的で,男女双方の親や媒酌人(仲介人)が共同で覚書を作成し,または,男性側が女性側に高価な品物や金品を委託するという合意であり,両親および女性の親族と男性の親族の間の合意のことをいう(家族法 1/3 条 2 項)。その婚約は,男女が互いに愛情関係を形成しながらも婚姻の要件を満たしていない場合であり,男女が将来夫婦になるように婚姻をさせる目的で,伝統的慣習に基づいて,男女双方の親や媒酌人(仲介人)が共同で覚書を作成し,または,男性側が女性側に高価な品物や金品を委託するという合意で成立する(家族法 6 条)[102]。 

第 2 に,婚姻を成立させる手続として,婚姻の申込み(結納)に関する規定がある(家族法 6 条の 2)。これは,男女が互いに愛情関係を形成し,婚姻について同意をしている場合,男性の両親および仲介人(年輩の親戚),または自分が所属している組織の上司を連れて,伝統習慣に従って女性の両親および仲介人(年輩の親戚)に対して,女性との婚姻を申込み,男女の能力や実際の状況に基づいて,結納金や結婚式について合意し,正確な覚書を作成することである。これらの婚約の不履行があった場合や,申込み内容に不履行があった場合,その者に対して損害賠償を請求することができる(家族法 7 条)。規定上,婚姻の申込みは男性側からしか認められていない。しかし,家族法 2 条により男女は平等とされており,この婚姻の申込みは,それまで存在していたラオスの慣習を規定したものである。なお,家族法 6 条および 6/1 条の規定は強行規定ではないため,原則としてその内容を実施せずに合意の上で婚姻届を提出し登録されれば,婚姻はこれにより成立するが,現実には,慣習に従わない場合にその婚姻の登録が為されない可能性がある。

この婚約および婚姻の申込みに不履行があった場合については家族法 7 条に規定がある。婚約につき,男性側が正当な理由なく不履行をした場合,覚書に記載された通りに未だ女性に渡していない財産,もしくは価値のある物を女性側に渡さなければならず,既に履行済みの財産および価値のある物については,女性のものとされる(同条 1 項)。女性側が正当な理由なく婚約を不履行した場合,覚書に記載された通りに未だ女性に渡していない財産,価値のある物については取り消されなければならず,既に履行済みの財産および価値のある物については,女性側は男性側に返還しなければならない(同条 2 項)。男性もしくは女性の名誉が傷つけられた場合,または結婚式の準備のために支出が生じた場合には,正当な理由なく履行をしない当事者は,損害賠償の責任を負う(同条 3 項)。

なお,結納金についてであるが,未払いのまま婚姻関係に至り,その後に男性側に原因があって離婚となった場合には,結納金が未払いであるときには,離婚後であっても約束通りにそれを支払わなければならない(家族法 7/1 条 1 項)。女性側に原因があった場合には,未払いの結納金はなかったこととされる(同条 2 項)。

 婚姻前に性的関係が生じた場合,一方で,男性がその相手の女性と婚姻をしないときには,その男性は慣習および伝統に従い,女性または女性の家族の慰謝料や補償金(回復祝い金)を提供しなければならない。他方で,女性がその男性と婚姻をしない場合には,その女性は上記の金員等を提供する必要はない(家族法 8 条 1 項)。

性的関係により懐胎した場合には,上記の金員に加え,男性は出産費用,産褥期費用,その他の費用についても責任を負う。さらに,理由の如何を問わず,男性はその懐胎した子が 18 歳の成人になるまで,養育の義務を負うこととされている(同条 2 項)。

 (イ)婚姻の要件および手続

 婚姻は,男女とも 18 歳以上であること,男女に愛情関係かつ合意があり,婚姻を強制されていないこと,独身または離婚していることが文書により証明されていること,ならびに不十分な精神状態ではない者,重篤な病気にない者,または他者に容易に感染しうる病気にない者でなければならない(家族法 9 条)。婚姻障害事由として,第 1 に,同性であること,配偶者もしくは子の生命および健康に対して脅威となりうる精神的障害があること,もしくは重度の病や伝染症を持っている者の間の婚姻がある(家族法 10 条1項1号)。第 2に,民族による状況ではあるが,同じ姓の者,近親者である父母,父方祖父祖母,母方祖

父祖母やその上の者と子,孫,ひ孫以下の者のような同じ血縁の者,又は,養父母と養子間,義理の父母と義理の子の間,実の兄弟姉妹同士,実の子と養子間,実の子と義理の子間,養子同士間,養子と義理の子間,義理の子同士間,父方母方の叔父叔母と甥や姪間の結婚は禁止されている(同条 1 項 2 号)。

ただし,親が離婚していれば,義理の兄弟姉妹の結婚は可能である(同条 2 項)。以上に反する婚姻は無効である(家族法 17 条)。

 要件としてさらに,ラオスでは一定の手続が必要となる。すなわち,結婚する意思のある男女は,女性または男性が居住する村役場を通じて,郡や自治区の家族登録官に書面による申請書を提出しなければならない(家族法 11 条 1 項)。 登録官は,請求が受理されてから 1 か月以内に婚姻申請書を審査しなければならず(同条 2 項),男女がすべての要件を満たしていると認められた場合には,登録官は関係当事者を出頭させ,3 人の証人の出席のもとで婚姻を登録する(同条 2 項)。このように,家事登録官は一定の内容につき実質的な審査権限を有している。

 伝統的な婚姻儀式が一般に行われてはいるが,それは婚姻要件とされてはいない。したがって,婚姻の儀式が挙行されていない場合でも,婚姻の要件を満たし,その婚姻が家事登録法に従って登録されれば,その登録により婚姻が成立する(家族法 12 条1項)。婚姻関係は,婚姻が登録された日から生じる(同条 3 項)。

  • 婚姻の効果

 夫婦は平等であり,同等の権利を有している。家庭内の紛争も夫婦が共同して解決することとされ,互いに扶養する義務,子を育て教育する義務を負う(家族法 13 条)。家族の住所についても夫婦が共同してその協議で決定する(家族法 14 条)。家族の姓については,選択的夫婦別姓制が採用されており,共通の姓として夫または妻の姓を使用することも可能であり,婚姻前の姓を維持することもできる(家族法 15 条)。

すみれ

「夫婦別姓も選べるんだ。」

  • 婚姻に関する国際私法

家族法第 4 編第 1 章には渉外的な婚姻,離婚および養子縁組についての規定がある。47 条でラオス国内における渉外的な婚姻,48 条でラオス国内における渉外的な離婚,49 条でラオス人同士の国外における婚姻,そして 50 条でラオス人同士の外国における離婚の準拠法について規定している。

第 4 編第 3 章は渉外的な養子縁組の準拠法について定め,51 条で外国に居住するラオス人とラオスに居住するラオス国籍の子との養子縁組および外国人とラオスに居住するラオス国籍の子との養子縁組について規定している(「国籍法」で外国人を短期間在留する外国人,長期間在留する外国人および無国籍者の 3 種に分類されているが,ここではいずれも外国人として表記する。)。ラオス国内で挙行される婚姻の実質的成立要件には当事者の国籍に関わりなく「ラオス家族法」が適用される(家族法 47 条 2 項)。ラオス人と外国人の間の婚姻がラオスで挙行される場合には「ラオス家事登録法」で定められる婚姻登録を行わなければ有効な婚姻として効力が認められない(同条 4 項)が,外国人間の婚姻の登録は,当事者の本国の在ラオス大使館または領事館で本国法により行うことができる(同条 3 項)。無国籍者間の婚姻登録はラオス法による(同条 3 項)。

  • 婚姻の無効および取消し

  家族法 4 条,9 条および 10 条に違反する場合,その婚姻は無効とされる(家族法 17 条)。すなわち,一夫一婦制に反する場合,当事者が 18 歳未満,両当事者に婚姻に関する合意がない,または自発的な婚姻でない場合,独身・離婚,死別に関する正式な証明書を有していない場合,精神障害がある場合,重度の病や伝染病を持っている場合,ならびに近親婚に当たる場合である。しかし,無効な婚姻であっても,それを解消するには裁判所の手続が必要となる(家族法 18 条 1 項)。それらの無効な婚姻の解消を請求できるのは,検察官,家事登録官,配偶者の親もしくは,夫または妻である(同条 2 項)。無効な婚姻が解消された場合,婚姻関係は終了するが,婚姻中に懐胎した子または生まれた子は,両者の嫡出子とみなされる(家族法 19 条 1 項)。その無効な婚姻中に取得された財産は,家族法および所有権法(財産法)の規律に従うこととなる(同条 2 項)。

 このように,無効な婚姻であっても,裁判所による判断がない限り婚姻関係が継続していることとなる(家族法 16 条 1 号)。

  • 婚姻の解消

 (ア)婚姻の解消原因

婚姻の解消原因については,上記のように無効な婚姻とされ,その無効が確認された場合を含めて観念されることもあるが,それ以外にもさらに,離婚がなされる場合,離婚に関する合意がなされている場合,配偶者が死亡した場合,ならびに 3 年以上配偶者の消息が不明,もしくは連絡がない場合,または配偶者の死亡を宣告する裁判所の判断があった場合がある(家族法 16 条)。

離婚原因は家族法 20 条に規定がある。第 1 に,不貞行為があった場合がある。第 2 に,一方配偶者,父母もしくは親族に対する暴力もしくは重大な侮辱,または重度の常習的飲酒,麻薬中毒,常習賭博行為もしくは浪費のような,同居を不可能とするような著しい不行跡があった場合がある。第 3 に,家族に予告かつ連絡することなく,もしくは家族の生活に必要な物品を送ることなく 3 年以上家族を遺棄した場合がある。第 4 に,合意なしに夫が僧侶,見習い僧,もしくは修練者となり,または妻が尼僧となり,3 年以上が経過した場合である [103]。第 5 に,一方配偶者がその消息を家族に 2 年以上知らせなかったとき,または事故により 6 か月以上消息がないときにおける,裁判所による失踪の宣告がなされた

