照会事例から見る信託の登記実務(13)その2

 登記情報の記事[1]横山亘「照会事例から見る信託の登記実務(13)」から考えてみたいと思います。

1 自己信託設定時 委託者兼受託者 A社 受益者 B社

2 受託者A社辞任 新受託者C社就任

・A社の代表取締役とC社の代表取締役が同じ人鈴木次郎だった場合、利益相反取引(会社法356条)に該当するか。記事では、間接取引(会社法356条1項3号)にあたるとされています。まず、1号から考えてみます。

会社法

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000086

(競業及び利益相反取引の制限)

第三百五十六条 取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。

一 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。

 鈴木次郎は、自分の利益のために受託者だったA社の辞任をしたわけではありません。またC社を受託者にしたわけではありません。鈴木次郎は、A社とC社の代表取締役なので第三者ではありません。よって、1号にはあたらないと考えられます。

二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。

 鈴木次郎は、辞任する受託者法人と就任する受託者法人の代表取締役であり、受託者を辞任する行為、受託者に就任する行為は、取引とはいえません。よって、2号にはあたらないと考えられます。

三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。

 今回は、A社が受託者を辞任し、C社が受託者に就任します。よって、株式会社が取締役の債務を保証することにはあたりません。

 最後に、その他取締役以外の者との間において、株式会社と鈴木次郎との利益が相反するか、を考えてみます。記事では、形式的に会社法上の利益相反行為と認められるとしています。

理由

  • 受託者には信託財産に損失が生じた場合の原状回復義務等がある(信託法40条1項2号)。

 例えば、辞任した受託者が負担すべき財産上の債務を新受託者に負担させるために、あるいは新受託者に肩代わりさせる意図をもっている場合、明らかに新受託者の財産を害する結果となる。

 受託者には、信託財産に損失が生じた場合の損失てん補・原状回復義務があります。ただし、辞任した受託者A社は、A社が受託者だった時に負った債務を履行する責任を負います(信託法76条)。そして、新受託者であるC社は、A社とその役員に対して損失のてん補・現状回復を求めることが出来ます(信託法75条5項、同法76条1項)。またC社が受託者に就任する前に発生した債務を承継した場合、信託財産に属する財産から履行すれば足り、C社の財産から履行する責任を負いません。

 よって、会社法365条1項3号に関して、記事の理由は当たらないと考えられます。

 ただし、信託行為の内容によっては利益相反取引、間接取引になると考えられます。形式的にA社、またはC社が損害を被る可能性がある場合です。例えば、信託法の外でA社が履行する責任のある債務をC社が履行する免責的債務引き受けが行われたり、連帯保証契約を行う場合などです。受託者の変更に伴う不動産登記申請においては、これらの情報は記録されないと考えられるので、第三者の許可、同意又は承諾を要するときは、当該第三者が許可などをしたことを証する情報(株主総会議事録、取締役会議事録等)を法務局に提供(不動産登記令7条1項5号ハ)する必要はないと考えます。

次の事例

1抵当権者 B銀行  抵当権設定者兼債務者 A

2自己信託設定 委託者兼受託者兼受益者A

3受益権をCに売却(受益者変更) 受益者AからCに変更

4 抵当権の被担保債務を信託財産化するために、登記原因を「年月日自己信託に基づく免責的債務引受」として抵当権の債務者をAからA(年月日信託目録第○○号受託者)に変更する抵当権変更の登記申請は受理されるか。

 抵当権の債務者変更登記申請に関することだと考えます。登記原因は年月日免責的債務引受、債務者の表示は、受託者住所氏名、となり受理されると考えます。なお抵当権者の理解が必要です。

東北ローレビュー Vol.6 (2019. March) 得津 晶「利益相反取引の条文の読み方・教え方」

http://www.law.tohoku.ac.jp/research/publications/tohokulawreview/vol06/vol06.pdf


[1] 716号.2021.7.P36~(一社)金融財政事情研究会

照会事例から見る信託の登記実務(13)仮訳

 登記情報の記事[1]横山亘「照会事例から見る信託の登記実務(13)」から考えてみたいと思います。

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参考「不動産登記記録例集」(株)テイハン

「信託目録の理論と実務」渋谷陽一郎 (株)民事法研究会

「改訂版 信託登記の実務」信託登記実務研究会 日本加除出版(株)

