八谷 博喜「受託者による借入れ実務と信託口口座の提供〜 昨今の民事信託の動向」

令和2年9月15日

三井住友信託銀行 特別理事 八谷 博喜

・信託口口座

家族を受託者とする受託者口座を信託口口座と呼ぶ。

受託者による借入れ実務(借入名義は「A信託受託者B」の形式。受託者が債務者兼担保提供者となるスキームを指す。委託者が債務者兼担保提供者となるスキームは通常の借入れと同様の取扱い。)

委託者の高齢化に伴う判断能力・身体能力の低下により、受託者が借入れを行いたいというニーズが顕在化

信託契約書やローン契約書等に記載すべき事項

  •  信託契約書の記載

授権内容 信託法第 26 条(受託者の権限の範囲)「「その他の信託の目的の達成のために必要な行為」(例えば、信託財産を引当てとする借入れ行為)をする権限を有することを明らかにしたものである。」(寺本昌広『逐条解説 新しい信託法』商事法務、2008 年 103 頁)とされるが、信託契約書中に借入れ権限の付与を明記することが実務上の取扱いである。

  • 信託財産の管理等に係る定めが少ない信託契約書が多く見受けられる。

(コメント)通常、受託者は信託財産である不動産に関し排他的管理処分権を持つが、将来、他の推定相続人等と争うことを避けるため、授権内容や信託財産の管理等に係る信託事務について記載しておくことが望ましい。

ローン契約書ならびに債務引受契約書の記載

  •  信託法に沿う内容であるものの、確認事項として明記

(ア)受託者の固有資産も弁済の引き当てとなること

(イ)信託の終了後も引続き弁済義務を負うこと 三井住友信託銀行における取扱い

  •  案件タイプ別の取扱い
  •  新築・購入

信託契約を締結し、委託者が信託した土地上に受託者名義で借入れを行い、アパート等を建築するもの。または収益物件を購入するもの。

1 借入名義は「A 信託受託者 B」の形式。受託者が債務者兼担保提供者となるスキームを指す。委託者が債務者兼担保提供者となるスキームは通常の借入れと同様の取扱い。

  • 借換え委託者が他の金融機関で借入している債務を、一旦委託者個人として借換え、その後、信託契約を締結のうえ受託者が債務引受けを行い債務者となるもの。コメント)原則として免責的債務引受けとする。①②いずれの場合も、受託者が債務者兼担保提供者(いわゆる信託内借入)となるもののみ対応。
  •  受付フロー
  •  金融機関の統一的な取扱いの定めなし
  •  当社の場合は、各営業店部にて受付(財務コンサルタント)

コメント)通常よりも相談期間を要するが、審査基準や貸出条件等は、通常の借入れと同じ取扱い。現状は金利水準も通常の借入れと同じであり、個別のアップフロントフィーは不要。

  •  通常の借入れとは異なる取扱い
  •  委託者死亡時の取扱い

(例)委託者が当初受益者、配偶者が第二受益者、長男が受託者である信託において、委託者が死亡した場合でも、引き続き受託者が債務者として信託は継続する。

  •  信託終了時の債務の取扱い

信託終了時に債務を誰が引き継ぐのか信託契約書に明記する必要がある。債務承継者が不明確な場合は取り組み不可。

コメント)通常の借入れの場合は、債務者死亡の場合、法定相続人による債務の承継手続きも考えられるが、信託財産を前提としていることから、法定相続人による承継とはしていない。

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債務引き受けする人を特定する必要があると、第2次、第3次まで決めておく必要がある。

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実務上留意すべき点

  •  ローン契約、債務引受契約(当社制定帳票)
  • 受託者として、信託財産のほか、固有財産によっても債務を弁済する義務を負う。
  • 信託の終了後も債務を弁済する義務を負うこと。ただし、当社が承諾した場合は、残余財産の承継者(帰属権利者)に債務及び契約上の地位を承継させることができる。
  •  信託契約の手当て(任意の信託契約に条項を追加(雛形有))
  • 信託契約の内容を変更し、または終了する場合には当社の同意を得ること。「既存債権者がある場合には、委託者および受託者の同意のほか、既存債権者全員の事前の書面による同意を得た場合に限り、本信託を終了させ、または変更することができる。
  • 新たな借入れ等の際の既存債権者の同意
  • 信託終了時に帰属権利者が債務承継する旨
  • 信託財産における交付の制限
  •  保証意思宣明公正証書
  • 民法改正は2020年4月1日に実施される
  • 内容