場合である。第 6 に,配偶者が刑法犯としての有罪判決を受け,その刑事罰が 5 年以上の収監を伴うものである場合である。第 7 に,配偶者に同居を不可能とさせる危険で深刻な病気がある場合である。第 8 に,配偶者に同居を不可能とさせる精神疾患がある場合である。第 9 に,配偶者が性的に不能となった場合である。第 10 に,信義にもとる行為および虐待により,同居が不可能となるような不和な状態の場合である。これらの事由に該当する場合であっても,夫は,自己の妻が懐胎している間,または子が1歳に満たないときには,離婚を請求する権利を有さない(家族法 22 条 1 文)。ただし,妻についてはこの限りではない(同 2 文,女性の発展及び保護法 20 条 1 号)。

(イ)離婚手続

 離婚の方式に関しては 2008 年家族法に新たな規定が設けられ,当事者の合意による任意離婚が認められるようになった(家族法 21 条 1 項 1 号)。ただし,金銭により離婚を成立させることは認められていない(同条 2 項)。

任意離婚の要件は,第一に,双方が離婚に合意していることである。第二に,双方が,例えば子の監護権のように子に関する争いを有していないことである。第三に,双方が婚姻財産について争いを有していないことである。第四に,双方が借金に関して争いがないことである(同 21/1 条)。この要件を満たしている場合,夫婦は,双方の両親,親族および3 人以上の証人の面前で離婚の申請書を作成し,双方の居住するところの村長に対して離婚の請求を行い,その届出を行う。それに対し,村長は双方に和解を促し,その和解がうまく行かない場合には,村長はさらに双方にその熟慮のために 3 か月の期間を与える(家族法 21//2 条 1 項)。和解に至らなかった場合,村長は離婚の記録を作成し,離婚の登記のために郡,もしくは特別市のレベルにおける家事登録官へそれを送付し,登録官は離婚の証明書を発行し,その謄本を各当事者へと送付する(家族法 21/3 条 2 項)。

裁判離婚の場合,裁判所は次の内容を審査する。すなわち,第 1 に,一方配偶者の離婚請求があり,かつ一方配偶者が離婚に同意していないことである。第 2 に,子の監護権,婚姻財産,または双方の借金の問題について争いがあるかどうかである。第 3 に,家族法20 条における離婚原因のあることである(家族法 21/3 条 1 項)。しかし,裁判所に離婚の請求がなされたとしても,裁判所はただちにその審査を行うわけではない。審査の前に,裁判所はまず双方に和解を進めなければならない。また,民事訴訟法 46 条 1 項によると,離婚事案につき判断を下す前に,裁判所は両当事者の両親および親族を裁判所に召喚し,両当事者の理解等を推し進めるための努力をしなければならないとされている。直ちに両当事者が仲直りに合意できない場合は,彼らに考え直させるために 3 か月の期間を与えなければならない(家族法 21/3 条 2 項、民事訴訟法 46 条 3 項)。当事者間で和解が成立すれば,裁判所はその記録をとり,離婚請求を破棄しなければならない(民事訴訟法 46 条2 項)。

その期間が経過しても和解が成立しない場合に,はじめて裁判所は離婚を審査し承諾を行うこととなる。その離婚判断の際に,裁判所は未成年子の利益の保護,ならびに生計を確保するための労働ができない夫または妻の利益を保護するための方策を打ち出さなければならないとされている(家族法 21/3 条 3 項,民事訴訟法 46 条 4 項)。離婚の判断が下されると,裁判所は離婚の登記のために家事登録局へその判断に関する 2 通の副本を送達し,かつ 1 通の謄本を各当事者へ送達しなければならない(家族法 21/3 条 4 項)。それに基づき離婚の登録がなされる。

なお,同じ相手との再婚は認められるが,婚姻の登録を再度行わなければならない(家族法 25 条)。

(ウ)離婚における子の保護および自己の扶養料の請求

離婚後,子の保護と養育(後見)について同意できない場合,裁判所は,子の利益や法律の規則により,父または母のいずれが子を世話すべきかを決定しなければならない(家族法 23 条 1 項)。離婚した夫婦は,子を世話,養育しかつ教育しなければならないからであり,裁判所は,夫と妻との合意に基づいて,または,夫と妻の問で合意に達することができない場合は,裁判所の決定に基づいて,子が 18 歳の成人に達するまでに支払われる子の養育費について決定することとなる(同 23 条 2 項)。離婚後の子の監護権について,裁判所が父または母のどちらが子の利益にふさわしいかについて決定する場合には,母親が子の監護権に関して優先権を有している(女性の発展及び保護法 20 条)。また,民事訴訟法においては,子が7歳に満たない場合において,母親が子を受け入れない,または子を育てるための手段を有さない場合を除いて,監護権は母親に与えると規定されている。子が7歳以上の場合は,子に最初に看護を受けることにつき尋ねなければならない。更に,父母が子を受け入れることができない,または子を育てることができない場合,裁判所は子が第三者の監護権に服する判断を行うことが認められている(民事訴訟法 47 条)。

離婚後,婚姻関係があったときから病気にかかっていて,かつ自分の必要を満たすことができない夫または妻は,相手方に経済的な能力がある場合に限り,離婚をした後も,相手方による扶養料の負担分を決定するよう裁判所に請求する権利を有する。ただし,扶養料の負担は 2 年を超えないものとされている(家族法 24 条)。また民事訴訟法において,離婚事件に関し,子の扶養料に関する請求がなされる場合,離婚後夫婦財産が存在するときは,裁判所は子の養育をする者のためにその財産の 3 分の 1 を割り当てる判断を行う。夫婦財産が子の扶養のために不十分な場合には,子の扶養について義務を負う当事者は,家族法に規定される各期間の生活費の額を,子の扶養のために月単位で支払うこととの判断がなされる(民事訴訟法 48 条 1 項)。夫婦財産が存在しない場合,子の扶養につき義務を負う当事者が,公務員の最低賃金の半分を基準とし,各期間の生活費の額を月単位で支払うように裁判所は判断を下すとされる。夫婦財産の形態が家族の居住する家屋である場合,監護権を有する親が家屋の取得につき優先権を有する。家屋の価値が監護権を有する親の受領額を超える場合,家屋を取得する当事者は相手方当事者に対し,差額を払い戻さなければならないとされる(民事訴訟法 48 条 2 項)。

(エ)婚姻財産

離婚時の財産分割について,婚姻前からそれぞれが所有する財産,結婚後に夫もしくは妻に対する相続,遺贈もしくは贈与によって取得された財産であって,最初の形で残っているかまたは他の財産の形態に変わったものは,夫婦のそれぞれの特有財産(各自の所有する財産)とされる(家族法 26 条 1 項)。1 項以外に,夫または妻の特有財産に生じた利子,収入や成果は,夫又または妻のそれぞれの特有財産とみなされる。ただし,夫または妻が生産に貢献する,または夫婦共同で働いて得た収入や成果は婚姻後取得財産(夫婦財産)とみなされる(同条 2 項)。ここでいう夫婦財産とは,夫婦が婚姻中に共同で取得した財産のことであり,価値の低い個人向けの財産は夫婦財産とはされない(同条 3 項)。一方配偶

者が同居,または別居している間に各自で得るすべての収入は夫婦財産とされる。別居後に家族の利益のために,または夫婦の合意により借り入れられた負債については,夫婦が責任を持つこととなる。ただし,個人の利益のため,または合意なしに借り入れられた場合には,各配偶者がその負債について責任を負わなければならない(同条 4 項)。また,他方の特有財産に対して婚姻財産から支出があった場合,または 3 分の 2 以上の額を特有財産から一方の特有財産に対して支出した場合,その特有財産は夫婦財産になったとみなされる(同条 5 項)。

 家族法 26/1 条には,慰謝料に関する規定がある。慰謝料とは家族の構成員の死亡により損害を受けた家族が受ける金銭のことである(家族法 26/1 条 1 項)。これは平等に 3 分割され,死亡者の両親,一方配偶者および子に提供される。死亡者に子がいない場合,この慰謝料は 2 分割され,死亡者の両親および一方配偶者に提供される。死亡者に両親がいない場合,この慰謝料は 2 分割され,一方配偶者および子に提供される。死亡者に両親および子がいない場合,この慰謝料は一方配偶者に提供される。それ以外の場合,この慰謝料の分割方法は,遺産および相続財産基準(相続法)に従うこととなる。ただし,この慰謝料は分割をする前に死亡者の葬儀費用,供養費用,借金返済,および死亡により生じたその他の費用に対して優先的に使用されなければならない(家族法 26/1 条 2 項)。

 夫婦財産について,各配偶者は,どちらが実際にその財産を取得したのかにかかわらず,平等な権利を有している。夫と妻は,家庭の必要性に従って取得財産を合理的な理由で使用する権利を有する。高価な取得財産の収益を受ける権利および決定権については,事前に相互の同意を得なければならない。例えば,土地の使用権,家の購入,または夫婦財産を担保にする事などである(家族法 27 条)。

 夫婦が有する財産に関する持分については,家族法 28 条に規定がある。第 1 に,特有財産は各所有権者の財産とされる(家族法 28 条 1 項 1 号)。第 2 に,夫婦財産は夫もしくは妻との間で半分ずつに分けられる。ただし,裁判所の判断により不貞行為もしくは婚姻財産について詐取や横領が認められた一方配偶者は夫婦財産の 3 分の 1 のみを受領する権利を有する(同条 1 項 2 号)。第 3 に,未成年子が一方の親と生活をする場合,その親は子の監護人として夫婦財産の 3 分の 1 を受領する権利を有する。その残りの財産は夫婦が平等に分割する。夫婦財産が子の監護に不十分な場合,子が 18 歳の成人に達するまでは,家族法 35 条(子を世話養育する親の義務に関する規定)が適用され,両親が離婚後もともに監護を継続する義務を負うこととなる。

夫婦財産は離婚が成立した後に分割される。夫婦が別居し,または不正な方法で夫婦財産を密かに使用し,もしくは夫婦財産に対して不誠実な意思を表明した場合には,夫婦財産はその相手方の申立てにより離婚前に分割することも可能である(家族法 28 条 4 項)。