「民事信託の理論と実務」大垣尚司、新井誠 日本加除出版(株)

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・根抵当権設定者の承諾を証する情報の提供の要否

記事記載の通り、承諾を要しないと考えます(民法398条の12)。

・根抵当権移転登記申請を行う場合、その前に元本確定が必要か。

記事記載の通り、必要だと考えます(民法398条の3)。

登記

〇〇県〇〇市〇〇町〇〇〇〇―〇         

全部事項証明書: The certification of all recording matters (土地):The land

表題部:The heading section(土地の表示):The description of the land

調整:The prepared 平成〇〇年〇月〇日:The prepared date

不動産番号: The real property number 12345567890123

地図番号:The map number A11―1 筆界特定: The parcel boundary demarcation       余白:The blank

【所在】

:The location 〇〇県〇〇市〇〇町〇〇  余白: The blank

①地 番: The parcel numbers

②地 目: The land category

(current state of the Land) ③地  積 ㎡:The parcel area (area of the Land)

原因及びその日付: The cause for recording and date thereof

【登記の日付】:The recording date.

9999番3 宅地:The presidential land.

100 00:100.00㎡

①9999番1から分筆: Subdivision of the Parcel Number.9999-1

【平成〇〇年〇月〇日】

所有者: The owner. 〇〇市〇〇丁目〇番〇号 〇〇 〇〇: The name and address of Owner.

 権 利 部(甲区): The rights section (The section A).

(所有権に関する事項): Matters concerning the owner.

順位番号:The rank number.

登記の目的:The purpose of recording. 受付年月日・受付番号: The recording date and number.

【権利者その他の事項】: The holder of rights and other particulars.

所有権保存:The preservation of ownership.

平成〇〇年〇月〇日第〇〇〇〇号 所有者: The name and address of Owner.

〇〇市〇〇丁目〇番〇号:B

 権 利 部(乙区): The rights section (The section B).   

(所有権以外の権利に関する事項):Matters Concerning Other Rights Other than Ownership.

順位番号:The rank number.

登記の目的:The purpose of recording 受付年月日・受付番号: The recording date and number. 【権利者その他の事項】: The holder of rights and other particulars.

根抵当権設定: The establishment of the revolving mortgage.

平成〇〇年〇月〇日第〇〇〇〇号 原 因: The cause for recording.

平成〇〇年〇月〇日設定: The evolving mortgage setting date. The trust dates.

債権の範囲 貸付取引: The scope of claims. The loan transaction.

極度額The maximum amount.

5000万円:50 million yen.

債務者:The name and address of obligor.

 〇〇市〇〇丁目〇番〇号 B

根抵当権者:The name and address of mortgagee.

〇〇県〇〇市〇〇丁〇番〇号 A

1付記1号

1番根抵当権元本確定The revolving mortgages confirmation of principal.

: The purpose of recording.令和○○年○○月○○日第○○号

原因 令和○○年○○月○○日確定The cause for confirmation of principal date.

1付記2号

信託財産となった旨の登記

:The registration of the mortgage change the trust property. 余白:The blank

原 因: The cause for recording.平成〇〇年〇月〇日自己信託 The self-trust dates.

受託者 〇〇市〇〇丁目〇番〇号  A: The name and address of trustee.

信託:The trust. 余白:The blank. 信託目録第〇号: The inventory of trust number.

1番根抵当権移転

The transfer of the revolving mortgages.

第〇〇〇〇号 原 因: The cause for recording.

令和〇〇年〇月〇日債権譲渡: The assignment of the claim.

受託者 〇〇市〇〇丁目〇番〇号:

A: The name and address of the trustee.

余白:The blank 信託目録第〇号: The inventory of trust number.

※下線のあるものは抹消事項であることを示す。

: The underlines indicate delated matters. The filing Number:00000000000 (1/1)                  

信託目録:The inventory of trust. 調整: The prepared.  平成〇〇年〇月〇日:The preparation date.

番号: The number/ 受付年月日・受付番号: The recording date and number.

予備:The preparation 第〇〇号: The number 〇〇 平成〇〇年〇月〇日第〇〇〇〇号

余白:The blank

1 委託者に関する事項 :1 Matters concerning the settlor

〇〇市〇〇丁目〇番〇号A: The name and address of the settlor.

2 受託者に関する事項:2 Matters concerning.

