家族信託の融資について、受託者(債務者)が亡くなって変更になった場合、後任の受託者が就任を承諾すると、債務はその時点で自動的に後継受託者に移るのか。

(1)信託行為後の融資(金3000万円)

(2)受託者は信託財産のためにする意思で融資を受けた

(3)連帯保証人は受益者

(3)融資は受託者の権限内の行為

(4)融資された金銭は信託財産責任負担債務となる

(5)信託口口座へ入金がされている

(6)限定責任信託ではなく、責任財産限定特約もされていない

(7)亡くなった受託者の相続人はA,B,Cの3名、そのうちのAが新受託者

(1)から(7)の事実を前提とします。

1、受託者(債務者)が死亡した場合、後任の受託者が就任を承諾すると、債務はその時点で自動的に後継受託者には移らないと考えることができます。後継受託者は、自らが債務者となって債務を負ったわけではないからです。

2、債務は死亡した受託者の相続人に及びます(信託法76条、民法896条)。

3、債権者は、死亡した受託者の相続人A,B,Cに対して金1000万円ずつ債務の履行を請求することができます。

4、B,Cが自身の財産から債権者に対して債務の履行を行った場合、後任の受託者Aや信託財産法人管理人に、信託財産からの償還を請求することができます(信託法75条6項)。

後任の受託者Aが、自身の財産から債権者に対して債務の履行を行った場合、Aは履行した金額について信託財産から自身の財産へ移すことが可能です。信託財産が足りない場合、(1)受益者へ通知して返してもらう(返してもらえなければ受益権の停止、信託の終了)、(2)不動産などがある場合は売却(信託行為に別段の定めがない場合)、などの措置を取ることができます(信託法49条、50条)。

・ただし、受益債権など、信託財産に属する財産のみを持って履行する責任を負う債務については、前受託者は履行責任を負いません。

5、新受託者は、信託財産の帰属主体となり、責任財産を信託財産に限定しながらも、重畳的な債務引受をして、債務者となったことになると考えることができます(信託法75条8項)[1]

したがって、債務金3000万円のうち、金1000万円については、債務者A(責任財産は信託財産とAの財産)、金1000万円については、債務者B(責任財産は信託財産とBの財産)、金1000万円については、債務者C(責任財産は信託財産とCの財産)ということになります。

6、連帯保証人は受益者のままであり、債権者は請求・執行が可能です。

受益者が自身の財産から信託財産を通さないで直接、債権者に対して債務を履行した場合、債務は消滅し受益者とA、B、Cの関係は民法上の保証人の求償関係になると考えられます。


[1] 道垣内弘人『信託法』P287~

信託フォーラムVol.7「信託口口座をめぐる実務と課題」の整理

 

1、信託口預金口座と預金口座と信託口座がある[1]

(1)預金口座・・・金銭消費寄託契約により開設される。信託財産の独立性が担保できない。

(2)信託口座・・・信託行為により開設される。信託財産の独立性が担保できる。委託者の判断能力の衰えや、死亡による主観的事情に左右されない。

(3)信託口預金口座・・・預金契約上の預金契約者と、信託行為上の受託者としての当事者の二面制を持つ。法的には預金契約。分別管理され、帳簿上も信託財産と明示され、受託者がコントロール権を持つ場合、信託としての機能を持つ。

2、(3)について、信託財産の独立性を担保するための要件

(ア)物理的に他の資金管理口座から分別管理されている。

(イ)預金債権が帳簿上も信託財産に帰属されることが明らかにされている。

(ウ)受託者が、預金をコントロールする権利を持っている。

(ア)、(イ)、(ウ)全てがそろえば、信託財産の独立性は担保される[2]

(ア)についてですが、名義が同じだと物理的に分けて管理されていても、差押えは執行されるのではないかと考えます。

(イ)についても同様で、帳簿は債権者から見えないので、支払いが滞って差押えができる状態であれば、とりあえず申し立てるのではないかと考えます。そして差押え申し立ては通り執行されるのではないかと考えます。

(ウ)についても受託者が本当にコントロール権を持っているのかは債権者から分かりません。

成年後見人就任に際して、「本人氏名成年後見人成年後見人氏名」と通帳の表紙に記載され、通帳の表紙をめくると本人氏名のみがカタカナ表記されている金融機関があります。キャッシュカードも同じです。