 (オ)離婚に関する国際私法ラオス国内での離婚には,当事者の国籍にかかわりなくラオス法が適用される(家族法48 条 1 項)。ラオス人夫婦がラオスに居住する場合にも同様にラオス法が適用される。ラオス国外でラオス人と外国人,またはラオス人同士が離婚する場合には,離婚地の法による(家族法 48 条 2 項,50 条 1 項)とされており,日本人とラオス人の夫婦またはラオス人の夫婦が日本で離婚する場合には,ラオス国際私法上,準拠法は法廷地法である日本民法となる。

 (5)実親子関係

  • 概要

ラオス家族法の規定には,実親子関係の発生,親子の権利・義務関係,養子縁組の制度,および認知制度が存在している。これらの紛争が生じた場合も村紛争調停機関が活用され,それによっても合意に至らない場合に,裁判所による親子関係の事件の審理が行われる。

  • 実親子関係と認知制度

実親子関係における権利・義務は子の出生により生じる(家族法 29 条 1 項)。ラオス家族法では,子は法的に婚姻している両親から生まれた者についてだけではなく,婚姻していない両親の子から生まれた子のことも指している。ただし,婚姻していない両親から生まれた子と父との関係ついては,父の認知または父親であることが裁判所により認められる必要がある(同条 2 項)。

認知は,婚姻していない両親から子が生まれた場合になしうる(家族法 30 条 1 項)。任意認知は両親が共同で申請書を家事登録局に提出することで成立する。母が死亡している場合は,父が単独で認知を行うことができる(同条 2 項)。子が成人に達している場合,子の同意がなければ認知をすることができない。この場合に,たとえ父が他の女性と婚姻していたとしても認知をすることに問題はない(同条 3 項)。父が認知をしない場合には,子の母,子の責任者または保護者 [104]は,裁判所に対して認知請求をする権利を有する(同条4 項)。なお,条文上,子は認知請求権を有しない。裁判所が認知を行う基準は,子の母および認知をする父が同居し共に財産を保有している場合,子の母および認知をする父が子を共同で扶養し教育している場合,ならびに認知をする父について父であるという医学的証拠が存在する場合である(同条 5 項)。

 (ウ)子に対する父母の権利・義務  

両親は,その好みに従い,相互の同意に基づいて子の名について決定する権利を有する。ただし,子は 18 歳に達すると,規定に従ってその名を変更する権利を有する(家族法 31条 1 項)。

すみれ

「自分で名前を変更できるんだ。」

子の姓については,ラオスは選択的夫婦別姓制が採用されていることから,両親の姓が同一の場合には,子の姓も同一のものとされる(同条 2 項)。両親が異なる姓を使用している場合は両親の協議に従い,協議で決まらない場合は裁判所の判断する姓を使用することとなる(同条 3 項)。両親の婚姻関係が解消された場合でも,原則として子の姓は変更されない。しかし,両親の婚姻関係が解消した後に監護権を有する親とその子の姓が異なることとなった場合など,子にとって必要とされる場合には子の姓をその監護権を有する親と同一の姓に変更することが認められる(同条 4 項)。姓または名を変更する場合,その申立てはその者の居住する郡および特別市における家事登録局へ申請を提出する(同条 7 項)。なお,子の国籍は両親が同一の国籍を有する場合は,両親の国籍により(同条 5 項),両親が異なる国籍を有する場合には,ラオス国籍法に従い父母のいずれか一方の国籍を取得することとなる(同条 6 項)。

両親は,子に対し愛国心,前進を愛する心,良い市民,親孝行の心を持つ人間,透明性のある生活様式を持つ人間として子を教育しなければならず,かつ子が教育を受けられる状況を作り,社会に貢献できるような状況を作らなければならない(家族法 32 条 1 項)。このような子の教育に対する義務を両親が履行しないとき,親の権利を逸脱しているとき,子に暴力および虐待をするとき,または子が両親に対して忘恩行為を働いた場合には,裁判所は「民事訴訟法 59 条の規定に従い」,親の権利,または子の権利を剥奪することができると規定されている(同 32 条 2 項)。なお,この民事訴訟法 59 条は 2012 年民事訴訟法 49 条に該当する(民訴改正後に家族法の訂正がなされていないのでこのような条文となっている。)。両親の親権剥奪,および子の権利の剥奪の請求は,他方配偶者,親族または検察官によって提起されうる(民事訴訟法 59 条)。ただし,それらの剥奪後も,両親の子を扶養する義務は継続し(家族法 32 条 3 項),そのような両親または子が,その後,子に対して適切にその権利を行使することができるようになったと認められたとき,または子が改心をした場合には,裁判所は両親の権利,または子の権利を回復させることができる(同条 4 項)。

 両親は子の権利および利益を保護する義務を負う。両親は 18 歳に達していない未成年の子の法定代理人であり,法廷,職場,学校その他の場所において子の権利および利益を保護する義務を負う(家族法 33 条 1 項)。未成年の子が両親の同意なしに契約を締結した場合,両親は裁判所に対してその契約の取消しを請求できる。子が被告となる訴訟においても,両親はその子を代理する。両親が離婚していた場合であっても,その両親は子のためにすべての民事責任を負わなければならない(同条 2 項)。

また,両親は未成年の子だけではなく,成人であっても働くことのできない障害者等の子を扶養する義務を負う(家族法35 条 1 項)。子を扶養する義務は,両親と子の同居または両親の離婚にかかわらず,その義務を負わなければならず,子の養育費も子が 18 歳になっていない間は,裁判の有効期限に関係なくいつでも請求できる。この養育費を請求するための提訴の期間制限はない。1 人の

子の養育費の金額は,公務員の最低月給の半額を基準とし,その時その時の生活水準に従って計算される(同条 2 項)。ただし,両親が経済的困難に陥った場合には,両親は裁判所に対して,子の扶養料の額の軽減を請求することができる(同条 3 項)。

親子の財産につき,両親が死亡するまで,子は両親の財産についていかなる財産権をもつことはなく,両親は子の財産についていかなる財産権も有さないが,両親は未成年の子の財産を管理する義務を負う。両親および子が共有する財産権がある場合は,その財産権は所有権法(財産法)25 条(共有財産権に関する規定)の規定に従うこととなる(家族法34 条)。

 また,子の義務として,両親が高齢,病気,働くことができない,または扶養が必要となったような場合には,子は両親を扶養し援助する義務を負う。その扶養料の額は,両親と子との合意で決定される。その額が合意に至らない場合には,裁判所が子の経済的状況からその扶養料の額について判断を行う。なお,その扶養料は月単位で支払われることとなる(同条 1 項)。両親が家族法 32 条(子を教育する親の義務の規定)に規定するような違法な行為に関与した場合には,子はその義務から免れることができる(同条 2 項)。

 なお,離婚後の子の監護権については,前述(4)(ウ)(離婚における子の保護および自己の扶養料の請求)の部分を参照。

 (エ)未成年子に対する法定代理権および後見

 前述の通り,両親は未成年の子の法定代理人である(家族法 33 条 2 項)。子および無能力者の両親が死亡もしくは親権を剥奪され,または病気もしくは他の理由により扶養が必要とされている場合,子および無能力者の後見人が,子を扶養し,かつ教育する義務を負う(家族法 43 条 1 項)。後見人は子および無能力者の権利および義務を保護する義務を負う(同条 2 項)。後見人は,前述のような両親と同様の権利義務を有する(家族法 45 条)。  後見人の選任は次のようになされる。すなわち,遺棄された者がいた場合,そこの地域の村長は,遺棄された者の通知を受理した後 1 か月以内に,子および無能力者の後見人をその者の近親者の中から指名しなければならない。その近親者がその後見人の指名を受諾しない場合,それ以外の者が子および無能力者の後見人として選任される(家族法 44 条 1 項)。近親者とは,直系血族(両親,祖父母など)および水平的関係にある者(兄弟姉妹,いとこ等)のこととされる。後見人を指名する村長は,定期的に後見人の活動を監督する義務を負う(同条 2 項)。未成年者,無能力者,親の権利を剥奪されたことのある者,または後見人として不適切とされる者を指名することは認められない(同条 3 項)。

 子および無能力者が成人になり,または行為をする能力を回復した場合,後見は終了する。後見人が自己の義務の履行が不可能となり,または適切に義務を履行することが不可能となった場合,後見人は解任され,または新たな後見人に変更される(同 46 条)。

 なお,離婚後の子の保護については,前述(4)(ウ)(離婚における子の保護および自己の扶養料の請求)の部分も参照。

 (6)養親子関係

  • 概要  養子縁組は養親と実親の合意により成立する。日本の特別養子縁組のような制度は存在しない。養子縁組制度は「他人の自然子として出生した子」を養子とすることであり,養親子関係が成立した後は,実親子関係に基づく権利義務は終了し,養子は養方の親族となる(家族法 37 条 1 項)。なお,養子縁組をするには,家族法の規定に基づいて作成された証明書を保持しなければならない(同条 2 項)。
  • 養子縁組の要件

養子縁組が成立するためには,養子が 18 歳未満の未成年であること,養親が成年(18 歳以上)に達していること,養親および養子となる者の年齢差が 18 歳以上あることが必要とされ,かつ,親権が取り消されていない者で,相応しい経済的条件を有する者でなければならない(家族法 38 条 1 項)。また,養親となる者および子の実親の書面による事前の同意が必要である。ただし,実親がその親の権利を剥奪され,または不適当な者もしくは失踪した者と認定された場合は,このような書面による同意は不要である(同条 2 項)。また,養子となる者が 18 歳以上の場合は,その子の同意も必要とされる(同条 3 項)。その後,養親となろうとする者は,養子縁組許可を村長に申し立てねばならない。村長は養子縁組許可申請がなされてから1か月以内に許否を決定しなければならない(家族法 39 条 1 項)。養子縁組が適切と認められる場合には養子縁組許可証が発行され,発行後 3 日以内に家事登録官に送付される。養親にも養子縁組許可証の交付がなされる(同条 2 項)。

単独の成人が養親となりうるか,内縁関係の男女が養親となりうるか,同性婚カップルが養親となりうるかについては明らかではない。なお,聞き取り調査では,統計上 2006 年から 2010 年までの間で,ラオス法で認められた国際養子縁組として,子のいない外国人夫婦を養親として認めた事例があったとのことである。

