信託すると、アパートの敷金はどうなる。

1、賃貸不動産であるアパートを信託しました。委託者兼受益者はA、受託者はAの子です。

2、所有権移転及び信託の登記を済ませました。

3、Aの子は、金融機関に行ってAが預かっている敷金を入金するために、信託口口座を作りました。

アパートを貸している人からすると、敷金は預り金であり、借りている人が部屋を出る際には返すのが原則なので債務となります。

債務は信託できないのですが、信託法のどの部分によってこの預かっているお金を信託口口座へ入金することができるのでしょうか。

信託行為によって、賃貸人の地位は当然に受託者に移転し、賃貸人の地位と一緒に敷金返還債務も当然に受託者に移転する、と考えることができます(信託法21条1項2号)。

異なる考え方

・「信託行為とは別に、アパートの住民の承諾を得て、敷金を返すという債務を引き受けることが必要。」現実的に厳しいのではないかと考えられます。

・「受託者が信託財産のためにした権限内の行為によって生じた権利として、預かっている敷金をいずれ返すために信託口口座へ入金することができる。」

受託者Aの子は、信託行為のほかに敷金を移転させるような行為をしていません。

受託者が信託財産のために、権限内の行為でアパートを取得した場合には、受託者の行為によって、アパートの所有権、賃貸人の地位の移転、預かっている敷金を移転する権利が生じるので、当てはまると考えられます。

 なお、入金後はアパートの住民に対しても、明細を作るなどして預けた敷金が保全されていることを通知することも考えることができます。信託したことの報告を、戸別訪問ではなく通知によるのであれば、併せて行う方が分かりやすいのではないでしょうか。

参考

信託法21条1項

琉球新報かふう よくわかる不動産相続Q&A FiLe.3

亡くなった方

被相続人A(会社社長)

1、相続人

長男の子F

長女B(相談者)

長女の夫C(普通養子)、会社専務

2、相続財産

マンション(Gと数年前から同居、Gもローンを一部支払い)

自宅(土地・建物)

会社事務所(土地・建物)

会社株式

預金2000万円

備考:

Aと内縁関係だったGはAが経営していた会社の経理を担当しています。

離婚した妻は存命です。

長男Dは、5年前に亡くなり妻と長男Fがいます。

亡くなったDの妻と長男Fが相続する権利を主張しています。

Gはマンションのローンを一部支払っていたことを根拠に、マンションを取得したいと考えています。

考え方

1、相続人は決まっています。分け方はまだ決まっていません。

2、価格が決まっていない相続財産が一部あります。マンションについては1,500万円、自宅を4,000万円(土地300㎡)、会社事務所を3000万円(土地200㎡)、会社株式を3,500万円(全て亡きA所有)として考えてみます。

3、債務、連帯保証については記載がないので、ないものと考えます。

4、自宅にはDの妻とFが同居していると考えます。

5、上の事実だけから考えて、私なら下のような提案です。

 (1)自宅は長男F

 (2)会社株式はC

 (3)会社事務所はC

 (4)マンションはBが取得しGに売却します。

 (5)預金は相続税を支払った残額をBとFで均等に分けます。

もし、Aの生前に家族信託を提案することが出来るとしたら、

(1)生命保険加入の検討

(2)A及び関係者の意向の聞き取り

(3)マンション及び税金を払うためのお金について信託の検討(当初受益者A及びG、受託者G、Aが亡くなった後の受益者G、残余財産の帰属権利者は信託終了時の受益者)

(4)会社株式、会社事務所について信託の検討(受託者C、Aが亡くなった後の受益者C、残余財産の帰属権利者は信託終了時の受益者)

(5)自宅について信託の検討(受託者F、Aが亡くなった後の受益者F、残余財産の帰属権利者は信託終了時の受益者)