保証契約締結前の1ヶ月以内に公証人による保証意思を確認する公正証書(保証意思宣明公正証書)が作成されていなければ保証契約の効力が生じない。

  • 対象

事業化資金等債務を主債務とする保証契約等

  • 日本公証人連合会 HP【保証意思宣明書】

コメント)委託者兼受益者が連帯保証人となるケースが多いことが予想されるが、高齢者には難易度が高いことから、公正証書の作成には留意が必要。

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委託者兼受益者が連帯保証人なるケースが多い(ことを許す)とすると、結局相続人が出てくるので、債務引き受けを行う人を特定する意味が少し薄れるのかなと感じます。

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信託財産責任負担債務の範囲

根拠条文は、信託法 21 条1項各号

なお、限定責任特約(信託法 21 条 2 項 4 号)、限定責任信託(信託法 216 条)も理論的には存在するが、実務上、一般的ではない。

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一般的ではない→第3者としては現状認めることはない、という理解で良いと思います。

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【新規借入れ】第 5 号が「受託者による新規借入れ」に該当

「信託財産のためにした行為であって受託者の権限に属するものによって生じた権利。」

  •  信託契約(委託者と受託者間)② ローン契約(受託者と金融機関)、信託口口座の開設(返済口座)

【借換え】第 3 号が「受託者による債務引受」に該当

「信託前に生じた委託者に対する債権であって、当該債権に係る債務を信託財産責任負担債務とする旨の信託行為の定めがあるもの。」

  •  既存借入金融機関への返済(委託者による)
  • ローン契約(委託者と新金融機関)

債務引受契約(受託者と新金融機関)、信託口口座の開設(返済口座)

  •  三井住友信託銀行の取組みガイドライン

・ 受託者による借入れ(いわゆる信託内借入れ)であること

・ 委託者と面談し、信託不動産で具体的にどのような事業を行うことを受託者に任せる認識があるか確認すること

・ 信託契約書には当社所定の条項を追加すること

・ 原則として委託者の死亡時に遺留分の侵害がないこと

・ 後継受託者、債務承継者(帰属権利者)が具体的に決まっていること

・ 返済用口座および賃料入金口座を信託口口座とすること

・ 案件によっては、追加の担保設定、連帯保証人が必要であること

・ 原則として、委託者死亡で信託が終了するスキームではないこと

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・ 「委託者と面談し、信託不動産で具体的にどのような事業を行うことを受託者に任せる認識があるか確認すること、」→信託行為時だと思います。

「原則として、委託者死亡で信託が終了するスキームではないこと」→意外でした。反対だと思っていました。

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昨今の民事信託の動向と信託口口座の提供

三井住友信託銀行における信託口口座申込の状況

・申込数の推移当社では2016年5月から資格者専門職からの強い要請により、分別管理可能で倒産隔離機能を持つ信託口口座の取扱いを開始。民事信託の注目度の高まりに比例して申込件数も急増。

・地域別の案件数当社に持ち込まれた案件を地域別で見ると、取扱い開始当初は首都圏の割合が大きかったが、徐々に全国各地に拡がっている。直近では、近畿圏・中部圏の割合が拡大している傾向。

・2020年当社における信託口口座申込数推移(累計ベース)累計申込数は過去3年間で約20倍に

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グラフには、横軸の時間軸はありますが、数を表す縦軸がないです。

また地域別割合に関しては、三井住友信託銀行の店舗分布によるのではないのかなと感じます。

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  •  士業別の案件数当社に持ち込まれた案件を士業別で見ると、信託契約の組成の担い手は司法書士が中心。弁護士・行政書士・税理士はいずれも 10%弱。

・信託口口座の利用状況

諾成契約となった弊害の一つであるが、財産権の移転を伴わないケースが少なくない。

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ここはどういう意味なんだろうと思いました。

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・信託口口座開設後、初回入金日までに1ヶ月超の期間を要している口座件数は 279件と全体の 18%を占める。