(3)の信託口預金口座という名称についての説明で私が疑問に思うのは、まず信託契約があり契約した後に金融機関で口座を開設します。信託契約をした後は、受託者として信託事務を処理するための義務の1つとして口座を開設するのであって、寄託者というのは銀行からみた場合ということになります。

そうすると、寄託者というのは金融機関からみた場合のある1面を指しているに過ぎず、当事者の二面制というよりは、受託者としての付随的な面と捉える(受託者であるが、金融機関からみると寄託者でもある。)方が、理解が進むのではないかと考えます。

3、管理口座の課題

(1)誰のための口座か

受益者のための口座となります。

(2)信託を構成するために、議論すべき事柄

(ア)対象となる受託者の範囲

(イ)信託契約上の位置付け

(ウ)書式の統一化

(エ)信託法上、信託財産の独立性が認められるための要件

   (オ)「信託口」口座のために最低限必要なとなる民事信託の仕組みや要件   

(カ)受託者の分別管理義務、善管注意義務の履行がどこまで必要か

   (キ)「信託口」口座を開設するための金融機関にとって確認すべき事項や確認の方法

   (ク)現実の信託事務処理に支障や中断等を生じさせないための予防的かつ手続き的な問題(金融機関に対する事務委託やその内部手続の問題)    (ケ)「信託口」口座が開設されて以後、金融機関はどのような方法で、どこまで民事信託のコンプライアンスを監視するか。

・他の方法

(1)預金契約に特約を付ける[3]

(2)信託監督人を付ける[4]


[1]澁谷彰久「信託口預金口座の法的性質と課題」『信託フォーラムvol.7』日本加除出版 P53―

[2] 前掲澁谷P54

[3] 吉原毅「家族信託の発展と金融機関の対応について」新井誠編『高齢社会における信託制度の理論と実務』2017日本加除出版 P131~

[4] 渋谷陽一郎「民事信託の実務における新局面」『信託フォーラムvol.7』日本加除出版 P31―

事業承継ネットワーク構築事業

(出典)中小企業庁HP 2017年6月14日閲覧

中小企業庁では、地域における事業承継支援体制の強化に向けて、各都道府県に拠点を置く支援機関等による、地方自治体等と連携した、地域における事業承継支援のためのネットワーク(事業承継ネットワーク)の構築に取り組みます。

 この度、都道府県や地域の支援機関等と連携して事業承継支援の中核を担う「地域事務局」を19の県において採択しました。

1.採択した地域事務局

今回採択した地域事務局は、以下の地域に本拠を置く19の団体です。

都道府県

採択事業者

岩手県 盛岡商工会議所

宮城県 (公財)みやぎ産業振興機構

栃木県 宇都宮商工会議所

群馬県 (公財)群馬県産業支援機構

千葉県 (公財)千葉県産業振興センター

神奈川県 (公財)神奈川県産業振興センター

静岡県 静岡商工会議所

愛知県 (公財)あいち産業振興機構

岐阜県 (公財)岐阜県産業経済振興センター

三重県 (公財)三重県産業支援センター

石川県 (公財)石川産業創出支援機構

福井県 (公財)ふくい産業支援センター

広島県 広島商工会議所

山口県 (公財)やまぐち産業振興財団

徳島県 徳島商工会議所

香川県 (公財)かがわ産業支援財団

愛媛県 (公財)えひめ産業振興財団

熊本県 熊本商工会議所

大分県 大分県商工会連合会

2.独自事業として本事業と同様の事業を実施する地域

本事業は都道府県単位で事業承継支援体制の構築を図るものですが、一部の地域においては本事業と同様の取組が県の独自事業として実施されております(下図参照)。このような地域を含めて全国協議会を組成し、各地のベストプラクティスの横展開などにより、全国的な支援体制の構築を図ります。

(図:今年度採択事業及び独自事業の実施地域)