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参考:琉球新報かふう 2017年5月19日

○社会福祉法等の一部を改正する法律(平成二十八年法律第二十一号)附則(抄) (第二条の規定による社会福祉法の一部改正に伴う経過措置【解説】

第七条 この法律の施行の日(以下「施行日」という。)前に設立された社会福祉法人は、施行日までに、必要な定款の変更をし、所轄庁の認可を受けなければならない。

2 前項の認可があったときは、同項に規定する定款の変更は、施行日において、その効力を生ずる。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

平成29年4月1日より前に設立した法人は、平成29年3月31日までに管轄の役所から定款変更の認可を受けてください。

認可を受けた場合、平成29年4月1日に定款が変更されたことになります。

第八条 第二条の規定による改正後の社会福祉法(以下「新社会福祉法」という。)第三十七条の規定は、施行日以後最初に招集される定時評議員会の終結の時から適用する。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

経常収益が4億円を超えて、会計監査人を設置することが義務になる法人は、平成29年4月1日以降最初の定時評議員会で会計監査人を選んでください。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

第九条 施行日前に設立された社会福祉法人は、施行日までに、あらかじめ、新社会福祉法第三十九条の規定の例により、評議員を選任しておかなければならない。

2 前項の規定による選任は、施行日において、その効力を生ずる。この場合において、新社会福祉法第四十一条第一項の規定の適用については、同項中「、選任後」とあるのは「、

社会福祉法等の一部を改正する法律(平成二十七年法律第 号)の施行の日以後」と、「を選任後」とあるのは「を同日以後」とする。

3 施行日の前日において社会福祉法人の評議員である者の任期は、同日に満了する。

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平成29年4月1日までに設立した法人は、評議員を選んでいてください。選んだ評議員は平成29年4月1日に選んだことになります。任期は同日から数えます。

平成29年3月31日に評議員であった人は、その日に任期が終わります。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

第十条 この法律の施行の際現に存する社会福祉法人であって 、その事業の規模が政令で定める基準を超えないものに対する新社会福祉法第四十条第三項の規定の適用については、施行日から起算して三年を経過する日までの間、同項中「定款 で定めた理事の員数を超える数」とあるのは、「四人以上」 とする。

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評議員の数は、原則として理事の数を超える7名が必要ですが、経常収益が4億円未満の法人は、平成32年3月31日まで4名以上を選ぶことで足ります。

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第十一条 新社会福祉法第四十三条第一項の規定は、施行日以 後に行われる社会福祉法人の役員(理事及び監事をいう。以 下同じ。)の選任について適用する。

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平成29年4月1日以降に理事、監事を選任する場合は、評議員会の決議で決めて下さい。

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第十二条 この法律の施行の際現に存する社会福祉法人については、新社会福祉法第四十四条第三項の規定は、施行日以後最初に招集される定時評議員会の終結の時から適用し、当該定時評議員会の終結前は、なお従前の例による。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

平成29年4月1日以降、最初の定時評議員会で、原則として理事6名以上、監事2名以上を選んでください。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

第十三条 この法律の施行の際現に在任する社会福祉法人の役員については、施行日以後最初に招集される定時評議員会の終結の時までの間は、新社会福祉法第四十四条第四項から第七項までの規定は適用せず、なお従前の例による。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

平成29年4月1日以降、最初の定時評議員会からは、理事、監事のうち親族など特殊の関係にある人を選任する際には気を付けてください。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

第十四条 この法律の施行の際現に在任する社会福祉法人の役員の任期は、新社会福祉法第四十五条の規定にかかわらず、 施行日以後最初に招集される定時評議員会の終結の時までとする。

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平成29年4月1日現在、理事、監事である人の任期は、平成29年4月1日以降最初の定時評議員会が終わる日までです。

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第十五条 この法律の施行の際現に在任する社会福祉法人の理事の代表権については、施行日以後に選定された理事長が就任するまでの間は、なお従前の例による。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