The trustee. 〇〇市〇〇丁目〇番〇号A: The name and address of the trustee.

3 受益者に関する事項等: 3 Matters concerning.

The beneficiary 〇〇市〇〇丁目〇番〇号C: The name and address of the beneficiary’s agent.

4 信託条項:4 Trust clause.

1、信託の目的: The purpose of trust.

  管理: maintain the real property of the trust.

2、信託財産の管理方法:the procedure to maintain the real property of the trust.

(1)受託者は、信託財産を処分することができる。

: (1) The trustee may dispose the property of the trust.

3、信託の終了 : Termination of the trust.

  本信託の終了事由は、下記の通りである。

: The grounds for termination of the trust are the following.

(1)受託者と受益者が合意した時。

: (1) If the trustee and the beneficiary agree to termination of the trust, the trust terminates.

4、信託の変更 : The modification of the trust.

  本信託は、受託者および受益者との合意により、変更することができる。

: The trust may modify when the trustee and agree to the modification.

5、清算手続の終了 : Termination of liquidation procedure of the trust.

 受託者による信託の清算手続は、信託財産の全てを、これに関する一切の債権債務関係と共に、残余財産の帰属権利者に引き渡したときに終了する。

: The liquidation procedure in the trust by the trustee terminates when the trustee delivers over the whole asset of the trust with all claim and obligation to the holder of vested right of the residual asset.

6、残余財産の帰属権利者 : The holder of vested right of the residual asset.

 残余財産の帰属権利者は、終了時の受益者とする。

: The holder of vested right of the residual asset in the trust is the last beneficiary.

これは登記記録に記録されている事項の全部を証明した書面である。

: This document evidences all the entries made in the registry.

(〇〇地方法務局管轄)〇〇Legal Affairs Bureau

〇〇年〇〇月〇〇日 Date

〇〇Legal Affairs Bureau   登記官 〇〇  Registrar’s name: 〇〇

※下線のあるものは抹消事項であることを示す。

Underlines indicate delated matters. Filing Number:00000000000 (1/1) 


[1] 716号、2021.7、P34~(一社)金融財政事情研究会

7月相談会のご案内

お気軽にどうぞ。

家族信託の相談会その35

2021年7月23日(金)14時~17時
□ 認知症や急な病気への備え
□ 次世代へ確実に引き継ぎたいものを持っている。
□ 家族・親族がお金や土地の話で仲悪くなるのは嫌。
□ 収益不動産オーナーの経営者としての信託 
□ ファミリー企業の事業の承継
その他:
・共有不動産の管理一本化・予防
・配偶者なき後、障がいを持つ子の親なき後への備え

1組様 5000円

場所 司法書士宮城事務所(西原町)
要予約   司法書士宮城事務所 shi_sunao@salsa.ocn.ne.jp
後援  (株)ラジオ沖縄

最近の民事信託・家族信託に関するあれこれ

最近の民事信託・家族信託に関する記事について、考えてみたいと思います。

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■■ 一人暮らしの高齢者が増えている

これはみなさんも知っていると思います。子供がいる夫婦でも、子供は独立して親元を離れる。夫婦でどちらかがなくなれば、一人暮らしです。令和2年の高齢者白書(内閣府)によると一人暮らしの高齢者1980年:男性約19万人、女性約69万人2015年:男性約192万人、女性約400万人 お!すごい増加ですね。一人暮らしなだけなので、身寄りがない訳ではないですが、この中は身寄りがない人も含まれています。私の事務所で任意後見の受任者をしている、93歳の女性(今もすごく元気!)もご主人は亡くなられ、お子さんが一人いるのですが、知的障がいがあります。つまり、彼女も終末期は誰もサポートしてくれる人が、いません。あ、もちろん、私の方で、しっかりサポートしますので、今は大丈夫です!身寄りなし問題は3つあるとのこと。

1医療同意

2. 金銭担保

3. 死後事務

1.医療同意

本人が判断力がないと、医師は困ると思います。身元保証を求める理由ですね。でも、20年も会っていない甥の同意って意味があるのか?だったら、医療や介護チームで最適解を見つけるACP(アドバンス・ケア・プランニング)が重要になってきます。我々専門家も、金銭負担ができるかどうかの判断でACPに加わることは意味があると思います。つまり、連携が必要!