3.事業承継ネットワーク構築事業の概要

各地域事務局は、地域における事業承継支援の強化に向けて、主に以下の事業を行います。

1. 事業承継ネットワークの組成・地域における事業承継支援方針の策定

2. 普及・広報・調査活動

3. 事業承継診断※の実施準備・実施状況の集約

4. 課題・状況に応じた事業承継支援を受けられるアクセス環境の整備に向けた取組

5. 実施期間中の全国事務局への情報提供等

6. 事業承継ネットワークの事業終了後の自立的な運営の実現に向けた取組

7. 報告書の作成

8. その他

成年後見関係者と家族信託・民事信託関係者の役割整理

1、前提

(1)家族信託・民事信託関係者

・委託者 信託法2条

・受託者 信託法2条

・受益者 信託法2条

・受益者代理人 信託法138条

(2)成年後見関係者

・成年後見人(法定後見人)民法7条、843条

・任意後見人 任意後見契約に関する法律4条

・成年後見監督人 民法849条

・任意後見監督人 任意後見契約に関する法律4条

・家庭裁判所 民法863条、任意後見契約に関する法律7条

(3)信託行為に定めが必要な行為に関しては、定めがあるものとします。

2、委託者

(1)委託者の成年後見人

ア 民法103条の適用を受けるか

   民法103条は、任意代理人に関する規定であり適用はないと考えます。法定代理人である成年後見人の権限は、後見の事務として民法853条以下で法律として定められており、事務ができる行為は、代理権があると考えることができます。事務が出来るか迷う場合には、民法858条の解釈で対応することになると考えます。

現在の実務上、成年後見人が103条の規定を超えるような行為をするときには、家庭裁判所や成年後見監督人への事前伺いが必要となっていますが、運用上の扱いであり、適用を受けるかどうかとは別の問題になります。

イ 成年後見人として信託契約が可能か

   民法858条の解釈によると考えます。信託契約が本人のためになるのであれば、家庭裁判所も不可能と回答するときは、その理由を説明する必要があるのではないかと考えます。

ウ 成年後見監督人(民法864条)

   成年後見監督人は、信託契約が本人のためになるのであれば、同意を与えない場合にはその根拠を示す必要があると考えます。

エ 成年後見人が、信託銀行と成年後見制度支援信託契約を締結できる根拠

 成年被後見人のためだと最高裁判所が思っているから、だと考えられます[1]

(2)任意後見人

ア 任意後見人と成年後見人で異なる場合はあるか。

 任意後見人は、本人との任意後見契約によって代理権を与えられています。任意後見監督人が選任されて、初めて代理権を行使することができる所が民法上の委任契約とは違う部分です。任意後見人には代理権が定められており、民法103条の適用はないと考えます。代理行為について迷う場合は、任意後見契約に関する法律6条の解釈によります。

信託契約について具体的な設計が代理権目録に定められていない場合は、任意後見契約に関する法律6条の解釈によります。代理権目録に「不動産、動産及びすべての財産の保存、管理に関する事項」と定められ、「処分」が入っていない場合は、信託契約は財産の処分であり、信託契約の締結は不可能と考えます。

また成年後見人が信託契約を締結するのと比較し、平成19年9月1日以降に締結された任意後見契約については、厳しい解釈をすることになると考えます。

平成19年9月1日以降であれば、本人は信託契約を自ら締結することができました。また任意後見契約締結時に代理権目録に記載することもできました。それらをあえてしなかったのは、本人の意思であり、尊重することが求められると解釈することが出来るからです。

本人のためになるということをより明確に示すことが出来なければ、任意後見監督人の同意を得ることは難しいと考えます(任意後見契約に関する法律7条)。

イ 遺言と信託契約

成年後見人、任意後見人ともに本人の代理で遺言をすることはできません(民法973条、)。成年被後見人が遺言をするには制限があり、本人が遺言をするには、制限はありませんが、後日の紛争に備え成年被後見人と同様の対策をしておく必要があるという考えがあります(民法973条、[2])。

遺言は禁止、制限があることから、信託契約についても制限がかかると考えることが出来るでしょうか。

 遺言との関係で信託契約を観ると、遺言代用信託の場合その効果は遺言に近いものがあります(信託法90条)。

遺言は単独行為であるのに対して、信託契約は契約です。遺言は本人が亡くなった後に効力が発生するのに対し、信託契約は通常、契約締結日から効力が生じます(民法985条、信託法4条)。

 以上、遺言と信託契約はその効力において類似点があります。また信託契約は相手方との合意で成り立つ点、本人の生前に効力が生じる点において相違します。このことから、信託契約は本人の意思を生前から尊重することに加え、相手方(受託者)の意思とも合致することを求められることになり、効果の面で遺言と同じ様な面があっても、当然に制限されるべきではなく、本人の置かれた状況によって利用することが可能な場合もあると考えます。