平成29年4月1日現在、理事長である人の任期は、平成29年4月1日以降に定時評議員会で選任された理事が、理事会を開いて理事長の選定を決議するまでです。

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 第十六条 この法律の施行の際現に在任する社会福祉法人の役員及び評議員の施行日前の行為に基づく損害賠償責任については、なお従前の例による。

第十七条 新社会福祉法第四十五条の二十三第一項及び第六章 第四節第二款の規定は、施行日以後に開始する会計年度に係る会計帳簿について適用する。

 第十八条 新社会福祉法第四十五条の二十七(第一項を除く。 )及び第四十五条の二十八から第四十五条の三十三までの規定は、平成二十八年四月一日以後に開始する会計年度に係る新社会福祉法第四十五条の二十七第二項に規定する計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書について適用する。

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平成28年度4月1日以降に始まる会計年度からは、新社会福祉法に基づく計算書類などを作ってください。

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第十九条 新社会福祉法第四十五条の三十四の規定は、平成二 十八年四月一日以後に開始する会計年度に係る同条第二項に 規定する財産目録等について適用する。

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平成28年度4月1日以降に始まる会計年度からは、新社会福祉法に基づいて作った計算書類は保存してください。

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第二十条 新社会福祉法第四十五条の三十五の規定は、施行日以後最初に招集される定時評議員会の終結の時から適用する 。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

平成29年4月1日以降、最初の定時評議員会で理事、監事、評議員の報酬支給基準を決めて下さい。

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第二十一条 施行日前に生じた第二条の規定による改正前の社会福祉法(附則第二十五条において「旧社会福祉法」という 。)第四十六条第一項各号に掲げる事由により社会福祉法人が解散した場合の清算については、なお従前の例による。

第二十二条 新社会福祉法第六章第六節第三款の規定は、施行日以後に合併について評議員会の決議があった場合について適用し、施行日前に合併について社会福祉法人の理事の三分の二以上の同意(定款でさらに評議員会の決議を必要とするものと定められている場合には、当該同意及びその決議)があった場合については、なお従前の例による。

第二十三条 新社会福祉法第五十五条の二の規定は、施行日以後に開始する会計年度から適用する。

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平成29年4月1日以降に始まる会計年度から、原則として、社会福祉充実計画を作成して承認を受けて実施してください。

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第二十四条 新社会福祉法第五十九条の規定は、平成二十八年 四月一日以後に開始する会計年度に係る同条各号に掲げる書類について適用する。

(罰則の適用に関する経過措置)

 第三十三条 この法律(附則第一条第二号に掲げる規定にあっては、当該規定。以下この条において同じ。)の施行前にした行為及びこの附則の規定によりなお従前の例によることと される場合におけるこの法律の施行後にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。

(政令への委任) 第三十四条 この附則に規定するもののほか、この法律の施行 に関し必要な経過措置(罰則に関する経過措置を含む。)は、政令で定める。

○社会福祉法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備等及び経過措置に関する政令(平成二十八年政令第三百四十九号)(抄)

第二章 経過措置

第二章 経過措置

第四条 社会福祉法等の一部を改正する法律附則第十条の政令で定める基準を超えない社会福祉法人は、平成二十七年四月一日から平成二十八年三月三十一日までの間に開始する会計年度に係る同法第二条の規定による改正前の社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号)第五十九条の規定により所轄庁に届け出た収支計算書に基づいて当該会計年度における社会福祉事業並びに社会福祉法第二十六条第一項に規定する公益事業及び同項に規定する収益事業による経常的な収益の額として厚生労働省令で定めるところにより計算した額(次項に  おいて「平成二十七年度社会福祉事業等関連経常収益額」という。)が四億円を超えない社会福祉法人とする。

2 平成二十八年四月一日から平成二十九年三月三十一日まで の間に設立された社会福祉法人については、平成二十七年度社会福祉事業等関連経常収益額は零であるものとして、前項の規定を適用する。

 ○社会福祉法等の一部を改正する法律の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備等に関する省令(平成二十八年厚生労働省令 第百六十八号)(抄) )