  • 養子縁組の効果
  •   養親子関係は,養子縁組が登録された日から効力を生じる(家族法 41 条 1 項)。養子の姓は養親の請求に基づき養親の姓へと変更がなされる(同条 2 項)。養子の名が不適切であると考えられる場合には,養親の申立てにより,養子の名を変更することができる。ただし,養子が 10 歳に達していた場合には,その養子本人の同意が必要となる(同条 3 項)。養親子関係が成立すると,前述のように,実親子関係は終了し,養子は養方の親族となる(家族法 37 条 1 項)。縁組成立後,養親の同意なしにその養親子関係についての秘密を開

示した者,または養親が死亡している場合に家事登録官の同意なしに子の養子縁組の秘密を開示した者は,刑法 104 条 1 項の規定に基づき刑事責任を負う(家族法 40 条)。

  • 養子縁組の無効および解消

偽造証書を使った場合,または養親として不適格な者によりなされた養子縁組は,無効である(家族法 42 条 2 項)。養子もしくは養親の利益とならない養子縁組,または家族法38 条(養子縁組の要件に関する規定)に反する養子縁組は取消しの対象となる(同条 3 項)。養子縁組の取消しを請求する権利は,実親,養親または利害関係を持つ者であり(同条 4 項),養子縁組が無効と認められ,または取消しがなされた場合には,養子の地位は裁判所の判断に従い終了する(同条 1 項)。

なお,養親子関係が終了した後に養親と元の養子が婚姻することは禁止されていない。

(オ)養子縁組に関する国際私法規定

 家族法第 4 編第 3 章に国際養子縁組に関する国際私法規定がある。家族法 51 条は外国に居住するラオス人間の養子縁組,外国に居住する外国人夫婦とラオス人の間の養子縁組,ラオスに居住する外国人夫婦とラオス人の間の養子縁組,ラオスに居住するラオス人夫婦と外国人の養子縁組のいずれにもラオス法を適用すると定めている。したがって,日本に居住する日本人がラオス人未成年者と養子縁組する場合にはラオス法上の養子縁組手続を行い,かつ在日ラオス大使館を通じてラオス政府の承認を求めねばならないことになる。ラオスに居住する日本人がラオス人の未成年と養子縁組する場合も同様にラオス法によることになる。これらのことから考えて,ラオス国際私法上,ラオス人のかかわる養子縁組につき,法の適用に関する通則法 41 条の反致の適用は認められないことになる。

 6.相続法

  • 相続法制の概要  

相続については,現行法として 2008 年相続法が法源として重要である。この法典は 1990年相続法(遺産及び相続基準とも訳される)を改正したものである。

 相続法は,相続の正当性および公平性を確保し,被相続人および相続人の権利義務が確実に履行され,社会の平穏が確保され,秩序が維持されるために,遺産分割,遺産相続および遺産管理に関する原則を定めるものである(相続法 1 条)。相続には,法律によるものと遺言によるものがあり(相続法 8 条),死亡した者に属した財産および権利義務を,相続人が承継することが相続とされる(相続法 2 条)。また,裁判所よる死亡宣告の場合には,その者の遺産は相続人の所有になり,その後に被相続人が生存していたことが判明した場合には,相続人は相続した遺産の残存するものを宣告された者に返還し,被相続人はその遺産の管理において発生した費用等を相続人に支払うこととなる。ただし,その物の生存が判明したとしても,裁判の宣告を知った日より,動産の場合 3 年以内,不動産の場合は 6 年以内にその者が財産の返還請求をしなければ,その者の財産は相続人の所有とされる(相続法 5 条)。

  • 相続の開始および場所

 相続は遺産所有者が死亡した日から開始する。被相続人が,裁判所に死亡宣告された場合,その裁判所の確定判決の日が相続開始日とされる(相続法 6 条)。相続は,被相続人の最終住所において開始し,被相続人の住所が不明または複数ある場合は,主要な遺産の所在地が相続開始場所とされる(相続法 7 条 1 項)。なお,相続の開始は文書により,相続人,親族および証人の参加,ならびに裁判所事務官の立会い,また裁判所事務官がいない地域においては村長の立会いが必要とされる(同条 2 項)。

  • 法定相続
  • 法定相続の行われる場合

 法定相続は,①個人または組織に相続を指定する遺言が作成されなかった遺産の場合,②遺言無効,受遺者(遺言による相続人)が相続開始以前に死亡した場合,③受遺者が相続を放棄する場合,④遺言による相続の遺産以外に,遺産が残存している場合に開始される(相続法 9 条)。

  • 法定相続人および相続順位  法定相続人としては,①被相続人の子(実子,養子,配偶者の子),②被相続人の配偶者,③直系の尊属(被相続人の父母,祖父母,曾祖父,曾祖母),④傍系の親族(被相続人の兄弟姉妹,伯父,伯母,叔父,叔母,孫,曾孫,玄孫 [105]),⑤政府,法人またはこの法律に定めている個人等とされる(相続法 10 条)。なお,胎児も相続権を有し,この場合には胎児

の母がその相続財産を管理するとされている(相続法 16 条)。

 法定相続人の相続順位については,被相続人の子および配偶者は優先的に相続できる。彼らが存在しない場合に,他の親族が近親順に従って相続することとなる(相続法 11 条)。

  • 相続分  配偶者および子が生存している場合には,被相続人の特有財産の 4 分の 3 をその子が相続し,生存配偶者は残りの 4 分の 1 につき相続分を有する(相続法 12 条 1 項)。ただし,夫婦財産については,生存している配偶者がその 2 分の 1 を相続し,子は残りの 2 分の 1 を相続し,子が複数いる場合はそれを相等しい割合で相続する(同条 2 項)。なお,生存配偶者は,未成年の子の相続分に関する財産を管理する権利を有する(同条 3 項)。

 子を持たない夫婦の一方が死亡した場合には,生存配偶者と直系の親族が相続し,その相続分につき,被相続人の特有財産については,生存配偶者がその 3 分の 1 を相続し,直系尊属は各自その 3 分の 2 を相続する。直系尊属が複数いる場合は,その割合は各自で等しいものとされる。(相続法 13 条 1 項 1 号)。夫婦財産に関しては,生存配偶者がそのすべてを相続する(同項 2 号)。なお,離婚をしていない別居中の夫婦の一方が死亡した場合であっても,他方はその遺産を相続する権利を有している(相続法 20 条)。

 被相続人に子および直系尊属がおらず,配偶者および傍系親族がいる場合には,傍系親族は被相続人の特有財産の 2 分の 1 を相続し(複数いる場合は各自平等の割合:相続法 14 条 2 項),生存配偶者は被相続人の特有財産の 2 分の 1,および夫婦財産のすべてを相続する(同条 1 項)。  子の相続分については,被相続人に複数の実子のみがある場合には,上記の相続法 12 条における夫婦財産に関する配偶者の相続分である 2 分の 1 を除いた残りの 2 分の 1 と,特

有財産に関する配偶者の相続分である 4 分の 1 を除いた残りの 4 分の 3 について実子各自が等分で相続分を有する(相続法 15 条 1 項 1 号)。被相続人に実子,養子および継子がある場合,被相続人の夫婦財産に関してはその者たちが等分で相続分を有する(同項 2 号)。被相続人の特有財産に関しては,養子と実子とは相続権を有するが,継子は相続権を有しない(同項 3 号)。養子の実親が遺言に別段の意思を表示した場合を除き,養子は実親の遺産を相続できない(同項 4 号)。なお,被相続人が死亡するまで介護し,葬儀の手配等を担った実子,養子および継子は,他の子の相続分の 2 倍を相続することができる(同条 2 項)。

  • 代襲相続

 法定相続人が被相続人よりも先に死亡した場合,その法定相続人の相続人は代襲相続ができ,さらに再代襲相続も認められている(相続法 21 条)。代襲相続の要件として,代襲者が法定相続人であること,および被代襲者が相続権を有し,代襲者がその者の子であることが挙げられている(相続法 22 条)[106]

  • 法定相続人の不存在および僧侶に関する相続

 相続人が存在しない,または失踪の場合,使用人として 3 年以上当該の世帯に住んでる者は世帯主の遺産を相続することができる(相続法 17 条 1 項)。反対に,相続人が存在しない使用人が死亡した場合,世帯主が使用人の遺産を相続することができる(同条 2 項)。相続人が存在しない,または失踪の場合であり,相続財産の所有者が死亡してから 60 日以内に相続権の主張がないときには,政府が該当の遺産を管理することとなる(相続法 18 条1 項)。その後,死亡若しくは失踪の審判から 3 年を経過した場合,その財産に対する請求は認められず(消滅時効),当該相続財産は国庫に帰属する(同条 2 項)。なお,相続の開始に立ち会う裁判所事務官または村長は,被相続人の葬儀,債務弁済にかかる費用等を遺産から受け取ることができる(同条 3 項)。

 僧侶,少年僧,その他の司教に関して,出家前または出家中に得た財産は,個人もしくは組織に贈与,条件付贈与,またはその趣旨の遺言(これらの内容につい

ては,後述(4)(ア)を参照)をすることができ,さらに,彼らの財産は,個人または組織によって相続されることも認められている(相続法 19 条 1 項)。上記の者が死亡した際に,相続人が存在しない場合や上記の遺贈等がなされなかった場合には,その遺産は上記の者が所属する僧院または修道院等の所有になる(同条 2 項)。

 (4)遺言による相続

 (ア)遺言による相続の内容

  国民すべてに,自己の意思による贈与,条件付贈与,および遺言をする権利を有することが法律上明確に示されている(相続法 24 条)。すなわち,相続法において遺言以外に贈与や条件付贈与の規定が置かれているのである。ここでいう贈与とは,生前に自己所有の財産を無条件で他人に譲ることであり,その財産は受取りの時より受贈者の所有となる(相続法 3 条 4 項)。条件付贈与とは,生前に自己所有の財産を条件付で他人に譲ることであり,受贈者はかかる財産の所有者になるために,条件を適法に履行する必要があるとされる(同条 5 項)。遺言とは,財産所有者が自分の意思を表示する法的文書であり,3 名以上の証人の立会いのもとで文書または口述で個人または組織に預け,記録されるものである(同条 6 項)。