(3)委託者の成年後見人

ア 追加信託が可能か

 委託者の成年後見人は追加信託が可能でしょうか。信託は、委託者の判断能力の低下や死亡によりストップすることがないように認められた法律であり、法律の趣旨から委託者に成年後見人が就任しても、成年後見人による追加信託は可能となります。

 どの程度可能か、という問題に関しては、成年後見人には成年被後見人の身上監護の事務があるので、その妨げにならない範囲に限られることになります。

イ 信託の変更が可能か

 委託者の成年後見人が信託の変更を行えるとしたら、どのような場合になるのでしょうか。まず、単独で信託の変更を行えるという定めがあったとしたら、信託の目的が変わったり、受託者の負担が急に増えたり、受益者の利益が急に変更になったりするため、この定めは信託法149条4項によっても定めることは出来ないと考えます。仮に変更されても委託者の成年後見人に対して不法行為による損害賠償請求(民法709条)が可能と考えます。またこのような定めがなされても受託者単独で、又は受託者と受益者の合意で信託の変更の定めを変更することになると考えます(信託法149条2項、3項、150条)。

 次に、受託者と合意して信託の変更を行うことが出来るでしょうか。信託法149条2項2号を参考に、信託の目的に反しないこと、受益者の利益に適合することが明らかであるとき、の要件を満たせば成年後見人と受託者の合意で信託の変更はできると考えます。アと同じく成年後見人の身上監護の事務に妨げにならないことも前提要件と考えます。

 受益者と合意して信託の変更をする場合は、受託者の利益を害することが明らかであるときは、変更することができると考えます(信託法149条3項1号)。成年後見人の要件は、ア、イと同様です。

ウ 信託の終了が可能か

 信託法163条1項2号から8号については、委託者の成年後見人が関与することが出来ないので考慮しないこととします。

 信託の目的が達成されたとき、信託の目的を達成することができなくなったときは、信託の終了事由とされています(信託法163条1項1号)。信託目的が客観的に判断できないような場合(例:受益者の安定した生活)、委託者の成年後見人が信託を終了させることは難しいと考えます。

委託者のみで信託の終了を行うことができ、委託者が残余財産の受益者又は残余財産の帰属権利者という定めがある場合は、信託財産の独立性が疑われ、信託とみなされない可能性があります[3]。委託者の成年後見人は、成年被後見人の保護になる場合は、そのことを指摘できると考えます。

 受託者と合意して信託を終了させることが出来るでしょうか。信託目的に反することがなく、受益者の不利益にならなければ、終了することが出来ると考えてもおかしくないようなに思えます。他に信託財産の状況も検討状況に入れて、裁判所に特別の事情による信託終了の申立てをすることができる要件(信託法165条)を準用するという考え方も採ることができます。この場合には、委託者の成年後見人を監督する家庭裁判所に対する説得もしやすいのではないかと考えます。

エ 成年後見人が委託者の推定相続人で、信託行為時における残余財産の帰属権利者の場合は、イ、ウの行為は可能か

 これは、成年後見人が自ら財産を取得するために信託を変更、終了することができるのか、ということです。イ、ウで検討した定めることができない場合、信託とみなされてない可能性がある場合は、エについても同様と考えます。

 成年後見人が残余財産の帰属権利者の場合であっても、裁判所に特別の事情による信託終了の申立てをすることができる要件を準用する場合、信託の変更、信託の終了は可能と考えます。

 成年後見人が残余財産の帰属権利者となるのは、信託行為時であり、その際、成年後見人は誰がなるのか分かりません。家庭裁判所は、必ずしも申立人が推薦する候補者を成年後見人に選任するとは限りません。成年後見人になるのは推定相続人の意思だけでは決めることが出来ないことであり、裁判所に特別の事情による信託終了の申立てをすることができる要件を準用する場合には、ある程度の範囲に限られるかもしれませんが、客観的な要件も満たすことから可能と考えます。

オ 成年後見人は、信託の残余財産の帰属権利者を定めることができるか。

 成年後見人が信託の残余財産の帰属権利者を定めることは、不可能だと考えます。なぜなら残余財産の帰属権利者が定められている時は、それが委託者の意思であり、定められていないときは、信託法により残余財産の帰属権利者が法定されているからです(信託法182条)。

カ 成年後見人は、信託の受益者の変更、受益権の割合の変更が可能か

 成年後見人が、信託の受益者の変更、受益権の割合の変更が可能でしょうか。当初から変更について明確な基準があれば可能と考えます(例:孫が20歳になったら、受益者に加える。子が住宅を購入したら受益権の割合を減らすなど)。