第五条 社会福祉法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係 政令の整備等及び経過措置に関する政令(平成二十八年政令 第三百四十九号)第四条第一項に規定する収益の額として厚生労働省令で定めるところにより計算した額は、法人全体の事業活動計算書におけるサービス活動収益の額とする。

信託の利益相反

1、受託者が2番目の受益者となるべき者になっている。

2、残余財産受益者または残余財産の帰属権利者が信託終了時の受益者となっている。

1、2の定めがある信託行為では、例えば長男が受託者となり父親が亡くなったときは、信託の変更や途中での終了がない限り、長男に財産が帰属することになります。

このような定めは、利益相反にあたる、忠実義務違反にあたるという考えがあります[1][2]

忠実義務は、信託法に定めがあります(30条)が、利益相反についてはどの部分に当たるのか指摘がなく、民法上の利益相反行為(108条など)なのか、信託法31条の利益相反行為の制限なのか判明しません。

信託法上の利益相反行為の制限である信託法31条について考えてみたいと思います。

(利益相反行為の制限)

第三十一条   受託者は、次に掲げる行為をしてはならない。

一   信託財産に属する財産(当該財産に係る権利を含む。)を固有財産に帰属させ、又は固有財産に属する財産(当該財産に係る権利を含む。)を信託財産に帰属させること。

二   信託財産に属する財産(当該財産に係る権利を含む。)を他の信託の信託財産に帰属させること。

三   第三者との間において信託財産のためにする行為であって、自己が当該第三者の代理人となって行うもの

四   信託財産に属する財産につき固有財産に属する財産のみをもって履行する責任を負う債務に係る債権を被担保債権とする担保権を設定することその他第三者との間において信託財産のためにする行為であって受託者又はその利害関係人と受益者との利益が相反することとなるもの

2   前項の規定にかかわらず、次のいずれかに該当するときは、同項各号に掲げる行為をすることができる。ただし、第二号に掲げる事由にあっては、同号に該当する場合でも当該行為をすることができない旨の信託行為の定めがあるときは、この限りでない。

一   信託行為に当該行為をすることを許容する旨の定めがあるとき。

二   受託者が当該行為について重要な事実を開示して受益者の承認を得たとき。

三   相続その他の包括承継により信託財産に属する財産に係る権利が固有財産に帰属したとき。

四   受託者が当該行為をすることが信託の目的の達成のために合理的に必要と認められる場合であって、受益者の利益を害しないことが明らかであるとき、又は当該行為の信託財産に与える影響、当該行為の目的及び態様、受託者の受益者との実質的な利害関係の状況その他の事情に照らして正当な理由があるとき。

3   受託者は、第一項各号に掲げる行為をしたときは、受益者に対し、当該行為についての重要な事実を通知しなければならない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

4   第一項及び第二項の規定に違反して第一項第一号又は第二号に掲げる行為がされた場合には、これらの行為は、無効とする。

5   前項の行為は、受益者の追認により、当該行為の時にさかのぼってその効力を生ずる。

6   第四項に規定する場合において、受託者が第三者との間において第一項第一号又は第二号の財産について処分その他の行為をしたときは、当該第三者が同項及び第二項の規定に違反して第一項第一号又は第二号に掲げる行為がされたことを知っていたとき又は知らなかったことにつき重大な過失があったときに限り、受益者は、当該処分その他の行為を取り消すことができる。この場合においては、第二十七条第三項及び第四項の規定を準用する。

7   第一項及び第二項の規定に違反して第一項第三号又は第四号に掲げる行為がされた場合には、当該第三者がこれを知っていたとき又は知らなかったことにつき重大な過失があったときに限り、受益者は、当該行為を取り消すことができる。この場合においては、第二十七条第三項及び第四項の規定を準用する。