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 以前まで、家族信託専門コンサルタントの肩書でしたが、肩書を外して地域連携に方向転換をしたようです。

ACPとは何でしょうか。人生会議のことです。日本医師会

https://www.med.or.jp/doctor/rinri/i_rinri/006612.html

ACP(Advance Care Planning)とは、将来の変化に備え、将来の医療及びケアについて、 本人を主体に、そのご家族や近しい人、医療・ ケアチームが、繰り返し話し合いを行い、本人による意思決定を支援するプロセスのことです。

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2. 金銭担保

施設や医療費を本人に請求しようにも、本人は認知症。だから、身元保証を求めますね。これこそ、成年後見がパワーを発揮する場面。身寄りない人とつながる地域包括や行政などとつながることにより、後見にもスムーズに移行できるのではと考えられます。

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 地域包括は地域包括支援センター(介護保険法 第115条の45、同法第115条の46)のことです。行政などの「など」には、日常生活自立支援事業(社会福祉法第2条第3項第12号、同法第81条)の実施主体である社会福祉協議会も入っているのだと思います。

厚生労働省「地域包括支援センターの手引きについて」

https://www.mhlw.go.jp/topics/2007/03/tp0313-1.html

社会福祉法人全国社会福祉協議会「日常生活自立支援事業」

https://www.shakyo.or.jp/news/kako/materials/100517_01.html

福祉サービスを利用したいけれど、手続きの仕方がわからない。銀行に行ってお金をおろしたいけれど、自信がなくて誰かに相談したい。商品勧誘の人が来たとき、どう対応していいかわからない。毎日の暮らしのなかにはいろいろな不安や疑問、判断に迷ってしまうことがたくさんあります。日常生活自立支援事業は、このような場合に、福祉サービスの利用手続きや、金銭管理のお手伝いをして、あなたが安心して暮らせるようにサポートします。

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3. 死後事務

ご遺体の引き取りですよね。これも、身元保証を求める大きな理由。

でも、後見人は、火葬と埋葬が法的にできるようになりましたし、死後事務委任を受けていれば、葬儀や、お墓も事前に決めることもできますよね。このように、身寄りなし問題って、我々専門家が活躍できるシーンが非常に多い。ですから、医療や介護のチームとつながることが大事なんですね。

■■ 身寄りなし(お一人様)って、不幸なの?もちろん、経済的に困窮していると大変だと思います。でも、案外行政の支援が厚いから、なんとかなる部分もあります。逆に生活に心配がない人はどうでしょう?これが案外、生活の満足度は高いそう。ちなみに、満足度最低は、夫婦二人暮らしのようです。

■■ 「認知症を怖がる社会から」から、「安心して認知症になれる社会」へ

そこで重要なのは後見制度。今は専門職による後見人が上位を占めていますが、財産管理はしてくれるが、身上監護はしてくれないと述べています。う〜ん。反省。

■■ 地域連携は求められている

その方が言うには、「法律側がそのような地域連携の情報発信をしたことは今までほとんどなかった。待っているのではなく、自分から発信することを大変うれしく思います」とのこと。やはり待っていてはダメですね。みなさんの地域でも、おそらく地域連携は求められているはず。暖かくなってきたので、外に出て、今まで会ったことがない人と連携の話しをしてきてはいかがでしょうか!

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「経済的に困窮していると大変だと思います。でも、案外行政の支援が厚いから、なんとかなる部分もあります。」について、そうなのでしょうか。行政の支援とは生活保護などを指しているのか、なんとかなる、がどのような範囲なのか分からないので、何ともいえません。

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1-1.親が認知症になってしまうと・・・

医療技術などの進歩により平均寿命がのび日本自体が長寿化としています。

健康寿命と本来の寿命との差が10年。今後も伸び続ける予測が立ており、「独居老人、老老介護」という言葉も出てくるほど。その反面、認知症が問題となっています。

認知症になってしまうと、介護等の問題だけではなく、契約などをする際法律上必要とされる判断能力がない状態になります。結果、様々な行為・契約に制限がかかり、親の財産が動かせなくなるのです。

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認知症になってしまうと、当然に法律上必要とされる判断能力がない状態になるわけではありません。親の財産を動かす必要があるのか、個別具体的な検討が必要だと思います。

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例えば、・親が入所する施設のための費用を親の預貯金から引出・振込ができない。・介護施設に入所後の親が住んでいる家を売ることができない。