ただし,これらの行為には,その範囲について一定の制限がなされている。第 1 に,財産所有者が 1 人の子を持つ場合,贈与,条件付贈与または遺言の内容は財産の半分を超えてはならないとされる(相続法 25 条 1 項 1 号)。第 2 に,財産所有者が 2 人の子を持つ場合,贈与,条件付贈与または遺言の内容は財産の 3 分の 1 を超えてはならないとされる(同項 2 号)。第 3 に,財産所有者が 3 人以上の子を持つ場合には,贈与,条件付贈与または遺言の内容は財産の 4 分の 1 を超えてはならないとされる(同項 3 号)。これらの範囲を超えた部分は無効とされ,法律の定めによってその分配が決定されることとなる(同条 2 項)。

すみれ

「実質的な遺留分かな。」

 (イ)遺言の方式

 遺言は,文書による方法と,口述による方法が認められている(相続法 26 条)。

 (ⅰ)文書による遺言

 文書による遺言は,財産所有者本人の文書によって行われ,また他人によっても行うことが可能である。他人が執筆する場合は 3 人以上の証人の立会いが必要であり,相続が開始されるまでその秘密を厳守しなければならない(相続法 27 条 1 項)。この遺言には作成年月日,遺贈財産の種類または金額,遺贈者,受贈者,執筆者,および証人の名前を記載しなければならない(同条 2 項)。遺贈者,執筆者および証人は,遺言に署名および拇印をしなければならない(同条 3 項)。遺言の作成後は密封し,財産所有者の所属する地域または近隣地域の公証人において保管されるか,または公証局がない地域の場合は村の統治機構において保管される(同条 4 項)。

 (ⅱ)口述による遺言

 口述による遺言は,財産の所有者が死亡の危急に迫っている,健康ではない,その他の理由により,文書による遺言をすることができない場合においてすることができ,3 名以上の証人の立会いの元で口述によりなされるものである(相続法 28 条 1 項)。この場合,証人は裁判所事務官または村の統治機構に,財産所有者の意思内容および文書によって作成することができない理由を,直ちに報告しなければならない(同条 2 項)。財産所有者が通常の状態に戻った場合には,その日より 30 日が経過すると,口述による遺言は無効とされる(同条 3 項)。

 また,財産所有者は,自己が指定した相続人が遺言の執行より先に死亡した場合,または相続人がその権利を放棄した場合を補欠するために,補欠相続人を指定することもできる(相続法 29 条)。

 (ⅲ)遺言の効力

遺言によって相続人となる者は,その者の法定相続分も相続し,かつ遺言による相続分も相続しうる(相続法 30 条)。ただし,遺言の執筆者,その配偶者および子,立会いの証人およびその配偶者もしくは子は,その遺言による相続において,相続権を有しない(相続法 31 条)。これは,彼らについては法定相続分を有することから,それを上回る額の相続を認めない趣旨と,証人等についてはその地位の悪用を防ぐためにそのような規定になったと考えられる。

 財産の所有者が自己の財産を未成年者または知的障害者・精神障害者に遺贈する場合,その遺産を管理する人を選任することができる(相続法 32 条 1 項)。遺産の管理者は,財産所有者がその遺言に別段の意思を表示した場合を除き,自己以外の者をその遺産の管理者に選任することができる(同条 2 項)。この場合,その未成年者が成年になるとき,および知的障害者・精神障害者が通常に戻るときに,その管理人の役割は終了する。

 (ⅳ)遺言の変更・取消し・失効・無効

 新たな遺言を作成し,従来の遺言内容を変更または取り消すことが認められている(相続法 33 条 1 項)。新しく作成した遺言内容と従来の遺言の内容とが矛盾する場合は,その内容の一部または全部が取り消されたものとされる(同条 2 項)。遺言が失効する場合として,受遺者が遺言者よりも先に死亡したとき,受遺者がその権利を放棄したとき,遺贈物が遺言者により紛失もしくは破壊されたとき,またはその遺言が無効であるときがあげられている(相続法 34 条)。

 遺言の無効な場合として,遺言者が未成年者または知的障害・精神障害者であるとき,目的が明確でない遺言,強迫,詐欺または偽造によりなされた遺言,または相続法 31 条に挙げられている者(遺言の執筆者,その配偶者および子,立会いの証人およびその配偶者もしくは子)に対する遺言が挙げられている(相続法 35 条)。

 (ⅴ)遺言執行者

 遺言につき,その執行者を選任することもできる。この遺言執行者は,財産の所有者,遺言に定められた者もしくは受遺者が就くこととなる(相続法 36 条 1 項 1 号 2 号)。財産の所有者が遺言執行者を選任しなかった場合,選任された者が死亡した場合,失踪者である場合,行為能力を有しない者である場合,不誠実な執行を行う場合,または執行できない場合においては,裁判所が選任を行う(同 3 号)。

 遺言の執行は,財産の所有者が死亡しなければできない(相続法 37 条 1 項)。遺言執行者は,遺言が執行され,実務的に効果を発するために必要な行為を行うことができる(同条 2 項)。なお,遺言の執行にあたり特別報酬を得ることができないが,遺産の管理,維持にかかった費用に関しては請求することができる(同条 3 項)。また,遺言執行者には,受遺者に遺言の執行状況を報告する義務がある(同条 4 項)。

 (5)相続の承認・放棄

 (ア)遺産分割に至る流れ

 相続人は,遺言による指定,または別段の内容が合意された場合を除き,相続の開始をいつでも申し出ることができる(相続法 38 条 1 項 [107])。相続人の中に未成年者の相続人がいる場合,その相続人が成年になるまでは相続の開始を延期することもできる。また,未成年者がいる場合に相続を開始するときは,裁判所書記官または証人として村長の立会いが必要とされる(同条 2 項)。

 遺産の分割をする前には,相続財産に対し債権や債務の内容について計算等を行い,その状況を整理しなければならない。具体的には,被相続人が生前に他人に貸し出した財産,他人から借り入れた財産,または他人に預けたもしくは担保に提供した財産,詐欺,騙取,横領により取られた財産や(相続法 39 条 1 項 1 号),被相続人の葬儀費用や借金についてである(同項 2 号)。これらの整理が終了した後に,相続人は残っている財産のそれぞれの相続分を相続することができる(同条 2 項)。

遺産の分割を求める請求については時効期間があり,その請求は被相続人が死亡した日より 3 年以内に行う必要がある。被相続人が死亡したときに相続人が 18 歳未満である場合,もしくは相当な理由がある場合を除いて,その 3 年の期間が経過すると,分割を求める請求権は無効となる(相続法 40 条)。

 分配されていない遺産があり,それを管理する相続人は,相続法 40 条の時効期間(3 年)の成立にかかわらず,いつでも遺産分配の執行を行うことができる(相続法 41 条)。

 (イ)相続の承認  

法定相続人は,相続開始場所の村の統治機構に相続の意思を表示してはじめて遺産を受継することができる(相続法 42 条 1 項)。

番人

「当然に相続する権利を持つわけではないんだ。」

遺言による相続人の場合は,その遺言を保管する裁判所書記局,または裁判所書記局がない場合は村の統治機構に,相続の意思を表示することになる(同条 2 項)。この受継は相続開始(相続法 38 条 1 項)から 6 か月以内に行わなければならない(相続法 42 条 3 項)。自己の相続分を放棄する相続人がいるとき,そ

の相続人の相続分を受継する者は,残る期間内に受継の意思を表示しなければならず,残る期間が 3 か月未満の場合であれば,かかる遺産の受継者は裁判所に 3 か月間まで延長を申し出ることができる(同条 4 項)。受継があった場合,裁判所書記官または村長は相続人に遺産の受継の証拠となる公正証書を発行しなければならない(同条 5 項)。

 他の相続人の相続の対象とされている遺産に関し,相続法 42 条 3 項の 6 か月の期間内にその者に受継されていない場合において,その遺産が他の相続人により受継され,または国に寄贈された場合には,未だその財物が以前の状態を維持している場合であれば,その受遺者はその相続の対象とされていた遺産を取り戻すことができる。ただし,取り戻すためには,それを実際に受継した者または国の同意を得なければならない。同意が得られないとき,裁判所がその取戻に関して相当な理由があるかどうかの判断を行う(相続法 43 条1 項)。なお,法定相続人または遺言による相続人が相続開始後に,その相続分を受継する前に死亡した場合,その相続人の相続人はかかる相続分を代襲相続することができる(同条 2 項)。

 (ウ)遺産に対する差し押さえなど  

相続の開始前または遺産の受継の証明書を受ける前において,遺産を管理する監督者または相続人は,一定の出費をした場合には遺産について差押え等の行為を行うことができる(相続法 44 条)。すなわち,第 1 に,被相続人を世話,治療し,被相続人の葬儀を行った場合,第 2 に,被相続人の監督の下におかれている者を世話している場合,第 3 に,被相続人の債務である賃金等を弁済する場合,第 4 に,遺産を管理,維持する場合である。

これ以外については,上記の者は遺産に対して何らの権限も有さない。

  • 相続放棄

 法定相続人または遺言による相続人は,自己の相続財産に対する自己の権利を放棄し,これを他の人,行政機関,財団などに譲ることができる。ただし,相続の放棄は相続の開始日から 6 か月以内に行わなければならない(相続法 45 条 1 項)。法定相続および遺言による相続を放棄したい場合,その者はその意思を文書によって表示し,遺産を譲りたい人または組織の名前を記入し,村の統治機構または裁判所書記局に提出しなければならない(同条 2 項,3 項)。遺産を譲りたい人,または組織が特定されなかった場合には,その遺産は他の相続人の相続分とされる(同条 4 項)。なお,未成年者,知的障害者もしくは精神障害者は,親または監督者の同意を得ずに相続を放棄することができない(相続法 46 条)。

  • 相続権の喪失

自己の相続分以上の遺産を騙取,隠ぺい,横領した相続人は,本来の自己の相続分を受継することができない。その者はさらに,騙取,隠蔽,横領した遺産も返還しなければならない。騙取,隠蔽,横領した遺産が自己の相続分より少ない場合,その得られるべき相続分を受継することができない(相続法 48 条)。