そうでなければ、信託の終了と同じように裁判所へ特別の事情により信託の変更を命ずる申立ての要件を準用することが考えられます(信託法150条)。 

キ 成年後見人は自身を指図権者とすることは可能か

 不可能と考えます。信託行為において委託者が指図権者と定められている場合、委託者は自身の財産に関する権限を一定程度留保したものとして自身の意思が信託に反映されることを考えて信託設定したと推定されます。これを成年後見人が行使することは難しいと考えます。

ク 成年後見人が委託者の推定相続人で、信託契約における残余財産の帰属権利者の場合は、カ、キの行為は可能か

 上記ウと同様の結論になると考えます。

ケ 委託者の推定相続人(成年後見人以外)が信託契約における残余財産の帰属権利者の場合、成年後見人はオ、カの行為は可能か

 上記ウと同様の結論になると考えます。委託者の推定相続人が残余財産の帰属権利者であったとしても、異なることはないのではないかと考えます。

コ 受託者は、委託者の成年後見人と信託報酬について協議することは可能か。

 信託法54条では、委託者は原則として受託者の信託報酬には関わらないので、受益者又は受益者代理人と協議することで足りるのではないかと考えます。

信託行為に、委託者と協議して受託者の信託報酬を定めるという定めがあったとしても、結論は同じだと考えます。

サ 受託者と成年後見人は、「信託報酬は協議して定める」と信託契約を変更することは可能か。

 上記カ、コと同様の結論になると考えます。

(4)(3)で後見監督人が就任している場合、結論は変わりうるか。

 後見監督人の職務に制限はあるか。

(3)において後見監督人が就任している場合、原則として結論は変わりませんが、後見監督人の職務は個々の見解に左右されることもあり、良く言えば画一的ではなく、案件によって方針が変わることもありうるので、結論は変わりうると考えて良いと思われます。

民事信託・家族信託が設定されていたからといって、後見監督人の職務が変わるということは基本的にはありません。なお、後見監督人に信託行為の契約書などを閲覧する権利があると考えた場合、信託設定時に委託者の能力などに疑いがある場合などは信託設定について調査などを行うことが考えられます。

(5)委託者の任意後見人

 任意後見人の場合、ア~サの結論は変わるか。任意後見監督人の職務に制限はあるか。

 任意後見契約締結時の代理権目録に記載がない場合、ア~コの職務を行うことは難しいのではないかと考えます。裁判所への申立てができる事項に関しては、その要件を準用して任意後見監督人の同意を求めていくことになると考えます。

本人のためになるということをより明確に示すことが出来なければ、任意後見監督人の同意を得ることは難しいと考えます(任意後見契約に関する法律7条)。平成19年9月1日以降の任意後見契約については、上記1の(2)の通りです。

3、受益者

(1)受益者と成年後見人

(ア)委託者の場合との違いはあるか

  受益者は受益権を持っています。

(イ)受益者代理人が選任されている場合の成年後見人の権限は、制限されるか。

   原則として制限されないと考えます。管理する財産が分かれているからです。

(ウ)受益者の成年後見人は、追加信託をすることが可能か。

    成年後見人の身上監護の事務に支障がない限り、追加信託をすることが可能であり、必要とされると考えます。

(エ)(ウ)の場合、受益者代理人が就任しているときは結論が変わるか。

   受益者代理人が就任していても、結論は変わらないと考えます。管理している財産が分かれているからです。

(オ)受益者の成年後見人は、後任の受託者を指定することができるか。

    受益者の成年後見人は、後任の受託者を指定することはできないと考えます。成年後見人の事務には財産管理もありますが、信託財産は別扱いとされており、受益者の財産ではないからです。

    受益者の成年後見人は、身上監護の事務に支障が出るようであれば、利害関係人として裁判所に対して新受託者選任の申立てをすることが可能と考えます(信託法62条)。     

(カ)受益者代理人は、(オ)の行為が可能か。

    受益者代理人は、自らが代理する受益者のために、受益者の権利に関する一切の行為をする権限を持っているので、(オ)の受託者を指定することも可能と考えます。

(キ)受益者の成年後見人は受益権の譲渡が可能か。

    受益者の成年後見人が受益権の譲渡を行うことは、不可能だと考えます。受益権は成年後見人が管理する財産ではないからです。成年後見人が身上監護の事務をするために不動産の受益権を譲渡する必要があるのであれば、受託者とともに信託の変更及び受益者代理人を選任し、受益者代理人が受益権の譲渡を行うことが適切な事務だと考えます。    