利益相反行為は行為時を基準とし、

(1)信託行為のときと、

(2)受託者が受益権を取得し、信託を終了、清算結了した後に残余財産の帰属権利者として所有権を取得するときで分けて考えます。

まず、1項1号の信託財産に属する財産を固有財産に帰属させること、には(1)、(2)ともあたると考えることができます。信託が途中で変更、終了しない限りは、受託者が受益権を取得し、信託を終了することで信託財産に属する財産を固有財産に帰属させることができるからです。1項2号、3号、4号にはあたりません。

次に、第2項1号により信託行為に利益相反行為を許容する定めがある場合はどのように考えることができるでしょうか。

委託者兼当初受益者と受託者が合意の上で定めているので、許容する定めがある場合は、(1)、(2)共にできることになります。

第2項2号は、(1)の場合はまだ受託者にはなっていませんが、信託行為のときに委託者兼受益者の承認が得られていると考えることができます。(2)の場合は、受託者イコール受益者となっているので、承認を考えることはできません。

第2項3号の「相続その他の包括承継」に受益権の取得は入るのでしょうか。受益権は受益債権とこれを確保するための権利である受益者の地位を表すものです。(1)、(2)ともその他の包括承継にあたる可能性があると考えます。

第2項4号は、(1)の際はまだ受託者になっていないので当てはまりません。

(2)の際は、正当理由があるのかが判断のポイントとなります。

第3項は、受託者から受益者への利益相反行為をしたことの通知、第4項は、受託者と受益者間の利益相反行為は無効となること、第5項は、第4項の場合、受益者が承認すると有効になることを定めています。

第6項、第7項は、受益者が利益相反行為を取り消すことができる場合を挙げています。

 以上から考えてみると、

1、信託行為のときには、

(1)受託者が信託財産の帰属権利者となることの定めを許容する定めがあれば、利益相反行為にはあたらず、行為をすることが出来る

(2)委託者兼受益者の承認が得られていると考えると、利益相反行為にはあたるが、行為をすることが出来る

(3)信託の清算手続きが終了し、信託財産が所有権となって帰属権利者に引き渡す定めが、相続その他の包括承継にあたる場合は、利益相反行為にはあたるが、行為をすることが出来る

2、受託者が受益権を取得し、信託を終了、清算結了した後に残余財産の帰属権利者として所有権を取得するときには、

(1)受託者が信託財産の帰属権利者となることの定めを許容する定めがあれば、利益相反行為にはあたらず、行為をすることが出来る

(2)信託の清算手続きが終了し、信託財産が所有権となって帰属権利者に引き渡すことが、相続その他の包括承継にあたる場合は、利益相反行為にはあたるが、行為をすることが出来る

となります。

信託期間中に、受託者が、現在の受益者の利益を保護するのではなく、自分のために信託財産を保全しようという気持ちとなり、信託事務を行った場合、利益相反となることの指摘があります[3]。受託者が受益者に対して、信託行為で定められた金銭より少なく給付して、受託者に多くの金銭を残すような信託事務を行った場合、利益相反行為にあたるでしょうか。これは一方のマイナスが一方のプラスになるという関係にあり、利益相反行為にあたるといえます。あたるとしたうえで、許容範囲の2項各号に当てはめられるかを判断していくことになります。

なお、利益相反関係には今まで挙げた状況の全てが当てはまり、信認義務という観点からはさらに議論が必要になります。

忠実義務違反について

 前述の金銭の給付に関する信託事務は、忠実義務違反で問われることが妥当と考えることができます。利益相反行為にあたらない場合、あたるが許容される場合であっても、忠実義務違反に問うことはできます。

受託者は、すでに第2次受益者として制限付きの受益権を持っており、第3次受益者の定めもなく、受託者が残余財産の帰属権利者となっている信託では、受託者の信託事務は、現在の受益者の犠牲のもとに自己の利益を図る意思があると推定することができます。


[1]渋谷陽一郎『民事信託のための信託監督人の実務』2017 日本加除出版(株)P269「利益相反となってしまい」と記載。利益相反関係または利益相反行為の結果であるかは明らかではない。