 裁判所の審判により親権を失った者は,その子の遺産を相続することができない。他方で,その子も,未成年者である場合を除き,その親の遺産を相続することができない(相続法 49 条 1 項)。裁判所の審判により,子を育成する義務を有する親がその義務を遂行しなかったときにも,子の遺産を相続することができない。また,成年である子が裁判所の審判により,親の世話をする義務を遂行しなかったとき,親の遺産を相続することができない(同条 2 項)。

 さらに,財産所有者が死亡した場合は当然に相続権を喪失し,生存している場合には文書により意思を表示することによって相続権を喪失させられる場合として,相続法 50 条は以下の場合を規定している。すなわち,①遺産を奪取する目的で,故意に財産の所有者または相続人を死亡させ,大怪我をさせたと,裁判所によって判断された者。②一部または全部の遺言を破壊,隠蔽または偽造した者。③被相続人と同県または同市に住んでいる者で,被相続人の死亡を知り,または知ることができるにも関わらず,理由なく,被相続人の葬儀に寄与しない,またはそれを自己の代わりに行う代理人を選任しない者。④遺言の一部もしくは全部を作成,取消しまたは訂正するよう,財産の所有者を脅迫する場合。⑤

被相続人の生命,身体に対し非行を行い,被相続人に大怪我また身体に障害を負わせた者,およびそれらの者を蔵匿した者。⑥刑法 163 条に定められているような,財産所有者または相続人を中傷した者である(相続法 50 条 1 項)。前述のとおり,これらの者は,財産所有者が死亡した場合を除き,財産の所有者がその意思を文書により表示してはじめて相続権を喪失することとなる(同条 2 項)。これらの者が非行を行い,親の管理のもとにおらず,可能であるにもかかわらず老後の親または病気の親を世話しない者は,相続権を喪失した者とみなされ,相続権を失うこととなる(同条 3 項)。ただし,財産の所有者は証拠または

承認を得てその意思を表示することで,相続法 50 条に定められている場合において相続権の喪失を撤回することもできる(相続法 51 条)。

 (8)遺産の管理

 相続人による遺産管理の要請がある場合には,各相続人および債権者の利益を保障するために,遺産管理者の選任を申し立てることができる。この場合,相続開始場所の裁判所書記官または村長が遺産管理者の選任を行う(相続法 52 条)。遺産管理者になれない者は,①18 歳未満の者,②知的障害者,精神障害者,③復権の禁止期間に裁判所により破産宣告を受けた者,④親権を失った者または相続権を失った者(相続法 53 条)である。

 遺産の管理者は幾つかの権利および義務を有する。第 1 に,相続人全員の立会いの下で遺産を整理(目録の作成を)する。この場合において,相続人のいずれかが参加できないときは遺産管理者に知らせなければならない。遺産の整理は全相続人の 3 分の 2 の立会いが必要であり,遺産管理者は任命された日から 1 か月に遺産の整理をしなければならない

(相続法 54 条 1 項 1 号)。第 2 に,相続人が遺産を受継する前に,被相続人の債権者の請求に応じ,被相続人の債務を弁済する必要がある(同項 2 号)。第 3 に,相続人に,各自の相続分通りに遺産を分配することである(同項 3 号)。なお,遺産管理者は相続人が任意に渡す場合を除き,遺産の管理にあたり報酬を請求することができない(同条 2 項)。

 遺産の管理者がその権利および義務を履行しない場合,無責任または不誠実な義務を行った場合には,遺産管理者の選任に関係する裁判所書記官または村長がその選任を取消し,取消した日より 7 日以内に新しい遺産管理者を任命することができる(相続法 55 条)。

 (9)相続人の責任

 法定相続人または遺言による相続人は,被相続人の債務について,自己の相続分を上限として弁済する責任を有する(相続法 56 条 1 項)。

すみれ

「上限があると、相続人も負担が少ないね。」

ただし,遺産がまだ分配されていない場合には,債権者はその遺産の相続人または管理者に自己に対する債務のすべてを弁済するよう要求することができる(同条 2 項)。逆に,遺産がすでに分配(分割)された場合であれば,債権者は相続人のいずれかに対し,自己に対する債務の弁済を求めることができる。相続人いずれかが債権者に対して自己の負担分以上に弁済した場合には,他の相続人のすべてが同等に,負担分以上の分をかかる相続人に弁済しなければならない(同条 3 項)。相続人のいずれかが自己の負担分を弁済することができない状況になっている場合では,他の相続人のすべてはかかる者の負担分を同等に弁済しなければならないとされる(同条 4項)。なお,被相続人の債務の弁済は遺産からのみ計算される(同条 5 項)。

 被相続人に対する債権者は,相続の開始から 3 年以内に相続人,遺産管理者,もしくは遺言執行者に自己に対する債務の弁済の請求,または相続開始場所の裁判所書記官,村長,もしくは裁判所に債務の弁済について申立てることができる(相続法 57 条)。

 なお,相続人間で相続財産の分配について合意に達することが不可能な場合には,相続人には,裁判所に審判を申立てることができる(相続法 58 条)。

Ⅵ 結論

 1.ラオスにおける民事関係法制の形成プロセスの特色

 ラオスは 1980 年代半ばにおける開発政策の転換,その一環としての市場経済システムの導入を契機にして,本格的な民事関係法制の構築に乗り出した。ラオスにおける民事関係法制の形成に際しては,様々な形で外国人アドバイザーの関与が認められるものの,外国法令をそのまま,翻訳的な敷き写しによって立法化する例はあまりみられず,ラオスの立法担当者自身の理解を通じて,その範囲での立法が行われてきたという色彩が強いといえる。その意味では,経済・社会の実態にできるだけ引き寄せた民事関係法制の形成が行われてきたとみることができよう。また,1990 年を中心にいったん制定された民法関連の法律は,その後,対外開放政策に伴う経済活動の活発化,土地取引の進展,商品取引の発達などに応じる形で,大小の改正が行われており,経済・社会の変容に伴ってラオスの民事関係法制が引き続き変容してゆく様も窺われる。

 その一方で,ラオス民事関係法制の内容をみると,財産法と家族法を問わず,政府が人民に提示する行為規範的な色彩が強く,ラオスの経済・社会を運営しようとする政府の積極姿勢も濃厚である。そのこと自体をどのように評価すべきかについては,極めて興味深い,かつ重要な問題であるが,いましばらくラオスの経済・社会の変化と民事関係法制の変容を考察することが必要であると考えられ,本調査報告の段階では評価判断は差し控えておきたい。

これらの事情に鑑みると,ラオス民事関係法制の形成の原動力は,経済・社会の変容,人々の行動や要求を敏感に感じ取った政府のイニシアティブにあるということができよう。

 2.ラオスにおける民事関係法制の課題

 ラオスは,小規模の人口ながら,比較的恵まれた天然資源,水利,食糧生産事情,安定した政治状況の下で,インドシナ諸国中でも最も高い経済成長を達成している。ラオス政府は,中国,タイ,韓国,シンガポール,日本等をはじめとする外国投資も活発化する中で,経済発展のスピードをコントロールしながら,それに即応する形で,民事関係法の整備を徐々に進めてきた。そうした「ラオス風」ともいえる漸進主義は,開発プロセスにおける法整備の進め方として,1 つの効果的な方法論を提示しているように思われる。

しかし,今後予想される経済構造の高度化・複雑化,社会問題の複雑化等にも引き続き対応してゆくためには,法律の制定,裁判,執行等に携わる法曹人材のさらなる育成が求められると考えられる。それに至る諸方策の 1 つとして,大学における法学教育を強化する余地が大いにある。そこでは,体系的な教科書,比較法教材等が未だけっして十分とはいえず,法的人材育成の初期段階の強化が特に望まれる。

 また,すでに述べたように,ラオスでは人口比で比べると,ベトナムやカンボジアに対しても,裁判官の数が比較的多いのに対し,弁護士の数が極端に少なく,その原因として裁判官(および検察官)が事件解決のために職権主義的に関与することが多い反面として,弁護士に固有の職務とその必要性についての認識が未成熟であることが考えられる [108]。しかし,政府と当事者の間で第三者的な立場から法運営をモニターし,必要なサポートをする存在としての弁護士の役割の強化は,民事関係法制の充実・発展という観点からは,今後特に注力すべき課題ということができるであろう。民事訴訟や法律相談業務への弁護士の関与がより強まることにより,新たな裁判例や紛争解決例の蓄積をも通じて,社会が求める民事関係法制の改革が進展することが期待される。また,何よりも,日々の経済活動や社会生活の中心主体である市民のレベルにおける民事関係法制の知識の普及がさらに重要な課題になる。

 そして,法曹教育・法学教育を強化し,市民レベルでの法的知識の普及を実効的なものにしてゆくためには,民事関係法制の要となる民法典の編纂が重要な意味を帯びてくると考えられる。今後当面は,民法典編纂を基軸にして,民事関係法制の整備・改善・再編が重要な課題になることが予想される。それによって顕在化しうる「ラオス風」の法形成の方法は,他国の法整備にとっても一定のモデル的価値をもちうるように思われる。

ラオスに対する法整備支援に際しても,以上のような視点をもちながら,協力関係と情報交換を進めてゆくことが肝要である。そのようにして今後もラオスとの法整備協力を継続してゆくことが,相互に生産的で創造的な法形成を促すことに通じるものと考えられる。【参考文献・参考情報】

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・チャンディラマニ・ニリマ/伊藤弘子訳「インド家族法(上)」戸籍時報 598 条(2006 年)16 頁以下。

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・野澤正充「ラオスの契約法と日本民法(債権法)の改正」小野秀誠=滝沢昌彦=小粥太郎=角田美穂子編『松本恒雄先生還暦記念 民事法の現代的課題』(商事法務,2012)。

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・松尾弘「ラオス民法教科書作成支援について――回顧と展望」ICD NEWS 30 号(2007)

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・松尾弘=松邑翔太=杉田彩子「ラオス法律人材育成強化プロジェクトにおける『民法基本問題集』作成支援から」ICD NEWS 49 号(2011)97-108 頁。

・松尾弘「司法アクセスの改善への統合的アプローチ――良い統治と法の支配の関係に焦点を当てて」慶應法学 23 号(2012a)。

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・松尾弘「ラオスにおける民法の発展」『アジア法研究 2012』(アジア法学会,2013)。

・松元秀亮「報告:ラオス法制度整備プロジェクトの成果物の普及活動の現状と課題」ICD

NEWS 35 号(2008)。

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・安田信之「ラオス」『東南アジア法』(日本評論社,2000)273-285 頁。

・山田紀彦編『ラオスにおける国民国家建設――理想と現実』(アジア経済研究所,2011)。・山田紀彦編『ラオス人民革命党第 9 回大会と今後の発展戦略』(アジア経済研究所,2012)。

・ダヴォン・ワーンヴィチット(ラオス最高人民裁判所副長官〔当時〕)「ラオスの司法

改革と日本の支援」ICD NEWS 14 号(2004)。

・カム・ヴォーラペット/藤村和広=石川万唯子訳『現代ラオスの政治と経済 1975-2006』

(めこん,2010)。

○欧文文献(編著者名のアルファベット順)

・The Bar Association of the Kingdom of Cambodia (BACK) and the Japan Federation of Bar Associations (JFBA), supported by the Japan International Cooperation Agency

(JICA), The International Conference on “Access to Justice in Asia,” 10-11 February 2014, Phnom Penh, the Kingdom of Cambodia.