(ク)受益者代理人は(キ)の行為が可能か。

  受益者代理人が受益権の譲渡を行うことは可能だと考えます(信託法139条)。

(ケ)受益者の成年後見人は、受益者代理人へ就任することが可能か。

  可能と考えます。成年後見人と受益者代理人は、扱う財産が違うからです。適切な人が見つからない場合など、受益者代理人を成年後見人候補者として申立てをせざるをえないケースもあるかもしれません。

 家庭裁判所が、適切な人を見つけることが可能であれば、第3者が成年後見人

に選任されると受益者代理人の負担も重くならずに済むと考えます。

(コ)受益者の成年後見人は、信託の情報開示請求がどこまで可能か。信託行為の受益権の内容に関して、受託者に意見を言うことが可能か。

 受益者の成年後見人は、信託に関して情報開示請求が可能でしょうか。請求することは可能であると考えます。

信託関係者、主に受託者が請求に応じる義務はあるのでしょうか。家庭裁判所で要求されている報告に必要な限りの義務があるのか、別扱いの財産なので義務はないのか、今のところ私には分かりません。

(サ)受託者の信託財産の処分行為に関して、受益者の成年後見人は同意権者となることが可能か。

 信託行為に、受益者の同意が必要である。受益者に成年後見人が就任している場合は、成年後見人が同意賢者となる、というような定めがない限り、受益者の成年後見人が同意権者となることは不可能だと考えます。

(シ)(サ)の場合、受益者代理人が就任しているときでも受益者の成年後見人が同意することは可能か。

 (サ)について定めがある場合でも、受益者代理人が就任しているときは、受益者の成年後見人が同意権者となることは不可能だと考えます。

(ス)受益者の成年後見人は、受託者と合意して信託の変更、信託の終了を行うことが可能か。

  (サ)の結論と同じになると考えます。

(セ)(ス)の場合、受益者代理人が就任している場合に結論は異なるか。

  (シ)の結論と同じになると考えます。

(2)(1)で後見監督人が就任している場合、結論は変わりうるか。

 後見監督人の職務に制限はあるか。

  後見監督人に就任している場合でも結論は変わらないのではないかと考えます。民事信託・家族信託が設定されているからといって後見監督人の職務に制限はないのではないかと考えます。

(3)受益者の任意後見人

(ア)受益者の任意後見人は、受益者代理人に就任することが可能か。

  可能と考えます。任意後見人は任意後見契約により、受益者代理人は信託行為により、扱う財産が異なるからです。

(イ)任意後見人の場合、(1)のア~セの結論は変わりうるか。

  任意後見人の場合、原則として任意後見契約に記載のある事項のみの代理権に限られます。よって、任意後見契約又は信託行為にその旨の記載があれば、結論においては(オ)に関して受託者の指定も可能、(キ)について受益権の譲渡が可能、(シ)については、受益者代理人と同順位で受益権の譲渡が可能になると考えます。

(ウ)任意後見監督人の職務に制限はあるか。

 任意後見契約、信託契約に明確な定めがない行為に対して任意後見人が迷う事務について同意の相談を受けた場合、信託目的や、裁判所へ申立てができる行為に関してはその要件に準じて同意の判断を行うことになると考えます。

4、信託制度と成年後見制度

(1) 受託者と成年後見人の意見が対立した場合の優先順位

 成年後見人は、身上監護の事務に関し支障がない限りは、受託者の意見を尊重する必要があると考えます。信託財産に関しては、信託行為によって受託者に託されており、原則として意見は対立する関係にないと考えます。従って優先順位の関係にもないと考えます。

(2) 受託者と任意後見人の意見が対立した場合の、任意後見契約に関する法律10条の準用の可否

  弁護士遠藤英嗣先生の問題提起であり、どういう趣旨なのか、誤って理解しているかもしれませんが、法律10条の請求(法定後見への変更)は利用可能だと考えます。

家庭裁判所の変更請求に対する判断基準は、本人の利益のためというよりは現状では不利益になることが明らかである場合に限られるのではないかと考えます。

遠藤弁護士の準用の趣旨が、信託の終了・変更請求を指すのであれば、それは信託法150条、166条によって請求することが妥当だと考えます。

(3) 受益者代理人と成年後見人の意見の対立

 上記(1)と同様の考え方、結論になると考えます。

4 受益者代理人と任意後見人の意見の対立

 上記(2)と同様の考え方、結論になると考えます。

5 信託行為に優劣を定めることが可能か。

 信託行為に優劣を定めることは契約自由の原則からして可能だと考えますが、個々の事案において、成年後見人、受託者が権利義務を果たすために優劣が空振りになることもあると考えます。