[2] 公益財産法人トラスト未来フォーラム家族信託の実態把握と課題の整理に関する研究会「家族信託の現状と課題」『信託フォーラムvol.6」日本加除出版(株)P17「事実上の利益相反関係が生じるケースがあり得る。」と記載。利益相反行為ではない。

[3]渋谷陽一郎『民事信託のための信託監督人の実務』2017 日本加除出版(株)P269

信託法91条の読み方

(受益者の死亡により他の者が新たに受益権を取得する旨の定めのある信託の特例)

第九十一条   受益者の死亡により、当該受益者の有する受益権が消滅し、他の者が新たな受益権を取得する旨の定め(受益者の死亡により順次他の者が受益権を取得する旨の定めを含む。)のある信託は、当該信託がされた時から三十年を経過した時以後に現に存する受益者が当該定めにより受益権を取得した場合であって当該受益者が死亡するまで又は当該受益権が消滅するまでの間、その効力を有する。

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3つの定めのある信託は、

1、最初の受益者が死亡

2、死亡した受益者の受益権が消滅する

3、他の者が新たな受益権を取得して2番目の受益者となる

(1)2番目の受益者が死亡した場合、死亡した受益者の受益権が消滅して、他の者が新たな受益権を取得して3番目の受益者となる定めを含む。

(2)1番目の受益者が死亡した場合、2番目の受益者として定められた者が複数いて、その1人に受益権取得について始期が付いている場合を含む。

1、信託設定時より、30年経過時

2、(1)受益者がおり、次の順位の受益者がいない場合・・・死亡したときまたは受益権が消滅すると信託は終了。

(2)いずれ受益権を取得する定めがあり生まれている特定の者(2次受益者など)が受益権を取得した場合・・・・その者が死亡したときまたは取得した受益権が消滅したときに信託は終了する。

・見出しの「新たに」と条文の「新たな」に違いはあるか。

見出し

(受益者の死亡により他の者が「新たに」受益権を取得する旨の定めのある信託の特例)

条文(抜粋)

受益者の死亡により、当該受益者の有する受益権が消滅し、他の者が「新たな」受益権を取得する旨の定め

「新たに」は、「他の者が」について、受益権を取得する者を限定する。

「新たな」は、「受益権を取得する旨の定め」について、文をまとめ、(一旦)終える働きをする。

結論

助詞の使い方であって意味はない。

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受益者連続型信託の契約方法は、何種類あるのか。

(1)「受益者の死亡により、当該受益者の有する受益権が消滅し、他の者が新たな受益権を取得する旨の定め」と、「受益者の死亡により順次他の者が受益権を取得する旨の定め」の2種類がある[1]

(1)、のような考え方を採ると、最初の方法では受益者の死亡により、受益権は消滅、発生を繰り返します。2番目の方法では受益者の死亡により、受益権はそのままの状態で次の受益者に承継されます。

条文は2番目の方法はかっこ書きであり、本文の、「受益者の死亡により、当該受益者の有する受益権が消滅し、他の者が新たな受益権を取得する旨の「定め」」にかかっています。本文の「定め」の中には、かっこ書きの「受益者の死亡により順次他の者が受益権を取得する旨の「定め」」も含みます、という構成になっています。[2]

 構成から考えると、かっこ書きの定めも含めて受益権は消滅、発生を繰り返すことになります。

なぜかっこ書きを付けているのかというと、第2次受益者だけでなく、第3次受益者、第4次受益者と続けて定めることが出来ることを明示するためではないかと考えることができます。

このように考えると、受益者の死亡を始期又は停止条件として、次の受益者が増える場合、減る場合、受益権の単位が変更となる場合など、様々な定めを置くことができると考えることができます。


[1] 河合保弘『家族信託実務ガイド』2017日本法令P86

[2] 法制執務研究会『ワークブック法制執務』ぎょうせいP642

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