・親の代わりに賃貸物件の管理や修繕、建替えができない。などなど。

相続対策についても当然検討する必要がありますが、それと同時に生前の財産管理も併せて行わなければならない状況となっています。

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キャッシュカードがあれば振込みは出来るかと思います。住んでいる家や賃貸物件の管理や修繕・建替えは法定の成年後見人でも必要があれば可能だと考えられます。

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このような認知症や認知症になった後のことを元気なうちから親にするのは気が引ける…という方は非常に多いでしょう。市場調査でも、7割の人は認知症に関することを親と会話していないのが現状です。(「認知症」に関する調査結果」 2018年 SOMPOホールディングス株式会社 調査)しかし、認知症になってしまったら、介護費用に充てるために自宅を貸したり、親の預貯金を引き出したりができないのです。そのような状態になってしまったら、あなたもご両親も困ってしまいます。もし、このことについて少しでも不安や心配があるのであれば、是非この後の内容も読んでみてください。

1-2.「認知症」を契機としてとるべき対策

認知症後の財産管理対策の必要性については、前のタイトルでお伝えしました。その他の対策はどうなのでしょうか?親の財産管理に関する話をするタイミングは、これまで「相続」を契機としていました。多くの人が、・財産の分け方(遺産分割対策)・相続税をいかに下げるか(相続税対策)に関する話し合いを本人が亡くなるか少し前にするイメージではないでしょうか?しかし、もしそうなると、本人の意思を全く無視した話し合いになる可能性があります。「親の資産についてどう分けるか」について、子供同士が親なしで話し合おうとすることが争続に発展する原因の一つです。親の資産については、親の決定権が絶対なのですから。

もし、親を入れて円満に相続するのであれば、事前対策をしておく必要がありますが、遺言作成や生前贈与をするにしても本人の意思判断能力は必要です。また、現代では、「代々受け継いだ土地をそのまま残したい」「兄弟仲良く半分ずつ分けたい」「この人には財産を渡したくない」といったように要望が多様化していますね。そんな中で「これをやっておけば大丈夫」といったすべての人に適合する対策はありません。

1)まずは、具体的に、ご両親の認知症によって発生する将来考えられるリスクを顕在化すること。

2)そして、財産状況や本人や家族の希望を見てそれに合うような対策をとるか検討すること。この2つの行動をしていく必要があります。これを避けて、何もしなかった場合、例えば、親の財産が凍結し、不動産売却や賃貸契約、預貯金の引出しができなると、介護や通院費用等を捻出がむずかしくなる可能性もあります。そのために、「財産管理対策」に加えて、「遺産分割対策」「相続税対策」についても認知症をきっかけに話し合うことが重要なのです。

【本日のまとめ】

◎認知症になってしまうと、判断能力がない状態と 判断されてしまい、介護費用に充てるために自宅を貸す・売る等の契約をしたり、親の預貯金を引 き出したりできなくなる。

◎相続対策も意思能力が必要なので、「認知症」を 契機に「財産管理対策」「遺産分割対策」「相続税対策」を家族で話し合う機会が必要。

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 このような一連の記事も、人生会議で話し合う内容なのかもしれません。私は未だ定義されているような人生会議に参加したことはありませんが、どのような関わり方が出来るのか、考えてみたいと思います。

 ただ、これらの記事、特に成年後見や地域連携を前面に出す記載は、成年後見の審判開始の申立て書作成や成年後見人の仕事について支援するなど、直接成年後見人になる、ということは考えていないと思います。民事信託・家族信託など報酬になる仕事が来ることを考えてのものだと思います。

「信託契約の発効時期」

家族信託実務ガイド[1]の記事から考えてみます。

一般社団法人家族信託普及協会代表理事 司法書士 宮田浩「信託契約の発効時期」

信託契約の開始時期に関する例

1委託者が認知症になったとき

2委託者が主治医から認知症と診断されたとき

3委託者が判断能力を喪失したとき

4委託者が受託者に対し信託契約を発効すべき旨の意思表示をしたとき

5委託者につき成年後見開始または保佐開始の審判が下りたとき

6委託者につき要介護認定4以上となったとき

 1について、「認知症の定義が曖昧」という指摘があります。そうなのでしょうか。下のように、厚生労働者ほか様々な機関が認知症について定義しています。定義に共通するのが、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態、という状態を表していることです。これは1つの明確な定義といって良いのではないかと思います。また曖昧であるのが認知症といっても良いのではないかと考えます。