・Hiroshi Matsuo, “Access to Justice in Indochinese Countries,” in: Michèle and Henrik Schmiegelow (eds.), Institutional Competition between Common Law and Civil Law, Springer Verlag, pp. 249-277.

・International Monetary Fund (IMF), World Economic Outlook Database, October 2014. ・The United Nations Development Program (UNDP), People’s Perspectives on Access to

Justice Survey in Four Provinces of Lao PDR, UNDP, Vientiane, 2011.

○ラオスの法令(英訳)情報

・http://www.la.emb-japan.go.jp/jp/laos/laolaws.htm ・http://www.ilp.gov.la/Lao_Law_Eng.asp

・http://www.la.emb-japan.go.jp/jp/laos/laolaws.htm

・http://www.asianlii.org/la/legis/laws/


[1] 桜井=石澤 1977: 70-90 頁。

[2] 山田編 2012: 139 頁。ほかに判決の執行の徹底,各種証明書の正確な発行等も掲げていることが注目される。

[3] なお,ラオス統計局の提供のデータ(2012 年)によれば,各種産業が GDP に占める割合は,農業約 26%,工業約 31%,サービス業約 37%とされている。

[4] ラオス中央銀行の提供データ(2012 年)による。

[5] IMF 2014 による。

[6] 鈴木 2009,ヴォーラペット/藤村=石川訳 2010。

[7] 菊池=鈴木=阿部編 2010: 202 頁以下(瀬戸裕之)参照。なお,党中央が県知事を通じて地方の治安を維持しつつ,地方党委員会を通じて地方に固有の状況を経済開発に反映させるという統制メカニズムの形成プロセスに関し,瀬戸 2015 参照。

[8] 桜井=石澤 1977: 38-40 頁。

[9] 本聴取調査は,2012 年 6 月 11 日に行った。同調査は,石岡修弁護士(国際協力機構(JICA) ラオス法律人材育成強化プロジェクト専門家)のご協力により,筆者(松尾)も参加して実施した。

[10] 村落調停は,1997 年司法省令 304 号によって現在の国家法上の制度に取り込まれ,2005 年,2007 年の改正を経て,2009 年司法省令 210 号(以下,司法省令という)が規律している。村落調停は,一定の軽微な民事・刑事の事件処理に用いられ(司法省令 15 条),民事訴訟法上は少額事件,相隣関係事件,家事事件等について同調停を経ることが訴訟要件とされており,そうした事件については調停不調の記録がないと訴状が受理されない(民事訴訟法 170 条 1 号,194 条)。瀬戸 2009: 282 頁,石岡 2014: 140-142 頁参照。村落調停に関しては,家事事件処理の観点から,後述Ⅴ3(2)参照。

[11] 厳密に当事者でなくとも,その両親等が申し立てた場合も受け付けている。

[12] それ以前からも,伝統的に調停に当たるものが存在した。

[13] 集会所にはその認定証(表彰状)が掲げられている。

[14] 紛争の発生を抑制しようとする国家の政策的圧力をどのように扱うべきかについては,さらに継続的な考察を必要とする。

[15] ラオスの司法制度の全体構造に関しては,安田 2000: 283-385 頁,瀬戸 2009: 271-282 頁,松尾 2012a: 31-42 頁参照。

[16] 以下のデータは,BACK and JFBA, 2014, pp. 5-6 による。

[17] 他に軍事裁判所,地方軍事裁判所(3 か所),高等軍事裁判所(1 か所)が存在する。

[18] 松尾 2012a: 1-6 頁,表 1 参照。

[19] 包括的な民法典の編纂によらず,財産法以下の単行法を成立させた点は,「世銀の支援を介した英米法の影響」であるとされる。金子 2001: 11 頁。

[20] 以下の情報は,ラオス司法省ケッサナー・ポンマチャン氏へのインタビュー調査(2012 年 6 月 13 日,2014 年 8 月 25 日追加インタビュー)による。

[21] アメリカのアドバイザーの中には,フランク・アッパム(Frank Upham)も含まれていた。

[22] ハーバード大学ロー・スクールのデイヴィッド・スミス(David Smith),ニュー・メキシコ大学ロー・スクールのセオドア・パーネル(Theodore Parnell)等が関与した記録が,ラオス司法省の保管資料に残っている。同資料の閲覧は,小宮由美教官(2004 年当時,法務省法務総合研究所国際協力部,JICA 長期専門家)のご配慮による。

[23] その報告書ドラフトがラオス側に渡されている。

[24] ③のうち,フランス法的要素として,契約の原因に関する契約法 5 条・6 条(契約内外債務法 10 条 4 号,14 条),絶対無効(確定的無効)と相対無効(不確定的無効)に関する契約法 13 条~15 条(契約内外債務法 18 条~20 条)については,野澤 2007: 63-64 頁参照。

[25] 金子 2001: 1 頁。

[26] その後,UNDP,フランス等の支援による統一司法研修所の支援が始まり,各機関の専門家が関与している。

[27] 井関 2005: 78 頁,瀬戸 2009: 273-274 頁参照。

[28] 改正民事訴訟法は,2012 年 6 月に国会を通過した(No.13/NA, 4 July, 2012)。2012 年民事訴訟法に関しては,石岡 2014: 117 頁以下参照。

[29] かつて UNDP などの支援により,判例集の公刊も試みられたが,定期的・継続的に行われるような形では制度化されなかったようである,もっとも,判決自体は非公開とはされておらず,裁判所に赴いての閲覧は可能である。石岡弁護士(前掲注 12)および川村仁氏

(JICA ラオス法整備支援プロジェクト事務所)の調査(2011 年 12 月実施)による。

[30] ラオスに対する日本の法整備支援の経緯に関しては,国際協力機構(JICA)・公共政策部

[31] 参照。

[32] 年憲法 15 条も,このことを確認する。また,2003 年改正憲法 17 条も同旨。

[33] なお,2003 年に改正された土地法 3 条(土地所有権)も同旨。

[34] 土地に対する全人民所有と私人の使用権という法概念は,中国法,ベトナム法などの社会主義法に見出される。

[35] 「土地,水,森林,水棲及び陸上動物などは,天然資源であり国家が代表する国家共同体に帰属し,国家はこれらの管理,利用,譲渡,相続に関する権利を,他の組織,経済単位又は個人に譲与することができる」(財産法 4 条 2 項)。

[36] 国家以外の組織,経済単位,個人は「…土地を売却する権利は有さない」(財産法 4 条 3 項)。

[37] ラオスでは 2000 年代の後半以降,急速に,ヴィエンチャンやルアンパバーンの都市だけでなく,都市の郊外の農業地帯にも,様々なデザインの豪邸が頻繁に見られるようになった。古いあばら家と共存しているが,建築途中の建物も数多い。都市では,かつてみなかった物乞いの子どもをごくわずかではあるが,見かけるようになった。都市郊外の農村の風景は,水田の間に点在する農家の建物,敷地の広さ,造作のいずれをとっても,日本の農村風景よりも遥かに豊かにすら見える。新しいコンバインを豪邸の軒先に 2 台並べて置いている農家もある。この傾向は,2010 年代に入るとさらにスピードを増しており,自由化が加速度的に進んでいる感がある。今後,その社会主義的統制(引締め等を含めて)がどのような形で行われるか,行われないか,注目に値する。

[38] この点は,伊藤 2011: 197 頁でも解説されている。

[39] ラオスにおける現地セミナー(2012 年 6 月 14 日,2014 年 8 月 25 日~29 日)での司法省職員,最高人民裁判所裁判官,最高人民検察院検察官,ラオス国立大学教員らとの議論による。

[40] もっとも,これらの法律は,「債権」と区別した意味での「物権」に対象を絞るものではないから,これらの規定を「物権法」の概念で表現することは,大陸法的な枠組を強いて当てはめる印象を生じさせるとすれば,適切ではないかも知れない。ここにも,英米法的・社会主義法的要素と大陸法的要素との齟齬・調整問題が今後生じる契機があるといえよう。

[41] ラオスの土地登記制度の整備はドイツの技術協力公社(GTZ)(当時。現在,国際協力公社 (GIZ))から技術供与を受け,土地管理庁(司法省ではなく,首相府の管轄)が管理している。

[42] この点は,土地管理局の通達で確認されている。

[43] 土地権利証書が紛失または破棄されたものの,証明証拠が保持されている場合は,個人または組織の申請に従い,地方または都市土地管理当局は土地権利証書の写しを発行する。

紛失または破棄された土地権利証書で,それが真に関係する土地権利証書だと証明する証

[44] 公証局は土地所有の名義が単独であっても,夫婦や親子の共有財産でないかどうか等を調査するとされる。この調査が,たんに当事者に確認するにとどまるか,実質調査権限をもって調査が行われうるかについては,複数の地域の公証局において,追加調査を要する。 52 ルアンパバーン県のパク・ウ村における村長らからの聴取調査(2012 年 6 月 10 日)による。