6受益者の任意後見人が、受託者を兼務することは可能か。

 受益者の任意後見人は、受益者の身上監護を主として仕事をします。受託者は主として受益者の財産管理の仕事をします。受益者に任意後見人が就任しているということは、受益者の判断能力が衰えていることが考えられます。その場合、受託者の監督を行う者がいないので、任意後見人としては、受益者代理人が就任してから受託者を兼務することは差し支えないと考えます。

・・・・・・・・・・・

参考

(権限の定めのない代理人の権限)

民法103条 権限の定めのない代理人は、次に掲げる行為のみをする権限を有する。

1 保存行為

2 代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為

(成年被後見人の意思の尊重及び身上の配慮)

民法858条   成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。

(本人の意思の尊重等)

任意後見契約に関する法律6条  任意後見人は、第二条第一号に規定する委託に係る事務(以下「任意後見人の事務」という。)を行うに当たっては、本人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。


[1] 詳細な検討は、小林徹「家族信託と成年後見制度」新井誠ほか編著『民事信託の理論と実務』2016 日本加除出版 P31~

[2] (公社)成年後見センター・リーガルサポート『任意後見実務マニュアル』2007 新日本法規 P210

[3] 道垣内弘人『信託法』P409

家族信託で信託登記は義務か。

 家族信託・民事信託をするとき、不動産(農地を除きます。)がある場合は、登記が義務でしょうか。

信託契約を結び、委託者と受託者が所有権移転登記の申請をします。同時に受託者が1人で信託登記を申請するとします。

 登記の効果は、

1、所有権の名義は受託者になっているけれど、これは信託財産ですよと他の人に証明できること

2、登記をすることによって信託財産の独立性を保ち、信託を機能させること

3、登記をみると分別して管理がされていることが公表されており、受託者、受益者に自覚を持ってもらうことです(信託法14条、34条)。

 受託者として信託登記をすることは、法律で義務とされています所有権移転登記は義務でしょうか。信託法に義務とは書かれていません。

信託設定の流れからみると、委託者から所有権が移転して信託財産になる、という一連の流れ、または所有権の移転と同時に信託財産になる、と行為は1つだという感覚があります。

登記が「所有権信託登記」のように1つに出来れば良いのでしょうが、それが現在の技術上出来ないので、所有権移転の登記+信託の登記の2つになっているのだと考えます(不動産登記法98条)。

現に自己信託だと登記は1つで足ります。

以上から、信託の登記が義務付けられているので、その前提となる所有権移転登記も義務だと考えることができます。

義務だとしてもいつまでに、という期限はあるのでしょうか。法律に期限は書いてありません。例えば登記に必要な登録免許税が用意できないので、登録免許税が貯まってから登記する、ということは出来るでしょうか。

信託される金銭が登録免許税よりも多い場合には、登記の留保を認めることは難しいのではないかと考えられます。

そして信託される金銭が登録免許税よりも少ない場合の他、一般的にも登記の留保を認めるのは難しいのではないかと考えます。信託財産が独立していてこそ信託といえるからです。不動産については、登録免許税がもったいなければ、立て看板などで信託不動産です、と分けることも認められると良いのですが、現在のところ不動産については登記をしろ、となっています。

また、あえて信託登記をしないで、それぞれの不動産について、売却等の必要が生じたタイミングで所有権移転の登記+信託の登記をして、あるいは信託契約を合意解除して信託の登記を経ずに売却する[1]という考えはどうでしょうか。委託者であり最初の受益者の人が、認知症になったら登記をして受託者が売却する、というような信託です。

そうであれば、信託契約の中で、売却等の必要が生じたタイミングで信託自体の効力を発生させることにすれば良いと考えます。

また認知症になったら、などの停止条件を付けると法人税課税になるので、売却の日程まで決まってから始期付きの信託契約を締結する、という方法もあると考えます。


[1] 宮田浩志『家族信託まるわかり読本』2017近代セールス社 P128~

PAGE TOP