 反対に法律行為の発効時期に関して、契約書に署名することは誰が観ても分かり、署名が残るので発効時期は信託契約書に署名を行ったとき、という定義は、法令関係者が判断するには分かりやすいと思います。これは1つの行為である署名と状態である認知症の違いなので、指摘するほどのことでもないと感じます。例えば、毎日自分の名前を書くことを日課としている人でも、信号の判断が出来ない方もいるかと思います。契約書を読み、理解し、署名することは出来ても、日常生活に支障を来たしている状態にある、といえると思います。このような方はどうするのでしょうか。

・国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター病院 認知症センター

「認知症」とはどんな状態ですか?

https://www.ncnp.go.jp/hospital/guide/sd/dementia.html

・厚生労働省

「認知症」とは

https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_recog.html

 2について、「「主治医」というのは誰になるのかという疑問が生じます」、に関しては、通常かかりつけ医、またはかかりつけ医からの紹介を受けた医師になるのではないでしょうか。また信託行為以前に、その辺りの準備は行うことが可能な場合が多いのではないでしょうか。

 「委託者側の意向を無視して、診断書の発効日を恣意的に操作することも可能となり得るという点においても問題が多い」について、診断書の発効日を恣意的に操作するのは、誰なのでしょうか。受託者でしょうか。推定相続人その他の利害関係者でしょうか。どちらにしても、医師に対して診断書の発効日を恣意的に操作するという事が可能となり得るのか、私は経験がないので疑問に感じます。

 3について、同意です。4について、「結局成年後見制度下で本人の全財産の管理を実行する以上、家族信託をスタートさせるメリットが半減してしまいます。」について、そうなのでしょうか。信託行為と併せて任意後見契約を締結し、代理権目録に、信託行為との調整事項を記載しておけば良いのではないでしょうか。また成年後見人を就けない場合、家族信託だけで進めていけるのでしょうか。

 5について、「成年後見制度の代用」とありますが、併用ではなく代用という目的で利用する場合、著者のような考え方になるかもしれません。

 6について、「(要介護度と本人の判断能力の有無は無関係ですので、要介護度が高いからといって判断能力がないとも言い切れませんが)」とあります。

厚生労働省 「要介護認定はどのように行われるか」

https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/nintei/gaiyo2.html

 審査基準の一つに、認知機能や思考・感情等の障害により、十分な説明を行ってもなお、予防給付の利用に係る適切な理解が困難である状態、があります。要介護度が高いからといって判断能力がないとも言い切れないことには、私は同意しますが、要介護度と本人の判断能力の有無は無関係ではないと思います。

 「委託者本人名義の預貯金口座から受託者が管理する信託金銭の管理口座(信託口口座または受託者個人名義の信託専用口座)への金銭の移動が実質的に不可能になるという事実」、について、そうなのでしょうか。著者が要介護度が高いからといって判断能力がないとも言い切れないと記載しているように、身体に過重な介護負担が必要な場合も要介護度4や5と判定される場合があります。そのような場合は、委託者が介護サービスを利用して金融機関窓口まで行き、資金移動を行うことが可能です。

  その後の「原則として信託契約日をもって効力発生日とすべき」、以下には基本的に賛成です。「受益者たる親のお金」、「受託者を不動産管理会社兼ATMだと思って」、「子側に預けておく」を除きます。

・家族信託実務ガイドの不思議

 当初この雑誌は、家族信託普及協会と司法書士法人ソレイユ、民事信託活用支援機構の関係者の記事が中心でした。現在22号ですが、民事信託推進センターの専門家が頻繁に登場するようになっています。今まででいえば、遠藤英嗣弁護士。信託の学校主宰の谷口毅司法書士。本号でいえば金森健一弁護士、渋谷陽一郎先生などです。民事信託推進センターの講座や信託フォーラム、市民と法、などでは家族信託普及協会と司法書士法人ソレイユ、民事信託活用支援機構の関係者のやり方を、名前を出さずに批判していましたが、家族信託実務ガイドではお互いを批判したりはないようです。記事になれば良い、という事なのでしょうか。同じ場所で記事を書くのであれば、名前も出ているので議論を行うのが通常だと感じます。


[1] 2021.8第22号日本法令P74~

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