[45] 善意取得制度は一般に「取引安全」の保護手段であると理解されているが,それは同制度の法政策的な存在理由であり,しかも当該法政策(取引安全保護)の実現方法には,ラオス法のような所有者に価格償還義務を課す形態を含め,多様性があることに留意する必要がある。したがって,善意取得制度による所有権取得のプロセスを一般原則(何ぴとも自己のもつ以上の権利を他人に移転することはできない)に立ち返ってどのように説明すべきか,その要件・効果にはどのような多様性があるか,それらをどのように規定することが当該国家の現状に相応しいかを分析する余地がある。法整備支援では,原則に立ち返った説明が絶えず求められる。

[46] 例えば,ドイツのバイエルン州法典Ⅱ(2)7 条・10 条,ザクセン民法典 295 条・314 ~315 条,プロイセン一般ラント法典Ⅰ(15)44 条等は,善意・有償の取得者に対し,真の所有者は代価賠償しなければ返還請求できないという形で,善意取得者を保護した。これは,商取引が発達した 17 世紀アントワープの都市法等に由来するとみられている。

[47] この点に限ってみれば,日本民法 194 条と同様である。

[48] ラオス民事訴訟法 102 条(2004 年民事訴訟法 20 条参照)によれば,両当事者とも証拠を提出しなければならず,裁判官は証拠が不十分である場合,判決をする前に,職権で証拠の収集を行う権限をもつ。裁判所は,証拠調べないし鑑定を専門家に依頼することもできる(民事訴訟法 82 条〔2004 年民事訴訟法 31 条参照〕)。

[49] 財産法 60 条(不法占有資産から生じた果実又は収入)は「①悪意の不法占有資産から生じた果実又は収入は,そのすべてを財産権者に返還しなくてはならない。悪意の不法占有者がその果実又は収入を使用,売却等した場合,その者は,財産権者に対して損害賠償を支払うか,利益又は所得の価額を返還しなくてはならない。/②資産の善意の不法占有者については,その資産から生じた果実又は収入は,本法第 58 条の規定に従って返還する必要はない」とする。

[50] 年 11 月 4 日の本邦研修におけるチョムカム・ブッパーリワン氏報告でも,この点が指摘された。

[51] ラオス国民の使用権は最大 30 年(更新可能)とされている(土地法 13 条)。

[52] 「相当な補償」が規定されている。実際,補償問題も生じてきているようである。

[53] また,契約の「理由」を求める規定(契約法 9 条)も,これと同趣旨であろうか。

[54] 金子 2001: 13 頁。

[55] ラオスにおける現地セミナー(2012 年 8 月 30 日,2014 年 8 月 25 日~29 日)での司法省職員,最高人民裁判所裁判官,最高人民検察院検察官,ラオス国立大学教員らとの議論による。

[56] Digesta, 50. 17. 185.

[57] ラオスにおける現地セミナー(2012 年 6 月 14 日,2014 年 8 月 25 日~29 日)での司法省職員,最高人民裁判所裁判官,最高人民検察院検察官,ラオス国立大学教員らとの議論による。

[58] 契約内外債務法 22 条,23 条。

[59] 契約法および契約内外債務法の起草者ダヴォン氏(現在国会法制委員会委員長)へのインタビュー(2012 年 6 月 15 日)による。

[60] 契約内外債務法 3 条 17 号は「不可抗力とは洪水,雷,地震等,予測することができない,並びに統制することができない事態であり,債務者が自己の義務を履行することを不可能にする事態である」とする。

[61] ラオスにおける現地セミナー(2012 年 8 月 30 日,2014 年 8 月 25 日~29 日)での司法省職員,最高人民裁判所裁判官,最高人民検察院検察官,ラオス国立大学教員らとの議論による。

[62] 不法行為については,契約内外債務法 83 条~85 条に規定がある。

[63] 契約法および契約内外債務法の起草者ダヴォン氏(現在国会法制委員会委員長)へのインタビュー(2012 年 6 月 15 日)による。

[64] 契約内外債務法 39 条は,「売買契約は,売主が買主に対して財産の所有権を移転する義務を負い,買主が受領し,かつ合意した価格に従って代金を支払う義務を負う,契約当事者による合意である」と規定する。文言上は,日本民法 555 条と同様の債権契約(したがって,他人物売買契約自体は有効)であるかのようにもみえる。

[65] もっとも,契約内外債務法 22 条(無効な契約の解除請求)によるとする。

[66] 契約法および契約内外債務法の起草者ダヴォン氏(現在国会法制委員会委員長)へのインタビュー(2012 年 6 月 15 日)による。

[67] こうした契約法=国内法規定の簡潔性についても,それが「膨大な特約条項などを用いて当事者自治を貫徹する方針を有する」外資にとって有利な立法であるとの見方がある。

金子 2001: 13 頁。

[68] これは「被害者の逸失利益,又は違法行為によって生じた被害者の追加支出等」と説明されている(契約内外債務法 91 条 2 項)。例えば,後遺症や労働能力の喪失については,医師による証明が必要である。

[69] したがってまた,「被害者に過失があった場合,被害者は損害又は逸失利益に対し,同様に責任の一部を負わなければならない」(契約内外債務法 91 条 3 項)。

[70] 「共同して損害を生じさせた数人の者は,各自が生じさせた損害の賠償について連帯して責任を負わなければならない。裁判所は,損害を生じさせた数人の者の中の1人又は数人の者にすべての損害を賠償させる判決を下すことができる。賠償を支払った者は,自らが代わって支払った他の者に対して請求する権利を有する」(契約内外債務法 90 条)。

[71] ラオスにおける現地セミナー(2012 年 6 月 14 日,2014 年 8 月 25 日~29 日)での司法省職員,最高人民裁判所裁判官,最高人民検察院検察官,ラオス国立大学教員らとの議論による。

[72] 小宮由美 JICA ラオス長期専門家が,ヴィエンチャン市公証事務所で行った調査(2005 年 5 月 10 日)による。

[73] 同前。

[74] なお,他人の不動産に対する債務者の使用権に担保を設定するためには,当該不動産の所有者から事前の承諾を取り付けなければならないとされる(担保取引法 20 条 2 文)。

[75] 担保取引法 21 条 1 項。

[76] 担保取引法 22 条。

[77] このような規制は,経済状況に応じた担保取引のコントロールとして注目される。

[78] ここで言及されているのは,有形品目のことである。

[79] 担保取引法 11 条。

[80] 担保取引法 17 条。在庫商品に対する担保を意味する。

[81] 将来的に発生しうるプロジェクトや活動からの無形資産および利得を担保とすることができる(担保取引法 19 条)。

[82] 担保取引法 12 条,14 条 1 項。

[83] 担保取引法 12 条,13 条,14 条 1 項。この場合,債務者の書面による承諾がない限り,債権者または第三者は目的物の利用権はもたない(同法 14 条 1 項)。

[84] 担保取引法 14 条 2 項。

[85] 担保取引法 31 条 1 項。未登録担保契約は当事者間で適用されるものの,登録担保に優先する優先権は付帯しない。また,政府の財務担当部局または土地管理事務所における担保契約の登録は一般に公開されるものとし,当該財務部局または土地管理事務所は当該情報が事前の要求手続等を要することなく一般的に入手可能なように確実な措置を講ずるものとされている(担保取引法 31 条 2 項・3 項)。

[86] 契約内外債務法 53 条~55 条。目的物の価値が売却代金(実質的には融資)を相当上回っていることもあり,また,買戻し代金に利息が付加されることについての規制もないために,いわゆる闇金がこれを利用することもある。

[87] 担保取引法 25 条。

[88] 担保取引法 34 条。本文②・③の場合において,担保財産の売却価額が債務額よりも高かったときは,債権者は自ら差額を支払うか(②の場合),売却代金から債務および金利を差し引いた後,残額を債務者に返却しなければならない。抵当および担保が設定された財産の売却から上がった金額が債務返済に十分なものとならない場合,債務者は未払い額を全額埋め合わせなければならない。

[89] 担保取引法 24 条,25 条。

[90] 財産法 57 条。

[91] 契約内外債務法 32 条。裁判上の代位による。

[92] 塙 1993: 563 頁以下。左の論稿は以前の王政時代の家族法の内容を伝えるものであり,幾つかの慣習に関する記載もなされている。

[93] 家族として生活している単位をここでは「家(家族)」として扱っている。ラオスでは,身分事項については家族としてのまとまりで捉えられており,仮に家族内の一部の者がその家族がそれまで生活をともにしてきた居住用家屋を出て,別な場所に居を設けても,その家(家族)としての登録簿に記載されているままの場合が多い

[94] ラオスの 2012 年民事訴訟法および民事訴訟制度の概要については,石岡 2014: 117 頁以下参照。

[95] ただし,両者の関係は不明確である。

[96] 村落調停につき,石岡 2014: 140 頁以下,瀬戸 2009: 282 頁を参照。

[97] 司法省令 304 号(1997 年 8 月 7 日)。

[98] 改正前の状況につき,瀬戸 2009: 282 頁を参照。

[99] ルアンパバーン県のパク・ウ村における村落調停ユニットによる調停の実情につき,前述Ⅱ3参照。

[100] 菊池=鈴木=阿部編 2010: 220 頁以下〔菊池陽子〕参照。

[101] インド家族法の概要としては,ニリマ/伊藤訳 2006: 16 頁以下,インドネシア家族法の概要としては,ヌールラエラワティ/小川監修/伊藤=堀井訳 2014: 2 頁以下参照。

[102] ラオス法は定義規定とともに要件・効果を示す規定が置かれることが多く,両者の関係が不明確な場合が多い。この部分もそれに当てはまる。

[103] ラオス仏教の位階として,高僧,見習い僧,修練者があり,その順序で位階が高くなる。

[104] 子の責任者とは子の面倒をみている者であり,保護者とは法的地位であることを意味する。

[105] 日本では直系とされる孫等が傍系の親族として相続法上には明確に規定されている。

[106] なお,代襲相続に関し,相続法 23 条に「自己の相続分を放棄した者も代襲相続することができる。但し,その代襲相続分は自己が放棄した相続分ではない。」との規定があるが,内容として不明であり,確認が必要である。

[107] なお,ここでの申出とは分割の請求のことであるとの聞取り調査の結果がある。また,この申し出る相手方は条文からも,聞取り調査等からも不明確である。

[108] 前述Ⅲ1参照。

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