・信託金銭の入金が遅れることによって、委託者の判断能力が喪失し、委託者の口座から信託口口座に金銭を移すことができなくなるリスクあり。

・直近 100 案件の信託契約内容についての調査結果

委託者の年齢層では 80 代が 52%と最多。続いて 70 代(30%)、90 代(14%)と高齢者が大半を占めている。

・信託契約の構成では、「委託者死亡で終了する信託(一代限りの信託)」が 53%、「受益者連続型の信託」が 47%とほぼ同数。

全体のうち 87%はいわゆる「遺言代用型」の信託契約であり、信託財産の帰属先が委託者の意思に基づき予め指定されている。(※ここでは、「非遺言代用型」とは信託財産の帰属先や受益権の承継先に関する定めが、「法定相続人の協議による」等と、明確化されていないものを言う。)

全体のうち 98%は高齢者の財産管理やその福祉を実現するための信託契約(後見代替型の信託契約)。残り 2%は共有不動産の円滑な売却を目的とした信託契約であった。

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「高齢者の財産管理やその福祉を実現するための信託契約(後見代替型の信託契約)」がどのような基準なのか気になります。

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三井住友信託銀行における信託口口座の提供

  •  信託口口座の必要性信託法第 34 条 1 項 2 号ロでは、信託金銭の分別管理については「その計算を明らかにする方法」で足りるとされており、必ずしも信託口口座で管理する必要はないとされているが、受託者からの独立性、受託者の相続財産からの排除を制度的に補完・保証するためには、実務上、信託口口座の存在が重要となる。
  •  受付フロー《 ご留意事項 》

民事信託受託者との取引について、事前確認が必要であり、取引を開始できるかどうかは事前確認後の判断となること。

信託契約書は「公正証書」によるものであること(宣誓認証など公正証書以外の信託契約書は対応いたしかねます。)

原則として、当社との 3,000 万円以上の受信取引が見込まれること。

当社が提供している商品・サービスのうち、民事信託受託者と取引できる商品・サービスには一部制限が発生する場合があること。

当社は、民事信託受託者名義での取引を行うものであり、信託契約書に基づく管理事務を引き受けるものではないこと。民事信託をご検討中のお客さま・士業の先生・信託契約書(公正証書)の写し又はそのドラフト・スキーム図、相続人関係図、財産額等

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「原則として、当社との 3,000 万円以上の受信取引が見込まれること。」→少し違和感を感じます。

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信託口口座開設に至らなかった個別事例

信託財産の中に譲渡禁止財産等が存在(預金債権・抵当権付不動産)

受託者への名義変更を行わずに信託財産を管理

公示義務の免除・省略分別管理義務(信託法34条)に違反のおそれ

信託スキームの継続が難しいもの(後継受託者の定めがない、受益者連続型で受益権の承継に不具合)

受託者に極めて有利なもの(受託者=受益者となるスキームで、受託者の保有する受益権割合が著しく過大(99%等))

受託者報酬が過大

親族間トラブルが見込まれるもの(遺留分を侵害している、親族間の不当利得返還請求権が信託財産)

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「親族間の不当利得返還請求権が信託財産」→これを委託者が希望するようなら、民事信託自体が難しそうです。

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士業に関係するもの

受託者(清算受託者含む)に組成士業自身が就任

士業が委託者の代理人として信託契約を締結

受益権指定権・変更権者が士業である

取引相手である銀行として事務対応が難しいもの

受託者が複数(共同受託者)

受託者の任務終了事由があいまい

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清算受託者も認めない。「取引相手である銀行として事務対応が難しいもの」→どうにでもとれるので金融機関有利ですが、説明は求められるのだと思います。

「受託者が複数(共同受託者)」は、ときどきニーズがあります。5名兄弟姉妹で、男性が1人(浪費者)、他の女性の姉妹で観たいという場合で、法人を設立するほどでもないとき。

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後継受託者の定めがない

信託期間が比較的長期間であるにも関わらず、受託者の死亡を考慮した設計になっていない

 (受益者連続型)受益権の承継に不具合当初受益者の死亡時に、既に第二受益者が死亡していた場合の定めがない